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前へ ~隊員C~ 『僕は死んだのか?』 のび太は暗い闇の中で目覚めた。 「ここは……さっきの部屋なのか?」 「そうだよ。のび太君」 「!?」 のび太は寝そべった状態からすぐさま立ち上がり戦闘体勢をとった。 「さすがに動きが早いね。でも僕は敵じゃあ無いよ」 目が暗闇に慣れていき、声の主がはっきり見えてきた。 「…あなたは……タイムパトロールですか?」 「久しぶり…いや初めましてと言うべきかな。 僕はクッド。仲間からは隊員Cと呼ばれてるよ」 このクッドと名のる青年。 見た目は20歳前後。肌は白く髪は黒のショート。 初対面だが何処か懐かしい雰囲気を漂わせる不思議な青年だった。 「クッドさんが僕達を助けてくれたんですか?」 「そうだよ。ギリギリ間に合って良かった。 あと少し助けるのが遅かったら死んでいた所だよ。 僕がこの部屋に入ってきた時、君達に瓦礫が落ちてきた所でね。 僕はとっさにウルトラストップウォッチを押して時を止めて、君達をすぐに移動させたのさ」 「じゃあジャイアン達は……」 「よぉ、のび太!起きたか」 後ろにはジャイアンとスネ夫が立っていた。 「クッドさんが言ってた通りこの先にタイムパトロールは監禁されてませんでした」 「そう……やっぱりな」 状況がいまいち飲み込めないのび太にクッドは説明を加えた。 「剛田君達はあの時気絶しなかったんだ。 だからこの先に僕の仲間が捕まってないか確かめに行ってもらってたんだ」 「じゃあ今も時間は止まったままなんですね?」 のび太は周りを見渡した。 天井から今にも崩れそうな岩が顔を出したまま止まっている。 「だったらこのまま出木杉の所へ」 「それは無理なんだ」 クッドはポケットからウルトラストップウォッチを取り出した。 「これは……」 時計は画面にヒビが入り、今にも壊れそうな状態だ。 「出木杉は頭が良いみたいだよ。 僕達がこの時代に来ることを予想して未来の道具対策を用意していたみたいだ。 何の影響かは分からないけど使用した道具は使えなくなってしまうんだよ」 クッドは使い物にならなくなったショックガンの引き金を引いて見せた。 「この時計が壊れるまで後もって10分。 10分以内にここから脱出しないといけないんだ」 「おぉ!久しぶりの外だぜぇ!」 ジャイアンは外に出たことの嬉しさに思わず、叫んでしまった。 脱出はスムーズにいった。 ジャイアン達が先に罠を解除してくれたおかげで 走れば5分もかからずアジトの外に出れた。 そこから係員に見つからないようにドームの外に出たのだった。 「そう言えば凄い長い時間地下に居たからねぇ…… ん?のび太どうした?」 のび太はボーっと前だけを見ていた。 「え?……いや何でもないよ」 「きっと疲れたんだよ。明日も試合何だろ? のび太君のお父さんには僕から言っておくからもう部屋に戻りなよ」 三人はうなずき、部屋へ帰って行った。 「……昔から変わらないな。 こんな見ず知らずの男を信用する何て……」 クッドは一人笑い、空を見た。 「でもそれが彼等の良い所なんだよな……」 クッドは少し目をつむり考えた後、裏山に向かった。 『後は……あのことを伝えるだけだな』 「……もう朝か」 のび太は早めに目が覚めた。 窓からほのかに太陽の光がさしこんでいる。 まだ熟睡中の二人を起こさないように部屋を出て ドームの外のベンチに座り、ジュースを飲みながら周りを眺めた。 「そう言えば……こんなゆっくりの朝って久しぶりだなぁ」 あの事件から三ヶ月。 朝起きたらすぐに戦いか修行の毎日だった。 「まぁ起きたらすぐドラえもんに怒られて学校に走って行ってたんだけどね」 自分で言ったことがおかしくてのび太は笑った。 「ドラえもん……無事だよね」 あれから一度も聞いていない独特のドラ声がとても懐かしかった。 「のび太君」 声の方を向くと、クッドがこちらにやって来た。 「君に話しておきたいことがあるんだ」 「分かってますよ。 ドラえもんに聞いたことがあります。 もしもボックスの使用には2つのルールがあるって。 1つは世界の中で人を殺してはいけない。 もう1つはあまり長期間使用をしてはいけない。 この2つのルールの内どちらか1つでも破られればタイムパトロールは強固の手段をとる」 「そう……全世界の未来を変えない為に使用者を殺すんだ。 そしてその攻撃はあと数日以内に始まる。 つまり君の友達……出木杉を救うには数日以内にもしもボックスを破壊しないといけないんだ」 のび太は拳を強く握り締めた。 タイムパトロールが来た時から予想はついていた。 だけど……やっぱりこの決まりはおかしい。 「……どうして。どうして殺す必要があるんですか?」 ガシッ! 「あいつはただ母親と一緒に居たかっただけ何だぞ!」 のび太はクッドのすそを掴み叫んだ。 「あなたに分かりますか! 家族が……居なくなって…一人ぼっちのあいつの気持ちが…… 僕達にはあいつを救う義務がある!あなた達には絶対殺させはしな…」 ドシャッ! クッドはのび太を地面に叩き付けた。 「話をよく聞くんだ! 僕はまだ数日あると言ってるんだよ! 君達がどんなに出木杉のことを思ってるかは僕も知ってる。 僕が攻撃を延ばしてる間にもしもボックスを破壊しろって言ってるんだ!」 「……まさかあなたが攻撃を延ばしてくれてたんですか?」 「そうだよ。この時代のことは未来でもかなり有名になってる…… 攻撃の開始はもう秒読み何だよ!」 「そうだったのか…」 のび太はクッドの言葉にショックを受けた。 いくら出木杉でもタイムパトロールの力には勝てないだろう。 それどころかきっとこの街もかなり被害を受けることになる。 只でさえ厄介なこの状況。 さらに厄介になることは間違いなかった。 「安心してくれ。僕が後5日はもたせる。 出木杉を救いたいなら5日以内にもしもボックスを破壊するんだ」 「…分かりました。必ず出木杉を…いやみんなを助けてみせます」 「頼んだよ」 のび太は無言でうなずいた。 「それと……実は君と話をしたいと言う人がもう一人いるんだ。 誰か分かるかい?」 「?……誰が…」 困惑するのび太に聞こえてきたのはあの懐かしい声だった。 「のび太君」 「!? こ…この声は…」 「通信が可能なのはこの一回だけだ。思う存分しゃべりなよ」 クッドの声はもうのび太に聞こえてはいなかった。 気付けばクッドの手の通信機は奪い取られていた。 「ドラえもん!」 「のび太君!」 「……久しぶりだね」 不思議だ。今まではしゃべりたいことが沢山あったが実際にしゃべってみると… 「何か……何しゃべれば良いか分かんないね」 どうやらドラえもんも一緒の様だ。 僕達は笑った。 ただそれだけなのに……凄く嬉しかった。 それから約五分。 何のへんてつも無い雑談が続いた。 「じゃあまたね」 といつも話し終る様に話は終わった。 正直……どんなことを話したかは覚えてない。 ただ……生きてくれているだけで良いのだ。 言葉何か交さなくても……目を合わさなくても…… 生きてくれてる。 それだけで……僕は… 「それじゃあ僕は行くよ」 クッドはポケットから小さなミニチュアを取りだし、地面に置いた。 するとそれは大きくなり巨大な宇宙船…いや時空船になった。 その後地下で会ったビーが裏山の方から現れ、 のび太と軽くしゃべった後時空船に乗り込んだ。 次にクッドが時空船に乗り込んだが、何かに気づき降りてきた。 「ピンチの時はこれを使ってくれ」 タイムパトロールは去って行った。 のび太の心に不安と希望を与えて…… ~のび太VS憂作~ 『二ヶ月前』 「くそぉ!間に合うか!」 俺は必死で走り、商店街の花屋へ向かっていた。 ガラッ! 「はぁ…はぁ!すいません。リーガの花ってまだありますか?」 「まぁ、憂ちゃん!大きくなったわねぇ。 リーガの花って……もしかして彼女へのプレゼンt(ry」 「ははっ!違いますよ」 俺はオバサンの冗談を軽く受け流し、話を続けた。 「今日は母さんの誕生日何だよ。リーガの花は…」 「分かってるわよ。 リーガの花の花言葉は『言葉に出来ない感謝』さすが植物博士ね」 オバサンは店の奥へ行き、とても綺麗な赤色の花を持ってきた。 「運が良かったわね。これが在庫の最後よ」 俺は花を受け取り、家に急いだ。 「待っててね。母さん」 母さんは昔から俺のことを大切に育ててくれた。 父さんが借金作って夜逃げした時も…… 俺が自殺しようとして学校の屋上から飛び降りた時も…… 絶対に俺を裏切らなかった。 ガチャッ 「ただいま……?」 おかしい。 この時間にはいつもパートが終わってる時間の…はず 「母さん、居ないの?」 暗闇の奥から返事は無かった。 だが、リビングへ向かうとその答えを示す物がテーブルの上に見つかった。 『憂作へ 勝手な母さんを許して下さい。 お爺ちゃんの所で元気に暮らして下さい。さようなら』 チラシ裏に書かれたたった2つの文…… その2つの文は文字が崩れ愛のひとかけらさえも感じられなかった。 「何でだよ……母さん」 俺の手から落ちたリーガの花は……まるで血のように床に飛び散った。 ドンドンドン! 「…うっ!」 「憂作選手、出番ですよ!」 「すいません、今行きます」 『またあの日の夢か……』 孤独になったあの日以来……あの日の夢ばかり見ている。 俺が大会に出た目的はただ1つ。 この悪夢を終らせることだ。 きっとこんな夢を見るのは俺がまだ弱いから。母さんにまだ未練があるからだ 強くなれば悪夢は終わる。 そう思い続けて俺は特訓をしてきた。 「俺は他の甘っちょろい奴とは違うんだ」 『のび太達の控室』 僕はジャイアンとスネ夫に朝のことを伝えた(ドラえもんとの会話は内緒にしといた)。 もちろん驚き、ジャイアンに殴られた。 スネ夫にも軽くキックされた。 「何でそんなこと今まで隠してたんだよ!」 「いつ攻撃が来るか分からなかったんだよ。 って言うかタイムパトロールが来るまで忘れてたし……」 ジャイアンはまだ納得してないみたいだが、ここで話は中断になった。 《のび太選手、ホールに来て下さい》 「ごめん、行ってくるね」 僕は部屋を出て、ホールへ向かった。 すると途中でパパが待っていて、僕を呼び止めた。 「のび太、対戦相手の憂作……奴は強いぞ。 奴はずっと一人で戦ってきた。つまりお前とまったくの逆だ。 奴は…奴のポケモンには他のポケモンとはまるで違う力がある」 「……僕は負けないよ。 確かに僕はあいつと違う。 ずっとみんなに支えられてここまで来た。 確かにそれは弱さかもしれない。 でも……僕はみんなが居たからここまでこれたんだ。 憂作に見せてやるよ。 仲間が居るからこその力って奴をさ」 パパは僕の言った言葉を聞き、何かに満足したように言った。 「勝って来いよ」 ……準備は良いですね。試合開始!」 二人のポケモンが同時にステージに現れる。 『ピカチュウか。俺の相手じゃないな』 『ワタッコ……厄介なのが来たな』 睨み合う二体。 先に動いたのはピカチュウだった。 「ピカチュウ、10万ボルト!」 ワタッコに向けて放たれた電撃は空を斬り、ステージの床に当たった。 「指示もないのに避けた!このワタッコ、強い!…」 「驚いてる暇は無いぞ。ワタッコ、はねる!」 「えっ!?」 のび太は2つのことに驚いた。 はねるを使ったと言うこともある。 だが真の驚きは跳ねたワタッコの体が空高く浮かび上がったことにあった。 「ワタッコが飛んだ……」 のび太は見たことも無い光景に呆然とした。 「どうだ?面白いか?ならもっと面白いもの見してやるよ。 ワタッコ、しびれ粉を巻き散らせ!」 ワタッコが体から金色の粉を吹き出し、上空を覆った。 照明の光が粉に反射し、ドーム内は金色の明かりに包まれる。 「まずい!これじゃあ避けきれない。 ピカチュウ、かみなりでワタッコを撃ち落とせ!」 金色の粉を上から何発もの雷が貫く。 だが粉に隠れて見えないワタッコに雷が当たるわけがなかった。 「ははっ、見えない相手にどうやって当てるんだ? いくら電気で粉を焦がしても意味が無いぞ?」 「粉を……焦がす?」 『ワタッコに攻撃を当てることは出来ない。 ワタッコの攻撃を避けることも出来ない。 それはみんなあの粉のせいだ。あの粉の向こう側に行けば……』 「ピカチュウ、体中の電気を掻き集めろ!」 ピカチュウは待ってましたとばかりに、体に電気を溜める。 もう粉の壁はのび太の頭上すぐそばまで来ていた。 「一気に貫け!ヴォルテッカーだ!」 ピカチュウは光の塊となり、粉の壁に突っ込んで行った。 「自分から突っ込む何て正気か!?」 ボン! 《これは!?のび太選手のピカチュウが粉の壁を貫きました!》 「何だって!?」 粉の壁の向こうは見えないがどうやらピカチュウは無事のようだ。 「ピカチュウ聞こえるかぁ!あとは自由に戦って良いぞぉ!」 「あのネズミが俺のワタッコに勝てると思ってるのか? あのワタッコは産まれた時から一人で、ずっと戦ってきた。 お前のピカチュウじゃ……」 「残念だったね。僕のピカチュウは絶対負けない。 あのピカチュウも産まれた時は一人だった。 でもあなたのワタッコと違うのは、産まれてすぐ僕と出会ったこと。 ピカチュウはずっとみんなに支えられてきた。 誰よりもあいつは知ってるはずだよ。仲間の大切さを……」 「こ、これは……」 のび太の頭ギリギリの所で粉は消えた。 すると上空からボロボロのワタッコが落ちてきた。 「ピカチュウ、良くやったね」 のび太の肩にピカチュウが誇らしげに着地した。 (投下省略:ワタッコを撃破した後も二人は激しい熱戦を繰り広げていた。) 「メガニウム、そのままのしかかりで押し潰せ!」 ハッサムの上のメガニウムがさらに体重を架ける。 「ハッサム、メガニウムの顔にアイアンヘッドだ!」 ハッサムの硬い頭ががら空きのメガニウムの顔にめり込む。 「とどめのギガインパクト!」 ひるんだメガニウムの体に光るハッサムの腕がヒットした。 「はぁ…はぁ。お前…やるじゃねぇか。 何だ?お前も何か目的が有るのか?」 「……僕はただ友達を助けたいだけだ」 「へっ、つまんねぇガキだな。 俺の目的はなぁ……強くなって俺を見捨てた母親に教えてやることだ。 見捨てられた奴の気持ちをさぁ!」 憂作が不気味な笑みを浮かべる。 だがのび太にはその顔が幸せそうには見えなかった。 「あなた……自分に嘘をつくのは止めたらどうですか?」 「俺が嘘を?冗談だろ?」 「あなたは本当は母親に帰ってきて欲しいんですよ」 「……違う」 「でも母親に帰ってきて欲しいと思ってる自分が許せない。 違いますか?」 「うる……さい!」 『憂作、おかえり』 『憂作、大丈夫?』 『憂作、ごめんね』 『 さ よ う な ら』「うるさい……消えろぉ!」 エルレイドがステージに姿を現す。 「ソーラビームだ!」 「しまっ…」 ソーラビームはのび太に直撃した。 「そんな、ジャイアン!のび太が!」 「良く見ろ。のび太は生きてる」 光の中から頭から血を流すのび太が現れた。 「ソーラビームの溜めが少なかったおかげだな…… だけどもし次攻撃をくらったら……」 観客が心配そうにのび太を見つめる中二人の会話は再開した。 「……どうだ。痛いだろ?苦しいだろ? 俺はこの何倍もの傷を心に受けたんだ。 母さんを恨むのは当たり前だろ?」 「はぁ……はぁ…っ!」 のび太の体が横へふらつく。 「へぇ……この程度なら僕は耐えられるけどね…」 「へっ、何言ってやがる。もうフラフラのくせして!」 「でも……僕は倒れない。 何度攻撃をくらったって僕は倒れないぞ!」 「お前は!……」 『そんなに男の子が泣いてちゃダメよ』 『でも母さん……父さんが…』 『確かに辛いわね。でもどんなに辛くても苦しくても止まっちゃダメよ。 将来私達は離ればなれになるかも知れない。 でも止まっちゃダメ。 私は必ず憂作を何処かで見てるから……』 「エルレイド、もう良い……」 エルレイドが驚いた様に憂作を見つめる。 「戦いは……もう終わりだ」 「本当は分かっていたんだ。 俺は母さんに戻ってきて欲しいんだって。 誰よりも俺の幸せを願っているのは母さん何だって。 でも……怖かったんだ! 母さんがもしもう戻って来なかったらって思うのが。 ……司会さん。俺の負けにしてく…」 「 待 っ て !」 憂作の声を遮ったのはのび太だった。 「まだ勝負は着いてないよ」 「何言ってるんだ。もう勝負はお前の勝ちのようなものだろ」 「やっと本当の憂作さんが現れたのに勝負出来ない何て嫌ですよ! 僕も切札のホウオウを出します。 だから本当の憂作を見せてください!」 憂作は少し驚き言った。 「のび太……後悔するなよ!」 「……憂作」 二人の戦っている姿を観客席から見ている女性が一人。 女性は見ている途中急に目をハンカチで押さえて席を飛び出した。 「はぁはぁ…ごめんなさい……ごめんなさい!憂作」 「待ちなよ」 前には小太りの男性が居た。 「あなたは誰ですか?」 「今戦ってるメガネの子の親…かな。 まぁつまりあなたと同じですよ。憂子さん」 「!?……どうして私の名を」 「息子の対戦相手のことを調べるのは当然のことですよ。 全部知ってます。憂作君のことも…家庭のことも」 「知ってるから何なんですか? 今からあの子に謝って来いとでも言いたいのかしら?」 「そんなこと言いませんよ。でも……」 バサッ パパはポケットから封筒を取り出した。 「ここにあなたを騙した詐欺師の住所や犯罪履歴が全て書いてあります。 好きなように使って下さい」 「待って!」憂子はパパを呼び止めた。 「私は…私は今さらどんな顔してあの子に会えば良いの? あの子を苦しめたのは私なのに……」 パパは光の射し込む方を指さした。 「……ステージを見て来たらどうですか?」 「これは……」 ステージには楽しそうに戦う憂作の姿があった。 押されてはいるがとても楽しそうで、まるであの頃に戻ったようだった。 「メガネ君が思い出させたのね。あの子の中の優しさを……」 「聖なる炎!」 炎はエルレイドを包み、憂作の周りに広がった。 「勝者、のび太選手!」 ドサッ! 試合終了と同時に憂作は倒れた。 「憂作さん!」 のび太が駆け寄る。 「馬鹿やろう、俺はもう落っこちる。近づくなよ」 「……いい試合だったね」 「ああ。いい試合だった」 『あとは……母さんが居ればな』 「ゆ…さく」 !? 微かにに聞こえた声の方を見ると、そこにはずっと会いたかった人があった。 『母さん!』 憂作は母親に気づいたが、気づかないふりをした。 「ばいばいだな。のび太……」 のび太が憂作から離れる。 『母さん、もう俺は大丈夫だ』 憂作は落ちる寸前に憂子の方に手を突きだし、消えていった。 「……憂作、ごめんね。絶対帰ってくるから…」 その頃パパはロビーで煙草を吸っていた。 「家族……か」 上がっていく煙は止めることは出来ない。絶対に…… 次へ
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前のページ のび太 「ハァ…ハァ…くそっ!」 のび太は焦っていた、野生のポケモンとの戦いを続けいるがいっこうに強くなった気がしない、そんな自分にイラついていた。 のび太 「どうしたらいいんだ……」 足下のブースターがのび太の足にじゃれてくる。 のび太 「やめろ!!」 のび太はブースターに怒鳴った。 のび太 「あっ……」 ブースターの眼がのび太を恐がっている事に気付いた。 ??? 「君、自分のポケモンに愛情が持てないの?」 突然、女性の声が聞こえた。 のび太は声の人物に振り向いた。 のび太 「あっ……あなたは!」 その女性は黒い服に長い長髪のシンオウ地方ではかなり有名な人物 のび太 「リーグチャンピオンの……シロナさん!」 シロナ 「私を知ってるの?まあ…いいわ、君」 のび太 「はっ、はい!」 シロナ 「見た所トレーナーになりたてだけど、そのブースターはパートナーなんでしょ?」 のび太 「はい。」 のび太は素直にうなずく シロナ 「だったら、大事にしてあげなさい。八つ当たりはみっともないわよ。」 のび太 「…ごめんなさい」 シロナ 「謝る相手は私じゃないでしょ?」 のび太は恐がってるブースターを持ち上げ。 のび太 「…ごめんね」 ブースターはニパッと笑った。 シロナ 「うん、それでいいのよ」 のび太 「シロナさんはなんでここにいるんですか?」 のび太はブースターを地面に降ろしてシロナに聞いた。 シロナ 「今はシンオウ地方を旅してるのよ。」 のび太 「へぇ、そうなんですか……ハッ!!」 のび太は気付いた シンオウ地方のチャンピオン、この人ほど強さを学べる先生はいない。 のび太 「シロナさんっ!」 シロナ 「どっ、どうしたの急に」 のび太 「お願いします!僕を弟子にしてください!」 のび太はシロナに土下座した。 シロナ 「そんな、突然……そうだ!」 シロナは何かを閃いた。 シロナ 「君、名前は?」 のび太 「のび太です。」 シロナ 「のび太君、まずはクロガネジムのバッチを手に入れてみせて。」 のび太 「ええっ!?」 シロナ 「でも、君のポケモンじゃ勝つのは難しいわね……」 そう、クロガネジムのタイプは岩タイプ、炎タイプのブースターしか持っていないのび太では勝つのは難しい。 シロナ 「この子を君に渡すわ。」 シロナはのび太にモンスターボールを一つ渡した。 のび太 「えっ!?」 シロナ 「その子と君のブースターでクロガネのヒョウタ君に勝てたら弟子にしてあげる。」 のび太 「わっ、わかりました。」 シロナ 「頑張ってね。」 のび太 「はい!!」 のび太はクロガネシティに向かって走っていった。 シロナ 「さて……どうなるかしら……。」 走っていったのび太の後ろ姿を見ながらシロナは呟いた。 現在の状況 のび太 ブースター LV14 ??? その他 不明 次へ
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前へ 「どうしよう…全然作戦が思い浮かばない…… 早くしないと見つかるし、何か、何か作戦を考えなくちゃ…」 のび太は焦っていた。 余りに広大なフィールドに姿の見えない敵。 これ程作戦を立てにくいバトルは初めてだからだ。 「サンダーにはホウオウが使えない…… ルカリオに苦戦してたら負けは決まる様なもんだ。 隙を突いて、ルカリオになるべくノーダメージで倒さな…」 のび太の言葉はそこで途切れた。 「うわぁっ!?」 突然轟音が鳴り響き、店の商品がいくつも落ちてきたのだ。 音を立てないようゆっくりと立ち上がり、窓から外を眺めるのび太。 その目に映った物は―― ――――――――――― 「フン、この店には居なかった様だな。 ルカリオ、面倒だ。 片っ端から建物に波動弾を放て!」 ルカリオの手に、光が集まる。 そして、その光は多数に分かれ、多くの建物に向かって放たれた。 「し、しまっ…」 その光の一片は、真っ直ぐのび太の居る方に向かってくる。 のび太は後ろに跳び、頭を伏せた。 「う、うわぁぁぁぁぁッ!!!」 音をたて崩れる雑貨屋。 その雑貨屋から響く叫び声を、ジンは聞き逃さなかった。 「フン、そこか」 「フフッ、のび太さーん。 そこに居るのは分かってるのよ。 出てきてぇー」 無惨に崩れさった店に、わざとらしい声で呼び掛けるジン。 もちろん、のび太から返事が返ってくる事はない。 「フフッ、のび太さんの意地悪。 私怒っちゃった。 今から、この店の残骸をぜーんぶ消しちゃうんだから。 ルカリオ」 ルカリオが待ってましたと言わんばかりに両手を上に掲げた。 「……消せ」 両手に集められた巨大な光の弾が、元は雑貨屋だった物に直撃する。 その瞬間、辺りは光に包まれ、光の中から小さなクレーターが現れた。 「……ばいばい、のび太さ…」 「ちょっと待ってよ」 「!?」 のび太の声が後ろから聞こえ、ジンは振り返った。 「何故お前が…」 「咄嗟に店にあった"穴抜けの紐"を使ったんだよ。 もう少しで死ぬ所だったじゃないか、全く!」 「……少し、甘いんじゃないか?」 のび太を見て、ジンはニヤリと笑う。 「余りに突然の事で、ポケモンを出すのを忘れてるぞ? 俺が一声かければ、ルカリオの拳に貫かれて、お前は死ぬ!」 ジンがそう言うと、ルカリオは戦闘体勢をとった。 「フン、「爪が甘かったな、ジン!」 「何!?」 のび太がジンの言葉を遮ると同時に、ルカリオの下から黄色い尻尾が飛び出た。 「こいつは!?」 「ピカチュウ、アイアンテールで地中に引きずり込め!」 ピカチュウに捕まり、ルカリオの姿は一瞬で見えなくなった。 「ルカリオ、そんなネズミ引き剥がしちまえ!」 ルカリオはジタバタと足を下へ振り回そうとする。 だが、地中では上手く体を動かせない。 ルカリオはおとなしく地面に埋まっていくしかなかった。 「ルカリオのスピードも、地面の中なら関係無い。 このままピカチュウが止めを刺して終わりだ!」 自信満々にそう言い放つのび太。 だが、ジンは眉間にしわを寄せて叫んだ。 「俺達を舐めるな! ルカリオ、真下に向かって波動弾だ!」 地中にも届く程の声でジンがそう叫ぶと、ルカリオが拳に光を溜める。 そして、次の瞬間地面から光が吹き上がった。 地中から飛び出すピカチュウとルカリオ。 二体の体は、波動弾の暴発を間近で受け、傷ついていた。 「自分の体を傷つけてまで脱出するなんて…」 ルカリオの鬼気迫る表情に、足を下げるのび太。 のび太は確信した。 『このルカリオは……他のポケモンと格が違うのだと』 「フン、終わりだ。 ルカリオ、波動弾でネズミごとメガネを消し去れ」 「…僕は……僕はまだ負けられない!」 「ぐっ、この煙は!?」 大きな音が鳴り、ジンの視界を真っ白な煙が包み込んだ。 のび太が使ったのは煙玉。 雑貨屋に置いてあった、逃走を確実に成功させる為の道具だ。 「……チッ、メガネの分際で!」 バタンッ 「波動弾!」 音が聞こえた方に、波動弾が放たれる。 だが、そこに居たのは、住人が居ない間に空き巣に入ろうとしていたオッサンだった。 「フン、ゴミが…… 精々必死に逃げてろ、メガネ! 逃げてばっかじゃ俺には勝てないがなぁ!フハハハハハハ!!!」 住人を消した商店街に、ジンの笑い声が鳴り響いた。 その笑い声を背に、悔しさを圧し殺して走るのび太。 「ぴか、ぴかぴぃ…」 ピカチュウも飼い主を心配をしている。 のび太は、そんなピカチュウに優しく笑いかけ、言った。 「ピカチュウ、大丈夫だよ。 昔の僕なら、プライドを守る為にあの場に残ってた。 でも、今は違う。 僕は自分の為に戦ってるんじゃないんだ」 のび太の足が止まる。 まずジンが居ない事を確認し、息を整えた。 そして周りを見つめ、冷静になった頭で作戦を構成していく。 その目に、もう恐れは無かった。 「……プライドなんか、もういらない。 どんなにカッコ悪くても、僕はしずかちゃんを、皆を助け出すんだ!」 「出木杉、全てを憎め。 お前を苦しめたこの世界に、復讐するんだ。 大丈夫、わしの言うことさえ聞けば、全てお前の思い通りに行く…… わしに……従うんだ」 闇の中で潜む老人は、笑みを浮かべながらそう言った。 僕の体は、その言葉を拒まない。 むしろ、自らが望む様に、僕はその老人の手を取った。 「はい、従います。 だから教えて下さい。 この世界に、僕と同じ苦しみを与える方法を……」 「フン、あのメガネ……どこ行きやがった」 ジンは、のび太を見付けられずに居た。 煙玉で見失い、この商店街、 いや、この広い町のどこかに逃げたのび太を、1人で探すのは流石に困難なのだ。 と言っても、闇雲に町を破壊すれば、相手に自分の居場所を教えることになる。 さっきのように、のび太が商店街に入るのを見ていたのなら話は別だが、 今回の様な場合では、地道に町を見回っていくのが、最善の策と言えるのだ。 「クソッ、メガネの分際で… 俺にこんな無駄な歩行をさせるとは、絶対に許さんぞ!」 商店街の出口が見えてきた。 どうやらのび太は商店街から抜け出したようだ。 「フン、ちょこまかと…」 だが、そんなジンの予想を、簡単に裏切られる事になる。 プシュッ! 「つッ!」 ジンの後頭部に、何かが当たった。 プシュッ! 「舐めるな!」 今度は一瞬でそれに反応し、その何かを掴む。 「……これは」 それは小さなエアガン用の弾。 それが誰が発射した物かは、もうハッキリしている。 「メぇガネェェェェェェェェェェッ!!!!」 叫び声と共に、1人の少女と1匹は走り出した。 「こんなショボい弾で、俺を倒せると思ったかァァァッ!」 女とは思えないスピードで、のび太との距離を縮めるジン(しずか)。 どら焼屋の屋根に座るのび太の姿が、だんだんハッキリしていく。 「フハハ、100000000倍返しだ! お前の後頭部をグチョグチョにしてやるッ!!!」 だが、またもジンの予想を裏切る展開が待っていた。 「くっ、何だこれは!?」 小さな爆発音が数発鳴り、ジンの視界を白い煙が包んでいく。 「クソが! またさっきの煙幕か! 逃げてばかりじゃ俺は倒せないぞ!」 煙を掻き分けながら、ジンはそう叫んだ。 すると、その言葉に反応する様に、隣から声が聴こえた。 「おっはー」 「ルカリオ、波動弾だ!」 すかさずルカリオの攻撃がその音の主を襲う。 だが、そこに居たのは…… 「ただの……テレビ…だと? クソッたれ!!!」 それは、のび太がリモコンで操作した電気屋のテレビの音だった。 そして、更なる混乱がジンとルカリオを襲う。 「ピカチュウ、かみなりだ!」 何処からともなく聴こえたのび太の声で、上空から雷光が降り注いだ。 「ル、ルカリオ!」 雷の直撃を受け、膝を着くルカリオ。 だが、ジンは見逃さなかった。 雷を撃たれる直前の一瞬の輝きを。 ポケモンが雷を撃つ前に、必ず起こるその光を。 「そこだ、ルカリオ!」 ジンの指を見た瞬間、全てを理解するルカリオ。 そして、膝を着いた状態のまま腕を上げた。 「 波 動 弾 ! 」 波動弾は、方向さえ合えば確実に相手を捉えてくれる。 ジンは勝利の笑みを浮かべながら、その閃光の様子を眺めていた。 「戻れ、ピカチュウ」 「何!?」 だが、今回はのび太の方が一枚上手だった。 全ての攻撃を確実に避ける唯一の方法。 それは、ポケモンをモンスターボールに戻す事だ。 普通のバトルでは次のポケモンがダメージを負ってしまうが、 今回はステージ上ではなく、広い町中。 デメリットなど何も無い。 のび太はその事を充分に理解していたのだ。 「ルカリオ、立て! 今のでメガネの場所が分かった! 追い掛けるぞ!」 その言葉で、フラフラと立ち上がるルカリオ。 すぐに二人は、ピカチュウが戻される時に見えた光の元に走った。 そして、煙の空間を抜ける。 「メガネ、ガキの遊びもここまでだッ!」 「バカな、俺はすぐに走ったはずだ…… あの男が、こんなに早く見えなくなるなんて…ある訳が……」 ジンは、だだっ広い空間の真ん中で、そう呟いた。 誰も居ない、真っ直ぐ続く商店街の道の真ん中で。 「…殺してやる……」 ジンの、本能とも言うべき何かが、目覚めていく。 「…あのメガネを……八つ裂きにしてやる……」 久しぶりに味わった敗北感が、ジンの中で野生を蘇らせた。 ルカリオは、その静かなる殺意に体の震えを抑えられない。 「ルカリオ、怯えなくて良いぞ。 俺は少し、今まで感情に流され過ぎていた様だな」 ルカリオの頭を撫でながら、そう話すジン。 その目は、のび太に対する静かで激しい憎悪に満たされていた。 「行くぞ、ルカリオ。 今まで受けた屈辱を、全てアイツに返してやるんだ」 コツ…コツ……コツ………コツ…………コツ……………コ… ジン達の足音が遠退いていく。 地下に隠れていたのび太は、ゆっくりとため息を吐いた。 「ふぅ、何とかやり過ごしたぞ…」 のび太がジンに見つからなかった理由。 それは、のび太がマンホールの中に身を隠していたからだ。 だが、それだけじゃない。 あの時、のび太はジンから逃げるのではなく、ジンに近づいたのだ。 視界にマンホールの蓋が見えれば、必ずジンは不審に思うだろう。 だが、マンホールがジンより後方に有れば、話は別だ。 つまりあの時、マンホールは煙の中にあったのだ。 もちろん、あらかじめ蓋が開いた状態で。 のび太が屋根の上に居たのも、蓋が開いてるのがバレない為。 あれは、ジンの視線を上に集中させるのが最大の目的だったのだ。 これだけの作戦を、のび太が思い付くのは少し不思議に思う人が居るだろう。 だが、これは別に不思議な事でも有り得ない事でも無い。 のび太は、人を困らせる力と、道具を最大限に活かす力に昔から長けていた。 その2つの力が、この戦いにおいて大きな戦力になっている。 のび太はこの時、 自分でも気付かない内に、天才戦略家としての才能に目覚めようとしていた。 「これでルカリオの体力は僅か…… でもさっきの様子だと、もうジンに半端な作戦が通用するとは思えない。 ここは、どうするべきかな?」 のび太の手持ちにあるのは、もう穴抜けの紐2本に煙玉1つ。 どこかでアイテムを補充するのも良いかも知れない。 だが、それは同時にジンに不意討ちされる可能性も高くなる。 のび太は気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと思考を回転させてみた。 『―ルカリオ―アイテム―下水道―次のポケモン―町中―』 のび太の頭の中で、勝利の設計図が高速で作成されていく。 そして、その設計図はのび太の考えを1つの答えへと導いた。 『何でだろ? 僕は今、とても冴えてる。 ジンの行動パターンも、それを打ち破る策も手に取る様に分かる。 行けるぞ…これならあのジンに必ず勝てる!』 「ハッサム、出てきて」 そののび太の声を合図に、ハッサムが姿を現した。 ハッサムは、以前のジンとの戦いでルカリオに一蹴されている。 ハッサムからしたら、ルカリオは因縁の、どうしても戦いたい相手だ。 「ルカリオには、君で止めを刺したい。 出来るかい?」 ハッサムは短くうなづいた。 「フン、メガネめ……何のつもりだ?」 ――数分前 大きな轟音が鳴り響いた。 そしてジンが様子を見に来ると、商店街の道の脇から大量の水が吹き出していた。 「水道管を破裂させたか。 すると、狙いはピカチュウの電撃だな。 だったら……ルカリオ、俺の体を持て 」 ルカリオがジンの体を持ち、足に力を入れた。 一方、のび太は屋根の上で待っていた。 ジンが、ここに上って来るのを…… 「来い…ジン」 下で音がした。 のび太の前方に、ジンとルカリオが姿を現す。 ジンは少し驚いたが、すぐに状況を理解して言った。 「待ち伏せ……いや、待っていた、と言うのが正しいか。 メガネの分際でサシの戦いを望むとは、舐めてくれるじゃないか」 ジンとのび太の距離は、およそ10m。 店を1つ隔てて、二人は直線上で睨み合っている。 「フン、どうせまた狡い手で逃げながらルカリオの体力を削る気だろ? 悪いが、もう俺に策は通じん。 徹底的に……潰すぞ」 ジンが、強烈な殺気を出しながらそう言う。 のび太はその殺気に震えた。 だが、足は引かない。 逆に一歩踏み出す。 そして言った。 「来い!!!ジン!!!」 「ルカリオ、神速だ!」 のび太がそう叫んだ瞬間、ジンはそう叫び返した。 のび太の脳裏に、以前の記憶がよぎる。 以前の戦い、ルカリオの攻撃で腹に瀕死の怪我を負った時の事を。 更に思い出す。 数日前、洞窟内でした修行の事を。 『裁きの穴で学んだ事……それは、勇気』 数多くのポケモンに命を狙われた。 そして、多くの傷を負い、多くの事を学んだ。 ビュゥッ! ルカリオが目前に迫る。 風が切れる音がした。 『怖くない…避けられる』 のび太は足を後ろへ伸ばし、腹の位置を数cmズラす。 すると、ルカリオの右ストレートはズラす前の腹の位置を真っ直ぐ貫いた。 「な、なん…」 瞬間の中で、人が出来る行動なんてほんの僅かだ。 だが、そのほんの僅かな行動が、人の生死を分ける事になる。 「ぐぁッ!」 のび太の顔が歪んだ。 さっきの攻撃、当たらなかったのではなく、実はカスっている。 のび太は、避ける為に体を動かしたのではなく、勝つ為に体を動かしたのだ。 本来ルカリオの攻撃は回避不可だが、怪我をする覚悟さえあれば話は別。 急所を外すだけなら、一瞬の、ほんの僅かな行動で充分なのだ。 「…だと!?」 そして、ルカリオの居る場所。 つまり、のび太がさっき立っていた場所の下から、 屋根を突き破ってハッサムが姿を現した。 のび太は、ハッサムにこう言っていた。 「僕が、ルカリオの注意を一秒牽く。 だからその一秒で……君にルカリオを倒して貰いたい」と。 ハッサムは、ずっと屋根の下から耳を澄ましていた。 そして、風を切る音を聞いた。 足に力を込め、一気に飛び上がる。 「君は、僕を信じて真上を全力で貫けば良いんだ」 あれだけの信頼を自分にくれた主人の為、ハッサムは全身の力をその右手に込めた。 思い切り……振り抜く。 コンクリートの砕ける音が響き、目の前にルカリオの姿が見えた。 拳がルカリオに当たる。 ルカリオの体は、その一撃で勢い良く吹き飛んだ。 そしてハッサムは静かに着地し、横で倒れる主人の方を見る。 「……ハッサム、良いパンチだったよ」 主人の破けた服の下から、紫色の皮膚が見えた。 ……酷い怪我だ。 きっと、かなりの激痛がしているだろう。 「ハッサム、僕の事は良い。 それよりも…」 ルカリオはフラフラと立ち上がった。 もう目は虚ろ……明らかに限界を超えている。 だがルカリオは、何かを訴える様に大きな唸り声をあげた。 「ルカリオ、もう良い。 後は……俺達がやる。 お前は良くやった」 ルカリオは動かない。 立ったまま気絶したのだ。 ジンは、ゆっくりとそのルカリオをボールへ戻した。 「また、お前の策にやられちまったようだな」 下を向いたまま、ジンが短く笑う。 その表情はとても穏やかだが、隠しきれない殺意を漏らしていた。 「フン、さっきのお前の勇気と覚悟、恐れいったよ。 お前達の事を舐めていたのは俺達だったのかもしれないな」 ジンは空にボールを投げ上げた。 そのボールから、雷電から奪い取ったサンダーが現れる。 「だけど次のポケモンには、覚悟も勇気も通じないぞ。 さぁ、どうする? フハハハ…」 ジンの言葉に対し、のび太はこう言い返した。 「もちろん…………逃 げ る さ ! 」 また煙玉を下へ投げつけるのび太。 「サンダー、高速移動」 だが、その瞬間目の前にサンダーが現れた。 「なっ!?」 「フン、二度も同じ手を食らえばサルでも学習する」 のび太の額に冷や汗が伝う。 頭の中で『ハッサム、メタルクロー』と言う指示を出すが、声にならない。 「サンダー、10万ボルト」 のび太の視界を、真っ白な光が包み込んだ。 「死ね、メガネェー!」 ジンはのび太の行動を予想し、サンダーに指示を出していた。 不覚。それは、相手の力量を量り間違えた事による失敗。 のび太の思考回路が動き出す頃には、サンダーの攻撃準備は完了していた。 『ダメだ!殺られる!』 隣のハッサムに指示を出す前に、自分は黒コゲになる。 もう、間に合わない。 そう、思った時だった。 「ハ、ハッサム!?」 電流が弾け飛び、ハッサムの体を焦がしていく。 ハッサムは自らのび太の前に飛び出し、のび太の盾となった。 のび太の指示を聞く前に、自分の意思でのび太を助けに入ったのだ。 「……はっ、ピカチュウ、出てこい!」 倒れ込むハッサムを一瞬眺めていたのび太だったが、 直ぐ様に我に返り、ピカチュウをサンダーの目前へ呼び出した。 「サ、サン…」 「ヴォルテッカー!」 戦いの中で、想定外の事が起きるのは極めて自然な事だ。 大切なのは、いかにそれに適当な対応が出来るか。 今回は、一瞬その対応が早かったのび太に軍配が上がった。 「ピカチュウ、走るぞ!」 攻撃を加えると、のび太は直ぐ様後ろへと走り出した。 屋根の上ではサンダーの格好の的になる。 そして、のび太にはまだ策が残っているのだ。 サンダーが態勢を整えると、直ぐにフラッシュで目を眩まし、 のび太は商店街からの脱出に成功した。 「ピカチュウ、大丈夫か?」 商店街から500m程離れた地点。 そこでピカチュウは、力無く地面へと倒れ込んだ。 無理もない。 ピカチュウは一度ルカリオの波動弾の暴発を、間近で受けている。 その上、この緊迫した戦いでの度重なる呼び出し、そしてヴォルテッカー。 逆に、今意識を保っているのが不思議なくらいだ。 『ピカチュウの体力は僅か、ハッサムは約半分……だけど麻痺状態』 ハッサムを温存しておいたおかげで、体力が充分に残ってるのが唯一の救いだ。 ジンのまだ見ぬ切り札の為にも、ホウオウは無傷のままにしておきたい。 そして、あの作戦の為にも…… 「ん?ピカチュウ、どうした?」 ふと横を見ると、ピカチュウが顔を真っ青にして震えていた。 こんな顔をするのは珍しい。 のび太はピカチュウの視線の先に、恐る恐る顔を向けた。 「…な、なんだ? あれ?」 さっきまで自分達が居た場所の上空に、眩しく光る何かが浮かんでいる。 のび太は、本能で察知した。 『ここに居たら死ぬ』と。 体力が残ってないピカチュウを抱かえ、のび太は走り出した。 「はぁ! はぁ!」 どんどん膨張していく、その光。 どこまで大きくなるのかとのび太が思った瞬間、その光は……一筋の光線となり、のび太に襲い掛かった。 「フン、よくやった、サンダー」 ジンは、上空のサンダーを見上げながらそう言った。 雷電が自ら改造を施した、この特別なサンダーの特性はリミッター解除。 ダイゴ、シロナペアとの戦いで見せた技がそれである。 このサンダーに、能力向上効果のある技のリミッターは無い。 つまり、このサンダーが充電(次の技の威力が倍になる)を使えば、 1度目で2倍、2度目で4倍、3度目で8倍と、誰にも止められない技となるのだ。 実際、今の技で町の一部分が跡形も無く消し飛んでいる。 このサンダーは、策も罠も必要としない、最強で純粋なパワータイプと言えるのだ。 「8倍でこれくらいか…… フン…なら次は16倍で行くぞ」 ジンの指示に、黙って従うサンダー。 その目は、どこか悲しく、とても冷たい目をしていた。 「…ふぅー、間一髪!」 のび太は壁に寄りかかり、安堵のため息を吐いた。 すぐ近くには、残骸と化したスネ夫の家が転がっている。 のび太達は、ギリギリの所であの電撃を避ける事が出来たのだ。 「そう言えばスネ夫が言ってたな。 あのサンダー、まるで能力の限界が無いみたいだ、って」 のび太は、あの作戦を実行に移す為の作戦を考えてみた。 あのサンダーの技を食らわずに、あの場所まで導く方法を。 「一か八か……これに賭けるしか無いかもね」 のび太は高まる心音を抑えつけ、ジンの所へと向かった。 「…よし、次は8倍だ」 ジンの指示で、ゆっくりと光が大きくなっていく。 その眩しさは、もう太陽の比では無い。 「フン、次はどこを狙うかな…」 次々と家を指で差していき、屋根がピンク色の家で指を止めた。 「あれだ……サンダー、16倍にしろ!」 光が、先程よりも更に大きくなっていく。 そして、遂にその光は全ての準備を完了した。 「クックック、メガネ……消し飛びなぁー!!!」 ジンがそう叫んだ、その時だった。 「ピカチュウ、今だ!」 「!?」 その言葉と同時に、ピカチュウがジンの前に現れる。 そして、瞬きをする間もなく、ピカチュウはジンの周りを回り始めた。 「な、何だ!? 何のつもりだ!?」 「お前を倒しに来たんだよ」 ジンの前に立つのび太。 それだけ言うと、のび太は片手を思い切り後ろへと引いた。 「ぐ、ぐぁッ!?」 突然の胸の圧迫感に、驚くジン。 のび太はニヤリと笑い、手に持っている物を見せた。 「そ、それは…」 「ピカチュウに"あなぬけの紐"をくわえさせていたのさ。 使用法は違うけど、これでお前はもう動けないぞ! ジン!」 「フハハ!正気か? ここに来るってことはサンダーの的になるってことだぞ? お前は、わざわざここに死にに来たのかぁ?」 そうあざけ笑うジン。 だが、のび太には考えがあった。 「へんだ、的にはならないよ。 だって今サンダーが攻撃をすれば、お前も巻き込まれて死ぬからね」 そう、サンダーの弱点……それはその余りあるパワー。 威力を上げることは出来ても、下げることは出来ない。 今、もしのび太を狙って攻撃すれば、もちろん近くに居るジンにも当たる。 つまり、サンダーの攻撃の恐怖から確実に逃れる方法は、 離れるのではなく、逆に近付くことだったのだ。 「…フン、次はどうするつもりだ? 俺を殺して、試合を終わらせるか? それとも…このままずっと黙り状態を続けるつもりか?」 圧倒的不利な状況だが、ジンの目にはまだ余裕が溢れている。 のび太には、それが不気味でならなかった。 だが、それに臆せず、のび太は会話を続ける。 「お前を殺したりはしない。 お前の体が…しずかちゃんの物だって可能性も捨てきれないからね。 だから、僕はお前との戦いに、ポケモンでケリをつける!」 『メガネめ、俺をどこに連れていくつもりだ?』 のび太はジンを拘束した状態で、ある場所へと向かっていた。 それも砂嵐で視界を無くしながらという、最悪の状態で。 『……フン、バカめ。 お前が油断した瞬間、一瞬で縄を切って逃げ出してやる。 せいぜい無意味な作戦を実行してるんだな』 ジンは、横目で後ろを覗き見た。 ハッサムが体を重そうにすぐ後ろに付いている。 サンダーは、頭上でこちらの様子を伺ってるようだ。 『フハハ、これなら…上手くいくぞ!』 勝機を感じるジン。 だが、そうしてジンが周りを見渡していると、足場に変化に気が付いた。 『……この足の感触、町を出たのか?』 砂場に似た感触を、足に感じる。 だが、のび太は何も言わず、ただ歩いていくだけ。 『ちっ…少し早いが、実行に移すか』 ジンは足場の変化に焦り、予定よりも早く行動を始めた。 『あのカニもどきは、明らかに麻痺状態だ。 必ず、必ず一瞬……体が動かせない瞬間がある』 ジンが横目でじっくりと凝視する。 しばらく見つめていると、予想通りその瞬間は訪れた。 『フハハハハ! 見たぞ! 今の動作ぁ!』 ハッサムが一瞬体を硬直させた瞬間、 素早く縄を切り、回し蹴りをハッサムの腹に決めた。 体の中で唯一柔らかい部分を狙われたハッサムは、たまらずしゃがみこむ。 更に、ジンはその隙にのび太から10m程の距離を空けた。 「フハハハハ! 爪が甘かったなぁ! サンダー、あのメガネ猿に雷だッ!!!」 待ってましたとばかりに唸り声を上げるサンダー。 そして、目映い閃光がのび太へと放たれた。 大量の砂煙が辺りを満たす。 その中心で、ジンは満足そうな笑みを浮かべながら立っていた。 「フハハハハ、メガネぇ残念だったなぁ! 結局、お前は女一人守ることが出来ない…クズなんだよぉ!」 砂嵐の中を笑い声が響き渡り、その静けさを更に引き立てる。 だが、その沈黙は突然破られた。 「ハッサム!」 「!?」 砂の中からハッサムが現れ、空中へと飛び上がった。 『どういうことだ!? 砂を被ったくらいじゃあの雷は防げないはずだ!』 疑問はつきない。 だが考えてる暇は無い。 「サンダー、10万ボルトで撃ち落とせ!」 その指示に素早く従うサンダー。 「ハッサム、戻れ!」 だが、その瞬間ハッサムはボールの中に戻されてしまった。 「ジン、投げたボールからポケモンが出てくる条件を、知ってる?」 突然、のび太はジンにそんな質問をした。 「スイッチを押してから何か衝撃を加えると、ポケモンは現れるんだ」 そう言いながら、のび太は懐からエアガンを取り出す。 「さっきハッサムには、ボタンを押したままの状態のボールを持たせていた。 サンダーの近くまで来たら、出来るだけ高く投げ上げろって指示をしてからね」 ジンが驚いて上を見ると、サンダーの頭上に、赤い何かが見えた。 それにのび太は狙いを定める。 「つまりオモチャの鉄砲の衝撃でも、ポケモンはボールから現れるんだよ!」 パンッ、という炸裂音がした。 風圧、距離、物質の落下速度までも計算されたその弾が、 真っ直ぐに赤い球へと飛んでいく。 当たった。 そして、ピカチュウが現れる。 サンダーのすぐ頭上。 絶好な位地にピカチュウは現れた。 何も言わなくても、分かる。 身体中の電力を一点に集中し、サンダーの左翼へと突っ込んだ。 別に倒し切らなくても良い。 のび太がこの場所を選んだ理由は、良く分かる。 ピカチュウは、サンダーを地面に落とすことに全てを賭けた。 「サンダー!?」 片翼を失ったサンダーは、力無く地面へと落ちていく。 だが、それではまだ勝てない。 その事を知っているのび太は、勝利を決定付ける言葉を言った。 「カバルドン達、地震を頼む」 そう、この場所は、以前のび太が修行に使っていた裏山の砂漠地帯。 ここで沢山の修行をしたのび太は、 カバルドン達にその実力を気に入られ、仲間に認められていたのだ。 さっきの雷も、カバルドン達が盾になって防いでくれていた。 地面タイプのカバルドン達が一緒に戦ってくれれば勝てる。 それを見越して、のび太はこの場所で戦おうと決めたのだ。 地面へと吸い込まれていくサンダー。 それをカバルドン達が起こした地震が待ち受ける。 「ジン、悪いけど…僕には一緒に戦ってくれる、仲間が居るんだよ」 こうして、サンダーは遂に倒れた。 「皆、集まってくれたようだな」 暗闇の中に、無数の人影が集まる。 ジンとのび太の戦いの最中、町の地下では出木杉の計画が進行していた。 「諸君の頑張りのおかげでようやく見付かったんだよ。 この計画に絶対に必要な、あのポケモンを。 今から捕まえにいく。 皆、僕の後に付いて来い」 ここには光が届かず、酸素も少ない。 流水によって取り付けられた機械により、人の出入りが可能になっている。 その暗黒空間を、出木杉は躊躇もせず進んでいった。 「ここだ…」 出木杉が立ち止まり、手を前に出す。 その瞬間、空間に歪みができ、周りに居た部下達を驚かせた。 「ふふっ、驚かなくて良い。 ここが、ポケモン世界と現実世界の間……通称"暗黒世界"なんだ。 この先に、僕達がまだ見たことが無いプログラムが隠されてるんだよ」 その場の皆が唾を飲む。 未知の世界への不安と、遂に来た計画実行への期待。 その2つが混じった、例えようもない空気が周りを満たしている。 その空気を切り裂くように、出木杉が口を開けた。 「それでは、この計画の最後の役割を決める! 僕の周囲を守る幹部は、流水、清姫君、業火……そして雷電! 他の者は反乱分子の鎮圧、及びタイムパトロールへの警戒だ! 分かったなら返事をしろ!」 暗闇の中を幹部達の叫びが響く。 出木杉は、その様子を見て笑みを浮かべた。 『野比君、せいぜい頑張って足掻くが良いさ。 僕の計画は絶対に止められない。 そう、絶対にだ……』 ついでにその頃、地上のゴクは最終決戦に着る衣装に悩んでいた。 「戻れ、ピカチュウ」 瀕死になったピカチュウを、のび太はボールへと戻した。 「遂に、最後だね。 ジン」 「…………」 「僕はお前に勝って、必ずしずかちゃんを助けだす。 早く……最後のポケモンを出せ!」 「最後のポケモン、か…フハ、フハハハハハ!」 突然笑い出すジン。 それにのび太は驚き、怒りの言葉を発した。 「な、何がおかしいんだ!」 「何が? お前が言ったことが笑えるんだよ」 ジンの言葉の真意が分からない。 のび太は更に声を強め、叫んだ。 「どこがだよ! 僕は最後のポケモンを出せって…言っただけ…」 この時、のび太は2つの疑問の存在に気付いた。 目の前に居る、しずかの姿をした男。 もし、この男がしずかを操っているなら、あのブレスレットはどこにある? どうして、あのルカリオはあんなにも強かった? その2つの疑問が意味している答えは、1つ。 「ジン、お前はまさか……ウワッ!」 突風がのび太を襲った。 砂嵐は一瞬勢いを増し、そして晴れていく。 辺りは、砂煙に包まれてしまった。 「メガネ……お前の実力は認めてやるよ」 砂煙がゆっくりと消えていく。 正体を現したジンが、のび太の目前に現れた。 「だが、これで終わりだ」 今まで感じていた、ジンに対する恐怖感。 その理由を、ようやくのび太は理解した。 「ミュウ…ツー…」 何故なら自分が戦っていた相手は、人間ではなかったのだから。 次へ
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プロフィール 職業:小学生 出演作品:ドラえもん 戦績 総参戦回数7(戦闘中1回含む) 賞金獲得回数1 復活回数0 累計逃走時間5時間31分55秒 平均逃走率61.54% 最高逃走率100%(逃走成功) 各回戦績 タイトル 逃走時間 逃走率 順位 学校に眠る宝 47分21秒/80分 59.19% 11位/18人 恐竜時代 35分47秒/80分 44.73% 15位/18人 ハンターシティ 100分/100分 100% 1位/20人 逃走成功→ボーナスゲーム制覇 王国の独裁者 35分18秒/90分 39.22% 14位/20人 奪われたシーサー 61分40秒/90分 68.52% 10位/20人 終末の天気予報 51分49秒/90分 57.57% 11位/20人
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前へ #28「謎」 ―――ふと見渡してみれば、周りは一面真っ黒だった。 身動きはとれない、でも動こうとは思わない。 いまは何だか、不思議な心地よさが体を包んでいた。 その心地よさに身を任せ、何もない空間を見つめていると、突然誰かの声がした。 「……い…………ろ」 うるさいなあ……せっかく人が気持ちよく眠ってるっていうのに…… 「……おい……っかり……しろ!」 ああ、もう! 鬱陶しいなあ。 こうなったら、徹底的に無視してや…… 「おい、しっかりしろっ!」 声の音量が、突然何倍にも跳ね上がった。 「うわあああああ!」 おかげでようやく、骨川スネ夫は目を覚ました。 冷静さを取り戻したスネ夫は、ゆっくりと周りを見渡してみた。 洗面所に便器……ここはどうやら、トイレのようだ。 地面には、割れた花瓶の欠片が転がっている。 「そうか、僕はここで襲われて……気を失って……」 後頭部をさすってみると、物凄く大きなたんこぶができていた。 「おい、大丈夫なのか?」 突然スネ夫の顔を、何者かが覗き込んでくる。 白いローブで全身を包み隠しているその男に、スネ夫は見覚えがあった。 「あなたは確か……『レジスタンス』のリーダーの……」 「フォルテだ。 よろしく、骨川スネ夫君」 白いローブの男、フォルテが静かに言い放った。 スネ夫はそれから、フォルテが何故ここにいるのかを説明してもらった。 どうやら、先程からスネ夫を起こそうとしてくれていたのはフォルテのようだ。 彼はトイレに入り、後頭部を叩かれて気絶しているスネ夫を発見した。 そしてスネ夫が目を覚ますまで、ひたすら呼びかけてくれていたそうなのだ。 「えっと……ありがとうございました……」 混乱しながらも、とりあえずフォルテに礼を告げるスネ夫。 とその時、再び頭に激痛が走った。 「っ……い、痛ああああああ!」 激痛に悶えるスネ夫を見て、フォルテは慌てて何かを取り出す。 それは、救護カバンのようなものだった。 フォルテはその中から聴診器を取り出すと、突然それをスネ夫の胸に押し当てた。 スネ夫が戸惑っていると、突然機械の中から薬のような物が出てきた。 フォルテはそれを取ると、スネ夫に向けて差し出した。 「心配するな、ただの痛み止めだ」 フォルテにそう言われたスネ夫は躊躇いながらその薬を口に含んだ。 すると不思議なことに、痛みが急激に引いていった。 痛みが消えたことで落ち着いたスネ夫は、ふとあることを思い出して立ち上がる。 「そうだ、試合にいかなくちゃ! 僕がいなかったら、人数不足で負けになっちゃう!」 慌てて駆け出そうとするスネ夫を引きとめ、フォルテは説明を始める。 「今から言ったって無駄だ。 君が試合に間に合わず、ドラーズは人数不足で不戦敗となった。 だが案ずることはない、君の代わりに補員として出木杉英才が出場した。 彼と野比のび太のコンビは見事勝利を収め、そして二番手の剛田武も……」 『勝者、『ドラーズ』剛田武選手!』 ここでタイミングよく、ジャイアンへの勝利の宣告がコロシアムに響き渡った。 「……どうやら、終わったみたいだね。 決勝進出おめでとう。 私もいまから試合があるから失礼させてもらうよ」 「え……ちょ、ちょっと待って……」 スネ夫が引き止める間もなく、フォルテはトイレから去っていった。 ……一方ドラーズの一行は、戦いを終えて部屋へと戻っていた。 「見たか、俺様の華麗な勝負姿を!」 ウコンに勝利したジャイアンは、達成感に浸っていた。 「ジャイアンも凄かったけど、今回勝てたのは出木杉のおかげだよね」 いい加減彼の自慢話にうんざりしてきたのび太が、話の対象を出木杉へとすり替える。 「ほんとそうよね。 のび太さんとのコンビ、かなりうまくいってたわ。 それに出木杉さんがいなかったら、今頃不戦敗で地下室行きだったしね。 ありがとう、出木杉さん」 「そ、そんなことないよ。 僕の方こそ、みんなには随分世話になったよ。 だから、おあいこってことで……」 静香に絶賛された出木杉は、照れて頭を掻きながらそう言った。 「不戦敗といえば……スネ夫の奴、一体どこに行きやがったんだ? あいつのせいで負けかけたんだ、見つけたらただじゃおかねー!」 先程まで上機嫌だったジャイアンが一転、怒りのオーラを全身から放出し始める。 ちょうどその時、4人は部屋の前に到着した。 「まあまあ、落ち着いてよジャイア……」 のび太がジャイアンをなだめつつ、部屋のドアを開ける。 その時見た光景に、4人は一瞬凍りついた。 部屋の中央に、いままさに話題に上っていたスネ夫が座っていたからだ。 「や、やあ。 お疲れ様……」 スネ夫が右手を上げておどおどと挨拶を始めたとき、すでにジャイアンは動き出していた。 「てめー! いままで何してやがった!」 迫りくるジャイアンから逃げつつ、スネ夫は必死に事情を説明した。 「……なるほど、一通りの事情はわかったよ」 スネ夫の話を聞いても、出木杉は冷静さを崩さない。 だが、他の3人は驚愕して口をポカンとあけていた。 「まさかお前が襲われて、大怪我を負ってたなんて…… スマン、スネ夫! 事情も知らずお前に殴りかかったりして……」 ジャイアンがスネ夫に向けて頭を下げる。 こういうことがキチンと出来るようになったのは、ジャイアンが成長した何よりの証だろう。 「痛みは無いって言うけど、一応その頭のコブは治療しておいた方がいいわね。 いまは他に使えそうな物が無いから、これで我慢してね」 静香はそう言うと、バッグから薬を取り出す。 「ちょ、ちょっと待って! それ、ポケモン用の傷薬じゃないか!」 スネ夫がうろたえながら後退する。 その姿を見て、静香が慌てて説明をする。 「学校で聞いた話によると、ポケモンと人間の遺伝子構造はよく似ているらしいの。 遺伝子学の研究が禁止になったから、あまりくわしいことは分からないんだけど…… ……とにかくそう言う事だから、ポケモン用の薬は人間にも効果があるらしいの。 ただ、人間の方が遺伝子構造が複雑だから、ポケモンに比べて薬の効果は薄いらしいけど。 それでも、何もしないよりはましよ!」 静香は説明を終えると、さっそく傷薬をスネ夫の頭へ吹きかけた。 「それじゃあ私、次の試合がどうなってるか見てくるわ」 薬を使い終えた静香は、試合を見るために部屋を出て行った。 「骨川君を襲った奴も気になるけど、レジスタンスのリーダーも気になるな…… いったい、どうやってそんなに凄い痛み止めを作ったのか……」 先程から無言で考え込んでいた出木杉が呟いた。 そこに、突如のび太が割り込んでくる。 「それなんだけどさ……“お医者さんカバン”じゃないかな?」 「「お医者さんカバン?」」 のび太の口から出てきた謎の単語に、他の4人は声を合わせて聞き返す。 戸惑いながら、のび太はその道具について説明する。 彼によると、フォルテが使った道具は、ドラえもんの持つ“お医者さんカバン”という秘密道具である可能性が高いと言うのだ。 「で、でも! 秘密道具はここじゃあ使えないってドラえもんが言ってたぜ…… 第一、なんでそいつが秘密道具を持ってるんだ?」 「わからない、だから僕も戸惑ってるんだよ……」 ジャイアンの問に、のび太は答えられない。 誰もが謎だらけで考えに行き詰まり、部屋に沈黙が流れる…… とその時、突然部屋のドアが開いた。 ドアの向こうから現れた静香が、早速報告をする。 その顔は、若干青くなっているように見えた。 「そのフォルテさんたちのチームだけど、つい先程敗退したわ。 試合時間は1人あたりたったの十分、まさに完敗だった…… 私たちの決勝の相手はMr.ゼロの最強の手下、『ジョーカーズ』よ」 #29「決勝前夜」 レジスタンスが、完敗した。 その知らせを聞いたのび太たちが、思わず立ち上がる。 「そんな……あの人たちですら、ジョーカーズに敵わないなんて……」 皆の顔は青ざめていた。 彼らなら……レジスタンスなら、ジョーカーズに勝てるかもしれない…… そんな希望を、どこかに抱いていた。 だが、その希望はあっさりと打ち砕かれてしまったのだ。 のび太の口から、溜息がこぼれた。 「レジスタンスの人たちはよく頑張っていた、いままでのどのチームよりも検討したと思う。 でも、それでも……ジョーカーズとは圧倒的な戦略差があったわ。 レジスタンス側は、相手のポケモンを1匹倒すのがやっとだったもの……」 静香が、先程のバトルをこう語った。 圧倒的なジョーカーズの力を改めて実感し、のび太は再び溜息をついた。 自分たちは本当に、奴らに勝つことができるのだろうか? そんな思いが、胸を過ぎったのだ。 「結局、あのリーダーの実力は未知数のまま終わっちゃたね」 そう言った出木杉はいまだに、フォルテのことを考えている。 今回彼は大将だったので、出番が回ってこなかったのだ。 謎だらけの彼の正体に少しでも近づくためにも、その実力がどの位のものなのか見極めたたい。 そのためには、ジョーカーズの選手のような強い選手との激突を見なければならなかった。 彼なら、ジョーカーズの選手にも勝てたかもしれない。 そういう予感があっただけに、彼らの戦いが実現しなかったのが残念だった。 「あ、忘れてた!」 出木杉が思考をめぐらせていた時、突如静香が大声をあげた。 「フォルテさんが、私にメッセージを残していったのよ!」 フォルテは敗北して地下室に向かう途中、静香に向かって大声で何かを伝えたのだと言う。 いったい、彼は何と言ったのだろうか? 4人の視線が静香に集まる。 静香は緊張した様子で、ゆっくりと言葉を発した。 「『どんなときも、決して諦めるな。 必ず強い意志を、希望を持ち続けろ。 そうすれば、チャンスは簡単に途絶えはしない』 ……それが、彼が残していった言葉よ」 場が、完全に静まり返ってしまった。 皆、どういう反応をすればよいのかわからなかったのだ。 その言葉はただ単に、自分たちを励ましているだけなのか。 それとも、もっと深い意味を持っているのか…… 5人とも、理解に苦しんでいた。 ―――その言葉に秘められた真意など、いまの5人には知る由も無かった。 (※注 ここからのび太視点になります) それから数十分が経ち、いま部屋にいるのは自分と出木杉だけになっていた。 出木杉が補員として加わったので、この部屋のベッドは一つ足りなくなってしまった。 そこで、スネ夫がこんな提案をしたのだ。 「いまは全部の部屋が空いてるんだから、1人が1つの部屋を使えばいいじゃないか」 他の部屋を使っていた選手たちはすでに、全員負けて地下室に送られていた。 故に、いまは全ての部屋が空き室になっているのだ。 皆すぐにスネ夫の提案に賛同し、近くの部屋へ移っていった。 なのに出木杉がまだこの部屋に残っているのは、自分が引きとめたからだ。 彼はいま、いろいろなことを考えていた。 フォルテのこと、この大会のこと、そして明日の試合のこと…… だから、部屋から出て行こうとする出木杉を、こう言って引き止めたのだ。 「考え事をするのなら、1人より2人のほうがいいよ。 僕も一緒に考えてあげる!」 だが、大して頭がよくない自分が出木杉の役に立てるわけがない。 自分は先程から、出木杉の言うことに適当に相槌を打つだけだった。 こうなることは、分かっていた。 では何故、役に立てないのに出木杉を引き止めたのか? それは恐らく、1人になるのが怖かったからだ。 明日の試合に本当に勝てるのか、不安で不安で仕方なかった。 1人でいると、その重圧に押し潰されてしまいそうだった。 だから、誰かに傍にいてほしかったのだ。 「さてと、考えるのはこの辺でやめて、そろそろ僕も自分の部屋に行こうかな……」 突然出木杉が、そう言って立ち上がった。 「え! ちょ、ちょっと待って……」 慌てて止めようとする自分に、出木杉は穏やかに微笑みかけた。 「野比君……不安なのは、僕も一緒だよ。 おそらく、剛田君たちも…… でもいまは、明日の試合に勝つことだけを考えよう。 それがいまの僕たちにできる、最良の選択のはずだよ」 出木杉はそう言うと、部屋から出て行った。 その間ずっと、自分は呆然としていた。 ―――見抜かれていた、自分が不安で彼を呼び止めていたことを。 さすがは出木杉だと思った。 本当は彼だって不安なはずなのに、自分のために部屋に残ってくれたのだ。 己のことで精一杯な自分とは、大違いだ。 彼の優しさに、感謝の気持ちがあふれ出てきた。 「ありがとう、出木杉……」 誰もいない部屋の中で、こっそりと呟いた。 その後、僕は自分の部屋のドアノブを握っていた。 他の仲間とも、話をしたいと思ったのだ。 そうすれば、自分の不安がもっと和らぐかもしれない。 また、出木杉のように、相手の力になってあげられるかもしれない。 そう思って、ゆっくりとドアを開けた。 最初に向かったのは、自分の隣にあるスネ夫の部屋だ。 中に入ると、スネ夫と一緒にジャイアンもいた。 先程まで談笑していた2人は、自分に気付くと話を中断して視線をこちらに向けた。 2人とも自分とは違い、かなり余裕があるみたいだ。 「おうのび太、どうしたんだ?」 「ちょっと、話がしたくてさ……」 ジャイアンの問いにそう答え、2人の近くまで歩み寄っていった。 「あのさ……2人は、明日の試合が怖くないの?」 単刀直入に聞いた。 何故そんなに落ち着いていられるのか、気になったからだ。 しばらく考え込んだあと、まずスネ夫が話してくれた。 「そりゃあ僕だって、明日の試合は怖いよ。 でもそれ以上に、なんとかなるんじゃないかって気持ちがあるんだ」 スネ夫の声は、明るかった。 「……僕はずっと、才能がないからって自分に言い聞かせて、トレーナーの夢を諦めていた。 でも今回の大会で、僕は自分の可能性を試すことができた。 この世に『不可能』なんてないってことを、知ることができたんだ。 実際、僕たちは何度も、困難な壁を越えてきたんだ。 絶対に勝てないと思っていた、四天王やフロンティアブレーンとの試合でさえね。 だから明日の試合だって、きっと何とかなる。 そんな根拠のない自信が、どこからか湧いてくるんだ」 スネ夫は話を終えると、軽く笑みを浮かべた。 「俺だって、スネ夫と同じだ」 今度は、ジャイアンが語りだした。 「俺はいままでずっと、力で無理やり敵をねじ伏せるような戦い方しかできなかった。 でも、それじゃあ駄目だった。 あのままでは、俺は敵と化したジャイ子を救えなかった。 なら、何故俺はジャイ子を救えたのか? 何故ここまで勝ち上がってこれたのか? ……それは、お前たちが、『仲間』がいたからなんだ 仲間が俺に、戦術を教えてくれた。 挫折していた俺を、立ちなおさせてくれた。 だから俺はジャイ子に勝って、あいつを救うことができたんだ。 ここまで勝ち上がってこれたのだって、仲間がいたからだ。」 傲慢だった昔のジャイアンからは、考えられないような言葉だった。 「今度の敵はたしかに強すぎる、俺1人じゃあ間違いなく敵わないだろう。 でも俺には、最高の仲間たちがいる。 俺は仲間と一緒なら、どんな敵にでも勝てると信じてるぜ!」 ジャイアンの声は、自信に満ち溢れていた。 ―――2人の話を聞いて、胸をハッとつかれた感じがした。 そうだ。 僕たちはいままで、どんな困難にも打ち勝ってきたではないか。 それなのに、今ここで諦めてどうするんだ。 不安はだいぶ消えてきた、そして代わりに自信が湧いてきた。 「ありがとう! ジャイアン、スネ夫!」 礼を告げ、勢いよく部屋を飛び出していった。 廊下に出ると、自分の部屋の前に静香が立っているのが見えた。 「どうしたの、静香ちゃん?」 静香の下に歩み寄って、尋ねた。 「話したいことがあるんだけど……いいかしら?」 首を縦に振り、早速静香を自分の部屋に招きいれた。 「それで、話したいことって何?」 「えっと……実は、明日の試合のことなんだけど……」 静香の口調は、重々しかった。 「その……不安だったの、本当に明日勝てるんだろうかって。 だから、のび太さんに相談しようって思って……」 同じだ。 静香も自分と同じく、明日の試合への不安を抱いていたのだ。 自分は先程、出木杉とスネ夫とジャイアンにその不安を取り除いてもらった。 ―――だから、今度は自分が静香の不安を取り除いてあげる番だ。 「……確かに、敵はあまりにも強大だ。」 先程の試合を目の前で見た静香は、だれよりもそのことを実感しているだろう。 そう考えるとますます、自分が静香の力にならなくてはいけないと感じた。 「でも僕たちだって、ここまで勝ちあがってきたんだ。 僕たちはこれまで何度も、大きな壁にぶつかってきた。 でもその度に、みんなの力を合わせて壁を乗り越えてきた! だから……今度もきっと、乗り越えられるさ。 みんなの力を合わせれば、きっと……」 静香の手を、両手で握り締める。 手は少し、冷たくなっていた。 「がんばろう、静香ちゃん! 明日の試合に勝って、みんなを救い出すんだ!」 静香の手を強く握りながら、呼びかけた。 しばらくの間、ずっと静香の手を握り締めていた。 やがて、黙り込んでいた静香が言葉を発し始めた。 「……なんだかちょっと、元気がでてきたわ。 ありがとう、のび太さん!」 安心した。 静香が、笑顔だったからだ。 静香の手はいつのまにか、ぬくもりを取り戻していた。 と同時に、頬が少し紅潮していた。 ……その後静香は何も言わず、部屋を出て行った。 その後は出木杉に言われたとおり、明日の試合に勝つことだけを考えていた。 ―――大丈夫、きっと勝てる。 自分には、最高の仲間たちがいるのだから。 ジャイアンとスネ夫が言った通りだ。 フォルテが残した言葉を思い出した。 そうだ、まだ諦めてはいけない。 希望を、手放してはいけない。 自分が負けたら、たくさんの命が失われることになるのだから。 たくさんの人の思いが、頭の中を過ぎっていく。 真っ先に脳裏に浮かんだのは、いまだに消えたままのドラえもんと交わした約束だった。 彼と約束したトーナメント優勝に、あと少しで手が届く。 絶対に、掴んでみせる。 胸にそう誓い、ゆっくりと目を閉じた。 次に目を開けたときが、最後の決戦のときだ。 #30「素顔」 「そ、そんな……」 試合を見守る出木杉の顔が、みるみる青くなっていく。 「マニューラ、冷凍パンチ」 敵の二番手、2ndの冷酷な一言が響く。 次の瞬間、ジャイアンのボーマンダは地に墜ちていった。 「勝者、『ジョーカーズ』2nd選手……」 審判は2ndの勝利を告げたあと、冷酷な宣告を下す。 「よってこの試合、『ジョーカーズ』の勝ち」 「チクショオオオオオ!」 ジャイアンが、天へ向けて咆哮した。 「私が、負けさえしなければ……」 「悪いのは、僕も同じだ」 静香とスネ夫は、自分を責め続ける。 「終わったのか? すべて……」 出木杉の一言が、虚しく響きわたった。 ―――今回の試合、敵は一番弱い4thを大将にもってきた。 最初の2試合で、勝負を決めにきたのだ。 始めのダブルバトル、ドラーズのスネ夫と静香はかなり健闘した。 ……しかし、1stと3rdのコンビには勝つことができなかった。 続く3対3のシングルバトルは、ジャイアンと2ndの対決。 こちらもかなりの死闘となったのだが、ジャイアンは最終的に敗れてしまった。 こうしてドラーズは、大将ののび太まで回せないまま敗北を喫してしまったのだ。 「……やれやれ、ようやく終わったか……」 ふと、コロシアムの上の方から声が響いてきた。 椅子に座り込んでいる、黒いローブを纏った男……Mr.ゼロだ。 となりには相変わらず、司会の者が立っている。 「君たちはなかなか頑張ったよ、ドラーズの諸君。 ……だが、私のもつ最強のチームには到底及ばない。 所詮、君たちの力はその程度ということだ。 あとに待ち構えているのは、“死”のみ。 君たちは、ここで終わりだ」 Mr.ゼロの言葉を聞き、皆が顔を俯けていた。 ……だが1人だけ、真っ直ぐとMr.ゼロを見据えている者がいた。 ―――野比のび太だった。 彼は視線をそむけずに、はっきりと言い放った。 「まだ、終わってなんかいないさっ!」 「まだ終わっていない? 何を言っているんだい、野比のび太君。 君たちにはもう、死ぬ道しか残されていないんだよ?」 Mr.ゼロの挑発を無視し、のび太は仲間たちに呼びかける。 「まだ終わりなんかじゃない…… だって僕たちには、まだ戦えるポケモンがいるじゃないか!」 彼の言うとおり、まだ全員無傷のポケモンを所持していた。 戦っていないのび太と出木杉は6体、敗北した残りの3人も3体ずつ。 「で、でも……」 「たったこれだけの戦力で、いったい何ができるのっていうの?」 仲間の4人は、彼の言葉に困惑する。 ――精一杯戦った。 でも、奴らにはその力は届かなかった。 圧倒的な実力差を、見せつけられた。 最早4人に、戦う気力など残されていなかった。 「彼らの言うとおりだよ、いまさら君たちに未来は残されていない。 まさかたった5人で、ここにいる全員を倒そうなんて考えてるんじゃないだろうな?」 Mr.ゼロが、馬鹿にするように問う。 だが、のび太は意外な返し方をしてきた。 「ああ、その通りさ」 ―――Mr.ゼロがほんの少し、動揺した。 「な……本気か、のび太?」 スネ夫が信じられないという顔を浮かべる。 「フフフ、面白い冗談を言ってくれるじゃないか。 ジョーカーズだけでも勝てないっていうのに……いまここに何人のトレーナーがいるか分かっているのか? 係員、警備員、審判、敗北した配下の3チーム……総勢200名近くの敵が君たちにはいる。 抵抗するだけ無駄、君たちが生き延びられる可能性は0%だ。 さっさと諦めて、おとなしく死を迎えるんだな」 「そうはいかない! この世に“不可能”なんてありえない……僕たちはこの戦いで、そのことを実感してきたんだ!」 どんな言葉を浴びせられようと、のび太は決して挫けない。 「みんな、もう一度戦おうよ!」 「この大会の参加者みんなを救えるのは、僕たちしかいないんだ!」 「僕たちなら、きっとできる。 だから最後の最後まで、戦い抜くんだ!」 「だから無駄だと、何度言えばわか……「のび太、お前の言うとおりだよ」 Mr.ゼロの言葉が、強い意志をもった言葉に遮られる。 その声の主は、ジャイアンだった。 「俺はさっきまで、もう自分は死を待つだけだって諦めてた。 でもそれじゃあダメだ。 だって、俺たちはまだ戦える。 ……なら、戦うしかないじゃないか!」 「ジャイアン……」 のび太が嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「のび太……お前のおかげで、そのことに気付けたよ。 ありがとな。 ……ったく、昨日あれだけ大口叩いてた自分が情けないぜ!」 ジャイアンが恥ずかしそうに頭を掻く。 「僕も同じだ。 たったいま、君に自分が何をすべきかを気付かされたよ、野比君。 地下室で待つ『チーム・コトブキ』の仲間や、ここにいる仲間のために……僕も戦うよ!」 出木杉が、モンスターボールを取り出した。 「私も戦うわ。 みんなを、守りたいから……」 「僕だって、こうなったら徹底的に抵抗してやる!」 静香とスネ夫も、戦う決意をあらわにした。 「みんな……」 のび太が涙を浮かべた目で、仲間の顔を見渡す。 仲間たちが頷いたのを確認すると、大きく息を吸い込む。 そして、Mr.ゼロに向けて宣戦布告する。 「見ての通り、僕たちは決して諦めない! 最後まで戦う…これが僕たちの選んだ道だ!」 しばし、沈黙の時が流れた。 のび太たちは無意識のうちに、Mr.ゼロの言葉を待っていた。 彼が先程までのように、こちらの行動を蔑むような言葉を放つ。 それが、開戦の合図になるはずだった…… ―――だが、彼が見せた反応は予想外のものだった。 「そ、そんな馬鹿な…… この絶望的な状況でなお、希望を捨てないだなんて…… ありえない! こんなことは、ありえないいいいいぃぃぃ!」 Mr.ゼロは突如、狂乱したかのように叫び始めた。 いくら感情がこもっていないように感じられる機械音声でも、彼が動揺しているのがはっきりと分かる。 「なんであいつ、あんなに焦ってるんだ……」 先程まで戦闘態勢だったジャイアンが、気の抜けた声を出す。 その疑問は至極当然のことだ。 いくらこちらが奮闘しても、奴らに勝てる確率は1%にも満たない。 そのことは、先程Mr.ゼロ自身が言っていたはずではないか。 しかしいま、彼はのび太たちが戦うと聞いて物凄く動揺している。 一体、何故? 皆この状況に戸惑い、動けなくなっていた。 それからしばらくの時が経った。 先程から誰も一言も喋らず、ただその場に立ち尽くしていた。 突然、その静寂をMr.ゼロの声が切り裂いた。 「くっ……こうなったら仕方ない…… 見せてあげよう、私の正体を……」 「え?」 とのび太が呟いたと同時に、激しい音が響き渡った。 ――何かが、爆発する音。 次の瞬間目に入ったのは……粉々に砕け散ったMr.ゼロと、司会の姿だった。 「きゃああああああああぁぁぁぁ!!!」 最初に響き渡ったのは、静香の甲高い悲鳴だった。 それに続いて他の者たちも、混乱し、ざわめき始める」 「心配することはない、それはただの人形だ」 場を静めようとする、何者かの声が聞こえた。 先程までMr.ゼロたちがいた、時計の下の広場。 聞こえてきたのは、その奥からだった。 のび太は、身震いしていた。 その声に、聞き覚えがあったからだ。 少しずつ、広場に歩み寄ってくる2つの丸い影。 それがハッキリと姿を現したとき、誰もが自分の目を疑った。 「ド………ドラミちゃんに……ドラえもん?」 ついにその素顔を露にした、Mr.ゼロとその傍らにいた司会者。 青と黄色の、丸い顔を持つ奇妙な生物。 誰がどう見ても、見間違えることなど絶対にありえない。 ―――それは間違いなく、のび太と長い時をすごした親友とその妹の姿だった。 「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 いつのまにかのび太は、わけも分からず咆哮していた。 次へ
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前へ エスパー麻実とタケシ君 「あぁ!暇だぁ!」 ジャイアンのストレスはもう限界に達していた。 のび太の怪我の治療にスネ夫が付き添い、 試合までの時間を一人で潰さないといけなくなったからだ。 しかも昼n…仮眠をしていたせいで、 のび太のパパの試合を見忘れたのでなおさらだ。 「クソッ、スネ夫でも殴ってく…ん?何だあれ」 ジャイアンは窓の外に人の群れが出来ているのを発見した。 「…行ってみるか」 ジャイアンは面白そうなので見に行くことにした。 「スゲェ!」「どうなってんだ!」「超能力だ!」 群れからは驚きの声が漏れている。 「悪いけど通してくれ。俺も見てぇ」 「 嫌 だ 」 バキッ!ポキッ! 『これは不可抗力だよな?』 「どれどれ……うお!何だありゃ!」 ジャイアンの目に映ったのは踊る少女の姿だった。 しかもただの踊りではない。 少女だけじゃなくて、周りのほうきやモップも一緒に踊っていたのだ。 『この姉ちゃん超能力者か!』 気づけばジャイアンも踊りに夢中になっていた。 「ふぅ……見てくれてありがとう。 また会いましょう、みなさん」 踊り終えた少女はドームの中へ入っていった。 「……はっ、待ってくれぇ!」 ジャイアンは少女を追い掛けドーム内に入った。 そしてなんとか少女に追い付くことが出来た。 「あら?どうしたの、君?」 「これ落としたぜ」 ジャイアンは星の形を珍しいペンダントを見せた。 少女はそのペンダントを見るとはっとした様な顔をし、それを受け取った。 「ありがとう……これを落とすなんて私もまだまだね」 少女はそう言ってペンダントを首に着け直す。 「それ大切な物なのか?」 「ええ、これは私の一番大切な人に貰った物なの」 「大切な人……かぁ」 ジャイアンは自分にとっての大切な人を考えてみた。 『ジャイ子にのび太にしずかちゃんに出木杉に ドラえもんに母ちゃんに父ちゃんにあとスネ夫も……』 「ああ!いっぱい居すぎて分かんねぇよ!」 ジャイアンは一人でキレた。 「クスッ、面白い子ね。対戦が楽しみだわ」 「えっ、もしかして姉ちゃんって……」 「私が君の対戦相手のエスパー麻実(あさみ)よ。 よろしくね、ジャイアン君」 その後敵同士であるにも関わらず仲良くなった二人は、 ホールへ向かいながら話をすることにした。 「私の夢は世界一のマジシャンになることなの。 さっきの踊りも実はマジックなのよ」 「へぇ……夢かぁ。 良いなぁ、夢。俺も持ちたいぜ。 姉ちゃんはどんな夢が良いと思う?」 「う~ん、私に聞かれてもなぁ……歌手……とか?」 「!?」 この何気ない一言が後に歴史に名を残すバンド 『ジャイアンメイデン』を生むことをアサミはまだ知らない…… それから二人がしばらく話していると2つに分かれた通路が見えてきた。 ホールへの入り口はホウオウの門とルギアの門の2つがあるので、 必然的にホールへ続く道も2つになるのだ。 「ここでお別れだね。いくら友達だからってバトルでは油断しちゃダメだよ」 「……そのこと何だけどよぉ。1つ聞いていいか?」 「良いよ。何でも聞いて」 「何で姉ちゃんはこんな危険な大会に出てるんだ?」 ジャイアンはずっと気になっていたのだ。 こんな何処にでも居るような女性が、この大会に出ている理由が…… アサミは少しためらっている様子だったが、理由を話し始めた。 私には物心つく頃には両親が居なかったの。 二人とも事故で死んでしまったらしいわ。 一人だけ残された幼い私は親類全員に厄介者扱いされ、 すぐに格安の施設に預けられることになった。 その施設はとても古く暖房もろくに備えて無かったから、 冬になると施設で暮らすみんなと体を寄せあって、寒さをしのがないといけなかった。 思い出何て1つも無いわ。 覚えてることと言えば冷たいコンクリートの感触と、 ゴミを見るかのような施設の管理者の冷たい視線だけ。 でも誰一人文句を言う人は居なかった。 私達にはここ以外に生きる場所が無かったから…… 8才の12月頃だったと思う。 町には活気が溢れ、通りには幸せそう人々の姿があったわ。 だけど私は……ただぼんやりとその町を眺めることしか出来きなかった…… 『どうして私ばかりこんなに不幸なの……』 ふと気がつくと私はいつもそう思っていたわ。 『お母さん、お父さん……戻って来てよ……』 一人で泣いていたクリスマスの夕暮れ。 私はある初老の男性に出会った。 「どうしたんだい? 子供がクリスマスに泣いてちゃ神様が悲しむよ。 子供はクリスマスには笑うものだ、ほら顔を上げて」 「オジサン……ダレ?」 「私はただの手品師さ。 どうして泣いていたんだい?言ってごらん」 「お父さんとお母さんが……私には居ないから……」 私の言葉を聞いたオジサンは、少し考えてから言ったの。 「ここで待っていなさい」 オジサンは施設の中に入って行き、10分程で出てきたわ。 「オジサン、何してたの?」 「ちょっと契約をしていたんだ。子供を一人貰う契約をね」 「え……ってことは」 「君のお父さんはこれから私だよ。よろしくね、アサミちゃん」 これが私と私の父親『天草史朗』の出会いだった お父さんはとても良い人だった。 毎日温かい食事を出してくれたり、学校に行かしてくれたり、 まるで本当の子供のように私をかわいがってくれたわ。 休日にはいつもマジックを見せてくれて、 私がマジックが好きになったのもお父さんのおかげなの。 だけど……不幸は続くのに幸せは短いものよね。 それからお父さんは私以外に3人の子供を引き取り、生活はだんだんと苦しくなっていったわ。 それなのに……お父さんは必死で働いて、私を高校に行かしてくれたの。 でも……私の卒業式の帰り…… 「お父さん……もうお父さんの子供になってから10年経つんだね。 いろいろあったけど私……幸せだったよ」 「そうか……私もアサミが子供で良か……っ」 「お父さん……お父さん!」 死因は働きすぎによる過労死。 本当はもういつ死んでもおかしくない体だったみたい…… 私は神様を恨んだわ。 どうしてこんな良い人を連れて行くのってね。 でももっと辛いのはそれからだったの。 家は私達に残してくれたから大丈夫だったわ。 でも働けるのは私一人。 子供3人を養うのは到底不可能だった…… 『絶対他の人にこの子供達は渡さない!』 そう思っていた私はとても悩んでいたわ。 そんなある日のことだったの。 この大会のことを知ったのわ…… 「それで……大会に優勝して出木杉の側近になろうとしたのか」 ジャイアンはアサミの話に割り込むように言った。 「……そうよ。出木杉様の側近になれば……きっと」 「姉ちゃん……実は出木杉は…」 「言わないで!何も…言わないで…」 「……………」 ジャイアンは察した。 アサミは本当は分かっているのだと。 この大会で優勝しても何も変わらないことを…… でもこの大会で負けたらもう元の生活に戻れない。 だから戦うしかないのだ。戦うしか…… アサミは無言で奥へ進んでいった。 『俺はどうすりゃ良いんだよ……』 ジャイアンの実力ならアサミに勝つのは難しくないだろう…… だがジャイアンには2つの道がある。 【わざと負けてアサミを救う道】 [アサミを倒して出木杉と戦う道] 『俺は……俺は……』 「俺はどっちも選ばない!」 ジャイアンは決意を胸にホールへ向かった。 二人の試合はジャイアン優勢で進んでいた。 最初のバリアードにはカビゴンが力押しで勝ち、 ピジョットにはカビゴンは倒されたものの、ブーバーンが勝利した。 そしてアサミは最後のポケモンであるミミロップを出したのだった。 「この娘はそう簡単には負けないわよ。 ミミロップ、思いっきり跳ねて!」 ミミロップは空中に跳ね上がり見えなくなった。 「ブーバーン、上に火炎放射を射て!」 「無駄よ。ミミロップ、ブーバーンに急降下しなさい」 ミミロップが凄まじい速さでブーバーンに接近する。 「今よ、とびげり!」 「ブーバーン、避けろ!」 ブーバーンは紙一重で回避それを回避した。 「今だ、炎のパンチを撃て!」 隙を突き、ブーバーンのパンチがミミロップに当たった。 その威力でミミロップは壁に吹き飛ぶ。 「良し!」「まだよ、ミミロップ!」 ミミロップは壁に足から衝突し、その反動を使いブーバーンへ突っ込む。 「ブーバーン、避けろ!」 ジャイアンの指示は間に合わず、ミミロップのとびげりはブーバーンに直撃した。 もちろんその一撃でブーバーンは倒れ、ジャイアンは切札を出すことになった。 「出てこい、バンギラス!」 「バンギラス……でも私は負けられないの!」 「勝者、ジャイアン選手!」 ミミロップの攻撃ではバンギラスには傷つけられなかった。 それほどバンギラスは鍛えられ強くなっていたのだ。 アサミは確かに強かった。でもこのバンギラスは特別なのだ。 「……タケシ君。やっぱり強いね。私じゃ……勝て…ない」 アサミの目には涙が溢れていた。 この大会での敗北の意味を良く知っているからだ。 だが……この後会場の誰もが予想しなかったことが起きた。 「おい、出木杉!頼みがあるんだ!聞いてくれ!」 叫んだのはジャイアンだった。 ジャイアンの声はドーム全体に響きわたり、VIPルームの出木杉にも伝わった。 「何だい、剛田君」 ホールの中央にミュウと共に出木杉が現れた。 「頼みがある。この姉ちゃんを落とすのを止めてくれ」 ジャイアンの予想外の一言に会場がざわつく。 「タケシ君良いのよ!」 「大丈夫、俺にまかせといてくれ」 「僕が理由も無しにそんなこと許すとでも思っているのかい? こっちにメリットがあるなら別だけど……」 「分かってるさ。だから俺は…… 次のゴクとの試合、ポケモン2体だけで戦う!」 ジャイアンの一言にさすがの出木杉も驚いた。 「剛田君……清姫君(ゴク)は強いよ。本当に良いのかい?」 「ああ……男に二言はねぇ!」 「ふふっ、Bブロック決勝戦……楽しみにしてるよ」 そう言い残し出木杉とミュウは帰っていった。 「タケシ君……あなた…」 「何も言うな。姉ちゃんは笑って子供達の所に帰ってやれよ、な!」 「……本当にありがとう」 ドームの入り口に着いたアサミを出迎えたのは、あの子供達だった。 「あなた達……」 「俺たちアサミ姉を待ってたんだぜ。大会勝ったのか?」 「ううん、負けたよ。でももう良いのよ…… 私はあなた達が居ればね……」 「ア、アサミ姉、どうしたの?」 「だれが泣かしたんだよ!許さないぞ!」 「ううん、悲しいわけじゃないよ……嬉しいの」 20年後。 ある一人の世界的に有名な女性のマジシャンが孤児院を作った。 その孤児院には多くの子供が住み、いつも笑い声が絶えなかったそうだ。 その孤児院は後にこう呼ばれることになる。 天使の館……と スネ吉VSクリス ジャイアンの戦いから一時間。 スネ夫はミクリが行方不明の為不戦勝になり、 次の試合でクリスと戦うスネ吉の所へ出向いていた。 「やぁ、スネ夫君。君が僕の所に来る何て珍しいね」 「いや……兄さんにちょっと言いたいことがあってさ」 「試合なら辞退何てしないよ」 「!?」 「図星か……魂胆が見え見えだよ、スネ夫君」 「クリスは危険すぎる! あいつは人を簡単に傷つけるんだよ!」 「ヨノワール、出てこい」 「な、何を…する……んだ」 ドサッ ヨノワールの催眠術にかかり、スネ夫は眠ってしまった。 「僕も……もう逃げるのは嫌なんだよ」 俺は、最初俺をゴミ扱いする父親を見返すため、 ゲームの天才の俺なら最強だと自信満々で大会に挑んだ。 だが最近は後悔してばかり。 予想以上に強いトレーナーが集まっているこの大会。 優勝所か大会を勝ち進むのもかなりの苦戦を強いられるからだ。 しかも次の相手は予選で一瞬で巨大パラセクトを倒したあのクリス。 勝てるはずが無い。確実に殺される…… 逃げ出そうとも何度も考えた。 でも……逃げたくなかった。 ここで逃げたら一生逃げ続ける人生になる気がしたから…… 「……ネ夫。起きろ、スネ夫」 『ここは……』 目を開けると、そこには見慣れたゴリラ顔があった。 「ジャイアン、どうしたの?」 「どうしたもこうしたもあるか! お前の親戚の兄貴がクリスと戦ってるんだよ!」 「!? しまった……」 スネ夫はジャイアンを突き飛ばし観客席へ走った。 「はぁ…はぁ。兄さんは……」 「スネ夫、大丈夫だよ」 そう言ったのはのび太だった。 どうやらスネ夫が来るのを待っていたらしい。 「スネ吉さん、なかなか頑張ってるよ。 今あのクリスと良い勝負してるんだからね」 今フィールドに立っているのは、スネ吉とクリス。 それにヨノワールとレジスチルの二体のポケモンだ。 のび太の話では、今までかなり壮絶な戦い続いたらしい。 一体目のレジロックとダイノーズの岩石対決は、 力と力の押し合いのすえ、レジロックが勝利。 だが、次のポケモンハリテヤマがレジロックの硬い体を砕き、勝負をフリダシに戻した。 続くレジアイスもタイプの相性の良さもあり、ハリテヤマが倒したのだが、 倒れる間際にレジアイスがハリテヤマに電磁砲を放ち、戦いは相討ちに終わった。 そして二人はお互いに最後のポケモンを出すことになったのだ。 「……あなた。目が変わったわね。 そう……お兄ちゃんのような目に…」 「お兄ちゃん?今一瞬そう言ったような…」 そう言いかけたスネ吉だったが、言い終わる前に言葉は遮られた。 前を向くとレジスチルが拳を振り上げ、スネ吉に襲いかかろうとしていたのだ。 「!?」 「…アームハンマー…」 床を砕くほどの威力の拳がスネ吉を襲った。 「うわあああっ!」 スネ吉はレジスチルの拳を何とか避けたが、 その拳の威力で砕け散った多くの床の破片までは避けきれず、 何個かの鋭い破片が体に突き刺さった。 「兄さん!」 スネ夫が観客席から身を乗り出し、大声をあげた。 「早くギブアップするんだ!兄さんは良く頑張ったよ!」 その言葉を聞いたスネ吉は思った。 『ギブアップしよう。俺は頑張ったじゃないか』 スネ吉は勝負を諦め言った。 「キブアッ…」「兄さん、後ろ!」 「!?」 レジスチルがスネ吉を捕まえ、上へ持ち上げた。 「兄さん!ギブアップを…」 スネ夫は誰よりも早く異変に気づいた。 レジスチルは自分の体にスネ吉の顔を押し付け、口を開くことを封じていたのだ。 これではギブアップを言うことはもちろん息すらも出来ない。 「司会、試合を止めるんだ!」 だが、クリスはスネ夫の必死の訴えを打ち砕く一言を言った。 「レジスチル…大爆発…」 フィールドの端で大きな音を立て爆発が起こった。 スネ夫はただ……その爆発を呆然と眺めることしか出来なかった…… 「兄さん……」 治療室の上のランプはオレンジ色に光っている。 今回のケガはあまりにも酷すぎる為、町の一番大きな病院で治療が行われたのだ。 あの時……爆発の瞬間レジスチルの腕の力が緩み、 爆発の直撃を避けることが出来たおかげで即死はまのがれた。 だが至近距離からの爆発による熱風によるヤケド。 飛び散ったレジスチルの破片による刺し傷と切り傷。 目に見える傷だけでも数えきれない程多かった…… 《今夜が峠です》医者の言葉が頭によぎる。 さっき見えた包帯だらけの親戚の姿を思い出すと吐き気がした。 『もしかしたらもう兄さんには会えないんじゃ?』 そんな考えが浮かび始めた時、頭の中で男の声が聞こえた。 《 屋上で待つ 》 ガチャリ 屋上には白いシーツが干されていて、人の姿は無かった。 「空耳か……」 そう言ってスネ夫が屋上を去ろうとしていた時、 スネ夫は見えない力で動きを封じられてしまった。 「空耳何かじゃないさ、スネ夫」 見えない力で勝手に体が後ろを向く。 「お前は……ミュウ!」 前に居たのは出木杉のミュウ。 その赤い瞳はスネ夫の心まで見通してるような気さえした。 「安心しろ。今日はある取引きをしにきただけだ。 今の君にとって一番大切な人を救う取引きをね」 「……取引き?」 「ああ取引きだ。 私の力を使えばあの程度の怪我を治すくらい訳は無い。 もし……お前が条件を飲めば怪我を治してやるよ」 「……条件を言え」 「ふふ、物分かりが良いな。教えてやるよ。 お前があいつらを裏切り、出木杉様の手下になるなら……治してやるよ」 「な!……そんなこと…」 スネ夫は迷った。 もし本当に兄さんを救って貰えるなら……この条件を…… ミュウは手を差し出した。 「さぁ、この手を掴むんだ。さぁ…」 「……………」 スネ夫は無言で手を差し出した。 「……それで良い。お前は正しい道を選んだよ」 ミュウが手を握ろうとした時、 スネ夫は差し出していない方の手でボールを掴み、ジバコイルを出した。 「10万ボルトだ!」 電撃は直撃し、ミュウを屋上の金網まで吹き飛ばした。 「スネ夫、貴様…」 「動くな!少しでも動いたらもう一発お見舞いしてやるぞ! 僕はお前らの仲間にはならない。だけど兄さんは治してもらう!」 スネ夫のその言葉を聞いたミュウはにやりと笑い、言った。 「悪かったな。私の判断は間違っていたようだ。 お前も出木杉に勝てる心の持ち主だったようだ」 「出木杉を倒せる心?」 スネ夫はミュウの言葉に興味を持ち、言葉を続けた。 「何だよ、その心ってのは。僕以外に誰が持ってるんだよ」 「良い機会だ。話しといてやるよ。 私の目的と……この世界の真実を…… 私はこの世界が作られた時、支配者にふさわしいと出木杉に選ばれたポケモンだ。 あの箱型の道具の力で出木杉は自分が望んだ通りに町を変え、 私の力も限界まで強化しこの町の支配者になった。 そして邪魔なあのドラえもんと言うロボットを監禁し、私をお前らの所に派遣したんだ。 そこまではお前らも知っているだろう?」 思い出したくも無いが、ちゃんと覚えている。 三ヶ月前のあの日……戦いが始まった日だ…… 「1つ気になることがあるんだ。 どうしてあの時僕達を倒さなかったんだ? あの時に僕達を監禁すれば計画はもっとすんなり行ったはず……」 「それを今から話す。ここからが重大な話だ。良く聞いてくれ。 実は俺は……出木杉を裏切って、お前達を助けていたんだ」 「な、何だって!?どうして…」 そしてミュウは話始めた。 この長い長い戦いの真実を…… ミュウの過去 「俺達はこの町が変わる前からすでに存在していたんだ。 分かるか、この言葉の意味が?」 「もしかして……何か違う生き物だったとか?」 「その通り。 私達は皆お前ら人間が動物と呼ぶ生き物が変化して生まれた存在なんだ。 例えばピカチュウはネズミ、ポッポはハトのような感じでな。 もちろん私も例外じゃない…… 私は昔、お前ら人間がまだ知らない生物だった。 まぁ仲間はほとんど死に、私は弟と二人きりだったがな…… だが、ある日視界が光に包まれて……目を開けると姿が変わっていた。 すると出木杉が現れ、私と弟をボール型の機械に閉じ込めたんだ…… その後私が暗い地下室で目覚めると、また姿は変わっていて、 今度は肌がドス黒くなっていた…… そして檻から周りを見渡して、私が弟を探していると、二人の男の声が聞こえてきた。 『もう片方の失敗作はどうしますか?』 『捨てておけ。もう……必要無いからな』 その時私は見逃さなかった……檻に入れられたぐったりとした弟の姿を…… 私はその時誓ったんだ。必ず弟の復讐をしてやるとな!」 「…そんな…お前にそんな過去が…」 「ああ。私は本当は三ヶ月前のあの日、お前達を殺す様に言われていた。 だけど私は、お前らはもう逃げた後だったと嘘をつき、ある提案をしたんだ。 三ヶ月後に大会を開いてトレーナーを皆まとめて労働力にしたらどうか……とな。 そして出木杉は私の提案に納得し、大会を開くことを決めたんだ」 「ちょっと待って! あのパソコンに書いてあった計画ってのは何なの?」 「悪いがそれは私も分からないんだ…… だが、あるポケモンを捕まえることが目的なのは分かってる。 それにその計画は私が実行させない。 だからお前達は安心して戦いに集中すれば良いんだ」 「……それじゃあ出木杉を倒せる心って言うのは?」 「これから出木杉は、お前達の心の隙間を狙って誘惑してくる。 それに耐えられる心って意味さ。 正直君は誘惑に負けると思ってた。 だから私は君に何も渡さなかったんだ。 ホウオウも……巨大なバンギラスもね」 その言葉を聞いたスネ夫は全て納得した。 今まで少し上手く行き過ぎていると思うことが良くあったのだ。 だが、これで全てつじつまが合う。 今までのび太達はもう一人の仲間に助けられていたのだ。 このミュウと言うもう一人の仲間に…… スネ夫が黙っていると、ミュウはまた口を開いた。 「お前にはこれを渡しておく。 あの男の怪我も私が治しておくから安心しろ。 それじゃあクリスとの戦い……油断するなよ」 ミュウはそう言うと姿を消し、代わりに下から看護婦が上がってきて言った。 「手術は成功です!もう安心ですよ!」 「そうですか……」 看護婦の言葉を聞いたスネ夫は一言そう言った。 スネ夫は一度に多くのことを知り過ぎ、 パンクしそうな頭で必死に考えていたのだ。 これからのことや……この世界のことを…… のび太とジャイアンは、スネ夫に「心配要らない」と言われ、 病院を出て自由に時間を過ごすことになった。 だが、ジャイアンは用事があると家へ帰り、のび太は一人になってしまった。 「僕は何をしようかな?」 そんなことを言って歩いていると、のび太は久しぶりにある人を見つけた。 「あれは……ママだ!おーい、ママ…」 ママの様子は何かおかしかった。 何か人の目を避けてる様でコソコソと通りを歩いていた。 『どうしたんだろ?』 そう思ったのび太は、こっそりと後を追い掛けることにした。 一方ジャイアンの家では…… 「ジャイ子のことは忘れろってどういうことだよ!」 「理由は良いの。とにかく……ジャイ子のことはもう忘れるんだよ!」 「もう良い!こんな家出てってやる!」 ジャイアンは家を飛び出し、町中を走った。 『ジャイ子……お前はどこにいるんだよ!』 真実を知ったスネ夫 困惑するジャイアン そしてのび太 三人のそれぞれの思いをよそにドームでは、 次の戦いの組み合わせが決まっていた。 Aブロック決勝 のび太VSパパ Bブロック決勝 しずかVSレッド Cブロック決勝 ジャイアンVSゴク Dブロック決勝 スネ夫VSクリス size(medium){『この話の時間軸』} 【一日目】 AM9 00 出木杉がポケモンの世界で遊ぶことを提案。 AM10 00 出木杉が町をポケモン世界に変える。 (この時のび太達は気絶し、町の変化の過程を見ていない) AM11 00 町の姿が完全に変わる。 (この時に出木杉はミュウとその弟を発見し、ドーム地下に監禁した) AM11 30 ミュウと弟の改造を開始する。 ミュウの改造は成功するが、 弟は失敗し廃棄される。 PM1 00 出木杉がミュウにのび太達を殺す様に命令する。 PM1 30 のび太達が目覚め、ミュウと遭遇する。 この時のび太達が助かったのは、実はミュウのおかげである。 PM3 00 のび太達が大会出場を決意する。 この時ミュウは出木杉に大会の開催を提案する。 出木杉はミュウの言葉に納得し、大会を開催することを決める。 PM3 30 のび太達はそれぞれパートナーを探す為旅立つ。 【二日目】 のび太達はそれぞれのパートナーを見せあい、修行を開始する。 【三ヶ月後 大会初日】 大会の予選が始まる。 AM9 00~PM12 00 のび太達はそれぞれ予選を勝ち抜く。 PM1 00 スネ夫と一旦別れ、出木杉の家へ そこで出木杉の母に会い、出木杉変貌の真実を知る。 三人はドームへ戻り、控室で就寝。 【大会二日目】 AM 10 00 四人は一回戦の組み合わせを知る。 PM12 00~PM6 00 一回戦開始。ゴヘエ、業火などと対決。 この時スネ夫が怪我を負い、のび太達は治療室に付き添う。 PM11 00 スネ夫の意識が戻り、皆それぞれ部屋で就寝。 【大会三日目】 AM1 00 のび太は眠れないため外へ散歩に行く。 その途中ベンチに座るしずかに会い、少し話す。 AM2 00 のび太としずか就寝。 AM8 00 のび太達起床。一時間ほどしずかを探すが、発見出来ず…… AM9 00 二回戦開始。 AM10 30 しずかの様子がおかしくなる。 AM11 00 のび太がしずか(ジン)を問いつめ、 しずかが監禁されたことが判明する。 だが、のび太はジンに勝負で負け、大怪我を負う。 PM4 00 のび太の意識が戻る。 PM4 30~7 00 二回戦の続きが行われる。 この時ジャイアンは幹部のリーダー清姫極と出会う。 PM9 00 のび太達が裁きの穴での特訓を開始する。 また同時刻ミュウとタイムパトロールが交戦。 【大会四日目】 AM0 00 のび太達が地下アジトへの入り口を発見。 その時タイムパトロールの隊員Bとも遭遇する。 AM1 00 幹部ミクリに勝利。 AM1 30 雷電の実験室を発見。コンピュータから様々な情報を知る。 AM2 00 のび太がアリアドスに勝つが、瓦礫の息埋めに…… (この時タイムパトロールのクッドが秘密道具を使い、少しの間時間を止めた。 そのためのび太達がアジトを脱出したのも2 00と言うことになる) AM2 30 クッドと別れ、のび太達就寝。 AM5 00 のび太一人で起床。 その後外でクッドに会い、タイムパトロールによる 出木杉への攻撃が近々行われることを知った。 AM9 00~2 00 それぞれのブロックの決勝戦。 その後スネ夫はクリスとの戦いで大怪我を負ったスネ吉の付き添いで病院に行く。 そこでミュウと出会い、この戦いの真実を聞かされたのだった…… 次へ
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【作品名】ドラえもん 【ジャンル】アニメ(シンエイ動画) 【名前】野比のび太(シンエイ動画制作版アニメ) 【属性】ダメ人間 【年齢】20歳 【長所】昼寝・あやとり・射撃 【短所】その他のエピソードを見るに20歳になっても精神年齢は変わってなかった 【備考】アニメーション制作がシンエイ動画になった以降のアニメのドラえもん。 このシリーズではのび太は小学5年生の学年設定なので最低でも10歳。 無人島で10年を過ごしたのを加算して20歳、無人島での加齢分はタイム風呂敷で若返った。 vol.4
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10万年前・南極 カーラとヒャッコイ博士がパオパオに乗ってどこかに向かっていた。 すると博士は何かを見つける。 博士「これは?」 少女「博士!」 2人がたどり着いたのは遺跡の中だった。 博士「素晴らしい……」 カーラ「これがブリザーガの骨格……」 骨格の額に何か刺さっていた。 カーラは骨格を 登って剣を抜こうとする。 博士「もっと慎重に!」 振り向くと何かを目にする。 博士「あのシルエットは…… カーラ、急げ!」 カーラ「もうちょっと…… 抜けた!」 パオパオは間一髪カーラをキャッチ。 博士「行くぞ!」 地上からオクトゴンが現れる。 カーラ「オクトゴン!」 博士「音霊を使う。先に行け!」 博士の銃が炸裂。 しかしオクトゴンは博士を転倒させてしまう。 カーラ「博士、テックタク! うわあーっ!」 カーラが飛んだ拍子にリングが落ちてしまう。 カーラ「しまった!」 パオパオがカーラの足を掴む。 カーラ「ダメ!」 リングは海に落ちてしまう。 カーラ「リングが‼︎」 10万年後・東京 アナウンサー「効率の暑さは収まる気配がありません! 今日も35度以上になるところが多く、この暑さはしばらく続く見込みです。都心部では、45度を記録した場所もあり、全国的に猛暑が進んでいます。東京は2週間連続……」 ドラえもん「かき氷食べ放題になる道具?」 のび太「このままだと暑くて焼け死んじゃうよ。宿題だって全然捗らないし……」 ドラえもん「またそんなことばっかり言って!」 するとドラえもんのテレビ電話が鳴り響く。 ドラえもん「ドラミからだ……」 電話に出るとドラミは占い師の格好をしていた。 ドラミ「お兄ちゃん、大丈夫? よかった……まだ元気みたいね」 ドラえもん「全然元気じゃないよ。こっちは暑くて……」 ドラミ「暑い? おかしいわね。ロボット占いによると、お兄ちゃんは今週人生最悪の運勢で氷難の相が出てるって……」 のび太「氷難?」 ドラミ「当たるって評判なんだから…… 『氷の難』って書いて『氷難』よ。冷たいこ・お・り! 氷で災難に遭うって…… とにかく氷には気をつけて、絶対に近づいちゃダメよ。それからペンギンには要注意! ラッキーアイテムは星」 ドラえもん「全くもう…… ドラミはすぐ流行に流れるんだから……」 ドラミ「ええっ? 流氷に流される?」 ドラえもんが通話を切る。 のび太「ハァーッ。食べないと死ぬ、かき氷……」 ドラえもん「かき氷…… 流氷…… そうだ! いくらでも食べ放題の場所がある!」 ドラえもんは押し入れを探し始める。 ドラえもん「えーっと、確かこの辺に…… あいたっ! これだ。気になったんでとっておいたんだ」 ドラえもんが見つけたのは新聞の切り抜きだった。 そこには「巨大氷山北上」と書いてあった。 のび太「巨大氷山……」 ドラえもん「お腹いっぱいかき氷を食べよう……」 のび太「なるほど! あっ。でもドラミちゃんの占いは? 氷難の相、氷に注意って……」 ドラえもん「気にしない、気にしない……」 どこでもドアを開けるそこは氷山の上だった。 のび太「これが氷山?」 ドラえもん「あっちだ!」 ドラえもんとのび太はタケコプターで霧の中を前に進む。 のび太「何もないけど…… 一月以上前の記事だし、もう溶けちゃったんじゃない? ん? うわあっ!」 のび太が氷の壁にぶつかりそうになるが、間一髪回避。 ドラえもん「こっち、こっち!」 のび太はドラえもんの元に向かう。 のび太「ねぇ、あの氷の壁って……」 ドラえもん「見てごらん……」 2人が目にしたのは巨大な氷山だった。 のび太「わあーっ! 巨大氷山だ!」 ドラえもん「ここならかき氷食べ放題!」 のび太「これじゃいくら食べても減らないね……」 早速氷を掘るドラえもん。 のび太「ねぇ、うちからテーブルと椅子を持ってくるからどこでもドア出して!」 ドラえもん「それならいい道具がある。氷細工小手!」 のび太「何?」 2人の下の氷が沈む。 のび太「いってぇ。これがテーブルと椅子?」 ドラえもん「間違えた。えーっと、プラスにセットして……」 今度は氷が高くなる。 ドラえもん「そしたら今度は後手先を細めにして、こうして、こうして……」 ドラえもんの作業によってソファーが完成する。 のび太「すごい! ソファーになった」 ドラえもん「うーん、こんなもんかな。次は、ふかふかスプレー! これを吹きかけると氷がふんわり柔らかく固まって溶けなくなるんだ……」 のび太「わーっ!」 2人は早速氷のソファーに座る。 のび太「ねぇ、テーブルも作れる?」 ドラえもん「もちろん! どんな形だって自由自在」 こうしてドラえもんとのび太は氷の屋根も作り、かき氷をたらふく食べる。 のび太「ふーっ、涼しくていいねぇ…… だいたい近頃の夏は暑すぎるんだよ。地球上全部こんな風に氷だったらいいのに……」 ドラえもん「またまた…… でも確かに地球は昔、君の望むように氷に覆われてたことがあるんだけどね……」 のび太「あっ、知ってる。マンモスとかいた時代でしょ?」 ドラえもん「それよりもっとずーっとずーっと昔、地球全体が厚い厚い氷に包まれてたことがあるんだ」 のび太「本当?」 ドラえもん「その頃なら海も山も全て氷に覆われて世界中どこへ言ってもこんな景色だったはず……」 のび太「へぇーっ……」 ドラえもん「それは、スノーボールアースって呼ばれる現象で、数千万年続いたって言われてる。まぁ、人間が地球に誕生するずっと前の話だけどね…… さぁ、十分涼んだ。帰って宿題をやりたまえ」 のび太「ええっ? せっかくいい場所見つけたのに、もっとここで遊ぼうよ! そうだ! ここに氷の遊園地を作ろう!」 ドラえもん「えっ?」 のび太「作ってみたいと思わない? 氷の観覧車にジェットコースター!」 ドラえもん「宿題は?」 のび太「大丈夫。夏休みはまだあるんだし!」 ドラえもん「うーん……」 のび太「ねぇ、ねぇ?」 ドラえもん「じゃあ、ちょっとだけだよ」 のび太「やった! さすがドラえもん!」
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拝啓 ドラえもんさま。 こんばんは、野比のび太です。 陽春の候、いかがお過ごしでしょうか。 さて、あなたに誘われるままポケットモンスター金銀の世界にやって来てから、 六時間ほどが経過いたしました。 言い出しっぺのあなたがゲームの世界に来ないとは正直予想外でした。 おかげでぼくはウツギ博士にお使いを頼まれ、先ほどやっとそれを終え、 一人だけ大幅に遅れをとっています。 博士からのお礼は特にありません。 早くも現実の世界に帰りたくなってしまいました。 スペアポケットとは言いません。 せめてウラシマキャンデーを、ウラシマキャンデーをください。 冗談です。 それでは、またお会いいたしましょう。 敬具 ここはヨシノシティ かわいい花の香る町 「へぇ、ゲームの世界にも季節ってあるんだぁ」 のび太は感嘆の声を洩らした。 この町にはその説明の通り、至る所に花がある。 もちろん、春を象徴する桜もその花を咲かせている。 「きれいだなぁ……」 のび太はのび太らしい率直な感想を述べた。 「ほらヤドン、桜きれいだよ」 しかし、のび太のパートナーであるヤドンは桜に一瞥も与えず、 ただぼんやりと月の浮かんだ夜空を眺めている。 のび太はやれやれと思いながらポケギアに目を落とす。 「次の町はキキョウシティか。みんなもう着いてるんだろうなぁ……」 のび太は溜め息を漏らした。 ヤドンはまだ空を見ている。 ウツギによれば、もともとのび太たちがもらえるはずだったポケモンたちは、 数日前に何者かに盗まれてしまったらしい。 のび太は不安を感じずにはいられない。 「そういうイベント、なのかなぁ?」 のび太の独り言に答えるものはいなかった。 考えていてもしょうがないと判断したのび太は、 ヤドンを連れて30番道路に向かった。 ここは30番道路 キキョウシティ …… ヨシノシティ 「ここを抜ければキキョウシティなんだね」 のび太はなんとなく、そばにあった大きな木に手をついた。 そして、木の上からなにかがぶら下がっていることに気付いた。 「うわッ!」 のび太は驚き、慌てて後ろに下がった。 そのなにかの正体は野生のイトマル。 のび太は胸を撫で下ろす。 「はぁ、どきどきしたぁ……」 のび太はイトマルをよく捉えようとして、そのつぶらな瞳と目が合った。 「よし、捕まえてみよう」 そう決めるや否やのび太は傍らのヤドンに命じる。 「体当たり!」 気を抜いていたらしいイトマルにヤドンのピンク色の体がぶつかった。 「よし、モンスターボール!」 射撃が得意なだけあって、のび太の投げたボールは見事にイトマルに命中し、 当たったボールは揺れもしなかった。 「やった、えへへ」 初めて自力でポケモンを捕まえ、頬が紅潮している。 「やっぱり考えすぎだったな」 のび太は実に単純な構造の脳みその持ち主だった。 ここはキキョウシティ 懐かしい香りのする町 「だれかと一緒に行けばよかったかしら」 しずかはぽつりと呟いた。 しずかはこの世界に来た四人の中で唯一、ポケモンをプレイしたことがない。 みんなのプレイを見ていた程度だ。 経験不足はしずかを焦らせ、結局ここまで一人で来てしまったのだった。 「別に優勝するつもりもないのに」 そう、ゲームには勝者がつきものだ。 今回の場合は最初にチャンピオンになれば優勝である。 しかし、しずかは勝ち負けにはあまり興味がなく、 どちらかと言えばかわいいポケモンと一緒にいたいという気持ちだった。 どうせ黙っていてもだれかが優勝するだろうと考え、 これからは自分のペースで進むことにした。 「それじゃナゾノクサ、お散歩にでも行きましょ」 パートナーのナゾノクサを連れて、しずかもまた31番道路へ歩き出した。 ここはマダツボミの塔 ポケモンの修行をなされよ 「オニスズメ、つつく!」 ジャイアンはマダツボミの塔で坊主相手に修行をしていた。 修行と言っても、マダツボミ狩りと言い換えることができるほど一方的なものだった。 ジャイアンのパートナーはワンリキーだが、 マダツボミやホーホーを相手にしてはその実力は発揮できない。 そこで新入りのオニスズメの出番というわけだ。 そしてとうとう、マダツボミの塔において最も強い坊主、コウセイをも倒してしまった。 「あんたも弱いなぁ。全然手応えなかったぜ」 ジャイアンは勝ち誇った笑みを浮かべる。 そんなジャイアンを見据え、コウセイは口を開く。 「確かにそなたは強い。だが」 「負け犬のくせに説教かよ」 ジャイアンを無視してコウセイは続ける。 「そなたはポケモンに対する愛情が足りない」 途端にジャイアンの顔が不愉快そうになった。 「愛情なんて強さに関係ねぇよ」 「どう思おうと勝手だが、そのままではこれ以上強くはなれまい」 いつものジャイアンならばとっくにコウセイを殴っていただろうが、 コウセイの持つ密かな迫力に圧倒されてしまっていた。 「ちッ、ばかじゃねぇの。なにが愛情だよ」 ジャイアンはそう吐き捨て、塔をあとにした。 キキョウシティ ポケモンジム リーダー ハヤト 華麗なる飛行ポケモン使い! 「それじゃよろしくお願いします」 「こちらこそ」 その頃、スネ夫はキキョウジムに挑戦していた。 ハヤトはポッポを、スネ夫はパートナーであるケーシィを繰り出す。 「ポッポ、体当たり!」 先手を打ったのはハヤトだった。 スネ夫は動じず、ケーシィに指示を出す。 「テレポート!」 ポッポから攻撃を受ける直前にケーシィの姿がかき消えた。 「どこに行った?」 「後ろだよ」 ケーシィはポッポの背後に回っていた。 「ポッポ、風起こし!」 「ケーシィ、テレポート!」 スネ夫はただただ、ケーシィにテレポートを命じ、 ポッポの攻撃をケーシィがテレポートで避ける、という行為が幾度も繰り返される。 「どういうつもりだ!」 スネ夫はそれには答えない。 そして、ハヤトはスネ夫のその意図に気が付いた。 (悪あがき狙いか!) そう、スネ夫は技ポイント切れによって悪あがきを発動させようとしているのだ。 (舐めた真似を) 「テレポート!」 怒りに震えるハヤトにスネ夫の声が聞こえた。 (今のが十四回目のテレポートだな) テレポートの技ポイントは十五。 ならば、とハヤトは考える。 ケーシィが最後のテレポートを使ったときに、 ポッポに守るを使用させれば悪あがきを防ぐことができるだろう。 「ケーシィ」 スネ夫が指示を出そうとした。 「ポッポ、守る!」 ハヤトの命令を受け、ポッポが自身を丸め、防御しようとしたそのとき。 「悪あがき!」 ケーシィはテレポートではなく、悪あがきを発動した。 「なにッ!」 防御体勢が万端でなかったポッポは、悪あがきをまともに食らい倒れた。 「ばかな!なぜ……」 スネ夫がいやらしい笑みを浮かべて言う。 「技ポイントが常に満タンとは限らないよ?」 その言葉にハヤトははっとする。 「なるほど、おれと戦う前にテレポートの技ポイントを一だけ減らしておいたのか」 テレポートの連発が悪あがき狙いであることが気付かれるのは、 スネ夫にとっては計算のうちだったのだ。 「仕方ない。出てこい、ピジョン!」 ハヤトが繰り出したのは、切り札でもあるピジョン。 「先制攻撃だ、泥かけ!」 もはや攻撃を避けるすべを持たないケーシィは、泥かけを食らってしまった。 「ケーシィ、悪あがき!」 命中率が下がっているケーシィの悪あがきは虚しく空を切る。 「ピジョン、風起こし!」 もともと防御力の高くないケーシィは、ピジョンの攻撃で戦闘不能となった。 「戻れ、ケーシィ。次はこいつだ!」 スネ夫が出したのはハネッコ。 「ハネッコ、だと?」 草タイプのハネッコは飛行タイプのピジョンとは相性が悪い。 「どこまでも舐めたものだな」 ハヤトは呆れかえっている。 それを見て、スネ夫はにやりと笑った。 「ピジョン、体当たり!」 ハヤトの指示を受けたピジョンは、ハネッコ目がけて走り出した。 (効果抜群な風起こしを使わないなんて、随分と手を抜いてるじゃないか) ハヤトが本気を出していないことが分かり、スネ夫はほくそ笑む。 「舐めてるのはぼくじゃない、あんたの方さ。ハネッコ、毒の粉!」 ハネッコの至近距離にいたピジョンに毒の粉が直撃した。 「ハネッコ、続いてフラッシュ!」 ハヤトとピジョンに少しの暇も与えず、スネ夫はハネッコに命令した。 眩い光がジムを照らす。 「目が、目がぁッ!」 ピジョンはもちろん、ハヤトも思わず目をつぶった。 スネ夫はどこに持っていたのか、しっかりとサングラスを装着している。 「秘伝マシンを持っていたのか……」 ハヤトは目を押さえながら呟いた。 そう、フラッシュを含むすべての秘伝マシンは、 ポケモン図鑑やポケギアと同様に、 ゲームが開始したと同時にプレイヤーに配られている。 一つしか手に入らないものであるため、 二人以上でプレイするときは全員に配られるように設定されているのだ。 スネ夫はさらにフラッシュを命じ続ける。 ハヤトの目が回復するころには、ハネッコはすでに六回目のフラッシュを終えていた。 それからは一方的な戦いだった。 ハネッコに攻撃はほとんど当たらず、たまに当たってもすぐに光合成で回復してしまう。 ピジョンはと言うと、毒に少しずつ体力を奪われ、加えて攻撃を食らっていた。 それから数分後、ピジョンはとうとう体力が尽きて倒れた。 「……おれの負けだ。これを受け取ってくれよ」 ハヤトはスネ夫にジムバッジと技マシンを渡す。 「ありがとうございます」 (技マシンは泥かけか。正直いらないなぁ) スネ夫は口先でだけ礼を言うと、ジムを出た。 上機嫌で鼻歌など歌うスネ夫の耳に、聞き慣れたあの声が聞こえた。 「スネ夫、勝負だ!」 ジャイアンからしてみれば、さしたる理由はなかった。 ただむしゃくしゃしていたから、そしてその目の前をスネ夫が通ったから、 ジャイアンはスネ夫に勝負を挑んでいた。 「ジャ、ジャイアン。それはちょっと勘弁してくれないかなぁ」 スネ夫は必死でジャイアンとの勝負を避けようとする。 今戦える手持ちはハネッコしかいないのだ。 「ぼく、一応ジム帰りだから手持ちが」 「うるせぇな、勝負しねぇなら全財産よこせ!」 さすがジャイアン、めちゃくちゃである。 スネ夫の脳みそは経験上、こう言っている。 機嫌の悪いジャイアンに逆らうことは最も無駄な行為の一つであり、 無駄どころか危険なのでやめた方が賢明だ、と。 諦めがついたスネ夫はハネッコを出した。 ジャイアンはオニスズメを繰り出す。 結果は言わずもがな、ジャイアンの楽勝であった。 「ありがとな、スネ夫。いいストレス解消になったぜ」 ジャイアンはスネ夫の所持金の半分を奪い、ジムへと向かっていった。 ここは31番道路 キキョウシティ …… ヨシノシティ 「やっと着いたよ、キキョウシティ」 のび太はキキョウシティ入口を前にして呟いた。 「正確にはまだ31番道路だけどね」 あと一息、と入口に入ろうとしたそのとき。 「ぐはッ!」 扉が勢いよく開き、のび太の顔面にクリティカルヒットした。 ついでに鼻血が出た。 「あっ、ごめんなさい!」 のび太の耳にかわいらしい声が届いたが、当然その程度では痛みは治まらない。 「ごめんですんだら警察はいらないんだよ、ってしずちゃん!」 「あら、のび太さん!」 扉を開いたのはのび太の思い人、しずかだった。 「ほんとにごめんなさい!」 「いや、全然平気だから気にしないで」 しずかは腰を深く折り、のび太に謝罪する。 のび太は鼻にティッシュを詰めている。 「そんなことより、しずちゃんはどうして戻ってぐふッ!」 のび太の言葉はそこで途切れた。 驚きながらしずかが呟く。 「あれは……ホーホー?」 のび太は今度は野生のホーホーに後頭部を攻撃されたのだ。 「この……ヤドン、体当たり!」 ヤドンの体当たりがホーホーに当たり、ホーホーは千鳥足になる。 「よし、あれ?」 のび太はポケットを探るが、モンスターボールがないことに気付く。 どうやらイトマルと会ったときに、驚いて落としてしまったらしい。 「仕方ないや。しずちゃん、ボールを投げて!」 「わかったわ!」 しずかはボールを取り出し、ホーホーに投げつけた。 ボールは二、三度揺れて動きを止めた。 「よかったね、しずちゃん」 初めてポケモンを捕まえたしずかはうれしそうだ。 「そうだわ、のび太さん」 しずかは名案を思い付いたかのような顔でのび太に尋ねる。 「一緒に行かない?」 のび太から誘うことはあっても、しずかから誘われるなど滅多にないことだ。 これは千載一遇のチャンス、逃してなるものか。 「とんでもない、喜んで!」 いまいちどちらなのか判断しづらい返事をしてしまった。 「それってどっち?」 しずかの一言でのび太は冷静になった。 「えぇと、オッケーってことです」 「よかったわ。これからよろしくね、のび太さん」 しずかの言葉にのび太はすっかり舞い上がってしまった。 ここはヒワダタウン ポケモンと人とが共に仲良く暮らす町 「やっと着いたぁ……」 息も絶え絶えにスネ夫は呟いた。 「確か次はヤドンの井戸にいるロケット団を追っ払うんだっけ?」 だいぶ前とは言え、ゲームのポケモン金銀をクリアしているスネ夫は、 ゲームのおおまかな流れを覚えている。 「はぁ、めんどくさ……あれ?」 ヒワダジムの入口がスネ夫の視界に入った。 ゲーム通りならば入口を塞いでいるはずの人間は、そこにはいない。 「もしかして、やらなくても」 ジムに近付き、窓から中を覗き込んだ。 中ではたくさんのトレーナーたちが挑戦者を待ち構えている。 「いいみたいだね……ふわぁ」 スネ夫から欠伸が一つ洩れた。 そう、時刻はもうすぐ夜明け。 ジムの中には目を赤くしている者、睡眠を取っている者もいる。 「ジムのトレーナーも大変だなぁ」 ジムには後で挑戦することにし、スネ夫はポケモンセンターへ向かった。 「もう、どこだよここは!」 ジャイアンは頭をぼりぼり掻きむしりながら呟いた。 ほとんど叫んでいるようなものであったが。 「洞窟ってこんなんなんだなぁ」 ジャイアンはRPGのダンジョンをほとんどすべてスネ夫にやらせていた。 そのためジャイアンは、たとえ地図があったとしてもまったく進めないのだ。 話も聞かなければ地図も読めない。 つまり剛田武という人間は、RPGはさっぱり向いていないのだが、 本人はそういったゲームが大好きなのだ。 俗に言う下手の横好きというものである。 「くそッ、せっかく早起きしたのに」 まさかのタイムロスに舌打ちをする。 そんなジャイアンの脳裏に、ある一つの考えが浮かんだ。 「なぁ、あんた」 ジャイアンは近くにいる眼鏡の男に尋ねる。 「あんたはこの洞窟の出口までの道程を知ってるか?」 男はいきなり話しかけられ、少し驚いたようだが、ジャイアンの質問に答える。 「あぁ、知ってるが。それがどうかしたのか?」 物分かりの悪い男に若干いらつきながらも、ジャイアンは続ける。 「ここであんたとバトルしておれが勝ったら、 速やかに所持金をよこすと共におれを出口まで連れていってほしいんだよ」 それを聞いた男は明らかに不満そうな顔をする。 「それじゃ、オレだけが損じゃねぇか」 「話は最後まで聞いてくれよな」 ジャイアンはさらに続ける。 「その道中で出てくる野生ポケモンは全部おれが倒すし、 もしあんたが勝ったら、おれの所持金と手持ちを全部やるよ」 しばしの沈黙。 それを破ったのは男の方だった。 「分かった。その話に乗ってやるよ」 男の言葉にジャイアンは、ガキ大将らしかぬ笑みを浮かべた。 「気持ちのいい朝だなぁ」 窓から差し込む日光を浴びて、背伸びをするのび太。 「……ってもう十時じゃん!」 ポケギアを確認したのび太は慌てて身支度を整える。 息を切らして部屋を出れば、そこではしずかが待っていた。 「しずちゃん、おはよう……」 のび太は謝罪の意味を含んだニュアンスで言った。 「のび太さん、こんにちは」 一見すれば普通の挨拶だが、自分の「おはよう」に対し、 わざわざ「こんにちは」で返している辺りから、のび太はしずかが、 「もう朝じゃなくて昼よ。いつまで寝てるのよ、まったく!」 ということでも考えているのでは、などと邪推してしまう。 しかし、 「ゆっくり眠れたみたいでなによりだわ」 しずかはにっこり微笑みながら言った。 のび太の杞憂は数秒で吹っ飛び、代わりに押し寄せてきたのは、 心優しいしずかを疑ってしまった自分に対する情けなさ。 「そ、それじゃ、進もうか!」 それを誤魔化すため、のび太は不自然なくらい大きな声を出した。 すると、 「あぁッ、いたいたいたいたいたいたいたいた!」 一人の男が二人に近付いてきた。 「まさかまだ寝ていたとは……。いやぁ、探しましたよ」 白衣の男はにこやかに言い、のび太は不躾にも尋ねる。 「えっと、だれですか?」 「ぼくです。ウツギ博士の助手ですよ」 「……あぁ、おはようございます」 思い出せはしなかったが、とりあえずのび太は頭を下げた。 「のび太くん、もう朝じゃなくて昼ですよ。 いつまで寝てるんですか、まったく!」 のび太の邪推は微妙な形で当たってしまった。 すると助手は、鞄からなにかを取り出した。 「これをのび太くん、きみに届なければならなくて」 「これって、あのタマゴですか?」 そう、前日にのび太がウツギに頼まれて、 ポケモンじいさんに見せにいったタマゴである。 それに対する助手の首肯。 続いてタマゴについての大まかな説明を施し、 そういう訳なので、とのび太にタマゴを手渡して去っていった。 「なにが生まれるのかしらね」 しずかが興味深そうに言い、 のび太はそのおかしな模様のタマゴをじっと見つめていた。 ヒワダタウン ポケモンジム リーダー ツクシ 歩く虫ポケ大百科 「やっぱりできちゃった」 ジムバッジを握った右手を見つめてスネ夫が洩らした。 ツクシの使用する虫タイプに対して、相性のよくない二匹ではなく、 新入りのウパーで戦ったおかげで楽勝だった。 「それにしても、あの青狸め。ちゃんと説明しろよな、まったく」 スネ夫はここにはいない相手に悪態を吐きながら、町の入口を一瞥した。 「ジャイアンはまだ来てないみたいだし、いい感じだ」 このペースで進めればいいんだけど、と呟いて、スネ夫はウバメの森へ向かう。 スネ夫にとって、町の人間が困っているだとか、悪事を働いている人間がいるだとか、 そういったことは、まったく興味の対象になりえなかった。 「お前の全財産はありがたくもらっとくぞ」 眼鏡の男はジャイアンを見下ろしながら言った。 ジャイアンの持ち掛けたバトルは、男による一方的な戦いに終わった。 ジャイアンはこの世界では初めての惨敗を味わったのだった。 戦う前に自分が決めたルールの通りに、 手持ちのポケモンが入ったボールを渡そうとするジャイアンを、男は両の手で制する。 「あぁ、ポケモンはいらねぇよ。最初からもらうつもりもなかったからな」 男はさらに続ける。 「お前には絶対に勝てるって思ったから、お前の話に乗ったんだ。 バトルに手持ちポケモンを賭けるような奴は、弱いに決まってるからな」 男の言葉にジャイアンは俯いたまま。 「まぁ道案内くらいならしてやるよ。オレも鬼じゃないしな」 今のジャイアンにとって、男のその申し出は屈辱以外のなにものでもなかった。 しかし一人では洞窟を抜けられない。 ジャイアンは結局、男に誘われるまま黙って付いていった。 ゲートを抜けるとウバメの森 「うぅ、気味悪いなぁ」 スネ夫が心底、嫌そうに呟いた。 ウバメの森は空も見えないほど木が鬱蒼と生い茂り、 その空気は水分を孕み、じっとりとしている。 幽霊が出てもおかしくなさそうなくらいだ。 「こんな細かいところまでリアルにするなよなぁ」 すると足下から、がさがさという音。 「うひゃッ!」 恐る恐る見てみると、そこにいたのは背中に二つの茸を持つポケモン。 「なんだ、野生のパラスかぁ……」 状態異常で攻めて攻めて攻めまくるのが、スネ夫のポケモンにおいての常套手段。 特にパラセクトは、スネ夫もゲームで愛用していた。 「よし、捕まえてやろう」 ありがたく思えよ、と右手でパラスを指差しながら、 スネ夫は左手でモンスターボールを構えた。 一方、のび太としずかは繋がりの洞窟にいた。 「あぁ、のび太さんと一緒でよかったわ」 しずかがぼそりと洩らした。 その言葉にのび太は心の中でガッツポーズ。 ちなみにしずかにとってその台詞は、 一人でなくてよかった、という意味合いでしかなかった。 「しずちゃん、メリープを捕まえておいてよかったね」 薄暗い洞窟を照らしているのはしずかのメリープ。 それのおかげで二人は迷うことなく進んできた。 「のび太さんもサンドを捕まえられたわよね」 「まぁほとんど偶然なんだけどね」 そう、たまたま落としたモンスターボールが転がっていき、 そこでぼーっとしていたサンドに当たったのだ。 「なんでぼくの手持ちって、こんなのばっかりなんだろうなぁ」 のび太は溜め息を吐いた。 「あれかしら。類は友を呼ぶって言うじゃない」 「……」 しずちゃん、それはあれでしょうか。フォローのつもりなのでしょうか。 まさか嫌味ですか。それとも天然ですか。 ぼくの特に繊細というわけでもない心は、ほんの少しだけ傷つきました。 のび太はそんなことを思いつつ、とりあえず笑顔でいた。 ヒワダジムの前でジャイアンは立ち尽くしていた。 あの男は洞窟を抜けるとすぐに、用事があるから、と言って去っていった。 あのとき、男が紡いだ台詞。 そして記憶は逆上り、マダツボミの塔でコウセイに言われた言葉も蘇る。 「おれは……」 そう言うと、ジャイアンは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。 自分のモンスターボールを見つめ、両の手でそれらをぎゅっと握り締めた。 「おれはッ……!」 このときのジャイアンは、涙こそ流してはいなかったが確かに泣いていた。 その理由は、たくさんありすぎた。 ジャイアンはやっと、それらに気付くことができたのだ。 しばらくして、ジャイアンはジムの中へ消えていった。 次へ
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5ページ目 のび太「くそっ、だったら俺一人でジャイアンに復讐してやる」 ドラえもん「飲めよ?」 静香「はい」ごくり ジャイアンの家 のび太「おい!ジャイアン!」 ジャイコ「なーにのび太さん?お兄ちゃんは部屋でスネ夫さんと遊んでるわ?」 のび太「ジャイアンを呼べ」 ジャイコ「私を倒したらね」 のび太「いいだろう」 のび太はジャイこをやっつけた。 ジャイこ「さすがのび太さんね。いいわ呼んでくる」 次へ トップへ