約 1,871,801 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2792.html
前ページ次ページ虚無の王 モット伯の邸を守る衛兵、従者、そして一門の貴族達とて、決して、警戒を疎かにしていた訳では無い。 昨今は、“土塊のフーケ”なる盗賊が巷を騒がせている。警備には一層の力を入れていた。 だが、どんなに厳重な警戒態勢にも、必ず穴が有る。 侵入者の行動如何によっては、機能不全を起こす事が有る。 今回は相手が悪かった。 侵入者を指揮するのは空。前“風の王”にして、最も“空の王”に近い、と言われた男だ。 “空の王”の資質の一つである“イーグル・アイ”は庭園の地形から、建物の構造まで全てを見通す。 そこに、空のテロリストとしての知識が加わる時、邸の警備は丸裸となる。 空は単独では無い。足手纏いを引き連れている。それが、警備側に不幸をもたらした。 見慣れぬ血に荒れ狂う素人達に、無音で作戦を遂行させる事は出来ない。本来、殆どの人間に気付かれる事無く、目的を達せる男が、好んで無用な戦いに臨む。 衛士の待機室。 兵士達は固唾を飲んで、武器を構える。扉の向こうから、喊声が近付いて来る。 扉が蹴り開けられる。飛び込んで来た所を包囲、一斉に打ちかかろうとして、衛兵達は唖然とする。 先頭は車椅子。誰もが立っている人間を想定していた。一瞬、目標を見失う。対応が遅れる。 その一瞬で、空は壁走り〈ウォール・ライド〉。後背へと回り込む。 意図的に速度を抑えた動きに目を奪われた時、喊声が耳朶を打つ。 いや、それは喊声では無かった。獣の咆吼だ。 憤怒、恐怖、憎悪、そして血に狂う、オーク鬼の様に歪んだ目をした男達の姿に気付いた時は、もう遅い。 野蛮で原始的な一撃が、忽ち刀槍で武装した兵士達を打ち倒す。 もし、遠い異世界で、過半の国家から身分制度が失われている事を知ったら、彼等は身震いしつつも、納得する事だろう。 警護の兵士達は、文字通り、骨身に叩き込まれたのだ。 平等と言う虚構の信仰により、互いを牽制しつつも結びつく最大派閥。最も理性に乏しく、残忍凶暴なる集団。“平民”の恐ろしさを。 「走れっっ!!」 デルフリンガーを振り翳して、空はマルトー達を叱咤する。放っておいたら相手が死ぬまで――――いや、死んでも――――滅多打ちに打ち続けるだろう。 中世西洋の建築物は多くの場合、廊下が無い。 それは防衛上の要請でもあり、人的な物を含む全ての資産を、来客に誇示する為でも有る。 侵入者が最深部に至る為には、全ての部屋を突破しなければならない。 ハルケギニアでは事情が変わる。 防衛線の要所を構築するのは、魔法を操るメイジだ。その為にも、射線を通す必要が有る。 メイジが直接防衛に当たる場所と、そうで無い場所で構造がガラリと変わる。 また、一つの部屋を突破。次の扉を開く。 最初に見えたのは、クォーレルの束だ。無数の弩が、一斉に殺意を解き放つ。 空は掌を翳す。忽ち生まれた空気の壁が、矢を有らぬ方向へと弾き飛ばす。 長い廊下だった。両脇に扉は見えない。居住の為では無く、防衛の為のスペース。 衛兵に動揺が走る。 なんだ、あの車椅子の男は。何をした?何が起きた? 空が加速。後に控えたメイジが、炎の、風の魔法を解き放つ。だが、超音速の衝撃波さえ見切る男にとっては、矢だろうが、魔法だろうが、止まっている様な物だ。 魔法までもが容易く打ち払われると、衛兵、貴族は今度こそ恐慌に陥った。 まさか、先住――――っ!そんな言葉が漏れた時、車輪が壁を蹴り、空の姿は全員の視界から消える。天井を蹴り、敵陣のど真ん中に“出没”する。 剣光閃々。 血飛沫が散る。錆びた刃が肉を刮ぎ取り、骨を砕く。悲鳴が上がる。 そこに、わっと押し寄せる狂気の怒号――――。 料理人達は血眼で武器を振り回す。時折、凶器の先端が仲間を掠めるが、誰も意に介さない。 杖を失ったメイジが床に這い蹲り、頭を庇う様にして抱えている。その頭を、背を、腰を、スコップの縁が、棍棒が繰り返し打ち据える。 壁に追いつめられた下級貴族は、既に顔の形が分からなくなっている。 救いに入ろうとした兵士は、横合いから大剣の一撃を受ける。 「次やっ!」 敵戦力の沈黙を確認して、空は叫ぶ。返事は無い。 振り向いた時、料理人達は覆面の上からでも判る薄ら笑いで、動けなくなった貴族達を踏み躙っていた。誰もが、血と、貴族に対する歪んだ復讐心に酔っている。 空は舌打ちする。これだから、ド素人は嫌だ。取って返し、その眼前にデルフリンガーを振り下ろす。 白刃と空の眼光が、一瞬、料理人達の濁った思考を停止させた。 「次や――――」 前進を命じようとした時、向こうから扉が開いた。姿を現したメイジの杖には、既に火球が燃えている。 空が飛び出したのと、火球が杖を離れたのは、ほぼ同時だった。眼前で炸裂。背後で悲鳴と絶叫が渦を巻く。 火球を放ったメイジは、即後退。室内の兵力と交代する予定でいたのだろう。だが、空の速度も、火球を無傷で正面突破する事も、彼等の想像を超えていた。 メイジは何が起きたかも判らぬ内に切り倒された。空は突き当たりから、壁を走る。 料理人達は後に続かなかった。空が打ち払った火球の余波を浴びて、パニックに陥っていた。 もし、壁際に隠れていた弩兵が、室内に飛び込んだ竜巻に意識を奪われていなければ、忽ち蜂の巣に変えられた事だろう。 いや、一人、料理人達に杖を向けている者が居た。 見習い騎士と思しき少年は、既に呪文を完成させていて、空の速度に反応出来ていなかった。 目の前で同胞が倒れると、訳も判らず、廊下に向けて氷の矢を放つ。殴り倒され、意識を失ったのは、その直後だ。 室内を綺麗に片付けると、空は廊下に向き直る。 体のあちこちに火傷を負った料理人達は、脚をふらつかせ、座り込み、床に転がり、呻き、泣き喚いている。 「腕!腕!痛い!俺の腕!腕!」 氷の矢を浴びたか、左腕が凍り付いた男も居る。 「止まるなっ!走れっ!」 叱咤するが、料理人達は泣き言を止めない。空は呆れ返って、車輪を返す。 「待ってくれ!我等の風っ!こいつ、腕が!」 「棄ててけっ」 冷然、言い放つと、空は一人先を急ぐ。連中が動く気になるのを待っていたら、包囲されるのがオチだ。 頼みの綱が行ってしまうと、料理人達は弾かれた様に立ち上がる。慌てて後を追う。ここは、恐ろしい貴族の館だ。置いてけぼりは堪らない。 「ま!……待ってくれっ!……待ってっ!」 凍った腕を引き摺る男が、悲鳴混じりで最後に続く。 「走れ!」 一体、何度叱咤された事だろう。料理人達は必死で、車椅子の背中を追いかける。 「走れっ!」 脚がふらつく。目を汗が刺す。心臓が破裂しそうだ。 「走れっっ!」 意識が朦朧とする。武器に体が振り回される。 それでも料理人達は走る。本能的な恐怖に背を押されて走る。落伍したら命は無い。 刃が掠め、魔法の余波に突き倒されつつも、がむしゃらに突き進む。 庭園―――― 門衛達は唖然、屋敷を見つめている。交錯する怒号と喊声。 侵入者?何時?どこから? 上からは、何の指示も無い。 あくまで持ち場を守るべきか、応援に駆けつけるべきか――――迷った時、頭上を何かが過ぎる。 眼前で地響きが弾んだ。 「失礼するっ!」 小さなチャリオットにも似た異形の車体が、一声残して駆け抜けて行く。 車輪を持った奇妙なゴーレムにも、騎手たるメイジにも、見覚えが有った。 急ぎつつも、ギーシュは慎重にワルキューレを操作する。 広い庭園には障害物が多い。侵入者の脚を止め、上から狙い撃つ為だ。 空の様な異能を持たずとも、建物の構造は大まかに判る。伯爵の部屋も判る。 同時期に建築された建物なら構造は似通っているし、この邸は何度か訪れている。 「止まれっ!!」 正面玄関前。 言われるまでも無く、ギーシュは制動に入っていた。石畳を削り、砂を蹴立てながら急停止。 「あっ!……グラモンの御子息!どうされました!?」 「伯爵をお助け申し上げる為に来たのだ。退がってい給え」 震える脚で、ギーシュはステップから降り立つ。 原始的ながらサスを備えるとは言え、青銅の車輪はダイレクトに路面を拾う。強烈な震動は、手にも脚にも痺れを残す。 ギーシュは杖を振るい、ワルキューレを変形させる。部分的に作り替える方が、一から作り直すよりは、若干、精神力の消耗を抑えられる。 トラックレーサー仕様の車椅子にも似た下半身が失われ、ウィールを備えた脚部が現れる。上半身も若干ボリュームを増す。 ワルキューレの胸甲が僅かに開く。何かが飛び出し、衛兵達は目を瞠る。フックが屋根を捉え、青銅のワイヤーが垂れ下がる。 ギーシュはワルキューレの首に腕を回す。ワイヤーを軽くウィンチ。ウィールが地面から僅かに離れる。 後は一瞬だった。ワルキューレが壁を蹴る。浮き上がった体を、ウインチが猛烈な勢いで巻き上げる。 登攀型ワルキューレは、四階の高さを、たった二歩で征服した。 * * * トリステインの平民は通常、サウナ風呂を使う。浴槽に湯を張り、身を沈めるのは、貴族にのみ許された贅沢だ。 まさかその贅沢を、二晩続けて味わう事になるなど、三日前には想像もしなかった。だからと言って、堪能する気分には程遠い。 シエスタは昨晩の出来事を思い出す。 服を乾かしながら、空の残り湯を使った時には、人が来ないか、と気が気で無かった。 湯に浸かっている、と言うより風呂釜に隠れている塩梅だ。 その点、伯爵邸の浴室は豪華だ。 広い広い大理石の浴場に香水の香り。空の風呂釜とは比較にならない。 それでも、不安に身を縮めていた昨夜の方が、余程心地よかったし、安心だった。 頭の中を、先輩メイドが残した言葉がグルグル回っている。 用意してある服に着替えて、伯爵の寝室で待つ様に―――― モット伯は言っていた。お前を単なるメイドとして雇った訳では無い、と。 つまりは、こう言う事だ。 とぷん、と湯に頭までを沈める。 行きたくない―――― そんな考えが脳裏を過ぎる。 このまま、モット伯が待ち草臥れて眠ってしまうまで、こうしている訳にはいかないだろうか。 いかなかった。メイドが戸を激しく叩いて急き立てる。 仮にこのまま頑張っても、伯爵自ら喜々として乗り込んで来るだけだろう。 仕方無く、浴室を出る。 用意された衣服は、意外や意外。極普通のメイド服だった。この屋敷で使われる、露出が大きな物では無い。 若干、魔法学院の物より、生地が安っぽいのは何故だろう。 長湯をし過ぎた。 のぼせて、フラフラとした足取りで指定の部屋に向かう。 重い樫の扉を開くと、天蓋付きの豪奢な寝台が目に止まる。 ああ。この部屋で、愛する人と契りを交わすのであれば、どれだけ素敵な事だろう。 部屋には誰も居ない。 寝台には小さなサイドチェストが付いていて、数冊の本と、邸の主人を象った陶像が立っている。 見ていると、気分が悪くなって来た。 シエスタは出来る限り、寝台から離れた場所で待つ事にする。 と、壁越しに靴音。シエスタは身を小さく強ばらせる。 扉が静かに開く。 “波涛”の二つ名を持つ貴族が、鼻息も荒く登場した時、シエスタは一瞬、卒倒しそうになった。 「シエスタよ」 「は、はい」 「指示した通り、生地が薄く、少し引っ張っただけでも破れてしまうブラウスと、些細な事で伝線してしまうスットキングを、きちんと着用して来たかねっ?」 「は……えっ!……ええっ!?」 言葉に併せて、モット伯爵の渦眉がピクピク動く。渦髭もピクピク動く。どう言う訳か、渦巻く揉み上げまで動く。 シエスタは唖然とした。一瞬、言われた事が理解出来なかった。 何?何?この人?何、あの眉毛!? 「あの~……用意された服を着て来たのですが……」 「うむっ。宜しいっ。いいね。いいね。最高だねっ」 モット伯が歩み寄って来る。ゆっくりと、ゆっくりと。獲物を追い詰めた肉食獣の慎重さだ。 シエスタは身を縮こませる。 「どうした?逃げないのかね。良いのだよ、逃げても。反撃するなと好きになさい」 そうは言われても、足が竦んで動けなかった。 シエスタは顔を背ける。 怖く無い。逃げない。何度、口にした事だろう。 それでも、十数年間――――いや、六千年間かけて刷り込まれた恐怖が、そうそう払拭出来る訳が無い。 「つまらん」 手首が掴まれる。体が独楽の様に回る。 気付いた時、シエスタは寝台の上に倒れ込んでいた。 白い布地が切り裂かれ、寝台の上に舞い散った。 ボリューム感溢れる、柔らかい肉が零れ落ちる。 「いやあっ!」 目に飛び込んで来た“物”に、シエスタは悲鳴を上げた。 モット伯は脱いだら凄かった。自らの衣服を引き裂いた瞬間、突き出した下腹!ズボンから垂れ下がる柔らかい脂肪! シエスタは目眩を覚えた。 ああ、貴族は魔法でエネルギーを消費するでのではなかったのかしら? だから、どんなに食べても太らないのでは? でも、そう言えば、ミスタ・マリコルヌはピザデ――――ぽっちゃりさんだったわね。 「フハハ!いいぞ!いいぞ!泣け!叫べ!」 白い下腹部がたぷたぷと揺れながら躙り寄って来る。 シエスタは後退る。 狭い寝台だ。忽ち、追い詰められ、組み伏せられる。 「っ――――!」 両手首が抑えられる。振り回す脚が空を切る。 声が出ない。恐ろしさのあまりに、歯の根が合わない。 と、モット伯の動きが止まった。喚声が床を伝って聞こえて来た。 胡乱気な顔で、首を巡らせる。 シエスタも動きを止めた。 蛇の様な視線から解放された事で、若干、思考力が戻って来た。 自分は今、モット伯に組み伏せられている。両手首を抑えられ、のし掛かられている。 つまり、 モット伯は杖を手にしていない――――! 脳裏にギーシュの姿が浮かんだ。 空とどう戦うかを相談していた時、ぽろりと零した言葉を思い出した。 そうだ。メイジが魔法の力を行使するには、杖が不可欠。今のモット伯は下腹の突き出た、ただの中年男性でしか無い。 シエスタは必死で身を捩った。小娘の力だ。大の男に抵抗するのは難しい。 だが、相手はただの人間なのだ。メイジではないのだ。助かる可能性は有る筈だ。 「んん?大丈夫、大丈夫。心配は要らない。我が警備隊は優秀だよ。さあ、続けよう。もっと私を楽しませてくれ!」 モット伯の顔が近付いて来る。渦巻く鬚が近付いて来る。突き出た唇が近付いて来る。酒臭い息と、荒い鼻息が近付いて来る。 シエスタは堪らず、目を瞑り、顔を背ける。 鬚が鼻を掠める。吐息を飲み込んでしまい、思わず咳き込む。シエスタは首を左右に捩る。 蛞蝓の気配が、喉元に近付き――――そして遠ざかった。 足音がする。 乱雑な足音だ。 側まで近付いて来ている。部屋のすぐ前。 モット伯は下卑た中年から、一転、歴戦のメイジへと豹変する。 足音で判る。近寄って来るのは、近従の下級貴族では無い。サイドチェストの杖に手を伸ばし、扉へと向き直る 両手が自由になった。シエスタもまた、サイドチェストに手を伸ばす。 扉が開け放たれた。 現れたのは、車椅子の男だ。長さ1.5メイルもの大剣を手にしている。そして、返り血にまみれた、覆面の男達。 邸の主人が侵入者めがけて、完成した呪文を放とうとした、正にその瞬間だ。 主人の姿を象った像が、その米神を直撃した。 モット伯の眼球がぐるん、と回った。水のトライアングルメイジは一転、寝台から転げ落ち、床に頭を打ち付けた。 手にずしり、と重い感触。 シエスタは邸の主人から守ってくれた、主人のブロンズ像を見つめる。 辺りを見回す。確かに在った筈の物が見当たらない。 「シエスタっ!」 誰かが声を挙げた。 「この野郎っっ!」 誰かが叫んだ。 料理人達は倒れ臥すモット伯へと群がり、鈍器を振りかぶる。 「やめいっ!ボケっ!」 それを制したのは空だ。勢い余って振り下ろされた一打を、デルフリンガーで受け止める。 「大事な人質や」 その様を、シエスタは目を丸くして見つめていた。 空が助けに来るのが意外なら、マルトーを始めとする厨房の料理人達が来るのは、更に意外な事だった。 涙が零れた。 返り血にまみれた男達。それだけでは無い。刀創を負った男が居て、折れた腕を力無く垂らしている男が居る。凍傷を負った男が居る。マルトーの額には、はっきりと刃物の跡が見える。全員があちこちに火傷を負っている。 彼等は自分の為に、そこまでしてくれた。 恐ろしい貴族の邸に乗り込んで来てくれた。 それが何より嬉しくもあり、申し訳無くもあった。 「シエスタ、大丈夫か?何もされてないか?」 「俺達だ!助けに来たんだ!もう大丈夫だ!」 料理人達は次々に覆面を取って、素顔を見せる。 シエスタは笑った。泣きながら笑って、礼を言った。 「こらこら!お前等!まだやで!まだ助かってへんで!帰るまでが襲撃や、言うたやろ!」 抱き合い、笑い合う一同をよそに、窓際へ寄った空は、手を叩いて注意を促した。 「さ、撤収や!手順をちいと変えるで!よく聞け!」 空は部屋のカーテンを外させる。 結って、ロープ代わり。廊下側の窓から脱出する。 「そこに抜け道が有る!マルトー!皆を先導し!」 部屋を照らす、魔法のランプを一つ放る。 料理人達が四苦八苦、準備を進めている間に、空は廊下に出ると、窓から下を見下ろす。 どうやら、大丈夫そうだ。 「我等の風!こいつはどうするんだ?」 一人が、モット伯の頭を軽く蹴った。 「ワイに任しとき。話つけとく」 自分は後から合流する。先に行け。 その言葉に、料理人達は素直に従った。“我等の風”がどれ程の力を持っているのかは、戦列を共にしてよく判っている。 料理人達は覆面を着け直すと、脱出にかかる。 部屋には、空とモット伯だけが残された。 「もう、ええぞ」 空は部屋の窓を開けた。 * * * 意識を取り戻したモット伯が最初に目にしたのは、青銅の乙女だった。 膝枕は冷たく、固かった。 体を起こそうとした時、頭部に激痛が走る。 「ああ!伯爵!気付かれたのですね!良かった!本当に良かった!」 安堵の笑顔を見せたのは、破れやすいブラウスに、容易く伝線するストッキングを履いた、巨乳のメイドではなかった。 親友の息子だ。 美少年と言って良い、端正な顔立ちだが、生憎、モット伯にその気は無い。 「ギーシュ君……これは……」 「ああ。僕よりは、青銅製とは言え、乙女の方が宜しいかと思いまして」 「いや、そんな事より、何故、君がここに……」 「ああ!伯爵!本当に申し訳有りません!僕がいけなかったのです!」 不意にギーシュが詫びた。何が何やら、判らなかった。 「我がグラモン家とモット家は常に戦列を共にした間柄。なにより、高雅なる趣味を共にする同志。我が父にとって、伯爵は得難き友であり、畏れながら、私も伯爵を父の様にお慕い申しておりました。 その伯爵と――――ああ!僕はなんと愚かだったのだろう!あんな些細な事で諍いを起こし、身の程知らずにも、手勢を差し向けるなどと!――――」 「あの……ギーシュ君……話が見えないのだが?」 諍い?何の話だ? 自分とギーシュとの間に、いつ、どんな問題が起きた? 手勢?何を言っている? 確かに、不逞の輩が侵入し、遂には自分の寝室にまで踏み入って来たが、そこにグラモン家の家臣など一人も居なかった。 「心から悔いているのです。僕は愚かにも、伯爵の美しい邸を踏み躙り、多くの御家人を傷付けてしまいました。僕ごときが、偉大なる水のトライアングル・メイジ。“波濤”のモット伯爵に叶う筈など無いのに!」 モット伯はピンと来た。 シエスタが居ない。連れ去られた。あの侵入者達は、彼女が目的だったのだ。 ギーシュが主犯、とは考え難い。遣り口が粗雑過ぎるし、何より無謀だ。 だが、彼はシエスタに執心している。彼女を連れ去った者を庇い、この件を容認しろ、と言っている。あのメイドを諦めろ、と言っている。代わって、自分が咎を引き受ける、と……。 なるほど、相手が平民なら、なんとしでも誅殺しなければならないが、貴族とその手勢なら和解の余地は有る。 「ギーシュ君、君は……」 「そうです!全ては僕の罪なのです!――――でも、伯爵はお優しい方。きっと、最後には許して下さる物と信じていますよ」 と、ギーシュは口元を釣り上げて笑った。そこに全ての罪を背負う殊勝さは、微塵も見られなかった。 なんのつもりだ―――― 「!――――」 この時、モット伯爵は気付いた。 杖が無い! モット伯爵は魔法学院時代を思い出していた。倫理の時間だった。 偉大なるオーギュスト三世、幼少の砌の話だ。彼は斧で父王が大切にしていた桜の樹を切り倒してしまった。王子は全てを正直に話し、父王はそれを許した。 父王が何故、王子を許したのか――――教師の問いに、ジュール・ド・モット少年は答えた。 王子が未だ手に斧を持っていたからだと思います――――。 「ギ、ギーシュ君。君は……こんな事をして、どうなるか判っているのかね!」 「勿論、僕は罪を犯し、お許しを乞う身です。その為には、誠意を見せなければなりますまい。伯爵。どうか、これで僕の罪を御容赦願えないでしょうか?」 ギーシュは背中から羅紗の袋を取り出した。紐を解き、そして半分だけ覗いた中身に、モット伯は目を瞠った。 それだけで判った。あれは、長年、自分が夢見て止まなかったツェルプストー家の家宝。召喚されし魔道書ではないか! 「ギギギ、ギーシュ君それは?」 「もし、お許し頂けるなら――――罪深き僕に、僕の罪行に荷担した者に許しを与え、僕の手勢が貴方に与えた、あらゆる人的物的損失に関する賠償・返済を免除して下さるならば――――謝罪と、そして和解、両家のさらなる友好の証として、これを差し上げたいと思います」 モット伯は無言で歩み寄った。夢遊病者の足取りだ。 ギーシュは再び、魔道書を袋に戻す。 「ギ、ギーシュ君!いい、意地悪をしないでくれ給えよ!ささ、もっとだ!もっと見せてくれ!」 「では、お許し頂けるのですね」 「当然だ!始祖にかけて誓うよ!だから、さあ!早く!」 ギーシュは寝台に歩み寄った。側のサイドワゴン。天板下のラックには、ナイトキャップが収められている。 内一本を抜き取る。 「タルブ産ですか。素敵だ。さすが、伯爵。良い趣味をしていらっしゃる」 グラスを二つ。年代物の赤が、ルビーの深みでランプの灯を弾いた。 「さあ、乾杯しましょう伯爵!今夜の不幸な出来事を忘れ、更なる友誼を誓いましょう!始祖ブリミルと、女王陛下と、祖先より受け継いだ名に賭けて!」 * * * 抜け道の先で、空は料理人達と合流した。 長い長いトンネル。空を除いては知らない事だが、ギーシュの使い魔ヴェルダンデが掘った物だ。 恐るべき貴族の牙城を脱したと思うや、料理人達は一斉に膝をつき、へたり込んだ。 誰もが疲労困憊していた。 誰もが浅からぬ傷を負っていた。 だが、その顔は晴れやかな物だった。 「皆さん、本当に有り難うございます」 シエスタが改めて頭を下げる。 いいって事よ。水くさい事言うな――――そう返しながら、料理人達は一様に笑みを浮かべている。 「なあ、“我等の風”」 「シエスタを連れ戻せたら勝ちだ、てあんたは言ってた」 「俺達、本当に勝ったんだよな……」 「貴族に勝ったんだよな」 満面、笑顔を浮かべる料理人達。 一瞬、空は胡乱気な目をした。 正直に足手纏いだったのだが――――まあいい。貴族に依存するばかりで、自助努力と無縁だった連中が、気合いだけは見せたのだ。 採点魔のキリクではないが、及第点として良いだろう。 言いたい事が色々有ったが、結局、それは飲んでおく事にした。 「おうっ……けちょんけちょんやっ」 歓喜の雄叫びが爆ぜた。へたり込んだまま、料理人達は拳を突き上げた。 シエスタは一人一人に礼を言って回る。 「さあ、帰りましょう!」 シエスタが元気良く号令をかけた。 彼らの本分は戦闘では無い。明日には、いつも通りに厨房の仕事が待っている。 空が言う通り、帰るまでが襲撃なのだ。 * * * 翌朝―――― 「なるほどのう……」 ギーシュが説明を終えると、オスマンは重々しく頷いた。 「わしと君の父上は趣味が似ておる」 「知っています」 「つまり、モットはわしらと趣味が似ておる」 「よく判ります」 「注意しておくべきだったのう。相談して貰えれば、最初からこんな事にはならんかったのだが……」 「やはり、御存知有りませんでしたか」 知っていたら、オスマンはなんとしてでも阻止しようとしただろう。 シエスタが勤務中まで“飛翔の靴”を履いているのは、学院長直々の要望と聞いている。 「全部署の事情が、直に伝わる訳では無いからのう。ともあれ、あのメイドの事は安心しなさい。悪い様にはせん」 報告を終えて、学院長室を後にする。 ギーシュは本塔を出た。 今回の件は、本家にも報告しなければならないだろう。 オスマンは口添えしてくれる、と言っていた。モット伯はグラモン家の名を出さない、と言ってくれた。あまり、大事には発展せずに済むとは思うのだが……。 だが、モット伯の家臣には多くの犠牲者が出た。死人も出たかも知れない。彼等からの突き上げが有った時、伯爵はどうするだろう。 彼等が犯人に辿り着き、私的な報復に出るのも考えられない事では無い。その場合、的になるのは後盾の無い料理人達だ。 知った事か、と思う。シエスタは助かった。それでいいではないか。 気付くと、ヴェストリの広場だった。 初めて空と決闘した場所。 その後は、しばしば特訓に利用させて貰った。 芝や壁のあちこちにウィールの跡が付いている。 昨晩、料理人達が退散した後、伯爵の寝室に入った。 抜け道を掘ったのがヴェルダンデなら、衛士を誘導して、シエスタと料理人達の逃亡を幇助したのはギーシュだった。 「ええんか。手柄、全部、マルトー供にくれてやって」 その問いを、ギーシュは首肯した。 昨日、空が言った通り、早目にはっきりさせるべきなのだ。 自分はモンモランシーと付き合っている。自分とシエスタとでは住む世界が違う。 もう、出来るだけ会わない様にしよう。 ギーシュはそう決めた。空との決闘に、協力願うのも止めよう。 「ミスタ・グラモン!」 ギーシュの決意は固い。 だから、背後から声を掛けられた時も、振り向く事はしなかった。 「なんだ、君か」 出来る限り、素っ気無い風を装った。 「昨日は有り難う御座います。ミスタ・グラモン」 「何の話だね?厨房の仲間達に助けられたのだろう?礼を言わなくていいのかい?」 返事は無かった。 ウィールの音が、背後にゆっくりと迫って来た。 「……私、言いましたよね。貴族は怖くない、て」 「ああ」 「でも、駄目ですね。いざ、その時になったら、やっぱり……」 「ああ」 「伯爵に組み敷かれた時、私、怖かったんです。とても怖くて……震えちゃって、声も出なくて……」 「ああ」 「その時、厨房の皆や、空さんが来てくれて……伯爵が杖を取られて……」 「ああ」 「このままじゃ、皆が危ない、て……私、夢中でした。咄嗟に手近な物を掴んで……えいっ、て!……」 「ああ」 「それが、ブロンズ像だったんです。それで、伯爵は気を失われて、私も皆も助かったんです」 「その皆には、よく礼を言うといい」 「……でも、変なんですよね」 「……何が?」 嫌な予感がして、声が上擦りかけた。なんとか誤魔化す。 「私、一人でお部屋に入った時、よく見たんです。そこに“青銅”の像なんて無かったんです」 「み、見落としたのだろう」 「それで、後で見たんですけど、陶像が無くなってたんです」 薄い陶器の像だった。殴られれば痛いだろうが、それだけだ。気絶することなど有り得ない。 「……そ、それは、あれだ。うん。ま、間違いなく、君の気のせいであり、十中八九勘違いだ」 動揺を隠そうとして、思わず多弁になる。直後、更なる動揺がギーシュを襲う。 繊手が、そっと指先に触れた。 「ギーシュ様」 ブロンズ像で頭を殴られたかの様な衝撃だった。 「“青銅”のギーシュ様」 シエスタは“青銅”を必要以上に強調した。 ありがとうございます――――甘い声が耳元で囁いた時、腕が柔らかく弾力の有る感触に包まれた。 「ししし、シエスタ?」 声が震えた。 正に鎧袖一触。二つの魔法兵器が誇る絶大なる威力は、“清童”のギーシュが築いた心の防壁を、忽ちに崩壊させた。 「ああ、あのだねえ……ぼ、僕はだね……その……」 「知っています。ミス・モンモランシでしょう」 「あ、あああ。うん。そうなんだ。だ、だかららら……」 「いいんです」 シエスタは言った。 「いいんです。私は二番目でも……信じて、待ってますから……」 息が止まりそうになった。 「終まいには刺されるで」 空の声が、脳裏に蘇る。 艶の有る黒髪が肩に乗った時、ギーシュは決心した。 そうだ――――遺書を書こう。 * * * 放課後―――― 「どうして先に行っちゃうのよ!」 いつも特訓をしている岩場だ。 空の後姿を見付けると、ルイズは唇を尖らせた。 「ここまで歩いて来るの、大変なんだから」 昨晩もそうだ。キュルケ、タバサ共々、風竜で駆け付けはしたものの、厳戒態勢のモット伯邸には降下も叶わず。 どうした物かと悩んでいる内に、邸から現れたギーシュに告げられたのだ。 万事解決だ。もう、心配はいらない―――― 全く。何をしに行ったのか、判らない。 「自分だけで何もかもやって。あのメイドを連れ戻して、さぞ得意なんでしょうね」 不満のあまりに、そんな嫌味が口を衝いて出そうになった時だ。 空は溜息を付いた。 横からひょい、と覗き込む。憮然とした顔だ。 「……なによ、変な物でも食べたの?黄昏ちゃって」 「ワイかて、気分が悪い時くらい有る」 「何か有ったの?」 「どうもこうも、あるかい」 箝口令を敷いたにも関わらず、マルトー達はすっかり浮かれきっていた。 貴族に勝った。貴族に勝った。 秘密だけど、ここだけの話だけど、と、学院中の平民相手に触れ回る。脚色も鮮やかな彼等の武勇伝は、遠からず街の酒場まで漏れ出す事だろう。 これでは、話を収めてくれたギーシュの骨折りが無に帰しかねない。 「全く、しょーも無い奴らや。貴族のボーズに助けられたんも知らんと、いい気になりおって。あれしきの事で、空飛んだつもりになっとる。ホンマ、救いようが無いわ」 「仕方がないわよ」 散々、悪態を吐く空に、ルイズは微笑した。 「“空”なんて、誰でも手が届く物でしょう」 「あん?」 振り向こうとした時、ルイズの手が、ひょい、と帽子を取り上げた。 「本当、空は近いわ。手を伸ばせば、接吻できるくらいに」 「なら、してみるかい?」 「やーよ」 ルイズは帽子を被って見た。ブカブカだ。 「今のあんたはいや。曇り空は御免だわ」 杖を手に、ルイズは手近な大岩に歩み寄った。大岩と言うよりも、岩山と呼んだ方が的確かも知れない。 表面を撫でると、ざらりとした、重く冷たい手触りが返って来た。 「あんた、よその世界から来たんでしょう?」 「信じてへんのやなかったんか?」 「信じてなかったわよ。信じて無かったけど……」 信じざる得ない気がした。 空はあまりに自由だ。あまりに奔放だ。 恐らく、彼の故郷は、階級が無いにも関わらず、人間が獣の群では無く、人でいられる特異な場所なのだろう。 ハルケギニアには、そんな場所は存在しない。 階級に相応しい生活、相応しい装い、相応しい言動を取らない人間は、貴賤を問わず、誰からも相手にされなくなる。 「……私ね。ずっと、“塔”の中に閉じ込められている様な気持ちだった。窓の無い、真っ暗な“塔”――――」 自分は魔法の才が無い。貴族にも関わらず、魔法が使えない。 役立たずを許しておく程、貴族の社会は寛容では無いし、魔法を使えない貴族を受け容れる程、平民の社会は慈悲深くは無い。 お前は要らない――――世界にそう言われている気がした。 「でもね――――」 ある日、暗く息苦しい“塔”の中に、“風”が吹き込んだ。 風を辿ると、細い光が見えた。ぶ厚い“塔”の壁に、僅かな亀裂――――。 ルイズは呪文の詠唱を始める。 イメージするのは擂り鉢だ。爆発のエネルギーを一点に収束する形だ。 閃光が生じた。 熱を含んだ風が吹き寄せる。ルイズの頭から舞った帽子を、反射的に受け止めた時、空は目を瞠った。 岩山越しに、“空”が見えた。 熱量凡そ3000度。超音速のジェット噴流が巨岩を豆腐の様に刳り抜いていた。 成功に、ルイズは安堵の息を漏らす。 「風穴、空けたわよ。“塔”の天辺まで」 ルイズは自慢気な笑みを浮かべた。誇らし気と言うには、あまりに幼く、子供っぽい笑みだった。 さあ、褒めて!驚いて! 悪戯っぽい鳶色の瞳が、素直にそう言っていた。 「……こいつは、おでれーた」 どこかで聞いた科白だ。 事実、空は素直に驚いていた。こんなに早く、成果が上がるとは思っていなかった。 いや、そもそも成果が上がる事自体、確信していた訳では無かった。 この破壊力――――火の系統など及びもつかない。 なるほど、昨日から妙に機嫌が良かった訳だ。 「んー、実は未だ、10回に1回くらいしか成功しないんだけど……“道”は開けた?」 「上等や!」 帽子を被り直しながら、空は笑う。ルイズに負けず劣らず、邪気の無い笑みだ。 イツキと違い、陰謀の絡まない二番弟子の成長は、純粋に喜ばしい物だった。 「“爆風の道〈ブラスト・ロード〉”て所か?目の前に転がる邪魔な小石、全部吹き飛ばして突き進む、お前だけの“道”や。ぴったりやんか!」 「私だけの“道”て事は、当然、一番の使い手は私なんだから、私が“王”よね、“元”王さま?」 ルイズは得意そうに言った。 「この場合は“爆風の王”かしら?それとも“爆発の王”?“ゼロの王”とか言ったら、酷いんだから」 「えー、“ゼロの王”格好いいやん。まあ……爆発やら、爆風は語呂悪いわ。普通は漢字一文字やけど思いつかんし……“破烈の王”なんてどや?」 「“破烈の王”?……別に悪くないけど、どうして?」 「そら、ルイズはすぐ、癇癪、破裂させよるからな」 「な、なによー。それっ」 ルイズは空の股を抓り上げた。 声に笑みが混じった。顔にも笑顔が残った。指先には、まるで力が入らなかった。 仕方なく、胸に肘鉄砲で勘弁してやる事にする。 まるで効いていない。空はにやにや笑っている。 「それに、未だ“王”は早いわ。“破烈の王”候補、て所か?」 「候補、て。私しか居ないじゃない」 「力不足。元王さまが言うんやから間違いない。もっと精進し」 ルイズは膨れた。 まあ、仕方が無い。他系統のトライアングルやスクウェアと対等に渡り合えない現状、“王”はあまりにおこがましいだろう。 だが、方向性は見えた。 何をしていいのかも判らなかったり、本当にこれで良いのかと悩んでいた時期とはもう違う。ずっと気が楽になった。 “塔”から飛び出す事は出来なくても、確かに陽は差した。“空”は見えたのだ。 「そや、ルイズ!滝や!滝見付けたんや!ほな、行くで!特訓や、特訓!特訓特訓クソクソクソら特訓やっっ!」 「何させる気よ」 ルイズは車椅子の握りに手を伸ばす。 春を迎え、陽は一日一日と長くなっていた。 ゆっくりと車椅子を押していると、爽やかな風が頬を撫でて行った。 頭上を仰ぐ。 雲一つ無い空に、ルイズは頬を綻ばせる。 「本当に、気持ちのいい空――――」 ――――To be continued ? 前ページ次ページ虚無の王
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1790.html
猫の姿なぞ見えないのに猫の鳴声がするだのでプチ幽霊騒ぎが起こっているが、正体はもちろん猫草である。 その猫草がヴァリエール家に住み着いてから約二ヶ月。 「…マジか?」 「ええ、明日の夜ぐらいに着くって姉様がフクロウで」 「ウニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」 ボールを転がして遊んでいる猫草の鳴声を背景に出た言葉が『マジか?』である。 覚悟はしていたが遂に来た。元ギャングをしてこれほどの反応を示す物。 つまり、遂にルイズがここに帰ってくるという事だ。 無駄に広い領地なので老化もあるし、まぁ大丈夫だとは思うが一応警戒態勢に入らねばならない。 「ニャギ!フギャ!ニャン!ニャ!」 「ルセーぞ」 何かヒートアップしてきた猫草の上に布を被せる。 しばらくもがいていたが、寝たようだ。自由奔放もいいとこである。 草だが猫。猫だが草。奇妙という言葉が最も似合う生物。 そして、その奇妙な生物を見て一発で猫だとのたまったカトレアのド天然さも。 ある意味似た者同士かもしれない。違うのは健康の問題ぐらいか。 この後、カトレアが先発して旅籠まで出迎えに行った。もちろん、動物満載の馬車で。 なお、猫草は居残りである。こいつ、猫だけあって人の好き嫌いが結構激しい。 多分、エレオノールあたりを見れば空気弾を撃ちこみかねない。 布の下でゴロゴロ音を出して爆睡している猫草の顎の下を触る。 紛れもない植物の感触に僅かに伝わる音の振動。…イタリアは猫が多いが、こいつ程好き勝手やってる猫もいねーだろとマジに思う。 とりあえず今は、来るべき来訪者に備え仕事を済ませておかねばならなかった。 そのヴァリエール家領地を進んでいるのは、ルイズ、エレオノール姉様、犬、シエスタの四名。 この前から三日後。さらに犬がアンリエッタとキスしていたという事で、色々格下げである。 まぁそれだけ気になっているという事かもしれんが。 職業メイドたるシエスタも何故居るかというと、エレオノール曰く『ど、道中の侍女はこの娘でいいわ』とのことだが、実際のところ理由は別にある。 ルイズを連れ戻しに学院に乗り込んだ姉様であるが、幾分勝手が分からないので見当違いなところまで入ってしまっていた。 「まったく…あの子ったら、戦争に着いていくなんて勝手なことを言って」 文句たれながら院内を歩くエレオノールだが、戦争という事でそれなりにルイズの事を心配しているようだ。 次に入ったのは風の塔。いい加減魔法でこちらの存在をアピールしようかと思ったが、そんな事やったら多分マズイので自重する。 人に聞けばいいのだが、不機嫌オーラ全開でドS丸出しのエレオノールに近付きたがる人はあまり居ないらしい。 メイジであれ平民であれドMはそうそう居ないものだ。 段々ムカついてきたのだが、倉庫の前で声が聞こえた。 丁度いい。人が居るなら聞こう。というか口を割らす。 ギャングの考え方になってきたが、妖精さんの件で一杯一杯なのである。 だが、入ると同時にエレオノールの顔が歪む。 視線の先には水兵服とスカートに身を包んだ…いやそれだけならまだいいが、小太りの『メーーーーーン!』だったからだ! 「はぁ…んぉ、ハァハァ…かか、かわいいよ…」 しかもなにやら悶えているご様子。扉を開けた様子にすら気付いていない。 「ぼ、ぼくはもう…う、うあああ」 生涯初めて見てはいけない物という物を見てしまった気がするが、気の強いエレオノール。これしきの事でひるんだりはしない。 「あなた、なにやってるの!」 「ひぃぃいいいいい」 その声に逃げようとした人が足をもつれさせ床をのた打ち回っていたが、その近くには『嘘つきの鏡』があった まず真っ先に嫌悪感が先行したし、こんな人の居ないとこでコソコソ怪しい事をやているということで、その背中を思いっきり踏んだ。 「使用人の分際で、こんな場所でなにやってるのかしらね…しかも、そんな格好で…汚らわしいわッ!」 踏んでいる足の力を強める。あの使用人(兄貴)に頭が上がらなくなったせいで、ストレスというものが溜まっているのだ。 「あ!んあ!あ!ふぁ!」 豚のような悲鳴をあげていたが、少々上気した顔で男が答え始めた。 「こ、この服があまりんも可憐すぎて…で、でもぼくには着てくれる人が居ないから…う、うぉぉお!」 「それで自分で着て、その『嘘つきの鏡』でって事?…情けないわねッ!」 グリィ! そんな音が聞こえそうなぐらい足をグリグリと動かすと、男が悲鳴をあげるが、どことなく悦んでいるような気がする。 「ハァハァ…あの時見た姿はまさに感動だ!ぼくのハートは可憐な官能で焦げてしまいそうさ! だから、その想いのよすがに、せめてこの鏡に自分の姿を映して…ああ、ぼくは…ぼくはなんて可憐な妖精さんなんだ…!あぁああああッ!」 即席とはいえ士官訓練を二ヶ月終え、空軍に配属され水兵服を見て彼が思い出したのは、あのルイズの姿。 乗艦する前に水兵服を一着かっぱらい、わざわざ抜け出して学院に戻ってきてのご乱行である。 そして『妖精さん』。今最もエレオノールが聞きたくない言葉にして忘れたい言葉だ。 それをわざわざ思い出させてくれたこのド変態をどうしてくれようかと思い、さらに踏む力を強める。 「あ!ああ!誰か知らないけど、あなたみたいな美しい人に踏まれて、我を忘れそうだ!う、うお、うおお!」 「おだまり!」 「ふひぃぃ!こんなところで可憐な妖精さんを気取ってしまったぼくにもっと罰をッ!お願いだ!ぼくの顔を踏んでくれ! 我を忘れた僕の罪と一緒に押しつぶしてくれ!そうだ、圧迫だ!呼吸が止まるぐらい!もう耐えられないッ!踏んでくれ!早く!」 「 『 圧 迫 祭 り 』 だ ッ ! ! 」 「まだ言うか!」 二回目の禁句。それに従い、顔を思いっきり踏み付け、鞭を取り出し打つ。 「もっとだ!もっと乗って!強くッ!ふぎぃ!?あぐ!ほごぉ!あぎぃ!」 「黙れと言っている!この豚!」 「ぶ、豚……?ああ、そうさ、ぼくは豚だ…!この醜くて卑しい豚にもっと罰をォーーーーーーー!!あ!あ!んああぁああああ!」 別世界に到達した男が気絶したが、その表情は達している。 「まったく…平民はこれだから…」 養豚場の豚を見るような目で気絶した男を見ているが、実際のところ平民ではなく、ここの生徒である。 が、扉の方から音。 そこにいたのは、かなり顔を赤らめているメイド。ご存知シエスタだ。 「ああ…やっぱり貴族の方達って、あの小説に書かれているような事を……」 『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 トリスタニアで今人気の読み物らしく、倹約派のシエスタも自費で購入し読んだばかりである。 内容は『高貴な女性の口にはできない欲求が積もり積もって…』。言うまでもなくR指定相当の物だが、この世界にそんな概念など無い。 今のシエスタの目の前の光景は、どう見てもドMの豚に鞭を振るって悦に入っているドSの女王様なのだから、そう思うのも仕方無い。 小説にもそんな話があっただけに、もう間違いない。 ふとエレオノールと視線が合う。 マズイ。イケナイモノを見てしまったと思い、下手すれば次に鞭が振るわれるのは自分だと判断したようだ。 「ごご、ごめんなさい!」 踵を返し走り去ったが、テンション絶賛上昇中である。 どこか、うっとりしたような感じで顔を赤らめながら走っているが、まぁ無理も無い。 だが、エレオノールはそうはいかない。 『HOLY SHIT!』である。当人にしてみれば、そんなつもりは無かったが、状況的にそうなってしまっていると今更ながら理解した。 顔を踏んでいた足。手に持った鞭。『豚』発言。 状況証拠だけで殺人罪が立件できそうな勢いだ。 そしてそれを見られてしまった。 「ごご、ごめんなさい!」 そう言って顔を赤らめさせながら逃げ出したメイドを見て、血の気が本気で引く。 『妖精さん』だけではなく『女王様』という称号まで頂いてしまえば、再起不能どころか自殺モノだ。 さらに平民の中での噂が伝わる速度が恐ろしく早い事も知っている。 そして、それは何時か貴族の中にも… 『ヴァリエール家の長女が婚約を解消された理由は、夜な夜な伯爵を鞭で打っていたからだ』 「ま、待ちなさい!ていうか待って!お願い!」 そんな噂が貴族社会で流れる事を想像しながら、必死になって追いかける。 生涯これ程焦った事は無い。前回の件を一気に更新して最高記録である。 そして誰も居なくなった倉庫の中で、散々踏まれ、鞭で打たれ、罵られた男。 マリコヌルが達してしまっている顔で何かに目覚めていた。 というわけで、必死こいて説明し監視も兼ねて連れてきたという事である。 なお、半分涙目だったのは言うまでも無い。 「サイトさん…世の中知っちゃイケナイ事って結構あるんですね…」 「一体何が…」 どこか遠くを見て達観したような表情のシエスタと才人が乗った馬車と その後方にエレオノールとルイズが乗った馬車が続くが、前の馬車よりも立派な後ろの馬車からは妙なオーラが滲み出ている。 「ね、姉様…学院でなにふぁいだ!いだい!あう!」 「いい事、ちびルイズ?世の中には知らないでいい事が沢山あるの。それなのに、なんで見に寄ってくるのかしらね……?見なくてもいいものをッ!!」 今にも、この世はアホだらけなのかァ~~~~ッ! と言いながら目に指を突っ込まんばかりにルイズの頬をエレオノールがつねる。 今ならギャングのボスも立派に務まりそうだ。 「わ、わかりまひた…」 「戦争に行くだなんて。あなたが行ってどうするの!しっかりお父様とお母様に叱ってもらいますからね!」 「で、でも…この前の任務の時は…」 「あなた、戦争がどういう物か分かってるの?街での任務なんかとは一緒にしない!」 情けない声をあげて押し黙るが、エレノオールですらこれだ。ルイズには烈風を説得できるか非常に不安だった。 そんなギャングのボスと化さんばかりのエレオノールを乗せた馬車の前の才人だが、気分は暗い。 ルイズが戦争に参加するという事は、自分もゼロ戦ひっさげての参陣となる。 戦争なぞ17年生きてきて初めての体験だ。正直言えばやりたくなぞないが あの時のアンリエッタを見て『この可哀想なお姫様の手助けをしてやりたい』という気持ちが湧き上がっていた。 そういえば、姫様も結構胸が大きかったなー。 ああ、この戦争終わったらセーラー服着た姿見たい。多分、いや絶対似合う。清純そうだし。 そんな、けしからん妄想を犬がしていると、シエスタが曇った顔をして話しかけてきた。 「サイトさんも、アルビオンに行くんでしょう?」 「え?…ああ、うん」 シエスタも似合いそうだなー。と引き続き煩悩モード満載だったが、とりあえず現実に戻った。 「わたし、貴族の人達が嫌いです…自分達だけで殺し合いをすればいいのに…わたし達平民も巻き込んで…」 「戦争を終わらせるためだって言ってたけどな」 「戦は戦です。サイトさんが行く理由なんて無いじゃないですか」 元が同じ故郷という事で、それなりに、というかかなり親しくはなった。 「そうなんだけど…あいつが、そのままいるんだったら…多分、ルイズと一緒に行ってたと思うんだ。だから俺も」 実際のところ、その『あいつ』は親玉狙いで真正面からドンパチやる気は全く無い。 「死んじゃ嫌ですからね…知ってる人がいなくなるってのは、もう見たく無いんです」 ああ、もう可愛いなチクショー。ルイズとは大違いだ。いや、ルイズも可愛いけど精神的な意味で。 そんな事を思いつつも、プロシュートとの距離は確実に狭まっていた。 「こんなもんか」 一通りの仕事を終えて一息つく。 後ろで猫草がゴロゴロ鳴きながら寝ているのがムカつくがまぁ良しとしよう。 後は他のヤツに任せて適当にバックレてれば大丈夫なはずだ。 大体何時も飯食うときにあんな人並ばせる必要があんのかと。 刺客が紛れてたら死ぬぞ。と、元暗殺者として常々思う。 メイジといっても飯時を狙われたらどうしようも無いはずだ。 常に警戒してんのか、単に城の中に居るから安心しきってんのかのどっちかだとは思うがイタリアなら軽く2~3回は死んでいると考えなくもない。 プロはリスクを恐れてこういう所はあまり狙いたがらないのだが、追い込まれてテンパったカタギが自爆覚悟で襲撃してくる事がある。 後先考えていないだけに、そういう素人が一番怖い。 もちろん、暗殺チームはそんな事関係無しに殺ってきたが。 適当にバックレてる間に飯も終わったようで、一応の警戒はしているが視界の範囲にルイズの姿は無かった。 が、カトレアの部屋の方からルイズの短い悲鳴。数人の使用人が何事かと出てきたが 続いて『ニャーン』という鳴声が聞こえたので猫草だな。と納得した。 普通はああいう反応だろう。やはりカトレアは何かが違う。 次いで遭遇するとマズイのがシエスタだが これは、性格的に勝手が分からない場所だけあって、あまり部屋の外から出ないから大丈夫なはずだ。 そして、問題無いのが才人だ。 老化してりゃあバレやあせんだろうし、顔を合わせたのも一回だけだ。 むしろ、ここは後退するより前に出て才人から近況情報手に入れるのが得策かもしれないと判断した。 そう決めると早速行動開始だ。軽く捜したがすぐ見付かった。 つーか、負のオーラ全開でマンモーニさを限りなくアピールしていた。 説教した後のペッシがあんな感じだ。 元暗殺者に完全ロックオンされたとは露知らず、改めて身分差というものを痛感させられていた才人が浸っていると声を掛けられた。 もちろんヴァリエール家仕様で、髪型変えて、老化しているダンディさ300%増しのプロシュートである。 「シケた面してなにやってやがる。使い魔がルイズの側にいなくていいのか?」 「え、ああ。凄い城なんで、なんだか気後れしちまって。って、いいんですか?お嬢様を呼び捨てにして」 「構うこたぁねー。バレなきゃいいんだよ。バレなけりゃあな」 限りなくタメ口で軽く話しかけてきた男に気が緩んだのか、多少才人が明るくなる。相変わらず立ち直りだけは早いようだ。 「で…どんなだよ?使い魔ってのは」 「どんなって……優しい時もあるけど、犬って言われたり、鞭で叩かれたり…」 叩かれていたりするのは、まぁ自分に責任があるのだが、ダーティ入っている時、人はどんどんそっちに進むものである。 「たっく…全然、変わってねーな」 「昔から、あんなだったんですか?」 昔っつっても、月単位の事だ。そうそう変わりはしない。 「ああ、一回怒ると中々おさまんねーからな。そんなに嫌なんだったらさっさと逃げちまえ。稼ぎ口ぐらいは紹介してやんぜ?」 「それはできませんよ。一応、俺はあいつの使い魔だし……それに逃げたら、前のヤツに負けたような気がして」 (意地だけは一端ってワケか) よもや目の前の男が、先代だと思っていないようでどんどん話してくれるが 纏めると『あまりの貴族っぷりにビビって身分の違いを思い知り凹んでいる』という事らしい。 「少しそこで待ってろ」 プロシュートが厨房に消えていったが、しばらくすると壜を一本持ってきてそれを投げてきた。 「うわ!危ねぇ…これ、何ですか?」 「見りゃ分かんだろ。酒だ」 落としそうになったがなんとか受け取る才人だったが、不思議そうな顔をしている。 「いや、それは分かりますけど」 「適当にかっさらってきたが…まぁそこいらの安酒よりは良いモンだと思うぜ」 「いや、いいんですか?ここで働いてるのに」 「ハッ…!言ったろーが、バレなけりゃあいいんだよ。部屋がアレだろーからな。酒ぐらいは良いモン飲んでも構わねーだろ?」 全ての思考は、『ギられた方が悪い』。まさにギャング。 「あ、ありがとうございます」 「じゃあな。面倒だろうが、やるならトコトンやりな」 ナイスミドル!! 軽く笑いながらの顔を見て才人が本気でそう思う。 今の精神状態ならホイホイついていってしまいそうだ。 無論、誘ってもいないので、ついて来られても困るのだが。 ヴァリエール家に来てようやく人間扱いを受けたような気がして泣きそうな才人だったが とりあえず、廊下で飲むのもなんなので部屋に戻る事にしたのだが、先客がいた。 「遅い」 「…シシ、シエスタさん?」 部屋の中には、グビィと荒れている英国貴族を髣髴とさせる飲みっぷりのシエスタがいた 目が完全に据わっている。なんというかギャングっぽい。 「せっかく遊びにきたのに、居ないってのはどういう事れすか」 「い、いや、ちょっと話してて」 「ミス・ヴァリエールとですか。なんだかんだ言ってやっぱりそうですか」 「俺はルイズの事はなんとも…」 「まぁいいサイト。お前も飲め」 スゴ味を含ませた声でシエスタが呟く。ドスが効いててなんか怖い。 「い、いただきます」 怖いので差し出されたままの酒を飲む。 この後、才人が潰れるまで酔っ払いと使い魔によるほぼ一方的な酒リレーが行なわれる事になった。 酒リレーが開催されている中、ルイズはカトレアの部屋にまだ居た。 何故か知らんが、猫草を挟んで一緒に寝ている。 最初は驚いたものの、猫草が出す空気クッションが気に入ったらしい そのうちルイズが毛布被って外に出て行ったが、向かった部屋の先はある意味地獄に近かった。 「あら、いらっしゃい。ミス・ヴァリエール」 「なな、なんであんたがいるのよ!」 「する事が無いので遊びにきただけれすけど」 酒で顔を赤くしているシエスタと、なにか分からんが喰らえッ!的な感情で赤くしているルイズ。 こちらも対照的である。 そして、潰れている才人。もう少し飲んでいれば、ドッピオみたいに釘を吐いているような姿が見られたかもしれない。 「ミス・ヴァリエール」 「な、なによ…!」 こんな部屋でなにやってたのかと想像して、沸騰しかけのルイズだったが、シエスタの妙な迫力に押されていた。 「飲め」 ズイィっと差し出される酒瓶。プロシュートが見るに見かねて才人にギってきたのを渡したやつだが、もう半分程開いている。 「どうしたのよ、これ」 「とりあえず、飲め」 「そんな事いいから、自分の部屋に戻りなさい」 負けじと言い返したが、シエスタがルイズに顔を近づけてきた。 「サイトさんの事、好きなんでしょ?ハッキリ言ったらどうですか」 「な、な…!」 唐突に本丸を攻められルイズがうろたえる。『ジャーーーン ジャーーーーン』という音が聞こえそうなぐらいに。 「ち、違うわよ!な、なんでこんなヤツ…」 必死になって否定したが、気になっている事は確かで、現在心拍数絶賛上昇中だ。 そんな様子のルイズをシエスタがジーっと見つめ… 「……汗かいてますね」 「こ、これは暑いだけで、べ、別に…ひゃわん!」 ルイズの頬を伝う汗を舐めたッ! 「この味は…嘘をついてる味です…!ミス・ヴァリエールッ!」 「あ、あう…うぅ…ふひゃあ!」 「どうなんですか?…質問は既に…拷問に変わってるのれす」 汗を舐められるなぞ初体験だったので戸惑っていたのだが、続けざまにシエスタがルイズの平原…もとい胸を触っている。エロイ 「や、やめ……この、ぶぶぶ、無礼者…ひぁ!」 「無駄です。無駄無駄。そんな板じゃサイトさんは振り向いてくれません。わたしが大きくしてさしあげます」 遂に両の手でガッシリとつかみ始めた。…つかむ箇所があるかどうか知らんが。 「い、板じゃないもん」 「一度言った事を二度言わなきゃ分からないってのは、その人の頭が悪いって事です。贔屓目に見ても板です」 完全にギャングと化したシエスタだが、構わずにルイズの平原を掴んで手を動かしている。 とりあえず満足したのか手を離すと転がっていた酒瓶を抱えると外に出ていった。 「ひっく。早めに捕まえないと待ってるだけになるんですから」 「あ……」 少しだけ落ち着いた口調でそう言ったが ここ数ヶ月任務やら、ザ・ニュー・使い魔のおかげで頭の隅に追いやってあまり考えなかったが、意味する事に空気の読めないルイズも気付いた。 「そういえば、そうだったっけ…死んだかもしれないなんてとてもじゃないけど言えないわ……」 実際のとこ生存云々どころか同じ場所にいるのだが、全く気付かれては無いというのはプロと素人の差というやつだろう。 そして、寝るべく廊下を闊歩しているプロシュートの視界に入った珍妙な生物がそこに居た。 「…なんだこいつは」 目の前に映るのは、空の酒瓶抱いて廊下で倒れている非常によく見知った顔。 さすがにメイド服ではないが、猫草に負けないぐらい爆睡かましているシエスタだ。 「うお…酒クセー。なんであいつにやった酒持ってんだこいつ」 とりあえず、邪魔というか、こんなとこで寝てられても困る。 こんだけ潰れてれば起きないだろうとして抱えると運ぶ。とりあえず、部屋の場所は聞き出せたので運んだ。 「オレはこんなキャラしてねーぞ」 文句言いながら、シエスタをベッドに放り投げるように運んだが、介護キャラじゃあない。 相手を介護が必要にさせるように追い込んだ事は数え切れないが。 そんな事を考えながら、ドアの方に向き直って外に出ようとしたが、後ろからプレッシャーというかスゴ味を感じた。 そう…擬音が出んばかりにシエスタが立ち上がっていたからであるッ! 「な…ッ!バカな…こいつ起きて…!うぉおおおお!?」 急だったので、さすがの元ギャングも対処できずに押し倒される形となったが、色々とヤバイ。 何だ、この状況は!?カタギに元ギャングが倒されるってどういう事だよッ! それ以前に、このヤローどういうつもりだ!起きてたならせめて言いやがれ!クソッ馬鹿にしやがってッ! いや、この場合ヤローって言うのか?男じゃねーしな。あー、もうそんな事はどうでもいい。メローネでもいいから助けやがれってんだド畜生が! http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0411.jpg http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0409.jpg 0.5秒の間にそんな事を考えたが、バレちまったモンは仕方無い。 ルイズとかにバレるよりはマシだ。 失敗は前向きに利用しなくてはならないとリゾットも言ってたはずだ。 「おい、オメー…とりあえず退け。どういうつもりか知んねーがな……こいつ……寝てやがる」 反応が無いので妙だと思ったがどうも寝ボケていただけのようだ。 一先ず安堵したが、そう安心してられない。 こんだけ焦ったのも久しぶりだ。 シエスタを引っぺがすが、スーツに涎が付いている。ヴァリエール家の私物の方だからいいが、持ち込んだ方だったら説教かましてるとこだ。 壁に背を預け溜息を吐いたが、引っぺがしたシエスタが重力に従ってもたれ掛かってきた。 試しに頬を少し強めにつまむ。 反応は無い。まぁ大丈夫だとは思う事にした。 というか、最近マジで胃が痛くなってきたかもしれない。今度水のメイジにでも診てもらおう。 手を離したが、シエスタは変わらない顔で爆睡している。 「しっかし…のん気そーな面ぁしてやがんぜ」 ペッシを除いた暗殺チームは寝ている時もかなり神経使っていた。 ギアッチョやイルーゾォはともかくとして、プロシュートは殆どの時はスタンドを出して寝ている。 今もそうだ。これも結構スタンドパワーを使うのである。 ルイズ達もそうだったが、かなり無防備な寝顔のシエスタを見て、少しばかり羨ましくなった。 襲撃を気にせず寝ていた時なぞ何時以来だったかと思ったが、思い出せそうに無い。 難儀な商売やってたなと思ったが、別段後悔はしない。 相変わらず、涎垂らして爆睡決め込んでいるシエスタだったが、なんかの夢でも見ているのだろうか腕を掴まれた。 「…やっと捕まえ…もう離しま……から……」 「なに見てやがんだかな」 この元ギャング、よもや自分の事だとは全く思わないし、思おうともしない。この元ギャングも大概ド天然である。 いい加減出たいので、腕を振るが、ガッシリと掴まれて離れない。 手でこじ開けてもすぐ、また掴んで離れない。 「……起きてんじゃねーだろうな」 これで狸寝入りだったら相当黒い。ブラック・サバス並に真っ黒だ。 どうしたもんかと、髪掻きながらマジに考えたが対処法が思いつかない。 典型的な強打者タイプのボクサーだ。普段が打つ方だけに、こういう打たれ方をされると弱い。 しかも、悪意無しにされると反撃のしようも無い。ある意味、こういうのが真の邪悪というのかもしれない。 「こいつまだ持ってたのか。メローネに売りつけられたモンなんだがな…そんな良い物か…?」 面倒だと思いながら視界に入ったのは、この前くれてやった飾りだ。 メローネに半分押し付けられんばかりに売りつけられたのだが、案外気に入っていた。 それを欲しい言われた時は、まぁ世話なってたしくれてやったのだが、他人がそこまで常備するようなモンでも無いだろとは思う。 徹夜で他のヤツの仕事引き受けて、バックレるための暇作っていたため、多少なりとも寝ておきたかったのだが 現状、無理矢理引っぺがすにしても何か知らんが妙に喰らいついてくる。 腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!と言わんばかりに これ以上強くやると起きて面倒な事になりかねない。かといってこのまま寝ると洒落にならない気がする。 「仕方ねー…気が済むまで居てやっが、これでゼロ戦の貸しはねぇからな」 その内離れんだろと思っていたが、結構粘る。一時間経っても離れやしない。 「くそ…何なんだこいつ…」 元ギャング。しかも暗殺者にこんだけ遠慮が無いヤツってのは見た事が無い。 いい加減もうどうでもよくなってきた。 出たとこ勝負。そう考えると寝る事に決めた。 眠いものは眠い。こいつが起きるより早く起きればいい事だ。 バレたらバレたで黙らせばいい。こんだけ広けりゃルイズ達には聞こえないだろう。 何時もと同じようにグレイトフル・デッドを出したが思い直す。 横でアホみたいに涎垂らして爆睡しているヤツを見たら、スタンド出して寝るのがバカらしくなってきたからだ。 メタリカなら気にしなくてもいいんだがな、と思うと寝た。 同じ場所で寝る元ギャングと現役メイド。相変わらず実に奇妙な組み合わせであった。 ルイズ― 潰れている才人を見てムカついたのか一発蹴り入れてカトレアの部屋に戻った。 …が板と言われた上、色々やられたので部屋に付く頃には半泣きだった。 猫草―常に18時間ぐらいは寝て、起きている時は食ったり遊んだり、犬とは違って充実している。 マリコルヌ―覚☆醒! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1089.html
グェス……グェスはいねえがあ……悪いグェスはどごだあ……。 「ミスタ・コルベール。わたしの使い魔見ませんでしたか?」 「見たといえば見たが……廊下を北に向かって走っていたな。しかし君、ミスタ・グラモンの使い魔を見たかね。凄いねあの老人は」 わたしから逃げられるとでも思ってるのかしら。 宝物庫の前で何やらゴソゴソやっていたミス・ロングビルを発見。 この人相変わらずいいプロポーションしてるわね。オスマンの狒々爺に触らせるのがもったいないくらい。 「ミス・ロングビル。わたしの使い魔見ませんでした? 平民の女なんですけど」 「全力で走っていた犯罪者風の人? それなら男子寮の方へ向かわれたようですけど」 男子寮? ははーん、ミキタカを味方につける気でいるわけね。 ミキタカやぺティが何と言ったって全力でぶったたいてやるんだから。扉の前でノックノック。 「ミキタカ? グェスいる?」 「いりませんよ」 ん? んん? えーっと……どういうこと? 「入るわよ」 扉を開けた先にはここ数日で見慣れた部屋とミキタカ、せいぜいぺティがいるくらいだと思っていたけど、ぺティではなくなぜかシエスタがいた。 二人並んでベッドに腰掛けているその光景からは、朴念仁だって甘いひと時が想像できる。 何よ阿呆ミキタカ。先にシエスタに目をつけてたのはわたしなのに。だから嫌よ男って。いやらしいことしか頭に無いんだから。 ああ、シエスタの貞操は無事かしら。この阿呆貴族に隠れ巨乳揉みしだかれてたりしないといいけど。 有無を言わさず必殺のルイズヒップドロップを敢行、二人の間に無理やりお尻をねじ込んだ。 咄嗟にシエスタが立とうとしたけど、腕を掴んで押さえ込む。 「シエスタ、あなたグェスを見なかった?」 「ええと……」 相変わらず怯えてるシエスタ。わたしとしては精一杯フレンドリーなつもりなんだけどなぁ。何がいけないんだろ。 シエスタはわたしの頭越しにミキタカを見て、ミキタカは小さく頷き返した。何この二人は恋人的空気。 「私がお見かけした時は食堂にいらっしゃいました」 「ふーん……食堂ね。ありがとうシエスタ」 「あ、あの、ミス・ヴァリエール!」 シエスタが立ち上がりかけたわたしの袖を引く。 「私、負けませんから!」 ……誰が? 誰に? 何で? 主語も述語も目的語もはっきりしていない。 「す、すいません。ご無礼をお許しください」 で、目が合うと謝るし。この娘も情緒不安定ね。お年頃ってやつ? 何かよく分からないけど、わたしはシエスタから挑戦されたらしい。 挑戦か。嫌な響き。またえらく嫌われたもんね……この娘に嫌われるとなぜだかへこむわ。 本当ならわたしを好いてくれるのが基本形だった気がするんだけど、どう考えても妄想以外の何者でもなくさらにへこむ。あーあ。 こんなわたしの傷ついたハートも全てグェスのせいと結論付けて、さらなる怒りを胸に食堂へと足を向ける。 食堂は西日が射して磨いたばかりのテーブルは照り返し……もう夕方だったのね。わたし何時間走り回ってたんだろう。 そこにもグェスはいなかったけど、パイプをふかすぺティとモンモランシーと大蛙と……知らない人間が見たら打ち捨てられているとしか思えない大釜が鎮座ましましていた。 「ねえモンランシー。あなた達グェス……」 「しっ! 静かに!」 何よ何よ。皆でわたしのこと邪魔者扱いして。どうせわたしなんてゼロよ。胸も才能もゼロよ。 「老師、お願いです。今のぼくには生きるための力が必要なんです」 「ねっ。力が必要なんだよ、ねっ」 なになに、弟子入りしようっていうの? 弟の使い魔に? ギーシュ必死すぎじゃない? 「背中を見せれば死ぬ。そのことに絶望していました」 あ、それで釜かついで動いてたのか。そりゃわたしでも絶望するわ。釜背負って外出てくるあたりは大物よね。 「ですが、老師の力を目の当たりにしてぼくの考えは変わりました。ぼくは……ぼくはまだ生きたい。やりたいことはたくさんあります。モンモランシーをもっと愛したい」 カアアアア……ペッ! アア胸糞悪い。何この学院。カップル率高すぎ。そうですか。独り者に死ねと言いますか。 「な、何言ってるのよギーシュ」 洪水のお嬢さん、顔が赤いですよ死ね。何よ目ぇ潤ませたりして。上も洪水下も洪水ですって? バーカバーカ。 「キーシュが言っていました。老師の前身は修行者だと。その技は修行によって身につけたものだと。お願いです、その技を……温かく、力強いその技をぼくに教えてください!」 「わたしからもお願いします、老師。ギーシュは馬鹿で浮気者だけど、それでも死ぬのは……」 モンモランシーも頭を下げた。こいつら何で使い魔相手に敬語使ってるのかしら。 「それはできん相談じゃな」 ぺティ冷たい。考えるふりくらいしてあげてもバチは当たらないでしょうに。 「老師!」 「そんな……!」 「冷たいねっ、ねっ」 ぺティはパイプの火を落とし、大事そうに懐へしまいこんだ。 すげなく頼みを断った爺さんとも思えない、好々爺丸出しの笑顔で大釜に手を当てた。 「この技は習得に骨が折れる。才能のある者でも数年はかかるじゃろう。今のまま挑めば過程で死ぬ」 そりゃそうよね。背中見せられない人間じゃ修行は無理でしょ。 「それにのう少年よ。そなたには必要の無い技なんじゃよ」 どうせ死ぬから必要ないよなんて言わないでしょうね? 「この技術がなぜ生まれたか分かるかね? ある者に近づこうとしたからじゃ」 「ある者……?」 「君の背中にとりついている者、と言えば分かりやすいかな」 大釜の中で、何かが打ち付けられる音が響いた。たぶん立ち上がろうとして頭ぶつけたんだろう。 「ふざけないでください! ぼくは! ぼくはこいつのために!」 「ふざけてなどおらんとも。わしの技……波紋は、人ならぬものに近づくため人間が編み出した技術体系に過ぎん」 「老師! ぼくは! ぼくは!」 大釜が揺れていた。顔が見えなくても何を思っているかはよく分かる。 「……そなた、使い魔を知ろうとしたかね」 「ぼくは……は?」 大釜の揺れが収まっていく。わっかりやすい。 「背中を見せれば主が命を落とす。そこで止まっていたのではないかな」 「それは、その。だって死ぬんですよ」 「誰であろうと一度は死ぬ。その運命から逃れることはできん。死は言い訳にならんよ」 厳しい意見ね。そこまで覚悟してる人ってそうそういないと思うけど。 「使い魔と話し合ってみるといい。何ができ、何ができないのか。それを知るだけでも益はあろう」 「そうそう。もっと話そう話そう。ねっねっ」 ぺティはギーシュのことを話していたんだろう。でもその言葉はわたしにも当てはまった。 そっか……そうよね。わたしはグェスのできることを考えていなかった。 グェス本人がただの平民であることを忘れ、無謀な戦闘行為に付き合わせようとしていた。 使い魔なら従って当然だと思っていた。ふんぞり返って上から押さえつけようとしていた。 そんなの、グェスじゃなくたって逃げて当たり前だ。 「そなたは大地」 「ぼくが……大地?」 「砂か、泥か、岩か、土か、決めるはそなたのみ。芽吹いた植物を生かすも枯らすも己次第と知れ」 大地。ちょっとかっこいいな。わたしも大地になれるだろうか。 「ぼくが……大地……」 アドバイスに対し、御礼の一つも言うつもりだったんだろう。大釜が持ち上がり、そこからギーシュが顔を出した。 ギーシュにとって不幸だった……いやこれは幸運か。幸運だったことは、この場にはぺティだけではなく、モンモランシーがいたということ。 地面から上を見上げれば、当然モンモランシーも視界に入る。モンモランシーのスカートの中も。 「白……? 白? 白! 白! 白かったであります!」 ギーシュの視線を追い、ギーシュの言葉を聞き、その意味を捉え、モンモンシーの表情が哀から怒へと一変した。 モンモランシーのパンツは白、と。メモメモ。ギーシュもたまには役に立つ。 「いい加減にしなさい! あなたの頭の中そればっかりじゃないの!」 「待って! し、仕方ない! これは仕方ない! どうしようもない!」 うん、仕方ない。それは本当に仕方ない。 スカートを押さえて大釜を蹴りまくるモンモランシーに対し、ギーシュは鉄壁の篭城作戦で対抗する。 じゃれあう二人をいつもの笑顔で見守るぺティ。何このトリオ。楽しそうじゃないの。 ていうかわたし完全に無視されてるよね。グェスのこと聞いたのに忘れられてるよね。もういいよ、もういい。 「ちょっとそこの矢印つけた蛙」 「は? 私めのことでしょうか」 あんた意外にそんなのがいますかっていうのよ。 「胡乱な平民の女見なかった? わたしの使い魔なんだけど」 「怪しい方なら中庭の方で見かけたように思いますが……ゲロッ」 これもグェスの計略だったりして。学院中をぐるぐると歩き回らされている。 ま、ご主人様の義務だと割り切ろう。使い魔放っておくわけにはいかないもんね。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1114.html
モンモラシーは、朝一番でギーシュのお見舞いへと来ていた。 友人には、二股していた奴に、よく会いに行けるわねぇ、と言われたが、仕方ない。 ――――――だって、好きなのだから。 あの浮気性は困り者だが、それさえ無ければ、お調子者で女の子に優しくてキザでドットで………… ………………・・・せめて、浮気性ぐらい秘薬で治しておくべきか。 そういえば、惚れ薬なんて言うのもあったわねぇ、とか考えていると、医務室の前に辿りついた。 でも、なんというか、様子がおかしい。 朝一番と言ったが、空はまだ薄暗い。 だと言うのに、扉が僅かに開いている医務室から話し声が聞こえてくる。 なんだろうと思い、僅かな隙間をそっと広げて中を窺ってみると、そこにはコルベールとロングビルの姿があった。 そして、その二人が囲っているベッドの上には――― 「ギーシュ!!」 扉を勢い良く開け放ち、ベッドの上に居るギーシュへと呼びかける。 コルベールとロングビルは、唐突に響いた大声に、驚いたような表情でモンモラシーを見たが、彼女にそんな事は関係ない。 「あぁ、ギーシュ、ギーシュ! 心配したのよ、私。でも、良かった。なんともないようで……ギーシュ?」 なんというか違和感がある。 目をぼんやりと開けたままのギーシュは、あぅあぅと呟いて、中空を見つめているだけで、自分に対してまったく反応してこない。 「ねぇ、ギーシュ、どうしたのよ、ねぇ、ちょっと、ふざけないで、どうして、ねぇ お願い、返事を、返事をしてよ、ギーシュ!!」 モンモラシーの悲痛な叫びが、早朝の学園に響き渡った。 水差しを洗いに行って戻ってくる途中であったメイドは、その声に、くすりと笑みを溢した。 今朝の目覚めは、ルイズにとって最高であった。 何時も自分で取っていた服が、杖を振るだけで手元へとやってくる。 そんな、メイジにとっての当たり前が、ルイズにとっては、とてつもなく嬉しかった。 そのまま、気分良く着替えていた所で、机の上に置かれている手紙に気が付く。 「ホワイトスネイク」 「ナンダ?」 「これ何?」 ホワイトスネイクの返答は、夜中に扉の下から挿し込まれたらしい。 中を開いて見ると達筆な字で、ルイズが起こした決闘騒ぎの罰が書いてあった。 あの時、オスマンが言ったように、ルイズは謹慎一週間で決定の印が押されていた。 「一週間……暇になったわねぇ……」 この決定にルイズは対して、不満を持っていなかった。 何せ、罪を犯したのは事実なのだから。 その罪と言うのは、勿論、禁止された決闘を行ったことであって、ギーシュから才能を奪って殺害寸前まで追い込んだのは、彼女の中では罪ではなく、ギーシュに対する報いであったのは説明するまでもないが。 「まぁいいわ、あの平民の様子も見に行きたかったし……」 自分の使い魔のルーンをDISCとして差し込まれている、あの少年。 あの時の速さは、通常時のホワイトスネイクを遥かに上回る速度であった。 「使い魔は、もう居るし……無難な所で使用人って所かしら…… 執事って程に落ち着いた様子は無かったし、ん~」 少年を自分専用の護衛として雇う気満々のルイズは、どんな肩書きが少年に合うのか、 じっくりと考えながら医務室まで歩き始めた。 部屋を出て、医務室のある学園の方に行く為の螺旋階段を下りる時、見慣れた赤毛がルイズの目に留まる。 「あっ……」 キュルケはルイズを見つけた瞬間に、元々俯いていたその顔を、さらに俯かせた。 だが、すぐに顔を上げて何時ものように、色気を帯びた笑みを浮かべてルイズに手を振った。 「ルイズ、元気? 昨日は大変だったみたいねぇ! で、どうなの? 噂では、ギーシュの魔法を使えるようになったとか、言われてたけど どうなのよぉ、そこんところは」 明るく振舞うキュルケに、ルイズは煩そうに顔を顰め、腕を軽く振るう。 伸びる腕 押さえつける手 押し付けられる身体 ホワイトスネイクがキュルケの身体を、杖を抜く暇も与えずに、壁に押し付けたのだ。 呆然とするキュルケにルイズは、グイッと顔を近づける。 目を逸らす事も許さない。 強い視線でキュルケの目を見据えながら、ルイズの口が開く。 「良い、よーく聞きなさいよ。 私は、これから医務室に行くの、用事があるからね。 あんたの相手は、その後。精々、魔法を扱える最後の時間を楽しんでおきなさい」 そう言ってルイズは、壁にキュルケを押し付けていたホワイトスネイクを消し、そのまま螺旋階段を下る。 これ以上、言葉を交わす気の無い事を態度と行動で示されたキュルケは、そのままの体勢で赤髪を揺らし、耐え切れぬように叫ぶ。 「ねぇ、ルイズ、何が、何が、貴方をそこまで変えてしまったの? それは、私? 私が原因の事で、貴方は変わったの!?」 キュルケの慟哭にルイズは首を振るう。 変わった……? 違う、私は手段を手に入れただけに過ぎない。 人間とは、泡のようなものだ。 小さな気泡の人間も居れば、大きな気泡の人間も居る。 気泡を大量に持つ人間も居れば、一つしか持たない人間も居る。 千差万別の大きさと数がある気泡達だが、共通している事が二つある。 それは、その気泡の中に入ってるモノが感情であると言う事と もう一つ、その気泡は『起爆剤』さえ見つけてしまえば、理屈も何も無く、破裂してしまう事だ。 そして破裂した泡は、中に溜められていた感情を噴出す。 噴出された感情は、周囲に何があろうと、その発散を止められない。 いや、割れた当人にとっては、止める気もしないだろう。 ルイズは、今、まさにその状態だ。 魔法を奪うと言う、完璧な『起爆剤』を見つけてしまったルイズは、 16年間溜め続けた、使えない者として泡を破裂させてしまった。 記憶の積み重ねが人間であると、ホワイトネスイクは自らの主に言っていた。 ならば、この鬱積した感情もまた、ルイズと言う人間を形作る重要な因子なのである。 例え、その中の感情がドロドロに溶け合った黒であったとしても、だ。 「ルイズ……」 どうすれば、どうすれば、あの少女は、元の意地っ張りだけど、自分に正直な少女に戻ってくれるのか。 考えても、考えても、キュルケの頭には、何も浮かんでこなかった。 そんな親友の苦悩を、螺旋階段の一番上で眼鏡を掛けた少女は静かに見つめていた。 医務室に行って、ルイズが最初に目にした光景は、黒髪のメイドが真っ赤になって使用人になる予定の少年の身体を拭いている場面であった。 「………………」 「………………」 少し血走った目で、半裸の少年の世話をしているメイドもそうであるが、 初めて同年代の異性の身体を直接見たルイズも、時が止まってしまっている。 別に何も後ろめたい事は無い。 シエスタはシエスタで、自分を助けてくれた才人の身体を拭いていただけであるし、ルイズも、ただ医務室の扉を開けただけだ。 だと言うのに静止時間は、こくこくと過ぎていく。 永劫に続くかと言うような、その静止時間は、ブッチギリで10秒を越えた時に少年から漏れた僅かな呻き声で、ようやく進み始めた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのですね! これは、これはその……汗を拭いてあげてるだけでして!」 「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そのぐらい分かってるわよ! べ、別に変な勘違いとか、その、初めて男の子の裸を見たから動揺とか、してないからね!!」 二人して吃って真っ赤な顔をしているその様は、傍から見るととてつもなく変な光景であった。 「そ、そ、そ、そうですよね! 怪我人の身体を拭いてたぐらいで勘違いなんてしませんよね!」 「も、も、も、勿論じゃない! か、勘違いなんて、そ、そんなものしないに決まってるじゃない!」 あはは、と乾いた笑い声を出すシエスタに、ルイズはなんとか平常心を取り戻そうと、息を吸ったり吐いたりしながら、備え付けの椅子へと座る。 ―――私は冷静、私は冷静、私は冷静――― なんとか頭から先程の光景を消そうと試みるが、基本的に箱入りで異性の裸に免疫が無いルイズにとって、それは至難の業である。と言うか、成功なんてするはずも無い。 シエスタはシエスタで、ようやく落ち着いたのか、また才人の身体を拭く作業を再開させている。 両人共、耳まで真っ赤に染めあげ、まるで熟れたトマトのようだ。 ――― ―――――― ――――――――― 幾許かの時が過ぎて、ようやく丁寧すぎる作業が終わったシエスタは、脱がせた才人の服を着せ始める。 かなり長い時間を掛け、若干の平常心を取り戻したルイズは窓の外を見ながら、作業を終えたシエスタに声を掛けた。 「ねぇ……そいつってさ、なんであんなのと決闘したの?」 「それは……私の所為なんです」 そういえば決闘してたのを手助けしただけで、理由までは知らない。 あの時、広場に一緒に居たこのメイドならば知っているのでは無いかと聞いてみると、ある意味、予想通りの答えが返ってきた。 (ふぅん……やっぱりね) 一緒に居たのだから無関係では無いと睨んでいたが、案の定である。 続く、シエスタの言葉で、あの時の詳細を知る。 どうやら、最初の発端は、シエスタがギーシュの香水の瓶を拾わなかったのが原因らしい。 それが元で、二股がバレてその八つ当たりに晒されていたのを、 才人が庇い、そんな才人の態度にますます腹を立てたギーシュが決闘を申し込んだらしい。 「ふん……馬鹿ね」 「確かに平民が貴族に歯向かうなんて馬鹿かも知れませんけど、才人さんは!!」 恩人が侮辱されたと思い、声を荒げるシエスタにルイズは違う違う、と手を振り、 溜め息を吐きながら、自分の言葉が誰に対するモノなのかを明確にする。 「私が馬鹿って言ったのは、ギーシュ……決闘を申し込んだ貴族の方よ。 あんた、落ちてた香水の瓶には気付いて無かったんでしょ? それなのに、責任を追及するなんて馬鹿げてるわ。 おまけに、二人の名誉が傷付けられた? 傷付けたのは誰よ? 少なくとも、あんたやそいつじゃあ無いわね」 フンッ、と鼻を鳴らし不機嫌に呟くルイズに、シエスタは、この人は普通の貴族じゃあ無いみたいと心の中で呟く。 彼女の中の貴族とは、平民に対しての配慮など、まったくしない。 そういう思考回路が最初から存在していないのだ。 だと言うのに、選民思想で凝り固まった今の貴族にしては珍しく、この少女は、もしかして、平民を人間として見ているのでは無いか、とシエスタは思ったが―――――― 「話を聞く限り、やっぱりあいつは貴族として失格ね。力を奪って正解だったわ。 あんなのが、私と“同じ”貴族だったと思うと反吐が出るわ」 その言葉に、シエスタはやっぱり違う、とルイズに聞こえぬように呟いた。 この少女は、心の底まで貴族で出来ている。 確かに、今の彼女には、無実の者に罪を擦りつけられた事に対する怒りもあるが、それ以上に、 『貴族』と言う名を持った者が、無実の者に罪を擦りつけ『貴族』の名に泥を塗った事に対しての怒りの方が占めるベクトルが大きいのだ。 才人に対し、治療費を出してくれた事などから、平民に対しての理解はあるらしいが、それも上の立場から見た者の理解である。 対等とは程遠い。 そう思うと、才人や自分を昨日、ここに運んでくれた事や、秘薬の代金を全額負担してくれた事に対する有り難みの気持ちが薄れていくのをシエスタは感じていた。 「ところで、今日はどのような用事でここに来られたのですか?」 なんとなく突き放したような感じの言葉を吐いてしまった自分に、心の中で失敗した、と思ったが、言ってしまった言葉は戻らない。 相手も、言葉に含められていたニュアンスに気が付き、目を鋭くさせたが、まぁいいわ、と呟いて、すぐにその鋭さを取り払った。 「そいつの様子を見に来たんだけど……まだ、目覚めてないみたいね」 「治療をしてくださった方のお話では、もう目覚めても良いとの事ですが……」 磨耗した精神が休息を欲しているのか、それとも、もっと別の要因なのか。 「目覚めても良いって事は、もう治療は終わってるのよね?」 「えぇ、治療自体は昨日、全て終わっていますけど」 「なら……問題は無いわね」 シエスタの言葉に、ルイズはホワイトスネイクを出現させる。 唐突に現れたホワイトスネイクに、シエスタは驚愕の表情を浮かべていたが、ホワイトスネイクが現れた事は、さらなる驚愕への布石であった。 「ホワイトスネイク、あいつを起こしなさい」 命令が下されると同時に、ホワイトスネイクの手にDISCが出現する。 それを寝ている才人の頭に差し込んだ。 「何をしてるんですか!?」 「『覚醒』のDISCよ。 どれだけ深い眠りだろうが、DISCの命令には逆らえない」 自慢げに説明するルイズの目の前で、ベッドの上に寝かされていた才人の身体が震える。 「うぅ……うぅん……」 そして、DISCを差し込んでから僅か三秒 上半身を起こして、間の抜けた欠伸を才人は披露した。 そこは、ハルケギニアではなく、もっと、もっと遠く、そして辿りつけない世界。 知る者が語れば、悪鬼の巣窟とも、この世の天国とも答えるその場所は秋葉原と言う、日本と言う国の電気街であった。 その街の一角の、古ぼけた店に修理を頼んでいたパソコンを取りに来た才人は、突然の事態に目を丸くしていた。 なんというか、気が付いたら皆、全裸なのだ。 下着一枚身に着けていない通行人達を見て、才人は一瞬、ぽかーん、と大口を開けていたが、 すぐに自分も服を着ていない事に気が付いた。 何が起こったのか分からないが、このままでは警察に捕まると、凄まじい勢いで才人が服を着終わる頃に、街を歩いていた通行人達も、この不可解な現象に叫び声を上げ始めていた。 とりあえず、面倒になるのは嫌だったので、早足でその場を立ち去る。 預けていたパソコンを回収することも忘れて、駅へと向かった。 とりあえずは、家へと帰ろう。 そう思い、駅への近道である路地裏を通ろうとした時に『ソレ』は現れた。 自分の身長以上もある鏡。 これは、なんだろうか? 疑問に思った才人は、石を投げ込んでみたり、家の鍵を差し込んでみたりと色々試した挙句に、結局、その中に入る事にした。 中に何が待ち受けているのか、才人は分からなかったが、何故だか分からない予感だけは存在した。 多分、この鏡を通過したら、自分は『別の世界』に行くのでは無いかと言う予感が…… そうだ……それで俺は…… その予感の通りに月が二つある異世界に来てしまったのだ。 始めは、この突飛な事に、才人は驚いた。 驚いたが『絶望』はしなかった。 何故だか分からない世界で、一人だけだと言う事実すら『絶望』を才人に与える事は出来なかった。 何故なら、そういう予感があり、こうなると言う『覚悟』を才人は無意識に持っていたからだ。 そうして、自分はシエスタと出会って……それから…… あの桃色の髪の少女と、出会ったのだ。 「ふぁぁぁぁぁ……ん」 ピキピキと起きたばかりの筋肉が張る音を、ぼんやりと才人は聞きながら、大きな欠伸をした。 なんというか、もの凄く目覚めが良い。 十時間以上グッスリ眠った後の目覚めも、ここまで爽快感を与えてはくれないだろう。 そんな事を、つらつらと考えていると、急にベッドに押し倒された。 「にぇ、にゃんだ!?」 回らない舌で、叫んだ声は自分で聞いても酷く間抜けで泣きたくなったが、 それよりも、今、自分に抱きついてきてる者の方へと意識がいく。 「良かった……良かった……才人さん、本当に、良かった……」 抱きついてきた少女は、泣きながら才人の覚醒を喜び、その胸の中で、彼の暖かさを感じていた。 「ごめん……心配掛けた……」 泣いている少女を安心させる為に、才人も確りとその細い身体を抱きしめる。 二人がお互いの体温を感じている中、ルイズだけが不機嫌そうにその光景を眺めていた。 「ちょっと」 一分か二分か、まぁ、ともかく時間が暫く経過すると、ルイズは、とうとう我慢しきれずに声を掛けた。 その声に、才人は、うわわわわぁ、とあからさまにうろたえて、シエスタは、と言うと、なんだか物凄い目でルイズを見てきた。 その目は明らかに、空気を読んでくださいと言っていたが、あえて無視する。 「あんた!」 「はい、なんでしょうか!」 ルイズの怒声に、才人は、これは逆らうとマズいなと感じて、思わず敬語で返答する。 と言うか、さっきから予感が訴えてくる。 これから、この少女に扱き使われると言う、あまりにも叶って欲しくない予感が…… 「あんたを、これから私専属の使用人に任命するわ。 この私の世話が出来るのよ、ありがたく思いなさいよ」 「なっ! どっ、どういう事ですか!?」 桃色の少女の言葉に、シエスタが噛み付いているが、才人は、多分、少女の言った通りになる事を感じていた。 (『覚悟』はあった……『覚悟』はあったけど、正直、泣きてぇよなぁ……) これから起こるであろう苦難の道の『予感』に、才人は溜め息しかでなかった。 アルヴィーズの食堂での豪勢な昼食を前にして、キュルケは昨日と今朝のルイズの様子を思い出してブルーになっていた。 そんなキュルケの隣には、目の前の料理をパクパクモグモグハグハグと次々に胃袋へと収める暴食魔人が座っている。 「ねぇ……タバサ」 そんな暴飲暴食娘に、キュルケは声を掛ける。 何時もの彼女らしくなく、とても弱々しい声。 「どうして……ルイズは……」 その先は続かなかった。キュルケは、言葉を詰まらせ、テーブルの上に載っていたワインを呷る。 タバサは、ルイズの事を魔法が使えないメイジであり、それを理由に周囲から苛められていたぐらいのことしか知らない。 だから、ルイズの事は『危険』だと認識していた。 虐げられていた者の所へ、虐げていた者達に復讐するだけの力が手に入ったなら、 どんな聖人や天使だろうと、その力を振るう。 何故なら、そういう者達は信じているからだ。 虐げられている自分達の事を助けてくれる何かが、何時か、きっと自分達を救ってくれると。 タバサ自身、そんなものに一片の希望すら持っていないが、心の底ではもしかしてと思っている。 もし、あの使い魔を召喚したのが自分であるならば…… 自分は、何の疑問も抱かずに祖国へと戻り、あの男を―――――― そこまで考え、タバサは首を振るう。 本筋から話が逸れている。 今は、そんなIFを考えている暇では無い。 おくびにも出していなかったが、タバサは昨日からキュルケの護衛をしている。 もしも、自分がルイズであるならば、仇敵の家柄であり、尚且つ、自分に対してからかいの言葉を毎日掛けてきたキュルケを狙いに来るだろうと考えたからだ。 キュルケ自身、あのからかいの言葉にそこまでの意味を見出していなかったが、あの言葉はルイズの自尊心を傷付けるのに、十分な威力を持っていた。 そんな言葉を毎日のように掛けていたのだ。殺意を抱かれる恐れは多いにある。 と言うか、今朝の言葉からして、ルイズがキュルケに対して殺る気満々なのは、疑う余地も無かった。 「そういえば……今朝から、モンモラシーを見ていないわね……タバサ、知ってる?」 話題を変えよう、別の娘の話を振ってきたが、振ってから、 キュルケはモンモラシーがギーシュの恋人である事を思い出した。 恋人が突然、メイジでは無くなったのだ。 かなりショッキングな出来事だったのだろう。 「ちょっと、様子でも見に行こうかしらね……」 心配そうに立ち上がるキュルケの手を掴み、そのまま椅子へ座らせる。 困ったような顔をしているキュルケに、皿一杯に盛られた料理を差し出す。 「今は、良いわよ。食べる気分じゃないから」 「そう言って、昨日の夜から何も食べていない。 おまけに目の下にクマも出来ている」 その言葉に、慌てて手鏡を取り出して目の下を確かめるキュルケにタバサは、ゆっくりと声を掛ける。 「大丈夫、彼女の様子は私が見に行く。 だから、貴方は食事をして、部屋で休むべき」 「別に大丈夫よ。 今はダイエット中だし、それにこのクマも、大したことじゃあ無いわ。だから―――」 「―――お願い」 休むように懇願するタバサの姿に、キュルケは溜め息を吐いて、わかったわ、と呟いた。 それに満足したタバサは、モンモラシーの様子を見に行く為に食堂を後にする。 勿論、自分の代わりの護衛を用意するのも忘れない。 タバサが居なくなった後の食堂では、変なテンションの青髪メイドが、キュルケの口に無理矢理食事を運ぶと言う珍妙な光景が見られたとか。 「あの……シエスタ」 「………………」 「その、怒ってるのは分かるよ、けどさ……」 「………………」 「話ぐらいは聞いてくれても良いんじゃないのかなぁと、ぼかぁ思うんですけど……」 「………………」 現在の時刻は夕刻。 朱色の空と二つの月が合わさって、絶景を作り上げていたが、そんな事を気にしている暇では無かった。 私……怒ってます。物凄く怒っています。 そんな、怒ってますオーラを身に纏って才人の事を無視するシエスタに、正直、才人はビビッていた。 ルイズが宣言した使用人になれ、と言う発言に、猛然と噛み付いたシエスタだったが、他ならぬ才人自身が、別に構わない、と言ってしまったので、どうにもならなくなってしまったのだ。 そんな訳で、晴れて才人はルイズの使用人となってしまった訳であるが、それも明日からの話だ。 別に才人としては今日からでも良かったのだが、幾ら秘薬で治療したと言っても、怪我をしてから一日しか経っていない。 万が一と言う事もあるので、シエスタの提案で今日も医務室で夜を過ごす事となったのである。 しかし―――――― 「おーい、シエスタ。あの、マジでそろそろ限界なんだけど、あの降りていいかな?」 昨日の昼から気絶していた才人は、当然の如く尿意を催しており、 その排泄をしようとベッドから立ち上がろうとすると、シエスタが無言で止めてくる。 その目は、怪我人ですからベッドから立つなんてとんでもございません、と告げていたが、 はっきり言って、シエスタのお仕置きであるのは疑うまで無い。 使用人のピンチだと言うのに、姿の見えないルイズは、昼頃までここで話し込んでから姿を消している。 と言う事で、現在、医務室には才人とシエスタしかおらず、シエスタに完全にビビッている才人にとっては動くに動けない状況なのだ。 「あの~、シエスタさん。本当、本当、ちょっと、トイレに行くだけですから、勘弁してください、お願いします」 涙目で訴えてくる才人に、シエスタも限界であることをようやく悟り、無言だった口から、 久方ぶりに、仕方ありませんね、と発音が聞こえる。 やった! と叫びのをグッと堪えた才人が、ベッドから降りようとすると、シエスタが手で静止してくる。 あれ、許可してくれたんじゃないの? 「はい……才人さんは怪我人ですから、怪我人の方のトイレは“コレ”ですよね?」 シエスタの手に微妙に黄色い尿瓶が握られているのを見た才人は――――――泣いた。 同時刻 静寂が支配する部屋の中で、赤色の明りに照らされたキュルケは俯いてベッドに座っていた。 夕焼けの赤と地の赤で、彩色された髪で隠れた顔には、 普段の彼女ならば絶対にするはずの無い愁いの表情を張り付かせている。 「……ルイズ……」 何処か、遠くへと行ってしまった友人の名を呼ぶように、意地っ張りで素直では無い桃色の少女の名を呼ぶ。 返答など期待していない。 喪失感を紛らわす為だけに発した、その言葉に――― 「なぁに……キュルケ?」 ―――反応したのは、血の様に赤い空と二つの月を背にする漆黒のローブを羽織る少女であった。 氷柱を背中に突っ込まれたような気分だ。 自分一人だけしか存在していなかった部屋に、物音一つ立てずに、この少女は現れた。 息が……苦しい。 ルイズの放つ威圧感に、キュルケは呼吸すら忘れてしまっていた。 「ねぇ……何か用なの? せっかく、私が足を運んできたのだから、面白い話題なんでしょうねぇ?」 ケラケラと童女のように笑うルイズは、なんというか、言い知れぬ不気味さと人を惹きつける魅力を身に纏っている。 ―――違う こいつは、こんなのはルイズじゃあない。 自分の知っているルイズは、あんな化け物みたいな笑い方はしないっ! 「貴方……誰? どうして、ルイズの姿をしているの!?」 敵意を込めた視線に、ルイズは、フンッ、と鼻を鳴らし、右手を掲げる。 瞬間、ホワイトスネイクが背後からキュルケの頭を一文字に薙ぎ払い、DISCを奪い取った。 込み上げる喪失感に泣きそうになるのを我慢しながら、キュルケはルイズを睨むのを止めない。 その様子に、使い魔から渡されたDISCを頭に差し込んだルイズは口を開く。 「一体、何を言っているのか、さっぱり分からないけど、私は私よ。 他の誰でも、他の何者でも無いわ」 淀みなく答えるその言葉に、キュルケは首を振る、違う、と 「私の知っているルイズは、我慢が出来なくて、すぐになんでも癇癪を起こすけど、それでもこんな事をする娘じゃあ無かった! 他人から力を奪うような娘じゃあ、絶対に無かったわ!!」 我慢していたはずの涙が流れているのを、キュルケは気が付かなかった。 18年間共に歩んできた才能を奪われたのだ。無理も無い。 しかし、今、ここでその悲しみに泣き崩れていたら、もっと大切なモノを失ってしまう。 「ねぇ……ルイズ、もう止めましょう。 奪った才能を返して、また何時ものように一緒に学びましょう? そうして、他人から奪った才能なんかじゃあ無くて、貴方自身の才能を育てて行けば良いじゃない……」 「………………」 「こんな事をしたって根本的な解決にはならないわ。 ねぇ、お願いよ、ルイズ。何時もの優しい貴方に戻って。 努力家で、意地っ張りで、誇り高い貴方に―――」 「五月蝿い! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!!!」 髪を振り回し、取り乱したように叫ぶルイズに、キュルケは近づこうとするが、動いた瞬間、ホワイトスネイクに床に叩きつけられた。 「がはっ―――!」 肺の中から追い出された空気が、口から漏れる音を自身で聞いたキュルケは、それでもルイズに言葉を掛け続ける。 今なら、先程のような余裕を持っていない今ならば、自分の言葉もルイズに届くはずだ。 いや、届かせなければならない。 「こんな……こんな力に振り回されるのは貴方じゃあ無い! 今の貴方は、この使い魔の力に酔っているだけ! お願い! 正気に戻って! ルイズ!!!」 最後の言葉を吐き出したと同時に、キュルケの口から血が噴出す。 上から踏みつけてくるホワイトスネイクに、何処か、生きるのに重要な器官が潰されたのかも知れないが、それでも止める訳にはいかない。 大切な、友達を助ける為に…… 「ルイズ……」 「うるさいって言ってるでしょ! 戻れですって!? あの魔法を使えず、侮辱され続け、屈辱を投げつけられていたアレに!? 冗談じゃない! 私は戻らない! あんな! あんな! 最低の場所に戻るなんて絶対イヤ! 酔っているだけ? 違う! 私は『使いこなしている』だけ! この力で、貴方達を、私を『ゼロ』と馬鹿にした連中全てを、私は―――!!」 感情のままに吐露するルイズの言葉を、キュルケは遮ろうとするが、それはまったく別の形で中断された。 窓側の壁全てが、一瞬にして破壊されたのだ。 見晴らしの良くなった部屋の中で、乱れた髪を気にも留めずに、ルイズは壁を壊した闖入者へと目を向ける。 蒼い髪に眼鏡を掛けたその少女は、ウィンドドラゴンの幼体の上に立ち、 その身体に似合わぬ大きな杖を、迷い無くルイズへと向けていた。 「二度目よ……貴方が、私の邪魔をするのは……」 ポキリと散らばった廃材を踏みつけ、ルイズはドラゴンへと一歩踏み出す。 キュルケを踏みつけていたはずのホワイトスネイクも、その後に続いていく。 「貴方……『覚悟』はしているのでしょうねぇ 人の邪魔をするって事は、排除されるかも知れないって言う『覚悟』を」 淡々と語るルイズに、タバサは僅かに口を開く。 「昼間……モンモラシーとギーシュに会った……」 「何を言っているの?」 ルイズは、疑問符を頭の上に浮かべていた。 何故、ここでギーシュの話題なのか。 この眼鏡の娘は、ギーシュと何か親密な中で、その為、邪魔をしているとでも良いたいのだろうか? そんなルイズの困惑を余所にタバサは言葉を続けた。 「彼は……壊れていた。心も、記憶も……何もかも」 それは、無感動な彼女にしては珍しく、誰が聞いても怒っていると分かる、静かな怒声であった。 それが異常な事だと分かったのは、倒れているキュルケだけで、普段のタバサを知らないルイズは、ただ、壊れたの、と詰まらなそうに呟く。 「情けないわね……私は、16年間、魔法を使えない事に耐えてきたのに。 一晩も耐えられないなんて……貧弱ね」 蔑むような声色を発した、その『敵』へ、タバサは呪文を紡ぐ。 ウィンディ・アイシクル タバサの最も得意とする、トライアングルスペルの一つだ。 「へぇ……」 感心したようなルイズの声に、タバサによって作り上げられた氷の矢が、一斉に襲い掛かる―――が 「ウオシャアアアアアアアアアア!!」 ホワイトスネイクの烈火の如き叫び共に繰り出された拳で、全て叩き落された。 「―――ッ!」 あの使い魔が有能な事は、能力から見て推測出来たが、まさかここまでとはタバサも思っていなかった。 しかも、氷の矢を真正面から叩き壊したと言うのに、ホワイトスネイクの両手には傷一つ存在していない。 辛い、戦いになる。 シルフィードの背中の上で、次なる呪文を紡ぐタバサは、これまでの戦いの中で最も困難な事になるであろう事を感じていた。 一方、ルイズも内心は焦りを持っていた。 ホワイトスネイクは有能だ。 本体の性能も言わずもがな、その能力は、使い方さえ考えれば、最強の盾にもなり、矛にもなる。 が、射程距離の内部であるのならばの話だ。 ルイズにとっての一番の問題は、どうやって空を飛ぶ敵に近づくのか、だ。 今奪ったばかりの魔法で叩き落すと言う選択肢もあるが、今の一撃から、魔法の技量は、今まで奪った二枚のDISCの中に記憶されているモノよりも、遥かに上であることが理解できる。 そんな相手に、地面から相手よりも下手な魔法を撃った所で、通用するはずも無い。 長期戦になれば、人が来る。 否、もうすでに壁の破壊音に気が付いて、宿直の教師が近づいてきているかも知れない。 となると、ここは出し惜しみ無しで、ホワイトスネイクを至近距離まで近づかせ、短期決戦で勝負をつける。 奪ったDISCの中で使えそうな呪文を全て引っ張り出しながら、ルイズは、敵意を剥き出しにして、タバサを睨みつけた。 そんな二人が激突するのを見ている事しか出来ないキュルケは、満足に呼吸が出来なくなった身体で、静かに立ち上がった。 もうすでに戦いの場は、キュルケの部屋から移り変わり、二つの月が浮かぶ空が、戦闘の場となっている。 「何故……」 どうして二人が戦わなければならないのか。 どうして私は、二人を止める事が出来ないのか。 キュルケは悔しくて堪らなかった。 そんな彼女の足元に、きゅるきゅると鳴きながら、今まで部屋の隅で震えていたフレイムが擦り寄ってくる。 口元を紅く染める主人を心配するようなフレイムに、キュルケは大丈夫と告げると、動くだけで激痛を訴える身体に鞭を打ち、二人の後を追っていった。 第3.5話 戻る 第五話
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4531.html
トリステイン王宮の最奥にある女王の寝室では、その部屋の主が悩ましげな溜息を漏らしていた。 窓際で2つの月を見上げ、祈りを捧げるかの様に手を胸の前で組んでいる。 (……サイト…さま) その時、雲が不意に月を隠した。 (あぁ…サイトさま…わたくし…わたくし…) ラ・ヴァリエールから帰ってきて以来、毎夜こんな調子である。 彼女がこうなってしまったのに、原因は2つ有った。 1つは、数日前から見続けている夢。 もう1つは、ラ・ヴァリエールからの帰りに起きたのだった。 「あ、あの…女王陛下…」 顔面を蒼白にしながらシエスタが口を開いた。 ルイズの実家からの帰り道、本来ならありえない事なのだがアンリエッタ、ルイズ、サイト、シエスタは同じ馬車に乗っていた。今回の訪問は公式では無い。折角だから普段では味わえない同年代たちとの相乗りを楽しみたい、とのアンリエッタのたっての希望があったからだ。御者に背を向ける形でサイトが座っており、その横にルイズ、前にはアンリエッタ、そしてルイズの前にシエスタが座っていた。ちなみに来る時も同じ理由で同じ席順だった。 「どうなさいました?」 「き、きき、昨日はとんだご無礼を、お、おお、お許し下さい」 昨日の無礼、それは酒を飲んだシエスタがアンリエッタを無理やり宴に引っ張り込み、更には同じメイド仲間と話すが如く馴れ馴れしい態度で接してしまった事だった。確かに、いちメイドが国の頂点に君臨する者に対するソレでは無かったが、アンリエッタは気にする風は無かった。 「大丈夫、気にしていませんわ。それに…」 そこで視線をサイトに移す。 「昨日の主役はサイト殿です。わたくしは単なる傍観者として参加していたに過ぎません。女王としてではなく、彼を知る1人の女として」 そういって微笑を浮かべシエスタを振り返る。 しかし、その言葉を聞いて、3人はそれぞれ違うことを考えていた。 (彼を知るですってー!姫さまってば『わたくしの騎士じゃない』なんて言っておきながら… も、もしかしてこの犬ってば嫌がる姫さまに無理やり…) (サイトさんってば、もう女王陛下と…) (な、何を言い出すんだ、この姫さまは…) サイトが隣を見ると、案の定ご主人様はどす黒いオーラを纏っていた。 (あちゃー、やっぱ勘違いしてるよ) 「あの、姫さま?その言い回しはどうかと…」 サイトの訴えに、しかしアンリエッタは『わたくし何か間違ったこといいましたかしら?』とでも言う様に平然としている。 「ひ、姫さま、その…彼を知るって、どういう…」 「あら、何を言ってるのルイズ。あの時あなたも居たじゃないの」 「……へ?」 「わたくしが偽りのウェールズ様と行こうとしたとき、サイト殿は怪我を負いながらも止めてくださいました。そしてルイズ、あなた の虚無が無ければ……」 その時、数滴の雨粒が窓を叩いた。 馬車はおりしも街に差し掛かろうとしていた。 「あら、雨」 シエスタがいち早く気付くと同時に、その勢いは激しさを増していく。 突然の雨に、街を行く人々も騒ぎながら近くの軒下へと駆け込んでいく。 「わたしたちも一旦近くの宿で雨をしのぎませんか、姫さま」 御者を気遣ってかルイズが提案するが、反応は返って来ない。見ると、アンリエッタは小刻みに震えており、その震えはだんだんと大きくなっている様だった。 「姫さま、どうなさったのですか?」 その様子を見ていたサイトはハッと思い出し、座ったまま勢い良くアンリエッタの手を引き寄せ、力強く抱きしめた。 いきなりの展開に呆然としていたルイズだったが、我に返ると 「あ、あああんた、いいいいきなり姫さまになんて事してんのよ」 とサイトの耳をひっぱり叫ぶ。 「サイトさん、いきなりどうしちゃったんですか?」 シエスタも状況をつかめておらず、おろおろしながら2人を見るしか出来ないでいる。 しかし、サイトは周りの反応などまるで気にした様子も無く、更に抱きしめる力を強めた。 「大丈夫、大丈夫ですから。俺は、俺とルイズはここに居てますから」 「あんた、何言ってんの?いいから姫さまを離しなさいよ」 耳を引っ張る力を更に強めよううとしたルイズだったが、振り向いた使い魔の目がいつもと違い真剣で、相手を射竦めるに十分な威圧感を持っていた為に思わず手を離してしまう。 (な…なによ…) 訳がわからず、泣いてしまいそうになる。そんなルイズを今度は打って変わって優しく見つめ『後で何でも言うこと聞いてやるから』と諭すサイト。そうこうしている内に抱きしめた彼女の震えは徐々に治まり、潤んだ瞳で見つめきた。 「……サイト…さん」 呟き瞼を閉じるアンリエッタ。その唇がそっと近づいてくる。 「……」 「……」 ルイズとシエスタは突然の展開に、言葉を忘れたかの様にただ口をパクパクさせるしか出来ないでいた。 あと数センチで唇が触れ合おうかという時、サイトはアンリエッタの肩に手をやり、そっと引き離した。 「……ぁん…」 名残惜しそうに漏れるため息と共に、拗ねたような、甘えたような目でサイトを見る。 「……姫さま?」 眼前の困った様な表情と、自分に突き刺さる2つの鋭い視線に我を取り戻す。 (わたくしったら、いったい何を……) 「あ…こ、これは…その…ち、ちがうんです…」 かなり動揺しているらしく、言葉遣いが幼き頃に戻っていた。 「と、とりあえずどこかで休みませんか?雨は止みましたけど、もうそろそろ暗くなってきますし…」 重くなった雰囲気に耐え切れずに発したシエスタの言葉に全員が頷き、近くの宿に一泊することになった。 俺とシエスタ、ルイズと姫さまとで分かれて部屋に入る。 「ふぅ……」 ベッドに仰向けに倒れこみ、ぼんやりと天上を見ながら先ほどの事を思い出した。 (やっぱ思い出しちゃったんだろうなぁ) 先ほどのアンリエッタは、いつぞやの安宿で見せたのと同じ、少女の顔だった。『女王としての顔しか見せませぬ』と 言われた時には少し寂しい思いに駆られたものだったが、やはり彼女のああいう表情は凄く可愛いと思う。 (ついつい守ってあげたくなるんだよなぁ) そんな風に考え込んでいたとき、バタンと勢い良く扉が開き、ルイズが現れた。 (ぅわ、怒ってるよ) どす黒いオーラを放ち、つかつかと部屋の中へやってくるなり、床を指差すご主人様。 「犬、座りなさい!」 彼女の剣幕に、言われた通り床に座る。 「説明してもらいましょうか?」 (説明って言われてもなぁ) 「さっきの姫さまのあんたを見る目、尋常じゃなかったわ。あんたいったい、姫さまに何したの?」 声は優しいんだけど、目が怒ってる所為で異常に怖かった。 仕方ない。あの時の話をすると、この嫉妬深いご主人様はまた怒りに我を忘れて鞭を振るうのだろうが、話さないと 更にひどい仕打ちを受けそうだ。 「前にお前、アニエスさんとキスしたときあっただろ?」 「そ、そそ、それが何の関係があるって言うのよ!あああんただってあの時姫さまと、キキキキスしたじゃない!」 顔を真っ赤にして手を振り上げるルイズ。 「待てって、話は最後まで聞けよ。あの時も雨、降ってただろ?んで、聞いたんだよ、姫さまから。雨が怖いって」 「…は?雨が怖い?…ふん、嘘吐くならもっとましな嘘吐きなさいよね」 「嘘じゃねーって。さっき馬車の中でも行ってたじゃねーか。アンドバリの指輪の所為で偽りのウェールズと…」 そこまで言って、ルイズはハッとした。思い出したようだ。 「で、その時の所為で雨が怖くなったらしいんだ」 「……そう」 当時の事を思い出したのか、しゅんとなるルイズ。 「…わかったわ。で?そんなお労しい姫さまをいきなり、だだだ、抱きしめたのはいったい何故なのかしら?」 「……」 「…どうしたのよ、何とか言いなさいよ」 (言っていいんだろうか…) あの時は姫さまから肩を抱いてくれって言ってきた。でも、あれは別にやましい意味じゃないし、それに俺じゃなくても 同じ事を言ってたと思う。 (でもなあ、さすがにソレは姫さまの名誉の為に言わない方がいいかもな) 「いやほら…あの中で男って俺だけだったし…」 「……」 「ああいう時に抱きしめるってのが男の役目だと思うし…」 「……」 「……」 「……」 「……」 沈黙が流れた。どうしたんだろうと思い見上げる。と、そこには鞭を持つ手を振り上げ、肩をわなわなと震わせるご主人 様の姿があった。 「へー…『男の役目』ねぇ…そうやってあんたはあっちへふらふら、こっちへふらふら…」 (やばい!) その手が振り下ろされると思った瞬間、『やめて!』と声がした。 見ると、入口に姫さまが立っていた。 「やめてルイズ、お願いだから。サイト殿はわたくしを落ち着かせるためにやった、ただそれだけなの」 鞭を持つルイズの手を両手で包み込み、姫さまは優しく語り掛けた。 「…じゃあ、なんで姫さまは…その…サイトに…キ、キスしようとしたんですか?」 声を震わせるルイズ。その頬には一筋の雫が流れていた。 「そ、それは…その…」 困ったようにこちらを見る。目が合うとすぐに視線を逸らし、頬を染めて俯く。 (だー、そんな表情してたらますます疑われますって!) 「いや、その…あれだ。俺を王子さまと間違えたんだよ」 「え?そんな事は…」 (たー!もう、この姫さまは…) 俺は『ここは任せて』と視線に籠めて姫さまを見る。 「ほら、姫さまはあの時混乱してたからさ」 「…あんた、ウェールズ様に全然似てないじゃない。王子さまってガラでもないし…」 「ぅわ、ひっでー…じゃなくて。だからな、混乱しててだな、気が付いたら男に抱きしめられてて、ついつい俺とウェールズが だぶって見えたんだと思う」 「……」 「……」 「……もしかして、それを狙ってたんじゃないでしょうね」 「んなわけあるか!」 (姫さま、ごめん) 何がごめんなのか分からなかったが、とりあえず俺は心の中であやまった。 「……わかったわよ」 「……へ?」 「信じてあげるって言ってんの!」 ルイズはそっと手を下ろすと、落ち着きを取り戻した声で 「あの…姫さま、申し訳ありません。お見苦しいところをお見せして…」 「いいのよ、ルイズ。それより、ほら…」 「……?」 「サイト殿と仲直りしないと…」 姫さまはそういって、そっとルイズの背中を押す。 「…ごめんね、サイト」 「いや、別に…」 「…でも、あんただって悪いんだからね!」 (……?) 「いつもいつも他の女の子ばっかり…」 「……ごめん」 「ねぇ…ギュッってして」 頬を赤らめ、上目遣いに見上げてくるご主人様。 「後で何でも言うこと聞いてくれるって言ったじゃない。ねえ…」 「ああ」 手をまわし、力を籠めてルイズを抱きしめる。 「…サイトぉ」 腕の中のご主人様は、うっとりとした表情で目を瞑っている。 それまで事のなりゆきを見守っていたシエスタが、『よかったですね、ミス・ヴァリエール。サイトさんと仲直りできて』と優しく 声を掛ける。 「うん…」 俺はシエスタに『ありがとう』と感謝を述べ、姫さまに視線を移した。 彼女も『よかったですね』と言ってくれた。 だが、その目には悲しげな光が宿っていたのを、このとき俺は気付くことが出来なかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/936.html
食事が終え、おのおの休憩を取り始める。 衛兵の仕事は、当番制だ。 次の当番時間は夜になるということで、一同は仮眠を取るため、奥の寝室へと消えていった。 僕だけは、皆が起きてくる頃には授業も終わっているため、今日の分の衛兵としての仕事はこれで終わりだ。 掃除ぐらいしかした覚えがないのだが。 だったら、別にここに授業が終わるまで居続ける必要もないだろう。 というか、血管針カルテットには悪いが、あまりこの悪臭漂う部屋に長居はしたくはない。 一応、ルイズの従者ということにもなっているので、今、中庭を歩いても咎められはしないだろう。 今の内に、貴族達の顔を覚えておくのも良いかも知れない。 「それでは、僕はヴァリエール嬢の護衛に戻ります」 「おう……。胸当てだけは外しとけよ……」 「それと……槍の整備も忘れるな……」 そういって、彼らは仮眠室へと消えていった。昨日の騒ぎの収拾で、一睡もしていないらしい。 僕は言われるがまま、胸当てを外して、元あった場所に直しておく。 槍も邪魔なので片づけたいのだが、備品は自分たちで整備しなくては成らないらしい。 仕方なく、これは持っていくことにした。 屯所の壁にかけておいた学ランを羽織り直し、中庭へと出る。 遠目に、貴族共が談笑しているのが見えた。 どうやら食事後のティータイムと決め込んでいるらしい。 僕はその中に、見知ったピンクの髪の少女を見つけた。ルイズだ。 朝のおっぱい……じゃない! …赤い髪をした女性も一緒だ。 そしてもう一人、見たこともない、青い髪のちびっ子が見える。 様子を見ながら、少しづつ近づく。 「ああもう! ほんと腹立つわね! 大体なんなのよ、その子!」 「あたしの友達よ。使い魔の儀式で風竜を呼び出したのよ? まともに契約も出来ない誰かさんと、ち、がっ、て」 「な、ななななんですって~~~」 「あ~ら、やる気?」 どうやら赤髪の女性とルイズが、なにやら言い争っているらしい。いや、ルイズがからかわれているといった方が正解か? ちなみにちびっ子の方は、黙々と本を読み続けている。 っと、ついに互いに杖を抜きはなってしまった。 ほっといて、沈静化する様子はない。 少し注意するか。 「ッ!?」 止めに入ろうと近づいて、ようやく気がついた。 ルイズ達のテーブルに、サクランボが山盛りになっている。 ルイズにいえば、一つぐらいくれるかも知れない。 いや、今は弱みを見せてはマズイ! つけ込まれるッ! いや、僕にはこの『ハイエロファント・グリーン』があるッ! コイツを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。 そう! サクランボをとって、舌の上で転がすため、完璧に気配を消してやろう! 少しづつ、サクランボに向けて、僕のハイエロファントグリーンをほどいていく。 確実に手に入れるため、一瞬で、しかもひっくり返さずに手元まで持ってこなくてはならない。 ならば、このハイエロファントで作った網で、マグロを捕まえるみたいに一気に引き上げる! しかし、注意をサクランボに向けすぎたのがまずかった。ちびっ子が杖を抜いたことに気がつかなかったのだ。 後少しでサクランボに手が届くという所で、急につむじ風が吹いた。 つむじ風は、ルイズとキュルケの杖を吹き飛ばした。ついでにサクランボの籠もひっくり返された。 「今は休憩中」 見ると、先ほどまで黙々と本を読んでいたちびっ子が、杖を片手にこちらを向いていた。 どうやら今の風は、この子が放ったようだ。余計なことをッ! 落ちたサクランボに目をやる。全て、今の風でつぶれてしまっていた。 オロロ~ン。 「っと」 風で吹き飛ばされた杖が、こちらの方へと舞ってきた。 僕はそれを二杖とも受け止める。 「あら?」 「あああ、あんた……いつからそこに」 「今さっきですが」 二人とも、僕の姿に気づいたようだ。ちびっ子の方は未だ、興味なさ気に黙々と本を読みふけっているが。 ともかく、僕は両手の杖を二人へと返した。 「あら、ありがと」 「……」 ルイズは僕の右手にあった杖をふんだくるやいなや、僕に対して一気にまくし立ててきた。 「あんたいったい何なのよ! 使い魔召喚の儀式で平民を呼びだしたと思ったら突然暴れて逃げていくし! 仕方なく追いかけて使い魔にしてやろうと思ったらその……キ、キスも避けるし! 前髪は鬱陶しいし! あげくスタンド使いとか訳が分からないこと言い出すし! ほんとなんなのよ、もう!」 好きなだけまくし立てて、荒々しく肩で息をし出すルイズ。 横にいた赤髪の女性は目を丸くしている。 ちびっ子の方も、本から顔を上げてルイズの方を見ている。もっとも表情は変わっていないが。 頭に血が上ることが多すぎて疲れたのか、ルイズはドカッと、荒々しく近くの椅子に座り込んだ。 そしてテーブルの上のケーキをヤケ食いしだした。 それでも、ちゃんと切って食べているのは、教育のたまものなんだろう。 「?」 なにやら、あっちの方の席が一気に騒がしくなった。 「何があったのかしら?」 ルイズは我関せずといった調子で、未だにケーキを食べ続けている。既に3個目だ。 と、見覚えのある格好をしたメイドが、こちらに向かって走っている。シエスタだ。 シエスタはひどくおびえた様子だ。 その様子が気になった僕は、走っていくシエスタの肩を押さえて、事情を聞く。 「シエスタ、何があったんですか?」 「は、離してください!」 いきなり呼び止められて、ひどくおびえた様子のシエスタだったが、何度か深呼吸をさせ、落ち着かせる。 僕は改めて、事情を聞く。 「それで、何故あんなに慌てていたんですか?」 「そ、それが……。才人さんと、グラモン様が決闘を……」 ガタン 誰かが立ち上がるような音がする。 見るとルイズが口元を押さえて、立ち上がっていた。 何か言いたそうにしているが、口の中にケーキが残ったままで喋るのはプライドが許さないようだ。 ともかく、僕はシエスタから、事の詳細を聞く。 「……それで、才人さんが持っていた香水が元で、グラモン様が激怒なさいまして、そのまま決闘ということに…」 どうやら才人が持ってきた香水で、その持ち主の二股がばれて、逆切れ、決闘という運びになったらしい。 その相手というのは相当、どうしようもない奴だな。 ソイツの事はともかく、これはまずい。 ルイズの話によると、貴族は悉くメイジだという。 昨日暴れた時に、こちらに火の玉等を飛ばしてきた奴らを思い出す。 僕は退けることが出来たが、才人にそれが出来るか? 無理だ。そもそも運動神経でさえ、僕に負けている。 生身でどうこうなる相手じゃない。 才人は僕にとって、真の友か? 答えはNOだ。彼には僕のスタンドは見えない。僕という像が見えていない。 けれども友人か? といわれればYESだ。 見捨てられる訳がないッ! 以前の僕なら考えもつかなかった。だが今の僕は、僕じゃない僕を通して、仲間というものを知っている。 もう二度と、ひとりぼっちの花京院典明には、絶対に戻らないッ! 「すみません、シエスタ。その広場というのはどっちでしょうか」 「そこのアーチをくぐった先ですけど…… だめです! 殺されちゃいます!」 シエスタが引き留めようとする。 しかし、僕はそれを振り切って、そのアーチに向かって走り出した。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7519.html
前ページ次ページLouise and Little Familiar’s Order タルブ村の朝は早い。東の地平線が漆黒から浅い紫に変わる頃から、小さな子供を除くわりと多くの者達が朝餉や一日の労働の準備に取りかかりだす。 シエスタの家でもそれは例外ではない。母親が旦那と八人……いや、今は九人の子供の為、多くの食材と台所用具を相手に格闘していた。 するとそこに、珍しく早く起きてきたらしいシエスタがやって来る。茶色のスカートに草色した木綿のシャツをしていた。 「おはよう、お母さん。」 「おはよう、シエスタ。今日はえらく早いんだね。どうしたんだい?」 「ちょっと早く目が覚めちゃって・・・・・・何か手伝おうか?」 「それじゃあ、お願いされてくれるかしら?」 そういうと母は、木のボウルに入っている沢山の瑞々しい野菜をシエスタのほうにズイッと渡した。 シエスタ喜んでそれを受け取ると、慣れた手つきでそれらの皮を剥き、そして食べやすい大きさに細かく切っていく。 長閑な時間が過ぎていく。母がする朝餉の手伝いなんて本当に久し振りの事であった。魔法学院の奉公に出る前は病気の時を除き一日だって欠かした事は無い。 暫くそうしていると、母がまた話しかけてきた。 「そういえば、昨日来たミーちゃん、だっけ?あたしの気のせいならいいんだけど、何か元気無さそうに見えたよ。何かあったのかい?」 「え?ううん、何でもないと思うけど。元から、ああいう性格なんじゃないかな?」 流石に太陽の様な性格の子供たちを八人育ててきただけあって、母が持つ子供に対しての観察眼は確かだ。 シエスタは二言だけ言った後で、完全に黙り込んでしまう。まさか自分の勤め先で主人に鞭で事あるごとに引っ叩かれているだなんて、口が裂けたって言えない。 それに言ってそれでどうなるという事でもない。貴族の者達が配下の平民をどうしようと、第三者であり、彼ら彼女らと平民でもある自分達には何かを言う権利はない。 おそらくミーも、自分の兄弟達には少し劣るだろうが明るい性格なのだと、シエスタはそう考えている。ただ環境がそれの発現を阻んでいるのであって。 少し浮かない顔をしていたシエスタに、母からもう一度声がかかる。 「あ、あと昨夜はだいぶ遅くまで起きていたみたいだったわね。どうだい?何か分かった事はあったのかい?曾御祖母さんの形見について?」 「うん。ミーちゃんが色々と話してくれたよ。直ぐに寝かせてあげたけどね。」 それで少しはシエスタも気持ちを取り直したらしい。少しは包丁を持つ手が軽くなった気がする。 確かに昨日の夜、ミーに祖母の形見を見せた結果得られた物は、予め用意していた幾つかの羊皮紙に収まるような物では決してなかった。 また、彼女の口から通して語られる事物の中には、長年片身の管理をしていた父親さえも気づかなかった事もあり、正に驚きの連続とも言えた。 500近くにも及ぶポケモンの種類、様々な種類のモンスターボールを駆使した捕獲の方法、多岐に渡るその生態系…… とても5歳の子供が記憶していられるような量ではないために、シエスタと父は更に詳しく聞きたかったが、本人が長旅で疲れている事もあったために、本格的な調査はまた明日ということになった。 恐らく朝日が昇って暫くした頃に起きてくるだろう。完全にこちらの都合で夜更かしをさせてしまった事を思うと、シエスタは苦笑するしか他なかった。 Louise and Little Familiar s Orders「Countdown of ‘Hell or heaven’」 シエスタが起床する約一時間ほど前、アルビオンと接続するトリステインの港町、ラ・ロシェールの遥か上空4000メイル付近をアルビオンの超巨大戦艦、『レキシントン』が航行していた。 そしてその前後左右には、それより大きさが一回り小さい150メイル級戦艦『モナーク』『センチュリオン』『レパルス』『オライオン』の四隻が王を護衛する騎士の如く寄り添って航行している。 更にその前方では、100メイルクラスの戦艦『エリン』『ウォースパイト』『ヴァリエント』『ベレロフォン』『アガメムノン』『テメレーア』の六隻が先述した艦の前衛兼水先案内人として三段構えの航行している。 幾つかはこの二年間の内に新造されたものだが、大体は旧王政府が使用していたものを殆ど横流しする形で使っている。 それはさておき、艦隊の力としては申し分無かった。そう。他国の一部分を一時的にせよ自国の制圧下に置くという点では。 だが、『レキシントン』の甲板にいたボーウッドは内心の不安を上手く隠せないでいた。 彼はこれだけの戦力で、果たして目標としている場所を攻め切り、制圧出来るのかどうかを疑っていたからだ。 彼は政府から一方的に提出された、作戦命令の書かれた書簡を懐からそっと取り出し広げる。それにはこう書かれてあった。 ―『レキシントンを中心とする十一隻の戦艦は、着底可能なトリステインの然るべき平地、タルブに着底後、即日その土地を占領。レコン・キスタの橋頭堡を更に二週間かけて築くべし。 またアルビオンへの連絡港、ラ・ロシェールへは150メイル級戦艦二隻と100メイル級戦艦四隻を派遣。トリステイン王軍を壊滅させた後、可能な限り施設を無傷で手に入れるべし。 尚、攻撃手段はその現場における司令官の任意による。しかし攻撃の時刻は双方が目標地点に辿り着いた事を相互に確認し終わった時刻に同時に行うべし。』― つまりこれの戦術はチェスプロブレムにおける解法の一種と同じである。あらかじめ戦略的重要箇所に有力な兵を配置していき、時間が来たと同時に一気呵成に攻撃するというものだ。 だが改めて読み直してもこの作戦は馬鹿げている、とボーウッドは同時に思った。 軍議の席でも何度か述べたが、『レキシントン』を派遣するというのであれば港のあるラ・ロシェールの方が戦術的にも示威的にも正しい。 第一、直ぐには本国からの援助も受けられぬそんな内地に、一度に大量の将兵を限られた物資の中ほったらかしにして良い訳が無い。 あっという間に干上がってしまうのは明白でもあるが、それ以上に相手側から大攻勢を受けた場合、苦も無く倒されてしまう可能性がある。 巨大で強力な軍とはいえ二手に分かれさせるのだ。何処かしら穴が出て来てもおかしくは無い。 そして……今のところトリステインとアルビオンは不可侵条約を締結している状態である。こちらから一方的にその条約を破棄し、加えて宣戦布告無しの先制攻撃など、厚顔無恥極まりない戦略と言える。 例えこれでトリステインを打ち倒す事が出来たとしても、その後諸外国に対し、一体どの面下げて外交をしていくというのだろうか……と。 だがそんな彼の提言はクロムウェルや軍最高司令官であるジョンストンによって一蹴された。 彼らが言うには、昼間に正攻法を用いて海岸線を少しずつ攻めて制圧していくより、夜間に奇襲作戦を用いて内陸部の広範囲に大部隊を布いたほうが、手早く全体を手中に収める事が出来ると。 また、仮にラ・ロシェールにてトリステイン王軍と鉢合わせることになったとしても、本格的な戦争状態に陥っていないことから常駐している軍は少ない。 激しい抵抗に会い撤退するようなことがあったとしても、海上へはレコン・キスタの陣容を突破しなければならない。 それに万一抜ける事が出来ても、アルビオンは敵国で、ゲルマニアもガリアも頼れる事は出来ないといったように、彼らの行く先は何処にもありはしない。 かと言って王都の方に逃げようとしても、その途中にはやはりレキシントンを中心にしたレコン・キスタの軍が待ち構えており、突破する事は非常に困難を極める。どちらにせよ彼等は圧倒的な兵力によって挟撃されるのだ。 そしてトリステイン軍が一切の事情を把握し、態勢を立て直す前に、制圧した二箇所における支配を磐石な物とした後、悠々と首都のトリスタニアを攻撃する、と。 なお、不可侵条約破棄と宣戦布告無しの攻撃については、 『幾らでも理由はでっち上げることは出来る。それよりも死に体のトリステインが無くなり、証言する者が誰一人としていなくなるか、或いは圧倒的少数になれば、証言は黙殺され、今回の攻撃は些細な外交上の経緯に過ぎなくなるだろう。』 とだけ答えた。その最後に『戦争では勝った者が始めて正義を口にする事が出来るのであり、歴史すらも勝った側にとって非常に都合の良い物に変える事が出来る。』という、割と当然の事を述べた一言を不気味なニュアンス込みで添えもした。 しかしそれでもボーウッドの心には不安が残っている。戦闘に関しては常に万が一を考えておかなければ不測の事態に対処出来ないからだ。 甲板の中心付近を歩いていたボーウッドは右舷側に近付く。実際に搭乗し生活をしてみて改めて巨大なフネだということに驚きもした。 だが新技術とやらの恩恵なのか、これまでのどのフネよりも早く、そして風石の消費量を抑えていることの方が何倍も驚かされた。 数回会っただけだが、あの胡散臭い風体の技術主任は、本当に何がしかの形でこの世界に技術革命を起こすのではないかとも思えてくるものだ。 それが包括的に見て良い事なのか、それとも悪い事なのかはともかくとして。 そっと地上の方に目をやると、幸いな事に、この場所で近々雨でも降るのか、今晩は眼下に厚い雲が張っている。 もし哨戒中の竜騎士がいたとしても、現在自分達がいる高度と相まって目視する事は流石に難しいだろう。 その時、一人の男が自分の傍に駆け寄ってきた。他の戦艦との連絡係となっている士官である。 「報告します。ラ・ロシェール討伐艦、『フューリアス』、『レナウン』、『アーガス』、『ウェーブ・ナイト』、『トライアンフ』、『ライブリー』は全艦定位置に到着したとの事です。」 「よし。こちらも後一時間半ほどで目標地点に到着する。当初の計画通り攻撃は同時に行う。それまでは何があっても行動してはならない事を伝えよ。」 「了解しました。では、失礼します。」 士官はそう言って敬礼すると、艦尾の方に向かい駆けていった。 風は冷たい。ここはアルビオンの存在する場所よりさらに高度ゆえ、季節は初夏であるにも拘らず、吹き付ける風は南方向から来ているにも拘らず、真冬の北風の様に感じられる。 いずれこんな風がこのハルケギニア全土に吹き荒れる事を予感しつつ、ボーウッドは再びだだっ広い甲板の上を歩き出すのであった。 シエスタの部屋のベッドで眠っていたミーはその日、前日遅い時間に眠ったにも拘らず、かなり早い時間に目を覚ました。何故そうなったのかは本人でもよく分からなかった。 魔法学院で毎日毎日ルイズを早く起こしていたから、その習慣がいつの間にか体に染み付いてしまったのだろうか? 窓の外を見ると、まだまだ太陽は地平線から上がってきていない。隣で寝ていたはずのシエスタは今はいない。 ともかく彼女はベッドから降りようとする。すると、近くにあったかなり小さめのチェストの上にある物を見つけた。 モンスターボールである。今はピンボールほどの大きさのモンスターボールが六個転がっていたのだ。 元の世界の法律でポケモンを持つことが出来る年齢には達してはいないものの、ボールの開閉方法くらいならばミーは知っている。 ボールの中心付近にある小さな凸状の開閉スイッチを押すと、ピンボールほどのモンスターボールはソフトボールくらいの大きさになる。それから始めてポケモンが中から出て来るという仕組みなのだ。 ミーは試しに一つのボールを手に取り開閉スイッチを押してみる。しかしボールは大きくならず、元の大きさのままである。何度押してもそのままだった。 大きくならないのには、開閉システムが破損しているという理由があった。見た目にはなんら異常は無くても、内部機器の老朽化といった目にははっきり見えない箇所における異常故に気付き難い事もある。 通常そういった異常は、ポケモンセンターといった然るべき施設においてきちんと対処するものなのだが、生憎ミーのいるこのハルケギニアではそういった施設は無い。 無理やり開けようとしても、原始的な道具を使うといった生半可な技術では通用しない。どんなに開けようとしても、こればかりは開けようが無いのだった。 それに、もし中にポケモンがいたとしても自分が‘おや’ではないのだから、抵抗されることは必至。 今開けたとして、ピッピとかイーブイとかならまだましだが、もしギャラドスやバンギラスなんて入っていたら……昼頃までに恐らく無条件でこの辺りは更地になっていることだろう。 そんな事を考えていると、ミーは無闇に開閉スイッチを押すのを止めた。 それから彼女は、床でぐうぐう鼾をかいて寝ていたヒメグマをそっと揺り動かして起こす。 しかしヒメグマは相当寝覚めが悪かったのか、目を半開きにしたままふらふらとした足取りでミーの足元にひっつく。 引っ付かれたままでは流石に歩くことは出来ない。そこでミーは両腕で抱えることにした。小さめのヒメグマでもそれなりにそこそこの重さがあるが、こうしていればその内頭の中もはっきり起きてくるだろうと考えたからだった。 取り敢えず、顔を洗いに行こうとしたその時、くぐもった音と共に地面が僅かに震えた。 何の音だろうと思ったミーは、近くにある窓に駆け寄って外を見てみる。しかし外は日がまだ十分出ていないために暗い。 何かの爆発か或いは小さな地震かと考える間もなく、再び地面が遠くで鳴り響く雷鳴のような音と共に震える。 今度のものは先程よりも大きい。得体の知れない不安感に突き動かされ、ミーはヒメグマと共に転ぶようにして部屋から出た。 すると殆ど時を同じくして、他の部屋からもシエスタの兄弟達が寝巻きのまま我先にといった感じで廊下に出てくる。 彼らもやはり詳しい状況が掴めない為、どの子もミーと同じく不安な表情をしていた。 その時、別の部屋で母親の手伝いをしていたらしいシエスタが、兄弟達とミーの元にやって来た。 彼女だけは私服に着替えていたが、やはり何が起きているのか分からないといった表情をしていた。しかし、皆を落ち着かせるように静かな声で言う。 「みんな大丈夫ね。……お姉ちゃんについて来て。何があっても騒いじゃ駄目よ。」 その言葉に子供達は皆震えながら頷く。 それからシエスタを先にして家の出入り口までやって来た。出入り口に程近い窓では両親がやはり不安な表情を浮かべながら外を見つめていた。 だが時間が時間なのでよく見えない。シエスタの父は焦れた様に呟いた。 「あそこに見えるのは艦隊だが……こうも暗くちゃ何処の国の艦隊か分からんな……」 「艦隊だって?いやだね、戦争でも始まるっていうのかい?」 シエスタの母は縁起でもないと言わんばかりに父の顔を覗き込む。だが父はそれをやんわりと否定した。 「まさか。アルビオンとは不可侵条約を結んでいる。この間領主様から御触れが出たばかりだろ。それにガリアかゲルマニアだったとしても、連中はこっちに攻め入る理由が無いじゃないか。」 だが父のそんな考えを真っ向から否定するように、次の瞬間村の中央広場が大轟音をあげて爆発する。突然襲ってきた光と音の刺激に父は母を抱えてとっさに身を伏せる。 その対応は正しかった。両親が身を伏せたその瞬間、猛烈な空気振動によって家中にある窓ガラスが一斉に室内に向かって割れたのである。 一瞬で立て続けに起きたあまりの出来事に、シエスタと子供達、そしてミーは絶叫し、その場にへたり込んでしまう。 だが、父と母は無事だった。母は気絶こそしていたが外傷は見られない。そして父はそんな母を抱えて、目の前にいるシエスタに告げた。 「シエスタ!皆を連れて南の森に避難するんだ!父さん達も後で必ずそこに行く!例の資料に関しては大丈夫だ!例えこの村が相手の物になっても早々簡単に見つかりはしない! さあ、行け!行くんだ!早く!!」 「は、はい!」 シエスタは父のその剣幕に押され、子供達を連れて家から出る。だが既に外では地獄絵図の片鱗とも言える光景が広がっていた。 くぐもった音と地響きの正体は何十リーグも離れた箇所からの一斉砲撃であった。山肌に、草原に、そして村の片隅にある葡萄畑にも砲弾は容赦なく降り注ぐ。 村にある家々からは、村民が着たきりすずめの状態のまま出て来ていた。砲撃した相手が、自分の家を吹っ飛ばさないという保証は何処にも無いからである。 「何が起きてるの?お姉ちゃん?」 「怖いよう……」 年端も行かない兄弟達は口々にそんな事を言い出す。 「みんな、ついて来て!絶対にはぐれちゃ駄目よ!」 シエスタはそう叫んで、父親に言われたとおり南にある森に向かって子供達を引き連れていった。 何かが激しく狂ったような状況は尚も悪しき方向へ進行していく。 十隻あまりのフネ―内一つはそれまで村民の誰もが見たことも無いほどに巨大で異様な形をしていた―は次々に草原に錨を下ろし上空に停泊する。 それぞれのフネの上からは、騎士を乗せたドラゴンが何十騎と飛び立つ。また同時に甲板からはロープが何本も吊るされ、何千人という兵隊達が次々に草原へと降り立った。 やがて村の家々には、ドラゴンのブレスや火矢によって火が放たれていく。実に十五分としない内にタルブの村は業火に包まれた。 その光景をレキシントンの甲板上からボーウッドは心苦しく見守っていた。 彼としては上から指名されたとはいえ、こんな作戦に参加すること自体が恥じ入って然るべきだと考えていたし、非戦闘員には出来るだけ犠牲者を出してはならないという事を自身の信条としていた。 故に不可抗力とはいっても、眼前に広がっている光景にこれからも加担していく事については躊躇いの念すらも覚えた。 だが、彼のそんな厳かな気持ちをぶち壊しにする、子供じみた陽気な調子の声が背後から聞こえてきた。 「これは実に良いものだな!まさかここまでの成果が出るとは……本国に居られる閣下もお喜びになるに違いない!」 声の持ち主はサー・ジョンストン。艦隊司令長官及び、トリステイン侵攻軍の全般指揮を執り行う貴族会議員出身の人物だ。 クロムウェルにやけに気に入られているらしいが、戦場の悲惨さや過酷さの経験なぞ全く無い彼は、ボーウッドにとっては戦艦における雑多な搭載物となんら変わりは無い。 彼はボーウッドが聞いているか聞いていないかも無視して興奮気味に話し続ける。 「この分ならラ・ロシェールの者達も上手くやっている事だろう!いやあ、全く素晴らしい!そうは思わんかね?ミスタ・ボーウッド?」 クロムウェルの腰巾着め、こっちの気持ちも知らないで……場が場なら上下関係を無視して殴っているところだ。だがボーウッドはそれを何とか押し殺しつつ、やっと一言だけ絞り出す。 「そう……願いたいものですな。」 だが、ジョンストンはボーウッドの返事を少しも聞いていないかのように得意気に話し出した。 「しかしまあ、これで君が心配していた事は皆取り越し苦労に終わりましたな。橋頭堡の設営も計画より順調に行くことでしょうな。 それに二週間もせぬ内に本国からは更なる増援も来る。まさかとは思うが……貴殿にはまだ不安要素があるのかね?」 「戦場は生き物も同じです。勿論刻々と状況は変化しますが、常に悪い方へ向く可能性を考えておく事が軍人の務めの一つでもあります。」 ボーウッドの答えに対しジョンストンはふん、と小さく鼻を鳴らす。どこまで行ってもこの二人の相性というものは悪いらしい。ジョンストンは実に嫌みったらしく返す。 「おやおや艦長、君も実にしつこい性格だね。この状況で我々にとって戦況が悪い方に進むといちいち考えるのは無粋じゃないかね? まあ、それが完全に悪いとは言わないが、もし艦長の様な精神を兵士全員が持っていたら、我々は確実に勝てる戦しか出来なくなってしまう。 それに……私は軍議でも述べたが、この国は最早腐り切った家と同じだ。扉を一蹴りすればそれに伴って跡形も無く家は崩れる。そういうものなのだ。 まあ、時をそうかけずしてトリステイン全土も我等の手に落ちるだろう。君も想像したまえ。トリスタニアの王宮の天守に我等の御旗が翩翻と翻る様を。 そうすれば君の肩に入り過ぎている力も、四角四面な考えも少しは和らぐのではないかな?」 慇懃な言葉に返す言葉も無くボーウッドが黙っていると、別の方向から一人の士官が息せき切ってやって来た。 「報告します。この地の領主が持っていると思われる軍が、我が軍に対して攻撃を行いましたが、ワルド子爵率いる竜騎士隊によって程無く討伐されたとの事です。 それと、この地における住民はほぼ全てが南方にある森に逃げ込んだようですが……それに関しては如何なさいますか?」 森に逃げ込んだ非戦闘員まで殺す意味は無い。ボーウッドは『手を出すな。』と言おうとしたが、ジョンストンがそれより早く非情な決断を下した。 「全員生け捕りにしろ。鼠一匹とて逃がすんじゃないぞ。捕まえるのが困難な場合には森に火を放ち、焼き払ってくれても構わん。 取り逃がし、王宮にここの事態が知られる様な事になれば、本国の閣下に対し我々の面目が立たないからな。その後の住人の処遇は追ってこちらから知らせる。」 その命令に士官は「はッ!」と居住まいを正し、自分の持ち場へと戻って行く。 あまりのあからさま過ぎる命令内容にボーウッドは歯噛みした。幾ら相手が平民とはいえ占領地における住民の扱いは丁重にしなければならない。 ましてや貴族である自分達にはそれなりの責任も伴う。こいつにはそれを全うしようというプライドは無いのか。 それに、平民は貴族の生活の一端を担っているのである。今後住民を無碍に殺したり、圧政を敷くような真似をすれば、遠からず人心は乖離し統治は難しくなる。 森にしても焼いてくれて構わんという話。今の攻撃にも言えることだが、こうも闇雲に攻撃してその苦労の結果、当分の間食料も何も生産できないような焼け野原を手に入れても仕方あるまい。 一体こいつはこの地、いや占領地における支配をどう考えているのだろうか? だが、その様子を運悪くジョンストンに見咎められてしまった。 「何か私の今の命令に関して不服でもあるのかね、艦長殿?どうやら君はこの場における上下関係をまだよく理解していないらしいな。 確かに君はこの艦の長だ。だが私は今のこの戦局全体における長なのだ。即ち、ここでは私が下した命令こそがAでありZなのだ。他人にあれこれと横槍を入れられる筋合いはどこにも無いのだよ。 とにかく我々には時間が無い。相手の出方を伺いながら、こんな所でいつまでものんびり足踏みをしている訳にはいかないのだよ。 ずっと軍属にいた君ではいまいち分かりかねる事かもしれないがね。」 話はそれで終わりだと言わんばかりに、ジョンストンは挨拶もせず、含み笑いをしながらその場を後にしていく。ボーウッドは怒りと呆れのあまり何も言うことが出来なかった。 空軍が王立だった頃を彼はよく覚えている。皆自分の領分という物を弁えた上で慎重に言動を行っていた。 少なくとも、皮算用を用いて弾き出された実体の無い勝利に胡坐をかいたりするような馬鹿は、誰一人としていなかった。だが今はどうだろう? 眼下では歓声と共に民家や畑が破壊されていく。時々『アルビオン万歳!神聖皇帝クロムウェル万歳!』といった『万歳』すらも聞かれた。 昔であれば、戦闘中にそんな事をすれば間違いなく上官から激しい叱責を喰らったであろう。 だがボーウッドは小さく頭を振った。今はもう‘昔’ではないのだ。そして自分は一つの戦艦の艦長という駒の一つでしかない。 甲板には尚も冷たい風が吹き付ける。自分達にこれから吹き付けられる風は温かくなるのか、それとも余計に冷たくなっていくのか。 誰も知り得ない答えの探索を諦めたボーウッドは、やがて静かに甲板を後にした。 前ページ次ページLouise and Little Familiar’s Order
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1428.html
3日目 Navi 今日もすがすがしい朝がやってきました 村の広場の真ん中に食べかけのまま息絶えている あかみさとさん の遺体が発見されました… Navi 村人の皆様、今日もがんばってください あかみさと うおおおおおおお!駄目だ駄目だ全然駄目だぜええええ!! Navi 昼の部スタートです 1 (なび村) メルーファ ベグり・・? 1 (なび村) Jareky 【占いCO】すもでんぱさんは村パンダでした。○です。発言少なめというのが気になったのと、味方だと頼りになりそうだと思い、占いました。 1 (なび村) Akizuki おはですー 1 (なび村) リュファ 【おはよう霊媒】てんとう虫の死骸から毒素が検出されました・・・ナナツさん、●です!! 2 (ゾンビ部屋) Navi ばとらさん・・・ 1 (なび村) SEIRIOS うわー・・・ 1 (なび村) glimmakin おはようございますー 1 (なび村) jinjahime ふーん? 1 (なび村) ほしくん おはようございますー 1 (なび村) jinjahime そうくるのねー 1 (なび村) メルーファ ナナツさん●なのかー 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ くそうニンジャーめぇ・・・ 1 (なび村) glimmakin ナナツさん黒ですねー 1 (なび村) SEIRIOS 順当なのであんまし参考にならない● 1 (なび村) jinjahime 真狼-狂真もあるかな? 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ いいぞSEIさん 1 (なび村) シエスタXX まあ今日はニンジャでいいかな 1 (なび村) リュファ 結果をそのまま伝えてるだけなので 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ そうだぞ 完遂だぞ 1 (なび村) glimmakin これでリュファさん吊れば人外1は連れますね 1 (なび村) ほしくん まあ黒出るよなー 1 (なび村) メルーファ ナナツさんが狂人だと思ってたのに・・! 1 (なび村) jinjahime ニンジャ→ジャレで 1 (なび村) リュファ ・・・やっぱりそうなるんですか。 1 (なび村) jinjahime 2吊りあまりました 1 (なび村) すもでんぱ 黒なら霊媒は用済み 1 (なび村) Akizuki ですね 1 (なび村) SEIRIOS 安全のためにリュファさん吊り、かな? 1 (なび村) ほしくん うーん 1 (なび村) メルーファ 狩人保護をかねて、リュファさん吊りでおkですね 2 (ゾンビ部屋) あかみさと _( 3」∠)_うわあああああ 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ いらはーい 2 (ゾンビ部屋) あかみさと はっ なんだ夢か 1 (なび村) シエスタXX 残ったジャレさんはどうだろう 2 (ゾンビ部屋) あかみさと お邪魔します 2 (ゾンビ部屋) リンウ 狼のえさ・・ウフ 2 (ゾンビ部屋) sunesuki おはよう! 2 (ゾンビ部屋) Navi おいでまし~ 1 (なび村) jinjahime 占い噛みきってくれると楽なんですけどね 1 (なび村) ほしくん まあローラー完遂の方向でいいのかな? 1 (なび村) シエスタXX 狂なのかな 1 (なび村) glimmakin Jareさんはぎりぎりまで残したいですね 1 (なび村) jinjahime 真狂狼ぜんぶあるね 1 (なび村) glimmakin 真の可能性があるので 1 (なび村) すもでんぱ 10>8>6>4 1 (なび村) jinjahime 黒引いてくれれば、黒吊って、終わらなければということも出来ますね 1 (なび村) すもでんぱ 狼の可能性あるとしても1日は残せる 2 (ゾンビ部屋) サイア (いらっしゃいましー) 1 (なび村) ほしくん 多分占いの方に狂と真、霊媒に狼と真、科と考えてるんですが 1 (なび村) glimmakin ですです 1 (なび村) Jareky 狂人、狼が出てるとして、1潜伏だよね。それを見つけるのが自分の仕事です 1 (なび村) jinjahime 今日はリュファ吊り 1 (なび村) シエスタXX もしもジャレさん狼なら 1 (なび村) シエスタXX もう明日吊らないとキツイよね 1 (なび村) ほしくん まあ今日はローラー完遂でいいよね 1 (なび村) SEIRIOS 今日はリュファさんとして、その先を考える方向? 1 (なび村) glimmakin そうですね 1 (なび村) シエスタXX 俺は明日黒でなければ 1 (なび村) リュファ ・・・なにか遺言残したいけど、どうしよう・・・ 1 (なび村) Jareky 潜伏狼をあぶり出す議論をしてほしいです 1 (なび村) シエスタXX ジャレさん釣りたいけどな~ 1 (なび村) メルーファ 今日リュファさん吊って、明日グレー吊って、その次にJareさん? 1 (なび村) glimmakin 一回グレーはさめるはずです 1 (なび村) ほしくん 対抗してきた真占いを潰したって可能性も 1 (なび村) jinjahime 今日、リュファさん吊って、占い結果見て決めます 1 (なび村) シエスタXX 一回グレー挟めるのか Navi 5分経過(後2分) 1 (なび村) ほしくん ふむ 1 (なび村) シエスタXX うーん 1 (なび村) Jareky 役職には狼と狂人が出ているのでそれらはローラで吊れます。残る潜伏狼のヒントを出すような議論を 1 (なび村) jinjahime 黒引いたら、黒吊り→ジャレ吊りでおk 1 (なび村) SEIRIOS 結果待ちの部分が多いんだね 1 (なび村) シエスタXX 白もらったすもさんの意見聞きたいかも 1 (なび村) すもでんぱ ん? 1 (なび村) ほしくん まだ色々解ってないからなー 1 (なび村) glimmakin すもさん静かだったんですよね 1 (なび村) リュファ グレーはさみ案のメルさんは村っぽい・・・? 1 (なび村) すもでんぱ 片白だからうちの意見言っても無駄だと思うよ? 1 (なび村) ほしくん すもさんは誰が怪しいと思ってます? 1 (なび村) jinjahime で、発言が少ないところだと、AKIZUKIさん Navi あと1分 1 (なび村) すもでんぱ あかみさとさんが真の可能性あるしね。 1 (なび村) Akizuki ふむそんなに話してないかな・・・ 1 (なび村) ほしくん 食われましたしね 1 (なび村) すもでんぱ それを承知でなら 1 (なび村) すもでんぱ SEIさん。 1 (なび村) Jareky とりあえずはすもさんが噛み合わせにならずによかったと思ってる 1 (なび村) jinjahime 真狼で対抗食い、リュファ狂-ナナツ真もあるね>可能性 1 (なび村) SEIRIOS 占いが真狂なら狼に真占いは見抜けてなかったろうし・・・まだわからないねー Navi 20秒前 1 (なび村) すもでんぱ ま、明日だな 1 (なび村) リュファ 翌朝Jareさん狙われないんでしょうか。 1 (なび村) jinjahime 真狂ならベグだね Navi 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) 3 (GREEN) Navi 会話可能時間スタート Navi 投票は私に直Tellでお願いします 3 (GREEN) Navi ---------------------------------------- 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi 3日目終了 1 (なび村) Navi -------------------------- (T) メルーファ > リュファさんに投票します (T) SEIRIOS > リュファさんに投票します (T) すもでんぱ > ニ、ニンジャー (T) シエスタXX > ニンジャーで 3 (GREEN) glimmakin 誤爆注意っと (T) ほしくん > リュファさん投票でー (T) Akizuki > リュファさん吊りで 3 (GREEN) glimmakin ナナツさん即吊れ痛すぎでしょうwww (T) jinjahime > 吊り投票>リュファ ふむー (T) Jareky > リュファさんに投票 3 (GREEN) glimmakin ベテランさんがあああ;; (T) リュファ > ・・・とりあえず・・・SEIさんにでも。 3 (GREEN) glimmakin まあ今日の噛みは通って良かったです 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ もはや カールをあけなければいけない 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ チーズ味 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ ばりっ 2 (ゾンビ部屋) sunesuki うぐぅ・・・うらやましい・・・ 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ もぐもぐ (T) glimmakin > リュファさんでお願いします リュファ9 SEIRIOS1 2 (ゾンビ部屋) リンウ このゲームは予想が大はずれだったときとかが面白いのだろうか・・w 2 (ゾンビ部屋) Navi 村に残ってる時間が長いほど心臓に負担がかかるゲーム?w Navi さよなら リュファさん …あなたの勇姿は忘れない 2 (ゾンビ部屋) あかみさと 村同士が潰しあうのを楽しむゲーム Navi 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です リュファ ぎゃーやられたー・・・というのは嘘!! Navi 役職の方は私にTellお願いします リュファは闇にまぎれて村から逃走した!! 2 (ゾンビ部屋) Navi 逃げたw 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ さすがニンジャー汚い! (T) Akizuki > Jarekyさんの護衛につきまう (T) > Akizuki しっかりまもってあげてね! 1 (なび村) Akizuki はい~ 1 (なび村) Akizuki ・・・ 2 (ゾンビ部屋) サイア なにやら誤爆っぽい (T) Akizuki > ・・・了解です (T) Jareky > SEIRIOSさんを占います 2 (ゾンビ部屋) Navi ニンジャーにいわれてすぐプリッツ買いに行ったけど 2 (ゾンビ部屋) Navi あんまおいしくなかった・・・ 2 (ゾンビ部屋) リュファ ・・・ありゃ。 (T) > Jareky SEIRIOSさんはごく普通の村人でした!○ 2 (ゾンビ部屋) Navi おいしかった? 2 (ゾンビ部屋) リュファ ・・・もしかしてなびさん、チーズ風味が苦手なんじゃ? 3 (GREEN) glimmakin 誤爆こわw 2 (ゾンビ部屋) リュファ 割といけると思いました。 3 (GREEN) glimmakin 狩人日記かきかきっと 2 (ゾンビ部屋) Navi チーズ自体は好きなんだけど 2 (ゾンビ部屋) Navi ダメなチーズもある感じ 2 (ゾンビ部屋) リュファ 好みのわかれる味かも。 (T) Jareky > 寝言が気にはなるが、あえて外したけど。うむ 2 (ゾンビ部屋) Navi ほかのはもう売り切れてました! 3 (GREEN) glimmakin 誰かもうかなー (T) メルーファ > リュファさん真、ナナツさん狼に思考転換! 3 (GREEN) glimmakin すもさんかんでみよっと (T) glimmakin > すもさんをかみかみします (T) > glimmakin おいしくたべてね! 2 (ゾンビ部屋) リュファ 他は売り切れ。・・・ネタ?自体は好評だったのかな。 2日目へ 4日目へ
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1429.html
2日目 Navi 朝になりました お客様にお酒を出しながら自分もたくさんお酒を飲んだNavi子…お客様にも緑の液体を出し続け、それが噂になり客足は遠のき、ついには閉店しNavi子は失踪した模様です… Navi きっと狼の仕業です Navi 村人の皆様、今日もがんばってください Navi 昼の部スタートです 1 (なび村) ナナツボシ のんじゃったーーーーー 1 (なび村) jinjahime 緑はダメだ 1 (なび村) ほしくん おはようですー 1 (なび村) あかみさと あちゃー 1 (なび村) メルーファ あわわわ 1 (なび村) Akizuki おはよう~ 閉店はやっ 1 (なび村) シエスタXX どこに狼の介入ができたんだ 1 (なび村) glimmakin 緑・・・!?w 1 (なび村) SEIRIOS うんこれは狼のせいだよね 1 (なび村) すもでんぱ 緑・・・ 1 (なび村) メルーファ さすが緑・・・ 1 (なび村) ナナツボシ うんこは狼のせいに空目した・・・ 1 (なび村) jinjahime で、とりまCOしてもらおうかね 1 (なび村) あかみさと 【占いCO】ふははー!我こそが占い師であるぞ!信じ敬いひれ伏すがよいー! ちなみにまじめにやるんでよろしく 1 (なび村) リュファ おはようございます。緑の液体・・・きっとなつかしのきゅうりペプシにちがいない。 1 (なび村) ほしくん 狼がきっとデマを広めたんだよ・・・ 1 (なび村) Jareky 【占いCO】こんな日(4月1日)に占い師になるなんて、なんかの陰謀だ。この村の闇を解明して見せる! 1 (なび村) ナナツボシ あかみさとさんとじゃれさん? 1 (なび村) メルーファ あかみさんとJareさんが占いかな? 1 (なび村) jinjahime 2CO確認 1 (なび村) あかみさと む、対抗もなかなかやる気のようだね 1 (なび村) jinjahime 12>10>8>6>4>2 1 (なび村) jinjahime 3-1もしくは2-2の安定路線がいいなぁ 1 (なび村) SEIRIOS うわあい 1 (なび村) glimmakin 2CO把握ですー 1 (なび村) シエスタXX 2COだね 1 (なび村) jinjahime ということで、霊出てもらうかどうか 1 (なび村) メルーファ 霊媒出ちゃってもよさげかな? 1 (なび村) ナナツボシ 出ちゃうの? 1 (なび村) ほしくん 2COおk- 1 (なび村) シエスタXX 霊媒でてほしいけど 1 (なび村) ナナツボシ 黒で手からでいいんじゃない? 1 (なび村) リュファ まだ占い出ませんかー? もう出揃いましたかー? 1 (なび村) Akizuki 明日でいいのでは? 1 (なび村) シエスタXX 本人次第かな 1 (なび村) Jareky 12人、5吊りで2狼(+1狂)を屠って下さい 1 (なび村) glimmakin 今回共有居ないんですよね メルーファは眠りについた 1 (なび村) ほしくん おk 1 (なび村) あかみさと 共有はいないね 1 (なび村) ナナツボシ なしー 1 (なび村) jinjahime 真狂本線。2割くらいで真狼で今日潜伏かな? 1 (なび村) glimmakin 軸になりたいなら出てもいいんじゃないんでしょうか? 1 (なび村) jinjahime 狂潜伏かな? 1 (なび村) jinjahime というかんじ? 1 (なび村) メルーファ 霊媒が2COならロラで狼1匹確実だし、霊媒出てもいいと思うー 1 (なび村) あかみさと 対抗はいまのところ狂で見てるよ 狂潜伏は・・・どうだろうねぇ 1 (なび村) ほしくん 狼2潜伏? 1 (なび村) リュファ 占い出そろったようなので、ここで【霊媒Co】します。この村は私を軸にするように。 1 (なび村) ナナツボシ まだわかんないけどその可能性が高いと思う 1 (なび村) シエスタXX 出ないなら占いに吊り先指定してほしいな 1 (なび村) あかみさと 霊出る流れで2CO出るならまた換わってくるんだけどね 1 (なび村) SEIRIOS 順当なら狼は潜伏だろうなあ 1 (なび村) あかみさと お、リュファさん霊ね 1 (なび村) メルーファ リュファさん霊媒了解ですー 1 (なび村) glimmakin あ、リュファさん出た 1 (なび村) リュファ ふふふ。 1 (なび村) jinjahime 対抗は? 1 (なび村) ナナツボシ リュファさん霊媒了解 1 (なび村) ほしくん 狂ニートはそうそうないし 1 (なび村) glimmakin 把握ですー 1 (なび村) リュファ 指定はですねー、 1 (なび村) Jareky 発言、観察中につき、静かになります。 1 (なび村) Akizuki 霊媒了解~ 1 (なび村) あかみさと 対抗いないならリュファさん真でよさそうだね 1 (なび村) jinjahime 2-1確認です 1 (なび村) jinjahime 真狂-真本線 1 (なび村) メルーファ 【占い】あかみさとさん、Jarekyさん 【霊媒】リュファさん 1 (なび村) jinjahime 霊媒軸で行きましょうか 1 (なび村) ほしくん リュファさん霊媒確認 1 (なび村) glimmakin それがいいですねー 1 (なび村) あかみさと ですね 初日は霊に指定してもらう感じかな 1 (なび村) メルーファ 占い対抗が狼だったら、この霊媒COで狂人が大綱に出てくるだろうし、 1 (なび村) ほしくん おkですー 1 (なび村) リュファ ナナツさん指定。虫は霊界とをつなぐかけ橋。(知らないけど) 1 (なび村) メルーファ 占いは真狂かなー 1 (なび村) ナナツボシ かんべーん 1 (なび村) glimmakin COありますか? 1 (なび村) jinjahime 指定了解>ナナツ 1 (なび村) ナナツボシ 私霊媒 1 (なび村) メルーファ ぬぬ 1 (なび村) あかみさと えっ 1 (なび村) glimmakin あらw 1 (なび村) リュファ そんなばかな。 1 (なび村) SEIRIOS ほほう 1 (なび村) jinjahime OK-ロラで 1 (なび村) シエスタXX ほう 1 (なび村) ナナツボシ 黒でるまでもぐってたかったのに 1 (なび村) jinjahime ナナツ>リュファ 1 (なび村) ほしくん 霊媒COとみていいんですかね 1 (なび村) jinjahime でロラ 1 (なび村) glimmakin これは即ロラかなー 1 (なび村) メルーファ 確かにナナツさんは、リュファさんのCO前にも「黒出てからでいいんじゃ?」と言ってましたね 1 (なび村) jinjahime 対抗でてるのに 1 (なび村) ほしくん うーん 1 (なび村) シエスタXX なんかさっきと似た展開だな 1 (なび村) メルーファ 12>10>8>6>4 ローラー始めないとか 1 (なび村) ほしくん ローラーかけた方がいいかなー 1 (なび村) リュファ 実はjinjaさんと迷ってたんですが、ナナツさんで正解だったようです。 1 (なび村) あかみさと まぁ発言的には真あるところ だけど対抗出たならすぐ出て欲しいところではあるね 1 (なび村) ナナツボシ こうなるともう信用とれないだろうしローラでいいよ 1 (なび村) jinjahime ( ´゚д゚`)エー 1 (なび村) glimmakin 一応、発言には矛盾してませんね 1 (なび村) ほしくん ふむ 1 (なび村) Jareky 軸がない Navi 5分経過(後2分) 1 (なび村) メルーファ リュファさんのCO前の発言は信じられるけど、リュファさんが出た時点で対抗してほしかったかな 1 (なび村) あかみさと ん、あー 確定の村がいないのか 1 (なび村) ほしくん ですねー 1 (なび村) Jareky グレラン?霊媒ローラー? 1 (なび村) リュファ むむむ。 1 (なび村) jinjahime すもさん発言ないなぁという印象 1 (なび村) シエスタXX ロラでいいよもう 1 (なび村) ナナツボシ 1日でも結果は出したいけど 1 (なび村) jinjahime レイロラ 1 (なび村) ほしくん 霊媒も安定しなくなったしなぁ 1 (なび村) Akizuki ローラーすると霊媒軸で動けないのか 1 (なび村) ナナツボシ それに信用がつかないから 1 (なび村) あかみさと そもそも二人出た時点で霊軸は無理 1 (なび村) ナナツボシ ローラーがいいとおもう 1 (なび村) メルーファ 占いが真狂なら、1日見てもいいだろうけど、 Navi あと1分 1 (なび村) メルーファ これは真狼-真狂 ありえるかも 1 (なび村) ナナツボシ たぶん1匹つれるもん 1 (なび村) ほしくん ふむ 1 (なび村) jinjahime 初日だから仕方ないけどね 1 (なび村) Akizuki 今回も吊り指定は公開? 1 (なび村) リュファ ふたりそろって結果同じなうちは霊媒機能してます。ずれてからローラーにしてください。 1 (なび村) メルーファ 非公開かな? 1 (なび村) Jareky 霊ローラーでいいよね? 1 (なび村) jinjahime ん~グリムさんが捨てっぽいかなぁと振ってみる 1 (なび村) シエスタXX え、吊り先公開なん? Navi 私にTELLでお願いいたします 1 (なび村) glimmakin ナナツさん>リュファさんでその後どうするかですね Navi 公開ではありません Navi 20秒前 1 (なび村) リュファ ちなみに明日は私が後で結果言います。 1 (なび村) ナナツボシ グレランなの? 1 (なび村) シエスタXX おk 1 (なび村) glimmakin そうですか? 1 (なび村) jinjahime 霊媒ロラで Akizuki 了解です 1 (なび村) ほしくん おk 1 (なび村) SEIRIOS ロラの流れかな? 1 (なび村) メルーファ 霊媒ローラーですね 1 (なび村) あかみさと ん、グレランなの?まじで? 1 (なび村) ほしくん れいばいろら確認 1 (なび村) シエスタXX ロラでしょ 1 (なび村) Jareky 5吊りだよ?全ローラーしたら残り1吊り 1 (なび村) ナナツボシ ローラ完遂してね 1 (なび村) メルーファ 決め打たないならロラしないと 1 (なび村) あかみさと ロラでいいよね Navi 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) Navi 投票は私に直Tellでお願いします 3 (GREEN) Navi 会話可能時間スタート 3 (GREEN) Navi ---------------------------------------- 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi 2日目終了 1 (なび村) Navi -------------------------- 3 (GREEN) ナナツボシ さようならw (T) すもでんぱ > ななつん 3 (GREEN) glimmakin ごめんなさいw 3 (GREEN) ナナツボシ むりだろw (T) メルーファ > リュファさんに投票します (T) SEIRIOS > ナナツボシさんに投票します (T) ほしくん > ナナツボシさん投票でー (T) リュファ > むー、ナナツさんしかないかなこの場合。 3 (GREEN) glimmakin ちょっと庇えませんね;; (T) シエスタXX > ナナツンで 3 (GREEN) ナナツボシ まぁ信用は奪えたと思いたい 2 (ゾンビ部屋) サイア (気が付けば投票タイムへ) (T) あかみさと > Jarekyさんに投票しますー (T) jinjahime > 吊り投票>ナナツボシ 3 (GREEN) ナナツボシ 一応リュファさんにいれます (T) Jareky > ナナツボシさんに投票 2 (ゾンビ部屋) リンウ もふ・・w 3 (GREEN) glimmakin はいー (T) Akizuki > ナナツボシさん吊りでお願いします (T) ナナツボシ > リュファさんに1票~ (T) glimmakin > リュファさんでお願いします ナナツボシ8 リュファ3 Jareky1 (T) jinjahime > そして、ちょっとお手洗いに・・・ (T) ナナツボシ > あかんやんw 2 (ゾンビ部屋) リンウ 専門用語だらけの一日目はとりあえずおわりました・・・zz 3 (GREEN) glimmakin しかし即指定は厳しいですねーw 2 (ゾンビ部屋) Navi どうしても用語が多くなってしまいますね・・・ 3 (GREEN) glimmakin スナイパーリュファさん 3 (GREEN) ナナツボシ リュファさんローラー回避してるから 向こうによらないかなw 3 (GREEN) glimmakin かなぁw 2 (ゾンビ部屋) リンウ 今回の問題点は 霊媒2名の頭をどう処理するか・・ らしい 3 (GREEN) ナナツボシ のこったら 暴れてみようかな 3 (GREEN) glimmakin はいw 3 (GREEN) ナナツボシ どきどき 3 (GREEN) glimmakin ドキドキ Navi さよなら ナナツボシさん …あなたの勇姿は忘れない 3 (GREEN) glimmakin ぎゃああwww 3 (GREEN) ナナツボシ さよーならー Navi 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です Navi 役職の方は私にTellお願いします ナナツボシ え・・・ちょ・・・ 3 (GREEN) glimmakin はぁ・・・ 3 (GREEN) glimmakin 断末魔がwww (T) リュファ > ・・・一応、ナナツさんの真偽を・・・ (T) Akizuki > メルーファさんの護衛に就きます 3 (GREEN) glimmakin さて黒撃たれたらゲームオーバーだから狩人日記だけ書いておこうかな (T) > リュファ ナナツボシさんは実は真っ黒な狼虫でした!● 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ 冥土いいいいいいいいいいん 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ さみしい (T) > Akizuki しっかり守ってあげてね! (T) リュファ > やっぱり・・・ (T) Akizuki > 了解です~ 2 (ゾンビ部屋) リンウ 霊媒かぶりをつぶされたナナツボシアナタの勇士は(以下略 2 (ゾンビ部屋) サイア イラッシャイマシー 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ この前も最初に消された (T) Jareky > まよい中 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ もう だめだ 2 (ゾンビ部屋) sunesuki おつカーレイ! (T) メルーファ > ナナツさんは霊媒を乗っ取るつもりだった狂人と見てみる! 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ なんにもあやしいことしてないのにいいいい シエスタXX ごめん今チャットゲーム中だから無理だわ 2 (ゾンビ部屋) リンウ このゲームの性質上 初日につぶされるとものすごい悲しそう・・;; 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ さみしい (T) jinjahime > 戻りました。失礼しました。 シエスタXX ほほほーい>< 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ シエスタさんがこわれたレイディオ (T) Jareky > すもでんぱさんを占います 3 (GREEN) glimmakin かきかきっと 2 (ゾンビ部屋) リンウ えーと 今回はゾンビの声はないんですかえ? 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ ゾンビの声とは・・? (T) > Jareky すもでんぱさんは村のためにがんばる村パンダでした!○ 2 (ゾンビ部屋) sunesuki ゲーム内容に触らない誤爆って珍しいかも 2 (ゾンビ部屋) サイア 遺言? 2 (ゾンビ部屋) リンウ 霊媒による告白アビリティ・・ 3 (GREEN) glimmakin 誰かもうかなーベーグルでもいいんだけど 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ ここでは役職はださばいねー 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ ださないねー 3 (GREEN) glimmakin ベグっちゃおっと! 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ 推理続行なかんじ (T) glimmakin > あかみさとさん噛みますかみかみ (T) > glimmakin おいしくたべてね! 3 (GREEN) glimmakin 通らなかったら、死亡フラグw 2 (ゾンビ部屋) ナナツボシ あと吊られたから私は結果はもらえませんでした 2 (ゾンビ部屋) リンウ 3日目に期待・・ 1日目へ 3日目へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/196.html
食事を終えて教室に移動する 生徒達は各々横に自分の使い魔を置いて授業の準備をしている ルイズも机に座り準備を始めた シュヴルーズは生徒達にお復習のつもりで淡々と魔法の四元素説明していく そしてそれぞれの元素をマスターする事によってドットからライン、トライアングル、スクウェアとランクを上げていく事も、魔法が無い世界の住人であるロムも理解することが出来た 「ではこの魔法を実際に・・・・、ミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう」 「ふぇ?私ですか?」 ルイズが指名された途端、教室がざわめき始める。 (なんだ?急に部屋の空気が・・・・) ロムが疑問に思う頃にはルイズが席から立ち上がり教壇に向かおうとする 「ルイズやめて、お願い」 キュルケが青い顔をしてルイズに言う 「成功させれば文句無いでしょ」 「でも貴女はゼロ・・・・」 「皆さん冷やかしはお止めなさい、ではミス・ヴァリエール宜しくお願いします」 この会話を聞いていたロムは閃いた (ふむ、どうやらゼロという理由がこれでわかるらしいな) 教壇に立ち、呪文を唱え触媒に杖を向けるルイズ。 その時、触媒が爆発し周りのものがぶっ飛んだ。 煙が明けるとシュヴリーズは気絶しており、ルイズはは真っ黒になりながらも平然と立っていた 「ちょっと・・・・、失敗しちゃった見たいね」 ルイズがそう言うと周りからブーイングが起こる 「何をやっているんだよー!」 「だからゼロのルイズにやらせたくなかったんだ・・・・」 「魔法の成功率ゼロのルイズ!これどうするんだよら!!」 (ケホッケホッ、成る程・・・、だからゼロなのか) ロムは納得した 「マスター、これで終わりだ」 授業の後、二人は罰として教室の片付けを命じられた ロムが言われるがままにテキパキと仕事をこなしたので思ったより早く終わった「あ~も~どうしていつも失敗しちゃうのよ!」 「マスターそんなに癇癪を起こすな。次は失敗しないようすればいいじゃないか」 「それが出来れば苦労してないわよ!」 どうやらそれなりに自覚はしているようである 「は~あ~、こんな事じゃ何時までゼロって呼ばれるわ・・・・、私これからどうなるんだろ・・・・」 そういってもう一つ深いため息をつく そんなルイズを見てロムが下を向いて語り始めた 「どんな夜にも必ず終わりが来る。」 突然雰囲気の変わったロムに驚くルイズ 「闇が溶け、朝が世界に満ちるもの・・・・、人、それを黎明と言う」 「な・・・、何言っているのあんた」 「つまりそういうことだ。今は後先が見えぬ状況でも、必ずそれを打破するきっかけが見つかるものだ。 今日の失敗を乗り越え、明日の成功の為に努力する。 それは魔法使いにでも言える事じゃないのか?」 「・・・・・・・・」 顔を上げて微笑むロム、確かにそうだ 今日失敗した事を明日の成功の為に反省すればよい。 確かにそうだ、確かにそうだが・・・・ 「あんた・・・・」 「ん?」 「ご主人に何説教しているのよー!!!」 「なっ・・・・!」 ルイズが突然の怒鳴り声に驚くロム、確かにロムの言っていた事は筋が通っている しかし自分は貴族。 ロムは平民でしかも自分の使い魔。 使い魔に説教される貴族なんて末代まで言えぬ恥である。 ロムは無意識にルイズのプライドを傷つけたのであった。 「あんた、今日一日ご飯抜きよ!でも雑用はしっかりやってもらうからね!」 そういうとルイズは真っ赤な顔で教室から出ていき、ロムだけが残された。 (う~む、前の戦いから取り入れたエネルギーは今日の朝のみ、その量も多いとは言えない。 流石に今日一日はキツいな) そんな事を考えながら食堂の前を通り掛かると 「あの~」 「ん?」 「今お一人でしょうか?」 後ろを向くとメイド服を着た少女、シエスタが立っていて自分に語りかけた 「ああ、一人だ」 「じゃあ厨房に来てくれませんか?料理長が呼んでいますので」 (料理長?何故俺に用があるんだ?) 不思議に思いながらもシエスタに連れられ厨房に付いたロム 「マルトーさーん!連れてきましたよー!!」 「おおー来たかー!そこのテーブルに座らせてやってくれ!!」 「はーい!では、ちょっと待っててくださいね」 言われるままに待っているとシエスタは焼き立てのパンと湯気のたったスープを持ってきた 「これ、食べてもいいのか?」 「はい、私達の賄い食の余りですがどうぞ」 ロムの質問に微笑みながら答えるシエスタ、この世界に来て初めて人の心の暖かさに触れた気がする 「有難い!では、いただくとする」 そういうと綺麗に食べて行くロム、うん、これこそ究極のパンだと心の中で頷く 「いやーいい食いっぷりだね兄ちゃん!全く俺はあんた見たいな人に飯を作りたいよ!!」 奥から男が現れる 「俺は料理長のマルトーって言うんだ!宜しくな!!」 「俺はロム・ストール、貴方がこの料理を?」 「ああそうだ!」 「感謝する」 ロムが礼を言うとマルトーは笑う 「わっはっは!いいって事よ!同じ平民じゃねえか!」 「平民?じゃあここにいる人達は皆?」 するとシエスタが答える 「はい、皆貴族様にご奉仕する為にここで働いているのです。 でも昨日平民が貴族様の使い魔になったって噂になったから皆心配だったんですよ」 「案の定シエスタがあんたが貴族どもの横で床下に座りながらパンにかじりついていたのを見ていてよ、それを聞いた俺は頭にきていたんだ!」 ロムはそのパンを作った人間が誰かを聞こうとしたがやっぱりやめた 「いや~それにしてもあんた立派な鎧を着ているな!」 「どこかの騎士だったのですか?」 「いや・・・・まあ、そんな感じだ」 異世界から来たなんて信じられないようなので言わないでおく 「それより、食事の礼をしたいのだが」 「そんなのいらんいらん!」 「いや頼む、一応の礼儀は突き通したいのだ」 「じゃあお皿を並べてもらいましょう。もうすぐお食事の時間ですし」 厨房から出ると授業を終えた生徒達が食堂へと入ってきて、その中で長いテーブルの上に黙々と皿を並べていくロム そこへ金髪の少年がバラをくわえながら複数の取り巻きと共に入ってくる 「なあギーシュ、結局君の彼女は一体誰なんだ?」 「ふっ、僕の心の中には特別な女性なんかいないよ。それぞれが僕の花なんだ」 ギーシュがギザっぽく取り巻きの一人の質問に答える するとギーシュのマントから紫色の小瓶が落ちる 皿並べを終えてシエスタと共に厨房に戻る途中のロムがそれに気付き拾う 「君これを落としたぞ」 ロムが声をかけられギーシュが振り向く、 (あ!この男昨日の!昨日はよくも・・・・ん・・・・?) ロムの持つ小瓶に気付くと顔に焦りが表れ始める 「君、それは僕のでは無いよ、勘違いしていないかい?」 「いや、確かに君が落としたものだ」 (ちぃぃぃぃ!平民を本気で殴りたいと思ったのは始めてだ!) 「あっ!その紫色の香水はモンモランシーが特別に調合したものじゃないか!」 「っということは本命はモンモランシーか!」 ギクっ!と焦りが更に顔に表れる そして横を見ると可愛らしい栗毛の女の子が涙を目に溜めてギーシュを見つめていた 「ギーシュ様、やはり貴方はあの人と・・・・」 「ち、違うんだよケティ。僕の心には何時も君が・・・・」 ばちん、と音がしてギーシュが頬を赤く腫らした後「さようなら」っと言って少女が走り去って行く 「まっ待ってケティ話を・・・・」 ギーシュが追おうとすると・・・・ 「待てぃ!!!」 「!!!???」 ギーシュと取り巻き、それにロムとシエスタが声の出場所に向くと強烈な光がありそこに誰かが立っていた 「一つの恋を通さず、平気で別の恋をする不純な気力。 人、それを『浮気』という・・・・」 「誰だ!?」 「貴様に名乗る名前は無い!!」 光が消えるとそこに立っていたのは腕を組んで鬼の様な形相をしたカールが目立つ少女であった・・・・ 「げぇ!モンモランシー!ちっ違うんだよこれは・・・・」 「あんたやっぱり他の女の子と会ったのね!喰らえ!乙女の怒り!彗星脚!!」 「がふう!」 モンモランシーの踵落としが炸裂する、ギーシュは無惨にも床に叩きつけられた そして少女は去っていく 「す、凄かったですね・・・・」 「・・・・・・・・何なんだ一体」 あまりの気迫にロムとシエスタは固まっていた、特にロムは色んな意味で固まっていた・・・・ 「とっとにかく厨房に戻ろう」 「待ちたまえ!」 一声出して立ち上がるギーシュ、凸は真っ赤になっている 「君のおかげで二人の女性の名誉が傷ついてしまった・・・・、どう責任とっつくれるのかい?」 どう考えてもお前が傷ついている 「それは君が浮気をしていたから悪いのだろう」 あっさりしたロムの反論に周りが肯定する 「ふっ・・・・、平民がこの僕に・・・・、よし、決闘だ!」「何・・・・?」 周りが突然ざわつき始める 「お待ち下さい貴族様!貴族同士の決闘は禁止されています!!」 シエスタがなだめるが 「これは貴族の決闘ではない。貴族と平民の決闘だよ。互いの名誉を賭けたね さあどうする?」 「・・・・・・・・」 果たしてロムは決闘を受けるのか!? (それにしてもモンモランシー、いつあんな魔法を覚えたんだ?)