約 439,948 件
https://w.atwiki.jp/mydata/pages/97.html
ゼロの使い魔 (全13話終了) 01 ゼロのルイズ 02 平民の使い魔 03 微熱の誘惑 04 メイドの危機 05 トリステインの姫君 06 盗賊の正体 07 ルイズのアルバイト 08 タバサの秘密 09 ルイズの変心 10 姫君の依頼 11 ルイズの結婚 12 ゼロの秘宝 13 虚無のルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1542.html
「宇宙の果てのどこかにいる、わたしの下僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 十数回の爆発にもめげず、召喚呪文を唱えて杖を振り上げるルイズだったが、今度は爆発すら起こらなかった。 が、草原の端に楕円形をした銀色の円盤が現われる。 それが何であるか、魔法の成功率はゼロであるものの勉強熱心な事にかけては学園でも屈指であったルイズは知っていた。 その物体こそ召喚円。そこに何かが入れば、ルイズの召喚は成立するのだ。 「いける! さあ、誰でも良いからそこに飛び込みなさいよ!!」 「『いける!』じゃないわよヴァリエール。誰がそんなトコに好き好んで入るもんですか」 「春の使い魔召喚は神聖な儀式ですよねコルベール先生。 と、ゆーワケで思い切って飛び込んで下さい!」 「全力でお断りさせてもらいますぞミス・ヴァリエール」 「ゼロのルイズが貴族を召喚する気だぞー」 「ゼロのくせに生意気だー」 まぁそんな騒ぎの中、草原の一角では一人の少女が自分の使い魔に弄ばれていた。 澄んだ青いウロコと翼を持った竜、風竜にきゅいきゅい言いながら咥えて持ち上げたり、 放り投げてはキャッチしたりされているのは雪風のタバサ。 見事と言うべきか、お手玉のようにポンポンと投げられながらも、体育座りの姿勢を崩さずに読書を続けている。 「きゅいきゅいーきゅきゅー……あっ!」 愛情だか親愛だかの表現だったのだろう、シルフィードの人間お手玉にされるがままなタバサ。 だが、急な突風にうっかり手元が狂ってしまい、変な方向に飛ばされてしまった。 「きゅいーっ! おねーさまー!」 「きゃー、タバサが!」 落ち行く先は――――――当然のように件の召喚円。 「チャーンス! もらったわよ!」 待ってましたとばかりに起こる爆発の中から現れるタバサに、躊躇ゼロのルイズがキスを喰らわした。 「……あつい」 かくして契約は結ばれ、タバサの左手にはガンダールヴのルーンが浮かび上がる。 ――――これが後にガリア王城守護・花壇騎士団を単騎で壊滅させる、ハルケギニア最強の魔法剣士の誕生であった。
https://w.atwiki.jp/arasuzisouzou/pages/53.html
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 10 49 36.67 ID cGgoc351O ゼロの使い魔 使い魔が一匹もおらず仕方ないので自分でなんとかしました 837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 08 42 40.07 ID ISV9IunIO 59 使い魔であるピンク髪の女の子が「良いわね?行くわよ」の掛け声と共にイヤリング爆弾で敵を葬り去る まだみぬご主人様を探すために 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 12 08 06.22 ID d1uPUwgO0 ゼロの使い魔 ツンデレ幼女魔法使いに召還された使い魔がメイドといちゃいちゃしつつ長門にちょっかいをかける話 そしてそれをツンデレ幼女にやきもちやかれる 269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 13 28 28.26 ID PV6UskiYO ゼロの使い魔 ゼロと呼ばれる天才魔術士が黒魔術に手を出し、ルイズという悪魔を使い魔とした。 しかし不幸な偶然が重なり舞台を変えてギャンブルで争いあうことに… 321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 03 34.55 ID +YuxCU8M0 ゼロのつかいま ロックマンの続編 354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 29 59.13 ID +/W8V6y8O ゼロの使い魔ってどんな話? 359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 36 14.26 ID uZ0I99qB0 354 ゼロの使い魔 トリステイン王国に恨みを持つ少年、主人公ルルーシュ・ランペルージは謎の少女ルイズから、武器を自在に扱える力「ギアス」を与えられることになる。ルルーシュは仮面で素顔を隠して「ゼロ」と名乗り 自称正義の味方「ハルケギニア」を結成し、トリステイン王国に戦いを挑む。 361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 36 51.71 ID OvnsEnhz0 359 混ぜるな危険 362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 38 05.51 ID +/W8V6y8O 359 まんまギアスじゃねーかw 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 40 12.25 ID Spl9UEq/O 354 ゼロの使い魔 魔法大学に通う青年・ゼロが主人公。 ある雨の振る日、一人の美少女が道端で倒れているのを助ける。 そしてその美少女は、元マスターに捨てられたために行き倒れになっていた低級使い魔だった。 美少女使い魔とゼロの奇妙な同居生活を描いたドタバタ恋愛学園コメディ。 373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 42 41.43 ID +/W8V6y8O 367-368 ちょっと面白そうだな 368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 40 37.29 ID 2mXwYkvq0 354 ありふれた日常を打ち崩す光が空から降り注いだ その時、突如ゼロ次元から現れた神の使い魔「ゼクス」 高校生の主人公とヒロインはゼクスにある”力”を与えられる 使い魔はこの混沌とした世界を救う救世主か? はたまた終末をもたらす悪魔なのか? カタストロフラブストーリー 371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/30(水) 14 42 14.36 ID 1TGAHhyd0 354 ゼロの使い魔 コードギアス1期と2期(R2)を繋ぐ作品。 ブラックリベリオンの後、バラバラになった黒の騎士団を再建すべく黒の騎士団の一般兵士だった主人公は「ファミリア」と名乗りゼロの意思を継ぐ為に戦う。 ちなみにR2で最初にゼロを庇って死んだのがファミリアだったがその事実はあまり知られていないようだ・・・。 375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 14 43 54.67 ID +/W8V6y8O 371 またギアスかよwww 750 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 22 52 56.11 ID JX9a05j60 745 昔はマジでNHKに入社したりNHKの仕事を紹介したりするマンガだと思ってた ゼロの使い魔 天才数学者が数の悪魔「ゼロ」と戦う物語 753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 22 55 41.39 ID N3FN0yeC0 ゼロの使い魔 コードギアスのスピンオフ作品 481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 15 56 41.17 ID UNy/vdZ6O ストーリーっていうかイメージ ルイズフランソワーズ・ル・ド・ラ・ブァリエール 主人公の名前が長い とにかくかわいいらしい 多分外人 ルイズルイズルイズ!!!!くんかくんかくんかくんか!!!!!と、よく言われる VIPで毎日スレが立つほど大人気 可愛い
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1265.html
才人は、今まで馬に乗った事など無い。 元の世界では、バリバリのインドアタイプであった才人が、馬と触れ合う機会などある訳が無いし、仮にあったとしても、馬に任せて走らすのが関の山だろう。 だと言うのに―――――― 「こら~、もっとスピード上げなさい。 こんなんじゃあ、街に着く前に夜になっちゃうわよ~」 「あの……ミス・ヴァリエール。やはり、私がやった方が……」 「良いんですよ、ミス・ロングビル。 今は使用人の教育期間ですから。馬車の御者ぐらいさせませんと って、こらっ! 揺れが激しくなってきたわよ! もっと揺らさずに走りなさい!!」 「無茶言うな!!」 たは~、と溜め息吐く才人は、馬の手綱を確りと握り、あ~でもない、こ~でもないと必死に操作するのであった。 (とほほ……なんでこんな事に……) 思い出すのは今朝のやり取りである。 「サイト、今日は街へ行くわよ」 虚無の曜日。 元居た世界なら日曜に相当するその日も、休む事無くルイズの世話をしていた才人は、唐突に出された言葉に、目を丸くした。 「街に? 何、買い物でも行くの?」 ちなみにこの時点で才人は、もうすでにルイズに対して敬語を使っていない。 と言うか、普段からあまり敬語を使わない才人は、誰に対してこうである。 最初の頃は、それが気に食わなかったルイズであったが、もう慣れてしまったので何も言わない。 「買い物ねぇ……そういえば、あんた武器を持つと強くなるんだっけ?」 「えっ? 何言ってんだお前?」 思い出したかのように呟くルイズに、才人は頭大丈夫かと言うニュアンスの視線を送ると、思いっきり急所を蹴り上げられた。 「おまっ……オレの…………切ない部分を…………」 「使用人なら自分の役割ぐらい、きちんと認識しときなさいよ!! あんたの手にあるルーンはね、武器を持ったら、滅茶苦茶強くなるって言うルーンなの!?」 確か、そうよね? と後ろに待機しているホワイトスネイクに振ると、肯定の返事が返ってくる。 「ほらね、私の言ったとおりでしょ? 分かったらさっさと、準備して馬を駆りに行くわよ。 あっ、うん、やっぱり馬車ね。まだ怪我が完全に治ってないから、傷に響くの嫌だし って、何寝てるのよ! ほら、早く起きて、さっさと馬車を借りてきなさい! 早く!!」 「お前…………マジで無茶言うな……」 切ない部分の痛みに気絶しそうな才人は、それだけを呟くのが精一杯であった。 あの後、息絶え絶えで馬車を借りに行った才人は、馬車を借りる所でミス・ロングビルと出会って、何故か彼女と一緒に行く事で話が纏まってしまった。 類稀なる会話術と言うべきか、彼女の言葉に、ついころころと返事をしてしまったのだ。 おかげで、相乗りの事をご主人様に伝えて、もう一度切ない部分を蹴り上げられてしまったが。 「あれは……マジで勘弁して欲しいよなぁ……」 優しく踏まれるならまだしも、力の限り蹴り上げられるのはどう足掻いても、ドメスティク・バイオレンスだ。 正直、目から塩水がでちゃいますよ俺的な状態である。 「サイト~、着くまで暇だから歌でも歌いなさい~」 横暴だ。あんまりにも横暴だ。 後ろから響く、歌えコールにサイトは涙を堪えて、ドナドナの歌を歌い、そんな暗い歌を歌うな! と、後ろから、杖で思いっきり叩かれるのであった。 一方その頃、キュルケはタバサの部屋で紅茶を飲んでいた。 本当なら、ルイズの所で飲もうと思っていた代物だが、訊ねた時にはすでに部屋はもぬけの殻であった為に、もう一人の親友であるタバサの部屋へやってきたのだ。 無論、部屋の扉はアンロックで開けた訳だが。 「それにしても、ルイズは何処に行ったのかしらねぇ」 不思議そうに呟くキュルケの声に、タバサは反応しない。 ただ、目の前の、自分の顔より大きい本に読み耽っている。 別にその事にキュルケは腹を立てたりはしない。 何故ならこの娘は、本の虫であり、どんな時でも本を手放さない、本フェチだからだ。 そんな娘が、本を読んでいる時に返答をしてくれるなど、これっぽっちも考えていない。 「まぁ、街に秘薬でも探しに行ったか、何かなんでしょうね。 ルイズの怪我、まだ治っていないみたいだし」 加害者がその場に居ると言うのに話題にする内容では無いが、タバサは気にした様子は無い。 いや、少しだけ、本当に少しだけ目頭がピクリと動き、その事に関する事に何かしらの思いがある事を示していたが、残念ながら、それだけの変化で気付ける人間など、それこそ居ない。 実の所、タバサはルイズの事を警戒している。 あれだけの怪我を負わしたのだ。 自分の所に報復に来てもおかしく無い。 いや、彼女の性格から鑑みても、報復に来るはずなのだ。 今日、何処かへ出掛けたのも、恐らく怪我を完全に治す為の秘薬を手に入れる為だろう。 そして、怪我を完全に治癒した時、こちらに仕掛けてくる。 少なくとも、タバサはそう思っていたし、その為の準備もしている。 来るなら来れば良い。だけど、今度は仕留め損なわない。 そんなタバサの感情を表すように、手に握られている表紙が、少し歪んだ。 「ってな訳で、学院長ったら、わしはまだまだ現役だぞぃとか言って、私の事を口説いてくるのよ」 他愛無い話を耳から耳に流している中、キュルケが思い出したかのように 「あっ、そうそう、ギーシュの奴なんだけど、きちんと回復したわよ」 と、タバサにとって聞き捨てられない一言を漏らした。 「…………なんと言った?」 「えっ?」 「今、なんと言った?」 普段、読書中には返事をしないはずのタバサからの返事に、キュルケは一瞬たじろいだが、すぐに先ほどの言葉を繰り返す。 「えっ、あっ、いや、だから、ギーシュの奴なんだけど、きちんと回復したわよ」 ギーシュの症状を見たタバサは、その答えに思わず読んでいた本に栞を挟まずに閉じた。 そして、キュルケを真っ直ぐと見据えたタバサは、真剣な目つきでその先を促す。 「もっと……詳しく」 まるで砂漠の放浪者が、オアシスを発見したような必死さで聞くタバサに、キュルケはただならぬモノを感じて自分が知っている、ギーシュに関する事の顛末を聞かせるのだった。 「それでは、私はこちらに用事があるので、失礼します。 あぁ、それから、私の事は待たなくて結構ですよ。別の馬を借りて帰りますから」 ミス・ロングビルは街へと着くと、そう言って狭い路地の雑踏へと姿を消していった。 その後ろ姿が去っていくのを確認した後、ルイズは思いっきり不満げに、フンッ、と鼻を鳴らした。 「どうしたんだよ?」 「別に……ただ、ああいう手段が好きじゃないだけよ」 「?」 頭に疑問符を浮かべる才人を一瞥して、ルイズは街へと歩き出す。 (まったく……監視だなんて、やる事が陰湿なのよ) おまけに、ご丁寧にも一緒の馬車に乗って、監視している事をアピールしているあたり、これを仕掛けた人間は相当に性格が悪い。 (言われなくても、こっちだって、今は、騒動はごめんよ。 怪我だった治ってないしね) そう言って、学院の方を鷹のように鋭いを目で睨む。 「大方……学院長あたりでしょうね……」 ルイズの言動の意味が分からない才人は、先程から浮かべている疑問符の数を増やす事しか出来なかった。 「とりあえず、武器屋ね、その後は何処か人の集まる場所に行きましょう」 「武器なんて、誰が使うんだよ?」 大通りと比べると、どうにも不潔な感じがする路地裏を歩きながら、ルイズと才人は言葉を交わす。 「あんたに決まってるでしょ」 「あっ、やっぱり」 使用人として扱き使われた挙句に、武器を持って戦えなんて理不尽だなぁ、と才人は嘆いたが、口には出さなかった。 なんというか、そんな予感はしていたし、これから先も自分は決して平穏と言える生活なんて出来ないだろう。 そんな確信めいた予感に、才人は目頭が熱くなった。 「寂れた所ね」 開口一番にそう告げたルイズは、店主が唖然としているのにも関わらず、店の中の武器を観察し始めた。 横に居るホワイトスネイクと談議しながら買う物を真剣に選ぶ様子は、どう贔屓目に見ても少ないお小遣いで買う物を迷っている中学生だ。 「この槍はどうかしら?」 「槍ト言ウニハ持チ手ノ部分ガ脆スギル。コレデハ、相手ヲ突イタ瞬間ニ折レル可能性ガアル」 うん、ボクは何も聞いてないし、聞こえないよ。 あれは、楽しく物を選んでいる中学生。 断じて、相手が死ぬ様を想像しながら、武器を選んでいるメンヘラっ娘じゃあ無い!! 「脆い武器が多いわね。こんな強度じゃあ、首一つ落とせないんじゃないの?」 「ソウデモナイ。骨ト骨ノ間ヲ通スヨウニ斬レバ、肉ト脊髄ノ中身ヲ断ツダケダカラナ コンナ玩具ノヨウナ強度デモ可能ダ」 ――――――断じて無いよ。多分。 「貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさぁ。 ここにある武器達も、まっとうな所から流れてきた正規のもので、脆いだなんて、そんな事、決してありませんぜ」 ようやく、ルイズの容姿と発言のギャップから復活した店主が、店の品の擁護を始めるが、相手が悪い。 店主の脆くない発言を聞いたルイズは、長さが2メイルもありそうな大剣へ視線を向けると、瞬時にホワイトスネイクがその大剣に拳を打ち込み、ぶち壊した。 唖然とする店主と才人。 ルイズは、フンッ、と偉そうに鼻を鳴らし 「どう、これでもまだ脆くないなんて言い張るつもりなの?」 堂々と、脆さを認識させた。 「良い、私が欲しいのは、武器なの。 武器が素手に負けちゃあ、話にならないわよね」 まるでホワイトスネイクの喋り方が移ったかのような粘着質なルイズの声に、店の店主は、ひぃぃと喉から声を出して、店の奥へと消えていく。 恐らく、一番頑丈な武器を探しに行ったのだろう。 「すげぇな……ホワイトスネイクさん」 店主に続いて現実に帰還した才人は、感嘆の声をあげながら、砕けた剣の欠片を拾う。 「別にこれぐらいなら訳無いわよ。 と言うか……なんで、あんた、こいつに“さん”付けなのよ」 私の事は呼び捨ての癖してと、じと目で睨んでくるルイズに才人は、いや、なんかね、と口篭る。 才人は、チラリと名前の話題が挙がっているホワイトスネイクへと視線を送る。 172センチある才人を見下ろす2メートルの身長を持つホワイトスネイク。 さらに、その目の奥は、何か言い表せぬ恐怖を讃えるように瞳の形を取っていない。 そんな存在と、ルイズが気絶している間、才人はずっと同じ部屋で過ごしていたのだ。 ぶっちゃけて言おう。 才人は、ホワイトスネイクに、めっさビビッている。 “さん”付けもそこから来たものだ。 動物が腹を見せるように抵抗の意思はありませんと伝えるのと同じモノである。 「いや……まぁ、なんとなく」 一応、プライドがある才人は、それを悟られないように言葉を濁す。 ルイズは、目を細め暫く才人を見ていたが、はぁ、と溜め息を吐いて 「こいつの事は呼び捨てで良いわよ。 そんな呼び方されちゃあ、あんたも落ち着かないでしょ?」 同意を求めるようにホワイトスネイクに視線を向けると同時に、店の奥から店主が顔を覗かせる。 「あの~、こいつなんか如何でしょう?」 宝石が散りばめられ、豪華の限りを尽くされたその大剣は、先程の剣よりも一回り程小さい。 「これ、ほんとに丈夫なの?」 「えぇ! えぇ! かの高名なゲルマニアの錬金術師のツュペー卿が鍛えた剣ですぜ。 さっきの剣なんか比べちゃあなりませんさ!」 自信満々の店主の態度に、ルイズは、とんとんと刀身を叩きながら、じろじろと見る。 「私……ゲルマニアってあんまり好きじゃないのよ。 そんな国の高名な錬金術師さんが作った剣……悪いけど、信用ならないわ」 ホワイトスネイクがルイズの言葉に呼応するように右手を振り上げ、剣を壊そうとするのを察すると、 主人は大急ぎで剣を抱きかかえ、一本の錆びた剣と取り替えた。 「何コレ?」 「いやぁ、実はこっちの方が頑丈だったのを思い出しまして これなら、幾らでも叩いて確かめてくださって結構でさぁ」 店主がヘコヘコして差し出した剣は、そんな店主の態度に、驚いたような『声』を上げた。 「おい! おいおいおい!! てめぇ、せっかく人が黙って、おっかねぇのが居なくなるのを待っていたのに、わざわざ目の前に出すたぁ、どういうことだ!?」 「るっせい! お前みたいなボロ剣とこの剣とじゃ、価値が違うんだよ、価値が!?」 店主と言い争うボロ剣に、才人は、うわぁ、と驚きの声を上げ、ホワイトスネイクは振り上げた手を、ゆっくりと元の位置へ戻す。 「すっげぇ、この剣喋る!?」 「へぇ、インテリジェンスソードなんて……面白いものを置いているのね」 物珍しげに才人は、ジロジロと店主と叫びあっている剣を観察し、ルイズは、顎の下に手を当てながら、何かを考え込んでいる。 「お前見てぇな、ボロ剣はさっさと壊されちった方が世の為なんだよ、このスカタン!」 「んだと、ゴラァ!! やれるものならやってみろ! 言っとくが、てめぇ如きに壊される程、俺ぁ、柔じゃねぇぞ!!」 剣のやれるものならの発言を聞いた瞬間、ルイズの口元は面白いぐらいに吊り上がる。 「じゃあやってみましょう」 店主と言い合いをしていたはずの剣は、ひょいっとホワイトスネイクにその柄を掴まれ、ようやく自分の現状を思い出した。 「いやはは、その、今のは言葉の綾ってやつでな。 いや、マジで勘弁して欲しいかなぁ――――――」 なんとか延命を希望する剣に、ルイズは無言で首を横に振る。 才人は、不憫な奴だなぁ、と十字を切り、せめて安らかな眠りをと祈りを始める。 「おい、こら! そこの奴! 見てねぇで助けろ! いや、頼む、助けてください!」 そんなことを言われても困る。 才人としても、本日三回目となる切ない部分へのダメージは、遠慮したいのだ。 と言う訳で、素敵な笑顔を浮かべ、左手の親指を遥か天の上へと向け、歯を輝かせて 「うん、それ無理」 キッパリと切り捨てた。 「テメェェェェェェ!!」 剣の悲痛な叫び声と、ホワイトスネイクの拳が風を切る音は、ほぼ同時であった。 「……痛い」 ホワイトスネイクの拳打は、ルイズのそんな一言で終わった。 驚くべき事であるが、ホワイトスネイクの幾重の拳も、あの剣を砕く事は出来なかった。 逆に、打ち続けたホワイトスネイクの拳の方が砕けはしないが、幾らかのダメージを負っている。 「ハァー……ハァー……貴族の娘ッ子……おめぇ、随分と無茶してくれるじゃねぇか……」 泣きそうな声で、ボロ剣が呟く。 どうやら、マジで砕かれる可能性を考慮していたらしい。 そんな剣の様子に、ルイズは僅かに溜め息を吐いた後 「これ、お幾ら?」 店主にこの剣の値段を聞くのであった。 店主と値段交渉しているルイズを横に、才人は自分の相棒となる剣を握っていた。 案の定、剣を握った時、左手の奇妙な痣が淡い光を放ち、身体が軽くなったような不思議な感触に才人は襲われていた。 「おでれーた。おめぇ『使い手』か」 使い魔のルーンが発動中の才人に、剣はそう声を掛ける。 「『使い手』?」 台詞を鸚鵡返しした才人に、剣は、しばし、黙り、そして 「うっし、俺の名はデルフリンガーって言うのだが、これからもよろしく頼むぜ、相棒」 何故だか『使い手』については語らず、自己紹介をしたのであった。 その事に疑問を感じた才人であったが、まぁ、別に良いかと、自分もボロ剣改め、デルフに名前を教える。 そうこうしている内に、値段交渉を終えたらしく、ルイズはつかつかと出口へと向かって行く。 「ほら、行くわよ。次は人が集まる場所に行かなくちゃならないんだから」 ルイズの横柄な態度に、才人は、あいつはツンデレ、あいつはツンデレ、と辛い時に唱えると楽になる呪文を唱えつつ、その後を追うのであった。 次にルイズが訪れたかった場所は、人が多く集まる場所であった。 何故、そんな所が御所望かと問えば、情報が欲しいとの一言が返ってきた。 情報、情報ねぇ、と才人は首を捻り、RPGゲームで情報と言えば、酒場と言う事で、大通りの近くにあった、それっぽい店に入る事となった。 「「「いらっしゃいませ~!!」」」 店の中に入ると大勢の少女が、きわどい衣装に身を包み給仕をしていた。 いや、何ここ? ヘヴン? ボクは天国にでも迷い込んでしまったのかなぁ、と才人がぼーとしていると後ろから、本日三度目の切ない部分を直撃する蹴りが飛んできた。 「こんな所で情報なんて集められる訳無いじゃない! ほら、出るわよ!!」 自分のした事の重大さを理解していないルイズは、何度喰らおうと慣れない痛みに地面をのた打ち回っている才人に、さっさと店の外に行くと告げるが、動かない。 「おまっ……本当、本当……ここだけは勘弁してください……」 どうやらダメージが蓄積していたらしく、少々深刻な事態に陥っているようだ。 (しまった……やり過ぎたみたいね…… む~、こいつが回復するまでここに足止めか。それにしても良い匂い…… そういえば、お腹も空いてきたし、食事も取れるみたいだから、少しぐらい居ても良いかな) どのみち、才人が再起するまで動くに動けない。 とりあえず、近場のテーブルの椅子に才人を無理矢理座らせ(勿論、やったのはホワイトスネイク)自分も同じテーブルの椅子に座る。 「ご注文を伺います~」 胸を強調した服を着た黒髪の給仕が、注文を聞きにきたので、メニューから適当に品を選ぶ。 「そちらのお客様、ご注文はお決まりになりましたか?」 悶える才人に答えられる道理は無い。 「無理みたいだから良いなよ」 「わかりました、では、しばらくお待ちください」 「あぁ、ちょっと待って。 ここも、一応酒場でしょ? 噂話に詳しい奴って居ない?」 黒髪の給仕は、ルイズの問い掛けに目を輝かせ、 「それなら、あたしが一番詳しいですよ!」 と、豊満な胸を張って答えた。 ルイズが運ばれてきた食事を取りながら、黒髪の娘(ジェシカとか言うらしい)と会話している横で、才人は奇妙な容貌の者と対峙している。 「………………」 「………………」 その者の名は、ホワイトスネイク。 彼はルイズが話し込んでいる事もあり、暇を持て余しているのか、才人の事をじっと見据えていた。 「…………あの……」 「……………………」 無言で。 どうかと思う。 「あの、ホワイトスネイク……さん?」 “さん”は要らないとルイズに言われたばかりであるが、 どうにも無言で、しかも無表情と来ているホワイトスネイクに、どうしても、“さん”を付けてしまう才人であったのだが 「ルイズガ、言ッテイタロウ……“サン”ハ、必要ナイ」 「あっ、はい、すんません」 唐突に返された言葉に思わず頷いてしまった。 そこで、才人は気が付く。 今のが、ホワイトスネイクとまともに成立した初めて会話であった。 会話を交わした。その事実に気が付いた才人は、どうせルイズの話も長引きそうだし、粘って、もう少し会話をしてみようと決心する。 「なぁ、あんたってさ、パッと見て人間みたいだけど、種族って何なの?」 「種族、ト言ウモノガ、ソノ存在ノ分類ヲ示スノデアレバ『スタンド』ト言ウ呼ビ名ガ、私ノ種族ダロウナ」 「『スタンド』ねぇ……聞いた事無いや」 「ソレハソウダロウナ。コノ呼ビ名ヲ付ケタノハ、DIOト言ウ名ノ男ダ。 私モ、便宜上、ソレヲ使ッテイルダケニ過ギナイ」 「はぁ~、あだ名みたいなものなんだ?」 「ソウダナ……個々ガ好キ名デ呼ブ場合モアルカラナ。 『守護霊』『悪霊』皆、好キ勝手ニ呼ンデイル」 「『守護霊』に『悪霊』って……あんた、幽霊だったの!?」 驚くような声を上げた才人は、ホワイトスネイクを確りと見る。 がっしりとした肉体に、へんてこな頭部。体に刻まれた変なマークに……足はキチンとある。 「いやいやいや、足だって、あるし、何より、触れるじゃん」 そう言って手を伸ばし、ホワイトスネイクの手に触れた才人であったが、ホワイトスネイクは、首を横に振った。 「触レラレルカ触レラレナイカハ、些細ナ問題ダ。 我々ハ、本来、スタンド使イ……要スルニ、我々ヲ扱ウ者ニシカ見ル事ハ出来ナイ精神体ダ」 「えっ? でも、見えてるじゃんか?」 そう言う才人は、テーブルに置いてある水の数を数える。 ひぃ、ふぅ、みぃ。 きちんと三人分。 つまり、ホワイトスネイクの分もあり、これは少なくとも給仕の娘には、ホワイトスネイクが見えてる事に他ならない。 「ソウダナ……私モ、ソレガ疑問ダッタガ、マァ、ドウデモ良イ。些細ナ事ダ」 そう言い切るホワイトスネイクに、才人は、こいつ……理知的な喋り方してるけど、実は大雑把な奴なんだなぁと、妙に親近感が湧いてきた。 出会ってから感じていた、苦手意識も自然と消えていく……ように感じる。 「なんだ、あんたって、案外大雑把なんだな。 俺、てっきり気難しい細々とした奴かと思ってたんだけど」 よく物事を考えずに言葉を口にしてしまうのは、才人の悪い癖であるが、ホワイトスネイクは、別に気にしていなかった。 と言うか、才人はおろか、他の人間の言う事もホワイトスネイクにとっては瑣末事だ。 彼にとって、自分が自発的に動くべきは本体の為だけであり、それ以外は全て面倒な出来事である。 今、こうやって才人と会話しているのも、彼にとってこの数日間で目覚めた、暇に対する拒否反応だ。 暇を潰す事だけが目的であり、それ以上でも、それ以下でも無い。 「ってな感じなんだけど……参考になった?」 「えぇ、助かったわ。ありがとう」 才人とホワイトスネイクが、適当な会話に花を咲かせているうちに、ルイズと黒髪の娘の話も終わり、食事に集中しようとしたルイズが、ふと顔を上げる。 「あんた、全然食べてないじゃないの? 何、お腹空いてないの?」 才人の手前に置かれた食事の類は、痛みに耐えていた才人が注文出来なかった代わりに、ルイズが頼んでおいた代物だ。 焼き立てのパンと、具材たっぷりのスープに、ドレッシングの掛かった何か良く分からない野菜のサラダ。 見るからに美味そうなラインナップであるが、ホワイトスネイクとの会話に集中していた才人は、まったくそれらを食べてない。 「食べないなら食べないでも良いんだけど、 私が食べ終わったら、店から出るから、食べるなら早くしなさいよ」 そう言って、残り僅かな鶏肉の照り焼きを、パクパクと食べるルイズに、才人は早食いで答えるのであった。 その頃、才人とルイズが居ない学院では、キュルケとタバサが、ギーシュの部屋の扉を開け、モンモラシーがギーシュに対して、あ~んをしている現場を押さえていた。 ギーシュとモンモラシーは勿論だが、そういうウブな行為をあまりしたことが無いキュルケですら顔を赤らめ、黙ってしまった中で、タバサだけが、つかつかと靴音を荒く立てながらギーシュへと近づく。 「質問がある」 「なっ、なんだい?」 いつもの無感情で起伏の無い声ではなく、何か言い知れぬ凄みを含む声に話しかけられたギーシュは、どもりながらも返事をする。 「貴方の今の状態とそうなった理由を詳しく教えて」 「状態と……理由?」 何を聞いているんだと首を傾げるギーシュだが、タバサの目があんまりにも鋭いので、仕方なく、つらつらと言葉を述べていく。 「状態と言われても……気分が凄く良いぐらいだね。 魔法も、また使えるようになったし……後、そうなった理由って言うのは、僕が正気に戻った理由かい? 正直に言うと、ルイズと決闘した後から今日までの記憶が、すっぽりと抜け落ちていてね。 モンモラシーに、今までの事を聞かなかったら、自分が壊れていたなんて、さっぱり分からなかったよ。 でも、聞いた話では、ルイズが僕の事を元に戻してくれたんだろう?」 ギーシュの問い掛けに、モンモラシーとキュルケは、同時に首を縦に振る。 それを見て、タバサは何かを考えこむように、僅かに目を瞑った。 ギーシュの症状は誰が見ても、もう、治せない状態であった。 ある理由から、色々と精神の病気について調べているタバサですら、ギーシュは一生あのままだと思っていた。 しかし、彼は目覚めた。 記憶の欠落はあるが、それ以外は、元のギーシュそのままだ。 つまり、完治している。あそこまで精神的に壊れていたと言うのに。 「………………」 無言で閉じていた目を開き、タバサは自室へと戻っていく。 試す価値はある。 否、これだけの成果を出しているのだ。 望みは十分にある。 問題は――――――どうやって頼むかだ。 一人、足早に歩くタバサは、その事を只管に考えていた。 「あんた、よく、そんなの買うお金があったわねぇ」 「一週間だけ厨房で働いてたから、その駄賃を貰ってたんだよ」 帰りの馬車の上で、才人は手綱を上手く操りながら、ルイズの言葉を律儀に返していた。 行きで苦労した甲斐があったのか、今の才人の手綱捌きは、そこそこ上達しているように見て取れる。 「ふ~ん、で、それ誰に上げるのよ」 ルイズが興味津々で訊ねるのは、才人が買った一つの腕輪だ。 ヒスイ細工の綺麗な腕輪は、少々値は張ったがそれだけの価値に見合う輝きと美しさを持っているが、才人が自分で嵌めるにはサイズが小さく、明らかに誰かのプレゼント用の品物だった。 「いや、世話になっている同室の娘にな」 思えば、シエスタには随分世話になっている。 ルイズ付きの使用人になってからも、シエスタの部屋から通っている才人は、毎夜、シエスタと顔を合わせる事で、一日の疲れを癒しているのだ。 それに、この二、三日はマッサージまでしてくれている。 感謝するなと言うのが無理な話であった。 「ふ~ん……」 なにやら詰まらなそうに相槌を打つルイズに、はて、自分は何か気に障る事でも言ったかと恐慌する。 「……いや、別にあんたが誰と付き合おうが、私には関係無いんだけど 使用人としての本分を忘れてまで、付き合うの駄目だからね」 ふんっ! 鼻を鳴らして使用人として自覚を持てと言うルイズに、薄ら寒いものを感じた才人は、そういえば! と大きな声を上げて、話題を逸らす。 「給仕の娘と随分長話していたみたいだけど、一体、何を聞いてたんだ?」 「そうね……まぁ、世の中にどんな人間が居るかって言う世間話よ」 何が楽しいのか、ルイズの声は先程と打って変わって、幾分、楽しそうな韻を含んでいる。 「中でも、モット伯とか言うのが、一番興味を引いたわね。明日辺り、会いに行くのも悪くないわ」 「明日は馬が借りられないだろ?」 「学院から近いから、徒歩でも大丈夫よ」 明日が楽しみね、と笑うルイズに、明日は、足がパンパンになるまで歩かされるであろう予想が、頭に浮かぶ才人であった。 だが、その予想は少しばかり早く実現することとなる。 その夜、部屋からシエスタの荷物が無くなっている事に愕然とする才人に、料理長のマルトーが放った言葉によって 第六話 戻る 第八話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1474.html
「まったく、ただの平民だと思ったら、案外やるもんだねぇ」 そう、ルイズも、タバサも、キュルケも、ホワイトスネイクも、才人の言葉に返答しなかった。 ならば、この声の持ち主は…… 「その言い草……なるほどね、獅子身中の虫って事かい」 カタカタと鍔を揺らすデルフの声は、珍しく怒りを満ちていた。 デルフの言葉に、才人は身を固くし、ゴーレムの攻撃と爆発の影響が無い場所に潜み、今、勝利を確信してこの場所に現れた“そいつ”に剣を向ける。 「あんたが……あんたが……!!」 “そいつ”の名はミス・ロングビル。 またの名を―――――― 「『土くれ』のフーケ!!」 「正解。賞品は出ないけどね」 ふてぶてしく嘯くフーケは、才人達の中で一番負傷が激しいルイズへと杖を向けている。 「分かっていると思うけど、詠唱はもう終わっているから、 一歩でも動いたら、このお嬢ちゃんの頭が柘榴みたいになっちまうよ おぉっと、そこの眼鏡の子も、杖から手を放すんだ、良いね」 抜け目無くタバサが無事な左手で持っていた杖を捨てさせたフーケは、ゆっくりとルイズへと近づきながら、今回の事件に関する説明を始める。 「最初、計画通りに『破壊の杖』を盗んだまでは良かったんだけど、どうにも私には、使い方が分からなくてね。 それなら、使い方が分かる奴に使って貰おうと考えた訳さ。 魔法学院の連中なら知ってると踏んだんだけど……どうやらハズレを引いたみたいだね」 誰に聞かれるでも無く、何故、わざわざ学院に戻り捜索隊が出るように仕向けたかを話すフーケに、自分を庇い重症を負ったルイズを抱いていたキュルケは、ふつふつと怒りが込み上げてきていた。 「そんな……そんなくだらない理由で―――!!」 「くだらないなんて、とんでもない。 使い方の分からないマジックアイテムなんて、杖を持ってないメイジみたいなものよ。 価値なんてありゃしない」 まぁ、あんた達には分からないでしょうねぇ、と呟くフーケを、射殺さんばかりに睨むキュルケの唇は、怒りのままに噛み締められ、真っ赤な血が滴り落ちている。 「正直、ゴーレムを倒した手並みは見事だったけど、詰めが甘いよ。 来世では、きちんと最後まで気を抜かないようにね」 目付きを鋭くしたフーケが呪文を解放しようと、杖を、気付かれないように摺り足で移動していた才人に突きつける。 「まずは、あんたからだよ!」 そう言い、解放しようとした瞬間、フーケは咄嗟に後ろに下がった。 キュルケの腕に抱えられていた少女が立ち上がり、自分の方へ、そのか細い腕を向けた為に。 「何のつもりだい? まさか、杖も無しに私に戦いを挑む気なの?」 「そのまさかよ『土くれ』 私はこれからあんたを倒すわ」 右肩が砕かれ、その他の箇所にも岩石が当たり、呼吸をするのもやっとだと言うのに、ルイズは普段通りの口調とテンポで言葉を紡いでいた。 「どうして貴族様と言うのは、こう負けず嫌いなのかね?」 やれやれと言わんばかりに杖を構えるフーケに対し、ルイズは、それは違うと首を振る。 「確かに……あんたにここまでされたのは癪よ。だけど、私が、今、立ち上がっているのは、それとはまったく関係無い。 私はね、フーケ。何よりも自分の理想を汚すのが、一番耐えられないから、立ち上がっているのよ」 前だけを見据えて、桃色の少女は言う。 「理想?」 「えぇ、敵に後ろを見せず、例えその先にあるのが死だとしても、毅然として立ち向かう。 ――――――それが、私が求める理想よ」 一歩、さらに前へと踏み出し、フーケに近づくが、体重を支え、地を蹴る為の足は小刻みに震え、もう、すでに限界に来ている事を告げている。 「理想ねぇ……勝てない敵に……必ず死ぬと分かっている者に立ち向かうのは、そんなに大層なもんじゃない。 ただの無謀と言うんだよ」 「無謀だからと言って、その場から逃げたなら人間は人間じゃなくなる。 その辺の家畜と変わらなくなるわ。 理想あっての人間。理想を実現する過程が、人間が生きるべき、最も尊い道。 私は、絶対に其処から外れるのは嫌。外れてなんかやらない。外れるものですか―――!!」 声は力となり、限界のはずの足を動かす。 前へと、己が敵を打ち倒す為に、ただ、只管に前へと。 「なら、その道で果てな!!」 フーケの杖から魔法が炸裂する。 その魔法は、ルイズの足元の土を一気に氷柱のように変化させ、そのままルイズの心臓を貫こうとする。 キュルケは、友人が死んでしまう現実に、顔を覆った。 タバサは、やっと見つけた希望が潰えるのに、絶望を顕わにしていた。 才人は、初めて見る死と言う事象に呆然としていた。 故に、この状況で動くのはただ一人。 「なっ!」 確かに桃色の髪をした少女に気を取られ、他の連中に対しての警戒が散漫になっていたのは認める。 認めるが、フーケは目の前の現実が信じられなかった。 崩れ落ちる少女の身体。 支える白の使い魔。 そして、粉砕された土柱。 「マッタク、君ノ成長速度ニハ呆レルシカナイナ。マサカ、一週間足ラズデ、エンリコ・プッチト同ジ程ノ精神ノ強サヲ持ツトハ…… 『世界』ノDISCヲ扱ウノニ三年ハ月日ガ必要ダト言ッタガ、ドウヤラ、ソノ認識ハ改メナケレバナラナイラシイ」 ルイズと同じだけの負傷を負っているはずのホワイトスネイクだが、その口調には隠し切れない喜びの韻が、確かに含まれていた。 それは、主が自分の望む強さに辿り着いたが故の喜びか。 歓喜に吼えるホワイトスネイクに、ルイズは、こいつを召喚してから一週間と一日しか経ってないんだなぁ、と現状とは違う事を考えていた。 「死に損ないが! 潰れな!!」 右肩が砕け、口から血を溢しているホワイトスネイクに、フーケは残りの魔力を総動員して作った、10メイルのゴーレムを嗾ける。 先程のゴーレムに比べれば、遥かに力は落ちるが、それでも亜人一匹殺すには十分過ぎる戦力のはずだ。 だが――― 「―――俺を忘れんな」 四肢を切り落とされ、ダルマにされるゴーレム。 その横には、剣についた土を振り払う黒髪の少年の姿。 硬直していた才人の頭が、ようやく再起動を果たしたのだ。 2対1 自分にとって不利な状況になってしまった事に気がついたフーケは、ダルマになったゴーレムに先程のゴーレムにした命令と、まったく同じ命令を下す。 この距離では、自分も被害が被るが、命には代えられない。 顔を腕で覆い、頭への被弾を防ぐような格好をしたが、それはまったくの無駄であった。 ルイズを支えていたホワイトスネイクは、即座にルイズから離れ、爆発寸前のゴーレムを左手と両足だけで完璧に粉砕したからだ。 その速さと破壊力は、明らかに人型のどの生物をも超越していた。 「……化け物」 フーケが思わず呟いたその一言に、ホワイトスネイクは、鼻を、フンと鳴らす。 奇しくもそれは、最近のルイズの癖に酷似していた。 「化ケ物カ……悪クハ無イナ。少ナクトモ、貴様ノヨウナ者ト同列ニ見ラレナイダケナ」 嘲るようにそう言うと、ホワイトスネイクはフーケの傍まで歩き出す。 フーケは、即座に踵を返して逃げようと走り出したが、彼女を守るべき泥人形が居ない今となっては、逃げられるはずも無い。 すぐに追いついた才人が、足を引っ掛けてこけさせて、フーケの杖を奪い取る。 無様に転んだが、それでも逃げようとするフーケの足をホワイトスネイクは掴み、持ち上げる。 「離しなさいよ、この!!」 「良イダロウ」 宙吊り状態になっても抵抗していたフーケを、遥か高く空中に放り投げ、落下してくるその身体に、拳を叩き込む。 何度も、何度も、何度も、何度も。 「おい! もう良いだろ! 止せ!!」 才人の声に、殴るのを止めたホワイトスネイクの横に、フーケの身体が落下する。 その身体には、幾重もの青痣が刻まれ、口元からは血が滲み出ていた。 「大丈夫なのかよ?」 「心配ナイ。死体ニナッテハDISCヲ取リ出セナイカラナ。急所ハ全テ外シテアル」 そういう問題じゃねぇだろ、と呟く才人の声に返答せず、 ホワイトスネイクは、殴打によって意識が無いフーケの頭から一枚、DISCを取り出す。 「貰ッタゾ……貴様ノ才能」 吐き捨てるように言葉を浴びせたホワイトスネイクは、さっそくそれをルイズに渡そうと振り返ると、桃色の少女は赤髪の少女の膝枕で気持ち良さそうに目を瞑り、意識を深い闇の底へと沈ませていた。 「どうやら終わったみたいね」 ルイズが起きないように、小さな声で言うキュルケの言葉に、才人とホワイトスネイクが同時に頷く。 フーケを戦闘不能に追い込み、『破壊の杖』の奪取にも成功した。 これは、文句なしの大成果である。 「帰還」 合図をし、風竜を呼び寄せたタバサに、一同はそれぞれの負傷を庇いながら風竜へと乗り込むのであった。 「それにしても……ミス・ロングビルが『土くれ』だったとはのぅ」 学長室で自慢の髭を擦りながら呟くオールド・オスマンは、物凄く残念そうである。 秘書として完全無欠、おまけに尻の触り心地も最高だったと言うのに、解雇しなければいけない事を、彼は本気で嘆いているのだ。 「いや、しかし、よくやってくれた、皆の者。 君たちのシュヴァリエの爵位申請を宮廷に提出しておいた。 あぁ、ミス・タバサは、すでにシュヴァリエじゃったから、精霊勲章の授与を申請しておいたぞい」 パイプの煙を吐き出しながら告げられた内容に、オスマンの元へ報告に来ていた、ルイズ、タバサ、キュルケの三人は顔を綻ばせた。 いや、タバサは何時も通りの無表情であったが。 三人共、フーケに負わされた怪我は、オスマン自ら治療を施し、ルイズに至ってはタバサ戦から長引いていた両腕と両足の怪我も完璧に完治していた。 「さて、ミス・ヴァリエールには、もう一つご褒美じゃ。 君に対して科せられていた謹慎処分を、現時点を持って取り消すとする」 オスマンの威厳がたっぷり込められた言葉に、ルイズは目を丸くした。 「あの……まだ期間はありますけど?」 「じゃから、ご褒美じゃと言ってるじゃろ。 確かに間違いを犯したと言う事実を消す事は出来ない。じゃがな、ミス・ヴァリエール。 消す事は出来んが、正しき行いによって払拭する事は出来る。つまりそう言う事じゃ」 呵々とその辺に居る爺さんとまったく変わらない笑い声に、ルイズは深く頭を下げた。 「ありがとうございます……オールド・オスマン」 「良い良い。さて、諸君。今宵の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。 主役は勿論、フーケを討伐した君達じゃ。楽しんでくれたまえ」 三人は元気良く、はいと返事をすると、学長室から退室する。 オールド・オスマンは、誰も居なくなった部屋で、一人パイプを吹かしながら、惜しいのぅと呟いた。 「ねぇ、ホワイトスネイク」 自室に戻り、舞踏会の為のドレスに着替え始めたルイズは、自分が完治した事により、怪我が癒えた使い魔の名を呼ぶ。 ホワイトスネイクは椅子に座り、奪ったばかりのDISCを手で弄んでいたが、ルイズの声に顔を上げ、彼女の方を見る。 「ドウシタ、ルイズ?」 ホワイトスネイクの声に、ルイズは何かを言おうと口を動かすが、途中で止める。 言おうか言うまいか迷っている、と言った様子だ。 そんなルイズの様子に、ホワイトスネイクは不思議そうに首を傾げた。 「ドウシタト言ウノダ、ルイズ。何カ言イタイ事ガアルナラ、ハッキリ告ゲタ方ガ良イ」 「―――分かった、言うわ。あのね、ホワイトスネイク。 …………エンリコ・プッチって、誰?」 真剣勝負寸前の武士のような顔で告げられた内容に、ホワイトスネイクは拍子抜けしたが、すぐに、そういえば、まだ話していなかったな、と思い出した。 「エンリコ・プッチトハ、私ノ元本体。私ヲ生ミ出シタ言ワバ、父デアリ、母親ダ。 彼ノ精神ノ象徴ガ私デアリ、故ニ彼ハ私ヲ100%使イコナス事ガ出来テイタ」 懐かしむように語り始めたホワイトスネイクを、ルイズは怒りとか悲しみとか、とにかく、そういうのがごちまちゃになった表情で、彼を見つめていた。 「私ハ彼デアリ、彼ハ私デアッタ。彼ノ望ミハ、私ノ望ミ。彼ノ悲シミハ私ノ悲シミ。 イヤ、スタンドデアル私ニ、悲シミヤ怒リナドト言ッタ感情ハ無イカラ、私ガ感ジテイタ悲シミヤ苦シミハ、彼ノ感情ダッタノダロウナ」 「ホワイトスネイク……貴方……」 その人の所に戻りたいの? とルイズは聞けなかった。 何故なら、プッチと言う男を語る彼の眼は、故郷を懐かしむ人間のそれであったから。 「シカシ、ルイズ。何故、コンナ事ヲ聞ク?」 「別に……他意は無いわよ。 ただの知的好奇心ってやつかしらね」 素っ気無く、ルイズはそう答えると、さっさと部屋から出て行った。 ホワイトスネイクは、何処かおかしげな本体の様子に首を捻るしかなかった。 「ヴァリエール公爵が皇女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~~~~り~~~~~!」 白を基調としたドレスに身を包み登場したルイズに、魔法学院の生徒達は、皆、大口を開けていた。 普段『ゼロ』とか無能呼ばわりしていたはずの娘が、着飾ればここまで美しかった事を、誰一人予想していなかったからだ。 「僕とダンスをご一緒しませんか?」 「いえ、ここは私と」 「何を言う、ヴァリエールは俺と踊るんだ」 がやがやと自分の回りに集る男子生徒にルイズは、人間とはこうも簡単に手の平を返せるものかと、一種の感心さえしていたが、今まで自分の事を蔑んできた者と踊る趣味など、ルイズは持っていなかった。 最初の頃は、諦めずに粘る生徒も居たが、頑ななルイズの態度に、一人、また一人と居なくなり、とうとう、ルイズの回りから生徒達は完全に居なくなった。 「良かったのかよ、断って」 「良いのよ、あんな連中と踊る身体なんか持ち合わせてはいないわ」 軽食とワインをお盆に載せて付き従う才人の言葉に答えると、 ルイズの足は自然と、誰も人の居ないバルコニーへと向かっていた。 「ホワイトスネイク」 バルコニーに出ようとする所で、ルイズは自分の使い魔を呼びつける。 「今日は、あんたが一番のお手柄だから、今だけは私の傍を離れるのを許すわ。 パーティー、存分に楽しみなさい」 そう言い、さっさとバルコニーに出るルイズの後姿は絶対に着いて来るな、ホワイトスネイクに告げていた。 「おい!」 慌てて後を追う才人であったが、主の意図を汲み取ったホワイトスネイクは、暫くテラスを見つめていたが、やがて、パーティーの喧騒の中に紛れていった。 「どうしたのだよ、お前」 「……別にどうもしてないわよ」 バルコニーの手すりに寄り掛かるルイズだが、その顔は誰が見ても曇っているようにしか見えない。 「あのなぁ、そんな顔でどうもしてないとか言われても、はいそうですかって言えねぇんだけど」 呆れたように溜め息を吐く才人に、ルイズはムッとしたのか柳眉を逆立てたが、すぐにそれも元通りとなってしまう。 こりゃ、重症だなと才人は頭を掻く。 先程の様子では、ホワイトスネイクと何かあったらしいが、訳を知らない自分に出来る事など無いに等しい。 なので、とりあえず、その無きに等しい自分に出来る事を、才人はする事にした。 「ホワイトスネイクの事で悩んでるだろ」 「―――ッ! なんで……?」 「お前な……あいつにあんな態度取ってたんだから、丸分かりだっつうの。 まぁ、あいつの何で悩んでるかまでは分からないけどさ」 ルイズは、あっさりと自分がホワイトスネイクについて悩んでいる事を言い当てられたのに、手すりから離れ才人の顔を正面から見た。 「うちの親父が言ってたんだ。誰かについて悩んでる時って言うのは、その人の事を信じられなくなっているからって。 あ~、要するにだな。ホワイトスネイクを信じてやれよ。 一体、何で悩んでるか知らないけど、俺が見る限り、あいつはお前の事を本当に大切に思っているよ。 そんな奴の事を、信じられないのか?」 私が……ホワイトスネイクを、あいつを疑っている? そんなはずは無い。自分に対して常に忠実であり、裏切る事など初めから思考回路に存在しない、あいつを、どうして疑わなければならな―――――― ――――――その人の所に戻りたいの?―――――― っ! そうだ、自分は聞けなかった。 もし、帰りたいと告げられた時、一体、どんな顔をすれば良いのか分からなかったから…… いいや、それも違う。 そんな事を考えたく無かったから。 ホワイトスネイクが自分の元から居なくなるなんて、想像もしたくなかったから。 自分を底辺のさらに底から助けてくれた者を、失いたくは無かったから。 だから、私は聞けなかった。 ホワイトスネイクが、自分では無く、元本体を取ると疑ったから、私はあいつに聞けなかった―――っ!! 「サイト!!」 「はっ、はい!!」 「……ありがとう。あんたのお陰で目が覚めたわ」 「はっ?」 呆ける才人をその場に置いて、ルイズはパーティーの喧騒に紛れて行った使い魔の所へ走っていく。 「元気だねぇ、まったく」 二人の会話に口を挟まなかったデルフが、やれやれと呟いた。 ルイズと別れたホワイトスネイクは、特にこれと言ってやる事が無かったので、ぶらぶらと会場をうろついていた。 回りの学生達は、奇妙な姿をしたホワイトスネイクにこそこそと陰口を言っていたが、彼には関係無かった。 どれだけ蔑まれようが、どれだけ侮られようが、その事に関して怒りを感じたり、何らかのアクションをホワイトスネイクが取る事は無い。 これが本体への侮辱であるならば、話は別だが。 ともあれ、今宵のルイズの美しさは、使い魔が奇妙な姿である事を差し引いても、蔑まれる事が無い程であり、ホワイトスネイクの被害者は今のところ0名である。 「奇遇」 会場に設置されたテーブルの近くを通ったホワイトスネイクは、何の肉なのか良く分からない巨大な肉を喰らうタバサに話しかけられた。 普段の彼ならば、軽く無視するのだが、今は暇を持て余している身分なので、左手を上げて挨拶を返す。 「美味」 「残念ダガ、食物ヲ取ル必要性ガ私ニハ存在シナイノデナ」 差し出された料理を断ると、タバサは残念そうにもぐもぐと料理を胃袋に収め、 丸く透き通った瞳でホワイトスネイクの顔を覗き込んだ 「ナンダ?」 何か聞きたい事がある事を察し、どうせ暇だからと聞き易いように自分から話を振ると、タバサはゆっくりと口を動かす。 「ありがとう」 「別ニ、オマエヲ救ウ為ニ、フーケヲ倒シタ訳デハ無イ」 詰まらなげに呟くホワイトスネイクの言葉に、あえてタバサは何も言わなかった。 ただ、感謝の言葉を口にしただけで満足なのか、蒼色の髪を揺らしながら、テーブルの料理をお腹に詰める作業を再開する。 ホワイトスネイクは、そんなタバサの背中を見つめていたが、やがて、その場から立ち去った。 次にホワイトスネイクが出会ったのは、多くの男子生徒と会話とダンスを楽しんでいたキュルケだった。 彼女は、生徒の垣根を越えてホワイトスネイクの前に立つと突然、その頭を下げた。 キュルケが亜人に頭を下げた事に周囲の生徒達はざわめいたが、キュルケはそんな事、気にも留めずに、先程のタバサと同じように感謝の言葉を口にした。 「ありがとうね、貴方のお陰で色々と助かったわ」 「解セナイナ。オマエヲ助ケタノハ、ルイズダロウ」 「あぁ、今日の事じゃないわ。切っ掛けはどうあれ、貴方が来てくれたお陰で、私は自分がしてきた事に気がついて、ルイズに謝る事が出来た。 本当にありがとう。貴方のお陰で、私はルイズと本当に親友になれた気がするわ」 そう言って、生徒達の中心に戻るキュルケに、ホワイトスネイクは何かを言おうとしたが、結局止めた。 まったく、変な日である。 まさか、本体では無く、自分が人から感謝の言葉を受けるとは思ってもいなかった。 初めての事に戸惑いながら、歩いていた彼は、軽快な音楽を奏でている楽師達の前に来ていた。 そこは楽師達と近く喧しい事から人は居なく、ホワイトスネイク一人だけである。 「―――こんな所に居たのね」 周囲から隔離されたように人が居ないその場所に、もう一人の人物が現れる。 その人物は、桃色の髪をしたルイズと言う少女であった。 ルイズは、静かにホワイトスネイクに近づく。 丁度、楽師達は次の演奏の打ち合わせで音楽を鳴らしていない為に、人々のざわめきが唯一のBGMだ。 「あのね……ホワイトスネイク」 学生の声に紛れるような小さな声。しかし、込められた思いの大きさ故に、耳まで届く音。 「私…………貴方に聞きたい事があるのよ」 意を決したように紡がれる音に、ホワイトスネイクは無言のまま耳を傾ける。 どれだけ小さな音であろうと聞き逃す事が無いようにと。 「エンリコ・プッチの……貴方の元本体の所に……………………戻りたい?」 「マサカ」 即答だった。 吟味も、考慮も、何も無く、ホワイトスネイクは脊髄反射のように答えた。 あまりの速さに、ルイズは問い掛けたままの形で彫刻となっていた。 「何ヲ考エテイルカト思エバ……ソンナ無駄ナ事ダトハナ…… 良イカ、ルイズ。私ノ今ノ本体ハ一体誰ダ? 私ヲ具現シ、従ワセテイルノハ誰ダ? 私ノ力ヲ使イ、自身ノ望ミヲ叶エテイルノハ誰ダ? 言ウマデモ無イ。ソレハ君ダ、ルイズ。 君ガ私ヲ従ワセ、君ガ私ヲ形作リ、君ガ私ヲ運用スル。 ソコニ疑問ヲ挟ム余地ナド在リハシナイ。ハッキリト言オウ、ルイズ。 君ガ、私ノ本体デ在ル限リ、私ハ君ト共ニ在リ続ケル。 ソレトモ何カ、君ハ私ノ本体デアル事ニ嫌気デモ差シタノカ?」 「そんなこと無い!! 貴方の主で居る事を嫌だなんて思った事なんて、私、一度も無い!!」 「ナラバ、私ト君ノ関係ハ未来永劫安泰ダ。 君ト言ウ存在ガ、コノ世カラ消失スルマデ、私ハ君ト共ニ在ル事ヲ誓オウ」 赤面モノな台詞を面と向かって言われたルイズは、顔を真っ赤にしながら口をパクパクとさせている。 「あっ、あっ、当たり前じゃない!! あんたは、わっ、私のつ、つ、使い魔なのよ! 嫌だって言ったって、いっ、一生扱き使ってやるんだから!!」 なんとか本心を隠したつもりのルイズであったが、その様子は、ばっちりと他の生徒達に見られていた。 その生徒達の中でキュルケはくすくすと、タバサは興味津々と、才人は呆れた風に肩を竦めて、素直では無い少女を見守るのであった。 第十話 前編 戻る 第十一話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2388.html
14話 (ヤハリ、食ラッテシマッタカ) ラングラーの弾丸を受けた瞬間、ホワイトスネイクが思ったのはそれだけだった。 仕方のないことだった。 跳弾での攻撃を阻止することは不可欠だった。 跳弾は軌道を読みにくいので、防御しにくい。 なので、それを使われないようにすることは必須だった。 しかしそのためには、ラングラーの射界に身を晒すのを覚悟の上で反射のための障害物を破壊しなければならず、 そしてそのことは「死角を狙う必要がない跳弾」、つまり壁を使った跳弾で攻撃されることを意味していた。 跳弾で狙われれば、流石のホワイトスネイクでも迎撃しきれない跳弾が出る。 そうなれば自分の背後で炎の呪文を放っているキュルケがヤバい。 (ツマリ、ラングラーガ跳弾ヲ使ウト決メタ時カラ、コーナルコトハ確実ダッタノダ) しかし、ホワイトスネイクはまだあきらめていたわけではない。 むしろこの状況は、ホワイトスネイクが敷いたレールの上から一歩たりとも外れていなかった。 (問題ハココカラナノダ) 自分の策がなるまでに、絶対に稼がなければならない時間。 その間に自分がやられてしまうことは勿論、壁の陰に隠れるルイズとキュルケの二人を殺させてしまってもならない。 (セイゼイ、凌ガセテモラオウカ) 心の中でそう呟いて、ホワイトスネイクはゆっくり立ち上がった。 「あ、あんた……」 立ち上がるホワイトスネイクに、思わずルイズが声をかける。 「問題無イ。コウ見エテモ私ハ丈夫ニ出来テイルンダ。首ヲ飛バサレナイ限リハ十分動ケルシ、戦エル」 「で、でも、あれだけの弾丸を受けたんでしょ!?」 「問題無イト言ッタ筈ダ。ソレト私ニ近寄ルナ」 「ち、近寄るなですって? せっかくわたしが心配してあげてるのに……」 「近寄ラレルトヤツノ跳弾ノ射界ニ入ル。ソレデ弾丸ヲ食ラッテシマッタノデハ元モ子モナイ。 邪魔トカ迷惑トカ厄介トカ……トニカクソーイウコトダ。 ダカラオマエハソコデジットシテイロ」 ホワイトスネイクの言うとおりだった。 アイツの弾丸が危険だってことはさっきから何度も言われていた。 そして自分がほぼ確実に、何の役にも立たないことも。 「でも、だからって……」 ルイズは何か言おうとするが、ホワイトスネイクは聞く耳も持たない。 そして再びファイティングポーズを取る。 弾丸の雨に真正面から挑むつもりだ。 「逃げないってことは……何か考えでもあるのか? ホワイトスネイクよ……」 ラングラーはそれを見て不敵な笑みを浮かべる。 「まあ……何を用意していようと、」 JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)がラングラーの意思に呼応して腕を構える。 「オレは無敵だがなッ!」 ドンドンドンドンドンッ! 鉄クズの弾丸が放たれるッ! JJFの腕輪の中で遠心加速した鉄クズは、空気を切り裂いてホワイトスネイクに襲い掛かる。 ホワイトスネイクはその弾道を見極め、拳を繰り出す。 「シャアアアアアアアアッ!」 バシバシバシッ! 重く、素早い拳撃が弾丸を叩き、その弾道の行先をホワイトスネイクから逸らす。 「よく頑張ったな、と言いたいところだが……残念だ」 そこにラングラーの妙に明るい声がかかる。 「スデに跳弾が3つほど、テメーの所に向かってるぜ」 バスバスバスバスッ! 直後、ホワイトスネイクを弾丸が貫いた。 「おっと、4つだったか」 命中個所は肩に一つ、胴体に二つ、そして膝に一つ。 ダメージで膝をつきかけるが、ホワイトスネイクはどうにかその場に踏みとどまった。 (ヤハリ、跳弾ハドーニモナランナ……通常弾ト合ワセテ撃タレルト対応スルノハ困難ダ) 流石のホワイトスネイクも、今の状況で余裕は持てなかった。 その後もラングラーの一方的な射撃を、ホワイトスネイクはただ凌ぎ、ただ耐え続けた。 回数を重ねるごとに跳弾もある程度は弾けるようにはなっていったが、全てを弾くには至らなかった。 ダメージは着実に増え、ただ時間だけが経って行った。 その身体は傷つき、ひび割れ、被弾で開いた穴の数は20に迫ろうとしていた。 「どうしよう、このままじゃ、このままじゃ……」 そんなホワイトスネイクを前に、ルイズは何もできずにいた。 自分にも何か出来るはずだと、心のどこかで思っていた。 事実、さっきは形勢逆転の布石を打てたようにさえ思えた。 でもそうじゃあなかった。 やっぱり自分には何もできないのだ。 そう思い始めた途端に自分の方に矢印が向く。 自分で自分につきつけた無数の矢印は口々に囁いた。 「お前が弱いだから」「お前がダメだから」「お前がゼロだから」と。 それらの何一つ否定できない。 何一つ反論できない。 そうよね、どうせわたしなんて、どうせ……。 そう思いかけたとき、 「シャキっとしなさいよ、ルイズ」 そう言ってキュルケがぽんとルイズの肩を叩く。 「で、でも、わたしには何も……」 「そうね、今は何もできないわね」 ルイズの言葉を引き継いでキュルケが言う。 「だったら探すのよ! 自分が出来る事を何が何でも見つけるの!」 「さ、探す!? 探すってどこ探すのよ? 私が何にもできないのはホワイトスネイクに言われた通りじゃない! わたしの爆発は他の生徒を起こすかもしれない、そうなったらもっと犠牲者が増えるかもって! じゃあどうすればいいのよ!」 「そ、れは、そうだけど……とにかく急ぐのよ! いくらダーリンだってあんなに撃たれたらヤバそうだわ! 時間がないんだから、早く急いで! あたしは先生を呼んでくるわ!」 「無理よ、ゼッタイ無理! それに何であんたがやらないのよ! あんたトライアングルメイジじゃないの!?」 「そんなこと言わないで……ッ!」 言いかけたキュルケが突然顔をしかめた。 「どうしたのよ?」 「な、何でもないわ、ルイズ。とにかくあなたは逆転の手を考えて……」 そう言って身を引くキュルケ。 だがその動作は、明らかに何かを隠す動作だった。 「何でもないじゃないわよ! まさか、あんた!」 ルイズは強引にキュルケのローブを捲る。 そこにあったのは―― 「ウソ、でしょ……」 キュルケの脇腹を染める赤。 深くはないようだが、それでも確かに傷を負っていた。 『一発デモ受ケレバ、アルイハ体ヲ掠メレバ10分以内ニ 半径20メイルノ人間ヲ巻キ込ンデ死ヌ、トビキリ厄介ナ呪イダ』 ホワイトスネイクの言葉が脳裏によみがえり、そして頭が真っ白になる。 「い・・・いつよ! いつそのケガをしたの!?」 「さ、さっきよ……ダーリンの後ろから炎を撃ってた時だったかしら」 「そ、それって何分前!?」 「だいたい……5分、6分前、ってとこかしら。 あたしが死ぬまで、あと3分と少しかしらね」 そう言ってキュルケは笑みを作る。 無理に作ったような、ひきつった笑顔だった。 「『ゼロ』のあんたと違って、あたしの火は少しは役に立つわ。 って言っても、威嚇にしかならないんだけどね。 おまけにさっきの魔法と言い、今の魔法と言い、力を使いすぎちゃったのよ。 肝心の魔法も、もうそんなに多くは放てないわ。……笑っちゃうでしょ? でも、もしかしたら役に立つ時が来るかも、って待ってたけど……やっぱり、ダメね。 だからってここであんたを巻き添えにするのはごめんだわ。 ツェルプストーの女がヴァリエールの女を巻き添えにして死ぬなんて、聞こえが悪いったらありゃしないし、 それでどこか離れた場所まで行こうとしてたってわけ。 ……ふふ、自分のことながら、なんて情けないのかしらね」 まるで何も無かったかのように語るキュルケを前に、ルイズは何も言えないでいた。 キュルケが、死ぬの? ウソでしょ? いつもわたしをバカにして、憎らしかった赤毛でツェルプストーのキュルケが、こんな簡単に? 「……ちょっと待ちなさいよ」 さっきまで何も言えなかったのに、するりと言葉が喉を通った。 「る、ルイズ?」 確かに憎らしかったわよ。 いなくなっちゃえばいいのにとか思ったし、許せないと思ったことも何度もある。 あんまり腹が立ったから、キュルケをやっつけようとして失敗魔法の爆発で大暴れしたことだってある。 それでも、 「死んじゃうのはダメ。絶対ダメだから」 それがルイズの本心だった。 そいつがどんなに憎らしくっても、どんなに許せなくても、今目の前で死のうとしている相手に向かって、 そのまま死ねとは言えなかった。 偽善だとか、自分の今までをウソにするとか、そういうのはどうだっていい。 ただ死なないでほしい。ただ生きてほしい。 それがたった一つ、今死のうとしているキュルケに向かって言えた本心だった。 そしてそう言うのと同時に、急に思考がクリアになる。 さっきまでの混乱や自虐はもうそこにはない。 ただ、絶対にキュルケに死んでほしくない。それだけだった。 自分が役に立たないとかどうとか、そういうことは頭の中から吹っ飛んでいた。 余計な事が頭の中から消えたおかげで、周りがスゴくよく見えるようになった。 自分の爆発が使えない理由、キュルケの炎が役に立たない理由、 ホワイトスネイクが押されっぱなしの理由。 全部が一つの線で結ばれて、答えが導きだされた。 「だ、だからあなた、何言って……」 「ホワイトスネイク」 困惑するキュルケを尻目に、ルイズはホワイトスネイクに問いかける。 「何ダ?」 「ラングラー……だったっけ? アイツの能力、どうやったら消えるの?」 「ヤツガ意識ヲ失エバ消エル」 「分かったわ」 それだけ言って、ルイズはキュルケに向き直る。 「はっきり言って、わたしはあんたが嫌い。 だっていつもわたしをバカにするし、からかうから。 でもね、キュルケ」 「わたしはあんたに、死んでほしくないわ。 だから絶対死なないで。絶対にここにいて」 「で、でも! あと3分であたしは!」 「その3分が経つ前にアイツをやっつける。 絶対にやっつけるわ。だからお願い、ここにいて」 「ルイズ……」 ルイズの言葉と真っ直ぐな眼に、キュルケは思わず口をつぐんだ。 「勝算ハ?」 そこにホワイトスネイクが口を挟む。 ルイズの向けられた眼は、明らかにルイズへの疑いを示していた。 「あるわ」 それにルイズは真正面から答える。 ホワイトスネイクは無言でうなずくと、襲い来る弾丸を叩き落とす。 それがルイズの声と眼差しに対する、ホワイトスネイクの答えだった。 「ちょ、ちょっと正気なの、ルイズ!? 相手はダーリンでもどうにもならない相手なのよ? それを『ゼロ』のあんたがどうにかするなんて……」 「そうね、確かにわたしだけじゃ無理だわ。 だからあんたも協力して、キュルケ」 「……本当に勝算があるのね、ルイズ?」 ごくりと唾を飲み込んで尋ねるキュルケに、 「……ええ!」 ルイズは力強く頷いて答えた。 「しかし……まさかここまでタフだとはな……」 一方、全身に銃創を作りながらもなお立ち続けるホワイトスネイクに、ラングラーは思わずそう呟いていた。 「ひょっとして……アイツ自身がスタンド使いだ……なんてオチじゃあねーだろーな……。 あんだけボロボロになって……それでスタンド本体が無事だとは考えられねーからな……」 ラングラーがそう思うのも無理はなかった。 もう残弾が少ないのだ。 そんなにキツい仕事になるなんて思ってなかったから、あまり鉄クズをもってこなかったのが災いした。 補給はさっきので終わってしまったので、今腕輪に入ってる分が無くなれば打ち止めだ。 だからさっさとヤツを始末して仕事を終えたいのだが…… 「ん?」 そのとき、ラングラーの目に何かが映った。 ドア枠の右、2~3メイルのところがじわりと黒ずみ始めたのだ。 黒ずみはどんどん大きくなり、やがてぶすぶすと煙を上げ始めた。 「コゲてる……のか? さっきの火のメイジのアマが何か考えてやがるってか……なら!」 そこにJJFの腕を向け、一発鉄クズを撃ち込む。 放たれた鉄クズはコゲた壁を簡単に貫いて、ビシッと音を立てた。 どうやら向こう側の壁に着弾したらしい。 人には当たらなかったようだ。 やがて壁はメラメラと炎をあげて燃えはじめ、それからしばらくして壁は崩れ落ちた。 それによって開いた穴は縦1メイル、幅1メイルほど。 崩れた壁の先にはやはり誰もおらず、向こう側の壁が見えるだけだ。 「……何が目的だ? ただ穴を開けて、それで何をしたい?」 ラングラーが半ば呆れかけた直後、 ゴォッ! 壁の目の前に、赤く燃えさかる炎の壁が出来た。 炎の壁は高さ2メイル、幅2メイルほど。 焼け落ちてできた壁の穴をすっぽりと覆って余りあるほどだ。 「穴を開けて、壁を作って……ワケがわからんな……目的が見えない」 炎の壁をつくったのはいい。 確かにそれでこっちからは手出しができなくなる。 だがあんなに激しく燃えていては、向こう側からも何もできないだろう。 「絶対に壊れない」ホワイトスネイクのDISCなら炎の壁を突破できるかもしれないが、 バカ正直に飛んでくるDISCを食らってやるほどこっちもバカではない。 第一ホワイトスネイクはドアのところにいるのだから、その可能性は間違いなくゼロだ。 そう思った時だった。 ボン! 炎の壁の数10サント先の床が小さく爆発した。 本当に小さな爆発だ。 火薬の量で言えば、手持ち花火に詰まってる程度の量が爆発したぐらいのものだ。 しかし。 「な、何だと!?」 慌ててラングラーはそちらに腕を向けた。 さっきと同じだった。 向かいの部屋のドアをぶっ飛ばした、ワケの分からん爆発と同じだった。 前触れもなく、突然起きる謎の爆発。 さっきの爆発はホワイトスネイクが何か仕込んだものだとばかり思っていたが、 今回は何もない場所で爆発が起きた。 「爆発、だと……一体どういうことだ? 種も仕掛けもないハズだぞ…………」 粘っこい汗がラングラーの額を伝う。 タイムリミットまであと2分。 とうとう、逆転の狼煙が上がった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2258.html
「わからないのか? おまえは『運命』に負けたんだ! 『正義の道』を歩むことこそ『運命』なんだ!!」 目の前の小僧の高らかな勝利宣言とともに、主人の頭蓋が「ウェザー・リポート」の拳に押しつぶされた。 それと同時に自分の体から力が抜けていくのがわかった。 負けたのだ。 完全に、敗北したのだ。 人間の頂点がさらに上り詰めて行き着く能力が、負けた。 何故負けた? ウェザー・リポート如きに、徐倫のヤツの最後の悪あがき如きに、こんなちっぽけな小僧如きに、何故負けた? いくら考えても答えは出ない。 いや、出せない。 何故なら答えが出る前に、自分は消滅するからだ。 「このちっぽけな小僧がああああああああああああああッ!!!」 主人の、最後の断末魔が聞こえた。 主人の体を砕く、ウェザー・リポートの拳の音も聞こえた。 それだけだった。 もはや指一本動かない。 「時の加速」も何の意味も持たない。 ただ、終わっていくだけ。 ただ、終わっていくだけの、ハズだった。 1話 「ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」 生え際の後退著しい中年教師が意を決したように言う。 その教師――名はコルベールといった。 コルベールが監督するのは召喚の儀式。 ここトリステイン魔法学校にて2年生が行う中では最重要とも言える行事である。 その召喚の儀式は「あと一人」を残して、これまでのところ順調に進んでいた。 生徒は「あと一人」を除いて皆自分の使い魔を召喚できていたし、その中には風竜やサラマンダーを召喚した生徒もいた。 使い魔は主人の力量を表す。 メイジの良し悪しを見極めるその方法に則るならば、その二人はきっと偉大なメイジになるだろう。 そう思い、コルベールは目を細めた。 だが残っている「あと一人」の女子生徒のことを考えると、コルベールは気が重くなった。 別に彼女はヤサグレてる訳でもなかったし成績が悪かったわけでもない。 他の生徒とのコミュニケーションも十分に取れている。 しかしただ一つ。 本当にただ一つだが彼女には欠点があった。 そしてその欠点こそがコルベールを不安にさせていた。 が、そんなコルベールの心配をよそに―― 「はい!」 「あと一人」の女子生徒――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは威勢のいい返事をした。 その返事を聞いて、コルベールはさらに気が重くなった。 「なあ…成功すると思うか?」 「いや、いくら『ゼロ』でも召喚の儀式ぐらいは…」 「でもあの『ゼロ』だぜ?」 「だよなあ…失敗するかもだよなぁ~~」 ルイズの儀式を見守る生徒たちのヒソヒソ声からは、彼らがコルベールと同じ考えであることが容易に推測できる。 ハッキリ言って、ルイズの儀式の成功を期待していないのだ。 そんな周囲の声がまるで聞こえていないかのように、あるいは聞こえていながらも無視しているのか、 ルイズは他の生徒たちには見向きもしない。 そして詠唱を始める。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに答えなさい!!」 詠唱が終了した。 そして―― ドッグォォォォォオオオオオオオオン!!! 爆発したッ! 爆風で土くれと砂埃が巻き上げられ、ルイズもまた突き飛ばされたように地面にしりもちをついた。 召喚の儀式は、失敗した。 「オホッオホンッオホン!」 「ゲホッゴホッ! クソッまたやったな『ゼロ』!」 「使い魔の召喚にさえ…ゲボッ! 失敗するなんて君も筋金入りだなッ!」 周囲から聞こえてくる罵倒をルイズは地面に座りこんだまま聞いた。 そして泣きたくなった。 (なんで…どうして『成功』しないのよぉ~~~~~~~~~!) 成功するために何回も何回も練習した。 昨日は召喚のゲートもちゃんと出てきた。 なのに――なのに失敗した。 なんで失敗した? たかが召喚の儀式なのに! 昨日は成功したのに! 何で? どうして? いくら考えても答えは出ない。 いや、出せない。 何故なら―― 「お…おい!煙の中に何かいるぞ!」 「ホントだ! でもあのシルエットは…」 「サルにしちゃあ背が高すぎるし…」 「人間にしたってあれはデカすぎる!2メイルくらいはあるんじゃないか?」 「じゃあ亜人? オーク鬼か何かってことか?」 「おい! 煙が晴れるぞ!」 何故なら、ルイズは召喚に成功していたからだ。 砂埃から現れたのは、実に奇妙ないでたちの人間、いや亜人だった。 贅肉の一切見当たらない真っ白な筋肉質の身体には文字のようなものがびっしり彫りこまれており、 頭には奇妙な形の頭巾、そしてその身に纏うのはいずれも紫がかった黒色の襟巻きと短パン、リストバンドにブーツのみで、 しかも襟巻きと短パンの二つが体の正中線で帯のようにつながっている。 民族衣装だとかその類だとしても、かなりきわどい、いや、むしろ変態的な格好だ。 しかもよく見てみれば、耳も鼻もこの亜人には無い。 削がれたような傷が無いあたり、生まれつきそれらを持っていないとでも言うのだろうか? (なに…何なのコイツ? こんな亜人、あたし図鑑でも見たことなんて…) そんなことを考えていると、この亜人がルイズの方へと歩み寄ってきた。 だがその姿は何か変な感じだ。 亜人の身長はかなり高い。 2メイルあるかないかってぐらいに高い。 なのに足音が全くしない。 亜人に踏まれた芝生にも足跡が全くついていない。 まるで体重がすごく軽いかのようなのだ。 そうして亜人はルイズの前に立つと、口を開いた。 「聞キタイ事ガアル」 それはまったく人間的でない声だった。 合成音声のような、加工された声のような、そんな声だ。 「しゃ、喋った?」 「喋ッチャア悪イカ」 仏頂面で亜人が言葉を返す。 「ココハドコダ?」 「こ、ここ? トト、トリステインの、ま、魔法学院、よ」 「トリステイン……魔法学院……」 亜人はそう呟くと、何か考えるように押し黙った。 トリステイン。魔法学院。 どちらの単語も亜人の記憶にはないものだった。 加えて、亜人の目の前に広がる光景も珍無類だ。 全員が示し合わせたようにマントをつけ、脇には動物を侍らせている。 動物の中にはファンタジー世界から抜け出してきたようなのもいる。 しかも全員が全員、自分が見えているらしい。 まったくもって、ワケがわからない。 既に消滅したはずの自分が、何故まだ存在している? それに何故、今自分は「メイド・イン・ヘブン」でなく「ホワイトスネイク」なのだ? 何故こんなものを見せられている? いくら考えても、見当がつかなかった。 「ち、ちょっとあんた!」 「何ダ?」 思考を遮られた亜人が無愛想な声でルイズに答える。 「あ、あんた、どういう種族なの?」 「『スタンド』ダ」 「すたんど?」 「……知ランノカ?」 「……初めて聞いたわ」 「…………」 「…………」 「スタンド」が見えている以上「スタンド」という言葉を知っているのは当然とする亜人。 一方スタンドなどという種族名など聞いたこともないルイズ。 嫌な沈黙が亜人とルイズの間に流れた。 周囲の生徒たちは、先ほどから固唾を飲んで亜人とルイズの会話を見守っていた。 だがこの有様に耐えられなくなったのか、近くの者とヒソヒソと喋り始めている。 「なあ、あれ……亜人、だよな?」 「でもあんなの見たことないぜ?」 「オーク鬼みたいなのとは全然違う……エルフの仲間かしら?」 「エルフは耳が長いのよ? あの亜人、耳がないからきっと違うわ」 「じゃあ一体…………」 そしてここにきてコルベールもようやく我に返る。 長年教師であり研究者であったコルベールにとって、 この未知の亜人はあまりにも衝撃的過ぎたからだ。 慌ててコルベールはルイズと亜人の元へ駆け寄った。 「ミ、ミス・ヴァリエール……召喚は無事に成功したようですし、使い魔との契約を行ってください」 「契約って……」 ルイズはその言葉の意味を頭の中で確かめると、目の前の亜人を見上げた。 ……コイツと××しなきゃならないの? この亜人……少なくとも弱くはなさそうだ。 「風邪っぴき」のマリコヌルのフクロウよりはずっと強いだろう。 でも亜人だ。人間じゃないけど、トロールとかよりはずっと人間だ。 それなのに……本当にコイツと××するの? まだしたこともないのに、初めてなのに……。 ルイズがあまり考えたくない事実と直面している最中、亜人が口を開いた。 「使イ魔、トハ何ダ?」 「一般的にはメイジに仕える動物のことだ」 「『メイジ』トハ何ダ? ソレニ私ハ動物ジャアナイゾ」 「メイジとは魔法を使う者のことだが……うむ……そう、だね。確かに君は動物じゃあない」 「魔法ヲ使ウ……? ソレニ……仕エル、ダト?」 亜人はその言葉の意味を頭の中で確かめると、目の前の少女を見下ろした。 ……コイツに仕えなきゃならないのか? あり得ない。 こんな小便臭い小娘に、一度は世界を滅ぼしかけた自分がへーこらするのか? マジにあり得ない。 かつての主人との落差があんまりにも大き過ぎる。 お互いがお互いを否定する不毛すぎる状況。 そこにコルベールの声がかかる。 「ミス・ヴァリエール。時間がもうありませんので……」 「…………」 コルベールの言葉にこの世の残酷さを感じるルイズ。 だがコルベールの言うとおりだった。 やるしかない。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 杖を振って口訣を結び、いざ……となったところで気づいた。 ルイズの身長は150サント。 対して亜人の身長は2メイル。つまり200サント。 ……届かない。 「あんた、しゃがみなさい」 「何デダ」 「いいから、しゃがみなさい」 「私ニ頭デモ下ゲサセルツモリカ?」 プッツ~~ン! その瞬間、世の不条理への怒りと強情かつ不遜な亜人の態度への怒り。 その二つの入り混じりの感情をルイズは露わにした。 「しゃがみなさいって言ってんでしょうがッ!」 つまり、キレたッ! その怒りは満身の力となって右足に込められ、そして亜人の足を思いっきり振り下ろされるッ! ドグシャアッ! 「グオォッ!」 予期せぬ奇襲に、思わず呻いて体を折る亜人。 その瞬間―― ズキュゥゥゥーーーーーン! ××は――「キス」は完了したッ! 「コッ、コノ小娘! 一体何ヲ!」 「うるさいうるさいうるさい! 私だって、あんたなんかにファーストキス捧げたくはなかったわよ!」 理不尽にも足を踏みつけられた怒りと、スタンドによる攻撃でないにもかかわらずダメージを受けたことへの困惑、 その二つの入り混じりの感情を亜人は露わにした。 一方のルイズは貴族のファーストキスをこんな亜人に捧げなければならなかったことへの怒りと屈辱感。 その二つの入り混じりの感情で反撃した。 その直後だった。 「ヌゥッ……左手ノ、甲ガ……焼ケル!?」 亜人は焼けつく痛みの発信源に目を向ける。 するとそこには、彼(?)が見たこともない、奇妙な文字が記されていた。 「ふむ……珍しいルーンだな」 その文字を上から覗き込んだコルベールがそう言った。 「さて、皆無事に使い魔の召喚を終えたようだし教室に戻ろうか」 コルベールの言葉に従い、生徒たちは「フライ」の呪文で校舎の方へと飛んで行く。 その光景を亜人は痛みも忘れて凝視していた。 「……奴ラハドウヤッテ飛ンデルンダ?」 「『フライ』よ。そんなことも知らないの?」 ルイズが不機嫌そうに亜人の疑問に答える。 「知ラン。『フライ』トハ何ダ?」 「魔法よ、魔法!」 「魔法、ダト?」 「そうよ、魔法よ!」 「……信ジラレンナ」 「……あんた、いったいどこから来たのよ?」 何から何まで話が通じないことを、ルイズと亜人は互いに理解した。 だがひとつだけ、ちゃんと通じた会話があった。 「ところであんた、名前とかあるの?」 「……ホワイトスネイク。ソレガ私ノ名前ダ」 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/nicomment/pages/206.html
ゼロの使い魔 第01話 「ゼロのルイズ」 第02話 「平民の使い魔」 第03話 「微熱の誘惑」 第04話 「メイドの危機」 第05話 「トリステインの姫君」 第06話 「盗賊の正体」 第07話 「ルイズのアルバイト」 第08話 「タバサの秘密」 第09話 「ルイズの変心」 第10話 「姫君の依頼」 第11話 「ルイズの結婚」 第12話 「ゼロの秘宝」 最終話 「虚無のルイズ」 第01話 「ゼロのルイズ」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm449457 24 00 9803 3341 第02話 「平民の使い魔」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm449611 24 00 8730 2761 第03話 「微熱の誘惑」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm449724 23 40 8010 3513 第04話 「メイドの危機」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm449810 23 40 7392 2258 第05話 「トリステインの姫君」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm449932 23 40 7843 2169 第06話 「盗賊の正体」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm450661 23 40 9797 3546 第07話 「ルイズのアルバイト」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm450733 24 00 10169 4114 第08話 「タバサの秘密」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm451081 24 00 8981 3927 第09話 「ルイズの変心」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm451157 24 00 12198 3877 第10話 「姫君の依頼」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm453372 23 40 8146 3209 第11話 「ルイズの結婚」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm453540 23 40 8371 5069 第12話 「ゼロの秘宝」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm453676 23 40 8953 3071 最終話 「虚無のルイズ」 動画番号 再生時間 再生数 コメント数 sm281407 23 41 22841 9933
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1399.html
馬に揺られて約三時間。 ようやく僕らは目的の街へとたどり着いた。 しかし素人には乗馬ズボンありでも、3時間は無茶としかいいようがない。 記憶の僕は駱駝に乗った経験があったが、馬の方が揺れが小刻みなので、記憶と比べても楽とはいいがたいものがある。 まぁ、そんなことはスタンドを鞍とお尻の間にしいておけば、全く関係ないのだが。 才人は股間と腰を押さえて、足をがくがくさせながら、老人のように歩いている。 「腰がいてぇ……」 「才人、大丈夫ですか?」 「情けない。馬に乗ったこともないの? あんた。使えないわね」 「うっせ」 使えないといわれても、才人は怒る気力もないのか、短く返しただけで、ひょこひょこ歩き続ける。 ルイズはその姿を見て、呆れたようにため息を吐いた。 「全く…… 上着の財布は落としてないでしょうね!」 「持ってるつーの。こんな重いもん落とすかよ」 その答えを聞くなりルイズは、待ちきれないと言わんばかりに先に先にと、街の中心に向かって歩いていく。 才人も置いてかれまいと精一杯歩くのだが、矢張り遅い。 人通りが多い所為で、余り離れるとルイズを見失ってしまうだろう。 「肩を貸します。早く行きましょう」 「わりぃ、花京院」 僕は仕方なく才人に肩を貸して、ルイズの後を追いかけていくのだった。 報復のことは、後にしておいてやろう。 ……水に流した訳ではないが。 「ここが目的地のブルトンネ街。トリステインで一番大きな、宮殿へと続く通りのある街よ」 先先に進んでいったルイズが、街の名前をいう。 僕はざーっと、辺りを見回してみた。 道には老若男女、様々な人間が行き交っている。 身なりは総じて、魔法学院の人間よりも質素な感じだ。 建物は2、3階建ての建物が多く、木造だけでなく、壁が漆喰造りの、中々に立派なものも多い。 道幅は約4~5mと行った所か。文化レベルを考えれば、十分に広いレベルだろう。 しかし、道ばたには露天商の姿も見え、人が大勢通っていて、到底通りやすいとは言えない。 その全体的な姿は、東南アジアの発展途上国を思わせる感じだ。 僕は一瞬、ここが異世界であるということを忘れそうになった。 さて、才人はというと、僕の横で目を輝かせて辺りを見回している。 海外によく行く様な僕では、以外と興味を持たないような光景でも、彼にとっては新鮮なんだろう。 だが、あまりきょろきょろするのは止めて欲しい。 視線がこっちに集中するじゃないか! 「へぇ。大通りっていっても、意外と狭いんだな」 才人が感想を漏らす。 僕らからしてみれば、5m程度の道幅というのは、かろうじて二車線分の広さだ。 日本に住んでいる彼の感想としては、当然といえば、当然の感想だろう。 「あんた達のいた所って、いったいどれだけ広いのよ……」 「そうですね、この道の二倍ぐらいのサイズで、やっと大通りでしょうか? もっと広い道も当たり前のようにありますし」 「そんなとこ、一体何処にあるのよ」 「ですから異世界だと、何度も言ってるじゃないですか」 「信じられないわ」 四日前の夜にあれほど説明したのに、まだ信じていないとは。 ホントにわからん奴だなッ! 「なぁー、花京院。おもしろいもんがあるぞ」 何時の間にやらどっかに言っていた才人が、僕を呼びかける。 見ると露天の怪しげな、僕らの世界で言う、ニセ東洋人の格好をした商人に捕まっていた。 「ハァイ、私、東方から来た商人アルよ。全然怪しくないネ」 「なぁ、このビンは何?」 「アイヤー、お兄さん。お目が高いネ。それは東方に伝わる飲み物で、1エキューと30スゥアルよ」 「へぇー」 何をしているんだ彼奴は。 僕は呆れつつも才人を止めに入ろうと、その露店の方へと近づく。 しかしそれよりも早く、ルイズが才人の耳を引っ張って、強制的にその場から連れて行った。 「痛ぇ、痛ぇって!」 「うるさい、バカ犬!」 「やれやれ……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「寄り道しない! ここにはスリが多いんだから! 魔法使われたら、一発で終わりよ!?」 耳を引っ張って、才人を露店から離れた、比較的人通りの少ない所まで連れてきたルイズは、颯爽と説教を始める。 彼女曰く、貴族は悉くメイジだが、メイジは全員貴族というわけではないらしい。 落ちぶれた元貴族が、スリや傭兵などに身をやつすことも珍しくないということだ。 しかしそんなルイズの説教を殆ど聞かず、才人は相変わらずキョロキョロと物珍しそうに辺りを見回していた。 今度は店の看板にお熱な様だ。 馬耳東風を地でいくとは。流石は才人だ。 そこに痺れもしないし、憧れもしない。どっちかっていうと引く。 ルイズはため息をつくと、もはや才人に説教は意味がないと悟ったのか、ぐいぐいと才人の袖を引っ張って、まさしく犬のように連れて行こうとする。 しかしいくら才人が貧弱でも、体格の小さいルイズの力ではどうしようもない。 ルイズは才人の袖を引っ張りながら、僕の方に顔を向ける。 「アンタも手伝いなさい!」 結局、僕とルイズで才人の首根っこをひっつかんで、そのままずるずると連れて行くことになるのだった。 「で、あの瓶型の看板は何?」 「……酒場でしょ」 「じゃあ、あのバッテン印は?」 「……衛兵詰め所」 才人を引っ張って行くにしても、力があるとは思えない体格のルイズは、途上であっさりとへばった。 自由の身となった才人は、興味がある看板を見つけるたび、そこで立ち止まる。 そして、もはや強制的に連れて行く事へ諦めムードとなったルイズは、才人の質問に答えて、さっさと先に進ませようという選択肢に移行した。 ちなみにそれでも進まない時は、僕が強制的に首根っこをつかんで、先に進ませている。 まるで手間のかかるお子さまだな。 「じゃあ、じゃあ……」 十五個目の看板にさしあたった時、僕はその建物の横に不審な影を見る。 その影はなにやら大きな木の棒を持っている。 まるでメイジの杖の様だ。もしかして、これがルイズの言っていたスリか!? 「才人、気をつけろッ! そこの物陰にスリがいるぞッ!」 「え!?」 僕は急いで才人に警告をする。 しかし既に影の主は詠唱を終えていたようで、才人の持っている上着の懐から、財布が飛び出した。 影はその財布を、杖を持っていない左手でつかみ取り、そのまま走って狭い路地裏の方へと走っていく。 「へっ、あばよ!」 「てめぇ、まちやがれ!」 「何やってるのよ、バカ犬ぅ!」 「………」 才人とルイズは、その影の後を急いで追いかけていこうとする。 僕も二人についていきながら、しかし冷静に、自分のハイエロファント・グリーンで音もなく、先程逃げた男を追跡する。 僕のハイエロファントは、それなりに素早いスタンドだ。 走って逃げる相手を捕まえるなど雑作もない。 「捕まえたぞッ!」 「うげげっ!」 僕のハイエロファントは、あっさりとスリの足をつかむ。 足を捕まれたスリはそのままドデーンと、道路にお熱いキスをした。 その隙に、才人とルイズは見事にスリの進路を塞ぐ。 スリは元来た道を逃げようとあがくが、そこには僕がいる。 スリは既に、袋のネズミというわけだ。 「あっ!」 「てめぇ、さっき俺から盗んだ財布を返せ!」 「貴族の財布に手をだそうだなんて…… 縛り首ものよ?」 「ヒィイ!」 「いえ、ひょっとしたらもっと重いかも……」 「ヒィィイイイ!」 ルイズがスリに対して脅しをかけていく。 その一言一言が、ルイズから口から発せられるたびに、スリはビクビクと震えて縮こまる。 ルイズはそのスリの反応を見るたびに、ンンンンいい声だ! 実にいい響きだ。その声が聞きたかったぞ! といった調子で脅しを続ける。 ドS全開だ。その内、ウィンウィンとか言い出しそうな気がする。 流石の才人も一歩、引いている。 ……どうやら真性のドMでは無かったようだ。 きっと昼頃、鞭で叩かれて喜んでいるように見えたのは、テナーサックスの見せた幻覚か、イエローテンバランスが化けた偽物に違いない。 僕はそうして、昼頃の記憶を上書きすることにしたのだった。 ルイズは暫く脅して、やがて飽きたのか、マントからいつもの乗馬用鞭を取り出した。 「いいわ、鞭打ちの刑で許してあげる」 「へっ!? ……ギニャァァァァアアアアアア!!」 「ム、ムゴイ」 「ムゴイ? いいえ、慈悲深いわ。腕を切り落とさないだけね」 とりあえずルイズは鞭でスリを10回ほど打ち付け、タルにくくりつけて詰め所前に放置した。 そして、僕たちは何事もなかったかのように、先程の路地へと戻っていく。 正直、これくらいのことは僕でもやらない訳じゃないため、特に何もいわず、そのまま何事もなかったかのような空気が流れた。 ちなみに財布は僕が持つ事となった。 才人では信用性に欠けるらしい。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「えっと、あった。ここね」 目的の武器屋は、先程スリを捕まえた辺りのさらに奥、十字路となっている場所に存在した。 ルイズは銅製の看板を何度も見て確認をし、その建物の中の羽扉を開いて、入っていった。 僕らもその後に倣って、その建物の中に入っていく。 カランカランと、扉についた来客を知らせるベルがなった。 もう昼は幾分か過ぎていたが、まだ明るい外と違って、店内は薄暗く、ランプだけが辺りを照らしている。 そしてそのランプの光を、そこら中に乱雑に積まれた槍やら、剣やらの刀身が弾いて、怪しげな雰囲気を醸し出している。 想像していた武器屋と大分違うな、と僕は思う。 もっとも僕が想像したのは、もっとゲームのような武器屋なのだが。 そんなことを考えながら、店内を見ていると、カウンターの奥から、パイプをくわえた50がらみの親父が顔を出した。 親父……おそらく店主は暫く僕と才人を品定めを見るように眺める。 僕の方も、暫く店主の方を見た。才人は視線など気にしないといった感じで、無造作に立てかけられている剣をがちゃがちゃと物珍しそうにあさっている。 暫く僕と才人を眺めた店主は、大体、見当はついたと僕らから目線を外す。そこで、ようやくルイズの姿に気づいた様だ。 ルイズの方も親父に気づいたようで、つかつかとカウンターの方へ駆け寄っていく。 「これは貴族の旦那。うちはお上に目をつけられるような商売をした覚えはありませんが?」 「客よ」 「お客様でしたか。こりゃ失礼しました。貴族の方が武器を使うとは思わなかったもので」 「使うのは私じゃなくて、そこの使い魔と従者よ」 「忘れておりました。昨今は使い魔や下僕に武器を持たせるのが流行っているようで」 店主がいかにもな愛想の言葉を述べる。 しかしそんなことは気にせず、僕は壁にかけられた槍や剣を一つ一つ観察する。 どれも学園の屯所にあった奴よりも、綺麗な光沢を放っている。 才人の方は、バーゲン品のようにさしてある剣の束を、がちゃがちゃといじくり回していた。 「武器を使うのは、この方々で?」 「そうよ」 商談はルイズの方に任せておこう。 そう思って、僕は興味を完全に売り物の方へ向ける。 「何をお求めで?」 「そうね、槍を一本と……何か見栄えの良い武器が欲しいわ」 「へぇ、それでしたら剣がおすすめですが」 「じゃあ、槍と剣、一本ずつお願いするわ。私は武器については解らないから、適当に選んで頂戴」 どうやら会話から判断するに、槍と剣を一本ずつ買うつもりらしいな。 もっとも僕は槍なんて使わないので、どんなものでも良いのだが。 しかし一通り見てしまった所為で、いささか暇だな。 才人の方を見ると、未だ乱雑に積まれた剣の山やら、バーゲン品の様に刺されている剣の山をいじくり回している。 僕は才人の方へと近づいた。 「何か面白いもの見つかりましたか?」 「特に面白いものつーのは…… あ、さっきそこの積まれた剣の中から、異様に錆びた剣を見つけたな」 「錆びた剣ですか……」 錆びた剣…… 何でそんなものが武器屋に置いてあるんだろうか。 僕はちょっとばかり好奇心をそそられ、その束の中を探す。 お目当てのものはすぐに見つかった。 なるほど、確かに錆び錆びだ。 僕はその剣を抱え、才人の方へとみせて確認を取る。 「これですか?」 「そうそう、それそれ」 錆びていなければ、結構カタチのいい剣だろうな。と剣のデザインを眺めつつ思う。 しかし…… 「これだけ錆びていては、ナマクラ以下ですね」 「つーかゴミだろ」 「プッ!」 僕らはひとしきりその錆びた剣を笑った後、その剣を元の場所へと戻した。 僕がカウンターの方を見ると、丁度、店主が剣と槍を抱えて戻ってきた所だった。 丁度いいタイミングだ。僕と才人はすっとその場から立ち上がって、ルイズの方へと向かう。 「おめぇら、黙って聞いてりゃ好き放題いいやがって」 「ン!?」 「コラ! デル公!」 なにやら店主のものとは違う、低い男の声がした。 僕はその声がした方に目を向ける。そこは先程、僕が剣を戻した場所だった。 才人も同じようにそちらに視線を向ける。 「特にそこのおめぇ! 誰がゴミだ、えぇ? おめぇみてぇなモヤシにゃ、棒ッ切れがお似合いさ」 「剣が……」 「喋っているッ!?」 僕の目がとらえたのは、先程の錆び錆びのナマクラ剣が、柄をかちゃかちゃと口のようにならしている姿だった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1764.html
10話 前編 月明かりが雲に隠れたのを見計らって、一人の男が音も無くトリステイン魔法学校の敷地に踏み入った。 いや、「踏み入った」と表現するのは正確ではない。 何故なら男は、敷地の土を自身の足で踏むことなく、「レビテーション」でも使っているかのように、 空中を滑るように渡って、学校の校舎の壁に取り付いたからだ。 その姿は、さながら自分が張った糸をするすると渡って移動する、蜘蛛のようであった。 無論、壁に取り付いた瞬間にも音は一つもしない。 吸盤へと変形した彼の両手足の指紋が、接触時の音を吸収したのだ。 そして自分が壁にしっかりと取り付き、誤って落っこちるなどということがない状態になったことを確認すると、 その男――ラング・ラングラーは、自分が受けた依頼の内容を反芻した。 シェフィールド、と名乗ったあの女がラングラーに依頼したこと。 それはここ、トリステイン魔法学校のある生徒を拉致することだった。 トリステイン魔法学校といえば、国内の名のある貴族がこぞって入学させる、トリステイン国内でも名門中の名門の魔法学校だ。 その中から適当に生徒を一人さらったとしても、ふんだくれる身代金は1000エキューは硬いと、裏業界では言われている。 だがそれを実行したものはいない。 その理由は、トリステイン魔法学校の教師のメイジとしての技量の高さ、そして生徒の優秀さにあった。 教師を務めるメイジは全員がトライアングル以上。 生徒の中にもトライアングルクラスがちらほらしている、という話だ。 メイジでもなければ言うまでも無く、ドットやライン程度のメイジでは、 そんなところへ誘拐に行ったとしてもあっさり返り討ちにされた上に市中引き回しに獄門は確実。 ハッキリ言って、リスクと危険が大きすぎて割に合わない。 普通に傭兵稼業でもした方がずっとマシなのだ。 そんな魔法学校に誘拐に行ってほしい、と依頼されたのは、やはりラングラーのメイジ殺しとしての実力が買われたためであろう。 彼が「メイジ殺し」ならぬ「魔法殺し」と呼ばれる、ラングラーの実力が。 さて、話を戻そう。 ラングラーが受けた任務は、トリステイン魔法学校の「ある生徒」の拉致。 そしてその「ある生徒」が寮のどこにいるかは、スデに確認済み。 本人の特徴もラングラーの頭にキッチリ入っている。 全てが完璧だ。 そう心の中で呟くと、ラングラーは音も無く壁を這い上がり始めた。 ターゲットの生徒が眠る、女子寮の一室の窓に向かって。 そしてお目当ての窓にたどり着いたラングラーは、自分の「力」を静かに呼び出した。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ・・・」 その呟きとともに、ラングラーの背後に奇妙な亜人が現れる。 その姿はマントの下のラングラーの格好に酷似しており、目には釘を打ち付けた鉄板のような目隠し、 腕にはいくつもの穴が等間隔で開いた、腕輪のような奇妙な物体。 ジャンピン・ジャック・フラッシュ。 ラング・ラングラーが「魔法殺し」たりえる、その力の理由。 ラングラーの意志のままに動く、ラングラーの半身とも言うべき存在だ。 そのジャンピン・ジャック・フラッシュが、窓へと手を伸ばした。 そして、まるで幽霊のように窓ガラスをすり抜けると、窓の内側から、鍵を静かに外した。 それを確認したラングラーは、両手の吸盤を窓ガラスにくっつけると、そっと窓を開いた。 夜風が、部屋の中に静かに吹き込んだ。 それに部屋の主である桃髪の少女が気づくことは無かった。 しかし、少女の使い魔たる亜人――ホワイトスネイクには、それが分かった。 突然室内に吹き込んだ風を感じ取ったホワイトスネイクは、瞬時に戦いの思考に移った。 部屋のドアが開いたのなら風など吹き込まない。 ならば、空いたのは窓。しかし窓には鍵がかかっていた。 ならばこの部屋に不法侵入したのは、魔法を使えない人間ではない。メイジだ。 そしてこの学校の生徒に、わざわざ窓から入ってくる理由が無い以上、このメイジは確実に学校外の存在。 つまり、ほぼ確実に敵。 実体化していないために、ホワイトスネイクは侵入者の姿を見ることは出来ない。 だが、今までの経験がそれを十分に補い、状況を把握させてくれる。 どうするべきか。 この七日間、自分を悩ませ続けた命題が、まさしく抜き差しなら無い状況で自分に向かってきた。 自分の存在意義たる「主人の守護」を実行すべきか。 自分を憎む主人が下した、「二度と出てくるな」の命令に従い、傍観するべきか。 一方を立てればもう一方は立たない。 選べるのは、一つだけだ。 一体、どうするべきなのか。 だが迷ってばかりではいられない。 こうして悩んでいる間にも、確実に侵入者は主人であるルイズに近づいているだろう。 迷えば迷うほど、余裕は無くなっていく。 どちらかを選ばなければならない。 しかし、どちらを選んでも、自分という存在は否定されることになる。 どうするべきか、どうしたらいいのか、どうするのが、最善なのか。 (ダガ・・・コレ以上決断ヲ迷エバ、本当ニ取リ返シノツカナイコトニナル。ソウナルヨリハ・・・・・・クソッ!) 半ばヤケクソになって、ホワイトスネイクは発現した。 そして流れるような動作で腕からDISKを抜き取り、そのまま窓の傍に立つ、見知らぬ「敵」に対してそれを投擲するッ! 命令の内容は「10メートル飛んだ後に破裂しろ」ッ! 主人の部屋を敵の血で汚すことなく、そして敵は確実に始末する。 まさにこの状況にうってつけの命令が、侵入者の頭部へと向かい―― 「ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!」 部屋中に響く叫びとともに、DISKは弾き飛ばされたッ! 「ナン・・・ダト?」 ホワイトスネイクは驚愕した。 さっきまでの苦悶がそれこそ月までぶっ飛び、ホワイトスネイクの脳裏から消え去ってしまうほどに。 そしてそうなったのは、自分の必殺を期した一撃が虚しくも弾かれた事からではない。 ジャンピン・ジャック・フラッシュ。 自分自身もよく知るその単語、そしてそれを叫んだ侵入者の、その声に驚愕したのだ。 その単語を知る者、そしてその「力」を扱えるものを、ホワイトスネイクは一人しか知らない。 「今のは・・・DISKだと?」 そして動揺したのはホワイトスネイクだけではない。 侵入者――ラング・ラングラーも、今の攻撃に驚愕していた。 DISKなどというものはこの世界――ハルケギニアには存在しない。 そして今の感触――壊れそうで、決して壊れない、自分自身もよく知る奇妙な感触。 そんなものを扱える存在など、ラングラーはたった一つしか知らない。 「貴様ハッ!」 「てめー、まさか・・・」 「ラング・ラングラーッ!」 「ホワイトスネイクかッ!」 二人が驚愕に声を上げたのもつかの間、瞬時に、互いに間合いを取る。 ラングラーはジャンピン・ジャック・フラッシュを、腕を突き出すように構えさせ、 ホワイトスネイクは太極拳の型のような構えを取る。 (一体ドウイウ事ダ? 何故ラング・ラングラーガココニイル? イヤ・・・ソレハ本体ノ死トトモニ消滅スルハズダッタ私ニ関シテモ同ジカ。 ダトスルナラバ、コイツモマタ私ト同ジク、メイジニ召喚サレルコトデ、コチラ側ヘ・・・?) (クソッ・・・何故こいつがここにいる・・・・? それに今・・・こいつ・・・このガキの・・・すぐ傍から出てきやがった。 ってことは・・・このガキがホワイトスネイクの本体・・・ってことか? ・・・ありえねえ。 こいつの本体は・・・こっちの人間じゃあ・・・ねえハズだ。 でも・・・状況から言って・・・このガキがホワイトスネイクの・・・今の本体なのは・・・確実だ。 だとしたら・・・ホワイトスネイクは・・・一体どうやって・・・こっちにきやがった。 俺とおんなじで・・・いきなりこっちに・・・飛ばされて来たのか?) (トニカク・・・状況ヲ整理スルベキダ。 コイツノ『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』ハ中距離戦闘モ可能・・・パワーハ私ヨリ上。 ・・・ドウ考エテモ不利ダ。 幻覚デ騙シ討チヲカケルノガ最善カ・・・?) (クソッ・・・こいつが・・・なんでここにいるかは・・・後回しだ。 それにしても・・・こいつがいるとなると・・・話が厄介に・・・なってくる。 俺がもらった・・・依頼は・・・『ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを無傷で確保すること』・・・。 このガキが・・・ホワイトスネイクの本体である以上・・・ホワイトスネイクが受けたダメージは・・・ガキに反映される。 そうなったら・・・依頼は完全成功とは言えねえ。 ホワイトスネイクを・・・ヘタに殺す事は・・・できねえ。 クソッ・・・厄介な事に・・・なってきやがった・・・・・・) 互いに状況を把握に努め、取るべき行動を策定する。 しかしこの状況はどちらにも不利であり、ありがたくない状況だ。 そして―― 「もう・・・何なのよぉ・・・誰かいるのぉ?」 どちらにとっても、目覚めてほしくない人間が、目覚めた。 (シマッタ・・・サッキ、私トラングラーガ出シタ大声デ目ヲ覚マシタカ!) (ちっ・・・寝てる状態で拉致った方が・・・楽だったろうに・・・もっと・・・面倒に・・・なりやがって・・・) そして双方ともに、この状況に心の中で毒を吐く。 「・・・って、ホワイトスネイク! あんた、何で出てきてるのよ!」 ホワイトスネイクの姿を見たルイズが、寝起きの頭で、思わずそう言った。 そして、言ってしまってから、後悔した。 (って、それはダメだって自分で考えたばっかりじゃないの! そもそも『出てこないで』って言った事自体、感情任せだったのに・・・。 でもアイツがわたしに召喚される前にやった事は、間違ってることだし・・・。でも・・・・・・) 一週間も自分を悩ませ続けてきた事実が、ホワイトスネイクが再び自分の前に現れたという現実を前に、重くルイズにのしかかる。 使い魔の主人として、やるべきことはしなくちゃいけない。 だけど、それがどちらなのかが分からない。 ホワイトスネイクを完全に封印することなのか、それとも形式上とはいえ、ホワイトスネイクを許すことなのか。 そしてホワイトスネイクの方は、この時点で一つの覚悟を決めた。 やはり主人は自分が現れることを、まだ許してはいなかった。 ならばこうして発現してしまったことに対して、何らかの形で責任を取らねばならない。 はたして、どのように責任を取るか。 それもまた、ホワイトスネイクはスデに決めていた。 そしてそれを実行するだけの覚悟も、今ここで決めた。 暫しの沈黙の後、ホワイトスネイクがルイズに話しかける。 「マスター。時間ガ無イノデ簡潔ニ説明スル。今、敵ノ襲撃ヲ受ケテイル」 「て、敵?」 「ソウダ。今、私ノ目ノ前ニイル」 ルイズはホワイトスネイクの言葉に従い、その前方の暗闇に目を向ける。 ルイズの鳶色の目に、見知らぬ男――ラング・ラングラーの姿が映った。 そしてその後ろにいるジャンピン・ジャック・フラッシュの姿も、ルイズには見えた。 「だ・・・誰かいるわよ? そそそれに、その後ろにも誰かいる・・・だ、だだ誰よ!?」 「ヤツノ名ハ『ラング・ラングラー』。『スタンド使い』ダ」 「スタンド使いって・・・あんたがわたしに召喚された日に言ってた・・・・・・」 「ソウダ。スタンド名ハ『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』。私ガ知ル中デハ、コト戦闘ニオイテハ最も凶悪なスタンドダ」 「そ、その凶悪なヤツが、何でわたしの部屋にいるのよ! というか、なんであんたがアイツのことを知ってるのよ!?」 「ヤツノ目的ニツイテハ不明ダ。ソシテ私ガヤツノコトヲ知ッテイルノハ、私トヤツガ、同ジ世界ニイタカラダ」 「同じ世界? そういえばあんた、別の世界から来たとか何とか言ってたわね・・・」 「ツマリソウイウコトダ。ソシテココカラハ私ノ領域ダ。マスターハ下ガッテイロ」 そう言って、ホワイトスネイクはルイズの前に出た。 そしてこの光景に、ルイズは一週間前のことを思い出していた。 あの時もそうだった。 こいつはいつも何が一番正しいかが分かっているかのような振る舞いをしていた。 そして自分をどこか見下ろしたような目をしていた。 自分を、未熟なものとしてみるような目をしていた。 それを思い出したら、何か、頭の芯が熱くなるような、そんな思いがしてきた。 ホワイトスネイクが言うことが正しいのは分かる。 分かるけど、それに従いたくなかった。 従うのが悔しかった。 その悔しさで、さっきまでの悩みなど、どこかに吹き飛んでしまっていた。 「・・・・・・イヤよ」 自分の主人が発した言葉に、ホワイトスネイクは耳を疑った。 「何・・・ダト? 今、何ト・・・・・・」 「イヤ、って言ったのよ。アイツはわたしに用があるんでしょ? だったら私が決着をつけるわ。だから下がるのはあんたの方よ」 「・・・不可能ダ。ソレニヤツノ狙イハマスターナンダゾ? ソレデハヤツノ思ウ壺ダ」 「うっさいわね。『命令』よ、これは。そもそもあんたが出てくるのが間違いなのよ。こんなヤツわたし一人でどうにかできるわ」 「ダカラソレハ不可能ダト言ッテイル。落チ着ケ、マスター」 「落ち着いてるわよ、ホワイトスネイク。それにあんた、久しぶりに出てきたと思ったら随分わたしに反発するわね。 私の命令に従えないの? 私を、ご主人様だって認めてないの?」 口を開くごとに自分の体が熱くなっていくのが、ルイズ自身にも感じ取れた。 言うことを聞かないホワイトスネイクに、無性に腹が立って。 そのホワイトスネイクが自分に背を向けているのが、余計に腹立たしくて。 自分を守るために、敵と向き合うために自分に背を向けているのは分かる。 頭のどこかでそれが分かっていても、今はそれが、無性に憎らしく思えた。 そのときだった。 「・・・始末ノ付ケ方ヲ見ツケタダケダ」 予想もしなかった返答が、ホワイトスネイクから返ってきた。 「始末の・・・付け方?」 「ソウダ。コウシテ主人ノ命令ニ反シテ実体化シタコト。 ソレニ対シテドウヤッテ始末ヲツケルカ・・・ソレヲ見ツケタダケダ。ソシテ、覚悟シタダケダ」 「い、一体、何する気よ?」 心なしか、ルイズの声が震える。 同じ戦いでも、ギーシュと決闘したときとは全く違う、ホワイトスネイクの様子に、 そしてその身体から感じられる気迫に、ルイズは気圧されていた。 「例エ私自身ガ消滅スルコトトナッタトシテモ、マスターヲヤツカラ守リキル。 アルイハ生キ延ビタトシテモ、ソノ後ニ自分デ自分ニ決着ヲツケル」 つまりこういうことだ。 この戦闘でホワイトスネイクは捨て身でラングラーと戦い、そこで戦死する。 また、仮に生き延びたとしても、自害する。 つまりどちらにしても死ぬ、と言っているのだ。 「な、何よそれ・・・それって、死ぬってことなの? あんた、自分で何言ってるか、分かってるの?」 「元々無カッタ命ダ。惜シム事ハ無イ。アワヨクバ、最後マデスタンドトシテ存在シ続ケタイ、ト思ウグライノ、ソノ程度ノ命ダ」 自分の名誉のために死ぬ。ホワイトスネイクが言っているのは、そういうことだった。 ルイズへの忠誠のためではなく、スタンドとして自分の存在を全うするため。 そのために、自分で自分の命を捨てる、と。 人から見れば、この時のホワイトスネイクは一種の悲壮さと勇敢さを持っているようにさえ見えたろう。 しかし、今のルイズには、ホワイトスネイクが身勝手であるようにしか見えなかった。 それに自分のためでなく、ホワイトスネイク自身の名誉のために死のうとしているのが、なおさら許せなかった。 自分はそこまで主人として出来が悪いのか。自分は、主人として認められていないのか。 そう思うと、怒りよりも悔しさがこみ上げてきた。 「も、もも、もういいわ。すす好きにしなさいよ! アンタなんか、もう知らないんだからッ!」 ルイズはヤケクソになってそう言い放ち、ホワイトスネイクの背中を強く蹴っ飛ばす。 ドゴオッ! 「グゥッ!」 その衝撃で、ホワイトスネイクがぐらりと正面によろける。 それがまずかった。 (今・・・あのガキ・・・ホワイトスネイクの背中を・・・蹴ったよな? なのに・・・あのガキが・・・背中を痛めたようには・・・見えねえ。 そういう素振りが・・・全くねえぞ。 どうなって・・・やがる・・・・・・) ラングラーに見られたのは、まずかった。 これまでルイズとホワイトスネイクがしゃべくっているのも、 二者の間でのダメージの共有を恐れていたからこそ見逃していたラングラーである。 しかし今、そのダメージの共有が無いことが分かった。 「おい、ホワイトスネイク。お前・・・まさかとは思うが・・・お前が受けたダメージ・・・そのガキには・・・伝わらんのか?」 そう聞かれた瞬間、ホワイトスネイクは今までラングラーが攻撃してこなかった理由を悟った。 そして、ヤバイと思った。 しかしルイズにはそれが何を意味するのかも、それがヤバイってことも全く分からなかった。 「ええ、そうよ。ていうかそんなのあるわけ無いじゃない」 なので、それが言っちゃあマズイことだってのも、全く分かってなかった。 (ナンダトォーーーーーーーッ!?) 焦ったのは、ホワイトスネイクである。 まさかこんなにあっさりとカミングアウトをかまされるとは思いもしなかったからだ。 そして―― 「そう・・・か。じゃあ・・・オレが・・・テメーを攻撃しない・・・理由はねえな。 ええ・・・? ・・・・・・ホワイトスネイク」 ラングラーが、戦闘態勢に入った。 ジャンピン・ジャック・フラッシュの腕のリングが、グルグルと回転し始める。 「来ルカッ!」 ホワイトスネイクが拳を握り締め、太極拳の構えからボクサーのようなファイティングポーズへ移行する。 そして―― 「ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!」 ラングラーが叫ぶ。 それと同時に、JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)の腕のリングから、無数の小さい「何か」が放たれたッ! ドンドンドンドンドンッ! 放たれたそれらは空気を切り裂き、銃弾並みの速度で、一直線にホワイトスネイクへと襲い掛かる。 「シャアァァーーーーーーーーーッ!!」 バギャギャギャギャッ! 咆哮とともに拳を縦横無尽に振るい、自分に向けて放たれた無数の「何か」を叩き落し、あるいは弾き飛ばすホワイトスネイク。 叩き落されたものはじゅうたんをぶち抜いて床にめり込み、 横方向へ弾き飛ばされたものは室内のタンスやクローゼットに突き刺さった。 「な、なに? 今アイツ、何を飛ばしたのよ!?」 ラングラーの後ろに控えるJJFが飛ばした「何か」と、それを明確に視認して弾き飛ばしたホワイトスネイク。 さらにホワイトスネイクが弾き飛ばしたがために、部屋の内装がかなり傷ついたことでパニックになるルイズ。 「アレガヤツノスタンド能力ダ。無重力ニヨッテ慣性ヲ味方ニツケ、鉄クズヲ加速シテ銃弾ノヨウニ放ツ」 「『むじゅーりょく』? 『かんせー』? 何よそれ!?」 「・・・・・・知ラナイノカ?」 「そんなの聞いた事も無いわよ!」 「そのガキが知らんのも・・・無理は無い。この世界は・・・科学が・・・全く発展してねえからな。 無重力の概念も慣性も・・・だれも理解しようとはしない。 だからこそ・・・・・・オレは無敵だった。 誰にも理解できない力を・・・駆使し・・・相手を完全に・・・蹂躙するわけだからな・・・・・・」 この世界はちっとも科学が発展していないのだな、とホワイトスネイクは思った。 「ソウカ・・・ダガ貴様ノ能力ガ誰カニ理解サレル必要ハ、今日無クナル。 無重力ヲ利用スルモノモ、慣性ヲ利用スルモノモ、今日ココデ、ソノ最初デ最後ノ一人ガ死ヌカラナ・・・」 「出来るのか? ・・・ガキのお守りを・・・したままで・・・・・・?」 「スタンドトハ、元来ソウイウモノダ」 「なるほど・・・な。じゃあ・・・再開と・・・いくか! JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)ッ!」 ドンドンドンドンッ! ラングラーの声に応じ、再び無数の鉄クズを放つJJF。 バギョギョアッ! それをホワイトスネイクは、正確に拳で弾き飛ばしていく。 避けることもせず、後方にいるルイズに当たらぬよう、全て自分の拳で弾き飛ばしてゆく。 弾き飛ばした鉄クズは、多くは部屋の内装に突き刺さり、そうでないものは扉を突き破って廊下に飛び出していった。 「また防いだか・・・だが・・・どこまで続くかな・・・・・・」 ドンドンドンドンドン! そしてJJFの腕のリングから、第二波が放たれる。 今度は一点集中。 ホワイトスネイクの胸部目掛けて集中するように、角度を調整してきた。 「シャアアアアアッ!!」 バギャギャギャッ! それをホワイトスネイクは両拳の、目にも留まらぬストレートの連打で正面から弾き飛ばしてゆく。 そして弾いたその何発かがラングラーに襲い掛かる。 ホワイトスネイクが、狙ってそのように弾き飛ばしたのだ。 しかしラングラーはそれを予想していた。 バギギィン! 鈍い音とともに、ラングラーを貫くはずだった鉄クズが床に叩き落される。 叩き落したのはJJF。 スデにラングラーの正面に回りこみ、そしてホワイトスネイクがやったのと同様に拳で防御を行っていたのだ。 「チッ・・・・・・」 「残念・・・だったな。その程度じゃあ・・・・・・オレのJJFは・・・倒せねえ。 それに・・・前から・・・思ってたんだ」 そう言いつつ、JJFに鉄クズを撃ちまくらせるラングラー。 今度は先ほどのように集中するようなものではなく、部屋全体に、ばら撒くような射撃。 それをホワイトスネイクは、自分の方へ飛んでくるものだけを狙って弾き飛ばす。 「オレのJJFは・・・無敵かもしれねえ・・・ってことをな・・・・・・。 テメーなんか・・・目じゃあねえぐらいに・・・オレのJJFが強いって・・・前からずっと思ってたんだ・・・・・・」 その直後、ホワイトスネイクの右足が鉄クズに撃ち抜かれた。 その衝撃に、ホワイトスネイクの体がぐらりと揺れる。 (跳弾・・・カ。無作為ニバラ撒イタヨウニ見セカケテ・・・ 壁ヤ天井ヲ跳ネ回リ、私ヲ襲ウ本命ヲ潜マセテイタノカ・・・・・・) してやられた、という屈辱感がホワイトスネイクの胸を満たす。 そして今ホワイトスネイクが撃たれた事は、その後ろにいたルイズにも分かった。 思わず声を上げそうになるが、それを堪える。 ホワイトスネイクが戦っているのは自分のためじゃない。 ホワイトスネイク自身の名誉だ。 だから、ホワイトスネイクを心配するようなことを言っちゃいけない。 いや、絶対に言いたくない。 自分をご主人様だって認めないような使い魔の心配なんて、絶対したくない。 ルイズは生来、意地っ張りな気質だった。 だからこそこんなときでも、ホワイトスネイクの心配をしたいと思えなかった。 本当は、心配で心配でたまらないのに。 「さて・・・今度は真正面から・・・テメーを・・・穴ボコのチーズみてーに・・・してやるぜ」 JJFが両腕を真っ直ぐホワイトスネイクに向ける。 そしてッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!! 今度はマシンガンのように、一呼吸も置くことなく、大量の鉄クズをホワイトスネイクに集中して射撃したッ! それをホワイトスネイクは―― 「シャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーー!」 バギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!! 部屋中に響き渡る咆哮とともに、真正面からそれに立ち向かうッ! 自分に襲い掛かる鉄クズの全てを、拳で弾き飛ばしてゆくッ! しかし、そのためにホワイトスネイクは一気に消耗していく。 JJFから弾丸並みの速度、そして威力をもって放たれる鉄クズを拳で弾き飛ばし続けたために、 その両拳にはダメージが次々と蓄積されていき、 拳で完全に弾ききれなかった鉄クズが自分の体を掠め、切り裂き、あるいは突き刺さる。 ガードが間に合わなかったために胴体にめり込んだ鉄クズも2、3ある。 だがホワイトスネイクは拳を振るうことを止めない。 スタンドとしての存在を完遂するため、拳を振ることを止める事は、決して出来ない。 そして―― 「ホワイトスネイク・・・随分・・・辛そうじゃあねえか・・・ええ? ・・・・・・おい」 「・・・・・・」 嵐のような集中射撃が終わったとき、ホワイトスネイクの身体はボロボロになっていた。 とりわけ両拳は、いまにも崩れ落ちそうな程に傷つき、ひび割れていた。 JJFから弾丸並みの速度、そして威力をもって放たれる鉄クズを、もう30発以上も弾き飛ばしていたのである。 これまで拳が持った事が幸運だったと言えよう。 おそらく、次の射撃をホワイトスネイクの拳は防げない。 次の一波の2発目、あるいは3発目、いや1発目を弾き飛ばした瞬間、ホワイトスネイクの拳は砕け散る。 「おそらくお前の拳・・・次で・・・壊れる。 そうなったら・・・どうするつもりだ? テメーの身体で・・・そのガキを庇うのか? オレはガキを・・・無傷で確保できれば・・・それでいいからな。 是非とも・・・テメーの身体で・・・ガキを庇って・・・・・・それで死んでくれ」 ウエストポーチから鉄クズを取り出し、JJFの腕輪に補給しながらラングラーが言う。 これで、JJFが弾切れを起こすことも期待できなくなった。 だがホワイトスネイクは表情を変えない。 何故ならホワイトスネイクには、自分が置かれている状況がこの場の誰よりも理解できているからだ。 後4回。 それだけ鉄クズを弾いたなら、自分の拳が砕ける。 それが今までの経験から割り出した、今の自分の限界だった。 その限界を迎えた後はどうするか。 そんな事は、言うまでも無いことだった。 そして、JJFが腕を構える。 ホワイトスネイクが、ファイティングポーズをとる。 勝利を確信したラングラーの顔が、笑みに歪む。 そして、叫ぶ。 「くらえッ! ジャンピン・ジャック・・・」 バゴォォオン! その瞬間、ルイズの部屋のドアが烈風の塊にぶち破られる。 風の魔法、「エア・ハンマー」だ。 ゴォオォアッ! そしてそれに続くように、真っ赤に燃え盛る火球が部屋の入り口から放たれるッ! 火の魔法「ファイア・ボール」。 それが一直線に、今まさに攻撃をしようとしていたラングラーへと突進するッ! 「うおおぉおッ!!」 驚きに声を上げながら、床から飛び上がり、壁を蹴って部屋の隅へと逃げるラングラー。 だがその動きを追うように、10本以上の氷の矢―― ――水・風・風のトライアングルスペル「ウィンディ・アイシクル」が、ラングラーへと殺到するッ! ドシュシュシュシュッ! 空気を切り裂き、自分に迫る氷の矢の群れに、ラングラーが叫ぶ。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュッ!」 ドンドンドンドン! JJFの両腕から放たれた鉄クズが氷の矢を迎撃し、その全てを撃墜した。 「何者だ・・・テメーらは・・・・・・今の魔法・・・この威力・・・トライアングルクラスだぞ・・・・・・」 一瞬のうちに襲い掛かった強力な魔法の連撃に、顔をしかめるラングラー。 その顔に、ルイズにとっては聞き慣れた声がかけられる。 「あ~ら、ごめんなさいねえ・・・。でもレディの部屋にブ男が、呼ばれもしないのに土足で入るもんじゃあないわ」 そしてその声は、ホワイトスネイクにも聞き覚えのある声だった。 「あ、あんた・・・キュルケ!」 驚きを隠せず、声を張り上げるルイズ。 ホワイトスネイクは内心に驚きながらも、しかしラングラーへの警戒を緩めず、視線はラングラーに合わせている。 「どうしたのよ、ルイズ。こんなブ男が趣味だったってワケ?」 「ち、ちち違うわよ! っていうか、どこを見たらそんなこと・・・・・・」 「はいはい、分かってるわよ。理由は知らないけど、コイツに襲われたんでしょ? それと、タバサに感謝しなさいよ。この子がいなかったら、私も気づかなかったんだから」 そういうキュルケの横から、ひょいと青髪の女の子が顔を出した。 タバサである。 彼女の目はルイズたちにではなく、ラングラーへと向けられている。 タバサが部屋に訪れて「何か変」と言った後、寝巻きのままだったキュルケは学生服に着替え、 そしてこれからどうするか、というところだった。 タバサ自身も何か奇妙な違和感を感じた、というだけで、誰がどこにいるだとか、そういう細かいことまでは分からなかったのだ。 そうしたことを相談していたところに、ルイズの部屋のドアを突き破って、あの鉄クズが飛び出してきた。 言うまでも無くJJFが撃った鉄クズである。 その瞬間、キュルケとタバサはルイズの部屋のドアの両脇に回った。 そして互いに目で合図し、自分がすべきことを確認し、すぐさま行動を開始した・・・というわけだ。 タバサはこの未知なる敵にこれ以上に無い警戒をしていた。 鉄クズを飛ばすという謎の能力。 そして今の奇襲に対する立ち回り。 全てが、この敵の強さを物語っていた。 「キュルケ・・・気をつけて」 「分かってるわ。あなたの『ウィンディ・アイシクル』を一つ残らず叩き落すようなヤツですもの・・・油断なんか出来ないわ」 杖と、鋭い視線とをラングラーへと向ける、キュルケとタバサ。 その二人を、ラングラーは怒りを込めた目で見据える。 「あのガキ以外は・・・殺しても構わねーことに・・・なっている・・・・・・。 オレをナメた事を・・・必ず・・・後悔させてやるぜ・・・・・・」