約 439,875 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/636.html
食堂に向かう道の途中、一人の使用人が尻餅をついていた。 名はシエスタと言い、身に着けたメイド服がよく似合っている、可愛らしい少女だ。 その彼女は今、尻餅をついたまま何かを探しているように、 困惑した表情で何度も何度も同じ風景を見回していた。 「あれ? おかしいなぁ……?」 ポツリと呟いて首をかしげる。 頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、脳裏についさっきの出来事を再生し始めた。 ~ゼロの平面4~ 少し前――食堂に向かって足を速めた際、不意に『何か』とぶつかった。 しっかりと前を見て、障害となるものが何も無いと確認したにもかかわらず、 シエスタは正面から縦に細い『何か』にぶつかり、2、3歩とよろめくと重力にしたがって尻から床に落ちた。 「いたたたたた」 腰をさすりながら、シエスタは考える。 感触から、ぶつかった物は一本の棒みたいに細いものだったが、 道先に棒みたいなものはどこにも無かったはずだ。 もし、悪戯好きの貴族がわざと低級な魔法で転ばしたとしたらたちが悪い。 何かしらの因縁をつけ、貴族の立場を利用して虐めるに決まっている。 ぶるっと肩が震え、途端に畏怖の念が真摯なシエスタを襲った。 背筋に凍るような寒気を感じ、顔から血の気が引くのが自分でわかる。 早急に、謝らねば! しかし……一つ、問題があった。 自分とぶつかったはずの何かが、どこにも見当たらない。 呆けた顔で何度も何度も辺りを見回すが、相手の影も、形も、何処にも無いのだ。 「気のせいだったのかな……?」 それにしては、やたらと現実的な衝突を実感した。 でも、今はそんな疑問以上に湧き上がる安堵の念が胸を埋め尽くす。 (きっと疲れていたんだ。幻覚を見るくらいに) 目を閉じて、頭の中に染み渡るように反芻すると、 解ったとばかりにうんうんと頷く。 『ビ――――ッ』 耳を劈くような音が、足元から聞こえてきた。 次の瞬間、シエスタが足元を覗くよりも素早く、 両足に踏まれていた黒い影が滑るように抜け出した。 「え、きゃあっ!?」 足を取られ、再び尻餅をついてしまう。 そして、間髪居れず落ちて低くなったシエスタの視覚を、真っ黒いものが映り、覆い尽くした。 「え? え……? なに、これ……?」 ややおびえたように未知なる物を見つめる。 目の前の黒すぎるそれをシエスタは理解できなかった。 鼻の先すぐにあるそれは、近すぎて輪郭すら見えない。 ただ、それが『貴族』でも『平民』でもないことだけは解った。 ビ――――ッ!! ビ――――ッ!!! 黒いものから、さっき聞こえた音がうるさく響いた。 聞いていたら頭の痛くなりそうな音の襲来に、シエスタは思わず耳をふさぐ。 しかし、音は鳴り止まない。 その代わりに、黒いものはスッと身を引いた。 音がやや遠くなって、じょじょに輪郭が姿を現す。 『それ』は、意外にも人の形をしていた。 ただその上背はかなり低く、人間の子供以下。一メイルもないだろう。 丸々とした頭にはポコッと膨れた団子鼻がついていて、それでなぜか顔のバランスが取れている。 よくよく見てみれば、なかなか可愛らしい形をしている。 そして、体色は頭のてっぺんから足先まで黒一色だ。黒い。 黒すぎる。 身体的特徴から、シエスタはこれに対する一つの情報を導き出す。 これは、つい先日から話題となっていた『ミス・ヴァリエールの使い魔』ではないか? ――と。 そう思うと、ほんのわずかだが恐怖が和らいだ。 未知の魔物ならともかく、メイジの使い魔ならむやみに人を襲うことは無いからだ。 ……だが、どんな見てくれだろうとやはり貴族の使い魔。 しかもあの気の短くてプライドの高いことで有名なミス・ヴァリエールの使い魔。 下手をすれば何を言われるか解ったものではない。 「えっ、と。あなたはミス・ヴァリエールの使い魔ですよね……?」 シエスタはなるべく下手に出て、気分を損ねないようにと気を使った。 尤も、この使い魔に言葉が通じるのかわからないが。 ……ビ――――ッ! くるりと使い魔は背を向けた。 といっても、両面が等しく黒すぎるため、どっちが正面なのかは図りかねる。 「――――あっ!」 シエスタは異変に気づいた。 と同時に、これがこの使い魔をうならせている原因だと、 それは私のせいなのだといっぺんに理解した。 使い魔――Mrゲーム&ウオッチの背面真ん中辺りに、白い足型が スタンプのようにはっきりくっきりへばり付いていた。 「す、すみません! あの、私の不注意で……」 持ち合わせの布でゲーム&ウオッチの背(腹?)を拭きながら、 使い魔ことゲーム&ウオッチの、あまりのぺらぺらさに、シエスタは胸の内で驚嘆していた。 何で立てるんだろう? とか、 何で歩けるんだろうか? とか、 何で音が鳴るんだろうか? とか 何で動きがかたくて、一々ピコピコ言うのだろうか? とか、 何食べるんだろうか? それ以前にものを食べれるんだろうか? とか そんな疑問の数々でさえ、彼(性別もあるのか……?)の立ち振る舞いを見ていればたいした意味など無く、 ただ、『彼は歩けるから歩いてるんだよ』としか答えようが無かった、思いようが無かった。 彼に対するシエスタの第一印象は、不思議とか仰天とか通り越して、もはや『謎』の一言に尽きた。 「こぉ~ら~っ!!」 パタパタとした慌しい足音に2人が同時に振り向くと、 そこには杞憂だったと頭をかがめ、ばらばらと息を吐くルイズの姿があった。 ビ――――ッ♪ 確認するなりゲーム&ウオッチはどこかうれしそうに体をぴこぴこ鳴らし、 横向きのままやや歩きにくそうにルイズに駆け寄ったところで…… 「こぉの、バカッ!!」 ビィ――――ッ!!? ……ルイズに首根っこをおもいっきりつかまれてる。 ご主人(と思っているかは不明。)の突然の出来事に理解不能と必死に手足をバタつかせるゲーム&ウオッチだが、 いかんせん小柄で、しかもぺらぺらな彼はやはり見た目どおり軽いらしく、 首根っこをつかまれたまま人としては小柄で非力なルイズに軽々と宙に持ち上げられてしまった。 「あ、あの~。ミス・ヴァリエール……」 完全に腰が引けつつも、事態を飲み込めないシエスタが恐る恐るルイズに話しかける。 ルイズはやや怒気を含んでいるものの、比較的常識のある言葉でメイドを追い返した。 「あ――、アンタがここでこいつを捕まえてくれたんでしょ?一応お礼は言っておくわ。…………ありがと」 「えっ、ど、どうも。光栄です!」 最後の言葉は彼女が背を向け、やや照れくさそうにもぞもぞとしていた為か、あまり聞こえなかった。 ただ、それはしっかりとシエスタの耳に届いていたらしく、 シエスタはルイズの予想外な答えに驚き、このときだけは貴族への恐怖をどこへやらに投げ捨てた。 「さぁ行くわよ! 全く、私はまだ朝食とってないんだからね!!」 ビ――――ッ! 背を向けたまま、ごまかすように速いペースですたすたと歩き出す。 ルイズに引きずられた真っ黒い使い魔は片手をカタカタ細かく振ってビ――ッと鳴いた。 多分バイバイと言っているのだろう。 なんとなくおかしい光景に、自然と微笑みが漏れた。 片手を控えめに振って応えると使い魔はうれしいのか、 幼子のようにはしゃいで見せると余計にビ――ッとうるさく鳴き、今度は両手をカタカタと振り始めた。 やがて角を曲がってその姿が見えなくなるまで、シエスタは手を振り続けていた。
https://w.atwiki.jp/animerowa/pages/432.html
「ゼロのルイズ」(前編) ◆LXe12sNRSs 「……ミス・ヴァリエール! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 教員の怒鳴り声に刺激され、ルイズは机に突っ伏していたその身をがばっと引き起こした。 涎の垂れた口元を拭おうともせず、ぼやけた頭を振って周囲の光景を確認する。 そこは、無数の椅子や机と黒板の置かれた教室内。タバサやキュルケ、ギーシュやモンモランシーといった級友の姿が窺える。 ……どうやら、こともあろうに授業中に居眠りをしてしまったらしい。 恥ずかしさに口を噤みながら、ルイズはクラスメイトたちの笑い声を浴びせられて顔を赤面させる。 その笑いの渦中に、やたらと聞き慣れた男の声が混じっていた。 異変を感じ取るように訝しげな顔で横を向くと、隣の席には黒い短髪に平凡な様相を構えた、平民の少年がいた。 「ルイズは相変わらずドジだな。迂闊者っていうかさ」 「な、なんでアンタがここにいるのよ!」 「いちゃ悪いかよ。俺はルイズの使い魔だぞ」 「いちゃ悪いのよ! アンタは私の使い魔で平民! ここは貴族の学び舎よ! 犬は外で洗濯でもしてなさいよ!」 晒してしまった失態からくる恥ずかしさを怒りに変えて、まるでその少年が全ての元凶であるかのようにルイズは非難を浴びせた。 少年はちぇっ、と言い捨て、素直に教室を退出していく。 そうなのだ。使い魔は主人の命令には逆らえない。 召喚された時点でその主従関係は絶対であり、例外が生まれることはないのだ。 「だから、アンタはこの私に絶対服従でいなければいけないの! 分かった!?」 「はいはい分かりましたよ御主人様。俺は平民であって使い魔、ルイズは貴族であって主人。近いようで遠い関係だよなコレ」 場所を寄宿舎の外に移し、少年は洗濯をしながらあーあと空に向けて溜め息を吐く。 その横顔を見て、ルイズは自分の頬が薄紅色に染まっていることも気づかずこう発言した。 「で、でもまぁアンタも使い魔にしちゃ結構やるほうだし、そんなに遠くはないんじゃないかしら」 「? 遠くないってなにが?」 「だ、だからその…………カ、カ、カカカカンケイ…………とか」 「カンケリ? ルイズ、カンケリがしたいのか? つーかこの世界にもカンケリなんて遊びあるんだ……」 「な、なななななななななな違うわよ耳腐ってんじゃないのこのバカ犬!」 「イタっ、イタタタタ!? 耳引っ張るなよ!」 茹蛸みたいに顔を火照らせて、ルイズは少年の耳を力いっぱい引っ張った。 ……何故だろう。この少年の前に立つといつもこうだ。 言いたいことが言えなくて、発言を失敗するたびに胸が締め付けられるように苦しくなる。 病のようで怪我のようで、そのどちらでもなくて。 ルイズは純真な瞳に笑う少年の素顔を映し、正体の掴めぬ感情に胸を焦がすのだった。 「……ったく、こんなガサツで乱暴な性格だから、みんなに『ゼロのルイズ』なんて呼ばれるんだよ。少しはシエスタとかを見習えよな」 「そ、それは昔の話じゃない! っていうかなんでそこでシエスタの名前が出てくるのよ!」 「え? い、いやぁ~なんでだろうなぁ……ハハハ」 冷めた笑いではぐらかす少年の胸ぐらを揺さぶりながら、ルイズはまた怒り出す。さっきから顔を真っ赤にさせっぱなしだった。 ……少しは素直にならないとね。 表の思考ではなく、本能でルイズはそう思った。 このまま意地を張ってばかりでは、いつかきっと後悔してしまう……そんな予感を本能が感じ取っていたから。 「……もう、ゼロのルイズなんかじゃない」 「分かってるよ。ルイズはもう立派な――」 「そうじゃない! そうじゃなくて……その……私には…………才人、がいるから」 「へ? オレ?」 おどけた表情で言葉の意味を探る少年に、ルイズは依然赤面したまま、思いの丈をぶつける。 「……私には、『才人』がいるから! だから……だからもう『ゼロ』じゃない。才人が、才人さえいれば私は……」 意を決した反動で涙まで流す健気な少女に、少年――平賀才人は優しく微笑み、その小さな頭にそっと手を置いた。 ◇ ◇ ◇ 今宵の城は、漆黒ではなく真紅に染め上がることだろう。 爆砕か、炎上か、血染か、それとも――真紅を超越した『虚無』か。 「我が名はルイズ! ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」 杖である戦鎚を振り、唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ!」 サモンサーヴァントだけは自信があった。 「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 あの召喚の儀式の日が、全ての始まりだった。 「私は心より求め、訴えるわ!」 ルイズと、才人の。 「我が導きに、答えなさい!」 運命の出会い――。 『…………まずは悲しい知らせから――!』 バトルロワイアル会場の中心地に位置するホテルという名の巨城。 その最上階にて、ルイズはグラーフアイゼンを振るい、破壊の力を行使する。 爆音が木霊し、壁が、天井が、床が崩壊。ほぼ同時に始まったギガゾンビの定時放送すら、その轟音で掻き消した。 横に、縦に、斜めに自由自在に振り回し、まるでウサ晴らしをするようにありったけの魔力をぶち撒ける。 これまでの激戦で損傷が進んでいた巨城はすぐにその身を揺るがし、ボロボロと破片を零していく。 『――涼子、前原圭一、竜宮レナ、古手――』 放送は既に、ルイズの耳には入っていなかった。 ギガゾンビの声を掻き消すほどの音も原因の一つだが、ルイズにはもはや、誰が死のうがどこが禁止エリアになろうがどうでも良かったのだ。 ホテルを壊して、目に入った人間は殺して、グリフィスの下へ、才人と一緒に帰る。 それだけ。たったそれだけで、才人は帰ってくる。 誰にも邪魔はさせない。朝倉涼子も問題じゃない。 才人と一緒にいれば、なんだって出来る。 だって才人は、ルイズが召喚した世界でたった一人の平民の使い魔だから。 神聖で、美しく、そして強力なゼロの使い魔だから。 「私はもう――ゼロじゃない!」 懐に忍ばせておいた才人の眼球を取り出し、屋外へと飛翔する。 天高く舞い上がったルイズは手の平に才人を転がし、同じ視点で崩壊していくホテルを見下ろした。 未だ鳴り止まぬ轟音は、依然として破壊が続いている象徴でもある。 スプーンで半分だけ掬ったアイスのように、ホテルは中途半端な半壊状態を迎えたところで鳴動を止めた。 このコンクリートの巨城は、ルイズにとっては砂の城だ。 そう形容するくらいに脆く、崩れやすく、壊しやすい。 才人と再び出会うための、単なる糧に過ぎない。 「見て、才人。お城が崩れていくわ」 地上から舞い上がってくる突風を受けて、ルイズの桃色の髪が揺れた。 生気を宿さない眼球は何も言わず、ただ死んだ瞳に崩壊寸前の巨城を映す。 「召喚魔法は一生で一度きりのもの。使い魔は生涯添い遂げるべきパートナー。私にはもう、才人しかいない」 ルイズが召喚した使い魔は、人間だった。 ルイズが召喚した使い魔は、平民だった。 ルイズが召喚した使い魔は、才人だった。 「もう一度やり直そう、才人。あの召喚の儀式から、私たちの出会いから――」 グリフィスはそれを叶えてくれる。 壊して、殺して、ぶっ壊して、皆殺しにすれば、才人は戻ってくる。 ルイズはグリフィスの虚言に一欠けらの疑念も持たず、ただ単純に――すごい、と思った。 「帰ろう、才人」 ――そこにはいないはずの才人と交わす、二度目のファーストキス。 突き出した唇は空を捉え、ただ唯一といえる彼の象徴は、何も返してはくれなかった。 今は、まだ。 でも、これが終われば、きっと。 グラーフアイゼンを頭上高く振り上げ、彼女の内に眠る潜在魔力を解放させる。 生み出された特大の鉄球の数は、一発。その一発に、ルイズの魔法の特性である『虚無』の力を加える。 「これが、決まれば!」 鉄球を狙い、グラーフアイゼンを当てんと振り被る。 虚無により強化された、本来の使い手であるヴィータのものを越えるシュワルベフリーゲン。 命中すれば半壊状態のところで食い留まったホテルも爆発と共に弾け、辺り一帯は焦土と化すことだろう。 そこに、ルイズ以外の生存者はいない。 「――っぉわれろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 呂律の回らない口ぶりで叫び、ルイズはグラーフアイゼンを振り下ろした。 「やめなさあぁぁぁぁぁぁいっ!!」 「――ッ!?」 鉄槌が鉄球を穿つ――その直前だった。 ルイズの横合いから飛び込んできた黒い斧が、振り下ろされたグラーフアイゼンを弾き、同時に鉄球を空高く打ち上げた。 ホテルを狙うはずだったシュワルベフリーゲンは空中で花火のように霧散し、黒味がかってきた空を茜色に染める。 バランスを崩したルイズはなんとか体勢を立て直し、謎の乱入者へと矢庭にハンマーを向けた。 その場にいたのは、ルイズと同様に魔法の杖を持った、飛翔する女の子。 白を基調としたロングスカートは、平凡な小学三年生の女子児童が思い描く、典型的な魔法少女の兵装。 胸元で結ばれた大き目のリボンが際立ち、またそのリボンのイメージとは対極に位置する厳格な瞳を、ルイズに向ける。 「なによ……なんなのよアンタ!」 歳相応とはいえない殺気の込めれらた睨みを利かせ、ルイズは少女を牽制する。 だが少女はそれをものともせず、怯むでもたじろぐでもなく真っ向から視線を合わせていった。 純白の清楚なバリアジャケットに、使役するは親友が愛用していたインテリジェントデバイス。 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――その名は、バルディッシュ・アサルト。 そして使い手は、『魔砲少女』、『管理局の白い悪魔』など、呼び名を悪名の如く周囲に認知させ、若輩を意識させないほどの実力を持った一流の魔導師。 「高町なのはとバルディッシュ・アサルト――これ以上の破壊は見過ごせない!」 杖とは形容しがたい戦斧を構え、飛翔する少女は高らかにその名を宣言した。 ――狂った。邪魔が入って、何もかもが狂ってしまった。 直感でなのはを外敵と捉えたルイズは、奥歯を噛み締め、憤怒の思いを逆巻く風に乗せた。 あと少し、あと少しで終わったのに。いつも、いいところでいつもいつもいつも、邪魔が入る。 「どうしてホテルを破壊しようとするの? それに、なんであなたがヴィータちゃんのグラーフアイゼンを……」 「……キュルケにシエスタに、アンリエッタにタバサ……こっちに来てからは朝倉涼子! みんな、みんな才人と私の邪魔をする!」 慟哭を鳴らし、ルイズが雄叫びを上げた。 子供とも女とも思えない、獣性を帯びた咆哮はなのはを唖然とさせ、身を引き締めさせた。 同時に、虚無の力を更に行使する。 グラーフアイゼンにこれでもかというくらい魔力を込め、その形状を変えていった。 ハンマーヘッドの片方に推進剤噴射口が現れ、もう片方にはスパイクが取り付けられる。 通常のハンマーフォルムに比べ、近接戦闘に特化した変形形態ラケーテンフォルム。 『鉄の伯爵』と呼ばしめる戦鎚型アームドデバイス、グラーフアイゼンのもう一つの姿である。 「殺して、壊すだけで終わるの! だから、だから……だから大人しく殺されなさいよぉぉぉぉぉ!!!」 『Raketenhammer』 貴族の優雅さなど欠片も見せず、ルイズは感情のままになのはへと突進した。 ロケット噴射による推進力がルイズの速度を加速させ、回転。遠心力も味方に付け、グルグルと円盤のように回りながら大気を巻き込む。 なのはは咄嗟に防壁を張るが、グラーフアイゼンのラケーテンハンマーは基礎的なプロテクションなどで防げるものではない。 (すごい勢い……! ひょっとしたら、ヴィータちゃん以上――!?) 絶大な威力を防ぐには敵わず、魔力防壁はガラスのように砕け、飛び散った。 破壊力は強大でもそのコントロールはまだ不完全なのか、空中でグルグル回り続けたままのルイズの隙をつき、なのはは距離を取る。 「バルディッシュ、お願い!」 『Haken Form』 なのはの声に答えた機械音声がスイッチとなり、バルディッシュ・アサルトの形状を変えていく。 変形前を斧と言い表すならば、この変形後のハーケンフォームはその名の通り鎌。 グラーフアイゼンのラケーテンフォルム同様、近接戦闘に特化した直接攻撃タイプの形態である。 「うわぁあぁああああぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁあぁぁあっぁぁ!!」 力任せに突っ込んでくるルイズはグラーフアイゼンを使いこなしているというより、武器として利用しているだけのように思えた。 デバイスと意思疎通を図り、共に戦略を組み立てるなのはとレイジングハートのような関係とは違う。 グラーフアイゼン本来の使い手であるヴィータ以上にムチャクチャな攻撃方法――それを見て、なのはは再度思う。 ヴィータは、いったいどうなってしまったのだろうか。 主である八神はやての死亡と同時に、彼女の守護騎士であるヴィータとシグナムの二人も消滅したものだと思っていた。 しかし先ほどのホテル倒壊と同時期に行われた放送――告げられた死亡者の中には、確かにヴィータの名前があった。 真相が分からない。シグナムはまだこの世界に存在しているのか、ヴィータは誰かに殺されてこの世から消えたのか。 ルイズの持つグラーフアイゼンに訊けば、何かが分かるかもしれない。が、今はまだ。 そもそも、悲しんだり考えたりする暇はないのだ。 (ホテルには、まだみさえさんやガッツさんがいる。これ以上壊させるわけにはいかない……全力で止めてみせる!) なのはは向かってくるルイズと真っ向から対峙し、加速するハンマースパイクをバルディッシュの刃で受け止めた。 圧し掛かってくる力は過去ヴィータと交戦した時と等しく、重い。 でも、挫けたり諦めたりすることはできない。普通の少女みたいな甘えは、なのはには許されない。 守りたいものがある。友達と、仲間の、大切な命。失うわけには、いかない! 「死ね! 死ね! 死になさいよォォォォォ!!」 「……ぜったい、ダメェー!」 何度も何度も打ち込まれる鉄槌を、バルディッシュの一薙ぎで全て振り払った。 どうにかしてルイズからグラーフアイゼンを奪取し、無力化しなくてはならない。 故になのはは不得手な近接格闘戦に挑むが、使い慣れない鎌は振るうだけで疲労が溜まる。 そのため、隙も生じやすい。 「!」 がむしゃらに振り回され続けてきたグラーフアイゼンが不意に軌道を変え、なのはの顎下を狙ってきた。 バルディッシュの間合いを縫うように潜り込まれた一撃は、バリアジャケットに包まれていない頭部を掠めようとしている。 反射的に身を引いてそれを回避するが、そこからさらなる隙が生まれてしまった。 横合いから、真っ直ぐな軌道で振るわれるグラーフアイゼン。 バルディッシュのか細い柄がそれを防ぐが、発生した衝撃はなのはの小柄な身体を容易く吹き飛ばした。 流星のように煌びやかに、暗闇を帯びてきた市街地へとなのはが落下する。 受身として即席の防御魔法を展開するが、それでも落下の勢いを減少させるほどの効果しかなく、音を立ててビルの壁へと衝突した。 「――っいたた……大丈夫、バルディッシュ?」 『Yes, it is safe』 「にゃはは……やっぱり、フェイトちゃんみたいにうまくはいかないね」 コンクリートでできた壁に激突――常人、しかも小学三年生の少女ともあれば、笑って済ませられるものではない。 だがなのはは、普通なら大怪我のところを掠り傷程度で抑え、バルディッシュも目立った損傷はなかった。 戦いは始まったばかり、これからが本番。泣き言を言う暇も、言うつもりも、なのはとバルディッシュにはない。 (接近戦で対応するのは不利……かといって遠距離攻撃を仕掛ければ、あの子はシュワルベフリーゲンで攻撃してくる。 もし流れ弾が一発でもホテルに命中すれば、中にいるみさえさんたちが危ない……なら!) なのは立ち上がり、再び飛翔した。 空中で待ち構えていたルイズは未だ牙を剥き出しにした状態。 戦意を治めず、むしろ高ぶらせて、まずは目の前の邪魔者を排除しようと躍起になっていた。 ホテルからの注意は逸れている――引き離すなら、今がチャンス。 「あとで絶対、お話は聞かせてもらうから。でも今は――」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 再び突進してきたルイズに対し、なのははバルディッシュで受けようとも範囲攻撃で反撃しようともせず――身を翻し、急加速で撤退した。 頭に血が上っているルイズは逃げる敵に意識を奪われ、闘争本能のままになのはを追跡していく。 高速で飛行する魔法少女が二人、戦地をホテルの外周へと移す。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-6・上空/一日目/夜】 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】 [状態]:精神完全崩壊/グリフィスへの絶対的な忠誠/全身打撲(応急処置済み)/左手中指の爪剥離 [装備]:グラーフアイゼン(ラケーテンフォーム)(カートリッジ二つ消費)@魔法少女リリカルなのはA's [道具]:平賀才人の眼球 [思考・状況] 1.殺す(なのはを) 2.壊す(ホテルを) 3.生き返らせる(才人を) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:全身に軽傷(掠り傷程度)、友を守るという強い決意、やや疲労 [装備]:バルディッシュ・アサルト(ハーケンフォーム)(カートリッジ一つ消費)@魔法少女リリカルなのはA's、バリアジャケット [道具]:グルメテーブルかけ@ドラえもん(回数制限有り:残り18品)、テキオー灯@ドラえもん、支給品一式 [思考・状況] 1:ルイズをホテルから引き離し、無力化する。 2:グラーフアイゼンを奪取し、ヴィータがどうなったかを訊く。 3:シグナムが存在しているかを確認する。 4:フェイトと合流。フェイトにバルディッシュを届けたい。 5:はやてが死んだ状況を知りたい。 6:カズマが心配。 ◇ ◇ ◇ 破壊神が通り過ぎた跡は、それはそれは無残なものだった。 八階建てという、高く堅牢な誇りを掲げていたホテルという名の巨城は面影もなく崩れ落ち、今や元の半分、四階フロアまでを残すのみとなっていた。 五階から上は既に残骸として地に落ち、周囲に散らばっている。 ガッツや野原みさえがホームとしていた三階フロアも、上の階層から雪崩れ落ちてくる天井やら何やらによって、凄惨な有様となっていた。 壁に穴が空いているのも別段珍しくはなく、中からでも日の落ちた世界が一望できる。 崩れゆく鳴動は止まった。だが、これで崩壊が終わったとはとても思えない。 三階フロアの天井は現在進行形でパラパラと崩れ落ち、なおも残骸の数を増していっている。 いつのことだったか――野原みさえは、家族の住まうマイホームがガス爆発により崩壊した時のことを思い出した。 あれは一瞬の内に弾け飛んだ分ジリジリと迫る恐怖は感じ取れなかったが、このホテルの状況は違う。 いつ来るかは分からないが、いつか必ず来るであろう完全倒壊の時。一秒後か、一分後か、一時間後か、考えるほどに怖くなってくる。 関東大震災などがこんな感じだったのだろう。日頃テレビのニュースで見る被災者の方々の気持ちになり、みさえはその身を震わせた。 「ガッツ……それに、ゲインさんやキャスカさんは……?」 身体が満足に機能するのを確認した後は、改めて周囲を見渡した。 確認できるのは、乱雑に散りばめられた瓦礫の山々のみ。ベッドやら電話やら冷蔵庫やら、室内にあったはずのものは全て埋もれ、その姿を隠している。 見当たらないのはホテルの備品ばかりではない。ガッツやベッドで寝ていたはずのゲインもまた、その影をどこかに潜めたままだった。 まさか、彼等も生き埋めになってしまったのだろうか……渦巻く嫌な予感に駆り立てられ、みさえは足場の整わない残骸の上を歩く。 「あっ……痛ッ!?」 そこでようやく、自分の足が負傷しているという事実に気づいた。 瓦礫の破片に足を躓かせ、転倒。原因となった左足は青く膨れ上がり、今頃になって痛みを訴えかけてくる。 どうやら軽い打撲のようだ。これしきの怪我、ホテルの負った被害状況を考えれば随分と程度が低い。 みさえは意識を奮い立たせ、立ち上がろうと力を込める。その背後から、 「フリーズ。動くなです人間」 土埃に塗れた人形が、銃を突きつけてきた。 「あなた……どうして!?」 「まったく、あんな大爆発が起こったっていうのにしぶとい人間ですぅ。まぁ、そのおかげで翠星石も自由になれたわけですけど」 その人形――翠星石は、取り上げたはずの銃を構え、今にもみさえの後頭部を撃ち抜かんと牽制している。 「爆発……? 爆発って……あ」 翠星石の言葉で、みさえはようやく思い出す。 あれはたしか六時丁度、ギガゾンビの声がしたと思った瞬間の出来事だった。 凄まじい怒号と地震のような波に襲われ、すぐに天井が崩壊してきたのだ。 おかげでみさえも翠星石も、放送での死者や禁止エリアの情報を聞き逃してしまった。 しんのすけは無事なのだろうか、蒼星石は無事なのだろうか、考える暇もなく、自分の命を拾うことに精力を注がなくてはならない状況に陥る。 結果として、二人はホテルの倒壊にあっても即死は免れた。その際翠星石は意識を回復させ、同時に強奪された銃も奪還することに成功したのだ。 みさえは微かに振り向き、翠星石のやや後方に目を向ける。 そこに転がっていたのは、引き裂かれ、使い物にならなくなっていた誰かの四次元デイパック。 おそらく翠星石は、あのデイパックから零れた銃を回収したのだろう。だとすれば、あのデイパックは銃を取り上げていたガッツのものに他ならない。 彼のデイパックがあのような無残な姿を晒しているということは、つまり―― 「ガッツ……ねぇ、ガッツはどうしたのよ!」 「あんなデカ人間しらねーです。ま、大方この瓦礫の下のどこかで野垂れ死んでるんじゃないですか。翠星石には関わりのないことです。それよりも」 翠星石は突きつけた銃口をみさえの旋毛にグリッと押し付け、覇気を込めた声で言う。 「よくも! よくも翠星石をあんな目にあわせてくれやがりましたねぇ! 人間如きにあんな仕打ちを受けるなんて屈辱ですぅ!」 「仕打ちって……あなたがトンチンカンなことを言ってるからお仕置きしただけよ! それの何がいけないわけ!?」 「あーもう! これだから知能の低い人間の相手をするのは嫌なんですぅ! 今の状況が分かっていないですか!? お前は今から翠星石に殺される運命にあるのです!!」 癇癪を起こしたように顔を染め上がらせ、翠星石は力の限り銃の引き金を引いた。 銃声が鳴り、黒く開いた口から殺意の弾丸が飛ぶ――が、それは狙っていたみさえの後頭部を逸れ、天井へと放たれる。 何が起こったか理解できない翠星石は、同時に自分の身体がみさえの手によって乱暴に振り回されていることを知った。 隙を突き、小さな人形の身体を捕縛した――このまま投げ飛ばし、抵抗するつもりか。 翠星石は考えたが、答えはまるで見当違いであり、みさえの行動の真意も一瞬が過ぎる内に知ることとなる。 「――危ない!」 時間差で届いたみさえの危機を知らせる声は、翠星石に事態を把握させた。 振り回された体勢のまま、視覚でも確認する。 翠星石とみさえの後方に、剣を振るう褐色肌の女剣士がいた。 みさえに気を取られている間に、この女は翠星石の背後に忍び寄っていたのか――ようやく自分がとんでもない窮地にあったことを自覚した翠星石は、遅すぎる恐怖に身を震わせる。 あと数秒遅れていたら真っ二つという状況だった。げんこつの恨みは消えないが、この時ばかりはみさえの機転に感謝せざるを得ない。 というか、この女剣士はいったい誰だ。翠星石は一瞬考え、すぐにキャスカという名のミニ人間がいたことを思い出した。 「……スモールライトの効果が切れたのね。それにその剣も……最悪」 「うっ…………ぐぅぅぅ……」 キャスカが握っているのは、翠星石の銃と同じくガッツが預かっていたはずのエクスカリバーだった。 あれが彼女の手に渡っているということは、やはりあのズタズタに引き裂かれたデイパックはガッツのものなのだろう。 だとしたら、なおさら彼の安否が気に掛かる。みさえは未だ姿の見えぬ仲間を捜したい衝動に駆られるが、どうやら眼前の女騎士はそれを見逃してはくれないようだ。 獰猛な獣のように声を漏らし、現状が把握できていないのであろうキャスカは、混乱気味にみさえと翠星石を襲った。 グリフィス以外は敵。これはキャスカが定めたルールのようなものであり、目に付く人間、殺せるチャンスがあれば、深く考えずに襲えという本能からくるものだった。 女と人形のように小さな子供……戦力的に見てもなんら問題ない。左足は骨折により使い物にならなくなっていたが、腕さえ動けば十分に殺せる。 キャスカはエクスカリバーの柄を握る力を強め、片足で跳躍してみさえに飛びかかった。 巻き起こる剣風は、みさえのような平凡な主婦には到底回避し切れぬ代物だったが、キャスカが満身創痍なこともあってこれは難なく回避する。 「ねぇ、ちょっと落ち着いてよ! おち……落ち着きなさいってば、ねえ!」 攻撃を回避しつつキャスカを宥めようとするみさえだったが、混乱の度合いが強いのか、彼女は剣を収めようとしない。 朝比奈みくるという少女を殺害し、ゲインやセラスに手傷を負わせた凄腕の女剣士――ガッツは保護対象として捉えていたが、やはりセラスの言うとおり彼女は殺し合いに乗ってしまったようだ。 相手が刃物を持っている以上、翠星石のようにげんこつやぐりぐり攻撃で鎮圧することは難しい。大人しく逃げるのが得策かと考えたが、みさえ自身も怪我人の身。 いつ崩壊するとも分からないホテル内を、キャスカの剣をかわしつつ負傷した足で脱出する自信はなかった。 何より、ここにはまだガッツやゲインがいるはずである。彼等の安否を確かめるまでは、安心して避難などできるはずがない。 「くあああああああああああああッッ!!」 「――ッ!?」 気合の咆哮と共に、キャスカはエクスカリバーを大きく振り上げた。 その奇声に一瞬怯んだみさえは瓦礫の足場につんのめり、転びそうになった身体を寸でのところで制御する。 その間、回避行動はままならず、停止したみさえの上空から真っ直ぐな一閃が振り下ろされた。 「――――」 目を瞑り、覚悟を決めた。 これはもう避けようがない。恐れから来る痺れが身体を固めさせるが、死にたくないという強い意識はまだ保っている。 たとえどうしようもない窮地だとしても、みさえは願った。 助けを。ピンチを救ってくれる、ヒーローみたいな誰かを待ち望んだ。 ――その脳裏に荒くれた大男の姿がよぎったのは、否定しない。 「お前はッ!」 (……え?) 突如、キャスカの驚きに満ちた声を耳にし、みさえはそっと瞼を開けた。 気づけば、両断されるはずだった我が身は五体満足のまま存在している。 いったいどうして――答えを求めた視界の先で、キャスカの剣を一心に防いでいる男の姿があった。 「ガ――」 その名を呼ぼうとして、みさえは異変に気づく。 目の前で自身を守る障壁のように君臨している男は、脳裏をよぎった彼ほど大柄な体躯ではない。 晒した上半身に包帯を巻きつけ、荒い息遣いでなんとか立っているその男は――ゲイン・ビジョウだった。 「ゲイン・ビジョウ!」 「よぉキャスカ。一度は撤退したかと思ったが出戻りか? そんな傷まで負って、そこまでして生き残りたいか?」 ――昼に起こった闘争を再びなぞるかのように、ゲイン・ビジョウとキャスカの二人は対峙する。 ゲインはみさえがベッドの傍に立てかけて置いたバットを得物とし、キャスカの剣を防いでいた。 調子が万全ならば両断することも容易かったであろう代物だったが、キャスカ自身もいっぱいいっぱいらしい。 エクスカリバーを握る手はどこか弱々しく、数多の兵士を率いていた頃の力強さは感じられない。 「驚かせてしまってすまない、ご婦人。少し尋ねたいんだが、君はシドウヒカル、もしくはセラス・ヴィクトリアの知り合いか?」 「両方よ! 二人は今外に出てていないけど、あなたの看病をしていたら突然ホテルが崩れ出して、っていうか今も崩れてる真っ最中で……」 「なるほど……なんとなくだが、状況は把握した。ここにキャスカがいる理由は後でゆっくり聞くとして、とりあえず彼女には眠ってもらわないと……な!」 降りかかる刃の切っ先をバットで流し、ゲインはキャスカを沈静化させようと腹部に蹴りを放つ。 だが負傷している身とはいえ、剣を持った傭兵に安易に隙が生まれるはずもなく、ゲインの一撃は空振りで終わった。 「相変わらず鋭いな。女性のものとは思えぬ剣捌きだ。……それだけの力を持ちながら、自分のことしか考えていないってのがマイナスだがな」 見た目にそぐわぬ豪快さもまた、女性のステータスの一部。ゲインはそう捉えていた。 だがその力を自分のため『のみ』に使うとあっては、とても褒められたものではない。 血気盛んなレディは嫌いではないが、少々痛い目を見てもらう必要がありそうだ……ゲインは疼く脇腹を押さえ、キャスカの剣とバットを交わした。 (自分の命に、興味などはない……。私は決めたんだ。グリフィスを優勝させ、鷹の団を再興する) 囁くように発した言葉は、ゲインの耳には届いていなかっただろう。 ゲインは思い違いをしている。キャスカは決して自分が生き残りたいがために戦っているのではなく、ただ一人、敬愛した男の無事を祈り剣を振るっているだけなのだ。 (グリフィス……ジュドー……ピピン……リッケルト……コルカス) 誰にも思いつかないような知略と、カリスマ性溢れる指揮でみんなを率いてくれたグリフィス。 投げナイフを得意とし、何事もそつなくこなす参謀役でもあったジュドー。 巨体を盾にして何度も敵兵の強襲を食い止め、白兵戦の要として活躍していたピピン。 幼いながらも常に皆のことを思い、鷹の団を支えていてくれたリッケルト。 身勝手ではあるが、いざという時には誰よりも果敢に敵に攻めていったコルカス。 何ものにも変えがたい、鷹の団の戦友たち。 (……ガッツ!) 一年前に鷹の団を去り、仲間を、グリフィスを裏切り我が道を進んだ――今はもういないガッツ。 (ガッツも、私も、いらない。グリフィスが、いれば……) ふと、自分でも驚くくらい仲間に対して献身的な思いを抱いていることに気づく。 その正体は、あの一年を無駄にしたくないという意地か、未だ潰えぬグリフィスへの思いか、傍を離れていったガッツへの怒りか――。 (深く……考えるなキャスカ。私はただ、敵を斬る。それ、だけでいい……!) エクスカリバーの握り手に再度、力を込める。 グリフィス以外の敵を消す。ガッツであろうと、誰であろうと。そのためにもまず、この場を生き延びてやるんだ。 「いくぞ……ゲイン・ビジョウ!」 「やれやれだな……」 鷹の団の千人長たる女戦士は、たった一人の男と残してきた仲間のために剣を振るう。 黒いサザンクロスの通り名を持つエクソダス請負人は、その肩書きの誇りに掛けて、脱出を願う者たちでのエクソダスを目指す。 観戦するしか道が残されていなかった主婦は、自分にでき得る最善の行動を模索し、そして速やかに取り掛かる。 他者を恨んでばかりの人形は、いつの間にか姿を消していた。 ――これは、序章のほんの一部。 【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】 【キャスカ@ベルセルク】 [状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大 疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、軽い混乱症状 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night [道具]:なし [思考・状況] 1:目に付く者は殺す 2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。 3:グリフィスと合流する。 4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった) [装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に [道具]:なし [思考・状況] 1:キャスカを止め、ホテルからエクソダス。 2:市街地で信頼できる仲間を捜す。 3:ゲイナーとの合流。 4:ここからのエクソダス(脱出) [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】 [状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲 [装備]:スペツナズナイフ×1 [道具]:なし [思考・状況] 1:ガッツ本人と、戦闘中のゲインの援護になるような物を掘り起こし、キャスカを止める。 2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。 3:セラスら捜索隊と合流。 4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。 5:しんのすけ、無事でいて! 6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを監視。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する 基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:全身に軽度の打ち身(左肩は若干強い打ち身)、頭が痛い、全身各所に擦り傷 服の一部がジュンの血で汚れている、左肩の服の一部が破れている、人間不信 [装備]:FNブローニングM1910(弾:4/6+1)@ルパン三世 [道具]:無し [思考・状況] 1:あんなバカな人間共は放っておいて、さっさとここから逃げるです! 2:真紅や蒼星石と合流するです。 3:まずは魅音を殺してやるです。 4:水銀燈達が犯人っぽいから水銀燈の仲間は皆殺しです。 5:水銀燈とカレイドルビーを倒す協力者を探すです、協力できない人間は殺すです。 6:庭師の如雨露を探すです。 7:デブ人間は状況次第では、助けてやらないこともないです。 基本:チビ人間の敵討ちをするため、水銀燈を殺してやるです。 [備考]:第三放送は聞き逃しました。 ※ゲインのデイパック: 【支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)】 みさえのデイパック: 【糸無し糸電話@ドラえもん、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん(電池切れ) 】 バトーのデイパック: 【支給品一式(食糧ゼロ)、チョコビ13箱@クレヨンしんちゃん、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明)、電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費)】 ロベルタのデイパック: 【支給品一式×6、マッチ一箱、ロウソク2本、9mmパラベラム弾(40)、ワルサーP38の弾(24発)、極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、病院の食材、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの】 翠星石のデイパック: 【支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ】 パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)、支給品一式、空のデイパック、スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発ずつ)、首輪 がホテル内、もしくはホテル周囲の瓦礫の下に埋もれています。全て破損状況は不明。 ※ガッツの持っていたデイパックが崩落により損傷、中身が全て吐き出され、使い物にならなくなりました。 時系列順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 投下順で読む Back 【背中で泣いてる 男の美学】 Next 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 高町なのは 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ キャスカ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ゲイン・ビジョウ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 野原みさえ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ 翠星石 207 「ゼロのルイズ」(後編) 195 【黒禍】 アーカード 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 園崎魅音 207 「ゼロのルイズ」(後編) 190 魔法のジュエル ほしいものは 獅堂光 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on フェイト・T・ハラオウン 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on タチコマ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 189 鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on ゲイナー・サンガ 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 ストレイト・クーガー 207 「ゼロのルイズ」(後編) 200 へんじがない。ただのしかばねのようだ。 セラス・ヴィクトリア 207 「ゼロのルイズ」(後編) 194 復讐少女 ~rachen Sie Madchen~ ガッツ 207 「ゼロのルイズ」(後編)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6080.html
前ページ/ゼロの使い/次ページ 「悪党はお互い様じゃないか?隊長殿。」 その言葉に思い当たる節があるのか、コルベールは顔をしかめた。 「まあ、村一つ焼いた程度の事で戦場から身を引く程度じゃあ、俺のが悪党としては上か・・・」 言いながら、メンヌヴィルの姿が変容していった。 盛り上がっていく肉体が身に着けていた衣服を引き裂き、全身は赤い体毛に覆われ、額が裂けて目玉が現れた。 変容が終わった時、そこに立っていたのは2メイル程のグリフォンを直立させたような炎のように赤い化け物である。 彼が元は人間だったと言われたとして、信じる者は皆無であろう。 「さあ隊長殿、あんたが焼ける匂い、たっぷりと嗅がせてもらうぜ。」 言い終わると、化け物は息を大きく吸い込み、激しい炎を吐いた。 先程同様、魔法で相殺しようとするがドラゴンのものに勝るとも劣らぬそれを受け止めるのはいかに彼とて無理な注文であった。 やがて炎が直撃し、その場に倒れてしまった。 「おいおい、こんなに簡単にくたばっちまうのかよ?」 拍子抜けしたメンヌヴィルがゆっくりとコルベールに歩み寄り、彼の襟を右手で掴み、持ち上げる。 「焼き加減は・・・レアか?ミディアムか?・・・聞くまでもなくウェルダンだよな!!」 止めを刺そうと息を吸い込む彼を、気絶したかに思われていた『炎蛇』が突如睨んだ。 「慢心は・・・あの頃のままだな!!爆炎!!」 その瞬間、コルベールとメンヌヴィルの周囲の酸素が見る見る減少していった。 「なるほど・・・範囲内の生物を窒息死させる魔法で道連れにしようって寸法か・・・だが残念。俺に空気は必要ない。」 魔物が再び火を吹こうとする。コルベールがニヤリと笑うが、魔物は嘲るように言った。 「バックドラフト・・・と言ったか?それを狙ったとしても無駄だ。炎の扱いに慣れてる俺が、そんな馬鹿な真似をやるとでも思ったか?」 呪文の範囲外まで飛んでいってから焼き殺すことにした魔物が翼を広げる。 だが、飛び立とうとした瞬間、彼の後頭部に大きく重い何かが直撃した。 魔物は衝撃でコルベールを落とし、同時に、辺りの空気が元に戻った。 「ゴホゴホ・・・爆炎は囮だ。本当の狙いはその斧だ。」危うく窒息死しかけたコルベールが咽ながら言った。 「な・・・に・・・」と血を吐きながら呟きつつ、彼は斧の飛んできた方向を見た。その先には研究所の破れた窓から顔を覗かせている青い鎧の様なものが立ち尽くしていた。 「彼女の名はエリー。私の思念で動き、争いに関する命令を一切受け付けないからくり兵の試作品で、僕の助手だ。」 「ふざ・・・けるな・・・おれに・・・こう・・・げき・・・を・・・」 「私はただ、斧を拾って僕に投げてくれと命じただけだ。命令を実行したら、お前が斧の軌道上にいただけのことだ。 貴様の炎を受けたのも、倒れる場所も計算ずくだった。」 「ぐ・・・やっぱ・・・つえぇな・・・せめて・・・サシであんたと・・・やりたか・・・た・・・」 言い終わる前に、人であることを捨てた男は息絶えた。その瞬間、死体が塵芥となって消え失せた。 「お前が人のまま私に挑んで来たら・・・そうしたかもな・・・」 彼は生徒達の救出に行こうとしたが、どうやらかなりダメージが大きいらしく、動くことは出来なかった。 先手を取ったオスマンが老骨に鞭打って、見えざる最後の敵に放った炎の嵐は突如発生した竜巻によって弾かれた。 風の魔法かとも思ったが、魔力を感じることは出来なかったので、恐らく体を超高速回転させて炎を防いだのだろう。 無論、常人にはそのような事は出来ないが、先程からの発言等から彼が相当の猛者である事は間違いないし、 ひょっとしたら、身体能力を向上させる何らかの魔法薬を使っているのかもしれない。 と、不意にオスマンは思考をやめ、しゃがんだ。 回転しながら後方へと飛んで来る物体の『風』を感じたからだ。 続いて、オスマンは後方へと飛び、さらに100を超える老人とは思えぬ華麗な動きを披露し、不可視の剣を避ける。 「手裏剣でわしの注意を引いた後、接近戦に持ち込み、詠唱をさせぬ魂胆じゃろうが、甘いの。 そんな事ではご大層な肩書きが泣く・・・」 オスマンは最後まで台詞を言えなかった。 背中に3つの刃が深々と突き刺さり、その痛みに気をとられた隙を突き、不可視の剣がオスマンの体に大きなX字を刻んだ。 「油断したな。俺が投げたのは手裏剣ではなく、ブーメランだ。」 剣に付着した血を拭おうとして血が付いてない事に気づいた時、目の前のオスマンの姿が煙のように消え、同時に背中から強烈な炎を浴びせられた。 レイヴンは叫びを上げることも無く、床にその肉体を横たえた。 その光景を見届けたオスマンが飄々とした口調で言った。 「先の攻撃の際に、念の為と偏在を作っといたのが幸いしたわい。油断したのはお前さんの方じゃよ。」 オスマンは部屋へ視線を移した。 愛用していた椅子は真っ二つにされ、天井は崩落、内装の殆どは黒焦げ。 おまけに床に転がった見えない刺客共の死体で足の踏み場も無い状態だった。 そこまで行って、彼は深い溜息をついた。 「何という事をしてくれたのじゃ全く。これならいつもの書類整理や、 在りし日のロングビルの折檻の方がよほどかマシじゃわい・・・」 半分以上は自分がやった事などと言う事実は棚に挙げて、学院長は侵入者に愚痴を零した。 と思いきや、突如入口に炎の球を投げつけた。 炎球は何も無いはずの空中で爆発し、死んだ筈の人間・・・レイヴンに止めを刺した。 「確かに致命傷を負わせたはずなのに大した執念と生命力じゃ。じゃがの、そんなに殺気を漲らせては寝ている子供にも気付かれてしまうぞ。」 オスマンは無益な殺生を好む人間では無い。 この老体はうすうす、敵が息を引き取っていないことに感付いていたが任務を諦め、退散するなら見逃すつもりでいた。 ふと、彼は妙案を思いついた。 この見えない鎧や剣をアカデミーに差し出せば、謝礼として部屋や内装品の修理代が出るかも・・・と。 今、ニューカッスル跡ではメディルが予想外の苦戦を強いられていた。 開戦早々、敵は予想外のスピードでメディルの懐に飛び込み、嵐の様な槍捌きで彼を攻め立てた。 辛うじて、直撃は避けてはいるが、いつまでもそれが続くかといえば答えはNOとなる。 いかにあらゆる魔法に精通したメディルとはいえ、疲労の概念はある。 対して、敵であるグレートライドンはアンデッド故に疲労の概念は無い。 肉体を破壊されない限り、何年でも戦い続けることが出来るのである。 この世界の詠唱を必要とする魔法に比べれば、メディルの魔法は言葉だけで繰り出せる分相当速い。 しかし、それをもってしてもこの状況下での反撃は無理だった。 メラゾーマが槍で弾かれることは以前のやり取りで明白だったし、至近距離でイオナズンやベギラゴンを使えば自身もただではすまない。 マホカンタはあくまで、他者の魔法を跳ね返すので、自分の術を防ぐのは無理だった。 かといって、距離を置こうにも敵の方がこちらより素早く、八方塞な状態であった。 「どうした!?いかなる雑魚が相手でも、逃げるだけでは勝てぬぞ!?」 と、不意にグレートライドンの体が傾いた。いつの間にか、地面が凍らされており、乗っていた馬が足を滑らせたからだった。 すかさず、メディルが距離をとってベギラゴンを放つ。 しかし、呪文は凍える吹雪・・・単なる乗り物だと思っていた馬の吐き出した冷気のブレスによって防がれた。 その上、流石は魔界の馬というべきか、転倒すると思ったメディルの思惑を裏切り、 馬はすぐに体勢を整え再びメディルの懐に飛び込んで来た。 不意を突かれたメディルの胸に、吸い込まれるようにランスが突き刺さった。 槍の主は殺ったと言わんばかりの笑みを浮かべるが、すぐに驚愕に染まった。 突き刺さった筈の槍に、ヒビが入っていき、粉々に砕けた。 次いで、二発のメラゾーマが彼の胴体と馬を粉微塵に吹き飛ばした。 普段なら槍で、距離さえあれば馬の吹雪で防げた技だった。 「何故・・・槍が砕けたのだ・・・どうやって・・・そんな真似を・・・」 凍らされた様子は無かった。にも拘らず、得物が砕けた理由が理解できぬ彼はおもむろに言った。 「先程脱出する際にかけたスクルトのお陰だ。」その問いに、仮面の魔術師はいつもと変わらぬ口調で答える。 「いかに体を硬化させたとはいえ・・・槍を脆くでもしない限り・・・」 言いながら、彼は何かを思い出した。彼の知る限り、武器を脆くする術は無い。 だが、似た効能を持つ術ならば知っていた。 「ま、まさか・・・」 「そう。先程の攻撃の中で槍にルカニをかけておいたのだ。本来防具を脆くする術だが、 武器に使えるよう改造されたものがこちらの世界に来て読んだ書物に記されていた。 考案者は術の名前まで考えてはいなかったようだから、あえてルカニと呼んでいる。」 「ははは・・・いるものだな、そういう凡人の知恵の及ばぬ事をする奴が・・・完敗だよ・・・」 「お前は凡人ではなかった。世が世なら、私の下で有能な部下として召抱えられていただろう。」 「・・・そうだな・・・お前の様な奴が上司なら、私も喜んで仕えただろう・・・ さらばだ・・・最後に良い冥土の土産が出来たよ・・・」 メディルという偉大な魔族の名という土産がね・・・ と言い終える前に最後に残された頭蓋骨が、塵となって消えた。 それを見届けると、メディルは飛翔呪文を唱え、軍と繋がっている魔力の根源を目指して飛んでいった。 ルカニ武器バージョンはここのオリジナルです。 前ページ/ゼロの使い/次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3287.html
春の使い魔召喚の日、ルイズは召喚に成功した。 そして、それは前代未聞の使い魔の召喚であった。 てゆーか、神様を召還したのだ。 ルイズが呼び出したそれは、見たことも無い服を着た少年であった。 周囲を取り囲む学生達も唖然とする、勿論ルイズも。 「あ、あ、あああんた、誰よ」 人間を使い魔として呼び出すなんて、いや神様なんだけどそれでも聞いたことが無い。 問われた男の子は、周囲を見て答えた 「………MZD、つーかココどこよ」 彼の名はMZD ポップンミュージックのプロデューサ謙神様 とは言っても、どう見ても少年 生まれは、 アマゾン川流域青木町 趣味 木登り。 すきなもの ピーターパン(永遠の少年) きらいなもの それはちょっとね …説明は以上である (あっれ?…たしか次のポップンミュージックの事で話し合いしてて…寝てて気付いたら…) 「あ、あ、あああんた、誰よ」 自分を召喚したらしい、桃色の髪の娘が問いかけてきている。 周囲を見回す。 城とか、変な服着た少女と男子ついでにおっさん一名 ポップンでは見た事ない奴等ばっかりだ 新キャラは大体覚えてるが…顔以外服が同じ、しかも1P2Pなら分かるがキャラ数が半端ない あとドラゴンとか色々いるし、選ぶ時間ねーんだから、少なくしろよ… とりあえず、情報が先これがMZDの考えた結果であった 「………MZD、つーかココどこよ」 ゼロのリミックス 「ミ、ミスタ・コルベール!やり直しを!やり直しをさせてください! こ、こんな平民(ry「召喚のやり直しは無理です、契約をしない限り、進級できませんよミス・ヴァリエール」 とりあえず、待つのもだるくなったのでMZDは口を動かした。 「コルベール…さんだっけ?ここって、ポップンの世界じゃねーの?」 「は?世界?それは一体どういう…」 「あぁー、だり、とりあえずココは、ポップンミュージックの世界なのか聞いてんの」 「? この世界の名前はハルケギニアですが…加えてここはトリステイン魔法学校です。」 「ハルギニア…トリステイン…………聞いたことが無いな………」 MZDは焦った、ポップンの世界ではない?… んじゃなんだ、もしや別の世界?あるあr・・・ねーよな・・・ 「ほら!ミスタ・コルベール!怖いですよ!特に影が、つーか何か後ろの影、スタンド!?あれ絶対ザ・ワールドとかオラオラする人種ですよ!」 「だからミス・ヴァリエール、やり直しは認められないと…」 「しかし!」 。 「えっーと、ミス?ヴァリエール、いいか?」 色々と時間がかかりそうだったので、めんどくさくなったMZDは間を割った 「なんでもいい、契約やらなんやらやってやるよ、暇だし」 「けけけけ、け契約って、そんな!暇だからって!!!!」 「こっちも時間ねーんだよ、 さっさとしてくれ、そいつが進級出来ないんだろ? ま、こっちも神だし迷いの手ぐらい出してやんないとな、後味悪いし」 「で、でも………え?神?」 話は平民と使い魔として契約を結ぶという流れになってきたことで周囲の生徒達が騒ぎ始める。 「ルイズ…あの歳でショタかよ…」「ショタって良いよね…」「あの影動いてね?」 「「「「「「てゆーか、神!!!!!!???」」」」」 ビビクッ! 真っ白に思考停止していたルイズであったが、生徒の一人が発した台詞で我に返った。 (え?神、いやつーか少年…おおおおおおおおおおちつけああたたたたし、冷静に…) 「どうしたのかね。契約をしたまえ、ミス・ヴァリエール」 「帰って良いか?時間せまってるし」 周囲の生徒達も口々に「契約」と騒ぎ始める。 ごめん、続かない 『契約』…『契約』…『契約』…『契約』…『契約』 ルイズの周囲を『契約』という言葉が渦巻き始める。 それらと場の空気がルイズの乙女心を侵食し始める。 (神つーことは、あたしもしかしてすごいの読んだの!!!? でも、どうみても変な服着た少年だし…あーもーめんどくさい!!!!) 「じゃ、じゃあMZDし、失礼します…」 進級かダブり、思考回路がショートしてしまった少女は彼…もとい神に使い魔になる事を選んだ 「あいよー」 (か、軽!!) 乙女なルイズが心の何処かで静止しているのを感じるが、ショートした思考は止まらない。 ルイズは呪文詠唱を開始した。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 こうして彼女は神に口付けを交わし、使い魔の契約を交わしたのであった
https://w.atwiki.jp/blazingmars/pages/34.html
★今日のアクセス数★: - ★いままでのアクセス数★: - オリジナルでのPT しぷゼロ おにこんぼう ダークドレアム レオパルドorクイーンガルハート おにこんは疾風突きでダークドレアムは捨て身で行動早いがラウンドゼロ・・・こんな戦法 一番よくあるスキル おにこんぼう 攻撃力アップSP 攻撃力アップ3 ふうらいの剣技 多彩な技を使う用 攻撃力アップSP エスターク ふうらいの剣技orバウンティハンター ダークドレアム 攻撃力アップSP 攻撃力アップ3 侍 レオパルドorクイーンガルハート HPアップSP オムド・ロレス 竜神王orエース オリジナルの捨てゼロ グラブゾンジャック ダークドレアム レオパルドorクイーンガルハート
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/176.html
前ページ次ページゼロの剣士 #1 ギ―シュ・ド・グラモンはその日、遊びに興じる仲間達を尻目に特訓に明け暮れていた。 汗の滲む手に青銅の剣を握りしめ、ひたすら同じ動きを繰り返す。 毎日セットを怠らない髪は今や汗に濡れ、前髪が額に張り付いていた。 彼お気に入りの造花の杖は脱いだマントの上に置かれ、今はただじっと主が剣を振るう姿を見つめている。 ヴェストリの広場での敗北は、彼のこれまでの思想を根底から覆すような重大事だった。 ギ―シュはこれまで魔法の力を絶対のものと考え、自らの肉体を以って戦うことを軽視していた。 剣を振り回し、汗を流して戦うことを野蛮なこととさえ考え、そんなものは杖の一振りで一蹴できるものと思いこんでいたのだ。 しかしそこで――あの『ゼロ』の使い魔。 一介の剣士であるヒュンケルが、ギ―シュの思いこみを粉々にぶち壊した。 流れるようなあの動き。 多方向からの攻撃も華麗にいなすあの技術。 そして何より超人的な運動神経。 鍛えたからといって、自分があのようになれるとは思わない。 自分がメイジであるという誇りだって失ってはいない。 しかしそれでも……最後に頼れるのは己の身一つであることをギ―シュは痛感したのだ。 自分を負かしたヒュンケルに対する悪感情はもはやない。 ギ―シュはあの後、ヒュンケルに剣を教えてくれと頼んだが、その願いは言下に断られた。 剣の技量以前に、基本的な筋力を鍛えてこいとヒュンケルは指摘したのだ。 そこでギ―シュはひとまず自分で青銅の剣を錬金し、ひたすら素振りを繰り返すことから訓練を始めた。 八体目のワルキューレ。 ギ―シュは、自分自身がそれになるべく歩み始めた。 「ふう、今日はここまでにしておこうかな。モンモランシ―も退屈して行っちゃったし……」 今日のノルマを達成すると、ギ―シュは濡れた前髪を掻き上げてひとりごちた。 恋人のモンモランシーは最初こそギ―シュの特訓を見ていたが、そのうち退屈して帰ってしまった。 基本的にずっと同じことを繰り返すばかりだったのだから仕方ないが、ちょっとばかりの寂しさは感じる。 どうせ三日坊主で終わるでしょなんて言ってたモンモランシ―の顔を思い返し、 ギ―シュは「彼女も僕が構ってくれなくて寂しがってるのだ」と思って――というか願って、自分を慰めた。 疲れで軋む腕をさすりながら、ギ―シュは後で彼女をお茶にでも誘おうと心に決める。 木陰に置いておいたマントを羽織り、杖を手に取った時、ギ―シュは見慣れない感覚を覚えた。 足元が安定しないこの感じ、地震だろうか? しかし遠くから聞こえる、奇妙は地響きは――。 不意にギ―シュは、辺りが急に薄暗くなったことに気がついた。 視線を上げた彼は、落ちかかった太陽を巨大な『何か』が隠しているのを目撃した。 #2 「それにしても随分買いこんじゃったわねえ」 王都からの帰りの道中、馬車に揺られながらキュルケが言った。 ルイズやキュルケの足元には、ぱんぱんに膨れ上がった袋がそれぞれ二つ。 主にヒュンケルの洋服が詰まったものが置かれていた。 ルイズの隣りに座ったヒュンケルは、珍しく疲れた顔で目を閉じている。 武器屋を出た後、あれこれ仕立て屋を連れ回され、これを着ろだのこっちがいいだの着せ替え人形のような目にあわされたのだ。 初めは使い魔を甘やかすのはどうとか言っていたルイズも次第に熱くなり、結局こんな大荷物になってしまった。 ちなみにデルフリンガ―、愛称デルフは結局ルイズが買ったが、 キュルケの魅惑の交渉術のおかげで、買い叩いたも同然の出費で抑えられていた。 我に帰ってヒュンケル達を見送る店主の顔を思い出し、ヒュンケルは一つ、同情の溜め息をついた。 「気にすることないぜ相棒。別に食いっぱぐれるでもないし、小ずるいあの親爺にはいい薬だぜ!」 ヒュンケルの心情を察したのか、デルフがそう言った。 この陽気な剣は今、鎧の魔剣と並んでケースの中に鎮座している。 今日一番の収穫と言えば、このワケありそうな剣に出会ったこと。 そしてこの剣を通じて、鎧の魔剣が完全復活することが分かったことだろう。 不死身の異名をとっていたヒュンケルだったが、まさか愛用の武器までそうだとは思わなかった。 魔剣に向かって何故か「俺の方が年上なんだぞ」と喚くデルフを見ながら、 そんなことをヒュンケルは思い、そして笑みを浮かべた。 しかしそこで―― 「あっ、学院が見えたわよ! でも……なにか変ね」 外を眺めていたルイズが振り返ってそう言い、少し眉根を寄せた。 気になったヒュンケル達がそれぞれ馬車の小窓から顔を出して覗いてみると、遠目に魔法学院の姿が映った。 ヒュンケルにとってはまだ見慣れない場所ではあったが、たしかにルイズの言うように様子がおかしい。 出発した時とは何かが――学院にそびえる塔の数が違っているように見えた。 「――あれはゴーレム。巨大なゴーレムが学院に侵入しようとしてる」 遠見の魔法を使ったタバサが、そう呟いた。 馬車が学院に近づくにつれ、ヒュンケル達の目にもそれが手足を持った巨大なゴーレムであることがはっきり分かる。 30メイルはあろうかというそれは学院の外壁をのっそりと跨いで、まさに今学院を襲おうとしていた。 「まさか、土くれのフーケ?」 キュルケが囁くようにその名を口にし、ヒュンケルはオスマンの言葉を思い出した。 土くれのフーケ。 それは巨大なゴーレムを使役する、凄腕の盗賊の名だったはずだ。 「急いで学院に向かって!」 ルイズが馬車の御者を急かし、一行は全速力で学院に向かった。 #3 馬車が学院に着いた時、ゴーレムは既に中央の本塔の前に達していた。 ゴーレムの目標を素早く察したタバサが一言、「宝物庫」とつぶやく。 どうやらあそこに学院の宝は眠っているらしい。 となると、やはりゴーレムを操っている犯人は土くれのフーケか。 よく見れば、ゴーレムの上にはフードをかぶった、見るからに怪しい人物が佇んでいる。 「あそこ! 誰かいるわよ!」 ルイズの指さす方を見ると、ゴーレムの陰に金髪の少年が立ち尽くしていた。 ヒュンケルとヴェストリの広場で戦ったメイジ、ギ―シュ・ド・グラモンだ。 妙にゴーレムがまごついていると思ったが、それは進路上にあのギ―シュがいたせいかもしれない。 ゴーレムが立ち止まったのは、ギ―シュに逃げる猶予を与えるためだとヒュンケルには思えたが、 恐怖したギ―シュは逆にそれを自分が標的にされたからだと受け取った。 ギ―シュは震える手で杖を振るうと、巨大なゴーレムに対抗して 大きなワルキューレを錬金してみせたが、それは如何にも無謀なことだった。 錬金されたワルキューレは大きく見積もってもせいぜい5メイル。 フーケのゴーレムとは子供と大人以上の差があるそれは、 剣を片手に果敢に斬りかかったものの、文字通り即座に蹴散らされた。 ギ―シュの背後の壁にぶち当たり、粉々に壊れる大きなワルキューレ。 もはやギ―シュは足が震えて逃げることも叶わず、へっぴり腰で青銅の剣を構えた。 ゴーレムの巨体を前にしては、ギ―シュの剣など針みたいなものだ。 やはり選択を間違えたかなと自信をなくすギ―シュに向かって、ゴーレムが虫を振り払うかの如く腕を動かした。 良くて骨折、悪ければ――。 「貸しだからねギ―シュ!!」 死を覚悟しかけたギ―シュに、ルイズが叫んだ。 キュルケ、タバサと共に、ルイズはゴーレムに向かって杖を振りかざす。 しかし三人の杖の先から魔法が発射された時、ゴーレムの巨大な腕はそこにはなかった。 ――アバン流刀殺法・海波斬。 アバン流最速の秘剣によって巻き起こった剣圧が、ゴーレムの腕を既に刎ね飛ばしていたからである。 「さっそく俺っちのお披露目かと思ったら、そいつを使うのかよ……!」 魔剣を構えたヒュンケルの後ろで、馬車に置いてけぼりにされたデルフリンガ―がぶうたれた。 そして哀れ、無傷で助かったはずのギ―シュは、 目標を見失って壁にぶつかった三種の魔法――特にルイズの爆発の余波を食らって吹っ飛ばされた。 紙きれのように中空に浮かんだギ―シュは、地面に激突しようかという寸前、ヒュンケルにキャッチされる。 「ヒュ、ヒュンケル……ぼ、僕がレディだったら、君にほ、惚れる……ところだね。 しかし君の主人の失敗魔法はし、しどい……」 ギ―シュはそこまで言うとグフッと呻いてそのまま気を失った。 ま、まあ死ぬよりかはマシよねと目顔で頷き合ったルイズとキュルケは、すぐにきょろきょろ辺りを見回し始める。 少し目を離した隙に、さっきまでゴーレムの肩口にいたフーケが姿を消していた。 「あれ、フーケは?」と困惑するルイズ達に、タバサが本塔の壁を指し示した。 強力な固定化の魔法をかけられていたはずの壁は、三人の魔法を受けて大穴を空けていた。 「……もしかしてあそこ、宝物庫の壁?」 顔を引きつらせるルイズとキュルケに、タバサがこくりと頷く。 やっちまったとばかりに天を仰いだ二人は慌てて宝物庫に駆け寄ろうとしたが、 ゴーレムが穴をふさぐようにしてその前に立ちはだかっていた。 もはやフーケはルイズ達のことを完璧に敵だと認識したのか、 ゴーレムは無防備に近づいたルイズとキュルケに向かって、大木のような腕を容赦なく振り下ろした。 ルイズ達の目前に大質量の塊が迫る――。 「くっ、ルイズ!!」 インパクトの瞬間、すんでのところでヒュンケルが二人の前に割り込んだ。 合わさった魔剣と拳の力は一瞬拮抗したが、不安定な体勢もあってさすがにかなわず、 ヒュンケルは背後の二人を巻き込んで吹っ飛ばされる。 平衡感覚を失ったルイズ達の前に地面だか壁だかが迫り、ルイズは自分の見目麗しい顔がハニワになるさまを想像した。 (わたしは胸のみならず、顔までぺったんこになるのね……) ルイズが想像だけで気を失いそうになった瞬間、タバサが咄嗟に魔法で風のクッションを作った。 衝撃を和らげられたルイズ達は、なんとか打ち見程度の怪我でことなきを得る。 しかしルイズ達が立ちあがったその時、既にフーケは用事を済ませ、学院の外壁をまたぐゴーレムの上にいた。 大きな歩幅でどんどん遠ざかるゴーレム。 もはや追いつけはしないだろう。 いや、追いつけたとしても、あんな巨大なものをどう壊せばいいのか――。 悠然と去っていくゴーレムを睨みつけるしかないルイズの横を、タバサとヒュンケルが駆け抜けた。 宝物庫に入った彼らはやがてそこから出てくると、一枚の紙を手にして戻ってくる。 ヒュンケルが手渡してくる紙を見てみると、そこにはこんな言葉が書かれてあった。 『悟りの書、たしかに領収致しました。 土くれのフーケ』 そのふざけた領収書をびりびりに破いてやりたい衝動を堪え、ルイズは沈んでいく太陽を見つめる。 楽あれば苦あり。 今日という一日を振り返り、ルイズはそんなことを思った。 前ページ次ページゼロの剣士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6380.html
前ページ次ページゼロの花嫁 ゼロの花嫁12話「品評会EXステージ」 ルイズが地獄を見た日から、半月程日々が流れた。 真っ白な灰となり、風が吹けば飛び散ってしまいそうな程にか細い存在と成り果てていたルイズも、既に何時もの調子を取り戻している。 宮廷は王位継承で連日大賑わい、ルイズ達の罪状も恩赦で無かった事に。 晴れ晴れした気分になれるはずのそんな日々を、より満ち足りた物にするイベントがルイズ達を待っていた。 「私達に芸を披露しろと?」 ルイズが呆気に取られた顔で問い返すと、コルベールは満面の笑みで頷いた。 「ああ、この間の品評会が特に好評でね、あれを王位継承祭の時に披露して欲しいと宮廷から打診が来たんだ。光栄な事だ、是非頑張ってくれたまえ」 その宮廷を散々騒がせた当人達に頼む事じゃないのでは。とか思ったが口にはしないルイズ。 上位三人、タバサとキュルケとルイズの使い魔を王都特設ステージで披露するという趣旨だ。 派手すぎるイベントはそもそも好まないタバサは無表情のまま、拒否オーラを出している。 キュルケは評価された事自体は嬉しいようで、面倒そうにしつつも悪い気はしてない模様。 そしてルイズ。声をかけてもらったのは嬉しいのだが、宮廷で目立つのはもう避けたいと思っていた矢先であるので、返答に困る。 「色々あったけど、それも含めての依頼だ。気にせず全力で披露してくるといい」 コルベールのそんな勧め言葉に、ルイズ達は頷くしかなかった。 「ふれいむうううううううううう!!」 泡を噴きながらぴくぴくと震える愛する使い魔を抱きかかえながらキュルケが絶叫する。 すぐ隣ではタバサの使い魔シルフィードが、同様に痙攣しながら引っくり返っていた。 ルイズ、キュルケ、タバサの三人はそれぞれの使い魔を伴い早めに会場入りしていた。 引率のコルベールが王室付きの医師を呼んできて、倒れた二体の使い魔の症状を見てもらうと、何らかの薬物中毒であるとの事。 すぐに治療した為大事には至らなかったが、魔法を持ってしても回復には丸一日かかるそうだ。 ひとしきり憤慨した後、さてどうするかとなった。 使い魔抜きでは芸の披露など出来ない。 コルベールは運営委員会に事情の説明をして、今回は出場を見合わせるといった旨の発言をするが、三人は納得しなかった。 あれから更に練習を重ねて練度を上げてきた珠玉の芸である。 何より、これが事故ではなく誰かの故意によって引き起こされた事態であると思われた事が四人を頑なにしていた。 ルイズは額に皺を寄せっぱなしである。 「冗談じゃ無いわ。何処の何方様か知らないけど、そんなに私達の芸が嫌だっていうんなら、絶対にやりきってあげる」 完全に戦闘体勢のキュルケ。 「犯人消し炭に変えるのは後よ。今はステージを成功させて奴の鼻を明かしてやるわ」 タバサもまた薬物の使用が余程気に入らなかったのか、顔に出さず激怒していた。 「……許さない」 誰一人止まってくれそうにない。それ以前にコルベールは剣振り回しながら犯人探しに行こうとする燦を止めるので手一杯である。 コルベール抜きのまま、どうするかの相談は続く。 たまたまその場に居合わせてしまった不幸な王室付き医師も巻き込んで、何とかステージのアイディアは纏まる。 細かい詰めに入る頃にはようやく燦も落ち着いてくれ、コルベールと燦も交えて突貫作業の準備が始った。 「な、何とか間に合ったわね」 肩で息をしながらルイズがそう呟くと、キュルケも壁にもたれかかって荒い息を吐く。 「間に合ったっていうのコレ? いやそれでももう、やるしかないんだけどさ」 「大丈夫よ、きっとウケるとは思うわ。というかこれだけやってウケ無かったら私暴れるわよ」 「そんな元気が残ってればね」 タバサと燦の方もどうやら終わったらしい。 最後の打ち合わせを終えると、コルベールは舞台天井に登ってスタンバイ。 「……何で私もココに居るのよ」 お祭りという事で遊びに来ていたモンモランシーが何故か付帯袖に居る。 ぶちぶち文句を言うモンモランシーを、逃げたら燃やすの一言で連れてきたキュルケはぴしゃっと言い放つ。 「うっさい、ギーシュはお兄さんと一緒なんでしょ? だったらどうせ暇なんだから付き合いなさい」 「もう充分付き合ってあげたでしょ! 何で私が大工仕事なんてしなきゃならないのよ……」 ぐちゃぐちゃ言った所で、既に会場は満員御礼。 前席の貴族席はもとより、外野席に当たる平民用の席も立ち見が出る程の大賑わいである。 モット伯の件は宮廷のみならず平民達の間でも有名で、そんな連中が一体何をやらかしてくれるのかと皆興味津々なのである。 モンモランシーもここまで付き合ってしまった為、引っ込みがつかなくなってしまっているのだ。 大きく深呼吸一つ。 ルイズは舞台袖で皆に気合を入れる。 「行くわよ!」 まずはルイズとキュルケの二人がステージへ出る。 この二人こそモット伯晒し者事件の主犯である。自己紹介が済むと後席の平民達がわっと沸く。 平民を守って悪徳貴族を懲らしめた、そう街中に広まっているせいかエライ人気である。 思わぬ好感触に、二人は気をよくしつつ芸の準備に入る。 二人が引っ張ってきたのは巨大な箱である。 下に車輪がついているおかげで、スムーズな移動が可能なそれを観客達の前で一回転させ、タネも仕掛けも無い事を示す。 何をするつもりかと観客達が見守る中、ルイズがその箱の中に入ってしまう。 箱の上部にある穴から首を出し、準備完了。 箱の大きさはちょうどルイズの体全体がぴったり収まる大きさで、中で身動きする余裕もほとんどない。 そこでキュルケが取り出だしたのは一本の剣。 ルイズとキュルケ、二人の視線が絡み合う。 「い、いいわよっ!」 「おしっ、遠慮無しでいくから覚悟決めなさい」 ぶすーーーーーーーーっ!! 宣言通り遠慮呵責無しに、深々と箱に剣を突き刺した。 箱の上部から飛び出しているルイズの顔が、見るも無残に変形する。 観客席、特に貴族の多い前席からは小さい悲鳴が上がるが、すぐにルイズがにこっと笑ったおかげで皆が安堵する。 もちろん芸はこれで終わりではない。 アシスタントモンモランシーが、舞台袖から剣を十本、重そうにしながら持って来る。 「ちょ! ちょっとキュルケ!」 洒落にならぬ気配を感じ取ったルイズは、顔中から嫌な汗が垂れるのを堪えながらキュルケに抗議する。 「一本や二本じゃ誰も納得しないでしょ」 「だったら最初っから言っときなさいよ!」 「何言ってるの。最初に言ったらアンタ嫌がったでしょうに」 小声でぼそぼそと言い合いながらも、キュルケは剣を受け取り、早々に構える。 「いや、それ死ぬから! 本気で死んじゃうってばあああああああっ!」 「舞台袖に王宮付き医師揃えてるんだから、即死以外は何とかするわよ」 「人事だと思って……ぎゃあああああああああああ!!」 ルイズの悲鳴に重なるように、キュルケはもうこれでもかという勢いでぶすぶすぶすぶすぶすぶすぶすぶすと剣を突き刺していく。 都度貴族のご息女とも思えぬ、もぬすごい顔になるルイズ。 そう、この手品。タネも仕掛けも本当に無いのである。 気合で耐えて、ステージが終わるなり舞台袖に控えている王宮付きの優秀な医師達に魔法で治してもらうつもりなのだ。 箱の底板から赤黒い何かがじわっと染み出てくる。 上部の板にはルイズが吐き出した血が放射状に飛び散り、舞台上まで血しぶきが舞っている。 キュルケは全ての剣を突き刺し終わると、一礼をしようとするが、箱を振り返ってこんこんと叩き、ルイズにも礼をするよう促す。 当然、剣が十一本も刺さってるルイズはそれどころではない。 頭がぐでーっと穴の縁によりかかるように寝転び、反応すら出来ない。 それを見たキュルケは肩を竦めて見せ、観客達に大きく礼をして締めた。 観客達の大爆笑を背にステージ袖まで箱のままルイズを引っ張っていく。 誰も大貴族ヴァリエール家の娘が、本気で自分に剣刺してるなんて思ってもみないのだ。 奥にはサイレントの魔法で音が外に漏れぬようにしてある、簡易手術室が用意されていた。 「早く! 顔が土気色になってきてるわ!」 医師達は呆れすぎて文句を言う気にもならないらしい。 「……すげぇ……本気でやりやがった……」 「馬鹿! ぼさっとしてる場合か! すぐに手術にかかるぞ! バカバカしいとか思うなよ! むしろその勇気を称えろ! そうとでも思わなきゃ治してやる気になんてなれんからな!」 「急所外せばいいってもんでもないだろ……うっわ、ひでぇなこりゃ。この出血でまだ息があるとかそれが既に奇跡だろ」 次なるはキュルケの出番である。 フレイムがやる予定であった火の輪くぐりをキュルケ自身で行うのだ。 流石に品評会の時のような精度を維持しつつアクションは無理なので、火の輪はコルベール作成の鉄の棒に藁を巻いて油を浸し、火を付けるようになっている。 が、実際に火をつけてみたモンモランシーは確信する。 『……こんなのくぐったら自分も燃えるわよ、絶対』 コルベールが油の量を誤ったのか、凄まじい勢いで燃え盛る炎。 実はこれ、自分だけ痛いのが許せないと思ったルイズが、油の量を倍に増やしていたのだ。 曰く「このぐらいスリリングな方がきっと盛り上がるわ! キュルケも私の配慮にきっと感謝するわね!」だそうである。 モンモランシーが舞台袖に戻ってくると、キュルケが水を頭から被っている所であった。 この時体に纏わり付いた水を、モンモランシーとタバサが魔法で操り、火からキュルケを守るというのがこの芸のタネであった。 「キュルケ、多分無理」 炎の勢いを見たタバサは即断する。 「何言ってるのよ! 今更引っ込みつかないでしょ! 二人共頼りにしてるんだから頑張ってよね!」 モンモランシーとタバサは顔を見合わせる。 「……あの氷の矢に耐えたキュルケだし、きっといけるわよね?」 「耐えられるとは思う。患者が一人増えるだろうけど」 三つ程用意されていた火の輪は、その全てが紅蓮の炎で燃え上がっている。 キュルケは、舞台袖から走り出して行った。 モンモランシーとタバサの目には、その背中がうすらぼんやりと透けて見えたような気がした。 いきなり飛び出してきたキュルケは、まず一つ目の火の輪に頭から飛び込んでくぐり抜けると、すぐに立ち上がって観客達に礼をする。 にこやかに笑うキュルケであったが、内心それ所ではなかった。 『何よこれ! 滅茶苦茶熱いじゃない! どうなって……』 一応危ないからと厚手の服を用意していたのだが、その随所から火が上がっている。 水の幕なぞ一瞬で蒸発してしまった模様。 『たばさもんもらんしいいいいいいいいいい!!』 一度引っ込んで再度水の魔法を、そう思ったのだが、観客達は先の芸と同じ芸風かと大笑いで迎えている。 既に引っ込みはつかない。 『ああもうっ! やればいいんでしょやれば!』 豊満な肉体を誇るキュルケの衣服が、炎で焼け焦げ、瑞々しい皮膚が外に晒される。 服の端から燃え尽きていく形になっているので、長めのスカートの端から少しづつ艶やかな太ももが姿を現す。 アクションの大きさもあって、絶対領域は確実に失われていく。 上着は端からではなく、はち切れんばかりに漲った胸部の上から黒ずみ、下の柔肌を露出させていく。 アクションのみではなく、得意の扇情的な仕草を交え、時に淫らに、時に激しく動いて観客達に応える。 キュルケはもう色んな意味でヤケになっていた。 きっちり台座に固定してあった火の輪を素手で掴んで、逆上がりまでしてみせる。 のんびり火の輪の中に座り込みながら欠伸をするなんて真似までやったキュルケは、最後にステージの前に出て会釈をした。 その頃にはもう全身が燃え盛っており、余りに派手な演出は、観客を存分に驚かせ、満足させてくれた。 ロクに前も見えない状態で何とか舞台袖に引っ込み、簡易手術室に駆け込むと、すぐさま全身に水をぶっ掛けられた。 「馬鹿か!? こいつら揃いも揃って発狂してるのか!?」 「普通熱くて動けなくなるだろ! 何で平気な顔してアクションとかやってられんだよ! おかしいだろコイツ!」 信じられぬといった顔の医師達を前に、キュルケはか細い声で言い放つ。 「……き、きあいとこんじょーよ……」 手を上げ、親指立てようとしたが、指が半ばから炭化していて動いてくれなかった。 「アホかあああああああ!! 気合も根性も使いどころ間違えすぎだろ! 誰が得すんだこれ! いやマジで教えてくれって!」 「何という病人。コイツが将来どうなっちまうのか、不安すぎて笑いが止まらん」 ちなみに魔法が無ければ間違いなく死亡である。 いかに火に慣れているとはいえ、全身に二度から三度の熱傷とか医師が匙を投げても誰も責めないレベルだ。 キュルケのステージ直後、大慌てで舞台の天井から降りてきたコルベールに、タバサは冷静に言った。 「あれならまだ治療が間に合う。ミスタ・コルベールがもしもの為に医療スタッフをと言った時、二人が反対しない所か諸手を挙げて賛成した理由をもっと考えておくべきだった……」 「しかしっ!」 「何を言ってももう遅い。次のステージは安全だから安心して」 キュルケもルイズも、この芸にはタネがあるとコルベール、タバサ、燦を騙くらかしていた訳で。 既にステージもラスト、今更中止した所で状況は変わらない。 「説教は私もする。とにかくこれを終わらせないと」 との言葉に渋々コルベールは従った。 最後は燦とタバサのステージだ。 直径3メイルを越える巨大な水槽を、タバサと燦の二人でえっちらおっちらとステージに引っ張り出していく。 コルベールは天井で待機。 しかる後、モンモランシーが人間サイズの箱を引っ張り出してくる。 箱の上部にはロープがついており、その上端は天井裏の簡易な滑車に繋がっていて、ハンドルはコルベールが握っていた。 極めて単純な芸だ。 箱の中に燦が入り、滑車を使って水槽の中に落とす。 箱には穴が空いており、観客の見ている前で箱の中へ水が入っていく。 水槽は箱より高い水位である為、水は箱の中を満たしてしまい、中の人間は溺れてしまうだろう。 が、中に居るのは人魚の燦だ。水を被ると人魚になってしまうが、溺れるという心配だけはない。 確実に中の人間は溺れ死ぬだろうという所まで放置した後、箱を引き上げ、タバサが魔法の布と言って乾いたタオルを箱の上から差し入れる。 それで水気を拭いた燦は人に戻り、扉を開ければ万事おーけいという訳だ。 最後の最後でまともな芸、これを見事に成功させステージで締めくくった二人は、協力者二人と共にステージ前面に並ぶ。 すぐに舞台袖からタンカに乗せられたままのルイズとキュルケも現れる。 それを見た観客達の爆笑を受けながら、六人は礼をし、ステージを終えた。 「ねえキュルケ。何かこう不条理じゃないこれ?」 「理不尽よね。私達だけこんな目に遭ってるのって」 どう考えても自業自得な二人の愚痴を聞いてくれる者は誰も居なかった。 後日、王都トリステインにとある噂が流れた。 例のステージ、あれ実は本当に大怪我を負っていたという噂だ。 出所も確かであったその噂は、しかし一笑に付された。 緊迫感もあり、スリリングなステージであった事は認めるが、まさか本当に刺したり燃やしたりする馬鹿が居るわけがない。 ましてや相手は貴族だ。そんな愚かな行為をどうしてしなければならないのか。 手品の世界では、まさか、という事を本当にやるからこそ客は驚き喜んでくれるという考えがある。 正にそれを地で行く展開であった。 命を賭した決死の芸は、長くトリステイン貴族に限らず平民にまで語り継がれる素晴らしいステージとなったのであった。 当然その後も出演依頼が殺到したのだが、生徒達に伝わる前に学園側が断固としてこれを拒否した。 無理からぬ事であろう。 前ページ次ページゼロの花嫁
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/516.html
しばらくして、朝食を終えた生徒達が教室へ移動を始めた。 キレた目をしているルイズもディアボロを連れて教室へ向かった。無言なのが怖い。 教室には、生徒達が召喚した様々な使い魔が居た。 しかし、教室の椅子は貴族の席であり、ディアボロが座る席など存在しない。 仕方なしに、ディアボロは教室の一番後ろに行き、壁を背に立ち続ける。 その後シュルヴルーズという土系統のメイジの教師がやって来て、 生徒達が一年生の時、学んだ魔法の基礎をおさらいさせる。 魔法には四大系統というものがある。 『火』『水』『土』『風』 そして失われた伝説の『虚無』 等の話はディアボロの興味を心地よく刺激しており。 それに、教師が石ころを真鍮に変えた時はさすがに目を剥いた。 (そう言えば…使い魔が選ばれる理由は…) 召喚された直後にU字禿教師が言っていた事を思い出す。 『…現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進む・・・』 キュルケのサラマンダーはどう見ても『火』以外ありえない……ならばキュルケは『火』の系統なのだろう。 (どおりで嫌な感じがしたわけだ) とすると、あの教師の言う通りならば。 ここに召喚されている生物は、ほぼ全てが四系統の属性に分類されるはず。 (では……私は何系統なのだ?) 火・水・土・風・虚無。ディアボロの持ち物はほぼ全ての系統に当て嵌まっていて。どれか一つに分類する事が出来ない。 「ふむ」 ディアボロが考え込んでいる最中、教室が突然騒がしくなった。 その原因は、ルイズが前に出て錬金をやる事になったからである。 (……あれが何系統なのか判断できれば、私の系統も逆説的に分かるはずだ) ディアボロのちょっとした興味。 何系統として呼ばれたのか。ほんのちょっとした好奇心 だが、ルイズの一挙一動を見守るディアボロは、生徒達や使い魔達が机の下に入ったり、教室から飛び出たのを見えていなかった。 ルイズは石に向かって杖を振り―――― ドッゴオォン! 爆発が起きた。 反応が遅れたディアボロは、その爆発をまともに……くらわなかった。 起きた爆風は、ディアボロの体に到達する前に和らぎ。 散弾銃のような小石は体に接触する寸前、燃え尽きた。 ほんの掠り傷程度ですんだディアボロだが。 彼は呆然としていた。 「な、んだと?」 爆心地はルイズ。 それを見た彼は、記憶の中のトラウマの一つが浮かんできた 『何かのアイテムが爆弾になったかも…う~むどうだったかな……?自信がない…』 この後、ディアボロはルイズの二つ名を脳裏に刻み込む事となった。 ドット!ライン!トライアングル!スクウェア!そのランクの中で、 一番下のドットにすら及ばない、魔法は使えるが何時も爆発を起こすメイジ。 成功率ゼロ!だから『ゼロ』のルイズと呼ばれている事。 そして――メイジの実力は召喚される使い魔にも反映されるらしい事。 それを聞いたディアボロは、何故ルイズに召喚されたのか納得した (私も最初は無能だったからな) ディアボロは、奇妙なダンジョンに初めて潜った時の事を思い出した。 無装備状態で手探りしながら迷宮を進み、罠や敵の手、それに自分のちょっとしたミスで何回も何回も死んだ記憶。 …………それでも、遅々とした足取りの中で実力を着け、ダンジョンを制覇した誇らしい記憶。 (これからの成長に期待と言う事か) 授業終了後、ディアボロがキュルケからそのルイズの話を聞いていると、 噂をすれば影とばかりに、その本人が不機嫌ですと顔に書いてやってきた。 「ちょっと!私はキュルケに近付いちゃ駄目って言ったわよね!?」 「硬い事言わないでよルイズ、私はアンタの二つ名を懇切丁寧に説明して上げてただけだから」 「よ、余計な事しないで!こいつは私の使い魔!あんたは関係無いでしょ!」 自分の不名誉な二つ名が知られた事を知って、顔が赤くなるルイズ。 面白そうな顔でそれを見つめていたキュルケだが。 さすがに、飽きたのか颯爽とその場を離れて行った 「じゃあね、食事に遅れるから私はそろそろ行くわ」 そして残されたルイズは、いきなりディアボロの足に蹴りを入れた しかし、その一瞬、ディアボロの周囲に砂が集まって、ルイズの蹴りを明後日の方向に受け流した。 ズダン。 滑ったルイズは華麗に転倒した。 「…何をする?」 「うるさいッ!」 不思議そうに尋ねるディアボロに罵声を返すだけのルイズ。 頭に血が昇ったルイズは、さっきの砂が集まった異常な事には気付いていない。 何も無いところで滑って転んだと言う無様な記憶だけである。 そのまま、体の埃を払うと教室を出るルイズとディアボロ。 食堂への途中、ルイズはディアボロの表情の変化に気付いた。 含み笑いをしている。それがルイズの勘に更に障った。 「なに笑ってんのよ!」 「何も笑ってはいないが?」 「笑ってた!」 「ふん?……まあ、いい。話は変わるが… お前は昨日メイジの誇りを熱心に語ってくれていたな…… それでだが、自分が魔法を使えないのはどう思っているんだ?」 言葉に詰まるルイズ。 「魔法が使えない無能の癖に、お前が言う平民で変態の私から貴族として尊敬されると思っているのか?」 「私だって…私だって努力はしてるわよ!ディアボロ!あんた、ご飯抜きだからね!覚悟しときなさいよ!」 涙が滲む目を向けながらも、捨てゼリフを残すとそのまま目の前の食堂のドアに飛び込んで行った。 「さっきの言葉は流石に厳しかったか?」 ディアボロなりに発破をかけたつもりだが、ルイズは想像以上に痩せ我慢をしていたようだ。 そしてディアボロは、食堂に入らなくては昼食を食べられないという事に溜め息をついた。 このままだと餓死する。さりとて、DISCの無駄な消費は避けたいとディアボロが悩んでいる時。 「あの……どうかなさいました?」 声がかけられた。 振り向くと、そこには夜空に輝く無数の星と同じ数ある男のロマンの一つメイドさんの姿をした少女。 「何でもないが……」 「もしかして、貴方はミス・ヴァリエールの使い魔になったって噂の平民の変態の……」 平民の変態発言を軽くスルーするディアボロ。指摘してもどうにもならないって事もあるが。 「お前もメイジなのか?」 「いえいえ、私は違います。普通の平民です。 貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 普通のと言う所を強調して発言するメイド。 そこまでして、ディアボロと同じだと思われたくないのだろうか。 「…………」 「私はシエスタっていいます。貴方は?」 「ディアボロだ」 「そうですか…それで、ディアボロさん。 こんな所でどうしたんです? 本当に何もお困りでないんですか?」 シエスタの目を見るディアボロ 腹に一物を隠し持ってはいないようだ。純粋な親切心から彼に声をかけたのだろう。 (これは、昼食の代わりを用意してもらえるか?) 「昼食を抜かれてしまってな」 「まあ!それはお辛いでしょう、こちらにいらしてください」 ディアボロがこっちに来て初めて出会った貴族以外の人間。 シエスタの対応を見て、何となく利用できそうだと外道チックな事を考え始めていた。 <<前話 目次 次話>>
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/173.html
前ページ次ページゼロの剣士 #1 「起きなさいヒュンケル! すぐに出かけるわよ!」 その日の朝は、ルイズのそんな言葉から始まった。 まだ眠っていたヒュンケルが気だるげに目を開けると、ルイズはとっくに制服を着こんで彼を見下ろしていた。 部屋はまだ薄暗い。 宵っ張りで朝に弱いルイズにしては異常な早起きである。 「どうした? 今日は休みではなかったのか?」 今日は虚無の日――ハルケギニアの休日のはずだった。 額に手を当てながらヒュンケルが聞くと、ルイズはひっくりかえりそうなほどふんぞり返って答えた。 「休みだから出かけるのよ! さあ準備して!」 ルイズは、早くしないとキュルケが云々とぶつぶつ言っているが、 殆ど身一つで召喚されたヒュンケルにはさほど用意することもなかった。 軽く身づくろいをし、「では行くか」と言って部屋を出て行こうとすると、ルイズに慌てた声で呼び止められた。 「忘れ物よ」と言ってルイズは、ヒュンケルに楽器のケースのようなものを渡してくる。 「この中にアンタの剣が入ってるわ。しっかり護衛してよね!」 そう言うとルイズはヒュンケルの背を押して、早く早くと急き立てた。 #2 トリステイン魔法学院には大きな厩舎がある。 王都トリスタニアに行くのに徒歩で二日はかかるここでは、移動に馬の存在が不可欠なのだ。 そんなわけで何処かに出かける段にあっては、同じ目的でここに来た者と遭遇することはそう珍しいことではない。 今朝も例のごとく、厩舎に近づくルイズ達に向かって先客が手を上げた。 「御機嫌よう。君もお出かけかね?ミス・ヴァリエール」 「おはようございます。オールド・オスマン」 厩舎の前にいたのはこの学院の長、オールド・オスマンだった。 傍らには緑髪の美人秘書、ミス・ロングビルも立っている。 オスマンは馬車の御者に少し待つよう命じると、いそいそと二人のところにやってきた。 「そちらが噂の使い魔君かな、ミス・ヴァリエール?」 オスマンはちらりとヒュンケルを見ると、ルイズに聞いた。 ヒュンケルの目にはオスマンの瞳が、不思議な親密さを漂わせているような気がした。 「ええ、こちらが使い魔のヒュンケルです。オールド・オスマンもこんなに早くにお出かけですか?」 ルイズはまだ太陽も昇りきっていない空を見上げて言った。 先に述べたように厩舎で人と会うこと自体は珍しくないが、この場合は時と相手がいささか特殊だ。 ルイズが言うのもなんだが、学院長がこんなに早く出かけるとは火急の用かといぶかしむ。 しかしオスマンは、眉をハの字にして子供のような表情を作ると、少年が友人にするような調子で愚痴った。 「それがのう、『土くれのフーケ』対策がどうので王宮の連中に呼び出されちまったんじゃよ。 あいつら忙しいとかなんとか言って昼前には来いとか言ってきおった。おかげでこんな早起きする羽目に……」 そこまで言ってオスマンはオヨヨと泣くと、ミス・ロングビルの胸に抱きついた。 そのままオスマンは「かわいそうなワシ……」などと泣き真似をして頬をスリスリしている。 ルイズはおそるおそるロングビルの顔を見上げたが、 かの辣腕秘書はピクリとも眉を動かさずにオスマンを張り手で一蹴すると、眼鏡を掛け直して通告するように言った。 「オールド・オスマン。駄々をこねてないで早く行ってください。遅刻しますよ」 どうやらロングビルの方は王宮に行かず、学院に残るらしい。 彼女は害虫を追い払うように手を振って急かしたが、オスマンがいなくなるのが嬉しいのか、その口元はほころんでいた。 まあ、あんなセクハラされてりゃそうなるわよねとルイズも内心同情する。 片頬を腫らしたオスマンは「つれないのう」と嘆きながら馬車に乗りかけたが、思いついたようにぴたりと足を止めた。 「そうじゃ、ミス・ヴァリエール。もしや君も王都に行くのかね?」 「え、ええ。そのつもりですけど?」 なんだか悪い予感を感じつつルイズが答えると、オスマンはにやりと笑って言った。 「それならせっかくじゃから、ワシと一緒に行かない?」 #3 馬車で街へ向かう道中、ルイズはどうにも落ち着かずにモジモジしていた。 ――オールド・オスマン。 齢三百とも言われるこの老メイジは、ある意味貴族の位階などを超越した偉大なメイジだ。 オスマンは気さくなエロジジイとしても有名であるが、重々しい肩書きと裏腹のそんな振る舞いがルイズにとってはまた妙な緊張を強いた。 オスマンは今、ルイズの隣で両の頬を赤く腫らして使い魔のネズミを撫でていた。 馬車に乗りこむ際に、使い魔の目を通してロングビルの下着を覗いていたのがバレたのだ。 ロングビルの必殺の張り手を二発も食らったオスマンはそれでもさほど堪えた様子も見せず、 ネズミ――モートソグニルに「白かあ。黒の方が似合うのにのう」などと呟いている。 ちなみにこの馬車は一つの席に二人ずつ乗れる四人乗りなのだが、 オスマンの希望でルイズとオスマンが隣同士、ヒュンケルは一人で座っていた。 ルイズにとってなんとなく気に入らない配置だったが、 学院長に異議を唱えるもはばかられ、ルイズはそわそわと膝を動かしていた。 「ところでオールド・オスマン。『土くれのフーケ』とは?」 意外なことに、最初に話題を出したのはヒュンケルだった。 土くれのフーケ。 それはオスマンが王都に行く理由として挙げた人物だ。 どうやらヒュンケルが学院長の相手をしてくれそうだと安堵の吐息をつくルイズの横で、オスマンがその白眉を持ち上げた。 「フーケといえば有名な盗賊よ。巨大なゴーレムを操り、強力な防御魔法がかけられた壁をも錬金して 土くれに変えてしまうことからその二つ名が来ておる。なんじゃ、君は新聞を読まんのか?」 長い顎鬚を揉みながらからかうように笑うオスマンに、ヒュンケルは文字が読めぬことを伝えた。 ヒュンケルは不思議なことにこの世界の言葉は使えたが、文字の読み書きまではできなかった。 当然新聞も読めず、この世界にきて日が浅いこともあってまだまだ世事には疎い。 そしてそんなヒュンケルを、オスマンは珍獣でも眺めるようにまじまじと見つめた。 「学がなさそうな顔でもないがのう。一体、君はどこから召喚されてきたんじゃ?」 「……遠いところです」 ヒュンケルは未だ誰にも、自分が異世界から召喚されたことを告げていなかった。 言って信じてもらえるか疑わしかったこともあるが、本心のところは自分でも分からない。 あるいはまだ、自分の過去と向き合う覚悟ができていないからだとも思う。 それきり沈黙したヒュンケルの様子をどう感じたか、オスマンは話題を変えるように明るく言った。 「そういえば君は、ミスタ・グラモンを剣で一蹴したそうじゃな。 随分な名剣だぞうじゃが、ちょっとワシにも見せてくれんか?」 無邪気に両手で拝んでみせるオスマンに、ヒュンケルはルイズの様子を窺った。 安心したら今度は退屈になったのか、ルイズは心なしか苛々している様子だった。 自分の愛剣を見世物のように扱うのは気が引けたが、ルイズの手前、学院長の頼みを断るのも角が立つ。 ヒュンケルは魔剣を入れていたケースを開けると、オスマンにそれを差し出した。 「ほうほう、コレがその剣か。見たことのない、珍しい金属で出来ているのう。 それに土メイジの魔法とも違う、不思議な力を感じるが?」 土系統のメイジは物の材質の見極めに秀でている。 卓越した土のスクウェアであるオスマンは、魔剣を少し触っただけでその特異性を言い当てた。 心なしかこちらを見つめる目にも鋭いものを感じて、ヒュンケルはその身を引き締めた。 オスマンが言う不思議な力、それは魔剣に潜む能力「鎧化」の力に他ならないだろう。 さて、なんと答えたものかとヒュンケルは頭を悩ませたが、なにを考えたかオスマンはまたネズミの方に耳を傾けた。 「なんじゃモートソグニル。ん、ピンク? いやいや、見るのはバスト80サント以上に限ると言ったじゃろうに」 つい先ほど閃かせた眼光はどこへやら、オスマンは再びただの好々爺に戻っていた。 一体、この小さな使い魔は何を見たのか? ささやかな謎はすぐに暴かれる。 こいつめーなどと言ってネズミをツンツンつつくオスマンの隣で、何かがぶちりと切れる音が聞こえたから――。 「こ、こ、こ、このエロジジイ~~っ!!!」 沈黙を守っていたルイズが、顔を真っ赤にしてぶちぎれた。 初めこそ緊張で忘れていたが、ルイズからしてみれば今日は使い魔との初めてのお出かけ。 絶対口に出したりはしない――というより、 彼女自身そう思う自分を目いっぱい否定していたが、ルイズは今日という日を楽しみにしていたのだ。 乗っていく馬も事前にチェックし、道中の会話もシミュレーションし、 ルイズの手綱さばきに感心するヒュンケルの声まで脳内で再生されていたのに、 オスマンはそれを初っ端から邪魔したばかりかルイズのNGワード「お乳」を見事に踏みつけた。 ――この恨み、晴らさでおくべきか。 もはやルイズは、立場も場所も失念していた。 馬車の中、誤解じゃ~と喚く声と同時に、爆発音がヒュンケルの耳をつんざいた。 #3 どこかから愉快な音が聞こえた気がして、キュルケは髪をいじっていた手を止めた。 少しメイクに力を入れすぎて、予定より遅い時間になってしまった。 そろそろ寝ぼすけのルイズも起きてしまうかもしれない。 キュルケはマントを羽織ると使い魔のフレイムを撫で、「今日はお留守番よ」と言いつけた。 忠実な使い魔は少し寂しげな声をあげたが、結局またのそのそと寝床に戻って二度寝を始めた。 キュルケは部屋から出ると、慣れた手つきで隣室に解錠の魔法をかけた。 鍵が開いたのを確かめ、ルイズを起こさぬよう静かにドアを開ける。 「ヒュンケル~? 起きてる~?」 ドアから顔だけ出したキュルケは、そのままの姿勢で固まった。 阿修羅のごとく怒り狂うルイズが待ち伏せしていたならまだマシだったが――部屋はもぬけの殻になっていた。 ルイズもヒュンケルもおらず、壁にかかっていた剣もない。 まさかと思いつつ部屋に入ったキュルケは、テーブルの上に自分宛ての置き手紙を見つけた。 震える手で取って読んでみるとそこには、 「や~いや~いバ~カ!ヒュンケルはわたしのものよお!」といった趣旨のことがルイズ独特の高慢ちきさで書いてあった。 キュルケは手紙をグシャッと潰してついでに焼き払うと、猛ダッシュで外へ駆けだした。 前ページ次ページゼロの剣士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1473.html
前ページ次ページゼロのイチコ 「さて、貴女は今どうするべきかしら?」 ここはトリステイン魔法学院、女子寮の私ことルイズ・ド・ヴァリエールの部屋。 そして目の前で両足を折りたたんで座っている、もとい浮いているのが私の使い魔であるイチコ・タカシマである。 「勝手なことをしてごめんなさい、ご主人様」 と手を前に突き出し、頭を下げた。 ギーシュとの決闘後、イチコが帰ってきたのはその日の夕方だった。 その間に起こった事と言えば、いつもどおりの授業といつもどおりの昼食、そしてモンモランシーが放った水の魔法の爆音だけである。ギーシュは午後の授業に出てこなかった。 イチコが帰ってきたのはそんな一連の出来事が終わった後、私が寮に戻って探しに行こうかと思案していた頃であった。 幽霊だし、誰もイチコを殺せない。既に死んでいて死なないのだからそのうち帰ってくると思っていた。 だけれども昼食の時間になっても帰ってこないので心配になってきていた。それでも授業をサボるわけにもいかないので探しに行くわけにもいかない。 おかげで午後の授業はまるで頭に入らなかった。たびたび窓の外に視線がいった。 そろそろ窓からひょこひょこと入ってくるのではないかと考えが浮かんだ。 つまり、ここまでご主人様を心配させた罪は重く、それゆえに使い魔は罰を受けなければならない。 「『私のワガママで勝手に決闘したあげくにギーシュに負けたイチコをお叱り下さい、ご主人様』でしょ」 と鞭を振るってイチコの目の前を叩く。乾いた音が響いた。 イチコは「ひっ」と小さい声を出して青い顔をした。 「わ、わわ私のワガママで勝手に決闘してギーシュさんに負けてしまった私をお叱りください~」 良いことをした使い魔には飴を、悪いことをした使い魔には鞭を。 これは躾である。使い魔はパートナーであるが主従関係であることを忘れてはならない。 ご主人様の命令を無視する使い魔には鞭をくれてやらなければならない。 とは言え、イチコには鞭が効かない。 それじゃあご飯抜き――と考えたがイチコはご飯を食べない。 「それじゃあ、今日は反省して廊下に立って……じゃなくて浮いてなさい」 「はぃ」 消え入りそうな声でイチコは扉をすり抜けて廊下に出て行った。 手を下に垂らし、頭を下げて去っていく様は分かりやすいぐらいに落ち込んでいた。 しかし、その姿は同情を誘うと言うよりは 「誰か呪い殺したりしないわよね?」 幽霊ゆえにそんな考えが浮いてしまった。 「うぅ、ご主人様を怒らせてしまいました」 わたくしこと高島一子はたいへん落ち込んでいます。 思い起こすこと今日の朝、食堂でギーシュさんの香水を拾い――もとい落ちたのを教えて上げた事がきっかけでギーシュさんが二股をしていることが発覚しました。 それはもう許されないことです、何が許されないかというと倫理観とか道徳とか乙女心とかそんな感じのいろんなものがミックスされて 私の怒りメーターはマックス、最大限の臨界点まで急上昇してしまいました。 許されません、許されるわけがありません。 そりゃあこの世界は私の居た世界とは違います。しかし愛はどの世界でも守られるべきです、尊い盟約なのです。それを(以下略) まあ、そんなこんなでギーシュさんと決闘することになってしまいました。 しかしながら今になって落ち着いて考えれば争いは何も生みません、あぁ、神よ。お許し下さい―― ともかく私は決闘に赴きました。 最初は死んだ、と思ったのですがよく考えたら私は幽霊ですので死ぬ訳もなく。 逆にギーシュさんを追い詰めた! そう思ったのですが、わたくしどうやら無機物には触れませんが生物には触れる模様。 ギーシュさんの突き出した手に吹き飛ばされて遥かかなた雲の上までふきとばされてしまいました。 調子にのっていた私はギーシュさんの反撃にびっくりして気絶してしまいました。 さすが魔法使い、すさまじい突き飛ばしでした! ともかくそれで学院に戻ろうとして近くを飛んでいた渡り鳥さんに話を聞こうとしたのですが皆さん私を見たとたんに猛スピードで逃げていきます。 やはり、幽霊は世間の風当たりが厳しいようです。 おかげで迷って迷って、やっと学院に帰ってきたときにはお日様が茜色に染まってしまいました。 ご主人様はカンカンに怒っていました、帰ってきたとき。 「ごめんなさいご主人様、ちょっと雲の迷路で迷ってました……あはは」 と軽く謝ったのがいけなかったのでしょう。何時間も行方不明になったのですから誠心誠意あやまるべきでした。 反省、反省します。深海魚になったように深く深く反省しています。 今日はこの廊下で寂しく一夜を過ごして、使い魔がなんたるかを見つめなおしたいと思います。 「あら、貴女は……ルイズの使い魔じゃない」 反省の念に包まれていると周りがよく見えてませんでした。赤い髪をした女性の方がすぐ傍に立っていらっしゃいました。 「はい高島一子と申します。あなたは?」 「私はキュルケ、微熱のキュルケ。あなたのご主人様の友達よ」 「そうだったんですか。よろしくお願いします」 「ぇえ、こちらこそヨロシク……にしても本当に幽霊なのねぇ」 とキュルケさんの視線が私の足元に向きます。 こう改めて他の方から幽霊だと言われるとちょっと悲しいような、諦めのような感情が沸いてくるように思えます。 「ねぇ、幽霊っぽく何か台詞言ってみてよ」 「ぇ、ぇ~っと??」 幽霊っぽく? というと真っ先に浮かぶのが 「う、うらめしや~」 「あははは、意味わかんないけどソレっぽい。上手い上手い」 「はぁ、どうもありがとうございます」 褒められて、いるのでしょうか? どうにも物珍しさで遊ばれているような気がします。 「そうだ、頼みがあるんだけどいいかしら?」 と片目をつぶってウィンクを投げかけてきました。 スタイルの良い方ですし、そういった仕草も自然に感じられました。 「な、なんでしょう?」 直感ですが、あまり良い頼みとは思えません。 「私の友達でタバサって子が居るんだけどね。その子っていつも無表情なのよ」 「そうなんですか」 「そうなのよ! おかげで友達も私だけだし、コミニケーションが不足してるの。分かるでしょ?」 「そうですね、お友達は多いほうが良いですよね」 「そう、だからタバサに会って欲しいのよ」 とキュルケさんは私の目の前で手を合わせて来ました。 友達のため、そんなキュルケさんの頼みに私は先ほどの失礼な考えを心の中で謝罪しました。 見かけはとても派手なかたですが友達想いの良い方のようです。 「分かりました、また明日うかがわせていただきます」 今日はもう日が暮れたので明日のほうが良いと思います。 「いや、今から行きましょう」 「え?」 「ちょうどタバサの部屋に遊びに行くところだったのよ、さ、行くわよ」 「ぇ、いや。私はここに居ないといけま、って、キュルケさん?!!」 手を取られると、引きずられるように私はその場を後にしました。 またご主人様に叱られそうです。 「で、ここがタバサの部屋よ」 連れてこられたのは階段をひとつ降りて、おおよそご主人様の部屋の真下に位置する部屋でした。 「しかし、こんな夜遅くにお尋ねするのはよろしくないのでは?」 「いいの、いいの。タバサ居る?」 キュルケさんが重厚な木の扉を叩きます、ですが何の返事もありませんでした。 もうお休みになったのでしょうか? 「やっぱり魔法かけてるわね」 「魔法ですか?」 「ぇえ、あの子って読書の邪魔をされるのが嫌いで。部屋に居る時はずっとサイレントの魔法をかけてるのよ。音がまったく聞こえなくなるの」 魔法と一口に言っても日常生活に便利な魔法もあるのですね。 てっきり魔法と聞くと炎を出したり風を巻き起こしたり、何か巨大な蛙を呼び出したりするのばかりだと思ってました。 「だから、あなた壁抜け出来るんでしょ? 中に入って扉を開けるように言ってくれない?」 「え、でも……」 「いいの、私に言われたって言えば良いから」 「は、はい……分かりました」 勝手に入るのが多少戸惑われたのですが、キュルケさんの言葉に後押しされるようにドアの脇の壁から部屋にお邪魔します。 「失礼しま~す、タバサさん起きてらっしゃいますか?」 恐る恐る壁から上半身だけ出して部屋の中を覗き込みました。 部屋の中にはランプの明かりを頼りに本を読んでいる方がいらっしゃいました。ベッドに腰掛け壁を背に座っています。 メガネをかけていますけど、こんな暗がりで本を読んでるとさらに目が悪くなるのではないでしょうか? ずいぶんと小柄な方でこんな暗がりでも目を引く青い髪が特徴的です。 「あの~」 と声をかけるものの反応がありません。よっぽど集中してらっしゃるのでしょうか。 と思ったら目だけが動いてこちらを見ました 「夜分遅くすいません、わたくし高島い……」 自己紹介をしようと思ったのですが、タバサさんは驚いた顔をされました。傍にあった杖を取り、こちらに先端を向けます。 そこで私は自分が壁に半分埋まった状態で止まってる事を思い当たりました。驚かせてしまった、と思う間もないほど彼女の動きは早かったように思います。 彼女は素早く呪文を唱えると宙に氷の矢を生成しました。 矢は強烈な風を伴って壁に突き刺さり、逸れた矢と狭い密室で行き場を失った風が天井にぶつかり穴を開けました。 「ぇええ?!」 と言う声と供にご主人様が上から落ちてきました。 タバサさんはこちらを凝視すると、そのままベッドに倒れこんでしまいました。 「ちょっと何があったの?!」 とキュルケさんが駆け込んで来ました。 私も改めて部屋を見渡すとキョトンとした顔で座り込んでいるネグリジェ姿のご主人様、杖を握り締めたまま気絶しているタバサさん。 自分の姿を確認すると氷の矢が頭から突き刺さっていました。もちろんすり抜けているので平気なのですが。 そして天井には直径1メートルほどの穴。 「……本当に何があったの?」 おそらく、タバサさんが幽霊である私に驚かれたのが原因かと思います。 「ふ、ふふふ……」 とご主人様が下を俯き笑っておられます。 「そう、イチコったら。使い魔のくせに、使い魔のくせに」 ふふふ、と笑うご主人様。でも目が笑っていません。 「廊下に立たされただけで、こんなイタズラを思いつくなんて。ど、どど、どうしてくれようかしら……」 「ぇ、いや。違うんですご主人様」 「問答無用!」 「あぅう、ごめんなさい~」 この日は夜半までお説教を受けることになりました。 前ページ次ページゼロのイチコ