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パピヨンが召喚されてからもう数日がたった。 その数日の間にギーシュが彼をぱk・・・リスペクトしたスーツを着るようになったり、 タバサが「女王様なのにロリっ子!このミスマッチ感がたまらんですたい!」という集団にストーキングされるようになったり、 ルイズとパピヨンの戦闘演習に巻き込まれて多数の被害者が出たりと数々の事件が起こった。 そんなどたばたした日々と共に徐々にパピヨンのいる風景が当たり前のものとなっていく。 しかしそれを受け入れられない人間も少数ながら存在するのだ。 「決闘だ、コンチクショー!お前の正体を暴いて学園から放り出してやる!!」 パピヨンに杖をつきつけながらそう宣言したのはマリコルヌだった。 ゼロの蝶々 ~決闘(実験)編~ マリコルヌがパピヨンに決闘を挑んだ理由は彼が落とした香水の小瓶をパピヨンが拾ったから、では勿論ない。 彼はパピヨンを見た時、彼を変態だと認識した。 しかし他の殆どの貴族はパピヨンを蝶々の妖精さんだと断じ、マリコルヌを糾弾した。 その後も事あるごとにマリコルヌはパピヨンは変態だと主張したが、その度ごとに彼はマジ泣きするはめになった。 普通ならばそこまでくれば諦めて内心はどうあれパピヨンを蝶々の妖精さんだと認めるだろう。 しかし彼は諦めなかった。 何度も、何度でも彼はパピヨンは変態だといい続けた。 その姿は某戦士長が見れば 「そうか、アイツは諦めが悪かったか。最後まで強き意志で戦い抜いたか!ブラボーだ!!」 と褒め称えること間違いなしであった。 そしてマリコルヌはついに実力行使に出たのだ。 もしパピヨンが本当に蝶々の妖精さんなら先住魔法の使い手、ドットの自分など相手にもならない筈、 つまり決闘して彼を叩き伏せれば学院のみんなの目を覚ますことが出来る、と考えたのだ。 そしてパピヨンはその挑戦をあっさりと受けた。 決闘場のヴェストリ広場はちょっとしたお祭り騒ぎだった。 生徒だけでなく教師、はてはメイドまで見物にきている。 そんな中、ルイズは人垣を抜けてパピヨンの側に駆け寄る。 「ちょっとパピヨン!何勝手に決闘なんて受けてるのよ!」 「そろそろご主人様の爆発以外の魔法を体験してみたいと思ってね。 文献からの知識も大事だがやはり実験は重要だ」 「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないわ。 あんたを殺すのはわたし自らの手でと決めているから教えてあげる。 いい?平民はメイジには絶対に勝てないの。このままじゃあんたマリコルヌに殺されるわよ?」 「平民?俺は超人・パピヨンだ」 ルイズは額に青筋を浮かべてパピヨンの顔を見つめたあと深いため息をつき言った。 「もう勝手にしなさい、マリコルヌに譲るのは癪だけどもういいわ。 ご主人様としての最後の命令よ。降参は許さない、死ぬまで続けなさい」 「ふむ、了解した。ご主人様。最後の命令くらいは素直に聞いてやろう」 やっぱり妙にくねくねした動きで広場の中央に向かうパピヨン。 そこには既にマリコルヌが待っていた。 「逃げずによく来たな、変態」 「いや、実は来るかどうか少々迷っていた。 向かってくるものは叩き潰すに限るが弱いものいじめは趣味じゃないんでね。 でも折角こうして観客が集まったんだ、その期待を裏切るのも悪い」 『おおおおぉぉ!』という歓声の後、怒涛の「パピヨン」コール。 それに対しパピヨンは何時ものように、 「パピ(はあと)!ヨン(はあと)!もっと愛を込めて!!」 と叫んで応えた。 「どこまでもふざけた奴だ、今化けの皮をはいでやるぞ!」 杖を構えると同時にエアハンマーの呪文を唱え始める。 マリコルヌの実力ではたいした威力はないがそれでも平民を一人殺傷するには十分な魔法である。 対するパピヨンは何処か楽しそうな笑顔を浮かべたまま動こうともしない。 「くらえ!エアハンマー!!」 それは今まで聞いたことのない奇妙な音だった。 巨大な風船が弾けたような音でありながら鉄がひしゃげた音のような、そんな不思議な音だった。 「・・・あれ?」 「ふむ、やはり精神力が力の源だけあって似たような性質を持つようだな。 普通の傷より治りが遅い。流石に死ぬかどうかは試せないが気をつけるにこしたことはないな。 しかし同時にこの身体は魔法に対する干渉能力が高いという推論も正しかったのだからプラマイゼロか」 唖然とするマリコルヌ、そして自分の少し血が滲む指先を見ながら独り言を呟くパピヨン。 「ん?どうした?まだ実験を始めたばかりだ。 遠慮せずにもっと色々な魔法を俺に見せろ」 「う、うああああぁぁあぁぁ!!!?」 半分パニックに陥りながら自分に唱えられる攻撃魔法を連続で唱え続けるマリコルヌ。 だがパピヨンが腕を振るうと同時に先ほどの奇妙な音が辺りに響くだけだった。 マリコルヌは理解したくなかった、しかしここまで来ればもう認めるしかない。 目の前にいるパピヨンは魔法を弾いて散らせている、それも・・・素手で! マリコルヌはもう完全にパニック状態だ。 (先住魔法?エルフ?蝶々の妖精さん?本物の?) しかも、だ。パピヨンは徐々にマリコルヌに歩み寄っている。 マリコルヌが魔法を唱えるごとに一歩ずつ。 ついにマリコルヌとパピヨンの距離が1メイルを切った。 「次の一歩で腕が届く距離になるな。 さあどうする?魔法を使うか?後ろを向いて逃げ出すか?それとも降参するか?」 「ま、参った!降参だ!!」 「賢明な判断だな・・・だがNON!!」 「え・・・ええええええぇeeeeeee!!?」 「ご主人様からの命令でね、お前が死ぬまで決闘はやめられない」 広場は一瞬の静寂の後、大騒ぎになった。 「な、なんだってー!!」 「それが人間のすることか貴様ぁ!」 「ちょwwwwwおまwwwww」 「まさに外道!」 「ルイズ・・・恐ろしい子!」 ルイズは周囲の鬼を見るような視線に曝されながらパピヨンに向かって叫ぶ。 「わたしが何時そんなことを命じたのよ!勝手に変なことを言わないで!!」 「何を言う、ご主人様。確かにあんたは言ったぞ。 『(マリコルヌの)降参は許さない、(マリコルヌが)死ぬまで続けなさい』ってね。 流石の俺もそこまで残虐な真似はどうかと思うがご主人様の厳命ならば従わざるを得ないからな」 ルイズの半径10メイル内に居た人間が一斉に退く。 「あああああ、あんた分かってて言ってるでしょ!?ぜぜぜ絶対にそうでしょ!! とにかく止めなさい!マリコルヌの降参で決闘は終わりよ! それと魔法を弾いてたの何!?わたしにも出来る!?出来るなら教えて、っていうか教えろ今すぐ」 「『最後の命令』をしたばかりなのにまた命令か?それも複数とは。 全く、我侭かつ忘れっぽいご主人様だな」 「流石は『蝶々の妖精さん』じゃな」 所変わってここは学院長室。 オールド・オスマンとコルベールが決闘の様子を遠見の鏡で見ていたのだ。 「ええ、見事なものです。彼もドットの割には健闘しましたが、やはり勝負は見えていましたな」 「これでマルコメヌは勿論、一部の今まで認めていなかったものどももパピヨンが『蝶々の妖精さん』だと認めるじゃろう。 これで今後のいらぬトラブルは減りそうじゃな。今はとにかく様子を見るべき時期じゃ」 「そうですな、オールド・オスマン。所であの生徒の名はマリコルヌです」 「ミスタ・メリーベルは細かいのぉ」 「メリーベルは明らかに女性の名前でしょうが!」 「おお!それもそうじゃな、ミセス・メリーベル」 「直すのそっちかよ!」 そんな漫才をしている二人をよそに、 遠見の鏡に映る『蝶々の妖精さん』とその主人の口論(といってもパピヨンがからかい、ルイズが激昂しているだけだが)は 何時もの『戦闘演習』に発展し、最近の学院の名物となりつつある光景が繰り広げられているのだった。 ちなみに無傷で決闘を終えられたと思っていたマリコルヌは ルイズの失敗魔法の爆発に巻き込まれて結局医務室送りになった。 「そこまでしてマリコルヌを始末したかったとは本当に恐ろしい奴だな、ご主人様は」 「うるさいうるさいうるさい!!」
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ゼロの使い魔 7-326使い魔はコンと咳をして 7-542きのこのクリームシチューができるまで 8-70オトコノコの役割 8-91ルイズと不思議な女神像 8-344乙女達の戦争 8-546ルイズのあいびき 9-44最強の敵 10-5仁義なき家族計画 12-229サイトの変身 ストライクウィッチーズ 12-294撃墜王(エース)
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「全宇宙の果てのどこかにいる、わたしの下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 結論から言おう。 かのヴァリエール嬢――ほかの平行世界においては、”虚無(ゼロ)のルイズ”と呼ばれ、比類無き武器の使い手”ガンダールヴ”をその護衛(兼奴隷兼愛人)として従えることになる少女の、召喚の儀に際してのその願いは、半分だけ叶えられた。 爆音とともに現われたその存在は、確かに強く、美しく、生命力に溢れ、おまけに賢こさと気高さまでも兼ね備えていたのだから。 ただし―――。 「あのぅ……ここはどこなのでしょうか?」 宝杖を携え、魔力に溢れた、どう見ても高位の術者にしか見えない”彼女”を使い魔とすることができるなら、の話ではあるが……。 『ゼロの癒し手』 トーティス村在住の新米主婦、ミント・アルベイン(旧姓:アドネード)さんは当惑していた。 苦しく困難で……けれど、同時に楽しくもあった戦いの旅が終わり、平和になった世界で、ようやく想い人との結婚にまで漕ぎ着けたのがおよそ半年前。 冒険行の途上で出会い、緩やかに想いを育んできた若い(じつは彼女の方がひとつ年上であり、夫に至ってはいまだ20歳にすらなっていない)ふたりだが、さすがにこれだけ経てば新婚とは言え多少は落ち着いてくる。 もっとも、夫の親友で、彼女たちの旅の仲間でもあった弓使いに言わせれば、いまだ”熱々のバカップル”らしいが。 その日、夫が森へ狩りに出かけている間に、彼女は新居(と言っても、元々夫の実家であった建物を改築したものだが)に残り、 季節の移り際であることもあってタンスの中の衣類の整理などをしているところだった。 「あら? これは……」 あまり多くない夫の衣類を整理し終わり、いざ自分の方にさしかかった彼女だったが、ふと懐かしい服を目にして思わず手にとって広げていた。 ”ホーリィクローク”と呼ばれるその白い衣装は、魔王を倒す旅の途中で入手し、長らく彼女の身を守ってくれたものだ。 旅の終盤にはさらに強力な防具を入手したが、清楚で美しいデザインのこの服を彼女は気に入っていたため、売らずにとっておいたのだ。 「懐かしいですね。久しぶりに着てみようかしら」 ちょっとした悪戯心もあって、ミントはホーリィクロークを着てみることにした。 せっかくなので、アンクベレットとホワイトグローブ、プリンセスケープにイヤリングまで装備し、ホーリィスタッフを手にしたフル装備仕様で、彼女は鏡の前に立った。 「うん、平気。スタイルは変わってないみたいね……ちょっと胸がキツいけど」 あまり肌が露出しない服装を好んで着ることもあって、比較的着痩せして見える彼女だが、じつは一緒に風呂に入った旅の仲間の女性陣ふたりが本気でうらやましがるほど見事なプロポーションの持ち主だ。 まぁ、そのうちひとりはまだローティーンなので、将来は彼女以上のナイスバディになる可能性も残されている。もうひとりは……推して知るべし、といったところか。 もっとも、法術師としての正装をしてたたずむ彼女は、確かに非常に美しかったが、その美は色気というよりはむしろ神聖な雰囲気を感じさせる。 また、実際その外見に違わず、彼女は極めて清楚で奥ゆかしい性格の持ち主でもあった。何せ旅の途上では、気難しい一角獣に騎乗することさえ許されたのだから……。 とは言え、現在は彼女も人妻、と言うより新妻。夫が狩りから帰ってきたときに、この格好で出迎えて驚かそうと思うくらいの、可愛らしい茶目っけは持っていた。 夫の驚く顔を思い浮かべてニコニコ―あくまでニヤニヤではないのが、この女性の気立ての良さを物語っている―していたミントだが、 それ故、背にした姿見の鏡が銀色に発光していることに、一瞬気づくのが遅れる。 「こ、この光は……!?」 おっとりした外見に似合わぬ俊敏な身ごなしで、光から逃れようとした彼女だが、一瞬の差でかわしきれず、光に包まれる。 「ミント、ただいま……何っ!?」 折悪しく……それとも間一髪で、と言うべきか、帰宅した夫のクレスが、部屋のドアを開けたところで、ミントは謎の光に包まれたまま鏡の中に吸い込まれていった。 「み、ミントーーーーーーーッ!!」 そのあとの事態は、賢明な読者の皆さんのご想像のとおりであろう。 ルイズの”使い魔”としてハルケギニアに召喚されて戸惑うミント。 もっとも、コントラクトサーヴァントに関しては、彼女が高度な術の使い手であることを見抜いたコルベール自身の進言によって一時棚上げされ、彼女の立場は”ルイズの使い魔候補”であり、同時に”学園の客分”とされる。 ミントもここが異世界であろうことを納得しつつ、故郷から夫たちの救いの手が届くであろうことを信じ、しばしその身分に甘んじることとなった。 さて、やむを得ない事情とはいえ、使い魔召喚を一時棚上げされた形となったルイズ。 ルイズの気性を知る者たちはさぞかし荒れるだろうと思っていたのだが……あにはからんや、意外なほど上機嫌でミントとの同居生活を楽しんでいた。 ひとつには、ミントほどの高位の術士―ミント自身はこの世界の魔法は使えないものの、回復や援護に特化した”法術”と呼ばれる術の使い手であり、 仲間にアーチェとい優れた魔術の行使者がいたことから、魔術に関する知識もそれなりにあった―を呼び出せたという点から、自分が決して能無しではなかったのだ、という自信。 そしてもうひとつは、召喚したミント自身の存在。彼女は、ルイズの次姉、”ちぃねぇさま”ことカトレアを彷彿とさせる、母性と慈愛にあふれた性格の女性であり、 不慮の事態に巻き込んでしまったルイズを責めることなく、それこそやさしい姉のようなスタンスで、ルイズと接してくれた。 最初こそそんな態度に軽い反発心を覚えたものの、学友達にバカにされ、孤立し、ささくれだっていたルイズの心が、自分のことを本心から案じてくれる姉的存在によって癒されていくのも無理のない話だった。 そうやって偏見を取り除いてミントを見れば、清楚な美人で羨ましいほどスタイルもよく、淑やかで上品な振る舞いをごく自然にできる極上の淑女であることが理解できた。 加えて、ミントは故郷の地の都で”歌姫”と呼ばれるほどの美声と歌唱力の持ち主であり、グルメマスターの資格を持つ料理上手。派手ではないが、インテリアや服装のセンスも悪くない。平民であることを除けば、ルイズにとって理想とも言ってよいレディだった。 しかも――彼女は強かった。 本来後衛であり、決して前線に立つのが得意とは言えないミントだが、高位の法術師にのみ与えられる”カーディナル(枢機卿)”の称号を得て久しく、最高位である”ポープ”の称号すら目前にしているレベルの術者なのだ。 野生のクマくらいなら術を使うまでもなく、手にした杖で叩いて瞬殺することくらい平気でやって見せる歴戦の猛者だ。 皆さんご承知のギーシュとの決闘イベントも発生したが、ピコハン→アシッドレイン→杖による連撃のコンボで1体目のワルキューレを瞬殺。 それを見て女性に対する遠慮と侮りを捨てたギーシュだったが、残るワルキューレも、ピコピコハンマー→シャープネス→杖でフルボッコとやはり壊滅。慌てたところにサイレンスで魔法を封じられ、あえなく敗北となった。 (余談ながら、言葉を封じられていたため「降参」のひと言が言えず、ミントに笑顔で殴り倒されたことを付け加えておく。ただし、ボロボロになったのち、やはりミントのキュアの呪文で瞬時に癒され、彼女の熱心な信奉者となった) 戦闘はそれほど得意ではないと言っていたミントのその実力を見て、ますます彼女に傾倒し、依存していくルイズ。 恐る恐る法術を教えてほしいと願い出て、それを許されてからはミントを師と仰ぐようにもなった。ご承知のとおり”虚無”の特質を秘めたルイズだが、 通常の魔法を阻害するその特質も法術との相性はよかったのか、それとも優れた教師のおかげか、熱心な学習意欲の賜物か、あるいはそれらすべての要因からか、わずか一週間で”ファーストエイド”の術をマスターしていた。 この世界でも水のメイジなら同様の事が可能であろう初歩的な癒しの法術とはいえ、これまで”ゼロ”と―時には身内からすら―罵られ続けてきたルイズにとって、それは奇跡とも呼べる偉業だった。 「ミント先生、わたし、一生ついていきます!」 感激したルイズがミントに抱きついたのも無理のない話だろう。 いまやルイズにとって、ミントは大恩人にして人生の師と言ってもよかった。 実は学園内においても、ミントは非常に人気が高い。 平民でありながら、ドットとは言え相応の実力者のギーシュを、瞬時にして下す先住魔法の使い手(法術については、一般にそう理解されていた)。 それでいて気さくで礼儀正しく、思慮深い性格の美人。ごく一部の嫉妬深い同性を除き、大半の学園の人間―貴族、平民を問わず―に認められるようになるまで、さして時間はかからなかった。 もちろん、彼女のもっとも熱心なファン(と言うより愛弟子)の第1号はルイズだったが、意外なことに2号は学園付きのメイド、シエスタだった。 ルイズのために特製料理を作ってあげようとしたミントが、厨房への案内を頼んだのが縁で親しくなり、こちらはミントに様々な料理を教わるようになったのだ。 おにぎりや茶碗蒸し、にくじゃがといった、祖父に名前だけは聞いていた料理を、苦もなく作り上げる(しかも、その出来栄えも極上だった!)ミントの料理の腕前に感嘆し、シエスタもまたミントを師匠と仰ぐようになっていた。 そのことによって、ルイズとシエスタの接点も増え、紆余曲折はあったものの、いつしかふたりは身分を越えた友人とも呼べる関係になっていった。 ミント自身も、ふたりの妹分の出現には喜んでいた。 元来ひとりっ子であったし、元の世界で旅していたころの仲間の女性ふたりも、確かに年下ではあったが、むしろ対等な戦友であり、あまり妹という感じではなかったから。 元の世界へ帰れるのかという懸念を除けば、学園での生活もけっして悪くはない。 しかし、ルイズがさらにふたつの術を覚え、シエスタがミントにレシピ皆伝と認められたころ、かの事件――アンリエッタ王女の来訪と、それに連なる秘密のアルビオン行が発生する。 詳しい経緯ははしょるが、おおよそ原作と同じ展開――ギーシュとワルドの同行、盗賊襲撃とキュルケとタバサの加勢、宿屋での戦い、王子との邂逅など――が起こったが、ここでひとつワルドは思惑を外される。 ルイズが彼の求婚をキッパリ断わったのだ。 一人前の法術師となるべく現在修業中のルイズとしては、いま結婚して家庭に入るつもりはサラサラなかったし、ミントの薫陶を受けて一人前のレディとして成長しつつある彼女にとって、ワルドがどこか薄っぺらで胡散臭く見えたことも一因だった。 仕方なく、ウェールズ王子もろともルイズを抹殺としようと企むワルド。 当然、彼女たちを守るべく、立ちはだかるミント。 高位の術者同士の息詰まる戦いが繰り広げられる。 レベル的にはミントのほうが高いのだが、遍在を使って攻め手を増やせるワルドの方が優位に立っていた。 トライアングルのウェールズの加勢や、ルイズの覚えたてのチャージ(魔力補給)によるふたりへの援護(彼女の魔力量だけは、成長したミントにさえ比肩していた)があっても、決定力に欠けるミントたちは、徐々に劣勢に追いやられていた。 ついにテラスにまで追い詰められる3人。 ところが……。 「大丈夫かい、ミント!!」 時空を切り裂く剣の力を借りて、時空剣士ことクレスが、天馬に乗って登場。 愛の力で愛妻の居場所をつきとめた(本当はいったん過去に戻ってクラースに相談した)、魔王さえ滅ぼせる正真正銘の勇者の出現で、戦局は一気にひっくり返る。 片手を切られ、ほうほうの体でワルドが逃走したのは原作どおりだが、ミント&クレスの説得によって、ウェールズ王子はトリステインへの亡命を承諾する。 そして……。 「グスッ、せんせぇ~、どうしてもお別れなんですか?」 「ごめんなさい、ルイズ。でも、私達は本来、この世界にいるべき存在じゃないから……私にも故郷と言える場所があるから……」 と、ふたりの師弟が涙ながらに別れを惜しんでいるところに、剣士から爆弾発言が。 「うーん、でもミント。別に今生の別れってわけでもないと思うよ。この時空の”場所”は覚えたから、その気になれば来れるし……」 さすが、別世界の闘技場やら学校やらに出現していた、世界観ブッちぎりの時空剣士様。俺たちにできないことを平然とやってのける!…別にシビレたり憧れたりはしないけど。 師の夫の発言を聞いて俯き、しばし考え込むルイズ。 顔を上げると、そのままふたりについて行きたいと告げる。 「ハルケギニアへ帰って来れる方法があるのなら、先生の元でしばらく修行に励みたいと思うんです」 その言葉に驚くミントだが、ルイズの決意は堅く、また自分も彼女をもう少し育てて上げたいという想いがあったため、ついには1年間の期限をつけて同行を承知した。 さて、そこから先のことも簡単に述べておこう。 ルイズは恐れ多くもウェールズ王子に、アンリエッタ王女と学園への手紙を託し、このハルケギニアの地からいったん姿を消す。 そして……1年後に再びこの地に戻って来たときには、見違えるように成長していた。 師匠直伝の様々な法術を操り、師の友人から譲られた宝石の助けを借りてカメレオンと召喚契約を結び、別の師の友人から狩人としての基礎を仕込まれたことにより、いまやトライアングルクラスのメイジとも互角以上に戦えるであろう。 しかも、かつての癇の強い性格はすっかり影を潜め、あのミントや次姉のカトレアを思わせるおっとりとやさしい雰囲気を漂わせた大人っぽい淑女へと変貌していた。 おそらくは、貴族たれというプレッシャーのない異郷で、やさしい憧れの師匠と、素朴で男らしい彼女の夫によって、まるで妹のように愛されて健やかに育ったことがよかったのだろう。 同時に彼女たちの持つ技術を懸命に学ぼうと努めた結果、ルイズ本来が持つやさしさや魅力、才能が開花し、同時にそれが彼女の心にいい意味での余裕をもたらしたのかもしれない。 さらに、ある意味こちらのほうが特筆物かもしれないが……食べ物その他の環境のおかげか、わずか一年あまりでルイズの胸がいくらか育っていた。 さすがに師匠のように”ボインちやん”と呼ばれるほどではないが、大草原の小さな胸とバカにされ、ブラ要らずと陰口をたたかれたあのA-のペタンコ胸は、もはや存在しない! 全国の貧乳ファンよ、泣いて悔しがれ。ブラのサイズにして、およそB! ちょっと控えめではあるが十分女らしい曲線が誇らしげにルイズの着ている法衣の胸元を持ち上げているのだ。 (胸のことだけでも、アセリアに渡ってよかった……) ルイズはしみじみそう思ったとか。 その後、実家の援助を受けつつルイズはおもに法術を教える私塾を開く。 私塾の門戸は貴族のみならず平民にも開かれ、彼女自身の人柄と実力もあって、数多の弟子を輩出し、大いに栄えた。 のちにルイズは、”偉大なる癒し手”と呼ばれ、ハルケギニアの歴史に名前を刻むこととなるのだった。 -とりあえずfin-
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前ページ次ページゼロのエルクゥ 「はは……まあ、魔法なんて物がある時点でわかってた事だけどな……」 空に浮かぶ巨大な双子の月を見上げて、耕一はどこか乾いた声を搾り出した。 なんというか……動かぬ証拠、とでもいうか。 ああ、ここは『違うところ』なんだなあ、と、昼間に『フライ』の魔法を見た時とはまた違う実感が、耕一の心に去来していた。 「月なんて見上げて、どうしたの?」 「いやあ……こっちの世界じゃ、月は一つでね。改めて、ここが違う世界なんだと実感してたトコ」 「月が一つ、ねえ……やっぱり、聞いた事ないわ」 同じく窓の方を見ながら、ルイズはため息をついた。 「そろそろ夕食の時間ね。あんた、食べ物は何を食べるの?」 「……穀物とか、野菜とか、肉とか魚とか。別に変わらないと思うぞ」 むしろ元人間です。と、エルクゥの素性を隠すに当たって言うに言えない耕一は、そんな風に言葉を濁すしかなかった。 「そう。じゃあ、ついてきなさい。食堂に行くわよ」 ベッドから立ち上がるルイズに首肯して、耕一も席を立った。 本塔の1階にある食堂は、夕食時の賑やかな喧騒に包まれていた。 ぴかぴかと光を放つ壁に床に天井。広く、高く、大きな空間に、装飾過多にしか思えない内装、壁を囲むように配置された、精緻な人形の数々。 そこでは、故郷の都会にある特殊な喫茶店で見るような外面だけの服ではない、使い込まれた本物の給仕の服を来た沢山の小間使い達が、ルイズと同じマントを羽織った少年少女の食事の世話をあくせくと行っている。 現代日本の人間に、これがおとぎ話のお城の広間です、と目の前に差し出したら信じてしまいそうな、そんな場所だった。 「驚いてるみたいね。ここがアルヴィーズの食堂。トリステイン魔法学院に住んでいる人達の食事は、すべてここでまかなわれるの。……ほら、椅子を引きなさい。気が付かない使い魔ね」 ルイズは、食堂に並んだ異様に長い3つのテーブルのうち、真ん中にあるテーブルに付いた。 周囲を見ると、生徒たちはそれぞれ、着けているマントの色が違う事に気付いた。 ルイズが着けている黒と、紫と、茶色。 黒いマントは真ん中のテーブル、紫のマントが食堂の正面に向かってその左、茶色のマントが右に集まっているように見える。 そういやさっき、1年生から3年生まで居るような事を言ってたな……と、故郷の学校のジャージや上履きの色分けを思い出した。 「『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』。学院では、魔法だけでなく、貴族としての、貴族たるべき教育も存分に行われるわ。その食事を預かる食卓も、それにふさわしいものでなければならないのよ」 見るも鮮やかな料理を優雅な手付きで口に運び、上品に歓談し、華麗に席を立つ。 少年少女しかいないそれは多少の緩やかさを持ってはいたが、周囲で展開される光景はまさに、『貴族』という言葉のイメージ通りの光景だった。 「……で、俺はどうすればいいんだ? 適当に座れば良いのか?」 「主人と同じテーブルにつく使い魔がどこに居るのよ。今話をするから待ってなさい。ちょっと、そこのメイド」 「はい。どうかなされましたか?」 ルイズがちょうど通りがかった給仕の女の子を呼びつける。 まるで絵に描いたような欧州風の外見をした人ばかりのこの場では珍しい、黒髪の女の子だ。 肩で切りそろえられたそれが、自らの恋人を思わせた。 「これに食事を用意してあげてちょうだい。私の使い魔よ。給仕の賄いみたいなものでいいわ」 「つ、使い魔、ですか? あっ、し、失礼致しました! はい、すぐにご用意致します!」 黒髪のメイドは、困惑したように眉をひそめた後、耕一の左手のあたりに目をやり、弾かれるように厨房へと駆け出していった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今夜もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝致します」 『いただきます』にしては随分と装飾過多な言葉を口にして、手を握り合わせるルイズ。 並べられていくフランス料理のフルコースのような皿の数々。豪奢に飾り付けられたテーブルの上の花瓶や燭台。籠に山と盛られたフルーツの彩り。 「……どこが『ささやか』なんだか」 「貴族の食事としては普通よ」 耕一の呟きに篭められた意味は理解しているのか、前掛けを付けながらそんな答えを返すと、料理を口に運び始める。 その後ろで手持ちぶさたになってしまった耕一に、先程の黒髪のメイドが走り寄ってきた。 「お待たせしました。あの、賄いはご用意できるんですけど、食卓に並べるわけには参りませんので、厨房まで来てほしい、との事です」 「構わないわ。行ってらっしゃい、コーイチ。終わったら向こうの入り口で待っていればいいから」 「わかったよ。じゃあ、行ってくる」 「こちらです。どうぞ」 黒髪のメイドに、食堂の裏手にある厨房へと案内される。 「……あの、あなたが使い魔って、ホントなんですか?」 「みたいだ。不本意ながらね」 行きがてら、おそるおそるといった感じでされた質問に、苦笑しつつ左手を上げてプラプラさせると、メイドは慌てて頭を下げた。 「す、すいません。その、召喚の魔法で人を呼んだなんて、初めて聞くものですから……」 「気にしなくていいよ。えっと……君の名前は?」 「あ、私、シエスタと申します」 「シエスタちゃん、ね。俺は柏木耕一。耕一、でいいよ」 耕一の自己紹介を聞いて、黒髪のメイド、シエスタは驚いたような表情を浮かべた。 「コーイチさん……不思議なお名前ですね。どこか遠いところから?」 「ああ。この国がどこにあるのかわからないぐらいに遠くから、かな」 全てを説明してもしょうがないと、耕一はそう誤魔化す。 「そうですか……」 「……どうかした?」 「い、いえ、何も」 言葉とは裏腹に、厨房らしき場所に到着しても、シエスタはどこか考え込むような表情をしたままだった。 「シエスタちゃん?」 「あ、ご、ごめんなさい。こちらです、どうぞ」 一声かけると、慌てたように厨房の中へと入っていく。 耕一もそれに続くと、食堂の中とは異質の喧騒が耕一を包んだ。 油が爆ぜる音。 肉が焼ける音。 水が沸き立つ音。 食器の触れ合う音。 人の怒鳴る声。 せわしない足音。 前に鶴来屋の厨房を覗いた時もこんな感じだった事を思い出す。それは外の絢爛さとは似ても似つかぬ、紛れもない労働の場だった。 「おう、お前が貴族どもの使い魔にされちまったっつー平民か。災難だったなあ」 被っている縦長の白い帽子と服装からしてコックさんであろう、体格のいい男が近寄ってきて、バンバンと耕一の肩を叩いた。 「ど、どうも。あなたは?」 「ここの料理長をやってる、マルトーってんだ。よろしくな」 「柏木耕一と言います。すいません、突然押しかけて」 「なぁに、メシぐらいだったら幾らでも出してやるさ。味もわからねえ貴族のおぼっちゃん様方の貧しい舌に乗せられるぐらいなら、お前さんに食べてもらったほうが食材も幸せってもんだ。だっはっは!」 人好きのする豪快な笑いをあげて、マルトーは力コブを作ってみせた。 「はは……ありがとうございます」 「いいってことよ。遠慮はいらねえから、ゆっくりしていきな」 マルトーはひとしきり笑い、厨房の忙しさの中に戻っていった。 「じゃあコーイチさん、ここで待っていてくださいね。今お持ちします」 片隅に置かれた粗末なテーブルと椅子に腰を下ろすと、すぐに温かそうなシチューとサラダ、パンが並べられる。 食堂で見たきらびやかな料理とはまったく違うものだったが、耕一にとっては馴染みのある、素朴な装いだった。 「ありがとう、シエスタちゃん。じゃあ、いただきます」 「はい、どうぞ。では、私はお仕事に戻りますね。食べ終わった食器は、あちらの洗い場の人に渡してください」 「ああ、行ってらっしゃい。悪かったね」 いえいえ、とシエスタは笑顔を浮かべ、食堂の方に戻っていった。 「……あ、うまい」 料理は、特に前の世界と違う味がするでもなく、むしろかなりおいしかった。 唯一、サラダに含まれていた濃緑色の細い葉っぱだけは、千鶴さんの料理を彷彿とさせるようなとんでもない味がしたが、舌にエルクゥの力を込めると美味しくなったので些細な問題だった。 食べ物がおいしい事は、とにもかくにも人の生活に活力を与える。 平静であろうとしても、どこか不安に沈んでいた心が、少しだけ洗われた気がした。 「……今日は疲れたわ。私は寝るから、明日の朝は起こしてね」 部屋に戻るなり、お風呂上がりの火照った頬で、ルイズはベッドに転がった。 「起こしてねって……何時ぐらいに起こせばいいんだ?」 「そうね……2時でお願い」 学院内の5つの広場の一つ、ユミルの広場には、大きな日時計が設置されている。 日の出である0時から日の入である12時まで。夏の間は15時ぐらいまで伸びるし、冬なら10時で日が沈む。春の今なら、2時とは、日本で言う朝の7時ごろに当たるだろうか。 機械時計はないものの、時刻という概念はハルケギニアにも浸透しているようだった。 「あと、私を起こす前に、これとこれ、洗濯しておいてね」 「ちょ、うわっ! お、おい!」 「干すところはメイドに聞けばわかると思うわ」 クローゼットから薄手のネグリジェを取り出し、制服と下着をおもむろに脱ぎ出して平然としているルイズに、耕一はさすがに焦った。 「ていうか、いきなり脱ぐなっ! お、俺は男だぞ!? はしたない!」 「使い魔のオスを気にするメイジがどこにいるのよ」 「っ……はぁ。やれやれ」 取り付く島も無いと諦めた耕一は、着替えるルイズを極力見ないようにしながら、脱ぎ散らかされたそれらを拾い集めた。 向こうがどう思っていようと、耕一は健康かつ健全な男だから気にするものだ。いくらその体型が、年相応より発育の遅めな少女のものであるといっても、直視できるようなものではない。 ……まあ、恋人が似たような体型なのが一つの理由であるというのは、彼の名誉の為に黙っておくべき事柄だろう。 「俺はロリコンじゃないぞ。誓って楓ちゃんだけだ。ホントだって。信じて。信じろコラ」 「どこに向かって何を言ってんのよ……」 虚空に向かってブツブツ言い出した耕一を、アレな視線で眺めるルイズ。 「亜人だからしょうがないのかもしれないけど、恥をかくのは私なんだから、人前で変な行動は取らないでよね。じゃ、お休み」 「ん、お休み。ルイズちゃん」 ルイズが布団を被って、ぱちん、と指を鳴らすと、テーブルの上や枕元に灯っていたランプが、ふっとかききえた。 「灯りも魔法か……便利なもんだな」 ぎしり、と椅子をきしませて腕を組み、耕一は窓の外に目をやった。 蒼紅の双月が、煌々と夜を照らしている。部屋の中には、微かな風の音とルイズの寝息だけが響いている。 情緒はたっぷりだったが、先程言いつけられたお役目を思い出した耕一は、一つ嘆息して椅子に背を預け、目を閉じた。 ルイズが起きる前に洗濯をしなければならないのなら、それより早く起きなければならないという事だ。1時間は見ておかなくてはならない。 地上最強の生物、エルクゥであると同時に、必須科目以外の講義は極力1限に入れないようなぐーたら大学生であるところの耕一には、早起きなどというものは、三文の得でしかなかった。二束で。 ……中世ファンタジー世界に来てまで、情緒を楽しむより時間に追われるとはなあ、などと埒も無い事を考えている内に、意識は眠りに吸い込まれていった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
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「ずいぶん珍獣がいるな」 「みんなグゥと同じ使い魔よ。わたしは授業開始まで休むから、変な事しないようにね」 朝食を済ませ授業教室までやってきたルイズは、平民を召喚したと嘲る級友たちの相手もそこそこに机に突っ伏した。 なお、“その原因”であるグゥは、そこが定位置とばかりにキュルケのサラマンダー、フレイムの頭の上にちょこんと座っている。 キュルケはその様子を見て微妙な表情をした。 「ねえフレイム、重くないの?」 「きゅるきゅる」 「そう、ならいいけど。ところでグゥちゃん、“あれ”はなんで朝からへたばってるの?」 キュルケはそう言うと、どこかつまらなそうな表情でルイズを指差した。 「……?キュルケはルイズのことが心配なのか?」 「そういうわけじゃないけど、あれじゃからかい甲斐がないわ」 「ほほう」 その時、前側の扉が開いて紫のローブを着た中年女性が姿を現した。 「あら、シュヴルーズ先生が来られたみたい。もうすぐ授業が始まるわよ。かわいそうなご主人様のとこへ行ってあげなさい」 「はーい」 音も立てずにフレイムの上から飛び降りたグゥがルイズの元へ向かう。 「変わった子ねえ。面白いからいいけど」 キュルケは誰に聞かせるでもなく呟いた。 教壇に立ったシュヴルーズは教室を見回した後、満足そうに微笑んだ。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 その声に気づき、机に伏せてぐったりとしていたルイズが慌てて身を起こした。 「おやおや、朝一だというのに居眠りですか。ミス・ヴァリエール」 「いえあのそういうわけじゃ……」 ルイズが慌てて弁解する。 シュヴルーズはくすくす笑った後、グゥのほうをちらっと見た。 「授業はこれからですから、今のはセーフですよ。それにしても、変わった使い魔を召喚したものですね」 その声に、教室中がどっと笑いに包まれる。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺歩いてた子供を攫ってくるなよ!」 ルイズは顔を真っ赤にして立ち上がり、澄んだ声で怒鳴った。 「違うわ!きちんと召喚したもの!こいつが来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな!“サモン・サーヴァント”ができなかったんだろう?」 ゲラゲラと教室中の生徒が笑う。 「ミセス・シュヴルーズ!侮辱されました!かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱しました!」 マリコルヌと呼ばれた男子生徒が机を叩き立ち上がる。 「かぜっぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ!だいたい“ゼロのルイズ”がまともな使い魔を召喚してないのが悪いんだろう!」 そう言うマリコルヌの傍には、立派な梟が止まっていた。 「ううううるさいわね!あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」 その一触即発の雰囲気を、シュヴルーズ先生は手に持った小ぶりの杖を振ることで解決した。 二人の体が、糸の切れた操り人形のようにすとんと席に落ちる。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい。さあ、授業を始めますよ」 シュヴルーズは、こほんと咳をして周囲を静かにさせた。 その静寂の中、ルイズの耳に重々しい、怒りを押し殺したような呟きが聞こえた。 (……うざってェ) 慌てて辺りを見回すが、誰もそれに気づいている様子はない。どうやらルイズだけに聞こえたらしかった。 (グゥが…まともじゃないだと……) 再び聞こえる呟き。もう間違いようがなかった。 見るとルイズの足元に座ったグゥが、身の毛もよだつような表情でマリコルヌの方を向いている。 ルイズは慌ててグゥに釘を刺した。ひそひそ声でだが。 「ちょ、ちょっとグゥ。気持ちはわかるけど貴族に変な事しちゃダメよ。あんなんでもクラスメートなんだから」 (……そうか) グゥが渋々といった感じではあるがそれに頷き、教壇の方に向きなおる。 どうやら納得させることができたようだ。 ルイズは今日何度目になるかわからない溜め息を吐くと授業の方に集中した。 「今は失われた系統魔法である“虚無”を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです」 「わたしは“赤土”赤土のシュヴルーズ、土系統のトライアングルメイジです。 よって、これから一年“土”の魔法を皆さんに講義します」 「今から皆さんには、“土”系統の基本である“錬金”を………」 どうやら今日の講義は自己紹介と基本のおさらいのようだ。 実技はともかくとして、かなり勉強熱心な方であるルイズにとっては退屈極まりない。 足元のグゥはずいぶんと興味深そうに話を聞いている。 魔法が使えなくても面白いのだろうか? やばい、本当に眠いわ…… 「ミス・ヴァリエール!」 随分遠くからシュヴルーズ先生の声が聞こえる。何よ、まだ……ハッ! 「は、はい!」 「授業中の居眠りは、アウトですよ」 「すいません」 「次から気をつけなさい。そうだ、居眠りの罰も兼ねて、“錬金”の実技をやってもらいましょうか。ミス・ヴァリエール」 ルイズの顔が引き攣った。 「え、わたし?」 「そうです。こちらに来てこの石を“錬金”してみなさい。さあ、なんでもいいから変えられる何かを思い浮かべ、念じなさい」 「……はい」 しかし、ルイズの集中は後ろからの声により破られた。 「危険ですよ、ミス・シュヴルーズ!」 「やめた方がいいと思いますが……」 「危険」 「そいつはゼロなんですよ!」 無言で机の下に隠れる生徒まで出る始末である。 ルイズが叫ぶ。 「うるさいわね!やるといったらやるわ! それに失礼ね、“サモン・サーヴァント”には成功したんだから、少なくともゼロじゃなく1よ!」 結論から言うと、ルイズの“錬金”は失敗であった。 しかも、特別に巨大な、教壇ごと吹き飛ばすような爆発を伴って。 一番近くにいたシュヴルーズ先生は盛大に吹き飛び、ぴくぴくと痙攣している。 使い魔達が大パニックを繰り広げている。 他の生徒たちも机の下で大小さまざまなかすり傷を負っていた。 騒ぎが収まり、シュヴルーズ先生が“水”属性の生徒数人の治療を受けて正気に戻ったのは、およそ一時間後のことであった。 “爆発”で崩れた化粧を直しながらキュルケが呟く。 「そういえば、元凶のルイズはどこ行ったのかしら?」 「そこ」 フレイムの背中にくっついたグゥが、ルイズが元いた席を指差す。 「あら、いつの間に……それにしても、この状態で寝こけてるなんてすごい度胸ね」 「使い魔として、頑張ったで」 「なんだか判らないけど、グゥちゃん偉いわね。あら、口元に羽根がくっついてるわよ?」 「おっと」 口をぬぐったグゥは、今日一番の満足げな笑みを浮かべた。 「ねぇグゥ、もっと真面目に掃除しなさいよ」 「それなりに」 結局、授業は再開されなかった。 そして怒り狂ったシュヴルーズ先生により、ルイズは魔法使用禁止での教室清掃を命じられたのであった。 もっとも、まともに魔法を使えないルイズにとってその制限はあまり意味がなかったのだが。 「それにしても、魔法って面白いな」 グゥは、片手で破壊された教壇を担ぎ上げつつ呟いた。 「そうかしら。それにしても、あんた意外と力持ちね」 「こんなか弱い子供を捕まえて失礼ねぇ」 教壇を外へ放り出したグゥが、顔を変え、目を潤ませてルイズを覗き込む。 「だから“それ”はやめなさいって言ったでしょ」 「チッ」 「さあ、急がないとお昼ご飯が食べられないわよ。……あら?」 教室の隅の机に、男子生徒が臥せっている。 それが気になったルイズは、なんとなく近づいて声をかけた。 「あらマリコルヌじゃない、なにやってんの?掃除の邪魔よ」 「ん……なんだ、ルイズか」 起き上がったマリコルヌの顔は青ざめ、涙の痕までついている。 「一体どうしたのよ」 「俺の使い魔が、クヴァーシルが消えたんだ……」 まるで世界の終わりを前にしたような顔でマリコルヌが呟いた。 「それはご愁傷様。でも、わたしとは関係なくない?」 「いや、クヴァーシルがいなくなったのはルイズ、きみの爆発の後からなんだよ。何か知らないかい?」 ルイズは愕然とした。 なによ、わたしの爆発のせいで使い魔が死んだとでも言いたいわけ? 「そんなの、知るわけないじゃない。ところで、あなたの使い魔の鶏は視覚とかの共有はできないの?それは試してみた?」 マリコルヌがはっとした顔になる。 「俺のクヴァーシルは鶏じゃない!立派な梟だ!」 「あら、ごめんなさい」 少し前、自分の使い魔を馬鹿にされたルイズなりの仕返しであったが、この場面では逆に元気付けてしまったようだ。 「よし、試すぞ!もし出来なかったら、爆発で吹っ飛ばされてたら許さないからな!」 「はいはい」 ルイズは気のない返事をした。 馬鹿じゃないの?あんたの席は教壇から見て一番端っこじゃない。 そんなところにいた奴が死んでたら、この教室の誰も助かってないわよ。 「おお、見えた!見えたよ!」 マリコルヌが嬉し泣きをしながら立ち上がる。 「よかったわね。じゃあ、掃除の邪魔だから出ていってくれる?」 「……でも、これは何処だ?こんな景色の場所、知らないぞ? なんだこの見たことない木は?それより魔法学院は何処? 地平線ってこんなに綺麗に見えるもの?」 明らかに錯乱しているマリコルヌを見て、ルイズは首をかしげた。 「あんた、何言ってるの。頭大丈夫?」 「ああ、また変なものが見えるよクヴァーシル、きみは一体何処へ旅しているんだい?早く戻ってきておくれ……」 マリコルヌが意味不明な言葉を呟きながら教室を出て行く。 ルイズがしばし呆然としていると、いつの間にかやってきていたグゥに肩を叩かれた。 「直接は、手を出さなかったぞ。グゥを褒めてくれ」 「はい?」 気のない返事をしつつ、ふとグゥの顔を見たルイズが絶叫する。 「な、な、なななな、なぁーーーー!!」 グゥの瞳に、だだっ広い原野を楽しそうに飛び回る立派な梟が映りこんでいる。 その真の意味に気がついたルイズは、意識を手放した。
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前ページゼロの誓約者 「私は、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。ご主人様でいいわ」 「……何が?」 「呼び名よ。分かった?」 「……はい、ご主人様」 抵抗はあったが、ハヤトは怒らせてはならないと思ってその言葉に従った。だが、男がご主人様って寒くないだろうか。 必死に気を紛らわそうと、自分の事をマスターと慕うメイトルパの少女を思い出す。彼女は愛らしいが、自分にそれを置き換えてみると……、無理だ。 もう少し打ち解けたら、考え直して貰おう。 そして、しばらくルイズと言葉を交わした。 ハヤトは落ち着いていた。別の世界の存在は知っていたし、召喚された経験もある。 思っていたとおり、ここはハヤトの知っている世界ではないらしい。まだ、発見されていない世界のひとつだろうか。魔法が発達している世界。まるで、ファンタジーだ。 (って、人の事言えないか) ハヤトの前いた世界は、魔法使いなどいない。しかし、その代わりに召喚師というものが存在する。 異界のものを呼び出し、彼らに力を借りて術を使う人々。ハヤトも、物理攻撃の方が得意だが召喚師だ。 しかも、ルイズには言わなかったが普通の召喚師とは比べ物にならない力を持っている、誓約者と呼ばれる人間だ。 その力は、異界の様々な生き物を自由に呼び出し、その力を最大限に発揮させる事ができる。 はずなのだけど、どうもこっちに来てからおかしい。 「異世界から来た?なに言ってんのよ、頭大丈夫?」 ルイズには説明してみたが、信じて貰えなかったようだ。 異世界から来たなんて話、あっさりと信じられるはずがない。ハヤトだって初めて召喚された時は、混乱したのだから。 あの時はしっかりと説明してくれたパートナーがいた。だが、ハヤトには口でルイズを納得させるのは難しそうだ。 なにか、証拠を見せるしかない。と、ずっと握っていた石ころが、怪しく輝いた気がした。 「……で、使い魔の仕事は、」 「あのさ」 ハヤトは、ルイズの言葉を遮った。ルイズは、気分を害したように眉を顰める。 「俺の話が、本当だっていう証拠を見せるよ」 「証拠?」 ハヤトは、握りしめていた石ころをルイズの前に置いた。どこにでもある、なんの変哲もない石ころ。 ふざけているのか、とルイズがハヤトに視線を送る。しかし、予想に反してルイズが目にしたのは真剣な表情をしたハヤトだった。 二つの月の光が、控えめに窓から差し込む。 成功するかどうかは分からない。だが、何かが呼んでいるような感覚がした。 (誓約者の名の元に、声よ、届け-ーー) 瞬間、頭が真っ白になる。体が支えられない。ハヤトは、膝を床に付けた。成功したのかは、すぐには分からなかった。 目の前がチカチカする。視界はなかなか戻らない。ルイズの沈黙が痛い。もしかして失敗ーー? 「か、可愛い……!」 「プワ?プワ!?」 やっと視界が戻る。そこに見えたのは、ルイズと……ポワソだ。三角帽子を被った、可愛らしいお化けの召喚獣だ。 ルイズは突然現れたポワソに驚いたようだが、目が合うと疑問より先に抱きしめていた。プワ、と抵抗の声も聞こえるが気にしない。 「ハヤト!凄いわ!他にも出来ないの!?」 「キーアイテムがあれば、出来るけど」 「キーアイテム?」 「たまに、不思議な力を持ったアイテムがあるんだ。さっきの石ころとか、ペンダントとか色々」 「分かった!」 なにが分かったのか、ルイズはポワソを撫でながら、部屋の中をあさりはじめた。貴族、というだけあって高そうな小物がハヤトの前にいくつも並べられる。 ハヤトは、それを眺めながら力が満ちるのを感じていた。少しだけど、異界との繋がりが強くなった。 ポワソを召喚したおかげだろうか。試す価値はある。 ルイズの持ち物の中にも、いくつか力を感じるものがあった。 (もしかしたら、) 数十分後には、ルイズの部屋は小さい使い魔が増えていた。 正確には、使い魔の使い魔なのだけど。使い魔のものは主人のものなのだから、そんなこと関係ない。 ルイズは、最高の気分だった。こんなに使い魔をよべる使い魔を召喚した自分は凄いのではないか。 使い魔たちの名前も教えて貰った。お化けみたいなのがポワソ、ゴーグルをつけてるのがテテ、そしてゴーレム。 初めはルイズを警戒していたようだが、段々と懐いてくれた。小さくて弱そうだけど、可愛い! ルイズも上機嫌なら、ハヤトも上機嫌だった。ハヤトの立てた仮説は間違っていない。 召喚獣と契約をするほどに、異界との繋がりが強くなっているのだ。このままいけば、リィンバアムと繋がり送還術が使えるかもしれない。 送還術とは、元の世界に召喚獣を返す術。ルイズの帰る手段はない、という言葉は間違いだった。ひとつだけある。 まだ、高位のものとは契約できないだろうが、魔力が戻ればそれも可能になる。 キーアイテムを見つけ、多くの召喚獣と契約すること。ハヤトの当分の目標が定まった。 「ルイズ、これで俺の話を信じるか?」 「し、信じる!ハヤト、見直したわよ!」 そして、こぼれるような美しい笑顔をルイズはハヤトに向けた。呼び捨てで呼んでも、特に反応はない。 ハヤトはその笑顔に照れつつも思った。 どこの世界でも、可愛いは正義なのだと。 前ページゼロの誓約者
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もくじを見る 商品情報 概要 追加ポケモン 追加わざ 追加とくせい 関連項目 商品情報 商品情報 タイトル 『ポケットモンスター スカーレット ゼロの秘宝』(前編・碧の仮面)『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』(前編・碧の仮面) 配信開始日 2023年9月13日(水) 公式サイト 前編・緑の仮面 概要 主人公がアカデミーと他校が合同開催している林間学校のメンバーとして選ばれ、パルデア地方を出てキタカミの里へと向かう。主人公はそこで新たな仲間やポケモンと出会い、里に伝わる昔話を紐解くことになる。 追加ポケモン いずれもパルデア図鑑に掲載されるようになる。 No. 名前 分類 タイプ 特性 タマゴグループ 性別 備考 通常特性 隠れ特性 ♂ ♀ 0901 ガチグマ(アカツキ) ポケモン じめん ノーマル しんがん - 陸上 50% 50% 1011 カミッチュ ポケモン くさ ドラゴン かんろなミツ くいしんぼう ねんちゃく 植物 ドラゴン 50% 50% 1012 チャデス ポケモン くさ ゴースト おもてなし たいねつ 鉱物 不定形 50% 50% 1013 ヤバソチャ ポケモン くさ ゴースト おもてなし たいねつ 鉱物 不定形 50% 50% 1014 イイネイヌ ポケモン どく かくとう どくのくさり ばんけん 未発見 50% 50% 1015 マシマシラ ポケモン どく エスパー どくのくさり おみとおし 未発見 50% 50% 1016 キチキギス ポケモン どく フェアリー どくのくさり テクニシャン 未発見 50% 50% 1017 オーガポン ポケモン くさ おもかげやどし - 未発見 50% 50% 追加わざ わざ名 タイプ 分類 効果・備考 シャカシャカほう くさ ツタこんぼう くさ ブラッドムーン ノーマル みずあめボム くさ 追加とくせい とくせい名 所持ポケモン おもかげやどし オーガポン おもてなし チャデスヤバソチャ かんろなミツ カミッチュ しんがん ガチグマ(アカツキ) どくのくさり イイネイヌマシマシラキチキギス 関連項目 ゼロの秘宝 コンテンツ 碧の仮面 藍の円盤 番外編
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前ページ次ページゼロの騎士団 今とは違う時代 どこかにあるというスダ・ドアカワールド・・・ 人間族とモビルスーツ族が平和に暮らしていた時代は、魔王サタンガンダムの出現によって長い戦乱の時代が幕を開ける。 サタンガンダムと魔王の先兵たるジオン族は、その恐るべき力によりラクロア地方を瞬く間に恐怖と混乱に陥れた。 人々は自分達を救ってくれる勇者の存在を求めた。 そして、流星が地に落ちる頃、その勇者は出現した。 かつて存在した伝説の勇者の名を冠する者の名、その名をガンダムと言った。 ラクロア国王レビル王はガンダムにナイトの称号を授け、サタンガンダムの討伐を命じた。 ナイトガンダムは仲間達と共に魔王サタンガンダムの討伐に向けて出発した。幾多の強敵を打ち倒し、新たな仲間を得ながら遂にナイトガンダムは、魔王サタンガンダムの城で、サタンガンダムの討伐に成功する。 だが、サタンガンダムは正体であるブラックドラゴンになりナイトガンダム達に襲い掛かった。 対峙したブラックドラゴンの力は絶大な物であった。ナイトガンダム達は、次第に追い詰められていったが、その時、ナイトガンダムが持つ石板が突如として光だした。 石板は伝説の勇者が持つことではじめて力を発揮するものであった。石板はナイトガンダムが持つ三種の神器に本来の力を与え、ナイトガンダムはその力を受けて、見事ブラックドラゴンを討伐に成功したのである。 ナイトガンダムと共に戦った、ナイトアムロは己の未熟さを感じ修行の旅に出る。 長い旅の果てに、アムロはノア地方アルガス王国を訪れる。 ラクロアでのジオンの脅威は去ったが、ジオンは次の標的をここノア地方に定めていた。 ジオンはムンゾ帝国王コンスコンを乗っ取り宣戦を布告、アルガス王国に戦いを挑んでいった。 ナイトアムロはアルガス城を訪問する。そして、そこでナイトガンダムに似た三人のガンダムに出会う。 剣士ゼータ、戦士ダブルゼータ、法術士ニューの三人である。 ノア地方アルガス王国は古くからガンダム族発祥の地と呼ばれ、彼らは伝説の勇者ガンダムの末裔であり、彼らの団長でもあるナイトアレックスもガンダム族の末裔であった。 今、一つ長きにわたる戦いが終結の兆しを見せていた。 団長のアレックスは徐々に押されている戦況を一気に打開しようと単身ムンゾ城に潜入した。しかし、キュベレイにカミーユ王子を人質に取られ逆に捕虜となってしまう。 団長を失った事で騎士団の中は崩壊となり、それぞれ独自に行動を開始する。 見かねたアルガス国王であるブレックスはジオンとの戦闘経験があるナイトアムロを臨時の騎士団団長に抜擢した。三人の隊長はそれに反発しナイトアムロを認めなかった。 アムロにしてみても、彼らをナイトガンダムのように認めることはできなかった。 そんなある日、アムロがいつものように偵察していると森の妖精キャトルウッドに出会う。 アムロはそこで、力には技を、技には魔法を、魔法には力の教えを受ける。 さらに、ジオン三魔団が持つ梟の杖、龍の盾、獅子の斧の三つの獣を集めること伝えた。 キャトルウッドの教えを受けてアムロは、バウにはニューを、ドライセンにはゼータを、キュベレイにはダブルゼータを中心とする戦略で見事三魔団を打倒した。 これぞ正気とばかりにアムロは騎士団を引き連れムンゾ城に攻め入る。しかし、業を煮やしたジーク・ジオンがコンスコンをジオダンテに変え騎士団を襲う。騎士団の連携と三つの獣の力により、見事、ジオダンテを打ち倒し、団長のアレックスを救出した。だが、アムロ達はジーク・ジオンの脅威を改めて痛感したのだった。 アレックスと騎士団を引き連れアムロはラクロアに戻った。そこには、バーサルの称号を受けた、バーサルナイトガンダムとなったナイトガンダムがいた。 五人のガンダムたちがそろった時、アレックスが持ってきたガンダム族の宝である導きのハープが、突如弾きもせずに鳴り出した。 フラウ姫は何かに支配されるようにハープを弾き出す。そして演奏が始まると、突如としてガンダム達が光り始めたのだった。 ナイトガンダムとアレックス、アルガス騎士団、そして、シャアの力によりアムロの六人がジーク・ジオンの住まうムーア界に導かれる。 ムーア界 ジーク・ジオンの住むティターンの塔 後に、伝説の勇者ナイト・ガンダムとジーク・ジオンの決戦の場として語られる事となる。 ナイトガンダムは宿敵ブラックドラゴン、そして、ジーク・ジオンを討つべくナイトアムロ、アルガス騎士団と共に乗り込んでいった。 そして塔の頂上でパワーアップしたネオ・ブラックドラゴンと相まみえることとなる。 ネオ・ブラックドラゴンの力は圧倒的でありナイトガンダムをもってしても歯が立たなかった。 ネオ・ブラックドラゴンがとどめを押さそうとしたその時、突如二人を閃光が包んだ。 二人はもとは一つであり、その正体であるスペリオルドラゴンであったのだ。 業を煮やしたジーク・ジオンはスペリオルドラゴンを倒すべくついにその恐るべき正体を現した。 スペリオルドラゴン、アムロ、アルガス騎士団はジーク・ジオンに最後の戦いを挑んだ。 それは、死闘と呼べるものであり、一人、また一人と戦列を離れ最後にはスペリオルとナイトアムロだけになっていた。 「ナイトガンダム殿・・我々の力を!!」 アムロはアレックスの声を聞いた。 「この世界に平和を!!」 ゼータの声と共に竜の盾がスペリオルの体を守るように 「我々の力を!!」 獅子の斧がスペリオルの左手に握られた時、アムロはダブルゼータの叫びを聞いた。 「今こそ、ジーク・ジオンにとどめを!!」 ニューの願いとなって、梟の杖がスペリオルの体を包む。 「くらえっ!ジーク・ジオン!閃光斬!」 スペリオルが黄金の閃光とともにジーク・ジオンを二つに切り裂いた。 二つに裂かれ光となるジーク・ジオンの間にいる。スペリオルガンダムの背を見たのが、アムロがムーア界で見た最後の光景だった。 アムロが目を開けた時、そこにはフラウ姫の顔があった。 「・・ガンダムたちは?」 朦朧とした意識で一番聞きたい事を聞く 「わかりません・・大きな閃光と共に気が付いたら、あなただけがここに倒れていました。」 「ガンダムたちは・・ジーク・ジオンを倒し・・いったいどこに?・・なぜ自分だけが?・・」「アムロ、あなたは選ばれたのでしょう。このスダ・ドアカワールドを守っていくために・・」 夜、あたりを包まれた闇の中一筋の光が昇っていく。 (あの光はガンダムだろう、彼は帰って行くんだ・・) 安堵から、薄れゆく意識の中でアムロはあの光がガンダムだと思った。そして、一つの疑問が生まれた。 (あれがガンダムとするならば・・ほかの騎士たちはいったいどこに?・・) アムロはそこで意識を手放した。 「ほかの騎士たちは一体どこに?・・」 新たなる始まり 彼らはどこに行ったのか? PROLOGUE 前ページ次ページゼロの騎士団
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前ページ次ページゼロの大魔道士 「で、ですが!」 「そうはいいますが、ミス・ヴァリエール。ゲートから出てきたと思われる以上…」 現在、ルイズは非常に狼狽していた。 召喚に成功したと思えば、当の召喚獣――竜(マザードラゴン)が契約前に逃げ出してしまったのだ。 これは前代未聞の出来事であり、同時に大恥であることは間違いない。 いや、それだけですめばまだいいほうだ。 実家に伝わればヴァリエール家の恥として放逐されてもおかしくはない。 だが、絶望に沈もうとしていたルイズを拾い上げたのは何故か頬を赤らめたコルベールだった。 時間は数分前に遡る。 気色悪い呆け顔で「ぱふぱふ…」とか呟いていた彼コルベールが、ルイズの下に敷かれている人間に気がついたのである。 コルベールの指摘でようやくそのことに気がついたルイズは慌てて跳ね起きた。 生徒の誰かを尻に敷いていたまま放置していたのならばそれは十分に失礼な行為だからだ。 だが、見下ろした顔に見覚えはなかった。 それどころではない、気絶して寝転がっている少年は見たこともない服装をしているではないか。 「…なんで平民がここに?」 ルイズはぽつりと呟いた。 ここトリステイン王国には、決定的な身分差が存在している。 すなわち、貴族と平民だ。 その判別方法は至って簡単で、魔法を使えるものが貴族、そうでないものが平民というもの。 中には例外(貴族から没落したメイジ)などもいるが、この概念はトリステインに住む者ほぼ全てに適用される。 然るに、ルイズの目の前にいる少年はマントこそ着用しているものの、見たことのないデザインの服を身につけている。 そして杖は持っていない。 つまりは、この少年は平民であると判断されるわけである。 「ふむ、どうやらこの少年もサモン・サーヴァントによって現れたようですな」 「え?」 「ミス・ヴァリエール、この少年とコントラクト・サーヴァントを」 「へ、え? えええええ!?」 ルイズは驚いた。 このハゲ教師はいきなり何を言い出すのか。 そもそも、自分が召喚したのはあの神々しい竜である。 間違ってもマヌケ面を晒して気絶している平民ではないはずだ。 「召喚した生物とコントラクト・サーヴァントを行うのが今日の目的です。であるからして」 「ちょ、ちょっと待ってください! 私が召喚したのはあの竜で…!」 「ですが、逃げられてしまったでしょう?」 「う…」 容赦のないコルベールの一言にルイズはグウの音も出ない。 だが、コルベールとしてはこの場における一番の打開策を出したつもりだった。 確かに竜は逃げ出してしまったが、少年も召喚によって現れたことは間違いない。 となると、少年もルイズと契約を交わす資格を持っていることになる。 複数召喚などこれまた前代未聞の出来事だが、始祖ブリミルは四体の使い魔を所有していたという。 これはルイズが規格外の存在であることを示しているわけであり、少年もなんらかの特殊さを持っている可能性は高い。 ならば、この場を取り繕うという意味もあるが、とりあえずコントラクト・サーヴァントを行うのが一番良いはずなのだ。 「あはは、流石はゼロのルイズ!」 「召喚した使い魔に逃げられたと思ったら、平民と契約か!」 確かに…と納得しかけたルイズに周囲の生徒から野次が飛ぶ。 コルベールほど洞察に優れない彼らは単純な事実『竜が逃げた』『残ったのは平民』という二点を認識していたのだ。 「ううっ…」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 竜を使い魔に出来ると思っていたのにそれが平民にランクダウンしたのだから無理もない。 だが背に腹はかえられない。 使い魔に逃げられるという失態を犯した以上、もはやコントラクト・サーヴァントを嫌がるという選択肢は取り様がないのだ。 「し、仕方ないわね! アンタで我慢してあげるわ!」 そして時間は現在に戻る。 どうにか心の折り合いをつけたルイズは少年を抱き起こすと顔を近づけ、詠唱を始めた。 と、その時。 「う…あ…?」 少年が目覚めた。 意識はまだハッキリしていないのか、目がキョロキョロと動き回る。 だが、ルイズはそれに構わずに更に顔を近づける。 詠唱が終わり、少年――ポップの視界いっぱいにルイズの顔が映り、そして 「ん…」 契約のキスが交わされた。 「うっぐ…な、なんだ…!?」 ポップは急な痛みに意識を覚醒させた。 周囲の状況を確認するよりも先に痛みが体を駆け巡る。 その痛み、熱といいかえてもよいそれは左手へと集中していく。 そして数秒後、ポップの左手には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。 「な、なんだこれ!? 呪いか!?」 「失礼ね! これはルーン。アンタが私の使い魔になった証よ」 「は? ルーン? 使い魔? 一体何を言って…」 「ああ、ごちゃごちゃうるさい! いい、私は今非常に気が立っているの! ああもうなんでこんな平民と…」 「落ち着きなさいミス・ヴァリエール」 癇癪を起こしかけていたルイズに近づいてきたのはコルベールだった。 (おいおい、冗談じゃないぜ…) ルイズをなだめすかしているコルベールを常識人と見たポップは状況を把握するべく彼に話を聞き、空を仰いだ。 サモン・サーヴァント、トリステイン、ハルケギニア… そのどれもが聞き覚えのない単語ばかりだった。 しかも、話をまとめると自分は目の前のピンクの髪の少女――ルイズというらしい、の使い魔になってしまったのだという。 (本人の承諾なしにそんなこと勝手に決めんなよ…) 既に自分を使い魔扱いしているルイズにポップは溜息をつく。 気になることは二点。 まず、ダイはどうなったのかという点だ。 話を聞いた限り、マザードラゴンはどこかへ飛び立っていったという。 彼女の性質上、人の目に付くような場所に降り立つとは思えないので発見は困難だろう。 (ようやく見つけたっていうのに…) 話を聞く限り、すべての原因は目の前の少女にある。 如何に女の子に甘いポップといえどもそういう事情となればルイズに好印象を抱くのは無理があった。 「何よその目は」 「いんや別に」 「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 一方、ルイズはルイズで目の前の少年に憤っていた。 彼女本来の目的からすればコントラクト・サーヴァントが成功しただけでも十分満足できるはずだったのだが なんせ竜→平民という格差である。 怒りを覚えるのも無理はない。 かくして、ルイズとポップという少年少女の邂逅はお互い共に悪印象から始まるのだった。 ついて来いとせかすルイズとそんな少女を心配気に見守るコルベール。 そんな二人を見ながらポップはもう一つの懸案事項――これからどうするか、を考える。 とりあえず、ここは見ず知らずの土地であることは間違いない。 目の前の人物たちが精霊や魔族に見えない以上天界ないしは魔界という線はない。 発見されていない大陸、というのも流石に考えづらい。 となると考え付くのは―― (異世界とか? まあ天界や魔界があるんだから可能性はあるんだが…あ、そうだ) ポップはこっそりとある呪文を呟いた。 その呪文の名は瞬間移動呪文ルーラ。 一度訪れた場所に一瞬にして移動できるという高等呪文の一つである。 (…発動しない? いや、発動後にキャンセルされた?) ルーラの発動自体は確かに起こった。 だが、ポップの体はその場から一歩も動かない。 そう、まるで『行ったことがない場所に向けてルーラを唱えた』かのように。 (おれは今確かに昨日のキャンプ場所を想像したはず…おいおい、マジで異世界の可能性が高くなってきたぞ…) バーンパレスのように空にバリアが展開されているわけでもない。 というかそうだとしてもある程度までは移動が行われるはず。 にもかかわらずルーラはポップの体を運ばない。 これが指し示すことはつまり、ルーラの効果が及びようがない場所に自分はいるということになる。 (勘弁してくれよ…) 大魔王と戦うなんていう非常識をこなしてきたポップからしても異世界に飛ばされたという事態は想定外にもほどがあった。 ダイはどこかへ行ってしまった、帰る方法はわからない。 生命の心配こそとりあえずなさそうではあるが、状況は最悪だといってもよかった。 (とりあえず、情報を集めねえと) ダイを探すにしろ、元の場所に戻るにしろ、右も左もわからない場所にいる以上情報は必須である。 長い間旅を続けてきたポップは情報の大切さをよくわかっていた。 そして、情報源として期待できるのは目の前にいる二人の人間であるということも。 (しっかし、契約ねぇ…呪いみたいなもんじゃねえか) 自分をおいてサッサと行こうとするルイズを半眼で睨みつつポップはどうしたものかと頭をひねらせる。 少なくとも自分は同意した覚えがないのに勝手に使い魔にされたのだ。 情報を集めるという目的上、主人だというルイズに友好を示すことはやぶさかではない、可愛いし。 しかし、使い魔というのは御免被る。 いくら可愛い女の子とはいえ、下僕にされるのは嫌だし、自分にはダイを探すという目的があるのだ。 そのためにはフリーな立場に戻らなければならない。 いっそこの場からトベルーラで逃げ出すか? そんな不穏なことを考える。 (待てよ、ひょっとしたら…) ポップの頭に閃きが走った。 現在、自分をルイズの使い魔たらんと示しているのは左手のルーンである。 つまり、逆をいえばルーンさえなければ使い魔契約は撤廃できるということになる。 だが、聞いた話では使い魔の契約が切れるのは使い魔、つまり自分が死んだ時だけだという。 当然、死ぬ気などサラサラないポップ。 (あの呪文なら…) この時、彼が思いついた方法は思わぬ事態を引き起こすこととなる。 だが、神ならぬポップは物は試しとばかりにその呪文を唱えた。 「シャナク!」 前ページ次ページゼロの大魔道士
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前ページ次ページゼロのイチコ 「うぎぎぎぎ・・・たぁ!」 気合の入った声と共に、剣先が握りこぶし一個分ぐらい浮いた。 そして重力に引っ張られて剣が落ちる、その勢いでイチコが地面に埋まった。 学院の中庭に剣を握った手が生えている。 シュールだ。 一旦剣を離すとイチコがヨロヨロと地面から浮き出てくる。 「やりました、ご主人様! ちょっとだけ浮きました」 「振れるようになるまで何年かかるのよ」 ため息が出る。剣を買ったのは無駄な出費だっただろうか? まだ買ってから一日だから分からないが、そもそも剣を振り回す筋力がない。 幽霊とは鍛えれば筋力は上がるんだろうか。 一般的に強力なゴーストやスプライトはその想いの力によって力も変わると言う。 それが憎しみでも愛情でもなんでも構わない。 彼女の場合は『お姉さま』に再び会いたいがために幽霊をやっているわけだ。 しかし、落ち着きの無い彼女を見るとそう強力な想いを募らせてそうには見えない。 思い込んだら一直線な節はあるけれど。 「もうそろそろ授業なんだけど」 「あ、すいません。もうちょっとで出来そうなので練習してても良いでしょうか?」 「いいけど、学院の外にでるんじゃないわよ」 「はい!」 本人はコツを掴んだと思っているようだが、あれはまだまだ先が長そうだ。 午後はコルベール先生の授業だった。 相変わらず話が少々脱線する事が多い、しかもその話を興味ありそうに聞いてる生徒は一人も居ない。 私もその一人で、何か必死に語りだしたコルベール先生の話を右から左に受け流していた。 ふと考えるのは使い魔のイチコの事。 お姉さまと再び会いたいというだけで幽霊になった女の子。 そんなに何度も話を聞いたわけじゃないけど、彼女がどれだけお姉さまを好きだったかはなんとなく分かる。 すぐにとは言えないが。まあそれなりに使い魔として仕事をすればお姉さまを探してやっても良いかもしれない。 ドジは多いけれど基本的に上下関係を理解して尽くそうとしてくれている。 ちゃんと働くものにはちゃんとした褒美を与えないといけない。 今のところ先日のイタズラでマイナス評価なのだけど。 探すと言えば、彼女がどこの国の出身なのか聞いたことが無かった。 顔つきが大分違うし、かなり遠い国なのかもしれない。 確か「セイオウジョ学院」と言っていただろうか。トリステインにある学院ならさほど時間は掛からないと思うのだが。 もし東方だとするならかなり無理がある、そうで無いことを祈ろう。 しかし、そのお姉さまに会ったとたんに成仏してしまわないだろうか。 イロイロと考えた。 わたし、高島一子はただいま猛特訓中です。 というのも昨日ご主人様から剣を頂いたからです。 どうも使い魔というのはイザと言う時はご主人様を守らなければならないらしいです。 確かに、フレイムさんやシルフィードさんを見ると私ってば頼りないなぁとは思います。 しかし、私には他の方々には無い二足歩行、武器を握れる手があります! いえ、歩けませんけど…… ともかく、その利点を十分に活かしていきたいと考える次第です! 「たぁ!」 掛け声一閃、剣先が地面からこぶし二つ分ぐらい浮き上がりました。 「デルフさん、今けっこう浮きませんでした?!」 「ぉお、最高記録の二倍はいったな」 「大分感覚が分かってきました」 剣を振ると言うと、腰を落として重心を低くして。とかイロイロあると思われます。 しかし私は重心がありません。いやあるにはあるのですが地面に対して踏ん張ることが出来ません。 ですから宙に浮こうとする力と剣を振り上げるタイミングでなんとか持ち上げるわけです。 そして、こう見えても幽霊ですから疲れたりはしないんです。 「はぁ、はぁ……」 「相棒、休憩にしたらどうだ?」 と思ってたんですけど結構疲労します。それに夜になると眠くなります。 私って本当に幽霊なのでしょうか? 火の玉も飛ばせませんし、ラップ音も鳴らせません。幽霊としてのアイデンティティーが揺らぎそうです。 デルフさんを芝の上に横たえると、私は手足を投げ出しました。 「デルフさん、何か良いアドバイスは無いですか?」 「ねぇなあ。なんせ俺も幽霊を相棒にするのは初めてだからよ」 「ですよねぇ」 一応上達はしてる、と思いたいです。 小休止し、再びデルフさんを持ち上げようと手を伸ばしました。 すると人影が見えたので顔を上げると、そこにメガネをかけた女性の方が立っていました。 「こんにちは」 とニッコリ微笑まれました。長い髪をした綺麗な方です。 「ごきげんよう、どうかされました?」 「あなたが噂の幽霊の使い魔さん、よね?」 「はい、高島一子……ではなく、イチコ・タカシマと言います」 「私はロングビル。ここの学院長の秘書をやらせてもらってるわ」 さすが秘書の方というか、とても上品な物腰です。笑顔もとても穏やかですし。こういうのが本当の淑女という方なのでしょう。 よく暴走してしまう私としては見習いたいと思います。 「それで、ご用件は?」 と聞くとロングビルさんは少し顔を曇らせてこう言いました。 「実は、少し頼みたいことがあってね。少し時間をいただけるかしら?」 「構いませんけど、どうしたんです?」 「ちょっと付いてきて貰えるかしら」 そう言って建物のほうへと歩いていきます。 私は慌ててデルフさんを持ち上げ、地面に突き刺しました。 「すいませんデルフさん、ちょっと待ってて貰えます?」 「ぉう、早くしてくれよ。あんまりなげぇと錆びちまう」 途中何人かの先生方とすれ違い、挨拶しつつ私たちは薄暗い塔へと入りました。 そこは入ったらいきなり右方向に折れて螺旋階段が続いています。 わたしはその後ろをふわふわと浮きながら付いていきました。 そこは窓も無く明かりもロングビルさんが出した灯りの魔法だけが頼りでした。 その灯りも蛍光灯のような明るさは無く、ふらふらと揺れるランタンのよう。怖い雰囲気が出ています。 こんな所で幽霊でも出たら思わず叫んでしまいそうです。 「付いたわ」 と階段の先にあったのは大きな鉄扉。 大きな魔方陣が描かれています。 「実はね、私はこの宝物庫の管理を任されているのだけれど……」 ロングビルさんの話によると鍵のような物を紛失してしまい、一度魔法を解いて鍵を掛けなおさないと防犯上危ない。 だけど予備の鍵も無いため困っていた。 しかし中に入って内側にどんな文字が書かれているかさえ分かれば熟練の魔法使いになら簡単に開けることができる。 それで私の壁抜けで中に入って文字を教えて欲しいという事だそうです。 「なるほど、分かりました」 「文字は分かる?」 「いえ、その……ごめんなさい」 この世界は私の住んでいた世界とはまるで違う文字が使われている。 もしかしたら何処かの国の文字かもしれないけど私には分からなかった。 「いいのよ、それじゃあ意味が分からなくても良いから丸暗記してきて」 「はい、いってきます」 もしかしたら魔法ですり抜けられないんじゃないかと思いましたが。 案外あっさりと抜けることが出来ました、ご主人様の話では私のような幽霊が他にも居るという事ですが、防犯上大丈夫なのでしょうか。 使役できる魔法使いがほとんど居ないとか? 部屋の中は薄暗い、字は読めないけど足元が分かる程度の照明で照らされていました。 宝物庫の中は金銀財宝、と思ってましたが兜や鎧や剣、杖に書物がほとんどで指輪などもありましたが宝石類が多いというわけではありませんでした。 表面に複雑な文字が書かれているものが多いので何かの魔法が掛かっているのだと思います。 魔方陣はドアの裏側に書かれており、外と同じ円陣なのですがかなりの量の文字が書き込まれていました。薄暗い部屋なので文字がよく見えません。 四苦八苦しながらギリギリの光源で文字を凝視し、覚えて、外で言葉と空書きで中に書かれている魔方陣を伝える、そしてまた中に入る。これを繰り返しました。 文字が多くて何十往復もする事になってしまいましたけど。 時間が結構たってしまいましたがデルフさんは大丈夫でしょうか? 「これで間違い無い?」 「はい、こんな感じだったと思います」 最後の確認を二回ほどして、いよいよ開錠になりました。 ロングビルさんが杖を振り私には意味がわからない呪文を唱えます。するとドアからカチリと音がして音も無くドアが開きました。 「ありがとう、助かったわ」 「いえいえ、どういたしまして」 苦労したけど無事に開くことが出来て良かった。 もし私が魔方陣の文字を間違って爆発でも起こしたらどうしようかと思ってました。 「今はちょっとお礼になるものを持ってないのだけど、また後でお礼に伺うわね」 「いえいえ、本当に気にしないで下さい。そんな大したことはしてないので」 「奥ゆかしいのね」 と微笑まれた。私もとっさに微笑み返した。ちょっと顔がぎこちなかった気もします。 淑女の道は果てしなく遠いです。 「それでは、デルフさんを待たせているので失礼します」 「ぇえ、本当にありがとう」 そう言ってロングビルさんと別れた。帰り道は建物の壁を突き抜けて一直線で戻りました。 次の日、宝物庫から破壊の杖が盗まれた事が判り。 犯人は生徒やメイドの証言により学院長の書記、ミス・ロングビルであることが判明した。 前ページ次ページゼロのイチコ