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「DRAGON QUEST―ダイの大冒険―」のダイ ルイズの大冒険-1 ルイズの大冒険-2
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前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 夜。 天には二つの月が輝いている。 ルイズは夕食を済ませると、ワインを飲みながら歓談するクラスメイトたちを尻目に、早々に部屋に戻り閉じこもってしまった。 基本的にルイズには友達が少ない。いや、いないといってしまっても差し支えない。 なので、夕食後の歓談の輪に入らないのは特に珍しいことではない。 ただ、夕食後もしばらくは席を立たず仏頂面のままワインを飲んでから部屋に戻る、というのが普段のルイズのパターンである。 話し相手がいないからといってすぐに部屋に戻ってしまうと、まるでそこから逃げてるような気がして、プライドの高いルイズには許せないのだ。 しかし、今夜は夕食を食べ終わるとそそくさと部屋に戻ってしまった。 そんな、普段とは違うルイズの行動に気づいたのは、寮で隣室であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだけであったが、そんな彼女も数多いる恋人のうちの一人に声をかけられると、そんな些細なことはすぐに忘れてしまった。 ルイズはベッドに腰掛け、ぼうっとしていた。 ルイズが早々に部屋に戻ったのは、自分の契約した使い魔、モッカニアの『本』を読み進めるためであった。 モッカニアの『本』を一通り読み、さらに気になった部分を読み返したりしているうちに、すっかり夜も更けてしまった。 今は、分厚い本を読破した後のような達成感と虚脱感がルイズの心を占めている。 このまま布団をかぶって目を閉じてしまいたい気もする。読書後の興奮でなかなか眠れない気もするが、案外すぐに眠りに落ちるかもしれない。 しかしルイズはその誘惑を打ち消し、読了したばかりの『本』によって得られた情報の整理を試みる。 この『本』の舞台となる世界は、ルイズの住むハルケギニアとはまるで違う。 まず、月が一つしかない。 世界の成り立ちも違う。この世界の歴史にブリミルの名前などまるで出てこない。世界を創った『始まりと終わりの管理者』。『始まりと終わりの管理者』から世界の管理を任された三柱の神。『楽園時代』。 どれもルイズが慣れ親しんできた神話や、始祖ブリミルの物語とは相容れない。 その世界では、ハルケギニアよりはるかに技術が発達していた。飛行機、ラジオ、シネマ。どれもルイズには夢想すらしたこともないようなものが、魔法でもなんでもなく道具の延長として存在している。 魔法もハルケギニアで使われている系統魔法とは異なる魔法が存在する。エルフが使う先住の魔法ともおそらく違うだろう。 しかし何より、人が死ぬと魂が『本』になるということが一番の違いだろう。その『本』を読むことでその人生をすべて知ることができる。 そして全ての『本』が収められる神立バントーラ図書館。その『本』を管理する武装司書。 ……実に荒唐無稽だ。 ルイズが今まで読んできたどんな物語も、ここまで突飛なものはなかった。 これが普通の本に書かれていたなら、作者の想像力に拍手喝采を送っていただろう。 だが、そんな世界が記されているのは普通の本ではなく、『本』。記された『本』自体が荒唐無稽な内容を裏付ける証拠だ。 信じざるを得ない。認めざるを得ない。確かに、ルイズが住む世界とはまるで違う世界がどこかに存在するのだろう。 そして、そんな世界で生きたモッカニア。 モッカニアは武装司書だった。 武装司書はあちら側の世界で最もなるのが難しいと言われる職業だ。桁外れの戦闘能力と歴史学者も顔負けの頭脳が求められる。 武装司書の頂点であるバンドーラ図書館館長代行は、すなわち世界最強の称号でもある。モッカニアはその館長代行に匹敵する戦闘能力を持つ、最強の一翼を担う存在であった。 「って言ってももう死んでるのよね……」 ポツリ、呟くルイズ。 どんな最強の能力を持っていても『本』になってまで使えるわけではない。『本』はあくまで『本』だ。 どれほど優れた体術を身につけていようがそれを振るう肉体がない。どんな強力な魔法を習得していようとそれを行使することは出来ない。 結局『本』は、ルイズにモッカニアの生涯分の知識を与えてはくれたが、使い魔として役に立つということはありえない。 「全く、もう! 生きたモッカニアが来てくれたら間違いなく最強の使い魔だったのに!」 モッカニアの魔法。恐ろしいと言うよりもおぞましいと言ったほうがよいだろう。 少なくとも、建物や洞窟など閉じられた空間でモッカニアに敵うような存在はハルケギニアにはいないのではないか? モッカニアが今この場にいたとして、全力でその魔力を開放したら…。学院に住む全ての生き物が夜が明けるのを待たずに骨だけになってるだろう。いや、骨も残らない。 「生きてるモッカニアが来てくれたら! そしたら……」 そしたら? そしたらどうなっていただろう? そしたら自分はどうしただろうか? ルイズは部屋の片隅に目を向ける。そこには場違いな藁の山がある。 もしも部屋に置いておけるようなサイズの使い魔を召喚したら、その寝床にしようと思い用意しておいたものだ。 ただの平民にしか見えない男が召喚されて、その平民のためにきちんとした寝床を用意してやるだろうか? モッカニアに藁の上で寝ろと命じ、モッカニアを怒らせ、モッカニアの魔法の餌食に……。 「そ、そんなこと、あ、ありえないわ! 私がそんな酷いことするわけないじゃない!」 脳裏に浮かんだ自分の姿を振り払うように、首を振るルイズ。 流石にそんなことはしない……と思う。学院に奉職する平民たちと同じぐらいの待遇は与える……んじゃないかな。 しかし相手は異世界から来たのだ。まずまともな会話は成立しないだろう。頭のいかれた平民としか思えないモッカニアに対し、まともな扱いをするだろうか? それどころか、モッカニアの人生の最後の4年間は、ある出来事を契機に実際に心を病んでしまっているのだ。 そんな状態のモッカニアを自分はどう扱うのだろうか? 「見た目が平民なのよね……。それが問題よね。一目見てすぐ有能だって判ればちゃんとした待遇を用意するのに……」 そう言うとルイズは、ふと何かに気がついたかのように硬直した。 しばしの硬直の後、ベッドに倒れるように寝転がる。 そして布団に顔を押し付け、 「あは、あははあは…あは…」 乾ききった笑いがルイズの口から漏れる。 「な、何を言ってるのかしら、私。自分が、ゼ、ゼロ、ゼロのくせに、の、能力があれば、まともに扱ってやるだなんて、どれだけ、は、恥知らずなのよ……」 ルイズは暫く布団に顔を沈めた体勢のまま動かずにいた。 時々しゃくりあげるような声が聞こえてきたが、暫くするとその音も消えた。 「…………」 布団から顔を上げると、うつろな目で部屋の一点を見るとはなく見つめていたが、 「今日はいろいろありすぎて疲れてるから、変なことばかり考えてしまうのね。早く寝ましょう」 そう自分に言い聞かせるように呟くと、着替えもせずに布団にもぐりこんだ。 指を鳴らし、部屋の明かりを消す。 早く眠りに落ちてしまおうと目を閉じるが、やはりいろいろなことが胸に去来し、なかなか眠れそうにない。 暗闇の中ぼんやりと天井を見つめる。 (もし、もっと早く召喚の儀式をしてれば、モッカニアは死ななくて済んだのかしら……) ふと、そんなことが頭をよぎったが、 (それこそ考えるだけ無駄ね。昨日死んだのか、千年前に死んだのか。知りようがないもの。そんなことより早く眠らなきゃ……) 思い直すと、きつく目を閉じ、今度こそ眠りに落ちていった。 その夜、ルイズはモッカニアの夢を見た。 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第三十三話『ミントとルイズの家族』 「はぁ~…」 「あの…溜息なんて吐かれてどうかなされたんですかミス・ヴァリエール?」 多くの生徒及び関係者がそれぞれ故郷や実家に帰る魔法学院の夏期休暇も半分が過ぎた。もう二週間もすれば再び学生として勉学と友人関係に奔走する日々が溜息を漏らしたルイズにとっても始まる事になる。 そんなルイズを心配そうな目で見るのは学園に残って仕事に勤しむシエスタだった。夏期休暇が始まると同時にミントと共に何処かに行っていたと思えばつい先日、何やら酷く疲れた様子で戻ってきたルイズ。 中庭で何やら重要そうな羊皮紙の束を手にしたままシエスタが煎れた紅茶を口に運んだと思えばルイズはしばらくその味と香りを吟味した後で眉をしかめたままティーカップを空にした。 「シエスタ。」 「は、はい。」 唐突に呼ばれ、シエスタはドキリとした…傍目から見てルイズのご機嫌は悪いと言える。具体的に言えばそれは何かに悩んでいながらその解決策も分かっているのに現状どうしようも無い状況に置かれて居る様な… 「紅茶、おいしかったわごちそうさま。」 「いえ、そんな…お粗末様です。」 ルイズから掛けられた意外な言葉にシエスタは目を丸くする。学院に勤めて居る以上貴族の子息の世話を長い事しているが紅茶一杯にこんなはっきりとした感想を与えられた事など初めてかも知れない。 そんな事を考えるシエスタを他所にルイズは再び難しそうな表情で書類をめくる…いけない事だと思いながらもついつい視線を向けたシエスタの視界の隅、その書類には王家の刻印が映されていた。 それを見て動揺しているシエスタに気づきながらもそれを気にした様子も無く、ルイズは書類をめくりながら独白気味に呟く… 「つい最近ね、色々あって初めて自分でも紅茶を煎れてみたわ。知識としては正しい紅茶の煎れ方は知ってたけどいざ自分でやってみると全然駄目ね。香りは飛ぶわ味はしないわ…改めて思うけど私達はいつもあんた達に助けられてるのね。感謝してる…」 「そんな…ミス・ヴァリエール…勿体無いお言葉です!」 果たしてこの言葉を聞いたのがマルトーだったらどうなっていた事か…ルイズのそこらの傲慢な貴族ならば絶対にしないであろう発言にシエスタは感激の余り、両手で口元を押さえて両の目を涙で潤ませた。 「シエスタ、ここだけの話、近くトリステインはゲルマニアとの連合軍でアルビオンに攻め入ることになるわ…戦争が始まるの。私が今読んでるこれはね、私とミント…だけじゃ無いでしょうけど私達が調べ上げて姫様が捕らえた裏切り者の売国奴のリストなの。」 と、まるで何でも無い様に言うルイズの言葉にさっきまで感動でむせび泣いていたシエスタが硬直する。とてもじゃないが一平民のメイド風情が耳にしていい話では無い。 「いくらメイジとしての才に恵まれようと、いくら名門の家柄に生まれようと貴族にもどうしようも無い屑がいるものね。そうそう、今言った話はまだ秘密だから誰にも言っちゃあ駄目よ。」 「解りました。あ、あの…ミス・ヴァリエール…この数日にあなたに一体何があったのですか?」 ルイズの発言に戸惑いながらもシエスタは問い掛ける。明らかにここ数日でルイズの身に何か価値観すらひっくり返る様な出来事があったはずなのだ… そのシエスタの問いにルイズはまさかこんな質問をされるとはと、一瞬驚きはしたが余裕を持った微笑を浮かべて答えるのだった… 「別に、何も無いわ。ただミントと一緒にね、平民のおっさんにセクハラされながらお酌して、お皿を洗って、失敗して、怒って、笑って、寝て、食べて、そんな誰でもやってる当たり前の事をちょっとだけ経験してきただけよ…」 ルイズはそう言って思い出し笑いなのか屈託無く笑う…シエスタは困惑気味に首を傾げたがルイズが皮肉気味に「これ以上は平民が知ろうとする様な事じゃないわ。」と言うとハッとした様に慌てて姿勢を正したのだった。 ____ 魅惑の妖精亭を中心とした諜報活動の結果、大勢の貴族の不正の実体やアンリエッタへの評判、戦争への平民視点での意見等々非常に多くの有益な情報をルイズはアンリエッタへと届ける事が出来た。 徴税官の一件でミントには不正を行う貴族を懲らしめてくれる貴族というイメージが定着しているのかその手の情報が勝手に向こうから寄ってくる上、スカロンの情報網は平民関連に関してはこのまま国の機関としてもやっていけるのではと思える程の物だった。 結果として、あくまで知識としてしか知らなかった平民の暮らしを実体験した事はルイズにとっては貴重な経験となっていた。 また、ルイズとミントがそんな事をしている間にアンリエッタは銃士隊を効果的に指揮を執り、また自身を囮にする事で高等法院長リッシュモンという大物の逆賊を捕らえる事に成功していた。 結果として二人の諜報活動とアンリエッタのネズミ狩り作戦の成功から得られた様々な情報を吟味したアンリエッタはアルビオンへの侵攻作戦を行う事を決定した。 ____ 魔法学園 ルイズが丁度午後のティータイムを楽しんでいる時間、魔法学園の正門前に2台の馬車が到着していた。 平民とは思えぬ程、何処に出しても恥ずかしくない立派な身なりをした御者が引く馬車に刻まれているのはヴァリエールの家紋。必然、その馬車に乗っている人物の素性は極限られた物となる。 「…全く…おチビったら夏期休暇になっても帰って来ないどころか連絡も寄越さないだなんて良い度胸してるわ…これはきつ~いお仕置きが必要ね。」 馬車から降り立った女はそう愚痴りながらも長くウェーブの掛かった金髪を掻き上げると久しぶりに訪れた懐かしき学舎を見上げながら不機嫌に厳しく吊り上がった目を細める。 「御者、ルイズを連れて戻りしだい直ぐに真っ直ぐヴァリエール領に向かうわ。出発準備をしておきなさい。」 「は!畏まりました、エレオノール様。」 毅然とした口調での命令を受けて御者は女、ルイズの実の姉であるエレオノールに姿勢を正して答えたのだった。 人が極端に少ない魔法学園の中、しばらくルイズを探してエレオノールがツカツカと石畳の上を歩いているとふとエレオノールは視線の先に一人の少女の姿を発見した。 服装はメイドでは無く中々仕立ての良さそうな、かといってマントを羽織っている訳では無く杖も持っていない。その姿にエレオノールは学園関係の私服の平民なのだろうと当たりを付けて声をかける事にした。 「ちょっと、そこの平民。ルイズ・フランソワーズを探しているんだけど、どこに居るか知らないかしら?」 エレオノールとしてはいつも通り、他人からすれば高圧的な物言いに声を掛けられた少女はキョロキョロと周囲を見回して誰も居ない事を確認するとようやくエレオノールの言う『平民』が自分を指しているのだと認識して少女ミントはエレオノールに向き直る。 「何?ルイズに何か用?あいつならさっきから中庭でお茶してたわよ。あたしも今からルイズの所に行くつもりだったから何なら案内してあげるけど?」 ミントはいつもと変わらぬ態度でエレオノールに数歩歩み寄る。ハルケギニアに来てから平民に間違われた事等もはや数えてすらいないいつものなので今更気になどしない。 エレオノールはミントの気安い態度に露骨に眉を寄せて厳しい視線を無言でぶつける。 まぁ常識的に考えてこの態度、やはり目の前の少女は私服に着替えた学園の生徒だったのだろうとそうエレオノールは結論づけた。平民呼ばわりされた事で怒っているのだろうか、でなければ目上の貴族に対するこの不遜な態度は説明がつかない。 「あなた…ルイズの友達?…まぁ良いわ、折角だから案内して頂戴。」 「オッケ~、じゃあ付いて来て。」 「あ、こらっ待ちなさい!!」 貴族として余りに態度の悪いミントの様子に魔法学園の品位の失墜を感じたエレオノールが額に手を当てていると、そんな事は構う物かとミントが踵を返して走り出した。 エレオノールはしょうが無いので慌ててミントを見失わない様に追いかけるのだった… ____ 魔法学園 中庭 「お~いルイズ~、あんたにお客さんよ~。シエスタ、あたしにも紅茶煎れて頂戴。」 程なくして学園の中庭に辿り着き、ルイズ達を発見してミントはその傍に駆け寄ってシエスタに紅茶を要求する。シエスタもそれを了承し、慣れた手つきで紅茶を煎れるとついでにミントの言うお客さん用にもう一杯を直ぐに注げる様に支度する。 「客?いったい誰なの…げげっ!!!」 ミントの言葉に手にした書簡から視線を起こしたルイズはミントから遅れてこちらに向かってくる人物、エレオノールの姿をみとめて思わず上擦った声を上げる。 エレオノールも同時にルイズの姿を発見したらしく、歩くスピードを一気に上げるとドシドシという効果音が付く様な力強い歩調でルイズ達の元に歩み寄った。 「お久しぶりね、ちびルイズ。実家にも帰って来ずに随分と夏期休暇を堪能しているようね~。」 「エ、エレオノールお姉様……い、痛い痛いれふぅ!!ごめんなしゃいっ!」 久方ぶりの姉妹の再会はエレオノールがルイズの頬を抓り上げ、ルイズがそれに涙目で許しを請うという形で果たされた。 ミントはその二人のやり取りをみてエレオノールが以前ルイズから聞いていた自分の苦手な姉なのだと察し、シエスタは自体が飲み込めずオロオロとしていた。 頬を赤く染め、涙を両目に浮かべるルイズの姿に威厳は既に無く、ついさっきまで名家の有能な貴族然としたカリスマを放っていた筈のルイズの姿が途端に幼い少女の物となる。 そうしてエレオノールはようやくルイズを解放すると相変わらず涙目のルイズに二言三言小言を言うと直ぐに自分がここを訪れた訳を説明したのだった。 エレオノールの話を要約すればルイズはミントを召喚してから一度も実家に顔を見せて居らず、アカデミー勤めのエレオノールが実家に戻るついでにルイズを回収に来たのである。 「さて、それじゃあ正門に馬車を待たせているから早速行くわよ。それとそこのメイド、あなた道中のルイズの身の回りの世話係りとして一緒に来なさい。」 「えぇ!?わたくしがですか?」 突然のエレオノールの命令にシエスタは目を丸くする… 「何かしら?何か文句がおあり?」 「い…いえ、とても光栄です。」 「そう、良い心がけだわ。」 エレオノールの有無を言わせぬ迫力にシエスタは唯納得するしか無い。まぁルイズの身の回りの世話は自身としても願い出たい所ではあったが。 「さて、後は…ルイズ、貴女が春に召喚した使い魔を連れてきなさい。話位には聞いているわ、何でも随分変わった使い魔だそうね。」 終始エレオノールのペースで進められるやり取りの中、遂に使い魔に関する話題が飛び出した事でルイズの身体が緊張でビクリと跳ね上がりそうになる。ルイズが実家に送った手紙では使い魔についてはまさか異国の王女とも言えずあくまで異国のメイジだとしか伝えていない… 家を離れているエレオノールの耳に届いている情報がどんな物かはルイズには分からないが先程の言いぐさからは本当に珍しい使い魔だと言うぐらいしか聞いてはいないのだろう。 「あ、それあたしの事よエレオノール。」 と、ここで黙って一連のやり取りを見つめていたミントは話題がルイズの使い魔の事に移行したので早速エレオノールに名乗り出たのであった。 「なっ!!??」 ____ 街道 「それにしても…突然でしたね。」 「全くよね…それにしてもあのルイズのお姉さん、ルイズに輪を掛けてきつい性格してるわね~、あれは絶対行き遅れるタイプよ。」 ヴァリエール領への街道を行く揺れる馬車の中、肩を竦ませて言ったエレオノールを表するミントの一言にシエスタは吹き出しそうになるがそれを何とか堪えて肩を震わせ顔を赤くする。 結局あの後、自分を呼び捨てにしたミントに対して烈火の如く怒り、怒鳴り散らしたエレオノールは結局そのままの勢いでメイジが召喚される訳は無いという根拠の無い確信からミントを平民だと思い込んだまま学園を発っていた。 エレオノールとルイズ、ミントとシエスタという組み合わせで乗り込む事になった馬車の中でルイズは非常に気まずい心持ちのまま苦手な姉エレオノールの対面で小さくなっていた。 「全く、使い魔への礼儀作法すら仕込めていないだなんてあんたはそれでもヴァリエールの家名を背負う者なの?」 「申し訳ありません。」 最早本能的にエレオノールに逆らえないルイズは項垂れる様にエレオノールに頭を下げる。 (あぁ…今更言える訳が無いわ…ミントが異国の王女で凄腕のメイジだなんて…それにあのお母様は何と仰るか…) 「聞いているのおチビっ!!!」 「ひゃいっ!!申し訳ありません!!」 目の前に迫る切実な大問題にエレオノールの説教を聞き流していたルイズの耳にエレオノールの怒鳴り声が響き、結局ルイズの中で渦巻く問題は一切解決の目処を見せぬまま、馬車はヴァリエール領へと辿り着いたのであった。 ルイズの実家であるヴァリエール領は隣国ゲルマニアとの国境沿いにあり、またヴァリエール家は王家と祖を同じくするトリステインの中でも最高位の名家である。 その本邸ともなればそれは最早立派な屋敷と言うよりは城と言った方が正しい程であった。 「「お帰りなさいませ。エレオノール様、ルイズ様。」」 一行が玄関をくぐりホールへと足を踏み入れるとそこには無数の従者が一切の乱れなく整列し、一斉に頭を垂れてエレオノールとルイズを出迎える。無論、その直ぐ後ろにいたミントとシエスタもそれぞれ客人として長旅の労をねぎらう様に声をかけられたのであるが。 と、そんな使用人の花道の先にある階段から一人の女性がゆっくりとルイズ達の元に近寄ってきているのにミントは気づき自然と視線はその女性へと向く。 「久しぶりですねエレオノール、ルイズ。」 鋭い眼光、厳しく威厳に満ちた中に見え隠れする優しげな声色。この女性こそルイズ達の母親であるカリーヌであった。 「お久しぶりでございます母様。戻るのが遅くなって申し訳ありません。」 言ってルイズは完璧な所作で傅いて母親へと挨拶を返す。ミントからすれば何とも堅苦しい母親との挨拶に久しぶりにここが流石に異世界であると言う事を強く感じる。 「えぇ。長旅で疲れたでしょう?晩餐の時間までゆっくりと休みなさい。…所で後ろのお二方はどなたなのかしら?一人はメイドのようですが?」 カリーヌの視線を受けてルイズが一瞬たじろぎ、シエスタはあまりの緊張に完全に固まってしまっている… かたや、はっきりと視線を交差させたミントはルイズの母カリーヌから凄まじい力の様な物を感じながらも怯むのは癪なので戸惑う事はせずむしろ堂々とした態度をとり続ける。 「紹介致します。このメイドは学園のメイドで普段私の身の回りの世話をよくしてくれているシエスタです。道中の連れ添いの為に連れてきました。」 ルイズはまずシエスタを簡単に紹介した。それに合わせてシエスタも多少ぎこちないながらもスカートの裾をつまみ淑女として恥ずかしくない態度で頭を下げる。 「そして、彼女が私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出しました…遙か異国のメイジのミントです。」 緊張でカラカラになった喉から絞り出す様にルイズは母に事実を伝える… 母は昔からルイズへのお仕置きにはその強大な魔力から放たれる圧倒的な風の魔法を使用してきたのだがそれは最早ルイズにとってのトラウマでしかなかった… 一方母カリーヌはそのルイズの言葉に対して驚愕で目を僅かに見開くともう一度堂々とした態度で自分を見上げているミントを見つめ返す。 (成る程…彼女があの噂の…) 「はぁっ!?あなたメイジだったの?杖も持っていない上にマントも纏っていないじゃない!!」 詰め寄るエレオノールの驚愕の声と共に当然ヴァリエールの使用人達の間にも響めきがあがり驚いた様子が覗えた… 「お止めなさいエレオノール、それがヴァリエールの家の人間の振る舞いですか。ミス・ミント、あなたの複雑な事情はわたくしも陛下から公爵を通じ聞き賜っております。」 カリーヌの言葉にルイズとミントは驚いた表情を浮かべた。カリーヌの言い方であればどうやらミントの素性は既に伝え聞いている上でここでは無闇な拡散を防ぐ意図があるようだとミントは判断する。 「えぇ、事情を察してくれているのなら助かるわカリーヌさん。」 ミントは軽くおどけるように言って肩を窄めると微笑んだ。 「ちょっ!?」 同時にルイズはミントの母カリーヌに対しての「さん」付け呼称に肝を冷やす… 「あの、母様ミントは遠い国から来たもので少々礼節がなってないと言うか…何というか…」 「………うっさいわね…」 「ルイズ、それは文化の違い故でしょう?問題ありません…」 カリーヌはミントの砕けた態度に一瞬驚いた様子を見せたが意外にも寛容な反応を示す…が、それは気のせいだった。 「…折角ですからミス・ミントにはこれから数日、わたくしの指導の下、トリステインの貴族としてのマナーを学んで頂きますから。」 微笑んだカリーヌの言葉にミントは純粋な面倒を感じ、ルイズは幼き日々のスパルタ教育のトラウマを想起してしまうのであった… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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「そういえば、あなた名前は?」 召喚した少女を連れて自分の部屋に戻ってきたルイズは、ドアを閉めて大きく伸びをすると、少女に向き直った。 儀式を失敗し続けたせいで疲れきっていたため、すぐにでも寝たかったが、やっぱり名前ぐらいは聞いておくことにしたのだ。 「・・・なまえ?」 少女は澄んだ瞳でルイズを見つめている。 「いくら平民でも、名前ぐらいある・・・わよね?」 一応“使い魔”なので、ルイズが自分で名づければいいのだが、本名も知っておくにこしたことはない。 呼びやすいものならそのまま使えばいいし。 「グゥです」 「グゥ?一応聞くけど、それってあだ名とか二つ名じゃなくて、本名?」 「はい」 “グゥ”がにっこりと笑って返事をする。 ルイズは何故かその笑顔にドキッとした。 ちょ、調子狂うわね・・・ 変わった名前、語呂はともかく二文字って短すぎない?平民だから? 「わたしはルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズって呼んでくれていいわよ、グゥ。 あなたはわたしの使い魔として“サモン・サーヴァント”で呼ばれたの。 今日からはここ、トリステイン魔法学院女子寮のこの部屋があなたの家よ」 「ルイズ・ド・ラ・・・ヴァリエール・・・・・・ルイズ・・・・・・よろしく、ね」 「ええ、よろしく」 ルイズは改めてグゥを眺めた。どう見ても子供だ。おガキ様だ。しかも平民の。 それにしてもいきなり召喚されたというのに、そのはにかんだような笑顔からは悪意も動揺も感じられない。 実は凄く剛胆な性格なのかもしれない。 そしてやたら可愛い、まあ可愛いのはもちろんいいんだけど。 この子、使い魔としては何ができるのかしら? 使い魔になれば普通、ちょっとした集中で視聴覚等の共有ができる(と教わった)が、少なくとも今は全くできない。 秘薬とかの材料を集めてくるとか・・・集め・・・あつ・・・。 いくらなんでもそれは無理がある。 そして、使い魔は主人を守ると聞く。 現状どちらかと言えば、ルイズの方がグゥを守らないとまずそうな雰囲気である。 ならわたしの身の回りの世話でもさせてみようか。 ちゃんとできるのかしら?この子、10歳?それとも9歳なの?うう・・・。 ・・・明日以降、ゆっくり考えよう。 ルイズはとりあえず考えることを放棄してグゥに声をかけた。 「今日はもう疲れたし、寝ましょうか。このベッド一応ダブルだし、わたしの隣でいいわよ。 そうそう、わたしより早く起きたら、起こしてね。じゃ、おやすみ」 「はい、おやすみなさい」 相変わらずの笑顔で頷いたグゥは、すぐに軽い音を立ててベッドに滑り込んだ。 ルイズもパジャマに着替え、それに続いた。 翌朝。 誰かがルイズの頭をぺしぺし叩いている。 「うーん、何よ、もう朝?っていうか誰?」 そういえば、昨日使い魔を召喚したんだっけ、なんかやたら可愛い子を。 「ふぁあ、おはよう、グゥ・・・」 「おはよう・・・」 背後から子供にしては妙に低い、呟くような声がする。 グゥってこんな声だったかしら? 「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!あ、ああああああ、あんた誰よ!」 ルイズが振り返ると、そこにはなんとハの字眉に三白眼で、その上強烈な威圧感を全身から発する謎の子供が立っていた。 「グゥだが」 そそそそんなわけあるか、昨日の子とは何もかもが違う。 それ以前にこいつどこから入ってきたの?ねえここの警備ってザル!? 「いやあんたマジで誰!グゥはどこ行ったの!ねえ!ねえってばあああああ!」 ルイズは絶叫した。 途端、部屋のドアが猛烈な勢いで開き、燃えるような赤い髪の女が飛び込んできた。 「ルイズあなたねえ、何早朝から叫び声上げてんのよ!迷惑にも程があるわ!」 「なな、何でキュルケがわたしの部屋に?」 「自分のその小さな胸に聞いてみなさいよ。それより何、どうしたの?」 「小さなって失礼ね!あんたのが無駄に大き・・・」 はっ、今はこいつの軽口にかまっている暇はないんだわ。少しでも情報を。 「わわわわたしの召喚した使い魔がいないのよ!」 「何を言っているの?あなたが昨日召喚した子はそこに居るじゃない。 いくら平民を召喚したからって、現実逃避はよくないわ“ゼロのルイズ”?」 ルイズの頬が怒りで朱に染まった。 「あんたこそ何言ってるのよ、“これ”と昨日呼んだ子は全ッ然!何ひとつ一致してないわ!!!」 キュルケがかわいそうなものを眺めるような表情でルイズを見つめる。 「じゃあ、あなたの言うところの昨日召喚した使い魔ってどんなのよ?」 「えーと、肌が白くって」 「白いわね、透けるみたいに」 「あんまり見ない顔でー」 「そうね、少なくともトリステイン人じゃないわね」 「小柄で痩せてる・・・」 「小柄で痩せてるわよ?いい加減現実を見なさい」 ああ・・・でも違う・・・違うのよ・・・ ルイズが頭を抱えてうずくまる。キュルケは溜め息をついた。 そのとき、キュルケは昨日ルイズが召喚したという少女がドアの外、自分の背後を興味深そうに見つめていることに気づいた。 そこには、キュルケの使い魔である幻獣サラマンダーが待機している。 「あなた、お名前は?」 「・・・グゥです」 「ふうん、変わった名前ね。わたしは“微熱のキュルケ”。グゥちゃん、わたしのフレイムが気に入ったの?」 グゥはこくこくと頷く。 「もしかしてあなた、主人よりものを見る目あるんじゃない? この子は火竜山脈のサラマンダー。強いし、高いのよ」 「・・・すごいですね」 「・・・すごいわよ。さて、ルイズも静かになったみたいだし、わたしはもう少し寝るわ、お先に失礼。またね」 キュルケはひらひらと手を振ると、パタンとドアを閉め自室に戻っていった。 「さよなら」 グゥも手を振った。しかし。 「ふぅ」 グゥがいきなり溜め息をつき、無愛想に戻る。 そのやりとりを呆然と眺めていたルイズは開いた口がふさがらない。 「あなたが確かにグゥだってことはわかったわ」 「・・・」 それが判ったところで、神経をすり減らすような無言の威圧感が軽減されるわけではまったくなかったが。 使い魔として何ができるか以前に、どうコミュニケーションを取るかということが当面の課題となりそうである。 「ね、ねえ、なんで顔・・・変わるの?」 グゥの変貌度たるや、水+風の魔法“フェイス・チェンジ”に匹敵する。 しかし、少なくともルイズにとっては魔法を使っているように感じなかった。 「これ?」 再びグゥの顔が愛想のいい美少女に変化する。 「そう!それよ!」 「特技。・・・営業用?」 瞬時に顔を戻したグゥがぽつりと呟いた。 「そ、そう。あんまりにも怪しいから、できるだけやらないでね・・・」 起き抜けにひどい精神ダメージを受けたルイズには、そう言うのが精一杯だった。
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前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) トリステイン魔法学院で執り行われた春の使い魔召喚の儀式から明けた朝――ふがくは 自分を取り巻く景色が変わっていないことにちょっとした絶望感を味わっていた。 「……あーあ。目が覚めたら『元の世界』に戻ってた、なんて期待した私がバカだったわ……」 ふがくは学院女子寮の屋根の上で、目に映る景色に大きくため息を漏らす。夜空を 彩っていた天空に浮かぶ蒼紅の双月は今は見えないが、昨日激しい痛みで叩き起こされて からのことがすべて現実だとそろそろ認めなくてはならないとも思い始める…… ――『ダイニッポンテイコク』?聞いたことないわね。どこの田舎よ?―― ――元に戻すなんてできないわ!『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけだもの―― 昨夜、ルイズと名乗った桃色髪の生意気な少女が言った言葉がこれだ。 「火」「水」「土」「風」そして失われた「虚無」と呼ばれる系統に分けられた「魔法」のこと、 そして「メイジ」と呼ばれる貴族階級の存在。貴族については大日本帝国にも存在しているので ことさら驚きはしなかったが、「魔法」についてはちょっとだけ驚いた。「鋼の乙女」と呼ばれる 兵器である自分が生み出されたのはあくまで「科学」という技術。魔法なんてものは子供向けの 空想漫画くらいにしか出番はないはずなのに、ここではそれが全くの逆になっている。 しかし、ふがくが愕然としたのはそれらのことではなかった。 ――あんたはわたしの『使い魔』なのよ?ご主人様の命令ならどんなことでも喜んでする……『犬』なのよ!―― ……冗談じゃない。ふがくは思い出すだけで腹の立つ思いを無理矢理抑え込む。結局 お互い平行線のままふがくが窓から飛び出して――今この有様だった。 一方、鬱屈としたまま眠りについたルイズは……本来ならば心地よいはずの朝に目覚めた後 でも変わらない部屋の光景に、悲しさを覚えずにはいられなかった。 「……やっぱり戻ってない……いったい、わたしが何をしたって言うのよ……」 自覚がない、ということは素晴らしいことでもある。昨夜自分が呼び出した使い魔が飛び 出したままで半開きになった窓もそのままに、ルイズはもそもそと着替え始めた。 「……まったく、なにやってるのよ。使い魔のくせに……」 思わず口に出る。けれど、それで何が変わるわけでもなく、ルイズは重い足取りのまま 朝食に向かうことになった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝 いたします――」 いつものように祈りから始まる朝食。卓上には大好物の焼きたてのクックベリーパイと 肉がたっぷり入った子羊のスープ。けれど、ルイズの心は晴れなかった。 理由は単純。使い魔がまだ戻らないからだ。結局アルヴィーズの食堂までの廊下でも 見つかることもなかった。 「……どこに行ったのよ、まったく」 「おはよう!ルイズ。……あら?あの使い魔はいないの?」 落ち込むルイズにかけられる声。声の方向に顔を向けると、そこにはルイズと正反対に 豊満なスタイルを隠すこともない赤い髪と褐色肌の長身の女生徒と、まだ眠いのか開いた 本を手にしたままあくびを隠さない青い髪に雪色肌の小柄な女生徒がいた。 「むっ。キュルケ……」 声の主に対してルイズは露骨にいやな顔を向ける。その様子に何か思い当たる節が あるのか、赤い髪の女生徒、キュルケはにんまりと微笑んだまま言葉を続ける。 「昨日の様子からして、もう逃げられたの?せっかく呼び出した使い魔さえ御せないなんて、 さすがルイズね」 「ち、違うわよ!フガクは……」 そう。ヴァリエール家にとって不倶戴天の敵ともいえる、隣国ゲルマニアの有力貴族 ツェルプストー家のキュルケはどんな運命のいたずらなのかルイズの隣室なのだ。昨夜の どたばたの一部始終を聞かれていたとしても不思議ではない。もっとも、聞きたくなくても 聞かれてしまうくらいの大声だったことにも問題はあるのだが…… 「ふうん。昨日はよく聞き取れなかったけれど、『フガク』っていうの、あの使い魔。タバサの ウィンドドラゴンもすごいけれど、フガクもかなりのものだったわね。一度競争させて みたいけれど」 キュルケに話を振られた小柄な女生徒、タバサはそんな話には興味がないとばかりに 小さな声で言葉を紡いだ。 「朝食……早く……ちこく……」 「そうね。ルイズと遊んでいる暇なんてなかったわね。 ちょっと!お茶ちょうだい」 タバサの言葉にキュルケはルイズが座っていた席に腰を下ろして近くにいた黒髪のメイドに 声をかける。その際ルイズが何か言っていたがキュルケは華麗にスルーした。 かくしてルイズが決して綽然とした、とはいえない朝食を摂っていた頃、ふがくは、といえば―― 「……うぅ。おなかすいた……」 ――召喚されてからこのかた何も食べていなかったため、女子寮の屋根から落ちそうに なっていた。 ふがくのような『鋼の乙女』は、元兵器に準じた燃料――たとえば超重爆撃機型のふがくの 場合はガソリン、中戦車型のチハの場合は軽油、戦艦型のやまとの場合は重油などの 定期的な摂取を必要とするが、それ以外にも変換効率は落ちるが普通の食事を摂ることもできる。 もっともそれ以外にもオイルや弾薬など機能維持のために必要なものがあるが、 その入手方法などについて気が回せるほど、今のふがくには余裕がなかった。 「アイツ、大日本帝国のことを『田舎』なんて言ってくれたけど、トリステイン王国、だっけ、 こっちの方がど田舎じゃない。飛行機どころか自動車もないなんて、信じらんない」 ふがくは昨夜のルイズとの会話を思い出して憤るが、それがまた空きっ腹に響く。いくら 長大な航続距離を誇ってもガス欠ではどうしようもない。 そんなふがくに、下から声がかかる。見ると、昨日の頭の寂しい眼鏡の中年教師――確か ミスタ・コルベールと呼ばれていたような――がそこにいた。 「……私に何か用?」 「おお、気づいてくれましたか……えー」 「ふがくよ。それで、何か用?」 「フガク君か。すまないが、君の左手のルーンをもう一度見せてもらおうと思ってね。 ミス・ヴァリエールとは一緒ではなかったから探していたんだ」 「私は『ふがく』よ。『フガク』なんて呼んだら承知しないわよ」 ふがくは言いつつ屋根からコルベールのいる場所に降りる。わずかな発音の違いだが、 ふがくには何故かそれを許容できなかった。またふがくの背中の翼から響く6発のエンジン音の コーラスにコルベールは興味を引かれ最初の話もどこへやら、となりかけたが、これは ふがくが本道へ戻す。 「そ・れ・で?私の左手が見たいんじゃなかったの?ミスタ・コルベール?」 「……いや、失礼。と、いつ私の名前を言いましたか?」 「昨日私の前でアイツが呼んだでしょう?ぼんやりとだけど覚えてたから……間違った?」 「いえ。合ってますよ。しかし、ミス・ヴァリエールを『アイツ』とは、感心できませんね」 そう言って、咎めると言うよりは諭す視線でふがくを見る。身長差からどうしても コルベールがふがくを見下ろすことになるが、ふがくは気にも留めなかった。 「そう言われたくなければそれなりの態度を示してほしいわね」 「はは、私からも注意しておきましょう。それでは……」 そう言ってコルベールはふがくの手を取りルーンをスケッチする。そのとき、ふがくの おなかがかわいらしい音で鳴いた。 「うぅー……」 「ミス・ヴァリエールは君に食事の用意もしていなかったのか……その様子だと私たちと 同じ食事でよさそうだね。 ……アルヴィーズの食堂はもう昼の準備に入っているかな。案内するから何か作って もらうといい」 「え?それはうれしいけど……何か裏はない?昨日とはずいぶん扱いが違うんだけど」 ふがくが言う。昨日のように人の意見を聞かない扱いであれば、そもそも地面からふがくを 呼ばないで直接屋根まで飛んできて左手をつかんでいたことだろう。それをせず、しかも 昨日と違ってふがくのことを名前で呼ぼうとしている。これだけあからさまでは何か裏が あると思うのが普通だろう。 「あはは……いやぁ、確かに、ふがく君、という発音でよかったかな?君の持っていた杖を 始め君自身についても興味は尽きないけれど……」 「けれど?何?」 「……まず、ふがく君、君が話の通じる相手だと思っていること。そして、何よりミス・ヴァリエールが、 先ほど授業に遅れそうになるのもかまわず君を捜している姿を見ましてね。さすがに 女子寮の屋根にいるとは思っていなかったようですが、ふがく君のことをずいぶんと気に しているようでした。その証拠に……ほら、ミス・ヴァリエールの部屋を見てご覧なさい」 コルベールはそう言って女子寮を指さす。すると、授業中で誰もいない女子寮の一室、 そこの窓だけが開いているのが見えた。 「ルイズの部屋の窓が……開いてる?」 「君がいつ戻ってきてもいいように、ですよ。ミス・ヴァリエールは意固地なところもありますが、 決して悪い人間ではありません。ですから……」 コルベールがそこまで言ったとき、どこかから大きな爆発音が響いた。 「……今のは?爆撃?」 「向こうの塔です!おそらく、ミス・ヴァリエールが魔法をしっぱ……」 コルベールが言葉を言い切る前に、ふがくは空腹も忘れてエンジン音も高らかに空に 舞い上がっていた。上空から学院を見ると、確かに中央のひときわ高い塔を囲む5つの 塔の一つから煙が上がっている。爆風が抜け破れた窓からふがくが飛び込むと、そこは 煤と埃にまみれぼろぼろになった教室。その爆心地と思われる場所に煤まみれになった ルイズが放心状態で座り込んでいた。 「……ルイズ!」 ふがくがルイズに駆け寄る。煤まみれで服もぼろぼろだったが、体はかすり傷すら負って いない。近くにおとぎ話の魔女のような格好をした中年女性が目を回して倒れているが、 こちらも命には別状ないようだった。 「あ?フガク?えっ……と。ちょっ……と。失敗……しちゃったみたい……ね?」 「昨日も言ったでしょ?私は『ふがく』だっ……て……?」 ルイズがポケットからハンカチを取り出しながら言う。その言葉に爆風で倒れた机から 這い出した生徒たちがふがくの言葉をかき消さんばかりに次々と口なじる。 「どこが『ちょっと』失敗だ!」 「いい加減にしろー!」 「いつだって成功の確率『ゼロ』じゃないか!」 「魔法の才能ゼロのルイズ!」 次々と投げつけられるそれらの言葉にふがくも面食らう。いったいどういうことなのか? ルイズを見ると、顔の煤と埃を拭きながら頬を赤らめごまかすような表情をしていた。 「なんなのよ、これ……?」 ふがくの疑問に答えてくれる人間は、今この場にはいなかった。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ドアを開けて部屋に入ってきたのは、この部屋の主であるルイズであった。 彼女は手に先程の授業で使用した教科書を出入り口の側に置いてある小さな台に置き、二人の方へ近づいていく。 「あらマリサ、あんたレイムと一緒にお茶を飲んで……た…」 ルイズの口から出た言葉、魔理沙と霊夢の間にあるテーブルの上に置かれたクッキーを見て、言葉が止まる。 既に何枚かが開かれた箱の中から取り出され、うち一枚の片割れが魔理沙の手の中にあったのも、見逃さなかった。 勘が鋭い霊夢はルイズの様子が豹変したことに怪訝な表情を浮かべたが、魔理沙はそれに気づかないでいる。 「おぉルイズ!もう次の授業か?次は耳を引っ張ったり殴ったりしないでくれよな」 ペチャクチャと喋りながら体が止まったルイズの側へと近づき、新たに箱から取り出したクッキーを一枚差し出す。 ルイズはというと、差し出されたクッキーに視線を向きながら抑揚のない声で、魔理沙に質問してみた。 「ねぇ魔理沙…このクッキー入りの箱は…何処で―――誰が―――見つけて――勝手に開けたのかしら?」 ルイズの質問に、魔理沙はすぐに応えた 「ん?あぁさっきそこの戸棚を開けた霊夢が見つけたんだよ。それで丁度いいお茶菓子だって…」 「私、ちょっと外でも飛んでくるわ」 良くも悪くも口の軽すぎる魔理沙の喋っている最中、霊夢は席を立った。 ここにいては危険だ―――長年の戦闘経験から、ここにいては面倒くさいことになると感じ取ったのである。 席を立った彼女はそのまま早足で歩いて窓から飛び立とうとしたが、ルイズの方が速かった。 霊夢が逃げようとしたのを感知したルイズは、すぐさま近くにあった箪笥の中から、乗馬用の『特殊な』縄を取りだした。 小さく、可憐なルイズには全く似合わないその縄を、彼女は勢いよく振り回し始めた。 数秒も経たずに縄はフュンフュンと空気を切り裂くような音を部屋中に響かせる。 一方の霊夢は窓の方にたどり着いたが鍵が掛かっており。その時点でもう霊夢の敗北は確定していた。 一秒― 「とりゃ!」 勢いのあるルイズの声と共に、振り回していた投げ縄を霊夢の方に向けて飛ばした。 二秒―― 窓の鍵を開けて逃げようとした霊夢の背中に―に、縄の先端が当たった。 三秒――― 瞬間、縄がボゥッ…黄色く光り輝くと、まるで大蛇の如く縄が霊夢の体に巻き付いた。 四秒―――― 「クッ…!」 魔力の篭もった縄に体を拘束された霊夢は、自分の霊力を使って縄を解こうとしたが、時既に遅かった。 五秒――――― 霊夢の体が縄に巻かれたのを瞬時に確認したルイズは懐に手を忍ばせ、ある物を取り出した。 「あぁ…っ!?それ私の…!」 ルイズが何を取り出しのか見ていた魔理沙が目を見開いた瞬間、ルイズはそれを投げた。 六秒―――――― 「でッ…!!?」 投げられた゛物゛は、一寸も狂うことなく、隙を見せていた、霊夢の――額に命中した。 七秒――――――― ゴ チ ン ! ! 金属から造られたそれは、霊夢の気を失わせるのには丁度良かった。 コン!カラカラ…と投げた物が床に落ちてコロコロと何処かへ転がっていく中、ドサッと倒れる音も聞こえてきた。 流石の博麗の巫女もあれにはたまらなかったのか、情けない表情を浮かべて気絶していた。 ここまで、七秒。僅か七秒である。 「うぉっ…あの霊夢がいともカンタンに…っていうかルイズ、いつ私の八卦炉を盗んだんだよ?」 倒すべき存在を倒し、一息つこうとしたルイズの耳に魔理沙の質問が飛び込んできた。 そちらの方へ顔を向けると、いつも笑顔を浮かべているような彼女が驚きの表情を浮かべている。 だが無理もない、何せあの博麗霊夢がたった一瞬の隙だけで、この様な目にあってしまったのだから。 「盗んだですって…?人聞きの悪い。私はアンタが殴られた時に手から落としたコレを、拾っただけよ」 いつの間にか自分の足下に転がってきたミニ八卦炉を手に取りながら、ルイズはそう言った。 ルイズの言葉に、魔理沙はその時の事を思い出した。 (そういや確か…気を失う直前に八卦炉が手からポロリと滑り落ちたような気が…) 心の中で魔理沙が思い出した時、ルイズは一息ついてこう言った。 「それに…゛盗んだ゛のは貴女と霊夢の方じゃないかしら、マリサ?」 「は?どういう事だよルイズ。私は盗みなんかしないぜ」 ただ借りてるだけさ。と最後に一言付け加えるが、ルイズはそれを気にせず話を続ける。 「私ね、部屋のあちこちに特別な日に食べたいお菓子を幾つも部屋に置いてるのよ」 ニコニコと爽やかではあるが、何処か不気味な雰囲気漂う笑顔を浮かべつつ、ルイズは喋る。 「しかもそのクッキーはね…私が一番特別だと思う日に食べたいと…と、取っておいたやつなの」 段々とルイズの笑顔が邪悪な雰囲気を帯びていくのを感じた魔理沙は思わず後退ってしまう。 その邪悪さは、以前紅魔館で見たレミリアの笑顔と比べれば可愛いモノだが、それでも十分に怖いものであった。 「あ、あ~…な、なんだ?私はその…食べただけだぜ」 魔理沙は言い訳でも言おうとしたのだろうが、それが火に油を注ぐ事となった。 「へ、へ、へ~…あ、あ、アンタは食べたたただけなのねね…わ、私のたたた大切なおおか菓子を、を…!」 先程よりも邪悪さが増していくルイズの雰囲気に、魔理沙は悟った。 (あ~、駄目だコリャ。背中を見せたら確実に酷い目に遭うな…) 丁度自分の背後に愛用の箒があるのに気が付いている魔理沙ではあったが、逃げる気は失せていた。 いま箒を手にとっても跨る前に捕まってしまう。そして今窓の傍で気絶している霊夢の二の舞になる。 ましてやミニ八卦炉も奪われている手前、退路は完全に断たれたも同然である。もう自分に逃げ場は無い。 たった一つの道は、目の前にいるこの少女を倒してドアから逃げるしかない。 (そうと決まれば…善は急げだぜ!) 覚悟を決めた魔理沙は、キッと鋭い笑みを浮かべ―――ルイズに突撃した。 勝率などわからない、わからないから魔理沙は突撃の道を選んだ。 霊夢もそうしていたであろうし、魔理沙の知っている幻想郷の好戦的な奴等も同じ答えを出していたに違いない。 自分が勝つと信じてやまない者達は、どんな危機的状況に陥っても僅かな希望があればそれに縋り、必勝の策を編み出す。 勝つか負けるかわからない――だからこそ戦うのだ、自分の勝利を信じて。 ピ チ ュ ー ン ! ――しかし、だからといってやる気満々の敵に突っ込んで勝てるとは限らない。 『自分のパンチより、ルイズのアッパーの方が速かった』という事が読めなかった魔理沙は、呆気なく撃沈した。 ◆ その頃、トリスタニアのチクトンネ街は―――― いつもは夜型の人々で賑わうここは、朝方と昼は大分落ち着いている。 それでも人の入りはあり、ブルドンネ街と同じく露天商達が道ばたで商売を始めていた。 仕事帰りの人々を誘惑する夜中のお店は朝方にはその看板を下げ、グッスリと眠っている。 彼ら、彼女らは朝に寝て午後から仕込みと掃除を始めて夕方頃の開店に備えての準備に入るのだ。 そんな店はここチクトンネ街に星の数ほどあるが、その中でもかなり異色な店が存在していた。 ウエイターは女の子達ばかりなうえ、とても魅力的な服を着ており、貴族からも賞賛の声を度々聞く。 「女の子達がステキだった」とか「チップを出すのに夢中で財布の中身が無くなった」等々…色々と評価してくれている。 『魅惑の妖精亭』。それがこの店の名前であった。 ※ シャコシャコシャコ… 「あしゃ~はやっぴゃり~ねみゅい~もよ~…♪」 店長スカロンの娘であるジェシカは、店の裏口で歯を磨きながら何処か現実味のある歌を口ずさんでいた。 裏口のある通りは閑散としており、目立つモノといえばご近所の店が裏口に出しているゴミを漁る野犬と野良猫、それにカラスだけだ。 主に人間の食べ残しを狙う彼らはこの時に限って争うことなどせず、お互いのルールを守っている。 この場面だけを見れば、人間と比べて大分秩序を保てているのは間違いない。 ハルケギニアの各所にある第三諸国などでは、畑の作物や家畜の奪い合いが原因で戦争になっているところもある。 それを考えれば、動物の方が第三諸国を治める王達よりかは大分利口だ。 だが、ジェシカはそんな光景に目もくれず、歯ブラシを口に入れたままボーッと空を見上げていた。 隣接する建物と建物の間から見える空はかなり太い一本の線として見えている。 陽が当たらない薄暗い通りとは対照的に白い雲が右から左へと流れ、サラサラと緩やかな初夏の風が肌を撫でる。 この時間帯、朝食を食べ終えた人々が仕事の為に各々の勤務場所へと足を運ぶ。 飲食店や雑貨屋、ブティックに本屋、石切場に魚の養殖場(食用、観賞用の淡水魚だけだが)等、様々である。 しかしジェシカやスカロン、そして店の女の子達を含めた夜中のお店で働く人々は、ゆっくりとベッドで疲れを癒す。 ジェシカ自身も、今は寝る前の歯磨きをしており、決して仕事へ行く前の慌ただしい歯磨きではない。 故にこうして途中で手を止め、雲の流れる爽やかな朝の青空を眺めているのであった。 しかし、その時間は表の通りからやってきた女性の声で台無しとなった。 「やぁジェシカ。寝る前の歯磨きをしてるのか?」 「…うっ!…ムグ…ムグ……ぷはっ!」 いきなり声を掛けられたジェシカ聞き覚えのある声を耳にし、思わず口にくわえた歯ブラシを吐き出しそうになった。 しかしそれをなんとか堪えて数秒間無呼吸に悶えた後、口から歯ブラシを取り出すという選択を選ぶ。 歯ブラシを持っていた右手で持ち手を掴み、そのまま一気に口から出したところで、止まり掛けた呼吸を再開する事が出来た。 「はぁ…はぁ…アンタねぇ、前もそうやってアタシを驚かそうとしたわよね?」 もう少しであの世の花畑と河岸が見えるところだったジェシカは、目の前で穏やかな笑みを浮かべる女性に苦々しく呟く。 「そうかな?あの時は私に気づいているものだと思って声を掛けたんだがな…ちゃんと料理の載ったトレイも受け止めただろ?」 しかし女性はそんな苦言など何処吹く風で、まるで旧友と若い頃の思い出を語っているかのような感じで言った。 女性の服装は足首まで隠した長い黒のズボンに白いブラウスと変わっており、その上に若草色のローブを羽織っている。 一昔前の女性ならわかるものの、この時代では女性のような服装は時代遅れもいいところだ。 しかし女性の肌は珠のように白く顔もジェシカや店の女の子達に負けず劣らず…いや勝っていると言って良い。 陽の光に当たって輝いている麦の如き金髪をボブカットにしており、遠くから見ればただの好青年として見えてしまう。 だが一歩近づいてそれが女だとわかれば、何処か不思議な魅力を感じてしまう。 それは男性だけではなく、女性もまたその魅力に惹かれるのである。 「はぁ…それで、今回は五日もあの子だけ置いて何処に行ってたっての?」 あまり悪いようには見えない笑みを見せられたジェシカは、呆れた様子でそう言った。 「まぁそう言うなよ。あの子だってちゃんと客室の掃除をしてくれてるだろ。…それに土産も買ってきたし」 それに対し女性は冷静に返しつつ、背負ったバッグを地面に下ろし、中を漁り始める。 ジェシカはその言葉にムッとなってしまうが、まぁいつもの彼女だと思って軽い溜め息をついた。 二人の言う『あの子』とは金髪の女性と共にいた、まだ十代にもなっていない栗色の髪が眩しい女の子のことである。 ※ 数週間前、ここの店長でありジェシカの父であるスカロンが二人を連れてきた。 聞くところによると女性はかの東方の生まれで、今はハルケギニアの各地を旅しているらしい。 様々な大国や小国、山々や平原を歩き渡り、しばらくはこのトリステインに身を置くことにしたのだという。 まぁ治安が比較的良く、戦争や領地をめぐっての小競り合いも滅多に無いこの国は、体を休めるのには丁度良いところだ。 しかし、いざ宿を探してみると間が悪かったのか、何処も空き部屋が無いという時にスカロンと知り合ったそうだ。 ちょっとばかしその場で話し合い、店の仕事を手伝って貰う代わりにお店の上の階にある部屋に泊まらせる事となった。 「初めまして、―――と申します。以後迷惑にならないようこのお店の仕事を手伝って行きたいと思います」 東方の国の生まれ故かハルケギニアでは聞かない奇妙な名前と律儀な物腰に、ジェシカを含めた店の者達は彼女に拍手を送った。 その拍手に女性は嬉しそうな笑みを浮かべると、後ろにいた少女を自身の前に出し、自己紹介を促した。 「は、はじめまして…――と申します。よろしくおねがいします…」 女性と同じく、東方の生まれと思われる奇妙な名前とその暗い雰囲気が漂う自己紹介の後、ジェシカがその子に質問した。 「よろしくね――ちゃん。ところで、ここは店の中だけど…帽子は外さないの?」 何処か空気の読めてないジェシカの発言に、素早く金髪の女性がフォローを入れた。 「すいません。この子はちょっと皮膚が弱くて室内でも帽子を被っているよう、祖国の医者から言われているもので…」 どこか胡散臭いものが漂ってはいるが、ジェシカやスカロン達は彼女の言葉をとりあえずは信じることにした。 この様な場所で店を開けば、自分の過去を酷く忌み嫌う者達がふらりと寄ってくるものだ。 ある者は過去を一時の間忘れるために飲んだくれ、またある者は新しい人生を探しに足を運ぶ…。 きっと彼女らは後者なのだろうと思い、とりあえずは『魅惑の妖精亭』に新しく入ってきた二人を手厚く歓迎した。 ※ 「それじゃあ、私は部屋に戻るとするよ」 「はいはーい!今日も早いんだからさっさと寝なさいよね~…ふぁ~」 一階の酒場でジェシカと別れた後、金髪の女性は二階へと昇り、一番奥にある客室へと足を運んだ。 ここ『魅惑の妖精亭』は一階部分がお店で、二階の方は家のない従業員達の部屋と幾つかの客室がある。 客室の方は、酔いすぎて家に帰れなくなった客を入れるところで、店の人気もあって使用頻度は高い。 そして当然の如く賃貸料があるので、店的には儲かっているらしい。 想像して欲しい。気持ちよく飲んでベロンベロンになって意識を失い、気づいたら見知らぬ部屋のベッドで寝ていた。 慌てて外に出てみるとその顔に笑顔を貼り付けた店の女の子が、一枚の紙をもって口を開く。 「おはようございます。お部屋の賃貸料をいただきに来ました」 自業自得であろうが、冷たい夜の路上に放り出されるより大分マシだろう。 そんな事を思っていると、気づけばもう二階の一番奥にまでたどり着いていた。 すぐ横には客室に繋がるドアがあり、それを開ける前に女性はポツリと呟く。 「五日か…まぁちゃんとお金も置いておいたし払ってくれてるだろう」 あの娘はネコだが、ネコババするような娘ではない。と心の中で付け加え、ドアを開けた。 すんなりと開いたドアの先にいたのは、彼女を主と慕う可愛い少女が待ってくれていた。 「お帰りなさい!藍さま!」 年相応の元気な声に、彼女は柔らかい微笑みを浮かべた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページ日替わり使い魔 「あなたはどなたですか?」 ルイズは言ってから、気付いた。自分はなんで、こんな目上に対するような丁寧な言葉を使ったのか、と。 彼女の目の前にいるのは、ボロボロのターバンとマントを身につけた青年だった。ターバンとマントは共にブルーベリーのような青紫。マントの下には白い貫頭衣。腰には剣を差し、手には杖を持っている。 そのいずれもボロボロで、はっきり言ってみすぼらしい――杖とマントという組み合わせからメイジであると予想はつくが、黒髪黒目の貴族など聞いたこともないし、そもそもこんなボロを纏った人物が貴族であるはずもない。 だが、そのみすぼらしい姿をはっきりと確認する前に、なんとなく感じ取ってしまった。目の前の青年は、高貴なお方なのだ、と。……どうやら、ただの勘違いだったみたいだが。 「ゼロのルイズが平民を呼び出したぞ!」 「しかも聞いたか? 『あなたはどなたですか?』だってよ!」 「いくら魔法が使えないからって、平民にへりくだってちゃ貴族としておしまいだよな!」 周囲の野次が耳に入り、ルイズの額にピキ、と青筋が浮かぶ。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」 反射的に振り返り、怒鳴る。 そう――間違えただけ。間違えただけだ。『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してしまったのも、その平民に敬語を使ってしまったのも。 ならば、間違いは正さなければならない。そもそも人間を使い魔など、聞いたこともない。 「ミスタ・コルベール! もう一度召喚させてください!」 と、その間違いを正すべく、監督していた教師に要求する。脳天がとっても眩しいこのナイスガイなら、きっとわかってくれるだろう。 が――その要求に対する彼の答えは、ルイズの期待を裏切るものだった。 いわく、これは神聖な儀式なのだから、やり直しはきかない。いわく、伝統なのだから例外は認められない。 ……ナイスガイなんてとんでもない。このコッパゲ使えねぇ。頑として首を縦に振らない彼に、ルイズは胸中で吐き捨てた。 「……なんか不当な侮辱を受けた気がしますが?」 「気のせいですわ」 何かを感じ取ったのか、ピクピクとこめかみをヒクつかせるコルベールに、ルイズはしれっと返した。 「……コホン。さて、では儀式を続けなさい」 コルベールは場を取り繕うかのように咳払いし、ルイズに儀式を続けるように言った。 やり直しはきかない上、自分のせいで授業が押していると言われてしまえば、ルイズとしてもこれ以上駄々をこねるわけにもいかない。本当に……ほんっとーに渋々と、契約の儀式をするためにその青年の前に立つ。 彼はいまだ、状況を把握できていない様子だった。物珍しそうにキョロキョロと周囲を見回しては、何事か考えている。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 「え?」 ルイズの言葉に、青年はその意味を理解しかねて呆けた声を上げた。だがルイズはそれには取り合わず、早口で契約のルーンを唱えて杖を青年の額に当て――そして、唇を重ねた。 「んっ……」 青年が何かを言おうとしていたが、塞がれた唇では言葉にならない。小さなうめき声一つ残し、驚愕に目を見開いたまま、されるがままになっていた。 それからすぐに、ルイズは唇を離してコルベールに向き直った。「終わりました」と顔を真っ赤にしながら、それでも平静を装っているのか、淡々とした口調で報告する。 そして―― 「ぐっ……!」 青年が、短く苦悶の声を上げた。使い魔のルーンが刻まれているのだろう。その表情は苦しげに歪んでいる。 が、それもすぐに終わる。青年の表情から苦悶の色が消えた頃、その右手の甲に見たこともないルーンが浮かび上がった。 「な、何が……?」 「ふむ……」 自身の右手に刻まれたルーンを見て、目を白黒させる青年。彼の混乱をよそに、コルベールはそのルーンを興味深げに観察した。 珍しいルーンだな、とつぶやき、青年の右手に浮かんだルーンを手早くスケッチする。それが終わると、彼は生徒達に向き直り、教室に戻るよう命じた。 すると彼らは、口々にルイズを嘲笑しながら、思い思いに飛び去って行った。唯一ルイズだけが飛ぶことなく、悔しげに唇を噛み締めてそれを見送っている。 やがて――ルイズはおもむろに、自身の使い魔となった青年に顔を向けた。彼は物珍しそうに、飛び去って行った連中の背を見送っている。 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。今日からあんたのご主人様よ。あんたの名前は?」 「……リュカ」 彼女の問いかけに、青年――リュカは、その澄んだ黒曜石のような瞳をルイズに向けた。 ――妙なことになった。 彼の本名は、リュケイロム・エル・ケル・グランバニア。こんなナリでも、れっきとした一国の王である。 彼の一家が大魔王を倒し、世界に平和をもたらしたのは一年ほど前。当時全てを終え、国に戻った彼を待ち受けていたのは、国を挙げての盛大なパーティーと、国を留守にしていた間に溜まりまくっていた政務であった。 物心ついた頃から旅人としての生活に身を浸していた彼にとって、本来は国政など門外漢もいいところだった。 叔父のオジロンの助けも借りながら、慣れない政務に悪戦苦闘すること一年――自分の仕事がどういう成果をもたらしたかをその目で見たい、と言い出したのは、ほんの数日ほど前だった。 もちろん、その提案は政務に対するやる気を引き出すのに、悪くない話であった。オジロンの了解を得て、リュカは身分を隠すために旅人時代の格好になり、一人で国を回っていた。 ちなみに普段着ている正装であり最強の武具でもある『ドラゴンの杖』『王者のマント』『太陽の冠』『光の盾』は、身につけているだけで身分がバレバレなので、宝物庫にしまっている。 で――ひととおり国内を見て周り、城へと帰ろうとしたところで、コレである。 目の前に妙な鏡が現れたかと思ったら、気付いたら見知らぬ場所。異常事態には慣れているので騒ぎはしないが、いつまでも事態を把握できずにいるままなのはよろしくない。 というわけで、リュカはルイズの部屋で情報交換をすることとなったのだが―― 「グランバニア? そんな国、聞いたことない」 「僕だって、トリステインはおろかハルケギニアすら聞いたことないよ」 まず最初にわかったのは、リュカもルイズも、お互い聞いたことすらないほど遠く離れた場所の住民であったということだ。 といっても、リュカは早々に、ここが異世界であることに気付いている。二つの月など、元の世界ではついぞ見た記憶がなく、その一点だけで十分な判断材料足りえた。さすがに天文学など知りもしないが、世界中を旅して回った経験は伊達ではない。 ……まあ、妖精界や魔界などといった異世界に足を運んだことのある彼にとって、異世界がもう一つ二つ増えたところで驚きはしないのだが。 その後も、情報交換は続く。 この国は魔法が使えるメイジが貴族となり、魔法を使えない平民を支配している貴族社会であること。メイジはその象徴として杖とマントを身につけること。リュカの身なりを見て、最初は没落貴族か、メイジの真似をしている平民であると思ったこと。 それに対し、リュカも自分の国――というよりは自分の世界のことについて語る。 だがその多くは、ハルケギニアの常識に凝り固まったルイズには、まったく信用に値しないものであった。 特に貴族平民関係なく魔法の素養ある者は魔法が使えるというあたりは、『貴族はメイジであることをもって平民の上に君臨する』というトリステイン貴族の意識の根幹に根付く思想からすれば、決して認められることではなかった。 (……参ったね、これは) リュカの話のほとんどを信用しようとしないルイズに、リュカは早々に説得を諦めた。それに、このハルケギニアで自分の世界の常識を語っても大した意味はない。彼は話題を切り替えるため、『使い魔』について尋ねる。 そして返ってきた答えは、まず一つ目が、リュカがルイズの使い魔として呼び出されたこと。先ほどのキスが使い魔の契約だったこと。そしてリュカの右手に刻まれたものが、使い魔のルーンであること。 次に、使い魔の役目。一つ、主人の目となり耳となること。二つ、秘薬の材料を取ってくること。三つ、主人の身を守ること。 が――どうやら一つ目の感覚の共有とやらは、出来ていない様子であった。 「秘薬の材料ってのが何だかわからないけど、どういうものか、どこにあるのかを教えてもらえば取りに行けるとは思う。ルイズの身を守るってのは……ま、問題ないか」 なにせ、大魔王を倒した一家の大黒柱である。よほどのことがない限り、遅れは取らないだろう。 だが―― 「……あ」 そこで、リュカははたと気付いた。 「どうしたの?」 ルイズが眉根を寄せると、リュカは「あちゃーっ」と顔を手で叩く。 「……これでも僕、多忙なんだよ。城――じゃなかった。家に帰れば仕事が山積みだから、帰らないことには家族が心配するし皆にも迷惑をかける」 「なによそれ? つまり、私の使い魔をやってる暇がないってこと? ……でも残念ね。『サモン・サーヴァント』は使い魔を呼び出すだけで、戻す魔法は存在しないわ」 言いながらも、ルイズは内心で苦虫を噛み潰した気分になっていた。 今、彼は『家族』と言った。彼女の意図したことではないとはいえ、彼をその家族から引き離し、あまつさえ帰すことはできないのだ。これはほとんど、拉致と言っても過言ではないだろう。 彼の言うグランバニアという国は、ハルケギニアの国々とは互いに存在すら知らない国ではあるが――これがもしハルケギニア内の国の人間であったなら、相手の身分次第では確実に国際問題になる犯罪だった。 無論のこと、由緒あるラ・ヴァリエール家の三女がやって良いことではない。 が――そんなルイズに対し、リュカは。 「あ、大丈夫。自分で帰れるから」 などと、事も無げに言ってくれた。 その意味するところをすぐには理解できず、ルイズは一瞬、「え?」と口に出してキョトンとする。その間にもリュカは窓へと向かい、窓を開け放って縁に足をかけた。 「ちょっ……あんた、何を!?」 「今夜は子供達と一緒に妻の手料理を食べる約束をしていてね。そろそろ帰らないと時間がやばい。使い魔の仕事は、明日の朝にでも誰か代理の者を連れてくるから、それで勘弁して欲しいな」 「そーゆーことを聞いてるんじゃなくて……!」 色々と聞き捨てならないことを言われた気がするが、それよりも帰ることと窓から身を乗り出すことに何の因果関係があるのか。そもそもどうやって帰るつもりなのか。 だが、そんなルイズの困惑をよそに―― 「ルーラ」 リュカが呪文を唱えると、途端にその体が空高く舞い上がり――すぐに見えなくなった。 唐突にいなくなった自分の使い魔。開け放たれたままの窓からは夜風が吹き込み、ルイズの頬を撫でるばかり。 「リュカって……妻子持ちだったんだ」 いまだ事態の理解が追いつかずに呆然とするルイズが口にできたのは、そんなズレた感想のみだった。 「――ってことがあってね」 それから一時間後――グランバニアの王宮に戻って来たリュカは、妻子と囲む食卓で、ハルケギニアに召喚されてからのことを語っていた。 「あらあら。それは大変でしたね」 「お父さん、そこって面白そう? ボクも行ってみたい!」 「ダメだよお兄ちゃん。明日は習い事があるじゃないの」 「ま、そのうちにね」 小さなテーブルを囲んで妻の手料理を食べる一家の姿は、一国の王族には似つかわしくないほど庶民的であった。 ルーラ……一度行ったことのある町や村に飛んでいく呪文。消費MP8。 一度行ったことがあるなら、妖精界だろうが魔界だろうが、加えてその門が閉じていようが、問答無用でひとっ飛びである。 もちろん、異世界ハルケギニアも例外ではなかった。 前ページ次ページ日替わり使い魔
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「なっルイズが飛んできた!?」 「俺、夢見てるのかなぁ?」 ルイズ達が学園に着くと先に戻っていた生徒達の多くは驚きの声を上げていたが、 赤い髪の生徒が、何故かいまだ浮かんだままのルイズに近づく、 「あら、ヴァリエール何時の間にフライを覚えたの?」 「こ・こんな、簡単なコモンルーンなんて最初から使えたわよツェルプストー」 「あら? それは初耳ねそれならなんで、今まで使わなかったの?」 「そ、それは、そう! 魔法に頼りっぱなしだと、体が鈍っちゃうからわざと使わなかったのよ!」 「じゃあ、なんで今は飛んでいるの?」 「それは、さっき呼び出した使い魔になめられないために、わたしの実力を示すためよ!」 「ふ~ん」 「な、なによ! 本当なんだから!」 「まっ、いいわ。そういうことにしてあげるわ、そろそろ次の授業が始まるわよヴァリエール」 「解ってるわよ!」 ルイズ達がそのような会話をしながら教室へ向かおうとしたが、ルイズはふと思いついたように、追いついてきたバッツに声をかける。 「あ、バッツ次の授業は使い魔と一緒に受けることは出来ないから、使い魔達の待機部屋に行っといて」 「あぁ、いいけど俺場所知らないぞ?」 「それならそこらへんにいる人間以外の、生き物追えば着くから適当に行きなさい」 「そんなアバウトで良いのか?」 「いいの! ああ、わたし時間無いんだから!」 ルイズは言いたいことを言うと、他の生徒達の後を追い教室に入って行く。 取り残されたバッツは周りを見渡し、恐らく他人の使い魔であろう生き物達が集まっていく部屋へと向かった。 バッツが部屋に入るとそこには、使い魔であろう多くの幻獣、動物、魔物がひしめきあっていた。 比較的大きな部屋のはずなのだが、部屋にいるの使い魔達の中には大きい者も多く、全体的に窮屈そうになっていた。 バッツはできるだけ他の使い魔を刺激しないように、部屋の隅で休もうとするが部屋の隅にあった【あるもの】を見つけ、 子供のように目を輝かせ、その【あるもの】の元へと向かった。 一方ルイズ(地面ギリギリに浮かんでいるため、先生はルイズが飛んでいることに気づいていない)は、召喚した使い魔との付き合い方の授業を受けていた。 元々召喚前からこの手の授業はあったのだが、実際に召喚が終わらないと、使い魔の世話のやり方を習っても 習った種類と違う使い魔が召喚されれば意味が無い事、また実際に召喚しないとわからない使い魔と視覚や聴覚の共有なども今回の授業で習うのだが、 ルイズが召喚したのは【人間】である、特に習わなくても使用人と同じ扱いで十分だと判断し、前半の授業はいつも真剣に学んでいる彼女にしては珍しく、 聞き流しながら受けていたが、授業の内容が使い魔との感覚の共有のやり方に移ったとき、周りの様子に変化が起きた。 「なんか音楽が聴こえるぞ?」 「え? お前もか? 俺も聴こえるんだけど?」 「でも、このピアノのパートいいわね」 「私は竜の鳴き声の所が良いと思うわ」 と、聴覚の共有に成功した生徒達は、なぜか自分の使い魔から音楽が聴こえ、そのままうっとりと聴き続ける。 しかし、ルイズや先生、元々音を聞けない種族や感覚の共有をしてはいけない種族を使い魔に召喚した生徒は、何が起こってるのか理解できない。 「えー、一部聞いていない生徒もいますが、今日の授業これで終了します。この後は使い魔に彼らの住む場所をきちんと教えてあげてください」 担当の先生は面倒になったのか言うだけ言うとさっさと教室から出て行ってしまった。 音楽を聴いている生徒達は、聴こえなかった生徒達に授業が終わったことを教えられ、生徒達は自分の使い魔迎えに行くのであった。 そして生徒達が使い魔達がいる教室の近くに行くと、使い魔達が待っている教室の中から使い魔達の鳴き声とピアノの音が合唱のようになって聴こえてくる。 「一体あの教室の中はどうなってるんだろうね?」 「ああ、視界を共有しても他の使い魔の姿しか見えないから、あのピアノの音源はわからかったしな」 思い思いのことを言いながら教室に入るとそこには合唱をしている使い魔達とその先頭で杖を指揮棒のように振るっている先生の姿があった。 しかもその先生が学園の中でも不気味な雰囲気と冷たい態度で生徒達から嫌われている疾風のギトーであった。 その光景に生徒達は一瞬フリーズたが、あわててギトーに声をかける。 「ミ、ミスタ・ギトー一体何を?」 「ああ、いや、使い魔たちが暴れないように監視しに教室に入ったら、 何故か使い魔達が合唱をしていたのでつい、楽師隊の指揮者のまねをしていたのだよ、ははは。 今年の使い魔たちはどうやら素晴らしい者達のようだな」 ギトーは、ごまかすように生徒達を褒めると教室から出て行った。 また、使い魔達の合唱も自分達の主人を見つけたためすでに終わっていたが、ピアノの音は鳴り止まない。 そして生徒達は滅多に褒める事をしないギトーに褒められたことに喜び、そのきっかけとなった自分達の使い魔たちを褒めた。 ルイズはそんな中自分の使い魔であるバッツを探す。 そして、バッツを見つけたルイズは唖然とする。 ルイズの視線の先には、何故か椅子に座らずにピアノを弾くバッツの姿があった。 「バッツ! あなた何やってるのよ!?」 「ん? ルイズか? いやピアノがあったからつい引いていたんだけど・・・もしかして勝手に弾いたらまずいんか?」 「ま、まぁ本来はダメだと思うけど、この周りの反応なら今回は特別に許されると思うけど・・・ ってそうじゃなくて、あなた何でピアノを弾けるのよ!?」 「いや、旅をしている時に酒場でなんとなく興味があって、弾いていたら自然と美味くなったとしかいえないが・・・」 「なっ、ピアノが酒場にあるってどんな大きな都市よ!?」 「へ? ピアノが無い酒場なんて探す方が大変だろ?」 「一体どんなところ旅すればそんな常識になるのよ!?」 「いや、どんなところと言われても、今まで旅していたところ、としか言いいようがないんだが・・・」 「じゃあ! 今まで旅していたところを教えなさいよ! 旅していたんだから地図くらい持ってるでしょ!?」 「あ、ああ、いいけど・・・」 「けど、何よ?」 「いや、みんなこっち見てるぞ?」 「な!?」 ルイズが周りを見渡すと、生徒達が自分達に注目していた。 元々ピアノ音源に対して興味があった事とルイズの声の大きさが合わさったためこの場にいる生徒達は全員ルイズ達を見る形になっていた。 「そ、それを先に言いなさい! は、話の続きはわたしの部屋でするわよ!」 ルイズは顔を真っ赤にしながら、バッツを引っ張り走り去っていった。 ルイズの部屋に移動したルイズは床にバッツを座らせ、地図を出させる。 バッツが取り出した地図は国境線などは書かれていないが森や山などはとても正確に描かれており、 未開の土地であるはずの東の土地や【聖地】の正確な地形が描かれ、さらにアルビオンの大陸はリアルタイムで動いていた。 「な・な・な・・・」 「な?」 「なんなのよ! この地図はー!? 何で東の正確な地図が出来てるのよ!? それにアルビオンもちゃんと動くなんて、どんな魔法よ!?」 「いや、俺もこの地図は拾いもんだから、詳細は知らないんだが・・・」 「ま、まぁ知らないならいいわ。それよりもあなたが旅をしてたのはどこら辺なの?」 「ん~たぶん、ルイズの言う未開の土地当たりだと思うぞ」 「たぶんって何で断言できないの?」 「ああ、今まで自分でも気がつかなかったけど、俺少し記憶が無くなってるみたいで、この地図のどこら辺を旅してたか覚えてないみたいだ」 無論このバッツの発言は嘘である。なぜ彼がこのような嘘をついたかはきちんと理由がある。 まず自分がこの世界の人間でないと自分で納得いく理由があっても、それがルイズが信じさせれるだけの証拠ならないことがあげられる。 彼がこの世界が自分の居た世界でないと確信を持っている証拠は、今ルイズに見せている、彼が元いた世界の船の墓場で拾ったこの地図である。 この地図は何故かガラフの世界に行った時、2つの世界が合体した(正確には戻った)時も、何故かその世界の世界地図に変化しており、 今回も自分が今まで旅をしていた世界とは似ても似つかない地図に変化していることこそ、この世界が彼が居た世界と別世界である証拠なのだが、 この事実を知っているのは彼だけで、たとえこの世界の人にこのことを説明してもこの事実を信じてもらえるどころか正気を疑われるだろう。 そして、記憶喪失と言ったのは、この世界の常識と自分の常識が食い違っていても、これを記憶喪失ということでごまかせると思ったからである。 「え、じゃあ薬とかの知識とか大丈夫なの!?」 「ああ、何故かそういった技術面の記憶は残ってるんだが、それをどうやって身に付けたか、どの村や町を旅してたか、とかが、ちとあやふやだな」 「ちょと!? それって大変なことじゃないの!?」 「いや、あやふやな記憶だけど、一緒に旅していた仲間の一人は名前だけしか憶えていない状態だったけど、そいつは旅に支障はでてなかったぞ?」 「旅に支障が無くてもわたしの使い魔として支障が出るじゃない!?」 「ん~、確かにそうかもしれないな、なぁルイズ」 「な、なによ。いきなり真剣な顔して」 「ああ、取りあえずここら辺の地域の常識を教えてくれないか? 俺が旅していた地域と違うかもしれないしな」 「え、ええそれくらいいいわよ。わたしだって使い魔が変な行動取られるよりも先に釘させれるから丁度いいわね」 そしてルイズはバッツに(ルイズの独断と偏見の多分に混じった)常識を教える。 バッツに教えた常識を大まかにまとめると、 1.世間の評価は魔法 越えられない壁 魔法以外の技術 である。 2.そして魔法が使えるのは貴族だけである。 3.その為、平民では貴族に決して勝てない。 4.またここは魔法学院ので貴族が多いが、身の回りを世話するための平民もいる。 5.キュルケという女性には近づいてはいけない。 と言った感じである。 ルイズは説明を終えると、眠そうにしながらバッツに声をかける。 「ふぁ~あ~、そろそろ寝るから、脱がして」 「はぁ? ルイズ、何言ってるんだ!?」 「だから、寝巻きに着替えるんだから手伝え、って言ってるのよ? 身の回りの事を使用人がいるなら、頼むのは当然でしょ?」 「いやいや、おかしいだろ!? 普通そういうことを任せるにしても、女性の使用人だろ?」 「? 何言ってるの貴方は、わたしの使い魔でしょ? 使い魔なら犬とか猫とかと大差なんだから、犬や猫に裸を見られても恥ずかしくないでしょ?」 「いやいや、その理屈はおかしいだろ!? なら逆に聞くけど、変な触手とか一杯付いた使い魔に着替えとか手伝ってもらいたいか?」 「そりゃ、嫌に決まってるじゃない!でも貴方はただの人間でしょ? もしかしてわたしに変な感情とか抱いてるの?」 「いや、それは無いけど・・・」 「なら問題ないじゃない?」 「・・・はぁ、了解しました」 バッツはがっくりとうなだれながらルイズの着替えを手伝う。流石に下着を脱がすよう言われたときは断固拒否したが・・・ そして着替えが終わると、 「じゃあ、わたしはもう寝るからその服と下着は明日バッツ洗っといてね」 「ああって、おい!服はともかく下着は無いだろ!?」 「じゃあわたしの下着は汚いままで、いいというの?」 「いや、そうじゃなくて、それって使い魔の仕事でもないし、ましてや男の俺に頼むものじゃないだろ!? それこそ女性の使用人に頼めよ!」 「じゃあ、貴方が頼めばいいじゃない、洗濯の場所くらいなら明日教えてあげるから」 「っ解ったよ。で、俺は何処で寝ればいいんだ?」 「そこの床」 「はぁ?」 「だからそこの床で寝なさい」 「ルイズ、いくらなんでもそれは無いだろ?」 「じゃあ外で野宿する?」 これらの行為はルイズが自分とバッツに上下関係をはっきりさせるための作戦であったのだが、 「ん、その方が床よりも休まりそうだな。 洗濯物は明日の朝とりに行くから俺は外で寝るな」 バッツはそう言うとそのまま外に出て行ってしまう。 「へ?何で・・・ あ! ・・・そういえばバッツって冒険者だったのよね、そりゃ野宿を選ぶじゃない! わたしのバカー」 一人部屋に残されたルイズはベットの枕をポカポカ殴りそのまま疲れて眠るのであった。 一方バッツは学園の外に出ると適当な広場で道具袋からテントを出し組み立ててその中で横になる。 バッツはルイズから説明を受けたことを思い出すと、へたに自分が魔法使えることがばれると色々厄介なことになりそうだな、 と思い出来るだけ人前での魔法の使用は控えることを決心するのであった。
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ここ『女神の杵』では、かつて貴族たちが集まり、陛下の閲兵を受けたという練兵場がある そこではある貴族達は己の誇りと名誉をかけて決闘を行っていたという話もある 今では物置場となり樽や空き箱が積まれかつての栄光を懐かしむように石でできた旗台が佇んでいる そこに二人の男がやって来た、ワルドとロムだ 二人は練兵場の真ん中に立つとそれぞれ20歩ほど離れて向かい合った 第8話 闘え!戦士の誇りと命の為に 「古き良き時代、王がまだ力を持ち貴族たちがそれに従った時代、貴族が貴族らしかった時代だ・・・・」 ワルドが旗立て台を眺めながら語り始めた 「名誉と誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった」 ワルドは皮肉を含めた笑みを前を向いた 「でも実際はくだらない理由だったらしい。例えば、女を取り合ったりしてね」 ロムは腕を組んで話を聞いていた 「・・・少し長くなったね、では決闘を始めようか」 「ああ」 ロムは腕を解くと腰にあるデルフリンガーの柄を握ると、ワルドは左手で制した 「どうした?」 「立ち会いにはそれなりの作法というものがある。介添人がいなくては」 「介添人?」 「もう呼んである」 ワルドがそう言うと物陰からルイズが現れた ルイズは二人の顔をみてハッとした顔になった 「ワルド、来いと言うから来てみれば、何をする気?」 「彼の実力を、ちょっと試したくなってね」 「馬鹿な事は止めて、今は、そんなことする時じゃないでしょ?」 「それが貴族という奴はやっかいでね、どっち強いか弱いか、気になるんだ」 ルイズはロムの方を見る 「すまないマスター、決闘を申し込まれた以上、答えなければいけない」 ギーシュとの決闘の時と一緒の答えが出てきてルイズは止めるのを諦めた 「なんなのよ、もう!」 ルイズが癇癪を起こすのと同時にロムはデルフリンガーを引き抜いた 左手のルーンが輝く、それを見たルイズは昨晩ワルドが言っていた事を思い出した 「伝説の使い魔の印?」 「そうさ、彼の左手に刻まれたルーン。始祖ブリミルに仕えたと言われる伝説の 『ガンダールヴ』の印だ」 ワルドは話を続けた 「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだ」 「信じられないわ・・・」 ・・・・ルイズはロムの顔を見た 確かにロムは頼もしい使い魔だ でも『ガンダールヴ』とは行き過ぎた話だ そう思っているとワルドは口を開いた 「では、介添人も来たことだ、本当に始めるか」 ワルドが腰から杖を抜き、フェンシングのように前方に突き出す 「行くぞ」 ロムもデルフリンガーを両手で構えて言った 「ああ、全力で来い」 ロムとワルドは同時に地を蹴り先程まで自分達が居た場所でぶつかった 剣と杖の間に火花が散る。細身の杖であったが長剣を受け止める 競り合いが続くが先に身を引いたのはワルドだった そのまま後ろに引くと思うとシュシュ、と風切音と共に高速で突いてきた (速い!これは目で見るんじゃない!心眼で見切る!) ロムは突きを下から抉るように杖を勢いよく切り上げる 杖先は空を向き、ワルドは懐に隙ができる 「なんと!!」 思わず声を上げたワルドは黒いマントを靡かせ身を引いたすぐにロムの蹴りが身体があった場所で空を切った ワルドは優雅に宙を跳び退さり構えを整えた 「なんでぇ、あいつ魔法を使わねえのか?」 デルフリンガーがとぼけた声で言った 「俺の実力と手の内を調べているんだ。どうやら昨日見せた分だけでは足りないようだな」 (流石は魔法衛士隊。魔法だけかと思っていたが近接戦闘も強いな) ロムは冷静な声で答えた、同時にワルドは『通常』の自分とも退けを取らない騎士であることも悟った 「魔法衛士隊のメイジはただ魔法を唱えるだけでは無い」 ワルドが杖を振りながら言う 「杖を剣のように扱いつつ、詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本だ」 振るのを止めるとワルドは杖を突き出すと鋭い目付きを見せた 再び両者はぶつかり合う、カキン、カキンと斬りあう音が鳴りあう 「君は素早く力強いな!流石は伝説の使い魔だ!」 ワルドはロムの剣を細かい動作で受け流しながら言う 「それに剣の振りも素人ではない!うちの一番若い奴等と同じ、いやそれより強いな!」 ワルドの声はいやに楽しそうだった、同時に動きが段々速くなっていった 「だが君には我等とは足りないものがある」 「足りないもの?」 「そうだそれは・・・」 ワルドの突きは更に速くなる・・・、ロムは見切ろうとするが 「デル・イン・ソル・ラ・ウィンテ・・・・・・」 ワルドが低く呟いていることに気付く 「相棒!いけねぇ!魔法がくるぜ!」 「天空真剣!!」 デルフリンガーとロムが叫んだ 「隼ぎ・・・」 ボン!と大きな音が鳴りロムが横にブッ飛ぶ (うおおお!空気がハねただと!?) ロムは地を踏みつけをブレーキをかける ズザザザザザと音を立てて後ろへ下がるが膝を地に付けつつなんとか踏ん張れた ロムが正面を向くとワルドが杖を自分に向けていることがわかる 「君に足りないもの・・・それは・・・・・・・」 ワルドは少しためた 「『魔法』だ。」 「君は魔法が無い世界から来たからわからないかもしれないが、この世界は魔法が絶対だ 強い魔法なら尚更・・・・」 ロムは立ち上がろうとするが殴られた方の腕が痺れてデルフリンガーを落としてしまう 拾おうとするがワルドが強風を起こす デルフリンガーはカランカランっと鳴りながらワルドの方へと転がっていき思いっきり踏まれた 「貴族の決闘は杖を奪われた方が敗けだ。・・・勝負ありだな」 ワルドが冷淡に言った 足下でデルフリンガーが喚いている 「・・・・・・いや、まだ俺は戦える・・・・!」 ロムはそう言うと右手から剣狼を出す 「(・・・あれは、剣狼!)止めて、ロム!」 ルイズが大声を出す ロムははっとなった顔でルイズの方を向いた ロムの顔を見たルイズはビクッと震えた、今まで、あんなに・・・・、ロムの恐い顔は見たことがなかった 「わかった・・・・マスター」 ロムは小さな声でそう頷くとルイズはホッとして小さな胸を押さえた 「今のでわかったよ。ルイズ、彼では君を守れない」 近づいてきたワルドがしんみりした声で言った 「・・・・だってあなた魔法衛士隊隊長じゃない!強くて当たり前じゃないの!」 「そうだよ。でもルイズ、強力な敵に囲まれた時に君はこう言うつもりかい?私達は弱いです。杖を収めてくださいと」 ルイズは黙ってしまった そしてロムを見つめるがワルドに促された 「今は一人にしておこう」 ルイズは躊躇ったがワルドに引っ張られる (・・・・まだ手が痺れている、流石は『ガンダールヴ』) そして、練兵所では二本の剣を握ったロムだけが残った 沈黙が続く ロムは深呼吸した後、埃まみれの剣を見つめた 「すまんなデルフ、このような結果になってしまって」 「気にすんなよ、あいつは相当の使い手だぜ?競り合った相手がすげー。だから相棒、お前はすげーよ」 「・・・そういって貰うと助かるな」 ロムが少し笑みを浮かべるとデルフリンガーは大笑いした 「はっはっはっは!相棒は笑った方がカッコいいぜ! ところで相棒、さっき握られた事で思い出した事があるんだけどよ」 「なんだ?」 「うーん何だっけな・・・、よく思い出せねぇ。何せ大昔の事だからよ・・・」 「なんだそれは」 「まあ少したてば思い出すかもしれねぇなぁ、じゃあ戻ろうぜ」 「ああ」 ロムは剣狼をしまうと出口に向かって歩き出した (魔法・・・、メイジ・・・・、俺の拳と剣で乗り越えることができるか?) その夜・・・、ロムは部屋にこもって剣狼を持って座禅を組む 一階でギーシュ達が飲んで騒ぎまくっている声が聞こえる。キュルケに誘われたが丁寧に断った 2つの月が重なる晩の翌日、アルビオンに向かって船は出港するという ロムはベランダに出て夜空を見上げた 瞬く星の中で流星が一際輝き、赤い月の光が白い月の後ろで見えた 月を見るとこの世界に来て初めての夜を思い出す 今頃、妹は無事なのか、クロノスの皆はどうなっているのか そんな風に考えていると後ろから声を掛けられた 「何しているのよ、ロム」 ルイズがそこに立っていた 「負けたぐらいでそんなに落ち込んじゃって。私を守る使い魔じゃなかったの?」 「落ち込んでなんかいないさ」 「じゃあどうしていたの?」 「・・・・考えていたんだ。君をちゃんと守って任務を終えることができるか」 ルイズははぁ~とため息をついた 「ちゃんと守ってもらわなければ困るわよ。しっかりしなさい。 それにしてもあんたなんでその剣を持っているのよ、大体それは・・・・」 ルイズが喋り続ける ルイズの口の動きを見ながらロムは思った、いつもの高慢なルイズの顔ではなく、年相応のルイズの顔はとても可愛らしい その顔を見ると妹と重なり可愛いく見える どこか可愛く感じられた さらに思い出せばルイズはフーケとの戦いでゴーレムに立ち向かう勇気を見せてくれた ゼロと呼ばれて悔し涙も流した 思い出せば思い出すほど女の子らしい一面が可愛らしく感じた・・・・ 「・・・な、何よ。何ジロジロ見ているのよ」 ルイズの頬に赤みが差していた 「今、私に叱られてそんなに悔しいの?情けないわね。そんな事じゃあんたなんかほっといて私はワルドと結・・・・」 そのときだった 月の光が突然消えた ルイズは驚いた顔になり、ロムが後ろを振り向くとそこには巨大な何かがいた 輪郭からほのかに漏れ出す光を頼りに目を凝らす それは岩でできたゴーレムだった 巨大ゴーレムの肩に誰かが座っている 髪をたなびかせ悠然としていた 「「フーケ!」」 二人同時に怒鳴った 「ふふふ・・・感激だわ。覚えていたのね」 「牢屋にはいっていたのでは・・・・」 「親切な人がいてね。私みたいな美人は世の中に出て役に立たなければいけないと言って、出してくれたのよ」 フーケの横に黒マントを着て白いマスクをつけた貴族が立っている アイツが出したのか? 「どういう経緯かは知らんが・・・、・欲望に染まり、悪に走った者には栄光は無いぞ!貴様等!!」 ロムは銀色に輝く剣狼を出して切っ先をフーケに向ける 「残念だわそんな言われよう・・・・、折角お礼を言いに来たのによぉ!?」 フーケは目を吊り上げ狂的な目を浮かべた 振り上げられたゴーレムの拳が唸りベランダを粉々に砕く 「ルイズ!避難するぞ!!」 ロムはルイズとデルフリンガーを抱えて一瞬で部屋を抜け出し、階段を駆け降りた 玄関から現れた傭兵の一団が一階の酒場で飲んでいたワルド達を襲った ワルドとタバサが魔法で応戦するがあまりの多さに苦戦しているらしい 「こいつら!メイジとの闘いに慣れているよ!!」 「見ればわかるわよ!魔法が届かない場所から攻撃してきてる!」 テーブルを立ててそれを盾にしている ギーシュとキュルケが叫ぶ奥にいる客達が悲鳴をあげているにも関わらず衛兵たちは矢を放つ 二階から降りてきたルイズとロムが駆け寄ってきた 「巨大なゴーレムがいるわ!」 「わかっているわ!ほら、あそこ」 キュルケが顔を横に振る、吹きさらしから巨大な足が見えた 「まずいな。このままではこっちがやられてしまう。もしこのまま魔法を使い続ければ」 「終わり」 ワルドの言葉をタバサが簡潔に結論付けた 「ではどうする?」 「僕のワルキューレで引き止めてやる!」 「一個小隊が関の山ね。相手は手練れの傭兵たちよ?」 キュルケとギーシュが言い争いをしている ワルドがそれを制すると低い声で語りは始めた 「いいか諸君、この任務は半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 それを聞いたタバサはキュルケとギーシュを杖で指して「囮」と呟いた そしてワルドとルイズとロムを指して「桟橋へ」と呟いた 「時間は?」 「今すぐ」 「聞いたとおりだ。裏口に回るぞ」 「え、え?、ええ!」 ルイズが戸惑いの声を上げる 「ま、しかたがないわね。私はあなた達がアルビオンに行く理由なんてわからないもんね」 キュルケが髪をかきあげてつまらなさそうに言った 「ううむ、また、姫殿下とモンモランシーには会えるのか・・・・」 ギーシュは薔薇をちぎりながら言った 「タバサ、君たちは・・・・」 ロムはタバサの方を向いて戸惑いながら言うとキュルケが促した 「いいから行きなさいってば。生きて帰ったらお礼をいっぱい貰うからね?」 ルイズとロムが立ち上がり低い姿勢で走った 矢が唸りをあげて彼らに降りかかろうとするがタバサが杖を振り風の壁を作って防いだ 厨房を出て通常口にたどり着くとルイズは出る前にペコリとおじぎをした そして桟橋に向かって走る途中、酒場から大きな爆音が響いた 「・・・・始まったようだな。僕達も急ごう」 「え、ええ!ロム!・・・・ってロム!?どこへいったのよ!?ロム!?」 月夜に人影が浮かんだ
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前ページルイズと彼女と運命の糸 ※ウルの月 エオローの週 ラーグの曜日 ―― 午前 今日は特別な日だ。 なんと、姫殿下が学院に視察に訪れるというのだ。 気合を入れて盛大にお迎えしなくては。 そうそう、彼女はというと、天の柱を探すため学院の馬を借りて遠出をしている。今夜あたり帰ってくるはずだ。 戻ってこないかもしれないとも思ったが、一度結んだ約束を反故にしたりはしないだろう。 この数週間で大体の人柄は掴んでいる。 どうせ、私の使い魔にするのだから、今の内に自由を満喫しているといいわ。 姫殿下を歓迎しているのに、最初に馬車から降りてきたのは鳥の骨だった。空気を読んでほしい。 ユニコーンに牽かれた純白の馬車から姫殿下が姿を現すと、割れんばかりの歓声が巻き起こった。 勿論、私も声の限り姫殿下を讃え歓迎した。 だが、キュルケとタバサはあまり関心がないようだ。外国からの留学生だから仕方がないか。 キュルケは不遜にも自らの容姿を姫殿下と比べていたので、鼻で笑ってやった。 キュルケと口喧嘩をしていると、視界の端に見覚えのある人物が映った気がした。 ―― 夜 昼間の出来事をボーっと思い出していると、部屋にノックの音が響いた。 聞き覚えのあるノックの音だ。長く間を置いて2回と短く3回、もしかして…… 覗き窓から誰かも確認せずに私は弾かれる様にして扉を開けた。 来訪者は、思った通りの人だった。姫殿下だ。 姫殿下は、昔を懐かしみ私に会いに来たのだという。こんなにも嬉しい事はない。 昔話に花を咲かせていると、不意に姫殿下の顔が陰った。 理由を聞き出してみると、結婚が決まったのだという。相手はゲルマニアの皇帝、アルブレヒト三世だそうだ。 結婚が決まり憂鬱になっているのだと思ったが、そうではないようだ。 詳しくは書けないが、婚姻を妨げるモノがあるらしい。 そして、それを見つけようと血眼になっている奴らがいるそうだ。 名を『レコン・キスタ』、アルビオンの貴族が中心になって出来た組織で、王党派を相手取って主権争いを繰り広げている。 しかも、その婚姻を妨げる物証を持っているのがよりにもよってウェールズ皇太子殿下ときたものだ。 すわ、王家の危機! 今こそ王家への忠義を示す時。 お任せ下さい姫殿下。見事わたくしめが、その生涯を取り払ってみせましょう。 「ただいま、ルイズ。 あれ、お客さん?」 いいタイミングで彼女が帰ってきた。 さあ、使い魔として最初の仕事をしてもらうわよ! ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 イングの曜日 ―― 早朝 私たちは学院の裏門にいた。 人目を避けて出発するためだ。 旅の道連れは私と彼女、そしてギーシュだ。 なんでギーシュがいるのかというと、盗み聞きしていたのだコイツは。 それにより、昨晩私の部屋に乱入してきたのである。姫殿下もグラモン元帥の息子だと聞き、同行することを許された。 まあ、盾ぐらいにはなるか。 ギーシュの使い魔はジャイアントモールなのだが、これは最悪だ。 何故最悪かというと、私を押し倒したからだ。 しかも、姫殿下より賜った『水のルビー』にその汚らしい鼻を擦りつけやがった。 本当に最低だ。姫殿下の信頼の証ともいえる『水のルビー』に鼻を擦りつけるなど、許されるはずもない。 なのに、だ。 ギーシュは馬鹿みたいに笑って、一向に止めさせようとはしない。自分の使い魔の躾ぐらいしろ! その不逞モグラに制裁を加えたのは、突如現れたワルドだった。 そして、尻餅をついていた私に、ワルドは優しく手を差し伸べてくれた。凄くドキドキした。 10年近く会っていなかったのに、私の事を未だに婚約者と呼んでくれたのは素直に嬉しかった。 今も昔も、ワルドは私の憧れだったのだから。 ワルドとグリフォンに乗って空を往く。 彼女とギーシュは遥か下だ。栗毛の馬に跨り駆けている。 だが、グリフォンと馬では速度が違いすぎる。グリフォンはまだ余力がありそうだが、彼女たちとは距離が開いてきている。 ワルドは二人を置き去りにしてでも急ぎたいようだったが、ラ・ロシェールまでは馬では二日もかかるのだ。 私の説得で速度を緩めてもらう。 そりゃあ、手紙の回収なんてワルド一人でも余裕だとは思うが、姫殿下から命を受けたのは私たちだ。 出来る限り、置き去りになんてしたくない。 ―― 夕方 街道に沿って半日ほど進むと、渓谷に入った。彼女たちは何度も馬を変え、辛うじてついてきている。 しかし、空を飛ぶグリフォンと山道を進む馬とでは、平坦な街道を進むよりも差が出てしまう。 もうすぐアルビオンとの玄関口である『ラ・ロシェール』だ。 遅れても、上手くすればそこで合流できるかもしれないが、フネが出航するまでに間に合うだろうか? 何か不測の事態が起これば、彼女を置いていってしまう。 そう不安に思った時、事件は起きた。 彼女たち目掛けて崖の上から松明が投げ込まれた。ついで、幾本もの矢が射かけられる。 危ない! と、思った瞬間、矢は小さな竜巻に飲まれて弾かれた。 ワルドだ。ワルドが魔法で助けてくれたのだ。 そして、襲撃者の姿を見ようと崖に視線をやる。 私の目が捉えたのは、赤々と燃え上がる炎と小型の竜巻だった。 ワルドの魔法じゃない。だとすれば誰が……? 襲撃者を蹴散らしたのは、キュルケとタバサだった。 どうやら、出発するところを見られていたらしい。タバサの風竜に乗って追いかけてきたようだ。 お忍びなんだからと告げると、そうならそうと言えと文句を言われた。お忍びなんだから、部外者に言うはずがないでしょ。 あと、タバサはパジャマのまんまだった。きっと、寝ているところを叩き起されたのだろう。 「アンタも大変ね」 「平気。もう慣れた」 どうしてこの二人は友人をやっているのか不思議だ。静と動で正反対なのに。 あと、襲ってきた連中は簀巻きにしておいた。運が良ければ夜を越せる筈だ。 物取りだったらしいが、馬鹿な奴らだ。数を揃えた所で、メイジに敵う筈がないのに。 ―― 夜 「フネは明後日にならないと出航しないらしい」 『女神の杵亭』で寛いでいると、船着き場から戻ってきたワルドにそう告げられた。 何故かと理由を尋ねると、明日の夜は双月が重なる『スヴェルの夜』で、その翌朝にアルビオンが最接近するらしく、船乗りたちは風石の消費を抑えるため、今日明日は絶対に船を出さないのだそうだ。 ワルドはかなり食い下がったようだが、船は出せないと断られたらしい。 その気になれば、魔法衛士隊隊長の権限で無理に出航させることも可能だが、お忍びなので目立つ事は避けたいそうだ。 そういうわけで、予定が狂ってしまった。 本当ならば、明日の朝には出発する筈だったのだが、一日ここで足止めとあいなった。 二人部屋を三つ取り、私と彼女、ワルドとギーシュ、キュルケとタバサという部屋割だ。 ワルドは婚約者だからといって、私と相部屋を望んだが、ギーシュを他の女性陣と一緒にさせるわけにはいかないと言うと 大人しく引き下がってくれた。婚約者とはいえ、まだ学生だしそういう事は早いと思うの。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 オセルの曜日 ―― 朝 翌朝、何故か彼女とワルドが模擬戦をする事になった。 止めるようワルドに言ったのだけれど、「彼女の実力を知りたい」の一点張りで聞く耳を持ってくれなかった。 婚約者を蒸発させられてはたまらないので、手加減するよう彼女にお願いする。 「分かったわ。能力は使わず剣で勝負するよ」 「よっしゃ! とうとう俺っちの出ば……」 「このレイピアでね」 そういや居たわね、喋るしか能のない駄剣が。 でも、アンタ凄く重いんだから、彼女が振りまわせるわけないでしょ。 結果は、当然ワルドの勝ち。 ウィンドブレイクで吹っ飛ばした彼女に実力不足だとか言っていたが、女の子相手にやり過ぎだと思う。少し幻滅だ。 非難の眼差しを向けると、ワルドはサッと目を逸らす。少し動揺したのか、説教もそこそこに去っていってしまった。 しょうがないので、倒れたままの彼女に手を差し伸ばして立ちあがらせた。 彼女は擦り傷と軽い打撲を負っていたが、やおら淡い光に包まれると、傷一つなくなっていた。 軽い怪我だったとはいえ、あんな一瞬で治るなんて驚きだ。 断然、彼女を使い魔にしたくなった。 ―― 夜 あの後は特に何事もなく、素直に時間は流れ、夜になった。 宿の酒場で夕食を摂りながら歓談に興じる。 そして、彼女がワインを飲んだ事がないという事を知った。 彼女の世界ではどうか知らないが、ワインなんて普通の飲み物だ。 むしろ、綺麗な水の方が下手なワインよりも高級品の場合がある。 試しに一口飲ませてみると、意外といける口だったようで、あっという間にグラスを空けてしまった。 食後も酒場に残って騒いでいる彼女らを残して、私は部屋に戻り夜風に当たっていた。 窓から重なった双月を見上げていると、部屋にワルドが入ってきた。 そして、結婚しようと言われた。 いきなりの言葉に、頭が真っ白になる。他にも色々と言っていたが、憶えていない。 それだけ、その言葉の威力が高かったのだろう。 返事をせずにいると、ワルドは「諦める気はない」と言い残して部屋から出ていった。 婚約者なのだから、いずれはそういう事になるだろうと思っていたが、これは不意打ちだ。 任務の事で精いっぱいだというのに、人生の岐路に立たされてしまった。一体何を考えているのだろう? 熱で上手く働かない頭をフル回転させていると、宿に衝撃が奔った。一体何事!? ● ● ● 一階の酒場に駆け込むと、何故か彼女が仁王立ちをしていた。 酒場を見渡すと、テーブルがひっくり返り酷い有様だ。床には投げ出された料理が散乱している。 入口の扉に至っては、吹き飛ばされて無くなっていた。周囲の壁は黒く焦げている。 そんな惨状なのに、酒場は酷く静まり返っていた。外からは、傭兵みたいなやつらがおっかなびっくり遠巻きにこちらを見ている。 視線を戻すと、彼女の顔は真っ赤だった。目は座っている。 「きしゃまら! いきなりなにをしゅるのよ! このわたしがせいばいしてくれりゅう!」 見事に酔っぱらった声で彼女が叫ぶ。同時に、指からビームを乱射した。 ロクに狙いを定めていないビームだが、それだけで驚異であった。 なにしろ、石壁を簡単に蒸発させるのだから、襲撃者たちは逃げ惑うしかない。 中には果敢に突撃してくるものもあったが、そいつらは炎で焼き払われた。 襲撃者の中にはメイジも混じっていたらしく、三十メイルはあるゴーレムが出現したが、 彼女によってあっという間に穴あきチーズみたいになってしまった。 それにより、襲撃者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、辺りには再び静寂が戻る。 「あはははは! せいぎはかつ!」 彼女は上機嫌に腕を振り上げて勝鬨を上げた。 酔っ払いは勘弁してほしい。今度からは飲みすぎないよう監視していないとね。 それにしても、こんな大掛かりな襲撃があるなんて、私たちを狙う存在がいるという証拠だ。レコン・キスタか? とりあえず一難は払えたが、急いでココから離れないといけない。 私たちはワルドの誘導に従い、船着き場を目指した。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ダエグの曜日 ―― 明け方 私たちはフネに乗り込みアルビオンを目指していた。 昨晩の襲撃の後、ワルドの権限を使い商船を徴発しラ・ロシェールを発ったのだった。 船着き場へ向かう途中、仮面を被った白尽くめの男が襲ってきたが、一瞬にして彼女によって蒸発させられた。 アレだけの力を見せられてまだ襲ってくるのは、無謀というかなんというか…… 冥福を祈っておこう。 フネには風石が足りないとのことなので、ワルドがその代わりを務めている。 そして、アルビオンまであと少しというところで空賊船に出くわしてしまった。 アルビオンは今、内乱の所為で治安が乱れに乱れている。なので、こういう無法な連中が野放しになっているのだ。 私は断固抗戦を主張したが、あえなく却下された。 理由としては、こちらの船には武装がなく、非戦闘員を多く抱えているからだそうだ。 それに…… 「う~ん…… 頭がガンガンする……」 彼女は二日酔いだった。万全の状態なら、どんな遠距離からでも蒸発させれたはずなのに。 今は大人しく従う他ないようだ。ワルドはヘロヘロで役に立たないし。 ―― 昼 ありのまま起こったことを話すと、空賊が皇太子殿下で王党派だった。 何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起こったのかすぐには分からなかった。 それこそ、頭がどうにかなりそうだった。 カモフラージュだとかゲリラ戦法だとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいご都合主義の展開を味わったわ。 テンパるのはこれくらいにして、状況を整理しようと思う。 私たちは姫殿下の使いで、アルビオンに赴いた。目的はある手紙を回収するため。 道中、襲撃をかわしあと少しでアルビオンというところで空賊船に拿捕された。 私は空賊の頭の前に通され、尋問をされた。あまりにも失礼な輩なので、大いに啖呵を切ると空賊の態度が一変。 空賊の正体は、アルビオンの王党派。まさしく、任務の目標だった。 そして今、秘密の航路を使い王党派の居城『ニューカッスル城』にたどり着き、ウェールズ殿下より手紙を回収したところだ。 手紙の内容は見ていないが、殿下の態度を見てある程度の予想はついた。 /ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/ (ここから先のページは破り取られている) ―― 夜 ニューカッスル城のダンスホールにて、最後の晩餐会が行われていた。 既に覚悟が出来ているのか、王党派の人々は底抜けに明るく騒いでいる。 その光景が悲しくて痛々しくて、私は会場から逃げるようにして抜け出した。 暗い廊下の隅でさめざめと泣く。 私には分からない。明日死んでしまうのに、ああやって明るく振舞えるのが。 どうして、自分から死を選ぶのが分からない。逃げれば、愛する人とも一緒にいられるというのに…… そうやって泣いていると、廊下の奥から燭台を持った彼女が現れた。 泣き腫らした目を擦り涙を拭う。どうやら、いなくなった私を心配して探しに来てくれたらしい。 感情を抑えきれずに、彼女に疑問をぶつける。 どうして、あの人たちが死を選ぶのかと。 その質問に彼女は口ごもり、建前通りに誇りとか守るためとかと口にしたが、私が聞きたいのはそんなことじゃない。 でも、誰にも分からないわよね。分かるはずがない。 だけど、残された人は一体どうすればいいの? 早く帰りたい。トリステインに帰りたい。 ● ● ● 彼女が去ると、入れ違いでワルドがやってきた。ワルドなら私の疑問に答えてくれるだろうか? そう期待を込めて見上げる。 「ルイズ、結婚しよう。ウェールズ殿下も祝福してくれている」 どうしてそんな事を言うのだろうか? 私は拒否したが、ワルドは結婚式を挙げると言ってきかない。 いろんな事が起こりすぎてワケが分からない。大声をあげて泣きたい。 バカ。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 虚無の曜日 ―― 朝 礼拝堂に連れていかれ、半ば強引にウェディングドレスに着替えさせられた。 結局状況に流されてしまった。 どうしてこうなってしまったのだろう? 何度も溜息をつく。 部屋で待機していると、彼女たちがやってきた。 「こんな状況で結婚式なんて、アンタたちは何を考えているのよ?」 「なあルイズ、急すぎやしないかい。いきなり結婚だなんて。 大体まだ学生じゃないか」 「……非常識」 口々にこの結婚式に対して否定的な意見を言う。 だけど、私だってどうしてこうなったのか分からないのだから、答えられるはずもない。 「ねえルイズ、アナタはこれでいいの? この結婚式に納得してるの?」 「それは……」 「だったら言わなきゃ。 じゃないと、どこまでも流されるだけよ。 自分の事なんだから、自分の意見を言ってやらないと」 そうよね。分かったわ、自分の意思をはっきりと伝える。 ワルドには悪いが、結婚なんて私にはまだ考えられない。 そう決心すると同時に、準備が整ったとの連絡が来た。 ● ● ● 一瞬、何が起こったのか分からなかった。 目の前には、胸から大量の血を流して倒れているウェールズ殿下がいる。 ワルドが顔を醜悪に歪めさせて何かを言っている。 情けない話だが、私は腰を抜かしてしまっていた。 誰かが茫然とつぶやいた。 「レコン・キスタ……」 「そうだ、僕はレコン・キスタのスパイだ」 誰かの怒声が聞こえた。 ワルドが立っていた場所に炎と氷刃が奔り、私の周りに七体のブロンズゴーレムが現れる。 キュルケにタバサにギーシュ、そして私の横に立っているのは彼女だ。 「ふん、手紙は貴様らを皆殺しにしてから回収するとしよう」 「スクウェアとはいえ、五対一で勝てるつもり?」 「貴様ら程度を相手取れぬのでは、魔法衛士隊隊長は務まらぬよ。 まあ、その使い魔君の相手は骨が折れそうだが……」 そう言うと、ワルドの姿がぼやけた。虚像が幾重にも重なり、陽炎のように揺れている。 「ユビキタス・デル・ウィンデ。 さあ、これで五対五だ。君らの勝ちはなくなったな」 「風の遍在……」 風の遍在。それは、術者と等しい力を持つ分身を作り出す風のスクウェアスペルだ。 五人のワルドと彼女たちが戦っている。 それなのに、私は見ているだけでいいのか? 泣いているだけでいいのか? いい筈がない。 だから、私は杖を振り上げ呪文を唱える。 成功するなんて思っていない。でも、爆発は起こる。今、私が出来る精一杯だ。 当たるなんて思っていない。でも、意思は示せる。 彼女が言ったのだ。自分の意見を言ってやれと。 だから、私は力の限りぶつけてやる。ワルドに限りない拒絶を。 死んでもお前のモノなんかにはならないのだと。 確かな意思を込めて杖を振る。 「なんだとっ!? ルイズ!」 「え、なに? 当たったの? うそ?」 遍在の一体を一撃で消されワルドは、一瞬動揺する。私だって驚きだ。 その隙を見逃すはずがない。 礼拝堂に氷嵐が吹雪いた。視界を真っ白に埋め尽くす。 しかしそれも一瞬の事、吹雪はすぐにおさまった。だが、その一瞬で十分だった。 動きの止まったワルドに、ギーシュのブロンズゴーレムが肉薄する。 ワルドは巧みな体捌きと杖を剣のように操り、ブロンズゴーレムをいなすが、反撃は小さな火球で邪魔をされた。 打ち合わせたわけでもないのに、澱みなく流れる連携にワルドは思わず飛び退く。 気がつくと、四人のワルドは一ヶ所に集まっていた。 そして、全員の視線が彼女に集中する。ワルドの表情が凍るのが見えた。 散開しようとするが、遅い。 「くっ……」 「スターライトブラスト!」 その瞬間、光が視界を塗りつぶした。 ● ● ● ―― 午後 私たちは学院へと帰ってきていた。 アレからどうなったのかというと、絶体絶命のピンチに陥っていた。 ワルドは塵も残さず消滅したとはいえ、危機が去ったわけではないのだ。 王党派とレコン・キスタの戦闘が始まり、城は砲撃で激しく揺れている。 ここから逃げるのは至難の業だ。 秘密の航路を使おうにも、ワルドによってリークされている可能性が高く危険である。 どうすれば逃げ出せるか算段を立てていると、彼女がこう言ってきた。 「大丈夫私に任せて」 彼女の提案を聞くと、その内容に笑う事しか出来なかった。 ズルイというか、非常識というか、ご都合すぎる。裏技だ。 その方法とは、テレポートという能力を新しく覚えたのでそれで帰ろうというのだ。 テレポートとは、瞬間移動の事らしい。一度行った事のある場所なら、一瞬で移動できるのだそうだ。 そんなわけで、そのテレポートを使い学院に帰ってきたわけだ。 勿論、タバサとギーシュの使い魔も回収して。 これから姫殿下に報告に行かなくてはいけない。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ユルの曜日 「ごめんルイズ、話があるんだけどいい?」 彼女がそう切り出してきた。 彼女が言うには、テレポートを覚えたので天の柱を探す必要はなくなったらしい。 やっぱりそうか。 何となく、そうなのではないかと思っていた。 「三ヶ月っていう約束だったけど、出来るなら早く帰りたいの」 「いいわよ」 頭を下げる彼女を制止して、ぶっきらぼうに告げる。 「いいの?」 「いいのよ。 だって、アンタを使い魔にする気なんてもうないもの」 だってそうでしょう? 友達を使い魔なんかに出来る筈がないもの。 「だから、どこにでも行けばいいわよ。さよなら」 「ありがとう、ルイズ。私の旅が終わったら、また会いにくるから」 「……ふん」 そう言って、彼女は私に糸の束を渡してきた。 不思議な糸だった。オレンジ色の、見ているだけで心が温かくなるような糸。 これが、彼女と交わした最後の会話だった。 ◆ ◇ ◆ 「う~ん…… この彼女ってのはどんな奴だったんだろ? これだけじゃ、よくわかんないな。 なあデルフ、お前は知ってんの?」 「なあ相棒、人の日記を勝手に読むのはどうかと思うね」 「そうは言ってもよ、ルイズにきいても教えてくれねぇんだもん。 だったら、自分で調べるしかないだろ?」 「だからって、この行動はないと思うね俺は」 何処に居るのかと探しにきてみれば、何をしているのだコイツは。 よりにもよって、私の日記を読むなんて。 おしおきね。久しぶりの。 「こっの、バカ犬!」 「キャイン!」 手にした馬上鞭で打ちすえると、サイトは叫び声をあげてのた打ち回った。 久しぶりだけど、相変わらずいい声で鳴く。ゾクゾクきちゃうわ。 両手を腰に当て、倒れこんだサイトを上から睨みつける。 「アンタね、人の日記を勝手に読むなんて何考えてるのよ!」 「相棒はね、アイツの事が知りたいんだってよ」 「アイツ? ああ、彼女の事ね」 彼女が去ってから、一年以上が経つ。 アレから色んな事があった。使い魔としてコイツを呼んだ時はガックリときたが、今では大切なパートナーだ。 暫くは日常を過ごしていたが、程なくして戦争が起きた。 レコン・キスタとの戦争、それが終わった後にはガリア。 でも今は、このハルケギニアで戦争をしている国はない。なぜなら、そんな余裕がないからだ。 ハルケギニア全土を揺るがす大地震によって、各国はことごとく力を減退させ、戦争をしている余裕はなくなった。 瓦礫に埋もれる町を復興させなければならず、エルフとの聖戦に息を巻いていたロマリアも休戦する他なかった。 学院もかなりの部分が破損し、まだ完全には復興仕切っていない。 駄犬と駄剣に説教をしていると、私の後ろの扉が開いた。 何の断りもなしにキュルケが入ってくる。 「ちょっとちょっと、こんな日にも喧嘩なわけ? 仲が良いのも分かるけど、少しは落ち着いたらどう?」 「ふん、アンタとも今日でお別れね。清々するわ」 「あら? 実家に帰っても隣同士なんだから、いつでも会えるわよ。 ふふふ、さびしい?」 「誰が」 世界がどうなっても、私たちの関係は変わらない。 多分十年後も同じことを言っている気がする。なんせ、先祖代々の宿敵なのだから。 さて、そろそろ時間だ。 「ほら、行くわよ犬」 「わ、わぅ~ん……」 まだ寝ころんでいるサイトの頭をふみつけると、犬語で返事をしてきた。 鳩尾を思いっきり踏みつけてから、部屋を出る。 今日は卒業式だ。 この間、竣工したばかりの本塔にて行われる。 本塔は宝物庫の床が抜け落ちていたので、再建が大変だったらしい。 廊下を進む。この寮塔も今日でお別れだ。 「う゛っ、ごほっ…… 待ってくれよ、置いてかないでくれ」 後ろからサイトが咳き込みながら追いついてくる。 軟弱な使い魔だ。しょうがないから、落ち着くまで待ってやろう。 そうしていると、不意に後ろから声をかけられた。 「久しぶり、ルイズ。今日卒業式なんだって? 丁度いい日に来たものね」 ああこの声は、忘れる筈がない。私の友達の声だ。 ゆっくりと振り返ると、変わらぬ彼女の姿があった。 「ええ、本当に久しぶり」 今日は良い日になりそうだ。 = ルイズと彼女と運命の糸 ・ 終わり = 前ページルイズと彼女と運命の糸