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【朝】 NO. タイトル 作者 登場人物 104 東天の緋 ◆79697giSSk 氏 ヴィータ 105 I wish ◆KpW6w58KSs 氏 石田ヤマト、ぶりぶりざえもん、長門有希 106 Ground Zero ◆TIZOS1Jprc 氏 朝比奈みくる、セラス・ヴィクトリア、ロベルタ、バトー 107 武人の本懐 ◆lbhhgwAtQE 氏 キョン、トウカ 108 Unlucky girl ◆/1XIgPEeCM 氏 園崎魅音 109 リスキィ・ガール ◆pKH1mSw/N6 氏 劉鳳、朝倉涼子 110 -目的- -選択- -未来- ◆wlyXYPQOyA 氏 フェイト・T・ハラオウン、タチコマ 111 最悪をも下回る ◆q/26xrKjWg 氏 シグナム 112 くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw 氏 ゲイン・ビジョウ、獅堂光 114 「永遠に(ネバー・ダイ)」 ◆LXe12sNRSs 氏 ロック、野原しんのすけ、ヘンゼル 118 ハートの8 ◆k97rDX.Hc. 氏 古手梨花、剛田武、翠星石 119 幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM 氏 アーチャー、ルイズ、桜田ジュン、八神太一、ドラえもん、草薙素子 120 影日向 ◆M91lMaewe6 氏 グリフィス、音無小夜 121 仕事 ◆S8pgx99zVs 氏 トグサ、石田ヤマト、ぶりぶりざえもん、長門有希 125 D-3ブリッヂの死闘 ◆lbhhgwAtQE 氏 ハルヒ、アルルゥ、ヤマト、ぶりぶりざえもん、長門、ルパン、シグナム 127 峰不二子の退屈 ◆/1XIgPEeCM 氏 峰不二子 130 Ultimate thing ◆nBFOyIqCVI 氏 アーカード、真紅 131 トグサくんのメッセージ ◆LXe12sNRSs 氏 桜田ジュン 132 トグサくんのミス ◆LXe12sNRSs 氏 トグサ 140 死闘の果てに ◆q/26xrKjWg 氏 シグナム、ルパン三世 【午前】 NO. タイトル 作者 登場人物 113 触らぬタチコマに祟り無し Flying tank ◆5VEHREaaO2 氏 フェイト・T・ハラオウン、タチコマ、園崎魅音、水銀燈、遠坂凛、野比のび太 116 吸血鬼DAYDREAM ◆B0yhIEaBOI 氏 朝比奈みくる、セラス・ヴィクトリア、キャスカ 117 Salamander (山椒魚) ◆B0yhIEaBOI 氏 カズマ、ストレイト・クーガー、高町なのは、ゲイナー・サンガ、レヴィ 122 嘘も矛盾も ◆TIZOS1Jprc 氏 剛田武、園崎魅音、古手梨花、翠星石 124 Lie!Lie!Lie! ◆qwglOGQwIk 氏 前原圭一、竜宮レナ、ソロモン・ゴールドスミス、蒼星石、次元大介 126 たとえ道が見えなくとも ◆7jHdbD/oU2 氏 遠坂凛(カレイドルビー)、水銀燈、野比のび太 128 知らぬは…… ◆pKH1mSw/N6 氏 カズマ 129 「サイトと一緒」 ◆5VEHREaaO2 氏 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 133 幕間 - 『花鳥風月~VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM 氏 セイバー、佐々木小次郎 134 歩みの果てには ◆q/26xrKjWg 氏 八神太一、ドラえもん、ヴィータ 135 行くんだよ ◆M91lMaewe6 氏 ロック、君島邦彦、野原しんのすけ、キョン、トウカ 136 白雪姫 ◆S8pgx99zVs 氏 劉鳳、朝倉涼子 137 正義の味方 ◆2kGkudiwr6 氏 長門、アーチャー、アーカード、真紅、ハルヒ、アルルゥ、ヤマト、ぶりぶり、トグサ 【昼】 NO. タイトル 作者 登場人物 123 親友を失った悲しみと、愛する人を失った悲しみ ◆LXe12sNRSs 氏 鳳凰寺風、エルルゥ 138 ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI. 氏 ガッツ、野原みさえ、北条沙都子 139 恋のミクル伝説(前編)恋のミクル伝説(後編) ◆LXe12sNRSs 氏 キャスカ、獅堂光、ゲイン・ビジョウ、朝比奈みくる、セラス・ヴィクトリア 141 二人の少女 恐怖のノイズ/二人旅 ◆Lp4e6dlfNU 氏 朝倉涼子、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 142 食卓の騎士 ◆TIZOS1Jprc 氏 セイバー 143 一人は何だか寂しいね、だから ◆lbhhgwAtQE 氏 八神太一、ドラえもん、ヴィータ、峰不二子 144 Birth&death ◆Ua.aJsXq1I 氏 前原圭一、竜宮レナ、次元大介、ソロモン・ゴールドスミス、蒼星石 145 正義の味方Ⅱ ◆S8pgx99zVs 氏 長門有希、アーカード、アーチャー 146 彼は信頼を築けるか ◆4CEimo5sKs 氏 劉鳳、桜田ジュン 147 KOOL EDITION ◆FbVNUaeKtI 氏 朝倉涼子 148 Standin by your side! ◆KpW6w58KSs 氏 八神太一、ドラえもん、ヴィータ、シグナム 149 約束された勝利/その結果 ◆TIZOS1Jprc 氏 ガッツ、キャスカ、音無小夜 150 暴走、そして再会なの! ◆lbhhgwAtQE 氏 ストレイト・クーガー、高町なのは、野原みさえ、獅堂光 151 君島邦彦. ◆7jHdbD/oU2 氏 ロック、野原しんのすけ、セイバー、君島邦彦 152 浮かぶ姿は暗雲 ◆M91lMaewe6 氏 剛田武、園崎魅音、古手梨花、翠星石 153 「借りは返す」 ◆LXe12sNRSs 氏 ゲイナー・サンガ、レヴィ 154 峰不二子の動揺 ◆pKH1mSw/N6 氏 峰不二子、八神太一、ドラえもん、ヴィータ 155 お別れ ◆4CEimo5sKs 氏 涼宮ハルヒ、アルルゥ、石田ヤマト、ぶりぶりざえもん、トグサ 156 すくわれるもの ◆q/26xrKjWg 氏 キョン、トウカ 157 いつか見た始まり ◆1vV4MvJUPI 氏 グリフィス、カズマ 158 圧倒的な力、絶対的な恐怖 ◆Xbtp/256QU 氏 アーカード、朝倉涼子 159 黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形 ◆2kGkudiwr6 氏 フェイト、タチコマ、遠坂凛、水銀燈、野比のび太、エルルゥ 160 逃げたり諦めることは誰にも ◆KpW6w58KSs 氏 真紅 161 「あはははは!」 ◆LXe12sNRSs 氏 ソロモン、蒼星石、竜宮レナ、前原圭一、次元大介、佐々木小次郎 【第二回放送】 NO. タイトル 作者 登場人物 162 第二回放送 ◆jFxWXkzotA 氏 ギガゾンビ
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【団員の家出/映画監督の憤慨】 ◆TIZOS1Jprc 夜、八時を回る。 既に夕日は完全にその姿を地平線の下に隠し、暁に燃える殺戮の街に帳が落ちる。 今や街は眠りに落ちてしまったのだろうか? 否、街は目覚めたばかり。 照らす太陽を忌むかのごとく、日中身を潜めていた人と人ならざるものとが跋扈し、此処に血みどろのギニョールは再びその凄惨さを燃え上がらせんとしている。 それが証拠にほら――――――。 山をひとつ越えたところでは人智を越えた魔女たちが不死者や異能どもと盛大なサバトを繰り広げている。 悪鬼たちは供物が足らぬと囃し立てる。 行き着く先は無人の荒野か、更なる修羅の地獄か……。 その喧騒も届かぬ町外れの一角、映画館の周辺は虫の声ひとつ響かぬ静寂に包まれていた。 シアター内部もまた沈黙している。 辛うじて響くのは旧式の映写機がカタカタと回る音だけ。 五人は、口をぽかんと馬鹿みたいに開けて(一人は何時も通りの無表情だが)スクリーンを見つめている。 見つめる先に映し出されるのは、何の変哲もない風景。 どこかの街の映像が数秒ごとに場面を変えつつ、淡々と流れてゆく。 音声は無い。 橋、主婦がごった返す商店街、寺、賑やかなアーケード、小川……、 「この風景……どっかで見たわね」 誰にともなく涼宮ハルヒが呟く。 映像は続く。 公園の遊具に憩う子供達、鉄橋の上を走る電車、サラリーマンが行き交うオフィス街、信号の前で止まる自動車の列、駅前……、 「間違いない、ここの街の風景だ」 と、トグサ。 まだ続く。 河原、ビルディング、自動車が走る道路、用水路、鳥居の下を潜る参拝客…… 「照合確認。数年以内の時間差の範囲での、ここと同一座標付近の映像であると推測される」 ぼそぼそと長門有希が同調する。 動きの無い風景ばかりが延々と続く。 一体この映画は、見るものに何を伝えようと言うのか。 撮影したものは、何の目的でこれを撮ったのか。 意図を掴めないまま、五人は呆気に取られたままスクリーンを見つめる。 最後に青空をバックに回る観覧車を映し出した後、映像はぷっつりと途切れた。 …………………………………………………… 「結局ただの無駄フィルムだったわね。ま、うるさく騒がれるよりはよっぽどマシだったけど」 上映を終えて、途中で退屈して膝の上で寝てしまったアルルゥの髪を撫でつつ、ハルヒはあくびをした。 長門が彼女の肩に手をかける。 「貴方も今のうちに睡眠を取った方がいい。長時間の緊張状態は健康状態に支障をきたす」 「平気よ。有希だって寝てないのに団長だけ寝るわけにいかないじゃない」 「私なら問題ない。今までに適当な所で休息を得ている。数時間程度なら警戒態勢を維持可能」 ハルヒは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑って見せる。 「そう……。悪いけどそうさせてもらうわ。有希も眠くなったら誰かに見張り代わってもらうのよ」 「ありがとう」 アルルゥとともにソファに横たわってすぐに寝息を立てはじめたハルヒを見ながら、長門は先ほどの自分の言動についていぶかしむ。 ――――――健康状態を気遣われたから礼を言った。"ありがとう"。単なる社交辞令。問題ない。何ら問題が無い。 生じるごく僅かの思考ノイズ。何故か、不快でない。 格別行動に支障をきたす訳では無いが、消去。エラー。消去。エラー。消去。エラー……。 ふと眼をやると、ハルヒの横で眠っていたアルルゥが眼を擦りながら起き上がろうとしていた。 すぐに横で眠るハルヒの存在に気づく。 「ハルヒおねーちゃん、ねちゃったの?」 「そう。出来る限り起こさないように行動するべき」 アルルゥはじっとハルヒを見つめる。 「おねーちゃん、おきるよね?」 「質問の意図が掴めない」 寝ている以上、いつかは眼を覚ます。幼いとは言え、彼女もそれぐらいは分かっているはずだ。 見るとアルルゥは目に涙を溜めていた。 「おやじ、ねちゃったっきり、め、さまさなかった。ハルヒおねーちゃんもめ、さまさないの、やだ。 でも、いまおこしたらおねえちゃんに迷惑だから、おこしちゃだめ。でも、こわい」 「…………」 実際にハルヒが目を覚まさない可能性はゼロではない。 頭部への打撲の影響が今になって悪化したら、最悪このまま昏睡しないとも限らない。 その可能性をアルルゥに返答するかどうか。 メリット:懸念が現実のものとなった場合、あらかじめ最悪のケースを伝えておくことで彼女には比較的スムーズな対応を期待できる。 デメリット:彼女が不安を解消するために涼宮ハルヒを覚醒させる危険性。 両者のリスク重みを今までの行動モデルから比較検討。思考ノイズ。中断。 「心配は不要。彼女は本当に睡眠状態にあるだけ。呼吸、脈拍、眼球運動は正常。じきに眼を覚ます」 「ほんとう?」 涙目でアルルゥは長門を見上げる。 「そう、大丈夫」 その返答に安心したのか、アルルゥは再びハルヒの腕の中に潜り込むと、目を閉じて眠りはじめた。 そのあどけない寝顔を眺めながら、長門はしばらく呆然としていた。 (私は……何を……) 先ほどの自分の言動が合理的に説明できない。 自分自身の行動予測モデルと実際の行動が一致しない。 おおむね行動規範からは逸脱していないが、放置すれば破滅的なバグが生じる可能性も否定出来ない。 可能性は高くないが仮に涼宮ハルヒらと共に元の時空座標に帰還できた場合、自身の思考回路をリブートするか、最悪本端末を廃棄することも検討せねばならない。 どのみち決めるのは自分ではないが。 問題は無い。今は涼宮ハルヒの環境認識に負荷を与えない形で彼女を帰還させることに全力を注げば良い。 顔を上げると後片付けをしていたトグサが長門に近付いてきた。 「長門……だったな。君もそろそろ休んだ方が良い」 『問題は無い。それよりも貴方に話がある』 「そうは言っても休める内に休んでおかないと治る怪我も治らな…………、なんだって?」 トグサが目をしかめる。 『まさか、電脳通信が使えるのか!? 電脳化していないのにどうやって!?』 『貴方達の社会の物とは異なる独自の技術を用いている』 『それにしても公安九課の緊急通信用暗号をこんなに簡単に破られるなんてな……』 『容易ではなかった。だから解析が完了するまで今までかかった』 トグサは頭を押さえた。 『で、他人に聞こえないようにして、こんな回りくどい方法で内緒話をしなければならない理由って言うのは……』 『貴方の考える通り。盗聴及び監視の危険性を考慮した』 そう言って長門は自分の首輪を指で叩く。 『……君は一体何者だ? 電脳化していないのに女子高生にしちゃ場慣れ過ぎだ。精神矯正を受けて軍のラボに放りこまれた元犯罪者か何かか?』 『情報交換と同時に貴方の認識を改める必要がある』 そう告げると長門はいつもの抑揚の無い声で自己紹介をはじめる。 『情報統合思念体によって作られた、対有機生命体コンタクト用ヒュマノイド・インターフェース。それが私』 『……………………は?』 トグサはSOS団雑用係が初めてこの言葉を聞かされた時とそっくりな表情を見せた。 ◇ ◇ ◇ 『すると何か? 君は宇宙人との交渉代理人みたいなもの。そしてこのハルヒって娘は観測することで外界の有り様にまで干渉できる無自覚なエスパー。 彼女の環境認識にドラスティックな変化を与えたら、大惨事になる可能性があるから彼女の目の前で君の能力を見せることは出来ない、と』 『その認識で概ね問題は生じない』 トグサは思わず天を仰いだ。 『信用できないかもしれないが、今の所はそういうことにしておいて欲しい』 『いや……こうも常識外れな話が立て続けに起こって少し混乱している……。 ああ、大丈夫だ。まあ、君にも守秘義務があると、そういう感じでいいか』 『そう』 相変わらず淡々とした様子で長門は本題に入る。 『先ほどの映像、あれから貴方は何を読み取った?』 『……あれがミスリードを誘うための罠でないとしたら、この街はおそらく一から主催者が作り上げたものではない。 多分オリジナルの都市があり、そこから住人を追い出したか、そっくり丸ごと人間以外をコピーしたか……。きっと、あの映像は元の街の本来の姿だ』 『データに該当する地球上の地形が存在しなかった為、当初は私はその可能性を低く見積もっていた。 大気組成及び太陽活動をはじめとする天体現象は西暦2000年前後の地球のそれで近似されるが、太陽黒点や月齢、惑星座標、超新星等の突発天体現象で厳密な時間を特定しようとした所、過去及び未来の予測値で該当するデータは存在しなかった。 また地磁気、重力と日周運動から、地球上で該当する座標は北緯35度付近で季節は四月上旬と推測される。各施設の文化的特長、気象、地質は日本の関東地方地方都市の特徴と合致する。 だが南北座標の移動に伴い発生するはずの微小なコリオリ力は検出されず、そもそも本座標が地球表面上にあるかどうかは極めて疑わしいと言わざるを得ない 植物の植生や年周期リズムも出鱈目。明らかに操作された痕跡がある。 それを踏まえた上でこの未確認空間に対する私の考察を聞いてほしい 奇妙な点は以下の通り。 まず、各参加者間で出身地空座標の時間帯が数十年以上のスケールで異なっている。 私達は西暦2003年だったが貴方達は西暦2031年、石田ヤマトの話では1999年だった。 ギガゾンビと面識があると推定される青い自律行動ロボット、あれを作成できる程の技術レベルに達するのは、人類の技術進歩速度から計算しておそらく二十一世紀中には実現不可能。 この少女アルルゥの遺伝子系に見られる遺伝子操作の痕跡もギガゾンビが時間平面を跳躍して影響を及ぼせることの証左となっている。 時間平面の跳躍自体は人類の技術でも将来において可能になるはずなので、このこと自体はなんら訝しむに値しない。 たとえそのような技術がなくとも、我々を出身時代ごとで拘束して時間凍結をかけ、全員が揃うまで保存しておけば、パラドクスを生じさせることなく異なる時間平面から参加者を集めることは可能。 だが、単なる時間平面への干渉では説明できない齟齬も生じている。 貴方の提供してくれたアーカイブによると、私達が存在していた時間帯において全地球規模の複数国家間戦争があったことになっているが、実際にはその兆候すら見られていない。 さらに石田ヤマトの話していたデジタルワールドなる情報空間が存在すれば、その性質上情報統合思念体が感知していないはずが無い。だがそんなものは地球上には存在しなかったはず。情報生命体亜種が隠蔽していてもその痕跡すら掴めないというのはおかしい。 以上の情報から私はこの異常な環境への説明として、以下の二つの可能性を考えた。 一つは、ギガゾンビの有する科学技術が平行宇宙への干渉も可能にしているというもの。 その場合、ここは彼の言っていた"亜空間破壊装置"によって他の事象線上からは隔絶された人為的宇宙ということになる。 もう一つはここがコンピュータ上でのシミュレーション等に代表される仮想空間である可能性。ギガゾンビの言う"タイムパトロール"や"亜空間破壊装置"などの単語は我々をここに集めて殺し合わせるためのもっともらしい"ゲーム設定"。 私達の物理的身体は元から存在せず、行動パタンをプログラムされたキャラクタがクオリアをデジタルデータで誤魔化されて動いているに過ぎない。 勿論私達に帰るべき"元の世界"は存在せず、主催者への反抗自体根本的に不可能になる、そう思っていた。 しかし先程のフィルムの内容を判断材料に加えると後者の可能性が極めて低くなる。もしこの街が仮想空間だったとしても、それにはきっとコピー元のオリジナルの街が形而下で実際に存在するはず』 『そうだな……。ただのデータに過ぎない街の映像をわざわざカメラに収めようなんて、普通人は考えない。きっと撮った人はその街に実際に住み、そこで生きていたんだろう』 『ここは石田ヤマトの言う"デジタルワールド"と性質の似た、現実世界の情報と直接リンクしている空間なのかもしれない。いずれにしても主催者への反抗の余地は残されていると私は考える。 ここがどんな性質の空間であろうとも、情報統合思念体とコンタクトさえとれれば、私の情報解析情報連結能力を取り戻し首輪の解除と脱出が可能になる』 『外部とのコンタクト……、出来るのか?』 『この空間の性質を正しく理解し、私達が元居た世界への情報経路が把握できれば、志向性の強いビーコンを発射して情報統合思念体に送り届けることが可能かもしれない。 空間の性質を理解するためには、空間構成情報をただ漫然と集めるより、例の映像と現在の状況の差違を比較する方が効率が良い』 『つまり実際に行って確かめてみるということか? 映画に映っていた場所を?』 『ええ。撮影者と同じ視点に立って同じ視線からの光学データを収集したい。十箇所ほどのデータが集まれば、この空間の正体について結論が出せると思う』 『……それで、仮にこの街の謎を解明できたとして、実際に君のパトロンとコンタクトが取れる可能性はどれくらいある?』 『不明。ただし涼宮ハルヒが強力な思い入れを持っている物品を手に入れることが出来れば、それが持つ膨大な構成情報を手がかりにして情報経路の発見が飛躍的に容易になる。が、しょせんはないものねだり』 『そうか……。だがやってみないよりはましか。だがどうする? ここには二人も子供がいて、しかも怪我人まで抱えている。下手に動けないぞ』 『だが時間経過と共に状況は悪化の一途を辿ると考えられる。だから』 ここで長門は肉声に切替えた。 「私が一人で行く」 トグサは唖然とする。 「正気か? 殺人者の襲撃はいずれも屋外で起きているんだぞ」 「問題ない。例の金髪の騎士が相手でも、涼宮ハルヒの前でなければ逃げのびるくらいなら出来るはず。 だが彼女の目の前に居ては私は情報操作能力を発揮できない。涼宮ハルヒを守るのは貴方の方が適任」 「待て! インターフェースだか何だか知らないが、未成年者をむざむざ危険な目に遭わせる訳には……。ああくそでもこっちの三人を放っておく訳にもいかない」 髪をかきむしるトグサ。 長門はアルルゥを抱えて眠るハルヒを眺めた。 もし自分が行ってしまったら彼女はどうするだろうか? 怒るだろう。そして後を追おうとするかもしれないがしかし……。 「わかった。一人で行動しては他の参加者の信用を得られないかもしれない。 貴方には私と同行してほしい」 トグサは驚いた。 「何だって? だがこの三人はどうする?」 「朝倉涼子、草薙素子、バトー、ハクオロ、カルラ、ルパン三世、石川五ェ門、こういった強力な戦闘能力を有する人物が早々に"脱落"し、涼宮ハルヒ達やアルルゥ、石田ヤマト、八神太一ら弱者に分類される者が現時点でも生き残っている。 つまり実力に自信があり積極的に状況に対して立ち回る者より、おとなしく殺人者からは逃げる、隠れる等の選択を取る一般人の方が生存率が高くなると考えられる。だから、涼宮ハルヒ達はこのまま映画館に留まった方が良い。 しかし私が彼女に無断で出発した場合、彼女は貴方に子供達を任せて、私達SOS団員達を追う可能性が高い。彼女の"彼"に対する執着は過小評価できないから。それでは元も子もない。 しかし私と貴方が同時に出ていけば彼女は動けない。彼女にはアルルゥと石田ヤマトを放っておくことが出来ないはず。彼女もここに隠れている方が安全であると理解しているので、ここで大人しく私達の帰りを待つものと推測される。 しかし彼女だけでは心配。だから貴方と私の装備で彼女らでも使えそうなものを置いていく。 これが受け入れられないならば、私は一人で出て行く」 長門は淡々と言い放った。 トグサは眠っている三人を見つめる。 涼宮ハルヒ、石田ヤマト、アルルゥ。 彼女らは、弱い。 自分はヒーローなどでは決してないし、なりたいとも思わないが、彼女らの安全を何かと引き換えにする程ゴーストを焦げ付かせてはいない。 だが、自分一人で何が出来る? 少佐ほどの状況判断能力は無い。バトーほどの身体能力もない。 彼女らの側に付いていた所で、金髪の騎士やトラックへ銃撃を加えた人物が相手では足止めすら出来ないだろう。 ……これほどまで自分が義体化していなかった事を悔やんだことはない。 トグサは立ち上がるとヤマトの側に行って彼を揺り起こした。 「もう朝か……何かまだずいぶん眠い……」 眠そうに目を擦るヤマトにトグサは告げる。 「すまないが、伝言を頼まれてくれないか」 ◇ ◇ ◇ 「なんで黙って行かせたのよっ!!」 三十分後。覚醒し長門とトグサの姿が見当たらない理由を告げたヤマトに対して涼宮ハルヒは激怒していた。 「おれだって止めたさ! 外は危険だって! でも仕方ないじゃないか……、おれたちが付いていっても足手まといになるだけだ」 ヤマトも負けじと言い返すが、いかんせんハルヒと比べると迫力不足だ。 「そりゃ、私達じゃ頼りないかもしれないけど、有希だって女の子なのよ! 調べたいことが出来ただか何だか知らないけど、タヌ機を残していくなんて無謀が過ぎるわ!」 「おねーちゃん……こわい……」 言い争いのせいで起きてしまったアルルゥに不安げな目で見つめられ、ハルヒは一旦怒りを収める。 ハルヒにも分かっている、怪我人と子供ばかりの自分達は連れて歩くことはできない。 それでも置いて出ていくのが心苦しいから、なけなしの装備品を置いていったのだ。 (私じゃ……何の役にも立てないって言ってるようなもんじゃない!) 実際にそうであることが分かっている。 分かっているからこそ余計に腹が立つのだ。 やり場の無い苛立ちは、その矛先がヤマトからトグサに移る。 「トグサさん……特別団員の身分で団長に無断で正規団員を連れて独走とは良い度胸だわ……」 「あ、それだけど『公務員はバイトが無理だからSOS団は脱退する』だそうだ」 「ぬわぁぁんですってぇぇぇ!!」 ハルヒの気迫に思わずヤマトもたじろぐ。 「これはゆゆしき事態よ! 最近有希みたいな仏頂面で無愛想なコが萌えであるという奇特な連中が多いそうだわ! もしトグサさんもそうなら今頃私を差し置いて有希にあんなことやそんなことを致しているかもしれない!」 もしトグサが聞いたら電脳をショートして死んでしまいたくなるような言いがかりを付けつつ、ハルヒは二人に号令をかけた。 「こうしちゃいられないわ! アルちゃん! ヤマト! 二人を追うわよ!」 「おー!」 「ちょ、ちょっと待てよ!」 すっかりその気になっているハルヒとアルルゥをヤマトが止める。 「ここにいた方が安全だから二人もおれたちを置いていったんだろ!」 「分かってるわよそれくらい」 だが、ハルヒの決意も固い。 「ここに留まった方が私達の身体はきっと安全。でもアルちゃんは……アルちゃんの心はここにいたんじゃ守れない」 「心?」 「ええ……。アルちゃんはお父さんやルパンがいなくなってとても悲しんでる。ひとまず私達という友達を得てなんとか自分を保ってはいるけど、もしこれからお姉さんの名前が放送で呼ばれでもしたら……アルちゃんはきっと耐えられない。 私もキョンや有希がむざむざと知らない所で殺されるなんて我慢できないわよ」 「うん! アルルゥもおねーちゃんにあいたい!」 出発する気満々の二人を見てヤマトは思う。 自分はどうか。 太一のことは心配だ。会ってどうなるものでもないかもしれないが、それでも会いたい。 そして、ぶりぶりざえもん。 あのあとどうなったか……。放送で名前が呼ばれなかったものの、あの状況で五体満足でいられるとはとても思えない。 彼は自分達を救うために身を投げ出した。その彼を見捨てる訳にはいかない。 「あんたはここで留守番してればいいわ。私だけでもアルちゃんを守り抜いて……」 「おれも行く」 ヤマトははっきりと自分の意向を示した。二人に引きずられた訳ではなく、自分の意志で。 「おれも、ぶりぶりざえもんの無事を確認したい」 「そうと決まれば話は早いわ! 基本方針は安全第一! 知らない人に会ったら話しかけず回避!」 「おー!」 「ほんとはやっちゃいけないけどトラックは無灯火! 暗視ゴーグルで周囲を警戒! 無理はせず数時間でここに戻る!」 「わかった!」 「それじゃ、書き置きとキョンへの留守電を残したら早速出発よ!」 ◇ ◇ ◇ 夜間に無灯火でヘルメットもせず魔女のコスプレをした女子高生と二人乗り。 警察官にあるまじき行為をしながら、トグサは夜の街をマウンテンバイクでひた走っていた。 後ろからしがみついている長門が一瞬身震いをする。 「どうした?」 「……うまく言語化できない。理由もなく突然不安を喚起する信号が流れた。原因は全く不明」 「それはあれかな。虫の知らせって奴。君にもゴーストが囁いてるのかもしれない」 「ゴースト……デカルトの劇場……」 「まあ、魂みたいなもんさ。唯の戯言だ、忘れてくれ」 訳も分からない不安を乗せたまま、自転車は冷たいコンクリートの上を走り抜けていった。 【B-4付近(映画館から自転車で30分の範囲)/1日目・真夜中】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気/SOS団団員辞退/自転車徐行 [装備]:S W M19(残弾1/6発)/刺身包丁/ナイフ×5本/フォーク×5本/マウンテンバイク [道具]:支給品一式(食料-2)/警察手帳(元々持参していた物) 技術手袋(使用回数:残り17回)@ドラえもん/首輪の情報等が書かれたメモ1枚 [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:長門のロケ地巡りに付き合う。 2:一段落したら急いで映画館に戻る。 3:ホテルに残したセラスが心配。 4:情報および協力者の収集、情報端末の入手。 5:タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。 6:長門の説明に半信半疑ながらも異常な事態を理解しつつある。 [備考] 風・次元と探している参加者について情報交換済み。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:思考に軽いノイズ/左腕骨折(添え木による処置が施されている)/SOS団正規団員/自転車後部座席 [装備]:ハルヒデザインの魔女服(映画撮影時のもの)/ナイフ×5本/フォーク×5本 [道具]:支給品一式(食料-2) [思考] 基本:涼宮ハルヒの安全を最優先し、状況からの脱出を模索。 1:涼宮ハルヒが心配。 2:ロケ地を調べて空間構成情報を収集。 3:小次郎に目を付けられないように注意する 4:キョンとの合流に期待 [備考] 癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。 【B-4・映画館/1日目・真夜中】 【新生SOS団】 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:小程度の疲労と眠気/頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物) 左上腕に負傷(ほぼ完治)/心の整理はほぼ完了 [装備]:タヌ機(1回使用可能)@ドラえもん/RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1) [道具]:支給品一式(食料-2)/着せ替えカメラ(使用回数:残り18回)@ドラえもん インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)/トグサが書いた首輪の情報等が書かれたメモ1枚 [思考] 基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。 1:ヤマトと交替で運転しつつ、トラックで知り合いを探す。 2:キョンと合流したい。 3:ろくな装備もない長門(とトグサ)が心配。 [備考] 腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定 小程度の疲労と眠気/右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済) [装備]:クロスボウ/スコップ/暗視ゴーグル(望遠機能付き) [道具]:支給品一式(食料-2)/ハーモニカ/デジヴァイス@デジモンアドベンチャー/真紅のベヘリット@ベルセルク クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回)@ドラえもん/ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし) [思考] 基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 1:ハルヒと交替で運転しつつ、トラックで知り合いを探す。 2:ぶりぶりざえもんやトグサと長門が心配。 [備考] ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:小程度の疲労と眠気/右肩・左足に打撲(ほぼ完治)/SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの/ハルヒデザインのメイド服 [道具]:無し [思考] 基本:ハルヒ達と一緒に行動。エルルゥに会いたい。 1:トラックの中から周囲を警戒して、二人の役に立ちたい 2:が、眠いので寝る。 [共同アイテム]:73式小型トラック(※映画館脇の路地に停めてあります。キーは刺さったまま) おにぎり弁当のゴミ(※トラックの後部座席に放置されています) レジャービルの留守電にハルヒ達が実際とは逆の方向に進む旨のメッセージが残されました。 映画館にトグサ達への書置きが残されました。 時系列順で読む Back 「散りゆく者への子守唄」 Next なくても見つけ出す! 投下順で読む Back 鷹の団(後編) Next なくても見つけ出す! 218 I believe you トグサ 235 孤城の主(前編) 218 I believe you 長門有希 235 孤城の主(前編) 218 I believe you 涼宮ハルヒ 231 SOS団新生 218 I believe you 石田ヤマト 231 SOS団新生 218 I believe you アルルゥ 231 SOS団新生
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Can you feel my soul ◆B0yhIEaBOI 僕は、ひとりで薄暗い病院の廊下を歩いていた。 ひとり分の足音が廊下に響き渡る。それが、僕にはなんだかとっても寂しかった。 思えば、僕にはずっと仲間がいた。友達がいた。 乱暴者のジャイアン。 臆病者のスネ夫君。 優しいしずかちゃん。 いつだって、みんなと一緒だった。 ここに来てからだって、色んな人達と出会った。 太一君や、ヴィータちゃん。アルルゥちゃんに、ヤマト君。 それに、ついさっきまでだって、一緒にいたんだ。 劉鳳さん、セラスさん、水銀燈。 そして……のび太君。 のび太君とは、本当に長い付き合いだった。 バカでドジで泣き虫の弱虫で、でも純粋で、心優しくて、ちょっぴりだけど、勇気もある。 本当に良い奴だった。 なのに。 みんな、死んでしまった。 僕は、のび太くんを世話するために未来から来たのに……。 僕は、子供たちの面倒を見る為のロボットなのに……。 僕は彼らを守れなかった。ううん、それどころじゃない。 僕達がここに連れてこられたのだって……あのとき、タイムマシーンで昔に行ったからじゃないか。 もしもあの時僕が皆を昔になんて連れて行かなければ……ギガゾンビなんかに会わなければ……。 僕がいなければ、皆が死ぬことも無かったんじゃあないんだろうか? だとしたら……ああ、僕はなんてことをしてしまったんだ……。 とぼとぼとあても無く廊下を歩く僕の心は晴れない。 窓の外では明るい太陽が世界を照らしていたけれど、僕の心は暗いままだ。 そのまま、ただ気まぐれに歩いていた僕だったけれど、ふとあることに気が付いた。 ――キィン―― 「あれ? 今何か音が……?」 ぼおっとしていたとは言え、そのとき確かに聞こえた気がした。 何か、小さな金属音が。 そして、そのまま静かに耳を澄ましていると…… ――カァン――キィン―― 再び聞こえた。何か小さな金属が弾かれるような音が。 「やっぱり、誰か居るんだ……でも、こんなところで一体誰だろう?」 改めて周りを見回してみると、その周囲には幾つかの金属製の扉が立ち並んでいた。 それらには『手術室1』『手術室2』と番号が打たれている。 どこと無く血なまぐさい臭いと消毒液の臭いが立ち込めるここは、この病院の手術室のある区画のようだった。 でも、それを確認すると、改めて疑問に思ってしまう。 誰が? 何のために? 何をしているんだろう? 集中して音を聞と、どうやらこの手術室の中から音がするようだ。 思い切って呼びかけてみる。 「ねえ、誰かいるの? 何してるの?」 ……だけど、返事は無い。 僕の気のせい? ううん、そんなことは無い。 今だって、かすかな金属の触れ合う音が絶えず聞こえてくるんだから。 「ねえ、居るんでしょ? 返事が無いなら……入るよ?」 そう呼びかけてみても、やっぱり返事は無い。 仕方が無い。意を決した僕は、その手術室の扉を開く。 ――ガシャン 勢い良く開いたその扉の先で僕が見たものは――薄暗い部屋の中心に座る、少年の姿だった。 その姿は、天井から降り注ぐ手術用の照明に照らされて、まるでスポットライトを浴びているかのようだった。 少年は僕に背を向けているために、その顔が見えない。 だから、咄嗟にそう思ってしまった。 ――のび太君? いや、それはありえない。のび太君は、死んでしまったんだ。 信じたくはないけれど、信じないといけない。これは、事実なんだ。 だから、そこにいるのはのび太君じゃなく―― 「そこにいるのは……ゲイナー君かい?」 「……え? あ、ハイ、そうですけど、何か用ですか?」 僕の思ったとおり、その少年はゲイナー君だった。 でも、ゲイナー君は僕のほうを見ようともせずに、相変わらずの姿勢で、何かをカチャカチャといわせている。 「ゲイナー君、そこで何してるの?」 僕はとりあえず、ゲイナー君にそう聞いてみる。 でも……あれ? 返事が無い? 「ゲイナー君?」 「ああ、すいません。ちょっと集中していたもので。何か急用ですか?」 「いや、急用ってわけじゃ無いんだけど……」 「じゃあ、少し放っておいてくれませんか? 少し忙しいもので」 僕にぴしゃりとそう言い放つと、ゲイナー君はまた何かしらに没頭し始める。 僕と話す時間も惜しい……まさにそんな感じだった。 「そ、そんなに邪険にしなくってもいいじゃないか。ゲイナー君も仲間が死んで悲しいのかも知れないけれど……」 「仲間? ああ……」 僕がいった言葉に、ゲイナー君は初めて腕を休めて、応えてくれた。 「そういえば、あったんですよね、放送。今度は、何人の方が亡くなられたんですか?」 あまりの言葉に、僕は一瞬、呆気に取られてしまった。 「そういえば、って……ゲイナー君、もしかしてさっきの放送聞いてなかったの!?」 「ええ。作業に集中してましたから」 ゲイナー君は、さも当然と言わんばかりにそう返事をする。 「ちょ、ちょっとそれって酷いんじゃないの!? 人が、友達が死んだって言うのに、気にならないの!?」 思わず声を荒げる僕とは対照的に、ゲイナー君は落ち着いたまま、またカチャカチャと何かを弄りだす。 「貴方はお友達が亡くなったんですよね。お悔やみ申し上げます。ですが、僕には元々仲間と言える人間だってゲインだけだったし、 ここに来てから出来た仲間も、ゲインとレヴィさん、カズマさんにフェイトちゃん以外はみんな死んでしまいましたから。 仲間の仲間も心配ですが、実際に会ったことのある人も居ませんし。 でも、何人の方が亡くなったのかには興味が有りますね。今回の犠牲者は何人だったんですか?」 ひ、酷い……! 他人の死を気にもしないだなんて、このゲイナーという少年はなんて心が冷たいんだ! 最初にこの少年を見たときは、眼鏡に痩せっぽちで、自信なさげな内気な少年…… どこかでのび太君と似た印象を持っていたけれど……とんでもない! のび太君は、もっと心の優しい人だった! 「それはあんまりだよゲイナー君! ちょっとこっちで話を――」 ゲイナー君を叱ろうと僕が歩き出したその時。 「来ないで!!」 ゲイナー君が叫んだ。 その目は……血走って目の下にはクマが出来ている。 とても必死な、そんな顔だった。 「げ、ゲイナー君、僕はただ――」 「――それ、踏まないでくださいね。足元には気をつけてくださいよ」 「えっ?」 ゲイナー君にそう言われて、改めて薄暗い部屋の床に目を凝らしてみると―― 「な、なんだこれ!!?」 それは、小さなネジや、ボルトやナットや、ケーブルや…… 基盤や、コンデンサーや、ICチップ等の機械の部品だった。 僕の足元には、大小様々な無数の金属辺が、床一面に敷き詰められていたのだ。 「これは一体……!?」 「僕が分解したんですよ。この『技術手袋』を使って。まあ、半分くらいは使用回数温存のために、僕が自力で分解したものですけどね」 「で、でも、この部品の山……一体何を分解したの!? それに、何のために!?」 かちゃり、かちゃり。ゲイナー君はいつの間にか作業を再開してたが、話は聞いてくれているようだ。 「これは、病院に置いてあった医療器具を分解したんですよ。手術室の周りって、結構いろんな機械が置いてあるんですね」 さらりとそう言うゲイナー君だが、床に散らばる部品の山は、結構どころではない量になっている。 相当な量の機械を分解したことは明らかだけど……いつの間に? そういえば、放送前の集まりの中で、ゲイナー君はいつまで僕らと一緒に居たんだっけ? 知らない間に抜け出して、ひとりでずっと機械の分解を続けていた…… 時間的に考えると、そうとしか思えない。 「……でも、何故? 何のために?」 自然とその疑問が、再び僕の口から零れ落ちる。 その質問に、ゲイナー君は何かを考えながら、ぼそりぼそりと答えだす。 「実験……性能テスト、いや、材料調達と言った方が良いのかな? いや、研究……勉強……訓練……?」 「ど、どういう意味? 僕にも分かるように、ちゃんと説明してくれよ」 ゲイナー君は、少し思いあぐねた末に、作業を止めて僕の方に向き直ってくれた。 「最初に考えたんです。僕に何が出来るのか、って。 僕にはカズマさんやフェイトちゃんみたいな超能力も無いし、レヴィさんみたいに銃の扱いに長けているわけでもない。 そして、貴方――ドラえもんみたいに活用できる知識を持っているわけでもない。 だから、僕なりに考えて、出来る事をしようと思ったんです。そして思いついたのが……この手袋の活用です」 「技術手袋の? でも、それって誰が使っても効果は同じ筈じゃ?」 「ええ、そうです。でも、そうではないんです。……例えば、僕が今から、この技術手袋をもう一個作ろうとしてみます。それは可能でしょうか?」 「う、う~ん、それは多分無理だろうね。材料も無いし、仕組みも複雑すぎる」 「では、『この世界から脱出できる装置』は?」 「それも無理だろうね。そもそも、どうやったら脱出できるか想像が出来ない」 「では、例えば車を作ることは?」 「それは可能だと思うよ。でも、材料があったとしてもそんな大掛かりなもの、出来上がるまでに何時間かかるか……」 「では、『オーバーマン』を作ることは?」 「え? おーばー……何だって?」 「ですから『オーバーマン』です。なんなら妥協して『シルエットエンジン』でもいい。作れますか?」 「いやあ……名前を聞いただけじゃ、それが何なのか分からないし、きっと作れないと思うよ」 「そうでしょうね。それが一体何なのかを知らないドラえもんには作れないでしょうね。 でも、恐らく……その実体を知っている僕なら、少なくともシルエットエンジンぐらいなら作れるかもしれない。 勿論、十分な時間と材料は必要でしょうが」 「その『オーバーナントカ』っていうのは君の世界の物なの? でも技術手袋じゃそういう未知の技術とかには対応できないと思うんだけれど……」 僕がそういうと、ゲイナー君は、僕が知る限りはじめて……笑った。 しかも、とびきり不敵に。 「なら、知ればいいんですよ。その『未知』のものを」 「とは言え、僕には工学的な知識なんかは全くありません。 知っていることといえばゲーム機の大まかな構造と、雑学レベルの知識程度…… ですから、まずは知識を得るために、適当な機械を一つ分解してみたんです。 とは言っても、この技術出袋には使用回数制限があるみたいですから…… とりあえず、目に付くものの中で一番大きくて、一番複雑そうな奴を分解してみたんです。 知ってました? 医療器具って、実にいろんな様々な機能を持った部品の集合体なんですよ?」 「その残骸が、これなんだね」 改めて足元の部品類を眺めてみると、それらパーツの用途ごとに分類され、几帳面に並べられていることに気付く。 そこからも、ゲイナー君の頑張りの成果が見て取れた。 「最初は本当にチンプンカンプンだったんですが、それでも最初の一つを技術手袋が丁寧に解体してくれたおかげで、大分見当が付きました。 その後もそれを真似て自力で何度も分解していく内に、段々と機械の構造や仕組みの意味が掴めてきた気がしてきました。 それもこれも手袋のおかげですね」 「それは……ゲイナー君が頑張ったからなんじゃないかなあ」 「……手袋のおかげですよ」 照れ隠しに顔を背けるゲイナー君を見ていると、さっきの僕の考えが間違いなんじゃないかな? と思えてくる。 ゲイナー君は、そんなに酷い人間じゃない。 少なくとも、こんなに一生懸命に頑張っているんだから、そのことは素直に認めてあげたい。応援してあげたい。 僕のゲイナー君に対する評価は、また少しずつ変わり始めていた。 「それと、技術手袋のことなんですが……幾つか疑問に思ったことがあります。 まず、この手袋は少なくともこの時代に於けるあらゆる技術に対応してるとおっしゃっていましたが、 恐らく、ドラえもんのいた時代までの全ての技術的なデータがこの手袋の中に詰め込まれているんでしょうね」 「うん、その通りだよ。技術手袋があれば、僕が知ってる道具ならほとんど作れると思うよ。時間と材料さえあれば」 「では、ここで一つ疑問が湧きます。 この手袋で、未知の道具が作れるのかどうか? 例えば、そう、ドラえもんが居たよりもさらに未来の道具だとかは」 「え? う~ん、それはちょっと無理じゃないかなあ。その道具のデータが技術手袋に無い限りは」 「でも、ですよ? 例えはAという装置と、Bという装置を組み合わせて、Cという機械が遥か未来に作られていたとします。 もちろん、その設計図は技術手袋の中には無い。でも、その発想が無かっただけで、理論や概念さえ知っていれば、再現可能な機械だったとして。 そして、もし、遥かな未来から来た技術者が技術手袋を使って、Aという装置とBという装置を組み合わせたとすれば…… Cという機械は果たして作れると思いますか?」 「ええ? ちょっと待ってくれよ。……う~ん、どうなんだろう。できるのかなあ……?」 「それが出来るかどうかを確かめるのも僕の目的の一つだったんですが…… ですが、僕の直感では、きっと出来る。技術手袋に、さらに別の『知識』と『技能』を上乗せするんです。 問題は……その知識や理論に精通している人間がいるのかどうか、って事なんですが…… ドラえもんは、そういう未来の技術なんかには詳しいですか?」 「……道具の性能や使い方は知ってるけど、その詳しい理論や構造なんかは、さすがにちょっと……」 「そうですか……」 ゲイナー君は心底残念そうにそう呟くと、また作業を再開しだした。 「ドラえもんの知識、結構アテにしてたんですけどね……」 「……ごめん」 一転、重苦しい空気が部屋中にたちこめた。 「おっ、相変わらず頑張ってるみたいだな!」 閉塞した部屋の中に、いきなり誰かの声が響き渡った。 声のした入り口の方を振り向くと、そこにはひとりの男の人――トグサさんが立っていた。 「ああ、トグサさん。お疲れ様です。……で、どうでした? 頼んでたもの、見つかりました?」 「おう、見つかったぜ。電源なんかも生きてるし、運良く戦闘の被害も受けていなかった」 「それは何よりです! じゃあ、早速ですがそこまで案内してもらえますか?」 「わかった。こっちだ」 「ああ、ドラえもんも来てください。話したいことがありますから」 ???? そうして僕が状況を全く理解しない内に、僕たち3人はどこかに向かって歩き出していた。 ゲイナー君が、トグサさんに頼んだ探し物? それって一体何のことなんだろう? そして、暫く歩いた末に僕達はある部屋に辿り着いた。 病院の中でも一際奥まった場所にある、窓の無い、息が詰まりそうな部屋。 大きな機械が幾つも並び、それらは僕が生まれた工場を思い出させた。 そこは、この時代の病院にならば必ずといって良いほどある……レントゲン室だった。 「ここでいいのかゲイナー?」 「ええ、バッチリです! この世界にもあるかどうか不安だったんですが……やっぱり放射線を利用した医療器具はあったんですね!」 「ゲイナー君は、レントゲン室を探していたの?」 「ええ、そうです。ただ、この世界のことは良くわからないので……代わりにトグサさんに探してもらっていたんですよ」 「まあ、案内板をみりゃあすぐに分かったけどな。で、ゲイナー、俺の仕事はこれで終わりか?」 「いえ、少し待ってください。少しお話がありますから……」 そう言いながらゲイナー君は、レントゲンを操作する台をいじり始める。 そしてその手を休めずに、ゲイナー君は話し始めた。 「ところで、お二人とも……『スピーカーとマイクの構造』って、どんなのだか知ってますか?」 「はぁ? スピーカーとマイク? いや、知らないが……」 「いえ、難しく考えることは無いんです。スピーカーもマイクも、音と電気信号を変換する装置なんですよ。簡単に言えば。 で、これは雑学みたいなモノなんですけど……スピーカーの端子をマイクの端子に挿せば、スピーカーがマイクの変わりになるんですよ。 知ってました?」 「ああ、何かで聞いたことがあるような……」 「でもゲイナー君、それが一体どうしたって言うんだい?」 「つまり、僕が言いたいのは……大切なのは『概念』であって、個々の細かい仕組みではない、っていうことなんですよ。 大事なのは音と電気信号のやり取りであって、その変換装置の具体的な仕組みはどうでもいい、ってことです。 その概念さえ合っていれば、細かいことを考えなくても、スピーカーはマイクの変わりになってくれる……まあ、ちょっと暴論ですけどね。 えっと、起動スイッチは……これかな? ああ、点きました。ほら、ちょっとこの画面を見てください」 ゲイナー君が促したその画面は、普通のパソコンのような、文字を打ち込める画面になっていた。 そして、そこにゲイナー君が文字を打ち込んでいく。 その文字をみて……僕は息を呑んだ。 『では、そろそろ本題に入ります。首輪を解除するための話です』 『首輪の解除方法ですが、大体今はこんなところでしょうか 外部からの起爆電波のジャミング・シャットアウト 首輪への無線を介したアクセス → 無効化 無線でアクセスするための機材が必要 アクセスコード等の、解析・制御が必要 ジャミング・シャットアウトに関しては、首輪解除中に主催者に感付かれて爆破、というのを防ぐために必須だと思います。 これにはそれ専用の発信機を作るべきかもしれませんが…… 一応、この点のためにレントゲン室を使うことにしたんです。 レントゲン室は、電波や放射線に関して言えば、最も透過性の低い場所と言えますからね。 ところでドラえもん、このレントゲン室で、未来技術における電波はシャットアウトできると思いますか?』 『え、う~ん、ある程度は遮断できると思うけど、それでも透過させる方法もあるよ』 『……ということは、少なくとも気休めにはなり得る、ということですね。その辺りの解明もいずれ必要になりそうですが……話を進めます』 僕とトグサさんは、ゲイナー君が打ち出す言葉に、静かに頷く。 『次に、首輪へのアクセスについての話に移ります。 ここで絶対に必要になるのが、何らかの通信機、それもこの首輪に対応したものです。 これは必然的に自作しなければならないのですが……ここで一つ問題があります。 この首輪は……『電波』で通信しているのか? ということです。 未来技術なのだから、電波以外の、僕たちが思いもよらない手段で通信しているのかもしれない』 『うん、確かにその可能性はあるよ。だけど、それがどういう手段なのかは、僕には検討もつかないよ……』 『ええ。僕もそうです。ですが、それでも良いんです。見当が付く必要なんて無いんですよ』 『……どういうことだ?』 『さっきの『マイクとスピーカー』の話の応用ですよ。『電波だかなんだか分からないもの』と『電気信号』とを変換させる装置さえあれば、 別にその『電波だかなんだか分からないもの』を特定する必要なんかないんです』 『だけどゲイナー君、その『なんだか分からないもの』を特定しないことには、そんな『変換装置』なんて作りようが無いんじゃ?』 『そんなことはありません。だって、もう既にその『変換装置』は手に入っているんですから』 『ど、どういうこと!? ゲイナー君、いつの間に!?』 『利用できるかどうかは別にすれば、その『変換装置』はみんな持ってるんですよ。……そうでしょう、トグサさん?』 トグサさんがニヤリと笑う。 『読めたぜ、ゲイナー。お前が言ってるのは……コイツのことだろ?』 そうやってトグサさんは、あるものを指差した。 それは、トグサさんの――そして、僕にも、ゲイナー君も身に着けている――『首輪』だった。 『つまり、『電波?』を受信した首輪の中の『変換装置』が、それを『電気信号』に変換する。 そして、首輪が記録した『電気信号』はまた『変換装置』によって『電波?』に変換される。 だから、俺達が通信装置を作るために必要な『変換装置』は、この首輪を分解すれば容易に手に入れることが出来る。 そして、機能を停止した首輪は分解可能であることは実証済みだし、解体済みの首輪も、俺が一個持っている。 ほら、これだ』 トグサさんがデイパックから取り出したそれは、確かに解体された首輪だった。 内部に何個かの小さな装置が垣間見える。 『この首輪の装置はかなり小型ですが、その分余計な小細工は付与しにくい……希望的観測ですが、そう考えています。 ですから、この首輪の装置を首輪解除装置に流用するのも可能だと僕は考えています。 まあ、詳しく調べてみないことには確証は得られませんが』 『な、なるほど! じゃあ、もうすぐにでも首輪解除機が作れるの?』 『まあ、それなりの時間をかければ作れると思うのですが……それだけでは、まだ首輪の解除は出来ません』 『どういうこと? 首輪解除機なんだから、それさえあればいいんじゃないの?』 『首輪解除機は、言わばハードウェアなんです。で、実際に首輪を解除するためには、専用のソフトウェアが必要になります。 それには、長門さんという方が残したという情報に期待したいところですね。 それを一から構築することも可能だとは思いますが、さらに長い時間をかけないといけなくなるでしょうね』 『と、いうことは、今はキョン達が居ないと先に進めないわけか。奴等、無事だと良いんだが……』 『いえ、彼らが合流するまでの時間を無駄にするべきではありません。 ソフトウェアが無くても、ハードウェアだけなら作れるかもしれません。 未来の技術を使用している分、どれだけ時間がかかるかは見当がつきませんが……それでも、何もしないよりはマシでしょう』 『なるほどな。じゃあ、今すぐにでも首輪解除機の製作にかかるか。よし、ゲイナーは良く頑張った。後は俺たちが……』 トグサさんの申し出は、しかし途中で遮られる。 『いえ、解除機の製作は引き続き僕が行います。それが最も効率的な選択です』 ゲイナー君は、強い決意を込もった力強い声で、そう言い切った。 『トグサさんは僕と違って戦闘能力があります。今後生じるであろう戦闘に備えておいてください。 ドラえもんも怪我をしているみたいだし、ドラえもんの未来知識はどこかで活用できる機会があるかもしれない。 でも、僕は……僕だけは、何も無いんですよ。戦闘能力も、知識も、特殊な技術も。 だから、誰がしても良い作業ならば……それは、僕がすべきなんですよ。 いえ、寧ろ僕にやらせて欲しい。僕だって、皆のために、あの仮面の男に一矢報いるために、なにかをしたいんです。 これ以上犠牲者を出さないための、何かを! だから……僕が、装置を作ります。作らせてください! そのために、ずっと機械類の構造を把握するべく解体作業をやっていたんですから。 今なら、きっと僕が一番うまく技術手袋をつかえるんです!』 「ゲイナー君……」 彼の熱い想いに、思わず彼の名を呟いてしまう。 ゲイナー君、ごめんよ。僕は君の事を勘違いしていたみたいだ。 君が放送を見なかったのは、その僅かな時間も惜しんでいたからなんだね。 君は、君なりに心を痛めていたんだね。 君は人知れず、自分の出来ることを探して、それを一生懸命頑張っていたんだね。 君がこんなにも熱い心を持っていてくれて……僕は、なんだか嬉しいよ。 『でも、それじゃ凛さんやゲインさんにも話しておいた方がいいんじゃあないの?』 『凛さんは「そういう機械系統の問題は苦手」だそうでして。ゲイン達には……後で、目処が立ち次第報告しますよ』 『分かった。じゃあ、首輪解除機の製作はゲイナーに任せるが……あんまり無茶するなよ? お前がへばっちまったらしょうがないんだからな?』 『ありがとうございます。……でも、僕が死んでも、代わりは居ますから……』 「何?」 僕とトグサさんは、思わず顔を見合わせる。 『ところで、さっき聞きそびれたんですが……先ほどの放送で伝えられた死者は何人で、誰と誰だったんですか』 『え、ああ、死者は8人だったよ。 のび太君や 劉鳳さん、 エルルゥさん、水銀燈が死んだのは分かっていたけれど、 その他にもセラスさん、魅音ちゃん、沙都子ちゃんと、それに峰不二子って人が死んでしまったらしいんだ……』 『それじゃあ、残りは14人。内、僕らの仲間と言える人数が13人。で、残りが14回……うん、ギリギリだけれど何とかなる』 『? 何の話だい?』 『ああ、技術手袋の話ですよ。回数制限があるから、無駄に乱用は出来ませんからね。 とは言え、材料の確保に一回は使わざるを得ませんでしたから、先ほどは使ってしまいましたが…… 残り人数がそれだけなら、後二回、首輪解除機とジャミング用の電波撹乱機の分は確保できそうですね』 『ああ、そうか。皆の首輪を取り外すことを考えれば、残りの仲間人数分は回数を確保しておかないといけないんだね』 『ええ。非情なようですが、残り人数が減れば、それだけ技術手袋を使える回数が増え、首輪解除機等を作る余裕が出る……皮肉なものですね』 『だが、ちょっと待てよゲイナー。計算がおかしくないか? 仲間の数が13人で、残り使用回数が14回なら、使える回数は後一回だけだろ?』 『いえ、違います。残り使用回数から引くのは、“僕以外の12人分”でいいんです。14-(13-1)=2 でしょ? 』 「ゲイナー、お前……!! 「自分が犠牲になるつもりなの!?」 僕とトグサさんは思わず画面から目を離し、ゲイナー君に詰め寄った。 でも、ゲイナー君はさも当然かのように、キーボードで文字を綴る。 『ええ。だから、この話はお二人には是非聞いておいて欲しかったんです。 あと、僕にもしものことがあれば、その空いた一回分をお二人に有効に活用して欲しい。 これはある意味当然の、最も合理的な判断ですよ。言ったでしょう? 僕には何も無いって。だから、せめて皆の役に立とうと思って…… 以上が僕の希望です。……ということで、後はお願いできますか?』 ゲイナー君がそのメッセージが打ち終わらない内に。 ――ゴン! 鈍い音が室内に響き渡った。トグサさんの拳骨がゲイナー君の脳天を直撃したのだ。 「子供が調子に乗るんじゃない!」 「い、痛いッ! お、大人はすぐそうやって!! それに大体、こうする以外に道が無いじゃないですか! 誰かが犠牲になるなら、能力的に低いものが――」 「なら、お前はしんのすけ君を犠牲に出来るのか?」 「――!! そ、それは……」 ゲイナー君が反論に詰まる。 「そうやってすぐに視野を狭めて、格好つけて自己犠牲に陶酔してるからガキだってんだよ。 自分が綺麗に死んでそれで満足してる内は子供なんだ。 汚い手使っても、格好悪くても、最後まで諦めずに足掻いてこそ一人前なんだよ!」 「で、ですが……!」 殴られた頭を押さえながら、ゲイナー君がモニターの方に向き直る。 興奮しているみたいだけど、そこはちゃんと冷静なようだった。 『ですが、でもそれじゃあどうするって言うんですか!? どちらにせよ使用回数から考えれば、最低ひとりは犠牲にならざるを得ませんよ!』 『いや、まだ分からないぞ。長門の隠したデータの中身が分からない以上、全てを決め付けることは出来ない。 もしかしたら、首輪の遠隔操作や電波遮断に関しての情報が入っているかもしれないし、それで手袋の使用回数を節約できるかもしれない。 過度に楽観的になるわけにはいかないが……かといって、望みを捨てるにはまだ早すぎる』 トグサさんはそう画面に打ち込むと、改めてゲイナー君を見る。真剣に。 「いいか、ゲイナー。お前が皆の為に頑張ろうって考えるのは良いことだ。凄く、な。 だが、だからって自分を蔑ろにするのは止めろ。 自分の命を粗末にするのは、死んでいった者に対する侮辱だ。 志半ばで死んじまった奴等の為にも……お前には生きる義務がある。 だから……軽々しく自分の命を投げ出すような真似は止めろ。わかったな?」 まっすぐにゲイナー君の目を見据えるトグサさんは、大人の顔をしていた。 対するゲイナー君は、おどおどと目を逸らす。 「ぼ、僕だって別に死にたいと思ってるわけじゃ……!そ、それに結果的にはまだ死ぬと決まったわけでもないし……!」 「馬ぁ鹿!」 ――ゴン! 「痛い! またぶった!」 「だからガキだって言ってんだよ。こういうときは素直に『ごめんなさい』って言っとくもんなんだよ!」 そう言いながら、トグサさんはゲイナー君の頭を鷲掴みにする。 「ほら、言ってみろ。『ごめんなさい、もう死ぬなんていいません』ってな!」 「またそうやって子供扱いするッ……!」 「まだ殴られ足らないのか? ほら、早く」 「う……わ、分かりましたよ、言えば良いんでしょ? ご……ごめんなさい。もう軽々しく死ぬだなんて言いません……」 「よし、よく言えたな」 そのままトグサさんは、ゲイナー君の頭をわしわしと乱暴に撫でる。 「大体なあ、お前だってそんなに卑下するほどの役立たずってワケじゃないんだからな? 『敵を知り己を知らば百戦危うからず』って言うだろ。お前も胸張って自信持てよ!」 「わかりましたよ……。 じゃあ、お返しに言いますけど、トグサさんはちゃんとお休みになってるんですか? トグサさん、しばらくの間働き詰めでしょう?仕事を頼んじゃった僕が言うのもなんですけど……少し休まれてはどうですか? もしもの時に動けなくなったらいけませんからね。『敵を知り己を知らば百戦危うからず』でしょ?」 「こいつ……口の減らない奴だなあ……!」 苦笑いするトグサさんと目が合った。 ――もう、心配無いな。 トグサさんの目はそう言っているように見えた。 「さてと。じゃあ、俺はもう行くぞ? お言葉に甘えて、そろそろ休ませて貰うからな」 「ああ、待って下さい!」 ゲイナー君は部屋を立ち去ろうとするトグサさんを呼び止めると、キーボードを急いで叩き出した。 『思ったんですが、首輪解除装置の副産物として……『電波?』を受信する装置が出来ます。 それを利用すれば、電波の発信源……つまり、主催者の本拠地が分かるかも知れません』 「……たいした奴だよ、お前はな!」 「わあ、だから子ども扱いは止めてって言ってるのに!」 そうしてひとしきりゲイナー君の頭をぐしゃぐしゃとなでてから、トグサさんは笑いながら部屋を出て行った。 部屋に僕とゲイナー君だけが残された。 「ドラえもんも僕のことは気にせずに、ご飯を食べるなり休むなりしてくれればいいですよ?」 「ううん、僕はもうしばらくここに居るよ。何かゲイナー君の助けになれるかもしれないしね」 「そう……ありがとう、ドラえもん」 そして、ゲイナー君はまた、首輪解除装置の作成のために、作業を再開した。 僕は、その彼の姿を、ただただ見守っている。 でも、それがなんだか暖かくて、嬉しかった。 頑張れ、ゲイナー君。 君なら、きっと上手くいくよ。 のび太君、きみがいなくなったら なんだか部屋がガラ―ンとしちゃったよ…… だけど、すぐに慣れると思う。 だから心配するなよ、のび太君。君の仇はきっととってやるからな……! 【D-3/病院-レントゲン室/2日目-日中】 【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】 [状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い [装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ [道具]:支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳 クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書 病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数 [思考] 基本:バトルロワイアルからの脱出。 1: 首輪解除機の作成。 2: エクソダス計画に対し自分のできることをする。 3: カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す。 4: グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る。 [備考] ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。 ※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。 ※基礎的な工学知識を得ました。 【ドラえもん@ドラえもん】 [状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感 [装備]:虎竹刀 [道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD [思考] 基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。 1:エクソダス計画に対し自分のできることをする。 2:ゲイナーを温かい目で見守る [備考] ※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。 ※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます。 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可 [装備]:S W M19(残弾6/6発、予備弾薬×28発) [道具]:支給品一式、警察手帳、タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書 [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:今の内に休息を取る。 2:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る。 3:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う。 4:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む。 【全体の備考】 手術室には分解済みの部品が多数放置されています。 【ゲイナーの首輪解除機について】 首輪の部品を利用。 使用にはソフトウェアが必要。自作可能だが、それには更なる時間が必要。 完成までに必要な時間は不明。 解除は遮蔽性の高いレントゲン室で行う。 解除の際には外からの電波を遮蔽する装置も使用する(レントゲン室で十分に遮蔽できていると確認できたなら不要)。 技術手袋は生存している仲間の数と同数回だけは温存。 副次的に、電波の発生源=主催者の居場所を特定できるかもしれない。 その理論はゲイナーの他、ドラ・トグサが知っている。 時系列順に読む Back せおわれたものNext 永遠の孤独 -Sparks Liner High- 投下順に読む Back せおわれたものNext SUPER GENERATION(前編) 274 陽が昇る(後編) トグサ 283 I,ROBOT 274 陽が昇る(後編) ゲイナー・サンガ 283 I,ROBOT 274 陽が昇る(後編) ドラえもん 283 I,ROBOT
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セブロ M-5 3.5in. ▼セブロ社製 ▼オートマティックハンドガン ▼セミオート、ダブルアクション ▼アンビセイフティ ▼装弾数 19+1発 ▼5.45×18mm弾使用 ▼高速徹甲弾、低速軟弾頭使用可 ▼公安関係の制式装備 ▼9課では、バトーとトグサ以外の課員が使用 ▼サイボーグにも有効 ▼初速はライフル並み ▼セイフティレバーは上から『安全』、『単射』 ▼このモデルの発展系がSSSで登場(トグサが使用)した『セブロ M-10』 ■S.A.C. 1st 第1話「公安9課 SECTION-9」の冒頭で男の足を撃ち抜いていた銃。 小型のハンドガンで、素子はたいてい携行している。 S.S.S.ではコシキが使用。 □登場作品 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 2nd GIG」 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 小説版」 名前 コメント [PR] 外貨 投資
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FATE ◆lbhhgwAtQE 「……ふぅっ! ここらへんなら問題無さそうだな……」 激戦の続く病院を出てからしばらく。 凛とドラえもんを運んできたトグサは、道路沿いにあった普通の民家よりもやや豪勢な雰囲気の漂う住宅――世間で言うところの豪邸――へと足を踏み入れていた。 そして、彼はその豪邸の一室に入ると、ドラえもんをソファに横にし、次いで凛をベッドの上に寝かせた。 「さて、どうするかね、と」 トグサは目を閉じたままの凛を見ながら、一考する。 セラスと劉鳳が言うには、彼女はあの銀髪の人形に唆されているだけとのことだ。 それは、人形と決別して戦っている姿を目撃したこともあって、限りなく事実に近い話だろう。 だが、自分がそう思っていても目の前の彼女が自分に対して今どのような感情を抱いているかは分からない。 自分が善意でここまで運んできたことなど、運ばれている間ずっと気絶していた彼女が知る由もないだろうし、彼女目掛けて銃弾を撃ち込んだ事実もある。 突然目覚めて、自分の姿を見た瞬間に襲われる――などという可能性も大いにある。 「怪しいとなると、こいつをどうするかも問題になってくるが……」 そう言ってデイパックから取り出したのは、気絶している間も凛が握っていたピンクの柄に金色の金具、赤の宝玉というファンシーな色彩の杖。 トグサは、これこそが自分を追い詰める程の砲撃を放っていた武器と推測していた。 そしてその推測を正しいとするならば、この杖は凛に不用意に使われないように遠ざけておく必要があった。 (しかし、こんな杖のどこにあんなレーザー顔負けの砲撃を行う機構が取り付けられてるっていうんだ……) 自分に支給された技術手袋といい、ギガゾンビを映し出す巨大ホログラムといい、長門やセラスのような強化義体といい、ここには自分にとって未知のものが多すぎる。 杖から砲撃など、娘の見る魔法少女アニメだけで十分なように思いたかったのだが…… 『待ってください』 突如、どこからともなく大人の女性の声が聞こえた。 トグサはその声に驚き、声の出所を探そうとあたりを見渡すが、ここにいる3人以外に人の気配などしない。 ……そして、何より声はすぐ間近――そう手元から聞こえてきたわけで…… 「まさかこの杖が……?」 『はい、そうです』 「おいおい、一体どんなAI積んだらこんなに流暢に――」 『私の名前はレイジングハート。魔法発動の補助を行うインテリジェントデバイスです。そして彼女、遠坂凛は私の――』 「あ~、ちょっと待ってくれ!」 トグサがレイジングハートの言葉を遮る。 「俺はこの義体を修理し次第、すぐに病院に戻るつもりなんだ。だから、面と向き合って話を聞いてる暇は無い。……話はこいつを修理しながらの片手間になるが、構わないか?」 『構いません。どうぞ仕事を続けてください』 「そりゃ、どうも、っと」 声の調子から察するに、このレイジングハートという杖には剥き出しの敵意はない。 凛の攻撃手段であるだろう杖がこの様子ならば、まず目覚め一発で砲撃を喰らって死亡という事は無さそうだ。 トグサはそう判断し、レイジングハートをそばの壁に立てかけると、技術手袋をドラえもんに近づけ、彼の修理を開始した。 それから少しして。 修理を続けるトグサは、レイジングハートから今まで彼女が見聞き(?)した情報や魔法の概念についての大まかな説明を聞き終えた。 「なるほどな。要するにお前さんと凛は、その水銀燈っていう人形型の義体にまんまと騙されてたって訳だ」 『はい。悔しいですが事実です』 「となると、最初に俺達を襲った時もきっかけは水銀燈が作ったと考えるのが適当か……」 全てを見てきたという彼女が言うならば、間違いはないだろう。 つまりセラスと劉鳳の仮説は正しかったことになる。 ならば、こちらが凛に敵対する理由はもう完全になくなったという事だ。 「だったら、後はお姫様が目覚めてから、だな」 『大丈夫です。マスターならきっとそんな短気は起こさないはずです。……もし何かあっても私が説得してみせます』 「はは、頼もしいな」 口では笑うが、トグサの目には焦りの表情が浮かんでいた。 とはいっても別に、凛の事について焦っているのではない。 問題は、レインジングハートの話を聞きながら並行していたドラえもんの修理だ。 この修理は、トグサの予想以上に時間を食う作業であった。 それもそのはずで、このドラえもんはトグサがいた時代よりももっと未来、それこそ技術手袋と同じ年代に製造された未知の技術がふんだんに使われたロボットなのだ。 そして、その修理を行うのだから時間が掛かっても仕方がなかった。 (……クソッ。こうしてる間にも劉鳳が窮地に立たされてるのかもしれないっていうのに……) 自分達を逃がすべく水銀燈の前に立ちはだかった少年はあまりに傷つきすぎていた。 あのままでは負けて――死んでしまうかもしれない。 それだけはなんとか避けたいと、彼はただひたすらに早く修理が終わることを祈る。 すると……。 『マスター!』 突如、横から聞こえてきたそんなレイジングハートの声に、彼女が“マスター”と呼ぶ少女の方を振り向く。 するとそこには、ベッドの上で上半身を起こした凛の姿があった。 「う、うぅん……頭がガンガンするぅ…………ってあれ? ……あれ?」 凛はどうやら自分がいる場所がベッドの上であることに違和感を覚えているようで首をせわしなく動かす。 そうして動かしているうちにその視線は、ドラえもんの修理を続けるトグサを捉えることになり―― 「やぁ、お目覚めかい?」 とりあえずトグサは、自分なりに親しげな調子でそう声を掛けた。 ◆ 頭を押さえながら目覚めた凛が目にしたのは、自宅並に豪奢な部屋とその片隅の壁に立てかけてあるレイジングハート、そしてソファの横になるドラえもんとそれに何やら手をかざしている男の姿。 いきなり大量に入る真新しい情報に彼女はこれを夢だと思うが、その頭に僅かに残る鈍痛や身に纏うバリアジャケットがまだ自分が血塗られたゲームに参加中であることを否が応にも教えてくれた。 「……ここはどこ?」 「病院から西に少し行ったところにある民家の一室だ」 「あんたは一体誰なの?」 「俺はトグサ。警察関係者だ。一応参加者ってことになってるが、俺にはまったくそのつもりはない」 凛の問いに、目の前の男――トグサは一つ一つ答えてくれた。 彼女は、彼が先ほどまで対峙していた男であることは既に分かっている。 だが、水銀燈が自分を姦計に陥れようとしていたことが分かった以上、彼がゲームに乗っている一味の一人だという彼女の話の信憑性も限りなくゼロに近いものになった。 そして、それに加えて、自分が意識を失う直前に見た劉鳳と一緒にいる姿と先ほどの彼の言葉や今までの行動を鑑みるに導かれる答えは―― 「……それじゃ要するに、私があなたと敵対する理由はもうないわけね」 「ま、そういうことだ」 『流石、マスター。理解が早いですね』 どこかレイジングハートだけは自分を小馬鹿にしているような気がしないでもなかったが、深くは考えない。 「で、病院にいた他の連中はどうしたの?」 「劉鳳は水銀燈の相手をしている。セラスも同様に甲冑の騎士の相手をな。俺はセラスと劉鳳の二人に気絶していた君らを遠くに逃がすように頼まれた」 「……のび太君はどうしたの?」 「彼は……………………殺されたよ。甲冑の騎士に剣で首を刎ねられてね」 のび太が視界に入らなかった時点でしていた嫌な予感は的中した。 しかも最悪な経緯で。 「そう……。教えてくれてありがと」 すると凛は、完全に起き上がり床に足をつけると、そのまま壁に立てかけてあったレイジングハートを掴み、そばに置いてあったデイパックを拾い上げる。 トグサはドラえもんの修理をしながら、驚いた表情でそんな彼女の方を向いた。 「お、おいおい。まさかとは思うが、そんな起きたばっかりの体で動くつもりか?」 「……水銀燈とのパスが途絶えたのよ。あいつ、また何か悪巧みを考えてるのかもしれないし確かめに行かないと……」 「待て。だったら俺もついてい――」 「ダメよ。だって、あなたにはそれよりも先にやるべきことがあるでしょ?」 凛は、そう言って未だ気を失ったままで修理を受けている猫型ロボットを一瞥する。 「彼……ドラえもんはあのギガゾンビの持つ科学技術についてを知る最後の生き残り。……いわばギガゾンビに対抗する為の切り札って言っても過言じゃないわ」 「あぁ。それは分かってるさ」 「……だったら、あなたは彼の修理に専念していて。私達は彼という脱出の切り札を手放すわけにはいかないんだから」 確かに凛の言う通りだ。 トグサ自身は現在、ドラえもんの修理中であり、ここから離れるという事はその修理を中断してしまうことになる。 「……どうしても行く気なんだな?」 「水銀燈を今までのさばらせていたのは私の責任だし、それにセイバーの方も気になるしね」 この様子では、無理に止めようとすれば、何をされるか分かったものではないだろう。 トグサは、自分が知り合う人間の度重なる無謀な決断に頭を抱えつつも、最後は頭を縦に振る。 「分かった。……だが、無茶はするなよ。お前もレイジングハートもまだ……」 『大丈夫です。凛は私がコントロールしてみせます』 「――って、ちょっと何であなたが私をコントロールするわけよ! 逆でしょ、逆!」 凛はレインジングハートのそんな言葉に反論する。 だが、トグサからしてみれば、一通り話した中でレイジングハートの聡明さを理解していた為、その言葉は正論に聞こえていた。 「よし、それじゃ頼んだぞ、レイジングハート」 『All right』 「――って、あなたまでっ…………。まぁ、いいわ。それじゃ、彼の事は頼んだわよ」 「任せておいてくれ。俺も修理が終わったらそっちへ向かうからな」 凛はトグサの言葉に頷くと、部屋を飛び出していった。 残るのは、依然気を失ったままのドラえもんとそれを修理するトグサのみ…… 「さて、こっちも早めに仕上げないとな」 ◆ トグサ達が豪邸にいる頃。 彼らが気にかけていた病院には、満身創痍になりつつもまだその目をギラつかせた少年カズマが到着していた。 「どーなってやがる……。ここで何があった……?」 照明の落ちた薄暗い廊下を歩き、その周囲の無残な光景を見ながらカズマは呟く。 元々、いくつかの戦闘の痕跡のあったこの建物であったが、カズマが最後に見たときよりも明らかにその見た目は外観、室内ともに酷くなっていた。 ――それは明らかに、新たな戦闘がここで行われた痕跡。 「クソッ!! 次から次へと俺のいないところでドンパチしやがって…………」 ここで大規模な戦闘があったことが確実である以上、最も気がかりなのはここに残してきた少年とロボットのこと。 二人が戦闘を得意としない弱者であることを彼は知っていたし、それ故にその戦闘に巻き込まれたらひとたまりもないことも分かっていた。 「あいつら一体どこに行きやがっ――――おうわっ!!!」 そして、周囲を警戒しつつそんな二人を探していると、不意に足を滑らせ転倒した。 「――っつつ…………。何だ何だ? 足元が急にヌルヌルしやが……って………………」 尻餅をついたまま、足を滑らせた原因を見ようと床を見たカズマは、そこで気付いた。 床には粘性のある赤い液体が撒き散らされており、その液体の中心には首と胴体の分かれた少年の遺体があることに。 そして、その少年の服装に彼は見覚えがあったわけで……。 「お、おい…………冗談……だよな?」 カズマは、その光景に半信半疑でありつつも起き上がると少年の首の正面へと回り込む。 すると、そこには正真正銘、彼の知る野比のび太の呆然とした表情が張り付いており―――― 「く……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」 彼はそのアルター化した拳を目一杯床に叩きつけた。 「チクショウ! お前まで死んじまってどうするんだよ、のび太……」 アルルゥに次ぎ、のび太もまた自分のいないところで死んでいってしまった。 だが、そこで自分の無力さを嘆き、立ち止まっている暇など彼にはない。 ――立ち止まっている暇があるなら、のび太やアルルゥ、それにかなみや君島、ヴィータ、太一といった仲間を殺していった連中を叩き潰して、ついでに気に入らないギガゾンビも最終的には潰す! そう彼は心に決めていたのだ。 「誰だ……一体誰がやりやがった……」 のび太の首と胴体を廊下の端に寄せながら彼は、その断面を見る。 すると、その断面は骨まで綺麗に切断されており、昨日見た少女の首を切断したようなナイフよりももっと鋭利な刃物で斬られた事が分かる。 そして、これだけ出血している以上、生きている時に切断が行われたことも。 ということは、即ちのび太を殺害した相手は、首を刈る素振りを直前まで見せずに一瞬のうちに凶行に至ったという事になる。 そのような早業を誰もが出来るわけもなく、出来るとするならば恐らくは今は亡きヴィータと共に立ち向かったあの甲冑の剣士くらいの実力を持った人物くらいだろう。 ――と、そこまで思考をめぐらせたその時。 ――カツン、カツン、カツン………… 彼は背後で聞こえる足音に気づいた。 その足音は、徐々にこちらに近づいている。 当然だが、足音を聞いただけではカズマには、一体どんな人物が近づいているのかは全く分からない。 だが、ここにのび太の死体がある以上、まだここにその犯人がいる可能性は大いに考えられる。 そして、足音の主がその犯人であるならば、カズマが行うべきことは唯一つ。 「――!!!」 そう意気込んで彼は後ろを振り返ってみたが、そこにいたのは太一を殺しヤマトを連れ去った女でも例の甲冑剣士でもなく、長い金髪を二つに分けた小さな少女だった。 「……な、ガキか?」 一瞬気を緩めるカズマであったが、アルター能力者に歳は関係ない上にヴィータのような前例もある。 子供といえど、力量に関して油断は出来ない。 すぐに拳に力を入れなおし、少女を見据える。 「一体どこのどいつは分からねぇが、それ以上近づく前に一つ聞きたいことがある」 「あ、あの私は……」 「つべこべ言う前に答えろ。いいか? まずは――」 すると、その時少女は何かを思いついたような顔になる。 「あの……もしかしてあなたはカズマさん……ですか?」 ◆ ――学校には誰もいなかった。 それを確認したフェイトは、早々に探索を切り上げ、病院へ向かった。 ゲインやゲイナーらとの合流時間にはまだ早いものの、病院内を先に調べておきたい気持ちがあったのだ。 そうしてフェイトは病院についたわけだが…… 「これは……」 彼女もカズマ同様にまずその酷く損壊した外観に呆然とした。 「明らかに人の手で破壊された痕跡だけど……誰か中にいるのかな」 『内部に一人分の生体反応があります』 「一人…………か」 バルディッシュの答えを聞いて、フェイトは病院の内部へと入ってゆく。 これだけ崩壊している以上、内部にいる人間がその破壊に関わっている可能性は大いにある。 しかし、だからといって彼女は逃げるわけにはいかない。 むしろ、何かしらの悪意を以って破壊を行っているのだとすれば、それを止めなければならなかったのだから。 「……どっちの方にいる?」 『この先の廊下を左方に曲がった先約50ヤード、依然その場に留まっています』 バルディッシュの指示に従いながら、薄暗い廊下をフェイトは進む。 ――すると、その先にいたのは目をギラつかせた一人の少年であり………… 「ほぉ、お前があの女とゲイナーの仲間だったのか」 「はい。レヴィ達とは12時にここで合流することになっています」 フェイトが出会った少年の身体的特徴は、ゲイナーが教えてくれたカズマという少年の物と一致していた。 それに気付いた彼女は、咄嗟に彼の名を呼び、レヴィとゲイナーの名前を出し、自分の素性を明かした。 その結果、カズマは拳を収め、彼女との会話に応じ、今に至っているのである。 ……いや、それだけではカズマは素直に話を聞かなかったかもしれない。 彼が話を聞く気になった最大の理由、それは―― 「それにしても、お前があのフェイトだったとはな……」 フェイトがカズマの事を伝え聞いていたように、彼もまた彼女の名前を高町なのはとヴィータというフェイトにとっては亡くなってもなお大切な二人の仲間から伝え聞いていたのだ。 「なのはとカズマさんが一緒だったことはゲイナーから聞きましたが……ヴィータとも一緒だったんですね」 「短い間だったけどな。……あんなちっこい体してるガキの癖に大した奴だったよ」 聞けば、ヴィータはカズマとともにとても強大な力を持つ襲撃者に立ち向かい、そして消えていったのだという。 消えた――という言葉にフェイトは一瞬違和感を持つが、彼女は夜天の書が魔力から作り出したプログラムであり、その体を構成する魔力を全て使い果たしたという事にすぐに気付いた。 ――何故、同じ守護騎士なのに、シグナムとヴィータでこれ程にも異なる道を歩んでしまったのだろう。 自分の知らないうちに道を違え、それぞれ散っていった二人の事を思い、フェイトは胸を詰まらせる。 すると今度は、カズマがフェイトの髪を束ねる片方のリボンを見ながらそんなフェイトに尋ねる。 「そのリボンをしてるってことは……お前もなのはには会えたんだよな?」 「……はい。これはなのはの大切な形見です」 「………………そうか」 そこまで聞くとカズマは、再びその顔をフェイトへと向ける。 「で、お前はどうするんだ? こんなところまで来て、一体どうする気だ?」 「勿論、なのはやヴィータ、それにカルラさんやタチコマの為にも、私は何としてもこれ以上の犠牲を無くして皆でここを脱出する手立てを探します。その為なら、私は力を使うことも厭いません。……カズマさんも協力してくれませんか?」 レヴィやゲイナーから聞いたところによると、カズマもまた相当の実力の持ち主という。 ならば、協力を仰ぎたいのがフェイトとしての本音だった。 だが…… 「俺は誰かに指図されて動くなんてまっぴらだね。俺は俺の好きなようにやるさ」 「そう、ですか……」 フェイトは顔を暗くするが、これ以上言い寄ることもなかった。 そして、そんなフェイトの顔を見ると、カズマは足元に転がる少年の遺体を見やりながら言葉を続けた。 「……ま、でも、お前らがあの仮面ヤローみたいな気に食わない奴らと戦うってんなら、そん時は俺も参加させてもらうぜ。俺にも、太一やアルルゥ……それにこいつの仇を討たなきゃ気がすまないからな。それでいいなら……」 これは、つまり肯定と捉えていいのだろう。 素直でないカズマのそんな態度にフェイトは笑みを浮かべる。 「はい。ありがとうございます、カズマさん」 それから。 カズマがのび太と太一の埋葬すると言い出したことによって、二人は別行動をとる事となった。 本来、フェイトも二人の少年の埋葬を手伝おうと名乗り出たのだが―― 「――これは俺の仕事だ。お前はお前のやることを先にやっておけ」 カズマがその申し出を断ったのだ。 既に、彼は毛布に包んだのび太と別の部屋に安置していた太一の遺体を抱え、二人を埋葬すべく外へと出ていってしまっている。 そして、残されたフェイトはといえば―― 「……ここで合ってるの?」 『はい。彼女の体の傍から魔力を関知できます』 彼女は院内捜索中にバルディッシュに告げられた“付近から無視できない量の魔力反応がある”との知らせに従い、その発生源を調べに病院のとある地点へと向かっていた。 そこは、既に病院“内部”と言うべきかどうか微妙な――病院の壁を突き破ったその先であり、瓦礫や抉れた樹木に混じって、二人の男女が息絶え倒れていた。 一人は、白と青、そして血の赤に染められた服を身に纏った少年。 もう一人は、白と黒のゴシックドレスをこれまた血の赤に染めた状態で倒れている少女……を象った人形。 この酷く損壊した人形こそが魔力の発生源らしかったのだ。 「でも何で人形がこんなところに……」 よく見ればその首には自分に付けられたのと同じ首輪がついている。 つまりこの人形――彼女もまた、参加者の一人ということのようだ。 そして、体の上に小さな光が浮いているのを見ると、彼女はそれを手に取ってみる。 「もしかして、これが魔力を出しているの?」 『その通りです。魔力の反応、極めて大です。……それに体の下からも大きな反応があります』 「体の下から?」 バルディッシュの報告に訝しげになりつつも、確認したい気持ちが強いフェイトは「ごめんなさい」と一言言って人形の体をゆっくり持ち上げる。 すると、そのうつ伏せになった体の下敷きになるように何かが挟まっているのを見つけ―― 「これは――!!」 それを拾ったフェイトは酷く驚いた。 なぜなら、それはかつて自分となのはで破壊したはずの融合型デバイス――闇の書だったのだから。 ――何故、消滅したはずのデバイスがここにあるのか? その疑問に関しては答えはすぐに出る。 ギガゾンビが何らかの時空干渉を行い、不正に入手したのだろう。 今疑問なのは、“持ち主であるはずのはやて亡き今、何故転移せずにこの場に存在するのか”という点だった。 守護騎士の件といい、この空間には自分の知りえない技術がまだ使われているらしい。 「でも、こんなものまであるってことは……」 何故、闇の書がこの銀髪の人形の下敷きになっていたのかは分からない。 何故、人形と少年が相打ちになるような形で息絶えているのかも分からない。 ただフェイトが分かっていることはただ一つ。 闇の書が極めて危険なアイテムであるという事だ。 彼女は思い出す。 かつて、はやてを飲み込み暴走を開始した闇の書――正確には闇の書の防御プログラム――の凄まじい魔法の力を。 もし、時空管理局のような組織のバックアップ無しにこの場で融合事故が発生してそのような暴走を起こされたりしたら、手に負えなくなってしまう。 (これを……早くどうにかしないと) 管制人格リィンフォースが応答をしない以上、いつどんな災厄を及ぼすとも分からない。 最悪の場合、ギガゾンビが手を下すまでもなく書が暴走して全滅などというシナリオすらも描かれかねない。 しかし、だからといって自分ひとりであの時の儀式のように完全に破壊できるかどうかも分からない。 そんな危機感を抱きつつ、フェイトはその対処法を見つけるまでの間の処置として、その闇の書を正体不明の魔力の塊である光球ともども自らのデイパックで保管することにした。 「よぉ、病院の中の捜索はもう終わっt――――って、おい。これはどういう……」 カズマがフェイトに声を掛けたのは、まさにそんな2種類のアイテムをデイパックにしまっていたその時だった。 ◆ 「……こんなもんか」 外に出たカズマが病院横の庭で二人の少年の埋葬を終わるまでには、そう時間は掛からなかった。 かなみの時同様の、音を全く気にしない拳を使った穴掘りが時間を大幅に短縮したのだ。 二人を埋めた上に小高い山を作り、その前にはのび太のものと思われるデイパックから取り出したうちわを刺す。 「せっかく俺が墓を作ってやったんだ。二人一緒の穴で狭いとかっちゅう文句は受けつねーからな」 ――そんな物言わぬ質素な墓にカズマは一言言うと、その墓に背を向ける。 見てみれば、病院の庭には二人の墓以外にも、いくつかの墓がある。 その内の三つの並んだ墓は、まさに今埋めたのび太がドラえもんとともに作ったものであり……。 「テメーまでここに埋まってちゃ話にならないってんだよ……」 拳を強く握り、カズマは再び悔しさを露にする。 そして、そのイラついた顔で周囲を改めて見渡すと、瓦礫や倒木が散乱する奥の方で金髪の少女を見つけた。 それは、つい先ほど出会ったばかりのフェイトという少女であり、院内を捜索していたはずだった。 「あいつ、何しに外になんか……」 もう院内は調査し終わったのだろうか――埋葬を終え手持ち無沙汰になったカズマはとりあえず彼女の方に近づいて見ることにした。 そして―― 「よぉ、病院の中の捜索はもう終わっt――――って、おい。これはどういう……」 フェイトに声を掛けていた最中に彼は気づいてしまった。 彼女の傍に転がる二人の死体の存在に。 双方ともに知っている顔であった。 一人は、ドラえもん達と病院へ向かう途中で出会ったいけ好かない喋り方をする人形。――名前は水銀燈だったか。 そして、もう一人はロストグラウンドで幾度となく戦い、そしてこの地でも一度顔を合わせた宿敵の…… 「劉鳳だと……!? おい、なんでこいつがこんなところに……」 誰に言うでもなくカズマが呟くと、それを聞いていたフェイトは首を振って答えた。 「私がここに来た時にはもう二人は……。…………この人は劉鳳さんと言うのですか?」 「あぁ。こいつは俺たちの敵、ホーリーの劉鳳。……絶影の劉鳳さ……」 そう言うとカズマは膝をつき、倒れたまま何も言わない劉鳳の髪を掴み、持ち上げる。 「カ、カズマさん!? 何を……」 「おい、劉鳳。こんなところで寝てんじゃねーよ。まだ勝負の決着がついてねーだろ、あぁ? なのに何でこんなところで寝てるんだよ。なんとか言ってみろよ……なぁ!」 カズマは叫ぶが、劉鳳は目を閉じたまま何も答えない。 「お前が何も言わないんじゃ分からねーだろ? テメーがのび太やアルルゥを殺したのかどうかも、お前がどーして寝てたのかもよぉ……」 既にカズマにも分かっている。 劉鳳はもう死んでしまっているのだ。 森の中で倒れていたかなみのように。病院前で見つけた車椅子の少女のように。廊下で見つけたのび太のように。 そして、ダース部隊との戦いの後、共にかなみの下に帰った後の君島のように。 「ふざけんじゃ……ねーよ……」 宿敵である劉鳳の死に対しては、悲しみはこみ上げない。 変わりに湧き出てくるのはもう二度と戦えない、叩き潰せないことへの悔しさと苛立ち。 劉鳳の髪から手を離し、項垂れるカズマをフェイトは呆然と見ているしかできなかった。 ……だが、次の瞬間。 『Sir,病院に何者かが近づいてきています』 バルディッシュの声がフェイトの目を覚ました。 「……誰かが来てる?」 『はい。……それも、魔力反応を伴っています』 「魔力……」 その言葉に自分以外の未知の魔導師の存在の可能性を覚え、フェイトは緊張をする。 ――だが、カズマは違った。 「上等じゃねぇか。誰が来ようと俺は構わないぜ……。気に入らねぇ奴だったらボコる……ただそれだけなんだからよぉ」 先ほどまでの姿からは一転、立ち上がったカズマはそう言って目をギラつかせると拳を構える。 そう、のび太が死のうと、劉鳳が死のうと、彼の意志は決して変わらない。 相手が誰であれ、今の状況がどうであれ、今の彼の意志を曲げることは不可能なのだ。 『……距離60ヤード。……そろそろ目視できるはずです!』 「さぁ、誰だ? 誰なんだ? 一体誰が来るってんだぁ?」 緊張の面持ちのフェイトと興奮気味のカズマ。 その二人の前に姿を現したのは――。 ◆ 「……本当に2人いるのね?」 『間違いありません。2人とも近い位置にいるようで、一方からは魔力の反応もします』 病院に向かいながら、凛は念を押すようにレイジングハートに話していた。 トグサ曰く、自分達が病院を離れた後にそこに残っていたのはセラスとセイバー、そして劉鳳と水銀燈の4人。 ということは、少なくともその内2人は何かしらの理由があってその場からいなくなったということだ。 何らかの理由――それは戦闘の場を移動したのかもしれないし、生存者として反応しないだけかもしれない。 生存者として反応しない――それは即ち死亡してしまったということであり…… 「……ダメね。弱い考えなんか持っちゃ」 最悪の事態のイメージを頭から払拭すると、レイジングハートを握る手に力をこめる。 ……魔力反応を伴う生存者の反応。 劉鳳とセラスがどうなったかは別としても、それがあるのは確かな事実。 そして、それに該当する参加者として、真っ先に思いつくのは他ならないリインフォース形態の水銀燈のみ。 その彼女が自分とのパスを断ち、別の参加者といるのだとしたら、考えられる理由は一つ。 ――新たなカモを見つけたのだろう。 「パスを断ったかと思ったら……そういうことなのかしらね」 『まだ確定したわけではありませんが、注意することに越したことはありません』 「分かってるって。……さて、もうすぐそこね……」 白塗りの病院の姿が大きくなってゆく。 そして、その病院の横にある庭に二人の参加者はいるのだ。 相手が誰であれ、油断は出来ない。 凛は、静かにその場所へと向かう。 そして―――― ◇ Fate。 運命の名を冠し、決して運命に背を向けないと誓った少女が一人。 運命の名を嫌い、その壁を叩き潰そうと意気込む反逆者の少年が一人。 運命の名のもとに、いいように翻弄され続けた少女が一人。 三者三様の様相だが、主催に反旗を翻す意志は同じ。 今、その三人が顔を合わせる。 それは運命か、はたまた…………。 【D-3・病院横の庭/2日目/午前】 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA s】 [状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、魔力消費(中)、バリアジャケット装備 [装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)魔法少女リリカルなのはA s、双眼鏡 [道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA s、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night、闇の書@魔法少女リリカルなのはA s ローザミスティカ(水銀燈)@ローゼンメイデン [思考・状況] 基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。 1:接近してくる参加者を警戒。 2:病院にてゲイナー、トグサ等との合流を待つ。 3:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。 4:闇の書への対処法を考える。 5:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。 6:人形から入手した光球の正体について知りたい。 [備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。 首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。 【カズマ@スクライド】 [状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に [思考・状況] 基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ! 1:接近する参加者を警戒。 2:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす! 3:べ、別にドラえもんが気にかかっていないわけじゃねぇぞ! 4:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす! 5:レヴィにはいずれ借りを返す! [備考] :いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。 のび太のデイパックを回収しました。 【D-3・病院横の庭付近/2日目/午前】 【遠坂凛@Fate/stay night】 [状態] 魔力中消費、中程度の疲労、全身に中度の打撲 ※気絶中の休養でやや回復しました。 [装備] レイジングハート・エクセリオン(カートリッジ残り三発・修復中、破損の自動修復完了まで数時間必要)@魔法少女リリカルなのは バリアジャケットアーチャーフォーム(アーチャーの聖骸布+バリアジャケット) デバイス予備カートリッジ残り28発 [道具] 支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、ヤクルト一本 エルルゥのデイパック(支給品一式(食料なし)、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん 五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に 市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り2パック) [思考] 基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。 1:庭にいると思われる参加者を警戒。 2:1の参加者が水銀燈ならば、今度こそ倒す。 3:劉鳳、セラスと合流。トグサ&ドラえもんともいずれ。 4:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。 5:セイバーについては捜索を一時保留する。 6:自分の身が危険なら手加減しない。 [備考] ※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。 ※水銀燈の正体に気付きました。 [推測] ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測) 膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測) 首輪には盗聴器がある 首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している [全体備考] ※野比のび太と八神太一が埋葬されました。二人の墓には「風神うちわ@ドラえもん」が刺さっています。 ※水銀燈の人間形態は死亡後、自動的に解除された模様です。 ◆ 一方その頃。 「……ふぅ、ようやく終ったか」 ドラえもんの修理を終えたトグサは、手袋を外し、大きく伸びをしながら時計を見やった。 あの病院からの脱出から既に随分と時間が経過している。 「これで何の収穫も無しだったら、喜劇にもなりゃしないな、本当に……」 そう言いながら、トグサは自らの拳銃に弾を装填しておく。 大分遅れてしまったが、今からでも病院に向かえば凛のサポートは出来るはずだ。 それに劉鳳やセラスの様子も気になる。 トグサとしては少しでも早く、病院に戻りたいところであったが―――― 「う、う~ん…………」 そんな時に限って、予想外の出来事は起るものである。 「あ、あれ、ここは…………のび太君…………ん? あれれ?」 起き上がったそのまん丸ボディのロボットは周囲を見ながら、困惑の表情を浮かべる。 (……やれやれだな) 起きてしまった以上、放置することは出来ない。 彼はドラえもんの方へ向き直ると、面と向かって凛にしたのと同じような言葉を口にした。 「……調子はどうだい? ドラえもん」 ◇ そして。 ここでもまた、運命を左右する切り札になりうる男とロボットが再起動しようとしていた。 【D-2・豪邸/2日目・午前】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労。SOS団団員辞退は不許可 [装備]:S W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク [道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S W M19の弾丸(28発)、警察手帳(持参していた物) 技術手袋(使用回数:残り15回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み) 解体された首輪、フェイトのメモの写し [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:ドラえもんに事情を説明する。 2:1の後、病院へ直行。 3:ハルヒや魅音など、他の人間はどこにいったか探す。 4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。 5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。 6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。 7:エルルゥの捜索。 [備考] ※風、次元と探している参加者について情報交換済み。 【ドラえもん@ドラえもん】 [状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、強化魔術による防御力上昇 [装備]:虎竹刀@Fate/stay night [道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 [思考・状況] 基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。 1:状況を把握したい。 [備考] ※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。 ※凛とハルヒが戦ってしまったのは勘違いに基づく不幸な事故だと思っています。 偽凛については、判断を保留中。 時系列順で読む Back 請負人Ⅲ ~決意、新たに~ Next 最初の過ちをどうか 投下順で読む Back 請負人Ⅲ ~決意、新たに~ Next ひぐらしのなくころに(前編) 261 「ゲインとゲイナー」(後編) フェイト・T・ハラオウン 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(前編) 260 運命に反逆する―――――――!! カズマ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(前編) 264 正義の味方Ⅲ 遠坂凛 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(前編) 264 正義の味方Ⅲ トグサ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(前編) 264 正義の味方Ⅲ ドラえもん 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)
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「救いのヒーロー」(前編) ◆LXe12sNRSs 予防策、とでも言えば聞こえはいいかもしれない。 勝者は一人――それが、この殺人劇に課せられた絶対的なルール。 覆す方法があるとすれば、それはルールを取り決めた張本人を倒すしかない。 セイバーは考える。君島邦彦には、それが可能だったのだろうかと。 主催者を打倒し、複数人で帰還。望みが叶うかもしれないという欲を捨て、何よりも仲間同士の命を重んじた選択。 セイバーには、守りたいという存在がいない。だからこそ、主催者を倒すという意欲も湧いてこなかったのだろうか。 託された君島邦彦の遺品――これは、セイバーが持つには相応しくない。 もし、セイバーがどこかで朽ちるような運命にあったとしたら。 この荷物は、そして君島邦彦の意思は、こんなところで燻っていることを許されない。 だから、この時ばかりは君島邦彦の意思を継ぎ――彼の意思を託すに値する参加者を捜した。 それにはきっと、罪から逃れるための弔い代わり、という意味も含まれていたのだろう。 たとえセイバーが優勝できなかったとしても、勝利者達が栄光を逃さないために。 そして、病院内で出会ったのは眼鏡の少年。 この少年の顔には見覚えがある。たしか、ゲームの開幕時に主催者に食って掛かった少年だ。 彼はセイバーと顔を合わせると大層驚いた表情を見せ、おどおどした態度で足を止める――が、その瞳には何かをやろうという強い意思が感じられた。 この少年なら、問題ない。 セイバーは決断し、少年に声をかけた。 「何も言わず、これを受け取ってください」 差し出したデイパックは少年の胸の中に納まり、彼は戸惑いを見せる。 これで、君島邦彦への弔いは終わった。 ほぼ自己満足のようなものであったが、それでも構わない。あとは元通り、自身の目的のために優勝を目指すのみだ。 「……待って、ねぇ待ってお姉さん!」 立ち去ろうと背を向けたセイバーに、少年が声を掛けた。 だがセイバーに耳を貸す気はない。次に会えば、彼とて斬り伏せるべき敵となる。 馴れ合いなどもってのほか。この度の行動は、ただ志半ばで散っていった君島邦彦への償いにすぎない。 「友達が……仲間がピンチなんだ! お願い、助けてよぉ!!」 少年が泣きそうな声でそう言わなければ、きっと足を止めることもなかったのだろう。 ◇ ◇ ◇ ――刻は遡り―― 一階に位置する小さな病室。 その室内には、男が二人と女が三人いた。 順に名を挙げると、トグサ、石田ヤマト、涼宮ハルヒ、長門有希、アルルゥ。 入り口のドアに取り付けられた小窓からその光景を覗く彼女は、そんな詳細な情報までは知らないのだが。 (ふふふ……来客があったからみたいだから覗いてみれば、思ったより団体さんみたいねぇ) 重傷人を担いで病院に駆け込んだトグサたちは、院内の様子確認を後回しにし、真っ先にハルヒたちの治療に専念した。 そのため、この院内に複数名の先客がいることは知らない。 ギガゾンビに復讐心を燃やす少年がいることも、変わったコスチュームの魔術師がいることも、アルルゥの実の姉がいるということも。 もちろん部屋の外から、密かに優勝を狙う暗黒人形――水銀燈が見ているということも、知らない。 室内の様子を窺いながら、水銀燈は来客たちへの処遇を考える。 程度は分からないが、怪我人と思しき人間が三人……その内の一人は、先ほど拾ったジャンク紛いの女に似ていた。 それを心配そうな目で看病するのは、大人の男が一人と子供の男が一人。 人数は多いが、戦力的には大したことがないようだ。相手の武器にもよるが、隙を突けば水銀燈一人でも十分に壊滅させられる。 (カレイドルビーにこれ以上お荷物を背負われるのも考え物だしぃ……気づかれない内に、一人か二人減らしておくのも手ねぇ) もし彼等がカレイドルビーと合流を果たせば、怪我人込みの大集団が生まれてしまう。 自身の行動が制限されることを恐れる水銀燈は、これ以上の仲間が増えることを良しとしない。 ならば、絆が生まれる前に手を打つ必要がある。 数時間院内を駆け回って手に入れた毒物を利用するべきか。それとも物陰から奇襲を仕掛けるべきか。 偵察に出てから経過した時間を考えると、そろそろカレイドルビーが心配して様子を見に来る可能性がある。 水銀燈に策を練る時間はあまり残されていない。どれがベストの判断か……早急に決定しなければ。 「はぁー、すっきりした……」 カレイドルビーに嘘の情報を伝え、彼等との接触を遠ざけるという方法もアリだ。 五人もの大集団、ゲームに乗っている者はいないだろうとは思うが、水銀燈と同じタイプの策略家が潜んでいるとも限らない。 「まったくヤマトたちめ。散々わたしを無視した挙句、病院に着いたら薬を渡しただけでトイレに放置とは。どこまで薄情者なのだ」 騙し討ちの方法を考えるのは得意ではあったが、水銀燈は多種多様な状況を経験してきたわけではない。 このような場合、どういった選択がベストなのか……考えを纏めるには時間を要す。意識を集中させてもすぐには決断できないものだ。 「おい、そこの人形。悪代官みたいな薄気味悪い笑顔浮かべてるお前だ。お前もそう思わんか? まったく、あいつらときたらどこまでも自分たちのことばかり……」 ひょっとしたら、彼等五人以外にもまだメンバーが潜んでいるかもしれない。 水銀燈と擦れ違いになり、今は院内を探索中――しかもその間にカレイドルビーらと接触していたりしたら。 そのケースを考えると、下手に手を出すのは危険だろうか…… 「って、貴様までわたしを無視するなバカモノが!」 ――怒鳴られて、さすがに気づいた。 彼女の名誉のために説明させてもらうが、決して思案に夢中だったため注意力を欠いていたわけではない。 相手が人間ではなかったというのもあるかもしれないが、一番の理由は警戒する必要がない、というオーラが全身に纏わりついていたからだろうか。 とにかく水銀燈は、意図せずその存在と目を合わせることになる。 病室の向かいに位置するトイレから出てきた、ブタと。 「……」 「おいコラ。なんとか言ったらどうだ」 ブタだ。贔屓目なしで見てもブタだ。どう見てもブタだ。ブタ以外の何者でもない。 はっきり言って、自我を持った人形よりもあり得ない。ブタが二足歩行で、しかも偉ぶった態度で話しかけてくるなど。 水銀燈は考える……このブタも病室内にいる奴等の仲間、いや家畜だろうか。そもそも参加者なのか否か……夜に出会った青い蜘蛛のような例もあるが……。 「あなた、お名前は?」 「わたしを知らんのか? ふん、いいだろう教えてやる。わたしの名前はぶりぶりざえもん。人呼んで救いのヒーローだ」 「……ぷ」 思わず、笑みが零れてしまった。 画策した謀略が成功した光景をイメージするような、悪っぽい笑いではない。純粋に可笑しさからくる笑いだ。 だってブタが……ぷぷっ……おっと失礼。でも…………ぷぷぷっ。 「おいコラ貴様。今笑っただろう? このわたしを馬鹿にしただろう? おい!」 「……ぷっ……そ、そんなことは……ないわよぉ……ぷくくっ…………こぶたさぁん」 「ブヒィーッ!!」 水銀燈の小馬鹿にしたような笑みが気に障ったのか、ぶりぶりざえもんと名乗ったブタは顔から湯気を出して怒り出した。 どうやら典型的なお馬鹿さん――自己を高く見定め、その割には誇りがなく、挑発にも乗りやすい性格をしているようだ。 利用するには逸材と言えるタイプ。水銀燈は一瞬で閃き、翼を広げた。 「うふふ。こっちにいらっしゃい、こぶたさぁん。遊んであげるわぁ」 「人をブタブタと……わたしを愚弄するのもいいかげんにしろよ貴様!」 カンカンに怒ったぶりぶりざえもんは我を忘れ、そのまま水銀燈の飛び去った方へ走り出す。 ◇ ◇ ◇ (ふん、相手は所詮人形。いくらなんでも、このわたしが人形などに負けるはずなかろう。 どうやら奴はヤマトたちの様子を覗き見して何か企んでいたようだし、ここらであいつらに恩を売っておくのも悪くはない。 何より、あの人形はわたしを笑いやがった。……許さん。ギタギタのメタメタにしてやらねば) ――以上が、数分前までのぶりぶりざえもんの思考である。 何よりも自分を大切にし、強い者には絶対に逆らわない彼だが、自分よりも弱い者には容赦しない。 常識的に考えて、人形とブタ、どっちが戦闘能力的に優位と言えようか。 ふざけた比較だという意見は至極もっとも。だがこのゲームには喋る人形や喋るブタが参加しているのだから仕方がない。 真面目に考察して、意思を持たない人形が動物であるブタに敵うはずはないが…… 「ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶブヒィー!?」 ――彼、ぶりぶりざえもんが現在陥っている状況を簡単に説明しよう。 まず、さっきまで追い回していたはずの人形に逆に追われている。 立場が逆転した一番の理由は、人形を助けるため加勢に現れた可笑しな格好の女性。 その女性も水銀燈同様、ぶりぶりざえもんの姿を見てブタブタうるさかったので、 「貴様、鏡で自分の姿を見たことがあるのかこのヘンタイ」 と言ってやったら向こうが一言、 「殺ス」 と言って杖からビームみたいなのをぶっ放してきた。 力の差を見せ付けられたのである。相手を怒らせてしまった以上、今さら尾を振ってみても安全は保障されない。 だから冷静にこう判断した。 逃げなきゃ焼ブタにされる。いやん。 ◇ ◇ ◇ 短足のクセに妙に逃げ足が早いのは、天性のセンスなのだろうか。 逃げるブタを追いながら、遠坂凛ことカレイドルビー――もはや『カレイドルビーこと遠坂凛』とは言いがたい――は複雑な表情を作っていた。 帰りの遅い水銀燈を心配していたら、何故かブタに追われながら舞い戻ってきた。 事情を聞いてみると、どうやらあのブタはゲームに乗っているらしく、しかも複数名の参加者と同盟関係を結んでいるらしい。 こんなブタが殺し合いを……? そもそもブタと同盟結ぶってそれどんな人間よ……。 と疑問にも思ったが、相手が挑発――お察しの通り、コスチュームに関することである――してきたので、試しに程度の低い攻撃魔法を放ってみた。 そうしたら、わき目も振らずに逃げ出したというわけだ。 自分のレベルも考えずに殺し合いに乗ったただの馬鹿ならば、放っておいたところで問題はない。 しかし水銀燈の言うことを信じるならば、あのブタには同盟を結んだ仲間があと五人いる。 レイジングハートにも確認を取ってみたところ、確かにこの建物内にあと五人、参加者の反応があるそうだ。 ブタはともかく、その五人が実力者であるならばマズイ。仲間が出てくる前にどうにかブタを捕獲したいところだが…… 「ねぇちょっと水銀燈。そういえば、例の魔力反応は確認できたの?」 「ああ、あれ? 確認してみたけど、女の子の死体が転がってたわよぉ」 水銀燈から得た情報を加え、さらに考えてみる。 のび太の話では、数時間前この病院は虐殺劇の舞台となり、それなりの死者も出たらしい。 あのブタはその時の殺戮者と関係があるのだろうか……もしのび太の知り合いを殺した輩がまだ近辺にいるのだとしたら、なおさら放っては置けない。 『…………』 カレイドルビーはせかせかとした動きで逃げるブタを追い、その手中では物言わぬ杖が人形に対してさらなる疑心を抱き始めていた。 ◇ ◇ ◇ 一匹のブタを欠いた病院の一室。その中のベッドに寝かされた一人の少女が今、ゆっくりと覚醒の時を迎えようとしていた。 「…………」 憂鬱そうな顔を浮かべ、涼宮ハルヒは消失させていた意識を退屈とは縁遠い現世へと帰還させた。 まず視界に映ったのは、正面。確認できたのは二人の男性だった。 小学生くらいと思しき金髪の少年は、たしかSOS団の運転手として、特別団員に任命した人物のはずである。 初見のもう一人は、ルパンよりも若干若い大人の男性。外見を注視してみるが、ルパンやアルルゥの知り合いとは無関係そうだ。 次に、右隣のベッドを見る。そこでは、ハルヒ自身がデザインしたメイド服を着たままの犬耳少女……アルルゥがすやすや眠っていた。 そして左隣を向く。確認できたのは、逸早く覚醒を済ませハルヒの回復を待っていた、SOS団正規団員、長門有希の姿だった。 「……おはよう有希」 「おはよう」 目覚めたハルヒは、溜息を吐くでも動揺するでもなく、惚けた声で傍らの長門にそう囁いた。 「どうやら、峠は無事に越えたみたいだな」 「……頭がガンガンするわ。脳がグラグラ揺れてるっていうか……なんだか気持ち悪い」 「意識は回復した。でも、無理は禁物」 風にかけられた治癒魔法がうまく機能してくれたようだ。 全快とまではいかなくても、意識があるのとないのとでは大きく違う。 トグサにヤマト、そして長門も、皆ハルヒの目覚めに安堵の笑みを見せていた。 「……ねぇ、有希」 「?」 「……みくるちゃんの名前、呼ばれた?」 目覚めた直後、ハルヒが一番に訪ねたのは、それだった。 夢の中で起こった一件を信用するわけではない。あのカラシニコフの精とかいうのも胡散臭かった。 しかし、本能は告げ、理解していたのだ。あの夢が予知夢とか正夢とか、そういう類のものであることを。 「……呼ばれた」 「そう」 重苦しいムードが漂うも、ハルヒは決して俯こうとはしなかった。 色々と機転の利く彼女である。この場にルパンがいない理由も、心の底では気づいているのだろう。 「……さて、一番の重傷人も目覚めてくれたようだし、ヤマト、長門。この場を預けていいか?」 「別に構いませんけど、トグサさんはどこへ?」 「電話だ。そろそろ、ホテルで待機しているはずのセラスに連絡してやらないといけないからな」 立ち上がり、トグサは入り口のドアに迫った。 第二放送時点において、屋上から落下し死亡したかと思われたセラスの生存が確認できた。 本当はすぐにでも帰還したかったところだが、怪我人をヤマト一人に任せ放っていくこともできまい。 病院に着いてからも、内部に関してはまだ調査が済んでいなかった。 ひょっとしたら何か有益な情報が転がっているかもしれないし、何者かが潜んでいないとも限らない。 ヤマト一人に任せて内部探索に向かうのは気が引けたが、長門とハルヒが目覚めれば大丈夫だろう。 そう判断し、トグサが退室しようとした正にその時。 「――おい貴様ら! 和やかに談笑しとらんで早くわたしを助けんか!!」 姿を消していたぶりぶりざえもんが、何やら汗だくになって戻ってきた。 見ると、病院中をフルマラソンでもしてきたかのように息を切らし、身体と釣り合わないデカさの頭部を上下させている。 いったい何があったのかとトグサが尋ねようとするが、 「――! 危ないっ!」 「ぶひー!?」 ――前の廊下を黒羽の散弾が通り過ぎ、咄嗟にぶりぶりざえもんを室内に引っ込めた。 言及を後回しにし、まずは部屋の外の様子を確認する。 ひょっこりと出した顔から覗けたのは、堕天使のような漆黒の翼を広げた人形サイズの少女。 そしてその隣で杖を構えているのは、アニメキャラクターか何かのコスチュームを着込んだ少女。 一見して、あり得ない組み合わせにも見えた。 訝しげに観察の視線を送るトグサだったが、冷静な考察を練る時間は与えられず、黒翼の人形が容赦なく羽の雨を送り込んでくる。 羽、といってもその鋭さは投擲ナイフに迫るものがあり、命中すれば皮膚が裂けることは間違いないだろう。 「おい、ぶりぶりざえもん! あいつらいったい何者なんだ!?」 「知らん! トイレから出てきたらいきなり襲われたのだ!」 ヤマトに問い詰められ、被害者ぶった弁解をするぶりぶりざえもんだったが、もちろん大嘘である。 騒動の種を撒いたのは他でもないぶりぶりざえもんであり、彼を追っていた二人組――少なくとも、カレイドルビーの方に交戦の意思はない。 しかし、その意思も自己中心主義のブタと画策する人形の二人に妨害されている現状。トグサたちに伝わる術はなかった。 ◇ ◇ ◇ 「――ちょっと水銀燈! なんでいきなり攻撃を仕掛けるのよ!?」 「あまいわねぇ。相手はゲームに乗っている可能性があるのよ、それも五人。 先手をうってこちらの力を見せ付ければ、不利と感じて逃げ出してくれるかもしれないじゃなぁい」 トグサたちの姿を確認する暇もなく、水銀燈は五人+一匹が潜んでいる病室の前を攻撃した。 カレイドルビーは軽率な行動と見るかもしれないが、彼女もある程度は現実主義者である。 徹底したリアリストを貫けば、今の関係が崩れることはない……あとは、向こうがどう出るか。 「攻撃を続けるわよ」 水銀燈は、相手側が反撃してこれないよう、黒羽による弾幕を張る。 部屋から一歩でも出れば蜂の巣となる状況。逆上して反撃してくれば、カレイドルビーと共にそれを撃退するまで。 戦況を不利と見て窓から脱出を図ろうものなら、カレイドルビーの敵がさらに世に広まるだけだ。 どちらに転んでもおいしい。最悪は集団の中に水銀燈、カレイドルビーの二人がかりでも敵わないような手練れが混じっていることだが、それはまずないだろう。 群れとは、基本的に弱者同士が形成する組織だ。サバンナの草食動物しかり、戦う意思のないもの同士で馴れ合う真紅たちしかり。 自分が発案した計画の素晴らしさにほくそ笑んで見せるが、集団の方に注意がいっているカレイドルビーは、その表情を見ることがない。 ◇ ◇ ◇ 人形の企みなど露知らず、トグサたちはカレイドルビーと水銀燈の二人をゲームに乗った参加者として捉え始めていた。 何しろ、会話や警告もなしにいきなり襲ってきたのだ。ぶりぶりざえもんの証言と合わせても、他に捉えようがない。 おそらく、初めから病院内に潜伏し、機会を窺っていたに違いない。ハルヒと長門が目覚める前に襲撃をかけられなかったのは、幸いだったと言えようか。 「どうしますかトグサさん? 武器はそこそこあるし、相手が二人ならなんとか……」 「応戦はなしだ。幸運にも脱出経路と逃げる足は揃ってるしな。長門、ハルヒの方は動かせそうか?」 「問題ない。激しい運動は困難。だけど私が運べば」 「そうか。なら長門はハルヒを頼む。ヤマトはぶりぶりざえもん、俺はアルルゥを担いで窓から脱出。外に出たら一目散にトラックへ向かうぞ」 脱出作戦の旨を伝え、トグサは長門の荷物から拝借した銃を構える。 銃口の向かう先は、黒羽がマシンガンに迫る勢いで降り注いでいる室外。 反撃し、その隙に逃走するのかと思われたが、トグサの狙いは他にあった。 銃弾が放たれる。黒羽の嵐をくぐり抜け、屈折のない直線的な軌道で向かった先は――廊下の隅に置かれた、赤い器具。 カン、という軽い音がした後、芯を打ち抜かれたそれは弾け、内部に溜まっていたものを盛大に吐き出した。 即ち――白煙。 「――! 非常用の消火器を撃ち抜いて煙幕を!?」 「考えたわねぇ」 トグサの銃が撃ち抜いたのは、廊下に設置されていた非常用の消火器。 舞い散った白煙を目くらましに使い、その隙に窓から脱出する作戦だった。 病室の窓を開き、トグサたち全員が外に出る。 トグサは未だ熟睡中のアルルゥを、長門は繊細かつ慎重な動作でハルヒを、ヤマトは乱暴にぶりぶりざえもんのパンツを掴み、それぞれを確認し合う。 「よし、全員外に出たな! 急ぐぞ!」 「おいコラ、ヤマト! パンツを掴むな、おケツが見えてしまうではないか!」 パンツが半脱げ状態になっているぶりぶりざえもんの文句は雑音として処理し、トグサたちはトラックを目指した。 トラックが停めてあるのは病院の正面玄関。ここからでは病院をぐるりと半周する必要があり、つまらないことに時間を割いている暇はなかった。 善は急げと走り出す各々だったが、その歩みはすぐに止められざるをえなくなる。 病室から数メートルばかり距離を稼いだあたり。 気品溢れる物腰と荘厳な面持ちで、その女性はトグサたちの行く手を遮った。 誰もが足を止め、その姿を確認する。 視覚が捉えたイメージを簡潔に述べるなら――『騎士』。 西洋風の鎧を身に纏い、両刃剣を右手に携えたその姿は、正しく女騎士と呼ぶに相応しい品格だった。 「あなた方に恨みはありませんが……我が悲願のため、ここで潰えてもらいます」 突如として現れたその女騎士は、逃走経路を塞ぐ障害であり敵。 トグサたちは全員その窮地を理解し、心中で舌打ちをした。 ◇ ◇ ◇ 何も慈善事業をしにきたわけではない。 あの眼鏡の少年にそこまでの義理はないし、恩を売る価値もなかった。 だからセイバーは彼の、のび太の願いを単なる情報と捉え、戦地に赴いたのだ。 カレイドルビーなるおかしな格好の女性が、人形と一緒に敵の下へ向かっていった。 二人をどうか助けてやって欲しい。それが、のび太がセイバーに託した願い。 情報どおり、目の前には逃走途中の参加者が五人と一匹。しかもその内一人は怪我人、一人は気絶中。 セイバーはこれを好機と捉え、彼等とめぐり合わせてくれたのび太に感謝した。 優勝し、王の選定をやり直す――この殺戮は、その野望への大きな躍進に繋がるだろう。 迷いや戸惑いは、もうない。 情けや良心は、君島邦彦の意思と共にのび太へ託した。 あとはただ、目の前の敵を斬り伏せるのみ―― ◇ ◇ ◇ 突如として立ち塞がった女騎士に、トグサたちは戸惑いを見せた。 相手が一言の警告と、牽制となる初撃の一閃を放たなければ、次の二撃目で長門の身体は真っ二つになっていたことだろう。 大集団の中、セイバーが一人目の標的として捉えたのは、ハルヒを背負った長門有希。 ハルヒの容態が未だ予断を許さない現状、刺激を与えぬよう長門は人間離れした精密かつ慎重な動作で回避行動を取るが、その配慮が足枷となり本来の機動力が発揮できない。 (――攻撃力、機動力、技術力、共に高水準。現状での交戦は不利。 ――加えて、涼宮ハルヒの意識が健在なままでは私自身の力が発揮できない。 ――彼女に私の正体を知られるわけにはいかない。別の対応策を考えるべき。 ――彼女に一時的に眠ってもらう策を考案。 ――だが涼宮ハルヒの容態は回復したばかり。下手に手を加えるのは危険と判断。 ――ならば、あの幻覚作用を引き起こす精神誘導装置を使い、相手の足止めを考案。 ――そのためには涼宮ハルヒをどこかに降ろし、そして尚且つデイパックからタヌ機を取り出し、起動させるまでの時間が必要。 ――必要時間の計算を……) 「長門、避けろォ――!」 (――!) 思考を続ける中、棒立ち状態にあった長門の正面を、袈裟斬りの一閃が飛ぶ。 トグサの警告を耳にし咄嗟の回避を取るが、無理な体勢での動きはハルヒの身体を揺さぶった。 (――緊急回避に成功。だが、涼宮ハルヒに若干の負荷が掛かった。 ――思考速度に誤差が見られる。 ――どうやら先の戦闘の影響により、情報処理能力に狂いが生じた模様。 ――これ以上の戦闘は危険と判断。早急に撤退すべき) 長門とて、アーカードとの戦闘で相当な力を消費した。 ハルヒほどではないとはいえ、情報統合思念体とのコンタクトが取れない現状では、ちょっとした消耗でも窮地に繋がる。 つまり、まだ本調子ではないのだ。 (――この場は涼宮ハルヒの命を最優先。 ――最悪、誰かを囮にしてでも彼女の命を守りとお……) 「……ッ!」 一瞬、脳内に走った不穏なノイズを振り払い、長門は逃走に全力を注いだ。 この場の保護対象はトグサ、石田ヤマト、アルルゥ、ぶりぶりざえもんの四名。涼宮ハルヒはその中の最優先すべき存在にすぎない。 一を守るために全をかなぐり捨てるのは、このゲームに肯定したことと同義。 長門はノイズが鬩ぎ合う脳内状況を的確に処理しつつ、最善策を模索する。 その一瞬に、隙が生じた。 「はあぁぁっ!」 咆哮一声、セイバーの剣が長門を襲撃する。 今度の一撃は、セイバーにとっても渾身の一撃。回避に徹していた長門だったが、それでも避けきることは困難だと判断した。 最悪、片腕あたりを犠牲にしてでもハルヒの命を守る覚悟で臨んだ。現状の長門では、セイバーほどの相手に満足に対応することはできない。 カリバーンの剣筋が長門の身体を裂こうとしたその時だった。 不意の衝撃が長門の右半身に伝わり、ハルヒごと左方向へ大きく揺さぶられる。 結果としてその衝撃が幸を呼び、長門はセイバーの剣から完璧な回避を取ることに成功した。 直後に分析する。長門の身体に衝撃を与えたのは、ヤマトの体当たりによるもの。 そして、彼は長門の身体を突き飛ばし剣から遠ざけた代わりに、自身を身代わりにしたのだということを理解した。 「……グッ!」 「ヤマト!」 剣はヤマトの肩口を斬り裂き、鮮血を溢れさせるほどの傷を与えていた。 「自ら割って入るとは……その勇敢な行いには敬意を表しますが、些か無謀ではありませんか?」 「そんなことはないさ。それどころか、たった今アンタを倒すいい作戦を思いついたばかりだ」 足を止め、セイバーはヤマトへ剣先を翳す。 ヤマトは肩口を押さえ、苦悶の表情を作りながらも、正面からセイバーを見据えて立ち向かった。 「トグサさん! ここは俺とぶりぶりざえもんが引き受けます! みんなは先にトラックへ向かってください!」 「馬鹿を言うな! 死にに行くようなものだぞ!?」 ヤマトの急な提案に、トグサはすぐさま異議を唱える。 「俺だって、ガブモンたちと一緒に修羅場は何度も潜ってきたんだ! これしきのことで……死んだりなんかするかよ!!」 だがヤマトはそれをゴリ押しで通し、セイバーの前から一歩も退こうとはしなかった。 トグサにもその強い意志は伝わったのか、自分の不甲斐なさを奥歯で噛み締め、その場はヤマトに託すことにした。 もちろん、このまま彼を放置するつもりはない。彼が時間を稼いでくれることを信じ、自分はすぐさまトラックでヤマトを迎えにくればいい。そう割り切ったのだ。 「ヤマト、あまり無茶はするなよ!」 「はいっ!」 ヤマトと半ば強制的に付き合うことになったぶりぶりざえもんを残し、他の面々は一目散にトラックへと駆け出していった。 ◇ ◇ ◇ 改めて、ヤマトとセイバーが対峙する。セイバーもヤマトの強い意志を察したのか、無理にトグサたちを追おうとはせず、この勇敢な少年と一対一の対決に臨むつもりだった。 「おい! なんで貴様の作戦とやらにこのわたしが付き合わされなければならんのだ! イヤだ、わたしは逃げるぞ離せコラ!」 「騒ぐな! 救いのヒーローなんだろお前!」 「バカモノ! 今は無期限特別休暇中だ!」 ヤマトの手に掴まれながらジタバタともがくぶりぶりざえもんだったが、時既に遅し。 セイバーは臨戦態勢を整え、いつでも仕掛けられる状態で待機していた。 今、無様に後姿を見せようものなら、即刻斬り捨てられることは間違いなし。 その剣気を肌で感じたぶりぶりざえもんは、観念したのかぐぐぐ……と唸るだけで文句は垂れなくなった。 「ぶりぶりざえもん……お前の支給品、使わせてもらうぞ!」 ぶりぶりざえもんを掴んでいた手を開き、ポケットにしまってあった小瓶を取り出す。 中身は少量の液体。ヤマトはそれを自身の頭部に振り掛けると、髪の毛を抜いて何本か息で吹き飛ばす。 すると摩訶不思議なことに、地上に散布した一本一本の毛が、それぞれヤマトとまったく同じ容姿を持つ個体を形成していった。 その数オリジナルを合わせ計16体。16人の石田ヤマトが、セイバーを取り囲むかのように出現したのだ。 ひみつ道具名『クローンリキッドごくう』。もしもの時のためにぶりぶりざえもんの荷物から拝借しておいた、ヤマトの切り札である。 「分身とは……なかなか面白い真似をしてくれますね」 「コラ! それはわたしが持っていた道具ではないか! 返せ! 今すぐ!」 「「「「「「「「「「「「「「「「どうせお前じゃ使えないだろ! それより来るぞ!」」」」」」」」」」」」」」」」 セイバーは数攻めにも大した畏怖は示さず、正面から剣を振るっていく。 その動きは神速と言っても決して過言でなく、あっという間にヤマトの分身が一体、一薙ぎで切り伏せられた。 しかし、その程度では怯まない。 もとより、ヤマトは時間稼ぎの目的でこの場に留まったのだ。セイバーを倒す術は考えていない。 この圧倒的な数の分身を利用し、オリジナル本体はトラックへと向かう。シンプルかつ効果的な作戦だった。 誤算があったとすれば、ヤマトのセイバーに対する見解だろうか。 ガブモンらと共にデジタルワールドを駆け抜けてきた経験は、確かにこの戦闘においても生きている。 驚異的な力を持つデジモンとは何度も対峙してきたし、それを何度も打ち破ってきた実績もある。 だが、逆を言えば『デジモンでもない人間が猛威を振るう様』というのは、初めて見る光景でもあった。 「――!」 驚愕の声も出せないまま、一人、二人、三人と、ヤマトの分身が次々と薙ぎ払われていく。 セイバーの迷いのない高速の太刀筋はヤマトの常識を軽く凌駕し、実力の差をはっきりと見せ付けていた。 加えて、クローンリキッドごくうにより生成した分身の耐久度は決して過信できるものではなく、逆に、もしオリジナルがあんな風に斬られたら……と不安を駆り立てさえまでした。 自分と同じ姿をした分身が次々に斬られ、死んでいく。予想以上の光景を目の当たりにし焦りが生じたのか、ヤマトは逃走の足を速めた。 その焦りを、セイバーは見逃さなかった。群集の中で、一人不自然に戦地を離れようとする姿がある。 「あれが……本体!」 セイバーは確信し、跳躍。分身たちを乗り越え、一目散にオリジナルのヤマトを狙った。 「クソッ、バレた!」 正体のバレたヤマトは、形振り構わず全力で走った。 追走してくるセイバーは残った分身たちで足止めさせるが、そのどれもが紙くずのように斬り払われる。 だが、距離は十分に稼げた。このまま走り抜けば、セイバーが追いつくよりも先にトグサたちの乗るトラックと合流できる。 そう信じてやまなかったヤマトだったが、ここにきて、あの不安要素がまたしてもやらかしてくれた。 「ふぎゃん!」 妙な声がしたと思い一瞬だけ振り向いてみると――ヤマトの後ろを追走してきたはずのぶりぶりざえもんが、石に躓いて転んでいた。 (あの馬鹿……ッ!) 舌打ちするよりも早く、ヤマトは踵を返して元来た道を引き返していた。 ぶりぶりざえもんとの距離は七歩ほど。ぶりぶりざえもんとセイバーとの距離は十六歩ほど。 余裕はある。ただし、それはヤマトとセイバーの脚力を同等と捉えた場合の計算だ。 セイバーよりも早くぶりぶりざえもんを拾い、再び方向転換。そこから徐々に加速していき、トップスピードに乗るまでに縮まる距離は――ほぼ絶望的だった。 それでも、ヤマトは止まらない。頭では警告が鳴り響くも、本能は停止命令を下さない。 見捨てることが、できなかったのだ。あんなブタでも。 現実は時に残酷で、少年の予想の遥か上をいく。 ぶりぶりざえもんの下へ到着し、ヤマトはそれを拾い上げた。 続けて方向転換、すぐさま逃走を再開しようとするが、ヤマトは見てしまった。 ヤマトを遥かに凌ぐスピードを発揮し、あと数歩で剣が届きそうな間合いまでセイバーが接近してきている――そんな酷い現実を。 このままでは、振り返って背中を見せた瞬間に斬られる。 その瞬間、たったの零コンマ一秒が、永遠のように長く感じられた。 死ぬ。脳が知らせた自身の未来は、覆しようのない確定事項であると認めざるを得ない。 もう、諦めてしまおうか。ヤマトの本能の片隅で、そんな囁きが聞こえてきた。 だが、心は。 ガブモンとの戦いの記憶や、タケルとの兄弟の絆が刻まれたヤマトの心は。 それを、拒否―― 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」 叫ぶと同時に、肩に下げていたデイパックを振り翳す。 開かれた口から数多の荷物が飛び出し、セイバーを襲う。 (無駄な足掻きを……!) 思い、セイバーは降り注がれる食料やペットボトルの弾幕を斬って払う。 直進する意思に陰りは見えず、あと少しでヤマトとぶりぶりざえもんまで剣が届こうとした。 寸前だった。 「なっ……」 間抜けな声が漏れ、目を疑い、反射的に足を止める。 急ブレーキをかけたセイバーの眼前に突っ込んできたのは、ヤマトのデイパックに収まっていたあるアイテム。 それは、盾だった。盾と言っても、戦士が防御に用いることで知られる一般的なものではない。 例えるならば、巨人が使うような……人間にとっては、盾というよりも壁と表した方が的確なサイズだった。 武装名『ブレイブシールド』。デジモンの中でもずば抜けた戦闘力を誇る究極体――ウォーグレイモン専用の巨大盾である。 その盾が、障壁となって立ち塞がった。それも勢いを増した状態で。 衝突すればダメージを受けることは必至。セイバーは即座にカリバーンを構え直し、ブレイブシールド正面に捉えた。 「ハァッ!」 一閃。 一太刀で斬り伏せるつもりで放った一撃だったが、堅牢なブレイブシールドは僅かな傷を作っただけに留まり、勢いを相殺されその場に落ちた。 ズシン、と重量感を漂わせる音が響き、一時の静寂を作る。 その間にセイバーは息を繋ぎ、盾の陰に隠れた標的たちを確認しようとする。 が、既に影はなし――そしてその直後に、トラックのエンジン音がすぐ身近まで迫っていたことに気づいた。 ◇ ◇ ◇ 時系列順で読む Back どうしようか Next 「救いのヒーロー」(後編) 投下順で読む Back THE TOWER~ 塔 Next 「救いのヒーロー」(後編) 180 Wind ~a breath of cure~ トグサ 187 「救いのヒーロー」(後編) 180 Wind ~a breath of cure~ 石田ヤマト 187 「救いのヒーロー」(後編) 180 Wind ~a breath of cure~ 涼宮ハルヒ 187 「救いのヒーロー」(後編) 180 Wind ~a breath of cure~ 長門有希 187 「救いのヒーロー」(後編) 180 Wind ~a breath of cure~ アルルゥ 187 「救いのヒーロー」(後編) 175 いざない 遠坂凛 187 「救いのヒーロー」(後編) 175 いざない 水銀燈 187 「救いのヒーロー」(後編) 175 いざない 野比のび太 187 「救いのヒーロー」(後編) 175 いざない エルルゥ 187 「救いのヒーロー」(後編) 177 勝利者の為に セイバー 187 「救いのヒーロー」(後編) 180 Wind ~a breath of cure~ ぶりぶりざえもん 187 「救いのヒーロー」(後編)
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銃撃女ラジカルレヴィさん(前編) ◆2kGkudiwr6 「…………」 言葉も無く、それぞれの武器を構えながら二人が待ち構え、一人が歩く。 例えるならガンマンの早撃ちだ。 曲がり角から姿を現すと同時に二人の魔法少女は己が武器を相手へと突きつけ―― 「レイジングハート!」 『フェイト!』 ――相手の姿と響いた声に、動きを止めた。 「あれ、いつの間に病院に帰ってきたの?」 「てめぇこそ、今までどこふらついてたんだ?」 「カズマさん、この人を知ってるんですか?」 「ほとんど知らねえよ。三十分も一緒にいなかった」 『私から説明します。凛とフェイト、両方を詳しく知っているのは私だけのようですから』 状況を把握したのか、要点をかい摘まんだ内容をレイジングハートが話し始めた。 金髪の少女はフェイトといい、高町なのはの親友であること。 レイジングハートは凛に支給され、今は彼女をマスターと定めていること。 要するに、相手に対して警戒する必要は無い、そういう内容だ。 「そ。なら安心ね」 「はい。よろしくお願いしますね、凛さん」 そして、凛とフェイトはあっさりと信じ込んだ。 基本的に凛はレイジングハートを信用しているし、本人は自覚していないがかなりのお人よしでもある。 それはフェイトも同じ。レイジングハートが信用しているなら悪い人ではないという論理は、彼女の中では自然なものだ。 ……だが、カズマはそうもいかなかった。 「どうしたんですか?」 「あいにく、俺はあいつと深く知り合ったわけじゃねえ、一言二言話したくらいだ。 はっきり言ってほとんど他人……むしろ初対面であいつを信頼してるお前の方がおかしいんじゃねえか?」 「おかしくないんです。嫌な人にレイジングハートがあんなボロボロになるまで手を貸すはずがありません」 カズマはまあいいけどよ、などと呟いて構えを解く。それだけ。 無差別に破壊行為を繰り返す犯罪者だなどと情報操作された経験のあるカズマにとって、 自分の見たものこそが絶対の信頼の置けるもの。 あらゆる判断は自分で付ける。それがカズマのやり方である。 もっとも、フェイトの態度はなのはの友人という理由であっさり信用するカズマと同じなのだが、 本人は認めたがらないに違いない。 「それより、水銀燈を見なかった?」 「水銀燈……誰ですか?」 「あ、えっと……どっちの姿を説明すればいいのかな……」 「……よくわかんねェが、ここにぶっ倒れてる人形のことか?」 カズマが指差した先を、凛はしっかりと見た。 表情は変わらなかった。それでも、その瞳は明らかに揺らいでいた。 そこには、まるでよく知る少年のように、正義の味方を目指した男と。 自分をさんざん利用した人形の亡骸がそこにはある。 「…………」 喉から出かかった言葉を、凛は慌てて飲み込んだ。 劉鳳に対して謝ってもいいだろう。礼を言ってもおかしくはない。 水銀燈を罵ってもいいし、八つ当たりでその遺骸を砕いてもいい。 実際、凛はそうしても不自然ではないし、罰は当たらない立場だろう。 だが。 「……馬鹿よ、あんた達は」 ぽつり、と。 どこか悲しげな顔で呟いたのを最後に、凛はすっぱりと頭を切り替えた。 感傷はあるし、悲しみもある。けれど、今は、立ち止まっているときではないのだから。 だから、歯を噛み締めて無理やり感情を押し殺して、話を進める。 「それより、この人形に襲われたり、変なコト吹き込まれたりとかしなかった?」 「いや、俺達が来た時はもう決着付いてた」 「それより、吹き込まれるってどういう意味ですか?」 「ああ、えっとね……」 ざっと要点をかいつまんで凛は説明する。 水銀燈がこっそり自分の名を騙って参加者を襲っていたこと。 わざと火種を作るように振舞っていたこと、などなど、などなど。 人によっては逆に疑いを持たれかねない話だったが…… 「そうですか……大変でしたね」 あっさりと、フェイトは信じた。 そもそもレイジングハートが気を許しているという時点で、フェイトが凛を疑う余地は無い。 ……だが、それはフェイトだけの話。 「……それが本当だって言う証拠はあんのかよ?」 そう言葉を返したのはカズマだ。 平時ならば別に構いもしなかっただろう。一度会って何事もなく別れたこともある。 その言葉が真実かどうかは、この後の行動で調べればいいと判断しただろう。 だが、あいにく彼は気が立っている。何より、これ以上仲間を死なせるわけにはいかないと決意していた。なのはやかなみのように。 だからこそ、過敏になる。フェイトを死なせないために。 そんなカズマの内面を知る由もないフェイト当人は、語気を荒くして止めに入っていたが。 「やめてください。レイジングハートが信用している人です。悪い人のはずがありません」 「ただの機械じゃねえか」 「ッ! けど、なのはの大切なデバイスなんです!」 「そ、それはそうかもしれねえが……」 フェイトの言葉にカズマは言葉を詰まらせた。 なのはの名前を出されるとカズマは弱い。レヴィがこの事実を知ったらからかう手段として利用するだろう。 とはいえ、カズマが疑いの態度を露にしたというのは事実なわけで。 声のトーンをいくらか落ち込ませながらも、凛は次の言葉を紡いだ。 「一応……証明する手段が無い、ワケじゃないんだけど……」 その言葉に、カズマとフェイトの視線が凛に集まる。 「この周辺に、何か本が落ちていたでしょう?」 「リインフォース……のことですか?」 「そ。水銀燈が隠し持って使ってたから、証人としてはこれ以上無く信頼性があると思う」 一言一句聞いてたってことでしょうから」 「そのリインフォースとやらと組んでる、ってこともありうるんじゃねえのか?」 「カズマさん!」 やっぱりダメか、とうつむく凛に、カズマは言葉を続けていく。 「……だが、お前らがそこまで言うならその本の言葉を聞いてやらねえこともねえ」 「あ……そ、そう? ふ、ふん! 別に感謝なんかしないんだから!」 「…………」 なぜか微妙に似ている反応をする二人に、フェイトは思わず溜め息を吐きながらデイパックに手を突っ込んだ。 二人の対応の気苦労と、リインフォースの危険性への不安から。 「……ただ、大丈夫なんですか?」 「少なくとも、水銀燈は自由に使いこなしていたわね」 『恐らく、何らかのプロテクトか改竄が行われているものと推測できます』 ……なら、なぜ先ほどまでは応答しなかったのか? 疑問は警戒を生む。緊張した手つきで、フェイトは手をデイパックに突っ込んだ。 「一応、念のため……カズマさん、私がおかしな動きをしたらすぐに……」 『別にそこまで堕ちたつもりはない』 「……わ」 リインフォースが言葉を出したのは、フェイトが取り出したのとほぼ同時。 だが、凛とカズマは反応していない。その言葉は、フェイトにしか聞こえていないからだ。 『すまない。強引にラグナロクを撃った所為で消耗していたため、先ほどは応答できなかった。 事情は把握している。私の言葉を二人に伝えてくれるか』 ■ 一方、トグサ達のいる豪邸は、ちょっとした騒動の舞台となっていた。 犯人は、怒り狂うドラえもん。 「やろう、ぶっ殺してやる!」 「お、落ち着け!」 顔を真っ赤にして、ドラえもんが手近にあった木箱を投げ飛ばす。 投擲された木箱はとんでもない速さで吹き飛んだが、幸いトグサを狙ったものではない。 ただの八つ当たりである以上、トグサが狙われる理由はあるはずもない。 ……ないが、だからといって今のドラえもんに近づく度胸もトグサにはなかった。 ドラえもんは文字通りに暴れまわっている。この手の類の人間を取り押さえるのが難しいのは身を以って経験済み。 確かに、大切な人間が殺されたという事を知った時の反応としては自然だ。自然だが。 (いくらなんでも、こんなに口と素行が悪いとは思わなかったぞ……) トグサの額を冷や汗が伝う。いくら自然でも、トグサにとって迷惑なのは変わりない。 今までのやりとりから、ドラえもんはのび太少年の保護者的な立場だと彼は予想していた。 それは正解だ。だが、違ったのはその後に続く予想。 保護者である以上少しは落ち着いて話を聞いてくれるか、という楽天的なトグサの予想……というより寧ろ期待は一瞬で吹き飛んでいた。 自分が守る相手であり同時に親友であるのび太さえも死んでしまった以上当然の反応だが、 この場合問題なのはそれではない。問題は、ドラえもんは重量129.3kg、129.3馬力のパワーを誇るロボットであること。 そんなものが暴れるのを取り押さえるのは、トグサと言えどかなりの苦労を要する。 暴れるままにしておくというのは当然却下。どんなトラブルに巻き込まれるか分かったものではない。 「ああもう、落ち着けって! それより、ドラえもん……出身はどこだ?」 「……え?」 「出身だよ、出身」 トグサの質問はありきたりだ。それでも、その質問の意味や答えを思案するために、ドラえもんの動きがふと止まる。 はっきり言って、トグサの質問に深い意味は無い。内容はほとんど思いつきだ。 むしろ、質問したこと自体に意味がある。 事務的な質問をすることで冷静な思考を行わせ、相手を落ち着かせる……警察官として基本的なテクニックだ。 「え、えっと……トーキョーマツシバロボット工場です」 「よし、次は君が来た年代を教えてくれ」 答えることに意識を移し始めたドラえもんを見て、トグサは溜め息を吐きながらも素早く次の質問を出した。 ドラえもんに考える暇を与えず、質問だけに集中させるために。 ■ 「……まあつるむのは好きじゃねえが、お前と一緒に組んでもいい」 フェイトを通じての説明の後。カズマが呟くように言った言葉に、フェイトと凛は安心したように溜め息を吐いた。 その言葉は要するに敵対はしないということ。ひとまずコレで一安心というわけである。 そのまま、フェイトはリインフォースをしまいこもうとして。 『フェイト・テスタロッサ。 私を彼女に預けてくれないか?』 「え?」 落ち着いた声に、止められた。 『彼女の誤解を生み出したのは私の責任でもある。 破損したデバイス一つだけでは全力を出せないだろう。私も消耗しているとはいえ、できれば手を貸したい。 それに、彼女の声を聞いていると、どこか主はやてを思い出すし……』 「大丈夫……なんですよね?」 『ああ。どうやらこの場における呪縛が上手く働いているようだ。 融合事故は起こらないし、封じられた闇が暴れ出すこともない。 ……もっとも、このフィールドから出た後もそうか、といえば否だろうが』 「そう……ですか。なら、その後のことは」 『分かっている。お前と凛に任せた』 それを聞いてやっと、安心したようにフェイトはリインフォースを凛へと手渡した。 同時に、リインフォースは凛へと言葉を紡いでいく。これから世話になる、仮の主へと向けて。 もっともはやてのことがまだ心に残っているためか、敬語を使ったりはしなかったが。 『お前がこのゲームを破壊するために動くと言うのならば、私はお前を主と仰ごう。 それが主はやての最期の命令だ。 先ほどの戦闘の消耗もある、当分はそれほど力は引き出せないが……よろしく頼む』 「え……ああ、うん。よろしく、リイン」 フェイトはひとまず納得したし、カズマはデバイスをよく知らない。 そして凛が拒まない以上、リインフォースの使用に反対する人物はいない。 と、思いきや。 『……融合デバイスと私を併用するのは負荷が大きすぎると思いますが、マイマスター』 意外な相手が割り込んできた。 どこか不満げで……妙に「マイ」の部分を強調した声が。 「どうしたのよレイジングハート。 リインフォースがいればなんとかなるって言ったのはあなたじゃない」 『あれに関してはクラールヴィントでも十分です』 『……レイジングハート、気持ちは分かるが』 どこかぶすっとした声のレイジングハートに言葉を返したのは、呆れたようなバルディッシュ。 もしレイジングハートが人間だったら、恋人の浮気現場を発見したかのような表情になっていたに違いない。 だが、それに気付いたのはバルディッシュだけ。 カズマの質問によりレイジングハートの乙女心は気付かれることなく華麗にスルーされることとなった。 「あれってなんだ? 何か重要なことか?」 「え? うん、えっと……」 カズマの言葉に、思わず凛は口ごもった。 盗聴器があると分かっているのに堂々と話す馬鹿はいない。 もっとも、それは意志を伝えられないことを意味しない。意を汲み取ったフェイトが素早く念話を送っていた。 『つまり、話せないことなんですね。 主催者に対抗する手段、ですか?』 『まあ、そういうコト』 「???」 すぐに、凛が念話を返す。 あいにく魔力を持たないカズマには、二人が何をしているのかさっぱりだったが。 『首輪に関して、何か調べたりとかは?』 『ええ、私の世界の魔術において構造把握は基本だから。 内部構造とかはある程度調べてるわ』 「……おい、さっきから黙りこくってどうした?」 ついに耐え切れなくなったのか、蚊帳の外に置かれかけたカズマが不思議そうに声を上げる。 どう説明するべきか考え込む凛を尻目に、素早くフェイトが紙を取り出し文字を書き付けた。 『念話っていう魔法です。これを使えば、魔力を持った人間同士だけで話ができます』 「?」 『つまり、主催者に聞かれずに話ができる、ということです』 それを見て、納得がいったように……いや、実際納得してカズマは呟いた。 流石に、カズマでも二人の話している内容は分かる。 聞かれずに話さなくてはいけない会話内容。カズマもまた、それを経験済みだ。 「わりぃが、頭を使うのはどうも苦手だ。そういったことはお前らに任せる…… アルターは、役に立たなかったしな」 「あの……どこへ?」 「周りでも見てくるぜ。セイバーさんとやらが戻ってこないとも限らねェ」 「あ、ちょっと待ちなさいよ! せめてこの二人を埋めてから……」 「人形を埋めてやる義理はねえし、死んじまった劉鳳に興味はねえ」 そのまま、カズマはその場を歩き去っていく。 呆れたように口を尖らせるのは凛だ。協調性が無さすぎると彼女が愚痴るのも仕方の無いことだろう。 「しょうがないわね、私達で埋めてあげましょう」 『念話で首輪について話しながら、ね』 「はい、わかりました」 そう頷きあって、二人は作業を開始した。 意識は穴を掘ることに集中しながら、念話による会話はやめない。 『首輪についてですけど、だいたいどこまで調べているんですか?』 『えっと、電波が首輪から出てるところまで』 『なら、話は早いです。 詳細は省きますけど、その電波が首輪の機能に絡んでいるらしいんです。 他の人の仮説ですけど、この首輪から出ている電波を誤魔化せば首輪の機能を殺せるかもしれないという案が出ています。 そして、確かにリインフォースやクラールヴィントには通信妨害の魔法がある。 ……ただ、電波遮断ならともかく電波を書き換えるのまではやったことがないですし、 それに私はベルカ式の魔法には詳しくなくて……』 『私の魔術はベルカ式に近いらしいけど……あいにく、電波を撹乱する結界なんて覚えは無いわ。 とりあえず、それに絡んだ魔法を色々探して練習してみましょ』 ■ 「2112年、トーキョーマツシバロボット工場生まれ。 家族構成は妹がひと……いや一体。間違いないね?」 「は、はい」 トグサの言葉に、ドラえもんははっきりと頷いた。 ドラえもんは大分落ち着いてきている。それでも、まだ放っておけるわけではない。 そう、肝心な部分。のび太の死に対するフォローが終わっていない。 あくまで今のトグサは、視線や意識をずれさせているに過ぎないのだ。 しっかりと向き合わせ、乗り越えさせなくてはならない。 (それが一番難しいんだよなぁ……) 被害者の遺族へのアフターケアは、往々にして困難を極めるものだ。 どうやるか思い悩むトグサだったが、突如響いた音に表情を変えた。 空気を裂き、響き渡った鋭い音。トグサには聞きなれた音だ。 「銃声……!? くそっ!」 トグサは迷わずに立ち上がった。また事件現場に遅れるのは二度と御免だ。 二兎を追うものは一兎を得ず。この場において散々味わったことである。 「俺は病院に行く。落ち着いたらドラえもんも病院に来てくれ」 ドラえもんの答えも聞かないまま、トグサは一気に走り出した。 できるだけ死人を減らすために。 ……実は全く大したことではなかったのだが、その時の彼には知る由もない。 ■ 銃声を聞きつけた人物は、他にもいた。当然のことだが。 フェイトと凛も聞いたし、それに……ここにもまた銃声を聞いたのが四人。 病院へと向かっていたハルヒ達である。そして、彼らは音だけでなく、姿をもしっかりと捉えていた。 もっとも……その中の一人、ロックは「やれやれ」と言わんばかりの表情だが。 「あの様子だと、下手に戦いを止めに入ればこっちが危ない」 「しかし……レヴィ殿とは知り合いと申しておりましたが」 その表情が不思議だったらしいトウカの言葉に、彼は首を振って答えた。 あいにく、裏の世界に足を踏み入れたロックにとって知り合い=安全な人物とは限らないのだ。 それどころか、ロックの経験則は喧嘩を売ったのはレヴィではないかとさえ思わせている。 「知り合いだから分かるのさ……ああいう顔のレヴィはまずい。 以前あんな顔でメイドと殴りあうのを見たことがあってね。 止めに入ろうとしたら殺されそうな目で睨まれた」 「どんなメイドよ、それ。全然萌えない」 ハルヒのツッコミはある意味では一般的な感性に基づいていた。 もっとも無法地帯であるロアナプラを歩くようなメイドと、 お茶くみが得意なSOS団専属メイドは住む世界さえ違うが。 そのメイドによってみくるがメイドを騙る不届き者呼ばわりされていることは、ハルヒには知りようが無いことだ。 「ともかく、俺はレヴィと接触する。 三人はさっき言った通り、魅音達の所に戻ってくれ」 ロックの言葉に、三人の顔が曇る。 そう。先ほど、彼女たちの後ろから響いた爆発音。 正面から響く銃声にだいぶかき消されていたものの、それでもロック達にはしっかりと聞こえる程度のもの。 それはおそらく、不吉しか意味しない。 「一人で大丈夫ですか、ロックさん?」 「あんな音がしたんだ、むしろ危ないのは君達の方だろう。気を付けた方がいい」 「……分かったわ」 「キョン殿とハルヒ殿は某が守ります、ご武運を」 そう言葉を返して、ハルヒ達は身を翻す。 行き先は先ほどまで通った道。仲間が残っている家。 杞憂であることを祈りたい。だがこの場において杞憂ということはほとんど在り得ない。 だからこそ、彼らは走る。 「レヴィ相手にご武運ってのもおかしな話だけどな……」 そう呟いて、ロックは彼の担当するべき音源に向き直った。 一応、襲われて迎撃しているだけという可能性もある。 もっともレヴィと魅音達、どちらが生存能力が高いかと言えば前者だろう。 だからロック一人が残ったのだ。 「まずは詳しい状況把握だな……」 マイクロ補聴器を取り出しながら、ロックは悟られないように歩き出した。 ■ 時系列順で読む Back 鷹の団Ⅱ(後編) Next 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 投下順で読む Back 鷹の団Ⅱ(後編) Next 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 270 FATE フェイト・T・ハラオウン 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 270 FATE カズマ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 269 請負人Ⅲ ~決意、新たに~ レヴィ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 269 請負人Ⅲ ~決意、新たに~ ゲイナー・サンガ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 270 FATE 遠坂凛 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 270 FATE トグサ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 270 FATE ドラえもん 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 267 暁の終焉(後編) ロック 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 267 暁の終焉(後編) トウカ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 267 暁の終焉(後編) キョン 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) 267 暁の終焉(後編) 涼宮ハルヒ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(後編)
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攻殻機動隊のトグサのモノマネができる
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陽が昇る(後編) ◆S8pgx99zVs ゲインが加わることで議論は脱出方法の方へとシフトした。 各人が無言でメモに知っている情報や推論をまとめ、それを全員で流し読みしている。 今まではそれぞれがバラバラに行動していたが、ここに来て脱出を目指す人間のほとんどが揃ったことで脱出への道は一気に加速した。 ゲインがコツコツと首輪を突き、続いてカウンターの上に並べられた技術手袋と解体された首輪を指す。 自分達が提案した、解体された首輪を元に電波妨害装置を作り首輪の機能を停止させるという案はどうかというジェスチャーだ。 対するトグサの顔はやや渋い。できると思うが……というところまでを口に出して、続けてドラえもんが書いたメモの一文を指差した。 そこには、”アルター化による首輪の分解は成功しなかった”と書かれている。 それを見て、ゲインは成る程と頷いた。そしてペンをメモの上で走らせる。 『つまり、技術手袋に関しても首輪に対してなんらかの対策がほどこされていると?』 それを見てトグサも自分のメモへと言葉を綴る。 『可能性でしかないが、これも元々ギガゾンビの物だけになんらかの制限が掛かっていると考えたほうが無難だろう。 提案された妨害装置を作ることはおそらくできるだろうが、最悪それが機能しなくて首輪が爆発してしまうという可能性がある』 ゲインは腕を組んで口から空気を洩らす。確かにこれもギガゾンビの演出のうちである可能性も否定できない。 だが、そういった根幹部分から疑っては進むものも進みはしない。 「ドラえもんはどう思う? コレで例の物が作れるというのは保証できるか?」 ゲインはカウンターの端に座るドラえもんに声を出して尋ねる。その返答はYESだった。 技術手袋で電波妨害装置を作れることは、秘密道具に精通したドラえもんによって肯定された。 やはり問題はギガゾンビが独自に用意したであろうと推測される首輪である。 「ロック。例のモノは俺自身でなくて、九課宛てで間違いないんだな?」 思案するゲインの前でトグサがロックへと問いかける。それは長門が用意した脱出の鍵の一つ。 君島のi-podに入っていた謎のデータについてだ。 ロックが問いを肯定すると、トグサは再び新しいメモにペンを走らせそれをゲインの前に出した。 『これは、長門からのデータが俺の想像しているものと一致しているとしたらの場合だが』 そういう前置きでその提案は始まっていた。 トグサが考えた謎のデータの内容……それは”電脳通信への制限解除。または機能拡張”だった。 長門の用意したソレはトグサ個人ではなく、九課全体へ宛てられたものだった。 だとすれば九課の全員に共通して使えるものであるだろうことを、推理するのは難しくない。 その上でトグサが推定したのが、制限がかけられている電脳通信へのなんらかの処置である。 『キョン君が持つノートPC。あれはギガゾンビの用意したツチダマ掲示板へと繋がっている。 もし電脳通信の機能が回復すれば、そのノートPCを中継してギガゾンビが使用しているCPUへと侵入できるかもしれない』 そして、その先には具体的な方法と得られる成果も書かれている。 『まずは、掲示板の置かれているサーバーの一部を乗っ取り、 そこに容量を確保してゲイナーの持っているタチコマのメモリをアップロードして支援用AIを構築する。 そして、そこを足がかりにメインCPUへと侵入できれば、首輪に使われている電波の種類やその内容が得られるだろう』 トグサのメモを読んだゲインは口の端を歪める。 成る程、これが実現できれば首輪解体に必要な擬似電波が特定でき、不安は一蹴されるだろう。成功すれば案は磐石となるはずだ。 トグサの新しい提案。それを改めて全員に回し、さらにディスカッションを進めることで全員の意見は一致した。 その内容は議事録として一枚のメモにまとめられている。 【首輪解体の案について】 A.首輪の機能、その根幹を成す戦闘データ計測装置に擬似電波を流して無効化させる。 1).技術手袋を使って解体した首輪の部品から擬似電波発信機を作る。 2).その発信すべき電波を特定するためにトグサがギガゾンビのCPUへと侵入(ダイブ)する。 ※その前提として、キョンと合流しノートPCを受け取る必要がある。 B.[A]が達成された後、技術手袋を使って全員の首輪を解体し外す。 C.副案としてリインフォース内を検索し、魔法によるアプローチが可能でないかを探る。 首輪について一段落したところで議論はゲインが発見した亜空間破壊装置の方へと移った。 これについては、その性質も残りの所在も明らかになっていることから見通しは明るい。 首輪の解体案が具体性を帯び、脱出の方法にも光明が見えことで、 カウンターを囲む彼らの顔にそれまではなかった希望が見て取れたが、 そこに釘を刺したのは現実主義者であるロックだった。 「みんな、自分達がどうやってここに連れてこられたかを覚えているかい?」 ロックの放った不意の質問に全員が押し黙る。 それは誰もが最初に考えることだが、同時に誰もその答えを持っていなかった。 そして、全員がロックの質問の意図を察する。 「そう。この舞台をゲームの盤に例えれば、ギガゾンビはいつでもその盤を引っくり返すことができるゲームマスターだ。 うまく此処を脱出できたとしても、また同じ方法で集められ最悪の場合、 再び何も知らずにまたこの殺人ゲームに興じるはめになるかも知れない」 ……いや、もしかしたらこれも何回目なのかも知れないなと、ロックは続けて口を閉じた。 「だからって、何もしないってわけにはいかないでしょう!? 私達はあいつのための遊び道具じゃないのよ」 カウンターに手をつき身を乗り出したのは遠坂凛だ。そしてその発言は全員の意志を代弁したものでもある。 「それはもちろんさ。……で、提案だ」 と言ってロックは一枚のメモを前に出す。それには一つの大胆な案が書かれていた。 ”首輪解体や亜空間破壊装置と並行してギガゾンビの居場所も探り、電撃作戦でもって打倒する” 一つ一つの案になんとか道が見えてきたというところだ。まだまだ、それぞれの難度は高い。 それらを同時に並行して行うとなるとその難度は格段に跳ね上がるだろう……だが、 「ギガゾンビはもしかしたらボタン一つでこの状況をリセットできるかもしれない。 だとしたらギガゾンビをその気にしてしまうことが俺達の敗北条件だ。 一つの策がうまくいったとしてもそこで盤を引っくり返されては俺達の負けになる。 だったら、全部を一度に進めるしかない」 発言したロックは目の前の彼らの反応を身を強張らせて待った。 言っていること自体は間違いではないが、かなり酷なことではある。 もし、これを切欠に皆の心が挫けるようなことがあれば仲間同士で殺し合いを演じるはめに陥るかもしれない。 「確かに彼の言う通りだな。それぞれの事を起こす間は短ければ短いほうがいい。 相手側の混乱を誘うこともできるはずだ」 「幸いなことに僕たちには十分な人手と装備がありますし」 「そのためにもハルヒ達には早く帰ってきてもらわないと」 「残された時間がどれだけあるのかも問題だな。 死者が出なくなればギガゾンビが何か手を打ってくることも考えられる」 「あいつはツチダマや捕まえた人を僕にして操ってたんだ。そいつらが出てくるかもしれない」 「ゲインの話だとツチダマはすでに確認されてますね。あまり強敵ではないみたいだけど」 「はは……」 ロックは弛緩した身体を椅子に預ける。彼の懸念は全くの杞憂に終わったようだ。 (怯えていたのは俺一人か……) 目の前で再び加熱するディスカッションを見て、ロックは自分の不甲斐なさに苦笑した。 そうして、病院の外を照らす太陽が空の頂上に到達しようという頃。 丁度、病院な中で行われていた大反抗の計画も一つの区切りを迎えようとしていた。 例の部屋の中央には、他の部屋から運び込んできたいくつかの事務机がくっつけて並べられており、 その上には夥しい数の武器や道具。その他の物品が所狭しと並べられている。 それはゲイン達が朝方に喫茶店で行ったことの再現でもあったが、 今回はここに集まった人間が持て余している物も出されているためさらに量が増えている。 そんな光景に感動する者もいれば驚く者もいるが、一人トグサの表情は神妙なものだった。 持ち主を失った物がこれだけもあるということは、逆に言えばそれだけ志半ばに倒れた者達がいるということでもある。 トグサ自身も仲間を失った。残ったのは手の平に乗せられたタチコマのメモリだけだ。 もう片方の手にはメモ紙を束ねて作った一冊の簡易な冊子が握られている。 ”エクソダス計画書” そう表紙に書かれたそれは、今回の情報交換とディスカッションの上で練られたこのゲームからの脱出、 つまりはギガゾンビに対する大反抗作戦の計画書だ。 ここに集まった全員の経験と知識の集大成でもある。 (……ついにここまで来ましたよ少佐) たった一日半だったがものすごく長く、失ったものは数知れなかった。そして、五里霧中の中を散々に迷った。 だが、ついに最終局面へのその階段の第一歩を踏み出した。 (ここまで来たら後はやるだけだ!) それはトグサのそして、今この舞台の上で生きている全員の気持ちだった……。 そして、後何度あるかはわからないギガゾンビの放送が始まる。 ※エクソダス計画書について 【エクソダス計画書】 今回の情報交換とディスカッションを経て作られた、 首輪や亜空間破壊装置等についての考察や脱出への計画をまとめたものです。 ※メモ紙に手書きで作られ、病院事務所のコピー機で複製されました。 【脱出計画】 【首輪解体の案について】 A.首輪の機能、その根幹を成す戦闘データ計測装置に擬似電波を流して無効化させる。 1).技術手袋を使って解体した首輪の部品から擬似電波発信機を作る。 2).その発信すべき電波を特定するためにトグサがギガゾンビのCPUへと侵入(ダイブ)する。 ※その前提として、キョンと合流しノートPCを受け取る必要がある。 B.[A]が達成された後、技術手袋を使って全員の首輪を解体し外す。 C.副案としてリインフォース内を検索し、魔法によるアプローチが可能でないかを探る。 【亜空間破壊装置について】 後に事をスムーズに進めるためにも、偵察する人員を寺と温泉に送り込む。 これに宛がわれた人員は双眼鏡および望遠鏡を持っていくこと。 また、装置を破壊できる火力も合わせて持っていくこと。 【ギガゾンビの居場所について】 トグサ氏より情報を得られた、映画館にあった謎のフィルムの内容を検証する。 ・検証方法 改めて映画館に赴き件の映像を担当する人員が確認。 その後、インスタントカメラ等を持って映像にあった場所に向かいその光景を写真に収める。 そして、収集されたデータを病院へと持ち寄り検証する。 【病院の防衛について】 最大の敵性存在であるセイバーの襲来にそなえ病院に人員を配置。 ロック氏その他の情報からセイバーが病院を中心に徘徊し繰り返し、病院を襲っていることがわかっている。 なので再襲来の可能性は高い。 【その他】 射手座の日(THE DAY OF SAGITTARIUS III)をノートPCでプレイしてみる。 ※全員が持っていた情報はこの一冊に集約されました。 ※今病院にいる、フェイト、遠坂凛、トグサ、ゲイン、ロック、ゲイナー、ドラえもんの七人は この内容を把握しています。 ※机の上に広げられた支給品・その他について 現在以下のアイテムが机の上に広げられています。 ゲイン達はまだ、これらをどう配分するかは決めていませんし、個別の検分もまだです。 【机の上に広げられた支給品・その他】 【デイバッグ/支給品一式と食料】 デイパック×7 支給品一式×12、支給品一式(食料なし)、支給品一式(食料-4食)×2、支給品一式(食料-2食) 【近接武器】 刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、レイピア、ルルゥの斧、獅堂光の剣 ルールブレイカー、ハリセン、極細の鋼線 【遠距離武器】 454カスール カスタムオート(残弾:0/7発、予備弾薬×21発) 鳳凰寺風の弓(矢18本)、9mmパラベラム弾(×64発) 銃火器の予備弾セット(各40発ずつ) ※以下の種類の弾丸は抜かれています。 [ソードカトラス] 【その他の武器】 ルイズの杖、五寸釘(×30本)&金槌、黒い篭手(?) 【特殊な道具】 惚れ薬、たずね人ステッキ、びっくり箱ステッキ(使用回数:10回)、ひらりマント 【一般的な道具】 双眼鏡×2、望遠鏡、マウンテンバイク、ロープ、画鋲数個、マッチ一箱、ロウソク2本 【その他】 ヤクルト×1本、紅茶セット(×2パック)、医療キット 市販の医薬品多数(※胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc) ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体) クラッシュシンバルスタンドを解体したもの ボロボロの拡声器(故障中) 蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐 ローザミスティカ(蒼)、ローザミスティカ(翠) 鶴屋さんの首輪 [チーム全体としての基本方針] 1:全体で詳細な情報交換を行い互いの疑問や探し物などを解決する。 2:キョン達とカズマ、レヴィが戻ってくる。または彼らからの連絡を待つ。 3:行動を開始する前に装備の再配分、食事と休憩を終わらせる。 4:全員が落ち着いたらエクソダス計画書にしたがって行動を起こす。 【D-3/病院/2日目-昼(放送直前)】 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA s】 [状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、中程度の魔力消費、バリアジャケット装備 [装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム/カートリッジ再装填済/予備カートリッジ×12発) [道具]:デイバッグ、支給品一式、クラールヴィント、西瓜×1個、ローザミスティカ(銀)、エクソダス計画書 [思考] 基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。 1:忙しくなる前にトグサにタチコマとのことを謝っておく。 2:光球(ローザミスティカ)の正体を凛に尋ねる。 3:遠坂凛と協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。 4:ベルカ式魔法についてクラールヴィンと相談してみる。 5:念のためリインフォースの動向には注意を向けておく。 6:カルラや桃色の髪の少女(ルイズ)の仲間に会えたら謝る。 [備考] ※襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。 ※首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。 【遠坂凛@Fate/stay night】 [状態]:中程度の疲労、全身に中度の打撲、中程度の魔力消費、バリアジャケット装備(アーチャーフォーム) [装備]:レイジングハート・エクセリオン(/修復中 ※破損の自動修復完了まで数時間必要/カートリッジ再装填済) 夜天の書(消耗中、回復まで時間が必要/多重プロテクト)、予備カートリッジ×11発、アーチャーの聖骸布 [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、石化した劉鳳の右腕、エクソダス計画書 [思考] 基本:レイジングハート&リインフォースのマスターとして、脱出案を練る。 1:セイバーの再襲撃に備えて体力と魔力の回復に努める。 2:リインフォースからアルルゥの遺体がある場所を聞き、彼女を埋葬する。 3:フェイトと協力して魔法による首輪解除の方法を模索する。 4:ベルカ式魔法についてリインフォースと相談してみる。 5:カズマが戻ってきたら劉鳳の腕の話をする。 6:セラスの安否を確認する。 7:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。 [備考] ※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。 ※リインフォースを装備してもそれほど容姿は変わりません。はやて同様、髪と瞳の色が変わる程度です。 [推測] ※ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い。 ※膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能。 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可 [装備]:S W M19(残弾6/6発、予備弾薬×28発) [道具]:デイバッグ、支給品一式、警察手帳、技術手袋(使用回数:残り15回)、解体された首輪 タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書 [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る。 2:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う。 3:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む。 【ロック@BLACK LAGOON】 [状態]:眠気と疲労、鼻を骨折しました(手当て済み) [装備]:マイクロ補聴器 [道具]:デイバッグ、支給品一式、現金数千円、エクソダス計画書 [思考] 基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。 1:ドラえもんにディスクをキョンへと譲ってもらえるように頼む。 2:キョン達に会えたら遠坂凛に対する誤解を解く。 3:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。 [備考] ※しんのすけに両親が死んだことは伏せておきます。 ※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。 ※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。 ※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。 ※キョンの持つノートPC内の情報を得て、考察しました。 ※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった) [装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5、予備弾薬×25発)、NTW20対物ライフル(弾数3/3)、悟史のバット [道具]:デイパック、支給品一式、スパイセットの目玉と耳(×2セット) トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ、エクソダス計画書 [思考] 基本:ギガゾンビを打倒し、ここからエクソダス(脱出)する。 1:皆を率いてエクソダス計画を進行させる。 2:野原しんのすけを保護する。 [備考] ※仲間から聞き逃した第三放送の内容を得ました。 ※首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。 ※モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。 【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】 [状態]:風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。 [装備]:コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳 クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書 [思考] 基本:バトルロワイアルからの脱出。 1:エクソダス計画に対し自分のできることをする。 2:カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す。 3:グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る。 [備考] ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。 ※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。 【ドラえもん@ドラえもん】 [状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感 [装備]:虎竹刀 [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD [思考] 基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。 1:エクソダス計画に対し自分のできることをする。 [備考] ※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。 ※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます。 【C-3/市街地/2日目-昼】 【カズマ@スクライド】 [状態]:少しの疲労、全身に中程度の負傷(処置済)、西瓜臭い [装備]:なし [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服 [思考] 基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ! 1:峰不二子(変装ヤロー)を見つけてぶっ飛ばす! 2:キョン達とやらを見つけて病院へと送り届ける。 3:フェイトが言うならエクソダスとやらに協力してやらねぇでもない。 4:レヴィは……ま、俺の勝ちだな。 [備考] ※いろいろあったのでグリフィスのことは覚えていません。 ※のび太のデイパックを回収しました。 ※レヴィと暴れたので、だいぶスッキリしました。 【レヴィ@BLACK LAGOON】 [状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。 [装備]:ソード・カトラス(残弾15/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾5/15、予備弾倉15発×1) [道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾13/30、予備弾倉30発×2) グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品)、ぬけ穴ライト、テキオー灯、 バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ [思考] 基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!! 1:峰不二子を見つけ出し今度こそ仕留める&大暴れする。 2:キョン達とやらを見つけて病院へと送り届ける。 3:ゲイナーやゲインのエクソダスとやらに協力する。 4:カズマは絶対に、必ずぶっ飛ばす。 5:機会があればゲインともやり合いたい。 6:バリアジャケットは絶対もう着ないし、ロックには秘密。秘密を洩らす者がいたら死の制裁を加える。 [備考] ※双子の名前は知りません。 ※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。 ※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。 ※カズマに笑われたことでよりムシャクシャが悪化しました。 時系列順に読む Back 陽が昇る(前編)Next 遥か遠き理想郷~アヴァロン~ 投下順に読む Back 陽が昇る(前編)Next 遥か遠き理想郷~アヴァロン~ 274 陽が昇る(前編) フェイト・T・ハラオウン 279 SUPER GENERATION(前編) 274 陽が昇る(前編) 遠坂凛 279 SUPER GENERATION(前編) 274 陽が昇る(前編) トグサ 278 Can you feel my soul 274 陽が昇る(前編) ロック 279 SUPER GENERATION(前編) 274 陽が昇る(前編) ゲイン・ビジョウ 277 せおわれたもの 274 陽が昇る(前編) ゲイナー・サンガ 278 Can you feel my soul 274 陽が昇る(前編) ドラえもん 278 Can you feel my soul 274 陽が昇る(前編) カズマ 277 せおわれたもの 274 陽が昇る(前編) レヴィ 277 せおわれたもの
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573:弥次郎:2022/11/28(月) 00 00 52 HOST softbank060146109143.bbtec.net 憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」8 C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア ビル 吹き抜けフロア 突如として壁を割って、というか粉砕して出現した精肉屋に対し、九課の面々は即座に銃を向けた。 すでに相手はこちらへの攻撃を行っており、もはややるかやられるかだ。その場の全員がそれを理解していた。 幸いにして、懸案となりうる爆発物はすべて運び出されるか無力化されている。誘爆や誤射による爆発などはない。 処理が終わっているなら、遠慮なく弾を撃って戦うことができる。 とはいえ、それは単なる状況の要素の一つにすぎない。危険が減っているだけで、有利ではないのである。 「……」 だが、精肉屋は瞬時に消えた。正確には、一瞬で身を低くして、中腰の体勢で移動したのだ。 傍目には姿を消したように見えただろう。そのせいか、トグサは一瞬で標的を見失ってしまう。 だが、義体化し、その一瞬の動きを終えた他のメンバーはその動きに合わせ、冷静に銃口の向きを編子することに成功していた。 『喰らえ!』 そして、トリガー。バトーとボーマのライフルから吐き出された5.45mm×45弾は猛然と空間を進み、食らいつこうとする。 だが、精肉屋はそれをギリギリのところで躱し、その手に持つ前装式銃を天井目がけ発砲した。 『バトー!』 『くそっ…!』 傍目には普通の銃弾が撃ち込まれたかに見えたが、なんと天井の一部が崩落、重たい破片が降り注いだ。 ふざけた威力だ、と歯噛みする暇もない。バトーは射撃体勢を解除して回避に徹することを選ぶしかなかった。 そして、さらにふざけたことに、精肉屋の拳銃はさらに連発され、的確に九課メンバーの頭の上の天井を破壊したのだ。 それも一瞬で、義体化しているかのような精密さと迷いのなさで、的確にこちらの動きを制限してきた。 『そっちに行ったぞ、バトー!』 『わかってる!』 バトーの眠らない瞳は、信じがたいことに銃弾を剣で切り裂いて接近してくる精肉屋を捕らえていた。 彼我の距離は一瞬で詰まる。ならばこそ、銃火器は役に立たない。天井の崩落を避けながらも、バトーは格闘戦に備えた。 引きつけながら片手でライフルを撃ちつつ、拳を構え、繰り出す。 「!?」 腰の据わった鋭い一撃は、当たるかに思えた。実際、バトーの目は当たる直前まで捉えていた。 だが、精肉屋はほんのわずか、バトーの義体化された拳一つ分だけを綺麗に体をずらし、さらに距離を踏み込んだ。 ショートレンジからクロスレンジへ。大柄な体を持つバトーではやや不利になるその領域へと、一瞬で踏み込まれた。 まずい、とバトーの電脳化された脳は危険を察知するが、相手の方が速い。いつの間にか、相手の拳には武骨な塊がある。 それが何であるかはわからない。だが、ある種のメリケンサックのように見える。直感的に危険だと判断した。 それはガラシャの拳と呼ばれるもの。極めて単純な鈍器。さりとて、人外の域に達している悠陽の筋力で使えば、恐ろしい凶器に変貌する。 「ぐぅ……!」 574:弥次郎:2022/11/28(月) 00 02 50 HOST softbank060146109143.bbtec.net バトーが思った以上に重たい一撃が来た。殴られると判断し、とっさに衝撃に備えたのだが、想定以上だった。 それどころか、バトーの身体がそのまま吹っ飛ばされ、壁まで叩きつけられてしまった。 衝撃は体を襲い、義体化していても堪えられない重みと痛みが伴っていた。 「バトー!」 『大丈夫だ、生きてる!』 『カバーしろ、ワク!』 『了解!フラッシュバン!』 なんて馬鹿力、と思いつつも、これまでの虐殺から考えてアレでもラッキーなくらいだとも理解する。 吹っ飛ばされたバトーは壁にめり込んだが、もがいて脱しようとしている。当然見逃すわけもなく拳銃が向けられるのを、何とか阻止しなくては。 そのためにワクが投じたのは、スタングレネード。義体化していようが生身であろうが通用するそれを放り投げたのだ。 同時に通信でそれを告げると、自分たちはとっさに防御姿勢をとる。 「!」 瞬間、炸裂。 閃光と音響が相手を襲った。 だが、まともに食らって動けないはずの相手は、なんと次の瞬間には襲い掛かってきたのだ。 『化け物めっ……!』 精肉屋が襲い掛かったのは素子。とっさにライフルを構え、引き金を引こうとして、出来なかった。 相手が手にした剣がなんと火を噴き、セブロC26Aを破壊したのだ。 『!?』 銃を内蔵した剣。時代錯誤というか、もはやマニアックというべきもの。 だが、驚愕しつつも素子は反対の手で対抗手段を引き抜いていた。コンバットナイフ。 原始的ではあるが、それでも未だに残り続けている装備であり、ツールとしてもつかわれるそれ。 銃を内蔵した剣に対して、自分の体目がけて繰り出されるそれに対応できるそれを、素子は一瞬の判断のもとに繰り出す。 最初に生じたのは激突。 銃剣---レイテルパラッシュと激突したコンバットナイフは、質量と使い手の筋力の差から押し負ける。 だが、素子はそれを百も承知だ。押し負けながらも義体化した腕の筋力を瞬間的に開放、切っ先を逸らすことに成功する。 そして同時に、空になった手を精肉屋の腕に絡めつつ、もう一方の手でセカンドガンを引き抜いていたのだ。 拳銃を構えた状態での近接格闘、相手がそういう傾向にあると分かったからこそ、罠を張るようにしていたのだ。 しかし、精肉屋---悠陽もまた尋常な人間ではない。力による強引な拘束ではない、むしろこちらの力を利用する柔術で動きを止められたと即座に察知。 無理に抗うのではなく、あえて捕まえさせるままにした。このクロスレンジで、相手ができることもまた制限されているのだ。 (逃げない……?しまっ……!) 動きが妙にされるがままだということに素子が気が付いた時にはもう遅い。 逃げようとしたが、生憎と自分で相手の動きを拘束しているため、自分自身も拘束されているに等しい。 そして、振りかぶられた悠陽の頭が素子の顔面へと叩きつけられる。 カインの兜に覆われたそれは、すでに十分な鈍器であった。無論衝撃は悠陽にも来るが、分かっているのだから耐えきれる。 「くはっ……!」 575:弥次郎:2022/11/28(月) 00 04 21 HOST softbank060146109143.bbtec.net 反対に、唐突の衝撃をまともに食らってしまった素子はそのまま飛ばされた。 顔を構成するパーツが形状を失う。いや、失うどころではなく、砕けて内部構造が露わになってしまった。 脳核が収められている上半分は無事だが、下半分、鼻から下は顎のところまで形状を失っている。 「……」 発声機能を失い、素子は声を出せない。ただ、呼吸音のみが生じた。 そして、拘束から解放されたレイテルパラッシュが一閃、素子の腕と足を切り飛ばし、行動能力を奪う。 一瞬だった。九課における最高戦力の素子が、一瞬で戦闘能力を失わされてしまったのだ。 「素子ォ!」 バトーの絶叫と、そして攻撃。 だが、それは悠陽にとっては恐ろしいものではない。 次の瞬間には、身を晒して援護攻撃を選んだバトーに対し、教会の連装銃が向けられて火を噴いた。 生じた結果は、これまた悲惨であった。元々獣を狩るものだ、義体化されている程度の人間に向けてよいものではない。 破壊というか炸裂が発生した。障害物に隠れていたのだが、その障害物を容易く砕き、ついでにバトーの両足を持っていった。 まずい、という認識は九課の側にはあった。 相手が想像以上に手慣れている、いや、強すぎる。 残っているのはワク、トグサ、ボーマだ。このまま抗っても、勝てるビジョンが見えない。 どうする、と思わず視線を味方に送ったトグサが、次に狙われた。 「このっ……!」 セブロC26Aが連射されるが、しかし、金属音と共に悉く弾丸が弾かれる。 弾かれるのはわかっているから、逃げようとする。だが、足止めにすらならないし、近接戦闘で勝てる気もしない。 だが、死への恐怖がトグサを突き動かす。義体化をほとんどしていない分、頑丈ではないし、いざとなった時に替えが効かない。 それをわかっているからこそ、必死に逃げようとしていた。そしてボーマとワクも、必死にそれを援護する。 「畜生……!」 だが、援護むなしく、トグサは懐に踏み込まれた。 拳銃も使えないわけではないし、ナイフがないわけではない。ただ、純粋に相手が速すぎた。 トグサは死を覚悟した。あるいは、死ななくとも今の身体を失うことを。 だから、せめて相手を目で捉え続けた。相手の姿を、動きを、そこから窺える意志を。 (……え?) そして、トグサは自分の身に迫るものに目をむいた。 刀でもない、鈍器でもない、相手は何と素手だ。といっても中世のそれを思わせる鎧の手甲に覆われている。 素手というのは武器を持っていないと、そういう状態だったのだ。確かに素子の義体を破壊する硬度や強度はあるのだろうが、それは--- 「ぐっ、あ……」 そこまで考えた時、鋭い衝撃が二回胴体に奔って、その痛みと共にトグサの意識は急激に闇に包まれていく。 胴体の感覚がない。深く残る痛みだけが、身体を、脳を満たしている。動きが取れない、倒れる。 誰かが自分の名を呼び、銃を打つ音が遠くに感じる。倒れ伏した地面の硬い感覚さえも遠のいていき、ついに気絶した。 そこからは、トグサの主観的な記憶は、数時間後に医務室での覚醒を待つこととなったのだった。 576:弥次郎:2022/11/28(月) 00 05 11 HOST softbank060146109143.bbtec.net 以上、wiki転載はご自由に。 建物内という閉鎖環境で戦えばこうもなろう!