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トン トン トン トン 階段を下りてくる足音に気付いて、ラブは顔を上げた。 ここが夢の世界だからだろうか、眠くなったりもせず、隣であゆみが寝入った後もずっと彼女は、どうすればせつなを助けられるかを考えていた。 だがいいアイディアが思いつかず、ううん、と悩ましげに頭をひねったところに、その足音が聞こえてきたのだ。 誰か、などと考えるまでもなかった。時計を見れば、まだ朝の六時。圭太郎は一階の寝室で眠っている。だとすれば、降りてきたのは。 「せつな……」 ラブの漏らす呟きは、相変わらず誰の耳にも届かない。 彼女は、音を立てぬようにそっとリビングのドアを少し開けて、覗き込んでくる。そして、ソファの上で眠っているあゆみの姿を見て、小さく。 微笑んだ。 「――――」 声にならない声を、彼女は発する。その唇の形を、ラブは読み取って、眉を顰める。どうして、そんなことを言うのだろう。 ――――まさか!! 息を飲むラブ。せつなはドアを閉めて、そのまま廊下を玄関へと向かい、靴を履いた。 追いかけた彼女の前で、せつなは扉を開け、外に出て鍵をかけた。 そして、その鍵を、家のポストに放り込んだ。ラブと一緒に選んで買った、沖縄土産のキーホルダーを付けたまま。 「せつな――――」 それがどういう意味を持つか、ラブにもわかる。 どうしよう。迷う暇もなく、歩き出すせつな。一度だけ、振り向いて、 「ありがとう――――さよなら」 そう告げたのを聞いて、確信する。 せつなはもう、戻らないつもりなんだ。この家に。 ゆっくりと遠ざかるせつなの背中を見つめながら、必死に考えをめぐらせていたラブは、一つの可能性に気付いて、空に向けて呼び掛ける。 「長老!! 聞こえる!? 長老!!」 『――――なんや?』 かすれるような小さな声。それでも、彼女の声が彼に届いていたことに、ラブはほっとする。そして、問い尋ねた。 「長老、教えて欲しいことがあるの!!」 そうして聞いた答えに満足そうに頷いた後、ラブはせつなの後を追う。その表情は険しいものだ。 何故なら、さっき、せつながリビングを覗いてあゆみを見た時に言った――――いや、囁いた言葉に、嫌な予感を覚えたからだった。 せつな―――― 悲しみに、ラブは唇を噛みしめる。声が届かないことが、とてももどかしい。 彼女は――――せつなは、あゆみを見て、こう言ったのだ。 今までありがとう、お母さん――――と。 ただひとたびの 奇跡 ――――Power of Love―――― せつなは、ただ歩く。あてもなく。 トボトボと歩くその様は、捨てられた犬か、猫のようで。寂寥と影を背負い、弱々しくフラフラと揺れている。 まるで、その体を支える大切な軸を失ったかのように。 憔悴し、摩耗しきった心を現すかのように、その顔はやつれている。それは一見すると、幽鬼のようにも感じられる程。 彼女は歩く。誰もいない、商店街。静けさを破るのは、ただ鳥の声ばかり。その小鳥達も、せつなに気付くと飛び去っていく。それがまるで、自分を忌み嫌っているかのように思えて、彼女は目を伏せた。 そして、思う。 もう私には――――居場所がない。 私に居場所を与えてくれたのは、ラブだった。 行き場所を失っていた彼女を、家族として迎え入れてくれたのは、お父さんとお母さんだった。 そんな三人に、私はすごく感謝していた。 大切に思っていた。 愛してた。 本当に、素敵なひと時だった。 家族がいて。皆でお喋りをして。ご飯を食べて。 すごく幸せな時間だった。 それを――――それを奪う権利なんて、誰にもないわ。 そう言ったのは、自分。 なのに、私はその幸せを守れなかった。 ううん。 私が、奪ってしまった。 ラブはいなくなった。お父さんもお母さんも、笑顔を失った。 家族から、一人が欠け。皆でお喋りをすることも、ご飯を食べることもなく。 幸せな時間は、もう来ない。 かつての罪を償おうと、贖おうと生きてきたのに。 大切なものを守りたいと、そう思っていたのに。 何も出来なかった。 ただ罪を重ねただけだった。 やっぱり。 私は幸せになってはいけなかったんだ。 大切な人を、愛する家族を、こんなにも不幸にしてしまうのだから。 居場所なんか、求めちゃいけなかったんだ。 与えられたそれに、甘えてちゃいけなかったんだ!! やり直すことを、許された。 許されたと、思ってた。 けれど。 けれど、やっぱり――――罪には、罰があった。 それでも――――こんなのってない!! こんなのってひどいわ!! 心の中で叫びながら、せつなは足を止めることなく進む。まるでそれは、自動人形のように、ただ、ただ前へと。 プリキュアになんて、ならなきゃ良かった!! 生き返らなければ良かった!! イースとして、死んだままでいれば良かった!! そうすれば、ラブは死ななかった。 お父さんもお母さんも、幸せなままだった。 ――――私がいたせいで。 皆が、不幸になる。 きっと、これからも。 私のせいで、皆が。 ふと、せつなは歩き続ける。フラフラ、フラフラと。時折、人とすれ違ったり、早起きの商店街の人に声をかけられても、顔を上げることすらしないまま、ただ歩き続ける。 私のせいだ。 私のせいだ。私のせいだ。 私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。 私のせいだ。 何が幸せのプリキュアだ。 生きている限り、私は人を不幸にする。 こんな私に。 居場所なんてない。 生きる価値さえ。 歩く、せつな。 時折、立ち止まる。 美希の家、美容院の前で。 祈里の家、動物病院の前で。 立ち止り、そっと見上げる。 公園にも、行った。 ダンスのレッスンをした広場を、眺めた。 カオルちゃんがドーナツ屋を開く場所に、立った。 歩いて、歩いて。 街を歩き続ける。 その全てで、せつなはラブと出会った。 ここでラブと一緒に、お買い物をした。 この段差に引っかかって、ラブが勝ったばかりのアイスを落としちゃってた。 あっちの店で、お気に入りのものを見つけたと言っては喜んでた。 そこのベンチで、日が暮れるまでお喋りしてたっけ。あの時はまだ、私はイースだった。騙そうとしていた私を、最後まで信じてくれたのよね、ラブは。 浮かび上がっては消える幻想。 そのたびに、胸が痛む。心臓が張り裂けそうになる。 ハートから血が流れる。 真っ赤な、ハート。それは、鮮血に染まった―――― それでもせつなは、止めようとしない。 思い出すことを、目を背けることを、止めようとはしない。 どんなに苦しくても、痛くても、決して。 そして、謝るのだ。彼女は。 幻のラブに。 ごめんね。ラブ。ごめん。 貴方の望むように、いられなくて。 ごめんなさい。 最後に。 彼女は、クローバータウンを一望出来る、丘の上に来た。 かつて、生まれ変わったばかりの彼女が、あゆみに声をかけられた場所。 あの頃は緑のクローバーに包まれていた丘は、今は枯れ果て、茶色に染まっている。ひどく、寒々しい光景。 せつなは、腰を下ろす。 目に、焼き付けようと思っていた。これが、きっと、最後だから。 膝を抱えて座りながら、街と空を見る。相変わらずの、どんよりと湿った曇り空。 せつなは、考える。 どこに行こう。 いや。 どこで逝こう。 見つからない場所がいい。私のことを、誰も知らない場所で。 すぐには、思いつかない。 まぁいい、と彼女は思う。 時間は、たっぷりある。 考える時間なら、たっぷりと。 それまでは、この街を見つめていよう。 ラブが暮らした、幸せに溢れていた街を。 過去形になってしまったことは、自分の罪。 その形を、心に刻みつけよう。 やがて。 彼女は立ち上がる。 行く先が決まったわけではなかった。 それでも、もうここにはいられないと思った。 せつなの目に、光は無い。 それは、心が死んだから。 後は――――体だけ。 ゆっくりと歩き出す、せつな。その背中に。 「せっちゃん!!」 呼び止める声が、かけられて。 振り返る、せつなの視線の先には。 髪は乱れ、服も部屋着のまま。走ってきた為だろう、肩で息をしながら、彼女を見つめる女性―――― あゆみの、姿があった。 間に合った――――!! ラブは、ホッと一息を付く。 せつなの、彼女の様子から、何を考えているのかがわかっているのに、何も出来ないことにやきもきしていたけれど、でも――――間に合って、良かった。 そう。 あゆみを、ここに呼んだのは、彼女だった。 長老に託された二つの力、その内の一つを使って。 それはとても、危うい賭けだったけれど、ラブは信じていた。 お母さんなら、必ず来てくれると。 願いは、かなった。あゆみは、ここにいる。 後は、最後の仕上げだけ。 思いながら、ラブは。 あゆみを前にして、立ちすくむせつなの背後から。 残されたもう一つの力を使い。 万感の思いを込めて。 トン 彼女の、背中を押した。 強く。けれど、優しく。 不意に後ろから押され、バランスを崩したせつなが、あゆみの胸に倒れ込む。 すぐにその背中に、彼女の腕が回された。 そして、せつなは抱きしめられる。あゆみに、きつく、きつく、抱きしめられる。 「せっちゃん――――!!」 何があったのか、わからない。 どうしてこうなったのか、わからない。 けれど―――― 首筋に、雫が落ちたのがわかる。次々に、落ちてくる。 「泣いて――――るの?」 答えは無かった。ただ、肯定するかのように、またきつく抱きしめられた。 ギュッと。強く。 「私のことで、泣いてくれてるの――――?」 「当り前でしょうっ!!」 叫び声に、ビクッと体を震わせる。その彼女の肩を掴んだまま、あゆみは体を離し、 「心配したのよ――――急にいなくなって――――鍵まで置いていって!!」 涙で頬を濡らしながら、せつなを真正面から見つめる。その目から、彼女は、逃げることが出来ずにいて。 「せっちゃんが――――いなくなったのかと思って――――どこかにいっちゃっうのかと思って――――本当に――――本当に、怖かったんだから――――!!」 そう言って、三度、せつなは抱きしめられる。今度は、頭をかきいだくように。 壊れ物を扱うように、優しく。 「私がいなくなることが――――怖いの?」 「当り前でしょう!! 大切な、家族なんですもの!!」 「でも――――ラブは、もう、いないわ」 ラブがいないあの家に、私の居場所なんて―――― 「せっちゃんは――――」 そんなせつなの髪を、あゆみはゆっくり梳る。 「せっちゃんは、せっちゃんでしょう――――? 私の大事な娘よ」 あ―――― 息を飲む、せつな。 けれど―――― 「私が――――私がいたから、ラブは――――ラブは死んじゃった!! もう、戻らない!!」 逃げようと、せつなはもがく。 けれど、それを許すまいと、あゆみはきつく抱きしめ。 決して、離さず。 「私は!! 皆を不幸にする!! やっぱり私は、幸せになっちゃいけなか――――」 「せっちゃん!!」 せつなの叫びは、より強い声で塗りつぶされる。 その一声は、たくさんの――――とてもたくさんの、想いが込められていて。 動けなくなる彼女の瞳を、あゆみは間近から覗き込む。 「どうして――――そういうこと、言うの」 「――――あ」 涙を湛えたその瞳に、せつなは言葉を失う。 「せっちゃんはね、人を不幸になんか、してないわ――――だって」 私に、幸せをくれたんですもの。 「――――――――!!」 いつか、を、せつなは思い出す。 同じように、幸せになってはいけない気がすると言った彼女を、あゆみは、一つ一つやり直せばいいと、そう言った。 けれど、やり直しても、無駄だった――――そう、思っていたけれど。 「――――幸せ、だったの?」 「だった、じゃないわ。今でも、幸せよ」 「ラブが、いないのに――――?」 「それはもちろん、悲しいわ――――けれど、せっちゃんがいることは、幸せよ」 「ラブが、いなくても――――?」 「ええ。ラブがいなくても」 「私――――必要とされてる――――?」 「せっちゃんがいない方が、よっぽど不幸よ」 「私――――私、ここにいていいの?」 「当り前でしょう? 貴方は、私の大切な、娘なんだから」 「――――お母さん!!」 せつなは再び、あゆみの胸に飛び込む。 今度は、誰かに背中を押されることなく、自分から。 心が溶ける、音がした。 溶けた心は、瞳から涙となって溢れて行く。 どれだけ泣いただろう。 ラブが死んでから、どれだけの涙を流しただろう。 泣いて。泣いて。もう泣きつくしたと思ってた。 でも、涙はまた溢れる。頬を伝う。 違うのは。 『一つ一つ、やり直していけばいいのよ』 あゆみに、そう言われた時と同じように。 その涙は、あったかくて。 「せっちゃん」 大声をあげて泣きじゃくるせつなの背中を、あゆみはポンポンと、あやすように叩きながら抱きしめる。 「貴方はね、幸せになっていいの。私も、お父さんも――――ラブも。皆、貴方に会えて、幸せなんだから」 「……幸せ……」 「ええ、そう。だからね、私達も願ってる。せっちゃんの幸せをね」 でも、とせつなは目を伏せる。 「ラブは、私の為に――――」 「ラブだって、せっちゃんの幸せを願ってるわ」 「けど――――!!」 「証拠があるの」 言いながら、あゆみはポケットから自分の携帯を取り出す。 そして彼女が見せた携帯のメールには、 『お母さん!! せつなを探して!! 家を出てっちゃった!! 今、クローバータウンの外れの丘の上にいるから、すぐに来て!! そして、せつなに伝えて欲しいんだ。アタシ、せつなと会えて幸せだったよ、って。せつなに、幸せになって欲しい、って。それから――――大好きだよ、って』 「これ――――!!」 顔を上げるせつな。あゆみは、泣きながら笑う。 「ラブからのメールよ。ほら、送信者のところ、見て?」 「でも、ラブは――――ラブの携帯は――――」 ラブは死んだ。その携帯も、解約してしまった筈だ。 けれど、確かに送信者は、ラブの名前で。メールアドレスも、ラブのもので。 「そうね。うん、そう。何かの間違いかもしれない。けれど――――私ね、思うの。これは、本当に、ラブからのメールだって。天国から送られてきた、ラブからの想いを伝えるメールなんだ、って。だって、このメールの通り、せっちゃんはここにいたんですもの」 「天国からの――――」 「きっと、ラブは今も見守ってくれてるのよ。せっちゃんのことを」 携帯の、画面がにじむ。 ラブからの想いが、伝わってくる。 「ラブ……」 誰かを不幸にすることしか出来ない、そう思っていた。 けれど。 「お母さん――――私、本当に、幸せになっていいの?」 「もちろん。今、もしもせっちゃんが不幸なら――――私が、幸せを返してあげる」 「返す?」 「ええ。貴方が私の娘になってくれたことで、私がもらった幸せを」 繋がっているのだと、知る。 「私――――これからも……ラブがいなくても。お母さんって、呼んでいいの?」 「そりゃ、お母さんですもの」 幸せという名の、絆で。 私がここにいることで、お母さんが幸せになれる。 私がいなくなれば、お母さんは不幸になる。 それは、ラブがいなくても、変わらない。 私とお母さんの、絆。 私だけの、絆。 生きていて、いいんだ。 私は、この場所で。 お父さん、お母さんの家族として。 贖うべき罪は、まだあるのかもしれない。 けれど、私を受け入れてくれる居場所がある。 この場所で。 私は、生きていこう。 大切な人を失ったけれど。 まだ、大切な絆があるから。 「せっちゃん」 「――――お母さん」 「幸せに、なってちょうだい」 「――――うん。たくさん、幸せになるわ。そして、お母さんに、お父さんに、幸せを返すの。私を受け入れてくれて、ありがとうって」 そして、母と娘は。 抱きしめ合う。 かつて、彼女が初めて、お母さんという言葉を口にした時。 そこにはもう一人の娘がいた。 今は、二人。そこに寂しさを、感じないわけではない。 それでも。 互いを大切に思う気持ちは、変わらない。 だから。 抱きしめ合う。強く。 それは、幸せへの、初めの一歩だから。 「良かった」 二人の抱擁を見ながら、ラブは小さく呟いた。聞こえないだろうとは思いながらも、こっそりと。 本当は少し、自分もその中に入りたかったけれど、我慢する。 今は、せつなとお母さん、二人だけにしておきたかった。 「ホントに、良かったね、せつな」 そう言うラブの手の中には、リンクルンがあった。 ここから彼女は、メールを飛ばしたのだ。母、あゆみへと。 長老との会話を、ラブは思い出す。 「長老、教えて欲しいことがあるの!!」 『教えて欲しいこと? なんや?』 「長老の力って、メールにも使える!?」 『メール? そら、使えへんことはあらへんやろうが――――』 「だったら、あの力の一つ目で、アタシのメールが、ちゃんとこの世界でも届くようにして欲しいの!! 一通で、構わない!! せつなを助ける為に、どうしても必要なの!!」 危険な賭け、だった。 届いたメールに、あゆみが気付かなかったら。 気付いても、偽物だと思ったら。 信じてもらえなかったら。 けれど、あゆみは信じてくれた。 やっぱり、お母さんはお母さんだ。 大好き。 改めてあゆみの恰好を見て、ラブは思わず噴き出してしまった。 お母さん、靴の左右、違ってるよ。 それに気付かないぐらい、慌てて出てきたんだ? せつなのこと、そんなに大事に思ってくれてるんだね。 アタシからも、言うよ。ありがとう。 さぁ。 悪い夢は終わり。 せつな。 後は目を覚ますだけだよ。 「ぬぅぉぉぉぉぉおっ」 ウエスターの拳を、パッションは腕を交差させて受け止める。 が、勢いを殺しきれず、浮かび上がる体。そこに、 「おおおおおおっ!!」 彼の左足の蹴りが跳んだ。 「うっ!!」 直撃に、吹き飛ぶ彼女。ずざざざざ、と地面を転がり、そのまま倒れ伏す。 強い――――!! 改めて、美希は思う。さすがに幹部だけあって、一筋縄ではいかない。 けれど、これは時間稼ぎなのだ。ラブ達が戻ってくるまでの。それまでは、ここに引き留めておかないと―――― 「違うな」 ボソリ、とウエスターが呟く。 「貴様っ!! イースではないなっ!!」 「――――!?」 彼の一言に、彼らの戦いを見つめていたノーザが、目を見開いた。それに気付かぬまま、美希は動揺を必死に押し殺す。 「そ、そうよ。ようやくわかったの。私はキュアパッション――――」 「そういう意味じゃないっ!! ええい、姿を現せ、この偽物め!!」 叫び声と共に、一気に近付いてきたウエスターが、パッションの服をつかみ、彼女の体を強引に壁に向かって投げつける。 「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」 「パッション!?」 「よそ見をしてていいのかい?」 パッションに気を取られたピーチ――――祈里。その一瞬の隙を、サウラーに突かれる。はっと気付くが、時はすでに遅く。 「ふんっ!!」 腹にぶつけられた掌底に、彼女もまた、吹き飛ばされる。 「きゃっ!?」 ドン、と壁にぶつかり、落ちる二人。その瞬間に、彼女達が腰に付けている、リンクルンを入れたポーチが外れて、落ちて。 少女達は、元の姿に戻る。 パッションからベリー、そして美希へ。 ピーチからパイン、そして祈里へ。 「うぅ……」 「くっ……」 立ち上がろうともがく二人を、ウエスターとサウラーが見下す。 「やはり、偽物だったか」 「よくわかったね、ウエスター」 「戦い方が違ったからな。それにしても、どうしてイースに化けたりなど」 「なるほど。そういうことね」 頷きながら二人の前に現れたのは、ノーザだった。変身が解け、それでも立ち上がろうとする少女達を見て、彼女は嘲笑する。 「イースが目覚める為の時間稼ぎ、といったところかしら。インフィニティを渡さない為に、知恵を振り絞ったわけね?」 くっ、と歯を食いしばる美希と祈里の顔に、愉悦の笑みを浮かべながら、ノーザは続けた。 「惜しかったわね。すっかり、騙されてしまっていたわ。この私ともあろうものが」 くすくすと声を上げて笑ってから、ノーザは一瞬にして冷たい表情を取り戻す。 「けれど、もう終わり。残念だったわね――――もう、イースは目覚めない」 「待ちなさい!!」 拾い上げたリンクルンを構え、もう一度、変身しようとする美希だったが、ソレワターセがしならせた鞭のような腕に弾き飛ばされる。 「美希ちゃん!!」 「貴方達が悪いのよ。貴方達が、約束を守らなかったから。だから、イースは苦しみ続ける。そして――――永遠に眠る彼女を見て、永遠に苦しみ続けなさい」 そう言うやいなや、ノーザは。 ソレワターセの体に、自らを同化させ始める。 その行先は―――― 「――――え?」 戸惑いの声を、ラブはあげる。 せつな。せつなと抱き合っていたあゆみ。 二人の体から、急に色が無くなったから。 凍りついたように、彼女達の体が動かなくなる。 次の瞬きの後。 世界からも、色が無くなる。全ての色が。 せつなの赤の服。あゆみの栗色の髪。北風に揺れる木々の茶色。空の青。 全ての色が、無くなる。 セピアの世界。凍った世界。 「な、なに――――?」 せつなの元に駆け寄ったラブが、その体に触れようとする。 そして――――触れることが、出来た。夢の中の世界の筈なのに。 けれどその体は、氷のように冷たくて。 「何が起きてるの――――?」 フフフフフフフフフ―――― ラブが思わず漏らした言葉に返ってきたのは、女の含み笑い。 はっと振り返る彼女の前に、茶色の地面から姿を現す、二つの影。 そのうちの一つが、ラブの姿に気付き、その顔に浮かんでいた笑みを深くする。 「あら。こんなところにいたなんてね、キュアピーチ」 「……ノーザ!!」 8-233へ
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上級生に呼び出しを受けたブッキー。 「山吹さん……こっちへいらっしゃい」 「あ、あの……せ、先輩……わたしに……何か……」 「ふふ……可愛い娘……震えてるの?」 す、っとブッキーの頬を撫でる先輩。 その手はやがてブッキーの制服のボタンを……。 「せ、先輩!!」 「怖がらなくていいのよ……さあ……」 「あ……」 「響け!希望のリズム!プリキュア・エスポワールシャワー・フレーッシュ!!!」 「きゃあああああああ!!」 「せ、先輩!?」 「ふう……危なかったわね、ブッキー」 「み、美希ちゃん!先輩に何てことするの!!」 「い、いや……な、ナケワメーケかと思って……」 「そんなワケないじゃない!!先輩!先輩!!」 「わ、私はただ……や、山吹さんが制服……のボタンか、掛け違えてたから……直してあげようと……」 ガクッ。 「い、イヤ―――!!先輩!先輩!!」 「あー、じゃ、じゃああたし学校に戻らなきゃ……」 そー……。 「みーきーちゃーん―――!!」 ゆらり……。 「ご、ゴメンなさいブッキー!許して!!」 「ブッキーのボタンを外していいのはアタシだけ。アタシだけなの…。 だから、アタシ…アタシ、つい…ごめん!ブッキー、ごめん…なさい…」 ぽろぽろと美希の瞳から流れ落ちる涙。 祈里はそれ以上何も言えなくなって、泣き続ける美希を、ただ黙ってそっと背中から抱きしめた。 「私こそ、美希ちゃんの気持ちも考えないで…ごめんなさい…」 「…ううんいいの。悪いのはみんなアタシなんだから」 美希は振り返り、祈里と見つめ合う。 潤んだ美希の瞳があんまり蒼く深く輝いていて、その光に吸い込まれるように、祈里は美希に顔を寄せ、口づけた。 そしてそのまま、美希の手をボタンへと誘うブッキー。 「ね、美希ちゃん……ボタン、外して……」 「え?ぶ、ブッキー……?」 「今の時間なら……この礼拝堂……誰も来ないから……」 「いいの……?」 コクリ、と恥かしそうに頷くブッキー。 美希はそんな彼女を愛しげに抱き寄せ、制服の下に手を潜り込ませていく。 「ん……」 「ブッキー……もうこんなに……」 「え、えへへ……か、神様の前なのにね……い、いけないコ……かな……」 「いいえ……むしろ見てもらいましょう。神様に。あたし達の契りを……」 いちゃいちゃ。 「あ、あの~……せ、先輩のあたしはほったらかしなの……?」
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燃えたぎる炎の力 キュアサマー アオイが夏の妖精として覚醒したベラノと共鳴して変身する真の夏の戦士。 赤茶色のポニーテールが腰まで伸び、複眼をイメージしたサングラスとトンボの羽根が特徴。イヤリングは太陽の形。 武器は『サンフラワンド』から変化した『セリノハンマー』で、バリアの他に飛行能力も得た。 属性は炎。武器や手足に炎を纏わせるなどもできる。 ハンマーで殴られたら光になる(浄化的な意味で) 技・必殺技 プリキュア・サマーバレット 恐らく第三十一話で初使用。通常技の一つで、技名はおまけ。 炎の力で大きな炎弾を作り出して放つ。 慣れてくると、大きさや数も自由自在に。 プリキュア・フレアエスティーヴァ 恐らく第三十一話で初使用。キュアサマーを代表する必殺技。 セリノハンマーを地面に打ち付け、巨大な火柱を噴出させてイランナーを浄化する。 派生として、イランナーに直接打ち付けて炎上させるという技もある。 プリキュア・フォーシーズンアタック 恐らく第三十五話で初使用。四人揃ったピリオドプリキュアの合体必殺技。 四季の力を一つにして光線を放ち、イランナーを浄化する。 その力はカンパーニの幹部すら浄化できてしまうほどで、体力を大幅に消費する。
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幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(第1話 ラビリンスからの招待状) 「ワガナハ インフィニティ……ムゲンノ メモリーナリ……」 深夜のラブの部屋で、ボーっと淡い光を放つシフォンの体が浮かび上がる。 つぶらな瞳は理性の光を失い、愛らしい声は無機質な音声と化し、まるで命の無い機械人形のようだ。 「ん……なぁに? シフォン……。いけない! タルト、シフォンが!」 「わっ! 任しときぃ。クローバーボックスよ、頼むでぇ」 タルトがオルゴールを奏でると、光は消え、シフォンはすぅっと目を閉じた。 聖なるメロディが本来の人格を目覚めさせたのか、あるいはインフィニティを眠りに導いたのか。 自我を取り戻した……と言っても眠っていたらしいシフォンが、そのまま落下しかけるところを、ラブが危うく受け止めた。 「ラブっ! 今っ!」 異変に気付いたせつなが、ドアをノックもせずに飛び込んでくる。 ラブはシィーっと口元に指を当てた。 「もう大丈夫。元に戻って、そのまま寝付いたから」 「そう。よかった……」 小声で説明するラブに、せつながホッと胸をなでおろす。 「せやけど、いつまでこんなことが続くんやろうなぁ……」 インフィニティの覚醒は、それを望まないラブたちやシフォンにとっては悪夢でしかない。 いや、夢ならばいつかは覚めるだろう。しかしシフォンの場合は、クローバーボックスがなければ目覚めることはないのだ。 「どうして、こんなことに……」 ラブがシフォンを抱く腕に、少しだけ力を込める。 こんなにも良い子なのに、何の罪もない無垢な魂なのに、どうして幸せに暮らすことが許されないのか―― (ごめんなさい。ラブ、それにシフォン。みんな私がやったことよ……) せつなは辛そうな表情で唇を噛み、喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。 本当は、ラブに詫びたかった。シフォンに償いたかった。全ての人に許しを請いたかった。 でも、そんなことをしても誰も救われない。謝ったところで自分の心が軽くなるだけで、その分みんなを困らせるだけだ。 「シフォンがインフィニティになったのは、不幸のゲージが満タンになったからよ。シフォンを救うにはそれを壊すしかないけれど……」 「占い館には、もう入れないんだよね?」 「せやなあ。それに、あそこにはノーザが居る。あいつは今までの敵とは違うで。何をしてくるかわからへん。迂闊に飛び込むんは危険過ぎるわ」 そうとも限らないけど――と言いかけて、せつなは口をつぐんだ。 ノーザは必ずしも占い館に滞在しているわけではない。本国で活動していた頃から、別の世界・空間にいくつもの研究室を構えていたのだ。今だって、どこから出入りしているかわからない。 しかし、それを話したところで、占い館には居ないことを保障してくれるものでもなかった。 「問題は他にもあるの。不幸のエネルギーは負の感情の集合体よ。怨念のようなもので、迂闊に解き放てば世界中に災いをもたらすわ」 「でも、壊さなきゃシフォンもこのままだし、ソレワターセも無限に生み出されるんでしょ?」 「ええ。それに、使った分の不幸のエネルギーを補充するために、今後も街が襲われることになるわ」 「壊しても、壊さんでも、どっちにしても問題山積みかいな。しかも壊す方法も見つからへん。八方塞がりやなぁ……」 明日、改めて話し合おうと約束して、せつなは自分の部屋に戻った。 もっとも、この相談は美希や祈里も交えて既に何度も行っている。そして毎回、何の解決策も出せないままだった。 暗い気持ちでせつなが布団に潜り込もうとした時、部屋の隅にある姿見がボンヤリと輝きを放った。 真っ平らなはずの鏡面が、まるで水面のように波紋を広げる。そして、その中心から筒状に巻かれた紙が飛び出してきた。 それは、クラインからの手紙だった。 【明朝、占い館の跡地にて、ノーザ殿がお待ちしております。イースとして、ラビリンスにお戻りなさい】 「今さら――何のつもりでこんなことを。馬鹿馬鹿しい……」 せつなは侮蔑の表情を浮かべ、その手紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。 その行為を見咎めるように、鏡が新たな光を放つ。鏡面がグニャリと歪み、居るはずのない者の姿を映し出す。 薄緑色のロングヘアーに、木の枝と双葉をモチーフとした髪飾り。美しくはあるが、同時に残忍さを感じさせる大柄の女性。 それは、せつなのよく知る人物だった。いや――忘れたくても忘れられない、脳裏に刻み込まれた恐怖の象徴。ラビリンスの最高幹部、その人だ。 「あなたは――ノーザっ!」 「フフフ、お前と呼ばないだけ誉めてあげる。でも、次からはノーザ“さん”と呼びなさい」 「どういうこと? こんな下らない誘いに、私が乗るとでも思ったの!」 「あ~ら残念だわぁ。でも、断ったりしていいのかしら。次に送り込まれるのも、無害な手紙とは限らないのよ?」 「人質を取って……脅しているつもり?」 「人聞きが悪いわねぇ。私はチャンスを与えてあげてるの。不幸のゲージを、壊したいんでしょう?」 「それは……」 どうやら、先ほどのラブたちとの会話まで聞かれていたようだった。ならば、この家の全てはラビリンスの監視下にあると考えて間違いない。 もし断れば、ラブやタルトやシフォンはもちろん、あゆみや圭太郎にまで災いが降りかかると言いたいのだろう。 「手紙の指示に従いなさい、イース。幹部として返り咲くも良し、捕虜として投降するも良し。ただし、仲間を連れて来るようなら――」 「どうなるというの?」 「あなたの大切な家が無くなるだけよ。跡形もなく、キレイサッパリとね。ウフフフ……」 「わかったわ。お願い、この家の人たちには手を出さないで」 肩を落とし、うつむいて震えるせつなを見つめて、ノーザは満足げに笑う。そう、ここまで言ってやれば、彼女にはもう選択肢は無い。 やがて姿見はただの鏡に戻り、部屋は再び暗闇に包まれる。 だが、せつなは絶望などしていなかった。 顔を伏せたのは、闘志に燃える瞳を隠したかったから。震えたのは、怒りが身を焦がしたから。両手は固く拳を握り、来たる戦いを待ち構える。 避けられない罠ならば、力尽くで踏みにじるまで! 既にせつなに迷いは無く、ノーザの抹殺と不幸のゲージの破壊に向け、全速力で思考を働かせていたのだった。 『幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(ラビリンスからの招待状)――』 落ち葉の敷き詰められた早朝の森を、せつなはゆっくりと歩いていく。 朝日を浴びて金色に輝く紅葉。肌に吹き付ける冷たい風。美しいけれど、何かの終わりを感じさせる風景。 もうじき、占い館の跡地に到着する。そこには、幾重もの罠が仕掛けられているに違いない。 覚悟は出来ている。恐怖は無いが、緊張は極限まで高まっていた。 まだ薄暗い時刻に家を出て、やっと陽が昇ったばかり。昨夜はインフィニティの騒動でラブもタルトも寝不足のはずだ。自分の姿が無いことに気付くまでには、大分時間があるだろう。 巻き込む恐れがないと安心するべきなのか、助けが期待できないことを不安に思うべきなのか―― ドームのコンサートの一件以来、せつなは自分が犠牲になればいいという考えを捨てた。みんなと一緒に、幸せになりたいと願って戦ってきた。 そんなせつなの心を再び蝕んだのが、満タンになった不幸のゲージの存在だった。 シフォンから平穏な生活を奪い、外出の自由すら失われた。毎日のように強力なソレワターセが襲来し、全員がクタクタに疲れ果てた。 インフィニティの覚醒の間隔は日増しに狭まり、とうとう自分たちの居場所まで突き止められた。 守りに徹するのも、もう限界に近いことを感じる。 目的地まで、あと数メートル。そこで強烈な悪寒を感じて、せつなは足を止める。 背景から突然抜け出したかのように、ノーザが静かに佇んでいた。 「早かったわね。どちらを選ぶか、決断はできたのかしら?」 「ええ、もう迷いは無いわ」 「いい返事ねぇ。あなたの答えがとても楽しみだわ」 ノーザは右手を翳して時空の扉を開き、占い館を出現させる。案内など不要とばかりに、せつなは館へと足を進めた。 二人の姿が建物内部に消えた後、再び館はその姿を隠したのだった。 せつなは他の設備には目もくれず、真っ直ぐに不幸のゲージの間を目指す。ノーザもまた、それを止めようとはしなかった。 不幸のゲージは円柱状の強化ガラスで作られており、無数の計器が備えられている。占い館の地下から天井近くまで、支柱のようにそびえ立つのだ。 各階層でそれぞれの部屋と繋がっていて、どこからでも監視が出来るようになっている。逆に言えば、そのくらい注意しておかねばならないほどに、危険なものでもあった。 濁った黄色い液体が、巨大な容器を満たしている。液状化しているものの、その正体は強大な負のエネルギー。怒りや悲しみが凝縮された、怨念のようなもの。 この内の一滴だけで、人間一人を狂わせてしまうほどの力を持っている。 それが……これだけの量だ。一体、これまでラビリンスは、どれほどの人々の幸せを奪ってきたのだろうか。どれだけの嘆きと悲しみを与えてきたのだろうか。 「綺麗でしょう? あなたが精一杯頑張って、人々の不幸を貯めたゲージよ。嬉しいわ。私、あなたにお礼が言いたくて仕方なかったの」 「そうね。この嘆き悲しみを集めたのは、この私。メビウス様がしもべ――イース」 「理解できたようね。寝返ったところで、犯した罪は決して消えない。あなたはこの世界の人間の敵よ。その上、メビウス様に逆らえば、ラビリンスにとっても敵。全てを敵にまわして、あなたは何のために戦うのかしら?」 「ええ。もっと早く、ここへ帰ってくるべきだった……」 「大丈夫、今からでも遅くはないわ」 「……もっと早く、わたしが集めた不幸のゲージを! 全ての元凶を! 破壊しにくるべきだったのよ!!」 怒りに全身を震わせて、せつなが叫ぶ。 「お馬鹿さんねぇ。満タンになったゲージを壊せるのかしら? そんなことをすれば、あなただけじゃない。この世界の全てに不幸が襲いかかるのよ?」 「今なら、館は異空間にあるわ。ここから出さなければいい。それに、ノーザ! あなたも道連れにできるっ!」 「交渉決裂ね。いいわ……その方が楽しめるもの」 ノーザが数本の蔦を伸ばしてせつなを襲う。しかし、標的が不幸のゲージを背にしているため、その攻撃には切れがなかった。 蔦がせつなの身体に迫った瞬間、残像を残してその姿が消える。そして一閃! 赤い光が、ノーザとせつなを繋ぐように駆け抜けた。 「なっ! 疾いッ!!」 「はあぁぁ――っ!!」 せつなは、いや、一瞬の間にキュアパッションへと変身した彼女は、ノーザの背後に回りこむ。 辛うじて間に合ったガード。渾身のパンチを両手で受けて、ノーザは大きく後退する。今度は、ノーザがゲージを背にする番だった。 「吹き荒れよ! 幸せの嵐! プリキュア・ハピネス・ハリケーン!!」 「おのれっ!!」 ノーザは右手を横に伸ばし、床に這う植物を操った。それはノーザごとゲージを覆い隠し、ハピネスハリケーンのエネルギーを弾き返す。 そう! 防いだだけではなくて、跳ね返したのだ。 「フハハハハ……残念だったわね、キュアパッション。これはソレワターセなの。生まれたての苗じゃなくて、こぼれ出た不幸のエネルギーで育った大株よ。自分の技を喰らって倒れるがいい!」 ハピネスハリケーンの真っ赤なハートが暗黒に染まる。不幸の嵐となって、キュアパッションに牙を剥く。 彼女の技は、プリキュア唯一の空間範囲攻撃でもある。逃げ場を失ったパッションは、無数の黒色のハートの攻撃に晒されて―― 技の力が消え去った後には、何も残らなかった。 「これは――どういうこと!?」 「こういうことよっ!」 「しまった! ぐがっ……」 ノーザの頭上に赤い光が発生する。その直後に首が、恐ろしい力で締め上げられる。 ハピネスハリケーンが通じないのはわかっていた。パッションは反撃を利用して姿を隠し、瞬間移動でノーザの隙を突いたのだ。 「おのれ……離せ!」 「私だって、ラビリンスだった。全ての人を恨むつもりなんてない。だけど、あなたは危険すぎる。ここで倒させてもらうわ!」 「倒す? お前ごときが、このノーザを倒すですって?」 「確かに、まともにやりあえば勝ち目なんてない。だけど、ここならっ!」 全ては計画通り。ここまでは想定の範囲内であり、次が用意した最後のカードでもあった。 パッションは、ノーザを拘束する力を更に強める。 「まさかっ! お前はっ!」 「他人の不幸は蜜の味……なのよね? たっぷり味わうがいいわっ!」 パッションとノーザの二人の身体が、赤い光に包まれる。アカルンの力によって粒子と化して跳ぶ。 不幸のゲージのガラスの壁を越え、その中身を目指して―― ウエスターとサウラーが館内部での戦闘に気付き、不幸のゲージの間に駆けつけたのは、それからしばらく経ってからのことだった。 不幸のゲージは無事だった。ノーザは服装を乱したまま、疲れた様子で肩で息をしている。 そんなノーザの姿を見るのは、二人にとってももちろん初めてのこと。 そして、その足元で倒れているのは―― 「イース! お前、イースじゃないか!? どうしてここに!」 「説明していただけますか? ノーザさん」 ウエスターがパッションを助け起こす。どうやら気を失っているようだった。 「仲間に戻りたいと言うから中に入れてあげたのだけど、裏切られた。それだけのことよ。再教育するから、私の部屋に運んでちょうだい」 「ですが、管理データーの書き換えは本国でしかできないはずです。それなら一度帰還して――」 「おお、そうだとも! また三人で……いや、四人で一緒にやろうじゃないか」 「生憎だけど、私には私のやり方があるの。もちろん、メビウス様への忠誠は取り戻してもらうけど……その前にやることがあるでしょ?」 「やること、とは?」 「決まってるじゃない。――制裁よっ!」 ノーザは凶悪な笑みを浮かべて、舌なめずりをする。多少手こずりはしたものの、この展開は狙い通りだった。 万が一にも、イースが自らの意志でラビリンスに戻る、などと考えていたわけではない。 「他人の不幸は蜜の味。イース……あなたとプリキュアどもの不幸は、一体どれほど美味しいのかしらね」 ノーザは一足先に部屋に戻り、イースの受け入れと、ある計画の準備を進める。 仲間を一人失うことで、プリキュアはソレワターセへの対抗手段を失う。だが、それだけでは全く足りない。 計測できないほどの力を持つインフィニティを確実に捕えて、プリキュアを完膚なきまでに叩きのめす。もう二度と、メビウス様に歯向かえないように。 その上で、自分の嗜好を満たせるならば、それこそ最高ではないかと―― 「うっ、うう……、うああああ……。うっ、ああっ、ぎっ、うっ、うっ、……っああああ!」 占い館の全館に、イースの声と思われる絶叫が響き渡る。悲鳴と呼ぶには、あまりにも痛々しい喚き声。聞いているだけで、全身が凍りつくような苦悶の声。 それが、かれこれ半日も続いていた。喉が潰れたのだろうか、最初は大きかった声が、ずいぶんと掠れて小さくなっている。 しかし、苦痛が治まったわけではないことが、変わらず聞こえる荒い呼吸から感じ取れた。 ウエスターとサウラーは、申し合わせたように会議室に集まっていた。 何のことはない。ただ、一人で聞いているのは辛くて、じっとしていられなくなったのだ。 「ええぃ! ノーザのヤツは何を考えているのだ。イースは仲間だろうがっ! 何のためにここまで痛めつける必要がある!」 「イースは自分の意志で、メビウス様の管理を退けたんだ。再び管理したところで、また同じことになるかもしれない。だから心を折るつもりなんだろう」 「何を冷静に解説してる! お前はそれで平気なのか?」 「平気じゃないなら、どうすると言うんだい? わざわざイースの声を僕たちに聞かせているのは、見せしめの意味もあるはずだよ」 ウエスターはサウラーの胸倉を掴んでいた腕を外し、背を向けて部屋を出て行く。 「どこに行くつもりだい?」 「決まっているだろう? ノーザに抗議してくる!」 どうやって……と言いかけて、サウラーは結局黙り込み、そのままウエスターを見送った。 ノーザの部屋は空間的に切り離されていて、自由に行き来できるのは本人だけだ。こちらからは用があっても連絡すら取れない。 (だが、それを言ったところでどうなる? 無駄な時間を使っているのは、何もウエスターだけじゃない……) 部屋には変わらず、イースの叫び声が響いている。 サウラーは苦い顔でコーヒーを啜り、再び手に持った本に目を落とした。しかしいくら文字を追っても、内容は全く頭に入ってこなかった。 ノーザの自室兼、研究室。さほど大きくない部屋の中には、ノーザ自らの手で改良した幾多の植物が生息している。 いや、この室内そのものが巨大な植物の一部であり、壁も床も天井も、生きた樹木で作られていた。 占い館の一室ではなく、本国に在るわけでもない。空間を自在に操り、どこでも瞬時に移動できるノーザだからこそ使えるスペースであった。 「……っ……ぁ……」 その部屋の片隅から、小さな声が発せられる。壁から伸びた茨の蔦に、四肢を拘束された少女。 さっきまで気を失っていた子が、短い眠りから目を覚ましたのだ。 ミディアムレイヤーの黒髪に、紺のベストとスカート、赤いカットソー。 それは、この世界の人間の姿であり、今となっては少女の本来の姿でもある。名を―― 「さあ、休憩はお終いよ。続きを始めましょう。あなたの名前と所属を話してごらんなさい」 「私の名前は……東せつな。元、ラビリンスのイースで、今は四人目のプリキュア、キュアパッ……ああああ――っ!」 名乗りを終える前に、少女が苦痛の余り絶叫する。可憐な容姿を歪ませて悶える姿を、ノーザはうっとりと眺めた。 少女の頬に手を当てて、そのまま顎まで指を滑らせる。うつむいた面を無理やり持ち上げて、怒りの篭った反抗的な目を楽しそうに見つめる。 「強情な子は好きよ、イース。あなたはどこまで私を楽しませてくれるのかしら?」 「苦痛……なんかで、お、お前の言いなりには、ならないわ……」 「それは楽しみねぇ。その痛みは、ナキサケーベ召還に伴う痛みと同じよ。懐かしいでしょう? ただし、肉体は傷付かず、命が削られることも無いけれどねぇ」 「ずいぶんと……優しいのね……」 「フフフ……当然よ。そうでなくては、長くは楽しめないでしょう?」 ノーザはニヤリと妖艶な笑みを浮かべると、少女から手を離した。 「呪いなさい、イース。自分をこんな目に合わせた、己の愚かさを。あなたが苦しんでいる間にも、街は笑顔で溢れているわ。理不尽な、この世界そのものを憎みなさい。あなたを救うのは、メビウス様への忠誠だけ」 「……私は……ぎゃ、二度と、うっ……幸せを、う、奪ったり……しない。ぎっ……ぐっ、あああ――っ!」 少女を拘束する茨の蔦が、どんどん伸びて全身を覆っていく。苦痛は更に激しさを増し、再び少女は気を失った。 「誰が寝ていいと言ったのかしら?」 ノーザは嗜虐的な笑みを浮かべ、手元の計器に手を伸ばす。少女の意識を強制的に覚醒させようとする。 が、それを邪魔するかのように、部屋に警告音が鳴り響いた。占い館の内部モニターを殴りつけて、破壊しようとしている男がいるのだ。 ノーザは舌打ちすると、仕方なく空間の扉を開き、その男の前に立った。 「ウエスター君。これはどういうつもりかしら?」 「それはこちらのセリフだ、ノーザッ! お前こそ、何のために仲間を傷付ける!?」 ウエスターは怒りの形相でノーザに詰め寄る。襟元を両手で掴んで、吊るし上げようとして―― 「そんな――馬鹿なッ! このオレが力で……!」 ノーザは子供の手を捻るかのように、易々とウエスターの拘束を解く。逆に関節をねじ曲げて、力づくで床に這わせた。 「私のことは、ノーザさんと呼ぶように言ったはずよね? ウエスター君。あなたにも再教育が必要かしら?」 「教えて……ください、ノーザさん。こんなことに、何の意味があるんですか……」 「いい子ね、最初から素直にそう言えばいいのよ。イースはね、偉大なるメビウス様に恥をかかせたの。再教育の前に、それを死ぬほど後悔させるのが筋でしょう?」 「だが心を壊してしまえば、それはもう人形と変わらん。イースが幹部である理由もなくなってしまうのだぞ?」 「ええ、そうならないように加減が必要ね。あなたに免じて、イースを少し休ませることにするわ」 ノーザはウエスターの手を離し、部屋とは別の空間を開く。 「どこへ行くんだ? ノーザ……さん」 「本国に用事を思い出したの。少しの間だけ、イースが逃げないように見張っておきなさい。これは命令よ!」 「承知――した」 ノーザが姿を消したのを確認すると、ウエスターはズカズカと彼女の私室に上がり込んだ。 イースは壁の中ほどに、両手を広げて十字の姿勢で吊り下げられていた。 気を失っているにも関わらず、ピクピクと時折痙攣する。恐らくは、意識の無い状態でも苦痛が続いているのだろう。 艶やかで美しい黒髪は、ベッタリとした汗で顔に無残に張り付いている。茨の棘が肌に突き刺さり、蔦がギュウギュウと締め付けている。 「待っていろ、すぐにここから出してやる」 蔦に触れたとたんに、おぞましいほどの激痛が、電撃のようにウエスターの腕にも伝わった。 しかし、ウエスターは一瞬表情を歪めただけで、黙々と蔦を引きちぎっていく。全てを外し終えると、少女を抱えて部屋から飛び出した。 小さな腰を右腕で支え、肩にもたれさせるように担いで、疾走と呼べるほどの速度で館の出口を目指す。ノーザが、いつ戻ってくるかわからなかったからだ。 そんな様子を、二人の人物が見つめていた。 その内の一人はサウラー。見なかった事にするかのように会議室のモニターを切り、一層苦い顔でコーヒーを飲み干すと、次元の壁を操作して館を森に出現させた。 もう一人は――本国に戻ったはずのノーザだった。 彼女は満足げにクツクツと笑うと、楽しそうな、それでいて凄みのある表情で、ウエスターと、まだ意識の戻らない少女を見送った。 幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(せつなを取り戻せ)へ
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プリキュアシリーズ 870 :水先案名無い人:2012/11/23(金) 17 30 32.37 ID 3ANgZ+Sa0 全プリキュア(及び共闘者)入場!! 太陽の戦士が降臨した!! 更なる研鑚を積み人間凶器がプリキュアになった!!! 武神!! キュアサンシャインだァ――――!!! 総合格闘技はすでに我々が完成している!! プリキュア漢女塾塾長 キュアピーチだァ――――!!! 思いが届き次第しだい変身してやる!! 劇場版特別代表 キュアエコーだァッ!!! 「最年少」の括りなら私の年齢がものを言う!! 史上初 小学生プリキュア キュアミューズ!!! 真の支援を知らしめたい!! クイーンの化身 シャイニールミナスだァ!!! 学校の成績はそれなりだがチームを引っ張るカリスマ性なら私の物だ!! サンクルミエールの大いなる希望 キュアドリームだ!!! チャンバラ対策は完璧だ!! 知性の青き泉 キュアアクア!!!! 全プリキュア技のベスト・ディフェンスは私の中にある!! 守備に長けたプリキュアが来たッ キュアミント!!! タイマンなら絶対に敗けん!! 「始まりの戦士」の戦い見せたる 月の戦士 キュアムーンライトだ!!! 学業とプリキュアとアイドル(なんでもこなす)ならこいつが凄い!! 日仏のクオーター・ファイター キュアレモネードだ!!! 男勝りな性格の 紅い炎が上陸だ!! 実家は花屋 キュアルージュ!!! 客の笑顔が見たいからバウンサー(パン屋手伝い)になったのだ!! 運命だって変えてやる!桐生満!!! めい土の土産に心情を吐露とはよくやったもの!! 子供の目線に立った応対で今 みのりちゃんに懐かれる!! 天空の風 桐生薫先生だ―――!!! クリスマスの奇跡こそが伝説の代名詞だ!! まさかこの女(ひと)がきてくれるとはッッ キュアフラワー!!! 闘いたいから仲間になったッ キャリア元悪役!!!! ラビリンスからの転生(熟れたて)ファイター キュアパッションだ!!! 私はダンス最強なのではない、蹴り技で「完璧」なのだ!! 御存知mktn キュアベリー!!! 「ハッピー」の本分はいまや絵本の中にある!! 私を「ハッピー」にしてくれる本はどこにある!! キュアハッピーだ!!! ちっちゃああああああい!説明不要!! 歴代最低身長!!! 顔芸担当!!! キュアマリンだ!!! 爆速移動は実戦で使えてナンボのモン!!! 超実戦瞬間移動!! スマイルプリキュアからキュアピースの登場だ!!! 「道」は私のもの 邪魔する方は思いきりぶちのめして思いきり斬るだけ!! 氷の女王 キュアビューティ 音符を集めに加音町へきたッ!! 元変身全メイジャーランドチャンプ キュアビート!!! 動物好きに更なる磨きをかけ ”浄化と祈りの戦士”キュアパインが帰ってきたァ!!! 今の自分に死角はないッッ!! シュート・ファイター キュアマーチ!!! 最弱プリキュアのおしり技が今ベールを脱ぐ!! 希望ヶ花市から キュアブロッサムだ!!! お客さんの前やったらウチはいつでもコテふるう!! 燃える熱血 日野あかね 本名で登場だ!!! お世話係の仕事はどーしたッ ココとナッツへの尊敬の炎 未だ消えずッ!! くるみもミルクも思いのまま!! ミルキィローズだ!!! 特に理由はないッ 精霊の力が強いのは当たりまえ!! ゴーヤーンにはないしょだ!!! 日の下開山! キュアイーグレットがきてくれた―――!!! しなやかな身体が繰り出す実戦柔術!! 虹の園の蘊蓄女王 キュアホワイトだ!!! 空戦だったらこの人を外せない!! 超A級舞空術 キュアブルームだ!!! 超一流戦士の超一流のカップケーキだ!! 直に食べてオドロキやがれッ 加音町のスイーツ職人!! キュアリズム!!! 奔放だが楽しい音楽はこの娘が完成させた!! 加音町の切り札!! キュアメロディだ!!! 全てはここから始まったッ どこへ行っていたンだッ チャンピオンッッ 俺達は君を待っていたッッッ キュアブラックの登場だ――――――――ッ 加えて不測の事態に備え、ミラクルライト要員として妖精たちが多数スタンバイしているようですが、 数が多すぎるため略させていただきますッッッ!! 関連レス 874 :水先案名無い人:2012/11/23(金) 18 00 07.36 ID rIfoIvMyP 乙 プリキュアもあと5年もしたら今じゃ考えられない内容になってるかもな んで一旦シリーズ中断して10年後に一新して再会したりして 875 :水先案名無い人:2012/11/24(土) 14 30 47.19 ID KJCD44fy0 874 俺はSSまでしか知らないが 当時から見たら今のは考えられないみたいだからな コメント 名前
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ふたりのプリンセス 「はぁっ!」 ゴーカイシルバーがキュアリズムに飛び掛った。ゴーカイスピアをきわどくかわすキュアリズム。 「ほらほら。 そんなドンくさい逃げ方で大丈夫かなあ?」 「『ドンくさい』ですって?!」 その不用意な言葉がキュアリズムに火をつけてしまった。 「刻みましょう、奇跡のリズム! おいで、ファリー!」 ファンタスティックベルティエで次の攻撃を払う。 「そんなかわいいお道具――あっ!」 キュアリズムはファンタスティックベルティエの輪の中にゴーカイスピアの先を絡め取った。 「うわ、放して。放してくださいよ」 「あなたが放しなさい!」 そのまま体ごとファンタスティックベルティエを引く。振り回されたゴーカイシルバーがバランスを崩すと、キュアリズムはゴーカイスピアを放り投げてしまった。 「あぁ、僕のゴーカイスピア!」 「ちょこまかと!」 「大人しくなさい」 ゴーカイイエローとゴーカイピンクの攻撃もキュアミューズに対しては精彩を欠いた。海賊らしい大きなアクションに対して、小柄なキュアミューズは素早くかわし、その腕の下を潜り抜けた。 「逃げるな!」 「そう。 じゃ、これはどう。 プリキュア シャイニング・サークル!」 黄色の光が飛び散ったかと思うと、キュアミューズの姿が五芒星の頂点に並んで、ゴーカイイエローとゴーカイピンクを取り囲んだ。 「え、五人」 「卑怯よ!」 〈そっちは大人なんでしょ。これくらいのハンディがあって当然よ〉 二人はすでにキュアミューズの技の中だった。その声も遠くに聞こえる。 「とにかく一人ずつ倒せばいいんでしょ!」 その言葉どおり、ゴーカイイエローとゴーカイピンクは、一人ずつキュアミューズを倒していく。いや、倒しているのではなく、それはすべて幻影で、単に掻き消えてしまうだけだった。そしてその影はすぐに復活するのだった。 「何やってるんだか」 キュアミューズは、存在しない敵に剣を振り回している二人を、木の上から見下ろしていた。 「身が軽いのはメリットとは限らないぞ」 「褒めてくれてありがとう」 ゴーカイジャー随一の剣の使い手であるゴーカイブルーの剣は空振りを繰り返した。あるときは低く地を走り、あるときは木々の間を渡るキュアビートにその剣がかすりもしない。だが、ゴーカイブルーの目はその動きを把握し始めていた。 「見切ったぞ。 そこだ!」 するどい突き。しかしそこにキュアビートはいなかった。 「なに!」 目の高さに青いブーツ。 キュアビートはゴーカイサーベルの上に立っていた。 「どう、重い?」 「く…」 「あなたが、女性に向かって『重い』なんて言わない紳士でよかった」 ゴーカイブルーはわずかにその切っ先をずらしてみた。キュアビートの体は、その動きに逆らわずについてくる。信じられないバランス感覚だった。 ゆっくりと左手を腰に。ゴーカイガンを使うしかない。 「させないわ」 キュアビートが指を鳴らすと、その腕の中にラブギターロッドが現れた。 「ビートソニック!」 「うわぁっ!」 「待って、ネコちゃん!」 「待てって言われて待つネコはいないニャ!」 走り回るハミィを追いかけるゴーカイグリーン。枝に躓いては転び、ヤブの中にもぐりこんでは泥だらけになる。緑色のスーツに枯葉がまとわりつき、遠目には誰だかわからない有様であった。 「ガキにはこれだ」 《ファーーーイブマン!》 「兄弟戦士、ブラザー アタック!」 「プリキュア スイート・ハーモニー・キック!」 ファイブマンとなったゴーカイジャーが個々に攻撃をしかけるより前、プリキュアのキックが決まった。レッドが V ソードを振るう隙もなかった。 「ガキだガキだって言うから怒ったんじゃないの?」 「事実だろうが! スピードならこれだ」 《ハーーーリケンジャー!》 「プリキュア ミラクルハート・アルペジオ!」 「プリキュア ファンタスティック・ピアチェーレ!」 その炎の前にはニンジャとても太刀打ちできない。 「炎ならこっちにもある!」 《ギーーーンガマン》 「炎のたてがみ!」 「ビートバリア!」 キュアビートのラブギターロッドが唸り、ギンガレッドの攻撃を防いだ。 「…。 やるじゃねえか」 「音楽をバカにしたこと、謝って」 「ふん、音楽なんかがなんの役に立つ」 「また言った!」 キュアメロディのキックがゴーカイレッドの右手を襲った。 「おぉ、おっかねえ」 まだ軽口を言う余裕はある。しかし、ゴーカイレッドはキュアメロディに押されていた。ゴーカイレッドの攻撃は一つも当たっていないが、キュアメロディの攻撃は何度か掠めている。それが、子供相手に本気を出していないからだ、とは言いがたいことは認めざるを得ないようだった。 (その力はどっから出てくるんだ) 案外、ナビィが言っていた「お宝」とはこいつらのことかもしれない、とゴーカイレッドは思った。 (『大いなる力』、持ってるかもしれねぇな。 だったら) 「ゴーカイスラッシュ!」 「リズム!」 「はいっ!」 「プリキュア ミュージック・ロンド、スーパー・カルテット!」 二つの赤い光がゴーカイレッドとキュアメロディの間で破裂した。枯葉が舞い上がり、土が吹き飛ばされる。 「きゃぁっ!」 突然の爆発に、木の上に立っていたキュアミューズがバランスを崩した。辛うじて着地はできたが、体勢を立て直したと思うと、その目の前にゴーカイピンクのゴーカイサーベルがあった。 「油断なさいましたね」 「姫様!」 「動かないで」 助けに行こうとしたキュアビートを、ゴーカイイエローが牽制する。 「アイム?」 ゴーカイピンクは気丈に睨み返すキュアミューズを見つめていた。 「『姫様』とはどういうことですか」 「…」 「では、そのティアラは略王冠なのですね」 「アイム、そんなこと」 「教えてください。 あなたはどこかの国の王女なのですか?」 「そうよ」 キュアミューズはゆっくりと立ち上がった。 「アコ様は、メイジャーランドの王女、第一王位継承者でいらっしゃいます」 ラブギターロッドを構えるキュアビート。ゴーカイイエローとゴーカイブルーの銃口が向けられてもひるみもしない 「メイジャーランド。 聞いた事のない国です」 ゴーカイピンクはそう言いながら、変身を解除した。 「アイム!」 「わたくしはアイム・ド・ファミーユ。 ファミーユ星の王女でした」 「聞いたことがないわ」 「国はザンギャックに滅ぼされてしまいましたから」 「滅ぼされた…?」 「はい」 かすかな微笑に悲しみが隠れているのをキュアミューズは読み取った。それは全く知らない種類の悲しみではなかった。 彼女も同じくアコに戻った。そして全てを語る。 「この宇宙の全ての悲しみを糧として育った者がある。 その名は『ノイズ』」 「ノイズ…」 ノイズが、この世界を悲しみのメロディで埋め尽くそうとしていること。それは怪鳥を思わせる姿をしていること。長らく封印されていたが、復活のために音符を集めていること。 それを止めようとしているのが、彼女達プリキュアであること。 そして、アコの父が、ノイズの手先となっていたこと。アコ自身が父と戦い、父を取り戻したこと。 「辛い思いをなさったのですね」 「…。 でも、メイジャーランドは滅びてないわ」 「よかった」 微笑み会う二人の王女。ゴーカイブルーもゴーカイイエローも銃をおろしていた。 「つまり、お前らはザンギャックとは関係ねぇってことか」 同じように変身を解いたマーベラスが言った。まだ不満そうである。 「あたしたちが国を滅ぼしたりするわけないでしょ!」 「じゃ、旗は!」 「それはノイズの手下がやったの!」 「それを早く言え!」 「言おうとしたじゃん!」 マーベラスと響がほとんど顔をくっつけんばかりにして言い合っている。 「じゃあ、僕たちは共通の敵を追ってるってこと?」 ハミィにのしかかられたままのゴーカイグリーンが呟いた。 「で、そのノイズとかいうのはどこにいるんだ」 「知らないよ」 マーベラスは、ガキが、と言いながらモバイレーツを取った。 「おい、鳥。 ちょっと探しもんだ。鳥のことならお前が詳しいだろ」 《僕はノイズなんかじゃないよ!》 「聞いてんじゃねぇよ。 いいからとっとと探せ」 そして全員が変身を解いた。 戦いが終わったことを察知したフェアリートーンたちが姿を現して彼らの周りを飛んだ。静かなメロディが辺りに満ちる。アイムとハカセが、かわいい、とつぶやいた。 《今探してるよ。 じゃ、そのプリキュアが『大いなる力』ってことなのかな》 「その話は後だ。 まずは旗だ」 《ところでマーベラス》 「なんだ」 《ゴーカイガレオンの甲板に変なものが一杯落ちてるんだけど。丸くてカラフルで》 「…。 集めとけ」 《僕がぁ?》 「ノイズを見つけたら教えろ」 と言って通話を切ってしまう。 「おい、プリキュア」 「何よ」 反射的にトゲのある声で答える響。マーベラスの横柄な物言いはどうも彼女たちに合わないようである。 「旗を取り返しに行く。手伝え」 「命令しないで」 「命令じゃねえ、取引だ」 「取引?」 「あの旗は音符がくっついてネガトーンとかいう化け物になってる。そうだな」 「そうよ」 「その音符はくれてやる」 「それ取引って言うの?」 「心配すんな、場所はすぐに――来た来た」 「場所がわかったの?」 「手伝うんなら、教えてやる」 響の手を引く奏。 「何、すねてるのよ。 悪い話じゃないじゃない」 「このオジサン、なんかいけ好かないのよ」 「なんか言ったか」 「誤解もとけたんだし、協力してもいいじゃない」 「まったく、子供なんだから」 アコに言われてはぐうの音も出ない。響も承諾するしかなかった。 ズンズン! ネガトーンが大きくなっちゃったニャ!へ
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あたしとラブ、祈里。 三人の中で、せつなと一緒に過ごした時間が一番長いのは、あたしかもしれない。 そのほとんどは、イースでもある彼女の言いなりになって、ただ責められるばかりだった。 けれど。 一緒の時間を過ごすことで、見えてくる部分があった。 彼女の隙を――――弱みを見つけようとしていたあたしだから、なおさら。 あの日。せつなが、ラブからの電話を切った後の、寂しげな顔。 しばらく、忘れられなかった。 本当ならば、あたしは、そこを攻めるべきだったのかもしれない。初めて見つけた、彼女の弱点だったのだから。 だけどあたしは、そうしなかった。出来なかった。 人間なら誰もが持つ、触れられたくない、純粋な気持ち。せつなの横顔に見たのは、それだったような気がしたから。 きっと、その時からだろう。 あたしがイースを、せつなという人間だと認識し出したのは。 それまでは、ただ、敵としか思っていなかった。この世界を無茶苦茶にしようとしている、敵だとしか。 それだけじゃない。ラブを抱き、祈里を堕とし、あたしの体をいたぶっている。 彼女は、あたし個人にとっても、憎むべき存在だった。 なのに。 あんな顔を、されたら。 Eas of Evanescence VIII 「答えろ!!」 睨み付けてくるイース、だが、泣きそうなイース。 彼女の切羽詰った問いかけに、美希はしかし、声が出ない。 理解したくなかった。イースが、こうまでもラブに拘るその理由に。 「どうしてラブは、あんなにバカみたいに、私を信じることが出来るんだ!!」 それでも、わかってしまう。 イース、いや、せつなにとって、ラブの存在は心をかき乱すものなのだと。 「自分が辛い時でも、私の体のことを気遣って!! 私が戦いに巻き込まれなったことに、あんなに安心した顔を見せて!!」 イースの手は、もう動いてはいなかった。ただ美希の裸の胸に顔を埋め、震えるばかり。その声も、言葉も、彼女に 向けられたものではなくなっている。 あの時のことか。美希は思う。 ダンス大会に向けて、プリキュアとダンスの両方に目いっぱい頑張ったせいで、彼女達は倒れてしまったことがある。 その直前の戦いで、ラブはせつなが戦いの場にいないことに、安堵の溜息を付いていた。そんな彼女とイースを見て、 美希は複雑な想いを抱いたものだったけれど。 「私は、あの子を騙しているのに!! それにも気付かないで、私のことを、好きだなんて――――大好きだなんてっ!!」 顔を上げた彼女が発した、悲痛な叫びが。 美希の心に突き刺さる。 それでも、イースの瞳からは、涙は零れない。 まるで泣くということを、知らないかのように。 再び、胸に顔を埋めてくる彼女の震える体に。 美希は、そっと手を回そうとして。 「教えて......美希......どうして......どうして」 弱々しい声に、動きを止める。 「うまくいった筈なのよ――――ラブの心を篭絡して、私に夢中にさせて――――プリキュアを倒そうとした」 ポツリ、ポツリと溢れる言葉が、部屋の中に響く。外の日は、もう落ちたのだろうか。カーテンから差し込んでいた 光は、徐々に薄れてきて。 静寂と闇に、二人の体は包まれる。 ドクン、ドクンという鼓動の音を、美希は感じる。 それが自分のものか、イースのものか、わからない程に二人の体は密着していて。 「そう、うまくいってる筈だった――――なのに――――なのにっ!!」 ばっと頭を上げる、イース。 顔を近づけて、彼女は答えを乞う。 「どうして私は、こんなに苦しいのっ!?」 安堵したのは何故? 心の中に生れる問いかけ。 それは今日、ついさっきのこと。せつなが、最近はラブと祈里と会っていないと聞いて、彼女は確かに安堵を感じていた。 二人が心乱されることが無くなったから。また仲良くなったから。だから安心した。 せつなが自分という、プリキュアに残された最後の砦を打ち崩そうとやっきになればなるほど、二人から彼女を離 すことが出来るという思惑がうまくいっているから。だから安心した。 それは、しかし、上辺だけだった。本当は。 本当は、せつなが自分以外の子に目を向けていないことに、安堵した。 その独占欲を、綺麗な言葉で隠していただけだった。 素顔の彼女は、ただの女の子だった。 勿論、その全てを知っているわけではない。何故なら、彼女と美希の間には、脅すものと脅される者、犯す者と 犯される者という関係しかなかったから。 それでも。 物憂げな彼女の横顔が、気になった。 何かに追い詰められるように責められれば責められる程、何をそんなに焦っているのかが気になった。 ナキサケーベを操るようになってから、彼女の体に残るようになった傷が、気になった。 気になって、仕方なくなっていた。 どうして? どうしてそんなにも、ラビリンスに尽くすの? 尽くせば尽くす程、貴方の心は傷付いていっているのに。 戦いの最中、イースとしてプリキュアと闘っている時でさえ、貴方は心の中の何かを抑えつけるかのようにしていた。 その様を、闘っている時に、あたしは見ていた。 そして、その視線が向かう先をも。 気付かないようにしていた気持ちに、美希は向き合う。 そして認める。 あたしは。 あたしは、せつなが、好き。 体を支配されているからではない。これは、体からは生れない感情だもの。 この、愛と言う気持ちは。 そして、愛しているからこそ。 「答えが欲しい?」 美希の言葉に、顔を上げるイース。 「教えろ!! 私は、どうしてっ!!」 「それはね、イース、貴方が――――ラブのことを、好きだからよ」 愛しているからこそ、真実を伝える。 愛した人が、自分で気付いていない、想いを。 「私、が――――?」 驚愕に目を見広げる彼女。その目を、じっと美希は見つめる。 長い、長い沈黙。 やがて彼女は肩を震わせ始める。唇から零れるのは、 「フ、フフフ――――」 笑い声。 「フフフフフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」 体をのけぞらせ、イースは笑う。高い声で、笑う。 「私が!? ラブのことをっ!? アハハハハッ、そんな、そんなことなんてっ!!」 笑う彼女。まるで、狂ったように。 いや。 本当に、狂いそうになっていることが、美希にはわかった。 高らかな声と裏腹に、彼女の眼はまるで笑っていない。 むしろ、苦しんでいた。 その笑いは、壊れそうな心が、きしむ音。 「私がラブを好きだなんて、そんなこと、ありえないっ!! 私はラブを利用してるだけ!! 邪魔なプリキュアを排除 しようとしてるだけっ!! だから私が、ラブを好きだなんてありえないっ!!」 ずっと側にいた美希だから、彼女の気持ちがわかる。 二律合反。アンビバレンツな感情に、少女の心は引き裂かれそうになっている。 彼女は、愛することを知らない。 だから自分の感情にも、気付いていない。 そして、だから。 愛されることに、戸惑っている。 その癖。 自分の行いが、ラブを傷付けていることには気付いていて。 愛する人を、傷付けているのは自分。 なのに、その傷付けた自分を、彼女は愛してくれている。 無論、せつなは、自分がイースだということを話していない。 それでも。 彼女は、いたたまれない。 そんな風に愛されている自分に、イースは。 罪の気持ちを、抱いている。 美希は、不意に悟る。 彼女の願いを。 「安心しなさい、せつな」 イースの姿をした彼女に、美希は呼びかける。 苦悩に満ちた顔で、こちらを見てくるイースに、彼女は言った。 せつな。好きよ。 「あたしは」 大好き。愛してる。 「貴方のことを」 とても愛してる。愛してるから。 こう、言うの。 「憎んでるわ」 「そう――――なら、もっとひどい目に合わせて、屈服させてあげるわ」 言ったイースが見せた笑顔は、いつもの暗いものではなく。 とても、とても。 安堵に満ち溢れたものだった。 そうして美希は、愛する人の心を救った。 もしも彼女が愛を囁いたなら、イースの心は壊れてしまっただろうから。 イースに必要なのは、憎まれることだった。 何をしても許され、愛されることは、それに慣れていない彼女からアイデンティティを奪おうとしていた。 無邪気な好意ほど、その前に立つ者が自責を覚える物はない。そしてイースは、それを乗り越えられる程に強くは 無く、非情に徹することも出来なかった。 そう。 だから、彼女の本当の願いは。 憎まれたかったのだ。罰して欲しかったのだ。 嫌悪されて当然のことをしている、自分なのだから。 けれど。 憎まれたいと思っても、せつながイースだと知らないラブや祈里は、彼女を憎んだりはしないだろう。 なにより彼女達は、せつなを大好きだから。 憎むことなんて、しないだろう。 そしてせつなを、無意識に追い詰めてしまうだろう。 心を、壊してしまうだろう。 だから。 愛に気付いた美希は、心に決める。 せつな。 あなたの欲しいものは、あたしがあげる。 ただ一人、自分だけが。 イースを憎む。 憎み続ける。 それであなたの心が、救われるなら。 そうして美希は、イースに体を差し出し、蹂躙される。 憎まれている相手に、彼女は容赦をしない。 常よりも激しく、厳しい責めで美希を追い詰める。 勿論、彼女は一声も発しない。 発したら、自分が感じていることに――――愛する人に抱かれて、喜んでいることがバレてしまうから。 だから。 「――――――――っ!!」 今日も彼女は、唇を噛む。 愛する人とのまぐわいに、美希は、幸せで。 けれど、とても悲しかった。 そして彼女達は、運命に導かれる。 最後の一枚のカードを持ってきたせつなと出会ったのは、トリニティのライブの開かれるスタジアム。 憔悴し、消耗しきった彼女の体に、自然と彼女はこれが最後の戦いになることを予測した。 現れる、ナキサケーベ。 変身する、プリキュア。 キュアピーチに抱きしめられながら、イースは苦痛に絶叫する。 体、だけではない。 敵である自分ですら守ろうとする彼女の優しさに、心はきしんでいた。 そして明かされる真実。 イースは、少女達の前で変身して見せる。彼女達の親友、東せつなへと。 その時、キュアベリーは気付いた。せつなの悲愴な決意に。 せめて最後は、キュアピーチ――――ラブの手にかかって。 だからこそ、美希はラブをけしかけた。愛する人の最後の望みを、かなえてあげたい。 そう思ったから。 そう。 蒼乃美希は、東せつなを愛していた。 自分が彼女に求められていなくても、構わない。 彼女が親友を愛していても、構わない。 愛しているから。 だから心を鬼にする。 自分の本当の願いを、押し殺す為に、彼女は。 心を、鬼に。 ふと、目が覚める。 お昼ごはんを食べた後に、少し、うたた寝をしてしまったらしい。時間にしては、五分か十分程度だったけれど。 鏡の前で、寝癖が付いていないかをチェック――――よし、大丈夫。あたし、完璧。 ピンポーン チャイムが鳴ったが、インターホンに出ることもせず、美希は玄関に駆ける。その扉を開ける前から、誰が来ている かはわかっていた。 「いらっしゃい、せつな」 「こんにちは、美希」 笑いながら靴を脱ぐ彼女の名前は、東せつな。またの名を。 キュアパッション。 避-70へ
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ドキドキ猫キュアの140文字SS【5】 1.扱いの差/ドキドキ猫キュア ミラージュ「ファントム、オレスキーは一緒じゃないの?」 ファントム「知りませんが・・・」 オレスキー「~~♪」ヘヴン状態 プリンセス「あれは保護しなくていいの?」 ハニー「いいんじゃないかな(笑)」 ハニー達はオレスキーを 見捨てた 2.その後の話(ハピプリ35話)/ドキドキ猫キュア チョイ~♪ あんた達、呑気に敵の弁当なんか食べてんじゃないわよ!! ぐ~ 何よ、こんなもの!!・・・ちっともおいしくな~い!幸せになんかならな~い! そう言いながら弁当を貪るホッシーワだった。 ゆうゆう「幸せ増量大盛りね♪」 3.王族と庶民/ドキドキ猫キュア いおな「サイアーク!?こんな時に・・・」 ひめ「何かあったの?」 いおな「今日はスーパーの特売日なのに!!」 ひめ「は?」 フォーチュン「さっさと片付けるわよ」 ひめ「はあ」 時々、いおなが分からない・・・そう思うひめだった。 4.また彼だと思ってた/ドキドキ猫キュア ミラージュ「ふふふ、プリキュア同士争い不幸になるがいいわ。・・・それは何のつもりかしら、ファントム(冷たい目)」 アンテンダー「そろそろ出番だと思って。」 ミラージュ「失せなさい」 アンテンダー「ガーン」 ディープ「こいつももう駄目だな」 5.一番の被害者/ドキドキ猫キュア 一人帰路を進む誠司。 ???「浮かない顔をしているな(笑)」 誠司「!?」 ???「案ずるな、俺も貴様と同じ、テンダーに出番を奪われた同士だ」 誠司「いや、俺は変態じゃないし」 ファントムの姿に誠司は 引いていた。 6.いおなちゃんが転校!?/ドキドキ猫キュア ひめ「え~!いおなもアメリカに行く!?」 いおな「だってお姉ちゃんといたいし。神様に頼めばいつでもみんなにあえるし。」 ひめ「逆の考えはなかったの」 いおな「お姉ちゃんと離れたくないの!」 ひめ「私達とはいいのかい!!」 7.とある玩具のネタから妄想したネタ/ドキドキ猫キュア ぐらさん「ハロウィンだから仮装してみたんだぜ!」 ひめ「おお!りぼんそっくりだね」 いおな「世界に広がるビッグな愛・キュアラブリー!」 めぐみ「いおなちゃん可愛い♪」 ひめ「何故ラブリー!そこは私にすべきでしょ」 8.とある玩具からその2/ドキドキ猫キュア チョイアーク「随分と盛り上がってるな」 ひめ「チョイアーク!?」 いおな「みんな変身よ!」 チョイアーク「ストーップ!!俺だよ、俺。」 めぐみ「なんだ誠司か」 ひめ「脅かさないでよ」 誠司「俺は氷川の仮装に驚いたけどな」 9.とある玩具から3/ドキドキ猫キュア ハニー「お菓子くれないといたずらしちゃうぞ☆」 めぐみ「ゆうゆう張り切ってるね」 ひめ「何故変身してるの」 ハニー「仮装だよ」 ひめ「完成度高すぎぃ!」 いおな「何故自分のキュアコスを・・・」 ゆうゆう「ウフフフ♪」 10.かわるんるん?/ドキドキ猫キュア ぐらさん?「ひええ><」 りぼん?「りぼんスパイラル!ひめちゃん大丈夫?」 プリンセス?「かかってきな!チョイアーク共!」 ハニー?「びっくりぼんぼーん!!」 ラブリー「三人ともすごーい♪」 フォーチュン「シュールな光景ね」
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12-1 エフ オールスターズFのステージ。もちろんボスはシュプリーム イージー以上の難易度は敵が全て同じ強さです。フェアリーは約半分程度の能力値です。 各難易度初回クリアごとに報酬があります。 フェアリー なし イージー lv15エルドラド・ペンダント ノーマル lv16エルドラド・ネックレス ハード lv17エルドラド・リング カオス lv60エンペラー・クラウン 12-1 エフ1戦目 2戦目 3戦目 4戦目 攻略 1戦目 バタフライ 攻略 HP 217854 MP 1235 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 アース 攻略 HP 147000 MP 1000 攻撃力 420 防御力 450 魔法力 420 精神力 450 すばやさ 450 ラッキー 450 ミルキー 攻略 HP 161700 MP 1100 攻撃力 48 防御力 420 魔法力 500 精神力 420 すばやさ 500 ラッキー 500 マカロン 攻略 HP 161700 MP 1100 攻撃力 48 防御力 420 魔法力 500 精神力 420 すばやさ 500 ラッキー 500 敵の情報 ここでリタイアすることはないだろうがキュアミルキーの火力とバタフライのスタンプだけ注意したい。 バタフライとマカロンがデバフやバリアなど害悪行為をしてくるので鬱陶しい、デバフは後々に響いてくるので必ず解除しよう。 2戦目 ウィング 攻略 HP 111250 MP 1100 攻撃力 484 防御力 500 魔法力 484 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 462 アンジュ 攻略 HP 122892 MP 1045 攻撃力 47 防御力 423 魔法力 471 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 フェリーチェ 攻略 HP 117600 MP 1309 攻撃力 33 防御力 450 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 420 フローラ 攻略 HP 209730 MP 2162 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 マジェスティ 攻略 HP 162994 MP 1386 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 敵の情報 4戦全体を通して弓属性が非常に刺さるが、2戦目だけは違う。 ウィングが「プリンセスは僕が守ります」などと言わんばかりに 弓属性を完全に無効化しながら庇いまくってくるので 非常に厄介です。 モタモタしているとフローラやアンジュが回復をまくので どんどん状況が悪化していきます。 3戦目 プリズム 攻略 HP 200655 MP 1365 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 フィナーレ 攻略 HP 239753 MP 1570 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 ラメール 攻略 HP 145530 MP 1100 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 473 グレース 攻略 HP 218560 MP 1260 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 471 敵の情報 ラメールがグランオーシャンをはってくる。var2.00からの効果により回避があがるため、 プリズムやフィナーレが結構回避してきてめんどくさい。 グレースは回復より優先して殴ってくるので、優先する必要はあまりない。優先すべきは火力の高いフィナーレ。 フィナーレの虹耐性低下を受けた状態で次のシュプリーム戦に挑むのは避けたい。 ちなみにグレースが直してくれたりする。 4戦目 シュプリーム 攻略 HP 409474 MP 1544 疲労無効付き。ステータスが高いので生半可なデバフ単体ではほぼ効果なし。 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 スカイ 攻略 HP 236486 MP 1170 音以外の全耐性が上がっている模様 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 プレシャス 攻略 HP 277671 MP 1080 攻撃力 500 防御力 454 魔法力 500 精神力 454 すばやさ 454 ラッキー 499 サマー 攻略 HP 236486 MP 1170 攻撃力 500 防御力 500 魔法力 500 精神力 500 すばやさ 500 ラッキー 500 敵の情報 どんなにこちらの能力が高くても、シュプリームに行動されると、たとえフェアリーでも即死する。 できればホールドや凍結(凍結は相手が初期ターンに黒モードになった瞬間うたないといけない) で抑え込みたい。抑え込み、剣や弓の高火力で殴ろう。 シュプリームさえ倒せれば大丈夫だが、プレシャスが馬鹿みたいに耐久が高いうえに弁当を配布し回復してくる。 シュプリームの次はプレシャスを倒すべき。 ちなみにジェントルーのレシピップウバウゾーでプレシャスの回復を完全無効化できる。 黒モードのシュプリームが使う、崩壊という状態異常は、 そのターンの間、プリキュアを守る聖なる力的なものが崩壊し、防御と精神が1になる。 さらに、ピーチのスキル同様、シールドを破壊してくる。 貫通ではなく破壊なので、シュプリームに破壊された後、他の取り巻きに攻撃されるとシールド無しで受けることになる。 このシールド破壊効果は、シールド破壊無効のペケバリア等でのみ防ぐことができる。 なお、このステージの大抵のキャラは裏の能力が600程度あるのか、一部状態異常(ポイズンなど)で能力が500未満に下がらない性能のため、 能力を下げたい場合、重ね掛けが必要になる可能性があり奨励できません。(特性やポイズンの10%程度の減少は単体では効きません) 25%ダウンは単体でおそらく効くことを確認しました(※var2.12プレイ時) 25%ダウンも単体で効かなくなっていました(2024年3月20) また、シュプリームは疲労に対し耐性が付与されています。 攻略 11-1の何倍も難しい。 11-1でドロップする各セット装備をキチンと集めてから挑みたい。 最強の生命体の名に恥じぬ強さでレジェンダリーを苦戦させてくるだろう。 イージーからカオスは全部同じ能力値であるが、フェアリーは弱体化されている 全キャラレベル50以上、フル進化が望ましい イージー以降は、11-1を楽々突破できるパーティがやっと入場敷居を超えたといったところになるので 1階層でもたつくようではまずクリアできない。(フェアリーであっても、11-1をクリアできる強さと、シュプリームへの対策は必須) シュプリーム戦での崩壊即死を防ぐため、数ターンのホールドスキル、もしくは凍結など必須。あれば保険としてコーラルのバリアも欲しい。 このダンジョンではボスの属性や道中の属性から弓、剣属性のキャラクターが推奨される。 逆に脚属性は全く推奨できない。 なぜならオールスターズF選抜メンバーのほとんどが拳属性であり、ラスボスのシュプリームも拳属性であるためだ。 しかしながら道中のウィングが弓属性に完全耐性を持つので弓を使用する場合は注意したい。 また、シュプリームは特性により、光と風属性に高い耐性を持つため、バトプリDシリーズで猛威を振るい続けたパパイアが全く役に立たない。 また同じ属性を持つプリキュアも同様である。 攻略に多く採用されているないしは推奨されるキャラクター EXTコーラル追加特性でシュプリームが破壊不可のバリアを開幕から付与できる。能力も高く、破壊不可のバリアを安定供給できる コーラルシュプリームの崩壊で破壊されないシールドを持っている。EXTのほうが無い場合やコストが足りない場合はこちらでもいいが、開幕のバリア付与が無いのは少し痛い ピーチ優秀なホールドスキルで3ターン動きを止めることができる。ホールドは状態異常ではないので、虹モードのシュプリームもおさえることができる。また、1戦目のバタフライ、2戦目のアンジュが放つシールドを破壊できるのでピーチの後に攻撃することで確実にダメージをあたえられる。 フラミンゴ同上。ホールドスキルで2ターンおさえることが可能。こちらは他のスキルでスカイなどに大ダメージを与えることも可能さらに、フラミンゴの拘束はなんと本人は行動できるので2人同時に拘束も可能。マッチョすぎません? パルフェ高い能力と行動回数で凍結などのデバフを撃ち、シュプリームや主要キャラの動きを止めることができる。また、CT管理により他の火力のサポートも可能 フォンテーヌ確率が高い凍結をうつことができるが、ハイスピードセット込み。パルフェが無い人はこちらが良い プリズム強力なメルトやアーマーブレイクが使用可能。黒モード時ならシュプリームにもメルトが通るので、確実なダメージが期待できる フィナーレレインボーレトリックを撒くことでシュプリームのフィンガーボルト以外のスキルダメージを約半減できる。幸いフィンガーボルトはあまり使ってこないので効果は大きい。また、取り巻きのサマーのスキルも半減できる EXTパパイア超高火力範囲攻撃のアイレーザーグリッドレイで道中の敵を薙ぎ払える。さらに高い凍結力と火力を備えた優秀なスキルがあるただし、メインウェポンであるグリッドレイはウイングとシュプリームには効果がないのが弱点 スカーレット自然属性、複合属性のスキル攻撃を2ターン無効にできる強力なスキル、スカーレットイリュージョンアグニが非常に強力で、道中はこれだけでほぼ無傷で攻略できる。シュプリームの崩壊によって剥がされてしまうものの、それさえなんとかできればサマーやプレシャスも空気になる。 スカイスイッチングにより最高クラスの火力と、最高クラスの耐久性を兼ね備えている。ブリッツレイピアとハイスピードセットによってEXTパパイアに並ぶ火力を叩き出せる。また、シュプリームにも安定した火力を出せるのがお勧めで、オールスターズFステージでは、スカイが1番活躍できるまさに映画 ※敵のステータスは難易度ノーマルの値です
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『フレッシュプリキュア!(パラレルストーリー)――コードネームはカオルちゃん(前編)―― 』/夏希◆JIBDaXNP.g 「貴様は――ジェンマ!」 「観念しな。下の連中は全員投降した。ゲットマウスの野望もこれまでだ」 「おのれ……悪魔め!」 「そいつは酷いな。これでも子供の頃は天使と呼ばれてたんだぜ」 ジェンマは、黒服の男に銃を捨てるように勧告する。 お前が引き金を引くより早く、俺の銃弾はその銃を弾く。怪我をするだけ損だぞ、と―― それが事実だからこそ、そのセリフは男の自尊心をいたく傷付けた。不殺を貫く一人の男に、手塩にかけた組織を壊滅させられたのだ。 (せめて、一矢報いたい!) 男の願いが天に通じたのか、唐突にそのチャンスはやってきた。 まだ年端のいかない少女が部屋に飛び込んでくる。無論、素人ではない。天才少女と名高いエージェントの一人だった。 しかし、彼女には致命的な欠陥があった。ジェンマに心酔していて、時に状況判断を誤ることがあったのだ。今回も彼のことが心配で、力になりたくて駆けつけたんだろう。 ジェンマの気がほんの一瞬だけ反れる。男はそのチャンスを逃さなかった。ジェンマは狙わない。狙ったところで当たる訳が無い。だから少女を狙う。彼とて、組織の中でも最強を誇る使い手だった。 雷鳴の如く、同時に轟く二発の銃声。黒服の男が、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。 割れた窓から吹き込む風に乗って、血と硝煙の匂いが流されていく。 世界中に根を張る悪の秘密結社“ゲットマウス”は、この日を境に表舞台から姿を消した。 某国の諜報機関の、最高にして最強のエージェント、“ジェンマ”と共に―― 「もう五年も前の話になるんだねぇ」 「思い出に浸るために話してるんじゃないのよ。聞いてるんでしょ?」 「ああ。ジェフリー王子誘拐の罪で収監されたゲットマウスのボスが、脱獄したんだってな」 「ただの脱獄じゃない。奴の目的は――あなたへの復讐よ!」 五年前の壊滅作戦から逃げ延びた残党は、メクルメク王国に潜伏して再起を図った。ジェンマに殺られたボスの後継者に選ばれたのは、スパイとして王宮に潜入していた幹部ゴードンだった。 彼は国王に上手く取り入り、執事の肩書きと王子の世話役としての地位を授かっていた。 ゴードンは弱体化した組織を立て直すために、時価数百億とも言われる王家の秘宝“ポセイドンの冷や汗”を手に入れようと目論んだ。 しかし、ゲットマウスの復活に合わせるように、再びジェンマが姿を現した。その活躍によって、かつての勢力復活の望みは断たれ、ゴードンも捕縛されたのだ。 今さら脱獄したところで、もはや“ポセイドンの冷や汗”は存在しない。千載一遇のチャンスを逃したのだ。彼らの怒りが、二度に渡って自分たちを邪魔したジェンマに向かうのは、必然と言えた。 「ほ~んと、面倒だよね~」 「ふざけてる場合じゃないわ。取り返しの付かないことになる前に組織に戻って。いくらあなたでも、一人じゃ……」 「まあ、考えておくよ」 「奴らはもう動き出してる。くれぐれも気をつけてね」 ジュリアーノと名乗る女性は、そう言い残して立ち上がった。そのままクルリと踵を返し、背を向けて立ち去る。 綺麗なブラウンの、サラサラのロングヘアー。サングラスで隠れていてもわかる、色白の整った顔立ち。黒のパンツに覆われた、細く長い脚が軽やかに交差し、颯爽と公園を後にする。 それは、まるで映画のワンシーンさながらに絵になっていたが――優雅な光景はそこまでだった。 カオルちゃんが女性と話し込んでいるのは珍しいと、遠巻きに見ていたラブたちが、バタバタと駆け寄って来たのだ。 「ねえねえカオルちゃん! 今の女の人、誰っ? カオルちゃんの恋人っ?」 「モデルさんかしら? 表情から歩き方まで、悔しいくらいに完璧だったわ」 「でも、この街では見かけない顔よね?」 「せつなちゃんがそれ言う?」 「なに、恋人? おじさんの? 残念ながら、コイはコイでも濃い~腐れ縁ってヤツだよ~ん。グハッ!」 「なんの縁なんだか。そう言えばカオルちゃんって、F1チャンピオンだったこともあるんでしょ? レースクイーンなんかも似合いそうよね」 「ある時は無敗のカーレーサー。またある時は、難しいオペもこなす凄腕の医師。またある時は、星空を渡る宇宙飛行士。またある時は、ワールドツアーのボーカリスト。しかしてその正体はぁ!?」 「長いよ、ラブちゃん……」 「正体は、巷で人気のドーナツ屋さんでいいのかしら?」 大真面目に問いかけるせつなに、カオルちゃんはチッチッ……と言いながら、立てた人差し指を左右に動かしてみせる。 「おじさんの正体はねぇ……」 「な、なに!?」 「正体はぁ……」 「正体はっ!?」 「天使の微笑み、みんなのアイドル、カオルちゃんどえっす!」 「…………」 ――カァ~。 二の句が継げない四人と、得意満面な一人の上を、一羽のカラスが悠々と飛んで行った……。 「……や、やっぱり、まだまだ秘密がありそうよね」 「わたしも、そんな気がする」 「でも、いいな~。カオルちゃんは何でもできて。なれないものなんて無いんでしょ?」 「そんなワケないでしょ。あるよ、なれないもの」 「えっ? なになに? 聞きたい!」 「へぇ~、アタシも興味あるわね!」 「カオルちゃんでもなれないものってなんだろ?」 「そうね、私も知りたいわ」 興味津々で目を輝かせる四人にニヤリと笑いかけてから、カオルちゃんはサングラスをずらして遠い空を見上げる。 そして一言、ポツリとつぶやいた。 「正義のヒーローさ――なぁ~んてね、グハッ!」 『フレッシュプリキュア!(パラレルストーリー)――コードネームはカオルちゃん(前編)―― 』 「大変や! 大変なんや~! カオルは~ん!」 一匹のフェレットが、珍妙な大阪弁を張り上げながらドーナツカフェに飛び込んでくる。 カオルちゃんが兄弟と呼ぶ、この店のマスコット、タルトだ。 ちょうど昼食時でもあり、店はたくさんの客で賑わっていたが、取り立てて大きな騒ぎにはならない。 なんと言ってもこのフェレットは、手品や大道芸までこなすのだ。少々しゃべろうが、また何か新手の芸だろうと思われているらしく、今更驚く人も居なかった。 「どうしたの? 兄弟。そんなに慌てて」 「どうしたもこうしたもないで! ピー…いや、ラブはんたちが連れて行かれてもうた! ダンスレッスンしてたんやけど、突然、また黒服の男たちが現れたんやぁ!」 それを聞いて、カオルちゃんの口元から笑みが消える。 タルトを車内に招き寄せると、感情を押し殺したような、低くて小さな声で問いかけた。 「誘拐されたのは、ラブちゃんたち四人とミユキちゃんかい?」 「ミユキはんは、用が無いとか言うてその場で気絶させられたんや。攫われたんは四人だけや!」 「それで、ヤツラの行き先は?」 「そこまでわからんけど、これを残していったんや」 タルトが差し出したのは、封がされていない封筒に入った、一通の手紙だった。 状況から考えて脅迫文に違いないのだが、タルトには読むことができなかったらしい。 「これは暗号文だね。場所は四つ葉港の埠頭。人質の命が惜しければ、俺一人で来い、か……」 「よっしゃあ! そこまでわかっとるんなら、さっそく行くで!」 「……ああ。兄弟――悪かったな」 「なんやぁ? どないしたんや?」 「いや、なんでもない。ここの暮らしも、結構気に入ってたんだけどねぇ~」 カオルちゃんはマジックペンを取り出すと、チラシの裏にサラサラと何かを書き始めた。 “本日はド-ナツ無料! セルフサービスでおかわり自由! ただし無くなり次第終了!” そう書かれたメッセージを、店の幟に貼り付ける。次に車内の奥の隠し引き出しから、黒い布でくるまれた塊を取り出した。 「できればもう、二度と使いたくなかったんだがな」 タルトにすら聞こえないような小さな声でそうつぶやいて、スルスルと包みを解いていく。 中から現れたのは、布よりも更に黒い、鈍く輝く金属の塊だった。 「やれやれ、おじさん眩しいの苦手なんだよね~」 海辺の強い光を反射して、カオルちゃんのサングラスがキラリと輝く。 紫のジャケットに黄色のネクタイ。そして黒のズボンとシャツというのが、今の彼の出で立ちだった。 一見、目立つコーディネートでありながら、上着を脱いでネクタイを外せば、黒一色で統一された服装だ。 ジャケットとネクタイを外して囮に使い、闇に紛れて背後から忍び寄る。もっとも、そんな彼の常套手段も、彼らにはお見通しなんだろう。 「あわわ、あっちもこっちも見張りだらけや。どこにラブはんたちがおるかもわからへん。どうするんや? 兄弟」 「仕方ない、正攻法でいきますか」 「やっぱ、その物騒なモン使うんかいな。なんでやぁ? この前は使わんかったやないか」 「ん? ああ、あの時はヤツらの目的が誘拐そのものだったからね~。向こうだって、丸腰だったでしょ?」 この国は銃や刃物の所持が禁止されている分、検閲も厳しい。子供の誘拐と宝石の奪取が目的なら、リスクを犯してまで武装する必要もない。 だが、今回は違う。これから奪い合うのは互いの命。即ち――本物の戦闘行為だ。 ゲットマウスが指定したのは、コンテナ船用の埠頭だった。遮蔽物は極めて少なく、ガントリークレーンと呼ばれる巨大な橋脚門があるのみ。後は大きな倉庫がズラリと立ち並んでいる。 その全ての箇所に数名づつ見張りが置かれていて、どこに人質が収容されているかもわからない。 仮に見つけたところで、騒ぎが起きれば他の倉庫から大量の応援が駆けつける。そのまま取り囲まれたらお終いだ。 「危ないから、兄弟はここで待ってな」 「そんなワケにいくかいな、ワイも行くで!」 「うーん、そりゃあ懐に入れておけば、防弾チョッキの役には立つかもしれないけどさ~」 「な……なに言うてんねん。ほ、ほなワイ、おとなしゅう、ここで待っとくわ……」 「フッ、いい子だ」 カオルちゃんは懐から、ピンポン球のような物を取り出した。 スモーク・スタン・フラッシュバン・グレネード。さまざまな特殊効果を持つ手榴弾の、携帯用の特注品だ。 赤色、黄色、青色、カラフルに色分けされた玉を、時間差を付けて投げ込んでいく。 最初に効果を表したのは発煙弾だった。異変に気づいた見張りが銃を乱射する。その音に重なるように、散らばった音響弾が轟音を立てる。 最後に効果を発揮したのは閃光弾だ。いくら陽の光の下とは言え、目を凝らして敵を探している最中に強烈な光を浴びて、その場に居合わせた全員の視力が失われる。 煙が風に流され、目をやられた者たちの視力が回復した頃には、既に大半の男が倒されていた。 しかし、外に出ている者はほんの一部でしかない。すぐに建物の中からわらわらと仲間が現れて、激しい銃撃戦が展開される。 「あわわ……。派手にドンパチ始めおった。せや! ワイはこの隙にピーチはんたちを探さな」 先程まではネズミ一匹通さない厳重な警戒が敷かれていたが、今となっては穴だらけだ。 タルトはまず、一番近い倉庫の裏口に向かって駆け出した。 「ラブ、ラブ、起きて」 「うう~ん、もうちょっと……」 「寝ぼけてる場合じゃないのよ、起きなさい!」 「美希ちゃん、声大きい……」 ラブが気だるそうに頭を振って目を覚ます。普段の寝起きだって決して良くはないが、それとは全く違う。何かとてつもなく重いものが、瞼に乗っかっているみたいだ。 頭の中に霞がかかったみたいに意識がぼんやりする。それでも、時間の経過と共に考える力が戻ってきた。 自分の置かれた状況を確認する。両手両足が拘束されていて、身体の自由はほとんど効かない。幸いにも、リンクルンは腰に下げられたままになっていた。 もっとも後ろ手に縛られている上に、ご丁寧に指先までテープで巻かれていて、ホルダーから取り出すこともできない。 「そっか、あたしたち知らないおじさんたちに囲まれて……」 「あの服装、ジェフリー誘拐犯の一味に違いないわ。捕まって、車の中で薬で眠らされたのね」 「アタシたちをどうするつもりなのかしら? それに、ここはどこなの?」 「潮の香りがするから、海の近くだとは思うんだけど……」 こちらが目を覚ましたのに気付いて、見張りの一人が近寄ってくる。 帽子を深く被っていて顔はよく見えないが、いかにも鍛えてありそうな、肩幅の広い大男だった。 「ねえ、ここはどこ? おじさんたちは何が目的であたしたちを誘拐したの?」 「お前たちは、ジェンマをおびき寄せるためのエサだ。用が済めば帰してやってもいい」 「ジェンマって、誰?」 「お前たちが、カオルちゃんと呼んでいる男のことだ」 「組織の人間にしては、ずいぶんとおしゃべりなのね」 せつながラブと男の会話に割って入る。これ以上続けさせるのは危険だと思ったからだ。 相手の情報を知ってしまえば、それだけ解放される見込みは少なくなる。「帰してやってもいい」ということは、「帰さなくてもいい」ということだ。 「俺たちのことは話せない。だが、もうじき死ぬ男のことなら話してもいい」 「なら教えて! どうしてカオルちゃんを狙うの? この前の逆恨み? あれはあなたたちが悪いんじゃない!」 「カオルちゃんとはニックネームではなく、奴のコードネームの一つだ。本名は橘薫。通称、ジェンマ。裏の世界では最も恐れられ、恨まれている男だ」 「なんですって! ……で、コードネームってなに?」 「ガクッ、知らずに驚いてたのね、ラブ」 「えっと、ニックネームが愛称、つまり呼び名のことね。で、コードネームというのは」 「限定的な範囲の人たちの間でだけ通じるようにした、暗号名のことよ。つまり、何らかの目的の為に付けた仮の名前のことね」 そう説明して、せつなは辛そうに唇を噛む。例えば、彼女の名前だってコードネームだ。 もともとラビリンスの国民に名前は無く、国民番号がそれに代わる。イースは本国でのニックネームであり、東せつなはこの世界に潜入する際に付けたコードネームということになる。 「じゃあ、カオルちゃんが何でもできるのは……」 「奴は超Aランクのエージェントだ。五十ヶ国以上の言語と文化を身につけ、バイクから戦闘機まで何でも乗りこなし、地上の全ての格闘術をマスターしていると聞く。どこまで真実かはわからないが、それらの全ては――」 「その“任務”ってのを、達成するために覚えたってことだね?」 「そうなるな。ジェンマとはクリスチャンネームに使われる名だが、俺たちには皮肉にしか聞こえない。奴は――悪魔だ」 「その悪魔に喧嘩を売っちゃって大丈夫なの? 今からでもアタシたちを解放して逃げた方が身の為じゃない?」 「だからお前たちを攫った。この時刻なら視界も良好だ。細工する暇も、仲間を呼び寄せる時間も無い。いくら奴でも、三桁の武装集団を正面から相手にすれば勝ち目はない。まして、人質は四人居るんだからな」 「……私たちの内、一人や二人くらい殺したって、人質としての役目を失わないってことね」 さらりと、せつなが恐ろしいことを口にする。 その冷静な口調とは裏腹に、彼女の瞳は物騒な光を帯びていた。 「そういうことだ」 「それじゃ、カオルちゃんは!」 ラブが何かを訴えかけようとしたが、それは轟音によって遮られてしまった。 数発の発砲の後に、爆弾らしき炸裂音が響き渡る。 銃声はその後も続き、やがて男たちの怒声がそれに混ざった。 「何事なの?」 「奴の――襲撃だ!」 遠巻きにラブたちを監視していた数名の見張りが、揃って入り口に銃口を向ける。ちょうどこちらに背を向ける格好だ。 話をしていた黒服だけはラブたちから離れようとしなかったが、同じく銃口を入り口に向けて―― パスッ! パスッ! パスッ! 信じられないことに、手にしていた銃を仲間に向けて乱射した。 音が小さいのは消音銃なのだろう。撃たれた黒服たちは、血も流さずにその場に倒れ込む。 「えっ!?」 「なにっ、仲間割れ?」 「嘘……人を撃つなんて……」 「あなた、本当は何者なの?」 「ジュリアーノと呼んで頂戴。本名及び、年齢とスリーサイズは秘密よ」 大柄の男が、おどけてパチリとウインクを決める。ゾッとしない光景だが、更に驚くべきことに、その声質は女性のものに変わっていた。 それだけではない。瞬く間に身長が縮み、体のラインはしなやかな細身を帯びていく。最後に顔の皮を、まるで美容パックを脱ぎ捨てるように剥ぎ取ると、その勢いで帽子が脱げた。 サラサラと、長いブラウンの髪が零れ落ちる。僅か数秒の内に変身を遂げた、その姿は―― 「お姉さんは、カオルちゃんの!」 「しっ! ゆっくり話してる時間はないの。彼らは気絶させただけだから安心して」 さっき彼女が使用したのはゴム弾だった。正確に急所を撃ち抜けば、一撃で昏倒させることもできる。もっとも、よほど相手が油断しているか、圧倒的な実力差が必要になる。 ジュリアーノはナイフを取り出し、ラブたちの拘束を解いていった。 「教えてください! どうして、あたしたちにカオルちゃんのことを話してくれたんですか?」 「理由は二つ。一つ目は、あなたたち……彼と仲がいいんでしょ? だから、未練が残らないようにしてあげたくて」 「未練ってどういうことですか?」 「もう、カオルちゃんは終わりよ。彼はジェンマに戻るの。だから、あなたたちの前から姿を消しても、どうか探さないであげて」 「おいっ! お前たち何をしている!?」 庫内の様子を確認しようと入って来た黒服が、ジュリアーノとラブたちを見つけて銃口を向けてくる。 たちまち撃ち合いになり、男は銃を落としてうずくまった。たった一瞬の戦闘が、大きな痛手となる。 彼女の銃口にはサイレンサーが付けられているが、男の銃は通常のものだった。その銃声を聞きつけて、外の仲間が雪崩れ込んでくる。 ジュリアーノは木製の荷物箱に身を隠し、彼らを近づけないように威嚇射撃を続ける。 「あの、ジュリアーノさん!」 「いい? 合図をしたら目を閉じて三秒数えなさい。その後、そこの窓から逃げるの。外の仲間が安全な場所まで導いてくれるわ」 「でもっ!」 「二つ目の理由はね、私とジェンマなら絶対に負けないって、あなたたちに教えるためよ!」 ジュリアーノは窓を指差す。そして、軽く左手を振り上げると、力いっぱい床に閃光弾を投げつけた。 辺り一面が、真っ白な光に満たされる―― (これで過ちを清算できた、なんて思わないけど……) 目的を果たして、ジュリアーノは安堵のため息を付く。 無事に子供たちを逃がし、最大の不安材料を取り除くことができた。 敵の数と錬度は脅威だが、足手纏いさえ居なければジェンマが負けるはずはない。 そう、あの時のように―― 脳裏に、崩れ落ちた男の前に膝を折り、呆然と見つめる男の姿が浮かんだ。 あの時、私が余計なことさえしなければ――未だに湧き上がる自責の念。それを彼女は、一瞬で意識の外に叩き出す。 入り口の方から複数の足音が聞こえて来る。 閃光弾は目前の敵の無力化には有効だが、逆に新手をおびき寄せてしまう。 もちろん、それも覚悟の上でやったことだ。 (こちらが目立てば、その分だけあの子たちは無事に逃げられるし、ジェンマの負担も軽くなる――) 光が収まり、徐々に暗がりに目が慣れていく。 間違いなく、この先は死闘になるだろう。とっくに覚悟は決めてある。 実弾装填を終えた銃を構えて、彼女は荷箱から身を乗り出した。 しかし。 ――その先にあったのは、信じがたい光景だった。 ジュリアーノと黒服の間に、不思議な衣装を身に纏った、四人の少女が立ちはだかっていたのだ。 「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたて! フレッシュ! “キュアピーチ”」 「ブルーのハートは希望のしるし! つみたて! フレッシュ! “キュアベリー”」 「イエローハートは祈りのしるし! とれたて! フレッシュ! “キュアパイン”」 「真っ赤なハートは幸せのあかし! うれたて! フレッシュ! “キュアパッション”」 “Let s! プリキュア!!!” 薄汚れた倉庫には、あまりにもそぐわない可憐な衣装。血なまぐさい抗争には、まるで似合わない神秘的な立ち姿。 “場違い”を全身で主張しながら、少女たちは華麗に名乗りを上げてポーズを決める。 「……ジャパニーズ・コスプレイヤー?」 「……気が狂っているのか?」 「日本には中二病って文化があるらしいが、これがそうなのか?」 「違う! お前たちが知らないのも無理はないが――」 「あれは……正真正銘の化け物だ!」 プリキュアの活躍をよく知るジュリアーノが、驚きの余り言葉を失う。彼女たちの活躍は聞き及んでいるが、人間同士の戦いに介入した記録は無かったはずだ。 黒服たちの間にも、恐れと動揺が広がっていた。その証拠に、四人が堂々と姿を晒しているのに、攻撃しようとする者はいない。 彼らの内の何人かが先日のナケワメーケとの戦いを見ていたらしく、仲間に警告を発していたのだ。 「なんか……酷い言われようね」 「ねぇ、パイン。中二病って、どんな病気?」 「えっと……パッション、あとで説明するから。ね?」 「そこを通して! 武器を捨ててくれたら、あたしたちは何もしないから」 プリキュアたちは、一歩、また一歩と、ゆっくりと入り口に詰め寄る。 そのたびに、黒服たちも一歩づつ下がっていく。 息詰まるような睨み合いが続き、ついに一人の男がキレた。 「これでも喰らえ!」 小銃弾を使用する、短銃身のアサルトライフル――通称、サブマシンガン。 持続的な連続射撃、無数の弾丸が四人を襲う。 プリキュアは顔だけを腕で覆い、そのまま足を止めずに前進を続ける。命中した弾丸は、彼女たちの皮膚に軽くめり込み、そして弾かれた。 よく見れば、命中した部分は少し赤くなっているかもしれない。ダメージはその程度だった。 「ガッデム! 銃弾が効かないなんて人間じゃねえ!」 「効いてるよ、ちょっと痛かったから!」 ピーチは男からマシンガンを取り上げ、まるで飴細工のようにグニャリと捻じ曲げた。使えなくなったのを確認して、無造作に床に放り投げる。 床と金属の衝突する鈍い音が、たった今、目の前で起きた出来事の異常性を知らしめた。 「ぜっ、全員でかかれっ!」 黒服たちは、手にしていた武器で一斉に攻撃を開始した。自動拳銃・散弾銃・短機関銃。持てる火力の全てを駆使して、狂ったように集中砲火を浴びせる。 クロスボウを射出したり、刃物を持って斬りかかる者も居た。 しかし、雨のように撃ち込まれた銃弾は、衣装を傷付けることすら叶わない。矢は全て弾かれ、刀は素手で掴まれて叩き折られた。 目の前の光景が信じられず、男たちは恐怖に顔を引き攣らせて立ち尽くす。 「お願い、そこを通して! あなたたちのリーダーとお話したいの。こんなこと、もう止めてって」 「これ以上向かってきても、そのくだらない武器を無駄にするだけよ」 「もうわかったでしょ? 今のアタシたちにはどうやっても勝てないわ。観念しなさい」 「そんなに脅えないで、怪我をさせるつもりはないから」 「「「「ひっ、ひぃ!」」」」 男たちは、武器を投げ出して一目散に逃げ去った。 「さっきはありがとう」 キュアピーチは、ジュリアーノにペコリと頭を下げる。 「あなたたちがプリキュアだったのね?」 「はい。隠していてごめんなさい。それと、できたらあたしたちのことは内緒にして欲しいんです」 本当なら他人のフリするところだったのだけど、とピーチは困った顔で事情を説明する。 ここには他に人が居ない。しかも、あのタイミングで「同じ年頃の四人」が現れれば、変身シーンを見られなくたって誤魔化すのは無理だった。 ジュリアーノは決して他言しないと約束する。 「それにしても、メディアなんかで活躍は知ってたけど……凄いのね」 「本来の、アタシたちの力じゃありませんから」 「できれば、人や動物に乱暴はしたくないんですけど……」 「この場合しょうがないわ、パイン」 「それで、さっきの話の続きなんですが……。カオルちゃんは、エージェントに戻るってことなんですか?」 「多分、そうなるわね。あなたたちが誘拐されたことで、踏ん切りがついたんじゃないかしら」 「じゃあ! あたしたちが、カオルちゃんより先に戦いを終わらせちゃえば?」 「思い留まるかもしれないってこと? 先日の戦いで、ジェンマ復活の噂は世界中に広がったわ。そう上手く行くとも思えないけど」 「それでも……あたしたちには、カオルちゃんが必要なんです!」 「しょうがないわね。決断は彼に委ねるとしても、私たちで戦いを終わらせるのは賛成よ。一緒に行きましょう」 「「「はいっ!!!」」」 それを聞いて、三人の表情がパッと明るくなる。 ただ一人、パッションだけは何かを考えているみたいで、返事に加わらなかった。 「ピーチ。悪いけど、私は別行動を取らせてもらうわ」 「えっ、パッション?」 「カオルちゃんの援護が必要でしょ? 大丈夫、後で必ず合流する」 「そっか。わかった、気をつけてね」 ジュリアーノとピーチたち三人は、先にゴードンを探しに向かう。彼は変装が得意で、数名の側近しか居場所を知らないらしい。 一方、パッションは一人離れてカオルちゃんの元へと急ぐ。こちらは戦闘が行われている場所を目指せばいい。彼女は耳を澄まし、風のように駆け出した。 全125へ