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前ページゼロの調律者 ゼロの調律者 第一話 ~リィンバウム王都ゼラムに向かう街道~ 「おにいちゃん、もうすぐだね。」 「ああ、派閥本部に帰るのも久しぶりだな。……予定より随分遅れてるし、ネスティに怒鳴られそうだ。」 青の派閥の召喚師マグナは、ワイスタァンにて新人鍛冶師の護衛獣を召喚すると言う任務を終えて、護衛獣で婚約者のハサハと一緒に派閥本部に帰る途中であった。 彼を気に入ったと言う理由で金剛の鍛聖リンドウ氏に散々いぢり倒された。 更に剣を打ち直してやるから地下迷宮行って材料揃えてこい、カレー食べたいからちょっと作って来い、 その護衛獣の子の尻尾見るからにさわり心地良さそうじゃな、触っていい?ダメ?そう言わずに君とワシの仲じゃろう?等の理由で帰還に大幅に遅れてはいるが。 (大分前にデグレアに攻め込まれた時点で既にいい年の老人だったらしいけど、実際今何歳なんだろう・・・?) 思い出すたびに浮かぶ疑問を適当な所で振り払い、ハサハの手を握り直して帰路を急ぐ事にした。 ~リィンバウム 蒼の派閥本部~ そんな事を考えている内にゼラムに到着。蒼の派閥本部に戻り報告を済ませて自室に戻る。 「案の定怒ったな、ネスティ。」 「うん・・・、でも・・・、すごく心配してたよ?」 ハサハの言うとおりだろう。あの兄弟子はやたら心配性だ。 何かある度に「君はバカか!?」と怒鳴りつけてくる。 「だろうな。長旅で疲れたし、昼寝でもするか?」 日はまだ高いが、春先特有の睡魔と長旅の疲れもある。 「・・・(こくん)」 何よりハサハと一緒にお昼寝すると言うのが心地良い。 軽く伸びをし、昼寝の為に装備一式を外そうと思ったその時、 「なんだこれ?」 突然目の前に鏡が現れた。 とりあえず召喚特有の光は無かったし召喚術による物ではないと判断。 鏡に部屋のど真ん中に居座られても邪魔なのでとりあえず動かそうと鏡を掴む。 「うわ!?」 掴もうとしたら鏡にすごい力で引き込まれ始めた。咄嗟にさっき床に下ろしたばかりの荷物を掴む。 「おにいちゃん!」 ハサハがマグナの身体に抱きつき必死に引っ張るが、魔力は異常なまでに高いけど腕力はからっきしなハサハでは支えになる訳も無い。 マグナに抱きついたまま一緒に鏡に引きずり込まれてしまった。 ~ハルケギニア トリスティン魔法学院~ 春の陽気に照らされた広場に轟音が響く。 二年生に進級する為の春の使い魔召喚試験、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚を行った結果起きた大爆発だ。 「ちょwwww一発目から大爆発とかwwwww使い魔ミンチになったんじゃねwwwww?」 「マルコリヌ・・・それは流石に不謹慎と言うか、そういうグロい考えは言わない方がいいんじゃないかな?」 ルイズの後で何か言ってる連中がいるが今はスルーしておこう、巻き上がる煙の中に薄っすらとだが影が見える。 (やった!一発で召喚成功!何?グリフォン?ドラゴン?マンティコア!?) 召喚前から色々高望みしてたせいか、一発で成功した事でさらに期待で胸を膨らませるルイズ。 影自体はあまり大きくなかった。 (実は妖精とか?もうこの際珍しくてすごいのだったらなんでもいいわ!) 「いててて・・・って、ここ何処だ?ハサハ、大丈夫か?」 「・・・(こくん)」 煙が晴れるとそこには見慣れない服を着た青年と、やはり見慣れない服を着て頭から狐の耳を生やした少女が現れた。 青年は紺色の髪で背丈もそこそこあり、白と紺を基調とした服、何処か人懐っこさのある顔立ちをしていた。 少女の方は黒髪ですごく小柄、体格としてはタバサとルイズの間ぐらいだろうか?狐の耳と尻尾が生えており、透き通る様な白い肌、何か神秘的な美しさを感じさせる美少女だ。 (人・・・間・・・?と亜人・・・かな?一回の召喚で2種類も召喚なんて・・・いやそれ以前に人を召喚したなんて、前代未聞じゃない!?) 期待が大き過ぎた分ショックも大きかった。 「人間だ! ゼロのルイズが人間を召喚したぞ!しかも二人も!」 「アラ、結構いい男ね。」 「ウハwwwwwテラょぅι゛ょwwwwwwwみwなwぎwっwてwきwたwwwwwwwwww」 「マルコリヌ・・・今日の君はなんか変だぞ?それに、そう言う趣味だったのかい?」 ルイズは焦っていた。 後でキュルケと丸いのとギー・・・名前忘れたけどなんかヤムチャ臭いのが喚いてるが再びスルーしておこう。 今問題なのは人間を召喚してしまった事だ。しかも二人。 どうすればいいのか判断がつかず頭を抱えてると青年の方が話しかけてきた。 「えーっと、ここは何処なのかな?なんか召喚されたみたいだけど、リィンバウムじゃないみたいだし・・・」 聞きなれない単語もあった気がするがどうやら状況説明を求めているらしい。 そうだ相手はどうせ平民か何かだろう、貴族として貴族らしく振舞いまずは主従関係をハッキリさせよう。 「そうよ!私が貴方を召喚したの!本来貴族がへい・・・み・・・・・・」 言っている途中で青年は手に持ってる大きめのバッグに目がいった。バッグ自体は何の変哲も無いが、その側面に引っ掛けてある棒状の物体。 丈夫そうな木製の柄、先端には金属の装飾がついており小さいながら輝石もはめ込んである。 どう見ても高級そうな杖です本当にありがとうございました。 ルイズの顔色が段々血の気が引いていく。 普段マグナは剣を主体に戦うが、最近は剣で対処できない遠距離の相手を想定し、召喚術の威力増強用に杖も用意している。 もちろんルイズは召喚術について知る訳も無く、上等な服に杖=貴族と言うハルケギニアらしい判断をしてしまっていた。 貴族を召喚してしまった→学園最大最悪のスキャンダルの悪寒→下手すれば国際問題→自分のせいで戦争勃発\(^o^)/オワタ ルイズの脳内では既に最悪の図式が展開され始めている。 さっき危うく平民と言う単語と呼びそうになったが、なんとか言わないで済んだのがせめてもの僥倖だろう。 しかしここで頭髪が寂しい教師、コルベールも杖に気がついてかルイズと青年達にしばらくここに残るようにと声をかけ、他の生徒を教室に戻るよう指示を出す。 この時ルイズの目にはコルベールから後光(主に頭頂部から)が射している様に見えた。 「改めまして、私は当トリステイン魔法学院で教鞭を執っている"炎蛇"のコルベールと申します。ミス・ヴァリエール、貴女も挨拶を。」 「は、はい。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。」 コルベールに場を作ってもい、なんとかまともに挨拶をする。顔色は蒼白だが。 「俺はマグナ、マグナ・クレスメント。蒼の派閥の召喚師です。こちらは護衛獣のハサハ、シルターン出身です。」 「・・・(ぺこ)」 マグナの紹介にあわせてハサハも礼をする。 (ああ、貴族だ、やっぱり貴族だ・・・) マグナが家名まで名乗った事でルイズは本気で頭を抱えたくなった。既にコントラクト・サーヴァントの事は脳裏にすら残ってない。 「それで、俺は召喚されたんですよね?サモナイト石を使った召喚じゃないみたいだし、リィンバウムやシルターンじゃないとは思うんですが・・・」 ここでマグナの反応にコルベールは頭を捻る。リィンバウム?シルターン? ルイズはマグナの家名を聞いたショックで呆然としたままだ。 「あー、失礼ですが、少し場所を変えてお話しましょう。よろしいでしょうか?」 ~ハルケギニア トリスティン魔法学院 学院長室~ 「ふむ、それでは一旦コントラクト・サーヴァントしてしばらく使い魔として働いて、帰る目途が立ったら契約破棄。再召喚と言う方向でいいじゃないかの。」 学院長のオールド・オスマンが出した結論に一同は同意と言う形になった。 時間を少し巻き戻る。 オールド・オスマンは何時もののように秘書のロングビルにセクハラの報復としてメキシカンバックブリーカーを受けているとコルベールが学院長室にやってきた。 心なし声が切羽詰っている感じがしたので何事かと思いきや、ある生徒が使い魔を召喚したら貴族だったとの事。 一緒に入ってきた件の生徒と貴族と、お互いの立場や状況を話し合った。 なんでも召喚されたマグナと言う青年は異世界から来た人で、彼らの世界では魔法より召喚術と言う技術が発展しているらしい。 そして彼はそこでは超下級貴族のような立場ではあるが、かなり有力な組織に属しているとの事。 もちろん最初は異世界だなんて突拍子も無いと一蹴しかけたが、マグナがムジナと呼ばれるタヌキの様な生物を召喚・送還して見せたので納得せざるを得なかった。 マグナはマグナでハルケギニア式の召喚術はサモナイト石を使わない事、また送還術が存在しない事に唖然とした様子ではあった。 ただ一方的な召喚に対しては驚きはしたがマグナ本人があまり抗議してこなかった。 それに対しコルベールが疑問を口にしたが、 「リィンバウムは召喚術が基本だったから召喚事故も起きますからね。それが自分の起きたと思えば仕方が無い事だと思うんです。」との事。 ルイズもマグナが異世界から来たと言うのにとりあえず納得。 ただマグナが異世界出身の上に貴族としては下の下、国際問題にはならないとわかったせいか心無し緊張感もとけた模様。 そして話し合いの結果、ここでのマグナ達は東の果ての没落貴族が召喚され、しばらくルイズの使い魔をやっている立場であると偽装しておくこと。 学園側としては全力を持って送還する術を模索する事に決まった。 ルイズの個人的な願望としては、亜人と言う理由でハサハと契約したかったが、一応ハサハもマグナの使い魔の様な立場だと言う事で諦めた。 一応メイジ?みたいなものだしマグナがそれなりに実力があればルイズの実力の証明にもなるだろう。 「ではコントラクト・サーヴァントをしてもらおうかの。ミス・ヴァリエール、ミスタ・クレスメント。」 オールド・オスマンが髭を撫でながら契約を促す。 「は、はい!ミスタ・クレスメント、少し屈んでく、くだ、くださる?」 「あ、ああ・・・(そう言えばこの世界の召喚術ってよく知らないけど契約ってどうするんだろう?サモナイト石も無いみたいだけど)」 何故か赤面しているルイズを見てマグナがふとそんな疑問を考えているうちに、ルイズは詠唱をし、なんと顔を近づけてきた! (こ、これはひょっとしてキスが契約なのか!?) マグナが飛び退き、ハサハがキスをしようとしてたルイズを止める、見事な連携を見せた。 「ちょ、ちょっと何するのよ!?契約とは言え・・・私のファーストキスがそんなに不服なわけ!?」 もちろんこれにはルイズも怒り出す。数年前のマグナだったらろくな言い訳もできなかっただろう。 だが今のマグナは昔の恋愛レベルKYロリコン!なマグナではない!数年間ハサハとイチャイチャし、苦楽を共にした立派な男だ! 「契約って今のが?でもほら、俺にはハサハって婚約者もいるし」 「おにいちゃんのおよめさんは・・・ハサハなの・・・!」 二人の返答にルイズも渋々納得する。そりゃ好きな相手以外とキスするのはいやだろう。 だがすぐに別の疑問が脳裏によぎる。 (この亜人の子がお嫁さん?でもって婚約者?え・・・ロリコン!?) 目の前の亜人の少女は服のせいでわかりにくいが、多分タバサ以上ルイズ以下程度の体型だろう。 ルイズは自分の体型や婚約者の事は棚上げして、目の前の男がロリコンの異常性癖者という認識を持った瞬間だった。 「あー、ミスタ・コルベール?コントラクト・サーヴァントには口にキスが必要なのか?せめて手とかには・・・」 そんなルイズの認識の変化も気づかずマグナは契約方法について聞いてくる。 何かと説明好きなキャラが定着しつつあるコルベールも、彼をロリコンでは・・・?と思っていたのだろう「え?あ?ロリk・・・じゃなくて、今なんて言いました?」と聞きなおすレベルだ。 「やれやれ、コルベールもまだまだじゃの・・・。基本は口じゃが・・・まぁ手でも頬でも構わんじゃろ。」 代わりにオールド・オスマンが答えた。 ルイズとしても目上でもない相手の手にキスすると言うのも不愉快だが、これならファーストキスとしてはカウントされないだろうと言う乙女らしい打算を持って了承した。 マグナと婚約していると言うハサハも、手だけならまだ許せると渋々ながら了承。 マグナ・クレスメントがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になりました。 ~幕間 ルイズの部屋~ 「うう、契約ってすごく痛いんだな・・・」 「おにいちゃん・・・大丈夫?いたいのいたいの~とんでけ~・・・」 「ハサハ、ありがとう。」 「おにいちゃんがいたいの・・・ハサハはいやだよ?」 「ああ、俺もハサハが辛いのは嫌だな。・・・ハサハは優しいな。」 「おにいちゃんも・・・やさしいよ?やさしくて、あったかい・・・」 ハサハはマグナに抱きつき、マグナもそれを優しく包み込む。 「はぁ・・・あんた達、主人と使い魔とは言え仮にも他人の部屋なんだから・・・イチャつくのも程々にしてよ・・・」 部屋の主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは召喚初日から使い魔カップルのイチャつきぶりにお腹一杯でした。 前ページゼロの調律者
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前ページ次ページゼロのエルクゥ 「―――かふっ」 口が勝手に、鉄の味がする液体と一緒に、湿った空気を吐き出した。 ルイズは、ぼおっと熱くなっていく体が、急速に自らの制御から離れていくのを感じ取っていた。 「―――くっ!」 ルイズの腹部を貫いた『エア・ブレイド』はそこで止まり、ターゲットであるウェールズには届いていない。 一つ舌打ちして、ルイズの体から『ブレイド』を抜く。噴出す血糊に、ワルドの心が小さな、ほんの小さな衝撃を覚える。 ワルドはすぐにそれを揉み消し、ようやく驚きの表情を浮かべたウェールズに閃光の突きを放とうと腕を振りかぶった。 しかし、その一瞬の躊躇が―――エルクゥには十分な時間だった。 「ぐぅっ!!」 ばしゅっ、と水の詰まった風船が弾け飛ぶような音がして、ワルドが吹き飛んだ。 空中に投げ出されたワルドは、くるりと回転して危なげなく地面に降り立つ。 同時に、力を失ったルイズの体が床に倒れ伏した。 「ぐ……ふふ、ははははは! それが貴様の本気か!! ガンダールヴ!!!」 ワルドは右肩を押さえながら、目を爛々と輝かせて哄笑する。 押さえた右肩から先の腕は、丸々なくなっていた。 「…………」 ルイズとウェールズを背に庇うように立った耕一。その右手の手首から先が、大きく肥大していた。 その手の肌は、黒曜石のような硬質な輝きを放っている。禍々しい光が見る者全てを畏怖させる、鬼の腕。 それが、怒りに力の制御を忘れた耕一の神速の飛び込みと共に、ワルドの右腕を吹き飛ばしたのだ。 「……ワルドさん、あんた」 「くく、まさかルイズがウェールズを庇うとはね。全く計算していなかったよ。おかげで、当初の目的は一つしか達成できそうにない」 「ワルド子爵! 貴様、『レコン・キスタ』かっ!」 ウェールズが吠え、杖を構える。 「いかにも。未熟な大使殿の護衛としてウェールズ殿下に近付き、その命を頂戴するお役目を受けていたのだがね。今しがたしくじったところだ」 「なんと大胆な……だが、最早逃げられると思うな!」 周囲のアルビオン貴族は、既に一人残らず杖を抜き放ち、ワルドに向けている。 「スクウェア・メイジと言えども、その負傷でこの数を振り切る事など出来はしまい! 覚悟せよ!」 「くく、確かに。このままでは、私は逃げる事すら叶わぬだろう」 そう嘯くワルドの顔から、笑みは消えていない。 はっと、ウェールズが何かに気付いた。その視線は、そこから先が吹き飛んでしまったワルドの右肩で止まっている。 「気をつけよ! 腕から血が流れておらぬ! 『偏在』だ! 本体がどこかにいるぞ!」 ウェールズの一喝にアルビオン貴族が反応する前に、どごーん! という爆発音と共に練兵場が大きく揺れた。 天井の一部が大きく破壊され、ガラガラと建材が落ちてきた。真下にいた貴族が慌てて回避する。 「くくく」 その混乱と土煙の中、片腕を失ったワルドが、ひゅうんと開けられた穴まで飛んでいく。見咎めた貴族達から散発的に火の玉や氷の矢が放たれるが、ヒラヒラとそれをかわし、ワルドは穴の縁に立つ。 そして、右肩を押さえていた左手をひらひらと振った。その手には、一枚の便箋らしき紙がある。 「アンリエッタの恋文、確かに頂いた。これでトリステインはゲルマニアとの同盟結ぶ事叶わぬ。貴様の命は貰い損ねたが、なに、すぐに押し寄せる『レコン・キスタ』の軍勢によって始祖の御許に行けるであろうさ!」 その横に、なんとワルドがもう一人現れる。 もう一人の五体満足なワルドが手紙を受け取ると、片腕のワルドは、まるで空気に溶けるようにして消滅してしまった。 「……分身?」 「風の『偏在』という魔法だ。風の吹くところどこでも、実体とそれぞれ独立の意思を持つ分け身を作り出す事が出来る」 ウェールズが唇を食みながら、飛び去っていくワルドを見上げる。 「その通りさ、ウェールズ。ではな、ガンダールヴ! せいぜいお役目通り、主人を守ってあげたまえ! もしかしたら、守る前に死んでしまうかもしれないがね!」 ワルドがマントを翻すと、姿は見えなくなった。 「ミス・ヴァリエール!」 ワルドの言葉にウェールズがしゃがみ込み、倒れ伏すルイズを抱き起こす。 その胸元に耳を当て、キッと表情を引き締めると、杖を振った。 青く優しい光が、ルイズの体を覆う。 「まだ息はある! 今居る水のメイジは全力でヴァリエール嬢の治療を! 僕では気休めにしかならない!」 「は、はっ!」 「城中から秘薬と水のメイジをかき集めよ!! 後の戦に残そうなどと思うな! 我ら王軍が最後にもてなした大使を死なせたとあっては、歴史の恥ぞ!!」 ウェールズの檄の下、アルビオン貴族達は迅速に行動を開始した。緊急事態に心を切り替えられない者は、ここまでついてくる事も出来なかったのだ。 「…………」 「う、うおっ、な、なんだこの心の震え! あ、相棒っ!」 耕一は、じっと、ワルドが飛び去ったその穴を見つめている。 ドクン、ドクン、と。その黒曜石の腕が大きく拍動しているのに気付いた者は、その逆の手に握られた物言う剣のみであった。 「ミスタ。どうか安心してくれ。ヴァリエール嬢の命は、アルビオンの名に掛けて必ず救い上げてみせる」 「……ウェールズ王子、少し、お願いがあるんですが」 「……どうか、したのかね?」 「王子の……ここにいる貴族達の名誉ある敗北に泥を塗る事を、お許しいただきたい」 「どういう、事だね?」 そのただならぬ様子に、ウェールズが息を呑む。 膨れ上がる鬼氣。自らの意志により、荒れ狂う激情により……エルクゥの遺伝子が発現し、体がそれに沿うように作り変えられていく。 「名誉あるあなた方の敵を、鬼の晩餐と貶める事、お許しいただきたい」 足が膨れ上がる。履いていたズボンが無残に破け散り、黒曜石の輝きを持つ筋骨隆々とした二本の足が、大地を踏みしめる。 腕が膨れ上がる。服が同じように破れ、右手の先から侵蝕されるように、黒く、大きく膨れていく。 体が膨れ上がる。その体躯全てが、二回り大きなそれへと変化していく。瞬時に伸びたたてがみが逆立ち、突き出た牙が唸り、伸びた爪が空を凪ぐ。 「ミスタ、君は……!」 同盟など、どうでもいい。 亡命など、どうでもいい。 全ての元凶を潰してしまえば、煩わしい事など考えなくていい。 麗しき王女が別れに苦しんでいるのも、優しき王子が諦めに苦しんでいるのも……勇敢な主人が、今死の床に苦しんでいるのも、全て。 ―――元凶である『レコン・キスタ』とやらを悉く鏖にすれば、何も考えなくていい事ではないか。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 今ここに生誕した『エルクゥ』が、大きく産声を上げた。 § 「……あ……」 全身を暖かな光に照らされているような心地で、ルイズはふと目を覚ました。 滲む目をゆっくりと開ける。そこには、真っ黒なシルエットがあった。 巨大な背中だった。トロール鬼をもっと筋肉質にしてスリムにしたような、どう見ても恐ろしげな化け物のようであるそれは―――少女の目には、どこまでも優しく、頼もしく思えた。 「エル……クゥ……」 そう、あれこそがエルクゥ。 鬼。化け物。狩猟者。そして……それを飼い慣らした、人間。 あれの主人たる自分には、何の説明もなくともそうだと理解できる。それが酷く心地よかった。 「ミス・ヴァリエール!」 王子が整った顔を歪めて、必死に自分に呼びかけている。 ああ、無事だったのですね。よかった。これで姫さまが悲しまないで済みます。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 咆哮。生きとし生ける者全てを畏怖させる鬼神の声は、とても心地よい子守唄のようで。 黒き鬼神が天井に開いた穴から外へ飛び出していくのを見送ったルイズは、ゆっくりとその瞳を閉じた。 § 「宣戦布告で時間を指定して、それより前に奇襲か。さすが生臭坊主、お偉い騎士様にゃ立てられん作戦だな」 「ま、矢面に立たされる俺らにとっちゃ、ありがたい事だよ。馬鹿正直に正々堂々やって平民傭兵がメイジに勝てるかっての」 「まったくだ。こんな地形、そうじゃなきゃ入り込みたくもねぇや」 進軍する『レコン・キスタ』の先陣を務める傭兵達は、細い岬の先端に立つニューカッスル城を眺め、ため息をついた。 真正面から相対しては、細く平坦な地面の上を歩く歩兵など、城壁からの魔法で一蹴されてしまう。 城に篭るメイジ達の精神力が尽きるまでそれを繰り返させ、美味しい所だけ貴族連中が持っていく。攻略戦に当たってそんな光景がありありと想像されて、逃げ出す算段までしていた傭兵達だったが、現在の士気は高かった。 彼らの目にニューカッスルの城壁が見えてきた頃。どずん……と軽い地響きが響き渡った。 「なんだぁ? もう大砲でも撃ち込んでんのかぁ?」 傭兵の一人がそんな風に笑い、周囲もそれに倣った。 彼らの所属する貴族派と眼前の城に篭る王党派には、あまりに圧倒的な戦力差がある。そんな楽観的な考えの方が、むしろ当然の判断であると言えた。 しかし、その地響きは、自軍からの援護射撃などではなかった。 「おい、なんだあれ?」 どれ大砲をどこに撃っているんだと前方に目を凝らしていた兵の一人が、訝しげな声を上げた。 その視線の先には、城壁の前に立つ黒い影。 距離があるからか随分と小さく見えるが、幾多の戦場を渡り歩き、遠目での距離感に慣れた傭兵の目には、その巨体ぶりが理解できた。 優に人間の1.5倍はある。もしかしたら、2倍に届くかもしれない。 「オーク鬼? 一体だけか?」 「王党派の偉そうな連中が亜人兵なんか使うか?」 「真っ黒いオーク鬼なんかいるかよ」 「じゃあなんだってんだよ。トロール鬼だって黒くなんてねぇぞ」 動揺、とまではいかない、軽い戸惑いのような空気が広がっていく。 黒い影は彼らの方を向き、発見したとばかりに身をよじると、その丸太のような腕を大きく横に開き、天を仰いだ。 さあ、今この時より、この場は名誉の掛かった戦場などではない。 人を狩る鬼、呪われし狩猟者により、命の炎が歌い踊る―――神楽の舞台。 「■■……■■■…………■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」 エルクゥは、大きく牙の光る口を開いて鬨の声を上げると、『レコン・キスタ』陸戦部隊五万の命をことごとく散らさんがため、竜族の飛翔など遥かに凌駕する速度で疾駆を開始した。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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前ページ次ページゼロの工作員 ギーシュとフリーダの決闘事件から数日後。 「御機嫌よう。フリーダさん」 「御機嫌よう。ヴィリエ」 「御機嫌よう。ケティ」 彼女が決闘で力を示したことで、生徒達は不承不承ながらゼロの使い魔の存在を認めた。 ギーシュの怪我は投げられた打撲だけで済み、周囲は倒れたのが気絶と知って安堵した。 メイジ達の決闘は打撲だけでは済まない方が多い。 魔法を使うせいで骨折や火傷、凍傷、裂傷は日常茶飯事だ。 もっとも 水の魔法 による治癒は怪我を一瞬で治してまうのだが。 傷が軽いと知った生徒達の興味は別に移る。 女子達は浮気をされた彼女に同情を示し、魔法なしでギーシュをあしらい、 トリステインでも有数の権力者であるヴァリエール家の使い魔の彼女を お姉さま と祭り上げた。 貴族が平民に負けるのは屈辱だと感じていた一部の生徒達は、 お姉さま を信奉する生徒達にすり潰され、 男子達は怒らせたら 実際 に死ぬほど怖い(ギーシュ談)と畏怖し、 美人である彼女の姿を見て憧憬を感じた。 物腰も姿も上品で、勉強や運動も完璧にこなす姿を見て周囲は『フリーダさん』とさん付けで呼んだ。 貴族が大嫌いである料理長のマルトーは、魔法なしで平民が勝ったのをシエスタと喜び、 彼女を 我等の剣 と持て囃した。 貴族を撃退した記念に、フリーダへテーブル一杯の豪華な料理を振舞ったマルトーは 「みんなで一緒に食べましょう」 とフリーダが言ったのを謙虚な奴だと評価し、料理を食べながら他の下働きたちもそう思った。 面目が潰れたギーシュは大人しくなり、モンモランシーが優しく接するようになっていた。 もちろんケティとは分かれたが、ボロ負けした彼とはそれなりに良い女友達として修復された。 ギーシュは 「彼女に鍛えてもらいなさい」 とモンモランシーに諭され、フリーダに戦術講義を受けている。 「面目潰して御免なさいね」 フリーダが左手を差し出す。 「此方こそ申し訳ない。平民だと侮っていた。重ねて顔を忘れていたのも謝ろう」 右手を差し出し握手を交わす。 油断していたのは自身の非だ、話しの最中に顔に胡椒をかける相手の非情な手を責めるのは悪いと思った。 ギーシュも、自分が丸腰で相手が杖を持っていたら同じことをしただろうと思う。 決闘の勝者を否定するのは、誉れ高い軍人の家系であるグラモン家を侮辱することでもあった。 口説いた相手の顔を忘れているのも悪かったと思っている。 「僕は決闘で負けた、君は勝った。好きな望みを言いたまえ」 平民に決闘で負け、その上見逃されたのでは貴族の名折れだ。 フリーダはギーシュが負けてから数日間、何も求めなかった。 それは、ギーシュの誇りが許さない。 「私は、相手によって付き合い方を変えるだけよ」 「礼を欠いたのは済まなかった平民…は悪いな、ミス・フリーダ」 「ミスは要らないわ」 無茶な要求を突きつけられなくて安堵する。 思えば自身も、決闘で負けた相手に無理な要求を突きつけてきたものだ。 負けて知るものもあるのだと感じる。 「…それともう一つ」 ギーシュは身構える。 「ルイズとは仲良くしてあげて。…あの子一人だから」 フリーダは儚げに綻ぶ。 「お安いご用さ!」 ギーシュは白い歯を見せた。 ルイズにとって使い魔は、思ったより掘り出し物だった。 洗濯を除き掃除、炊事、雑用は完璧にこなすし、ギーシュを単独で倒したのは、 護衛の力として申し分ない。 掃除は髪の毛一本残さず、触った物も指のあと一つ残さないほど完璧。 ためしにつくらせた調理も実家のコック並で、出て来た料理は ぺペロンチーノに牛肉とピーマンの炒め物とメープルグラスの沿岸風サラダ。 どれも見慣れない異国の料理だったが美味しかった。 朝に服を着るのを手伝うのも手馴れていて、実家のメイド達にしてもらうようであった。 腹が立つことがあるとすればフリーダがご主人様を全く敬うそぶりを見せず、 様付けで呼ばないのと、ご主人様を差し置いて学院内で お姉さま として 尊敬されていることぐらいである。 前にご主人様と呼ばせようと、餌付けで躾けようとしたが、 フリーダが学院から賄い飯を貰っていたのを思い出し諦めた。 次の日、賄い飯をやめるよう命令すると、ルイズがコルベールに呼び出されて怒られた。 フリーダは大切なゲストで、刺激しないようにときつく言われた。 三日目、杖を向けて魔法で脅すとご主人様と呼ぶようになったが、 ご主人様の前にいつも ゼロの が付くため諦めた。 使い魔を呼び出してから、周囲の態度が変わりルイズに優しくなった。 優しくなったのは、フリーダへの尊敬や畏怖、口利きからであるのだが、 それを知らないルイズは凄い使い魔を呼び出したメイジへの尊敬であるとし、 多少の欠陥はあるものの概ね使い魔には満足していた。 フリーダは多少の不便はあったもの、潜入工作で培った経験を使い 普通の女学生として過ごしつつ、元の世界へ帰還する方法を探した。 しばらくすると、この星が何処か判らない上技術も未成熟で、 星間技術の欠片も見つからず、帰るのは悲観的になっていた。 アリスの身が心配だが、組織の手が届かない世界に居るのは、 それはそれでいいのではないかと考え始めていた。 「な、なんじゃと!グラモン伯爵のせがれとミス・ヴァリエールの使い魔が決闘じゃと!」 場所はどこじゃとオロオロし、遠見の鏡を見つめている。 「が、数日前に終わっています」 「もっとはやく言わんか!」 ロングビルは片眉を上げ応じる。 「事件当時、執務室はロックとサイレンスで閉まってましたが」 「…すまんのう」 コルベールが部屋へ一冊の本を抱えてやって来る。 「ミスタ・コルベールと大切な話があるんじゃ。退出してくれんか」 「書類は置いておきますから昼までに仕上げておいてください」 ロングビルが部屋から出て行く。 「追加調査はどうなったかのう」 「これをご覧ください」 薄く小さな本には始祖ブリミルの使い魔達と書いてある。 オスマンはパラパラとめくった後、 「子供向けの絵本か?」 絵本の中央に描いてある人物の左手にルーンが刻まれている。 「はい。『ガンダールヴ』と『始祖ブリミルの盾』です」 「他には書いてあったか?」 周囲に魔法を掛けつつ尋ねる。 「いいえ、同じルーンが載っている唯一の本でした。 『魔力文字大全』を調べましたが、該当するルーンはありません」 「あれに載っていないとは忘れられたか、それとも歴史の闇に葬られたか」 コルベールはかぶりをふった。 「勘弁してください、異国の工作員だけでも手一杯なのに」 「金と暇がある奴等はそれぐらいいくらでもやるぞ。 君も揉み消された事件の心当たりの一つや二つしっておろうが」 オスマンの目が細くなる。 「発行年月日は?」 「不明です。数百年以上前なのは確かです」 「盾と書いてあるからには戦闘関係のルーンじゃな」 「模擬戦でもやらせますか?」 オスマンは気まぐれにロングビルの持ってきた報告書をつまんだ。 「………あたりじゃ」 紙にはフリーダ・ゲーベルの右手が光っていたと書かれていた。 朝、目が覚める。 洗濯物をシエスタに出しに行き、授業を受けて、賄い飯を食べて、 適当にルイズの世話を焼いて、特別授業後洗濯物を回収して、 たまにコルベールの機械製作に助言をする。 組織の暗殺も、命令もない。時間がゆっくり流れる平凡な毎日。 そこには任務達成のために取り繕う必要や、敵や監視に怯える日々はない。 彼女は惑星エリオの反政府ゲリラが戦費を稼ぐ為に試験管で生産され、 脳に埋め込んだチップ 記憶領域 に知識を埋め込まれ教育された暗殺者だ。 犯罪組織 コーポ にレンタルされ暗殺を行なっていた。 脳に埋め込んだ 記憶領域 へ 知識や経験 を直接埋め込むチップシステムに、 星間文明は支えられている。 大きくなりすぎた社会には、ものすごい数の専門技術者が必要だ。 手術で埋め込んだチップへ情報を書き込めば、分厚い説明書を一瞬で覚えられるから 技術者は増えた。 彼女はその技術を悪用し 偽人格 を埋め込み、別人になりきって暗殺するのが仕事だ。 任務のため彼女は、最初に人を殺してから八年で二十七人の 偽人格 を受け入れた。 フリーダ・ゲーベルは 偽人格 達の基礎部分で、素の彼女だ。 彼女は見てきた。多くの死を。ゲリラとして、最低限の装備で 機械兵に立ち向かった故郷の仲間。 犯罪組織に貸し出され、理想に程遠い犯罪者として蔑まれながら逝った 同僚のエージェント達。 そして、誰かに「死ね」と命令された彼女の標的。 そんな彼等を差し置いてのうのうと生きるのは彼女にとって落ち着かないことであった。 だから紛らわすために歩く。 食堂からずっとキュルケの使い魔、サラマンダーのフレイムが トカゲの短い足でちょこちょこついて来ている。 バレバレの尾行なので放っておき、学園の隅に居る青い竜の元へ向かう。 青い竜、シェルフィードとの会話は最近の彼女のお気に入りだ。 ビルの2階ほどの背と鋭い爪を持ったそれは、ゴツイ見た目の割りに きゅいきゅいと舌足らずな可愛い少女の声で話す。 「きゅい?そーきたのね!ならここに白を置くのね」 「きゅいーっ、角を取られちゃったのね」 オセロで遊ぶ。シェルフィードとの勝率は五分。意外に頭がいい。 齢200年ほど生きている竜で、竜族の中では子供。 飼い主は無口なタバサお姉さま。 シェルフィードは韻竜と呼ばれる種族で例外的に人間と会話が出来るのだとか。 バレると注目が集まるので、話してはいけないとキツく言い付けられている。 なので、彼女は話す相手が出来て嬉しいらしかった。 フリーダもルイズの元で働く使い魔だ。 シェルフィードとは種族の差はあれ境遇はよく似ている。 何百年も寿命がある知的な種族がどうして格下の人間の下で、 使い魔として甘んじているか疑問に思い聞いてみる。 「人生はひとときの戯れときまぐれでできているのね。きゅい」 と深いことを言っていた。子供に見えるが伊達に長くは生きていないようだ。 私が生きてきたのも一時の戯れなのだろうか。 全てを否定されてしまう気がして首を振った。 フリーダは執務室に呼び出されていた。 室内には緊迫した空気が漂っている。 オスマンとコルベールが杖を構え、 フリーダが偽装ホルスターから取り出した拳銃を構えながら遮蔽を探す。 コルベールが魔法で火がついた杖を向ける。 「単刀直入に聞こう。君は暗殺者かね」 「どうして?根拠は?」 オスマンは構えながら片手で箱を開く。 「これはフリーダ君の世界の武器じゃろう?」 箱には薬莢と精巧に出来たスナイパーライフルが入っていた。 「ライフルに比べ長過ぎる銃身、精密に出来た銃眼。これは狙撃のための武器じゃ」 「それがどうかしたのかしら?」 コルベールはいつでも呪文を放てる体勢に入り彼女の動きを注意深く監視する。 妙な動きをしたらためらわず撃つつもりだ。 「君は学生だね。それがどうしてこんな武器を持っているんだい?」 「護身用よ」 「護身に持つのは不自然だ。取り回しが悪すぎる」 君が構えている銃だけ持っていたのなら信用できた話だったのだけどね、との言葉を飲み込む。 「勘違いしてるんじゃないかしら?護身といっても私自身への護身とは違う」 「護衛のためよ」 彼は言葉の意味を考える。 杖は向けたままだ。 「敵が暗殺のために長射程の武器を用意してくるかもしれない。だから私も同じ武器を使った」 「あなたの国でも護衛のために、暗殺者が使う武器や魔法に対抗するため、 同じ技能を持った護衛官に監視や指揮をさせるでしょ?それと同じよ」 なるほど。確かにハルキゲニアでも、 女王への空襲を想定した衛士グリフォン隊や女王の食事の安全を守る役が居る。 彼等は対空襲の訓練や解毒に対する知識を持っている。 彼女の国で狙撃が有効な暗殺方法とされているなら、 対狙撃に特化した技能を持った護衛が居ても不思議ではない。 「そういえば、君が巻き込まれた事件を聞いていなかったね」 「護衛対象の名前や状況を明かすのは対象に危険が及ぶから…概要だけでもいいかしら」 エグバードの記念式典中に襲ってきた海賊、地下に逃げ延び、西と東の住人が協力して撃退した 歴史的事件を、彼女とアリスについてのことをぼかし、所々脚色を混ぜながら説明する。 「・・・君はレジャイナと呼ばれる異世界の国から飛ばされてきたわけか」 「…そうよ」 「護衛の技能を持っている君が異世界から呼び出されるとなると『ガンダールヴ』が 真実味を帯びてくるわけだ。オスマン校長」 杖をしまったオスマンが頷く 「フリーダ君の右手には『ガンダールヴ』とルーンが刻まれていての、あらゆる武器を使いこなす、 『始祖ブリミルの盾』と呼ばれておる」 「君は我々の及びも付かない武器の知識と、護衛としての能力を持った異界からの人間だ。 それは伝説と一致する。君を暗殺者と疑ったのは申し訳なかった」 腕を組み頭に手を当てる。 「腕を見込んで、さしあたって頼みたいことがあるのだが。いいかね」 オスマンは眼鏡をかけ彼女から視線を外した。 「君の主人、ミス・ヴァリエールは使い魔の君がガンダールヴであるからして、 『始祖ブリミル』と同じ『虚無の使い手』の可能性が高い。歴史から消された系統じゃ。 これからどんなことが彼女に降りかかるかも判らん。彼女を守ってやってくれんか」 「断ったら?」 「ワシが困る」 暗殺者が護衛とは皮肉なものね。 フリーダには断ることも、無視することもできた。 だけど、自身の 正しい事 を通そうとするルイズの姿は どこかアリスに似ていて興味を持った。 それは一時の戯れ、きまぐれなのかもしれない。 「素敵な提案ね。オスマン」 前ページ次ページゼロの工作員
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前ページ次ページゼロの女帝 「最も優れた者、ですか? 道化が?」 「その通りだ、使者殿。 道化とはいわばおどけて周りのものに侮辱されるのが仕事だ。 しかし一方で王や貴族を、許容される範囲内で侮辱する権利を持っている。 ならばその『侮辱』は的を射たものでなければならない。 的をはずした物や単に場の空気を読まず、ただ悪口を言っただけ、では道化とは言えない。 そして相手が我慢できる容量を見切って、限界ぎりぎりを見極めなければいけないのだ。 そして、使者殿のように大抵の者が道化を軽く見ているからその前では口が軽くなる。 密談を聞かれても道化なら気にしない、というのも多いのだ。 わかるかい、道化とは城で最も自由で何にも縛られず、最も情報を持ち 最も賢明でなければ生きていけない存在なのだ」 「そしてジョゼフ王は『無能王』として周囲に軽視されながら策略を練っている」 「そこまで言い切る理由は?」 キュルケの質問に、肺の空気すべてを吐き出すようなため息をついて答えるウェールズ。 「ここまで追い詰められてから、ようやく情報というものの価値を理解出来るようになってね 周辺国家の反応や様々な出来事を調べるようになったんだよ。 結果ね、数年前『無能王』ジョゼフが『サモン・サーヴァント』を行った事(結果は不明) その直後腹心の如く彼の周りでちらりほらりと姿を見せるようになった謎の女性、 そしてその女性と同一と思われる人物がレコン・キスタ首領、オリヴァー・クロムウェルの傍で見かけた との情報がある。 たったこれだけの情報を得るのにどれだけの犠牲を払ったことか・・・・・・ まあいい、とりあえず今夜は城で宴だ。 我がアルビオン最後の宴、使者殿ご一行も参加してくれるね」 「それは命を捨てて戦う決意の宴ではないのですね」 「誇りを捨ててでも戦い続ける、という決意の宴さ では後ほど」 一行が出て行こうとした時、ワルドが話し掛ける。 「恐れながら殿下、お願いがございまして・・・・・・」 パーティーは、城のホールで行われた。簡易の玉座が置かれ、 玉座にはアルビオンの王、年老いたジェームズ一世が腰掛け、集まった臣下たちを目を細めて見守っている。 これが最後とやけくそのように、ずいぶんと華やかなパーティーであった。 王党派の貴族たちはまるで園遊会のように着飾り、テーブルの上には様々なご馳走が並んでいる。 キュルケは幾人もの殿方を老若関わらず侍らせ、タバサはテーブルを一人で掃除せんとするが如く食べ漁り (にもかかわらず下品さが感じられないのは一体どういうわけなのだろう) ギーシュは何人もの女性に声をかけていた。 「むむっ」 「どうしたの、モンモランシー」 「今、何処かでギーシュが浮気をしてるような気配がしたわ」 「ここ数日授業サボって出かけてるわね、そういえば」 「まったく……見下げ果てたわ」 「と言いつつ講義のノート、きっちり取ってあげてるのね」 「こ、これは、べべべべべべつにギーシュの為に取ってる訳じゃないのよ」 「でもそれにしちゃあなたが選択してない授業の分まで取ってるようだけど?」 「・・・・・・・・・放っといて!」 ヴェルダンデは蜂蜜をぺちゃぺちゃと舐め、フレイムはシルフィードと共にお肉を沢山パクついてご機嫌である。 「セトは・・・・・・なにやってんのかしら」 なにやらテーブルを渡り歩いてごそごそしている。 そんな情景を見ながら、 ぼんやりと先ほどの光景を思い出す。 「血痕 けっこん ケッコン kekkon・・・・・・・結婚かぁ」 ワルドは嫌いではない、むしろ好きといっていいだろう。 だがそれは本当に男女の愛なのだろうか。 そもそも自分はワルドを愛しているのか そしてワルドは自分を愛しているのだろうか 何かが引っかかる。 そして、先ほど自分を見つめたワルドの目。 女性に愛を語る目というのはあんなものなのか シエスタと一緒に読んだ○○○本では、殿方はもっとロマンチックに見つめ、かつステキに囁きかけていた。 それに・・・・・・・・・ そんなルイズを横目で見た瀬戸はにっこりと(他者から、特に彼女をよく知る者からすればにんまりと)微笑んだ。 「悩みなさい、ルイズちゃん。 悩んで悩んで悩みぬいて、自分で考えるというのはどんな結果になっても無駄ではないのだから」 朝。ルイズとワルドは、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で皇太子の到着を待っていた。 ルイズはワルドとの結婚を受け入れていいのか、いまだ結論を出せぬまま。 ワルドはそんなルイズの頭に、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をのせる。 そんな様を、式に出席している新婦の友人一同が眺めていた。 (どう思う、キュルケ) (ワルドさまも、いい男の割に女の扱いがなってないわね。まだルイズは迷ってるわ。 その迷いを包み込んで一時的にしろ忘れさせるのが殿方の器量だってのに) そんな一同を、瀬戸はにっこり(にんまり)見守っていた。 扉が開き、皇太子が姿を見せる。 今にも先端が開かれんとするハヴィランド宮殿において、一種奇妙な結婚式が始まろうとしていた。 「では、式を始める」 (私は何を迷ってるの?) 「新婦?」 ウェールズの言葉に意識を現実へと戻す。ルイズは慌てて顔を上げた。 どうやら式はクライマックスのようだ。新婦が夫に永遠の愛を誓う場面。 「緊張しているのかい? 仕方がない。初めてのときはどんなことでも緊張するものだからね」 ウェールズはにっこりと笑って、ルイズを落ち着かせようとした。 「ごめんなさい、ワルドさま。 わたし、あなたと結婚出来ません」 「え?」 「・・・・・・新婦はこの結婚を望まぬか?」 「はい、そうでございます。大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかない」 「何故だ!」 ワルドは、今にもルイズに掴み掛からんばかりに血相を変えてルイズに詰め寄る。 「何故君は僕との結婚を受け入れないんだ!」 「ごめんなさい、ワルドさま。でも駄目なの。 わたしはまだあなたの妻となる程の人間じゃない。 学業でも魔法でも、それ以外でもあまりに未熟なの」 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためにきみが必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。 「……わたし、世界なんかいらないもの」 ワルドは両手を広げると、ルイズに詰め寄った。 「僕にはきみが必要なんだ! きみの魔法が! きみの力が!」 「わ、わたしにはそんな能力も力もないわ」 ワルドの剣幕に、ルイズは恐れをなした。優しかったワルドが怖い。ルイズは思わず後ずさった。 「ルイズ! きみの才能が僕には必要なんだ!」 「だから、わたしはそんな才能あるメイジじゃない。系統魔法ところかコモンすら碌に使えないのよ」 「何度言えばわかるんだ! 自分で気付いていないだけなんだよルイズ!」 ルイズの頭がワルドから離れろと命じてくる。 が、ワルドの手を振りほどこうとしても、物凄い力で握られているために、振りほどくことができない。 「そんな結婚、死んでもいやよ。あなたはわたしをちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなが愛しているのは、 あなたがわたしにあるという、在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱ないわ!」 「子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 時が流れるのを拒絶したかと思われた永劫の数秒間の後、ワルドはルイズから離れた。 「……どうやら目的の一つは諦めなければならないようだ」 悲しげな表情を浮かべてワルドは天を仰いだ。 ルイズは首を傾げる。 「目的?」 ワルドは唇の端をつりあげると、その端正な顔ににやりと不快感すら催す笑みを浮かべる。 「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」 「達成? 二つ? どういうこと?」 ワルドは右手を掲げると、人差し指を立てて見せた。 「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」 「真っ平ごめんだわ!」 「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ。そして三つ目……」 身の危険を感じたウェールズがとっさに杖を構えて呪文の詠唱を始める。 しかし、ワルドはそれを上回る速さで杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させるとウェールズの胸に突き立てる。 「そして、これが三つ目だ!」 「き、貴様……まさか……『レコン・キスタ』……」 前ページ次ページゼロの女帝
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前ページ次ページゼロの魔獣 唸りを上げる弾丸が、慎一の左肩の肉を半ば以上削ぎ飛ばす。 その一撃を受け、慎一は直ちに冷静さを取り戻す。 体を丸め、デルフリンガーを盾に機関砲の直撃を避ける。 「ダダダダダダダ!! 無理だッ! シンイチィ!! 折れちまう!?」 「なんだと!! テメエ! それでも伝説かッ!!」 だが無理もない。彼の役割はあくまで対魔法戦を想定した武具である。 近代兵器の弾除けではない。しかも慎一は、デルフの力を活かせる『使い手』ではなかった。 弾丸の隙間を縫って、距離を取ろうと翼を広げる。 その眼前に、サイボーグ風竜の巨大な顔が現れる。 (クッ!!) 思ったときにはもう遅かった。 鋼鉄の壁越しですら深刻なダメージをもたらした振動波が、至近距離で炸裂する。 不快な金属音と空気が破裂する音が全身に鳴り響き、慎一の体を細胞単位で震わせる。 衝撃は数瞬であったが、慎一は全身の自由を奪われ、緩やかに落下していく。 無防備になった標的に、ワルドが左手の照準を合わせる。 「・・・イチ シンイ・・・」 朦朧とした意識の中、慎一は痺れる両翼をバタつかせ、声のする方へと必死で体を伸ばす。 「シンイチイイイーッ!! どいてええええ!?」 因果応報であろうか。 真横から滅茶苦茶なスピードで飛んできたイーグル号のボンネットに跳ねられ、コクピットの防弾ガラスに磔になる。 慎一は歯を食いしばって機体にしがみつき、そのまま横一直線に流されていく。 直後、ワルド銃弾が空を切る。 「殺す気かァッ!? 俺じゃなきゃ死んでたぞ!!」 「文句は後ろを見てからいいなさいよおおお!!」 確かに痴話ゲンカをしている場合ではなかった。 後方から追いすがるバドが、ミサイルの発射体制に入っていた。 「・・・二人がかりでかわすぞ! タイミングを合わせろ ルイズ!」 言いながら、慎一が機体の天井に張り付く。 「そんな事・・・」 できるわけがない、と言おうとして、ルイズが頭を振るう。 どの道ルイズにミサイルを避ける操縦時術は無い。 慎一を信じるしかない。 メイジは使い魔と五感をリンクさせる事ができる。 できる。 できる。 できるハズだ。 ルイズは大きく深呼吸すると、頭上にいるであろう慎一に意識を集中させる。 エンジン音、空気を切る音、バドの咆哮、ミサイルの飛来音・・・ 雑音が徐々に消えていき、聞こえるのは、魔獣の心音と息使いのみとなる・・・。 ミサイルが後部スレスレまで接近してくる。 「今だあアアアッ!!」 魔獣の意識が精から動へと変わる一瞬を捉え、ルイズが思い切り操縦桿を引く。 同時に慎一が全力で羽ばたき、機体を上空へと持ち上げる。 イーグル号が鮮やかなトンボ返りを決め、目標を失ったミサイルが前方へと消えていく・・・。 「なっ!?」 ワルドに驚いている暇は無かった。 眼前から忽然と消えたイーグル号が、頭上から太陽をバックに迫ってくる。 「ワアアァルドオオオォォォ!!!」 叫びながら、ルイズがしっちゃかめっちゃかにバルカンを浴びせる。 弾丸の一発がバドの左翼を貫通し、ドラゴンが恐慌をきたす。 ワルドは暴れるバドを抑えながら、かろうじてイーグル号の体当たりをかわす。 咄嗟に反撃しようと銃口を構え、気付く。 魔獣が乗っていない。 「ここだぜええ!!」 頭上から急降下してきた魔獣が、ワルドの体に取り付いた。 獅子の俊敏さと、熊のパワーを併せ持ち、あらゆる部位から相手を『喰う』事ができる魔獣。 慎一が普通の状態であらば、接近戦に持ち込まれた時点で決着であろう。 だが、被弾によるダメージと、二度に渡る振動波の直撃で、慎一はまともに体を動かせる状態ではない。 ワルドが機械化した左手でギリリと押し返し、銃口を額に擦り付ける。 「決着だな 魔獣 言い残す事はあるか?」 「バカヤロウ! テメエとの決着はとっくの昔についてるんだよおお!!」 瞬間、二人の足元がガクンと沈み、弾丸が慎一のこめかみを掠め、彼方へと飛び去る。 咄嗟にワルドが足元を見る。 バドの様子がおかしい。 何者かが首に巻きついている・・・。 それは、大猿のような尻尾であった。 臀部から伸ばした慎一の尾、その先端に巻き付いたデルフリンガーが 鋼で覆われた翼竜の首の隙間に、深々と突き刺さっている。 「ムンッ!!」 慎一が尻に力を入れ、大猿の尾を一回転させる。 空中でデルフが踊り、次いで鮮血の大輪が咲く、 首を半ば以上切断された半鉄の竜が、機械音を挙げながら落下していく。 「くうっ!」 自由落下に入ったワルドが詠唱を唱える。 たちまち落下が緩やかになり、その身が宙に浮く。 ― 慎一は、既に眼前にいない・・・。 「おらあああ!!」 背後から慎一に体を押さえつけられる。 空中戦で、人間が鷹に抗えるはずも無い。 長い尾がワルドの全身を絡め取り、猛禽の鉤爪が左肩を締め上げていく。 「グオオオオオオオオオ!!!!」 「往生際が悪いんだよオオオッ!!」 拘束から逃れようと、ワルドが左の機関砲を乱射する。 慎一が暴れる左腕をがっちりと極め、喰いこませた右足を思い切り蹴り上げる。 銃口のついた肘先ごと、ワルドの左手が肩から千切り取られる。 激痛で精神が乱れ、ワルドが再び落下する。 不屈の精神で、尚、体勢を立て直そうとするワルド、その右手を慎一が捕らえる。 「答えろッ!! ワルド! テメエの左手にこいつを付けやがったのは どこのどいつだッ!!」 「・・・・・・・・・」 ワルドは答えず、小声で詠唱を完成させる。 至近距離で発生した真空の刃が、掴まれた自身の手首を切断する。 「・・・ッ!! ワルドオオオ!!!」 ワルドは答えない、ただ、慎一の大嫌いな笑顔を浮かべて落下していった・・・。 ― 慎一は追わなかった。 今の彼には、やらねばならぬ事が残っていた。 それに―。 慎一が『箱舟』を見下ろす。 全ての答えは、そこにあるはずだった。 「なっ!? なんだァ!!」 再び戦場へと戻った慎一が、驚愕の声を上げる。 イーグル号が、戦えている・・・。 相変わらず猛スピード且つ変則的な飛行と、滅茶苦茶なバルカン掃射であるが 恐慌をきたした竜騎士隊の中央へと突撃し、着実に撃破していく。 「うおっとォ!!」 流れ弾を避けつつ、慎一はかろうじて機体に張り付き内部へと戻る。 「随分とやんちゃしてるじゃねえか お嬢様?」 「な な なんとか上下左右の打ち分けは覚えたわ・・・ けど・・・ もう弾がない・・・」 「お前はよくやったさ! 後は姫様のところへ行ってな」 言いながら、慎一がデルフを降ろす。 「お前は留守番だ ルイズを守ってやれ」 「無茶言うな シンイチ 俺は使い手がいねえと・・・」 「ウダウダ言ってんじゃあねえ」 「シンイチ」 再び外に出ようとする慎一を、ルイズが引き止める。 「シンイチ 無茶だけはしないでよ」 「・・・行ってくる」 再び上空へと飛び上がった慎一が、箱舟の甲板目掛け、一直線に降下する。 迎撃しようと機銃を向ける敵兵に、慎一が、千切れかけていた自らの左腕を投げつける。 「久々に暴れてやれや!! ゴールド!!」 投げ込まれた左腕が空中で獅子へと変化し、敵兵の顔面を引き裂く。 そのまま甲板を飛び回りながら、敵兵の混乱を煽る。 慎一が甲板へと緩やかに着地し、ワルドの左腕を、自らの左肩へとあてがう。 直ちに傷口から現れた熊の大顎が左手を縫いつけ、徐々に神経が繋がりだす・・・。 「新たな魔獣を紹介するぜえ!! 『コブラ』だ!!」 くだらない台詞を吐きながら、慎一がジャキリと銃口を構える。 使いようによってはメイジの一個師団にも匹敵するであろう兵器が、最高の舞台で牙を剥く。 直ちに鉛玉の嵐が船上を襲い、眼前の兵士たちがハードなダンスを踊る。 近づく敵を切り裂き、遠くの群れを撃ち殺しながら、凶暴な魔獣が駆け抜ける。 目指すは箱舟の内部・・・。 ―と、 突如慎一の眼前で火球が生じ、混乱をきたした兵士たちが消し飛ばされる。 一箇所だけではない、船上のあちこちで、ドワオズワオと核熱が巻き起こり、恐慌を起こす兵士を吹き飛ばしていく。 ―いかに混乱し、用をなさなくなったとは言え、たった一人の敵のために、味方を焼き払う者がいるだろうか・・・? ましてや、船上にはアルビオンの貴族も多数いたハズである。 慎一は確信する。 これをやったのは、こちらの世界の人間ではない・・・。 「フフ 躾のなっていない部下たちで失礼したね ここまでのもてなしは楽しんで貰えたかな? 慎一君・・・?」 慎一の眼前に、聞き覚えのある声を響かせ、一人の男が現れる・・・。 ガッチリとした体躯の恰幅の良いスーツ姿。その上からさらに白衣。 褐色の肌に白髪、分厚い唇に特徴的なサングラス・・・。 「こんなところで再開できるとはな・・・ 嬉しすぎて涙が出そうだぜ テメエが黒幕だったかァッ! シャフトオオォ!!」 ― かつての十三使徒のひとり。 来留間源三の右腕にして気象兵器のスペシャリスト。 そして、慎一の母親に直接手を下した男・・・シャフト。 遙かな異世界にあって、慎一は憎むべき仇との再会を果たした・・・。 前ページ次ページゼロの魔獣
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前ページゼロの伝説 ギーシュが更に薔薇の杖を振り、七体ものワルキューレが現れ、俺を取り囲んだ。 流石にこれは厄介だ。 これら青銅騎士がただのからくり人形だとすれば、学習機能が無いので、先程と同じように飛びかかってくるのをハンマーの振り回しで粉砕出来る。 しかし今回の場合、指揮しているのは人間。操作の精度は判らないが、身を低くして斬り込ませるくらいのことは出来るだろう。 頭上で振り回せば低い攻撃、回転しながら振り回せば飛びかかられる。 剣では斬れる気がしない。相手の動きが結構速いから爆弾は当てられないだろう。どうしたものか。 「ふっ、迂闊に攻撃出来ないみたいだな」 「ちっ……」 「来ないのならこちらから行くぞ!」 ギーシュが薔薇を振り、七体の内の剣を持った前方の三体が身を低くして斬りかかり、残る空手の後方の四体が飛びかかってきた。 囲まれている為、逃げられない! 斬りかかる剣は盾で防いだ。しかし、後ろのワルキューレまでは防げない。背中を幾度も殴られ、ダメージが蓄積する。何度目かに、蹴り飛ばされた。 蹴り飛ばされて倒れ込んだ俺の周りをワルキューレ達が再度包囲する。 「どうした、もう終わりかな?」 「まだだ……っ!」 気合いで立ち上がる。体の節々に痛みが走る。これ以上は、この決闘後も体に支障を来すだろう。 あの技が……効くかは判らないが……試してみる価値はある。 背負っていた剣――あの退魔剣は時の神殿跡地に安置したため、これはただの鋼の剣だ――を抜き、横に構え、精神を集中させ、息を整える。四方八方より来る者全てを薙ぎ払う剣技! 「ワルキューレ、一気にやってしまえ」 ギーシュが杖を振ると共に、ワルキューレ達が一斉に、その手に持つ剣で突いてくる。そして、それらが手に持つ剣で刺し貫かれる数瞬前! 「てやああああっ!!」 “回転斬り”! 剣を伸ばし切ったまま回転し、外側に向かう剣の遠心力を利用し、敵を斬りつけると言うよりも弾き飛ばす剣技。 この剣が鋼だったためか、ワルキューレ達は大きく弾き飛ばされ……漏れなく星々になってしまった。 この時、金属疲労によってか、剣は折れてしまった。 しかし、青銅で出来たワルキューレが、鋼の剣で、回転斬りとは言えあそこまで吹っ飛ぶだろうか。 「……何故、俺は右手で剣を持ってるんだ」 右利きの人間は、左手の方こそ力があると聞く。左利きの俺の場合は逆なのだろう。そのおかげで数倍もの威力が生まれたようだ。 ワルキューレを空の彼方まで飛ばされたギーシュは、ただただ唖然としていたが、次の瞬間に余裕そうな顔に戻った。 「ふ……ふっ。平民にしてはやるようだな。だが!」 ギーシュは新たな薔薇の造花を懐から取り出し、花びらを散らせた。それらが地に着くと、再びワルキューレ達が姿を現した。代わりにギーシュの顔色は少し悪くなった。 「この杖がある限り、ワルキューレは無尽蔵に創り出せる!」 しかし、それが虚勢に見える。「無尽蔵」の辺りが疑わしい。 ん、待てよ。杖がある限り……? 「杖が無かったらどうなるんだ」 「創り出せないどころか、操ることも出来ないが、そこからは奪い取れるというのかね!」 「ならば、奪い取ってみせよう」 巾着袋から取り出した物で、ギーシュの薔薇の杖を狙い、投擲した。 あ、ありのまま、今起こったことを話すわ! 『私の使い魔が腰に提げた袋から何かを取り出したと思ったら、彼の左手から竜巻が飛び出してギーシュの杖をかすめ取り、使い魔の手に戻った』 な……何を言っているのか解らないかも知れないけれど、私にも解らなかった。 頭がどうにかなりそうだった……。 マジックアイテムだとか、四次元巾着袋だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない! もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。 「な、なななな……」 謎の竜巻に杖を奪い取られたギーシュは、ワルキューレを操作することも出来ず、ただただ驚愕するばかりだった。 「……ただの薔薇の造花のようにしか見えないな。本当に杖か、これ?」 私の使い魔はと言うと、奪い取った薔薇の造花をあちこちから眺めている。 「そんな……魔法が使えないというのは嘘だったのかい!?」 「? 何を言ってるんだ。俺はただ……」 ギーシュや、私含む観衆の疑問に答えようとした使い魔は、何かを思い付いたような顔をすると、言い直した。 「そうだな、嘘だと言うことになる。今、俺が使って見せたのは、竜巻を自在に操る魔法だ」 観衆が騒ぎ出す。ギーシュは信じられないと言った顔をし、次に浮かんだのは恐怖だった。 「先程の質問にも答えよう。あの鉄球を何処から取り出したかと訊いたな? 鉄球に限らず、あらゆる物を別の場所に仕舞っておけるし、いつでも取り出すことが出来る。俺はそういう魔法を使っている」 そんな魔法だったなんて! て言うか、あいつ、魔法使えたんじゃないの! 「そ、そんな魔法、聞いたことないぞ!」 「そうだろう、俺にしか使えないからな。……さて、先刻はよくも痛めつけてくれたな?」 使い魔が一歩出ると、ギーシュはハッとし、一歩後退り、喚いた。 「ま、待て、待て待て! 君の勝ちだ! 決闘では杖を取られたり落とされたりしたら負けなんだ!」 「む……」 彼が私を見る。私は「その通りだ」と言う意味で頷いた。 「ならば、勝者である俺の言うことを聞いてくれないか」 ギーシュはビクッと肩を震わせたが、潔く肯いた。 「何でも聞こう」 満足そうな顔で、使い魔は言った。 「お前に名誉を傷付けられた女性二人に謝って来い」 その後、ケティとモンモランシーの容赦ない暴行を受けているギーシュを見届け、私と使い魔は食堂に戻った。 あのメイドに、彼の無事を報せる為だ。 「良かった……本当に良かった……」 泣きじゃくるなんて大袈裟ね。いや、貴族の怒りを怖れる平民からすれば嬉し泣きも当たり前かも知れない。 「私……えーと……あれ?」 「どうしたの?」 「あのう、今更な気がするのですが……彼のお名前って」 「!」 ……えーと。 「…… もういい。どうせ俺の名前なんて二度しかタイトルにならなかったよ! 空気王の遠縁だよ! 夢を見る島だって、ゼルダが一回名前しか出ただけなのに何が『ゼルダの伝説』だちくしょおおおおお!!!」 「あ、ちょっと! 待ちなさい!」 泣きながら走り出す本名不詳の使い魔を私達は追った。彼よりもシエスタの方が圧倒的に速かったため、彼の逃走劇は五秒弱で幕を閉じた。 「取り乱して済まなかった」 取り押さえられてひとまず落ち着いた彼は、とりあえず詫びた。 シエスタは自分が彼――リンクを心配していたことを告げ、仕事が残っているからと厨房へ戻っていった。 「名前について不遇を受けていたことがあったのでな。つい気にしすぎてしまった」 「……許しといてあげるわ。それじゃ、リンク……でいいのよね?」 「ああ」 頷く彼に、私は右手を差し出した。 「これからも、よろしくね。あんな凄い魔法が使えるんだもの。頼りにしてるわよ」 リンクは、あー、などと言いながら何かを考えたようだが、まあいいか、と呟き、手を差し出した。 「よろしくな」 私達は固く握手を交わした。 「……勝ってしまいましたね」 「勝ってしまったのう」 ギーシュがリンクに降参を宣言した頃、トリステイン魔法学院長室。 そこでは、春の使い魔召喚の儀式の監督を務めていたミスタ・コルベール教諭と、学院長であるオールド・オスマンが、鏡のようなものに映し出されたギーシュとリンクの決闘の様子を見ていた。 「詠唱も無しに、竜巻を生み出すとはのう」 「ええ、それにしても、あの剣の回転で銅像が見えなくなるまで吹き飛ばせるとは思えません。やはりあの青年は、伝説のガンダールヴに間違いありませんよ! 早速アカデミーに、」 「まあ、待ちなさい、ミスタ・コルベール。仮に彼が本当にガンダールヴだとしてもじゃ、アカデミーには報告しない方が良かろう。解剖されるなどという噂も強ち嘘ではなさそうじゃからの」 「(そ、それもそうですね。流石はオールド・オスマンでいらっしゃる。)ここに来た時にミス・ロングビルの尻を撫で回していた方とは思えませんが」 「聞こえとるぞ!」 前ページゼロの伝説
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………シュ ……-シュ ギーシュ、起きなさい… ……んん、誰だい、僕を呼んでいるのは… あれ…ここはどこだい…?それに僕は一体何を……うっ、思い出そうとすると頭が… ギ-シュ…あなたはまだ倒れるわけにはいきません… あなたに再び命を与えましょう… 命?僕は…死んだのかい…?そういえば…確か…ルイズの使い魔と決闘を…なぜだろう、思い出さない ほうが良いと心が警告している… そういえば…さっきから頭に直接聞こえてくるけど…あなたは…何者ですか…? 私ですか?私はこういうものです… わぁ…綺麗な火の鳥だなぁ…でもなぜかカバに似ている気がする… ところで…さっき僕が死んでいると言いましたが、どうやって生き返らせるのですか…? それはね……(ニヤリ)……こうするんですよ………!! あれ…?なんだろう…背筋がゾクゾクする……生き返らせてもらうのに…?この感覚、覚えが…そうだ、 あのジェラールとか言う使い魔が僕に向かって来て……痛イィ!頭ガイタイィィ! ダメダァァ!思イ出スナァァァ! ククク…思い出してきたようだな…自分が何をされてここに来たのかを……!!皇帝陛下、並びに アバロンを愚弄したその罪、今一度現世で思いしれえぇ! 皇帝陛下……?あっ!!!あ…あ…あ……嫌だぁぁぁぁ!!!このまま死なせてくれえぇぇぇ!!! 生き返りたくないぃぃぃ!!!お願いだからぁ!お願いしますぅ、もう一度あんな目にあうのは嫌だぁぁぁぁ!!! もう遅い!再び死なぬよう、そなたのハラワタを食い尽くしてくれるわ!皇帝陛下の力を借りて! 今!必殺の!科学に…もとい!真・アル・リヴァイヴァ!! 嫌だぁぁぁ!!!!戻りたくないぃぃぃ!!!い…い…ギャアァァァァ………!!! 時間を少し巻き戻そう。 場所はヴェストリ広場。この広場は普段人の往来も少なく本来なら決闘の舞台としては適しているのだが、 今回はそうも行かなかった。なぜならヘタ…ギーシュが食事時の食堂という、ある意味学園で最も人が 集まる場所で決闘を申し込んだのだ。しかも相手は「あの」ゼロのルイズの使い魔。しかも平民。これで 観客が集まらないほうがどうかしているというものだ。 観客が集まれば当然勝敗の予想がされるもので、 A「お前どっちが勝つと思う?」B「んなもんギーシュに決まってんだろ」A「そりゃそうだな、相手は平民だし」 B「しかもあいつの主人、ルイズだし」A「だよなー、ルイズだからなぁ」C「こうやって集まってやったんだから せめて逃げまくって楽しませてもらわないとな」D「あの平民、ちょっと背が高くてちょっと顔が良くてちょっと 足が長いからって貴族に楯突くなんてふざけた奴だぜ」ABC「「「全くだ!」」」 などと彼らの関心はすでに使い魔-ジェラールがいかに情けない姿で逃げ回るかということに移っていた。 そんな幸せな連中とは一線を画すように、ジェラールの実力の一端を知る一団は地上の喧騒から逃れ 多少離れた場所に浮いていた。 「助かったわ、タバサ。あんな人ごみの中じゃよく見えないからね」 「…距離をとらないと危険」 「そう?確かに昨日見たあの魔法はかなりのものだったけど、ここまでする必要が?‥まああなたの 判断に任せるわ、私は乗せてもらってる身だしね。で、何であなたがここにいるの、ルイズ?」 「…えーと、その…」 「あなた、自分の使い魔が勝つと思ってないの?あの実力からみて彼がギーシュに負ける確率なんて、 一晩でコルベール先生の髪がフサフサになるより有り得ないわよ」 「そ、それはそうなんだけど、アイツが「物事にはアクシデントが付き物だから、安全な場所にいて」 なんて言うから、どこかないかと探している時にちょうどあなたたちを見かけて、それで…って何で いちいち説明しなきゃならないのよ!思いっきり話しかけたじゃない!」 「それは諸般の事情で…そういえば肝心の彼は?いつのまにかギーシュは来てるけど」 「なんか確認したいことがあるんだって」 「…来たみたい」 ジェラールがヴェストリ広場に着いたとき、そこにはすでにギーシュと彼の悪友達がにやけた顔で 話しており、ジェラールの姿を見つけるとこちらに野次を飛ばし始めた。 イ「遅いぞ平民!」ロ「小便は済ませてきたか?」ハ「心配するな、俺たちゃ優しいから、今謝れば許して やるぞー」ニ「ただし土下座が条件だがな」イロハ「「「ブハハハハハ!!」」」 (…現役だったら不敬罪で即ルドン送りにしてやるのだが、丸くなったな、俺も。一応最終手段は 確認したものの、使わないに越したことはないな。ま、適当にギブアップさせるのが順当か…) そしてギーシュが高らかに宣言する。 「さあ決闘だ!諸君!我々貴族に対しての礼節を知らぬこの平民に、この僕、ギーシュ・ド・グラモンが! 皆に成り代わり!たっぷりと教育的指導をしてあげるとしよう!」 ウオオォォ!ピーピー!いいぞギーシュー! 「一つ確認したいことがあるんだけど」 「ん?なんだい?作法はどうあれ、心のこもった謝罪なら僕は受け入れるから心配しなくて良いよ」 ギャハハハハ!! 「…決着のつけ方は?」 「ああそんなことかい、簡単だよ。降参するか、戦闘不能になるか、第三者が止めに入るか、こんなところ だね。あと僕はメイジだから、この杖代わりの薔薇を手放しても負け扱いになるよ。万が一君が勝ちに来るなら この条件が一番望みあるんじゃないかな?」 さっすがギーシュやさし~、敵に塩を送るとは~!そこにシビれるあこがれる~!! 「さて、始める前にだが、君は何の準備もしていないようだね。せめてもの情けだ、武器を用意して あげるよ……よっと!さ、この剣を使うと良いよ。」 「遠慮する。決闘において第三者からならまだしも、相手から武器を渡されてそれをホイホイと使うのは 阿呆のやることだね」 「なんだい、せっかくの人の好意を受け付けないとは。これだから平民は…で、君はどうするんだい? 素手だから負けたなんて言い訳はしないでくれよ、見苦しい」 「武器は用意するよ、今から。…………覚悟しろ、小僧」 ギーシュが「誰が小僧だゴルァ」と言おうとしたとき、ジェラールが何かつぶやいているのでそちらを 見る。内容は良く聞こえなかったが最後に「…風になれ」と聞こえたその瞬間、ジェラールに向かって 突風が吹きつけ、それは右手に集約されてゆき、最後に剣と化した。それと共にジェラールの表情が 変化していき、今までは柔和で人のよさそうなものであったのが、まるで世界一性格が悪そうな表情 へと変わっていく。 (アレ?誰、あの人。僕あんな人知らないよ?) (…ふう、やはり武器を持っているほうが性に合うな。ん?左手の呪印が急に…おいおい…封印した はずなのに、どういうことだ?なぜ技が使える?しかも能力強化?よりによって龍脈クラスの… この印はマイナス効果だけじゃないのか?まあ後でルイズに聞けば分かるだろう。この力に対抗 しなければならないとは…同情はするが、諦めろ小僧。さて、やはりまずは基本からだな) 「な、なかなかできるよ、ようだね。じゃ、じゃあ始めようか。ワルキューレ!」 「ほう、人形使いか、懐かしい。こっちも剣を握るのは久しぶりだからな、さあこい!」 そうして決闘は始まったが、先ほどの場の空気からは想像出来ないほどギーシュが優勢に進めていく。 ジェラールはただただワルキューレの攻撃を剣で弾くのが精一杯で攻撃に手が回らないようだ。…素人が見れば。 素人A「なんだあいつ?」素人B「さっきは思いっきりビビったけど、さっぱりだな」素人C「きっとさっきのが 精一杯のハッタリだったんだろ」素人イ「ギーシュー!観客を退屈させちゃいかんぞー!」素人ロ「そんな ハッタリ野郎とっとと片付けちまえー!」素人ハ「お前にはまだやることが残ってんだろー!」 素人Ω「モンモランシーに謝るんだろー!」素人ABCイロハ「「「「「「だはははははは!!!!!!」」」」」」 もう一人呼んでキング素人にするつもりは毛頭ない。 そんな声(一部除く)に乗せられすっかり調子を取り戻したギーシュは、一気呵成に攻めて行き ここが勝負所と思ったのか奥の手を披露する。ワルキューレ六体同時召喚! 「どうしたんだい、さっきまでの威勢の良さはどこにいったのかな?しかし、一対一では 凌げてもそれが複数になれば耐え切れるかな、さあがんばりたまえ!」 「あれー、どうしたのかしら、彼。さっぱり攻撃しないじゃない」 「アイツ…!あれだけ大口叩いておきながら、このまま負けたらどうしてくれようか…!」 「…遊んでるだけ」 「「なんで?」」 「理由は分からない。でも、追い詰められている人間はあれほど楽しそうに笑わない」 「たしかにそうね、考えてみれば魔法使ってないし。…でもあの表情、今までとはだいぶ違うわ。 あれはあれでセクシーよね、戦う男って素敵!」 「…おい色ボケ。冗談は性格だけにしろ」 「あなたの発育速度よりはましじゃない?」 「……!雰囲気が変わった。試合が動く」 ジェラールはギーシュの奥の手を見て、少し笑うと一旦その場から離れて口を開く。 「ほお、それだけの数の人形を操るとはなかなか。だがこちらもだいぶ勘を取り戻せたし、ウォーミング アップも終わった。少し間引くとするか」 「ふん、負け惜しみが強いようだね。一対一で手一杯な君が六対一で勝ち目があるとでも?やれるもの ならやってみなよ!いけ、ワルキューレ!」 ギーシュがワルキューレに命令すると同時にこの決闘で初めてジェラールが剣を振った。それはただ一度 振り下ろしただけの斬撃、いわゆる袈裟斬りである。しかもワルキューレからは10メイルほど離れている だろう。しかし不思議なことにギーシュの顔にはその斬撃のためか、生温かい風が吹いてきたように 感じられ何気なく顔を撫でてみた。すると、ギーシュは自分の頬から血が流れている事に気付く。 一体いつ?いや何で斬られた?と考える間も無く、前列にいたワルキューレ三体の体に無数の傷 -先ほどのジェラールの斬撃と同じ方向に-ができ、そのまま彫刻版シュールレアリズムとでも 言うような姿に変える。カマイタチ。風神剣の武器固有技である。 「うーん、やはりまだ細部の感覚までは戻らないか、あの薔薇も狙ったんだが」 「な!?い、今何をしたんだ!き、君もメイジだったのか!?」 「いや、俺は貴族じゃない。それに使うのは魔法ではなく術だ。例えばこのような…太陽光線!」 ジェラールが術を唱えると、本来あまり日の差さないヴェストリ広場が明るくなる。その過剰な光は 残ったワルキューレの内一体へと集束していき、その熱でドロドロに溶かしていく。こちらはパティシエ オススメ!今月の新作デザートといった感じに仕上がった。 「今の魔法は…火?いや違う…何の系統かすら分からない…一体何なんだ君は!!」 「今はルイズの使い魔だな。それ以前が知りたければ俺の口を割らせてみろ、小僧」 「く、くそう…負けるか!負けてたまるか!こんなデタラメでどこの馬の骨とも知れない奴に! この僕が、ギーシュ・ド・グラモンが!負けるものかぁ!」 「…今なんと言った?」 「あ!?お前のようなデタラメな奴は先祖代々デタラメなロクデナシだと言ったんだよ、平民!」 「…そうかそうか。おい、お前は今二つ重要なことを言った。一つは、確かに俺はデタラメな存在だ。 それはまだいい。しかし、お前は祖先、つまり先達の方々の功績まで愚弄した。それがどれだけの 罪か…お前に分かるか?」 「なにを勿体つけて言ってるんだ!どうせお前の先祖なんて有象無象みたいなものだろうが!」 「フフフ……ハハハハハハ!!!やめだやめだ!これは使わなくていいだろうと思っていたが 予定変更だ。小僧!喜べ!もう剣は使わない。素手で勝負してやる!ハンニバルの腕力!クラウディアの スピード!ベイダーのスタミナ!ガダフムのテクニック!そして!この俺の怒りが!お前をぶっ潰す!!!」
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前ページ次ページゼロの大魔道士 シャナク――破邪呪文の一種で、アイテムや武具、もしくは生命体にかけられた呪いを解除する魔法である。 解除の成功率、そして解除後の影響に関しては使い手の力量がそのまま影響する。 呪いとは何か? ポップの世界において呪いという言葉の定義はない。 何故なら、原因がわからない不都合を起こす現象はほぼ全て呪いとされているからだ。 ただ、一説によれば呪いとは総じて魔法の別に形ではないかと言われている。 不思議な現象に魔法が絡んでいなければおかしいというのが根拠だった。 コントラクト・サーヴァント――術者と受術者の間にルーンを刻むことによって主従契約を生み出す魔法である。 始祖ブリミルが生み出したとされるこの魔法はメイジであれば大抵のものが扱える。 いわゆる初級魔法に分類されるこの魔法は、ある種の強制力を持つ。 ルーンを刻まれ、使い魔とされた生物は主人に対するある程度の忠誠心を代表とする色んな能力が強制的に付加されてしまうのだ。 さて、ここで話は本題に戻る。 前述の通りシャナクは呪いを解除する魔法だ。 そしてコントラクト・サーヴァントは魔法ではあるが、その効力上呪いといっても差し支えはないものだろう。 つまり、シャナクはコントラクト・サーヴァントに対して十分効力を発揮すると言っても良いのである。 (くっ!? 思ったより強固な…っ!) 話を聞く限りでは初級魔法のようだから解除も簡単だろうと臨んだポップだったが、意外な苦戦を強いられていた。 効力は外道といえども、そこは始祖ブリミルの魔法である。 戒めという呪いを砕かんと襲い掛かるポップの魔力を押し返さんとばかりに抵抗力を発揮する。 (こりゃ、師匠のアレ並だな…) アレ、つまりポップがマトリフのお下がりでもらった、バックルにマトリフの顔が彫ってあるダサいベルトのことである。 装備すると外れなくなるという呪いがかかっていた恐るべき一品。 なお、バーン打倒後ポップが必死にシャナクの修得に励んだ理由がここにあるのは言うまでもない。 「ちょっとアンタ、何してるの!?」 ポップが悪戦苦闘しているその時、ルイズがその様子に気がついた。 流石に契約を解除しようとしているとは気がついていないが、ルーンが激しく光り輝いているとなれば主人としては気になるのは当然。 同様の心境のコルベールと共にルイズはポップへと近づいていく。 と、その瞬間。 「こっ…の……消えろぉぉーっ!!」 ポップの渾身の叫びと共に後押しされた魔力がルーンへと襲い掛かる。 シャナクの力がルーンよ砕けろと奔流。 しかしこの瞬間、ルーンが自己防衛とも言うべき力を発した。 始祖ブリミルが使役したといわれる伝説の四なる使い魔の一体の力は、己の存在の消滅を防がんと動いたのである。 バシュゥッ! そして次の瞬間。 ルーンは砕け散ることなく、ポップの体から出て行き――そして『乗り移った』 「なっ…!? ぐっ、ぐあ…!?」 ここで不幸だったのは、彼が一番位置的にポップに近かったということがある。 周囲の生徒たちは既に彼自身の言によって解散していたということも不幸の一因だっただろう。 ルイズも同程度の位置だったのだが、彼女はコントラクト・サーヴァントの行使者。 条件的には当てはまらなかった。 それはつまりどういうことかというと―― 「こ、コルベール…先生?」 炎蛇のコルベール。四十二歳。独身。 ポップから追い出されたルーンをその体で受け止める羽目になった彼は ――この日、この時を持って教え子の使い魔になることが確定した。 『………』 痛いほどの沈黙が場を包んでいた。 場にいる人間は五人。 ぽかん、と口を大きく開けて固まっているルイズ。 自身の左手をまるで悪夢を見るかのように眺め続けるコルベール。 とある事情によりこの場に残っていた微熱と雪風の二つ名を持つ二人の生徒。 そして、どうコメントしていいのかわからず目をそらすポップだけだった。 「じゃ、そういうことで!」 キッカリ三秒後、最初に動き出したのはポップだった。 ぶっちゃけ、ルーンが砕けずに他人に移ったのは予想外の出来事だった。 しかし話の限りでは命にかかわることではないらしいし、そもそも自分は火の粉を払っただけである。 自己欺瞞を完成させたポップは素早く身を翻すと飛翔呪文を唱え 「あ、ま、待ちなさい!」 背に降りかかるルイズの罵声を無視して逃走を開始するのだった。 「随分と…め、珍しいルーンだね。私の左手にあるルーンは…」 ひゅうう、と風がコルベールの少なくなった髪の毛をなびかせる。 彼の目の前には罵声を上げ続ける桃色の少女の姿がある。 ミス・ヴァリエール。 いや、ご主人様? どちらで少女を呼ぶべきかコルベールは闇に染まりそうな思考の中、他人事のように考えるのだった。 「さて、これからどうしたもんだか…」 ポップは一度ルイズ達の視界から消えた後、こっそりと身を隠しつつ近くに戻ってきていた。 まだ完全に確信したというわけではないが、ここが異世界である可能性が高い以上無闇に動き回るわけにもいかない。 言葉が通じて人間がいる以上、町なども存在はしているであろうが、法律や常識が大幅に違う可能性は大いに高い。 となると下手すればうっかり犯罪者になってしまうということも考えられる。 現時点ではハルケギニアの知識がないに等しいのだから。 「お、移動するようだな」 ポップの視線の先には、宙に浮いて移動を開始するルイズ達の姿があった。 何故かコルベールがピクリとも動かないルイズを抱えて飛んでいたのだが、そこは気にしてはいけない部分だろう。 「トベルーラ…じゃないよなぁ。やっぱ異世界となると魔法体系も違うのか?」 少なくともポップの知る限りではサモン・サーヴァントやコントラクト・サーヴァントなどという魔法は存在しない。 類似している魔法や現象はあるにはあるのだが、彼らの様子を見た感じでは広く浸透している魔法のようだ。 となると、自分の知る魔法と、ルイズらの扱う魔法は全く別のものである可能性は高いといえる。 「とりあえず、あいつらに着いて行ってみるか。まずは情報を集めないことにはどうしようもないしな」 またぞろ厄介なことになったぜ、とポップは髪をガシガシとかきむしりながら飛翔呪文を唱える。 (ま、流石に大魔王を倒すよりはマシだろ) そうポジティブに考えることができたのはポップの成長の証だったのかもしれない。 それが楽観的な考えだったのかは、未来のポップのみが知ることではあったのだが。 前ページ次ページゼロの大魔道士
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ゼロの使い魔~双月の騎士~ ぜろのつかいま~ふたつきのきし~ 監督:紅優 シリーズ構成・脚本:河原ゆうじ キャラクター原案:兎塚エイジ キャラクターデザイン・総作画監督:藤井昌宏 音楽:光宗信吉 アニメーション制作:J.C.STAFF オープニング テーマ曲:「I SAY YES」作詞:森由里子 作曲:坂部剛 編曲:新井理生 歌:ICHIKO エンディング テーマ曲:「スキ? キライ!? スキ!!!」作詞:森由里子 作曲・編曲:新井理生 歌:ルイズ(声:釘宮理恵) TVアニメ「ゼロの使い魔~双月の騎士~」サウンドトラック I SAY YES [Maxi] スキ?キライ!?スキ!!! [Maxi] 2007年 作品名:せ
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前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 八話 桃色がかった金髪を持つ少女が、あの誇り高い少女が、あの驚くような努力を積み重ねてきた少女が、使い魔召喚と契約、二つの魔法に続けて三度目の魔法を成功させることを、燃えるような赤毛と紅玉のような瞳を持つ少女、キュルケは確信していた。 だから不安に表情を曇らせることも、机を盾にすることもない。 しかしその確信は、ことのほか容易に、つい先刻教卓の上に置かれていた石と同じく、やすやすと打ち砕かれた。 耳をつんざく爆音に驚かされる。 何故なら、それは石ではない何かに姿を変えるはずだったから。 驚きは思考を奪う。 そして本来行われるべき思考とは違う、第三者の視点に切り替わってしまった。 実際には声を発する間もなく突き刺さるはずの石の欠片を、キュルケの瞳はゆっくりと追いかける。 視界を占める割合を徐々に大きくするそれを、キュルケはよけるでもなくただ見つめていた。 一体どういった力が加わったのか、平たい面を天井に向けた半球状の石は、恐ろしい勢いで回転していた。 瞬きほどの短い時間で、間近まで迫る石。 向かい来るのはキュルケの顔。 鋭さを一部にのぞかせるその石は、瞳に当たれば失明を免れず、顔に当たればどのように切り裂くのか。 鈍い傷口ほど、傷跡は醜くなる。 傷で済めば、運が良いのかもしれない。 そこまで理解していながら、キュルケの体はよけようともしない。 石が当たる直前、キュルケが出来た行動は歯を食いしばることと、きつく目をつぶることだけ。 爆音が聞こえてからほんのわずか後、タバサの意識もキュルケと同じように、別の時間軸に切り替わっていた。 いやにゆっくりと、回転する石が視線の先を飛んでいく。 学院の内外を問わず、唯一友人と呼べる人間の頭をめがけて。 石を防ぐ為に踏み出そうという意識も、防ぐ為に手を出そうという意識も、想起させるほどの時間の隙間は存在しなかった。 極端に視野が狭窄し、石とキュルケの姿しか認識できない。 目の前に広げた手のひらほどの距離が、考えを進める間もなく縮んでいく。 ふと気付けば閉じた手のひらほどの距離となり、瞬きを挟む隙間もなく、指の本数が基準となる。 だが狭まる距離が指何本分になるか確認する間もなく、石はキュルケの目前に迫っている。 友人を守る猶予が、蝋燭の炎のように吹き消されていた。 タバサが出来たこと、それは誰かの白い手が、驚くほどの速度で友人へ向かう石を受け止めたということだけ。 不安を集中によって押し殺していたルイズは、ルーンを唱え終わった瞬間に目を見開き、教卓に乗せられていた石へと杖を振り下ろす。 それは、石ではない何かに変わるはずだった。 青銅や鉄、それどころか砂や粘土でも構わない。 ブラムドを召喚したことで、自分には変化が起こっているはずだ。 不安の中で、ルイズは杖へ全ての力を込めた。 結果として、それは災いをもたらす。 今までと何の変化もない反応をする、という災いを。 爆発した瞬間、ルイズは何一つ出来なかった。 爆風で吹き飛ばされ、後頭部を黒板に打ち付けること以外には。 爆風で吹き飛ばされる直前、シュヴルーズは温かな笑顔を浮かべていた。 爆風で吹き飛ばされる瞬間、シュヴルーズは温かな笑顔を浮かべていた。 爆風で吹き飛ばされた後も、シュヴルーズの笑顔は何一つ変わっていなかった。 なぜなら、ルイズの魔法が爆発を呼ぶことを知らなかったから。 そして、呼び出した使い魔が恐ろしく強力だと聞かされていたから。 元々体を動かすのが得意ではないにしても、その体は何の反応も起こさなかった。 笑顔のまま吹き飛ばされ、後頭部を床に打ちつける。 腰の前で合わせた手も、温かく見守る表情も、何もかも変わることなく、シュヴルーズは意識だけをなくしていた。 その傍らで、ルイズは意識を失うことなく、ただ後頭部に走る痛みに耐えていた。 不意に、後頭部を抑えたルイズの手を離させる誰かが現れる。 誰か確認する必要もない。 記憶が色あせるほどの時間も経っていない。 ルイズの想像した通り、その手はブラムドのものだった。 傷の状態を確かめたブラムドは、それが大した怪我ではないことを確認する。 安心したブラムドは、一方からの騒ぎに気付かされた。 入り口近くにまとまっていた使い魔たちが、爆音のせいでメイジたちの制御から外れている。 割れた窓を目指そうとする、飛べる使い魔たち。 臆病であったのか、混乱して暴れる使い魔たち。 本能を刺激されたのか、他の使い魔を食おうとする使い魔たち。 状況を収拾するはずのメイジたちだが、昨日の今日でどれだけ使い魔のことを理解できるだろう。 経験のなさから悲鳴を上げるか、慌てふためくばかりだ。 その様子を確認したブラムドはルイズの耳を塞ぎ、加減をした魔法を解き放つ。 『竜の咆哮(ドラゴンロアー)』 ブラムドが元々暮らしていたフォーセリア世界、その起源は一体の巨人から始まる。 世界そのものを生み出した巨人に名をつけるものはなく、それはただ始源の巨人と呼ばれた。 始源の巨人の死により、フォーセリアの大地、フォーセリアの神、そしてフォーセリアの竜は生み出される。 フォーセリアの神が土や水や風や火、それらが司る力を精霊として分化するより以前、神と同じく始源の巨人から生まれた竜は、その身に様々な力を宿している。 炎によって傷つくことのない体、口から放たれる炎のブレス、鉄の剣を弾くほどの強靭な鱗、そして魔力のこもる咆哮。 聞くものの心を乱し、恐怖を植えつける。 時にその心を砕き、狂わせ、死をもたらすこともある。 しかし弱く弱く加減したその咆哮が、瞬間的に教室内を満たす。 混乱していたものたちが、その声を聞いて逆に心を静める。 強者への畏れが、心を冷やす。 爆音で我を失っていた使い魔たち、それに慌てていたメイジたち、その全てがブラムドの咆哮によって我に返る。 ブラムドが落ち着けたルイズ、そして混乱にいたっていなかったが、運よくその魔力から逃れたタバサ以外、メイジと使い魔を問わず混乱していた教室は、改めて静けさを取り戻した。 一部の生徒たちがシュヴルーズを起こした後も、教室内は静まり返っていた。 常であればルイズへ罵詈雑言が投げつけられるところであったが、主を守護する使い魔の姿に口出しできるものはない。 何より、昨日ブラムドが召喚されたとき、その威容に畏れを抱かなかったものもいないし、つい先ほどオスマンから宣告されたこともある。 安易に触れることなど、出来はしない。 意識を取り戻したシュヴルーズは、マリコルヌの制止を聞かなかった自分を恥じているのか、特にルイズをとがめることはなかった。 ただ、教卓近辺の惨状を放置するわけにはいかなかったのだろう。 爆発の衝撃で傾いてしまった教卓の片付けや、倒れてしまった最前列の机を直すことなどをルイズに指示し、午前中の授業の中止を生徒たちに告げた。 教室を出る際、ルイズへにらみつけるような視線を投げる生徒も幾人かはいたが、怪我人らしい怪我人もなく、使い魔が多少暴れた程度で済んだためか、それ以上のことをするものはいなかった。 ルイズもまた普段通りとはいかず、口の端を引き絞りながら眉根を寄せ、破片の飛び散る床をねめつけるだけ。 タバサに続き、最後に教室を出ようとするキュルケはブラムドへ先刻の礼を言おうとするが、その様子に気付いたブラムドは視線を合わせながらかすかに首を横に振る。 確かにそれを今この場でする必要はない、気付かされたキュルケはブラムドに対してわずかに頭を下げ、無言のまま教室を後にした。 やがて足音が消え、教室内に沈黙が落ちる。 ブラムドは教室を離れた風を装う誰かと誰かの気配を感じながら、ひざまずいてルイズへと声をかけた。 「ルイズ」 その一言が合図であったかのように、ルイズはブラムドをかき抱き、声ならぬ叫びを上げる。 集中して杖を振り上げたとき、ルイズには一片の希望があった。 それは、途轍もなく強力な使い魔の召喚、そしてその使い魔との契約、二種の魔法を成功させたことで、十年以上にわたる失敗の積み重ねを少しずつでも取り返せるのではないかというもの。 その希望は、キュルケが退避しようともしなかった理由と全く同じもの。 諦めかけていたルイズの前に垂らされた、ブラムドという名の蜘蛛の糸は、紐よりも縄よりも、鋼鉄よりも強靱に見えた。 だがその蜘蛛の糸は、天上へつながってはいなかった。 ルイズに残されていたただ一つの希望は、高所から落とされた陶製の人形と同じ運命を辿る。 少なくとも、ルイズにはそう思えた。 強大な使い魔を従えながら、一切の魔法を使うことのできない主。 使い魔との契約を済ませ、使い魔へ畏怖と尊敬を覚え、使い魔に相応しい貴族たらんとしたルイズにとって、それは目標にはなり得ないものだ。 堰を切ったかのように止めどなく涙を流し、その身の全てで叫ぶ。 しかしその泣き声は、赤子のそれとは違う。 生まれ出でてすぐ、何もかもがわからぬままにただ助けを求める泣き声ではない。 生きる喜びを知り、生きる苦悩を知る、一個の人間の嘆きの声だ。 嘆きは言葉となり、言葉は単語となり、単語はさらに分解される。 「ぶっ、ぶら、むどっ!! ……わっ!! わった、わったしっ、きぞくっ……きっぞ、くになれ、ない!?」 ブラムド、私貴族になれない? ほんの一言が、幾多の音に変わる。 それは、まるで涙の雨音のようだった。 長いような、短いような。 計るもののないその時間は、やがて終わりを告げる。 喉をしゃくり上げるルイズの耳元で、ブラムドが話し始める。 「ルイズ、お前は魔法を使うことができる。絶対にだ」 ルイズは泣き止みつつも、まだ返事をすることができない。 ブラムドへ絶対の信頼を置くとはいえ、先刻の衝撃から立ち直るにはもう少しの時間が必要だろう。 「なぜお前の手に系統の魔法が乗らぬか、その理由を知らねばならん」 落ち着きを取り戻しつつあるルイズをいったん離し、ブラムドはその目元を流れる涙を舐める。 頬をくすぐるその感触に、ルイズは思わず笑みを浮かべる。 「それができるのは、我しかおるまい」 「どっ、ど、うやって……?」 いまだ少し、声を操りきれないルイズが問う。 「この学院で、一番系統の魔法を知るものはオスマンであろう?」 ブラムドの問いに、ルイズがうなずく。 「なればオスマンに話を聞くしかあるまい」 「じゃぁ、学院長の部屋へ案内するわ」 その言葉に、ブラムドは首を横に振る。 「ルイズ、この状況を作ったのはお前だ。シュヴルーズの言うように、片付けぐらいはせねばなるまい?」 言われて見回すルイズは、改めて惨状に気付かされる。 最前列の長机はいくつか倒れ、教卓は衝撃で傾き、爆発した石の欠片は四方に散らばっている。 「確かに、そうね」 「しかし、その細い腕ではできぬこともあろう。ルイズ、これが我の世界のゴーレムの一つだ」 ブラムドは手に持ったままだった石を見せ、それにマナを通していく。 『石の従者(ストーン・サーバント)』 手から落ちた石の欠片は、その身を膨らませていく。 ブラムドよりも頭一つ分ほど小さなルイズ、それよりもさらに頭一つ分ほど小さな人型となったゴーレムに、ブラムドはルイズの知らぬ言葉で命令を下す。 『(倒れた机を他と同じように直せ)』 おそらくルイズ一人では手に負えない長机を、ゴーレムは軽々と元に戻していく。 大きさに似合わぬ力強さを、どこかほうけたような表情で眺めるルイズに、ブラムドが先刻できなかった問いを口にする。 「ルイズ、お前はキュルケが嫌いか?」 ブラムドの口から不意に出た名前に、ルイズは不機嫌そうな顔を隠さない。 「嫌いよ」 「何ゆえだ?」 「あの女は、ずっと私を馬鹿にし続けてきたわ!! 魔法の使えないゼロだって!!」 先ほどと違い、悲しみではなく怒りにその顔をゆがめながら、ルイズは数ヶ月前までの出来事をブラムドへ伝えていく。 「私が落ち込んでいるときに限って、くだらない挑発をするのよ!? 私はあの女と違って、男といちゃついている時間なんかないのに!!」 ルイズの言葉に、ブラムドは笑みを浮かべながら得心する。 ……なるほど、素直ではないのだな。 「ルイズ。我の言葉を聞いて、今一度思い返してみよ。お前ならば、我の言いたいことがわかるであろう」 その言葉に不思議そうな表情を浮かべながらも、ルイズはブラムドの言葉を待つ。 「キュルケは他の連中と違い、机の下へ隠れはしなかった」 目を見開いて驚くルイズの頭をなぜ、ブラムドは扉へと向かう。 「では、食堂でな。お前がいなくては、我は飢え死にしてしまう」 その一言に、ルイズは頬を赤く染める。 それを見て微笑みながら、ブラムドは教室を出た。 外に出たブラムドは、扉の横に予想通りの人物がいることを見て取る。 少し頬を赤く染める燃えるような赤毛の少女と、友人の顔を伺いながらわずかに微笑んでいるような空色の髪の少女。 ブラムドは二人に深く頭を下げ、二人もまたその意味を正しく理解する。 ブラムドの投げかけた最後の言葉に頬を染めながらも、ルイズはその優秀な頭を働かせる。 ……キュルケは他の連中と違い、机の下へ隠れはしなかった。 それは実技を促したキュルケの言葉が、挑発ではなかった証だ。 だが、とルイズは思う。 今までずっと挑発を繰り返してきたのは何だったのか、と。 ゼロと呼ばれ、肩を落としていたときに限り、キュルケは話しかけてきた。 そう、キュルケが話しかけてきたのは落ち込んだときだけ。 思いかえしてみれば、キュルケに挑発された後は落ち込むことも忘れていた。 ブラムドの言葉を受けて尚、キュルケの行動の意味が理解できないほど、ルイズは鈍くない。 …………まさか!? ルイズはキュルケの行動の真意に気付いた瞬間、言葉にならないほどの衝撃を受ける。 キュルケはシエスタと同じく、自分を励ましてくれていたのだと。 途端に恥ずかしさに頬を染めるルイズだが、彼女を責めるものはいるはずもない。 あからさまな拒絶の言葉や態度を投げつけられていた、キュルケ当人も含めて。 ルイズとキュルケは、ある意味で似たもの同士だ。 どこか素直さに欠けるという面で。 だからこそキュルケは友になって励ますことではなく、敵となって挑発することを選んだ。 ルイズはいまだ、キュルケの性格にまでは思い至っていない。 しかし自身のしてきたことが、無礼きわまることと理解するには十分だ。 恥ずかしさにルイズが首元まで赤く染めたとき、教室の扉が開く。 入ってきたのはキュルケとタバサだったが、ルイズはキュルケしか目に入らなかった。 扉の横でブラムドとルイズのやりとりを盗み聞きしていたキュルケは、自分が今までしてきたことが遠回しな励ましであったと知られ、恥ずかしさに頬を赤く染めている。 ルイズもまた、キュルケの今までの態度が悪意を持ってのことではなかったと知り、顔を首元まで含めて赤く染めていた。 それでも素直さの足りない二人の少女は、互いの顔を見ながら口を開くことがない。 ルイズがキュルケの顔を見やれば、キュルケは恥ずかしさでうつむいている。 キュルケがルイズの顔を見やれば、ルイズもまた恥ずかしさでうつむいている。 一瞬、二人の視線が交錯すれば、二人は慌てて顔を背けてしまう。 素直になれない不器用な態度に、一人蚊帳の外にいるタバサは笑いをこらえるのに苦心していた。 ルイズは考える。 ……シエスタに言ったようにありがとうって言えばいい。 ……でも散々罵声を浴びせておいてそれでいいの? ……男がどうしたなんて言ったこともあったわ。 ……事実だとしても胸のことを言われたこともあったわね。 羞恥が焦燥を呼び、焦燥が混乱を生み出す。 キュルケもまた考える。 ……散々挑発しておいて、あなたのためだったのよなんて言えるわけがない。 ……私は気にしていないから、あなたも気にしないでなんて押しつけがましいにもほどがある。 ……男がどうしたなんて言われたこともあったわ。 ……事実だとしても胸のことを言ったこともあったわね。 結局、混乱に至る過程は大差がない。 収拾がつきそうにない二人を眺めながら、タバサは吹き出しそうになるのをこらえ、仕方なしに水を向けた。 「食事に間に合わなくなる」 その言葉に促され、先に口を開いたのはキュルケだ。 「ル、ルイズ!!」 さまよっていた二つの視線がかみ合う。 その視線の持ち主の顔は、どちらもはっきりとわかるほどに赤く染まっていた。 「仕方がないから手伝ってあげるわ!!」 キュルケはルイズに何か言われたわけではない。 何が仕方なしなのか、とタバサは思った。 だが、混乱したルイズは思い至らない。 「じゃ、じゃぁ掃除道具を持ってくるわ!!」 二人の少女のちぐはぐなやりとりは、普段表情を浮かべることの少ないタバサを、しっかりと微笑ませるに十分な威力を持っていた。 前ページ次ページゼロの氷竜