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togusabot / トグサ Web http //tetralog.in/t/?date=20090731#p01 自己紹介 フォロワーに勝手に話しかける様に、仕様変更しました。 タグ アニメ コミック 攻殻機動隊 最近のつぶやき 新着記事は見つかりませんでした。 最終更新 2009/09/15 14 41 55
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デザイン 機種 パチスロ攻殻機動隊S.A.C. アニメーション あり スキル効果 次ゲームに30%の確率でスイカが成立する 消費SP 14 入手方法 スキルフィギュアガチャ LvMAX経験値 ? 限界突破素材 限界突破先 限界突破元 備考
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Last Update 2012/08/18 21 57 19 《シュトグサ》 属性 黄 移動色 ●● 攻撃 15 能力 [戦闘時]発動対戦相手だけが戦闘支援を使用した場合、反射両者が戦闘支援を使用した場合、攻撃値と耐久値-10 レア R 種族 邪心 耐久 15 自身の能力から暗に戦闘支援を使わないことを要求されている。 元々のステータスは高くもなく低くもなくといったところなので、最大限に活用するなら育成は必須だろう。 実質的に戦闘支援を使えないとはいえ、いざというときは使うという選択肢もある点がポイント。 侵略はともかく防衛時は《刹那の見切り》などの確率避け、《フィールドアーマ》などの高耐久支援をちらつかせたい。 先制支援はデメリット効果により《黒の称号》でもなければあまり意味がないので微妙なところだ。 また、あくまで両者が戦闘支援を使わなければデメリット効果は発生しないので、相手の手札が0枚ならばためらうことなく戦闘支援を使える。 ▲ 特性侵食を使えば相手が支援を使っても能力のデメリットを消すことが可能。 - 名無しさん 2011-03-16 00 49 57 ↑防衛時に相手が反射無効で攻めてくるときくらいしか用途が見あたらないような・・・ - 名無しさん 2011-04-23 14 19 34 ↑ガルダ又はジラコ単品、攻撃値上昇系の能力+威圧等へのカウンターとして使えれば十分。 -- 名無しさん (2011-05-23 01 27 25) 名前 コメント
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ハリヤー氏の弁明に対しに対し同じくコメント欄で反論するうぇ~ぶ氏 以下抜粋 [2 52 03] トグサ@ハリヤー 一応400部程度を予定してます [2 58 13] うぇ~ぶ 会場頒布値段は? [2 58 25] トグサ@ハリヤー うーん [2 58 32] トグサ@ハリヤー それはまだ未定なんですよ [2 59 05] トグサ@ハリヤー 一応700~1000あたりにしようかとは思ってますが [3 14 13] うぇ~ぶ まぁそんな筒抜けになるほど情報もらってないですし。 で、本題に戻しますがこの形態をとると、結局のところ、合同誌の利潤って全額ハリヤーさんに行くことになってますよね? この点については合同参加者に全許可を取ったと踏んで行っているということですか? [3 14 52] トグサ@ハリヤー 取ってはいません [3 14 58] トグサ@ハリヤー ですが取る必要があるのでしょうか [3 15 03] トグサ@ハリヤー 完売してもトントンなのに 「あのときの会話で大分誤解を与えてしまったようなので情報を整理してお伝えしようと思っております 発行部数は400部程度とお話していましたが一応最高で1000部くらいと考えておりました」 このような発言をうけて、疑問を持たない人は居るのでしょうか。 2割引するというTwitterの発言も含め、完売でトントンだと言うにはあまりに違ってるのでは無いのでしょうか。 ハリヤーさんがよく使っている印刷所、ねこのしっぽのちびねこぱっくCでの100p本計算(割引率は除外して計算) 400部700円頒布の場合 400*700-143900 =136100 400部1000円頒布の場合 400*1000-143900 =256100 1000部700円頒布の場合 1000*700-269700 =430300 1000部1000円頒布の場合 1000*1000-269700 =730300 端から見ていてこの程度の利益が出ることを、Skypeの時点でその事はわからなかったのでしょうか? 分かっていて 騙すつもりで「トントン」だと言ったのでしょうか? 発行部数は400部程度とお話していましたが 一応最高で1000部くらいと考えておりました 謝罪メールで和解を求めたと言いますがSkypeの時点で考えて居たのならば、何故その謝罪メールに至るまで黙っていたのでしょうか。 除名した後に当人に改めた数字を伝え、 一切払う気は無いと一貫して言っていた後のメールで原稿料については検討する事を伝えるのは和解をする気があったのでしょうか。 和解と言いますが、「あなたは誤解をしているから改めを求める 自分の事は生活が忙しかったからしかたない」 といったスタンスは本当に和解をする気がある文章なのでしょうか。 2010-07-08 18 15
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NO. タイトル 作者 登場人物 251 人形裁判 ~ 人の形弄びし少女過去の罪は長く尾を引く ◆2kGkudiwr6 遠坂凛、劉鳳、セラス・ヴィクトリア、ドラえもん、野比のび太、涼宮ハルヒ、水銀燈、剛田武 252 『転』 ◆2kGkudiwr6◆LXe12sNRSs グリフィス、運転士ダマ(ボイド)、住職ダマA(スラン)、住職ダマB(ユービック)、番頭ダマ(コンラッド) 、ギガゾンビ 253 ひめられたもの(1)ひめられたもの(2)ひめられたもの(3)ひめられたもの(4) ◆WwHdPG9VGI 遠坂凛、水銀燈、ドラえもん、野比のび太、劉鳳、セラス・ヴィクトリア、ロック、キョン、園崎魅音、涼宮ハルヒ、野原しんのすけ、北条沙都子、トウカ、エルルゥ 254 Macabre in muddled rabbithutch(前編)Macabre in muddled rabbithutch(後編) ◆S8pgx99zVs キョン、涼宮ハルヒ、園崎魅音、ロック、トウカ、エルルゥ、野原しんのすけ、北条沙都子 255 王の手の平の王 ◆LXe12sNRSs セイバー 256 暗闇に光る目 ◆lbhhgwAtQE レヴィ、ゲイナー・サンガ、峰不二子 257 プリズムライト(前編)プリズムライト(後編) ◆B0yhIEaBOI 遠坂凛、水銀燈、ドラえもん、野比のび太、劉鳳、セラス・ヴィクトリア、トグサ 258 第五回放送 ◆WwHdPG9VGI ギガゾンビ 259 tribute ◆S8pgx99zVs 峰不二子 260 運命に反逆する―――――――!! ◆fsB2AEW3Cw カズマ 261 「ゲインとゲイナー」(前編)「ゲインとゲイナー」(後編) ◆LXe12sNRSs フェイト・T・ハラオウン、レヴィ、ゲイナー・サンガ、ゲイン・ビジョウ 262 暁を乱す者(前編)暁を乱す者(後編) ◆lbhhgwAtQE 北条沙都子、ロック、トウカ、野原しんのすけ、園崎魅音、キョン、涼宮ハルヒ、エルルゥ 263 Solemn Simulacrum ◆qwglOGQwIk グリフィス、住職ダマA(スラン)、番頭ダマ(コンラッド)、運転士ダマ(ボイド)、住職ダマB(ユービック) 264 SECRET AMBITION正義の味方Ⅲ ◆2kGkudiwr6 水銀燈、劉鳳、セイバー、セラス・ヴィクトリア、トグサ、遠坂凛、ドラえもん、野比のび太 265 『FigureLess』VS『Amalgam』 ◆A.IptJ40P. 劉鳳、水銀燈 266 Fate/hell sing不死身のドラキュリーナひとり、そして―― ◆LXe12sNRSs セイバー、セラス・ヴィクトリア 267 暁の終焉(前編)暁の終焉(中編)暁の終焉(後編) ◆WwHdPG9VGI ロック、トウカ、キョン、涼宮ハルヒ、園崎魅音、野原しんのすけ、北条沙都子 268 最初の過ちをどうか ◆qwglOGQwIk セイバー 269 請負人Ⅲ ~決意、新たに~ ◆g3BDer9VZ6 レヴィ、ゲイナー・サンガ、ゲイン・ビジョウ 270 FATE ◆lbhhgwAtQE トグサ、ドラえもん、遠坂凛、フェイト・T・ハラオウン、カズマ 271 ひぐらしのなくころに(前編)ひぐらしのなくころに(中編)ひぐらしのなくころに(後編)幸せな未来 ◆B0yhIEaBOI 園崎魅音、北条沙都子、峰不二子、野原しんのすけ、グリフィス、番頭ダマ(コンラッド) 272 鷹の団Ⅱ(前編)鷹の団Ⅱ(後編) ◆WwHdPG9VGI グリフィス、運転士ダマ(ボイド)、住職ダマB(ユービック)、住職ダマA(スラン)、番頭ダマ(コンラッド)、ギガゾンビ 273 銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) ◆2kGkudiwr6 フェイト・T・ハラオウン、カズマ、レヴィ、ゲイナー・サンガ、遠坂凛、トグサ、ドラえもん、ロック、トウカ、キョン、涼宮ハルヒ 274 陽が昇る(前編)陽が昇る(後編) ◆S8pgx99zVs フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、トグサ、ロック、ゲイン・ビジョウ、ゲイナー・サンガ、ドラえもん、カズマ、レヴィ 275 遥か遠き理想郷~アヴァロン~ ◆FbVNUaeKtI キョン、涼宮ハルヒ、野原しんのすけ、トウカ、セイバー、グリフィス、住職ダマA(スラン)、住職ダマB(ユービック) 276 第六回放送 ◆lbhhgwAtQE ギガゾンビ 277 せおわれたもの ◆WwHdPG9VGI ゲイン・ビジョウ、カズマ、レヴィ 278 Can you feel my soul ◆B0yhIEaBOI ゲイナー・サンガ、ドラえもん、トグサ 279 SUPER GENERATION(前編)SUPER GENERATION(中編)SUPER GENERATION(後編) ◆LXe12sNRSs フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、ロック、グリフィス、運転士ダマ(ボイド)、住職ダマB(ユービック)、 ホテルダマ(フェムト)、ギガゾンビ 280 永遠の孤独 -Sparks Liner High-I have no regrets. This is the only path ◆2kGkudiwr6 涼宮ハルヒ、セイバー、野原しんのすけ、キョン、トウカ、住職ダマA(スラン) 281 夜天舞う星と雷 ◆A.IptJ40P. フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、グリフィス 282 ウソのない世界 ◆lbhhgwAtQE ゲイン・ビジョウ、野原しんのすけ 283 I,ROBOT ◆FbVNUaeKtI トグサ、ゲイナー・サンガ、ロック、ドラえもん、住職ダマB(ユービック) 284 タイプ:ワイルド(前編)タイプ:ワイルド(後編) ◆wlyXYPQOyA カズマ、レヴィ、キョン、涼宮ハルヒ、セイバー、住職ダマA(スラン) 285 LIVE THROUGH(前編)LIVE THROUGH(後編) ◆TIZOS1Jprc ギガゾンビ、ホテルダマ(フェムト)、グリフィス、ドラえもん、野原しんのすけ、フェイト・T・ハラオウン、ゲイン・ビジョウ、住職ダマB(ユービック)、ロック、トグサ、ゲイナー・サンガ、遠坂凛 286 涼宮ハルヒの喪失(前編)涼宮ハルヒの喪失(後編) ◆7jHdbD/oU2 セイバー、カズマ、レヴィ、涼宮ハルヒ、キョン 287 Berserk ◆LXe12sNRSs ギガゾンビ、ホテルダマ(フェムト)、グリフィス 288 Reckless fire夢 ◆2kGkudiwr6 カズマ、セイバー 289 静謐な病院Ⅱ ~それぞれの胸の誓い~ (前編)静謐な病院Ⅱ ~それぞれの胸の誓い~ (後編) ◆lbhhgwAtQE トグサ、ゲイン・ビジョウ、住職ダマB(ユービック)、ゲイナー・サンガ、ドラえもん、フェイト・T・ハラオウン、ロック、野原しんのすけ、レヴィ、涼宮ハルヒ、遠坂凛 290 すばらしき新世界(前編)すばらしき新世界(後編)この醜くもなく美しくもない世界 ◆WwHdPG9VGI ロック、野原しんのすけ、レヴィ、涼宮ハルヒ、遠坂凛 291 「射手座の日を越えていけ」(前編)「射手座の日を越えていけ」(後編) ◆LXe12sNRSs トグサ、ゲイン・ビジョウ、住職ダマB、ゲイナー・サンガ、ドラえもん、フェイト・T・ハラオウン 292 第七回放送 ◆WwHdPG9VGI ホテルダマ(フェムト) 293 陽が落ちる(1)陽が落ちる(2)陽が落ちる(3)陽が落ちる(4)陽が落ちる(5) ◆S8pgx99zVs 涼宮ハルヒ、ドラえもん、野原しんのすけ、フェイト・T・ハラオウン遠坂凛、レヴィ、ロック、トグサ、ゲイナー・サンガ、ゲイン・ビジョウ住職ダマB(ユービック)、ホテルダマ(フェムト)、ギガゾンビ 294 終わりの始まり Border of Life ◆qwglOGQwIk ホテルダマ(フェムト)、ギガゾンビ 295 夜の始まり、旅の始まり -Fate-きらめく涙は星に -Raising Heart-消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- ◆2kGkudiwr6 遠坂凛、フェイト・T・ハラオウン、涼宮ハルヒ、シグナム、ヴィータ 296 Moonlit Hunting Grounds突入せよ! ギガゾンビ城いま賭ける、この命 ◆lbhhgwAtQE ロック、レヴィ、ゲイン・ビジョウ、ゲイナー・サンガ、ドラえもん野原しんのすけ、トグサ、住職ダマB(ユービック) 297 今、そこにある闇 ◆B0yhIEaBOI ホテルダマ(フェムト)、ゲイナー・サンガ、レヴィ、ゲイン・ビジョウ、ロック、ドラえもん、野原しんのすけ、住職ダマB(ユービック)、ギガゾンビ 298 GAMEOVER(1)GAMEOVER(2)GAMEOVER(3)GAMEOVER(4)GAMEOVER(5) ◆S8pgx99zVs 涼宮ハルヒ、長門有希、フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、ゲイナー・サンガ、ロック、ドラえもん、野原しんのすけ、トグサ、レヴィ、ゲイン・ビジョウ、ギガゾンビ、住職ダマB(ユービック)、ホテルダマ(フェムト) 299 After1 -Engel- ◆2kGkudiwr6 300 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX ◆B0yhIEaBOI トグサ
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陽が落ちる(2) ◆S8pgx99zVs 【18:24】 「終着に向けて!」 レントゲン室より離れたトグサは、あの部屋よりいくつか通路を隔てた場所にあるリネン室の中にいた。 薄暗く狭い部屋の中、床に腰を下ろし作業に没頭している。 彼の傍らにはノートPC、そして目の前にはツチダマの中の反逆者――ユービックがいる。 ”……どうだ?” ”問題はない” 繋がった電脳通信に互いが満足し頷く。 トグサの手には技術手袋が嵌っており、ユービックにはそれまでになかった孔とスロットが増設されていた。 二人はトグサのうなじから伸びた線により結線されている。 ”よし。じゃあ、作業に入る。もう少しだけ協力してくれ” トグサは技術手袋を床の上に置くとノートPCへと向き直った。 そこには先程の喜緑江美里との対話とは別に、もう一つのウィンドウが開いている。 そこに表示されているログは、レントゲン室で交わされた――本当の会話の内容だ。 いかにしてギガゾンビの裏をかくか、どうやって首輪をはずすのか、またその他の問題をいかにしてクリアするか。 短い時間しかなかったが、彼らは話し合った。エクソダス計画を立てたあの時のように、再び。 そして、それぞれに課せられた仕事をするために動き出したのだ。 彼らのうちの誰かが「もう、終わりだ……」と呟いた。 そう。彼らはもうこれを終わらせるつもりだ。――自らの勝利をもって。 今まで生き残った十人。 ――涼宮ハルヒ、ドラえもん、フェイト、遠坂凛、野原しんのすけ、ロック、レヴィ、トグサ、ゲイナー、ゲイン。 何故ここにいるのか。どうやって生き残ったのか。何を失い、何を得て、この先何を求めるのか。 それは、それぞれに、言葉通り十人十色に違う。何もかもが、ありとあらゆるものに違いがある十人だ。 しかし、それでも共通項を見つけるならば――、 それは――屈しないということだ。 家族や仲間、想い人……、それらを失った時、または戦いに傷ついた時。もう何度も膝を折ってきた。 この熾烈な二日足らずの間に、一度ならず彼らは屈した。だからこそ――、 だからこそ。彼らはもう屈しないのだ。 力及ばないことがあるかもしれない。でもそれでももう屈しはしない。 彼ら十人にはそれぞれに背負ったものがある。または、背中の後ろに置いて来たものがある。 それらのために進む。前へと進むだけだ。ただ全力で。それぞれの十人が。 (ギガゾンビとその僕。リインフォースと闇の書。TPに情報統合思念体。――そして俺達。 最も優秀なスタンドプレーを演じられた者が、この事件の勝敗を左右しそうだな。 そして、まずは俺だ――) トグサは静かに両眼を閉じると、未知の23世紀の電子の海へと飛び込んだ――。 【18:25】 「魔力と魔力と魔力と魔力……?」 「これが、水銀燈のローザミスティカ……?」 遠坂凛とフェイト、涼宮ハルヒの三人の少女はレントゲン室から離れずその場に留まっていた。 後の二人は動きたくても身体の不調がそれを許さなかったからだが、遠坂凛は違う。 この後に予定されている闇の書との一戦に向けて、そこに集められていた支給品の中から 使えるものがないかを探しているのだ。 今、遠坂凛の手の上には一つの光を纏った宝石が乗せられている。そして傍らには同じ物がさらに二つ。 最初の一つは、フェイトが水銀燈の亡骸から直接発見した物。 後の二つはゲインが集めた荷物の中に紛れていたものだ。 荷物の中に別の人形の亡骸があったことから、おそらくそれはその人形の物だったろうとも推測できた。 「……どうですか凛さん。魔力としては十分なものだと思うのですが、使えそうですか?」 ベッドの上からのフェイトの問いに、遠坂凛はふぅむと唸る。 それが極めて大きな魔力を持っているのは分かる。問題はそこに込められた魔力が使えるかだが……。 遠坂凛の世界の魔力。フェイトの世界の魔力。若干の違いはあったものの、それは許容範囲内であった。 それは魔力の操作に長けた遠坂凛だったからこそとも言える。 して、水銀燈の世界の魔力――ローザミスティカはどうだろうか? 魔力の性質としては一番異質だと思える。遠坂凛が水銀燈から聞いている情報からだと、 ローザミスティカは単純な魔力の塊ではなく――各薔薇乙女のためにカスタマイズされたもので、 それぞれに固有の能力が与えられ、また統合することでその能力を併用できるようにもなるという。 そして、薔薇乙女は契約者より魔力を得る。 つまり、ローザミスティカはエネルギーと言うよりも、データという側面が強い。しかも専用のコード付きのだ。 「……体内に取り込めば、それなりに魔力として働くとは思うけど。 それがどれくらいの量になるか、そしてデバイスに通るかは、やってみないとなんとも言えないわ。 彼女達が有していた固有の能力については期待しないほうがいいと思う」 そういう慎重な判断を遠坂凛は下した。 感触としては、ゼロの状態から一気に全快の状態まで回復しても余りある量が期待できるが、過信は禁物だ。 「そう言えば、コレもどうにかならないかって思っていたのよね」 そう言いながら遠坂凛が自分の鞄から取り出したのは、石化した劉鳳の腕だ。 「リインフォースは同じアルター使いなら……って言ったんだけど」 残念ながら、その同じアルター使いであるカズマは先程の放送で名前を呼ばれてしまった。 初見であったフェイトはそれが何かを尋ねるが、遠坂凛の答えを聞くと目を丸くして絶句した。 「あ、いや。……まぁ、彼には悪いと思ったんだけど、その、カートリッジもないしね」 改めて考えても非常識なことだが、今は藁にも縋りたい状態である。使えるものは使うのが遠坂凛の信条だ。 とは言え、彼女の手にも余る物でもあるのだが……。 「……起爆式を仕込んで、いや、……直接。……駄目かな」 遠坂凛を見るフェイトの顔色は、その容態のせいか心なしか青い。 石化しているとはいえ、人の腕を手に独り言を呟くのだからやはり他から見れば不気味だ。 ふむ……と、溜息をつくと遠坂凛は手にしていた劉鳳の腕を鞄に仕舞い込んだ。 彼女が考えていたのは、魔力にできないのなら、いっそ直接爆弾とすることはできないかということだ。 その発想は、彼女がよく知る紅衣の男が得意とする「壊れた幻想」からのものである。 劉鳳の腕に起爆式を仕込み、魔力の連鎖的な解放により爆弾とする。それは可能かと言うことなのだが……、 そもそも劉鳳の腕に閉じ込められた力――それを遠坂凛はよく解っていない。 爆薬の正体が判らなければ、挿すべき信管の種類もまた判らないということになる。 と、言うことで遠坂凛は劉鳳の腕に対する処置を保留にした。破棄しないのはやはりもったいないからだ。 そして、今度はレントゲン室の片隅、邪魔にならない位置に集められている支給品へと手を出した。 それから一分も経たない内に、狭い室内に凛の大声が響き渡った。 横になってまどろんでいたフェイトとハルヒも、その声に何がと慌てて身体を起こす。 「……こ、こんなものがあったんなら、誰か教えてくれてもよかったのに」 遠坂凛が支給品の山から見つけ出したのは、予備弾薬セット。 そして、その中に混ざっていた四十発もの魔力の篭ったカートリッジだった。 【18:27】 「潜行」 トグサがダイブして、まず最初に辿り着いたのは、あのツチダマ掲示板が置かれていたサーバだ。 テキスト形式の掲示板と、僅かな管理システムだけが置かれていただけのサーバ。 どれほどの物かと思っていたが――、 ”とんでもない容量だな……。さすがに二世紀以上も先だと、常識が通用しない” ダイブしたトグサの目の前にあるのは、視覚化された大容量の、それも九課の電脳システムを まるごと展開したとしてもそれが数十は入るであろう、広大な電子の箱だった。 ”だが、都合がいい” トグサは早速、自らに課せられた仕事に取り掛かる。 彼に課せられた仕事は、メインコンピュータに侵入してデータベースから首輪に関する情報を抜き出す――ではない。 それではもう間に合わない。なので、難度が跳ね上がるがより短時間で済み、また効果的な方法を取る事になった。 首輪のシステムの根幹を成すもの、それは電波だ。ゲイナーや他の検証によりそれは判明している。 今までのやり方は、それを首輪の側から解決するというものだった。そして、新しい方法はその逆。 つまり、操作する権利を持つギガゾンビ側のシステムを――落とす。少なくとも通信システムを……ということである。 ”再起動完了~♪ ……って、トグサ君じゃないかぁ” ユービックに差し込まれた、タチコマのバックアップメモリからのデータ転送が終了し、そこにタチコマのAIが現れた。 さらにトグサからのコマンドによってタチコマは複製され、その声が電子の世界にリフレインする。 一瞬にして領域内に数十機のタチコマが現れ、それらはトグサの号令の下に幾何学模様の陣を組んだ。 ”トグサ君、おひさしぶり~♪” ”ここはどこぉ? もしかして天国だったり” ”広~い。けどなんにもないねぇ” ”死んだ後も仕事だんなてAI使いが荒いなぁ” ”タチコマは滅びぬ! 何度でも蘇るサ!” ”ところでフェイトちゃんは~?” ”あ、そうだ。フェイトちゃん” ”ボクも気になる” ”どうなったんだろう?” あっと言う間に空間内がフェイトちゃんコールに満たされた。 相変わらずなところにトグサは苦笑するが、仕事に関しては任せられる連中だ。 フェイトの無事と、後三十分で仕事を終えないと、彼女と残った全員が死ぬことを教えてタチコマ達を震えさせると、 トグサはタチコマ達にコマンドを送ってそれぞれに仕事を宛がった。 トグサの命令が届くと、たちまちタチコマ達は電子の海に散らばった。 まずは、サーバの中にハッキングに必要なシステムが組まれ始めた。言うならばこれは橋頭堡だ。 トグサの電脳にも例のノートPCにも、スペックと容量の両面から見て、これから行われるハッキングには力不足だ。 なので、初手として本格的な侵攻を行うための礎が、サーバの中に電子の砦として築き上げられていく。 ”ここと同様のシステムを他にも発見しました~。数は6。生きているのは3です” 斥候の役割を課していたタチコマ達が戻ってくる。 ――数は6。 おそらくは、このサーバの本来の使用目的は亜空間破壊装置の制御、観測なのであろう。 そうトグサは推測した。そうでなければ、こういったコンピュータを別途用意している理由が説明できない。 攻めるにあたり砦の数は多いに越したことはない。トグサは戻ってきたタチコマに再び命令を与えた。 ”一台は独立解析機。もう一台はおとりに使う。多層防壁迷路を組んでデコイアレイを展開しろ” らじゃ~♪ とおどけた返事をしてタチコマ達は再び散開する。 時間は少ない。そして敵の能力は未知数。その上でトグサが選んだ戦略は奇襲だ。 選んだというよりはそれ以外に方法がなかったとも言える。 時間が無く、敵の実力が未知数である以上最大戦力による一撃――これに賭けるしかなかった。言い換えればカミカゼだ。 ”ウィルスアレイ及び、システムデータ、その他全データの展開終了しました” 同サーバ内で作業を行っていたタチコマから報告が入る。 宛がっていた仕事は、長門有希が人知れず用意していたデータの解凍作業だ。 ”展開が終了したら各データを解析。用途別にリスト化して、各所に配分。更新できるものはそうさせろ” は~い♪ と声を合わせて返すとタチコマ達は早速新しい作業に取り掛かる。 長門有希が用意したのは城を落とすための武器だ。それによって、トグサ達は武装する。 それらは、彼等が知るものより遥かに高度な技術によって組み上げられているのだったが、 九課へと宛先があったとおり、トグサ達が使うシステムに適合させられてあり、使用には問題なかった。 ”コレ見て見て♪” ”構造解析~♪ 構造解析~♪” ”うわ~、こんなのありえないね” まるで新しい玩具を与えてもらった子供のようにタチコマ達がはしゃぐ。 21世紀の技術レベルから見れば、与えられた物はまさに超兵器だ。はしゃぐのも無理はない。 こうして、トグサの仕事――ギガゾンビ城への電脳を介した侵攻は動き出した。 【18:39】 「兵共が夢の跡――出立」 トグサが今の道へと至る出発点となったのが此処だった。 セラスと出会い、一時は拳を交わしまた共に戦ったのが此処だった。 獅堂光が、ガッツが、クーガーが、高町なのはが、キャスカが、さらに幾人も、幾人も、幾人もが此処に辿り着いた。 ある者は通り過ぎ、またある者は戦い、そしてまたある者は此処で死んだ。 野原みさえが死んだのも此処だった。 ――そして、ゲイン・ビジョウがエクソダスの、その最初の一歩を踏み出したのが此処だった。 ゲイン・ビジョウは灰色の中に立っている。 彼が最初に此処を訪れた時、此処には地味ではあるが気品を感じさせる彩があった。 だが、今は灰色だ。簡単には語りつくせぬほど色々なことが此処であったが、やはりもう灰一色だ。 本当に様々なことがあったのだ。ならば、此処の風景はもっと雄弁でもいい。そう思っても、そこは残酷なほど灰色だった。 ――唯一点、灰色でない場所がある。 ゲインの目の前、すでに命を――生命の彩を失った者達が眠る墓。そこだけは灰がよけられ赤い地面をあらわにしている。 ゲイン・ビジョウ、ロック、そして野原しんのすけの三人は、最初はホテルが建っていたその跡地にいる。 目的はトグサが交信した相手――喜緑江美里が求めた条件の一つであるTFEI端末、つまりは長門有希の遺体の回収だった。 もう一人のTFEI端末である、朝倉涼子がどこで死んだのかは誰も知らなかったので、必然的にこちらが選択されることになった。 そしてそれはもう成されている。ゲインの目の前にある墓の一つは暴かれ、空虚な穴を晒していた。 彼女の遺体は、病院から乗って来た救急車の中だ。そしてその運転席にはロックがいた。 残りの一人、野原しんのすけはゲインの隣、野原みさえ――母親の墓の前に立っている。 ゲインはそれを見て想う。野原みさえを――彼の依頼人を。彼にエクソダスと息子の命を託した母親を。 彼女を埋葬してくれたのは、今は亡きキョン、トウカ、園崎魅音の三人だという。 救うことが出来なかった三人。彼らが倒れた場所には、未だ野ざらしのままの者もいる。 ならば、今度は自分達が彼らを弔うのが道理だろう。 今はまだできないが……、全てが終われば必ずそうしよう。そう、ゲインはそれを固く心の中で誓った。 しんのすけの前にあるのは、赤い土を盛った小さな山だ。 この下に自分の母親が眠っているとしんのすけは聞かされた。ゲインが言ったのだから本当だ。 目の前にかーちゃんがいる。そのかーちゃんに向かい、しんのすけは一人語りかけ始めた。 「……オラ、オラもう、お寝坊はしないゾ。朝ごはんだって残さないし、お片付けだってする。 おやつも食べすぎたりしないし、TVもがまんする。毎日、ちゃんと歯みがきをして寝る。 幼稚園にも毎朝バスに乗って行くし、ひまわりの面倒だって忘れない。 おりこうにするし、シロの世話だって絶対忘れない。 ……いっぱい、食べて、勉強して、イイ学校に行って、……とーちゃんみたいなとーちゃんよりすごい男になる! ひまわりだって、かーちゃんみたいなかーちゃん以上のイイ女になる! だから……、だから! かーちゃんは心配しなくていいゾ! 全然心配しなくてイイ! オラも、ひまわりも……大丈夫、だから。心配しなくても大丈夫だからっ! だから、かーちゃんは、……そこで、寝ててもいいゾ。 オラ……、もう……、かーちゃんに面倒、見てもらわなくても……大丈夫だから。 だから、ずっと、そこで寝ててもいい……」 赤色の地面にポタリ、ポタリと雫が落ちた。ポタリ、ポタリととめどなく落ちた。大粒の雫がいくつも落ちた。 肩が、膝が、握り締めた拳が、噛み締めた歯が、なにより心が震えていた。でも、我慢した。 ――しんのすけは男の子だから。 「オラ……、お仕事が、あるから……、もう行くゾ。 みんなで、しなくちゃならないことがあるから……。 遅くなるかもだけど、帰ってくるから。 絶対! 絶対! 絶対! 絶対! 帰ってくるからっ!」 だから……、だから……、 「 ――行ってきます 」 【18:36】 「雪、無音、窓辺にて。」 広大な電脳の海の中、一人トグサはそこに漂っていた。 その眼下にあるのは、巨大な電子の城だ。 円形に配置されたデータを、さらに円環状に並べた電子の曼荼羅図。 さらにその曼荼羅が積み重なり、うねりを持った螺旋を描いて巨大な電子の塔となっている。 そして、高さの異なる電子の塔が幾重にも並び立つ異形――それがギガゾンビの城だった。 ”全くデタラメだな。デカトンケイル級をも遥かに超えているじゃないか” トグサは一人ごちる。 彼我の戦力差は比べるべくもない。だが、だからと言って諦めるわけにもいかなかった。 攻城戦は戦力差だけが全てではない。いかに開城させるかの勝負だ。開きさえすれば攻める方が有利になる。 ギガゾンビの城に繋がる三つのサーバ。そこから城に向けて何かが送られていた。 未だ生きている、亜空間破壊装置の状態情報を取得するための監視システム。 そこに、その情報に偽装した結合型ウィルスをタチコマ達が今せっせと流している。 ”進捗は?” ”現在89%まで送信完了しています。終了までは後72秒かかる予定となってます” ”完了するまで気取られるなよ。隠密性を優先だ” ”らじゃ♪” トグサの中に緊張が高まる。後一分ほどで戦争が始まり、それは十数分後には決着しているだろう。 勝てば、彼らは首輪の呪縛から解放される。逆に負ければ、その場で全員が命を失うだろう。双肩にかかった責任は重い。 ”タチコマ#036から#059までは、俺の電脳防壁設定が正しく機能しているかを常に検証” ”了解しました。120毎秒回数でチェックします” ”タチコマ#60から#156までは、ハッキングが始まったらレベル6でこちら側の走査と記録を開始。 時限式、結合式のウィルスを含んだ文字列が書き込まれていないか監視しろ” ”アイサー。全タチコマ、一丸となって取り組みま~す” ”対逆探知措置、対迎撃措置スタンバイ” ”もうやってる。……今のイシカワさんの真似ですけど、似てました?” ウィルスを送信しているタチコマから連絡が入る。――送信完了まで、後10秒、……9秒、……8秒、……、 ”まずはデコイを先行させるぞ。相手の攻性防壁には気をつけろ” ”は~い♪” 電脳空間中のトグサの周辺に、姿を隠していた無数のタチコマが姿を現す。その数――六千騎。 残り……7秒、……6秒、……5秒、……4秒。 ……3秒、……2秒。 ……1秒。 ”送信完了しました。起動します” 長門有希が用意した一種のウィルスが、ギガゾンビの城の中で結合し起動する。 その様は、電脳内での現象を視覚化しているトグサに、ある自然現象を思い起こさせた。 それは―― ”……雪?” トグサの目の前。音も、星の光もない、電脳の真っ暗な空。そこに、淡く白い雪が降っていた。 時系列順に読む Back 陽が落ちる(1)Next 陽が落ちる(3) 投下順に読む Back 陽が落ちる(1)Next 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) 涼宮ハルヒ 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) ドラえもん 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) 野原しんのすけ 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) フェイト・T・ハラオウン 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) 遠坂凛 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) レヴィ 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) ロック 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) トグサ 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) ゲイナー・サンガ 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) ゲイン・ビジョウ 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) 住職ダマB(ユービック) 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) ホテルダマ(フェムト) 293 陽が落ちる(3) 293 陽が落ちる(1) ギガゾンビ 293 陽が落ちる(3)
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349 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/06(土) 00 16 03 ID softbank060146109143.bbtec.net [6/86] 憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS「電脳刑事は電子彼岸花の夢を見るか」 C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 公安九課オフィス オフィスの共有スペースに入ってきたバトーがその目で見たのは、紙の書籍をめくっている素子の姿だった。 珍しい、という言葉では足りないものだった。 公安九課に属する関係上、義体さえも国家の備品であるため、持ち物は脳みそとゴーストしかない素子が、明らかに私物を持ち込んでいたのだから。 また、電脳化が普及して久しい現代において、紙媒体の娯楽品というのはなかなか珍しいものだった。 その気になれば何万という書籍をアーカイブとして記録し、一瞬で検索できるというのに、わざわざ目と手を使って読んでいるのだ。 ゆっくりと、紙に印字されている文字列をゆっくりと追いかけ、物語の中に没入している。 『貴船』 表題には、そのようなタイトルが躍っている。 ネットにつながり、検索をかけてみれば、それが推理小説だということが分かった。 (珍しいこともあるもんだな……それに、推理小説か) 推理小説。 バトーもそのジャンルくらいは知っていた。同時に、現代においてはかなり衰退しているジャンルであるということも。 現代において、義体化や電脳化技術の発展は著しい。その結果として、古典的な推理や刑事モノというのはその質を変容させていた。 記憶の改ざん、視覚を含む五感の欺瞞、リモート義体によるアリバイ工作、あるいは偽の記憶を植え付けるゴーストハックなどなど。 それらが古典的な種や仕掛けの成立を粉砕してしまう状況下にあるためだ。 誰が、いつ、どうやってと文面から読み取れる情報から導き出そうとする試みを無に帰してしまう、そんな技術の発展があった。 よって、電脳化などが普及する前の、過去の世界を舞台とした推理小説というのが今日の主流となっている。 現代を舞台とした推理小説もないわけではない。だが、その数が決して多くないことが、多くの作者の筆を苦しめていることがわかる。 そして、現在素子が目を通しているのは、推理小説の中でも珍しい電脳化などが一般化した現代を舞台としたものだった。 いつ、だれが、どうやって、どこで。そのいずれの要素があやふやな中で、確かな証拠を集めながら探偵が事件に挑むというもの。 古典的で手垢まみれのようなものだが、少なくとも悪い評価ではないようだ。電脳やゴーストの技術についての知見に基づいているのがリアリティを生んでいる。 「バトー……?」 「珍しいな、お前が読書するなんて」 「ちょっと、ね」 やがて、視線をふと上げた素子は読書をしていたのをバトーに見られていたことを遅れて認識した。 それほどに集中して文面を追いかけ、描かれている架空の世界の、架空の事件にのめり込んでいたということだ。 「どういう風の吹き回しだよ?」 「……そうね、簡単に言えばトグサの言葉が気になっていたのよ」 「トグサが?」 現在も「精肉屋」のことを精力的に調査している九課の中でも珍しい「刑事」の名を聞き、これまたバトーは驚かされた。 一体、どういう因果関係の果てに、素子がそこに至ったのであろうか。俄然興味がわいたのだ。 350 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/06(土) 00 16 58 ID softbank060146109143.bbtec.net [7/86] 対面に座り、バトーは素子の言い分を聞くことにした。 ついでに愛用の筋トレセットを手にして、いつものように体を動かしながら。 「精肉屋と鉢合わせた時の事、覚えているかしら?」 「ああ、よーく覚えているさ」 「ビルに突入した後のことだけど、トグサは言っていたわ。 『その手段や方法は、どう考えても我々の考えの上を行く。普通では追いつけることができないかもしれない』とね」 そして、とその後にトグサが漏らした重要なワードを述べた。 「何故やったのか(Why done it)を重点据えて考えるべきかもしれない、とも」 「何故……だと?」 それは、一般的に推理小説においては後から明かされる事実に付随するものだ。 犯行の動機、とも言い換えても差し支えない。 なぜそのように犯人は行動したのか?あるいはそのようにしなければならなかったのか? HowやWhoなどよりも消極的であるかもしれないが、それでも推理においては一つの視点と言えるだろう。 「そう、テロリストを狩りつくしている『精肉屋』。その動機は?と話していたでしょう?」 「ああ。トグサの奴は『テロリストや犯罪者がいなくなることで、利益が出る人間がかかわっている』と言っていたな」 「そこなのよ」 書籍を閉じた素子は我が意を得たり、と頷いて言った。 「相手は説明のつかない方法を用いているようであるから、それを探っていても意味がない。 だから、何故その行動を起こしたのかという点に、トグサは着目していた」 「確かに、精肉屋の行動パターンや犯行については不明な点が多いが……」 それが解決につながるのか?というのがバトーの素直な疑問だ。 「軍人上がりの私たちには無い視点でトグサは調査を進めている。 その視点で何かわかることがあるかもしれないなら、期待して待つのが正しいでしょう?」 「……確かにあの現場にトグサを引き入れたのはお前の判断だったがな、何か確証があるのか?」 「さあ?わからないわ、調べているトグサは何か仮説があるのかもしれないけれどね。 それで、私は義体が調整が終わるまでに、少しでもトグサの視点を理解しようとしたわけ」 それでこれよ、と手にしていた「貴船」の文庫本を差し出す。 「このミステリー小説はその『何故やったのか(Why done it)』に重点が置かれているの。 これで少しは視点を理解できないかと思ったのだけど……」 「どうだった?」 真剣な問いのバトーに対し、素子は軽く笑って肩をすくめた。 「どうにも肌に合わないわ。 私なら、全員の記憶に探りを入れて徹底して調べるわね」 「だろうな」 結局のところ、軍人やレンジャーという経歴を持つ自分達には難しいこともある。それに順当に素子はぶつかったのだ。 「だからこそ、トグサに期待しているのよ。私が見込んだ刑事ならってね」 「なら、吉報を待つとするか。それ、貸してくれるか?」 「ええ」 殺伐とした仕事のある九課には珍しい、穏やかな時間が過ぎていた。 さりとて、二人は内に闘志を秘めている。次こそはと、リベンジを誓っていたのだから。 しかし、その闘志が思わぬ形で梯子を外されるのであるが、それはもう少し先の事であった。 351 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/05/06(土) 00 17 35 ID softbank060146109143.bbtec.net [8/86] 以上、wiki転載はご自由に。 色々とこねくり回していましたが、準備ができたのでトグサ君の事件簿、始まります。
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【薄暗い劇場の中で】 ◆S8pgx99zVs 破壊されたショーウィンドウ。ひび割れたアスファルト。へし折れた街灯。 血をぶちまけた様な色の夕日に染められたその光景は見る者に地獄を思わせた。 そこを一台の軍用トラックが北へと進路を向けゆっくりとしたスピードで走っている。 フロントガラスの向こうに見えるその風景に運転席のトグサは緊張を高める。 市街中央から病院へと向かった道とは打って変わって、そこから先はバッファローの群れが 通り過ぎたかと思うような酷い有様だった。 ――また選択を誤ってしまったのか?彼の頭にそんな考えが過ぎる。 知らず知らずの内に猛獣の住処へと入り込んでしまっているのではないかと。 先刻出会った男――次元大介からの情報だと、この先にいて脅威になる相手は佐々木小次郎 という侍風の男だけのはずで、しかもそいつは自分達には興味を持たないだろうと推測されている。 だが、それはあくまでそいつしか確認できていないということだ。全く感知していなかった何者かに 襲われるという可能性は常に否定できない。 トグサはバックミラーに目をやり後部座席に座っている二人の少女の様子を見る。 一人はやや緊張した面持ちで、もう一人は無表情に窓の外を見ていた。 彼女達もこの風景を見て、自分達が地獄に踏み込んでいる様を幻視しているのか? 口を利かぬ二人の少女を見て彼はそんな風なことを考えた。 それから間もなくして一行を乗せて走るトラックの前に映画館が現れる。 シネマコンプレックスからは程遠い、こじんまりとした趣の名画座と呼ばれる類のものだった。 そこは周りとは異なり戦闘の被害を受けたような気配は見当たらず、凄惨な舞台の中にポツンと 現れたノスタルジー溢れる建物にトグサは少し安堵する。 トグサはスピードを落とし周りの気配に気を使いながらトラックを正面の入り口に横付けすると、 一人トラックから降りて後部座席で置物のように固まっている長門の声をかけた。 「長門。運転席に移っておいてくれ。俺が先に中を確認してくる」 彼女の些細な頷きを肯定と受け取ると、彼は手に拳銃を構え映画館の中へと滑り込んだ。 残された長門は指示の通り、ゆっくりだが無駄のない動きで運転席へと移動する。 「有希。あんた、車の運転なんてできたの?」 質問したのは同じく車内に残された涼宮ハルヒだ。彼女の問いに長門はただ「できる」とだけ答えた。 「ふーん……。まぁ、あんな子供にもできるぐらいなんだから簡単なんだろうけど。 ……そうね。私も元気が戻ったら一度運転してみようかな。ここじゃ法律も気にしなくていいだろうし」 ここに仮に同じSOS団員であるキョンがいれば、「お前がいつ法律を気にしたことがあるんだ?」などと 突っ込んだだろうが、彼はここにはいない。いるのは寡黙な長門だけだ。 「それは推奨しない。あなたは運転すべきではない」 だがその寡黙な彼女が珍しく二言以上の言葉でそれを否定した。彼女の中で情報がどう処理されたかは 余人には解らないことだが、案外彼女も同じようなことを考えたのかもしれない。 珍しい長門の否定にハルヒが眉を寄せていると、その頭の後ろでコツコツと音がした。 振り返ると、荷台に乗っている石田ヤマトとアルルゥがガラス越しに車内を覗き込んでいる。 「どうしたの?」 ドアの窓から頭だけを出してハルヒが後ろの二人に問いかける。 「それはこっちのセリフだよ。なんでみんなで中に入らないんだ」 同じく荷台から顔を覗かせてヤマトが問い返す。 「今は中の安全を確認中よ。さっきみたいに中で化け物と遭遇なんてもう御免でしょ」 その言葉を受けてヤマトの顔に陰が差した。ハルヒも自身の失言に気づき表情を歪める。 「し、死んでなんかないわよ! あーいうのは殺そうとしても死なないようなヤツなんだから。 どーせ今頃はどっかで暢気にブーブー言ってるわよ」 取り繕うものの、ハルヒの中でも彼の生存は絶望的だった。そして、どう思おうが次の放送が 来ればそれははっきりしてしまうのである。 ブ~~~~…… 静寂の内に、か細い豚の鳴声……ではなく、かわいらしいアルルゥのお腹の音が鳴った。 一足先に映画館の中へと入ったトグサは、かろうじて非常灯だけが灯った、薄暗いロビーの中を 拳銃片手に探索していた。外と同じく戦闘があったような気配はない。あまり広くないその空間を 彼は慎重に、そして手早く確認していく。 ロビーの中をあらかた確認すると、彼は最後にチケットカウンターの中を覗き込んだ。 だが残念ながらそこに彼が期待したものはなかった。その手に受話器は握られていたが、 「内線か……」 それはこの館内で連絡を取り合うための内線だった。彼の探す電話はこのロビーにはないようだ。 となると、考えられるのは従業員のみが立ち入れる区画。おそらくは事務所だろう。 そう当たりをつけると、トグサは電話を探すのを一旦止めて映画館の入り口へと戻った。 「ロビーまでの安全は確認した。全員入ってくれ」 館内から戻ってきたトグサに誘導されて四人は映画館の中へと入る。 だがそれとは逆にトラックに入り込む彼に、それを訝しがったハルヒが声をかける。 「あんたはどうすんのよ? まさか一人でどっかにいったりするんじゃないでしょうね?」 「いや、車を目立たない場所に動かすだけだ」 トグサは運転席からそう答えを返すとそのままトラックを発進させた。 そしてそのまま映画館脇の路地の中にトラックを滑り込ませる。偽装には程遠いがかろうじて 不自然ではないぐらいだ。キーをそのままにトラックから降りると荷台に放置されていた ロケットランチャーを自身のデイバッグに回収してトグサは映画館へと小走りに戻った。 ――!? トグサが映画館の中に戻ってくると、そこは最初の時と同じように静かだった。 先に入ったはずの四人の姿が見当たらない。まさかこの短い時間の内に何かトラブルが? 「……嘘だろ?」 湧き上がった焦燥感に駆られロビーの中を駆ける。だが四人の姿は影も形もない。 と、トグサが彼女達を呼びかけようとした所で不意に開いた扉から長門の顔が覗いた。 吸い込んだ息が大きく吐き出される。 「あんまり驚かせないでくれ。ロビー以外はまだ……って、映画か?」 音を通さない分厚い扉の向こうでは映画が上映されていた。 擬人化された動物による人形劇。 この状況とはそぐわない牧歌的な――いやそうでもない。何故ならその内容は連続殺人事件を 扱ったミステリーサスペンスなのだから。 場面は物語のクライマックス。十二角館連続殺人事件の犯人が探偵によって追い詰められ その動機を明かすというシーン。 『ただ、思いついて面白そうだと思ったからやったんだ。それの何が悪い』 …………そんなのありかよ。と、トグサは心の中で突っ込んだ。 彼の隣に立つヤマトも同様の感想らしい。苦虫を噛んだ様な表情をしている。 逆にハルヒは、「それでいいのよ!」と言わんばかりの得意げな表情だ。 姿が見えないアルルゥをトグサが探すと彼女は椅子の陰にしゃがみこんでいた。 どうやら初めて見る映画とその内容に恐怖したらしい。 ……ともかく。 「お前達。そんなものを見ている余裕は俺達にはないんだぞ。さぁ出るんだ」 トグサの当たり前の提案で、四人はまだ続く映画を後にロビーへと戻った。 一行はロビーの片隅。ソファがコの字に並んだ休憩所に腰を下ろした。 今後の対策を練ることも重要だったが、この悪趣味なゲームが始まってすでに約18時間。 全員疲弊しており、柔らかいソファに座って気を抜くとそれまでの疲れがドッと彼らを襲っていた。 トグサ以外の四人はソファに身体を預け、不味そうにパンをボソボソと食べている。 というか…… 「本当にマズいわねぇ……」「……うん」「不味いな」「うー……」「………………」 食えないほどではないが、微妙に気に障る絶妙にいやらしい不味さであった。 だがポップコーンもホットドッグも機械の中には無く、ドリンクサーバーも空。 五人は文句を言いながらも空腹を満たすためにパンを水で流し込んだ。 トグサは一人手早く食事を済ませるとソファから立ち上がり、電話を探すべくロビーの奥に見える 『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉へと向かって歩き出した。 途中、横目に観客席への扉の前を通り過ぎたところで思いつく。 ――何故、映画が流れているのか? ここは映画館なのだから当たり前なのだがそれに違和感がある。何故か?すぐに思い当たった。 トグサは足早に扉を潜るとまずは映写室へと足を向けた。 ――映写機を動かした誰かがいたのかもしれない。可能性は低いがもしそうだったとしたら その痕跡から情報を得られるかもしれない。 薄暗く細い通路をトグサは走る。 映写室の中には、引き出し一つ無い簡素な机の上に映写機と一つのフィルム缶があるだけだった。 ――考えすぎだったか。 常に脱出へのヒントがないかと気を配っていたが、そうそう簡単に見つかるものでもない。 軽い嘆息と共に緊張を解くとトグサは何気なく机のフィルム缶を手に取った。 それは、ただ今上映中の映画のタイトルがなんなのか、それが気になったというそれだけの 些細な理由だったのだが、彼は手にかかる以外な重さに一瞬戸惑った。 ――フィルムが入っている? てっきり今上映しているフィルムの空き缶かと思いきやそうではなかったらしい。 ――まさか!? いやもしかして。 ラベルにタイトルはない。この中には一体何が収められているのか……? ヒントを見つけられたのかもしれない。その期待に再び彼の中に高揚と緊張が高まる。 フィルム缶を開く前に時計を確認する。 もう6時寸前だ。予定通りなら間もなく例の放送が始まるだろう。 それに電話を探してホテルに残っているだろうセラスに連絡を取らなければならない。 フィルムの中身を確認するのはその後でも遅くはない。 トグサは謎のフィルムを脇に抱えると、全員で放送を迎えるべくロビーへと駆け戻った。 ※ハルヒ、長門、トグサ、ヤマトら四人分の食料、二食分ずつを五人で分け合って食事しました。 【B-4/映画館/1日目-夕方(※放送直前)】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気 [装備]:S W M19(残弾1/6発)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本 [道具]:支給品一式(食料-2)/警察手帳(元々持参していた物) :暗視ゴーグル(望遠機能付き)/技術手袋(使用回数:残り17回)@ドラえもん :RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1) :首輪の情報等が書かれたメモ2枚/タイトル不明のフィルム [思考]基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1.全員で放送を聞く。 2.電話を探しホテルのセラスと連絡を取る。 3.タイトルのないフィルムの中身を確認。 4.その後で今後の方針を決める。 5.全員に休憩を取らせる。 6.情報および協力者の収集、情報端末の入手。 7.タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。 [備考]風・次元と探している参加者について情報交換しました。 情報交換により佐々木小次郎という名の侍を危険人物と認識しました。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟/SOS団特別団員認定 疲労と眠気/右腕上腕に打撲(ほぼ完治)/右肩に裂傷(手当て済) [装備]:クロスボウ/スコップ [道具]:支給品一式(食料-2)/ハーモニカ/デジヴァイス@デジモンアドベンチャー/真紅のベヘリット@ベルセルク クローンリキッドごくう(使用回数:残り3回)@ドラえもん/ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし) [思考]基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 1.ぶりぶりざえもん………… 2.ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。 3.八神太一、長門有希の友人との合流。 [備考]ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 ぶりぶりざえもんは死亡したと思い込んでいます。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:疲労と眠気/頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物) 左上腕に負傷(ほぼ完治)/心の整理はほぼ完了 [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料-2)/着せ替えカメラ(使用回数:残り19回)@ドラえもん インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考]基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームから脱出。 1.みんなで作戦会議をする。 [備考]腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:思考に軽いノイズ/左腕骨折(添え木による処置が施されている)/SOS団正規団員 [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料-2)/タヌ機(1回使用可能)@ドラえもん [思考]基本:涼宮ハルヒの安全を最優先し、状況からの脱出を模索。 1.涼宮ハルヒを休ませる。 2.小次郎に目を付けられないように注意する [備考]癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:疲労と眠気/右肩・左足に打撲(ほぼ完治)/SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの/ハルヒデザインのメイド服 [道具]:無し [思考]基本:ハルヒ、トグサ達と一緒に行動。エルルゥに会いたい。 1.眠たい…… [共通思考]:映画館で休息をとる。佐々木小次郎を最優先に警戒。 [共同アイテム] :73式小型トラック(※映画館脇の路地に停めてあります。キーは刺さったまま) おにぎり弁当のゴミ(※トラックの後部座席に放置されています) マウンテンバイク(※トラックの荷台に残されたままです) 時系列順で読む Back 「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」 Next 第三回放送 投下順で読む Back 「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」 Next 第三回放送 187 「救いのヒーロー」(後編) トグサ 218 I believe you 187 「救いのヒーロー」(後編) 石田ヤマト 218 I believe you 187 「救いのヒーロー」(後編) 涼宮ハルヒ 218 I believe you 187 「救いのヒーロー」(後編) 長門有希 218 I believe you 187 「救いのヒーロー」(後編) アルルゥ 218 I believe you
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SECRET AMBITION ◆2kGkudiwr6 放送が終わる。ホログラムが消える。 病院の玄関の外、入り口の脇に背を預けながらトグサは毒づいていた。 「……くそ、いったいどうなってるんだ」 考え込んでいる余裕は無い。しかし考えずにいられない。 最悪、病院に向かったメンバー全てが放送で呼ばれることさえ覚悟していた。 だが、劉鳳とセラスは無事だ。それがトグサの思考に引っかかりを残している。 武が放送で呼ばれた以上、彼らは戦闘に巻き込まれ、犠牲者を出しながら撤退に成功したと考えるのが普通で自然だ。 ならば、なぜ進路を変えて映画館へと来なかったのか―― たかだか500m程度の道のり。避ける理由はないし、すれ違いにもなりにくいはずだ。 (来られないほどの重傷を負った? だからどこに隠れて休んでる? いや、それならぴんぴんしているあいつらが追撃しない理由がない……) 仲間の死は痛ましいことだ。だがそれよりも警官としての思考回路が、トグサの頭に疑問符を浮かばせる。 もっとも、考え込む余裕など今のトグサにはない。薬莢の排出音が意識の端に届くと同時に、彼は反射的に伏せていた。 あくまで警官としての経験から動いただけ。ほとんど反射的に動いたようなものだったが……結果的には幸いだった。 『Divine Buster Extension』 間一髪、桜色の魔力光が壁を破壊しながらその上を掠めていく。 光が止んでしばらくしても、トグサの言葉はない。いや、出せない。 トグサ自身は無傷だ。だが、その破壊の痕は彼を黙らせるには十分すぎる。 「冗談だろ……」 やっと出たのは、そんな月並みな言葉だけ。 彼の目の前にあるのは、病院の壁。そして、そこに穿たれた穴。 ――ただし、その穴は人を易々と飲み込めそうな幅があったが。 それを生み出したのは物理設定のディバインバスター・エクステンション。 砲撃においては凛は高町なのはに及ばないとは言えど、それでもその威力や射程は壁ごと敵を吹き飛ばすに足る。 魔法に疎いトグサでも、それは嫌になるほど理解できた。 (立ち止まってたらやられるだけだ……!) そう判断したトグサは素早く立ち上がって走り出した。 離れるためではない。だが玄関から馬鹿正直に突入するためでもない。 (何かがおかしい。ここで退いたら、それはきっと分からない) ただひたすら、病院の外壁に沿って走り出した。上手く隙を突いて、内部に侵入するために。 ■ 病院の玄関に、魔力が満ちていく。 霧散した魔力の残り香が、水蒸気のようにその場に増えていく。 『Reload』 弾丸が再び装填されると同時に、機械音が響く。 デバイスから発せられる煙がその場の魔力を更に増していく中、 凛は険しい表情で先ほど穿った穴を見つめていた。 「レイジングハート」 『All right, Area search』 凛の言葉に従って、レイジングハートは魔法を行使した。 障害物が多い屋内戦において、相手の位置が分かるエリアサーチは非常に有効だ。 もちろん、位置が分かっても間に障害物があるのには変わりない。 しかし、凛の魔力とレイジングハートの魔法なら障害物など関係なく砲撃できる。 隠れているなら障害物ごとまとめて吹き飛ばせばいいという考えはある意味なのはらしく、 そういう意味では凛もレイジングハートのマスターらしくなってきたと言えるのだが、しかし。 ――高町なのはは、絶対に人を傷つけない。 『He is still alive』 「位置は?」 『正面左30°。 しかし相手は走っているようです。障害物がある以上砲撃の狙いを付けるのは難しいかと』 「……でしょうね。 上手く部屋に入ってくれれば、結界を仕掛けておしまいにするんだけど。 撤退したわけじゃないのよね?」 『Yes』 溜め息を吐きながら、凛は左手を顔に当てて考え込む。 エリアサーチの行使とディバインバスターの発射にはそれぞれ少しずつ時間が掛かる。 そして、エリアサーチとディバインバスターを同時に行使することはできない…… つまり、姿を隠して動き回ればなんとか回避し続けられるということだ。 さっきトグサが吹き飛ばされかけたのも、一つの場所に留まっていたから。 凛にできるのはあくまでおおまかに位置を探ることだけ。 壁という障害物がある以上、凛一人で相手の正確な位置を探るのは不可能だ。 凛、一人なら。 「水銀燈。これから共感知覚を掛けるわ」 「……何それぇ?」 「魔力のパスが繋がってる相手の知覚を共有する魔術よ。 これを使えば、私は水銀燈の目を通しても見ることができる。 あんたの方が小回りが利くでしょうし、相手に接近して牽制をして。 私はそっちの視界を参考にして砲撃を仕掛ける」 手を顔から離した凛は、すぐに水銀燈に向き直ってそう告げた。 共感知覚。かつて凛の父、時臣が言峰綺礼に伝授したもの。 使い魔を通して遠くの場所を見られる……この状況下においてはこれ以上なく役立つ魔術だ。 しかし、凛の言葉にすぐさま反対の声が返ってきた。それも、当事者以外から。 『また彼女に単独行動をさせるのですか、マスター?』 「……しょうがないでしょう。隠れたまま砲撃の狙いを付けるにはこれが一番いい」 『……ですが!』 微妙に歯切れの悪い凛の言葉に、レイジングハートは語気を荒げていた。 一応凛自身も、疑うべきだと理性では分かっているのだが……感情はまた、別の話だ。 そもそも、いきなり不意打ちで銃撃を喰らったことに対する恨みもあるのだから。 だが、不平の声を上げたのはレイジングハートだけではなく。 「ふぅん。でもそれ、私だけ相手に姿を晒すってことよねぇ?」 「……分かったわよ。強化魔術も掛けとく」 『…………』 水銀燈の言葉に、凛はそう答えて……その対応への不満を、レイジングハートは沈黙を以って表現した。 それでも機械である以上、やることは変わらない。不満があっても主の意志に従うだけだ。 レイジングハートが弾丸を排出。同時に、凛の左腕が淡く光り出す。 「Gros zwei―――Satz. Beklagter, meine Warter werden geglaubt. Weis ist schwarz. richtige Richtige Peitsche. Die Vergeltu ng von Himmel」 光が水銀燈を包む。 連続した魔術の詠唱が人形の体を変化させていく。 本来、他人に対して掛ける強化魔術は難しい。最高難度と言ってもいい。 だが、水銀燈は生物ではない。更に、凛と魔力の流れが既に繋がっている。 だからこそ、簡単に魔術を掛けられる――強化に限らず。 しばらくして、水銀燈は少し不機嫌そうに声を上げた。 「なんか、変な感じぃ」 「……強化で身体能力も上がってるもの。そのうち慣れるわよ。 レイジングハート」 『……相手の現在地は左50°』 「そ。じゃ、行ってくるわぁ。先に言っておくけど、危なくなったらすぐに逃げるから」 「ええ、そうして」 『…………』 レイジングハートの指示に従い、水銀燈が廊下をふわりと飛んでいく。 もっとも、指示した杖自身はこの作戦を心よく思っていない。適当に嘘でも吐けばよかったとさえ思っている。 その証拠に、水銀燈の姿が見えなくなってすぐにレイジングハートは声を上げていた。 『マスター!』 「……裏切られる危険性はないわよ。私も水銀燈の視点から見えるんだし」 『彼女は自由にパスを繋いだり切断したりできる可能性があります。 その場合共感知覚も切断されてしまい、何の意味もありません』 「大丈夫よ。切断されることで異常があったって分かるんだから。 それよりサポートお願い。私の視界はあっちに移すから」 『…………』 そう告げて、凛は目を閉じた。だが、その様子は瞑想と表現するにはほど遠い。 彼女の表情はどこかばつが悪そうな……そんな表情。 いくらなんでもお人よし過ぎる……そう沈みかけたレイジングハートの気持ちは、次の言葉に引き上げられた。 「保険も……掛けたから」 水銀燈に対してすまなさそうな表情は変わっていないけれど。 それでも、凛はそうはっきり口にしていた。 ■ 「……ここも、駄目か」 病院の周り。窓の中を覗きながらトグサは走る。 内部構造が全て分かっているわけではない以上、下手に窓から侵入することはできない。 最悪、どこかの部屋で追い詰められることも有りうる。 入るとすれば裏口か……もしくは、廊下の窓だ。 部屋から侵入した場合、扉と窓、二つしか進路がなくなる可能性がある。 だが廊下の場合、進路となる部屋の扉が多く袋小路の心配はない。それに、相手の姿を視界に入れられるかもしれない。 身を隠す遮蔽物がないという欠点もあるが、あの砲撃ではどのみちあてにできないだろう。 どうせ防げない攻撃なら、見えない攻撃より見える攻撃の方がマシだ。そうトグサは判断した。 ともかく、今必要なのは走ることだ。 壁に沿って走り、次の窓を目指して疾走して……頬に、痛みを感じた。 「……っ!?」 ぽたりと一滴、血が落ちる。 足元を見れば、黒い羽根が地面に突き刺さっている。 そして宙には、白い朝日を背に舞う黒い人形の姿。 「……ふふっ」 「くそ、随分とふざけた構造の義体だな!」 そう口走りながら、トグサは銃を構える……だが、銃口から弾丸が放たれることはない。 狙いをつけようとした瞬間には、既に水銀燈は出てきた窓へと戻っていた。 翼がないトグサには、相手を追って三階に侵入することなど不可能だ。 「どうす……る!?」 そう呟きながら足を止めて……慌てて伏せた。 その頭上を桜色の魔弾――ディバインシューターが通り過ぎていく。 回避できたことを喜ぶ余裕は無い。通り過ぎたはずの魔弾は停止し、再びトグサへと狙いを付けていた。 「誘導弾かよ……!」 いったいどんな原理なのか不思議に思っても、それを気にする余裕はトグサにはない。 そもそも吸血鬼が存在する世界だ、詳しく考えるだけ無駄だろう。今すべきなのは、ひたすら走ること。 地を蹴ると同時に、上空から羽根が再び降り注いだ。上空には再び姿を現している水銀燈の姿。 トグサは撃たない。いや、撃てない。銃を撃つために必要なプロセス――構える、狙う、撃つ――の間に魔弾に撃ち抜かれてしまう。 二正面攻撃。それも、一発一発は威力が低いが連射が利く羽根と、隙が大きいが喰らえば致命傷になりうる魔弾による挟み撃ち。 足止めして必殺の攻撃をぶつける――使い古された手と言えばそうだが、有効な手だからこそ使い古されているとも言えるのだ。 デイパックを盾にして羽根を防ぎながら、トグサは走る。 逃げ切れるとは思っていない。魔弾に追いつかれるまでの時間をできる限り稼げれば御の字だ。 ……しかし、トグサが思っていた以上に魔弾は速かった。 ほんの数秒でディバインシューターは反転を完了し、トグサの背後へと迫り…… 「くそったれ!」 舌打ちと共に、顔を庇いつつ窓へと飛び込んだ。部屋ではなく、狙っていた通り廊下の窓だったのは不幸中の幸いだ。 だが安心する暇も痛みで怯んでいる暇も無い。背後からは未だに魔弾が迫っている。 捕まればただで済まない非生物相手の鬼ごっこに辟易しつつ、トグサは再び走り出した。 ■ 『マスター、相手の内部への侵入を確認』 「うん、分かってる。見たから」 レイジングハートの言葉に、凛はそう返した。 その目は閉じられているが、物を見ていないわけではない。 今の彼女の視界は水銀燈の視界。聴覚などは移していないが、それはレイジングハートのナビゲーションを受けるためだ。 す、とレイジングハートが僅かに動く。ここで見る限りは何も変わったようには見えない。 だが凛にはディバインシューターが方向を変えたのが見えている。 相手を追って二階へ。そして、相手は逃げている。 このまま行けば、狙い通りの位置へ誘導できるはず…… だが、作戦とは大抵想定外の妨害が入るものだ。 「なんなののび太くん、ここまで引っ張ってきて……」 「え、えっと……」 「!?」 レイジングハート以外はいないはずの玄関に、予想外の声が響く。 聞こえた声に凛は振り向きかけ……視界を移していたことを思い出した。 振り向いた所で声の主が見えるわけではない。もっとも、見えなくてもすぐに分かるが。 「何かあったわけ?」 「う、ううん何もないけど……」 「…………」 結果として、凛は振り向かずに目を閉じたまま声を掛けることになった。 だが、のび太とドラえもん、どちらもどこか歯切れが悪い。 のび太は先ほどまでの行動をどう説明すればいいのかという悩み。 ドラえもんは先ほどからののび太の行動に対する混乱。 それが二人(正確には一人と一体)の口を縫い止めていた。 あいにく、凛には二人が口を開くまで待つような余裕は無い。 どうやって追い返すか考え込んだものの、あいにくそんな時間もまた、無い。 『マスター、相手がそろそろ目標地点に到達します』 レイジングハートがのび太との会話を中断させてきた。 一階なら玄関へと繋がる扉の前、それ以外の階なら凛が今いる場所の真っ直ぐ上。 そこまで到達したところでディバインバスターを撃ち込む。それが凛の立てた戦法だ。 単純明快な待ち伏せ……それ故に、機会を逸するわけにはいかない。外してしまえば位置を悟られてしまうからだ。 喋っている暇は、無い。 「ここは危ないからさっさと戻りなさい。 いくわよ、レイジングハート!」 『All right. Divine Buster Full Burst』 ■ 後ろから魔弾と水銀燈に追われながら、トグサは走る。 その目に迷いは無い。ただ一点だけを見つめていた。 魔弾が消える。同時に砲撃が撃ち出される――刹那。 トグサは素早く、走る進路とペースを変えた。 一筋の砲撃が、彼に当たらずにその目前を掠めていく。 (よし、予想通り……!) 目の前を走る砲撃の光に、トグサは安堵の息を吐きかけていた。 彼が立てていた予想はこうだ。 少なくともあれほどの火力と射程を持つ攻撃ができる以上、相手がそれほど動いているとは思えない。動く必要はない。 それなら、最初見た位置からそれほど動いていないはず……この考えを元に、トグサは相手の位置に対して見当を付けていた。 そして、ディバインシューターと水銀燈の動きから誘導されていると看破し、敢えて踊らされているフリをしたというわけだ。 待ち伏せで砲撃をするなら、見えない場所のうちのもっとも近い位置から行うはず。そう判断し、撃たれる前から回避運動。 至近距離からのディバインバスターでも、これなら十分に避けることは可能だ。後はそのまま走り抜けて内部を探索すればいい。 トグサの予想は間違っていなかった。確かに、いくらディバインバスターとはいえ撃たれる前から回避運動に移られては当たらない。 ――ただの、ディバインバスターなら。 トグサが安心できたのは最初の一瞬だけ。 砲撃は一筋だけではなく、そしてその全てが次々に廊下の床を撃ち抜いていく。 拡散した砲撃の幅はトグサが予想していたより遥かに広い。 それでも結果から言えば、トグサ自身はそれほど傷を負ったわけではない。ないが…… 「しまった!」 砲撃がもたらした結果に、思わずトグサは声を上げていた。 砲撃の一つが右腕を掠め、焼きつくような痛みを覚えた時にはもう遅い。 銃が手元から落ち、運悪く砲撃によって穿たれた穴へと落下していく。 唯一の強力な武器の喪失。この結果は致命的だ。こうしている間にも水銀燈は攻撃態勢に入っている。 ともかく逃げるしかない――そう判断して、トグサは足を上げかけ。 下から響いてきた声に、止まった。 「劉鳳さん達の所になんか、戻りたくない!」 それは声と言うよりは叫び。もっとも、だからこそトグサにも聞こえたのだが。 その内容だけでも十分衝撃的だが、更にあの声。間違いなくトグサにも聞き覚えがある声だ。 そう、主催者ギガゾンビと言い争った少年、のび太の声に間違いは無い。 「いったいどうなってるんだよ、ちくしょう!?」 気付いた時には、トグサはそう毒づいていた。 考えを落ち着かせるために休暇を申請したいところだが、 あいにく後ろからは水銀燈が永遠の休暇を押し売り中だ。今は走ることしか道はない。 羽根が舞う。それも、今まで以上の苛烈さで。 全力疾走するトグサの背に、容赦なく羽根は突進していく。 とっさに角を曲がって回避したものの、それで安心するにはまだ早すぎる。 「今まではあくまで牽制だったってことか……!」 明らかな事実に、トグサは歯を噛み締めていた。 さっきまでの攻撃の主役はあくまでディバインシューター。水銀燈は視界確保と牽制が目的だ。 それに、銃を失ったとなれば反撃を気にする必要も無く攻撃を叩き込める。今のトグサは正真正銘、狩られる側だ。 ……もっとも、だからといって諦めてやる気も義理も無い。 勝てないならできる限りの手を尽くして逃げるまでだ。 だから、走る。 ひたすら走って、走って、走って……ふと、気付いた。 「……追ってこない?」 相手も角を曲がってこられるほど時間が経っただろうに、追撃が来ない。 見失ったということは在り得ないはずだ。目前で角を曲がった相手を見失う馬鹿はいない。 立ち止まってみたものの、水銀燈が追ってくる様子はさっぱりなかった。 気になって戻ってみれば、慌てて撤退している人形の姿。 「……何があったんだ?」 息を落ち着かせながらトグサは考え込んだが、 度重なる長距離走で酸素不足の頭はさっぱり答えを出してくれそうになかった。 のび太少年の言葉、そもそものび太少年がここにいること、そして突然の撤退…… これらを理解するには、自分の足で情報を見つけ出さない限り無理だろう。 ただ、それでも今言えることが一つだけある。 「探索は早めに終わらせた方がよさそうだな……」 警察官としての第六感が告げていた。 間違いなく……事件の匂いがすると。 ■ 時間軸は、先ほどより少し戻る。 「……避けられたみたいね。勘がいいわ……それとも頭がいいのかしら。 でも当分は水銀燈だけで十分ね」 レイジングハートから煙を噴き上げながら、そう凛は呟いて目を開けた。 あいにく、彼女には他にやることがある。目線より低い位置にいる二人へ振り向いた凛は、迷わずに口を開いて告げた。 「私はこれから相手を追い詰めにいくけど……いくら銃を落としたって言っても、他に武器があるかもしれない。 危ないから早くセラス達の所に……」 「い、嫌だ……劉鳳さん達の所になんか、戻りたくない!」 「のび太くん!?」 のび太の叫びに、ドラえもんと凛の表情が変わる。 ドラえもんはなぜこうまでのび太が怯えているのかさっぱり分からないという驚きの表情に。 凛はどうやって説得するかという表情に。 (ハルヒって子に何か吹き込まれたのかしらね……よくわかんないけど) 溜め息を吐きながら、凛はそう思った。それなら疑うのも分からないでもない。 ……それに、さっき水銀燈に何をしたのか分かったものでもないし。 万が一追っている相手がのび太達の方へ行ってしまう可能性もあるし、 このまま行かせるのは危ないか……凛はそう思った。 「分かったわよ。じゃ、これを持ってきなさい」 決断は早い。落ちてきた拳銃を拾い上げてドラえもんへと投げ渡し、杖を向ける。 そのまま、ドラえもんに強化魔術を掛ける。正確に言うと、ドラえもんの表面に。 「これで大分ましになったと思うわ。 大抵の攻撃なら跳ね返せるし、逃げるくらいなら簡単にできる。早く戻りなさい」 凛の言葉を聞いてやっとドラえもんが、そしてそれに引き連れられるようにのび太が離れていく。 のび太の表情は渋々と言った様子だったが、それをドラえもんが歩きながら説得して離れていく。 それを見送る凛の表情は複雑だ。安心すべきなのか不安に思うべきなのか、自分でも分かっていない表情。 それでも、慌てて凛は頭を振った。今はそんなことを考えている場合ではない。 「それじゃレイジングハート、もう一回視界を水銀燈に繋げるから……」 『外に新たな魔力反応を確認。相当な魔力量です』 「え?」 レイジングハートの言葉に、凛は向きを変えた。 そこには、朝日を背にこちらに歩いてくる一人の小柄な騎士。 妙な兜を付けているが間違いようが無い。セイバーだ。 怪訝に思ったものの、凛は知り合いとして今までの行動を聞いてみようとして。 「セイバー? あんたいったいどうし……!!!」 『Protection Powered』 その時には、既にセイバーが踏み込んできていた。離れていた距離をあっさりと。 反応できなかった凛の代わりにレイジングハートが自動でカートリッジをロード、防壁を展開する。 カートリッジを使用してまで作った障壁だ、そうそう突破されるものではない。 だが……実際には桜色の障壁はあっさりとひび割れていた。まるでガラスのように。 「駄目、突破される――!」 『Barrier Burst』 凛の顔が歪んだ瞬間、衝撃が爆発した。 だがあくまで吹き飛ばすためだけの爆発は、どちらにも傷を与えない。 吹き飛ばすことに意義がある……この場合は、距離を取るため。 なんとか安全圏まで退避した凛は、魔術式を組み立てるより先にセイバーを睨みつけていた。 「何のつもりよ、セイバー! 私にいきなり斬りかかるなんて……」 「……貴女と会った覚えはありませんが」 「なっ!?」 セイバーからの答えはそっけないもの。 思わず凛は絶句したものの、すぐに気を取り直した。 再びセイバーが構えている。このままではまた距離を詰められるだけだ。 明らかに敵意のある相手を無策で迎え撃つ真似なんて、凛はしたくもない。 「そっちがその気なら――Anfang. Los! Zweihander――!」 『Divine Buster』 レイジングハートが再び魔力の帯を放つ。トグサを散々苦戦させた砲撃。 しかしそれを意に介することは無く、セイバーは疾走する。 桜色の砲撃がセイバーへと迫り……目前で、霧散した。 「まさか――対魔力はここまで!?」 凛の表情が驚愕に染まる。 自信はあった。あの時とは違う――ディバインバスターなら通るだろうと。 だが、所詮それは慢心でしかなく。 「……今のは見事でした、メイガス」 凛が後退するより早く、不可視の剣が唸りを上げ―― ■ 「この形跡……明らかに、まだ誰かいるな」 息を落ち着かせながらも、トグサはじっくりと探索を進めていた。 警官としての経験は、捜査の上でも役に立つ。カップの温かさのような細かいことさえしっかりと調査する。 そうして、結論を出していた。 「……やっぱり、劉鳳とセラスがここにいるのか?」 トグサにはいろいろとおかしく思えるが、一番自然な答えはこれしかない。 疑問を浮かべながらも、トグサは歩き出した。走りはしない。 速く動けばそれだけ注意が散漫になるからだ。まだ警戒を怠れるような状況ではない。 ……しかし、ずっと全力疾走し続けた結果として、かなりの疲労が溜まっていたのも事実。 そして……疲労は油断を生む。 突然、青い帯が伸びた。 「うわっ!?」 回避する間も無くトグサは足を取られ、転倒する。 とっさに頭を庇ったものの、恐ろしく無防備な姿勢なことには変わりない。 覚悟を決めて顔を上げる。その視界の先にいたのは…… 「トグサだったか……」 「そうかもしれないって言ったじゃん」 機械的とも生物的とも付かない物体――アルター・絶影を従えた劉鳳。 脇には頬を含まらせたセラスがいる。 色んな感情を籠めて溜め息を吐きながらも、トグサはひとまず立ち上がった。 「無事でよかったと言うべきなのかな、ここは」 「すまん、少々イラついていたようだ」 「いや、そこまでしなくていい。別に大した怪我はしてない」 頭を下げて絶影を消す劉鳳に、トグサは素早くフォローを入れた。 別に責めるつもりはしないし……聞きたいことは他にある。 「それより聞きたいことがある。 なんであんな危険人物と一緒にいる……いや、いられるんだ?」 「危険人物?」 「あのツインテールの女のことだ。 いきなり襲い掛かられとかしなかったのか?」 トグサの言葉に、セラス達は全く同じ反応を取った。 互いに向き合って、「やっぱり」と言わんばかりの表情になって、溜め息。 混乱するトグサを尻目に、セラスが口を開いた。 「いい、まずよく聞いて――」 ■ 水銀燈の羽根が舞う。ただし、水銀燈が自分の意志で飛ばしたものではない。 圧倒的な剣圧が掠めた翼が、風に吹かれて羽根を散らせたのだ。 その間に水銀燈はできるだけ距離を取る。セイバーから距離を取るため、そして凛からできるだけ離れるため。 (もう少し持ちこたえなさいよ、この役立たず!) 念話に呼ばれて戻った時にはとっくに壁に寄りかかってのびていた凛を思い出して、水銀燈はそう八つ当たりをしていた。 別に死んだわけではなさそうだ。その証拠に魔力は水銀燈へしっかりと流れてきている。 切り傷もない辺り、攻撃は防御できたものの衝撃は吸収できず、 吹き飛ばされて壁にぶつかり気絶したと言ったところだろう。 戦闘不能の相手にとどめを刺すより新たに現れた相手を潰すべきだとセイバーは判断したのか、 到着早々水銀燈はセイバーに追いかけられる羽目になり……結論は一秒で出た。 (こんなのに一人で勝てる訳ないでしょお!?) 間一髪で剣を避けながら逃げ惑う水銀燈の出した答えは、こんな情けないもの。 もっとも、戦力差を考えれば仕方の無いことだろう。 羽根を飛ばせばあっさり弾かれ、相手に剣を振り回されれば当たらなくても吹き飛ばされかける。 このままで勝てる相手ではない。 (しょうがないわねぇ……せっかくいいところまでいったのに!) 心の中でそう呟いて、水銀燈はデイパックに手を突っ込んだ。 策略も何も、死んでしまってはどうしようもない。 凛から十分な距離が取れたかどうかは怪しいが、迷っている暇は無かった。 このままでこれ以上逃げられるとはとても思えない。 「悪いけど、手間取る訳にはいかない…… すぐ片付けさせてもらうわぁ!」 ■ セラスの話がひと段落して。 首を傾げながら、トグサは言葉を返した。 「要するにあの義……じゃなかった、人形が色々と仕組んでる、ってわけか?」 「要約するとそうだな」 トグサの言葉に劉鳳はそう告げて首肯する。その表情は苦々しい。 「その凛って子は気付いてないのか? それに、セラスや劉鳳からそういう事を言ったりは?」 「どうやらだいぶ長い付き合いらしい。下手をすると最初からずっといたのかもしれん。 色々と怪しくは思っているようだが、それでも大分甘やかしている。お人よし過ぎるほどにな」 「それに個人的に入れ込んでるみたいで、私達が下手に言うと逆に疑われそうなんだよ」 むむ、とトグサは考え込んだ。内容は決まっている。 警官として、犯罪者を無理なく立件、確保するにはどうすればいいか。 正確に言うとこれは検事の領分だろうが、それでもトグサがこういったことに無知だと言うわけでもない。 「セラス達の見解が正しいとして……その場合、なんとかして尻尾を掴む必要がある。 ぶりぶりざえもんが生きていれば俺の時の証言が取れたんだろうけどな……」 「…………」 暗い表情で呟くトグサに引き摺られたかのように、セラスと劉鳳の表情も沈む。 ぶりぶりざえもんはもういない。いや、永遠に逢うことは叶わない。 溜め息を吐きながらもトグサは次の言葉を告げようとして。 「ともかく、俺は一旦魅音達のところに行ってこの事を……」 「のび太くん、ちょっと……!」 ドラえもんの声に、三人が振り向く。だが、遅すぎた。 三人が振り向いた時には既に。 拳銃を奪い取ったのび太が狙いを定めていたのだから。 ■ 「飛龍――」 「風王――」 二つの剣が奔る。 一つは炎の魔剣・レヴァンティンを模した長剣。 もう一つは風で覆い隠された竜殺しの大剣。 その二つが、激突する。 「一閃!」 「結界!」 風と炎がぶつかり合い、破壊の嵐を巻き起こす。 壁を始めとする周囲の物体は吹き飛び、削れ、溶解する。 遠く離れた劉鳳たちのいる場所にさえ届きかねない大音響さえ巻き起こっているが、 あいにく水銀燈にそんなことを気にする余裕は無い。 (この体でさえ互角だなんて……!) 知らず、水銀燈はセイバーを睨みつけていた。 リインフォースと融合した水銀燈の身体能力は生半可なものではない。 少なくとも、ただの人間なら魔法を使わずに殺せるほど。 更に、凛の強化による身体能力向上は未だに継続している。つまり、身体能力は劉鳳や凛と戦った時以上。 それなのに、互角。いや、下手をすれば押されているかもしれない。 距離を離せば別かもしれないが、あいにくセイバーはそれを許すほど甘くない。 「はぁっ!」 「盾!」 『Panzerschild』 不可視の剣が生み出された盾に衝突、火花を上げる。 軋む腕を無視しながら、水銀燈は羽根を舞わせて魔術式を展開した。 黒い羽根は地面に張り付き、魔力の基点へと姿を変えていく。 「鋼の……くびきっ!」 「チッ!」 羽根から、銀色の刃が伸びた。 さすがのセイバーと言えど、ここまでの魔術は無視できない。 素早く後退しながら、魔力で編まれた刃を切り払う。その顔には、汗。 そう、この状況には不満があるのはセイバーも同じだ。 手早く片付けるはずが、相手は予想以上の強さ。 技術では小次郎に遥かに劣っているものの、それを数々の魔術で補っている。 近接戦闘でさえこれなのだから、離れればどうなるか分かったものではない。 油断無く剣を構え、隙さえあればすぐに飛びかかれるようにセイバーは相手に相対する。 だが……水銀燈は予想外の対応を見せた。 「ねえ、手を組まなぁい?」 彼女が提案したのは、同盟。 何を言い出すのか……不思議に思うセイバーをよそに水銀燈は続けていく。 「実は私、優勝狙ってるのよ。 善人のふりしてこっそり仲間割れの種を撒いてるってワケ」 「…………」 セイバーに反応は無い。それに苛立ちながらも、水銀燈は言葉を紡いだ。 「貴女も優勝を狙ってるみたいじゃない? だったらもう少し参加者が減るまで一旦停戦といかないかしらぁ? まだまだ、人殺しを嫌がる正義面した奴はたくさんいるものぉ」 水銀燈は、少なくとも嘘は言っていない。 ここでこれ以上戦えば消耗してしまうし、凛にまた襲われるのは避けたい。 要するに水銀燈としては、さっさとセイバーに撤退してほしかった。 「確かに理はありますね」 その言葉に、水銀燈はほくそ笑んだ。 確かに今戦う気はない。だが、この後の展開次第では違う。 今度会った時後ろから撃つのもいいし、凛を裏切った後の主として使うのもいい。 どの道自分が甘い汁を吸い尽くすのには変わりない―― ――そんな企みは、次の言葉に斬って捨てられた。 「――ですが、断る」 「!?」 セイバーが迫る。言葉どころかその身をも斬り捨てんと剣が唸る。 慌てて水銀燈は防御魔法を展開した。 無表情のまま、セイバーは辛辣な言葉を追い討ちとばかりに続けていく。 「貴女のような輩の言葉。 何の確証も無く信じられると思いますか?」 「……のぉ、人が下手に出てれば調子に乗ってぇ!」 叫びながら水銀燈はセイバーを押し返した。壁に叩きつけられることも無く、軽やかに騎士は着地する。 悪意をむき出しにした言葉を受けても、セイバーの表情は変わらない。 変わらないまま、言葉を続ける。 「……つまり、確証があれば その言葉が真実だという事を教える証拠。それがあれば、休戦という事にしても構いません」 「?」 水銀燈が首を傾げる。 セイバーは分かりやすく伝えるために、水銀燈の後ろを指差した。 「ですから、彼女を殺すのは任せました」 「!?」 思わず振り向いて……水銀燈は絶句した。 後ろにいたのは、凛。しっかりとレイジングハートを水銀燈に突きつけて。 慌てて水銀燈が向き直った時には、セイバーの姿はもういない。 潰し合うように上手く仕向けられたと気付くには遅すぎた。 「また会ったわね、『リインフォース』」 「……う」 凛は淡々と言葉を紡いでいく。 水銀燈はとっさに頭を巡らしたものの、都合のいい言い訳は少しも思いつかない。 「あんたが誰かは今は考えない。 さっきの会話の内容も考えない。 なんでパスがあんたと繋がってるのかも考えないし、それがなんで切れないのかも考えない」 言葉は淡々と。表情は限りなく無表情。 ただ瞳だけが、怒りの炎を映し出している。 「……悪魔みたいな方法で、話を聞かせてもらうわ。 自分がどんなミスをしていたのかを……あんたが生きていたら、だけどね!」 ■ 時系列順で読む Back Solemn Simulacrum Next 正義の味方Ⅲ 投下順で読む Back Solemn Simulacrum Next 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) 水銀燈 264 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) 劉鳳 264 正義の味方Ⅲ 255 王の手の平の王 セイバー 264 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) セラス・ヴィクトリア 264 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) トグサ 264 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) 遠坂凛 264 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) ドラえもん 264 正義の味方Ⅲ 257 プリズムライト(後編) 野比のび太 264 正義の味方Ⅲ
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攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX ◆B0yhIEaBOI 20世紀末に相次いだ、世界国家間での軍事的衝突。 無論、その影響を日本だけが逃れることなど不可能であった。 度重なる騒乱に、揺らぐ国際関係。 そして、1999年。日本旧首都圏である関東地方に、核が打ち込まれることとなる。 戦火の中で物理的、精神的両面から日本が負った傷は深く、そしてその治癒は同時に、深刻な社会的不安定をもたらすことになった。 増加する一途の凶悪犯罪。混迷する社会。 それら事態の収拾の為に、事件を未然に防ぐことを目的に結成された、攻性の公安組織。 表向きは八つしかない警察組織における、第九番目の公安課。 それが、公安九課――通称、攻殻機動隊である。 神戸沖合いに浮かぶ新浜ニューポートシティ。 それは、戦災で傷ついた日本における、復興と再生のシンボルとも言える。 乱立するコンクリート製の林。その中の一つが、九課が本部を構えるビルである。 そして、この重厚なドアの向こうに、その九課を束ねる男――荒巻大輔が居た。 「トグサです。入ります」 そう断り、トグサは課長室内に入った。 だが、それを横目に、荒巻は渋い表情で手元の紙束を睨んでいる。 それは、トグサが前日に提出した始末書であった。 「で……だ」 机を挟んで立つトグサを前に、荒巻がもったいぶるように言葉を選ぶ。 その顔には、明らかな不快感がありありと浮かんでいた。 「トグサ。お前は今の自分の状況をどの程度把握している?」 唐突な質問。 だが、トグサはそれをある程度予想していたように、答えを返す。 「そう……ですね。本来なら、『電脳硬化症及びその類似疾患疑い』の名目で、 病院――それも精神性疾患専門の病院に叩き込まれる寸前の猶予期間中――といったところですか」 「ふむ。病識はあるようだな」 荒巻はそう言いながら、皺の寄った己の眉間を指で揉む。 荒巻がここまで露骨に感情を表に出すのは、極めて異例なことである。 つまり、事態がそれだけ『異例』のことなのだ。 前触れなく生じた、九課メンバーの失踪。 そして、再び前触れ無く帰還した隊員による、同メンバーの死亡報告。 更には、それらの原因を「魔法」だの「未来科学」だので説明する事後レポート。 これら『有り得ない』事態の集積が、荒巻の神経を酷く苛んでいた。 「では、お前は自分で書いたこのレポートがどんな意味を持つのか、理解できているのか? これを要約すれば――少佐とバトーという貴重な人材の損失の原因を、フィクションそのものに求めるということだぞ。 更には、そのフィクションの存在証明は、この世界への影響を考慮して差し控える、だと? 内閣広報部でももう少しマシな言い訳をするぞ。 それとも、公安を辞めて小説家にでもなるつもりなのか? それならば馴染みの出版社を紹介してやらんこともない――」 「課長」 珍しく感情的に叱責する荒巻を、トグサが遮る。 そして、荒巻の非難が再開するまでの間隙を縫い、ささやかな弁明を紡ぎだす。 しっかりとした声で。明確な意思の力を込めて。 「確かに、そのレポートの内容は荒唐無稽で根拠薄弱もいいところです。 ですが信じてください。それは紛れも無い事実なんです。 事実として、少佐とバトーは死に、俺は生き残った。 だから、生き残った俺には、それを課長に正確に報告する義務があると考えています。 まあ、信じろって言っても、この内容じゃあ信じられないのも仕方が無いかもしれませんが…… でも、どうか……あいつらの最後ぐらいは、課長は知ってやってください。お願いします」 荒巻を見るトグサの目には、一点の曇りも無い。 その目を見た荒巻が出来ることと言えば、ただ一度、深いため息を付くことだけだった。 重苦しい空気の中、荒巻が再びその重い口を開く。 「……言っておくが、今回の失踪事件に関して、儂の独自ルートで関連の疑いのあった背後関係を徹底的に洗ってある。 そのせいで、痛くも無い腹を探られた者共からの圧力が増していてな。 それを躱すにしては、このレポートではいささか共感性が乏しいな」 「課長、それでしたら後日俺から辻褄のあうレポートを改めて……」 「いや、事態はお前が思っている以上にデリケートだ。 臆気もなくこんなレポートを出すような男に、その繊細なバランスが取れるとは期待していない。 それよりもお前にはやって貰う事がある」 そう言って、荒巻は一冊のファイルをトグサに投げ渡した。 それは、ラボによるタチコマのニューロチップ分析結果の途中報告レポートだった。 「お前が持ち帰ったタチコマのニューロチップ……その中に、未知のプログラムの痕跡が含まれていることが判明した。 現在ラボにてそのデータの解析作業中だが、実際にそのプログラムを使用したというお前なら解析の手助けにもなるだろう。 今すぐラボに行き、その解析作業に協力しろ」 「――課長! それって、俺のレポートの裏付けになる証拠じゃないですか! それを知ってるんなら、最初から俺のレポートを信じてくれても……!」 「勘違いするな。お前のレポートが現実味に乏しいことと、タチコマのチップに未解析データが含まれることは、全く別の事象だ。 それらを安易に関連付けるべきでは無い。が―― 現状では、それらを限定的にでも関連付けることが、最も可能性を拡張できると判断したまでだ。 人的損失を少しでも補填できる可能性があるのなら、今はそれを無視する訳にもいくまい。 そもそも、お前の電脳汚染の疑いがある中で、お前を第一線の捜査に戻すのにはリスクが高すぎる。 その是非を測るテストとリハビリを兼ねている、とでも思っておけ」 荒巻の一方的な命令は、つまりは――トグサの、現場復帰許可と同意である。 「言っておくが『辞意を持って今回の責任を取る』などという甘ったれた考えを持っているのなら、さっさと捨ててしまうことだな。 唯でさえ人員不足な上での欠員だ。貴様には辞職などする権利は無いと思え。 せいぜいこき使ってやるから、己の働きで持って責務を果たすのだな。 さあ、さっさと仕事に戻れ! 自分の精神疾患疑いなど、医師の手を煩わせずに自分の行動で晴らして見せろ!」 つい先ほどまでの、退職勧告とも取れる叱責からの一転。 この、周到なまでの事前工作と情報掌握力。 そして、有無を言わさぬ政治的手腕。 これが、九課を纏め上げ維持していく上での、荒巻の持つ武装である。 ――全く、この狸オヤジが。 「ん? 何か言ったか?」 「いえ。それでは、俺は仕事に戻ります。失礼しました」 だが、課長室を出るトグサの耳には、恐らくこの言葉は届かなかっただろう。 「……よく、生きて戻ったな。それだけは褒めてやろう」 ・ ・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・ ――サ君、トグサ君! 「……ん、ああ、タチコマか。どうした?」 電脳からの通信がいつの間にかオープンになっていた。 即座に思考を現実世界に呼び戻す。 「どうしたじゃないよトグサ君! 作戦開始時刻まであと10分切ってるよ! そんなぼさっとしてて良いのかな? かな?」 「おいおいトグサ、また例の魔法世界の空想に浸ってたんじゃあないだろうな?」 イシカワの冷やかしが耳に痛い。 だが、その皮肉を黙殺し、改めて現場の状況を再確認する。 状況は相も変わらず、極めてシビアだ。 だが、その不可能を可能にする。それが我々――攻殻機動隊なのだ。 「状況を再度確認する。制圧対象は誘拐犯グループ、保護対象は財務省副長官及び次官2名。 制圧対象は重火器にて武装している。複数の思考戦車の存在も確認。 尚、当案件は非公式事例であり、マスコミなどへの暴露を最小限に抑えるためにも、作戦遂行は極めて短時間に行わなければならない。 作戦開始時間は1900、1930までに制圧対象を鎮圧、無力化し保護対象を救出、現場から撤収する。 俺とボーマ、パズ、は現場施設内への突入、サイトーは遠距離からの行動支援、 イシカワは現場のネットワークに侵入、撹乱を計れ。タチコマ各機は思考戦車の足止めだ。戦闘は最大限小規模に抑えろ。 連絡は以上だ。各員、配置に付け!」 「へえ、少しはそれっぽくなってきたじゃねえか。まだまだ青臭いがな」 「もう勘弁してくれよ。小言なら仕事の後に聞かせてくれ。今は目の前の任務に集中する」 「了~解。しっかりやってくれよ? 頼りにしてるぜ、隊長さん!」 人は、時の流れに逆行することは出来ない。 過去は、情報として記憶、蓄積されるだけだ。 死は、不可逆で、覆らない。 だが、死した人間の価値を決めるのは、今生きている人間だ。 そして、その価値は、生きている人間が絶えず証明し続けなければならない。 それが、死んだ者を、彼らが残した“情報”を、生かし続けるということなのだ。 それが……生き残った人間の―― そう、それが、俺の責務だ。 18 59 58 18 59 59 19 00 00――――作戦、開始。 アニメキャラ・バトルロワイアル 攻殻機動隊 END 投下順に読む Back After1 -Engel-Next 答えはいつも私の胸に 時系列順に読む Back After1 -Engel-Next 答えはいつも私の胸に 298 GAMEOVER(5) トグサ