約 439,956 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1596.html
予定していた風呂の補強が早く済み、暇をもてあました僕は、その時間を休憩へと当てることにした。 屯所から一時的に借りてきた机を件の風呂場の横に置いただけの休憩所で、僕はゆっくりと与えられた時間を過ごす。 ぼーっと空を眺めていた僕はふと、テーブルを挟んだ向かいに座る、意外な客人に目を向ける。いつぞやの青い髪のちびっ子だ。 僕と接点のない彼女が、何故今、この場にいるのかということは目の前にある、厨房から借りてきたポットに入った液体と関係がある。 僕は机に置かれた木のコップに、そのポットの中の液体をなみなみと注いでいく。 ポットから出、本来の鮮やかな色を露わにした液体は、僕にとって馴染み深い良い香りを放っている。 それもそのはず、コレは僕が入れたお茶だ。 普段はこういう事はしないのだが、たまにはと思って入れてみたのだ。 僕はその、お茶をそそいだコップを目の前のちびっ子……タバサというらしい……へと進めた。 「もう一杯飲みますか?」 目の前のタバサは、僕のその言葉に、こくんとだけ頷き、僕がテーブルにおいたコップを手に取って、グイィーっと飲み干した。 そして飲み干したコップの底を、じーっと見つめる。 「おかわりなら、まだまだありますよ」 そう言いながら、僕はポットを振って、まだ中に多量のお茶が入っているということを示す。 タバサはそれを聞いて、僕の方へとコップを渡した。 僕はそのコップを受け取って、再び、そのコップになみなみとお茶を注ぎ、またタバサへと渡す。 タバサは受け取ったお茶を、またもやグイィーっと一気に飲み干す。 そして再度、僕の方へとコップを渡す。 とまぁ先程から、そんな事を何度も繰り返している。 僕は何故、こういう事になったのか、その元となった『ムラサキヨモギ』のお茶を何故作ろうと思ったのか、それについて思い起こすことにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 目の前にたんと積まれたムラサキヨモギを前に、これをどう処理するかについて、僕は悩んでいた。 捨てても良いのだが、何かに使えそうなので捨てるのは少しばかりもったいない。 まさしく鶏肋といった奴である。 「一応、香りはヨモギなんだが……」 最初に浮かんだ案は傷薬。 ヨモギはお灸などにも使われる植物だ。よく洗えば、消毒液にも使えるだろう。 しかしながら、調合するにしても、そのまま絞ったエキスを張るにしても、それだけでこの量を全てを消費するのは無理がある。 最悪、成分が違うかもしれないため、そういう効果は見込めない可能性もあるしな。 次に浮かんだのが料理の香り付けだが、僕らは料理を作る必要はないし、高級な食材を多く使う厨房に、こんな何処ともしれない所から摘んだ草を持っていっても、鬱陶しがられるだけだ。 ならいっそ、お茶にしてみるのも良いかもしれない。 香りはヨモギと同じで、非常によい香りだ。それに…… 「水で薄めれば、飲める様になるかもしれないな」 思い立ったが吉日。 僕は颯爽とお茶を入れる準備を始めた。 今回は葉を乾燥させている余裕はないので、煎って水分を飛ばす。 僕はその間に、ポットを借してもらいに厨房へと向かう。 火元から離れる。今になって思えば、それが不味かった。 「……」 見事に酸化、もとい焦げた。 非常に香ばしい匂いがする。食べれば満腹度が下がってしまうのは間違いないだろう。 しかし、どうやら内側の方のヨモギは無事なようだ。 僕は無事な葉をかき集め、お湯を入れた。 お湯はこぽこぽと煙を上げ、少しずつ薄紫色の液体へと変化する。 そしてその液体に、もう一度葉を通し、さらに色を濃くしていく。 僕はその作業を十回ほど繰り返した。 結果、コップの底が見えぬほど濁った、紫色の液体が完成する。 その液体から放たれるヨモギの香りが、香水のようにしつこいほどに鼻につく。 これは下手な場所には捨てられないな。 正直、見通しが甘かったとしか言えない。 焦げてしまった分、味も元よりも苦いのではないのだろうか? そこで問題だ、どうやってこの入れてしまったお茶を処分するか? 3択-一つだけ選びなさい ①ハンサムの花京院は突如、丁度いい捨て場所が思いつく。 ②誰かがきて、犠牲になってくれる。 ③飲むしかない。現実は非情である。 僕の理想は2だが、刻限になっても姿を見せない才人が、今すぐここに都合よく現れて、アメコミのヒーローの様にジャジャーン、『待ってました!』と犠牲になってくれるというわけにはいかない。 逆に、さらに厄介なことに僕を巻き込む準備をしているのかもしれない。 という事は1しかないッ! 「『ハイエロファント・グリーン』! コイツを捨てられる場所を探し出せッ!」 僕はハイエロファントを辺り一帯、100mもの距離に渡って張り巡らせる。 と決闘の時、才人の身体を洗い流した洗い場があったな。 彼処なら捨てても問題はないし、今更、匂いの一つぐらいたいした問題にもならないだろう。 それで良いのかという気もするが。 答え― ① ① ① 僕は早速ポットを持って、洗い場の方へ向かおうと立ち上がった。 「……この香り」 「……!?」 予期せぬ所から声を聞き、僕は思わず身構えた。 何時の間にか、近くにはいつぞやのちびっ子がいたのだ。 微妙に鼻をひくつかせ、このポットの匂いを感じ取っているようである。 ちびっ子は何度か辺りを確認して、匂いの発生源を僕と断定したのか、こちらへと近づいてくる。 念のため僕はスタンドを自分の守りに回し、相手の出方をうかがう。 「………」 ちびっ子が、僕の面前1mぐらいにまで寄ってきた。 そして彼女は、ゆっくりとその口を開く。 「ムラサキヨモギ」 「?」 唐突に、その香りの元である葉の名前を口にした少女は、僕の手にあるポットをじーっと見つめている。 ひょっとしてコレが、欲しいのだろうか? 処分に困っていた僕は、目の前の少女に勧めてみることにした。 「えっと……」 そういえば僕は、彼女の名前を知らない。 確かキュルケが名前で呼んでいた気もするが…… 僕が彼女の名前を思い出そうとしている間に、彼女の方が自ら名乗り出た。 「タバサ」 「タバサさんですね。僕はノリアキです。……立ったままというのも何でしょうから、どうぞここに座ってください。お茶でも飲んで、話でもしましょう」 少女はこくんと頷き、僕とテーブルを挟んだ向かい側へと座る。 僕はポットのお茶をコップに注ぎ、それをタバサの前へと出した。タバサは黙ってそのコップを受け取る。 「…………!」 「どうしました? ヌルイから飲むのは嫌ですか?」 タバサはコップを顔にまで近づけた所で、思わず顔をしかめた。 おそらく、相当に匂いがきつかったのだろう。 僕は思わず心の中で微笑んだ。 彼女にはいつぞやのチェリーの恨みがあるからだ。 さて、どうする? 僕はタバサの方を眺め、彼女の次の行動を待った。 グイィィー 彼女はなんと! 意外なことに、それを一気に飲み干した! 「なァにぃイーーーッ!?」 そしてッ! 彼女は続けて机の上に置いてあったポットの蓋を、かちゃっとずらす! コイツ、おかわりをする気だ……ッ! コイツにはおかわりをすると言ったら、絶対にやる『凄み』があるッ! 「タバサ! 貴様、このお茶を飲み慣れているなッ!」 「答える必要はない」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― そういうわけでタバサと僕は今、同席をしているというわけだ。 ちなみに今、彼女は20回目のおかわりを飲み終え、僕に21回目のおかわりを要求している。 僕は初めと比べ、大分軽くなったポットを持ち、おそらくコレが最後になるであろうお茶をコップへと注ぐ。 彼女はその、最後のお茶を顔色一つ変えずに飲み干す。 そして、またポットの蓋をずらした。 しかし、既におかわりのお茶は切らしてしまっている。 「もうありませんよ」 「そう……」 彼女は少し残念そうに顔を伏せる。まさか、気に入ったのだろうか? 「美味しかった。コレはお礼のはしばみ草」 「……あ、ありがとうございます」 「多分、合うと思う」 そういって、タバサは僕になにやら見たことのない草を渡してくる。 そして僕の礼を聞くと、そのまま彼女は校舎の方へと戻っていった。 その彼女の後ろを6mはありそうな、俗に言う竜が追いかける。 僕はその一人と一頭の後ろ姿を、じっと眺めながら、渡された草を口に放り込んだ。 「………………!?」 ヤバイほどの苦みが、口内を襲った。 全く味わったことがないタイプの苦みだ。 しかも目一杯、一気に口にしてしまった所為ではき出そうにもはき出せない。 負けたよ…… 完全…… 敗北だ…… 「大きな星がついたり消えたりしている…… 大きい…… 彗星かな? いや、違う。違うな。彗星はバアーッと動くもんな…」 僕はかろうじて意識を持ちながら、そんなことをつぶやいて、タバサの後ろ姿を見送るのであった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/yaruoyugioh/pages/50.html
ここは住民の作成したオリジナルカード案を作成するページ(カテゴリー用)です。 気軽にご参加ください。 モンスター用のページその1はこちら 魔法用のページその1はこちら 罠用のページはこちら EXデッキ用のページはこちら テンプレート カード名 種類 レベル 属性 種族 ATK DEF 効果 元ネタ 例 寝坊助の門番 通常モンスター レベル2 地属性 戦士族 ATK/1000 DFE/1000 効果:なし 元ネタ:紅美鈴(東方紅魔郷) モンスター ゼロの使い魔 才人 儀式モンスター レベル10 地属性 戦士族 ATK0 DEF0 効果:このカードは通常召喚できない。このカードは「使い魔の儀」の効果以外で特殊召喚できない。このカードの攻撃力は、自身の初期ライフと現状のライフの差分が攻撃力となる。また、現状のライフが自身の初期ライフより高い場合、このカードの攻撃力は0となる。このカードが存在する限り、相手はこのカード以外のモンスターを攻撃・効果対象にできない 魔法 使い魔の儀 儀式魔法 効果:ライフを1000支払う。手札・またはフィールドからレベルの合計が10以上になるように生贄を捧げ、《ゼロの使い魔 才人》を手札から儀式召喚する。 デルフリンガー 装備魔法 効果:《ゼロの使い魔 才人》にのみ装備できる。このカードを《ゼロの使い魔 才人》が装備しているとき、《ゼロの使い魔 才人》を対象とするこのカード以外のカードの効果を無効にする。また、自分のスタンバイフェイズ毎にデッキからカードを1枚ドローする。 コメント 自分が編集中に他の人が編集を完了していた場合、 そのままページ保存をすると他の人がやっていた編集が消えてしまうので注意しましょう。 (2013-11-06 01 41 11) テーブル内の改行は「 b★r()」←★を消す、で行ってください (2013-11-05 10 49 10)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4043.html
「痕」より、柏木耕一を召喚 ゼロのエルクゥ - 01 ゼロのエルクゥ - 02 ゼロのエルクゥ - 03 ゼロのエルクゥ - 04 ゼロのエルクゥ閑話1 ゼロのエルクゥ - 05 ゼロのエルクゥ - 06 ゼロのエルクゥ - 07 ゼロのエルクゥ - 08 ゼロのエルクゥ - 09 ゼロのエルクゥ閑話2 ゼロのエルクゥ - 10 ゼロのエルクゥ - 11 ゼロのエルクゥ - 12 ゼロのエルクゥ - 13 ゼロのエルクゥ閑話3 ゼロのエルクゥ - 14 ゼロのエルクゥ - 15 ゼロのエルクゥ - 16 ゼロのエルクゥ閑話4 ゼロのエルクゥ - 17 ゼロのエルクゥ - 18 ゼロのエルクゥ閑話5 ゼロのエルクゥ - 19 ゼロのエルクゥ - 20 ゼロのエルクゥ - 21 ゼロのエルクゥ - 22 ゼロのエルクゥ - 23 ゼロのエルクゥ閑話6 ゼロのエルクゥ - 24 ゼロのエルクゥ - 25 ゼロのエルクゥ - 26 ゼロのエルクゥ - 27 痕 - Wikipedia http //ja.wikipedia.org/wiki/%E7%97%95
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4423.html
『ヴァンパイア』シリーズから「バレッタ」を召喚 ゼロの赤ずきん-01 ゼロの赤ずきん-02 ゼロの赤ずきん-03 ゼロの赤ずきん-04 ゼロの赤ずきん-05 ゼロの赤ずきん-06 ゼロの赤ずきん-07 ゼロの赤ずきん-08 ゼロの赤ずきん-09 ゼロの赤ずきん-10 ゼロの赤ずきん-11 ゼロの赤ずきん-12 ゼロの赤ずきん-13 ゼロの赤ずきん-14 ゼロの赤ずきん-15 ゼロの赤ずきん-16 ゼロの赤ずきん-17 ゼロの赤ずきん-18 ゼロの赤ずきん-19 ゼロの赤ずきん-20 ゼロの赤ずきん-21 ゼロの赤ずきん-22 ゼロの赤ずきん-23 ゼロの赤ずきん-24
https://w.atwiki.jp/subcul40/pages/57.html
ゼロのしま とうぶ グミ 依頼主 目的 場所 難しさ お礼 パス 備考 アイテム 依頼主 目的 場所 難しさ お礼 パス 備考 サボネア サボネアと たんけん ゼロのしま とうぶ B21F ☆6(700) じゃあくなタネ H@RY J7MN 3+%24WT2 FQY4 J&7# トランセル トランセルを あんないする ゼロのしま とうぶ B29F ☆7(1000) リゾチウム +8NT =F0S 14J5S&JH X#=H 93QW コロトック カゴのみを とどける ゼロのしま とうぶ B31F ☆6(700) れいかいのぬの そのた #91= 1FCJ TRN8&+PS %JJS =T+- モココ モココを あんないする ゼロのしま とうぶ B34F ☆7(1000) たいようのリボン そのた KS8J &&14 M20RJ--2 Q7%9 #CPH マイナン ニャースのところへ つれていく ゼロのしま とうぶ B37F ☆7(1000) ロックオンメガネ 32&- CQ7J H6P8M5-& 2-N& M5C1 フシギソウ フシギソウと たんけん ゼロのしま とうぶ B39F ☆7(1000) ◎しおみず =@CH 7PWF =Y9%CR%T F0RW =N88 ☆アイテム 依頼主 目的 場所 難しさ お礼 パス 備考 タマゴ(♂) 依頼主 目的 場所 難しさ パス 備考 タマゴ(♀) 依頼主 目的 場所 難しさ パス 備考 依頼主が仲間になる依頼 依頼主 目的 場所 難しさ 種族・性別 パス 備考 おうごんのま依頼 依頼主 場所 難しさ お礼/種族・性別 パス 備考 たからさがし依頼 依頼主 探すアイテム 場所 難しさ お礼/種族・性別 パス 備考
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/20.html
ゼロの大魔王-01 ゼロの大魔王-02
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/62.html
前ページ次ページゼロの白猫 はっきりしない頭のまま瞼を開ける。ルイズの瞳に映ったのは自室の天井と、夢の中の幼女を止めようと伸ばした自分の手だった。 「……夢、だったわね」 そう、でルイズが見ていた物は正しく夢である。だが問題はそこではない。あの夢はルイズが作った幻か、それともあの幼女が作りだした物だったのか。 「あの子……!」 がばっと音を立ててベッドから跳ね起きる。部屋を見渡すが、昨日召喚したはずの白猫は見当らない。 その事実にルイズの肝が冷える。まさかあの雪原だけでなく召喚に成功したことまで夢だったのではないか、と。自分は未だゼロのルイズで、また周囲のメイジから嘲笑われる日々が続くのではないか、と。 「嘘よ! 絶対、絶対夢じゃないに決まってるわ!」 目の端に何かを滲ませる自分の弱気を叱咤するため、わざと大きな声を上げる。ベッドから飛び降り、物陰から部屋の隅までくまなく調べ続け、最後にベッドの下を覗きこんでようやく捜索は終わった。 「……い、たぁ~~~」 床に這い蹲った姿勢のまま安堵の呟きが漏れる。 レンはベッドの下でくるんと丸まって眠っていた。その様はまるで雪合戦で大きめに丸めた雪玉のようである。雪玉との違いは溶けて無くなったりしない所だろうか。 レンの姿を見て安心したルイズだが、次にご主人様が起きてるのに何で起きないんだこいつは、そもそも主人に要らない心配をさせて涙まで滲ませるなんて何様のつもりだ、いや泣いてないけど! と、ふつふつと怒りの感情が湧いてくる。 「こらレン! 起きなさい! ご主人様が起きてるんだからとっとと起きる!」 怒声を上げながら――ルイズは昨晩見たものが夢だろうともうこの猫はレンと呼ぶことに決めた――ベッド下の毛玉を引きずり出す。仔猫と人間では体格差は覆しようが無いほど開いており、成す術もなくレンはルイズの前に引っ立てられた。 「……」 ルイズの呼びかけにもレンは片目を開けただけで鳴き声もあげない。しかもその目つきたるや、『何よせっかく寝てたのに全く騒がしいマスターね』とでも言いたげな胡乱な瞳だった。 「だらしないわよ。使い魔たるもの主人より先に起きて主人を起こすのが基本なんだから。まあその姿じゃ着替えとかの身の回りの世話は無理だろうから大目に見てあげる」 正に貴族。強引グマイウェイ! そんな主人をどう思ったのか、レンは主人の腕から逃げ出して飛び降りる。 「あ、こら逃げるな!」 制止の声にも静止せず、とことこ床を歩くレン。何処へ行くのかと思えば、向かった先は再びベッドの下である。 びきり、とルイズのこめかみに怒りの四つ角が浮いた。 「だ・か・ら! おきなさぁああああい!」 朝早いトリステインにルイズの怒声が響きわたる。昨日の眠りが浅かったためか、ルイズの起床した時間はいつもより早い。そんな朝焼けが始まろうかという時間に構わず叫ぶルイズ。いつもの低血圧は何処へいったのだろうか。 そんな大声で喚き散らすマスターにようやく覚醒したのか、入った時と同じ速度でベッド下から出てくるレン。ルイズの足下でぴしっと構える。いわゆるスフィンクスの体勢である。ハルゲギニアにスフィンクスの像は無いだろうが。 レンの態度を見てようやく気を落ち着かせることができたのか、先程から荒げていた呼吸を整え始めるルイズ。レンはそんな自分の主人を紅くて丸い瞳で見つめている。じっと見上げてくる自分のレンを見ながら、ルイズはこの使い魔に問わねばならないことがあったと思い出す。 「ねえレン。昨日見た夢って……現実なの?」 夢を現実だったのかと聞く。文章にすると中々おかしな話である。胡蝶の夢の話を思い起こさせるような主人の問いかけに、レンはただ首を傾げる。 「昨日、夢であんたが月が一つしかない雪原で耳が長いエルフみたいな女の子になって自分は夢魔のレンだとか言ってきたのよ。アレはあんたが見せた物だったの? ねえ?」 ルイズの級友達が聞いたら爆笑しそうな台詞である。だがルイズにとっては紛れもない真実。そんな質問をぶつけられたレンは再度逆方向に首を傾げる。 更に詰問を続けようとしたルイズだが、ふと気づいた。こちらの質問の度に首を傾げる仕草をした、と言うことは……まさかこの猫、今も自分の言うことを理解している? 「……レン、あんた、私の言うこと分かってとぼけてない?」 ルイズが顔をひきつらせてそう言うと、レンはふいっと横を向いて視線を逸らした。 ギルティ。有罪確定である。ルイズの怒りの四つ角は四つに増えた。ルイズはこみ上げる激情のままに罵声を張り上げようとした。が。 どバン!! 「うるっさいわよルイズ!」 ノックもせずドアを蹴破るような勢いで入ってきた仇敵に、躾はいったん止めざるを得なかった。 「ツェルプストー! 中の人の返事も待たずに部屋に入ってくるなんてどういうつもり!」 「どういうつもりはこっちの台詞よ! 朝っぱらからごそごそぎゃあぎゃあ喧しいの! そんなに人の安眠を妨げて楽しいわけ!? 寝不足はお肌の天敵なのよ!」 いきなり入ってきた無礼を正そうとするルイズに負けじとがなり立てる寝間着姿の長身の褐色肌。ルイズのライバル、『微熱』のキュルケ嬢である。 そんなキュルケの寝間着姿はワンピース型の寝具、ネグリジェ。昨晩は一人だったのか異性に見せるための下着ではないようだが、ふわふわした生地とあしらわれているレースが安物ではないことを証明している。 うむ、なんだまあ、キュルケのけしからん程盛り上がっている胸部とかRを描いて自己主張する臀部とかむっちりと肉が付いている太腿とかその他諸々と相まって、その、十分工口い。 そんな扇情的な格好も、寝起きで顔も洗っておらず、まだ手入れがされていないぼさぼさの長髪では魅力半減だが。 「私は使い魔の躾をしてただけよ! あんたの安眠なんて知ったこっちゃ無いわ! そんな寝具のままで出歩くような恥知らずのことなんかね!」 「出歩かせてんのはそっちでしょうがゼロのルイズ! 後自分の体が貧相だからって嫉妬は見苦しいわよ凹凸ゼロのルイズ!」 「あんですってえええええええええ!?」 言い合いは留まることを知らず、むしろヒートアップの様相を見せている。そんなマスターと侵入者の漫才のようにも見えるやりとりをレンはじっと見つめているのだった。 「第一躾っていっても、怒鳴りつけるだけじゃ躾なんていえないわよ? 主人たるもの、自分の事から気にかけなくちゃ。まずは自分の事から始めなさいな!」 「ネグリジェ姿で出歩いてるあんたに言われたくないわ! 私の何処が躾られてないってのよ!?」 「自分の感情の沸点が低すぎること! 時間も何も関係なく騒ぐところ! しかも昨日から着替えてないでしょ!? 服もマントもしわくちゃじゃない! まだそこにいる猫の方が身繕いをきちんとしてるわよ!!」 びし、とレンを指さして吠えるキュルケ。痛いところを指摘されて言葉に詰まるルイズ。 確かに昨日は寝間着に着替えることもなく、ベッドに倒れてそのまま眠ってしまったのだ。言われてみると自分の服は所々皺が寄ってしまっている。貴族の証であるマントも同様だ。 正論で説き伏せられそうになるルイズだが、この程度で自らの非を認めるルイズではない。持ち前の負けん気を発揮してキュルケに反論する。逆ギレとも言う。 「こ、これは身繕いしないとどうなるのかと言うことを教えているのよ! 自分の体を張ってまで使い魔を教育するなんて私ったら主人の鏡ね!」 「ルイズ、その言い分じゃ貴方が着替えもせずに寝たことも朝からぎゃあぎゃあ騒いでたことも言い訳できないわよ?」 墓穴である。キュルケはもう怒りも冷めたのかむしろ呆れたような眼差しをルイズに向けていた。熱しやすく冷めやすいのが彼女の性分なのだ。 「せっかく早起きしたならお風呂にでも入ってきたら? 確か昨日のお風呂入りに来なかったでしょ、あなた」 その言葉にルイズの顔が炎のように赤く、熱くなる。ツェルプストーなどに自分の身だしなみを窘められるなんて! そんな主達の声をよそに、レンはせっせと自分の舌で毛繕いをしていた。猫は綺麗好きなのである。 普段なら美徳である猫の習性だが、このタイミングで行われるのはルイズにとって非常にまずい。毛繕いをしているレンを見てニヤリとキュルケが笑みを浮かべる。 「ホラ、使い魔も自分でしっかり綺麗にしてるじゃない。主の成すべき事を示してくれるなんてその子、使い魔の鏡ね」 「それ以上愚弄するなら先祖代々の恨みも含めてここで晴らしてあげるわよツェルプストー……!!」 「あら怖い。まあゼロのルイズができる事なんてたかが知れてるでしょうけど。ま、とにかくさっさと綺麗になってきなさいな。静かにねー」 入ってきた時とは打って変わって颯爽と去ってゆくキュルケであった。逆にルイズの機嫌は最悪である。 「あああぁあ~~~ムカつくぅぅぅ! 何なのよキュルケの奴人の部屋にいきなり入ってきて言いたい放題~~~!!」 この場合悪いのは隣に聞こえる程騒がしかったルイズなのだがそんな理屈はルイズには通じない。『ツェルプストーの人間に論破された』ということは『ヴァリエール家のメイジであるルイズ』には耐え難い屈辱なのだ。 だがトリステイン魔法学院寮で、隣の部屋に聞こえる程騒がしかったというのは、それはそれはすごい大声であるはずである。 何故このような話になるか? それは『ルイズの部屋』と『キュルケの部屋』が『隣同士』であることから考えられる。 ルイズはよく言えば潔癖、悪く言えばお子様な思考回路を有している。そしてキュルケは恋多き人物であり、頻繁に異性を部屋に連れ込んでいる。それなのにルイズは毎夜『熟睡できている』のである。以上の事から作者が連想したことを察してほしい。 閑話休題。 地団太を踏むのに疲れたのか、ルイズがからかわれる要因となったレンをギロリと睨むが、そんなものレンには何処吹く風。小首を傾げて主人であるルイズを見つめている。 「レン! お風呂に行くから付いてきなさい!」 朝風呂には入ることにしたらしい。レンに命令し、鼻息も荒く入浴の準備を済ませるルイズ。未だ不機嫌な彼女の後をレンはトコトコついて行く。 浴場に行く道すがら、レンが自分の後ろにいることをルイズは何度も確認する。確認する度に、自分は召喚に成功した、魔法を成功させたのだと言うことを実感してニヤニヤと機嫌良さげに頬がゆるんでだらしない顔になる。 昨夜、夢の中で脅された恐怖など吹っ飛んでしまっていた。このような顔、家族や級友にはとても見せられない。特に家族に目撃されたなら折檻ものである。 そして浴場へと一人と一匹は辿り着いた。誰もいない着替え場で淡々とルイズは衣服を脱ぐ。その場にはルイズとレンしかいないためか、恥じらう様子はない。一糸纏わぬ姿になり、年不相応なあまり起伏のない肢体が晒される。 制服を頭から脱ぐと、長くてふわふわした桃色がかったブロンドが踊る。服の下から表れたのは矮躯とも言える小さな肢体だが、これはキュルケとは別の意味で暴力的な肢体である。 細い。細いのだ。何処がと言うわけではなく、首、腕、指、腿、ふくらはぎ等、体のパーツ全てが。 あばら骨が透けて見えそうな程薄い肉付きが一層それを強調している。腰回りなど成人男性の両手で覆えてしまいそうではないか。これは僅かな贅肉に一喜一憂する数多の女性からすれば羨望の的であろう。 繊細な芸術品のような儚げな肢体と、十人中九人が美人と答えそうな容貌――ツリ目嫌い等がこの一人に入る――を持ちながらも、本人がそれを正しく理解していないのが悲しいことだ。 ルイズの柳のように細い腕が浴場への扉を開け、浴室へと向かうのだが、レンは動かずじっとしている。大抵の猫は濡れることを嫌うのである。レンもそうなのだろう、とルイズは結論づけた。 「じゃあレン、ここでおとなしくしてるのよ」 例えレンが入りたがったとしても使い魔を貴族が使う浴場へ連れ込むわけには行かない。理由としては、使い魔はメイジのパートナーであるが、一緒の湯船に浸かるのはまずい生物が少なくないからだ。 粘液に覆われた爬虫類、そもそも湯船に入る事のできない巨体など実に様々。猫のレンは抜け毛が大変なタイプである。 それを分かっていながらルイズがレンを連れてきたのは、この白くてもふもふした物体とできる限り一緒にいたかったからに他ならない。それにしてもこのルイズ、主人バカである。 自分の使い魔に待機を言い渡し、ぴしゃりとルイズは扉を閉める。 ざんねん! さくしゃのにょたいかんさつはここでおわってしまった! (……浴場へ行って石鹸の補充。それからお洗濯して干して。マルトーさんのところでお手伝いしたらご飯食べて……) 廊下を歩きながらこれから自分の行う仕事の予定を確認しているのは、このトリステイン魔法学院にて奉公に来ているメイド。名をシエスタと言う。 メイドなので無論のこと貴族ではない。貴族のようなきらきらしい美しさはないが、人を落ち着かせるような素朴さを持っている。 落ち着くと言っても暗いと言うわけではない。自己主張の激しすぎない、それでいて周囲へ自己を認識させるたおやかさも持ち合わせている。 黒い髪は肩上で切り揃えられ、うっすらとそばかすのある顔の両側でちらちら揺れている。瞳も髪と同じく黒曜石のような漆黒で、欧州と言うより東アジアの人間を思い起こさせる容姿だった。 そんな彼女が行く先は貴族の浴場である。無論彼女が入浴するわけではない。先程のシエスタの回想にあるとおり、石鹸の補充に行くところなのである。 普段は利用者の少ない昼過ぎ等に行うことだが、昨夜のある貴族から『石鹸が切れそうだったわ。新しいの入れといて』との指示からこの時間に行動しているのである。希ではあるが、朝に入浴する貴族もいるからだ。できる限り叱責の可能性は減らしておきたい。 そしてシエスタは浴場に到着する。脱衣場に入る前にノックをして誰も居ないことを確認するとドアを開ける。浴場へと続くガラス戸へ目を向けると、シエスタは自分の間の悪さを呪った。 誰か居る。こんな早朝から風呂に入る貴族が。 お風呂に入っている貴族の扱いは非常にデリケートでなければならない。 トリステインの貴族は羞恥心や貞操観念が高いので、同性や平民という垣根があっても素肌を見られることを嫌う女性は珍しくない。ましてや迂闊にコンプレックスを刺激するような発言でもあればどうなることか。 貞操観念が強い風習がありながらあの短いスカートはどうなんだ、と言うツッコミは入れないでほしい。たぶん学院長の趣味なんだよ。 できれば誰も居ないでほしかったのに、と思うが仕方ない。できる限り中の人間を刺激しないようにさっさと終わらせるだけだ。シエスタは意を決して浴場への戸をノックする。 「誰?」 「ご入浴中に失礼いたします、石鹸の替えを持ってきたので入ってもよろしいでしょうか?」 「分かったわ、入りなさい」 ノックの答えに従って「それでは失礼いたします」とシエスタは戸を開ける。湿度の高い空気がむわっと入ってくるが、そんな空気よりもシエスタにとって一番の懸念事項は入浴中の貴族のことだった。 その貴族は香り付けのフルーツが浮いた湯船に浸かっていた。湯船に浸からぬよう桃色がかったブロンドは結い上げられており、普段は見れないであろううなじは濃い桜色に染まっていた。惜しむらくはルイズの基礎的な色気がまだ少ないことだろうか。 できる限り刺激しないようシエスタはさっさと仕事を進める。大したことではない。少なくなった石鹸を新しい石鹸に取り替えるだけだ。すぐに仕事は終わる。 「それでは、失礼いたしm「ねえ」 退室の言葉を述べようとしたところで呼びかけられた。シエスタの心臓が凍り付く。私は何かマズいことをやってしまったのか、それとも何か新しい用事を言いつけられるだけ――? 「な、何かご用でしょうか」 「脱衣所に白い猫は居た?」 意味が良く分からない問いを貴族は投げかけてきた。戸惑いながらもシエスタは先程の脱衣所の記憶を探る。 貴族が居ることに気づいて浴場の方に気を取られていたが、確か自分の見た限りでは―― 「いいえ、猫なんておりませんでしたが」 「なんですってええええええええ!?」 「ぴいっ!?」 有らん限りの怒声を張り上げてブロンドの少女が立ち上がる。全裸で。 悲鳴を上げながら恐怖に身を竦めたシエスタには、 まさか貴族に「はしたないですよ」と言うこともできず、心の中で残される家族にただ謝っていた。 (あのバカ使い魔! 大人しく待ってなさいって言ったのに……!) ルイズは湯船から飛び出すと、濡れた体を隠そうともせずにすぐ脱衣所へ突入する。 ぎらぎらした目で辺りを見回すが、あの白猫は見つからない。 「こらレン! 何処行ったのよ! 待ってなさいって言ったんだから待ってなさいよ! 返事しなさい!」 怒声を張り上げながらルイズは片っ端から脱衣所内を探し始める。部屋の隅っこを調べ、数ある洗濯籠を調べ続け、白い洗い物が入っている籠を覗きこんだ時、 「見つけたっ!!」 ようやくルイズは勝ち鬨をあげる。洗い物に見えたのはレン自身だった。全身真っ白なのでタオルか何かだと見間違えていたのである。籠の中でぐるりと丸まり、前足、後足、尻尾を器用に収納して目を閉じ、やすやすやと睡魔に意識を委ねていたのだった。 「レェェェェン……あんた二度も主の手を煩わせるなんて……これは徹底的な躾が必要なようねえ……!」 未だに籠の底で毛玉になっている相手に凄むルイズ。今の彼女の背景には『ゴゴゴゴゴ』という文字が似合いそうだった。 「あ、あのう、ミス」 「なによ!?」 「お体をお拭きになられないと、冷えてしまいますよ……?」 おそるおそる言うメイドの声に少しだけ頭が冷える。間違っても目の前のメイドが某魔王少女と言うわけではない。 指摘されるまで気にしなかったが、自分は今全裸だ。スッパだ。丸見えだ。生まれたままの姿だ。 しかも湯船からそのまま飛び出たので全身びしょびしょだ。濡れ鼠だ。水も滴るいい女だ。 ちなみにびしょびしょというのは美少女二人が濡れていることを略してびしょびしょという語源になったのda、ってタイガーが言ってた。 確かに早く体は拭いたほうがいい。メイドが差し出しているタオルをひったくるように受け取ると、ルイズはごしごしと乱暴に自分の体を拭き始めた。 「あんた」 「はいい!」 「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。あんたの名前は?」 「し、シエスタと申します」 「そう、ならシエスタ。そこに私の着替えがあるから着せて」 「かしこまりましたぁ!」 まだ先程のルイズの怒号の恐れが消えていないのか、堅さを残したまま、しかし素早く行動するシエスタ。妙な失敗をしないよう、細心の注意を払って貴族の着替えを行う。そしてその間もレンは籠から出てくることはなく、ルイズもレンから目を逸らすことはなかった。 最初ルイズはこの白猫にどんな折檻をしようか考えていた。しかしこの猫が眠っている姿を見ている内に少しずつ怒りも冷めてきた。 そう、確かにこの使い魔は大人しくここで待っていたではないか。未だにぐーすか寝ていることは許し難いが、そこはこれから躾ることだ。怒ることと躾は違う。むやみに怒鳴り散らすだけでは躾とは言えない。 それにこの使い魔の食事も考えなければ。主人は使い魔の食事に責任を持たねばならないのである。 (それに……昨日の夢) あの夢の中で自分は『レンを養う』と契約したのだ。ならば食料の確保をせねばなるまい。 そこまで考えをまとめている内に着替えは終わった。制服姿になったルイズは着替えを手伝わせたメイドに向き直る。 「シエスタ」 「ハイッ」 「そこの私の服、洗濯しておいて。そ・れ・と!」 気合い一閃! 籠からレンを掴みあげる。両脇を掴みあげられたレンはだらーんと縦に延び、じたばた手足を動かしている。 「この猫、私の使い魔でレンっていう名前なんだけど」 「わあ! 可愛らしい猫さんですね」 「でしょう? この子用の食事を用意してほしいのよ」 「かしこまりました」 こういう貴族の頼みは珍しくない。使い魔と一口に言っても実に様々な種類が居るのは前述の通り。 だが餌に関しては実は大きく二種類に分けることができる。使い魔が勝手に調達するタイプと、主人が用意せねばならないタイプだ。 レンは微妙な判定だが、元飼い猫と言う経歴から食事の供給が必要だろうとルイズは判断した。まあ元飼い猫でなくともルイズが食事を用意させた可能性は高い。 「肉食の使い魔用のお肉でよろしいでしょうか?」 「ええ、それでお願い」 そんな二人の遣り取りが成される中、レンは相変わらず手足をじたばたさせていた。先程よりジト目になっているのは不安定な姿勢で固定されている所為だろうか。 薄目の子猫をシエスタは微笑ましく見つめながらもさっさとルイズの洗濯物を集める。 「それでは失礼いたします。レンちゃんの料理も用意しておきますので」 「ええ」 脱衣所の入り口で二人と一匹は別れた。シエスタは水場へ洗濯に、ルイズは食堂へ朝食を採りに行きました。 すたすたと食堂へと向かう道中、ルイズはずっとレンを抱いたままである。レンも諦めたのかルイズの腕の中でじっとしている。 もしかしたら先ほど怒らせたことへのご機嫌取りかもしれない。それとも気紛れでただ抱かれてやっているだけかも知れない。真実はぬこのみぞ知る。 「あらルイズ。お風呂には入ったみたいね」 食堂へ行く道すがら、キュルケと出会った。彼女の足元には尻尾に炎が灯った大型の真っ赤なトカゲらしきものが居る。決して真っ赤な誓いではないっつーか誓いは見えない。 「おかげ様でね。それでまだ何か用なの?」 「いやねえ、あなたの使い魔を見せてもらったのにこっちの使い魔を見せないのも悪いじゃない?」 キュルケが不敵に笑う。主の意図を読んでか、足元の火蜥蜴が前に進み出た。 「どう!? この子が私が召喚した使い魔、サラマンダーのフレイムよ!」 「名前以外見れば分かるわよ」 キュルケに言われるまでも無くそいつの存在には気づいていた。口からちろちろと炎が迸り、そこに居るだけで周囲の気温が上がっているのだから。これで気づかなければ水のメイジの診断が必要だ。 「見なさいよ、この鮮やかな尻尾の炎! 間違いなく火竜山脈に居た子よ? 火属性の私に相応しい使い魔よね~」 「あ゛ーはいはい良かったわね」 内心の羨望を隠しながらキュルケからさっさと離れようとする。 そう、確かに羨ましかったのだ。レンは確かに夢の中に入り込んでくる特異な能力を持っているようだが、とても主であるメイジを守る、という大役は果たせそうに無い。 さっさと食堂に向かおうとするも、しつこくキュルケは絡んでくる。 「あなたの使い魔も悪くないけど、ちょっと力強さに欠けるわよね~」 「うるっさい! ってちょっとレン。そこまで警戒しなくても大丈夫だってば」 腕の中にいるレンは毛を逆立たせてフレイムを睨んでいる。明らかにキュルケの使い魔を警戒している様子だ。 「へー。主人を守るって意思表示かしら? 中々立派な心がけじゃない。どう、私の使い魔も兼ねてみない?」 「ツェルプストー! あなたどうあっても私と決闘したいみたいねえ!?」 眉をこれでもかと逆立たせてルイズが吠える。いつも携帯している杖にまで手が掛かり、今にも抜き放たれようとしていた。 「冗談よ、じょ、う、だ、ん。でももしあなたがその気なら飼って上げても良いからね、子猫ちゃん?」 レンにぱちりとウインクを飛ばしてキュルケは去っていった。主人に続いてフレイムもぶふっと火炎を吹きながら退場する。ルイズといえば、 「レン! いい!? 金輪際キュルケには近づいちゃダメよ!! 私のヴァリエール家とキュルケのツェルプストー家にはアルビオンよりも高く降り積もった因縁があるんだから!!」 朝から高まっているテンションが更に上昇中だった。彼女の血管が切れないか少々心配である。両手でわっしとレンを掴み、子猫の小さな顔と自分の顔を付き合わせて口角泡を飛ばしていた。 そう、確かに二人の家には浅からぬ因縁があるのである。 まず、ルイズの生家のヴァリエール領とキュルケの生家のツェルプストー家は隣接しているのである。隣接している国の最接近領。 近所の者同士、仲良くできればいいのだがそうも行かなかった。両家は長い歳月において紛争が繰り広げられてきた。お互いに降り積もったわだかまりは易々と拭えるものではない。 またそれだけでなく、ヴァリエール家はツェルプストー家に幾度も婚約者や恋人を奪われてきたのである。このような経緯から、ルイズにしてみればツェルプストーには例え領地の石ころだろうと渡すまいという思いだった。 ルイズはこのような経緯をぜいぜいと息が乱れるまで躍起になって説明していた。そんなルイズを冷めたような瞳で見るレン。聞いてやるだけ良い猫だよ、うん。 「……そうそう、さっき私を守ろうとしてたのは良かったわよ。その調子で頑張りなさいね」 先程のレンの警戒を、ルイズもキュルケと同様に主人を守ろうとしているのだと判断したのだ。お陰で高ぶり続けていた怒りが少しだけ収束に向かう。自分が呼んだ使い魔はなかなか当たりじゃないか、と口元を綻ばせて朝食の席へ向かうルイズだった。 「じゃあ、此処で一旦お別れよ、レン」 貴族用の食堂、アルヴィーズの食堂までメイジと使い魔は辿り着いた。ここも浴室同様、使い魔が入ることはできない。レンは使い魔用の食事へ赴くこととなる。 「使い魔はあっちね。食べ終わったら此処で待ってなさい。それじゃね」 使い魔の食事が置いてある広場への方向を示して自分は食堂へ入る。目に入るのはいつもと変わらぬ贅の尽くされた食卓。それが今日は余計に輝いているように見えて、始祖ブリミルへの感謝を捧げ、普段より多めに食事を採るルイズであった。 食後の満足感を味わいながらレンと合流して教室へと向かう。大分機嫌の良くなったルイズの後ろをレンはとことこついてゆく。程無く教室へと辿り着き、自分の席へと座る。 今日は各々が召喚した使い魔を連れての授業。かなり壮観である。キュルケが召喚したサラマンダーに始まり、バグベアー、ジャイアントモール、果てに風竜など実に多彩だ。 大丈夫、うちのレンだって負けちゃいない……とレンに視線を転じてみると、なにやらかなり周りの使い魔たちを警戒している。体毛は逆立ち、ばっしばっしとせわしなく動く尻尾。 「大丈夫だってば。主人の指示がない限り襲ってきたりなんかしないから」 そう言ってレンの背中を撫でるも、身をよじってレンは避ける。更に座っているルイズから手の届かない位置に座り込んでしまった。 む、と不機嫌になるルイズ。主人が気を使ってやっているというのになんだその態度は。一言文句を言ってやろうと席を立とうとしたところでタイムアップ。今日の授業を担当するミセス・シュヴルーズが教室に入ってきた。 「皆さんおはようございます。昨日の使い魔召喚は無事終わったようですね。先生、毎年生徒の皆さんがどんな使い魔を召喚したのか楽しみにしておりますのよ」 (ああもう。タイミングの悪い……) 教師が入ってきてから席を立つのは行儀が悪い。そんなことを立派な貴族を目指すルイズが出来ようはずもない。胸の中にくすぶりを抱きながら座り直す。 ちらっとレンの様子を横目で見ると、未だに他の使い魔たちへの警戒は解いていないようだった。大丈夫だって言ってるのに、と思いながらルイズは開始された授業へ耳を傾けた。 今日の授業は魔法の属性についての復習だった。誰でも共通して使えるコモン・マジックから始まり、火、水、風、土の4属性。更に現在は失われ、今は伝説となっている系統もあるのだが、6000年も使った人間の記録がないためにこの授業では軽い解説だけで終わった。 そこからメイジのランクについて。メイジの技量は、ドット、ライン、トライアングル、スクウェアとレベルが上昇していき、ランクが上がる度に魔法行使に必要な精神力が上昇し、強力な魔法が使えることの解説だった。 今日の授業内容は、座学の優秀なルイズには、いや他の生徒も皆理解していることだろう。この程度のことはとメイジにとっては常識だ。シュヴルーズ先生も新年度初授業の今日はウォーミングアップのつもりなのだろう。 そんなルイズは授業を真面目に受けるも、頭は他のことを考えていた。考えるのは自身の使い魔のこと。今朝起床したときの様子を考えると、猫の姿の今も人並の知性を有していると見ていいだろう。 今は土のトライアングルとしての力を披露するため、『錬金』の魔法を実演している『赤土』のシュヴルーズのことをじっと見つめている。錬金で石ころが真鍮に変わったときは只でさえ大きい瞳が真ん丸になっていた。そんなに錬金が珍しかったのだろうか。 とにかくレンに関しては聞きたいことが多すぎる。夢魔と言う種族のこと、彼女の使い魔としての力量のこと、そして彼女が居たという世界のこと。これからじっくり聞き出してやろう、とその横顔をじっくり見ていた。それが悪かったのだろう。 「ミス・ヴァリエール。喚んだばかり自分の使い魔が気になるのは分かりますが、授業に集中してくださいね?」 「は、はい!すみません」 先生からの指摘に慌てて答えるももう遅い。周りの生徒がくすくすと忍び笑いを漏らすが、それにも耐えるしかない。今のはどうしようもない自分の失態だ。 「丁度良いですね。ミス・ヴァリエール。貴方に錬金の実践をして貰います。前へ出てきて下さい」 「え!?」 え、その声はルイズが発した物だったが、クラスメイトたちの発したかった言葉も正に同じだった。 「シュヴルーズ先生!」 「なんですか? ミス・ツェルプストー」 「先生は……ルイズの授業を受け持つのは初めてですよね?」 「ええ。ですが彼女の学習態度については聞きいております。とても勉強熱心なメイジだと」 「いや、それは間違っていないんですが……」 「彼女の魔法は危険なんです!」 キュルケの後に言葉を繋げたのは、太っちょの男性メイジ、マリコルヌだった。どうでも良いがマリコルヌって言いにくいし書き難い上誤字りやすい。とある菌糸の人の天敵になれそうだ。 「ちょっと風っぴき! 危険って言うのはどういう事よ!」 「誰が風っぴきだ!? 僕は『風上』のマリコルヌだ! キミの魔法が危険なことはクラスメイト全員がよく分かってるんだ!」 「そうよルイズ。今まで貴方が魔法を使ってきた時のことを思い出してみなさいな」 「ミスタ・グランドプレにミス・ツェルプストー。やる前から否定してはいけません。少々言い過ぎではありませんか?」 「「貴方はルイズの魔法を知らないんです」」 期せずしてハモった二人の声にうんうんと頷くクラスメイトたち。一部我関せずと本を読んでいる奴も居たが。 「実演なら私が「私、やります。やらせて下さい!」 ルイズの代わりにやろうと申し出ようとしたキュルケだったが、他ならぬルイズ自身によってそれは遮られた。クラスメイトたちの怯えるような態度が、ルイズの負けず嫌いの精神を刺激してしまったようだ。 「ルイズ、やめてちょうだい。お願い」 キュルケの制止の言葉ももはや火に油でしかない。ルイズは発火しやすいという意味では正に油だ。ずんずんと壇上へと赴くルイズ。そんなルイズを見ながらクラスメイトたちはそそくさと座席の下へと退避し始めていた。 「ミス・ヴァリエール。貴方が変えたいと思う物を強く心の中に思い浮かべるのです」 シュヴルーズの説明を聞きながら、ルイズは机の上の真鍮を親の敵のように固く見つめていた。 (大丈夫。今日の私は大丈夫。だって……) ちらりとルイズは後ろを振り向く。視線の先には、こちらを見ている赤い双眸が。 (昨日までの私とは違う。サモン・サーヴァント、コントラクト・サーヴァントという魔法を成功してるんだから。できるって信じるの。信じるのよルイズ!) 自分を見てくれている使い魔の視線を感じ、彼女のテンションはMAX最高潮。生涯三回目の魔法成功を成し遂げるべく、呪文を唱えて真鍮へ杖を振り下ろす――! 「――錬金っ!!」 雄叫びのような詠唱と共に、真鍮が光る。 そして、爆発が起こった。 爆発付近にいたシュヴルーズは、爆風に吹き飛ばされて壁に激突。人事不肖に陥った。 「うわ、落ち着けリコ!」 「僕のクヴァーシルが食われたー!」 「またかよ『ゼロ』! ゼロのルイズ!」 「だからあいつに魔法を使わせるなと言ったんだ!」 クラスのメイジたちは爆発を察していたので無事だったが、使い魔たちは突然生じた爆発にパニックを起こしていた。大小様々な動物が暴れ回る中、ルイズへの罵声まで合わさって正に阿鼻叫喚の風景である。 そんな中、爆発を起こしたルイズ本人は煤にまみれているものの無傷である。けほっと咳を一つ吐いて、一言。 「……ちょっと失敗したみたいね」 「「「「「どこがちょっとだ!!!!!」」」」」 『ゼロ』のルイズ。ゼロの所以は成功率ゼロからきている。メイジでありながら魔法の全く使えぬメイジ。それが彼女だった。 爆発により教室はしっちゃかめっちゃか。とても授業が続けられる状態ではない。シュヴルーズも保健室へと連れて行かれ、午前中の授業は中止と相成った。そんな誰もいなくなった教室で、ひとり掃除を行う者が居る。それは、メイド。いいえ、ルイズです。 爆発を起こした罰として、ルイズは教室の掃除を命じられていた。メイジられたと言っても魔法を使って掃除をしろという意味ではない。むしろ魔法を使えば惨劇が再びである。そのことを重々承知している教師は『掃除に魔法の行使禁止』と厳命していた。 眉を吊り上げた不機嫌100%の顔でルイズは掃除をしている。そんな主人を見ているのは言わずもがな、彼女の使い魔のレンだった。 「……なんで、また失敗なのよ」 手を止めて、誰に聞かせるわけでもなくルイズは呟く。視線は床に固定されたまま。声には隠しようのない悔しさが滲み出ていた。 「やっと、昨日魔法が成功したのよ? もう私はゼロじゃない。ゼロじゃないのに……なんで爆発するのよ!?」 手にしていたモップを癇癪のままに叩きつける。そんなことをしても魔法が成功しない事も、教室が片づく訳でないことも分かっている。気分が良くなるわけでもなく、むしろぐちゃぐちゃとした想いが吐き気をもよおす程膨れあがるばかりだ。 それでも、歯を食いしばって泣くのは堪えた。だって、自分の使い魔が見ているのだ。夢の中で見た時は、可憐としか言いようがない外見のクセに、冷たい目でこちらを見ていた幼女。不遜な態度で主人を敬わない使い魔。 それでも、蔑まれるばかりの日常でようやく得ることができた自分の味方。弱みを見せられるわけが無いではないか。 体の中で暴れまわる激情に必死で耐えていると、かたんと足元から物音が。音の方へ目を向けると、レンがモップの柄を咥えてこちらへ差し出していた。 「レン……!!」 使い魔の優しさに今までとは違う感情が沸きあがってくる。最高じゃないか、私の使い魔は! 感極まって自分の使い魔を抱きしめ――ようとして、するっと白猫は抱擁から逃れた。 「ふぇ?」 白猫はそのまま教室の扉へ突撃。教室外へと移動し、あっという間にルイズの視界から消えた。 「……」 ルイズは空気を抱きしめたまま固まっている。その硬直が徐々に憤怒で解けてゆく。ぶるぶると震えながら、先ほどとは違った激情のまま、叫ぶ――! 「あんの、バカ猫ぉーーーー!!!」 前ページ次ページゼロの白猫
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/324.html
「ガンパレードマーチ」の速水厚志(魔王版)が召喚される話 ■ 第一部 青と虚無 ├ ゼロのぽややん ~プロローグ~ ├ ゼロのぽややん 1 ├ ゼロのぽややん 2 ├ ゼロのぽややん 3 ├ ゼロのぽややん 4 ├ ゼロのぽややん 5 ├ ゼロのぽややん 6 ├ ゼロのぽややん 7 ├ ゼロのぽややん 8 ├ ゼロのぽややん 9 ├ ゼロのぽややん 10 ├ ゼロのぽややん 11 └ ゼロのぽややん ~エピローグ~ ゼロのぽややん 外伝 ゼロのぽややん 外伝2 ゼロのぽややん 外伝3 ゼロのぽややん 外伝?
https://w.atwiki.jp/subcul40/pages/58.html
ゼロのしま せいぶ グミ 依頼主 目的 場所 難しさ お礼 パス 備考 アイテム 依頼主 目的 場所 難しさ お礼 パス 備考 トリトドン メガヤンマをさがして とりかえす ゼロのしま せいぶ B28F ☆5(500) あやしいパッチ 8T65 FYK@ F=J0@0K8 0MNP HP11 ナエトル ナマズンをさがして とりかえす ゼロのしま せいぶ B30F ☆5(500) ◎ストーンエッジ -K8= 6JFY @QX06SQK 0X57 K@S- ジバコイル ドガースを たいほする ゼロのしま せいぶ B31F ☆5(500) ◎ストーンエッジ &8XR WNY- @5#9SH=H S=W6 #@04 コイル ウパーを たいほする ゼロのしま せいぶ B35F ☆6(700) ◎だいもんじ 2T4J 0@%0 W@94T8Y5 +#&N C=#T キノガッサ サイホーンをさがして とりかえす ゼロのしま せいぶ B36F ☆6(700) ブロムヘキシン TK8X @%SH =&J=JF7% S%TY 8#J# ☆アイテム 依頼主 目的 場所 難しさ お礼 パス 備考 タマゴ(♂) 依頼主 目的 場所 難しさ パス 備考 タマゴ(♀) 依頼主 目的 場所 難しさ パス 備考 依頼主が仲間になる依頼 依頼主 目的 場所 難しさ 種族・性別 パス 備考 おうごんのま依頼 依頼主 場所 難しさ お礼/種族・性別 パス 備考 たからさがし依頼 依頼主 探すアイテム 場所 難しさ お礼/種族・性別 パス 備考
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2277.html
7話 「……それで、生徒たちはどうじゃね?」 「既に眠りの鐘の効果は解けています。ただ……」 「ただ?」 「ギーシュ・ド・グラモンが昏睡状態です」 「……そうかね」 ロングビルの報告を受けたオスマンはそれだけ言って、深いため息をついた。 その横にいるコルベールもいつになくこわばった表情をしている。 『間違っていたと分かった時には全てが手遅れでしょう』 コルベールが言っていた言葉だ。 まさにその通りだった。 ギーシュはあの亜人の手にかかり、未だ意識不明の状態。 幸い怪我などはないようだが、あったとしてもこの状態の前では全てが小事だったろう。 「それとオールド・オスマン。『眠りの鐘』を使用したのは誰か、と教師たちが騒いでおりますが……」 「いたずらネズミが宝物庫の中で鐘をひっくり返しでもしたんじゃろ。 気にせんように言っておきなさい」 「かしこまりました」 「ああ、それとミス・ロングビル」 「何でしょう?」 「ミス・ヴァリエールを呼んできてくれるかね?」 「かしこまりました」 ロングビルが学院長室を出ていくのを見届けて、オスマンは再度口を開いた。 「コルベール君。あの亜人は……『ガンダールヴ』だと思うかね?」 「どうでしょう。まだ力を隠しているようですし」 「と、言うと?」 「私から言い出しておいてこんな事を言うのもなんですが、『あれ』は武器を使っていません。 ガンダールヴはあらゆる武器を駆使して戦い、1000人の軍隊を一人で壊滅させたそうですが、 『あれ』は自分の肉体と技術だけで、7体のゴーレムを制圧しました。 とはいえ技術だけでは到底1000人を相手にするのは不可能です。ゆえに……」 「自分が満足する程度のレベルで戦ったと、そういうことかね?」 オスマンがコルベールの言葉を引き継いだ。 「恐らくは」 それにコルベールは短く答える。 「ふうむ……」 オスマンは指を組んでため息をつく。 「コルベール君。軍隊が『壊滅する』とはどういうことを言うのかね?」 「軍隊の戦力としての無力化、および組織としての無力化がそれに当たりますが……まさか!」 「そうじゃ、コルベール君」 オスマンが重々しい口調で言う。 「軍隊は武力だけで壊滅するとは限らん。欺き、騙し、脅すことでも壊滅するのじゃよ」 そして、そのルイズの部屋では。 「ねえ、ホワイトスネイク……」 ベッドに腰掛けたルイズが遠慮のかかった声でホワイトスネイクに声をかける。 だがホワイトスネイクは返事をしない。 椅子に座ってギーシュから奪ったDISCを頭に差し、さっきからずっとその中身を見ているのだ。 「……あんた、一体何したの?」 再度ルイズが問いかける。 しかしホワイトスネイクは答えない。 「……へ、返事ぐらいしたって」 「スゴク『イイ』」 「……は?」 「私ガ全ク知ラナイ世界ノ記憶……スゴク『イイ』ナ。 タッタ一人ノ記憶ナノニ、ソコカラ多クノコトガ読ミ取レル……多クノコトヲ学ベル……スゴク『イイ』感ジダ」 「あんた……何言って……」 「コレマデ私ガ見テキタ記憶ハ必ズシモ何処カデ他ノ世界ト明確ナ繋ガリガアッタ。 シカシコノ記憶ニハソレガナイ。……ソレガスゴク『イイ』ンダ」 熱に浮かされたような口調で淡々と言うホワイトスネイク。 ルイズの言葉が届いているとは、どうにも考えにくかった。 「……オット、ココデ終ワリカ。100万倍速ダッタガ見タコトニハ変ワリハナイ……コレデヒトマズハ安心デキルナ」 ホワイトスネイクはそう言って頭からDISCを抜き取り、またそれを腕に差し込んで収納した。 「……あんた、ギーシュに何したの?」 またルイズが聞く。 「『記憶』ヲ奪ッタノダ」 心底面倒臭そうにホワイトスネイクが答える。 「『記憶』を奪う……って……」 ルイズの脳裏にある言葉が思い出される。 『オ前ガソノ半年ノ間ニ私ニ認メサセルダケノ者ニナッタナラ、オ前ノ勝チダ。 ダガナレナカッタナラ……オ前ノ記憶ヲ貰ッテイクゾ』 『オ前ノ記憶ヲ貰ッテイクゾ』 『記憶』 「……ああっ!!」 思わず立ち上がるルイズ。 「思イ出シタヨーダナ」 「あんた、わたしにあんなことをする気で……」 「ソウナッタノハタッタ一ツノシンプルナ理由ノタメダ」 「何よ!?」 「オ前ハ私ヲ怒ラセタ」 あまりにもシンプルで、しかし重い言葉だった。 ルイズが何か言い返すには、重すぎた。 「……わたし、あんたが怖いわ」 ぽつりとルイズが呟いた。 「ギーシュがね、まだ目を覚まさないみたいなの。 確かにギーシュはやり過ぎたわよ。ワルキューレを全部出して、その上あんなに武装させて……。 でも、別にここまでしなくたって」 「ソンナノジャアナイ」 「どういうこと?」 「私ハ決闘スルト決マッタ時カラ、アノ小僧ノ記憶ヲ奪ウツモリダッタ」 「じゃ、じゃあ最初にギーシュにいちゃもんつけられたときから怒ってたってこと?」 「ソレモ違ウ。決闘ハタダノキッカケダ。 決闘ガ起キナカッタトシテモ……私ハ他ノ誰カカラ記憶ヲ奪ッテイタサ」 「な、なによそれ……。っていうか、あんた、知ってるんじゃないの? 記憶を奪ったら、どうなるかって!」 「記憶ヲ奪ワレタ者ハ生キル目的ヲ失ウ。 ソレト並行シテ全身ノ筋肉ハアットイウ間ニ衰エ……ソシテ死ニ至ル」 こともなげにホワイトスネイクは言ってのけた。 「そ、そんな……じゃあギーシュは!」 「ソノウチ死ヌ。コノ世界ゴ自慢ノ魔法ガイツマデ持タセラレルカハ分カランガ、1週間持テバイイ方ダローナ」 そう語るホワイトスネイクの口調には、何の深刻さもなかった。 「明日は雨が降るだろうな」とか言うのと同じぐらいに軽かった。 そのことに、ルイズはゾッとした。 「あ、あんた、一体何やってるのよ……早く、返さなきゃ! ギーシュの記憶、まだあんたが持ってるんでしょ!」 「……」 「なにボケっとしてんのよ! 早く行くのよ! 行かないと……」 「ドーモ、オ前ハ勘違イシテルラシイナ……」 「……え?」 「オ前……私ノコトヲ『実はいいやつだ』トカ思ッテナイカ? アルイハ『本当は話の分かるやつだ』 トカ思ッテナイカ?」 「ど、どういうことよ!」 「オ前ハ甘ッチョロインダヨ、ルイズ」 「なっ……」 うろたえるルイズを前にホワイトスネイクは立ち上がり、さらに言う。 「私ガ何ヲシタト思ッテイル? 『記憶』ヲ奪ッタノダ。 奪エバドーナルノカ、全部承知ノ上デヤッタンダ。 ツイデニ魔法ノ才能ダッテ奪ッテヤッタ」 「さ、才能!? それって、あんたが今朝言ってた……」 「ソウダ、アノ小僧ノ魔法ノ才能ダ。 コレハオ前ノ頭ニ差シ込メバ、今日カラオ前モ『立派なメイジ』ダナ。 アンナチンケナ人形ヲ7ツ作レルダケデモ、『ゼロ』ニ比ベレバズット立派ダローナ」 「あんた、何てことを……」 ルイズは絶句した。 「『何てこと』? 今『何てこと』ト言ッタカ? 甘イナ、ルイズ。ヤハリ甘スギル。 『この程度』ノコトデ『何てこと』ダト? 私ガコレヲ何回ヤッテキタト思ッテイル? 私ガコレヲ何年続ケテキタト思ッテイル? 私ガ一体、何人殺シテキタト思ッテイル? 言ッテミロ、ルイズ!」 「あ、あんたは……あんたは……」 「……ヤハリ、コノ程度カ。ナラバ……」 ホワイトスネイクはそう言うと、おもむろに自分の腕から一枚のDISCを抜き取った。 そして―― 「オ前ガ、自分デ見テクルンダナ」 それを、ルイズの額に差し込んだ。 その瞬間ルイズの視界は真っ暗になり、そして――光に包まれた。 目を開けたルイズが見たのは、見たことも無い光景だった。 どうやらどこかの室内らしい。 壁は石造りのようで、滑らかで灰色。 天井にはルイズが見たことも無いような、光を放つランプに似た道具。 でもその輝きはランプの火とは違う。 ランプよりもっと強い輝きを放っていて、それでいて無機質な光だ。 そして壁には――血まみれになった男が一人、荒い息で壁に背を預けて床に座っていた。 深い傷を負っているらしくぐったりとしている。 男の数メイル先には、なにやら金属で出来ているような、黒光りする道具が転がっている。 そのあまりにも奇妙な光景にルイズは言葉を失い、ただ目を見開いてそれを見るばかりだった。 そうしてこの光景に目を奪われていると、男が何かを喋り始めた。 誰かに話しかけているようだ。 だがどこかノイズがかかっているようで、何を言っているのかはよく聞こえない。 「やっ……たな……。……を止め……るスタ…………いに! 手に入れ……。 そして………は死んだ。弾が………ブチ込んで……よ」 しかしそれに答える声は、あまりにも鮮明で、あまりにも聞き覚えがありすぎた。 そしてその声がするほうを見て、ルイズは絶句した。 「アア……目的ハ全テ手ニ入レタ」 声の主は、ホワイトスネイクだった。 (え……? ちょ、これって……ど、どういうこと? 何でホワイトスネイクが? それにそもそもこの場所は一体何なの? この血まみれの男は一体何なの?) そう自問して、ルイズはあることに気づく。 (あいつ……『別の世界から来た』って言ってた……。 だとしたらこれは、あいつが前にいた世界……ってことなの……?) 夢の映像はルイズの疑問に答えるかのように淡々と続いていく。 「君ノオカゲダ、ジョンガリ・A! 我々ハ本当ニイイコンビダ」 「フフ……頼む………に連れて行ってくれ………しちまった」 血まみれの男がホワイトスネイクに何か頼み事をしている。 どうやらこの男とホワイトスネイクは仲間らしい。 だがよく聞こえない。 やはり途切れ途切れになって聞こえるだけだ。 そしてホワイトスネイクはそれを意にも介さず――床に転がる、黒光りする道具を手に取った。 それを、男に向かって構える。 (ち、ちょっと、ホワイトスネイク! あんた一体何する気よ!? あの血まみれの男の人をさっさと助けなさいよ! 仲間なんじゃないの!?) ルイズは必死に声を張り上げる。 だがその声は、二人には全く聞こえていないらしい。 いや、違う。 声さえ、出せていなかった。 恐怖のせいなのか、あるいは別の何かのためなのか。 ルイズが心で思ったことは、言葉として出てこなかった。 「なあ……俺の銃………ないか?」 男がキョロキョロしている。 さっきの道具を探しているらしい。 だが次の瞬間―― 「ココダ」 ドシュッ! ホワイトスネイクの手に握られた道具から放たれた弾丸が、男の喉を貫いた。 男は、声も上げずに死んだ。 (こ……殺し、たの? ホワイトスネイク……あいつ、今! 仲間なのに……っていうか、さっきの会話! あいつ、もしかして……) 混乱するルイズを尻目に、夢の映像はやはり淡々と続く。 男を殺したホワイトスネイクは、ゆっくりと男の死体に近づき、そして男の手に、先ほどの道具を握らせた。 そして薄ら笑いを浮かべながら、言った。 「ケネディヲ暗殺シタ犯人モ……コウヤッテ人生ヲ終エタ。 ……リー・ハーベイ・オズワルド……ダッケ? 確カ……。 『死人ニ口ナシ』。ダカラ歴史ハ丸ク治マッタ……。 私ノ正体ヲ知ル者ハオマエダケダシ、『看守殺シ』ノ罪モ、オマエ一人ノ仕業ダ……」 (もしかして、仲間のフリして利用して、それで殺したの……?) そこで映像は暗転した。 そして次々と、いくつもの場面を映していく。 心に闇を抱えるものにつけ込み、利用するホワイトスネイクを。 他人の欲望を利用するホワイトスネイクを。 そしてホワイトスネイクが付き従う、浅黒い肌をした黒服の男を。 エンリコ・プッチを。 エンリコ・プッチは、まさしくそれまでに映されたホワイトスネイクの人間版であった。 相手の心の闇を利用し、欲望を利用し、そして使い捨てる。 そしてそればかりではなかった。 敵と戦えばどんな姑息で卑怯な手段も平気で取った。 相手にとって何よりも、命よりも大切なものをエサにして逃走し、 追い詰められれば醜く命乞いをし、スキあらば一瞬で命乞いをした相手を殺す。 ホワイトスネイクは、そんな男に付き従っていたのだ。 そして、それらの行動をその身をもって支えていた。 そのことが、ルイズの心に一つの感情を灯していった。 そして、また一つの映像に行き着いた。 そこでエンリコ・プッチは、再び醜く命乞いをしていた。 神だの大いなる意思だの、わけのわからない大義を持ち出して、 相手がさも無知であるかのように高説を振るっていた。 しかし相手の少年は命乞いを聞き入れなかった。 男はこれまでに重ねた邪悪な行いの全ての報いを受けるかのように頭を潰され、全身を砕かれ……そして死んだ。 その映像を最後に、また視界が真っ暗になった。 「ドウダ? 何カ分カッタカ?」 ルイズの額から抜き取ったDISCを収納しながら、ホワイトスネイクが言う。 「……ええ、分かったわ。すごく……よく分かった」 「ソウカ、ソレハ何ヨリダ」 ルイズは心の奥底からふつふつと湧き上がる感情に驚いていた。 たとえ魔法が全然成功しなくても、たとえゼロとバカにされても、こんな気持ちにはならなかった。 「ソウ言エバ……ソーダナ。モウ一ツ試シタイコトガアッタ」 ホワイトスネイクはそう言ってまたDISCを一枚取り出すと、それをルイズに投げた。 ギーシュの魔法の才能のDISCだ。 ズギュン! そしてそのDISCは音を立ててルイスの額に差し込まれた。 「一人ノ人間カラ取リ出シタ魔法ノ才能ハ果タシテ別ノ人間ニ扱エルノカ、ッテコトダ。 イクラ才能トシテ取リ出セテモ、実際ニ使エナケレバ意味ガ……」 そう言うホワイトスネイクの言葉をまるで聞いていないかのように、ルイズは短くルーンを唱えて杖を振る。 するとルイズの目の前の床から、床から一体のワルキューレが一瞬で出てきた。 植物の成長を超高速で早回ししたような感じだった。 「オット、上手クイッタヨーダナ」 ホワイトスネイクが口端に笑みを浮かべて、椅子に腰掛ける。 だがそれを無視して、ルイズはまた杖を振った。 さらに床から二振りの剣が伸びる。 ワルキューレはそれをおもむろに手に取った。 「ホーウ……中々上手クヤルモノダ。 魔法ガ成功スルノハ、コレガ初メテダッテノニ」 「もう何も言わなくていいわ」 「何ダト?」 聞き返すホワイトスネイクに、ルイズは噛み締めるように言った。 「もう、何も、言わなくっていいって、言ったのよ」 その直後だった。 ルイズの前にいたワルキューレが素早く二刀を振り上げ、そして―― ドピュウゥッ! ホワイトスネイクに斬りかかったッ! 「ヌゥッ!」 ホワイトスネイクは座っていた椅子を素早く持ち上げて盾にする。 ワルキューレの攻撃は椅子をバラバラにしたが、しかしそのためにホワイトスネイクには届かなかった。 そしてホワイトスネイクは素早くワルキューレから間合いを取る。 しかし、ホワイトスネイクに焦りは見られない。 「フフフ……ソレデイイ。ソレガ満点ノ回答ダ、ルイズ」 むしろ、これこそがホワイトスネイクが望んでいたことだったのだ。 「さっきまでは……あんたへの怒りより、あんたへの恐怖の方が強かった。 わたしもギーシュみたいになるんじゃないかって。そのことばっかりが怖かった。 でも……今は違う! 心の底から! あんたを許せないって思いが湧き上がってくるッ!」 「ソレデ……ドースル気ダ? 私ヲ殺スノカ?」 「違うわ。殺すんじゃあない、勝つのよ」 ホワイトスネイクは何も言わなかった。 何も言わずに笑みを浮かべ、構えを取った。 ルイズも何も言わずにワルキューレを構えさせ、さらに二体のワルキューレを作る。 ニ体とも剣と盾で武装した、オーソドックスなタイプだ。 そしてニ刀のワルキューレとホワイトスネイクが、同時に動いた。 To Be Continued...