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← メギドラオン。 それは極大の火力に他ならない。 単純な破壊力だけに絞って言えばリンボ自身の本来の宝具よりも数段上を行く。 龍脈の龍を経由してその身に会得した異世界の魔法。 蘆屋道満程の術師であれば、それを最上の形で扱いこなすなど朝飯前の茶飯事だった。 更に禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満として完成された素体をもってすれば尚の事。 結果として歓喜のままに解き放たれた最上の炎は屍山血河舞台の総てを焼き尽くし。 後に残された者達は、当然のように敗残者らしい姿を晒す憂き目に遭った。 「これはこれは」 アビゲイル・ウィリアムズは右腕を黒焦げの炭に変えられ。 新免武蔵は髪房を焼き飛ばされた上、炎の中に生存圏を捻出する為に多刀の半分以上を溶かさねばならなかった。 そして伏黒甚爾の損傷が一番重篤だ。 彼は左腕を肩口から消し飛ばされ、それだけに留まらず左胴全体に大火傷を被っていた。 如何に彼が天与呪縛のモンスターであると言えども、これは紛うことなき致命傷だった。 「皆様お揃いで、随分と見窄らしい姿になりましたな」 らしくもなく息を乱した姿に溜飲が下がったのかリンボは満足げに彼の、そして彼らの有様を嘲笑する。 一番被害の軽い武蔵でさえ二天一流の強みを大きく削ぎ落とされた形。 アビゲイルと甚爾は四肢を三肢に削がれ、後者に至っては生命活動の続行さえ危うい容態にまで追い込まれている始末。 無様。 神に弓引いた者達の顛末としては実に"らしい"体たらくではないか。 そう嗤うリンボだけが唯一無傷だった。 三人が負わせた手傷もダメージも、メギドラオンの神炎が晴れる頃にはその全てが消え失せてしまっていた。 「…大丈夫、二人とも」 「私は、なんとか。でも…」 アビゲイルの眼が甚爾を見やる。 甚爾は答えなかった。 それが逆に、どんな返事よりも雄弁に彼の現状を物語っている。 “…こりゃ駄目だな。流石に年貢の納め時らしい” 冷静に自分の容態を分析して判断を下す。 此処まで数秒足らず。 自分の肉体の事は嫌という程よく分かっている。 何が出来るのかも、何が出来ないのかも。 以上をもって伏黒甚爾は自分の末路を悟った。 “不味い仕事を受けちまったな。タダ働きの果てがこれじゃ全く割に合わねぇ” ほぼ間違いなく自分は此処で死ぬ。 反転術式なんて便利な物が使える筈もない。 マスター経由での治癒も見込めず、体内は主要な臓器が半分程焼損している有様だ。 今こうして生き長らえている事が奇跡と言っても決して大袈裟ではなかった。 “従っても歯向かっても、結局汚れ仕事やるような奴は長生き出来ねぇってか。…返す言葉もねぇな” あの時。 伏黒甚爾は、アイドルの少女を射殺した後――芽生えた違和感に逆らわなかった。 大人しく尻尾を巻いて逃げ帰った。 それでも結局こうして屍同然の姿を晒すに至っているのはどういう訳か。 問うまでもない。 そういう訳なのだ。 散々暗躍して来たツケか、どうやら往生際という奴が回ってきたらしい。 何か途轍もない幸運に恵まれて生き長らえる事が出来たとしても隻腕の猿など何の使い物にもなりはすまい。 つまり此処で自分は、ごくあっさりと詰んだ訳だ。 仕事人らしくひっそりと…呆気なく。 似合いの末路だ。 甚爾は満身創痍の体の可動域を確かめながら自嘲げに笑う。 とはいえこれで最後なら、もう後先考える必要もない。 最後に死に花咲かせてアビゲイルにバトンを渡せばそれで終いだ。 “化物退治の英雄になるつもりなんざ端からねえんだ。ド派手な英雄譚なんざ、持ってる奴らに任せとけばいい” 例えば、得体の知れない神に魅入られているガキだとか。 例えば、差し向けられた呪いも力も全部真っ向斬り伏せちまう剣客だとか。 華々しい勝利や首級はそれが似合う奴らに任せるのが絶対的にベターだ。 能無しの猿がやるべき仕事はその手伝いと後押し。 奴らが気持ちよく本懐果たせるように裏方仕事で敵を削り、死ぬ前に野郎の吠え面が見られればラッキーと。 そうまで考えた所で、 『猿では儂は殺せぬ。誅せぬ。一芸、一能、道具を用いようと知恵を使おうと、人の真似を超えませぬ』 『黄金ほどの衝撃もない。 雷光ほどの輝きもない。 火焔ほどの鋭さもない。 絡繰ほどの巧拙もない。 鬼女ほどの暴力には、些か足りない』 ――違和感。 自らの意思と相反して隻腕に力が籠もった。 その右腕を見下ろす視線は忘我。 次に浮かんだのは苦笑だった。 「俺も懲りねえな」 "違和感に逆らい続けると、ろくなことがない"。 結局の所猿は猿なのだろう。 然り。 この身に正義だの信念だのそんな大層な観念は今も昔も一度だって宿っちゃいない。 只強いだけの空洞。 そしてその空白を埋める物は、もう未来永劫現れる事はない。 自分も他人も尊ぶことない。 そういう生き方を選んだのだから。 そんな青を棲まわせる余地なぞ、この体に一片だってあるものか。 それは今も変わらない。 きっとこれからも。 何があろうとも――。 「フォーリナー」 リンボの五指は今や指揮棒だった 振るその度に呼吸のような天変地異が発現する光景は悪夢じみている。 地震。火災。雷霆に怪異の跳梁、束ねた神威を放てばそれは必滅の審判と化す。 傷口が炭化して血すら流れない欠けた体で地面を蹴り、それらをどうにか掻い潜りながら。 すれ違う僅か一瞬、甚爾はアビゲイルへと耳打ちをした。 「――――――」 少女の眼が見開かれる。 だめよ、と口が動いた気がした。 それに耳は貸さない。 伝えるべき事は伝えたと、猿は戦端へ戻っていく。 “しかし流石に坊さんだな。人の陥穽探しは得意分野か” 捨てられるものは残らず捨てた。 何だって贅肉と断じて屑籠へ放り込んだ。 それをとっとと焼き捨ててしまわなかったのが"あの時"の失敗。 だから今回は歯車たれと。 依頼人のオーダーを完璧にこなして座へ帰る、そういう役割に殉ずるべきだと。 そう決めていた。 今だってそのつもりだ。 なのに猿は何処までも愚かしく。 そして、何処までも人間だった。 ――後先がなくなった。 未来が一つに定まった。 後任は用意出来ている。 何より今この場を仕損じれば、その時点で仕事は失敗に終わるのが確定している状況。 そんな数々の理由が…言い訳が。 英雄が生前の偉業をなぞるが如くに。 術師殺しの男に、その愚行をなぞらせる。 「…さて」 右腕は問題なく動く。 両足の火傷も軽微だ。 内臓の損傷は重度。 失血で脳の回りは悪い。 何より片腕の欠損がパフォーマンスを著しく低下させている。 仕事人として、術師殺しとして片手落ちも良い所だ。 以上をもって伏黒甚爾は結論付ける。 ――問題ない。 「やるか」 悪神と化したリンボを討たずして仕事の続行は有り得ない。 ならばその為に今此処で死力を尽くそう。 この違和感に逆らって。 この衝動に従って。 甚爾は地を蹴った。 無形の魔震を斬り伏せながら吶喊する。 嘲笑うリンボへ獰猛に笑い返して、男は愚かのままに突き進んだ。 呪霊の海が這い出でる。 禍津日神の呪力によって無から湧き出す百鬼夜行。 それを切り払いながら進む甚爾の奮戦は隻腕とは思えない程に冴え渡っていたが、しかしそれは大局に何の影響も及ぼしていなかった。 「健気なものよ。これしきの芸当、今の儂には無限に行えるというのに」 夜行は攻め手の一つに過ぎない。 甚爾を嘲笑うように九頭竜の顎が開き、九乗まで威力を跳ね上げた魔震を炸裂させた。 アビゲイルが鍵剣を振るって空間をねじ曲げる。 そうして出来上がった脆弱点を武蔵が押し広げ、力任せにぶち破った。 だが足りない。 無茶をしても尚砕き切れなかった震動の余波が彼女達の体を容赦なく蹂躙する。 武蔵が血を吐いた。 アビゲイルが片膝を突いた。 されど休んでいる暇などない。 甘えた事を宣っていれば、足元から間欠泉宛らに噴き出した呪炎の泉に呑まれていただろう。 「チェルノボーグ、イツパパロトル」 二神が列び立って天元の桜を迎撃する。 暗黒と吸精が、女武蔵の体を弾丸のように弾き飛ばした。 彼らは次の瞬間にアビゲイルの喚んだ触手に呑み込まれ即席の牢獄へ囚えられたが、それも所詮は僅かな時間稼ぎにしかならない。 空に瞬く赫い、何処までも赫い太陽。 先刻三人が見た最強の魔法を嫌でも想起させるそれが弾ければ、地上はまたしても熱波の地獄に置き換わった。 「メギド」 メギドラオンに比べれば遥かに威力は落ちる。 だがそんな事、何の救いにもなりはしない。 最上に比べれば威力が幾許か落ちる。 ――だから何だというのだ。 「では十度程、連続で落としてみましょうか」 今のリンボが繰り出せばどんな術でも致命の威力を纏う。 ましてや格が低いという事は、即ち連射に耐える性能であるという事でもあり。 稚気のように言い放たれたその言葉は、彼女達に対する死刑宣告となって降り注いだ。 「絵画を楽しむ趣味は御座いませんでしたが。なかなかに愉しい物ですなぁ、絵筆で何か描くというのも」 この体を筆に、この力を絵具に。 自由気ままに絵を描く。 世界という名の白紙を塗り潰す。 そうして描き上げるのだ、色とりどりの地獄絵を。 地獄の業火より逃れ出んとする不遜者があれば直ちに罰を下そう。 羅刹王を超え髑髏烏帽子を卒業し、現世と地獄を永久に弄ぶ禍津日神と化したこの蘆屋道満の眼が黒い内は斯様な不遜なぞ許さない。 「このようになァ」 「あ、ぎ…!」 鍵を掴み立ち上がろうとした巫女の右足が吹き飛んだ。 リンボの放った呪詛が鏃となって無慈悲に罪人を誅する。 「如何ですか、アビゲイル・ウィリアムズ。純真故に怒る事すら正しく出来ない哀れな貴女」 全身の至る所に火傷を負い、酷い部分は炭となって崩れ始めているその様相は悲惨の一言に尽きる。 そんな彼女の姿にはこの状況でも尚何処か退廃的な美しさが宿っており、それを嬉々と感傷しながらリンボは綴る。 「主の仇を討つ事は愚か、彼女へ引導を渡したのと同じ攻撃で為す術なく膝を突かされる気分は。 是非とも、えぇ是非とも、この九頭竜新皇蘆屋道満へお聞かせ願いたい。それはさぞや芳しい蜜酒となりてこの身を潤すでしょうから」 「…とても痛くて、辛いわ。泣いてしまいそうになるくらい」 向けられるのは只管に思慮等とは無縁の悪意。 生傷に指をねじ込んで穿り返すような嗜虐。 それに対し滔々と漏らすアビゲイルの声にリンボは笑みを深めたが。 そんな彼に対して巫女は、鍵を杖によろよろと立ち上がりながら言う。 「可哀想な御坊さま。貴方は、私に怒ってほしいのね」 「ほう、これはまた面妖な事を仰る。 確かに、ええ確かに銀の鍵の巫女たる貴方が髪を振り乱し目を剥いて怒り狂う姿を見たくないと言えばそれは嘘になりますが」 ギョロリとリンボの眼が動いた。 「言うに事欠いてこの拙僧を哀れと評するとは…いやはや、異界の感性というのは解らぬ。 こうも満ち足り、満ち溢れて止まらないこの霊基が貴女には見えぬのですかな? 今まさにこの蘆屋道満は過去最高の法悦のままに君臨し、御身らの奮戦さえ喰らって地平線の果てへ漕ぎ出さんとしているというのに!」 「ええ。貴方はきっと…とても可哀想なひと。酷い言葉と、棘のような悪意で着込んでいるけれど……」 今のリンボは奈落の太陽そのものだ。 底のない黒を湛え、脈打ち肥え太る破滅の熱源。 既にその性質は赤色矮星と成って久しい。 彼はあるがまま思うがままに全てを呑み干すだろう。 まさに至福の絶頂。 哀れまれる理由等何もない。 「本当は…とても寂しいのね。 分かるわ。その気持ちを、私は何処かで知っているから」 巫女はそんな彼の逆鱗を、その指先で優しく撫でた。 「どれだけ手を伸ばしても届かない誰かに会うために歩き続ける。 星に手を伸ばすみたいに途方もない事だと知りながら、それでも諦められない何か。 頭のなかに強く、そう太陽みたいに焼き付いて消えない憧憬(ヒカリ)……」 …朧気に揺蕩う記憶が一つ、アビゲイルにはあった。 それはきっと"この"アビゲイルに起こった出来事ではない。 魂の原型が同じだから、存在が分かれる際に偶々流れ込んでしまっただけの記憶と想い。 ある少女の面影を探して、きっと今も宇宙の果てを旅しているのだろうもう一人の自分の記憶。 「だからお空を見上げているのでしょう。あなたは」 「――黙れ」 そんなものを抱えているから、アビゲイルはこうして悪逆無道の法師へと指摘の杭を打ち込む事が出来た。 昂るばかりであったリンボの声色が冷たく染まる。 絶対零度の声色の底に煮え滾る怒りの溶岩が波打っている。 その証拠に次の瞬間轟いた魔震は、先刻彼女と武蔵が二人がかりで抉じ開けた物より更に倍は上の威力を持って着弾した。 「ン、ンンンン、ンンンンンン…!」 それはまさに極大の災厄。 自分で生み出した呪符も百鬼夜行も全て鏖殺しながら、リンボは刃向かう全てを押し潰した。 立っている者は誰も居ない。 猿が倒れ。 巫女が吹き飛び。 剣豪でさえ地に臥せった。 「…いけない、いけない。神たるこの儂とした事が餓鬼の戯言に揺さぶられるとは」 誰一人禍津日神を止められない。 天を目指して飛翔する禍津の星を止められない。 力は衰えるどころか際限なく膨れ上がり、無限大の絶望として悪僧の形に凝集されている。 彼こそが地獄、その体現者。 この偽りの地上に地獄の根を下ろし。 いずれは世界の枠さえ飛び越えてありとあらゆる平行世界を悪意と虐殺の海に変えるのだと目論む邪悪の権化。 そんな彼の指先が天へと伸びた。 昏き陽の輝く空には鳥の一匹飛んでいない。雲の一つも流れていない。 孤独の――蠱毒の――お天道様が口を開けた。 白い歯と真っ赤な舌を覗かせながら、神に挑んで敗れた愚か者達を嗤っている。 「とはいえ今ので多少溜飲は下がりました。拙僧も暇ではありませんので、そろそろ幕を下ろすとしましょう」 そうだ。 これは太陽などではない。 斯様な悪意の塊が天に瞬いて全てを笑覧する豊穣の火であるものか。 彼男の真名(な)は悪霊左府。 かつて藤原顕光と呼ばれ、失意の内に悪霊へ堕ちた権力者の成れの果て。 蘆屋道満の盟友にして、彼の霊基に宿る三つ目の柱に他ならない。 「因縁よさらば。目覚めよ、昏き陽の君」 其処に収束していく呪力の桁は最早次元が違った。 単純な熱量でさえ先のメギドラオンを二段は上回る。 放たれたが最期、全てを消し去るに十分すぎる凶念怨念の核爆弾だ。 全ては終わる。 もの皆等しく敗れ去る。 「この忌まわしい縁の悉く平らげて、三千世界の果てまで続く大地獄の炉心と変えてくれよう――」 太陽が瞬くその一瞬。 リンボの高らかな勝利宣言が響き渡る中。 「ぞ……?」 …しかし彼はそこで見た。 視界の中、倒れた三人の中で誰よりも早く。 灼け千切れた体を動かして立ち上がった女の姿を、見た。 その姿は見る影もない程ボロボロだった。 勇ましく啖呵を切ってのけた時の清冽さは何処にもない。 死に体と呼んでもそう的外れではないだろう。 二天一流を特殊たらしめる多刀も今や二振りが残るのみ。 足を止めて死を受け入れても誰も責めないような、血と火傷に塗れた姿格好のままで。 それでもと、女武蔵は立ち上がっていた。 「――」 その姿を見る蘆屋道満。 惨め、無様。 悪足掻き、往生際悪い事この上なし。 罵る言葉なぞ幾つでも思い付くだろう醜態を前にしかし彼は沈黙している。 得意の嘲笑を口にするのも忘れて。 道満は――リンボは己が霊基の裡から浮上する光の記憶を思い出していた。 “…莫迦な。そんな事がある筈がない” 既視感。 本願破れて失墜し。 常世総ての命を殺し尽くすとそう決めた己の前に立ち塞がった男が、居た。 青臭くすらある喝破は子供の駄々とそう変わらなかったが。 それを良しとする神が笑い。 愚かしい程真っ直ぐなその男に、英雄に――剣を与えた。 あの光景と目の前の女侍の姿が重なる。 有り得ぬと。 布石も理屈も存在すまいと。 理性ではそう解っているのに何故か一笑に伏す事が出来ず、リンボは抜き放たれたその刀身を見つめ呟いていた。 「――神剣」 都牟狩、天叢雲剣、草那芸剣。 神が竜より引きずり出した都牟羽之太刀。 霊格では到底それらに及ぶべくもない。 禍津日神は愚か羅刹王にさえ遠く届かないだろう、桜の太刀。 それが何故ああも神々しく目映く見えるのか。 あれを神剣だなどと、何故己は称してしまったのか。 「…そう。貴方がそう思うのならきっとそうなんでしょうね、蘆屋道満」 「……否。否否否否否否否! 有り得ぬ! そんな弱い神剣がこの世に存在するものか! 世迷言を抜かすな新免武蔵ィ!」 「残念吐いた唾は飲めないわ。他でもない貴方自身が"そう"認識したんですもの。 うん、ちょっと安心しました。私、まだちゃんと貴方の敵であれてるみたいね」 これは神剣等ではない。 宿す神秘はたかが知れており。 神域に届くどころか一介の宝具にさえ及ばないだろう一刀に過ぎない。 だがリンボは先刻確かにこれに神の輝きを見た。 かつて己を滅ぼした、あの雷霆の如き光を。 悪を滅ぼしその企みを挫く――忌まわしい正義の輝きを見た。 「…銘を与えるなら"真打柳桜"。繰り返す者を殺す神剣」 勝算としてはそれで十分。 リンボの示した動揺が武蔵の背中を後押しする。 他の誰でもない彼自身がこの剣に神(ヒカリ)を見たのなら。 それこそは、これが目前の大悪を討ち果たし得る神剣なのだという何よりの証明だ。 たとえ贋作の写しなれど。 贋物が本物に必ずしも劣る、そんな道理は存在しない。 「――おまえを殺す剣よ、キャスター・リンボ!」 「ほざけェェエエエエエエ新免武蔵! 光の時、是迄! 疑似神核並列接続、暗黒太陽・臨界……!」 桜の太刀、煌めいて。 満開の桜に似た桃光が舞う。 見据えるのは空で嗤う暗黒の太陽。 地上全てを呪い殺すのだと豪語する奈落の妄執。 これは呪いだ。 これらは呪いだ。 改めて確信する。 こいつらが存在する限り、あの子達は笑えない。 あの二人が共に並んで笑い合う未来は決して来ない。 …それは。 爆ぜる太陽の猛威も恐れる事なく剣を握る理由として十分すぎた。 「伊舎那、大天象ォォ――!!」 「――狂乱怒濤、悪霊左府ゥゥッ!!」 光と闇が衝突する。 成立する筈もない鬩ぎ合い。 それでも。 負けられぬのだと、武蔵は臨む。 その眼に。 あらゆるモノを斬る天眼に。 桜の花弁が、灯って―― ◆ ◆ ◆ 必中、そして必殺。 古手梨花のみを殺す、古手梨花を確実に殺す領域。 時の止まった世界を駆ける弾丸、それは沙都子の先人に当たる女が駆使した運命の形だった。 人の身に生まれながら神を目指した愚かな女。 自分自身でもそう知りながら、しかし只の一度として諦める事のなかった先代の魔女。 今となっては彼女さえ沙都子の駒の一体でしかなかったが。 それでも梨花に勝つ為ならばこれが最良の形だろうと沙都子は確信していた。 上位の視点から異なるカケラを観測する術も持たぬ身で、百年に渡り黒猫を囚え続けた女。 彼女が振るった"絶対の運命"は後継の魔女、今は神を名乗る沙都子の手にもよく馴染んでくれた。 …止まった世界の中を弾丸が駆け。 そして古手梨花は為す術もなく撃ち抜かれた。 胸元から血が飛沫き、肉体を貫通した弾丸は彼方へ飛んでいく。 「チェックメイトですわ、梨花」 夜桜の血による超人化。 それも即死までは防げない。 梨花が頭と心臓への被弾だけは避けていたのがその証拠だ。 そんな解りやすい弱みを見落とす沙都子ではなかった。 部活とは、勝負とは相手の弱みを如何に見つけどう付け込むか。 仮に自分でなくとも、部活メンバーであるなら誰しも同じ答えに辿り着いただろうと沙都子は確信している。 「最後の部活…とても楽しかった。今はこれで終わりですけど、すぐに蘇らせますから安心してくださいまし」 決着は着いた。 役目を終えた領域が崩壊する。 それに伴って止まった時間も動き出した。 世界に熱と音が戻る。 心臓を破壊された梨花の体がぐらりと揺らぎ、地面へ吸い込まれるように倒れていき… 「――なってないわね、沙都子」 完全に崩れ落ちる寸前で、踏み止まった。 ――え。 沙都子の眼が驚愕に見開かれる。 演技でも何でもない。 本心からの驚きに彼女は目を瞠っていた。 馬鹿な。有り得ない。そんな筈はない。 弾丸は確実に命中していた――心臓を破壊した確信があった。 それに何十年分という体感時間を鍛錬に費やして技術を極めた自分がこの間合いで動かない的相手に外す訳がない。 じゃあ何故。 どうして。 答えが出る前に思考は中断された。 梨花の拳が、沙都子の呆けた顔面を真正面から殴り飛ばしたからだ。 「が、ぁッ…?!」 鼻血を噴き出して転がる。 只殴られただけだというのに、先刻刀で斬られた時よりも酷く痛く感じられた。 垂れ落ちる血を拭いながら立ち上がる沙都子の鋭い視線が梨花の顔を見据える。 「どう、して。どうして生きているんですの…! 私は外してなんかない、確実に貴女の心臓を撃ち抜いた筈ですのに!」 「さぁね。私にも…答えなんて解らない。所詮借り物の力だもの。小難しい理屈や因果なんて知らないわ」 そう言い放つ梨花の瞳には或る変化が生じていた。 桜の紋様が浮かび、発光しているのだ。 梨花にはこの現象の理屈は解らなかった。 しかしそんな彼女の裡に響く声がある。 『それは"開花"。夜桜(わたし)の血が極限まで体を強化したその時に花開く力』 …夜桜の血を宿した者は超人と化す。 これはその更に極奥の極意。 流れる血をまさに花開かせる事で可能となる正真の異能だ。 『元々兆候はあったけれど…まさか実戦で使えるまでに至るなんて。梨花ちゃんはつくづく夜桜(わたし)と相性がいいのね』 開花の覚醒は夜桜の力を数倍増しに強化する。 古手梨花は夜桜と成ってまだ数時間という日の浅さだが、しかし初代も驚く程の速度でこれを発動させる事に成功した。 北条沙都子が彼女に対して用いた絶対の運命――領域展開はまさに確殺の一手だった。 認めるしかない。 あれは梨花にとって本当にどうする事も出来ない詰みだった。 梨花もそれをすぐに悟った。 失われた記憶の断片が自分に告げてくる底知れない絶望の感情。 この運命からは逃げられないと、古手梨花の全てがそう語り掛けてきた。 「私は、こんな所で終われないと強く強く思っただけ」 「…ッ。そんな事で……そんな事で、私の運命を破れるわけが!」 「あら。私の通ったカケラを全部見てきた癖にそんな簡単な事も解らないの? 良いわ、改めて教えてあげる。運命なんてものはね、金魚すくいの網よりも簡単に打ち破れるものなのよ」 だとしても。 まだだ、と。 今際の際に梨花は詰みを回避する唯一の手段を捻出する事に成功した。 それが開花。 夜桜の血との完全同調。 簡単にとは行かなかったが。 それでも確かに古手梨花は、北条沙都子が繰り出した絶対の魔法を打ち破ってみせた。 「勝ち誇った顔をしないでくださいまし。たかが一度私の鼻を明かしたくらいでッ!」 「言われるまでもないわ。こっちもようやく温まってきた所なんだから」 これにて戦いは仕切り直し。 沙都子が銃を向け、梨花は切っ先を向ける。 『だけど気を付けて。その体は、開花の負担に耐え切れていない』 そんな事だろうと思っていた。 奇跡とはそう簡単に起こるものではない。 奇跡の魔女となる可能性を秘めた少女も、人の身では依然その偉業には届かないまま。 中途半端な希望は脳内に響く初代の声によって否定される。 『貴女の開花は"奇跡"。肉体の死を跳ね返す、本家本元の夜桜にさえ勝り得る異能』 生存の可能性がゼロでない限り、小数点の果てにある奇跡を手繰り寄せて自身の死を無効化する。 それこそが梨花の開花。 沙都子は絶対の魔女として急速に完成しつつあるが、神の因子を得た今の彼女でもまだ真なる絶対(ラムダデルタ)には程遠い。 だから彼女が扱う絶対の魔法には穴があった。 人間にとっては"無い"のと同義と言っていいだろう限りなくゼロに近い穴。 真なる奇跡(ベルンカステル)と袂を分かった梨花のそれもまた、沙都子と同様に穴を抱えていたが。 絶対のなり損ないと奇跡のなり損ないとでは本来あるべき相性の構図が反転する。 絶対の中に生まれた小数点以下極小の「もしも」を梨花の奇跡は必ず手繰り寄せる事が出来るのだ。 故に梨花は生を繋いだ。 しかしこんな、夜桜の血縁にさえ例がない程の芸当をやってのけた代償もまた甚大だった。 『二度目の開花で貴方は完全に枯れ落ちる。だから事実上、次はないと思っていい』 一度きりの奇跡。 まさに首の皮一枚繋いだ形という訳だ。 仮に沙都子がもう一度あれを使って来る事があればその時点で今度こそ梨花の敗北は確定。 断崖絶壁の縁に立たされたのを感じながら――それでも梨花は恐れなかった。 「行くわよ、沙都子」 「…来なさい、梨花!」 地を蹴って刀を振るう。 弾丸が脇腹を吹き飛ばすが気になどしない。 恐れず突っ込んだのは結果的に正解であった。 “力が、使えない…!?” 当惑したのは沙都子だ。 先刻まであれだけ漲っていた力が、急に肉体の裡から出て来なくなった。 消えた訳ではない。 確かに体内に溜まっている感覚がある。 なのに出力する事だけがどうやっても出来ない。 もう一度時を止めて撃ち殺せば済むだけだというその想定が、不測の事態の前に崩壊する。 ――沙都子は術師ではない。 だから当然知る筈もなかった。 領域の展開は確かに絶技。 生きて逃れる事は不可能に近い。 だが反面弱点も有る。 領域を展開して暫くの間は、必中化させて出力した術式が焼き切れるのだ。 従って今、沙都子は時を止められない。 黒猫殺しの魔弾を放つ事が出来ない…! “もう一度あれを使われたら、その時こそ私の負け” “もう一度あれを使えれば、私の勝利は確定する” ――最後の部活。 その制限時間が決まった。 北条沙都子の術式が回復するまで。 それが、この大勝負と大喧嘩のリミット。 梨花はそれまでに沙都子を倒さねばならず。 沙都子は、その刻限まで逃げ切れば勝ちが決まる。 有利なのは言わずもがな沙都子の方だ。 しかし彼女は、梨花から逃げ回る事を選ばなかった。 間近に迫る刀を躱す。 降臨者化を果たした体は完成度で決して夜桜に劣らない。 だからこそ梨花の斬撃を紙一重まで引き付けて躱し、その上で間近から頭部に向け銃弾の乱射を見舞うような芸当さえ可能だった。 梨花はこれを桜の花を出現させて受け止めさせ対処するが、先のお返しとばかりに沙都子の拳が鼻っ柱をへし折った。 次いで腹を蹴り飛ばされ、もんどり打って転がった所をまた銃撃の雨霰に曝される。 「は、はッ…! どうですの梨花ぁ……! 貴方が私に勝てるわけ、ないでしょうが!!」 「げほ、げほ…ッ。はぁ、はぁ……良いじゃない、そっちの方がずっとあんたらしいわよ沙都子。 神様気取りなんて全然似合わない。あんたはそうやって感情を剥き出しにして、生意気に向かってくるくらいが丁度いいのよ……!」 「その減らず口も…いつまで利いてられるか見ものですわね!」 群がる異界の羽虫を斬り飛ばし。 殺到する触手は斬りながら逃げて対処する。 湧き上がらせた桜の木々が触手を逆に絡め取って苗床に変えた。 異界のモノ…沙都子を蝕む冒涜的存在を片っ端から捕まえて殺す食虫花。 古手梨花は徹底的に、神としての北条沙都子を否定していく。 「そう――こんなの全然似合ってない。らしくないのよ、あんたが黒幕とか悪役とか!」 「私をこうしたのは梨花でしょうが!」 「解ってるわよそんな事! だから、引きずり下ろして同じ目線でもう一回話をしようとしてるんじゃない…!」 鉛弾が右腕を撃ち抜いた。 刀を握る力が拔ける。 知った事かと左手で沙都子を殴った。 沙都子の指が引き金から外れる。 知った事かと、沙都子も右手で梨花を殴る。 そうなると最早武器の存在すら彼女達の中から消えていく。 能力も武器もかなぐり捨てて。 二人は只、思いの丈をぶつけ合いながら殴り合っていた。 「そんなまどろっこしい事してられませんわ…! 私が勝って貴方を思い通りにすればいいだけの話じゃありませんの! 雛見沢を、私達を……私を捨てて何処かへ行こうとする梨花の言う事なんて信用出来る訳がありませんわ!」 沙都子が殴れば。 「うるさいわね、馬鹿! 捨てるだの何だのいちいち言う事が重いのよあんたは…!」 梨花も負けじと殴り返す。 容赦のない拳は肉を抉り骨をも砕く。 だが双方ともに、人間などとうに超えているのだ。 少女達は可憐さを維持したまま無骨な殴り合いに興じていく。 「外の世界に行きたい。今まで知らなかった景色を見たい。そう願う事が悪いなんて話は絶対にない!」 「貴女がそんなだから私がこうして祟りを下さなければいけないのでしょうが…! あんな監獄みたいな学園で、背中が痒くなるような連中に囲まれてちやほやされて暮らす未来。 それが……そんなものが、梨花の理想だったんですの? ねえ、答えて――答えなさいよッ!」 「そんな、わけ…ないでしょ――!」 そうだ、そんな訳はない。 憧れがなかったとは言わない。そういう世界に。 何しろ百年の日々は自分にとってそれこそ監獄だった。 雛見沢の古手梨花以外の何者にもなれない。 オヤシロさまの巫女。 古手家の忘れ形見。 村人みんなに愛される村のマスコット。 自分は只、そんな世界から一歩踏み出してみたかっただけ。 自分の事なんか誰も知らない世界で自由に生きてみたかった、それだけ。 そしてその横に…一つ屋根の下で一緒に暮らして来た親友が居てくれたらとそう思ったのだ。 「雛見沢症候群も安定して、何処にでも行けるようになった。 そんなあんたと一緒に外へ出て、色んな物を見てみたいと思った。 だからあんたを誘ったのよ。お山の大将になるのが目的だったなら、あんたみたいなお転婆連れてく訳ないじゃないッ」 「だったら…! 私とずっと二人で居れば良かったじゃありませんの! 梨花が一緒に居てくれたのなら、梨花さえ一緒に居てくれたら……! 私だって大嫌いでしょうがない勉強も、いけ好かないお嬢様気取りの連中も…我慢出来たかもしれませんのに!」 一際強い拳が打ち込まれて梨花が蹌踉めき後退する。 荒い息が口をついて出る。 夜桜の血を宿し、仮に一昼夜走り続けても疲れないだろう体になったにも関わらず酷く呼吸が苦しかった。 見ればそれは沙都子も同じのようだ。 「ッ…。それは、……本当に後悔してるわよ。誓って嘘じゃない」 理由や因果を求める等無粋が過ぎる。 彼女達は今、かつてない程に本気なのだ。 だから息も乱れる。汗も掻く。拳が痛くなるくらい力も込める。 「すれ違いがあったとかそんなのは体のいい言い訳に過ぎないわ。 …私はあの時、周りの連中を振り切ってでもあんたに会うべきだった。 ふて腐れてむくれたあんたの手を引っ掴んで側に居てやるべきだった。 病気が治って狂気が消えても、……あんたの心に残った傷までなくなった訳じゃないって事、忘れてた」 北条沙都子には傷がある。 人間誰しも心の傷くらいある。それは確かにそうだ。 でも沙都子のそれは常人と比にならない数と深さであると、梨花は知っている。 両親との不和とそれが生んだ悲しい惨劇。 叔母夫婦からの虐待。 兄への依存とその顛末。 村人からの冷遇。 全て解決した問題ではある。 過ぎ去った過去ではある。 だとしても…心に残った傷痕まで消える訳ではない。 その傷が雛見沢症候群なんて関係なく不意に疼き出す事も、きっとあるだろう。 それをかつての自分は見落としていた。 蔑ろにしていた、見ていなかった。 …それが古手梨花の"業"。 「――なにを、今更」 梨花の告白を聞いた沙都子は思わずそう口にした。 湧いて出た感情は怒りとやるせなさ。 後者は見せる訳にはいかないと。 そう思ったから唇を噛み締めて拳を握る。 そのまま梨花の横っ面に叩き付け殴り飛ばした。 「誰が…! 信じるって言うんですの、そんな言葉……!」 梨花は拳を返してこない。 されるがままだ。 地面に倒れたその胸へ馬乗りになって沙都子は拳を振り下ろした。 「何度繰り返しても、何度閉じ込めても! 私がどんなに工夫して殺しても甚振っても追い詰めても…! それでも最後の世界まで雛見沢の外を目指し続けたわからず屋の梨花! 必死に説得してどうにか心をへし折っても、きっかけ一つあればそうやってまた外の方を向いてしまう! そんな貴女の言う事なんて……! 何一つ信用出来ないんですのよ、馬鹿ぁッ!」 何度も何度も。 何度も何度も振り下ろす。 鼻が砕けて歯がへし折れる。 顎が砕けて目玉が潰れ、顔を顔として識別するのが不可能になっても沙都子はそれを続けた。 「私は…! 外の世界なんて一生知らないままで良かった!」 何が悲しくて大好きな雛見沢を捨てなければならない。 そうまでして見る価値があるのか、あんな世界に。 「外なんて大嫌い、勉強も都会も全部だいっキライ! 何処もかしこも排気ガス臭くて五月蝿くて暑くて…雛見沢の方がずっといい! 何が良いんだかさっぱり解らない甲高いだけの歌声をバカみたいな音量で流してありがたがってる神経もさっぱり解らない!」 井の中の蛙と呼ぶならそれでいい。 あの井の中には全てがあったから。 北条沙都子が幸福に生きていける全てが揃っていた。 「…私は!」 梨花も同じだとばかり思っていた。 そして今も、自分と同じになるべきだと思っている。 「私は……あの家であなたと一緒に居られたなら、只それだけで良かったのに!」 …それが北条沙都子の"業"。 此処に二人は互いの業をさらけ出した。 梨花の手が。 ずっと無抵抗だった彼女の手が動いて、沙都子の拳を受け止める。 次の瞬間沙都子は顔面へ走る衝撃によって吹き飛ばされた。 顔を再生させながら梨花が立ち上がる。 沙都子も呼応するように立ち上がった。 仕切り直しだ――梨花は再び刀を、沙都子は再び銃を握って相手に向ける。 「…ねえ、沙都子」 「…何ですの、梨花」 忌まわしい花だ。 視界にちらつく花弁を見て沙都子は思う。 桜は嫌いだ。 門出の季節をありがたがる気にはなれない。 "卒業"なんて誰がするものか。 この業は、これは、私のものだ。 誰にも渡さない。 一生、世界が終わったって抱え続けてやる。 「私が勝った時の罰ゲーム。今の内に言っておくわね」 そんな沙都子に梨花はこんな事を言った。 沙都子はそれを鼻で笑う。 負ける気などさらさらないのだ、何だっていい。 どんな罰ゲームだって受けてやるとそう不遜に示す。 「ボクは…もう一度、沙都子とやり直したいです」 「――――」 そんな沙都子の思考が止まった。 魔女としての言葉ではなく。 敢えて猫を被り、自分のよく知る"古手梨花"として話す彼女の言葉。 「外の世界への憧れはやっぱり捨てられません。 沙都子の言う通り、ボクは何度だって雛見沢という井戸の外を目指してしまう。 そしてボクの隣に沙都子が居て、二人で同じ景色を見る事が出来たらいい。そんな夢を見てしまうのです」 「…何、を。言って――話、聞いてませんでしたの? 私は……!」 「解っています。だからこれは沙都子にとっては罰ゲームなのですよ」 それはあまりにも愚直な言葉だった。 馬鹿げている。 何を聞いていたのかと思わず反論しそうになったが、罰ゲームの一語でそれを潰された。 理に適っているのがまた腹立たしい。 相手が嫌がる事でなくては罰にならないのだから。 「沙都子が勉強したくなるように、定期テストは毎回ボクら二人の部活にしましょう。 負けたら当然罰ゲーム。それなら沙都子だってちょっとはやる気が出ると思います」 「…付き合ってられませんわそんなの。毎回カンニングでクリアしてやりますわよ、面倒臭い」 「みー。沙都子はやる気になれば出来るタイプだと思うので、そこは実際にやってみて引き出していくしかないですね。 ちなみにボクの見立てじゃ沙都子は二回目くらいから真面目に勉強してくるようになる気がしますです。 部活で負けた罰ゲームを適当にこなすなんて、ボクが許しても魅ぃの部活精神が染み付いた沙都子自身が許せない筈なのですよ。にぱー☆」 「む、ッ…。見透かしたような事を言うのはおやめなさいませッ」 そんな未来は来ないと解っていてもついつい反応してしまう。 威嚇する犬のように声を荒げた沙都子に、梨花は微笑みながら問い掛けた。 「沙都子は、どうしますか?」 「……」 「ボクが負けたらその時は言った通りどれだけだって沙都子に付き合います。 それでも外を目指してしまったら、沙都子が頑張って止めてください。 何なら決して外に出られない…そんなカケラを作って閉じ込めたって構わないのですよ。 ボクに勝って先に進んだ沙都子ならきっとそういう事も出来るようになるでしょうし」 梨花の言う通り、きっと遠くない未来にはそんな事も可能になるだろう。 沙都子にはそもそもからして魔女となる素養が秘められている。 其処にリンボの工作と龍脈の力が合わされば、最早そう成らない方が難しい。 カケラを自由自在に渡り歩きはたまた自ら作り出し。 思うがままに神として振る舞える存在として"降臨"する事になる筈だ。 そう成れれば当然、可能である。 古手梨花を永遠に閉じ込めて飼い殺す封鎖された世界。 ガスが流れ込む事のない猫箱を作り出す事なぞ…朝飯前に違いない。 「私、は…」 自分自身そのつもりで居たのに。 今になってそれが何だかとても下らない考えのように思えて来るのは何故だろう。 梨花のあまりに場違いで暢気な言葉に毒気を抜かれてしまったのだろうか。 魔女の力。 神の力。 絶対の運命。 永遠の牢獄。 魅力に溢れて聞こえた筈の何もかもがつまらない漫画の、頭に入ってこない小難しい設定のように感じられてしまう。 「私は…梨花と雛見沢でずっと暮らしていたい。それだけで十分ですわ」 そうして北条沙都子は原初の願いに立ち返った。 此処にはもうエウアもリンボも関係ない。 願いは一つだったのだ。 其処にごてごてと付け足された色んな恐ろしげな言葉や大層な概念は全て自らを大きく見せる為の贅肉に過ぎなかった。 「ちゃんと罰ゲームでしょう? 梨花にとっては。 あの息苦しい学園にも、人混み蠢く東京にも出られないで私と一緒にずっと暮らすなんて」 「…みー。ボクは猫さんなので、沙都子の眼を盗んでお外ににゃーにゃーしちゃうかもしれないのですよ?」 「その時は首根っこ引っ掴んででも捕まえて連れ帰ってやりますわ。逃げ癖のある猫だなんて、ペットとしては面倒なことこの上ありませんけど」 一瞬の静寂が流れる。 それから少女達はどちらともなく笑った。 「――くす」 「……あはっ」 「どうして笑うのですか、沙都子。くす、くすくす……!」 「ふふっ、ふふふふ! 梨花の方こそおかしいですわよ、あははは……!」 もっと早くにこうしていればよかった。 そう思ったのは、果たしてどちらの方だったろう。 或いはどちらもだろうか。 答えは出ないまま刀と銃が向かい合う。 彼女達の部活が…終わる時が来た。 「ごめんなさいね、梨花」 沙都子が口を開く。 その笑みは何処か寂しげだった。 部活はいつだって全力勝負。 手を抜く事だけは絶対に許されない。 それが絶対不変の掟だ。 だから沙都子はこの瞬間も、自分に出来る全力で勝ちに行く。 「終わりですわ」 少女達が想いを交わし合っていた時間。 互いの罰ゲームを提示し合い、久方振りに通じ合って笑い合った時間。 その間に沙都子の勝利条件は満たされていた。 領域展開の後遺症。 術式が戻るまでのインターバル。 それはもうとうの昔に―― 「…梨花……」 名前を呼ぶ。 梨花は答えない。 体が動く事もない。 時は、既に止まっていた。 引き金が引かれる。 弾丸が発射される。 二度目の開花は死を意味し。 そして開花以外にこの死を逃れる手段はない。 ――たぁん。 長い大喧嘩を締め括るには些か軽すぎる、寂しい破裂音が響いた。 ◆ ◆ ◆ 「――莫迦な」 目を見開いて溢したのは悪僧だった。 美しき獣と称されたその視線は天空へと向けられている。 嘲笑う太陽は既に笑っていない。 代わりに響いているのは、消え逝く悪霊の断末魔であった。 「莫迦な――莫迦な莫迦な莫迦な莫迦なァッ!」 剣豪抜刀と暗黒太陽。 一閃と臨界が衝突した。 起こった事はそれだけだ。 その結果、嗤う太陽は中心から真っ二つに両断された。 文字通りの一刀両断。 それはまるでいつか、この女武蔵という因縁が自身に追い付いてきた時の光景を再演しているかのようで… 「偽りの…紛い物の神剣如きが何故呪詛の秘奥たる我が太陽へ届く!」 溶け落ちる太陽はリンボにとっての悪夢へと反転した。 最大の熱を灯して放った一撃を文字通りに斬り伏せられた彼の顔に最早不敵な笑みはない。 この有り得ざる事態に動揺して瞠目し、冷や汗を垂らしていた。 太陽を落とす花という不可思議を成就させた武蔵はそんなリンボへ凛と言い放つ。 「黒陽斬りしかと成し遂げた。此処からが本当の勝負よ、蘆屋道満…!」 「黙れェ! おのれおのれおのれおのれ新免武蔵! 我が覇道に付き纏う虫螻めがッ!」 駆ける武蔵を包むように闇色の球体が出現した。 それは一層だけには留まらない。 十、二十…百を超えてもまだ重なり続ける。 呪詛を用いて造った即席の牢獄だ。 彼程の術師になれば帳を下ろす技術を応用して此処までの芸当が出来る。 しかし相手は新免武蔵。 そう長い時間の足止めは不可能と誰よりリンボ自身がそう知っている。 急がねば――そう歯を軋らせた彼の左腕が、不意に切断されて宙を舞った。 「…ッ! 死に損ないめが、邪魔をするなァ!」 「憎まれっ子世に憚るって諺、お前の時代にはなかったのか?」 隻腕の伏黒甚爾が釈魂刀を用いて切り落としたのだ。 普段なら容易に再生可能な手傷だが、今この状況ではそちらへ余力を割く事すら惜しい。 暗黒太陽…悪霊左府はリンボの霊基を構成する一柱である。 以前にもリンボは武蔵によってこれを両断されていたが、今回のは宝具による破壊だ。 受けた痛手の度合いは以前のそれとは比べ物にならない程大きい。 「いい面じゃねぇか。似合ってるぜ、そっちの方が道満(オマエ)らしいよ」 不意打ちが終われば次は腰に結び付けていた游雲へ持ち帰る。 咄嗟に魔震を発生させ、羽虫を振り払うように甚爾を消し飛ばそうとしたが――この距離ならば彼の方が速い。 リンボの顔面に游雲が命中しその左半面が肉塊と化す。 あまりの衝撃に叩き伏せられたリンボが見上げたのは嘲笑する猿の顔だった。 「古今東西何処探しても安倍晴明の当て馬だもんなオマエ。ようやられ役、気分はどうだい」 「貴、様…! 山猿如きが軽々と奴の名を口にするでないわッ」 立ち上る呪詛が怒りのままに甚爾を覆う。 しかし既にその時、猿は其処に居ない。 片腕を失って尚彼の速度に翳りなし。 天与の暴君は依然として健在であった。 無茶の反動に耐え切れず游雲が千切れ飛ぶが、それすら好都合。 ギャリッ、ギャリッ、と耳触りな金属音を響かせて。 甚爾は折れた游雲同士をぶつけ合い擦れ合わせ、その折れた断面を鋭利な先端に加工。 綾模様の軌道を描いて飛来した無数の呪詛光の一つが腹を撃ち抜いたが気にも留めない。 痛みと吐血を無視して前へ踏み出す。 その上で棍から二槍へと仕立て直した特級呪具による刺突を高速で数十と見舞った。 「づ、ォ、おおおおォ……!」 如何なリンボでもこの間合いでは分が悪い。 相手はフィジカルギフテッド。 純粋な身体能力であれば禍津日神と化したリンボさえ未だに置き去る禪院の鬼子。 呪符による防御の隙間を縫った刺突が幾つも彼の肉体に穴を穿ち鮮血を飛散させた。 「急々如律――がッ!?」 「黙って死んでろ」 こめかみを貫かれれば脳漿が散る。 猿が神を貫いて惨たらしく染め上げていく冒涜の極みのような光景が此処にある。 一撃一撃は致命傷ではなく自己回復――甚爾の常識に照らして言うならば"反転術式"――を高度な次元で扱いこなせるリンボにとっては幾らでも巻き返しの利く傷であるのは確かにそうだ。 だが塵も積もれば山となるし、何より重ねて言うが状況が悪い。 左府を破壊された損害とそれに対する動揺。 それが自然と伏黒甚爾という敵の脅威度を跳ね上げていた。 猿と蔑んだ男に弄ばれ、蹂躙されるその屈辱は筆舌に尽くし難い。 リンボの顔に浮いた血管から血が噴出するのを彼は確かに見た。 「■■■■■■■■■■――!」 声にならない声で悪の偽神が咆哮する。 物理的な破壊力を伴って炸裂したそれが今度こそ甚爾を跳ね飛ばした。 すぐさま再び攻勢へ移ろうとする彼の姿を忌々しげに見つめつつ、リンボは武蔵を閉ざした牢獄に意識を向ける。 “そろそろ限界か…! しかし、ええしかし――今奴に暴れ回られては困る!” 今この瞬間においてもリンボは目前の誰よりも強い。 指先一つで天変地異を奏で、気紛れ一つで視界の全てを焼き飛ばせる悪神だ。 にも関わらず彼をこうまで焦らせているのは、ひとえに先刻経験した予想外の痛恨だった。 重なる――あの敗北と。 輝く正義の化身に。 星見台の魔術師に。 彼らの許へ集った猪口才な絡繰に。 何処かで笑うあの宿敵に。 完膚なきまでに敗れ去った記憶が脳裏を過ぎって止まらない。 そんな事は有り得ないと。 理性ではそう理解しているのに気付けば武蔵の"神剣"を恐れているのだ。 “恐るべしは新免武蔵! 忌まわしきは天元の花! よもやこの儂にまたも冷や汗を流させようとは…! しかし得心行った。奴を討ち果たすには最早禍津日神でさえ役者が足りぬ! 拙僧が持てる全ての力、全ての手段をもってして排除しなければ――!” 猿の跳梁等どうでもいい。 さしたる問題ではない。 武蔵さえ消し飛ばせれば、あんな雑兵はいつでも潰せる。 かくなる上はとリンボは瞑目。 修験者の瞑想にも似たらしからぬ静謐を宿しながら意識を芯の深へと潜らせ始める。 「天竺は霊鷲山の法道仙人が伝えし、仙術の大秘奥…!」 それは単純な攻撃の為にあらず。 疑似思想鍵紋を励起させ特権領域に接続する仙術の領分。 安倍晴明を超える為に用立てた技術の一つ。 かの平安京ではついぞ開帳する事叶わなかった秘中の秘。 反動は極大、この強化された霊基で漸く耐えられるかどうかという程の次元だが最早惜しんではいられない。 「特権領域・強制接――」 全てを終わらせるに足る切り札。 嬉々と解放へ踏み切らんとしたリンボ。 しかしその哄笑は途中で途切れた。 肉食獣の双眼が見開かれる。 彼の肉体は、触手によって内側から突き破られていた。 それは宛ら寄生虫の羽化。 宿主を喰らい尽くして蛆の如く溢れ出す小繭蜂を思わす惨劇。 「ぞ、…ォ、あ?」 片足を失った巫女が笑っていた。 その手に握られた鍵は妖しく瞬いている。 「貴、様」 リンボは勝ちに行こうとしていた。 此処で全てを決めるつもりでいた。 後の覇道に多少の影響が出る事は承知の上で、絶大な反動を背負ってでも目前の宿敵を屠り去るのだと腹を括った。 そうして始まったのが擬似思想鍵紋の励起とそれによる特権領域への接続。 只一つ彼の計画に陥穽があったとすれば、励起と接続という二つの手順を踏まねばならなかった事。 それでも十分に正真の天仙へも匹敵し得る驚異的な速度だったが、"彼女"にとってその隙は願ってもない好機であった。 「――巫女! 貴様ァァァァァァァァ!」 「大丈夫よ。抱きしめてあげるわ、御坊さま」 接続のラインに自らの神性を割り込ませた。 無論これは演算中の精密機械に砂を掛けるも同然の行為。 特権領域とリンボの疑似思想鍵紋を繋ぐ線は途切れ。 逆にアビゲイルが接続されているかのまつろわぬ神、その触腕が彼の体内へ流れ込む結果となった。 臓物をぶち撒け。 洪水のように吐血しながら絶叫するリンボ。 その姿に巫女は微笑み鍵を掲げる。 全てを終わらせる為、絞首台の魔女が腕を広げた。 「さようなら」 リンボの断末魔は単なる雑音以上の役目を持てない。 命乞いか、それとも悪態か。 定かではないままに処刑の抱擁は下され。 外なる神の触手が…かつて彼が求めた窮極の力が――悪意と妄執に狂乱した一人の法師を圧殺した。 …その筈だった。 だが――しかし。 血と臓物に塗れたリンボが。 血肉で汚れたその美貌が白い牙を覗かせた。 「これ、は…?」 途端に神の触腕が動きを止める。 巫女の笑みが翳る。 其処に浮かんだのは確かな動揺だった。 「…油断を」 それが、この処刑劇が半ばで遮られた事を他のどんな理屈よりも雄弁に物語っており。 「しましたねェエエエエエエエエエエアビゲイル・ウィリアムズ! ――――急々如律令! 喰らえい地獄界曼荼羅ッ!」 →
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大 注 意 書 き。 サブタイどおり、 レナ 寝 取 ら れ ものです。 ん……ここは……どこだ? 俺はいったい……どうなった? たしか……そう、俺はゴミ山で富竹さんと会ったんだ。 そこまでは憶えている。 本当はレナを探しに行ったんだが、彼女はそこにはいなかったんだ。 そして代わりにひょっこりと現れた富竹さんとたわいない話をして、その後………。 あれ? その後が思い出せねぇ……なんだっけなんだっけ……う~ん……。 いまだ自分が置かれている状況がわからず、俺はなんとか記憶の糸を手繰ろうとする。 するとかすかにズキリっとした感覚が後頭部に走った。 背後からいきなり殴られでもしたのだろうか……そこはズキズキとした痛みとなって俺の頭の中に響いていく。 頭を殴られたのなら、ここは病院か? または警察か、あるいは自宅にでも連れてこられているはずだろうが。 ここはそんな感じの場所じゃ……。 そんな試行錯誤をしていると、俺はようやく自分のおかれている異常な状況に気が付いた。 あたりが真っ暗だった。 まるで光というものが見えない。 感じられない……。 俺が富竹さんと会った時には、まだ夕方だったはず。 どんな場所にいるにしろ、何らかの光があってもいいはずなのだ。 ……ということはここは屋外ではない? どこかの部屋の中にでもいて、電気が点いていないだけなのか。 それともどこか狭いところに押し込められているのか……。 押入れかどこかか? 最初はそうも思ったが、俺一人が入るには十分な、それでいて広い部屋のような感じだ。 空気の伝わり具合から、なんとなくわかる……分かるような気がした。 ……もう一つ異常なことがある。 本当ならこれを先に言うべきだったのだろうが……。 俺の手足が、何か頑丈なもので拘束されている。 まったく身動きが取れない……。 両手が後ろにまわされていて見えないが、手首には何か冷たい感触がある。 手錠のようなものでもされているのだろうか、動かすとカチャカチャと鉄のような音が聞こえた。 足にも似たような感触がある。 足首のところに同じような拘束がされちるようだった。 両手両足がそう拘束されているのだから、当然立っていられるはずもなく。 俺はまるでイモ虫のように床に這わせられているのだ……。 なんとか動こうとモゾモゾしてみるが、両方ともビクともしない。 動けないのならばあとできることは一つだけ。 声を出そう…と思って口を開けようとしたがそれも無理だった。 口にも何か拘束されるようなもの。 猿ぐつわ?までされていて、悲鳴はおろか声を出すこともできなかった。 ……拘束……監禁……誘拐? そんな言葉が次々と頭の中に浮かび上がってくる。 だが普通、さらうなら女の子とか子供じゃないのか? だいたい一緒にいた富竹さんはどうなったんだ? お、おいおい、ここはどこだよ? だ、誰かそばにいないのかよ、なぁっ!? ……ま、まじかよ。 ま、まじで俺、誘拐されちまったのかよ……じょ、冗談じゃねぇ! そんな嫌な想像ばかり頭を巡っていると、突然、目の前にパっと光が浮かび上がった。 誰かが部屋に入ってきた……? 部屋の中にいると思っていたため、俺はとっさにそう考えたが……ちがうようだった。 よく見るとそれは光ではなかった。 そこだけがくっきりと、四角い形で点灯していたのだ。……何かのモニターのようだった。 それが俺によく見える位置で初めから固定されていたのだ。 真っ暗な部屋の中でテレビだけが点いている、あの感じに似ている。 それが俺の目の前に浮かびあがってきたのだ。 まだこの異常な状況を受け入れられたわけじゃない。 だがこの暗闇の中では、どうしてもそこに目がいってしまう。 俺の五感に与えられた唯一の情報源だからだ。 ましてやそこに写っていく映像は、俺にとって無視できないものだったのだから……。 「だいじょうぶ? もう落ち着いたかい……?」 モニターの中の男がそう話し始める。 どうやらどこか部屋の中の様子のようだ。 白いシーツが張ってある、真新しいベッド。 書類のようなものが乱雑に置かれている机。 いくつかのパイプイスに、何やら医療器具のようなものが置いてある台もみえる。 入江診療所……? まっさきにそれが思いつくが、俺が監督に診察を受けたところとは少なくともちがうようだった。 何よりも驚いたのは、その男が俺の知っている人間だったことだ。 さっき会ったばかりの人間……忘れるはずもない。 富竹さんだった。 彼はその真新しいベッドに腰掛けながら、同じく隣に座っている誰かに言葉をかけているようだった。 そこに誰が座っているのかは写っていない。 モニター……というかカメラというべきなのか。 それは富竹さんがベッドに腰掛けているところしか写していない。 もう少し横にズレれば、そこに誰がいるのかわかるのに……。 そう思った途端、まるでカメラが俺の意思で動いたかのように…クククっとモニターの画面を動かした。 そしてそれは富竹さんの隣に座っていた人物を映し出す。 その人物の姿に、俺はおもわずドキリとした……。 「はい……。 ありがとうございます、富竹さん……」 茶髪の髪に、青色のセーラー服……。 この人物こそ見間違えるはずがない、毎日見てるのだから。 レナだった。 レナが富竹さんの隣に腰掛けながら、彼に何やら声をかけられている。 その表情はどこか寂しげで、元気がないようにみえる。 何かあったのだろうか? まっさきに思いつくのは俺のこの状況だったが、あれからまだそれほど時間が経ってるようには思えない。 まだそれほどの騒ぎにはなってないはずだが……。 意味がわからない。 そもそも犯人(?)はなぜ俺にこんな映像を見せる? 富竹さんとレナが何か関係あるのか? こんなものを見せて、奴に何か得があるのか……? そ、それともまさか、この二人もこの部屋に監禁されてるってのか! ……あぁ、で、でもすぐそこの窓には外が見えてるな……。 富竹さんくらいの大人なら、あんな窓くらいすぐ割って逃げられるはず。 ってことは、ちがうのか? それならなおさら意味がわからねぇ……は、犯人はいったい? 次々沸いてくる想像に頭が混乱しながらも、俺は目の前のモニターに目をやるしかなかった。 身動きの取れない俺にとって、これを見ることだけが唯一残された人間らしい行動だったからだ……。 富竹さんはなおも隣に座っているレナに言葉をかけていく。 レナの肩に手をやりながら、なおかつ二人の座っているところがベッドだというのが気にはなったが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。 「あまり気にしない方がいいよ。 その……は、初恋は実らないって言うしね? ははは」 「………はい。そうですね……」 富竹さんの軽はずみな言葉に、レナはやはり元気がなさそうに答えていく。 顔を下に俯かせていて、普段あれだけニコニコ笑っているあのレナと同一人物だとは到底思えない。 なんとなく状況だけで判断すると、富竹さんが意気消沈しているレナを慰めているような…。そんなふうに思える光景だった……。 まだ混乱している頭でなんとかそれだけを理解していくと、富竹さんはレナの肩の手に力を入れていった。 そしてそのまま彼女の体を引き寄せるように……自分の胸へと招き入れていった。 「ほら、もう少しこっちにおいで……? つらいんだろう?」 「あ……はぅ……」 富竹さんの胸に抱き寄せられると、レナは多少困惑した表情を見せた。 だがそのまま、彼の広い胸に顔を寄せていった。 そして富竹さんもそんなレナの顔をギュっと抱き寄せていく……。 まるで恋人同士のような甘い雰囲気。 それが当たり前のように、俺の目の前のモニターで繰り広げられていく……。 ……へ? な、なんですかこれ? なにかの冗談? な、なんでレナと富竹さんが、こんな親しそうにしてんだよ? そもそもなんでレナはそんなに落ちこんでんだよ? そんなに嫌なことでもあったのか? そ、それに……いくら富竹さんだからって、そんな簡単に抱きしめられていいのかよ? そりゃあ普段はあれだけ頼りない人だけど、い、いちおうその人だって、男だぜ? しかもベッドの上でって……これじゃあまるでベッドシーンかなんかじゃねえか? おまえはそんなふうに、簡単に身体を許す人間じゃないはずだろ?……お、おいレナ? いくら頭の中で言葉をかけようと、モニターの中の二人にそれが届くことはない。 それをいいことにレナと富竹さん……富竹の二人は更に会話を重ねていく。 「かわいそうに。 本当に好きなんだね? 圭一くんのことが……」 「………はい」 富竹さんの興味深い質問に、レナは少しだけ間を置いてそう答えた。 こんな異常な状況に立たされているというのに、それを聞いた俺は少しだけ安堵してしまった。 レナが俺のことを好きだという、なによりも嬉しい情報が得られたからだ。 何か落ち込むようなことがあったのかもしれないが、レナは俺のことを好きだという事実。 てっきり片想いだと思っていた俺には、それが何よりも幸運な情報だった。 ナイスだ富竹さん!あれだな? きっとレナは大人な富竹さんに、恋の相談でもしに来たんですね? それでレナはもう圭一くんが好きで好きでたまらないの、なんて言ってきて、富竹さんはそれは正しい感情だよ、なにもガマンすることはないんだ。 って寸法なわけだ! ようやくわかったぜ、この光景の真相が! ははは! 俺が置かれている状況の説明にはまるでなっていないというのに、混乱していた俺はそれですっかり解決した気になっていた。 なりたかったというべきか……。 だが次の彼女の言葉を聞くまでは、本当にそう思っていたんだ……。 「レナは圭一くんのことが好きです………『好きでした』」 ………へ? でした? でしたって、どういうこと? な、なんで過去形なんだよレナ? わざわざ言い直したってことは、間違いじゃないよな? そ、それってつまり……今はもう俺のことを……? さっきまで誘拐されただの慌てていて、今度はレナの告白に有頂天。 そしてまたレナの発言に慌てていく男。 俺はもう、目の前のモニターに釘付けになっていた。 レナの今の言葉が何かの聞き間違いだったと、スピーカーの故障じゃないかと思いながら、ただその四角い画面をジっと見つめていく。 だが俺のそんな期待を裏切るかのように、隣にいた男……富竹は当たり前のようにレナを慰めていった。 彼女のかぁいい顔にスっと手を添えると、柔らかそうな頬を撫でていく……。 「そうだろうね。でももう彼は君の元には戻って来てくれない。 それは君もわかっているんだよね?」 「………はい。圭一くんには、あの子がいるってわかったんです……」 「あの子……?何か見たのかい?」 「はい……レナ、ついさっき見ちゃったんです。あの子と圭一くんが、キスをして愛し合っているところを……」 …………は? な、なんだよ、それ……な、何言ってんだレナ?何の話だ? 俺はそんなことしちゃいない……。少なくとも俺の頭の引き出しには、そんな事実一切ない。 あの子ってのが誰かは知らないが、俺は生まれてこのかたまだ誰ともキスすらしたことがないんだぞ!ましてや、あ、愛しあうだなんて……むしろこっちからお願いしたいくらいだぞ! お、おもわず童貞だと告白しちまったが……でもそれはな?それはレナ、お前とするために俺はずっとずっとガマンしてきたんだ……。色々な誘惑をグっとガマンしてきたんだよ! なぁ……さっきから一体何を言ってんだよレナ。 何か勘違いをしてるんじゃないか……? 俺がそう心の中で問いかけていっても、レナは何も語らずただ落ち込んでいますといった様子だ。 何か確信めいたような……そんな具合を示している。 まるでこの目で『その光景』を見たからこそ、こんなに悲しいんだよと言わんばかりだ……。 「だから、もういいんです。 圭一くんが自分であの子を選んだのなら、レナは諦めないとダメなんです。 あの子とは大切な仲間だし、なおさら……そう……」 「……いい子だねレナちゃん。つらいだろうに……」 そう言って富竹は、今にも涙を流しそうなレナを……レナの身体を強く抱きしめていった。 ガッシリとした体格と、大人の男特有の包容力のようなもので、俺のレナをその胸に抱いていく。 それを見ると、俺の中に何ともいえないモヤモヤとした嫉妬の念が沸き出してきた。 ち、ちがう、ちがうぞレナ騙されるな! そ、そいつに騙されちゃいけない! 何があったか……何を『見た』のか知らないが、それはおまえの誤解だ!絶対勘違いだ! なぜなら俺は、最初からお前を選んでいるからだ! 俺はお前のことが好きなんだぞ、レナ!俺達は両想いなんだぁぁぁ!!! だ、だからいますぐその富竹を引き剥がせぇぇぇぇ!! イモ虫のように縛り付けられ、さるぐつわまでされてる俺の声が届くはずもなく……。 レナは富竹の広い胸の中に顔を埋めていった。 失恋したと思い込み、傷心直後の女の子……これほど落としやすい相手はいないだろう。 ましてや富竹のような大人の男ならば、こういう時どう言葉をかければいいか、どう慰めていけばいいかなどはお手の物なのだろう。それはたとえあのレナであっても、なかなか抗えるものではないということか……。 「ほら、つらいんだろう? 無理することはないよ。 もっと僕の中においで……」 「う……ごめんなさい富竹さん……少しだけ、少しだけレナにこのお胸を貸してください…」 「いいよ……好きなだけ僕の胸で泣くといい。 好きなだけ、ね……」 ついに泣き崩れていくレナを、そっと胸に抱きしめていく富竹。 ……その時、俺は見た。 とても信じられないものを。 有り得ないものを。 レナを抱きしめていた富竹が、とてつもなく邪悪な顔をしていくのを……見てしまった。 普段あれだけいいお兄さんな笑顔を浮かべている奴が、とても醜悪でいやらしい表情を浮かべたのを、たしかにこのモニターごしに見た。 絶対に見た。 そしてそれを俺が見たのを気づいたかのように、奴の声がすぐ耳元で聞こえてきたんだ…。 『やあ圭一くん。聞こえるかい?』 本当にすぐ耳元で言われているようなほどクリアな音。それが俺の耳に入り込んできた。 だがそんなはずはない。 奴は今レナとあの部屋にいるらしいのだから、こんな場所に押し込められている俺に話しかけられるわけがない……。 ……ってことは、この映像は録画したもの? これはリアルタイムの出来事じゃないのか? しかし富竹は俺のそんな想像をあざ笑うかのように、憎たらしい声を耳元に響かせてくる。 『ははは、驚いただろうね? じつは今君の耳には、特殊なイヤホンをはめさせてもらっているのさ。 それで僕の声……というか、心の声のようなものが聞こえるようにさせてもらっているってわけだよ。 わかるかい?』 富竹の言葉に、俺は呆然とする。たしかに耳に何かはめられているような感触がある…。 しかも……心の声だと? 奴の心の声が、イヤホン越しに俺の耳に伝わってきている? そんな馬鹿な! そんなこと有り得ない! 絶対に有り得ない! 有り得ない有り得ない…。 『あははは、それが有り得るのさ、この雛見沢ではね。まあ僕の本業の方の仕事で使っているものだけど、好都合だからこの状況で使用させてもらったってわけさ……いい音だろう?』 本業……? その言葉の意味が気になったが、今はそんなことどうでもいい。 どうやら俺の方の声も奴には聞こえているようだ。ならば今すぐ奴に……富竹の野郎にこんなことやめさせなければ!!! その口ぶりだと……てめえだな!俺をこんなとこに押し込んだのは! 何が目的だ! なぜこんなことをする! というか今すぐ俺のレナからその汚ねぇ手を離しやがれぇぇぇっ!! 『離す? あははは、あいかわらずおもしろいね圭一くん。僕がこんな絶好のチャンス、みすみす逃すわけないじゃないか。 これでもいちおうカメラマンだよ? な~んてね』 何を……何をふざけてやがる! てめぇレナを騙してどうするつもりだ! くだらねえ口車でレナをハメやがって! 俺とあの子が愛し合ってたってのもてめえの仕業か! さっさと俺をここから出しやがれぇ! いくら年上だろうがなんだろうが、この前原圭一の愛する女に何かしたら承知しねえぞおぉぉ!!! 『あはははは、まあまあ落ち着いて。どうせ今の君には叫ぶこともできないんだから、そこでゆっくり見ているといいよ……』 その言葉を言い終えた途端、富竹の声のトーンがワンランク低くなった。 とてもドス黒く、あきらかに悪意をこめているぞといった感じの声……。 それで奴は俺にこう告げていく。 『君の大好きなレナちゃんが……僕に寝取られていくところをね? あはははは』 …………!? なんだって……ね、寝取る? 寝取るってこの、レ、レナをか?今そこで? この俺の見ているモニターの中で……か? レナと、す、するってことかよ? なあ! 俺のことが好きで……今も振られたという誤解だけでそんなにも落ち込んでいる純真なレナを、こ、これからお前がヤっちまうってことかよ! なあおい答えろぉぉぉ!!! 富竹の口から聞き捨てならない言葉を聞くと、俺は背筋が凍るような感覚に包まれた。 いくら心の中で怒号を唱えても、奴のその言葉を撤回させることにはならない。 そして富竹はそんな俺を尻目に、レナにそれを実行していく。 抱きしめていたレナの顔をスっと上げさせると、その唇に……自らの口を近づけていった。 「え……と、富竹さん、あの……?」 「ジっとしてるんだレナちゃん。すぐに何もかも忘れさせてあげるよ……」 「あ、ダ、ダメです……はぅ!……ん、んふぅ……」 一瞬レナは躊躇する仕草を見せたが、富竹はそれを無視しそのままムチュっと唇を重ね合わせてしまった。 一度閉じさせてしまえばこっちのもの…ということか、富竹はニヤリと笑うとレナの唇をおいしく頂いていく。 ハムハムと食べていくように、レナのおいしそうな唇を貪っていく……。 「あふ……と、富竹さ、ダメ……レナは……レナはぁぁ、んぅぅ!」 「無理をしちゃいけないよ。傷ついているんだろう? 僕が慰めてあげるから……」 「で、でも、でもでも、あっ!……はぅ、んぅ……」 富竹は太い腕でガッチリとレナの身体を抱きしめている。 だからレナは力での抵抗はできるはずもなくて……奴とのくちづけを続けていくしかないようだった。 そうしておそらく初めてのキスであろう神聖な儀式を、俺よりも年上の成熟した男と体験していく……。 とても受け入れがたい光景が、俺の目の前で繰り広げられていく……。 や……やめろぉ富竹ぇぇぇ!すぐにレナの唇から離れやがれぇぇぇぇ!!! レ、レナももっと抵抗するんだ! そりゃあ、あ、あんなにガッチリ抱きしめられてりゃ無理かもしれねえけど……そ、それでもそんな男とキスなんてしちゃダメだ! そいつはおまえを食いもんにしてるだけなんだぞ! ただ身体が目当てなだけなんだぁぁぁ!!!! あぁ……そんな、て、抵抗をあきらめるなぁ……身体の力を抜かないでくれぇぇぇ!! 今すぐその手をもう一度奴の胸において、つ、つっぱねるんだ! あぁぁぁキスしちまってる……レナ……う、受け入れるなぁぁぁやめろぉぉぉ……。 ピチュ……ピチュ……ピチャ……。 「ん……あ、あ、はぅ……ふぅぅ♪……と、とみたけさ……あ、あふ……♪」 どうやら舌も使っているらしい。奴はレナの唇を舐めるように、いやらしい音をさせながら唇を貪っているようだ。 その強引でいてなおかつ卓越したキスに、レナはだんだんと身体の力が抜けているようだった。 俺はその卑猥な光景を、ただモニター越しに見つめていくことしかできない。 ピッチリと重なり合っていく、レナと富竹の唇……。それがピチュピチュと絡み合い、だ液が混ざり合っていくところを……ただ見ていることしか……でき……ない……。 ピチュ……ピチャピチャ……ピチャァ……♪ 「んぅ、んふ……。 富竹さん、こんなの、こんなのってダメだよぉ……はぅぅ……」 「ダメじゃないんだよ。 ほら、口を開けてごらん? もっと慰めてあげるよ……」 「んはぁ……ら、らめれす、らめ、らめぇ……あぁぁ……♪」 脱力してしまっているレナの身体に、富竹の濃厚なくちづけを拒む力はない。それを良いことに奴は、ついに舌をレナの口の中にニュルリと入り込ませてしまった。唇を半ば強引に開かせ、ついさっき初めてのキスをしたばかりの彼女の口内までをもジュポジュポと犯していく。富竹のいやらしい舌が、レナのかぁいいお口を蹂躙していく……。 ピチャピチャピチャと、だ液が混ざり合う音がスピーカーから聞こえてくる。レナと富竹がしていく、濃厚なディープキスの証明だった……。 あ、あぁぁあの野郎あの野郎! あんな舌まで絡ませやがって! 俺のレナの唇を……レナのファ、ファーストキスの存分に奪ってやがる! あんな男の汚ねぇだ液で、レナの初めてが汚されてやがる! や、やめろ!やめろぉ富竹ぇ! そ、それ以上俺の大好きなレナを汚すなぁ……性欲の食い物みてえにキスをするんじゃねえぇぇぇぇ!!! 俺の叫びにようやく答えようと思ったのか、富竹はレナとピチャピチャキスをしながらチラっとカメラの方を……俺の方を見た。 『あははは、いやぁ圭一くん。 レナちゃんの唇ほんとに最高だよ。 マシュマロみたいに柔らかくて、おまけに僕の口に吸い付いてくるようないい感触なんだ。 おまけに口の中もとっても温かくて……僕の舌にピチャピチャおいしいだ液をたくさん味あわせてくれるんだよ。 さすが初めてのキスだけあって、とっても初々しい反応だよ。……あぁ、ごめんね? ほんとはこれは君がもらうはずだったのにねぇ、いやぁごめんごめんごめんははははは』 殺してやりたいほど憎たらしい声が、ご丁寧にもレナとキスをしている真っ最中でも俺の耳に届いてくる。 せめて……せめて俺がもっと早くレナとキスだけでもしていれば……。 そんないまさらな後悔だけが頭を通り過ぎていく。 そして奴は濃厚なディープキスを続けたまま、そのままゆっくりとレナの身体をベッドに押し倒していった……。 「あ……ダ、ダメ! こ、これ以上は、圭一くんに悪いです……レナ裏切れない……」 「何言ってるんだい、もう諦めたんだろう? それに…彼があの子とこういうことしているの、『見た』んだよね? だったらおあいこなんじゃないのかな?」 「そ、それは……んぅ! ら、らめれすぅぅぅ……」 レナをベッドに押し倒しながら、富竹は彼女の腕をガッチリと掴みながら離さない。 そして俺の名前を出した彼女の言葉をあっさりと覆すと、それに躊躇したレナの唇をまたもやあっさりと奪っていく……。 ご丁寧にもカメラはベッドのところにも備えてあるようで、カチっとモニターが切り替わると、そこには男と女の子が濃厚なキスをしている場面がありありと映し出されていった……。 「はぅ……。 と、富竹さん……ん、んぅ、んぅ、んふぅ……」 「ほら、そのまま力を抜いてごらん? 身体のほうも良くしてあげるよ……」 「え、そ、そこは、そっちは恥ずかしいよぉ……はぅぅ……」 レナはイヤイヤと首を振ったが、富竹は彼女の上半身のセーラー服にまで手を入れてしまう。 左手を乳房のあるあたりに潜り込ませていき、中でモゾモゾと手を動かしていく。 俺からは服の上から動いているのしか見えないが…レナの胸をブラ越しに揉んでいるのだろう、とわかった。 意外と大きいレナの胸……少なくとも俺の想像では大きいと思っている乳房が、富竹の手のひらの中でグチャグチャに弄ばれていった……。 「あぁ……と、富竹さんダメだよぅ。レナ、レナこんなのって嫌だぁぁ……」 「大丈夫、怖くないから僕に身をまかせてごらん? それに…だんだんとよくなってきてるんだよね?感触でわかるよ。 レナちゃんのおっぱい、僕の手の中で柔らかくなってるからね……」 「う、嘘! 嘘だ嘘です! はぁ……あ、あん、あん……」 あぁ……ち、畜生、ちくしょう! 俺でさえまだ揉んだことないのに……触ったこともないレナの胸を、あ、あんなにモミモミ好き勝手に……くそ、くそくそ、くそぉぉ富竹ぇぇぇぇ!!!! ああでも……でもでも、レナもなんでもっと抵抗しないんだ! そ、そんなちょっと気持ちよさそうな顔までしやがって……あ、あんあん言ってんじゃねえよぉぉぉ! いくら俺に振られたと思っているからって、そんな簡単に身体なんて触らせるんじゃねえよぉ! 女の子の大事な胸を、やすやすとモミモミさせてんじゃねえよぉぉぉぉ!!! モミュ……モミュモミュ、モミュゥ……。 「あふ! はぁ、はぁ、あぁぁぁ……。ダ、ダメぇダメだよぅ……はぁぁ……」 レナのセーラー服の中で、モゾモゾと動いていく富竹の手。 それが動くたびにレナはくすぐったいような……感じているような声をあげてしまっている。 しかも奴のもう片方の手は、レナの下半身にまで伸びているように見えた。 まさか……あ、あの野郎! 『あぁ、いい揉み心地だよ圭一くん。レナちゃんの胸、意外と大きいんだね? 僕の手のひらにモチみたいな柔らかい感触をくれて……。 おまけに先っぽはもうピンピンさ。 コリコリとした感触が指にとても心地いいよ……あぁ、最高だねこのかぁいい乳首は。 それにね……君からは見えないだろうけど、じつはレナちゃんのお尻も揉んでるんだ。モミモミと揉み解しているんだよ。 こっちも大きいんだねぇ彼女は。 ムッチリとしていてとてもいやらしいお尻だよ……これなら将来、たくさん子供が産めるんじゃないかなぁ。 ははは』 レナの身体全体が見えなかった俺にとって、憎たらしい富竹が教えてくれる予想外の情報は、それだけでズキズキと胸をえぐられていくようだった。 レナが富竹に身体を触られている……好き勝手に弄られている。セーラー服の中から乳房をモミモミと揉まれまくり、おまけにお尻まで奴の手で揉みほぐされているらしい。 大好きな女の子が、モニターごしとはいえ目の前で犯されている……。 大人の男である富竹の手で、多少嫌がりながらも感じさせられていくレナの卑猥な姿……。 それを見ていた俺は……不覚にもこの光景に……興奮していた。 「どうだい? おっぱいとお尻を揉まれて、どんな気分だいレナちゃん」 「ん……へ、変なんです。 レナなんだか身体が熱くなって……でもこんなのダメだよぉ…」 「いいんだよレナちゃん、君はまだ圭一くんのことが好きなんだよ。 だからその気持ちは否定しなくていいから、身体だけでも……僕に預けてごらん?」 「はぅ……。 レナは圭一くんが好き……好きだけど、富竹さんにきもちよくされちゃう……」 富竹はいかにも偽善者ぶったことを言いながら、レナのかすかに残っていた抵抗を弱めていく。 あくまでも自分は君を慰めるだけ。 俺への気持ちを無理に否定させず、レナの身体だけを弄んでいくのだ。 なんて卑怯な野郎だ……。 調子に乗った富竹はついにレナのセーラー服を脱がせてしまい、ブラジャーもペロンと捲り上げてしまう。 綺麗なピンク色の乳首が見えていく。 かすかな興奮と共に、このかぁいい乳首をさっき富竹が弄りまわしていたことにムカムカとした感情が湧き上がっていった……。 「は、恥ずかしい……。 レナ、こんなこと初めてで、圭一くんともシタこと……」 「わかってるよ。 できれば彼に奪ってもらいたかっただろうけど、もうそれはできないよね? だから僕が優しく、もらってあげるよ……」 ささやくようにそう言うと、富竹はチュウッとレナの乳首に吸い付いていった。 吸い付いてしまった。 まだ誰の口にも触れられてないピンク色のそれが、男の欲望で汚されていった。 富竹はそのままチュウチュウと音が聞こえるほど強く吸うと、舌を使ってレナの乳首をペロペロ舐めていく。 ピンピンになった肉突起に、ヌラヌラと…奴の舌が汚らしく這い回っていく。 「あ、あん……富竹さん、レナ変なかんじ……おっぱいが、く、くすぐったいよぉ……」 「それはくすぐったいんじゃないんだよ……きもちいいのさ。 レナちゃんは処女のわりには感じやすいね? ここももうピンピンになっちゃってるし……」 「はぅ、そんなピンピンだなんて恥ずかしい……あぁ、そんなちゅうちゅうしちゃダメだよぉ……あぁぁ……」 あぁ……な、なんだよ、なんなんだよレナぁ! お、おまえどうしてそんなに感じて……はぁはぁ言って、顔を赤くしてんだよぉぉぉ! そんなに富竹の奴の舌はいいのかよ、なぁぁぁ? そ、そりゃあ……そりゃあこいつは俺なんかとちがって慣れてるだろう。 童貞の俺なんかとはちがって、何度も何度もセックスを経験しているだろうさ。 そりゃあ上手いだろう……。 普段あんな頼りない感じを見せてたって、やはりそこは成熟した大人の男。 そばに鷹野さんみたいな素敵な女性がいることが、何よりの証明だろう……。 でも……だからってそんな簡単に……こんな簡単に感じたりするなよぉレナぁぁぁぁ……。 『あははは。 ダメだよ圭一くん、レナちゃんを責めたら。 彼女は失恋した直後なんだ、無理もないだろう? こんな時の女性はとても寂しいものなんだよ……あの鷹野さんのような女性ですら、寂しさという感情にはとても弱いんだよ? だからこんなふうに……』 富竹は俺に語りかけながら、ふたたびレナの乳首を舌で舐め盗っていった。 ピチャリ…ピチャリ…とわざと音が出るように舌を動かし、そのかぁいい突起をジュポジュポと食べるようにも飲み込んでいく。 レナはそれをされるたび、あっあっ…とかぁいい声をあげていって……。 真っ赤な顔をして首をイヤイヤするあたり、本当は声なんてあげたくないのかもしれない。 だが富竹の口愛撫はよほどイイらしく、奴の舌で乳首をコロコロ転がされるたび彼女は喘ぎ声をあげてしまうのだ……。 「あっ、あっ……はぁう……ん、んぅぅ……あぁ……♪」 「ほぉら、どうだいレナちゃん。 おっぱいを舌で舐められるのはきもちイイだろう? 寂しい心なんて、身体の快楽がすぐに癒してくれるのさ……」 「お、おっぱいが、おっぱいがビリビリするよぅ……富竹さんの舌がヌルヌルしてて、指も……レナの恥ずかしいとこがビクビクしちゃいます……あん、あん……」 レナは言葉どおり、身体をビクビクさせながら富竹の舌愛撫にもだえていく。 しかも……今ようやく気がついたことだが、奴の手はレナの下半身の前あたりを触っているように見える。 さっきまでお尻を触っていたのだから、次に触るところといえば……まさか! 『うん、そうだよ。 悪いけど圭一くん、僕は今レナちゃんのスカートの中……どころかパンティの中にまで手を入れちゃってるんだ。 指でかぁいい割れ目を弄ってあげてるんだよ……』 それを聞いた途端、俺は愕然とする。 たしかにレナはさっきから乳首への愛撫とは別に、どこか腰をモジモジとさせているふしがあったが……。 じゃ、じゃあレナの恥ずかしいとこがビクビクってのは、つ、つまりあそこのことだったのかよ! あ、あの女の子の一番大事なところまで、もうすでに富竹に弄られまくってるってのかよ! ああそういえばレナの奴あきらかに気持ちよさそうだもんなぁ! たとえ乳首を責められたってこんな色っぽい声出すわけないと思ってたぜあぁあぁわかってた!!! それだけは俺は否定したくて……受け止めたくなくて……あえて無視してただけなんだ…。 想像したくなかった事実を突きつけられ、俺はただ意気消沈していくしかなかった。 だが奴はまたまたご丁寧に、自分が今レナにしている下半身への愛撫を説明していくのだった……。 『見えないだろうから教えてあげるね。 僕は今、指でレナちゃんのかぁいい割れ目を弄ってあげてるんだ。 スリスリスリって、処女だからもちろん優しくだよ? でも彼女はやっぱり感じやすいらしい、もうしっかり濡れているみたいだ。 僕の指にヌルヌルしたものをたくさん付けながらヒクヒクと震えているよ。 あはは、さすがにこれは聞こえないかな? レナちゃんの処女おま○こが、クチュクチュといやらしい音をさせてるんだけどなぁ……』 やめろ……やめろやめろやめろぉそんな音なんて聞きたくねぇそんな説明なんて聞きたくねぇぇ!!! い、いますぐ、レナの大切なところから汚ねぇ指を離せ……離しやがれぇこのクソ野郎ぉぉ……。 自分でもだんだんと弱まっていくのがわかる声を出しながら、俺はまたもや自分の醜い部分に気がついてしまった。 さっき確認したズボンの前が……更にパンパンに腫れあがっていたのだ。 俺は興奮しているんだ。 富竹に……他の男にレナが愛撫されちまっているというのに、性的な興奮を覚えてしまっているんだ。 なんて、なんて馬鹿な男だよ前原圭一……。 富竹の指先で割れ目をクチュクチュと刺激され、いままで感じたことのない快感にあえいでいくレナ……。 はぅはぅあんあん、変な感じだよぉ身体が熱いよぅ富竹さん……。 そんなふうに喘ぐレナをモニターごしに見ながら、聞きながら……情けなくもペニスをギンギンに勃起させているなんて……こんな最低男じゃあ、そりゃああっさり寝取られるわけだ…。 くそ、くそくそくそぉレナぁぁぁ! ああでもその顔かぁいいなぁくそぉぉ! 俺の大好きなレナの喘いでいる顔、息づかい! こ、これをせめて俺の手で出させてやれたら……うぅぅぅぅ…。 『あはははは、そんなにかわいそうな声を出さないでくれよ圭一くん、まったくしかたないなぁ……。 それじゃあ特別に、もっと君に見えやすい視点に変えてあげようか。 ちょっと待っててね……』 その富竹の声を遠くに聞いていると、突然、俺の目の前のモニターがパシュンと消えた。 ふたたびあの真っ暗な闇……それだけが俺の周りを埋め尽くしていった。 あんなにも見たくない光景だと思っていたのに、それがいざなくなると……途端にジリジリとした不安感が俺の胸を襲ってくる。 いま見えてない間に、もしかしてレナは富竹にもっとすごいことをされているんじゃ? すごいことどころか、もしかしたらすでに入れられてしまっていて、あんあん喘がされているんじゃ……? そんな嫌な妄想ばかりが頭の中を埋め尽くしていき、俺は発狂しそうなほどの苦しみに襲われていった。 あれほどやめてくれと願っていたのに、今度は早く見せてくれ……まさかこのままモニターは消えたままなのか……? じゃ、じゃあこのままレナは奴に……? あぁぁぁぁ!!!は、はやく! はやく俺にレナの姿を見せてくれ富竹ぇぇぇ!!! そんな……寝取られている相手に懇願までしてしまう始末にまで追い込まれていった。 だからようやく……ようやくそれが……といっても時間にすればほんの数秒後に、ふたたびモニターが点灯すると俺はとてもつもない安堵感に胸を撫で下ろしてしまった……。 「はぅ……恥ずかしいよぉ……。 と、撮らないでください……」 最初に俺の目に飛び込んできたのは……レナのどアップだった。 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているレナの顔が、モニターいっぱいに写しだされたのだ。 あきらかにさきほどとはちがったカメラ視点……。 というより、これはレナも気がついている撮影のようだ。 つまり彼女のすぐ目の前に、カメラが突きつけられている? そして俺はすぐに気づく。 気がついてしまう。 前にもこんな視点の映像を見たことがあることに……。 それは昔、親父の部屋で見つけたアダルトビデオの映像だった。 そのAVはいわゆる普通の男優、女優、カメラマンという、三人以上の撮影で繰り広げられるものとはちがっていたものだった。 男優と女優……というか、男と女の二人だけで撮影されているアダルトビデオだったのだ。それは俗にいう、ハメ撮りと呼ばれるものだった……。 男が片手にビデオカメラを持ちながら、女の感じる姿をすぐ目の前で撮影していく。 女が愛撫されているときの表情も、挿入している時……した後の表情もバッチリと目の前で撮れる、おもしろい視点のビデオだったのを憶えている。 そしてそのハメ撮りというジャンルに興奮したのも……憶えている。 ということは、これはさっきまでのベッドやそこらからの映像ではなく、富竹が手に持っているカメラからの視点……? レナの恥ずかしい、撮らないで…という言葉が何よりもその事実を忠実に物語っていた…。 「ダ、ダメだよぉ富竹さん……こんなところ撮られたら、レナ恥ずかしくて死んじゃいそうです……」 「あはは、やっぱり恥ずかしいかい? まあ僕はフリーなカメラマンだからね。 かぁいいレナちゃんの姿、これでバッチリ撮らせてもらっちゃおうかな?」 く……と、撮らせてもらっちゃおうかなじゃねえ! て、てめえは……てめえって奴は、こんなことまでしてレナを辱めようってのかよ、く、くそがぁぁぁぁ! こんなの撮られたら、女の子はもうお前の言いなりってことじゃねえかよくそぉぉぉおおぉぉぉ!!! ……ああでもやっぱかぁいいなレナレナ俺のレナ。 画面いっぱいにレナのかぁいい顔があって、ウルウルした目も火照ったほっぺもすげぇかぁいいよぉぉぉあぁちくしょぉぉぉ!! こ、こんなかぁいいレナが……これから富竹の野郎に、ハ、ハメ撮りされる? レナの処女ま○こにチン○をハメられちまうってのかよなぁおいぃぃぃぃぃ!!! 身動きが取れないながらもう~う~もがく俺の耳に、またもや奴の憎たらしい声が聞こえてくる。 撮影している時にも俺に語りかけられるなんて……あぁ、たしかにあんたはたいしたカメラマンだなぁぁぁくそがぁぁぁぁ!!! 『まぁまぁ圭一くん落ち着いて。 約束したよね?レナちゃんのことをよく見せてあげるって……。 ちゃんと見せてあげるからね? 僕はこれでも優秀なカメラマンなんだよ、はははは』 また沸々と奴に対しての怒りが沸いてくるのを感じながら、俺はモニターの映像を食い入るように見つめていった。 画面がいかにも人の手で撮影されているとわかるようにブルブル揺れていき、かぁいらしいレナの顔がスっと消えていく。 細い首筋を通り越して、そのまま胸の方へ……。 もうすっかりピンピンになってしまっているピンク色の乳首が、カメラのすぐ目の前で撮影されていった。 モニター画面がレナのかぁいらしいおっぱいで埋め尽くされていく……。 「は、はぅぅ! ダメダメダメぇぇ富竹さんのエッチ! そんなとこ目の前で撮っちゃダメなんだよぉぉ……」 「あはは、ごめんごめん。 あんまりにもレナちゃんの乳首がかわいらしかったから、ついシャッターチャンスだとばかりにね? それにしても綺麗だねー、これは撮影しがいがあるよ」 「でも! あ、あん! ダ、ダメぇそこ弄られたら……あん、あん、んぅぅ……♪」 さすがに乳首なんて撮影されたら、そりゃあレナも恥ずかしいだろう。 当然嫌がる。 ……と思っていたのに、レナはあっさりと富竹の撮影を受け入れてしまった。 ダメダメという言葉があっさりあんあんという喘ぎ声にかわり、いやらしい乳首がカメラのレンズに張り付いてしまうほど超至近距離で撮影されてしまっている。 画面にはそのいやらしく震える乳首しか映し出されていないので、レナの喘ぎ声しか聞こえないが……俺にはすぐにわかった。 なぜ抵抗を止めたのかが。 また奴に『下』を弄られているのだ。 レナの喘ぎ声の中に、かすかだがクチュクチュと…水っぽい音が聞こえてきている。 つまり富竹は、この最中にもレナの割れ目を弄り倒しているのだ。 レナが恥ずかしがるのを見ながら勃起乳首を撮影し、彼女が拒むとすかさずおま○こを指で刺激し黙らせる……。 な、なんて……なんて計算し尽くされた愛撫しやがるんだくそがくそがくそ野郎がぁぁぁぁ! お、女の身体をなんだと思ってやがる! 特にレナみたいな純真な子にはそんなふうにヤっちゃいけねえだろうがよぉぉぉちくしょぉぉぉぉ!!! しかもこんな時にもなに俺はビンビンにさせちまってんだ最低野郎がぁぁぁぁ!!!! く、くそぉ、うらやま……。 それだけは言ってはいけない言葉だと思い、俺は心の中のその声をグッとガマンした。 そしてそんな俺のガマンとは裏腹に、富竹はついに下の方に……俺がもう気になって気になってしかたなくなっていた、レナの下半身へとカメラを向けていった……。 - フリーなカメラマン 生本番 ~ネトラレナ~に続く……。
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「あっはは、今度は梨花が鬼の番でしてよ! 」 「みー。本当に角の生えた鬼さんに捕まってしまったのです」 「あうあう……ボクは鬼なんかでは無いのです!! 」 かわいい……どうしてなのだろうか。あのような小さな女の子は純真で無垢なんだろうか。汚れなんて何も無い天使のような存在。いや、天使よりも至上の何か。神様が与えてくれた奇跡とでも言えばいいのだろうか。 無邪気に走り回る小さな女の子たちを見るとぽうと体の下半身の芯が熱くなって…… 『元気だねえ沙都子たちは』 また空気が読めない胸のでかい女が私の心に土足で入り込んできた。いつもいつもいつも邪魔ばかりする、汚い大人への発育の始まっている女。私もその過程にいることはもちろん自覚している。心も体も汚れを浴びる大人への階段。避けることのできない悲しい道。そんな中に自分もいるのが侘しい。 せめてあの子達はそんな汚れを浴びて欲しくは無い。見たくない。汚されたくは無い。 ……違う。心の表はあの子達を心配している。底は違う。汚れを知らないあの子達の純真を骨まで食べたい。知ってしまう前に食い尽くしてあげたい。 沙都子ちゃんのあのタイツに包まれた足と気丈を振るいながらも本当は弱々しい心のうちを締め上げたい。 羽入ちゃんの二本のそそり立った角を舐りまわしたい。 梨花ちゃんのあの黒髪の中の顔をうずめて毛髪を吸い取ってあげたい。 気にも掛けずに話し込んでくる魅ぃちゃんの戯言を流しながら私は再びあの無垢な三人を視姦し始めた。 私がこんな性癖を持ったのはなぜだろうか。気が付いたら小さな、しかも自分と同じ女の子に興味を持ち始めていた。子供のときに見た大人、母親と父親の汚い大人の内を知ってしまったからだろうか。 それとも、雛見沢には魅力的な同い年の男子がほとんどいないことが起因したのか。 わからない。もしかしたら誰も、獣すら持っていない狂った異常な性癖を授かって私は生まれ出でたのかもしれない。 「んはぁ……すごい……かぁいいよう……んくぅ」 家のベッドに潜るといつも始まる私の慰み。俗に言うおかずはあの小さな三人の写真。 毎日、ローテーションを組んであの子達を犯し、犯されるのだ。羽入ちゃんの角が私の秘裂に食い込んでくる。私の垂れ流した淫液で濡れた角が怪しく光る。 「羽入ちゃん駄目……んああ! 大きいのが……いっぱいだから……ね」 自分の指を引き抜いていく。自分の出したよだれにまみれた指先を舐め回す。 さらなる刺激を求めて、私はおかずを変えた。それは一昔前の写真だ。昔と言っても片手で数えられるぐらい年数。写っていたのはショートカットの似合う笑顔の眩しいかぁいい子…… 「もっとレナを見て、ん! もっと頂戴……ねっ……」 よつんばいになった私は写真の少女を凝視し両手の指で秘裂をかき回す。 「あっ……」 真っ赤に腫らした突起に触れた瞬間に私は絶頂を迎えた。 「ハア……はあぁ……良かったよ……礼奈ちゃん……」 私が最後におかずにしたのは紛れも無い、幼い頃の私の写真だった。汚れをまだ知らない綺麗なころの私自身を私は犯したのだ。 今日の部活は鬼ごっこだ。鬼は圭一君。いっせいに皆散っていく。 ───わざと捕まってやろう……まずは 圭一君に気付かれないように速度を落として私は捕まった。 「はぅぅ、レナが鬼になっちゃった……」 「レナさーん! こちらでしてよ! 」 少しだけ掠れて艶めかしい声が私を呼ぶ。沙都子ちゃんだ。 ───ふふ。すぐに捕まえて、お持ち帰ってあげるね。 狙いを定めて一気に距離を詰めた。やはり小さな女の子の足じゃあ到底私には及ばない。弱々しさの見える沙都子ちゃんのその非力さに私は劣情を感じた。 「捕まえたよ。沙都子ちゃん!」 激しい息切れを起こす沙都子ちゃんを抱き留めるように捕獲した。 「はあ、はあ……レナさんには適いませんわね……」 生温かい息と肌からにじみ出る沙都子ちゃんの汗を目一杯堪能する。その汗と息を舌の上に乗せたいという衝動が巻き起こるがここは自重しておく。その代わりに黄金の輝きを引き放つ髪の毛に自分の頬を擦り付けてあげる。 「はっ、はうぅぅ。気持ちいいよう……」 「もう、レナさん。くすぐったいですわ」 でも今日の沙都子ちゃん……何か変だった。いつもの調子を出せてない…… そんな感覚。いつもでも見ているから私には分かる。特に運動した後には必ずと言っていいほどに顔を紅潮させて…… 「あの、レナさん……」 体育の授業のあったその日の放課後に小声で沙都子ちゃんに相談を持ちかけられた。 帰宅しようとした矢先の思いがけない出来事に気持ちが上昇していくのが分かる。 「どうしたの……沙都子ちゃん? 」 ゆっくりと諭すように天使に話しかける。しかしながら俯いたままで顔を朱に染めているだけだった。とてもいい顔。 「大丈夫だよ、沙都子ちゃん。誰にも話したりはしないから」 「…………」 上目遣いでこちらを見てくる沙都子ちゃんに気が遠くなるのを覚えてしまう。これだ。沙都子ちゃんの時折見せるこの弱々しさ。気丈さとのギャップに私は魅入られて深みに落ちていってしまう。いつものこと。 意を決したように沙都子ちゃんは口を開いた。 「私、最近胸の辺りが……こう、なんていうか熱くなってしまう……と言いますの?特に運動した後は衣擦れみたいになって、じんじんと……疼いてしまうんですの」 疼くという卑猥な言葉が出てくるなんて……沙都子ちゃん…… 「そ、そうなんだ。沙都子ちゃんもそういう時期になっちゃったんだね……」 冷静を努めて説明を行う。 「経験がお有りなんですの? 」 「大人になるときはどうしても敏感になる時期か来てしまうものなの。レナや魅ぃちゃんはもう済んだかな……」 沙都子ちゃんが苦しんでいるのは一種の成長痛だろう。疼いてしまうという表現も決して彼女は卑猥を以って話したのではない。でもこれは無二の好機だ。私の頭の中であらゆる算段が繰り返される。冴えた頭が照らし出したのは…… ───本当に持ち帰ってしまおう 「……ねえ、沙都子ちゃん。レナの家に来ない? その痛みについて色々と対処の仕方を教えてあげるから……」 「本当……ですの? 」 「大事な仲間のためだからね……おいでよ」 圭一君が普段連呼している仲間という言葉を餌にして返事を待つ。 「ありがとうございますわ、レナさん。話をしてよかった……」 「ふふふ、じゃあ行こう。すぐに楽になるから……ね」 疼痛に悩む純真な沙都子ちゃんが釣れた。欲望が現実になるのはもう、時間の問題だけ。これで九分九里、未発達の青い女の子をこねくり回すことができるはず。だってもう釣れてしまったんだから。陸に揚がってしまうのだから。 私の頭の中には二重、三重に性欲プランが構築されている。トラップの達人でさえ回避はできない。欲情にまみれた笑顔を貼り付けて私は沙都子ちゃんの手を取った。 自宅に招きいれた私は自室に招き、性の講義を始めた。 沙都子ちゃんは疼痛を防ぐために。私は沙都子ちゃんを料理するために。 「良い、沙都子ちゃん? 今あなたを悩ませている疼痛……胸の疼きはね、成長痛って呼ばれているものなの」 「成長痛……」 まっすぐに私を見据えている沙都子ちゃんの視線をジンジンと感じながら、私は言葉を続けた。 「そう。人が大人の階段を登り始める時期に必ず訪れてくるものなの」 「大人の……では私は大人になり始めているんですの? 」 沙都子ちゃんの表情が少しだけきらめきを放ったような気がした。 「……沙都子ちゃんは大人になりたい……? 」 答えを聞きたくない質問を私は投げかけた。 「……ええ。早く大人になりたいですわ」 心の底がゾッと急激に冷え込んでしまうのを覚えた。 「早く大人になって、にーにーやレナさんのような立派な強い人間になって生きていきたいんですの……」 「でも、大人になることは辛いことだと思うよ。いろんな汚いものを体と心に刻み込まれる……それはとても……」 「いいんですの」 私の言葉は中途で遮られた。 「そのようなものを全て受け入れて、立派な人になれるのだと私は思っていますわ」 「沙都子ちゃん……」 そんな……嘘だ嘘だ。あんな汚らわしい存在に夢を見ているなんて……腐りきった大人に早くなりたいなんて……じゃあその無垢な笑顔は何? 澄み切った瞳とあなたの弱々しい心は何だったの? 買うことのできないその純真さをあなたは捨てようとしているの? 私が毎日どんなに沙都子ちゃんを想ってきたか……駄目だ、沙都子ちゃん。腐り切って、賞味期限が過ぎる前に何とかして…… 食べなきゃあなたを。 いいよ、沙都子ちゃん。あなたがその気なら。あなたの思いを尊重してあげる。 でもそれは体裁だけ、外側だけ。食べるための口実のために利用する。 「話が逸れましたわね。本題をお願いしますわ」 「まず、沙都子ちゃん。運動をした後に特に痛くなっちゃうこと多くない? 」 「ええ、おっしゃるとおり……今日の体育の後なんかすごくて……」 今も疼きがあるのだろうか。胸の辺りを押さえながら沙都子ちゃんはつぶやいた。 「衣服との擦れ合いによってそれは起こってしまうことが多いの。それを防ぐにはね胸の突起……つまり、うん、沙都子ちゃんの乳首を保護してあげれば軽減するの」 乳首という言葉にぴくりと体を震わせたのは気のせいじゃあない。 「じゃ、じゃあどうやって保護すれば……」 「適当なシールみたいなのを貼ってあげるの……」 「シールを貼ればいいんですの……」 ふふふ、本当なら適当なブラを当ててあげれば擦れあいは防げる。でも、この子は無知。だから少しばかり恥ずかしいことを吹き込んであげる。小さな子供にいたずらを掛けるロリコン魔の気持ちが少しだけ理解できた。 「シールって言われましても具体的にどのような……」 小首をかしげた沙都子ちゃんにさらなる嘘を吹き込んであげた。 「一般には絆創膏がいいんだよ、沙都子ちゃん……」 「そう、絆創膏を貼るんですの……」 「貼り方も教えてあげなくちゃね……沙都子ちゃん、お洋服脱いでくれるかな」 沙都子ちゃんの目がくっと見開いた。わずかな赤みを帯びている瞳が揺れ動く。 「ぬ、脱ぐんですの? 」 少し軽率だったかな。でも…… 「沙都子ちゃん、よく聞いて。これはあなたのために、あなたが大人になるためにやっていることなの。恥ずかしいことかもしれないけれど、沙都子ちゃんの成長のためにレナはね、言うの。あなたが立派な大人の人になって欲しいから。ね、だから……」 自分に妹がいたらこうやって諭していくのだろうか。考えを張り巡らせて、私は言葉を選んでいった。そうしていけば目の前にいる幼女は…… 「ごめんなさい、レナさん……レナさんがこんなに親身になってくれるなんて……ありがとう」 ほら、大人という言葉を出せば沙都子ちゃんは簡単に折れてくれる…… 一見はわがままそうな感じだが押しにはとことん弱い女の子…… 「レナさんが……私のねーねーみたいに……」 そして筋金入りの甘えん坊さん…… 「ふふ、じゃあねーねーの言うこと聞いてくれる? 」 「はい、分かりましたわ……」 そうして沙都子ちゃんは自分の上着を脱ぎ始めた。 「これでよろしいんですの? ……やっぱり……恥ずかしいですわね」 上半身をさらけ出した沙都子ちゃんが目の前にいる。紅潮した顔を携えて、胸の辺りを両腕で隠している。その困惑した顔とみずみずしい素肌が私の唾液の分泌を促す。溢れる生唾を飲みながらじっくりと舐めるように見た。 「じゃあ、腕をどかしてみようか、沙都子ちゃん……」 「……わかりましたわ」 ゆっくりと両腕を下に降ろしていく。 「んっ……」 突起が空気にさらされて、くぐもった厭らしい声を沙都子ちゃんは吐いた。 毎晩オナニーで夢想していた幼女の乳首が今、目の前にある。夢みたいな光景に私の胸の突起も勃起してきた。 「はうぅ、沙都子ちゃん、少し赤くなっちゃてるね……」 沙都子ちゃんは二つの突起は真っ赤に腫らしていた。歳にしては大きめの膨らみに付いた沙都ちゃんを疼かせる神経の集まり。 「はい、これが……たまらなく……疼いて仕方がないんですの……」 少し涙を浮かべている沙都子ちゃんにくらくらになりながらも、私は冷静を呼び戻す。 「うん、じゃあ、絆創膏の貼り方を教えるね。とりあえず、今はレナの指が絆創膏だと思ってね」 沙都子ちゃんの後ろに回りこみ、抱き込むようにして両手を沙都子ちゃんの体の前面に回した。 「……ひぅ! 」 両の人差し指の腹でそっと突起を抑えてあげる。待ちに待った幼女の突起に触れた。 ───幼女の……甘えんぼ幼女の乳首が私の指に…… コリコリしてあげたいけれどここはまだ我慢。 「こうやってね、突起を包み込むようにしてあげるの……こうして動かしても、あまり痛みを感じてしまうことはないはずだよ……」 指の腹を押し付けたまま左右に揺すってやると…… 「んん、レナさん……そ、そんなに、動かしちゃあ……」 こうやって艶めかしく鳴いてくれる。そんな鳴き声されると……もう…… 「あ、あっあっ! レナさん……指が……」 「ほら……こんなに動かしても大丈夫……鬼ごっこしても缶蹴りしても大丈夫だね……」 ごめんね、沙都子ちゃん、でも大人になるためには必要なんだよ?私の愛撫に耐えられなくなったのか、私にのしかかるようにして体重を預けてきた。心地よい重みが私を支配する。 「レナさん……何か、痒くて……んぁぅ、あ、熱いのが……」 ふふ、きちゃってる、きちゃってる…… 「これで絆創膏の貼り方分かったよね……」 目をつむって大きく息を吸っている沙都子ちゃんを見下ろす。ゆっくりと頷いた沙都子ちゃんに対して私は再び言葉を紡いだ。 「じゃあ次は、今まで溜まってた凝りと張りを解消させるマッサージ教えるね」 「はい……それを行えば、さっきの……痒いのと熱いのが……取れるんですの……? 」 私の膝の上に乗っている沙都子ちゃんは大きな瞳を潤ませながら問いかけてきた。 「お願いしますの、レナさん。私……もう何か、おかしく……なって」 さっきのがよほど効いたのだろう。私の手を握り締めて必死に哀願してきている。 「でも、ここじゃ駄目。沙都子ちゃん、ここじゃ風邪引いちゃうから。ね?お風呂場に行こう? 」 「お風呂……はい、行きますわ……お風呂……」 「まず背中と髪を洗ってあげるね沙都子ちゃん」 こくりとうなずく沙都子ちゃんの背後に回ると、泡を立てたスポンジを体に当ててあげた。でも…… 「……んん、やぁ、レナさん、スポンジが……」 スポンジの刺激に敏感な肌が耐えられないのだろうか。あてがうごとに吐息を漏らしていく。このままごしごしと直接乳首を擦ってあげたい衝動に駆られるのだがここも抑える。内心はバクバクなのだけど。 そこで私はスポンジから泡だけを取り、素手で体の隅々まで洗ってあげることにする。洗い終えた私は、沙都子ちゃんのふんわりとした髪の毛を洗いにかける。 「痛くない? 沙都子ちゃん? 」 「はい……とても優しくて気持ちいいですわ……」 まだ青々しいにおいを放つ沙都子ちゃんの髪を指先に憶えつけるように触姦する。 「んん、気持ち……いい……なんだか本当のねーねーに洗われているみたい……」 ……そう。私は今この子、姉になってあげているのだ。いきなり獣になってこの子を襲ったらねーねー失格になっちゃうから……まだまだ泳がせないと。 「それじゃあ、次はマッサージですわねレナさん」 体を清めた私たちはついにマッサージの準備に取り掛かる。沙都子ちゃんはこの胸の疼きを止め様として躍起になってる。もうすぐだよ沙都子ちゃん。いっぱいほぐしてあげるからね。 「そのマッサージは……あの……痛いのですの? 」 「ううん。全然そんなことない。むしろ、疲れや凝りが取れて気持ちいいの」 だって……性感……マッサージだもの…… 純情さをひしひしと見せ付けてくる沙都子ちゃんに少しの罪悪感を感じる。駄目なねーねーでごめんね。 お風呂場の床にバスタオルを敷き詰めて直に座っても痛くないようにする。沙都子ちゃんに座るように指示し私はローションを手に取った。 「これ? これは肌の滑りをよくするためのものだよ。これを塗っておけば痛みを抑えてマッサージできるの」 「この……ローション? をレナさんはどうして今も持っていますの? レナさんも時折マッサージをしていますの? 」 微妙なところを突いてきた沙都子ちゃんに対して注意して答えた。 「う、うん。レナも時折やるの。……気持ちいいし美貌にも良いんだよ? だよ? 」 まぁ、マッサージといってももっぱら下半身のマッサージだが……もちろんこのローションも自分のオナニーのために使ってたものを転用したものだ。これを使って何度も沙都子ちゃんを夢想したことか…… 「それでは、お願い致しますわ」 妄想中にいきなり振られた私は急な鼓動の高鳴りを抑えながら、その幼幼しい肌に、まずは肩口から液を流し込んでいく。重力に従って下半身に垂れていくその感触を沙都子ちゃんはどう感じているのか…… 「な……にか……ぬるんぬるんしたのが、いっぱい……来ていますわ」 両の肩口からたくさんのローションを垂らしてやる。かぁいい、かぁいい幼女のために奮発して使用する。 「じゃあいくよ……」 私の指が沙都子ちゃんの肩口に触れるとびくりと体を震わせた。最初は方から首にかけて本当のマッサージのように解きほぐしてやる。 「あっ……いい」 柔らかな肌に触れることがついにできた。内心の緊張が私の指を震わせる。 「すごい、良いですわレナさん……でも、あの……お胸のほうにも……していただかないと……駄目なのでは……」 ───ふふ、お部屋でやった前戯が効いちゃったのかな…… 胸のほうへと両手を滑り込ませて沙都子ちゃんの膨らみに引っかかるようにしていたローションの塊を円心状に押し広げてやった。 「くぅうん!! ぬるぬるが……何か……私、獣に体を舐められてるみたいですわ」 鋭いんだね沙都子ちゃん。獣はあなたのすぐ近くにいるよ。近くにいて息荒げてごちそうの下ごしらえをしてるんだよ。 液によって艶めかしく光っている沙都子ちゃんは本当に全身を舐め尽されたみたいになっていた。 そのまま自分の両の手で膨らみを押しあげて本格的に揉みしだいていく。 「んん……はぁ……レナさん……」 吐息がさらに大きくなっていくのを実感した私は核心の迫る。 「突起のところもやっちゃわないとね……」 満足ができなくなった私、沙都子ちゃんもかな……ついに乳首に刺激を与える。 「はぁぁぁ! そこですの! そこがたまらなく……あ」 人差し指と中指でこりこりと朱に腫らした突起をこねてやる。 「あ、あっあ! じんじんして……おかしくなって……」 目を瞑って見知らぬ快感に酔い痴れている沙都子ちゃん。その頬は桃色に紅潮していた。ときおりびくんと体を震わせていくのがとめどない情欲を誘う。 「こうやって解していくの。どんどんどんどん楽になっていくからね……」 手に力を込めて摘み取るようにして刺激を与える。ぬるりとしたローションにまみれているから痛みではなく快感に転じているはずだ。 「やぁ……なんか……ん、熱いのが……お胸だけだったのに、足の間にもきゅっと何かが来てて……」 いけない子……ただのマッサージなのにイきそうになってるなんて…… 「もうすぐだよ……もう少ししたら楽になるから」 かなり脱力を見せている沙都子ちゃんを抱き留めてやる、そして意を決してもらう。 「!? レ、レナさん! そこは……」 脚の間にあるもう一つの突起に指を差し入れた。ここを弄べばすぐにころっと達してしまうだろう。 「ここを刺激をしてやれば、もっともっとすぐに楽になるからね……」 「……恐い……恐いですわレナさん。私……何か……恐いのが来てしまいそうで……」 思ったとおりの反応。ここまで予測どおりだと何か微笑みが漏れてしまう。 「じゃあ、やめる? 恐いなら……ねーねーの言うこと聞けないなら……やめてもいいんだよ」 ねーねーの言う事を聞けない悪い妹には鞭が必要だ。ぱっと指の動きを止めた。 「どうするの……一生、疼いたまま暮らしていく? 」 くっと目を見開いた沙都子ちゃんは首を懸命に振りながら哀願してきた。 「い、嫌ですわ、ねーねー、私疼いて疼いて仕方がありませんの……」 「……だから? 」 「お願い……続けてくださいませ! 私を早く早く……楽に」 哀願幼女に心と下半身を打たれた私は思わず性欲に素直な妹を抱きしめてやる。 「ごめんね沙都子ちゃん……レナ少し言い過ぎちゃったね……でも大事な妹を思って 言ってしまったの……許してね……」 「はい、ねーねー。私もごめんなさいですわ。ねーねーの気持ちを蔑ろにしてしまって……だから、ねーねーの思うように……続けてぇ……」 スイッチが入っちゃった沙都子ちゃん。イかせてあげるからね……たっぷり。 再び私は上半身の突起と下半身の突起に手を添わした。もう両方とも真っ赤に充血していた。 「ほら、こっちのほうも撫でてあげるといいんだよ? 」 「あぅ……ああ! やぁ、壊れて……しまいそう! 」 結構強めにクリトリスを刺激してあげるのだが、なかなか粘っている。触った瞬間イってしまうと思ったのだが…… 「はうぅ……レナ少し疲れちゃった……」 少し指を休ませようと動きを留めた瞬間だった。ぐっと私の手が掴まれた。 「いや! やめないで下さいませ! ねーねー、もっとコリコリしてぇ!! 」 もはや私の指の動きではなくて、沙都子ちゃんの力だけで愛撫が持続された。 「あ、ああっ! ねーねー! レナねーねーぇ!!!! 」 一段と体を振るわせた私の淫乱妹は自分の意思と力で絶頂に達した。 私の指に絡みついた愛液を、渇望していたそれを一滴も残さずに私は口に入れた。 「ふふ……いけない子……」 「年上の方とお風呂に入るのはにーにー以来ですわね……」 情事を終えた私たちは一緒に湯船に浸かっていた。ちょうど私が沙都子ちゃんを後ろから抱くような形をして湯を浴びている。 「悟史くんとはよくこうやって一緒に入ってたんだ……」 「ええ、懐かしいですわ……でも」 沙都子ちゃんが振り返り私のことを見つめた。 「今は……優しくて綺麗なねーねーがいますから……寂しくなんかありませんわ」 「沙都子ちゃん……」 私は目の前にいる妹をぎゅっと抱きしめてあげた。 お風呂からあがった私は沙都子ちゃんの体を丁寧にふき取り、例の絆創膏を手に取った。 二つの絆創膏を二つの突起に貼り付けていく。 「これで、疼痛を防げるはずだよ……沙都子ちゃん」 「ありがとうございます。これで鬼ごっこもへっちゃらですわね」 何も知らない沙都子ちゃん。これで私だけの絆創膏幼女の完成だ。これからは毎日下着の下に絆創膏を貼って登校し、授業を受け、ご飯を食べ、部活に勤しみ、罰ゲームを 受けちゃうのだ。その姿を想像したら、沸々と性欲が溢れてきた。 「ねーねー、今日は本当に感謝していますわ」 家の玄関で帰り支度をしている沙都子ちゃんを見送る。家に来たときとは違い嬉々とした表情の笑顔を見せてくれる。 「沙都子ちゃん、私の家に泊まっていっても良かったのに……」 「お気持ちはうれしいですわ……でも梨花と羽入さんを待たせてしまっていますから……」 玄関を開けると夕暮れのオレンジが差し込んでくる。 「……ねーねー……あの」 表情が弱々しくなった。愛撫しているときに見たあの哀願するような瞳。 「また……体が疼き始めたら……あのマッサージ……もう一度お願いしても……」 もちろん私はそれを快諾する。かぁいいかぁいい、妹のためだから…… 「もちろん……またおいで……」 沙都子ちゃんがいなくなった後、私は一人ベッドに潜り込む。刻み付けた沙都子ちゃんの味や感触を自分のものにするためだ。沙都子ちゃんは私のことをねーねーと呼んでいたが…… ふふふふふ、それはあの子の賞味期限が過ぎる前までの話。ただの形骸。これからあの子は私の愛撫を求めてくるだろう、優しい優しいねーねーの気持ちいいマッサージを。 その日が来るまであの子を骨の髄まで味わってやろう。少しでも拒絶を見せたらまた鞭を振るえばいい。あの子はとても従順そうな幼女だから。 三人の幼女のうち一人は陥落した。残りは古手羽入ちゃんと古手梨花ちゃん。 次はどちらを噛んでやろうか。気の弱そうな羽入ちゃんのあの角を味わってみたい。 少し斜に構えたところのある梨花ちゃんのぺたぺたの胸をさらけ出してあげたい。 ……決めた。羽入ちゃんにモーションをかけよう。梨花ちゃんの胸も魅力的だが、あの角の方が引かれる。というかあれはいったい何なのだろうか。硬さは? においは?味は? そして、あの子は意外と……エロい。圭一君が話していた猥談に目を輝かせて参加していたのを知っている。陥れるのには絶好の獲物だ。あの角で貫いてもらうのも良いし、角を舐めながら羽入ちゃんの秘所を責め立てるのもまた一興。エロ幼女の本性を暴いてやろう…… 次なる獲物の夢を見ながら、私は沙都子ちゃんのにおいの付いた指先を自分の秘所に突き入れた。 <続く>l 変態レナ 羽入編 -
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2007/12/22(土) 「先生、さよなら~!!」 「はい、さようなら。みなさん帰り道には十分気を付けるんですよ」 からりと晴れ上がった初夏の土曜日。私の生徒たちと帰りの挨拶を終える。授業は昼で終わるということもあり、子供たちは目をらんらんと輝かせて各々帰路について行く。 「ふふふ……昔を思い出すわね……」 授業が午前中で終わる土曜日に、何年か前の私も同じように目を光らせて過ごしていたことを思い出す。 平日の下校の雰囲気とは違うさんさんとした太陽を感じながら、お昼のカレーを自宅で食べて友達のところに遊びに行く…… そんな良き土曜の一日の思い出が私の中で反芻されていった。 職員室に戻った私は残りの業務に励む。その途中、日直の子から日誌を受け取りそれに判を押す。日直の子は早く帰路に着きたいのだろうかそわそわしながら私の返事を待っていた。 「はい、確かに受け取りました。気をつけて帰ってくださいね」 元気の良い日直の子の挨拶を受けて、私の顔が思わず綻んでいく。 午前中で終わった土曜日も相まって、一時間も経たないうちに私は今日の全ての業務を終えた。 「知恵先生。お疲れ様です」 「お疲れ様です。校長先生」 分校のもう一人の教師もある校長が私に声を掛けた。 「どうやら、業務は全て終えられたようですな。帰宅されてもよろしいですぞ。 学校に残っている生徒たちは私が見送りますからな」 「そうですか……じゃあお言葉に甘えさせてもらって……」 デスクの上の書類を片した後、教室の様子を伺いに戻る。『部活』に精を出していた 委員長たちに一声掛けて私は分校を後にする。私の中の土曜日もまた始まろうとしていた。 自宅のキッチンに足を運ぶ。芳しいカレーの匂いがほのかに香っていた。今日の朝、私は早起きして既にカレーを作り上げていたのだ。もちろん、今日はいつもより早く帰ることができると見越していたから。久しぶりにカレーで自宅の昼を過ごすことができる。幼少の頃の土曜のお昼が思い返されて、私の心がいやおうにも高揚していくのが分かる。 朝作り上げた時間から数えて数時間、熟成させていたカレーを弱火にかけて温めていく。その間に私は炊き上がった私の米飯の様子を見に行く。もちろん、これも洗米を済ませて私が帰ってくる時間に合わせてキッチンタイマーを仕掛けていたものだ。 「……うん、ご飯、いい感じに炊き上がってますね……」 ふっくらとやや硬めに炊き上がったそれを見て、次第に私の胸か高鳴っていくのを感じた。炊飯器でできた米飯にしてはなかなかの出来に仕上げることができた。私が炊くお米も吟味を重ねて選択したものだ。粘りが少なくお米同士のくっつくことの無い、それでいてルーの染み込みやすいお米……長年の研鑽を重ねて発見した業とお米の集大成が目の前で煌々とした湯気を放っている。 「んんん……はぁ……いい匂い……」 目を瞑り、私の米飯の匂いに酔う。十二分にそれを堪能した後にカレーの様子を見に行くことにする。 「ごめんなさいね……すぐ戻ってくるから……」 名残惜しそうな私の米飯にしばしの別れを告げて炊飯器から離れた。 後ろ髪を引かれつつカレーの鍋を覗き込む。ふつふつと静かに煮立っているそれは、私の特製のスパイスの香りを放っている。控えめにその匂いを主張していた先ほどの米飯とは違い、私の煮立っているカレーはその存在をダイレクトに私の鼻腔と視覚に訴えかけてくる。わずかに照りの乗っていてとろとろとしたルーの中にジャガイモの白色と人参の赤色が見え隠れしていた。そしてそれを取り巻くように繊維ほどの細さになるほど煮込まれた鶏肉が周りに点在している。 「ふふふ……我ながら良い出来ですね……」 私の得意カレーの一つであるチキンカレーが出来上がった。この出来なら一流のレストランのカレーにも遜色の無いものだと私は思う。しかし私の作ったカレーを売るような真似だけは出来ない。心を込めて作った私のカレーをどうして売るような ことが出来ようか…… 私はお鍋にかかっていた火を止めた。そして、カレー皿を棚から取り、炊飯器の所へ足を運ぶ。 「待たせてしまってごめんなさいね……」 私のことを待っていた私の米飯に声をかける。しゃもじを持ち余計な圧力をかけないように注意を払いながら形良く米飯を皿に盛っていく。残りのご飯を米びつに移した後、炊飯器のふたを閉める。そのままカレー鍋のもとに行き、お玉でルーをかける。多すぎず少なすぎず……細心の注意を払いながらルーを落としていった。この作業を怠ってしまうとルーとカレーのバランスが崩壊してしまう。 「ルーだけがいたずらに残るというような、致命の痛手は何としても避けないと……」 うまくいったようだ。バランス的に完璧なカレーライスを見て思わず自分の口角が釣り上がってしまうのがわかる。 「もうすぐ……もうすぐですからね……」 テーブルの中心に私のカレーが鎮座している。そのちょうど右側にスプーン、やや左上方にお冷を置く。後は食べるだけ。 「いたただきましょう。……!!」 スプーンで切ったご飯に断面にはルーが十二分染込んでおり、私の目が釘付けになる。私のカレーを口に運んだ瞬間、芳しい香りと舌を突付くようなスパイシーな味が口内に広がった。あまりの美味しさの衝撃に私の背中がぞわっと総毛立っていくのがわかる。 「はぁぁ……なんて美味しいの……」 私のカレーがもたらしてくれた何にも代えがたい喜びに体が震えていく。十分に一口目を堪能した後に二口目を頬張る。今度はカレーのもたらしてくれる喉越しを楽しむ。こくりと喉を震わせると、熱いカレーとご飯の塊が私の体の底に降り立っていく。体の奥から感じる熱さに悶えながらスプーンを進めていく。 「はぁ……はぁ、ん、んく……か、カレー……私の……んん」 私はスプーンでルーとご飯をきれいに形作り、口に運び続けていく。かちゃりとスプーンとお皿が立てる音にもまた小気味良さを感じてしまう。自分の口内と耳腔を楽しませてくれる私のカレーに、何か言い表せない崇高さのようなものを覚える。無意識に感じてしまうカレーへの想いに自分の心臓が高鳴っていく。 「はぁ……はぁ……はあ……んっん……熱いぃ」 息が続かなくなるほど夢中で貪り続けていたために自然と呼吸が荒くなっていく。私の熱くなった口内に冷たい空気が入り込んでいく。心地よいその感触にしばらく身を晒す。 「ふう……まだいっぱい残ってますね……」 半分ほど残ったカレーを一瞥し、私はまだしばらく続くであろう享楽に身を委ねる。その思いが私のお腹の奥をさらに刺激していく。 「さぁ、行きましょう。一緒に」 私はスプーンの動きを再開させご飯の一角に向かっていく。次はルーを多めに取り口に入れた。中にいた小さな私のジャガイモの塊をころころと舌を使って転がしていく。糸切り歯を使って半分に割り、その断面の感触を味わう。ジャガイモ特有の素材の甘味が染み出て私の舌を染め上げていく。さらなる唾液の分泌が促されていくのがわかる。 「……やっぱり良いですね。私のジャガイモも…………んんっ!!」 私はジャガイモに気を取られすぎていた。並々にスプーンに盛られたルーから一滴がこぼれてしまったのだ。私の胸元へとしずくが落ちていく。スローモーションのようにゆっくりと落下する私のカレー。胸元に達する直前に空いていた方の手の平を咄嗟に出した。ぎりぎりのところで手に平に収まりほっと胸を撫で下ろす。 「はあ、はあ。危なかった……」 今着ている白のワンピースが汚れなかったというよりも貴重なカレーを犠牲にせずに済んだという思いのほうが強かった。しかし、これからは着ている服にこぼさない様に食べなければならないという邪念が取り巻いてくるだろう。カレーの時間を 邪魔されるのはなんとしても避けないと…… 意を決した私は着ているワンピースを脱いだ。私としては他人より少し大きいほうではないかと思う、ブラに包まれた双丘が顔を出す。脱ぎ終えた白色のブラとパンティだけを身に付けている状態になる。衣服に篭っていた体熱が開放されて私の気分が爽快に一心された。もうこれで私とカレーの邪魔をするものはいない。 カレーを次々に口に運ぶ。ご飯多め、ルー多め、50:50、にんじん盛り、ジャガイモ盛り、ダブル盛り……スプーンという小さなステージを彩り、時には形を変え繊細さと大胆さを味わわせてくる私のカレー。そのギャップに翻弄され、私はカレーを食べているのではなくて、食べられているのではないかと錯覚する。カレーから受けるその多彩な責めを受け、私のむき出しになったからだが汗ばんでいく。 「あぁぁ、駄目……私のお腹の底に……カレーが、染み込んで……」 「んん!駄目、スプーンが止まら……」 もはや、私のカレーはスプーンを止めてくれようとはしない。残ったカレーを貪りつく様に食べていく。口の周りにルーがまとわり付こうが、カレーのしずくが落ちようがカレーに魅入られた私にとっては、もはや関係がなかった。 気付いたときにはカレー皿は空になっていた。名残惜しくなった私はスプーンを使ってさらに残ったルーを掬い上げていく。そして唇に付いたわずかに付いたルーを舌を使って舐め取る。その傍から見れば卑しい行為を終えた私はお冷を手に取る。内側から火照っていた私の体がすっと冷やされていくのを感じた。 私の胸元に違和感を感じ視線を下ろす。先ほどこぼれてしまったカレーの一しずくが私の双丘の間に吸い込まれつつあった。 「まだ……いたんですね……」 汗ばんだ谷間にいた最後のルーを指を差し入れ掬い取る。我慢できずにそのままルーに包まれた指にしゃぶりついた。私の指から未だ火照りの取れない唇とぬらぬらとした舌の熱さが感じられる。最後のぬくもりを味わいきり、私はちゅぷりと口から指を抜いた。 「ふふふ…………ご馳走様……」 Fin
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前回 Miwotsukushi2 理性を糸に例える描写を圭一は知っていた。そして本当に切れたら音がするのだ、と実感した。 体勢を背を向けていた格好から、向き合う形へと移す。 暗闇の中で大きな瞳、端正な顔立ち、深緑に映る長髪が視界に入った。 詩音は未だ圭一を抱く状態。圭一も詩音の肩に手を置き、一層鼓動が大きくなる。 本当に良いんだな、など確認の言葉をかけるのも圭一は考えた。 だがすぐに本能が優先され、目の前にいる少女との行為が脳に上書きされる。 背に回した手で、詩音をより自分へと近づける。 正対しての密着。初体験の感覚に、圭一は血流の加速を悟った。 足を動かして圭一に絡むように詩音は動く。素足と素足が触れ合い、腿と腿が摩擦する。 上半身を少し起こし、再び圭一は視界に詩音を捉えた。 少し乱れた髪と息に喉を鳴らし、自ら唇を触れさせる。 上唇、下唇それぞれ味わうように吸い、顔を傾けて唇だけの接吻を行った。 最後に舌で唇全体を舐めてから、口を離した。 詩音は笑っていた。意中の男性とキスが出来たと言うのは、やはり彼女にとって悦びを感じる経験なのだろう。 お互いに無言のまま体を起こし、ソファ本来の使い方である着座の姿となった。 圭一から詩音の手に自分の手を添え、詩音も下から強く握り返してきた。 同時に立ち上がる二人。詩音の口から漏れた小さな笑い声に、圭一も少しだけ微笑ましい気持ちになる。 何となく当たりをつけた部屋が丁度詩音の寝室で、『ふいんき』を壊さずに済んだ。 「脱いだ方がいいのかな」 詩音の甘い囁き。最初から裸で行為をしている大人の本とは違う。 リアル。確かに今自分が、視覚、聴覚だけでなく、体との触覚も密着する時の嗅覚も接吻の際の味覚も体感している。 お都合で進む話じゃない。ステップを一回一回踏んでやる必要を圭一は再認識した。 「上だけ……脱ぐかな」 ピンキーでファンシーなパジャマに目を落として圭一は言う。 第二ボタンに手を掛けた所で詩音が呟いた。 「私がしますよ」 圭一の手を払って詩音の指がボタンに触れた。 意外と他人のボタンを外す、と言うのは慣れない行為で手こずるのだが、詩音は器用に片手で開ける。 男子としては些か頼りない胸板。皮の下から浮かぶ肋(あばら)。締まった腹筋。 ボタンを一つ外すことに、男としての前原圭一が露わになる。 「シャツ……渡しませんでした?」 「うぅ……、着れなかったんだよ」 どうだろう。と詩音は笑いながら考えた。 詩音は自分の体にある程度の自負があった。 姉の魅音同様太りにくい体質以上に、二人が常に入れ替わりを行うには体型も重要なポイントであった。 あの転婆姉貴が部活で体を動かして、勝手に不要物が落ちていくのに対し、詩音は自ら体をシェイプさせる必要がある。 数少ない生活資金を切りつめて、園崎情報網をフル活用し効果的な健康グッズも購入したものだ。 だからと言って、圭ちゃんの体も自分のものと大差はないように感じる。 骨格の違いから肩幅は当然違う。 抱きしめた時、どこか男子を感じたのは恐らくそのせいだ。 だが筋肉隆々の野球部よりも、裁縫をする女子の方がよっぽど圭ちゃんぽかった。 ならば何故嘘を付いてまで着ることを拒んだのか。 「くくく……」 「……なんだよ」 「ウブだなって」 ボンと効果音がするような圭一の反応。顔だけが見事に赤く染まり、詩音のウブという表現を改めて体現した。 「確かに女の子の鉛筆とか借りるのも恥ずかしがる人も居ますけどねぇ。圭ちゃんはそんな感じですか」 完全に優劣の立場が明確になってしまった二人。ベッドの上で話す甘い囁きでもなく、ごく普通の日常会話が繰り広げられる。 「……でも、今からそれ以上のことするんだろ?」 圭一が急に動く。 唇を重ね、自らの体重を完全に詩音に預けてそのまま押し倒した。 挨拶程度でも外国ではするようなキスではなく、自ら舌を押し込み詩音の中をかき回す。 詩音は抵抗もできないまま、混乱状態で圭一を受ける他なかった。 いつもは嘗められぱなっしであったものの、さすがにこの時ばかりは圭一がリードする。 胸のふくらみに手をかけ、手の平で覆うように力を入れる。 「っ」 詩音の呻きも唾液が絡まる音に消え、圭一は詩音の胸を堪能した。 左手だけで行っていた行為を、右手も加えて詩音をより追いつめる。 右手は依然詩音の胸に刺激を与えつつ、左手は次のステップを踏んだ。 手探りで詩音の着衣を繋ぐ部分に手を掛ける。 詩音の時とは違いスムーズに開けられない圭一は、若干強引にボタンを開け、いや剥いだ。 外気にあてられ詩音の躰が萎縮する。 右手を一度離し、パジャマの下ブラジャの上に手を添え、再び数秒前の行為を続けた。 ブラの生地はざらっとしていたが、より詩音の乳房を感じることが出来る。 半分忘れかけていたディープキスに意識を戻す。何分不慣れなため、息が上手く吸えず苦しさがあった。 舌を抜き、唇も遠ざける。詩音も息が乱れている。熱い官能的な吐息が、圭一の顔にかかる。 詩音が息を吸うのとは違う、なにか喋るために口を開ける。 圭一は反射的にそれを再び己の唇で塞ぎ、二人の唾液が絡み合った舌をまた差し入れた。 数分同じ行為を続けた所で、詩音にも変化が表れた。 圭一の腕を掴んでいた手を、圭一の後頭部に移動させ、より激しい接吻を求める。 顔を動かし、また違った角度の舌を味わう。 圭一もただ揉んでいただけの両手を、くびれや腰、背中を撫でることも追加する。 軽く汗ばんだ詩音の躰を圭一は舐めるように撫でた。 圭一の本能が、今度はブラを外すことを指示する。 どこかの知識で、ブラを外す時にはそれなりのテクがいるとかなんとか聞いていたが、ボタンとは違い簡単にブラは胸から落ちた。 未だキスのため圭一の視界は塞がれているので、生の乳房を見ることは出来ない。 見るよりも先に、右手の親指が桃色の突起にかかった。 びくん、と明らかに今までと違う反応が詩音に起こった。 それを面白く感じた圭一は、親指で何度も乳首を弾く。 詩音の躰がよじれ、何か逃げるように動き出す。 「はぁっはぁっ」 ここで圭一は完全に顔を詩音から離した。視界に飛び込んできた生の上半身。 月光だけの乏しい明かりに映る詩音の乳房。 鼓動がまた一つ大きく鳴る。血流がまた一つある箇所に集まる。 「なかなか……激しいですね」 息が絶え絶えになっているのを落ち着けつつ、詩音が呟いた。 乳を弄られたことより、大人のキスの方が詩音にとってはセックスを感じていた。 「ガマン出来そうにねぇな、俺」 酸素の欠乏とは違う理由で、圭一は激しい呼吸をしている。 既に圭一の一部分は剛直と化していた。 「ガマンしなくていいですよ。滅茶苦茶に私を愉しんでください」 すっと閉じる詩音の瞼。自分のモノと疑似する詩音の態度に、圭一は雄となった。 まず自分を邪魔する衣服を取り払う。悪魔が与えた恥辱を隠す布を外し、アダムとなった。 青い血管が浮き出、他の箇所の肌よりも少し黒ずんだ皮、そして赤々と膨らんだ亀頭。 思春期の中学生に、前戯は十分な勃起の栄養だったらしく、ぴくぴくと震えて準備万端となっていた。 乱暴に掴んだのは詩音の下のパジャマ。ヒップのラインに沿いはだけるズボンを、片手で足から引き抜いた。 純白のパンティを直視し、円形のシミが出来ていることを中指で確認した。 指でそのシミを弄る圭一。いよいよ声を抑えにくい箇所に刺激が起き、力を入れる詩音。 時折起こるぐちょ、と言う音がより大胆に圭一を動かす。 パンティ越しに溝をゆっくり下から上、上から下となぞる。詩音の手が声を漏らさないため口へと動いた。 それより早く圭一の指が詩音の口腔に入る。 これは知識として存在していた作業で、圭一自身どう意味をなすのかが分からなかった。 とりあえず中指に次いで人差し指も口へ入れ、舌をぐにぐにと弄った。 すると詩音は手首の当たりを両手で掴み、固定し、口腔内の圭一の指をしゃぶり始めた。 自分の意志ではない舌が、こんなに快感を生み出すのかと圭一は思う。 指先に性感帯など無いのだが、ぞくぞくとする小さな刺激に圭一はより鼻息を荒げる。 「んっ……ん……」 懸命に指をしゃぶる詩音を見ながら圭一はパンティにも手を掛けた。腿まで下げて圭一はパンティを下げるのを中断する。 もう邪魔するものなど何もない詩音の恥部。これ以上待つ理由など圭一にはなかったからだ。 左手の指が詩音の指に触れる。溝に沿って再び擦り始める。大陰唇を親指でこする。 途中クリトリスを発見し、乳首にしたように軽く弾いた。 「ああっ!」 一番大きな声が圭一の指の間から漏れた。 弾く。声が漏れる。弾く。声が漏れる。 指をしゃぶることなど忘れ、詩音はされるがままに声を押し殺す。 その必死に耐える表情をする顔に、圭一は数センチの所まで自らを近づけた。 「可愛いよ、詩音。ガマンすんなよ」 銃のジェスチャのような形の人差し指と中指を、圭一は詩音のナカに挿れた。 ぐっと詩音が硬直する。怯えるような表情に変わった顔。 紅潮した頬を一度舐めてから、圭一は三度目のディープキスをする。 今までで一番激しさのこもったキス。詩音は逃れるように、紛らわすように舌を貪る。 ナカにある人差し指と中指を交互に暴れさせる。 ぐちゅっ。びちゃ。淫らな音。キスで漏れる音と同様、圭一の一つのガマンが崩れかける。 早く挿れてしまいたい。果てたい。 だが思い留まり、二本の指に加え親指が陰核を遊ぶ。 後頭部に再び回っていた詩音の手に力が入る。キスの度合いがまた一つヒートアップする。 三本の指が疲労を感じ始めていた。手の筋肉など本当に些細なモノ。数分続ける慣れない運動にも限界が来る。 しかし圭一は詩音がイきそうなのを感じ取っていた。詩音から舌が動かなくなり、されるがままの状態になっているからだ。 もうちょい……、もうちょい。 「へひちゃ、……ひちゃ、ああ、ああ、ああああああっ!」 弓のように詩音がしなる。異常が起こり、圭一の後頭部をあらん限りの力で締める形となった。 イったのか……。妙な達成感と、詩音に対する征服感が起こり、圭一は唇を乳房へ移動させた。 「待って……圭ちゃん……っ。きゅーけぃ……」 「待ってられっかよ……」 乳首をくわえ、挿れたままの指を再び始動させる。 転がすように丹念に乳首を舐め回し、指はナカの横ではなく上の方に立てる。 小さなグラインドで擦り始めると、先ほどより大きな刺激が詩音に伝わった。 「はっ、はっ、いやぁ……圭ちゃん……」 圭一は第二関節までしか挿れていなかった指を、根本まで沈める。 詩音がまた一つ鳴き、圭一は指の出し入れする距離を一層長くした。 数分している内に、一部分を通過する時だけ、詩音が必ず声を漏らすことを圭一は知った。 Gスポットであったのだが、圭一はそんな知識を知ることもなく、ただ面白半分にそこを重点的に責める。 「うああっ、そこ……だめぇっ」 聞き入れるはずもなく、むしろ弄る指を更に激しくこすり上げる。 詩音の躰が左右に揺れ、圭一は右手を背に回して、詩音を固定した。 「よし……」 圭一はある程度見切りをつけ、口から指を離す。 詩音は荒い息を抑えるのに必死で、天井を見つめながら呼吸している。 圭一は視線を詩音から離し、自らの剛直へと向ける。 先走り液は既に亀頭全体を濡らし、今にもフライングしそうなほど万端のようであった。 「いいな……詩音」 詩音にまたがり、ペニスの先端を入り口にあてがいながら圭一は尋ねた。 ここで拒絶されても、圭一は抑制しきれないだろうが、彼の最低限のマナーであった。 無言で頷いた詩音をしっかり確認し、圭一は腰に力を入れた。 「ゆっくりだと逆に痛いって言うからさ」 「……はい」 緊張が走る。どのタイミングでやろうとも結果は同じだろうが、太股を持つ手が汗ばむのを感じた。 「力抜いてな……いくぞ」 亀頭がナカへと侵入する。そこで一度躊躇に似た停止があった後、宣言通り一気に挿し込んだ。 破瓜を迎えた詩音に初めて痛みが伝播する。自らの処女が失われた瞬間。さすがにこればかりは愛情でガマンできるものではない。 圭一は動かずに詩音の表情が緩むのを待った。 息を整えようとしているが、やはり痛みは相当らしく眉間の皺が走っている。 一方圭一は詩音へと入り、今までで一番の快楽を得ていた。 前戯は女性へのある意味での奉仕であり、直接圭一が快感を覚えるモノではない。 初めて圭一は自慰とは違う、女性の膣を感じ取っていた。 詩音が大きく息を吐く。表情も未だ口元が歪んでいたが、さっきよりは収まった。 半分ほどまで入ったペニスを更に奥へと挿れる。また詩音の息が漏れる。小さな悲鳴があがる。 ここで圭一の理性が完全に切れた。 「詩音っ!」 太股を持ち上げていた両手を、詩音の腰へ持ちかえる。しっかりと詩音を固定させ、一層ペニスを詩音の奥へと挿し入れた。 「いやああああぁぁっ、痛い……」 躊躇ってしまいそうな詩音の嘆きにも、圭一は腰を止めなかった。 亀頭の先端がなにかに当たる。詩音の子宮口へと到達したのだ。だがそれでも根本まで入ってはいない。 ぐっと更に圭一の持つ手に力が入る。あと数センチ。根本まで挿れることに、圭一は妙な執着心を抱いていた。 「無理……圭ちゃん、もう入らないよ……っ!」 「あと少し……後少しだからガマン……してっ!」 語尾を言い終えると同時に圭一は根本まで自らを沈めた。 詩音が嬌声をあげ、ベットのシーツを握りながら痛みに耐える。 根本まで入りきった所で、圭一はピストンを始めた。 狭い膣の壁を圭一のカリ首が引っ掻き、苦痛なのか悦楽なのか分からないモノが詩音を襲う。 「けいちゃ……、もうちょっとゆっくり……」 「ごめん、乱暴すぎたか?」 腰の動きをよりスローモーションに変える。それでも詩音の顔から苦悶の表情は剥がれない。 いきなり巨大な異物を飲み込んだ詩音の膣は悲鳴を上げ、両者が快感を覚えれるセックスとは一線を画していた。 経験の無さや、性器同士の相性もある。今は何とか圭一への愛情で保っている状態だ。 破瓜の際流れ出た血液が、より乏しい知識のセックスが危険であることを物語る。 尚、圭一はピストンを止めることはしなかった。 性欲に負け自我に支配されているわけではない。知識として痛みを和らげるには、ピストンを続けるしかない、と知っていたからだ。 堪える声が、痛みではなく悦びを抑えるものになるまで、この速度で続けることを決心していた。 やろうと思えば、犯してしまうこともできる。 詩音を道具が何かのように、性欲のはけ口として壊すことも出来る。 だが詩音の喘ぎが、僅かであるが圭一の理性を取り戻した。 自分を好いてくれ、躰を差し出したこの女性を、壊すことなど圭一には意識の片隅にもなかった。 「うっ……うぅん……」 表情が崩れないまま、また幾重の時を重ねた。だが確実に詩音の反応が、痛みから離脱しかけているのが分かる。 ぐちゅ、とピストンする度に鳴る音も大きくなってきた。愛液の量が増えている証拠だ。 シーツを握っていた力が段々入らなくなり、浮揚でもするような感覚が起き始める。 コンスタントで一定のリズムのピストンを、圭一は次第に変え始めた。 出すかと思えばまた少し突き、逆に奥深くまで突かず大きく出す。 ペニスが膣から抜けるのだけは注意しつつ、不定期の刺激を送り続ける。 漏れる声が内緒で観たビデオのものと似てくる。 だがどの女優よりも遙かに綺麗で、心地よく、嬉しい声が目の前で起こっている。 自分のペニスで悦びを感じてくれることに、圭一は病みつきになった。 詩音が異変を感じたのは、掴まれていた腰から感触が消えた時だった。 次いで太股から間接の裏あたりの触覚が反応し、足が圭一の脇の下で挟まれる感覚。 その一連の動作で膣の壁が大きくペニスを擦る。詩音の躰が横になり、俗の交差位の体位。 ただでさえ大きかった摩擦が、躰が横になったことで更なる刺激となる。 セックスを思い浮かべると正上位が一番に来る詩音には、まるで犯されているような感覚さえある。 だが繋がっている相手は圭一であり、彼が夢中になっているような錯覚がより詩音を酔わせる。 乳房に手がかかる。挟んである脚に負荷がかかり少し痛い。圭一の顔は到底可愛らしいものではなかった。 それでもどんな負の状況が出来ていても、詩音は起こっている快感で全てかき消すことが出来た。 実際しないと分からない感覚。睡魔に似た抑制の出来ない虜の世界。 そして確実に近づく終わり。オーガズムと言う名称の頂が、詩音の奥からこみ上げてくる。 圭一は気付いていない。必死にただ腰を動かしているだけのように見える。 果てそうなことを伝えたい。しかし響く悦楽が、発する快感が、伝う快感がそれを妨げる。 確実に終わりは近いのに、ただ漏れるのは喘ぐ鳴き声。 言葉にならない、平仮名でもアルファベットでも表現できない音だけが口をつく。 「ううっ……!?」 波。駆け上がるなにか、いや分かっている。 これが絶頂前の筋肉の弛緩。 恐怖感にも似た冷たさと快感の塊がこみ上げる。 来る来る来る来る……! 「っつああああああぁぁ!」 圭一は詩音の反応に目を丸くする。 頭の先から足の指まで伸びきって、口をだらしなく開け、数秒間硬直した。 同時にナカが急激に締まり、堪えていた射精感にまた刺激が加わる。 痙攣したように横たわる詩音を見て、やっと圭一は彼女がイったことを理解した。 「イったのか……? 詩音」 一応聞いてみるものの、大きく呼吸する詩音からは何も返ってこない。 かちん、と子供らしい感情を圭一は抱く。 幼稚園児なら親が勝手にデパートへ行き、自分は知らず友達の家に居たら怒りを覚えるだろう。 そんなガキくさい、セックスとは対象年齢の違う気持ちで、圭一は腰を大きく動かす。 「っ。圭ちゃん!?」 絶頂を迎えて間もない詩音には、余りにも慈悲のない刺激。 容赦なく擦りつけられる膣壁は、水音で悲鳴をあげていた。 声を出そうにもピストン運動が強すぎる。 グラインドする量も、速度も、方向も乱暴で耐え難い感覚だ。 肌と肌を打ち合う音が、またスピードアップする。 愉しむためではなく射精するための運動。ペニスは最高の環境で脳からの指令を待っている。 「ぐ……うっ」 「ぃちゃん、ナカはやばひっ……!」 圭一は耐えに耐えた液体を撃ち放つ。 一度情け程度の放出の後、二度目三度目の大きな流出。 自慰ではなかなか起きない四度目五度目六度目。雄の象徴が詩音のナカで大きく爆ぜた。 射精で起こった寂寥感に包まれながらペニスを抜く。 生殖としての役目を終えた圭一の陰茎は、だらしなく垂れ限界をアピールしていた。 疲労がどっと全身に押し寄せ、詩音の横に倒れ込む。 目の前には緑色の髪をした少女。 「めっちゃ良かった……」 「……最後のなければ、私は最高だったんですけどね」 こうやって一々毒づくのが好きな、だけど暖かい女の子。 どうしよう。俺はこの娘(こ)が好きなのだろうか。 それよりも今は眠い。大変なことは……明日……考えよう。 圭一は瞳を閉じて眠りに入った。 その様子を詩音は微笑みながら見つめる。 腹の中にある温かい液体の感触。圭一の象徴。 今日は一応安全日だから大丈夫だろうか。 いやいや明日学校に私が登校する確率よりは高いはずだ。 まぁ、その時はその時だ。 その時が来るまで……、今は私も眠らせて貰おう。 瞼が支えを失って落ちる。全身から力が抜ける。脱力と言う妙な心地よさ。 圭一の額に口づけをし、詩音も深い闇の中へと巻かれ始めた。 Miwotsukushi4へ続く
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「夏は水面の乱反射!」 頭にシュノーケル、足に水かきとフル装備状態の圭一が、ポーズをキメながら叫ぶ。 「たまに思い出が始まったりもするいい季節!」 ビシシィッ! と背後に稲妻が出そうな程に勢いをつけてポーズをキメるのは、園崎魅音であった。その燃え具合たるや、そのまま「とうっ」とジャンプしてバッタ人間に変身しそうな程である。 と、二人はそこでポーズを解くと、感じ入ったようにうむうむと頷いた。 「地球が傾いてて本ッ当によかった……」 事の初めは夏休みも佳境に入った八月の半ば、部長園崎魅音の鶴の一声で、部活メンバー総出で海へと繰り出したのだった。……魅音本人は、煩わしい受験勉強を一時忘れたかったという思惑もあったのだが、それは魅音の胸の中で封印中である。 とまれ、その海は雛見沢からは電車をいくつか乗り継いで行く程遠くにあるため、旅の疲れにまみれていてもおかしくはないのだが、部活メンバーのバイタリティの前にはそんなものなどは無縁のもののようだ。 「よぉーし! みんな水着には着替えた? 準備体操はOK?」 一人ルパン水着着用の(背中が隠れるものがこれしかなかったらしい)魅音が、背後にいる着替えて整列した部活メンバーに告げる。 「と言うか、圭ちゃんとお姉が変なネタやってる間にみんな準備できてるんですよ?」 苦笑気味に告げる緑のビキニの詩音に、出鼻を挫かれたように、うっ、とのけぞる魅音。 閑話休題。 気を取り直すように咳払いすると、 「それじゃみんな、泳ぐよーっ!」 号令一下、わーっと思い思いの場所に駆けていく部活メンバー。 「はぅぅ~~っ!! カニさんもヤドカリさんも、みぃんなレナがお持ち帰りするんだよぅ!」 と、黄色い声を上げながら傍目にも凄まじい勢いで砂を掘るレナ。ちなみに水着は橙のパレオである。 「んー、いい風ですねえ。あ、葛西。日焼け止め塗ってもらえます?」 と、持参のパラソル&敷物を展開しながら、詩音。 一方、沙都子(白いワンピース)と圭一(茶色の海パン)は――。 「圭一さん、自由形200メートルで勝負ですわ! 私の勝ちなら沙都子のトラップ講座in海水浴を余すことなく受けてもらいますのよー!」 「面白え。手加減はしないぜ、沙都子。ちなみに俺が勝ったらK特製のカボチャ弁当をプレゼントフォーユーだ」 「な、なんで圭一さんそんなの用意してますのーっ!?」 「ふっふっふ、俺はお前のにーにーだからな。こんな事もあろうかと料理スキルを習得したのだ。バッチリ詩音のお墨付きももらってるぜ」 「くっ……ま、まあいいですわ。勝負はあそこに浮かんでるブイまで。いいですの!?」 「おっしゃ!」 「では、よーいどん!」 ふう、と荷物を置いて、悟史(Tシャツにホットパンツ+麦わら帽子)は、うおお、と凱の声を上げながら海へ突撃していく二人を遠目に眺めて苦笑した。 1年以上も眠り続けていた自分。 目覚めた当初は、その間に沙都子を置き去りにしてしまった事を悔やんだりもしたが、あそこまで生き生きとしている沙都子を見ると、そんなものは杞憂であったようだ。 そこは、やはり沙都子の傍らに自分の代わりとして居続けてくれた圭一の存在が大きいのだろう。 ……でも、交際宣言までするのはどうかと思うけどなぁ…… 主に年齢差とか。 むぅ、と唸って再び苦笑した悟史は、ふと脳裏に引っ掛かった疑問に首を傾げた。 (あれ? でも沙都子って確か……) 何だろう。何か重要なことを忘れてる気がするんだけど。 むぅ、と腕を組む悟史だったが、その答えはあっさりと示された。 うおおおという凱の声が聞こえてきそうな勢いで海に飛び込んでいった、沙都子と圭一の姿が突然波間に消える。 え、と驚く間もなく二人の姿は再び海面へと浮かび上がった。両手を振り回し、悲鳴をあげながらではあったが。 「「た、たすけてー」」 「ちょっ!? どうしたんだ、沙都子っ! 圭一!?」 慌てて海に向かって駆ける悟史と詩音。 「「溺れるぅぅ!」」 ずっこける二人。 悟史はそのままヘッドスライディングしていったが、詩音は顔から砂に突っ込みかけたところをギリギリ持ちこたえた。 「お、泳げないくせに飛び込むなー!」 尤もであった。 「けほっ、けほっ。そ、そういえば私、泳げないんでしたわ」 「げほっ、げほっ。そういや俺、泳げないんだった」 砂浜にぺちゃりと大の字で横たわる二人。 つーか、飛び込む前に気づけ、二人とも。 「ど、どこまでバカなんですか。あんたらは」 こめかみを揉みながら、怒り半分呆れ半分で呟く詩音。ちなみに、悟史は全身砂まみれでぜいぜいと息をついていた。 「にーにー、ありがとうですわ。死ぬかと思いましたわ……」 「うう、悟史は俺たちの命の恩人だぜ」 「……誉められてもあんまり嬉しくないことってあるんだね」 幸いにして、二人が溺れた場所は砂浜から十歩と離れておらず、悟史が浮き輪を投げることによって事なきを得たのだった。 そんな所で溺れる二人もどうかしているが。 そんなわけで、圭一と沙都子は膝程度の水位の潮溜まりでぱちゃぱちゃやるに留まっていた。 「そういえば、圭一さんって泳げなかったんですの?」 「ああ、まったくダメなんだよな。ビート板でバタ足やってても何故か身体が沈むし」 そうなんですの、と沙都子は頷きかけて、 「って、それならやる前にしっかり言ってくださいまし!」 「いやー、沙都子の勝負に気が行ってて、すっかり忘れてたぜ。ははは」 「忘れるなあー!」 へらへらと笑う圭一に、むきーと沙都子が怒鳴る。そもそも自分が持ちかけた勝負だということは彼女も忘れてるわけなのだが。 一方その頃。 「あぅ~……」 「みぃ~……」 ゴムボートを波間にぷかぷか浮かべて、そこでお昼寝できたらどんなにか気持いいだろうか、という羽入の提案に乗った羽入(白いビキニ)と梨花(黒いワンピース)。 そんな二人は今、ゴムボートの上でうつらうつらと微睡んでいた。ちなみに、梨花は寝酒にとワインを持参したがったのだが、そこは羽入がやめてくれと泣きながら土下座して頼むので渋々それはとりやめた。 閑話休題。 「……あら?」 何気なくぱちゃぱちゃと水のかけ合いをしたり、水底のカニを探してみたりしていた二人だったが、ふと、沙都子が手を止めた。 「どうしたんだ? 沙都子」 「いえ……今何か聞こえませんでした?」 言われて、圭一は目を閉じて耳を澄ませてみた。しかし、聞こえてくるのはただ波のせせらぎだけである。 「……何も聞こえんぞ」 「うーん、なんだかあっちの方向から聞こえた気がしたのですけど……」 言って、人気のない岩場を指差す沙都子に、ふむ、と圭一は腕を組んだ。 沙都子の五感の良さは圭一も承知している。優れたトラップ技術には、見て聞いて触って状況を正しく認識する力が不可欠のものであるからだ。 「……うし。じゃあ行ってみっか」 泳げる範囲ではやや手狭でも、人が入れる範囲となると、浜辺はだいぶ広くなる。 沙都子の案内で、岩場の方まで歩きながら、圭一はそんなことを考えていた。 後ろの方では、レナが 「はぅ~っ、おっきくてかぁいい貝さんみつけたんだよーっ!」 などと歓声を上げている。魅音はと言えば、最近とったダイバーセットを試したくてしょうがないらしく、ダイバースーツにいそいそと着替えて、ボートで沖に出ていた。 梨花や羽入、悟史や詩音の姿が見えないが、おそらくはどこかで遊んでいるのだろう。 と、そんな益体もないことをつらつらと考えているうちに先導して歩く沙都子が立ち止まった。 「この辺だったと思うのですけど……」 「ふむ、この辺か……」 辺りをきょろきょろと見回して、圭一は―― げ、と顔を強張らせた。 「どうしたんですの?」 「あ……い、いやなんでもない。ま、まぁ何もなかったわけだしさっさと戻るか」 な? とこちらに顔を向ける圭一に不審なものを感じて、沙都子は眉根にしわを寄せる。 「……圭一さん、なにか隠してませんこと?」 「い、いいいいやまさかあ。そんなことあるわけねえだろ」 大人はみんな嘘つきだ、と沙都子は心に刻んだ。 「じゃあ、なんでそっちの方を私に見えないように遮ってるんですの?」 「あ、馬鹿! そっち見るな!」 言って、圭一の脇に首を巡らせて、 びし、と沙都子は石化した。 圭一の向こうの岩場の陰で、にーにー&ねーねーこと悟史と詩音が、溶け合っていたというかおしべとめしべというか、まあぶっちゃけて言えば、まぐわい合っていた。 「さ、とし、くん、ふぇぁ、あぅ、熱、い……」 「し、詩音、詩音っ」 お互いに愛しそうに名を呼び合いながら、何度も何度も下半身を押し付けあう。 休む間も、息継ぎの間さえ惜しむかのように互いを求めあう。 貫きながらも、手で、舌で、身体を撫でる。 つーかご丁寧にも下側をこっちに向けているおかげでいろいろと丸見えである。 思わずまじまじと衝撃現場を見つめた沙都子は、ふと視線を横に移す。視線の先には、顔を真っ赤にした、おそらくは自分と同じ表情をしているのであろう圭一の顔があった。 その黒く濡れた瞳の中が垣間見えた気がして、沙都子はぼそりとつぶやく。 「……うわきもの……」 「なっ!?」 思わず硬直する圭一。 「い、いいいや沙都子、そうじゃなくてだな! えーと……」 照れ隠しに頭をかき、必死に返す言葉を探すその様はまさしく年頃の少年そのものである。さすがに駆け引きもヘッタクレもなしに全開キャーでナマ本番を見せ付けられると、さしもの口先も振るわないようだ。 しかし、沙都子はそんなところなど見ていない。つ、と圭一から視線を逸らし、雲ひとつない晴天を見上げると、 「ああ、あの夜は『お前だけのにーにーになってやる!』とか言って下さってたのに……」 「違うって! あん時のは嘘じゃねえ……って、沙都子も見てたじゃねえか!」 「そんなところを勃てながら言っても、説得力ありませんわよ」 なおもあたふたと言い訳する圭一を、ぴしゃりと沙都子が黙らせる。 口の中でもごもご言いながらも、押し黙る圭一の前で満足したように頷くと、沙都子はしゃがみこんだ。 「お、おい、沙都子?」 「私というものがありながら、詩音さんなんかで勃つなんて……本当にしょうがないひと」 ですから、 「私が抜いて差し上げても、文句なんかございませんわよね……?」 妙に慣れた手つきで圭一の海パンを下げると、沙都子は出てきた男性器を優しく手で撫でて、握った。指に返ってくる弾力と硬さが絶妙に入り混じった感触が愛おしく感じる。 「ん……」 か細く声を漏らしながら口を開けると、沙都子は顔を圭一の肉棒に近づけた。舌とペニスが肉薄するにつれ、だんだんと強くなってくる沙都子の吐息に、思わず圭一は声を漏らした。 「んふ……ちゅ」 それに沙都子はくすりと笑うと、そのまま先端を口に含み、ちろちろと舐め回した。 ねっとりとした温かい口内に包まれる。沙都子の小さな唇が自分のものを頬張っているその光景、加えてれろれろと舌で弄られ、圭一の頭の中にだんだんと靄がかかっていく。 アイスキャンディーのように舐め回した後、沙都子は口から圭一のものをちゅぽんと引き抜いた。そのまま舌を出すと、裏の筋に舌を這わせて刺激する。 あむ、と睾丸を口に含まれてちゅうちゅうと吸われた辺りで、たまらずに圭一は悲鳴を上げた。 「さ、沙都子っ。ヤバい、出る、出る」 言葉と共にぴくぴくと痙攣するペニスを感じ取ると、沙都子は再び、しかし今度は勢いよく自分の口内に圭一のものを滑り込ませた。 先端がずるりと口蓋を通り抜け、喉の奥にこつんと当たる。極まる寸前だった圭一がその攻撃に耐えられようはずもなく、一気に爆発する。 「ぐっ……出すぞ、沙都子っ!」 「んんんー!」 勢いよく喉にぶちまける感触に、反射的に圭一は男根を引き抜こうとした。しかし、圭一の尻に絡みついた沙都子の指が、退こうとするのを妨げる。 休みなしにびゅくびゅくと打ち出されるのを喉の奥で感じる。数秒後にそれがだんだんと弱まって、やっと沙都子は圭一を口から引き抜いた。 そのまま口に残った精液をごくりと飲み干そうとし――しかし飲み干せずにんべっと白濁液を吐き出して、沙都子は口を開いた。 「うう、やっぱりこれを飲むのは無理なのですわー」 ぺっぺっと不味そうに口に残る精液を吐き出す沙都子に、呆れたように圭一がつぶやく。 「いや、だから無理に飲もうとせんでもいいんだが」 「……でも、男の人ってこういうのは飲んでくれる方が好きなんでしょう?」 「そりゃもう」 思わず素で答えてしまい、やべ、と圭一は口の端を引きつらせる。 がっくりと肩を落とし、加えて体操座りで落ち込む沙都子に、慌てて圭一はフォローに入った。 「い、いやでも沙都子のフェラはすんごい気持ちよかったぞ!」 「……ほんとですの?」 「ああ、沙都子に比べれば詩音なんて目じゃねえぜ!」 たぶん。 「それならいいのですけど……」 言って、もじもじと身体を揺らす沙都子。その様子に圭一は訝しげに眉を寄せると、 「ど、どうしたんだ? 沙都子」 「あの、その、な、なんだか私まで、ヘンな気分になってきましたから……」 びぎり。 自分の自制心に亀裂が入る音を聞きながら、圭一は。 いそいそと沙都子が水着の股部分をずらすのを、他人事のように見ていた。 「ですから……」 荒く息をつきながら手を伸ばし、圭一のものを掴む。たったそれだけで、圭一の男根は力を取り戻していった。 「――圭一さんのを、くださいませんこと?」 とりあえず、波打ち際では具合が悪いからと、圭一は沙都子を抱えて日陰まで移動する。普段は焼けた鉄板のような砂浜も、日陰に入ると石のようにひんやりと冷たい。 圭一は、沙都子を抱えたまま座りこんで、仰向けに寝そべった体勢に移行する。すると自然と、騎乗位のような形となった。 「……沙都子」 「なんですの?」 「お前って、生えてないんだなあ」 「ま、前にも一度見ているじゃありませんの!」 「いや、あの時は暗くてよく見えなかったし」 言って、目を弓にして笑う圭一を見下ろし、まったくもう、と沙都子は息をついた。 「んじゃ、沙都子。自分で入れてみな」 「け、圭一さんが入れればいいじゃありませんのっ」 「いやまあ、確かにとっとと入れたいのは山々なんだが」 一息。 「沙都子に、入れてほしいからな」 にっこりと微笑む圭一に、思わずどきりとする。ぷいと沙都子は圭一の顔から視線を逸らし――何とはなしに、自分の股下を覗き込んだ。 自分の股の直前から、圭一の男根がにょっきりと顔を出している。びくびくと脈動する圭一のもので自分の陰核が刺激され、甘い痺れをもたらしていた。 (あ、改めて見るとほんとに大きいのですわね) ごくり、と生唾を飲む。 これが自分の中に入るのかと思うと、不安と期待がない混ぜになってぞくぞくと沙都子の背筋を昇った。 「……んっ」 沙都子は腰を上げて圭一のものを掴むと、自分の膣口にそれをあてがおうとした。しかし、自分の膣口がまだ小さいのと、秘唇が大量に吐き出す愛液とで、ぬるぬると滑ってうまくいかない。 ぬるん、ぬるん、と圭一の先端が沙都子の秘唇を撫でるたびに沙都子の顔は上気する。しかしそのたびに当てがう精度はだんだんと劣化していき、結果お互いに生殺し状態が形成されることとなった。 「さ、沙都子。まだ入らねえか?」 「ん……やぁ。入らな……」 しかし、そんな状況でも終焉は訪れる。 前に後ろに、右に左とゆらゆら揺れる沙都子の腰が、二人の汗と愛液とでずるりと滑って落ちた。 「……へ?」 ――ずぶり。 「――――――――ッ!!!!」 「お、おい、沙都子! 大丈夫か!?」 深々と子宮口まで貫かれてびくびくと痙攣する沙都子に、慌てて圭一は声をかけた。 沙都子はそれに答えずに、声にならない絶叫を上げながらがくがくと身体を震わす。 しばらくそれを見つめて、圭一はぼそりとつぶやく。 「あのさ、沙都子。もしかして……」 きょと、と首を傾げ、 「……イッた?」 その言葉に、きっ、と沙都子は向き直ると、 ぽかっ! 「いてっ!」 「そ、そんなわけないじゃありませんの! た、たた確かにちょっとは気持ちよかったですけどただそれだけのことであって単にちょっとびっくりしただけですわよ!」 「いてっ! いててっ! こ、こらやめろ沙都子!」 涙目になりながらも、ぽかぽかとこちらの顔を叩き続ける沙都子に理不尽なものを感じつつも、慌てて圭一は叫んだ。 ……俺、なんかマズいこと言ったっけ? 「だ、だいたい圭一さんに見せようと思ってこんなエッチそうな水着を選んだのに、圭一さんてばレナさんや詩音さんにばっかり鼻の下なんか伸ばして! 私がこんなの着るのにどれだけ躊躇したと思ってるんですのーっ!」 ぽかぽかぽかぽかぽか。 なおも叩くのをやめない沙都子に、さすがにカチンときて圭一は声を低くする。 「おい、沙都子……」 「そもそも圭一さんなんてにーにーと違って優しくないし服の趣味悪いし――」 「………………」 無言のまま、圭一は沙都子の腰を掴むと、気づかれない程度にこっそりと自分の身体を引いて沙都子との間に空間を作り。 そのまま、ずんっ、と腰を叩きつけた。 「やることなすこといやらしいなにより剥けてないし……きゃぅう!?」 突如爆発した快楽に、たまらず悲鳴を上げる沙都子。 「で、何だって? 沙都子」 「い、いきなりするなんて卑怯ですわよ圭一さ、あんっ!」 再び打ちつけられる腰に、またもや嬌声を上げる沙都子。その様をにやにやと眺める圭一に、ぐぐ、と拳を震わせると、 「あ、後で覚えているがいいのですわ……」 ぼそりと恨みがましげにつぶやいて、全身から力を抜いた。 こちらにしなだれかかってくる沙都子の身体を愛おしそうに優しく撫でると、圭一は抽送を開始する。 沙都子の中は、潤っていた。狭い膣をかき分けて進むたびに、それを助けるようにとろとろと後から後から、それこそこの小さな体躯のどこにそれだけの量があるのかと思うほどに、愛液が溢れ出してぬるぬると滑る。 にちゃにちゃと淫卑な音を響かせながら、沙都子を一番奥まで貫き、蹂躙し、愛撫する。 圭一は上体を起こして座位になると、お互いに動くたびにぷるぷると震える乳房に舌を這わせた。そのまま先端を口に含んで吸いながらこりこりと歯で転がし、もう一方の乳首を指できゅっとつまむ。 とどめとばかりに、圭一が沙都子のアナルに指を挿入して、今度こそ沙都子は悲鳴をあげた。 同時に、沙都子の膣内もきゅっと締まり、圭一は己の限界が近いのを自覚する。 「さ、沙都子っ。出すぞ、膣内に出すぞっ」 「け、圭一さんっ。あっあっあっあっ、けい、けいいち、さん、あっあっ」 沙都子の肢体が縦横無尽に跳ね、二人の感覚が頂点に達する。 「んあっ、ああああああああああああ――――ッ!!!」 「さ、沙都子、沙都――――」 「へっくし!」 …………………………。 ざ・わーるど。 突如聞こえた聞こえるはずのない声に、圭一と沙都子の周囲からすべての音が掻き消える。 否、ひとつだけあった。 びくびくと沙都子の中で無責任にぶちまけ続ける自分の分身だけが。 ぴったりとシンクロした動きで、圭一と沙都子はこれまたそっくりの無表情を横に向ける。 そこには――――岩場の陰に隠れながら、こちらをじっと見つめる悟史と、引きつりながらも愛想笑いを浮かべる詩音の姿があった。 というか、なぜ君は遠い目をしながら涙ぐんでいるんだ、悟史。 「あ、あはははは……お、おかまいなくー」 乾いた笑い声をあげながら、そそくさと後ずさろうとする詩音。 それを見ながらも圭一と沙都子は特に何をするでもなく、ぼそりとつぶやいた。 「ねえ圭一さん」 「なんですか沙都子さん」 「ヤッちゃいましょうか」 「ヤッちゃいましょう」 言って、にっこりと極上の笑みを浮かべると、ちゅぷ、と結合を解いて二人は立ち上がった。 「い、いや! 勝手に見てたのは悪いと思ってますし沙都子意外と大きいなとか圭ちゃんまだ剥けてないんですかウフフとか思いもしましたけど! 別に他意があって見ていたわけじゃないというか、そもそもあんたらだって私たちの見てたじゃないですかーっ!」 べらべらと弁解を並べ立てる詩音はどこ吹く風で、じりじりと悟史と詩音ににじり寄る裸族二名。 にっこりと笑いながらも、わきわきとした手つきで、しかも股間から精液を垂れ流すのを隠しもせずに近づいてくる男と少女というのは、とにかく全力で逃げ出したいものがあったが、しかし蛇に睨まれた蛙とでもいうのか、それを許さない異様な威圧感が二人にはあった。 そんな事を思ってるうちに、圭一は詩音の、沙都子は悟史の肩を、がっちりと掴む。 「つ・か・ま・え・た」 「ひ、ひゃあああああああーーーーーーーーーーーーっ……………………あんっ」 いつの間にか消えた他の面々に、陸に上がった魅音はうーむと腕を組んだ。どこ行っちゃったんだろう? 「あ、魅ぃちゃん!」 ざばーっと海面を掻き分けて浮上すると、レナはシュノーケルを外して馬鹿でかい巻貝を掲げた。 「見て見てー、こんなに大きい貝さんをお持ち帰りしたんだよっ」 「あー、うん」 うじゅるうじゅると殻の端から謎の触手を出してくる貝から視線を逸らして、魅音はばりばりと頭を掻いた。 「しっかしどこ行っちゃったんだろうねぇみんなは。ちょっと心配になってきたよ」 「あ、そういえば詩ぃちゃんと悟史くんがあっちの岩場に入ってくのを見たよ」 「あ、ほんと? じゃあ呼んでこようか」 言って、二人はあの岩場に足を向けた。 一方その頃。 「……空がきれいなのですね、梨花」 「そうね」 「……海もきれいなのですね」 「そうね」 「……岸が見えないくらいに」 「そうね」 「……ねえ、梨花」 「なによ」 「ここ、どこなのでしょう」 「私が知るわけないでしょ」 ぎゃふん。
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まず最初に放たれたのは、龍の神威とも呼ぶべき空震だった。 蘆屋道満が取り込んだ龍の心臓。 大元である龍脈の龍は斯様な能力は有していなかった。 しかし今、その力・性質を担うのは天下にその悪名轟き渡る法師道満。 神は祀り、鎮めるもの。拝跪し、畏れ、敬うもの。 正しく祀り、収め、人にとって都合のいい福音を吐き出す存在に零落させるのは陰陽師の仕事の一つだ。 道満が今しているのもそれに似ていたが、しかし度合いで言えば数段は冒涜的だった。 何しろ彼は今、龍脈の龍という原典を単なる炉心としか見ていない。 龍の心臓を荒駆動させて余剰を濾過して力のみ引きずり出し、その上で自らが望む容(カタチ)に無理やり当て嵌め酷使している。 「なりませんな、神へ刃を向けるなぞ失敬千万。ゆえ罰を与えましょうぞ――このように」 その結果として生み出されるものは、付近一帯を更地に変えるほどのエネルギーの炸裂だった。 空震。いや、もはや魔震とすら呼ぶべきか。 地脈に眠る龍ならばこれくらいはして貰わねばという身勝手極まりない増長と願望が現実の悪夢と化して形を結ぶ。 直撃すればサーヴァントであろうと五体が拉げる一撃に、九頭竜討伐に名乗りを上げた三人は素早くそして利口に対応した。 「門よ」 アビゲイルの片手にいつの間にか握られていた巨大な鍵。 それが虚空へ、他者を主とする領域の内である事なぞ知らぬとばかりの我が物顔で潜り込む。 ガチャリと鍵穴の回る音がした。 次の瞬間、虚空が宇宙とも暗闇ともつかない無明の冒涜を記した口蓋を開ける。 龍神の生んだ震動はそこへ呑まれ、アビゲイル及び最も対抗手段に乏しい伏黒甚爾を魔震の脅威から遠ざけた。 一方で救済策から外された宮本武蔵は動ずるでもなく迷わず直進。 震動という形のない脅威の輪郭を捉えているかのように過たず、桜舞う剣閃でこれを切り裂く。 壮絶な破砕音は万象呑み込む龍の怒り――リンボが斯くあれかしと捏造した偽りの神威が粉砕された音に他ならない。 「とんだ悪食ね。ゲテモノ食いも大概にしなさいな」 「これはこれは…いや、素晴らしい。神明斬りとは。原初斬りの偉業は大層実になったようで」 第一陣は突破。 しかしリンボの顔に焦りはない。 人を小馬鹿にしたような微笑みを湛えながら拍手の音色を空ろに響かせている。 「まぁそれも詮なき事か。下総に始まり希臘に至るまで、随分と入れ込んでおりましたものなあ。 どうです。なかなかどうして心地良いモノでしょう? 誰かの心に消えない傷を残すという所業は」 悪意の言葉を吐きながらけしかけたのは、祭具殿の残骸から浮上した髑髏の怨霊だった。 武蔵の脳裏を過るのは下総の国にて、過去にこの陰陽師が呼び出し使役した名無しの大霊。 成程確かに土地も合っている。 此処は東京、古今東西あらゆる武士の魂が眠る場所。 界聖杯により再現された熱のない贋作だとしても、見る者が見れば因果因縁に溢れた絶好の畑だ。 峰津院大和が其処に着眼し霊地の獲得に舵を切ったように。 この厭らしい陰陽師も彼に学び、土地そのものを武器に変えた。 「勘違いしないで頂戴な。今此処にいる私は、あの子のサーヴァントではないの」 それに対して武蔵は驚きすらしない。 過去を、今はもう瞼を閉じて思い馳せるしか出来ない遠い記憶を。 あえてなぞる事で心を削りに来るなんていかにもこの生臭坊主がやりそうな事ではないか。 だから、かつて世界を救う旅路に力添えした人斬りの女は毅然と答えた。 「大業を遂げ、空にも至り。後は泡と消え去るだけの亡霊なんか引き寄せてしまった娘が居るのよ。 私が今こうして剣を握り、貴方に挑んでいる理由はあの子の為。他の誰の為でもないわ」 そういう意味では似ていると思う。 身の丈に合わない運命と宿命を背負わされて、それでも業に呑まれることなくもがき苦しむ女の子。 …だからかと少し納得した。 だからこんなにも彼女の下で振るう剣は手に馴染むのだ、きっと。 「それに…消えない傷を残されたのは何も私だけじゃないでしょう。 貴方がこんな辺境の戦に参戦しているなんて、つまりそういう事としか考えられないものね。異星の神の尖兵さん」 「ンン!」 迫る大霊の腕。 精神を冒し魂を穢し凶死させる呪詛はしかし、かつて相見えた真作に比べれば数段も劣る紛い物。 ――遅い。そして浅い。 ならば一体何を恐れろというのか。 新免武蔵、ただ前へ。 そして振るう、桜花の太刀。 怨念一閃。 宿業両断。 刹那にして辺獄の大霊を斬殺し、主であるリンボの首に向け白刃を迸らせた。 「…ええ、認めましょう。この拙僧……御身亡き後、あの小娘めに敗れ去った。 蜘蛛糸の如き奸計は水泡と帰し、正義を気取る若僧の黄金の前に確かに爆散しました」 下総の時とは比べ物にならない太刀の冴え。 神を斬り混沌を斬り桜花に触れて磨き上げた一刀はまさしく真打。 触れれば断つ。 触れずとも斬る。 今、新免武蔵は間違いなく剣豪として一つの極点に達している。 だが。 「です、がァ――」 粘つく悪意が清らかなものを阻む。 神の瘴気か龍の神気か。 リンボは今、武蔵の一刀をその右手一つで阻んでいた。 武蔵の眦が動く。 これほどか。 これほどまでに極まったか、悪党。 その絶句に応えるように肉食獣は牙を剥いた。 「悪党とは懲りぬもの。業とは決して癒えぬもの。 この拙僧、生憎と諦めの二文字を知りませぬ。卒業の二文字を知りませぬ。 ましてやそこにかくも芳しく香る災禍の予兆があるというのに、一体どうして伸ばす手を止められようか!」 「づ…!」 炸裂する神気が武蔵の体躯を軽々弾き飛ばす。 防御も迎撃も許さない一撃は最初の魔震が単なる小手調べに過ぎなかった事を物語っていた。 その隙を突くべく、音速にすら迫る速度で走るは天与。 無策の突撃ではない。 彼は確かにこの場に揃った三者の中では最も能力で劣っていたが、しかし己しか持ち得ない強みを自覚していた。 一つは言わずもがな呪力の不所持による透明化。 迎撃一つするにも視覚での認識と反応を要求する点。 そしてもう一つは、抜く事さえ許されれば天衣無縫と呼ばれるモノにさえ届く呪具の数々を有している事。 “釈魂刀の斬撃はあらゆる防御を参照しねえ。龍だろうが羅刹だろうが触れれば斬れる” リンボの冷眼が甚爾を捉える。 だが軌跡だけだ。 本気の甚爾はサーヴァントの視覚など容易に振り切る。 現にこの場には彼を対象にしたと思しき束縛の呪詛が溢れていたが、それら諸共に斬り伏せて進む武蔵、自前の術で対処できるアビゲイルとは違い、甚爾は単純に脚力に任せてそれを引きちぎり進んでいた。 残像を認識するだけで精一杯の高速移動を繰り返しながら、鎌鼬宜しくすれ違いざまリンボの首をなぞらんとする。 しかし禍津日神を僭称する悪神道満は――それさえ一笑。 「曲芸で神が獲れるものか」 速く動く蝿を箸で捕らえようとするから苦労する。 蝿を潰したければ、炎を焚いて燻り殺せばいいのだ。 「目障りな猿には、どれ、毒など馳走してみよう」 次の瞬間。 甚爾は自身の生命力が肌から霧散していくような得体の知れない感覚に襲われた。 黒き呪力が霧のように、それでいて花畑を舞う蝶のようにリンボを中心に溢れ出している。 “呪霊とは違うな。神霊の類…それも日本のものじゃない。吸い上げて弱らせる黒曜色の呪力と来れば――” 甚爾は呪力を持たない。 だからこそ体力を削られる程度で済んだが、これがアビゲイルや武蔵であったならそうは行かなかったろう。 これは純粋な生命力だけでなく魔力も呪力も…とにかく対象が内包しているありとあらゆる力を吸い上げる貪食の呪いだ。 ましてや高専の等級で換算すれば間違いなく特級相当だろう神の吸精だ、生易しい訳もない。 事実甚爾でさえ数秒と長居すれば致死域まで削られると、あの僅かな時間でそう確信した程だった。 「南米。アステカ辺りか?」 「ほう。知識と見る目はなかなかどうして」 「ゲテモノ食いの神が人間の成れの果てに喰われたか。皮肉なもんだな」 甚爾の推理は当たっている。 蘆屋道満がその霊基の内に取り込んだ神の一体。 暗黒神イツパパロトル。 太陽の楽園にて黒曜石の蝶を侍らせたアステカ神話の女神。 奪い、平らげる事をあり方の一つとして持つ神も今は悪僧の腹の中。 ハイ・サーヴァント…リンボの素性を一つ見抜けたのを収穫として甚爾は利確する。 纏わり付く蝶を撒いて後退しながら、追撃に放たれた黒炎の狐数匹を撫で切りにした。 「侍。オマエ、あの生臭坊主と知り合いみたいだな」 「ええ。知り合いというより宿敵ね。やり口は嫌という程知ってるけど、足しになるような情報はあんまり」 「アイツは神霊の核を取り込んでやがる。可笑しいと思ったぜ、只の坊主にしちゃ幾ら何でも出鱈目すぎるからな」 「…マジ? うぇえええ…悪食にも程があるでしょそれ……」 蘆屋道満は確かに優れた術師である。 生前の段階ですら、かの安倍晴明が認めた程の力量を持った法師であった。 しかしこの界聖杯で跳梁跋扈の限りを尽くすこの"リンボ"は、それにしたってあまりに節操がない。 単なる術師としての優秀さだけでは説明の付かない不可思議を幾つとなく引き起こしていた。 サーヴァントの領分を超えた生活続命法。 話に聞く窮極の地獄界云々とて、明らかに真っ当な英霊では不可能な無茶を通す事を前提とした野望だった。 不可思議とは思っていたが、蓋を開けてみれば何という事もない。 最初から真っ当な英霊などではなかったというだけの事。 「別人格(アルターエゴ)とはよく言ったもんだ。その時点で気付くべきだったな」 「情報提供感謝するわ。本当なら私の因縁、一対一で果たしたい気持ちはちょっとあるんだけども」 「其処は諦めてくれ。ウチのクライアントもアレには恨み骨髄でな、絶対ブチ殺して来いと仰せなんだわ」 それに、と甚爾。 言葉の続きを待たずして無数の羽虫が空を埋めた。 まるでそれは黒い暴風雨。 聖書に語られる蝗害の悪夢のように、狂乱した陰陽を喰らうべく異界の眷属が狂喜乱舞する。 「な、この通りだ。俺としては生臭坊主の処断なんざ誰がやっても構いやしねえんだが」 虚ろな顔に、仄かな笑みを浮かべて。 鍵を指揮棒(タクト)に捕食を主導する金毛の巫女。 羽虫の群れが払われた途端、次は触手が這い回る。 波濤の勢いで溢れて撓るそれは鞭のようにリンボを打擲する。 英霊一人原型残さず砕き散らす事など容易なその波が、ケダモノのシルエットを呑み込んだ。 「あは」 恍惚と法悦を虚無の中に織り交ぜて。 嗤う幼さは妖艶なる無垢。 其処には既に、透き通る手の女が生きていた頃の彼女の面影はない。 無垢に色を塗り。 清廉に別れを告げ。 信仰の形さえ、歪みと無念の中に溶かした降臨者(フォーリナー)。 「教えてあげるわ。色鮮やかな悪意のあなた。 私の祈りが、満たされることを知らないあなたの秘鑰になればいい」 異端なるセイレム。 この結界のベースになったある寒村に酷似した穏やかで残酷な村に生まれ落ちた魔女の卵。 最愛の主との離別と、彼女を思う人間への負い目。 そして渦巻く怒りと後悔を肯定された事が卵の殻に亀裂を入れた。 いざ此処に魔女は産声をあげる。 救うと豪語しながら痛みを振り撒く矛盾の魔性。 彼女の鍵が天高く掲げられ、次の瞬間駄目押しに触手が落ちてきた。 「イブトゥンク・ヘフイエ・ングルクドゥルゥ」 紡がれる冒涜の祝詞。 祝福と共に墜落した大質量はリンボの全身を余す所なく押し潰し圧殺するに十分な威力を秘めている。 質量による力押し。 神を潰すならば同じ神を用いればいいのだと、幼い故の直情的発想が此処に最上の形で具現化した。 だが―― 「急々如律令」 触手の真下から響く声がある。 刹那、彼を覆う触手の全てが爆散した。 姿を現すは禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満。 血の一滴も流す事なく悠然と佇む姿は、まさに神の如し。 「素晴らしきかな、そして美しきかな虚構の神よ。 それもまた拙僧が描く地獄の理想像の一端を体現しておりますが…」 アビゲイルが鍵を振るう。 リンボが爪を振るう。 火花を散らしながら削り合う異端と異形。 一見すると互角に見える。 だが、明らかに余裕が違った。 じゃれつく子供とそれをあやす大人のような。 そんな、努力と工夫では埋め難い絶対的な差が両者の間には垣間見えている。 「遅きに失したな外なる神。全にして一、一にして全なる貴殿。 人と神の混ざり物、成り立ての魔女如きではあまりに役者が足りぬよ」 空を引き裂く神の手足。 それは確かにリンボの腹に着弾した筈だった。 にも関わらず、極彩色の獣は揺らぎもしない。 たたらさえ踏む事なく、素面の耐久のみで受けてのけた。 もはや物理においてすらリンボに隙はない。 耐久無視の釈魂刀のような例外を除けば皇帝、混沌…その領域に入って初めて痛痒を与えられる次元。 まさに怪物。まさに悪神。 背後に背負った骸の九頭竜が、瘴気を撒き散らしながらその顎を大きく開ける。 「吠え立てよ、龍よ」 「――っ」 零距離での龍震の炸裂。 咄嗟に防御の為の触手を呼び出しはしたものの、それでも巫女の痩躯は無残に吹き飛んだ。 桃色の唇を、真紅の血が艶かしく濡らす。 「とはいえ一時は拙僧を魅了した全知の門。その神聖に敬意を示し――ンンンン! 大盤振る舞いにて見送りましょう!!」 リンボはすぐさま追撃の為、総数にして数百にも達する呪符を出現させる。 アビゲイルを取り囲む紙々の舞。 それは宛ら紙の監獄塔だ。 しかしその用途は戒めに非ず。 捕らえた罪人を、祓われるべき悪徳を消し飛ばす抹殺の法に他ならぬ。 …銀の鍵の巫女は空間を超える権能を持つ。 故に監獄ではアビゲイルを捕らえられない。 だがそれが彼女の為の処刑場であり火葬場であるならば―― 「破ッ!」 巫女が空間を脱けるよりも、妖術の極みのような火葬塔が焦熱地獄と化す方が早い。 強化された霊基でも耐える事はまず不可能だろう超高熱の檻の中に取り残されたアビゲイル。 そんな彼女を救い出したのは、既の所で塔そのものを一刀両断した宮本武蔵であった。 「ありがとう、お侍さん。危ない所だったわ」 「そういうのは後! 今はとにかく目の前のアレを何とかしましょう。 言っておくけれど、首を取るのは早いもの勝ちよ。私も私であの御坊には煮え湯飲まされてきたんだから」 「勿論。恨みっこなしで行きましょう」 邪魔をするなとばかりに武蔵へ迸った魔震。 それを今度は、アビゲイルが触手を数段に折り重ねた防御壁を形成する事でカバーする。 暴穹の飛蝗を思わす勢いと密度で敵を喰らう羽虫を召喚する巫女に、女侍は相乗りする事を選んだ。 羽虫の波に身を沈ませ、自身の気配や魔力を彼らをチャフ代わりにして隠蔽。 リンボの感覚の盲点に潜り込みながら天眼を廻し一斬必殺の斬撃を叩き込むべく颶風と化す。 「流石は音に伝え聞く二天一流。節操のない事よ」 嘲りはしかし侮りに繋がらない。 リンボは知っている、二天一流の強さと恐ろしさを。 手塩にかけて拵えた英霊剣豪を討ち倒し、己が陰謀を砕いた忌まわしき女。 結果的にリンボが彼女と再び相対する事はなかったが。 依然としてリンボは自身に引導を渡した黄金のヒーローよりも、この麗らかな人斬りの方をこそ真に厄介な敵だと認識していた。 「であればどれ、拙僧は大人げなく行きましょう」 だからこそ油断も慢心も捨て去る。 格下が相手なら隙も見せよう、驕りも覗かせよう。 だが天眼の光、死線を駆ける女武蔵の冴えが相手となれば話は別だ。 リンボの周囲に顕現する無数の光球。 臓物に似た悍ましいまでの赫色を宿したそれは、魔と呪をありったけ練り込んだ呪符を核に造られた即席の黒い太陽だ。 太陽だけで構成された闇の星空。 それが芽吹くように感光するや否や、数にして千を優に超える数の光条が全方位へと迸った。 「「「――!」」」 そう、全方位だ。 波を形作る羽虫を鏖殺しつつ其処に潜んだ武蔵を狙いつつ。 今まさに新たな触手を呼び出そうとしていたアビゲイルを撃ち抜かんとし。 背後から迫っていた甚爾に対してもその五体を蜂の巣に変えんと光を放つ。 さしずめ凶星の流星群。 掠めただけでも手足がちぎれ飛ぶ星の追尾光も、今のリンボにとっては単なる余技の一つに過ぎない。 その証拠に―― 「凶風よ、吹けい」 漲り煮え立つ呪の風が、災害そのものの形で吹き荒れる。 凶兆、凶象…その全てが今やリンボの思うまま。 そんな呼吸するだけでも死に直結する地獄絵図の中でも、しかし天与呪縛の男は流石だった。 呼吸を完全に断ちながら風圧を引き裂いて吶喊する。 間近まで迫った上で振るう刀身は、速度でなら武蔵の振るう刀にすら決して引けを取らない。 術師殺しはは技の冴えを重要視しない。 剛力を載せて超高速で振り抜く、効果的な斬撃を放つにはそれだけで充分なのだから。 だが…… 「ンン。まさに、馬鹿の一つ覚えよな」 リンボは当然のように刃の軌道を見切りながら、己に迫る死に対して笑みを浮かべた。 この男ならば来るだろうと思っていたからだ。 そしてその上で待ち受けていた。 煮え湯を飲まされたままでいる程癪に障る事もない。 “――カウンターか? いや…” 訝む甚爾だったが、その疑問に対する答えはすぐに出された。 リンボの背後。 九つの龍骸が並ぶ向こう側に、絶大な存在感を放つ黒い人形が立ち上がったのだ。 呪霊操術という術式がある。 読んで字の如く、呪霊を操り使役する術式だ。 極めれば呪霊の軍隊を率いての国家転覆すら不可能ではない、数ある術式の中でも容易に上位一握りに食い込むだろう規格外の力。 甚爾はかつてその使い手と相対し、その上で正面から打ち破っている。 だがその彼をしても――今リンボが出した"これ"は、呪霊だの祟り神だのとは全く格の違う存在であると断言出来た。 「黒き太陰の神。名をチェルノボーグと言いまする」 チェルノボーグ。 それはスラヴ神話に語られる、夜、闇、不幸、死、破壊…あらゆる暗黒を司る悪神。 呪霊等とは次元が違う。文字通り世界そのものが違って見える程の隔絶感があった。 「猪口才な猿の曲芸、存分に試してみるが宜しい」 次の瞬間、甚爾は強烈な衝撃の前に吹き飛ばされた。 ただ飛ばされたという訳ではなく、不可思議極まる力で以て殴り飛ばされたに等しい。 即座に跳ね起きようとする彼の頭上に影がかかる。 見上げればそこには既に巨腕を振り下ろすチェルノボーグの姿があり、甚爾は釈魂刀を盾に受け止めるしかない。 真上から押し寄せる衝撃と重量は如何に彼が超人と言えども涼しい顔で受け切れる次元ではなかった。 骨肉が軋む。皮下の血管がブチブチと千切れていくのが分かる。 游雲を抜いていなかった事を悔やむ甚爾は身動きが取れず、それを良い事にリンボが迫った。 「ンンンンン! 無様!」 「ッ……!」 繰り出す掌底。 掌に呪符を貼り付けて放つ一撃は甚爾の内臓を容易に破砕した。 腹を消し飛ばされなかったのは咄嗟に身を後ろに引き、どうにか直撃だけは避けた機転の成果だ。 それでも完全に威力を殺し切る事は出来ず、粘り気の強い血を吐いて地面を転がる。 「死ねェいッ!」 肝臓と脾臓が砕け散ったのを感じながらも甚爾の動きは迅速だった。 地を蹴り真上に逃れる。 地面を這う呪の濁流に呑まれるのを防ぐ為だ。 だがそれすら知っているぞと嗤いながら、リンボの呪符が付き纏う。 呪具を切り替えるには状況が悪い。 多少の被弾は承知の上で、刀一本で全て斬り伏せるしか甚爾の取れる選択肢はなかった。 呪符に描かれた目玉が赤く輝き…そして。 「…!」 伏黒甚爾の脇腹が弾けた。 飛び散る鮮血。 優越の笑みを浮かべるリンボ。 しかし追撃は成せなかった。 流星群を斬り伏せながら猛進してきた女武蔵が、呪符数百を鎧袖一触に薙ぎ払って剣閃を放ったからだ。 「おぉ、怖い怖い。流石は宿業狩り。七番勝負を踏破した恐るべき女武蔵と言う他ない」 既に武蔵の剣は鋼の銀色を超克している。 夜桜の血と繋がり、真打の桜に至った事を示す桜色の太刀筋。 剣呑さは美しさに幾らか食われたが、それは脅威度の低下を意味しない。 寧ろ真逆だ。 宿業両断はおろか、神と斬り結んだギリシャ異聞帯の時分よりも彼女の太刀は遥かに高め上げられている。 「神の分霊になぞ頼っていられぬ。貴様の相手は、この拙僧が手ずからしなくてはなァ」 この場において最大の脅威は間違いなく新免武蔵である。 リンボはそう信じていたし、だからこそ彼女に対しては一切驕らなかった。 イツパパロトルやチェルノボーグに頼るのではなく自らが出る。 それは裏を返すまでもなく、禍津日神たる自分自身こそが最大の戦力であるという自負ありきの行動に他ならず―― 「はああああああッ!」 「ンンンンンンン!!」 そして現にリンボは、一介の法師でありながら空の極みに達した剣豪と接近戦を演じる離れ業を実現させていた。 用いるのは自らの呪と、遥か異郷の地で会得した仙術。 無敵の自負を抱くに十分なそれらに加え龍脈の力で更に倍率をかけた肉体だ。 三位一体の自己強化はリンボを真の魔神に変える。 現に彼より遥かに技巧でも速さでも勝る筈の武蔵だが、その顔には三合ばかりしか打ち合っていないにも関わらず既に苦渋の色が滲んでいる。 “此処まで高めたか、蘆屋道満…!” 重い。 硬い。 先に斬り伏せた大霊はおろか、伏黒甚爾を吹き飛ばした神の分霊とすら格が違う。 オリュンポスで目の当たりにした機神達にも比肩、ないしは上を行くだろう重さと硬さは悪い冗談じみていた。 「硬いでしょう。それも当然。 鉄囲山の外鎧。そして僧怯の大風…これなるは法道仙人めより掠め取った仙術の粋。 ンン、感じますぞ。これまでの巡り合わせ、鍛錬、試行錯誤! そのすべてが拙僧を野望の高みへ押し上げてくれている!」 「らしくない台詞はやめて頂戴、槍が降るわ。どうせ最後はすべて踏み潰してしまうんでしょう?」 「当然。並ぶモノなき久遠の地獄絵図を描き上げ、万物万象へ阿鼻叫喚の限りを馳走する事。それこそが拙僧の伝える感謝の形なれば」 「でしょうね! 相変わらず、救えないヤツ…!」 迫り合いを長く続ければ腕が砕ける。 現に今のだけでも、武蔵の右腕は罅割れていた。 にも関わらず戦闘を続行出来ている理由は、古手梨花から流れてくる夜桜の力。 初代夜桜との同調を果たした梨花は武蔵にとって、劇的なまでの力の源泉と化していた。 片手の骨折程度の傷ならば忽ち癒せてしまうくらいには。 これでも武蔵に言わせれば十二分にズルの境地だというのに、初陣がこんな怪物となればそれも霞んでしまう。 リンボの徒手を桜花の刀で防ぎ。 隙を抉じ開けて刺突を七つ。 それを凌がれれば本命、左右同時の逆袈裟二刀撃。 神をも斬り裂く剣を呪符が阻み、役目を終えたこれが音を立てて爆裂する。 「づ…!」 熱波を直に浴びて顔が焦げる。 癒えていく最中の視界でリンボの背後に、剣を携えた黒い女神が立ち上がるのを武蔵は見た。 「そうれ、隙あり」 イツパパロトルの一閃を止めた瞬間、武蔵は悪手を悟る。 “そうか、こいつ…黒曜石の……!” 黒曜石の蝶を侍らす楽園の導き手。 その剣も当然、強力な吸精能力を宿しているのだ。 手足の力が拔ける。 分霊とはいえ神は神。 夜桜の力さえ上回る速度での吸精に、武蔵の手足から力がガクリと抜けた。 「――唵!!」 禹歩で呪の効力を高め真言一喝。 武蔵が瞠目した。 見えなかったからだ。 見切れなかったからだ、リンボの歩みを。 その代償として真紅の呪が武蔵の総身を丸呑みにする。 咄嗟に刀を構え、二天一流の手数を活かして切り裂き即死は逃れたが、しかしこれさえリンボにとっては予測の内。 当然。 相手は新免武蔵。 神に逢うては神を殺し、仏に逢うては仏を殺す悪逆無道の英霊剣豪を撫で切りにした人斬りの極み。 猿を殺し巫女を封殺できる程度の業で屠れるのならばあの時苦労はしなかった。厭離穢土は遂げられていたのだ。 「等活、黒縄、衆合、叫喚、大叫喚、焦熱、大焦熱、無間――」 怖気の走る詠唱は祝詞ですらない。 それは列挙だ。 人が悪業を抱えて死ねば堕ちるという死後の形、その形相の羅列。 武蔵としても聞き覚えがあるだろう名前も幾つかあり、だからこそ彼女は其処から特大の不吉を感じ取らずにはいられなかった。 「――デカいのが来るわ! 各々、死ぬ思いでなんとかして!!」 武蔵が叫んだ事にきっと意味はなかった。 甚爾もアビゲイルも、その時には既に彼女同様嫌な予感を覚えていたからだ。 呪いが渦を巻く。 冒涜が練り上げられる。 地獄が形を結ぶ。 衆生が住む閻浮提の下、四万由旬の果てへと堕ちる奈落の旅路が幕を開ける。 「堕ちよ――――遥かな奈落、八熱地獄へ!!」 名付けて八熱地獄巡り。 呪の限り、熱の限りがのどかな村の一角を吹き飛ばして三騎の英霊達を焼き払った。 これこそがアルターエゴ・リンボ。 否、禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満。 髑髏烏帽子ならぬ戴冠新皇。 九頭竜を従え。 黒き神を喰らい。 盟友を侍らせ。 そして呪の限りを尽くす、極彩色の肉食獣。 故にその理想の具現たる八熱地獄はすべての英霊にとって致死的なそれ。 逃れられる者など居ない――普通なら。 しかし忘れるな、リンボよ。 しかし侮るな、蘆屋道満よ。 この地に集い、熾烈な予選と数多くの激戦を潜り抜けて二度目の朝日を拝んだ者達はそう甘くない。 その証拠に。 八熱地獄の赫を引き裂きながら現れたのは、アビゲイルが行った再びの宝具解放により呼び出された触手の渦であった。 「ぬ……!?」 リンボが瞠目する。 今のは確かに渾身の呪を込めた一撃だった。 視界に入る全て、猿も巫女も人斬りも皆々焼き払う心算の大地獄だった。 だというのにこの小娘は。 よもや―― 「馬鹿な…有り得ぬ! アレを……あの熱量を内から食い破っただと!?」 「駄目よ、東洋のお坊さま。地獄(インフェルノ)だなんて僭称したら、神様もきっとお怒りになるわ」 「ほざけ小娘がッ! この拙僧に地獄の何たるかを語るか!!」 規格外の事態に唾を飛ばすリンボ。 その傲慢を窘めながら、アビゲイルは八熱地獄の火力を破って尚余力を残した触手で彼が展開した呪符を悉く押し流した。 殺到する触手は一本一本が外なる神の触腕。 格で言えばリンボの扱う黒き神々にすら勝る絶対と無限の象徴。 さしものリンボも冷や汗を流し、件の二神を顕現させて足止めに使う。 チェルノボーグ、イツパパロトル。 強さで言えば流石の一言。 アビゲイルの宝具解放をすら押し止める働きを果たしていたが、攻防の終わりを待たずして動く影がある。 「手酷く言われたわね、リンボ」 「ッ――新免、武蔵ィ!」 「百聞は一見に如かず。地獄の何たるか、自分の眼でしっかり見て来なさい」 花弁と共に駆けるは武蔵。 神速の太刀筋は今のリンボなら決して対応不能のそれではない。 だが、だが。 アビゲイル・ウィリアムズ、銀の鍵の巫女の無限に通ずる宝具を相手取りながらでは話も変わる。 「…急々如律令!!」 リンボが選んだのは武蔵に取り合う事の放棄。 今や此処ら一帯が己の陣地と化しているのを良い事に地へ埋め込んだ呪力を地雷宜しく爆発させた。 そうして武蔵の進撃を無理やり押し止めつつ、自分は宙へと逃げる。 二柱の黒き神は強力だ。 普通ならばサーヴァントの宝具解放が相手であろうと押し負けはすまいが、しかし今回の相手はアビゲイル・ウィリアムズ。 すべての叡智とすべての空間へ繋がる"門"の向こう側に坐す"全にして一、一にして全なる者"の巫女。 彼女に限っては万一の危険性が常に同居している。 だからこそ念入りに、抜かりなく。 最上の火力で以って相対さねば、禍津日神と化した今の己でさえ予期せぬ一噛みを食らいかねない。 そう考えて空へ逃れたリンボの更に上へと――躍り出た影が一つある。 「よう。そんな成りになっても猿の一匹上手く殺せねぇんだな」 「…ッ! 貴様――」 伏黒甚爾。 この場では間違いなく最も劣った、それでいて最も可能性を秘めた猿だ。 先の一合で力押しは不可能と理解した。 武蔵とリンボが打ち合う光景を見てその感情は更に強まった。 彼は天与呪縛の超人。 生身一つで百年の研鑽をもねじ伏せる規格外。 しかしあくまで超"人"、天変地異を拳一つで調伏出来る程の可能性は持たない。 甚爾はそれをよく理解している。 挫折と劣等感に満ちた幼少時代を経て術師殺しに成った彼が、それを知らない訳はないのだ。 だから潜んだ。 敵が繰り出した地獄の炎すら隠れ蓑に使った。 呪殺ないし主従契約を書き換えられる事を厭ってずっと表に出さずにいた武器庫呪霊。 それをあの死地の中でこれ幸いと引きずり出し、呪具の入れ替えを行った。 釈魂刀、龍をも断つ魔剣を納めて新たに取り出したのは――純粋な破壊力でならば最も伏黒甚爾を高め上げられるだろう三節棍の呪具。 即ち游雲。数時間前、この嗤う道化師にも一撃打ち込んだ暴力の塊。 「生臭坊主が羽化昇天なんざ片腹痛ぇわ。身の程弁えて五体投地でもしとけ」 リンボはその瞬間、確かに自身の視界が緩慢と化すのを感じた。 濃密の一言では済まされないあまりにも致死的な暴力の気配。 それを前に脳が走馬灯に酷似した活動をしているのだと気付き、屈辱で顔が赤黒く染まる。 ――侮るな、猿めが! そう叫ぼうとしたし術を行使しようともした。 だがそれよりも、甚爾の振り下ろす棍が彼の顔面を粉砕する方が遥かに速かった。 「ご、がッ――」 游雲は担い手の膂力に応じて威力を向上させる。 完成されたフィジカルギフテッドが、真に全力で振り下ろしたその一撃は当然絶大。 鉄囲山の外鎧も僧怯の大風も押し破って、宣言通り禍津日神を地まで落とした。 粉塵を巻き上げ、地に減り込む無様を晒せていたならまだリンボにとっては救いだったろう。 しかし現実は彼にとって更に非情。 地獄に堕ちたその先では、犇めく触手の海が待ち受けていた。 「――ぬ、あああああ"あ"あ"ッ!?」 二柱の神を相手取りながら。 彼らがリンボの許へ帰れぬよう、帰り道を堰き止めながら。 「つかまえた」 アビゲイル・ウィリアムズは漲る力に物を言わせてリンボ本体を叩きに掛かったのだ。 初撃に続く、二連続での宝具解放は言わずもがな相当の無茶。 空魚へ押し寄せる負担も相応だったが、しかし許可は出ている。 無茶をする旨をアビゲイルが念話した際。 それに対して紙越空魚は、愚問だとばかりに即答した。 ――私の事なんて考えなくていい。あんたがそうした方がいいと思うなら、迷わずそうして。 其処にあったのは果てしない程の怒り。 相棒を殺され、穢された事に空魚は今も怒り狂っている。 だからこそ掟破りの宝具二度撃ちは成り。 その結果としてリンボは想定を大きく狂わされ、武蔵と甚爾の連携も相俟ってまんまと触手の坩堝へ叩き落された。 「見ていてマスター。鳥子さんも、空魚さんも」 艶かしく粘液に塗れたそれはしかし断じて凌辱など働かない。 これはもっとずっと悍ましく、吐き気がする程冒涜的な何かの片鱗だ。 「いあ、いあ」 いあ、いあ。 光よ、光よ。 白き虚無が溢れる。 黒く果てなき闇が口を開ける。 その内側に、蘆屋道満は確かに地獄を見た。 境界線の青年の精神世界で目の当たりにしたのとは違う、しかしあれに何ら劣らぬ無尽の地獄を。 意識と精神が埋め尽くされていく。 あらゆる者の精神と肉体を蝕む異界の念。 それは、神さえ誑かす無道の陰陽師でさえも例外ではなく。 狂気と混沌が、愚かな偽神のすべてを呑み込み―― 「 ンン 」 下す、その寸前で。 触手の蠢動が止まった。 坩堝の中から嗤い声が響いた。 時が止まる。 誰もがアビゲイルの業の底知れなさを感じ取っていて、リンボの終焉を確信していたからこその静寂だった。 外なる神がもたらす虚無と無限のきざはし。 それは決して並大抵のものに非ず。 一人の殺人鬼が呑まれて消えたように。 跳梁跋扈する蝿声の如き魘魅、蘆屋道満でさえ無力のまま消え去るしかない。 その筈だった――これまでは。 しかし今の彼は道満にあって道満に非ず、リンボにあってリンボに非ず。 龍脈の力と百年の累積を一緒くたに喰らって高め上げたその力は今や、不可避の滅亡すら覆す闇の極星として機能するにまで至っていた。 「実に見事。実に甘美。しかし、しかァし――」 だからこそ此処に闇の不条理が具現する。 絶対不可避の敗亡の内側から浮上する禍津日神。 触手共を消し飛ばしながら。 虚無へと繋がる門を自らの力の大きさに飽かして閉じる離れ業を成しながら。 リンボはその掌に、一つの火球を生じさせた。 「忘れたか。儂こそは禍津日神、髑髏烏帽子を越えて戴冠の儀を終えた九頭竜新皇! 異界の神なぞ取るに足らず。猿の足掻きなぞ嗤うにも及ばず、仁王如きが断てる丈にも非ず!」 それは、一握の砂にも満たない極小の火。 煙草の先に火を灯すのが精々の種火でしかない。 少なくとも傍目にはそう見える。 しかし三者三様。 神殺しを成さんとする者達は其処に、あるべきでない威容を見た。 巫女は遥かフォーマルハウトにて脈打つ生ける炎の神核を。 猿は蠢き沸騰して止まない悍ましい呪力の塊を。 そして人斬りは、手を伸ばしたとて届く事のないお天道様の後光を。 各々確かに拝んだ。 その上で確信する。 あれを弾けさせてはならない――それを許せば自分達は此処で終わると。 巫女が鍵を回し。 猿と人斬りが地を蹴った。 だがすべて遅い。 嘲り笑うようにリンボは諸手を挙げ、歓喜のままに"それ"の生誕を言祝いだ。 「これなるは界聖杯が拙僧に授けた"縁"の結晶」 充填される魔力の桁は尋常ではない。 宝具の格に合わせて言うなら最低でも対城級。 直撃すれば英霊さえ軽々蒸発させる、正真の規格外に他ならない。 「屈辱と挫折の中、決して膝を屈する事なく歩み続けた甲斐もあるというもの。 つきましてはこの禍津日神・九頭竜新皇蘆屋道満の前へ立ち塞がった勇気ある貴殿らの葬送、この拙僧が承りましょう!」 蘆屋道満は斯様な力を持ってはいなかった。 力量の問題ではなく、性質そのものが彼の生まれ育った世界には存在しなかったからだ。 故にこれは彼の言う通り、界聖杯というイレギュラーが彼へと仲介した縁の結晶。 地を這い泥を啜り何とか手中に収めた龍の心臓。 受け継いだその脈動から伝わって来た力の最大出力…それこそがこの魔技の正体。 「刮目せよ。跪いて笑覧せよ。これなるは拙僧から貴殿らへと贈る最上の敬意にして至高の葬送」 その名を―― 「――メギドラオンでございます」 メギドラオンと、そう呼ぶ。 属性は万能。 あらゆる防御も相性も無に帰す究極の火力。 指で摘める程度の大きさだった火球が天に昇り、見る見る内にそのサイズを直径十メートルを超す巨体へと変じさせ。 それが弾ける瞬間を以ってして、最終最後の屍山血河舞台に万象滅却の爆熱が吹き荒れた。 「はは、ははははは、あはははははははは――!」 響き渡るのは禍津日神の哄笑ばかり。 光が晴れて熱が引き、そして…… →
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鈍い痛みと共に、目が覚めた。どうやら手足は拘束されているようで、俺は膝をついて車の天井あたりに手を吊り下げられているらしい。 革と金属で出来たその手製の手錠は、俺の力では到底千切れそうにない。しばらくもがいていると、人の気配が動いた。 真っ暗で周りがどうなっているのか確認できなかったが、俺が来ようとしていた目的地であることは想像できた。 人の気配はレナだ。 「目が覚めたのかな? 圭一くん?」 突然、電気ランタンの光が俺の目に飛び込んで、 俺は目をかばおうとしたが、手が拘束されているからもがくことしか出来なかった。 強く閉じていた目から、次第に光が遠ざかっていくのを感じる。 「まぶしかったかな? かな?」 俺が何とか目を開けると、すぐ前にレナが居た。 そう、俺はレナを説得しに、レナが別荘のようにしているこの車を探していたのだ。 「う、レ、レナ? レナ!」 「こんなところに何しに来たの?」 「お前を助けに来たんだ、レナ……ところで、何で俺縛られてんだ?」 「ああ、ごめんごめん。突然暴れられると困るから。少し緩めるね」 「解いて……くれないのか?」 俺は薄々感じていたのに、わざわざそれを確認する。 「解いたら、何されるかわからないじゃない? 圭一くんだって……もしかしたら、”敵”なのかもしれないし」 「なんだよ? ”敵”って?」 そう言うレナは、首筋を引っ掻いていた。その首筋からは赤いしずくが流れ落ちて、一筋の線を作り、服に赤い模様を作っていた。 「お前、その首……」 手を出そうとして、じゃら、と鎖が邪魔をするのに気付く。 「ごめんね、圭一君が味方かどうかわかるまで、私はその鎖を外せないから」 「……そうか」 レナは今、心に風邪を引いている。短期間に人を二人も殺して、バラバラにして…… 「大石さんから聞いたんだ」 血が流れているというのに、まだレナはかきむしっていた。 「圭一くん、転校前に色々してきたんだって? オモチャの銃で……」 「レ……レナ?」 俺は……確かにした。いろいろ、なんてもんじゃない。子供の目を撃って、失明させかけた。 「全部言わなくてもわかるよね? そんな人、信じれると思う? この犯罪者!」 「レナだって」 俺は、一瞬で失言だと思った。俺は説得をしに来たというのに、 レナが知っていたという事実を遠ざけるために、とんでもないことを言おうとしたと。いや、もう言ったも同じだ。 「うん、そうだね。レナは人を殺した。ううん、置いてきた。 礼奈と一緒にあそこにおいてきたの。皆と一緒にね。 それなのに、魅ぃちゃん、動かしたんだよねぇ?」 「ち、違う!」 「違うもんか! 確かに埋めた場所に、死体は無かったんだから!」 「だから、違うんだって、それは魅音がレナをかばうために……営林署があそこら一体を掘り返すっていう話があって」 「嘘だッ!」 レナは、いつのまにか手に持っていた鉈を振り回した。乱暴な音が車内に響き渡り、窓ガラスを破壊した。 「それで、圭一くん……いや、前原、お前は何をしに来たんだ?」 レナのその言葉は、今までのどんな暴言より暴力的に聞こえた。 お前、前原……レナが俺の名前を呼んでくれない。 「”礼奈”を、助けに来た」 「その名前で呼んで良いって誰が言ったぁぁあぁぁああ!!!」 今度は二度、鉈を振り回した。割れるべき窓ガラスはもう無く、 天井やら内壁やらにぶつかり、その反動で俺の鼻先を掠れたが、俺は”礼奈”を見つめていた。 「なぁ、俺は、悪いことをしたさ。でもな、圭一っていう名前は、捨てなかったぜ?」 「うるさいよ、前原」 突然、レナが俺の股間を握ってきた。 「所詮、お前だってここで動く人間なんだ。男なんて皆一緒、一時的に快感さえ得られれば、それでいいんだ」 「な、レ……礼奈!」 「何? それ? 私を挑発してるつもり? 自分の立場が分かってる? 私、人を二人も殺してるんだよ? もう何だって出来るよ。今、この場でお前の首を飛ばすことも出来るんだ……あれあれ? ここが硬くなってるよ?」 喋ってる間も俺の股間を触っていた礼奈は、俺の体の異変を感じ取っていた。 「それは……礼奈が、触ってるからだよ」 「ふーん、それって、愛の告白のつもりなのかなぁ? 私、そういうの嫌いだな。気持ちよくなったら、ハイさよならーでしょ?」 「違う……俺のは……礼奈だから、硬くなったんだよ」 礼奈はそんなことを気にもかけず、ジッパーに手をかけた。 俺の股間が露にされるのは、それほど時間の掛からないことだった。なぜなら、俺のものが限界まで張り詰めていたからだ。 「こんな状態でも勃っちゃうんだ。あはははは、しかも、皮かむってるんだね?」 「……くっ」 礼奈は、硬くなった俺のものを軽くつついた。それだけで、何ともいえない感覚が俺の脊髄まで駆け抜けた。 「ほら、やっぱり。こんな状況でも反応するなんて、変態だなぁ……」 「なぁ、礼奈」 「後ろを向け、前原」 「礼」 「向けッ!」 首筋に、鉈を当てて、礼奈は俺を脅迫した。ここで逆らったところで、 何ら解決の方向には向かない。俺は仕方なく、後ろを向くことにした。 どうやら、回転はできるらしく、俺は膝をついたまま礼奈に背中を見せる。 「これが見えるかな? いや、見なくてもいいよ」 スイッチを切り替えるような音がして、続いて何かが振動するような、くぐもった音が聞こえた。 少ししてから、俺のズボンのベルトが外され、ズボンをずり下げられる。 その間ものたうつ何かの音を、俺は聞いていた。 まだいいね、という礼奈の声と共に、その振動音は無くなる。 続いて、何か液体のようなものが、俺の尻に塗りたくられた。ひんやりとしたそれは、同時にぬるぬるとしている。 礼奈の手は、俺の尻の穴にまで及んだ。 「あ、あう……」 普段触られないようなところを触られ、俺は思わず前かがみになってしまう。 結果、尻を礼奈のほうに突き出す形になった。 「あははははは、変態だ、変態だ」 完全に、面白がっている。 「入れるよ?」 何、何を入れるんだ? 「ゴミ置き場で拾ってきたものだけど、ちゃんと洗ってるから大丈夫だよ」 俺は、座薬を入れられたときのような感覚を、尻に感じた。 すぐにそれを排出しようとする力が掛かる。 「ガムテープでとめちゃえ」 「ああ、う……」 びりびりという音と、俺の尻に感じた礼奈の手の感触と、粘着質のテープが貼られる感触が、俺の前の敏感な部分に届いた。 「これでも感じるんだね、ぴくぴくしてるよ……レナなら、かぁいいなって言ってたかもね。私は礼奈だもんね?」 「そ、そうだよ、礼奈……」 「まだ言うの?」 ごとり、という重いものを動かす音がした。 ぺち、ぺち、と、金属のひやりとしたものが俺の後ろに何度もうちつけられる。 「分からない子には、お尻ぺんぺんだよ?」 べちっ、べちっ、だんだん強くなってきた。 「あははははははは、こんな状況でも、キモチ良くなりたいんだねぇ? やっぱり、お前も醜い男の一人だったんだ。レナはそこに居てろ。礼奈がやるよ」 礼奈のほうが見えない俺には、本当にその場にレナと礼奈という二人の人物がいるかのような錯覚があった。 「礼奈、もう、やめてくれ……」 「何言ってんの? 尻叩かれて感じてる変態さん?」 そういって、礼奈は俺の腰に手を回してきた。片方の手は、俺の左腿を掴んでいる。 そして、もう片方の手は、俺の前へと回ってきた。その手はべとべとした液体で包まれている。 「これね、ローションっていうんだよ? お前の尻が気持ちよくなるように、さっき塗りたくったのもそう。 ああそうだ、電源を入れるのを忘れてた」 かち、という音と共に、例の振動音が……俺の中から聞こえてくる。 それと同時に、俺が今まで感じたことの無い種類の快感が、体を駆け巡った、 拘束されているから、俺はひざをついたまま、のた打ち回る。 「ああ、あううあああ、や、やめ、やめてくれ、れ、礼奈、礼奈!」 「これからだよ、圭一」 礼奈が、圭一と呼んでくれた。そのことで、一瞬意識がそっちに向かったが、 それが飛ぶぐらいの快感が、また、俺の体を駆け巡った。 「あぁあううあ……」 礼奈の手が、俺のものに触れたからだ。 「へぇ、触っただけでこうなるんだ。じゃあ、握ってしごいたらどうなるかな?」 礼奈は俺のものを強く握り締め、ゆっくりとしごきはじめた。 「はぁっ、はぁっ、れ、礼奈、止めて、止めてくれ、その、振動を!」 「あはははは、圭一くんのここ、すごいよ。何か溢れ出てるよ? それ、剥いちゃえ!」 一気に礼奈は俺の包皮を剥いた。赤い色の先っぽが露出した瞬間、俺は体をのけぞらせた。 「あぁぁあがっあああぁあ!」 何度も何度も、体ごと波打たせて、俺は白い液体を飛ばす。 「あ……ああ……あ、あ」 やがてそれも収束するが、まだまだ俺のものは硬いままだった。さらに、振動も止まらないままだ。 「あーあ、手が汚れちゃった。そうだ、いいものをあげよう」 「もう、もう終わりにしてくれよ……」 「でも、圭一くんのここ、まだ収まってないよ? 出したいんなら出したいだけ出したらいい。それが、最後の手向けだから」 圭一、くん……そうか、俺を、殺すんだな。そうは思っても、まだ俺の尻の中で暴れる振動に、俺は流されてしまった。 「ほら、これを使うんだ。」 礼奈が手にしたそれは、ゴムのかたまりのようなものだった。 その管状のゴムには穴が開いていて、そこからは先ほどの透明の液体があふれ出ている。 「これが、圭一くんの始めての相手だよ、あははは、惨めだねぇ、変態は」 そっと、その塊を、俺のいきり立ったものに近づける。 「ほら、腰は動かせるでしょう? 自分で動いてみたらどう?」 刺激するように、礼奈はそれを俺の先端に近づけては放した、 俺はそのたび、その管の方向へと腰を動かしてしまう。そのうち、礼奈は動きを止めた。 俺は、そのままの勢いで、その穴へと挿入してしまう。 「はああぁうあ、礼奈、礼奈ぁぁ、礼奈、礼奈……」 「まだ言うの? それとも気がおかしくなっちゃったのかな? あはははは、もうそろそろ死んどく?」 礼奈は、左手に鉈を持った。音で分かる。先ほどと同じ音だから。 「礼奈、礼奈礼奈……」 俺の腰の動きは、止まらなくなっていた。壊れた再生機のように、何度も何度も礼奈と言い続けた。 何度か突いたあと、俺はまた絶頂を迎える。もう手がだらんとしてきて、足も震えてきている。 腰がパンパンでも、まだ、その管はおれのものについたままだった。 もう礼奈は手を放しているのに。つるんと、それが抜け落ちて、また、俺は体を震わせた。 「すごいね、四回も出したのに、まだ硬いよ?」 「れ、礼奈……礼奈……」 まだ俺は、うわごとのように繰り返す。それは、気付いて欲しかったから。 信じてた。いや、信じてる。今この瞬間も信じてる。信じてるのは、認めたくないから? いや、違う。認めたいから。俺は悪いことをした。礼奈も悪いことをした。それを、認めてほしかった。 でも、それは、俺の独りよがりな発想だった。なんせ、俺はこうやってもてあそばれている。 認めてほしいなんて、罪を押し付けている。 「解いてあげるよ、圭一くん。もう、襲い掛かってくるような力も無いようだしね」 振動が止まり、俺は完全に自由な状態になった。それにもかかわらず、俺はその場にへたりこんでしまう。 叫ばなければならないのに。 「あはははははは、無様なもんだね、もう黙った。ねぇ? 圭一くん?」 圭一くん。そうだ、俺を圭一くんと呼んでくれる奴が居た。名前はレナ。 いや、礼奈。竜宮礼奈。ずっとレナって名乗ってた子。本当の名前を捨てて、ずっとずっと。 「なぁ、”レナ”なんで、”い”を捨てたんだ?」 壊れたように笑っていた礼奈の動きが止まった。 「レナ? 礼奈だよ。こんな汚れた仕事をするのはね。”い”やなことを捨てて、私はレナになったっていうのに、 圭一くんは悪い子。礼奈を思い出させた。こんな暴力的で最低で、そのくせ大事なものも守れない、弱い女をね」 「そうだったのか……あはは、俺さ、”い”を取ったら、ケチな男になっちまうんだよ。 わかるか? けいいちから、いを取るんだ」 「そうだね、ケチな圭一くん。だって、レナのこと、礼奈って呼ぶんだもん」 「だって、礼奈って……綺麗な名前じゃないか。 それを名乗らない……レナのほうが、ケチだぜ……でも、レナって呼ぶよ。 レナは、そっちのほうがいいんだろ?」 「……礼奈って、呼んで」 「え?」 俺が、振り向いた瞬間、レナ、いや、礼奈は俺に唇を重ねた。 「ほら、礼奈の、ここ触ってみて?」 レナが俺の手をひっぱり、自分の股間に手を当てさせた。 「湿ってるでしょう? 私、圭一くんの姿見てて、こんなになっちゃったの。 変態、圭一くんだけじゃないよ、私も変態。人を傷つけて、こんなになってるんだから」 「レ……礼奈?」 「ねぇ、圭一くん、私、帰る場所が無いの。家に帰れない。圭一くんの家にも、魅ぃちゃんの家にも行けない……私、自首するよ。 間違ってたの、私、礼奈なんだって。汚い汚い、礼奈なんだって」 「間違ってたのは……俺だよ。礼奈を、嫌なことから無理やり遠ざけてた。それが解決になるわけ、無いのに」 レナは、ぎゅっと俺の手を握り締めた。 「卑怯だよね、知ってた? 魅ぃちゃんも、圭一くんのこと好きなの。でも、私はもっと好きなんだ! もっともっと! 何で、何で、こんなことになっちゃったんだろう! 礼奈の馬鹿、礼奈の馬鹿!」 「礼奈! 礼奈はお前だ、礼奈! その名前を捨てないでくれ! 犯した罪を捨てないでくれ! 俺たちを……捨てないでくれ……俺は、レナとしてお前と会ったから忘れてた。 ずっとずっと生まれてから死ぬまで礼奈だってこと、礼奈は、礼奈だってこと!」 「うっぅ、うう、つらいよ、圭一くん、胸が痛いの!」 「俺が、抱きしめててやるから、泣いてくれ。ずっと、頑張ってたんだな、礼奈。ずっとレナを押し付けて悪かった」 「圭一くん……あのね……やっぱり、ダメ。犯罪者の娘や息子なんて、迫害されるだけだもんね……」 「ああ、そうか、俺が言うべきだな。俺、礼奈の子供が欲しい。俺と、礼奈の子供が欲しい」 「……ありがと」 俺と礼奈は、激しく交じり合った。お互いのだいじな名前を呼び合いながら。 「ねえ、圭一くん、痛かったよ」 「え、あ、ご、ごめん……」 「でも、うれしかった。あのね、その、また出てこられたら……」 「ずっと待ってる。何年でも、俺は待ってるから。だから……その時は、結婚しよう、礼奈。前原礼奈に、なってくれ」 「ふふ、子供が生まれたら、礼一くんかな?それとも圭奈ちゃん? どっちも素敵な名前だね。私と、圭一くんの名前が入っているんだから」 「そうだな、二人目が生まれたらどうする?」 「あはは、圭一くん、気が早いよ」 礼奈は、大粒の涙を流した。俺も、きっと流していた。これで、お別れなんだ。 いや、お別れはもっと先かもしれないけど、いつもの日々とは、これで。 「みっ、みぃーー……レ、レナがボクの注射を拒否したのに、圭一にお注射されたのです……」 「り、梨花ちゃん?」 俺は動揺した。まさか、こんなところで会うとは思わなかったから。礼奈との関係を知られたからじゃない。 「あはは、梨花ちゃん、聞いてた? 私、もう自首するから……お別れだね?」 「それでいいのですか?」 「……うん」 「レナが……いや、礼奈がそれでいいというのなら、ボクは何も言わないのです。 惨劇がはじめから無かったなんて、ボクは思っていません。 起きた後に、それを受け止めなければいけない人たちのことを、ボクは考えたことが無いのですよ」 俺には、梨花ちゃんの言っている意味が、少しわからなかった。 でも、梨花ちゃんが礼奈を認めてくれたことは、俺にも分かった。 翌日、礼奈は警察に出頭した。 なぜか大石という刑事は、礼奈を見て驚いてはいたが、すぐに礼奈に色々な質問をはじめた 。死体はどこにあるのかだとか、凶器はなんであるか……証拠が無い限りは、それが事実であったとしても、 警察は捕まえられない。確かに、リナと鉄平という人物が行方不明になっているが、もともとよく行方不明になりそうな人間だったから、 捜査は最小の人員で行われていた。誰も、居なくなったことを気にかける様子が無かったからだ。 調査の結果、礼奈の証言は、嘘の証言であることを認定された。大石はひどく落胆し、 何か色々とつぶやいていたが、もうこんなところに来ることは無いようにと、俺たちに念を押していた。 「ねぇ、圭一くん?」 「なんだ? 礼奈?」 そう言うと、礼奈はうれしそうに言った。 「すてきな、なまえだね」 ―END―
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コドク箱 裏 次の日の午前中、詩音が遊びに来た。はろろ~ん。 「あれ、誰も居ないようですね。おかしいですわね、自転車はあるのに」 呼んでもでてこない。雰囲気からして留守のようだ。ただ、二人の自転車は置いてある。 「うーん。どうしたものでしょうね」 なぜか気になる。何となく嫌な予感がする。さて、どうしたものか。 「ここは一つ、確認するしかないでしょう」 呟きながら、詩音はどこからともなく合鍵を取り出した。どうやって用意したかは追及してはいけない。 鍵を開けて入る。トントンと階段を駆け上がる。そして、降りて来る事はなかった。 「あれ、魅ぃちゃん、どうしたのかな。かな?」 夕方。もう日は傾き空は赤から青く黒く夜に染まろうとしている。レナは鍋を自転車の籠に入れて梨花と沙都子の家に向かう途中、魅音に出会った。 「ああ、レナか」 そういうと、ため息をついた。 「何か、あったの?」 自転車を並べて聞いて見る。 「いやー、詩音が午後から遊びに来るといってたのに、中々こなくてねー。午前中に沙都子たちに会いに行ってお昼を作ってくるといっていたけど──何をやってるのやら」 苦笑いを浮かべて魅音は言った。 「レナはどうしたんだい?」 魅音の疑問にレナは、 「うん、ちょっと料理を作りすぎたからおすそ分けに」 と、言った。 「へぇー、愛しの圭ちゃんでなく、沙都子と梨花にねー」 魅音はそう言ってからかう。 「あはははは。圭一くんの家にはとっくに届けてあるよー」 さらりと返された。「……そっ、そう」苦笑いをするしかない。 「でも、どうしたんだろうね?」 レナは首をかしげる。詩音はちゃらんぽらんに見えて義理固いところがある。自分で言った事は守るほうだ。少なくても約束を齟齬にすることはない。 「うん──実は電話したけど出なくてね。それで、ちょっと不安になって見に来たんだ」 声のトーンを落として魅音は言った。 「それ──何かあったんじゃないのかな?」 レナは目を見開いて言った。 「あははは、そんなこと無いって。無いって。まあ、大方どこか遊びに行ってるんだろう。そろそろ帰って来る頃だと思うしね。レナもいるし、ちと狭いけど、みんなで夜通し騒いでも面白いかもね」 一転してにやりと笑う。 「そうだね。圭一くんも呼んで騒ぐのもいいよね」 レナも笑って、同意した。 「おやー、無粋だな、レナは。こういう時は女の子同士で秘密の話を興じるもんでないの? ──それとも、圭ちゃんを夜に呼んでを何をする気なのかな? 圭ちゃんの限界まで絞る気なのかな?」 からかうように魅音は言う。けど、ちょっぴり意地悪も含んでる。レナと圭一は付き合っているわけでないが、この頃微妙な空気が流れてるような気がする。 「そっ、そんなこと無いって。──ただ、みんなと騒ぎたいだけだよ」 もじもじと赤くなって、レナは言う。 「ふんふん、レナは圭ちゃんと夜通し騒ぎたいのか──何をする気なのかな?」 この言葉にレナは「もー、魅ぃちゃん!」と、ぷんぷんして追いかけ、魅音は「あははは、ごめーん」と、逃げる。 そんな平和なひと時だった。 「誰も居ないね」 日はすっかり落ちている。レナと魅音は古手神社奥の沙都子たちが住んでる家に赴いた。誰も居ない。窓から灯りは見えない。人の気配は無い。だが── 「自転車はあるね」 レナはポツリと呟く。 「ああ、詩音のもな」 少しだけ目を細めて、魅音はいった。狭いとはいえ村の中を移動するのに自転車は必須だ。どこに行ったというのだろうか? 「鍵──開いてるよ、魅ぃちゃん」 レナはドアノブをひねって言った。かすかにドアを開く。 「そうだな」 予感がする。何かがあったと。尋常ではないと。 「──とりあえず、上がってみるしかないかな」 少し考えて、魅音はいった。 「……そうだね。上に行って調べてみようよ」 レナも同意する。 ドアを開き、階段を上がる。その日、レナと魅音が家に帰ることは無かった。次の日も。そのまた次の日も帰らなかった……。 「全く、どうしたんだよ、みんな──」 夏休みの登校日。圭一は一人、愚痴をこぼした。教室の雰囲気は暗い。久しぶりに会う級友たちなのに笑顔は無い。 理由は連続鬼隠し事件だ。梨花、沙都子、羽入、詩音、魅音、レナと全員が行方を消した。もう、一週間はたつ。誰も目撃情報は無い。狭い村だ。何かあればあっという間に広まる。だが、それは無い。本当に神隠し──鬼隠しにあったようにするりと消えている。 詩音、魅音、レナは梨花たちの家に行くと言って消えている。実際に家に向かうという目撃情報はあった。だが、その後はぷっつりだ。梨花たちの家は鍵が開いており事件性が強く指摘されている。 村の重要人物ばかりが消えてるだけに警察は力を入れて捜査している。もちろん、村総出で捜索等も行なった。何の手がかりも無い。 この事件の怪奇性はそれだけでない。梨花たちが生活している部屋には布団が敷いてあった。それはいい。だが、玉串や神社で使う府、鈴や榊など神道の小道具が散乱していた。さらに服も──レナ、魅音、詩音が外出時に着用していた服が下着も含めて散乱していたのだ。さらに沙都子のパジャマ。二人分の巫女服もあった。この特異性が事件をますます浮き立たせていた。 これは一体、どういうことなのか。 分からない。分からないから苛立つ。先の捜索には圭一も積極的に参加した。それでも何の手がかりも無い。村中に不安な空気が漂っている。連日、古手神社にはみんなの無事を願う人たちが列を成している。立ち行く家から読経が絶える事は無い。夏だというのに不快で重い空気がのしかかる。 「あーあ」 空を見上げる。憂鬱になるほどすがすがしく青い。 「ほんと、どこに行ったんだよ」 ぼそりと圭一は呟いた。 「行っても、何が分かるとは限らないけどな」 圭一はいつものように梨花たちの家に向かう。誰も居ない。寂しい。今までみんなと楽しく遊んできた。色んな障害もみんなで相談して突破してきた。今の胸のうちにあるのは虚しい穴。ああ、この雛見沢に来て数ヶ月。充実していた。それこそ百年の時を過ごしたかのように。ここに来て分かった。故郷だ。求め足掻いていた。向こうでは手に入らない虚構の現実。すべてはここにあったのだ。 「さみしいよ、まったく……」 部屋に入る。許可は貰っている。誰も居ない。何も感じない。けれど、ぬくもりが残っている。残照がある。ここにみんながいた。そのはずなのだ。どこに行った? どこに消えたのだ? 「ちくしょー。チクショー。さっさと出て来やがれ!」 圭一の絶叫に応えるものが居た。 「かなえてあげましょうか?」 え? というまもなく圭一は消えてしまった。 永遠に循環する。混濁とした意識。すでに感覚は麻痺している。今はいつなのか分からない。いつ食事を取ったのか眠ったのか分からない。けだるくて緩慢。しびれるほど刺激的。そんなときを過ごした。 生暖かい空間。柔らかくてふわふわしている。安らぎに満ちている。そんな気がする。 「ふわぁっ」 沙都子は啼く。すでにどれだけの刺激を与えられたのか分からない。とろとろ溶けて腐り行く。それでも反応してしまう。誰かが舐めて触る。薄くふっくらとしたムネに刺激を与えられる。とがる乳首を舐めると同時に捻られついばまれる。緩慢なときもあればいたぶられる時もある。共通してるのは常にだ。しかも胸だけではない。耳たぶも首筋も頬も二の腕も指先も脇の下もわき腹もへそも背中も鎖骨もお尻も太ももも肘もひざもふくらぎも足の指もかかとも──優しく激しく咀嚼され続けられる。ああ、ここはどこだ? 母の胎内か。似て非なる世界。空間が襲う。誰かがそこにいて誰も居ない。流れる刺激。責めはてる。 「沙都子、可愛いのです」 梨花が寄り添い、キスをする。どこだろう。甘い唇かもしれない。桜色の乳首かもしれない。まだ早熟な秘裂かも知れない。互いにキスをして慰める。全身に快楽は与えられる。優しく激しく緩慢に。理性というものは奪われ刺激に反応する。沙都子は責められて啼く。否、出来ない。なぜなら、 「うふふ、可愛いですわよ」 くちゅりと詩音にキスされたからだ。やわらかな肢体を沙都子に押し付ける。舌をすすりツバを入れてツバを飲む。大きな乳房を含ませて喘ぐ。ああっ。 絡み合う手と足。指と舌。ぬめぬめと溶ける。 「みぃー、沙都子はボクのものなのです」 無理やり梨花は割り込み、沙都子の唇を奪う。チュウチュウと吸い付いていく。歓喜の声を上げる暇は無い。 「うふふ。梨花チャまもかわいいですわ」 つるぺったんな胸に吸い付く。 「ふぅんっ」 平らだが自己主張激しい胸に吸い付き、片方も捻る。強い刺激を絶え間なく送り続ける。 「ダメです! ダメなのです!」 いやいやと梨花は首を振る。 「何がいやですの?」 沙都子の小さな指が梨花の秘裂に向かう。汗か空間の体液か相手のか己の愛液か。すでに分からないほどぬるぬるしている。指を入れれば熱くとろける。沙都子は詩音の胸に吸い付きながら梨花のあそこをいじる。梨花も沙都子にキスしながら指を詩音の濡れそぼる秘裂を責める。尖る芽を弾いたとき、詩音は甲高く啼いた。詩音は梨花にキスの雨を降らせて沙都子のあそこをいじる。ツルツルで心地よい。互いに責めながらも見えない刺激に包まれる。誰かを責めて責められる。絶え間ない快楽は思考を破壊する。己の赴くままに貪り喰らう。ここがどこなのか。何をしているのか。もはや、そういうことは考えない。 「ふわぁっ」 誰かが啼く。沙都子なのか梨花なのか詩音なのか分からない。とろとろと溶けて交じり合っているのだから。もはや個と他の区別はつかない。ぐつぐつに煮えてきている。 ずるいよ。 どちらが言ったのか分からない。レナが言った。魅音も言った。互いに言いながらキスを交え抱きしめる。 「こんなに大きな胸してずるい」 レナはそういいながらフニフニと魅音の大きな胸を揉む。柔らかくて不和付していていつまで触っていても揉んでいても飽きない。 「だっダメだよ」 魅音はうめく。でも、拒絶はしない。むしろ受け入れる。ぎゅっとレナを抱きしめる。深い谷間にレナの顔は埋もれる。 「でも、ずるいのはレナだよ」 レナの顔をかかげ、魅音はいった。 「もう、キスしたんでしょう?」 レナの赤い唇を見て言った。 「しっ、してないよー」 レナは顔を真っ赤にして否定する。 「うそ」 否定する。 「嘘じゃないよ」 さらに顔を真っ赤にしてレナは否定する。 「なら、体に聞いてみる」 キスをする。唇に吸い付き舌をほじくる。とろとろと熱い空間の中でさらに熱い口の中。蹂躙していく。 「もう、あんっ、だから、つぅ、ふぅー、だっ、だめ。なの」 レナを攻め立てる。小ぶりな胸も、尖る乳首を責めていく。じゅるじゅるすすり、ついばむ。レナは柔らかくて暖かい。どこから攻めよう。耳からか首筋か。うん、やはり胸。柔らかく揉んで見る。 「もう、魅ぃちゃんの方が大きいでしょう?」 喘ぎながらもレナは手を伸ばす。魅音の巨乳を掴み弄り回す。 「あぅっ、ちょっと、レナ。痛い。痛いって」 悶えてみるがレナは止まらない。 「うそ。気持ちいいんだよね」 互いにせめて蕩け合う。緩慢な地獄。誰も居ない中、嬌声だけが鳴り響く。 「もー、お姉ぇーたち、何してるんですか」 「私たちも混ぜるのですわよ」 「みぃー。そうです。このふかふかの胸が欲しいのです」 みんなが集まり絡み合う。誰かの舌が誰かのあそこを舐めて行く。誰かの指が誰かのあそこを掴み捻りいじる責める。今上げている声は自分が上げているのか。他人が上げて行くのか。ああ、トロトロに蕩けていく。小さな世界で溶けて崩れていく。そして一つになるのだ。 「一体、どういうつもりなのです?」 羽入だけは饗宴に加わっていない。誰もが取り込まれもがき苦しみ麻痺し堕ちていった。けれでも羽入は正気を保つ。空間が責め立てる。全身を舐めてしゃぶり啜りたてる。それでも耐える。ここで落ちたらみんなが崩れ去るのだから。 「強情ね」 目の前の人物──羽入は言った。いや、それは羽入なのか? 似ている。けれど、違う。巫女服を着ている。黒く染まった巫女服を。紫色の髪をしている。濁りきってはいるが。角はなくお尻に八本の尻尾が生えている。 「あなたは誰なのです?」 羽入の問いかけに、 「わたしはオヤシロ様よ」 と、言った。 「あなたが本物の神だそうね。うふふ。威厳も何も無いわね」 羽入は全裸で宙に浮いている。手足は動かせない。空間に絡められ攻め立てられている。 「さすがは男を知ってるだけに耐えるわね」 くくくと笑う。 「男は嫌いよ。あいつらは女をただのはけ口にしか見ていない。本当はあの子達をわたしの体験したことをなぞらせようとしたの。でも、あんまりにも可哀想だから、やめたわ。せっかくの客人だもの。少しでも楽しまないと損よね。いずれとろりと溶けて一つになるんだもの。ああ、なんて優しいのかしら」 羽入は息を呑む。目の前のオヤシロ様という者の正体が分かった。 「──そうか、お前は?」 あ、確かにオヤシロ様だ。ただし、違う。自分と同じ鬼である。ただし、同じ一族ではない。あれは人間であるのだから。 「ふふっ。ダメよ。言わなくてもいいわ。あなたがどう思うと遅いのよ。私はそうあり続けた。これからもそうあり続ける。この雛見沢の地が望んだことよ。本当はずたずたに引き裂いてもいいの。ほんの気紛れを。痛みは一瞬。壊れるのも一瞬。面白くないわ。けど──あなたは壊してもいいわよね」 オヤシロ様は黒い巫女服を脱ぐ。裸身を晒す。艶と同時に早熟な香りがする。 「あなたはいつ散らしたのかしら? あの子達はいつ散らすのかしら? 好きな人がいるのかしらね? わたしはいつだと思う? どうしてだと思う? そうなったのは誰の所為だとと思う? あなたは分かるのでしょう?」 うねうねと動く八つの尻尾は羽入に絡む。獣毛は蠢き責めたてる。 「優しく? 激しく? どちらがお好み? 神よ。どうして居るのよ! あなたが居るのにどうしてこうなるの? あなたは何をしていた! 何をしようとしていた! ああ、会えて嬉しい。こうやってくびり殺せるのだから」 それはまさに憎しみだ。八つの尻尾は羽入を締めくびり殺そうとしている。獣毛は針のごとき硬さで突き刺さる。血は流れ落ちる。 「あなたはオヤシロ様。わたしもオヤシロ様。殺して入れ替わるわ。それが雛見沢の望みですもの!」 力を込めていく。「ああっ!」甲高く悲鳴を羽入は立てる。オヤシロ様は笑う。高らかに狂う。いや、違う。狂っていた。作り上げられたときからすでに狂っていたのだ。 「さあ、死ね! 死んでしまえ!」 そう宣言した。 「おっと、そうは行かないぜ」 声が響いた。ヒーロー推参である。 「誰だ!」 振り向くと、一人の少年──圭一が立っていた。 「馬鹿な。どうしてここに? 一般のものが入れるんだ? 私は招待してないぞ?」 驚愕する。自分が呼んだ物以外にここに入ることは出来ない。 「理由? 簡単だぜ、それは」 圭一は宣言する。 「なぜなら、俺が前原圭一だからだ! この前原圭一に不可能という文字は無い! 全てを壊し打ち立てるぜ!」 天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ。もえを語れと圭一を呼ぶ! 「おい、レナ、魅音、沙都子、梨花ちゃんに詩音。さっさと目を冷めろよ──まあ、こういうのも嫌いじゃないけどさ。その──間違っているからな」 全裸のみんなに目をそらしながら圭一は言った。 「なんだと?」 オヤシロ様は唸る。見れば分かる。ただの少年だ。だが、護りを抜けて、ここまで来た。ただの少年ではない。 「そもそもだな。全裸で絡むというのが安直なんだ。ヌルヌルは良い。格闘技の試合に厳禁でも、こういうプレイには欠かせない。男と女よりも女同士の方が映える事は認めよう。だが、全裸とは何事だ? 生まれたまんまの姿が美しい? 貴様、歯を食いしばれ! 違うだろ! 安易だ安易だ安易なんだよ! 男はパンツを見たいんではない。パンチラが見たい! パンツだけを見たくない。パンツに包まれた形を見たい。ああ、そうだ! お前のやったのはただ見せてるだけだ。情緒もへったくれも無い! 知ってるか? テレビチャットですぐ脱ぐ女には客がつかない。ああ、簡単に終わって事を済ませるからな。焦らしとチラリズムを馬鹿にするな!」 とうとうと語り始める。唖然とする。こいつはなんなのか? 誰なのか。分からない! けれど、レナたちは圭一に気付かず溶け合っている。 「よし、全員ブルマ着用!」 驚くことが起きた。圭一の叫びと共に全裸で絡み合うレナたちがブルマを着用したのだ。 「ほら、みろ、これこそが萌えだ。濡れて透きとおる体操服の乳首をかんでしごく。ブルマ越しに責め合う。感覚が鈍り、つい力が入ってしまう。そんな嬌声を俺が見たいんだ。裸の穴を突っ込むより、ブルマとショーツをずらした方が良い。絶対だろ、それは? そもそもブルとは女性の復権のシンボルだったんだ。女の自立の象徴だったんだ。それが今では二次元のみに。情けないとは思わないか? いや、スパッツも良いぞ。張り付くお尻はなんとも言えん。だぶだぶズボンも良いな。ジャージは隠れてしまう。だが、それがいい! 隠れて見えないのを責め立てる。脱いで汗にまみれた素肌を拝む。ううん、燃えて来たぞ。よし、次は水着だ! まずはスク水からだな」 今度は全員がスク水姿になった。 「なんだ? どういうことなんだ? 何で、あいつはわたしの中で自由に振舞えるんだ?」 分からない。オヤシロ様には分からない。前原圭一は何者なのか? どうして自由にここをいじれるのか?」 「分からないのですか?」 後ろから声がした。振り向こうとする。それが最後だった。 激しい音に圭一ははっと気がつく。目の前にはあのオヤシロ様は居ない。代わりに知恵先生が立っている。 「大丈夫でしたか、前原君」 いつものサマーワンピースではない。二の腕などに刺青が見える。手には馬鹿でかいパイルバンカーを持っている。 「あなたのおかげで本当に助かりました」 血まみれで倒れる羽入に癒しの光を当てながら知恵先生は言った。 「えっと、それにしても、ここはどこなんです? 何で、あいつはこんなことをしたんです?」 そもそも今も絡み合うレナたちをどうして連れてきたのか。圭一にはさっぱり分からない。 「そうですね──ここはあのオヤシロ様と言っていた者の世界です。そして、あれは──」 知恵先生が言おうとしたとき、 「あれは作られたオヤシロ様なのです」 と、羽入が言った。 「羽入! 大丈夫なのか?」 慌てて、圭一は駆け寄る。羽入は血まみれなのだ。 「ボクは大丈夫です。それより、知恵先生、あいつは──」 はあはあと荒い息をついて、羽入は聞く。 「あれなら消滅しました。転生すら敵わないでしょうね」 知恵先生の言葉に羽入は「……そうですか」と、呟いた。 「んで、あいつはなんだっだ?」 圭一の疑問に、 「オヤシロ様です。ただし、雛見沢の住民が作り上げた虚構の神です」 と、言ったのだ。 「蟲毒と言う術があるのです。元は中国から伝わった外道の術です」 蟲毒──それは呪いの一つで壷の中に毒虫や毒蛙や蛇などをぎゅうぎゅうに入れて土の中に入れる。中のものは共食いを始めて一匹だけが生き残る。その力を利用し、さまざまなことを行なうのだ。人を呪い、内臓から腐り果てたり家自体の断絶。蟲主となって、その力で己の家に金を呼び込んだり(ただし、定期的に生贄を提供しないと喰われてしまう。生贄は人でないといけない)本家中国も蟲毒はさまざまな方法があるが、日本でも独自の発達を遂げていた。 「──昔の雛見沢は鬼の住まう地として近隣から怖れられたのです。独自の掟から他と交流することが少なかったのです。だから、たまに起こる交流が激しい偏見と迫害で迎えられる時期もありました。そんな時に自らを守るために作り上げたのです」 今でこそ偏見と迫害は少ないが(とにかく表向きは)かつては、その地に住まう地域ごと区別(差別)していた時期は確かにあったのだ。「一体、どういう呪法です。ほぼ、自分の世界を構築していて、かなりの力の持ち主ですよ」 知恵先生もかなりの力を持つ。並みの術者など比べ物にならない。まして、戦いに特化した術者だ。異端を断罪し、代行し続けてきた。それでも、このオヤシロ様には手を焼いた。少なくても正面からでは戦うのはかなりの厄介だった。幸いにして前原圭一の力を借りて、何とかできたのだが。 「──あまり、言いたくないのです。これを作り上げるのには、それこそ目をそむける所業の数々の果てですから」 羽入が言いよどむのも無理は無い。まさに悪魔の所業と言うか正気では行なえぬ法だった。 簡単に言うとただの蟲毒ではない。虫や蛙。蛇などだけではなく、犬や猫、狐──さらには赤子まで使用していた。貧しき村で次々と生まれる赤子はただの邪魔として始末する場合もあった。さらに近親相姦で奇形の場合も。これらをいくつかの壷で育てたコドクに掛け合わせ純度を高めていった。これはこの雛見沢に生まれた業ではなく他から伝わった秘伝秘術と言われる。 あまりの呪いの強さに持て余し封印し忘れ去ろうとしたモノだった。 だが、沙都子があの日、カラクリ箱を開けたことで封印が解けた。少しずつ現実に侵蝕し呪い己の世界に引き込んでいった。蟲毒は互いを貪り合い箱の中で一つにしかなれない。ある意味で沙都子たちは幸運だった。場合によってはすぐさまにドロリと腐りはてる場合もあるのだ。高められた純度ゆえ、持ち主はある種の正気があったからだ。だが、いずれは溶けて贄となるのだが。 「それにしても、どうやって、あいつの術を解いたのです。圭一は何をしたのです」 羽入は疑問を口にした。ここはあいつのうちの中。いわば主のようなものだ。だが、圭一は暴れ叩き潰した。どうやって? 「ああ、それは簡単ですよ。前原くんの妄想──ではなく、仲間を思う力を利用したのです」 呪いを破る一番の方法は単純である。上まわればいいのだ。鈍感な人は呪いにかかりにくい。呪いを信じず吹き飛ばしてしまうからだ。 不安な予兆から人は怯える。つけこまれる。圭一は何も知らなかった。さらに激しい妄想というか口が達者というか相手を引き込むと言うか、そういうものを持っている。全てをぶち壊してでも突き進む強い心を育ててきたからだ。 「……はあ、なんとも凄いのです」 もう、あきれるしかない。知恵先生は圭一のある方向に特化した強い意志で相手の世界を侵蝕させ隙をつくり叩き壊したと言うことなのだろう。 「ははっ。とにもかくにも解決だな。おーい、いつまでやってんだ? そろそろ帰るぞ」 からからと圭一は笑い、いまだ絡み合うレナたちに声をかける。 「あっ、圭一君だ」 「──圭ちゃん?」 「あらら、圭ちゃんですね」 「圭一さんですか」 「みぃ、圭一、見つけたのです」 うつろな目でにじり寄ってくる。 「えっ?」 うろたえる。 「こらまて、正気に戻れ。と言うかズボンに手をかけるな、お尻触るな、破ける引っぱるな、服っ、服っ、あっ、あー。ていうか、知恵先生、羽入。見ていないで助けろー!」 圭一はレナたちに絡まり飲み込まれていった。あてられいまだ正気でない彼女たちは理性と言うたがを外し圭一にのしかかる。キスをして、あらゆるところを舐めてしゃぶり、己へと導く。 「あらあら激しいですわね」 知恵先生は目をぱちくりとする。 「あぅあぅ、エッチ過ぎるのです」 羽入もおろおろとする。 「でも、どうしましょう?」 主は消えた。けど、世界は崩壊しない。 「……たぶん、残り香があるのです。みんなの中に変質して蔓延してるのです」 と、羽入は答えた。 「んー、そうなると彼女達を満足させるまで消えないわね」 少し考えて、知恵先生は言った。 「──そうなると思います」 羽入も答えた。 「と言うわけで前原くん。みんなを満足させてあげてね。そうすれば出られるから。大丈夫。後のことは何とかしておきますから」 にっこりと微笑んで、知恵先生は言った。 「ああっ、まって。まって。置いて行かないで。あっ、こら、そんな所舐めるな。うわっ、これは──ええい、もうやけだ。みんなまとめて面倒見てやる!」 といって、自ら飛び込んでいった。まず、レナにキスをした。魅音と詩音は圭一の乳首を舐め、沙都子と梨花は怒張する男根を舐めている。脳髄がとろとろに溶けそうだが気をしっかり張って挑む事にした。 誰もがうらやむ修羅のヘブンへと飛び込んだのだった。 次の日、古手神社の境内でみんなが発見された。満足そうに寝ていた。さまざまな着崩れた衣装に身を包み、全身に白くこびりつけたものをつけて発見された。圭一は全裸だった。その後、どうなったかについてはご想像に任せることとしよう。 おわり
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私は、はやる気持ちを抑えながら、いつもの病室のドアを開けた。 そのカーテンの先には……悟史くんが居る。 悟史くんは、ベッドの上に身だけを起こし、監督と話をしていた。 問診というやつだろう。 「あの、監督……入っていいでしょうか?」 「いいですよ、詩音さん」 その言葉だけで胸が跳ねた。 一歩一歩慎重に、悟史くんを驚かさないように…… 「さ、悟史くん……おはよう」 「……誰?」 少し、言葉に詰まる。 「詩音……園崎詩音、覚えてる?」 「……ああ、魅音の妹か」 なんとなく、記憶の中の悟史くんと違う。 でも、目の前のこの人は……間違いなく悟史くんだ。 「詩音さん、悟史くんは……少々記憶の混乱が見られますので、 今質問は控えてもらえますか? 記憶の程度を今分析していますので……」 監督が耳打ちした。 悟史くんはそれを不審に思うこともなく、 ただぼうっと空中を見つめていた。 「は、はい……また来ますね」 「ええ、ぜひ」 監督は笑顔で私を送り出してくれた。 本当は……私が今入ってきてはいけなかったのかもしれない。 そんな気持ちを胸の中に抑えつつ、 私は駆け出した。 次の日に診療所へ向かうと、 私がいつも同じ時間に来るのが分かっている監督が、 診療所の前で待ち構えていた。 「あ、詩音さん……あの、悪いんですが」 「まだ無理なんですね、いえいえ、悟史くんに会えるんですから……ちょっとの間ぐらい我慢しますとも」 「……はい、すみません」 今度は私が、監督を笑顔で診療所へと送った。 次の日も……その次の日も。 私は、一ヶ月待った。 その時間は、私が今まで待った時間よりもはるかに長く感じられた。 それでも悟史くんが居ると分かった後の期間は、 どこか寄りかかるところが無かった今までよりも充実していた。 だから…… 私は。 生まれて始めて、手首を切った。 「詩ぃちゃん……腕時計なんかしてたっけ?」 レナは、恐ろしいぐらい勘がいい子だ。 私を放課後の教室に呼びつけるなり、 そう言った。 「……ええ、確かに今日からしてますけど、 それが何か?」 「……ごめんね、ちょっと気になったの」 「何が……です?」 こちこちと、時計の針の音がうるさかった。 その音が、この長い静寂がそれほど長くないものだということを、 嫌というほど聞かせてくれる。 「あの、レナ……帰りますよ?」 「詩ぃちゃん、これ見て?」 いつも手首を曲げているレナが、 私にはっきりと、私の手についたのと同じものを見せてきた。 「……あのね、こんなことするのは、何かあったからだよね? レナ、相談に乗るよ?」 私は、恥ずかしさに頬を染めた。 一緒に戦い抜いた仲間じゃないか。 それなのに、私は自らを集団の少し外に置いていた。 悔しかった。 悟史くんに会えたのは……皆を信じたからなのに。 悔しくて悔しくて、手首を切った時には溢れなかったものが、 目からぽろぽろと零れ落ちる。 「し、詩ぃちゃん……」 レナは、おろおろとしつつも、ごく冷静にハンカチを差し出してくれた。 「悟史くんのこと?」 どきっとした。 この子の勘は……鋭すぎる。 「……って、言われたの」 「何?」 「近づくなって……うぇ、っ……うううう、うぁああああああ!!!」 レナはそんな取り乱した私を……包み込んでくれた。 「大丈夫だよ……悟史くん、居たんだよね? どこかに行ったんじゃないんだよね? じゃあ、大丈夫だよ?」 「うぇえ、うぅ、うぇえええ!!」 背中をぽんぽんと、レナは叩いてくれた。 「好きなだけ泣いて? でも、その後は笑お? だって、詩ぃちゃんは今幸せなんだもの。 意中の人が、ちょっと遠ざかっただけだから」 レナの言っている意味が……心の奥に染み渡った。 レナの好きな圭ちゃんは、お姉を選んだから。 「……男の子なんて、この世にいくらでも居るよ」 本当は、自分だって泣きたいはずなのに。 私は自分がまた恥ずかしくなって…… また泣いた。 「それに……女の子が好きな……女の子だって居るんだよ?」 突如として、私はより強く抱きしめられるのを感じた。 レナの鼓動がすぐ近くにあって、 この世に存在するあらゆる音より大きく聞こえた。 「詩ぃちゃん……私、一杯慰めたよね? だから……私も慰めてくれる?」 レナの手が、少しずつ下へと這っていく。 「れ、レナ……?」 私が信じられないものを見るかのような目でレナを見ると、 レナはびくっとして、すぐに手を引いた。 「ご、ごめ、わ、私……何してんだろ?」 「い、いいですよ……レナを、慰めますよ…… でも、私……どうしたらいいか」 「本当にいいの? 詩ぃちゃん?」 真っ赤になったレナの顔が、急にいとおしく感じた。 「……ぅん」 私は、机を掴んでお尻を突き出す形になった。 レナが後ろから、私の胸に手を回していた。 右手は胸に……左手は、太ももに。 「はっ……くっ、れ、レナぁ」 それだけの行為なのに、 私の腰は抜けそうになって、がくがくと震えていた。 「詩ぃちゃん、かぁいいよ」 レナが囁くように言った。 そのまま、みみたぶを噛んで来る。 「あぅっ!」 「詩ぃちゃん、感じやすいんだね……もう、大変なことになってるよ? もしかして、毎日毎日してたのかな?」 「れ、レナ……おじさんみたいです……はくっ!」 レナが首筋を撫でてきた。 もうどこを撫でられたって、 私の全ての皮膚は鋭敏になって、 下着がずれただけで体が痙攣するようになってしまった。 「じ、焦らさないでッ!」 「詩ぃちゃんずるいよ……私はまだ気持ちよくなってないのに」 そういうレナの目は、とろんとしていた。 「嘘でしょ、レナ……」 私は机に座り、レナを抱きしめた。 そのままレナとキスをする。 唇へのキスだ。 本で見たとおり、舌を突き出してみる。 レナはそれに応えて、舌を付き返してくれた。 「あむぅ……にゅ、ちゅりゅ」 声にならない声を、口の間から出す。 レナの顔は再び真っ赤になった。 すごく分かりやすい子だ。 「レナ……胸をいじったことはあります?」 「……ぅん」 「包皮を剥いたことは?」 「詩ぃちゃんも……おじさんみたいだよ?」 「質問に答えない悪い子は、全部やっちゃいます」 私は、口でレナの乳房を責めた。 右手はレナの左胸に。 左手はレナの秘所に。 「あっ、あぅ……はぅぅぅ、だっ、詩ぃちゃん、いっぺんにはダメェ!」 レナは……一瞬にしてイってしまった。 また私はキスをする。 レナが窒息しそうだったので、今度はすぐに口を離した。 はっ、はっと苦しそうに、レナは肩を上げ下げしていた。 「し、詩ぃちゃんにも……しないとね?」 レナは恐ろしい回復速度で、 私を押し倒した。 「あ、レッ!」 私はレナに犯される様に、机に仰向けに寝そべる形になった。 目に見えるのは教室の天井じゃなく、一面のレナの顔。 私はまた、唇を奪われていた。 しかも今度は、私が一方的に責め立てられている。 レナの無秩序とも言える、 痙攣するような手が、私の大事なところで震えていた。 口をふさがれているから、息をすることもままならない。 レナがやっと口を離してくれた。 私は大きく息を吸う。 「詩ぃちゃん、悟史くんに沙都子ちゃんのこと頼まれてたんだよね? 沙都子ちゃん、近頃詩ぃちゃんが全然かまってくれないって、 私に泣きついてたよ?」 レナは責める手を止め、今度は言葉で責めてきた。 「ぇ……あ、だ、だって……沙都子はもう大丈夫……」 「嘘だ」 レナがそう囁きゆっくりゆっくり、手を動かす。 私の中に指を挿入しようかどうか、迷っているように。 「詩ぃちゃんは沙都子ちゃんのこと……頼まれてたんでしょ?」 「は、はぃ……沙都子のこと頼まれてましたぁぁあ……あぅっ!」 突如として、レナが私の中に指を入れた。 「れ、レナぁ……」 突然の衝撃に……私は失禁してしまった。 「ご、ごめ……ぐすっ、うう」 「わ、私こそ……ごめん、考えもなしに嫌なこと言っちゃって……」 「ううん、私が悪いんです、悟史くんのことばっかり考えて、 沙都子のことをないがしろにしてたから…… 私が悪いんですぅぅぅ……」 「詩ぃちゃんは悪くないよ……私のほうが悪いもん。 失恋したからって……詩ぃちゃんに当たって…… 魅ぃちゃんに似てるからってね……」 私たちは、雑巾で後片付けをした。 なんだが自分が情けなくなってくる。 こんな年になって、おもらししてしまうなんて…… 「あ、あの、レナッ……その、今度は」 「今度は無いよ、詩ぃちゃん。 今度は私も、いい男の子を見つけるんだ」 レナはそういって、笑ってみせた。 「じゃ、じゃあ、その時はダブルデートしましょ、 レナなら絶対見つかる! 圭ちゃんなんかより、 万倍いい男が見つかるよ! だって……」 「あっ」 私は、レナの傷ついた手を取った。 「こんなに綺麗な手をしてる」 レナは、また赤面した。 リハビリ室は、突き当りを曲がったところ。 あらかじめ位置は把握していた。 そのドアを叩かず、私は元気に開けた。 「おっはよー、悟史くん! 監督!」 「あはは、元気ですねぇ、詩音さん」 「むぅ、詩音、ここは病院だよ?」 私は、あの後苦労しつつも、なんとか悟史くんと普通に接せるようになっていた。 「悟史くんも、元気ですねぇ、さっすが朝」 「ふぇ?」 悟史くんは、私の言葉に騙されて、下を向いた。 「ひっかかったー!」 「む、むぅ……」 いま思えば、悟史くんの変化なんて、一瞬のことだった。 私は悟史くんの外見を見て恋をしてたの? 違う。そうだよね? レナ? 私は、レナの醜いけども……お料理やお裁縫や、 その他の努力で何年も頑張った手を思い出した。 綺麗な手 ―完―