約 439,945 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1226.html
(音声のみお楽しみ下さい) 「……ねえホワイトスネイク」 「ドウシタマスター」 「これはどういうことかしら?」 「昼食ハ既ニ、ホトンド食ベラレテシマッタヨウダナ。 スープトカモキット冷メテイルダロウ」 「……誰のせいなんでしょうねー」 「ソレハ錬金ニ失敗シタマスt」 ドグシャアッ! 「オゴォォッ!」 「あんたが『でぃすく』だの『魔法の才能』だの話し始めたからでしょうがぁあああああああああああ!!」 5話 つまり、こういうことである。 片付けをやっとこさ終えたルイズとホワイトスネイクは、他の生徒より大分遅れてアルヴィーズの食堂に入った。 そしてそこでお腹を空かせたご主人様ことルイズが目にしたのは―― もうほとんど食事が残っていない大皿と、湯気一つ上がらない、きっと冷え切っているであろうスープである。 もちろんお腹をすかせたご主人様はこんなものを見せられた日にはカンカンである。 まあ元はと言えば錬金を派手に失敗して教室を悲惨な状態にしたルイズにこうなった原因はあるのだが、 上記の通りルイズはそれをホワイトスネイクになすりつけた。 責任転嫁である。 その上ホワイトスネイクのスネを蹴っ飛ばしている。全力で。 ルイズとしては、しょうがないんだもん、あたしは魔法が使えないんだもん、みたいな感じでスネてるんだろうが、 責任転嫁された挙句蹴りを食らわされたホワイトスネイクとしてはたまったものではない。 しかし……相手が自分の主人である以上手を上げるわけにもいかず、結局堪えるホワイトスネイクであった。 スタンドの悲しい定めである。 蹴っ飛ばされた方の脚を抱えてケンケンしながら、 ヨーヨーマッもこんなかんじでいつもDアンGにぶん殴られてたに違いない、と思った。 そして一瞬ヨーヨーマッに同情しかけるが、ヨーヨーマッがドMだったことを思い出してすぐに止めた。 こうしてルイズが一人で怒っていて、ホワイトスネイクがケンケンしているところに―― 「あの……ミス・ヴァリエールでしょうか?」 いくらか遠慮のかかった声がした。 その声にルイズとホワイトスネイクが振り向く。 はたして、声の主はメイドであった。 彼女の髪の色は黒。 他のメイドや生徒と比べれば、ここでは珍しい色である。 「何? メイドがわたしに何の用?」 ルイズが思いっきり不機嫌な声でメイドに応える。 腹へっていても多少の愛想は必要だと思うホワイトスネイク。 そしてメイドの方にも、ルイズの不機嫌が分かったらしく、 「あ、あの! その……も、申し訳ありません。 ミス・ヴァリエールが昼食の席に現れなかったもので、お腹が空いてるんじゃないかと……」 「そーよ! もう食事はほとんど無くなっちゃってるし……おかげでこっちはお腹がペコペコよ!」 「で、ですから、大したものは用意できないかもしれませんが、昼食の方を用意しましょうかと……。 他の貴族の皆様がお召し上がりになったものと同じものは用意できませんが……」 これはありがたい。 今朝のようなアホみたいに豪華な食事は期待できないだろうが、それでも十分だ。 お腹をすかせた我が主人たるルイズにとって単純にプラスになることだし、 またこのままルイズが不機嫌なままだと、いつスネを蹴っ飛ばされるか分かったものではないので自分にとってもプラスである。 そうホワイトスネイクが考えていた矢先。 「イヤよ。わたしがいつも昼食で食べてるのと同じのじゃなきゃ、イヤ」 ホワイトスネイクはため息をつきたくなった。 腹減ってるのはしょうがないとして、何故そこで意地を張る。 どうせこのワガママなご主人様のことだ。 貴族はこんなもの食べないとかなんたらかんたら言うんだろうな、とホワイトスネイクは思った。 でもそれを言うとまたスネを蹴っ飛ばされるだろうから、口には出さない。 そう思っていたそのとき―― ぎゅるるるるるるるる……… ルイズのお腹が盛大な悲鳴を上げた。 そしてその音を出したのが自分だと分かると、ルイズは羞恥心で顔を真っ赤にして周囲を見回す。 周りの生徒が聞いていなかったのを確認してルイズはほっと一息ついた。 今のお腹の音を聞かれるのがイヤだったようだ。 食堂に残っている生徒達は皆談笑に夢中で、ルイズには気づかなかったことが幸いした。 まあ、あまり上品な音じゃなかったからな、と思うホワイトスネイク。 そして確認作業を終えたルイズはメイドの方に向き直ると、 「さ、さっきのは取り消し! あと、えっと、で、出来るだけ上品なものを作りなさいよ! 貴族が食べるものなんだからね!」 と、これまた顔を真っ赤にしていった。 何もそこまで恥ずかしがらずとも、と思うホワイトスネイク。 メイドの方もそんなルイズを見て困ったような笑みを浮かべながら、 「かしこまりました。スープの方は今から温め直しますので、そちらで少しだけお待ち下さい。 あ、あと使い魔さんの分も用意させていただきますね」 と言ってお辞儀すると、ぱたぱたと厨房の方へ走っていった。 「何故、マスターハアノ小娘ノ提案ヲ最初ニ断ッタ?」 「貴族は平民が食べるようなものは食べないのよ。下品だから」 「平民? アノ使用人ノ小娘ノコトカ?」 ホワイトスネイクが聞き返す。 「そう、平民。魔法を使えない平民は、あのメイドみたいにわたしたち貴族に奉仕するのよ」 「ナルホド、ナ」 ホワイトスネイクは朝食の席で、自分の姿が使用人に見えていないことは分かっていた。 そして一方、貴族――つまりメイジだが、そいつらには自分の姿が見えている。 (メイジニハ私ノ姿ガ見エル。シカシ使用人、ツマリ平民ニハ私ノ姿ハ見エナイ、トイウコトカ) そのように、ホワイトスネイクは納得しかけて――先ほどのメイドの言葉を思い出した。 (イヤ待テ。サッキアノ使用人ハ『使い魔さんの分も用意させていただきますね』トカ言ッタナ。 ダガ、アノ使用人ハマスターノ言カラシテモメイジデハナイ。 ダトスレバ……) ホワイトスネイクに、興奮に近い感情が湧き上がってくる。 (アノ使用人……スタンドノ才能ヲ持ッテイルノカ?) そして数分後。 ルイズ以外には誰も席に着いていないがらんとした食堂に、ルイズのためだけの食事が並んだ。 ……とは言っても、スープの他にあるのはシチューとローストした鶏肉だけだが。 しかし、量だけは十分ある。 というか二人分は十分ある。 やっぱりホワイトスネイクが見えているらしい。 「どうぞ、お召し上がり下さい」 メイドが笑顔で言う。 ルイズはメイドの声にそっけなく頷いて応えると、目の前のシチューをスプーンですくって、口に運ぶ。 料理の方も見た目には気を使って皿に盛ってはあったが…… やっぱり見た目がボチボチだったからそれが不満なんだろうか、と思うホワイトスネイク。 それでも、突き返さないだけまだマシだと思うことにした。 やっぱり腹減ってると怒る気力もなくなるんだろうか。 しかし、シチューを食べたルイズの感想は―― 「あら……美味しいじゃない!」 感嘆した調子で、ルイズは言った。 「そう言っていただけると嬉しいです」 メイドが嬉しそうに顔をほころばせて言う。 だがルイズは、一口食べて美味しいと分かったからだろうか、 それすら聞こえない様子で、ひたすら食事を口の中に運んでいた。 とはいえ、ガッつくような真似はしない。 由緒ある家柄の出であるルイズは、どんなにお腹が空いていてもテーブルマナーは守るのだ。 その分食事の時間は長くなるが。 そうしてルイズが食事を取っていると―― 「あの……使い魔さんは、お食事をなさらないんですか?」 メイドが、ホワイトスネイクに声をかけた。 「イヤ、イイ。私ハコウイッタ形式ノ食事ヲ取ラナイノダ」 「じゃあどんな食事をなさるんです?」 当たり障りの無いように断ったホワイトスネイクだったが、メイドはさらに深く聞いてきた。 「そうですか、分かりました」で収めればいいものを、と思うホワイトスネイク。 さて、どうするべきか。 自分がスタンドであることを話せば、このメイドにスタンドの才能があるところまで話さなければならなくなるだろう。 まだこちらの世界に来たばかりで、まだ状況のいまいち掴めていないホワイトスネイクとしては、 出来るだけ不要なトラブルは避けたい。 「スタンド使いとスタンド使いは引かれあう」というルールもあることだし、 今の段階でヘタにこの使用人に、スタンドのことは話したくない。 しかし……他の平民の使用人には見えない自分の姿が、この使用人の小娘には見えているのだ。 いずれこの使用人自身も、自分が他の平民とは異なることを知るだろう。 どうするべきか。 彼女にスタンドの才能があることを伝えるべきか、それとも言わずに置くべきか。 しばらく考えたホワイトスネイクは―― 「私ハ空気ヲ食ベル」 誤魔化すことにした。 勿論大嘘である。 空気食って生き延びる人型生物なんているわけ無いだろ常識的に考えて。 しかしこのメイドは―― 「そ、そうなんですか……」 真に受けた。 純真なのか、だまされやすいのか、いずれにしても、 「はいそうですか」で信用するのはどうかとホワイトスネイクは思った。 まあ深く突っ込んでこないのはこちらとしてもありがたいが。 ホワイトスネイクがそんなことを考えていた、そのときだ。 「ごちそうさま」 食事をしていたルイズから声が上がる。 どうやら食べ終わったらしい。 そしてさっきホワイトスネイクが適当なことをメイドに言ったことに反応しなかったあたり、 かなり集中して食事していたようだ。 よほど、お腹がすいていたんだろう。 そう思って、ホワイトスネイクが下を見下ろすと―― 「……全部食ベタノカ」 「だってお腹すいてたんだもの」 メイドがホワイトスネイクの分にと用意した食事まで、さっぱりなくなっていた。 つまり、二人分をきっちりルイズは食べたのである。 いくらなんでもあれだけ食べたら太りそうなものだ。 というか、あれが普通なのか? 「食ベ過ギジャアナイノカ、マスター?」 「別に食べすぎじゃないわよ。いつも歩いてるから太らないし」 そういう問題じゃないだろう、と思うホワイトスネイクであった。 「あなた、名前は何ていうの?」 ルイズがメイドに尋ねる。 「シエスタといいます」 「そう。じゃ、ありがと、シエスタ。おかげで助かったわ」 「い、いえ! そんな、滅相も無いです!」 「いいのよ、そんなに縮こまらなくて。あと、今回の恩は覚えておくわ」 「ミス・ヴァリエール……」 メイド――シエスタと名乗ったが、彼女が嬉しそうに言う。 「そんなに驚かないで。ヴァリエール家の女が恩知らずだなんて思われたら、 私の方が恥ずかしい思いをすることになるもの。 別に特別なことじゃないわよ」 「そ、そそそうですか。あ、ありがとうございます!」 シエスタがかなり恐縮しながら頭を下げる。 その様子から、 (ココマデ卑屈ニナルトハ……ヨホド、平民ニトッテ貴族、イヤ、メイジハ恐怖スベキ対象トナッテイルノダロウナ) そんなことをホワイトスネイクは考えた。 「で、でででは、わわ私はこれで失礼します!」 そんなことを言って、メイドがまた深々と頭を下げると厨房の方へ走って行った。 ちょうどそのとき。 「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつき合っているんだよ!」 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「つき合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 こんな会話が聞こえた。 声の方向に目を向けるホワイトスネイク。 するとそこには金髪の優男と、それを取り巻く数人の男子学生が歩きながら談笑していた。 場所はちょうどシエスタが向かった厨房の近く。 「マスター、アレハ誰ダ?」 「あいつはギーシュよ。色んな女の子のところを、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしてるナヨナヨしたヤツ。 わたし、あんまりあいつのこと、好きじゃないのよね」 「アレニ惚レル女ハアマリ幸福ニハナラナイダロウナ。 アレハ女ニ気苦労ヲカケルタイプダ」 「でしょうね。まったく、モンモランシーも何であんなのにゾッコンなのかしら……」 ギーシュを眺めながらそんなことをルイズとホワイトスネイクが話していると。 ぽとり、とギーシュのポケットから何かが落ちた。 何か小瓶のようなものだ。 そしてちょうど厨房に入るところだったシエスタがそれを見つけて拾い上げる。 「これ、落としましたよ」 そう言ってシエスタがギーシュに小瓶を差し出す。 だがギーシュは取り巻きとの会話に夢中で気づかない。 いや、今のシエスタの声はそんなに小さなものではなかったし、「気づかないフリをしている」とするのが正しいだろう。 しかしシエスタは、自分の声が小さかったからギーシュは気づかなかったのだと、誤解した。 そしてもう一度、 「あの、すいません。これを落としましたよ」 そう言って、改めてギーシュに小瓶を差し出すと、 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 ギーシュはそれを否定した。 しかし自分のポケットから落ちたものを自分のものじゃないと否定するとは、無茶もいいとこである。 そして実際、それは裏目に出た。 「おお? その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分だけの為に調合している香水だぞ!」 「そいつがギーシュ! お前のポケットから落ちてきたってことは、 つまりお前は今モンモランシーと付き合っている! そうだな?」 「違う違う違う! いいかい、彼女の名誉の為に言っておくが……」 取り巻きたちに問い詰められたギーシュがそこまで言ったところで…… 一人の女子生徒がギーシュの元へぱたぱたと走り寄ってきた。 女子生徒のマントの色は、ギーシュやルイズのそれとは違う。 (ソウイエバ朝食ノトキ、アノ色ノマントヲ来タ連中ハ右側ノテーブルニツイテイタナ。 左側ニハ紫色ノマントヲ来タ連中ガイタ。 アノ小娘ガ茶色ノマントトナルト……1年生ハ茶色、3年生ハ紫色、トイッタトコロカ) そんなことを考えながらホワイトスネイクが見ていると、 「ギーシュさま……」 そういって、女子生徒がボロボロ泣き始める。 二股かけられてたことを、今のやりとりで理解したらしい。 「やはり、ミス・モンモランシーと……」 「違うんだよ、ケティ! 彼らは誤解してるんだ。 僕の心の中に住んでいるのは君だk」 ブワッシィィーーーーン! 「ぶげぁっ!」 有無も言わさぬ強烈なビンタが、ギーシュの頬に叩き込まれたッ! そして―― 「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ! さようなら!」 そう言うと、女子生徒は泣きながら行ってしまった。 女子生徒の姿が見えなくなった頃、騒ぎを聞きつけたのか、女子生徒がもう一人現れた。 顔つきを見る限り、おおよその状況は理解しているらしい。 というか、間違いなくギーシュをぶん殴るなり何なりするつもりの顔だ。 「あれがモンモランシー。 あの子、おだてられるのが好きなのかしらね。 いっつもギーシュの歯の浮くようなお世辞で顔を赤くしてるのよ」 テーブルに着いたまま、ホワイトスネイクと一緒に様子を見ていたルイズが、興味なさそうに言う。 「シカシマスター。コノママ放ッテオイテイイノカ?」 「どういうことよ?」 「アノ小僧……確カギーシュトカ言ッタナ。 ギーシュハ今カラアノモンモランシートヤラカラモ、何ラカノ制裁ヲ受ケルダロウ」 「でしょうね。で、それがどうかしたの?」 「私ガ言ッテルノハ、ソノ後ノコトナノダ。 状況ヲ簡潔ニ整理スレバ、ギーシュハ友人タチノ目ノ前デ二股ガ露見シ、アノヨーニフラレタ事ニナル。 果タシテ、コノママ自分ガ惨メナママデ済マセラレルカナ……?」 「え……ちょ、ちょっと待って! じゃあシエスタが……。でも、そんなのムチャクチャよ! フられたのはギーシュのヤツが二股かけてたからじゃない!」 「ダガ、元ヲ辿レバシエスタノ親切ガ招イタ事ナノダ。 ギーシュガシエスタニ責任ヲナスリツケナイ、トハ言イガタイナ」 「…………」 ちなみに、ホワイトスネイクにここまでの推測ができたのは、冒頭のルイズの理不尽な制裁があったからに他ならない。 ホワイトスネイクはあの一件で、この世界の理不尽を理解していたのだ。 貴族ならこれぐらいはやるだろう、と。 そのように考えられるようになっていたのだ。 何とも皮肉な話である。 そして現場では―― 「誤解だよ、モンモランシー! 彼女とはただ、一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」 ギーシュが首を振りながら疑惑を否定する。 だが、額には冷や汗が伝っている。 今時分が置かれた状況がディ・モールトヤバイことは自覚しているようだ。 「やっぱり……あの一年生に手を出してたのね」 「お願いだよ、『香水』のモンモランシー! 咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれ! 僕まで悲しくなってくるじゃあn」 ドグシャアッ! モンモランシーの蹴りが、ギーシュの股間に炸裂したッ! 「おごおおぉぉっ……」 呻き声を上げて、がっくりと膝を突くギーシュ。 なんというか、ギーシュはもうアワレすぎて何も言えない状態になってしまった。 それをモンモランシーは上から見下ろして、 「嘘つき!」 そう叫ぶと、肩を怒らせながら去っていった。 「お、おい。大丈夫か、ギーシュ」 取り巻きが心配そうにギーシュに言う。 ギーシュは荒い息をしながら、取り巻きの手を借りて立ち上がると、 額にびっしり浮いた冷や汗をハンカチでぬぐい、 「あの、レディたちは、ば、薔薇の、存在の、意味を、理解して、いないようだ」 やはりキザったらしい、芝居がかった口調で言った。 そのまますらすら言えたならもう少しマシだったんだろうが、 それほどにモンモランシーの放った金的は強力だったらしい。 そうして、ギーシュが股間の痛みに耐えながら立っていたとき。 「あ、あの……し、失礼します」 いきなり訪れた修羅場に、呆然と立ち尽くしていたシエスタが声を上げた。 ホワイトスネイクはそれを聞いた瞬間、シエスタが地雷を踏んだことを理解した。 そしてシエスタが背を向けて去ろうとすると―― 「待ちたまえ」 ギーシュがその背中に声をかけた。 その声に、びくっとシエスタは震えると、そろそろと振り向き、 「な、何でしょうか?」 震える声で、シエスタが言った。 「君が軽率に……香水の瓶なんか拾い上げてくれたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたぞ! ……どうしてくれるんだね?」 「も、申し訳ありません! お許し下さい!」 シエスタはひたすら頭を下げる。 だが、仲間の前で恥をかいたギーシュは収まらない。 「どうやら君には、貴族へ無礼を働くとどうなるか、身をもって知る必要があるみたいだな……」 そう言うと、ギーシュはシャツに刺した薔薇の造花を抜く。 薔薇の造花はギーシュの杖である。 早い話、ギーシュはシエスタに魔法を使おうとしているのである。 その様子をテーブルから見ていたルイズは、 「信じられない……ギーシュのヤツ、シエスタに責任をなすりつけるどころか、魔法まで使うなんて!」 マスターが言えたことじゃないな、とホワイトスネイクは思ったが、そこは黙っておいて 「私ノ言ッタ通リニナッタナ。サテ……ドウスル、マスター?」 ルイズに決断を促した。 シエスタには申し訳ないが、仮にルイズが「何もしない」と言ったなら、ホワイトスネイクは放置するつもりでいた。 偶然にも見つけたスタンドの才能の持ち主を失うことにも多少厳しいものがあるが、 それでもスルーする選択肢も頭の中に入れていた。 しかし、ルイズはホワイトスネイクの言葉に頷くと、 「命令するわ、ホワイトスネイク。シエスタを助けなさい。 でも、ギーシュに攻撃しちゃダメ。あんたが攻撃されるまではね」 そう命令した。 その内容でさっきまでの自分の心配が杞憂だったことが分かり、ホワイトスネイクは内心に苦笑した。 そして、もう一度命令の内容をなぞる。 ギーシュに攻撃するな、とわざわざ言うということは、ルイズ自身になにか考えがあるということ。 その点に関しては、自分が考える必要はないだろう。 そう察したホワイトスネイクは、 「了解シタ、マスター」 と、それだけ言うと、ルイズの元から、風のようなスピードで離れる。 そして、杖を抜いたギーシュに跪いて怯えていたシエスタの前に、音も無く降り立った。 「……何だ? お前は」 ギーシュが訝しげにホワイトスネイクを見て、言う。 そして数秒後、授業中にペリッソンをぶちのめした、ルイズの使い魔だと分かると―― 「お、お前は……ルイズの、使い魔か! な、何だ! 何の用だ!」 瞬く間に取り乱し始めた。 ほんの一言、ルイズのことを「ゼロ」と言っただけのペリッソンを有無も言わさず叩きのめした、 このホワイトスネイクの恐ろしさは、ギーシュも自分の目でよく分かっていた。 「マスターノ命令ヲ遂行スルタメダ。『シエスタを助けろ』ト命令サレタノデナ」 ホワイトスネイクの言葉で、ギーシュは長机に着いていたルイズを見つけると、そちらへ目を向ける。 「どういうことだ、ルイズ! 何で君が首を突っ込むんだ?」 「あら、そんなの決まってるわ。私はそのシエスタに恩があるもの。 たとえシエスタが平民だろうと変わりは無いわ。受けた恩は、返すものよ」 当然の事と言わんばかりの調子で言うルイズに、ギーシュはますます苛立ちを募らせる。 そして、ルイズの言った「受けた恩は、返すもの」と言う言葉に、シエスタははっとしたようにルイズを見る。 「大体悪いのはあんたよ、ギーシュ。 二股なんてかければ、いずればれるに決まってるじゃない。 なのに、あんたはその責任を自分で取らないばかりか、シエスタにその責任をなすりつけようとした……。 貴族のすることじゃないわよ、ギーシュ」 そのルイズの言葉で、ギーシュは完全に頭に血が上った。 常日頃から「ゼロ」と呼んでバカにしているルイズに、ここまで言われたのがガマンならなかったのである。 「……いいだろう。そこまで言うのなら、ルイズ。君も覚悟できてるんだろうね?」 「覚悟?」 「『決闘』だ、ルイズ! 僕は君に、決闘を申し込む!」 きた、とルイズは思った。 シエスタを私刑に処しようとするギーシュの前に立ちはだかるということは、 真っ向からギーシュと敵対することを意味する。 そしてこういう場合、互いに決着をつけるには……決闘しかない。 決闘で、互いが納得するまで戦うしかないのだ。 たとえ「貴族同士の決闘を禁じる」ルールがあったとしても、 昼食の後に授業が控えていても、それ以外の決着は無い。 「いいわよ。場所は?」 「ヴェストリの広場だ。用意が出来たらすぐに来てもらおう!」 「用意? そんなの、いらないわよ。 杖はここにあるし、わたしにはやる気もある。 準備が必要なのは、あんたの方じゃないの?」 「まさか。君がレディだから、ほんのちょっぴり気遣っただけさ。 だが、それも必要ないというなら、今すぐにでも始めようじゃないか。 でも……」 そこでギーシュは言葉を切ると、 「君にはその不躾なメイドを慰めるなり何なりする仕事が残ってるだろう? それが終わったら、来るといい。僕は先に行っているよ」 そう言って、取り巻きたちと一緒に行ってしまった。 やがて、食堂にはルイズとシエスタ、ホワイトスネイクだけが残った。 「あ、あの、ミ、ミス・ヴァリエール……」 シエスタが震えた声でルイズに声をかける。 「心配しないで、シエスタ。あんなキザったらしいことだけしか脳が無いヤツに、わたしは負けたりしない。 それに、約束したでしょう? 『恩は返す』って。 わたしは約束は破らないわ」 「そ、その、でも……」 「大丈夫よ。あなたは何も間違ったことはしちゃいないし、後悔する必要も無い。 だから、あなたは今までどおりでいいのよ」 「は、はい! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」 シエスタが声を震わせて、何度もルイズに頭を下げる。 ルイズはそんなシエスタを尻目に、ホワイトスネイクを引き連れて食堂を出た。 食堂を出たところで、不意にホワイトスネイクが、 「ソウイエバ、ダ。マスター」 「何よ?」 「何故、先ホド『ギーシュに攻撃するな』ト命令シタ?」 「『決闘』でぶちのめさなきゃ、意味が無いからよ」 「…………ナルホド、ナ。了解シタ、マスター」 正直、ホワイトスネイクにはよく分からない話だった。 敵がいるなら倒せばいい。 どんな方法を使ってでも、奇襲でも、だまし討ちでも、何でも。 それが、プッチ神父とともにあったころのホワイトスネイクだったからだ。 障害を突破するのに、手段は選ばない。 「目的」に到達さえ出来れば、その過程で何が起きようと関係の無いこと。 それが、プッチ神父の信条であり、ホワイトスネイクの信条だった。 しかし……今の主人であるルイズは違う。 過程を大事にして、その上で結果に到達しようとする。 過程においてさえも、プライドを高く保ち続ける。 プッチ神父とは逆の考え方だ。 だからこそ、ホワイトスネイクにはよく理解できない。 授業の片づけで、DISCによって魔法を使えるようになることを、拒んだことも含めて。 (今ハ……理解スル必要ハナイ。後デ、分カッテクルハズダ。 私ハマスターノ元ニ来テカラ、マダ1日ト少シシカ経ッテイナイノダカラ……) そう考えながら、ホワイトスネイクはルイズの後を追った。 二人の行き先は、ヴェストリの広場。 二人の目的は、決闘。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2337.html
「んなこったろうと思ったよッ!クソッ!」 ミノタウロスの洞窟までは、村から歩いて三十分程。 鬱葱と茂る森の小道を、三つの影が突き進んでいる。 ジジが、父親に連れられて洞窟に向かったのが三十分前。 1.5~2kmの距離といったところで、休み無しで走れば十分足らずで着く。 全員、そのぐらいの距離なら特に問題無いのだが、洞窟への道案内をするドミニク婆さんは無理だ。 思いっきり悪態を付いているのは、置いてきたシルフィードの変わりに背に乗っているドミニク婆さんのせいだろう。 いくら、グレイトフル・デッド要らずの婆さんとはいえ、十や二十で済む筈がない。 ある程度はスタンドでカバーしているといっても、そんな余分な重量を背負って突っ走っているのだから 否応無しにアルコールなぞ汗と共に外にブッ飛んでしまっている。 面倒だという思いもあって、だんだんイラついてきた。 ミノタウロスはタバサに任せると言ったが、即日撤回だ。 現れた瞬間に、直触りブチ込んでミイラにした挙句、天日干しにして酒の肴にしてやる。 修行など知った事か。ド畜生の分際で人間様に手ぇ出そうとした事を干物になりながら後悔しやがれ。 ――頼むから、わたしに当たらないでくれ……。 フーケが横目でプロシュートの顔を見たが、これはかなりヤバいと判断した。 人間、一定の怒りを通り越すと血の気が引くというが、横の火薬樽はまさしくそれ。 今のところ導火線に火が入る事は無いだろうが、これ以上厄介事が重なれば問答無用で暴発する危険性がある。 そうなれば、例えミノタウロスの群れが現れようとも、ボロ雑巾のように蹴散らしていくであろう事が容易に想像できる。 当然、それに巻き込まれるであろう、二度と見たくない己の姿も。 実際は、広域老化に巻き込まれても氷を持っていれば、ラッシュでもしない限り そうそう老化は進行しないのだが、一度直を食らっただけに半ばトラウマ化しているのだ。 プロシュートとは別の意味で血の気が引いていくフーケだが 走っている途中、肩を落としながら村に向かっている人影……ジジの父親とすれ違った。 その体たらくといったら、もう今にも水桶に頭突っ込んで自殺しそうなぐらいだ。 幽霊のように彷徨っていたが、プロシュートの背中のドミニク婆さんに気付き、近付いてきたがヤバい。 万が一にでも、髭面のおっさんに抱き付かれでもしたら、間違いなく導火線に火が入って吹っ飛ぶ。 焦るフーケをよそに、事の成り行きをるドミニク婆さんが説明しよとした時、淡々とした、それでも有難い声がした。 「時間が無い」 元より、プロシュートも止まるつもりは無いようで、一気に走り抜けている。 走りながら、はぁ、と溜息を吐いたが、今のは本気で危なかった。 早いとこミノタウロスを見つけてストレス発散の的にさせるかさせないと、何時その余波がこっちまで届くかと不安だ。 なにせ、ミノタウロスや火竜の群れより、こいつ一人の方がよっぽど怖い。 なんだか、腕一本で済んだワルドが凄いやつに思えてきた。 ペンダントに母親の絵を入れていたのを見てから、今の今までママっ子だと思っていたが、やっぱり遍在は凄いや。 そんな事を考えながら、走ること五分。 ようやく、切り立った崖に開いた洞窟の前まで辿り着いた。 が、後ろで一人息を切らしているのは触れない方がいいだろう。畜生がッ!とか聞こえるし。 案内役のドミニク婆さんは、洞窟が見えた時に村へ帰した。 さすがに、洞窟の仲間では詳しくないだろうし、例え知っていたとしても邪魔なだけだ。 タバサはともかく、プロシュートとフーケは致命的な足手纏いをカバーしながら行動するほどお人よしではない。 戻りながら、何度も何度も振り向き、拝むように手を合わせていたが、その内に、その姿も森と夜の影に消えていった。 「さて……結構広いようだけど、足場は悪いと思っていいみたいね」 入り口から『ライト』で照らしながら、洞窟の中をフーケが少し探った。 湿った空気が流れてくる事から、何箇所か滑るような場所がある。 おまけに、この暗闇では何処から攻撃を受けるか分かったものではない。 職業柄夜目が利くとはいえ、限度ってもんがある。 「わざわざ、敵の領域に突っ込むこたぁ無いんだがな」 洞窟特有の冷えた空気を得るために、上着を脱いでシャツだけになっていたプロシュートが、多少落ち着いた声で言った。 フーケがどういう事かと訝しげにしていたが、そういえば、LESSONでそんな事も言っていたなと合点がいった。思い出したくないけど。 「敵が亀みてーに閉篭もって出てこないってんなら、ひきずり出してやりゃあいいんだよ」 「例えば?」 「色々あんだろ。油、撒くなりして火付けて燃やすとか、水攻めにしたりよ。落盤起こして生き埋めって手もあるな」 「あんた鬼か」 でなけりゃ、やっぱり悪魔だ。 魔法もスタンドもクソも無い。効果的かつ、準備次第では平民でも立派に可能な作戦ばかり挙げられた。 こいつにかかれば、最悪の妖魔と言われる吸血鬼だってお手上げだろう。 問題は、周りの被害を気にしないで行動を起こすという、ただ一点。 無関係のヤツが巻き込まれても、すぐに死なないから大した事ぁねぇ。で、軽く済ましてしまうから、かなり性質が悪い。 多分、その精神の大部分は漆黒のそれ。 その色ツヤは、黒真珠かと言わんばかりに光沢を持っていて、ドス黒いものと違い一種のさわやかさすら感じられる。 が、付き合わされる方の精神負荷はバカでかいので、大抵の人間は、そんな事を感じる暇は一切無いというのが致命的。 もっとも、その大抵の枠からはみ出た人間が結構存在するというのが、世界を問わない七不思議というやつだ。 だが、今回も巻き込むつもりで行くかといえば、そういうわけにもいかない。 シケた仕事とはいえ、内容はあくまでミノタウロスの始末とジジの身柄の確保。 先にあげた手は全て殺る気満々の作戦なので、この状況下では使うわけにもいかないのだ。 行くだけでアレだったのだから、死体なぞ持って帰った日にはどうなるかなぞ考えただけで頭が痛い。 ならば、広域老化はどうかと言えばだが、洞窟特有の冷えた空気のせいで大した効き目は望めそうになく、スタンドパワーの無駄遣いは確定している。 洞窟から冷えた空気が流れてくるおかげで、さっきまでのイラつきはどっかに飛んだが こいつは、タバサに任すというのも骨が折れるかもしれない。 足場は安定せず、視界は超が付く程の不良、おまけに得意の風系統の魔法はミノタウロスには利き辛いときた。 これだけ不利な条件が揃えば、賭けなど9 1で殆ど成立したりしない。 大穴狙いで一発逆転狙うような考えはしていないし、どうせやるなら三対一でフクロにするのが一番楽だ。 一度やると決めれば、この男の行動は尋常でなく早い。 まずは、戦力、地形、敵の状況を把握し、作戦を組み立てる。 「タバサが派手に注意を引いて、フーケが動きを止めた所に、俺が直を叩き込む。これより楽な方法あったら言えよ」 ミノタウロスが風系統の魔法を受け付けないからには、タバサの役割は、なるべく派手な魔法をブッ放して敵の注意を反らし 広いと言っても、ゴーレムを出す空間的余裕が無いフーケは、タバサがミノタウロスの相手をしている間に、錬金か何かで動きを封じる。 どのぐらい持つか分からないが、下半身を鉄か何かの金属かで押さえ込めば三十秒は持つ。 そして、動けない間に、どれだけ皮膚が堅かろうが防御力無視の直触りを叩き込んで終わりというわけだ。 他に楽な方法があるなら言え、と言ったが、目下のところはこれが一番楽だろう。 タバサは言うまでも無いが、移動という方法に一回ゴーレムを造ってしまった以上、フーケの精神力の残高は高くは無い。 何があるか分からない以上、肝心な時にガス欠では洒落にもならない。 だが、移動に三時間もかけていたのならば、とっくにジジはミノタウロスにINッ!しているので、運が良いのか悪いのか。 「わたしは、それでいいけど……」 肯定した割りに言葉の切れが悪い。 オメーが、それでいいなら他に何がある。と、思ったが、近くに肝心のタバサの姿が無かった。 性格からしてバックレるという事は無いだろうが、作戦聞いてなかった事にまたムカついてきた。 てめーで受けた仕事なのに、どーこ行きやがった、あんの青豆粒。 背中に、ゴゴゴという文字が浮き上がりそうな勢いで後ろを向いたが、やはり姿は見えない。 いくら小さいとはいえ、消えるはずは……いや、あくまで何でもアリだ。 ファンタジーやメルヘンでなくとも、鏡の世界だって存在する。 ならば、魔法のようにファンタジーにブッ飛んだ世界なら、そういうやつもあるのだろう。 雪風のタバサ――行方不明により再起不能。 ←To Be Continued そんな文字が浮かんだ気がしたが、どうでもよくなってきた。 超常現象で居なくなったのなら、どうしようもない。 いっその事、一巡した世界の出来事にしておくかと頭を掻いたが、少し視線を下げると地面の方で青っぽい物が動いた。 「なにやってる。食いすぎで腹でもイテーのか?」 暗黒空間に飲み込まれたかと思ったが、何の事はない。 夜という事も手伝って、ただでさえ小さいタバサがしゃがんでいたので見え辛かっただけだ。 それにしても、幼く見えるとは言え、年頃の少女に遠慮無しに食いすぎかと聞くところが、この男のダメな所である。 それでも、当の本人は気にした様子もないのだから、どっちもどっちと言うべきだろうか。 「……足跡」 タバサがぽつりと、小さく言ったが、軽い衝撃によって頭が揺れた。 「足跡なんざ、あるに決まってんだろーが。飛んできたってか?時間がねーつったのもお前だろ」 軽い膝蹴りがタバサの頭を揺らしたが、そうなるのも無理はない。 なにしろ、タバサは言葉が足りなさ過ぎる。 ギアッチョなら間違いなくブチ切れてるだろうし、ペッシなら『何でェーッ?』と聞き返しまくっているところだ。 知り得る人物の中でタバサの意図を一発で正確に見抜けるであると思うやつは、やはり、リーダー、リゾット・ネエロぐらいなものだった。 早い話、膝蹴りを交えながら説明しろと言っているわけである。 「そうじゃない。この足跡は村とは別の方に続いている」 どれ、とプロシュートとフーケも、タバサの近くにしゃがんでその足跡を見たが、確かに村とは別の、茂みの中へと続いている。 「この具合だと……新しいね。そんなの時間経ってないよ。あと、それ」 足跡を調べたフーケが、その近くを指差す。 すると、そこには別の、丁度人一人が転がされていたような跡があった。 「アジトが洞窟ってんなら、足跡はそっちに向かってるはずだが、逆か」 例えるなら、家の前まで配達しにきたピッツァを受け取って、家の中に戻らず別の場所で食うようなものだ。 人間なら、分からない話でもないが、この場合の相手はミノタウロスという畜生。 捕らえた獲物は、その場で食うか、巣に持ち帰って食うというのが妥当なところである。 今一、考えが纏まらないうちに、タバサがその足跡の方へ歩いていったが、どうするかは決めねばならない。 「ま……違ってたら違ってたで、それで終わりか」 どっちでもいいか、と納得するとプロシュートもタバサに続いて足跡を追う。 間違ってた場合、ミノタウロスの食事中か食事後に立ち会わねばならないが、そこまで知ったこっちゃあない。 そうなったら、シルフィードをドミニク婆さんの家に預けてあるので、バックレるわけにもいかない。 行くだけでアレだったのだから、食われたなどと言えばどうなるかなど考えただけでも頭が痛くなる。 とりあえずは、どうやって汚れずに、食われかけの死体を持って帰ったもんかと考える事にした。 茂みをスタンドで掻き分けながら進んでいったが、しばらくすると小さい明かりが見えてきた。 「……誰か居るな」 その言葉で、全員が同時に音を消した。 サイレントも使わずにそれができるというのは、さすがというべきだ。 そのまま近付いていったが、少しばかり妙な光景が見えた。 「おいおい、見ろよ。牛と人間が仲良く突っ立てやがる」 見ると、薄汚い上着を着た人相の悪い連中が5人。牛頭が一匹。カンテラの周りを囲うようにして立っている。 その男達の足元には茶色い髪の少女……恐らくジジが縛られ猿轡をされた状態で地面に転がされていた。 「ミノタウロスの正体は、人攫いってとこだね。別に珍しい話じゃあないさ」 「あの村から搾り取れる金なんかあんのか?」 「売るんだよ。あのぐらいの娘なら良くて貴族、悪くて……まぁそうだね、娼館行きってとこさ。ったく、気に入らない連中だよ」 頭をかきながら吐き捨てるかのようにフーケがそう言う。 すると、その横から押し殺すような笑いが声が聞こえてきた。 「ん、なにさ。言いたい事があるならハッキリ言いなよ。気味が悪い」 「いや、案外甘めーなと思ってよ」 「土くれのフーケとあんな人攫いを一緒にしないで欲しいわねー。あんたはどうなのさ」 「ノーコメントだ」 「どうして?」 「連中にオレの事話したら『こいつには言われたくない』って言うだろうしな」 暗殺と人売り。どっちがマシか選べと言われて選択できるヤツなどそう居やしない。 こればかりは、例えどんな大賢者でも選択できない永遠のお題目というやつだろう。 「そ、それでどうするのよ。あんなに近くちゃわたしの魔法だと全員巻き込むし、あんたのだと……わたしまで巻き込むね」 軋む様な音をさせながらゆっくり首を正面に戻し話題を変える。 今の心の内は『聞くんじゃなかった』という声で一杯だ。 「夜ってのがな。それに、そんなに動いてねーようだし、今は利き辛い」 なにせハルケギニアはそろそろ冬の足音が聞こえ始めてくる季節。 屋外戦闘の場合グレイトフル・デッドの能力が最も利き辛くなる時期が近付いてきた。 相手が動いてくれればすぐに体温が上がるし、屋内なら大抵は暖を取っているので使えなくなるという事はないが 今の状況では広域老化は役立たずというやつだ。 「にしても、化けモンっつーからわざわざ来てやったっつーのに、ただのゴロツキとかナメやがって」 「まぁ、あの婆さんからすればどっちも変わらないと思うよ。で、どうしようか」 フーケが再び明かりの方を見たが、男達は六人。 それぞれ武器を持っていて短刀が二人、拳銃が二人、槍が一人、大斧が一人。 もちろん、トライアングルクラスのメイジなら問題無い数だが、最悪なのがジジを人質に取られるパターンだ。 『スリープ・クラウド』なら最適なのだが 生憎と効果範囲が狭く一人を眠らせるのがやっとだし、相手の精神力次第では利かない事がある。 第一、水のトライアングルスペルなので選択肢からは外さねばならない。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」 大味な能力の二人を置いて黙っていたタバサが呪文を唱える。 一八番。『ウィンディ・アイシクル』が音も立てずに飛んでいき、男達の手や肩に突き刺さった。 呆れるまでの正確さに、さすがのフーケも舌を巻く。 「おチビさんかと思ってたけど、さすがにガリア王家の血筋ってわけか」 ゴーレムを出せば勝てるだろうが、詠唱の様子を見て気付いた。 唇の動きを最小限に抑え、敵に詠唱を悟らせないようにする実戦技術。 おまけに、詠唱がやたら早いときた。ゴーレムを出していない状態なら相当に分が悪い。 恐らく、それに対応できるのは詠唱を必要とせず、スタンドとやらで攻撃する事ができる横の男ぐらいだろう。 本人は魔法なんぞに興味を持っていないため、あまり自覚していないが、老化というのはメイジにとって最大の敵なのだ。 老いれば疲労し精神力も無為に消耗される。 自然な老いなら精神も自然に付いていくが、急激な老いはそれを許したりはしない。 それに、魔法とスタンドでは起こす事象の燃費が格段に違う。 魔法は攻撃呪文を立て続けに唱えれば、あっという間に精神力が枯渇し戦闘続行不能に陥るが スタンドは能力次第だが、かなりの長時間戦える。持続力Aのグレイトフル・デッドはその代表格だ。 「動かないで、次は確実に心臓を狙う」 暗がりの中を進みタバサが男達に向け警告し、再び武器を拾う事を牽制しながら近付いていく。 当然、フーケもその後に続こうとしたが、見えない力に行く手を遮られた。 「まだ早ぇ」 憮然とした声でプロシュートが言ったが、フーケも奇襲を警戒しているわけかと納得した。 月が出ているとはいえ、辺りは森に囲まれていて視界が恐ろしく悪い。 三人固まった場所に、そんな所から攻撃されては一まとめに攻撃を受ける可能性がある。 程なくして別の場所から、先ほどタバサが放った物と同じ氷の矢が飛来しタバサの杖を吹き飛ばした。 「これはこれは……ドミニク婆さんがメイジを探しにいくと言っていたが、こんなお嬢様だったとは」 声と共に暗がりの中から、プロシュートにとって見覚えのある顔が現れた。 もっとも、見覚えがあると言っても知っているわけではない。 最近久しく見ていなかったが、イタリアの貧民街や橋の下に居を構える浮浪者に似ているという意味でだ。 「見たところ、かなりの高貴の生まれのようだが武者修行かね。 それにしては詰めが甘いな。まぁ、おかげでこちらとしては上玉と貴族の娘が一度に手に入った」 タバサの顔が少し歪む。焦っているわけではない。 他の二人の姿が見えないあたり、自分だけがこの事態を想定できなかった事が少しばかり悔しいのだ。 「詰めが甘いのはお互い様だ」 タバサの姿をじっくりと観察していたメイジの後ろから声がする。 メイジが咄嗟に振り返ろうとしたが、それよりも早く膝の裏にプロシュートの蹴りが入れられ、バランスを崩し膝を付き倒れた。 「さて……頭をメロンみてーにブチ抜かれたいってんなら構わねぇし、オレとしてはどっちでもいいんだがよ。つかここメロンってあんのか?」 倒れたメイジの杖を持った方の手を思いっきり踏み付けると、頭に銃を突き付ける。 そしてそのままタバサの方に向き直ると……説教が始まった。 「こいつが無けりゃあド無能になんなら、例え腕を飛ばされようが脚をもがれようとも決して離すんじゃあねぇ。 大体、遠距離型がてめーからのこのこ姿見せてどーすんだ。自信持ってるってのは悪かぁないが 能力の過信ってのが一番性質が悪ぃんだよ。ったく、なに考えてるか分かんねー面ぁしやがって、聞いてんのか?おい」 説教と共に自分の杖でコンコンと頭を小突かれながら杖を受け取ったが、なにしろ今のタバサには返す言葉が無い。 一人なら確実に終わっていた状況だからだ。 「対スタンド使い戦ではあらゆる状況を想定しろ、無いと思う事は無い。だ」 これも列車戦での教訓だ。あの時ジッパーから風が吹き込んでこなければ、マトモにスティッキィ・フィンガースを食らっていた。 「盛り上がってるとこ悪いんだけどさ」 「なんだ」 フーケが説教に割り込んできたが、指を指している方向を見る。 「杖を向けんじゃあねーぜッ!このマヌケがぁあああーーーッ!」 男が汚らしい笑みを浮かべながら勝ち誇ったかのようにジジの首元に短刀を向けていた。 「あんたも人の事言えないじゃないか。ああなったらどうしようもないよ」 その恫喝にタバサとフーケは仕方なしに杖を下げたが、プロシュートはまだメイジに銃を向けている。 「お前もだ!それ以上動くってんならジジをぶっ殺してやる!」 男がそう凄みジジの首筋に錆びた刃を当てるが、返ってきた言葉は実にッ!意外なものだった。 「あ?別に構わねーが」 何の焦りも無く、朝の挨拶を返すかのような平然さで言い放つ。 「な……なんだってぇぇぇぇえええ!」 これには人質を取ったと余裕をかましていた男達も逆に焦った。 「そいつ連れたまま逃がしたら逃がしたで、どっか得体の知れねぇとこに売り飛ばされんだ。 そうなりゃあ死んだも同然だし、なら、今ここでオメーら全員始末できりゃあ死んでもいいだろ。本人もそう思ってるだろうしな」 暗くてちと分かり辛いが、男達に抑えられている茶色い髪が横に揺れている。 たぶん、肯定してくれているのだろう。いや、しているはずだ。 「ほ、本気か!?ジジが死んでもいいのかよ!」 そう叫びながら首元に刃を突きつけているが、この男にそんなシャバい脅しが通用するはずもない。 そもそも、この状況下で人質を取るという事が何の役にも立っていないし、逆に採るべき選択肢を狭くしてしまっている。 このドチンピラが!と説教しながらブン殴りたくなる衝動に耐えつつ、そのお目出度い頭にも理解できるように説明してやる事にした。 「ヘマやらかす前に先に説明しといてやるが……そいつ殺ったら、オメーら全員死ぬって事分かってんのか?」 その通告に一瞬の沈黙が流れたが、程なくして男達が慌てはじめた。 やはりと言っていいか、人質を取るという事のリスクを考えるまでには到っていなかったようだ。 第一前提として人質は生かしておいてこそ価値がある。 言うなれば人の形をした盾だ。それを自ら捨ててしまっては、結果は言うまでもなく……ボン!ってやつだろう。 人質なんぞ取った時点で、チェスや将棋でいう『詰み』にハマっている。 「別にオレは殺らなくてもいいんだが、村の連中はどうだろうな」 娘がミノタウロスを騙った人売りに殺されたなど知れば、こいつらがどうなるかなど考えるまでもない。 身内は元より、村人総出で私刑というのがオチである。 「ど、どうすんだよ……」 「どうするって……」 残された男達が相談しながらこっちを見ているが、どうなるかの予想は付く。 敵のメイジの戦闘能力は奪ってあるし、武器を持っているとはいえ タバサとフーケの二人相手ではどうにもならない事ぐらいは、栄養の回っていない貧相な血の巡りの悪い頭でも理解できるはずだ。 「決断しやすいように有難い提案を出してやる。そいつ置いくってんなら好きにしろ。こいつさえ居れば後はどうでもいいからな」 その言葉に男達がまた相談を始める。時折、メイジの顔を窺うように見ているあたり、もう答えは出たようなものだろう。 「今すぐ死ぬか、後で死ぬか、逃げるか、の分かりやすい三択だ。どれ選ぶのもそれはオメーらの勝手だ」 それがダメ押しになった。 悪びれる様子もなく、一人の男が笑いながらメイジに向け言い放った。 「へへ、悪いな。俺達はまだ死にたくもないし、捕まりたくもねぇんだ」 「貴様ら……今まで俺に頼っておきながら、裏切るつもりか!」 「これも生き延びるための手段ってやつだ。悪く思うなよ」 捨て台詞を残して男達が逃げ出したが、マジに呆れた様子でプロシュートがメイジに向けて言った。 「おいおい……チームの割りに仲間意識全くねーな。まー安心しろよ、お前一人だけ仲間外れってのも寂しいだろ?」 プロシュートがそう言うと、今まで空に出ていた月が隠れる。 月が雲で隠れたのか。答えはNoだ。 巨大な人型。通常のものより半分程度の大きさだがフーケのゴーレムが月の光を遮っている。 「まったく……こうなるとは思ってたけど、これじゃあどっちが人攫いだか分からないわね」 「無駄口叩いてる暇あったら、さっとと動かせ。逃げんだろーが」 地面を揺らしながらゴーレムが動く。 なにせ巨大なゴーレムと人間とでは歩幅が圧倒的に違う。 一分もしないうちに、ゴーレムの手には六人分の体が捕まえられていた。 「だ、騙したな!」 その手の中で一人がそう叫んだが、返ってきたのは笑いを含んだ冷徹な言葉だ。 「騙したとは心外だな。いや、確かに逃げても良いとは許可したが……それをオレが逃がすとは言った覚えはねーぞ」 「んなぁ!?」 さっさと逃げねぇ方が悪い。と付け加えながら今まで手を踏んでいた足を離しメイジの杖を奪う。 男達からすればあっさりと約束を反故にされたようなものだが、別に破っちゃあいない。 言葉のとおり逃げてもいいと許可しただけで、再び捕らえないと言った覚えは無い。勝手に向こうが勘違いしただけだ。 「人質ってのは相手より弱いやつが取っても意味がねぇって事だ。テストに出るから覚えとけよ」 いや、そんな問題出ないし、出たとしても受けたくないから。というフーケの突っ込みというか呟きは無視しておく。 「さて……と」 メイジをフーケに任せ、言いながらジジに近付き猿轡を外した。 後はこいつを連れ帰って任務完了といきたいのだが、どうもそうはいかないらしい。 「こ、来ないで……」 ジジが震えながらそう言ったが、その場に妙な沈黙が流れる。 特に気にしないでいたが、後ずさりしてつまづいたのかジジがしりもちをついた。 「おい、お前なんのマネだ」 上から見下ろすようにそう言ったがやはり脅えているかのように震えている。 「はい、そこの物騒なお兄さんこっち来なさい」 その様子を見て、見かねたフーケがプロシュートを呼び、どうしてこうなっているのかを説明する。 たぶんというか、こいつ絶対分かってないから。 「いいかい?あんた、さっきまで人質にとられてた娘に『死んでもいいだろ』とか言った挙句、メイジ相手に銃突きつけてたんだ」 「それがどうした」 ここまで言ってまだ気付かないか……。 悪い意味での天然というやつを見た気がする。 「……ほっんとこういう事は鈍いねー。逆に清々しいよ」 「手短に言え。ただでさえ負け犬ども相手にしてイラついてんだ」 「あー、じゃあハッキリ言うけど……間違いなくあんたも人攫いの類に見られてるね」 「……マジか?」 その問いに無言でフーケが頷く。 タバサを見るが、同じように一回縦に首を振られた。 恐らくここに居ないシルフィードでも、見ていれば同じ反応だろう。 「何も知らない村娘にはそりゃあショックが大きかったろうさ。 助けが来たと思ったら実は別の人攫いだったなんて。ああ、もう鈍いを通り越して一種の犯罪だよこいつは」 オーバーリアクションを取りながらフーケがそう言ったが、プロシュートはいきなりキレた。 「うるせぇぇぇぇぇ!弁護士を呼べぇぇぇぇぇぇ!!」 あの連中からして、人質を殺してメイジ二人と戦り合うようなやつらではないと踏んだまでで、これでも最大限に気を使った結果だ。 犯罪者には違いないが、あの程度で人攫いと同じにされては笑い話にもならない。 老化に巻き込んでないだけ感謝しろと言いたいぐらいだ。 ――誰が人攫いだS.H.I.Tッ! 心の中で思いっきりそう毒付く。 そこで震えてるのが人攫いも狙うような可愛気のある少女だからまだそれだけで済んでいるが これが男だったら問答無用で殴り飛ばした挙句、蹴りを入れながらの説教コースである。 もちろん老若男女一切合財区別する気なぞ無いのだが、その意味ではジジは運が良かった方だろう。 横目でジジを見たが、やはり反応は同じだ。 「……ちッ!埒が開かねぇ、オメーに任す」 「はいよ」 今度はフーケが近付いたが、結果は同じ。 だが、そこは手練の盗賊。伊達や酔狂で魔法学院でミス・ロングビルとして生活していたわけではない。 瞬時に相手の感情を読み取り、まず安心させるかのように言った。 「大丈夫ですよ。ドミニクさんに頼まれて、あなたを迎えにきただけですから」 「ほ、ほんとに、おばあちゃんに?」 「ええ」 返事と共に優しい笑みを浮かべる。 盗賊の土くれのフーケから秘書ミス・ロングビルへの見事な切り替え。まさしくプロというやつだ。 そうすると緊張が解けたのか、ジジがフーケに抱き付くと泣き始めた。 「ったく……メンドクセぇ」 計画どおりと、後ろでフーケが親指を立てているが、どうもいま一つ納得できない。 元ギャングと村娘であるからには食い違って当然なのだが。やはり釈然としないものがある。 「どうどう」 「馬かオレは」 そこへなだめるように背中を2.3回ぽんぽんとタバサに触られた。普段は無口だが案外ノリがいいのかもしれない。 やってらんねー、と天を仰ぐ。動物扱いされんのはカトレアからだけで十分だ。 「で、オメーは何時から気付いてたんだ?」 とにかく気分を切り替えて、そう尋ねる。こいつの事だから恐らくはどこかで感付いていたはずだ。 「手紙の字が整いすぎてた。それとミノタウロスは若い娘なら誰でもいいはず」 「そういやそうだな」 字に関しては整ってるのかそうでないかは未だ判別付かないが、ターゲットが指定された時点で気付くべきだった。 喰うのであれば確かに誰でもいい。 まぁそれはそれ。 こんなド辺鄙な場所まで来させた挙句、こんなクソ面倒な真似させてくれたヤツらには、それ相応の落とし前というものを付けさせねばならない。 プロシュートが足音を立ててメイジに近付いたが、それを見たフーケが心の中で始祖ブリミルに全力で祈った。 イラつきのハケ口を与えてくれてありがとう。そして、どうか一人で済みますように……と。 「これからオレがいくつかの質問をする。オメーはそれに黙って答えりゃあいい。一つ目だ、リーダーはオメーか?」 「さぁな。答える必要はなあぼォ!」 メイジがそう言った瞬間、打撃音と共にその頭がハジケたように吹き飛んだ。 プロシュートが縛られたメイジの顔を遠慮なく蹴り上げたのだ。 「今、何か言ったか?」 そして、そのまま倒れたメイジの頭を掴み、口の中に銃身を突っ込むと引き金に手をかける。 (こ……こいつのこの目……こいつはヤバい!一つでも余計な事を言えば躊躇い無く引き金を引く……それだけのスゴ味があるッ!) この段階になってようやくメイジも理解したらしい。同業者などではなく、別の道のプロであるという事に。 銃を咥えたまま首を縦に振るメイジを見て、銃を抜きプロシュートが次の質問に移る。 「二つ目だ。オメーらの仲間はこれで全員か?」 これも同じように首を縦に振る。それでも、万が一に備え何時でも攻撃できる体勢には入っているが。 「三つ目。酒場の親父から聞いたが、最近ここいらで流行ってるガキの誘拐ってのもオメーらの仕事か?」 「そ、それは知らない!俺達はつい一週間ぐらい前に流れてきたんだ!」 わめき立てるメイジの顔をじっくり観察する。 「……汗をかいたな?こいつは……嘘をついている皮膚だぜッ!」 「本当だ!十年前のミノタウロスの話を聞いて、それで今回の計画を立てたんだ!」 「そうか、まぁ仕方ねぇ。他のやつに聞けば分かる事だ」 その言葉にメイジがほっとしたが、一瞬遅れて後頭部に何度目かになるか分からない冷たい金属が当たった。 「ま、待て……なんのつもりだ!嘘は言ってない!」 「オメーが答えないってんなら生きてても仕方ねぇし、別に生捕りにしろとは言われてないからな。一人生きてりゃ後は死体でも構わねぇって事だ」 頭の上からカチリと撃鉄を上げる音が聞こえてくる。 この超至近距離ならば、その無機質な金属音は確実な死の宣告というやつだろう。 メイジとて例外ではなく、ガタガタと震え始めた。 「やや、やめてくれ!子供なんか攫っても高く売れやしない!」 「あるかどうか分からないが一応祈ってやるよ。お前の来世にLuck(幸運)を。そして地獄の閻魔に会うためにPluck(勇気)を持っていけ」 「ひぃ…あ、悪魔……」 懇願するメイジの言葉を無視し、淡々と処理をするかのような声で言うと、プロシュートが手にかけた引き金を引いた。 「……マジに違うか。てめーらのせいで余計な時間食っちまった。どうしてくれんだよ。ええ?」 ここまでやって吐かないなら、本当にこの件だけなのだろう。 元より銃に弾は残っていないし、装填もしていない。 それでも効果があったのだから持っててよかったというところだ。 森が再び静寂を取り戻したが、どこからか水が流れるような音が聞こえてきた。 「……ッ!汚ねーなボケがァッ!」 唐突にそう声を上げるとメイジの腹を蹴り飛ばす。 見るとメイジの股間の辺りが濡れ、そこから少しばかり湯気が立っている。 蹴り飛ばしても悲鳴を上げないあたり失禁というやつなのだろうが 少しでもかかっていれば、目覚めるのを待たずに今度こそ天国への扉が開かれていたであろう事、疑いの余地なしだ。 「わたしも色んな物見てきたけど、生まれて初めて人攫いってやつに同情したよ」 捨てられ雨ざらしになった仔犬か、はたまた巣から落ちて鳴きわめく雛鳥か。 とにかくそんな心底可哀想な物を見るような目でフーケがそう言う。 例え人攫いというド外道であろうと、弾の入ってない銃で散々脅され、仲間にもあっさり裏切られ、失禁までさせられた挙句 トドメと言わんばかりに蹴りを入れられた人間に同情できないヤツがいるだろうか? いっその事、脳漿ブチ撒けられていた方がまだ幸せだったかもしれない。 なにせ人として色んな意味で再起不能(リタイヤ)になったのだから……… 「さて……戻るか。ダルい」 メイジの髪を掴んで、引きずりながらゴーレムの足元に置くと、こいつも運ばせるように促したが…… 森の中にどこからか獣の咆哮が響いた。 ←To Be Continued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1765.html
10話 後編 勢いを盛り返したキュルケとタバサがラングラーを追い詰める。 「いくわよ、タバサ!」 キュルケの声とともに、複数のファイア・ボールがラングラーに殺到するッ! それと同時にラングラーは鉄クズの弾丸を二人に向けて放つが、 タバサのウィンド・ブレイクがそれらを全て元の軌道からそらす。 二人を貫くはずだった鉄クズはギリギリのところで二人には当たらず、 その後ろの壁に突き刺さる。 そしてラングラーも、自分に向かってきたファイア・ボールは 全て唾を吐きかけた掌で消滅させる。 互いの技術と能力が、互いの攻撃を無力化する。 このままでは、押し込まれかねない。 ラングラーはそう思った。 相手の小娘メイジは二対一で戦うことで精神力の磨り減りを遅くしている。 しかしさっきから鉄クズを撃ちまくっている自分は、残弾にあまり余裕がない。 チョロい仕事だと思って補給二回分の鉄クズしか持ってこなかったのが、 この状況ではかなり痛い。 一回目の補給は既にしてしまったので、次の補給が最後になる。 今までのようにハイペースで撃ちまくることは出来ない。 しかし――手数を減らす事はできない あの青髪の小娘。 あれがいる限り、こちらの攻撃が直撃する事は望めない。 加えて今はこっちの攻撃を防御するのに徹してるからいいが、 こっちの攻撃の度合いが弱まればすぐ攻撃に参加してくるだろう。 接近戦に持ち込む、というのも考えたがすぐに止めた。 そんなことをしたら確実にホワイトスネイクが動く。 赤髪の小娘の炎を消しつつ、 JJFの射撃をほぼ凌ぎきったホワイトスネイクと接近戦で立ち回れるほど JJFは器用じゃないし、自分もそうじゃない。 このままでは、詰まれる。 その焦りが、ラングラーに一つの決断をさせた。 この二人の小娘を、カラカラのミイラにしてやると。 こんな小娘相手に「これ」をやるのは腹立たしいが、 やらずに負けて死ぬよりはずっとマシだ。 そしてキュルケのファイア・ボールの弾幕が一瞬途切れた瞬間、 ラングラーはJJFの両腕のリングを開いた。 鉄クズの弾幕が途切れる。 それと同時にタバサが素早くルーンを唱え、身の丈より長い杖を軽く振る。 ラングラーがJJFの腕のリングに唾を素早く吐き入れたのは、 それのコンマ一秒、二秒ほど後。 直後、タバサのエア・ハンマーがラングラーに襲い掛かる。 ゴォアッ! 唸りを上げて自分に迫る風圧の塊をラングラーはモロに食らい、 壁に叩きつけられる。 ドグシャァッ! 「があッ!」 自分の体に走った衝撃と鈍痛にラングラーが呻いた。 だが顔を苦悶に歪めながらも、ラングラーの口は笑みの形に歪んでいた。 JJFの腕のリングは既に閉じ、高速で回転していた。 そのリングの中で、先ほど吐き入れられた唾は拡散、分散し、 リングの中の全ての鉄クズに付着した。 無重力の世界を生み、さらに真空の世界を作り出すラングラーの唾。 それが、弾丸として発射される鉄クズをコーティングした。 この世界でラングラーが編み出した、 JJFの究極にして最悪の戦術が始まった。 「ようやく・・・追い詰めたってとこかしら?」 タバサのエア・ハンマーで確実なダメージを受けて膝を突くラングラーを見て、 キュルケはそう呟いた。 「まだ油断できない」 タバサはそれを制するように言い、杖をラングラーに向ける。 キュルケはそれに頷くと、タバサと同様に杖を構える。 二人とも残りの精神力にはあまり余裕が無い。 決着をつけるなら、次しかなかった。 そのときだ。 「しかし・・・お前らは・・・よく頑張ったよ」 ラングラーが二人に声をかけた。 エア・ハンマーをまともに食らった割には、その声に張りがあった。 「・・・どういう意味よ?」 警戒しつつ、キュルケが答える。 「まだハタチにもならねえってのに・・・トライアングルで・・・ オレとここまで・・・やりあえるとはな・・・恐れ入ったよ」 「だから何が言いたいのよ!?」 明らかに追い詰められた状況でありながらも余裕を崩さないラングラーに、 キュルケは得体の知れない恐怖を感じた。 タバサも口こそ開かなかったが、キュルケと同様にそれを感じていた。 「だがな・・・お前らは・・・これから詰まれるんだぜッ!」 瞬間、JJFがリングに残る全ての鉄クズを、部屋中に無差別に撃ち放った。 ドドドドドドドドドドドッ! 放たれた鉄クズは、あるものはキュルケ、タバサ、そしてルイズへと向かい、 またあるものは壁に突き刺さり、またあるものは壁を跳ねた。 タバサは自分たちの方向へ飛んでくるものを正確に見極め、 ウィンド・ブレイクで射線をずらす。 ルイズへと向かうものは、ホワイトスネイクがルイズのベッドをひっくり返し、 それを盾にしてガードした。 タバサはこの防御で、これでラングラーの攻撃が終わったと思った。 自分の方に向かってきた鉄クズ全てに対処しきったからだ。 だが――ラングラーの攻撃はまだ終わっていなかった。 ホワイトスネイクにはそれが分かっていた。 部屋全体にばら撒くような射撃。 ホワイトスネイクもこれでダメージを受けた。 この攻撃における、ラングラーの狙いは―― 「ソイツハ『跳弾』ダ! 警戒シロ!」 ホワイトスネイクが二人に向かって叫ぶ。 だが、それは遅すぎた。 いや、仮に遅くなかったとしてもこの世界には「跳弾」などという言葉は無い。 故にタバサがその言葉の意味を理解し、正確な防御に移る事は不可能だった。 ドシュシュシュシュシュシュッ! 直後、キュルケとタバサは全身に鉄クズの銃撃を受けた。 同時に二人の体から鮮血が飛び散る。 「がはっ・・・・・・」 「っ・・・く・・・・・・」 呻き声を上げながら崩れ落ちる二人。 「キュルケ! タバサ!」 ルイズが悲鳴を上げる。 「そんな・・・・・・なんで・・・・・・」 「『跳弾』ダ。鉄クズヲ撃ツ角度ヲ調節シ、 壁ヤ天井デ鉄クズノ弾丸ガ軌道ヲ変エルヨウニシタノダ」 「な、なによそれ・・・弾丸が壁とか天井とかで跳ね返って、 それがキュルケたちを攻撃したの? そんなの、ありえないわよ!」 「ダガ現実トシテ二人ハ銃撃ヲ食ラッタ。 ソシテ私モ、先程ソレデダメージヲ受ケテイル」 「そんな・・・・・・」 ホワイトスネイクの言葉に、打ちひしがれるルイズ。 「その通り・・・・・・だ。 そして今の弾丸・・・ただ身体に・・・穴が開くだけじゃあ・・・ない。 もっと・・・・・・面白く・・・なる」 「面白クナル・・・ダト?」 「そうだ・・・・・・見ていろ・・・・・・。 奴らの血で、この床と天井に真っ赤な水彩画を描いてやるぞ・・・」 場所は変わってまたトリステイン魔法学院の校庭。 ある者は命がけで戦い、ある者は盗みを働こうとするこの日の夜。 そんな夜に、二人の男女が校庭を歩いていた。 少女の方の名前はモンモランシー。 二つ名は「香水」。 そして一週間前に、恋人のギーシュに二股かけられた本人だ。 そして男の方は―― 「ああ、モンモランシー! 君は本当に美しいよ! 天高く輝くあの双月も、君の前ではその美しさが霞んでしまうほどに! いや・・・きっと彼らもわかっているんだ。 どれだけ輝こうとも君の美しさには敵わないってね。 だからああして輝きを弱めて、君の美しさを引き立てているのさ! きっとそうだよ! 僕の愛しいモンモランシー!」 …一週間前、モンモランシーがいながら二股をかけた、ギーシュその人であった。 そもそも何故最悪な関係に陥っていたはずの二人がこうして一緒に歩いているのか、それを説明せねばなるまい。 事の発端はギーシュがモンモランシーを夜の散歩の誘ったことであった。 ギーシュは二股かけてたことがバレて傍に女の子がいなくなった状態が一週間も続いていた。 それで寂しくなったからモンモランシーに泣きついたのだ。 だが実際に傍に女の子がいなくなる、という状況に陥って、真っ先にモンモランシーのところに来る辺り、 ギーシュとしての本命はモンモランシーなのだろう。多分。 浮気ばっかりしてるけど、多分そうに違いない。多分。 そしてモンモランシーの方も、それまではホワイトスネイクとの決闘で死に掛けたギーシュを心配はしたものの、 二股をかけられたことが思い出されて、あまりギーシュとは一緒にいたくない気分だった。 だが「一週間経ったから許してあげようか」という気持ちと、 やはりギーシュに対するまだ捨てきれない気持ちがあって、夜の散歩を了承した。 そしてさっきからもう10分もの間、ギーシュの歯が浮くようなお世辞をノンストップで聞き続けているのだ。 普通の女の子なら耳が痛くなってくるようなお世辞の数々だが、 モンモランシーには、むしろそれが気分がよく感じられた。 モンモランシーはおだてに弱いタイプだった。 だからこそ、ギーシュが他の女の子にフラフラと近づいて そのままお近づきになってしまうのをその時こそは怒っても、 そのうちすぐに許してしまうのだった。 二股駆けるギーシュがダメダメなのは言うまでも無いことだが、 モンモランシーも何だかんだでダメだった。 でもそうだからこそ、似合いのカップルなのかもしれないが。 ひたすらモンモランシーに愛の言葉を重ねるギーシュ。 それを頬を紅潮させながら聞くモンモランシー。 二人はまだ知らない。 今この瞬間も、この学院の中で死闘が続いていることを。 「くぅっ・・・・・・タバサ・・・大丈夫?」 「・・・大丈夫。まだ、やれる」 「ウソ・・・でしょ、それ・・・。 ギリギリのところで使えた魔法を、殆どあたしを守るために・・・・・・」 「・・・・・・大丈夫、だから・・・・・・」 そう言うタバサの顔は青ざめている。 無理も無い。 タバサが先ほどの攻撃で受けた傷は、鉄クズの直撃が右足に3つ、右腕に2つ。 鉄クズのかすり傷が、脇腹に1つ、肩に1つ。 また、キュルケは鉄クズの直撃が左足に1つ、左腕に1つ。 それのかすり傷が左大腿に一つ、頭に一つ傷が出来ている。 ラングラーの射撃が二人を襲う直前、タバサはウィンド・ブレイクを使っていた。 しかしそれは、魔力を殆ど込める間もなかった弱弱しいものだった。 にもかかわらず、タバサはそれの殆どをキュルケを守るために使った。 そのため彼女が受けたダメージはキュルケのそれよりも、 ずっと多く、そして深いものになったのだ。 傷の激痛で奪われそうになる意識を必死に留めながら、 タバサは思考を回転させる。 このままではまずい。 あの男・・・こちらが思っていたよりも遥かに強かった。 まさか、天井や壁で撃った鉄クズを反射させて、 想定外の方向からこちらを狙うなんて。 さっきのエア・ハンマーでダメージを受けたように見えたのは演技だったのか、 それともダメージを押してあの攻撃を仕掛けてきたか。 いずれにしても、今度は完全にこちらが追い詰められてしまった。 もう一度あの射撃を仕掛けられでも、今の自分ではそれを防御出来ない。 そう考えていると、ふと自分の体に奇妙な違和感を感じた。 体が、軽い。 まるで風に巻き上げられた落ち葉のように、まるで自分の体に重みを感じない。 さっきまで、あの男から受けた傷の激痛で体が鉛のように重かったのに・・・。 いや、違う! 「軽く感じている」などという程度ではない。 自分の体が浮いている! 風も無いのに、何かの力が働いているでも無いのに、 自分の体が宙に浮き上がっている! いや、そればかりではない。 手や足を動かすたびに体がグルグルと回転し、重心が定まらない! これは、一体。 「タ、タバサ・・・こ、これ!」 声がした方を見ると、キュルケの身体も宙に浮き上がり、空中で二転三転している。 一体何が起きた? さっきの弾丸に、何か特別な魔法でも仕掛けたのか? でもこんなことができる魔法は、系統魔法の中には無い。 ならば、こいつが使っているのは――。 「エルフの先住魔法・・・か?」 突然タバサに、ラングラーから声がかかった。 「オレと戦ったものは・・・皆・・・そう言う。 先住の魔法・・・エルフの魔法・・・とな。 当然だ・・・火の魔法・・・風の魔法は・・・使うことすら出来ず・・・ 土の魔法・・・水の魔法は・・・まともなコントロールさえ・・・出来ない。 このオレが・・・・・・『魔法殺し』と・・・呼ばれるのは、そのためだ。 だが・・・オレが使うのは・・・そんなものではない。 それらより強力で・・・それらより凶悪なものだ・・・。 その力で殺されることを・・・誇りに思うがいい・・・・・・」 先住の魔法ではない? だとしたら、一体何がこれを引き起こしている? 考えても考えても、自分に起こったこの現象が説明できない。 とにかく自分の体を固定しなければ。 そう思い、杖を振ってレビテーションを唱え始める。 一体どういう原理で浮き上がっているのかは不明だが、 レビテーションなら身体を魔法で浮かせ、身体を空中に固定できるはずだ。 そう判断してのことだった。 そして、状況が変化したのはその瞬間だった。 傷口から流れ出ていた血の勢いが、突然強くなった。 まるで傷口から血が噴出すように、溢れ出るように流血し始めた。 そして次第にそれすらも通り越し、瞬く間に流血の勢いは強くなり、 まるで噴水のように傷口から出血しているッ! 「こ・・・これは・・・・・・」 「・・・・・・」 自分の身に起こった現象に呆然とするキュルケ。 そして自分の体から血が吹き出るという現実に驚愕したのはタバサも同じだったが、 風のメイジであった彼女にはそれ以上のことが理解できた。 自分の周りから、極端に空気が少なくなっている。 それに呼吸もしにくくなっている。 このままでは窒息してしまう。 それ以前に全身の血液がなくなって、干からびてしまう! どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる! 自分はまだ、死ぬわけにはいかないのに・・・・・・。 そしてその様子を、ルイズも見ていた。 ルイズは、自分を責めていた。 何も出来ないばっかりに守られて、 それで守ってくれる人が死にかけているのに、それでも何も出来ない自分を。 守られていながら、助けることさえ出来ない自分を。 自分が水のメイジだったなら、二人を治療できた。 火や風のメイジだったなら、アイツと戦えた。 土のメイジだったなら、ゴーレムの一つでも錬金して時間稼ぎが出来た。 なのに自分はそのどれでもない。 自分は「ゼロ」だ。 何の魔法も使えない、役立たずの「ゼロ」。 一週間前のギーシュとの決闘は、自分に何か光が見えたように思えた。 爆発しか起きない「ゼロ」の自分でも、 役立たずの「ゼロ」じゃないんだと思えた。 だが現実は違った。 結局自分は何も出来ない、役立たずの「ゼロ」だった。 自分を助けてくれた人が窮地に陥っても、 それに何の助けも出せない「ゼロ」だった。 ルイズにはそれがどうにも許せなくて、そして悔しかった。 悔しさで涙がこぼれそうになった、その時。 「マスター」 自分の前に立っているホワイトスネイクから声がかけられた。 顔はこちらには向いていない。 「・・・なによ。ホワイトスネイク」 こぼれそうになった涙を拭って、ルイズは不機嫌に聞こえるように答える。 「アノ二人ノタメニ命ヲ賭ケラレルカ?」 「・・・当たり前よ。何でそんなこと聞くのよ」 「今アノ現象ハ、アノ二人ヲ中心ニ起コッテイル。 ソシテ二人ヲ助ケルニハ、マスターモアノ近クヘ行カネバナラナイ。 マスターガラング・ラングラーニ殺サレタナラ、二人ノ努力ガ無駄ニナル。 デアル以上、マスターハ私トトモニ行動シ、私ガ護衛シナケレバナラナイ。 故ニマスターモアノ症状ガ出ル空間マデ行カネバナラナイ。 ・・・ソレデモ助ケルノカ?」 「それでも、よ」 ルイズの言葉に、迷いは無かった。 「・・・キュルケトカイウ女ハマスタートハ不仲ダ。 ソシテタバサトカイウ小娘ハ今日初メテ会ッタバカリ。 命ヲ賭ケルニハ、アマリニモ安イ間柄ダ。 ナノニ、何故ソノ二人ノタメニ命ヲ投ゲ出セル? 親友デモ、血族デモナイ相手ニ何故ソコマデデキル?」 それは、ホワイトスネイクにとって率直な疑問だった。 以前ホワイトスネイクがいた世界 ――かつての自身の本体、プッチ神父とともにあった世界でのこと。 あの世界で戦った男――空条承太郎は、 娘を守るために千載一遇の勝機を捨てた。 そしてその空条承太郎の娘、空条徐倫もまた、 父親の記憶のためにプッチ神父を仕留めるための最大の好機を逃した。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親子だからだ。 互いに血を分けた存在だからだ、とホワイトスネイクは考えていた。 また、スタンドを探して世界中を巡った旅の中で、 プッチ神父を友の仇、親友の仇として襲うスタンド使いもいた。 そうしなれば、プッチ神父にスタンドを奪われることも、 その後にドロドロにされて死ぬことも無かったのに。 なのに彼らはプッチ神父に挑まざるを得なかった。 挑まなければ、自分の心に決着を付けられなかった。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親友だからだ。 互いが互い無くしては生きては行けない存在だからだ、 とまたホワイトスネイクは考えていた。 だが、この状況は違う。 今自分の主人の前で死に掛けている二人の小娘は、 主人の血族でもなければ主人の親友でもない。 なのにこの小さな主人は、そんな二人のために命を賭けると言っている。 何故そんなことが出来る? 何故自分の命をそこまで簡単に扱える? それが、ホワイトスネイクには理解できなかったのだ。 「ソシテ助ケタイ、トイウノハ自己満足カ? ソレトモ偽善カ?」 さらにホワイトスネイクは厳しい問いをぶつける。 「・・・そうかもしれない。 役立たずになりたくないって気持ちが、わたしの中にあるもの。 でもそれは二人を助けない理由には絶対にならない。 だから、助けるのよ。 わたしが助けたいから、助けるの」 それが、ルイズの真摯な思いだった。 確かにキュルケには気に入らないところもある。 タバサって女の子に至っては、助ける義理も何も無い。 それでも、見殺しには出来ない。 だから、助ける。 自分が助けたいから、助ける。 それが、ルイズの答えだった。 「ソウカ」 ホワイトスネイクはそう短く言うと、ルイズに向き直る。 そしてルイズを片手で抱え上げる。 「覚悟ハイイナ?」 「いつでも」 ホワイトスネイクの問いに、ルイズが短く答える。 「承知ッ!」 その答えにホワイトスネイクが力強く応えるッ! そして床を強く蹴り、二人の少女の下へと疾走するッ! 「なッ、なにしてやがるッ!!」 それに驚いたのはラングラーである。 無傷で確保しなければならない相手が自分が作り出した死の空間へと、 何のためらいも無くホワイトスネイクとともに突っ込もうとしているのだ。 このままでは「無傷での確保」は不可能。ならば、阻止するしかないッ! ラングラーは最後の補給を終えたばかりのJJFに腕を構えさせる。 ドンドンドンドンドンドンッ! そしてホワイトスネイクの動きを追うように、 JJFにありったけの鉄クズを撃ち放たせるッ! 計画性のカケラもない行動だった。 だが任務を完遂することの方が、ラングラーには重要だった。 しかしホワイトスネイクは速い。 放たれた鉄クズの半数はホワイトスネイクが通り過ぎた直後の空間を貫き、 ホワイトスネイクにはかすりもせず、 しかし残り半分はホワイトスネイクへと殺到する。 だがホワイトスネイクはそれらを拳で弾き飛ばそうとはしない。 逆にルイズを庇うようにガードを固める。 ドシュシュシュッ! そのホワイトスネイクに、いくつもの鉄クズが突き刺さるッ! その数、4発。 足に、脇腹、腕に、そして頭に着弾し、頭部に命中したものはその一部を吹き飛ばしたッ! しかしホワイトスネイクは止まらないッ! 苦しみもがきながら空中を漂うキュルケとタバサの元へと一直線に駆けるッ! そして、キュルケとタバサを苦しめる症状 ――真空の魔の手が、ルイズにも襲い掛かる。 ルイズの鼻から、突然鼻血が噴出す。 同時に、ルイズの呼吸も苦しくなってくる。 ホワイトスネイクが自身の腕からDISCを抜き取ったのはその瞬間だった。 そして抜き取ったDISCを間髪いれずにルイズの頭部に差し込むッ! 「命令スル。『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』」 ホワイトスネイクが、静かにそう命令する。 と同時に、ルイズの鼻血が止まった。 外気圧と体内気圧の差のために体内から血液が押し出されるのを、 この命令によって防いだのだ。 しかし、ルイズの呼吸が苦しいのは変わらない。 ルイズの周囲に殆ど酸素が存在しない状況を変えることは、 ホワイトスネイクのDISCの命令ではできないからだ。 しかし、血液が全て体外に押し出されてミイラになるよりは、 まだ死ぬのが遅い。 その僅かなタイムラグに、ホワイトスネイクは全てを賭けたのだ。 やがて、酸欠でルイズが意識を手放す。 ルイズは自分の意識が真っ白になっていくのを感じながら、 ホワイトスネイクが、二人を救ってくれることを祈った。 そしてホワイトスネイクは、キュルケとタバサの元へ到達した。 スデに意識を失っていた二人に、ルイズにしたものと同じ命令を差し込む。 後数秒でも遅れていたならば二人の命は無かっただろう。 しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。 あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。 そう決意してキュルケとタバサを背負うと、ラングラーのほうへ振り向く。 そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。 「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・。 ホワイトスネイク・・・テメー一体・・・何を、しやがった・・・」 「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」 そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。 真空の発生源であるキュルケとタバサはホワイトスネイクに担がれているッ! つまり、この状況は―― 「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」 ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。 だがすぐに壁に背がぶつかる。 もう後ろには下がれない。 正面から迫るホワイトスネイクは、 自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。 ならば―― 「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」 咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。 そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ! 「くらえッ!!」 ドンドン! そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。 だが狙いは甘かった。 大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。 ラングラーが一瞬抱いた真空への恐怖が、 その照準を正確なものにしなかったのだ。 だが、3つ。 それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。 しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。 だがホワイトスネイクは避けようともしない。 自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、 真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ! ドシュシュッ! そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。 ホワイトスネイクの、膝が落ちる。 勝った、とラングラーは感じた。 だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。 落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、 レスラーがタックルをかけるようにラングラーへと襲い掛かるッ! ホワイトスネイクはスタンドである。 そして今のホワイトスネイクは、 本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ! そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ! 「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」 それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、 壁にたたきつけられる。 JJFで防御する余裕すらなかった。 そして、真空の範囲にラングラーが入った。 真空が、ラングラーに襲い掛かるッ! 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。 そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ! (マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ! 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!) 完全に追い詰められた状況ッ! そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ! 「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」 ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ! 追い詰められ、生へとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、 壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ! そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。 そしてラングラーの体が、その後ろから押さえつけるホワイトスネイクのパワーに押され、ルイズの部屋から空中に放り出された。 その瞬間。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」 ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ! そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、 二人を取り囲んでいた真空地帯へ吹き込んだ突風に、 木の葉のように吹き飛ばされるッ! ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、 ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ! しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ! 手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。 (解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、 外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!) ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISCを抜き取る。 そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISCを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。 だがまだ油断は出来ない。 地上が、眼前に迫っている。 今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。 ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。 ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。 ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。 そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。 だが今ホワイトスネイクが抱え、背負うのは三人の人間。 抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。 そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。 しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。 着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。 出来るか。 ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。 その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。 そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。 無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。 だがホワイトスネイクは膝を突かない。 膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。 そして、耐え切った。 そのことを実感すると、 ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。 ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。 衝撃の発生源は腹部。 そこに目を向ける。 自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。 そして、やられた、と思った。 JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。 空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、 風圧に耐えていた。 そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。 落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。 そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。 ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。 もはや両足で立つこともできない。 そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。 ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。 「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・生かしておくつもりはねえッ!」 そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。 それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。 ダメージは、あまりにも大きかった。 これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。 そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。 「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」 そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。 「勝ったッ!!」 ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫んだ。 ドグシャアッ! ドシュンッ! 直後、二つの音が交錯する。 JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、 そしてそれとは別の音が校庭に響いた。 そして視界が真っ暗になる。 何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。 捻りかけて、理解した。 自分の額に、あの忌々しいDISCが突き刺さっている。 そのDISCに目隠しされているのだ、と。 そしてそうだ。 「これ」はさっき見ていた。 これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。 ホワイトスネイクはこのDISCで、自分の真空から三人を守っていた。 しかし、だとしたらその効果は一体・・・。 「ソノDISCノ効果・・・教エテヤロウ」 「!!??」 バカな!? 何故ホワイトスネイクが生きている!? ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。 手ごたえも十分にあった! …いや、本当にそうだったのか? 本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか? インパクトの瞬間、オレはヤツのDISCで目隠しされたんだ。 だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。 「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」 暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。 『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと? …何だとッ!? じゃあまさか、これからオレはッ!? 「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、 ペシャンコニナル。 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」 その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。 まず、息が出来なくなった。 正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ! そして破壊はさらに進行するッ! ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、 ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ! 「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」 声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。 呻きながらも、JJFに指示を出す。 自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。 だが、それもすぐに止められた。 JJFの腕が、動かない。 ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、 そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ! 「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」 しかしラングラーは止まらない。 JJFへの指示を止めはしない。 そして主人のダメージに従ってボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、 主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!! それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。 JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。 今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。 撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に当たり、 そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。 巨大なゴーレムの一撃ですら破壊できない壁に、目に見える形で損傷を与えた。 そして残弾が完全に尽きたのと同時に、 ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。 ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。 「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」 ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。 そして周りを見回す。 見回して、ひどい有様だと思った。 周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。 ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。 全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。 もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。 (シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?) 自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。 その時―― 「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」 バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。 どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。 「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」 「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」 声の主はやっぱりギーシュだった。 そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。 しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。 「・・・・・・何シニ来タ」 ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。 「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。 それで・・・感動したんだ! 不届き者から三人のレディーを守り、 満身創痍になりながらも勝利した君の姿に! そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ! 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう? それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、 レディーのために戦ったんだね! あのメイドを僕の勝手から守ったのも、 レディーを守るという君の新年に基づいたものだったと分かったんだよ! はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ! 何も言わずとも分かる! 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」 延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。 やったのはモンモランシーである。 しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。 一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。 お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく色々と心配だ。 そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、 じろりとホワイトスネイクをにらむ。 ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。 「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。 でも・・・・・・」 そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。 すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。 水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。 ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。 「この三人がケガをしてるのは別の話よ。 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ? ・・・だったら私がしてあげるわよ。 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、 水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、 魔法薬での治療が必要になるけど。 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。 勘違いしないでよ」 「・・・覚エテオク」 ホワイトスネイクがそれだけ言うと、 モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。 そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。 「どうしたのよ、ギーシュ?」 「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」 「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」 「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」 モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、 ギーシュが指を差しながら何か言っている。 だがモンモランシーには何が言いたいのか全く理解できない。 かろうじて、何がしたいかが理解できたホワイトスネイクが、 ギーシュが指差す先を見ると―― 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2148.html
グッタリしたオスマンを引きずるように連れて行くフーケを見送ったが、どうやったもんかと少し考える。 直限定となると、いきなり食堂に行ってもどうしようもないし、魔法なんぞ使えないので老化して人質に紛れる事もできない。 なお、モンモランシーも食堂行きだ。スデに一人始末したので、 それが帰ってこないのは拙かろういうことで、まだメイジが居たから探しに行った。という事にするらしい。 こうなれば、隙を見て一人一人順番に順番に始末していくしかない。面倒だが、それしか無い。 一先ず、塔から出て別の広場に来たのだが、意外なヤツがそこに居た。 「……邪魔だ」 正面に立ち塞がるようにして、シルフィードがそこに居た。 「きゅい」 「……オメーの相手してる暇ねーんだよ。隠密性もクソもありゃしねぇ」 邪魔だと言っても、退かない。夜とはいえこんなんが居た日にゃあ一発で補足されるに決まっている。 そんなわけで、どっか行けという具合に手を払いながら後ろを向き別の場所に行こうとしたが、その手を捕まれた。 「きゅい!」 「ちょっと待て、てめー…何のつもりだ!?」 その疑問に答える間も無く、シルフィードの翼が動き飛んだ。 さすがに、速い。一気に50メイルぐらい上昇したのだが、無論、背に上がれるわけでもなく腕を掴まれたままだ。 「…穴開けたらただじゃあおかねーからな」 「きゅい?」 こんな状況下でもスーツの心配。さすがである。 分かってるのか分かってないのか、抜けた感じの鳴き声が帰ってきた。 もっとも、言葉が理解できる韻竜などとは思ってもないし知らないので期待はしていない。 が、一応爪は引っかからないようにしてくれたらしい。 しかし、こうして腕掴まれて宙に浮いているとビーチ・ボーイに釣られていた事を思い出す。 結構大きさのあるシルフィードとはいえ地上から結構離れている上に 日は出ていないし、月も雲で隠れ気味になっているので、発見は難しいはずだ。 ただ、シルフィードに見付かったという事は、タバサもこちらの事を知ったという事になる。 偶然か、それとも『知っていた』のか。これだけでも大分違う。 まぁ話すタイプではないと見ているのでそれ程深刻ではないが、万一がある。 そうこうしていると、下の食堂付近で音と共に閃光が奔った。 こっちからは離れているので大した事はないが、近くに居れば、どこぞの大佐のように『目が…目がぁぁ』状態だろう。 続いて、火炎と爆発を確認したが、高度が少し下がると同時に唐突に腕への負荷を感じなくなった。なんというか落ちている。 「…っ!何してくれやがんだてめェェーーーーー!」 珍しく声が出る。ここまで出したのはブチャラティにジッパーで列車外に諸共放り出された時以来だろう。 いかにスタンドを備えていようとも、この高さから落とされては死ぬ。こちとらスタンドがある他は普通の人間である。 「お姉さまが危ないの。頑張るのねー」 そんな声が聞こえてきたような気がしたが、気にしている暇は一切無い。 無論、その後一拍送れて「あ、そういえばあの人、メイジじゃなかったのね」という間の抜けた声がした事にも。 時間が少しバイツァダストしてシルフィードの下、約30メイル。 ボロボロのオスマンとモンモランシーを見つけたという事で特に怪しまれなかったフーケだが、まだ何かあると思っている。 何せ居ないのは、あのニューカッスルから脱出した二人。何らかしら行動を起こすだろうとは予想していた。 「……もう少し優しくしてくれても良かったんじゃが」 「手加減してやっただけ有難く思いな。それにしても、どう出るかだね」 見た目こそボロ雑巾だが、実際のところ中身はそれ程酷くは無い。 とりあえず、メンヌヴィルを相手にするつもりはないので、動いた時に他のメイジを始末する予定なのだが、肝心の動きが無い。 そうこうしていると、紙風船が食堂に飛び込んできた。 (少なくともこっちに人質が居る分、直接被害が出る物じゃない。……考えられる事は行動だけを無力化する事!) 全員貴族の子弟が人質となっているのに、無差別攻撃を仕掛けるはずはない。 瞬時にそう判断し、オスマンを盾にすると同時に激しい音と光が食堂を包む。 「やっぱりか……やってくれるよったく……」 「……わし学院長なんだけど、扱い酷くない?」 光をモロに受けたオスマンが目を押さえながら抗議してきたが、フーケにとってはあまり関係ない事だ。 「手加減した分、まだ貸しが残ってたみたいだから返して貰っただけじゃあないか。気にしない」 そう言ってイジけ気味の爺さんを無視すると、銃士とキュルケにタバサが飛び込もうとしているのを見た。 「これで終わってくれれば楽でいいんだけど……」 本当にこれで終われば楽でいいのだが、相手が相手だ。 「そうもいかないんだよねぇこれが」 メンヌヴィルが居た所から炎の弾が銃士やキュルケ達の所に飛ぶと爆発を起こす。 「所詮、素人が勝てる相手じゃないって事か。あいつもまだみたいだし、このままじゃあいつら死ぬよ」 無論、ここで自分がしゃしゃり出てもどうしようも無いので出て行く気はない。 だが、教え子が危ないというのにオスマンは落ち着き払っている。 「コルベール君があの中に居らぬから、まだ大丈夫じゃ」 「そういや、さっきもそんな事言ってたね。宝物庫の弱点をわたしに言った時はそんな感じはしなかったけど」 「……減給じゃな」 数ヶ月越しに秘密が暴露され、安月給がさらに下がったコルベールに少し同情したが 表では倒れたキュルケにメンヌヴィルが杖を向けていた。 白炎からすれば、炎の女王でもまさに微熱程度であるらしく、笑みを浮かべている。 それにしても、どうしてこうわたしが関わった男はこうもアレなヤツが多いんだろう。 エロジジイに、ロリコン子爵に、今まで見た事の無いのようなドS。そして焼ける臭いが好きだという白炎。 いい加減ウンザリしてきたが、今は死ぬかどうかの瀬戸際なので何とか己を保っていると、本当にメンヌヴィルの前にコルベールがやってきた。 「へぇ…あいつの炎を防ぐなんて確かにやるじゃないか」 キュルケを包もうとしていた炎を最小限の炎で押し戻したあたり、その実力が伺える。 だが、そうであるのならば疑問が一つだけある。 「それにしたってあれだけの実力があるなら、わたしだって危ないかもしれないのに」 オスマンが捜索隊を募った時、あの場にコルベールも居たが手を挙げなかった。 分からない事を考えても仕方ないので、二人の方を注視したが、メンヌヴィルはさらに嬉しそうにし、コルベールは対照的な顔をしている。 馬鹿笑いしながら話しているのでメンヌヴィルの声だけは聞こえてきたが、どうやら知った間柄らしい。 「本当に久しぶりだ!隊長殿!二十年か!教師をしているとは驚いたぞ!人の焼き方でも教えているのか?はははははははッ!」 そんな心底可笑しそうな声を聞いて、一つ思い当たることがフーケにある。 出撃前に、隊長を攻撃して返り討ちに遭い目を焼かれたと言っていたのを思い出した。 ……てく……がん……めェ……… 「……何か言ったかい?」 「わしはまだボケとらんよ」 メンヌヴィルの声に紛れて何か聞き覚えのありすぎる声が聞こえてきたので、オスマンかと思ったが違うらしい。 どこからだろうかと思っていると、また聞こえてきた。 このク…カス…ァ……ァア…ア メンヌヴィルとコルベールの上の方から聞こえてきたのだが、暗闇であまりよく見えない。 だが、もの凄く聞いたことあるだけの声だけに、その方向を見つめていると 二人の上にある大木の枝が揺れると同時に、見覚えのありすぎるヤツがメンヌヴィルの頭を踏んだ。 「このクソカスがァァァァアアア」 どこぞの手首フェチの殺人鬼が乗り移ったが、テンパっている場合ではない。 地面まで10メートルの時点で、庭に植えられた無駄にデカイ木の枝をグレイトフル・デッドで辛うじて掴む。 素手なら掴みきれずそのまま落下だろうが、幸い一応人型スタンドを備えている。脚が無いとはいえあるだけマシだ。 なお、グレイトフル・デッドのデサインについてメローネがしきりに 『足なんて飾りだ。偉いヤツにはそれが分からんのだ!』と連発し非常に鬱陶しかったので殴り飛ばした事の詳細は割愛しておく。 だが、いかにご立派な木とはいえ所詮は枝。当然折れる。 それでも、続け様に太目の枝を掴んでいくと落下速度が落ちてきた。 地面まで4メートルぐらいになると、そのまま降りても一応死なないぐらいになっていたが 視界に眼帯かけてバカ笑いしている無駄にデカイやつが目に入ったので、頭を思いっきり踏むと綺麗に着地した。 「本当にオシマイかと思ったよ…クソが…!」 あのクソ竜、いつかブッ殺す。と言いそうになったが耐えた。言えば色々と全否定してしまう事になる。 というか、こういう厄介事はミスタでいいからマジに変われと最近の胃へのストレスから、少々そう思う。 何かもう、胃の中から『ロオォォォォドオォォォォォォ』という呻きが聞こえてきそうなぐらいに。 もっともそのミスタは追い込んだせいで素敵なお友達と共に入院中であるが。 「なぁ、No5…俺間違ってないよな…?」 「元気出シテクレヨォ…ミスタ~ジョルノダッテ、ソノ内分カッテクレルサ」 「ああ、俺の味方はお前だけだぜNo5…」 ヴェネツィア国際病院精神科において、そんな会話をするミスタとNo5だったが 「先生、ミスタさんが、また独り言を…」 「この調子だと、まだ時間が掛かりそうだな…」 その様子を偶然見た医師と看護婦にはピストルズは見えないので、精神面がやはりアレと思われ入院期間が延長となっていた。 方膝付いて立ち上がったが、呆然としているキュルケと気絶しているタバサ。そして、自分達と同じ空気を纏うコルベールを見た。 が、そのコルベール先生だが、それがベチャリという音を立てて地面に突っ伏したような感じだ。 空から人が降ってきた上に、メンヌヴィルの頭をイタリアが誇る赤と緑の配管工のように踏んだのだから無理も無いが。 「意外と派手な登場したね」 「若いんじゃろう」 そんな、のおほんとした会話をするのはフーケとオスマン さすがのフーケも空から降って、配管工よろしくメンヌヴィルを踏むとは思ってなかったらしい。 何か間の抜けた雰囲気だが、実際のとこそこら辺に指を吹っ飛ばされた銃士とかが転がっているので。結構な惨状である。 本人にしても、想定外だけにどうしたものかとちと悩む。 踏んだ事は特に気にしていないが、何の準備も無く敵のド真ん中だ。 いつもなら牽制も兼ねて広域老化を叩き込むとこだが、オスマンと話つけてるので使うわけにもいかない。 とりあえず、まず視線がタバサに向けられた。気にかけているというより、ガンを付けていると言った方が正しいかもしれない。 「こいつ…人をあんな目に遭わせといて呑気に寝てんじゃねえッ!!」 ルイズのような例外を除き、使い魔は大抵主人の命令で動くと認識している。 つまり、高度30メートルから落とされたのもタバサがやったのかと思っているわけで、少々ヒートアップしております。 この男、基本的に己に攻撃を仕掛けてくる相手は誰であろうと徹底的に叩き潰すタイプである。 まぁ暗殺チーム全体がそうなのだが。G・デッドのように能力上で巻き込むのならともかく、メイジで無いという事を知っている上でやったならアレだ。 例えどれだけ幼く見えようとも性別が女だろうと容赦しない。またまたスト様もビックリだ。 反応が無いので、蹴りの一発でもくれてやろうかと近付き、杖を軸に座るようにしているタバサを少し脚で揺らしたが、またしても反応は無い。 普通なら気絶していると思いそうなものだが、元暗殺者といえど人間である。心拍数絶賛上昇中で少しばかり動揺しているのだ。 本気で『罰』と書かれた紙でも貼り付けてやろうかとも思っていたりする。 イタリア人なのに『罰』とか突っ込んではいけない。そんな事をすれば、職業漫画家の吸血鬼がどこからともなくやってくr… WRRRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!! 「ちッ…寝てるってわけじゃあねぇな」 少しすると、まぁ落ち着いたのか気を失っている事に気付いたが、とりあえず状況確認をせねばならない。 「おい、てめー敵か?」 頭を押さえながら立ち上がった眼帯の男に質問したが、この際ついでに首ヘシ折っときゃよかったかと、少し考える。 明らかに悪党面してるので敵だろうと思っているが、元とはいえ人の事言えない職業に就いていたのに随分と酷い。 「ああーーーーーーーッ!!」 そこまですると、今まで呆けていたキュルケが叫んだが、こちらも何時もどおりで何も変わってないらしい。 「よぉ、相変わらずだな。ちったぁ静かにしろよ」 「で、でも何で…!?」 「そりゃあこっちが聞きてーよ。言っとくが、ツケ利かねーからな」 「ぐが…何者だお前」 「質問に質問で返すんじゃあねぇ。今、質問してんのはオレだぜ。敵ならそのままくたばってろ。ボケが」 やっとこさ立ち上がったメンヌヴィルに向け吐き捨てるかのように返す。 味方だったらどうすんだと突っ込みが入りそうだが、例え味方であっても 『死んでないんだから文句無いはずだ。んなもん無いよな?ベネ(良し)、無いな』的な考え方である。 自己完結三段活用という非常に自己中心的な思考だが、それがギャング。 「あいつホント敵無しだね…」 少し離れた所でフーケが本気でそう思う。 こいつ、どこまでこの態度を保てるのか知りたくはあるが、知ればそれはそれで怖い。 何かもう、始祖にすらタメ口使って気に入らなければ、空気を吸うように自然体で『ブッ殺した』と過去形で言いそうだ。 そして、肝心のメンヌヴィルだが、何か知らないが嬉しそうだ。 「血と死の臭い。俺たちと同類か」 そう言うと、香りを吸い込むように鼻腔を広げたが、それを見てプロシュートの眉が若干歪む。 「惜しいな。隊長どのさえ居なければ、真っ先にお前を焼いてその焼ける香りを堪能してやるというのに」 その言葉を聴いてさすがのプロシュートも少し引いた。 ――こいつ変態か…!?そういう意味ではメローネと同類だが…… 無論、ビビったわけではない。しかし、事前に聞いていたとはいえ、いきなりそんな事をカミングアウトされればさすがに引く。 まして、人が焼ける臭いを好んで嗅ぎたいなど変態以外の何者でもない。誰だって変態の相手はしたくないのである。 なお、メローネと同タイプと評したが、あれだって任務以外でベイビィ・フェイスの息子を作ったりしない。 なにせ、上半身をピッチリとした袖の無い服で覆い、無駄に割れた腹筋とかが露になったその上にマントを羽織っている。 色々思い出したくない物を思い出させてくれやがったので少々気分が悪くなってきた。 したがって、現段階における目の前の眼帯男のプロシュートの評価は 『放火魔で臭いフェチの、隊長(多分コルベール)に異様なまでに拘ってるガチムチのキレてるド変態』 という極めて散々なものである。 「で、何だ。こいつ敵でいいのか?おい」 早いとこカタ付けちまおうと、意識が半分飛んでいるキュルケとコルベールに一応敵かどうか確認を取る。 もっとも、例え味方であっても排除したい気分にはなっていたのだが。 「え、ええ。そのはずだけど…」 「君、これは…」 「ああ、気にすんな。もう『終わる』からよ」 まだ何か言いたそうなコルベールの言葉を遮ったが メンヌヴィルまで距離およそ2メートル。辛うじてグレイトフル・デッドの手が届く距離だ。 問答無用の直触り。これで一気にケリを付ける。 スタンドが見えない以上、本体が動きを見せなければ対処のしようが無い。 まして、自分よりコルベールに目が行ってるので避る事などできはしない。 だが、掴もうとした時メンヌヴィルが一歩下がった。 …偶然か? そう思いもう一度仕掛けたが、やはり避けられた。 人間、不可視の物を回避する事は極めて難しい生物である。つまり『見えている』という事になる。 「てめー…見えてんのか?」 こっちでスタンド使いが出たというような情報は入っていないだけに自然発生したとは考えていないが ベイビィ・フェイスの息子、猫草、猿のような例がある。 ポルポのブラック・サバスあたりも一人歩きしているかもしれないという事も想定せねばならない。 『チャンスをやろう………向かうべき『2つの道』を………!!』 そんな事をのたまいながら矢を人の頭にブッ刺していくサバスが記憶の中から浮かんだが、そうなれば最悪だ。 グレイトフル・デッドの場合、どちらかを相手にするだけでも結構キツイのだが メイジ兼スタンド使いなぞが量産された日には、さすがに手に負えなくなる。 そもそも、スタンド使いがメイジと相対するにあたって、最大のアドバンテージが 一部の例外を除きスタンド・ヴィジョンが『見えない』という事である。 スタンド・ヴィジョン自体は近距離型であるが、あくまで老化込みなので接近戦はどちらかというと不得意な部類に属する。 相手に補足されない距離から老化を叩き込み、行動不能に陥った敵に接近してトドメを刺すというのが本来のやり方だ。 なにより致命的なのが、グレイトフル・デッドの機動力の無さにある。 脚が無いだけにスタンドそのものの移動は手で行うのだが、攻撃するとなると移動が不可能になる。 迎撃だけなら、ステッキィ・フィンガースクラスのラッシュをある程度捌けるが、中距離から攻撃されるどどうしようもない。 つまり、見えているのであれば、少なくとも広域老化抜きで勝てる相手ではないという事になる。 とんだ貧乏くじ引いちまったか?と思うがもう遅い。フーケはビビって出てこないし キュルケは精神的に、タバサは物理的に戦闘不能みたいなものだ。 残ってるのは…コルベールぐらいだが、フーケ追撃の時に手ぇ挙げなかった事を覚えているので、戦闘要員としては使えないと判断している。 仕方ねぇ、事後承諾だ事後承諾。使わなけりゃあこっちがヤバイ。使い魔が死んでも本体が生きてりゃ問題ねーだろ。 と学院を阿鼻叫喚の老化地獄に巻き込んでケリ付けようかと考えを改めたが、それをやる前にメンヌヴィルが口を挟んできた。 「ワルド子爵から聞いた事がある。妙な力に掴まれるなと。よく分からんが、空気の温度の変化で何をしようとするかぐらいは分かる」 それを聞いて若干拍子抜けした。感じているという事で見えているわけではないようだ。 「ああ、目が見えてないって事か。それだけってんなら安心だ。少なくともオレらの領分には踏み込んでないって事になる」 だからと言って不利な事には変わりないが、当面スタンド使い相手を想定しないで済みそうだ。 もっとも、直接見えないと言っても、感じ取られてしまうのであれば、そうそう接近戦に持ち込ませないだろうし メイジは元から中距離タイプだ。近距離パワー型であれば強引に突っ込んでもいいが、先のとおりそうではない。 正面から突っ込むのは下策というものだ。策を使う必要があるだろうが 普段から老化を使い盛大に正面から突っ込んでいるだけあって、やはりそう得意なものでもない。 そもそも、暗殺チームで策なぞ使ってるヤツが居たかどうかと聞かれれば、居ないと答えたくなる。 精々ホルマジオぐらいだが、あれにしても能力の応用というぐらいで、大概、各メンバー全員が能力を使って正面から突っ切るタイプだ。 さっきのでケリ付けたかっただけに、一度距離を取られるとやはり厳しい。 こいつ一人だけなら、火出した時に合わせて老化を使えばいいが、生憎まだ敵が他にもいる。 デルフリンガーが無い以上魔法の集中攻撃を受ければどうしようもないのだ。 ボスのような大物ならともかく、使い捨ての傭兵如きに相打ち狙いというのも釣り合わない。 策を弄する時間も無いだけに、どうすっかと、辺りを一瞥したが、コルベールが杖を出して割り込んできた。 「ミス・ツェルプストーとミス・タバサを連れて、下がってくれ」 「確かにまだ夜だがな。寝ボケてんのか?誰に物言ってるつもりだ」 邪魔だと言わんばかりに言い放ったが、本人からすれば実際邪魔なので仕方ない。 「これはわたしと彼の問題なんだ。頼むよ…」 かみ締めた唇の端から血が流れていたが、やはり纏う空気が違う。 そこに食堂から二人を狙うようにしてマジック・アローが数本放たれた。 それが勢い良く飛んで行ったが、二人の2メイル先で何かに弾かれたように消えたと同時に コルベールの杖の先から炎の蛇が飛び出し、そのメイジの杖を燃やし尽くす。 「これでも駄目かね?」 冷たい笑みを浮かべたコルベールがそう言ったが、その眼は腐るほど見てきたそれだ。 「…とんだ皮被ってやがったか?リゾットならとっくに見破ってたんだろーがな。つか撃たせる前に燃やせ。ダメージはねーが衝撃は来るんだからな」 纏めて食らえば、衝撃で骨が折れるだろうが、拳で弾く限りは魔法の矢の2~3本程度なら問題無いのだが、痛いものは痛い。 とにかく、こいつは自分たち暗殺チームと同じか、それに類するヤツだと認識した。 「オメーは立てんだろ?そいつ連れて行くぞ」 どういう理由で皮被ってたのかは知らないが、本性見せてやるというのであれば別段邪魔はしない。 こいつがやられても、終わった後の隙を突いて直をブチ込めば済む。 「待って!ミスタが…」 「本人がそう言ってるんだから助けなんていらねーだろ。第一オレが見たところいるようにも思えないがな。そんぐらい分かんだろーが」 キュルケがコルベールを見たが、プロシュートと同種のスゴ味を感じ頷く。 「それにしても…」 「何だ?」 「憎たらしくなるぐらい冷たいけど、周りの事を分かってるのは変わってないわね。ルイズに会ってもそうなのかしら」 「言ってろ。リゾットに比べりゃオレなんざ微温湯だ。オメーが暑苦しすぎんだよ。んな暇があんならさっさと立て」 さっき利用した木に背を預けると、観戦と洒落込む。 再び月が雲で隠れて闇の中になったが、職業柄夜目は利くので特に問題は無い。 しばらく見ていたが、戦況はメンヌヴィルが有利というところか。 互いに炎を飛ばしあっているが、コルベールの防戦一方だ。 「にしても、五月蝿いヤローだ」 馬鹿笑いしながらメンヌヴィルが魔法を飛ばしているのだが、非常に五月蝿い。 鉄砲玉にはなれても暗殺者にはなれない。そういうヤツだ。 そもそも、この任務自体が使い捨てなんじゃないかと思えてきた。 メイジと言っても金で雇われた傭兵だ。成功すれば良し、しなくても使い捨てる、そういう作戦だろうこれは。 経験上、流れのチンピラに仕事をさせるのは大抵が鉄砲玉なのでそう判断した。まぁ暗殺チームも組織から見れば似たような物だったのだろうが。 そうしていると、戦闘場所が広場の真ん中に移ったようで、よく聞こえないが何か話をしているのが分かる。 どうでもいいので特に聞こうとしなかったのだが、コルベールが膝を付いて頭を下げたのが見えた。 「てめーから仕掛けといて降参か?……いや、そうでもねーか」 何かある。 そう思うと同時に、コルベールが上空へ向けて杖を振ると小さな火球が飛び出る。 照明代わりかと思ったがそうでもないらしい。 その火球を見ていると、小さな爆発が起こり、それが広がっていくと巨大な火球が出現した。 これと似たような光景を一度見たことがある。 生で見たわけではないが、メローネがネットをしていた時に気化爆弾というのを一度だけ見たのだがそれとよく似ている。 気化燃料を空気中に撒き散らしながら周囲一帯を焼き尽くすというえげつない兵器だっただけに記憶にあった。 メンヌヴィルが倒れた後、静かになりコルベールの呟きだけがよく聞こえてきた。 「蛇になりきれなかったな。副長」 倒れたメンヌヴィルに向けて近付いたが、少々息苦しい。 さっきの炎のせいで酸素濃度が低下してるせいだろうが、息ができないというわけでもない。 隊長が倒されたのを見た他の傭兵が動揺しているがその程度の相手なら他に任せていいと思い、とりあえずはこちらの用を済ます事にした。 無事だった銃士やキュルケにタバサ。おまけに味方と思っていたはずのフーケが攻撃を仕掛けてきたのですぐにカタが付いたが 前に目をやると少し離れた所でアニエスがコルベールに掴みかかっている。 まだ『戦闘中』にも関わらず何やってんだと言いそうになったが、それより先に慣れた気配を感じた。 「てめーらボケっとしてんじゃあねーぞッ!!」 二人の後ろに、どこからか放たれた炎が迫る。 あんな気配を出したのだ。発せられた場所は分かっている。 だが、それでも二人にとってはスデに至近距離の上体勢も悪い。魔法で防御は不可能だ。 咄嗟にコルベールがアニエスを突き飛ばし、身代わりになろうとした。 「貴様…!」 「……すまなかった」 直撃する。そう思いキュルケが目を反らせたが、それより先に誰かが割り込んできた。 「…ッ!馬鹿が!あんなもんで人一人殺れると思うんじゃあねぇ!」 その叫びと共に炎の中に紫がかった半透明の左腕を突っ込む。 「~~~~~ッ!ってぇだろクソがッ!!」 火球が空中で燃え上がったが、元々の射程距離がそう長くないだけに本体の左腕に余波を受けた。 すぐさまグレイトフル・デッドの右腕で炎を消したが スタンドで本体をある程度防御したとはいえ、本来なら鉄をも溶かす温度だ。 当然ながら左腕に相応のダメージはある。魔法か何かで治さない限り当分使い物にならないだろう。 火が放たれた先を見たが、メンヌヴィルが立ち上がっている。 「『爆炎』を受けてまだ…」 「知らねーようだから教えといてやる…! 人間ってのは5分ぐらいなら息が止まっても蘇生できるんだとよ。てめーの温いやり方のせいで予想外のダメージ貰っちまった…ッ!」 それにしたって何らかの蘇生処置が必要だが、傭兵として鍛えていただけの事はあるという事か。 「大体、何だありゃあ?部屋ん中ならともかく、あんなもん外でやったら意味ねーだろうが」 いかに巨大な火球が酸素を燃やし尽くそうとも、消えれば周りから自然に集まってくる。 ついでに説明を加えるなら、威力こそ遥かに上だが、同じ原理の気化爆弾にしても周囲に居る人間を酸欠にするのではなく 一酸化炭素中毒と、爆風を受けた時に起こる急性無気肺との合併症による窒息である。 まして、火球が作られていたのは僅かな時間にすぎない。 致死量の一酸化炭素ぐらいなら作れるとは思うが、それを相手が吸い込むかどうかは別問題だ。 ミスタの頭に三発弾丸をブチ込んで、まだ生きていたというのを体験している身だけあって、あんな程度で死んだと思い込む方がどうかしている。 それでトドメ刺そうとメンヌヴィルの所に行こうとしたのだが、揉めている二人に気を取られたせいで後手に回ってしまった。 「ガハッ!…ハッ!…ははははは!さすがだ!さすがオレが惚れただけの事はあるな隊長殿!」 ok。それを聞いてプロシュートの中で『ガチホモ』という項目が新たに追加されメンヌヴィルの評価が落ちるとこまで落ちきった。 これ以上下がるなら、マンモーニぐらいだろうが、それは望めそうに無い。 「終わるまでそこで見てろ。テメーもだ。恩には恩を、仇には仇を。このダメージは倍にして返すッ!」 左腕を焼いたのはこれで二度目か。上着は脱いでいたから前とは違って無事だが、シャツが少し焼けた。これだって高かったから余計ムカついている。 「しかし、平民に助けられるとは運が良かったな。さぁ続きだ隊長!」 「悪いな。あのハゲは女とよろしくやるらしいから忙しいらしい。選手交代させてくれ」 コルベールとアニエスから離れたプロシュートがメンヌヴィルに近付いたが、メンヌヴィルは興味無さそうにしている 「邪魔だ。平民が、まして左腕を焼かれたお前に何ができる」 「ッ…!腕一本で勝った気になってんじゃあねーぞッ!」 まだコルベールの方を向いたメンヌヴィルの後ろから、かなりイラついた感じの声がかかる。 左腕が使い物にならなくなったとはいえ、その眼は依然として死んでなどいない。 「どいつもこいつもナメた真似してくれやがる……ギアッチョじゃあねーがいい加減イラついてきたぜ」 腕や脚の1~2本が千切れても食らいついたら離さないというのが暗殺チームだ。 この程度で参ってるようでは話にならないのだが、この目の前のクソッタレのデカ物は、それだけで相手にしようとしなくなっている。 まぁ、その、なんだ。 用は早々に戦力外扱いされた事にスッゲェムカついているわけである。 ペッシとかなら間違いなく額に浮かぶ青筋を見ているはずだ。 「今はお前ごとき平民に構っていられんのだ。隊長どのをじっくり炙ってやらねばならん」 目に見えはしないが、語気から判断したのかメンヌヴィルが後ろを向いたまま話してきたが、明らかにナメている。 暗殺チームは組織の脅威となる者は政治家だろうと、アメリカのギャングだろうと全て取りのぞいて来た。 そしてその任務達成率は100%である。暗殺という過酷な任務からして、その達成率は他に類を見ない物だろう。 パッショーネ内ですら、本来なら敬遠されている方々なのであるのだが、それをこうもナメてかかられているというのはワルド以来久しぶりだ。 こうも調子付かれると、やはり気に食わない。 「素人風情が……調子乗ってんじゃあねーぞ」 暗殺任務に必要なのは、冷静かつ素早く確実に対象を始末するかという事が必要だ。(ギアッチョは例外としても) フーケのように盗みなどならともかく、殺しの中で愉しむなぞド素人もいいとこである。 そんなド素人にナメられるなぞ『侮辱』とも取れる行為であり、普段冷静な判断が出来る方のプロシュートとはいえ、かなりムカついている。 まぁ、残った冷静な部分で、スタンドを知らんので仕方ねーわな。 とも思っているのだが。 しかし、こうメイジを相手にするとなると、こちらとしてもスタンド使いの相方が欲しい。 フーケでも特に問題は無いっちゃあ無いのだが、隠密性や即効性が高いだけにスタンド使いの方が適している。 猫草を思い出したが、0.1秒で却下した。 アレはフリーダムすぎて扱いきれる代物じゃあない。というか奇妙な植物が生えた鉢植え持って戦うのは無理がありすぎる。 あのエテ公を殺すんじゃあなかったなとも考えたが、スデに終わっているので考えても仕方ない。 無い物強請りをしてもしゃーないので、精々フーケをコキ使ってやるかと結論付けたのだが 知ったらフーケは間違いなく泣くはずだ。……いやもうスデに泣いているか。 「たかが腕一本で能書き垂れてんじゃあねぇ。どこ見てやがる」 「調子付くな。体温が上がっている上に息も荒い。隊長の焼ける香りをたっぷり味わってからゴミのように殺してやる」 メンヌヴィルがそう言った瞬間、プロシュートからため息が出る。 「…ったく。少しはマシなのが出てきたと思ったが…お前もそうか」 思わず右手を額に当て、落ちてきた髪を戻す。 『殺してやる』。これを聞いた瞬間、イラつきが全てフッ飛びどうでもよくなった。 「『殺してやる』なんて言葉は…終わってから言うもんだ。オレ達『裏の世界』では特にな」 思わず説教(あくまでギャング的な意味の)染みた言葉が出たが、無理も無い。 向こうでは『最も』使う必要の無かった言葉を言ってきたので、一種の条件反射というやつか。 ――ああ、クソッ!こいつブン殴って説教してェーーーー。 そう思ったか定かでは無いが、とりあえず終わったらフーケにギャング的心得を叩き込む事に決めた。 多分、抵抗されるだろうが知った事か。 犯罪者としての自覚があるなら、覚えておいて損はない。 なお、暗殺チームにおいてこの講習を受けたのはやはりペッシだけである。 対象は、問題児(児って歳でも無いが)三人組のメローネ、ギアッチョ、ペッシなのだが ギアッチョはスーツ装備して聞いてねーし、メローネは早々に逃げ出したので、三人分纏めてペッシが受ける形をなっている。 この場合、ものスゴク八つ当たりに近い物があるのだが関係ない。 序盤で三人娘もろとも始末するつもりだった己の過去を存分に呪うがいい。 ギャングスターというものは恩も忘れないが、仇も決して忘れないという難儀なナマモノなのである。 「急に何やっとるんだね」 「ちょっと敬虔なアルビオン人の血が騒いで…」 そして、フーケが何かこう5ページにも及ぶ『無駄』とか『マァヌケめぇ』とか 『老化しよ、ねッ!背中見せよ、ねッ!ねッ!』とか『オーノーだズラ』とかいう無数の幻聴が色々聞こえてきて なにやら何とも言えない微妙な気分になり泣きそうになりながら信じた事の無い神様に祈っていた。 ディ・モールト疲れてるんです、ねッ!この人(23歳)。 「仕方ない。五月蝿い蠅から焼くことにしよう」 やれやれと言わんばかりにメンヌヴィルが首を振ったが、ようやっと杖がプロシュートに向けられる。 それと同時に横に避け回避。今まで居た地面に炎の弾が飛び爆発した。 「ほう、よく避けたな。だが、続けてどうだ?」 「馬鹿の一つ覚えが…」 続けて回避行動。さっきの戦闘を見る限り、ホーミングもするようだが、それをしないあたりやはりナメている。 爆発で地面に穴を開ける事数度。至近で受けた爆風で体勢を崩したのかプロシュートが膝を付いた。 「どうした、もう終わりか?やはり、平民は平民か」 「強いな…確かに強い。一つ聞くが、お前とあのハゲとはどういう関係だよ」 「この際だ、説明してやろう。あの男は魔法研究所実験小隊の元隊長で、オレから両目の光を奪った男だ。オレは隊長殿にぞっこん惚れた。 あいつみたいになりたいってな。そう思ったら背中目掛け杖を振った。その結果がこの両目だ。さぁお喋りの時間は終わりだ。燃やしてやる」 メンヌヴィルの杖の先に炎が巻き起こったが、対するプロシュートの発する声は極めて落ち着いている。 「ああ、そうだな。オレをナメきってくれたおかげで助かったよ。こうして話していた間にも時間が稼げた」 「時間だと?隊長殿の怪我を治す時間稼ぎか?なら礼を言おう。また隊長殿と戦えるのだからな」 「目が見えないってのは大変だな。人の温度の見分けは付くらしいが、他はどうだ?植物とかよ」 植物ってのは何年経とうが温度が一定だからな。オレの能力も利き辛いんだが…直は別なんだぜ?グレイトフル・デッドの直触りはよォ~~」 「植物だと?極上の香りというものは生物を燃やしてこそだ。植物など燃やして何になる」 どうやら、直という意味を理解していないらしい。どうやら、あのヒゲはこいつには老化の事は伝えていないようだ。 まぁ、知っていようがいまいが、手遅れだ。もうスデに『終わって』いる。 「温度には敏感でも音はどうだ?気付いたか?あの音に。ま…もう遅いんだがよ」 「何?何だ、この音は?」 「その位置だ。お前のその位置が、ディ・モールト良い」 今までこそ小さかったが、今ではハッキリと聞こえる。何かがひび割れたりするような音だ。 メンヌヴィルが魔法で地面に空いた穴。プロシュートが片膝を付きながらそこに手を突っ込んでいる。 「遊んで適当に狙いを付けてくれたお陰だ。手間が省けただけ礼を言うぜ。こんだけデカイと適当に穴開けるだけでもすぐ見つかるもんだ。根ってのはな」 穴から引き抜くように手を出すと、木の根がその手に掴まれていた。しかも、スデに枯れ始めている。 スタンドを展開しているだけあって爆風でのダメージなぞ無いに等しいのだが、良い感じにナメていただけあって勘違いしてくれた。 「今日二度目の頭上注意だ。本日の天候は晴れ。……所により倒木にご注意下さいってか」 言い終えると同時に老木がメンヌヴィルの後ろから倒れ込んできた。さっきの木が老化でボロボロに崩れ幹が折れたのだ。 根を介しての直触り。いかに寿命が人のそれより長いとはいえ、直ならば容易く枯らす事ができる。 「うぉぉぉぉおおお!馬鹿なァァァアア!こ、この木は!この木はこんな…!」 「オレに対しての情報不足だな。文句あるならワルドかフーケに言えよ。おっと、ただし地獄でだ」 倒木にメンヌヴィルが巻き込まれたが、杖の先に出ていた炎が燃え移った。 メンヌヴィル自身の魔法の火力が高いだけに倒木が一瞬にして燃え上がり、身体を包む込んでいく。 「自分の火で焼かれちゃあ世話ねぇぜ。クソみてーな臭いだが、オレからの礼の代金だ。そんなに好きなら死ぬまでじっくり味わえ」 「………貴……ァ……」 炎の中でメンヌヴィルが何か言っているようだが、大して聞こえはしないし、何より興味が無い。 何時の間にか晴れた月と燃え上がった倒木を見て一息付く。改めて自分の能力の使い辛さを認識した。 だからといってこればかりは、本人の精神の表れなのでどうしようもないのだが。 「にしても…焚き火ってのはもう少し情緒があるもんだが…こりゃあいいとこゴミの焼却ってとこか。後始末が大変だ…」 なにしろ、デカイ。デカイだけに火の勢いも結構なものだ。まぁ火の始末は他のヤツに任せるとしたが、キュルケの怒鳴り声が届いた。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/pokemonsv/pages/2293.html
もくじを見る 商品情報 概要 購入特典早期購入特典 ダウンロードカード早期購入特典 パッケージ版早期購入特典 購入するにはポケモンセンター・ポケモンストア・ポケモンセンターオンラインでの予約・購入について 攻略について これまで公開された情報の概要2023年2月27日(月) 2023年5月24日(水) 2023年9月13日(水) 2023年12月14日(木) 2024年1月11日(木) 2024年1月15日(月) 2024年1月25日(木) 関連項目 商品情報 商品情報 タイトル 『ポケットモンスター スカーレット ゼロの秘宝』『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』 『ポケットモンスター スカーレット+ゼロの秘宝』『ポケットモンスター バイオレット+ゼロの秘宝』 発売日 2023年2月28日(火) パッケージ版発売日 2023年11月3日(金・祝) 配信開始日 「前編・碧の仮面」 2023年9月13日(水)「後編・藍の円盤」 2023年12月14日(木)「番外編」2024年1月11日(木) ダウンロードカード発売日 2023年4月24日(月) 追加コンテンツ価格 各3,500円(税込) 本編+追加コンテンツ価格 パッケージ版:各10,078円(税込)ダウンロード版:各10,000円(税込) 発売 株式会社ポケモン 販売 任天堂株式会社 制作 株式会社ゲームフリーク 対応機種 Nintendo Switchシリーズ ジャンル RPG プレイ人数 1人(対戦・交換など 2~4人) 通信機能 ローカル通信対応、インターネット通信対応 販売形態 追加コンテンツ(ダウンロード版)本編+追加コンテンツ(パッケージ版・ダウンロード版) 対応言語 日本語・英語・スペイン語(欧州スペイン語)・フランス語・ドイツ語・イタリア語・韓国語・中国語(繁体字)・中国語(簡体字) CERO A 備考 参考リンク:『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』公式サイト 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』特集 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア) ポケットモンスター スカーレット ゼロの秘宝(マイニンテンドーストア) ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝(マイニンテンドーストア) ポケットモンスター スカーレット + ゼロの秘宝 セット(マイニンテンドーストア) ポケットモンスター バイオレット + ゼロの秘宝 セット(マイニンテンドーストア) 任天堂サイト内「トピックス」より 任天堂サイト内「トピックス」よりNintendo Switch『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の有料追加コンテンツ『ゼロの秘宝』の発売が決定、本日より販売開始。前編は2023年秋、後編は2023年冬以降の配信予定。 有料追加コンテンツ『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』の「前編・碧の仮面」が9月13日に配信決定。最新情報も公開。 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の有料追加コンテンツ『ゼロの秘宝』のTVCMを公開。新しく出会えるポケモンのくわしい情報や今後のイベント情報もまとめて紹介。 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の有料追加コンテンツ『ゼロの秘宝』のポイントをおさらい。本編から追加コンテンツまでまるっとあそべるパッケージ版も。 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』の「後編・藍の円盤」の配信日が12月14日に決定。公式インターネット大会の情報も。 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』「後編・藍の円盤」が本日配信。新たな映像やゲーム内で楽しめるイベント情報も。 あなたの思い出のパートナーは?【Vol.1】『ポケモン スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』「後編・藍の円盤」で出会えるようになる歴代のパートナーポケモンたちをご紹介。 あなたの思い出のパートナーは?【Vol.2】『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』「後編・藍の円盤」で出会えるようになる歴代のパートナーポケモンたちを紹介。 あなたの思い出のパートナーは?【Vol.3】『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』「後編・藍の円盤」で出会えるようになる歴代のパートナーポケモンたちを紹介。クリア後に楽しめる番外編の情報も。 概要 本作の有料追加コンテンツ。新たなポケモンや人物が登場する。人物はバージョンによって異なる可能性あり。 2023年9月13日に配信開始の「前編・碧の仮面」、2023年12月14日に配信開始の「後編・藍の円盤」の2つのコンテンツで構成されている。 更に新たな着せ替えアイテム?や新道具も登場する。 エレクトロビーム、サイコノイズ、シャカシャカほう、じんらい、タキオンカッター、ツタこんぼう、はやてがえし、みずあめボムなどの新しい技も加わる。 全18タイプ全ての力を宿していて、他のテラスタイプと大きく異なる性質を持つ19種類目の新しいテラスタイプ「ステラ」の存在が判明。新テラスタイプのアイコンはテラパゴスの甲羅を模したような形をしている。「ステラ」タイプの詳細は公式サイトを参照。 更新データVer.1.2.0以降の適用が必要。 本編と追加コンテンツがセットになったパッケージ版・ダウンロード版も販売されている。 『ゼロの秘宝』の「番外編」が、2024年1月11日(木)23時に配信を開始した。「番外編」では、アカデミーの友達であるペパー・ボタン・ネモとキタカミの里に訪れる。『ゼロの秘宝』「番外編」は『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のエンディング後に遊べるようになるイベントをクリアし、「前編・碧の仮面」「後編・藍の円盤」のメインストーリーをクリアすることで遊ぶことができる。 購入特典 ゲーム内で手に入る着せ替えアイテム「ニューせいふくセット」はる・なつ・あき・ふゆ、の計4点 バージョンによって服の色が一部異なる。 『ゼロの秘宝』購入後、『スカーレット・バイオレット』にてXボタン「メニュー」の右下に表示される「追加コンテンツ」バナーボタンを押して表示される画面にて、着せ替えアイテムを受け取ることができる。 制服セットについては着替え?も参照。 【パッケージ版限定】2023年11月3日(金・祝)発売の『ポケットモンスター スカーレット+ゼロの秘宝』『ポケットモンスター バイオレット+ゼロの秘宝』の購入特典として、「モンスターボール100個」が手に入るシリアルコードが封入される。勿論、上記の制服セットも手に入る。 早期購入特典 『ゼロの秘宝』の早期購入特典として、特別なわざを覚えた「ゾロアーク(ヒスイのすがた)」を受け取ることが出来るシリアルコードがプレゼントされる。シリアルコード受け取り期間:2023年10月31日(火)まで プレゼント期間:2023年2月28日(火)~2024年2月29日(木)23 59 シリアルコードは、購入が確定した画面、およびニンテンドーアカウントの「ショップメニュー>ご利用記録」にて表示される。また、ニンテンドーアカウントに登録したメールアドレス宛にも、同じシリアルコードが書かれたメールが届く。シリアルコードの使用は1回限り。一度使用したシリアルコードを他のセーブデータで使用することはできない。一度プレゼントを受け取ったセーブデータで、同じプレゼントをもう一度受け取ることはできない。 この「ゾロアーク(ヒスイのすがた)」には3つの特徴がある。通常のプレイでは覚えない技「ハッピータイム」に加え、「テラバースト」「うらみつらみ」「わるだくみ」を覚えている テラスタイプがあくタイプである カリスマのあかしがついている ゾロアーク(ヒスイのすがた) レベル テラスタイプ あく 性別 性格 特性 初期技 ハッピータイムテラバーストうらみつらみわるだくみ 持ち物 親名 IDNo. 場所 ボール プレシャスボール リボン ダウンロードカード早期購入特典 対象となる店舗で『ゼロの秘宝』のダウンロードカードを購入すると、それぞれのお店で異なる特典がプレゼントされる。 店舗名 特典 ポケモンセンター/ポケモンセンターオンライン ポケモンセンターオリジナルステッカーシート(B5サイズ)(下記も参照) ゲオ A4クリアファイル2枚セット パッケージ版早期購入特典 対象となる店舗で『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット+ゼロの秘宝』のパッケージ版を購入すると、それぞれのお店で異なる特典がプレゼントされる(特典の画像は下記のリンク先参照)。ポケモンセンターで『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット+ゼロの秘宝』を購入して、早期購入特典を手に入れよう! (公式サイトより) 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット+ゼロの秘宝』のお店ごとにもらえる早期購入特典を紹介! (公式サイトより) 店舗名 特典 アニメイト 【スカーレット購入】アクリルカード(ナンジャモ) 【バイオレット購入】アクリルカード(ペパー) Amazon.co.jp ダイカットステッカーセット エディオン・100満ボルト(ゲーム取扱店) タイプ相性表クリーニングクロス Game TSUTAYA加盟店 クリアファイル 新星堂WonderGOO ミニポーチ セブンネットショッピング オリジナルアクリルキーホルダー ドン・キホーテ/MEGAドン・キホーテ/MEGAドン・キホーテUNY(ゲーム取扱店) マグカップ(ふた付き) ビックカメラグループ ビックカメラオリジナルハンドタオル 古本市場/ふるいち オリジナルA4クリアファイル ポケモンセンターオンライン 「マスコット 御三家」のいずれか1個 +「なかよしリボン風のチャーム」※マスコットは各種類の中から好きな1個を選べる ヨドバシカメラ オリジナルクリアファイル 楽天ブックス オリジナルネックウォーマー 購入するには 【追加コンテンツのみ購入の場合】ニンテンドーeShopかマイニンテンドーストアから直接購入・ダウンロードするか、お店でダウンロードカード・ダウンロード番号を購入し、eShopで番号(16桁の英数字)入力・ダウンロードする方法がある。ダウンロードカードは2023年4月24日(月)以降順次発売予定。 ダウンロードカード・番号を購入し番号を入力した場合、入力後の画面で、『ポケットモンスター スカーレット』向け、『ポケットモンスター バイオレット』向けのどちらを購入するか選び、確定する必要がある。 【本編+追加コンテンツ・パッケージ版の場合】各店舗・通販サイトで予約・購入できる。店舗別の特典もある(上記も参照)。ポケモンセンターオンラインの商品検索結果 【本編+追加コンテンツ・ダウンロード版の場合】ニンテンドーeShopかマイニンテンドーストアから購入し、ダウンロード。詳しくは上の方にある商品詳細のリンク先も参照。 参考リンク:ダウンロードカード/ダウンロード番号購入方法(公式サイトより) ポケモンセンター・ポケモンストア・ポケモンセンターオンラインでの予約・購入について 全国のポケモンセンター・ポケモンストア、ポケモンセンターオンラインで、『ゼロの秘宝』ダウンロードカードを購入すると、特典としてB5サイズの「ポケモンセンターオリジナルステッカーシート」をプレゼント。特典は無くなり次第終了。オンラインでの事前予約期間は、2023年4月17日(月)~2023年4月23日(日)23 59。 ステッカーシートの絵柄は、ゲーム内に登場する広告がモチーフ。 オンラインでの事前予約の場合、他の商品との同時注文は不可。また、ダウンロード番号の有効期間は注文から150日後。支払いは、クレジットカード・コンビニエンスストア決済(前払い)が使える。代引きは不可。※予約期間中は、セブン-イレブンでのコンビニエンスストア決済は利用不可。 発送時期は、2023年4月24日(月)以降順次、の予定。特別な配送用冊子に入れてお届けされる(無くなり次第終了)。 オフィシャルサイトでの詳細↓ポケモンセンターで『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』のダウンロードカードを購入して、特典を手に入れよう! ポケモンセンターオンラインでの商品詳細 攻略について ストーリーの攻略チャートは攻略チャート/碧の仮面、攻略チャート/藍の円盤、攻略チャート/番外編をそれぞれ参照。 これまで公開された情報の概要 2023年2月27日(月) 有料追加コンテンツ「ゼロの秘宝」を公開。 ウネルミナモとテツノイサハを公開。 2023年5月24日(水) 『Pokémon HOME』と連携。 2023年9月13日(水) 『前編・碧の仮面』配信。 カミッチュ、チャデス、ヤバソチャ、イイネイヌ、マシマシラ、キチキギス、オーガポンの情報を公開。 『Pokémon HOME』との連携も明らかになる。 2023年12月14日(木) 『後編・藍の円盤』配信。 ブリジュラス、カミツオロチ、ウガツホムラ、タケルライコ、テツノイワオ、テツノカシラ、テラパゴス、モモワロウの情報を公開。 『Pokémon HOME』との連携も明らかになる。 2024年1月11日(木) 『番外編』配信。 ふしぎなおくりものにて、アイテム「まぼろしモモン」配信開始。 2024年1月15日(月) 幻のポケモンモモワロウの情報を公開。 2024年1月25日(木) 19番目のテラスタイプ「ステラ」、「後編・藍の円盤」に登場するポケモンたち、テラパゴスの3つ目の姿、オーガポンの素顔公式イラストなどを公開。 関連項目 はじめに 一覧 よくある質問/購入前 よくある質問/ゲーム攻略 概要 ゼロの秘宝 雑談ページ Wiki運営関連
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/962.html
「勇者王ガオガイガー」の超竜神(氷竜、炎竜)が召喚される話 ゼロの双竜-prologue ゼロの双竜-01 ゼロの双竜-02
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2149.html
声のする方向に視線を向けたが、なにやら揉めている。 アニエスがコルベールに剣を突き付けているようで、中々の修羅場のようだ。 「さっきから何やってやがる。内輪揉めとか本気で勘弁しろよ。メンドクセぇ」 負傷や戦闘の疲れでかなりダルい。 最悪二人ともブン殴って終わらすかと思って近づいたのだが、どうも事はそう単純ではないらしい。 「貴様…何故わたしを助けようとした! あの時、女、子供も容赦なく焼き殺したお前が!今、わたしを助けるぐらいなら何故あの時故郷を焼いた!!」 アニエスのその言葉を聞いて思い当たる事はある。 リッシュモンはあの時殺ったが、あれは命令を出しただけだ。パッショーネで言うならボスの立場か。 当然、実行者。これもパッショーネに例えるなら暗殺チームが居るはずなのだが、それがコルベールか。と判断した。 「命令だった……」 「命令?リッシュモンのか!」 「そうだ。……疫病が発生し、焼かねば被害が広がると告げられた。仕方なく焼いた」 そんな二人のやり取りを聞いてプロシュートの眉が少し上がった。 どうも今の言い様が気に食わないのだが、とりあえずもう少し聞いてみる事にした。 「バカな…それはリッシュモンがでっちあげた嘘だ……!」 「……ああ、後になってわたしも知った。新教徒狩りと知り毎日罪の意識に苛まれた。メンヌヴィルの言ったとおりの事をわたしはやった」 「それで……それで軍を辞めたのか」 「そうだ…二度と炎を破壊の為に使わないと誓った」 「そんな事で…貴様が手にかけた人が…帰ってくると思っているのか?故郷と家族の仇討たせてもらうッ!」 アニエスが剣をコルベールの首に突き付けたが、それでもコルベールは動こうとはしない。 それを見てもプロシュートとしては止める理由も特には無い。 自身が恨みを買う立場だっただけに、復讐者に対しては 『殺れるもんなら殺ってみやがれ。ただし、死ぬ覚悟はしておけ』 である為に、抵抗する気が無いならそりゃあそいつの勝手だ。 という事で今の所邪魔する気は無いのだが、そうもいかないキュルケが割り込んできている。 「お願い、止めて!確かにコルベール先生はあなたの仇かもしれないけど 今はあなたを助けようとしてくれたじゃない。それでも斬るっていうの?」 確かにあの時グレイトフル・デッドが割り込まなければ間違いなくコルベールは死んでいた。 そのせいか、アニエスの目に迷いが出始める。 「ぐ…ッ!だが…二十年前にわたしの故郷を焼いた事には変わりはない…ッ!こいつが…いくら後悔していようとだ」 そうは言うがかなり迷っているようで、切っ先が上がったり下がったりしている。 昔の仇と今の恩。どちらも天秤にかけるには重いが、それでも僅かに仇の方に傾いたようで剣を振り上げた。 と、そこにプレッシャーを撒き散らしながら、プロシュートが三人に近付く。 「おい」 「何だ!貴様も邪魔するつも…り」 アニエスが見た物は、問答無用で構えられている握り拳が飛んで来る様。 反射的に防御姿勢を取ったが、それはアニエスを捕らえる事なく……コルベールに突き刺さった。 「なな…何を…」 相変わらずの突拍子の無い行動を目にしたキュルケがどういう事態か理解できずに聞いてきたが 殴った方は、それを無視してコルベールの胸倉を掴んだ。 「さっきから黙って聞いてりゃ、何ふざけた事言ってやがるてめー…」 「な…わたしは何も…」 まだ何か言う前にもう一発追加で拳が入る。 「まだ分かんねーのか。さっき言ったな?仕方なくってよ。 仕方なく?仕方なくだと?ナメんのも大概にしやがれ。知らなかったってのは良い… 組織に属している以上、命令はあるからな…別にその事じゃあねぇ。 だがッ!『罪の意識に苛まれた』だと?それじゃあ仮に疫病が発生してたってんなら仕方ないって事で済ませれる。そういう事だよな?おい」 暗殺チームの立場からすれば、『疫病』も『新教徒』も違いは無い。 殺るか、そうでないか。のどちらかでしかない。 結果は問題とはしていない。むしろ、その過程にある物が気に入らないのだ。 疫病だろうが、新教徒狩りだろうが、ダングルテールを滅ぼしたという結果に変わりは無い。 だが、こいつは疫病だったから仕方なく焼き、そして新教徒狩りと分かれば後悔したなどと言った。 暗殺任務において、『仕方なく』やった仕事などは一切無いだけに、余計に気に入らない。 「自分がしでかした事から逃げたんだよ…オメーは。 請け負った仕事が偽物だったんなら、その時命令を出したヤツを殺るならすりゃあいいじゃあねーか。 それもしないで、何が仕方なくだ。なぁにが罪の意識だ。大体オメー隊長だったんだろうが。部下はどうすんだよ。 オレ達チームの他のヤツならッ!組織に裏切られとしても逃げたりはしねぇ!例え途中で仲間が何人死のうとも決してなッ!」 だからこそ、ホルマジオも、イルーゾォも、ペッシも、メローネも、ギアッチョも、リゾットも戦い死んでいった。 ボスがジョルノに倒されてさえいなければ、今頃は、イタリアで墓の下か潜伏生活というところだろう。 「それでも分からないってんのなら……」 言葉の温度が一層低くなり、次の言葉にキュルケとアニエスが凍りついた。 「……いっその事、ここで死ね。なに、オレに殺られるのも、そいつに殺られるのも大して違いはねぇ。この際だ、オレがブッ殺しといてやる」 絶対零度。さっきコルベールが発した、触れば火傷し燃え尽きるような感じとは全く違う雰囲気。 暗殺という汚れ仕事に従事し、対象が誰であろうと躊躇しないという全てを凍らす冷徹極まりない声。 コルベールもそういう物を持っていたかもしれないが、プロシュートから言わせれば、まだ甘い。 言うなれば、専門職と兼職の違いか。この場において、その差がハッキリと出た。 スタンド使い以外には見えない力がそ右腕より発せられ、コルベールの首筋を掴みその跡を出現させる。 こうなれば、一瞬で終わる。直ならば、人一人老死させる事など容易い事だ。 が、不意にスタンドを解除しコルベールを離した。 「…それをオレに向けるって事がどういう事か分かってやってるんだろうな?」 明確に向けられている敵意。後ろを見なくても誰が何をしようとしているかぐらいは分かる。 「分かってる、でも!そんな事は絶対に許さない…!」 何時に無く真剣な顔のキュルケが、すぐ後ろで杖をこちらに向けている。 「先に言うが…スデにグレイトフル・デッドはオメーの真正面だ。それでもか?」 キュルケがその問いには答えず、呪文を唱え始める。 「馬鹿が……ッ!」 先にもあったが、敵対するつもりなら一切の容赦はしない。 だが、掴もうとした時、下のコルベールが静かに口を開いた。 「わたしの教え子には、手を出さないでくれ」 「そうしたいんだが、向こうがそうさせてくれねぇ」 「もういいミス・ツェルプストー。わたしはそれだけの事をやったんだ。その報いだよこれは」 「嫌です!あんなに小ばかにしていたあたしをミスタは守ってくれたでしょ。だから今度はあたしが!」 「…ってこった。悪いがオレは手加減なんっつー器用は事はできねぇからな」 一触即発。誰かが少しでも動けばケリが付く。 キュルケが杖を動かすと同時にプロシュートがスタンドを向け、コルベールが止めようと声を出そうとした時 風が吹き、キュルケを吹き飛ばす。コルベールとプロシュートには直接当たらないようにだ。 これだけの風を精密に使いこなすのは、この場所においては一人しか居ない。 「タバサ…あなたどうして……」 倒れたキュルケが顔を上げると、杖を持ったタバサが顔を横に振る。 「駄目」 その一言。それだけの行為だった。 なんとか杖を拾い、再び二人の方へ視線を向けると、またしてもコルベールの首筋を見えない手が掴んでいた。 「君に言っても仕方ないかもしれないが、最期に一つ言わせてくれ。 これ以上、殺し合いに慣れるな。死に慣れるな。わたしのようにならないでくれ」 「…お前それは冗談のつもりか?オレみたいなヤツに言う事じゃあねーぞ」 「まぁいいさ。君たちの世界を見てみたかったんだがな…」 そう言ってコルベールが目を閉じると同時に、見事に重なる二つの声。 「やめてぇぇぇ」 「やめろぉぉぉ」 キュルケと今まで黙っていたアニエスが同時に叫んだが、もう遅い。 何時もと変わらない声のプロシュートが一言だけ言った。 「アリーヴェデルチ(さよならだ)」 スタンドパワー全開。 その瞬間、コルベールの身体に無数のシワが刻まれ朽ち果てていき、その場に崩れ落ち 近寄ったタバサがコルベールの手を取ると雪風の二つ名と同じような冷たい声で告げる。 「死んだ」 炎蛇のコルベール――死亡 ようやく日の光が出てきたが、その場で声を出す者は一人も居ない。 広場にコルベールが枯れ木のように朽ち果て倒れているのだから当然だ。 そんな重苦しい中、何かに気付いたアニエスがやっと口を開いた。 「お前が…貴様が、あのグラモン元帥の子息を決闘で討ち滅ぼしたという悪魔憑きか…」 「よく知ってんじゃあねぇか。ま…確かにこいつは…悪魔かもしれないが」 人によっては悪霊とも言うだろうが、中には己に害をもたらすスタンドも珍しくないだけに、ある意味間違ってはいない。 「何故だ…何故殺した!」 「あ?オメーの手間省いてやったんだろうが。感謝しろよ」 「違う!二十年だ!二十年をもこの日を待っていた…それを貴様が!」 「そうか?ならどうしてあの時すぐに殺らなかったんだよ」 殺ろうと思えば、あの場で殺れたはずだ。 その事を指摘されアニエスが戸惑う。 「それは……仇とはいえ、わたしの身代わりになろうしたからだ……!」 「ハッ!そんな半端な気で殺ろうとすんじゃあねぇ。迷いながら殺るなんぞ、まだ殺らない方がマシだぜ」 心に迷いがあるという事は、その覚悟が出来ていないという事だ。 つまり、今のアニエスにコルベールを殺す資格などは無い。 「なら、どうすれば良かった…どうすれば…!」 「知るか。そのぐらい自分で考えろ。オレとあのハゲからの宿題だ。次、会う時までぐらいには答え見つけとけよ」 「…クソ。負傷者の手当てを…悪いがしばらく一人にしてくれ…」 近くに居た銃士にそう告げると、力無くアニエスが歩き出し、その姿を消した。 他の銃士の姿も見えなくなると、息を吐く。 「ったく…どいつもこいつも…」 今にして思うと、チームのヤツらが懐かしく思える。 よくもまぁ、ああも似た連中が集まった…いや、似た連中だから暗殺チームになったのかと思っていると コルベールの上に覆い重なるようにして、キュルケが泣いていた。 「どうしてこんな……」 どうしてこうなったのか全く以って理解できない。 コルベールを殺ろしたプロシュートも、死を受け入れたコルベールも、そしてあの時邪魔したタバサの事も。 パシ! それもこれも、自分のせいだ。自分が不用意な行動を取らなければ、もう少しマシな結果になったかもしれない。 そう思うと余計に泣けてきた。 ピシ ふとコルベールの指に嵌った燃えるようなルビーを見つけると、ある決意が浮かび上がる。 ガシ 何時もの『微熱』の二つ名を持つ自分ならどうするか。 グッ 決まっている。情熱と破壊という火の本領に基き行動する。 つまり、プロシュートへの攻撃の再開。敵わなくても一矢報いたいという想いで顔を上げたのだが… グッ もの凄い無表情でプロシュートとタバサが手を合わせていた。 「で、何時からだよ」 傍から聞くと何のこっちゃ分からないだろうが、意訳すると「何時からオレに気付いた」という事だ。 「夜の街道」 「マジか?あの暗さだぞ」 「シルフィードを甘く見ない」 ウェールズを追った時の夜。つまり、大分前から知っていたという事にはさすがに驚きを隠せない。 「それでよくオレの事他のヤツに言わなかったな」 「人には事情がある」 「大したタマだよ…オメーも。それにしても、何も言ってないのによく気付いたな。礼を言うぜ」 「普段言わないからすぐ分かった」 コルベールが死んだというのに、一仕事終えたかのような感じでそんな会話をする二人と さっきまでの危険極まりない雰囲気とのギャップに力が抜けかけたが、振り絞るかのようにしてキュルケが叫んだ。 「な、何よ!あなたたち!コルベール先生が死んだっていうのに、よくもそんな風にしていられるわね!」 そのシャウトにキュルケの方を向いた二人だが、揃って『何言ってんの?この人』というような顔をしている。 「タバサもタバサよ!あの時あなたが邪魔したおかげで先生が…!雪風を微熱で溶かしてあげれたかと思ってたけど全然違ってたのね!」 「おい、アレはまさかとは思うが素か?」 「多分そう」 二人揃って呆れ気味だが、この状況で気付ける者が居る方が珍しいだろう。 「大体、揃って手なんか合わせたりして!ミスタが死んだのがそんなに嬉しいの!?見損なったわ!」 いい加減五月蝿いと思ったのか、普通にタバサが一言だけ短く言った。 「死んでない」 「ええそうよ!自分で確認したんでしょうから……って、え?」 「だから死んでない」 ザ・ワールド そんな声と共にキュルケだけの時間が止まる。それでも、何とか理解しようとしたが、まだいま一つ理解できていないようだ。 「……つまり?」 「見れば分かる」 そう言って指差した方向を見ると、さっきまで枯れ木のようだったコルベールが元に戻っている。 さすがに、ここまで生き残った髪の毛は丈夫なようで抜け落ちてはいない。 慌ててコルベールの元に駆け寄り、手首を取ったが温度と脈の動きが確かにある。 「生きてる……」 「報酬も出ねーのに殺るかよ。誰が好き好んでそんな割りに合わねぇ事するか」 それこそはき捨てるかのように言ったが、今度はキュルケに疑問が浮かんできた。 「で、でもあの時死んだって言ったじゃない!それにあの雰囲気…!」 確かに、恐ろしいまでの冷徹な殺意がキュルケとコルベールを襲っていたのだから当然だが その問いに答えたのはタバサだ。 「普段言わない事を言った」 その言葉を聞いてさっきの事を思い出す。この男が普段絶対言わないような事。 必死になって記憶を探ると、一つ引っかかる言葉があった。 『……いっその事、ここで死ね。なに、オレに殺られるのも、そいつに殺られるのも大して違いはねぇ。この際だ、オレがブッ殺しといてやる』 『この際だ、オレがブッ殺しといてやる』 『ブッ殺しといてやる』 「あ……」 「彼は殺すなんて使ったりしない」 「よく分かってるじゃあねーか。マジで何モンだ。それに比べてなんだ!?オメーのあのザマは!?」 本気であれば、そんな事思った時点で行動が終わっている。 どっちか気付くかと思ったのだが、やはり気付いたのはタバサの方だ。 「今までのは演技?だとしたら劇場で主役張れるわね…」 「そうでもない。殴ったのも言った事もありゃ本気だ。ついでに言えば、お前に向けた殺気も本物だぜ」 気が抜けたのか、頭を押さえながらそう聞いてきたが、続いてプロシュートが言った事に動きが止まる。 「……もしもよ?もしも、あのままタバサが止めなかったらどうなってたの?」 腫れ物に触るように恐る恐る聞いてきたが、聞かれた方は当然のように答えた。 「お前がそこに転がってるに決まってるだろ。具体的に言うなら、全身シワだらけになって、無数のシミとかも出来てる。 自慢のスタイルも崩れてるし、場合によっちゃあ歯や髪も抜け落ちてるな。そこまで酷いと解除しても元には戻らないかもしれねぇ。 なにせ、直を叩き込んだ相手の殆どは殺っちまってるからオレも分からん。まだ他に聞きたいか?ああ、そういや背骨とかも…」 「いえ…もう結構よ……」 もう限界。これ以上聞いたら欝になる。至極普通に言っているだけ余計恐ろしい。 そんなわけでまだまだ続きそうな説明を即座に断ると、キュルケが半分泣きながらタバサに抱きついた。 「タバサ~~あなたってばホント良い娘ね。一個どころか、十個ぐらいの貸しよ、これ」 タバサに抱き付き頬ずりまでせんばかりのキュルケだったが、老化を免れたのだからそれも当然というべきか。 「オメー、そんな老化すんのが嫌か」 「当然よ!」 即答というのはまさにこの事。間髪入れずに返してきたが、人の能力全否定されただけに少々ムカつかないでもない。 「まぁいい…それより、そいつどっかに隠せ。あいつに見られたら洒落にもなんねー」 折角面倒な三文芝居までかましたのにバレては洒落にならんとして指示を出したが、どうやらまだ納得がいってないようだ。 「でも、どうしてそんな回りくどい事を?簡単に止められたんじゃ」 「別に、本気で殺るなら止めやしなかったがな。あの場で殴って止めても、そいつが追われる事には変わりねぇ。 だからいっその事、死んだようにして、あいつに時間やって考えさせるしかねぇだろ。どいつもこいつも半端なくせに面倒なヤローばっかだよ」 本当に、ロクに覚悟の意味も理解できてないような連中ばかりだ。 ただ、最近少しだが思うようになった事がある。 今までこそ、似たような連中に囲まれていたため気にも留めていなかったが、本来は自分たちのような連中が圧倒的少数派なのだと。 まぁ、今更進む道を変える事もできないだろうし、変える気も無い。 そうしていると、妙にニヤついた顔でキュルケがこちらを覗き込んでいる。 「……何だ」 「やっぱり、そういうとこ変わってない。普段無愛想なのに、意外な所で面倒見がいいところとかが特に」 何せ、ペッシがミスタに撃たれた時に、老化していたとはいえわざわざ出て行ったという実績がある。 ミスタをおびき寄せるためというのもあったが、あの時はまだブチャラティチームの情報は略歴と顔写真ぐらいしか知らなかった。 もし、ミスタが自分らと同じ、目的の為には一般人をも巻き込むのを躊躇しないタイプなら、かなり危なかったといえる。 それを承知で出て行ったというだけに、返す言葉があまりない。 それでも反論する余地があるのは長年の経験だろうか。 「勘違いすんな。そんな気なんぞ毛頭ねぇ。そのハゲにはまだ利用価値があると思っただけで他は何もねぇ」 「ルイズと一緒のとこあるのねー。やっぱり似た者同士だったってとこかしら」 「どこがだよ…あんなのと一緒にすんな」 「結構似てる」 遂にタバサまで要らん事を言い出してきたので話を変える。というか、本来話している暇など無いのだが。 「オメーまで言うか。マジ勘弁しろ。それより、こいつをどうにかしてくれると有難いんだが」 見せたのは、余波で良い具合に焼けた左腕。こんな状態で普通に話をしていたのだから、相変わらずの精神力といえる。 それこそ、治るのであるのならば、腕や脚の一、二本を自ら切り落とす事ぐらい躊躇はしない。そういう意味ではジョルノのG・エクスペリエンスは反則だ。 「魔法ってのアテにしてなけりゃあ、あんなもんできねぇ芸当だ」 早く治せよ。という感じで腕を出したが、何かこうキュルケが言いにくそうにしている。 「……そうしたいとこなんだけど、戦争で学院の秘薬も徴収されたみたいで残ってないのよ」 「何?……つまり無理って事か?」 「ん~、怪我の程度にもよるけど精神力を削って治すって事もできるわ。でも、ねぇ…」 辺りを見たが、どうやらマジにコルベールを殺ったと思われたようで人が居ない。 「仕方ねぇ…適当なヤツ見つけるしかないようだな」 逃げてー!水のメイジ逃げてー! この目は間違いなく、脅してでも治させるという感じの目だ。 火の系統で良かったと思う反面、これから巻き起こる交渉という名の恐喝を想像して犠牲者の為に目を閉じたが、誰かがこっちに近付いてきた。 よりによって水のラインのモンモランシーである。 「おう、オメー確か水だったな」 「いや、でもちょっと無理なんじゃ…」 能力的にではなく、ギーシュを殺ったという関係的に無理があると判断したが、返ってきた言葉は意外だった。 「腕出して」 「あら…見ない間にそういう関係になってたの?」 「違うわよ。皆と先生を助けてくれた借りは返す。それだけの事!終わったら覚悟しときなさいよ」 「さっきテンパってたヤツはどこのどいつだ。来るのは何時でも構わねぇが、手加減なんぞしないからな」 「……はぁ。なんでこんなのに決闘なんて挑んだのかしら、あの馬鹿。ほら腕」 言われたままに腕を出すと、モンモランシーが呪文を唱え始めた。 一応、また何か盛られたら洒落にもならんので何時でも直に移行できる体制には入っていたが、どうやらそれは無用になりそうだ。 しばらくすると終わったようで、手を動かしてみる。 多少痛みはあるが、動くようになっただけ良好だ。 「いつか絶対……参ったって言わせるんだ……から…覚悟しとき…なさ…い……」 やはり秘薬無しに治癒を使うのは無理があるようで、絶え絶えにそう言うと、モンモランシーが地面に向け倒れた。 「よ…っと。こいつも軽いな…飯食ってんのか?」 地面にぶつかるスレスレの所で力の抜けた身体をキャッチする。 全く、面倒なヤツに目ぇ付けられたもんだ。 「おら、そいつがノビている間にジジイの所行くぜ」 こいつをここに放置したままというのも何なので、どこかに運ぶ事にしたのだが それを見たキュルケが一々要らん事を言ってくる。 戦闘直後なので説教する気にもなれない。こいつも面倒なヤツだ。本当に面倒な連中ばかりだ。だが…… 面倒だという事が大半を占めるが、『この温い雰囲気もそう悪くは無い』という気が自覚しないまでも僅かだが湧き上がっていた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1061.html
ルイズの朝の目覚めは酷く遅かった。 それと言うのも、昨日のホワイトスネイクの『記憶』をDISCとする能力について詳しく聞いていた所為である。 「あー、この時間じゃあ、朝ご飯には間に合わないわね」 「私ハ、何度モ警告ヲ与エタ。ソレヲ無視シタノハ、ルイズ、君ダ」 ベッドで寝覚めたルイズの隣に、ホワイトスネイクは悠然と存在している。 その事実が、ルイズに不思議な安心を与えていた。 絶対なる力が自分の管理下にある、優越感による安心。 それがあんまりにも心地良くて、遅刻しそうなっているはずが、 ルイズの口元は油断すると緩みそうであった。 「っと、いけない。授業にまで遅刻したら流石にマズいわね」 すでにホワイトスネイクによって用意されていた着替えに、袖を通し着替えを始める。 ルイズが着替えている間、ホワイトスネイクは部屋の窓を開け、右手にDISCを一枚創りだす。 その様子を、ルイズは着替えの片手間にちらりと流し見た。 昨日の夜、ホワイトスネイクは自分の能力の他に、自分がどのような存在であるかも語り始めた。 『スタンド』 傍に立つ者と言う意味を持つその単語で表すエネルギー体であると言う言葉に、最初は半信半疑であったルイズだが、ホワイトスネイクが自分の考えたままの行動をし始めてから、『スタンド』の存在を信じるようになっていた。 自分自身の命令で動く使い魔。 しかも、その命令の伝達スピードは凄まじく、まるで自分の身体のようだとルイズは思った。 まぁ、真実、自分の身体な訳だったのだが。 ともあれ、ホワイトスネイクはどんな命令であれ従うし、能力的にもルイズに不満は無い。 まさに、彼女にとってホワイトスネイクは完璧な使い魔であった。 「さてと……そろそろ行くわよ」 着替えを終え、杖を右手に持つと扉には向かわず窓際へ向かう。 窓の外は晴々とした天気で、そろそろ授業の始業時間であることを告げていたので、ルイズは溜め息を吐き、少し急ぐことにした。 「ホワイトスネイク」 「可能ダ」 考えている事を察した自分の使い魔に、頬が緩みそうになったが、それに耐え、凛とした表情でルイズは窓からその身を投げ出した。 それに従うように、ホワイトスネイクも落ちていく。 堕落の中、ホワイトスネイクがルイズの身体を左腕でルイズを抱え、右手でDISCを寮の外壁に押し付ける。簡単なブレーキと言うやつだ。 部屋の窓から身を投げて、僅かに三秒弱。 十分に減速した速度で着地したホワイトスネイクの腕の中で、ルイズは満足げに呟く。 「まぁまぁね」 それは、素直ではないルイズの最上級の褒め言葉であるが、ホワイトスネイクに褒められて嬉しいと言う感情は存在しない。 「ほら、次は教室まで急ぎなさい」 抱えていたルイズを今度は背中におんぶして、ホワイトスネイクは草原を走り出した。 「良かった……ギリギリ間に合った……」 朝食は食べ損ねたが、なんとか授業には間に合うことが出来た。 ルイズは、小さな胸をほっと撫で下ろし、適当な椅子に腰掛けた。 ホワイトスネイクはと言うと、教室前でルイズを降ろした為、彼女の後ろに立ったままだ。 「………………」 「………………」 沈黙が重たい。 急いでいた為、ルイズは気が付かなかったが、ルイズとホワイトスネイクが教室に入ってきた瞬間、今まで雑談をしていた生徒達が一斉に喋るのを止めたのだ。 彼らは皆、昨日のマリコルヌがミンチ寸前にまでされるのを見ていた。 ―――目を付けられたらどうなるか分かったものじゃない。 教室に居た生徒の大多数はそういう思考であった。 無論、大多数と言うことは、そうは思っていない者も勿論居る訳で…… 「おはよう、ルイズ」 情熱で着色したように赤い髪に、それを一層引き立たせる褐色の肌と豊満な胸を合わせもった女生徒の挨拶に、ルイズは満面の笑みで返事をした 「おはよう、キュルケ」 その微笑みに、キュルケは違和感を覚えた。 家柄同士、憎みあう仇敵である自分に微笑むこともそうであるが、それ以上に、今朝のルイズは昨日までとは何かが違った。 「なあに、今日の貴方、ずいぶんご機嫌じゃない」 「そうかしら?」 「そうよ。そんなに使い魔がきちんと召喚できたのが嬉しかったの?」 「別に、使い魔が召喚出来たのが嬉しかった訳じゃないわよ」 これは嘘。ルイズは使い魔が出てきた事に心底喜んでいた。 最も、ホワイトスネイクの能力を知った今となっては、使い魔を召喚した喜びではなく、ホワイトスネイクを召喚した喜びに摩り替わっているが。 キュルケは、そんなルイズの嘘を簡単に見抜いていた。 伊達に一年間、家の因縁とか理由を付けてストーキングをしていた訳ではない。 ルイズの陳腐な嘘など、キュルケには丸分かりなのだ。 あんな亜人でこんなに喜んでいるなら、自分の使い魔を見せたらどんな顔をするのかしら? そんな思考が、キュルケの頭を過ぎり、すぐに自分の使い魔を呼ぶ。 無論、自慢する為にだ。 「そうなの……あ、そうそう、紹介するわ。私のフレイム。 どう、この尻尾。ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ」 「ふ~ん」 大して興味の無さそうに返事するルイズに、キュルケは眉を顰めた。 予定ならばここで苦々しげな顔をして、羨ましくなんか無いと言うオーラ全開の、意地っ張ルイズを見ることが出来たのだが、ルイズはこちらに全然興味を持っていない。 「羨ましくないの?」 思わず、キュルケはそう聞き返してしまった。 ルイズの召喚した亜人なんかより、こちらの方が絶対に良い使い魔なのに。 その思考から出された言葉に、ルイズは何を言っているんだ、こいつは? と言う視線をキュルケに返す。 「なんで、私が羨ましがらないといけないのよ?」 自尊心からではなく、本当に、ルイズは不思議そうに聞き返してくる。 それにキュルケは、ホワイトスネイクに視線を向けた。 どうやら、この使い魔。見た目以上にルイズの心を掴む何かがあったらしい。 その何かが、自分のフレイムよりも優れていて、その所為でルイズが羨ましがらない。 知りたい。 ルイズが、自分の使い魔をサラマンダーよりも上位に置いているその理由を知りたいと思い、 ルイズに訊ねようとした時、丁度良く扉が開き、担当の先生が教室に入ってきた。 仕方なく、追求の手を中断するしかないことにキュルケは不満だったが、 昼食の時に聞けば良いかと、席へと戻った。 ルイズは、勤勉な生徒だ。 自身の属性が分からない為、どの属性の授業もきちんと聞き、授業態度も非常に良い。 それなのに、今日のルイズは何時もと違った。 ホワイトスネイク。彼が居る為であった。 (ちょっと! あんたの方も気合入れなさいよ!) (無茶ヲ言ウナ。本来デアルナラバ、私ノ視覚ヲ本体ガ感ジル事ハ、意図モ簡単ニ出来ル事ノハズナノダゾ) (何よ、それって私が駄目な奴って言ってるの!?) (違ウ。昨日モ、言ッタガ、『認識』ガ足リナイ。モット、当然ト、出来テ当タリ前ト思ウノダ) 昨日の夜は、一瞬しか出来なかった。視聴覚への同調。 授業時間を使って、その練習をしているルイズであったが、ぶっちゃけ、うんうんと唸って五月蝿い。 「ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが、そんなルイズの態度に気付き、注意をしようと声を掛けたが、ルイズは気が付かない。 「ミス・ヴァリエール!!」 もう一度、今度は大きな声を出し名前を呼ぶと、ルイズはビクッと跳ねて立ち上がった。 教室中の視線が自分に集まっている事に気付き、顔を真っ赤にして座るが、シュヴルーズは、そんなルイズに前に出てくるように告げた。 「貴方が努力家であると言う事は、他の先生に聞いています。 さぁ、この石を貴方の錬金したい金属に変えてごらんなさい」 他の生徒からは止めた方が良いと野次が飛ぶが、それは、ルイズの負けん気を刺激するスパイスにしかならない。 (あんな凄い使い魔が召喚出来たのよ! 錬金なんて目じゃないわ!!) そう、なんと言っても自分の使い魔は『心』を操り『記憶』をDISCに変える使い魔。 そんな使い魔を召喚した私が、錬金程度できなくてどうする!! 心から成功を確信し、杖を振り下ろすルイズ。 結果は、全てを薙ぎ払う爆発であった。 散らかった机の破片や爆発により砕けた硝子をホワイトスネイクは器用に片付けていく。 その様子を、ルイズは椅子に座って、ぼ~と見ている。 きちんとした使い魔は召喚できた。 召喚できたのに、何故、自分の魔法は一向に成功しないのか。 ルイズは、本当に疑問に思っていた。 自分はゼロなのか? No 何故なら、自分は使い魔を召喚している。 しかも、あんなに素晴らしい力を持っている者を。 では、何故失敗するのか。 ……それはきっと……自分が悪いから? 「ソレハ違ウ」 掃除をしていたはずのホワイトスネイクが何時の間にかルイズのすぐ傍にまで接近していた。 ルイズは、掃除していない事に怒るよりも、ホワイトスネイクの言葉が耳にこびりついて離れない。 「違うって……何が違うのよ」 「ルイズ、君ガ悪イカラ、他ノ連中ノヨウナ事ガデキナイノデハナイ。 君ハ、ソウイウ役割ナノダ。兵士ニ兵士ノ役割ガアルヨウニナ」 「何よ……それって、魔法が使えないのが、私の役割だって言うの…… ふざけないで!! そんな、そんな訳無い!! 魔法が使えないのが私の役割な訳無い!!」 ルイズの怒声に、ホワイトスネイクは何も言わなかった。 世の中には、自分が役割を演じていることすら知らずに居る人間が過半数だ。 別に、彼は自分の本体に、その少数になれとは言わない。 ただ、本体が自分の役割に満足していないのであれば、その欲求を満たすのもスタンドである自分の役目。 「自分ノ役割ガ不満デ、アルナラバ、ソノ場合、話ハ簡単ダ。 欲シイ役割ヲ他人カラ奪エバイイ」 「……奪う?」 随分と物騒な単語にルイズは思わず聞き返す。 役割を奪う……一体、どういうこと? 「生物トハ『記憶』ノ集合体ダ。誰モ彼モガ、ソレヲ知ッテイナガラ『認識』シテイナイ。 マァ、ソンナコトハ、ドウデモイイ話ナノダガナ。 重要ナノハ、先モ言ッタヨウニ、生物ガ『記憶』ノ集合体デアルトコロダ。 ドンナ些細ナ事デモイイ。例エバ、トイレデ、ケツヲ拭ク時ニハ、ミシン目デ紙ヲ切ルトカ、ソンナ些細ナ事モ『記憶』ガアルカラ出来ル事ダ。 ココデ、ルイズ。君ニ質問ダ。 素晴ラシイ料理人ガ居タトシヨウ。彼ノ作ル料理ハ人々ノ舌ヲ満足サセル。 モシモ、ソノ料理人カラ、人々ヲ満足サセル料理ヲ作レル『記憶』ヲ抜イタラ、ドウナルト思ウ?」 「そんなの、作れなくなるに決まってるじゃない」 幾ら腕の良い料理人もレシピも無しには料理は作れない。 同様に、その美味しい料理を作れると言う事実を忘れているのならば、美味い料理なんて作れるはずがない。 ルイズの返答に、ホワイトスネイクは、勉強を教えた子供が、初めて自力で問題を解いた時のように満足げに頷き、そこから、さらにもう一つの問いを口にした。 「デハ、ソノ『記憶』ヲ何モ知ラナイ、何モ作レナイ人間ニ与エレバドウナル?」 先程の問題を飛躍させたものだが、簡単過ぎる問題だ。 記憶が無くなれば作れない。 ならば、記憶があれば作れるようになるに決まってるじゃないか。 「そりゃあ、美味しい料理が作れるように――――――」 答えを形にしている最中、ルイズは止まった。 1秒・・・2秒・・・3秒・・・4秒・・・5秒 きっかりと静止時間5秒を体感した後、錆びた歯車のように不自然に口が動き始める。 「まさか……うぅん、でも、そんなことって……」 うわ言のように漏れる言葉。 それは、否定できないモノを否定する言葉であり、ホワイトスネイクが告げた事が、ルイズにとって、どれだけショッキングなのか、端的に表していた。 そんなルイズの耳元へ囁くように、ホワイトスネイクは優しく語り掛ける。 「君ガ『魔法』トイウモノニ拘ッテイルノハ知ッテイル。 ドレダケ君ガ辛イカモナ。何セ、私ハ君ナンダカラナ。 ナア、ルイズ。トテモ簡単ナ事ナンダ。 君ガ、一言、私ニ命ジテクレレバ、スグニデモ、君ハ新シイ役割ガ手ニ入ル」 その囁きは悪魔の囁き。 だが、ルイズにとっては天使の福音に其の物。 目の前に渇望してやまない物を出され、それを断れる人間など、どれ程居るのだろうか。 少なくとも、ルイズはそれを断れる人間では無かった。 キュルケが、アルヴィーズの食堂で頑張って鶏肉を頬張っているルイズを見つけたのは、昼食の時間が始まってから半分程した頃だった。 パクパクと、小さな口に鶏肉を一杯に頬張っているその様子がリスのようで、下品と言うように感じないのは、ルイズの容姿の所為であろう。 ともあれ、キュルケはルイズに近づこうと足を動かし―――その場で止まった。 なんというか……血走っている。 何がと言うと、ルイズの目がである。 獲物を狙う狩猟者のように鋭い目付きで、鶏肉をがっつきながら、辺りを見回している。 そんな彼女の後ろには、ホワイトスネイクが教室の時と同じように、威圧感を撒き散らしながら存在していた。 声を掛けるのも、近づくのも躊躇われる。 そんな雰囲気を身に纏うルイズに、キュルケは首を軽く振って近づいていった。 「今朝の爆発は、また一段と凄かったわねぇ」 フランクにからかいの言葉を掛けると、ルイズは食べていた鶏肉を皿に置き、口元を拭いながら立ち上がり、自分よりも背の高いキュルケを睨み上げた。 「何、なにか反論でもあるの?」 「――――――ッ!」 反論したくても、反論できない。 何せ爆発したのは事実なのだ。幾ら言葉を用いた所で、その事実を変えることは出来ない。 苦々しげにルイズは、椅子に座り食べ掛けの鶏肉へと手を伸ばす。 キュルケは、その様子に安堵していた。 やはり、ルイズはこうでないと。 今朝のように、余裕を持った態度ではなく、何時も切羽詰り、怒っていて、それでいて、誰よりも努力を忘れない、そんなキャラクターでないと。 ―――そうじゃないと、可愛くないじゃない まぁ、普通にしている時もお人形みたいで愛らしいんだけどね、と心の中でキュルケは呟く。 ここで、彼女の名誉の為に言っておくが、キュルケは同性愛者ではなく、普通の恋愛を楽しめる、普通な少女(?)である。 ここでの、愛らしいとか、可愛らしいとかは、背伸びして頑張っていくルイズを見るうちに目覚めた、母性本能のようなものだ。 まぁ、からかって、それに対して怒っている表情を見て、可愛いとか思っている時点で、母性本能とは、少しばかり離れている感じもしなくは無いが。 とにかく、ルイズの苦悶の表情は、キュルケの母性を刺激する。 なので、今回も、もうちょっと、その顔を、出来ればもう少し、怒った感じの表情見たいなぁ、のノリで、キュルケは悪ノリして、さらにからかいの言葉を掛けようと口を開くが 彼女は知らなかった。 その一言が、自分とルイズの間に、決定的な溝を作ることを。 「まぁ、これ以上責めるのも可哀想ね。例え、使い魔を召喚出来たとしても、『ゼロ』なんだからね」 キュルケには罪は無い。 何時もと同じノリで、軽く、飽くまで軽く口から出た言葉は、何時ものようにルイズの堪忍袋の尾を刺激して…… 「ホワイトスネイク!!!」 プッツーーーーーンと、小気味良い音と共にぶち切れたのだった。 それをキュルケが避けられたのは、奇蹟だった。 突然、鼻がむず痒くなり、人前だと言うのに大きなくしゃみをしてしまった。 くしゃみの反動で下がる頭―――その頭の上、僅か数ミリの所をホワイトスネイクの右手が通り過ぎた。 「えっ?」 最初、キュルケは何をされたのか分からなかった。 ただ、目の前、もう掠っても良い所をルイズの使い魔の右手が 恐るべき速さで自分の頭があった場所を薙ぎ払っていた事だけを認識して、あれに当たっていたら、頭なんて簡単にぐしゃぐしゃになるだろうなぁと場違いな事を思い浮かべていた。 「ちっ」 初撃を外した事に対するルイズの舌打ちが耳に届いた時、キュルケはようやく正気に戻った。 懐から杖を抜き、条件反射で魔法を唱えようとしたが、それは遅きに失した行為だった。 「ぐっ!」 杖を手に掴んだ瞬間に、自らの首もホワイトスネイクに掴まれる。 キュルケは自分を見つめるルイズの氷のように冷たい視線と、慈愛を持ち合わせていないようなホワイトスネイクの体温に、この唐突に訪れた事態が、自分の死である事にようやく気が付いた。 「……あっ」 漏れた単音は、一体何を伝えたかったのか。 キュルケ自身も、それは分からなかった。 ゆっくりと流れていく世界。 一秒が一日のような濃密さの死の淵で、キュルケは自分に振り下ろされるホワイトスネイクの左手を見つめ――― 「そこまで」 止まった。 キュルケも、ルイズも、ホワイトスネイクすらも止まった。 先程のルイズの怒声で皆がルイズ達を見ていたが、 誰一人、突然の事態に対応できなかった中で、ここでようやく事態を把握した第三者が出現した。 それに全員の世界が停止したのだ。 そして、その停止した世界を作り出した少女は、無言でルイズの後ろ姿に杖を向けている。 「タ……バサ」 首を掴まれ、呼吸も儘ならないキュルケの声に唐突に現れた少女―――タバサは眉すら動かさず、ルイズに向けた杖を動かさない。 「やり過ぎ」 タバサは、何時ものように自分をからかったキュルケに対する怒りを爆発させたと思って窘めの言葉を簡潔に述べたが、ルイズの身体は動かない。 ただ、静かに、音を立てぬように歯噛みするだけだ。 「ホワイトスネイク!」 怒りも顕わに、ルイズは使い魔の名前を呼ぶと、ホワイトスネイクは一瞬にしてその姿を、この世界から消失させた。 「「!!」」 首を掴まれていたキュルケも、そしてタバサも驚愕に顔色を変える。 ルイズはそんな二人の顔を見て、僅かに気が晴れたのか、 幾分怒りを和らげた表情になっていたが、それでも回りから見れば、十分にプッツンしている表情だ。 その表情のまま、ルイズは皿に残されていた鶏肉を一気に口の中に入れてから、小人の食堂を後にする。 残されたキュルケは、タバサに助けられて立ち上がりながら、言い過ぎた自分の口を恨むしかなかった。 小人の食堂を出たルイズは、暫く無言だったが、食堂から遠ざかるにつれて口の中で何かを呟き始める。 その呟きは、食堂に居た二人の内の、良い所で邪魔をしてくれた蒼い髪をした少女への呪詛の言葉。 「あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女、あの女!!」 なんという所で邪魔をしてくれたのだ。 もう少し、後、もうほんの少しで、あの忌々しいツェルプストーの牛女を永久に黙らせて、ついでに自分の望むモノを得られたと言うのに 「先に私を侮辱したのはキュルケなのよ!! 私は侮辱した事に対する報復をしただけなのに、何故止められなければならないのよ!!」 「少シ、落ツ着クノダ。我ガ本体」 「落ち着ける訳無いでしょう!! ほんの少し、あの幼児体型が邪魔に入るのが遅かったら、今頃、私を『ゼロ』と呼んだあの女を始末していたのに!!」 「……我ガ本体ヨ。コウ、考エルノダ。 アノ女ノ無キ者トスルノハ、マダ時期デハ無カッタ……トナ」 「どういう意味よ?」 足を止め、ホワイトスネイクに疑問を投げ掛けると、昨日の夜のように、ホワイトスネイクの長く分かり難い講義が始まった。 「『運命』トハ、時ヲ戻ソウガ、加速サセヨウガ、決シテ変ワル事ハ無イ。 君ガ、アノ女ヲ殺ス事ガ出来ナカッタノモ、ソウイウ運命ダッタカラダ」 「運命?」 「ソウ、運命ダ。 ルイズ。『ナルヨウニシカナラナイ』トイウ力ニ無理に逆ラオウトスルナ。 逆ラエバ、ヤガテハソノ反動ガ君ヲ襲ウダロウ。 ダガ、逆ニ考エルノダ。運命ニ抗エバ、抗ッタ分ダケノ反動ガ来ルノデアレバ ソノ運命ニ抗ワズ、運命ニ乗ルノダ。 ソウスレバ、キット行為スル道モ開ケルダロウ」 「何よ、それ。つまり、今はまだ、私を侮辱したあの女を生かしておけって事?」 ホワイトスネイクの言葉に、ルイズは若干不満げにそう呟くが、確かに思い当たる節はある。 あの時、確実にキュルケに当たると確信していたホワイトスネイクの右手が、偶然、当たらなかった。 偶然……言い換えれば運命となるその言葉に、どうやらキュルケは守護されていたらしい。 「ソノ通リダ。ルイズ、コレカラノ君ハ、運命ノ流レヲ見極メル事ニ力ヲ入レタ方ガ良イ」 「運命の……流れね」 ルイズは顎に手を当てて熟考する。 運命。 自分の使い魔である、ホワイトスネイクは記憶を操るスタンドだ。 だが、そのホワイトスネイクですら、運命は操れないし、見ることも聞くことも出来ない。 ならば、その運命を気に掛けるのは、使い魔の主である、メイジの役目。 「分かったわよ。これからはその事を心に留めとく事にするわ」 正直な話、運命などルイズにはまったく分からないが、それでも気に掛けとくのと、まったく気にしないのでは、どちらが良いか考えるまでも無い。 「ダガナ……ルイズヨ。一ツダケ言ッテオク事ガ―――」 「おぉい! 聞いたか!? ギーシュの奴が平民とヴェストリの広場で決闘するらしいぞ!?」 「聞いた聞いた、なんでもその平民は、この間、ここに来たばかりの男らしいぞ」 「あぁ、あのデザート配ってた奴か。珍しい黒髪をしてたなぁ……顔も結構可愛かったし……」 最後に一つ。 これだけは伝えなければいけない事柄を伝える前に、ホワイトスネイクの言葉は食堂から出てきたらしい生徒達の話し声に中断を余儀なくされた。 一方、ルイズはホワイトスネイクの言葉の続きよりも、聞こえてきた言葉に聞き耳を立てるのに必死である。 「貴族と平民が決闘だなんて馬鹿じゃないの? まぁいいわ、腹の虫は治まってないし、貴族に楯突いた平民の末路でも見て、気でも晴らしましょう」 まるで何処ぞに散歩に行くような気軽さで、ルイズはヴェストリの広場へと向かうが、ホワイトスネイクはそんなルイズの後を追わずに、その後ろ姿を見ながら中断された言葉の続きを口にする。 「ドンナ運命ダロウト……ドンナ因縁ダロウト……ソイツラハ乗リ越エル。 例エ、腕ガ無クナロウガ、例エ、友ガ死ニ絶エヨウガ、奴ラハ諦メナイ。 アノ『黄金ノ精神』ヲ持ツ者達ハ。 我ガ本体、ルイズヨ。決シテ『黄金ノ精神』ヲ持ツ者ヲ敵ニ回スナ。 奴ラニハ如何ナル能力モ、如何ナル力モ、勝利スル事ハ出来ナイ」 故に……『黄金の精神』を持つ者を見つけたなら、味方にすることを考えろ。 元本体の結末を思い出しながら、ホワイトスネイクは心の中で、そう付け加えるのだった。 第一話 戻る 第三話
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/31.html
「ライブ・ア・ライブ」のオルステッドが召喚される話。 ゼロの魔王-1 ゼロの魔王-2
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6199.html
吸血鬼ハンターDからD 魔界都市ブルースから浪蘭幻十、ドクターメフィスト、姫を召喚 ゼロの魔王伝-01 ゼロの魔王伝-02 ゼロの魔王伝-03 ゼロの魔王伝-04 ゼロの魔王伝-05 ゼロの魔王伝-06 ゼロの魔王伝-07 ゼロの魔王伝-08 ゼロの魔王伝-09a ゼロの魔王伝-09b ゼロの魔王伝-10 ゼロの魔王伝-11 ゼロの魔王伝-12 ゼロの魔王伝-13 ゼロの魔王伝-14 ゼロの魔王伝-15 ゼロの魔王伝-16 ゼロの魔王伝-16b ゼロの魔王伝-17 ゼロの魔王伝-18 ゼロの魔王伝-19 ゼロの魔王伝-20 ゼロの魔王伝-21 ゼロの魔王伝-22 ゼロの魔王伝-23 ゼロの魔王伝-24