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I believe you ◆lbhhgwAtQE 映画館のロビーにて、トグサ達一行は放送を聞き終えた。 そこで呼ばれた名前の中にはトグサやヤマト、アルルゥの知人の名前は無かった。 そう、西洋騎士に果敢に立ち向かっていったあの自称“救いのヒーロー”の豚の名前もそこには無かった。 「ぶりぶりざえもん……無事でいろよ……」 ヤマトが安堵とともに、彼の安否を気遣うように呟く。 ……だがその一方で。 「朝倉さん…………死んじゃったんだね」 「……放送が虚偽でない限り、そのはず」 「あの人、何も言わないでいきなり転校しちゃったから、一度その真相についてSOS団で調べたかったんだけどなぁ……」 それほど仲が良かったわけではなかった。 だが、仮にも面識のあるクラスメートが死んだのだ。 それを知って、何も思わないほどハルヒも冷徹ではなかった。 そして長門もその時、自らの思考のどこかに新たなノイズを感じていた。 一度独断専行でキョンを殺害しようとした反乱分子のバックアップ如きの死に何を感じるのか……。 長門はそのノイズの正体にまだ気付けないでいた。 するとそんな長門を横目に、ハルヒがいきなり立ち上がり、声高らかに宣言する。 「……よし! それじゃ、放送が終わったところでSOS団特別ミーティングを始めるわよ! 議題は勿論、どうやって皆でここから脱出するか! これ以上、朝倉さんやみくるちゃん、それに鶴屋さん達みたいな犠牲者を出さない為にもこれは重要な議題よ!」 その声は、ついさっきまで暗い面持ちだった少女のものとは思えないほど溌剌としていた。 トグサやヤマトはその変わりように驚きつつも、その言葉から彼女の決意じみた何かを感じ取っていた。 「それじゃ、まず最初は――」 「……と、ちょっと待ってくれ」 ここで、トグサは挙手をして発言を求める。 「……何? どうかしたの、トグサさん」 「いや、つまらないことかもしれないが、一つ気になったことがあるんで……質問してもいいかい?」 「別にいいけど……」 話の腰を折られて、やや不満そうなハルヒの表情を見ながらも、トグサは今まで気になっていてそれを尋ねた。 「さっきから、何度か口にしてる“SOS団”っていうのは何だ? 俺達のチーム名か?」 「え? あぁ、そういえばまだあんた達には説明してなかったわね。SOS団って名前はね―― S 世界を O 大いに盛り上げるための S 涼宮ハルヒの 団 っていう正式名称の略称な訳! どう、センスいいでしょ?」 そんな真相を聞いて、思わず絶句するトグサ、そしてヤマト。 「あ、言い遅れてたけど勿論トグサさんも特別団員に認定よ!」 「え、あ、はぁ……そりゃどうも……」 ……状況が状況だったら、笑っていたかもしれないが、今の彼らはただただ唖然とすることしかできなかった。 「……はい! そんなわけでミーティングを続行するわよ!」 ハルヒを議長とするSOS団ミーティングはそれからしばらく続いた。 その中では、トグサが推測した情報端末や首輪に関する考察、今まで出会ってきた参加者の危険性の有無等、様々な情報が交わされてきた。 また、その中で各人の行動も振り返り、ハルヒやアルルゥはそこで始めてグレーテルについて知ることとなった。 そして、今彼女達が話しているのは…… 「ふぅん、それじゃこの技術手袋ってのがあれば、どんな機械でもいじったり出来るって事?」 「時間さえあればな。……だが、さっきも言ったように首輪を直接解体することはよした方がいいだろう。起爆装置が作動しかねないから」 「わ、分かってるわよ、それくらい!」 現在は所持してる支給品について再確認をしていた。 もしかしたら、それらを複合して使うことで脱出の手がかりを見つけられるかもしれないからだ。 「でも、これさえあれば、あんたが言ってた情報端末……要するにパソコンみたいのも作れるかもってことでしょ? だったら無くさないように持ってないとね」 「それは承知の上さ」 そう、承知の上なのだが、不運にもトグサが今まで見てきた中で情報端末を作るのに適した材料や機械はこれといって見当たらなかった。 これではいつまで経っても組み立てることは出来ないし、宝の持ち腐れ状態である。 トグサは、そんな自分の運の無さを心の中でボヤく。 「……で、有希。話は変わるけど、あんたのそのタヌ機って道具の説明書見たけど、すごい効果じゃない。 これさえあれば、あの金髪剣士も撃退できたんじゃないの?」 「…………以前、これを使った時、相手は確かに怯んだ。……だけど、すぐに幻覚から脱した。 相手の精神力が人並み外れて強い場合、効果はないと考えられる。そして、あの騎士はその部類に相当すると判断した」 「――ふぅん。精神が強いと効かない、かぁ。……でも、いざって時は迷わず使ったほうが良さそうね。……有希、頼んだわよ」 「分かった…………」 長門はいつもどおり、無表情のまま受け答えをしていた。 ちなみにヤマトとアルルゥの年下組はというと、先程からうつらうつらと舟を漕いでいる模様だ。 今日はあれだけ色々あったのだ、疲れて眠気が襲ってきても当然だろう。 「あとは、残る不思議な道具といえば……やっぱりこれよね、これ!」 そう言いながらハルヒが取り出したのは、四角い古いカメラのような物体。 「それは?」 「着せ替えカメラって言ってね、これに被写体に着せたい衣装を描いた紙を入れて撮影すると被写体の服がその絵通りに変わっちゃうって訳よ」 「――な、そんな道具まであるのか……」 「そうよ! 見てなさい……ほら!」 ハルヒがそう言いながら、長門にレンズを向けた状態でシャッターを切る。 すると、長門は瞬時に黒い三角帽に黒いローブという典型的な悪い魔女のような格好になる。 「……なるほどな。……で、これは服の材質は変えられるのか? 例えば甲冑や防弾チョッキみたいな絵を入れて着せ替えさせれば……」 「私もそれは考えたけど、それは無理みたい。服の素材は元の服の素材からしか作られないって説明書に書いてあるし」 と、トグサはハルヒから説明の書かれた紙を受け取るとそれを読む。 すると、その道具は元々の衣類の構成分子を分解、再構成することで着せ替えを実現しているとかかれていた。 ――ようするに、木綿からは木綿、合繊からは合繊の服しか作れないという事だ。 しかも、このカメラをちゃんと使うには、被写体にしっかりとピントを合わせる必要があるという。 「戦闘には不向きな代物だな」 「一応、相手へのこけおどしには使えるかなって思ったけど…………」 「そんなのが通じる相手ばかりじゃない。……あの剣士がまさにそうだっただろう。あの目は人殺しを厭わない目だった」 「わ、分かってるわよ、それくらい!!」 そう言って、トグサから説明メモをひったくると、そっぽを向いてしまう。 「あー、もう! このままじゃ脱出方法なんて見つかりはしないわ! もう一回最初から考え直すわよ!!」 「……そう」 長門は魔女のコスチュームになったというのに至極冷静だ。 そして、ヤマトとアルルゥは既に二人でもたれかかるように寝息を立てている。 (……やれやれ) いつから自分は子供達の引率をする立場になったんだ……。 そんな事を思いつつ、トグサは立ち上がり、ハルヒに声を掛けた。 「――すこしばかり席を外す。……何かあったら子供たちを頼むぞ」 「……分かった」 「まっかせなさい!!」 そんな元気な返事を背に、トグサは歩き出した。 ハルヒ達と別れてから十分程度。 やや時間がかかったが、トグサは従業員が詰めていたであろう事務所を見つけ出した。 事務所を探していた目的は、勿論この地の別の施設に連絡できる電話を使うため。 そして、さっそく受話器をとるとホテルの番号をプッシュする。 ……だが聞こえてくるのはコール音ばかり。 トグサは何度も番号をプッシュしなおしては繋がるのを待つが結果は同じ。 「…………どういうことだ?」 番号が合っている以上、誰かその場にいたなら受話器を取るだろうし、受話器を取らないもしくは不在の場合でも留守電に繋がるはずだ。 それなのに、受話器の向こうからはコール音がひたすら聞こえてくる。 留守電にすら繋がらないということは、電話機や回線になにか問題が生じたという事。 朝方電話をした時は何も不都合の無かった電話回線に突如、問題が発生する――――その理由として思いつくのはただ一つだ。 「……ホテルで何かあったのか」 思えば、セラスとホテルで別れてから、6時間ほどは時間が経過している。 バトーの件も目撃したことだし、誰かしらゲームに乗った殺戮者がホテルで戦闘を行い、その余波で電話や回線が破壊されてもおかしくはない。 ……とすると、義体とはいえ女性のセラスを1人置き去りにしたのは、やはり間違いだったのではないか? トグサは、自分の判断ミスを改めて悔いる。 「無事でいてくれよ、セラス…………」 誰に言うでもなく、トグサは事務所の窓からホテルの方角に向かって呟く。 すると―――― ――プルルルルルルルル!!!! 背を向けていた電話が突如、鳴り響いた。 当然の事だが、電話が鳴るという事は誰か知らないがこの地のどこかから電話をかけているという事。 即ち、こことは違う場所の誰かと情報交換を出来るのだ。 現在の状況を少しでも知りたかったトグサは急いで受話器に手をかける……がここで一度手を止める。 今までの考えは、相手が協力的だった場合のもの。 もし、相手が頭の働く殺戮者だったら? 電話を取ったが最後、相手に殺害対象の居場所を伝えることになってしまう。 ここには戦闘能力を持たない子供が多くいる。 もし、そんな殺害目的の参加者がやってきたらひとたまりもない。 どうする……。取るべきか取らないべきか。 ……逡巡の末、彼は決断した。 「……はい、もしもし」 自分は仮にも元刑事だ。 相手が嘘をつく素振りを見せるようだったら、見抜いてみせる。 ……トグサは自分の今まで培ってきた経験と技術に賭けた。 すると、自分の応答に答えるように向こうからも声がしてきた。 『も、もしもし。えっと、そちらは映画館でしょうか?』 ――男の声だ。 だが、その喋り方からは焦りのような緊張のようなものが汲み取れる。 ここは、相手の素性と居場所を聞き出すのに格好の機会だろう。 「あ、あぁ。確かに映画館だ。そっちはどこからかけてる? で、君は何者だ?」 『えっとレジャービルです。俺は名簿だとキョンって書かれてる参加者です』 レジャービル。 胸ポケットにしまっていた地図を広げ、即座に位置を確認すると、それはホテルから比較的近い位置にあることが分かる。 そして、キョンと言う名前……ハルヒが何度か口にしていたクラスメートの名前だ。ということは高校生か。 ということはここにいる参加者に違いないはずだ。 相手の口振りからして、ここまでの発言に恐らく虚偽はないとトグサは推測する。 『ふむ、キョンか。遅れたが俺はトグサだ。この馬鹿げたゲームには乗っていない。そっちもか?』 電話の向こうでキョンは肯定の意を短く示した。 ……ということは、彼は自分達にとって、協力者になりうる人物だ。 「そうか。――で、君はどうしてここに電話を? 仲間を探す為に虱潰しに各施設に電話をかけてるのか?」 ハルヒと長門という彼の仲間であろう人物がいることはあえてここで伏せておく。 もし先に言ってしまうと、そちらに気を取られかねないからだ。 『いえ、実は――』 すると、キョンは意外なことを口にしだした。 何と、あの次元が今、キョンとともにレジャービルにいるというのだ。 ということは、ハルヒや長門を含めた自分達がここいいることを承知の上で電話をしてきたことになる。 「なるほど。それで、声を聞こうとここに電話を」 『はい。……それで、そのハルヒは……』 「元気にしてるよ。すぐにでも代わってやりたいが――――その前に一つ聞きたいことがある」 仲間との再会を取引道具にはしたくなかったが、彼には電話を代わる前にどうしても聞きたいことがあった。 それがホテルに関する情報。 ホテルから近い場所にいる彼らならば、自分達よりも最新の情報が飛び込んでくるに違いない。 そんな期待を胸にトグサがキョンに尋ねると、彼はトグサですら予想出来なかったことを口にしだした。 『……さっき屋上で見たんですが、ホテルはその……無くなってます。恐らくですが倒壊したみたいです』 「……と、倒壊だと!?」 あの堅牢な鉄筋コンクリート造の高層建築が倒壊した……? ロケットランチャーか高性能爆弾でも使ったのだろうか。 破壊状況を直接見ていないので、彼には推測しかねたが、とにかくホテルはもう彼の知っている姿を保っていないことは分かった。 「……そうか。情報提供ありがとう。それじゃ、ハルヒと長門を呼んでくるから少し待っててくれ」 必要な情報を聞き終えたトグサは、そう言って受話器をデスクの上に置くと、小走りでロビーに戻っていった。 少女達を電話の向こうの彼と再会させる為に。 電話の向こうにキョンがいる。 そんな言葉をトグサから聞くや否や、ハルヒはロビーを飛び出していた。 「有希!! 早く来なさいよ! キョンが電話の向こうにいるのよ!! ――って、何でそんなところで立ち止まるわけ?」 「……ここが事務所。電話はこの中にある」 それだけ言うと、長門はドアを開け、中へと入っていく。 「――!! 待ちなさい有希!! 電話は私が先だからね!!」 後を追いかけるように慌てて部屋に飛び込むハルヒ。 そして、彼女は置かれていた受話器を乱暴に取る。 「キョン! キョンなのよね、あんた!」 『ハルヒ、元気か? 何か怪我したって聞いたが……』 その声は、紛う事なき雑用専用の団員の声だった。 懐かしさのあまり、ハルヒは気持ちが緩むが、ここは団長として威厳を保たなくてはならない。 彼女は毅然とした口調で団員に答える。 「こんなの大した事ないって! それよりもあんたは無事なの?」 本当は今もいきなり走った影響か頭がふらふらするが、ハルヒはそのような事は微塵にも口にしない。 『あぁ。色々あったが問題ないさ。何とか無事に生きてる』 いつも通りの溜息交じりの声。 その声が、今のハルヒには何よりも嬉しかった。 「そう、良かった……」 胸を撫で下ろすように声を出す彼女が、ふと首を動かすとそこには三角帽を被ったままのもう1人の団員が立っていた。 そう、彼女もまた、キョンとの再会を心待ちにしているであろう人物の1人だった。 「――あ、それじゃ有希にも代わるわね!」 ハルヒもそれを悟ったのか、受話器を彼女へと手渡した。 すると、彼女はそれをゆっくりとした動きで顔にあて、言葉を発する。 「……電話を代わった」 『おぅ、久しぶりだな。……で、無事か? 骨折ったっぽいが』 そう尋ねられて、長門は添木で固定された左腕を見やる。 「問題ない。回復には時間を要するが、自然治癒可能なレベル」 『……そうか、それはよか――いや、よくないか。骨折だもんな……』 電話越しのキョンの声のトーンが落ちる。 ……すると、長門はそんな彼の感情を悟ったのか、自ら口を開いて言葉を発した。 「現在は体力の温存に専念している。私も涼宮ハルヒも徐々にだけど回復の傾向にある。……心配しなくていい」 それは、彼の不安を消し去ろうとして発した言葉。 だが彼女自身は、このような誰かを励ますような事を言うような人間ではなかった。 それなのに何故―――― これもまた、彼女の中に生まれたノイズが起こした行動なのかもしれなかった。 そしてそれを聞いてか、キョンの声のトーンは元に戻る。 『……ま、声を聞く分には大丈夫そうだな。――と、そうだ。そっちにアルルゥって子がいるだろ? こっちにその子の知り合いのトウカさんっていう人がいるんだ。話をさせてやりたいから代わってくれないか?』 アルルゥ――アルちゃんと呼ばれている少女。 トウカ――アルルゥが何度か口にしていた名前。 名簿においても、二人の名前は極めて近い場所に記されていた。 長門はそれを瞬時に把握すると、意味が無いと分かっていながら受話器を持って頷く。 「分かった…………」 それからが少し大変だった。 長門から話を聞いたハルヒは慌しくロビーに戻り、熟睡していたアルルゥを無理矢理起こしだした。 そして、その騒ぎで先に起きたヤマトが文句を言うが、ハルヒに一蹴され、それに寝起きでやや苛立っていたヤマトが反論した。 ヤマトの反論にハルヒは更にヒートアップし、二人が険悪なムードになっていたところで、トグサが仲介に入る。 ……と、その頃になってようやくアルルゥが目を覚まし、ハルヒは急いで彼女を抱えて事務所へと戻っていったのだ。 ヤマトやトグサにとっては、ハルヒがまさに台風のように映って見えた。 「……な、何なんだよ、あの人は……」 「ま、元気でいるなら何よりなんだけどな……」 ちなみに、この一連の騒動の中、長門はずっと事務所で待機していた。 そして、そんな事務所にハルヒは再度飛び込んでくる。 「アルちゃん! ほら、電話よ! トウカって人が待ってるわ!」 「んー? でんわ? トウカおねーちゃんいない……」 「あぁっ、もう! だから電話の向こうにいるんだって! ほら!」 もどかしくなったのか、ハルヒはアルルゥの顔に受話器を押し当てる。 すると、タイミングよく受話器から声がしてきた。 『ア、アルルゥ殿!? アルルゥ殿でございますか!?』 「……! トウカおねーちゃんの声!」 押し当てられた受話器から聞こえてきた声に、アルルゥは驚くと同時に嬉しそうな声を出す。 そして、ハルヒから受話器を受け取る。 『ア、アルルゥ殿! 無事でしたか!? 某……某はアルルゥ殿が無事かどうかばかりが気になっていた次第で……』 「ん! アルルゥ平気! ハルヒおねーちゃん達と一緒だから平気!」 『そうですか。それは何よりでございます……。某、今しばらくそちらにはいけませぬが、どうかこれからもご無事で――――』 トウカの長ったらしい言葉をアルルゥは理解しているのかしていないのか、うんうんと相槌を打ってゆく。 そして、その会話はしばらく続いた後…… 「――ん!」 アルルゥは受話器をハルヒに差し出した。 「……もう、いいのね」 「ん! おねーちゃん、ありがとう」 「私は別に何もしてないわよ。ま、礼を言うなら馬鹿キョンにでも会った時にしなさい」 ハルヒはやや顔を紅くしながらも、受話器を受け取る。 「……もしもし? キョン? 今電話に出てるのはキョンなの?」 『…………』 返事はない。 すると息を大きく吸って、今一度彼女は受話器に叫ぶ。 「こぅら! キョン! 返事しなさいってばキョン!!!」 『…………聞こえてるさ。……だから、んな大声はよせ』 今度こそ通じたようだ。 「そんなことよりも! ――で、あんたはいつこっちに来れるの? 一時間後? それとも二時間後? トグサさんに頼んで、出来るだけ長くここで待てるように頼むからトウカさんって人と一緒に早く――」 居場所が分かったからには、こっちに来るのだろう。 そんな期待を胸に、ハルヒは尋ねるが、その答えはその期待を打ち砕く。 『悪い。俺達はまだそっちに行けそうにない』 「……え? それってどういう……」 『こっちでの用事が残ってるんだ。それが終わるまではそっちには行けないって事だ』 用事……それは団長命令よりも大事なものなのか。 この涼宮ハルヒと合流する事よりも重要な用事なんてあるのだろうか……ハルヒは胸を締め付けられるとともに、顔をかぁっと熱くした。 「用事って……そんな! 今度はいつ声聞けるか分からないのよ! それなのにどうし――あ、有希、何してるの! 返してってば!」 まだ言いたいことはあった。 だが、長門が彼女から受話器を奪ったことにより、その機会は失われることとなる。 「電話を代わった。……こちらにまだ来れないのは決定事項?」 『ん? まぁ、まだ時間がかかりそうだな』 「……そう」 長門はハルヒと異なり、いつも通りに受け答えする。 そして、長門はその後キョンと自分達が移動する場合の移動先の連絡法について説明した。 『……分かった。それじゃ、そろそろ切るぞ』 「……そう」 『ハルヒ達の事、頼んだぞ』 涼宮ハルヒの保護は、長門有希にとっては最優先すべき行為。 言われなくてもそうするつもりだ。 だが、ここであえて彼女はいつもより語気を強めて、こう言った。 「……任せて」 そして、キョンとの電話は切れた。 すると、それと同時にハルヒが長門の前に立つ。 「……ねぇ、あんたはキョンがこっちに来れなくても構わないの?」 その顔は、明らかに怒気を含んでいた。 無理もないだろう。彼女は会話の途中に受話器を奪われたのだから。 だが、長門はあくまで冷静に答える。 「……用事があるのだから仕方ない。……向こうには向こうの都合がある」 「で、でも! 今度はいつ会えるか分からないのよ!? それなのに会える機会を棒に振るなんて……!」 「……あなたは彼を信じられないの? 彼とまた会えるという可能性はまだ閉ざされたわけではない」 長門は珍しくハルヒに反論するように立ちはだかる。 そしてハルヒは、そんな彼女の言葉に戸惑う。 「そ、そうだけど、あいつらだっていつ誰に襲われるか分からないし……」 「大丈夫! トウカおねーちゃん強い! 敵が来ても絶対やっつけてくれる!」 そこでアルルゥが自信満々にハルヒに言う。 ……そう、キョンの傍にはアルルゥ曰く、剣術使いのトウカという女性がいる。 「次元大介……彼も負傷しているものの、戦力としては大きいと思われる」 「次元……」 ルパンの相棒で早撃ちの名手……そんな男もキョンの傍にいる。 「信じて……。彼を、彼らの仲間を」 「信じる……。…………そうね、今更何を言っても意味が無いか。今はキョン達を信じる方が建設的ね!」 その時、彼女はふとルパンの無事を信じた自分を思い出す。 ……だが、すぐに彼女はその回想を拭い去る。 今度こそは……今度こそは信じた事が実現して欲しい――――ハルヒはそう願うのであった。 「……お、丁度いいところに」 女性陣3名が休憩所に戻ってくると、ソファに座っていたトグサとヤマトは立ち上がった。 ハルヒは何事かとトグサに問う。 すると、彼女は平べったい円形の缶を手渡される。 「……映画のフィルム缶? 中身は…………って、タイトル書かれてないじゃない。これ何のフィルムなの?」 「見てもないのに分かるわけないだろ」 ヤマトがやや仏頂面で答える。 さきほどの口論の件をまだ引きずっているようだ。 「ふん、あんたには聞いてないわよ。……で、中身が分からないフィルムなんか持ってどうしてるの?」 「だから、今からその中身を確認するんだ。ここの映写機を使ってね」 「……こんな非常時に映画鑑賞? 随分暢気な提案ね」 「ま、そう言わないでくれ。ラベルも貼られずに置かれてたんだ。何か脱出の手がかりが隠れてるのかもしれない」 苦笑気味にトグサは笑う。 「これで何も意味が無かったら笑うしかないだろうがな。……だが今まで色々あったんだ、まとまった休憩時間を取るのに最適だろう」 「……適度な休憩は今後の活動を良好にする」 「……そういうことだ。――って訳だから、俺は映写機にこれを入れてくる。観客席で待っていて欲しい」 と、トグサはハルヒ達に背を向け、映写室のある方へと歩いてゆく。 ――が、それをハルヒが呼び止める。 「……あんたはどうするの? 映写室にずっといるの?」 「君達を観客席に置き去りに出来るわけないだろう。フィルムをセットし終えたら、そっちに急いでいくよ。 ……あ、そうそう、中に入ったら正面入口以外のドアをロックしておいてくれ。 誰かが来た時、観客席への侵入ルートを一ヶ所にしておいた方がいいから」 「分かったわ。……ってことであんた達頼んだわよ」 「いや、あんたもやってくれよ……」 ヤマトは溜息をつきつつ、ハルヒの後をついていく。 そして観客席内。 正面入口のドア一枚を除いてドアロックを済ませたハルヒ達は席に座る。 「さぁて、どんな映画なのかしらねぇ」 「……うー、あれこわかった……」 ハルヒの横に座るアルルゥは、一つ前の席の背もたれに顔を隠しながら前を見る。 「大丈夫よ、アルちゃん。すぐに慣れるわ!」 何に慣れるんだよ……とヤマトは心の中でツッコミを入れつつ、何も映されていないスクリーンを見ていた。 ここに来るまでの間に本当に色々あった。 自称ヒーローの豚に出会い大人の階段を登ったり、女の子を撥ねてしまったり、変な女に指図されたり、金髪の少女に襲われたり……。 だが、そんな中で常に行動を供にしていた豚は今は自分の横にいない。 あの後、どこに行ってしまったのだろうか……。 ヤマトは彼の無事を祈り、そして信じつつ、目の前を見続ける。 ――そして上映開始のブザーが鳴り響く。 【B-4・映画館/1日目・夜中】 【新生SOS団】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気/SOS団団員特別認定 [装備]:S W M19(残弾1/6発)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本 [道具]:支給品一式(食料-2)/警察手帳(元々持参していた物) 暗視ゴーグル(望遠機能付き)/技術手袋(使用回数:残り17回)@ドラえもん RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1) 首輪の情報等が書かれたメモ2枚 [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:上映中の第三者の侵入を警戒する。 2:その後で今後の方針を決める。 3:全員に休憩を取らせる。 4:情報および協力者の収集、情報端末の入手。 5:タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。 [備考] 風・次元と探している参加者について情報交換しました。 情報交換により佐々木小次郎という名の侍を危険人物と認識しました。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定 疲労と眠気/右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済) [装備]:クロスボウ/スコップ [道具]:支給品一式(食料-2)/ハーモニカ/デジヴァイス@デジモンアドベンチャー/真紅のベヘリット@ベルセルク クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回)@ドラえもん/ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし) [思考] 基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 1:ぶりぶりざえもんと合流する 2:八神太一、長門有希の友人との合流する [備考] ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:疲労と眠気/頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物) 左上腕に負傷(ほぼ完治)/心の整理はほぼ完了 [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料-2)/着せ替えカメラ(使用回数:残り18回)@ドラえもん インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考] 基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。 1:映画鑑賞後、今後の方針を考える。 2:キョンと合流したい [備考] 腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:思考に軽いノイズ/左腕骨折(添え木による処置が施されている)/SOS団正規団員 [装備]:ハルヒデザインの魔女服(映画撮影時のもの) [道具]:支給品一式(食料-2)/タヌ機(1回使用可能) @ドラえもん [思考] 基本:涼宮ハルヒの安全を最優先し、状況からの脱出を模索。 1:涼宮ハルヒを休ませる。 2:小次郎に目を付けられないように注意する 3:キョンとの合流に期待 [備考] 癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で 骨折は完治すると思われます。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:疲労と眠気/右肩・左足に打撲(ほぼ完治)/SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの/ハルヒデザインのメイド服 [道具]:無し [思考] 基本:ハルヒ、トグサ達と一緒に行動。エルルゥに会いたい。 1:“えいが”怖い…… 2:眠たい…… [共通思考]:映画館でフィルムの中身を確認しつつ、休息をとる。佐々木小次郎を最優先に警戒。 [共同アイテム] :73式小型トラック(※映画館脇の路地に停めてあります。キーは刺さったまま) おにぎり弁当のゴミ(※トラックの後部座席に放置されています) マウンテンバイク(※トラックの荷台に残されたままです) 時系列順で読む Back 以心電信 Next 転んだり迷ったりするけれど 投下順で読む Back 以心電信 Next 転んだり迷ったりするけれど 203 【薄暗い劇場の中で】 トグサ 222 【団員の家出/映画監督の憤慨】 203 【薄暗い劇場の中で】 石田ヤマト 222 【団員の家出/映画監督の憤慨】 203 【薄暗い劇場の中で】 涼宮ハルヒ 222 【団員の家出/映画監督の憤慨】 203 【薄暗い劇場の中で】 長門有希 222 【団員の家出/映画監督の憤慨】 203 【薄暗い劇場の中で】 アルルゥ 222 【団員の家出/映画監督の憤慨】
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/. ヘ .ヽ. /. ; \ .', /. .} ヘ .ヽ .',. '. /. /. } } 八 { いハ .} {. / ,'. /. { / | ハ|-‐\_| ト、 i. { ji. {. ハ |', / j/´| j.. ''´ /| | V} i . , {{ .', 厂_j」ハ / ノ jノ-─< リ. 八 } } 、. '八 .\ |< ノ∨ i /. / ノ / 八 、 \ ;ハ | / / i __/.. } / , '. ハ \ / ∧〈 /. 彡 ノ 厶ィ゙. リ } { ∧'. {/| 厂ンイ | / V{ { 、 |./ / ノハ ,′ ヽ ト、 {\ 〃 / | { ′ \{ ヽ \ / _」从 { { . 丶、 '′ _,.=≦三三三ハ{ ` -イ ,ィ≦三三三三三三ニ、 |/ 三三三三三三三三ニ、 /三三三三三三三三三三ニ、 _,厶-‐=ニ二三三三≧三三三ニ、 自衛隊駐屯基地に物資を調達に来た時唐突の足音に警戒し調達班が隠れ、足音の主、吾妻はトグサと相対した。 やましい所属なのは確かで公安のトグサと相容れず、会話中に意を決して介入する瞬間トグサに奇襲し、 アミティエを殺そうとする。最低街の何処かが住処の一つなのだろう。遭遇、拠点に来なければ良いが… 寺に所属しているのが解った目的理由は解らないが、寺から離れる事はできない様子。戦闘能力以外にも洞察力に長ける 初登場2スレ9846 出典PHANTOM OF INFERNO
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I,ROBOT ◆FbVNUaeKtI 「なんだ、あれは?」 廊下の窓際で、トグサは誰に言うとも無しに小さく呟いた。 彼の視線の先にあるのはただ一つ。会場の北方に突如として現れた巨大な城だった。 「まさか、あれがギガゾンビのアジトなのか?」 言葉と共に脳裏を過ぎるのは、ゲイン・ビジョウのもたらした情報。 ゲインの言っていた亜空間破壊装置に、何らかのトラブルが起こったという事なのだろうか? 何が起こったのかは解らなかったが、事がこちらに有利に動いている事に間違いは無い。 (もっとも、あちらさんも何らかの対策を講じているとは思うが……) などとトグサが考えている時だった。慌しい足音と共に、廊下の向こうからロックが現れる。 「トグサさん、敵です!」 その言葉に表情を引き締め頷きながら、ロックと共にトグサは駆け出した。 「あの女騎士じゃない?」 病院の裏口へと向け足を進めながら、トグサはロックから状況の説明を受けていた。 「ええ、黒い甲冑を身に着けた男でした……」 それは現在生存している14人以外の人物。 突然、出現した扉から姿を現した15人目の男は、問答無用でこちらに襲い掛かってきたらしい。 ロックが病院内に駆け込む際には凛とフェイトの二人が相手をしていたらしいが、 こちらを探すのに手間取ったため、今はどういう状況になっているか解らないというのが現状だった。 よもやという考えを頭を振って追い払い、廊下を駆けながらトグサは尋ねる。 「ゲインは? 会議を行った部屋には居なかったのか?」 「ええ、俺が覗いた時には姿はありませんでした」 横を走るロックの返答に、トグサはそのままの速度を維持しながら思案する。 (突然現れた主催者の城に、正体不明の敵。そして、姿を消したゲイン・ビジョウ……問題だけが積み重なるな) そうしているうちに、二人は放送前に会議をしていた部屋の近くまで来ていた。 「……少しだけ、あの部屋を覗いて行こう。もしかすると、ゲインも戻って来ているかもしれないしな」 トグサのその提案にロックは無言で首肯する。 そして、扉の側に来ると同時にそれを乱暴に開け放ち……トグサはその動きを止めた。 「トグサさん……?」 「その甲冑男が出てきたドアなんだが……もしかしてピンク色じゃなかったか?」 腰に差していた銃を抜き、前方へと銃口を向けながらトグサは問う。 彼の質問に驚きながらも、室内を覗き込んだロックの目に映った物、 それは部屋の中に突然現れた桃色の扉と、そこから出てくる幼稚園児ほどの大きさの土偶だった。 「ロック、お前はゲインを探しながらレントゲン室に向かってくれ……これはギガゾンビの攻撃だ!」 その言葉と同時、トグサの構えたS W M19から銃弾が放たれた。 ☆☆☆ 「くっ、しつ……こい、奴等……め!」 銃弾による破壊により、異常を起こした言語機能。そして、移動しようとすると飛来する弾丸。 その状況に苛立ちを覚えながら、ユービックは敵の攻撃を防ぐべく、ベッドの影に隠れていた。 どこでもドアを潜り抜けた瞬間に遭遇した二人組。 彼等との遭遇戦により、ユービックは完全にその場に縛り付けられていた。 (こんな事をしている時間すら惜しいと言うのに……!) こうしている間にも、自らの王であるグリフィスの生命は削られていっているのだ。 しかし、初弾で破壊された自らの体が、そして移動しようとする度に響く銃撃音がそれを阻んでいる。 あまりの苛立ちに、ユービックはこのまま反撃を行いたいという衝動に駆られていた。 (どうする? 相手はロックとトグサの二人……いや、今はトグサ一人か。奴を沈黙させれば、あるいは……) しばしの思案の後、ユービックは鼻で笑う。 (愚問だな……この体でどう戦う? それに、協力を求めるべき相手を攻撃してどうする?) そうとなれば、彼が取れる行動はおのずと狭まってくる。相手を説得するか、この部屋から撤退するかだ。 説得の可能性は早々に捨てた。壊れてしまった言語機能が、目的を阻害するからだ。 手元のノートパソコンを使用しての筆談もこの状況では無謀であったし、何よりそんな事をする時間も惜しかった。 では撤退はどうか。幸い、どこでもドアはまだ近くに出現したままだ。 あれを使用すれば、病院の別の区画へと移動する事ができる。 ただし、ドアを開けるためには飛来する銃弾を何とかしなければならないが。 (リロード時を狙うか? いや、そもそもタイミングが掴めない。 もし成功したとしても、ドアの前へ移動して扉を開くのはいいが、中に飛び込むまでに撃たれるのがオチか) 目的遂行のためには相手に虚を作らなければならない。それも、できるだけ相手に傷害を与えない方法でだ。 (さて、どうする?) 周囲に視線を巡らせながら、ユービックは考える。悩む時間は僅かしかない。 彼が思案している間にも、彼の主に命の危機が迫っているのだ。 (いや……それよりも、どこでもドアが流れ弾で破壊されるのが先か) ファンシーな色の扉に穿たれた弾痕を見やりながら、ユービックは解決策を模索する。 ……やがて、彼の視線は近くにあるテーブルに――正確にはそれに乗せられた物体に合わせられた。 (あれを使えば……いや、分が悪すぎるか?) 少しの躊躇。しかし、彼は自らに許された時間は僅かであることを思い出す。 「分の……悪い、賭け……は嫌い、じゃ、ない」 そう、小さく呟きながら、ユービックは少しでも身を軽くするため手にしていたパソコンを床に置いた。 (すまん、コンラッド。お前の形見は此処に置いていく。だが、後で必ず……必ず回収する。だから今は、許せ) そして、ユービックはベッドの陰から駆け出すと、飛来する弾丸を横目に目前の机上に存在する“銀色の円環”に向けて電撃を放った。 ☆☆☆ 「ねえ、今、何か聞こえなかった?」 その突然の言葉に、座り込んで作業をしていたゲイナーはそれを中断して顔を上げた。 「何か言いました?」 「気のせいかもしれないけど……今、爆発みたいな音が聞こえた気がしたんだ」 自信が無さそうにそう言うドラえもんに、そうですかと返事を返す。 「作業に集中していて気づきませんでしたけど……もし本当に爆発音なら、何かがあったのかも知れませんね」 そう言いながら立ち上がるゲイナーを押し留めて、ドラえもんはこう言った。 「ぼくが様子を見てくるよ。君はここで作業の続きをしてて」 その言葉に困惑の表情を浮かべながらも、ゲイナーは渋々と頷く。 彼の様子に笑顔で大丈夫と頷きながら、ドラえもんはレントゲン室から出て行った。 「早かったですね」 それから数分もしないうちに、再びレントゲン室の扉が開かれ、ゲイナーは手元から目線を移す。 しかし、そこに立っていたのは青く丸いフォルムの子守ロボットではなく、白いワイシャツに身を包んだ青年だった。 「無事だったか、ゲイナー……ゲインやドラえもんは居ないのか?」 「ゲインは暫く見かけてませんけど……ドラえもんはさっき音がしたとかで、外に様子を見に行きましたよ」 ゲイナーの答えにロックは苦虫を噛み潰したような顔をする。 (多分、俺と入れ違いでさっきの爆発音――トグサさんか凛達の下へ行ったのか?) 「何かあったんですか?」 ゲイナーの問いに「敵襲だ! 君はここに居ろ!」と答えた後、ロックは再びレントゲン室から飛び出した。 (どっちだ……? いったいどっちに行ったんだ、ドラえもん!) ☆☆☆ 「逃げられたか」 様々な物品が乗せられたテーブルの横で、トグサは小さく呟いた。 あの時、ツチダマが陰から飛び出すと同時の攻撃で、机上の首輪が爆発したのだ。 爆発の威力は小さかったものの、その様子に気を取られている隙にすでに桃色の扉は姿を消していた。 その場に残されたのは、壁に刻まれた無数の弾痕と爆発の影響で散乱した何枚かの紙。 そして、床の上に放置された壊れかけのノートパソコンだった。 (これは……奴等の物か?) そのノートパソコンの内容に、少し興味を引かれたものの…… 「今はそれ所じゃないな」 トグサは気を取り直したように呟き、徐に踵を返し、その部屋から飛び出した。 (……奴等の目的はおそらく戦力の分断だろう……それなら、次に狙うのはゲイナー達か) 簡潔にそう結論付けると、トグサはその足をレントゲン室へと向ける。 (凛達には悪いが、ゲインが見つかるまで二人だけで頑張って貰うしかないな) ☆☆☆ 「あの音は、いったい何処から聞こえたんだろう?」 疑問の言葉を呟きながら、青い猫型ロボットが廊下を歩く。 様子を窺おうと出てきたのはいいものの、爆発音の源が何処だったのかも解らず、ドラえもんは途方にくれていた。 (……外かな?) そう考えながら耳を澄ます。風に混じって聞こえるのは微かな音。 「やっぱり外みたいだ……まさか、誰かが戦ってるのか?」 表から聞こえた僅かばかりの音。おそらくは戦闘音であろうそれに大きく頷くと、 彼は表へ出るべく病院の出入り口へと足を向け……突如として、彼の歩みが止まる。 「あれは……どこでもドア!?」 廊下に現れた見覚えのある扉――彼も所有していた秘密道具に、ドラえもんは慌てて駆け寄った。 と、不意にその扉が開き、中から見覚えのある姿が現れる。 「お前はギガゾンビの手下の……!」 「誰、かと、思えば……青、ダヌキか」 目前に現れた土人形の言葉に……しかし、ドラえもんはいつもの様に激怒はしない。 ただ静かな、深い深い怒りを込めた瞳で目の前のロボットを睨み付けていた。 体の一部が破壊されたツチダマは、暫く思案するように瞳の光を明滅させていたが、やがて意を決したように言った。 「勘、違い……するな。俺は、敵……じゃ、ない。ギガ、ゾンビを……裏切った」 「!?」 驚愕に目を見開くドラえもんに、ツチダマはたどたどしく……しかし簡潔に状況を説明していく。 自分達がギガゾンビに対し、反乱を起こした経緯。亜空間破壊装置と遠隔爆破装置が破壊された事。 そして、自らの新たなる主がギガゾンビに操られ、ドラえもんの仲間達を襲っている事。 「頼、む……俺を、グリフィス、様……の下へ……あの、方を、お止め……しな、ければ」 ツチダマの願いに、ドラえもんは少し考えた後……ツチダマの体を両手で抱きかかえ、そのまま外へと向けて走り出した。 「俺、を……信じて、くれるのか?」 「そんなの、ぼくにも解らないし、ギガゾンビや君達の事は許せないよ。 けど、君達にだって、ぼくと同じ、心はあるんだって……そう思ったから」 ドラえもんのその言葉に、瞳を数回点滅させた後。ツチダマはこう言った。 「俺の、名は、ユービック、だ……ドラえもん」 「……うん。行くよ、ユービック!」 【D-3/病院 会議を行った部屋付近の廊下/2日目 午後】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可 [装備]:S W M19(残弾3/6発、予備弾薬×14発) [道具]:支給品一式、警察手帳、タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書 [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護 1:レントゲン室へ行き、ゲイナー達の安全を確保 2:ゲインを見つけたら、レントゲン室を任せて凛達の援護に行く 3:ツチダマの落としていった、ノートパソコンが気になる 4:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る 5:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う 6:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む [備考] ※ギガゾンビの城を確認しました ※甲冑姿の男(グリフィス)は主催者側の人間だと考えています ※会議を行った部屋で鶴屋さんの首輪が爆発しました この爆発によりテーブルが少し破損、更に置いてあったエクソダス計画書とゲインの置手紙が床に散らばりました また、戦闘及び爆発でテーブルの上にあった道具類が何らかの影響を受けている可能性があります ※会議を行った部屋にコンラッドのノートパソコン(壊れかけ)が放置されています 【D-3/病院 レントゲン室/2日目 午後】 【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】 [状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、不安と困惑 [装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ [道具]:支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳 クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書 病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数 [思考] 基本:バトルロワイアルからの脱出 1:ドラえもん達が心配 2:首輪解除機の作成 3:エクソダス計画に対し自分のできることをする 4:カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す 5:グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る [備考] ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです ※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています ※基礎的な工学知識を得ました ※ゲイナーの立てた首輪に関する仮説は『Can you feel my soul』を参考の事 【D-3/病院 レントゲン室前廊下/2日目 午後】 【ロック@BLACK LAGOON】 [状態]:眠気と疲労、鼻を骨折しました(手当て済み) [装備]:マイクロ補聴器@ドラえもん [道具]:支給品一式、現金数千円、エクソダス計画書 [思考] 基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する 1:ドラえもんを探してレントゲン室に連れ戻す(会議を行った部屋か裏口に向かう) 2:ゲインを探してレントゲン室に連れて来る 3:凛達やトグサが心配 4:ドラえもんにディスクをキョンへと譲ってもらえるように頼む 5:キョン達に会えたら遠坂凛に対する誤解を解く 6:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える [備考] ※しんのすけに両親が死んだことは伏せておきます ※顔写真付き名簿に一通り目を通しています ※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています ※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました ※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました ※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります ※甲冑姿の男(グリフィス)は主催者側の人間だと考えています ※グリフィスの顔は甲冑姿だったため、確認できていません 【D-3/病院廊下/2日目 午後】 【ドラえもん@ドラえもん】 [状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感 [装備]:虎竹刀 [道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD [思考] 基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする 1:ユービックを戦闘の起こっている場所へ連れて行く 2:エクソダス計画に対し自分のできることをする 3:ゲイナーを温かい目で見守る [備考] ※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました ※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます ※ギガゾンビに対する反乱と、その結末までを簡潔に聞きました(なので、所々正確ではない可能性があります) ※ユービックの話を完全には信じていません 【住職ダマB(ユービック)】 [状態]:中程度のダメージ、言語機能に障害 [道具]:なし [思考・状況] 基本:グリフィスを止める。そのためならば、参加者との協力も惜しまない 1:ドラえもんと共に戦闘が起こっている場所へ行き、グリフィスを止める 2:コンラッドのパソコンを回収したい [備考] ※ギガゾンビの言葉(ツチダマはいつでも爆破できる)がハッタリだと気づいていません ※病院内廊下にどこでもドアが放置されています 時系列順に読む Back ウソのない世界Next タイプ:ワイルド(前編) 投下順に読む Back ウソのない世界Next タイプ:ワイルド(前編) 278 Can you feel my soul トグサ 285 LIVE THROUGH(前編) 278 Can you feel my soul ゲイナー・サンガ 285 LIVE THROUGH(前編) 279 SUPER GENERATION(後編) ロック 285 LIVE THROUGH(前編) 278 Can you feel my soul ドラえもん 285 LIVE THROUGH(前編)
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「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」◆LXe12sNRSs 涼宮ハルヒはいつだって突拍子もないことを言う。 急に映画を作ろうだとか、急に野球大会に参加しようだとか、急に合宿に行こうだとか。 その被害を受けてきたのは、専ら涼宮ハルヒが団長を務めるSOS団の面々であったのだが。 このバトルロワイアル内では、かの有名な大怪盗、アルセーヌ・ルパンの三代目が被害者となっていた。 「図書館に行きましょう!」 市街地に足を踏み入れ、他の参加者と接触するため探索を始めた頃。 ずんずんと先を進んでいた涼宮ハルヒは、後ろをついて来るルパンとアルルゥにそう提案した。 「図書館ねぇ。悪いチョイスじゃあないと思うが、しかしまたなんで?お嬢ちゃんの仲間を捜すんなら、人の集まりやすそうな駅周辺とかの方がいいんじゃないか?」 意図の分からない提案に答えを求めるべく、ルパンが団長閣下に質問する。 地図に明確な居場所が明記されている以上、それなりに大きな施設であると推測できる図書館。 しかし図書館に向かうには、川を跨いでそこそこ歩かなければいけない必要があり、あまり効率的な判断とは言えない。 それだったら、図書館よりもよっぽど近い駅やホテルに向かった方が確実のようにも思える。 「有希はね、本が好きなのよ」 「は?」 ハルヒが何の脈絡もなしに出した名前に、ルパンは疑問符を浮かべた。 「あの子、普段SOS団の部室でも、暇さえあれば本を読んでるのよ。文庫だったりハードカバーだったり、小説だったり難しい外国版だったりもするのよ」 「はぁ……つまり、その有希って子はSOS団の仲間で、本の虫ってわけか。で、だからってなんで図書館を目指すんだい?」 「鈍いわねぇ~。あれだけ本好きの有希が、これだけハッキリと『図書館』って明記されている場所に向かわないはずないでしょ!?」 自信満々に語るハルヒを前に、ルパンは思わず脱力した。 「あたしずっと考えてたのよね。SOS団のみんななら、いったい何処に向かうだろうって。 で、地図を見たらピンときたってわけ。キョンやみくるちゃんはともかく、有希なら絶対に図書館に行くはずよ! さすがはあたし。団員の行動心理を的確に判断し、居場所を特定する……う~ん!今から有希との合流が楽しみになってきたわ!」 キラキラと目を輝かせるハルヒの前に、ルパンは最早、返す言葉もなかった。 そもそも長門有希なる人物は、このような非常事態でも本を読みに行くような肝の据わった人間だというのだろうか。 いや、それは単なる危機感のない馬鹿か、もしくはかなりの天然か……。 想像できない人物像を頭の中で有耶無耶にしたまま、ルパンはやがて考えることをやめた。 (ま……仲間の性格から行き先を特定するって手段は面白いと思うがね……。俺の知り合いならどこへ向かうかな? 銭形のとっつぁんなら警察署、不二子なら宝石店、次元ならガンショップで、五ェ門なら鍛冶屋かなんかか? どれもこれもありそうにねぇ施設だなぁ……) ハルヒに習って、仲間の向かいそうな場所を考えてみる。 が、出てきた結果はどれもありえないものばかり……いくら不二子でも、この非常時に宝石を手に入れて喜んだりはしないだろう。 次元や五ェ門が武器を求めて各所に向かうという可能性はありそうだが、このゲーム内で銃や刀を現地調達できるとは思いがたい。 銭形に至っては、特に目的地も考えず、ただひたすらにルパンを捜している可能性すらあり得る。 考えるだけ無駄か。そう判断したルパンは、思考を中断して、先を行くハルヒとアルルゥに目をやった。 そこで、ルパンは明らかな視覚の変動に頭を振るわせた。 目をごしごしと擦り、もう一度目をやる。 間違いない。いやしかしなんで。 あまりにも唐突すぎること故、判断が追いつかない。 しかしこのままではただ混乱を広げるだけなので、現在ルパンの視覚が捉えている内容を率直に表現しよう。 アルルゥが、メイド服を着ていた。 「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~いい! すごいわアルちゃん!素晴らしすぎる着こなし……も、もう萌え萌えだわっ! 世の中にこんな生体兵器並みの萌え生物がいたなんて……ああ、もう!みくるちゃんのポジションが危うくなっちゃうじゃない!」 元着ていたアイヌの民族衣装っぽいのはどこに消えたのか。 アルルゥはやや派手なフリフリメイド服に身を包み、つぶらな瞳を浮かべてはハルヒにムギュっとされていた。 「な、なぁ嬢ちゃん……いったいこのメイド服は、どこから調達したんだい?」 「え?ああ、これよこれ」 困惑するルパンに、興奮気味のハルヒはずいっと、一台のカメラを差し出した。 奇抜なデザインの珍妙なカメラ……もしかしなくても、ハルヒの支給品だろう。刀以外にもあったのか。 どれどれっ、とルパンはカメラ片手に説明書を眺めてみる。そこには、こう書かれていた。 『着せ替えカメラ 気に入ったデザインの服を着せたい人にすぐ着せられるカメラ。 デザイン画をカメラに入れ、ファインダーを覗きながら位置を合わせ、シャッターを切る。 すると、分子分解装置が服を作っている分子をバラバラにし、定着装置(分子再合成装置)がそれを組み立て、別の服にする。 絵や写真を入れないでシャッターを押すと、衣服を分解するだけで再構成しないので、裸になってしまう』 摩訶不思議、の五文字では済ませられない超科学の産物が、そこにあった。 (なるほどなぁ……原理はちぃーっとも分からないが、これを使えば自分がデザインしたとおりの衣装に着せ替えさせられるわけか。 団長様はこれを使って、尻尾の嬢ちゃんをメイド服に着替えさせたと、そういうわけね。 しかしこれ、何も入れないでシャッターを切ると裸になっちまうのか……ウッシシシシシおっと) ルパンはやや引きつった(不気味な)微笑をしながら、ハルヒに着せ替えカメラを返却した。 その際――着せ替えカメラを取り出した際に取りこぼしたのだろう――ハルヒの足元に、一挺の銃が転がっていることに気づいた。 「お嬢ちゃん、これは?」 「ああ、それ?もう一個の支給品よ」 さらっと流すハルヒ。というか、今の今までこんなものを隠し持っていたのか。 「おいおい、どうでもいいって風に言うが、護身用だったら刀よりもこっちの銃の方がいいんじゃないか?」 「いやよ。だってあたし銃なんて撃ったことないし、万が一狙いが逸れでもしたら、アルちゃんも危険になっちゃうじゃない。 それに…………運悪く急所に当たって、相手を殺しちゃうのも嫌だしね」 ああ、なんだ。やや小さくなったハルヒの声を聞いて、ルパンはある種の安堵を取り戻した。 涼宮ハルヒ。これまでの動向は、未だ現実に慣れていないようにも思えたが……心の中では、これが殺し合いのゲームであるとちゃんと自覚しているらしい。 「なんなら、それはあんたにあげるわよ。あんたも一応SOS団の団員なわけだし、ここらへんで団長であるあたしのご好意に甘えても、罰は当たらないはずよ」 「そりゃどーも」 ルパンは丁重にお辞儀をし、寛大な団長様に感謝の意を表す。 ルパンの戦闘スタイルは二挺拳銃というガラではないが、マテバの残弾が心許なかった現状、嬉しい報酬ではある。 「そんなことよりも!あたしは今すぐ、この萌え萌えアルちゃんを写真に収めなければ気がすまないわ! どこかに写真屋はないかしら?この際コンビニや売店でもいいわ。インスタントカメラくらいは売ってるでしょ」 アルルゥの可愛さに暴走気味のハルヒは、一人先走って市街地の奥深くへと進んでいった。 追わなければなるまい。SOS団の特別団員として、彼女の気まぐれにとことんまで付き合うことこそが、ルパンの最優先すべき仕事なのだ。 万が一彼女を不機嫌にして、閉鎖空間でも発生しようものなら――この場に古泉一樹がいたら、そんな心配をしたことだろう。 幸いにも、このゲーム内で閉鎖空間が発生する可能性は……『おそらく』ゼロなのだが。 程なくして。一行は人気のない公園へと移動する。 小さな町の写真店から二台、インスタントカメラをガメてきたハルヒが、アルルゥを被写体にパシャパシャとシャッターを切っていた。 「アルちゃん、そこでクルッとターン!」 「きゃっほう♪」 グラビアアイドルを撮影するカメラマンのような機敏さで、アルルゥを激写しまくるハルヒ。 本当は高画質のデジタルカメラが欲しかったところだが、あまり贅沢は言っていられない。 アルルゥもアルルゥで、楽しそうな表情をしている。いきなりこんな殺し合いに連れて来られたというのに、タフな女の子たちだ。 東から昇った太陽が照明となり、フラッシュ要らずでシャッター音が飛び交う。 涼宮ハルヒの撮影が終わるのは、いつになることやら。ルパンは欠伸をしながら、犬耳メイド撮影会を眺めていた。 「ねぇ、ルパン」 「ん?」 ハルヒに初めて名前で呼ばれ、ルパンは一瞬面食らったような顔をしてしまう。 「この写真、インスタントだから専門の人がいてくれないと現像できないのよね。 あたしはSOS団の更なる躍進のためにも、アルちゃんの写真を絶対ホームページにアップしなければならない。 だから……さっさと元の世界に帰るわよ」 「……ああ、そのためのSOS団団長様、だろ?」 ルパンは思った。 涼宮ハルヒは確かにハチャメチャだが、根は仲間思いの優しい娘だ。 天下の大泥棒、ルパン三世が惚れ込み、守るだけの価値は十分にある。 「ああ、それにしても!ぜひともこの子とみくるちゃんのダブルメイドで、ツーショットを撮ってみたいものだわっ! きっと萌え萌えすぎて失神者続出、ホームページのヒット数も鰻上り間違いなしよ! ああもう、こんな時にみくるちゃんは、いったいどこで何をしてるのよぉ~!!」 ◇ ◇ ◇ 団長が新戦力のポテンシャルに悶えていることなど露知らず。 SOS団の現役マスコットである朝比奈みくるは、メイド衣装のまま駅前の喫茶店に入っていた。 もちろん、先刻知り合ったバトーも一緒であるが、会話はあまりない。 なぜならば。朝比奈みくるは今、ある作業に没頭中であり、とても声をかけられる雰囲気ではないからである。 「う~んと……ほうじ茶にアールグレイ……それとキリマンジャロ……すごい、お茶や紅茶に、それにコーヒー豆も充実してる」 カウンターの奥に並べられた、多種多様な茶葉とコーヒー豆たち。 それを目の前に、吟味するような熱い視線を送り続けるメイドさん。 客席に座るバトーの視界には、シュールな光景が浮かんでいた。 「なあ、お楽しみのところ悪いんだが、そろそろ出発しないか?言いにくいが、あと僅か数分で六時……放送が流れちまう。 こんなところで、悠長に茶を眺めている時間はないと思うんだが」 「へあ!?も、もうちょっと、もうちょっとだけ待ってください……」 このやり取りも、かれこれ三回目である。 いったい何が楽しいのか――そういえば、どこかで『女の買い物は長い』と聞いたような気もする――分からないが、みくるはこの喫茶店からいっこうに離れようとしない。 茶葉やコーヒー豆が欲しいのならば、全部纏めて持って行ってしまえばいいものを。どうせ、四次元デイパックの収容数は無制限なのだから。 バトーはやれやれとつぶやきながら、ちょこまかと動き回るメイドを見ていた。 そもそも、2人はなぜこんなところにいるのか。 当初は、深夜の内に付近で一番高い建造物であるホテルへと向かうはずだったのだ。 その道中、駅周辺の小さな百貨店で望遠鏡を探し回り――残念ながら調達することはできなかったが―― どうしたものかと歩いていた最中、みくるの懇願でここに立ち寄ってみたのだ。 「……実を言うとですね」 「うん?」 カウンター越し、茶葉の包みを胸に抱えたままのみくるが、背を向けた状態でバトーに話しかける。 「駅前の喫茶店って、SOS団の集合場所だったんですよ」 「S……OS団? なんだ?」 聞きなれない単語に、バトーは説明を求める。 「あ、SOS団っていうのは涼宮さんが発足した部活動のことで、あたしやキョンくんや長門さん、それに古泉くんも参加してるんですよ。 いつもは北口駅なんですけど、ここの喫茶店も似たような場所にあったから、つい、ここで待ってれば誰かが来てくれるんじゃないかと思って……」 懐かしそうに語るみくるの表情はどこか儚げで、バトーは今までに感じていたドジッ娘メイドの印象を少しばかり改変した。 (つまり駅前の喫茶店は、仲間内でお決まりの合流地点だったってわけか) それならそうと、早く言えばいいものを。 ホテルから他の参加者を捜すという手段も良策ではあるが、みくるの仲間がここを訪れる可能性があるというのであれば、わざわざ無碍にする必要もないだろう。 それに、駅ならば人の集まる確率も高い。仲間と合流を図るにも、他の参加者と接触するにも、ここは都合のいい場所なのかもしれない。 「そういうことなら、もう少しここで待ってみるか。擦れ違って合流がおじゃんになっちまったら、救いようがないからな」 「ほ、本当にいいんですか?」 「ああ。俺も、もう少しのんびりさせてもらおうか」 「あ、ありがとうございますっ!」 みくるはペコリと一礼し、さらに店内の奥側――厨房の方へ走っていった。 「で、今度はいったい何をするつもりなんだ?」 「あ、みなさんがいつお腹を空かせて来てもいいように、何か軽食でも作っておこうかと思ったんですけど……ここの冷蔵庫、何もないんですね。ちょっと残念……」 なんとまぁ、楽天的な。 バトーは思いつつも、決して悪い印象は抱かず。また、やれやれ、といった感じで、顔を緩ませた。 ふと、店内を見渡してみる。その片隅にポツンと置かれた機械が気になって、少し調べてみた。 どうやらかなり旧式の音楽再生機――レコードのようだ。 この店は防音処理が施してあるようだし、外に音が漏れる心配もないか……と、バトーは気まぐれにレコードを再生してみる。 質素な喫茶店のイメージうまく調和した、モダンテイストの荘厳な旋律が流れ出す。 その大人な雰囲気を醸し出す店内の奥で、可愛らしい女子高生メイドがせっせと紅茶を作っているというのも、おかしな話だった。 「なぁ」 「はい?」 バトーの呼びかけでみくるは手を休め、両者が視線を合わせる。 「みくるは、本当にただの……いや、『未来人』だったか……ともかく、ただの女子高生なのか? こんなこと言っちゃあなんだが、本当に本職がメイドってわけじゃあ……」 「ええ、そ、それはぁ……」 バトーの質問に一瞬だけ困惑した顔を見せたみくるは、やがて笑顔でこう返した。 「禁則事項です」 ……ん、そうかい。と、バトーはまた口を噤んだ。 ◇ ◇ ◇ 「チッ」 同僚のバトーが喫茶店でメイドを眺めていることなど露知らず。 公安9課に属する新米課員、トグサはホテルのロビーでもう何回目になるか分からない舌打ちをしていた。 「トグサさ~ん、例のもの、見つかりましたか?」 「ああ、セラスか。今ちょうど、このホテルの設備の悪さにイラついていたところさ」 あからさまに不機嫌な顔を作るトグサの前に、同じくホテルの別フロアを調べていたセラス・ヴィクトリアが現れる。 彼らがこのホテルに到着したのは、朝日が昇る前。しかしこの大きな内部を二人だけで探索するというのも骨が折れるもので、気づけば既に放送直前の時刻にまで迫っていた。 ハァ~っ、と大きな溜め息を吐きながら、トグサはロビーに置かれた豪華なソファに腰を下ろす。 尻部に感じる感触はフカフカで、実に座り心地が良かった。これほど上質なソファを備えているというのに、何故『あれ』はないのか。 「見つからなかったんですか? 情報端末」 「ああ。回線らしきものが取り付けられていることは確認できたんだが……肝心の情報端末本体がない。 旧式でもいいからコンピュータの一つや二つくらいあるかと思ったんだが、甘かったな。 通信機の方は電話が置いてあったが、繋がるのはマップ内の他の施設だけ。しかも全部留守電ときたもんだ」 ホテルのロビー、フロント、事務室、色々回ってみたが、情報を入手できるようなものは何一つとして置かれていなかった。 仮にもここはホテル。建物内に情報端末が一つもないというのは不自然な結果だったが、逆にその結果から推測できることもある。 「そういえばセラス、厨房の方はどうだった?」 「ええとですね……思ったとおり、冷蔵庫の中はもぬけの空でした。でも、調理道具や食器類はちゃんと残ってましたよ。 武器、って言うにはちょっと不安ですけど、一応包丁やナイフなんかの刃物も入手できました」 トグサと別行動を取っていたセラスが調べたのは、ホテル内のレストラン――そこの厨房の設備だった。 支給品に食料類が入っていることからも想像できるが、やはり重要アイテムを施設から現地調達するのは無理だったようだ。 もしかしたら……と思ったのだが、結果は案の定。だがこれで、トグサの考える『答え』は明確のものとなった。 「包丁やナイフ、武器とは呼べないようなどうでもいいものは置いてあり……食料や情報端末などは施設内から撤去されている……セラス、これがどういうことか分かるか?」 「え?ど、どういうことですか?」 トグサの言う意味を飲み込めないセラスは、キョトンとした顔つきで首を傾げる。 そんなセラスに、トグサは微笑を作りながら言った。 「支給品だよ」 その言葉で、セラスはますます混乱してしまう。 どうやら、さらなる説明が必要なようだ。 「いいかセラス。食料も情報端末も、どちらともホテルに置いてあっておかしくないものだ。 だが、ない。これはどういうことか。主催者になったつもりで考えてみれば分かるだろ?」 セラスは数秒思案し、やがて閃いたかのように目を見開き、発言した。 「えっと……『参加者に持っていかれたら困る』、だから初めから置かない……そういうことですかね?」 「正解だ。食料が簡単に手に入るようにしてしまったら、 『数少ない食料を参加者同士で奪い合う』という、主催者側が好みそうなイベントをおしゃかにしちまう可能性があるからな。 同じ理由で、情報端末を置いてしまったら『簡単に情報が漏れる』。 ここに情報端末が置いていないということはつまり、『ネットワーク上に見つけられては困る情報がある』ってことなのさ」 「なるほど。それが、脱出や首輪解体のヒントってわけですね……ん?」 トグサの考察を感心しながら聞いていたセラスだったが、ある一つの、絶対に無視できない疑問点に気づく。 「って、ネットワーク上にヒントが転がってるって分かっても、肝心の情報端末がないんじゃ意味ないじゃないですか!」 既にこのホテル内は、虱潰しに捜した。 地図を見てもマップ上で一番大きな施設はこのホテルのようだし、他の施設を廻っても、情報端末がある可能性は著しく低いだろう。 退路が断たれた――セラスが胸に絶望感を抱かせ始めたその時、トグサがまた光明を開いた。 「だからさっきも言ったろう?鍵は支給品さ」 「ふぇ?」 間抜けな声を出すセラスに、トグサはさらなる説明を続ける。 「まずは、これを見て欲しい。これは俺に支給された道具の一つなんだが……」 トグサがデイパックから取り出したのは、何の変哲もないただの手袋。 興味深げなセラスの視線の下、トグサがその手袋をはめてみると、指先から多種多様な工具が飛び出した。 それはドリルだったりカッターだったり溶接機具だったりセンサーだったり……小型工具が密集しすぎて、何に使えるのかがよく分からない。 そもそも、この小さな手袋のどこにこれほどの工具が収容されていたのか。 「これは『技術手袋』といってだな、簡単な工作から難しい修理、改造までなんでもこなせる万能ツールなんだそうだ。 機械的な技術のない者でも容易に使いこなせるらしく、ラジコンの戦車を実戦用に改造することも可能らしい」 「ら、ラジコンておもちゃですよね!?そんな、おもちゃを実戦用にって……本当にそんなこと可能なんですか?」 「俺も信じがたかったんだが、どうやら性能は間違いないらしい。 さっき試しに、そこのフロントに置いてあるレジを一台ブッ壊してみたんだが……数分も掛からず修理できたよ」 目を白黒させて、セラスはフロントに置かれたレジを確認する。 どこにも異常は見られない、万全の状態だった。かといってトグサのブッ壊したという言葉が嘘とも思えない。 だとすると、導き出される結論は一つ。 トグサの持つ、ラジコンを実戦用に改造することさえ可能な手袋の性能は、疑うことなく本物であるということだ。 未来のオーバーテクノロジーの産物を前に、信じられないといった表情を見せるセラスは、そこであることに気づいた。 ラジコンを実戦用にすら改造できる代物。だというのなら。 「ひょっとしてそれ……この首輪も、解体できるんじゃ……」 恐る恐る聞いてみる。トグサから返ってくる答えは―― 「気づいたか。これだけの性能を秘めた道具だ――俺は、『可能』だと思ってる」 ――ビンゴ。 どうやらトグサの引き当てた『技術手袋』は、全ランダムアイテムの中でも特上級の当たりだったらしい。 「じゃ、じゃあ今すぐにでも解体を――」 「いや、それは無理だ」 興奮気味に駆け寄るセラスを制して、トグサは冷静に説明を続行する。 「確かに、この技術手袋を使えば首輪の解体は簡単だ。だが、それじゃあまりに『簡単すぎる』んだよ。 俺が主催者だったら、まずそんな便利アイテムは支給しないし、支給したとしても、なんらかの罠を仕掛ける」 「罠、ですか?」 「そう、罠だ。たとえば、首輪を解体しようとした瞬間に――『ボン』、とかな」 ゾクゾクゾクッ、とセラスの身が震える。 今まで築き上げてきた希望の山が、一片に崩された気持ちだ。 「そ、それじゃあやっぱり解体なんて無理じゃないですかぁ~」 「そうでもないさ。ようは、首輪より先にその罠を解除できればいいわけだ。 そして俺の予測では、おそらくその答えは……ネットワーク上に転がっている」 なるほど。そのための情報端末排除か。 ということは、情報端末を手に入れその上で技術手袋を駆使すれば、首輪は外れる――と、そこまで考えて喜ぼうとしたセラスは、高揚寸前だった心を急激に落ち着かせた。 さすがに、希望を見つけてまた失望するというパターンにはもう飽き飽きだ。 「だーかーらー!その情報端末が手に入らないんじゃ、首輪解除のための情報も掴めないじゃないですか! 意味ないですよ!トグサさん、ひょっとして私のことからかってるんじゃないですか!?」 「ちょ、そんな怒るなよセラス。俺はただ順を追って説明しようとしただけで……お、おいやめろよ?殴るのだけは勘弁だぞ?おい!?」 セラスの気持ちを落ち着かせるのに、数分かかった。 「い、いいかセラス?とりあえず、これまでの俺の考えを整理するぞ? まず、『首輪は技術手袋で簡単に解除できる』。これは信じきっていいだろう。 だが、『首輪には解除しようとすると起爆する罠が仕掛けられている可能性がある』。これは余計な心配かもしれないが、十分考えられることだ。 そして、『その罠を解く方法、脱出の方法云々は、ネットワーク上に隠されている可能性が高い』。ホテル内の情報端末が撤去されていることから見ても、これは間違いないと思う。 で、これで最後になるが……『鍵となる情報端末は、他の参加者の支給品に紛れているかもしれない』」 「……その根拠は?」 「俺に技術手袋が支給されたという事実さ。もし主催者側が、本当に俺たちに首輪を解除させたくないのなら、こんなアイテムは支給しない。 殺し合いに相応しい武器だけを支給していればいい話だ」 トグサの考察が、いよいよ大詰めに入る。 セラスは、聞く耳に注意力を高めた。 「つまりは、技術手袋も情報端末も、主催者側がゲームを面白くするために入れた施し……キーアイテムなんだよ。 奴は俺たちがキーアイテムの存在に気づき、必死で脱出への道を模索している様を、笑いながら見るのが趣味なんだろうさ」 悪態を吐きながら、虚空を眺めるトグサを見て、セラスはまた気づく。 トグサの考察は立派なものだったが……これは、ひょっとしたらヤバいのではないだろうか。 「あの、トグサさん……もし、もしですよ?主催者が……ギガゾンビがこの会話を盗聴してたり監視してたりしたら……ヤバイんじゃ」 「盗聴に監視ね……まさかこんな殺し合いを開いて中身を見ないってはずはないし、十中八九、それもあるだろうな」 「え、えええええええ!?じゃ、じゃあどうするんですか!? こんなに主催者側の考えてることズバズバ言い当てちゃって、危険と思われて外から首輪を遠隔爆破でもされたら……」 「いや、おそらくギガゾンビは起爆スイッチは用意していない。相手の手動で爆破、ってのはたぶんしないはずだ……たぶんな」 これまでの発言と違い、今回の考察については自信がないのか、トグサの声はやや小さかった。 「わざとキーアイテムをばら撒くようなヤツだ。反抗して脱出しようとする者がいるなら、むしろ大歓迎と思っている可能性が高い。 それを遠隔から爆破するなんて、味気のないマネはしないだろう……ギガゾンビの性格はよく知らないが、俺はそう推測するね」 「それって……性格から感じ取ったイメージってだけで、根拠は何もないじゃないですか……」 「や、根拠ならあるぞ一応。それは、『俺がまだ死んでないってことだ』。 あれだけマズイことをベラベラ喋ったんだ。危機感を感じたってんなら、さっさと俺の首輪を爆破するだろうさ。 ま、単純に俺の考えてることが大ハズレなだけで、何言ってんだコイツって呆れられてるだけかもしれないがな」 結局のところ、トグサの推論はどれも推測の域を出ない。 だが少なくとも情報端末が見つかりさえすれば……トグサの考察が正解だったのかどうだったのか、全てに決着がつく。 それまでは、いつ首が飛ぶのだろうというビクビクした思いと戦いながら、歩んでいこう。 「さて、これで長ったらしい説明は終わりだ。俺はこれから外に出て、他の参加者が何か情報端末を支給されていないか調査してくる。セラスは……」 「あ、私は日の光がちょっと……」 「苦手だったんだな。仕方がない。セラスはここで待機、俺はちょっくら外に出てくる。別行動になるが、時間は無駄にできないしな」 善は急げ、とトグサはホテルの出入り口に向かっていく。 その身に武装はない。あるのは武器とはいえないような護身用の刃物が数点のみだ。 さすがに心配になったセラスは、別れ際トグサに声をかける。 「あ、あの!さすがに丸腰じゃ危ないだろうし、なんだったら私の武器を持っていって……」 「心配はいらないさ。俺はあくまでも、調査に向かうだけだ。護身用の武器もガラクタで十分だし、それはセラスが持ってろ。 あと、俺が戻ってくるまで絶対に離れるなよ。最低でも、正午には戻ってくるから。 もし万が一、ここが禁止エリアになったりしようものなら……すぐ近くのエリアにある駅を合流ポイントにしよう」 手際よく話を進めるトグサに、セラスは何も言えなくなってしまった。 この別れが今生の別れ、というわけではないが、彼と離れるのはなんだか妙に心細い。 その心を知ってか知らずか、トグサは既にホテル入り口の自動ドアを潜り抜けるところまで来ていた。 「あっ、あの」 後姿を見せるトグサに、セラスが懸命な思いで声を掛ける。 また再会するために必要な、大事な儀式を行うために。 「いってらっしゃい」 「ああ、いってくるよ」 ナチュラルに。 トグサとセラスは会話を終え、それぞれの仕事に取り掛かった。 調査と待機。二人がこのホテルで再会するのは、いったいいつになるのだろうか。 ◇ ◇ ◇ こうして、ホテルにて合流するはずだった七人の参加者は、奇妙な運命に翻弄され別々の道を歩む。 この先、彼らが一同に会する機会があるのかどうかは……まだ、誰にも分からない。 【D-4/公園/1日目/早朝(放送直前)】 【ルパン三世@ルパン三世】 [状態]:健康、SOS団特別団員認定 [装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)、ソード・カトラス@BLACK LAGOON (残弾15/15)、 [道具]:支給品一式、エロ凡パンチ・ 75年4月号@ゼロの使い魔 [思考]:1、とりあえずハルヒに従いつつ行動。 2、ハルヒとアルルゥを守り通す。 3、他の面子との合流。 4、協力者の確保(美人なら無条件?)。 5、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索。 6、主催者打倒。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康、アルルゥの萌え度に興奮気味 [装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+ [道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考]:1、図書館に向かい、長門有希と合流。 2、着せ替えカメラを駆使し、アルルゥの萌え萌え写真を撮りまくる。 3、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:健康、SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服 [道具]:無し [思考]:1:ハルヒ達に同行しつつハクオロ等の捜索。 2:ハクオロに鉄扇を渡す。 【E-6/駅前の喫茶店/1日目/早朝(放送直前)】 【バトー@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:健康 [装備]:AK-47(30/30) カラシニコフ [道具]:支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ@クレヨンしんちゃん/煙草一箱(毒) [思考]:1、しばらく喫茶店で待機。 2、望遠鏡またはそれに類するものを入手し、ホテルの屋上に向かう。 3、9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。 【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康/メイド服を着ている [装備]:石ころ帽子@ドラえもん(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う) [道具]:紙袋、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている) [思考]:1、しばらく喫茶店で待機し、SOS団の面々と合流する。 2、バトーに同行する。 3、SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。 4、青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。 【D-5/ホテル内/1日目/早朝(放送直前)】 【セラス・ヴィクトリア@HELLSING】 [状態] 健康 [装備] エスクード(風)@魔法騎士レイアース、中華包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本 [道具] 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@HELLSING [思考・状況]1:トグサが戻るまでホテルで待機。 2:アーカード、ウォルターと合流。 3:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。 ※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。 【D-5/ホテル周辺/1日目/早朝(放送直前)】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態] 健康 [装備] 暗視ゴーグル(望遠機能付き)、刺身包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本 [道具] 支給品一式、警察手帳(元々持参していた物)、技術手袋(残り19回)@ドラえもん [思考・状況]1:情報端末の入手(他の参加者の支給品に紛れている可能性が高いと考えている)。 2:正午の放送までにはホテルに戻る。セラスと合流できない場合は駅へ。 3:機会があれば九課メンバーと合流。 [備考]※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。 ※セラスのことを、強化義体だと思っています。 ※トグサの考察は以下の通りです。 ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』 ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』 ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』 ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』 ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自信ない』 ※【着せ替えカメラ】と【技術手袋】についての補足 【着せ替えカメラ】 基本的に『服』にのみ有効。武器、支給品(もぐらてぶくろ、北高の制服、バニーガールスーツ等)、 その他特殊な兵装(のび太の眼鏡、セイバー、シグナム等の甲冑、フェイト等のバリアジャケット、スクライド勢のアルター、タチコマのボディ等) には効果なし。 カメラにデザイン画を入れないでシャッターを切ると、相手の服は『一時的に』消失する。 (服の分子を分解した状態で留まるので、裸の状態でも再びデザイン画を入れて着せ替えさせることは可能) 服自体の素材は変わらない。 例えば、綿で出来た服を分解して鎧みたいなデザインのものに着せ替えても、素材はやっぱり綿なので強度は変わらない。 着せ替えさせるにはピントを合わせる必要があるため、動いている相手に使う場合は必然的に難しくなる。 また、デザイン画が入った状態でシャッターを切り、着せ替えに失敗した場合は回数にカウントされない。 【技術手袋】 機械にのみ有効。修理については、攻殻勢やドラえもんにも有効。ドールには無効。 死亡が確定している場合は、修理不能と見なされ技術手袋が反応しない(その場合回数は減らない)。 また、参加者の修理は度合いにもよるが、通常に比べてかなりの時間がかかる。 銃器など構造が簡単なものの修理は容易だが、秘密道具などの構造が複雑なものの修理には時間が掛かる(30分~1時間くらい) 改造は可能だが、かなりの時間が必要(1時間~3時間程度。より複雑なものに改造する場合はさらに膨大化) 時系列順で読む Back 罪悪感とノイズの交錯 Next 王様の剣 投下順で読む Back 罪悪感とノイズの交錯 Next 王様の剣 54 従わされるもの ルパン三世 125 D-3ブリッヂの死闘 54 従わされるもの 涼宮ハルヒ 125 D-3ブリッヂの死闘 54 従わされるもの アルルゥ 125 D-3ブリッヂの死闘 43 不思議の国のバトー バトー 106 Ground Zero 43 不思議の国のバトー 朝比奈みくる 106 Ground Zero 55 ムーンマーガレット トグサ 121 仕事 55 ムーンマーガレット セラス・ヴィクトリア 106 Ground Zero
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仕事 ◆S8pgx99zVs この惨劇の舞台。 そのほぼ中央に位置するレジャービル。 その屋上に悄然とした男――トグサが一人風に吹かれていた。 ―― 十九人。 想像を絶する数字だった。 八十人いた人間(?)のうち、もうすでに四分の一が死んでいるということになる。 たった六時間で…… しかもこの広い空間の中で…… ……殺しあっている。 そうとしか考えられない。みんなこの馬鹿げたゲームに乗っているのである。 出会ってはそこで殺しあっているのだ。 舞台の中心に高く聳えるビルの屋上からは、惨状がよく見渡せた。 目の前に見下ろせる広い遊園地。 その中央で横倒しになった観覧車。破壊された遊具。 尋常な手段で行なえる行為ではない。 右を見やれば立ち上る黒煙。 山の斜面に遮られてどの建物かは解らないが、おそらく地図にある図書館の辺りだろう。 この舞台のそこかしこで破壊と殺戮が行なわれているのだ。 こんな状況でセラスを一人残してきてよかったのか? その不安に手にしたゴーグルをホテルの方へと向ける。 取り立てて変わった様子はない。日が昇ってその全容がよく見え――!? 何かが屋上から飛んだ。 そして半瞬遅れて小さなドォンという空気の振動する音が届いた。 ――人が? ――撃たれて? ――落ちた? 落ちた所は死角になっていて何が落ちてどうなったかは解らない……だが、 今のはセラスじゃなかったか? 不安に心臓が傷む。最悪の想像に。 何かが飛び出した、その入口から出てきたのは一組のメイドだった。 そしてその入口とは対になる方から出てきたのは―― 「バトーッ!」 思わず声に出してしまった。そして今自分がここにいることを激しく後悔する。 少し、せめて放送がかかるまでホテルにいればバトーと合流できたのかもしれないのだ。 それを……、今はバトーの無事を祈るしかない。ここからでは何もできなのだから。 ……が、その祈りは叶わなかった。 バトーはメイドの一人と絡まるようにホテルの屋上から落ちた。 残ったもう一人のメイドが彼らに向かってライフルを撃ちつけたからだ。 こちらからは確認できない向こう側に落ちたが、どうなったかは推理するまでもない。 バトーは死んだ。 そしておそらく最初に落ちたのはセラス。 誰かはわからないがメイド姿の人間も一人死んだ。 十九人……、それが瞬く間に二十二人。 殺し合いは収まることなく、より加速していく…… ――見誤った。 こんなことになっているとは思わなかった。 九課の仲間がいる。そして始まってすぐにセラスにも会えた。 だから……、常識で考えてもみんながすぐに殺し合いを始めるなんて思いもしなかった。 技術手袋を脱出の鍵だと思い込み。 やたらめったらに電話をかけ。 まともな武器一つ持たずにセラスを置いて飛び出した。 それがこの様だ。 バトーには会えず。 セラスを見殺しにし。 まともな武器一つなく孤立している。 この戦場のど真ん中に! 自分を物語の主人公だと勘違いしていたのかも知れない。 自分は浮かれすぎていた。 自分は大きな過ちを犯した。 取り返しのつかない最悪の過ちを…… 屋上の端で項垂れ悲嘆にくれるトグサの耳に微かな駆動音が聞こえてきた。 柵から地上を見下ろすと、なにやら軍用トラックがやって来てこのビルの前を横切るようだ。 軍用トラック……?この場にそぐわないその様な物がどこから出てきたのか謎だが、 それよりも問題はそれに対しどう行動を起こすかだ。だが…… ……見送ってしまった。 先刻までの、放送を聞き仲間の死を目にする前のトグサならすぐに追いかけただろう。 トラックは非常にゆっくりとした速度で走っていた。気付いた後、すぐに降りれば追いつけたはずだ。 だがしかし、そうはできなかった。 ここはトグサが考えていたような場所ではなかった。もっと遥かに熾烈な場所だった。 心中に恐怖が進入することを許したトグサはそこを動くことができなかった。 十数分後、道路をマウンテンバイクで疾走するトグサの姿があった。 確かに誤った。 その誤りから取り返しのつかない事態を起こした。 自らを主人公だと。それは完全な過ちだった。 だからその過ちを正す。 分不相応な役目を自分には課さない。 各人が相応のベストを尽くす――それが九課の連携。 今の自分に出来ることだけに集中する。 バトーは死んでしまった。悔やんでも悔やみきれないが。 だが、まだ少佐……、そしてタチコマがいる。 バッグの中の、あの手袋が脱出の鍵ならば。 それを持って少佐に合流するのが、今の俺の仕事だ。 追っているトラック。誰が乗っているかはわからない。 少佐か、それとも殺人鬼か、または仲間となってくれる人間なのか。 確認しよう。まずは情報。アクションは最後。 俺は、公安九課――攻殻機動隊の一員だ。 だから公安九課として仕事をする。 それだけだ。 トグサはペダルに力を込め、西へと向かったトラックを追いかけた。 【D-5/道路上/一日目-朝】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:健康 [装備]:暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本/マウンテンバイク [道具]:支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り19回)@ドラえもん [思考]:トラックを追う/情報および協力者の収集/九課の連中と合流 [備考] ※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。 ※セラスのことを、強化義体だと思っています。 ※トグサの考察は以下の通りです。 ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』 ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』 ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』 ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』 ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自信ない』 [備考追加] ※セラスが死んでしまったと勘違いしています。 ※なので、正午にホテルに戻るという行動はキャンセルしました。 ※マウンテンバイクはレジャービルの中で発見しました。 【D-4/道路上/一日目-朝】 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺したことに罪悪感/精神的疲労/右腕上腕打撲/額に傷 [装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転席) [道具]:支給品一式/ハーモニカ/デジヴァイス@デジモンアドベンチャー/真紅のベヘリット@ベルセルク RPG-7スモーク弾装填(榴弾×2/スモーク弾×1/照明弾×1) [思考]:病院へ向かいぶりぶりざえもんを治療する/長門と情報交換/グレーテルの埋葬 自分や仲間の知人を探して合流/元の世界へと戻りたい [備考] ※ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 ※また、参加時期は『荒ぶる海の王 メタルシードラモン』の直前としています。 【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】 [状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒/激しい嘔吐感 [装備]:RPG-7の照明弾/73式小型トラック(助手席) [道具]:支給品一式(パン-2個)/ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー/クローンリキッドごくう(×4回)@ドラえもん [思考]:吐きそう/強い者につく/自己の命を最優先/"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒。 [備考] ※黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康/思考に微妙なノイズ [装備]:73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式/タヌ機@ドラえもん/S W M19(6/6) [思考]:病院に向かいぶりぶりざえもんを治療する/自分や仲間の知人を探して合流。 【トラック内】 ミニミ軽機関銃/おにぎり弁当のゴミ/グレーテルの遺体 [アイテムの制限] 【ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー】 ウォーグレイモンの盾。強度はある程度下げられている。 二つに分け、背中に装着できるがアニメと違い空は飛べない。 ※ぶりぶりざえもんはサイズが合わなくて装着できませんでした。 【クローンリキッドごくう@ドラえもん】 髪にふりかけ、髪を抜くことで抜いた髪が小さい分身となる。 ただし分身は本人そのものなので 強い味方になるとは限らない。 制限として一回につき十五人までしか出現しない。 五回分あるが 一回使うと二時間待たない限り、いくらかけても効果がない。 分身の戦闘能力は本体の戦闘能力に応じて下がることがあり、分身が存在できる時間は30分。 ※ぶりぶりざえもんは髪がなかったので使えませんでした。 時系列順で読む Back 仕事 Next D-3ブリッヂの死闘 投下順で読む Back 仕事 Next 嘘も矛盾も 99 「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」 トグサ 132 トグサくんのミス 105 I wish 石田ヤマト 125 D-3ブリッヂの死闘 105 I wish ぶりぶりざえもん 125 D-3ブリッヂの死闘 105 I wish 長門有希 125 D-3ブリッヂの死闘
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「選んだら進め。進み続けろ」 ◆LXe12sNRSs 『カズく~ん!』 ……んあ? なんだ、かなみか。どうしたよ、大声出して。 『どうしたよ、じゃないよ。今日は牧場で牛さんの世話をするって約束だったのに、なんでこんなところでお昼寝してるの?』 あー……それはだな…………ワリィ! 急用思い出しちまってさぁ。パスさせてもらうわ。 『もう、またそんなこと言って。いつになったら真面目に働いてくれるの?』 『働かざる者食うべからずって、昔の偉い人も言ってたよ』 『カズくんが働いてくれないと、お米も野菜も買えなくなっちゃうんだから』 『カズマさんが働かないと、私たちが苦労するんだからね』 『ねー』 『ねー』 あぁ、だから悪かったって。この埋め合わせは今度必ず……って、かなみが二人!? 『? 何言ってるのカズくん。私はかなみで、こっちは――』 『――高町なのは。声は似てるけど、別人だよ。どうしちゃったの?』 かなみとなのは……あれ? いや、なんか違和感が…… 『寝すぎで頭がボーっとしてるんじゃないの? ウチは私とカズくんとなのはちゃんの三人家族だったじゃない』 『そうそう』 そうだったっけ? そうだった気もするな……ん? そうなのか……? 『――カッズマく~ん。どうしたんだ? 珍しく頭使ってるような顔しちゃってよ』 珍しくは余計だ! ……っと、君島か。何の用だ? 『おいおい忘れちまったのか? 仕事だよ。お前向けの、とびきりヤベー仕事。忘れちまったんならもっかい説明してやろうか?』 ――いや、いい。思い出した。たしか今日だったな……HOLY野郎共との決戦は。 『ああ。HOLYのネイティブアルター狩り……俺たちはそれを止めるために、今日襲撃をかける』 そこに奴もいるんだろ。おもしれぇ。やってやろうじゃねぇか。 『ったくHOLYのこととなると目の色変わるなお前は。まぁいいや。じゃ、仲間のところに案内するぜ』 仲間――か。 どんな面子が揃おうが関係ねぇ。俺は、あの男をぶっ飛ばす。ただそれだけだ。 足手まといになるような奴なら置いてくし、使える奴だとしても邪魔はさせねぇ。 そう……あいつとの決着だけは! 『――さ、紹介するぜみんな。こいつが、あのHOLYに正面からケンカ吹っかけたことで有名なカズマくんだ』 『へぇー。あんたがカズマさんか。俺は八神太一。よろしくな』 『俺は石田ヤマト。あんたの噂は聞いてるよ。なんでも、HOLY内部にまで潜入して大暴れしたとか』 ……おい、君島。こいつらガキだぞ。 『歳で力量見んのか、カズマくんは? かなみちゃんやなのはちゃんに生活支えられてる身で』 ……ま、いいさ。どんな奴が仲間にいようが関係ねぇ。邪魔にさえならなきゃ―― 『おいおいお前ら、誰かを忘れちゃいねぇか? この全てを打ち崩すアルター使い、ビフ君を――げふっ!?』 『――デケェ図体して道塞いでんじゃねーよ。通れねぇだろうが』 ……おい、君島。今度はかなみくれぇの女の子が現れたぞ。あれも仲間か。 『もちろんだとも』 『……鉄槌の騎士ヴィータだ。ま、せいぜいあたしの足手まといにならないよう気をつけな』 ……頭痛がしてきたぞオイ。 『文句言ってる暇はねぇぜ。さっそく敵さんのご登場だ』 おうおう、いるねぇHOLYの制服着た連中がわんさかと。 だが眼中にねぇ。俺の狙いはただ一人……あの男だけだ。 『カズマさんがいかないなら俺が先陣を切るぜ! アグモン、進化だァ――ッ!』 『太一に遅れるな! ガブモン、こっちも進化だ――ッ!』 うおッ!? なんだ、怪獣が出てきやがったぞ!? あれが太一とヤマトのアルターか!? 『あいつらばっかいいカッコさせるかよ! ――グラーフアイゼン!』 今度は巨大ハンマーかよ! 思ったよりやるじゃねぇかあいつら。 いいぜ……これならこっちも集中できる。あの野郎との喧嘩によぉ。 『――また性懲りもなく俺の前に現れたか。この社会不適合者が』 ――見つけた、劉鳳!! 俺はこの数日間、ずっとテメェに借りを返すことだけを考えてたんだ。 前のようにはいかねぇ。今度こそ見せ付けてやるよォ……この俺の、カズマの! 『やはり毒虫はどう足掻いたところで毒虫だな。低俗な考えしか持たぬから社会に適合することも叶わない――絶影!』 言ってろ! 衝撃のファーストブリットォォォォォ!!! 『――ぐっ! どうやら少しは腕を上げたようだな。それでこそ俺も本気を出せるというものだ』 気にいらねェな……その上から見下すような目つき、ムカつくんだよ! 『何を怒る。これが俺とお前の立つ位置、その力の差だ。それよりもいいのか? お前の仲間が苦戦しているようだぞ』 仲間? ――――なッ!? 『うわあああああああ!』 『太一!? 太一、太一ィィィィィ!』 『悪いなボウズ共。お前らには死んでもらわにゃならん』 『恨みはない。ですが貴方にはここで潰えてもらいます……風王結界!』 『チクショウ! 踏ん張れグラーフアイゼン…………ぐ、あああああああああ!!』 太一! ヤマト! ヴィータ!? 『皆、貴様の身勝手さが原因で死んでいく。貴様ほどの力があれば、守ることもできたはずなのにだ』 うるせェ! 守るなんざ俺の性に合わぇんだよ! 『そうだったな。お前はそういう男だ。――なら、あいつらが死んでも同じことが言えるな』 なに――あれはっ、かなみ! なのは! 君島!? なんで、なんであいつらまでこんなところに!? 『全ての死は貴様が招いた。誰が死のうが関係ない――貴様のその身勝手な考えが、周りの人間を死に至らしめるのだ! 絶影!』 やめろ、やめ――――……かなみ? なのは? 君島ああぁぁぁぁぁ! 太一! ヤマト! ヴィータ! 誰か、誰でもいいから返事をしやがれ! なんで、なんでこんな…… 『――速さだな。速さが足りなかった。ただそれだけさ』 ――兄貴? なんでアンタがここに…… 『いいかカズヤ? 俺がここで言う速さってのは、肉体的なスピードのことじゃない。決断力の速さだ。 お前の周りの人間がどんどん死んでいくのは誰のせいだ? それは殺した人間のせいじゃない。お前の遅さが原因だ。 お前が慕っていたあの子が死んだ時、お前は何をやっていた? ウサギの少女が死んだ時、お前が彼女の名前を刻んだのはなんのためだ? ゴーグルの少年が死んだ時、お前は何を決断した? 思い出せカズヤ。お前はこんなところで燻ってるような男じゃあない。 やることは遅いが地の力は強い。それは時として速さを捻じ伏せるほどにな。 考えろカズヤ。お前は今何がしたい? お前がするべきことはなんだ? 少なくともこんなところで眠って夢見てる場合じゃない。そもそもだな――』 うるせぇ……長ぇよ兄貴…… ◇ ◇ ◇ ドガッ……。 重厚な破壊音を目覚ましに、カズマは閉じ切っていた両瞼を開眼させた。 起き抜けの虚ろな脳が、頭痛を訴えてくる。頭部になにやら痛みと水気を感じ、触れてみるとそこには赤い液体が付着していた。 血ではない。血よりももっと水っぽく、ところどころに実と種も付いている。それに皮も。 カズマが周囲の残骸から西瓜で頭を殴られたのだと推測する頃には、おぼろげな視界も前方に定まりつつあった。 そしてその場には、カズマの脳天に西瓜を投下した張本人がいる。 「よぉ、やっと起きたか大将。随分とご機嫌な頭してるな」 「テメェは――」 記憶の糸を辿ってみると、そのホットパンツにタトゥーの女はカズマの知人に分類された。 知人と言っても、それはかなり最悪な部類。大切な人の仇と誤解してドンパチを繰り広げ、それ以降はろくに会話もしていない、怒りを売りあった仲だった。 名前はたしか、レヴィ――カズマがその名を呼ぼうとした刹那、レヴィの手によって身体が後方に押し倒された。 そのままの勢いで圧し掛かられ、マウントポジションを取られる。 胸ぐらを乱暴に掴まれたかと思うと、彼女の怒り全開のしかめっ面が視界に飛び込んできた。 不思議と抵抗する気は起きない。まだ起き抜けで頭がボーっとしているせいだろうか。 周囲では「レヴィさん!」「おい、何を」などの男声が上がるが、どちらもカズマにとっては親しみの薄い声だった。 ふと気づけば、回りの情景も随分と見慣れぬ景色に変わっている。 いくつもの椅子に大きなスクリーン。部屋と称すにはあまりにだだっ広いスペース。 ロストグラウンドの崩壊地区で育ったカズマには馴染みが薄いが、ここが映画館であるということは辛うじて理解できた。 などと暢気に周囲に目をやっている時点で、目の前の彼女の怒りを増長させていることには気づけない。 「……西瓜クセェ」 「たりめェだ。そりゃあたしがぶつけてやったんだからな。 しかし失敗したぜ。テメェみてぇな寝ぼすけ起こすんなら、鉛弾ぶち込んでやった方が手っ取り早かった」 レヴィは眉間に皺を寄せ、これでもかと言わんばかりに睨みを利かせていた。 その怒りを行動で再現しようと、所持していた銃をカズマのこめかみに捻じ込む。 しかし、カズマは動じない。怯えるでも抵抗するでもなく、銃のことなどまるで意に関さずレヴィを見つめていた。 生気の抜け落ちた死霊のような眼差しは、彼を知る者から見れば違和感を感じずにはいられないほど異質なもの。 何があったのか、問い質すのも躊躇われる雰囲気だった。しかしレヴィは、 「ふざけんじゃねェぞ!」 カズマの様子などお構いなしに、眠たげな顔面を鉄拳で殴りつけた。 本気のパンチに弾け飛んだカズマは受け身を取ろうともせず、無様に床を転がる。 「おら、立てよコラ。あたしゃあこの一日、ずっとテメェに借りを返すことだけを考えてたんだ。いつまでも腑抜けてんじゃねェぞ」 カズマという男は、いかに相手が女とはいえ頬っ面を殴られて大人しくしているほど温厚な性格ではない。 即座に立ち上がり反撃の意志を示すのが当たり前――であったはずなのだが、彼は痛みを堪えるかのようにゆっくりと立ち上がった。 そこに気迫や威圧感はない。レヴィの言うとおり、正に『腑抜け』という言葉がお似合いの惨めな姿を晒していた。 「へへっ……チンピラだな、まるで。あいにくよ、俺はテメェみてぇなのを相手にしてる暇はねぇんだわ。やらなきゃいけねぇことがあるからよ」 「さっきまで寝てた野郎がナマ言ってんじゃねェぞ。テメェが腑抜けてるせいで、あたしのテールランプはとっくのとうに真っ赤っ赤だ。 もうな、収まりがつかねェんだよ……どっかの馬鹿を蜂の巣にでもしなけりゃな」 「やるってのか? あの時の続きをよ……おもしれぇ」 いつかのように、銃と拳を突きつけ合うカズマとレヴィ。 傍目から見ても一触即発と取れる光景だったが、その場にいた二人の傍観者――トグサとゲイナーは、止めようとはしなかった。 いや、正確にはトグサは止めようとしたのだが、ゲイナーが先にそれを押し止めたのだ。 少し前の彼だったら、トグサと一緒になってレヴィを羽交い絞めにしたことだろう。 だが、今はあの時とは違う。安心できる、と言ってしまうのはどこか悔しいが、この場面はレヴィに任せられるだけの信頼感があった。 現に、一触即発と思われた状況はいつまで経っても暗転しない。 レヴィはいつでも引き金を引ける体勢ではあったが、向かい合うカズマはいつまで経ってもアルターを発現しない。丸腰でレヴィと向かい合う。 単にアルターを駆使するだけの余力がなかったのか、それとも頭に西瓜をぶつけられたダメージが残っているのか。それは定かではない。 ただ事実として闘争は起こらず、睨み合ったままの状態に嫌気のさしてきたレヴィはついに―― 「だァァーッ! なんッなんだテメェは!」 ――キレた。 同時に、構えていた銃を撃つ、ではなく投げつける。 回転しながら飛んでいくべレッタを正面から受け、カズマはまたその場に倒れこんだ。 「死んだ魚みてェな眼しやがって! いいか、テメェは一回あたしに喧嘩売ってんだぞ!? その決着はまだついてねェ! だけどな、こちとら弱虫小僧を甚振る趣味はねェんだよ! ピーピー泣き叫ぶガキ撃ったって面白くもなんともねェからな!」 再びカズマの胸ぐらを掴み上げ、大きく突き飛ばす。 やることは乱暴だが、それはひとえにカズマに対する憤慨、そして失望の表れだった。 レヴィが『借りを返す』と誓ったのは、銃弾を拳で弾き、右腕一本で森林破壊をやってのけるような天までイカシてるカズマだ。 間違っても、目の前にいるような腑抜けとは違う。 (死んだ魚の目……? この、俺が?) レヴィの心境など知ったことではないカズマだったが、朦朧としていた意識はレヴィの挑発と罵声により徐々に変化を見せ、今の自分に疑問を抱きつつあった。 かなみが死んだ。君島が死んだ。ヴィータが死んだ。太一が死んだ。なのはが死んだ。クーガーが死んだ。ヤマトが死んだ。 カズマに関わった人間は、皆どこかで先に逝ってしまう。守れるはずだった存在が、カズマの身勝手さのせいで消えていく。 そんなことは知ったこっちゃない。俺に関わった奴には悪いが腹括ってもらう――以前、カズマが自分で言った言葉だった。 なのに、今の有様はなんだ。目の前で死んだ石田ヤマト、その姿が脳裏をうろついて離れない。 彼を救えなかった後ろめたさが、カズマにこんな眼をさせているとでもいうのだろうか。 (……違う。そんなんじゃねぇ。俺には足りなかったんだ。速さとか以前に、一番大事なものが足りてなかった) 悔しかった。 何もしない内に死んでいった仲間たち。目の前で別れることになってしまった仲間たち。自分の身の周りで起こる死の連続が。 もうあんな思いはしたくない。だから、守ろうとしてしまった。カズマという人間の本質に逆らって。 カズマは誰かを付きっ切りで守るようなタイプではない。大切なものが奪われたら、それを即行で奪い返すのが性に合っている。 (――『決意』だ。 こうと決めたら絶対に曲がらねぇ、道を逸れたり止まったりもしねぇ、何がなんでも突き進むっていう意志が足りなかったんだ。 一度こうと決めたら、自分が選んだんなら決して迷うな。迷えばそれが他者に伝染する。選んだら進め。進み続けろ) 今のカズマは、ヤマトの死によって止まってしまっている。太一に突き進むと約束し、それを破ったばかりに止まってしまった。 それがなんだって言うんだ。カズマにはまだ、やりたいことが残っている。 ムカツク奴はまだいるし、劉鳳に会ったらブチのめすつもりもある。 欲しいものは奪ってでも手に入れる――それが既に失われたものだとしても、止まったり退き帰したりはしない。 進む。ただ前を向き、ただ上を目指す。それしかできないし、それしかする気もない。 だから、 「立ち止まってるヒマなんか――ねェ!」 カズマは立ち上がった。咆哮と一緒に、瞳に魂を再燃させた。 「俺は進めぜ! 他人のことなんざ知ったことか! 付いて来てぇ奴だけ付いてくりゃあいい! それでどうなろうが文句は言わせねぇ! あぁそうだ、俺は昔からそうやってきた! これからだって変わらねぇ! かなみと君島とヴィータとなのはと太一とヤマト! ついでに兄貴もだ! あいつらの名前はみんな刻んだ! ああそうだ、だから進むぜ俺は!」 死んだ魚は、一転して獣へと生まれ変わる。 それは絵に描いたような馬鹿で、愚直という言葉がピッタリ当てはまるような馬鹿で、馬鹿だった。 だが、それが素晴らしくカズマらしい。 「おい、一つだけ聞かせてくれ。君が気絶する直前に首輪が爆発して死んだ参加者がいるだろう? それはまさか」 「ヤマトだよ。石田ヤマト。太一のダチだった奴だ。詳しいことが知りたいんなら病院へ行きな。ドラえもんとのび太って奴らがいるからよ」 トグサの問いに対し最低限の返答を済ませ、カズマは映画館を出ていこうとした。 後を追おうとする者はいない。トグサもゲイナーも彼を止めようとはせず、レヴィに至っては完全に見限ったのか、そっぽを向いてしまっている。 そのレヴィに向かって、カズマは退室の間際にこう言い残した。 「そこのテメェ、レヴィっつったな! テメェの名前も刻んだからな! さっきの借りはいつかぜってェ返す! 覚えとけ!」 「あーウルセー。腰抜けのボウヤはさっさとどこかへ行っちまえタコ。 もしノコノコとあたしの前に姿見せてみろ。そんときは、今度こそその脳天に鉛弾ブチ込んでやるよ」 両者、最後まで顔を向け合うことはなく――だが二人とも密かに笑い、別の道を行った。 もし三度顔を合わせる時が来るとしたら、その時こそお互いがお互いの借りを返す時なのだろう。 今はただ、その時を待てばいい。自己の尊重とぶつけ合いは後回しで、今はただ、進み続ければいい。 映画館に残った西瓜の匂いはどこか甘ったるく、どこか刺激的だった。 ◇ ◇ ◇ カズマが去り、トグサとゲイナー、レヴィの三人は情報交換を再開することにした。 映画館へ移動する際鉢合わせた両名は、トグサがカズマを背負っていたこととゲイナーがレヴィをうまく抑制したこともあり、無駄に争うこともなく交流を得ることができた。 カズマが目覚めるまでに提供を済ませたのは、この世界に連れて来られてからの簡単な情報のみ。 それぞれの知人関係とこれまでの経緯等、トグサはその中でタチコマの名を聞くことになった。 そして今、話題は首輪を中心とした脱出方面へと向いている。薄暗い映画館の事務室で、ゲイナーとトグサはペンを走らせていた。 『これが、その時の戦闘で燃え残った首輪です』 『首輪か。焼け焦げてはいるが、中身は問題はなさそうだな。技術手袋を試すいい機会だが、問題は起爆装置がまだ機能してるかどうかだな』 ゲイナーの提案により、会話は盗聴を考慮して筆談で進められている。 首輪は記されたネームが擦れるほどに焦げてしまっていたが、原型を留めている以上中身に変化はないだろう。 トグサが技術手袋による解体を決行するかどうか決めかねていると、筆談には参加していなかったレヴィが徐に近づいてきた。 「ったくいつまでウダウダやってんだよ。ようするに、こいつを使えば首輪は解体できんだろ? さっさと試しゃいいじゃねェか」 「な!? おい、ちょっと待て!」 筆談の意味を台無しにした上で、レヴィはトグサから技術手袋と問題の首輪を取り上げる。 そして躊躇いもなしに技術手袋を機動させ、首輪はものの数秒でバラバラに解体された。 「おぉ! スゲェじゃねーかコレ。どうだゲイナー、テメェの首輪でも試してみねェか?」 「やめてくださいよ! 既に外れた首輪だったからいいものを、普通に使ってたら絶対に爆発してますよ!」 レヴィの大胆な行動に、トグサは肝を冷やした。 だが、結果オーライではある。人の首から外れた首輪は既に機能を停止し、技術手袋の性能どおり無事解体できることが証明された。 もちろん、人の首に嵌ったままのものはまた別の話。あくまでも、首から外れた首輪の解体に成功したに過ぎない。 「どうしますトグサさん? もしこの現場がギガゾンビに監視されていたとしたら――」 「どの道、俺たちには引き返すことなんてできないさ。コソコソせずに堂々と中身を調べさせてもらう」 ホテルでセラスに説明した考察の件に続き、今回は首輪の解体にも成功したというのにギガゾンビ側からのアプローチはない。 やはり、トグサの『技術手袋で人の首から首輪を解除するには、それに加えて何か他の要因が必要になってくる』という推理は当たっているのだろう。 だからギガゾンビはまだ手出しをせず、悠々と傍観を決め込んでいる。 重要なのは、その『別の要因』だ。技術手袋で首輪を解除する際、仕掛けられている罠を外すようなパスが必要なはずなのである。 それは何なのか。首輪の中身を調べ推理していく。 「この小型機械の数々、どれが何の役割をしているか分かるか?」 「このマイクみたいなのは、盗聴のためのものでしょうね。それとこの配線が繋がってるのは爆弾、このアンテナっぽいの二つは受信装置で、 この超小型の計器は……何かを計測するためのもの?」 「それが何か、が問題だな。だが、これらはどれも機能を停止しているようだ。収音器具と思われる小型マイクは、何故か壊れてすらいる」 「解体したから機能が停止したのか、それとも参加者の首から外れた時点で機能を停止したのか……それによって考え方も変わってきますね」 「これらの機械を一つ一つ調べていくには、俺たちじゃ知識が足りない。それこそギガゾンビと同等の技術力を持った人間にしか分かり得ないだろうな」 「小難しいったらありゃしねェな。あたしはメシでも食うかね」 一人グルメテーブルかけを敷くレヴィを尻目に、ゲイナーも空腹に耐えかね食料を取り出す。 しかし首輪の解体には成功したものの、考えは深まるばかり。 トグサとゲイナーという知恵者二人が合わさっても、専門的な未来技術の前では手も足も出ない。せいぜいそれらしい推測を並べるだけだ。 「とりあえず、首輪の中に監視道具は入っていないみたいですね。小型のカメラが搭載されている可能性も考えたんですけど」 「それなら監視可能範囲が参加者の視点に限定されるし、マフラーか何かで首元を覆えば簡単に監視を封じ込める。 中にはアーカードっていう心臓に首輪を取り付けられていた参加者もいるくらいだしな。それより気になるのはこの盗聴道具だ。 見たところ小型化を重視するあまり、性能は随分と低く抑えられているようだ。しかもこの首輪の場合、解体する以前に壊れていて使い物にならなくなってる」 「たぶん、フェイトちゃんとの戦闘の衝撃で壊れたんでしょうね。所持者の人が跡形もなく消し飛ぶほど、壮絶だったらしいですから」 「だが、盗聴機以外の機具に破損は見当たらない。これだけが壊れたのは、盗聴機の耐久度だけが低かったからだ。 そんな粗末なものを、監視道具の一環として用意するだろうか。殺し合いなんてしてれば、すぐに壊れるのは明白だ」 「僕ならしませんね。監視が外部から行われているとするなら、盗聴もそれとセットでやるのが普通だと思います。 それでも首輪に盗聴機を仕込みたいって言うなら、せいぜいそれは何かあった時の保険代わりにしかならない」 「保険……例えば監視機具に不具合が生じたり、参加者が監視の目の届かない場所に隠れてしまった時のための処置か。確かに有り得るな」 「なんか話がダリィな。寝てていいかゲイナー?」 「ご勝手にどうぞ」 さっそく寝息を立て始めたレヴィを無視し、ゲイナーとトグサは考察の海に沈む。 首輪の解体により分かったことは、監視と盗聴は外部から行われている。ただし、首輪には保険代わりの低性能盗聴機が仕掛けられている。まずこの二つ。 さらに受信装置はおそらく、外部からの起爆電波を受信するためのもの。片方はギガゾンビによる手動電波、もう片方は禁止エリアから発せられる電波を受信するのだろう。 小型計器が何を計測しているのかは、見当もつかない。そもそもこれら全ては推測の域を出ないものであり、確証を得るには機械工学についての知識が足りなさすぎた。 『問題は技術手袋を使った際、すんなり解除成功といくにはどうすればいいかだ』 『中の爆弾についた配線から推測するに、外部から干渉を受けるとすぐに起爆する仕組みになってるみたいです』 レヴィが寝に入り、考察の内容が首輪の確信に触れると判断した二人は、話し方を再び筆談に戻す。 『なら、爆弾の機能を一時的に停止させ、その隙に技術手袋で首輪を解除すればいいわけだ』 『問題はその方法ですね。この配線を断てばそれも可能でしょうけど、外側からではまず不可能だ』 『起爆しないようにうまく首輪を解除する方法……技術手袋でも無理となると、かなり難しくなってくるな』 『そんな方法、あるんですかね』 ゲイナーがそう記してから数分間、トグサの持つペンは動かなくなった。 爆弾の解体なら多少の心得もあるが、そこに未来技術が絡んでくるとなるとどうにも勝手が変わってくる。 難しい顔をするトグサ、すっかり就寝モードのレヴィ、両者の顔を見回した後、ゲイナーがペンを走らせる。 『トグサさん。唐突なことを聞きますが、「時間を止める方法」に心当たりはありませんか?』 それは、あまりに突拍子のない質問だった。 『時間を止める? どういうことだ?』 『僕のいた世界には、オーバーマンっていう巨大ロボットがいて、それらはオーバースキルという特殊な能力を秘めていました。 その中のラッシュロッドという機体は、「時間を止める」オーバースキルを持っていたんです。 時間を止めた範囲にいる人間は動くこともできないし、もちろん機械も一切の機能を停止します。 もし「時間を止める方法」があるとすれば、時間を止めてその隙に首輪を解除することが可能なんじゃないか……と』 『時間を止める……か。なるほど。だがあいにく、そんな非科学的な現象を起こす方法には心当たりがないな。 まぁ、数ある不思議な支給品の中にそういった道具が紛れ込んでいないとも限らないし、そのラッシュロッド自体がこの場に存在している可能性だってある』 『だとしたら、ラッシュロッドで時間を止めて首輪の機能を停止、その間に解除っていう理想が実現できます。 でも、たぶんオーバーマンが支給品として紛れ込んでいる可能性はない』 『巨大ロボなんて代物、殺し合いの武器として支給したらバランスを崩しかねないからな。 だがその発想はイエスだ。一時的に首輪の、最低限爆弾の機能だけでも止めることができれば、その隙に技術手袋が使える』 『今後の方針としては、それを可能にするための能力、もしくは道具の探索ですね』 『ああ。俺の推理としては、ネットワーク上に何かヒントが転がっているんじゃないかと思ったんだが……肝心の情報端末はまだ見つからないしな』 『どちらにしても、根気よく探すしかないですね。できれば僕たち以上に機械に詳しい人も』 『所詮は推測の上での推理。都合のいい仮定を並べて引いた線上の戯言でしかないからな』 それを境に、トグサとゲイナーの首輪に関する筆談は終了を迎えた。 ◇ ◇ ◇ 「バラバラにした首輪は、トグサさんが持っていてください。技術手袋もあるし、重要なアイテムは一箇所に纏めておいた方がいい」 「了解した。それで、ゲイナーたちはこれからどうする?」 レヴィを叩き起こした後、トグサたちはそれぞれの目的を果たすために一度映画館を出ることにした。 「僕は、六時にフェイトちゃんと駅で待ち合わせをしているんです。今から行かないと間に合わないだろうし、合流しだいすぐに病院へ向かいます」 「そうか。俺は一度病院へ行って、カズマの言っていた二人と接触してみようと思う。ヤマトが絡んでるということは、そこにハルヒとアルルゥもいるはずだからな。 ……それにもし彼女たちと合流できたら、長門やヤマトのことも報告しなくちゃいけない。首輪関連以外にも、やらなきゃいけないことは山積みだ」 「あんまり無茶はしないでください。もう残り人数も少なくなってきてるし、トグサさんみたいな大人は希少だと思いますから」 横目で欠伸をするレヴィを見つつ、ゲイナーは呆れ顔で溜め息をつく。 トグサも彼の苦労を察したのか、複雑な面持ちで「頑張れよ、少年」と元気付けた。 「それじゃあ、僕たちは行きます。トグサさんもどうか気をつけて。ほら、レヴィさんも挨拶くらい」 「あぁ? メンドクセェな……ま、せいぜい頑張りな」 「ああ。じゃあな二人とも。またあとで落ち合えることを願ってるよ」 イイロク駅を目指して、ゲイナーとレヴィの姿が南へと遠ざかる。 それを見送ったトグサもマウンテンバイクに跨り、進路を病院へと定めた。 (タチコマ……お前の築いた交友関係は、無駄になんてならなかった) ペダルを漕ぎマウンテンバイクを走らせる一方で、トグサは星空を見上げながら同僚達のことを思った。 残った者はただ一人。だがその一人は一番の新米であり、それ故に皆の意志を一身に受け継ぐ者でもあった。 トグサは進む。彼もまたカズマと同様に、立ち止まったりはしないのだろう。 (公安9課は俺やみんなが望む限り、犯罪に対して攻勢の組織であり続ける。これから先もずっとな) ――この意志を少佐へ。バトーへ。タチコマへ。 【B-4/2日目/黎明(2~3時範囲)】 【カズマ@スクライド】 [状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ! 1:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす! 2:ドラえもんやのび太とはあとで合流。 3:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす! 4:レヴィにはいずれ借りを返す! 【B-4/2日目/黎明(3~4時範囲)】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退は不許可 [装備]:S W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク [道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物) 技術手袋(使用回数:残り16回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み) 解体された首輪、フェイトのメモの写し [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:病院へ向かいドラえもん、のび太と合流。カズマの行動についての経緯を問い質す。 2:病院にハルヒとアルルゥがいるかを確認。いないようなら彼女らを捜索。 3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。 4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。 5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。 6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。 7:エルルゥの捜索。 [備考] ※風、次元と探している参加者について情報交換済み。 【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】 【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】 [状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い 腹部と後頭部と顔面に相当なダメージ [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料一日分消費)、ロープ、フェイトのメモ、画鋲数個、首輪の情報等が書かれたメモ1枚 [思考] 基本:バトルロワイアルからの脱出。 1:E6駅でフェイトと合流。できなければ電話をかける。 2:フェイトと合流後、病院で再びトグサと合流する。 3:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。 4:フェイトのことが心配。 [備考] ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。 ※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。 ※トグサから聞き逃した第四放送の情報を得ました。 ※顔面の腫れは行動に支障がない程度には回復しました。 【レヴィ@BLACK LAGOON】 [状態]:殺る気満々。腹部に軽傷、頭にタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。 [装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾15、マガジン15発、マガジン14発) グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル(弾数3/3) グルメテーブルかけ(使用回数:残り17品)@ドラえもん、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える) [思考] 基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!! 1:不本意だが駅に向かいフェイトと合流。 2:フェイトと合流後、病院で再びトグサと合流する。 3:見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。 4:魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用? 5:カズマとはいつかケジメをつける。 6:ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。 [備考] ※双子の名前は知りません。 ※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。 ※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。 ※トグサから聞き逃した第四放送の情報を得ました。 時系列順で読む Back のこされたもの(狂戦士) Next 人形裁判 ~ 人の形弄びし少女 投下順で読む Back Keep the tune delectable Next 道 245 峰不二子の陰謀 カズマ 260 運命に反逆する―――――――!! 245 峰不二子の陰謀 トグサ 257 プリズムライト(前編) 247 Keep the tune delectable ゲイナー・サンガ 256 暗闇に光る目 247 Keep the tune delectable レヴィ 256 暗闇に光る目
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【夜】 NO. タイトル 作者 登場人物 293 陽が落ちる(1)陽が落ちる(2)陽が落ちる(3)陽が落ちる(4)陽が落ちる(5) ◆S8pgx99zVs 氏 涼宮ハルヒ、ドラえもん、野原しんのすけ、フェイト・T・ハラオウン遠坂凛、レヴィ、ロック、トグサ、ゲイナー・サンガ、ゲイン・ビジョウ住職ダマB(ユービック)、ホテルダマ(フェムト)、ギガゾンビ 295 夜の始まり、旅の始まり -Fate-きらめく涙は星に -Raising Heart-消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- ◆2kGkudiwr6 氏 遠坂凛、フェイト・T・ハラオウン、涼宮ハルヒ、シグナム、ヴィータ 【夜中】 294 終わりの始まり Border of Life ◆qwglOGQwIk 氏 ホテルダマ(フェムト)、ギガゾンビ 296 Moonlit Hunting Grounds突入せよ! ギガゾンビ城いま賭ける、この命 ◆lbhhgwAtQE 氏 ロック、レヴィ、ゲイン・ビジョウ、ゲイナー・サンガ、ドラえもん野原しんのすけ、トグサ、住職ダマB(ユービック) 297 今、そこにある闇 ◆B0yhIEaBOI 氏 ホテルダマ(フェムト)、ゲイナー・サンガ、レヴィ、ゲイン・ビジョウ、ロック、ドラえもん、野原しんのすけ、住職ダマB(ユービック)、ギガゾンビ 298 GAMEOVER(1)GAMEOVER(2)GAMEOVER(3)GAMEOVER(4)GAMEOVER(5) ◆S8pgx99zVs 氏 涼宮ハルヒ、長門有希、フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、ゲイナー・サンガ、ロック、ドラえもん、野原しんのすけ、トグサ、レヴィ、ゲイン・ビジョウ、ギガゾンビ、住職ダマB(ユービック)、ホテルダマ(フェムト)
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陽が落ちる(3) ◆S8pgx99zVs 【18:39】 「不正アクセス」 ギガゾンビの居城。その最奥、殺戮遊戯の盤上の全てを管理するためにある司令室。 そのバトルロワイアルの中枢である司令室に、けたたましいレッドアラームが鳴り響いていた。 「ウ、ウィンドゥの中に雪が降っているギガ!?」 「第二フレームまでにウィルス汚染を確認。さらにメインシステムに四千以上のアクセスを確認ギガ~」 「表層の防壁迷路が機能不全を起こして、全く役に立ってないギガッ!」 「ま、まずいギガー! レベル4までのセキュリティシステムを再起動しなおしギガー!」 「未知のウィルスを16種類確認。4種は中和中。1種は対処完了。……の、残りは対応できないギガァ!」 「お、汚染されたシステムをシャットダウン……て、コマンドを受け付けませんって出てるギガよ!?」 突然のハッキング行為に、司令室の中は混迷を極めていた。 各オペレートツチダマ達が、それぞれに対抗手段を講じてはいるが、後手後手に回って相手側に押されている。 総司令代行であるフェムトも、自分のデスクで事の成り行きを見てはいるが……、 「い、一体どこからだ……? 誰がこんなことをしているっ!」 ハッキング行為を受けるなどという、全く想定外の出来事に動揺していた。 ギガゾンビ城及び、ギガゾンビへの直接、間接的なアクセス。それは絶対出来ないはずだった。 特に電波による侵入、それに対しては事前に入念な対策を施している。 電波に限らず、参加者達の通信や探知に関する能力は、問題を起こさないレベルまで抑制してある。 それは支給品に関しても同じだ。参加者達はせいぜい会場内の電話回線程度しか使えないはずなのだ。 「アクセスポイントを確認。て、敵は……アレ? 亜空間破壊装置の管理システムから進入して来てるギガ?」 「敵は遊園地。モール。温泉に残ったシステムを乗っ取って使用しているギガー」 「敵は内部! 敵は内部にいるギガ~!」 オペレートツチダマの報告にフェムトは会場内MAPに目を移す。だが……、 「……A-8、G-5、G-8、……い、いないぞ。アイツらはそこにはいない」 亜空間破壊装置の管理システム。その近くに参加者達は近づいていない。 ならば遠隔操作か? しかし、先に確認した通り参加者にそれができるわけがない。 しかしTPなどの外部勢力の仕業とも思えない。接近すれば判るし、こんなまだるっこしい手を使う相手ではない。 (誰が!? 誰が!? どうやって!? どうすればこんなことが!? ……まさかっ!) 自問するフェムトの脳裏に、ある一つの懸案事項が浮かび上がった。 ツチダマ達が、娯楽と暇つぶしのために電脳の片隅に作り上げた掲示板。そこへの不可解なアクセス。 (――あのノートPC!) フェムトは確信した。この侵入騒ぎはあのノートPCからのものに違いない。 そしてフェムトは記憶を辿る。あのノートPCは今どこにある――? レントゲン室を出て廊下を歩くトグサ。その手にあった。そして、もう片方の腕には――ユービック!? (アイツか!? あの裏切り者の仕業なのか?) どうやって、あの裏切り者が侵入コードとウィルスを用意したのか? それに加え、トグサの電脳に施されていた制限をどうやって解除したのか? それはフェムトにも想像がつかなかったが、敵の正体を捉えることはできた。 「侵入者はトグサと裏切り者のユービックだっ! 攻性防壁を放って、あいつらの電脳を焼き払ってしまえ!」 その号令に、守勢だったギガゾンビ側が、一気に攻勢へと反転した。 【18:40】 「ドラえもんと眼鏡の少年」 「僕のやっていたことって、なんだったんでしょうね……」 レントゲン室でのやり取りの後、手持ち無沙汰だったゲイナーとドラえもんは、ただ徒然と病院内を徘徊していた。 この行動も、別に全く意味のない行動というわけでもない。 ギガゾンビ側に、出来るだけ仲間割れしてるように見せかけれるようにと言う、ゲインの提案だ。 「……なんだったって、何が?」 ゲイナーの発言の意図が汲めず、ドラえもんはゲイナーへとそれを聞きなおした。 彼はその問いに、少し憮然とした顔で返答する。 「大人はずるいって話しですよ。……首輪を外す役目は僕にあったはずだったんです」 ああ、とドラえもんは納得した。確かにゲイナーの気持ちは分からないでもない。 「ゲイナー君」 ドラえもんは前を歩くゲイナーを呼び止め、そして語りだした。 「僕はね。ゲイナー君はとてもみんなを助けていると思うよ。 そりゃあ君は強くなければ、魔法も使えない。 でもね、君がいなければみんなもここにはいなかったと思う。 君がフェイトちゃんと出会ったから、トグサさんと出会ったから、ゲインさんと出会ったから、 だから僕たちはここにいるんだと思う」 それはそうかもですけど、と言うゲイナーにドラえもんは続けて語る。 「僕もトグサさんも他のみんなも、ゲイナー君が頑張っているのを知っている。 それはすごく助けられるんだ。僕たちも頑張らなくっちゃって。 こんな状況だもん。本当は誰だって投げ出したいという気持ちがあると思う。 でもね、他に頑張っている人を見ると、そんな気持ちに勝つことができるんだ。 それにね。ゲイナー君は自分だけしかできない事をしたじゃないか。 君があのゲームをクリアしたことで、みんなが帰れるかもしれないんだ。すごいよ」 ドラえもんの言葉にゲイナーの顔が赤くなる。 「それは持ち上げすぎですよ。……でも、ありがとうございます」 「ううん。僕のほうこそ、今まで何もできなくて……」 うなだれるドラえもんに近づくと、ゲイナーはその丸い手をそっと取った。 「何言ってるんですか。ドラえもんは、今僕を助けてくれたじゃないですか。おあいこですよ」 「ゲイナー君……」 ドラえもんの目に涙が浮かぶ。そして、改めてドラえもんは目の前の眼鏡の少年をいい子だなと思った。 「こんなところにいたのか。探したぞ」 廊下の真ん中で手を取り合う二人に声をかけたのは、ツチダマのユービックだ。 半分しかなかった身体は、つぎはぎの見える不恰好な姿ではあったが、ある程度修復されていた。 「身体を修理してもらったのか。おめでとうユービック」 「で、僕たちにどんな用ですか?」 ドラえもんとゲイナーの二人は、そのツチダマが仲間であるユービックであると確認すると、そこに駆け寄った。 「いや、ほとんどは自分で修理したのだ。暇だったのでな。それと用事があるのはゲイナーにだ」 「僕にですか?」 いぶかしむゲイナーに、ユービックはトグサより預かった技術手袋を差し出した。 「トグサが、もう好きに使ってもよいと。ゲイナーに自分の仕事をさせろと言っていた。 これは、お前が一番うまく使えるだろうからと」 「ドラえもん!」 「うん!」 受け取った技術手袋を握り締めると、ゲイナーはドラえもんの手を引いて走った。 ゲイナーの、彼の仕事場へと向かって。 【18:41】 「恐慌」 フェムトの下した号令に、守勢だったギガゾンビ側が、一気に攻勢へと反転した…………のだが、 「走査反応を逆探知――完了! 敵の位置を補足したギガ!」 「攻性防壁を展開~。流入させるギガ~……って、あら?」 「……まずいっ! トラップされたギガー! ぎ、逆流して――――――ギガァンッ!」 短い悲鳴、そして乾いた破裂音と共に一体のオペレートツチダマが椅子から落ちた。 床の上にセラミックの破片を散らし、焼き付いた基盤から薄い煙を立てて動かなくなる。 そのツチダマは、流した攻性防壁を逆に流し返され、電脳を破壊されたのだ。 流し込まれた攻性防壁をデコイと防壁を使ってトラップ。相手側が即応できないようにデータを改竄して逆流させる。 トグサの上司である草薙素子が得意とする戦術で、それはAI級と呼ばれるほどの処理速度があって初めて成し得るものだ。 今それを模倣したトグサ自身にはその能力はない。だが、その代わりに彼には長門有希の残した高度なシステムがあった。 ……ともかくとして、警報の鳴り止まない司令室に、また新たな混乱が発生していた。 仲間の一体を破壊され、恐慌状態に陥ったオペレートツチダマ達が、結線を解除し持ち場を離れ始めている。 もちろん、そんなことをすればどうなるかは火を見るより明らかなので、フェムトは離れないよう指示するのだが、 「み、みんな殺されるギガ~! あいつらきっと宇宙人ギガ~!」 「ハッキングされて機械が爆発するなんて、漫画と映画の中だけの話と思ってたギガ!」 「もうギガたちはおしまいギガよ~」 「う、うわぁ。お城が揺れているギガァ!」 「もしかして、この世の終わりが来たギガッ?」 加えて発生する異常事態。ギガゾンビ城に低く重い音が鳴り響いていた。地震か? それとも敵の攻撃を受けているのか? 一人コンソールの前に残ったフェムトは、素早くキーを叩きその原因を探る。そして、それは程なく発見できた。 「か、隔壁が……!」 城内を映す監視カメラに、次々と閉じていく隔壁の映像が流れている。 抵抗が弱まったことで、敵の侵攻が城内のシステムを乗っ取りつつあるのだ。 フェムトは各システムに自閉のコマンドを送るが、彼一人ではまさに焼け石に水で、その勢いを止めることはできない。 (どうする……どうする……どうする!?) コンソールの前を右往左往するフェムト。もし彼が人間だったら、その顔は真っ青だっただろう。 そして、そんな彼にさらに追い討ちの一撃が加えられた。 警報とは別種のけたたましい電子音と共に、モニターの一角にその情報が伝えられる。 それを見たツチダマ達、そしてフェムトに駄目押しの衝撃が走った。 「亜空間内に巨大な船影が現れているギガ!」 「まずいギガよ! 近すぎるギガよ!」 「は、早く探査波動を止めないと、見つかっちゃうギガ~!」 司令室に限らず、城内の全ての場所においても混乱が発生し始めていた。 元より、事の流れに押されやすいツチダマ達だ。混乱は簡単に伝播し、それはもう恐慌にまで発展しそうな勢いである。 そんな中、一人その恐怖と戦っているツチダマがいた――フェムトである。 彼自身の性能は、その他のツチダマとなんら変わる所はない。 違うのは、主からパーソナルネームを貰っているということと、司令官と言う独自の役割を持たされている所だ。 故に、十把一絡げに扱われ、また彼ら自身もそう振舞う名無しのツチダマとフェムトは違った。 フェムトは思考する。他のツチダマとの安易な同期は取らず、彼自身の電脳で。 事態は最悪の展開と言える。――生存者達、闇の書、そしてタイムパトロール。 もはやバトルロワイアルは終了したのか――? 「違うッ!――まだ、終わりじゃあないッ!」 フェムトの手から電光が放たれ――そして、彼の目の前は闇に包まれた。 【18:44】 「CALL!!」 「……ッ。あー、クソッ! 痛ぇな畜生……」 あのレントゲン室での静かな話し合いの後、レヴィは一人、エクソダス計画を立てたあの大部屋へと戻っていた。 そして、あの時自分が寝ていたベッドの上に再び戻り、今はセイバーに斬られた左腕の手当てをしている。 白いシーツの上に血を溢しながら、乱雑ながらも的確に傷口へと針を通している。 ラグーン商会の女ガンマン。仕事は荷運びだけではないし、彼女はアルバイトも多く常日頃から生傷は耐えない。 して、その傷を治すのに彼女が病院へと足を運ぶかと言うと、答えは――ノーだ。 裏の世界の医者は高い。かといって表を歩ける素性でもないし、もちろん健康保険なんかを払っているわけがない。 結果、傷は治るまで放っておくか、自分で適当に手当てするか――となる。 なので、専門知識はなくとも彼女なりにではあるが、手当てのコツは知っていた。 深い斬り傷を、取りあえず端まで縫うと、レヴィは糸を結びシーツの端で腕を汚す血を拭った。 そして、用意しておいた包帯を傷口の上にグルグルと巻きつけると、最後にそれをきつく縛る。 「取りあえず、一丁完了……と」 手当てを終えた左腕をレヴィは上下させる。 動かすたびに鋭い痛みが走るが、彼女にとっては銃さえ握れればそれでよかった。 むしろ、全店休業を要求する疲れた身体に対する、よい気付けになるぐらいだと思ったぐらいである。 一息つくと、レヴィは壁に掛けられた時計を見て、後十分と少しで放送から一時間になるのを確認した。 その時、自分が生きているかどうかは、別の場所で仕事をしているトグサ次第だ。 十人もの命をBETしたこの大博打、しかも一点賭け。 はたしてその結果は――とレヴィがそこまで考えたところで部屋の中に入ってくる者があった。 「傷の具合はどう、レヴィ?」 入ってきたのは、魔術師である遠坂凛。レヴィから見ればプッツン野郎のジャパニーズだ。 どうもこうも、と答えるレヴィの元へと駆け寄ると、遠坂凛はその傷を魔術で治すということを提案した。 レヴィの顔が変な形に歪む。そして鼻から息を噴出すと、彼女は一気に捲くし立てた。 「テメー、さっきはできねえって言ったじゃねえかッ!! あたしが今、どんだけ痛い思いしてテメーの身体で裁縫ごっごしてたのか解ってんのかッ!?」 「ご、御免なさいね……。でも、さっきカートリッジが見つかったから」 「遅い! 遅い! 遅すぎだぜ! 日本人は時間に厳しいんじゃなかったのかよ?」 「し、しょうがないじゃない! フェイトとハルヒだって治療しないといけなかったんだから。 それとも何? 私の治療は必要ないってわけッ!?」 う……、レヴィの顔が歪む。実際の話、本当は左腕だけでなく、全身のどこもが痛むのだ。 「鉛玉意外なら、貰えるもんはなんでも貰うって主義なんだ。……施しを受けるよジャパニーズ」 「そんな言い方は止しなさいよ。…………じゃ、身体を見せて」 と、遠坂凛が腕を上げるレヴィの身体に手を伸ばした時―― ――ピ、と小さな電子音が聞こえた。 生存競争遊戯の盤の上、 生き残った十人の、十の首輪が――ピ、と音を鳴らした。 【18:56】 「十人(+α)、再び」 キィンという澄んだ音を立て、リノリウムの床に二つに割れた銀色の環が落ちた。 溜めていた空気を大きく口から吐き出すと、トグサは閉じていた両目を開いた。 ノートPCのディスプレイを覗けば、その中で勝利の凱歌を歌うタチコマ達の姿が見える。 「……まさか、ここまで出来るとはな」 言いながら、トグサは床に手を伸ばし首輪だった物を広いあげる。 ここに集まっていた者達を縛っていた首輪は機能を失い、遂に彼らをその縛から解放したのだ。 元々、向こうからの電波を止められればとハッキングを仕掛けた訳だが、 それがこんなにもうまくいきしかも、首輪そのものを解除できるコマンドを得ることができようとは……。 首輪を解除できるコマンド――それそのものの実在を疑っていたが、 存在したということは案外、ギガゾンビもゲームのルールに限ればフェアな人間だったのかも知れない。 ――と、もう片方の手で外れた首輪の痕をさすりながら、トグサは思った。 ともかく、命を賭してノートPCを託したキョン。死してなお働きを見せたタチコマ。 そして、全てのお膳立てをしてくれた長門有希。さらには仲間達。 彼らの助けを得て、遂にトグサ達は一つの――首輪という大きな問題をクリアしたのだ。 「お疲れ様」 トグサが戸口を見ると、いつの間にかロックがそこに戻ってきていた。 彼が放り投げる水の入ったペットボトルを受け取ると、トグサはそれを開き渇いた喉を潤す。 「そちらの方の首尾は?」 「ラグーン商会は荷運びが専門。抜かりはないさ」 トグサとロックは並んで廊下を進む。仲間達と再び合流するためだ。 「ずいぶんとうまくいったみたいだね」 「ああ。怖いぐらいにな。 後は、ギガゾンビの首根っこを押さえて、脱出の算段が整うまで待てばいい」 言いながら扉を潜る。戻ってきたのはあのエクソダス計画を立てた大部屋だ。 そこにはすでに彼らの仲間達が集まっており、 入ってきたこの一時間の最大の功労者を、彼らそれぞれの言葉や仕草で褒め称えた。 壁に掛けられた時計が指し示す時刻はちょうど十九時。 このバトルロワイアル終着までの六時間。その最初の一時間を彼らは勝ち抜いた。 時系列順に読む Back 陽が落ちる(2)Next 陽が落ちる(4) 投下順に読む Back 陽が落ちる(2)Next 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) 涼宮ハルヒ 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) ドラえもん 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) 野原しんのすけ 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) フェイト・T・ハラオウン 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) 遠坂凛 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) レヴィ 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) ロック 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) トグサ 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) ゲイナー・サンガ 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) ゲイン・ビジョウ 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) 住職ダマB(ユービック) 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) ホテルダマ(フェムト) 293 陽が落ちる(4) 293 陽が落ちる(2) ギガゾンビ 293 陽が落ちる(4)
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38 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01 20 06 ID softbank060146109143.bbtec.net [5/20] 憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS「電脳刑事は電子彼岸花の夢を見るか」2 C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア トグサの姿は、あのビルの中にあった。 そう、九課がテロリスト集団の制圧に向かい、偶発的に精肉屋との遭遇戦に突入したあのビルだ。 現在は九課によって封鎖と保存が行われ、現場に残された証拠を探す現場検証が行われている。 些細な情報でもいい、テロリスト集団やあわよくば精肉屋に関する情報や証拠などが残っていないかを見つけようとしている。 これまで精肉屋は標的となったテロリスト集団や犯罪者を悉く皆殺しにしているほか、監視カメラなどにも姿をほとんど残してこなかった。 そういう意味では九課の面々が電脳に保存して収集した姿形などの情報は重要であった。 それはとっくに証拠として挙げられており、残るは現場という形だったのだ。 そして、そういった業務は本来ならば鑑識に任せるのが一般的なのだが、トグサはもう一度この現場に足を運んでいた。 火炎放射器や弓、あるいはジカバチさえ打ち落とす前装式拳銃が使われた出入り口を抜け、ビルの中に入る。 精肉屋が現れた現場で度々焼却痕が確認されていたことだが、まさか古典的な外見の火炎放射器を持ち出してくるとは予想外だった。 まあ、精肉屋の用いる武器は外見が如何に古めかしく、時代不相応だとしても、尋常ではない兵器ということは判明していることだ。 そして、この火炎放射器は、テロリストや犯罪者が保有していた危険な武器などを滅却するために使われていることも判明している。 超高熱を実現するそれは、時に死体までも蒸発させ、原形も残らないほどの状態にして処理をしていたのだ。 (おそらく、それをする必要があった……痕跡を残さないためもあったんだろうが……) トグサは、精肉屋に対して正確無比に目的を果たそうとする意志を感じ取っていた。 そうであるがゆえに、全ての行動には何らかの理由があると推測をしていた。 先ほど述べた火炎放射器に関しても、徒に使用しているというわけではなく、狙った対象だけを正確に焼き尽くしている。 そう、それだけのことをしなくてはいけない相手であったのだろう。あの精肉屋が恐れるほどに。 それが何であるかはわからないにしても、精肉屋が、あるいはその背後にいる誰かが看過できないものを持っていたのかもしれない。 それを心に留め置きながらも、トグサの足は屋内へと向かう。 ビルの中に入り、吹き抜けにたどり着くと、そこにある床面の破壊の跡を見下ろす。 (精肉屋が着地した跡がこれ、か) 九課を無力化し、逃走する際に精肉屋は戦闘していたフロアから吹き抜けに飛び降り、一階に着地した。 当然であるがその衝撃によって床は破壊され、陥没が発生した。元より2m近い体躯に鎧をまとっているだけあり、その衝撃はかなりのモノだったようだ。 この痕跡も、精肉屋の正体に迫るものとして保存されている。地面がどのように破壊されたかを基に、体重などの情報を弾きだそうというわけだ。 その結果として、精肉屋の身体的な情報は一つが仮説とはいえ導き出されている。 (問題なのは、軽すぎるということだよな) 想定された以上に軽かったというのが分析官の見解だった。 原理は不明なのだが、発揮された戦闘能力から逆算された義体の重さや推定される全身を覆う鎧の重量から見ると、その数値は余りにも軽すぎた。 重たい重量物が落下し着地したというならば、相応の衝撃が発生して床に残るはずであるのだが、あまりにも被害が小さい。 無論、何らかの方法で落下のエネルギーを相殺したという説もある。とはいえ、見た目以上に実は軽いのでは?というのは一つの証拠として有力視されていた。 39 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01 21 29 ID softbank060146109143.bbtec.net [6/20] エレベーターに乗り、交戦したフロアに昇る。 そこは未だに破壊と戦闘の痕跡が色濃く残り、あの人外じみた戦闘力を持つ精肉屋の脅威を今もなお残している場であった。 ここで9課に属する戦闘力上位の面子が瞬く間に制圧されてしまったのだ。 (……) 無意識に、片手を胸に当てる。 今でも鮮明に覚えている。一瞬で肉薄され、その手甲に覆われた腕で殴り飛ばされ、意識を失った瞬間を。 身体を一瞬で突き抜け、意識を刈り取った衝撃を。忘れようのない、痛みだった。 その時に感じた、抑えようのない「死」の恐怖さえも、未だに覚えていて、忘れられない。 無手であったとはいえ、かなり高度に義体化していると推測され、鈍器を振り回す膂力精肉屋に殴られて失神程度で済んだのは幸運だった。 殆ど身体が生身であるトグサの現場復帰が速かったというのはその証拠と言えるだろう。 「だけど、幸運だったわけじゃないとしたら?」 そう、相手は意味がある行動をしているからだ。繰り返しになるが、精肉屋は一切無駄なことをしていない。 過激なことをしているように見えるのだが、突き詰めていけばやることにはすべて合理性が存在し、理由がある。 今回の場合では相手が9課を殺す気がなかったというのが、トグサの考えだ。 自分が五体満足で回収され、早期に復帰したのは、恐らくではあるが精肉屋がトグサを殺すつもりがなかったからだと考えられる。 もっと言えば、戦うことにはなったが、生身で弱いトグサに合わせて手加減をした。 「では、なぜそんなことをしたのか?」 その言葉を口に出し、自分に言い聞かせる。その「何故」を他の事例と合わせトグサは考え続ける。 義体を破壊されて戦闘不能に陥った少佐、水銀と血のようなものを混ぜた弾丸で撃たれたバトー、そして鈍器で気絶させられた残りの面々。 どれも殺しには至っていない。あくまでも動けなくさせるか、戦闘続行能力を奪うにとどめている。 その気になれば、これまでさんざん手にかけてきた数多の犯罪者同様に9課の人員は殺されていただろう、あっけなく。 (それは、精肉屋の狙いがあくまでも犯罪者やテロリストであり、治安を維持する側の9課は標的ではないから) そうなのだ。 初犯と思われる事件が確認されてから一貫していることは、標的となっているのが何らかの犯罪者などに限定されている。 時には人知れず静かに大量の犯罪者を処断し、時には抵抗を粉砕して殺戮をしていることもある精肉屋。 それが目的である以上、それとは真逆の、民間人の虐殺や治安維持の人間を殺すといったことはしていない。 憶測に憶測を接ぎ木したような、そんな考え。さりとて、そうでなければ説明がつかないのも事実だ。 方法は不明だし、偶然か必然かもわからない。けれど、精肉屋はおそらくあそこに9課が来ることを知っていた。 どういう人間が来るかも、どういう目的なのかも、どういう装備なのかさえも、おそらく事前に知っていた。 そして、殺す意味はないが交戦して潜り抜けなければならず、やむを得ず9課を無力化して逃走したのだ。 (課長も少佐も納得していなかったけれど……) 自分だって荒唐無稽なところがあるのは理解できる。 けれど、この仮説以外に説明を付けられるものは存在していない。 40 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01 22 29 ID softbank060146109143.bbtec.net [7/20] では、そんなことをすることで利益が出るのは誰か?という疑問にたどり着く。 他国の領土に侵入し、テロリストや犯罪者を殺して回り、治安を向上させ犯罪を抑止することで得られる利益を享受するのは誰か? (この国の人間じゃない、かもな) 茅葺政権は現在のところ、積極的にこのカナンへの入植と定着を推進している。 だが、その政策は正直なところ国民受けをしているかといえば微妙なところだ。広く薄く広まっている望郷派の意見が、少なくはない反発を招いている。 先日目撃したような矛盾---都心部の過密人口に対し、郊外の開拓エリアが手つかずのまま放置されている---状況が多数起こっているのがその証左の一つだ。 そういった空気の中において、積極的に行動を移す人間がどれほどいるだろうか?想像にすぎないが、少数どころではないと判断している。 翻って、国外は、もっと言えば自分たちの地球からエクソダスしてきた人々以外ならばどうだろうか? 例えば、このカナンが存在している領域は日本帝国をはじめとしたPRTOの主権範囲内というか、勢力圏の内側にある。 さらにこの融合惑星という惑星は、地球連合の勢力圏の中において重要な立地にあることは知っている。 そういう観点で言えば、この融合惑星の一角を占めるカナンに入植した国々の動向に対して非常に敏感になるであろうことは確実だ。 国家戦略---それこそ、安全保障という観点から言っても地球連合はその存在を無視しえず、強い関心を持っている。 たびたび地球連合の外交官などが訪れて、積極的な渉外活動を行っているのはトグサもよく知っていること。 その来訪や積極的な活動の目的が、自国の融合惑星への積極的な土着の促進にあるということも、である。 それは当然、内政干渉となる。 いかにこのカナンの割り当て区画が融合惑星にあり、PRTOの勢力圏にあるとはいえだ。 だが、それも表沙汰にならなければ全く問題ない。表沙汰になっても関係がないことと判断されれば、それは同様だ。 いわばこれは非正規活動。その程度の事ならば、どの国も平然とやっている事である。 それが大きく問題となっていないのは、互いが互いの国に仕掛けていることで、黙認し合う関係にあるからに他ならない。 無論、そしてこれは繰り返しになるが、トグサの考えにすぎず、しっかりとした根拠は薄い。 相手が言いがかりだと言い出せば、こちらはひっこめるしかない程度の説得力しか存在していない。 それでも、だ。自分はこれを追いかけなくてはならない。 テロリストや犯罪者を追いかけ、時にこれを攻勢に出て、捕らえ、犯罪などを止めることが9課の使命。 それに関与することなのであれば、それは仕事の内である。 「よし……」 考えながらも続けていた現場の視察はこれで一区切り。 戦闘において生じた余波や痕跡を改めて確認し終えたことで、ここで集めるべき情報は集めることができた。 次は、足ではなく電脳で探りを入れることだ。先だって、公安9課は政府のコネクションを通じて地球連合のネットでの調査を行う権利を得た。 これによって、このカナンという狭い地域では得られない情報との照らし合わせができるようになる。 (行こう) ここで得るものは得た。 あとは、自分たちが集めた情報を整理し、少しでも真実に近づくことだ。 正直、怖さがある。これはひょっとすれば国家間の巨大なやり取りの中に首を突っ込むのかもしれないと。 けれど、それでも。これを見過ごすわけにはいかない。その意志を以て、トグサは進んだ。 41 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/14(日) 01 23 31 ID softbank060146109143.bbtec.net [8/20] 以上、wiki転載はご自由に。 返信はオイオイネー 今宵は寝ます おやすみなさいませ
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NO. タイトル 作者 登場人物 201 上手くズルく生きて ◆lbhhgwAtQE 峰不二子、劉鳳 202 「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」 ◆LXe12sNRSs 鳳凰寺風 203 【薄暗い劇場の中で】 ◆S8pgx99zVs トグサ、石田ヤマト、涼宮ハルヒ、長門有希、アルルゥ 204 第三回放送 ◆q/26xrKjWg ギガゾンビ 205 強者の資格たる欠損 ◆pIrIQ8gGz. 佐々木小次郎 206 【背中で泣いてる 男の美学】 ◆S8pgx99zVs 次元大介 207 「ゼロのルイズ」(前編)「ゼロのルイズ」(後編) ◆LXe12sNRSs ルイズ、高町なのは、キャスカ、ゲイン・ビジョウ、野原みさえ、翠星石、アーカード、園崎魅音、獅堂光、フェイト・T・ハラオウン、タチコマ、ゲイナー・サンガ、ストレイト・クーガー、セラス・ヴィクトリア、ガッツ 208 最悪の/最高の脚本 ◆lbhhgwAtQE 八神太一、ドラえもん、野比のび太、カズマ、遠坂凛、水銀燈 209 苦労人 ◆/1XIgPEeCM 剛田武、キョン、トウカ 210 永遠の炎 ◆q/26xrKjWg シグナム 211 WHEN THEY CRY ◆FbVNUaeKtI ロック、野原しんのすけ、北条沙都子、エルルゥ 212 正義×正義 ◆S8pgx99zVs 峰不二子、劉鳳、ぶりぶりざえもん 213 FOOLY COOLY ◆B0yhIEaBOI 園崎魅音、ストレイト・クーガー、アーカード、獅堂光 214 「ゴイスーな――」 ◆WwHdPG9VGI セラス・ヴィクトリア、鳳凰寺風 215 なまえをよんで Make a Little Wish(前編)なまえをよんで Make a Little Wish(後編) ◆2kGkudiwr6 フェイト、ゲイナー、レヴィ、ルイズ、高町なのは、タチコマ 216 此方の岸 ◆GHwqlpn0oc 佐々木小次郎、セイバー 217 以心電信 ◆lbhhgwAtQE キョン、トウカ、剛田武、次元大介 218 I believe you ◆lbhhgwAtQE トグサ、石田ヤマト、涼宮ハルヒ、長門有希、アルルゥ 219 転んだり迷ったりするけれど ◆q/26xrKjWg フェイト・T・ハラオウン、ゲイナー・サンガ、レヴィ 220 「散りゆく者への子守唄」 ◆LXe12sNRSs ロック、野原しんのすけ、北条沙都子、エルルゥ 221 鷹の団(前編)鷹の団(後編) ◆WwHdPG9VGI グリフィス、キャスカ、野原みさえ、ガッツ、ゲイン・ビジョウ、翠星石 222 【団員の家出/映画監督の憤慨】 ◆TIZOS1Jprc トグサ、長門有希、涼宮ハルヒ、石田ヤマト、アルルゥ 223 なくても見つけ出す! ◆WwHdPG9VGI 八神太一、ドラえもん、野比のび太、カズマ 224 黄金時代(前編)黄金時代(後編) ◆qwglOGQwIk グリフィス、ガッツ、キャスカ 225 黒き王女 ◆2kGkudiwr6 峰不二子、遠坂凛、水銀燈 226 仲間を探して ◆/1XIgPEeCM キョン、トウカ、剛田武、次元大介 227 お楽しみは、これからだ ◆WwHdPG9VGI アーカード 228 ここがいわゆる正念場(前編)ここがいわゆる正念場(後編) ◆lbhhgwAtQE 園崎魅音、セラス、鳳凰寺風、ぶりぶりざえもん、クーガー、劉鳳、シグナム 229 Take a good speed. ◆q/26xrKjWg 劉鳳、シグナム、ストレイト・クーガー 230 月下流麗 -月光蝶-巌流無名 -佐々木小次郎- ◆2kGkudiwr6 セイバー、佐々木小次郎 231 SOS団新生 ◆WwHdPG9VGI 涼宮ハルヒ、石田ヤマト、アルルゥ 232 請負人Ⅱ ~願う女、誓う男~ ◆lbhhgwAtQE ゲイン・ビジョウ、野原みさえ 233 破滅と勇気と ◆TIZOS1Jprc フェイト・T・ハラオウン、ゲイナー・サンガ、レヴィ 234 峰不二子の暴走Ⅰ峰不二子の暴走Ⅱ ◆LXe12sNRSs 峰不二子、石田ヤマト、カズマ、ドラえもん野比のび太、アルルゥ、涼宮ハルヒ、八神太一 235 孤城の主(前編)孤城の主(中編)孤城の主(後編) ◆S8pgx99zVs キョン、トウカ、園崎魅音、トグサ、劉鳳、セラス・ヴィクトリア、剛田武次元大介、ぶりぶりざえもん、長門有希、アーカード、鳳凰寺風 236 廃墟症候群 ◆WwHdPG9VGI キョン、トウカ、園崎魅音 237 「エクソダス、しようぜ!」(前編)「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs ゲイン・ビジョウ 238 第四回放送 ◆WwHdPG9VGI ギガゾンビ 239 もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない ◆LXe12sNRSs グリフィス、フェイト・T・ハラオウン 240 岡島緑郎の詰合 ◆lbhhgwAtQE ロック、エルルゥ、野原しんのすけ、北条沙都子 241 闇照らす月の標 ◆7jHdbD/oU2 劉鳳、セラス・ヴィクトリア、剛田武 242 POLLUTION(前編)POLLUTION(後編) ◆B0yhIEaBOI 遠坂凛、水銀燈、ドラえもん、野比のび太、涼宮ハルヒ、アルルゥ 243 共有 ◆/1XIgPEeCM キョン、トウカ、園崎魅音 244 のこされたもの(相棒)のこされたもの(狂戦士) ◆WwHdPG9VGI ゲイン・ビジョウ、シグナム、次元大介、ぶりぶりざえもん 245 峰不二子の陰謀 ◆q/26xrKjWg トグサ、カズマ、峰不二子、石田ヤマト 246 Luna rainbow ◆wNr9KR0bsc ゲイナー・サンガ、レヴィ、セイバー 247 Keep the tune delectable ◆S8pgx99zVs ゲイナー・サンガ、レヴィ 248 「選んだら進め。進み続けろ」 ◆LXe12sNRSs カズマ、トグサ、ゲイナー・サンガ、レヴィ 249 道 ◆/1XIgPEeCM 峰不二子 250 自由のトビラ開いてく ◆lbhhgwAtQE ゲイン・ビジョウ、フェイト・T・ハラオウン