約 1,871,429 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1208.html
トリスティン魔法学院とその関係者達は、いつもと変わらぬ平穏を享受していた。 ルイズが土くれのフーケを倒したという噂も、いつの間にか語られなくなり、一部を除いてルイズの存在は忘れ去られてしまった。 そんな中、ロングビルは思いがけない客の来訪に驚いていた。 オールド・オスマンから、書庫の資料を持ってきてくれと頼まれたロングビル。 彼女は、よりによってルイズを一番馬鹿にしていたと言われている『微熱のキュルケ』からルイズに関する話を聞きたいと言われたのだ。 「ミス・ツェルプストー、今は仕事中ですので、後ほどにして頂けませんか?」 「手間は取らせないわ、『土くれのフーケ』の隠れ家があった場所を教えて欲しいの」 ロングビルは思いがけない質問に、二度目の驚きを隠せなかった。 「ふ、フーケの隠れ家ですか? なぜ貴方がそんな事を…」 「教えてくれるの?くれないの?どっちなのよ」 キュルケは多少不機嫌そうに喋る、ロングビルは隠す理由もないと思い、フーケの隠れ家があった場所を教えた。 キュルケは居場所を聞くと、一言礼を言ってその場を立ち去った。 翌日、虚無の曜日。 この日は休日であり、学院の生徒達も思い思いの休日を過ごし、普段とは違った騒がしさがある。 町に出かける者もいれば、楽員の周辺で魔法を使って遊ぶ者もいるし、図書室で読書に励む者もいる。 この日の午前中に、風竜と呼ばれるドラゴンが魔法学院から飛び立ち、フーケの隠れ家跡へと向かっていった。 ロングビルは塔の窓からそれを見かけると、魔法学院の馬を借り、ドラゴンの後を追った。 「きゃああああああー!?」 風竜の上でシエスタが叫ぶ、生まれて初めての空の上、生まれて初めての高さに、シエスタは驚いていた。 「あら、貴方空は初めてかしら、あまり叫んでいると舌を噛むわよ」 シエスタの後ろからキュルケが声をかける。 「……シルフィード、遊んじゃ駄目」 『きゅい、きゅい!(お姉さま、この人太陽の臭いがするの、不思議な人!)』 「そう」 シルフィードと呼ばれた風竜が遊んでいると気づいたのは、主であるタバサだった。 テレパシーのようなものでシルフィードの言葉がタバサに伝わる、タバサはテレパシーを使わずに言葉で命令する。 端から見れば、竜と人間がお互いの言葉で会話しているという妙な光景だが、メイジと使い魔の関係を知るものであれば特に驚くことはない。 しかし、平民の出であるシエスタは『本当に会話できるんだ、凄いなー』と、今更といえば今更な感心をしていた。 いつものメイド服をはためかせて、平民の少女は空を行く。 一方、ロングビルは馬を走らせていた。 キュルケが風竜に乗っていると確信したロングビルは、200メイル以上の距離を開け、馬で後を追っていた。 念のためにどこからか調達した花束も持ってきている、これを跡地に添えると言えば、自分の行動が疑われることもないだろう。 (情報の収集と、今後のために…) ロングビルの表情は、凛とした『有能な秘書』ではなく、既に『土くれのフーケ』のものになっていた。 フーケの隠れ家があった場所、つまり、ルイズの起こした爆発の爆心地は、とても凄惨な出来事の現場とは思えないほど美しかった。 「綺麗…」 空からその光景を見たシエスタが、思わず言葉を漏らす。 考えようによっては不謹慎だと思われたかもしれない。 しかし、池となり、周囲に草花の生い茂るこの場所は、キュルケにもタバサにも少なからず感動を与えていた。 シルフィードが池の傍らに着地し、三人は地面に降りる。 シエスタは地面に降りてすぐにシルフィードに臭いを嗅がれ、頭をこすりつけられて困惑していた。 どうやらよほど気に入られたらしいが、それを知るのはシルフィードの言葉が分かるタバサのみ。 キュルケは美味しそうな臭いでもするのかしら?と、これまた危ないことを考えていた。 三人は、改めて池を見る。 クレーターは雨水を貯めて池となり、周囲に草花を生い茂らせ、見る者の心を楽しませていた。 誰が持ってきたのか分からないが、小舟までそこに置かれている。 この光景を見て、土くれのフーケを道連れにルイズが死んだ場所などと、誰が思うだろうか。 「凄いわね、短い間にこんなたくさんの花が咲くなんて」 「不自然」 キュルケが感心するが、タバサはどこか納得いかないと言った感じだ。 何に納得できないのだろうと、ふと考え込む、答えはすぐに見つかった。 花の種類が揃いすぎているのだ、誰かが庭園の手入れをするように、規則正しく様々な種類の花が並んでいる。 トリスティン魔法学院とその周辺では見られなかった種類のものまで生えている。 「あ、これ煮込むと美味しいんですよね」 てどこか的はずれなことを言うシエスタに、キュルケとタバサは思わず吹き出した。 「花を見て食べ物の話をするんだから、もう。ところでさっきから気になっていたんだけど…そのバスケットは何?」 キュルケがシエスタの持っているバスケットを指さす。 「あ、これですか?これはお供え物です」 「オソナエモノ?」 「はい」 そう言うとシエスタはバスケットの中を見せた、中にはイチゴのタルトが入っている。 「何、あなたピクニック気分で来たの?まあこの景色を見たらそれも悪くないと思うけど…」 そう言ってキュルケが不機嫌そうな顔をする。 シエスタは、キュルケの訝しげな視線を受けて、慌てて弁解した。 「ち、違います、ピクニックじゃなくてお供え物です」 「だからそのオソナエモノって何の事よ」 シエスタはバスケットの中からタルトを一切れ取り出すと、それを紙に包んだ。 「何やってるの?」 キュルケの質問に答えながら、池の側に寄って、紙に包んだタルトを地面に置いた。 「私、お爺ちゃんから教わったことがあるんです。年に一度、死んだ人に生きている人と同じように接して、その人の残してくれた教訓を忘れないようにするそうです」 そう言ってバスケットから小さな花束を取り出し、紙に包んだタルトの脇に置いた。 「ひいお爺ちゃんはちょっと変わった人でした、東方の果て、ロバ・アル・カリイエから『竜の羽衣』というマジックアイテムを使って飛んできたと言うんです」 シエスタは立ち上がり、キュルケに向き直る。 「ロバ・アル・カリイエから飛んできたなんて誰も信じていません、でも、ひいお爺ちゃんは、亡くなった人にはお供え物をするんだとか、手を合わせて祈るんだとか、いろんなことを教えてくれたんです」 シエスタの言葉に、キュルケが感心したように呟く。 「へぇ、不思議な習慣があるのね、でも食べ物を捨てるのと一緒でしょ、貴族ならともかく平民にはそぐわない風習じゃない」 「違いますよ、その分は粗食で我慢するんです、喜びは皆で分け合って皆で楽しみ、悲しみは皆で分け合って皆で慰めるって、そう言ってました…って、ごめんなさい!私、貴族様にこんな事まで喋って…」 シエスタが両手で自分の口元を隠し、慌てて謝る。 「別にいいわよ、東方の果ての話なんて滅多に聞かないし、それに…」 キュルケは池を見た、今までの悲しみを洗い流すかのように光が反射し、水面が輝いている。 「ルイズなら”こんなんじゃ足りないわよ”なんて言って怒るんじゃないの?そのタルト私たちの分もあるんでしょう、私も一口分、オソナエモノにさせて貰うわよ」 「私も」 ずっと黙って話を聞いてたタバサも、キュルケと一緒になってお供え物をするという。 シエスタは、それこそ輝くような笑みを二人に見せた。 『きゅいきゅい!』 突然、シルフィードが鳴き出した、シルフィードが誰かを見つけたと理解したタバサは、シルフィードの示す方を見た。 そこには、馬に乗ったロングビルがいた。 池の周囲に生えた草花に驚いたのか、惚けたような表情のままこちらに近づいてくる。 「…驚きましたわね」 そう呟いて馬から下りたロングビル、その手には花束が握られていた。 「ミス・ロングビル…貴方も?」 キュルケの言葉に、ロングビルは静かに頷いた。 「ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ、シエスタ。…私も混ぜて貰えないかしら」 そう言ってロングビルも、加わり、四人は悲しみを乗り越えるように、ルイズの思い出話をした。 途中でロングビルが、「平民を連れてくるなんて珍しいわね」と疑問を口に出したので、シエスタと知り合う切っ掛けを話すことになった。 そもそもキュルケがシエスタを連れてきたのは、シエスタがルイズの死に動揺していたのがきっかけだ。 いつもように食堂で朝食を取っていた時、ルイズが死んだといううわさ話をしている貴族に「本当ですか!?」と問いかけてしまったのが始まりだった。 ぞの貴族達はシエスタを乱暴に払いのけると、メイドが貴族の話に口を出すなと言って怒り出した。 それを制止したのはギーシュだった、彼は良くも悪くも純粋で、女性が傷つけられようとしているのを見て黙っては居られないらしい。 もっとも、相手はギーシュより実力が上の『ライン』だったので、ギーシュは青ざめながら弁解する羽目になった。 噂を聞きつけたキュルケが、ルイズの死は本当なのかと二人に問いつめなければ、ギーシュはボコボコにされていただろう。 それがきっかけとなり、キュルケとタバサは、シエスタと知り合ったのだ。 そのお礼といっては何だが、ロングビルはこの池に花が植えられ、小舟が置かれている理由を三人に話した。 (烈風カリン殿が話していた『ルイズが小さい頃遊んでいた池を…』って、この事だったのね…何よ、厳しいフリして親ばかじゃない) ルイズが小さい頃遊んでいた池を再現したものだと説明し、キュルケ、タバサ、シエスタの三人は、たまらず涙を流した。 その頃、ルイズは森の奥を歩いていた、人間が近づかないような奥地であり、オーク鬼やトロル鬼の出現が危惧される地帯でもある。 吸血鬼の鋭敏な感覚と、高い記憶力のおかげで道に迷うことはない。 ルイズは可能な限り遠回りをして、トリスティンの城下町に向かっていた。 「……あら?」 ふと、歩みを止める。 巨大な樹木の根元に、女戦士のものと思われる白骨死体が転がっていた。 鎧はぐちゃぐちゃにひしゃげており、圧倒的な力で破壊されたのだと想像できる。 白骨に近づくと、周囲の茂みからガサガサと音がして、大きな動物が姿を現した。 トロル鬼と呼ばれる亜人種が現れ、ルイズを取り囲んだ。 象のような皮膚にゴリラのような体格、単純なパワーでは人間の遙か上を行くトロル鬼は、小さいトロルと違い、人間の敵として認識されている、なぜなら彼らは人間を『食べる』からだ。 一人の少女の周囲には五匹のトロル鬼という、きわめて絶望的に見える状況がそこにあった。 「そういえば…まだ、ちゃんと試してなかったわ」 そう言いながら、ルイズは足下に落ちている剣を拾った。 固定化の魔法がかけられている長剣は、持ち主が白骨死体となったにもかかわらず、錆びずに輝いている。 ルイズはそれを無造作に、正面にいるトロル鬼に向かって、投げた。 バァン! と音を立てて、トロル鬼の体は爆発したかのように左右に裂け、ぐちゃりと血の滴る音を立てて地面に崩れ落ちる。 固定化のかけられたはずの剣は、その衝撃に耐えきれず砕け、破片は周囲の木々を傷つけ、穿ち、散らばった。 『グオ?』 他の四匹は何が起こったか分からず、一瞬首をかしげるが、次の瞬間には怒り狂ってルイズへと飛びかかってきた。 そして…ぐちゃりと音が鳴る。 ルイズの腕が、飛びかかってきたトロル鬼の分厚い大胸筋を貫いていた。 「安心して… 木の根っこが養分を吸い取るかのように 理にかなったとても自然な事よ」 ズギュンッ! To Be Continued …… 7< 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3190.html
前ページ次ページゼロのロリカード 「気にすることはない」 講義が中止となり、爆発で滅茶苦茶になった教室の後片付けをし、煤だらけだったローブと服を着替えた後。 アーカードとルイズは食堂へと向かっていた。 「慰めなんて不要よ」 「・・・・・・他意はないぞ」 「変に気を回さなくていいわ。この程度のこと、慣れてるもの」 ルイズは淡々と答える。 (これは何を言っても無駄のようだな) そもルイズはきちんと自己分析はしているようだし、現状を把握して今を見据えてるようだった。 多少なりと意地になっているのも、次こそは成功させるといった気持ちの裏返しなのかも知れない。 失敗を糧に、後悔をバネに努力し、いずれはその想いを成就させる日もくるだろう・・・・・・恐らく。 なにかしら助言をするのは主が重圧に耐え切れなくなり、落ち込んだ時にで十分と判断する。 少なくとも、今はまだその時ではない。 「ねぇアーカード、食堂へ向かってるわけだけど・・・・・・あなたは食事するの?」 人間に於ける食物は、アーカードにとって血液である。 一般的な食事は嗜好品の域を出ず、無理して食べる必要性がないのは既に聞いている。 「いや・・・・・・こちらの食文化を堪能するのは、また別の機会にしておこう」 「ふ~ん、じゃあどうするの?」 「そうさの・・・・・・寝る」 昼にさしかかって陽も高くなり、あまり起きて行動したい時間帯ではない。 ルイズの部屋に戻り、また夜になるまで眠るのが丁度良いだろう。 「わかったわ、それじゃまた夜に」 ◇ 真昼のギラつく太陽の光は、容赦なくアーカードを照りつけた。 日光が大嫌いなアーカードにとって、あまり動きたくないくらいの晴天。 たまたまいい感じの日陰を見つけたので、とりあえずそこで休むことにした。 その場に座り込み、壁にもたれかかる。心地よさに思わず目を瞑った。 「ふぅー」 息が漏れる。度重なる未知との遭遇、自分で思ってるより疲れているのかもしれない。 (血が飲みたい喃・・・・・・) 「あのぅ・・・・・・大丈夫ですか?」 瞼を薄っすらと開く、目の前にいたのは黒髪ショートで黒瞳の少女だった。 顔には微かにそばかすがあり、あどけない少女の顔には似つかわしくないほどの、豊満な胸をメイド服で包んでいる。 「あぁ、気にするな。少々疲れていただけさ」 その少女の視線は、何故かアーカードの左手に注がれていた。 「・・・・・・もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔ですか?」 「むっ、私を知っているのか」 「はい。なんでも平民の少女を召喚したって、噂になってまして」 左手に描かれたルーンを見て、使い魔と判断したのだろう。 と、同時にコルベールと会った時の疑問が浮かんだ。 何故あのハゲ教師は、わざわざ自分のルーンを夢中になって書き写していたのか。 昨夜ルイズに聞いた話では、使い魔にルーンが刻まれるのは当然の事である。 思い返せば、鼻息荒げてまで書き写す程のモノだったのか。 (やはり変態か・・・・・・?) そこではたと気付く、目の前の少女の指に。そこには包帯が巻かれていた。 「それは?」 指をさして質問をする。 「はい?あぁ・・・・・・これですか。実はついさっき洗い物をしていたらお皿が割れてて切っちゃったんですよ、包帯は大袈裟なんですけどね」 少女は「あはは」と笑いながら答える。アーカードはスッと手を伸ばすと、いきなり包帯を取る。 指には思ったよりも大きな傷があった。本当につい先刻のことのようで、まだ血が滲んでいる。 アーカードはそのまま衝動的に少女の手をとると、指を舐め口に含んだ。 「あっ・・・・・・ん・・・」 一瞬刺さるような痛みがするものの、すぐにそれは快感へと変わった。 患部を舐められて気持ちいいなんて、少女は自分が変態なのかなどと邪推する。 「もう痛くあるまい」 あっという間の出来事だった。離れた唇からは微かに糸を引き、痛みはなくなっていた。 患部を見ると傷痕まで目立たなくなっていた。 「え・・・・・・?何で?」 「ちょっとしたおまじないさ」 本当は血を少しばかりもらったのだが、適当な理由で誤魔化す。 少女は少し腑に落ちてない様子であったが、すぐに笑顔に切り替わった。 「あの、私シエスタっていいます。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」 「私はアーカードだ、よろしく」 「はい!よろしくおねがいします」 屈託のない笑顔だった。思わず嬲りたい衝動に駆られる。 しかし本人は知らないものの、勝手に血を貰ったという借りもあるし自制する。 「それでは失礼しますね」と言い残しシエスタは去っていく。 アーカードはシエスタに興味を持った。 個人的にそそられたのもそうだが、先程血を飲んだ時に少々不可解な点があったからである。 太陽は相も変わらずギラギラと照りつけている。アーカードは少しばかり悩んだが、我慢して追いかけることにした。 ◇ 追いかけ巡りついたその場所は食堂の裏手であった。 「・・・・・・アーカードさん?」 扉に入ろうとするところでシエスタはアーカードに気付く。 「どうしたんですか?お腹でも空きました?」 「いやなに、もう少しシエスタと語り合いたいと思ってな」 その言葉を聞きシエスタは悩む仕草を見せる。 「う~ん・・・・・・それはいいんですけど、お仕事があるんですよ。もう指も大丈夫みたいなので」 アーカードは考える。少量だが血を貰った、借りを返す丁度いい機会かもしれない。 それにこの昼日中、シエスタの仕事が終わるまでただ待つのも正直苦痛だった。 今更ルイズの部屋まで行って、寝るのというのも些か面倒だ。 「ふむ、では私がその仕事とやらを手伝っていいか?」 「アーカードさんがですか?そんな、無理して手伝っていかなくても結構ですよ」 確かにシエスタにしてみれば、理由なくアーカードに手伝ってもらう謂われはない。 よって、アーカードは適当な理由を振りかざすことにした。 「んむ、その服を着てみたいのだ」 そういってアーカードはシエスタが着ているメイド服を指さした。 「これをですか?」 アーカードは無言で首を縦に振り肯定する。シエスタは少し悩んだ後に告げる。 「そうですね、とりあえずこちらに来て下さい」 扉を開け中へ入ると厨房へと繋がっていた。ヌッと大きな人影が現れる。 「おう、シエスタどうした?」 恰幅のいいおじさんだった。服装から判断するにコックのようだ。 「はい、怪我も大丈夫そうなので、やっぱりお仕事しに戻ってきました」 「そうか、無理はするなよ。ところでそちらのお嬢ちゃんは誰だ?」 おっさんコックの視線がアーカードに注がれる。 「こちらはミス・ヴァリエールの使い魔のアーカードさんです」 「ほほ~、お前さんが噂の・・・・・・」 珍しいものでも見るかのようにアーカードを覗き込む。いや、事実珍しいのだろう。 なにせ人間、平民の使い魔、と流布されているのだから。 「アーカードさん、こちらはコック長のマルトーさんです」 ただの厨房担当の一人かと思ったら、コック長だったか。となると一番偉いのだろうか。 「余分なメイド服ってありますか?」 マルトーはアーカードの観察をやめシエスタの方へと向く。 「もう一着欲しいのか?」 「いえ私がじゃなくて、アーカードさんが着てみたいそうなんですよ」 アーカードはシエスタの言葉に付け加える。 「んむ、シエスタを見ていたら試しに着てみたくてな。ついでに手伝いくらいしてやるぞ」 マルトーは再びアーカードへと向き直る。 「う~ん・・・・・・あるにはあるが、見る限りサイズが合わなそうだな。シエスタも別の意味でサイズがないんだがな」 「何を言ってるんですか!!」 シエスタは抗議の声を上げ、マルトーはがっはっはと笑いながらアーカードの肩をバシバシと叩いた。 馴れ馴れしいがこれも人柄なのだろう。シエスタは少々うつむき加減で自分の胸を見始める。 聞こえるか聞こえないかギリギリの溜息が聞こえる。こういったやりとりも日常茶飯事と見える。 「無理みたいですね」 今まで見せてきたそれよりも、少し乾いた笑顔でシエスタが言ってくる。 と、マルトーの笑い声が止まった。何かを考えているようだった。 「いや・・・・・・少し待ってろ」 そう言うやいなやマルトーは席をはずす。暫しの間待つとなにやら袋を持って戻ってきた。 「ほれっ」と言ってその袋をアーカードに手渡す、アーカードは躊躇なく袋を開け中身を取り出した。 「これは・・・・・・」 「これって・・・・・・」 出てきたのは黒を基調としたメイド服、市販品には見えなかった。 しかもアーカードが着れそうなくらいのサイズ、オーダーメイドかはたまた手作りか。 「これ、どうしたんですか?」 シエスタが疑問を投げかける、マルトーは口を濁しながら答えた。 「ん、あ~~~その・・・・・・貰い物だ」 目が泳いでいた、怪しい、限りなく怪しすぎる。 そもそも何故これをすぐ持って来れたのか、シエスタは依然として疑いの眼差しを向けている。 「俺は物を大切にするんだ」 苦しい言い訳が虚しさをさらに引き立てる。一方アーカードはそのメイド服を気に入っていた。 最初は適当に言った理由だったが、素直に着てみたい。そう思わせるほどの完成されたデザインのメイド服だった。 マルトーの人格は兎も角として、これが趣味であるならば極まっていると言えるかもしれない。 「いい、いいぞ!気に入った!!その服はお前さんにやる!!!」 「アーカードさん、すっごく似合ってます!」 着替え終えるといつの間にか厨房の人々がここぞとばかりに集まり、ちょっとしたお披露目会のようになっていた。 マルトーは鼻息を荒げ興奮し、シエスタは感心していた。 黒く流れるような長髪と、紅く輝く瞳のアクセント。少女特有のスレンダーさと、アーカード自身から放たれる妖艶さ。 それら全てが黒いメイド服と調和し、一つの芸術と言えるくらいに美しかった。 「んむ、悪くない」 そうだろうそうだろうとマルトーは頷く。他の者達も各々様々な反応を見せている。 アーカードはふと、『英国名物』"メイド隊"として、メイド服を着させられたような記憶が甦る。 あの時は少女姿ではなかった(・・・・・・・・・)所為で、それはもう酷い有様だった。 というか、自分も主人も従僕も執事も。 しっくりと似合ってる者が一人もいなかったという、ある種の惨事であった。 「・・・・・・ところでこのメイド服、予め計算されていたかの如くピッタリなんだが?」 空気が止まり、周囲者達の冷たい視線がコック長マルトーへと突き刺さった。 マルトーは慌てて身振り手振り弁解する。 「いやいやまてまて、誤解だ。それは知らん」 「それ・・・・・・は?」 シエスタの容赦ないツッコミが入った。 「ちっ違うッ!何も知らん!」 冷たい視線は未だやまずマルトーを見つめ続けた。 「だぁあああ!さっさと持ち場に戻れー!貴族どもに何言われるかわからんぞ!」 その言葉で皆々が我に返り散っていき、それぞれの仕事へと戻る。 仕事が滞ればどんな仕打ちを受けるかわからない、自分達の進退は貴族の心一つでどうとでも変わってしまうのだ。 とりあえずピンチを強引に有耶無耶にしてホッとするマルトーであったが、彼の評価が既に落ちているのは言うまでもない。 「何を手伝えばいい?」 「それじゃ私と一緒にデザートを配るのを手伝ってもらえますか?」 「了解した」 シエスタはにこやかに笑い、アーカードはそれに頷いた。 大多数の生徒達にとって、アーカードの存在ははちょっと変なメイド服を着た給仕がいる。 そんな程度でしかなかった、唯一人を除いては。 「なっ・・・・・・アーカード!?」 「やぁ、我が主」 二度も食事を食べ損ない、昨日から続く心身の疲弊と寝不足、駄目押しの午前講義の後片付け。 ただの一回の食事に、これほど感謝したのは初めてかもしれなかった。 少々量が足らないと感じたがそこは我慢する、最後のデザートでお腹を満たそうと思っていた。 配られるケーキ、普段は気にも留めない給仕の姿。 しかしいつもとは変わった服を着ていた給仕、それ故たまたま目に留まる。 昼前に分かれたはずの自分の使い魔、ニヤニヤ笑ってこちらを見ている。意味が分からない。 何故食堂にいるのか、何故メイド服を着ているのか、何故給仕としてデザートを運んでいるのか。 「な・・・・・・何やってんの?」 「見て分からないか?メイドだ」 ルイズの口元が引き攣る。 「そうじゃなくて、どうして!」 と、そこで周囲からくすくすと笑い声が漏れ始める。 「あっはっは、なんでルイズの使い魔が給仕やってんのよ」 「これはこれは、ミス・ツェルプストー」 アーカードは右手にデザートを乗せたトレイを持ちつつ、左手でスカートの端を持ち会釈をする。 「あら?ルイズの使い魔にしては礼節を知ってるのね」 アーカードはその態勢のまま顔を上げ笑みを浮かべ答える。 「無論。主に恥をかかせるわけには参りませんので」 "優秀な執事"の立ち振る舞いを近くで見てきたし、人間だった頃にはそういった者達を雇っていた側だ。 そうでなくとも己の中の膨大な命の中には、そういった職種についていた者と記憶がある。 ルイズは素直に驚いていた。アーカードがこんな礼儀を弁えた態度を取れるということに。 しかし怨敵ツェルプストーの女に、敬語を使っている姿を見るのは癪だった。 「アーカード、ツェルプストー家の者に礼節は要らないわ。こんなのはキュルケと、呼び捨てで十分よ」 「ほぉ・・・・・・言ってくれるじゃない、ルイズの癖に」 キュルケはルイズをグッと睨みつける、ルイズも負けじとキュルケをグッと睨みつけた。 二人の視線が交錯し、バチバチと火花が散っているようだった。 (犬猿の仲というやつか・・・・・・) アーカードは一歩退いた位置から二人の様子を観察していた。 ふと、アーカードの・・・・・・吸血鬼の聴覚が本当に些細な言葉を鋭敏に感じ取る。 シエスタの声ともう一人、なにやら揉め事のようであった。 ルイズとキュルケは依然として睨み合い、アーカードは聞こえる方向へと視線を向ける。 金髪の少年とシエスタが話しているのが見える。 「ルイズ、キュルケ」 二人の視線が綺麗に揃ってアーカードへと向く、間髪入れずアーカードは言葉を紡いだ。 「これを頼んだ」 ケーキの乗ったトレイとトングを二人にそれぞれ手渡し、アーカードはシエスタの元へと向かった。 ルイズとキュルケはいまいち状況が把握出来ていなかった。 「ふん!やっぱりアンタなんか呼び捨てで十分ね」 「でもアンタも呼び捨てにされてたじゃない」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 二人の間には妙な沈黙が流れていた。 前ページ次ページゼロのロリカード
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4446.html
前ページ次ページZERO A EVIL あの決闘の後、ルイズの日常は大きく変化していった。 ルイズと決闘したギーシュは、一時は命の危険もあったが、水の秘薬と治癒の魔法のお陰で一命を取り留めた。 ギーシュを振ったはずのモンモランシーは、ギーシュが運ばれた医務室にすぐさま駆けつけ、付きっきりで看病していた。 ギーシュが目覚めた時など嬉しさのあまり泣き出してしまい、ギーシュを困惑させるほどだった。 回復したギーシュは、以前とは違い他の女の子に手を出すことはなくなり、今はモンモランシー一筋になっている。 自分を看病してくれたモンモランシーに惚れ直したようだ。二人の仲睦まじい姿は、多くの生徒に羨ましがられていた。 ギーシュにとっては正に怪我の功名といったところだった。 幸せいっぱいのギーシュは決闘の事などすっかり忘れていたが、他の生徒達はそうはいかない。 あの決闘を見たり、聞いたりした生徒達のほとんどが同じ事を考えていた。 “次は自分の番かもしれない” ルイズはギーシュのワルキューレを破壊できるほどの力を持っているし、何より恐ろしいのはあのスピードだ。 メイジが魔法を使うには詠唱をする必要があり、それには少し時間がかかる。 あのスピードで突撃されたら、詠唱中に攻撃を食らってしまい、ギーシュと同じように医務室行きだろう。 奇襲をかければ勝てるかもしれないが、失敗した時は自分の命が危ない。 そんな命懸けの戦いに挑む生徒がいるわけもなく、多くの生徒が導き出した結論はルイズを避ける事だった。 それは陰でルイズの悪口を言っていた平民達も同じだった。 教師達もルイズに対して避けるような対応をする者が多かった。 決闘の後にルイズは学院長室に呼ばれたが、注意を受けただけで何の処罰もなかった。 オスマンは、ギーシュがルイズを侮辱していた事、決闘はギーシュから申し込んでいる事、ギーシュの命に別状が無い事等を罰しない理由に挙げていた。 だが、以前からオスマンはルイズを贔屓目で見ていると思っている教師も多かったので、納得のいかない者も少なくなかった。 結果として、ルイズを避ける教師が増えてしまったのである。 こうしてルイズは、馬鹿にされる事はなくなったが、みんなに恐れられ避けられる存在になってしまった。 そんなルイズに対して、今までどおりに接する者もいた。 ルイズの隣の部屋に住んでおり、ルイズの事をよくからかっていたキュルケだ。 生徒達の間では、ギーシュの次に医務室送りにされるのはキュルケだろうと噂されていた。だからきっと、キュルケもルイズを避けるだろうと誰もが思っていた。 だが、そんな予想とは裏腹にキュルケのルイズに接する態度はいつもと変わらなかった。 むしろ、魔法は使えなくてもそれを補えるような力を隠し持っていたルイズに対し、『微熱』の二つ名を持つキュルケは対抗心を燃やしていた。 最近は親友である青い髪で無口な少女、タバサに付き合ってもらい魔法の特訓をしているようだ。 そして一番の変化といってもいいのは、メイドのシエスタがルイズの側によくいるようになった事だ。 ルイズの事を放っておけないシエスタが、よく世話を焼くようになったからである。 他のメイド達がルイズを怖がって近づかないため、まるでルイズ専属のメイドのように見える。 最初は戸惑っていたルイズだったが、自分の事を信じると言ってくれただけでなく、優しく抱きしめてくれたシエスタと仲良くなるのに時間はかからなかった。 今では、シエスタはルイズの事を親しみを込めて「ルイズ様」と呼んでいる。 ルイズはシエスタにそう呼ばれて嬉しいはずなのだが。 「貴族を名前で呼べるのは光栄な事なのよ。あ、あなたの忠誠心に答えて許可してあげるんだからね」 と、またしてもプライドが邪魔をして素直な気持ちを言葉にすることはできなかった。 だがシエスタは、素直になれない不器用なルイズの性格を知っていたので、特に気にもしなかった。 そんな感じで二人の関係は良好だった。特にルイズは、この学院に来てからほとんどしていなかった親しい人との会話を楽しんでいた。 あの決闘以来、左手のルーンが光を放つ事も、不思議な力を発揮する事もなかった。 使い魔の石像も変化は無く、今では多くの生徒達に待ち合わせ場所の目印に使われていた。 そして、あの不思議な夢も見ることはなかった。 だが、ある日の夜。 ルイズは寝る前にシエスタに髪を梳かしてもらっていた。 桃色がかったブロンドの長い髪はルイズの自慢であり、毎日の手入れは欠かせないのだ。最近はシエスタに髪を梳かしてもらうのが日課のようになっていた。 髪を梳かし終わったシエスタを見送るために部屋の外に出ると、そこをキュルケに目撃されてしまった。 「あら、ルイズじゃない。今日もお気に入りのメイドをはべらせてご満悦みたいね」 「こ、この子はそんなんじゃないわよ!」 「ふーん。男が寄り付かないから、てっきりメイドの女の子に手を出してるのかと思ったわ」 「どうしてそうやっていやらしい事しか考えられないのかしら。これだからゲルマニアの女は嫌なのよ!」 いつものように口げんかが始まり、側にいるシエスタはおろおろするばかりだった。 「まあ、あなたのような貧相な体じゃ色恋沙汰とは無縁でしょうけど」 「ななな、なんですって!」 「本当の事を言っただけじゃない。精々これからの成長に期待でもしなさいな、それじゃあね」 そういってキュルケは自分の部屋に入っていった。後には悔しがるルイズとシエスタだけが残される。 「な、何よ、あの女! ちょっと人より胸が大きいからって!」 「ルイズ様、女は外見より中身で勝負ですよ!」 シエスタは励ましてくれるが、自分より胸が大きいシエスタに励まされても嬉しくなかった。 シエスタと別れた後、着替えて眠ろうとするが、苛々しているせいでなかなか眠ることが出来ない。 今日は嫌な夢を見そうな予感がした。 ルイズは夢を見ている。 前と同じ不思議な夢を…… 夢の中のルイズは葉巻を咥えた大男だった。 ルイズには多くの子分達がおり、無法者の荒くれ集団クレイジー・バンチと呼ばれ恐れられていた。 ある時、サクセズ・タウンという街に金があるという噂を聞きつける。 ルイズは金を手に入れるために子分達と街に訪れ、街の住民達の生活を脅かしていく。 だがある日、街に行っていた子分のパイクがある男に敗れて逃げ帰ってきた。 別行動していた他の子分二人も、その男と後から現れたもう一人の男に敗れたと聞き、ルイズの怒りが燃え上がる。 ルイズは復讐の為に、子分達全員を引き連れてサクセズ・タウンに向かった。 たった二人に自分達が負けるはずがない。それに自分には最強の武器であるガトリング銃がある。 ルイズは自分達の勝利を確信していたが、街に入った瞬間予想外の事態が起こる。 街には罠が仕掛けてあったのだ。ルイズは罠のせいで多くの子分を失ってしまう。 数少ない残った子分達と二人の男に戦いを挑むがルイズは敗れてしまう。 敗れたルイズは本当の姿へと戻っていく。 ルイズの正体は、スー・シャイアンの連合軍によって全滅させられた第7騎兵隊の生き残りの馬だった。 馬に死んだ騎兵達の恨みと憎しみが宿り、ルイズが生まれたのだ。 場面が切り替わり、ルイズの姿も変わる。 次のルイズは拳法家であり、義破門団という拳法家集団の頭領を務めていた。 義破門団に仲間意識は無く、ただ同門なだけであり信頼関係などとは無縁であった。 同門であっても隙があれば命を取られる。真の強さとは、そこまでしなければ求められないとルイズは思っていた。 義破門団の他にも、大志山という山に拳法使いの老人が居り、心山拳という拳法を弟子達に教えていた。 肉体より精神に重きを置き、人としての強さを追及する心山拳は、ルイズの考える強さとは正反対であった。 自分とは違う強さの考え方を持つ心山拳の老師とは、いつか戦う事になるだろうとルイズは思っていた。 そして、その機会は意外と早く訪れる。心山拳の老師がいない隙をついて門下生達が、老師の弟子達を襲ったのだ。 弟子の仇を取る為に、老師と生き残った一人の弟子がルイズ達に戦いを挑んできた。 老師と弟子の力はかなりの物で、義破門団の精鋭達が次々と敗れ去っていく。 そして遂に、老師と弟子はルイズの前までやってくる。ルイズも暗殺拳の使い手の二人を呼び出し、最後の戦いが始まろうとしていた。 だが、老師は暗殺拳の二人と戦い始め、ルイズの相手を弟子に任せたのだ。 ルイズはこの若い弟子が自分に勝てる訳がないと思っていた。 しかし、老師は弟子に心山拳の奥義「旋牙連山拳」を託していたのだ。弟子が放つ奥義を喰らいルイズは敗れてしまう。 ルイズを倒した弟子は、力を使い果たした老師の最後を看取り、老師の死に涙を流していた。 そしてまた場面が切り替わる。 だが今度のルイズは今までと違い、山の頂上のような高い場所で下にいる二人の人物を見ているだけだった。 一人は金髪の剣士風の男、もう一人は長い黒髪のメイジ風の男だった。 どうやら黒髪の男が金髪の男に一方的に話しかけているようだ。黒髪の男の話は、金髪の男に対しての恨み、妬み、憎しみに溢れていた。 そして、黒髪の男は最後の言葉を言い放つ。それは、金髪の男への憎しみが込められた魂の叫びだった。 「あの世で俺にわび続けろ、オルステッドーーーーッ!!!!」 その言葉を聞いた瞬間、ルイズは跳ねるようにベッドから飛び起きた。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 まるで全速力で走った時の様に息が乱れている。 男の最後の叫びは、忘れる事ができないほどの衝撃をルイズの心に与えていた。ベッドの上で息を整えようとするが思うようにいかない。 男の一方的な会話を思い出そうとしたが、その部分だけがまるで霞がかかったようにぼやけており、思い出す事ができない。 だが、オルステッドと呼ばれた金髪の男に憎悪の感情をぶつける男の姿は鮮明に思い出す事ができた。 あそこまで誰かを憎んだ人間を見るのは初めてだった。 ふと、自分も我を忘れてギーシュを殺しかけた事を思い出す。シエスタのお陰で今まで忘れていたが、一歩間違えれば自分は人殺しになっていたのだ。 そう考えると急に体が震えだす。 ベッドの上で息を整えながら、両手で自分の震える体を抱きしめていると、無性にシエスタに会いたくなった。 シエスタに抱きしめてもらいたいと考えている自分に情けなさを感じるが、自分一人では体の震えは止まりそうもなかった。 幸い今日は虚無の曜日なので、授業は休みである。 ルイズは着替えを済ますと、シエスタに会うために部屋を後にした。 しばらく探し歩いていると、食堂でシエスタを見つけることができた。 思わず走りだしそうになるが、何とか踏み止まり、小走りでシエスタに近づいていく。 「おはよう。シエスタ」 「あ、ルイズ様。おはようございます」 笑顔であいさつしてくれるシエスタを見た瞬間、体の震えも止まり、夢のせいで陰鬱だった気分も晴れやかなものになっていく。 顔には無意識に笑みが浮かんでいた。 「何かいいことでもありましたか?」 「どどど、どうして!」 「いえ、朝から嬉しそうな表情をしていらしたので」 「べ、別になんでもないわよ。シ、シエスタに会えたから嬉しかった訳じゃないんだからね!」 恥ずかしくなったルイズは慌てて否定するが、誰が聞いても本音を喋っているようにしか思えなかった。 「そうですか。それより、朝食がまだでしたらすぐご用意できますよ」 「あ、うん。お願いね」 ルイズは、シエスタが厨房に向かって歩いていくのを眺めながらある事を考えていた。 シエスタに会って少し話をしただけで、あの夢も自分の身に起こっている不思議な事も忘れることが出来る。 ルイズはシエスタに心から感謝すると共に、シエスタが自分にとって大切な存在になりつつあるのを感じていた。 ちょうどそのころ、学院長室ではオスマンとコルベールが難しい顔で話し込んでいた。 「どうじゃね、ミス・ヴァリエールの様子は?」 「あの決闘騒ぎ以来、特に問題は起こしておりません」 「そうか。彼女のルーンがガンダールヴの印だと君から報告を受けた時はどうなるかと思ったが、どうやら心配のしすぎだったようじゃの」 ルイズとギーシュの決闘が行われていた時、オスマンはコルベールからルイズのルーンについての報告を受けていた。 コルベールの調べでは、ルイズのルーンは伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印と同じであるらしい。 だが、始祖ブリミルと共に闘った伝説の使い魔のルーンが、使い魔の主人であるルイズに刻まれているのは不可解であった。 二人がそのことについて議論をしていると、オスマンの秘書であるミス・ロングビルが何やら慌てた様子で学院長室に入ってくる。 ルイズが決闘でギーシュに重傷を負わせ、その場から逃走したというのだ。 その後、ルイズやその場にいた多くの生徒達から事情を聞いたオスマンはルイズを処分しない事を決める。 教師達の反発も予想されたが、『ガンダールヴ』のルーンの事を公にするわけにはいかなかった。 この事が王宮に知られてしまえば、ルイズが戦争の道具に使われてしまう可能性もある。オスマンはそれだけは避けたかった。 結果として、ルイズは生徒だけでなく教師にまで避けられるようになってしまったが。 「最近はメイドの一人と仲良くしているようで、笑顔で話している姿も見かけますな」 「それは良かった。あのままではミス・ヴァリエールが不憫すぎるからのう」 ルイズが一人で孤独に過ごしているのを不憫に思っていたオスマンは、ルイズを理解してくれる者がいることを我が事のように喜んでいた。 「ところでオールド・オスマン。例の王宮からの知らせについてですが」 「うむ。土くれのフーケという盗賊がトリステインを荒らしておるという話じゃったな」 「ええ。魔法学院の宝物庫も狙われる可能性があるので注意するようにと」 「宝物庫には強力な固定化の魔法がかけられておるし、外壁自体も頑丈に作られておる。あまり心配はいらないと思うがの」 「あの壁を破るとなると、相当な物理衝撃が必要ですからな」 トリステイン魔法学院の宝物庫は強固な守りを誇っている。フーケがいかに優れた盗賊であろうとも、簡単に突破できるものではなかった。 「連中が心配しているのは“破壊の杖”じゃろうな」 「危険すぎるので厳重に保管するようにと王宮から託された物ですな」 「あの杖の破壊力は人が使っていいものではないからのう。盗賊なんぞに奪われたら一大事じゃわい」 そんなオスマンとコルベールの会話を学院長室の前で盗み聞きしている者がいた。 オスマンの秘書ミス・ロングビルだ。だが、その正体はオスマン達が話していた土くれのフーケその人であった。 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/moejinro-log/pages/113.html
デジュー さわやかな朝がやってきました 村の川辺に無残に引きちぎられたオペこさんの死体が見つかったようです… デジュー /chjoin ピットガレージ デジュー 村人の皆様、今日もがんばってください オペこ 死滅 3 (ピットガレージ) BBL まあ無駄な疑いでしたけどね デジュー 昼の部スタートです 3 (ピットガレージ) シエスタXX いざ指定となると 1 (でじ村) SEIRIOS おーのー 1 (でじ村) エルレイナ シンプルな遺言だなwww 1 (でじ村) シキワロス さあさあ・・・ 1 (でじ村) エルレイナ 占いロラ続行かな 1 (でじ村) かこちん 占いCO ソラユイ○ 狼帽子かわいいです 3 (ピットガレージ) シエスタXX 発言内容までみて寡黙とか判断できないよねー ソラユイ は デジュー に言った さっきー 1 (でじ村) エルレイナ もうどうせ白しかでない ソラユイ は デジュー に言った まちがった 1 (でじ村) ソラユイ さっきー 3 (ピットガレージ) デジュー やべぇ、普通に時間オーバーsちゃった 1 (でじ村) シキワロス 最終日が確実なのは占いロラ続行 1 (でじ村) かこちん ついでに デジュー●狼でもこうも違うとは( 3 (ピットガレージ) デジュー てへぺろ 3 (ピットガレージ) BBL ドンマイ 3 (ピットガレージ) オペこ お邪魔します 3 (ピットガレージ) シエスタXX おつおつ 3 (ピットガレージ) オペこ 死んだ・・・ 3 (ピットガレージ) BBL お疲れ様でした 3 (ピットガレージ) jinjahime ドドンマイマイ 1 (でじ村) エルレイナ わたし視点かこさん真だけど 1 (でじ村) かこちん もう、吊られるだけなのでネタに走りましたごめんなさい 3 (ピットガレージ) jinjahime おつかれー 1 (でじ村) ソラユイ 最初に誰か指定したときジンジャーはしえすたさんーカコチンはーシッキーえらんだじゃん 1 (でじ村) エルレイナ 決め打ちしろとかいっても 1 (でじ村) エルレイナ 猛反発くらうだけだろうし 1 (でじ村) かこちん うん? 1 (でじ村) シキワロス ん 1 (でじ村) エルレイナ じっくり話し合うためにも 1 (でじ村) かこちん ソラさんそれでそれで? 3 (ピットガレージ) BBL シッキーとは新しい呼び方だなあ 1 (でじ村) ソラユイ でー 3 (ピットガレージ) オペこ 狩人COって 1 (でじ村) ソラユイ かこちんしっきー●っていったじゃん 1 (でじ村) シキワロス うむ 3 (ピットガレージ) オペこ あの時点でする必要あるんですか? 1 (でじ村) かこちん はい 1 (でじ村) ソラユイ じゃあ最初にぜったいシッキーえらばないじゃん 3 (ピットガレージ) BBL ●が狩人ならOKだと思います 1 (でじ村) ソラユイ 狼どうしなら 3 (ピットガレージ) オペこ なるほ 3 (ピットガレージ) BBL それ以外なら必要ないかな 3 (ピットガレージ) jinjahime だって、噛む場所ない&狼全露呈=グレーは確定白 3 (ピットガレージ) BBL まあその場合対抗出ると思いますけどね 1 (でじ村) シキワロス 我がワロス家につたわる、猫書房:人狼1000の勝ち方でも、この選択は載っていない。 1 (でじ村) かこちん だね 囲うことはあっても吊りにもってかない 1 (でじ村) エルレイナ 吊れちゃったらシャレにならないからまずえらばないね 1 (でじ村) ソラユイ じゃあー 1 (でじ村) ソラユイ しっきー 3 (ピットガレージ) シエスタXX これは決まったか? 1 (でじ村) ソラユイ 狼じゃないー? 1 (でじ村) シキワロス 俺つられたら負けだからさすがにあがくけど 1 (でじ村) シキワロス とりあえず占いロラ完遂しよう 3 (ピットガレージ) BBL あーそう考えればいいのか 1 (でじ村) かこちん 狼じゃないー?っていうのは 3 (ピットガレージ) シエスタXX なんかソラさんが確信に触れてる気がするwww 3 (ピットガレージ) BBL わざわざそんなこと狼がしないと思われますからね 1 (でじ村) かこちん どっちともとれる発言ですね 1 (でじ村) シキワロス 流れ的に 1 (でじ村) ソラユイ しっきーが狼 1 (でじ村) シキワロス 俺が狼と見られてる 3 (ピットガレージ) jinjahime うわーーソラさんの信頼がなぜかかこちんラインに沿ってる(´・ω・`) 1 (でじ村) シキワロス 理由は十分だけど。 1 (でじ村) エルレイナ シキさん吊りたいけど、占いロラして明日じっくり話し合いたいなら占いロラで確実に最終日もってくのもあり 3 (ピットガレージ) BBL jinjaさんを信じた私が間違っていた 3 (ピットガレージ) BBL たぶん デジュー 5分経過(あと2分) 1 (でじ村) ソラユイ まにあうなら 1 (でじ村) ソラユイ うらないろーらー 1 (でじ村) かこちん うむ 1 (でじ村) ソラユイ しよー 3 (ピットガレージ) BBL でもなんで潜伏しようとしたんだろう 1 (でじ村) かこちん 私に投票で 1 (でじ村) ソラユイ はーい 3 (ピットガレージ) jinjahime 狼だからでしょ 1 (でじ村) かこちん 私はシキさんにしておくよ 1 (でじ村) エルレイナ わたしはシキさんいれるけど、わたしを村きめうちしないならかこちんさんいれてね 1 (でじ村) SEIRIOS ううう。議論参加できなくてすまない・・・ 1 (でじ村) かこちん ってwwwエルレイナwww 1 (でじ村) シキワロス www 1 (でじ村) シキワロス んま 1 (でじ村) かこちん 吹いたしw 1 (でじ村) シキワロス 俺はあがこうともあまりおもわん 3 (ピットガレージ) BBL でもなあ 占い理由とソラさんの推理で考えがだいぶ変わってきました 1 (でじ村) シキワロス 村アピ:特になし 1 (でじ村) シキワロス これが最大の村アピ 1 (でじ村) エルレイナ だって、わたし視点ではシキさんだものLW… 3 (ピットガレージ) シエスタXX 噛まれ対策でしょ? デジュー あと1分 1 (でじ村) SEIRIOS 占いロラの方向でいいのかな 1 (でじ村) エルレイナ じっくり明日議論したいならかこちんさんでいいんじゃないかな 1 (でじ村) シキワロス うん 1 (でじ村) かこちん じゃあ私も村CO! デジュー 20秒前 1 (でじ村) エルレイナ 村騙り!? 1 (でじ村) ソラユイ えーーーー? 1 (でじ村) かこちん なわけないwww 3 (ピットガレージ) jinjahime 村COってあんた、占いCOしてるやん 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- デジュー 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) デジュー 投票は私に直Tellでお願いします 3 (ピットガレージ) BBL 噛まれたら対抗は狼確定してしまうので噛まれないと思っているのですが・・・ シキワロス は デジュー に言った かこちんさんに。 3 (ピットガレージ) BBL そうでもないのかな? SEIRIOS は デジュー に言った かこちんさんに投票します 2 (三矢の刺客) エルレイナ シキさんかな 2 (三矢の刺客) かこちん シキさんでw ソラユイ は デジュー に言った かこちんー かこちん は デジュー に言った シキワロスさんで 3 (ピットガレージ) jinjahime 噛んで逆囲いにする手もある エルレイナ は デジュー に言った シキワロスさんで~まぁつれないだろうな~ 2 (三矢の刺客) かこちん いや、今の村アピって今から吊られますって言う感じだったよね・・・・ 3 (ピットガレージ) BBL なるほどね 3 (ピットガレージ) シエスタXX 手はあるけど薄くね? 3 (ピットガレージ) jinjahime 薄いよー私ならやるけどね 3 (ピットガレージ) デジュー さてさて最終日 2 (三矢の刺客) エルレイナ あきらめた狼みたいなw 3 (ピットガレージ) jinjahime 最終日濃厚だけど 3 (ピットガレージ) シエスタXX 相方の狼が納得するのかな 3 (ピットガレージ) jinjahime (*´・ω・)(・ω・`*)ネー 3 (ピットガレージ) デジュー GJ出ても吊り増えないしねー デジュー あと1分 3 (ピットガレージ) シエスタXX 狼1なら俺も奇策にでるんだけど 3 (ピットガレージ) jinjahime 騙りした時点で吊られるのは確定だし 2 (三矢の刺客) エルレイナ もにーさんシキさんいれたらおもしろいなw 2 (三矢の刺客) かこちん 無いとは言い切れない デジュー 20秒前 3 (ピットガレージ) BBL 狼1の狂人で狼なったら占いCOもありかな 2 (三矢の刺客) エルレイナ どきどき 3 (ピットガレージ) シエスタXX 素直にソラさんGJと言ってあげたい 3 (ピットガレージ) BBL 狂人が空気読んだらですけどね かこちん 3票 シキワロス 2票 デジュー さよならかこちんさん…あなたの勇姿は忘れない デジュー /chjoin ピットガレージ デジュー 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です 2 (三矢の刺客) エルレイナ ちっw デジュー 役職の方は私にTellお願いします 3 (ピットガレージ) BBL ソラさんMVPかな かこちん サーセン重量不足でうごけませんorz 3 (ピットガレージ) シエスタXX もし推理当たってたなら 2 (三矢の刺客) かこちん サラだバー デジュー そこでいいよww 2 (三矢の刺客) エルレイナ まぁセイさん噛みだな~ソラさん狩人だったらもうまけでいいやww 3 (ピットガレージ) シエスタXX 流れはソラさんが掴んだように感じる 3 (ピットガレージ) BBL ですね かこちん ! 3 (ピットガレージ) BBL あの推理は説得力がありました エルレイナ は デジュー に言った セイリオスさんを噛み噛み~~ 3 (ピットガレージ) かこちん てすてす 3 (ピットガレージ) シエスタXX 言い方が上手いよねw 3 (ピットガレージ) シエスタXX おつおつ 3 (ピットガレージ) BBL 初日の勘違いはビックリしましたけどね デジュー は エルレイナ に言った 了解ー、噛み噛みしちゃっていいよ! 3 (ピットガレージ) シエスタXX だな 3 (ピットガレージ) BBL お疲れ様でした 3 (ピットガレージ) jinjahime 信じる理由とか、私がこぐねえだからで十分じゃない? 3 (ピットガレージ) jinjahime おつかれー 3 (ピットガレージ) BBL にゅたこ派なので・・・ 3 (ピットガレージ) jinjahime 狼め・・・ 3 (ピットガレージ) シエスタXX エイプリルフールネタ? 3 (ピットガレージ) シエスタXX こぐねぇとか 3 (ピットガレージ) かこちん さて、どっちが勝か・・・ 3 (ピットガレージ) シエスタXX 存在悪じゃん? 3 (ピットガレージ) デジュー ふあーあ、実はこれキンクリできちゃうのよ 3 (ピットガレージ) デジュー どうする? 3 (ピットガレージ) BBL マジで 3 (ピットガレージ) シエスタXX まじすかw 3 (ピットガレージ) かこちん あぁ狼しかいないからね 3 (ピットガレージ) デジュー エイプリルフールだけどね 3 (ピットガレージ) かこちん 狼が指定した後ならできるんじゃね(っておい 3 (ピットガレージ) BBL 騙された!!!! 3 (ピットガレージ) かこちん デジューさんが狂人でしたか ソラユイ は デジュー に言った ソラのいってるのあたってたらーソラがかわれるー 3 (ピットガレージ) シエスタXX でじゅこちね! ソラユイ は デジュー に言った かまれるー ソラユイ は デジュー に言った ひとりごとー 3 (ピットガレージ) jinjahime みんなしってる>デジューが変態 3 (ピットガレージ) BBL 変態のくせに・・・ 3 (ピットガレージ) デジュー なんで変態なのよ!? 3 (ピットガレージ) jinjahime いわせんなはずかしい 3 (ピットガレージ) デジュー GMに変態はいません 3 (ピットガレージ) かこちん 狩人ソラさんとみてたが・・・どうなんだろう デジュー あと1分 3 (ピットガレージ) BBL え・・・どうみても変態・・・ 3 (ピットガレージ) デジュー おいおい、BBLさんは信じてたのに・・・ 3 (ピットガレージ) シエスタXX いいえでじゅこは常識人です!!! 3 (ピットガレージ) デジュー なぁ、エイプリルフールだろ? デジュー 20秒前 3 (ピットガレージ) シエスタXX でじゅこ最高!!はっはー 3 (ピットガレージ) BBL だって初めて会ったときは普通のカッコだったのに次見たらその恰好だったんだよ 3 (ピットガレージ) BBL ビビりましたよ 3 (ピットガレージ) かこちん でじゅこ変態 ひゃっはー 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 1 (でじ村) デジュー ---------------STOP--------------- 噛み SEIRIOS 2012-3-31 でじ村(5)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2250.html
トリステインに午後の日光が差し込む頃。 学院付きのメイド、シエスタはルイズとタバサ、キュルケと敷地内にてばったりと出会っていた。 「タバサさん、ルイズさん。お二人とも、キュルケ姉さまに胸成分が吸い取られています!」 キュルケの時が止まった。 「……は?」 「な?」 「なんですって!!!」 ふたりのちっこい背の子供が声を揃える。例の蒼とピンクの髪の子のことである。 「解説します! キュルケ・フォン・アウグスタ・ツェルプストーは、親しくなった間柄の、他人の 胸囲と身長成分を、自分と同じかそれより下の水準にまで吸い取る能力を持つので すッ!」 「なに言ってるのか全然わからないわ!」そういうキュルケとは裏腹に。 「それで、どうなるの? 教えてシエスタ!」 そう叫んだルイズと、タバサはシエスタの視線に釘付けになっていた。 シエスタはコホンと咳払いをした。 「続けます。被告である、キュルケ氏においては、魔法学院入学後、一年間のバスト のサイズが飛躍的に伸びていることが我が方の秘密調査で明らかになっています」 「なんでそんなこと知ってるのよ!」 「メイドの特権です。そして、その現象は被告が主たる被害者のタバサ氏と仲良くな ってからの期間と合致します!」ビシィ! 「ちょっとまって!」 どこからか、『異議あり!!!』との声が響き渡る。 「当たり前でしょう! 私とタバサは仲良くなってからのほうが長いんだから」 はたまた、どこかからなのか? 静かな、厳しい声がキュルケの反対論を封じきった。『却下します』 ルイズもしきりに頷く。 「そうか……どおりで、私とアンリエッタ姫様が幼少同じ食事をしたのに、胸のサイ ズにこんなに差が出たのも……」 「間違いないでしょう。キュルケさんの能力がルイズさんに及ぼした結果です。そし て、おそらくその能力は、ツェルプストー家に代々伝わる能力なんですわ」 「ちょ、ちょっとルイズ。それにシエスタも。いったいどうしちゃったの?」 「……母さまもエレオノール姉さまも、胸のサイズが小さいのに、ちい姉様一人だけ 胸がおっきいのは、ツェルプストー家と一切かかわりを持たなかったからね……」ルイズはぶつぶつと何かを考え込み始めた。なぜかわずかに微笑んでいる。 「わかったわシエスタ。ヴァリエール家の人間が代々ちょっとだけ胸のサイズが小さいのは、なにもかもキュルケたちのせいってわけね!」 「Exactry(その通りでございます)」 「そんなわけないでしょう!」 「ツェルプストー家にかかわるものは、皆見事ままでのひんぬーだ…… これは認めましょう。恐ろしい能力……まさにスタンドね…… これがッ! これがッッ!! ツェルプストー家伝統のスタンド『エコーズAct4』!!!」 「シエスタ、変なナレーション入れないでちょうだい! タバサ、あなたも何か言ってよ」 シエスタは大上段に立ち上がり、宣言した。 「親愛なる淑女たちよ、今こそ立ち上がるのです! わが偉大なる共産胸革命のためにッ! 思い出すのです。あのキュルケ姉さまにたわわと実る脂肪細胞の行く分かは、確実 にあなたたちへと配当されるべきのものだったのです。おふたがた、今こそ、不当 に乳成分を搾取している乳支配階級を打倒し、すべての女性が美しい微乳の持ち主 となる日を目指すのですぅ!」 「……」 「タバサ、どうしたの?」 「把握した」タバサがつぶやく。 「するなッ!」 そういったキュルケのフードのすそをちんまりと小さな手がつまんだ。タバサの手だ。 「……かえして」キュルケの目を見据えて言う。その眼光はとても冷たい。 「かえしなさいよっ!」ルイズも切なく叫ぶ。 「な、なんなのこの待遇……」 第五・一章 S・H・I・E・S・U・T・A ! ――――→To Be Continued...?
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8538.html
前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち ~第10話 勇気と闘いと覚醒と(中編)~ シエスタは廊下を駆けていた。スカートのすそを摘まみながら、学院の中を走り続ける。埃を 立てながら足を駆る、行儀悪い姿。そのはしたない様は、普段の彼女であればありえないものだ。 それだけ、今シエスタは焦っていた。今朝から仲良くなった使い魔の少年、サイトが、貴族と 決闘することになったのだから。平民にとって、魔法を使う貴族は絶対的な存在。杖の一振りで 不可能を可能にしてしまう、別格の人種である。そんな相手に、自分と同じ平民であるサイトが 勝てるわけがない。 ――なのに、サイトさんたら! それにもかかわらず、サイトは自分の制止を全く聞き入れなかった。なんの根拠があるのか、 大丈夫だといって聞く耳を持たなかった。 このままでは、大変なことになってしまう。貴族と本気で戦ったら、怪我することはまず間違い ない。否、それどころか、殺される可能性の方が高いのだ。 それに、シエスタができることなんて何もない。シエスタもサイトと同じ平民。貴族に逆らう ことなんて不可能なのだから。 ――だけど、ムジュラさんたちなら! しかし、あの少年と共に召喚された者たち、サイトの使い魔仲間たちならば、話は別だ。特に、 ムジュラの仮面というあの使い魔。被った相手を魔法が使える様にしてくれるらしい彼ならば、 きっとサイトを助けてくれる。 そう考えたからこそ、シエスタは一心不乱に走っていた。何処にいるのか判らない仮面と妖精の コンビを、必死になって探し続ける。 「しかし、広い学院だな。本当に施設全部きっちり使っているのか?」 「ホントだね、掃除しなきゃいけないシエスタたちは大変そう」 そうして学院中を探索すること約一刻、ようやく廊下の向こうに見知った影が2つ見えた。 「ムジュラさん! ナビィさん!」 そちらへ向かいながらも呼び掛けると、2名はこちらに向き直ってくる。 「噂をすれば、だな」 「Hello、どうしたのシエスタ? そんなに慌てて」 不思議そうにする両者に追いつくと、シエスタは息を切らせながら答えた。 「さ、サイトさんが……」 「サイトが?」 「どうかしたのか?」 体ごと首を傾げる2名に、荒い息のまま叫ぶ。 「き、貴族の方と、決闘を!」 「ええっ!?」 「何やってるんだ、あいつは」 驚くナビィと呆れるムジュラの仮面に、シエスタは縋りついた。 「ですから! ナビィさん、ムジュラさん! サイトさんを助けてあげてください!」 「うん、判った!」 「せいぜい遊ばせてもらうか」 答えたムジュラの仮面が視線を向けると、何かの魔法を使ったのだろう、廊下の窓がひとりでに 開く。 「シエスタ、決闘は何処でやってるの!?」 「はい、ヴェストリの広場です!」 ナビィの質問に答えると、2名の使い魔たちは互いに顔を見合わせた。 「昨日行った広場だね。急ごう、ムジュラ!」 「そうだな、行く前に終わっていてもつまらない」 言うが早いか、ナビィが真っ先に窓から外へ飛び出していき、ムジュラの仮面もその跡を 追おうとする。その背中に、シエスタは呼び掛けた。 「待って、私も連れて行ってください!」 サイトには今朝の洗濯や、配膳の申し出等、色々と親切にしてもらった。ムジュラの 仮面たちが助けに向かうとしても、サイトの安全を確認してからでなければ安心できない。 「ふうん?」 すると、ムジュラの仮面の眼に何やら意地の悪そうな光が宿った。かと思えば、シエスタの体が 俄(にわか)に浮き上がる。 「なら、ご希望に沿うようにしようか」 面白がっている様な声音で言うムジュラの仮面に、不安が湧いてくる。その不安の通りか、 シエスタの周りに夕焼け色の靄(もや)のようなものが立ち昇りだした。その靄は、凄まじい 速さで窓の外へと伸びていく。よくよく見てみれば、その靄は動いているらしく、川の様に 外へと流れていっている。 「あ、あのう、ムジュラさん……?」 「さて、急ぐぞ」 シエスタの不安も何処吹く風とばかりに、ムジュラの仮面自身もその靄の中に入ってくる。 「あの、どうするんですかっ!?」 「向かうだけさ、広場へとな」 何か妖しいものの籠(こも)った声で告げられると、浮き上がった体が動くのを感じた。 「っ、きゃああぁぁ!!」 その次の瞬間、もの凄い加速がシエスタに襲いかかる。とんでもない力に引っ張られる様な 感覚に、思わず悲鳴が飛び出していた。視界も定まらない程の高速に目が回りそうだ。 感じたこともない速度に怯えていると、やがてそれは終わりを迎えた。 「着いたぞ」 ムジュラの仮面の言葉が耳に届くと、シエスタの体が急に止まる。すると、周りの靄が 霧散して、シエスタの体が地面に落ちた。 「痛っ!」 臀部(でんぶ)から落とされた痛みに小さく悲鳴を上げると、シエスタはムジュラの仮面に 抗議の眼を向ける。 「いたた、ひどいです、ムジュラさん!」 「ん? リクエストには応えているはずだが?」 悪びれずに言うムジュラの仮面に、シエスタはサイトが彼を性悪と評していたことを思い 出した。しかし、すぐにそんな場合ではないことを思い出す。 「そうだわ、サイトさんは」 立ち上がってみると、シエスタは周囲に学院の生徒たちが輪を作っていることに気がついた。 そして、ムジュラの仮面が着いたといった通り、ここがヴェストリの広場であることも。 ――ここ、ヴェストリの広場で、しかも人垣の真ん中……ってことは! 「がはっ!」 状況を把握した瞬間、シエスタの背後から苦し気な声が聞こえてきた。次いで、すぐ後ろの 地面に、何かが叩きつけられた様な音が響く。 「ぐ、……っそったれ……」 慌てて振り返れば、果たしてそこには件の少年、サイトの倒れた姿があった。 「サイトさん!」 「サイト!」 先に広場へ来ていたのだろう、ナビィと声を揃えて倒れたサイトの許へ跪く。見れば、彼は 悲惨な有様だった。顔の半分は紫色のあざに覆われて、片目が腫れの中に埋まってしまっている。 頭も打っているのか、それとも切れているのか、まだ固まっていない血の跡が目についた。 鼻からも血が滴(したた)り、荒い息をついている口の中さえも鮮血の色に染まっているのが見える。 着ているものも酷い状態だ。あちらこちらが裂けていて、そこから生々しい切り傷が覗き、青い服に 赤茶けた染みを作っている。 傍から見て、完全な満身創痍(まんしんそうい)だった。 「サイトさん、大丈夫ですか!?」 「くっ……」 シエスタの声が聞こえているのか、いないのか、サイトが苦しそうな声を上げる。そんな状態で あるにもかかわらず、彼は苦悶の声と共に起き上がろうとした。 「さ、サイトさん!? 無茶しないでください!」 慌ててそれを押しとどめようとすれば、サイトは開いている方の目でシエスタを見てくる。 「シエスタか……かっこ悪いとこ、見せちゃったな……」 黒髪の少年の言葉は、そんなことだった。声の感じは苦笑じみていたが、腫れた顔では表情として 表れない。 「そんなこと言ってる場合ですか! 早く手当てしないと!」 「そうだぞ、平民」 聞こえてきた声に目を向ければ、サイトの決闘相手であるヴィリエ・ド・ロレーヌが、嘲笑の 滲んだ眼でこちらを見据えていた。 「全く、勝ち目なんて全く無いというのに、不様な真似を続けて。どうして素直に自分の無力を 受け入れないのかね?」 傲慢な調子で、溜息を吐かれる。これほど痛めつけた相手に対し、そんな侮蔑的な言葉しか 放てないヴィリエに、シエスタは激しい嫌悪を抱いた。同時に、これだけサイトを圧倒しながらも、 自身は全く無傷だという、貴族に対する恐れの感情も。 嫌悪と恐怖の感情で板挟みになり、動けずにいると、サイトがシエスタの手を振り切ってしまう。 「言ってろ……てめえの風が退屈なんで、眠くなっちまった、だけだよ……」 そんな強がりを言いながら、サイトは立ち上がった。そこへ、面白がっている様な声が上がる。 「そんな様で、よくも言えたものだな」 ムジュラの仮面だった。仮面の使い魔は、同僚である少年をじろじろと見る。 「邪気は抜けても、やはりオレもモンスターか。流血と苦悶を前にすると、胸が躍る」 楽しそうに言うムジュラの仮面に、サイトは赤いつばを吐きながら言った。 「悪趣味な奴……」 「ヒャハハ。まあ、そう言うな。それより、早く被れ」 オレも遊びたいんだ、と急かすムジュラの仮面に、サイトは言い放つ。 「いやだ」 「なに?」 「ええっ!?」 「サイトさん!?」 サイトの返答に、ムジュラの仮面、ナビィ、シエスタは、三者三様に疑問の声を上げた。 「これは、俺の喧嘩だ……ムジュラは、関係ないだろ……」 途切れ途切れに、だがはっきりと言うサイトを前に、ムジュラの仮面はその目を真っ直ぐに 見つめる。 「本当に……いいんだな?」 念を押すムジュラの仮面に、サイトは頷く。すると、ムジュラの仮面がまた楽しそうに言った。 「ヒラガ、昨日言ったことを覚えているか?」 「ん、なんだよ……?」 サイトが聞き返せば、何気ない調子でムジュラの仮面は答えた。 「使えない道具は、タダのゴミでしかない」 傍で聞いていたシエスタは、その言葉にぞっとする。言葉の内容もさることながら、そんな残酷な 台詞を平気で言えるムジュラの仮面に背筋が震えた。 「その意味が判るか?」 そんなシエスタの怯みに構うことも無く、ムジュラの仮面は続ける。 「お前の心身、あの小僧に勝つために使い、それができないというのなら、お前の命、その程度の ゴミだったということだ」 それは極論すぎるとシエスタは思ったが、そんなことを平然と、その上面白そうに言うムジュラの 仮面に唖然とし、言葉にならない。 一方、その挑発めいた言葉を受けたサイトは、つまらなそうな声を出す。 「あの冗談みたいな台詞、こんな場面で使いやがって……」 「気に入らないなら、ゴミじゃないと証明するしかないな」 見下す様な言われ方で、サイトがますます反抗心を見せた。 「ああ、してやろうじゃねーかよ……」 その返事を受けると、ムジュラの仮面の眼が楽し気に光る。 「あの子鬼のように失望させるなよ、被り手」 そう言うと、ムジュラの仮面は思い出したように付け加えた。 「そういえば、ヒラガよ」 「まだ、なんかあんのか……?」 サイトが訝しむと、ムジュラの仮面の声の質が変わる。 「お前には、オレが優しく見えるのか?」 「え……?」 「せっかく出してやった助け船を蹴られ、それを許してやるほどに、オレが優しく見えるのか?」 その声に、今度こそシエスタは戦慄した。否、ナビィも、サイトも、一様に竦み上がっている。 ムジュラの仮面の笑い声――面白がっている様な陽気な声のはずなのに、それには全く温度が 感じられなかった。軽い調子で言われているにも関わらず、異常な程に暗いものを感じさせた。 笑いながらも、周囲から熱を奪い、暗がりへ引き込む、妖しの声。この世ならざる音声に呑まれ、 シエスタたちは息も凍るような感覚に襲われていた。 「まあ、どうでもいいことだな」 かと思えば、次に放たれた一言に、温度が戻る。そこで、サイトが腫れた顔に浮かんだ冷や汗を 拭った。 「ど、どうでもいいなら、聞くなよ……」 「そうだな、ヒャハハ……」 上擦り気味の声で返すサイトに、ムジュラの仮面は意外と甲高い笑い方で応える。シエスタは、 段々と後悔の念を抱きはじめていた。助けを求める相手を、思い切り間違えたのかもしれない。 「おい、いつまで待たせるんだ?」 そこへ、ヴィリエの苛立った声が上がる。そういえば、なんだかんだですっかり無視してしまって いた。その間、まったく攻撃を仕掛けてこなかったのは、余裕があるのか、意外と律儀なのか。 「ああ、休憩終了だよ」 「違う」 サイトがヴィリエに言い放った瞬間、別の声が上がった。誰の声かと思ったら、シエスタの目が 青い髪と長い杖を持った影に留まる。いつの間に来ていたのだろうか、サイトたちの主、タバサが すぐ傍にいたのだ。 「休憩でなく、決闘が終了」 淡々とした声で告げるタバサに、サイトが片目に反抗的な光を灯す。 「なんだよ、それ……」 「言った通りの意味。これ以上は許さない」 言葉の通りか、タバサは鋭い瞳でサイトを見据えた。その眼差しに、直接向けられているわけでも ないシエスタまでもが息を飲む。静かでありながら有無を言わせない迫力に、ムジュラの仮面の 時とはまた違った寒さが背筋に走った。 一方、それを直に受けているサイトの方は、真っ向からその眼を見返している。 「まだ、決着ついてないだろ……」 「これ以上続けても無駄」 反論するサイトではあるが、タバサは聞く耳を持たない。 「貴方はそんなぼろぼろになりながら、相手に一撃さえ入れていない。これ以上やっても、結果は 見えている」 「っ……」 論理的に続けるタバサに、サイトは言葉を返せない様だった。そこまで言うと、タバサの雰囲気が 微妙に変わる。 「貴方はよく闘った。でも、これ以上無理したら、本当に命の保証はない」 「けどっ……!」 尚も抗議するサイトだが、タバサは首を横に振った。 「庶子と言われたことを怒ってくれるのは嬉しい。だけど、貴方がそこまで無理することはない」 「それだけじゃねえんだよっ!」 俄に響く、サイトの叫び。空気を震わせたその訴えに、一瞬タバサは気圧されたように見えた。 「あんな奴に虚仮(こけ)にされたまま、自分の友達の悪口も取り消せないまま、そんなだせえ 奴のまま、終わりになんてできるかよ……!」 拳を握りしめながらも、サイトの言葉は終わらない。 「確かに、俺はムジュラみたく、魔法使ったりできない」 出てきたのは、弱気とも思える言葉。しかし、そこにこめられているものは弱さと正反対の それだ。 「ナビィみたく、感覚共有ってやつも、できない」 痛みのためか、微妙に調子が外れた声。それでも、サイトははっきりと言葉を紡いでいく。 「でも、俺にだって、意地ってもんがあんだよ……!」 言葉と共に、サイトの瞳に火が灯った。片方しか開けられていない眼が、強い意志で燃え 上がる。 「痛めつけられようが、何されようが……、一矢も報いらんねえまま、やられっぱなしで いられるか!」 力強い叫び――それを真っ向から受けたタバサは、シエスタの目には動揺している様に 映った。相変わらず、立っているのがやっとにしか見えないというのに。言っていることは、 まるで子どもの駄々の様なのに。サイトから発せられる気迫は、とても大きく感じられた。 最早、言葉でサイトが止まりそうにないことは明らかだ。タバサもそれが判っているの だろう、どうすべきか悩んでいるように見える。例え、彼女が魔法でサイトの自由を奪ったと しても、それで決闘相手であるヴィリエが納得するだろうか。 そういえば、去年彼女とヴィリエが諍(いさか)いを起こしたという話を、シエスタは思い 出した。無理に中断させようとすれば、かえって話がこじれるかもしれない。 なんともしがたい状況に、シエスタは焦燥感を募(つの)らせることしかできなかった。 それに歯がゆさを感じていると、唐突に拍手の音が聞こえてくる。 驚いてそちらに目を向けてみれば、1人の金髪の少年がこちらに近づいてきているところ だった。 学院の生徒たちは、この昼の決闘騒動を、見世物の一種として捉えていた。娯楽も刺激も 少ない学院生活の中の、降って涌いたショーを楽しむ感覚で、ここに集まっていた。 タバサとヴィリエのクラスメイト、ギーシュ・ド・グラモンもまた、その1人だ。 彼も別段、この決闘に何か思うところがあるわけではなかった。周囲の者たちの多くとと 同様、ただの興味本位でここにいるだけだ。 しかし、彼は他の者たちとは違う点が一点だけあった。それは、どちらかというと平民の 使い魔の方に興味を持っていたという点だ。 とはいっても、彼は平民という存在に関心を持っているわけではない。他の貴族たちと 同程度には見下しているし、魔法が使えない下等な存在だと考えている。 魔法が使える貴族に逆らうこともできないくせに、陰でこそこそと罵(ののし)っては、 いざメイジを目の前にすればへこへこするだけの連中。そんな誇りも何もない、つまらない 人種だというのが、ギーシュらトリステイン貴族の多くが持つ平民観だった。 しかし、タバサの召喚した、黒髪の使い魔。あの少年は、そんな自分たちの考える平民とは 違って見えた。 「タバサは関係ねえだろうが!」 貴族に対して臆することも無く、自分の主を侮辱した相手を思い切り怒鳴りつける。そのことに 驚いた者は、きっとギーシュだけではなかっただろう。特にギーシュは、彼の怒り方に関心を覚えた。 女性への侮辱に対する怒り、それはギーシュも共感できることだったからだ。 だから、フェミニストを自任するギーシュとしては、むしろ平民の使い魔の方を応援する気に なっていた。ラインクラスの風メイジであるヴィリエが平民に負けるとは本気で思っていなかったし、 気持ちだけでも味方に立ってやろうと思ったのだ。 そして、決闘は大多数の予想通りに展開していった。平民の使い魔はヴィリエに全く歯が立たず、 ヴィリエの繰り出す風で一方的に痛めつけられていく。風の鎚(つち)に体を打ちつけられ、風の 刃に血飛沫を上げられる。 黒髪の少年は何度も吹き飛ばされ、何度も倒れ込んだ。その度に起き上がっては、何度も何度も ヴィリエへと突っ込んでいく。幾度も傷つきながらも、使い魔の少年は諦めずにヴィリエに挑み 続けた。その不屈の意志を以って戦う姿に、少年に対する感情がただの興味から少し変化する。 どれほど傷ついても、心が折れることなく戦い続ける。それは、むしろ自分たち貴族が持つべき 姿勢に思えたからだ。だからこそ、平民でありながらそれができるこの使い魔を応援する気持ちが、 ますます大きくなっていった。 「痛めつけられようが、何されようが……、一矢も報いらんねえまま、やられっぱなしで いられるか!」 そして、満身創痍になりながらもそんな叫びを上げる使い魔に、とうとう気紛れを起こす。 「いや、なかなか大した根性だね、使い魔君」 拍手をしながら、ギーシュは使い魔たちの許へ歩み寄っていく。すると、件の使い魔はこちらを じっと見据えてきた。 「誰だ、あんた……?」 「おっと、失礼。僕の名はグラモン伯爵家四男、ギーシュ・ド・グラモン」 バラの造花をあしらった杖を振りながら、軽く自己紹介をする。すると、ヴィリエが険のある声を 投げてきた。 「ギーシュ? なんのつもりだ?」 明らかに不愉快そうな眼が向けられてくる。 「まさか、決闘の邪魔をしようなんていうんじゃないだろうね?」 「邪魔をするだって? まさか! そんな無粋なことをするものか」 大仰に手を広げて、否定を示す。こういうことは、多少芝居っ気が必要なものだ。 「ただ、性分というのかな。こういった多くの観衆が集まる中では、どうにも体がうずいてしまってね。 何か自分も注目を集めたくなってしまうんだよ」 言いながらも軽くバラの香りを楽しむ仕種を取り、平民の使い魔の方へ目を向ける。 「それに、そちらの使い魔君にも少し興味が湧いてね」 「興味……?」 訝しむ平民に、軽く頷いてみせた。 「魔法が使えない身でありながら、どこまでも貴族に立ち向かっていく。そんな平民がいることに、 何故か素直に感動してしまったようだ」 言い終われば、ギーシュは杖を小さく振った。すると、バラの造花から花弁が1枚零れ、使い魔の 許へと飛んでいく。そして、それはギーシュの掛けた錬金の魔法で剣に変わり、黒髪の少年の傍に 突き刺さった。刃渡り70サント程のミドルソードだ。 「判るかい? それは剣、君たち平民が僕たち貴族に抗うために生み出したものだ。本気で決闘を するつもりなら、その青銅の刃を手にしたまえ」 そこまで言うと、ギーシュはヴィリエに向き直った。 「失礼、ヴィリエ。横槍を入れてしまったね。けど、君だとて丸腰の平民が相手ではつまらない だろう?」 肩をすくめながら言えば、ヴィリエは声を上げて笑った。 「ハッハ、君も酔狂だな、ギーシュ? まあ、別に武器を与えるくらい構わないさ」 もっとも、とヴィリエは付け加えた。 「今更そいつに勝ち目が増えるとは思えないけど?」 ヴィリエが辛辣に言った通りか、既に使い魔の少年は限界に見える。自分で贈っておいてなんだが、 とても剣を取って闘える様な状態ではなかった。 ギーシュはそう思ったが、一方、黒髪の少年の方は剣に手を伸ばそうとする。しかし、それは 直前で遮られた。彼の主、タバサによって。 「駄目、これを取ったら、相手はもう容赦しない」 小さく首を振りながら告げるタバサ、その表情は、心なしかいつもの無表情と違って見えた。 そして、それを向けられた方は軽い笑みで応えている。 「言ったろ……? 俺にも、意地があるって……」 言いながら、タバサの制止をやんわりとどけ、剣に手を伸ばす。 「そりゃ、痛いのは嫌だ……死ぬのだって嫌だ……」 だけど、と使い魔は続けた。 「あんな奴に、負けたくねえ……勝ち目があろうと、なかろうと……」 瞬間、その半開きの目が燃え上がる。 「下げたくねえ頭は、下げられねえっ!」 言い放った言葉と共に、その手が剣の柄を握り締めた。 ~続く~ 前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2564.html
前ページ次ページゼロと聖石 ワルド様が必死になって風石の代わりに魔力を使っている。 その姿を見つつ私はティータイムとしゃれ込んでいた。 シエスタは紅茶を淹れたあと、床で『メイソウ』とかいう精神統一法を行っている。 シエスタ曰く、『見えなかったものが見える』そうだ。 視野を切り替えるとかそういったものだろうか? そんな風に過ごしていると、船員が慌しく走り回る。 事情を聞くと、空賊が現れたみたい。 甲板に上がり、その姿を確認する。 黒塗りの船体、側舷についている二十数門の大砲。 ―――これは勝てないわ。アレだけの規模ならメイジ乗っていそうだし。 完全アルテマで吹き飛ばしていいが、それだと…最悪乗っ取られる。 やめよう、聖天使の力を引き出して正気でいられるか分からないし、まだ死にたくも無い。 その数分後、空賊たちが乗り込んできた。 ワルド様のグリフォンはあっという間に空賊のメイジに眠らされる。 私も杖を没収され、シエスタはデルフと盾を没収されていた。 そして、倉庫の一室に押し込められた。 ワルド様は静かに何かを考え、シエスタは相変わらず 狭い船室の中、この空賊たちについて考えていた。 まず、目的。 彼等はマリーガランド号の積荷が硫黄だと聞くと、目を輝かせていた。 今は貴族派が幅を利かせているため、硫黄などの火の秘薬はよく売れる。 それは劣勢の王党派も同じこと。 仮にこの船が貴族派の物だとして、そこまでして硫黄を入手する必要が無い。 本物の空賊だったら硫黄だけ奪って後は証拠隠滅で片がつくはずだ。 結論は一つ。 決まったら即行動。 「シエスタ、船長のところに行くわ。手伝って」 ワルド様が困惑している中、シエスタが鎧の内側に仕込まれた剣を抜き、構える。 私も鉄で出来た東方のオウギという、風を起こす道具を取り出す。 シエスタがドアを蹴破り、それに私が続く。 その音に空賊が武器を構えて襲い掛かってくるが、シエスタの敵ではない。 私はというと、後ろから来る敵に対して、役に立つと思っていなかった魔法を唱える。 「命ささえる大地よ、我を庇護したまえ。止めおけ! ドンムブ!」 通路の狭い船の中では最高に相性のいい魔法、対象をその場から動けなくする。 それを何人も繰り返し、あっという間に封鎖線が出来上がる。 歩く先には倒れ付す空賊、後方にはなすすべも無く見守る空賊。 そんなことを繰り返しながら空賊頭目の前までたどり着く。 「アルビオン王国の貴族とお見受けします。 私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、アンリエッタ姫殿下の命により馳せ参じました」 後ろの空賊たちとワルド様が驚きで目を見開き、シエスタはだから手ごわかったのかみたいな顔をしていた。 頭目は一瞬唖然としていたが、すぐに顔を引き締め、居住まいを正した。 「これは大変な失礼をした。私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 今度は私が驚く番であった。 お偉方が一人は乗ってると思ったらまさか総大将方向の人間が乗ってるとは。 我に返えると、ウェールズ皇子がしてやったりの表情をしているのを気づいた。 ニューカッスル城。 アルビオン王国の権力の象徴だった城。 今は砲撃によって煤け、あちこちに瓦礫が落ちている。 「すまないね、騒がしい場所で」 鹵獲されたロイヤル・ソヴリン号が砲撃を続ける。 その巨体はその場にいるだけで威圧を続け、空に君臨していた。 砲撃音と着弾音が響く中、私はウェールズ皇子にアンリエッタ様から預かった手紙を渡す。 それをひとしきり読んだあと、小さな宝箱を取り出し、古ぼけた手紙が渡される。 内容は聞かずとも分かった。 それを懐にしまいこみ、一応亡命を勧めておく。 ウェールズ皇子はそれに対して首を振り、名誉に殉じると言った。 そこまで言われたら、何も言えない。だから、私はウェールズ様に一つだけ魔法をかけておく。 「大気に満ち、木々を揺らす波動。生命の躍動を刻め! リレイズ!」 光がウェールズ皇子を纏い、消える。 部屋を去る直前に、一言だけ言っておく。 「女を泣かせると後が怖いですよ。せいぜいアンリエッタ様を泣かせないように」 「これは手厳しい。忠告として受け取っておくよ」 その直後に、ありがとうと聞こえた気がしたが、聞こえていない。 ウェールズ皇子の独り言など、聞かなかったのだ。 最後の晩餐会で国王の言葉を聞く。 やはり、彼等はここで全員死ぬつもりなのだ。 戦争とはいえ、誰かが死ぬのは悲しい。 「アルテマ、あなたも悲しいの?」 アルテマからの回答は無い。 彼女は必要なときに必要なことだけ告げていくのだから。 それでも、誰かの声が聴きたい瞬間があるから話しかけてみた。 寂しく思った瞬間、聖石が一瞬だけ煌いた。 「ありがとう、アルテマ」 暗い気持ちを払い、戦士の皆と酒を飲んでいるシエスタの元へ向かう。 シエスタがワインをジョッキで一気飲みをしている。 それに負けじとワインをジョッキで飲むおっさん。 そこに私も乱入するのだった。 そして明くる朝。 「頭いたーい、気持ちわるーい、絶対吐く………」 「大丈夫ですか、ルイズ様………うぉぇっぷ」 二人揃って二日酔いになる。 ワルド様に起きたら聖堂に来てくれと言われているのに。 こうなったら仕方が無い。 こんな状況で使う予定じゃなかったのだが、緊急事態だ。仕方が無い。 「天駆ける風、力の根源へと我を導き、そを与えたまえ! エスナ!」 効果があるかどうか疑わしかったが、どうやら効果はあったようだ。 頭痛と吐き気がすぅっと去っていく。 横にいるシエスタにも使わないと、部屋が大変なことになる。 すさまじい速度で詠唱を始めるのだった。 外伝へ 前ページ次ページゼロと聖石
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4389.html
618 名前:バカップルイズ〜そして彼女はやさぐれる〜 予告編[sage] 投稿日:2006/12/06(水) 22 15 41 ID 2uLuydTw バカップル、と申したか。 「おはようルイズ」 「おはようサイト」 「……」 「どうしたのサイト」 「いや……起き抜けに可愛いルイズの顔見られる俺はハルケギニア一の幸せ者だと思ってさ」 「やだもう。わたしだってこんなにカッコイイサイトの顔で目を覚ませるんだもの、ハルケギニア一幸せな女だわ」 「ルイズ……」 「サイト……」 目を瞑った二人の顔が徐々に近づいていく。が、唇が触れ合う直前に二つの快音が鳴り響く。 揃って悲鳴を上げる二人を鬼のような顔で見下ろして、ハリセンを握り締めたシエスタが厳かに言う。 「婚前交渉禁止」 「はいルイズ、あ〜ん」 「んー、おいしい。それじゃサイトも、あ〜ん」 「うーんおいしい。さすがルイズの手料理だな」 「サイトのために頑張って作ったんだもん、当たり前じゃない」 「そうか。いやあ幸せだなあ。あ、そうだルイズ」 「なあにサイト」 「いやなに、今度はルイズを食べたいな、なんて」 「やだもう。エッチなんだから」 そう言いつつも、顔を赤らめて体を寄せるルイズ。才人もそれに答えて肩に手を回そうとしたところで、 またも鳴り響く二つの快音。悲鳴を上げる二人に、ハリセンを握り締めたシエスタが厳かに言う。 「婚前交渉禁止」 「ああルイズ、お前はどうしてそんなに可愛いんだ」 「ああサイト、あなたはどうしてこんなにカッコイイの」 「俺はルイズのためなら七万どころか世界全部の軍隊相手に単騎駆けしてみせる」 「わたしもサイトのためなら世界全部の軍隊を爆殺してみせるわ」 「ああルイズ」 「ああサイト」 ベッドのそばで抱き合う二人。そのままベッドに入ろうとしたところで、またも二つの快音が。 悲鳴を上げる二人のそばで、ハリセンを握り締めたシエスタが厳かに言う。 「婚前交渉禁止」 619 名前:バカップルイズ〜そして彼女はやさぐれる〜 予告編[sage] 投稿日:2006/12/06(水) 22 17 24 ID 2uLuydTw 「あらあらシエスタさん、どうしたのそんなに真っ赤なお目目で」 「もう限界ですカトレア様! あの二人ときたら時間も場所も考えずにイチャイチャイチャイチャ……」 「うーん、だけどあの二人を抑えられるのってあなたしかいないし」 「もう無理です気が狂いそうです。ああ、わたしの平穏な生活を返して……」 「困ったわねえ」 カトレアはさほど困った風でもなく、頬に手を当てて首を傾げる。 いろいろ大変なことを乗り越えてバカップル化した才人とルイズが「結婚許さなきゃ死ぬ」とルイズパパに迫って 強引に結婚を認めさせたが、「せめて結婚するまでは慎みを持ってくれ」とのお言葉により、 二人に一番近いシエスタが婚前交渉阻止役を任ぜられたのである。 ちなみに阻止できなかった場合晒し首。さすがルイズパパ、女相手でも容赦ねえ。 「何とか頑張ってちょうだいな。二人が喧嘩したときなだめ役がいないと本気でハルケギニアが吹き飛びかねないし」 「あの、ひょっとしてわたしってイケニエですか」 「世界の危機を救うのだから英雄と言ってもいいわよ。いいわねえ勇者なメイドさん。今流行だわ」 「拝啓母さん、シエスタはもう限界です。先立つ不幸を」 「あ、そんなことしてる間に二人のシルエットが重なって」 「婚前交渉禁止ぃぃぃーーーっ!」 ハリセン片手に飛び出すシエスタ。もはや日常風景である。 嫉妬に狂うエレオノール姉様、影響を受けてバカップル化するギーシュとモンモランシー、 愛があればゾンビでもいいじゃんと屍姦に走る清貧女王、ヘタレ同士仲のいいフーケとワルド、 ハゲが煮え切らないので逆レイプを狙うキュルケ、ハリセンを振るうシエスタの姿に惚れるタバサ、 子供たちに手を出すべきか否かと葛藤するティファニア、ナルシストなジュリオ、 相変わらずぼけてるんだか鋭いんだか分からないカトレア姉様などなどを加えて、 シエスタの日常はますます混沌を深めていく! やさぐれながらもなんだかんだで飼い慣らされてる彼女に明日はあるのか!? エロパロ板ヤマグチノボルスレ待望の新作「バカップルイズ〜そして彼女はやさぐれる〜」近日公開! そしてこれ書いた俺後悔! バカップルの魅力は彼ら自体でなく周囲が振り回されることにあると思うのですよ、はい。 あとこれ見れば分かると思いますけどワタシシエスタダイスキデスヨー。 620 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/12/06(水) 22 18 03 ID 2uLuydTw あ、近日公開とか嘘だから真に受けないでね。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5761.html
前ページ次ページゼロと波動 ルイズが激しい後悔の念に苛まれている頃、リュウは中庭を歩いていた。 「ああ言ったはいいが、何を捕まえればいいのか判らんな・・・」 最初、野草やキノコは猛毒を持っている種類もあるだろうが、哺乳類なら見知らぬ種類でも大丈夫だろうと思っていた。 が、よく考えたらここは地球ではない。 哺乳類だからといって、必ずしも食べて大丈夫とは限らないのだ。 もしかしたら猛毒を持った哺乳類がいるかもしれない。 知識のない自分が知らずに食べてしまえば一撃でアウトだ。 「さて、困ったな・・・」 腕を組みつつ中庭をうろうろしていると、後ろから声をかけられた。 「リュウさん、何してるんですか?」 見ればシエスタが乾いた洗濯物を持って後ろに立っていた。 「食うものをどうしようかと思ってね。この土地の知識がないから、何を食えばいいのかわからなくて困ってる。 この辺りに食べることのできない動物なんてのはいるのかい?」 「う~ん・・・毒をもった動物とかってあまり聞いたことないですけど、どうなんでしょう・・・? 少なくともこの辺りにはいないと思いますよ」 首をかしげてしばし考えるシエスタ。 「それよりも、食事でしたらこちらにいらしてください。私たちの賄い用の食事でも良ければお出しできますよ」 「そうか、すまない、お願いできるかな」 「はい!」 満面の笑みで答えると、シエスタはリュウを厨房に連れて行った。 「それにしても・・・ガタイも見事だが、食いっぷりも見事だね・・・」 厨房を預かる料理長であるマルトーが舌を巻いた。 「よく身体を動かすからね。食わんことには始まらん。それにしても美味かったよ。こんなに美味い飯は久しぶりだ」 数人分はあろうかという食事をあっさりと平らげると、満足して頷くリュウ。 「ははは!お前さん、気持ちいいヤツだな!気に入ったよ。好きなときに来てくれ。賄いでよければいつでも、好きなだけ食わしてやる!」 マルトーは豪快な笑顔で不器用なウィンクをすると厨房の奥に消えていった。 「マルトーさん、照れてますね。さっさと奥に行っちゃった」 そんな二人のやりとりを見て、シエスタも嬉しそうだ。 「さて、ご馳走にもなったし、何か手伝えることはないかな?」 「そんなのいいですよ!困ったときはお互い様ですから!」 シエスタは慌てて断ったがリュウもひかない。 「今までのところ、困ってるのは俺だけだ。何か力になりたい、手伝わせてくれ」 一向にひく気配のないリュウに、シエスタが折れた。 「じゃ、じゃあ、デザートを運ぶのを手伝ってもらえますか?」 デザートの乗ったカートをリュウが押し、シエスタがデザートをそれぞれ卓上に配る。 そんな作業を続けていると、フリルなどあしらったやたら派手なシャツを着た生徒の懐から落ちた小瓶がシエスタの足元に転がってきた。 「あの、落とされましたよ」 小瓶を拾い上げ、差し出すシエスタ。 が、聞こえなかったようで相手は気づいていない。 「あの、落とされましたよ」 先ほどより大きな声で再び小瓶を差し出す。 「あれ?それはモンモランシーの香水じゃないか!ギーシュ!やっぱり君はモンモランシーと付き合ってたんだ!」 落とした本人とは違う生徒がそれに気づき、囃し立てた。 「ち・・・違うよ!美しい薔薇は誰か一人のためのものではない、皆のものなんだ、だから、誰か特定の人とは・・・」 マントの色の違う少女が一人、ギーシュと呼ばれた少年に近づく。 少女に気づくとギーシュの顔から一気に血の気が引いた。 「ケ・・・ケティ!違うんだ、これは・・・」 バチンッ! 言い切る前に頬に走る衝撃。 「ひどい!やっぱり私のことは遊びだったんですね!」 目には涙が溜まっている。 「ち・・・違うんだケティ・・・」 叩かれて赤くなった頬をさすりながら取り繕おうとするギーシュを尻目に走り去る少女。 「・・・何が違うのか、説明してもらおうかしら・・・」 ギーシュが声のした方を振り向くと金髪に縦巻き髪の少女が額に青筋を浮かべながらギーシュを睨んでいた。 ギーシュの頭にシエスタから奪った小瓶の中身をぶちまける。 「モ・・・モンモランシー・・・」 香水まみれになりながらも慌てて何か言おうとするが、口を開く前に先ほどとは逆の頬に再び衝撃が走った。 「やっぱり説明してくれなくてもいいわ。私よりあの女がいいってことは分かったから」 力いっぱい頬を叩くと小瓶をギーシュに投げつけ、モンモランシーと呼ばれた少女も肩を震わせながら去っていった。 「ち・・・違うんだ・・・」 力なくうなだれるギーシュ。 嫌な予感がしたシエスタはとばっちりが来る前に退散するべく、さっさと配膳を続けようとした。 「・・・待ちたまえ・・・」 そんなシエスタをギーシュが呼び止める。 「は・・・はいっ!」 飛び上がって返事をするシエスタ。 恐怖の為に直立不動のまま震えている。 まずい!貴族を怒らせてしまった!! 後悔するがもう遅い。 「僕が気づかないフリをしたんだ。それぐらいの機転は利かしてくれても良かったんじゃないかね?」 シエスタの顔からは血の気が引き、身体は傍から見ても判るほどブルブルと震える。 「も・・・申し訳ありません!!」 必死に頭を下げて謝るシエスタ。 「おかげで君は二人のレディを傷つけてしまった・・・どうしてくれるんだね・・・」 「申し訳ありません!!」 繰り返し、必死で頭を下げる。 逆恨みも甚だしいが貴族には逆らえない。 貴族にとっては平民のシエスタなど、立場的にも実力的にも気分ひとつで殺してしまえる相手だ。 ただ、もう、ひたすら謝って機嫌を直してもらう他ない。 「君はおかしなことを言うな・・・」 完全に萎縮してしまっているシエスタとふんぞり返ってそれを見下しているギーシュの間にリュウが割って入った。 「な・・・なんだね!?君は!?」 突然の闖入者にシエスタから目を離すギーシュ。 見れば身長こそ自分と同じぐらいだが、オーク鬼のような身体をした男が目の前に立っていた。 男としての本能がどう転んでも勝てないと警鐘を鳴らす。 思わず一瞬怯んだギーシュだったが、それでもすぐに考えを改めた。 勝てないのは生身同士の場合の話だ。 見たところこいつは平民、こちらは魔法が使える。負ける要素などひとつもない。 そこまで考えると、再びふんぞり返るギーシュ。 「おかしなこととはどういうことだね?」 威圧的にリュウを睨みつける。 「君は二股をかけた。そしてそれがバレた。確かにきっかけはシエスタだったかも知れないが、バレて困るようなことをしていたのは君自身だ。君にシエスタを責める道理がどこにある?」 ギーシュの視線を正面から受け止め、静かに語るリュウ。 そうだそうだと囃し立てる周りの生徒たち。 至極当然のことを言われて言い返す言葉に詰まる。 だいたい、理不尽なことはギーシュ自身にもわかっていた。ただ、たまたま関わってしまったメイドに八つ当たりしようとしたに過ぎない。 それに少々痛めつけたところで所詮平民だ。それで自分の気が晴れるならいいじゃないか。 そもそも、なんで平民風情にこんなことを言われなければならないのだ。 徐々に怒りのボルテージが上がるギーシュ。 そこで彼は気づいた。 こいつ、昨日の儀式でゼロのルイズに召還されたヤツじゃないか。 いちいち平民の顔など覚えてはいないが、こんな体格のヤツがそうそういるはずがない。 相手を馬鹿にした笑みを浮かべる。 「・・・そう言えば君は・・・昨日の儀式でゼロのルイズに召還された物乞いじゃないか。 あまりにみすぼらしいので覚えているよ。 そうかそうか、平民のクセに貴族に対する礼儀がなってないと思ったが、ゼロのルイズの使い魔か・・・ 流石は”落ちこぼれ”のゼロ!使い魔の躾ひとつできないとはね!」 リュウは無表情のまま、まくし立てているギーシュを静かに見つめ続ける。 「君をこの場で処分してあげてもいいんだけど、一応は貴族の使い魔だ。土下座して許しを請うというのなら、考えなくもないよ」 周りに聞こえるように、ことさら大きな声で告げるギーシュ。 「躾がなっていないのは君の方だし、謝らなければならないのも君の方だ。そんなことでは貴族だなんだという前に、人としての程度が知れるぞ」 予想外の反撃にギーシュの顔が真っ赤に染まる。 もう許さん。この馬鹿は一度痛い目にあわなければ解らないらしい。 「申し訳ありません!!私ならどんな罰でも受けます!リュウさんは関係ないんです!!」 必死で取り繕うシエスタを完全に無視するギーシュ。 「わかった・・・そこまで言うなら、決闘だ。それでどちらが正しいかを決めようじゃないか」 決闘という言葉を聞いて更に蒼白になるシエスタ。 「リュウさん!謝ってください!今ならまだ間に合うかも知れません!!」 リュウに謝るよう、必死に懇願する。無表情にギーシュを見つめていたリュウは温かい視線をシエスタに向けると、笑顔で答えた。 「心配してくれて有難う。でも、大丈夫だ。安心してくれ」 そしてギーシュに向けて言い放つ。 「物事の正しい、正しくないを決闘で決めるというのは愚者の極みだとは思うが、それで君が納得するというなら仕方ない。相手になろう」 「どこまでも腹が立つヤツだな!今更謝っても遅いからな!ヴェストリの広場だ!広場を血で染めてやる!!逃げるなよ!!」 吐き捨てるように叫ぶと、怒りに肩を震わせながらギーシュは食堂から出て行った。 決闘と聞き、一気に盛り上がる野次馬たち。 甘やかされて育ってきた貴族の子供たちにとって、こんな面白そうなイベントなど滅多にない。 皆、我先にとヴェストリの広場に向かって食堂を出て行く。 食堂の端の方で何やら騒ぎが起こっていたようだが、今のルイズにはどうでもいいことだった。 とにかく何とかしてリュウを探し出し、謝って仲直りしなければ。 でも、なんて謝ればいいのだろう。 どんどん沈んでいくルイズだったが、何気なく人がまばらになってきた騒ぎの方にふと目を向けた。 なんと、そこにリュウがいるではないか。 「え!?なんでリュウがここにいるの!?」 よくわからないが、そんなことは今はどうでもいい、きっとブリミルの思し召しなのだろう。 とにかく、行って謝らないと! 急いで席を立つとリュウの元に走る。 「リュウ!!」 泣き出しそうな顔でリュウに駆け寄るルイズ。 「ルイズか、いいところに来てくれた。ヴェストリの広場の場所を教えて欲しいんだが。シエスタに聞いても教えてくれないんだ」 突然の質問に目が点になるルイズ。 リュウは最初、シエスタにヴェストリの広場の場所を聞こうとしたのだが 「殺されてしまいます。行ってはいけません」 の一点張りで一向に教えてくれない。 そこに丁度ルイズが現れたのだ。 ルイズは謝ろうとしてリュウの元に来たはいいが、突然のことにワケがわからない。 何故にヴェストリの広場?? 「えと・・・話が見えないんだけど・・・ヴェストリの広場に何の用があるの??」 「ちょっとな」 理由については答えないリュウ。益々ワケがわからない。 目を白黒させているルイズにシエスタがすがりつく。 「リュウさんを止めてください!!リュウさんが・・・リュウさんが殺されちゃう!!」 泣き喚きながらルイズの肩を揺さぶるシエスタ。 意外な腕力を発揮するメイドにルイズの身体ががっくんがっくん揺さぶられる。 「ちょちょちょ!!?ととととりあえずずずず落ち着きなさいいいいい!!もげる!!肩がもげる!!!」 半ば失神しかけているルイズに気づき、ようやく開放したシエスタは、事の顛末を説明した。 ことの重大さを理解するにつれて、ルイズの顔色も徐々に変わる。 「ちょっとバカリュウ!!!何考えてるのよ!!!」 謝る云々どころの騒ぎではない、このままでは本当に殺されてしまうかもしれない。 慌ててリュウを探して首をめぐらす。 「あの平民ならもう広場に行ったよ」 親切な野次馬が教えてくれた。 どうやら、広場の場所を野次馬に教えてもらってさっさと行ってしまったらしい。 「あああ!!もうっ!!」 ヴェストリの広場目指して駆け出すルイズとシエスタ・・・ だったが、スカートを両手で摘みあげて走るシエスタはあっという間にルイズの視界から消えた。 ・・・何あのメイド、どんな脚してるのよ・・・ 「逃げずによく来たね。その勇気だけは褒めてあげよう」 やたらと芝居がかった口調と仕草でリュウに・・・というよりは野次馬たちに向けて言い放つギーシュ。 「僕に弱い者をいたぶる趣味はない。最後の忠告だ。泣いて土下座するなら今なら許してやらないでもないが、どうする?」 大見得をきりながら声高に言うギーシュ。 「お前はおしゃべりをしに来たのか?」 それを冷たくあしらうリュウ。 ギーシュの額に青筋が浮かぶ。 「いいだろう・・・後悔するがいい!!」 叫ぶと同時にギーシュは自分の杖である薔薇の造花を振る。 造花から1枚の花びらが落ち、地面に辿り着くと花びらは等身大の鎧を纏った女性の像となった。 「僕の二つ名は『青銅のギーシュ』。土のメイジ。 メイジはメイジらしく、魔法で戦うものだ。よってこの青銅のゴーレム・・・ 僕は優雅にワルキューレと名づけているんだけどね、このワルキューレがお相手するよ。よもや卑怯とは言うまいね?」 ギーシュの顔に残虐な笑みが浮かぶ。 忽然と現れた青銅の像に「ほう」と感嘆の声を漏らすと、腰を落として身構えるリュウ。 「魔法とは随分と便利なものだな。別に構わんさ、本気でかかってくるといい」 ギーシュは自分のワルキューレを見た生意気な平民が顔面蒼白になる無様な姿を楽しみにしていた。 が、ワルキューレを見ても片眉を多少上げるだけで、余裕さえ感じさせるリュウにギーシュのイライラは更に募る。 もっと驚いたらどうだね!?思わず口から出そうになるが、そんなことを言えば負けを認めてしまうことになるので慌てて言葉を飲み込む。 だが、リュウにしてみてもギーシュは未知の相手だ。別に余裕でいるわけではない。 ただ、歴戦の勇士であるリュウにとって、特に戦いの場においてはあらゆる事象に対して常に冷静にしていなければならないという経験と本能が、第三者に対して余裕ある態度に見えているだけに過ぎない。 そして、恐ろしいスピードで対戦相手を分析していく。 ・・・若いな・・・戦いの状況下で感情が完全に表に浮き出てしまっている。 それに実戦経験もほとんどないらしい。 視線がせわしなく動いているし、呼吸も荒い。 だいたい、相手の力量も解らないのに自分の手の内を最初から宣言するなど自殺行為だ・・・ そこまで考えてから、改めて気を引き締める。 ただし、だからと言って弱いかどうかとは別問題だ。 元々のポテンシャルが高ければ経験の差など埋めてしまうかもしれないし、魔法とやらがどのようなものかもまだ解らない。 相手が格闘家なら身体つきや筋肉のつき方、視線や微妙な筋肉の動きの変化である程度の予測はつくが、今回はそれが役に立つとも思えない。 とにかく、慎重にかかるしかないな・・・ と、丁度そこにようやくルイズとシエスタが追いついた。 「ちょっとリュウ!!何してるのよ!早く謝りなさい!今ならギーシュも許してくれるかもしれないわ!!」 必死に叫ぶルイズ。 「ゼロのルイズ、残念だが、それはない。彼は僕の怒りを買ってしまった。最早、泣こうが土下座しようが、許すつもりはないよ。」 「ギーシュもギーシュよ!だいたい、貴族同士の決闘は禁止されてるじゃない!!」 キッと視線をギーシュに向け、非難の声をあげる。ゼロと呼ばれたことにも腹がたつが、今はそんなことを気にしている場合ではない。 「禁止されているのは貴族同士の場合だろう?彼は平民だ。なんら問題はない」 「それは・・・それは今までそんな馬鹿げたことがなかったからでしょう!ドットとはいえ、メイジのアンタに平民のリュウが勝てるわけないじゃない!!」 目に涙を滲ませながら尚も食い下がるルイズ。 「最初に口を挟んできたのは、そのリュウとかいうみすぼらしい物乞いだ。だいたい、僕に文句を言う前に、使い魔の躾ひとつできない無能な自分を責めるべきではないのかね」 無慈悲に告げるギーシュ。 必死に言葉を続けようとするルイズにリュウが声をかける。 「大丈夫だ、ルイズ。」 「でも・・・ホントに殺されちゃうのよ!アンタわかってないのよ!平民では貴族には絶対に勝てないの!!」 リュウは、最早溢れ落ちる涙を拭きもせずに必死で決闘を止めようとするルイズをじっと見つめた。 あの無駄にプライドの高いルイズが自分自身への中傷の言葉には反論すらせず、 ただひたすら決闘を回避させようとしている。 どうやらルイズは俺を本気で心配してくれているようだ。 流石に床で飯を食えと言われたときはどうかと思ったが、やはり根は優しい子なのだろう。 ならば俺も応えてやらねばならない。 暖かで優しい笑みをルイズに向ける。 「ルイズ、君はもう少し自分の使い魔を信じた方がいい。それに、自分で言っただろう?使い魔は主人を守るものだと」 リュウの言葉にきょとんとするルイズ。 リュウは何を言っているのだろう? 危機に陥っているのは私じゃなくて、リュウの方ではないか。 「詳しいことは解らないが、彼が君を馬鹿にしていることは解る。とりあえず、彼には君に謝ってもらうさ」 そう告げると改めてワルキューレに向かって構えた。 リュウはルイズの”誇り”を守ると言ったのだ。 そう理解したとき、ルイズの顔が熱くなった。 「ふん。いくらでも謝ってやるさ。まあ、僕に勝てればの話だけどね」 再び残虐な笑みを浮かべるギーシュ。 リュウの周りの空気が一気に張り詰める。 「俺は・・・俺より強いヤツに会いにきた」 前ページ次ページゼロと波動
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2321.html
「皆さん!ここがわたしの故郷のタルブ村です。」 シエスタが満面の笑みを浮かべて情景を眺めていた。 金色に光り輝く農村の風景は、それはそれは美しかった。 「へえー。凄いじゃないの!」 お気に入りの飛燕の近くによったキュルケもまんざらではなさそうだ。 「これが邪鬼先輩の守った景色ですか。」 飛燕が塾生達を代表するかのように発言する。 塾生達は、みな一様に目を細めてその風景を眺めていた。 「そうだ!おじいさまの墓参りの前に一度家に寄っていきませんか?歓迎しますよ。」 シエスタが振り返って皆を見つめる。 誰も異存の声など上がろうはずがなかった。 「かあー!こりゃうまいのう。」 一号生達の中でも極めつけの酒好きである、松尾が率先して村の名物のワインを飲む。 「行儀良くしなさい!ここはシエスタの家よ。」 そこへルイズの鋭い声が飛ぶ。 「構いませんよ。いい呑みっぷりですね。 きっと父も喜んでいますよ。」 ニコニコと擬音が出そうな笑顔を貼り付けたシエスタの父が言う。 この男、風貌こそ邪鬼そっくりであるが、その性格は温厚そのものである。 最初こそその風貌に戸惑った一号生たちではあるが、もはや慣れたようだ。 「まあ、そういうことだからお言葉に甘えましょうよルイズ?」 「……この料理も美味しい。」 そんなキュルケとタバサを、ルイズは恨めしそうに見る。 誰かがストップ役にならないと、騒ぎが止まらないことをよく知っているがために、騒ぐ側に回れないのだ。 そこへこっそりと忍び寄ったシエスタがルイズに耳打ちをする。 (いざとなったら私が止めますのでルイズ様も楽しんでくださいね。) 思わずシエスタの方を向くルイズ。だが、即座に納得した。 シエスタがこっそりと視線を向けている先には、富樫に虎丸、田沢に松尾のお祭り男カルテットが立っていた。 確かに、酔っ払ったあいつらなら真空殲風衝で簡単に止めることができそうだ。 そのことに納得したルイズは、自分も言葉に甘えて楽しむことにした。 夜はまだ長い。 「押忍!一番松尾、マイケルジャクソンのスリラーを歌います!」 「下手くそ!少しは面白くしなさいよ。」 「……(無言で首を縦に振っている)」「確かにあれじゃイマイチね。」 「ぬぬ!それでは塾歌をピンクレディーの振りつきで歌います。」 「ちょっと!なにいきなり脱ぐのよって、何よそれーーー」 いきなり脱ぎだす松尾。 その下には女物の下着が着想されていた。 「エクスプロージョン!」 一番騒いでいるのがルイズのため、注意しきれないシエスタがいたような気がするが、それは気のせいである。 そして翌朝。 「うーーーー。頭いたーい。」 ルイズが頭を押さえながら起きてきた。 どうやら二日酔いらしい。 「ルイズ様。二日酔いにはこの薬がよく効きますよ。」 即座にシエスタが緑色の飲み薬を手渡す。 良く見ると、その左手には、お盆の上に飲み薬を入れたコップが立体的に積まれていた。 類まれなバランス感覚をようするシエスタだからできるわざである。 受け取ったルイズは、小さな声でシエスタに感謝の言葉を捧げると、一息で飲み干した。 「ッッッッッ!にっがーい!これなんなの?」 その味に思わず涙目になったルイズがシエスタに問いかける。 「これはハシバミ草から作った特製のお薬です。苦いのは当然ですよ。 そうでないと二日酔いを後悔しないから、とおばあ様が良く言ってましたし。」 思わずルイズは納得した。これ程苦いならば、そういう効果もあるだろう。 「それでは、他の方にもお薬を配ってきますね。」 ルイズは、そうして立ち去ろうとするシエスタの後ろを、タバサが付いていっているのに気がついた。 「余ったら全部もらう約束。」 ルイズの隣を通り過ぎる瞬間、聞いてもいないルイズに、タバサが呟いた。 一瞬絶句して、思わず振り返ったルイズであるが、その時には二人はすでに外に出ていた。 「まさか、アレを全部飲むつもりなの?」 ルイズの疑問である。 時は昼過ぎ。 小さなタルブの村にはあまりにも不釣合いなほど大きい墓の前に、塾生達が集合していた。 ルイズ達は気を利かせて墓の外にいる。 まずはシエスタが簡単な報告をしていた。 「おじいさま。私はおかげさまで元気に過ごしています。 ようやく真空殲風衝も使いこなせるようになりました。 おじいさまから見れば、未熟もいいところではあると思いますが、 大豪院流の系譜を絶やさないように努力をしていくつもりです。」 シエスタの近況報告が続く。 学院に入ってからのこと。知り合いができたこと。真空殲風衝が使えるようになった決闘のこと。 次々と話が続いていく。 そうして、最後に一号生達の方を振り返って祖父に紹介した。 「それにおじいさま。今日は珍しいお客様が来ていますよ。」 そう言ってシエスタは、墓の前から退いた。 学ランを着用した塾生達が、無言で前へと歩み寄る。 秀麻呂は、幻の大塾旗を挙げていた。 ピタリと邪鬼の墓の前で全員が歩みを止める。 そんな中、桃が一人前へと進み出た。 邪鬼の墓をじっくりと見つめる桃。 ここに邪鬼の遺骨などは何もないことは知っている。 しかし、この墓地に漂う雰囲気は、まさしく邪鬼のそれであった。 故に、 塾生達はここに邪鬼の魂が眠っていることを確信していた。 「押忍!邪鬼先輩、報告します!」 そうして桃もまた報告をしようとした。 ようやく念願かない、宿敵藤堂兵衛を打ち倒したことなど、報告すべきことは山ほどあった。 (だが、) 桃は思う。 その全てを報告することに何の意味があろうかと。 彼は、邪鬼先輩は、俺達を信じて男塾を託したのだ。 ならば、 「俺達は日々男を磨いています。 近い内に必ずや男塾に戻り、後輩達にも男塾の魂を伝えていく所存です。 以上、失礼します!」 短い言葉ではあったが、桃は全ての想いを載せたつもりであった。 ふと桃は、否一号生達は不思議な声を聞いた気がした。 (大義であったな。これからも男塾を頼んだぞ。) 短い台詞ではあったが、それは紛れもなく邪鬼の声であった。 ふと、全員の目に熱いものがはしる。しかし、誰もそれを放とうとはしない。 今ここで涙を見せれば、邪鬼先輩に怒られるのは火を見るよりも明らかなのだ。 だからこそ桃は 「全員、邪鬼先輩に敬礼!」 声を張り上げることにした。 あらかじめ打ち合わせをしていたかのように、全員の敬礼が綺麗にそろう。 それはそれは色気のある敬礼であった。 男達の使い魔 第十六話 完 NGシーン 雷電「むう、あ、あれは!」 虎丸「知っているのか雷電!?」 雷電「あれぞまさしく古代中国において伝わる環韻(わ・いん)!」 最近のワインブームにおいてワインを楽しむようになったかたも多いだろう。 一般にワインの起源は、古代ギリシアやメソポタミアのあたりと言われているが、これは事実とは異なる。 かつて古代中国は殷の時代、蒲党主(ふ・とうしゅ)と言われる武道家がいた。 彼は晩年ある技をひたすらに練っていたことで知られる。 その技は、果物の蔓を使って敵を拘束する技であるが、鍛錬に鍛錬を重ねた彼の技は格が違った。 彼が一度蔓を手に持つと、それは一瞬にして大きな円環を描き、敵が言葉を発するまもなく縛り上げたという。 故に人々はその技を環韻と呼ぶようになった。 彼がこの技を練習する仮定で、たまたま落ちた葡萄が発酵し、今で言うワインとなったという。 なお、この際に彼の技名が西洋やハルケギニアに伝わりワインとなり、人名が日本に伝わり、音を変え葡萄酒と呼ばれるようになったのは、諸君等もご存知の通り、実に有名な話である。 余談ではあるが、中国の東北地方において、いつまでも泣き止まない子供に 「環韻にするぞ」 と言って怒鳴りつけるのはこの故事から来ていることは言うまでもないであろう。 民明書房刊 「お酒と武術の歴史」(平賀才人著)