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召喚キャラは「ナイトウィザード」から柊蓮司と志宝エリス 基本TRPG「ナイトウィザード」の各種設定をふまえて ただし宝玉の少女の件に関してはアニメ版準拠 シェローティアの空砦は起こらない エル=ネイシアについては起こるかもしれない 下二つについて、一応分類として「セブン=フォートレス」のものなので除外 ルイズと夜闇の魔法使い-01 ルイズと夜闇の魔法使い-02 ルイズと夜闇の魔法使い-03 ルイズと夜闇の魔法使い-04 ルイズと夜闇の魔法使い-05 ルイズと夜闇の魔法使い-06 ルイズと夜闇の魔法使い-07 ルイズと夜闇の魔法使い-08 ルイズと夜闇の魔法使い-09 ルイズと夜闇の魔法使い-10a ルイズと夜闇の魔法使い-10b ルイズと夜闇の魔法使い-11 ルイズと夜闇の魔法使い-12 ルイズと夜闇の魔法使い-13 ルイズと夜闇の魔法使い-14 ルイズと夜闇の魔法使い-15 ルイズと夜闇の魔法使い-16 ルイズと夜闇の魔法使い-17 ルイズと夜闇の魔法使い-18 ルイズと夜闇の魔法使い-19 ルイズと夜闇の魔法使い-20 ルイズと夜闇の魔法使い-21a ルイズと夜闇の魔法使い-21b ルイズと夜闇の魔法使い-22 ルイズと夜闇の魔法使い-23a ルイズと夜闇の魔法使い-23b ルイズと夜闇の魔法使い-24 ルイズと夜闇の魔法使い-24b ルイズと夜闇の魔法使い-25 ルイズと夜闇の魔法使い-26 ルイズと夜闇の魔法使い-27 ルイズと夜闇の魔法使い-28
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前ページ次ページGOTHIC DELUSION ZERO 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」 その日、トリステイン魔法学院では使い魔召喚の儀式の真っ最中であった。 使い魔召喚の儀式とは、この魔法学院に通う生徒達が2年へ進級するにあたって行われるものである。 同時に彼らのパートナーである使い魔を決める大事な場でもあるのだ。 使い魔は生涯をかけて主を守り、導き、そして共に歩む。 故に、使い魔召喚は神聖な儀式として、代々執り行われてきたのである。 そして、今その使い魔召喚を行っているのは桃色がかった髪の少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールであった。 ルイズが召喚の魔法『サモン・サーヴァント』の呪文を唱え、杖を振ると目の前に小さな爆発が起きる。 だが、もくもくと上がる煙が消え去っても、そこには何も無かった。 「また失敗かよ!!」 「何回目だっけ?」 「さあ?もう10回は軽く超えるんじゃないの?」 周りの級友たちの声がルイズの耳へと入る度に、彼女は腹を立て、ムキになって呪文を唱える。 そしてまた爆発を起こし、その回数だけを重ねていく。 そんなことの繰り返しに、周りの級友たちも流石に煽りだけではなく、本気の抗議の声を浴びせかける。 「いい加減にしろ!!」 「一体、何時までやってんだ!!」 「もう止めちまえ!!」 他の級友たちは既に使い魔を召喚し終え、契約まで済んでいた。 未だに召喚すら出来ていないのはルイズただ一人だけであった。 学院の教師の一人でこの場を監督しているコルベールはそんなルイズを見て、思わずため息を吐く。 コルベールはこの学院内ではルイズの努力を認めている数少ない人物であったが、流石に今の状態のまま続けていても埒が明かないと思い始めていた。 「……ミス・ヴァリエール。このまま続けていても同じことの繰り返しだ。今日のところは次の召喚を最後にしようじゃないか」 「……え?」 ルイズはこのコルベールの言葉に少なからずショックを受ける。 とうとう自分は見限られてしまったのだと。 彼女も彼女でコルベールのことを多少は信頼していたのである。 そんな信頼している教師から遂に最後通告を出されてしまった。 自分の不甲斐無さに思わず下唇を噛む。 (……させなきゃ。絶対に次で成功させなきゃ!!) ルイズは強迫観念とさえ言えるほどの自己暗示をかけると、スッと目を閉じた。 そして意識を最大限に集中させ、呪文を唱え始める。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン!宇宙のどこかにいる私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応えよ!」 杖を振った瞬間、今までにない程の大爆発が目の前で起きた。 物凄い爆風が巻き起こり、思わずルイズは二、三歩後ずさってしまう。 しかし、その鳶色の目を閉じることは無く、大量の煙で覆われた場所をしかと見つめる。 (私の……私の使い魔!!) ドラゴンやグリフォンとまではいかなくてもいい。 猫や犬……果てはネズミやカエルだって構わない。 ただ、そこに自分が召喚に成功したという証があって欲しいと願いを込めて凝視していた。 やがて、煙の膜が徐々に薄くなるにつれて、中に何かの影が見え始めた。 そのシルエットから察するに、そこそこ大型の生物のようである。 (やった……やったわ!!) それまでの過程はともかく、召喚が成功した。 そして、使い魔もそこそこ大物である可能性が高い。 ルイズは湧き上がる喜びの感情を隠すことが出来ずにニヤけていた。 だが、その喜びも束の間であった。 煙が晴れて、その中の正体がハッキリすると、ルイズの顔が凍りつく。 級友たちの中の一人がするどくその正体を見とめると、大きな声を上げた。 「……ゼロのルイズが、平民を召喚したぞーーーーー!!」 その言葉が切っ掛けとなり、周囲に笑い声が巻き起こる。 中には、直接的にルイズを馬鹿にしたようなことを言ってのける者もいた。 だが、それらの言葉はルイズには届くことは無かった。 彼女は彼女で目の前の現実を受け入れきれずにいたのであった。 (何よ、これ?嘘、でしょ?え?) 何度目を擦って確認しても、そこにいるのは仰向けに倒れた平民と思われる傷を負った男。 身の丈はコルベールくらいあり、何やら上下にボロボロの黒い服を着ている。 髪型も特に癖っ毛ということは無く、セットしている様子も無く、ただストレートに伸ばしているだけ。 長過ぎず、短過ぎず、といったところか。 多少茶色掛かっているが、基本的には黒い髪である。 ここハルケギニアでは黒い髪というのは珍しく、ここトリステイン魔法学院でも使用人の中に一人該当する人物がいるくらいである。 だが、珍しいだけで存在はしているのだ。 顔は目を閉じてはいるものの、至って平凡。 特に美男子というわけでもない。 これがルイズの呼び出した使い魔の姿であった。 全身に傷を負ってはいたものの、致命傷という風には見えず、また普通に息をしている為、治療は後回しにすることとなった。 「……さあ、ミス・ヴァリエール。『コントラクト・サーヴァント』を」 コルベールは無慈悲にルイズへとそう告げる。 少しの間、その男を見つめていたルイズではあったが、すぐにコルベールへと向き直り、必死の形相で言った。 「ミスタ・コルベール!お願いです!!『サモン・サーヴァント』をやり直させてください!!」 しかし、コルベールは無言で首を振る。 更にルイズが食い下がると、コルベールは困ったような顔で言った。 「ミス・ヴァリエール……残念ながら『サモン・サーヴァント』のやり直しは許可出来ない。『サモン・サーヴァント』は神聖な儀式なんだ。やり直すということは始祖ブリミルへの冒涜にもなる」 「そんな……!?でも、平民を使い魔にするなんて聞いたこともありません!!」 「それでもだ。……分かって欲しい。それにもう一度『サモン・サーヴァント』を行って成功させる自信があるとでも言うのかい?」 最もな疑問であった。 此度の成功の前には、数多の失敗があった。 ルイズ本人でさえ、再び『サモン・サーヴァント』が成功するとは思っていなかった。 だが、それでも変えたかった。 彼女が望んでいたのは普通。 例え、ネズミやカエルだったとしても、それで良かったのだ。 ルイズは生まれてこの方、系統魔法をまともに成功させたことが無く、その為に周りから浮いてしまっていた。 せめて他で補いたいと、筆記などの実技以外の部分で好成績を修めても、その現状は変わらなかった。 それならば、使い魔だけは他の者と同じようなものでありたい。 そう願い、成功させたと思ったら、その使い魔が人間……それも平民である。 耐え難い事実。 それを受け入れるくらいなら、始祖ブリミルに背いてでももう一度召喚をしたかった。 だが、それが出来る筈もないのだということも頭のいい彼女には分かっていた。 暫くの間、コルベールと問答をしていたが、それも切り上げて、ルイズは渋々倒れている平民の男の元へと足を向ける。 そして、男の顔の側まで来ると、観念したかのように『コントラクト・サーヴァント』の呪文を唱え始めた。 (もう背に腹は変えられない。それは分かっている。でも……) 迷いを抱えたまま、半ば棒読みで『コントラクト・サーヴァント』の呪文を紡ぐ。 「……我が名はルイズ・ フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そうして、男の唇に自らの唇を重ねようとした。 その時であった。 「やめろ!!!!」 突如、舌足らずな子供のような、だが何処か威厳を感じる声が辺りに響いた。 その声に思わずルイズは男の唇に触れる寸前に止めてしまう。 コルベールや級友たちは声の正体を探して辺りを見回していた。 すると、再びその声が今度はルイズに向けて放たれた。 「たかみちはわたしの遂<ミニオン>だ!おまえのつかいまなどにはけっしてならない!!」 ルイズはその声の方へ目を素早く向けた。 他の者たちが声の正体を見失っているのとは対照的に、ルイズにはその声の主のいる場所がすぐに分かっていた。 視線を向けたそこには一人の小さな少女が立っていた。 美しい髪と満月のように丸く大きい瞳。 そして、まるで何処かのお嬢様だとしか思えないゴシックロリータの服装。 今、目の前で倒れている男の知り合いにしては、あまりに不釣合いな存在に見えた。 ルイズは少しムッとした表情で少女へ問い質した。 「……アンタ誰よ?一体何なの?」 少女はそんなルイズの視線をしっかり受け止め、寧ろルイズが怯みそうになるぐらいに強く睨み付けたまま言った。 「私の名はロー。ファルシュ・ドロレス・ヴァレンタインだ。ゴシックハートは<決して錆びぬ思い>。最上なる高貴、揺るぎなき誇りを掲ぐ<星の揺籃>の血と名を継ぎし者なり!!」 前ページ次ページGOTHIC DELUSION ZERO
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私ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚した男は実に変だった。 何が変って第一声が 「あぁ、よくありません、実によくありません。誰も黒くない上に大地にすら黒い所が無いではないですか。黒こそ至高の色!黒以外に価値なぞないのです! というわけで染めましょう。全てを真っ黒に!ふわははははははははははは!」 これである。 なるほど黒が好きと言うだけあって彼の姿は徹底して黒で固められている。真っ黒な髪と目(目つき悪…)、黒いローブと靴に杖。更には使い魔まで真っ黒だ。 杖を持ちローブを着込んでいる所からしてメイジなのだろう。しかし、いくらメイジであろうとこんな偏執狂(パラノイア)を使い魔として認定されてはたまらない。 ので、当然私は召喚のやり直しを求めた。 しかし許可は下りず、結局この変人と契約する羽目になってしまった。 おのれ、この恨み末代まで残るものと思へ。そんな呪いの言葉を心中で禿教師に向かって吐きながら、投げやりに契約の呪文を唱え契約を済ませた。 さてそんな使い魔ではあるが、契約した次の日はとても静かだった。どうやら黒が自分以外に無いのが寂しいらしい。 ザマァミロと思いながら洗濯を命じて部屋から追い出した。少し心が晴れる。 しかしそれも長くは続かなかった。 意気消沈した男が哀愁漂う姿でちゃぱちゃぱと洗濯するのを眺めてやろうと思い、私は使い魔の後を追ったのだが。 そこで男が黒に遭遇してしまったのである。即ちメイド。 メイド服というのは黒が基調である。更に運の悪いことにそのメイドは黒髪黒目だった。 一瞬で男は元気を取り戻し、しきりにメイドを誉めそやす。顔を赤く染め、照れるメイド。 期待を裏切られた不満に何となく気に食わない気分がプラスされ、化学反応を起こした結果、それは怒りへと変わった。 今考えてみると大層理不尽なことだが、当時の私はコンプレックスの塊だったのだ。少しくらいの我侭は容認されてしかるべき…だと思わない? 何はともあれ怒った私は男の後頭部を爆破し、憂さ晴らしをした後部屋に戻った。少しすっきりした。 無傷で部屋に帰ってきた男を見たせいで再び頭に血が上ってしまったが。ああ思い出したらまた腹g(ここから先は文字が盛大に歪んでいる為解読不能) さて、この男。話を聞くところによれば異世界からの来訪者であるらしい。 ならば証拠を見せろと迫る私に、男は真っ黒な稲妻の呪文を唱えて見せた。 何故に真っ黒なのかは本人の趣味との事で。それに意味があるのかと問うたところ、答えは「黒でない稲妻に何の意味があると言うのです?」 貴様は質問に質問で返せと教わったのかと小一時間問い詰めたかったのだが時間の無駄と判断して稲妻に関する尋問は終了。 次に私は呪文について質問をした。男の唱えたソレはハルケギニアの既存のものと比べて遥かに短かったのだ。 こちらの質問についてはきちんと説明をしてくれた。色に関する事でなければ至極まともであるらしい。なるほど。 で。 男が使用した魔法は真音魔術と言われるもので、物体に対して自らの我侭を押し付けることにより力を発現させる技術……らしい。 世界を律するといわれる『真なる音』を呪文として紡ぐ。それはわずかな音節で多くの意味を持っている為、非常に短い呪文で魔術を行使できる、と。 わかりやすく例を挙げると、例えば光の障壁を生み出す呪文の場合は次のような意味があるそうだ。 『おおっと、ここに壁があるぞ!壁ってくらいだから貧乏黒魔術士の破壊光線だろうが魔人の星流れだろうが絶対に通さないぞ。いいか、絶対だからな!』 ちなみに呪文の方は『シュラブ・ア』だけで済むそうです。これ何て反則技? と思ったけれども現実にはそんなに使い勝手は良くないようで。 無生物を無理矢理自分の我侭で使役する為に精神力をえらく使うのだそうだ。イメージ的には『ワシの言う事聞かんかいおんどりゃアアアアア!』という感じ。 それだけ気合を込めて呪文を唱えればそりゃあ疲れるだろう。 …ウマイ話には裏があるって本当だったんですね。 そういえばエレオノール姉さまもそんな事言ってたっけ。見合いに出てくる条件の良さそうな男には何かしら後ろ暗いところがあるとか何とか。 閑話休題 それで。 男曰く押しの強さと真音の知識さえあれば誰にでも行使できるものだそうなので、私はそれを習うことにしました。 爆発しか起こせない従来の魔法になど未練はなかったので男の解説を聞いた後即座に弟子入りを決意したのだ。 が。この男 「面倒なのでイヤです」 などとほざきやがりました。破壊力だけは無駄にある私の爆発魔法で真っ黒焦げにしてやろうかと脅してみはしたものの 「真っ黒焦げ……それもまた素晴らしいいいい!」 この おとこ には こうかは ないようだ…… そこで貴族の資金力にモノを言わせて黒髪のメイドを男の専属にすることで、どうにか男の承諾を得た。 メイドの方も満更ではなさそうな様子だったので問題にはならないだろう……多分、そう、だと、思いたい。 そのメイドが男の専属になった次の日にメイド服が換えも含めて全て真っ黒に染められていたのはきっと気のせいだろう。うん。 ところでこの真音魔術であるが、どうやら私は相性がとても良いらしく簡単なものなら直ぐに行使できるようになった。 「素晴らしい押しの強さです。この我侭さ加減……さては末っ子ですね?」 こんな言葉も耳に入らないったら入らない。 何しろ最も簡単な部類に入るアンロック等ですら爆発という現象に帰結させてしまう私が杖の先端を発光させたり物体を浮遊させたり出来るのだ。 今の私はゼロのルイズか? ―否! 私は魔法を行使出来るか? ―出来る!出来るのだ! これが楽しくないはずがない。私は毎夜貫徹するくらいの勢いで学習していった。 おかげで授業は常に睡眠学習。更に成績も徐々に下がっていってしまったが。キニシナイ! 真音魔術を習い始めてから二月程が経った頃、私は男から教わったことのほぼ全てをマスターしていた。 これは異例のスピードだったらしく、男も褒めてくれた。(黒に関する事以外で男が何かを賞賛するのは非常に珍しい) 思わず私の顔も綻んでしまう。 尤も一人前の証として黒い塗料を呼び出す呪文で真っ黒にされかかり、その表情はすぐ憤怒へと変わる事になったのだが。 呪文やら何やらを習得し終えた私が、次に何を目標とすれば良いのかを問うたところ、あとはどれだけの意味を呪文に込められるかが課題となるとのこと。 ならばと今度は食事中、授業中問わず呪文の内容をひねる事に時間を費やすことにした。 おかげで特殊スキル:ジャイ○ニズム(男命名)を習得。交渉事に於いて自分の我侭を通すのが異様に上手になってしまった。 何というかこれは人として色々とダメなんじゃあなかろうかと疑問に思いつつも、先日も面白そうな剣を見かけた際についゴリ押しして値段を1/10にまで値切ってしまった。 武器屋のおじさんが泣いていたのなんか見ていない。すすり泣く声だってアーアーきこえなーい。 それから半月程経った頃、街で 『早く店を閉めろ!桃色の悪魔がやって来るぞ!客の頭を見ろ!桃色の悪魔かも知れないぞ!』 と書かれたビラが、えらく凶悪にデフォルメされた私の姿らしき悪魔の挿絵つきで撒かれているのを知った時卒倒しかけたのは内緒だ。 ――ルイズの回顧録 another
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前ページ次ページゼロ・HiME 異世界に召喚された翌朝、静留は窓から差し込んでくる薄明るい日の出の光と左腕に感じて重みを目覚めた。 重さの原因を探して視線を下げると、ルイズが静留の腕に軽く抱きついて眠っていた。 「……あらあら、意外とあまえたなんやね、ご主人様は」 静留はくすりと微笑み、ルイズを起こさないようにベッドから抜け出ると、背筋を伸ばして部屋の中を見回す。すぐにベッドの脇にルイズの脱ぎ捨てられた服が目に入る。 「そういえば、なつきもよくこうやって服を散らかしてましたな……そや、洗濯でもしときましょか」 ルイズの服を集めながら静留は懐かしそうに呟くと、洗濯するために部屋の外に出た。 「……さて、どないしよ」 寄宿舎のすぐそばで水場を見つけたものの、どうやって洗濯したものかと静留が悩んでいると、寄宿舎からメイド服を着た黒髪の少女が洗濯物の入った篭を抱えて出てくる。 「あの~、すいまへんけど……」 「きゃ!」 静留に急に声をかけられ、驚いたのか少女は篭を抱えたまま尻餅をついてしまう。 「驚かしてすいませんな、怪我とかあらしまへんか?」 「だ、大丈夫です! わた、私こそ、こんな場所に貴族様がいらっしゃるとは思わなかったもので」 少女は立ち上がると、怯えたような表情で静留にぺこぺこと頭を下げる。 「なにをそんなに怯えてるんか知らんけど、うちは貴族とかやあらへんから安心しいや」 「……え?」 静留の苦笑交じりの言葉を聞いて、少女は不思議そうに小首をかしげた。 「それじゃ、あなたがミス・ヴァリエールが呼び出した……」 「あら、うちのこと知ってはるん?」 誤解を解いて少女と一緒に洗濯をしながら静留がたずねる。 「ええ、貴族の方々が召喚の魔法で平民を呼んでしまったと、噂していらしたもので」 「そうどすか。そう言えばまだ名乗ってまへんでしたな。うちの名前は静留いうんよ」 「シズルさんですか、いいお名前ですね。私は貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているメイドで、シエスタっていいます」 「シエスタさんどすな。これから色々よろしゅうに」 「い、いえ、こちらこそ」 静留が笑顔で手を差し出すと、シエスタは頬を赤く染めながら、はにかむように微笑んでその手を掴んだ。 「朝どすえ~、ご主人様~♪」 洗濯を終えて部屋に戻った静留は、ルイズを起こそうと柔らかな頬をプニプニ突きながら声を掛ける。 「うう~ん、もうちょっと寝かせて」 「ええんどすか? 起きへんならキスしちゃいますえ」 寝ぼけ眼で毛布に潜ろうとするルイズの耳元に静留がささやくと、ルイズはバッと飛び起きて部屋の隅っこへと逃げた。 「おはようさんどす、ルイズ様」 「はあはあ……お、おはようじゃないわよ! シ、シズル、起こすなら普通に起こしなさい!」 「お気に召しまへんか?」 「当たり前でしょ! 着替えるから服出して頂戴――あ、手伝わなくていいから」 「そうどすか、残念やねえ」 全然残念そうじゃなさそうな静留が差し出した服一式をルイズは奪い取ると、壁を背にした警戒態勢で着替える。 「そないに警戒せんでもええのに」 「あのねえ……まあ、いいわ。着替え終わったから、食堂に行くわよ」 のほほんとした静留の態度に毒気を抜かれたルイズは、軽く頭を振って気を取り直すと自室の扉を開く。 ルイズが静留と一緒に部屋を出ると、ちょうど向かいの部屋の扉が開いて真っ赤な髪の少女が現れた。身長は静留より10cmほど高く、褐色の肌と大きな胸が特徴的だ。 (随分と色っぽい子やね。胸とか鴇羽さんより大きいかも知れへんな) 静留がらちもないことを考えていると、少女はにやにやと不適な笑みを浮かべてルイズに声をかける。 「あら、おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 ルイズは仏頂面で、嫌そうに挨拶を返す。 「ふ~ん、それがあなたの使い魔?」 「ええ、そうよ」 キュルケは一瞬、静留を値踏みするようにジロジロと見回した後、ルイズの方を向いて意地悪そうな表情を浮かべる。 「へえ、本当にただの平民喚んじゃったのね。すごいわ、さすがゼロのルイズ」 「うるさいわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発だったけど」 「あっそ」 「見せてあげる。おいで、フレイム!」 キュルケの呼びかけに答えるように、彼女の部屋からのっそりと炎の尻尾を持った真っ赤な大トカゲが現れた。 「それってサラマンダー?」 「そうよ、ここまで鮮やかで大きい尻尾は、絶対に火竜山脈のサラマンダーね。好事家に見せたら値段なんかつけられないぐらいのブランドものね」 「ほんに立派なトカゲやねえ~。ちょっと触ってもええ?」 静留はそう言ってルイズをさりげなく後ろにかばいながらフレイムの頭を撫でた。その静留の行動を見てキュルケが感心した表情を浮かべる。 「あら、平民なのに驚きもせずにフレイムを撫でるなんて勇気あるのね。うふふ、気に入ったわ。あなた、お名前は?」 「うちの名前は静留」 「シズル……なんか不思議な響きの名前ね。あたしの名はキュルケよ、よろしくね。じゃあ、お先に失礼」 そう言うとキュルケは使い魔を従えて去っていった。 「なんなのよ、あいつは! 自分がサラマンダー召喚したからって偉そうに!!」 「まあまあ、そんなに怒るとご飯がおいしゅうなくなりますえ。それにかいらいしいお顔が台無しや」 「なっ……何、言ってんのよ! ほら、さっさといくわよ」 「はいな」 ルイズは静留の言葉に顔を真っ赤にすると、嬉々として追ってくる静留を連れて食堂に向かった。 前ページ次ページゼロ・HiME
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た行 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ ゼロの猟犬 タイタス・クロウの帰還 ティンダロスの猟犬 ダイハード・ゼロ ダイハード ジョン・マクレーン 零魔法峠 大魔法峠 田中ぷにえ 使い魔ゼーロ 太臓もて王サーガ 百手太臓、阿久津宏海 コンプレックスとアレルギー ダ・カーポ 芳乃さくら 流星の双子 外伝 -加速×加速- DARKER THAN BLACK 流星の双子 バーガーさんことゴラン 戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー 第0話「ゼロの使い魔」 戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー スタースクリーム ダーティー・ルイズ ダーティハリー S W M29 ゼロの使い悪魔 ダブルクロス “ディアボロス”春日恭二 たのしいトリステイン 第一話~わたしがルイズです~ たのしい甲子園 たのしいトリステイン 最終回~伝説そしてさらばルイズさん~ たのしい甲子園 ターミネーター ターミネーター ターミネーター 終焉の使い魔 ターミネーター2 T-1000 VITアップの使い魔 タクティクスオウガ オクトパス ジョゼフと鋼鉄の女神(ミューズ) ダライアス外伝とGダライアス 海洋生物型戦艦 Cheetah Men Zero チーターマン2(Cheetah Men 2) アポロとヘラクレス ハルケギニアの宇宙少年 地球防衛企業ダイ・ガード 赤木駿介 ゼロのエスパー(モテモテ) チャッピーと愉快な下僕ども 笛座輪芸 使い魔参謀 超時空要塞マクロス エキセドル 超神ネイガー 超神ネイガー 超神ネイガー 友よ君はなぜ!? 超獣戦隊ライブマン 武装頭脳軍ボルト 輝け!世界のライブマン 超獣戦隊ライブマン 武装頭脳軍ボルト 鏡の中の使い魔 超人ロック ロック 1スゥの力 超絶倫人ベラボーマン 中村等(ベラボーマン) 沈黙の魔法学院 沈黙シリーズ ケイシー・ライバック ついでにとんちんかん から間抜作を召喚 ついでにとんちんかん 間抜作 空と君のあいだに 帝都物語 加藤保憲 ゼロの癒し手 テイルズオブファンタジア ミント・アドネード 死神の使い魔 DEATH NOTE 魅上照 DTC(デトロイト・トリステイン・シティ) デトロイト・メタル・シティ 根岸崇一 トリステイン・メタル・シティ デトロイト・メタル・シティ 根岸崇一 ゼロ、フロスト5! デビルサマナーソウルハッカーズ フロストファイブ ビバ!パトロール デビルサマナーソウルハッカーズ モコイ 虚無と電霊 デビルサマナーソウルハッカーズ ネミッサ(電霊) 天才と何とかは紙一重というかむしろ完全にハルケギニアに行きました デモンベイン ドクターウェスト 白の使い魔 デュエルセイヴァー イムニティ 英雄は二度死ぬ 天元突破グレンラガン カミナ モグラよドリルで天を突け! 天元突破グレンラガン カミナ ゼロのドリル 天元突破グレンラガン コアドリル むしょくのつかいま 天体戦士サンレッド サンレッド 香霖堂日誌 ハルケギニアにて 東方Project 森近霖之助 ノンディレクショナル・ゼロ 東方Project 霧雨魔理沙 ぶんぶんぜろしんぶん 東方Project 射命丸文 零と永遠 東方Project 蓬莱山輝夜 ⑨な使い魔 東方Project 氷精チルノ ときめきゼロの使い魔 ときめきメモリアル 主人公 ルイズのドッキンばくばくあにまる ドキばぐ 柴田亜美とチップス小沢 どげぜろ どげせん 瀬戸発 『風上』のしっとマスク 突撃!パッパラ隊 しっとマスクのマスク 特攻野郎0チーム 特攻野郎Aチーム 特攻野郎Zチーム 特攻野郎Aチーム 超流麗凄艶究極使い魔 .hack//G.U. ぴろし3 ゼロの7号 トップをねらえ!2 ノノとバスターマシン色々 おかしな使い魔 ドラえもん くりまんじゅう あんあんあん…とっても大好き ドラえもん ドラえもん ゼロのドラえもん ドラえもん ドラえもん ゼロのガキダイショウ ドラえもん 剛田剛 のび太の魔法 ドラえもん 野比のび太 ルイズが世界を征服するようです ドラゴンクエスト りゅうおう ルイズクエスト‐悪霊の神々‐ ドラゴンクエストⅡ ルイズがDQ2へ逆召喚 お散歩ルイズ ドラゴンクエスト3 はぐれメタル DQな使い魔たち ドラゴンクエスト 色々 画像化されたことのない使い魔 ドラゴンクエスト とてつもなくおそろしいもの ゼロの挨拶 ドラゴンボール ナッパ 神龍への願い ドラゴンボール シェンロン 使い魔は『コンボイ』 トランスフォーマー スーパーリンク グランドコンボイ 黒王様ハルケギニアに降り立つ 漫画『ドリフターズ』 黒王(?) ♪ル、ル、ルイズの大爆笑 ドリフ大爆笑 ザ・ドリフターズ お山の大将 ドンキーコング ドンキーコング ページ最上部へ
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私の使い魔はゴーレムだ。 ……いや、本人はアンドロイドだと主張しているのだが。きっと前にいたところでの高等なゴーレムを表す言葉なのだろう。 こだわる気持ちは、まぁ、何となくわからないでもない。私だって、メイジのことを「やぁ、すごい呪い師ですね」とか言われたら、思わず反論しちゃうだろうし。 もっとも、この使い魔に関して、最初はてっきりただの平民を召喚してしまったのかと思った。 何しろ、外見的にはほとんど人間と見分けがつかない。見かけはもちろん、動作も人形っぽいところなんて全然ないし、何より人間同様ごはんを食べて動いているのだから。 話によると、お腹が空くと力が出ないらしい。どんだけ人間らしいのよ! ただ、ものすごい怪力だ。身長の何倍もありそうなガレキを持ち上げたときは、さすがに驚いた。おまけにすごく頑丈。私の失敗魔法の爆発に巻き込まれても、ケロッとしてるくらい。 性格は、ちょっと……いや、かなり天然ボケなところもあるけど、じつはお人好しで優しいということも、わかってきた。 いつもニコニコしてて、怒ったり泣いたりしたところを見たことがないくらい能天気だけど、それもまたポジティブで明るいと言えないこともない。何かと振り回されることも多いけど、いっしょにいると楽しいし。 感覚の共有も、秘薬の原料の採集もできないが、じつはけっこう”当たり”の使い魔を引いたんじゃないか……と、最近は思うようになった。 ――まぁ、こんなこと、絶対、口に出しては言えないけどね。 バタバタバタ…… あ、あの子が部屋に帰って来たみたい。 「ルイズさ~ん、ユーリィお腹が空いたですぅ」 「もうっ、ユーリィ、アンタ一日何回食べたら気がすむのよ!」 ~終わり~ -「銀河お嬢様伝説ユナ」のユーリィ・キューブ を召喚
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前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 5 「夢芝居と落ちこぼれ」 ルイズはその時、乾いた金属音を聞いた。 その音の方向を見ると、そこには彼女の知っている人物が片膝をついていた。 (ニュー!) ルイズの声は届かずに、ニューは片膝を着きながら、衝撃で痺れた手を押さえていた。 その様子を見ていた、一人が声をあげる。 「勝負あり、そこまで!」 審判を務めていたであろう者は、ニューと同じような人物だった。 少なくとも人間には見えない。 ルイズにはいきなりの状況に、訳が分からなかったが、近くにもう一人見知った顔が居た。 (ん、何をやっているのかしら?あ、あれはゼータじゃない) 気付かなかったが、対戦相手は彼女の友人の使い魔のゼータであった。 おそらく、練習試合なのだろう――訓練場の様な場所を見てルイズはそう考える。 剣の技量は知らないが、ニューがゼータ相手に勝てるとはルイズも思わなかった。 「ありがとうございます」 ゼータがニューに試合後の礼をする。だが、そこには充実感や爽快感はなく、一種の含んだ空気が漂っていた。 その原因は外野の空気に思えた。 (またかよ、5戦全敗) (ゼータが強いと言う事を差し引いても、これは異常だよな……) ルイズの耳に、誰ともわからない声が聞こえる。複数の男達の声が聞こえる。 (え!何?何の声?) 誰とも知れない声に、周りにいる人物たちを見渡す。その顔には、蔑むような視線がルイズにも見てとれた。 ルイズにはその声が解らなかったが、周りの空気から何となく事情を読みこめた。 彼は馬鹿にされている――自分の様に クラス内でルイズに対する視線と、今のニューに対する視線は同じ物を感じる。 だが、これは何なのだろう。思い当たる事は、つい最近の出来事。 (これは、夢、ニューの昔って事かしら) 数日前に見た夢に似ていると何となくルイズは感じ取った。 (そう言えばアイツ、騎士になりたいって、言ってたわね……) 以前、教室の掃除の際の話をルイズは思い出していた。 (しかし、アイツって魔法は使える割に、剣は本当に駄目だったのね) ゼータの技はルイズも知っているが、それでも差があると思った。 あの時は謙遜とは感じなかったが、こうまで酷いとは。 (いつも偉そうな割に、こんな所もあったのね) 彼女の知っているニューは、どちらかと言えば自信家で毒舌な人物である。 自身を馬鹿にしてはいないが、少なくとも尊敬しているとは到底思えない。 だから、今の落ち込んだ顔を見て、少し微笑む。 それから、誰も居なくなった訓練場に、ニューとルイズが残される。 (慰めてあげようかしら) 優越感からそんな事を考える。 しかし、これは夢の為ルイズに気づかないのだった、ニューは近くに落ちた剣をじっと見つめている。 「はぁ、僕には才能がないのかな……」 肩を落として溜息をつく。 ゼータだけでは無い、昨日は弟弟子のリ…ガズィにも敗れた。 ある程度わかっていたことであったが、それでも、この現実は辛い物がある。 その様子を、最初はいい様と思っていたが、段々といたたまれないものを、ルイズは感じ始める。 才能がないのかな…… 自分もよく口にする言葉、人の居ない所で練習して失敗する。 そして、いつもその言葉に落ち着く。 聞こえないとはいえ、何か声をかけたい。 その思いもむなしく、ルイズに声が響く。 (……いつもの所に行くか) 数秒考え込んだ後、深呼吸してから立ち上がり、ニューは歩き出した。 ニューの後を付いて行くと、そこは図書館の様であった。ニューが部屋に入ると、また人間とは違った者が出迎える。 緑色の体にローブをまとい、ニュー達と違い青いゴーグルで覆われている。 ルイズは知らないが、彼は法術隊の中で、もっとも古株の僧侶 ガンタンクⅡであった。 「ガンタンク殿、お邪魔します」 「こんにちは、ニュー殿」 やってきたニューに対して、ガンタンクは丁寧に挨拶をしてから、二人は手近な椅子に座る。 「また、ご教授して貰いたいのですがよろしいですか?」 「ええ、良いですよ」 ニューの申し出に、ガンタンクは喜んで応じる。 ルイズが何をするのか見ていると、ガンタンクは何やら話し始めたようだ。 (講義なのかしら) 詳しい内容は分から無いが、それは魔法学院で聞く講義の内容に似ている気がした。ニューはその話を聞きながら、何度も頷いている。 向かい合う様は生徒と教師の一言に尽きる。 タンクの言葉が途絶える。どうやら、終わりらしい。 次に、杖を取り出してガンタンクが魔法を唱える。 「では、今度は実践してみましょう。ミディ」 手から柔らかい暖かい光があふれる。 ミディ――ガンタンクの魔法は、ニューが使う魔法の中でも簡単なものである事をルイズは知っていた。 ニューも続いて、魔法を唱え手から暖かい光が溢れ出す。 どうやら、剣とは違い魔法の方は本当に才能があるようだ。 少なくとも未だに、魔法が正確に使えないルイズにはそう思えた。 タンクは休憩を促し、お茶を持って来る。 「しかし、貴方は勉強熱心ですな」 一息ついた所で感心したように、タンクはニューを見る。 タンクがニューに魔法を教え始めたのはここ一か月ほどの事であるが、少なくとも簡単な魔法でもこれほど早く習得するとは思いもしなかった。 「僕は剣が下手ですので、せめて簡単な魔法が使えたらと」 ニューがお茶を飲みながら、それに答える。 騎馬隊の中にはごく少数ながら、簡単な回復魔法が使える物が居る。ジムスナイパーⅡやジムコマンド等はリ…ガズィやゼータには剣で劣るが、そう言った面で貢献している。 ニューが自身に魔法が使える事に気がついたのは最近であり、今ではタンクの下で暇な時に教えを請う事が日課であった。 そして、この時間が弟弟子達への劣等感と訓練で負け続けるニューにとっても心の支えとなっていた。 (剣では貢献できないかも知れない。けど、こう言った事でみんなに貢献できるかもしれないから) ニューの心の声はルイズにも聞こえていた。 タンクはそんなニューの葛藤には気付いているか分からない曖昧な表情を浮かべる。 あるいは、それに気付いているのかもしれない。 「しかし、貴方はもっと修業を積めば法術士になれるかもしれないのに、本当に勿体ないですな」 タンクが残念な感情を含んだ声で呟く。 今ではほとんど見る事がなくなった職業 法術士――回復だけでは無く、数多の攻撃魔法を使いこなす法術士は今では幻と呼ばれていた。 興味深く耳を傾けるニューに、タンクは思う所があるのか話を続ける。 「貴方なら伝説の魔法ギガ・ソーラも使えるかも知れません」 「ギガ・ソーラとは?」 ニューもその様な魔法は聞いた事無かった。 ここにきて、いろいろな魔法を聞いたがその魔法は初めて聞くものがあった。 「ギガ・ソーラは伝説の魔法と言われています。その力は絶大で戦局にも影響を与えると言われました。 しかし、絶大故に術者にも多大な負担を与える為に使える者がほとんど居なくなってしまいました」 「そんなにすごい魔法なのですか」 昔話を聞いた子供の様に、ニューは顔を輝かせる。 (僕も修行すれば、そのような凄い魔法が使えるのだろうか) ニューはなんとなくそんな事を思った。 反対にルイズは疑問の表情を浮かべる。 (そんなすごい魔法、ニューは使えるのかしら?) ニューの魔法を見てきているが、ギガ…ソーラだけはルイズも見た事がなかった。 「……話しはそれくらいにしましょう、ところで、どうですか、本当に法術隊に入りませんか?うちは人手不足なんです、貴方が来てくれたら歓迎しますよ」 先程までとは違い、声に戯れは感じない。 それを感じ取り、ニューも表情を硬くする。 「申し訳ありません、僕は騎士になりたいのです」 タンクの声を聞いて、ニューも申し訳なさそうに答える。 (私は、お爺様や父様みたいに立派な騎士になりたかったんだ) ニューの言葉がルイズの心の中によぎる。 何となく何かを理解したのか、タンクはニューの顔を見て顔を崩す。 「そうですね、人には生き方があります。貴方はまだ若い、後悔しないはずがありません。だから、貴方の出来る事を、貴方にとっての答えを見つけなさい」 (え!……今の言葉、私に言った言葉じゃない) ルイズの意識は、その言葉を最後に遠くなった。 夢から覚めたのかと思ったら、どうやら違う様であった。はっきりとは分からないが屋内に居るのだろう。 外は暗く、感覚はないが、何となく音で雨の気配を感じた。 そして、その室内にはうす暗い明かりの中十数人の人の気配を感じる。 「この雨が、我々の命を繋ぎ止めているのであろうな」 アレックスが窓から外を見ながら、緊張した面持ちで呟く。 丘の様になった地形から、アレックスに習い窓から外を見ると、少し離れた所には無数の明かりが森の中から見えていた。 「国境にまで偵察に来てみれば、これ程までの敵と遭遇するとは……」 この間までの均衡状態とは違い、近頃のアルガス王国は世代交代もあり、ムンゾ帝国に後れをとっていた。 アレックスはそれを感じ取り、今回国境まで威力偵察にきた。 しかし、ムンゾ帝国も同じ事を考えてたらしく、遭遇戦となる。 敵は九百近い数でありアレックスは退却を決断する。 幸い、歩兵を中心としたムンゾ帝国に対して、数十騎とはいえ馬に乗っていたから、降り出した雨の助けもあり、ここまで退却する事が出来た。 しかし、予想外の豪雨で川が氾濫し、結果的にムンゾ帝国の侵攻部隊と共に、ここに取り残される。 「ムンゾ帝国が近頃力をつけて来たのは本当の様ですな……」 アレックスに、タンクが言葉を入れる。 「そうだな、奴らの力は以前よりも増している、なんとかしないとな……夜明け頃には雨がやむ、向こうはそれと共に攻撃を仕掛けてくるだろう」 自身も語りたくないが、迫る危機に話題を変える。 その言葉に、声は出ないが空気は重くなる。 雨で敵が攻撃できないように、援軍もまた思うように進軍出来ないでいた。 このままでは……周りの顔は深刻であった。 戦争――とは言えないまでも相手と命をかけて殺し合う。 ルイズは、無言でその様子を見ていた。 一対一の決闘とは違う、自分の力が及ばない領域。 剣が使える、力が強い、魔法が使える。 それらの意味を嘲笑う物。 戦争とは常に有利な状況とは限らない。そして、今まさにその状況であった。 「アレックス団長、試したい事があるのですがよろしいですか?」 (……アレを試してみるしかない) 最後の言葉から数分の沈黙の後、不意に、ガンタンクはアレックスに提案を出す。 (……アレって、何かしら?) 「タンク殿、なにか考えでも?」 タンクは古株でこの中では相談兼知恵袋と考えている。 アレックスの返事には何か期待の意味がルイズは感じる。 タンクは自身の考えに絶対の自信はないのか、言葉はゆっくりとしたものであった。 「はい、私とメタス、そしてニュー殿でギガ・ソーラを試してみたいのです」 その言葉に、真っ先に二人がが反応した。 「無茶です、僧侶ガンタンク、我々二人の力でも無理だと言うのに」 オレンジ色の体に緑のゴーグルの僧侶メタスが反論する。 彼からしてみれば、それは干ばつの際に行う雨乞い程度の認識しかなかった。 ましてや、その中心人物に自分が来るとなれば猶更であった。 そして、もう一人も同じ考えであった。 「え!無茶ですよ、タンク殿、僕は簡単な魔法しか使えないんですよ」 (無理だよ、私に出来る訳ないよ) タンクが自分の名を出した事に、ニューは狼狽する。 この中で、一番期待されていない存在の自分が、急に出て来た事に戸惑う。 (なんで僕なんだよ、僕の名前なんか出したら) 懸念は当たる。自分の名前を聞いて、周りの空気も再び重くなる。 しかし、タンクはニューが望むような冗談を言った訳では無い。 「もちろん解っています。しかし、貴方はものすごい力をお持ちだ、私達だけでは無理でも貴方の力を借りれば、出来るかも知れません」 (何を言ってるんだ、この爺さんは) (無理だぜ、あぁ、ここで全滅かな) タンクの言葉を聞いても、他の者達は呆れていた。 彼らの認識ではニューは頭数にすら入っていない。 せいぜい回復を頼むくらいの薬箱の様な存在である。 それを、周りの騎士達の言葉を聞いて、ルイズは憤りを感じる。 (何もしない癖に、何言ってるのよ!) 何もしないのに、ただ僻んだり、愚痴る。 そうなりたくないと考えるルイズにとって、彼らの考えや行いは最低と言えた。 アレックスはそれを聞いて、無言で考え事をしている。 もちろん、兵たちの空気も感じている。 (このままでは全滅は必至、ならば賭けるしかあるまい) 自分の決断を部下は無能と罵るだろう。 しかし、自身に案がなく、このままでは、遠からず全滅するのであれば、それに頼るしかアレックスには無かった。 (無能だな、私は) ルイズ以外、その顔は見えなかった。 自嘲を含んだその顔は、皮肉にも最も人間らしいとも言えた。 「僧侶ガンタンクⅡの策を受け入れる、夜明けと同時に、ギガ・ソーラを唱え、それと同時に、奇襲を掛ける。全員、時間まで休んでおくように!」 アレックスの言葉を聞いて、ざわめきが聞こえ始めるが、アレックスが一喝するとそれは音を下げた。 しかし、騎士達の空気はいよいよ重くなっていった。 場面が暗転し多様な感覚で、ほぼ一瞬と言う間に、時間は夜明け前になっていた。 突撃のカモフラージュの為、騎士達は、小屋から出て事態を見守っている。 その中心には、アレックスと三人の術者達が居た。 (これで最後かな) (母ちゃん、ゴメンよ) 騎士達の声にない悲痛な叫びがルイズにも聞こえた。 若い兵士の一人は、よく見ると槍を持つ手が震えている。 「では、頼む」 アレックスが開始の合図を出す。 先程までとは違い、危機が目の前にある今、すがるような視線が中心に集まる。 「ニュー殿、メタス、では行きますよ」 タンクが二人に呼びかける。 「はい」 (嫌だな……みんな期待している) 恐らく一睡もしていないであろう腫れた眼で、ニューはタンクの杖を握る。 三人は無言で集中し始め、晴れていた空は、心なしか、晴れかけた空が、また曇り始めていた。 その様子に、騎士達に期待の混じった声が少し上がる。 余裕があるのか、まだ、ムンゾ帝国の兵士たちは動く気配を見せない。 (まだ、これでは……) 周囲の期待に反して、タンクは焦りの表情を浮かべる。 「ニュー殿、メタス、もっとです!」 自分に向ける意味を含めて、若い二人に檄を飛ばす。 重なった杖により強い重さを感じる。 「はい」 (これ以上は無理だよ) タンクの叱咤にニューとメタスが返事をするが、内心はルイズに聞こえていた。 自分の中で、二つ名と共に最も忌み嫌う言葉――無理 (アイツには無理だよ、だってゼロのルイズなんだぜ) (また失敗したのか、だから無理だって言ったのに、ゼロのルイズ!) ルイズにはその時、自身への言葉が思い出された。 拳を握る。覚えたくなかったが、いつの間にか覚えている感覚。 (ニュー……) それだけを言った後、ルイズは黙っていた。 そして……… (馬鹿ゴーレム!アンタ何弱気になっているのよ!アンタが出来なかった皆が全滅するのよ!) 目を見開き走りだしたルイズが、触れる事が出来ないニューを叩きはじめる。 (アンタ何時も偉そうな癖に、口が悪い癖に………教室で私に偉そうなこと言ったのは嘘だって言うの!馬鹿ゴーレム、出来なかったら一生ご飯抜きよ!) ……どうでもよかった。 夢である事も忘れ、ルイズは必死にニューを激励する。 その声は届かない。しかし、ルイズは声を上げずには居られなかった。 使い魔は自身の鏡――思えば似ているかもしれない。 家の名前を背負っている所、自信家な所 ……そして、本当は弱気な所も。 (アンタは騎士としては駄目かも知れない、けど、アンタにはアンタの出来る事があるのよ!) 自信家で口が悪く、性格も良いとは言えない。しかし、魔法が使える使い魔として自慢できる存在。 (アンタがそんなのだと、私まで……を諦める事になるじゃな(……けど)え!) ルイズの言葉をニューの心の声が遮る。 (期待――今まで無意味だと思っていた。だけど、それは誰も本当は望んではいないからなんだ!) 立派な騎士になれ――本当に望んでいるのか? その言葉に込められる意味、思いやり?社交辞令?騎士の家に生まれたから? (期待……今までで一番嫌いな言葉。でも、今は違う!生き残る事を皆が望んでいる。……やらなきゃ、そうしなくちゃみんな全滅する!) その言葉と共に、杖に輝きが増していく。 (僕にだって出来る事があるんだ!) 曇った空に一筋の光が見え始める。 (いける!) 「いきますよ!」 「はい!」 タンクが合図を送り、ニュー達が返事を返す。 そして、その声は同時であった。 「ギガ・ソーラ!」 それは、ルイズが見てきた中で、一番強い光であった。 遠くから見ると、暗い雲の中から、一つの光が降り注いだ様だった。 光は大地に突き刺さり、そして…… 目を突き刺すような光の強さの割には、何一つ音がしなかった。 (何が起こったって言うの!) ルイズも目がやられており、視界が開けるには十数秒を要した。 そして、光が終わり、自身の眼で何が起こったのかを確認する。 (何……これ……) ルイズは目の前の森を見た。いや、見ている筈であった。 数秒前まで、森とその中には無数の殺気があった。しかし、それはすべて消えていた。 森があった所には、何一つなく、茶色い土の色のみであった。 ぬかるんだ土もなく、ただ、抉られたようなクレーターが広がるのみであった。 「おお、やったぞ!」 確認した誰かが、歓喜の声をあげる。 異常な事態よりも、自分達の生存が確認できて、彼らは素直に喜んでいた。 騎士達の歓声で、正気を取り戻し、ルイズはニューを探す。 そして、自身の使い魔を見つける。 彼はそこに居た。 (ニュー!) 本来、祝福されるであろう彼は、力なく倒れていた。 ニューに近寄ろうとするが、視界に暗幕が下りる。 そこから先は良く解らなかった。 時間、その他の感覚もほとんど感じ無い。 「ルイズ、何をやっているんだ?」 心配して、近寄った筈の男の声が聞こえた。 真っ先に回復しつつある聴覚で情報を求める。 声の方向を向くと、そこには倒れた筈のニューが居た。 「ニュー、アンタ倒れた筈じゃ………」 「寝ぼけているのか、ベッドから倒れたのはお前だ、ウォータ」 「うひゃ、あひゃ、なっ!何すんのよ、この馬鹿ゴーレム!」 水を顔にかけられて、ルイズは触覚と視覚を完全に覚醒させる。 そこには、いつも通りの憎たらしい顔があった。 ルイズが暖かい空気と、冷たい感覚に挟まれている事に気づく。彼女はベットから落ちたようであった。 「起きたようだな、全く、これから、姫様の命令を果たさなくちゃならん時に……」 腰に手をあてて、呆れた様子でルイズを見下ろす。 それが気に入らないので、ルイズは起き上がる。 「……てっ、解っているわよ!着替え持ってきなさい!」 ルイズはニューの後ろにあるクローゼットを指差す。 「はい、はい」 ルイズの不機嫌に慣れているのか、背を向けて、ニューがルイズのクローゼットを開ける。 ルイズは、さっきまでの頼りなさげな青年と、目の前の皮肉屋な青年と姿を合わせながら、ため息をついた。 「33 ニュー!アンタ、何弱気になっているのよ!」 ニューの過去 彼はその後…… MEMORY 前ページ次ページゼロの騎士団
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前ページ絶望の使い魔 自らの髭をさすりながら古い本を読んでいる老人がいる。 本の題名は『始祖ブリミルの使い魔たち』。 老人─オールド・オスマンはちらりと傍らにある鏡に映し出されている光景を見る。 森の中で一人のピンクの髪の少女が巨大なオークと本を挟んで向かい合っているのだ。 何か話しているようではあったが音声は拾えない。 話し合いがひとしきり終わると森の開けた場所までオークと移動し、 そして向かい合うと少女は背負っていた剣を抜く。 ここで少女を映していた鏡はただ老人の顔を写すだけとなる。 ここ最近オスマンはこの少女の様子を観察することが多くなっていた。 先程見た一連の動きはパターン化されているといってもいいほど毎日のことである。 分かるのは少女が戦闘を行おうとすると遠見の魔法は常に見えなくなることと、 彼女が人間を食べるはずの凶悪なオークと意思疎通を行っていることだ。 前者は何らかの阻害魔法を使うことでできそうである。 しかし後者はモンスター心通わせる能力を持っていることになる。 魔物を従える──まるで始祖ブリミルの使い魔の一匹、ヴィンダールヴの能力ではないか。 彼女の使い魔のルーンはガンダールヴであったはずだ。 手にしている本を見ても間違いなくガンダールヴであることを示している。 伝承では虚無の呪文は詠唱が長く、その時間を稼ぐために使い魔がいたと聞く。 ルイズ本人の戦闘能力の上昇はガンダールヴと言える。 ここにきてヴィンダールヴの能力まで保持していることがわかった。 始祖の使い魔2体の能力を有するメイジ。 ここで問題なのは『使い魔ではなくメイジである少女がその能力を持っていること』だ。 結論としては少女が扱っている力はけっして始祖の力ではないということだ。 おそらく使い魔の先住魔法か何かであり、その魔法の副作用のようなものでルイズの性格、 性質が変化してしまったのだろう。ルイズが力を得る前、召喚した直後の危険と判断したときに 亜人を始末して置けばよかったと何度も考えたが過ぎたことは仕方がない。 使い魔を始末するための魔法の選定は終わった。すべては計画通り。 あとは彼女の行動次第である。 _________ 夜が更け、ろうそくの灯りに照らされながらルイズは手紙を書いていた。 誘拐未遂からもうすでに3週間ほど時が経っており、 噂されることの中心はルイズの行ったことから離れている。 その中には土くれが牢からまんまと逃げ果したという話があった。 あの怪我でよく逃げられたものだ。 現在書いている手紙は実家のほうに金を無心するためのものである。 今、ルイズはお金の重要さを実感しているのだった。 というのも、人を動かすということに金がかなりかかることに気付いたのだ。 ルイズが作らせた組織は少しずつ不必要な構成員を減らしているとのことで出費は減るだろうが ルイズの小遣いだけではいささか不安であった。そしてこのたびの報告内容だ。 アルビオンの方面への輸送経費が恐ろしくかかると手紙に書いてあった。 浮遊大陸であるアルビオンへの交通の便は恐ろしく悪い。 そこに行くには大量に風石を積んだ船で空を駆けなければならないのだ。 風の力を溜め込んだ風石は高価であり、できるだけ消費を少なくするのが当然である。 よってアルビオン─トリステイン間の航路はアルビオンがもっとも近づいてきた時に活発となる。 しかしルイズはアルビオンの位置に関係なく連絡を密にするように言っていたので その交流時期の外れた数少ない貴重な便に乗せてもらうために余分に金が必要となったのだ。 こうしたことにより、普段から使わず大量に貯めてあった財布の中身が警告を発し始めたのだ。 ルイズ自身が組織を作れと言っておいて金払いがよくなくなるのは信頼の失墜に繋がってしまう。 リーダーの男はともかく他の連中は金が切れれば離れていくだろう。 よって金の工面は優先事項となった。 当初、ルイズはこの組織にはアルビオンのことを調べてもらうだけのつもりであった。 すでにアルビオンの反乱が成功することは確定している。ここで切っても痛手はない。 しかし、上げてくる報告書は思っていたよりも広く調べられており、 この間読んだときには注目すべきおもしろい情報が載っていたのだ。 それはトリステイン貴族にアルビオンの貴族派の仲間と思われる者がいるというのだ。 すでに何人かリストになっている。確実であると判明しているのはどこも中小貴族ばかりだが 大貴族の中にも怪しい者がいるようだ。アルビオンの反乱軍、レコンキスタの手が思ったよりも 伸びていることに驚いた。これならトリステインとの戦争になるのはそう遠くない。 こうしたことからルイズは切らない方が有益であると判断した。 この2週間にあったことをゆっくり思い出す。 あの後、オークに魔道書を説明してもらった。 やはり身振りだけでは難しかったが少しづつ分かる文字を増やしていき、 だいたいの概要を把握するまでになった。 魔道書に載っていた魔法陣は契約するためのもので、契約をすることで先住魔法が使えるようになるらしい。 その日からルイズはオーク監修の元、魔道書に載っていた魔法と契約し始めた。 初めて呪文の契約をした時、ルイズは喜び勇んで呪文を唱えた。 るいす”のこえは やまびことなって あたりに ひびきわたった! とりあえずオークの胸倉を掴んで思いっきり引き寄せ睨みつけたが、その光景はデルフリンガーから見れば 体格差により詰め寄ると言うよりぶら下がって遊んでいるように映ったという。 もちろんからかってきたデルフリンガーには仕置きをしておいた。 さらに詳しく理解してくるとなぜ使えないのかがわかった。 まず、この先住魔法にも適性と言うものがあるらしい。適性がないと契約しても使えないらしい。 次に魔法を唱える術者の力量。系統魔法のようにメイジを明確にランク分けしているわけではないがやはりそれなりのレベルと言う区切りがあるらしい。 今回の魔道書に載っていた先住魔法はほとんどが戦闘用の魔法であることがわかったが その中でルイズがほしかったものがあった。 回復魔法である。 誘拐時にオークが唱えたその効果を見て以来、ルイズは期待していた。 しかし無残にもその適正はルイズにはなかったのである。 回復呪文の中で、もっとも簡単だと思われる「ホイミ」が使えなかったのだ。 ヒャドなどの水系統を唱えられるのなら回復魔法もいけると考えていたルイズは 1時間ほど膝を抱えて地面に座り込んでしまった。 しかし神は救いも与えている。幾つかの攻撃魔法と便利な補助魔法が少しだけ使えたのだ。 補助魔法も闇の衣で効果がないと考えていたが試してみると重ね掛けができ、ルイズは興奮して 淑女にあるまじき狂態を見せてしまった。 それを見ていたのは一本の剣と一匹のオークだけであった。 忠実なオークはもちろん剣の方も再三ルイズをからかって酷い目に合わされていたので その時のことは一匹と一本の記憶の片隅にしっかりと保存されることになる。 実戦経験の少なさを補うことと、新しく覚えた魔法を用いた戦闘に慣れるために ルイズはデルフリンガーが言っていたオークとの剣の修練を行うことにした。 とはいえ、補助魔法の影響下で滑らかに動けるようになることが目標としていたため、 ただ実戦さながらに戦うだけであった。 デルフリンガーの期待に添えたかははなはだ疑問であるが、 オークと戦っているとデルフリンガーは剣の扱いがどうのとうるさく言ってこなくなったので 諦めたのだろうと思う。彼にはこれからも剣という名の鈍器としてがんばってもらいたい。 羽ペンを置いたルイズは書き上がった手紙を読んでいく。 その文面は己の使い魔を出汁にしたものだ。 大筋の内容は『寝たきりの使い魔を起こすために水の秘薬を買ってみたが効果がない。 もっといろんな薬を試したいのでお金を送って欲しい』となっている。 使い魔に関わることなのできっと大丈夫だろう。 手紙をしっかりと封蝋したルイズは部屋から出て、兵の詰め所に行く。 これは普段なら手紙の宛名方面に行く荷馬車に任せるのだが、 早く手紙を送るならここにいる衛兵に頼めばよいと聞いたことがあったからだ。 詰め所にいた兵士にしっかりと明日の朝一番で送るように告げるが胡乱な目でルイスを見てくる。 兵士は気だるそうにしていたがルイズが金貨を5枚ほどテーブルに置くと 馬の使用の手続きをいきなり始め、緊急だ!と奥の兵士に声を掛ける。 掛けられた者はテーブルにあった金貨を確認した後、 3枚取るとルイズの手紙を丁寧に懐に入れてそのまま厩に向かってしまった。 手続きを行った兵士は残った金貨を懐に入れながらできるかぎり急がせましたとルイズに報告する。 やはりお金は大事だと再確認したルイズであった。 ───────────── 夢を見た。 身体が揺れている感覚がする。視界は少し暗いだけ。 小さな小船の上で毛布を被り泣いていたようだ。 目を手で覆い、身体を縮めて震わせている。 これは小さい頃の夢だ。ヴァリエール公爵領の本邸で叱られて逃げ出した時、 自分だけの秘密の場所―庭の池に浮かぶ小船に隠れて過ごす。 「泣いているのかい、ルイズ」 その声に顔を上げる。 被っていた毛布を頭から外すが、その人物は日を背負い逆光になって顔が見えない。 泣いている顔を見られたくなかったルイズはすぐに顔を毛布に埋める。 これは違うとルイズは感じていた。こんなものはだめだ。 次の瞬間、ルイズの手にはデルフリンガーが握られており、体からは力強い躍動を感じる。 目の前の優しく声を掛けてくる敵を袈裟切りにする。 さっきまで優しげな顔をしていたその人物は何が起こったのかわからないといった顔で血を吐く。 裏切りを受けた者の表情とはなんと甘美なのだろう。 そして視界すべてが闇に塗りつぶされ、闇がルイズを包んでくれる。 毎晩与えられる優しく抱きしめてくれるような感覚にルイズは溺れてしまっていた。 ──────── その日の最初の授業は風の盲信者ギトーの講義であった。 久しぶりに授業に出たというのにギトーの授業がくるとはなんと運の悪いと自らを嘆きながら ギトーが熱弁をふるう様を半目で見ているとそれが耳に入ってきた。 皆、ギトーの演説には辟易しているのであまり真剣に聞かずに話していたのだが、 その中の使い魔品評会という単語をルイズの耳は拾ってしまった。 そういえばもうすぐそんな季節である。授業どころか最近はいつも外に出ていたため全く気付かなかった。 使い魔品評会・・・毎年行われる新しく召喚された使い魔に芸をさせるというものだ。 最近使い魔にしつけをする場面に出くわすことが多かったがそれが理由か。 ルイズの使い魔は眠ったままである。しかも行われるのは明日らしい。 使い魔が動かなければ、どうすることもできないではない。 ルイズはメイジとなったというのに学院の他のメイジと同じようにこなせない自分に怒りを覚える。 そのとき手元でメリっと音が鳴り、前後や近くの生徒がこちらを見てくる。 彼らは一様に顔を青くした後、授業中であるにも関わらずゆっくり席を立ち、ルイズの近くから離れていく。 ルイズも自分の手を見やると机の天板を握りつぶしてしまっていたことに気付いた。 この机の修理や片付けはどうなるのだろうかとルイズが考えていると 教室全体の雰囲気が慌しくなる。何事かと思うが原因はキュルケが炎を出していた。 どうやらギトーが挑発し、それにキュルケが応えようとしているようだ。 結果はギトーがキュルケの炎を吹き飛ばして終わり。 「諸君、風の前ではすべての者は立つことはできない。火、水、土そして伝説の虚無さえもなぎ払うだろう。 私はここに風の最強の証を君たちに見せよう!ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・」 詠唱が終わった後、教壇には三人のギトーがいた。 「これは風の遍在だ」 ギトーの二体の遍在はそれぞれに向かって風の魔法を使う。風の魔法エアハンマーがぶつかり合う。 生徒の注目が集まっているのを見てから遍在2体が消滅する。 「風は遍在する!いかに相手が強かろうが数の力には適わない!これが風最強の証明だ!」 そのとき戸口が開いてコルベールが入ってきた。ずいぶん慌てているように見える。 生徒に強さを見せつけたことで機嫌のいいギトーは朗らかに対応する。 「どうしました?ミスタコルベール。今は授業中ですぞ」 「授業は中止です、はやく外に出て準備をしてください。 急な話ですが明日の使い魔品評会ですが王女、アンリエッタ姫がご観覧なさるのです。 ゲルマニア親善訪問より戻られた足でこちらに向かわれており、本日到着予定だそうです」 それだけ言うとすぐに扉より出て行ってしまう。 そして少しずつ伝えられた内容が頭に染み込んでいくと、生徒たちの間でざわめきが起こった。 生徒たちが整列し道を作り、目の前を騎士に護衛された馬車が通っていく。 時折馬車の中から微笑みながら手を振る少女に歓声を上げていた。 その少女は馬車の外から見えない位置に座ると大きくため息をついた。 「姫様。ため息をつくのはこの馬車の中でだけですぞ」 頭に小さなティアラを乗せた少女、トリステインの王女であるアンリエッタ・ド・トリステインは 自分に話しかけてきた目の前に座る人物に目を向ける。 トリステインの政治で辣腕を振るうマザリーニ枢機卿。権力の集中により彼はよく悪く言われるが 間違いなくトリステインのために行動している。 このたびのゲルマニア訪問も彼が調整したものであった。 今回の訪問によりアンリエッタの将来が決まってしまったことで恨み言の一つも言いたいが トリステインのためを思うなら一番の選択肢であろう。しかし今回のこと問題を残していた。 その問題を知るのはおそらく自分だけだろう。そしてこの問題は公にすることができないため、 アンリエッタは目の前の人物に相談することもできない。だからこそ自分は気分転換にかこつけて 親友がいるこの学院に来たのだ。この問題を解決できるであろう人物に会うために。 「此度のことで姫様は何か悩んでらっしゃるようですが大丈夫です。 私がすべて取り計らいます。何も心配はいりません」 マザリーニ枢機卿の言葉にさらに自分がなんとかせねばなるまいとアンリエッタは決心した。 学院の生徒たちが王女に注目していたとき、ルイズはその隊列の中でも魔法衛士隊を観察していた。 一人ひとりがトライアングル以上のメイジであり、かなりの剣の腕前まで持っている。 最終的にトリステインを平らげるにはこいつらが立ちふさがるであろう。 だがこのルイズを相手にグリフォンに乗っているのは失敗である。いつか来るそのときが待ち遠しい。 歓迎式典が終わり、授業が無いことを確認したルイズは図書室にいた。 読んでいるのはマジックアイテムの本。魔法陣については分かったがそれ以上に気になるものがあった。 それは夢で見た光る玉だ。まさに夢で見た効果は天敵と言えるほどではないだろうか。 これについては調べるにしても他の者に知られるのはまずい。 なんと言ってもルイズにとっては危険な物である。 例え信用が置ける者であっても知られるわけにはいかない。 同じく図書室にいたタバサも誘わず黙々と探し続けた。 ────────── 今日、使い魔品評会が午後から行われる。 すでに中央広場にちょっとした舞台会場が設置され、学園内は魔法衛士隊の面々が巡回を行っている。 昼食の時間になった頃に使い魔の目が覚めていないことを確認し、 ルイズは使い魔品評会を辞退することにした。 ぎりぎり間に合うのではないかと考えていたが、そんな都合のよいことは起きなかった。 落胆の念がかなり強く、立ち上がるだけなのに苦労する。 医務室を出てすぐに会ったコルベールに使い魔品評会を辞退することを告げると、 コルベールも使い魔が起きない現状を知っていたので了承し、 握りこぶしを作って報告するルイズが落ち込まないようにと励まそうとする。 「あなたの使い魔はすばらしい力を持っています。 心無い人は眠っているだけだと言ってくるかもしれませんが、優れていることは間違いありません。 メイジの実力は使い魔を見ればわかると言います。 優れているが眠っている使い魔と同じく貴方の力もまた使い魔と同じくまだ眠っているだけなのです。 あなたは間違いなく最高のメイジですよ」 コルベールがルイズをメイジとして持ち上げるように話すのを聞き、ルイズは少し冷静になることができた。 魔法が使えるようになってから自分がメイジだと変に意識しすぎていたことにルイズは気付いたのだ。 もともとルイズが剣を持ち始めたのも、型に当てはめずに自分を強くしようと思ったからである。 コルベールに礼を言って別れると図書室に向かうことにする。 今回のことで初心を思い出し、自分に精神的な未熟さを実感した。 それにまだまだ振り回されるかもしれないことに頭を痛める。 致命傷にならないうちになんとかしないといけない。 使い魔品評会はタバサの風竜が最優秀賞を勝ち取ったそうだ。 その夜、ルイズが部屋でデルフリンガーと先住魔法について話していた。 普段なかなか喋らせてもらえないデルフリンガーは機嫌がよさそうだ。 「お前さんのは契約はしているがエルフとかが使う先住魔法とはちょっと違うんだよなぁ」 「エルフがどんな先住魔法を使っているか知らないけどオークが持ってきた奴だからね。 でも回復魔法が使いたかったわ。あれほど恐ろしい魔法はないわよ。 死んでなければ大怪我を負っても回復できるとかありえないわ」 「確かにありゃすげぇよな。あいつとおめえさんとの剣の修練の名を借りた殺し合いで どちらも死んでねぇのは間違いなくあの「べほまら」とかいう魔法のおかげだ。 戦うのはいいけど心臓に悪いぜ」 「あんたのどこに心臓があんのよ」 「ひでえな。こんなに心配してやってんのによ。 こんなことならおめぇさんが失敗した時にもっとからかってやればよかったよ」 「あんた息の根止めるわよ?」 「俺は剣だから息なんてとうの昔に止めてらぁ。むしろ息なんてしたことねぇ」 「それは私への挑戦と受け止めたわ」 そう言うとルイズはデルフリンガーを手に取り、折るように力を加える。 「あ、ごめん、言い過ぎました。申し訳ございません」 すぐに謝罪してきたデルフリンガーに半目を向けながら、床に放り出す。 床に投げられたデルフリンガーは先程の殊勝な態度はどこへやらすぐに文句を返してくる。 「ったく。剣の扱いが荒いぞ。もっと丁寧に扱えよ」 「あんたの減らず口が減ったら考えてあげるわよ」 デルフリンガーの不満にしっかりとルイズは返す。 「嬢ちゃんとはこんだけ馬が合うってのになぁ。相棒じゃねぇのが残念だよ」 ルイズはふと気になる言葉を聞いたので眉を動かす。 「また剣の振り方がどうとか言い始めるんじゃないでしょうね。そんなの習得するのに何年かかるのよ。 戦闘への慣らしの方が重要でしょ。技術ってのは後から付いてくるって聞くしね。 ところで、相棒じゃないってどういうこと?あんたは私の剣でしょ?」 ルイズは少なからずこの剣に心を許していた。現段階でルイズの裏側を一番知っていると言える存在だ。 しかしここでそれが否定されるように感じてルイズは不安を抱いた。 「いや、それはもういいよ。おめえさんには必要なくなった。 それと相棒ってのはな、持ち主とか使用主ってことじゃねぇよ。 ええっと、・・・なんだっけ?忘れちまったなぁ」 マヌケなデルフリンガーの返答があったとき、ルイズの部屋にノックが響いた。 デルフリンガーへの追求を抑え、軽く闇の衣を纏う。 先程の会話を聞かれていたかもしれないことに背筋が寒くなる。 ルイズは慎重に扉を盾にしながら開ける。そこにはローブを纏った不審人物がいた。 部屋に入ってこようとするので、肩を掴み壁に押し付け、精一杯ドスを効かせた声で話しかけた。 「どちら様でしょうか?不審な動きをすると唯ではすみませんよ?」 「ル、ルイズ?」 どこかで聞いたたことあるような声に首を捻る。言葉に焦りが混じるローブの人物がフードを外した。 下から現れたのは頭にティアラを乗せた同年代くらいの少女。 その顔を見てやっとトリステイン王女であるアンリエッタだということに気付いた。 まさかの訪問客に思考が停止しそうになったが被り振りながら冷静になろうと努める。 なぜ王女がこのように人目を忍んでくるのかが疑問に思うが、 とりあえず部屋に入りたそうにしているので入れてやる。 部屋に入った王女はディテクトマジックで部屋を探索した後、懐かしそうに話始めた。 うれしそうに昔話に興じる王女の相手をしながら考える。 様子からしてルイズとデルフリンガーの話は聞いていなかったように見えた。 ルイズと王女はそれなりに親しかった事もあり、会いにきただけということもあるかもしれない。 宮廷で言えないような愚痴でも言いにきたのだろうか? さっさと本題に入りたいルイズはアンリエッタに質問をする。 「姫様。それで今日は旧交を温めに来られたのでしょうか?」 ルイズが促すとアンリエッタは途端に浮かない顔をしてきた。 「私、結婚するの」 合点がいく。アンリエッタはこの事で愚痴を言いに来たに違いない。 確かこの娘はアルビオンの王子が好きだったはずだ。 いつぞやは逢引のために抜け出す時に身代わり役として寝床に潜っていたこともあった。 アルビオンの戦況ではその王子の属する王党派が終わろうとしている。 今入っている情報は反乱軍の兵士によって城の包囲が完了しそうであるとのことだ。 その暗い表情のアンリエッタに口の端で笑いながらもしっかり手で隠して事情を伺う。 「おめでとうございます。それでお相手の方は?」 「ゲルマニアの皇帝です」 それを聞きルイズはなるほどと頷く。 「今回のゲルマニア訪問の目的はそれでしたか。 まあ今のアルビオンでの内乱で、貴族派の反乱が成功すれば次はトリステインですからね。 ゲルマニアとの同盟は賛成します。王族としての責務大変であろうことをお察しします」 ゲルマニア─トリステイン間の婚姻による同盟。 当然考えられることであった。しかしこれはまずいことになってきた。 同盟が成立すれば反乱軍が攻めにくくなってしまう。この婚姻は妨げなければならない。 どうしたものか・・・ しかしアンリエッタはその言葉に絶句する。おそらくルイズならゲルマニアの皇帝との婚約に怒りを感じて そんな境遇の自分に同情すると思っていたのだ。 部屋に入る時といい、冷静なルイズの言葉に戸惑いが生まれる。 「その通りです。ですが、問題があるのです。 アルビオンのウェールズ様を覚えておりますか?」 「覚えてますよ。あのアルビオンの凛々しい王子様ですね?」 「そう、そのウェールズ様に私はある手紙を出してしまったのです」 「手紙を出すくらいで問題にはなりませんよ」 「いいえ、違うのです。 その手紙にはゲルマニアに送られれば婚約は解消されるほどのことが書かれているのです。 ・・・はっきり言ってしまいましょう。手紙私からウェールズ様への恋文です。 婚約解消となればトリステインは独力で反乱軍と戦わねばならなくなります。 この国のためにもなんとしてもその手紙を回収しなければなりません。 それも絶対の信頼の置ける者でなければこんな任務を拝命させるわけにはいかないのです。 しかし私が信頼できるような者は宮廷にはいません。どうすればいいのでしょう。 誰か罪深い私を助けてくれるような者はいないのでしょうか」 アンリエッタはちらちらとルイズを見ながら事情を説明してくる。 話し方からして、ルイズが自分から志願してくれるのを待っているようであった。 まさに渡りに船の申し出であった。この任務に失敗すれば同盟の話はなくなる。 その様を思い浮かべたルイズはアンリエッタににっこりと微笑みを送る。 「姫様!ここに私がいるではありませんか。私にどうか命令してください。 手紙を見事手に入れてこいと。それだけで動く貴方の友が宮廷にはいなくともすでに目の前にいます」 驚いているような顔を作りながらアンリエッタは言葉を返す。 「いけません!貴方をそのような危険な場所に行かすなどどうしてできましょうか」 「姫様のためならば危険なぞ省みない覚悟です」 「本当に行ってくれるのですか?」 「もちろんです。私以外にこれほど適任な者もいないでしょう。 このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステイン貴族として、 そして何よりあなたの親友として!この任務果たしてみせます」 「ああルイズ!私はなんとよい友を持ったのでしょうか」 「任せてください。すべてうまく行きますよ。すべて、ね・・・」 アンリエッタは最初に感じた違和感を忘れ、 ルイズの微笑みと自信のこもった言葉に大きな安心を覚えていた。 自分の指から指輪を抜いてルイズに手渡す。 「ルイズ。これは王家の宝、水のルビーです。これをあなたに。 もし路銀が足りなくなればそれを売り払ってください」 ルイズはありがとうございますと言いながら受け取り自分の指に嵌めた時、 突如大きな音をたててその扉が開いた。そこにいたのは金髪の優男。 その名をギーシュ・ド・グラモンという。 ずいぶん前にルイズに決闘でフルボッコにされた男だ。 「話は聞かせていただきました!その任務、私にも任せてもらえないでしょうか?」 どうやら聞き耳を立てていたようだ。 ルイズはため息をついてからアンリエッタに視線を送る。 アンリエッタは純粋に驚いているだけのように見える。 とりあえず提案だけでもしてみる。 「この女子の宿舎に忍び込んだネズミは始末したほうがよいですね?」 「それは少し過激です。でも聞かれた事が事ですし仕方ないのかもしれませんね」 その会話を聞いてギーシュは失敗という言葉が頭をよぎる。 トリステインの一輪の花、アンリエッタ殿下に名前を覚えてもらい、 もしかすれば親しくなれるかもしれないチャンスに舞い上がり、 部屋に突入してしまったが窮地に立たされてしまった。 ギーシュはルイズの恐ろしさを文字通り身に染みて理解していた。 決闘での悪夢はいまだに夢に見てしまう。 そして土くれのフーケを学院長室まで引きずっていったのをギーシュはしっかりと見ていた。 なんのためらいも無くやると言ったらやる性格。 使い魔を召喚してから変化した凶悪なルイズが今は口封じという口実を手にして ギーシュに視線を向けている。顔から血の気が引き、手がぶるぶる震え始める。 「お、おお、お待ちください。私、ギーシュ・ド・グラモンはトリステイン貴族の一人として 姫殿下のお役に立ちたいのです」 その言葉にアンリエッタが反応する。 「グラモン?あなたはグラモン元帥の身内の方ですか?」 「息子であります!」 「あなたも私の力になってくれるのですか?」 「このギーシュ。姫殿下のためならばどのようなことでもやり遂げて見せます」 二人のやりとりを横から見ながらルイズは考えていた。 危機を脱しようと思っているギーシュはなかなか饒舌である。 しかしギーシュを連れて行くとどうなるだろうか。連れて行くなら先住魔法は使えない。 打算の結果、不可との結論が出る。 「だめよ。貴方じゃあ足手まといにしかならないわ。身の程を知りなさい」 しっかりと釘を刺すがアンリエッタがにっこりと微笑む。嫌な予感しかしない。 「ルイズ、そう言わずともいいじゃない。彼は彼で私のために動こうとしているのです。 そんな貴族の忠誠を無碍にはできません。ぜひ彼も連れて行ってください」 「そ、そうだ!ドットとはいえメイジだぞ。ゼロの君とは違う!」 どうやらアンリエッタは本当に足手まといとなるとは考えていないようだ。 そして彼女に支持されたギーシュはかなり勢い付いてしまっている。 その言い草にルイズは静かに怒りを覚える。 「そのゼロにボロクズにされたのは誰かしら?ミスタグラモン? まあいいわ付いてくるのはいいけどこの任務は非公式だから死んでも名誉の戦死とはいかないわよ?」 「の、望むところだ。表に出なくとも貴族としての行動ならば誰が謗ろうとも恥じることはない」 名誉がない。そのことを聞いてギーシュは唾を飲み込んだがアンリエッタがこの場にいることを思い出し、 見栄をを張り通してきた。 仕方がない。ギーシュには途中で死んでもらうことにしよう。 それよりこのような任務を任せるほどアンリエッタが自分を信頼していることにルイズは注目する。 信じれる者が近くにいないとはなんとおもしろい姫だろうか。 もっとも信頼しているのが昔いっしょに遊んだだけのルイズであるというのが一番の笑い話である。 ルイズはアンリエッタが小娘である自分にこのような任務を与えることを馬鹿にするように考えていた。 しかし、貴族王族といった権力の渦の中でそのようなものに煩わされない友であり、 最近、トリステインで暴れていた土くれのフーケを捕まえるという偉業を達成しすることで 実力を示したルイズはアンリエッタからしてみれば今回の任務にまさに打ってつけの人材であったのだ。 アンリエッタよりウェールズへ宛てた手紙を受け取り、ギーシュとアンリエッタが帰った後、 一通の手紙を書く。その手紙を持ってタバサの部屋に行く。 扉をノックしたが返事がないので勝手に入ることにした。 部屋にはベッド、机、本棚だけであり、かなり殺風景と言えるだろう。 タバサは机に向かい椅子に座って本を読んでいたが、 ルイズが視界に入ると本にしおりを挟み机に置いて向き直ってきた。 「タバサ、今からちょっと付き合ってくれない?」 タバサが頷いて了承を示したのを確認するとルイズは使い魔で近くの森まで運ぶように頼んだ。 すぐにタバサは窓まで行き、口笛を鳴らす。ルイズとタバサはすぐに飛んできた風竜に乗り込み、 森の入り口に向かった。ルイズ持っていた手紙を手近な木の枝に結びつけるとすぐに学院へ帰る。 もちろん魔法衛士隊の巡回に見咎められたが、今日行われた使い魔品評会でタバサとその使い魔は よく知られていたためすぐに開放された。 何事もなく終わったがタバサの風竜がずっとこちらを睨んでいたことが気にかかった。 元々使い魔には避けられていたが明確な敵意を向けるのはシルフィードだけだ。 タバサの風竜はアルビオンへ渡るのに使えるだろうが、タバサを完全に支配下に置いていないことから 協力を断念せざるを得ない。まだ彼女には光があるのだ。 タバサの母はおいしいネタだが、シルフィード然りまだルイズを裏切る余地がある。 それを完全に消すまでは弱みをみせることはできない。 朝が来る。 ルイズはすぐに寝巻きから旅装に整えてデルフリンガーを背負い、使い魔のいる医務室に向かう。 ルイズが使い魔に会いに行くのは毎朝の日課となってしまっていた。 今だに寝続けている使い魔に変わった様子は観られない。 今日から少し長く使い魔と離れることになる。 魔法が使えなかったルイズが始めて成功した魔法で呼び出された使い魔。 ゼロと陰口を叩かれていたルイズに新しい価値観と力を与えてくれた存在。 そして毎晩のように夢の中で安らぎ教えてくれている。召喚してからルイズは与えられてばかりである。 これでは主人とはとても言えないだろう。 いつまでも使い魔におんぶに抱っこでは格好がつかないではないか。 せめて目覚めさせなければ。 使い魔がいままで夢の中でルイズに伝えていたことを考える。 とにかく人間が負の感情を抱くようにすればよかったはずであった。 希望を見出せない世界を創ることはルイズ自身も望むことである。 「言っとくけどあんたのためにアルビオンに行くんじゃないんだからね。 私は私がやりたいから行くのよ。勘違いしないようにね」 使い魔には感謝をしているというのに口をついて出たのは憎まれ口であった。 眠っていて聞いてないであろう相手とはいえどうにも素直にはなれない。 そんなルイズの目に一瞬だけ黒く輝いた使い魔の左手のルーンの光が飛び込んだ。 返事は期待していなかったルイズは激励を受けたように気分が高揚してくる。 「あら?このルーン。もしかしてこのすごいのが相棒だったのか? じゃあ嬢ちゃんは・・・」 デルフリンガーが何かを言っているがルイズは無視して使い魔を見つめる。 「ついでだしあんたも叩き起こしてあげるわ!感謝しなさい!」 堂々と啖呵切ったルイズは医務室から出る。 まだごちゃごちゃ言っているデルフリンガーは鞘にしっかり入れて黙らせた。 ルイズはそのまま集合場所に着いたときすでにギーシュが馬を用意して待っていた。 「ルイズ、馬の用意をしておいたよ」 ギーシュがルイズに話しかける。 この任務で大事なのはすばやく手紙を奪取し、それをゲルマニア皇帝に送ることだ。 確かにゆっくりと旅して間に合わなくなり、貴族派の手に手紙が渡っても 高確率でゲルマニアの皇帝に送られるだろう。 しかし少ない可能性だがアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻がアルビオン側に伝わることになれば ウェールズ王子が自ら手紙を処分することもあるかもしれない。 できるかぎりの速さが必要なのだ。 馬の具合を確かめているとギーシュが話しかけてくる。 「あの、つ、使い魔を連れて行ってもいいかな?」 メイジの使い魔を連れて行くことは別段おかしいことではない。 疑問に思っていると地面が膨らみ、何かが顔を出す。 それは1メートルを超えるでかいモグラだった。ルイズから隠れるようにギーシュの後ろに行くが 鼻をすんすん鳴らしながらつぶらな瞳でルイズの方を見ている。 ルイズはその使い魔が自分の手元を見ていることに気付き、右の眉を上げる。 その反応を敏感に捉えたのかギーシュは反対されると思ったのかまくし立て始める。 「ごめんよ。急ぎの任務であるのに地面を進むジャイアントモールを連れるなんてだめだろう。 馬鹿なことを言っていると僕だってわかってる。でも僕とヴェルダンテは一心同体なんだ!」 いきなり使い魔を抱き始めたギーシュは放っておき、手を動かす。動く手に沿ってジャイアントモールの 瞳も動く。どうやら指輪を嵌めている手を見ているようだ。指輪をはずしポケットに入れる。 視線がポケットに向けられているのを確認し、もう一度付け直す。 「ギーシュ、このモグラ、私の指輪を見ているようだけど?」 「え!・・・そ、それはヴェルダンテの習性だよ。彼はよく鉱石を見つけ、集めてくれる。 土メイジとしてはすばらしいパートナーだろ?」 使い魔を自慢するギーシュは本当に殺したい。 「連れて行ってもいいわよ」 「ほ、本当かい?ありがとう!」 地獄に仏を見つけたかのような顔をするギーシュに釘を刺す。 「ジャイアントモールは土の中を移動するけれどその潜行速度は馬並みよね? ただし遅れたら放って行くわよ」 ベルダンテベルダンテと騒いでいるギーシュはこの旅の中でその短い生涯を遂げることになるだろう。 今の内に騒いでおくといい。 そのときルイズはギーシュの後ろにこちらに近づいてくる影を見つけた。 見たところ年齢は二十台後半といったところか、かなりの美形で体格もよい。 騎士の一人なのだろう。こんな朝早くから騒いでいるので様子を見に来たのかもしれない。 足音が聞こえるようになってやっとギーシュもその騎士に気付いた。 「ええと、朝から騒いでしまい失礼しました。特に問題はないので・・・」 「いや、僕は君たちの護衛を任されたのだよ。 私は魔法衛士隊グリフォン隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ」 ルイズはそれを聞いて歯噛みする。護衛を付けられてしまった。 それもそうだ。普通に考えてこれは当たり前の処置。 いくらアンリエッタがルイズを信頼していてもこれは国家の大事なのだ。護衛が付くのは当然だろう。 だがルイズから見れば護衛ではなく監視でしかなかった。 魔法衛士隊と言う実力でしか入ることのできない部隊。 その隊長を務めるからにはこのワルドはかなりの実力者なのだろう。 だが予定は特に変わらない。『貴族派の刺客』に殺されるのが二人に増えるだけだ。 しかしこのワルドの実力がどれほどのものであるかがわからなければうかつなことはできない。 「久しぶりだね。僕のルイズ」 微笑みながら話しかけてくるワルドに不審な物を見る目を向ける。 「おや?僕のことを忘れてしまったのかい。婚約者に忘れられるなんて僕は悲しくて死んでしまいそうだよ」 そう言われてルイズは自分に婚約者が居たことを思い出す。 たしかにワルドはルイズの婚約者であった。そういえば憧れていたような気もする。 最近いろいろあったので綺麗に忘れていた。死んでしまいそうならそのまま死んでくれたらいいのに。 「すっかり忘れていました。それに婚約は親が勝手に決めたことです。 それに振り回されてはいけませんわ」 ワルドはルイズの綺麗な笑顔での忘れていました宣言に対しても全く動揺した様子を見せない。 なかなかに面の皮が厚い。 「なんと言うことだ。でもこの旅できっと二人の間を縮めてみせるよ」 ワルドが口笛を吹くとグリフォンが空から降りてくる。 それにワルドが騎乗し、ルイズに向かって手を差し出してきた。 「ルイズ、こちらにおいで」 ルイズが素直に寄っていくと突如グリフォンが暴れだした。 ワルドは不意を突かれてグリフォンから落とされたが、きれいに受身を取って起き上がる。 グリフォンは威嚇音を出しながらそのままワルドに爪を向けようとした。 「止めなさい」 それをルイズが止める。グリフォンはワルドから目を離さないように動きながら ルイズの横にくると従者であるかのように伏せる。このグリフォンの動作に笑みを堪えきれず、 ルイズは手で釣りあがる口元を隠す。 これがルイズが始めて魔物を従えるということに成功した瞬間であった。 オークは最初から従順であったのでルイズはしっかりと自覚できていなかった。 これまで学院の使い魔たちには避けられ、本当に魔物を操れるのか不安であったが、 そんな悩みを一掃してしまった。使い魔となった魔物だけが従わないのだと理解できた。 ルイズは愛おしそうにグリフォンの鼻先をなでてから馬に乗せようとしていた荷物をグリフォンに付け直す。 ギーシュとワルドはそれを見て絶句していた。 しっかり飼いならされ、訓練を受けたグリフォンが騎士に逆らい、初めて会った少女に従っているのだ。 「ワルド子爵。この子、貴方を乗せたくないみたいよ?嫌われたわね。 この子には私だけが乗っていくから貴方は用意した馬に乗って頂戴」 あっさりとそう宣言した後、自分の荷をくくり付け終わり、ルイズはさっさと出発しようとしている。 「ヴィンダールヴ?いや、しかし使い魔はガンダールヴのはず・・・ 始祖の魔法か?・・・・」 ワルドの呟きは誰にも聞かれず空に解けて消えた。 魔法学院の学院長室。 オールドオスマンはその出発の様子をしっかりと見ていた。 隣にいる王女にはよくぞルイズを国から離してくれたと喝采を送りたい。 「しかし大丈夫なのでしょうか。頼んだのはいいですがやはり不安です」 「そのためにグリフォン隊の隊長殿を付けたのでしょう? それに貴方が思っているよりもミスヴァリエールは強いですぞ」 「そうですね。さっきも騎士のグリフォンを奪うなんてことして・・・ あの子は昔から変わっていたけど、ここでも変わらないのね」 アンリエッタが微笑ましそうに見ていたその光景はオスマンから見れば異常としか言いようがない。 訓練を積んだグリフォンが主人に攻撃したのだ。異常でなかったらなんだというのだ。 「彼女らに始祖ブリミルの加護のあらんことを・・・」 祈る王女から視線をはずしこれからのことを考える。 アルビオンに行くには浮遊大陸がもっとも近づいてきたときでないと航行便は出ないだろう。 3日以上はまだトリステインにいる計算になる。 王党派と連絡を取るのに手間取ると任務終了までにどれだけ時間がかかるかわからない。 亜人を滅するのは彼らがアルビオンについてからでいいだろう。 前ページ絶望の使い魔
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「BIOSHOCK」よりビッグダディ(バウンサー型)と無線機が召喚される話 プロローグ chapter01 chapter02 chapter03 chapter04
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前ページ次ページ使い魔は四代目 リュオは返答に詰まった。そもそも、なぜメイドがドラゴンを探すのかわからないのだ。 どう見ても何の変哲も無い只のメイドだし、怯えきったその様子をみても「凶暴なドラゴン」を退治にきた一攫千金を目指す冒険者、という線は無いだろうが… リュオは少し逡巡した後、浮かんだ疑問をそのまま返す事にした。 「あ~その… もし、その凶悪なドラゴンとやらを見つけたら、どうするつもりだったのかな?」 「そ、そしたら逃げるに決まってるじゃないですかっ!だって、ドラゴンですよ!火をボウって吐くんですよ!ドラゴンは!」 「…そうじゃな。じゃぁなんでドラゴンを探してたんじゃ?」 「いや、だって、危険が危ないドラゴンがいるならみんな逃げないといけないじゃないですか!だって、ドラゴンですよドラゴン!」 「……そうじゃな、ドラゴンじゃな。…要するに、もしドラゴンがいるならみんなと避難しないといけないから怖いけど確かめに来た、という事で良いのか?ちなみにそのモップは?」 「掃除中だったんです。もしもの時、素手だと心細いので…」 「………ええと、逃げる気だったんじゃよな?」 「当たり前じゃないですかっ!だって、ドラゴンですよ!重いぞ硬いぞしつこいぞのドラゴンですよ!」 メイドはこんらんしている! 「そりゃゴーレムじゃろ!あんな輩と一緒にするな!…はっ、いかんいかん。あー、まあ落ち着きなさい。 危険は去った。もうそのドラゴンはおらん。…わしが倒し…いや違うな。あー、その、何だ、なだめた?」 随分苦しい言い訳じゃ、とリュオは思わないでもなかったが、メイジで通すことにした矢先にいきなり正体をばらす様な真似はしたくなかったし、 メイドは見るからにかなりの興奮状態のようだからこれでも充分通用するだろうと判断した結果である。 仮に疑念を持たれたところでそのドラゴンはもういないのだから露見する心配は無い。多分。 「なだめたんですか!凄いです!どうやって!?」 「…えーと…なぁに、人もドラゴンも知的生物同士、誤解さえ解ければ案外上手く行ったりするもんなんじゃよ」 「す、凄いです!凄いメイジ様だったんですね! あ、申し遅れました。私、ここでメイドとしてご奉公させていただいておりますシエスタです」 「む…わしはリュオ。ルイズの使い魔を今日より勤める事になった。しばらくここに留まる事になる故、これから世話になることもあるだろう。よろしく頼むぞよ」 「はい、よろしくお願いします!…え、使い魔?ええ、メイジ様が?」 ころころとよく表情の変わるメイドじゃなぁ、と微笑ましく思いつつ、リュオは今日ルイズに召喚されて使い魔になった、と軽く事情を説明した。勿論肝心な部分は伏せてある。 「ところでシエスタよ、いつまでもここにいて良いのか?仕事の方は大丈夫なのかな?」 「ああ、そうでした!わぁ、また怒られちゃう…くすん。…すみません。これで失礼します…」 先程までとは一転し、沈んだ様子で立ち去ろうとするシエスタが気の毒になり、リュオは呼び止めた。 「待つんじゃ、サボってたわけでもなし、叱られるのは気の毒じゃ。これも何かの縁、シエスタが何をしてたか証言してやろう」 「そ、そんな!悪いです。そんな事で貴族様の手を煩わせるわけには」 「これこれ、良いんじゃよ。わしが言い出した事なんじゃから…とは言っても納得してなさそうじゃな。じゃあこうしよう。 わしは今言ったとおり、今日ここに来たばかりでどこに何があるかさっぱりわからん。案内を兼ねて、と言う事で頼む。 ああそれと。わしは貴族ではないぞ。普通に接してくれるとわしとしてもそっちの方が楽なのじゃが」 「…分かりました。じゃぁ案内しますね。あ、行き先は厨房ですけどそれでも良いんですか?」 「かまわんかまわん。では、頼むぞよ、シエスタ」 文字通り駆け足で通り道上にある学院施設等をリュオに案内しながらシエスタは厨房へ戻った。 そして、手早く身嗜みを整えると、手を洗いながら声を張り上げる。 「すみません、マルトーさん!遅くなりました!」 その声に、厨房の奥の方から怒声が返ってくる。 「シエスタ!晩の仕込みで忙しいこの時にどこで油売ってやがった!早く手を動かせ!」 「は、はいぃ!」 夕食に向け数百人分の食事を用意すべくフル回転で動く厨房はまさしく戦場であった。シエスタも素早くそこに突入し、仕事を片付けていく。その凄まじさにリュオが気圧されていると、 「…おや、こんな所に貴族様が何の用ですかな?済みませんが、ご覧の通りの慌しさでして、手短にお願いしますよ」 先程怒声を上げたマルトーと呼ばれた恰幅のいい男がリュオに気付き、話しかけてきた。言葉遣いこそ普通だったが、彼の口調には明らかにリュオに対する嫌悪の響きがあった。 が、リュオには召喚されたときの生徒達の尊大な態度を見れば「貴族様」とやらが彼等にどんな態度で接しているのかは容易に想像ができたのでそれは当然の事と受け止めた。 「ま、そう言うでない。わしは貴族じゃないぞよ。毎日生意気な小童どもの相手でうんざりするのは分かるがそう邪険にしないで欲しいのぉ。 それにシエスタはすぐ近くに凶暴なドラゴンが出たという話を聞いたので確認しに行ったんじゃ。本当にいたらすぐに逃げねばならんじゃからな。むしろ大した勇気だと褒める所じゃないかね?」 「…シエスタ、そうなのか?」 「…はい。でも大丈夫でした。このリュオ様がドラゴンをなだめて追い払ったそうですよ」 「…なだめた?」 「…うむ。まあ、その、そういう事じゃ。じゃからそのドラゴンはもう立ち去った。危険はもう無いぞよ」 「へぇ、こいつぁ驚いた!…にしても、その割にはここはいつも通りでしたがね。普段大口叩いてる貴族様は何をしていたんですか?」 「…あー、なんと言うか、その場にいた連中は腰を抜かすものが大半でのう、まるで使い物にならん。まあお子様には刺激が強すぎたな。 結局、わしが事態を収めた。その上にほれ、連中はプライドだけは高いじゃろ。無様を晒したなんて自分から言えやせんわ」 あの場にいた者の殆どがまともな行動が取れる状態でなかったのは事実だし、事態が収まったのはリュオが冗談だと明かして人間の姿に戻ったからである。 だから、リュオが事態を収めた、と言っても嘘ではない。色々と肝心な事実―そもそもは茶目っ気を出して正体を披露したせいだ―をすっ飛ばしているが。 「ああ、だからこっちまでは伝わってこなかったのか…いやすまねぇリュオさん。シエスタが世話になった上に恩人にぞんざいな態度をとっちまった。シエスタもだ。悪かった。」 「気にしないでください、マルトーさん。私も様子を見に行く前に一言言っておくべきだったんです」 「わしの事も気にせんで良いぞ。わしとて、生意気なだけの貴族連中とは関わり合いになりたくないからのぉ、無理もないわ」 「全くだぜ。…しかし、その格好、本当に貴族様でないんで?」 「まぁ、見た目どおりに魔法は使うがな。貴族ではない。わしのいた所じゃ魔法使い、ってのはただの職業じゃ。 お主がコックやってるのと同じ感覚じゃよ。大体、今のわしはルイズの使い魔じゃ」 「すげぇ…」 「ん?何がじゃ」 「いやだって、リュオさん。あんたは魔法が使えて、しかも凶暴なドラゴンを宥めて追い払うような実力を持ちながら決して奢った所が無い! おまけに平民のシエスタを気遣うその寛大さ!貴族崩れのように荒んでもいない!見たかお前ら! これが真の達人ってやつだ。聞いてるかお前ら!達人は決して己を誇らない!」 「聞いてますよ親方!達人は誇らない!」 マルトーが振り向き大声を張り上げると、それに答えて厨房のコックが一斉に唱和した。どうやらこの厨房を仕切るだけあって、中々に人望はあるようだ。 「はっはっは、いや、そんな、大げさな、なぁ」 若干引きつった笑いを浮かべるリュオに構わず、マルトーは逆に盛り上がっていくのだった。 「いや、そうやって謙遜するところがまた凄い!そうだ!あんたは今日から『我らの杖』だ!」 「我らの杖」の称号を手に入れた! 「わ、我らの杖?」 「シエスタ!感謝と敬意の印だ。アルビオンの古いのを持って来い!出し惜しみ無しだ!」 「はい!リュオ様、今上物のワインをお出ししますね、座ってお待ちください」 「…いや、別に、そんな、気遣わんでも良いのじゃが…それに、その、何じゃ、今は忙しいんじゃぁ」 「かぁ~この気配り!さすが『我らの杖』は違う!なぁに、これ位で支障が出るようじゃ魔法学院のコック長はとうてい勤まりません! ささ、こちらへ。こっちの事は気にせずにくつろいでください。さぁシエスタ、つまみを出すんだ」 「おつまみは最初はチーズでよろしいですか?種類は色々取り揃えておりますから、好みの味があるなら遠慮なくお申し付けくださいね」 「…う、うむ…」 心酔しきった眼を向けるマルトーと、晴れやかな笑顔でワインをグラスに注ぐシエスタを見比べて、もうどうにでもな~れ、と、リュオは半ば自棄になりつつ座った。飲み込んだ溜息の味は、とても苦かった。 授業を終え、部屋に戻ってきたルイズは、部屋に漂う芳香に気付くなり、眉を顰めた。 「今戻ったわ。…何この匂い。昼間っから飲んでたの?」 「ルイズか…ふぅ、酒では酔えんかったが善意に悪酔いしてな…」 「…何よそれ、全然分からないんだけど」 「気にせんで良いぞい。ああ、酷く疲れたわい…」 「え、そんな遠くまで出歩いてたの?」 「いや、そうじゃなくて.な…はぁ、まぁいいわい。さて、色々決める事もあるんじゃろ。それじゃ、早速始めるか?」 「んー、そうしたいところだけど…。ちょっと間を置きましょ。私だって、一息つきたいし、今日の復習もあるし、 …そもそもあんたが酔いを醒ましてからでないとね。色々決めたは良いけど酔ってて何も覚えてません、ってのは勘弁よ。 …ったく、なんで使い魔になっていきなり一人で飲んだくれてるのよ…」 ぶつぶつ呟き始めたルイズに対し、リュオは全く酔っておらんのじゃがなぁ、 と若干遠い眼をしながら思ったが、この状況で何を言っても説得力が無いのは分かっていたので口には出さなかった。 そんなリュオを見ながらその後もしばらく愚痴り続けていたルイズは、やがて、気を取り直したか、あるいは諦めたか、 ともかくも日課である復習の為ノートを取り出し、開くとすぐに黙り込み没入していった。その自然な様子に取り繕った所は一切無く、この事が習慣と化していることをリュオに伺わせた。 真面目な努力家である事は間違いないようだ。 あの時、コルベールが必死に食い下がってきたのも頷ける、これだけ熱心ならいずれ魔法が使えるようになるんじゃないか? とリュオは思いつつ、集中しているルイズの邪魔にならないように黙して見守っていた。 そのまましばしの時間が流れると、ルイズを見守っていたリュオの表情が、突然怪訝なものに代わり、扉の方を振り向いた。そして、少しあってノックの音が響き、扉越しに声が掛けられた。 「失礼します、ロングビルです。ミス・ヴァリエール、学院長より頼まれた倉庫の備品の目録をお持ちしましたが」 その声に、ルイズは復習の手を止め、伸びをすると、立ち上がりつつ答えた。 「今開けます。少し待ってください、ミス・ロングビル」 「ありがとうございます、ミス・ヴァリエール。さて、こちらが倉庫の備品の目録となります。不完全な物ですが、それでも良いという事でしたので…」 そこで、ルイズに目録を手渡すと、ロングビルは言葉を切り、リュオに向かい礼をした。 「始めまして、リュオ様。私はオールド・オスマンの秘書を勤めさせていただいているロングビルと申します。 リュオ様のことは学院長から聞きましたわ。何か御用がありましたら遠慮なくお申し付けください。それでは失礼します」 と、簡潔に用件を済ませ退室していった。 「聞こえてたわよね?はい、目録よ。何か気になる物はある?」 「…む、これは…」 「な、何?何なの?」 リュオは、ルイズに手渡された目録を眺めつつ、まるで別の事を考えていた。それは、かつてカインに引き合わされた一人の男の事であった。 その男の名は、リオス。かつてムーンブルクでならした盗賊である。盗賊でありながら飄々として、抜け目無くもどこか憎めないこの男は、奇妙な縁で何度かカインの手助けをしている。 そのリオスと、今会ったばかりの秘書、ロングビルに似ている所があるのだ。 部屋に近づいてきた時の足音―というか気配―を殺した歩き方とか、身のこなしとか、注意の配り方とか、そういった諸々の事が。 と、いう事はこのロングビルという女、かなりの食わせ者かもしれぬ。 …どうやら、この学院も色々波乱がありそうじゃなぁ、何事も無ければ良いのじゃが… そう思ったが、口にしたのはまるで別の事だった。 「…済まぬ。字が全く読めん」 「…あ、あのねぇ…」 思わせぶりな態度にルイズは思いっきり脱力するしかなかった。 前ページ次ページ使い魔は四代目