約 1,871,497 件
https://w.atwiki.jp/moejinro-log/pages/112.html
デジュー さわやかな朝がやってきました 村の川辺に無残に引きちぎられたBBLさんの死体が見つかったようです… デジュー /chjoin ピットガレージ BBL ウソをあまり使ないのでエイプリルフールも365日の1日にすぎません デジュー 村人の皆様、今日もがんばってください デジュー 昼の部スタートです 1 (でじ村) jinjahime [占いCO]エルレイナ狼● でした。 1 (でじ村) jinjahime 多弁所。村よりな視点を多めに出しているところを占い。 1 (でじ村) jinjahime そしていきなり仕事が終わった。 2 (三矢の刺客) かこちん 占いCOシキワロス●理由:二日目指定で吊れなかったので、狼の組織票があったかも?と思ったので 1 (でじ村) かこちん 占いCOシキワロス●理由:二日目指定で吊れなかったので、狼の組織票があったかも?と思ったので 1 (でじ村) エルレイナ 野球さんかまれて 1 (でじ村) シキワロス はい 1 (でじ村) エルレイナ わたしとシキさんに黒 1 (でじ村) ソラユイ うわー 1 (でじ村) オペこ わあい 1 (でじ村) かこちん うん 1 (でじ村) シキワロス よっしゃ!ジンジャさん愛してる! 1 (でじ村) jinjahime はい。最終日信頼勝負がんばって 1 (でじ村) エルレイナ かこちんさん後だしCOで偽疑ってたけどじんじゃさんが偽か 1 (でじ村) SEIRIOS うおーメモればよかった 1 (でじ村) シキワロス なーに。占いロラしてエルレイナさんと俺をロラすればかてるんすよ! 3 (ピットガレージ) BBL テスト 3 (ピットガレージ) シエスタXX わーいにゅたこだー 3 (ピットガレージ) BBL お疲れ様でした 1 (でじ村) jinjahime あー狩人COしちゃってー 3 (ピットガレージ) BBL まさか噛まれるとは 1 (でじ村) シキワロス 俺はただの村人っす 1 (でじ村) ソラユイ 狩人だーれー 1 (でじ村) エルレイナ COないよ~ 1 (でじ村) jinjahime もう、かまれようがほかはしろ確定 1 (でじ村) SEIRIOS 素村CO 1 (でじ村) かこちん ふむ 1 (でじ村) シキワロス だからCOは・・・できない 3 (ピットガレージ) シエスタXX 占いロラでいいでな 3 (ピットガレージ) BBL ですね 1 (でじ村) シキワロス あ 3 (ピットガレージ) BBL 私はjinjさん真で見てます 1 (でじ村) シキワロス 7 5 3 1の3つりか 3 (ピットガレージ) デジュー 早くも●ロラで占いの信用対決でもおkだね 1 (でじ村) jinjahime ですです 1 (でじ村) オペこ あれ? 1 (でじ村) jinjahime しかも全露呈 1 (でじ村) シキワロス ロラとか言ってる場合じゃなかった 1 (でじ村) jinjahime 両視点で 1 (でじ村) かこちん BBLさん狩人? 3 (ピットガレージ) BBL こんなに早い展開になるとは 1 (でじ村) オペこ つまりこれはどうなるの? 3 (ピットガレージ) デジュー 早くもは消し忘れ 1 (でじ村) ソラユイ どっちさきロラするの? 1 (でじ村) シキワロス どっちでもいい 3 (ピットガレージ) BBL どちらが狩人なんでしょうね 1 (でじ村) エルレイナ お互い仕事おわってるから 3 (ピットガレージ) デジュー 実際早いんだけども 1 (でじ村) ソラユイ 占い組みか占われた組み 3 (ピットガレージ) BBL 私とシエスタさん 1 (でじ村) かこちん 占いでいいよ 1 (でじ村) エルレイナ 黒でも占いロラでも 3 (ピットガレージ) シエスタXX やっぱ9人は運要素つよいなー 3 (ピットガレージ) BBL お互いはわかっているはず 1 (でじ村) かこちん 占い先にロラ推奨 1 (でじ村) jinjahime 両視点で狼全露呈 3 (ピットガレージ) シエスタXX なにが? 1 (でじ村) エルレイナ うみゅ 3 (ピットガレージ) BBL エルレイナ村っぽかったのにな 1 (でじ村) jinjahime 話すことがなくなった 1 (でじ村) シキワロス まあうちら●だされちゃった組はもう吊りきまってる 3 (ピットガレージ) BBL いや今狩人COが無いので私かシエスタさんになるかなと思いまして 1 (でじ村) エルレイナ 霊いないからわたしとシキさんと占い以外の村人には真偽がつかない 1 (でじ村) jinjahime で、狩人は出ちゃっても問題ない 1 (でじ村) エルレイナ 墓地で仲良くいっぱいやりましょうや[ワーイ] 1 (でじ村) ソラユイ 占いのどっち吊るのー? 1 (でじ村) かこちん じゃあ 霊CO なわけない(そこはおまかせでいいんでね? 3 (ピットガレージ) シエスタXX 狩人COの話になってるのか今w 3 (ピットガレージ) シエスタXX 村CHみてなかったw 3 (ピットガレージ) BBL もう終わったみたいです 1 (でじ村) シキワロス エルレイナさんとかこちんさん吊れば終わりっすね。 1 (でじ村) シキワロス うちとジンジャさん視点 1 (でじ村) jinjahime 私を信じてくれるなら、かこちん→エルレイナの順番で終わる 1 (でじ村) オペこ 本当ですか? 1 (でじ村) エルレイナ わたし視点はじんじゃさんとシキさんだけど 1 (でじ村) エルレイナ 証明する手段が現時点でない 1 (でじ村) シキワロス かこちんさんとエルレイナさん視点だとうちとジンジャさん釣れば終わり 1 (でじ村) かこちん んー普通に占い吊ってでいいよ 3 (ピットガレージ) BBL エルレイナさん狼なら私噛みも納得できるw デジュー 5分経過(あと2分) 3 (ピットガレージ) シエスタXX どーかなー 1 (でじ村) jinjahime なので、私は、かこちんに票を入れます 1 (でじ村) シキワロス 同じく。 3 (ピットガレージ) シエスタXX 結構ログ見たけど 3 (ピットガレージ) デジュー まぁ、良い感じな勝負になりそうでよかったわ 1 (でじ村) かこちん まぁ打倒にじんじゃさんだね 1 (でじ村) エルレイナ じんじゃさんの占い理由みたら、村よりな視点で占いといっている。狼としたらさっさと排除したいとこに黒を出したとしか思えない 1 (でじ村) ソラユイ そらもジンジャーさんー デジュー あと1分 3 (ピットガレージ) シエスタXX 村視点で納得できる噛みって実際すくないんだよねー 1 (でじ村) jinjahime あとは、発言などを見て、信頼できるほうを残してください 3 (ピットガレージ) BBL そうなんですか 1 (でじ村) エルレイナ シキさんはまだ狼の組織票でシエスタさんが吊られたことを考えればわかるんだ 1 (でじ村) シキワロス 狼なら夜相談できることを昼に伝えた理由を考えてくださいな デジュー 20秒前 1 (でじ村) jinjahime ソラさんは、私信頼できない? 3 (ピットガレージ) BBL 自分で噛み決めたことないからなあ 1 (でじ村) シキワロス としかいえね 1 (でじ村) かこちん シキさんを吊らせたくない狼が票ずらしたって考えは無理かな・・・そこまで票ずらしできる人数ではないのかな? 1 (でじ村) シキワロス いや。 3 (ピットガレージ) シエスタXX 狼サイドって結構遊ぶからね 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) シキワロス ソラさんがたんにシエスタさんにいれただけだからかな? デジュー 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) デジュー 投票は私に直Tellでお願いします 3 (ピットガレージ) BBL そうなんですか 2 (三矢の刺客) エルレイナ やっぱりな~w 2 (三矢の刺客) かこちん ヽ(´ー`)ノオワタ オペこ は デジュー に言った jinjahimeさんでお願いします。 SEIRIOS は デジュー に言った かこちんさんに投票します シキワロス は デジュー に言った かこちんさんに 2 (三矢の刺客) エルレイナ でも占いで信頼とれる自信もないw jinjahime は デジュー に言った どうすんだこの村www 吊り投票>かこちん かこちん は デジュー に言った jinjaさんで 3 (ピットガレージ) BBL 狐いたら探さなきゃいけないし共有は噛まなきゃ出し忙しかったはずなんだけどなあ ソラユイ は デジュー に言った じんじゃーさんー 2 (三矢の刺客) エルレイナ まぁじんじゃさんへw 2 (三矢の刺客) かこちん かといってエルレイナ●って出た後に次の日かこちん●ってでそうだった 3 (ピットガレージ) シエスタXX 結構村が深読みしすぎな時が多いと思う エルレイナ は デジュー に言った じんじゃさんに投票します~ 3 (ピットガレージ) シエスタXX 仲間がいるからねー 3 (ピットガレージ) BBL 占い騙りでマクロ一生懸命作ってたからあんまり覚えてないいんですけどね 3 (ピットガレージ) シエスタXX 気楽なんだよ デジュー あと1分 3 (ピットガレージ) BBL 私のときは狼4で独りすぐ指定されたからなあ そんな余裕はありませんでした 2 (三矢の刺客) エルレイナ まぁじんじゃさん占いの時点で 2 (三矢の刺客) エルレイナ 占われるとはおもったw 3 (ピットガレージ) シエスタXX www 2 (三矢の刺客) かこちん おなじくエルレイナさん占われると思ったからのCOなんだがね デジュー 20秒前 3 (ピットガレージ) シエスタXX まあかこちんさん真で見るかな 3 (ピットガレージ) BBL エルレイナさんがいきなり指定で真占い師はグレーの狼を3回目の占いで見つけるはで大変でした jinjahime 4票 かこちん 3票 デジュー さよならjinjahimeさん…あなたの勇姿は忘れない 2 (三矢の刺客) エルレイナ かといって騙り下手なわたしが占いでても信用がとれないw デジュー /chjoin ピットガレージ デジュー 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です デジュー 役職の方は私にTellお願いします jinjahime ( ゚∀゚)・∵. グハッ!! 2 (三矢の刺客) かこちん うほw 2 (三矢の刺客) かこちん 通ったwww 2 (三矢の刺客) エルレイナ 狩人COなかったけど 2 (三矢の刺客) かこちん セイリオスと オペこ は デジュー に言った 狩人です。ソラユイさんを護衛します。 2 (三矢の刺客) かこちん ソラユイがじんじゃーだね多分 3 (ピットガレージ) jinjahime ニャーン 3 (ピットガレージ) BBL お疲れ様でした 3 (ピットガレージ) シエスタXX おつおつ 3 (ピットガレージ) jinjahime おつかれさまです(*´ω`*) 2 (三矢の刺客) エルレイナ 役もってるとしたらオペこくんだとおもうんだ デジュー は オペこ に言った 護衛承りー 2 (三矢の刺客) かこちん うん 2 (三矢の刺客) エルレイナ そこ噛みでいいかしら? 2 (三矢の刺客) かこちん セイリオスさん素村COしてるw 3 (ピットガレージ) BBL うーん占い理由見たら確かにjinjaさんの方が怪しいかな 3 (ピットガレージ) jinjahime 1Tめで仕事が終わるとは思わなかった 3 (ピットガレージ) BBL でも潜伏しようとしたのが少しマイナスなんですよね>かこちんさん 3 (ピットガレージ) jinjahime ですねー 2 (三矢の刺客) エルレイナ セイさん、シキさんが狩ならCOしてるとおもう 3 (ピットガレージ) BBL まれにありますよ 2 (三矢の刺客) かこちん じゃあ占いはソラユイさんで 2 (三矢の刺客) エルレイナ 理由はもういらないよw 3 (ピットガレージ) BBL 私も1ターンで仕事終了したことあります 3 (ピットガレージ) jinjahime 少数村ですからねー。綺麗な信頼勝負になった 2 (三矢の刺客) エルレイナ もう仕事ないので適当 2 (三矢の刺客) エルレイナ これでいいねw 3 (ピットガレージ) シエスタXX シキさんはSGなのか 2 (三矢の刺客) エルレイナ 占い視点もう狼全露呈だし 3 (ピットガレージ) jinjahime 私の対抗黒ですね 2 (三矢の刺客) かこちん 占いCO ○狼の帽子をかぶっていたので! 3 (ピットガレージ) シエスタXX かこちんさんの言うとおり エルレイナ は デジュー に言った オペこくんがぶがぶがぶ 3 (ピットガレージ) BBL 多弁残りって新鮮ですね デジュー は エルレイナ に言った がぶがぶがぶりんちょ 2 (三矢の刺客) エルレイナ 理由もういらないでそw100%しろしかでないもんw ソラユイ は デジュー に言った 狼だれかわかっちゃったー 3 (ピットガレージ) jinjahime ソラさんの思考がよめません(´・ω・`)かわいいけど 3 (ピットガレージ) シエスタXX 吊り逃れに俺に票集めざるおえなかったのか 2 (三矢の刺客) エルレイナ それにしても 2 (三矢の刺客) エルレイナ わたしとオペこくん 2 (三矢の刺客) エルレイナ 陣営違いすぎだろwww ソラユイ は デジュー に言った かも?あれ? デジュー は ソラユイ に言った ほほー、言ってみなされ 2 (三矢の刺客) エルレイナ そのメタでわたし疑いそうだからそれも含めての噛み ソラユイ は デジュー に言った かこちんとーえるー 2 (三矢の刺客) かこちん w 3 (ピットガレージ) シエスタXX ぶっちゃけグレーの俺よりソラさんじゃね?って言おうか迷ったけど 2 (三矢の刺客) かこちん こっち疑ってたのおぺこさんくらい? 3 (ピットガレージ) シエスタXX めんどくさくなったわw 3 (ピットガレージ) jinjahime まぁね。迷ったけど ソラユイ は デジュー に言った あれ 2 (三矢の刺客) エルレイナ どうだろ~ 2 (三矢の刺客) かこちん ただ、そこが噛まれたら怪しくみえるかもぬーん デジュー は ソラユイ に言った まぁなんと答えようとノーコメント 2 (三矢の刺客) エルレイナ おぺこくん狩もあるから 3 (ピットガレージ) BBL 私はオペこさんかSEIさん指定してほしかったかな ソラユイ は デジュー に言った うん 2 (三矢の刺客) エルレイナ そこいがいはないかな~ 2 (三矢の刺客) かこちん まぁそうだけど 2 (三矢の刺客) エルレイナ 怪しまれはやむなし 2 (三矢の刺客) かこちん ソラユイさんが変態狩人で護衛してたらおてあげだ 2 (三矢の刺客) エルレイナ しないとおもうw デジュー あ、終わってた 3 (ピットガレージ) BBL SEIさんなんて空気と一体化してた気がします 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 3 (ピットガレージ) jinjahime 一応、セイさんとソラさんも考えたんだけどね。狼狙っていかないととおもったから 護衛 ソラユイ 噛み オペこ 2012-3-31 でじ村(4)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8169.html
前ページ疾走する魔術師のパラベラム エピローグ 1 魔法学院の本塔の屋根の上に、一人の少女が座っていた。 どうやってそこに上ったのか、少女はメイジには見えない。 少女は、透明な雰囲気の持ち主だった。屋根の上に座って、はみ出した両足をぶらぶらと遊ばせている。数羽の小鳥がその少女にとまり、餌をねだるように擦り寄った。その小鳥たちを見て、少女は「動物はもっと人間を恐れるものよ」と酷薄に微笑む。 「もちろん、人間以外にも恐るべきものはたくさんいるけどね・・・・・・」 少女の名はシンクロシニティという。 透けそうなほど白い肌。 天然の、宝石よりも美しい銀髪。 屋根の上には相応しくない、やたらとフリルのついた黒いドレスで身を包んでいる。 その屋根のはるか高空で、人影が閃いた。 ふっ、と空からまた一人の少女が屋根の上に舞い降りる。 黒いドレスの少女――シンクロシニティ――は、新たに現れた少女を見て微笑んだ。 「あら、お久しぶり『ルクシャナ』」 ルクシャナは、エルフだ。 ハルケギニアにおいてエルフはもっとも恐るべき亜人である。ほかの亜人の先住魔法はおろか、系統魔法をも上回る先住魔法を操るブリミル教の仇。砂漠に住むが故にその情報は少なくハルケギニア、ましてやトリステイン魔法学院の屋根の上にいるなど本来は有り得ないことだった。 ルクシャナは、なぜか水兵服を着ていた。スカートは短い。ルクシャナはハルケギニアの文化に興味があるらしく、よくこちらの服装を着ている。つり上がった切れ長の淡い水のような瞳に、透き通るような長い金髪は無造作に切り揃えられていた。胸は控えめであるが、それは少女特有の健やかな色気を感じさせる。 妖精のような雰囲気を持つ彼女の耳はぴんと伸び、人間に比べるといくらか鼻も高い。 「悪魔が目覚めたわ」 ルクシャナが言った。 「みたいね」 「ふふ、やっぱり蛮人って面白いわ! これなら実験の方も問題は無さそうだし、楽しくなってきたわね!」 ルクシャナは、くるりくるりと回りハイテンションにはしゃぐ。 対照的に、シンクロシニティは冷ややかな視線を遠くへ向ける。その先にあるのはトリステインの町並み。 「目の前に広がるのは、巨大な実験場・・・・・・」 シンクロシニティは微笑む。 その笑みまでもが冷たい。 「一体、何人残るかしら」 2 アルヴィーズの食堂の上の階は大きなホールになっている。華やかな舞踏会はそこで行われていた。 シエスタはバルコニーにの枠にもたれ、賑わう会場を見ていた。 会場では着飾った教師や生徒たちがそれぞれの相手と踊ったり、豪華な食事を楽しんだりとそれぞれ楽しんでいる。このパーティは社交の練習という側面も兼ね備えており、気になる異性と少しでも距離を縮めようとしている生徒も見られる。 実はシエスタも既に何度かダンスの誘いを受けていた。 今、シエスタが身を包んでいるのは先日、ブルドンネ街で仕立てたドレスである。貴族の令嬢と見間違うほどに美しく着飾ったシエスタをメイドと気づかずに、顔を真っ赤にした貴族の誘いをやんわりと断るのは実に骨が折れる。 花びらのように広がるスカートにレース。白を基調としたパーティドレスを着た鏡の中の自分は、日頃メイド服ばかり着ている自分とは違う存在のようだった。純白の長い手袋や開いた胸元はなんだか落ち着かない。コルセットの辛さも手伝い、貴族というのも楽ではないとつくづく感じていた。 メイドの一人がシエスタにワインを届け、そっと耳打ちをしていく。 「似合ってるわよ、シエスタ。そのまま玉の輿狙っちゃいなっ」 「もうっ、からかわないでよ」 さっきからずっとこんな調子である。舞踏会とはいえ、メイドの仕事が無くなるわけではない。むしろ平時よりも増えるぐらいだ。今頃、厨房は大騒ぎだろう。シエスタはルイズの従者としてこの場にいる。先ほどからこの手の冷やかしが耐えない。 着慣れぬドレスに身を包み、普段は給仕である自分が同僚たちに給仕されるというのはなんとも言えぬ居心地の悪さだった。 そんなわけで一応は会場に持ってきたデルフリンガーと共にバルコニーで酒盛りをしているのだった。同僚の持ってきてくれた肉料理の皿とワインを楽しむだけでも、十分に楽しいものだ。 「相棒も踊ってくればいいのに。貴族にだって相棒みたいな別嬪は滅多にいねぇよ? 楽しんで来いよ」 ワインをグラスに注ぎ、香りを楽しむ。故郷のワインだ。シエスタの故郷のタルブ産のワインは特に上質と名高い。 久しぶりに味わう故郷の香りと深い味わいは、舌よりも心を楽しませてくれた。 「柄じゃありません。美味しいワインと料理に綺麗なドレス。それに気の良い相棒も一緒にいますしね。私なりに楽しんでますよ」 バルコニーの枠に立てかけたデルフリンガーは鞘から抜かれ、抜き身で置かれている。剣と美女という組み合わせは声をかけづらいのか、先ほどから遠めから見る生徒はいても声をかける生徒はほとんどいない。 先ほどまで同じく綺麗なドレスに身を包んだキュルケと歓談していたのだが、パーティーが始まるとさっさと輪の中に入っていった。 今はたくさんの男たちに囲まれ、楽しそうに笑っている。何人かはシエスタも誘ったが、ダンスの心得も無い自分があの中に混じるのはさすがに躊躇われたので、丁重に辞退した。 黒いパーティドレスを着てタバサはといえば、今は一心不乱に料理に向かっている。あの体の小さな体のどこに入るのかというほどの量を平らげ、いつ噛んでいるのかというスピードで次々と料理が消えていく。 ギーシュはいつもとは違い、凛々しい軍服姿だ。フーケに一矢報いたという話はすでに学院長から全校生徒に伝わっている。元々、顔はいいギーシュだ。今もたくさんの女生徒に囲まれている。が始まってからずっとモンモランシーとばかり踊っていた。当のモンモランシーはというと顔を真っ赤にしてステップを間違え、何度もギーシュの足を踏みつけていた。ギーシュは涙目になりつつもモンモランシーをリードしている。どこか二枚目になりきれない辺りがらしいといえばらしいが。 まぁ、それぞれが思い思いに楽しんでいるようだった。 ホールの壮麗な扉がゆっくりと開き、ルイズが姿を現した。門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げる。 「ほぅ、ありゃ、大したもんだ! おでれーた!」 シエスタは息を飲んだ。 3 ああいった派手な場は肌に合わない。一応は着飾ってみたものの、舞踏会に出る気もないロングビルは広場を抜け出し、月夜の下で静かに夜風を楽しんでいた。 「パーティを楽しんでおるかの。ミス・ロングビル」 ロングビルが振り向けば、そこにはいつもより豪華なローブに身を包んだオスマンがワインのグラスを両手に持ち立っていた。 「今日は大変じゃったの。ほれ、タルブ産のワインじゃ。美味いぞい」差し出されたグラスを受け取り、味わう。 確かに美味い。 「これはありがとうございます。タルブのワインを飲んだのは始めてですわ」 「お口の合えば幸いじゃ。それにしても惜しいのぅ・・・・・・ミス・ロングビルほどの美人が壁の花に徹しておるとは」 ロングビルがいるのは、パーティの会場からやや離れた中庭である。オスマンはわざわざロングビルを探しに来たらしい。 「それともやはり盗賊は派手な場所が苦手かの? 『土くれ』のフーケ殿?」 「なッ!?」 咄嗟に杖を抜き、オスマンに突きつける。この狸爺・・・・・・どこまで知っている。 「ほっほっほっ、やめときなさい。偏在じゃよ」 後ろからオスマンの声が聞こえた。背中に硬い何かが押し付けられた。 『風の偏在』。風属性が対人戦で最強といわれる一つの理由。それは自分の分身を作り出すという反則染みたものだ。あの『オールド・オスマン』が使えたとして、何も驚くことは無い。 チェック・メイト、そんな単語が脳裏をよぎる。いや、まだだ。まだ諦めるには早い。ロングビルにはまだ隠し玉がある。《P.V.F》というとっておきの隠し玉が。 「とりあえず杖を下ろしてくれんか。自分の姿が串刺しというのは食欲が失せるのでの。こちらにはお主をどうこうするつもりはありゃあせんよ、フーケ殿。その気があるなら、とっくに殺しとる。ま、ワインのおかわりでもどうじゃ?」 背中の硬いものが外され、手に持つグラスにワインが注がれる。背中に突きつけられていたのはワイン瓶だった。 「・・・・・・私をどうするつもりだい?」 「そんなキツく睨まんでも、爺のちょっとしたイタズラじゃのに・・・・・・どうも受けが悪いの。今日の舞踏会で見せんで正解じゃわい」 オスマンはいじけた様子でワインを一口飲み、美味いと呟いた。杖を突き付けられてもこの余裕。癪に障る。 「どうもせん、そう言ったはずじゃ。お主が『フーケ』ではなく、『ロングビル』として生きるのならわしもそう接する。それだけじゃて」 オスマンはどこから取り出したのかチーズを齧り、「おお、こりゃまた美味いの」などと言っている。 「・・・・・・いつから、気づいてた?」 「はて、いつからじゃったかのう。年を取ると忘れっぽくていかん。忘れてしもうたわい。ほれ、わしの『優秀な』使い魔のモートソグニルや。チーズは好きじゃろ」 オスマンの肩にこれまたいつの間にか小さなハツカネズミが現れ、チーズを齧っている。掴み所が無いとはまさにこういう人間の事を言うのだろう。 「ナッツの方がいいとは・・・・・・モートソグニルも贅沢なヤツじゃわい。こんなにも美味いのにの。フーケ殿もどうじゃ? ワインに良く合うぞ」 「アンタはいったい、何が目的なんだいっ。さっさと言ったらどうだ!」 思わず差し出されたチーズを払い飛ばす。チーズは地面に落ちずに、新たに現れた三人目のオスマンが受け止めた。『偏在』は術者の能力で出せる人数が変わる。この爺が何体の偏在を出せるのか・・・・・・考えたくも無い。 「わしの目的か? そりゃ美人で有能な秘書を手元に置いておきたいんじゃよ。給金が足りぬなら増やそう。詮索して欲しくないのなら、何も聞くまい。じゃからわしの秘書を続けてくれんかのう、ミス・ロングビル。老い先短い老人の楽しみを奪わんでくれ」 本当に寂しそうに、オスマンはフーケを見つめた。その瞳は何もかも嘘のようであり、全て真実のようでもある。 良いように手玉に取られるのは癪だ。しかし、それ以上に魅力的なのも事実。 自分のプライドと自分の守りたい物を天秤にかけようとして、かけるまでも無い事気付き、言葉が口から飛び出していた。 「・・・・・・給金は今の三倍。年に二回、一週間以上の長期休暇。この二つが条件だよ。・・・・・・ああ、このワインも月に一本頂戴」 「むぅ・・・・・・足元見よって・・・・・・ま、いいじゃろ。ほかに金の使い道もありゃせんしの。わかった、その条件で雇おうミス・ロングビル。ただ、このワインはわしも好物でな。独り占めは良くないの。つまみはチーズでよいかな?」 「・・・・・・私はスモーク・サーモンの方が好きですわ。オールド・オスマン」 これからもよろしく、そんな思いが込められたか込められて無いかはわからないが、中庭に澄んだ乾杯の音が小さく響いた。 4 ――キレイ。 陳腐だがシエスタにはそんな感想しか思い浮かばなかった。 一纏めにした艶やかな桃色の髪をなびかせ、ゆっくりと歩く。今夜の主役が出揃ったのを確認した楽士たちが小さく、流れるような優雅な音楽を演奏する。 呆気にとられていた生徒たちも、その音楽で我に帰りそれぞれのパートナーと踊り始めた。 ルイズはといえば優雅な足取りでホールを進み、ぐるりと会場を見渡してシエスタと目線がぶつかった。シエスタの姿を見つけたルイズは微笑みを浮かべ、こちらへと歩んでくる。周囲の生徒たちはルイズの美貌とその姿に驚き、声をかける機会を失っていた。 慌ててワイングラスを置き、ドレスを整えてルイズを迎える。 「シエスタ、楽しんでるかしら?」 「は、はい・・・・・・あの、ルイズ様?」 「はっはっはっ! おでれーたぜ、娘っ子! いやぁ、剣の身には舞踏会なんざぁツマンネーって思ってたが、なかなかどうして楽しめるじゃねぇか!」 カタカタと笑うデルフリンガーに「うるさいわね」と文句を言いつつも、ルイズはシエスタに衣装を見せるために目の前で一回転してみせた。 「どう? 似合うかしら」 ルイズが身に纏っているのは軍服。ルイズの体格に合わせて仕立て直されているが、その独自のラインは軍のものであった。チーフをタイの代わりにし、上質な黒いマントを華やかなコサージュで留めている。厳格な印象を与えるような軍服でも、もともと美少女であるルイズが袖を通せば、宝石のような煌びやかな雰囲気を放つ。 未だ幼さを残すルイズの顔立ちもまるで凛とした刃のように凛々しく、そしてそれ以上に美しく見えた。 「な、なぜ男装を?」 男装自体はそれほど珍しくは無い。仮面舞踏会などの特殊な趣向が凝らされた舞踏会では頻繁に見られる光景であるし、近年はトリスタニアでも女騎士が増え、社交の場では男装をするものも少なくないという。だがもちろん、それらは特例であり、このような舞踏会では女性らしい格好をするのが当たり前だ。 「ふふ、キュルケにうまく乗せられちゃったわ。まぁ、こういうのも悪くないけどね。ね、シエスタ。私、そんなことよりも言ってみたい台詞があったのよ。・・・・・・それはね?」 悪戯好きの猫のように瞳を輝かせ、花のような微笑みを浮かべた後、ルイズは洗礼された優雅な姿で一礼した。 「レディ、私と一曲、踊っていただけませんか?」 胸が高鳴るのが止まらない。あまりに速く、大きな鼓動が脳を揺らすようだ。 顔に血が上ってくるのを感じつつも、コクリと頷くとルイズはクスリと笑い、シエスタの手を取りホールへと向かう。 「こんなダンスなんてしたことありませんよ」 シエスタは平民だ。そりゃお祭りなどでダンスを踊ったことならあるが、このような舞踏会など初めての経験である。 「私に合わせて」と言って、ルイズはシエスタの手を軽く握る。それだけの仕草さえも美しく、シエスタは手からこの胸の鼓動がルイズに伝わってしまいそうで、気が気でない。 ゆっくりとぎこちないシエスタの動きに合わせ、二人はゆったりと踊った。 「ねぇ、シエスタ。ありがとう」 「何がでしょうか?」 「私の傍にいてくれる事を選んでくれて」 ルイズは軽やかに、優雅なステップを踏みながら、そう呟いた。 「いきなりどうしたのですか?」 「今まで、ずっと一人だと思ってた。自分は『ゼロ』だって・・・・・・自分に自信なんて無い、あるのは劣等感だけよ。それでも私は、私の誇りを嘘にしたくなかったのよ」 それからルイズは、少し俯いた。 「ねぇ、後悔してる?」 「いえ、後悔なんてしてません。私はルイズ様の従者です。たとえルイズ様が一人になったとしても、私は貴女に付き従います」 そう・・・・・・と呟いて、ルイズとシエスタはしばらくの間、無言で踊った。互いに口は開かなかったが、繋がる手はなんだかそれ以上の想いを伝えてくれる。そんな気がする。 それからルイズは僅かに頬を染め、シエスタの瞳を見つめながら思い切った様子で口を開いた。 ありがとう。 多くの言葉は要らない。それだけでルイズの心は伝わった。 やがて楽士たちがテンポのいい曲を奏で出す。シエスタも徐々に緊張がほぐれ、楽しくなってきた。 《パラベラム》となった自分たちには、これから様々な困難が待っているかもしれない。それでも。 今はこの時を楽しもう。 今日のルイズは可愛い。それだけで十分な気がした。 「私はずっと傍にいますよ、ルイズ様」 「どうして?」そこまで、という言葉は飲み込んだのを感じた。 「それが私の誇りですから」 シエスタはそう言って、ルイズに笑いかけた。 愛する人の傍に立ち、そして守り続ける。 祖父がそうしたようにシエスタもまた愛する人の為に戦おう。それはきっと、誇るべき事だとシエスタは思う。 そして自分の全てを捧げ、戦うに値する素晴らしき主はここにいる。 舞踏会の夜に、二つの月明かりが照らす幻想的なバルコニーで二人の《パラベラム》がずっと踊っていた。 軽やかなリズムを刻むルイズ。 僅かに頬を染めながらそれに合わせるシエスタ。 周りの目もだんだんと気にならなくなり、二人の踊りと音楽は夜の闇に融けてゆく。 前ページ疾走する魔術師のパラベラム トップページへ戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1626.html
「これが『竜の羽衣』なのね」 「はい。これがそうです」 「でもこんなのがどうやったら飛ぶのかしら?この翼じゃ羽ばたけないだろうし」 「ええ。村の人もそう言ってます」 ルイズとシエスタのそんな会話を聞きながら、私は『竜の羽衣』を穴が開くほど凝視していた。 目が乾くことなど気にならない。 もしかしたら今自分は呼吸などしていないかもしれない。 それほどまでに『竜の羽衣』を見ることに集中していた。 「どうですヨシカゲさ……ん?ヨシカゲさん?どうしたんですか?そんなに目を見開いて?」 「そういえば一言もしゃべってないわね。どうしたの?」 ルイズたちの心配をよそに私は一歩足を踏み出し、注連縄で飾られた『竜の羽衣』に近づく。 「おいおい、こりゃマジかよ……。驚く驚かねえの問題じゃないぞ。夢じゃないよな?本当にそうなのか?」 「ヨシカゲ?」 「ヨシカゲさん?」 一歩、また一歩と『竜の羽衣』近づくたび、そこにあることがはっきりしてくる。 だがまだ信じられない。 自分の手で触れてみなければ信じることなどできはしない。 この世界にロッケトランチャーがあったことにも驚いたがこれは度が違いすぎる。 「なあ、シエスタ。これ触っていいのか?できれば触らしてほしいんだが」 「は、はい。問題ないですけど」 急かす心を理性で宥め、震える手で手袋を外しにかかる。 もちろん直に『竜の羽衣』触るため。 しかし手が震えていてはなかなか外せないのは当たり前で何度も外すのに失敗してしまう。 そのあとさらに数度の失敗を重ね、ようやく右手の手袋を外すことに成功した。 そしてついに『竜の羽衣』私の手が触れた。 すると剣を手にとった時のように、銃を手にとった時のように、体が軽くなる。 予測はしていた。 『ガンダールヴ』のルーンは武器であればどんなものにでも発揮されるのだから。 『竜の羽衣』は戦争のために作られたものだ。 武器でないはずがない。 触っていると『竜の羽衣』の中の構造、操縦法が頭の中に流れ込み、それを何の違和感もなく理解する。 それと同時に興奮が自分の体を駆け巡り始める。 「凄い、こりゃまったく凄いぞ!間違いない!本物だ!」 「ヨ、ヨシカゲ!?どうしたのそんな興奮して?」 「ヨシカゲさん、それのこと知ってるんですか!?」 そんな質問が聞こえ、シエスタのほうを振り向く。 今の私の顔は、おそらく今まで他人には見せたことのない表情だろう。 しかしそんなものは気にならない。 それほど気分が高揚している。 「知ってるも何も、昔俺の国で使われてたもんだ。有名なものだし知らないわけがない!」 「嘘!?ヨシカゲさんの国で!?」 「たしかヨシカゲの国って、ニホンとかいう国よね?」 「ああ、その通りだ。これは『竜の羽衣』何て名前じゃない!『零式艦上戦闘機』、通称ゼロ戦だ!」 そう、寺院にあったものは第二次世界大戦初期において世界最優秀機であったゼロ戦であった。 ロケットランチャーがあるのだからほかにも元の世界から来たものがあるだろうとは思っていた。 だが、こんなものが来ているだなんて信じられるだろうか。 しかも完璧な状態でだ。 しかし、現にここに存在している。自分の存在を私に刻み付けるかのようにそこに存在しているのだ。 「へえ、これがヨシカゲの国の道具なのね。これで一体何ができるの?まさかシエスタのひいおじいさんが言ってたみたいに空が飛べるとか?」 「ああ。これを使えば平民ですら空を飛ぶことができる。これは空を制するために作られたんだ。空ぐらい飛べなくてどうする」 「えっ!ホントにこれで飛べるの!?信じられない……」 ルイズがそりゃもうこれでもかというほど信じられないといった感じで声を上げる。 そりゃそうか。 この世界において科学は一般ではないどころか確立すらされていない。 そんな時代の人間にこんなカヌーの両側に板をつけたような物体が空を飛ぶだなんて言っても信じられるわけがない。 「まさかこれがヨシカゲさんの言ってた飛行機なんですか!?」 「そうだ。これが飛行機だ。旧式だけどな」 「本当にひいおじいちゃんは空を飛んできたんだ」 そう呟くとシエスタは何か考え込み始める。 「私のひいおじいちゃんがヨシカゲさんの国のものに乗ってきたということは」 シエスタがそう言うとルイズが何かに気づいたような顔をする。 まあ、すこし考えればわかることだな。 「その通りだ。シエスタのひいじいさんと俺は同じ国の生まれのようだな。つまりシエスタには日本人の血が流れているということか。 たとえば、シエスタは髪や瞳がひいじいさん似だと言われたことはないか?」 「は、はい!でもどうしてそれを?ひいおじいちゃんを見たことがあるんですか?」 「違う。黒髪に黒い瞳は私の国の民族的特長だからだ」 「これがヨシカゲさんの国の人の特徴……」 シエスタは自分の髪の毛をいじりながらそう呟いた。 すこし頬が朱に染まっているような気がするが気のせいだろうか? 「これで空が飛べるんなら、どうしてシエスタのひいおじいさんは皆の前で飛んで見せなかったの?」 ルイズは納得いかないという風な顔でそう言ってきた。 たしかにそうだな。 ルーンの力で中の構造はわかっているがどこも壊れている場所はない。 だとすると…… 燃料タンクの場所へ行き、そこのコックを開いてみる。 案の定タンクの中は空っぽだった。 「ガス欠だな。だから飛べなかったんだ。燃料がなければこれは空を飛ぶことはできない」 「燃料?」 「ゼロ戦の食い物だと思えばいい。腹が減って空に登れなかったのさ」 しかし燃料がないのか。 この世界で燃料が手に入るわけがない。 そもそも燃料が手に入ったとして、これは私のものじゃない。 私の自由にはできない。 ……なんてことだ。 そこまで行き着くと高ぶっていた気持ちが少しずつ収まってきた。 せっかくこんだけ凄いものを発見したのにどうにもできないなんてそんなのありかよ。 そうだ、 「シエスタ、ほかにひいじいさんの遺品はないのか?あれば見せてほしいんだけど」 なにか有益なものをゼロ戦と一緒にこっちに持ってきているかもしれない。 いいものがあれば交渉しだいでもらえるかもしれない。 「父なら持ってると思います。聞いてみましょうか?」 「ああ。頼む」 そういえば燃料を作れそうなのがいるな。 コルベールだ。あいつなら時間がかかるかもしれないが作れるかもしれない。 頼まなくても自分から嬉々として作ってくれそうだし。 でも、ゼロ戦が手に入らなければ意味がない話だ。 後ろ髪を引かれつつ、私たちはシエスタの家に戻ることになった。
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/101.html
前ページ次ページゼロとさっちん 「これが、曾お祖母さんのお墓です」 シエスタに案内されてそれを見たさつきは、「あ……」と声を上げてから静かな眼差しでそれを見つけた。 ここはタルブの村である。 なんだかんだと色々とあって、さつきはアルビオンの任務から帰還して、休養と称してこの村にやってきた。 どうしてタルブなのかというと、シエスタの故郷だからである。シエスタは学園で働く給仕というかメイドで、まあ色々とあってさつきと仲良しになった。 もっとも、さつきはそんなに人見知りしない性格なので学生にも教師にもメイドにもそれなりに知り合いができていた。シエスタはそれらの中でも特に仲がよいのであった。 それで三日前、 「丁度曾お祖母さんの命日が近いので、お墓参りをしようと思っているんです。サツキさんも、遊びにきてみませんか?」 「あ、どうしようかなあ……いってみたいけど、わたし、一応はルイズさんの使い魔だし」 「――いいわよ、別に。アルビオン王家はあんたのおかげで救われたようなものだし。ご褒美がわりに休暇くらいあげるわよ」 「あ、本当に? ありがとう!」 「……別にこの程度のことで感謝しなくてもいいんだけどさ……あんたはもっと、ご主人様である私に頼ってもいいんだから……!」 とかそんな会話の後に、二人は連れ立ってやってきたのだった。 まあ、さつきとしては物見遊山というか、久々に「お友達同士でお泊り」という女子高生らしいイベントが楽しみであった訳で、場所がタルブであるとかはかなりどうでもよかったのだが。 ちなみにルイズとも毎日のように一緒に寝ているわけだが、最初の三週間で慣れた。アルビオンへの旅はそれどころではなかったし。 今回は本当に彼女にとっては楽しみだったのであるが……。 とりあえずとばかりにお参りしたお墓は、まったくもって予想外のもので、何処か浮ついた気持ちがそれを見ることによってしゅんと萎んだのをさつきは感じていた。 それは―― 十字架なのだった。 弓塚さつきは、このハルケギニアでの墓の形態を熟知しているわけではなかった。 それでもなお、それはこの世界にはありえない形状なのだと察した。いや、直感したと言ってもいい。 (これは……) 目を丸くしてその墓標を見つめる。 たまたま、彼女のしるモノと同様の形態をしているのかも知れない。そう思い返したからである。 だが、無情にもというべきか、それは確かに彼女の知る形式のものであった。 墓標にはどう見てもアルファベットが刻まれていたのだ。 (……読めない) Il meurt dans EREISHIA et le monde inconnu. 「……英語じゃないみたい――えーと、これは……エレイシィア?」 恐らくはこれが人名であるというのは解った。 エレイシア、という人がここで眠っているのだとなんとなく見当をつける。 「曾祖母の墓です」 「シエスタさん?」 振り向くと、しかしシエスタはいなかった。 そして返答の代わりに、強烈な痛みと衝撃に襲われてさつきは吹き飛んだ。 ◆ ◆ ◆ 「あら、サツキはいないの?」 祈祷書を前にうんうん唸っているルイズの部屋に、キュルケはいつものようにアンロックで勝手に鍵を開けて入り込む。 ルイズはじろりと横目に睨み付けるが、いつものことなのでそれだけで済ませて 「いないわよ」 と応えた。 「いない? いつも一緒なのに珍しいわね」 「そうそういつまでも一緒ってわけにもいかないわよ」 「使い魔なんでしょ?」 「使い魔でもよ」 ルイズは不機嫌な顔で。 「友達のメイドの故郷に招待されていったわ。一週間くらい骨休めしてくるって」 キュルケは「ふうん」とどうでもよさそうに頷いてから。 「でも、サツキでしょ?」 「何よ?」 「どうせまた何か、不幸なことに巻き込まれているんじゃないかしら」 ルイズは顔を上げて何か思案するように天井に視線を彷徨わせる。 「まさか……そう毎回毎回、変なことになるなんてことはないわよ。多分」 ◆ ◆ ◆ そこにいたのは、さつきの知るシエスタではなかった。 メイド姿のエプロンを脱ぎ捨て、肩とか露出したドレス姿になっていた。その肩にはなんか何処かで見たようなタトゥーが入っている。 その手に持つのは――というより、指で挟みこまれているのは三本の長剣。 爪の如く拳から伸びている。 さつきはそれを知っていた。 黒鍵。 代行者が用いるという、礼装……。 「な、なんでシエスタさんがそんなのを持っているのかな……?」 かつて諸人の罪を背負ってはりつけられた預言者のように、さつきの体は十字架の墓標に縫いとめられていた。 右腕と左脇腹と右の脛を貫いているのは、シエスタの手にあるのと同じ黒鍵だ。 そこから生じている痛みに脂汗を流しながらも、事態のあまりの唐突な変化にさつきは混乱して恐怖を覚える以前の問題だっ。 シエスタはいつもと違う姿でいつもの笑顔を浮かべ、 「曾祖母より授かりました」 「ひ、ひいおばあさんから……」 ごくりと唾を飲み込む。 「一撃で並の死徒ならば六度は滅ぼせるという話でしたが、曾祖母が大げさにいったのか私の技が未熟なのか――それとも貴方がそもそも並ではないのか。どちらにしても、死徒相手に使うのは初めてなのでよくわかりませんが」 「あの、シエスタさん、こういう危険なものは人に向けて使うのは危ないよ……」 よくわからずにトンチキなことを口走ってしまう。 シエスタは当たり前のようにそれをスルーした。 「曾祖母はある事情があって、この世界に迷い込んだ異邦人でした。元々の世界では死徒と呼ばれる、この世界の吸血鬼とは異なる吸血鬼を狩り出す仕事をしていたそうです」 「へ、へえ……」 「曾祖母はいつしか帰還を諦めてこの世界で暮らしましたが――それでも、自分の技と使命を残しました」 さつきは問わずとも知っていることを、だけど改めて問うた。そうしてしまうくらい、目の前にいる少女と いつも、ついさっきまで一緒にいたメイドとギャップがありすぎる。 「技と、使命?」 技――それは代行者の持つ技。 対軍にも達する異能(バケモノ)じみた体術。 使命――それは代行者のするべきこと。 神の摂理に反する不死者(バケモノ)を打ち倒すこと。 「曾祖母は言っていました。もしも私の墓標に書かれている文字を知るものがいれば、それは自分と同じ世界からきたものであると――そしてサツキさん、あなたは吸血鬼ですね。曾祖母と同じ世界よりやってきた吸血鬼」 即ち、死徒。 「主の名のもとに、サツキさん、貴方を滅ぼします」 塵は塵に! 灰は灰に! 「シエスタさん!? 落ち着こう! 落ち着こうよ!」 さつきは叫ぶが、シエスタは聞いてないのか、愉悦の笑みさえ浮かべて黒鍵を持った右手を首に巻くように振り上げる。 「エイメン」 ◆ ◆ ◆ 「ま、どうせ何かあったってどうにかしちゃうわよ」 「それもそうね」 「サツキは自分で思っているより、ずっと強いんだから」 ◆ ◆ ◆ 「わー! 遠野くん助けてぇー! ピンチだよおッ!」 まあとにかく、さつきは何処の世界でも、やっぱり不幸だった。 おわり。 前ページ次ページゼロとさっちん
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1291.html
アルビオンの首都、ロンディニウムの外れ。 いかにも安っぽい作りの宿屋に、髭面の大男が入っていく。 「姉御、駄目だったよ」 男は椅子に座ると、ベッドの上に座るルイズに言った。 「どこも貴族派の口利きばかり?」 「ああ、ジョーンズが探してくれてはいるけど、期待はしねぇでくれってさ」 「…そう」 数日前、ルイズが王党派につくと言った時、ブルリンが驚いた。 ルイズは聞き耳を立てて知っていたが、ブルリンは王党派の現状が絶望的だとルイズに忠告し、何度も考え直せと言った。 しかしルイズは頑として聞き入れない、一度決めたことは全うする、それがルイズの頑固なところだった。 仕方なくルイズに折れたブルリンは、ジョーンズに王党派への口利きを頼んだ。 しかし、口利き先もほとんど潰されてしまったらしく、王党派に雇われるのは困難らしい。 何せ王党派は賃金も安いし勝ち目も少ない、貴族派はまず傭兵の口利き先を掌握していた。 王党派に協力しようとする者を探しだし、それを秘密裏に処分したり、より高い賃金で雇うのだ。 ジョーンズの話では、貴族派が登場する前にも、アルビオン王家にはお家騒動があったとまことしやかに噂されている。 ルイズは、信憑性が高いと睨んだ。 なぜなら今回の内乱はただのクーデターではなく、様々な人の思惑の混じった、泥沼の戦いに発展しているからだ。 貴族派の噂は決して良いものではない、農村部からの物資略奪はもちろんのこと、占領した町の民を餓えさせ王党派を誘い出すやり方や、空軍戦力をわざと町に落としアルビオン王家の信頼を失墜させる自作自演。 すべては噂の域を出ないが、なぜかルイズにはその噂を信じる気になっていた。 それには、何処か憎めない、ブルリンという男のキャラクターが助けていたのだが、本人はそのことに気づいていない。 「とにかく、俺はもう一度探してみるよ」 「アタシも行くわよ」 「いいって!それに、昨日酒場でとんでもない豪傑女が居たって、姉御のこと噂されてるんですぜ」 「そう…分かったわ、ここ(宿)で武器の手入れでもするわよ」 ブルリンが宿を出たのを確認すると、ルイズは浅茶色のベッドで横になった。 吸血鬼になったおかげか、オークやトロル鬼の血を吸う生活のおかげか、ルイズは貧しい平民が利用する宿屋でも平気だった。 以前のルイズならば、魔法学院の部屋以上の部屋でもなければ泊まろうとも思わなかっただろう。 ブルリンは『傭兵になるのなら風呂に入れないのは覚悟しなきゃ』などと言っていたのを思い出す。 吸血鬼の肉体は垢も汗も体臭もコントロールできるので、風呂に入れなくても不都合はないし、ノミが血を吸おうとしても血が出ない。 清潔を心がけ、香水で身だしなみを整えていた頃の自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる程だった。 「…デルフ、あんた、どう思う?」 ルイズが寝そべったまま、壁に立てかけてあるデルフリンガーに聞く。 『何がだよ』 「貴族派の首謀者よ、クロムウェル…」 『虚無の力に目覚めて、貴族の心を掴んだって奴か?うさんくせぇなあ』 「私も信用できないと思うわよ、夢物語が過ぎるわ…デルフはどうして胡散臭いと思ったの?」 『いや、なんかさあ、どっかに引っかかってんだよなあ、虚無ってどっかで聞いたような…うーん』 「アンタずいぶん古そうだもんね、始祖ブリミルにでも会ってたりして」 『いや、俺を作ったのはブリミルなんだけど、漠然としか記憶に残ってないんだよな』 「…プッ、あんた冗談が上手いじゃない」 『おいおい、冗談じゃねえぞ、俺は何せ6000年も生きてるんだかんな!嬢ちゃんよりずっと年上だ』 「6000年…ね」 ルイズは考える。 自分はまだ二十年にも満たないが、吸血鬼の寿命は極端に長く、これから先いくらでも生きていられるという自身がある。 200歳、300歳の吸血鬼が討伐されたという話はたまに耳にする。 しかし、6000年も長く生きた吸血鬼の話など聞いたことはない。 デルフリンガーは一種のマジックアイテムとして意志を持ってはいるが、それは人間より吸血鬼に近いものなのだろう。 傭兵になろうと思ったのは、本当に金を稼ぐためだろうか? もしかしたら、誰かの記憶に残りたいと思っているのではないか。 もしかしたら、死を偽装したのは、間違いだったのでは… 思考の海に沈みそうになった時、一階からブルリンの声が聞こえてきた。 『何しやがる!このっ、くそっ!』 ルイズは意識を覚醒させ聴覚に集中する。 「…足音、六つかな」 中央から床板のきしむ音、ブルリンだろう。 その周囲を囲む足音は、床板がきしむ音に合わせてどたどたと動いている。 ブルリン一人を五人で取り押さえようとしているのだと分析し、ルイズはベッドから飛び降りた。 『嬢ちゃん、俺を使うのか?』 「ここじゃ使わないわ」 フードを深く被り、デルフリンガーを背負う。 剣の扱いは素人同然なので、ルイズはデルフリンガーを使わぬよう、鞘に入れたまま部屋を出る。 屋内で振り回したら建物ごと破壊してしまう。 もっとも、素手でも十分破壊できるのだが… 一階に下りるとブルリンが他の傭兵らしき男達に押さえ込まれていた。 「何やってんの、あんた」 「ちょっ、姉御!逃げてくれよ!」 ブルリンが『姉御』と呼んだのに気づき、ブルリンの腕を縛り終わった傭兵がルイズの腕を取る。 そのままデルフリンガーも回収されてしまったが、ルイズは特に抵抗もせず縛られることにした。 「あんたねえ、こう言うときはお互いに知らんぷりするんじゃない?姉御だなんて呼んで、馬鹿じゃないの」 「そっ…そんなこと言ったってよぉ」 取り押さえられながら、情けない声を上げるブルリンと、余裕そうなルイズ。 そんな二人の会話を中断するかのように、傭兵の一人が割り込んできた。 「お喋りはそこまでにしろ、王党派を貴族派に差し出せば報酬が貰えるんだ、大人しくしてりゃ怪我はさせねえよ」 「くそっ、やっぱり貴族派の連中かよ!くそっ! …あ痛ぇ!」 傭兵の一人が、騒ごうとするブルリンをきつく縛り上げる。 「ブルリン、言われたとおりにしましょう…ね」 床に転がされているブルリンが、フードに隠されたルイズの顔を見上げる。 ルイズの瞳は、血のように鈍く輝いていた。 「親方、そっちはソースの鍋ですよ、しっかりなさってください」 「ん?ああ、すまん」 トリスティン魔法学院の厨房、その料理長のマルトーに覇気がない。 慣れた料理にも、ちょっとしたミスをしそうになり、仲間のコック達が心配するほどだ。 その原因は、数日前に厨房を辞めていった使用人の少女シエスタにある。 料理長のマルトーは、シエスタが何か粗相をしてクビにさせられるのかと思いこんでしまった。 驚いたマルトーは、オールド・オスマンを問いただそうとした。 しかし、厨房の仲間達は『いくらなんでもそりゃ無茶だ』と言ってマルトーを止めようとする。 力づくでも学院長室に乗り込みそうなマルトーを迎えに来たのは、ミス・ロングビルだった。 この件についてオールド・オスマンから説明があると伝えられ、マルトーは学院長室に入っていった。 「オールド・オスマン…」 「おお、すまんのマルトー、優秀な人材を奪うようで気が引けるんじゃが」 「い、いいえ!あの、それより、シエスタが粗相をしてもこれは厨房全員の責任です、あの娘一人に責任を押しつけるのは」 「ふむ、何か誤解しているようじゃな、何か粗相があって辞めさせるわけではないぞ」 「で、では、何処かに身請けさせられるんで?」 「身請けというより、入学かのぉ」 入学って何のことだろう…と、マルトーは首をかしげた。 「入学って言いますと、も、もしかして、そういうプレイを」 「それは秘書で試すわい、シエスタはここ、トリスティン魔法学院に入学という形になるんじゃ」 「へっ?」 マルトーが呆気にとられる。 ミス・ロングビルは後でオスマンを簀巻きにして流そうと考えたが、話の続きを聞くためにあえて黙っていた。 平民のメイドが突如魔法学院に入学という異常な事態、興味が湧かない方がどうかしている。 「すまんの、マルトーはシエスタの保証人でもあったからの、追々伝える予定じゃったが」 「はぁ…もしかして、シエスタがここに入学できるって事は、シエスタのじい様は本当に貴族様だったんですかい」 シエスタのじい様と聞いて、オールド・オスマンの目が一瞬だけ鋭くなる。 しかし、すぐにいつもの優しい視線に戻ると、静かに語り出した。 「…正確にはシエスタの曾祖父母の話になるがの」 オールド・オスマンがマルトーに事の次第を説明している間、シエスタは空の上にいた。 『きゅいきゅい』 (お姉さま、やっぱりこの人もメイジだったのね、他の人と違うにおいがするの!) 「あまりはしゃいじゃ駄目」 『きゅい』 (はーい) シルフィードがテレパシーのようなものでタバサに語りかける。 タバサはシルフィードに乗っていても本を手放さず、素っ気なく返事をする。 今朝、タバサとキュルケはオールド・オスマンに呼び出され、シエスタをタルブ村へと急いで連れて行けと指示されたのだ。 まだ空に不慣れなシエスタを後ろから支えながら、キュルケが話しかける。 「上質のぶどう酒が採れるんですって? 楽しみね」 「そんな、貴族様にお出しできるようなものじゃありません、自分で飲むために作ってるんですから」 「そうなの?」 「ええ、ひいお婆ちゃんが草原の一角を葡萄畑にして、自分で作っていたのを細々と続けているだけなんです」 シエスタは魔法学院の制服を着て、オールド・オスマンから渡された30サンチ程の杖を身につけている。 マントに慣れないのか、時折位置をただしている。 「あの…驚かれないんですか?」 「何が?」 シエスタの唐突な質問にキュルケが返す。 「だって、私、この前までメイドだったのに、突然メイジになれだなんて言われて…」 「あら、トリスティンならともかく、ゲルマニアなら経済力や商才があれば、貴族にもなれるし公職にも就けるのよ?」 「えっ、そうなんですか」 「そうよ!実力があれば平民も貴族になれるの、不可能を可能に出来る人って素敵じゃない?」 「はあ…」 「あなたも実力を見いだされたんだから、ちょっとは自信を持ちなさいよ」 シエスタの心の中に、ルイズへの思いが募る。 ルイズと入れ替わるかのように知り合った二人の貴族、キュルケとタバサ。 ルイズの死んだ場所に行ったあの日、シルフィードはシエスタを見て『太陽の臭いがする』と言い出した。 ある日、キュルケのサラマンダーまでもが同じ事を言い出したのだ。 不思議に思ったキュルケがタバサに聞くと、シルフィードも同じ事を言っていたと聞き、キュルケはシエスタを「不思議な平民」だと思っていた。 だが、オールド・オスマンの鶴の一声で、トリスティン魔法学院に入学させられる程だとは考えてもいなかった。 ゲルマニアは実力主義の気があり、魔法だけでなく平民の工業技術にも力を入れている。 トリスティンは貴族主義的な気があるので、平民がどんなに努力してどんなに功績を立てても、シュヴァリエ以上の名誉が与えられることはない。 しかしゲルマニアは違う、その能力と財力次第で公職にも就くことができる。 そんな国出身のキュルケでも、以前ならシエスタを平民上がりかと小馬鹿にしていたかもしれない。 ルイズが死んでからというもの、キュルケは後輩を気遣うことが多く、特に下級生から慕われることも多くなっていた。 何よりも、勝ち気なルイズとは正反対の大人しさを持つシエスタに、ルイズの面影が見えた気がしたのが、その原因だろう。 オールド・オスマンの話では、シエスタはルイズと同じか、それ以上に特殊なケースらしい。 シエスタはルーンを詠唱することで発動する魔法ではなく、口語によって発動する魔法に特化しているそうだ。 そのため、今まで魔法の才があるとは思われていなかったとか。 ルイズの件で反省し、魔法に対する認識を改めたオールド・オスマン。 彼はシエスタを特別なケースとして魔法学院に迎え入れ、既存の魔法だけでなく新たな魔法の発見に力を入れるのだそうな。 キュルケの興味は、『どんな魔法も爆発させる』仇敵ラ・ヴァリエールの娘から、 『水の魔法より純粋な生命力を操る』元平民のメイジへと移っていた。 [[To Be Continued → 仮面のルイズ-14]] ---- #center(){[[12< 仮面のルイズ-12]] [[目次 仮面のルイズ]]} //第一部,石仮面
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4811.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 三一三 シエスタの家に駆けつけた君は、キュルケの≪使い魔≫である火狐が狂ったように吼えたけっているのを眼にする。 鋭敏な嗅覚をもつこの獣は、怪物どもの放つ匂いをいち早く嗅ぎつけているのだ。 君にもかすかにその匂いが感じとれる――火山と墓場と下水道が一ヶ所に集まったような、吐き気をもよおすひどい悪臭だ! 息せき切ってシエスタの家の居間に駆け込んだ君は、全員外に出ろと絶叫する。 その場に居た人々――シエスタ、彼女の母親、七人の弟や妹たちのうちの三人、そして寝ぼけまなこでこちらを見やるルイズとキュルケ――は 一瞬あっけにとられるが、君のただならぬ様子に感じるところがあったのだろう、質問するより先に指示に従い動き出し、家のほかの場所に居る家族を呼び集める。 「ねえ、ちょっと!」 シエスタの家族たちと一緒に玄関をくぐりぬけたところで、ルイズが尋ねる。 「なにがあったのよ? なんだか村じゅうが騒がしいみたいだけど、火事? それともオーク鬼の群れでも攻めてきたの?」 君は、そのどちらよりも悪い事態だと告げ、草原を這いずり村に押しよせる、胸が悪くなるようなのたうつ形のない塊を指し示す。 それは村の広場から目にしたときよりもさらに大きく膨れ上がっており、その先端は村はずれの畑に達するところだ。 悪夢のような光景を前に、ルイズたちは呆然と立ち尽くす。 ルイズは喉の奥から絞り出すような声で 「な……なによ、あれ。生き物、なの……?」と呟く。 「ど、どこから湧いてきたのよ!? とにかく、ここから離れなきゃ!」 他の者たちよりもいくらか早く立ち直ったキュルケの言葉に君はうなずき、避難の手順を説明する――もっとも、タバサと彼女の ≪使い魔≫に頼り切ることになるのだが。 まずはシエスタの家族をシルフィードに乗せて、迫りくる怪物から充分に距離をとったところで降ろし、再び舞い戻らせる。 風竜の背中はそれほど広いわけではなく一度に運べるのは大人ならば五、六人が限界だが、これを繰り返せば、他の村人たちも ある程度は救えるはずだ。 君、ルイズ、キュルケの三人が竜に乗るのは最後だ――魔法使いであるキュルケや君は、いざとなれば術を使って空中に逃れることができるからだ。 説明を終えると同時に家の前にシルフィードが舞い降りたので、君はさっそくシエスタの家族が竜の背によじ登るのに手を貸す。 シエスタの両親と彼女の弟や妹たち、あわせて八人(ジュリアンという名の少年だけは他家の畑仕事の手伝いに行っているそうだが、もはや探しに行く暇もない)と 騎手を務めるタバサが乗ったところで、シルフィードの背中は立錐の余地もなくなる。 「先に行って! わたしはミス・ヴァリエールたちと一緒に残るから!」 竜に乗るのをあきらめたシエスタは、家族たちにそう告げて身を引く。 「し、しかしシエスタ……」 「お姉ちゃん!」 彼女の家族が上げた悲痛な声は、巨大な翼のはばたきの音にかき消される。 「タバサ、シルフィード! 頼んだわよ!」 「ミス・タバサ、家族を、村のみんなをお願いします!」 キュルケとシエスタの叫びにわずかにうなずき返すと、タバサはきっと前を見据える。 シルフィードは背中に乗った人々を落とさぬよう巧みにつりあいを保ちながら浮き上がると、村の東にある小高い丘を目指して飛び去る。 君、ルイズ、キュルケ、シエスタの四人と火狐のフォイアは、シエスタの生家の屋根に上っている。 あの泥沼のような怪物の正体は判然とせぬが、生きた洪水のようなものだとすれば高い場所に逃げたほうが安全かもしれぬ、 と君が主張したためだ。 怪物はその巨体ゆえにゆっくりと動いているように見えるが、実際のところは人間が小走りするほどの速さで這いずり、押しよせてくる。 他の村人たちのように森へと走っても、すぐに追いつかれ、呑み込まれてしまうおそれがあるのだ。七〇へ。 七〇 「ああ、ブリュヌベリーの生えていた茂みが消えています! これでもう、あの薬は二度と……」 シエスタが震える指で指し示したほうに目をやった君は、怪物が通り過ぎたあとには雑草一本たりとも残っておらず、ただ消し炭のように黒く変色し、 ぬらぬらとした粘液にまみれた土が残されているだけなのを見出す。 『あれは水も、土も、風も、おひさまの光も、みんな汚して腐らせちゃう』というシルフィードの言葉を思い出し、身震いする。 怪物がタルブを去っても、もはやこの地の畑にまともな作物が実ることはないだろう。 君はかつて、同じように汚染された土地を目にしたことを思い出す。 二百年以上昔の大戦のおり、≪混沌≫に侵されたために自然の法則そのものが狂ってしまった、カーカバードのバク地方だ。 かの地では獣も草木も奇形と化し、昼と夜の巡る間隔さえ異常なものとなり果てているのだ! それでは、あの生きた泥沼のような怪物は、すべてを汚して腐らせる邪悪な≪混沌≫の存在なのだろうか? 「ねえ」 青ざめた顔をしたルイズが、傍らに立つ君に尋ねる。 「あれはなんなの? どこからやって来たの?」と。 君は、あれは草原に飛来したアルビオンの軍艦が運んできた一種の兵器らしい、と答える。 おそらく、大きな壷かなにかの容器に密閉された状態でアルビオン本土から運ばれてきたのだ。 船から地面に投げ落とされ、容器が割れて解放されると同時に、周囲の草木を取り込み自らの一部となし、どんどん巨大になっていったのだろう。 伝説的な≪混沌≫の生き物を召喚して使役するほどの強大な妖術の使い手など、≪タイタン≫にも片手で数えるほどしかおらぬはずだが、 ハルケギニアの人間のはずであるクロムウェルが、それを成し遂げたというのだろうか? カーカバードで君に全滅させられたはずの七大蛇を召喚してよみがえらせ、今度は名もなき≪混沌≫の怪物を操る――君は、伝説の≪虚無≫の系統の 使い手と噂されるクロムウェルの底知れぬ力に恐怖を覚える。 「あれがアルビオンの兵器だとすると、本来の目標はきっとラ・ロシェールね。タルブはあれを大きくするための……餌場」 キュルケが恐怖と怒りの入り混じった声でうめく。 「それに、今のラ・ロシェールは諸国連合艦隊の根拠地だから船と竜騎兵でいっぱいのはず。近づきすぎると危険だから、少し手前のタルブで 降ろすことにしたのね。あたしたちにとっては、最悪の巡り合わせになったけど」 君たちが見守るうちにも、ねばつく不定形の生き物は村の中に殺到する。 無人となった家の扉から流れ込み、反対側の窓を破ってこぼれ落ちる。 欅(けやき)の並木や小屋を次々となぎ倒し、呑み込んでいく。 「村が……わたしのふるさとが、消えてしまう……」 正視に堪えぬとばかりに両手で顔を覆ったシエスタはその場にうずくまり、小さく嗚咽を漏らす。 彼女になぐさめの言葉をかけようとした君だが、この世のものとは思えぬ凄まじい悲鳴が耳に飛びこんできたために、ぎょっとする。 甲高く長く響くその声は、想像を絶する恐怖と、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わわされているであろうものだ。 ルイズは耳をふさいでうずくまり、震える声で 「まさか、誰か、誰かが、その……犠牲に?」と尋ねてきたので、 君は返事に窮する。 「い、いえ、あれはきっと、牛の鳴き声です」 代わって答えたのはシエスタだ。 手の甲で涙をぬぐいながら 「どこかの畜舎が襲われただけです」と言う。 「まだ、今のところは誰も死んでいないみたいです。でも……」 たしかに、それはよく聞いてみれば牛の鳴き声だが、君は暗澹たる気分になる。 村人たちをのがすべくタバサとシルフィードが奮闘しているといえ、村人の数は多く、怪物の進撃は速い。 君たちが人間の悲鳴を耳にするのも、時間の問題だろう。 そして、次に喰らい尽くされ、≪混沌≫に侵されるのは、タルブよりはるかに大きいラ・ロシェールの街だ。 今のラ・ロシェールにはアルビオン遠征の準備ために、多くの人間が集まっているはずだ――はたして何百人が餌食となるのか、見当もつかない! 不定形の怪物は今や、君たちの居るシエスタの生家の周辺まで押し寄せてきている。 屋根の上からそれを見下ろす君たちは、のたうち這いずるおぞましい姿に慄然とし、周囲に撒き散らされる硫黄と腐肉の悪臭に吐き気をこらえる。 「も、もう、黙って見ているだけなんて耐えられない!」 そう叫んで、ルイズが杖を構える。 「ここはシエスタのふるさと、姫殿下と皇后陛下が治める栄(は)えあるトリステインの国土よ! 誇り高きトリステイン貴族として、こんな、 こんなわけのわかんない化け物なんかに……これ以上好きにさせたりしないんだから! わたしの魔法で、思い知らせてやるわ!」 呪文を唱えようとしたルイズだが、その腕を掴んで制止する者がいる――キュルケだ。 「なによ、放しなさいよキュルケ! ゲルマニア人のあんたには、この悔しさが解んないんでしょうけど……」 そう言ってじたばたと暴れるルイズだが、 「落ち着きなさいよ、ルイズ。洞窟での失敗を繰り返すつもり?」と言われておとなしくなる。 「な、なによ。あんなに大きな化け物が相手なら、外すことなんてありえないわ」 「そうね。あれだけ大きいんだから、あなたの失敗魔法でほんの一部を吹き飛ばしたところで、焼け石に水。なんの意味もないわ」 憮然として反論するルイズを、キュルケがたしなめる。 「そんなことでこのまま素通りしそうなあれの注意を惹いて、あたしたち全員を危険にさらすつもり?」 「でも、でも……わたし、悔しくって……。力のない平民たちの楯となるのが貴族の務めなのに、なにもできないでいるなんて……」 ルイズは肩を震わせ、拳を握り締め、眼下で這い回る怪物の醜い姿を、穴が開かんばかりに睨みつける。 「ミス・ヴァリエール……」 シエスタが心配そうに声をかける。 「あ、あの、どうかお気に病まないでください。これはきっと、どうしようもない事なんです。あんな恐ろしい怪物が相手じゃあ、 どんなに強い貴族のかたが居たところで、どうにもなりませんもの。もう、どうしようも、ないんです……」 そこまで言ったところでシエスタは言葉を途切れさせ、うつむく。 「悔しいのはあたしも同じよ、ルイズ」 キュルケが苛立たしげな口調で言う。 「息を潜めて見ていることしかできないなんて屈辱だけど、相手が悪すぎるわ。あれを全部焼き払おうと思ったら、あたしがあと百人は居なきゃ」と。 なにもできずに歯がゆい思いをしているのは、君も同様だ。 じっと動かずに立ちつくしているが、気がつくと歯を喰いしばっている――奥歯が砕けんばかりの力をこめて! 怪物を撃退できぬまでも、なにかルイズたちのためにできることはないだろうか? 君は、なにか役に立つものはないかと背嚢を探るか(二五七へ)、よけいなことはせぬと決めてこのまま様子を見るか(六四へ)、それとも術を使うか? SAP・四九五へ ROK・三九一へ BED・四四五へ TEL・四七六へ DOP・四二二へ 四七六 体力点一を失う。 布製の縁なし帽は持っているか? なければ術は使えぬので、ほかの手段を考える必要がある。 七〇へ戻って選びなおせ。 縁なし帽を持っているなら頭にかぶって、生きた泥沼のような怪物に集中せよ。 ≪混沌≫の生き物の思考が伝わってきだすが、脳のない怪物が相手のことゆえ、なんの意味もなさない。 君が感じ取れたのは、永久に満たされることのない飢え、光や暖かさに対する渇望と憎しみといった、原始的でどす黒い感情だけだ! 君は強烈な嫌悪感に目まいを覚え、吐き気をこらえる(体力点一と強運点一を失う)。六四へ。 六四 夕陽に照らされているにもかかわらず奇怪な色彩に輝く(≪混沌≫は光すらねじ曲げ、狂わせるのだ!)怪物は、シエスタの生家の壁に衝突する。 その振動は屋根に立つ君たちのところまで伝わるが、すぐに静かになる。 「だ、大丈夫ですよね……? 家が崩れたり、しませんよね?」 シエスタが不安げな表情で君に尋ねる。 君はうなずくと、遠くに見える、おぞましい奔流に押し潰されることもなく原型をたもっている何軒かの農家を指さし、きっとこの家も大丈夫だ、と言う。 キュルケはややひきつった笑みを浮かべ、 「頑丈な家を建ててくれた、シエスタのご先祖様に感謝しなきゃ」と冗談を言う。 ルイズもなにか言おうと口を開くが、ごろごろという音を耳にして周囲を見回す。 前後左右とも、悪臭を放つ怪物がずるずると這い回るだけで、なにもない。 ごろごろという音は続く。 その音は足元――家の中から響いている! 足がすべってよろめき、そこで初めてなにが起きているかに気づく。 よろめいたのは君が不器用だったからではない。 屋根が揺れ動いているのだ! 君はすばやくキュルケのほうを一瞥する。 「頑丈だけど、柱はちょっと古くなってたみたいね」 キュルケは自らの≪使い魔≫である火狐を抱きかかえ、シエスタに 「そろそろ潮時よ。あたしの背中につかまって」と言う。 「で、でも、先祖代々住んできた家を……」 「また建てなおせばいいじゃない。あなたの命は家なんかよりもずっと大切なのよ! 早く!」 「は、はい! それではし、失礼して!」 一喝され、シエスタは慌ててキュルケの背中に飛びつく。 「絶対に手を放さないでね」 「はい! ミス・ヴァリエールと使い魔さんも急いで!」」 ≪飛翔≫の術を使って宙に浮かんだキュルケと、その背中にしがみつくシエスタの声が頭上から降ってくる。 それに応じて術を使おうとした瞬間、足元が大きく揺れ、君とルイズはふたたびよろめく。 君はどうにか持ちこたえるが、ルイズは前のめりに転んでしまい、小さく悲鳴を上げる。 それと同時に、彼女が肩から提げていた鞄の中に入っていた、いくつかの品々が飛び出す。 錫の杯、手鏡、洞窟の地図、そして、一冊の古びた書物。 あれはまさか……。 「祈祷書が!」 ルイズは絶叫して手を伸ばすが、届かない。 非情にも≪始祖の祈祷書≫は、傾いた屋根の上を滑り落ちていく。 その落ちる先は、不気味にのたうつ怪物の上だ。 このままでは、アンリエッタ姫から預かった国宝は≪混沌≫の渦に呑みこまれてしまう。 どうすべきか、すぐに決めねば。 勇気を奮って≪始祖の祈祷書≫に飛びつくか(二へ)、それとも骨董のために危険を冒すような真似はせず、ルイズを助け起こすか(一七六へ)? 望むなら術を使ってもよい。 DOM・四二七へ GOB・三五三へ FIX・四五〇へ NIP・四〇八へ FOF・三八八へ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8509.html
前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) その夜――タルブの村の墓場の森にうごめく影は二つあった。 傍目には青い髪の姉妹に見えたその二人――隠密というにはいささか 騒がしく、それでいて、それなりに慎重ではあった。 「きゅい~おなかすいたのね……」 背の高い少女がそう言って木陰から飛び出そうとして……もう一人の 小柄な少女に襟首を掴まれる。無理矢理引き戻されたことに彼女は その整った可愛らしい唇をへの字に曲げた。 それはタバサと、そしてかりそめの人の姿の影を見せる彼女の使い魔 シルフィード。ふがくが探知したノイズの正体であり、またその姿故に、 ふがくがノイズと捉えた理由であった。 タバサは一度タルブの村を離れた後、ひそかにここに舞い戻った。 先の襲撃によって手薄になった銃士隊の警護をかいくぐり、知らず障害物を 利用してふがくとあかぎの電探から逃れ――その理由は二つ。 一つは、死亡した北花壇騎士の人相書きを描くこと、そして……もう一つは…… タバサは『風』を識る。故に、風の流れから近づく敵を察知し、それを 避ける術を知っていた。タバサは森に舞い戻り、埋め直された北花壇騎士の 遺骸の前に立った。 「…………」 あの幻の士官たちは現れなかった。だが、どこかから見られている気配は 感じる。タバサは思わず声を出してそれを問いただそうとして……止めた。 『念力』とシルフィードを使って土を掘り返し、かさかさになった遺骸の 顔を月明かりを頼りに描き写す。せめてこれだけでも持ち帰らなければ、 自分がしたことをあの従姉は認めないだろう。タバサは羊皮紙に チャコールでがしがしと描く。その間、シルフィードには周囲に気を 払わせ、いざとなればいつでも脱出できる算段を取る。 そうして描き終えると、タバサはシルフィードにそこを元通りに埋め 戻させた。シルフィードの我慢もそろそろ限界に達しそうではあったものの、 まだ二人の任務は終わってはいなかった―― その頃、タルブの村入口にある銃士隊詰所。その隊長室で二人の女が 机を挟んで座っていた。 ともに無言……いや、片方の黒髪の女――あかぎが小さく溜息をつく。 そして言った。 「……私としては反対したいわね」 その言葉に、もう一人――アニエスは、苦い表情を隠さない。 「これは姫殿下の発案だ。正直、私もシエスタや私の部下を無用な危険に さらすことはしたくない」 あれからしばらくして――あかぎが自らの悔恨の念にうちひしがれて いたとき、アニエスは夜半にもかかわらず再び扉を叩いた。その手には、 届いたばかりの緊急連絡。アニエスからの報告を受け取ったアンリエッタ姫が 送った、命令書だった。 内容が内容のためその場で話ができず、二人は詰所に移動した。 そして――長い沈黙を経て今に至っていた。 「私はフィリップ三世陛下と約束したはずよ。協力はするけれど、命令は 受けないって。 技術の向上が遅々として進まないのはこの国の政治が安定しないせい だから、私たちにその尻ぬぐいをさせようと思われても困るわね」 あかぎはルイズとふがくから聞いたアルビオンのイーグル号の説明から、 かの国が三十年でどれだけの技術力の向上を果たしたかを知った。 翻ってこのトリステインはどうか。フィリップ三世が病に倒れてからの 長き政治の混乱により、今もって三八式歩兵銃をコピーしたボルト アクション小銃を秘密裏に小規模製造することがやっと。王が目指した 機関砲と航空機用発動機の大量生産など及ぶべくもない。最終的に内戦で 破綻したとはいえ国家規模のプロジェクトとして実行した国と、村一つの 秘密工場で細々と研究開発を続けた差が、ここで見せつけられたかたちだ。 「それを曲げてお願いする。敵は共和制に移行したアルビオンと、 その裏で手を引いているガリア……もうゲルマニアとの同盟程度では 覆せないと姫殿下はお考えなんだ」 そう言って、アニエスはあかぎに向かって深々と頭を下げる。 その態度は育ての母に対するものではなく、机に頭をすりつけるほどの その様子に、あかぎは再び溜息をつく。 「……政治的解決ができない時点で、すでに負けているわね」 その言葉にアニエスは何も言うことができない。あかぎは言葉を続ける。 「それでも、今動かせるのは二機だけよ。杏子ちゃんとさやかちゃんが 生きていれば話は違ってきたでしょうけど……。ううん、死んだ子の年を 数えても仕方ないわね」 その言葉に、アニエスはぱっと顔を上げる。その顔に二心はない。 いや、アニエスがそうであっても、アンリエッタ姫がどう考えているか…… あかぎはその疑念を押し込め、はっきりと告げる。 「いいでしょう。『竜の羽衣』の実戦投入を許可します。 ただし、あくまで協力関係。対価を支払っての補給を受けることはありますが、 私の管制下およびそれが及ばない場合は搭乗員の自由意思にて行動する ものとし、貴国の麾下には入らないことを同時に宣言します」 「姫殿下にはそう伝える。……すまない。本当に、申し訳ない……」 アニエスはそう言って、再び頭を下げた。 翌朝。魔法学院に戻るために『竜の道』に向かうルイズたち三人を 待っていたのは、見慣れない格好の金髪お下げの少女。だが、見慣れない、 というのはあくまでルイズだけであり、ふがくとシエスタには見慣れた もの――そう、それは大日本帝国海軍の飛行服だった。 少女を見たシエスタは、思わずびっくりした声を上げる。そして、 少女に駆け寄ると、全身で抱擁する。 「マミ!」 「シエスタ、久しぶりね」 抱き合い再会を喜び合う少女二人。しばし喜びを分かち合った後、 シエスタがはっと気づいてルイズに頭を下げる。 「も、申し訳ございません!つい……」 「シエスタ、その子、誰なの?」 ルイズが少女を見上げる。背丈と年頃はシエスタと同じくらいで、 雰囲気もどことなく似ている。違うのは髪の色と瞳の色くらい。 そして、ルイズの視線はある一点に集中する。 マミと呼ばれた少女は、シエスタが紹介するより早く姿勢を正して 敬礼すると、官位姓名を名乗った。 「トリステイン王国銃士隊第七小隊所属、マミです。お見苦しいところを お目にかけました。お目にかかれて光栄です。ミス・ヴァリエール」 それを聞いてシエスタは先とは違った驚きの表情を見せた。 「……マミ、銃士隊に入隊したんだ……」 「ええ。あなたが奉公に出た後に。私だって自分の生きる道を見つけないとね」 「それだったら手紙くらいくれても良かったのに……」 「訓練が終わったのはつい先日だったのよ。驚かせようと思っていたのも あるんだけどね。 それで、今回の戦いが初陣」 「そうだったんだ……」 「あの、シエスタ。話が見えないんだけど……」 「ああっ!申し訳ございません!」 ルイズの冷静なツッコミに、再び頭を下げるシエスタ。マミを見た ふがくが、確かめるように言った。 「その雰囲気にその名前。あなた、もしかして日本人の血を引いてる?」 「はい。三十年前にこの村にやって来た、ススム・シラタの娘です。 私の名前も、父の祖国の言葉で『心根のまっすぐな美しいもの』という 意味だそうです」 「マミはわたしの幼なじみなんです。 でも、五年前……ひいおじいちゃんが死んでしまう一週間前の大雨の夜、 マミの家族が乗っていた馬車が橋の上で鉄砲水に流されて……奇跡的に 助かったのはマミだけで、馬車は二十リーグ川下で見つかったんですけど、 ススムおじさまも、誰も見つからなかったんです」 「それは……大変だったわね」 ルイズは思わず同情的な視線を向けた。 「いいえ。村のみんな、特にシエスタの家族にはずいぶん助けてもらい ましたから。父の遺産もありましたし、生活に困ることはありませんでした」 「でも、それならどうして銃士隊に……」 シエスタの心配そうな視線に、マミはまっすぐ向き合った。 「さっきも言ったけれど、私だっていつまでも子供じゃない。自分の 生きる道は自分で見つけたかったからよ。あなただってそうでしょ? ところで、私はあなたたちを送っていくように命令されたのだけど…… シエスタ、あなたその格好で『レイセン』に乗るつもりなの?」 「ほへ?」 思わず間の抜けた声を返すシエスタ。その様子に、マミは小さく肩を すくめた。 「はあ。聞いてないの?エミリー小隊長から、私そう聞いたんだけど」 「え?なにそれ?わたしそんなの聞いてないよ?」 「そ~よ~。事情が事情だから、シエスタちゃんはいつでも動けるように しておいた方がいいって、私が提案したの~」 突然間に入ってきた声に三人が振り返ると、そこにはアニエスと、 きちんと畳まれた飛行服を手にしたあかぎ、それにシエスタと同年代 程度に見える、長いピンク色の髪を三つ編みにし、白い小隊長のマントを 身につけた銃士がいた。その後ろにはシエスタの家族をはじめ村人たちが 続いている。 あかぎの様子は昨夜の影を引きずっているようには見えず、いつものように にこにこと笑っているように見える。マミが敬礼して三人を迎えると、 アニエスと銃士は軽く返礼した。 「あの傭兵メイジどもの一件もあるからな。示威行為としても『竜の羽衣』が まだ健在だと知らしめた方がいい。姫殿下からの許可も後追いだが届くはずだ」 アニエスの言葉に、ふがくは渋面を隠さなかった。それがどこに対しての 示威行為なのか明白だったからだ。 「不満そうだな」 「当然でしょ。そんなことしたら、またここが狙われるわ。今度は徹底的に 叩きに来るでしょうね」 「そうはならんさ。それが現実となれば、そのときは……そうだな、 トリステインとアルビオンの全面戦争だ」 「アンタ……何考えてんのよ」 「あいにくこれはわたしの案じゃない。むろんあかぎ母さんだけでもない。 だが、協力はしてくれると約束してくれたからな」 アニエスはそう言うとあかぎに視線を向ける。あかぎはその視線に 小さく溜息をつく。 「……私が協力するのはみんなを守るためよ。むやみやたらに攻めることには 協力しませんからね」 「あかぎ……いったい、何の話をしたの?」 ふがくの問いに、あかぎは明確な返答をしなかった。 シエスタが『イェンタイ』の管理室で着替えている間に、シエスタの 家族が総出で複座零戦と震電を『竜の道』へと運び出す。あかぎがかつて 牽引用の木炭車を製造しようとして発動機の素材の問題で挫折したため、 発動機を動かさない状態での移動は人力に任せていた。 「お待たせしました!」 飛行服に着替えたシエスタがルイズたちの前に戻ってくる。武雄の 飛行服を元に仕立てたものだが、素材は大戦末期の粗末な代用品ではなく、 開戦当初の質の良い時代を元に、どうしても入手できないものだけ代用品を 使ったもの(たとえば表地に使われた防水クレバネットは入手不可のため 絹のみになっていたり、裏地が末期と同じポプリンになっているなど)の ため、いつもの平民用の、ルイズから見れば粗末な服に身を包んでいるのとは ずいぶん印象が違って見える。マミの飛行服も同様だが、それにしても 髪の色が違うだけでこうも違うのね、とルイズは感心した。 それに……とルイズは思わず視線をシエスタの胸元に向ける。 (ふ、ふがくといい、あかぎといい、シエスタといい、あのマミって子といい…… ダイニホンテイコクの女の子って、み、みんな胸が大きいのかしら……ぁ?) 知らず両手が自身のなだらかな丘陵に向かおうとして……それを寸前で 押しとどめた。それをやったら敗北を認めてしまうような気がしたからだ。 そんなルイズの葛藤を知らず、シエスタは朝日に照らされる複座零戦を 見上げる。今でこそ出撃までに時間を取られる有様だが、これからは マミと残った機体を使って出撃準備の訓練もすることになるのだろう。 示威行為が目的なら、露天駐機とするかもしれない。 魔法学院からタルブまで、『竜の羽衣』なら三時間もあれば到着する。 もし、自分たちが表舞台に出ることで村のみんなが危険にさらされることに なったら――そのときはすぐに駆けつけてそれを払おう。シエスタは決意を 胸に荷物を複座零戦の胴体に押し込むと主翼の付け根に駆け上り、ルイズに 手を差し出す。 「ルイズさま」 朝日の中に輝くシエスタ。飛行服姿のそれはいつものメイド姿とは異なり、 よみがえる伝説を受け継ぐ新たなる勇者のそれだ。今まで見たことのない そのまぶしさにルイズも決意を新たにする。 (シエスタがまぶしい……。ううん、そんなことじゃダメ。 わたしがしっかりしないと。この輝きを鈍らせるなんて絶対ダメ。 わたしが足手まといになったせいでふがくやシエスタが戦えなくなる なんてこと、絶対させるものですか) ルイズは決意を込めた視線でまっすぐにシエスタの瞳を見て、その手を握る。 シエスタに引き上げてもらって後席に収まると、シートベルトをつけて もらい風防が閉じられる。そこまでしてからシエスタも前席に滑り込んだ。 その様子を見たふがくは、あかぎに言う。 「……乗り手がいないって嘘だったんだ」 ジト目であかぎを見るふがく。当のあかぎはそしらぬ顔だ。 「あら、私は武雄さんたちがいなくなったって言っただけよ。後継者が いないって言った覚えはないわね」 「じゃあ、ミス・エンタープライズがガソリンを使うことがなくなったってのは?」 「シエスタちゃんが奉公に出ちゃったし、マミちゃんは銃士隊に入隊 しちゃったし。他の子もいたけれど、死んじゃったり行方不明に なっちゃったりしたから。 だから『今は』使うことがなくなってたわね」 あかぎはそう言って視線を三舵の利きを確かめる複座零戦と震電に移す。 確かに嘘は言っていない。それでも釈然としないふがくがふとあかぎに 目を向ける。その視線は、そこにいない誰かも見ているようにふがくには 思えた。 「あ、あの……あかぎ……」 「降臨祭の日よ」 「え?」 ふがくが昨日の夜のことを言い過ぎたと謝ろうとしたとき、あかぎが 不意にそう言った。 「降臨祭の日に、金環皆既日食が起こるわ。もし帰るつもりがあるなら、 そのときまでに決めておきなさい」 ふがくが驚いた視線をあかぎに向ける。あかぎはそんなふがくに 昔のような優しい笑みを向けた。 「今すぐに決める必要はないわ。けれど、知らないで後で悔やむよりは ずっといいと思うの」 「どうして、ルイズの前で言わなかったの?」 「あの子が今知ったら、きっと良い結果にはならないと思ったからよ。 カリーヌさんに似て、思い込みが激しすぎるきらいがあるわね。 それが良いところでもあるんだけど」 あかぎはそう言って視線を再び複座零戦と震電に移す。 ふがくはその言葉の意味をかみしめる。 降臨祭は年明けの日から始まる新年の祭りだとルイズから聞いた。 今はウルの月。地球で言えば五月。降誕祭の日まで、七ヶ月もない。 今それを自分にだけ聞かせたのは、あかぎなりの考えがあってのこと。 本当に帰る意志があるのか、それを自分に問うているのだろう。 確かに、自分が召喚されたときは、もう大日本帝国は落日の危機に あったといえる。枢軸軍のうちイタリアは降伏後連合軍に与し、 ドイツ第三帝国も連合軍の反撃にその版図を急速に失い、大日本帝国も 連合軍の猛攻の前に本土まで追い詰められ、最後の拠点である硫黄島から 発進した自分だけが回天の奇跡を成し遂げられる――はずだった。 (けど……何かが引っかかる。私……あかぎがミッドウェイで沈んでからの記憶が……) ふがくは記憶をたどって愕然とする。ミッドウェイ海戦からルイズに 召喚されるまでの記憶がおぼろげで、ほとんど抜け落ちていると気づいたから。 そのふがくの様子に、あかぎが心配するような視線を向ける。 「……ふがくちゃん?」 あかぎに声をかけられて、ふがくははっと我に返る。そして、思いっきり 頭を振った。 「な、何でもない……。 あかぎ、ありがとう。それから、昨日はゴメン。私、あかぎの気持ちを 全然考えてなかった」 「いいのよ。確かに、そのときはそうするしかないって思ったことでも、 後から見れば不適切だったって思えることだってあるから」 あかぎはそう言って笑みを浮かべた。そして、ふと思い返す。 末期癌に苦しむフィリップ三世陛下にモルヒネとヒロポンを投与したのは 間違っていなかったと思っている。何故なら、モルヒネは鎮痛剤、 そしてヒロポンの本来の用途は抗鬱剤なのだから。それでも未知の病に 苦しむ王を見るに堪えず、その痛みと苦しみを和らげはしたものの、 結果欲深い者たちに『利権』という名の甘露を与えたことは慚愧に堪えない 事実。だから、そのために信頼できる友人を喪い、今ふがくたちに そしられても詮無いことだと、あかぎは思っていた。同時に、昨日の夜は 武雄が目の前に現れなかった優しさに感謝した。慰められたら、 もっと悲しくなっていただろうから。 「それじゃあ、私も行くね。また遊びに来ても……いいかな?」 「ええ。いつでも待ってるわ」 「うん。それじゃ……」 ふがくはあかぎの笑みに安心したようにそう言うと、タキシングを 始める二機を追いかけようとして……不意に声をかけられた。 「待ちな」 「ルリちゃん?」 『フライ』の魔法で『竜の道』にやって来たのは、ルーリーだ。 ルーリーはふがくの前にふわりと降り立つと、一冊のノートを手渡した。 「あのコルベールとかいうさえない男に渡しておくれ」 「これは?」 「『竜の血』――『ガショリン』の錬金方法なんかをまとめておいた。 シエスタとお前さんの力になるだろう」 それを聞いてふがくはぱらぱらとノートをめくる。そこにはガソリンを 錬金するための材料とイメージ概念などが、流麗な筆致で事細かく 書かれている。インクが乾ききらずに擦った跡があることから、今日の ために短時間でまとめたことがふがくにも分かった。 「ありがとう。ちゃんと渡すわ」 「困ったことがあればまたここに来な。特に『竜の羽衣』の手入れ、 シエスタ一人じゃ手に余ることもあるだろう」 確かに日々の整備くらいはシエスタもできるだろうが、大がかりなものは 無理だ。それに自分の調整もある。ふがくは深々と頭を下げると、 タキシングから『竜の道』に入り、併走して離陸準備に入った複座零戦と 震電を追いかける。 シエスタが親指を立てて前に倒す合図と同時に複座零戦の栄発動機と 震電のハ四三発動機が力強い鼓動を奏で始め、そこにふがくのハ五四の 六重奏が加わる。同時に風防を閉めた二機とふがくが並んで滑走を開始し、 離陸距離の長い震電に合わせて複座零戦とふがくが同時に空に舞い上がる。 その様子を、あかぎは懐かしむような視線で見送った。 「……本当なら、ここにキョウコちゃんとサヤカちゃんもいたはず、 だったんだけどね」 そんなあかぎに、傍らの銃士――マミの上官である第七小隊長であり、 鋼の乙女であるエミリーが声をかける。アニエスも「そうだな」と相槌を 打った。 そう。アニエスにとって、加藤中佐の娘であるさやか、そして桃山飛曹長の 娘である杏子の失踪事件は忘れられない事件だった。 三十年前にここに残ることにした加藤中佐、白田技術大尉、桃山飛曹長は、 武雄のすすめもあってここで新たな家庭を築いた(さすがに武内少将と ブリゥショウ中将は「そんな年でもない」と固辞したが)。だが放射線被曝の 影響か、三人はなかなか子供を授かることができず、彼らに最初の子供が 生まれたのは、武雄のひ孫のシエスタが生まれるのとほぼ同時期だった。 三人が皆揃って娘に日本名をつけたのは、遙かな故国への郷愁といえるかも しれない。そして、彼女たちは父たちの影響を受けたのか、揃って空への あこがれを見せたのだった。 最初は彼らも渋ったのだが、少女たちの本気にやがて武雄を筆頭に 根負けし、彼女たちが十二歳の誕生日を迎え何とかペダルに足が届くように なる頃までに、訓練のために複座零戦の後席を改造して練習機としても 使えるようにしてまで、自分たちの志を受け継ぐ新たな世代を訓練し 始めたのだった。 そんな彼らを襲った最初の悲劇が、五年前、『アカデミー』の客員 研究員としての地位を得ていた白田技術大尉とその家族が乗っていた 馬車ごと鉄砲水に流されるという事故に遭ったことだ。奇跡的に助かった マミ以外誰も見つけることができず、このときの心労からか、武雄が それからわずか一週間でこの世を去り、武内少将とブリゥショウ中将も、 武雄を追うようにこの世を去った。 その次が、今から二年前、シエスタたちが十五のときに起こる、突然 杏子とさやかが行方不明になった事件だ。この事件の捜査は銃士隊として このタルブの村に派遣されていた隊長のアニエスが中心となって行われ、 二日後、近くの森の中の石舞台の上にさやかがまるで眠っているかのように 横たわっているのが発見された。 森の中であるにもかかわらず獣などに荒らされた形跡がないばかりか、 まるで何かに守られているようだった、とアニエスが今でもその光景を 容易に思い出せるその事件は、杏子が行方不明のまま現在に至り、結局 真相は藪の中。 アニエスはシエスタと同じく自分によく懐き妹同然だった二人を襲った 事件の手がかりを捜すべく奔走したが、何も分からないままだった。 年を経て得た新たな娘を喪った加藤中佐の落胆は激しく、その後失意の中 この世を去ることになる。そして桃山飛曹長も娘の助けになれなかった 自責の念から以前にも増して何かを守ると言うことに執着し、結果、 暴走した貴族の馬車から身を挺して子供を救い、その子が親元に戻るのを 見届けた後で自室にこもり、そこで息を引き取ることになる―― だが、アニエスたちは知らない。彼らが死してなおこの村を守る鬼と なったことを。それは自分たちの志を、戦空の魂を受け継ぐ者たちの 成長を見届けられなかった未練か。彼らの存在を知るのはあかぎだけであり、 そのあかぎが眠りについていたこともあり、その存在は今に至るまで 知られることはなかったのである。 「キョウコちゃんのお母さんは、今でも毎日キョウコちゃんが好きなものを 作って待っているんだって。私たちも力になれたらいいんだけど……」 「あの事件はわたしにとっても痛恨の極みだ。もっと二人の様子に気を 配っていれば、こんなことには……」 エミリーの言葉に、アニエスは悔しさを隠さず拳を握りしめる。 そんな二人に、あかぎは冷淡とも取れる言葉を向けた。 「……死んだ子の年を数えても仕方のない事よ」 「あかぎさん、それって!」 思わずエミリーはあかぎに怒りの視線を投げつける。だが、あかぎは それを受け流した。 「そうそう。ちょ~っと運動したくなった気分だから、あの森の中で 少しだけ運動してくるわね。木が何本か倒れるかもしれないけど、 気にしないで欲しいわ~」 「そ、それはどういう……」 あかぎが指さしたのは、墓場の森。意味を察しかねたアニエスが 問い直そうとするが、あかぎはその言葉を待たずに『竜の道』を離れた。 あかぎが離れたことで、震電が戻ってくるまで時間があることもあり、 村人たちも戻っていく。 「……どういう意味なんだ?」 「さあ?」 残されたアニエスとエミリーは互いに顔を見合わせた。 ――そして。フル装備状態で墓場の森へと足を踏み入れたあかぎは、 一つ大きくのびをすると、森の一点を見つめ、そこにいる誰かに向かって 言った。 「さあ、出ていらっしゃい」と。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1823.html
5日目 あらぐむ 夜が明け、朝となりました。痛ましくも リュファさん の無残な死体が見つかったようです 2 (狼がぶがぶ) あらぐむ ------会話STOP------- 1 (もぐら村) あらぐむ -----------スタート-------------- あらぐむ 6日目の朝です あらぐむ chjoin 天界部屋 へどうぞお入りください 1 (もぐら村) サイア さてー 1 (もぐら村) Jareky おはよです 1 (もぐら村) すねすき おはいおー リュファ やっぱりいいいー!!!! 1 (もぐら村) xバーバラx 霊かまれましたか 1 (もぐら村) サイア 狼は連れてるのかどうか 1 (もぐら村) ワルノス おはようございます 1 (もぐら村) セイリオス あー・・・なんかもー・・・ 3 (天界部屋) BBL リュファさんやっぱり噛まれたかあ 1 (もぐら村) サイア んま、ここまでテンプレ 1 (もぐら村) すねすき 狩人いないのか・・・? 1 (もぐら村) サイア とりあえず、完全グレーは、Jareky すねすき ウツボン セイリオス ワルノス 1 (もぐら村) ウツボン 狩人ー・・・ 1 (もぐら村) サイア で、3吊りしかないの 1 (もぐら村) Jareky まぁ、ここはこんぶて・リュファ真でいいよね 1 (もぐら村) ワルノス リュファさんとサイアさん 狼視点でおいしそうなのはどっちだろう 狩りいない前提で 1 (もぐら村) xバーバラx こんぶてさん 真でいいかと 3 (天界部屋) あかみさと くっそ私破綻したじゃん まじかよー 1 (もぐら村) ウツボン ほぼグレーの殴り合い状態じゃないか・・・ 1 (もぐら村) Jareky そうすると○はサイアさんだけですね 1 (もぐら村) ウツボン ↑狼潜伏2と見ると 1 (もぐら村) すねすき 情報が・・・ 1 (もぐら村) xバーバラx 殴り合いですね 1 (もぐら村) サイア うん、状況はそうなった>真 3 (天界部屋) BBL 確定的に明らか 3 (天界部屋) こんぶて さてグレランゲーを征するのは村か狼か 1 (もぐら村) サイア となると、明日はウチが退場してるので 1 (もぐら村) サイア どこから吊るかに 3 (天界部屋) リュファ 香るプラリネショコラー!! 1 (もぐら村) xバーバラx ステルスの人からですかね 3 (天界部屋) あらぐむ 発言を 3 (天界部屋) BBL お疲れ様でした 3 (天界部屋) あらぐむ みるのだ! 1 (もぐら村) サイア 狼は2匹残ってるってのがウチの予想なんだけど 1 (もぐら村) すねすき バーバラさんをどう見るかなぁ 3 (天界部屋) BBL 発言的に霊媒だと思ってました 3 (天界部屋) リュファ ・・・と、きのこの山の箱に書いてあります。 1 (もぐら村) ウツボン これは難しい・・・ 1 (もぐら村) Jareky サイアさんは、昨日あかみさとさん吊押したの?最後セさんがステと言って終わってた 3 (天界部屋) シエスタBC おつつ 1 (もぐら村) サイア ウチは押してないよ 3 (天界部屋) BBL きのこの山はそんなに凄いものだったのですか 1 (もぐら村) ワルノス リュファさん先に食べたって 情報出したくなかった 説は・・・狂人何してたになるのか 1 (もぐら村) サイア 不安を除くなら、と 3 (天界部屋) リュファ ・・・暑さのせいでチョコとけてたから冷蔵庫で固めなおしました。 1 (もぐら村) すねすき せいさん自分もすごく静かだと思った 1 (もぐら村) サイア で、ウチは個人的にはステは排除したかったけど、村に任せた 3 (天界部屋) BBL なんてことでしょう 1 (もぐら村) Jareky 偽確定だと思うから確実に処分でいいかなと思った>あかみさとさん 1 (もぐら村) セイリオス すもさんの狩人COから頭真っ白なんよ・・・ 3 (天界部屋) BBL 私に●じゃなかったらセイさんかバーバラさんあたり釣れてただろうしね 1 (もぐら村) Jareky セイさんの頭真っ白っていうときって、なんかあやしい 1 (もぐら村) ウツボン 狂人だったらつり回数稼ぎだから狼が釣りたいって言い出すかもと思ったけど、村サイドでも普通に吊りたいって思うものなーうーむ 1 (もぐら村) xバーバラx すねすきさんかセイさんかなつりたいのは 1 (もぐら村) ワルノス 実はちょっと悩んだ・・・狂人飼ってグレーからの吊り縄増やすのもありかとちょっとおもいました 1 (もぐら村) セイリオス そう? 3 (天界部屋) リュファ ・・・なんでいつも狼は、だいじな霊媒結果ゲットしたとたんに噛んでくるんでしょう・・・。 1 (もぐら村) ワルノス 2狼は怖いですよ 3 (天界部屋) BBL まさか・・・ 3 (天界部屋) BBL ワクワク 3 (天界部屋) こんぶて それだとサイアさん狂人っぽいんですけど 1 (もぐら村) すねすき うーむ・・・ 1 (もぐら村) サイア んー・・・ 1 (もぐら村) セイリオス 順当に噛まれすぎててぐるぐるなんだが変か・・・ 1 (もぐら村) サイア それぞれ発言は微妙なんだけど 3 (天界部屋) BBL その情報あったらサイアさん疑っちゃうよ 1 (もぐら村) サイア 寡黙を吊るか、発言筋から吊るかで変わるなあ 3 (天界部屋) リュファ BBLさんが狼じゃなくてよかった[オイオイ] 3 (天界部屋) こんぶて かなりパーフェクトゲームってくらいの負け方になるからある意味記念すべきゲーム あらぐむ 残り時間2分です 3 (天界部屋) BBL なんか気になってたけどこんぶてさんの○だから信頼だったのに 1 (もぐら村) xバーバラx 自分は寡黙つりたいです 1 (もぐら村) Jareky セイリオスさん、村人視点ではそんな混乱しない気がする。どうもわからないふりして発言逃れに見えます 3 (天界部屋) BBL 安心してもらえてなによりです 3 (天界部屋) BBL そんなに不安でしたか? 1 (もぐら村) ワルノス 混乱するも何も わからない ガ正解な気がしますね 3 (天界部屋) シエスタBC や、やばい 1 (もぐら村) セイリオス そこまでかみつかんでも・・・ 3 (天界部屋) BBL ? 3 (天界部屋) シエスタBC きづいちゃった 1 (もぐら村) ワルノス 正直わからねぇ情報ガガガガガ 1 (もぐら村) サイア どうしよう 1 (もぐら村) サイア まとめようか 1 (もぐら村) Jareky いま7人、○サイアさん一人、残りグレイ あらぐむ 残り時間あと1分です 1 (もぐら村) Jareky という状況 3 (天界部屋) シエスタBC 俺全然わかってないぞコレ 1 (もぐら村) すねすき 狼で忙しいから静かなのか、どうか 3 (天界部屋) BBL ?? 1 (もぐら村) サイア ステ吊り指示は、ウチとバーバラさん? 3 (天界部屋) こんぶて 何をw 1 (もぐら村) サイア 昼は狼会話できないので 1 (もぐら村) ウツボン 個人的にはワルノスさんの3日目のこれで占い抜かれるのかな潜伏狂人だと良いなの発言の意図がちょっとわかんない感じ、でも寡黙すぎるセイさんも吊りたい 1 (もぐら村) サイア ただ、寡黙なだけだけど あらぐむ 残り時間あと30秒です 3 (天界部屋) シエスタBC 誰が狼なんだろう 1 (もぐら村) Jareky 一応、バーバラさんはあかみさとさんの○だけど、どう判断すべきか 1 (もぐら村) サイア やっぱ情報も出ないならセイさんかな 1 (もぐら村) ウツボン 寡黙すぎるから狩人かなとも思ったけど・・・ 3 (天界部屋) BBL w 1 (もぐら村) ワルノス えっと あれはなんだっけ 3 (天界部屋) すもでんぱ そう 1 (もぐら村) ワルノス ちょっと思い出させてください たぶんその時になんか思ったはず 1 (もぐら村) すねすき みさとさん狂人とみるなら、バーバラさんグレート見てもいいかなぁ 3 (天界部屋) BBL 気づく前は狼がわかっていたつもりだったのですかw 1 (もぐら村) ウツボン ちょっと時間たちすぎててごめんね、ログさらっててきになったんだ 1 (もぐら村) セイリオス いや私狩人はないし あらぐむ 日は落ちて、村人たちは今日の処刑者を決めなくてはいけません。 3 (天界部屋) すもでんぱ わたしがしんのうらないしだったのです! 1 (もぐら村) あらぐむ ------STOP----------STOP------ あらぐむ 各人は処刑する人の名をTELLでお願いします 1 (もぐら村) あらぐむ ------STOP----------STOP------ 1 (もぐら村) サイア ワルノス、バーバラ、セ8 2 (狼がぶがぶ) あらぐむ ----会話可能時間です---- 1 (もぐら村) ワルノス すもさんが キーワードだった気がするんだけど思い出せないっす (T) サイア > 間に合わんかった 3 (天界部屋) シエスタBC ナ、ナンダッテー 3 (天界部屋) BBL ナ、 3 (天界部屋) シエスタBC キバヤシすもでんぱ (T) xバーバラx > セイリオスさんで (T) ワルノス > セイリオスさんで 3 (天界部屋) BBL ナ、ナンダッテー 2 (狼がぶがぶ) セイリオス もうロックオンされてるしー (T) Jareky > セイリオスさんに投票 2 (狼がぶがぶ) セイリオス バーバラさんかなそらせそうなの・・・ 3 (天界部屋) あらぐむ すもでんぱという文字に注目しよう (T) サイア > 安定の寡黙吊りで セイリオス さんに投票しまっす 2 (狼がぶがぶ) すねすき |ω・)申し訳ないが自分が村だったらせいさんにガンガン突っ込んでたよ・・・ 3 (天界部屋) あらぐむ す もで んぱ にぶんかいできる (T) ウツボン > セイリオスさんでお願いします 3 (天界部屋) BBL ぱんでもす はっ!? 2 (狼がぶがぶ) セイリオス おおう 3 (天界部屋) あらぐむ あーだらこーだらあってつまり地球は滅亡する!! 2 (狼がぶがぶ) すねすき 吊りはだーれだ (T) サイア > なんか無駄吊りな気もしないでもないですが、情報が出ない村ならやっぱ排除するしかないんかなあ 3 (天界部屋) シエスタBC そ、そうだね 3 (天界部屋) シエスタBC (今日暑かったもんな 2 (狼がぶがぶ) セイリオス バーバラさんにいれてみるー。が、私の気がする 3 (天界部屋) シエスタBC (しょうがないよな 2 (狼がぶがぶ) すねすき ういっちょー (T) セイリオス > xバーバラxさんに投票します 3 (天界部屋) シエスタBC もぐえもんもつかれてるんだ あらぐむ 残り時間あと1分です (T) すねすき > バーバラさんに投票 セイリオス5 xバーバラx2 あらぐむ 地震あったらしいけど 2 (狼がぶがぶ) すねすき ちょっとがっつりログを漁ってこよう あらぐむ 大丈夫? 3 (天界部屋) こんぶて よし ワルノスーセイリオスでいいや セイリオス ゆれてるぅ Jareky 実家にメールしたけど返事がない あらぐむ 揺れを感じた地域の方は 3 (天界部屋) こんぶて 名前の響きにてるし あらぐむ 津波情報を あらぐむ って あらぐむ すとっぷしよう サイア はいな すねすき にゅ xバーバラx はい Jareky あれ、いま揺れたの? サイア どこで地震だろう あらぐむ 津波情報収集して大丈夫なようなら あらぐむ ゆれたらしい あらぐむ あ あらぐむ きた あらぐむ かも Jareky 慌ててテレビつけた あらぐむ すこしゆらゆら サイア 土地差のタイムラグが すねすき うちの地域とっても平和なのだけども サイア ウチんとこまでくるかな Jareky 東北あたり? 3 (天界部屋) BBL ウツボンさんは村っぽいなあ 3 (天界部屋) シエスタBC だ、だよね! 3 (天界部屋) BBL 気のせいじゃなかった セイリオス 津波の心配はない地域だけども あらぐむ っぽいな深度4 セイリオス どこだろな 3 (天界部屋) BBL やっぱり地震だったのか 3 (天界部屋) シエスタBC すもこはさ あらぐむ とりあえず あらぐむ 津波に注意しながら 3 (天界部屋) シエスタBC なんで迷ったん? あらぐむ 人狼しましょう 3 (天界部屋) すもでんぱ ん? あらぐむ 30秒かrあ Jareky 津波の心配ないってテロップが あらぐむ 再開します 3 (天界部屋) シエスタBC COするかどうかだよな? 3 (天界部屋) すもでんぱ うん 3 (天界部屋) BBL COなしでもシエスタさん吊ってたんだけどなあ あらぐむ では、30秒から 3 (天界部屋) シエスタBC なんでだったん? あらぐむ すたーと! あらぐむ すたーと!すたーと! 2 (狼がぶがぶ) セイリオス [゚Д゚] 3 (天界部屋) すもでんぱ んー 3 (天界部屋) すもでんぱ 初日の吊り回避できても あらぐむ 村人たちの話し合いにより セイリオスさん は処刑されてしまいました あらぐむ /chjoin 天界部屋 へどうぞお入りください あらぐむ まもなく夜となり狼たちの時間です。各々狼に怯えつつも推理し、明日の昼へと備えましょう あらぐむ 役職の方はTELLをお願いします 3 (天界部屋) すもでんぱ 翌日食われる可能性高いから 2 (狼がぶがぶ) すねすき oh セイリオス くっ・・・あげぱんをメロンパンにしたというのに! 3 (天界部屋) シエスタBC ふむ 3 (天界部屋) すもでんぱ そのまま死のうかどうか迷った 3 (天界部屋) シエスタBC 結果 3 (天界部屋) こんぶて お、狼1つれた 3 (天界部屋) BBL 食われやすい人の宿命か 3 (天界部屋) BBL こんぶてさんブレないなあ 3 (天界部屋) シエスタBC 逃れられるかもと賭けに出たってことか 3 (天界部屋) すもでんぱ うむ 3 (天界部屋) セイリオス ただいみゃー 3 (天界部屋) シエスタBC おつつ 3 (天界部屋) こんぶて おかえりん 3 (天界部屋) BBL お疲れ様でした 3 (天界部屋) すもでんぱ 上手くいけばSGで残される可能性もあったし 3 (天界部屋) リュファ おつかれさま。 3 (天界部屋) すもでんぱ 人数13人だからなんとかなるかなーと思って。 3 (天界部屋) シエスタBC ほうほう 2 (狼がぶがぶ) すねすき 次残り5人かー・・・ (T) サイア > うーん。喋ってるのではワルノスさんとバーバラさんが怪しいけど 3 (天界部屋) シエスタBC きめたぞ 3 (天界部屋) シエスタBC jareさんだ! (T) サイア > かといって、Jarekyさん、すねすきさんも外せないし 3 (天界部屋) BBL それ私が最初に言ったような 3 (天界部屋) シエスタBC jareさんが犯人だワトソン君! (T) サイア > 会話筋からのヒントって見つけにくいよね。無難発言でOKだし あらぐむ 残り時間2分です 3 (天界部屋) セイリオス 正直に言おう 3 (天界部屋) セイリオス ね む い 3 (天界部屋) すもでんぱ w 3 (天界部屋) BBL まさかのCO (T) サイア > 正直、セイさん吊りに乗ってきたバーバラさんが吊りを急がせてる気もするしなー 3 (天界部屋) あらぐむ 奇遇だなおれもねむいぞ 3 (天界部屋) セイリオス ボー 3 (天界部屋) BBL それが原因で寡黙に? 3 (天界部屋) シエスタBC ラリホーしてもらえ 3 (天界部屋) セイリオス うん。眠くてかんがえられんかった (T) すねすき > 順当にいこうかねぇ・・・サイアさん食べます あらぐむ 残り時間あと1分です 3 (天界部屋) こんぶて 俺も超眠い・・・ (T) サイア > んま、狩人居ないならウチが襲撃最有力候補かな (T) > すねすき おこのみなびこ! 3 (天界部屋) BBL 本当におつかれなのですね 2 (狼がぶがぶ) すねすき うーーーん どう動こうかなぁ あらぐむ 残り時間あと30秒です 2 (狼がぶがぶ) すねすき お好み焼きだそうな お好み焼きで箸折ったことあるよ 3 (天界部屋) こんぶて 飯以外は14時からずっとボードゲームしてた 4日目へ 6日目へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1965.html
シエスタとモンモランシーの二人は、ヴァリエール家に到着してすぐ、ヴァリエール公爵夫人カリーヌ・デジレの出迎えを受けた。 滞在する部屋を準備させてあるので、今晩は疲れを癒すようにと言われ、二人はそれぞれ別の部屋に通された。 シエスタにとって、ヴァリエール家は「有名な貴族」であり「大きなお屋敷」でしかない。 しかし、モンモランシーは家名の『格』を気にしてしまう、ヴァリエール家は自分より遙かに目上なのだ、よってモンモランシーは、シエスタ以上に緊張していた。 あてがわれたゲストルームは、二つのベッドルームがリビングで繋がっており、モンモランシーは片方のベッドルームに行くとすぐに寝間着に着替えて眠ってしまった。 モンモランシーは緊張のあまり疲れてしまったのだろう。 一方、シエスタはなかなか寝付けず、窓から空を見上げていた。 エレオノールから聞いた話では、カトレアは生まれつき体が弱く、今まで何人もの高名な水のメイジに治療を依頼していたらしい。 だが、体を伝わる水の流れを何度治しても、またすぐ別の場所に異常が出てしまい、根治することができないのだ。 そんなカトレアの体を治すため、エレオノールは魔法アカデミーでの研究を志したと言う。 他のメイジが見向きもしなかった『波紋』の効能に、興味を惹かれたのも当然だと言える。 シエスタとモンモランシーがシュヴァリエを賜って間もない頃、タルブ村で治癒の力を使い活躍をした二人組の話が、エレオノールの耳に届いた。 エレオノールは、すぐに関連する資料を調べ上げ、オールド・オスマンへアポイントを取った。 オールド・オスマンは、モンモランシーを『将来有望な水のメイジ』として紹介し、シエスタを『オスマンと共に波紋を研究していた人物の曾孫』として紹介した。 「波紋を受け継ぐ者…か…」 ベッドの上でシエスタが呟く。 出発前、オールド・オスマンから、『波紋戦士』の立場は盤石でないと聞かされた。 何十年も昔、リサリサと共に波紋を研究していたオールド・オスマンは、波紋が人体に及ぼす影響だけでなく、魔法への干渉をも研究していた。 『水の秘薬』の効果を劇的に高めるのも、水系統の『治癒』を促進するのも波紋作用の一つ。 応用すれば、『毒』を排出することも、『覚醒作用』を持たせることも、『安心感』を得ることもできる。 波紋を好意的に受け入れて貰うためにも、またシエスタの立場を確固たるものにするために、オールド・オスマンはあえてエレオノールの耳に『波紋』の噂が届くようし向けたのだ。 あくまでも『治癒』の力として波紋を印象づければ、カトレアを治癒できなかったとしても、ヴァリエール家とのパイプは太くなる…そう見越してのことだ。 だが、シエスタには、そんなことはどうでも良かった。 ルイズが治してくれた足をさすりつつ、タルブ村に行く途中で乗り捨てた馬を思い出す。 仮にルイズが吸血鬼だとして、ルイズが人間との共存を望むとしたら、シエスタはルイズを殺す必要はないと考えている。 オールド・オスマンは、それを許すだろうか? ルイズの血は、際限なく食屍鬼を作り出し、世界を混乱させる恐れがある。 やはりルイズを殺さなければいけないのだろうか? なぜ私が波紋使いになってしまったのだろうか? 結論の出ない思考を続けているうちに、眠気がだんだんと強くなっていく。 シエスタは用意されたネグリジェに着替え、ベッドに入った。 その日、久しぶりにルイズの夢を見た。 翌朝、シエスタとモンモランシーは、ゲストルームのリビングで朝食をとっていた。 ヴァリエール家の朝食は魔法学院よりも早いので、魔法学院での朝食と同じ時間に食事をとれるようにと、公爵が二人に気を遣ってくれたらしい。 魔法学院の料理を任されているマルトーは、学院長が直々にスカウトした程の腕前だが、ヴァリエール家もそれに引けを取らなかった。 それほど、朝の食事は豪勢で、しかも食べやすいようにと様々な工夫が凝らされていた。 「ねえ、シエスタ、あなたは緊張してない?」 「え?」 シエスタが顔を上げると、向かい側に座っていたモンモランシーと視線が重なった。 モンモランシーの瞳は力強くも見えたが、どこか儚げだった。おそらくカトレアを治療する緊張感が勝っているのだろう。 それは無理もないことだと、シエスタは理解していた。 国内有数の水のメイジに治療を施されても、病気が根治しない…そんな相手を治癒しろと言われたら緊張するのは当たり前だろう。 「大丈夫ですよ、治せるかどうか、やってみなければ解りませんけれど…ほら、オールド・オスマンが出発前に『今のミス・モンモランシーなら微細な流れも解るじゃろう』って仰っていたじゃありませんか」 「うん…そうね、そうだけど……ねえ、私が何て言われてるか知ってる?」 「え?『香水のモンモランシー』ですよね」 「そうよ、私が一番得意なのは調香。食べ物に使われてる香草や薬味は臭いで解るわ。でも…今は駄目よ、緊張しちゃって、ちょっと自信ないの。弱気になると駄目ね…私」 「そ、そんなことないです!だって、タルブ村で、どんなに酷い怪我人もすぐに治療できたじゃありませんか。今回だって、悪い結果にはならないはずです」 「……怪我と病気は違うのよ。ミス・カトレアを長年治癒していた水のメイジがいるって聞いたでしょう?その人はトライアングルなんですって。私、その人と比べられるのかと思うと…緊張して食事の味もよく分からないわ」 「それでも、私たちは私たちの役目を果たすべきです、たとえどんな結果になっても」 シエスタの言葉を聞いたモンモランシーは、驚き目を見開いた。 「強いのね」 「私は強くなんか無いです、弱いから、必死にならざるを得ないんです」 「…そっか、そうよね。弱いから必死になるのよね…」 モンモランシーは、改めてシエスタの顔を見た。 シエスタは強い、迷いがない、今ならそう思える。 平民出身のシエスタに学ぶことがあるなんて思いもしなかった、だが、今ではそれも快く受け入れられる。 タルブ村で、治療のために奔走するシエスタの行動力、そして強い意志、それは魔法学院では滅多に見られない物だった。 貴族という立場に、家名にアグラをかいている生徒達と違い、シエスタは実力だけが評価されている。 そのハングリー精神が無かったモンモランシーの父親は慢心し、水の精霊を怒らせる真似をしてしまったのではないか。 父親を悪く言うつもりは無いが、父も典型的な貴族主義の貴族であり、シエスタのような目的意識を持たない貴族だと思えた。 だからこそ、今のシエスタがとても眩しく、そして力強く見えるのだ。 「ね、シエスタ。私も波紋が使えたら自信がつくかしら?」 「それは解りませんけど…でも、モンモランシーさんが波紋を使えたら、もっと沢山の人を治せると思います。だからモンモランシーさんにも波紋を会得して欲しいです。自信なんて…その後考えればいいじゃないですか」 「…そうよね。ありがとう。シエスタ」 朝食が下げられた後、メイドから今日の予定を告げられた。 ヴァリエール公爵との面会を済ませてから、カトレアの治療に当たって欲しいとの事だった。 二人は魔法学院の制服に着替え、マントを付けて杖を携えた。 お呼びがかかるまで部屋で待機しているのだが、この時間がやけに長く感じられた。 実際には、着替え終えてから五分と経っていないのだが、何かを待つ時間はとても長く、緊張に満ちている時間でもある。 パタパタパタと、誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。 お呼びがかかるのだろうと思い、二人は居住まいを正したが、シエスタはふと疑問を感じた。 廊下を『走る』。それ自体公爵の住まう館では、異常なことではないか? そして不安は的中した。 コンコン、と急ぎ調子なノックの音が鳴る。 モンモランシーはすぐさま「はい」と返事をした。 「大変です!カトレア様が発作を起こされました、すぐにカトレア様を診て頂けませんか!」 メイドの声に驚き、二人は顔を見合わせた。 二人は同時に頷くと席を立ち、カトレアの部屋へと急いだ。 カトレアの部屋に入った二人は、急ぎカトレアの容態を見るべくカトレアに近づいた。 ベッドの上で苦しそうに呼吸するカトレアの姿は、エレオノールとは正反対とも言える容姿だった。 シエスタの胸が高鳴る。 ピンク色の髪の毛はルイズを彷彿とさせる、顔つきもルイズによく似ている、姉妹だから当然かもしれないが、それでもシエスタにとっては大きな事だった。 カトレアの従医が杖を向けて小声でルーンを詠唱しているが、カトレアが落ち着く様子はない、ゼェゼェと息を切らせて苦しそうにしている。 「行きましょう」 シエスタが歩き出した。 モンモランシーが一歩遅れて続き、カトレアの傍らへと立つ。 「君たちがシュヴァリエを賜ったメイジかね?」 カトレアの従医が、杖を引き、二人に向かって問うた。 「「はい」」 男はカトレアに視線を戻すと、左手で自分の頭を押さえた、どうすれば良いのか解らないのだろう。 「今回のは特に酷い、水の濁りが治まらないんだ」 「濁りが?」 モンモランシーが聞き返しつつ、カトレアの体に杖を向ける。 窓から差し込む日差しに、間接的に照らされたカトレアの体は、姉のエレオノールよりもわずかに濁って見える。 それがどれだけ異常なことかモンモランシーにもよく解る。 「シエスタ!波紋を流してちょうだい…体の末端から様子を見るわ」 「はい!」 シエスタがカトレアの手を覆うように握る、そして、深く息を吸い、横隔膜をコントロールし、体の浄化能力を活性化させる波紋を流した。 その上にモンモランシーの杖が触れる、波紋がどういった効果を生み出すのか、水の流れから感じ取るためだ。 結果として、波紋はカトレアの治癒に効果があった、体のほんのわずかな変色と、カトレアを襲っていた強烈な悪寒が治まり、呼吸がだんだんと安定してきたのだ。 その間、モンモランシーはひたすらカトレアの体を観察していた。 『より微細な流れを感じ取りなさい』オールド・オスマンの言葉である。 タルブ村では、主に怪我人を相手に治癒を繰り返していた。 外傷の酷い者もいれば、内臓にダメージを負った者もいる、病人の場合は後者と同じで内臓に目を向けなければならない。 モンモランシーは、波紋によって浄化されていく体から、いくつかの『原因』を抽出していった。 三十分ほどすると、カトレアの体から汗が流れ出す、その汗は脂汗であり、冷や汗でもあった。 人間の体は、少しずつ毒を溜め込み、『水』と共に排出される。 尿や汗がそれだ、だが、カトレアの体は解毒作用が極端に低下している。 シエスタから『波紋』のサポートを受けることで、溜まっていた毒が汗として排出されたのだとしたら、間違いなくカトレアは浄化能力が極端に低下している。 肝臓か、脾臓か、腎臓か、それとも水の流れを生む心臓か。 ……モンモランシーは、心を落ち着ける香水を持ってくれば良かったと、頭の隅で考えていた。 「ふう…」 シエスタがため息をつく。 一時間以上波紋を流し続けていたが、全力で流していた訳ではないので体力的には疲れていない。 だが、精神的な疲労は確かにあった。 ルイズによく似ている人物が、目の前で苦しんでいるというだけでも辛いのに、それがルイズの実姉だと言うのだ。 自分が抱えている秘密…ルイズを殺すために波紋を学んだという事実を秘匿したまま、カトレアを治療すると思うと、どこかやるせない気持ちがわき起こる。 身体の様子を調べていたモンモランシーが杖を収めると、傍らで見ていた従医が入カトレアに杖を向けた。 「……ふむ、小康状態か、いや二人ともありがとう、このところカトレア様の発作が長引いておられたので、私一人では体力的にも辛いところだった。助かったよ」 そう言って額を拭う、どうやらこの医者も長く治癒を続けていたらしく、疲れが見えていた。 「カトレアは落ち着いたの?」 突然聞こえてきた声に、シエスタとモンモランシーが驚く。 声の主はエレオノールだった、いつの間にかカトレアの部屋に居たのだ。 「今のところは安定していますわ」 モンモランシーの言葉に安堵したのか、エレオノールは「そう」と呟いてため息をついた。 エレオノールは椅子を引き、カトレアの隣に座る。 汗でべたついたカトレアの髪の毛を手ですくと、寂しそうに、そして愛おしそうにカトレアを見つめた。 「ミス・モンモランシー。ミス・シエスタ。カトレアの病状は解ったでしょう…原因もよく分かっていないの。何か感じたことはある?」 「身体の中が全体的に弱まっています、毒を溜め込んでしまうような…」 モンモランシーが呟くと、エレオノールは従医に目配せをして「あれを持ってきて」と言った。 従医が退室すると、しばらくしてから何枚かの絵図面らしきモノを持って部屋に戻ってきた、エレオノールは絵図面を受け取るとモンモランシーにそれを手渡した。 「これは…日付が沢山書き込まれてる…もしかして、ミス・カトレアが今まで発作を起こした箇所ですか?」 「そうよ」 エレオノールがモンモランシーの言葉を肯定する、シエスタが絵図面をのぞき込むと、そこには人体の簡素なイラストと、いくつもの矢印と丸印、そして日付が書かれていた。 「これは…ここ一ヶ月以内のモノしか書かれていませんね」 シエスタが呟くと、エレオノールは窓の外を見つめつつ、言い聞かせるように喋り始めた。 「あの子が死んだって聞かされた時、カトレアはひどい発作を起こしたの。それから発作の頻度が多くなって……今は立ち上がることも辛そうなの」 シエスタの身体が、ぶるっと震えた。 あの子とは、ルイズのことだ。 それに気付いたとき、シエスタの身体は恐怖と武者震いで震えたのだ。 「ん…」 「カトレア、目が覚めた?」 エレオノールがカトレアの顔をのぞき込むと、カトレアは薄目を開けて、自分を取り囲む人たちの姿を見回した。 身体を起こそうとしてベッドに手をついたカトレアだが、体力が衰えているためかうまく上体を起こせない。 「だめよ、寝ていなさい。…お願いだから、ね」 エレオノールが優しくカトレアの頭を撫でると、カトレアは小声で呟いた。 「……そちらのお二人が、魔法学院のお医者様?」 「ええ、そうよ。ルイズと一緒に学んだ仲なんですって」 「そうなの……あの子が沢山迷惑をかけたでしょう?」 カトレアはほほえみを浮かべた、どこか懐かしむような笑みはルイズの笑顔を彷彿とさせる。 厳しさのあったルイズと違い、カトレアは慈愛に満ちた瞳をしている。 だからこそ解る、ルイズが目指していた憧れの人とは、きっとこの人に違いないと、直感的に感じるのだ。 「私はカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ 。まずはお礼を言わせていただきますわ…。ところで、お二人の名前も聞かせてくれないかしら」 「はい。私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」 「私は、シエスタ・シュヴァリエ・ド・リサリサです」 「あら、貴方がシエスタさんね、ルイズからの手紙に貴方のことが書いてあったわ」 「えっ」 静かに微笑むカトレアの瞳は、とても優しかった。 魔法学院で、自分に声をかけてくれたルイズのように、慈愛に満ちた瞳だった。 この場にいる誰も気付かなかったが、カトレアの隣に座るエレオノールの表情が少し強ばっていた。 ルイズはカトレアに懐いていた、対して自分はルイズに恐れられていた。 手紙を貰っていたカトレアが、とても羨ましく思えた。 一方、場所は変わり、トリステインの首都トリスタニア、その一角。 『魅惑の妖精亭』では、相変わらずロイズ(ルイズ)とロイド(ワルド)の二人が仕事に追われていた。 ルイズは高くもなく低くもない、中堅どころの人気を得ていた。 ワルドは表に出ることなくひたすら裏方仕事を続けている。 店主のスカロンが『訳ありなのに顔を出しちゃまずいでしょ』と気を利かせてくれたのだ。 ワルドは、自分の心境の変化に驚きつつ、これが当然だとも思えていた。 ルイズと再開して母を蘇らせ、リッシュモンに復讐すると誓ったあの日から、価値観がすべて一度崩れ去った気がする。 一度崩れた価値観は、ルイズを中心として再構築され、今は自分でも驚くほど皿洗いが気に入っている。 つかの間だと解っていても、平和なのだ、この場所が。 魔法衛士隊に正式に入隊する前は、実力を見せつけるために無茶な任務に志願し、何度も死線をくぐり抜けて仕事をこなした。 時には農村を襲うオーク鬼を退治したり、はぐれの火竜を退治するなどもした。 その時、村人から感謝されたりもしたが、正直なところ何の感慨も涌かなかった。 たが今は違う、皿洗いをしたり重い荷物を運んだり、閉店後の後かたづけをして、ルイズや他の店員から礼を言われるのがとても嬉しかった。 トリステインの腐敗も、己の名誉欲も、母を蘇らせるという目的も、すべて過去のもの。 今自分がやるべき事は、リッシュモンに復讐する機会が来るまで、ここで与えられた仕事を全うすることだ。 つかの間の平和であったとしても、平和は尊い。 暗闇に光が差し込んだような晴れ晴れとした気分で、ワルドは今日も皿洗いを続けていた。 ルイズは、そんなワルドの変化を感じ取っていた。 仮面のように張り付いた作り笑いではなく、飾り立てもしない健やかな笑みがとても嬉しかった。 思い出の中の、青年時代のワルドよりもずっと魅力的に思えるのだ。 閉店時間が近くなり、ルイズが厨房へと入ってきた、ワルドの隣に並び顔をのぞき込む。 「手伝うわ」 「いや、いいさ、すぐに終わる」 「こんなに沢山皿が残ってるじゃない、私も手伝うわよ」 水場に積み重ねられた食器はかなりの数だった、タワーのように積み重なる食器を一枚一枚手に取り、洗っていく。 ワルドの付けている義手は人間と見紛う程のものだが、精密な動作は完璧ではないので不意に力がかかってしまう。 昨日、それで二枚も皿を割ってしまったので、ワルドはおそるおそる食器を洗っていた。 ルイズが横から手を伸ばすと、皿を左手に持ち、右手でキュッと音を立てて拭う。 すると不思議なことに、ルイズが手で拭った箇所が、汚れ一つ無いほど綺麗に磨かれていた。 「…?」 ワルドが首をかしげると、ルイズは掌を見せた。 ルイズの手のひらは、銀色の毛で覆われており、ブラシのようになっていた。 手首に仕込んだ吸血馬の骨が、黒と銀色の毛を掌に伸ばしていたのだ。 毛の先端は微細で、堅すぎず柔らかすぎない、どんな細かい汚れも落としてしまう。 「便利だな」 「でしょう」 カチャカチャと音を立てながら、食器を洗い続けていると、不意にワルドの動きが止まった。 ルイズは、どうかしたんだろうか?と思いつつワルドの表情を見た。 そこに居るワルドは、かつてニューカッスル城で見たような、感情の見えない顔をしていた。 ルイズの肘がワルドの腕を軽くノックする、ワルドはハッと我に返り、ルイズの方を見た。 「どうしたの?」 「耳を貸してくれ」 ルイズがワルドに密着すると、ワルドはルイズの耳元に口を近づけ、小声で呟いた。 「『遍在』がラ・ロシェールに居るんだが、フーケが何者かに襲われているのを見つけた。相手は……」 「相手は?」 「おそらく、クロムウェルが蘇らせた、ウェールズの近衛兵だ」 「…!」 ルイズの表情が、心なしか厳しくなり、髪の毛がほんの少しだけ逆立つ。 「洗い物は頼むよ、僕は先に部屋に戻る」 手の汚れを軽く洗い落として、ワルドは部屋へと足を向けた。 「…助けてよ、お願い」 ルイズの呟きが、やけにハッキリと聞こえた。 ワルドは、他の店員達に顔を見られぬよう、俯いたまま部屋へと戻っていった。 怒りでも悲しみでもない、目の前の敵を排除するという目的のために、ワルドの表情は凍り付いていく。 その顔を見られたくないのだ。 部屋に入ると、ベッドの上に転がり、目を閉じた。 マチルダ・オブ・サウスゴータは、魔法学院での名をロングビルといい。盗賊としての名を土くれのフーケという。 彼女がどんな理由でラ・ロシェールにいるのか解らないが、とにかく今は彼女を助けるために尽力せねばならない。 ワルドは、トリステインで最も多く、また長距離にわたって遍在を使えると自負している。 『魅惑の妖精亭』で本体は身を隠し、遍在を使って各地の調査に当たらせていたのだ。 だが、遍在ばかりに頼っては居られない、レコンキスタからの暗殺者や、そのあたりのごろつきに『魅惑の妖精亭』が襲撃されるかもしれないのだ。 だから本体にもある程度の精神力を残しておく必要があった。 だが、今はそんなことも言ってられない。 全精神力を遍在に配分し、本体が気絶するまで精神力を使い、全力でフーケを助けるつもりなのだ。 ルイズは、フーケを信頼している。 そしてフーケもまたルイズを信頼している。 仮に、フーケがレコン・キスタに捕らえられたとしたら、水の魔法などで『騎士』の正体がルイズだと知られてしまうだろう。 それを防ぐためには、フーケを殺してしまうのが一番良いのだ。 だが、ルイズは『助けてよ』と言った。 甘い、甘すぎる。 容赦なく敵兵を殺す吸血鬼でありながら、心を許した仲間には甘い。 だからこそ自分はルイズが好きなのだろう。 そんなことを考えながら、ワルドは目を閉じて意識を集中させていった。 ロングビルは、シエスタとモンモランシーを送り出した後、オールド・オスマンに頼み休暇を貰っていた。 アルビオンに残している身内が心配なので、休みが欲しいと申し出たのだ。 ロングビルの故郷はアルビオンである、現在はなりを潜めているが、戦争をしていることに違いはない。 ラ・ロシェールからアルビオンに行くには、密航しか方法がない。 オールド・オスマンはロングビルを引き留めたが、ロングビルの決意を崩すことはできなかった。 事実、ロングビルは焦っていた。 ティファニアに物資を援助している商人と、このところ連絡が付かない。 その上、ルイズから渡されたメモには、ティファニアが虚無の使い手であり、レコン・キスタが虚無の使い手を捜していることまで書かれていた。 レコン・キスタからワルドに与えられた任務の一つに、『始祖のオルゴール奪取』があった。 レコン・キスタが虚無の使い手と、キーアイテムを探しているのは間違いない。 ルイズはロングビルに気を利かせたつもりだが、逆にそれがロングビルを焦らせることになった。 ロングビルの熱意に負けたオールド・オスマンは、ついに休暇を認めたが、危険を感じたらすぐに帰ってくるようにと何度も念を押した。 そして今、ロングビルはラ・ロシェール近くの旅籠で盗賊に襲われ、街の外に逃げ出していた。 森の中で、左の上腕に火傷を負い、荒く息をついている。 ただの盗賊が相手なら、ここまで後れを取ることも無かったが、メイジ崩れの盗賊があいてでは分が悪い。 その上、かなりの訓練を積んでいるのか、統率のとれた動きでじわりじわりとロングビルを追いつめている。 「はぁッ…はぁ…ちくしょう、ちくしょうっ…」 絶体絶命だった。 一人、二人、三人、四人と、敵が姿を現していく。 相手はおそらくトライアングル、それが四人。 火、土、水、風で構成された部隊が相手では、フーケの勝ち目は皆無だった。 「…ただじゃやられやしないよ…!」 そう言って、折れた杖を構える。 すると、距離を置いてフーケを取り囲んでいた四人も、杖を構えた。 フーケは、正面にいるメイジの姿を凝視した、薄汚れたローブは胸の前が裂けており、鉄でできた角が深々と刺さっている。 この盗賊達は、フーケが練金で作り上げた槍を食らい、一度は倒れたのだ。 それで安心していたのがいけなかった、死んだはずの盗賊達が内蔵を引きずりながら起きあがり、魔法を使ってきたのだ。 風の魔法を防ぎきれず、フーケは杖を折られてしまった。 「冗談じゃないよ、ゾンビかい?」 心なしか、フーケの声は震えていた。 ゆっくりと、フーケを囲う包囲網が狭まる。 正面にいる男がぴたりと歩みを止めると、不意にフーケの視界が白く濁った。 「ふあ…」 身体から力が抜け、あくびが出る。 まずい!と思ったフーケは、頭をかきむしり、髪の毛を引っ張って眠気に耐えた。 (ああ、これはスリープ・クラウドだ、私を眠らせる気なのか、このゾンビどもは) 強烈な眠気に耐えきれず、意識を失いそうになったその時。 目の前のから、ごろりと首が落ちた。 「!?」 驚いたフーケの後ろで、ドンッと爆発するような音が聞こえた。 後ろを振り向くと、もう一人の盗賊が、何かの魔法で吹き飛ばされ宙を舞っていた。 突風が吹き荒れ、風の刃が盗賊を切り刻む、特に念入りに首と胴を切り離され、ズタズタになった体が地面に落ちた。 残った二人の盗賊は、フーケではなく、突然現れた敵に向けて杖を構えた。 「死人を使って女を襲うとはな」 (どこかで聞いた声がする、そうだ、ルイズの連れていた男の声だ) 薄れゆく意識の中で、フーケはワルドの戦いを見つめていた。 エア・ニードルとエア・スピアーを駆使して、容赦なく首をはねるその姿は、死神のような雰囲気を身にまとっていた。 手際よく切り落とされた首が転がり、フーケを見る。 ぱくぱくと数秒間口を動かすと、それっきりピクリとも動かなくなった生首が、フーケをじっと見つめていた。 フーケは、生首の瞳を眠そうな眼で見返すと。 (ざまあみな) と呟いて意識を闇に落としていった。 To Be Continued→
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1480.html
「ちょっと!何しようとしてんのよ!」 猫の尻尾を掴み持ち上げようとすると近くにいたルイズが慌てた様子で私の腕を掴んできた。 邪魔するなよ。 「何って、振り回して投げ飛ばす」 当然だろう。 私の食事を台無しにされたんだ。 私は生きているんだから、当然腹が減るに決まっている。 そして今、私は腹が減っているんだ。ありつけると思っていた食事を台無しにされたら誰だって腹が立つはずだ。 「ダメよそんなことしたら!」 ルイズは私の手を無理やり猫の尻尾から引き剥がし、猫を胸に抱きかかえる。 「あの、私もそれは可哀想だと思います」 シエスタも猫の尻尾振り回し作戦は反対らしい。 考えてみれば当然か。猫は有名な愛玩動物だ。 そんな動物の尻尾を振りまして投げるなんて反対されるに決まってるか。 「じゃあ遠くに投げ飛ばす」 「それもダメ」 「ダメだと思います」 「蹴り飛ばす」 「ダメ」 「ダメですね」 「蹴り殺す」 「なんで酷くなってるのよ!」 「殺すのはいけません!」 「冗談だ」 ちっ! どれもこれもダメダメダメ!どうしたらいいんだクソっ! 夕食まで我慢しろというのか!この苛立ちをどう抑えたらいい! 幽霊のときはやりたい放題だったのに。 「ヨシカゲさん」 そう思っているとシエスタが話しかけてくる。 シエスタのほうを向くとサンドイッチをこちらに差し出してきていた。 「なんだ、交換しなくてもいいと言った筈だが」 「はい、言いました。だから、だったら私のお弁当を分けてあげればいいと考えたんです。これなら交換じゃありませんし、私もヨシカゲさんも食べることができます」 「シエスタ……」 ありがたい。シエスタにキスの一つでもしたい気分だ。 それにしてもやっぱり親しくしとけば何かといいことがあるな。今それをつくづくと感じるね。 シエスタは弁当のふたに自分のサンドイッチを半分移動させる。 「はい、どうぞ」 そしてそれを私に差し出してくる。 「ありがとう」 私はそれをちゃんと両手で受け取った。 量は少し足りないが文句は言わない。仕方ないことだ。1人前の半分だからな。 これで文句を言ったらこれまで築いてきた関係が崩れるだろう。 そしてシエスタやルイズのようにその場に座る。形としては、私の前にルイズとシエスタがいる、つまり三角形になっている。 影の中に入っているから必然的に距離は近い。どうでもいいけどな。 「ヨシカゲ」 早速サンドイッチを食べようとするとルイズに呼び止められる。 なんだ一体? 「その、ほら!わたしのも食べていいわよ。このサンドイッチわたしにはちょっと量が多いみたいだし。残しちゃ悪いから」 ルイズはそう言いながらサンドイッチを差し出してきた。 「あ、ありがとう」 礼を言いながらそれを受け取る。 最近ルイズが何を考えているのかわかりづらくなってきたな。 こんなことされるなんて思ってもみなかったし。 しかしルイズが何か私に有利なことをするとどうしても疑ってしまう。 前は犬の糞並に厄介な性格だったからな。 っと、考えるのはこのくらいにして食べるとするか。 サンドイッチを一つ手に取り口に運ぶ。うん、これはうまい。見た目よりもおいしい。 「これすごくおいしい」 ルイズもそう思ったのか素直にそう言う。 「そう言ってもらえると、作った甲斐があります。ヨシカゲさんはどうです?おいしいですか?」 「ああ、うまい」 「えへへ、どんどん食べてくださいね」 シエスタは頬をうっすら赤くして微笑んだ。 作ったと言っていたから、このサンドイッチは自分で作ったものなのだろう。 それが褒められれば嬉しいのは当然だな。 3人と1匹で集まって食事をする。こういったのもたまには悪くないな。 そう思っているとふと手の先が気になった。よくはわからない。ただ自分の手の先が気になっただけだ。 自分の手の先、つまり指を見る。いや違う。指の先が気になるのだ。指の先といえば……爪。 爪を見る。爪が大分伸びていた。最近爪が伸びるのがやけに速いな。この前からそうだ。 しかし気にする必要も無いだろう。そういった体質というだけだ。 爪が気になったのは伸びるのが速いのを無自覚に感じとったからだろう。 そう思いながらサンドイッチをまた一口齧った。