約 439,955 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1205.html
「まぁ、こんなものですかね?」 「意外と…… う、まく……ハァ、ハァ、……できた…… な」 穴を掘って作った竈を見、僕はハンカチで汗をぬぐう。 地面を掘って、穴を固めるだけの作業なのだが、意外に疲れた。 運動不足気味の才人などは、既に肩で息をしている。 ……友人として、少しばかり情けない。 さて、それだけ苦労した竈の出来はというと、物置から拝借してきたスコップとテコで作った割には、かなりしっかりした代物になった。 上を塞いでも火が消えないよう、通風口を広く、そして三方向にとりつつ、それなりの形に仕上げたそれは、日本のキャンプ場でも、十分に使えるのではないだろうか? ここが柔らかい土壌なので、少しばかり強度が心配であるが。 試しに上に鍋をおいて、水を張ってみた。 「おお、くずれねぇ!」 才人が声を弾ませて言う。 しかし、よく見ると、ポロポロ土がはがれ落ちており、まだ地が弱い。 数日に一回は補強する必要があるだろう。 粘土でもあれば、中の石を固定できて良いのだが、流石にそれは贅沢か。 「魔法が使えれば、錬金で楽ができるでしょうが……」 「ルイズに任せたら、鍋ごとドカーンだけどな」 「そうですね」 そういって才人はツボにはまったのか、再び笑い出す。 どうせ聞こえてないだろうから、僕も同意しておいた。 ……そういえばメイジを操った時、魔法は使えるものなのだろうか? それが出来たら、僕らの待遇も大分楽になると云うものなのだが。 今度、ギーシュ辺りで試してみるか。 かなり作業に没頭していたので、かなり時間が経っているのではと思い、僕は腕時計を見る。 作業を初めて1時間も経っていなかった。 相当、集中していたようだ。 多分今頃、貴族達も休憩を終えた頃だろう。 「と、才人。そろそろルイズの授業の時間が近いですが、行かなくて良いんですか?」 「あ~……」 才人は今、気付いた様だ。 異世界に来ても、どこか抜けている部分は変わらないままか。 まぁ、すぐ変わられたら非常に気持ち悪いが。 結局、続きは僕が作るということで、特にやることも無い、もとい、たいして役に立たない才人は、ルイズについていく事となった。 校舎に走っていく才人を見送り、僕はふと、離れて三日しか経っていない家を思い出す。 今頃、家はどうなっているのだろう? そういえば、僕の部屋のプランターのプチトマトはどうなったのだろうか。 きっと今頃、食べ頃なんだろうな。 もう、食べられてしまったのだろうか? せっかくここまで一生懸命育ててきたのに……。 僕は目線を才人から、自分の腕時計へと戻し、願をかけた。 せめて、僕のプティトメェトゥが全滅する前に帰ろうと。 暫く感傷に浸っていた僕は、大きく呼吸をしていつもの感覚を取り戻す。 「ダメだな…… すぐ感傷に浸ってしまう」 僕は自分に言い聞かせるように、言葉を口に出した。 そうだ。逆に考えるんだ。 こっちでもプチトマトを栽培すればいいと考えるんだ。 ……あるのかどうかは知らないが。 そこでふと、気が付く。 そういえば才人は余り、家のことで感傷に浸っている様子はない。 正直、僕らの様な年であれば、家庭が荒れてでもいない限り、母や父の心配ぐらいはすると思うのだが。 いや、今やるべき事が多くて、干渉している余裕が無いだけかもしれない。 僕は暫く考えて、そう、結論づけた。 ともかく僕も、今はやるべき事をきっちり、やっておかなくてはな。 さしあたって、今、僕のやるべき事はお風呂作りだ。 なら、どうする? 竈は出来ている。 垢擦りや石けんは、おいおい作っていけばいいだろう。 ともかく今は、このお風呂を浸かれる状態にすることだ。 となると、問題は…… 「コレ…… ですね」 地面においてあった、この鍋用の大きな木の蓋に視線を向ける。 それほど厚みが無く、人が乗るなんて事は想定していないであろうこの木の蓋に、果たして僕と才人が乗ることが出来るのか? 無理に決まっている。 何とかして、補強しなくてはならないだろう。 幸い、木を切り出す道具は手元にある。 そういえば、近くに森があったな。 そこでいい木片を探そう。 僕は早速、道具を持ち出して、森の方へと出かけていった。 そこは中々に綺麗な森で、材料となる木片は非常に多く存在した。 調度品に使う木材なのだろう。 表面は比較的、綺麗に磨かれて、様々な大きさに切り分けられていた。 その中から、かろうじて持てる木片を頂戴して、僕はそれをハイエロファントを使って背負いながら、元来た道を戻る。 しかし、木片がやや大きかったため、行きと違って学院まで直進することが出来ない。 何度か回り道をしたが、中々、学院には戻れなかった。 「しかたない。一度森から出るか」 とりあえず、僕はハイエロファントで辺りを探索しながら、森を出れる最短ルートを探し出す。 その途上、森が開けた広場に出た。 そこで僕は、日本人にとっては、もう見飽きたよ、という様なぐらい、見慣れた植物を見る。 「これは、ヨモギか……」 ヨモギだ。その香りから見て、ほぼ間違いないだろう。 それにしてもいい香りだ。 丁度いい。いくつか摘んで帰ろう。 僕はかがみ込んで、いくつか足下のそれを摘んでいく。 意外な所で見つけた、その接点に、僕は気持ちが弾むのを抑えられなかった。 制服のポケット一杯にヨモギを詰め、僕はまた、学院への道を歩き出した。 森を出るために、相当大回りした結果、結局森を出る頃には、日が完全にあがってしまっていた。 さっさと作業を終わらして、休憩しよう。 「良しッ!」 持ってきた木片は、鍋に丁度いいサイズであった。 試しに何度か、板の上でジャンプしてみたが、びくともしない。 これで、とりあえずは完成したとみて良いだろう。 さて、一区切りついたことだし…… 「この辺りで、お昼ご飯にしましょうか」 僕はご飯をもらいに、厨房の方へと足を向けた。 「お~、来たふぁ、花京院」 「……才人」 厨房には既に才人がいた。 シチューとパンを口いっぱいに頬張り、リスのような顔になっている。 もう少し、上品には食べられないのか? 「あ、ノリアキさん。こちらの席にどうぞ」 呆れ気味に才人の食事風景を見ている僕を、シエスタが席に案内してくれる。 シエスタのこの笑顔には、僕は頭の下がる思いだ。 なんというか、こう、癒される。 人生というものをよく知っている熟女も良いが、こういった感じの素朴な少女もいい。 恋をするなら、こういう、気のいい女性がいいと思います。 もちろん、そんなことは口に出さない。 そもそも今、そんなことを言い出せば引かれるに決まっている。 まだ、僕は彼らと会って二日しか経っていないのだ。 しかし、互いに心が通じ合わなければ、何年付き合っても、知り合ったばかりと同じだ。 白頭まで新の如しとは、よくいったものだな。 そういうことを延々と考えながら、僕がシエスタに案内された席は、他と少々違う造りになっていた。 強いていうなら、目の前の才人の席と似たような造りだ。 「何か、席が豪華に見えるんですが……」 「はい。それはノリアキさん専用の椅子です。厨房のみんなで用意したんです」 ここまで丁寧な接待を受けると、申し訳ない気分になってくる。 というか、こういう雰囲気は僕は苦手だ。 他の人の望みや、勢いに合わせるというのは、どうも…… しかし、流石に雰囲気を壊してしまうほど空気が読めない訳ではない。 僕はいつもの様に、優等生の顔を浮かべて、目の前の前にある、僕のために用意された食事に手をつけた。 ――――――――― さて、食事も終えて、次の作業まで、いささかの休憩を取る。 僕たちの目の前には、気をよくしたマルトーさんが開けた、アルビオンという場所で取れた年代物の葡萄酒が置かれている。 才人はそれを勢いよくのみ、顔を真っ赤にしている。 時折、ぼんやりとした目で何もない所を眺めている所を見ると、完全に酔っぱらっているんだろう。 僕の方はといえば、少しずつ口の中で滑らせて、その味を楽しんでいる。 そんな僕らの様子を、シエスタはうっとりとした面もちで眺めている。 僕らが酒を飲むのはおかしな事だろうか? 確かに、僕らは日本では未成年だが、この文明レベルで、そういう年による区分があるとは思えない。 ましてや、こういう世界ならごくごく飲んでも可笑しくないだろう。 もしかして今、僕は相当、変な顔をしているんじゃないだろうなッ! 身だしなみに気を遣っている僕としては、余り他人にみっともない姿を見られるわけには行かない。 僕は急ぎ、ポケットの中から、手鏡と櫛を探す。 クソッ! 僕も酔っていたみたいだ! 頭がぼんやりして、うまく探せない。 何か訳の分からないものが、大量にポケットに入っているし! 邪魔だ! 僕はポケットをひっくり返して、ポケットの中身を全てぶちまけた。 「あれ?」 それを見たシエスタが、何かに気がついたように声を挙げる。 シエスタは回り込んで僕の席の方へと近づき、僕のポケットから出たそれを拾い上げる。 「これ…… ムラサキヨモギ?」 ああ、そういえばヨモギを大量に摘んだんだったな。 僕は、シエスタの一言で、ようやくそのことを思い出した。 ついでに手鏡と櫛は、内ポケットの中だということも。 みっともない。 シエスタはその葉を一枚持って、僕に話しかけてきた。 「苦いの…… 好きなんですか?」 「……いえ、別にそういうわけでは」 「そうですか。でも珍しいですね。この辺りじゃ、余り取れないのに」 ヨモギって、そんなに苦かっただろうか? それは、多少苦みはあるだろうが、そんな格別いうほどでは……。 そう思い、一つ、ひょいと口に入れた。 「え、生のまま食べるんですか!?」 口に入れた瞬間。僕はシエスタの制止の理由を理解した。 「ブフォゥ!」 「きゃ!?」 「うわっ!」 「どうしたっ!?」 なんだコレは。 ヨモギというのはこんな味だったか? もっと草っぽい味だったはずだ。 断じて、こんなに苦い味じゃない。 しかし、この味どこかで…… 「な、生ゴーヤ……」 「え、え、え、え!?」 そうだ、子供の頃、両親に騙されて食べさせられた、生のゴーヤと同じ味だ。 苦い。苦すぎる。 その苦さは、アルコールで半分飛んでいた僕の意識を刈り取るには、十二分な破壊力を持っていた。 「ようこそ……『苦みの世界』へ……」 いつぞやの、青い髪のちびっこのそんな声を幻聴し、僕は机を枕に、夢の世界へと旅だったのだった。 To be contenued…… 0 51 2007/07/21
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/43.html
「仮面ライダー電王」の野上良太郎+α ゼロの電王1
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2252.html
「皇国の守護者」より新城直衛を召喚 ゼロの剣虎兵-1 ゼロの剣虎兵-2 ゼロの剣虎兵-3
https://w.atwiki.jp/lightnovel-words/pages/84.html
ゼロの使い魔 「なあデルフ」 「なんだ?」 「小さい頃の話していいか?」 「いいぜ」 「駅でさ、お婆さんが不良に絡まれてた。籠がぶつかったのなんだのって。 でも俺ガキだったから、助けるなんてできなくて見てただけだった。俺が強かったら、なんて思ったよ。 でも同時に、ほっとしたな。強かったら、助けにいかなきゃならねえもんなあ。強くったって、勝てるとはかぎらねえもんなあ」 「そうだねえ」 「そう。俺、強くなっちまった。力を手に入れちまった。もう言い訳できない。 あのときは力がなかったから、間に入れなくても言い訳できた。俺は弱いんだからしょうがないって。 でももう、言い訳できない。俺は今、 "強い" から。なにせあれだ。伝説のガンダールヴだからよ」 「うん」 「でもなあ……、強さったって外面だけだ。中身は俺、全然強くねえよな。なんも変わってねえ。 しょうがねえよな、ガンダールヴとか伝説の使い魔とか、いきなりだもんよ。覚悟とかできねえもんよ。 だからこういうの、柄じゃねえんだよ。みんなの盾になるとかよ、ほんとはすっごくイヤなんだよ。 怖くて震えるよ。死にたくねえよちくしょう」 「相棒はてんで義理がてえや」 「それが性分だからな。損すぎる」 「なあデルフ」 「なんだね?」 「俺、死ぬのか?」 「たぶん。まあなんだ、どうせならかっこつけな」 「なんで」 「もったいねえだろ」 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 「やいてないもんやいてないもんやいてないもん」 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 「さよなら、私の世界で一番大切な人」 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 「一年に二回。あんたとこれから、ずっといっしょにいたとして、三十年。いや、四十年かな? 五十年だったらいいわね……。そのときに見せるであろう、わたしの笑顔の回数」 「わたしね、もう、一生笑わない」 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 わたしね、もう一生笑わない。一生誰も愛さない * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 13 さようなら。わたしの世界で一番大事な人 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 13 一年に二回。あんたとこれから、ずっといっしょにいたとして、三十年。いや、四十年かな? 五十年だったらいいわね……。そのときに見せるであろう、わたしの笑顔の回数 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ゼロの使い魔 13
https://w.atwiki.jp/sansruriasarasi/pages/219.html
ゼロの悪魔/カンストシベ 直結 女好きでキモオタ 引きこもりなフリーター
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1174.html
「そうじゃったか・・・ミス・ロングビルがフーケじゃったとは・・・」 トリステイン魔法学院学院長室。 フーケを逮捕したメローネ達はオールド・オスマンに報告に来ていた。 「いや、怪しいとは思ってたんだよな~。酒場で給仕しててなんか可愛いから尻さわったら怒んないんだもんな~ 誰だって気があるって思うべ?いやホントしょーがねーよ。」 「そ、そうですな!美人はそれだけでいけない魔法使いですな!」 「しょーがねーよ。眼鏡だからな。政府のスパイじゃなくて良かったな。」 自分達を見る冷たい視線に気付き、オールド・オスマンは慌ててフォローを入れた。 「そ、そうじゃ!君達三人の『シュバリエ』の爵位申請を出しておいた。あ、タバサ君は すでに『シュバリエ』の爵位を持っているそうじゃから、精霊勲章を申請しておいたわい!」 その言葉に三人の顔が明るくなる。 「本当ですか、バカ・・・じゃなくて学院長!」 「ありがとうございます、色魔・・・じゃなくて学院長!」 「・・・いっぺん死ね(ペコリ」 そして急に思い出したようにルイズが尋ねる。 「・・・オールド・オスマン。メローネには何もないんですか・・・?」 「残念ながら・・・彼は貴族ではない。」 「別に欲しいもんなんかありゃしねえさ。・・・それに今回はオレは何もしてない。 フーケを捕まえたのは・・・お前らの手柄だ。」 ルイズの頭をなでながらメローネが言う。 「さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。いろいろあったが予定通り執り行う。 今日の主役は君達じゃ。せいぜい着飾ってくるのじゃぞ。」 「そーゆうことだ。オレは少し用事があるからお前らは先に行ってろ。」 三人が一礼して退室し、学院長室に残っているのは四人だけになった。 「さてと・・・。茶でも入れるか?新しく考えついたやつがあるんだ。」 「いやすまんのぅ。秘書がおらんようになってこれからが大変じゃわい。 そうじゃ。君が元いた世界に帰る方法だがな、当分見つかりそうにないわい。 ま、当分おとなしくここで生活してくれい。なぁに、そのうち見つかるって。」 「別に急いじゃあいない。戻ったところで・・・」 ここでメローネは重要な問題を思い出した。 戻ったところでどうする? 仲間は全員三途の川を渡ってしまった。オレ一人でボスを暗殺できるのだろうか? そもそも今イタリアはどうなってんだ? 「なぁボス。あんたスタンド使いって事はオレの世界の人間だよな・・・?」コトッ 「グラッツェ(ありがとう)。たぶんな・・・オレはイタリア人さ。」 「ちょうどいい。・・・パッショーネってギャング組織今どうなってるか知ってるか?」 その瞬間、ボスの形相が変わった。 「あぁ、知ってるさ!今じゃあジョルノとか言う新入りがボスになっちまってよぉ~! 麻薬のルート全部潰すは麻薬組織のことサツにたれ込むはですっかり腑抜けちまったよ!! 今じゃあ只の中身はいい人集団だよ!おかげでイタリアの治安が良くなったよ!しかもボンゴレの腑抜けなんかと提携するらしいしよぉ。 あの腐れコロネ!オレの・・・」 ここまで喋ったところでボスの様子が変わった。全身が痙攣し、目から血が出るは鼻から血が出るはで 最終的に口から血を噴いて死んでしまった。 「・・・メローネ君。何飲ませたんですか?」 「・・・はしばみ草をすりつぶして紅茶に入れた。名前はゴールドタバサナナ菜ブレンド。」 「ほぅ・・・ナナ菜とな?」 「知らんのか?これだ。見た目は只の草に似ているが・・・」 急にメローネが止まった。 「・・・これ只の雑草だ。ヤッベ、間違えた・・・。」 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 「惜しい人を亡くしましたね・・・。」 「アイツがいなかったら今頃俺達は死んでいたな。爺さん、像でもつくってやれ。」 「そうじゃな。正門から入ってすぐの所に立てようかの・・・。」 トリステイン魔法学院。 正門から入るとある銅像が立っているのがわかるだろう。 その人物の名はディアボロ。みんなからビッグボスなどと呼ばれ慕われている。 その像の台にはこう刻まれている。 『若者よ、死を恐れるな。死とはこの世に生きた証拠が無くなることである。 だから死を恐れるな。死を恐れるあまり何もしない者はすでに死んだも同然である。』 ディアボロの話によると、自分たちが狙っていたボスは皮肉なことに 自分たちを殺したあの新入りが倒したと言うことらしい。これで戻る理由が一個消えた。 仇討ちと言っても先に手を出したのは自分たちなのである。悪いのはこちらだ。 そうなると・・・元の世界、つまり地球に戻ったところで自分は二十四時間ネット三昧の ダメ人間の典型の生活を送ることになってしまう。もとよりチームの誰もいないのである。 戻るメリットと言えばコミケにいけることとインターネットに繋げることができることぐらいである。 アレ?戻らない方がよっぽど人間らしい暮らししてるんじゃね? いやいや、しょうもなくても現実は現実。ちゃんと戻らないと。 ちょっと待て。ここは一応現実だろ?何言っているんだオレは。 ここが現実?現実のオレがおにゃのこにかこまれているわけ無いじゃないですかギャルゲーやエロゲーじゃああるまいし。 いや待てって。じゃあここは何なんだ?と言うかオレはさっきから何を言っているんだ? アレ?なんかおかしいぞ?アレ? 「メローネ君!!」 「あ、え、はい?」 急にコルベールに呼ばれてきょどるメローネ。 「どうしたんじゃ?いきなり黙り込んで呼んでも返事をせんからびっくりしたぞ。」 オールド・オスマンが心配そうに言う。 「え、あぁ、疲れてんだよ。きっと疲れが出たんだよ。」 「そうなんですか?体には気をつけてくださいよ。」 「大丈夫だって。それより今夜のパーティ、オレも出てもいいのか?」 「まぁ、君なら大丈夫じゃろう。誰も文句は言わんて。」 「そうか。じゃあ楽しませてもらうぜ。」 そう言ってメローネは退室した。 アルヴィーズの食堂の二階。 フリッグの舞踏会はそこで行われていた。 着飾った教師達や生徒達がテーブルの周りで談笑している。 そのとき・・・ 「おい・・・あれって・・・」ザワザワ 「間違いない・・・」ガヤガヤ 「変態だぁぁぁぁぁ!!、メローネさんだぁぁぁぁ!!」 ステキスーツに身を包み、ステキパピヨンマスクを特別に装着していたメローネもこれにはビビった。 たちまち彼の周りに人だかりができる。男ばっかりであったが。 「何すかそのエレガントな格好!」「半端ねぇ!!」「オレのスーツがゴミに見えるぜ!!」 「はいはい、わかったからどけ。」 メローネは人混みをかき分け、キュルケが彼に接触するまえに料理と格闘しているタバサと接触した。 「やぁタバタン。奇遇だな。その料理はおいしいかい?」 「わりと。」 「そりゃあそうだ!マルトーの親父がつくったんだからな。不味いわけはない。」 そしてメローネは一礼するとこう言った。 「主賓が来るまえに一曲オレと踊ってくれませんか?シニョリータ。」 「・・・(コクリ」 「うおっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!楽士隊!とびきりファンキーでロックなの頼むぜ!!」 こうして変態とタバサの元、ダンスパーティが始まった。 「おぇぇぇぇぇ・・・・気持ち悪ぅぅぅぅ・・・」 一次会も終わり、パーティが始まる前の雰囲気に戻った頃、メローネは独りバルコニーにいた。 ダンスも終わり、豪勢な料理を食べていたメローネだったが、うっかりワインを一口飲んでしまったのである。 ワイン一口といえども、下戸である彼を酔わせるには充分。 気持ち悪くなった彼はバルコニーにいると言うわけである。 「紛らわしいんだよ・・・葡萄ジュースかと思ったじゃあねーか。 だいたいガキがワインなんて飲んでんじゃあねぇって・・・あー気持ち悪。」 そうこうしていると急に屋内が騒がしくなった。 どうやら主賓のルイズのお出ましらしい。 桃色がかった髪をバレッタにまとめ、肘まで届く白手袋。着ているドレスは胸元の開いたホワイトのパーティードレス。 主賓がそろったことにより、楽士隊が静かな音楽を奏で始めた。 即座に男子生徒達がダンスを申し込みにルイズの所へ殺到する。 しかしルイズは誰からも誘いを受けず、バルコニーへ向かった。 「楽しんでるみたいね。」 「これのどこが楽しんでるように見えるんだ阿呆。・・・あー気持ち悪ぅぅ。」 正直メローネも、人が衣装によってここまで変わるものかと感心していたがそれどころではなかった。 「ずいぶんヘ・・・立派なスーツじゃない。」 「こんなモン普段着るか。・・・それよりお前踊らないのか?」 「相手がいないのよ。」 「へーそう。・・・あーだいぶ楽になった気がする。しかし明日は地獄だなこりゃ。」 ぼやいているメローネにルイズは予想斜め上の行動に出た。 「踊って差し上げてもよくってよ。」スッ 「いや、まだそれどころじゃあないから。ホント気分悪いんだって。」 「ハァ・・・。今日だけ特別なんだからね。」 そう言うとルイズはドレスの裾をうやうやしく両手で持ち上げ、膝を曲げてメローネに一礼した。 「わたくしと一曲踊ってくれませんこと?ジェントルマン。」 「・・・ハァ。人の話聞いてんのか・・・。わかったわかった。特別に付き合ってやる。 しかし・・・踊れるかどうかわからんぞ?」 「・・・なによ。ちゃんと踊れるじゃない。」 「あー、酔いが良い方にまわったな・・・。」 ルイズのステップに平然とついて行くメローネ。 「・・・ねぇ、メローネ。信じてあげるわ。」 「あんだって?」 「貴方が別世界から来たって事。」 「あぁ、その事。別に信じてもらえなくても良かったんだがな。」 「・・・やっぱり帰りたいの?」 「まぁな。帰りたいっちゃあ帰りたい。でも今は世話の焼けるお嬢さんの世話で手一杯でね。」 「よく言うわよ。あんまり仕事しないくせに。」 「何を言うか!オレだって見えないところで頑張ってるんだぞ!」 言い争いながらダンスを続ける二人。時折ルイズの顔に笑みが見える。 「初めて見る。」 そんな様子をタバサははしばみ草のサラダを頬張りながら見ていた。 「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて。・・・私も踊ってもらったけど。」 新ゼロの変態 最終幕(フィナーレ) ――某所 「だぁぁぁぁれかぁぁぁぁぁ・・・助けてくれぇぇぇぇぇ・・・最高見せ場まで取られちまったぁぁぁ・・・ どぉぉせ俺なんてミソッカスだよぉぉぉ・・・ちくしょぉぉぉぉ・・・」 To Be Continued?→
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/995.html
場面はあくまで無情に過ぎる。彼らの発言から、あれから二年の月日が流れ去ろうとしていることがわかった。 リゾット達のチームは、あの事件以来まさに首輪がつけられたような状態になっている。 ギアッチョの眼を通して、彼らに常に何人もの監視がついていることにルイズも気付いていた。 誰も口には出さないが、彼らの中ではどんどん絶望と諦念が大きくなってきている。 それが彼らの一つ目の変化だった。そして二つ目の変化は、チームに新入りが入ったことだった。 ペッシという名のその新入りは、その物腰から察するにおそらくはまだ少年の域を脱しない年齢の男で・・・ おそらくというのは彼には首と呼べる部分がどうにも確認出来ないため輪郭で年齢を判断しにくいからなのだが、とにかく彼はスタンド使いで、その才能を買われてリゾットの暗殺チームに配属されたらしい。 しかし彼は生来の気の弱さで、いつまで経っても見習いの域を脱しないのだった。彼は今、アジトの地べたに座らされてプロシュートに説教を喰らっている。 「プロシュートの奴・・・すっかりペッシの教育係みてーになってるな オレはてっきりお前の出番かと思ってたがよォー」 椅子に腰掛けたイルーゾォはそう言って隣に座るギアッチョに首を向けた。 「ああ? オレは他人に説教くれてやるような人間じゃあねーぜ」 両足をテーブルに投げ出すと、ギアッチョはそう言って鼻を鳴らす。 「説教なんてのは他人を気にかける心のある奴がするもんだからな・・・」 オレはそんな出来た人間じゃあねえと自嘲気味に笑って、ギアッチョはペッシに眼を向ける。イルーゾォはそんなギアッチョからすっと目線を外すと、 「オレはそうは思わないがな」 と冗談めかした笑いに乗せて呟いた。プロシュートとペッシを見ていた彼にその言葉は届かなかったようだが、彼女に・・・ルイズにだけはしっかりと聞こえていた。 ――わたしも・・・そう思うわ イルーゾォ・・・ ギアッチョは自分やキュルケ達を幾度となく怒ってくれた。ルイズは気付いている。それは教師達のようなゼロの自分への嘲りを含んだ怒りなどではない、人を侮辱するところのない真の怒りだった。 そしてそれは、合図のノックを足音代わりにやって来た。イルーゾォが開けた扉から入ってきたリゾットはまず周囲を見渡し、そこに全員が揃っていることを確認してから―― 「ボスに『娘』がいるという情報が入った」 自らの口で、終焉の開幕を告げた。 彼らがどんな反応をしたか、いちいち記す必要があるだろうか?ソルベとジェラートの仇を討つ為、己とチームの誇りの為、そして自分達が頂点に立つ為・・・彼らは命を賭けると『覚悟』した。 ――ルイズは奇妙な浮遊感を感じて周りを見る。自分の視点がどんどん上昇して行き、そして彼女の精神は蝉が羽化するように、徐々に・・・そしてやがて完全にギアッチョから離脱した。 おかしい、とルイズは感じた。彼女はこの夢はギアッチョが見ている彼の過去だと考えていたが、しかしそれではこの光景は一体どういうことだ? ブルドンネ街よりも広い、黒っぽい地面の大通り。両脇には見たこともないデザインの建物が立ち並び、その路傍には2.5メイル前後ほどの恐らく鉄製のオブジェがまばらに点在し・・・そしてその内のいくつかが派手に炎上している。 いつの間にか彼女はそれを上空から眺めていた。 上空?ギアッチョはレビテーションもフライも使えはしないはずだ。ならばこの視点は、一体誰のものだ? どういうことかと考え始めたルイズの思考は、直後彼女の視界に飛び込んできた情報によって綺麗に吹き飛んだ。 ――ホルマジオ・・・!! 炎上する大通りの真ん中に立っているのは、他ならぬホルマジオだった。 血塗れの顔と身体は炎に焼け爛れ、思わず眼を背けたくなるほど痛々しい姿になっている。1メイルほどの距離を開けて、彼はルイズと同年代ほどの背格好の少年と対峙していた。 「来い・・・・・・・・・ナランチャ・・・・・・・・・」 ホルマジオは少年に向けてそう言い放ち、そして数秒の沈黙が走り。 「『リトル・フィィィーート』!!」 「うおりゃあああああっ!!」 ――早撃ちの軍配は、少年に上がった。 「しょおおがねーなああああ~~ たかが『買い物』来んのもよォォーー 楽じゃあ・・・なかっただろ?え?ナランチャ・・・」 ホルマジオは二、三歩よろよろと後じさるとなんとか言葉を吐き出し、 「これからはもっと・・・・・・・・・ しんどくなるぜ・・・・・・てめーらは・・・・・・」 最期にニヤリと笑いながら、豪快な音を立てて倒れた。 ――始・・・まった・・・ 彼らの平穏を、ルイズは出来ればずっと見ていたかった。だがもう遅い。 彼らの死は今始まった。夢であるが故にルイズは眼を覆うことも耳を塞ぐことも出来ず、そしてそんな彼女を嘲笑うかのようにルイズの夢は次の場面を映し出す。 どこかの遺跡だろうか。あちこちが破損し壊落している石造りの建造物、そこにイルーゾォはいた。彼は敵のスタンドに首根っこを掴まれ、石壁にその身体を押し付けられている。ルイズの意識が彼を認識した直後、 「うわあああああああああああ!!」 恐怖一色に染められた断末魔を上げて、イルーゾォは見るも無残に「溶けて」死んだ。 ――いやぁああぁああッ!! ルイズは誰にも届かない声で叫ぶ。どうして、どうしてこんな殺され方をしなければならなかった?彼は確かに暗殺者だった。 だけど彼の心にはいつも仲間達への想いがあった。 彼は決して、このような哀れな死を遂げるべき外道などではなかった――! あまりにも残酷なイルーゾォの死に様に、しかしルイズが心の整理をつけるより早く。彼女を嘲笑うかのように、場面はあっさりと次へ飛んだ。 車輪のついた、長方形の長大な箱。プロシュートはその箱と車輪の隙間に引っかかるようにして横たわっている。 全身からはおびただしい量の血が流れ、その片足は有り得ない方向にひしゃげていた。 そして彼に重なって横たわるプロシュートのスタンドは、その指が、身体が、頭が、止まることなく崩れ続けている。誰がどう見ようが、瀕死だった。 「栄光は・・・・・・」 プロシュートはうわ言のように言葉を紡ぐ。 「・・・・・・おまえに・・・ ・・・ある・・・・・・ぞ・・・」 彼は正に死のその間際まで、ペッシのことを忘れなかった。「オレはお前を見守っている」と、彼はそう言った。 瀕死のプロシュートには、スタンドの発現は恐らく相当身体に負担をかけているはずだ。しかし一人戦うペッシの為に、 そしてチームの栄光の為に、彼は決してスタンドを解除しなかった。 だが、ペッシは―― 「このままで・・・・・・・・・・・・ガブッ・・・」 口から大量に血を吐きながら、彼は己を重症に追い込んだ男を睨む。 「済ませるわけにはいかねえ・・・・・・・・・」 ペッシの手には、拳よりも少し大きな程度の亀が掴まれていた。 どうやら男にとって相当に大事なものらしいそれを殺すことで、ペッシはせめてもの意趣返しをするつもりらしかった。男がペッシを見据え、 「堕ちたな・・・・・・ただのゲス野郎の心に・・・・・・・・・・・・!!」 そう言うと同時に、ペッシは亀を振りかぶり―― 「何をやったってしくじるもんなのさ ゲス野郎はな」 一瞬の駆け引きの後、男の無数の拳撃を受けてペッシの身体はバラバラに分解されて吹っ飛んだ。そしてプロシュートは偉大に、ペッシは惨めに。 二人は殆ど同時に、だがその『誇り』に天と地ほどの差を空けて死んだ。 ルイズはもはや声もなく彼らの死を見つめる。己の心をひとかけらでも言葉にすれば、全てが堰を切って溢れ出しそうで。 彼女は震える心を必死で抑えて、動かない眼で彼らを見つめ続けた。 作業的な間隔で、場面は次に移る。ルイズの眼前に新たに映し出された 場所は、どうやら先ほど見た長く大きな箱を収容する施設であるようだった。 収容された箱から出てきたメローネの、 「聞こえてるぜギアッチョ!」 という言葉にルイズはビクリと反応する。ギアッチョの名前は、今最も聞きたくなかった。彼が死ぬ場面を見てしまうなど、ルイズにはこれ以上ない拷問である。 しかし彼に先んじて命を落とす運命にあるのはメローネのようだった。 ギアッチョと会話をしているらしい彼に、ボトリと焼け焦げた蛇が落ちる。 スタンドの性質上、彼は常に安全な場所にいる。追われる身である「奴ら」が自分の位置を把握することなど不可能、ましてや攻撃を受けることなど有り得ない――そう油断していた彼の肩の上に、いきなり敵意を剥き出しにした蛇が落ちてきたのである。 彼が無様に取り乱すのも無理からぬことであった。 「あの『新入りの能力』ッ!おれのベイビィ・フェイスの残骸をひいいいいいいいいいいいいッ!!」 彼は絶叫し、そしてその大きく開いた口から覗いた舌に焼ける毒蛇は喰らいついた。 ――・・・・・・・・・もう・・・・・・やめて・・・ 一体誰に言えばいいのだろう。分からないままに、ルイズは言葉を絞り出した。 残った7人の内、5人が死んでしまった。たとえリゾットがボスを倒したとしても、もうあのアジトに彼らの喧騒が戻ることはない。二度と。永久に。 ――お願いだから・・・もうやめて・・・! あらゆることが手遅れであると知りながら、ルイズはもはや過ぎ去った残像に、虚しく呼びかけ続けた。 そして彼女の夢は、とうとう彼の使い魔を映し出す。 ――・・・ギアッチョ・・・!! 粉々に破壊された像のそばを、運河が流れていた。そのほとりに、白銀のスーツを着た男が立っている。つま先から頭までを余さず覆うそのスーツから覗く顔は、紛れもなくギアッチョのものだった。 「とどめだッ!ミスターーーーーーーーッ」 ギアッチョがそう叫ぶと同時に、彼に対峙していた男の全身から血が吹き出した。 ミスタと呼ばれた男はしかし、大きく仰け反りながら呟く。 「ああ・・・確かに『覚悟』は出来たぜ・・・ジョルノ」 「見ッ・・・・・・見えねえ・・・・・・・・・ 血・・・血が凍りついて・・・固まっ・・・!!」 ミスタの血しぶきが顔面にかかり、それは一瞬で凍結してギアッチョの視界を奪った。 ドンドンドンドンッ!! ミスタがかざした鉄の器具が火を噴く。どうやらあれは小さな銃のようだ・・・が、ルイズにそんなことを気にしている余裕はなかった。 前が見えずにヘルメットを引っかいている間に、ミスタの銃撃によってダメージこそないもののギアッチョはどんどん後方へ押されて行き、とどめの一発を足に喰らって彼は全体重を掛けて後ろへ仰け反り―― ドスッ!! 彼の延髄に、槍のように彫刻された鉄柱が突き刺さった。ルイズは思わずひっと声を上げそうになるが、幸いにも致命傷には至らなかったらしく、数分後には死ぬのだと分かっていつつも、彼女はほっと胸をなでおろした。 「おまえ・・・このオレに・・・・・・ 『覚悟』はあんのか・・・と・・・ 言ったが見してやるぜ」 そう言ってミスタはギアッチョを見据える。今にも失血死しそうなほどに血に塗れた身体だが、その眼光だけは獣のようにギラついていた。 「ええ・・・おい 見せてやるよ」 ようやく前が見えるようになったギアッチョは、ミスタの姿を見た瞬間彼の意図に気付いた。 「ただしお前にもしてもらうぜッ!! ブチ砕かれてあの世に旅立つってェェ覚悟をだがなああああああああ~~~~~ッ!!」 「やばい・・・こいつを引っこ抜かなくてはッ!!」 野郎、このままオレを死ぬまでのけぞらせる気だッ!ギアッチョは必死に鉄柱に手を伸ばすが、 ガァーン!! ミスタの銃弾によってその手は簡単に弾かれる。そしてミスタの更なる連射によって、ギアッチョの身体はどんどん仰け反って行く。 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」 しかし、それと同時に彼の放った弾丸が彼自身にどんどん跳ね返り始めた。 「突っ切るしかねえッ!真の『覚悟』はここからだッ!『ピストルズ』ッ!てめーらも腹をくくれッ!!」 跳弾によってミスタの身体は至る所が弾け始めるが、彼は構わず銃を乱射する。 「おおおおおおおおおおおおおおお!!」 そして、ミスタがついに崩れ落ちたその瞬間、ギアッチョの首から大量の血が吹き出した。 ――ギアッチョ!! ルイズは耐え切れずに叫ぶ。しかしギアッチョはギリギリのところで生きていた。 「違・・・う・・・な・・・ ・・・ガブッ! 『覚悟』の強さが・・・・・・ ・・・・・・『上』・・・・・・なのは・・・ オレの・・・・・・方だぜ・・・グイード・ミスタ・・・」 瀕死の状態で、ギアッチョはなんとかそう口にする。 「ここまで・・・オレを追い込んだのはミスタ・・・ 敬意を表して・・・ やる・・・だが・・・・・・今度・・・覚悟を決めてギリギリのところで 吹き出す『血』を利用するのは・・・ オレの方だ・・・ ミスタ」 そう言ったギアッチョの後頭部は、吹き出した血が既にガッチリと凍って完璧なストッパーになっていた。その直後、未だ宙を舞っていた最後の弾丸がついに完璧な角度で跳ね返り―― 「頭にッ!勝ったァーーーーーッ!!」 ミスタの額に突き刺さった。 「!! う!? 傷が・・・!?」 しかしその瞬間、額の弾痕は完全に消え去り 「な・・・・・・!!」 いつのまにか、ミスタを抱えてその後ろに金髪の少年が立っていた。 「ミスタ・・・ あなたの『覚悟』は・・・この登りゆく朝日よりも明るい輝きで『道』を照らしている」 「なんだってエエェェェエエェ!!?」 グシャグシャグシャドグシャアアッ!!! 「うぐええッ!!」 ズン!!と鉄柱がギアッチョの喉を突き破り。彼は万感の無念と己を打ち破った彼らの『覚悟』へのひとかけらの賞賛と共に、事切れた。 ――あ・・・あぁぁああ・・・ッ!! ギアッチョが『覚悟』というものに拘る訳を、ルイズは理解した気がした。 しかし今ルイズの中に渦巻いている果てしない悲しみは、そんな理解を紙のように吹き飛ばす。これは過去だ、ただの夢だと自分に言い聞かせるが、彼の壮絶な死に様はそんな逃避を許してはくれなかった。ルイズはギアッチョの名を、まるで壊れた蓄音機のように何度も何度も叫び続けた。 そして場面は、次へ進む。 ――・・・・・・・・え・・・? その異変に、ルイズは思わず我に返る。これはギアッチョの夢のはずだ。ならばどうして先がある?どうして、この夢は新しい風景を映し出す・・・? そうか、とルイズは思った。そもそも途中からおかしかったのだ。ギアッチョが知るはずのない光景を見ていたことが。 ギアッチョ自身の死に様を、遠くから見つめていたことが。誰かの意図なのか、それともこれは何かの奇跡なのか? そんなルイズの思案をよそに、眼前の過去は展開していく。 遠くに館と海の見える岩場。そこにいたのは、やはり彼だった。 ――・・・・・・そ・・・んな・・・・・・リゾット・・・ リゾットは血まみれで倒れている。傍目から見ても、治癒は絶望的だった。 そんな彼の傍らに腰を落とし、一人の男が彼を見下ろしている。 リゾットはもはや焦点の定まらない眼で男を見返していた。 「ついに・・・オレ・・・は・・・ つか・・・んだ・・・・・・ あんたの正体を・・・オレは・・・」 正体。彼らがこの言葉を使う時、それはとりもなおさずボスのことを意味する。 リゾットは今、「あんたの正体」と言った。つまり彼を見下ろすこの男こそが、他でもないボス自身・・・!男・・・いや、もはやボスと言うべきか。 ボスは今ルイズに背中を向けている。後ろから見る限りその身体には傷一つついていないが、異常なまでに苦しげな呼吸をし続けていることから察するとリゾットとの戦いでボスもまた相当なダメージを負ったと考えていいはずだ。 「最期に顔を・・・見せ てくれ・・・ 逆光で よく・・・見えない 顔を・・・」 片膝をついて荒い呼吸を繰り返すボスにリゾットがそう懇願するが、 「それ以上・・・・・・ここでその会話をすることは許さない・・・リゾット・ネエロ」 彼はそれを冷たく跳ね除けた。片手に持っていたリゾットの足首を投げ捨てて、ボスは苦しげに呼吸を続ける。 「おまえは自分がここまでやれたことを 暗殺チームのリーダーとして、『誇り』にして死んでいくべきだ・・・ あの世でおまえの部下達も納得することだろう」 そう言ってから、ボスは自分の身体から奪った「鉄分」を戻せば潔くとどめを刺してやろうとリゾットに取引を持ちかけた。 もうすぐここにギアッチョ達を殺した連中がやってくる。そいつらの前で次第に惨めに死んでいくのは屈辱的ではないか?今ならこのボスが直々に名誉ある死を与えてやろう。 そんなボスの交渉に、リゾットは聞き取れない声で何かを呟く。 「よく聞こえないぞ・・・・・・ すぐに『鉄分』を戻すのだ・・・リゾット・ネエロ」 ぼそぼそと何かを呟き続けるリゾットの口に、ボスが耳を近づける。 「ひとりでは・・・ 死なねえっ・・・・・・ 言ったんだ・・・」 その言葉に、ボスはバッとリゾットの顔に眼を向け、そして彼の決死の『覚悟』を秘めた赤眼にようやく気付いた。 「今度はオレが・・・利用する番だ 『エアロスミス』を・・・ くらえ・・・・・・!!」 リゾットがそう言うと同時に、ボスの後ろから無数の弾丸が発射された。 ホルマジオの命を奪ったスタンド――エアロスミスだった。 しかし、一瞬の後に全身から鮮血を吹き出したのは、ボスではなくリゾットだった。 最期の一瞬、彼は何を考えていたのだろう。真っ赤に充血したその眼からは、もはやいかなる感情も読み取ることは出来ない。リゾットは被弾の衝撃にガクンと身体を震わせると、一言も発することなく息絶えた。 ――・・・そんな・・・・・・・・・そんな・・・! どうしてエアロスミスとリゾットを結ぶ射線上にいるボスが無傷なのか?どうしてエアロスミスがボスを撃ったのか?そんなことはどうでもよかった。ルイズの心を埋め尽くした事実はたった一つ。リゾットが死んだ。それだけだった。 あの穏やかなリーダーが、冷徹な表情の下で何よりも仲間のことを大切に考えていたリゾットが、死んだ。チームの最後の一人が――殺された。彼のチームは、消えてなくなった。 ――・・・・・・こんな・・・ことって・・・・・・!! 絶望に打ち震えるルイズをよそに、世界は白く染まり始める。白いインクを垂らした ように始まった白化は加速度的に進行し、 「しかし・・・くそ・・・ みごとだ リゾット・ネエロ・・・・・・・・・」 一人呟くボスの声を最後に、ルイズの夢は完全に白に閉ざされた。 「いやぁああぁああああああああッ!!!」 自分自身の悲鳴で、ルイズは跳ね起きた。 「・・・ぁあっ・・・!・・・っはぁ・・・はぁ・・・ッ!」 窓の外は、未だ双月が輝いていた。窓から差し込む月の光を眺めながら、 ルイズは徐々に今まで見ていた夢の事を思い出してゆく。 そうだ。 心地のいい夢だった。 ギアッチョと仲間達の思い出。いつまでも見ていたかった思い出・・・。 だけどジェラートが死んで、ソルベが死んで・・・ギアッチョ達が反逆して。 そして、死んだ。 全員死んだ。 リゾットのチームは、全滅した。 「・・・・・・全滅・・・した・・・・・・」 ルイズの口から、我知らずその言葉がこぼれ出た。そしてそれと同時に、彼女の鳶色の瞳からはぼろぼろと涙が溢れてくる。 「・・・うっ・・・うう・・・・・・!・・・こんなの・・・・うっく・・・・・・こんなの酷すぎる・・・!」 ルイズは肩を震わせて泣いている。ルイズが彼らを知ったのはほんの数時間前のことだ。だがその数時間で、ルイズは彼らと無数の喜怒哀楽を 共有した。もはやルイズにとって、彼らはただの他人などでは断じてない。 だからこそ、彼らの死はルイズに果てしない痛みを負わせた。 ふっと部屋が明るくなる。それに気付いたルイズが顔を上げると、ギアッチョがランプをいじっていた。ルイズの視線に答えるように、彼はルイズに眼を向ける。 「・・・『見た』・・・みてーだな ルイズ・・・てめーも」 夢を共有していたわけか、とギアッチョは呟いた。もはやこの程度のことで、彼は驚かないようになっていた。 「っ・・・・・・どうして・・・っく・・・そんなに・・・冷静でいられるの・・・?」 涙のせいで何度もしゃくりあげながら、ルイズはギアッチョを見る。 「・・・っく・・・ひっく・・・・・・ こんなのってない・・・!」 何か言葉を出す度に、ルイズの涙は量を増してこぼれ続けた。 「・・・っう・・・どうして・・・こんな酷い死に方をしなきゃならなかったの・・・!?」 プライドも忘れて泣きじゃくる彼女に、ギアッチョは冷たく言葉を返す。 「人殺しにゃあ似合いの末路だ」 ゆっくりとルイズに近づくと、ギアッチョは彼女を見下ろして続けた。 「マトモに死ねる奴のほうが珍しい・・・オレらの世界ではな」 ギアッチョは達観したかのような物言いをするが、そんな世界などとは勿論無縁に生きてきたルイズに彼らの死を同じように受け入れられるはずもない。 彼らの名誉一つない惨めな死を、納得出来るはずもない。 「そんなのっ・・・ ・・・うっく・・・そんなのおかしいわ・・・!」 ルイズはぶんぶんと首を振る。彼女の頬を伝う涙が、雫となって宙を舞った。 ギアッチョはほんのわずか――長く付き合った者にしか分からない程に―― そして一瞬だけ、困惑したような表情を見せる。それからがしがしと頭を掻くと、ギアッチョはルイズのベッドに腰掛けた。 「・・・ソルベとジェラートは・・・違う」 「・・・・・・違う・・・?」 何が、という部分を省いたギアッチョの言葉に、ルイズは当然疑問を感じる。 ギアッチョはまるで独白するような調子でそれに答えた。 「あいつらは・・・恐らく何も知らないままに 一方的に虐殺された・・・ だがオレ達他のメンバーは違う 真正面から奴らに挑み、力の全てを出し切って戦い、そして死んだ」 ま・・・一部情けない死に様を晒したバカもいたみてーだが、とそこだけ呆れたような口調で言ってから、ギアッチョは真面目な顔に戻って続ける。 「・・・だからオレはあいつらの死を受け入れる オレが嘆き悲しむことは、あいつらの誇りを侮辱することに他ならねーんだ」 ルイズに背中を向けたまま、ギアッチョは言葉を繋いだ。 「他の誰が嘲笑おうと――オレはあいつらの死を誇りに思う」 ギアッチョの言葉はまるで折れることの無い名剣のように、ルイズの心に真っ直ぐに、そして鋭く突き刺さった。 自分は結局、彼らのことなど何も分かっていなかったのだろうか?そう思うとルイズの心は割れんばかりに痛みはじめる。 「・・・だがよォー」 ぽつりと、ギアッチョは呟くように口を開いた。 「ルイズ・・・てめーはそれでいい てめーは泣いてやってくれ」 その言葉に、ルイズははっとギアッチョの背中を見つめる。 「全く救いようのねー人殺し共だがよ・・・ 自分の為に流される涙が一粒でもあるなら人生御の字じゃあねーか」 その言葉に、ルイズの乾きかけた瞳は再び涙を溢れ出させた。 「・・・・・・うん・・・・・・うん・・・・・・っ!」 ルイズは立てた両膝に顔をうずめて泣いた。どうして気付かなかったんだろう。 ギアッチョはこんなにも彼らのことを想っているじゃないか・・・。 ルイズは声を押し殺すのをやめた。彼らの名誉を守り続けるギアッチョの後ろで、彼らの魂の為に、そして何よりギアッチョの為に、ルイズは声を上げて泣いた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3042.html
天元突破グレンラガン より、コアドリルを召喚 ゼロのドリル 前編 私を一体誰だと思っているの! ゼロのドリル 中篇 あばよ、デル公! ゼロのドリル 後編 天の光は、全て虚無
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2394.html
18話 「間違エタ」 真っ黒焦げの自室で悲鳴を上げて起き上がったルイズへの、 ホワイトスネイクの第一声がそれだった。 「ま、ままま、まま、間違えたですってえええええ!!?? 何なのよさっきのは!? どう考えても間違えて出てくるようなものじゃなかったわよ!!」 「前ノ世界デラングラーヲブチノメシタヤツダ。 私モ記憶デ見テビックリシタヨ。アイツ、アンナニブン殴ラレテマダ生キテタンダナ。 後遺症ガ残ッタトカ言ッテタガ、ヨクソノ程度デ済ンダモノダ、ハハハ」 ハハハ、とは言ったが、顔はまるで笑っていない。 棒読みそのものである。 誤魔化す気さえ感じられない。 「ははは、じゃないわよ! あああ、あんたは、またご主人さまをバカにしてええええ!!」 「待テ待テ、私ダッテ間違イハアルンダ。 一回グライハ大目ニ見ルベキジャアナイノカ?」 顔色一つ変えずに言うホワイトスネイク。 ここまで反省の意思が微塵も感じられないヤツもそうはいまい。 「うぅぅ~~~~……あんたってやつは、あんたってやつは~~~~……」 頭から湯気を上げて怒るルイズ。 だが、と冷静な部分が考える。 例えばここで―― 「もう許さないんだから!! あんたなんか、あんたなんかぁーー!!」 などと言って、杖を抜いたらどうなるか。 アイツはわたしの杖をあっさりと奪うかへし折るかして、 「器量ノ狭イオ嬢サンダ。ソンナノデハ『立派なメイジ』ニハナレナイナ」 ――とか言って私をバカにして、またどこかへ消えてしまうに違いない。 怒ったわたしを軽くあしらってバカにする気でいるのだ。 だから、ここで怒ればアイツの目論見取りになる。 それはすごく気に入らないことだ。 怒るのはダメだ。 ここはご主人さまの寛大さを見せるところよ、ルイズ! そう言い聞かせて、ルイズはかまどの上の鍋みたいにカンカンになった自分の頭を、深呼吸でゆっくりと冷やした。 「そそ、そうね! い、一回失敗したぐらいで使い魔を折檻するのは、す、少し大人げなかったかもしれないわ! だから、も、もう一回あんたにチャンスをあげる! い、いい、いいこと? 次は無いわよ! 今度こそ、今度こそ成功させなさいよ!」 怒りに震える声で、なんとか言いきった。 「コレハコレハ、寛大ナ処置ニ涙ガコボレソウダ」 だがそれを心にもない言葉で茶化すホワイトスネイク。 ルイズはまた怒りの沸点が上昇しかけたが、なんとか堪えた。 「デハ、再生開始スル部分ヲモウ一度探ソウ」 ホワイトスネイクはルイズから受け取ったDISCを額に挿す。 そして先ほどと同じように、しばらくしてからDISCを抜き取った。 「今度ハ間違イハ無イハズダ」 「ほほ、本当に? 本当の、本当に?」 「本当ダ。ソレトモ何ダ。ビビッテルノカ、ルイズ?」 まったく、まったくこいつは! 口に出して叫びたいのを喉までで留めて、ルイズは再びホワイトスネイクの手からDISCをもぎ取った。 DISCを見つめて、深呼吸3回。 心を落ち着けて、そっとDISCを額に挿し込んだ。 (どこかしら、ここ……トリスタニアのどこかかしら?) それが最初に移った暗い路地を見たルイズの感想だった。 トリスタニアはトリステインの首都であり、ルイズもしばしば足を運ぶために街並みに見覚えがあったのだ。 (でもなんか汚いわね……それに街灯もないし。多分裏路地だわ。) そして路地の様子から、タチの悪い連中が集まる裏路地であることを推測する。 DISCはしばらくの間裏路地を歩くラングラーの記憶を映し続けた。 突然、何人かの男がDISCに映る。 どいつも手に得物を携えており、物騒な目的を持ってラングラーの前に現れたのは確実だった。 『へへへ……テメーに恨みはねえが、死になぁッ!』 そう言うや否や、先頭の男が襲いかかり――赤ペンキがぶちまけられた。 (へ?) ルイズには最初、そのようにしか見えなかった。 次第に赤ペンキに赤くない、何かドロドロしたものが混じっていて、それは男の頭から流れ―― そこまで理解したところで猛烈な吐き気がこみ上げる。 もはや記憶を見るどころではない。 無理やりにDISCを引き抜くと同時にお腹の中身がひっくり返って、喉の奥から何かがせり上がる。 そして、一気に吐き出した。 朝食べたものも、昼食べたものも、消化しきらなかったものは全部胃液と一緒に出て行った。 「……あ、あれ……?」 ふと、ルイズは自分が洗面器の上に吐いていたことに気づく。 洗面器など事前に用意していなかったから、てっきり床の上に盛大にやったものだとばかり思っていた。 「ヤハリ、ヤッタカ」 そこに声がかかる。 ホワイトスネイクの声だ。 「あ、あんた……こんな『記憶』だって、知ってて、わたしに……」 「申シ訳ナイトハ思ッタガ、物事ニハ順序ガアル。 今ノスプラッターシーンヲ超エタトコロデ雇イ主ガ出テクルノダ」 ウソである。 ラングラーとその雇い主が話し合っているシーンは、それだけのものとして十分成り立つ。 つまりこのスプラッターシーンを無理して見る必要なんて全くないのだ。 「あ……そうなの」 「チナミニ今ノシーンハラングラーガ放ッタ弾丸ガ男ノ頭蓋ヲ撃チ抜キ、 大量ノ血液ト一緒ニ脳ミ」 「ストップストップストップ!」 「ココカラガイイ所ナノダガ」 「やめて……また気分が悪くなりそうだから」 そう言って、震える手で床に転がるDISCを拾う。 「マタヤルノカ?」 意外そうにホワイトスネイクが聞く。 「あ、当り前でしょ……わわ、わたしの、こ、事、なんだから……」 そう言って、ルイズは再びDISCを額に挿した。 そしてその日の晩。 いつもルイズたちが朝食を食べるアルヴィーズの食堂の上階が、華やかに飾られたホールになっていた。 フリッグの舞踏会はすでに始まり、思い思いに着飾った生徒たちが、豪華な食事の前で歓談している。 その中に、キュルケとタバサの二人はいた。 キュルケは何人もの男の子からダンスを申し込まれていて、 一方のタバサはダンスなどには目もくれずに御馳走を食べている。 だがそこにルイズの姿はない。 では、どこにいたかというと…… 「……ここは?」 「医務室ダ」 「……何で医務室なの?」 「3回ホドゲロシタ後に卒倒シタノサ。 覚エテイナイノカ?」 医務室のベッドの上にいた。 ベッドの脇の椅子にはホワイトスネイクがいる。 「あんた、よく医務室の場所なんて知ってたわね」 ふと疑問に思ったことが口に出た。 「ギーシュノ記憶カラ知ッタノダ」 「……どういうことよ?」 「簡単ナ話ダ。 DISCヲ見ルッテ事ハ、ソレノ本来ノ持ち主ノ記憶ヲ追体験スルコトナノダ。 ダカラギーシュガ一度デモ医務室ニ行ッタコトガアレバ、 私モソコヘドーヤッテ行ケバイイカ分カルッテワケダ。 原理トシテハ、オ前ガラングラーノ殺シヲ追体験シタコトト何モ変ワラン」 「便利なものね」 それだけ言って、ルイズはため息をついた。 「タメ息ノ多イ日ダナ」 「今日だけじゃないわ。 あんたが来てから増えたのよ」 「ソイツハ残念ダ」 「反省する気がないのは相変わらずね」 「私ハ他人カラ理解サレニクイタイプデネ」 「何それ。自分で言うことじゃないわよ」 傍から見ると辛辣な言葉とはぐらかしの応酬のようだが、 これがルイズとホワイトスネイクにとっての普通である。 最初は口達者なホワイトスネイクとどう接するべきか分からなかったルイズも、 次第に本来のトゲトゲしさをホワイトスネイク相手にも発揮するようになり、今の形に落ち着いた。 「結局、舞踏会ニハ行カナイノカ?」 「そうよ。昼に言ったじゃない」 「ダガマダ理由ヲ聞イテイナイ」 「ドレスが燃えちゃったからよ。あんたのせいでね」 「ダッタラ何故昼ニソレヲ言ワナカッタ? 言ッテ恥ズカシイ理由ジャアナイト思ウガナ」 見え見えのウソはあっさり看破された。 恐らくドレスが燃えたのは事実だろう。 燃えずに無事で残ったものが何着あるかよりも、 多少焦げるだけで済んだドレスが何着あるか考えた方がいいくらいに、無事なドレスは少ないに違いない。 でもそれはルイズの本来の理由ではない。 「イヤよ。言いたくないわ」 「ソンナニ恥ズカシイ理由ダッタトハナ……コレデハナオサラ聞ク必要ガアル」 「ち、違うわよ! 別に恥ずかしくも何ともないし、ふ、普通よ! 普通の理由!」 「ダッタラ言エヨ。恥ズカシクナイ理由ナラ、言ッテモ何トモ無イダロウ?」 「イヤって言ったらイヤなの! しつこいわよ、ホワイトスネイク!」 頑としてルイズは本音を言おうとしない。 口先で論破して降参させようとするのは失敗だったか、とホワイトスネイクは反省した。 (所詮、小娘ダカラナ) かと言って昼のように多少誠意を見せた(とホワイトスネイクは思っている)にしても、結局ルイズは言わないのだ。 (記憶ヲ覗ケバ簡単ナンダガ、ルイズニソレヲヤルノハ私ノプライドガ許サン……。 カト言ッテ、今更『やっぱり聞かない』ナドト前言撤回スルツモリモナイ。ト、ナルト……) 「……交換条件ダ」 ホワイトスネイクは譲歩を申し入れた。 ルイズ相手に譲歩などやるのもシャクだったが、 舞踏会に行かないでいる理由を聞かないことの方がもっとシャクだった。 期待していた舞踏会がワケの分からない理由でお流れになるのは腹立たしかったし、 そもそもホワイトスネイクは他人に秘密を持たれるのが大嫌いなのだ。 「交換条件?」 「ソウダ。私ガ一ツ、ルイズノ言ウコトヲ私ニ可能ナ限リデ何デモ聞イテヤル。 ソノ代ワリニ、オ前ハ舞踏会ニ行カナイ理由ヲ言エ」 「な、何でも!?」 「何ヲソンナニ驚イテイル」 「だ、だってあんた、今までちっともわたしの言うこと聞かなかったのに……」 「ダカラコソ交換条件ニナルノダ。希少価値ガアルカラナ」 ルイズは少し考えてから、 「ほ、本当に、本当に言うことを一つ、『何でも』聞くのね?」 「可能ナ限リデダガナ」 「わ、分かったわ!」 そう言って、またしばらく考え込み、 「いいわよ。その条件、呑んであげるわ」 ホワイトスネイクの要求に応じた。 「ソレハ何ヨリ。デハ行カナイ理由、聞カセテモラオウカ」 「……別に、大したことじゃないのよ? 本当に大したことじゃないんだから。 聞いてがっかりするかもしれないわよ?」 「御託ハイイカラ、サッサト言エ」 そう言われて、ルイズは深呼吸一つすると、 「……踊る相手が、いないからよ」 ぽそっと、そう言った。 「イナイナラ探セ」 ホワイトスネイクの第一声はそれであった。 「いるわけないわ。探したって、いないのよ。 スタイルはキュルケみたいによくないし、殿方とお話しするのは苦手だし。 ……それに、どこへ行ってもわたしが『ゼロ』なのは変わらないもの」 「ツマリ、コウイウコトカ? 『舞踏会に行ったことはないが、行ってもどうせ踊る相手はいないだろう』」 「学院に入る前は行ってたし、相手だっていたわよ。 でも学院に入れば家柄がどうとか、お父様がどうとか、お母さまがどうとかは関係ないの。 ……どこへ行ったって同じよ。どうせここでは、一緒なんだわ」 そう言って、ふんと不貞腐れるルイズ。 「……心底呆レタナ。食ワズ嫌イト同ジジャアナイカ」 「な、何ですってえ!?」 頭ごなしに否定されたルイズが声を上げる。 「勘違イスルナヨ。無謀ヲヤレトカ、ソウイウ意味ジャアナイ。 本質ヲ知ラナイクセニ知ッタ気ニナッテルカラ、ソウ言ッタンダ」 「本質って何よ!? そうやってあんたはいつもわたしのことを知った風に!」 「事実ダ。舞踏会デソレヲ証明シテヤル」 「どうやって?」 食い下がるルイズを見てホワイトスネイクは不敵に笑うと、すっと立ち上がった。 そして、ルイズの頭の上に手を乗せる。 「ちょ、ちょっと!」 「心配スルナ。取ッテ食イヤシナイサ」 「少シ、『魔法』ヲカケルダケダ」 その瞬間、ルイズの体の周囲に異変が起こる。 ズザザ……ズザザ……ザザッ、ザザッザッ…… 辺りに霧のようなものがたちこめ、ルイズが着る学生服が変化していく。 白いブラウスは胸元が開いた純白のドレスと、同じく純白の、肘まである手袋に、 黒いスカートはレースで飾り付けられたドレスの裾に生まれ変わる。 首には付けた覚えもない金の首飾りがあった。 「え、え? な、何これ? 何これ!?」 「『幻覚』ダ。実際ニ変化シタノデハ無イガ、コレデモ十分意味ガアル」 ホワイトスネイクの幻覚能力。 周囲の人間の脳に干渉し、その五感をホワイトスネイクの意のままに変化させる。 「基本的には」効果範囲はホワイトスネイクの周辺に限定されるが、それに反比例して極めて強力な効果を持つ。 「サテ、着替エモ済ンダトコロデ出カケルゾ」 「出かけるって……舞踏会に? イヤよ! どうせ行ったって笑い物になるだけだわ!」 「ソウナッタラ私ノ首ヲクレテヤルサ」 「く、首って! あんた正気なの!?」 「全ク正気ダ。ムシロルイズハ現実ヲ堅苦シク考エ過ギテイル。 世ノ中ハオ前ガ思ッテイルヨリズット単純デ、ズット馬鹿ラシクデキテイル」 「そ、そんなこと言ったって!」 「舞踏会ハモウ始マッテイル頃ダナ? 近道ヲ行クゾ」 そう言うや否や、ホワイトスネイクはルイズを抱き上げて、医務室の窓から飛び出した。 空を飛び、壁を蹴り、屋根の上を駆け抜ける。 まるで風みたい、とルイズは思った。 そして、あっという間にアルヴィーズの食堂に辿り着くと、 2階ホールのバルコニーに静かに降り立った。 ホールではちょうど一曲終わったところらしく、 生徒たちは次のダンスの相手を探しているようだった。 中には何人もの男の子からダンスを申し込まれる女の子、 逆にたくさんの女の子が行列を作る男の子がいる。 彼らはまさにこのダンスホールの主役であった。 「サテ、ココカラガ面白イトコロダ」 「でももう始まっちゃってるのよ? 今さら入って行ったって……」 ルイズは不安そうに目を伏せる。 「危ないですよ、外から入ってきたりしたら!」 そこに衛兵の声が掛けられる。 衛兵は平民なのか、ホワイトスネイクが見えていないようだった。 「もう舞踏会は始まっています。 こちらへどうぞ」 そう言ってルイズに近づいてくる衛兵に対し、 ズギュン! ホワイトスネイクは何のためらいもなく、彼の額に指を差し込んだ。 「オ前ガヤルベキコトハソンナノジャアナイ。 主役ノ到着ヲ、コノ広イホールニ大々的ニ発表スルコトダ」 そして引き抜く。 衛兵はとと、と数歩後ずさりすると、ホールに体を向けてびしっと背筋を伸ばし、 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の おなぁ~~~~~りぃ~~~~~~~~!!!!」 ホール全体に響くような声で、ルイズの到着をアナウンスした。 その場の目が一斉にバルコニーのルイズに向かう。 「え、え? ちょ、ちょっとホワイトスネイク!」 この状況を作り出した張本人を問いただそうとするが、すでにホワイトスネイクの姿は無い。 逃げたのだ。 相変わらずひどいヤツである。 一方、ホールの男の子たちの目はルイズに釘付けになった。 彼らの目に映るのは、普段ゼロ、ゼロとバカにしてきた女の子だが、 今この場のルイズは宝石のように美しく、周りの空気ごと輝いているようにさえ見えた。 純白で統一された上品なデザインのドレスはルイズの桃色のブロンドを引き立て、 彼女の高貴な一面をこれでもかと強調する。 その美しさに魅了された男の子たちが、一人、二人とルイズに歩み寄る。 そして気がつけば、ルイズは1ダース以上の男の子にダンスを申し込まれていた。 誘われ方どころか断り方さえ知らないルイズは言われるがままにホールの中心へと手を引かれていく。 楽士たちが音楽を奏で始める。 清流が流れるように、小さく、滑らかに演奏される音楽に合わせて、生徒たちはダンスを踊り始めた。 その中心にルイズがいる。 その外側には、彼女と踊りたがる男の子たちと、彼女のためにダンスの相手を失った女の子がいる。 今、舞踏会の主役はルイズただ一人だった。 「なかなかやるじゃない」 それを横目に、キュルケがそう呟く。 キュルケの圧倒的魅力を前にしてルイズに流れることができた猛者はいなかったようで、 彼女は踊る相手には事欠いていなかった。 ホールの外側には彼女とのダンスを心待ちにする者が何人もいる。 ルイズは今までのルイズではない。 それがキュルケが思ったことだった。 彼女は間違いなく成長している。 ラングラーとの戦いでは自分を助けてくれたし、この舞踏会の場でもなかなかの魅力を発揮している。 大したものだ。 でも、 (あたしも、このままじゃおかないわよ) 心の中でそう言って、キュルケはダンスの相手に笑みを投げかける。 相手の男の子はそれだけで顔を真っ赤にしてしまった。 女王は未だ健在、といったところである。 ルイズと一緒にステップを踏む男の子がやさしく微笑む。 彼は先ほど何人もの女の子からダンスを申し込まれていたが、 それらを全部蹴ってルイズにダンスを申し込んでいた。 ルイズはその彼にぎこちなく笑みを返す。 足はちゃんと動いているのに、その下にちゃんと床があるような気がしなくて、 まるで雲の上で踊っているような、そんな気分だった。 心地よいと言えば、すごく心地よい。 なんだかふわふわした気分だ。 でも、なんかヘンだ。 何が変なのかは分からないけど、なんだか落ち着かない。 それが気になって、ダンスに集中できない。 (何か変) それがルイズを見たタバサの、最初の感想だった。 確かに今のルイズは美しい。 同じ女として、そして客観的に見てもその美しさは相当なものだ。 それはタバサも認める。 (しかしその外見と、彼女の心が一致していない) ルイズは明らかに戸惑っている。 いつものお転婆を隠すあれだけの衣装やメイクをしているのに、 何故か彼女は乗り気でないようだ。 言うなれば張り切って山を登る支度をしておきながら、 それをやる当の本人が山登りに積極的でないような感じだ。 まるで他の誰かに準備してもらったかのようだ。 そうタバサは思った。 でも、 (……そんなことより、こっちが大事に) タバサは視線を舞踏会の料理へと戻す。 どれもこれもが、超一流の料理人が腕によりをかけて作った御馳走だ。 そうそう食べられるものではない。 食べ損ねる手など、無い。 タバサは人知れずにぐっと拳を握ると、再び料理と格闘し始めた。 舞踏会の御馳走の寿命はあと30分とないだろう。 その後ルイズは何人かとダンスをしたところで、ホールを離れた。 ダンスを申し込んでくるものはまだ10人以上いたが、彼らに何と言って断ったかは覚えていない。 ふわふわした落ち着かない気分のままに舞踏会の中心から離れ、またバルコニーに戻っていた。 男の子たちはそれを名残惜しそうに見ていたが、 しばらくすると何事もなかったかのように他の女の子たちと踊り始める。 あっという間に、ルイズが来る前に戻っていた。 ルイズはそれを、バルコニーから眺めていた。 「ホワイトスネイク」 ルイズがそう呼ぶと、 「何ダ?」 ホワイトスネイクが、闇から浮かび上がるように現れた。 バルコニーのフェンスに、その外側から肘をついている。 闇に紛れてよく見えない下半身は、ひょっとしたら実体化させていないのかもしれない。 「舞踏会はどうだった?」 「アア、スゴク良カッタサ。 絵画ノ特徴、芸術品ノ特徴、音楽ノ特徴……。 ドウヤラコノ世界ハ私の世界トハマルデナル異ワケデハナイラシイ。 ドコカシラデ共通点ガ見受ケラレルノダ。 ソレガ分カッタダケデモ大収穫ダッタサ」 「そう……それはよかったわね」 しばらく、沈黙が流れる。 ルイズは何か言いたそうに、ホワイトスネイクはそれを待っているようだった。 そして、ルイズがその沈黙を破る。 「わたしと最初に踊った男の子はね、わたしと廊下ですれ違った時、 友達にわたしが『ゼロ』だってことを言って、話のタネにしてたわ」 ホワイトスネイクは何も言わずに聞いている。 「次に踊った男の子も、その次の男の子もそう。 みんな、どこかでわたしをバカにしてた。 なのにみんな、変わっちゃうのね。 あんたがどれだけ『幻覚』でいじったのかしらないけど、 それでもわたしがルイズ・ド・ラ・ヴァリエールなのは一緒なのに。 わたしが『ゼロ』なのはぜんぜん一緒なのに、まるで変わってて、違ってたわ。 みんなわたしにほほ笑んでくれたし、イヤなことは一つも言わなかった。 わたしに『美人』だとか『カワイイ』とか言うばっかりで……」 そこでルイズは言葉を切って、ホワイトスネイクに向き直る。 「ねえ、ホワイトスネイク」 「何ダ?」 「人ってなんでこんなにいいかげんなのかしら?」 それがルイズの、この舞踏会で感じたことの全てだった。 普段はルイズをバカにする少年たちでも、いざ舞踏会でルイズがかわいく見えればダンスを申し込む。 ルイズの見た目一つでまったく心変わりしたのである。 いいかげんだとしか言いようがない。 「ソレハ私モ常々思ウ事ダ」 ホワイトスネイクはまずそう言って、 「ダカラト言ッテ人ヲ全ク信用シナイ、トイウノハタダノ馬鹿ノスル事ダ」 一瞬、二人の間にいやな沈黙が流れる。 「……ドウシタ?」 ホワイトスネイクが怪訝そうな顔で言う。 「……あんたからそれが聞けるとは思わなかったわ」 「随分酷イ事ヲ言ッテクレル」 不機嫌そうな顔を作るホワイトスネイク。 「……っふふ、あっははははは!」 「何ガ可笑シイ」 「だ、だってあんた、そんな顔で……あははは!」 「……理解デキン」 舞踏会のときの落ち着かなさはどこへやら、 ルイズは声をあげて笑いだした。 ホワイトスネイクは呆れ顔でそれを見ている。 「はぁ、はぁ、……でも何で人を信じないのはダメなのよ? あんなの見せられたら、ちょっと他人を信用できなくなるわ」 「ソレハ全クダ。 ダガサッキモ言ッタダロウ? 人間ハモット単純デ、モット馬鹿ラシク出来テイルンダ」 「どういうこと?」 ルイズが聞く。 「ソノママノ意味ダ。 問題ナノハ根ノ部分ダッテコトサ。 ドンナ信念ガ土ノ上ニ生エテモ、ドンナ理想ガ花ト咲イテモ、根ダケハ決シテ変ワラナイ。 タダ伸ビ続ケルダケデ、ソコダケハズット変ワラナイノダ。 ソシテ、ヤメラレナイノダ。 変ワラナイデ、ソノママデ伸ビ続ケルコトヲナ」 「大事なのは、本当の部分って事?」 「ソウイウ事ダ。 私ハソノタメニ記憶ヲ集メル存在ニナッタ。 人間ノ本当ノトコロヲ知ルタメニナ」 「人間の、本当のところ……」 ルイズがホワイトスネイクの言葉を反芻する。 「ソウダ。 ……ルイズ、オ前ニハソレヲヤル勇気ハアルカ?」 「それ?」 「人間ノ根ノ部分……ヒイテハ人間ノ底ノ部分ダ。 ソレハ開ケテハナラナイ『パンドラの箱』ナノカモシレナイ。 シカシソコニコソ人間ノ真実ガアル。 オ前ハ、ソレヲ見ルダケノ勇気ヲ持ッテイルカ?」 十分にハッパはかけた。 今まで自分をバカにしてきた人間が手のひら返してすり寄ってくれば、 他人を信用したくなくなってくるものだ。 とくにルイズのような真っ直ぐな精神を持つ人間ならば。 ハッキリ言って、ルイズは自分を扱うのに向いていない。 真っ直ぐすぎるからだ。 真っ直ぐすぎて、他人から奪うことを本性とする自分の能力が合わないのだ。 だから多少は歪ませてやる必要がある。 真っ直ぐな精神を完全にへし折るわけではない。 多少自分の望む方向に曲げてやるだけだ。 それだけで、ルイズは容赦ない辣腕を振るう帝王にすらなりうる。 ルイズにはそれだけの可能性が―― 「絶対イヤ」 その可能性が、たった今失われた。 思わずフェンスからずり落ちそうになるホワイトスネイク。 「ナ、何デダ?」 「だってあんたみたいになりたくないもの」 「ハァ?」 ホワイトスネイクは自分の耳を疑った。 「わたし、あんたみたいになりたくないのよ。 いっつもわたしの出方をうかがって、バカにして、すごく腹が立つわ。 それで、他人の本当のことを知ろうとするとあんたみたいになっちゃうんでしょ? 絶対イヤよそんなの。あんたみたいな高慢ちきでにくたらしいのになっちゃうなんて死んでもごめんだわ」 ああ、そうか。 ホワイトスネイクは少し納得した。 先ほど自分は、「人間とはもっと単純で、もっと馬鹿らしく出来ている」と言った。 そして「ルイズは真っ直ぐすぎる」と思った。 つまり、こういうことなのだ。 ルイズは馬鹿すぎるぐらいに単純で、まっすぐだったのだ。 彼女には記憶を知ることの有用性より、それを知ったらどうなるかが自分を通して見ていた。 真っ直ぐであるがゆえに、そこまで見えたのだ。 「……ジャアサッキ言ッタ他人ガ信用デキナイッテノハドウスルンダ? 記憶ヲ探ラナクテハ、ソンナコトハ面倒デトテモヤッテハイラレナイゾ」 「それくらい一緒にいれば分かりそうなもんじゃない」 「一緒ニイタトキニハ隠シテイルカモシレナイゾ?」 「だったら出てくるまで待つわよ」 ルイズは口をとがらせて言い返す。 真っ直ぐすぎることは、頑固すぎるってことでもある。 これでは何度言ったところで無意味だろう。 「……ソコマデ言ウナラ、私カラ言ウ事ハ何モ無イナ」 ため息混じりにホワイトスネイクはそう言った。 そして、ふと空を見上げる。 薄青と薄赤の二つの月が輝く空は、真っ暗だ。 だけど地球よりもずっと多くの星が輝いている。 地球は地上の光が明るすぎるから、星が見えないのだそうだ。 ふと横を見ると、ルイズも同じように星を見ていた。 何か気に入らないものを感じたホワイトスネイクは、星を見るのをやめて眼下の草原に目をやる。 不意に、ルイズが口を開いた。 「ねえ、踊らない?」 またバルコニーから落ちかけた。 「何ヲ言イ出スカト思エバ……」 ホワイトスネイクは何とかそれだけ呟いた。 「何よその態度! ご主人様が誘ってあげてるんだから、素直に喜びなさいよね!」 「昼ニモ言ッタハズダガ、私ハダンスヲ心得テイナイ。 踊ルノハ無理ダ」 「いいわよ。わたしが教えてあげるから」 「ソモソモ何デ私ト踊リタガルンダ? 理由ヲ言エ、理由ヲ」 そう言うホワイトスネイクをよそに、ルイズは何か考え込んでいた。 そして、ばっと顔を上げる。 「ねえ、ホワイトスネイク! あんた、さっき言ったわよね?」 「サッキト言ウト……マサカ!」 察しの良いホワイトスネイクはすぐに気付いた。 「『わたしの言うことを何でも聞いてやる』って、言ったわよね?」 「言ウコトニハ言ッタガ……」 「あんたが言ったことでしょ? だったらもう逃げ場はないわよ! ……そうだわ!」 ルイズがまた何かひらめいたようだ。 ホワイトスネイクは嫌な予感がした。 「あんた、私をダンスに誘いなさい!」 ホワイトスネイクはもう返す言葉もなかった。 元々言い出したのは自分だ。 今更撤回したのでは自分のプライドに障る。 腹立たしいことだが、避ける手はない。 「仕方ナイ、カ……」 ホワイトスネイクはブツブツ呟きながら、フェンスをまたいでバルコニーに上がる。 下半身はちゃんと実体化したようだ。 「いいこと? ちゃんとレディを誘うきちんとしたやり方をするのよ!」 「分カッテイル」 ぶすっとした顔でホワイトスネイクは背筋を正す。 「……私ト、一曲踊ッテクダサルカナ? レディ」 そう言って、ホワイトスネイクは手をそっと差し出した。 妙に決まっていた。 それでいて、どこか品の良さを感じさせた。 思わずルイズは、それに見とれていた。 「……踊レバイインダロウ? 踊レバ」 「そうよ、踊れば……」 見とれていたのもつかの間、ホワイトスネイクはそう呟いた直後、ルイズをひょいと抱き上げる。 そしてバルコニーから飛びあがり、壁を蹴って、どんどん上へと上がっていく。 「ちょ、ちょっとストップストップ! どこへ行く気よ、ホワイトスネイク!」 「悪イガ人前デ踊ッテヤルホド私ハ気前ガ良クナクテナ」 そう言いながらホワイトスネイクはどんどん上へと上がって行って―― 「踊ルナラ、人目ニツカナイトコロガイイ」 とうとう、尖塔のバルコニーまで来てしまった。 学院の中で最も高い位置にある場所だ。 「ヤルナラサッサトヤルゾ。 私ハアマリ気ガ長イ方デハナイカラナ」 ホワイトスネイクがずいと手を出す。 さっきとは違う、いつものホワイトスネイクだ。 「もう……じゃ、いい? わたしに合わせるのよ」 その手をルイズはそっと握る。 ホールで奏でられる音楽は、小さいながらもここまで聞こえていた。 それに合わせて、ルイズはステップを踏む。 ホワイトスネイクもそれに合わせて踊りだす。 「以外と出来るじゃない」 「見ヨウ見マネダ」 「それでもよく出来てる方よ」 そう言ってルイズは少しうつむくと、思い切ったように口を開いた。 「信じてあげるわ。 別の世界から来たって事」 「何ヲ今更。ズット前カラ分カリキッテタ事ダロウ」 「うるさいわね。ご主人さまが信じてあげるって言ったんだから、素直に喜びなさいよね」 そこで二人の会話はまた止まり、無言でダンスが続けられる。 ホワイトスネイクは思う。 この主人は、マジに自分と合っていない。 絶望的なまでに合っていない。 相性最悪ってやつだ。 多少褒めるべきところはあるし、ちゃんと成長だってしているのは認める。 でも、合っていないのだ。 そもそも自分の能力は騙すことと奪うことだ。 しかし、ルイズはまずそれを好まない。 最初の授業の時から分かっていたことだが、正々堂々としたのが彼女の好みらしい。 このあたりからもう致命的である。 ルイズに下にいたら、自分は満足に自分の能力を振るえないかもしれない。 それは自分の、ホワイトスネイクとしてのアイデンティティさえ崩壊させうるものだ。 だが、それでも。 (意外ト、悪クハナイ) それが、ホワイトスネイクのルイズに対する評価のすべてであった。 相性最悪なのは認める。 自分にとってロクなことがないかもしれないのも認める。 だがそれでも、何故か斬って落とすことが出来ない。 お前の下で使い魔なんぞやってられるか、という気分にはならないのだ。 だから、意外と悪くない。 気に入らないことはあるし、相いれない部分もある。 だけど、意外と悪くない。 (『意外と悪くはない』、カ……使イ勝手ノイイ言葉ダ) そう思いながら、ホワイトスネイクはルイズとのダンスを続けた。 ダンスは、音楽が途切れるまで、静かに続いた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/791.html
なかなか戻ってこない二人に、ルイズ達は焦りを感じていた。 本当にここで待っていていいのか? 彼らの後を追わなくていいのだろうか? 口には出さなくとも、彼女達の表情が如実にその心境を表していた。 シルフィードで上空から様子を見るか? とタバサは考えたが、恐らく木々に阻まれて何も見えないだろうと思い直し、その案を却下した。 そんな風に皆が皆ギアッチョ達の方に気をとられていた為――彼女達の背後で聞こえていた、ズズズと何かを引きずるような集まって行くような音を意識する者はいなかった。 最初に気付いたのはタバサである。経験から来る何かがゾクリと警鐘を鳴らしたのを感じて、彼女は後ろを振り向いた。 そこにあったのは、もはや八割方完成しつつあるあの大ゴーレムであった。 そしてタバサより遅れること数瞬、同じく振り返ったキュルケが驚愕の声を上げ、その声でルイズがようやく後ろを振り向いた時には、ゴーレムの形成部位はもはや一割以下を残すのみだった。 「あっははははははははは!!」 ついに完成したゴーレムの肩で高笑いをあげる女性に、三人の眼は釘付けになる。 ミス・ロングビルと名乗っていたその女性は、今や正体を隠そうともせずに彼女達を見下ろしていた。 「ふふふ・・・いいわねぇその表情 伝来の至宝を盗まれた貴族みたいないい顔してるわよ三人とも!」 心底楽しそうに言って、土くれのフーケはまた高笑いをする。 「騙したのね!!」 ルイズがキッとフーケを睨む。しかしフーケはニヤニヤと笑うのをやめない。 「ええ騙したわ」と愉快そうに返答し、なおも続けて挑発する。 「このままあんた達を潰しちゃっても面白くないわねぇ そうだ、先に一発攻撃させてあげるわ ほら、やってみなさいよ ん?」 完全にこちらを侮って挑発を繰り返すフーケに、ギアッチョではないがルイズはもうブチキレ寸前だった。しかしキュルケはそんなルイズを片手で制して、 「それ、嘘じゃありませんよね?ミス・ロングビル・・・いや、土くれのフーケ」 微笑を浮かべながら問う。 「失礼ね 私が約束を破るように見えるかしら?」 どの口がそれを言うかと思ったルイズだったが、キュルケはそ知らぬ顔で話を続けているので唇を噛んで耐えた。 「それじゃあ、お言葉に甘えさえていただきますわ」 ニッと笑ってそう言うと、キュルケはタバサに何事か声をかける。それを受けてタバサが手早く抱えていた箱を開け、キュルケに破壊の杖を手渡した。 「あっ!」 とルイズが驚くのと、 「な・・・!?」 フーケが驚愕するのは同時だった。キュルケはフーケが約束を反故にしないうちに詠唱を始める。 唱える魔法は炎と炎。炎の二乗で生成する、フレイム・ボールだった。 破壊の杖がどんなものかは知らないが、この魔法に破壊力がプラスされればフーケのゴーレムとてただでは済まないはずッ! 一瞬のうちにそう判断したキュルケは、破壊の杖をゴーレムに向け、魔法を発動させる! 「食らいなさい!フレイム・ボールッ!!」 「・・・・・・」 シン、と場が静まり返る。破壊の杖からは、炎の弾どころか火の粉一つ発生しなかった。 「あ・・・あれ?なんで?どうして?」 キュルケは焦って杖を上にしたり下にしたりしている。両脇の二人も、何故魔法が発動しないのか全く理解出来ないようだ。 フーケは怯えていた・・・ような演技からさっきまでの凶相に戻り、 「期待外れだわクソガキ共」 と吐き捨てた。 「なんですって・・・!?」 キュルケ達がゴーレムを見上げる。 「その杖ね、使い方が分からなかったのよ どうやら普通に杖として使うことが出来ないみたいでね で、メイジを呼び寄せて・・・使い方を盗んで殺すつもりだったんだけど やっぱダメねぇ」 「ガキなんかに期待したわたしがバカだったわ」と言って、フーケは今度こそ慈悲のかけらもない眼で3人を見下ろした。そして。 「じゃ、死になさい」 言うや否やゴーレムの鉄腕を振り下ろす! 「股下!」 タバサがとっさに叫んで駆け出す。キュルケとルイズがそれに続き、石人形の初撃は虚しく宙を打った。 柱のようにそびえる両の足の間をくぐると、後方でシルフィードが待機していた。 タバサはあの状況に流されることなく、使い魔に冷静な指示を送っていたらしい。 ルイズは改めて、このタバサという少女の実力を痛感した。 先頭を走っていたタバサが飛び乗り、それとほぼ同時にキュルケが飛び乗る。 「ルイズ」 タバサが最後尾だったルイズを促した。しかし―― ピタッ、と。ルイズは止まった。キッと後ろを振り向き、杖を握る。 「ちょ、ちょっとルイズ!何してるのよ!!」 キュルケが慌てて声をかけた。しかしルイズは振り返ることなく言う。 「あいつを倒すのよ!ゴーレムには歯が立たなくても フーケに直接魔法を命中させれば倒せるわ!」 キュルケは愕然とした。本気だこのバカは。 「何を言ってるのよルイズッ!!あの巨人の攻撃をかいくぐってフーケ本体に魔法を命中させるだなんて、そんな芸当私だって難しいわよ!! ここで逃げても誰もあなたをバカにしたりはしないわ!意地を張る必要はないのよ!ねえ!!早く乗りなさいルイズ!!頼むから早く乗ってッ!!」 キュルケは必死で訴える。ゴーレムはどんどんこちらに迫って来ている。 ルイズはカタカタと震えているが、それでも振り返らない。 「ルイズ!!」 タバサが珍しく語気を荒げる。ゴーレムはついにルイズを射程距離に捉えた。 「行って!」 ルイズが怒鳴る。キュルケも怒鳴る。タバサまで怒鳴った。そんな彼女らの状況など気にも留めず、ゴーレムが無慈悲に拳を振り下ろす! 「行きなさいよ!!」 と最後に大きく叫んで、ルイズは駆け出した。先ほどのタバサと同じ戦法で股の下をくぐる。タバサは一瞬苦虫を噛み潰したような顔を見せると、 「行って!」 シルフィードに指令を下す。間一髪、風竜はゴーレムの一撃を避けて飛び立った。 ルイズはゴーレムから距離を取って走る。射程範囲の外にいるうちに作戦を練ることにした。 ――プライドを、捨てる ルイズの考えた作戦は、それだけだった。長い詠唱で呪文を発動させても爆発するだけ。 何をやろうが爆発するなら、最短のコモン・マジックで魔法を乱発する! この速度の速さだけが、自分がフーケに勝っているものであるとルイズは理解していた。 今大事なのはプライドじゃない。そんなものを失うより、ギアッチョを失うほうがよっぽど辛い。よっぽど怖い。よっぽど、悲しい。 ルイズはごくりと唾を嚥下して、ふるふると首を振った。そうだ、それに比べればゴーレムなんて全然怖くない。バッと顔を上げると、ルイズは杖を握りしめてゴーレムへと駆け出した! 「一番最初に死にたいのはあんたかい!」 フーケの指示で、ゴーレムは三度腕を振り下ろす。ルイズはまたも足をくぐり抜けてそれを回避し、そして振り向きざま魔法を放った! 「ロック!」 ドウン!とゴーレムの背中で空気が爆ぜる。失敗だ。ルイズはすぐに気持ちを切り替え、振り向きつつあるゴーレムの足を前面からくぐり、ゴーレムの背面向けてもう一度ロックを唱えた。 今度はゴーレムの腰で爆発が起きる。失敗。 ――落ち着け・・・冷静に照準を合わせるのよルイズ・・・! うるさいぐらいに音を響かせる心臓を片手で抑えて、ルイズはまた足をくぐりに走る。くぐる。振り向く。放つ。失敗。くぐる。振り向く。放つ。失敗。くぐる。 振り向く。放つ。失敗―― 「ちょろちょろとしつこい鼠だね!いつまでも同じ手が通用すると思うんじゃあないよ!」 しびれを切らしたフーケが、続けて下をくぐろうとしたルイズにヒザを落とす! 「きゃああっ!!」 直撃コースだった。無駄だと知りつつ、ルイズは頭を庇う。 ドッグォオン!! ・・・足が落ちてこない。何故?ルイズがゴーレムを見上げると、その頭からは白煙が上がっていた。 「フレイム・ボールのお味はいかがかしら!?」 ウインドドラゴンから身を乗り出して、キュルケが杖を構えている。 「もうちょっと濃いほうが好みだわねッ!」 フーケが叫ぶと、全然堪えた様子にないゴーレムがシルフィード目掛けて腕を繰り出す!器用に避け続ける風竜の上で、 「出来る・・・ことを するッ!!」 ギアッチョに言われたことを反芻し、2発、3発と火弾を放つ。その言葉にタバサもコクリと頷き、得意技のウィンディ・アイシクルを撃ち放った。 空から降り注ぐ炎と氷の雨はゴーレムの体にこそ穴を穿たないが、 その肩に立っているフーケは生身なのである。ゴーレムは両腕でフーケを庇い、その場に棒立ちになった! 一番危険なポジションであるゴーレムの真正面にいたルイズだが、 ――チャンスは今しかないわッ!! 素早く深呼吸をして、すっとフーケを見上げる。グッと杖を突き出して、全精神を集中させる。冷静に、照準を合わせる。わずか眼をつむり――開く。 「・・・・・・ロック!!」 ドッガァァアアァッ!!! 「命中した・・・!!」 爆炎は、フーケの立っている位置、そのド真ん中で炸裂した。 「・・・やった・・・!わたしでも勝てた・・・ッ!!」 ルイズは嬉しさで泣き出しそうだった。ゼロのルイズが、土くれのフーケに打ち勝った・・・! しかし――煙が晴れるにつれ、ルイズの感動は徐々に絶望へとその色を変えた。 煙が晴れたそこでは―― 岩で作った盾の影で、フーケが微笑みながらルイズを見下ろしていた。 「・・・そんな・・・」 ルイズが後じさる。 「あんたの速射に対して・・・いつまでも無策でいるわけがないでしょう?」 フーケが汗を垂らしながら笑う。ギアッチョ達に差し向けたゴーレムとこっちのゴーレム、そしてこの岩の盾で、フーケの力はかなり消耗されていた。 「一旦身を潜めるしかないかねぇ・・・顔を見られちまったのは残念だけど」 ふぅ、と溜息を一つついて、 「だが、こいつをあんたに食らわせる余力ぐらいは残ってるよッ!!」 フーケはギン!とルイズを睨んだ。 バゴァッ!! ゴーレムの胸から岩塊が一つ、眼にも留まらぬ速さで飛来し―― ルイズの左足がはじけた。 ギアッチョとギーシュは、木々の隙間にフーケの大ゴーレムの姿を認めた。 「・・・ヤ ヤバいよ、ギアッチョ!!」 フーケの騎士達から逃げ回りながら、ギーシュが叫ぶ。 「・・・くッ、こいつら僕のワルキューレより強い・・・!」 フーケのゴーレムに、ワルキューレは一体また一体と破壊されていた。 「やかましいぜマンモーニ!無駄口叩いても始まらねぇッ!!」 ギアッチョはその逆、一体、次、その次とゴーレムの首を刎ね飛ばしている。 ギーシュのワルキューレは残り五体。それに対して、フーケのゴーレムは同じ五体を数える。 「もう少し逃げ回ってな・・・ とっととカタをつけるッ!!」 袈裟斬りに振り下ろされた剣をかわし、そのままぐるりと回りこむようにしてゴーレムの後ろに回る。 一瞬の動きで腕を引き、ゴーレムの首を斬り飛ばした。 逃げ惑いながらもギアッチョの腕前に感心していたギーシュだったが、 「あ・・・ッ!?」 あることに気付き、心臓が跳ね上がった。 「ギッ・・・、ギアッチョぉおおぉ!!」 「やかましいって言ったろーがマンモーニ!!」 「それどころじゃあないッ!見るんだシルフィードを!!『ルイズがどこにも乗っていない』!!」 「何・・・だとォオォ!?」 ギアッチョはバッと飛び下がると、上空に視線を移した。確かに、ルイズの姿はどこにも見当たらない。 「――あのバカ野郎 まさか地上で・・・」 他の可能性を考える。見えてないだけでは?いや、それはない。 風竜がどんな体勢になってもルイズの姿は見当たらない。一人でこっちに向かっている? これもないだろう。罠が張られているかもしれないところにむざむざルイズを行かせるようなことをする奴らじゃあないはずだ。 妙な意地を張って地上で戦っている?これが一番ありえそうだ。ルイズはプライドが高い。 己の貴族としてのプライドの為なら、命を捨てる覚悟で戦いに挑むこともあるかもしれない。 そして最後の可能性。ルイズは、もう既に―― ギアッチョはギリっと歯を噛んだ。考えている場合ではない。自分がすべき事は一秒でも早くルイズの元へ駆けつけることだ。 ――ホワイト・アルバムを全開にするか? ギアッチョはこの場を一気に打開する方法を考える。 ――いや、それはマズい オレのホワイト・アルバムは刀やスーツを作る精密さはあるが、敵だけを選んで凍らせるといった器用さはない・・・ッ ギアッチョの顔が苦悩に歪む。そんなギアッチョを見て、ギーシュは一瞬・・・ほんの一瞬考え込み、 そして。 「・・・う・・・うぉぉおおおぉッ!!ワルキューレッ!!僕を軸にッ!矢じりのように並べェェェッ!!」 ワルキューレに号令を発した!ギアッチョはイラついた顔でギーシュを見る。 「何やってるんだてめー・・・黙って逃げてろってのがわかんねーのか!!」 しかしギーシュは壮絶な意思を持った瞳でギアッチョを睨み返す! 「行けギアッチョ!!ここは僕が食い止めるッ!!」 「正気で言ってんのかマンモーニッ!!てめーじゃ勝てねえのは分かってるだろうがッ!!」 「いいから行くんだッ!!」 ギーシュは怒鳴る。 「ここだ・・・!ここで、『覚悟』を決めるッ!!僕はここで、『覚悟』を身につけるッ!!」 ギアッチョはギーシュを見た。ギーシュの眼に、迷いや怯えはない。侮りも思い込みも、恐怖も後悔もない。ギーシュは今、ここで覚悟を知ってやると『覚悟』していた。 「・・・『覚悟』とは 犠牲の心じゃあねえッ! それだけは覚えておけッ!!」 自分を殺した男の言った言葉を、ギアッチョは今ギーシュに伝える。 そして言うが早いか、ギアッチョは後ろも見ずに駆け出していった。 ギーシュは彼に満足げに眼を遣ると、すぐにフーケのゴーレムに眼を戻した。 「いくよワルキューレ・・・『覚悟』を決めろッ!!」 ギーシュはそう叫ぶと、心の中でワルキューレに指示を出す。矢じりの隊形のまま、ワルキューレは右端のゴーレムに突っ込んだ! 先頭のワルキューレの斬撃をかわし、ゴーレムがワルキューレを真っ二つに切り裂く。 しかしギーシュはそれを見越していた。先頭のワルキューレがやられる前、既にその右後ろに陣取った二体目が、先頭のワルキューレの首に向かって剣を振るいはじめていた! 唐竹割りにされた自らのワルキューレの首を更に自分のワルキューレで薙ぎ、そのままフーケのゴーレムの首も刎ね飛ばす! 間髪いれず左側から襲ってくる二体目のゴーレムに、ギーシュの左前に構えていたワルキューレが突きを受けて倒れ――その影から、ワルキューレの槍を拾ったギーシュがゴーレムの首を突き飛ばした! 「肉を斬らせて――骨を断つ・・・か」 ギーシュはようやく気付いた。自分が負けていたのは、力の差があったからだけではない。 朝、オスマン達の前で仲間に頼らないと誓ったにも関わらず、ギーシュは知らず知らずのうちにギアッチョにべったり頼っていた。 自分のワルキューレが倒れるところは見たくない。ある程度の安全圏からサポートしていれば、ギアッチョがケリをつけてくれる。 そんな甘っちょろい考えが、ワルキューレの動きを、攻撃を、判断を、ハンパに鈍らせていたからだ。 それが理解出来たならば、例え相手がトライアングルとはいえ、完全遠隔操作のゴーレムなどに負けるわけがないッ! ギーシュは片手に槍を構えて、高らかに宣言する。 「これで僕のワルキューレは三体・・・お前達は二体だッ!! 僕は逃げない・・・お前達を恐れない そして侮りもしない!! 我が名はギーシュ・ド・グラモン!我が友ルイズの為、そして我が道の師、ギアッチョの為ッ!!今この場で、お前達を斬り伏せることを『覚悟』するッ!!」 自分で槍を握ったことなどないにも関わらず――その姿は雄雄しく、そして気高かった。 ギアッチョは走る。走りながら、何故自分はここまで必死になっているのかと考えた。 たった数週間前に知り合ったばかりのガキのために、何故オレは血管がブチ切れそうな勢いで走っているんだろうか。 ギアッチョは考える。オレが生きていた頃なら、こんなことはありえない。 こんなどっちつかずで下手をすれば両方を失ってしまうような判断はしないはずだ。 ――いや。そうじゃない。生きていた時の判断とは、つまり暗殺者としての判断ということだ。 そういうことじゃない。ハルケギニアにいるオレは、トリステインにいるオレは暗殺者じゃあない。使い魔だ。 「使い魔のギアッチョさんよォォ・・・おめーは何故走ってるんだ・・・?」 解らなかった。あらゆる感情の摩滅した世界で生きてきたギアッチョには、自分の心など解るはずもなかった。だが、理由は解らなくても一つだけ 理解していることがある。 あいつを死なせたくない、自分はそう思っている。それだけは解った。だから。それだけをともし火に、ギアッチョは走る。 デルフリンガーもまた焦っていた。こんな嫌な予感は何年ぶりだろう。 守ると誓ったばかりなのに。ルイズを守ると約束したばかりなのに―― 今朝までロクに会話も交わしたことがなかった娘だった。だがそれがどうした?そんなことは関係ないしどうでもいい。 自分はルイズを守りたいと思った。だから誓った。ならば自分はデルフリンガーの名にかけて誓いを果たす。それだけだ。 ・・・なのにどうして自分には足がついていないのか。デルフが今日ほど己を呪った日はなかった。 雑草の生い茂る地面ではホワイト・アルバムでスケートなど出来ない。 鬼のような形相で森を駆け抜け、小屋を中心に広がる空き地が目前に迫ったその時、ギアッチョとデルフリンガーがそこに見たものは、 「――バカな・・・」 左の足首を吹っ飛ばされて地面に倒れるルイズと、それを今まさに踏み潰さんとする巨大な岩の足だった。 何もおかしいことはない。十分予想していた状況だった。しかしギアッチョはそう言わずにはおれなかった。 そしてそれは、デルフリンガーも同じことだった。 「・・・嘘だろ・・・」 ギアッチョは足を止めない。茂みを掻き分け、空地に飛び込み、ルイズに向かって走り続ける。しかしその頭は、悲しいほど冷静に状況を計算をしていた。 ルイズまでの距離、25メートル。到達所要時間、約3.4秒。 ゴーレムの右足がルイズを踏み潰すまでの時間、2秒未満。 絶望だった。 「うおおぉおあああああああああああああ!!!!」 ギアッチョが絶叫する。いくら叫んだところで、いくら怒ったところで、もう辿り着けない。間に合わない。ルイズは――救えない。 何が最強のスタンドだ。絶対零度は全てを止める?じゃあやってみろよッ!!今ここで!!この距離で!!2秒以内にあいつを止めてみろよッ!! 怒りと無力さと絶望に駆られて、ギアッチョはただ叫ぶことしか出来なかった。 ――たとえ天が落ちてこようが・・・ デルフリンガーもまた、絶望していた。今朝誓ったことを、5時間も経たないうちに破ってしまう。 そしてその場を自分はただ眺めているだけ ――これほど滑稽なことがあるだろうか?デルフリンガーはただの剣だ。目の前で何が起ころうと、彼は常にただ見ていることしか、 この身が、砕け散ろうが―― 「――あ、ああ・・・ああぁああぁあああああああ!!!」 稲妻に打たれたように、デルフリンガーは思い出した。こいつは俺の『使い手』だと。そして、それだけで十分だった。 「ダンナッ!!俺を抜けェェェ!!!」 喋る魔剣は絶叫する。 「イカレてんのかてめーは・・・ッ!!少し黙って」 「いいから早く抜けェエェェェーーーーーーーーッ!!!!!」 鬼神の如きデルフリンガーの絶叫にギアッチョは尋常ではない『意思』を見出し――柄に手をかけ、一気に引き抜き。 ドンッ!!! その瞬間、ギアッチョは消えた。いや、正しくは眼にも留まらぬ速さに『加速』した。 ギアッチョを見ていたものがただ出来ることは、一定の間隔で土煙を巻き上げて弾ける地面で彼の向かった方向を把握することだけだった。 ギアッチョとデルフリンガーは一瞬にして距離を詰め、ルイズを突き飛ばし、 ズン!! 彼女の身代わりになった。 今、何が起きた? 誰もが状況を上手く認識出来ず、場は沈黙に包まれた。 ルイズが助かり、ギアッチョが死んだ。最初にそれに気付いたのは、キュルケとタバサだった。 ゴーレムがその手でフーケを庇っている限り、彼女達にゴーレムを止める手段はなく ――ルイズが踏み潰されるその一瞬、キュルケ達に出来たことは彼女の名を叫ぶことだけだった。 しかし巨大な岩塊がルイズに打ち下ろされる寸前、誰かがその下に飛び込みルイズを弾き飛ばした。誰か?誰かって何だ。 ギアッチョ以外に誰がいるんだ。 キュルケは、そしてタバサはまさに茫然自失だった。死んだのはルイズではない。 得体の知れない平民の使い魔だ。ルイズは生きている・・・。喜ぶべきじゃないか。 頭ではそう思っているのに、キュルケは震えが止まらなかった。 隣のタバサはいつもと同じく何も喋りはしないが、その瞳は信じられないものを見たかのように見開かれていた。 次に事態を理解したのは土くれのフーケである。 無詠唱で魔法を使うメイジという一番の危険人物が死んだことに気付き、フーケはヨハネの首を貰い受けたサロメのように笑い狂った。 ちょこまかとうるさい落ちこぼれを殺して逃げるつもりが、死んだのは何をしでかすか解らない異端の平民だったのである。 信じられない幸運にフーケは狂喜した。 何かに突き飛ばされて呆然とへたり込んでいたルイズは、その哄笑で ようやく理解した。自分を突き飛ばしたギアッチョが、身代わりになって死んだ ということを。 「・・・・・・・・・・・・・・・嘘・・・・・・」 ルイズは長い時間をかけて、やっと一言言葉を吐き出した。 「嘘だよね・・・ギアッチョ・・・・・・」 ルイズの声は震えていた。ゴーレムのことなど完全に忘れてギアッチョの 『いた』場所へと歩き出そうとするが、立ち上がろうとした瞬間につんのめり 無様に倒れる。ルイズは自分の左足が吹っ飛ばされたことを思い出し、 だがそれでも一歩ずつ這って行く。ギアッチョがこんなことで死ぬわけない。 きっと生きている。すぐに足を壊して出てくる―― しかし少女の淡い期待は、地面に滲む鮮血によって脆くも打ち砕かれた。 ゴーレムの足に接していた場所から流れているそれは紛れも無く ギアッチョの血液であることを悟り、ルイズはその場に崩れ落ちた。 「返事してよ・・・・・・ねえ」 ルイズは消え入りそうな声で問いかける。 「生きてるんでしょ・・・悪い冗談はやめてよ・・・」 しかしギアッチョのいた場所からは何も返ってはこない。聞こえるのは、 壊れたように鳴り続けるフーケの笑い声だけだった。 「・・・そんな・・・・・・ギアッチョ・・・・・・・・・デルフ・・・」 自分が。自分が殺した。その事実に、ルイズは涙すら出なかった。 そろそろ殺すか、とフーケは思った。 今にも死にそうに打ちのめされているルイズを見て若干の憐憫が沸かないでもなかったが、無理やりバカ笑いをしてそれを打ち消した。 自分の正体を知った者を生かしておくわけにはいかない。 ルイズを殺し、こいつの左足を打ち抜いた岩塊で風竜の翼を貫く。 あとは二人を踏み潰すだけだ。 「悪いわねお嬢ちゃん・・・あの世で仲良くしなさいなッ!!」 グッ!! 「・・・・・・・・・?」 ルイズを蹴り飛ばそうとしたゴーレムの右足が、動かない。 いや、正確には――地面から離れない。 「・・・な・・・によ これ・・・・・・」 おのがゴーレムの足を見下ろして、フーケは戦慄する。ギアッチョを踏み潰した右足が、氷によって完全に地面に固定されていた。 そしてその氷の中から声が響く。彼女にとっては地獄の底から響く声、そして『彼女達』にとっては百年間も待ちわびていたように思える声だった。 「・・・・・・ギリギリだ・・・ ええ・・・?クソ・・・ ギリギリ・・・発動出来たぜ・・・」 その声にフーケの心臓は凍りつく! 「そして・・・発動しちまったからにはよォォォ~~~・・・・・・てめーは絶対に逃がさねェッ!!」 何をする気か知らないが・・・これはマズいッ!!そう思ったフーケだったが、ゴーレムの足は大地と同化しているかのように動かない。 そして―― 「ホワイト・アルバム・・・ジェントリー・ウィープスッ!!!」 ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキィッ!!! 裏切り者を断罪する、氷結地獄コキュートス。まるでそこから響いてくるような声が、彼の姿無き半身を呼び起こす!岩人形の右足を覆う氷は電光石火の如く脛を、膝を、腰を駆け上り、右足から頭に至るまで、その全てが完全に凍りついた! 「なんなのよ・・・なんなのよこれェェェ!!」 無詠唱、という単語が彼女の脳裏によみがえった。彼女はうわごとのように繰り返す。 「こんなの・・・こんなの私達の魔法じゃない・・・!!」 しかしそんな彼女の怯えなど一顧だにすることなく、ギアッチョは無慈悲に宣言する。 「・・・ブチ・・・・・・割れな・・・・・・!!」 バガシャアアアアアァッ!! 千里に響く轟音と共に、ゴーレムの体が端から崩落を始める! 「ま・・・マズい・・・!!逃げないとッ!!」 フーケは慌ててレビテーションを唱えるが、その体は毫末も上昇することはなかった。 「な・・・なんで・・・・・・ハッ!?」 フーケはようやく気付いた。自分の足が、氷によって完全にゴーレムと固定されていることに。 そして彼女にもはや「火」を使う力は残っておらず―― 彼女は己のゴーレムの破片と共に、惨めに、そして無残に墜落した。 フーケの凍りついた両足は完全に割れて分断されていたが、レビテーションで逃げることも出来ないようにギアッチョはホワイト・アルバムで容赦なく地面と固定させた。もっとも、フーケはその時点で完全に意識を失っていたが。 とにかくそうしておいて、ギアッチョはルイズの元へ駆け寄る。 「ギアッチョ・・・!!」 ルイズはおのが使い魔の姿をはっきりと確認し、そこでようやく――そして どうしようもなく、ぼろぼろと涙をこぼした。ギアッチョはすたすたとルイズに近寄る。 言いたいことは色々あるが、とにかく一発ブン殴ってやるつもりで手を上げた。が。 がばっ!と血まみれの自分に抱きついてただごめんなさいと繰り返す少女をブン殴ることは、流石のギアッチョにも出来なかった。 振り上げた手をゆっくりと下ろすと、彼はとりあえず溜息をついた。