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前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) トリステイン魔法学院で執り行われた春の使い魔召喚の儀式から明けた朝――ふがくは 自分を取り巻く景色が変わっていないことにちょっとした絶望感を味わっていた。 「……あーあ。目が覚めたら『元の世界』に戻ってた、なんて期待した私がバカだったわ……」 ふがくは学院女子寮の屋根の上で、目に映る景色に大きくため息を漏らす。夜空を 彩っていた天空に浮かぶ蒼紅の双月は今は見えないが、昨日激しい痛みで叩き起こされて からのことがすべて現実だとそろそろ認めなくてはならないとも思い始める…… ――『ダイニッポンテイコク』?聞いたことないわね。どこの田舎よ?―― ――元に戻すなんてできないわ!『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけだもの―― 昨夜、ルイズと名乗った桃色髪の生意気な少女が言った言葉がこれだ。 「火」「水」「土」「風」そして失われた「虚無」と呼ばれる系統に分けられた「魔法」のこと、 そして「メイジ」と呼ばれる貴族階級の存在。貴族については大日本帝国にも存在しているので ことさら驚きはしなかったが、「魔法」についてはちょっとだけ驚いた。「鋼の乙女」と呼ばれる 兵器である自分が生み出されたのはあくまで「科学」という技術。魔法なんてものは子供向けの 空想漫画くらいにしか出番はないはずなのに、ここではそれが全くの逆になっている。 しかし、ふがくが愕然としたのはそれらのことではなかった。 ――あんたはわたしの『使い魔』なのよ?ご主人様の命令ならどんなことでも喜んでする……『犬』なのよ!―― ……冗談じゃない。ふがくは思い出すだけで腹の立つ思いを無理矢理抑え込む。結局 お互い平行線のままふがくが窓から飛び出して――今この有様だった。 一方、鬱屈としたまま眠りについたルイズは……本来ならば心地よいはずの朝に目覚めた後 でも変わらない部屋の光景に、悲しさを覚えずにはいられなかった。 「……やっぱり戻ってない……いったい、わたしが何をしたって言うのよ……」 自覚がない、ということは素晴らしいことでもある。昨夜自分が呼び出した使い魔が飛び 出したままで半開きになった窓もそのままに、ルイズはもそもそと着替え始めた。 「……まったく、なにやってるのよ。使い魔のくせに……」 思わず口に出る。けれど、それで何が変わるわけでもなく、ルイズは重い足取りのまま 朝食に向かうことになった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝 いたします――」 いつものように祈りから始まる朝食。卓上には大好物の焼きたてのクックベリーパイと 肉がたっぷり入った子羊のスープ。けれど、ルイズの心は晴れなかった。 理由は単純。使い魔がまだ戻らないからだ。結局アルヴィーズの食堂までの廊下でも 見つかることもなかった。 「……どこに行ったのよ、まったく」 「おはよう!ルイズ。……あら?あの使い魔はいないの?」 落ち込むルイズにかけられる声。声の方向に顔を向けると、そこにはルイズと正反対に 豊満なスタイルを隠すこともない赤い髪と褐色肌の長身の女生徒と、まだ眠いのか開いた 本を手にしたままあくびを隠さない青い髪に雪色肌の小柄な女生徒がいた。 「むっ。キュルケ……」 声の主に対してルイズは露骨にいやな顔を向ける。その様子に何か思い当たる節が あるのか、赤い髪の女生徒、キュルケはにんまりと微笑んだまま言葉を続ける。 「昨日の様子からして、もう逃げられたの?せっかく呼び出した使い魔さえ御せないなんて、 さすがルイズね」 「ち、違うわよ!フガクは……」 そう。ヴァリエール家にとって不倶戴天の敵ともいえる、隣国ゲルマニアの有力貴族 ツェルプストー家のキュルケはどんな運命のいたずらなのかルイズの隣室なのだ。昨夜の どたばたの一部始終を聞かれていたとしても不思議ではない。もっとも、聞きたくなくても 聞かれてしまうくらいの大声だったことにも問題はあるのだが…… 「ふうん。昨日はよく聞き取れなかったけれど、『フガク』っていうの、あの使い魔。タバサの ウィンドドラゴンもすごいけれど、フガクもかなりのものだったわね。一度競争させて みたいけれど」 キュルケに話を振られた小柄な女生徒、タバサはそんな話には興味がないとばかりに 小さな声で言葉を紡いだ。 「朝食……早く……ちこく……」 「そうね。ルイズと遊んでいる暇なんてなかったわね。 ちょっと!お茶ちょうだい」 タバサの言葉にキュルケはルイズが座っていた席に腰を下ろして近くにいた黒髪のメイドに 声をかける。その際ルイズが何か言っていたがキュルケは華麗にスルーした。 かくしてルイズが決して綽然とした、とはいえない朝食を摂っていた頃、ふがくは、といえば―― 「……うぅ。おなかすいた……」 ――召喚されてからこのかた何も食べていなかったため、女子寮の屋根から落ちそうに なっていた。 ふがくのような『鋼の乙女』は、元兵器に準じた燃料――たとえば超重爆撃機型のふがくの 場合はガソリン、中戦車型のチハの場合は軽油、戦艦型のやまとの場合は重油などの 定期的な摂取を必要とするが、それ以外にも変換効率は落ちるが普通の食事を摂ることもできる。 もっともそれ以外にもオイルや弾薬など機能維持のために必要なものがあるが、 その入手方法などについて気が回せるほど、今のふがくには余裕がなかった。 「アイツ、大日本帝国のことを『田舎』なんて言ってくれたけど、トリステイン王国、だっけ、 こっちの方がど田舎じゃない。飛行機どころか自動車もないなんて、信じらんない」 ふがくは昨夜のルイズとの会話を思い出して憤るが、それがまた空きっ腹に響く。いくら 長大な航続距離を誇ってもガス欠ではどうしようもない。 そんなふがくに、下から声がかかる。見ると、昨日の頭の寂しい眼鏡の中年教師――確か ミスタ・コルベールと呼ばれていたような――がそこにいた。 「……私に何か用?」 「おお、気づいてくれましたか……えー」 「ふがくよ。それで、何か用?」 「フガク君か。すまないが、君の左手のルーンをもう一度見せてもらおうと思ってね。 ミス・ヴァリエールとは一緒ではなかったから探していたんだ」 「私は『ふがく』よ。『フガク』なんて呼んだら承知しないわよ」 ふがくは言いつつ屋根からコルベールのいる場所に降りる。わずかな発音の違いだが、 ふがくには何故かそれを許容できなかった。またふがくの背中の翼から響く6発のエンジン音の コーラスにコルベールは興味を引かれ最初の話もどこへやら、となりかけたが、これは ふがくが本道へ戻す。 「そ・れ・で?私の左手が見たいんじゃなかったの?ミスタ・コルベール?」 「……いや、失礼。と、いつ私の名前を言いましたか?」 「昨日私の前でアイツが呼んだでしょう?ぼんやりとだけど覚えてたから……間違った?」 「いえ。合ってますよ。しかし、ミス・ヴァリエールを『アイツ』とは、感心できませんね」 そう言って、咎めると言うよりは諭す視線でふがくを見る。身長差からどうしても コルベールがふがくを見下ろすことになるが、ふがくは気にも留めなかった。 「そう言われたくなければそれなりの態度を示してほしいわね」 「はは、私からも注意しておきましょう。それでは……」 そう言ってコルベールはふがくの手を取りルーンをスケッチする。そのとき、ふがくの おなかがかわいらしい音で鳴いた。 「うぅー……」 「ミス・ヴァリエールは君に食事の用意もしていなかったのか……その様子だと私たちと 同じ食事でよさそうだね。 ……アルヴィーズの食堂はもう昼の準備に入っているかな。案内するから何か作って もらうといい」 「え?それはうれしいけど……何か裏はない?昨日とはずいぶん扱いが違うんだけど」 ふがくが言う。昨日のように人の意見を聞かない扱いであれば、そもそも地面からふがくを 呼ばないで直接屋根まで飛んできて左手をつかんでいたことだろう。それをせず、しかも 昨日と違ってふがくのことを名前で呼ぼうとしている。これだけあからさまでは何か裏が あると思うのが普通だろう。 「あはは……いやぁ、確かに、ふがく君、という発音でよかったかな?君の持っていた杖を 始め君自身についても興味は尽きないけれど……」 「けれど?何?」 「……まず、ふがく君、君が話の通じる相手だと思っていること。そして、何よりミス・ヴァリエールが、 先ほど授業に遅れそうになるのもかまわず君を捜している姿を見ましてね。さすがに 女子寮の屋根にいるとは思っていなかったようですが、ふがく君のことをずいぶんと気に しているようでした。その証拠に……ほら、ミス・ヴァリエールの部屋を見てご覧なさい」 コルベールはそう言って女子寮を指さす。すると、授業中で誰もいない女子寮の一室、 そこの窓だけが開いているのが見えた。 「ルイズの部屋の窓が……開いてる?」 「君がいつ戻ってきてもいいように、ですよ。ミス・ヴァリエールは意固地なところもありますが、 決して悪い人間ではありません。ですから……」 コルベールがそこまで言ったとき、どこかから大きな爆発音が響いた。 「……今のは?爆撃?」 「向こうの塔です!おそらく、ミス・ヴァリエールが魔法をしっぱ……」 コルベールが言葉を言い切る前に、ふがくは空腹も忘れてエンジン音も高らかに空に 舞い上がっていた。上空から学院を見ると、確かに中央のひときわ高い塔を囲む5つの 塔の一つから煙が上がっている。爆風が抜け破れた窓からふがくが飛び込むと、そこは 煤と埃にまみれぼろぼろになった教室。その爆心地と思われる場所に煤まみれになった ルイズが放心状態で座り込んでいた。 「……ルイズ!」 ふがくがルイズに駆け寄る。煤まみれで服もぼろぼろだったが、体はかすり傷すら負って いない。近くにおとぎ話の魔女のような格好をした中年女性が目を回して倒れているが、 こちらも命には別状ないようだった。 「あ?フガク?えっ……と。ちょっ……と。失敗……しちゃったみたい……ね?」 「昨日も言ったでしょ?私は『ふがく』だっ……て……?」 ルイズがポケットからハンカチを取り出しながら言う。その言葉に爆風で倒れた机から 這い出した生徒たちがふがくの言葉をかき消さんばかりに次々と口なじる。 「どこが『ちょっと』失敗だ!」 「いい加減にしろー!」 「いつだって成功の確率『ゼロ』じゃないか!」 「魔法の才能ゼロのルイズ!」 次々と投げつけられるそれらの言葉にふがくも面食らう。いったいどういうことなのか? ルイズを見ると、顔の煤と埃を拭きながら頬を赤らめごまかすような表情をしていた。 「なんなのよ、これ……?」 ふがくの疑問に答えてくれる人間は、今この場にはいなかった。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第三十三話『ミントとルイズの家族』 「はぁ~…」 「あの…溜息なんて吐かれてどうかなされたんですかミス・ヴァリエール?」 多くの生徒及び関係者がそれぞれ故郷や実家に帰る魔法学院の夏期休暇も半分が過ぎた。もう二週間もすれば再び学生として勉学と友人関係に奔走する日々が溜息を漏らしたルイズにとっても始まる事になる。 そんなルイズを心配そうな目で見るのは学園に残って仕事に勤しむシエスタだった。夏期休暇が始まると同時にミントと共に何処かに行っていたと思えばつい先日、何やら酷く疲れた様子で戻ってきたルイズ。 中庭で何やら重要そうな羊皮紙の束を手にしたままシエスタが煎れた紅茶を口に運んだと思えばルイズはしばらくその味と香りを吟味した後で眉をしかめたままティーカップを空にした。 「シエスタ。」 「は、はい。」 唐突に呼ばれ、シエスタはドキリとした…傍目から見てルイズのご機嫌は悪いと言える。具体的に言えばそれは何かに悩んでいながらその解決策も分かっているのに現状どうしようも無い状況に置かれて居る様な… 「紅茶、おいしかったわごちそうさま。」 「いえ、そんな…お粗末様です。」 ルイズから掛けられた意外な言葉にシエスタは目を丸くする。学院に勤めて居る以上貴族の子息の世話を長い事しているが紅茶一杯にこんなはっきりとした感想を与えられた事など初めてかも知れない。 そんな事を考えるシエスタを他所にルイズは再び難しそうな表情で書類をめくる…いけない事だと思いながらもついつい視線を向けたシエスタの視界の隅、その書類には王家の刻印が映されていた。 それを見て動揺しているシエスタに気づきながらもそれを気にした様子も無く、ルイズは書類をめくりながら独白気味に呟く… 「つい最近ね、色々あって初めて自分でも紅茶を煎れてみたわ。知識としては正しい紅茶の煎れ方は知ってたけどいざ自分でやってみると全然駄目ね。香りは飛ぶわ味はしないわ…改めて思うけど私達はいつもあんた達に助けられてるのね。感謝してる…」 「そんな…ミス・ヴァリエール…勿体無いお言葉です!」 果たしてこの言葉を聞いたのがマルトーだったらどうなっていた事か…ルイズのそこらの傲慢な貴族ならば絶対にしないであろう発言にシエスタは感激の余り、両手で口元を押さえて両の目を涙で潤ませた。 「シエスタ、ここだけの話、近くトリステインはゲルマニアとの連合軍でアルビオンに攻め入ることになるわ…戦争が始まるの。私が今読んでるこれはね、私とミント…だけじゃ無いでしょうけど私達が調べ上げて姫様が捕らえた裏切り者の売国奴のリストなの。」 と、まるで何でも無い様に言うルイズの言葉にさっきまで感動でむせび泣いていたシエスタが硬直する。とてもじゃないが一平民のメイド風情が耳にしていい話では無い。 「いくらメイジとしての才に恵まれようと、いくら名門の家柄に生まれようと貴族にもどうしようも無い屑がいるものね。そうそう、今言った話はまだ秘密だから誰にも言っちゃあ駄目よ。」 「解りました。あ、あの…ミス・ヴァリエール…この数日にあなたに一体何があったのですか?」 ルイズの発言に戸惑いながらもシエスタは問い掛ける。明らかにここ数日でルイズの身に何か価値観すらひっくり返る様な出来事があったはずなのだ… そのシエスタの問いにルイズはまさかこんな質問をされるとはと、一瞬驚きはしたが余裕を持った微笑を浮かべて答えるのだった… 「別に、何も無いわ。ただミントと一緒にね、平民のおっさんにセクハラされながらお酌して、お皿を洗って、失敗して、怒って、笑って、寝て、食べて、そんな誰でもやってる当たり前の事をちょっとだけ経験してきただけよ…」 ルイズはそう言って思い出し笑いなのか屈託無く笑う…シエスタは困惑気味に首を傾げたがルイズが皮肉気味に「これ以上は平民が知ろうとする様な事じゃないわ。」と言うとハッとした様に慌てて姿勢を正したのだった。 ____ 魅惑の妖精亭を中心とした諜報活動の結果、大勢の貴族の不正の実体やアンリエッタへの評判、戦争への平民視点での意見等々非常に多くの有益な情報をルイズはアンリエッタへと届ける事が出来た。 徴税官の一件でミントには不正を行う貴族を懲らしめてくれる貴族というイメージが定着しているのかその手の情報が勝手に向こうから寄ってくる上、スカロンの情報網は平民関連に関してはこのまま国の機関としてもやっていけるのではと思える程の物だった。 結果として、あくまで知識としてしか知らなかった平民の暮らしを実体験した事はルイズにとっては貴重な経験となっていた。 また、ルイズとミントがそんな事をしている間にアンリエッタは銃士隊を効果的に指揮を執り、また自身を囮にする事で高等法院長リッシュモンという大物の逆賊を捕らえる事に成功していた。 結果として二人の諜報活動とアンリエッタのネズミ狩り作戦の成功から得られた様々な情報を吟味したアンリエッタはアルビオンへの侵攻作戦を行う事を決定した。 ____ 魔法学園 ルイズが丁度午後のティータイムを楽しんでいる時間、魔法学園の正門前に2台の馬車が到着していた。 平民とは思えぬ程、何処に出しても恥ずかしくない立派な身なりをした御者が引く馬車に刻まれているのはヴァリエールの家紋。必然、その馬車に乗っている人物の素性は極限られた物となる。 「…全く…おチビったら夏期休暇になっても帰って来ないどころか連絡も寄越さないだなんて良い度胸してるわ…これはきつ~いお仕置きが必要ね。」 馬車から降り立った女はそう愚痴りながらも長くウェーブの掛かった金髪を掻き上げると久しぶりに訪れた懐かしき学舎を見上げながら不機嫌に厳しく吊り上がった目を細める。 「御者、ルイズを連れて戻りしだい直ぐに真っ直ぐヴァリエール領に向かうわ。出発準備をしておきなさい。」 「は!畏まりました、エレオノール様。」 毅然とした口調での命令を受けて御者は女、ルイズの実の姉であるエレオノールに姿勢を正して答えたのだった。 人が極端に少ない魔法学園の中、しばらくルイズを探してエレオノールがツカツカと石畳の上を歩いているとふとエレオノールは視線の先に一人の少女の姿を発見した。 服装はメイドでは無く中々仕立ての良さそうな、かといってマントを羽織っている訳では無く杖も持っていない。その姿にエレオノールは学園関係の私服の平民なのだろうと当たりを付けて声をかける事にした。 「ちょっと、そこの平民。ルイズ・フランソワーズを探しているんだけど、どこに居るか知らないかしら?」 エレオノールとしてはいつも通り、他人からすれば高圧的な物言いに声を掛けられた少女はキョロキョロと周囲を見回して誰も居ない事を確認するとようやくエレオノールの言う『平民』が自分を指しているのだと認識して少女ミントはエレオノールに向き直る。 「何?ルイズに何か用?あいつならさっきから中庭でお茶してたわよ。あたしも今からルイズの所に行くつもりだったから何なら案内してあげるけど?」 ミントはいつもと変わらぬ態度でエレオノールに数歩歩み寄る。ハルケギニアに来てから平民に間違われた事等もはや数えてすらいないいつものなので今更気になどしない。 エレオノールはミントの気安い態度に露骨に眉を寄せて厳しい視線を無言でぶつける。 まぁ常識的に考えてこの態度、やはり目の前の少女は私服に着替えた学園の生徒だったのだろうとそうエレオノールは結論づけた。平民呼ばわりされた事で怒っているのだろうか、でなければ目上の貴族に対するこの不遜な態度は説明がつかない。 「あなた…ルイズの友達?…まぁ良いわ、折角だから案内して頂戴。」 「オッケ~、じゃあ付いて来て。」 「あ、こらっ待ちなさい!!」 貴族として余りに態度の悪いミントの様子に魔法学園の品位の失墜を感じたエレオノールが額に手を当てていると、そんな事は構う物かとミントが踵を返して走り出した。 エレオノールはしょうが無いので慌ててミントを見失わない様に追いかけるのだった… ____ 魔法学園 中庭 「お~いルイズ~、あんたにお客さんよ~。シエスタ、あたしにも紅茶煎れて頂戴。」 程なくして学園の中庭に辿り着き、ルイズ達を発見してミントはその傍に駆け寄ってシエスタに紅茶を要求する。シエスタもそれを了承し、慣れた手つきで紅茶を煎れるとついでにミントの言うお客さん用にもう一杯を直ぐに注げる様に支度する。 「客?いったい誰なの…げげっ!!!」 ミントの言葉に手にした書簡から視線を起こしたルイズはミントから遅れてこちらに向かってくる人物、エレオノールの姿をみとめて思わず上擦った声を上げる。 エレオノールも同時にルイズの姿を発見したらしく、歩くスピードを一気に上げるとドシドシという効果音が付く様な力強い歩調でルイズ達の元に歩み寄った。 「お久しぶりね、ちびルイズ。実家にも帰って来ずに随分と夏期休暇を堪能しているようね~。」 「エ、エレオノールお姉様……い、痛い痛いれふぅ!!ごめんなしゃいっ!」 久方ぶりの姉妹の再会はエレオノールがルイズの頬を抓り上げ、ルイズがそれに涙目で許しを請うという形で果たされた。 ミントはその二人のやり取りをみてエレオノールが以前ルイズから聞いていた自分の苦手な姉なのだと察し、シエスタは自体が飲み込めずオロオロとしていた。 頬を赤く染め、涙を両目に浮かべるルイズの姿に威厳は既に無く、ついさっきまで名家の有能な貴族然としたカリスマを放っていた筈のルイズの姿が途端に幼い少女の物となる。 そうしてエレオノールはようやくルイズを解放すると相変わらず涙目のルイズに二言三言小言を言うと直ぐに自分がここを訪れた訳を説明したのだった。 エレオノールの話を要約すればルイズはミントを召喚してから一度も実家に顔を見せて居らず、アカデミー勤めのエレオノールが実家に戻るついでにルイズを回収に来たのである。 「さて、それじゃあ正門に馬車を待たせているから早速行くわよ。それとそこのメイド、あなた道中のルイズの身の回りの世話係りとして一緒に来なさい。」 「えぇ!?わたくしがですか?」 突然のエレオノールの命令にシエスタは目を丸くする… 「何かしら?何か文句がおあり?」 「い…いえ、とても光栄です。」 「そう、良い心がけだわ。」 エレオノールの有無を言わせぬ迫力にシエスタは唯納得するしか無い。まぁルイズの身の回りの世話は自身としても願い出たい所ではあったが。 「さて、後は…ルイズ、貴女が春に召喚した使い魔を連れてきなさい。話位には聞いているわ、何でも随分変わった使い魔だそうね。」 終始エレオノールのペースで進められるやり取りの中、遂に使い魔に関する話題が飛び出した事でルイズの身体が緊張でビクリと跳ね上がりそうになる。ルイズが実家に送った手紙では使い魔についてはまさか異国の王女とも言えずあくまで異国のメイジだとしか伝えていない… 家を離れているエレオノールの耳に届いている情報がどんな物かはルイズには分からないが先程の言いぐさからは本当に珍しい使い魔だと言うぐらいしか聞いてはいないのだろう。 「あ、それあたしの事よエレオノール。」 と、ここで黙って一連のやり取りを見つめていたミントは話題がルイズの使い魔の事に移行したので早速エレオノールに名乗り出たのであった。 「なっ!!??」 ____ 街道 「それにしても…突然でしたね。」 「全くよね…それにしてもあのルイズのお姉さん、ルイズに輪を掛けてきつい性格してるわね~、あれは絶対行き遅れるタイプよ。」 ヴァリエール領への街道を行く揺れる馬車の中、肩を竦ませて言ったエレオノールを表するミントの一言にシエスタは吹き出しそうになるがそれを何とか堪えて肩を震わせ顔を赤くする。 結局あの後、自分を呼び捨てにしたミントに対して烈火の如く怒り、怒鳴り散らしたエレオノールは結局そのままの勢いでメイジが召喚される訳は無いという根拠の無い確信からミントを平民だと思い込んだまま学園を発っていた。 エレオノールとルイズ、ミントとシエスタという組み合わせで乗り込む事になった馬車の中でルイズは非常に気まずい心持ちのまま苦手な姉エレオノールの対面で小さくなっていた。 「全く、使い魔への礼儀作法すら仕込めていないだなんてあんたはそれでもヴァリエールの家名を背負う者なの?」 「申し訳ありません。」 最早本能的にエレオノールに逆らえないルイズは項垂れる様にエレオノールに頭を下げる。 (あぁ…今更言える訳が無いわ…ミントが異国の王女で凄腕のメイジだなんて…それにあのお母様は何と仰るか…) 「聞いているのおチビっ!!!」 「ひゃいっ!!申し訳ありません!!」 目の前に迫る切実な大問題にエレオノールの説教を聞き流していたルイズの耳にエレオノールの怒鳴り声が響き、結局ルイズの中で渦巻く問題は一切解決の目処を見せぬまま、馬車はヴァリエール領へと辿り着いたのであった。 ルイズの実家であるヴァリエール領は隣国ゲルマニアとの国境沿いにあり、またヴァリエール家は王家と祖を同じくするトリステインの中でも最高位の名家である。 その本邸ともなればそれは最早立派な屋敷と言うよりは城と言った方が正しい程であった。 「「お帰りなさいませ。エレオノール様、ルイズ様。」」 一行が玄関をくぐりホールへと足を踏み入れるとそこには無数の従者が一切の乱れなく整列し、一斉に頭を垂れてエレオノールとルイズを出迎える。無論、その直ぐ後ろにいたミントとシエスタもそれぞれ客人として長旅の労をねぎらう様に声をかけられたのであるが。 と、そんな使用人の花道の先にある階段から一人の女性がゆっくりとルイズ達の元に近寄ってきているのにミントは気づき自然と視線はその女性へと向く。 「久しぶりですねエレオノール、ルイズ。」 鋭い眼光、厳しく威厳に満ちた中に見え隠れする優しげな声色。この女性こそルイズ達の母親であるカリーヌであった。 「お久しぶりでございます母様。戻るのが遅くなって申し訳ありません。」 言ってルイズは完璧な所作で傅いて母親へと挨拶を返す。ミントからすれば何とも堅苦しい母親との挨拶に久しぶりにここが流石に異世界であると言う事を強く感じる。 「えぇ。長旅で疲れたでしょう?晩餐の時間までゆっくりと休みなさい。…所で後ろのお二方はどなたなのかしら?一人はメイドのようですが?」 カリーヌの視線を受けてルイズが一瞬たじろぎ、シエスタはあまりの緊張に完全に固まってしまっている… かたや、はっきりと視線を交差させたミントはルイズの母カリーヌから凄まじい力の様な物を感じながらも怯むのは癪なので戸惑う事はせずむしろ堂々とした態度をとり続ける。 「紹介致します。このメイドは学園のメイドで普段私の身の回りの世話をよくしてくれているシエスタです。道中の連れ添いの為に連れてきました。」 ルイズはまずシエスタを簡単に紹介した。それに合わせてシエスタも多少ぎこちないながらもスカートの裾をつまみ淑女として恥ずかしくない態度で頭を下げる。 「そして、彼女が私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出しました…遙か異国のメイジのミントです。」 緊張でカラカラになった喉から絞り出す様にルイズは母に事実を伝える… 母は昔からルイズへのお仕置きにはその強大な魔力から放たれる圧倒的な風の魔法を使用してきたのだがそれは最早ルイズにとってのトラウマでしかなかった… 一方母カリーヌはそのルイズの言葉に対して驚愕で目を僅かに見開くともう一度堂々とした態度で自分を見上げているミントを見つめ返す。 (成る程…彼女があの噂の…) 「はぁっ!?あなたメイジだったの?杖も持っていない上にマントも纏っていないじゃない!!」 詰め寄るエレオノールの驚愕の声と共に当然ヴァリエールの使用人達の間にも響めきがあがり驚いた様子が覗えた… 「お止めなさいエレオノール、それがヴァリエールの家の人間の振る舞いですか。ミス・ミント、あなたの複雑な事情はわたくしも陛下から公爵を通じ聞き賜っております。」 カリーヌの言葉にルイズとミントは驚いた表情を浮かべた。カリーヌの言い方であればどうやらミントの素性は既に伝え聞いている上でここでは無闇な拡散を防ぐ意図があるようだとミントは判断する。 「えぇ、事情を察してくれているのなら助かるわカリーヌさん。」 ミントは軽くおどけるように言って肩を窄めると微笑んだ。 「ちょっ!?」 同時にルイズはミントの母カリーヌに対しての「さん」付け呼称に肝を冷やす… 「あの、母様ミントは遠い国から来たもので少々礼節がなってないと言うか…何というか…」 「………うっさいわね…」 「ルイズ、それは文化の違い故でしょう?問題ありません…」 カリーヌはミントの砕けた態度に一瞬驚いた様子を見せたが意外にも寛容な反応を示す…が、それは気のせいだった。 「…折角ですからミス・ミントにはこれから数日、わたくしの指導の下、トリステインの貴族としてのマナーを学んで頂きますから。」 微笑んだカリーヌの言葉にミントは純粋な面倒を感じ、ルイズは幼き日々のスパルタ教育のトラウマを想起してしまうのであった… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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ここ『女神の杵』では、かつて貴族たちが集まり、陛下の閲兵を受けたという練兵場がある そこではある貴族達は己の誇りと名誉をかけて決闘を行っていたという話もある 今では物置場となり樽や空き箱が積まれかつての栄光を懐かしむように石でできた旗台が佇んでいる そこに二人の男がやって来た、ワルドとロムだ 二人は練兵場の真ん中に立つとそれぞれ20歩ほど離れて向かい合った 第8話 闘え!戦士の誇りと命の為に 「古き良き時代、王がまだ力を持ち貴族たちがそれに従った時代、貴族が貴族らしかった時代だ・・・・」 ワルドが旗立て台を眺めながら語り始めた 「名誉と誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった」 ワルドは皮肉を含めた笑みを前を向いた 「でも実際はくだらない理由だったらしい。例えば、女を取り合ったりしてね」 ロムは腕を組んで話を聞いていた 「・・・少し長くなったね、では決闘を始めようか」 「ああ」 ロムは腕を解くと腰にあるデルフリンガーの柄を握ると、ワルドは左手で制した 「どうした?」 「立ち会いにはそれなりの作法というものがある。介添人がいなくては」 「介添人?」 「もう呼んである」 ワルドがそう言うと物陰からルイズが現れた ルイズは二人の顔をみてハッとした顔になった 「ワルド、来いと言うから来てみれば、何をする気?」 「彼の実力を、ちょっと試したくなってね」 「馬鹿な事は止めて、今は、そんなことする時じゃないでしょ?」 「それが貴族という奴はやっかいでね、どっち強いか弱いか、気になるんだ」 ルイズはロムの方を見る 「すまないマスター、決闘を申し込まれた以上、答えなければいけない」 ギーシュとの決闘の時と一緒の答えが出てきてルイズは止めるのを諦めた 「なんなのよ、もう!」 ルイズが癇癪を起こすのと同時にロムはデルフリンガーを引き抜いた 左手のルーンが輝く、それを見たルイズは昨晩ワルドが言っていた事を思い出した 「伝説の使い魔の印?」 「そうさ、彼の左手に刻まれたルーン。始祖ブリミルに仕えたと言われる伝説の 『ガンダールヴ』の印だ」 ワルドは話を続けた 「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだ」 「信じられないわ・・・」 ・・・・ルイズはロムの顔を見た 確かにロムは頼もしい使い魔だ でも『ガンダールヴ』とは行き過ぎた話だ そう思っているとワルドは口を開いた 「では、介添人も来たことだ、本当に始めるか」 ワルドが腰から杖を抜き、フェンシングのように前方に突き出す 「行くぞ」 ロムもデルフリンガーを両手で構えて言った 「ああ、全力で来い」 ロムとワルドは同時に地を蹴り先程まで自分達が居た場所でぶつかった 剣と杖の間に火花が散る。細身の杖であったが長剣を受け止める 競り合いが続くが先に身を引いたのはワルドだった そのまま後ろに引くと思うとシュシュ、と風切音と共に高速で突いてきた (速い!これは目で見るんじゃない!心眼で見切る!) ロムは突きを下から抉るように杖を勢いよく切り上げる 杖先は空を向き、ワルドは懐に隙ができる 「なんと!!」 思わず声を上げたワルドは黒いマントを靡かせ身を引いたすぐにロムの蹴りが身体があった場所で空を切った ワルドは優雅に宙を跳び退さり構えを整えた 「なんでぇ、あいつ魔法を使わねえのか?」 デルフリンガーがとぼけた声で言った 「俺の実力と手の内を調べているんだ。どうやら昨日見せた分だけでは足りないようだな」 (流石は魔法衛士隊。魔法だけかと思っていたが近接戦闘も強いな) ロムは冷静な声で答えた、同時にワルドは『通常』の自分とも退けを取らない騎士であることも悟った 「魔法衛士隊のメイジはただ魔法を唱えるだけでは無い」 ワルドが杖を振りながら言う 「杖を剣のように扱いつつ、詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本だ」 振るのを止めるとワルドは杖を突き出すと鋭い目付きを見せた 再び両者はぶつかり合う、カキン、カキンと斬りあう音が鳴りあう 「君は素早く力強いな!流石は伝説の使い魔だ!」 ワルドはロムの剣を細かい動作で受け流しながら言う 「それに剣の振りも素人ではない!うちの一番若い奴等と同じ、いやそれより強いな!」 ワルドの声はいやに楽しそうだった、同時に動きが段々速くなっていった 「だが君には我等とは足りないものがある」 「足りないもの?」 「そうだそれは・・・」 ワルドの突きは更に速くなる・・・、ロムは見切ろうとするが 「デル・イン・ソル・ラ・ウィンテ・・・・・・」 ワルドが低く呟いていることに気付く 「相棒!いけねぇ!魔法がくるぜ!」 「天空真剣!!」 デルフリンガーとロムが叫んだ 「隼ぎ・・・」 ボン!と大きな音が鳴りロムが横にブッ飛ぶ (うおおお!空気がハねただと!?) ロムは地を踏みつけをブレーキをかける ズザザザザザと音を立てて後ろへ下がるが膝を地に付けつつなんとか踏ん張れた ロムが正面を向くとワルドが杖を自分に向けていることがわかる 「君に足りないもの・・・それは・・・・・・・」 ワルドは少しためた 「『魔法』だ。」 「君は魔法が無い世界から来たからわからないかもしれないが、この世界は魔法が絶対だ 強い魔法なら尚更・・・・」 ロムは立ち上がろうとするが殴られた方の腕が痺れてデルフリンガーを落としてしまう 拾おうとするがワルドが強風を起こす デルフリンガーはカランカランっと鳴りながらワルドの方へと転がっていき思いっきり踏まれた 「貴族の決闘は杖を奪われた方が敗けだ。・・・勝負ありだな」 ワルドが冷淡に言った 足下でデルフリンガーが喚いている 「・・・・・・いや、まだ俺は戦える・・・・!」 ロムはそう言うと右手から剣狼を出す 「(・・・あれは、剣狼!)止めて、ロム!」 ルイズが大声を出す ロムははっとなった顔でルイズの方を向いた ロムの顔を見たルイズはビクッと震えた、今まで、あんなに・・・・、ロムの恐い顔は見たことがなかった 「わかった・・・・マスター」 ロムは小さな声でそう頷くとルイズはホッとして小さな胸を押さえた 「今のでわかったよ。ルイズ、彼では君を守れない」 近づいてきたワルドがしんみりした声で言った 「・・・・だってあなた魔法衛士隊隊長じゃない!強くて当たり前じゃないの!」 「そうだよ。でもルイズ、強力な敵に囲まれた時に君はこう言うつもりかい?私達は弱いです。杖を収めてくださいと」 ルイズは黙ってしまった そしてロムを見つめるがワルドに促された 「今は一人にしておこう」 ルイズは躊躇ったがワルドに引っ張られる (・・・・まだ手が痺れている、流石は『ガンダールヴ』) そして、練兵所では二本の剣を握ったロムだけが残った 沈黙が続く ロムは深呼吸した後、埃まみれの剣を見つめた 「すまんなデルフ、このような結果になってしまって」 「気にすんなよ、あいつは相当の使い手だぜ?競り合った相手がすげー。だから相棒、お前はすげーよ」 「・・・そういって貰うと助かるな」 ロムが少し笑みを浮かべるとデルフリンガーは大笑いした 「はっはっはっは!相棒は笑った方がカッコいいぜ! ところで相棒、さっき握られた事で思い出した事があるんだけどよ」 「なんだ?」 「うーん何だっけな・・・、よく思い出せねぇ。何せ大昔の事だからよ・・・」 「なんだそれは」 「まあ少したてば思い出すかもしれねぇなぁ、じゃあ戻ろうぜ」 「ああ」 ロムは剣狼をしまうと出口に向かって歩き出した (魔法・・・、メイジ・・・・、俺の拳と剣で乗り越えることができるか?) その夜・・・、ロムは部屋にこもって剣狼を持って座禅を組む 一階でギーシュ達が飲んで騒ぎまくっている声が聞こえる。キュルケに誘われたが丁寧に断った 2つの月が重なる晩の翌日、アルビオンに向かって船は出港するという ロムはベランダに出て夜空を見上げた 瞬く星の中で流星が一際輝き、赤い月の光が白い月の後ろで見えた 月を見るとこの世界に来て初めての夜を思い出す 今頃、妹は無事なのか、クロノスの皆はどうなっているのか そんな風に考えていると後ろから声を掛けられた 「何しているのよ、ロム」 ルイズがそこに立っていた 「負けたぐらいでそんなに落ち込んじゃって。私を守る使い魔じゃなかったの?」 「落ち込んでなんかいないさ」 「じゃあどうしていたの?」 「・・・・考えていたんだ。君をちゃんと守って任務を終えることができるか」 ルイズははぁ~とため息をついた 「ちゃんと守ってもらわなければ困るわよ。しっかりしなさい。 それにしてもあんたなんでその剣を持っているのよ、大体それは・・・・」 ルイズが喋り続ける ルイズの口の動きを見ながらロムは思った、いつもの高慢なルイズの顔ではなく、年相応のルイズの顔はとても可愛らしい その顔を見ると妹と重なり可愛いく見える どこか可愛く感じられた さらに思い出せばルイズはフーケとの戦いでゴーレムに立ち向かう勇気を見せてくれた ゼロと呼ばれて悔し涙も流した 思い出せば思い出すほど女の子らしい一面が可愛らしく感じた・・・・ 「・・・な、何よ。何ジロジロ見ているのよ」 ルイズの頬に赤みが差していた 「今、私に叱られてそんなに悔しいの?情けないわね。そんな事じゃあんたなんかほっといて私はワルドと結・・・・」 そのときだった 月の光が突然消えた ルイズは驚いた顔になり、ロムが後ろを振り向くとそこには巨大な何かがいた 輪郭からほのかに漏れ出す光を頼りに目を凝らす それは岩でできたゴーレムだった 巨大ゴーレムの肩に誰かが座っている 髪をたなびかせ悠然としていた 「「フーケ!」」 二人同時に怒鳴った 「ふふふ・・・感激だわ。覚えていたのね」 「牢屋にはいっていたのでは・・・・」 「親切な人がいてね。私みたいな美人は世の中に出て役に立たなければいけないと言って、出してくれたのよ」 フーケの横に黒マントを着て白いマスクをつけた貴族が立っている アイツが出したのか? 「どういう経緯かは知らんが・・・、・欲望に染まり、悪に走った者には栄光は無いぞ!貴様等!!」 ロムは銀色に輝く剣狼を出して切っ先をフーケに向ける 「残念だわそんな言われよう・・・・、折角お礼を言いに来たのによぉ!?」 フーケは目を吊り上げ狂的な目を浮かべた 振り上げられたゴーレムの拳が唸りベランダを粉々に砕く 「ルイズ!避難するぞ!!」 ロムはルイズとデルフリンガーを抱えて一瞬で部屋を抜け出し、階段を駆け降りた 玄関から現れた傭兵の一団が一階の酒場で飲んでいたワルド達を襲った ワルドとタバサが魔法で応戦するがあまりの多さに苦戦しているらしい 「こいつら!メイジとの闘いに慣れているよ!!」 「見ればわかるわよ!魔法が届かない場所から攻撃してきてる!」 テーブルを立ててそれを盾にしている ギーシュとキュルケが叫ぶ奥にいる客達が悲鳴をあげているにも関わらず衛兵たちは矢を放つ 二階から降りてきたルイズとロムが駆け寄ってきた 「巨大なゴーレムがいるわ!」 「わかっているわ!ほら、あそこ」 キュルケが顔を横に振る、吹きさらしから巨大な足が見えた 「まずいな。このままではこっちがやられてしまう。もしこのまま魔法を使い続ければ」 「終わり」 ワルドの言葉をタバサが簡潔に結論付けた 「ではどうする?」 「僕のワルキューレで引き止めてやる!」 「一個小隊が関の山ね。相手は手練れの傭兵たちよ?」 キュルケとギーシュが言い争いをしている ワルドがそれを制すると低い声で語りは始めた 「いいか諸君、この任務は半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 それを聞いたタバサはキュルケとギーシュを杖で指して「囮」と呟いた そしてワルドとルイズとロムを指して「桟橋へ」と呟いた 「時間は?」 「今すぐ」 「聞いたとおりだ。裏口に回るぞ」 「え、え?、ええ!」 ルイズが戸惑いの声を上げる 「ま、しかたがないわね。私はあなた達がアルビオンに行く理由なんてわからないもんね」 キュルケが髪をかきあげてつまらなさそうに言った 「ううむ、また、姫殿下とモンモランシーには会えるのか・・・・」 ギーシュは薔薇をちぎりながら言った 「タバサ、君たちは・・・・」 ロムはタバサの方を向いて戸惑いながら言うとキュルケが促した 「いいから行きなさいってば。生きて帰ったらお礼をいっぱい貰うからね?」 ルイズとロムが立ち上がり低い姿勢で走った 矢が唸りをあげて彼らに降りかかろうとするがタバサが杖を振り風の壁を作って防いだ 厨房を出て通常口にたどり着くとルイズは出る前にペコリとおじぎをした そして桟橋に向かって走る途中、酒場から大きな爆音が響いた 「・・・・始まったようだな。僕達も急ごう」 「え、ええ!ロム!・・・・ってロム!?どこへいったのよ!?ロム!?」 月夜に人影が浮かんだ
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前ページアウターゾーンZERO 皆さん、こんにちは。私の名前はミザリィ。アウターゾーンのストーカー(案内人)です。 今日ご紹介するのは、アウターゾーンの一つ、ハルケギニアで起きた出来事です。 公爵家の娘、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女はメイジ、いわゆる魔法使いでありながら、魔法が使えないというコンプレックスを抱いていました。 そのコンプレックス、さらには周囲の嘲笑が、彼女を歪ませていきました。 自分をバカにした周りの人間を見返すために努力をすることは、決して悪いことではありません。 しかし、強さを追い求めるあまり自分の殻に閉じこもり、ひねくれてしまった彼女が魔法の力を手に入れたところで、どうなるでしょう。 多くの人を不幸にするに違いありません。 それは、彼女の同級生たちにも言えることです。 力を持つ資格のない者が大きな力を手にしては、その力は暴力になるだけです。 それを理解している子供が、トリステイン魔法学院に何人いることでしょうか。 さて、私はハルケギニアで一仕事するとしましょう……。 これで何度目の失敗だろうか。 トリステイン魔法学院で進級試験として行われる、召喚の儀式。 生徒たちが次々と召喚を終える中、ルイズだけが何度も失敗し、爆発を起こしている。 このままでは留年は免れない。 周囲から罵声を浴びせられ、だんだんと焦ってくる。 「五つの力を司るペンタゴン……我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」 切羽詰まったように詠唱し、杖を力の限り振ると……再び爆発が起こった。 またか、と周囲がはやしたてようとしたその時、あっと誰もが息をのんだ。 煙の中に人影がある。 煙が徐々に薄くなり、召喚したものが見えてきた。 姿を現したのは……平民とも、貴族とも見分けがつかぬ、大人の女であった。 ウェーブのかかった長い髪。男を簡単に悩殺できるほどの妖艶かつ豊満なスタイル。 つり目も、美人というにふさわしい顔を引き立てている。 「な、なんだありゃ……すごい美人だぜ……」 「貴族か? 平民か?」 「貴族だろ? あんなすごいスタイルしてる平民なんていないよ」 生徒たちはざわめく。 「う……く、悔しいけど負けたわ!」 キュルケは本心で負けを認めた。それほどのスタイルだった。 「ど……どなた……ですか?」 ルイズは、失礼のないように聞いた。もしも貴族だったら大変だ。 [私? 私の名前はミザリィ。私を呼んだのはあなた? お嬢ちゃん] お嬢ちゃんという言葉にカチンときたが、ぐっとこらえた。 「う……あ……そ、そうです。あなたはどこの貴族でしょうか?」 [貴族? 何それ?] この女……ミザリィは貴族ではないらしい。それが、イコール平民ということにはならないのだが、ルイズはそこまで考えが回らなかった。 「へ、平民だったの? あんたみたいなのがね」 [いきなり呼びつけておいて、あんたみたいなのとは失礼ね。それに、貴族とか平民とか、何を言ってるの? 昔のヨーロッパじゃあるまいし] ミザリィの声のトーンが少し下がる。背筋に薄ら寒いものを、ルイズは感じた。 「……な、なんなのよあんた! 平民のくせに、貴族に……」 [逆らう気? って言うわけ? そうだと言ったらどうするの? 死刑だとでも?] 「そ、そうよ! 最悪はそうなるわね。私の家がどんなものか、あんたは知らないでしょうけど、平民なんかどうにでもできるのよ、貴族は!」 [面白いわね。できるものならやってみなさいよ、お嬢ちゃん] ミザリィの挑発に、ルイズは冷静さを失った。 「な、な……見てなさいよ! あんたなんか、いずれ首をはねられるか、首を絞められるかよ! 私の命令一つで。その時には、お嬢ちゃんなんて言ってられないわよ」 [私の首をはねられるの? いいわよ。そっちがその気なら、私もただじゃおかないわよ] 「ま、待って下さい。私が代わりに説明します」 ただならぬ雰囲気を察した、教師のコルベールが割って入る。 「ここはハルケギニアのトリステインという国の、トリステイン魔法学院です。あなたは春の使い魔召喚の儀式で、使い魔として呼び出されたのです。彼女、ミス・ヴァリエールによって……」 コルベールは早口で、事情を説明する。 [フーン、私がこのお嬢ちゃんの使い魔ってわけね] ミザリィはうなずいている。 「そうです。ですから、彼女と契約をして下さい。……そういうことで、いいね? ミス・ヴァリエール」 「は、はい……」 この女の正体は良くわからないが、背に腹は代えられない。 もう何度も召喚に失敗している。その末にやっと成功したのだ。やり直しはきかない。 使い魔なら、もう悪魔でもなんでもいい。 「と、とにかく私と契約しなさい! あんたは使い魔なんだから」 [嫌よ] ミザリィは、切り捨てるように言った。 「私に逆らう気!?」 [当たり前でしょ。貴族だかなんだか知らないけど、あんたみたいな性悪のクソガキの使い魔になんかならないわ] 「何ですって!?」 ルイズは杖を向けるが、ミザリィは怯まない。 [あら、魔法を使うの? やってみなさいよ] 「くっ……」 魔法を詠唱しようとして、やめた。 この女を攻撃できる魔法を、自分は使えない。使えるとしたら、魔法の失敗による爆発だけだ。 そんなものがこの女に効くとは思えない。 [どうしたの? 早くしなさいよ。……!!] その時、ミザリィの服が刃物で切り裂かれるように破れた。 さすがのミザリィも、不意打ちは避け切れなかった。 [……] 血は出ていない。服が破れただけだ。 「手加減はした……」 少し離れた所に立っていたタバサが、杖をミザリィに向けながらつぶやく。 タバサがエア・カッターを放ったのだ。 「ど、どう? これが、メイジの力、魔法の力よ! 思い知った?」 ルイズが、自分がやったことのように得意気に言い放つ。 [……こうやって、逆らう平民を力で抑え込む、これが貴族のやり方なのね。卑劣なものだわ] 「! そ、それは……」 痛い所を突かれ、ルイズは怯んだ。 [今私の服を破いたのは、そこのあなたね。おいたがすぎるわね。ちょっとお仕置きしてあげるわ] ミザリィの目が光った。 「……!? な、何!?」 タバサの周りに、人型をした半透明のものが現れた。それは次々と増えていく。 「……!?」 [それは、あなたが今まで戦って殺してきた人たち、そしてその家族の亡霊よ] 「う……うわあああああああーっ!!」 タバサが鋭い悲鳴を上げた。 ……殺さないでくれ……殺さないでくれ…… ……父ちゃんを返せ……父ちゃんを返せ…… 亡霊たちのうめく声が、タバサを責め立てる。 「ゆ、許して……許して……」 何十という亡霊に囲まれ、タバサは無様に腰を抜かした。 ……殺さないで……殺さないで…… ……兄貴を返せ……返せ…… 「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさあああああい!!」 誰よりも優等生のはずが、何もできずただ泣き叫ぶタバサに、皆が呆然としている。 [もういいわね。二度とあんなことしちゃだめよ。わかったわね?] タバサはうずくまったまま、泣き続けている。 「返事は?」 「……は、はい……」 タバサが涙声で答えると、亡霊は消えた。 [さて次はお嬢ちゃん、あなたの番よ] 「な、何をする気!?」 [こうする気よ] ミザリィの目が再び光った。 周囲に生臭いにおいがたちこめる。 「な、何!?」 気がつくと、ルイズの一番苦手なもの、カエルが群れをなしてルイズを取り囲んでいた。 ゲコゲコと、不気味な鳴き声が幾重にも重なって響く。 「ぎゃ、ぎゃああああ!!」 何匹ものカエルが飛び跳ねて、ルイズに迫る。 [フフフ……さっきの威勢はどうしたのかしら] ミザリィは笑みを浮かべる。周りの生徒は誰も助けようとしない。いや、できないのだ。 この女は恐ろしい。まず勝てない。そう本能が告げている。 「カエルは……カエルは嫌ーっ!!」 ルイズは逃げ出そうとするが、カエルの大群がルイズに襲いかかった。 全身に取り付かれて、ルイズは尻餅をつく。 「い、嫌……やめて……」 顔面に大きいカエルが張り付く。 次の瞬間、ルイズの股間から生温かい液体が流れた。 恐怖のあまり失禁したのだ。 [あらあら、おもらしなんかしちゃって……無様ねえ] ミザリィに嘲笑され、ルイズはさめざめと泣く。 いつの間にかカエルの大群は消えていた。 「う……う……くくく……もう、あんたなんか……殺してやる!! 爆発で吹っ飛ばしてや……」 「や、やめるんだ! ミス・ヴァリエール!! 使い魔を殺したら退学だぞ!!」 「うるさい!! こんな大恥かいて、もう何もかもおしまいよ!! もう何もかもどうでもいい!!」 コルベールが止めるのも聞かず、恥辱に涙を流しながら、杖を構えて呪文の詠唱をしようとした時だった。 「う……ぎゃあああ!!」 何十、何百のカエルが全身にビッシリとついている。 「嫌、嫌ーっ!!」 杖を落とした瞬間、カエルは煙のように消えた。 「……き、消えた!? どうなってるの!?」 [簡単なことよ。これからは魔法を使おうとすると、必ずカエルが現れるわ。条件反射でそうなるように、私が『条件付け』しといたから] 「な、何ですって!?」 [他の子たちにも同じように『条件付け』しておいたわ。魔法を使ってごらんなさい、一番苦手なものが現れるから] 生徒たちはどよめく。 [それじゃ、私はもう帰るわね] ミザリィは召喚された場所に立つと、振り返って不気味な笑みを浮かべた。 [あなたたちが魔法を使えなくなったことを知ったら、平民の人たちはどうするかしら? どんな仕返しをされるか楽しみね。ねえ、お嬢ちゃん、それに坊やたち……じゃあね] そう言い捨てた次の瞬間、ミザリィの姿は消えていた。 「あ……」 ルイズも、タバサも、そしてコルベールも、誰もが思考を停止したまま呆然と立ち尽くしていた。 その後、生徒たちがどうなったかは皆さんの想像にお任せするとしましょう。 今まで好き勝手に生きてきた貴族の子供たちにとって、これからの制約に満ちた人生は辛いものになることでしょう。 しかし悪い子にはお仕置きが必要。子供たちがあのまま大人になっていたら、多くの平民を不幸にしていたに違いないからです。 前ページアウターゾーンZERO
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前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) 「ルイズったら、いったい何をしに街へ出たのかしら?っていうか、あたしたちにも 声かけてくれればいいのに友達甲斐のないったら!」 実家が不倶戴天の仇敵同士なのを棚上げしたキュルケがシルフィードの背中から 目を皿のようにしてルイズとふがくの姿を捜す。あれだけ目立つ風体のふがくが いるのだからとたかをくくってはいたものの……いざ捜すとなると簡単には 見つからなかった。 「――いた」 「え?どこ?」 「中央広場」 自身の使い魔、風竜シルフィードとともにふがくの姿を捜していたタバサが 先にふがくの姿を見つける。その視線の先には、ルイズとふがくが並んで歩いている 姿が映る。 「……どこに行くつもりかしらね?それにふがくが手に持っているのは……剣かしら?」 「あっちには確かヴァリエール家御用達の服屋があったはず」 「ということは、ふがくの剣を買った後、服をあつらえに来た、ということね。 ……おもしろいことになりそうね」 そう言ってキュルケがやや意地悪な笑みを浮かべる。タバサはシルフィードに 命じてルイズたちを少しだけ先回りできる位置に自分たちを降ろすように指示する。 そうして、いかにも偶然出会ったように、二人はルイズたちの前に姿を見せた。 「はぁい。偶然ねこんなところで会うなんて」 「…………」 「……いったい何であんたたちがここにいるのよ」 目の前のキュルケとタバサの姿にルイズは露骨にいやな顔をする……が、 キュルケがそれを柳に風と受け流した。 「だってせっかくの虚無の曜日だし、たまには羽を伸ばさなくちゃ」 「……嘘つき」 キュルケのあからさまな嘘にタバサがぼそりとツッコミを入れる。その様子に ルイズの怒りは一気に高まる。 「……あんたたちにつきあってる暇なんてないわ。ふがく、行くわよ!」 「私は別にかまわないけど……どうせ服見に行くだけでしょ?」 「わたしがかまうの!……って、何か聞こえない?」 怒りの表情もどこへやら。唐突なことを言い出すルイズに、ふがくはさらっと答える。 「そう言えばさっきからサイレンのような音が聞こえるわね。こっちに向かって」 「サイレンって何?ていうか、そういうことは早く言いなさいよ!」 ――ゥゥウゥワァァァーーーーーーーン…… ルイズがふがくを責めるあたりから急に大きくなるそれはまさしくサイレンの音。 しかも空から。ルイズだけでなくキュルケや街の人々もその聞き覚えのないラッパの ような甲高い音に怯え慌て始める。さらに大きくなるサイレン。その様子に広場から 人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。そして―― 「いや~~~~ん。萌え萌えのかわいい女の子がこんなところにぃ~~~! ……って、あら?」 上空からけたたましいサイレンとともにダイブしてくる黒い影。その目標は ――何故かルイズとタバサ。しかし、その直前でその影を、ふがくが手に入れた ばかりのデルフリンガーを持ち前の膂力でとっさに鞘を割り砕いてまで迅速に 抜き放って押し留めた。 「ひえー。おっでれーたー。こんな無茶な抜き方されたのは生まれて初めてだ」 「……アンタ、ドイツの鋼の乙女ね。いったいどういうつもり?」 驚くデルフを無視し、相手に剣を突きつけたままふがくが詰問する。 相手は手に重機関銃を持ち黒を基調としたナチスドイツの軍服を身にまとった 赤毛の女。黒い制帽にはナチスの国章鍵十字をつかむ鷲の徽章をつけ、背中には 背面をカーキグリーン系の迷彩に塗り内面を翼端部を黄色く塗った、後付けの 機関砲をつけられドイツの主権紋章鉄十字が描かれた青緑の翼を背負い、左肘に スピナー付きのプロペラを装着して二の腕を通した肩まで覆う迷彩模様の装甲と いう典型的な航空機型鋼の乙女。また太ももからカーキグリーンの迷彩が施された 長方形状の尾翼を生やし、脚部もふがくと似たような感じで車輪になっており、 その車輪にはカーキグリーンのスパッツがついている。ふがくはその航空機型 鋼の乙女をどこかで見たような気がするのだが、思い出せなかった。 「あらん。その格好、日本の鋼の乙女ね。見たことない娘だけど、可愛いわぁ。 お姉さん、ぞくぞくしちゃう」 「私の質問に答えなさいよ!それに、何で私以外の鋼の乙女がこんなところにいるのよ!?」 「あら?人の名前を聞くときにはまず自分から名乗りなさいって、教わらなかったのかしら? 子猫ちゃん」 目の前の鋼の乙女の態度は変わらない――いや、その気になれば表情も変えずに 引き金を引いて辺りを血の海にできるだろう、そんな雰囲気すら漂わせている。 もはや彼女たち二人とルイズたちしかいない中央広場に、さらなる緊張が走る。 真っ正面で相手しているふがく以外、誰も声すら発することはできなかった。 「こ、子猫……人をバカにするのもいい加減にしてよね! 私は大日本帝国の鋼の乙女、ふがくよ!……い、今は訳あってこんなところで 使い魔なんてやってるけど……」 「……相棒……気持ちは分かるけどな」 ふがくの最後の言葉は無理に濁したのが丸わかり。しかも視線をそらして言う その言葉にデルフまでが突っ込む始末。しかし、目の前の鋼の乙女はそれを聞いて 楽しそうに笑った。 「うふふ。ふがくちゃんか、見た目通り可愛い名前ね。でも、その錆びた変な剣は ちょっといただけないわねぇ。 私はドイツの鋼の乙女、急降下爆撃機Ju87スツーカのルーデル。よろしくね」 「か、可愛い……って、ちょっと何するのよ?やめっ……うひゃああっ!?」 そう言ってルーデルはふがくの手を握る。その雰囲気に身の危険を感じたふがくが とっさに手を引っ込めようとしたが、間に合わなかった。 「うわぁ。ふがくが手玉に取られてる……」 その様子を遠巻きに見るキュルケが半ば呆れた様子になっていた。両手両足で 数え切れなくなったあたりから数を数えるのをやめたほどの経験を積んだ彼女なら 解る――相手はホンモノだ、と。しかし…… 「な、なんか、ふがくの知り合い……かしら?」 「……でも、さっきはわたしたちをめがけて飛んできていたような……」 ダメだ、とキュルケは心の中で溜息をつく。ルイズもタバサもあのルーデルとか いう相手がどんな質(たち)なのか気づいていない。というか、間違いなくタチだろう、 アレ。でも、まぁ、お持ち帰りされるところをすんでの所でふがくが止めてくれたから 良かったわ、と一人納得することにした…… 「……で、どうしてこうなるわけ?」 ――あれから数十分。ようやくルーデルから解放されたふがくは、ルイズの 実家ヴァリエール家御用達の服屋で不機嫌な様子を隠そうともしない。先ほど 鞘を割られたデルフも今は即席の布巻き状態でふがくの手に握られているが、 場を読んでいるのか沈黙を保っていた。 ちなみに、服屋の女主人が真っ先にふがくに対して興味を引かれたのはやはり その服。ハルケギニアから見て東方風なデザインもさることながら、ハルケギニアの 砲弾の常識の埒外にある46サンチ対空砲弾の直撃ですら服が破れる程度で済んで しまう(多少衝撃は伝わるが)というとんでもない強度は、やもすれば服どころか 鎧の概念すら変えてしまいかねない代物。しかし、肝心の生地すらトリステイン 王国どころかハルケギニアのどの国の手にも負えそうにないことが分かると、 がっくりと肩を落としてしまっていた。 「何って、あんたの服を選んでるんでしょ?」 ふがくのその様子を完全無視してしれっと答えるルイズ。最初にドレスを作るとか 言ってふがくをお針子さんたちに取り囲ませただけでは飽きたらず、ふがくの 目の前にはプレタポルテのエプロンドレスが突きつけられていた。 どういう場所で着られることを想定しているのか、そのパープルを基調とした スカートの短いドレスは、今のふがくの格好とは正反対のもの。ふがくはあからさまに 拒絶の意を示すが、それが逆にルイズの隠れた嗜虐心を刺激していた。 「あんたの背中の翼はとりあえず外してから着られるけど、足が問題よね。 ストッキングもニーソックスも履けないし」 ルイズがわざとらしく溜息をつく。絶対わざとだ、とふがくは思ったが、 口には出さない。表情には出ているが。 「え?ふがくの羽、アレ外せるの?」 「あら、私も外せるわよ?外せないと服が着られないでしょ? でも、いいわぁ。可憐な美少女の生着替えが見られるな・ん・て」 「もう見せないわよ!まったく……何でアンタまでここにいるのよ……」 ルイズもふがくも話していなかったため知らなかったことに驚くキュルケに 返したのは、何故かここまでついて来たルーデル。そのせいか、ふがくが余計に 疲れているように見える。 「あらん。いいじゃない。こんな世界の果てでせっかく同盟国の鋼の乙女に 出会えたんだし、もう少しお話ししたいわぁ」 「私は、別に話したいことなんか……」 ふがくが拒絶を示すように顔を背ける。だが…… 「あら?残念。でもぉ……」 そんなふがくを見るルーデルは妖艶な笑みを浮かべた。 「そ・ん・な・こ・と・よ・り・今はぁ……みんなでふがくちゃんのお服を 選んじゃいましょう!」 そう言ってルーデルがふがくの目の前に突きつけたものを見て、いつもの強気も どこへやら、ふがくは冷や汗すら垂らして声を荒げる。 「何それ!ていうか、何でお堅い貴族の御用達の店にそんな怪しい服が何着もあるのよ!?」 ルーデルがふがくに突き出したもの――それはルイズが手にしているものよりも さらにスカートも短く背中の開きも大きいセクシーなエプロンドレス。 そこに端で見ていたキュルケまでおもしろがって参加してくる。 「さぁ?ヴァリエール家のヒミツ、ってことじゃない?おもしろいからあたしも 手伝うわね」 「おもしろくないし!手伝わなくてもいいっ!」 「……悪趣味」 その様子を見たタバサは、そのとばっちりが自分に回ってこないよう、極力 静かに本を読み始めた―― ――それからさらに時間は過ぎ……すっかり昼下がりになった頃合いに、 ルイズ、ふがくを筆頭とする5人は落ち着いたカフェでテーブルを囲んでいた。 なお、結局ルイズはふがくに自分が選んだあのエプロンドレスと、あろうことか ルーデルの選んだエプロンドレスまでお買い上げしてしまい、ふがくが疲れ切った 顔で渋面を作ったことはまた別の話である…… そんな場所でつつがなく自己紹介を終えてルーデルが切り出した話題は、 ルイズたちにとっても興味深く、ふがくにとっては驚愕としか言えないことだった。 「……あかぎの……ペンフレンド?」 ふがくの言葉にルーデルはにっこりと微笑む。 「そう。毎週届くあかぎちゃんからのお手紙、お姉さんいつも楽しみにしていたの。 戦争が終わったら二人で可愛い女の子について夜通し語り合う約束もしてたしぃ、 ああ、今度はぜっったいイタ公抜きでさっさと連合軍なんて片付けてやりたいわぁ♪」 (な、何?この身の危険を感じるような感覚は……) (……逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、逃げちゃダメ……) さりげなく怖いことを言いつつ自分の言葉で熱が入り身をよじらせるルーデル。 その様子にルイズは顔を引きつらせ、タバサは悪寒を感じて逃げ出したいが 逃げ出せないという状況に身震いし――その言葉にやっぱりか、と自分の勘の 正しさを再確認するキュルケという微妙な空気が生まれる。 「そ、そう言えばあかぎって『殿方も好きだけど可愛い女の子はもっと好きなのー』 って言って憚らなかったっけ……」 そしてふがくも、今更ながらに自分の長姉の憚るべき事実(本人は全然憚らなかったが)を 思い出していた。 「……そ、それで、どうしてルーデルはここに?私みたいに誰かに召喚されたとか?」 ふがくが話題を変えるべく本題を口にする。それを聞いたルーデルはそれまでの 痴態もどこへやら、真顔で即答した。 「何それ?」 「え?だって、ここにいるってことは……そうじゃないの?」 「あらやだ。私はお空の散歩をしていたら、目の前に変な魔法陣が現れて ドーバー海峡がいきなり砂漠になっちゃった、ってだけよぉ。 うっかり地中海を飛び越えてサハラ砂漠に入っちゃった?とも思ったら、 別の意味のサハラ砂漠でお姉さんもうびっくりよぉ」 そう言ってルーデルはひらひらと手を振る。ドーバー海峡からサハラ砂漠へ 行くには少なくともフランスをまるごと縦断してその上で地中海を抜ける必要が あるのだが……電撃戦の脅威排除を目的とした急降下爆撃機型鋼の乙女にそれだけの 航続力があるとは思えなく、果たしてそれが冗談なのかどうなのか、ふがくには 判断できなかった。そんなふがくをよそに、ルーデルはさらに暴走する。 「それでね~、とりあえず帰る方法がないかな~って探しながら、こっちの 女の子たちもすごく可愛いからどうしようかな~って思ってるわけなのよぉ。 レンちゃんやフェイちゃんたちと遊べないのはつまらないしぃ♪でもでもぉ こっちの娘たちも可愛いしぃ♪」 (ひっ……き、貴族は背中を見せないのよ……そうよ、わたしは貴族なんだから!) (……に、逃げちゃ……ダメ……だけど……) 再びくねくねと身をよじらせるルーデル。その顔は紅潮し妖しい雰囲気を放っている。 しかも時折こちらを艶めかしく見つめるその様子にタバサばかりかルイズまで 貴族の誇りがかろうじて椅子にとどまらせているだけの状態になっているが、 ルーデルは気づく気配すらない。その惨状にふがくは深く溜息をつく。 「……はぁ。結局帰る方法は解らないってことね」 「ちょっと待って。ミス・ルーデル、貴女『サハラ』って言ったけど…… もしかしてエルフと一戦交えた、とか?」 唯一平常心を保っていたキュルケがルーデルの言葉に紛れていた重要な キーワードに気づく。サハラに召喚されたなら、その召喚主はエルフに違いないと キュルケは考えた。しかし、目の前のルーデルは誰にも従っているようには見えない。 そうなれば、答えは一つ。その手にしたタバサの身長ほどもある黒光りする銃は どう見てもふがくのものより強力に見えるし、最初の時のように不気味な音を 立てながら上空からいきなり襲いかかられてはエルフとて無事では済まないだろう。 だが―― 「エ、エルフ?そんなのいるの?物語の中じゃなくて?ああん。見てみたいわぁ」 ――ルーデルはそんなものは知らないらしい。多分ふがくみたいに飛べるから そのまま召喚主に顔を合わせることもなくハルケギニアへ来てしまったのだろうと、 キュルケは考えるしかなかった……というより、必要以上にルーデルと接点を 持ってしまうことに彼女自身が危機感を抱いていたという方が正しい。それは 真理であると同時に盲点でもあることに気づけた者は、残念ながらここにはいなかった。 「……と。さて、お姉さんはそろそろおいとまさせてもらうわね」 キュルケの質問に答えてすぐ、目の前のカップの中身を飲み干したルーデルは あっさりと真顔に戻って立ち上がる。あまりにも唐突な出来事にふがくは 「え?」と返すことしかできない。そんなふがくにルーデルは大人の微笑みを 向ける。 「私は私なりに帰る方法を探してみるわね。見つかったらふがくちゃんにも教えて あげるから……ここに来れば会えるかしら?」 「え?ここ?」 話を振られたふがくがルイズを見る。その視線にルイズもようやく正気に戻った。 「……へ?あ、こ、ここじゃダメね。このトリスタニアから馬で2時間ほどの距離にある トリステイン魔法学院に、わたし、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ ラ・ヴァリエールの使い魔に用があるって聞いてちょうだい」 学院ではふがくが准貴族扱いのためそのまま名前を言ってもつないでもらえるのだが、 ルイズはあえてそうしなかった。自分はふがくの主なのだ。知らないところで 話が進んで勝手に帰られたくない、との想いが先に立ったことを責める者はいない。 「そう。馬で2時間ということは、そんなに遠くないわねぇ。ありがとう、 フロイライン・ヴァリエール。ところで、その建物、目印はないのかしら?」 「中央に大きな塔があって、それを囲むように5つの小さな塔が立っているわ。 そんな場所なんてそうそうないからすぐに分かるわよ」 「ありがとう。みんな親切でお姉さんうれしいわぁ。それじゃ、ここはお姉さんのお・ご・り」 そう言ってルーデルがその豊かな胸を包む制服のポケットから取り出したのは ハルケギニアの金貨。しかも新金貨ではない。それを見たルイズたちが驚くのを 見て、ルーデルはばつの悪そうな顔をする。 「……あら?もしかして足りなかった?」 「た、足りないどころか多すぎるわ。いったいどこでこれを……」 「ああ、これ?こっちに来てから手持ちのマルクが通じなかったからぁ、 持っていた宝石を換金したの。換金するにも勲章じゃダメみたいだったしねぇ」 キュルケの問いかけに困った顔をして答えるルーデル。確かにルーデルの制服には 翼を広げた鳥をかたどったような徽章や様々な勲章がぶら下がっている。 特に左胸につけられた、光り輝くダイヤモンドがちりばめられた黄金の柏葉と 交差する剣を象る見事な飾りがつけられた鉄十字の勲章などは自分が買い取りたいほどだ。 ただ、下手すると実家の財産が飛びかねないそれには、さすがのキュルケも諦めざるを 得なかった。おそらく勲章が断られたのも、自分が考えたのと同じ理由だろうと、 キュルケは納得する。 「『マルク』ってのが分からないけど……要するに持っていた貴女の国のお金が 使えなかったから宝石を売った、ってことね……」 ルイズが溜息を漏らす。いくら貴族向けの店とはいえ5人分のお茶代にエキュー 金貨を出すなんて、いったいどんな国から来たのよ、と―― 結局ルーデルの好意に甘えた4人だったが、ルーデルがウィンクを残して 飛び去った後でも、しばらく彼女の消えた空から目が離せなかった。 「……な、なんか途中すっごい悪寒がしたけど……いい人みたいね」 「…………」 ルイズとタバサがルーデルを好意的に見ている横で、再びキュルケが頭を抱える。 タバサは自分が守ろう、ルイズは……タバサのためにがんばって、と心に決めながら。 その3人の様子に目を向けながら、ふがくは自分以外の二人目の鋼の乙女の存在に 想いを巡らせる。30年前のこの世界にやってきた燕は多分帰った。けれど、自分と 同じ時代に召喚されたルーデルは――帰れるのだろうか。そして自分は…… 「……らしくないわね」 「どした?相棒?」 「何でもない。こっちのこと」 「……そか。ま、気長に構えるこった。こっちも悪くないぜ。多分、な」 デルフはそう言うと再び沈黙する。うるさいと聞いていたが、なかなかどうして 核心を突く。錆び付いてはいるけれど存外六千年存在しているっていうのは 嘘じゃないのかもね、とふがくはデルフリンガーの評価を改めることにした。 ――そうしてふがくたちがルーデルとの邂逅を果たした同時刻、某所―― 「……はうぅ。ここはどこでしょう?」 鬱蒼と茂る森の中、鉄兜をかぶり、右腕に奇妙な武器を持ち、足に茶色を 基本とした迷彩模様の脚甲を身につけ、ふがくに似た衣服を身につけた――全然 違う柄の布であちこちつぎあてられた様はみすぼらしいものだが――一人の少女が 途方に暮れていた。いや、ぺたんと下草の生える地面にへたり込んでいた。 「戦争が終わって、日本を復興するお手伝いをしていたはずなのに……変な魔法陣の 前でこけたりするから……はうぅぅ」 涙目で指をつんつんさせる少女。そうやっていると頭にかぶせた鉄兜が ずり落ちてくる。それがいっそう少女の気持ちを惨めにした。 「私、鳥取で作業していた覚えはないんですけど……落っこちた先が砂漠で、 変な人たちに追いかけられて……」 少女はゆっくりと自分の身に降りかかったことを整理する。急に砂漠に現れて、 変な人たちに追いかけられて、人目につかないようにさまよった先で奇妙な桟橋から 船で密航して……気がつくとどこかの森の中。右も左も分からない状況で少女は 途方に暮れる。 「私、どうしてこんなところにいるんだろう。はうぅ。日本に帰りたいですぅ」 森の中に少女の悲痛な叫びがこだまする。その声に応えるものはいなかった…… そう、今は。 ――そして―― 「……あれがフガクちゃんか……うふふ。まさかこんなところで出会えるなんて、ねぇ」 誰もいない空でルーデルは独り笑う。その笑みの意味を知るものもまた、 そこにはいなかった―― 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
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>>back >>next 錯乱したルイズを何とか落ち着かせたオスマン氏は、 未だ光と音のバーゲンセールが続く場所を向きながらルイズから事情を聞いた。 曰く、召喚したのが世にも恐ろしい化物であった。 曰く、後ろに裂け目が現れてその中の目と目が合った。 曰く、夢の中で恐ろしい歌を聞いた。 ─ううむ、全く分からんのぅ。 結局ルイズの証言では、相手の正体に関して何も得る事が無かった。 分かった事といえば、単にルイズは化物に驚いて気絶しただけという事。 そして現在行われている戦闘は、目撃した生徒達の証言から推測するに、 コルベールは倒れたルイズを見て早合点したのだろうという事だけだった。 ─化物の方に敵意があったのかどうかはともかく、あれは早く収めんといかんなぁ…… 戦闘を収束させる方法を探すため、暫し黙考するオスマン氏。 ルイズの方といえばオスマン氏と戦場を交互に見やり、挙動不審にしていた。 直接戦闘に加わるべきではない。正面をきって戦っても、負けるとは思わないが勝てるとも限らない。 彼は戦場からそれ程のプレッシャーを感じていた。 「そう言えば、ミス・ヴァリエール。既に使い魔との契約は終えたのかね」 「えっ、あの、ま、まだですオールド・オスマン!」 「ふむ……」 自分が召喚した怪物が仕出かした事態。 一体どんな叱責を受けるのかと戦々恐々としていたルイズは、裏返った声でそう答えた。 彼にはそのような気は全く無いので、その心配は杞憂であるのだがルイズには知る由も無い。 オスマン氏は考えを纏めると、生徒達に向けて声を上げた。 「ミス・ヴァリエールとミス・タバサ以外は、学院に戻って寮内待機を命ずる。 以上、解散。……さて、二人はわしと一緒に手伝ってもらう」 「はっははははいっ!」 「……」 「ま、ミス・タバサにはスマンがあの使い魔を利用させてもらいたい。 ミス・ヴァリエール、君は自分の責任を果たしてもらうぞ」 オスマン氏の言葉に無表情で肯くタバサと、青い顔で激しく首を縦に振るルイズであった。 コルベールは既に死に体となりかかっていた。 打ち破ったと言うより、ただ只管に耐え切って紫に使わせたスペルカードは既に六枚。 先程は余裕のあった精神力も既に心許なくなり、体は何故動いているのか理解出来ないほど疲弊している。 時計を持っていないため正確には計れないが、大体一枚のカードの効果時間は70~90秒前後。 もうすぐ七枚目も終わりそうだが、その時は自分も終わっているだろうなとコルベールは感じていた。 ─こんな事になる前に、ミス・ロングビルをちゃんと口説いておけば良かった…… 生命の危機にこの様な考えが浮かぶ当たり、割とまだ大丈夫のようである。 いよいよ次のカードまであと僅かというその時に、コルベールの頭に待ち望んだ声が響いた。 『聞こえておるかね、ミスタ・コルベール。まだ生きとるか』 オスマン氏は戦場から約500メイル離れた場所より、コルベールに向かって念話を飛ばしていた。 『今からわしがその化物の動きを止める。簡単にはやらせてくれんじゃろうから 隙を見つけたらわしに教えてくれんか』 『は、はぁ。それは良いのですが、動きを止めた後はどうなさるおつもりで?』 『ミス・ヴァリエールがコントラクト・サーヴァントを行う。契約のルーンの効果は知っとるじゃろ』 『……承知しました。では──』 コントラクト・サーヴァントの際に刻まれるルーンに、とある効果がある事は知っていた。 召喚される幻獣には当然人間にとって危険な種もいる。 それらを大人しくさせるため、さらに使い魔を手足のように使えるように、ルーンによって主人への忠誠を刷り込むのだ。 正直言ってコルベールはルーンの効果がこの八雲紫に通用するのか疑問であった。 しかし現状これ以上の策は無いのだろう。オスマン氏が決めた事だ間違いはあるまい。多分。 自分で考える事を既に放棄しかけているコルベールは 八雲紫が『スペルカード宣言』する時に、一瞬動きが止まる旨をオスマン氏に伝えた。 所変わってこちらはタバサの使い魔、シルフィードの背中。 乗っているのは主のタバサとルイズ。オスマン氏の命により待機中である。 飛んでいる場所は戦場の直上、約50メイルであった。 オスマン氏が厳重に『消音』をかけたため、まだ八雲紫に感づかれてはいない。 『ふむ、分かった。次の宣言はいつじゃ?』 『後20秒ほどと思われます』 『もっと早く言わんか、馬鹿たれ! 聞こえたか二人とも。準備は良いな』 「は、はい!」 「不備無し」 「ほ、本当にやるの?」 「……」 土壇場でビビっているルイズに胡乱げな視線を送ったタバサは、抑揚の無い声で答える。 「上手くやる。貴方も上手くやって」 漸く覚悟を決めたのか、ルイズはコントラクト・サーヴァントの呪文を唱え始めた。 コルベールの動きが変わった。 『彼女ら』のように特殊すぎる力を持たない人間の割に、よく頑張った方だと思ったが ついに覚悟を決めたのだろうかと思い、紫は再び声をかけた。 「もう終わりかしら? 蛇さん。このままでは私が勝ってしまいますけれど」 「気にしないでくれたまえっ。まだまだ諦めてはいないよ」 「あら、そう。それにしても貴方、全て時間いっぱいまで避けるとは思わなかったわ。 流石の私も驚きよ? 点数は低いけれど」 「また訳の分からない事を……」 必死に弾を避け続けるコルベールを、紫が支離滅裂な言葉で精神を疲労させる。 その間も時間は過ぎていき、とうとう、七枚目のカードの効果が切れた。 ここからだ、とコルベールは気合を入れ直した。 「はい終わり。地面を走りながらここまで耐えられる人は中々おりませんわよ?」 「それは……っ光栄な事だねっ」 「ふふふ、貴方がどこまでいけるのかちょっと楽しみになってきたわ。 さて、次は……藍がいないからこれね」 紫が袖に手を入れたその瞬間を逃さず、コルベールは念話を飛ばす。 『今です! オールド・オスマン!』 「応よ!」 オスマン氏は連絡を受けて直ちに杖を振りかぶり、詠唱を開始する。 土+土+火+水のスクウェアスペル! 「わしの必殺技! パート──何じゃったかの?ええい、発動!」 「いきますわ。『人間と妖怪の境か──ってあら?」 宣言途中の紫の下から突如、大量の『触手』が現れ、紫を絡め取る。 一本の触手は首を絞め、また一本の触手はスペルカードをもぎ取った。 全身雁字搦めにされた八雲紫であるが、その様はまさに── 「……破廉恥ですぞ、オールド・オスマン」 卑猥であった。 上空50メイル、既に呪文を唱え終えたルイズ達は機会を待っていた。 そしてコルベールの声と、オスマンの気合が響き渡る。今がその時だ! 意を決したルイズは即座にシルフィードから飛び降り、目を見開いて紫を視界に入れる。 タバサは風のスペルを使い、ルイズの落下軌道を細かく修正していく。 あわや紫とルイズが激突する寸前、絶妙のタイミングでルイズに向かって『レビテーション』かけた。 そして重なる唇と唇。ここに契約は交わされた。 * 「(美少女+触手)×美少女……計画通り」 邪悪な顔つきをしつつも鼻の下を伸ばすという、器用な真似をしながらオスマン氏は満足げに頷いた。 >>back >>next
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前ページ次元の使い魔 執念があった。 強靭な精神に裏打ちされた目的意識。 その意思は、妄執ともいえるほど確固たるもの。 目的を遂げるまでは、どれだけの年月が経とうと消え去る事はない。 「俺は……」 虚数空間に呟きが漏れる。 言葉とは存在の証明。 形を持ち、紡いだ者を人たらしめていく。 ぼやけていた視界が晴れると同時に、自分自身の存在が再構築されていく。 曖昧だった意識はようやく知覚できるほどに浮上した。 だが、まだ足りない。 この程度では足りない。 もっと、もっとだ。 腕を伸ばし、この先にある何かを掴むイメージをする。 それをこの手に掴み取り、引き寄せる。 「俺は……死なんぞッ!」 言葉に応えるかのように、更に意識がクリアになっていく。 狂おしいほどの感情のうねりが、奔流となって空間に迸る。 因と果が重なったのを感覚的に理解できた。 淡い光が満ちてくる。 どこか別の世界への扉がゆっくりと開いていく。 ──次元が、繋がる。 「あ、あんた誰……?」 抜けるような青空をバックに、一人の少女が彼を見下ろしていた。 どこか怯えたような表情で、少し距離を取っている。 少女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 トリステイン魔法学院に通う、貴族の子女である。 春の使い魔召喚の儀式で、目の前の彼をたった今召喚したのだ。 ルイズが怯えたのも無理はなかった。 彼女が行った『召喚』は、明らかに異常事態だったからである。 「早く答えなさいよッ!?」 ルイズの叫び声が響いた。 実際は、半ば虚勢であった。 大きな声でも出さなければ恐怖にのまれてしまいそうだったのだ。 このルイズの金切り声に、召喚で喚びだされた彼が反応した。 倒れていた体を緩慢な動作で起こして立ち上がり、気だるげに辺りを眺める。 まず最初に、足元からあちこち煙が上がっているのに目に付いた。 鉄と油の混じった、焼け焦げるような独特の臭いもする。 何度も嗅ぎ慣れた臭いだ。 その臭いと煙の元は、大きな鉄の塊が発していた。 歪な鉄の塊が、無造作に煙を吐きながらそこら中に散乱している。 元は大きな『何か』であったそれらの鉄塊は、異質な存在感を示していた。 「……どこだ、ここは?」 今度は、少し視線を上げてみる。 こちらを注視するような視線を向ける、奇妙な服を着た子供達の群れがあった。 その人垣の向こうは、見渡す限りの草原だ。 穏やかな風に、草が揺れている。 豊かな緑が目に眩しい。 見慣れない形の大小様々な草が競うように生えている。 ……草? 「草だと?」 自分が最後に見た光景は、ゴビ砂漠の不毛な土地だったはず。 乾ききった死の大地だ。 決してこんな緑溢れる草原地帯ではなかった。 草原の向こうには、西洋風の城まで見える。 何の冗談かと思った。 元いた場所とは明らかに違いすぎる。 足元に散乱する金属の断片と、見慣れない風景。 脳裏を過ぎるのは自分の記憶の最後の光景。 そして、虚無の中で揺う意識とその覚醒。 まさかここは……? 唐突に閃く。 脳内で瞬時にいくつかの仮説が組み立てられた。 確証はないが、現状の情報を判断すると間違いはないだろう。 「クク……」 彼の顔が愉悦に歪んだ。 まだ少年とも呼べるその外見からはありえないような、歪な笑み。 少年の顔は狂気に染まっている。 そんな少年を、呆然としたようにルイズは見つめていた。 「あんた、誰なのよ……?」 三度目の問い。 ようやく少年がルイズへと顔を向けた。 黒い髪に黒い瞳の、まだ幼さの残る風貌だ。 一見すれば凡庸な印象を受けるだろう。 さっきの歪な笑みは一体何だったのかと思うほどだ。 どこにでもいるようなごく普通の少年というのが、ルイズから見た第一印象だった。 ルイズと少年の視線が交錯する。 「ひッ!?」 見つめられた瞬間、ゾクリとした。 思わず背筋に冷たいものが走ったルイズは、身震いをした。 先ほど自分が下した少年への判断が間違っていた事が、一瞬で理解できた。 ──その目だけが、違った。 明らかに普通の少年がする目ではなかった。 侮蔑とも、哀れみとも違う、ある種の視線。 氷のような目で、少年はルイズをじっと見ている。 それはまるで研究者がモルモットでも観察しているように冷淡で、冷酷な瞳だ。 口元に嘲笑を張り付かせながら、少年が口を開いた。 「俺か? 俺は……」 そこで言葉を区切った。 一呼吸置いて、自分自身の言葉を確認するかのように喋る。 「俺の名は……木原マサキだ」 世界に宣言するかのように、木原マサキの言葉は放たれた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、不安でいっぱいだった。 春の使い魔召喚の儀式でルイズが喚び出したのは、一人の少年。 そして、煙を吐いている大量の鉄の塊。 前代未聞の出来事だった。 人間が使い魔として召喚されただけでも異常なのに、鉄の塊までセットで付いてきたのである。 もう訳が分からない。 不安になるなと言う方が無理だった。 一応少年に名前を聞いてみたら『木原マサキ』だと返事はしたが、それっきり。 名乗った後はルイズに興味を無くしたかのように視線を外し、辺りを眺めては何かを考え込んでいる。 呆然と立ち尽くすルイズとは、もう目も合わせようとしない。 どうやら完全に無視されているようだった。 何だか腹が立ってきた。 さっきは目つきに驚いたが、よくよくこのマサキという少年を見てみると、明らかにただの平民である。 貴族の証である杖も持っていないし、マントもない。 鉄屑と一緒に平民を呼び出してしまった……。 そう思うと、腹が立った後は今度は自分が情けなくなり、今度は悲しくなってきた。 「ルイズが平民と一緒にゴミを呼びやがったぞ!」 ルイズの召喚を遠巻きに見ていた生徒の一人が声を上げた。 他の生徒達も次々と囃し立てる。 「しかも、平民には無視されてるぜ!」 「さすがはゼロのルイズだ!」 煽る声は止まらない。 「違うわよ! ちょっと間違っただけだもん!」 立ち上がって怒鳴り返す。 しかし、自分でも反論は無駄だと理解していた。 「お前はいつも間違ってばっかりだろ!」 人垣がどっと爆笑する。 「違うもん! そんなんじゃないもん!」 「じゃあ、あの平民は何なんだよ?」 「そ、それは……」 言葉に詰まる。 上手い言い訳が見つからない。 「やっぱり『ゼロのルイズ』の名前通りだな!」 「召喚まで失敗とは、さすがだぜ」 「違うもん……」 蔑む様な視線が無遠慮にルイズに突き刺さる。。 生徒達の笑い声が、ルイズの耳にいつまでも木霊した。 ルイズはうなだれたまま、結局何も言い返す事はできなかった。 悔しくて仕方なかった。 生徒の中にはドラゴンを召喚した者もいた。 あのツェルプストーでさえ、サラマンダーを召喚していた。 せめて、犬や猫のような小動物でもいいから、普通の使い魔を召喚したかった。 いくらなんでも、平民の使い魔なんてひどすぎる。 目の前が涙で薄っすら滲んできた。 強く噛み締めた唇からは、かすかに血の味がした。 「ミスタ・コルベール。もう一度召喚をやり直す事はできないのでしょうか?」 ルイズは、こちらを気の毒そうに眺めていた禿頭の教師に声をかけた。 「それは駄目だ。ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!?」 「これは決まりだよ。二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。今、やっている通りだよ」 木原マサキと名乗った少年が『使い魔』という単語にぴくりと反応した。 ずっと無視してきたくせに、今度は探るような目でルイズを見ている。 コルベールの話は続く。 「この春の使い魔召喚は、伝統ある神聖な儀式です」 「それは分かってますけど……」 「いいですか、ミス・ヴァリエール。あなたが好む好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかないのです」 「でも先生! 平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」 ルイズの言葉に人垣がどっと笑った。 うなだれるルイズに、コルベールが優しく声をかける。 「平民であろうと、君にとってきっといつか素晴らしい使い魔になるさ」 「でも……」 「これ以上話す事はないよ、ミス・ヴァリエール。さぁ、儀式を続けなさい」 「分かりました……」 コルベールに促され、ルイズは使い魔の少年へと足を向けた。 「ちょっと」 ルイズはマサキに声をかけた。 「俺に何か用か?」 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」 「何がだ?」 ルイズは何も答えず、手に持った小さな杖をマサキの前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」 早口のように唱え、自分の唇をマサキの唇へと重ねる。 マサキは多少面食らった顔をしたかと思うと、ルイズの背中に腕を回した。 「──んッ!?」 ルイズの口内にマサキの舌が侵入してくる。 蛇のように絡みつき、こちらの舌を激しく求めてくる。 ルイズの顔は一瞬で真っ赤に沸騰し、頭の中は真っ白になった。 気が付けばマサキを突き飛ばしていた。 「あ、あ、あ、あんた!? 何すんのよッ!?」 「何を慌てている?」 平然と返すマサキ。 「あ、あんたねぇ!?」 「先に誘ってきたのはそちらだ。気取る事はなかろう。俺に惹かれているのを隠す事はない」 「あんたに惹かれてなんかないわよッ!?」 ルイズが叫ぶが、マサキは話を聞いていなかった。 どうやら左手の甲に突然襲ってきた痛みに、顔をしかめているようだ。 「おい。何だこれは?」 「何って、使い魔のルーンが刻まれただけよ」 「使い魔のルーンだと?」 火傷跡にも似た奇妙な線が、マサキの左手の甲に刻まれていく。 「ほほぅ、これは珍しいルーンですな」 コルベールがやってきて、マサキの甲に刻まれた傷をしげしげと眺めた。 「見た事のない形ですな。一応、写しておきましょうか」 そう言うと、懐から紙とペンを取り出してスラスラと書き写した。 マサキは無言でその様子を観察していた。 「さてと、じゃあみんな教室に戻りましょうか」 コルベールはきびすを返すと、宙に浮いた。 他の生徒達もコルベールに続いて次々と浮かび上がる。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「『フライ』も『レビテーション』も使えないと不便で仕方ないな!」 「平民の使い魔一緒に歩くのがお似合いよ!」 口々にそう言って、笑いながら飛び去っていく。 残されたのは、ルイズとマサキの二人だけになった。 「飛んだ……?」 内心では驚きつつも表情を崩さないマサキの前で、ルイズが仏頂面のまま言う。 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。今日から私があんたのご主人様よ。覚えておきなさいよ!」 「ご主人様だと?」 「そうよ。あんたは使い魔として私が召喚したのよ。平民が貴族に仕えられるんだから、光栄に思いなさい」 「使い魔? お前に従えというのか?」 憮然とした表情のまま、ルイズが答える。 「そうよ! 何か文句あるの!?」 「……いいか、言っておくぞ」 マサキはおもむろにルイズに近寄ると、胸倉を掴み上げた。 小柄なルイズの体が持ち上がり、爪先立ちになる。 「な、な、何すんのよ!?」 気丈に振舞って見せるが、ルイズの声は震えていた。 「俺に命令するな。操ろうなどと思うな。俺は好きなようにやらせてもらう」 それだけ言うと、投げ捨てるように掴んだ手を離した。 「きゃあッ!?」 尻餅をついたルイズを、マサキは冷たい目で黙って見下ろしていた。 ルイズとマサキ。 異界にて交わってしまった二つの運命の鎖。 物語は、ここより始まる。 動き出した流れは止まる事はない。 ──冥府の王は、再びハルケギニアの地で目覚める事となる。 前ページ次元の使い魔
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前ページ次ページサーヴァント・ARMS さて、学院と名前がつく以上、朝食の時間が終われば今度は授業である。 魔法学院の教室は小中高校のような長方形の構造ではなく、1列ごとに段がある大学の講義室に近い。 講義用の教卓と黒板が1番下の段で、階段の様に席が続いているのだ。 涼とルイズが教室に入っていくと、先に教室に来ていた生徒達が一斉に振り向き、そしてクスクスと笑い始める。 食事の時に分かれたキュルケも居た。周りを男子が取り囲んでいる。 容姿から簡単に想像がついたが、案の定クラスではアイドル扱いされているようだ。少し離れた席で腕組みして隼人が静かに座っている。 ………違う。居眠りしていた。 その後ろの席には黙って本を読んでいるタバサがいて、その隣に武士が居る。 サーヴァント・ARMS:第3話 『授業』スクールレッスン その外の生徒は皆、様々な使い魔を連れていた。 フクロウもいればデッカイヘビもいるし、カラスも居れば猫もいる。 中にはバシリスクだの目の玉お化けなバグベアーだの蛸のような人魚のようなスキュアだのとファンタジーど真ん中なのもいた。 もっとも涼達の場合は更にとんでもない物――隕石そっくりな地球外生命体やサイボーグやナノマシンや超能力者や、果てには全長100mを超えそうなだい怪獣(しかも中身は涼自身)や何やらかんやら―― ――は嫌って程見てきたので、今更こんな生物見ても大して驚けない。ちょっと夢が無いかもしれないが仕方が無い。 今度は食堂とは違い、ルイズの許しを貰って涼は席に座る事が出来た。 その時ルイズがチラチラと隼人の方を見ていたので、理由はバレバレである。 扉が開いて、教師が入ってきた。 紫色のローブに身を包んで帽子を被った人の良さそうな中年の女性である。カツミの母親――もっとも涼達と同じで血は繋がっていないが――を思い出した。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。 このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 シュヴルーズの視線が涼、隼人、武士の順に移る。 「おやおや、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。変わった使い魔を召喚したものですね」 「お褒めに預かれて光栄ですわ、ミス・シェヴルーズ」 皮肉を込めてキュルケが答えた。隼人はまだ寝ている。 ルイズは俯いている。涼は教師があまりそういう事言うのは拙いんじゃないか?と思った。 タバサは教師がやってきたのも気にせずまだ読書中である。武士は居心地が悪そうに身じろぎした。 この辺りで誰かから「召喚できないからってその辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」なんて冷やかしが入りそうなものだったが、今回に限って入りはしなかった。 『ゼロ』と呼ばれて落ちこぼれ扱いのルイズだけならともかく、トライアングルクラスの実力者であるキュルケとタバサも召喚したのは同じような平民(?)の少年。 下手すると2人にもケンカを売った事になりかねないから言いたくても言えないのである。 世界が変わろうが、基本的に己より上の実力者相手だと弱腰なのは変わらないという事か。 なんともはや。 「では、授業を始めますよ」 シュヴルーズが杖を振ると、あまりにも唐突に石ころがいくつか現れた。 種も仕掛けもありません、とはこの事か。 話す内容はどうも復習的な内容らしく、それぞれの系統の魔法についての説明だった。 この世界の魔法がどんな物か分からない涼達にとってはかなりありがたい。・・・まだ居眠り中の隼人はともかく。 曰く、魔法には四大系統というものに分けられる。つまり火、水、風、土の四つの系統に。 後は失われた系統として5番目に虚無というのがあるとか。最近のファンタジーゲームよりはよっぽど単純だ。 魔法というものはこの世界ではどうやら科学技術のかわりとして重宝しているらしい。 ――けどそれだと、ある意味俺らが召喚されたのってとんでもない皮肉だよなあ―― なにせ涼達は最先端の科学技術で生み出され、科学技術(とその他諸々)によって生まれたARMSを体内に宿している身だ。 ま、彼達の在り方にそんな事さっぱり関係ないのだが。 とりあえずこの世界の技術レベルが中世ヨーロッパ並みな理由がなんとなく分かった。 シェヴルーズが再び杖を振ると石ころが光りだして、光が収まるとそれは輝く金属に変貌していた。 キュルケが金だと勘違いし過剰反応を起こしていたがそれは割愛。 ルイズに聞いてみると、いくつ系統を足して魔法を使えるか、その数によって魔法使い――メイジのレベルが決まるんだとか。 そんな風に涼がルイズの話を聞いていると、シェヴルーズに見咎められてルイズがご指名を受けた。 その瞬間、涼は確かに教室中の空気が凍りついたのを感じた。 別にバンダースナッチが室温を-273℃まで低下させた訳ではない。 慌ててキュルケが立ち上がって声を上げた。何でか声が少し震えている。 「先生!」 「なんです?」 「やめておいた方が良いと思いますけど・・・」 「どうしてですか?」 「危険です」 即答だった。生徒の殆どがクラーク達並にぴったり息を合わせて頷いた。どういう事かさっぱり分からないのは涼と武士だけだ。 隼人はやっぱり寝ていた。 しかしキュルケの説得は実らず、ルイズが教卓の元へと向かっていく。 『・・・高槻涼よ、この者達は一体何を恐れているのだ?』 「さあ、俺にもわからん・・・」 相当ろくでもない事が起こると予想・・・どころか確信しているらしい。 前の方の席の生徒は魔法で防壁みたいな壁を作っているし、後ろの方は机の下に隠れて耳を塞いでいる。タバサは武士を連れて教室から出て行った。 ――何だか爆発でも起きるみたいな・・・って、爆発?まさか―― 気がつくともうルイズが杖を振り下ろそうとしていたので、涼は慌てて立ち上がった―――― 次の瞬間、教卓が文字通り『木っ端微塵』に爆発した。 爆風に耐え切れず、防壁は吹き飛ばされた。 その陰に隠れていた生徒もなすすべなく床に叩きつけられた。 驚いた使い魔たちが暴れだした。悲痛な鳴き声。生徒の悲鳴、絶叫、怒号。 阿鼻叫喚、死屍累々―――後者はともかく、文字通りの大パニックである。 そして爆心地に居たルイズとシェヴルーズは爆発をもろに受けて――― 「・・・・・え?」 「こ、これは・・・」 「ふう、間に合って良かった」 ―――いなかった。 左右それぞれルイズとシェヴルーズを脇に抱える形で、涼が爆心地から離れた教室の隅に居た。 ――すこし久々だったから出来るかどうか判らなかったけど、高速移動が使えて良かった―― 少々煤にまみれてはいるが、3人とも怪我は無い。 「何だ!?何が起こった!?」 「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」 「もう!ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「俺のラッキーがヘビに食われた!ラッキーが!」 「ちくしょう!だから『ゼロ』のルイズにやって欲しくなかったんだ!いつもいつもとんでもない失敗しやがって!」 ………もっとも、周囲は反比例して被害甚大だが。 ちなみに最初のセリフはようやく目覚めて状況把握が出来ていない隼人のものである。 ――あー、もしかして『ゼロ』って、魔法の成功率ゼロだからだったりするのか?―― 実はドンピシャな推測を立てた涼がルイズとシェヴルーズを下ろしたその時、キュルケから何が起こったのか聞いた隼人が思わず叫んでいた。 「こんのバッキャロー!!ドジ踏むならもうちょっとマシなドジ踏みやがれ!」 それは隼人の短気な性分と、昨日からのルイズの―特に涼に対しての―横暴とも言える振る舞いに対する悪感情から放たれた言葉だったが。 今回ばかりは、タイミングが悪すぎた。 ――隼人、追い討ちをかけないでくれよ―― すぐそっぽを向いたお陰でほんの一瞬だが、ルイズの瞳に浮かんだ涙に気付いた涼は、額を押さえて思わず天を仰いだ。 空は、見えなかったが。 「・・・これって、どう収拾つければいいのかなあ」 「無残無残」 結局教室が破壊されたために授業は中断。 一部の生徒や使い場がパニック性の極度の興奮状態に陥ったので、結局今日の授業はお開きとなった。 他の生徒は昼食を取りに行ってしまったので、今教室に居るのはルイズと涼だけである。罰として教室の片づけを命じられたのである。 隼人や武も手伝おうとしたのだが、シェヴルーズに止められたので渋々キュルケやタバサと共に立ち去った。 これは罰なので、他の人が手を貸すのは矯めにならない、という事だろう。 もっとも結局清掃業者が勧誘したくなりそうな手際の良さでテキパキ教室の後片付けを終わらせたのは涼であって、ルイズは単に机を拭いた程度なのだが。 「これでよし。それじゃあ昼飯食べに行くか、ルイズ」 「・・・・・・・・・・何も言わないの」 「ん?何がだ?」 「だから!魔法に失敗した事よ!」 いきなりルイズは爆発した。物理的ではなく感情的に。 「バカにしたいならすればどーなの!そんな言われた通り黙々とやってないで!言いたい事があればハッキリ言ってみなさいよ!!」 「別にそんな事いきなり言われてもなあ・・・それに俺はルイズの事バカにするつもりなんて、これっぽっちも無いぞ?」 「ありきたりな嘘つかないで!あんたも思ってるんでしょ?貴族なのに、メイジなのに魔法が全然使えないって! 私だってね、好きでいつもいつも失敗してるんじゃないのよ!本も毎日何冊も何冊も読んだ!魔法の練習も勉強も人一倍やってきた! なのに爆発ばっかり・・・何で・・・何でなのよ―――――・・・・・・」 血を吐くような叫び。 それは努力も実らず、努力を誰にも認めて貰えずにいたルイズの独白。 だが、それは。 「・・・あのさ、ルイズ」 今日この日。その想いは実り始める。 「俺が認めるよ、ルイズの事」 「・・・・・え・・・?」 「だってさ、ルイズは俺を召喚したんだろ。『コントラクト・サーヴァント』って『魔法』で。それならさ、ルイズも魔法が使えたってことじゃないのか」 「でも・・・あんた、平民じゃない」 「んー、まあある意味その通りなんだけどな―――『ただ』の平民じゃないんだよ、これでも」 自画自賛は涼の趣味ではないが、嘘は言っていない。 ただの人間として平穏な人生を送るために、涼達は戦ってきた存在なのだから。 「はぁ?どういう意味よ」 「まあその時がもし来たら教えるからさ、とりあえず元気出せって。きっと昼飯食べたら元気も出るぞ」 「・・・わかったわよ。その前に、厨房に寄るわよ」 「何でだ?」 「・・・あんたの分の食事。申し越しマシなの出してあげるから、か、感謝しなさいよね」 「・・・ああ、サンキュ」 「ところで授業の時にあんた、いつの間にか私とミス・シェヴルーズを抱えてたけどあれって一体どうやったの?」 「ああ、あれか?まあ簡単に言えば俺の中の『力』の1つって感じだな」 先に厨房へと向かうため、食堂の前を通り過ぎた時にその声は聞こえてきた。 「いいだろう!!君に決闘を申し込む!!」 「上等だぁ!!相手んなってやる!!」 『うおおおおおおおおおっっ!!!』 「ちょっと、ケンカは良くないよ隼人くーん!!」 「・・・何だコリャ」 「それはこっちのセリフよ」 前ページ次ページサーヴァント・ARMS
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前ページ次ページゼロ・HiME 異世界に召喚された翌朝、静留は窓から差し込んでくる薄明るい日の出の光と左腕に感じて重みを目覚めた。 重さの原因を探して視線を下げると、ルイズが静留の腕に軽く抱きついて眠っていた。 「……あらあら、意外とあまえたなんやね、ご主人様は」 静留はくすりと微笑み、ルイズを起こさないようにベッドから抜け出ると、背筋を伸ばして部屋の中を見回す。すぐにベッドの脇にルイズの脱ぎ捨てられた服が目に入る。 「そういえば、なつきもよくこうやって服を散らかしてましたな……そや、洗濯でもしときましょか」 ルイズの服を集めながら静留は懐かしそうに呟くと、洗濯するために部屋の外に出た。 「……さて、どないしよ」 寄宿舎のすぐそばで水場を見つけたものの、どうやって洗濯したものかと静留が悩んでいると、寄宿舎からメイド服を着た黒髪の少女が洗濯物の入った篭を抱えて出てくる。 「あの~、すいまへんけど……」 「きゃ!」 静留に急に声をかけられ、驚いたのか少女は篭を抱えたまま尻餅をついてしまう。 「驚かしてすいませんな、怪我とかあらしまへんか?」 「だ、大丈夫です! わた、私こそ、こんな場所に貴族様がいらっしゃるとは思わなかったもので」 少女は立ち上がると、怯えたような表情で静留にぺこぺこと頭を下げる。 「なにをそんなに怯えてるんか知らんけど、うちは貴族とかやあらへんから安心しいや」 「……え?」 静留の苦笑交じりの言葉を聞いて、少女は不思議そうに小首をかしげた。 「それじゃ、あなたがミス・ヴァリエールが呼び出した……」 「あら、うちのこと知ってはるん?」 誤解を解いて少女と一緒に洗濯をしながら静留がたずねる。 「ええ、貴族の方々が召喚の魔法で平民を呼んでしまったと、噂していらしたもので」 「そうどすか。そう言えばまだ名乗ってまへんでしたな。うちの名前は静留いうんよ」 「シズルさんですか、いいお名前ですね。私は貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているメイドで、シエスタっていいます」 「シエスタさんどすな。これから色々よろしゅうに」 「い、いえ、こちらこそ」 静留が笑顔で手を差し出すと、シエスタは頬を赤く染めながら、はにかむように微笑んでその手を掴んだ。 「朝どすえ~、ご主人様~♪」 洗濯を終えて部屋に戻った静留は、ルイズを起こそうと柔らかな頬をプニプニ突きながら声を掛ける。 「うう~ん、もうちょっと寝かせて」 「ええんどすか? 起きへんならキスしちゃいますえ」 寝ぼけ眼で毛布に潜ろうとするルイズの耳元に静留がささやくと、ルイズはバッと飛び起きて部屋の隅っこへと逃げた。 「おはようさんどす、ルイズ様」 「はあはあ……お、おはようじゃないわよ! シ、シズル、起こすなら普通に起こしなさい!」 「お気に召しまへんか?」 「当たり前でしょ! 着替えるから服出して頂戴――あ、手伝わなくていいから」 「そうどすか、残念やねえ」 全然残念そうじゃなさそうな静留が差し出した服一式をルイズは奪い取ると、壁を背にした警戒態勢で着替える。 「そないに警戒せんでもええのに」 「あのねえ……まあ、いいわ。着替え終わったから、食堂に行くわよ」 のほほんとした静留の態度に毒気を抜かれたルイズは、軽く頭を振って気を取り直すと自室の扉を開く。 ルイズが静留と一緒に部屋を出ると、ちょうど向かいの部屋の扉が開いて真っ赤な髪の少女が現れた。身長は静留より10cmほど高く、褐色の肌と大きな胸が特徴的だ。 (随分と色っぽい子やね。胸とか鴇羽さんより大きいかも知れへんな) 静留がらちもないことを考えていると、少女はにやにやと不適な笑みを浮かべてルイズに声をかける。 「あら、おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 ルイズは仏頂面で、嫌そうに挨拶を返す。 「ふ~ん、それがあなたの使い魔?」 「ええ、そうよ」 キュルケは一瞬、静留を値踏みするようにジロジロと見回した後、ルイズの方を向いて意地悪そうな表情を浮かべる。 「へえ、本当にただの平民喚んじゃったのね。すごいわ、さすがゼロのルイズ」 「うるさいわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発だったけど」 「あっそ」 「見せてあげる。おいで、フレイム!」 キュルケの呼びかけに答えるように、彼女の部屋からのっそりと炎の尻尾を持った真っ赤な大トカゲが現れた。 「それってサラマンダー?」 「そうよ、ここまで鮮やかで大きい尻尾は、絶対に火竜山脈のサラマンダーね。好事家に見せたら値段なんかつけられないぐらいのブランドものね」 「ほんに立派なトカゲやねえ~。ちょっと触ってもええ?」 静留はそう言ってルイズをさりげなく後ろにかばいながらフレイムの頭を撫でた。その静留の行動を見てキュルケが感心した表情を浮かべる。 「あら、平民なのに驚きもせずにフレイムを撫でるなんて勇気あるのね。うふふ、気に入ったわ。あなた、お名前は?」 「うちの名前は静留」 「シズル……なんか不思議な響きの名前ね。あたしの名はキュルケよ、よろしくね。じゃあ、お先に失礼」 そう言うとキュルケは使い魔を従えて去っていった。 「なんなのよ、あいつは! 自分がサラマンダー召喚したからって偉そうに!!」 「まあまあ、そんなに怒るとご飯がおいしゅうなくなりますえ。それにかいらいしいお顔が台無しや」 「なっ……何、言ってんのよ! ほら、さっさといくわよ」 「はいな」 ルイズは静留の言葉に顔を真っ赤にすると、嬉々として追ってくる静留を連れて食堂に向かった。 前ページ次ページゼロ・HiME
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 二五四 君の口から出たあまりに意外な第一声に、ルイズはしばらく考えこむ。 「あー、そうね。私がご飯を分けてあげたすぐ後に、決闘騒ぎになったんだっけ」 ルイズは、花も恥らうような輝かしい笑顔を浮かべる。 「あの後も戻って来なかったから、ちゃんとご飯を食べられたかどうか心配してたんだけど、調理場でご馳走になってたのね」 形のよい眉がわずかに吊り上がる。 「あっはっは、よかったよかった」 この笑い声は、ひどい棒読みだ。 君は彼女にあわせて笑うが、次に来るであろう怒声を予想して身構える。 しかし、ルイズは怒声のかわりに、君の脚に強烈な蹴りを浴びせる。 過去に幾多の危難を乗り越えてきた、君の鋭い勘と俊敏な身のこなしをもってしても、この一撃をかわすことはできない。 君は向こう脛を押さえながら、しゃがみこんで声にならぬ悲鳴をもらす(体力点二を失う)。 「このバカ使い魔!駄目平民!駄犬!」 のたうち回る君を見下ろしながら、ルイズは君を罵倒する。 「ご主人様の命令を無視して騒ぎを起こして、やっと戻ってきたと思ったら、ご飯は食べてきたですって!?」 「すげぇ、ゴーレムと渡りあった剣士を一撃で……」 「……なにが起きたんだ?」 再び生徒たちがざわめく。 教室内のほぼ全員の注目を浴びようとも、彼女の罵声は止まらない。 「普通、そこは謝るところでしょうが!あんたみたいに常識も礼儀もない動物には、一から躾(しつけ)が必要みたいねぇ!」 「ミス・ヴァリエール、そろそろ授業を始めたいんだが……」 困惑した表情のコルベールが口にした言葉は、誰の耳にも届かない。六八へ。 六八 放課後の自由時間、寄宿舎の部屋に戻った君たちだったが、怒りの収まらぬルイズは『晩ご飯抜き及び外出禁止』を君に言い渡すと、つかつかと部屋を出て行く。 君は決闘後に昼食をたっぷりとったうえ、一食抜く程度の事態には慣れているため、この罰はそれほどの苦痛ではない。 主のおらぬ部屋を見回し、これからどうしたものかと考える。 ルイズの命令を無視して部屋を出る・一七五へ 暇つぶしに部屋を掃除する・一三八へ 椅子に腰をおろし、考えを整理する・一四九へ 一四九 椅子のひとつに腰をおろし円卓に頬杖をついて、今日あったことを思い起こす。 この一日で、実に多くのことが起き、多くの人に会い、多くのことを知ることとなった。 巨大な学院、怪物を≪使い魔≫として従える若き魔法使いたち、≪四大系統≫、≪錬金≫、魔法をもつ貴族ともたざる平民の格差。 シエスタ、キュルケ、ギーシュ、マルトー、コルベール。 自分を下僕扱いする高慢な少女が、貴族でありながら一切の魔法を使えぬ≪ゼロ≫と、嘲笑されていること。 しばらくして、コルベールの話を思い出す。 ここは非常に奇妙な世界だが、その世界にとっては『異物』とでも呼ぶべき、見慣れぬ存在が出現しているという。 そしてその『異物』は、あの闇の大地、危険なカーカバードに住まうものばかりなのだ。 火狐、スカンク熊、沼ゴブリン……謎の死体が持っていた本というのも、カーカバード語で記されているのだろうか。 そんなことを考えながら、君はいつしか眠りに落ちる。二六八へ。 二六八 それからの数日間は暴力沙汰もなく、平穏無事に過ぎる(体力点を最初の値に戻せ)。 偏屈な老人の身の回りの世話をしながら魔法を修行した君にしてみれば、年端もいかぬ少女の我儘につき合うのはそれほどの難事ではない。 掃除や洗濯といった雑用も器用にこなす君が(これも修行時代の賜物だ)、彼女の機嫌をそこねるのは着替えを手伝わされるときだけだ。 このときだけは、君はルイズの倫理観を堂々と非難し、結果、朝食抜きを申しつけられることも多い。 だが、そのようなときには調理場に足を運び、マルトー料理長やシエスタの歓迎を受けながら、食事を用意してもらうのである。 君もただ善意にあずかるのは申し訳ないとばかりに、故郷アナランドの笑い話や君自身の冒険談を披露する。 ルイズの授業中は、彼女のそばの席につき、熱心に講義の内容に耳を傾け、自前の羽ペンと羊皮紙でメモをとる。 「平民はどんなに努力したって、爆発ひとつ起こせないわよ」とルイズは言うが、 実際にこの世界の魔法が身につかずとも、知的好奇心を満たすというのは意義があることだと君は答える。 この世界の魔法の仕組みを知れば、もとの世界に戻る方法を見つける手がかりになるかもしれぬ、というのが君の本心なのだが。 そうした日々を送り、このハルケギニアに召喚されてから六回目の朝を迎える。 「明日は≪虚無の曜日≫、つまり休日だから朝になっても起こさないで」と昨夜ルイズに言い付かった君が、 日課になっている朝の洗濯と剣の素振りを終えて部屋に戻ってみると、彼女はすでに目覚めており、着替えも自分で済ませている。 いつもと違う彼女の行動に驚く君を見て、ルイズは微笑む。 「朝ご飯がすんだら、街まで出掛けるわよ。そのボロ服とか剣とか、いいかげん買い替えたいでしょ?」 君は驚きのあまり口もきけない。 貴族らしからぬ吝嗇(りんしょく)ぶりを示していた彼女が、下僕のために金を使うと言い出すとは。九三へ。 九三 ルイズによると、トリステイン王国首都である城下町、『トリスタニア』までは馬で三時間ほどかかるそうである。 君は、慣れぬ鞍の上でふらふらと揺れている。 マンパン潜入の任務以前にも広く諸国を旅したことのある君だが、いずれの行程も徒歩が中心であり、こうやって馬を駆った経験はほとんどないのだ。 反対に、ルイズは乗馬が楽しくてしかたがないらしく、馬を相手に四苦八苦する君を置き去りにして、どんどん先に行ってしまう。 林道に入ったところでようやくルイズに追いついたと思った君は、木陰の下で異様な光景を目にする。 ルイズの乗っていた馬が、横向きに倒れてもがいているのだ。 馬と周囲の地面は、大量の血に濡れている。 ルイズは馬のそばで放心したように座り込んでいるが、声をかけるとあわてて君のほうに駆け寄ってくる。 なにが起きたのかを問おうとした君は、草陰に一対の眼が潜んでいるのを見出す。 よく見ると、その眼の持ち主は不細工な獅子っ鼻を持つ、毛むくじゃらの生き物だ。 やがてその生き物は草陰から姿を現し、君たちのほうへと近づいてくる。 大型犬ほどの体格であり、黒と黄色い縞の毛皮で全身が覆われた獣だ。 「なに……あれ?」 ルイズが震えながら、当惑の声をあげる。 君はどうする? ルイズを馬上に引き上げ、その場から走り去るか(二八五へ)? 馬から降り、獣の前に立ちはだかるか(三九へ)? 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ