約 439,961 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3044.html
サモンナイト より、ハヤトを召喚 ゼロの誓約者-01 ゼロの誓約者-02
https://w.atwiki.jp/before-one/pages/880.html
ヤマグチノボル原作、ゼロの使い魔の二次創作置き場 テーマ ゼロの登竜門
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5096.html
「NARUTO」のうちはイタチが召喚される話。 ゼロの写輪眼-1 ゼロの写輪眼-2
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2292.html
9話 ルイズが朝食の席につくと、他の生徒はおもむろに一席分ルイズから間を開けた。 ルイズに対する嫌がらせというわけではない。 教師たちはそれを重々承知しているので、あえて何も言わなかった。 そしてルイズ自身もそれを教師たちから口を酸っぱくして言われていたので、何も言わなかった。 言わない代わりにため息一つついて、他の生徒たちと一緒に食事の前のお祈りを口にした。 ホワイトスネイクとギーシュが決闘した日から、もう一週間がたった。 ギーシュはすっかり元通りになって、モンモランシーとよりを戻そうと必死になっている。 ただ、ギーシュはルイズには近づこうとはしない。 常に一定の距離を保っており、そこから決してルイズに近づこうとしないのだ。 そうするのはギーシュだけではない。 他の生徒もルイズには近づこうとしなかったし、 加えてこれまでのようにルイズを「ゼロ」と呼んでバカにすることもなくなった。 無論、ホワイトスネイクのせいである。 ワルキューレを簡単にやっつけてしまったあの投げ技や身のこなしは多くの生徒が目にしていた。 その恐ろしい体術の餌食になるのが、みんな怖かったのだ。 ただ二つの例外として―― 「あら、ルイズ。今日は自分で起きられたのね」 ルイズがむっとして振り向くと、いつもの笑みを浮かべたキュルケと相変わらず無表情なタバサが立っていた。 決闘以後、ルイズの近くにいるのはキュルケとタバサだけだった。 「ふん、当然よ。わたしだってもう16歳なんだから、自分で起きるぐらいできるわよ」 そう言ってぷいと顔をそむけると、また食事を始める。 「ホワイトスネイク……だっけ? あなたの使い魔。彼、今日もいないのね」 そう言ってキュルケはわざとらしくため息をつく。 初めてホワイトスネイクを見て、そして決闘でワルキューレを次々と撃破していく ホワイトスネイクを見たときは「なんかちょっといいかも」とか思っていたキュルケだったが、 一週間も見ないうちにその熱はさっさと冷めて、今は絶好調五股掛けである。 「時代は筋肉質でタフな男よ!」とか思っていたのも、キュルケからすれば遥か昔の話。 女の子は熱しやすく冷めやすいと言われるが、キュルケはその中でもとびきりなのだ。 なのにホワイトスネイクに会えないことでため息をついたのは、 「ちょっとキュルケ! まだあんたあいつのことを狙ってたの!?」 ルイズがいちいち本気にするのが面白いからだ。 「ウソウソ、冗談よ。あなたってすぐに人の話を本気にするから飽きないわ」 「うぅ~~、そうやってあんたは人の事をバカにして!」 くすくす笑うキュルケと声をあげて怒るルイズ。 「好対照」 と、二人を見ていたタバサが評価した。 「ま、それはいいとして……ちょっとおかしくない? 召喚されて2日と立たないうちに使い魔が姿を見せなくなるなんて話、聞いたこともないわよ?」 キュルケの言うとおりだった。 ホワイトスネイクは決闘の日以来、一度もその姿を見せていないのだ。 「ルイズは使い魔に見限られたんじゃないか」と噂する生徒もちらほら出てきているくらいだ。 しかし、その噂は未だに噂の域を出たことはない。 ホワイトスネイクが「その場にいなくてもそこにいる」ことは、すでに多くの生徒たちに知られていたからだ。 ホワイトスネイクを「亡霊」だとか「悪霊」だとか呼ぶ生徒だって少なくはない。 だからホワイトスネイクがそばにいなくとも、ルイズはホワイトスネイクの主人であると暗黙のうちに認められていたのだ。 ホワイトスネイクが姿を見せなくなった本当の理由については、生徒たちは何も知らない。 「ルイズを呪い殺すための道具とか材料を集めている」とか、 「墓場を掘り返しては屍肉を食い漁っている」とかとんでもないデタラメを言っているばかりだ。 だがルイズは知っていた。 ホワイトスネイクはルイズ自身が本気でホワイトスネイクに立ち向かおうとしたときに現れる。 きっとそうだ、とルイズは「なんとなく」分かっていた。 根拠はない。 ただ、ホワイトスネイクは立ち向かってくる自分を無視したりはしないだろう。 ルイズはそれだけは、ただ「なんとなく」理解していた。 だから、立ち向かう。 決行は今夜。 今度はギーシュの魔法の才能は手元にない。 あるのは失敗魔法しか生み出せない「ゼロ」の才能だけ。 だとしても、立ち向かわないわけにはいかない。 あれだけの屈辱を受けて、言われたい放題言われて、それで黙っていられるほどルイズのプライドは安くない。 絶対に後悔させてやるんだから。 絶対に、やっつけてやるんだから! あの敗北から一週間、ずっとルイズはそう思い続けてきたのだ。 「ルイズ? 聞いてるの?」 「……え? なに?」 きょとんとして聞き返すルイズに、キュルケはため息をついた。 「だから、明日はフリッグの舞踏会でしょ? あんた踊る相手は決まってるの?」 「決まってないわよ」 即答するルイズ。 そんなこと考えてる余裕があったらホワイトスネイクに勝つ方法を考えた方がずっとマシだからだ。 「はぁ~……思ったとおりね。あんた、男っ気が全然無いものね」 「男の子を取っ換え引っ換えしてるあんたに言われたくないわ」 キュルケの言葉にむすっとしてルイズが返す。 「ま、あなたはそんなに美人じゃないからいいけど……タバサまで相手がいないのはどうなのよ?」 そう言ってタバサに声をかけるが、 「興味がない」 タバサの答えもルイズと似たようなものだった。 「……あなたたち、もうちょっと男との付き合いを考えた方がいいわよ。 タバサはかわいいからそのうち男の方から寄ってくるでしょうけど、 ルイズなんて、あんた将来貰ってくれる人がいなさそうじゃないの」 「な、なんですってえ!?」 「本当のことじゃない。怒りっぽくて、すぐ八つ当たりする。 あんたと一緒になったら神経すり減らしちゃうわよ」 「そ、そんな、こと……」 反論しかけたが、ルイズには思い当たるフシがありすぎた。 自分の父親は自分の母親と口論になったら絶対勝てないし、 二つ上の姉の婚約者はいつも姉にあれこれ指図されていて、 しかも会うたびにやつれているようだった。 父親はまだしも、姉の婚約者の方が離婚せずにいられるか、いや、結婚まで持つかどうかさえ怪しい。 自分は、どうだろうか……。 「なーんて、ね」 不意にキュルケが声を上げる。 「へ?」 「別にいいんじゃない? 踊る相手がいなくたって。 それに踊る相手がいないぐらいで将来どうこう、ってわけじゃないし」 「あ、あんた、またわたしをからかったのね!?」 キュルケの真意に気づいたルイズが顔を真っ赤にして怒る。 だがキュルケはお腹を抱えて大笑いすると、 「だから言ってるじゃない。あんたがすぐ本気にするから、それが面白くって!」 「もう、いい加減にしなさい! タバサも見てるばっかりじゃなくて何か言ってやりなさいよ」 話を振られたタバサは少し考えた後、 「いつも通り」 それだけ言ったのを聞いてキュルケはまた大笑いし、ルイズはまた声をあげて怒った。 まるでルイズが彼女二人以外に避けられ続けているのがウソのような、そんな光景だった。 時は三日前の夜にさかのぼる。 場所はトリスタニアの裏通り。 物騒な連中が物騒な仕事を求めて歩き回る、一般人が決して近づいてはならない場所。 そこでの、とある事件だ。 「な、なな、なんだ、お前は! いい、一体何しやがった!!」 ガタガタと震える傭兵の前には、すでに物言わぬ死体と化した彼の仲間が転がり、 そのさらに先に一人の男が立っている。 彼の仲間は、みんな穴ボコのチーズみたいに、全身に風穴をあけられて死んでいた。 彼の目の前に立つ一人の男がした「何か」によって、声を上げる間もなく死んだのだ。 そしてその男は、実に奇妙ないでたちをしていた。 頭には緑色の目出し帽とゴーグル、 そして羽織ったマントの下にはウロコのような模様が浮き出た全身ジャージを着ている。 もちろんハルケギニアにはジャージなんてものはないから、この男以外にはそれがジャージだとは分からない。 これだけでもホワイトスネイクとどっこいの奇妙すぎる格好だが、 取り分けて奇妙なのは、この男が靴を履かないで、その靴を靴紐で足首に結び付けていることだった。 「『何しやがった』と聞かれても……説明する意味がないな。 どうせお前らには……『見えない』だろうしな」 「な、何だと!」 「まあいい……それより、聞きたいことがある。 お前、誰に雇われた? 『同業者』に襲われるのはこれが初めてなんだ。 なるべく他の奴らがやりたがらない……ハードな『仕事』を選んでたのにな…」 「く、くそッ!」 傭兵が毒づいて逃げる。 「逃げるのか……行ってもいいぜ。ただし……」 ドンドンドンドンッ! 空気を切り裂いて飛来した無数の「何か」が傭兵の両足を蜂の巣にした。 「洗いざらい喋った後でならな」 傭兵が悲鳴をあげて倒れる。 男はそれにゆっくりと近づいた。 「なあ……教えてくれよ。一体誰に指図されたんだ?」 「し、知らねえよ!」 「そうか」 男はそれだけ言うと、 ドンドンドンッ! 今度は男の右腕を蜂の巣にした。 悲痛な呻き声が再び裏通りに響く。 「こっちは鉄クズが少ないからな……あんまり弾の無駄使いはしたくねーんだ。 だから……さっさと教えてくれるか?」 「し、知らねえ! 本当に知らねえんだ! 見たこともねえ女だった……この街の女じゃねえ! それだけは確かだ! そいつに500エキューで雇われたんだ! お前を殺して来いってな!」 「そうか」 ドグシャアッ! 「喋った後は、さっさと『あの世』に行ってきなよ」 男の意志で振り下ろされた見えない「何か」が、傭兵の頭蓋を粉々に粉砕した。 「しかし……面倒だな。 何で顔も知らねー上にこの街のヤツでもない女に狙われるんだ? 殺しすぎたのが……いけねーのか? 『仕事』中の俺を見た奴は全員殺ってるハズなんだがな……」 「別にお前は何も悪くはないよ」 一人呟く男に突然かけられた、艶のある声。 男は声のした方向に素早く目を向ける。 「何故ならそいつらを雇ったのはこの私だからね」 そこには、一人の女が立っていた。 「お前が……こいつらを差し向けたのか」 「その通り。『魔法殺し』と名高き傭兵の手腕、是非ともこの目で見ておきたくてね。 それで運のないそいつらに実験台になってもらったのさ」 女はフードを目深くかぶっており、その表情や顔立ちはうかがえない。 だが女の何かを楽しむような口調からは、恐怖や戸惑いは感じられない。 言葉通り、最初から死んでもらうつもりで傭兵たちを雇っていたようだ。 「そうか。……だがそれで、オレが納得すると……思うのか? 命を狙われて黙っているほど……オレは安くはないからな。 オレをナメてるんだったら……お前にもここで死んでもらう……!」 男の言葉と同時に、男の背後の「何か」がゆっくりと動いた。 「ふふふ……そう殺気立つんじゃないよ。 わたしはお前を雇うつもりでいるんだからね」 「……いくらでだ?」 男の発する殺気はまだ緩まない。 「2000エキュー、と言ったら?」 「2000エキューだと!?」 男の声色が変わる。 2000エキューと言ったら立派な家と森付きの庭が買えるぐらいの金額だ。 破格なんてもんじゃない。 あまりにも、馬鹿げている金額だ。 「どうやら態度が変わってきたようだね」 くすくす笑いながら女が言う。 「2000エキューか……2000エキュー……。 ……それで、一体なにをさせる気だ?」 「そんなに難しいことじゃないわ。子供を一人さらってくるだけよ」 「それで2000エキュー……だと?」 「ええ、何だったら前金で1000エキューあげてもいいわ」 「前金で、1000エキュー!?」 「どうする? この『仕事』……やるのか、やらないのか?」 「……まず、詳しい話を聞かせてもらおうか」 それが男なりの、1000エキュー、2000エキューを前にしての、精一杯の慎重さだった。 彼が感情だけで動く男だったなら、「仕事」の内容も確認せずにこの場で「仕事」を受けていただろう。 「なかなか利口で助かるわ。では明日のこの時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。 詳しい話はそこで教えるわ」 「それでいい。だが……」 「だが、何?」 「あんたの名前を……まだ聞いていないな」 「おや、そう言えば名乗っていなかったね。すっかり忘れていたよ。 私はシェフィールド。 ではまた明日、いい返事を期待しているよ、『ラング・ラングラー』」 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/29.html
「ハヤテのごとく!」の綾崎ハヤテが召喚される話。 ゼロの執事-1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1500.html
「インテリジェンスソード?」 「そうでさぁ、若奥様。全く。いったい、何処の魔術師が始めたんでしょうかねぇ、剣を喋らせるなんて」 ルイズはその答えを聞いて、暫くジロジロと剣を眺め、店主との商談に戻った。 余り変なものを買われてはたまらないと、僕は一時的に剣から意識を外して、店主に目を向ける。 店主の手元には、過度の装飾の為されたハルバートと、これまた過度の装飾の為されたレイピアが一つずつ。 「昨今は宮廷の貴族の中で、下僕に剣を持たせるのが流行っておりましてね。何でも『土くれ』のフーケとか言うメイジの盗賊が、貴族の宝を盗みまくっているとの噂で」 そういいながら、店主はよいしょと、手に持っていたハルバートと、レイピアをカウンターに置く。 そうして全身像が露わとなったハルバートは、2m半強もあるような代物だった。 どう軽く見積もっても、3kgはある。 「その際に選ばれるのがこのレイピアでさぁ。また長ものではこういう、ハルバートも人気で」 ルイズはそれをちらちらと見ながら、う~んと唸って、何かを考え込んでいる。 正直、あんな大きなものを買われても困る。槍なんて扱えないし、邪魔なだけだ。 どうせ格好をつけるだけなのだから、振り回しやすい短槍か、重さのほとんど無い、見せかけだけの槍で十分だ。 才人が使う剣にしたって、この間ギーシュと戦った時の様な、青銅製のゴーレムなどを相手にするのにレイピアでは、心許ない。 それは、とてつもない身体能力でもあれば話は別だが、決闘の時の才人でさえ、記憶のシルバーチャリオッツより大分、スローだったしな。 僕は、間違ってもあんな、役に立ちそうにないもの買ってくれるなと、心の中でつぶやいた。 暫くそのハルバートとレイピアを眺めていたルイズは、どうやらお気に召さなかったようで、別のを持ってくるように店主に言う。 「槍はもっと、そうね、もっと変わったものを、剣はもっと大きくて太いのを持ってきて頂戴」 「へぇ、槍の方は解りました。しかし若奥様。お言葉ですがあの御仁には、この程度のサイズが無難なようで…」 「聞こえなかったの? もっと 大きくて太い のが良いといったのよ」 ……わざわざ、大きくて太いを強調しなくても良いだろう。 ルイズは大きくて太いのを頂いていきました。 非常に卑猥な響きだな…… それはともかく、店主は暫く粘ったものの、結局ルイズに言われた通り、渋々と別の商品を取りに、店の奥へと戻っていった。 しかしそのとき、僕のスタンドが店主の「素人が! せいぜい高く売りつけてやるか」という呟きを捕らえた。 コレは、場合によっては助け船を出すか、自分で決めた方がいいかもしれない。 とりあえず僕は、表に出ている槍から、自分に合いそうなものを見繕うことにした。 とりあえず、壁にかけてある槍を一本ずつ手に取ってみる。 これは重すぎるな。こいつは長すぎる。これは持ちにくい。これは……ダメだ、短すぎる。これなら良いか? ……いやダメだな、格好がよくない。これは……良さそうな気もするが。少し計りかねるな。 ……矢張り、素人である僕にこういうものを見るのは無理か。 TRPG等でさんざん鍛えたのだが。 僕はとりあえず、最後に手に取った槍を確保の意味で別の場所に立てかけておき、壁の槍から興味を外す。 そういえば、先程から才人は一体何をしているんだ? 僕は店内をざーっと見回し、才人の姿を探す。 「お前、デル公って言うのか?」 「ちがわ! デルフリンガーさまだ!」 「へぇ、俺は平賀才人だ。で、あっちが花京院典明。宜しくな」 いた。先程の剣とずっと戯れていたのか。 まぁ、変なものが大好きな才人には、仕方ないことなんだろうな。 レアものと聞いたら、殆ど使わないようなものでも、つい買ってしまうような男ですし。 それどころか、買ってから用法を考えることも、割とよくあったほどだ。 そんなことだから、いつまで経っても周りの人間に『抜けている』と評されるのだが。 まぁ、喋る剣というのは興味がある。 僕もその剣…デルフリンガーという、名前は大層な剣に近づいてみる。 「てめ、さっきはよくもこのデルフリンガーさまに対して、いってたじゃねぇか。『侮辱する』っていう行為に対しては、殺人も許される! つーわけで顔出せ、こら」 「悪かったよ。謝るから、そういう怖いことは言わないでくれ」 「……てめ、何か拍子抜けすんな」 どうやら僕が近づいていることに、気がついてないようだな。 僕はそのまま、後ろから黙ってデルフリンガーを手に持ってみる。 「失礼します」 「お?」 「うおっ、何時の間に後ろに」 僕は剣を様々に、手で弄んでみる 両手剣なので、もう少し重い物かと思ったが、以外と軽い。 やや長いので、振るのには少し訓練が入りそうだが、持っていくのに、邪魔にはならなさそうだな。 「ほう、やっぱおめえさんは見かけ通り、それなりの力はあるみてえだな」 「一応は鍛えていますからね。ところで……」 「なんでえ?」 ある程度、意志を持って喋れる剣と言う時点で、僕は錆びていても問題ない、ある利用方法を思いついた。 常識的に考えれば、それを果たす器官を持ち合わせていない剣には無理なことだろうが、ここはファンタジーだ。 出来るかもしれないという一縷の望みを掛け、僕はデルフリンガーにそれが出来るかどうかを問うた。 「文字、読めますか?」 「は?」 文字が読めない。 僕と才人がこちらで情報を集めようとするにあたって、最初にぶち当たった関門であった。 簡単な文章すら解らないのだ。 直接的な会話でしか、コミニケーションを取れないというのは、かなりの痛手である。 文字を覚えればいいのだが、単語も知らないような僕らには、単文を読むにも時間がかかりすぎる。 かといって協力を頼めるような人間はいない。 幸い、何故かは知らないが、言葉が解るので、読み上げてさえもらえれば意味は分かる。 ならばせめて、当座をしのげる手段が欲しい。 というわけで、訪ねてみたのだが…… 「そりゃまぁ、おめえ。読むことは出来るが」 「では、決まりですね」 「花京院? 話が全く読めねえんだが…」 決めた。コレを買おう。 単文が読めるようになるというのは、極めて大きなアドバンテージだ。 それに比べれば、剣としての出来がどうとか、見栄えが悪いとか、そんなことはクラッカーの歯くそほどの値打ちもない。 「では、才人。ちょっと持っていてください。ルイズに買ってもらえるよう、交渉しなくてはならないので」 「あ、ああ。……って買うのか?」 「ええ。普通の剣より、何倍も役に立ちますから」 いくら錆びているとはいえ、刀身がむき出しなのだ。 ポンと渡すわけにもいかず、僕は才人にデルフリンガーを握らせることにした。 すると、またいつぞやのように、左腕の文様が光を放ちだした。 そういえばギーシュとの決闘以降、一度も光り出してはいなかったため、よくよく観察する機会が無かったな。 僕はまだ、店長がカウンターから出てきていないのを横目で確認して、まじまじと才人の左腕の文様を眺める。 「またか。なんかこのルーンてのが光り出すと、体が軽くなるんだよなぁ」 「成る程。以前の決闘の時の、あの異常な身体能力は、これが原因ということですか」 この文様はルイズと才人がキスした時に出た物だ。 どうやらコレが光ると、才人の身体能力は上昇するらしい。 が、その条件が解らない。 とりあえず僕は、この文様について解ることをまとめてみた。 1、コレは「使い魔のルーン」と呼ばれる物である。 1、コレが光り出すと、才人の身体能力が上昇する。(他にも効果がある可能性アリ) 1、持つということが、条件の一つである以外、発動条件は不明。(槍とこのボロ剣で発動。スコップなどでは発動しない) ……結論が出せるほど、まだ解ってはいないな。 と、そうこう考えている内に、店主がカウンターの方へと出てきた。 手にはやたらときらびやかな剣と、今度はまた豪勢な矛、しかし穂先に月牙の付いた物を持っている。 悪いが、どちらも欲しいとは思わない。まだ先程の方がマシな気さえする。 僕は店主とルイズの間だけでかわされようとしている商談に、待ったをかけるため、先程立てかけた槍を片手に、ルイズの方へと向かった。 「この剣は、かの高名なゲルマニアの錬金術師シュぺー卿が鍛えた物で、魔法がかかっているから鉄だって一刀両断でさ。 そしてこちらの槍も、東方より伝わった槍で、矛っていうらしいんですが、これがどんな盾でも貫くという一品で。まぁ、どちらもおやすくは御座いませんがね」 「私は貴族よ。それで一体いく「ルイズ」ら…… 何よ?」 「できればあの剣と、この槍が欲しいのですが」 そういって僕は先程の剣、デルフリンガーを左手で指さし、右手に持った槍をルイズの前にズイッと出した。 どちらもカウンターに出ている物より、安そうな代物だ。 ルイズはそれを見て、解りやすいくらい嫌そうな顔をした。 「え~~~~~~。そんなのが良いの? もっと喋らないのとか、綺麗なのにしなさいよ」 「どうしてもコレが良いんです」 「私はいやよ。そんなんじゃ格好が付かないじゃない」 「ですが、こんなきらびやかな剣が、才人に似合うと思いますか? それにこんな長物、怪しいと思いませんか」 「……それでも、こんな気色悪いのはいやよ」 「こういう物は、当人に似合うというのが重要なんですよ」 「……」 特に感情以外で粘る理由もないルイズは、いささか不満そうな顔をして考え込んだ。 彼女は腕を組み、じーっと僕と才人の方へと視線を向ける。そしてはまたうつむいて、唸って、また僕と才人の方を見るという行動を繰り返す。 その間、店主は僕の方へ、余計な事しやがってと言いたげな視線を浴びせてきていた。 流石に無理に進めてくるつもりは無いようだ。 「仕方ないわね。あんたの方からお願いって事も珍しいし、ここはご主人様の寛大さを見せてあげるわ。 これ、おいくら?」 「へぇ、二つ併せて500ってとこでさ」 「ちょっと、高くない!?」 「まともな大剣なら相場は200。槍だって150はしますから、この槍もちょっとしたものでしてね。まぁ、妥当な所でさ」 「仕方ないわね……」 そういって財布の中身を確認するルイズ。その表情が見る見るうちに不満そうな顔になっていく。どうやらギリギリだったようだ。 しかし店主がしてやったりと目を細めたのを見逃すほど、僕は抜けていない。 相場は解らないが、この店主の反応を見る限り、本当はもっと安いだろう。 しかしこういう場所では、カモる事は悪いことではない。騙されて買ってしまった奴がマヌケなのだ。 ならばここはアレを試してみるッ! 僕はお見通しだよと、堂々とした態度で、大声で笑い出した。 「500エキュー? ノォホホノォホ! バカにしてはいけませんよ、君ィー。高いィ高いィーッ」 「ノ、ノリアキ? 突然どうしたのよ」 「花京院、どうした! 前から変な奴だと思ってたけど、ついに気でも狂ったのか!」 僕が突然大声で笑い出したことにより、ルイズと才人が若干引いた様子でこちらを見る。 ルイズは貴族らしいからこういう場所で買い物はしないだろうし、才人だって外国にいったことはないという。 だからこういう先進国には無いノリというのは、ついていけないものがあるのだろう。 しかし才人、それはどういう意味だ? とりあえず才人への復讐は、返ってから追加するとして、僕は店主の反応を見る。 「へぇ…… なら、いくらなら買いまさあ?」 店主は食らいついてきた。どうやらこのノリは、万国のみならず、異世界でも通用するらしい。 では、まず第一段階。こんなに安くて良いのだろうかという値段を提示する。 「二つで100エキューにしろッ!」 この言葉を聞いて、店長は何にも解っちゃいないといった様子で、首をカッ切る真似をする。 「そんな値段じゃ、店の経営が成り立たなくなりまさ」 良しッ! 計画通り! では第二段階。帰るフリをする。 「仕方ありません、ルイズ、才人。途中で中古の武器を売っている店がありましたね。あちらで買いましょう」 「え!? そ、そうね。そんな店もあったわね!」 もちろんながら、そんな事実はない。 確かに武器を売り物にうたっていた露天商はいたが、小型の刃物をいくつか売っていた程度だ。 しかしルイズ的には、僕が知っていて、自分が知らないというのが許せないらしく、知ったかぶりをして見せた。 計画通りだ。僕の言葉より、ルイズの言葉の方が信用があるからな。 「へぇ、だがそんな店より、うちはまっとうな商売してますんでね。まぁ厄介払いもかねて、450でどうでさ?」 よし、食らいついてきた。 値段交渉開始ィーッ! 「150にしてください」 「400!」 「200!」 「375!」 「225!」 「350!」 「250!」 「325!」 「275!」 「「300!」」 「よし、売ったッ!」 「買ったァー!」 「「……」」 どうやらルイズと才人は、この流れについてこれなかったようだ。唖然として、僕の方を見ている。 その全くついていけないといった表情で、ボーっとこちらを見ているルイズに、僕は早くお金を出すように催促する。 「ルイズ、交渉は終わりましたよ。早くお会計をすましてください」 「あ、うん」 「毎度。剣の方は、煩いと思うんでしたら、鞘に入れれば大人しくなりまさあ」 結局、ルイズと才人は店を出るまで、終始着いていけないといった表情をしていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「何よ、あの店主! 貴族の私に吹っ掛けようとしてたわけ!?」 「ええ、そうですね」 「全く、これだから平民は……」 帰り道。 ルイズが今更ながら、店主に対する愚痴を並べだした。 もっとも既に馬に乗って大分経つので、きびすを返して街に戻ろうものなら、一体何時間かかることか。 そういう訳で、自然とルイズの愚痴は僕の方へと向いてくる事になった。 僕はその愚痴に適当に相づちを打ちながら、馬を走らせる。 ちなみに何故才人の方に向かないのかというと、股ズレの為に、馬上でノックアウトしているからだ。 デルフリンガーを背負っている御陰で、行きよりかなり疲れているのだろう。 「情けねぇなぁ、相棒」 「うるせぇ……」 そういえば何時の間にやら、才人はデルフリンガーと仲良くなっていたらしく、相棒などと呼び合っていた。 全く、うらやましいな。マイペースで…… ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ああ、もう。どうしてやろうかしら!」 その後、ほぼずっとルイズの愚痴は続いていた。 実際、最初の言い値より安く買えたので、わざわざ文句を言いに行ったり、無礼打ちにする為だけに戻る気はさらさら無いようだ。 その分、愚痴として僕にしわ寄せが来ているが。 ……とにかく、今日は疲れた。 僕は手綱をハイエロファント・グリーンに預け、身体の力を抜いて、空を眺める。もう日も傾き始めていた。 とりあえず戻ったら、作ったばかりのお風呂に入ろう。 ふぅ。っと一回、大きくため息をつき、僕は視線を前へと戻す。 そこにはめろんおっぱいを持った、赤い髪の女性が馬に乗ったシルエット。 確か6股で二つ名が『微熱』とかいう…… 「キュルケ!」 「YES! I am!」 最悪だ。この疲れている時に。 あのめろんおっぱいと赤髪が、今は非常に腹立たしい。 僕はこれから起こるであろう、ルイズとキュルケの延々とした口喧嘩から逃れるため、馬の手綱をより、強く握るのだった。 「全く、あなた達何処行ってたのよ。部屋に行っても誰もいないし、追いかけようにもタバサも留守だし」 「あんたには関係のないことでしょ。それより、私の下僕に色目を使わないで」 「あ~ら、ルイズ。ひょっとして焼き餅?」 「違うわよ!」 もう、遅かったかもしれないが。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1812.html
部屋で魔法を放つわけにもいかず、僕や才人、ルイズ達は再び、素振りをおこなっていた中庭まで戻ってきた。 「ほんとにお前等、決闘なんかするのかよ」 「そうよ」 才人が呆れたような声で、二人の意志を確認する。 その言葉に、ルイズが息を荒げて答えた。既に臨戦態勢のようだ。 この興奮しているルイズを止めるのは、僕には不可能だな。 なら、キュルケはどうだろうか? どうにか落としどころはないかと、僕は少しばかりの望みを掛けて、キュルケの方を見る。 得意げに鼻をならして、ルイズの方を見ていた。こっちも臨戦体勢の様だ。 こちらの方も、僕に止めることは不可能だ。 まあ、彼女たちが何を始めようと、僕や才人に火の粉が降りかからなければ、別に止めようとも思わないのだが。 結局こういう名誉や意地は、いつか自分の手で決着をつけなくちゃあならないものだしな。 キッカケこそ才人だが、僕がキュルケに誘惑された日の説教、及び先程の話の流れからして、起こるべくして起こったことだ。僕らの知ったことじゃあない。 僕は才人の方に手で、クイッとそこから離れ、こっちに来るように指示を出す。 才人は一応、その指示に従って僕の方へとついてくる。が、その表情は何故そんなことをするのか解らない、というのが顔に出ている。 「何だよ、止めねぇのかよ」 「僕たちが口を挟むことじゃあない。当人達が決着をつけなきゃならないことだ」 才人と僕はぴりぴりした空気を放つ二人から、大体十m程度距離を取り、事の成り行きを見守る事にした。 しかしここに来てにらみ合いはすれども、ルイズもキュルケも中々杖を抜かない。 流石に僕らとギーシュがやったような決闘をするつもりは無いか。 「危ないと思わないのかよ。なぁ、花京院。やっぱり止めた方が…」 「必要ない」 っと、先程からずっと黙っていたタバサがキュルケに近づいて、何かを呟き出した。あいにくと、その内容は此方にまでは届いてこない。 キュルケは身体を屈め、そのタバサの呟きをフンフンと頷きながら聞いている。 どうせロクな事ではないだろうが、聞こえない話を何時までも観察してもしょうがない。 僕はキュルケ達から視線を外し、辺りに彷徨わせた。 「……ン?」 「どうした?」 ふと視界に、茂みが揺すられるのが入った。 風だろうと思うが、それにしては一部分だけしか揺れないというのは変だな。 誰かの使い魔か、この様子をつけている人間が居るのか。 しかし、そのいずれの理由にしても、葉のすれる音が全くしなかったというのはどういう事だ? 現にそちらを見ていなかった才人は、あれほど揺れたのに気づきもしていない。 僕はその、揺れた辺りがどうにも気になり、ハイエロファントの聴覚で、虫の足音一つ聞き逃さぬよう、注意を払って様子を見た。 「……」 「花京院、どうしたんだよ?」 「…才人、少し静かにしてくれ」 「?」 暫く、じっとそこに神経を集中する。 後ろから、なにやら大きな声で相槌を打つキュルケや、ルイズの声すら聞こえないほどに。 「ッ!」 再び、茂みが揺れた。先程とは違い、今度は風によって揺らされたようだ。 しかし不自然なことに、またもや葉のすれる音がしなかった。 それどころか、あの辺りに風が通った時、唐突に風の音まで途絶えたのだ。まるでそこだけ何かで切り取ったかのように。 音が消える。そういう魔法があっても可笑しくは無いな。 その魔法をこんな人通りの少ない屋外で使うとなると、最初にたどり着く結論は侵入者だろう。 少し、確認を取ってみるか。 僕はその茂みに近づきながら、集中を高め、ハイエロファントの掌へ破壊のエネルギーを集約し… 「あの、ご主人サマ? その手に持っている縄で、何をするつもりデスカ?」 「縛る以外に何があるっていうのよ」 ようとした所で、才人の気の抜けた声で気を散らされた。 いつもであれば、すぐさま才人に文句を言っている所だが、縄なんてものが出てくる、その会話の内容が気になった僕は、茂みの方をハイエロファントに任せ、後ろを振り向くことにした。 振り向いた先には、サディスティックな笑みを浮かべ、手に持った縄をピンと引っ張るルイズ、それを楽しそうな表情で見つめるキュルケ、 全く反応の見られないタバサ、そしてそのタバサの傍らに、デルフリンガーとキュルケの持ってきた小綺麗な剣を加えた、見覚えのある青い竜。 ……あの竜はやっぱり、タバサの使い魔だったのか。 と、そう様子を見ている間に、タバサが杖を引き抜き、なにやら呪文を唱えだした。 すると、ルイズの持っていた縄が、まるで蛇の様に僕らめがけて飛びかかってきた。 マズイッ! このままでは巻き付かれてしまうッ! 僕は慌て、ハイエロファントの左腕をのばして縄をつかみとった。 しかし、コレは蛇ではなく縄である。一点を抑えた程度じゃあ止まりはしないッ! かといって、ハイエロファントの右腕まで此方に向けては、茂みの方が疎かになる。 逆に縛られた場合でも、茂みの観察は続けられるが、だからといって縛られるのは嫌だッ! どうする? どうすればいいッ! そう考える内に縄の蛇は、今度は押さえている方と反対を頭として、また飛びかかってきた。 考えている暇は無いッ! 僕はとっさに右手でその縄の頭をつかみ取る。そして、その行為の失敗に気がついた。 これじゃあ、間のたるみから巻き付かれるのを止める術がないッ! 案の定、縄はそのたるみから僕の右手を登り、あっという間にその腕を拘束した。 「何をする気だッ!」 「そうだ! 俺や花京院にそういう趣味はねぇ! 女相手ならともかく!」 何を言っているんだ才人ォォオオオッ! お前の性癖なんて聞いて無いッ! 聞きたくも無いッ! 「ハァ? アンタ何いってるのよ? いいから黙って縛られなさい!」 縄はそうこうしている間にも、僕と才人の身体に絡みついてくる。 何とか逃れようと、僕と才人は必死で身をねじる。 「クッ! ……才人! 身体に力を込めろ! そうすればまだ…」 「もう遅ぇよ、絡みつかれちまった!」 「クソッ!」 「あ、暴れないでッ! 縄が、縄が食い込んで!」 しかしあがいても縄は外れてくれない。 「さて、後はつるし上げるだけね」 つるし上げるだってッ!? クソッ! よりにも寄ってこの状況で! 説明するしか無いッ! 侵入者にも聞こえてしまうかもしれないが、つり上げられるよりマシだ。 僕は確実に聞こえる様に声を張り上げた。 「待ってくれ! ルイズ、キュルケッ! 侵入者が居るかもしれないんだ!」 「え?」 「え?」 「……」 「マジか!?」 僕のやや張り上げた声に、普段反応の薄いタバサですら、本から顔を上げて此方を見てきた。 「そこの茂みの中、彼処だけ、音がしないんです!! そこを調べれば、確実に!!」 だが、全員反応は薄い。 何を言っているんだ、といった感じの視線が僕に向けられる。 だが、今、声を張り上げた時、確実に茂みが揺れた。 間違いなく、居る! 「ここはトリステイン魔法学院よ? いくら何でも、メイジの多いこの学園に、侵入者なんか出ないわよ。見間違いじゃあないの?」 「つくなら、もっとマシな嘘をつきなさい。国中の貴族を敵に回す事になるのよ。第一アンタ、どうやって音がしないって気がついたのよ」 ルイズもキュルケも、冷ややかな反応を返すだけ。 かくいう僕も、何か居ると言っても、口で説明できる証拠を持っている訳じゃあない。 気付いた理由にしても、スタンドについて、ルイズもキュルケも理解が薄く、タバサに至っては説明すらしていないので、喋りようがない。 どうしたものかと黙っていると、才人がぼそぼそ声で、僕に話しかけてきた。 「なぁ、どうやって気がついたんだよ? やっぱり、さっきスタンド……だったっけ? アレを出してる時か?」 「ああ、そうだ。ちゃんと話してはいなかったが、僕のスタンドは聴力がある。それを使って聞いても彼処だけ、切り取られた様に音がしないんだ」 「成る程、つーことはつまり、確信だけはあるんだよな? だけれど、説明のしようがない……」 「Exactly(その通りでございます)」 しかし、才人にだけ伝わってもしょうがない。 縛り付けているのはルイズ達だ。 どうにかして、この事実を伝えなければッ! 「それだったら俺も、そこの茂みで影をみたぜ。侵入者かどうかはしらねぇけど……」 「何、アンタも?」 才人のフォローが入る。ナイスアシストだッ! 一人よりも二人。これなら市にいる虎にだって気がつくだろう。 気づかせられずとも、時間ぐらいは稼げる。つり下げられたら、抵抗のしようもないからな。 初めて、僕は才人に感謝の念を抱いた。 「茂みが揺れた時も、音一つしなかったから、間違いねぇよ」 「……」 まだルイズは納得いかない様子で、疑いの目で僕達の方を見続ける。 せめてもう少し証拠があれば、信じさせることも出来そうだが。 まぁ、とりあえず時間は稼いだ。 その間に、既に僕はエメラルドスプラッシュを撃つ用意を完了させている。 すこし強引ではあるが…… 「やむをえんッ、強行手段だッ! エメラルドスプラッシュ!」 僕は先程の茂みの辺りに、解放したエメラルドスプラッシュを叩き込む! エメラルド色の拡散されたエネルギーは、茂みを根本からえぐり取る威力がある。人に当たれば、骨ぐらいは折れるだろう。 メイジ、平民を問わず見ることは出来ない、この散弾銃を避けられるのか? 無理に決まっている。 他人に見えないことを鬱陶しく思ったが、こういう時はそれがアドバンテージになる。 確実に当たる! 僕はそう確信した。 だが、 「何ッ!?」 その破壊のエネルギーは茂みに到達することなく、突如合間に現れた巨大な土の手を砕いて消え去った。 狙ったかのようなタイミングで出現したそれは、間違いなく、ガードを目的として現れた筈だ。 何故、ガード出来たのか。 直進的にしか撃ってないとはいえ、初めて見る人間には何が起きているのかさえ解らないはずだ。 その理由を考える暇もなく、砕かれた巨大な土の手は再生して、いや、その手に見合う巨大な身体も含め造られていく。 「嘘!」 「本当に」 「いた」 ルイズ達は侵入者が居ることに驚いている、僕はガードされたことに驚いたそのわずかな間に、土の手はそれ相応の、30mはありそうな巨大なゴーレムとなって、僕達の前へと現れたのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2059.html
13話 ガラガラと音を立てて馬車が走る。 乗っているのはルイズ、ギーシュ、モンモランシーの3人。 ちなみにホワイトスネイクも発現状態でこの場にいたが、 浮いているので「乗っている」ことにはならない。 「それにしても……ミス・ロングビル。何で貴方が御者なんかやってるんです? 学院に仕えてる平民の誰かにやらせればよかったじゃないですか」 モンモランシーが手綱を握るロングビルに声をかける。 「いえ……いいのです。私は貴族の名をなくした者ですから」 「え? でも、ミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書なんじゃ……」 「あの方は貴族と平民の区別に拘らない方なのです」 「トイウ事ハオ前ノ他ニモ下仕エ以外デ学院ニ勤務スル者ガイルノカ?」 突然ホワイトスネイクが会話に割って入った。 「いえ、そういうわけでは……」 「デハオ前ダケガオスマンニ取リ立テラレタ、トイウ事カ?」 「……私が知る限りでは」 「ト、ナルト平民トハソンナニ無能揃イナノカ? ソンナ筈ハアルマイ。 有能デアル事ニ加エテオ前ハ恐ラクオスマンニ何カヲ持チカケタナ?」 「ちょっと、ホワイトスネイク! あんた失礼よ!」 ホワイトスネイクの追求にルイズが声を上げる。 この場で「ロングビル=フーケ」あるいは「ロングビルがフーケの配下」の可能性を疑うのが ホワイトスネイクだけである以上、仕方の無いことではある。 「その通りだ使い魔君。ミス・ロングビルはレディーなんだからそういう態度はだね」 ギーシュもルイズに賛同して声を上げたが、 「「あんた(オ前)は黙ってなさい(黙ッテロ)」」 ルイズとホワイトスネイクのダブルパンチで黙らされた。 「ね、ねえモンモランシー。あの態度は、ちょっと無いんじゃないかな?」 「あんた、ミス・ロングビルに手を出したらただじゃおかないから」 「ひ、ひどい……」 そしてモンモランシーに出した助け舟も艦砲射撃一発で沈められ、目に涙を浮かべながらギーシュは黙り込んだ。 「持ちかけたとは……一体何を? 根も葉もない疑いをかけられては、私も黙っていかねますが」 「ソウダナ、例エバ……」 「色仕掛ケ、トカ」 ぶすっ 「ッ!! ツ、杖デ目ヲッ! 一体ドーイウ教育ヲ受ケタラソーイウコトガ平気デ出来ルンダッ!?」 「それはこっちのセリフよこのバカ蛇ッ! どーいう生活環境にいたらあんな失礼極まりないことがいえるのよ!! ああもう、本当にすみません! うちのバカがこんなので……」 「い、いえ……」 ルイズの剣幕に思わずたじろぐロングビル。 だが彼女がたじろいだ理由はもう一つあったのだが……それは今ここでは言うまい。 「まったく……それにしても、何であんたが志願したのよ、ルイズ。 大体あんた、魔法使えないじゃない」 「魔法が使える使えないは関係ないわ。 土くれのフーケを放っておくのは、貴族として恥ずべきことよ」 「……あんた、プライドだけは一流よね。 そのプライドのおかげで、わたしまでついて行くことになっちゃったし」 「あんたがくっついてったのはギーシュでしょ」 「ち、違うわよ! わたしはただ、ギーシュが心配だから……」 「そーいうのが『くっついてく』って言うんじゃない」 きゃあきゃあと言い合いをするルイズとモンモランシー。 と、そこへ。 「モンモランシー! やっぱり君は僕のことが」 「「あんたは黙ってなさい」」 「しゅん……」 またも会話にしゃしゃり出たギーシュだったが、 ルイズとモンモランシーによる言葉のクロスボンバーであえなくダウンした。 そんなギーシュを見てホワイトスネイクが一言、 「修行ガ足ランナ」 「え? って言うか君、ちょっと前に召喚されたばっかりだろ!?」 そんなことをしているうちに、馬車が止まった。 まだ昼間だというのに、周囲は生い茂った木々のせいで光が届かず、薄暗い。 「ここから先は徒歩で行きましょう。 そろそろフーケの隠れ家が近いので、馬車では音で気づかれます」 皆がロングビルの提案に従い(ホワイトスネイクも何も言わなかった)、歩いて森の中を進む。 歩いているうちに、やがて開けた場所に出た。 この場所だけは木も少なく、光が注いでいるかのように明るかった。 そして……古びた小屋が、一つあった。 「あれがフーケの隠れ家です……身を隠してください。 フーケがまだ、中にいるかも……」 手ごろな位置にあった木に身を隠しながらロングビルが言う。 ルイズたちもそれに従い、慌てて近くの木に隠れた。 「……ホワイトスネイク。あの中、見てこれる?」 「距離ニシテ約30メイル。ルイズガ小屋カラ視認デキル位置マデ移動スル必要ガアルナ」 「つまりわたしも危険、ってことね……」 「ソノ通リダ。私ハアマリ推奨シナイ。ソレヨリ……」 そう言ってホワイトスネイクはあたりを見回すと、突然腕からDISCを「二枚」取り出した。 初めて見るロングビルが唖然としている中(ギーシュとモンモランシーは授業で一度見ている)、 ホワイトスネイクはそのうちの一枚をおもむろに上空へと投げた。 「……あんた、今何したの?」 「見テイレバ分カル」 ホワイトスネイクがルイズにつれない返事を返した直後のこと。 突然、一羽の鳥が上空からすいーっと小屋に近づいて窓の縁に着地すると中を覗き、 それからすぐに飛び立って真っ直ぐにホワイトスネイクの方へ飛び、その掌の上にちょんと乗った。 一同が呆気に取られてみている間、ホワイトスネイクは鳥の頭部に指を突き刺すと、 すぐにそこから一枚のDISCを取り出した。 そしてそのDISCを今度は自分の額に差しこみ、しばらくしてから、 「アノ小屋ニハ誰モイナイヨウダ」 そう言い切った。 ルイズがそれに対して何か言おうとしたが、 「ルイズモコレヲ見ルトイイ」 そう言ったホワイトスネイクから差し出されたDISCを 得体の知れないものに触るようにおずおずと受け取ると、 さっきホワイトスネイクがやったように、そろ~っと自分の額に差し込んだ。 その瞬間、ただ日の光を反射しているだけだったDISCに、映像が映り始める。 最初は空中の映像、それが一気に急降下して木で出来た何かに、いや、どこかの小屋に着地した。 それに連続して小屋の中の映像が始まる。 小屋の中には、誰もいなかった。 ルイズがそう感じた瞬間、映像の視点は180度反転して再び空中を飛んだ。 直後、映像にはルイズと、ギーシュ、モンモランシー、ロングビルが小さく映し出され、 それがどんどん大きくなったと思った瞬間、 視点が「何も無いように見える」場所に着地し、そこで映像は終わった。 「ホワイトスネイク、これって……」 「先程ノ鳥ノ記憶ダ」 「記憶って……ちょっと! それってやられた相手は死んじゃうんじゃないの!?」 「問題ナイ。生命活動ニ支障ガ出ナイ程度ノ、部分的ナ記憶ダ」 「……本当でしょうね?」 「本当ダ」 「ちょっとルイズ。それ、わたしにも見せてくれない?」 そういうモンモランシーにルイズがDISCを渡すと、 モンモランシーはルイズがやったように自分の額にDISCを差し込んだ。 そして、しばらくしてからDISCを抜き取ってルイズに返した。 その表情には驚きの色が強く現れていて、そして何も言わなかった。 「……私も拝見します」 その様子を見てロングビルもDISCを受け取ると、同様にDISCを差しこんだ。 この時、ホワイトスネイクは小屋のほうをじっと見つめていて、ロングビルには目もくれていなかった。 そしてDISCを抜き取ったロングビルはやはり同様に驚いた様子で、DISCをルイズに渡した。 だがその表情には恐怖を感じさせる、引きつった「何か」が感じられた。 ホワイトスネイクの目はロングビルの方には向けられていなかった。 だが彼が持つDISC――腕から抜き取りながらも、結局投げなかったもう一枚のDISCには、 ロングビルの表情が反射で映し出されていた。 そしてホワイトスネイクは……それを見ていた。 「僕にも見せて欲しいんだけど」 「「「あんたは(オ前ハ)見なくていいのよ(見ナクテイイ)」」」 ルイズ、ホワイトスネイク、モンモランシーからの集中砲火でギーシュは何も言えずにうずくまった。 「ミス・ヴァリエールの使い魔の……ホワイトスネイクさん、でしたか? 貴方が、今やった事は……」 「最初ニヤッタノハ『命令』。 生物ニ対シテ拒絶不可能ノ行動命令ヲ下ス事ダ。 ソシテ鳥カラ抜キ取ッタノハ『記憶』。 私ハドンナ記憶デモ、ドンナ後ロメタイ記憶デアッタトシテモ…… ソレガ『ロングビルノ記憶』ダッタトシテモ……必ズ形ニシテ抜キ取レル」 ホワイトスネイクの言葉に、思わずロングビルは一歩下がった。 「い、一体……何がいいたいのですか?」 ごくり、と生唾を飲み込んでロングビルが言う。 「私ガ今一番見タイ記憶ハ……ロングビル、オ前ノ記憶ダ。 アノ小屋ノ中ニハ誰モイナイ。 ナラバフーケハドコニイル? 獲物ヲ待ツ蛇ノヨーニ我々ヲドコカカラ見テイルノカ……アルイハ」 「あ、あの! さっきのホワイトスネイクさんが取った鳥の記憶の風景に、箱のような物が映っていました! もしかしたら、それが破壊の杖かも!」 唐突に話題を変えようと試みるロングビル。 しかし。 「ソウ思ウナラ自分デ取ッテ来ルベキダ。 小屋ソノモノニ何カブービートラップガ仕掛ケラレテイタラ…… ソレガルイズヲ傷ツケタリシタラ大変ダカラナ」 まるで人事のように言うホワイトスネイク。 言うまでもなく、小屋の中に「箱のようなもの」が映っていた事はホワイトスネイクも確認している。 だが…… 「ソシテ逆ニ聞キタイ。 ソモソモ、何故ソノ「箱のような物」ヲ破壊ノ杖ダト判断スル?」 「う………」 「名ノアル盗賊ガ折角手ニ入レタブツヲ置キ去リニスル事コソ考エ難イノニナ……何故ソンナ事ヲ言ウ?」 「それは……その……」 しどろもどろになるロングビル。 その様子を見て、さすがにルイズやモンモランシーもロングビルに一抹の疑いを持ち始めた。 ギーシュには、ホワイトスネイクが一方的にロングビルを言葉責めにして、 ロングビルがそれに困っているようにしか見えなかったが。 「ソレニ、ダ。ロングビル。 オ前ノ言動ニハ一ツノ意思ヲ感ジル。 ココマデ誘導シタノニモ……ソレ以前ニ、最初ニフーケノ居場所ガ分カッタト言ッタ時カラ」 「わ、分かりました! 私、今から小屋に向かいますので、後方支援をお願いします!」 ホワイトスネイクの言葉を途中で遮り、ロングビルは駆け足で小屋へと向かった。 一方、ホワイトスネイクは自分の言葉を遮られたことには意も介さない様子でその後姿を眺めながら、 「ギーシュ、モンモランシー。 オ前達ニ何ガ出来ルカヲ把握シテオキタイ。 ソレト使イ魔ノ情報モ、ダ」 「いいけど……何で今なの?」 「ロングビルガ小屋ニ入ッタ後……恐ラク直グニフーケノ攻撃ガ始マル。 フーケハ罠ヲ張ッテイルハズダカラナ」 「……分かったわ」 モンモランシーが緊張した面持ちで答える。 「私は水のライン。 20メイル先ぐらいまでなら水で攻撃できるわ」 「威力ハ?」 「まともに当たれば骨ぐらいは折れる威力よ」 「分カッタ。デハ使イ魔ハ?」 「カエルのロビンよ」 カエル、と聞いた瞬間、ホワイトスネイクの体が微妙に震えた。 「ロビン自体にはあんたみたいに戦闘力はないわ。 せいぜい感覚の共有で私をサポートするぐらい……って、どうしたのよ?」 「…………何デモナイ」 猛毒のカエルが雨あられの如く頭上に降り注いだ記憶が一瞬フラッシュバックし、 すごくイヤな気分になったホワイトスネイクであった。 「……デハ次ハギーシュダ。 オ前ノ魔法ハ既ニ見テイルカライイ。 使イ魔ノ情報ヲモラオウカ」 使い魔、と聞いて精神的にやつれていたギーシュが輝かんばかりの笑顔になった。 「僕の使い魔の事を聞いてくれたのかい!? いやあ、嬉しいなあ! 僕の愛しのヴェルダンデの事が気になるなんて、君もいい趣味してるじゃないか!」 「戦力ニナルカドウカガ知リタイダケダ。サッサト言エ」 「まあまあ、そんなに急かさないでくれたまえ。 僕のヴェルダンデはジャイアントモール。 地中を水の中の魚みたいにすいすい動けるんだ!」 「……ツマリモグラカ?」 「ちょっと待ちたまえ。僕のヴェルダンデはただのモグラなんかじゃあないんだ。 モグラよりもずっと強くて、ずっと賢くて、ずっと愛おしい、それが僕のヴェルダンデさ!」 「トリアエズモグラノ類デアル事ハ分カッタカラモウイイ」 そう言ってホワイトスネイクが会話を切った瞬間だった。 みしり、と大地そのものが軋んだ。 瞬間、ホワイトスネイクは小屋に目を向ける。 目を向けた先にいたのは、全長30メイルはあろうかという巨大ゴーレム――フーケのゴーレムだった。 そのゴーレムは拳を大きく振り挙げると、 子供が砂の城を崩すより容易く、小屋を根こそぎ吹き飛ばした。 人型の何かが、小屋の残骸と共に森の中に吹き飛ばされるのがホワイトスネイクにも見えた。 そしてそれは、ルイズにも、モンモランシーにも、ギーシュにも見えた。 「い、今のって!」 モンモランシーが思わず声を上げ、ギーシュは口をぱくぱくさせる。 そして一方、ルイズは呆然として、声を上げる事すらできなかった。 自分もロングビルを疑っていた。 ホワイトスネイクがロングビルを責めるのにつられて、わたしも! そのために、今、ミス・ロングビルが―― 「落チ着ケ、ルイズ」 自責の念に駆られるルイズの前にホワイトスネイクが立つ。 ただしルイズにはその背が向けられており、ホワイトスネイクは真っ直ぐにゴーレムを見据えていた。 「今見エタノハ何ダ? 見エタノハ『人型の何か』ダ。 アノ程度ナラギーシュダッテ作レル」 「………」 沸騰しそうになる頭をどうにか平静な状況に持っていき、やっとのことでルイズが口を開く。 「……その、根拠は?」 ホワイトスネイクは暫し考えた後、 「私ヲ信ジロ」 確かにそういった。 自分を、信じろですって? ルイズは、自分の耳を疑いたくなった。 ここに来る前にあんだけのことをしといて、それでどの口がそんなことを言えるの? こいつ、本当にそれでわたしが納得すると思ってるの? そんな思いが脳裏を次々と掠める。 だが、自分の心を過ぎる感情の中に一つ、しかし決して見逃せない感情が、一つあった。 ――自分が信じないで、誰がアイツを信じるの?―― その感情に咄嗟に反駁しようとした。 したが……できない。 自分が信じなければアイツはどうなるの? 誰もがアイツを危険視して、誰にも近寄られないで、それでも一人で、わたしを守ろうとするに決まってる。 そんなのは、絶対にダメだ。 あの夜――アイツと3つの約束をした夜、誰にも言わないで自分の心にだけ誓った事。 ホワイトスネイクを自分の使い魔にしてみせる、という誓い。 今ここでアイツを信じなかったなら、もう二度と自分はアイツを信じられなくなる。 そんなのは、絶対にダメだ。 だから―― 「信じるわ」 自分でも驚くほど、その言葉はすらりと出てきた。 そしてその言葉は、ホワイトスネイクにも僅かながら衝撃を与えた。 それは、背中越しに、ルイズにも確かに伝わった。 「了解、ダ」 ホワイトスネイクはやはり背中越しに、ルイズにそう返した。 しかしその口端には、微かに笑みが浮かんでいた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1549.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 帰る手がかりの一つもつかめぬまま、既にこちらに来て一週間が過ぎた。 一週間もすれば、不本意ながらもこちらの生活にも慣れてくる。 朝起きて、才人共にルイズを起こし、才人が着替えさせている間に、僕が洗い物を済ませる。 僕はスタンドを使えば、いちいち水くみ場まで降りる必要もないので、適任であるのは事実だが、コレには理由がある。 はじめは交代交代で洗濯を行う予定であったが、才人がパンツの紐を切ったのがばれ、洗濯は僕が一手に担うこととなったのだ。 ちなみにこの事で、才人は一週間のご飯抜き、僕も止めなかったということで、五日のご飯抜きを宣告された。 もっともそんなことをされても、ルイズの朝食中に厨房でご飯を貰うので、全く関係がないのだが。 しかし衣食住の、住しか面倒を見ていない、しかもその住ですら怪しいのに、「ご主人様」と呼べ、敬いが足りないとは、理不尽甚だしい。僕のルイズ株は下がりに下がって、既に上場廃止状態だ。 そういう事で僕らは自然と、厨房との親交、つまりはマルトーさん達コックや、シエスタ達メイドとの親交が深まっていくのだが。 既に厨房に来る一通りの人間には、顔を覚えて貰っている状態だ。 一部の人間とは、仲良く会話を交わせるまでに至っている。 食事の後は、才人はルイズと共に授業へと、僕は血管針カルテットと共に衛兵として、見回りに当たる。 見回りといっても、侵入者に備えるなどではなく、生徒同士のもめごとの報告、出来るのならばその場を押さえる事や、魔法関係以外の備品の整理、人手が足りない所の手伝い、貴族の使いっ走りが主な仕事内容だ。 そのため貴族と接触する機会が多く、しかも殆どの貴族が高慢不遜な奴ばかりなので、極めてストレスが溜まる。 御陰でもめごとの仲裁にはつい力が入って、スタンド大活躍だ。何回貴族に向けて、『エメラルド・スプラッシュ』を放ったことか。 衛兵の仕事が再会して早三日目で、僕の前でもめごとを起こしたり、面と向かって罵倒するものは、ほぼ皆無となった。 さて、衛兵の仕事が終われば、僕も才人と同じように、ルイズの世話に戻る。 この時間が、一番トラブルに巻き込まれやすい時間だ。 この間は衛兵の仕事をしている時と違い、貴族に手を出せば、以前と同じく謹慎処分を受ける。 それを知ってか、ここぞとばかりに嫌がらせをしてくる。 もっともそういうことをする、臆病者の嫌がらせなんて、大したことのない罵倒程度なのだが。 適当にデルフリンガーを持った才人をけしかければ、あっという間に大人しくなる。 表向きな立場を持たない才人は、僕と違って、倒しても咎められることもないからな。 こちらに来て一週間。既に僕の平穏を乱す相手はルイズ、才人、そしてキュルケの三人のみだ。 ルイズは言わずもがな、あの癇癪持ちの自称ご主人様にかなう相手はいない。 才人は非常に優秀なトラブルメーカーだ。たいていの場合、僕まで連座で罰を受けるので、迷惑きわまりない。 この二人に比べれば、ルイズと混ぜない限り、たいした問題にならないキュルケは一段落ちる、はずだったのだが、最近になって、一つ問題が出てきた。 キュルケが才人に対して誘惑を敢行した事だ。 七股に挑戦するとは、見上げた根性だと思う。 変節をする人間は嫌いだが、ここまで来ると嫌おうという気すら起きず、返ってほほえましく感じる。 いや、そもそも変節しているわけではないな。一応、『微熱』とやらの二つ名の筋は通しているのか。 多分、相手も火遊び程度で、本気で誘惑するつもりは無いようにも思うのだが、どうか。 それはともかく、この劣悪な上、慣れない状況で、僕らが持ったのは一週間持ったのはやはり一重に、お風呂という存在があったからであろう。 お風呂は心の洗濯とは、誰が言い出したのか。 この異世界に於いて、この言葉は、非常に実感できる重みがあった。 そのため、お風呂のコンディションは常に万全を期しておかなければならない。 特に、放っておけば崩れてくる竈の整備などは、絶対に欠かしてはいけない。 本日の分の仕事を終えた僕は、今日もいつものように竈の様子を見に行った。 その途上、広場で思いがけない人影を見る。 「あれは……」 「よしよし、ヴェルダンテ。君はいつ見ても可愛いね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 あの金髪。気取った雰囲気。間違いない、ギーシュだ。 だが、よく見れば何か、そのギーシュに抱えられて、大きな影がもう一つ。 こちらからはよく見えないが、サイズは小熊ぐらいはある。いったい何だろうか。 僕は後ろから息を潜めて、気付かれぬよう慎重に、ギーシュへと近づいた。 影の正体は巨大な土竜であった。 その土竜はギーシュの言葉に、鼻をモグモグとひくつかせている。 どうやらコレがギーシュの使い魔らしい。 僕はその姿をよく観察する。 「そうかい、そりゃよかった!」 成る程、くるくるとした目、綺麗な毛並み、可愛らしいという形容詞も、間違いではないように思う。 しかしながら、その土竜に頬ずりをするギーシュの様は、僕には非常に滑稽なものにしか見えない。 ともかく僕はギーシュに用があるので、土竜と離れるタイミングを狙って、後ろから声をかける。 「ギーシュ」 「誰だい? 僕を呼ぶの……は……」 あの決闘の日以来、ギーシュは僕の顔を見ると一目散に逃げ出すため、半径10m内に入れた試しがない。 だが、今の僕とギーシュの距離は1mもない。 ギーシュは僕の接近を許したことで、バカみたいにポカンと口を開ける。 そして状況を認識するや否や、いつも通り、脱兎の如く逃げ出した。 しかし、今回は逃がすわけには行かない。 僕はスタンドで、ギーシュの身体を一瞬にして縛り上げる。 「う、動けない!」 「そんなゲロ吐くぐらい怖がらなくても良いじゃないですか。何もしませんよ、安心してください」 「う、嘘だ。僕は騙されないぞっ!」 参ったな。ギーシュは完全におびえきった目でこちらを見ている。 少し、決闘の時にボコボコにしすぎたのかもしれない。 「だ、誰か助けっ……むがっ!」 「静かにしてください」 「むー! むー!」 騒がれてはマズイので、スタンドを猿ぐつわ代わりにして、ギーシュを黙らせる。 僕は仕方なく、ギーシュが落ち着くまで待つことにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「本当に、危害を加えるつもりはないのかい?」 「ええ。そちらから何もしてこない限りは」 「わかったよ」 10分程して、ようやくギーシュは騒ぐのを止め、僕の話に耳を傾け出した。 これで、ようやく会話が出来るのか。 「それで、一体何の用なんだい?」 とはいえ、まだ少々警戒しているようだ。 ギーシュは何を考えているのか探りを入れる目で、こちらを見ている。 この状態で、いきなりお願いを切り出す訳にもいかない。 僕は無難に、先程の使い魔らしき土竜の話を切り出すことにした。 「いえ、あなたが土竜と戯れていましたので、何事かと思いまして」 「土竜? ああ、僕の使い魔のヴェルダンテの事かい?」 多少だが、ギーシュの表情が和らいだ。 この話題を切り出したのは正解かもしれない。 「ヴェルダンテというんですか。凄く可愛らしいですね」 「君もそう思うのかい!」 この後、ギーシュによる20分にも渡る使い魔自慢が繰り広げられると解っていれば、僕はこんな事を切り出そうとは思わなかっただろう。 「ヴェルダンテが…… ヴェルダンテは…… ヴェルダンテ。ああ、ヴェルダンテ、ヴェルダンテ……」 既に何回、ヴェルダンテという言葉を聞いただろうか? 学校では優等生として振る舞っていたので、形だけではあるが、人の話を聞くのはうまいと思う。 その僕が、心の底から止めてくれ、と思ったのだ。 もはや、語るには及ばないだろう。 「……というわけなのさ。どうだい、凄いだろう?」 「……ええ、本当に」 僕はよく耐えました。と続けたい所をぐっと我慢し、大きく息をつく。 まぁ、それだけ耐えたこともあって、ギーシュの僕に対する警戒心は、今は殆ど感じられない。 「ああ、済まないね、長々と話してしまったよ。っと、そういえば君はどうしてこんな所にいるんだい?」 「あちらにある、お風呂を修繕しようと思いまして」 そういって僕は広場の角の、僕と才人で制作した風呂場を指さす。 とはいっても巨大な鍋と、土で出来た竈に、申し訳程度の衝立があるだけなのだが。 ギーシュは興味深そうに、それをまじまじと眺める。 「平民も水の張ったお風呂につかるのかい?」 「いえ、コレは五右衛門風呂といいまして、僕や才人の故郷のお風呂です」 「へぇ、君たちの故郷は、その服装といい、随分変わったところなんだな」 ギーシュは特に、それ以上聞こうとせず、作ったお風呂をまじまじと見ている。 が、やがて興味を失ったのか、再び僕の方へと向き直った。 と、今度は僕の制服のポケットの辺りをじーっと見ている。 確か今、ポケットの中には石けんの香りつけに使おうと思っている、ムラサキヨモギが入っていたな。 ギーシュはいったん口元に手を当て、改めて僕のポケットを指さしていう。 「それはムラサキヨモギの葉かい? できればいくつか譲って欲しいんだが」 「これを、ですか?」 「ああ、代金は払うよ。そのポケットに入っている、半分ぐらいの量で良いんだ」 コレは思いがけない交換材料が出来た。 正直、どうやって頼もうかと思っていた所だ。 これならば僕の方からも切り出しやすい。 「お金はいりませんが、代わりにこの竈を、青銅に錬金してもらえますか?」 「それでいいのかい? なら、おやすい御用さ」 そういってギーシュは、ポケットから薔薇の造花を抜いて、短くルーンを唱える。 すると土の竈は見る見るうちに、赤銅色へと染まっていく。 ものの数秒で、竈は見事な青銅製へと変化した。 僕は改めて見るその魔法の便利さに、素直に感嘆の声をあげる。 スタンド能力には余りそういうものはないからな。 ギーシュはその声を聞いて、得意げに鼻を鳴らす。 「それでは、コレを」 「ああ、確かに貰ったよ」 僕は約束通り、右ポケットの方に入っていたムラサキヨモギの半分を、ギーシュに手渡した。 ギーシュはそれを受け取って、「これでモンモランシーとの仲直りの材料が出来た」等とつぶやいて、ご機嫌な様子で校舎の方へと戻っていった。 何に使うつもりかは知らないが、大方、香油か何かを作るつもりだろう。 それはともかく、これで竈に関しては問題ないだろう。 となれば、後はもう一つの予定である石けん造りだ。 本当であれば、先に石けんをつくってから、才人が来るのを待って竈の修繕を行うつもりだったが、ギーシュとあったことで、この分ならば、才人が来る前に終わらせられそうである。 僕は早速、調理場で貰った海草の灰と廃品の鍋、植物性の油、そしてムラサキヨモギを使って、石けん造りへと取りかかるのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4043.html
「痕」より、柏木耕一を召喚 ゼロのエルクゥ - 01 ゼロのエルクゥ - 02 ゼロのエルクゥ - 03 ゼロのエルクゥ - 04 ゼロのエルクゥ閑話1 ゼロのエルクゥ - 05 ゼロのエルクゥ - 06 ゼロのエルクゥ - 07 ゼロのエルクゥ - 08 ゼロのエルクゥ - 09 ゼロのエルクゥ閑話2 ゼロのエルクゥ - 10 ゼロのエルクゥ - 11 ゼロのエルクゥ - 12 ゼロのエルクゥ - 13 ゼロのエルクゥ閑話3 ゼロのエルクゥ - 14 ゼロのエルクゥ - 15 ゼロのエルクゥ - 16 ゼロのエルクゥ閑話4 ゼロのエルクゥ - 17 ゼロのエルクゥ - 18 ゼロのエルクゥ閑話5 ゼロのエルクゥ - 19 ゼロのエルクゥ - 20 ゼロのエルクゥ - 21 ゼロのエルクゥ - 22 ゼロのエルクゥ - 23 ゼロのエルクゥ閑話6 ゼロのエルクゥ - 24 ゼロのエルクゥ - 25 ゼロのエルクゥ - 26 ゼロのエルクゥ - 27 痕 - Wikipedia http //ja.wikipedia.org/wiki/%E7%97%95