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◆cAkzNuGcZQ 話数 タイトル 登場人物 039 輝き 岩下明美、エドワード(シザーマン)、バブルヘッドナース 040 怪人・デカおじさん 小暮宗一郎、半屍人 045 Self question 古手梨花、風海純也 057 ジャックス・イン 式部人見、ダグラス・カートランド、ハンク、ゾンビ 061 神隠し逃亡者 霧崎水明、長谷川ユカリ、シビル・ベネット、タイラント NEMESIS-T型 067 テレホンコール 岸井ミカ 069 ジェノサイダー 園崎詩音、闇人、半屍人 072 混ぜるな危険 阿部倉司、ヘザー・モリス、クローディア・ウルフ、エドワード(シザーマン) 075 メトロ・サヴァイブ ケビン・ライマン、ジル・バレンタイン、太田ともえ、バブルヘッド・ナース、死者の霊魂 078 運命の出逢い 宮田司郎 080 ネクタール 闇人 083 Courage point 古手梨花、風海純也、氷室霧絵、小暮宗一郎 087 生まれ変わったら双子がいいね 闇人 088 エレル――ELEL―― 新堂誠、前原圭一、雛咲深紅、ジェニファー・シンプソン、怨霊、浮遊霊 090 その誇り高き血統 ケビン・ライマン、ジル・バレンタイン、太田ともえ 094 レギオン 雛咲真冬、福沢玲子、ラージローチ 097 Unknown Kingdom ハンク、屍人(SIREN2)、バブルヘッドナース、ケルベロス、半屍人、ゾンビ、ナイト・フラッター 101 リセット 八尾比沙子、レオン・S・ケネディ、鷹野三四 103 Phantom 古手梨花、風海純也、氷室霧絵、小暮宗一郎、シビル・ベネット、怨霊 105 ワルタハンガBlaze Of Glory 三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、太田ともえ、ハリー・メイソン、ケビン・ライマン、ジム・チャップマン、ヨーン、半屍人、ゾンビ 106 『澱み』 日野貞夫 108 双子ならば、同じ夢を見るのか 宮田司郎、花子さん、レッドピラミッドシング 109 遠い出来事 ガナード 111 今はそれどころではない 新堂誠、前原圭一、雛咲深紅、ジェニファー・シンプソン、浮遊霊 116 暗闇を照らす光の中では心の言葉MOMENT 式部人見、霧崎水明、長谷川ユカリ、岸井ミカ、ゾンビ、ナイトフラッター、スプリットヘッド 120 復讐の女神 タイラント NEMESISーT型 121 My Dear Sweet SisterYou re Not Here 阿部倉司、ヘザー・モリス、クローディア・ウルフ、エドワード(シザーマン) 122 鬼の霍乱 霧崎水明、長谷川ユカリ 123 蒼い朝 女王ヒル 125 MEMORY――隙間録・三上脩、加奈江編 三上隆平、三上脩、加奈江 126 Born From A Wish――隙間録・ジェイムス・サンダーランド編 ジェイムス・サンダーランド 128 YOU RE GONNA BE FINE 屍人、闇人 129 Survivor ――Eye of the Tiger―― 三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、ジム・チャップマン 131 羽生蛇村異聞 第三話・外伝『理尾や丹』――隙間録・吉村俊夫編 吉村俊夫、吉村郁子、吉村孝明、吉村克明 132 失われた記憶――隙間録・宮田司郎編 宮田司郎 133 さらに深い闇へ 雛咲真冬、福沢玲子、エディー・ドンブラウスキー、羽入 134 The FEAST 1The FEAST 2 ハンク、レオン・S・ケネディ、鷹野三四、ジェニファー・シンプソン、八尾比沙子、ゾンビ、怨霊、タナトス、T-103型 137 Against the Wind レオン・S・ケネディ、鷹野三四、ジェニファー・シンプソン、浮遊霊、怨霊 138 ゼロの調律 三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、ジム・チャップマン、地縛霊 139 聲 雛咲真冬、羽入 登場回数 五回 ジル・バレンタイン 四回 ジェニファー・シンプソン 三回 長谷川ユカリ、須田恭也、三沢岳明、古手梨花、鷹野三四、風海純也、霧崎水明、小暮宗一郎、太田ともえ ハンク、レオン・S・ケネディ、ケビン・ライマン、ジム・チャップマン、雛咲真冬、エドワード(シザーマン) 二回 岸井ミカ、八尾比沙子、宮田司郎、阿部倉司、新堂誠、福沢玲子 前原圭一、式部人見、シビル・ベネット、ヘザー・モリス、クローディア・ウルフ 雛咲深紅、氷室霧絵 一回 日野貞夫、岩下明美、園崎詩音 ハリー・メイソン、エディー・ドンブラウスキー、ダグラス・カートランド 隙間録 三上隆平、三上脩、加奈江、ジェイムス・サンダーランド 吉村俊夫、吉村郁子、吉村孝明、吉村克明、宮田司郎 流行り神に精通した書き手さん。人間描写とユーモアの練り込みが素敵 -- 名無しさん (2011-01-22 17 27 17) 流行り神勢の描写に定評のある書き手さん。これからの展開に期待できる作品を書いている。「神隠し」の水明さんは必見。 -- 名無しさん (2011-01-23 23 46 25) 狂った笑い声や擬音語(SE)の使い方が巧みなお方。心情描写や謎への考察など、いろいろな意味で“深み”を出すのも上手い -- 名無しさん (2013-04-20 16 43 52) 名前 コメント
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まさか村ごと幻想入りさせるなんて… その発想はなかった! これからの展開に期待してまーす! お話できる機会があれば是非www といってもどうしたらいいものかー -- (七ツ夜(322)) 2008-05-25 17 58 48 IRCで、Hina571をクリックして 『トーク』か『DCCチャット送信』を選ぶと幸せになれます。 -- (未熟者ヒナ(571)) 2008-05-28 06 57 23 おkw把握したwww そちらもIRCでこちらを見つけたらよろしくです! -- (七ツ夜(322)) 2008-05-31 00 38 56 麗夢屍人になるのか。もしくはなる前にSDKが助ける? -- (名無しさん) 2008-06-01 23 36 58 屍人にはしたくないなぁ… どうなるかは、是非予想してみてくださいね。 -- (未熟者ヒナ(572)) 2008-06-02 22 46 13 謎解き要素があって面白い。 あと覚醒前のSDKが重なった幻想郷に影響を与えるか楽しみです。 -- (名無しさん) 2008-06-12 00 08 50 タグ『謎解き要素あり』をつけてくださった猛者に感謝。 二行目で「何が重なった」のか意味不明なんだぜ名無しさん。 -- (未熟者ヒナ(572)) 2008-06-15 18 38 23 http //hina571.blog.shinobi.jp/ -- (ブログ) 2008-07-02 23 59 31 ↑ -- (『羽生蛇村が幻想郷入り』制作ブログ byHina571) 2008-07-03 00 00 06 ↑おお、忘れてました!感謝の極みッ -- (未熟者ヒナ(572)) 2008-07-03 05 01 25 この構成は凄いと思った。 発想はあっても実際やろうとする者はいないだろう・・・。 と思ったらいたという。 -- (名無しさん) 2008-09-02 09 54 10 >09:54:10 02/09/2008の名無しさん FOOOOO! ありがとうございます! スキマ産業とってもおいしいです。とってもおいしいです。 -- (未熟者ヒナ(572)) 2008-09-02 19 56 14 打ち切りか・・・残念だ。 -- (名無しさん) 2008-09-17 20 50 44 非常に残念だが… まあ、動画じゃなくてSSとして続けていってくれると 書いてあって嬉しかったぜ! お疲れ!そして、またよろしく! -- (七ツ夜(322)) 2008-09-17 21 40 50 >名無しさん 申し訳ありません、そしてご視聴ありがとうございました。 >七ツ夜さん ありがとうございます。 私は先に目覚めてしまいますが、これからも頑張ってください。 -- (未熟者ヒナ(元572)) 2008-09-17 21 48 01 やっぱりキャラ殺しは否定派が多い証拠か -- (名無しさん) 2008-09-18 20 06 44 キャラ殺しに賛成派が居たんですか?驚きであります -- (未熟者ヒナ(元572)) 2008-09-18 20 52 10 復活してくれないかな -- (名無しさん) 2009-03-27 02 14 21 サイレンでは人が死ぬの当たり前だしむしろ死んだ方がいい -- (名無しさん) 2011-04-20 00 58 18
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ルーテシア・アルピーノ 田堀/切通 初日/4時56分28秒 明け方の空。 真っ黒に塗りつぶされたような空は、やがて昇るであろう太陽の影響で、今は真っ青に染まっている。 昨晩降っていた雨の名残で空気は湿っており、雨上がりの土の匂いが辺りに立ちこめている。 そして森の中は靄がかかっていた。 気絶から目覚めたルーテシア・アルピーノは森の中に切り開かれた道を、一人で淡々と歩き続けていた。 いつも傍らにいる召還獣達は、いない。 当たり前だ、召還魔法がまるで使えないのだから。 他にもドクター……ジェイル・スカリエッティやナンバーズ、ゼストやアギトとの通信が出来ないことも、召還はもちろん他の魔法の一切が使えなくなっていることも、既に知っている。 だがルーテシアは、それに対して多少は心細く思おうとも、決して不安とは思わなかった。 心を閉ざした少女は無表情を携えて、仲間の元にたどり着けるよう木々の間に開かれた道を、ただ黙々とさまよい続けるだけ。 「……っ」 不意に頭に鋭い痛みが走った。 眉間に少し皺を入れながらゆっくり目を閉じると、瞼の裏にビジョンが浮かぶ。 ―――げ らげ ら げらげ らげ ら 誰かが森の中で、鎌を持ってけたたましく笑っている。ルーテシアはそれが誰なのか、どういう者なのかも既に知っていた。 目から血を流し、生気を失った人の形をしている化け物達。ここ周辺は、あの化け物達しかいない。 彼等に出会う度に隠れてやり過ごしてきた。そうしないと、襲われて殺されてしまうだろうから。 現在、一切の魔法を封じ込まれた自分はただの少女であり、あの化け物達には到底太刀打ちできない。 目が覚めてから何故か授けられていた他人の視界を盗み見る能力を使って、やり過ごすしかないのだ。 彼等は、おそらくこの辺りに住んでいる現地人だろう。 なぜああなってしまったのか、そして何故、自分に特殊な能力が授けられたのかルーテシアには検討も付かないが、同時に大した興味も無かった。 ついて出るのは、彼等のようにはなりたくない、という単純な感想。 ルーテシアにとって興味があるのは目的のレリックを集めること。 それと、強いて言えばアギトとゼストの安否が気になっていた。 (アギト、ゼスト……無事かな) 作戦のため、ナンバーズと共にこの村に出向いていた三人は各々で散らばり、それぞれの場所で待機していた。 そこを、突如として大爆音のサイレンが襲った。 ルーテシアが気付いたのは今からおよそ一時間程前で、それまでにどれほどの時間が経過したのかは知る由も無い。 「………………」 ビジョンで見た化け物の視界を見る限り、化け物がいる位置はまだ遠いらしく、念のため警戒心を強めながら歩みを進める。 その時、ルーテシアの横、森の中から、がさがさと葉が擦れる音が聞こえた。 「!?」 驚き、咄嗟に後ずさって距離を取った直後、誰かが道に飛び出してきた。 それと同時に若い女性の声がルーテシアの耳に届く。 「あっ!!びっくりした……」 そう言って現れたのは質素な服装の、現地人らしき若い女性。驚いた表情で息を荒げながらルーテシアを見ている。 二つ結びにしてある茶色がかった髪の毛と、衣服のあちこちには木の葉がくっついていた。 顔の血色はいいし、血の涙も流していない。見る限りはどうやら普通の、正常な人間のようだ。 「外国の、子供?なんでこんなところに……?」 ルーテシアを見た女性はいたく驚いたようだ。 それもそうだ、外国の子供が黒色を基調とした奇妙な衣装を着て、こんな辺境の地にいるだなんて誰も予想できない。 ルーテシアはどこか頼りなさげな女性の顔を見据えた。 「……ここはどこ?」 見据えて、女性にルーテシアは間髪入れず質問をすると、女性は更に驚いた表情をして「日本語、しゃべれるんだ」と呟く。ルーテシアの質問は無視された。 「……それで、ここはどこなの?」 出掛かった溜め息を呑み込んで、質問を再度、繰り返す。気付いた女性は申し訳無さそうに、だが少し急いでいる様子で口早に答えた。 「あ、ごめんね。ここは××県の羽生蛇村っていうところだよ。 ……それよりここ、なんていうか危ない人がたくさんいるみたいだから逃げよう?ね?」 「え?あ……」 すると女性はルーテシアに有無を言わさず、手を掴むと引っ張って走り出した。 木々に囲まれた平たい道を、女性は多少は慣れている様子でぐんぐんと進んでいく。どこへ進んでいるのかは、ルーテシアは知らない。 しかし大声でやめろと言う理由も無かったので、ルーテシアはこの頼りなさげな雰囲気の現地人の女性に、そのまま引っ張られて行った。 ――――――――――――――—————————————————————— しばらく走り続け、女性はようやく足を止め、「こ、ここまで来れば、多分、大丈夫」と息も絶え絶えに言った。 ルーテシアも、喉に絡みついてくるようなこの土地独特の湿気が合間って、すっかり息を切らしている。 「ご、ごめんね、出会い頭に手引っ張っちゃったりして」 「ううん……別に」 余計に申し訳無さそうな語調で謝る女性に対し、ルーテシアは息を整えながら、周りを見回して答えた。 眉一つ動かさないルーテシアの無表情と素っ気ない返事を、怒っていると思ったらしく気まずそうに押し黙った。 「…………………」 沈黙。 ルーテシアがちらりと女性を見やると、眉を下げて、困った表情をしている。 その正直な反応を見るに、決して悪い人間では無いのだろう。 しばらくすると、女性は意を決したように話を切り出してきた。 「……わ、私は理沙、恩田理沙。あなたは?」 どもりながらも女性……理沙は自己紹介をした。 ここまで直球に名乗られるとルーテシアも答えないわけにはいかず、間を空けてから呟くように答えた。 「……ルーテシア・アルピーノ」 「ルーテシア、ちゃんか。ルーテシアちゃんはどうしてこの村にいるの?」 理由は言えるはずも無いし、言ったところで理解を得るのに時間が掛かりそうだ。 かと言って妥当な言い訳を考えるのも面倒なので、ルーテシアはそのまま黙っていた。 「言いたくないなら、別にいいんだけど……」 理沙は再び居心地悪そうに俯く。 なぜそういう反応をするのか、ルーテシアには理解ができなかった。 相手がそういう人間なのだと納得すれば済む話なのに。 「……でもよかった、まともな人に会えて。 会う人みんな変になっちゃってて襲ってくるし、幻覚みたいなもの見るし……なんなんだろ、これ」 現地人の理沙でも理由知らないということは、やはり管理局側によるものなのか、あるいは別のものが原因なのか…… スカリエッティがルーテシア達には内緒で何かをやったという可能性もある。 相変わらずルーテシアにとって、あまり興味のある話では無かったが。 「……あなたはどうしてこんなところにいるの?」 ルーテシアは軽い気持ちで、理沙に逆に質問を投げかけてみた。 「えっ、私?私はね……この村に双子のお姉ちゃんがいてね、会いに来たらこんなことに巻き込まれちゃった。まだお姉ちゃんとは会えてないんだけどね……」 「そう」 「……そうだ、宮田先生って男の人に会わなかった?お医者さんで、お姉ちゃんの婚約者なんだけど。それと私のお姉ちゃんにも会ってない?」 「ここではあなた以外に誰にも会ってない」 ルーテシアが首を横に振ってそう言うと、理沙はしょんぼりとした顔をした。 続いてルーテシアも、理沙にゼストとアギトについて聞いてみた。 「……貴女は、茶髪で身体が大きい男の人に会わなかった?」 「茶髪で身体の大きい……その人の名前は?」 「……ゼスト。あと赤髪で身体がとっても小さい女の子、名前はアギトって言うんだけど……」 「とっても小さいってどれくらい小さいの?」 ルーテシアが胸と首あたりに手を持ってきて「これくらい」とサイズを表した。 しばし間があって、何故か理沙は少し困惑しながら微笑んだ。 「い、いや、さすがに会ってないけど……ゼストっていう人も分からないなぁ」 「そう……」 「その二人はルーテシアちゃんのお友達?それとも家族なの?」 「………両方」 ゼスト、アギト…… スカリエッティの元でレリックを探していた間、ずっと自分を助けてくれてずっと自分と一緒にいてくれた、友達であり仲間であり、家族だ。 しかしこの魔法が封じられている現状で、複合機のアギトがどうなっているのか分かったものではないし、ゼストは余命幾ばくかの壊れかけた身体を抱えている。 (二人とも無事かな……) 考えると多少なりとも心配になり、ルーテシアは微かに表情を曇らせた。 「ねぇ、ルーテシアちゃん」 ふと理沙が思い切ったようにルーテシアに語りかけた。 「その二人を一緒に探しに行かないかな?私もお姉ちゃんと、宮田先生を探しに行かなきゃいけないし…… 。 それに二人でいた方が寂しくないよ」 「どうかな?」と理沙は重ねて聞き、自分を見上げるルーテシアの瞳を見つめた。 「………」 表情一つ変えず、ルーテシアは首を縦に振ることで肯定の意思表示をした。 理由は、身体能力的に弱者にあたるルーテシアにとって、大人の女性であれど誰かと二人でいた方が何かと便利だろうと思われたから。 そして、断る理由が特に無いことも理由の一つだった。 ルーテシアが同意した途端、理沙の表情は、わかりやすく明るくなった。 安心と喜びの表情。何かと顔に出やすい正直な性分なのだろうか。 「じゃあ行こうか。 ゼストさんとアギトさん、それにお姉ちゃんに宮田先生を探しに」 理沙がそう言って、二人はだいぶ明るくなった依然と白い靄が掛かっている森の中を再び歩き始めた。 空は白んでいる。夜は既に明けていた。
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ユーノ・スクライア 大字波羅宿/耶部集落 初日/6時12分22秒 ―――ウォォォォォォォォォ…… 十分程前からだ。この赤い水がはびこる異界に羽生蛇村を追いやったサイレンが、どこからともなく再び鳴り響いていた。 ―――ウォォォォォォォォォ…… 脳髄から湧き上がるような頭痛に顔をしかめて、ユーノは廃屋の影から明け方の空を仰ぎ見た。 生物の咆哮のようにも聞こえるこのサイレン。少なくとも機械による無機質なものには聞こえない。 (このサイレンは、一体なんなんだ?) サイレンは頭痛の他に、喉の渇きも誘発していた。ワゴンで覚醒して以来、何も喉を通していない上に疲労も合間って、一刻も早く喉を潤したいという欲求に駆られる。 しかし村の川、湧き水、水道水、とにかくここにある水という水の全ては、鮮やかな赤に染まり切っていた。 否応無しに血を彷彿させるような赤色。それらは先に山の上から見た、赤い海を満たしているものと同じ水に違いない。 (このサイレン、まるであの赤い水を飲むように誘ってるみたいだ……) 苦しみから逃れる術を目の前にぶら下げてわざと苦しませているような、ユーノはそんな意図をサイレンから感じ取った。 だがそもそも、血の色をした水なんて見た目からして気持ちが悪くて、とても飲む気になれなかった。 赤い水を飲むとどうなるのか、少なからずよからぬ異変を身体にもたらされるであろうことは容易に想像ができる。 しかしこのまま異界に留まって喉の渇きが進めば、いずれどうなるかだなんてわかったものでは無いことも確かだ。 (一刻も早くみんなを探して、ここから脱出する手立てを探さないと) だがワゴンから脱出してからさまよい続けて数時間が経つ。 それだけの時間の中を移動に費やしたにも関わらず、ユーノは仲間どころか人間にすら会えていなかった。 出会うのは元々人間だったと思われる、目から血を流した屍のような肌をした人々だけ。 彼等はホラー映画のゾンビのように、ユーノを見つけるやいなや真っ先に襲いかかって来た。 そのゾンビを日本風に言うなら彼等は屍人とでも呼ぶべきだろうか。 ただ、屍人はゾンビとは違って言葉をいくらか喋るほか道具を使える知能は残っていた。それに最も特筆すべき点は、彼等は不死身であることだ。 傷つけても傷つけてもいずれ再生、復活をして何事も無かったかのように再び活動を再開する。 (まさか不死の生命が実在するなんて……) ユーノは驚きを隠せなかった。 それはおとぎ話や空想の世界での話でしか存在し得なく、長年無限書庫を担当して来たユーノからしても、不死の生命体が確かに存在していたという事案や文献、証拠は見たことが無かったからだ。 (他人の視界を盗み見る能力を授かったのもここに来てからだし……分からないことが多すぎるな) ユーノは廃屋の影から顔を出して周りの様子を伺った。 現在ユーノは、打ち捨てられて崩れかかった廃屋が建ち並ぶ集落にいた。 その集落は今、歩く屍達という新たな住民による支配を受けている。 ワゴンを出てから人気の無い山を下り続け、屍人を避けながらやっとのこと人里に出たと思えば、そこはこの屍人達で溢れている廃れた集落だった。 当然、そこに迷い込んだユーノは彼等にとって排除されるべき存在に当たる。 (でも寄りによってこんな所に辿り着くなんて、ツいてないなぁ) 思わず嘆息を漏らしたユーノ。その手に持っているのは、錆び切ったシャベルだ。 山中で拾ったものをそのまま武器として活用していたのだが、その先端は屍人達を何度も殴打したためにひしゃげて、血で赤く染まっている。 武器はシャベル一本のユーノに対して、相手の屍人は集落内に複数いる上に、何人かは拳銃や猟銃を所持している。 そんなユーノが彼等に見つかれば、すぐに仲間を呼ばれて袋叩きに遭うだろう。 そうすればあっという間に死に追いやられてしまうだろうことは容易に想像が出来る。 ここ最近は前線どころか元より戦うこと自体が無く、ずっと無限書庫で仕事をしてきたユーノ。 別に戦闘に関して自信が全く無いというわけでは無いが、対する相手は死をも超越した存在だ。 仮に彼等屍人達が、赤い水によって生まれた者だとしら、自分も死後、彼等と同じ様な形態で復活するかもしれない。 だがあんな知能を感じさせないような無様な形での不死身など、ユーノはまっぴらごめんだった。 (とにかく長居は出来ないな。早くこの集落を出たいんだけど……) そう思いつつ、屍人がいないことを確認して屈みながら廃屋の壁沿いに移動する。ユーノが隠れていたのは『中島』と表札を掛けられた家屋だ。 この集落は山を階段状に切り開いた土地に建ててあり、各々の段に建てられた家屋は全部で数件しかない、非常に小さな集落だった。 だが小さな村と言えど、長い雨と日本独特の湿気がもたらした濃い靄のせいで、見通しは非常に悪い。 ユーノは目を凝らしながら中島家の裏手を通り、段と段を繋げる小さな坂を登った。 そしてすぐそばにあった『吉村』と書かれた表札を掛けられている、雨戸が外れて大きく口を開けている廃屋の中に身を滑り込ませた。 そこで身を潜めてから、ユーノは目をつぶり、意識を研ぎ澄ました。脳内に誰かの視界が映る。点けたての古いテレビのように、音声と映像が徐々に鮮明になっていく。 ――ほっは ぁ ひぃひ ひ ひはぁ っ は―― 呼吸か笑い声か、区別がつかないような耳障りな吐息が聞こえ、廃屋の屋根の上で猟銃を手に辺りを見張っている視界が映し出された。 この狙撃手こそ、ユーノが堂々と表を移動できない大きな要因だった。 (……しかも退路が無い) ユーノの背後には小高い山のようなものがそびえており、とても登れそうにない。それに他の視界も見た限り、静かにしていれば狙撃手に見つからずに済む道には全て屍人が配置されていた。 唯一屍人がいなくて抜け出せる道と言えば、狙撃手がいる家屋とその隣の家の間。つまり狙撃手の足元を通ることになる。 (……でも、行くしか無いよね) どちらにしろこの場に留まっていても、いずれかは彼等と戦闘になる。なら退路があるだけマシ、そこに賭けてみるべきだろう。 目をつぶり、屍人達の視界を見回す。機を見てから、シャベルを握り締め、ユーノは緊張した面持ちで吉村家から顔を出した。 (よし、今だ!) ユーノは吉村家から飛び出し、なるべく足音をたてず、だが出来るだけ早足に木々の生い茂る集落の中を横切って行く。 そして無事、目的地の廃屋の玄関辺りにたどり着いた。廃屋の表札には『川崎』と書かれている。 その川崎家のちょうど真横、川崎家より一段下の段に、狙撃手のいる家屋が建っていた。 幸運にもユーノが身を潜めている川崎家の玄関口と、狙撃手のいる家屋の間には木造の倉庫が建っており、狙撃手からユーノのいる位置は倉庫に隠れて見えなかった。 (よ、よし……それでこれからどうやってこの集落を抜けるかだけど……ん?) その時、ふと足元に落ちていた何かが目に入った。それは寂れた廃村には似つかわしい、真新しいカードだった。 思わずそれを拾い上げ、表面に付着していた泥を払う。青みがかった色をしているプラスチック製のカード。カード上部には大きく『城聖大学職員証』とある。 (職員証……教授か?) その下には『文学部 文化史学科民俗学講師』と、スーツを着たふさふさとした髪型が特徴的な男の顔写真があった。名前は『竹内多聞』と書いてある。 真新しい職員証を見る限り、この竹内という人物もこの村に迷い込んでいるのだろう。 (やっぱり他にも人がいたんだ) 自分以外にも人間がいることに、ユーノは思わず安堵した。職業を見た限りだと、自分と同じような理由でこの村に来たに違いない。 それに考古学を専攻する自分との共通点もあり、仲間意識が自然と芽生えた。 (出来ればまだ生きている内に会いたいな……力を合わせればこの状況をどうにかできるかもしれない) まだ希望が潰えてるわけじゃない。そう思い直して、自分を奮起するようにユーノは職員証を握った。 ぱぁん しかしその時、突如ユーノの足元の土に甲高い音をたてて弾丸がめり込んだ。 (き、気付かれた!?) 当然、ユーノはそれに驚き後ずさりをする。すると不意にかかとが何か固いものに乗り上げた。それは材木だった。 「っ……うわわっ!!」 足元にあった材木に足を取られてユーノはバランスを崩し、勢いよく背中から倒れた。 ユーノの身体は川崎家の外れ掛けた雨戸に寄りかかり、経年劣化していた雨戸はそれを受けて大きな音をたてて外れた。 当然、ユーノは川崎家の中に背中から突入することになり、倒れた拍子に後頭部を思い切りぶつけた。頭をさすりながら上体を起こす。 「いたたっ……ってヤ、ヤバい!!」 今の音で確実に他の屍人達にも気付かれただろう。狙撃手もいる中、ここから無闇には動けない。ユーノは慌てて川崎家の中に駆け込んだ。 奥の部屋に入り暗がりの中に身を潜めると、とりあえず『竹内多聞』の職員証をポケットに入れ、すぐさま目をつぶって近辺の屍人達の視界を探る。 ―――だ ぁれ だあ ぁは あぁ――― ―――げぇ ひは ひ ひひぃ ひひ――― 既に二体程の屍人が川崎家の前に集まっている。しかもそのうち片方の屍人の手には拳銃が握られていた。 (ったく、やっちゃったなぁ!!) 余計にややこしい状況へ追い込んだ自分への苛立ちを、心の中で吐き捨てる。 このまま追い込まれて死ぬわけにはいかない。 手元のシャベル以外にも何か対抗できる武器は無いかと、藁にもすがる思いで懐中電灯で部屋の中を照らし、棚の中身を漁っていく。しかしここは廃屋、見た限りあるのはガラクタばかりだ。 (やはりそう上手くはいかないか) そう思っていたところ、ふと箪笥の上に置いてあった細長い木箱が目についた。とりあえずそれを下ろし、蓋を開ける。 中身を見たユーノは、思わず目を見開いた。 「これは……ショットガン?」 ユーノが見つけたのは、古い型の狩猟用散弾銃だった。古い型とは言えどなぜかちゃんと保管されていたらしく、目立って錆び付いている箇所も無い。 箱には猟銃と一緒に、充分な数の弾が詰め込まれた型紙の小箱が入っていた。 「……どうか使えますように」 呟きながら猟銃を手にして、銃身を開き、勘を頼りに弾を込める。間もなく背後から慌ただしく床板を踏む音が聞こえてきた。 懐中電灯を切り、ユーノは息を殺して壁に身を寄せて隠れた。足音が徐々に大きくなる。 「げ はぁ あは は はは ははは」 部屋に入って来たのは拳銃を持っている屍人だった。背中をユーノに見せている辺り、こちらに気付いている様子は無い。ユーノは猟銃の銃口を屍人の後頭部に向けると、迷わず引き金を引いた。 ばぁん、と強烈な発射音が狭い室内に轟きユーノの鼓膜を叩く。同時に発砲時の大きな反動によって銃身が跳ね上がった。 撃たれた屍人は車に引き倒されるような凄まじい勢いで前のめりになって倒れた。 後頭部には抉られたような大きな穴が開き、屍人は間もなくして身体を丸め、それきりぴくりとも動かなくなった。 (よし、使える!) 銃器が手に入ったのは不幸中の幸いだった。これで屍人相手でも、複数人に囲まれたりしない限り有利に立てる。外にいる狙撃手にもある程度対抗できるだろう。 ただ発砲音が大きいため、撃つ度に屍人を引きつけてしまうだろうことが不安だ。 「は ぁはぁ はぁ は ぁ はぁは ぁ」 するともう一体、農夫の格好をした屍人が鎌を手にして部屋に入って来た。屍人はユーノに気付くと、不気味な微笑みを浮かべながら鎌を振り上げて襲いかかってきた。 ユーノはすかさずその顔面に向かって猟銃を突きつけ、引き金を引いた。 再び大きな発砲音と共に弾が炸裂し、屍人の顔に大きな肉の花が咲いた。倒れる屍人を前に、ユーノは手にしている猟銃を見やる。 (質量兵器の使用は違法だけど、非常事態だし相手は不死身だから許されるよね、多分) そう思いながら、リュックサックを下ろした。小箱から弾を二つ取り出して猟銃に装填し、また何個か弾を取り出すとそれをポケットに入れた。残りは小箱ごとリュックの中に放り込む。 弾も使い過ぎないよう、気を付けなくてはならない。 しかし思わぬところで強力な武器が手に入った。どうやら運はまだまだ自分を見捨ててはいないようだ。 「……さて、行くか」 呟いて猟銃を握り締めると、ユーノは集落脱出を目指して、足早に部屋から出て行った。
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話数 タイトル 作者 登場人物 101 リセット ◆cAkzNuGcZQ 八尾比沙子、レオン・S・ケネディ、鷹野三四 102 Twilight Deadzone ◆BoVaEdQZq. 宮田司郎、バブルヘッドナース、半屍人、闇人乙式、花子さん 103 Phantom ◆cAkzNuGcZQ 古手梨花、風海純也、氷室霧絵、小暮宗一郎、シビル・ベネット、怨霊 104 Exodus ◆czaE8Nntlw 屍人(SIREN2)、闇人、闇霊、ゾンビ 105 ワルタハンガBlaze Of Glory ◆cAkzNuGcZQ 三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、太田ともえ、ハリー・メイソン、ケビン・ライマン、ジム・チャップマン、ヨーン、半屍人、ゾンビ 106 『澱み』 ◆cAkzNuGcZQ 日野貞夫 107 オナジモノ ◆hr2E79FCuo 霧崎水明、長谷川ユカリ、闇人乙式、ゾンビ 108 双子ならば、同じ夢を見るのか ◆cAkzNuGcZQ 宮田司郎、花子さん、レッドピラミッドシング 109 遠い出来事 ◆cAkzNuGcZQ ガナード 110 隠し件 ◆BoVaEdQZq. 新堂誠、前原圭一、雛咲深紅、ジェニファー・シンプソン、浮遊霊、レッドピラミッドシング、スプリットヘッド 111 今はそれどころではない ◆cAkzNuGcZQ 新堂誠、前原圭一、雛咲深紅、ジェニファー・シンプソン、浮遊霊 112 PITCH BLACKDEAD SPACE ◆TPKO6O3QOM ハンク、前原圭一、新堂誠、ジェニファー・シンプソン、雛咲深紅、レオン・S・ケネディ、鷹野三四、八尾比沙子、ゾンビ、タナトス、T-103型、浮遊霊 113 地球最後の警官 ◆czaE8Nntlw 半屍人 114 静かな丘のリトル・ジョン ◆dQYI2hux3o 阿部倉司、ヘザー・モリス、クローディア・ウルフ、エドワード(シザーマン) 115 春のかたみ ◆TPKO6O3QOM 太田ともえ、三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、ハリー・メイソン、ジム・チャップマン 116 暗闇を照らす光の中では心の言葉MOMENT ◆cAkzNuGcZQ 式部人見、霧崎水明、長谷川ユカリ、岸井ミカ、ゾンビ、ナイトフラッター、スプリットヘッド 117 天狗風――隙間録・間宮ゆうか編 ◆TPKO6O3QOM 間宮ゆうか 118 The Thing ◆TPKO6O3QOM 闇人甲式 119 Edge of DarknessSecret Window ◆TPKO6O3QOM 風海純也、氷室霧絵、小暮宗一郎、古手梨花、霧崎水明、長谷川ユカリ 120 復讐の女神 ◆cAkzNuGcZQ タイラント NEMESISーT型 121 My Dear Sweet SisterYou re Not Here ◆cAkzNuGcZQ 阿部倉司、ヘザー・モリス、クローディア・ウルフ、エドワード(シザーマン) 122 鬼の霍乱 ◆cAkzNuGcZQ 霧崎水明、長谷川ユカリ 123 蒼い朝 ◆cAkzNuGcZQ 女王ヒル 124 Obscure ◆TPKO6O3QOM 霧崎水明、長谷川ユカリ、ゾンビ、エア・スクリーマー 125 MEMORY――隙間録・三上脩、加奈江編 ◆cAkzNuGcZQ 三上隆平、三上脩、加奈江 126 Born From A Wish――隙間録・ジェイムス・サンダーランド編 ◆cAkzNuGcZQ ジェイムス・サンダーランド 127 譲らぬ決意 ◆czaE8Nntlw ハリー・メイソン、太田ともえ、シビル・ベネット、バブルヘッドナース、ライイングフィギュア 128 YOU RE GONNA BE FINE ◆cAkzNuGcZQ 半屍人、闇人 129 Survivor ――Eye of the Tiger―― ◆cAkzNuGcZQ 三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、ジム・チャップマン 130 The Others ◆TPKO6O3QOM 式部人見、岸井ミカ、リッカー 131 羽生蛇村異聞 第三話・外伝『理尾や丹』――隙間録・吉村俊夫編 ◆cAkzNuGcZQ 吉村俊夫、吉村郁子、吉村孝明、吉村克明 132 失われた記憶――隙間録・宮田司郎編 ◆cAkzNuGcZQ 宮田司郎 133 さらに深い闇へ ◆cAkzNuGcZQ 雛咲真冬、福沢玲子、エディー・ドンブラウスキー、羽入 134 The FEAST 1The FEAST 2 ◆cAkzNuGcZQ ハンク、レオン・S・ケネディ、鷹野三四、ジェニファー・シンプソン、八尾比沙子、ゾンビ、怨霊、タナトス、T-103型 135 THE DIVIDE ◆TPKO6O3QOM 闇人 136 過去は未来に復讐する ◆TPKO6O3QOM 雛咲真冬、福沢玲子、エディー・ドンブラウスキー、羽入、地縛霊 137 Against the Wind ◆cAkzNuGcZQ レオン・S・ケネディ、鷹野三四、ジェニファー・シンプソン、浮遊霊、怨霊 138 ゼロの調律 ◆cAkzNuGcZQ 三沢岳明、須田恭也、ジル・バレンタイン、ジム・チャップマン、地縛霊 139 聲 ◆cAkzNuGcZQ 雛咲真冬、羽入 140 Let the Right One In ◆TPKO6O3QOM ハンク、T-103型 141 サイレン二周目 ◆TPKO6O3QOM ??? 142 DIE HARD ◆TPKO6O3QOM ハンク、死者の霊魂、タイラント NEMESIS-T型 143 Still Waiting――隙間録・ルーシー・マレット編 ◆TPKO6O3QOM ルーシー・マレット、リーガン・マレット、ゾンビ、闇人 144 Hereafter――隙間録・S.T.A.R.S.ブラボーチーム編 ◆TPKO6O3QOM エンリコ・マリーニ、リチャード・エイケン、ケネス・J・サリバン、フォレスト・スパイヤー 145 最後の詩 ◆qh.kxdFkfM ヘザー・モリス、ハリー・メイソン、シビル・ベネット、阿部倉司、須田恭也、三沢岳明、レオン・S・ケネディ、ジル・バレンタイン、太田ともえ、雛咲真冬、エディー・ドンブラウスキー、エドワード(シザーマン)、長谷川ユカリ、岸井ミカ、式部人見、氷室霧絵、小暮宗一郎、古手梨花、霧崎水明、風海純也、ジェニファー・シンプソン、鷹野三四、ジム・チャップマン、ハンク、宮田司郎、半屍人、闇人甲式、ゾンビ、リッカー、花子さん、レッドピラミッドシング、羽入、デルラゴ、タイラント 146 [[]] 147 [[]] 148 [[]] 149 [[]] 150 [[]] 【000~050】 【051~100】 本編SS目次・投下順
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フェイト・テスタロッサ・ハラオウン 刈割/切通 初日/8時34分52秒 ―――ひっ ひぃ ひ ひぃ ひひっ ひ ぃ――― 乱れた耳障りな呼吸。 無意味に振り回される錆び付いた鍬。 血のような赤に染まった水、それに満たされた棚田。 フェイトは目を開けた。頭痛の余韻がまだ頭に残っている。自然と眉間に皺が寄り、思わず手で額を押さえた。 取り敢えずのところ、近くに屍人はいないようだ。 しばらく頭を休めてから、再び濃霧に包まれた山道の中をさまよい始める。 雨に濡れた砂利と泥を踏む度に、ぐじゅりと嫌な感触が足に伝わった。湿気で満ちた質量のある空気で、息が詰まりそうだ。 実際はそんなことないだろうが、これが夢なら今すぐ醒めてほしい。 疲労でいささか働かない思考回路の中、フェイトはそう思った。 目覚めてから夜が明けて現在に至るまでの数時間、フェイトは取り敢えず人がいる場所を目指して歩き続けた。 真夜中に起きた地震はかなり大きかった上に、爆音で流れたあのサイレン、赤い雨。現地でも必ず騒ぎになっているはずだろう。 そう考えて辿り着いた人里で、フェイトは予測の範疇を大きく超えた光景を見ることになった。 村には、屍のような姿に変異した現地の人々が、なんの疑問も抱いてないかのような振る舞いで『生活』していた。更に雨だけではなく、村の水という水が、血のような赤に染まっていた。 人間のフェイトからすると、その光景はさながら『地獄』に例えられるものに見えた。 そしてそのどこにも、フェイトの、人間の居場所などは無かった。 なぜ彼等がそうなって、なぜ全ての水が赤く染まったのか原因は分からない。 だが彼等はフェイトを見つけるやいなや攻撃を始め、その命を奪おうと追い回してきた。 現地人に対する攻撃を認められていない現状を考慮した上、ショックと恐怖の中で逃げることしかできず、フェイトは与えられた能力を頼りに人気の無い場所へ逃げてきたのだ。 それからは多発している不可解かつ厄介な現象を前に、原因の手掛かりに成り得るものを求めて歩き回った。 しかしここ数時間、そういったものはまるで見つかっていないし、その上正常な人間と思しき生存者達も見当たらなかった。 (ティアナとキャロも見あたらないし……二人ともどこにいるんだろう、無事ならいいんだけど) 無事だとしたらティアナもキャロも、既に村の外に行ってしまった場合もある。 いないようなら、その時は村から出て行き、都市部まで様子を見に行くしかない。 考えたくは無いが、この赤い水で満たされ、人々が異常な状態になる事象が、この地帯だけでなく、他の地域でも多発的に起きているという可能性もある。 (これが大規模に起きてないことを祈る……けど、私が無力であるうちは、あること無いこと考えてても仕方ない、か) 由緒ある局の執務官として、ライトニング隊長として情け無いが、魔法も使えないこの状況で、頼りになるのは仲間の、管理局からの救援だ。 現時点ではそれに望みを託すしかないだろう。 その中で自分のやるべきことと言えば、やはりキャロとティアナと合流して、無事にこの状況を切り抜けること。それと出来ればこの異変の原因を探ること。 いずれにせよ、異変の発端となった地震や、数時間前にも鳴り響いたサイレン、それに赤い雨や水、突然授かった超能力、変異した村人達は何かしらの関係があると考えていいだろう。 もしかしたら、管理局もまだ見ぬ地球に眠っていたロストロギアが発動したのか。その可能性も否めない。 (それで赤い水が現地人の変異の原因だとしたら、私も危ないのかな) 絶対にあってほしくないが考えられる中では一番有り得る可能性だ。 思わず頭の隅で、村人達と同じように目から血を流し、意味不明な言葉を呟きながら徘徊する自分を想像して、嫌悪感と静かな恐怖に気持ちが揺らぐ。 だがフェイトはあくまで自分がライトニングの隊長であることを思い返し、冷静を取り繕って手のひらを見た。 (私の身体にはまだ何も異変が無いみたいだけど……ん?) ふと、手のひらの向こう、深い霧に包まれた切通に目が行く。 そこに仰向けに倒れている誰かの姿が見えた。 変異した村人かと思いフェイトは警戒心を強めた。 目を瞑り、意識を倒れている誰かに向ける。 しかし視界は真っ暗なまま、何も映らない。気絶でもしているのだろうか。 そう思い、目を開けて能力を切る。 それから相手が人間であるという場合も考え、フェイトは身構えながら、倒れている人物近付いた。 近付いてみて、フェイトは思わず息を呑んだ。 倒れていたのは、肌が死体のように青白いわけではなく、目から血も流れていない、人間の若い男だった。 歳はフェイトと同じぐらいだろうか。 現代の日本では余り着られないような古風な服装、レースの編み込まれた白い長袖のシャツと、脚のラインが目立つ黒い長ズボン。 真ん中で綺麗に分けられた髪型に、割合整った顔立ちが特徴的だ。 しかしその目は固く閉じられており、微動だにしない。 「大丈夫ですか!?」 人間だと分かると、フェイトはすぐさま駆け寄って男に呼び掛けた。だが反応は無い。誰かに襲われたのだろうか、男は気絶しているようだ。 目立った外傷も無いことを確認して、フェイトは男の肩を掴んで軽く揺らした。 「聞こえてますか!?しっかりして下さい!」 揺らしながら呼び掛けていると、やがて男の眉間がピクリと動いた。眉を潜め、「うぅ……」と呻く。 (よかった、生きてる)とフェイトは安堵して、男の目覚めを待った。少ししてから男は薄目を開け、ゆっくりと瞳をフェイトに向けた。 「ん……誰、だ?」 切れ長の目を瞬かせて呟く男。それからフェイトの返答を待たずに、やや苦しげに表情を歪めながら、男は上体を起こした。 「大丈夫ですか?」とフェイトが恐る恐る聞くと、男は何も言わず軽く手を挙げて、フェイトを黙らせた。 「余所者……外国人か。日本語が分かるのか?」 男は後頭部を手で抑えながら立ち上がって、フェイトに振り返ると、怪訝そうに眉を潜めた。 「はい。もしかして、あの村の人達に襲われたんですか?」 男に聞き返しながらフェイトも立ち上がり、膝についた泥をはたき落とす。 男はフェイトの質問に「いや……」と否定して、呆然と間を空けてから、突然気付いたようにフェイトを見た。 「そうだ、髪が長くて黒い服を着た少女と緑の服を着た余所者の男を見なかったか!?」 いきなり慌て始めた男にフェイトは驚き、やや言葉に詰まりながらも「見てません」と答えた。 すると男は舌打ちをして、怒りを堪えるかのように右往左往し始めた。うろつきながら「あいつ絶対に許さないからな」などとも呟いている。 余程我慢ならないことがあったのか、男は歯を噛みしめ、悔しさを隠そうともせず態度の全面に表している。 「秘祭には美耶子が必要なのに……誑かして連れて行きやがって」 ひさい?みやこ? フェイトは男の様子と言動に引っかかりを覚え戸惑う。 みやこ、というのが黒い服を着た少女のことなのだろうか。幸運なことに、この男は少なからずなにか情報を持っているようだ。 しかしながら話そうにも、男は右往左往したまま完全に自分の世界に入り込んでしまっている。 とりあえずフェイトは、無理矢理にでも話の糸口を掴むために自分から名乗ることにした。 「私、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンって言います。日本に留学している大学生です」 留学で来た大学生というのは、勿論その場をやり切るための嘘だ。 男は苛立ちを表情に孕ませたまま、フェイトに向き直る。 「ん、フェイト……なんだって?」 海外の名前に聞き覚えが無いのだろう。男は変なものを見るような顔でフェイトに聞き返す。 「フェイトでいいです。あなたは?」 「……神代淳。この村を束ねる神代家の、次期党首だ」 (村を束ねる……) 淳の話が本当かどうかは分からない。しかし党首ならこの村について、それに伴いなにかこの異常について知っているかもしれない。 疲れているからか、そんな安直な望みが頭に浮かぶ。そもそも現地人という立場から何かを知っている可能性もある。 だが、まずは有力者の次期党首を自称する淳が、どうしてこんなところにいるのかという疑問から聞かなければ。 「神代さんはどうしてあそこに倒れていたんですか?村の人に襲われたわけじゃないんですよね?」 自分は査察官ではなく、執務官だ。 対人交渉に長けているわけではないが、せめて管理局の法を違反した者を取り調べる時のように、なるべく語調を柔らかくして話を探る。 しかし淳は眉を潜めて、鬱陶しそうに睨み返してきた。 「助けてもらったことは事実だし、それには礼を言うが、お前の質問に答えなければならない義理はないね」 威圧的に言葉を返す淳。気絶のダメージと疲労で気が立っているのだろうか、とフェイトは思いながら、対話を続けようと試みる。 「答える義理はなくとも、あんなところで一人で倒れているなんて危ないじゃないですか」 「ここは人間のいるべき場所じゃないのに危ないも糞もあるか」 だが淳の高圧的な態度は変わらない。 しかし、まるで何かを知っているかのような口振りだ。やはり現状の異変に関して、情報を持っているのだろうか。 このまま顔色を窺って聞き出すこともできるが、状況が状況なので、フェイトは早速聞きたい話を切り出した。 「人間のいるべき場所じゃないって……何か知ってるんですか?」 「なにがだ?」 「この状況について、です」 問いただすフェイトに、淳は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて「さあな」とだけ言い放つ。 この時点で、先程からの上から目線な態度は淳の素なのだろう、とフェイトは理解した。 しかし同時に、淳の醸し出す『裕福で傲慢なお坊っちゃん』といった雰囲気の裏に、何かを隠していることをフェイトは確信していた。 「この村の有力者なんですよね?それにさっきも『ひさい』がどうとかって」 「そんなの、お前が知ったことじゃないだろ」 淳は話を強制的に切るように冷たく言い放つと、しびれを切らしたのか、フェイトを残しておもむろに歩き出した。 だがここで彼を逃すわけにはいかない。この事態を招いた何かについて、淳が何らかの情報を持っているだろうから。 立ち去る淳をフェイトは咄嗟に追いかけた。 「必要あります!」 「知るか、とにかく僕に答える義理は無い」 あくまで冷たくあしらうだけで、こちらに振り向きもしない。フェイトは思い切って足を踏み出し、淳の目の前に回り込んだ。 さすがに淳も、一瞬驚いた表情を見せて、足を止める。淳の切れ長の目を、フェイトは真正面から見つめた。 「私の、大事な仲間が巻き込まれてるんです……お願いします、なにか知っているなら教えて下さい」 突然のフェイトの挙動に、淳は言葉を詰まらせ、視線を泳がせる。これは行ける、そう思ってフェイトはもう一度「お願いします」と静かな声で頼んだ。 すると淳はフェイトの身体と顔の間で、何度か視線を往復させてから不適な笑みを浮かべた。 「ふん……仕方ないな。まぁ既に災厄は起こってしまったんだし、少しくらいは教えてやるよ」 「あ、ありがとうございます!」 淳に頭を下げ、やった、とフェイトは内心で喜んだ。どうやら探りは上手くいったようだ。 「来い」と言い、つかつかと先を行く淳の足取りに合わせて、フェイトもその後をついて行く。 実のところ淳はフェイトの美貌、そして育った胸や体つきに目を付けただけなのだが、フェイトにそれに気づく感性は無かった。 ――――――――――――――――― やがて林を歩いていると、前方の道が横たわる大量の土砂と倒れた樹木によって途切れていた。あの地震によって地面が崩れたのだろう。 しかし偶然にも途切れた道の左手に、フェイトの目線程の高さがある、石の積まれた生け垣のようなものが土砂から覗いており、その上を通っていけば向こう側の空間へと行けそうだった。 上ると、それは生け垣というより何かの台座のようだった。 土砂に一部飲み込まれた表面には少しだけ生け垣の上には例の赤い水が薄く張っている。 フェイトはそれを気持ち悪く思いながらも、2メートルほど先で途切れている生け垣をさっさと下りていく淳の後を追った。 生け垣を下りると、目の前には棚田が広がっていた。 深い霧で先は見えないが、棚田は全て石を積み上げて作られており、見たところ先の生け垣も棚田の一部だったようだ。 その棚田を飲み込んでいる崩れた土砂に、街灯を押し曲げられ、倒れかかっている。 田のいずれもが赤い水に満たされており、それらはまるで山伝いに上へと伸びる、無数の血の溜め池のようだった。 そんな異様な光景に、フェイトは恐れおののきつつも、その中を先導して歩く淳から話を聞いていた。 聞くところによると、淳はこの村の教会に向かっているようだ。そこは比較的安全らしく、避難して来ている人も少なからずいるらしい。 もしかしたらキャロやティアナもそこにいるかもしれない。日本奥地のこんな閉鎖的な村に、西洋宗教の教会があることに疑問を感じつつも、フェイトは望みを掛けてその教会を目指してついて行くことにした。 棚田を囲むように通っている広い道をゆっくりとしたペースで歩く二人。変異した村人の確かな気配を近くに感じたが、とりあえず今のところは自分達が気付かれるような位置にはいないようだ。 相変わらず深い靄に包まれた景色の中で、周囲を壁のように囲む山の稜線が巨大な影となって見える。 妙に閉鎖的な雰囲気が漂う場所だな。かつて日本に住んでいた経験があるにも関わらず、まるで知らない場所にいるかのような気分だ。 そうフェイトは思いながら周りを見渡していると、ふと棚田の中に立つ、木材を奇妙な形に組んだ案山子のようなものを見つけた。 しかし手袋や農夫の格好をしているわけでもなく、そもそも人の形をしていない。 更によく見て、フェイトは息を呑んだ。 犬だろうか、剥がされた獣の皮らしきものが無造作に縫い合わされ、組木の天辺にかぶせてある。 なぜ閑散とした棚田の中にそんな禍々しいものが立っているのか。そんな、組木を凝視するフェイトの様子に、淳が気付いた。 「あぁ、あれは眞魚字架だな」 組木を一瞥しながら、なんともないように淳は言った。 「マナ字架?」 「この羽生蛇村に古くからある眞魚教の象徴だ」 「マナ教……」 その名前を確かめるように、フェイトは呟いた。聞いたこともない宗教だ。教会と聞いたからにはキリスト教やそれに似た宗教かと思っていたが。 一応、マナ教という名前に注意をしつつも、フェイトは一番聞きたい情報を得るために、話を切り出した。 「……ところで、神代さんはどうしてあそこで倒れていたんですか?」 すると淳は恥じているのか、しばしの沈黙の後、やや言いにくそうにしてから答えた。 「妹と、緑色の服を着た男にやられたのさ」 「妹?それが、みやこっていう?」 「ああ」 誑かしやがって、という先程の言葉を思うに、その男に妹が教唆されて淳を襲ったということなのだろう。 「それでその……緑色の服を着た人というのは?」 「さあな。ただ、あの出で立ちは外部から、都市部から来た奴に違いないだろう。 秘祭を盗み見ていた上に美耶子を誑かしやがって」 淳の口から、また『ひさい』という言葉が飛び出した。フェイトはそれを糸口に、淳の知っている秘密を聞き出そうとした。 「その『ひさい』ってなんなんですか?」 すると淳は振り向き、フェイトを睨み付けて、即座に答えた。 「その名の通りだろ。一部の者以外に知られてはいけない祭、儀式だ。 だからもちろん、お前にその内容を教えることはできない」 その言葉から『ひさい』が『秘祭』と表記するだろうことは予想がついた。淳の様子や言動からしてそれは、村の中でもタブーな存在なのかもしれない。 みやこ、という淳の妹も何かしらの役割としてその儀式に必要な人物に違いない。 そう考えると淳が、秘祭を盗み見てみやこを連れて行った『緑色の服を着た男』に怒りを覚えるのも仕方がないと思える。 しかし、ふと推理して思った。 それがこの異変となんの関係があると言うのだろうか?あるとして、そこに一体どんな秘密があるのだろう。 疑問に思い、フェイトは即座に淳に質問を投げかけた。 「その秘祭、というのはなにかこの異変と関わりが?」 「あるさ。儀式が失敗したから、俺達は神である堕辰子の怒りに触れて、この異界に放り込まれたんだ」 「はい?」 思わず聞き返したフェイトに、淳は鬱陶しそうにため息を吐きながらも、同じことを繰り返した。 「だから儀式が失敗したから、俺達は異界に放り込まれたんだよ」 思わず足取りが止まりかけつつ、なんとか歩みを続けながらも、フェイトは口を開けたまま絶句した。 とりあえず、その儀式とやらとこの状況が直接的に関わりがあると淳が言っていることは分かった。しかし、神に『だたつし』、異界……話が突飛過ぎるが、淳に嘘を言っているような態度は無い。 混乱して口を噤んだフェイトの方に、淳は怪訝そうに目を細めて振り向いた。 「どうした?今度はだんまりか」 「いや……その」 色々聞きたいことはある、が、ありすぎて逆になにから聞けばいいのか分からないというのが、フェイトの心境だった。 「驚いたにしても、お前は表情が分かりやすいな。流石は外国人だ」 冷ややかに笑う淳を前に、フェイトのこんがらがった思考回路は徐々に解けていった。だたつしとは?ここが異界なのか?異界とはどういう意味なのか? 質問は多々あるが、先程の言葉をそのまま受け取るなら、淳は自分から、自分がこの状況の原因と関わっていると自ら白状したようなものだ。 本当にそれが原因なんだとしたら、その秘祭とやらは管理局で言う重犯罪に判定されかねない危険なことなのかもしれない。 それに原因が分かれば、この状況への打開策が見つかるかもしれない。なんとしても、その秘祭とやらの全容を知っておかなければ。 「……その儀式はなんのための儀式なんですか?」 「お前は俺の話を聞いていなかったのか?秘祭の内容は一切教えられない」 やはりそう簡単には教えてくれないだろう。歯がゆくて、苛立たしく拳を握り締める。もし魔法が使えたなら、局員を名乗って少々強引だとしても話を聞き出せるのに。 「じゃあ、だたつしってなんなんですか?なんて書くんですか?」 「ふん、それを知ってどうする?」 更に小馬鹿するように鼻で笑う淳に、流石のフェイトも語調が強くなる。 「知りたいから聞いているんです!」 「それが人に物を聞く態度か?」 フェイトの大声に反応し、淳も表情に冷たい怒りを見え隠れさせる。 しかしフェイトも、この期に及んで傲慢な態度をとり続ける淳に対し呆れにも近い苛立ちを覚えた。 「物を聞く態度って……こんな状況なのにどうしてそんなことを言えるんですか?」 幾分か感情を表情に出しながら、フェイトは言った。すると淳はあからさまに不快な顔をしながら「ちっ」と大きな舌打ちをして、何も言わずにフェイトから顔を背けて歩き始めた。 「ちょ、ちょっと!まだ話は……」 フェイトがその腕に掴みかかると、淳はその手を引き離そうと激しく抵抗した。 「うるさい!離せ外国人!」 「あなたこそ!どうして話してくれないんですか!?」 「何度も言ってるだろ!痴呆なのかお前は!?」 「痴呆って……」 雨に濡れた泥道の真ん中で堂々と掴み合い、大声で怒鳴る淳と、それに比べれば静かだが普段よりは荒げた声で言い返すフェイト。 淳に掴みかかりながら、こんな姿を局の仲間達に見られたらきっと呆れられ窘められるだろう、とフェイトは不意に思った。 だがそれも全ては、仲間達の元に戻ってからの話である。そのために、この男の持つ情報は必要不可欠なのだ。 「とにかく話を!」 「うるさい!」 淳が叫んだ、その直後だ。 ぱぁん どこからともなく甲高い、乾いた破裂音が聞こえてきた。ほぼ同時に、淳を掴んでいたフェイトの腕に何かが掠る。 即座に鋭い痛みが腕に走り、見ると服が切れ、裂けた皮膚から血が溢れ出していた。 淳とフェイトは途端に黙り、血相を変えて離れた。辺りを見渡すが人影は見当たらない。 あの音、服の切れ目から焼け焦げたような臭いがする。 (は、発砲……!?) 間違いない、誰かに銃器で狙われている。フェイトが腕を押さえていると、すぐ近くの茂みからがさがさと音がした。 即座に振り向く二人に、鉄の塊が向けられる。 「了 解…… 射 殺 し ます」 そう言って二人に拳銃を向けていたのは、目から血を流した蒼白の警官だった。 息を呑む二人に向けて、警官は容赦なく引き金を引いた。再び鳴り響く発砲音に二人は身を竦める。 放たれた弾丸は地面に着弾したらしく、足元から甲高い音が聞こえてきた。 「くそっ!!」 淳はそう言い捨てると、即座にその場から元来た道に向かって走り出した。 フェイトは、淳を追おうと駆け出しそうになった衝動を抑え、逆方向の道に目をやった。 (……仕方ない!) 淳から聞き出したいことは多々あったが、同方向に言ったらあの警官に追撃され兼ねない。 まずは命だ。二人とも安全に退避するため、警官を攪乱するためと、フェイトは淳とは逆方向へと駆け出した。 「待ち なさ あ ぁあ い」 警官は制止を呼び掛けながら、フェイトの背中に向かって発砲した。 飛んできた弾丸は、揺れ動くフェイトの金髪を結ぶリボンに当たり、それを引き裂いた。 広がる髪の毛も意に介さず、フェイトは全速力で走り続ける。 今の騒ぎで他の村人達にも気付かれた可能性がある。一刻も早くこの地から去りたかった。 途中、橋が崩落した堀があったが、勢いでそれを飛び越える。 着地してからも走り続け、傷付いた腕を庇いながらフェイトは思考した。 まだ淳の言ったこと全てが信用に足るかも分からないが、先の話を信じるとなると、今起きている異変は、この村に根付く土着信仰と何か深い関係にあるらしい。 近頃管理局を騒がせているレリックや戦闘機人が絡んでいるという可能性も無きにしも非ずだ。 だが、淳に会ったことでフェイトの行動方針は固まった。 一つは、淳の零したマナ教とやらの概要、秘祭や『だたつし』についての調査。また一つは緑色の服を着た男と『みやこ』との接触。 キャロとティアナや、他の生存者との合流は引き続き目指すとして、まずは淳の連れて行こうとした『教会』に向かいたい。 (でも、その教会って一体どこに……) 問題はそこだ。淳からは教会とやらの場所を聞いていないためにどうやって行けばいいのか全く分からない。 ただ漠然と、『ここの近くにある』とは言っていた気がする。それに淳が先導していた道はこの方向だったし、なんとかなるかもしれない。 (……でも取りあえずは、ここを離れなきゃ) こちらへと向けられる無数の意識達を、例の能力で確かに感じながら、フェイトは泥を蹴散らして道を駆け抜けて行った。
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SIREN 【さいれん】 ジャンル ホラーアドベンチャー 対応機種 プレイステーション2 発売・開発元 ソニー・コンピュータエンタテインメント 発売日 2003年11月6日 定価 6,090円 廉価版 PlayStation2 the Best2005年11月2日/1,714円 配信 PS2アーカイブス 2012年8月7日/1,200円 判定 良作 SIRENシリーズ:SIREN - SIREN2 - SIREN NT SIEワールドワイド・スタジオ作品 ストーリー 概要 特徴 評価点 賛否両論点 問題点 総評 余談 どうあがいても絶望 ストーリー 三方を山に囲まれ、外界との接触を拒むかのように存在する内陸の寒村、羽生蛇(はにゅうだ)村。独特の土着信仰や伝承を持つこの村が物語の舞台…。 1976年8月2日深夜。大規模な土砂災害が発生し、村に甚大な被害をもたらした。 災害から27年後、2003年。夏休みを利用し、村に関する都市伝説を確かめるべく東京からやってきた高校生「須田恭也」や、自らの学説を裏付ける為に村の秘祭の調査をしにきた民俗学者「竹内多聞」らが村を訪れる。 8月3日午前0時、村の四方を囲うように出現した赤い海からサイレンの音が鳴り響き、羽生蛇村は外界から隔離された異界と化す。異界化に伴って現れる異形、赤い水の影響によって人が変貌した存在「屍人」人々は状況的に、そして精神的に追い詰められながらも、人として生きるために絶望的な戦いに身を投じていく。 これは人でありたいと願い、人として生きたいと祈る人々の群像劇である。 概要 SIRENは昭和78年(*1)の日本を舞台に、土着的・民俗的なモチーフを題材として描かれる3Dアクションホラーゲーム。 一種のテレパシーのように敵が見ている映像を盗み見る、「視界ジャック」というシステムを特徴としている。 難解なストーリー構成や謎をあえて残したまま終わるエンディング、また近年の和製ゲームの中でも群を抜いた難易度などは賛否両論あるものの、ホラーゲームには珍しい日本的テーマや独特のストーリー、挑戦的なシステムなどから一部で熱狂的な人気を集めた。 「怖すぎて放送中止になったCM(*2)」でご存知の方も多いであろう。 + 「怖すぎて放送中止になったCM」 特徴 敵に見つからないように進めていくシステム 異形と化した屍人がうろつく日本の集落を舞台に、戦闘に不慣れな生存者達が、後述の「視界ジャック」などを駆使して敵から隠れながらシナリオを進めていく。「ステルス」の要素が強い。 ただし一貫してステルスに徹するというわけでもなく、敵との接触を避けることが困難な場面では、敵に見つかりつつもその敵から逃げ切ったり、武器を利用して敵を倒して進むといった臨機応変な対処が要求されることもある。 また、キーアイテム入手といったフラグ立てによる攻略手順が要求されるため、ステルスアクションだけでなくアドベンチャーゲームとしての側面も強い。 戦闘はアクションの腕に任せた力業が通用しにくい。敵を強引に倒しながら進んだり、敵に見つかっても振り切ってガンガン進むといった攻略法は困難で、ほぼ不可能な場面も多い。 主人公たちが使用できる武器は基本的に、鉄パイプやバールなどの鈍器に限られる。銃器は警察官が携行するような小型拳銃か、狩猟で使われている狙撃銃に限られ、弾数も少ない。さらに武器すら入手できないキャラクターも多い。 隠れたりするよりも敵と戦うことの方が多いシナリオもいくつか存在する。 本作の敵「屍人」 村に流れる「赤い水」を摂取した人が変容した存在。「半屍人」「犬屍人」「蜘蛛屍人」「羽根屍人」「頭脳屍人」の5種類が存在する。すべてに共通して、倒しても一時的に行動不能にできるだけであり、時間経過で復活する。 「半屍人」:いわば普通の人間の姿をした屍人。名前通り屍人としては不完全な存在であり、屍人化が進むことによって他4種の屍人へと変化する。狙撃銃で遠方からプレイヤーを狙撃してくる「狙撃手タイプ」の半屍人は高所に居るため、こちらの攻撃が届かないケースも多く初見殺しと言われる。「犬屍人」:犬のように這う形態をとり、高い攻撃力と機動力の高さが特徴である一方、扉を開閉するなどの知能が失われている。ちなみに犬屍人に変化するのは女性のみ。「蜘蛛屍人」:四肢を伸ばし頭部がねじれた姿をしており、小さな足音をも敏感に察知し襲ってくるが、犬屍人同様扉の開閉ができない。こちらは男性のみが変化する。「羽根屍人」:背中に虫を思わせる羽が生え飛行できるようになった屍人。銃で上空から襲ってくるため、こちらも銃がなければほぼ撃退不可能。「頭脳屍人」は犬・蜘蛛・羽根の屍人を統率する存在で、倒せばこれら3種の屍人を同時に行動不能にできる。 これら屍人には銃持ちもわんさかいて、所持弾数も無限。銃器が使えないプレイヤーにとっては脅威の存在である。 敵の視界と聴覚を盗む「視界ジャック」システム 自分の周辺にいる屍人や同行者の視点と音がわかるシステムである。 プレイヤー側からは名前の通り視界を「ジャック」するだけであり、ジャックした対象の操作等は一切できない。屍人は「ジャック」されていることには気付かず徘徊し、キャラクターを見つければもちろん攻撃してくる。ジャック中はプレイヤーが無防備になるため注意が必要。 左スティックの傾け具合によって、その方角・その距離の辺りにいるキャラクターの視界をジャックできる、左スティックを強く傾けるほど、遠距離のキャラクターをサーチする。 サーチ位置と対象キャラクターの位置が近いほど視界や音声が鮮明になる。対象が遠距離なほど視界の外周が暗くなる。距離が遠すぎる相手にはジャックそのものができない。 敵である屍人は夜目がとても利くので、主人公達が見ている光景より、より明るく見ることが出来る点も嬉しい。 ジャックした視界からは、プレイヤーやプレイヤーの同伴者のいる位置が十字マークで表示される。距離が近いほど十字マークが鮮明になる。 ジャックした視界は最大4つまでホールドでき、○×△□ボタンを押すことでそれぞれ任意で割り当てられる。該当ボタンを押せばすぐに呼び出せるので、いちいち対象をサーチする手間が省ける。 このシステムにより、今敵がどの方角にいるか、自分からどれくらい離れているか、敵がどこを向いているかを把握できる。 視界ジャックを活用して、今敵がこっちを向いているからこっちは安全に通れる、といった敵の目をかいくぐって進むスタイルが基本となる。 シナリオ進行の手順 本作のストーリーは、ある限定された「時刻・場所・登場人物(プレイアブルキャラ)の視点」で展開される物語「シナリオ」がいくつも集まって構成されている。 シナリオごとに、プレイヤーキャラや現在の日時、場所が異なる。 「次のステージへのアイテムやステータスの持ち越し」という概念がなく、どんなに前のステージでアイテムを節約したり使っても、次のステージでは所定の値になる。そのため、アイテム不足による「詰み」も起こらない。 1つのシナリオをクリアすると、別のシナリオへと進む。シナリオの順序は時間の流れ通りではなく、現在のシナリオより過去の時間で起こったシナリオに進むこともある。 各シナリオには二通りの「終了条件(クリア方法)」があり、終了条件によって次に進むシナリオのルートが分岐する。ルートによっては、過去にプレイしたことのあるシナリオに戻る(ループする)場合もある。 「終了条件1」は比較的簡単に達成できるが、「終了条件2」はノーヒントのものが多く「終了条件1」より基本的に難易度が高い。真のエンディングを見るには、終了条件2をクリアしていく必要がある。 各シナリオの終了条件2は、初期段階ではロックされた状態となっており、挑戦できない。 ロックを解除するためには、別のシナリオのクリアが必要だが、ほかに別のシナリオあるいは別のキャラクターで「終了条件2」クリアの条件(キーアイテムの持ち込みなど)を満たす必要があるものが多い。 クリアの条件を満たすために、さらに別のシナリオでまた別のキャラクターが何か行動を起こす…というように、全てのキャラクター、シナリオが深くつながっている。 リンクナビゲーター:ゲーム全体のシナリオ構成を確認できる機能。ゲーム中にいつでも利用できる。一度プレイしたシナリオはリンクナビゲーター上に一覧表示される。 シナリオ間のルートの繋がりや、どのシナリオの終了条件2がロックされているのか、どのシナリオでロック解除できるかの確認やステージセレクトを行うこともできる。 シナリオセレクト:ある程度ゲームを進めると、既にプレイしたシナリオならいつでも任意でプレイできるようになる。 これにより、同じシナリオを延々ループすることがなくなり、終了条件2のロック解除および、未知のシナリオへの進行も楽になる。 他のホラーゲームに比べて圧倒的に高い難易度 最初のステージはいきなり警官の半屍人が襲ってくるという状況から始まる。操作に慣れていないのに何をすべきかわからず、逃げ方を間違えると撃たれて即死するので、このステージでつまづいたプレイヤーも居た。 マップに自分の位置が表示されないのは当たり前、シナリオのクリアのために表示される終了条件もかなりあいまいなものがあり、ごり押しが通用しないことも相まって、その難易度は「攻略サイトか攻略本が必須」とも。 シナリオ開始5秒で超遠距離からの狙撃で何もできず死ぬことすらある。これには賛否両論あり「久々に歯ごたえのあるゲームが出た!」といった意見から「初心者に不親切すぎる!」という意見までさまざまである。 評価点 深く練り込まれたストーリー 本作では、夏休みを利用して都市伝説を興味本位で見に来た高校生(主人公の須田恭也)が、偶然村で行われていた儀式を目にしてしまうことから始まる。 須田恭也と、儀式の生贄にされかけていた盲目の少女「神代美耶子」を中心に進むストーリーもさることながら、村の求導師「牧野慶」と村医者「宮田司郎」の2人が織り成すストーリーは人気が高い。 終了条件2の存在は、間接的ながらも各キャラクターがつながっていることを深く感じさせてくれる。 舞台となる羽生蛇村も、近隣の村との関わり合いを持たない閉鎖的な村であり、村民のほとんどが信仰する眞魚教(まなきょう)という土着信仰があり、生贄を伴なう秘祭が行われているなど、不気味な世界観を出すのにも一役買っている。 また、ステージ中に隠された100個の「アーカイブ」もストーリーをより面白く理解できるだろう。アーカイブの種類も新聞記事やキャラの手記などリアリティを追及している。 視界ジャックを通じて別行動を取っている同行者の様子を窺うことで、彼らの台詞からさらなる物語の広がりを感じ取る事も可能。屍人も稀に意味深な呟きを発することがある。 現実感あふれる舞台と設定 舞台となる「羽生蛇村」は実際に存在しそうなリアリティで表現されている。 木造校舎の分校、廃鉱になった鉱山、プレハブ小屋や巨大なフェンスのある工事現場。日本中の廃墟を取材して集められた資料によって作られた羽生蛇村は「どこか懐かしいモダン」な雰囲気をかもし出す。 屍人達はそういう場所で生前の記憶から「庭で草刈」「塀の補修」「台所で料理」「風呂場で洗髪」といった行動を取る。 時間の経過と共に村の様相も変わっていき終盤の「屍人ノ巣」は屍人たちの「違法建築」によって巨大な迷宮と化す。 本作の設定の根幹には様々な日本の神話やホラー作品の影響が色濃く出ている。中にはネットの都市伝説「杉沢村伝説」を元にした都市伝説がストーリーに深く関わる設定として登場する。 実際の俳優を取り込んだフル3Dポリゴンやリアルな光の質感 登場する全てのキャラクターは実際の俳優/女優をモデルにしており、体格から顔つきまで全て本人を再現している(*3)。 このため、従来のゲームとは一味違う、生々しく写実的な雰囲気が出ており、本作の世界観と非常にマッチしている。 そして山奥の寒村という設定上、主人公達は懐中電灯を頼りに進んでいくこととなる。このときの懐中電灯の光の質感が非常にリアルであり「懐中電灯に照らされていない」部分の闇がより際立つ。懐中電灯を消したときの「少し青みがかった暗闇」も評価が高い。 今までにはない「絶望感」 本作は『バイオハザード』のような「火器の扱いに慣れた主人公が、ゾンビをなぎ倒して進む」ゲームではない。主人公たちは戦いの素人であり、敵に発見され戦闘状態に入ることは文字通り生死に関わる。この主人公たちの「弱さ」はよりリアルな恐怖の演出に一役買っている。 また、操作キャラクターは長く走っているとバテて移動速度が落ちてしまうため、襲い掛かる敵から全速力で逃げ続けることもできない。 身体能力も低く、敵に触れられただけでゲームオーバーになってしまう女子小学生「四方田春海(よもだ はるみ)」を操作し、屍人が徘徊する民家から脱出するシナリオは、襖一枚を隔てて屍人たちの息遣いまで聞こえてきて、圧倒的な恐怖感を演出している。 また、ストーリー上で死亡したキャラクターが通常の屍人より数段グロテスクな姿に変異した特別な姿の屍人でかつての大切な人の前に現れるシーンは、キャッチコピーの通り「どうあがいても、絶望。」である。 攻略法を模索する楽しさ 基本的にはホラーゲームであるが謎解き要素の出来も良い。 複雑なマップからキーアイテムを探し出し、その用途、使う場所をマップ探索の過程で予測、さらに使うタイミングも定められている場合があり、ゲーム内で得られる情報を整理してフル活用することが求められる。 また、獲得したアイテムをすぐには使わず次回以降のシナリオで使うケースもあり、そのキャラが今何を所持しているか、逐一確認しておくことも重要。 『バイオハザード』シリーズの仰々しい仕掛けではなく、身近にあるものにちょっとした工夫を加えて活用するというのがポイント。 ゲームに慣れてくると、さらに攻略の幅が広がる。最初は何度も死んで苦労しながら攻略していたシナリオでも、短時間で一発クリアできるようになり、上達を実感しやすい。 ほとんどのシナリオはいくつかの同じマップを使い回しているので、マップさえ覚えてしまえば、他のシナリオでも道に迷うことはまずなくなる。 屍人の位置や視界や耳の良さや行動パターンなどを把握すれば、屍人の隙を突いて強引に進みやすくなる。 例えば屍人を避けるために遠回りするようなルートを進むところでも、屍人のいる場所を突っ切って早く先に進むといった攻略法が可能になる(運が絡む場合もあるが)。 戦闘のコツを掴めば、近接武器だけでも大半の屍人は余裕で倒せるので、邪魔な屍人を倒しながら進むこともできる。 また、条件を満たすことで各シナリオのタイムアタックができる。 賛否両論点 複雑すぎるストーリー 本作のウリとなっているストーリーも、人によってはついていけなくなってしまう恐れがある。 良く言えば考察の余地がある、悪く言えば説明不足と言える。 また、公式ホームページに掲載されている『SIREN』の外伝「羽生蛇村異聞」で、少しずつ謎を明かしてはいるが、逆に新たな謎が派生することの方が多い。 問題点 異常なまでの難易度 本作の特徴の1つでもあるが、ここでは問題点としてとりあげる。 狙撃手の存在 生前狩猟を生業としていたであろう彼等は、超遠距離から、超高精度で、超高威力の狙撃をしてくる。どんなキャラクターでも2発食らえば死亡であり、キャラクターによっては1発で即死してしまう。中盤以降どのステージにもほぼ1人は配置されているため、どのキャラクターでも脅威である。 こういった要素は「体力に物を言わせて強引に突破する」といったごり押しを阻止するための措置だと思われるが、前述のマップ表示の不親切さとあわせ、何度も死んでいるうちに恐怖より理不尽なゲームオーバーに対する怒りの方が上回ってしまうという事態になりがち。 一応、こちらも特定キャラで猟銃を使えるが…。 操作性に非常にクセがあり使いにくすぎる。具体的に言うと、構えると自動的に主観視点になって自分で照準を合わせるのだが、照準が常に最初に構えた位置に戻ろうとする上、スティックの感度も高いため狙いをつけるのが非常に難しい。おまけに敵はこちらから視認できないような距離からも正確に狙ってくるので撃ち負けやすい。 一応、特定の条件を満たすことで、ゲームオーバー後にそのシナリオの途中から再開できるようになる箇所はあるので、死んだとしても、必ずしもシナリオの最初からやり直しになるわけではない。 ただし、シナリオの途中から再開した場合、それまでに獲得したアーカイブなどは全て失われる。そのため、後述の同じシナリオを何度もやるという問題が発生しやすい。 同じシナリオを何度もやらなければならない 終了条件2のロック解除の必要行動を満たすために、ひたすら試行錯誤することになる。また、終了条件1と終了条件2を両方クリアするために、同じシナリオを最低でも2、3回はクリアしなければならないシナリオもある。 また、プレイヤーキャラの起こす行動に不審な点が多く見られる。 終了条件1を達成するだけなら割と常識的な行動なのだが、終了条件2を達成したり、終了条件2のクリアのための必要行動を起こす上では、かなり不審な行動を取ることになる。 自らが命の危機にさらされている状況に関わらず、なぜか面倒な仕組みの倉庫の鍵を開け、武器になりそうなものには目もくれず手ぬぐいを取り、水道で手ぬぐいを濡らし、わざわざ冷凍庫のプラグを刺し、濡れた手ぬぐいを凍らせるなど端から見れば異常としか言えない行動を取ることになる(*4)。 これらは、「永遠に繰り返すループの世界」の中でほんの少しの行動の差異が、ループ脱出への鍵となっているということではあるが。 終盤の展開 ラスボス戦やエンディングはホラーぶち壊し。爽快感はあるが、雰囲気がガラリと変わるので冷めてしまうことも。 ラスボス戦、エンディングでは「神器」を使って戦うが、そこに屍人への対抗手段が限られ隠れるのが最適解だった主人公の人間らしさやホラーとしての面影はない。 エンディングもハッピーエンドではなくバッドエンドに近いものであり、主人公たちの生存/死亡も変わらないので、2周目以降やこのことを知ってプレイするのは精神的にきついという人も僅かに居る。 全体的に動きがもっさりしている 長く走っているとバテるシステムに加え、モーションが全体的に遅く、敵の攻撃を潰せないこともしばしばである。走っている時に壁にぶつかると、1~2秒ほどその場で動けなくなってしまう。 顔の裏(裏顔) このゲームではカメラの位置とキャラクターの位置が丁度重なると、キャラクターの内部(*5)がカメラに映ってしまう仕様になっている。 プレイヤーの後方から付いてくるような同伴者と共に行動している場合は、この現象が起きる可能性が高い。プレイヤーを後方から捉えているカメラと、プレイヤーの後方から付いてくる同伴者の顔が重なってしまう。 慎重に行動している時に、いきなりカメラ全体に顔のアップが表示されるのはかなり怖い。ある意味、屍人を差し置いてこのゲーム最大の恐怖要素。 説明書の誤植 終了条件2をクリアするためのヒント集である「31のヒント」の内容の一部が入れ替わって他のステージのヒントを載せてしまっている。 ベスト版では修正済み。 総評 高すぎる難易度とシナリオ展開は人を選び、初心者にお勧めするには厳しい一作かもしれない。 しかし、コアなホラーゲーマーにはシナリオにマッチした絶望的な難易度と斬新なシステムの数々、高い質のグラフィック・演出がとても魅力的な作品である。 何よりもキャッチコピー通りの「どうあがいても、絶望」な展開と和製ホラーの恐怖演出をしっかりと押しだしているのが大いに評価できる所である。 やりこんでいくたびに得られる情報がどんどん増えていき、シナリオの緻密さにぐいぐいと引き込まれていくホラーゲーム史上に残る傑作と言えよう。 余談 後に残された謎を解明する「サイレンマニアックス」が発売された。全キャラが作中どのような行動をしていたかをまとめたタイムテーブルに「羽生蛇村異聞」の最終回が収録されている。 スタッフのインタビュー、本作のモチーフとなった小説や映画を紹介している。その中で『閉鎖的な村での群像劇』は小野不由美の「屍鬼」の影響を受けていると語られている。 初版はそれほど多くなくプレミア化していて2012年に復刊した際にはすぐに完売してしまった。 2021年6月26日に再び復刊が決定。さらに同日フジテレビ系列で放送された「夜にも奇妙な物語`21夏の特別篇」の「三途の川アウトレットパーク」にて本作のBGMが劇中で使用された。 2014年に『SIREN-赤イ海ノ呼ビ声-』のタイトルでコミカライズされた。 原作ゲームでは語られなかった空白の時間、怪異の前日の登場人物たちの動き、羽生蛇村へ行くきっかけが描かれている。 怪異に巻き込まれる前の村の様子や名越校長、石田巡査の生前の姿も描かれており、原作をさらに楽しめる内容になっている。 当初は集英社のホラー漫画雑誌で連載されていたが、同誌が休刊したためWeb漫画サイトに掲載場を移し連載していたが、作者の健康状態の関係で打ち切られてしまった。 その後の2018年、Web漫画サイトZにてコミカライズ第2作『SIREN ReBIRTH』が連載され、2020年まで続いた。前作との繋がりは無く、作画・脚本家も別の人物が務めているが、原作ゲームスタッフが監修している点は同じ。 こちらは原作をリブートした内容であり、大まかな展開や登場人物は忠実ながら舞台を平成31年(*6)に変更して様々な要素を再構築している。 本作のディレクター外山圭一郎氏とシナリオライター佐藤直子氏は、本作を手がける以前はKONAMIに在籍しており『SILENT HILL』の開発に携わっていた。 そのためか、「辺境の土着信仰」「街そのものの異界化」「鳴り響くサイレン」などのコンセプトに加え、細かなレベルでも様々な共通項が存在する。と言うかタイトルが既に…訴えられなくて良かったね。 また『SILENT HILL』制作中、海外メディアのインタビューを受けた際「なぜあなたは日本人なのに海外を舞台にしたゲームを作るのか?」と言われた。これが『SIREN』制作のきっかけの1つと言われている。 先述のお蔵入りになったとされるサイレンのCMで使われてもいる不気味な歌?のBGMは「最恐映像ノンストップ」(テレビ東京)などの心霊番組で定番となっている。 テレビではあまり放送されないが、怪談のライブ等でも演出でよく使われている(*7)。 主人公の須田恭也を演じる篠田光亮氏は自身のYouTubeチャンネルで本作の実況プレイ動画を生配信した。
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私は…… 1 宇理炎で憂を…… 2 宇理炎で憂を…… ※2 唯「……焼かないよ」 憂「なんで……? お姉ちゃんを刺したり…みんなにいっぱい酷いことしてるのに!!」 唯「だったら怒る。めっ、そんなことしちゃダメでしょ!」 憂「なんで……なんでそんな優しいの……? お姉ちゃん」 唯「お姉ちゃんだからだよ。憂」 憂「…………」 唯「それに……憂を宇理炎で焼いても終わらないしね」 憂「!? なんで……そのことを」 唯「前はそれで失敗したから、もうしない。憂を助け出すから……必ず」 憂「お姉ちゃん……って呼んでもいいの?」 唯「いいに決まってるでしょ? 姉妹なんだから」 憂「お姉ちゃん……」 憂「うっ……あ……ああっ……」 唯「!?」 突然頭を抱えて苦しみ始める憂。 憂「お姉ちゃん……来ちゃ……ダメ……ああ……ああああああああああああああ」 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────── 間近で聴こえるサイレンの音、いや、違う……あれよりもっと獰猛的な……。 唸り声のような…………。 憂「お……姉ち……ゃん……」 憂の伸ばした手を、 唯「憂いいいいいっ」 わたしは、掴めなかった。 唯「憂……」 跡形もなくどこかへ消え去ってしまった憂……。 唯「どれだけ時間がかかっても……」 唯「どれだけ絶望したって……!」 唯「絶対に助けてみせるから……!!!」 だから待ってて、憂。 そう決意するのと、爆発の余波が来るのは、同時の出来事だった。 わたしはりっちゃんとの約束通り石を投げ入れ封印を解く。 光の塊が天へ穿たれ、最後の封印が解かれた。 唯「ここから始まる……」 でも、それはもうちょっと先になりそうだ。 終了条件達成 ??? ??? ??? %)) `|{}[?-, 平沢唯 ─────────── 「ウアアアアアアアアア」 「グギャアアアアアア」 「ギイイイイイイ」 唯「何匹でもおいで……」 右手には火掻き棒、左手には宇理炎。 唯「はあっ!!!」 宇理炎を掲げ、浄化する。 「ギイイイッ」 「ウオオオオオ」 「ヒイエエエエエエ」 唯「次こそは……絶対に」 今はただそのピースが揃うのを待とう。 この、煉獄で。 ジェノサイドEND ※ いよいよ次から真エンドに向かいます 今まで寝かせに寝かした伏線も全回収、そしていよいよ和ちゃんの登場!と見所目白押し 私がその事を知り、愕然としたのはちょっと前のこと。 塾が終わり、桜ヶ丘行き、帰りのバスに乗り込みうとうとしていた私は突然の急ブレーキという派手な起こし方により強制的に意識を覚醒させられた。 桜ヶ丘への通行が全面封鎖─── 不可解、としか言いようがない。 桜ヶ丘一帯にだけ強烈な地震が襲いかかるという現象。隣町の私が揺れさえ感じなかったのだからこれはもう珍事なんて言葉じゃ済まされないだろう。 更に不可解なのは桜ヶ丘の住人は一人を除き全て……消息不明と言うことだ。 当然、桜ヶ丘に住んでいた私の幼なじみ……平沢唯もその例外ではない。 隣町 避難所 PM18 14 32 真鍋和 ──────────── 和「……唯」 国が一時的に用意した避難所で昨日は一日を過ごした。すぐにでも唯達を探しに行きたかったけれど街は封鎖されている為入れない。 和「……」 テレビに目を向けると、恐らくどのチャンネルでもやっているだろう桜ヶ丘についてのニュース。桜ヶ丘怪奇現象なんて面白半分のタイトルをつけられた特集番組が視聴率を集めてると思うと無性に腹がたった。 少女「和お姉ちゃん……」 和「ん? どうかしたの?」 少女「私達……お家に帰れるのかな?」 和「大丈夫よ。きっとすぐ帰れるから。心配しないで」 そう言って頭を優しく撫でると不安がっていた顔がゆっくりと笑顔に変わって行く。 少女「うんっ!」 そのまま私の膝にちょこんと座ると安心しきった猫の様に一緒にテレビを見始める。 私はすぐさまテレビの番組を楽しそうな童話の話に変えるとその女の子は嬉しそうにテレビを見始めた。 和「……」 私にもこれくらいの妹がいた。弟も……、勿論両親も。 今じゃ消息不明なんて言う勝手のいい言葉に握り潰され、生きてるのか死んでいるのかさえわからない。 そして、この子の両親も……。 そもそも地震が起きて消息不明とはどういうことなのだろう。 死体さえ発見されないと言うのはどう考えたっておかしい。世論では集団失踪やら桜ヶ丘地盤沈下等々勝手に盛り上がっているがこれはどう考えたって現実から逸脱している。 何かが起きているのだ、あの街で。 和「……」 ただ、どうすればいいのか……。街に行ったところで私みたいな学生は門前払いだろう。 もし上手く入り込めたとしても、国が何百人体制で探しているのに見つからない人達を私が見つけられるとは思わない。 和「八方塞がりね……」 少女「はっぽ~ふさがり? ってなぁに和お姉ちゃん」 和「どこに行っても出口が見つからないな~って意味よ」 少女「怖いね……」 和「そうね…」 和「でもほら、あの仔猫はちゃんとお母さんのところへ帰れたでしょ?」 テレビを指さすと丁度母猫と仔猫が仲良く抱き合っているシーンで、少女も安心したのか「良かったね!」と笑顔を取り戻した。 和「そう……出口のない迷路なんてない」 ここでこのまま何もせず、ただ時が過ぎるのを待つなんて出来ない。 どう動いていいかはわからない……けど、必ず唯達や家族を見つけ出してみせる。 隣町 図書館 第二日 AM9 00 00 真鍋和 ─────────── 次の日から私は唯達を助ける為に動き出した。世論のように現実的に捉えても埒が明かないと思い別の観点から物事を見ることにしてみる。 過去に同じ象例がなかったか調べ、その事件との関連性がないかを調べてみる。 少しでも関わりがありそうなものはファイリングし、コピー、ないしは書き写す。 それを何時間も行った結果たどり着いたのが……。 和「羽生蛇村土石流災害……?」 和「今から27年前…か」 村全体が土石流災害に合い…死体も出てこなかったと言う点では今の桜ヶ丘で起きている事と合致する…。 和「当時はこれを自然災害として処理…ね」 多分このまま行けば桜ヶ丘の件もこうやって風化していくのだろう。 和「実際に行って確かめた方が早いかしら」 いや、その前に桜ヶ丘にも足を運びたいわね。何か見落としてることがあるかもしれない……。 和「……」 1 桜ヶ丘へ行く 2 羽生蛇村へ行く ※2 和「羽生蛇村へ行きましょう。何かわかるかもしれない」 善は急げと云う言葉に従い荷物をまとめると、私はすぐさま羽生蛇へと向かった。 ──羽生蛇村跡地 和「地図だとこの辺りだけど……」 思ったより近く夕方になる前につけた。 和「立ち入り禁止……か」 村全体を襲った土石流災害なんて……ちょっと出来すぎてるわよね。 中に入ろうかとも思ったけれど、入口は土に埋もれて入って行けそうもなく……仕方なく引き返すことにした。 和「無駄足だったかしら……」 とりあえず現場を見れただけでよしとしておこう。 ── それからも色々調べてみたけれど……結局有力な情報は得られなかった。 それから時間はあっという間に過ぎて行き……桜ヶ丘の立ち入り禁止が解かれたのは、事件発生から1ヶ月後のことだった。 とは言ってもまだ住めると言うレベルにはほど遠く、ただの一時的な帰宅が許されただけだ。 和「地震があったにしてはあんまり変わってないな……」 1ヶ月振りに見た自分の家。勿論……誰もいなかった。 唯の家にも行ってみた。本当は盗難防止の為に自分以外の家には入ってはいけないのだけれど……見つかっても幼なじみだと言えば疑われはしないだろう。 やっぱり二人はいなかった。写真やアルバムなどを見つけ出してはどうしてこんなことになったのかと悲痛に嘆くしかなかった。 階段を上がり、右の部屋に入る。 和「唯の部屋……懐かしいわね」 部屋の片隅に置かれてあるギターの埃をはらうと大事にギターケースの中に収納する。 和「全く……世話が焼けるわね……ほんと」 あんなに……大切にしていたギターを置いて……どこに行ったのよ……唯。 和「このまま置いといたら唯が帰って来る前にボロボロになっちゃうわね……」 ギターケースを肩に背負う。 和「これは私がちゃんと預かっておくから。ちゃんと取りに来るのよ、唯」 そう言い残し私は平沢家を出た。 ── その後も澪の家や律の家何かに言ってみたけれど……やっぱり誰にも会うことは出来なかった。ムギの家は交通機関がストップしてる中では時間的に行けそうにない為断念することにした。 和「そろそろ帰ろうかしら……時間もないし」 生徒会の人達と良く行った大手スーパーを横切り、交番を通った時だった。 ジリリリ……ジリリリ…… 和「えっ……」 電話が……鳴ってる まだ復旧してない筈の電話が何故か鳴っている。まるで私が通るのを見越していたかのように。 和「……」 交番に中に入るとその音の主、今の時代で型遅れな黒電話の受話器を……ゆっくりと耳元へ持って行く。 もしもし、なんて流暢な返しも忘れ……ただあっちが喋るのを待った。 「悪いな、射殺される前に撲殺したよ」 いきなりそんな物騒な言葉を吐き捨てる相手、しかし私はその声の主を知っていた。 和「もしもし!? その声もしかして律!?」 律「えっ……もしかしてその声……」 あっちも同様に驚いたのかさっきと声色が変わる。 「ちっ……追ってきたか!」 パァンッ── 何?! あの音……銃声? 「ッ! 銃持ってるやつもいんのかよ! やっぱりあの魚潰しとくんだったな…」 和「もしもし!? どうなってるの!? 無事なの!?」 銃と云う単語に一気に不安感が高まる。 「悪い、話してる場合じゃないみたいだ」 和「律!!!」 「じゃあな、和」 そう言い残し、電話は切れてしまった。 和「律……」 かけ直すことも出来ず、またかかって来る可能性もあの様子だと薄いだろう。 和「でも……」 これで確信出来た。 律達は消えてなんかいない。生きている……どこかで。 それから避難所に帰宅し、物事を整理する。 和「律達が生きてるとして……どこにいるのかしら」 ヒントは律が撲殺なんて仄めかす程の治安……銃がどうこうと言うのと掛け合わせると益々危険な場所に身を置いているのがわかる。 和「あ~もうっ! なんでどこにいるのかぐらい言ってくれないのよ! 全く律はいつもいつも……」 三年間全ての書類を忘れに忘れただけのことはある。 和「変わってないわね…ほんと」 律が生きていると言うことは唯や憂、私の両親に弟や妹、他のみんなも生きている可能性は高いだろう。 希望は見えてきた。後はみんながどこへ行ったのか…と言うことだけだ 次の日、私はまた桜ヶ丘に一時帰宅をした。数少ない生存者だからか二度目の帰宅に対してあれこれ言われることもなかった。 今日は昨日行けなかったムギの家に行ってみる。 和「大きいわね……」 唯から合宿した別荘のことやチェーン店を展開しているなどムギの話は聞いていたけれど……まさかこんなにもお嬢様だとはさすがに思わなかった。 和「門から玄関までがこんなに長い家初めて見るわね……」 ようやくたどり着いた入口の扉を開け、中に入る。 解放感あふれるエントランスに圧倒されながらも一部屋一部屋回ってみる。 和「あんまりいい趣味じゃないわね……他人の家にづかづか上がり込んで物色なんて」 いくら手がかりを掴むためとはいえさすがに気が退ける。 最後にここを見たら帰ろうと、扉を開けてみた時だった。 和「本……それも凄い数ね」 ムギのお父様かお母様か、それともムギ自身が勉強家だったのか。その本の数は並みの図書館なら凌ぐほどだった。 和「……」 その中の、たった一冊に目が行く。 それを手に取ると、タイトルを読み上げてみる。 和「羽生蛇村異聞……」 内容は、異界に取り込まれた人達が色々な思惑を抱いて繰り広げられる群像劇のようなものだった。 多分羽生蛇村の事件をネタに書いたフィクションだろうけど……何故か無視出来なかった。 和「異界……まさか……そんなわけ……」 もしも、律達もこれと同じような状況にあるとしたら? 和「……非科学的過ぎるわ」 それでも、律からの電話はもうこの可能性しかないと告げてくれた。 和「…………」 パタン。 和「ムギ、ちょっとこれ借りて行くわね」 やっと、やっと繋がった。それは紙よりも薄い可能性だけれど…………もう、これしか考えられない。 唯達は何らかの影響で異界に取り込まれたのだ……。 ──避難所 和「これでよし……」 準備は整った。後はもう信じるしかない。 自分がたどり着いたこの結論に。 少女「和お姉ちゃん……またどこか行くの?」 和「……ごめんね。お姉ちゃん大切なお友達を助けに行かなきゃいけないの。だからまた今度遊ぼうね」 優しく撫でる、けれど不安な色は消えていない。多分この子も何となくわかっているのかもしれない。私が今からどれだけ危険なことをするのかを。 和「大丈夫。お姉ちゃんは生徒会長なんだから」 少女「生徒会長……?」 和「そう。みんなを守る力が備わってるの。だから心配しないで」 少女「……うん」 ゆっくりと立ち上がり、少女に背を向ける。 和「じゃあ……」 ほんとに何でもないことのように。まるでちょっと散歩に行くような気軽さでこう告げる。 和「じゃあ、私羽生蛇村に行くね」 少女「??」 今はわからないだろう。でももしいつか……覚えていてくれたら。 こんな変なお姉ちゃんが居たなって思い出してね。 それが、私達が確かにここに居た証になるから。 13
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ウェンディ 合石岳/羽生蛇鉱山 初日/7時47分42秒 穴に落ちてからどれくらい経っただろう。 真っ暗闇の中、明かりになるデバイスを見つけた上、トンネルを発見して自分はツいていると大喜びしたことが昔のことのように感じられる。 「………ここ、さっきも通ったっスね」 『第六通洞』という文字がトンネルの壁に大きく書かれていた。ウェンディには読めないが、何回も見たものだから形だけでも覚えてしまった。 それを誰のものかも分からないデバイスの放つ光で照らしながら、ウェンディは疲弊仕切った様子で溜め息を吐いた。 デバイスを持っていない手には、血で汚れたネイルハンマーを握っている。 穴に落ちてからどれくらい経っただろうか。 あれからウェンディは、一向に外に出れず、闇に包まれたかび臭い地下を延々と歩き続けていた。 なんでこんな目に、と嘆いた時もあったが仮に、もしあの穴の中にデバイスが無ければ、ウェンディは穴からも出れず闇の中で正気を失っていたかもしれない。 それだけでも考えてみればかなり幸運なことと言えるかもしれないが、ウェンディにとってそんなものは今はもうどうでもよかった。 歩き続けてわかったが、ここはどうやら廃棄された炭鉱施設らしい。 ここまでトロッコや採掘場、事務所らしき部屋などがあり、レールが敷かれた坑道は蟻の巣のように地下に広がっている。 初めは、いずれ外に出られるだろうと意気揚々とその中を歩き回っていたのだが、その考えは非常に甘かったことを思い知らされた。 迷路のように広がっている上に完全な闇に閉ざされているトンネルの中では方向感覚が曖昧になり、同じような場所を何度も何度も回ってしまうのだ。 ―――げら―げら―げら―げら――― 不意に闇の向こうから笑い声が聞こえてきた。不気味な笑い声はトンネル内を反響する。 あいつらだ。 滅入った顔をして、ウェンディは踵を返してトンネルを後戻りした。 「………なんなんスか、もぉー」 歩きながら、思わず愚痴が漏れる。 「ISも通信も使えないし身体は思うように動かないし変なヤツらはうろついてるし」 『変なヤツら』とは、現地人と見られる人々……いや人では無かった。 血や土に汚れた衣服に、蒼白の顔、目から血の涙を流しているその姿は、化け物と呼ぶに相応しい外見をしている。 満面の笑みを浮かべて暗闇から現れたそれに初めて出会った時、ウェンディは絶叫してその場から逃げ出した。 しかしそれも、迷う中で何度も何度も出くわしている内に、今ではすっかり慣れてしまったが。 奴等はこの炭鉱の中に複数人いた。そして懐中電灯と各々の凶器を手に、飽きずに坑道を徘徊し続けている。 そして奴等はウェンディと出会う度、ウェンディを見つける度に凶器を振りかざして襲いかかってきた。 鈍器を持つ者がほとんどだが、中には銃器、管理局により禁止されている質量兵器を手にしている者もいる。 (質量兵器だなんて、管理外世界って言ってもやりにくいったらありゃしないっスね……) しかし、ウェンディも襲われるだけでは済ますわけにもいかない。通洞に落ちていたネイルハンマーを拾い、それで奴等に抵抗して何度も殴り殺した。 間近で、しかも原始的な方法で生物を殺めたのは初めてだ。 エリアルボードによる爆撃とは全く違う、骨を砕いて肉にめり込む金槌の感覚が気色悪かった。 しかし、奴等は幾ら打撃を加えようが執拗にとどめを刺そうが、暫くすると何事も無かったかのように再び動き出して、また徘徊を始めるのだ。 信じられないことに、奴等は不死だった。これでは終わりがない。 今では体力の浪費を防ぐため、奴等と出くわしても戦闘になることは避けて、ひたすら逃げて隠れることに徹している。 「ほんと、気が滅入るっスよ……おまけに便利スけど幻覚は見るし!!」 ISが使えなくなった代わりに突如授けられた、頭痛と共に奴等の視界を盗み見る能力。 実際それは奴等との戦闘回避等で大いに役立ってはいる。 だが同時にそれは、既に自分もどうにかなってしまったのではないかという不安をウェンディに抱かせた。 魔力も何も作用していないのに他人と感覚器を共有する能力を授けられるなんて、オカルトそのものだ。とにかく普通じゃない。 もしかしたら、自分も奴等のようになりつつあるんじゃないか……そういう考えがふと脳裏をよぎる。 (いやいやいやいや、アタシは血の涙なんか流してないし、あんな頭がトんでるわけでもないっスよ!) 心の中で不安を必死に打ち消しながら、坑道内に放棄されたトロッコの影に隠れた。座り込んで、背中を錆びきったトロッコに預ける。 実際のところ、いつまでもこの廃炭鉱から出れずにこんなことを繰り返していれば、いずれどうなるか分かったものではない。そう思うと、ウェンディの胸の内には更に重い不安が生まれるのであった。 (……外に続く道はあるみたいなんスけどね) 目をつぶり、意識を集中すると、それに伴って鋭い頭痛が脳をいたく刺激する。 しかし、それにもだいぶ慣れたもので、ほとばしる頭痛に対するウェンディの反応は、眉間に皺を寄せる程度になっていた。 ―――てぇ んにぃ いおぉわ ぁす ぅ――― トンネル内を懐中電灯を片手に錆びたつるはしを持ち歩きながら何やら呟いている視界。 恐らく先程の笑い声の主だろう。無闇に笑って何が楽しいのか、化け物達は愉快そうにこの暗黒に包まれた炭鉱内を徘徊し続けている。 ウェンディは息を押し殺して、そいつが自分のいるトロッコを通り過ぎてくれるのを待った。 「……………………」 待ちながら、何となしに意識の方向を変えて、別の『奴等』の視界を盗み見る。 ―――ひ はぁは ぁ ひぃ は ぁ――― 不規則な呼吸を繰り返している誰かの視界。見えているのは白濁色の霧に包まれた廃炭鉱……即ち、地上の景色だった。 しかし地上に於いても、あの化け物達がうろついていることに変わりは無いようだ。『そいつ』の視界から、霧の向こうで覚束無い足取りで徘徊している人影が何体か確認できる。 (外に出ても同じっスか……。一体なんなんスか?この世界は) 改めてそう確認し、やや落胆する。だが諦めてこのカビ臭い地下空間で大人しく朽ち果てる気など毛頭無い。 それにノーヴェやクアットロ、ゼストにルーテシアにアギトもどこかにいるに違いない。いち早く合流して、早くこの地から去りたい。 視界を切り替えて、どこかに脱出口が無いか探していく。 (ノーヴェやクア姉はもちろん、ルーお嬢様とかゼストさんも、アイツらに殺されるとは思えないし、大丈夫っスよね) 今のところ、この能力が他の仲間達を捉えたことは無く、それどころか現地の人間にすら引っかかったことは無い。 要するに現時点では、少なくともこの辺りは自分以外に化け物達しかいないということになる。 (そう考えると余計に落ち込むだけっスね…………ん?) 頭を巡らせながら視界を切り替えていると、気になるものが映り込んだ。 ―――ぜ はぁ ぜぇは あぁ ぜぇ はぁ――― 猟銃を手に、切らしたような呼吸をしている、奴等と思わしき誰かの視界。自分のいる場所とそんなに離れていないところにいるようだ。 やはりこの坑内のどこかだろう、行き止まりとなっている薄暗いトンネルの奥が、鉄柵で仕切られていた。 その先が唐突に途切れて、鉄柵はそこに設けられている。 ウェンディの目を引いたのは、鉄柵の向こう。そこに地面は無く四角い穴が開いており、天井には滑車と太いワイヤーが垂らされ、壁に鉄骨が組まれていた。 (……エレベーターかなんかスかね?) 見たところ、エレベーターのようだ。 そう認識してからすぐに、もしかしたらそこから外に出られるかもしれない、という考えが頭をよぎる。 (……なんとなく、あっちの方だったっスかね?) 意識を向けた方向、能力で捉えた化け物がいるであろう位置を感覚的に察知した。 もちろん超感覚的なものだから、確かな方向ではないかもしれないし頼れる情報では無い。 だがそこに僅かでも希望が転がっているなら、行くしかないだろう。 能力を解いて、トロッコから顔を覗かせる。あの男はもうとっくにウェンディの隠れているトロッコを通り過ぎていたようだ。坑道の闇の向こうに懐中電灯の灯りと、僅かに男の背中が見えた。 ウェンディはもう一度、能力を使ってエレベーターの位置を確認した。そして静かに立ち上がり、そのエレベーターがあるらしき方向を目指し、歩き始めた。 ―――――――――――――――――――――――――― 曲がり角や梯子、分岐点がある度に能力を使って位置を確認しながら歩き続け、しばらく経った。 そして今、ウェンディの目の前には、能力で盗み見た例のエレベーターがあった。あの視界の主はここにいない。どうやらエレベーターで上がった上の階層にいるらしい。 (……意外と信用できるもんなんスね、この能力) 予想よりも簡単にたどり着くことが出来て、やや拍子抜けしながらエレベーターに歩み寄る。鉄柵で仕切られたエレベーターはすすけており、長らく使われていないように見えた。 鉄柵を除けて、中に入り、デバイスの放つ光で照らした。エレベーターは鉄骨が組み合わさっただけのような簡単な作りで、その鉄骨の柱にスイッチが取り付けてあった。 正直、どう見ても稼働しているようには見えないが、一応そのスイッチを押してみた。 かちっ 案の定、スイッチが小気味よい音が鳴らしただけで、エレベーターの方は待ってみてもうんともすんとも言わない。 「ちっ……そこまで甘くないっスか」 苦々しい表情で思わず舌打ち、エレベーターから出る。 落胆しながら踵を返してその場から離れようとした、その時。 ダァ……ァ……ン 何かが聞こえた。 (なんスか今の……銃声?) ダ……ァァ……ン 銃声のような音は、坑道内を微かに反響しながら飛んできた。それからも数回、音は連続してウェンディの耳に届いた。 耳を澄ますと、音はエレベーターより上から聞こえてきた。どうやら地上から響いているらしい。 (どうしたんスかね) 不審に思いながら地上の様子を探ろうと、目をつぶって意識を集中、銃声を響かせている主の視界を探る。 ―――へは ぁ はぁ は ぁ はぁ あはぁ――― どこかの小屋に乗っているのだろうか。廃炭鉱を見渡せる見晴らしのいい場所で、化け物の男が猟銃を撃ち続けている。 ―――ダン、ダン、ダン――― 男は何者かを狙い撃っていた。 男がいる場所と対岸にある、窓枠や扉すらない穴だらけで二階建ての荒廃した鉄筋コンクリートの建物。 男はそこに向かってひたすら猟銃を撃ち続けていた。 ―――ダァン――― その時、建物の二階のぽっかりと空いた窓から、発砲音が鳴り響いた。 銃声の直後、男の視界が大きく揺らいだ。首に被弾したようで、視界の真下からは大量の血が爆発したように飛び散る。 男は呻き声も上げられずにそのまま倒れ伏して、やがてその視界は暗転していった。やはり何者かが奴等と戦闘をしているようだ。 (一体誰が………) 男を撃った誰かがいる方向に意識を集中させる。頭痛と共に視界は切り替わった。 ―――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――― あの二階建ての建物の中にいるらしく、視界の主は息を切らしながら、長い間打ち捨てられてボロボロになった階段を駆け下りていた。 足取りはしっかりとしており、その手には猟銃が握られている。整った呼吸に、機敏な動き、血の通った浅黒い腕からして、奴等とは違う。 恐らく、人間だ。 (ちゃんと……ちゃんといたんスね、普通の人間が) 化け物達以外に、ちゃんと人間がいる。 その事実だけでも、長時間地下空間で化け物と共に閉じ込められていたウェンディを安堵させた。 ――んは あ ぁぁ―― とその時、ふと背後から気配を感じ、ウェンディは思わず目を開けて後ろを振り返った。 「か ぁがや ぁけ ぇ ぇた もぅ うぅ」 そこには化け物がいた。その手に握られた懐中電灯とつるはしに、呟いている口振りからすると、先程トロッコに隠れてやり過ごしたあの男のようだ。 ウェンディと目が合った途端、血涙に濡れた蒼白な顔を愉快そうに歪め、錆び付いたつるはしを持ち上げてみせた。 「……ネチっこいスね、ホントに」 溜め息を吐いてから、ウェンディは笑う男と対照的に恨めしそうな目で睨み付け、持っている金槌を構える。 「ひい゛ ぃと ぉつ ぅ や゛ぁ !!」 男は叫びながらつるはしを振り上げて躍り掛かってきた。ウェンディは振り下ろされるつるはしを避けるとその勢いで身体を回転させる。 そしてつるはしを振り下ろしてよろめきながら通り過ぎていく男の後頭部を目掛けて、裏拳のような形で金槌を叩き込んだ。 ごきっという鈍い音と共に、手に頭蓋骨が砕かれる感触が伝わる。 (やっぱ気持ち悪いっスね、この感触!) ウェンディが未だ馴れない感覚に気分を悪くしている一方で、男はそのまま前のめりになって地面に倒れる。 しかしまだ余力があるようで、うつ伏せから仰向けになると、再び立ち上がろうとする。 ウェンディは倒れた男にすかさず馬乗りになり、とどめの一撃を振り上げる。その時、男は血に濡れた目をウェンディに向けて、余裕からか悦からか、歯茎を剥き出しにして笑って見せた。 「ッ……キモいんスよっ!!!」 男の気持ち悪い笑顔を見て、ウェンディは苛立ちを爆発させながら、その顔面に渾身の一撃を叩き込む。 べきょっ、という音と共に金槌の先が男の額にめり込み、呼応するように男の両目が飛び出かけた。男は手足を痙攣させて、そのまま動かなくなった。 ウェンディは息を切らしながら金槌を持ち直して黙って立ち上がり、男から離れた。 程なくして男は脊髄反射のような感情の無い動作でうつ伏せになり、土下座をしているような体勢に入った。 ……まただ。 絶命してからするこの動作にどんな意味があるのかは分からないが、奴等化け物は一度殺すと、決まってこの体勢になり、 暫くすると何事も無かったかのようにまた復活をするのだ。 しかもこの体勢に入った奴等は鉄塊のように異常に硬くなり、その場からびくともしなくなる。 その姿はまるでさながらサナギのようだった。 ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ 『硬化』した男を呆然と見ていると突然、今度はどこからともなく、けたたましい音が響き渡った。 「な、なんスか!?」 驚いて思わず声をあげる。 何かの警告音のようだ。 取り敢えず目をつむり意識を集中して、音の原因を探る。そしてそれはすぐに分かった。 先程上で奴等と撃ち合っていた、あの人間だ。 どこかの施設にいるらしく、目の前には赤いボタンがあった。どうやらそれを押したことでこのサイレンを鳴らしたようだ。 その行動の意図は分からないが、能力を通して見たところサイレンは坑内中に鳴り響いているようだ。 他の化け物達に意識を向けると、どの化け物達もサイレンの音に反応して今までの行動から外れた行動を取り始めている。 もしかしたら脱出の糸口が掴めるかもしれない、そう思ってウェンディは一人一人の視界を注意深く観察した。 ―――なあ ぁ あ ぁぁ に ぃ い――― 音を辿るように、坑内を歩いている者。 ―――ひっ はぁ あ はっはぁ ああは ぁ――― 音に反応してただ周りを見回すだけで、その場から動かない者。奴等のサイレンに対する動きは様々だが、その動向は大まかに動く者と動かない者で分けられていた。 (…………!) ―――えぇ ひっえひぃっ ひひ ぃひ ひひ ひ ひぃっ ひ ぃひ――― 奴等の視界の中に、大量のスイッチやランプが並んでいる機械が映っているものがあった。 ウェンディはその視界に集中し、見えるものを観察する。暗闇の中、化け物の照らす懐中電灯に浮き上がっているそれは、何かの制御盤のようなものだろうか。 もしかしたらエレベーターを稼働する電源があるかもしれない。 (もしかして、また当たりっスか?) 先程のエレベーターと同じく、視界から得た情報に確証は無い。 しかし暗黒に包まれた穴の中で明かりとなるデバイスを見つけて、何時間もさまよったと言えど運良くエレベーターを見つけ、 さらには偶然にも他の生存者が鳴らしたサイレンによって電源の制御盤らしきものを見つけたのだ。 まるで何かに導かれているかのように。 (……やっぱツイてるっスよ、あたし) 一連の出来事からウェンディは、その制御盤がこの錆び付いたエレベーターを動かしてくれると確証していた。 なにより能力で見た機械に付属しているランプは、赤や緑色に光っている。それは少なくとも電源は生きているという証拠だった。 「……行くっスかね」 そう呟き、ウェンディは一抹の確かな希望を胸に、制御盤を目指して、再び行動を開始した。
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ウェンディ 合石岳/三隅林道 初日/4時27分51秒 「うぅ、頭が痛いっス……。 なんだったんスかあのサイレンは……」 雨が降る寂れた林道を、頭を抱えてとぼとぼと歩きながら、ウェンディは呟いた。 スカリエッティの作り出した戦闘機人作品群、ナンバーズの中で11という番号を付けられているウェンディは 仲間のナンバーズであるノーヴェ、クアットロと、魔導師のルーテシア、ゼスト そして複合機のアギトと共にレリック捜索のため地球に来ていた。 機動六課も必ず現地に来るだろうと予測していたスカリエッティは送り込んだ大量のガジェットをナンバーズ達に引き連れさせ、 ウェンディ達は散開して各々で山中に身を隠していた。 レリックもそうだが、目的は他に六課の隊員達がガジェットと戦闘を繰り広げているところで襲いかかってちょっかいを出すことにもあった。 深夜になると、案の定機動六課の隊員が来てガジェットとの戦闘を開始。 ウェンディ達は山中に隠れて襲いかかる機を伺っていた。 しかし程なくして通信に原因不明の異常が生じ、ISも謎のシステムダウンを引き起こし始めた。 空を見るとガジェット達も次から次へと落下を始めており、しまいには地面が大きく揺れ出した。 次から次へと飛び込んで来る問題に、ウェンディが大慌てしていると、 どこからともなく爆音でサイレンが鳴り響いたのだ。 ウェンディはその場で気を失い、そしてついさっき目を覚まして、現在に至る。 「相変わらずISは発動できないし、通信回線は開けないし……」 ウェンディの固有装備であるライディングボードは、機動できない場合、移動の邪魔になるのは必須なので 既に目覚めた場所に置いてきている。 移動には徒歩、通信もできないので助けを呼ぶことはもちろん仲間の安否も確認できない。 加えて誕生してからのほとんどをスカリエッティのラボで過ごしたウェンディにとって、全く身に覚えの無い偏狭世界。 「大体、どこっスかここはーー!!」 ウェンディの叫び声が山間に切なくこだます。 状況は見るからに最悪だった。 「はぁ……やってらんないっスよ」 跳ね返ってきた山びこを聞いて、なんともやり切れない思いに駆られたウェンディは、溜め息を吐いて歩き出す。 その時だった。 「あ」 突然足元が、地面が無くなった。 支えを失った身体はバランスを崩して落下し始める。 ―――ヤバい!! なにも見えない真っ暗闇に身を投げ出され、わけもわからずウェンディはとっさに死を覚悟した。 しばしの浮遊感が身体を包み込む。 「うぉあがっ!!!」 そして間もなく、背中を起点として全身に衝撃が走った。 げほっ、ごほっ もんどり打って咳き込む。 叩きつけられ、肺から押し出された空気が喉に絡まったのだ。 「いっつつつつ………」 何かの穴に落ちたのだろうか、完全な暗闇に包まれていて周りは何も見えない。 背中をさすりながら壁に手をつくと、ゴツゴツと固い感触がした。 足元には大量の石ころがあり、ウェンディが落ちてきた拍子に崩れたのだろう、 石ころが壁を転がって地面に落下する音がしばらく続いていた。 土埃が上がっているのか、息を吸うとたちまちむせる。 ウェンディは岩壁に手をつき、咳き込みながら立ち上がった。 「げほっ、げほっ、うぇ……もぉ、今度はなんなんスか!!」 洞窟か何かなのだろうか。 ウェンディの怒声は何度も反響した。 「……真っ暗で何も見えないっス」 あの気絶以来、戦闘機人の備えている暗視機能やその他視覚機能もほとんど失われており、 せめても暗闇の中で微かに補正がかかるぐらいである。 (こんなとこ、それこそ誰も助けに来やしないだろうし……) 「ホント、しっちゃかめっちゃかっスよ……」 自分の手が見えるか見えないかギリギリの闇の中、ウェンディは悲壮感溢れる声調で呟いた。 しかしその場に留まって朽ちるのを待つわけにもいかない。 ウェンディはとりあえず壁に手をつきながら歩み始める。 しかしまた穴かなにかがあっては堪らない。 一歩一歩、確かめながら歩みを進めた。 「……全く、作業内容としてはなんの問題も無いとか言っておきながらなんなんスかこの状況は。 問題ありありじゃないっスか」 一緒に来たノーヴェと自分に、相変わらずな飄々とした態度で指示を下したナンバーズ4番、クアットロの顔を思い浮かべながら愚痴をこぼす。 別にクアットロが嫌いだというわけではない。 単純にそうでもしていないとやり切れないからだ。 「相手側の手の内側は分かり切ってるとか余裕こいてて、 結局相手の新兵器かなんかわかんないの食らわせられてるようじゃ、クア姉もまだまだっスねぇ」 そう言ってウェンディは、脳裏に浮かんだ姉を鼻で笑った。 ……いや、あのサイレンは本当に機動六課の兵器だったのか? ウェンディは自分の耳に押し寄せてきた音のうねりを思い出した。 まるで猛獣の咆哮のような、鳴き声のような、あのサイレンからはなにか生物的なものを感じた。 (……なんか、不気味っスね) 思い出して背筋が寒くなり、そのまま歩みを進める。 「ん?」 不意にチカチカと発光するものが見えた。 足元に積み重なっているであろう石の間から光が漏れている。 ウェンディはかかんで光を覆いでいる石をどかした。 途端、目に強烈な光が飛び込んできた。 とっさに目をかばいながらも、恐る恐る光源に手を伸ばす。 平たいものに手が触れた。 手で探ると、どうやら光を放っているのはカード状の物体らしい。 掴んで拾うと、物体がなんなのかすぐに分かった。 「………デバイス?」 それは白いカード型のデバイスだった。 カードの対角線にはバツ印のように赤く太い線が入っており、中心には黄色い半球状の物体がついている。 (なんでこんな偏狭世界にデバイスが……) インテリジェントデバイスなのか、ストレージデバイスなのかまでは分からないが、 その型のデバイスをウェンディはスカリエッティのラボで見た覚えがあっだ。 「おーいなんか喋るっスよ」 指で小突きながらデバイスに話し掛ける。 しかしデバイスはちかちかと光を点滅させるだけで、音声を発しはしなかった。 反応したということは、知能を持ったインテリジェントデバイスの類なのだろう。 「壊れてるんスかね?」 (……まあいっか。ちょうど暗くて困ってたところっスし) ライト代わりにカード型デバイスを持ち替え、カードの光を周りに向ける。 周りには岩、岩、岩。 やはり洞窟だった。 そこそこ広い洞窟で、見上げると岩の天井が覆っており、その一部に穴が開いていた。 「あっから落ちたんっスねー……」 問題なのはここからどうやって出るかだ。 穴までの高さは六メートルほどあるだろうか、岩壁を登っていこうにも天井に張り付いて移動することはできない。 穴には絶対に辿り着けないのだ。 なにか脱出路はないのだろうか? そう思い、周囲を見回す。 人為的に作られた空間なのだとしたら、なにかしらの通り道が存在していてもおかしくない。 デバイスを片手に、洞窟の中を丹念に探し回る。 「お?」 あった。 自然の産物である石と岩の地面の中に、明らかに人為的なコンクリートで固めてある地面が紛れていた。 その中央には取っ手のついた正方形の鉄蓋がしてある。 (マジでナイスっスよぉ!ツイてるツイてる!) そこで志気が上がったウェンディは意気揚々と鉄の蓋の取っ手に手を掛けて、思い切り引っ張った。 「……っ……ぐぅぬぬ……」 体重をかけ、全力で鉄の蓋を引っ張る。 錆びているのか、蓋は有り得ない程重かったが、一応は開いているらしい。 戦闘機人であるウェンディの力を持ってしても蓋はかなり重かったが、それでも徐々に徐々に開いていき、 しまいにウェンディが「ふんっ」息を入れると同時に蓋は完全に開いた。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ」 ウェンディは息を切らしながら、開いた鉄蓋に近付く。 デバイスで照らすと、そこには正方形の穴が空いており、その一面には鉄の梯子があった。 どこへ続くか分からないがとりあえずここに留まっていても仕方がない。 ウェンディは躊躇いなく梯子に足をかけ、穴の中へと降りていった。 足を踏み込むたびに鉄の音が寂しく穴の中に響く。 洞窟から下の階はさほど間が無いらしく、間もなくしてすぐに広い空間に出た。 梯子から降りて、明かりを周りに向ける。 先程の岩壁とは違って、コンクリートで固められた壁。 天井はあまり高くなく、ウェンディが手を伸ばして跳躍すれば届くぐらいだ。 「なんなんスか、ここ」 そこはトンネルだった。 天井に沿ってパイプと配線が何本か通っており、壁には現地人の文字で何かの単語が書いてある。 残念ながら他世界の語学教育を受けていないウェンディには、でかでかと白で書かれたその単語の意味は分からない。 (なんかの施設であるのは間違いないようっスけど……) ウェンディのいる場所でトンネルは途切れており、立ちふさがっているコンクリートの壁に、先程の鉄梯子は設置してあった。 よって行き先は一方向に絞られている。 (まぁ、逆に分かりやすくていいっスね) 前向きに考えながら、ウェンディはデバイスを片手に、トンネルの向こうを包む濃厚な闇へと足を踏み出した。