約 545,811 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/5132.html
『ゆっくりを求めて2』 〜注意〜 虐待仕様のゆっくりではありません。 前作はおまけで本当に書きたかったのはこれ。 あきらかに無理ゲー。 このサイトからの持ち出し突撃は絶対にダメ!! この作品の設定を使うのは禁止です ゆっくり虐待 からの続き 建ち並ぶビル、汽笛を鳴らす電車、行きかう人々。 動きこそが生命というのなら、ここは命が満ち溢れる場所である。 喧騒のなか一人の男がこの町にたどり着いた。 「あ゛ー、ひでぇめにあった……」 ため息を一つつき、近くのベンチに腰を下ろした。 落ち着いたところで、手の中にあるゆっくりれいむ――逃げている途中で拾ったのだ――が動き出した。 「ゆっくりしていって――ゆ゛っ」 叫び終わる直前で男はそれを軽く捻った。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛」 あっさり瀕死となるゆっくり、その皮から漏れた餡子を口に含む。 「美味いには美味いが、甘さもうまみも変わらないな……やはり産地(設定)が違うせいか? 虐待に対するレスポンスはいいが単語のレパートリーが少ないのは今一だったな」 男はそんな感想を漏らしながらのんびりと食べていった。 「もっと……ゆっくりしたかった……」 そんな言葉を残し最後の一欠けらが口に入っていった。 甘いものを食べて落ち着いた男は自分の姿を確認した。 「これはまた……ひどいありさまだな」 男がこぼし感想はもっともであった。 つけていたサングラスはひび割れ、コートの裾はぼろぼろとなっている。 靴のつま先はなく、そこから足の指先がのぞいている。 さらに転んだのか引っ掛けたのか服は所々破れ、砂と泥と餡子に汚れている。 どこを見ても無事なところはなかった……唯一身に着けている手袋を除いて。 「あの女ときたら空まで飛んで追っかけてきやがる。執念深いったらありゃしねぇ」 食の恨みは根深い故に地獄の底までついてくる勢いであった。 巫女の放つ攻撃は速く大量であった。 必死で避けるたび周りでは、 「ゆっくりし…… \ピチューン/ 」×? 「ゆげぇ! \ピチューン/ 」×? 「<○><○> うわぁぁ! \ピチューン/ 」×? とゆっくり達が大量に消し飛んでいる。 所詮は饅頭そんなものだ。 どうにも逃げられないと悟った男は懐にあった日本酒『さむらい』を片手に交渉を試みた。 食の恨みは食で晴らす、なんとも安直な考えである。 しかし、巫女は目の色を変えて喜び、 「まぁ、ゆるしてあげるわ。今度お賽銭を持って神社にきなさい」 と言い残し飛んでいった。 怒った顔がうれしそうな笑顔に変わった瞬間など、とても可愛らしいものであった。 「―――今度おまいりに行こうか……ってどこの神社だ?」 肝心な神社の場所は名前も聞いていないので判らなかった。 こうして巫女は大切なお賽銭源を逃したのだった。 ――――――――閑話休題―――――――― 話は戻り、ここは大きな地方都市である荷湖道市とよばれるところである。 先日いっていた二海峡市には及ばないものの多くの観光客が訪れる。 それと共に多くの技術者が切磋琢磨し今も町を拡大しているのだ。 「おー、すげぇ。このCMうち(虹浦市)の方ではやってないんだよなぁ」 街頭テレビに映るコマーシャルを見て素直な感想をもらす。 映像には『初○ミク』の3Dダンスと共に曲が流れネギを宣伝するものであった。 そのCMの一つに特に興味が引かれたものがあった。 『電話一つでお伺いいたします』 『《早い》《安い》《安心》を合言葉に 〜ル○ール運送〜』 『ゆっくりもうしこんでね!!!』 その社長と思わしき人物が荷物を持って疾走するさまは印象的であった。 何より、目に付いたのは最後に出たゆっくりれいむである。 男が普段目にするゆっくりよりも大きくゆっくりとした(むかついた)顔をしている。 それにあの変に甲高い声だ。男にとっては耐えられないだろう。 「なん……だと……! この不況の真っ只中で糞饅頭ごときが仕事にありついてるだと!? ありえん! 人間様が仕事に就けないというのにどうかしている!!」 さらにムカつくところは、この男、つい最近会社を首になったばかりなのである。 ……リストラって怖い。 そんなこんなで、そのむかついたゆっくりを虐待すべく無限町までやってきたのだ。 懸命な読者様ならお気づきだろうが……明らかに死亡フラグである。 どれほどの死亡フラグかというと、真性の虐待鬼井山の家に入って部屋を荒らし、 「おい、くそじじい! さっさとあまあまをよこすんだぜ!」や 「でいぶはやさしいから、どれいにしてあげるよ! さっさとこのうんうんをたべてね」とか 「れいみゅはちゅよいんだよ!(ピコピコ)」に 「まりしゃはちーちーするよ! すっきりー!!」など この世で一番自分が強く、美しく、可愛いなどという妄想をしながら罵倒するくらいである。 なおこの糞饅頭は最長で二ヶ月ほど苦しみ潰れている。 無限町に着いた男はあたりを見直すと怪訝に感じた。 なにせ町のいたるところで戦いが起こっているのだ。 しかし、周りの住人は慣れたものとのんびり観戦までしている。 普通なら大騒ぎで警察が駆け込んでとめにくるはずだ。 「そうか、ここでは争いごとは日常茶飯事! だからいきなりゆっくりを潰しても何も言われないんだ!!」 という結論に達した。 あながち間違いではない―――できるかどうかは別だが。 その後では、 「最終狼牙!」「コンナハズハー」「シッショー!」「さすが幕末」「幕末ゆえ仕方なし」 と戦っていたものが両成敗を受けていたが、見えていないので意味がない。 「ゆっくり……待っていてくれ。必ず虐待してやるからな。あの星に誓って!」 北の空では北斗七星のそばにやたら輝く星が見えた。 何だかんだで歩き回っていると目的の近所にたどりついた。 「会社の住所によるとここら辺のはずなんだが……」 メモの切れ端を見ながらあたりを見回すと変な声が聞こえてきた。 「おとどけもので〜す」 そんな台詞をはきながら目の前をゆっくり霊夢が通り過ぎていったのだ。 「ヒャッハー! ゆっくりだ! 我慢できねぇ虐待だ!?」 条件反射でゆっくり霊夢の前に躍り出て潰そうとするが、 「あ、じゅうしょまちがえた」 と荷物と一緒に男はどこかに運ばれていってしまう。 「こら! はなせ! って言うかどうやって掴んでんだ!」 そこは謎饅頭である突込みを入れてはならない。 「ぐほっ!! かはっ! はぁはぁ……糞饅頭の癖になんなんだあれは」 男は掴まったまま逃れることはできずにどこかの壁にぶつけられ悶絶していたのだ。 その横ではゆっくり霊夢がふんぞり返っていた。 「ゆっくりしていってね!!!」 先ほど男を運び壁に叩きつけたゆっくりである。 体の痛みで幾分冷静になった男はそのゆっくりを観察してみた。 黒い野暮ったい髪、それにへばりつくような赤い布切れ。 その目は世の中なんでもいいやというような幸せなで知性の欠片もなく。 口は人を馬鹿にしているかのように半開きでいる。 全体的に丸っこい輪郭をしている。 目の前にいるだけで殴り飛ばしたくなるような存在である。 「だいじょうぶ、このぎょうざをたべてげんきになってよ」 ゆっくり霊夢はそういいながらどこからともなく取り出した餃子を持って近づいた。 男はすばやく立ち上がり距離をとる。 「この声は……広告に出ていた糞饅頭か」 男は喜悦の笑みにより口元をゆがめ高らかに叫んだ。 「ヒャッハー!! ゆっくりだ!! 我慢できねぇ虐待だ!!?」『Round1 Fight!』 「ゆー きゃん のっと えすけいぷ」 袖口から針を抜きだし高速で投げ放ち、それを追従するように駆け出す。 放たれた数条の銀光は吸い込まれるようにゆっくり霊夢の飛んでいく。 針はあくまで牽制である。 先ほどのように掴まれてはかなわないので針を投げつけ怯ませる事により楽に捕獲するつもりだったのだ。 普通のゆっくりであれば、針が刺されば悲鳴を上げその場で転げまわる。 それを掴んでゆっくりと虐待すればいいのだ。 「ゆぅ……ゆっくりしていってね!!!」 「ぐ! 馬鹿な!?」 しかし、男の目論みはあっさりと覆された。 ゆっくり霊夢の皮に針が刺さりわずかに呻いたもののまた叫びだしたのだ。 その叫びは物理的な圧力となり男にダメージを与えひるませた。 威力はすさまじく当たり所が悪ければ人が昏倒するほどのものだ。 それをカウンターで受ける形となった男にはかなりのダメージを受けることとなった。 「ゆっくりしていってね!!!」×10Hit 驚きと打撃により無防備になった男に叫び声という暴力的な圧力が襲い掛かる。 この現象と身体に受ける痛みは情報という衝撃となって男の頭に打ち据え混乱させた。 「うそだ……糞饅頭ごときがこんな事ができるはずがない! はは、これはきっと夢なんだ。 きっと今頃ベッドの中で寝ていて、起きたらゆっくりを虐待するんだ。 『おちょいよ、くちょじじい!』とか 『きゃわいいれいみゅはおにゃかすいちゃんだよ』とか 『はやくごはんをもっちぇきちぇね!』とか 『おちびちゃんのいうとおりなのぜ。はやくあまあまをもってくるのぜ』とか 馬鹿で愚かで我侭な発言を繰り返すゴミクズを 『ごめんなちゃい。ごめんなちゃい』や 『ばりざはぎだないおぶづでず。ぞんざいじてごべんなざい』 みたいな心地よい鳴き声を聞くはずなんだ」 現実から目を背け幻覚を見ながらつぶやいている―――誰がどう見ても病院送りです。 「ゆっくりしていってね!!!」×40Hit 男が現実逃避をしている間にゆっくり霊夢は延々と叫びを上げ続けていた。 「…………えぇい! 鬱陶しい! 少しくらい放っておいてくれ」 あまりのやかましさにわれに返り、背負っていたギターケースを盾にしつつ後に下がる。 しかし、受けたダメージによりよろけ地面に転がる。 それと同時にゆっくり霊夢は空高く跳び上がった。 「うえからくるぞ。きをつけろ」『K.O.』 その宣言と共にゆっくり霊夢は『下から』生えてきた。 だが、転んだ男はギターケースでガードをしていたので特にダメージもなくすんだ。 「いちじてったい」 ゆっくり霊夢もそんなことを叫びながら後に引いていった。 その動きは恐ろしくスムーズであり通常のゆっくりとは比べ物にならないものである。 男の顔は眉をひそめ半眼となり険しいものに変わる。 「糞饅頭なら糞饅頭らしく素直に虐待されろっての。もういい――てめぇはつぶす!!」『Round2 Fight!』 「あの、わたしよわいのでてかげんしてね」 その発言にゆっくり霊夢は返答をするが当然のごとく男は無視である。 再び袖口から針を抜きだし高速で投げ放ち、それを追従するように駆け出す。 放たれた数十条の銀光は吸い込まれるようにゆっくり霊夢の飛んでいく。 先ほどと同じ流れではあるが、その量、速度、威力、気迫どれをとっても段違いである。 「ゆぅ」 皮に針が刺さり僅かにひるんだ隙に男はブーツから錐を抜き放ち構えを取った。 錐を構え、刺し、抜き、構え、刺し、抜く。 この動作を正確に素早く行うことにより無数の突き連続となる。 繰り出す速度は高速で残像すら見えるほどのものである。 「ふん! まだだ!!」 二十数回ほど錐を付きたてたあと身を翻し、後回し蹴りを側面に叩き込む。 後退するゆっくり霊夢にさらに踏み込みギターケースから取り出した大鎚で上空へと跳ね上げる。 「汚物は消毒せねばならんな」 腰から取り出したチャッカマンの出力を最大にして構える。 落ちてきたゆっくり霊夢が地に着く寸前に炎を放った。 「ヒャッハー! 汚物は消毒だ!!」 高圧圧縮されたガスは劫火となり襲い掛かる。 その炎を吐き出すさまは火炎放射器だ。銃刀法違反? ナニソレ? オイシイノ? ガスを使い果たし火の勢いが弱くなる。そこに現れたのは炭になったゆっくり霊夢が――― 「いたい」 「なん……だと……!」 男の目の前に現れたのは無傷のゆっくり霊夢であった。 多少疲れはあるのだろうが、刺さった針はどこにもなく、高速で突き刺した錐の痕も見当たらない。 よくよく考えれば蹴りのあたりで顔が削り取られ後退することは考えられない。 さらに大鎚など当てれば消し飛んでいるはずである。 「くそ! なんだこの悪夢は……何か言えこの糞饅頭!」 「さぁ、きなさい! じつはわたし、いっかいたたかれただけで、しぬぞぉ」 「嘘だ!」 理由がわからずに話をふるが、相変わらず人を馬鹿にした顔で戯言をはなつ。 男は知らないだろうが無限町では日常である。 (ゲーム中にダメージグラフィックとかできないからねぇ) 「えぇい! つぶれるまで続ければいいだけだ! 消えろ!」 開き直った男はゆっくり霊夢に殴りかかった。 乾いた音と共にゆっくり霊夢の真ん中に拳が当たる。『K.O.』 「わたしはすろーすたーたーなんです」 そんな言葉を残しゆっくり霊夢は天に向かって飛んでいった。 残されたのは呆然とした男と古臭い円柱のポストだけだった。 「……! なんだったんだいったい」 しばらく時間がたち、我に返った男は辺りを見回す。 あたりにはごく普通の町並みと道のど真ん中にある円柱の古臭く赤いポストである。 「どこにもいねぇ。逃げられたのか?」 男は肩を落としため息を付いた。 「針で刺して、錐で貫いて、蹴り飛ばして、鎚でつぶして、炎であぶったが……虐待した気にならん。 これだったら前の町のほうが反応は今一だったが、断然ましだ」 不平をもらしながら歩いていると、 「ゆっくりしていってね!!!」 先ほどのゆっくり霊夢と似たような声が聞こえた。 辺りを見回すとそこにいた。 人を馬鹿にした顔とトレードマークのトンガリ帽子のシルエットはまさしくゆっくり魔理沙である。 しかし、カラースプレーをかけられたのか、金箔を貼ったのかその全身は金色であった。 「獲物は違うがこの際虐待できればいい。色が変なのも虐待されたからに違いない」 虐待された獲物ならば弱いはずである―――だから捕まえて虐足してやるという思考なのだろう。 男はゆっくり魔理沙に襲い掛かった。 「ヒャッハー!! ゆっくりだ!! 我慢できねぇ虐待だ!!?」『Round3 Fight!』 「わたしのえいちぴーは53まんです」 男の雄たけびにゆっくり魔理沙は変台詞をはき迎撃の構え?をとった。 「くらえ!」 先の戦いと同じく針を投げた。 「おとうさん、そっちはざんぞうですよ」 などという台詞と共にゆっくり魔理沙は針をすり抜ける。 「は?」 あまりのことに理解が追いつかない。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 ×3 先ほどのゆっくり霊夢よりもさらに遠い間合いから衝撃を受け。 「ほろびのばーすとすとりーむ」 そんな気の抜ける宣言と共に口からドススパークと似たようなものが吐き出され。 「とうてんじまんのひとくちぎょうざでございます。ゆっくりたべていってね」『K.O.』 さらに掴まれ口の中に餃子を詰め込まれる。 「ゆっくりしたけっかがこれだよ」 などと勝どきを上げ、ゆっくり魔理沙は飛んでいった。 「誰だよ……弱いって言ったの。前の糞饅頭よりやばいじゃねぇか」 激しくぼろぼろになった男はフラフラと立ち上がった。 町に着いてから買いなおしていた服はずたずたのぼろ雑巾になりサングラスはフレームが変形し使い物にならない。 「なんだあの饅頭どもはこの町は地獄か? ……ん?」 男が町について悩んでいると遠くからキャタピラで走行する音が近づいてきた。 目をそちらに向けると男は驚愕の表情で凍った。 なんと戦車がこちらに向かってきているのだ。 その上には先ほどボコボコにしたゆっくり霊夢のにやけ顔が乗っかっている。 「ありえねー! 勝てるか! ツーかどうやって動かしてる!」『Round4 Fight!』 またも理解できない状況に叫びを上げる。 「ますたーすぱーく」「しぱぱぱぱ」「しゃんはーい」「でてこいわがしもべ」『K.O.』 「てんしょんあがってきた」 何もできないまま遠距離からボコボコにされた。 こちらが身構えると同時に砲門から光線が放たれ、口から針が吐き出された。 さらに人形が刃物を回転させながら襲い掛かり、果ては何か幸が薄そうな女性もつっこんできた。 明らかに無理ゲーです。本当にありがとうございます。 たとえ動けたとしても戦車などという重装甲を貫くことなど用意ではないだろうが。 「……手はある。ようは相手の攻撃があたらずこちらの攻撃を当てればいいのだ」 しかし男は諦めなかった。目に決意の炎を燃やしギターケースを掴む。 中から取り出すのは一振りのハンマー、これが一筋の光明と握り締める。 「そもそも、この町には虐待にきたんだ。今度の獲物は逃げてないだから捕らえる!」『Round5 Fight!』 立ち上がると同時に駆け出した。 「ますたーすぱーく」 戦車の砲門から光線が吐き出される僅かの隙で懐にとびこんだ。 そして握り締めたハンマーを力の限り戦車の装甲に叩きつける。 強烈な手ごたえと共に爆音が鳴り響く、装甲が貫かれ車体が震えだす。『K.O.』 「おっと、まずい」 ハンマーの柄を放り捨て慌てて下がる。 このハンマーはHEATハンマーと呼ばれ頭の部分が指向性のHEAT(成形炸薬弾)になっており、使い捨てである。 威力は今実践したように戦車の装甲をも貫くほどだ。 「よっと、ようやく捕まえたぞ。糞饅頭」 爆発する戦車の車体から放り出されたゆっくり霊夢を捕獲する。 あの爆発だというのにゆっくりは無傷である。 「さーて、散々待たせてくれたんだ。いい声を聞かせてくれよ」 今までの疲れを忘れ、ゆっくり霊夢に微笑みかける。 しばらく虐待をしていないので、男は相当ストレスがたまっていたようだ。 「本当に楽しみだ―――きっといい鳴き声をあげてくれるはず。 『くそじじい、れいむのみりょくてきなからだにふれないで』が 『つぶらなひとみがー』とか 『まりさにほめられたすてきなおりぼんがー』や 『れいむのびきゃくがー」など 叫びを上げてくれるだろう! そして 『ごべんなざい、ぞんざいじででごべんなざい』 なんて鳴き声に変わるような虐待をしてあげるよ」 男は―――駄目だこいつ……早く何とかしないと……。 「君、うちの社員に何か用かな?」 そんなトリップしている男に渋い男の声がかかる。 彫りの深い顔に金髪、赤いスーツを優雅に着こなし、その服の下には鍛えているであろう筋肉がみてとれる。 その姿はしばらく前に街頭テレビのCMに出ていた社長である。 口元は敵意がないかのように笑みを浮かべ語りかけてくる―――しかし、その瞳は笑っていない。 「えーと、これは、その」 「落ち着いて答えたまえ。君は、社員に、何をしようとしているのだね?」 口調は落ち着いているものの、社長からは確かな殺気がにじみ出ていた。 おそらく、トリップ中に発言していたことを聞いていたのだろう。 「答えられないのかね? ならば……死ねぃ!」 「うわっ!」 男が返答に窮していると突然襲い掛かってきた。 ゆっくりを手放し、紙一重でよける。 「いきなりなにをするんだ!」 「なに、この町では日常だよ。それに貴様も同じことをしていたのだろう?」 男の問いに社長はさらりと返答した。まるで今晩の献立を聞かれたので答えたかのような気軽さである。 「怖がることはない。少々教育をしてそのあと遠くに運ぶだけだ」 社長はゆっくりと歩み宣言した。 「お手並み拝見といこうか」『Fainal Round Fight!』 「いやだーーーーー!」 よく晴れた昼下がりに絶叫があがる。 しかし、これもまたこの町では日常であった。 to be continued? あとがきぽいもの 面白いから書いてたらゆっくり以外のネタのところが倍くらいあったから削ったよ。 虐待を期待した人ごめんなさい。 M.U.G.E.N産ゆっくりの登場 キャラクターの詳細スペックなどは「ニコニコMUGENwiki」あたりでも参考にしてください。 結構強い上、金箔饅頭(通称:12P、ゴールドゆっくり)になると凶悪この上ないキャラになります。 さらに霊夢戦車になるともっと無理があります。 うちの主人公の「男」は普通ー強キャラ性能ぐらいなので結構無茶な相談です。 作品に出る男の追加武装および能力 ・HEATハンマー 巨大な金槌。対ドス用の武器として持ち歩いている。爆発物取締罰則? なにそれ、美味しいの? 本編では一撃必殺技扱い。 ・ゆっくりがいる世界に入り込む程度の能力 「ゆっくり」が存在する場所にたどり着くことができる能力。 本人に能力の自覚はまったくない。 前の町も今回の町も普通に歩いていたらたどり着いた。 HEATハンマーについては反動が馬鹿にならないとか、手が折れるだろうと思うかもしれませんが、 「まぁ、こういう話しだし」「MUGENだからなぁ」という寛容な心でお願いします。 色々突っ込みどころが多いとおもいますが、苦言などよろしくお願いします。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1338.html
ゆっくり消しゴム。 今幻想郷で人間の子供達や精神の幼い妖怪の間で小さなブームとなっている文房具だ。 ゴムとは言うものの実際にはゴムではなく一匹の生き物である。 最近あらゆる方面で人気の高い生命体ゆっくり、その中でも3立方センチメートル程のちいさなものがこのゆっくり消しゴムとなる。 その愛らしい見た目と手頃な小ささからゆっくり消しゴムはいわゆる昔のたまごっちの様なブランドを子供たちの間で獲得したのだった。 「見ろよオレの!これ希少種のれみりゃっていうんだぜ!」 「いいなー私なんかせいぜいみょんぐらいしかないんだよ」 「そんなのまだいいさ、僕なんてやたら帽子がずれるまりさしかないんだよ」 互いに自分のゆっくりを子供たちが見せ合ってる中、その様子を木陰に隠れながらうらやましそうに見つめる一人の少女がいた。 彼女はチルノ、幻想郷の中でも比較的幼く子供らしい気質の妖精であった。 字も書けない彼女にとって消しゴム等というものは今まで必要の無いものであったが、 最近の子供たちの手に握られている奇妙な物体を見ると彼らの笑顔のせいもあってかどうしても欲しくて仕方なくなった。 とは言うものの養殖栽培で作られているゆっくり消しゴムは通常自然で手に入る事はほとんどない。 チルノはその無い頭を極限にまで回転させ、知恵熱で二日寝込み、その三日後に教職に就いている慧音のことを思い出した。 「あたいったら天才ね!」 全快したチルノは早速慧音のもとに向かいゆっくり消しゴムを一つくれるように頼み込んだ。 理由はどうあれ文房具を必死に欲しがるチルノに多少の好感を抱いた慧音はチルノにある提案をした。 「それじゃあゆっくり消しゴムと鉛筆、紙もわたしてあげよう。そのかわり、私に手紙を書いてきなさい。約束できるか?」 この約束に多少戸惑いはしたがそれもそれで面白いかも、とすぐに思い直しチルノは大きく首を縦に振った。 「ゆっくりしていってね!」 満面の笑みでチルノを見つめておなじみの言葉を発しているのはゆっくり霊夢、ゆっくり消しゴムの中で最も手に入りやすいものだった。 それでもチルノにとっては久しぶりに出来た宝物だったのだ。 チルノはすぐに湖の表面に手頃な氷の机を作り、渡された紙に手紙を書きはじめた。 字のお手本も既に慧音からもらっていたので準備は万端である。 大きな文字でお手本を見ながら好きな事を書くチルノをゆっくり霊夢はゆっくりしながら・・・ いや、ゆっくり霊夢はゆっくり出来ていなかった。なぜなら彼女は辺り一面凍り付いた氷上で敷物も敷かれずに置かれていたからである。 「ゆっゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!」 あまりの寒さにお決まりの台詞も言えないゆっくり。せめて紙の上にでもと体を動かそうとした瞬間 「ゆっ!?」 自分の体がその場所から全く動かないどころかその場所との接着面に鋭い痛みを感じるゆっくり。 そう、彼女は低温の氷の机の上にぴったりと張り付いてしまったのだ。 こうなるといくら頭の弱いゆっくりも自分が体を動かす事で鋭い痛みが走るという事には気づいた。 しょうがない、この氷の妖精が手紙を書き終えるまでゆっくり待つしかないか・・・ だがそうと割り切っても周りの低温と氷の机は自分の体の熱を奪っていく。たまらずゆっくりは 「早く手紙を書いてね!」 とチルノに向かってめずらしい応援をとばした。だがそれがいけなかった。 「うるさいなあ!急がすから失敗しちゃったじゃないかあ!」 ムカッときたチルノは机に張り付いているゆっくりを鷲掴み、容赦なく剥がしとった 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 そんな叫び声等おかまい無しにチルノはゆっくり霊夢を紙に押し付けむちゃくちゃに擦り付ける。 そう、ゆっくり霊夢は消しゴムなのだ。 本来この使い方が正しい使い方なのだがその使用時のあまりの断末魔に耐えかねて 消しゴムとして使用する人々が減り今の流行に落ち着いたのだ。 しかし、チルノは消しゴムというものをよく知らなかった事、手紙を書く事に躍起になっていた事もあって ゆっくりの悲鳴を全く気にしなかった。 「やめてええええええええ、ゆっくりしたいよおおおおおおおおおお!!!」 粗方消しきって満足するチルノ、それとは対照的に顔面を机の上に押し付けたままへたっているゆっくり。 だが、ゆっくりの悲劇はこれだけでは終わらなかった。 ここでゆっくり消しゴムの構造について簡単に説明しなくてはならない。 この小型のゆっくりは急激なストレスや物理的ダメージを与えると体から汗とは違う特殊な体液を出す。 この体液こそ鉛筆の線を綺麗に消しとってくれるゆっくり消しゴムの秘密なのだ。 さてそうなると今氷の机の上に顔面から突っ伏しているゆっくり霊夢は今すぐ顔、いや体を上げようと思うべきだった。 「ん゛?ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!」 気づいた時には既に遅かった、さっき以上に顔面が氷にべったりと張り付いて身動きがとれなくなっていたのだ。 しかもタイミングの悪い事にちょうどチルノはまたも失敗した字を紙に書き込んで悔しがっていたのだ。 「だから・・・うるさいってばー!!」 その声に体をびくっとふるわせるゆっくり。寒いにもかかわらず額を汗がつたう。 「ん゛ー!ん゛ー!ん゛ん゛ん゛・・・ぃぃいぎゃああああああああああああ」 さっきと同様に躊躇なく机からゆっくりを引きはがすチルノ。その異常な声に流石のチルノも驚き手を離した。 そのためゆっくりは勢いよく放物線を描いて氷が張っていない湖面の方向へ飛んでいき見事に着水した。 「ぐぼ・・ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ・・・・」 氷が張っていないとはいえ水の温度は5度程度、ゆっくりの少ない体力を奪うのには1分も必要としなかった。 ゆっくりできなかったよ! 薄れる意識の中ゆっくりは静かに思った。 「大丈夫?ねえ、大丈夫!?」 目が覚めるとゆっくり霊夢は濡れたまま湖のほとりにいた。どうやらぎりぎりのところをチルノが救い上げてくれたらしい。 「ごめんね、放り投げたりして。あんたが大きな声だすからびっくりして・・・」 誰のせいだと思っている。もうろうとした意識の中で軽くそんな事を思ったが今はどちらかといえば助けてくれた事への 感謝の気持ちの方が勝っていた。 「これからはゆっくりと大切に使っていくからね!」 笑顔をで発せられたゆっくりという単語に自然に反応し言葉を返すゆっくり霊夢 「うん、ゆっくりしていこうね!」 だがゆっくりは気づいていない。チルノがこれからもゆっくりを「使っていく」ということに。 そして何故ゆっくり霊夢が悲鳴を上げていたのかを、まだチルノは理解していないという事にも・・・
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2752.html
ほぺミキ 「~♪ ~♪」 楽しげな鼻声の聞こえる台所。 水色のエプロンをつけた小柄な少女が料理を作っていた。 軽快なリズムに乗せて、少女はボールに突っ込んだ泡だて器をかき混ぜる。 カチャカチャと小気味の良い音が、ボールの中から響いていた。 カチャカチャチャ。 泡だて器のリズムに合わせて、少女のツーテールがふるふると揺れる。 ボールの置かれた台の上には、そこかしこに生地が飛び散り、エプロンにも盛大に飛び散っていたが、 少女の表情は楽しげ。 心底料理を楽しんでいるようだった。 彼女の名前は河城にとり。 河童である。 「そろそろいいかな~?」 にとりは充分に混ざった生地を、四角い型の中に流し込んだ。 粘度の高い生地が、ゆっくりと型を満たす。 ボールの中身をすべて注ぐぎ終わると、にとりは次の準備に取り掛かった。 ちゃぶ台に置かれた包み紙を引き寄せ、中を覗き込む。 「待たせて悪かったね」 「ゆっくりしていたよ!!!」 紙袋の中から返事が聞こえた。 明らかに、人間の言葉だった。 ガサガサと紙袋の中に手を突っ込み、にとりは球形生物の一匹を掴み取る。 にとりの手の中には、人間の頭部を縮小したような生物が収まっていた。 その生き物は、手のひらの上で体を奮わせると、全身を使って笑顔を浮かべた。 「ゆっくりしていってね!!!」 「良い声だね」 「ゆぅーん」 丸い生き物は、ほめられたことが嬉しかったのか、伏せ目がちに顔を赤らめた。 にとりが手にしている生物は、ゆっくり種と呼ばれる生き物の、幼生だった。 「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!!」 紙袋の中から、声が聞こえる。 にとりの左手に抱えられた紙袋の中で、他のゆっくりたちが飛び跳ねているようだった。 「ごめんごめん、みんな出してあげるよ」 「ゆっくりしていってね!!!」 にとりはちゃぶ台の上に、ゆっくりたちを出してやった。 ちゃぶ台に転がり落ちる、色とりどりのゆっくりたち。 種類が違うのか、どのゆっくりも似ていなかった。 つば広の三角帽子を被った、金髪のゆっくり種、ゆっくり魔理沙。 これまた金髪でカチューシャを乗せたゆっくりアリス。 にとりが手に持っているのは、赤いリボンをつけたゆっくり霊夢だ。 にとりは手に持っていたゆっくり霊夢を、ちゃぶ台の上に乗せてやった。 3匹仲良く並んだゆっくりたちは、頬を擦りあわしてお互いを確認すると、瞳をキラキラさせながら一列に並んだ。 「ゆっくりしていってね!!!」 タイミングを計ったかように、三匹が同時に発声した。 声量の違いはあるが、どのゆっくりたちも伝える内容は同じである。 うまく言葉が合わさったことが嬉しいのか、三匹はやり遂げたような表情で、満足げににとりを見つめていた。 「うん。それじゃ、料理に取り掛かろうか」 「ゆっくりしていってね!!!」 にとりはそう言うと、ちゃぶ台の上にガラスでできた円筒状の器具を乗せた。 基底には三種類のスイッチが並び、その上に波打った円柱ガラスが載っている。 蓋の乗ったガラス容器の底部には、金属でできた三角形の四枚刃が、花のように咲いていた。 つまり、ミキサーである。 にとりはミキサーのガラス越しに、ゆっくりたちを見つめた。 ゆっくりたちの体がゆがんで見えて面白い。 「さ、どの子から、ゆっくりしたいかな?」 「ゆっくり、ゆっくり!!!」 にとりの言葉にゆっくりたちが飛び跳ねて己をアピールする。 ゆっくりするという言葉は、ゆっくり種にとって大切なものらしかった。 生まれた瞬間から親から隔離されて育てられた3匹は、にとりの言葉に絶大な信頼を置いている。 にとりを両親と勘違いしているのかもしれない。 にとりを見上げながら懸命に飛び跳ねていたゆっくりたちだったが、あまりに熱心に飛び跳ねたのか、 ゆっくり霊夢が顔面から、ちゃぶ台に突っ伏してしまった。 ぺとりと落ちたゆっくり霊夢に、にとりは餅を連想した。 「ゆう!」 「ゆゆっ!?」 他の2匹はゆっくり霊夢を心配して、慌てて寄り添う。 涙目になったゆっくり霊夢の片方の頬をゆっくりアリスが舌で舐める。 反対側の頬にはゆっくり魔理沙が体を摺り寄せていた。 「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってね!!」 2匹の言葉に、ゆっくり霊夢の顔にも笑顔が戻る。 若干赤くなった顔面に、笑顔を浮かべて一言。 「・・・・・・ゆっくりしていってね」 「ゆゆー!!!」 ゆっくり霊夢の笑顔に、残りの2匹も喜びの表情を浮かべ、いつまでもゆっくりゆっくりと言い合っていた。 「元気すぎるのも、ダメだよね」 にとりは苦笑しながら、ゆっくり霊夢の頬を突っついた。 驚くほど柔らかい頬が、ぷにぷにとにとりの指を弾く。 「ゆふぅ」 ゆっくり霊夢はくすぐったいのか、にとりの指に体を擦り付けながら、頬を赤らめていた。 「オマエは元気が有り余ってるみたいだから、一番にしてあげるね」 「ゆっくり!」 にとりはゆっくり霊夢を掴みあげると、ミキサーの上に持っていった。 ちゃぶ台の上では、他の2匹が羨ましそうに、ゆっくり霊夢を見つめている。 にとりは無造作に、ゆっくり霊夢をミキサーの中に入れた。 ガラスの側面をコロコロと滑り降りていったゆっくり霊夢は、待ち構えていた刃に体が突き刺さった。 柔らかい幼生の表皮を、刃は意図も簡単に貫く。 ゆっくり霊夢の深い部分にまで、刃は食い込んでいた。 「ゆぐっ!」 にとりは素早く蓋を閉めた。 ミキサーの中では、ゆっくり霊夢が苦悶の叫びを上げていたが、完全に密封されたミキサーからは、 くぐもった声しか聞こえなかった。 にとり自作のミキサーは、蓋のスキマがゴムで覆われた一品だった。 外にいる2匹は、一瞬怪訝な表情を浮かべたが、以前と変わらぬよう、羨ましそうに見つめている。 ミキサーの中でビクビクとのたうち回るゆっくり霊夢の姿が、楽しく遊んでいるように見えるのだろう。 早く自分の番が来ないかと思っているのかもしれない。 にとりはガラス容器越しに、中にいるゆっくり霊夢を眺めた。 大きく口を開けて涙を流している表情が、ガラスに屈折して、なお面白かった。 にとりはガラス容器に耳をくっ付けると、弱と書かれたスイッチを押し込む。 ゆっくり霊夢の体に刺さった5枚の刃が、静かに回転し始めた。 「・・・・・・!!」 体が切り刻まれていくゆっくり霊夢は叫び声をあげている。 にとりだけに聞こえる、断末魔の叫びである。 にとりは最後の一片まで、ゆっくり霊夢の断末魔を堪能した。 やがてゆっくり霊夢は、体が液体状になるまで細切れにされ、黒々とした液体になった。 「よし」 にとりは満足そうな表情で体を起こした。 ちゃぶ台の上に残った、ゆっくりアリスとゆっくり魔理沙は、不思議そうな表情で、にとりとミキサーを交互に見つめていた。 2匹にも、ミキサーの中にいたゆっくり霊夢が消えてしまったことが不思議でならなかった。 だが、ミキサーの回転は幼い2匹にとってあまりにも早すぎ、目の前に満たされた黒い液体と、丸くてゆっくりしたゆっくり霊夢の姿が結びつかなかった。 いつの間にか消えうせてしまったのだと、考えていたのだ。 「ゆっくりしていってね?」 ゆっくり魔理沙が疑問系の言葉を発する。 なぜ仲間が消えたのか、不思議で堪らないといった声だった。 にとりはゆっくりたちを無視し、ガラス容器を取り外すと、生地のところに持っていった。 新たにボールを取り出すと、元ゆっくり霊夢だった液体を流し込んだ。 次はゆっくり魔理沙にしたほうが洗うの楽だね、などと呟いている。 若干不安げな表情を浮かべ始めた2匹のところに、にとりは戻ってきた。 笑顔を浮かべ、ゆっくり魔理沙を掴みあげる。 にとりの手のひらに収まったゆっくり魔理沙は、何か言いたげに、もじもじと体を揺らしていた。 「ん、どうしたのさ」 「ゆー、ゆうー、ゆっくりしていってね?」 おそらく、ゆっくり霊夢はどうしたのかと聞いているのだろう。 なんとなく意味のわかったにとりは、ゆっくり魔理沙に笑顔を見せた。 白い歯が眩しい、極上の笑顔である。 「とてもゆっくりしたところに行ったんだよ!」 「ゆっくりしていってね!!!」 にとりの笑顔に、ゆっくり魔理沙も笑みを返した。 不安感が消え去ったのか、ゆっくり魔理沙は自分から、ミキサーの中に飛び込んだ。 だが、ゆっくり魔理沙は見てしまった。 顔面から落ちたゆっくり魔理沙は、下で待ち構えている金属の刃を。 「ゆっ!?」 体を捻って避けようにも時間はなく、重力に逆らう力もゆっくり魔理沙にはなかった。 スローモーションで接近してくるミキサーの刃。 顔面から落ちたゆっくり魔理沙は、両目に刃が突き刺さった。 「ゆぎゃあああ──・・・・・・」 にとりは素早く蓋を閉めたが、ゆっくり魔理沙の叫び声は、今度は確実にゆっくりアリスにも伝わった。 幼いゆっくりアリスとて、苦痛の叫びは知っている。 とてもゆっくりしていない場所に、仲間たちは入ったのだと、理解してしまった。 「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!!」 必死にゆっくりを促すゆっくりアリス。 ぴょんぴょんと飛び跳ね、ミキサーの中にいるゆっくり魔理沙に呼びかけていた。 にとりはゆっくりアリスを無視して、ミキサーのスイッチを押した。 羽音のような金属音が響き、ゆっくり魔理沙は粉々になる。 ゆっくりアリスは半分泣きながら、ゆっくり魔理沙に呼びかけ続けていた。 涙で底部を滑らせながら、呼びかけ続けている。 にとりは、同じようにゆっくり魔理沙だったものを持って行き、新たなボールに移した。 もうすぐ下ごしらえも終わりである。 意気消沈したゆっくりアリスの元に、にとりは笑顔で戻ってきた。 「お待たせ」 「ゆっくりしていってね・・・・・・」 ゆっくりアリスは泣きながら、戻ってこない仲間を探していた。 疲れ始めているのか、跳躍が低くなっている。 「ん~、そんなにゆっくりしたくない?」 「ゆっくり・・・・・・」 「ここに入れば、また一緒になれるよ」 「ゆっくり!?」 「うん。ホントだよ。オマエの仲間たちも、ゆっくり待ってるんだよ。 凄くゆっくりした場所に、行ったのかもしれないんだよ?」 「ゆっくり・・・・・・ゆっくりしていってね!!」 にとりの説明は、ある意味では正しいといえる。 3匹仲良く、天国もしくは地獄でゆっくりしろと言っているのだ。 幼いゆっくりアリスの精神は、目の前の希望にすがり付いた。 にとりの手にされるがままに、ミキサーの縁に持っていかれる。 「でもさ」 「ゆゆ?」 にとりは最後に、ゆっくりアリスに言った。 「そんなわけないじゃん」 「ゆっくりぃーーーー!!!」 感情の爆発した表情のゆっくりアリスが、ミキサーの中に消えていった。 中から小さな叫び声が聞こえ、その後大きな悲鳴が続く。 にとりは静かに蓋を閉めると、スイッチを入れた。 焼きあがった生地の上に、ゆっくりたちのペーストを載せ、さらに生地を載せていく。 三層になった黒と白のストライプが、円形に巻かれて行った。 氷室でしばらく冷やして完成。 にとりが作ったのは、ゆっくりを甘味料としたロールケーキだった。 にとりは完成したロールケーキを眺めながら、にこりと笑った。 これを宴会にもっていけば、人間たちと仲良くなれるだろうか。 楽しく作って、友好の架け橋にもなるロールケーキ。 趣味と実益を兼ねた、素晴らしい料理。 僅かな不安と期待を持って、にとりは家を後にした。 ゆっくりたちの髪飾りも髪の毛も一緒くたに混ざったロールケーキが好評だったかどうかは、 別の話である。 おわり あとがき お読みいただきありがとうございました。 ほっぺたからミキサーまでと、テンプレに書いてあったので・・・・・・。 このSSは、* さくしゃ あて シリーズ! * です。 壁のなかに(略 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1352.html
前 さて。 小一時間ほど休憩したところで、俺はゆっくり魔理沙へのお仕置きを再開することにした。 残る赤ちゃんゆっくり霊夢は四匹。 赤ちゃんゆっくりアリスを喰らって空腹感を満足させた姉妹たちは、家族が殺されたにも関わらずに箱の真ん中でのんびりと昼寝をしていた。 やれやれ、自分たちの立場が分かっているのかね? ゆっくり魔理沙は相変わらず大きさに合わない小さな箱に圧縮されて息苦しそうにしながら、殺された姉妹のことを思い出しているのか、現在の状況を振り返っているのか、ゆぐゆぐと嗚咽を洩らしていた。 その表情、たまらん。 俺の愛するゆっくり霊夢は猿轡を噛まされながら沈んでいる様子だった。 もうちょっとだけ我慢してほしい。 すぐ終わるからさ。 「おーい、起きろー」 俺は姉妹の箱を両手で持ち、がたがた揺らした。 赤ちゃんゆっくり霊夢たちは驚いて跳ね起き、混乱した頭で四方八方に飛び回る。 「ゆっ、じしんだよ!?」 「ゆゆゆ、すごいゆれてるよ!」 「ゆっくりできないよぉぉぉぉぉぉ!!!」 「ゆっくりさせてえええええぇぇぇ!!!」 ああっいい! いいよその表情! 悲鳴! ゾクゾクする! 俺は悦に浸りながら振動を止め、ゆーゆー泣き出した姉妹たちににっこりと笑いかけた。 「やぁ、起きたかい?」 「ゆっ、おにいさん!?」 「いまのはおにいさんがやったの!?」 「れいむたちのおひるねのじゃましないでね!」 「おにいさんとはゆっくりできないよ!」 相変わらず自分たちの立場を理解していない上から目線。 こいつらにもう少し知能があれば、第二のペットにしてやるのに…… とりあえず怒りの矛先が俺に向けられるのは何となく申し訳ない気分になってしまうので、責任を転嫁させてもらうことにしよう。 「悪いね。君たちのお母さんに、君たちをゆっくりさせるなと頼まれたんでね」 「ゆっ!?」 姉妹たちが母親を見る。 ゆっくり魔理沙は寝耳に水の衝撃発言に呆気に取られて反応が遅れる。 そりゃそうだろう。いきなり自分の名を出され、しかも事実無根の罪を被せられたのだから。 いやまぁ、事実無根の罪を被せるのは今に始まったことではないけど。 当然のように、ゆっくり魔理沙は否定の言葉を口にしようとする。 「うそだよ! まりさはそんなこと言わないよ!」 「って、言ってるけど、信じる?」 普通のゆっくり家族なら、母親を信じ、俺をなじる。 だが、この家族は既に普通の家族ではない。 俺がそうした。 「うそいってるのはおかあさんのほうだよ!」 「れいむたちをゆっくりさせないなんてひどいおやだね!」 「もうおやじゃないよ! おねえちゃんたちをころしたわるいゆっくりだよ!」 「わるいゆっくりはゆっくりしね!」 「「「ゆっくりしね!! ゆっくりしね!!!」」」 もう何度目になるか分からない、ゆっくりしねコール。 憤怒と憎悪が込められたそれは、本来決して母親に向けられるべきものではない。 しかしこの赤ちゃんゆっくりたちにとって、目の前のゆっくり魔理沙が既に母親でもなんでもなかった。 姉妹を見殺し。 食事を独り占め。 昼寝すら邪魔をする。 果たして、こんな自分たちをゆっくりさせないゆっくりが存在していいのだろうか。 否。 母と呼んだ存在はもう記憶の彼方に抹消した。 目の前にいるのは『敵』だ。 自分たちのゆっくりを脅かす敵なのだ。 ――なんと素晴らしい、明後日の方向に捻じ曲がってしまった的外れの怒りか! 俺は感動の涙と笑いが同時に来てしまい、思わず顔を背けてしまった。 こいつら面白すぎる。 「ゆっくりしね!」 「ゆっくりせずにしね!」 「おにいさん、あのまりさをころしてよ!」 「そうだよ! れいむたちがゆっくりできるようにまりさをころして!!!」 おおぅ、とうとう俺にまでお願いし始めた。 いかなる手段を用いても、目の前に鎮座して姉妹たちをいじめては喜んでいる(そう赤ちゃんゆっくりたちには見えている)ゆっくり魔理沙を排除したいのだろう。 で。 その対象、極めて冤罪(いや罪はあるか)を多くかけられているゆっくり魔理沙はというと、 「な゛んでぞんな゛ごどい゛う゛の゛おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 やっぱり咽び泣いていた。 休憩を挟んだおかげで、体力や気力は少し持ち直したらしい。廃人……いや廃ゆっくりにはまだならずに済みそうだ。 いいねいいねー。 泣くゆっくりはやっぱり可愛いな! 涙を流して必死な表情のゆっくりだけを集めた家に住めたら俺死んでもいい。 管理が大変なんで自分ではやらないけどさ。 これでも現実は見ているつもりである。 「では、準備があるので少々お待ちを」 俺は牙を剥いて(比喩)ゆっくり魔理沙を威嚇している姉妹たちを置いて一旦外に出た。 太陽はまだ昇ったばかりで、気温はまだまだ涼しいとは言い難いが、それでも日中の熱気に比べれば大分緩やかだ。 なんか濃密な時間を過ごしたせいで、もう昼間になってた気がしていたんだが……まだ八時といったところか。 俺は加工所で購入した二つの箱のうち、赤ちゃんゆっくりアリスが入っていたほうではないもう一つの大きな箱を手に取った。 大きいといってもサッカーボールが収納出来る程度の大きさである。 木造の箱は中身が暴れているせいか、ごとごと揺れていた。 活きがいいな、これなら期待出来そうだ。 俺は箱を持って家に戻ると、わざと音を立てて床に箱を置いた。 予想通り、好奇心旺盛な赤ちゃんゆっくり霊夢たちが先程までの怒りをすぐに消し、興味津々に眺めだす。 「ゆっ、なにそれ?」 「ゆっくりできるの?」 「ゆっくりしていってね!」 うむ、ではご期待に添えようじゃないか。 俺は全員の注目が集まっていることを確認すると、勢いよく箱の蓋を開いた。 途端、 「うー!」 中からゆっくりれみりゃが飛び出し、家の中を羽ばたきだした。 赤ちゃんだったゆっくりアリスとは違い、こちらはちゃんと成人(成ゆっくり?)したサイズである。 無論、赤ちゃんゆっくり霊夢など一口で食い殺してしまうだろう。 突然の捕食種の登場に、赤ちゃんゆっくりたちは目に見えて怯えだし、固まってぶるぶる震えだした。 「ゆ、ゆーっ!!?」 「れ、れみりゃだ、こわいよー!」 「ゆっくりできないよ、たすけてーっ!!!」 「れいむたちはおいしくないよぉぉぉ!!?」 ゆーゆー泣き出す姉妹たち。 くはっ、萌え狂う! っと、鼻血を出している場合ではない。 「れ、れみりゃはあっち行ってね! まりさたちに近付かないでね!」 ゆっくり魔理沙は身動き出来ないながらも、必死にれみりゃを追っ払おうと睨みつけている。 ゆっくりれみりゃを怖がるのは何も赤ちゃんだけではないからな。 俺のマイスウィートラブリーエンジェル・ゆっくり霊夢も怯えて固まってしまった。 ああごめんよ、我慢してね。 俺はゆっくりれみりゃが入っていた箱の底からスプレー型の小瓶を取り出すと、ゆっくり霊夢の箱に小瓶の中身をしゅっと吹きかけた。 「う、うぁー!?」 卑しくもこの中で一番丸々太っていて美味しそうなゆっくり霊夢の周囲を旋回していたゆっくりれみりゃは、霧状の粉末がゆっくり霊夢の箱に飛び散るのと同時に慌てて離れだした。 あぅ、泣き顔のれみりゃもかわええのぉ。 でも胴体付きは駄目だ。流石の俺もあれだけは可愛がれねぇ。 紅魔館の周囲にはあの豚どもがうようよ生息してるのか……あまり想像したくない光景だな。 そういえば咲夜さんも駆除が追いつかないって俺に愚痴を洩らしていたな……って、今はそんなことどうでもいいか。 「えー、注目。このスプレーはゆっくりれみりゃが嫌がる香りを吹き付ける優れものです。これがあればゆっくりれみりゃには襲われません」 「ゆっ!? じゃあはやくれいむたちにちょうだい!」 「ゆっくりしないでいそいでかけてね!」 スプレーの説明をすると案の定、助かりたい一心の赤ちゃんゆっくりたちが騒ぎ出す。 俺はそれを無視して、ゆっくり魔理沙を入れた箱にスプレーを吹きかけた。 「あ、あかちゃんたちも助けてあげてね!」 ゆっくり魔理沙は子供に責められてボロボロになりながらも、それでも子供たちを助けてやってくれと哀願してくる。 うーん、ゆっくり魔理沙にしているのが勿体無いくらい家族思いのやつだ。 二週間前、仲間が殺されたのをケロっと忘れたゆっくりと同一人物とは思えんぞ。 まぁ、箱の中にいる限りスプレーがあろうとなかろうと助かるって分かってない辺りが、ゆっくりのゆっくりたる所以なのかもしれないが。 ああでも香りが付けばゆっくりれみりゃが近寄らなくなるので、その分心労は減るかもな。 「さて、最後はこれだな」 俺は姉妹たちの箱にスプレーを吹きかけた。 途端、安心したようで赤ちゃんゆっくり霊夢たちは大はしゃぎする。 「ゆー♪ これでもうあんしんだね!」 「れみりゃをこわがらなくてすむね!」 「やーいやーい、れみりゃのばーか!」 中にはゆっくりれみりゃを小馬鹿にした顔で貶すゆっくりまで出る始末。 ゆっくりれみりゃは悔しそうに、だけど近づけないのでうーうー遠くから唸っていた。 このうーうーってやつ可愛い。 「とりあえず、これで箱は全て安全地帯となったわけですが」 自分自身にもスプレーを吹きかけ、俺は姉妹たちの箱の前に立つ。 「でも、君たちにスプレーが直接かかったわけじゃないから、箱の外に出ると安全ではなくなるわけです」 「……ゆ?」 「そ・こ・で」 俺は邪悪……もとい天使の微笑みを浮かべて、 「君たちのうち、三匹をそこから出してあげます」 「ゆ、ゆーっ!?」 赤ちゃんゆっくりたちはにわかに騒ぎ出した。 「や、やめてね! れいむたちをここからださないでね!」 「え、なんで? あれだけ出たいって言ってたじゃないか、良かったね!」 「よ、よくないよーっ!?」 「そとにでたられみりゃにたべられちゃうよ!」 「おにいさん、れいむたちをそとにだすまえにれみりゃをゆっくりなんとかしてね!」 「ごめんね! お兄さんじゃゆっくりれみりゃには勝てないんだよ!」 激嘘。 「でも大丈夫! 君たちにはチャンスがあるよ!」 「な、なに!?」 「ゆっくりしないでいってね!」 「今からゆっくり魔理沙に問題を出します。君たちがゆっくりれみりゃに捕まる前に回答することが出来たら、君たちを解放してあげるよ!」 つまりは今までと同じである。 当然、 「ゆっ、それはだめだよ!」 「おかあさんはれいむたちをころそうとしてるもん!」 「おかあさんじゃゆっくりできないよ!」 「おかあさんはころしていいかられいむたちをたすけてね!」 反発が起こる。 今まで助ける機会がありながらも問題に答えず、姉妹たちを見殺しにしてきた母。 今更そんなゆっくりを信用出来るはずがない。 「ぞん゛な゛ごどな゛い゛よ゛ぉぉぉぉぉ!!! ま゛り゛ざはぢゃんどれ゛い゛むだぢを゛だずげる゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 そして、こちらは信頼を裏切り続けるゆっくり魔理沙。 答えられるはずもない無理難題を押し付けられ、逆恨みを買いまくっているあまりにもゆっくり出来ない哀れな存在。 激しく嗜虐心をそそります、はい。 ぶっちゃけ、そろそろ子供たちを見捨ててもいいと思うんだ。 愛しているのに、その愛が全然、まったく、これっぽっちも伝わらない悲しさ。 同情を買う? いいえ、滑稽です。 「残念ながらルールの変更は認められません。精々、ゆっくり魔理沙が回答に辿り着けることを祈っていてください」 「そんなのしんじられないよ!」 「どうせおかあさんじゃこたえられないよ!」 赤ちゃんゆっくり霊夢たちが発言するたびにゆっくり魔理沙の心がザクザク傷付けられていく。 最っ高! 「何を言っても駄目でーす。それではゲーム、スタート!」 「「「「ゆ、ゆっくりしていってよー!?」」」 「お、おねえちゃーん!!!」 俺は四匹のうち、末っ子だけを残して、三匹を外に出した。 するとすぐに、空腹でイライラと部屋中を飛び回っていたゆっくりれみりゃが、歓喜の表情で突撃してきた。 「ぎゃおー! たーべちゃうぞー♪」 「や、やだぁー!!!」 「ゆっくりやめてね!!!」 「ゆ゛っぐりでぎな゛い゛よ゛お゛お゛おぉぉぉぉぉ!!!」 赤ちゃんゆっくりたちは涙目ながらも生存本能からか高速で散開。勢いを止められず、ゆっくりれみりゃは先程まで三匹がいた床に激突する。 「う、うわぁー!!!」 泣き出すゆっくりれみりゃ。 か、かわえぇ! っと、見とれている場合ではない。 このままでは不公平だしな。 俺はゆっくり魔理沙に向き直った。 「では問題です」 「は、はやく出してね!」 「いやいや、遠慮すんな。いつも通りゆっくり答えろよ」 「ゆっくりできないよ!!! はやくもんだい出してね!!!」 俺の後ろでゆっくりれみりゃに捕獲されないよう、必死に逃げ惑う子供たちの姿が見えているのだろう、ゆっくり魔理沙が俺を急かす。 やれやれ、仕方無いな。 「では問題です。『れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!』これを千回言ったら子供たちを助けてあげるよ」 あ、『問題』じゃねーやこれ。 まぁいいか。 ゆっくり魔理沙は驚いて目を見開いていた。 「そ、そんなこと言えないよ!」 「じゃあ、赤ちゃんをゆっくりれみりゃに食われるのを黙って見てるんだな」 「そ、それはだめだよ!」 「じゃあ言うんだ。途中でつっかえたりしたら、もう一度初めからやり直しだからな」 「ゆっ……」 諦めたように瞼を閉じ、ゆっくり魔理沙は息を吐き出した。 言いたくない台詞を言わなくてはいけない葛藤。 だが、それでも親の愛が勝るのだろう。 ゆっくり魔理沙は大声を上げた。 「れ……れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」 「おーいお前ら、お母さんがこんなこと言ってるぞー!」 「ゆっ!?」 突然赤ちゃんたちに話を振る俺に驚くゆっくり魔理沙。 ブランコや滑り台などの遊具を使って必死に逃げ惑っている赤ちゃんゆっくり霊夢たちは、突然の母の暴言にまたも怒りを曝け出す。 「な゛ん゛でぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!?」 「やっばり゛おがあ゛ざん゛じゃゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!!」 「ゆ゛っぐり゛じね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ!!!」 「ち、ちがうよ! おかあさんはれいむたちをたすけようと」 「はいアウトー! 規定の台詞以外の言葉をしゃべったのでもう一度最初からね!」 「ゆっくり!?」 そう、これはどれだけなじられようともゆっくりれみりゃに自分の子供を差し出す台詞を言い続けなければならない拷問。 今頃それに気付いたのか、ゆっくり魔理沙の瞳から涙が止め処なく溢れ出した。 「ひ、ひどいよぉぉぉぉぉぉ!!! ま゛りざだぢがな゛に゛をじだのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 「シチュー落っことしたじゃねーか」 もう忘れたのかよ。 「ほら、早く言わないと千回言い終わる前に子供たちが全員食べられちまうぞ?」 「ゆ……」 再びの葛藤。 だがやらないと子供は助からない。 ゆっくり魔理沙は泣き顔で、もう一度言葉を繰り返し始めた。 「れ、れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」 「ゆっぐりじねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「れ゛み゛りゃはまりざのあがぢゃんをゆっぐりだべでいっでね! れ゛み゛り゛ゃはま゛り゛ざの゛あがぢゃん゛をゆ゛っぐり゛だべでい゛っでね゛っ゛!!」 糾弾され、涙声になっても、今度は言葉を止めずに言い続けるゆっくり魔理沙。 この全てに絶望したような顔、素晴らしい! これだからゆっくりいぢりは止められないのだ。 さて、ではそろそろ赤ちゃんゆっくり霊夢たちのほうに視線を移してみよう。 「うー! うー!!」 「こっちにこないでねぇぇぇ!!?」 「れいむっ、こっちだよ、はやく!」 「ゆっ、ありがとうおねえちゃん!」 成体のゆっくりれみりゃじゃ潜り抜けられないようなブランコや滑り台の小さな隙間を使い、上手く攻撃をかわしている。 なかなかやるなぁ。もしかしたらペット用ゆっくりになれる素質の持ち主かも。 対するゆっくりれみりゃはかなりご機嫌斜めのようだった。 自分より格下の存在であるゆっくり霊夢、しかも赤ん坊をなかなか捕食出来ないのだから当然だろう。 しかも加工所からここまで、何も食べていないのだ。空腹も怒りに拍車をかけている。 考えなしに広い場所へ行かず、真っ先にこの場所へ陣取った姉妹たちの作戦勝ちといったところかな。 ……まぁ、実はゆっくりれみりゃが嫌がる香りを浴びた箱にぴったりくっついていれば、このゲーム楽に勝てたりするんだけどね。 そこに気付かない辺りは、やはりゆっくりといったところだろう。 「れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね……れみりゃは……」 呪詛のようにぶつぶつ呟き続けるゆっくり魔理沙。 その声は、ここにいる全てのゆっくりに聞こえている。 逃げ惑うゆっくり姉妹たちはゆっくりれみりゃの攻撃を避けながら、ずっとその言葉を聞き続けていた。 母でありながら自分たちの死を願う、その言葉を。 何度も、何度も。 そして。 ついに一匹の赤ちゃんゆっくり霊夢が、キレた。 「ゆ゛っぎぃ゛ぃ゛ぃぃぃ!!! う゛る゛ざぐでゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 リボンの番号を見るに三女か、赤ちゃんゆっくり霊夢3が怒りに頬を膨らませてゆっくり魔理沙の元へ走り出した。 どうにかしてゆっくり出来ない声を止めようと考えたのだろう。 しかしそれは、なんという自殺行為。 「うー♪」 「おね゛え゛ぢゃん、に゛げでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「……ゆっ!?」 周囲に障害物はない。 身を隠す場所は、何も無い。 ゆっくりれみりゃはこの上なく無邪気な笑顔を浮かべ、何も遮るもののない赤ちゃんゆっくり霊夢3までの距離を、高速で飛翔し零とした。 妹の悲鳴に赤ちゃんゆっくり霊夢3が振り向けば、そこには眼前にドアップで迫るゆっくりれみりゃの姿。 「うー!」 「ゆゆゆ、ゆっくりまっ……ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 頭上へと昇ったゆっくりれみりゃは、その身体を急降下させて赤ちゃんゆっくり霊夢3を押し潰した。 飛び散る餡子。 平べったくなった饅頭の肉体。 「れ゛い゛む゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 「ゆ゛……ゆ゛べっ……」 姉の悲痛な悲鳴。 それに身体を弱々しく震えさせながら、反応する赤ちゃんゆっくり霊夢3。 大量の餡子を吐き出しながら、それでも赤ちゃんゆっくり霊夢3は生きていた。苦しそうに呻きながら、必死に現在の状況から逃げ出そうともがいている。 無論、それを見逃すほど、ゆっくりれみりゃは捕食種としてお人好しではない。 「うっうー♪ たべちゃうぞー♪」 「ゆびゅぅ!? れ、れ゛い゛む゛のがら゛だをだべな゛い゛でねっ!?」 赤ちゃんゆっくり霊夢3の頬に齧りつくゆっくりれみりゃ。そのまま少しずつ、ゆっくりと味わうように咀嚼していく。 皮が千切れ、餡子が溢れ出る都度、赤ちゃんゆっくり霊夢3は絹を裂くような悲鳴を上げる。 「や゛め゛でぇぇぇぇぇぇぇ!!! ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「うー♪」 しかしその悲鳴も、ゆっくりれみりゃにとっては食事を彩る調味料としかならない。 いや、それとも、ゆっくりの悲鳴など鼻から耳に届いていないのか。 兎にも角にもゆっくりれみりゃは上機嫌で、赤ちゃんゆっくり霊夢3の身体を全て完食してしまったのだった。 「ま゛、ま゛り゛ざのあがぢゃぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん゛!!!」 ゆっくり魔理沙は耐え切れず、慟哭の涙を流した。 自分の言葉のせいで、子供が死んでしまった。 その嘆きは如何ほどのものなのだろうか。 ……まぁ、それはそれとして。 「はいアウトー。指定された言葉以外の発言をしたからもっかい最初からねー」 「ゆっぐ!?」 ゆっくり魔理沙はしまった、といった風に目を見開いた。 そう、これは子供が食べられてしまっても、自制しなければならない罠でもあるのだ。 ゆっくり魔理沙は少し先のことも考えずに本能のまま行動してしまった結果、ただでさえ少ない救出の確率を更に下げてしまったのだ。 慌てて再び「れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」と言うが、もう遅い。 先程までの70回くらいは全てパーだ。 「うっうー♪」 ゆっくりれみりゃは口の周りに餡子を付けながら、上機嫌に羽根を広げて舞い上がる。 そして先程残してきた姉妹、残り二匹の元へと向かった。 「お゛ね゛えぢゃんがぁぁぁ……」 「ゆっ!? ゆっくりしてたらたべられちゃうよ! ここからはなれようね!」 ゆっくりれみりゃの接近に気付いた赤ちゃんゆっくり霊夢1は姉の死にぐずぐず泣き崩れる妹のリボンを加えて、滑り台の下へと引っ張る。 間一髪。ゆっくりれみりゃの牙は赤ちゃんゆっくり霊夢5を傷付けることなく、逆に超スピード(といってもあくまでもゆっくり基準なのだが)のまま滑り台に激突し、顔面の激痛で大粒の涙を零した。 「う、うぁー! うぁー!!」 顔を真っ赤にして泣き叫ぶゆっくりれみりゃ。頬ずりしたい。 姉妹はその様子を確認すると、今度はブランコの方に移動を開始した。 気付いたゆっくりれみりゃも、ふらふらと後を追う。 「ゆっ、おいかけてきたよ!」 「だいじょうぶだよ! ゆっくりまかせてね!」 心配そうな妹の声に力強く頷き、赤ちゃんゆっくり霊夢1は前方にぶら下がったブランコを口に加えてずりずりと後退し、限界まで引っ張ると口を離した。 勢いよく吹き飛んだブランコは、無防備に近付いてきたゆっくりれみりゃへと一直線に激突する。 ばしん、という思わず目を背けてしまう光景と音。 「うぁーーー!!!」 余程痛かったのだろう、弾き飛ばされたゆっくりれみりゃは、地面にへばりついてわんわんと泣き出してしまった。 萌ゑる。 一方、捕食種への反撃が見事に決まった姉妹たちは、大喜びで飛び跳ねていた。 「ゆっゆっゆー♪ おねえちゃん、すごーい!」 「ゆゆーん♪ ゆっくりできないれみりゃはゆっくりしんでいってね!」 二匹して勝利のダンス。箱に取り残されている末っ子ゆっくりも遠目に見える姉妹の活躍にはしゃいでいた。 しかし、勝利の美酒に酔いしれる三匹の餡子脳は、まだ死神が遠のいていないことに気付いていなかった。 突如。 頬をすり合わせて喜びを表現していた姉妹の片方、赤ちゃんゆっくり霊夢3が、赤ちゃんゆっくり霊夢1の眼前から一瞬で消失した。 「…………ゆ?」 赤ちゃんゆっくり霊夢1は何が起こったのか、一瞬では理解出来ない。 妹は何処へ行った。 と。 視界の端に、引っかかるものがあった。 黒い、点々とした影。 それが、何処かへと続いている。 赤ちゃんゆっくり霊夢1は無意識に、その黒い影の先へ視線を移した。 そして。 妹は、そこにいた。 「……」 物言わぬ亡骸となって。 大量の餡子を撒き散らしながら。 「ど、どお゛じでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」 泣きながら妹に駆け寄ろうとする赤ちゃんゆっくり霊夢1。 刹那、 ごぅん! 一迅の風が舞う。 赤ちゃんゆっくり霊夢1の頬をかすめ、ブランコが眼前を通り過ぎ、また戻っていった。 餡子を少量、付着させて。 ――つまり、なんだ。 妹は、ブランコとぶつかって、死んだ。 ブランコを動かしたのは自分。 だから。 妹を殺したのは。 「あ……ああぁ……あ゛あ゛あああ゛ああ゛あ゛あああ゛あああ゛あ゛あぁぁ゛ぁ゛あ゛ぁあ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁ゛あぁ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛ああ゛あ゛!!!」 赤ちゃんゆっくり霊夢1はこれでもかというくらいの大声量で悲鳴を上げた。 生まれてからずっと一緒にゆっくりしてきた妹。 それが、死んだ。 自分が殺してしまった。 ゆっくり出来なくしてしまった! 赤ちゃんゆっくり霊夢1は半狂乱になり、しっちゃかめっちゃかに周囲を飛び跳ね、奇声を上げながら床に自分の身体をぶつけ始める。 身体の痛みで、心の痛みを少しでも和らげようとしているのだろうか。 だけど、そんな余裕でいいのかな? 「うー!!!」 ようやく泣き止んだゆっくりれみりゃが、逆襲のために赤ちゃんゆっくり霊夢1の下へと向かう。 悲嘆に暮れて自傷を繰り返す赤ちゃんゆっくり霊夢1は、それに気付かない。 箱の赤ちゃんゆっくり霊夢7は立て続けに姉を失い、泣き叫んでいたため反応が遅れる。 ゆっくり魔理沙は目を瞑って同じ言葉を繰り返す機械のようになってしまっているため、既に見えていない。 「あ゛ぁあ゛あぁ゛ぁ゛ぁあ゛ああ゛あ゛ああ゛……ゆ゛っぐり゛ぃ!?」 「うっうー!!!」 ゆっくりれみりゃは飛び跳ねる赤ちゃんゆっくり霊夢1の頭を見事にキャッチすると、加速を付けたまま壁に投げつける。 思ってもみなかった突然の激痛に、赤ちゃんゆっくり霊夢1は正気を取り戻して悲鳴を上げた。 「い、い゛だい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!!」 口から餡子を吐き出しながら苦しみ悶える。 ゆっくりれみりゃはそんな赤ちゃんゆっくり霊夢1の頭上に陣取り、赤ちゃんと比較して三倍以上もある大きさの身体でプレス攻撃を仕掛けた。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 絶叫。 ゆっくりれみりゃはその声に満足した様子で、またプレス攻撃をする。 何度も、何度も。 「や゛めでぇぇぇぇぇ!!! ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛お゛お゛おお゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!!」 明らかに殺すことが目的ではない手加減した攻撃。 食べるためではなく、苦しめるためだけの攻撃に、赤ちゃんゆっくり霊夢1はただひたすら泣き叫ぶ。 苦しい。 痛い。 助けて。 そういった感情が、見ている俺のほうにも伝わってくるようだ。 だけど、ゆっくりれみりゃは攻撃の手を休めない。 もうそろそろ死ぬ、といったところでプレス攻撃を止め、赤ちゃんゆっくり霊夢1の頭に齧り付き、中の餡子を吸い上げ始める。 「ゆ゛っぎぃ゛ぃ゛ぃぃぃぃぃぃ!!! や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇ!!! れ゛いむ゛のあ゛ん゛ごずわな゛いでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 身体の中身がどんどん失われていく感覚。 段々と、赤ちゃんゆっくり霊夢1の顔から生気が抜け落ちていく。 しかし後ちょっと、というところで、ゆっくりれみりゃはまた動きを止めた。 今度は赤ちゃんゆっくり霊夢1の身体に自分の身体を押し付け、直にそのまま押し潰そうとする。 先刻のプレス攻撃と比べて、一瞬の激痛が何度も往復するのとは違う、永劫に感じられる苦しみが続く拷問。 激しい圧迫感、赤ちゃんゆっくり霊夢1は瀕死で朦朧としているが、痛みにびくんびくんと身体を震わせる。 もう悲鳴を上げる元気もないのだろう。 ただ、掠れた呻き声を上げながら、苦痛の涙でぐしょぐしょになった顔を激痛で更に歪ませるだけ。 やがて赤ちゃんゆっくり霊夢1は耐えられる限界を超え、身体のあちこちから餡子を撒き散らせながらぷちっと潰れ、絶命した。 「うっうー♪」 ゆっくりれみりゃは大勝利、とばかりに軽快に飛び回る。 復讐を完遂させて満足なのだろう。 幸せそうな笑顔で、飛び散ったゆっくりの死体をぱくぱくと食べ始めた。 「うー♪ うまうまー♪」 「お゛ね゛ぇぢゃん゛だぢがぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛あ゛ぁぁ!!!」 その光景を見て、滂沱の涙を流すのは箱に閉じ込められ、唯一死亡を免れた姉妹の末っ子。 その泣き顔にクるものを感じながら、俺は未だに「れみりゃはまりさのあかちゃんをゆっくりたべていってね!」と言い続けているゆっくり魔理沙の箱を蹴り、言ってやった。 「おい、もういいぞ」 「……ゆっ?」 「もう全員死んだ。良かったな、お前の言ったとおり食べて貰えて」 「……う゛わ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛あぁぁぁ!!!」 ああ、いい。 何度聞いても、ゆっくりの絶望の悲鳴というものはいいものだ。 その後、俺はゆっくりれみりゃを捕まえ、元々入っていた箱に再び閉じ込めた。 こいつにはまだ用がある。後でまた出してやるからな。 で。 七匹もいた赤ちゃんゆっくりたちも、ついに残すところ一匹だけとなってしまった。 可哀想なのでこいつだけ森に返してやろう……なんて気はない。 だが、そろそろゆっくり魔理沙も精神が限界に来ている。 さっきから「燃え尽きたぜ……真っ白によ……」みたいな感じでボケーっとしている姿は、誰が見ても廃人一歩手前だ。 壊れると、楽しみがなくなってしまうからな。 なので、いい加減子供と再会させてあげることにした。 ゆっくり魔理沙と赤ちゃんゆっくり霊夢7を箱から出してやる。 感動の親子の再会だ(いや、ずっと顔は見えていたが)。 「れ……れいむ……れいむぅぅぅ!!!」 子供の姿が手に届く場所にあると認識したゆっくり魔理沙は、もう離さないとばかりに赤ちゃんゆっくり霊夢7に駆け寄った。 色々辛いこともあったが、これからは二人仲良くゆっくりしていこう! そんな感じで喜色満面の笑顔を浮かべている。 だが。 「ゆっぐりじねぇぇぇぇぇぇ!!!」 「ゆっぐりぃぃぃぃ!!?」 突然、娘に腹の部分(?)を噛み付かれ、悲鳴を上げた。 「な、な゛にずるの゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!?」 所詮プチトマト程度である大きさの赤ちゃんゆっくりに噛み付かれた程度、成長してバレーボール程度になった成人ゆっくりにとって箪笥の角に小指をぶつけたくたいの痛みでしかない。 だが、相手が自分の娘というのなら話は別だ。 身体の痛みより、心の痛みのほうが何倍も自分を傷付けることだろう。 「う゛る”ざい゛! ゆっぐりじねぇぇぇぇぇ!!!」 「ゆぎゃぁぁぁぁ!!! や、やめてねっ!!! お母さんのからだを食べないでねっ!!!」 「お゛まえな゛んが、お゛があざんじゃな゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃぃぃ!!!」 痛みにぶんぶん身体を捩じらせ、振りほどこうとするゆっくり魔理沙。 だが怒りに濡れる瞳の赤ちゃんゆっくり霊夢7は、死んでも離さないとばかりに噛み付くのを止めない。 そこにいるのはゆっくりすることなどもはや眼中にない、憎悪の塊。 自分の姉妹全員を悉く皆殺しにして悦に浸っている母を抹殺しようとする怒りの権化。 俺が誘導したとはいえ、なんという勘違い。なんという思い込み! 感動しすぎてちょっと涙が出てきた。 「ぢがう゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ!!! お゛があざんはれ゛い゛むだぢを゛だずげよ゛う゛どじだよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!?」 「う゛ぞづぎま゛りざはゆ゛っぐり゛じな゛いでじねぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!!」 「い゛だぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁぁっ!!? い、い゛……い゛い゛がげんに゛゛じでよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」 「ゆ゛べぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!?」 お、ついに堪忍袋の尾が切れたのか、ゆっくり魔理沙が怒声を上げた。 力強く跳躍して自分の皮ごと強引に娘を吹き飛ばすと、今までの鬱憤を晴らすかのごとく、赤ちゃんゆっくり霊夢7に体当たりを仕掛ける。 「ま、ま、まりざがどれだけくろうしたのか、分かってるのぉぉぉ!!?」 「ゆぎぃぃぃぃぃ!!?」 「それなのに、み、みんなでゆっくりしねって……そんなのひどすぎるよぉぉぉぉぉぉ!!!」 「やめでぇぇぇぇ!!! れ゛いむのあん゛ごはみでぢゃうよ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」 「まりざ、もっどゆっぐりじだがっっだのにぃぃぃぃ!!! れいむだぢがぁぁぁぁぁ!!!」 「いだいよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!! ごめ゛んなざい゛ずる゛がらゆ゛る゛じでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!!」 何度も何度も体当たりされて吹き飛ばされる赤ちゃんゆっくり霊夢7は、もう自力で動けないくらい重傷だ。 だが、涙で視界がぼやけ、更に怒りでいっぱいいっぱいのゆっくり魔理沙は、そのことに気付かない。 「おがあざんはおがあざんなんだよぉぉぉ!!! ちゃんどわがっでるのぉぉぉぉぉぉ!!?」 「わ、わがっ……ゆぴっ……も、もう……ぴげぇっ」 「だいへんなのはれ゛いむ゛だぢだけじゃないんだよぉぉぉ!!? ま゛りざだっでゆ゛っぐりでぎながっだんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 「ゆっ……じだ……だよ……」 「う゛わ゛ぁ゛ぁぁぁ゛あ゛あぁあ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛あ゛ああ゛ぁあ゛ぁ゛ぁあ゛ぁっ!!!」 「……」 「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あぁ゛ぁ゛ぁぁあ゛あぁ゛ぁぁ゛ぁああ゛ぁあぁ゛ぁぁあ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!」 「ストップ、そこまでだ」 事の成り行きを見守っていた俺は、事態が終わったことに気付いてゆっくり魔理沙の身体を持ち上げた。 未だ興奮冷めやらず、といった様子でふーふー荒い息をついているゆっくり魔理沙は、逃れようとじたばたもがく。 「は、はなしてねっ! まりさはまだ……」 「下をよく見ろ」 「……ゆっ?」 言われて、はっと気付いたようにゆっくり魔理沙は視線を下に移す。 そこには、 「……」 物言わぬ亡骸と化した潰れ饅頭が転がっていた。 「ゆ゛、ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」 「いやー、すごい殺しっぷりだったな! 自分が気に入らないなら子供だって簡単に殺す! 酷いゆっくりだな、お前は!」 「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇ!!! ま゛りざはぢがう゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」 「えー、どう違うんだよ。今さっき自分で殺したんじゃないか。自分の子供を。助けてって言ってたのに!」 「う……う、う゛る゛ざぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁい゛!!! も゛どはお゛兄ざん゛がゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛ひとだがら゛い゛げな゛い゛ん゛でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」 「はぁ? 何言ってるんだ、俺はちゃんとお前にも答えられる問題を出してやったぞ。それをゆっくりしすぎて答えられなかったんだから、お前が悪いに決まってるだろ」 勿論生死に関わる状況に追い込んだのは俺だから俺が悪い。 だけど子供を殺したばかりの罪悪感の塊であるゆっくり魔理沙は、俺の言葉を鵜呑みにしてしまう。 元々、悪いことをしたという負い目はあったのだ。 箱に詰められたときに、それに気付いていた。 そのまま全員殺されていてもおかしくはなかった。 でも、生き延びることを許された。 そして、助かるチャンスはいくらでもあった。 どれもこれも、無理難題――例えば変形してみせろとか、大空を舞ってみろとか、赤ちゃんを全員食えとか――ではなかった。 ゆっくりせずにちゃんと考えれば、答えられていたはずなのだ。 だけど、答えられなかった。 何故? それは。 自分が、ゆっくりしていた、から。 赤ちゃんを助けるために、真に全力ではなかった、から。 それに気付いた時、ゆっくり魔理沙の瞳から涙がぽろりと零れた。 今までのように騒いだりしない。 ただ、何かを悟ったような、そんな憑き物が落ちたような顔だった。 「……ころして」 「なに?」 「まりさをころしてね……赤ちゃんたちがいないなら、もうゆっくりできないよ……」 俺は驚いた。 まさかゆっくりが自分の殺害を依頼するなんて。 それ程までに、自分の子供が大切だったのだろう。 仲間のことはすぐ忘れたというのに。 過去に何かあったのだろうか。 ……まぁ、興味ないけど。 「殺して欲しいのか?」 「うん……ゆっくりせずにころしてね……」 「だが断る」 「……ゆっ!?」 ゆっくり魔理沙が驚愕の表情で俺を見上げる。 俺はニコリと、天使のような慈愛の表情を浮かべた。 「俺は自分の手で何者かの命を奪うのは大嫌いなんだ。だから、お前は殺さない」 だって、殺すと反応がなくなってつまらないから。 「もっと苦しんでもらうよ、ゆっくり魔理沙」 続く。? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1323.html
前編へ 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 真夏の太陽を天に抱いた森の中、ゆっくりたちの声が木霊する。 大人のゆっくりのものが一つと、赤ちゃんゆっくりのものがたくさん。 群生する草を掻き分けて、最近の幻想郷ではよく見かけられるようになった、ゆっくり家族の姿が現れた。 「ゆっゆっ、おひさまきもちいいね!」 「ゆっくりできるね!」 「あ、アリさんがいるよ!」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 生まれてまだ間もないであろう、ミニトマト程度の大きさしかない赤ちゃんゆっくりたちは、元気にはしゃぎまわっている。 種類は全てゆっくり霊夢種であり、小さなリボンをはためかせて元気いっぱい飛び回る姿は人間の子供たちと左程変わりない。 そしてそんな微笑ましい光景を、後ろから優しい顔つきで見つめるゆっくりが一匹。 「あまり遠くに行かないでね!」 ゆっくり魔理沙だった。 バレーボール程度もある身体を揺らして、四方八方に行こうとする自らの子供たちに注意を向けている。 「おかあさん、アリさんいっしょにたべよ!」 「お母さんはだいじょうぶだよ! みんなで食べるといいよ!」 「わーい♪」 「ゆっくりたべるね!」 「おかあさんだいすき!」 列を成して歩くアリの集団を見つけた赤ちゃんゆっくりたちは、小さな舌を伸ばしてアリを食べ始める。 近くに湖が存在し、生き物がたくさん生息しているこの場所は、ゆっくりたちが過ごすには快適すぎるほどのゆっくりスポットだった。 幸せそうにアリを頬張る赤ちゃんゆっくりたちの姿を慈愛の表情で見つめるゆっくり魔理沙。 その左頬は、他のゆっくり魔理沙と比べて、ほんの少しだけ歪な形をしていた。 二週間前、人間の手によって失われ、そして再生した結果だった。 そう――このゆっくり魔理沙は、あの無礼な態度のせいで『お仕置き』されたゆっくりだった。 あの後、怪我による衰弱で意識不明の重態に陥っていたゆっくり魔理沙は、偶然通りがかったゆっくり霊夢に助けられた。 一週間の看病の末、餡子の大半を失っていた身体は万全とはいかないまでも回復。 お礼を兼ねての親愛の表現として身体を寄せ合って揺すり合い、ついムラムラしてそのまま性交に発展してしまった。 助けてくれたゆっくり霊夢は黒ずんで朽ちてしまったが、代わりに可愛い赤ちゃんがなんと七匹も生まれたのだった。 それからゆっくり魔理沙は母として、赤ちゃんたちを育てている。 右も左も分からぬ森の中での生活だったが、暮らし始めてみれば今まで暮らしていた場所より遙かに快適で、既に安住の地と化している。 あの男が言っていた野良犬やゆっくりれみりゃ、ゆっくりアリスの姿も見かけない。 ……あの男。 顔を思い出す度に、ゆっくり魔理沙の左頬がじくじくと痛み出す。 あの男には酷いことをされた。 ――しかし、あの男を怒らせるようなことを、自分は仕出かしてしまったのだ。 そう考えるゆっくり魔理沙。別に知能が上がったわけではなく、単にトラウマが生じているだけなのだが、本人はそのことに気付いていない。 ――今でも怒っているのだろうか。 あれ以来、人里には近付いていない。場所が分からないということもあるが、近付いてあの時と同じような目に合いたいとは、二度と思わなかった。 「おかあさん!」 思考に没頭していたせいか、ゆっくり魔理沙は自分の子供が目の前に来ていたことに気付かなかった。 慌てて思考を中段し、微笑みを作る。 「ゆっ、どうしたの?」 「みてみて、アリさん!」 赤ちゃんゆっくり霊夢が舌をべっと伸ばす。その先には、踏まれてぺしゃんこになったアリの死骸がくっついていた。 「えらいね! ちゃんととれたんだね!」 「ゆゆっ♪」 褒められたことが嬉しいのだろう、赤ちゃんゆっくり霊夢はその場で踊るように飛び回る。 その愛らしい姿を見て、ふと電撃のような閃きがゆっくり魔理沙の脳裏に浮かんだ。 この可愛い赤ちゃんたちを見れば、きっとあの男も許してくれるに違いない! それは人間からすれば何とも愚かな考えだったが、今のゆっくり魔理沙にとって天啓ともいえる閃きだった。 早速赤ちゃんたちを全員呼び集め、高らかに宣言する。 「今からお兄さんのおうちへしゅっぱつするよ!」 「ゆ?」 「おにいさんってだれ?」 「ゆっくりできるの?」 「とてもゆっくりできるよ! おいしい食べ物があるし、れいむたちよりも大きなれいむもいるよ!」 「ゆゆっ!?」 「いきたい!」 大はしゃぎする赤ちゃんゆっくりたち。「ゆっ♪」「ゆっ♪」と楽しげにその場で飛び跳ねている。 それが静まるのを待ってから、ゆっくり魔理沙は記憶を頼りに道を歩み始めた。 「それじゃ、ゆっくり行こうね!」 「「「ゆっくりいこうね!!!」」」 時は少し遡り、早朝。 俺は知人の美鈴さんから習った太極拳を練習していた。 別に拳法に目覚めたわけではなく、ここのところ働き詰めだったので、健康のためにやっているだけだ。 ゆっくり魔理沙に『お仕置き』してから一週間くらい経ったころだろうか、俺の勤め先でちょっとしたトラブルが生じた。 それ自体は解決したのだが、それの尻拭いのために俺や同僚たちは朝から深夜までずっと駆り出され、今日まで一週間ずっと働きっぱなしだったのだ。 おかげでゆっくり霊夢には寂しい思いをさせてしまった。こういうとき、畑仕事をしている人が羨ましいと思ったりもする。 だけどまぁ、五年前に外の世界から迷い込んできた外来人である俺に土地なんてあるはずもなく、こうして家を持てただけでも大したものなのだろう。 「……ゆ?」 ゆっくり霊夢が眠りから目覚めたようだ。きょろきょろ周囲を見渡し、俺と目が合うや否や、 「ゆっくりしていってね!」 とお決まりの挨拶。 うぅん、相変わらずぷりちーなナマモノだ。 頬ずりしたくなる衝動をグッと堪えて、朝食の準備に取り掛かる。 その間ゆっくり霊夢はずりずりと腹ばいで俺の足元に近付き、ずっと身体を摺り寄せていた。 普段こいつが起きる前に家を出ていたので、久しぶりのスキンシップが取りたいのだろうか。 萌え死ぬ。 足の親指で頬のあたりをくすぐってやりながら、てきぱきと料理を作る。 外の世界のガスコンロと比べて竈は使い辛い(そもそも使ったことが無かった)が、今ではすっかり慣れたものだ。 今日は夕飯にも再利用出来るシチューを作る。 器に注ぎ、おひたしに鰹節を振りかけて醤油をかけた皿と丁度炊き上がったお米を並べて完成。 テーブルの上に乗せ、少量を別の皿によそうと、ゆっくり霊夢が食べやすいように床に置いた。 「いただきます」 「ゆっくりいただくね!」 ゆっくり霊夢は舌を器用に使い、零さず綺麗にご飯を平らげる。うーん、美しい。 おっと、感心してないで俺も早く食べなくてはな。 外の世界にいた頃と比べてずいぶん質素になった朝食を手早く食べ終え、皿を水の入った桶につけておく。帰ったら洗おう。 「じゃあ、行ってくる。今日は通常業務だからいつもの時間に帰れるよ」 「ゆっ、本当!?」 「ああ。それに明日はお休みも貰っている。一緒に遊ぼうな」 「ゆっくり待ってるね!」 ゆっくり霊夢に見送られながら、俺は家の扉を閉めようとして―― ごしゃん。 「……」 忙しくて修理する暇のなかった扉が、ついにご臨終なされたようだった。 なんか変な方向に曲がっており、動かそうとしてもビクともしない。 どうしよう、時間をかければ直せそうではあるが、そうすると仕事の開始時間に間に合わない。 扉は中途半端に開いたままだ。別に泥棒に盗られて困る貴重品はないが、野犬やゆっくりたちが入り込んでくる可能性もある。 仕方無いので、雨漏りの修理用に何本かストックしてある木の板を裏から持ってきて、扉の前に置いた。 あとは野犬の目の高さくらいの位置にいらなくなった新聞紙を米を糊代わりにしてくっつける。 突撃されたらすぐ剥がれてしまうが、多少の目眩ましにはなるだろう。 「いいか、知らない人が来ても追い返すんだぞ。お前のリボンにつけたペット証があれば、誰もお前を傷付けないからな」 「わかったよ!」 ちょっと心配だったが、仕事はしないといけない。 俺は何度も振り返りつつ、家を後にした。 時間は過ぎて、三時を過ぎたころ。 ゆっくり霊夢が主人の作ってくれた手製の滑り台で遊んでいると、何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた。 どうやら玄関の方かららしい。この家に来客は滅多に来ないので、ゆっくり霊夢は多少警戒しながら扉に近付いた。 「ゆっ、誰かいるの?」 「れいむ! まりさだよ!」 「ゆゆっ、まりさ!?」 聞こえた声は、懐かしい知人のものだった。 二週間前、たった一日だけ遊んだ友達。主人から家に帰ったと聞かされて残念な思いをした記憶が蘇る。 板と新聞紙の隙間から外を覗くと、確かに見覚えのあるゆっくり魔理沙の姿があった。 「どうしてここに?」 「遊びに来たよ! ゆっくりさせてね!」 「ゆゆっ! ゆっくりしていっ……ん……」 「……? れいむ、どうかしたの?」 ゆっくりしていってね、とお決まりの台詞が聞けると思ったゆっくり魔理沙は、訝しげな視線をゆっくり霊夢に送る。 ゆっくり霊夢を引き止めたのは、主人が出かける前に言った言葉だった。 『知らない人が来ても追い返すんだぞ』 何者かがこの家に来たのなら、自分は追い返さなければならない。 しかし…… 「ゆっくり入れてよ! れいむに見せたいこどもたちもいるんだよ!」 「ゆっ、子供!?」 ゆっくりとしての本能を刺激する単語に、ゆっくり霊夢はぴくりと反応して顔を上げた。 「そうだよ! みんな、れいむにあいさつするんだよ!」 ゆっくり魔理沙の言葉に、板の向こうから赤ちゃん特有の甲高い声が幾重にも折り重なって唱和された。 「ゆっくりしていってね!」 「おねえちゃん、おかおがみえないよ!」 「はやくいれてね!」 「そこはゆっくりできるところなの?」 「ゆっくりさせてね!」 ゆー、ゆーと甘い鳴き声。ゆっくり霊夢は理性と本能のせめぎ合いでおろおろする。 主人は、ゆっくり魔理沙たちが部屋に入ることを是としないだろう。 しかし、赤ちゃんたちを見たい衝動が心の内よりどんどん溢れてくる。 主人への忠節を取るか、自身の抑えがたい興味を優先させるか。 悩みに悩んで、ゆっくり霊夢が取った行動は、 「今、この板をどけるよ! ゆっくり下がってね!」 ゆっくり魔理沙たちは知らないゆっくりじゃないから大丈夫だという、後先を考えない愚者の選択だった。 「おねえちゃん!」 「ゆっくりしていくね!」 「ゆっ、ゆっ♪」 赤ちゃんゆっくりたちに纏わり付かれながら、ゆっくり霊夢は幸せだった。 加工所で生まれ、この家に引き取られてからずっと、ゆっくり霊夢は赤ちゃんというものを見たことがなかった。 ペット用のゆっくりは英才教育を受けるために誕生してすぐ親元から引き離され、ゆっくりブリーダーと呼ばれる人間の下で厳しい訓練を受けることになる。 だが、生まれたばかりの蜂が教わらなくても狩りの仕方を熟知しているように、種族の本能的な部分は親と子の愛情関係を完全に理解していた。 赤ちゃんゆっくりたちを見てゆっくり霊夢の中に浮かんでくる感情は、間違いなく『愛』と呼ばれるものだった。 「うわー、すごいね! ゆっくりできるものがたくさんあるよ!」 「みんなでゆっくりしようね!」 ゆっくり赤ちゃんたちは大はしゃぎで、家の中を飛び回っている。 特に目を引いたのは、主人がゆっくり霊夢のために作ってあげた手製の玩具の類だった。 滑り台にブランコ、蛙人形やシーソーなど、さながら小さな遊園地といった風情である。 赤ちゃんゆっくりたちは玩具に駆け寄ると、思う存分ゆっくりし始めた。 列を作り、順番に滑り台を滑り。 ブランコに乗って、どちらがより高い場所まで行けるか競い合い。 蛙人形に群がって、ゆっくりれみりゃ退治ごっこをして。 シーソーを使って、自分の身体が沈んだり持ち上がったりする感覚を楽しんだ。 生まれて一週間、森の中でこんな遊びをしたことはなかったのだろう。赤ちゃんゆっくりたちは終始はしゃぎっぱなしだった。 ゆっくり霊夢もそんな赤ちゃんたちに付き添うように遊んでいたのだが、 「ゆ~……ふぁ……」 急に眠気を感じ、ふらふらと壁にもたれかかってしまった。 今日までの一週間、ずっと帰りの遅い主人を待ち続け、早く寝ないで夜遅くまで待っていた結果がこれだった。 眠ってはいけないと思いつつ、意識が闇の中へと沈んでいく。 やがてくぅくぅと寝息を立て始めたのを、離れて赤ちゃんゆっくりたちを見守っていたゆっくり魔理沙が発見した。 「れいむ、れいむ?」 「ゆっ……くぅ……」 揺すっても起きない。 赤ちゃんゆっくりたちが、心配したかのように駆け寄って来る。 「おかあさん、おねえちゃんどうしたの?」 「つかれて眠っちゃってるだけだよ! しんぱいしないでゆっくり遊んでてね!」 ゆっくり魔理沙はゆっくり霊夢は起きないよう、小さな声で告げる。 だが赤ちゃんゆっくりたちは動かない。集まってきたのは、ゆっくり霊夢が心配だったからだけではないからだ。 「おかあさん、おなかすいたよ!」 「なにかたべさせてね!」 朝食の蟻を食べてから、この家に来るまでずっと移動中だったゆっくり魔理沙たちは、その間何も口に入れていなかった。 それに加えて、今激しい運動をしてきたばかりである。 空腹を訴えるのも当然の行動だった。 「ちょっと待ってね! お兄さんが帰ってこないと……ゆっ?」 言葉の途中で、ゆっくり魔理沙は鼻をひくつかせる。 漂ってくる、いい匂い。 食欲を促すその香りは、台所の竈の上に置いてある鍋のほうからしていた。 「あっちに、ご飯があるよ!」 ゆっくり魔理沙は竈のほうへと近付いた。 そこにはこの家の主人が今朝方作ったシチューの入った鍋がある。 だが、鍋はかなり高い位置に置かれており、普通は届く距離ではない。 ただ竈は角の部分が先に行くほど少しずつ丸みを帯びていく構造になっており、角の先端はゆっくりにとってただの坂と呼んでも差し支えない形状になっている。 あの部分まで飛ぶことが出来れば、鍋に届くかもしれなかった。 「いくよ!」 ゆっくり魔理沙は助走をつけ、竈の少し手前で思い切りジャンプした。 浮遊感。一瞬の空白の後、坂道の部分にギリギリ身体が届いた。 間髪入れず、もう一度ジャンプしようとする。 だが坂道での踏ん張りが効かずにバランスを崩し、そのまま床に落下してしまった。 「ゆぶっ!」 衝撃。口から餡子が少しはみ出る。 「おかあさーん!」 赤ちゃんゆっくりたちが心配して駆け寄ろうとするのを、ゆっくり魔理沙は静かに押し留めた。 「だ、大丈夫だよ! ゆっくりそこで見ててね!」 ゆっくり魔理沙は何事もなかったかのようにニッコリ笑うと、もう一度チャレンジするために距離を取る。 無論、痛くないわけではないが、それでも子供たちを心配させないために我慢しなくてはならない。 それは親になったゆっくりとしての本能だった。 「……ゆっ!」 気を落ち着かせ、もう一度トライ。タイミングを見計らって、竈の坂道へ一直線に跳躍する。 べしゃっ、と身体が押し付けられる感覚。その感覚を維持したまま、ゆっくり魔理沙はもう一度ジャンプした。 一瞬の緊張。果たして自分はどうなった? 答えは、身体に触れる床の感触で分かった。 ゆっくり魔理沙は、見事に竈の上に着地していたのだった。 「ゆっ! ゆっ!!」 「おかあさん、すごい!」 遙か下方で、赤ちゃんゆっくりたちがやんややんやの喝采を母親に送る。 その声に満足しながら、ゆっくり魔理沙は鍋に近付いた。 この鍋を持って床に降ろすのは、物理的に不可能だということくらいゆっくり魔理沙の知能でも分かった。 ならば、方法は一つしかない。 「ゆっくり落ちていってね!」 体当たり。がん、という衝撃と共に鍋の位置が少しずれる。 もう一度アタック。ずず、ずず……と少しずつ鍋がぐらつき、そして…… がしゃーーーん!!! 豪快な音を立てて、鍋が竈から転がり落ちた。 床にぶちまけられるシチュー。掃除するのにかなり苦労することになるだろうが、無論ゆっくりたちはそんなこと知ったことではない。 赤ちゃんゆっくりたちは歓声を上げてシチューに群がり、ぱくぱく食べ始める。 「ゆっゆっ、つめたいけどおいしいね!」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」 その様子を幸せそうに眺めていたゆっくり魔理沙は、床に水の入った桶が置いてあるのを発見した。 後で皿を洗うために浸けていたものだが、ゆっくり魔理沙にとってその桶は飲み水にしか見えなかった。 「みんな、お水もあるよ!」 地面に慎重に下りると、ゆっくり魔理沙は躊躇無く桶も引っくり返す。 水が一面に溢れ出し、勢いよく流れ出た皿は地面を擦って何筋もの傷を付けた。 「ゆゆっ、ちべたーい!」 「おみず、きもちいいね!」 「ごくごく、おいしーい♪」 赤ちゃんゆっくりたちは大はしゃぎ。風呂代わりに水浴びしたりするゆっくりまで現れる。 皆にとって、ここは最高にゆっくり出来る環境だった。 「……ゆっ!? みんな、何してるの!?」 と。 先程鍋を落とした音で目を覚ましたゆっくり霊夢は、台所の惨状を見て驚愕の声を上げた。 「あ、れいむ!」 ゆっくり魔理沙はぴょんぴょん飛び跳ね、フリーズしているゆっくり霊夢に近寄る。 そしていかにも自分は幸福です、というような顔で、 「おにいさんがまりさたちのために用意してくれたばんごはん、美味しいね!」 「……」 ゆっくり霊夢は口をぱくぱくさせるだけで反応しない。 「……? どうしたの、れいむ?」 不審そうな表情を浮かべるゆっくり魔理沙。気付いた赤ちゃんゆっくりたちも二匹の周囲に駆け寄った。 「おねえちゃん、どうしたの?」 「ゆっくりしていってね!」 「おねえちゃんのぶんもまだあるよ!」 悪意のない赤ちゃんゆっくりたちの言葉。 ゆっくり霊夢は何とか餡子の底から声を絞り出そうとして、 「ゆっくり霊夢っ!!!」 叫び声と、ぶち壊す勢いで開けられた扉の音にびくりと身体を硬直させた。 それは、ゆっくりが進入しないように置いておいた板が外れているのを発見し、慌てて帰宅した主人の声だった。 「ゆっ……ゆっ!?」 これはマズい、とゆっくり霊夢は思った。 何がマズいのかは分からなかったが、とにかく本能的な危険をゆっくり霊夢は感じていた。 どたどたという足音、そして、 「ゆっくりれいっ……む……」 惨状を見つけてしまう。 目を見開き、硬直する主人。 ゆっくり霊夢は固まったまま反応出来ない。 「……ゆっ!」 だが、大きな声に少し驚いたゆっくり魔理沙は、自分がここに来た目的を思い出した。 「みんな、来て!」 「ゆっ?」 「おかあさん、どうしたの?」 突然闖入してきた初めて見る人間の姿を興味津々に眺めていた赤ちゃんゆっくりたちは、母の言葉を受けてゆっくり魔理沙の周囲に集まる。 「みんな、お兄さんに『挨拶』するんだよ!」 「「「ゆっ!!!」」」 朝、ここに来る道中で母に教わった『挨拶』。 赤ちゃんゆっくりたちはぽかんと口を開けっぱなしの男に向かって、精一杯の愛らしい顔で、 「「「ゆっくりしていくね!」」」 言った。 ゆっくり魔理沙は順繰りに赤ちゃんたちを見渡し、 「お兄さん、この前はごめんね! 赤ちゃんたちをとくべつにかわいがっていいから許してね!」 そして、 「だから、みんなでここに住まわせてね!」 その日、ゆっくり霊夢はゆっくりれみりゃやゆっくりフランなど足元にも及ばない恐怖を味わった。 それはいつかの『お仕置き』すらも凌駕する、圧倒的なまでの修羅の形相だった。 「おにいさん、ここからだして!」 「おなかすいたよ!」 「ここじゃゆっくりできないよ、おうちかえる!」 赤ちゃんゆっくりたちの声。 俺はいらついた風を装い、ゆっくりたちを閉じ込めた透明の箱を蹴り上げる。 「五月蝿い、殺されないだけありがたく思え!!!」 「ゆゆっ!!?」 衝撃と振動。 赤ちゃんゆっくりたちは怯えて隅に固まり、震えながら泣き出してしまった。 「やめてね! 赤ちゃんたちに酷いことしないでね!!」 と、こっちはゆっくり魔理沙。 赤ちゃんゆっくりたちを入れた箱とは別の小さな透明の箱に詰められ、ずいぶんと苦しそうだ。 子供たちを庇おうとするその姿勢は、いつかの自分勝手な姿からは想像出来なくて少し吃驚する。 「お兄さん、まりさたちを許してあげて!」 更に別の箱、こちらは少し空間のゆとりがある透明の箱の中で、ゆっくりれいむは俺に温情を訴えかける。 ゆっくり魔理沙たちを家の中に入れてしまった罪で閉じ込められてなお、友達の安否を気遣うとは……流石我がペット。 ぶっちゃけた話、俺は別にそこまで怒り心頭というわけではなかったりする。 確かにあの惨状を目にした瞬間、ちょっと怒りの沸騰点が限界を超えかけた。 でもそこを鋼の精神でぐっと堪え、ゆっくりたちを閉じ込めるだけに留めている。 何故殺さなかったのか? 勿論『殺害』という直接的な攻撃を俺が嫌っているというのもある。 だがそれ以上に、 「ほーれほれ」 「ゆゆっ!? お、おかあさーん!」 「ゆっくりやめてね! 赤ちゃんを放してね!!!」 こいつらの泣き叫ぶ声と必死の表情が、最高に俺の心を満たしてくれる。 殺してしまったら、この愉悦は味わうことは出来ない。 自分の唇がすごい勢いでひん曲がっているのを感じる。 蓋を少し開き、赤ちゃんゆっくりの一匹を掴み上げた。 ああ、ゆっくり魔理沙の懸命な顔……そそる。 「しかしぷにぷにしてんなー、こいつ」 掌に乗せた赤ちゃんゆっくりの頬を突く。 最初は優しく、そして少しずつ力を込めて。 「ゆ、ゆゆっ、いたいよ! ゆっくりできないよ!!!」 最初はくすぐったそうにしていた赤ちゃんゆっくり霊夢だったが、力が入ると苦しそうな声を上げた。 その様子を見て、ゆっくり魔理沙が半狂乱で泣き叫ぶ。 「な゛ん゛でごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!?」 「何故? 分からないのか?」 いつかのような質問。あの時の痛みを思い出したのか、ゆっくり魔理沙がびくりと震える。 「ここは、誰の家だ?」 「お……お兄さんのおうちです……」 おぉ、覚えていたか。感心感心。 「で、お前は何をしていた?」 「あそんでました……」 「それは別に構わん。その次だ」 「お兄さんが用意してくれたおゆうはんを」 「違う」 赤ちゃんゆっくり霊夢にデコピン。 結構本気で叩いたからか、「ゆ゛ーっ!!!」と泣き出してしまった赤ちゃんの姿を見て、慌ててゆっくり魔理沙が訂正する。 「まりさたちのじゃないおゆうはんを勝手に食べてしまいました!」 「そして?」 「お水も勝手に飲んでしまいました!」 「ふむ」 もう一度デコピン。赤ちゃんゆっくり霊夢の泣き声が激しさを増す。 ゆっくり魔理沙は俺の動きを止めようと必死に箱をガタガタ揺らした。 無駄な努力ご苦労さん。 「さっき言ったよな? ここは俺の家だって」 「そ、そうです、だから赤ちゃんをゆっくり放してね!」 「あ?」 「は、放してください!」 ゆっくりが敬語を使ってるのは面白いなぁ。 「で、お前は人の家で、俺が俺のために作ったシチューを床にぶちまけたわけだ? お前の都合のために?」 「あやまります! あやまりますからまりさの赤ちゃんにひどいことしないでぇぇぇ!!!」 ゆっくり魔理沙の顔はもう涙で皮がべちょべちょになっていた。 うはぁ、やべぇ。超快感。 だけど台所の掃除と扉の修理で時間を使いすぎた。 はっきり言って俺は眠い。 今日はゆっくり魔理沙に『絶望』を知ってもらうだけで終わらせてしまうか。 俺は泣きながら俺の手を逃れようとする赤ちゃんゆっくり霊夢を指で掴むと、 「あーん」 「ゆ゛ゆ゛っ!!?」 大きく口を開き、奥歯に挟んだ。 「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ゛ぇ゛ぇ!!!」 そんなに騒がなくても食わないよ。 まだ。 俺は奥歯に挟んだ赤ちゃんゆっくりを見せ付けるように、ゆっくり魔理沙と他の赤ちゃんゆっくりたち、そしてゆっくり霊夢の箱を順繰りに回る。 「いいか、今からお前に問題を出す」 うっ、しゃべりづらい。 「お前が十秒以内に答えられたら子供は助けてやる。答えられなかったら子供は食われる。分かったな?」 「わ、わかったからいそいでもんだい出してね!」 歯と歯の間で母の名を呼びながら泣き叫ぶ(口の中に振動が起きて少し気持ち悪い……)赤ちゃんゆっくりを見つめて、ゆっくり魔理沙は俺を急かす。 おやおや、ゆっくりのくせにゆっくりしないでいいのかな? まぁいいや。 「問題。ゆっくり魔理沙には七匹の子供がいます。ある日ゆっくりれみりゃに襲われて二匹殺されてしまいました――」 逃げた先でゆっくりフランの群れに遭遇してしまい、また二匹無残に殺害されました。 更に発情期のゆっくりアリスと出会ってしまい、ゆっくり魔理沙は子供の一匹を犠牲にして逃れました。 しかし家に帰ると、そこはゆっくり霊夢の一家に占拠されていました。 ゆっくり霊夢たちに押し潰され、また一匹子供が死んでしまいました。 そうこうしてるうちにお腹が空いてしまったゆっくり魔理沙は、残った子供をぺろりと食べてしまいました。 さて、子供は現在何匹残っているでしょう――? 「ゆっ!? ゆ、ゆっくり……」 ゆっくり魔理沙は顔を顰めて考え出す。 くくく、所詮ゆっくりブレイン、答えられまい。 しかもゆっくりれみりゃなどの天敵の名前をわざわざ出している。本能的な恐怖で冷静な思考なで出来ようはずもない。 「なーな、ろーく」 「ま、まってね! ゆっくりかぞえてね!」 「ごー」 焦ってるゆっくり魔理沙も可愛いなぁ。 その頬を引っ張りたい。 「さーん、にー」 「ゆゆゆゆっくりしてね!!! ゆっくりして」 「いーち」 「ゆ……う゛わ゛あ゛あ"ああぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛!!!」 「ぜろー、残念でしたー」 やっぱり無理だったか。 ゆっくり魔理沙は何とかしようと、目に見えて暴れ出した。 だが狭い箱の中、己を苦しめるだけだ。 俺は口の中から聞こえる赤ちゃんゆっくり霊夢の泣き声を聞きながら、他の赤ちゃんゆっくりたちを閉じ込めた箱の前に移動した。 「おにいさん、なんでこんなひどいことするの!?」 「はなして! いもうとをはなしてね!」 「ゆっくりできないおにいさんはゆっくりしんでね!」 口々に喚きたてる赤ちゃんゆっくりたち。だけど俺が箱を蹴ると大人しくなる。 「非常に残念だが、こいつは死ぬ。あーあ、残念だなぁ。お前たちのお母さんがちゃんと問題に答えられてれば、こいつも助かったのになぁ」 まるでゆっくり魔理沙が全て悪いような言い方。 勿論、どう考えても悪いのは俺なのだが、ゆっくりの餡子脳ではそんなこと分かるはずもあるまい。 「お前たちのお母さんのせいでこいつは死ぬのかぁ。あーあ。酷い親だよなぁ」 「ゆっ!?」 「そんな、おかあさん!?」 赤ちゃんゆっくりたちが一斉に母親の方を振り向く。 ゆっくり魔理沙は違うと言いたげに身体を少しだけ揺らした。本当は首を振りたかったのだろうが、箱が狭くて身動きが取れないのだ。 「ち、ちがうよ! おかあさんは赤ちゃんをたすけようとしたよ!」 「それなら赤ちゃんは助かってるはずだよなぁ。もしかしたら、お前たちも見殺しにされるかもなぁ」 論理の破綻した言葉。 だが、それは赤ちゃんゆっくりたちを突き動かす原理になる。 「ひどいよ、おかあさん!」 「ここにつれてきたのもおかあさんだったよね!」 「れいむたちがひどいめにあってるのもおかあさんのせいなんだ!」 「おかあさんはゆっくりしね!」 「「「ゆっくりしね!!! ゆっくりしね!!!」」」 「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! ぞん゛な゛ごどい゛わ゛な゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇぇ!!!」 子供を護ろうと必死だった母親が、護ろうとした子供たちに糾弾されて泣き叫ぶ。 人間ならば同情を誘う光景だが、こいつらはゆっくり。 快感しか生まん。 「さて」 俺は再びゆっくり魔理沙の前に戻り、口の中を見せた。 相変わらず、奥歯に挟まってがたがた震えている赤ちゃんゆっくり霊夢の姿がそこにある。 「こいつを助けたいか?」 「だずげであ゛げでぐだざい゛ぃ゛ぃ!!!」 「うん、でも駄目」 ぷちん。 俺は口を開けたまま、見せ付けるように奥歯で赤ちゃんゆっくり霊夢を押し潰した。 飛び散る餡子。意外と美味しいが、それよりも生命を奪った生理的な罪悪感を覚えてしまうのは俺がゆっくりを愛している所以か。 「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!!」 ゆっくり魔理沙のこれ以上ないという悲鳴。 いいね、ゾクゾクする。 先程の罪悪感はそれで消し飛んだ。 さて、じゃあ眠るとするか。 明日は休みだ。 もっと遊ぼうな、ゆっくり魔理沙…… 続く。? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/179.html
叩き付け式洗濯。 昔は、大きな岩に布を叩き付けて洗濯をしていたらしい。 本でそれを知って以来、ゆっくり饅頭で再現したいという気持ちが心の中で燻っていた――。 目の前には、プルプル震えるゆっくり霊夢。 ただならぬ雰囲気に、反応しているようだ。 「ゆっ、ゆっくりしようね! ゆっくりしようね!!」 嫌だよ、ゆっくりなんかしないよ。 ガシッと捕獲して、容赦なく作業を開始する。 まずは、頬っぺたを摘まんで伸ばして持ち手を作らなくては。 「ゆぐぅぅぅ! いだいよ、なにずるの!!」 涙を流して痛がるけど無視無視。 叫び声のあがる中伸ばした頬は、30cmくらいに到達。 竹刀の柄に饅頭が合体したようなフォルムが面白い。 「あ゛ぁぁあ゛ぐぅ! れいむのほっべがあぁぁあぁあァ!!」 ビロビロになった自分の一部を見て、ゆっくり霊夢はゾクゾクする程に悲鳴をあげる。 バカ面がこちらの嗜虐性をこれでもかとくすぐるけど、まだ本題には入らない。 中身が飛び散っても良いように、お風呂場に移動してからだ。 「おにーさん! れいむになにしたの!?」 おっと、移動の途中でゆっくり魔理沙に見つかってしまった。 「まりざぁぁ! ゆっぐりしだいよぉぉ!!」 「ひどいよ! れいむをゆっくりさせてあげて!!」 ボスボスと足に突っ込んでくるゆっくり魔理沙。 丁度良いからゆっくり霊夢が弾け飛ぶのを見せてやろう。 ひょいとつまみ上げて一緒に連れていく。 「ゆゆっ! う、うごけないよ!!」 お風呂場に着いてから、すぐにゆっくり魔理沙をタオル掛けに固定した。 間近でショウを見られるように、と言う訳だ。 「おにーざん……ゆっ、ゆっぐり…じだいぃ………」 そして俺の手には、ぷらぷら振り子の様にゆっくり霊夢が揺れている。 もう、ゆっくり饅頭たちも何をするのか分かるハズ。 「れいむをはなしてね!! ゆっくりれいむをはなしてあげてね!!!」 仲間の危機を察知して、ガタガタと必死にそう訴えるゆっくり魔理沙。 バーカ。 離してやる訳ないだろう。 「ゆっ、ゆゆっ!!」 俺はゆっくり霊夢を高く高く振り上げてフルスイング! 「ゆっぐぁばぶぶぶっぅ!!!!」 まるで豚の鳴き声のような音を出して、ゆっくり霊夢は壁にキスをした。 思ってたよりかなり気持ち良いなぁ。 「がおがぁぁぁ! かおがつぶれだよぉぉぉ!! いだいいだいいだいぃぃ!!!」 「れいむぅぅぅぅぅっ!!!!」 ゆっくり魔理沙も大絶叫。 「どおじで!? どおじでぞんなごどずるの!?」 涙、鼻水、涎と色んな汁を垂れ流しながらゆっくり魔理沙は訊いてくる。 スカッとして楽しいからに決まってるだろ。 そして、間髪いれずにもう一発。 「お、おにーさん! もういだいのやだ!! ゆるじでぇ! ゆるじでよぉぉ!!!」 最高点に達したところで腰を捻り、 「ゆ゛ぐぁわぁぁあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁっ――!!!!」 バッチーンと良い音を響かせる。 あはっ、ゆっくり霊夢の顔すげー腫れてる。 「しんじゃう!! れいむがしんじゃうよぉぉ!!!」 殺すためにやってんだよ。 全く、外野は黙って見てろ。 ――ドバン! 「ぶぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!」 「やめでぇぇぇ!!」 ――ボダン! 「ぐゃぎやぁ゛ぁ゛ぁ゛あああぁ!!」 「かわがぁ!! れいむのかわがやぶれちゃうよ!!!」 ――ドズン! 「いぢゃああぁあだぁあやぁぁ!! ちぎれた!! はしっこちぎれたぁっ!!」 「え゛!? ああ゛! おにーさんれいむがちぎれでるぅぅぅ!!!」 ――ビダン! 「ゆぐぅああぁっ!! も゛うじにだい!! も゛うごろじでぇぇ!!」 「あががぁ! れいむが!! れいむのあんこがぁぁ!!」 ――ボチュン! 「ふぐぅぎゃああああぁっ!」 「れいむしんじゃやだぁあぁぁ!!!」 ――ビチャン! 「ゆ゛っ…ぐぁ……!」 「れいむ! れいむれいむれいむれいむれいむぅぅぅぅぅ!!!」 ――バブブヂャン! 「ごろじ……で………」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁ!!! れいむからっぽになっちゃうぅぅぁ!!!」 ――ドブリリリュュュ!! 「……まり…ざ……」 「やだぁぁあ!! れいむのあんごがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ――……」 構わずに叩き付けていたら、いつの間にかゆっくり霊夢をは皮だけになっていた。 ちぎれて穴が空いた部分から、餡子全部が飛び出てしまったのだろう。 「れいむをかえぜぇぇぇ!! ながよぐゆっくりじでだれいむをぉぉ!!」 タオル掛けではゆっくり魔理沙が吼えている。 こんなに餡子の甘ったるい匂いがするなかで、よく怒る気になれるなと思う。 「ふぐぐぐぅあぁぁああぁぁあぁああ゛っ!!」 真っ赤な顔に目は釣り上がって、口の周りは涎でべしゃべしゃ。 キ○ガイの顔ですよ、これは。 しかし、これ以上うるさくされると敵わない。 ゆっくり魔理沙は逃がすつもりだったけど、やっぱり仲間の所に送ってあげよう。 タオル掛けごとゆっくり魔理沙を掴むと、おもいっきり床に叩き付けた。 「ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛あああぁっ!!!」 顔面から激突し、壮絶な声をあげる。 散らばったゆっくり霊夢の餡子を巻き込みながらごろごろ転がって、痛みに耐えている様子。 大切な大切な友だちの内容物が髪の毛に絡み付いてますよ。 「ゆぎゃあ゛ぁあ゛あああっ!! あんご、あんごぉぉぇぇうげろろろろぉぉ!!!」 うわ、吐いたよこいつ。 ゆっくり達にとって内臓みたいなものなんだから、やっぱり気持ち悪いのかな。 さすがに可哀想だから、もう終わりにしてあげよう。 のたうち回るゆっくり魔理沙目掛け………、 「バイバイ、ゆっくり――」 「……ゆ゛っ!?」 ジャンプを決めて両足で着地だ。 全体重が柔らかいゆっくり魔理沙に吸い込まれた。 「ゆぐぐりゃあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! がぐぼぉぇっ!! ぶぐるるぁああ゛あ゛ぁりりゅりゅゅあ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!」 おぉ、ポンプみたい。 着地した所が良かったらしく、ゆっくり魔理沙の口から勢いよく餡子が吐き出されていく。 目を見開いて、ビクンビクン痙攣してまさしく死の直前といった感じ。 顔色も真っ青で、何だか気持ち悪いな。 「……ゆぐっ……ゆ…ゆっ………っ……」 噴水のごとく立ち上っていた餡子も少し落ち着いてきた。 薄っぺらくなるにつれ、段々とゆっくり魔理沙は声を発しなくなっていく。 眼球だけが動いていて、しっかりこちらを捉えていた。 「………………」 そうだよ。 お前らを殺すのは凄く楽しいんだよ。 いつもバカの一つ覚えみたいに同じ台詞を繰り返して、ドタドタとうるさく跳ね回って、エサだって汚く食い散らかして。 何が「ゆっくりしていってね!!」だよ。 お前らがゆっくりしてぇだけだろ。 自分らがかわいいとでも思ってんのか? みんな迷惑してんだよ。 みんな大人だからお前らが傍若無人に振る舞っても我慢してるの。 分かる? 「………………」 はは、ざまぁ見ろ、だ。 足の下のゆっくり魔理沙は、もう動かない。 皮だけになって、こちらを見つめたままカチカチに固くなっていた――。 ゴミ袋にゆっくりだったものをブチ込んでから、ある事に気が付いた。 叩き付け式洗濯を再現する、と言う割りには全く洗濯になっていない。 むしろ、体中餡子で汚れ、後片付けも大変だ。 ……まぁ、良いか。 畜生にも劣るゆっくり饅頭を、この世から『洗濯』出来たのだから。 ※実際はゆっくり饅頭たちが大好きです。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/277.html
雨が降りしきる夜、家路をひたひたと急いでいると、街路樹の根元に丸く大きな影が転がっているのを見つけた。 何だぁ、と屈んで顔を近付けると、果たしてそれはゆっくり霊夢であった。 こんな人の多い所に居るなんて珍しい。青年は話しかけてみることにした。 「おい、お前何してんだ」 「…ゆ……ゆっ…くり……」 返ってきたのは弱々しい声。 ゆっくり饅頭たち特有の、少しインフレ気味なくらい元気な挨拶はどうしたのだろう。 「何だお前、大丈夫か? 具合でも悪いのか?」 傘をホッと横に放り、思わずゆっくり霊夢を抱き上げる。 じっとり湿っていて、接地面に擦過傷が多々見られた。 「おにーさん……ゆっくりできる…ひと……?」 え? ゆ、『ゆっくり出来る人』だと……? 今一意味は分からなかったが、 「あ、あぁ! 出来るぞ、俺はゆっくり出来る人だ!」 ゆっくり霊夢が息も絶え絶えに訊いてくるので、思わず肯定の答えをしてしまった。 恐らくは、敵意の有無を確かめているのだろう。 青年のゆっくり宣言を聞いたゆっくり霊夢は、安心したように軽く口の端を持ち上げた。 そして、 「おにーさん……ゆっくり……れいむのおねがいを…きいて…ね……」 ゆっくり霊夢はあるお願いをしてきたのだった。 「……れいむは…おかあさんで……れいむのいえにはこどもが……いっぱいいるの……」 話をまとめるとこうだ。 今、この目の前でしょぼくれているゆっくり霊夢には子どもが居て、毎日毎日一緒にゆっくりしていたらしい。 近くの林の中に穴を掘って住み処とし、お母さんであるゆっくり霊夢が子ども達のために餌を獲ってくる。 食べ盛りな子ども達は餌を見ると「ゆっ、ゆっ、ゆっ、」とご機嫌になり、美味しそうに口いっぱい頬張った。 決して楽ではないけれど、そんないとおしい子ども達の為ならばいくらでも頑張れたそうだ。 ――しかし、幸せな暮らしを送っていたゆっくり霊夢に重大な事件が起こってしまった。 三日前に餌を獲りに出たら急な雨に降られ、体が湿って帰れなくなってしまったのだ。 ずぶ濡れになりながらも体を引きずって何とか家に向かおうとしたが、ゆっくり霊夢はやはりただのお饅頭。 命からがら逃げ込んだこの街路樹の元で体力の回復を待ったが、雨はあれからずっと降り続いている――……。 「おにーさん……れいむのかわりに…こども…を……」 さぞや辛かったのだろう、ゆっくり霊夢は青年の腕の中で涙を流している。 「…こども……を……」 「わ、分かった! 分かったからもう喋るな!!」 これ以上無理をさせると、こいつ自身の命が危ない。 子ども達が助かったって、肝心の母親が居ないんじゃ悲しいじゃないか。 「おに、おに゛ーさん゛……」 冷たく降り注ぐ雨の中、こいつは気が気じゃなかったハズだ。 ずっと空を見上げながら、今か今かと雨が止むのを待ち続け、 頭に浮かぶのは親が居らずお腹を空かせて泣きわめく我が子達……。 絶対に助けてやる。 「子ども達は絶対に助ける。俺が迎えに行ってやる」 ゆっくり霊夢は目を瞑り、うん、うんと青年の言葉を噛み締める。 「だから……だから、まずはお前を助ける! 今から俺のアパートに連れていくぞ!!」 「ゆっ…ゆゆうっ……」 青年は傘を拾い上げると、ゆっくり霊夢を抱いたまますぐさま自宅へと走っていった。 ■ ■ ■ ぴしゃっ、ぴしゃっ、ぴしゃっとはね上がる水滴。 青年はまた、冷たい雨の中を走っていた。 全身雨ガッパの完全武装に身を包み、目的地へと急ぐ。 片手には道具が入った大きなカバン、反対側にはこれまた大きなポリ袋。 両方ともゆっくり霊夢チルドレンを輸送する為の秘密兵器である。 『じゃあ、今から行ってくるぞ。お前はしっかり体を休めておけ』 『ゆうっ……おにーさんゆっくりたすけてね……』 『あぁ、任せろ』 あれだけ萎んでいたゆっくり霊夢であったが、丁寧に体を拭いてやるとある程度元気になった。 傷には水で溶いた餅粉を塗り込み、たっぷりのホットミルクを飲ませてあげた。 今ごろは毛布にくるまって寝ているだろう。 ゆっくり霊夢一家の住み処である、林の中に入る。 あいつが言うには、入ってから少し奥の、切り開いた所にほら穴があるらしい。 ぬかるんだ土を蹴って進み、大きな岩を避けて、あぁ、これだ。 大股で駆けていくと、木の枝で入り口をバリケードした穴が広がっていた。 ゆっくり饅頭の家だから、かなり小さめの物を想像していたが、軽く屈めば問題なく入れそうである。 「よし、」 青年は意を決して侵入した。 独特の、鼻について離れない湿った土の匂いが漂っている。 カバンに入れておいた懐中電灯で足元を照らしながら、慎重に慎重に進んだ。 こつ、こつ、こつ、こつと地面を踏みしめ、周囲に注意を向けながら、 「……ん?」 奥の方で、何やら聞こえてくるような。 「………ゆ……し……」 「……ゆっ……ん……」 間違いない。 子ゆっくり達の声だ。 懐中電灯をさっと前に突きだし、暗順応を済ませた目を最大限に凝らす。 右へ、左へ……真ん中、右……左へ、右へ……あ、 右になにかある。 明るい楕円が、大きな一塊の影を捉えた。 表面がぐにぐにと蠢いており、ぱっと見では何だか分からず少し不気味だ。 「お、おい。お前ら……ゆっくり霊夢の子どもか?」 恐る恐る、青年は声を掛けてみた。 「お母さん霊夢の子どもか?」 反応は二度目で返ってきた。 「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」 少し高めのゆっくりボイスと共に、塊は瓦解していく。 保護したお母さん霊夢よりも一回り、二回りは小さいだろうか。 個体差はあるものの、正しく子どもゆっくり霊夢が一列に並んだ。 全部で……ひーふーみー……っと、全部で九匹居るな。 「おにーさんだれ?」 「おにーさんはゆっくりできるひと?」 「れいむたちになんのよう?」 「ようがないならゆっくりでていってね!!」 あ、あれ? 何だ、別に元気じゃねえか……。 「いや……お前らのお母さんに頼まれて助けに来たんだけど……」 お母さん霊夢のしょぼくれ具合から考えて、正直白目むいてるのも居るんじゃないかと思っていた。 思っていたんだけど……。 「ゆっ!」 「おかーさん!? おかーさんはどこにいるの!?」 「おかーさんとゆっくりしたいよ!!」 「おかーさんのところにつれていってね!!!」 うーん、拍子抜けだ。 まぁ、元気なのは良いことだから問題はないだろう。 「よ、よし! じゃあ今からお前らをお母さんの所に連れていくからな!」 「ゆっ!」 「ゆっくりできる!」 「おかーさんとまたゆっくりできるね!!」 「はやくおかーさんとゆっくりさせてね!!」 ぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ね回り、お母さん霊夢と再会できる事を喜ぶ子ゆっくり達。 青年は、早速その場にポリ袋を広げた。 外に出てから家に着くまで雨に濡れないように、自分なりに頭を使ったつもりだった。 「さぁ、この袋に入って! 今外は雨がざぁざぁ降りなんだよ」 「ゆうっ!」 「ぬれたくないよぉ!!」 「だから、ほら。この袋に入れば大丈夫!」 「ゆゆっ!」 「おにーさんあたまいい! ゆっくりふくろにはいるよ!!」 分かってくれたみたいだ。 一匹ずつ、手で広げた袋に飛び込んでくる。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ、」と声をあげ、その度腕にボスッという感触が伝わってきた。 「よし、全員入ったかぁ?」 「ゆーっ!」「ゆーっ!」「ゆーっ!」「ゆーっ!」 袋越しに、合唱で答えるゆっくり霊夢チルドレン。 一応辺りを見回して、残りが居ないか確かめてから、 「じゃあ、口を縛るからな!」 きゅきゅっと捻り、片結びにポリ袋を閉じた。 あとは、もう走って戻るだけ。 お母さん霊夢に見せて、早く安心させてやろう。 「オッケー! 早くお母さんの所に行こうな!」 「ゆっくり!」 「ゆっくりしたいね!!」 「はやくみんなでゆっくりしようね!!!」 「あはは、それじゃあ出発!」 荷物をまとめて、青年はゆっくり霊夢一家のほら穴を飛び出した。 雨はまた一層激しさを増している。 青年は走った。 木々を縫って林を抜け、人の居ない裏道を通り、表の大通りに出る。 「ゆー! はやいはやい!!」 お母さん霊夢と出会った街路樹の脇を走り抜け、コンビニの前をぶっちぎり、角を曲がる。 あとはもう真っ直ぐ行くだけ。 ラストスパートとばかりにダッシュする。 早く家のドアを開けて、 『おーい! ほら、お前の子どもだぞ!!』 なんて一刻も言ってやりたくて、 足を思いっきり踏ん張って、 たまたまそこにあったマンホールで滑って、 青年が倒れ込んで地面にぶつかるまでのその間。 右手を離れて宙を舞うゆっくり袋の中、計十八個の目が青年を見上げていた。 ■ ■ ■ 静かに、玄関のドアを開ける。 「……ただいま」 流石に、両手に荷物を抱えた状態で全力疾走はかなり疲れた。 しかも、雨で滑って転んでしまったのだ。 うつ伏せに地面に突っ込む形になってしまい、血こそ出なかったものの顔やら膝やらが少し痛む。 ……胸とお腹は打たなかったから平気だけど。 「ゆっくり!! おにーさんおかえりなさい!!!」 下駄箱の上に荷物を起き、ごそごそと靴を脱いでいると背中越しにゆっくり霊夢の声が聞こえた。 「何だ、もう起きて良いのか?」 振り返り、ゆっくり霊夢の姿を確認する。 「ちがうよ! おにーさんをまってずっとおきてたよ!!」 少し仰け反って、誇らしげにするゆっくり霊夢。 なるほど、顔色が断然良くなっている。 毛布にくるまって、体温が上がったのだろう。 「ははっ、そうか。良かった良かった。今、またホットミルク持ってきてやるからな」 微笑ましい様子に、思わず声のトーンが増してしまう。 台所で急ぎ準備をしなくては。 「おにーさん、れいむのこどもは?」 体に、電撃が走った。 「……な、なに? き、聞こえなかったよ………」 背中を雨水ではない嫌な水滴が垂れていく。 「もう! だぁかぁらぁ、れいむのこどもたちはどこ!?」 頬をぷっくり膨らませ、まったく他人の話はちゃんと聞いてよね、そう言いたげな表情だ。 ヤバい、 どうしよう、 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう、 よし、これしかない、 「……落ち着いて聞いてくれ――」 「ゆ? れいむはいつもゆっくりおちついてるよ?」 「あのな……お前の子どもはな……」 「ゆっ?」 「野良犬に襲われて……全滅していたんだ……」 青年とゆっくり霊夢の居る空間が凍りついた。 しばらくは見つめあったままで、辺りを静寂が支配する。 「ゆっくりうそはやめてね! そんなわるいうそはつまらないよ!!」 突然に響く怒鳴り声。 ゆっくり霊夢は子どもの死を信じていないようだった。 当然だろう……。 「嘘じゃない。お前の子どもは野良犬に食いちぎられて、それは集めるがたいへ――」 「このままじゃおにーさんとはゆっくりできないよ!! はやくこどもたちをみせてね!!!」 ぼすっ、ぼすっと俺の腹に体当たりを食らわすゆっくり霊夢。 本気で怒っているらしい。 胃が痛む。 「分かった、分かったよ……」 やはり亡骸を見せるしかないようだ。 玄関に戻り、下駄箱に載せた荷物の内の一つポリ袋を掴む。 そんな青年の行動を、ゆっくり霊夢は赤く膨れながらもじっと見つめていた。 「気を確かに持てよ……」 諦めたようにそう言ってから、ゆっくり霊夢の前に袋をボスッと落とす。 重量感のある音にビクッとして「ゆゆっ!」と驚いていたが、眼前の袋の中身に気付いたのだろう、 「………………ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」 ゆっくり霊夢は、低く、ぶるぶると震えた唸り声に近い叫びをあげた。 ポリ袋の中は濃い紫色の餡子で満ち満ちており、所々に肌色と赤い布の切れ端が覗いている。 そう。 この塊は子ゆっくり達の成れの果て。潰れてしまった饅頭達である。 もはや、個体の判別が出来ないまでにぐしゃぐしゃになっていて、一つのどでかいおはぎのように見える。 ゆっくり霊夢は、ゆっくりらしからぬ速さでそのおはぎの傍によった。 「どおじでぇ゛ぇ゛ぇ゛!? どおじでこんなごどぉお゛お゛ぉぉぉぉっ!!」 「だから、野良犬が――」 「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛! ゆ゛がああ゛ぁ゛あ゛ぁああっ!!」 駄目だ。 大量の涙を垂れ流し、ゆっくり霊夢は錯乱状態になっている。 「おっ、落ち着け! 落ち着くんだ!!」 「れい゛む゛のぉぉお゛お゛!! れい゛む゛のかわ゛い゛いかわ゛い゛いこどもがみんなしんじゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ゛ぁ!!!」 ポリ袋にすがり付くように寄りかかり、愛しい子ども達だったものに訴えかける。 「ゆっぐり゛じでだのにいぃ! まいにぢゆっぐりじでたのにい゛い゛い゛ぃ!! ぢいざなれいむだぢどながよぐみんなでゆっぐりじでだのにい゛い゛い゛ぁ゛あ゛あ゛!!!」 顔をぐいぐいと押し付け、子ども達の温度を感じようとした。 しかし、ほかほかの餡子とは程遠く、とても冷たい感触がゆっくり霊夢を更にどん底に突き落とす。 ふと、楽しかった日々がゆっくり霊夢の頭の中にぐるぐると回り始めた。 行きずりのゆっくり霊夢と交尾した事、 見事に受精し、自分の体を痛めながらも小さな命を産み落とした事、 その結果十二体のも可愛い家族が出来た事、 幼いゆっくりを巣に残して餌を探しに出て寂しくはないだろうかと心配した事、 子どもを守るため天敵と対峙した事、 初めて「ゆっくりちていってね!」と子どもが言葉を発して思わず泣いた事、 姉妹喧嘩をする子どもを叱った事、 子どもの寝言に思わず微笑んだ事、 今、それらが全てめちゃくちゃにされてしまった。 「ゆゅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! れい゛む゛のぜいだ!! れい゛む゛がい゛え゛にいだら、れい゛む゛がかえ゛って゛た゛らあ゛あ゛あぁ!!!」 とうとう、ゆっくり霊夢は自分を責め始めた。 無理をしてでも帰宅して、家に居たら野良犬の餌食になんてさせなかった。 この身を犠牲にしてでも子ども達を守るつもりだった。 しかし、自分は遠くでガクガク震えていただけ。 寒さとかすり傷に震えていただけ。 ――子ども達はその頃、野良犬の牙に引き裂かれていたのに。 「ごめ゛ん゛ね゛ぇ!! おか゛あ゛さん゛のせいでごべんね゛え゛え゛ぇ!!!」 その後ろ姿は、どこまでも痛々しかった。 ■ ■ ■ 青年が倒れ込んで地面にぶつかるまでのその間。 右手を離れて宙を舞うゆっくり袋の中、計十八個の目が青年を見上げていた。 そして、ブブリリュッという感触。 「ゆぐぐりゃあ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!!!」 その悲鳴で全てを理解した。 青年は足を滑らせて転んでそのまま前に倒れこみ、胴体でゆっくり霊夢チルドレンが入った袋を潰してしまったのだ。 体はあちこち痛んだが、子ゆっくりの安否を確かめるべく急いで袋を引きずり出す。 「うわっ……」 思わずそう口にしてしまった。 考えうる最悪の状況だった。 突然の圧迫に小さな子ゆっくり達の体は裂けてしまい、中から大量の餡子が噴出していた。 赤くて可愛いリボンも解け、子ゆっくり達の「ひゅーっ、ひゅーっ」という呼吸音が耳にまとわり付いて来る。 「ゆっ……ゆぐぐ……ぐ……ゆぐ……ゆぐり……ゆぐりした……い゛、い゛、い゛、い゛、…………」 左のほうには、明らかに死を目前にした痙攣をしている子ゆっくりが居た。 反対側には、口の皮が吹き飛んでいて白目を剥いている子ゆっくり。もう死んでる。 真ん中には何も居なかった。餡子とちぎれた皮とがごちゃまぜになっているものしか目に入らない。 手で袋を揉みしだき、何とか生きている子ゆっくりを探す。 ぐにょり、ぐにょり、ぐにょりと中のものを動かして、何とか生きているゆっくりが居まいかと泣きながら探す。 あ、頭だ。 ゆっくりの頭だ。 急いで、急いでにゅるりと餡子を掻き分ける。 生きていてくれ、生きていてくれ、生きていてくれ、生きていてくれ、生きていてく、 顔の、下半分がなかった。 「うわああああああああああ!!!!」 青年は地面にゆっくり袋をぶん投げ、両足でどこどこ踏み潰した。 もうぐちゃぐちゃで分からなくなってしまえ。 もう只の餡子袋になってしまえ。 ――俺は知らない、俺は悪くない。 無駄に丈夫なポリ袋が悲しかった。 落ち着くと青年は餡子袋をそのまま抱え、とぼとぼと家を目指した。 ■ ■ ■ ゆっくり霊夢は長時間泣き喚いていたが、突然振り向いてここをもう出る旨を伝えてきた。 「大丈夫か、もう平気なのか? 良いんだぞ、もう少しゆっくりしていっても」 自殺でもしやしないか心配で思わずそう問い掛けたが、ゆっくり霊夢は良いんだと言う。 「れいむはもういくよ。このこたちのためにももっとゆっくりしなくちゃ」 「そうか……」 ゆっくり饅頭って意外にも強いんだな。 青年はゆっくり霊夢の赤く腫れた目を見ながらそう思った。 「これは……お前の子どもの亡骸はどうする?」 床に転がった、色々な意味で重いポリ袋。 「いらない。もっていってもそのこたちはいきかえらない」 「………………」 「だから、おにーさんにたべてもらいたい」 何かを決意したような、力強い声だった。 「れいむたちのなかみはあまいあんこだよ。おいしくたべてね」 皮もおいしいよ、食べられないところはないんだよ、わざとらしくゆっくり霊夢は笑った。 「……分かった、ちゃんと食べる。おいしく全部食べるよ」 「おにーさん、ありがとう」 今度は、安心したような笑みだった。 その後、すぐにゆっくり霊夢は青年のアパートから出て行った。 雨は降り続いていると思ったが、玄関のドアを開けた時には止んでいて雲が切れ始めていた。 「水溜りには気をつけろよ」 「うん、おにーさんもゆっくりしていってね」 「……ああ」 のそのそと、ゆっくりゆっくり日常にもどっていくゆっくり霊夢。 その後ろ姿は、青年の心に焼き付いていつまでもはなれなかった――。 ※実際はゆっくり饅頭たちが大好きです。 子ゆっくりが母親の持ってくる餌なしに元気だった理由 → 母の思い出 『十二体のも可愛い家族が出来た』 → 青年の確認した子ゆっくりの数 『全部で九匹居るな』 母親が居なかったのが三日だから、一日に一体ずつ……という事ですね。 見苦しい補足をしてごめんなさい。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/161.html
八日目 ゆっくり霊夢はぬくもりに包まれていた。 それにぽかぽかと暖かい。 まるで、お母さんにくっついて眠っているみたいだ。 「お母さん……」 呟くゆっくり霊夢の黒髪を優しく梳く、柔らかな手のひら。 頭を撫でてくれるその手はとても暖かで、ゆっくりとした気分にしてくれる。 でも、霊夢の頭に浮かぶのは疑問。 手のひら? 「お母さんじゃない……」 違和感を感じて、ゆっくりと目を覚ます。 霊夢は自分が見知らぬ場所にいることをすぐに理解した。 燃え盛る暖炉と、その炎の色に彩られた調度品、特に品のいい棚にずらりと並べられた人形たち。 「あら、目が覚めたの?」 頭上から囁きかける女性の声に、霊夢はそっと上を見上げた。 綺麗な女の人が霊夢をのぞきこんでいた。 少女らしさを残す青い服とカチューシャが可愛らしい。絹糸のような金色の髪は暖炉の炎を映してほんのり赤みがかっていた。 アリスだった。 ゆっくり霊夢を膝の上にのせて、その頭を撫で続けている。 どっかで見たような。でも、思い出そうとするアリスの手のひらが優しく頭をなでつけて、いまいち思い出せない。 「おねえさん、誰? ここは天国なの? おねえさんは天使?」 思いつくままに話しかけると、アリスはくすくすと笑い出した。 「天使なんて嬉しい間違いだけど、残念ながら違うわ。私は魔法使い。そして、ここは私の家よ」 魔法使い? ゆっくり霊夢の疑問に答えるかのようにアリスが指を鳴らすと、棚から人形が一体、ふわりと動き出す。 「ゆっ!」 驚いて叫んだゆっくり霊夢の前に差し出されたのは皿に盛られたクッキー。香ばしい色にふっくらと焼きあがっている。 「おなか、空いてないかしら?」 「う、うん!」 言われるまでもなく、ぺこぺこだったお腹。 頭からお皿つっこんで、ばりばりと貪る。 「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」 床に欠片を撒き散らす犬食いだったが、アリスは気を悪くした素振りもない。 「ごちそうさま!」 「どういたしまして」 ぺろりと平らげた霊夢を優しげに見つめた。 すると、人形がまた一体とんできて、空になったお皿を下げていく。 霊夢はその姿を見て、ようやく自分を井戸から救い上げた天使の正体に気づいた。 「おねーさんが、助けてくれたんだね、ありがとう!!!」 「一応はそうなるわね。でも本当にお礼を言う相手は私じゃないわ」 ちらりと、部屋の隅に視線を向けるアリス。 霊夢はその視線を追って、そこでおとなしくしているゆっくり魔理沙に気がついた。 井戸の中の魔理沙かと、霊夢は思わずアリスの膝を飛び降りて魔理沙の元へ転がっていく。 「まりさ! ……あれ、でも、違う」 すぐに気づいた。井戸の中で一緒に苦しみながら生き抜いた魔理沙じゃない。別の個体。アリスの飼うゆっくり魔理沙は、なぜだか泣きそうな表情で縮こまっていた。 霊夢は自分のほっぺたを見る。魔理沙が繋がっていたその部分には、押し当てられたガーゼと包帯。魔理沙の姿はいなくなっていた。 どこにいったのだろう。ハテナが浮かぶゆっくり霊夢。 「あなたと一緒にいたゆっくり魔理沙は治療中よ」 その様子を察して、アリスが説明をしてくれる。 「治療中?」 「そうよ。ゆっくりと治さないといけないの。私たちがお見舞いにいくとゆっくりできないから、治るまでゆっくり待ちましょう」 あの魔理沙の様子を思い出して、霊夢は納得してしまう。 いますぐ会って、助かった幸せを分け合いたいけど、それは後でもできること。 でも、一目会わせてくれてもいいのになとアリスをちらりと見るが、相手は命の恩人。言い出すのも気がひけた。 アリスはじっとゆっくり霊夢を見つめている。 「どころで、あなたはこれからどうするの?」 「ゆ?」 「まだ体が相当痛んでいるはずよ。うちに元気になるまでいてもいいのだけど」 アリスの言うとおり、疲労の蓄積からゆっくり霊夢の体はずっしりと重くて激しく動くと倒れこんでしまいそう。 優しいアリスに、おいしいお菓子、暖かい家。アリスの優しい提案に従うのも悪くなかった。 けれど、今は一刻も早く会いたいのは心配させているお母さん霊夢。 「ありがとう、おねーさん! でも、うちにかえるね!」 「そう」 予想していた答えなのだろう。アリスは簡素な相槌を返して、椅子から立ち上がる。そして、廊下へ続く扉をあける。 その向こうには外へと通じる玄関が見えた。 「ゆっくりしてもらえないのは残念だけど、そういうことなら仕方ないわね」 微笑みかけてアリスに促され、ゆっくり霊夢は外へ進みだす。 玄関の扉を開くと、そこには小春日和の秋の光景。 直接感じられる自然に、霊夢は心の底から外に戻ってきたことを実感する。 そして、一刻も早くこの大地が繋がる母親の元へ、家族の元へ帰りたい。 「おねーさん、そっちの魔理沙、助けてくれて本当にありがとう! また遊びに来るからね、ばいばい!」 気ぜわしいお別れの言葉を残して、草原へ駆け出すゆっくり霊夢。 背の高い藪の向こうに見えなくなるまで、アリスは手をふっていた。 見送ってから、足元のゆっくり魔理沙を両手で抱えあげる。 魔理沙はされるがままに身動き一つしない。 「あなたのお願いどおりにしてあげたわ。よかったわね」 だけど、アリスの言葉にとうとうこらえきれず、震え始める。 ゆっくり魔理沙の頭に浮かぶのは、呆然とした表情で井戸の底へ消えていった同種の最期の姿。 「どうじでっ! ゆっぐり魔理沙の方をだずげでぐれながっだのおお!」 「あら? 二匹ともって言わなかったから、一匹だけ助けてということだと認識していたわ」 出来の悪い弟を叱る姉のような口調で、ゆっくりを諭すアリス。 あんぐりと、魔理沙は口開いて自分の過去の言葉を思い返す。 「だめよ、言葉は正確に使わないと。あなたの言葉が、お仲間を一匹殺しちゃったじゃない」 「あ゛あ゛あ゛……」 もちろん、アリスの単なるこじ付けだが、ゆっくり魔理沙は衝撃のあまり目を見開いて言葉を失っていた。 「しっかりして、魔理沙。それとも、水浴びする? 目がさめるわよ」 ぴくりと、魔理沙の体が反応する。 「今回の魔理沙は長持ちしているからあまり使いたくないけどね」 「いいい、やあああ、だああああああ!!!」 泣き叫ぶ魔理沙の声に、うっとりと頬を赤らめて抱きしめるアリス。 本当に井戸に沈めて、その絶望の声を聞かないと満足できなくなるまであとどれほどだろうか。 遠めには、仲睦まじくみえる一人と一匹ではあった。 一目散に帰路を急ぐゆっくり霊夢。 地面を踏んで、自分の意思のまま前へ進める幸せ。 疲れきった体も、いまはその喜びに昂ぶっていた。 絶え間なく弾み続け、家族の待つ家まあと一息。 目の前にはっきりと見えてきた懐かしい光景に、霊夢の胸が熱くこみあげてくる。 「ゆっくりーっ!」 何処までも届けとばかりに、高らかに声を張り上げた。 時をおかず、藪をかき分ける複数の音。リズミカルに弾むゴムまりのよう響き。 「ゆっくり帰ってきたっ!」 「ゆーっ!」 「ゆっくりしすぎだよ!」 霊夢の姉妹たち5匹が姿をあらわす。 驚きと喜びに、ぼよんぼよんと飛び跳ねる姿も軽やか。 その姉妹たちを前にして、霊夢は立ち尽くしていた。見つめる先には、姉妹の後方からゆっくりやってくる大きな 膨らんだ姿。お母さん霊夢だった。 「ゆっ! ゆっ!」 いつものように体を揺すりながら近づいてきて、霊夢へ向ける優しい眼差し。 全身を重くのしかかるような疲労に耐えて、ずっと気を張って堪えてきた霊夢もとうとう崩れ落ちる。 大きくてふくよかな体が、霊夢の体を支えていた。 「お゛っ、お゛があ゛ざーん!!!」 赤子のようにお母さん霊夢にかけよって、びったりと体をよせる。 そのまま、わんわんとひたすらに、この七日間の悪夢を洗い流すかのように泣きじゃくった。 「ゆっくりくっついていってね……」 「ゆっくり泣いていってね……」 「ゆっくりしていってね……」 釣られて滂沱の涙を流す姉妹たち。よりそって、一団にかたまる饅頭たち。 草原に響く幸せそうな嗚咽。 風切り音を鳴らす木枯らしですら、今は不思議と暖かい。 「あのね、ひどいところでゆっくりしてた……」 自分がどんな体験をしてきたか伝えようとして、井戸の底で感じた恐怖を思い起こして言葉に詰まる霊夢。 言わなくていいとばかりに、お母さん霊夢の肉厚のほっぺたがゆっくり霊夢の唇に押し当てられる。 みんなの中にいると、もうあの悪夢は完全に終わったのだと今更ながらに強く実感できた。 積み重ねられ、心を押しつぶしていたストレス。それらが今、解けて消えていく。 みんなの体温を感じながら、霊夢はアリスの家の暖炉のぬくもりを思い出していた。 「あのね、魔法使いさんに助けてもらったの」 ゆっくり霊夢の言葉に、向かい合っていたゆっくり姉妹が小首を傾げる。 「魔法使いさんって、あのおじさんたち?」 「ゆ?」 何をいっているのと、ゆっくりたちの視線を集めるが、当のゆっくり霊夢はきょとんとした表情で、前を見つめている。 その視線を追った。 そこには、穏やかそうな年配の男を先頭に、体格のいい壮年の男と、痩せた青年の三人がこちらへ近づいてきていた。 年配の男は愛想のいい笑いを浮かべて、片手をこちらへ陽気に振っている。 「どうも、どうも」 「ゆ?」 男の言葉に顔を見合わせるゆっくり霊夢姉妹と、ゆっくりお母さん。 誰の知り合いだろう。 視線を交わしあってガヤガヤと確認しあい、ようやく誰の知り合いでもないと判明したとき、男たちはあと十歩ほどの距離まで近づいていた。 「おじさんたち、だれ?」 「ゆっくりしにきたの?」 ゆっくりたちが口々に問いかけると、その歩みをとめて三人は視線を交錯させる。 よく見ると、男たちは妙な格好だった。 三人とも大きな篭を背負っている。野草を摘みにきたにしては、あまりのも大きな篭。それに、持っている棒も不思議だった。 棒の先に針金が輪の形にのびている。 痩せた青年が手持ち無沙汰に棒の中ほどを握ったり話したりしているが、そのたびに針金の輪はきゅっと締まったり、広がったりと動いている。 おそらくは、その輪に獲物をひっかける狩りの道具だろうか。だが、いのししや熊を捕らえるには少し貧弱な構造だった。 輪の大きさも中途半端。あれにすっぽり収まるのは、ゆっくりたちぐらいのものではないか…… ひっきりなしに道具をいじってゆっくりの注目を集めていた痩せた青年の肩を、となりの壮年の男が軽く叩く。 「目の前ではやめろ」 「あ、すいません、主任」 青年はばつの悪い笑顔で上司に謝る。 年配の男の背後で、こそこそと言葉を交わす二人だった。 ちらと年配の男が後ろを見やる。一瞬、男の眉間に筋が走って二人の会話を止めるが、向き直ったときには完璧な笑顔が張り付いていた。 ほのかに漂いはじめる不穏な気配。 まず、男たちの不審さにはっきり気づいたのはお母さん霊夢だった。 「ゆっ!」 短く強い声をあげて、子供たちを家の方へ押し流す。 逃げろという合図。 だが、お母さんどうしたのときょとんとしたゆっくりもいて、動き出そうとしない。 お母さん霊夢はほとんど体当たりに近い仕草で再び娘たちを突き飛ばした。 「ゆっ!!!」 「うっ、うあああん!」 鬼気迫る声に追い立てられるように走り出すゆっくり姉妹たち。 せっかく、お母さんの体にもたれ疲労を癒していた霊夢も逃げていく。 あんまり驚いたのか、姉妹のうち最も幼いゆっくり霊夢が一匹だけ家とまるで違う方向へ走り出したが、追いかけて連れ戻す余裕は無い。 重いからだをのったりのったり跳ねながら、体に鞭打って走っていく。 人間たちは、しかしすぐに動き出そうとはしなかった。 「よし、はぐれたのは私が追う。お前たちは残りを追い込め」 てきぱきと指示を飛ばして、年配の男は幼いはぐれゆっくりを探して森の奥へ歩き出す。 小走りですらない悠然とした足取り。 「了解」 「わかりました」 短く答えた壮年の男と青年もかけだすようなことをしなかった。 ゆっくりたちの消えた方角へ連れ立って進みだす。 草むらのを必死にぴょんぴょんと跳ねながら逃げるゆっくり。その草陰から覗く頭を視界にとらえて、男たちは追い込みを開始した。 家族からはぐれた幼いゆっくり霊夢。 しかし、それは悪い選択ではなかったかもしれない。 ゆっくり霊夢が逃げ込んだのは森の中。 視界を遮る木々、足元に生い茂るシダの一群。隠れられるスペースは沢山あった。 ましてや、幼く小さな体なら、見つけ出すのは困難を極めるだろう。 森へ霊夢を追いかけてきた年配の男は、こっちを自分が受け持って正解だった安堵する。 この男がゆっくりに関わったキャリアは、この奇妙で愚かな生き物が幻想郷で発見されてからの年月とほとんど同じ。 男は最も手馴れていた。 年配の男はゆっくり霊夢の小ささから齢を割り出し、その性向を経験則から探り出す。 ゆっくり霊夢が消えた場所で大きく息を吸った。 「もういいかーい?」 それは、童遊びかくれんぼの鬼の言葉。 森の中にわんわんと響いて、やがて静まり返る。 男はすぐ様、用意していた次の言葉を森の奥へ投げかけた。 「じゃあ、探すぞー!」 「まっ、まーだだよ!」 幼いゆっくりの声が右前方から聞こえて、年配の視線を引く。 男の歩き方が代わった。 爪先立ちに、柔らかな草の上を音もなく進む。 「もういいかーい」 「まーだだってば! ゆっくりしてね!」 アクティブ・ソナー代わりの呼びかけに、怒ったようなゆっくり霊夢の返事。 男は完全にあたりをつけ、周囲で最もよい枝ぶりの樫の木へ向かった。 悠々とそびえたつ巨木。 その幹にぽっかりとあいたウロを塞ぐ、黒い物体が一つ。 ウロに逃げ込もうとして、顔がはまってしまったゆっくり霊夢。 男はその背後に寄り添うように立つ。 「もういいかい?」 年配の男は静かに降伏を促す。 「ひっく……まあだだよおおおおお!」 鼻をすするゆっくりを、男は優しく抜き取った。 両手に抱えられていやいやをするゆっくり霊夢。 「まだなのにいいい! ゆっくりじでよおおお!」 泣き叫ぶゆっくりを力任せに押さえ込んだりはしない。 片腕でそのぷよぷよの体を確保すると、空いた手でゆっくりを優しく撫でる。 「よしよし、それじゃあお母さんのところに行こうね」 「お、おがあざんのどごろお?」 「ああ、あの後誤解が解けてね。君を探して欲しいと頼まれたんだ」 途端に、ぱあと花咲くようなゆっくりの笑顔。 悪い人に捕まったという現実より、本当はいい人に助けてもらって家に帰れるという夢想。幼い心は、もっとも幸せそうな答えに飛びついてしまう。 全て、年配の男の睨んだとおり。 「おじさん、早く帰ろうね!」 「よし、一緒に帰ろう」 年配の男とゆっくりは、仲良くゆっくりの巣穴へと続く帰路を急ぐのだった。 「主任。野生のゆっくりの巣って、初めて見ましたよ」 「俺も初めてだ」 青年と壮年の男性が、深い藪の奥ひっそりと隠れていた横穴を感慨深げに見つめていた。 ゆっくりと同じ地面を這う視線でなければ見つけられない、ゆっくりが最もゆっくり出来る場所。 しかし、もはやそこはゆっくりたちのスウィートホームではなかった。 二人の男が見つめる前で、横穴の入り口を外からぴっちり自らの体で塞ぐのはお母さん霊夢。息を吸い込みぱんぱんに膨らんだ顔。それをぎゅぎゅうと家の入り口につっこんで、中の様子はまるで伺えない。 耳を澄ますと、かすかに漏れてくる娘たちのゆーゆーという怯えた声。 年配の男の読みどおり、逃がして泳がせたことは正解だった。 その巣の中には、家から出るにはまだ小さな霊夢の姉妹を含めて、ほとんどが揃っているようだ。 一匹逃げ出してはいたが、二人の上司である年配の男が追ったのだからもう捕まっているころだろう。 ここは、まさにゆっくり一家の最後の砦。 決死のゆっくりたちにも対して、男たちの声はのんびりとしていた。 「あんな育ったゆっくり霊夢も初めてですよ」 家の出入り口を塞いで、蟻一匹も通すものかと踏ん張るお母さん霊夢。青年はその後ろ姿を指差していた。 壮年の男は腕を組んだまま、その巨体を見てため息を吐き出す。 「俺は前に捕まえたことがある。何度でも使える繁殖の母体として重宝できると思ったんだがな……」 「あ、いい考えっスね」 男の呟きに、痩せた青年は軽薄そうに賛意を示す。 「けどな、種付け役のゆっくりアリスがあまりにも貪欲すぎて何回ももたなかった。他の種と自然交尾を試みても時間がかかりすぎるということで、結局は普通の魔理沙や霊夢、みょん、ちぇん種をアリスに襲わせた方が効率がよかったんだよ。せっかくの提案も、ボツっちまった」 恐らく、ボツとなったのは男のアイデアだったのだろう。忌々しげにお母さん霊夢を見下ろす。 「本当に使いようが無いゆっくりだよ、こいつは」 壮年の男の言外に満ちた苛立ち。 青年は逆らわない方が賢明だと目ざとく気づく。 「確かに。あんなでっかいと加工用の台にもはまらないですし、あれはかなり歳をとっているんでしょ。中身に老廃物が混じって食中毒なんか起した日には、うちは傾きますよ」 なるべく、同僚の意向に沿う言葉を並べる。 「傾く前に、俺たちがあの人にぶち殺されるだろうけどな」 壮年の男は、年配の男が消えていった方向をちらりと見た。 「こええ」と、青年はわざとらしく肩をすくめてみせる。 その仕草がよほど滑稽だったのか、壮年の男はいかつい顔にニヤリと精悍な笑いを浮かべた。 「よし、じゃあやるぞ」 言うなり、担いでいた篭を地面に下ろす。 そのまま、篭の中に入れていた木の棒を取り出す。 肉屋が肉を柔らかくするための肉叩き棒。それを棍棒サイズまで大きくしたようなものを両手で掴みあげていた。 男の目線の先には、後ろを向いた膨れゆっくりの姿。 男は静かにその棍棒を振り上げようとしていた。 穴の中。ゆっくり霊夢たちは息を潜めている。 井戸に引き続いて、狭い空間に閉じ込められていたゆっくり霊夢。 だが、あれほどの悲壮感は感じていなかった。 家族がこれほど近くにいて、守ってくれるお母さんがいる。穴の中へやさしい微笑を浮かべていてくれる。 それがどれほどみんなの心を支えてくれることか。 いつもお母さん霊夢はそうやってみんなを守ってくれた。 蛇や野良犬に襲われたときも、相手が諦めるまでてこでも動かなかったお母さん。 今回だって、きっと大丈夫。 だから、家の中で大きくなるのを待っている、まだ手のひらサイズの幼い霊夢たちも怯えてはいなかった。家族がほぼ全員集結したことが何かのお祝いと思ったのか、楽しげにぴょんぴょんとのみのように跳ね回っている。 「ゆっくりおねーちゃん、ひさしぶりー!」 自分にまとわりつく幼い霊夢たちが可愛らしい。 ここは井戸の中とは違う。きっとなんとかなるはず。 霊夢が希望にすがりつこうとしたその時だった。 ぺったん。 餅つきのような重い音が響く。 「ゆっ!」 お母さん霊夢の笑顔が、ぶるんぶるんと波打った。 「おかあさん!?」 駆け寄るゆっくり霊夢たち。 だが、傍によるまでにお母さん霊夢は元の笑顔。 「ゆっ! ゆっ!」 何事もなかったかのような顔で娘たちを安心させようとしている。 しかし、外の方で明らかに何かがはじまろうとしていた。 「よっ」 軽妙な掛け声とともに棍棒が振り下ろされる。 棍棒の向かう先は、後ろを向けて娘たちを守るゆっくりお母さん。 そのふくよかな体に棍棒がめりこみ、餅つきのような重い手ごたえが手首に響く。 お母さん霊夢はぷよんぷよんと、その衝撃に体を波立たせるが一向に動こうとはしなかった。 男は棍棒を再び振り上げ、まったく同じ場所にもう一度振り下ろす。 小気味いい打撃音が響いて、ゆっくりお母さんの体が波立った後も、苦痛からかぷるぷると震えていた。 「慣れてますね」 感心したような青年の言葉に、男はその手を止める。 「加工所ができたときは、みんなこうやって餡をひりだしていたんだよ」 言いながら、再び振り下ろす。 「ぷぷっ!」 短い、これまで聞いたことのない音がゆっくりお母さんから鳴った。 「お前も覚えておけ。これが聞こえてきたら、そろそろってことだ」 頼りない後輩に、知らず実地指導に熱が入る壮年の男。面倒見のいい人柄がにじみ出るほほえましい光景だった。 わざと青年に見えやすいよう、ゆっくりと振りかぶる。 野外教習の教材はゆっくりお母さん。 ぷっくりと背中が赤黒い痕が浮かび上がっていた。 巣の中では緊張が増していく。 「ぷぷっ!」 空気が抜けるような音が母親の口からもれて、ゆっくり霊夢たちは色めき立っていた。 「……ゆ!」 だが、お母さん霊夢の満面の笑顔は変わらない。 ただ、顔に脂汗がじんわりと浮かんでいた。 「おなかいたいの?」 青ざめる霊夢姉妹の間を抜けて、幼い豆霊夢がお母さんの傍によりそう。 笑顔をその幼い豆霊夢に向けようとしたその時、何度目かわからない重い振動が襲ってくる。 ゆっくり霊夢たちは聞いた。水風船をつぶしてしまったときのような、ぷっしゃあという水っぽい破裂音を。 そして見た。ゆっくりお母さんの口から吹き出す餡子の濁流を。 「ゆううううううう!」 幼いゆっくりが押し流されて横を転がり過ぎていくが、霊夢たちは母親から目を離せない。 盛大に餡をまきちらして、口の端から餡の流れた跡、目からはぼとぼとと餡の涙。 満面の笑顔。 「お、お゛があ゛ざーん!!!」 餡子まみれになった霊夢たちの絶叫が、狭い家の中を幾重にも反響していた。 「お、手ごたえあり」 男が嬉しげに呟いたとおり、あれほど頑強に出入り口を塞いでいたゆっくりお母さんは、ふにゃりと体を歪ませていた。 次第に、男の棍棒を振り下ろす手つきが、大降りから小刻みなものに変わっていく。 「あとはこう、均等になるように叩いていけばあらかたの中身が吐き出されていく」 叩くたびに、ぷっ! ぷっ! と噴出す餡子の音。ゆっくり霊夢たちの悲鳴。 やがて、ほとんど均されてまっ平らとなる。もう、巣への侵入を遮るものは何も無い。 「後はお前がやれ」 「あー、汚れそうな仕事は僕ですかー」 主任の命令に、おどけたような苦情を言って、巣の中を覗き込む青年。 いつの間にか絶命したゆっくりお母さんを踏みつけ完全に餡子を噴出させると、うわんうわんと泣き叫ぶ餡子まみれのゆっくりたちが見えた。 餡に服が汚れるのも厭わず青年は顔を巣へつっこむ。 母親の死に様に我を失っているうちに、完全にふさがれたゆっくりたちの逃げ道。 「ちっこいのを含めて、七匹はいますね」 後は捕まえるだけとばかり、男は無造作に中へと手を伸ばす。 巣の中に侵入してきた人間の手。 ひぎゃあとゆっくりの体裁も投げ捨てて、ゆっくり姉妹たちは家の奥へ奥へ、必死に体をよせる。 幼い霊夢が姉たちの圧力に、ゆゆゆと顔をひしげて泣いていた。 手の傍にいるのは、井戸から生還した霊夢一匹だけ。涙をのみこんで、憤懣やるかたなしとその手を睨みつけていた。 穴の中をのぞきこむ青年の下には、潰されたお母さんの体。笑顔を張り付かせたままの死骸。 井戸の中で切望して、ようやく奇跡的に取り戻したものが、もはやどうしようもない姿でそこにあった。 ぷるぷると霊夢の体が震える。 「お、お゛があ゛ざんを、がえじでねええええ!」 渾身の力をこめて、侵入者の手に噛みつく。 「ゆっ!」 「がえぜええっ!」 その声が母親を殺された怒りを煽られたのか、奥のほうから三匹ほどのゆっくり霊夢も加勢して、侵入者のうでにがぶり。 れみりゃの肉を千切ったゆっくりの口の力。だが、あの肉まんもどきと人の皮はまるで違った。 「うはは! 甘噛みされてくすぐったい!」 節くれだってごつごつとした男たちの手には、ゆっくりたちの口撃など何の役にも立たない。 むずがゆさに、青年の身をよじらせただけ。 「何を懐かれているんだ、お前は」 「あ、すいません」 言いながら青年が腕をふると、あえなくぽとぽとと振り落とされるゆっくりたち。 なおも噛み付こうと口をあけた一匹のゆっくりの顔が、青年の手に真正面からわしづかみにされる。 そのまま、一気に巣の外へ引きだされる、有無を言わさぬ腕力。 「ゆっ、ゆっくり離してね!」 その声も急速に遠ざかり、巣の外へ。 流れ作業でそのゆっくりを受け取った壮年の男は、篭へ放り込んで上から分厚い板をかぶせ、体重を上からのせる。 「ぐるじいいい!」 十分に平べったくなったところで、板を篭に固定させてゆっくり一匹目の捕獲に成功する。 なるべく沢山のゆっくりを持ち運べるよう男たちが工夫したポータブルゆっくり篭。 「はずじでえ! じぬうう!」 苦しさでわんわんと泣き叫ぶが、潰れる寸前でとめてるので実に安全。 続けて捕獲しようと穴へ手をのばすものの、男たちの意図に気づいて逃げどうゆっくり霊夢たち。手の届かない 巣の奥に積み重なって、ぶるぶると震えている。 「あ、主任。あの棒をください」 「ほらよ」 最初に持っていた彼の仕事道具、先に輪のような針金をつくりつけた棒を取り出し、青年の手に持たせる。 巣の中へ差し入れられる奇妙な棒。 針金の部分を静かに上からゆっくりたちのにかぶされて、わっかの中に二匹ほどのゆっくり霊夢が納まったその時。 男の手首が棒の仕掛けを引くなり、瞬時に締まる針金のわっか。 「む、むぎゅううううう!」 ゆっくりという台詞まで潰された、凄まじい締め付けが二匹をとらえていた。 男の腕力のまま、ひょうたん状になるまでくびれたゆっくり霊夢たち。 呆然と見つめる姉妹たちに見送られ、巣の外へと運び出されていく。 後はもう作業だった。 棒が差し込まれるたび、泣き叫ぶことも許されず、うめき声だけを残して消えていく姉妹。 今の気持ちを、井戸で感じていた絶望とまったく同じだと霊夢が気づいたとき、すでに巣に残されているのはそのゆっくり霊夢一匹だけだった。 広々としてしまった我が家で、霊夢はもう逃げる素振りもしようとはしない。 もう、沢山だ。 もう、どうなってもいいや。 どんな形でもいいから、早く終わってしまえばいいのに。 空っぽの心で、終わりのときを待ち続ける。 だが、なかなか終わりを告げる棒が差し込まれてこない。 一人ぼっちでひたすらに立ち尽くす霊夢。 「戻ったぞ」 男たちの手を止めたのは、年配の男の声だった。 「わーい、おうちだー!」 その手の中で若いゆっくり霊夢がはしゃいでいる。 「おじさん、もういいよ! ゆっくりおろしてね!」 無邪気に呼びかけるゆっくり霊夢。 それど、その楽しげな表情もゆっくり姉妹がぎゅうぎゅうに詰め込まれた篭を見つけるまでだった。 「おじさん、あ゛れ゛、な゛に゛!」 年配の男はゆっくりの質問を気にもとめず、その手のゆっくりを壮年の男へと手渡す。 壮年の男は有無を言わさず、手馴れた手つきで篭に押し込む。 「ゆっぐりいいい! ぐるじいい!」 涙に歪む顔が、必死に年配の男を探した。 「おじざん! おじぐらまんじゅうはじだぐない! 出して! おいかけっこであそぼ!!!」 無視する。 男たちは遊びではなく、仕事をしにきているのだから。 あえなくトーテムポールの一員にされていくゆっくり。 やがて「ゆ゛っ」と苦しげに吐き出して震えるだけの状態になった。もう、ゆっくりたちの運命は決まったのだ。 年配の男は、収穫したゆっくりたちに視線を走らせる。 「ところで、母体の膨れたゆっくりはどうした?」 「ああ、邪魔だったので潰しときました。使いようがないですから、アレは」 壮年の明快な回答に、一斉に「ゆ゛っ”! ゆ゛っ!」と感極まったゆっくりたちのうめき。 悲しみと怒りのアンサンブルは、男たちに届かない。 「おいおい」 年配の男は、壮年の男を見つめて大きなため息。 「無闇に取り捲って、いらないのを潰すだけが私らの仕事じゃないだろう」 諭すような静かな物言い。 だが、受け止める壮年の男は雷鳴が鳴り響いているかのように、がたいのいい体を縮めていた。 「逃がしとけば、またどこかで新しい家族を生んでもらえるものを……」 「す、すいません。考えが浅かったです」 「ああ、次から気をつけなさい」 壮年の男を恐縮に追い込んでから、年配の男は再び気のいい笑顔に戻る。 「これで全部か?」 「あと、一匹いますよ。今、捕まえますんで」 その返事は壮年の男ではなく、穴にもぐっていた青年が返した。 「いや、それはいい。放っておけ」 年配の男の言葉に、部下たちは意外な表情を浮かべて振り返る。 「母体の霊夢の代わりに残しておけ」 「でも、こいつがあの膨れゆっくりになるまで大分かかりそうですよ」 不満げな壮年の男に、年配の男はゆっくりかぶりを振る。 「目先を追うな。あえて損を選んで将来の利益を守る必要もある。農家が土地が痩せるないために休耕田を設けるようにな」 部下たちに心構えを伝えて、年配の男はゆっくりの詰まった篭を軽々と背負う。 慌てて、壮年の男がもう一つの篭を背負い、青年は穴から餡子まみれの体を引き抜く。 ゆゆゆ……と、蠢くゆっくりたちとともに、男たちは帰路についた。 「大漁だな」 がっしりと食い込む篭の重みに、男たちはまさに嬉しい悲鳴。 「まったく、アリスさんのおかげだ」 年配の男の言葉に部下たちは頷く。 アリスの勧めで、家族の元へ一目散に向かうゆっくり霊夢をつけていた三人。 見事に一家揃って拿捕することに成功した。 おまけに「仲のいいゆっくり一家だけでつくりました」と売り出せる付加価値つき。 今日も実にいい仕事をした。 男たちは悠々と加工所へ向け、気分よく道を急いだ。 家にひとり残されたゆっくり霊夢は、長い間放置されていた。 日差しが傾き、山々の陰に隠れるころ、ようやく男たちが立ち去ったことに気づく。 恐る恐る外にでた。 家族の誰かが逃げ出して、帰ってくるのを出迎えるために。 だが、外にも誰もいなかった。 空に広がる黄昏が暗く藍色に染まり、夜の境界を踏み越えても誰も戻ってこない。 とぼとぼと中に戻る。 自分ひとりで過ごすには、あまりにも広い横穴。 家族たちで押し合いへし合いしていた頃には狭いと感じていたのに、今は閑散として寒々とした光景。 真ん中にお母さんがいて、姉妹たちが円になって体温をわけあう。 そんな風に寒さを耐えることは、もうできないのだ。 霊夢は静かに泣いた。 泣き続けて、ふと思い出したのは井戸の苦しさを必死に耐えた魔理沙。 そうだ、魔理沙が治療を終えてうちに遊びにきたら、そのままうちに住んでもらおう。 同じ苦しさをわけあった魔理沙となら、この寂しさが少しぐらいはまぎれるかもしれない。 自分はまだ、何もかも奪われたわけじゃない。 早く、魔理沙こないかな…… 友達の姿を思いながら、霊夢はそっと目を閉じる。 つかれきった心を癒すかのように、ゆっくりと友達の夢を見ていた。 (第四話 にんっしんっ魔理沙に続く) あとがき どうも、長々とごめんなさい。 ゆっくり加工所を書いてからいろんな人のゆっくりいじめを読めるようになったのが何よりも嬉しくて、思わず読みふけって書くのが遅くなりました。 次回は四話の前に、笑えていじめやすそうなゆっくりみょんを題材に軽いものを書いてみますね。 小山田 選択肢 投票 しあわせー! (17) それなりー (0) つぎにきたいするよ! (0) 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/492.html
ユロンブスがゆっくり霊夢を発見して帰った時、ユロンブスの成功を祝っていると、 一人の男が、 「遠くに行って変な生き物を取ってくるくらい、俺だってできる。造作もないことだ」 と冷笑しました。 これを聞いたユロンブスは、すっと立ち上がり、ケージの中で騒ぐ1匹のゆっくり霊夢を取り、 「諸君、ゆっくり霊夢を静かにさせてみなさい」 と言いました。 人々は何の為にそんなことをやるんだろうと思いましたが、とりあえずやってみることにしました。 ケージには大量のゆっくり霊夢が入っていたので、全員に配分できました。 赤子をあやすようにゆっくり霊夢をあやす者、怒鳴りつけて黙らせようとする者、三者三様の方法で ゆっくり霊夢を静かにさせようとします。 しかし、一人としてゆっくり霊夢を黙らせることはできず、逆に、ケージから開放されたことにより ゆっくり霊夢はさらに騒ぎ始めてしまいました。 すると、ユロンブスはゆっくり霊夢を食卓のカドに叩き付けたのです。 ゆっくり霊夢は卓上に餡子を飛び散らせ、ぴくりとも動かなくなりました。 「そんな方法なら誰だって静かにできるだろう!」 先ほどの男が文句が出ましたが、ユロンブスは言いました。 「人がやった後では、何事も造作ないことだ」 規制されててスレに書き込めない(´;ω;`) このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/425.html
-初めに- このSSを読む前に“ゆっくり加工場”を読むことをオススメします。(加工場を書いたのは私ではありません) このまま“プチゆっくり魔理沙の生涯”を読んでもかまいませんが、以前私がUPした“ゆっくり霊夢の生涯” を読むと、内容が理解しやすいと思うのでオススメします。 ゆっくりに対する過激な虐待表現が含まれておりますので苦手な方は読まないほうがいいかと思います。 また、本編冒頭は前作と同時間軸の部分なので一部表現が同じ部分があります。ご了承下さい。 -本編- そのゆっくりの意識は暗いまどろみの中で何かを待っているかのように眠っている。 「ゆっくりしていってね!」 眠っていた意識が反応する。 「・・・ゆ、っゆっ、ゆっくりしていってね!」 そう言いながらそのゆっくりは目を覚ました。周囲では同じようにゆっくり達が目覚める。 「ゆっくり!」 「ゆっくりしていってね!」 周囲を見渡すと自分と同じゆっくりと自分とは違う形状の赤いリボンをしたゆっくりが複数いる。 ゆっくり達はここが何処だかわからずキョロキョロと周りを見回している。 その時、離れたところにある扉が開き一人の男が入ってきた。 「ゆっ!おじさんだれ?」 「ここはどこなの?」 ゆっくりが達が尋ねると男が説明をしてくれた。 ここがゆっくり達の繁殖施設であること。自分はゆっくり魔理沙で赤いリボンのゆっくりがゆっくり霊夢という こと。自分はたった今生まれたばかりであること。そして最後におじさんはこう言った、 「ここで安心してゆっくりすればいいよ。」 優しそうなおじさんの説明を聞いて自分を含め周囲のゆっくり達は素直に受け止め喜んでいた。 そしておじさんはお菓子をくれ、ゆっくり達はおなかいっぱいに食べ、ゆっくりと夢の中へ旅立っていった。 次の日、また男が部屋に入ってきた。ゆっくり達は歓迎する。するとおじさんがこう言った。 「今日はこの部屋にいる君達の半分を別の部屋へ移動させるよ。これだけの数がいると狭くて住み辛いだろうから ね。」 ゆっくり達は素直におじさんの言うとおりにすることにした。 そしてそのゆっくり魔理沙はおじさんについて行き、生まれた部屋を後にした。 部屋を出るとおじさんが、 「生まれた次の日に引越しなんてさせてしまってすまないね、お詫びと言ってはなんだがゆっくり専用のプレイル ームで遊んでみないかい?プレイルームって言うのは遊び場のことだよ。」 それを聞くとゆっくり達は、 「ゆっくり遊びたい!」 「おじさんやっさしい!」 「遊びたい!」 ゆっくり達はおじさんの提案を歓迎し、まだ生まれたばかりの小さな体を使いめいいっぱい跳びはねて喜んでいる。 そしておじさんはプレイルームのドアの前まで案内してくれた。その扉は先ほどの部屋のものとは違いゆっり達専 用なのか小さかった。 「さぁ、ここだ。ゆっくり楽しむんだよ。」 そう言っておじさんは扉を開けた。 ゆっくり達の目の前には、広い部屋が広がっていた。 ゆっくり達は無邪気に飛び跳ねて中へ入っていく。扉を閉める際男は、 「しばらくすると別の部屋につながる扉が開くから中でゆっくりしていればいいよ」 「おじさんありがとう!」 「ゆっくりするよ!」 ゆっくり達は目をキラキラさせおじさんにお礼を言った。そして扉が閉められ鍵がかけられた。 プレイルームでゆっくり達は跳びはねたり、集団を作ってゆっくりしている。 しばらくすると上から液体のようなものが落ちてきた。そしてどこからかおじさんの声が聞こえる。 「やぁゆっくり達聞こえるかい?その部屋は適度な雨を降らせる部屋なんだ。その液体は安全なものだから安心す ればいいよ。」 ゆっくり達は初めて見る雨に興味があるようで、陽気に飛び跳ねて楽しんでいる。 「きもちいい!」 「ゆっくり!」 しばらくすると雨がやみ、入ってきたときと反対の方にある扉が開いた。 「さぁ、次のプレイルームに進むといいよ」 おじさんの声を聞くとゆっくり達はわくわくしながら次の部屋に進んだ。 ゆっくり達の体は入ってきた時よりきれいになっていた。だがそのことに気が付くゆっくりは一匹もいなかった。 次の部屋にすべてのゆっくりが入ると扉が閉まり鍵がかかった。 しばらくするとゆっくり達の体が宙に浮いた。 「ゆっくり!?」 「おっと、説明する前にスイッチを入れてすまないね。その部屋は床から風が吹き出して体が宙に浮くようになっ ているんだよ。危険なことはないから安心してゆっくりすればいいよ」 はじめはびっくりして戸惑っていたゆっくり達だったが、今まで跳びはねることしかできなかった体が宙に浮き、 とても楽しそうにしている。 「ゆっくーり」 「ゆ~ゆ~ゆ~♪」 しばらくすると風が止み、ゆっくり達はゆっくりと床に着地し、次の部屋への扉が開いた。 「もっとゆっくり浮かびたかった!」 「ゆっくりしたかった」 何匹かのゆっくり達は不満を漏らしたが、おじさんになだめられ次の部屋へ進んでいった。 先ほどの部屋でぬれたゆっくり達の体はすっかりかわいていた。 次の部屋へ進むとそこは一面の白い世界であった。ゆっくり達は初めて見るものを不思議そうな顔をしてい眺め ている。そしてまたおじさんの声が聞こえてくる。 「その白いものは雪と呼ばれるものだよ、その上で遊ぶととても気持ちがいいよ」 おじさんの言葉を聞くとゆっくり魔理沙が恐る恐るその白い世界へ入っていった。そして、 「サラサラしてとっても気持ちいいよ!みんなも来て一緒にゆっくりしようよ!」 それを聞くとた躊躇っていたゆっくり達は一斉に飛び込んでいった。 白い粉が一斉に宙を舞い、ゆっくり達を包み込んだ。ゆっくり達はそんなことは気にもせずに飛び跳ねて遊んで いる。しばらくするとゆっくり達は真っ白になっていた。そう、これは雪ではない。しかしゆっくり達は本物の 雪を知らないため、真っ白になっても何の疑問も持っていなかった。 「ゆっくり霊夢真っ白、真っ白w」 「ゆっくり魔理沙も真っ白w」 そして次の部屋の扉が開き真っ白になったゆっくり達は次の部屋へ進んでいく。 次の部屋にはいくつかのくぼみがあり、黄色い液体で満たされていた。またおじさんの声が聞こえる。 「この部屋は泥遊びの部屋だよ。部屋にあるいくつかのくぼみに泥が入ってるから泥まみれになるのもよし、飛ば しあうのもよし、好きに遊ぶといいよ」 そう聞くと好奇心旺盛なゆっくり魔理沙が先陣を切って泥だまりへとダイブした。衝撃で泥が飛び散り様子を伺 ていたゆっくり達に飛び散った。 「ゆっくり霊夢にあたったあたった!」 「ゆーーーー、ゆっくり魔理沙!」 泥のかかったゆっくり霊夢は負けじと泥だまりへダイブし、ゆっくり魔理沙に泥を飛ばす。これを見ていたほか のゆっくり達は続々と泥へダイブしていく。そして楽しそうに泥遊びをした。 しかし、先ほど体についた白い粉に黄色い液体がまとわりつき、次第にゆっくり達のうごきは遅くなっていった。 「うぅぅ、体が重いよ」 「動きにくいよ」 ゆっくり達は苦痛をもらす。その時次の扉が開きおじさんの声が聞こえた。 「次の部屋で体にまとわり付いたものが落とせるよ、さぁ行った行った。」 それを聞いたゆっくり達はこぞって次の部屋へ進んでいった。 ゆっくり達は次の部屋へ行くため重たい体で飛び跳ねながら通路を進んでいる。すると突然電気が消えた。 「なに?」 「どうしたの?」 ゆっくり達がわけがわからずその場で立ち尽くしていると、暗闇の中でなにやら音がした。そして体が急に転が りだす。今まであった床が傾き、坂となりゆっくり達は続々と暗闇の中へ転がっていく。 「ゆっくり止まってね!」 転がるのは止まったが部屋は真っ暗のままだった。ゆっくり達は困惑している。その時おじさんの声が聞こえた。 「さぁ最後の仕上げだよ」 そして電気がついた。 ゆっくり達は驚愕した。ゆっくり達は底が円形の吊るされた檻に入っている。そして下には熱気を発する薄茶色 の液で満たされた大きな入れ物があった。周囲には足場はなく、例え檻から出られたとしても逃げ道はなかった。 「今からゆっくり達が入っている檻の底を端からゆっくりと無くしていくからね。最後に残ったゆっくりは助けて あげてもいいよ」 ゆっくり霊夢はあまりの出来事に呆然としている。その時、 「ゆっくり落ちてね!」 あの好奇心旺盛だったゆっくり魔理沙がゆっくり霊夢に体当たりしたのである。ゆっくり霊夢はなくなった床か ら高温の液体の中へ落ちていった。そして悲鳴が聞こえてくる。 「あづいよぉぉぉぉぉ、だずげで!おでがいじばずぅぅぅぅぅ。」 そして次第に声は小さくなり聞こえなくなった。小さな檻の中で生き残りをかけた戦いが始まった。 初めは十分にあった床はどんどん狭くなり、そしてゆっくり達はどんどん落ちていく。時間がたつにつれて悲鳴 の量は増えていく。 「だづげでおねがい!」 「ゆっぐりできないよ!ゆっぐりでぎないよ!」 「おじさん!やざじいおじさん!お願い!」 ゆっくり達の哀願は届くことはなく次々と力尽きていく。 檻の中のゆっくり霊夢達はすべて落ちてしまった。ゆっくり種というのは頭はさほど良くないのだが、ゆっくり 魔理沙は悪知恵が働くらしく、さまざまな手を使い、たくみにゆっくり霊夢を下に落としていった。 「霊夢うぅぅぅぅ、もっとゆっくりしようよぉぉぉ」 ゆっくり魔理沙は涙を浮かべ霊夢に話しかける、 「魔理沙ぁぁぁ、私もゆっくりぢたいよぉぉぉ」 つられてゆっくり霊夢も涙を流す。そしてゆっくり霊夢が油断した瞬間! 「ゆっくり死んでね!」 ゆっくり霊夢へ体当たりをして穴から下へ落とすのであった。 普段は仲良くしているが、追い詰められると本来の性格が現れるようだ。 このように姑息な手段を用いて檻の中はゆっくり魔理沙だけになった。 そして床はどんどんとなくなっていく。ゆっくり達は気が付く。端から床が無くなるのだから中心にいれば助か ると。こうして檻の中心の取り合いが始まる。 「さっさとどいてね!」 「ゆっくりさせないよ!」 中心を陣取るために体当たりするゆっくり達 「もっとゆっくりさせてね!」 「ゆっく!ゆっく!ゆっくりさせてね!」 中心を死守しようとするゆっくり達 戦いに敗れたゆっくりは絶望の表情に涙を浮かべて下へ落ちてゆき、悲鳴を上げる。 そしてその檻の中は1匹のゆっくり魔理沙だけになった。下からは助けを請うゆっくりの悲鳴が聞こえてくる。 男の声が聞こえる 「どうやら1匹になったようだね。約束通り助けてあげよう。」 床が元に戻り檻の出口が開く。そして開いた檻の先に見える出口らしき場所から床が伸びてくる。 ゆっくり魔理沙は安堵する。 「やっと・・・ゆっくりできる・・・」 しかし伸びてきた床は檻の入り口まで届いていなかった。 「少し距離が足りないようだがそれくらいなら跳べるね、ジャンプして跳び移ってくれるかい?」 ゆっくり魔理沙は見た。檻の出口と床の間は約ゆっくり1匹分。簡単に飛べる距離であった。 ゆっくり魔理沙は最後の力を振り絞って飛んだ!目の前に床が見えた。これでやっとゆっくりできる。そう思っ た瞬間! ガコン 「ゆ!?」 何かに当たったゆっくり魔理沙は表現ができない表情を浮かべ涙を流し落ちていった。そして悲鳴を上げる。 「ゆっぐりぢだがっだよぉぉぉぉぉぉ」 周囲には自分が落としたゆっくり霊夢や魔理沙がプカプカと浮いていた。既に意識はない。それを見てゆっくり 魔理沙はさらに絶望するのであった。 「おじざん、やぐぞくどおりだずげでよぉぉぉ」 ゆっくり魔理沙が悲鳴を上げる、すると男は話し出す。 「残念だったね透明な板が設置してあってどうあがいても飛び越えられないんだよ。まぁいつものことだ、君を助 ける気なんて毛頭なかったんだよ。ゆっくり達を一気に落とすと油の温度が急激に下がってうまく揚げあがらない んでね、だから最後に残ったゆっくりを助けると言ったんだよ。そうすれば争い合ってゆっくりと落ちていくから ね。」 男は説明するがゆっくり魔理沙の意識は既に無くなっていた。 ゆっくり加工場に隣接する饅頭屋には長蛇の列ができている。 「いらっしゃい!いらっしゃい!今日は週に一度のゆっくり揚げ饅頭の販売日だよ!」 幻想郷の住民の間では今ゆっくり揚げ饅頭は一大ブームとなっている。 その列を見た金髪の女性は並んでいる住民にこの列はいったい何なのか尋ねた。 「おやまぁ、お嬢さん。ゆっくり揚げ饅頭を知らないのかい?」 「ゆっくり揚げ饅頭?」 「そうさ、そこの饅頭屋で売ってるんだ。見た目は少々アレだが味は抜群だよ。」 金髪の女性は試しに買ってみることにした。 一時間並びようやく買うことができた。 「ふぅ、やっと買えたわ。これでまずかったらあの饅頭屋ただじゃおかないわ」 一口ほおばる、 「こ、これは!」 おいしい、確かに並んで買うだけのことはあるとその女性は思った。 「あら?」 その饅頭をよく見ると、どこかで見たことがある顔がうっすらと見える。 そう、この恐怖におびえる顔はまさしく家で透明な箱に閉じ込めてあるゆっくり魔理沙であった。 「もし?この揚げ饅頭はあの饅頭屋で作っているんですか?」 自分と同じように揚げ饅頭を買った人間に聞いた。 「いんや、なんでもあの饅頭屋に隣接する工場で作っているらしいよ。まぁ作り方までは知らないがね。」 「どうもありがとうございます。」 家路に付く途中、その女性は独り言をつぶやいた。 「うふふふふ、いいこと聞いたわ」 金髪の女性は不敵な笑みを浮かべ森の中へ消えていった。 End 作成者:ロウ 後書き 最後まで読んでいただきありがとうございます。 前作の“ゆっくり霊夢の生涯”で生き別れたプチゆっくりたちの結末を書かせていただきました。 もう気が付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、今回のSSは宮沢賢治の注文の多い料理店をモチーフに 作成いたしました。まぁモチーフと違い料理されて食べられてしまうんですけどね^^;。 東方のキャラが0人というのは寂しかったので、勝手ながらアリスがゆっくり加工場の存在を知った時という設定 を入れさせていただきました。 作成するに当たり、改めて加工場を書いた方がいかに神がかっているかを痛感いたしました。 とりあえず頭の中に浮かんだネタは一通り出し切りました。 アイデアさえ浮かべば次回作を書きたいと思います。と言いながらも文章を推敲している間に紅魔館を舞台にした ゆっくりいぢめがなんとなく頭の中に浮かんできてしまいました。(もう病気ですねw) 私のような初心者が書いたSSでも読みたい!という人が一人でもいるならゆっくりですが書きたいと思います。 個人的には漫画を描きたいのですが、幼少の頃から画力が絶望的なのであきらめています;; 念のためゆっくり達が入った部屋の説明をしておきますね。 洗浄 → 乾燥 → 小麦粉まぶし → とき卵づけ → 揚げ ちなみにSSの通りに揚げ饅頭を作ってもおいしく出来上がるかは一切責任を持ちませんのであしからず。