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攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX ◆B0yhIEaBOI 20世紀末に相次いだ、世界国家間での軍事的衝突。 無論、その影響を日本だけが逃れることなど不可能であった。 度重なる騒乱に、揺らぐ国際関係。 そして、1999年。日本旧首都圏である関東地方に、核が打ち込まれることとなる。 戦火の中で物理的、精神的両面から日本が負った傷は深く、そしてその治癒は同時に、深刻な社会的不安定をもたらすことになった。 増加する一途の凶悪犯罪。混迷する社会。 それら事態の収拾の為に、事件を未然に防ぐことを目的に結成された、攻性の公安組織。 表向きは八つしかない警察組織における、第九番目の公安課。 それが、公安九課――通称、攻殻機動隊である。 神戸沖合いに浮かぶ新浜ニューポートシティ。 それは、戦災で傷ついた日本における、復興と再生のシンボルとも言える。 乱立するコンクリート製の林。その中の一つが、九課が本部を構えるビルである。 そして、この重厚なドアの向こうに、その九課を束ねる男――荒巻大輔が居た。 「トグサです。入ります」 そう断り、トグサは課長室内に入った。 だが、それを横目に、荒巻は渋い表情で手元の紙束を睨んでいる。 それは、トグサが前日に提出した始末書であった。 「で……だ」 机を挟んで立つトグサを前に、荒巻がもったいぶるように言葉を選ぶ。 その顔には、明らかな不快感がありありと浮かんでいた。 「トグサ。お前は今の自分の状況をどの程度把握している?」 唐突な質問。 だが、トグサはそれをある程度予想していたように、答えを返す。 「そう……ですね。本来なら、『電脳硬化症及びその類似疾患疑い』の名目で、 病院――それも精神性疾患専門の病院に叩き込まれる寸前の猶予期間中――といったところですか」 「ふむ。病識はあるようだな」 荒巻はそう言いながら、皺の寄った己の眉間を指で揉む。 荒巻がここまで露骨に感情を表に出すのは、極めて異例なことである。 つまり、事態がそれだけ『異例』のことなのだ。 前触れなく生じた、九課メンバーの失踪。 そして、再び前触れ無く帰還した隊員による、同メンバーの死亡報告。 更には、それらの原因を「魔法」だの「未来科学」だので説明する事後レポート。 これら『有り得ない』事態の集積が、荒巻の神経を酷く苛んでいた。 「では、お前は自分で書いたこのレポートがどんな意味を持つのか、理解できているのか? これを要約すれば――少佐とバトーという貴重な人材の損失の原因を、フィクションそのものに求めるということだぞ。 更には、そのフィクションの存在証明は、この世界への影響を考慮して差し控える、だと? 内閣広報部でももう少しマシな言い訳をするぞ。 それとも、公安を辞めて小説家にでもなるつもりなのか? それならば馴染みの出版社を紹介してやらんこともない――」 「課長」 珍しく感情的に叱責する荒巻を、トグサが遮る。 そして、荒巻の非難が再開するまでの間隙を縫い、ささやかな弁明を紡ぎだす。 しっかりとした声で。明確な意思の力を込めて。 「確かに、そのレポートの内容は荒唐無稽で根拠薄弱もいいところです。 ですが信じてください。それは紛れも無い事実なんです。 事実として、少佐とバトーは死に、俺は生き残った。 だから、生き残った俺には、それを課長に正確に報告する義務があると考えています。 まあ、信じろって言っても、この内容じゃあ信じられないのも仕方が無いかもしれませんが…… でも、どうか……あいつらの最後ぐらいは、課長は知ってやってください。お願いします」 荒巻を見るトグサの目には、一点の曇りも無い。 その目を見た荒巻が出来ることと言えば、ただ一度、深いため息を付くことだけだった。 重苦しい空気の中、荒巻が再びその重い口を開く。 「……言っておくが、今回の失踪事件に関して、儂の独自ルートで関連の疑いのあった背後関係を徹底的に洗ってある。 そのせいで、痛くも無い腹を探られた者共からの圧力が増していてな。 それを躱すにしては、このレポートではいささか共感性が乏しいな」 「課長、それでしたら後日俺から辻褄のあうレポートを改めて……」 「いや、事態はお前が思っている以上にデリケートだ。 臆気もなくこんなレポートを出すような男に、その繊細なバランスが取れるとは期待していない。 それよりもお前にはやって貰う事がある」 そう言って、荒巻は一冊のファイルをトグサに投げ渡した。 それは、ラボによるタチコマのニューロチップ分析結果の途中報告レポートだった。 「お前が持ち帰ったタチコマのニューロチップ……その中に、未知のプログラムの痕跡が含まれていることが判明した。 現在ラボにてそのデータの解析作業中だが、実際にそのプログラムを使用したというお前なら解析の手助けにもなるだろう。 今すぐラボに行き、その解析作業に協力しろ」 「――課長! それって、俺のレポートの裏付けになる証拠じゃないですか! それを知ってるんなら、最初から俺のレポートを信じてくれても……!」 「勘違いするな。お前のレポートが現実味に乏しいことと、タチコマのチップに未解析データが含まれることは、全く別の事象だ。 それらを安易に関連付けるべきでは無い。が―― 現状では、それらを限定的にでも関連付けることが、最も可能性を拡張できると判断したまでだ。 人的損失を少しでも補填できる可能性があるのなら、今はそれを無視する訳にもいくまい。 そもそも、お前の電脳汚染の疑いがある中で、お前を第一線の捜査に戻すのにはリスクが高すぎる。 その是非を測るテストとリハビリを兼ねている、とでも思っておけ」 荒巻の一方的な命令は、つまりは――トグサの、現場復帰許可と同意である。 「言っておくが『辞意を持って今回の責任を取る』などという甘ったれた考えを持っているのなら、さっさと捨ててしまうことだな。 唯でさえ人員不足な上での欠員だ。貴様には辞職などする権利は無いと思え。 せいぜいこき使ってやるから、己の働きで持って責務を果たすのだな。 さあ、さっさと仕事に戻れ! 自分の精神疾患疑いなど、医師の手を煩わせずに自分の行動で晴らして見せろ!」 つい先ほどまでの、退職勧告とも取れる叱責からの一転。 この、周到なまでの事前工作と情報掌握力。 そして、有無を言わさぬ政治的手腕。 これが、九課を纏め上げ維持していく上での、荒巻の持つ武装である。 ――全く、この狸オヤジが。 「ん? 何か言ったか?」 「いえ。それでは、俺は仕事に戻ります。失礼しました」 だが、課長室を出るトグサの耳には、恐らくこの言葉は届かなかっただろう。 「……よく、生きて戻ったな。それだけは褒めてやろう」 ・ ・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・ ――サ君、トグサ君! 「……ん、ああ、タチコマか。どうした?」 電脳からの通信がいつの間にかオープンになっていた。 即座に思考を現実世界に呼び戻す。 「どうしたじゃないよトグサ君! 作戦開始時刻まであと10分切ってるよ! そんなぼさっとしてて良いのかな? かな?」 「おいおいトグサ、また例の魔法世界の空想に浸ってたんじゃあないだろうな?」 イシカワの冷やかしが耳に痛い。 だが、その皮肉を黙殺し、改めて現場の状況を再確認する。 状況は相も変わらず、極めてシビアだ。 だが、その不可能を可能にする。それが我々――攻殻機動隊なのだ。 「状況を再度確認する。制圧対象は誘拐犯グループ、保護対象は財務省副長官及び次官2名。 制圧対象は重火器にて武装している。複数の思考戦車の存在も確認。 尚、当案件は非公式事例であり、マスコミなどへの暴露を最小限に抑えるためにも、作戦遂行は極めて短時間に行わなければならない。 作戦開始時間は1900、1930までに制圧対象を鎮圧、無力化し保護対象を救出、現場から撤収する。 俺とボーマ、パズ、は現場施設内への突入、サイトーは遠距離からの行動支援、 イシカワは現場のネットワークに侵入、撹乱を計れ。タチコマ各機は思考戦車の足止めだ。戦闘は最大限小規模に抑えろ。 連絡は以上だ。各員、配置に付け!」 「へえ、少しはそれっぽくなってきたじゃねえか。まだまだ青臭いがな」 「もう勘弁してくれよ。小言なら仕事の後に聞かせてくれ。今は目の前の任務に集中する」 「了~解。しっかりやってくれよ? 頼りにしてるぜ、隊長さん!」 人は、時の流れに逆行することは出来ない。 過去は、情報として記憶、蓄積されるだけだ。 死は、不可逆で、覆らない。 だが、死した人間の価値を決めるのは、今生きている人間だ。 そして、その価値は、生きている人間が絶えず証明し続けなければならない。 それが、死んだ者を、彼らが残した“情報”を、生かし続けるということなのだ。 それが……生き残った人間の―― そう、それが、俺の責務だ。 18 59 58 18 59 59 19 00 00――――作戦、開始。 アニメキャラ・バトルロワイアル 攻殻機動隊 END 投下順に読む Back After1 -Engel-Next 答えはいつも私の胸に 時系列順に読む Back After1 -Engel-Next 答えはいつも私の胸に 298 GAMEOVER(5) トグサ
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ムーンマーガレット◆B0yhIEaBOI 今夜は月夜。それも、満月。 月明かりの中、山を下って、市街地の方へ走る。 人工的な明かりの無い山中だったけれど、真昼のように――否、真昼以上に辺りのことが良く見えた。 走っている最中に、色々な音が聞こえたし、実際何人かの人も居た。 爆発音、銃声、叫び声、笑い声、泣き声。話し声。 そして、いくつかの人影。一つの場所に留まるものも、移動する者もいる。 でも、今は接触を避けて駆け抜ける。 まずは日中に留まれる拠点と、マスター、ウォルターさんを見つけるのが先決だ。 なんだか、まるでこの山中が小さな箱庭であるかのような錯覚を覚える。 きっと満月の夜というロケーションが、私の五感を昂ぶらせているのだろう。 でも、あの人たち、あれで隠れているつもりなのかしら。 「ふふッ」 自然と笑みがこぼれる。 いけない、今は笑っていられるような状況じゃないのに。 でも、今なら、 ほんのちょび~~~~~~~~っとだけ、 ……マスターの言う、『闘争』っていう言葉が分かるような気がしてしまう。 正直、今他の人に会いたくないのは、この闘争心、というか、『疼き』のせいでもある。 もし、万が一戦闘になりでもすれば、その時は―― ああ、あんまり認めたくはないけれど、やっぱり私って吸血鬼なんだなぁ…… そして私は、思ったほどの時間も経たない間に市街地の端へと到着した。疲労はほとんど感じない。 取り敢えず、日中に潜めるような場所を探す事にする。 でも、その時、あることに気付いた。 ――見られている! 進行方向の、路地裏に誰かがいる。今は姿も完全に隠れているけれど、確実に今もそこにいる。 『私には、わかる』 でも、私の進行方向にいて、私が行くのを分かっているのに姿を現さない。 ……ということは、待ち伏せ? なら、あそこに隠れているのは、殺し合いを好む殺人鬼、ということなのだろうか? それなら、戦闘を避けようとしても、狙われてるわけだから、迂闊に逃げるのは危険かな…… って、冗談じゃない! そっちが殺人鬼なら、こっちは吸血鬼だっつーの! 相手がその気なら、こっちから仕掛けてやる。先手必勝。取り敢えず、先に押さえ込んでしまおう。 私は勢いで今までの思考をひっくり返し、路地に向かって走り出した。 我ながら、今夜は好戦的だなぁ。 「止まれッ!」 私が走り出した直後、男は路地から姿を現した。 顔にはマスク、いや暗視ゴーグルを着けている。このせいで私は発見されてしまったのか。 男が、黒い何かを私の顔に突き出す。 ――銃!?危ない!! 作戦変更、とりあえずぶん殴って大人しくさせてしまえ!! 「――警察だッ!!」 「へっ!?」 よく見れば、手にしているのは警察手帳。や、やばっ止まらな―――― ズゴォン!! 「……ご、ごめんなさい……」 「……寿命が3年は縮まったよ」 彼の頬スレスレを通過して、私の拳は彼の背後の壁にめり込んでいた。 ……ギリギリセーフ、結果オーライ!? † † † † † 「ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」 「ああ、もういいって。お互い怪我も無かったんだしさ」 「で、でも……ごめんなさい!」 あの後私は、衝撃音を誰かに聞かれたかもしれない、ということで、あの場所から歩き出したのだった。 この男と一緒に。男の名は―― 「あれ、そういえばお名前聞いてませんでしたね。私はセラス・ヴィクトリア。セラスと呼んで下さい」 「俺はトグサ――トグサでいい」 「わかりましたトグサさん。そういえばトグサさんも警察官なんですか?」 「ああ、一応ね。君も警察官なのかい?」 「あ、はい!でも今は警察官というか特殊情報機関員と言うか……あ゛」 うっかり機密を漏洩してしまった。トグサは苦笑しているようだ。 「ハハ、今のは聞かなかったことにしとくよ……その代わりと言っちゃなんだが、2、3聞かせて欲しいことがあるんだけど」 「え?ええ、何ですか?」 「セラスは何処に向かってたんだ?実は暫くの間尾行してたんだが……まさか見つかるとは思ってなかったがな。油断したよ。 観察していた感想だが、セラスは何か探し物か、探し人でもいるのか?」 ――え゛……そうだったのか。気付かなかった。全ての人を感知できていたワケではなかったのか。私こそ油断していた…… 「いえ、私、ちょっと日の光に弱い体質でして……で、日中を過ごせる場所を探していたんです。あと、私の仲間も」 「へぇ、まるでドラキュラじゃないか。変わったタイプの義体だな」 まるで、というか、そのものなんデスけど…… 「でも、トグサさんは何をするつもりだったんですか? ハッ、まさか、ストーカー……」 「おいおい、失礼なこと言うなよ。セラスが生身とは思えないスピードで市街地に入ってきたから、念のため様子を窺ってただけさ。 一応言っとくけど、俺の目的は……とりあえず情報収集ってところだな。参加者、この世界、それらについての多元的、多面的な情報を集めたい」 「あれ?トグサさんはお仲間とかはいらっしゃらないんですか?」 「いるよ。でも合流は後回しだ。今は先に集められるだけ情報を集めたい」 「ど……どうしてですか?お仲間さん達は心配じゃないんですか?」 「ないよ」 トグサはあっさり言い切った。 「ええ!?それちょっと酷くないですか!?」 「大丈夫さ。俺の同僚はそう簡単にくたばるようなタマじゃないしな。 それどころか、多分ほっといても、今回の状況の収拾をつけるための各自にとって最善の行動を取るはずだ。 恐らく、他参加者の掌握、殺し合いに乗る奴の制圧なんかはあいつらに任せておけば大丈夫だろう。 なら俺は、今俺にしか出来ないことをやるべきだ。だから、取り敢えずは情報を集めて、あいつらのサポートに徹することにする。 なに、嫌でもそのうち合流できるさ。」 ヤバ、なんだかちょっとカッコよかった。中年ストーカーからかなりのランクアップだ。 「信頼……してるんですね」 「そう、かもな。それにうちのボスが口酸っぱくして言ってるんだよ。 『我々の間にチームプレイなどという都合のいい言い訳は存在しない。 必要なのはスタンドプレーの結果として生じるチームワークだけだ』 ――ってな。だから、俺は俺の考えるベストをするだけさ」 「……なんだか私のところのボスとちょっと似てる気がします」 「ハハ、お互い厄介なボスに当たったもんだな」 「同感です!」 厳しい上司を持つと苦労する。この点に関しては深く共感できた。 絶対私のボスの方がタチが悪いけど(マスターは別格)。 「だから、とりあえず今は情報……特に情報端末を探したいところだな。ライフラインの有無も確認したい。 あと、何らかの通信設備もあれば言うことはないんだが」 「でしたら、とりあえずホテルの方に行きますか?そこでしたら一通りの設備は整ってるでしょうし…… あっ、ホテルで今いかがわしいこと考えませんでしたか!?」 「思ってね~よ。これでも妻子持ちなんだよ、俺は!」 ――と言うことで、暫くの間、私はトグサさんと行動を共にすることになりました。 そういえばトグサさんのお仲間の名前を聞けなかったり、逆にこっちの情報をペラペラ喋ってしまったりした気もしますが、 とりあえず悪い人ではないみたいだし、むしろ、ちょっと頼りになるかもしれません。 いろいろと心配事(主に私の知り合いに関して)もありますが、なんとか今回の事件解決に向けて頑張って行こうと、 改めて心に誓った私でした。 「トグサさん……きっと、何とかなりますよね?」 「当たり前だろ。俺達九課を巻き込んじまったのが、奴さんの運の尽きさ」 【D-6:市街地・1日目 黎明】 【セラス・ヴィクトリア@HELLSING】 [状態] 健康、満月で絶好調。 [装備] エスクード(風)@魔法騎士レイアース [道具] 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング [思考・状況] 1:トグサと同行し、ホテルへ向かう。そして、ホテルを拠点として確保。 2:アーカード、ウォルターと合流 3:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る ※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態] 健康 [装備] 暗視ゴーグル(望遠機能付き) [道具] 支給品一式、警察手帳(元々持参していた物)、支給アイテム×1(詳細不明、トグサ本人は確認済み) [思考・状況] 1:ホテルに向かい、情報収集 2:通信設備の発見、確保。情報ネットワークの形成。 3: 機会があれば九課メンバーと合流。 ※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。 ※セラスのことを、強化義体だと思っています。 ※セラス達はルパン一向よりも先にD-6市街地に進入しています。 時系列順で読む Back 従わされるもの Next 嗤うベヘリット 投下順で読む Back 従わされるもの Next 嗤うベヘリット 32 不死身のドラキュリーナひとり セラス・ヴィクトリア 99 「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」 トグサ 99 「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」
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孤城の主(後編) ◆S8pgx99zVs 瓦礫の山が積み立ち、その所々に破壊の傷跡が散見できる。 土煙が上がり空を銃声と破壊音が占める様はまさに戦場だった。 「あそこ」 長門が指差す先には瓦礫の影に隠れる五人の姿があった。その中には見知った顔である 次元大介がいる――となると彼らがどういった集団か推理するのは簡単だった。 「君がキョン君か?」 腰を低くして戦場を突っ切り、トグサが五人が身を隠す瓦礫の影へと滑り込む。 「その声は……トグサさん? ――それに長門!?」 キョンは予想外の仲間との再会に驚いた。しかし、先立ったのは喜びよりも疑問の方だった。 映画館にいたはずの彼らが何故ここにいるのか? そしてハルヒはどうしていないのか? 「なぁに、ちょっとした情報収集でね。それを話すと長くなるんで説明は後にするよ。 それと彼女達はまだ映画館に避難している。まだ眠っているだろう。 ――で、こちらの状況は? あまり穏やかな雰囲気じゃないが」 「あの赤い化物が俺たちの敵で、それ以外は味方です」 「解りやすい説明、どうも」 間髪置かずに返ってきた答えに状況を把握すると、トグサは後ろに控える長門を振り返った。 「で、どうする? 何かこの状況をクリアするいいアイデアが?」 「ある」 今度も間髪置かずに答えが返ってくる。ハルヒといい彼らといいSOS団の人間は中々せっかちなようだ。 「説明してくれ」 トグサはその先を促した。 「あのアーカードと自らを呼称する存在を撃破するにはその存在の核――彼の言う心臓を破壊する必要がある。 なので、私が彼の動きを封じ心臓の位置をスキャンしてあなたに電脳を通じて場所を伝える。 あなたはそれを撃ち抜いてくれればいい」 説明はわかりやすく簡単だ。だがしかし、 「できるのかそんなこと?」 トグサの疑問に長門は表情を変えずに補足説明を加えた。 「正午前にあった彼との戦闘中の発言および戦闘内容から、彼の体内に存在する核を破壊すれば倒せるという確度は高い。 また、正午より蓄積を開始した構成情報を使用すれば最悪の場合でも四秒は足止めできることが期待できる。 スキャニングは足止めと併せ直接接触によって行う。 彼そのものの構造を解析することは現在の私には不可能だが、ギガゾンビの用意した首輪は別。 彼の体内にそれを発見できればそこが弱点と見て間違いない」 長門有希の説明は論理的だ。だがしかし……、 「それじゃあ、長門のリスクが高すぎる。それに俺の銃には弾丸が一発しか入ってない」 まるで特攻を思わせる無謀な作戦をトグサは否決しようとするが、 「問題ない。この付近で確認できている敵対的存在は彼のみ。今私が倒れても影響は少ない。 それに、元々チャンスは一度きり。予備弾薬の数は問題にならない」 「失敗したら?」 「しない。私も。あなたも」 言うが早いか長門有希は瓦礫の陰を飛び出す。 論議の猶予を持たない長門に舌打ちしつつトグサも狙撃体勢を取り、長門有希との電脳通信を開いた。 この大胆と無謀のギリギリのラインを緻密になぞる行動パターン。それにトグサは今は亡き少佐を思い浮かべた。 「長門を援護してくれ」 まだ接触までに距離を有する彼女のためにトグサが援護を要求する。 「あいよ」 再び出会った男の要請を次元、そして魅音も快く引き受け怪物に弾雨を浴びせた。 「――で、あの嬢ちゃん。大丈夫なのか?」 次元の最もな疑問をキョンが受ける。 「ええ。人間離れしてるってなら、アイツが一番そうですから」 その言葉の中に強い信頼を感じ取った次元は、手にする銃からさらに援護の一撃を放った。 鉄拳を振るいセラスを再び瓦礫の山へと沈めジャッカルの弾丸でついに絶影を捕らえた怪物が、 新しく場に現れた長門有希に気付き顔を綻ばせた。 「お前も――『魔女』か。今日はつくづく魔女に縁がある」 半日ぶり再び対峙する怪物と魔女。 一方はその顔に童のように喜色を浮かべる。だが逆に内面は翁のように最後を求めていた。 もう一方は鉄のように無表情。だがその内面は未だかつてないノイズの嵐に満ちていた。 ここにいる全ての者が注目する中、両者は一歩一歩静かに歩み寄る。 ――滅びだ。これが夢の狭間で待ち望んだ滅びを告げる者だ。 ――もう私の中には何もない。私の城も兵もその全てが失われた。 ――後は、この滅びを告げる者が私の寝室をノックすれば…………。 接触するまであと数歩。そんな場所まで来た所で怪物が腕を跳ね上げ拳銃を撃つ。 空中に魔女の帽子だけを残すと、長門は低い姿勢から一気に怪物へと肉薄した。 それを押し潰さんと振り下ろされた怪物の拳を片手で受け、さらにもう片方の腕を伸ばし銃を持った腕を封じる。 一瞬で四つに組んだ状態に持っていった長門の口から特殊な高速言語が発せられ、 彼女の中でこの世の原理を書き換えるコードが組み上げられる。 「呪文か!」 気付き逃れようとするがすでに怪物の身体はピクリとも動かない。 「当該対象の絶対座標軸よりの移動を封鎖。並行して構造解析を開始」 接触してから一秒たらずで長門有希の体温は高負荷により43度まで上昇していた。 安全装置により処理に規制が掛かろうとするが、長門有希はこのフェイルセーフを自身で解除。 さらに体温は44……45……46……と急激に上昇していく。 接触した場所から解析用の枝が怪物の中へと伸びる。 彼女にとっては未知の情報で構成された存在。既知の存在に例えるなら怪物の中はまさに宇宙だった。 さらに体温は上昇。すでに有機生命体が活動を維持できる限界を超え、その雪のように白い表皮が熱に捲りあがり始める。 相対する怪物は彼女の目の中に決死の覚悟を汲み取り悦ぶ――やはり貴様は人間だ。 そして、その深く広い闇の中で彼女は遂に目的の「首輪」を発見した。 接触開始より1.2秒で怪物の体内に首輪に該当する物質を発見。 電脳を通じてトグサの眼に送られるまではコンマ一秒以下で終了。 情報を受信したトグサは0.4秒かけて照準し次の瞬間に最後の弾丸を発射した。 ――寝室の扉を開けた私の胸に白木の杭が…… そして、発射された弾丸はコンマ一秒以下の速さで銃口から心臓までの空間を渡り…… 怪物――吸血鬼アーカードの心臓を貫いた。 こうして狂愛の魔女によって始まった、怪物を呼び出し不幸を撒き散らす夜宴は、 もう一人の秩序を齎す魔女の手によってそれを終えられた。 万遍なく瓦礫が散らばったホテルの敷地内。完全に沈黙を取り戻したその中のいくつかの場所。 傷つき倒れた、あるいは死に瀕している者達の下へそれぞれ親しい人が駆けつけた。 吸血鬼アーカード。彼の下へかつては彼の僕だった吸血姫が駆け寄る。 「セラス……ヴィクトリア……」 もうその声には以前のような力はこもってはいなかった。 「マ"、マ"ズダァ~……」 かつての主の滅びにセラスは彼の手を握り涙を溢す。 「……お前は自分の、道程を……、自ら選び取った。もはや私は貴様の、主人……ではない」 それでもなお、セラスは滅び行く彼をマスターと呼び涙を溢す。 「フ……この未熟者め。だが、すでに一人の吸血姫であるならば……お前は独りで行かねばならん。 ……私は、先に地獄で待っているとしよう……奴が先に逝っているのなら……退屈はしまい」 セラスの掌からアーカードであったものが零れ落ちる。 ――塵は塵に。 セラスにとって彼は、厄災を運び込む者であり。闇に引きずり込んだ張本人であり。主人であり。 先を往く師であり。新しい家族であり。最後には仇であった。 そんな彼は塵となって彼女の前から姿を消し、そこには彼女が流した涙と存在を証明する銀色の首輪だけが残った。 そんな彼女を離れた位置で見ていたのは魅音だ。 セラスと怪物にどのような思惑があったかは彼女にはわからないが、死闘を経て彼女の中のセラスへの疑惑は払拭されていた。 泣き暮れる彼女を背に魅音は瓦礫の山を降りた。 打ち立った瓦礫に背を預け戦後の休息を取る劉鳳の下へ、何時の間にかに姿を消していたぶりぶりざえもんがその姿を現していた。 「お前、どこに行ってたんだ……」 完全に消耗しきった劉鳳の声は弱弱しかったが、逆にぶりぶりざえもんはまだ元気そのものだった。 「うむ。最初に言っただろう? 瓦礫の下に埋もれた人をおたすけすると」 そういえば、と劉鳳は思い出した。怪物から逃れる方便かと思ったがそうではなかったらしい。 だが、成果は芳しくなかったようだ。ぶりぶりざえもんの手にあるのは銀色の首輪のみである。 「間に合わなかったか……」 劉鳳は再び悔恨に歯をかみ締める。 「S……、U……、I…………、劉鳳。これはなんて書いてあるんだ?」 ぶりぶりざえもんの手から首輪を受け取る。どうやら内側に何か彫られているらしい。 「……SUISEISEKI――すいせいせき、か。この首輪の持ち主の名だろうか」 すいせいせき。劉鳳のその言葉に近くにいた剛田武が反応した。 だが、劉鳳が持ち上げた銀の環を見ると、その顔は見る間に悲しみに満ちた。 「翠星石~ッ!!」 剛田武は彼女の名前を呼び声を上げて泣いた。少年の純粋な悲しみにそれを聞くものも心を傷める。 だが魅音だけはその後ろでそれを少し冷めた目で見ていた。 武はただの素直な少年で本気で翠星石の死を悲しんでいる。 それは理性で理解でき、彼がもう魅音の敵でないことは明らかだが、 やはりそれでも梨花の仇である彼女の死を魅音は悲しむことができなかった。 ただ、失われるだけという虚しさが募るばかりだ。 あの時散り散りになった三人は、こうしてそれぞれにとって不幸せな再会を果たした。 横たわる長門有希の有様に、近づいた者の内何人かは思わず顔を背けた。 激しい高体温に曝された身体は表面から湯気を立て、その表面のほとんどがケロイドと化していた。 「長門! お前なにしてんだよっ!」 キョンが長門の側へ膝をつき悲壮な声を上げる。 彼女の時に自分を顧みない性分は知っていたはずだが、それでもまさかと思った。 後ろに立ったトグサも悔恨と苦渋に満ちた表情で彼女を見下ろしていた。 見開いた目は白濁化しており、どう見ても彼女の状態は死を免れそうにない。 だが長門は捲れ上がり真っ赤に腫れた唇を細かく震わせると淡々と言葉を紡ぎ始めた。 それを聞き逃すまいと、キョンとトグサは彼女の口に耳を近づける。 「……切欠はあなたが送ったメールだった」 「何を言ってるんだ長門? ……いや、もしかしてあのメールのことを言ってるのか?」 キョンは思い出す。偶然見つけたノートPCから送ったSOS団宛ての電子メールのことを。 長門有希はキョンの質問を無視し、言葉を紡ぎ続ける。 「涼宮ハルヒを初めとするSOS団団員と、その周辺にいる人物の消失を感知した我々は全力でその捜索を行った。 だが結果、得られた情報はゼロだった。 そこにある時あなたからのメールが、唯一残されたSOS団員である古泉一樹に届いた。 彼はすぐに我々情報統合思念体に協力を要請し、それを元に私達は発信元を特定しようと試みたが、 完璧な次元の断絶の前にそれは達成できなかった。 次に試みたのが私自身による私のハッキング。 その目的は完全に遮断された空間内へと送り込むトロイの木馬。 私自身の異時間同位体全てに対し並列的にハッキングを仕掛け、 結果それは連れ去られる瞬間の私に対して微細な成果をあげた。それが今の私。 そして私自身に仕込まれた構成情報はこの世界に来た瞬間分散し、 解析した情報から脱出のヒントを内包したいくつかの物体に偽装される。 そして、この世界に来た私は私自身が気付くことなく脱出のプロセスを完成させるため、 その偽装されたヒントを集めこの状況を解決する。 記憶操作はこの空間の支配者に対する偽装ではあったが、 この有機体が使用不可状態に陥ったため緊急避難処置として認識操作を解除し、現在情報を伝えている。 ――質問を」 突然の説明に戸惑うキョンより先にトグサが素早く質問する。 「俺が見つけた映像フィルム。アレもやはり脱出のヒントだったのか?」 トグサの質問に長門有希はただ淡々と答える。 「そう。 この空間を包む次元の隔絶はその強固さゆえに一定の大きさ以上にはなりえない。 あの映像情報を実際の映像情報と照らし合わせることで、この空間の規模と形を計測することができるはず」 「それは、ギガゾンビが潜む場所への足がかりになるか?」 「可能性はある」 「じゃあ、他にそういったヒントがまだあるのか?」 「可能性は高い」 長門の回答に得心すると、トグサは一歩引いてキョンに質問を促した。 「じゃあ、ちょっとだけ教えてくれ。切欠は俺からのメールだって言ったが、じゃあこのPCそのものは一体どこから出てきたんだ?」 デイバッグから黒一色のノートPCを取り出し、キョンは長門に質問する。 それにも、長門有希はただ淡々と答えた。 「そのノートPCはおそらく今回私から発信された構成情報が偽装されたもの。 そして、今私が連れ去られた時間平面上ではあなたからの電子メールが切欠となっている。 一番初めにどうやってあなたがそれを発信し私が受け取ったのかは解らない。 しかし、何故今そうなっているのかは説明できる。 人類が時間と認識している時間の流れを一次元とした場合、 それらは断絶された時間平面の連続でしかなく、それゆえに常に一定で介入により一切変化することはない。 変容するのは二次元目に当たる時間平面の振幅。そして時間次元はこの波を利用し、常に安定した時間の有様を求める。 結果、三次次元による時間干渉は円環状へと落ち着くことが多い。 これもその結果」 「……解ったことにしとくよ」 長門有希の不可解な返答にキョンは苦虫を噛み潰したような顔をする。 「ありがとう。じゃあもう眠ってくれ」 トグサの言葉を受け取ると、長門有希はその唇の震えを止め、物言わぬただの屍と化した。 「え? ……どうしたんだ長門? ……トグサさん、コレは一体?」 トグサに問いかけるキョンの顔には激しく狼狽の様が浮かんでいる。 だが、逆にトグサの顔は諦観とも取れる静けさがあった。 「キョン君。彼女は……長門有希はすでに死んでいたんだ。さっきの対決でね。 今のは彼女の言葉通り緊急のプログラムだ。……そう、今わの際に彼女が俺に伝えてきたよ」 キョンは物言わぬ長門の顔見つめる。 「やっと会えたばかりじゃないか。……なんで、そんな勝手に死んじまうんだよ」 ポツポツと零れ落ちた涙が傷ついた長門有希の顔を叩く。 ご都合主義のファンタジーなら彼女はこれで生き返っただろう。 だが此処は、この現実は決してそうではないことをキョンは知っていた。 【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース 死亡】 【アーカード@HELLSING 死亡】 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】 [残り29人] 偶然にも居合わせた多数の人間。大きな危機が去り次の行動をどうするか迷う彼らを纏めたのは、 その内のほとんどの人間とのコンセサンスを持ち、積極的に脱出を図り人を集めるトグサだった。 「……じゃあ、今病院には怪我をした四人とそこに向かった峰不二子という女がいるんだな?」 「うむ、そのとおりだ」 数時間ぶりに再会できたぶりぶりざえもんの報告に、トグサは思案をめぐらせる。 病院は自分達が初めて辿りついた時も襲撃の跡が見られ、結局自分達もさらなる襲撃にそこを追い出されることとなった。 このゲームのクリアを自分以外の全員の殺害と捉えている参加者にとって、そこが絶好の狩場であることはすでに明白だ。 しかし、だからといって重症を負ったしかも複数の人間に動いてもらうのも無茶な話だ。 ならばとりあえずはこの連中、そして映画館に残したハルヒ達を病院に結集させるか……。 病院自体が立て籠もるに適した施設だということは確認済みなのだから、むしろそういった施設を脱出を目指す人間で占拠すると考えればいい。 決心するとトグサは少し高く積もった瓦礫の上に立ちみんなに声をかけた。 「みんな聞いてくれ。 改めて自己紹介するが、俺は公安九課に所属するトグサという者だ。 もちろん俺はこのふざけたゲームに従うつもりはないし従ってはいない。それは君達もそうだろう。 そこで君達に提案したい。俺たちが一致団結してこのゲームそのものを破壊するということを」 そこでトグサは一旦言葉を区切り、壇上から見下ろせる彼らがその言葉に耳を傾けているかを確認する。 全員が彼の言葉に耳を傾けていることに満足するとトグサはさらに言葉を続けた。 「そこで提案だ。まずは全員でここから西にある病院に移動したいと思う。 ここには重症を負った人間がいるし、また病院にも同様に怪我を負った人間が集まっている。 病院に全員が集まれば互いに手当てをしあい、休息を取ることも容易だろう。 そして、人数が集まりその知識と知恵を持ち合えばゲームの破壊にも近づける」 最後にどうだろう? と回答を促す言葉でしめトグサは口を閉じた。 全員が自分の言葉に乗ってくれるだろうと彼は思っていたが……、 「少しだけここで待たせてもらえないかな?」 そう提案したのはトグサとは初対面になる魅音だ。 「クーガーとなのはちゃんがもうすぐここに帰って来るはずなんだ。それに……」 魅音は堆く積みあがった瓦礫を見上げる。絶望的と言えども、それが確定するまではここを動きたくないのが彼女の思いであった。 「その人達はいま何所に?」 「なのはちゃんは、このホテルを多分最初に襲ってたヤツを追って…… そしてクーガーはここに向かってる途中で襲われたシグナムってヤツと闘ってる」 そう答えて、魅音は彼らと別れてからかなりの時間が経過していることに気づいた。 魅音の言葉にトグサは質問を重ねる。 「襲ってきた連中の特徴を教えてもらってもいいかい?」 「最初のヤツはわからない……飛んでいるのが遠目に見えただけだから…… シグナムって言ったのは、私みたいに髪を束ねた赤い髪の女だよ」 魅音の話すシグナムの特徴にトグサは思い当たる節があった。 それはハルヒ達を襲いルパンを殺害した……。 「悪いが俺は先に抜けさせてもらうぜ」 そういって立ち上がったのは次元だ。シグナムが彼の仇であることはトグサも知っている。 「待ってくれ次元。あんたも脱出を目指しているんじゃないのか?」 「それとこれとは別問題なのさ。なあに、てめえの用事が済んだらそっちに戻る。それでいいだろ?」 そう言うと次元は魅音、そして劉鳳にクーガーとシグナムがいた場所を聞くと最後に忠告を残してホテルを去った。 「トグサ。不二子って女からは目を離すなよ。利がある内は大人しいがあいつは見切りが早いからな。 仲間にすれば頼もしいが、土壇場で裏切る。こんな所で馬鹿をするとは思えねえが、一応気をつけといてくれ」 と、彼が去った後をぶりぶりざえもんが追いかける。 「おい。お前までどうしたんだ?」 と、トグサは引き止めるが、 「あいつには私のおたすけが必要だと思ってな。 それに、今のわたしには病院に戻って太一達に合わせる顔がないのだ。 彼らをおたすけする別の方法を見つけたら戻るので、それを伝えてくれ」 言うが早いか、ぶりぶりざえもんもまた翆の光の尾を引いて暗闇の中へと去ってしまった。 トグサはぶりぶりざえもんの光る尻が気になったが、次の再会の際に言及するとして残った者達の下へと戻った。 次元とぶりぶりざえもんが去った後に短い時間で行われた話し合いの結果、 結局ホテル跡地に残る者といち早く病院へ負傷者を送る者に別れることになった。 もちろん、残る者にはきりのいいところで病院へと向かうように言い聞かせてだ。 そして、トグサ自身は映画館に残したハルヒ達を迎えに行くべく一足先に自転車を漕いでホテルを離れた。 トグサが行ってから後、セラスがホテルの敷地内に一台のリヤカーを引いて戻ってくる。 「ども、おまたせしました」 「これで俺を運ぶのか?」 疲弊し地面に横になっていた劉鳳はそれを見て顔を顰めたが、次の瞬間には一刻も病院へと自分を運ぶようセラスに命令していた。 身体に染み込んだ従者体質なのか、セラスは言われるままに劉鳳をリヤカーに横たえ、 その横にはキョンとトウカの手によって足を折った剛田武が横たえられた。 そして、去り際に劉鳳がトウカへと声をかける。 「俺のバッグの中に刀が一本ある。それを取れ」 言うがままにトウカがバッグを漁ると、白鞘の刀が中から見つかった。 そのつくりから実戦向けに仕上げられた業物であることが彼女には窺え知れる。 「これを某に……?」 「ああ、俺には無用の長物だ」 その言葉にトウカは感極まり、謝辞を並べ立てまくる。 それをくすぐったそうにしながら劉鳳はホテルを去り、トウカはその姿が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。 「これも”おたすけ”か? ぶりぶりざえもん……」 劉鳳は見上げる満月に向かってなんとなく呟き、悪い気はしない――そう思った。 ”彼女は自分の仕事を立派に果たした。その後を継ぐのが俺達の仕事だ。違うかキョン君?” そのトグサの言葉をその通りだと頭では理解できる。 だがしかしキョンの足元には長門有希の遺体がさっきのまま横たわっていた。 彼女を弔いたいからとこの場所に残ったものの、長門なら蘇るんじゃないかというありもしない期待に身体を動かすことができなかったのだ。 「……キョン殿」 ここで亡くなった鳳凰寺風と野原みさえを埋葬し、 灰を被った獅堂光の墓を改めて整え終わったトウカと魅音がキョンと横たわる長門有希の方へと心配そうに戻ってくる。 「ええわかってますよ。サボっちまってすいません」 わざと明るい声を出して自分を奮わせると、キョンはトウカからスコップを受け取り長門有希の墓を掘り始めた。 (安心してろよ長門。俺がお前のヒントを受け損なったことなんてなかっただろ?) 並んで掘られた三人の女性の墓、その横に四つ目の墓穴を掘りながらキョンは、この悪趣味なゲームからの脱出を改めて決心した。 それを離れた位置で見守る彼の用心棒であるトウカ。 彼女の腰には先刻の闘いで折れた物干し竿に代わって、劉鳳から預かった斬鉄剣が佩かれていた。 そこから更に離れた場所で、魅音は瓦礫の山を登ったり降りたりしながら昼間の宝探しを思い返していた。 あの時はまだ四人とも仲良くやっていたのにあれも嘘だったのか……。 しかし、もうその答えは永遠に得られない。時と共に命も何もかもが失われていってしまう。 ……それでももう止まったりはしない。 魅音は瓦礫の山の頂上から空を見上げクーガーとなのはの帰りを待った。 【D-5/ホテル跡地/1日目-真夜中】 【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:疲労、全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意 [装備]:バールのようなもの、スコップ [道具]:デイバッグと支給品一式×4(食料-1)、わすれろ草@ドラえもん、キートンの大学の名刺 ロープ、ノートパソコン [思考] 基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る 1:長門を埋葬し、魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。 2:その後、病院へと向かう。 3:『射手座の日』に関する情報収集。 4:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合いを捜索する。 5:キャスカ、ルイズを警戒する。 6:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような…… [備考] ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「ミステリックサイン」参照。 ※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は「仲間を探して」参照。 【トウカ@うたわれるもの】 [状態]:疲労、左手に切り傷、全身各所に擦り傷、額にこぶ [装備]:斬鉄剣@ルパン三世 [道具]:支給品一式(食料-1)、出刃包丁(折れている)、物干し竿(刀/折れている)@fate/stay night [思考] 基本:無用な殺生はしない 1:長門を埋葬し、魅音と一緒にクーガーとなのはを待つ。 2:その後、病院へと向かう。 3:キョンと共に君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥを捜索する。 4:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンと武を守り通す。 5:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す。 【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】 [状態]:心身共に疲労、右肩に銃創(弾は貫通、応急処置済、動作に支障有り) [装備]:AK-47カラシニコフ(30/30)、AK-47用マガジン(30発×3) [道具]:支給品一式、スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着(一部破れている) [思考] 基本:バトルロワイアルの打倒 1:キョンとトウカと共にクーガーとなのはを待つ。 2:瓦礫の山を捜索。 3:クーガーとなのはが戻ってきたら病院へ向かう。 4:沙都子を探して保護する。 5:圭一、レナの仇を取る。(水銀燈とカレイドルビーが対象) セラスとキョンに事後を任せトグサは自転車を全力で駆っていた。 映画館で待つハルヒ、アルルゥ、ヤマト。彼がもし長門の死を放送で知れば必ずパニックを起こし、 その外へと飛び出してしまうだろう。その前に戻って自分が事情を説明しなければならない。 ハルヒや、長門に懐いたアルルゥのことを思うと心が痛むが、逃げるわけにはいかないことだ。 病院に戻ったら、セラスにも謝らなければならないだろう。他のホテルにいた者達にも。 この一連のホテルで連なり起こった惨劇、そのドミノの最初の一枚を倒したのは確実に自分だ。 すでに脱落してしまった者には合わせる顔もない。だからこそ、犠牲になったものに報いるためにも必ず脱出してみせる。 時計で時刻を確認しながら病院の前を突っ切る。 往く道で後ろに乗せていた彼女は重さを感じさせなかったが、帰りの道を戻るトグサの胸にはその不在はとても重かった。 【C-3/市街地路上/1日目-真夜中】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退、自転車全速力 [装備]:S W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク [道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物) 技術手袋(使用回数:残り17回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚 [思考] 基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。 1:映画館に戻りハルヒ達に事情を説明。 2:その後ハルヒ達を病院へと誘導。 3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。 4:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。 5:情報および協力者の収集、情報端末の入手。 6:タチコマ、エルルゥ、八神太一の捜索。 [備考] 風、次元と探している参加者について情報交換済み。 ホテルより西に、レジャービルの前を横切り病院への道を走る一台のリヤカーがあった。 それを引いているのは吸血姫であるセラスで、荷台には満身創痍の劉鳳と右足首を折った剛田武が横になっている。 「急げセラス。俺はあの不二子という女が悪なのか見定めねばいけないんだ」 横になったままの姿勢で劉鳳が台車を引くセラスに注文する。 いかなる艱難辛苦を経ようとも彼の横柄な態度は改まらないらしい。 「アイヨー」 こちとらも同じく満身創痍なのに吸血姫使いが悪いとブーたれながらもセラスは台車を引く。 その腕には彼女のマスターであった吸血鬼アーカードの心臓に嵌っていた、 他よりも小さめの銀の環が月光を跳ね返し輝いていた。 (……のび太。ドラえもん) 劉鳳の横に寝かされた剛田武は翠星石の首輪を握り締めながら真上の月を見ていた。 劉鳳の話によるとそこに彼らがいるという。なまじ仲間が集まるがゆえに、 スネ夫という大切な仲間が揃わないことが彼の心を痛めた。 ガラガラガラガラと音を立てて月夜をリヤカーが走る。 【D-5/市街地路上/1日目-真夜中】 【劉鳳@スクライド】 [状態]:満身創痍 [装備]:なし [道具]:支給品一式(-2食)、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱、ビスクドール、ローザミスティカ(真紅) @ローゼンメイデン [思考] 基本:自分の正義を貫く。正義とは何かを見定める。 1:病院へと向かい不二子が悪か見極める。 2:病院で手当てを受ける。 3:悪を断罪する。(ウォルターを殺した犯人、朝倉涼子※名前を知らない、シグナム※クーガーに任せた) 4:ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから解放する。 [備考] ※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。 ※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。 ※朝倉涼子については名前(偽名でなく本名)を知りません。 【セラス・ヴィクトリア@HELLSING】 [状態]:全身打撲、裂傷及び複数の銃創 (※どれも少しずつ回復中) [装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾:6/6発)@HELLSING、アーカードの首輪 13mm炸裂徹鋼弾×54発@HELLSING、スペツナズナイフ×1、ナイフとフォーク×各10本、中華包丁 銃火器の予備弾セット(各40発ずつ、※Ak-47、.454カスール、ジャッカル、S W M19の弾丸を消費) [道具]:支給品一式(×2)(メモ半分消費)、糸無し糸電話@ドラえもん、バヨネット@HELLSING [思考] 基本:トグサに従って脱出を目指す。 1:劉鳳、剛田武と共に病院へ向かう。 2:食べて休んで回復する。 3:病院を死守し、トグサ達を待つ。 4:ガッツとキャスカを警戒。 [備考] ※セラスの吸血について ・通常の吸血 その瞬間のみ再生能力が大幅に向上し、少しの間戦闘能力も向上します。 ・命を自分のものとする吸血 少しの間、再生能力と戦闘能力が向上し、その間のみ吸った相手の力が一部使用できます。 吸った相手の記憶や感情を少しだけ取り込むことができます。 ※現在セラスは使役される吸血鬼から、一人前の吸血鬼にランクアップしたので 初期状態に比べると若干能力が底上げされています。 【剛田武@ドラえもん】 [状態]:右足首単純骨折、額と鼻に打撲、落ち込んでいる [装備]:虎竹刀@fate/stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん [道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に、翠星石の首輪 ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん、シュールストレミング一缶、缶切り [思考] 基本:誰も殺したくない、ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる 1:病院に向かいドラえもんとのび太に合流する。 2:病院で手当てを受ける。 2:病院で魅音を待つ。 ホテルより南、劉鳳がクーガーと別れた場所を目指して月の下を歩く一人と一匹がいた。 クーガーを迎えに……ではなく、その相手であるシグナムを探してである。 (……そのクーガーってのが、やっちまってると言っても面ぐらいは拝ませてもらえねえとな) 劉鳳と魅音から聞いたシグナムという襲撃者は、トグサから聞いたルパンの仇に間違いない。 そう確信すると次元大介は止めるも聞かず一人で飛び出してきたのだが…… 「おめーさん。なんでまた俺と一緒に?」 隣を短い足でついて来るブタ――ぶりぶりざえもんに次元は問うた。 「なあに、まだお前はわたしにおたすけされてないと思ってな。 それに……、今太一達の下に戻ってもおたすけできないのだ……」 ブタにはブタの都合があるらしい……と次元は解釈した。 「ところでそのケツで光っているのは……」 ぶりぶりざえもんのパンツのお尻の部分が、蛍のように翠の淡い光を放っている。 「こ、これはなんでもないぞ。拾ったんだからわたしの物だっ」 どうやら、あの瓦礫の山で何かを拾ったらしいのだが…… 「……まぁいいか。よろしくな相棒」 「うむ、私がいるからには大船に乗ったつもりでいろ」 そんなやり取りを経て、一人と一匹は足音と淡い光を残し夜の街の中へと姿を消した。 【E-6/市街地路上/1日目-真夜中】 【次元大介@ルパン三世】 [状態]:疲労、発砲による腕の疲労、脇腹に怪我(手当て済み、ただし傷口は閉じてきってない) [装備]:454カスール カスタムオート(残弾:7/7発)@HELLSING、朝倉涼子のコンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱 [道具]:デイバッグ(×4)、支給品一式(×4)(食料-2)、13mm爆裂鉄鋼弾(21発) @HELLSING レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡 蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)@ローゼンメイデン トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ [思考] 基本:1.女子供は相手にしないが、それ以外には容赦しない。 基本:2.トグサに協力し、できるだけ多くの人間が脱出できるよう考えてみる。 1:生死に関わらずシグナムを探す。 2:シグナムが生きていればルパンの仇を取る。 3:クーガーと会ったらホテル跡へ戻るよううながす。 4:1-3が終われば病院へと向かう。 5:アルルゥ、トグサ、ヤマトの知り合いに会えたら伝言を伝える。 6:折を見て魅音に圭一たちのことを話す。 7:ギガゾンビの野郎を殺し、くそったれゲームを終わらせる。 [備考] トグサとの情報交換により、 『ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)』『赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)』 『羽根の生えた黒い人形(水銀燈)』『金髪青服の剣士(セイバー)』 を危険人物と認識しました。 【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】 [状態]:やや疲労、頭部にたんこぶ、ヤマトとの友情の芽生え、救いのヒーローとしての自覚 [装備]:なし [道具]:ローザミスティカ(翠) @ローゼンメイデン [思考] 基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。 1:とりあえず次元大介に付き添う。 2:太一をおたすけする別の手段を見つける。 3:まだおたすけしていない相手を見つけたらそいつをおたすけする。 4:怪我人を見つけたら病院へと送る。 5:救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。 【備考】 以下の物がホテル跡の鳳凰寺風の墓の近くに放置されています。 鳳凰寺風の剣@魔法騎士レイアース、鎖鎌(ある程度、強化済み) [鳳凰寺風のデイバッグ] 小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ 紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク 包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅) 以下の物がまだホテルやその周辺の瓦礫の下に埋まっています。 [ゲインのデイパック] 支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど) [バトーのデイバッグ] 支給品一式(食糧なし)、チョコビ13箱@クレヨンしんちゃん、煙草一箱(毒)、 爆弾材料各種(洗剤等?詳細不明) 電池各種、下着(男性用女性用とも2セット)他衣類 茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている、茶葉を一袋消費 [みさえのデイバッグ] 石ころ帽子@ドラえもん、スモールライト@ドラえもん [他] パチンコ、パチンコの弾用の小石数個、トンカチ、支給品一式、空のデイパック スペツナズナイフ×1、銃火器の予備弾セット(各120発※ジャッカルの分は抜かれてます) 糸なし糸電話(使用不可)@ドラえもん、FNブローニングM1910(弾:3/6) 時系列順で読む Back 孤城の主(中編) Next 廃墟症候群 投下順で読む Back 孤城の主(中編) Next 廃墟症候群 235 孤城の主(中編) キョン 236 廃墟症候群 235 孤城の主(中編) トウカ 236 廃墟症候群 235 孤城の主(中編) 園崎魅音 236 廃墟症候群 235 孤城の主(中編) トグサ 245 峰不二子の陰謀 235 孤城の主(中編) 劉鳳 241 闇照らす月の標 235 孤城の主(中編) セラス・ヴィクトリア 241 闇照らす月の標 235 孤城の主(中編) 剛田武 241 闇照らす月の標 235 孤城の主(中編) 次元大介 244 のこされたもの(相棒) 235 孤城の主(中編) ぶりぶりざえもん 244 のこされたもの(相棒) 235 孤城の主(中編) 長門有希 298 GAMEOVER(1) 235 孤城の主(中編) アーカード 235 孤城の主(中編) 鳳凰寺風
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Wind ~a breath of cure~ ◆lbhhgwAtQE 放送がギガゾンビの狂気染みた笑いとともに終わった時。 トラックを修理していたトグサは、その修理の手を止めて唖然としていた。 「そんな……そんなことが……」 自分はあの時、確かにバトーとセラスが死ぬ瞬間を見たはずだった。 だが、現実としてセラスの名前は呼ばれなかった。 ……つまり、まだセラスは生きている。 彼女はそこまで強化された義体だということなのかどうかは分からなかったが、何にせよトグサはまた一つ判断ミスをしてしまったことを痛感した。 そして、更に彼を驚かせたのは―― 「少佐……」 草薙素子――彼が少佐と呼ぶ九課のリーダー的存在である女性もまた死んだという事実。 全身を義体化し肉弾戦、頭脳戦の双方においては自分ではとてもかなわないほどの能力を誇る彼女ですら、このゲームにおいては敗者になりうるというようだ。 彼は、その死を悼むとともに、改めてこのバトルロワイアルの恐ろしさを実感した。 「クソッ、俺がこうしてもたついている間にも……!」 何一つ、打開策を講じれない自分に悪態をつきながらも、彼は今自分が出来ること――技術手袋によるトラック修理を再開した。 それが自分が今出来る唯一の事であったから。 「あ、あの……」 そして、そうこう修理していると、背後から声を掛けられた。 その声は、先ほど少女の埋葬に向かわせた少年、石田ヤマトのもの。 「……どうした、終わったのか?」 「は、はい。お墓も作ってきました」 「そうか……。なら、もう少し待っていてくれ。じきにタイヤが直るから、そうしたらハルヒって少女を病院に――」 「え? で、でも……」 何やらヤマト少年の声は、慌てているようなうろたえている様な調子だった。 トグサはその声を訝しげに思うと後ろを振り向く。 「どうした? 何か都合でも悪いのか?」 「いや、その……あのメイド服の女の子がいないんですけど……」 「何っ!?」 メイド服の少女――彼女には自分がハルヒを見ているように命じたはずだった。 だが、振り返ると確かにハルヒのそばには誰もいなかった………………。 ◆ ――アルルゥ。今名前を呼ばれた人はな、死んでしまったんだ。 父と慕う男の名前が呼ばれたとき、ルパンは確かにアルルゥにそう言った。 そして、今度の放送でその事を告げた男の名前が呼ばれたときも彼女はそれを覚えていた。 ――勿論、大丈夫に決まってるわ! あいつはあたしがSOS団の団員にわざわざ任命してあげたのよ! そう信じたかった。 しかし、その事を高らかに言い、彼の無事を確信していた少女も今は目を覚まさないままでいる。 だからこそ、アルルゥは事の真偽を確かめるべく、男が残ったあの橋へと走っていた。 ……そして、彼女は橋に到着した時、放送の内容の真偽を目の当たりにすることになった。 「……ルパン?」 至る所でアスファルトが剥がれ、橋の高欄が削れている中、彼は高欄の傍で横たわる男の姿を発見した。 赤いジャケットを着たその男は、そのジャケットと同じ色の液体をその周囲に撒き散らし、目を瞑って動かないまま。 「ルパン……起きる。ハルヒおねーちゃんが倒れた。起きてルパンもハルヒおねーちゃん助ける」 横たわる彼の傍にしゃがみこみ、肩を何度も揺さぶる。 ……だが、彼は一向に目を覚まさない。 その理由は、腹部に横一線に走る深い切れ込みを見れば一目瞭然だ。 だが、それでも彼女は男を起こそうとする。 「起きるー! ルパン起きなきゃ嫌ぁー! 起きて、起きてルパンー!!」 彼女の脳裏には浮かぶのは自分を庇って凶刃に倒れた祖母トゥスクル。 そして重傷を負いながらもヤマユラから皇城まで敵國の襲撃を伝え、それから間もなく倒れた頼れるオヤジのテオロ。 二人とも目を瞑ってからは、何度揺さぶっても、何度声を掛けても起きることはなかった。 ……彼女には、それが死だということは分かっていた。 だが、理解したくなかったのだ。 それは、この目の前にいる男に対してもそうで…… 「ルパン……起きなきゃダメ! ハルヒおねーちゃんが怒る! アルルゥも怒る!」 それでも彼は目を覚まさない。 「嫌だ…………ルパン死んじゃ………………イヤ」 戦多き世界から呼び出されたとはいえ、彼女はまだ子供。 子供が見るには、その死は余りにも多すぎ、そして衝撃的すぎた。 「イヤ……ダメ死んじゃ…………ダ……メ……」 彼女は、出るだけ涙を流し尽くすと、糸が切れたようにその場に倒れこんでしまった。 ◆ 「クソッ! 俺は何をやってたんだ!!」 トグサは修理していたトラックのフレームを叩いた。 放送でセラスが生きていたことや少佐が死んだことを告げられ衝撃を受けていた事。 技術手袋での修理に神経を集中させていた事。 修理の際に出る音により足音が聞こえなかった事。 アルルゥがいなくなったことに気付かなかった理由を挙げろといわれれば、これらが挙げられる。 だが、それらはすべて自分の不注意という過ちの結果という理由に収束される。 トグサは、そんな進歩しない自分に嫌気が差していた。 セラスをほっぽりだし、バトーと少佐の死を防げず、あまつさえ傍にいた少女でさえも見失う――これだけの失態、公安九課ではありえない。 「あ、あの……俺、探してきます」 「いや、ダメだ。君までを見失うわけにはいかない」 「だ、だけど今ならまだそう遠くには……!」 「ここにはどんな殺人鬼がいるか分からないんだ! 装備もなしに単独行動は危険だ!」 先ほど、一人で少年に離れた場所まで人を埋葬させに行かせた男の言う台詞とは思えない、トグサ自身でもそう思う。 だが、アルルゥを見失ってしまった今、不用意に子供を動かすわけにはいかない。 ……しかし、だからといって自身が少年と重傷者を放り出して探しに行くわけにもいかない。 「……おい、私を今カウントしていなかっただろう……」 どうする……どうすればいい。 せめてあと一人、頼れる仲間がいれば、任せられるのだろうが……。 「何か問題が発生したの?」 トグサが悩んでいると不意に、声を掛けられた。 その声は、トラックに追いついた当初自分を威嚇したあの少女のもので……。 「あんた……! 今までどこ行ってたんだ? それにその体……」 ヤマトは久方ぶりに再会した同乗者のボロボロな姿に驚きを隠せないでいた。 だが、長門のほうはというとさも平然を装う。 「少し用があって席をはずしていた。私の体は問題ない。……そちらで何か問題……例えば涼宮ハルヒの容態に何か異変が?」 トグサはヤマト同様に長門の姿に驚きつつ、答える。 「いや、今のところ彼女の方は安定している。依然予断を許さない状態だがな」 「……そう」 「しかし……それよりも本当に大丈夫なのか? 特にその腕……」 傍目にも、その動かされていない長門の左腕には何らかの異変があったことは確かだった。 ……だが、それでも長門は顔色一つ変えない。 「問題ないと言っている。大丈b――」 その足元から崩れる瞬間まで、彼女は表情を変えることないままだった。 「お、おいっ! 大丈夫か!?」 倒れた長門にヤマトとトグサが駆け寄る。 「な、何で急に倒れたんだ、こいつ……」 「少し熱がある。……恐らくはさっきの戦闘で無理して動いて疲労したツケがここで来たんだろうな」 「戦闘? ……どういうことですか、トグサさん」 襲撃者、そしてそれを迎撃した長門の話を伏せられていたヤマトが不思議そうな顔をする。 一方、その話をあえて伏せていたトグサはというと、もう隠す必要もないと思ったのか、長門の怪我の状態を見てやりながら、彼にあの時の真実を告げはじめた。 すると、それを聞き終えたヤマトは顔を赤くして怒る。 「何でその事を早く言ってくれなかったんです!」 その反応はトグサにとっては予想の範疇にあるものだ。 逆に言えば、こんな反応を示すだろうから、彼はあの時すぐに話さなかった訳で……。 「……その事については謝る。……しかし、もしあの時その事を知ったとしたら、君はどうしていた?」 「決まっています! 俺も一緒に戦いに――」 「満足な武器もなしに、子供の君が? ……一体どうやって戦うつもりだ?」 トグサの問いに、ヤマトは言葉を詰まらせる。 ……ヤマト自身にだって、パートナーもいない現状で自分が何も出来ないことは分かっていた。 だからこそ、トグサの言葉は耳に痛かった。 「相手は遠くから走行する車のタイヤを撃ちぬけるほどの腕の持ち主だ。並大抵の戦力じゃあっという間にやられる。そしてあの長門という少女は、それに対応しうる強化された体を持っていた。……だからこそ俺は行かせた」 「じゃあ、何でトグサさんが一緒に行ってやんなかったんですか? ……刑事さんなら戦えるはずでしょ」 「援護は要らないって言われたよ。……確かに彼女の力を見るに俺程度じゃ足手まといになりそうだった。……それに、彼女から直々に頼まれたんだ。――涼宮ハルヒという少女を頼む、とな」 そう言って視線をハルヒへと向ける。 彼女は相変わらず、眠り姫か白雪姫の如く眠り続けたままだ。 ただその二人と違うのは、目覚めさせるのは王子様のキスなどではなく、適切な救命措置だったが。 「……だが何を言おうと結果として、彼女がこうなるまで見殺しにしていたことには変わりない。その上に不注意のせいで少女を見失ってしまうなんて本当に九課失格かもな……」 今もなお、消えた少女の行方は分からない。 だが、だからといって彼女を探すべくここを離れれば、倒れる少女二人と武器を持たない少年一人を置いていくことになる。 何も出来ない自分に呆れ、自嘲気味に力ない笑みを浮かべるトグサをヤマトはただ見ることしか出来なった。 そして、そんな沈痛な空気の中、声を掛けるものが一人。 「あの……どうなさったんですか?」 突如聞こえた声に驚き、振り返った二人が見たもの。 それは、眼鏡を掛け緑色のブレザーの制服を着た一人の少女だった。 ――いや、二人といったほうがいいかもしれない。 何故なら彼女は犬のような特徴的な耳と尻尾を持ったメイド少女を背負っていたのだから。 ◆ 鳳凰寺風が友を求めて西方から橋に到着したのは、アルルゥが倒れてから間もなく。 彼女は橋に到着するなり、その橋の惨状に唖然としていた。 「……堅牢な橋がこれだけ破壊されるなんて……しかも焦げた跡まであるということはもしかして魔法? まさか光さんの炎の魔法!?」 炎から親友の姿を想像した彼女は不安になりながらも、橋を渡る。 そして、橋の中央部に到達した時、彼女は重なるように倒れる二人の参加者を発見した。 「こ、これは…………!」 下にいたのは長身の中年男性。 腹部に巨大な裂傷があり、そこから溢れた血液はもう一部が凝固していた。 念のためその冷たくなった手首を持ち、脈を取ってみるが、時既に遅し。 「こんな酷いことを一体誰が…………」 続いてその男の胸の辺りに折り重なるようにうつ伏せになっている小さな少女の方を見る。 少女はメイド服を見ていたが、そのスカートの部分からなにやらふさふさした尻尾のようなものが出ていて…… 「尻尾? ……それにこれは!」 目を頭部に移してみると、その耳のあるべき部分には犬のような耳が生えていた。 ――フサフサした耳と尻尾。 それは彼女がこの地で新しく出会ったあの少女に類似していて、更に言えばその少女が探していた妹とやらに年頃が近いように見えた。 「まさか……この子がアルルゥさん?」 風は慌てて、彼女の手首を持ち上げる。 すると、それはまだ暖かく、しっかりと脈打っていた。 更に彼女の顔に自分の顔を近づけてみると―― 「……すー、すー、すー、うにゅ~……」 彼女は寝ていた。いや、怪我も殆ど無く本当にただ寝ているだけのようだった。 「でも、一体どうして……」 どうして彼女はこの切り裂かれた死体に折り重なるように、無傷で倒れていたのだろうか。 風にはそれが疑問に思えて仕方が無かった。 ――だが、今はそれを考えていても始まらない。 あのエルルゥが探していた妹を見つけてしまった以上、このような目立つ場所に放っておくわけにもいかない。 「せぇの――っと!」 彼女はその眠る少女をおぶるとひとまず安全な場所まで運ぶことにした。 そして、そうやって橋を渡りきり、東へ更に進路を進めている時に彼女は道路脇に横転するトラック、そしてその周囲にいる人々の姿を見つけたのであった。 ◆ トグサ達と風が互いに戦意が無い事を確かめ合うのにそれほど時間は掛からなかった。 そして、互いに自己紹介を済ませると、早速話題は風の背負っていた少女アルルゥについてに移ることに。 「その子は俺達も探している最中だったんだ。……どうやって君が見つけたのか話してくれるかい?」 「えぇ、勿論ですわ」 風は、アルルゥを見つけた経緯や背負っていた理由を隠すことなく話した。 トグサはそれを聞いて事情について納得すると同時に、新しい情報を手に入れる。 「なるほど。その橋で何かしらの戦闘があったと……」 「はい。私もその場に立ち合わせたわけではありませんが、あの橋自体の様子やそこで亡くなっていた男性の姿から連想すると恐らくは。それよりも……」 風の視線が、横転するトラック、そして倒れた二人の制服姿の少女へと向く。 「こちらで何があったのか、教えてもらえますか?」 「ああ。……だが、俺もこの場に到着したのは車がこうなった後だ。その前のことは……頼めるかい?」 急に話を振られたヤマトは驚きに変わる。 「は、はい!」 「……おい、だからいい加減……私を無視するな……。私だって語ることくらいは…………」 そして、またも豚は無視された。 トラックが本来、ハルヒの命により橋へと向かっていた事。 そのトラックが何者かの襲撃を受けて横転、ハルヒが重傷を負った事。 トグサが到着すると同時くらいに、長門が襲撃者に応戦すべく出ていった事。 そして、放送後にアルルゥが失踪したが、風に連れられてきて戻ってきた事……。 ヤマトとトグサはそれらを簡潔に説明する。 「……それじゃあ、あの橋で倒れていたのは……」 「ハルヒって人が助けようとしたのは男の方だっていうし、きっとそうだと思います……」 風が橋で見た死体――それは、本来ヤマトらが支援しようとしていた人物だった。 彼女はそれを知って、表情を暗くしながらも更に問いかける。 「それに、その有希さんという方は南の方角へ襲撃した方を迎撃しに行ったと仰っていましたけど、それはもしかして禁止区域に指定されたE-4のあたりでしょうか?」 「それは分かりかねるが……だが、今もあっちで何かが起こってるのは確かのようだな」 トグサは日の差す南の方へと目を向ける。 すると、その方向からは今も絶えず、何かがぶつかり合うような音が聞こえてきている。 「このままでは、いつこっちに戦場が移動、拡大するか分からない。……そうなる前に俺達は車を修理して病院に向かわねばならない」 「ハルヒさんと長門さんの治療、ですね」 「私の腹も…………そろそろスーパーピンチ…………」 「あぁ。特にハルヒという少女は、このままでは動かすこともままならない。……ここにある病院の設備で何とかなればいいのだが」 改めてハルヒを見やると、彼女は依然として目を覚ます気配もなく、顔もやや青白いままだ。 すると、その様子を見た風がトグサに声を掛けた。 「あのトグサさん。その治療ですけど、私がお力になれるかもしれません……」 ◆ きっかけは意志だった。 魔操師アルシオーネとの戦いで傷ついた友を助けたい――そんな意志に、セフィーロという世界は応えてくれたのだ。 「……傷を癒す術だと?」 「はい、そうです。私のその力を使えば、ハルヒさんと有希さんの傷を少しでも癒すことが出来ると思います」 そうは説明するものの、トグサの顔はどうにも半信半疑といった表情が浮かんでいる。 確かに、セフィーロに来た事のない人にそのようなことを話しても、疑われるのが関の山かもしれない。 彼女ですら、君島の言ったロストグラウンドやアルター能力の話やエルルゥの言うウィツァルネミテアや亜人の話を当初は信じられなかったのだから。 だが、ここで意外な助け舟が入る。 「トグサさん、風さんに一度賭けてみませんか?」 「ヤマト……」 「俺もここに来る前にいた世界で、色々な不思議なものを見ました。だから……傷を治す力があってもおかしくないと思うんです」 この時の風やトグサに、ヤマトがデジモンワールドというこれまた不思議な世界を旅していた事など知る由もなかったが、その言葉はしっかりとしていた。 「それに、やらないよりやったほうがきっといいはずです」 「確かに……そうだな。それじゃ、その力とやら、見せてもらうかな」 「……分かりました」 トグサに促されると、風は精神を集中させる。 あの時――傷ついた海を助けようと思った時のように。 ここはセフィーロではないが、不思議と力が集まってくるのを感じる。 もしかしたら、ここも意志が力になる世界なのかもしれない――そう思っていると、彼女の脳裏にあの言葉が思い浮かぶ。 そして思い浮かぶが否や、彼女の口は自然とその言葉を紡いでいた。 「――癒しの、風!!」 穏やかな風がその場に吹く。 それはトラックの横転する周囲を包み、そして次第に異変が現れる。 「……あれ? 打ち身の痛みが急に退いていく……」 「気持ち悪いのは…………治らんぞ…………」 軽い打撲や擦り傷が治っていくのを見てヤマトが驚きの声を上げる。 「こ、これが魔法だというのか? ――だとしたら」 トグサは横たわる長門に近づくと、体の至る所にあった擦り傷がもう塞がり始めていた。左腕のほうは見た目だけでは分からなかったが。 「信じられない……が、現実として回復してるのか。……じゃあ、こっちも……」 更に今度は昏睡状態だったハルヒの横に跪き、様子を見る。 まず腕の布を取り去ると、矢が刺さり腕に空いた穴は少しずつ塞がりつつある。 そして次に頭に巻いていた布を取り去ってみると……確かに出血は治まっていた。表層の傷も治りつつあるように見える。 ……だが、頭部へのダメージはその程度では治ったとはいえない。 頭には脳という人間の生命の根幹を司る器官がある以上、もっと設備の揃った場所でしっかりとした検査のもとに治療法を見つけない限り、本来は治るわけがないのだ。 「……如何でしたか? ハルヒさんや有希さんの容態は良くなりましたか?」 振り返るとそこには様子を窺おうとしている風の姿が。 トグサはやや複雑そうな顔をしながら答える。 「確かに、表層の怪我は大分治ってきてる。……だが、骨や脳に関しては何とも言えないってところかな。病院での検査次第ってことかもしれない」 「すみません、力が及ばなくて…………」 「いや、傷が治りつつあるということは、体内の治癒力が高まっているということかもしれない。……だとすればきっと良くなってるはずだ」 「……そう言ってもらえると嬉しいですわ」 そう言うと、僅かながら風の顔に笑みが浮かぶ。 やはり女の子は笑顔が一番だ――――トグサは先に逝ってしまったあの上司の笑顔はどのようなものなのかと想像しながら思った。 ◆ 風の治癒の魔法は確かにある程度の負傷の回復を実現した。 ――だが、それでもハルヒが依然意識不明なのは事実であり、病院でより適切な処置をするべきであることには変わりない。 それゆえにトグサはトラックの残りの修理を急ぎ、そしてそれを完了させた。 「本当に一人で大丈夫か?」 「えぇ。どうしても気がかりなので」 運転席に乗り込みキーを回しながら問うトグサに、車外にいる風は毅然と答えた。 曰く、彼女には探すべき人物がいて、その人物が放送で告げられた“動けないでいる参加者”かもしれないということでE-4に向かうつもりのようだ。 E-4方面と言えば、激しい戦闘音が断続的に聞こえていた上に、じきに禁止エリア化する場所だ。 しかも、ついさっき車に乗り込んだ直後あたりにはガス爆発のような巨大な爆発音すらあった。 トグサとしては、そのような危険ばかりを孕んでいる場所に少女を一人向かわせたくはないのが本音だ。 だが、この風という少女の決意は確固としており、彼が何と言おうと向かうのは必至であろう。 「すまない。俺が一緒に行ければよかったんだが……」 「心遣いありがとうございます。ですがトグサさんはハルヒさんと長門さん、それに……」 「救いの…………ヒーロー……ぶりぶりざえもんだ……」 「そう、ぶりぶりざえもんさんを治療する為に病院へと向かうことを優先するべきですわ」 「……あぁ。そうだな」 あの横転現場で出会ってしまった以上、見殺しには出来ない。 もうバトーや少佐の時のように死を黙って見過ごすわけにはいかなかったのだ。 「ハルヒさん達をよろしくお願いします。もう誰かがこれ以上亡くなるのは見たくも聞きたくもありませんから……」 失った友の事を思い出したのだろう、悲しげな顔をする風を見て、トグサは決意した。 今度こそ……今度こそミスをせずに少女達を助けてみせる、と。 「分かった。君の力に報いる為にも彼女達は俺が絶対に守ってみせる。……だから君も無事でいてくれ」 「えぇ、勿論ですわ。トグサさん、ヤマトさんもどうかご無事で。……それでは私はそろそろ――」 「――ま、待ってください!」 助手席でぶりぶりざえもんを抱えていたヤマトは、踵を返そうとする風を引き留めると、車を降りて彼女の前へと立った。 そして、長い棒状のもの――鞘に入った一振りの刀を差し出す。 「……丸腰じゃ危険だからその……これを持って行ってください」 「いいんですか? これはあなた方の――」 「構わないさ。もともとの持ち主には俺が説明しておく。それにこっちは車だし武器もまだ残ってるからな」 とは言っても、トラックにあるのはRPGとヤマトのクロスボウ、そして残弾少ない長門の銃くらいであったが。 それでも、徒歩の風を丸腰で行かせるわけにはいかなかった。 「……感謝しますわ。……それでは今度こそ、失礼致します。光さんやエルルゥさんを見つけた時は……お願いしますね」 「あぁ。君も、ホテルに向かう用事がある時はセラスを頼む」 「えぇ。……ではまたいつか」 こうして風はトグサ達に背を向けて歩き出した。目指すは爆心地のE-4。 ……それを見送るとトグサはギアを入れ替えペダルを踏み込み、トラックを発進させる。目指すは橋の向こうの病院。 ――そして、双方のいなくなったその地に再び静かに風が吹いた。 【D-3・橋付近(南岸) 1日目・午後】 【トラック組(旧SOS団) 運転:トグサ】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:比較的正常、若干の疲労 [装備]:73式小型トラック(運転席) 暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本 [道具]:支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん [思考]: 基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索 1、病院までの間、警戒しつつトラックを運転 2、情報および協力者の収集、情報端末の入手 3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索 [備考] 風と探している参加者について情報交換しました。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、右腕上腕に打撲(回復中)、相次ぐ精神的疲労、SOS団特別団員認定 [装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(助手席) [道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク [思考・状況] 1、トラックに乗りながら周囲を警戒 2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。 3、八神太一、長門有希の友人との合流 基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 [備考] ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】 [状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒、激しい嘔吐感、無視されている、なぜか無傷、SOS団非常食扱い? [装備]:照明弾、73式小型トラック(助手席) [道具]:支給品一式 ブレイブシールド@デジモンアドベンチャー クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り四回)、パン二つ消費 [思考・状況] 基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する 1.無視するなって言ってんだろうが貴様ら! ……お願いだからこっち向いてください 2.強い者に付く 3.自己の命を最優先 [備考] 黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。 癒しの風による回復はありませんでした。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:意識不明、左上腕に負傷(傷は塞がりつつある)、頭部に重度の打撲(出血は止まる。現在回復中) [装備]:73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考・状況] 基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。 1、気絶 [備考] 腕と頭部にはトグサの服の切れ端に代わり、風の包帯が巻かれています。 癒しの風を受けたものの意識不明の重体という状態は変化ありません。 あえて変化を挙げるならば、「動かすだけで危険」だった状態から、「動かす程度なら大丈夫」な状態に移行した程度です。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:疲労に伴う睡眠、左腕骨折、思考にノイズ、SOS団正規団員 [装備]:S W M19(残弾2/6) 、73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式/タヌ機(1回使用可能) @ドラえもん [思考・状況]: 1、疲労回復の為に休息する [備考] 放送はトグサ達のもとに戻る前に聞いていました。 癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:諸理由に伴う睡眠、右肩・左足に打撲(回復中)、SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席) [道具]:無し [思考・状況] 1、精神的ショックと疲労による一時的な睡眠 [共通思考]:病院へ向かい、ハルヒと長門、ついでにぶりぶりざえもんを治療する。 [共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります) RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク(荷台に置いてあります) 【E-4 北東部 1日目 午後(15時よりも前)】 【鳳凰寺風@魔法騎士レイアース】 [状態]:健康、魔力中消費(1/2) [装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+、スパナ、果物ナイフ [道具]:紅茶セット(残り5パック)、猫のきぐるみ、 マイナスドライバー、アイスピック、包丁、フォーク 包帯(残り3mぐらい)、時刻表、電話番号のメモ(E-6駅、F-1駅) [思考・状況] 基本:光と合流して、東京へ帰る。 1:E-4範囲内に動けない人がいるか捜索、結果の如何に関わらず15時までに脱出する。 2:2で該当者が見つからなかった場合、F-8に向かい捜索する。 3:3の後、ホテル方面へ向かい、出来ればセラスと接触したい。 4:消えたエルルゥが気がかり。 5:怪我人を見つけた場合は出来る範囲で助ける。 6:自分の武器を取り戻したい 7:もし、人に危害を加える人に出会ったら、出来る範囲で戦う。 [備考] 「癒しの風」について 風の魔法である「癒しの風」はいわゆる回復魔法です。 基本的に人間の自然治癒力を高める効果を持っており、傷や疲労の回復を促進します。 ただし、魔法により傷が完治するということはなく、あくまで回復の補助をするだけに留まります。 よって、切断された部位の接合や死者の蘇生は効果の範疇の外にあることになります。 また、病気や食中毒、疲労を回復することは不可能です。 また、発動には魔力と一定の時間を要し、対象が一箇所に固まっていた場合はそこにいた全員に効果があります。 消費した魔力は睡眠等の休憩で回復することができます。 時系列順で読む Back 峰不二子の消失 Next 白地図に赤を入れ 投下順で読む Back 峰不二子の消失 Next 「ミステリックサイン」 155 お別れ トグサ 187 「救いのヒーロー」(前編) 155 お別れ 石田ヤマト 187 「救いのヒーロー」(前編) 155 お別れ ぶりぶりざえもん 187 「救いのヒーロー」(前編) 155 お別れ 涼宮ハルヒ 187 「救いのヒーロー」(前編) 155 お別れ アルルゥ 187 「救いのヒーロー」(前編) 145 正義の味方Ⅱ 長門有希 187 「救いのヒーロー」(前編) 174 今、助けに行きます 鳳凰寺風 202 「何人たりとも俺は止められない!」/「まぁ、速い」
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GAMEOVER(1) ◆S8pgx99zVs [ Reboot ] 真円を描く蒼い月の下、通り抜ける風の音以外は何も聞こえてこない、静謐な病院。 戦いの顎に身を削られ、憐れな姿態を晒すその薄灰色の箱の中。その一室。 独りこの場所に残った男――トグサの目の前でそれは起こっていた。 息を呑むトグサの顔を照らす淡い光。 それは彼の目の前にある担架――その上に寝かされた長門有希の遺体から発せられているものだ。 彼女の身体、そしてその身を包む衣装。その表面から、光を放つ砂のように細かい粒子が立ち昇っていた。 粒子が離れた場所は、まるで蛇が脱皮をしたかのように生前の綺麗さを取り戻している。 赤黒く爛れていた肌は、磨き上げられた陶磁器のような白さを取り戻し、 染み込んだ血と油、泥と灰に塗れた衣装は、洗い上げたばかりのように鮮やかな色を取り戻している。 そして、立ち昇った粒子が最後に強い光を発して空気の中に消えると、トグサの前には以前のままの長門有希が戻っていた。 閉じていた瞼がパチリと開き、二度、三度と瞬きを繰り返すと、彼女は何もなかったかのように床の上に下りる。 そして、琥珀のように閉じ込めた物を外に洩らさない静かな両の瞳が、目の前のトグサを見上げた。 壊れた部品を交換し、人格プログラムを注入して再起動する。 公安九課に勤めるトグサにとって、それは見慣れた風景だ。 自立機動兵器であるタチコマをはじめ、何体もの人と見分けのつかないオペレーターロボットが彼の職場には存在した。 無機物だけで作られた擬体ではなく、有機体で作られたバイオロイド。そんな物が開発されているとも話には聞いている。 しかしそれでもなお、彼にとって目の前の存在はファンタジーなものに見えた。 淡い光の中、戻って来れないとされる深い眠りから目を覚ます様は、まるで御伽噺の中のお姫様だ。 話に聞いている分には、間違いなく目の前の彼女はロボットだと言えるだろう。 そして、その無感情で無機質、正確で揺るぎの見えない振る舞いはその印象をより強いものとしている。 それでもトグサは、その感情を表さない琥珀色の瞳――その奥を見ていると感じるのだ。 生の証明――ゴーストの揺らめきを。 「――電脳を」 そう長門有希が呟いた瞬間。 あっけに取られていたトグサの脳内を、電気信号に姿を変えた長門有希の意識が駆け抜けた。 「……っ! 脳潜行か?」 その問いに無言で頷くと、一秒足らずでトグサの持つ情報を読み取って現状を把握した長門有希は、 カウンターの上に開かれていたノートPCを指差した。 その次の瞬間、黒い背景に白い文字だけだった一つのウィンドゥに、彼女の同胞の姿が映し出される。 「あらためてはじめまして。喜緑江美里です」 ディスプレイに映るのは、緩やかにウェーブを帯びた薄い色の髪を後ろに流した、物静かな雰囲気の少女だ。 彼女は長門有希や涼宮ハルヒが着ていたものと同じ制服を身に纏っている。 長門有希を介して、彼女もすでに電脳のシステムを取り込んでいる。 そんなことに感心しながら、トグサは彼女に向けて話しかけた。 「俺がトグサだ。こちらも再会を喜ばしく思う。……それで、脱出の件なんだが」 トグサの言葉に喜緑江美里は静かに首肯して、はいと答えた。 「それは早速そちらにいる長門有希に始めさせたいと思います。お願いしますね長門さん」 了解した――と言うと長門有希はゆっくりと部屋の角に向って歩き出す。 その姿をディスプレイの中から見て満足すると、喜緑江美里は一息ついてトグサへと話しかけた。 「あなたと長門有希の脳内情報からある程度の事態は把握しました。 事件としては単純。しかし、状態としてはいささか複雑。そんな状況ですね。 長門有希には脱出路の確保を、私は彼女がこの空間に放出した情報因子の回収を始めたいと思います。 あなたは引き続き、脱出までの生命の維持に尽くしてください」 そこに、部屋の角に集められていた支給品の山から、一本の棒を取り出した長門有希が戻って来た。 それは? ――と問うトグサに彼女は、 「びっくり箱ステッキ。内臓された情報を、四次元を通して特定の平面内に込めることができる道具」 それを? ――と重ねて問われると、彼女はさらに説明を付け加えた。 「内蔵された情報を改変し、時空間を越えた場所にある平面へとアクセスする機能を加える」 つまりは――、 「断絶した平面と平面を接続する。時空間をワープさせる機能を持たせる」 なるほどと、トグサは頷いた。どうすればそういうことが可能なのか、そこまでは尋ねない。 トグサが納得したことを確認すると、長門有希はその場から少し離れ、部屋の中央に立つと、 手にしたステッキの先端をマイクを持つように口に寄せ、小さな声で呟き始めた。 「こちらから送っている情報を、ああしてあの道具へとダウンロードしています」 喜緑江美里の説明に、またトグサは彼女達の技術の底知れなさを感じた。 音声による直接的な電子情報伝達技術はトグサの生きる世界でも存在はするが、それとは比べるべくもない。 「……で、それが終了するのはどれくらいになりそうなんだ?」 その質問に、ディスプレイの中の喜緑江美里の顔が僅かに曇った――ようにトグサは微かに感じた。 「そうですね――と、少し待ってください。 長門さん、目的位置を北高文芸部部室から変更します」 声をかけられた長門有希は、ステッキから口を離すと、顔だけをディスプレイの方へと向ける。 「周辺亜空間内に、時空管理局の時空航行艦の存在を確認しました。 目的地をその艦橋へと変更しましょう。こちらの方が何かと都合がよいです。 位置情報を送るので、その部分を変更してください」 聞き終わると、長門有希は再び顔を手に持ったステッキの方へと向き直し、作業へと戻る。 「時空管理局に、時空航行艦……?」 「ええ。複数の平行世界に跨って活動する治安維持組織ですね。 直接的な接触はまだありませんが、おそらく私達とは友好的に交渉できるはずです」 言われて、トグサは仲間の一人である魔法使いの少女――フェイトがその組織の名前を出していたことを思い出す。 「……そうか、彼女の言っていた仲間もすぐそばにまで来ていたんだな」 連絡が付きさえすれば――と彼女は言っていたが、今その線も繋がったことになる。 「それで、私達の作業が完了する時間ですが……」 感慨に耽るトグサをそこから呼び戻したのは、喜緑江美里の声だ。 「――00:04。 そちらの時計で、明日の午前0時4分――その時間に終了します」 トグサの視線の先にある、壁に掛けられたアナログ時計の針は、まだその時間までには数時間の間があると告げている。 短い時間ではあるが、状況を考えればその数時間先はとても遠い。 しかし、時は過ぎる。 何もしなくても、何かをしていても――残るは結果。その瞬間の結果だけが詰み重なっていく。 その結果に後悔しないためには――仕事をするしかない。最善の結果を信じて。 ディスプレイの中の喜緑江美里に了解の意を伝えると、トグサは電脳を開きタチコマ達を呼び出した。 ――己が仕事を成すために。 [ Situation A ] 突然の邂逅に、その場に居合わせた全員の時間が止まっていた。 何台もの車が横に並んで走ることができるほど広く、人型の機動兵器が立ち上がってもまだ高さに余裕のある、 まるで巨人の住処にへと迷い込んだのかと錯覚するような、広大なギガゾンビの城――その通路の床の上。 一端には、ドラえもん、野原しんのすけ、ロック、ユービックの四人。 もう一端には、彼らが探して止まなかった仇敵、ギガゾンビ――その姿があった。 どこかの部族を思わせる、骸骨を模した木彫りの仮面。その脇から四方八方に伸びる白髪。 この悪趣味な生存競争に参加させられた者達が、繰り返し空の上に見たそのままの姿だった。 「ギガゾンビめーっ! みんなの仇ーっ!」 最初に動いたのはドラえもんだった。 両手に持ったスタンロッドを振り上げ、通路の先に立つギガゾンビの方へと駆け出す。 その形相に、立ち向かうギガゾンビも一瞬慌てたが、 相手があの青ダヌキだと判ると冷静さを取り戻し、手に持った杖を振るい電撃を放った。 杖の先端から放たれた電撃は、一直線に向ってくるドラえもんへと空中を奔るが…… 「ひ、ら~りっ!」 当たる直前に、ドラえもんの目の前へと飛び出したしんのすけのひらりマントによって跳ね返された。 空中を逆向きに辿った電撃は、それを放ったギガゾンビ自身の足元に落ち、床を黒く焦がす。 間一髪で電撃を避けたギガゾンビは、慌てて踵を返し元来た通路へと逃げ始めた。 「スゲーナスゴイデスッ!」 一言発すると、彼を追おうとしたドラえもん達の目の前に巨大な壁が現れ、行く手を阻む。 それを確認すると、ギガゾンビは老体に鞭を打ってその場より走り去る。 ◆ ◆ ◆ 「くそっ! 閉じ込められたぞ」 目の前に突如として現れた真っ白な壁に、ロックが拳を叩きつける。 辺りには迂回できるような通路はなく、また後ろは崩れ落ちた瓦礫で塞がれていた。 そして、閉じ込められた彼らにはそれを突き崩せるような道具や手段がない。 「だいじょぶだゾ」 しんのすけのその言葉に、残りの三人が振り返る。 ドラえもんが、しんのすけに楽観する理由を尋ねると、彼はギガゾンビが手に持っていたトランプと スゲーナスゴイデスという呪文について知っていることを話した。 「……つまり、悪いヤツが使う分にはそんなに強い力は発揮できないというわけだね」 ドラえもんの確認に、しんのすけはうんうんと頷く。 そして、壁の前に立つと両手をそこに置いて足を踏ん張った。それを見た残りの三人もそれに倣う。 「エクソダス大作戦ーーっ!」 「「「「 ファイヤーッ!! 」」」」 四人が力を合わせて押すと、進路を塞いでいた壁はゆっくりと傾き始める。 そして、そのまま床の上に倒れると、粉々に砕け散って煙と消えた。 「よーし、このままギガゾンビを追うぞ!」 壁を押していた腕を天へと突き上げ、声を揃えて「おー!」と号音を上げると、 四人はギガゾンビが走り去ったその後を追って駆け出した。 ◆ ◆ ◆ 「く、くそ! なんであいつらがこんな所にっ……!?」 偶然にも出くわしてしまった生存者達。 それらから辛くも逃げ出せたギガゾンビだったが、まだ心の平穏を取り戻すには至っていなかった。 ギガゾンビの耳に聞こえるのは、自分が吐く荒い息の音と、足の裏が床を叩く音だけで、 他には何も聞こえてこない。 彼を追う者達の足音がまだ届かないのはよかったが、 逆に彼を守るべき者であるツチダマ達の声が届かないのは彼を不安にさせた。 もっとも、閉じていた隔壁を魔法の力で強引に開きながら、独りでここまで来たのはギガゾンビ自身で、 その周辺にツチダマ達がいないのは仕方がない――つまり、これは自業自得だったのだが。 「フェムト! 応答しろっ!」 ギガゾンビは懐から通信機を取り出すと、腹心の部下であるフェムトを呼び出す。 「これはギガゾンビ様。今どちらにお出でなのですか? 警護のツチダマをそちらに向わせているのですが……」 「遅いわッ! 今、あの青ダヌキ共に追われておる! それよりも、貴様の方はどうだ? ザンダクロスは起動できたのかっ?」 ギガゾンビの質問に、フェムトから返ってきた言葉は意気揚々としたものだった。 「ご安心を、ギガゾンビ様。すでにザンダクロスは機動完了しております」 その言葉に、青かったギガゾンビの顔に赤みが射す。 「でかしたぞっ、フェムト! わしはこのまま屋上へと登る。そこで合流だ。警備のツチダマもそちらへと寄越せ」 「畏まりました。では、これを持って屋上へと御迎えに参らせていただきます」 城内中央のメインエレベータホールに辿り着くと、ギガゾンビは通信機をまた懐に仕舞った。 後ろを振り返れば、追ってくる四人の姿が見える。 「クソッ、しつこいやつらだ」 エレベータのドアの前まで走ると、ギガゾンビは再び魔法の力を行使して、一瞬でボックスを呼び寄せた。 開いたドアの中に駆け込み、ボックスが屋上へと上昇を始めると、壁に背をついてほっと息を吐く。 「……ククク、ザンダクロスさえ手に入れば、あんな奴ら恐るに足らずじゃ」 ◆ ◆ ◆ 「逃げられたかっ!?」 ロックが一足先にホール内へと駆け込んだ時には、すでにギガゾンビを乗せたボックスは階を離れていた。 閉じたドアの上にある表示は、ボックスが上階へと向かっていることを示している。 「こっちだゾッ!」 振り向くと、しんのすけがホールの端――ギガゾンビ城を縦に貫く巨大な螺旋階段に足をかけている。 遅れてホールに入ってきたドラえもんとユービックも、そちらへと向かっていた。 「………………」 見上げれば……見上げなければよかった――と思うような壮大さがある螺旋階段である。 平均的サラリーマン並な体力しか持ち合わせていないロックとしては、ボックスが戻ってくるのを待とうぜ、と言いたかったが、 すでに言い出しっぺのしんのすけは、彼が見上げる高さにまで駆け上がっていた。 「ラグーン商会~、ファイヤ~……!」 やれやれと溜息を付くと、同じく息も絶え絶えなドラえもんと揃ってロックは長い階段を登り始めた。 [ Situation B ] ギガゾンビ城の通路を、いくつもの赤い光弾が空中に軌跡を残し駆け抜ける。 キングゲイナーのチェーンガンから発射された弾丸は、吸い込まれるようにツチダマの群れに飛び込むと、 爆裂してツチダマ達をただの撒き散るセラミック片に変え、壁や床を削った。 ゲームチャンプであり、上級のシューターでもあるゲイナーが湧き出るツチダマ達の頭を抑え、 それらが自分達の足元まで殺到するのを阻止していた。 一歩も動かず守護砲台と化して働くキングゲイナーの後ろには、胸を撃たれたレヴィとそれを支えるゲインが隠れている。 レヴィを抱きかかえるゲインの腕は、彼女の胸から溢れ出す血で真っ赤に染まっていた。 右胸を打ち抜かれ、咳き込むレヴィの口の端から血で作られた泡が零れている。 辛うじて致命傷は避けられたにせよ、肺をやられているのは明白で戦闘を続けられるようには見えない。 「……レヴィ。君はもう病院へと戻るんだ。どこでもドアを使えば一瞬で戻ることが出来る」 病院へ戻って、トグサに手当てをして貰えとゲインはレヴィに提案する。 ゲインがどこでもドアを鞄に入れてここまで持ってきたのは、こういう事態を想定していたためだ。 外からギガゾンビ城への侵入はロックされていて不可能だが、この中から外に出る分には制限はない。 だが……、 「……fuck. ここでイモ引くレヴィ姉さん、かよ……。あたしには、トリガーを引く力があれば……それで十分、だ」 やはり、レヴィはその提案を蹴った。 一度病院に戻れば、前線に戻ってくることはできない。それを、レヴィは理解している。 「……あたしは、お姫様じゃあ……ないんだ。男に、おんぶにだっこ……真っ平御免だね」 言いながら、レヴィはゲインの腕を振り解き、自身の血で濡れた床の上に立った。 「あたしは、歩く死人……。此処にいるだけ……此処にいるうちは……ただ奪い合うだけ……」 だが、膝から力が抜けて床の上にへと崩れ落ちかけ、再びゲインに抱きかかえられる。 ゲインの腕の中に落ちたレヴィの、今度の抵抗は弱いものだったが、その眼だけは違った。 何かに飢えている様に、何かを取り逃がさまいとする必死さを浮かべている。 それには、さすがのゲインも説得は不可能だと諦めざるを得なかった。 無理やり病院へと送り戻すことはできるが、むしろ自分が目を放すと何を仕出かすかわからない。 彼女の相棒であるロックや、これまで彼女と同行していたゲイナーがどれほどの苦労をしていたのか、 それを想像して溜息を一つ漏らす。 「……戻らないにしても、手当ては必要だ」 しかし……と、ゲインは考える。 応急手当をするにしても、この場所で――と言うのは悠長が過ぎる。 キングゲイナーで運ぶにしても、レヴィやゲインを片手に、際限なく湧いて出てくるツチダマ達を突破するのは至難の事だ。 次の一手――この場所からのエクソダス。どうするべきか? そんな風にレヴィを抱き思案するゲインの頭上に、ゲイナーの声がかかった。 「ゲインさん。レヴィさんのバックを開いてください」 振り向かないまま頭上からかけてくる声に、ゲインはレヴィの背中にかかった鞄を開く。 「何か、この場面を切り抜けるいいアイデアがあるのか、チャンプ?」 流れ弾からレヴィの身を庇いながら尋ねるゲインに、弾丸を撃ち返しながらゲイナーがある物を取り出すように指示する。 それは……、 「……ぬけ穴ライト。なるほど、お前の考えは読めたぜ。だが、いいのか?」 壁に向って照射すれば、人が通れるほどの穴を開くことの出来るドラえもんの世界の道具。 これを使えばこの窮地を脱し、ゲインがレヴィの手当てをするに必要な時間を稼ぐことができるだろう。 だが、そうすると湧き止まぬツチダマの前にゲイナーを一人残していくことになる。 「ええ。むしろそうしてくれた方がありがたいぐらいです。 飛ぶことさえできればあんな奴ら――僕とキングゲイナーの敵じゃありません!」 少年の不敵な発言に、ゲインは口をニヤリと歪ませた。 「小僧がまるで一人前かのような口を利く――いいだろう。ここはお前に任せた」 ここで別れることに同意したゲインとゲイナーは、さらに互いが陽動としてどう動くかを手短に打ち合わせた。 そして、キングゲイナーが叩き落としたロケット弾の爆煙を目隠しに、ゲインとレヴィはその場を離れる。 視界を覆う煙が引くと、そこには一機のキングゲイナーだけが立っていた。 その周囲に七色に輝く粒子が集まり、環の形を成して機体を潜らせると――瞬間、加速した。 広い通路をツチダマの塊に向けて一直線に――そして更に、二つ三つと環を潜るとその速さが増す。 「――さぁ! ここからは僕のターンだっ!」 迫り来る弾丸よりも速さを増し、越える者――キングゲイナーが飛ぶ。 [ Situation C ] びっしりと頭上を覆う黒い枝と葉。 その僅かな隙間から差し込む、月明かりだけが頼りの暗い森の中を、涼宮ハルヒは走っていた。 全身に玉の汗を浮かべ、苔に覆われた岩や柔らかく積もった腐葉土に足を取られながらも、懸命に走る。 ざくっ、ざくっと土を踏みしめる音。 ひゅう、ひゅうと空気が喉を通り過ぎる音。 どくん、どくんと心臓が脈を打つ音。 膝が笑い、肺が軋み、心臓が悲鳴を上げ、垂れる汗が唯でさえ悪い視界をより奪う。 眼前に、他よりも一回りも二回りも太い大木を見つけると、ハルヒはその陰へと倒れこむように潜り込んだ。 ツチダマ達はついて来ている? ――手の中に握りこんだ槌に、そう尋ねようとするが口からは言葉がでない。 最悪の風邪に罹っている時に、冷水を浴びて400メートルハードルを全力疾走――そんな状態だった。 木の幹に背中を預け、痛むほどに脈を打つ胸を両手で押さえ、目を瞑って回復に努める。 「――――どう?」 一分ほど回復に専念して、やっと出せた言葉がこれだけだった。 しかし、それだけでも手中にある魔法の鎚は主の意を汲み、回答を返した。 『全てついて来ています。 ……こちらを見失ったためか、やや広く陣を展開しながら近づいて来ています』 その返答に、ハルヒは地につけていた身体を、もたれ掛かっていた幹を頼りに起こす。 「……好都合ね。各個撃破してやるわ」 『それにはまだ回復が十分ではありません』 それはハルヒにとっても言われるまでもないことだ。しかし、悪戯にこれを長引かす余裕もまた、ない。 だが、巨大な神人では、小さなツチダマを各個撃破するには不向き。 かといって、ハルヒ自身が直接グラーフアイゼンを振るって飛び出したとしても、精々数体倒すのがやっとだろう。 (――考えろ! 考えろ!) ハルヒは必死に頭を回そうとするが、激しい頭痛と眩暈が中々それを許さない。 そして、気持ち悪さと自身に対する不甲斐なさで、彼女の目の端に光るものが浮かんだ時―― 「な、何……?」 ハルヒの身体の周りを、薄い白煙が立ち込め始めたかと思うと、それは一気に彼女を包む。 そしてその煙が晴れた時、そこには北高のセーラー服姿に戻ったハルヒがいた。 「……なんだ、びっくりするじゃない」 呆れ半分の溜息がハルヒの口から漏れる。ただ、きせかえカメラの効果が切れただけだったのだ。 『……何を?』 本当に呆れたのはグラーフアイゼンの方だった。 ハルヒはきせかえカメラの効果が切れたと知ると、また再びそれを使おうと鞄を開き始めたのである。 『戦略的に意味のない不適切な行動です』 「うるさい。あんたには意味がなくても私にはあるのよ――と?」 鞄の中から抜き戻した手。その片方には目的のきせかえカメラ。そしてもう片手には―― 「そうよ。これが、あったじゃない!」 ◆ ◆ ◆ 「どこに行ったギガ~……」 手に持ったライフルを左右に振り、暗い森を睥睨しながら一体のツチダマがふらふらと進んでいる。 見失ってしまった、目標である涼宮ハルヒ。 音はしないが、それは遠くに離れたのではなくて、近くに隠れているだけ。そう推測して探索している。 その時、近くの茂みがガサリと物音を立てた。素早くツチダマはライフルの銃口をそちらへと向ける。 ―― 一秒。―― 二秒。―― 三秒。 緊張に耐えられなくなったツチダマが、茂みにむかって一発撃ちこもうかと考えたその時―― その脇から走りこんで来た何者かが、ツチダマが持ったライフルを蹴り上げ、弾き飛ばした。 その何者かとは、もちろん―― 「涼宮ハルヒ! 貴様――っ!」 突如反撃に転じた目標。しかし、それに動揺することなくツチダマは冷静に動いた。 距離が近ければ、手から放たれる電撃でも威力は十分。咄嗟に電撃を放つ。 それをハルヒは横っ飛びで避けたが、それもツチダマの計算の内だった。 ハルヒが物陰へと転がっていく隙に、手放したライフルを取り戻そうと踵を返し――動きが止まった。 「ば、馬鹿な……!」 ありえない事に身体を凍らせたツチダマは、次の瞬間、自分の持ってきたライフルで撃たれてその場に崩れ落ちた。 暗闇に紫煙を上げるライフルを持つのは――再び魔法少女の衣装を纏った涼宮ハルヒ! そして、木陰へと避難したもう一人の涼宮ハルヒもそこから姿を現す。 涼宮ハルヒが二人? ――いや! さらに木の上から一人が飛び降りてくる。そして、暗闇の中からもまた一人。 最初に音を立てた茂みの中からも、もう一人。次々とハルヒが現れ、その数――十五人。 そこへ、銃声を聞きつけた他のツチダマ達が近づいてくる。 その気配に、クローンリキッドごくうによって生み出された十五人のハルヒは、一様に不敵に微笑む。 そして、一人、また一人と、再び暗い森の中へと姿を隠した。 [ In process ] 病院の一室、その中央に立つ長門有希。カウンターの上に置かれたディスプレイの中の喜緑江美里。 二人の宇宙人――情報統合思念体により送り込まれたTFEI端末は、ただ無表情に黙々と作業を進めている。 だが、同じ部屋にいる最後の一人――トグサの顔には焦りと緊張が浮かんでいた。 ”……そうか。だが、無理はするな” そう返答すると、トグサはユービックとの通信を一旦切った。 城へと進んだ仲間達が、遂に今回の事件の首謀者であるギガゾンビを発見し、それを追っている。 トグサの支配下にある監視カメラからもそれは確認されており、一応は朗報であるが…… ”タチコマ。ゲイン達の方はどうだ。発見できたか?” 仲間達はすでにその戦力を分断されていた。しかも、戦闘力を持つ三人がギガゾンビを追う方から離れる形で。 さらに、キングゲイナーとツチダマ達の激しい戦闘によって、その付近の監視カメラが破壊されており、 ”いえ。まだ見つかりません。ツチダマの動きから、ある程度の予測はできますが……” トグサ達の目からは見失う形となっていた。 仲間達と連絡を取る手段は、ユービックと彼に持たせたノートPCのみで、ゲイン達とはそれもかなわない。 さらに、一旦はトグサの支配下に置かれていた城内外のシステムも、少しずつそれを取り返されていた。 支配といっても所詮は遠隔操作。 物理的なシステムは向こう側にあるわけで、それを直接破壊されたりスタンドアローンで再起動されれば、 トグサやタチコマ達にはどうしようもなかった。 こんなことなら最初の内にシステムを自壊させておけば……とトグサは後悔した。 あの時は ハッキングがうまくいきすぎたために、支配下に置くことを優先させてしまった。 それは城内に侵攻する際に、仲間の助けとなれば――という考えの下で、当初は正しかったが、 現在、仲間達が分断され、それを把握することすらままならない状況では失敗だったと言わざるをえない。 そして…… ”遠坂達の居場所はまだ把握できないのか?” 闇の書を牽制するために飛び出した、遠坂凛とフェイト。さらにそれを追った涼宮ハルヒ。 その三人の行方も、闇の書が活動を開始してから程なく掴めなくなっている。 会場内を飛び回るスパイセット。その内のいくらかを使ってタチコマが捜索に精を出しているが…… ”まだ発見できませ~ん……。” その成果は芳しくなかった。思わず、トグサの口から舌打ちが零れてしまう。 ”その三人はどちらも健在ですよ” 突然、トグサとタチコマの通信に割り込んできた者。それはTFEI端末の一人、喜緑江美里だった。 ”彼女達がそれぞれに放出する特殊な情報因子。どれも未だ検出できています” この情報統合思念体からの使者である少女――この短い時間で、どれほどの情報を得ているのか。 それに少しばかりの空恐ろしさを覚えながら、トグサは彼女に質問をぶつけた。 ”彼女達がどこにいるか、分かるのか?” 焦りが見えるトグサとは真逆に、喜緑江美里は至極冷静に答える。 ”いえ、正確な位置というのはこちらでも捉えられてはいません。 大まかにですが、涼宮ハルヒさんは映画館があった場所から、山の中へと入り東へと進んでいますね。 そして残りの二人ですが……一時反応が極めて薄くなりましたが、 現在は彼女達が闇の書と呼んでいる特殊な情報生命体。その中心より反応を得ています” 返ってきた意外な回答に、トグサの心中の戸惑いがより増大する。 ”彼女達がその中に自ら飛び込んだのか、または逆に取り込まれてしまったのか。 それは定かではありませんが、零れ出る情報因子から彼女達はその中で活動していると推測されます” 喜緑江美里からもたらされた情報は、あまり良いものとは言えなかった。 病院より出立し反撃に出た仲間達は、結局のところ散り散りとなってそれぞれが窮地に立たされている。 脱出路の確保は着々と進行している。 だが―― ――彼らの内、どれだけがこの病院にへと戻ってこれるのか? 投下順に読む Back 今、そこにある闇Next GAMEOVER(2) 時系列順に読む Back 今、そこにある闇Next GAMEOVER(2) 295 消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- 涼宮ハルヒ 298 GAMEOVER(2) 235 孤城の主(後編) 長門有希 298 GAMEOVER(2) 295 消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- フェイト・T・ハラオウン 298 GAMEOVER(2) 295 消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze- 遠坂凛 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ゲイナー・サンガ 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ロック 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ドラえもん 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 野原しんのすけ 298 GAMEOVER(2) 296 いま賭ける、この命 トグサ 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 レヴィ 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ゲイン・ビジョウ 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ギガゾンビ 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ユービック(住職ダマB) 298 GAMEOVER(2) 297 今、そこにある闇 ホテルダマ(フェムト) 298 GAMEOVER(2)
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【日中】 NO. タイトル 作者 登場人物 277 せおわれたもの ◆WwHdPG9VGI 氏 ゲイン・ビジョウ、カズマ、レヴィ 278 Can you feel my soul ◆B0yhIEaBOI 氏 ゲイナー・サンガ、ドラえもん、トグサ 280 永遠の孤独 -Sparks Liner High-I have no regrets. This is the only path ◆2kGkudiwr6 氏 涼宮ハルヒ、セイバー、野原しんのすけ、キョン、トウカ、住職ダマA(スラン) 【午後】 NO. タイトル 作者 登場人物 279 SUPER GENERATION(前編)SUPER GENERATION(中編)SUPER GENERATION(後編) ◆LXe12sNRSs 氏 フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、ロック、グリフィス、運転士ダマ(ボイド)、住職ダマB(ユービック)、 ホテルダマ(フェムト)、ギガゾンビ 281 夜天舞う星と雷 ◆A.IptJ40P. 氏 フェイト・T・ハラオウン、遠坂凛、グリフィス 282 ウソのない世界 ◆lbhhgwAtQE 氏 ゲイン・ビジョウ、野原しんのすけ 283 I,ROBOT ◆FbVNUaeKtI 氏 トグサ、ゲイナー・サンガ、ロック、ドラえもん、住職ダマB(ユービック) 284 タイプ:ワイルド(前編)タイプ:ワイルド(後編) ◆wlyXYPQOyA 氏 カズマ、レヴィ、キョン、涼宮ハルヒ、セイバー、住職ダマA(スラン) 【夕方】 NO. タイトル 作者 登場人物 285 LIVE THROUGH(前編)LIVE THROUGH(後編) ◆TIZOS1Jprc 氏 ギガゾンビ、ホテルダマ(フェムト)、グリフィス、ドラえもん、野原しんのすけ、フェイト・T・ハラオウン、ゲイン・ビジョウ、住職ダマB(ユービック)、ロック、トグサ、ゲイナー・サンガ、遠坂凛 286 涼宮ハルヒの喪失(前編)涼宮ハルヒの喪失(後編) ◆7jHdbD/oU2 氏 セイバー、カズマ、レヴィ、涼宮ハルヒ、キョン 287 Berserk ◆LXe12sNRSs 氏 ギガゾンビ、ホテルダマ(フェムト)、グリフィス 288 Reckless fire夢 ◆2kGkudiwr6 氏 カズマ、セイバー 289 静謐な病院Ⅱ ~それぞれの胸の誓い~ (前編)静謐な病院Ⅱ ~それぞれの胸の誓い~ (後編) ◆lbhhgwAtQE 氏 トグサ、ゲイン・ビジョウ、住職ダマB(ユービック)、ゲイナー・サンガ、ドラえもん、フェイト・T・ハラオウン、ロック、野原しんのすけ、レヴィ、涼宮ハルヒ、遠坂凛 290 すばらしき新世界(前編)すばらしき新世界(後編)この醜くもなく美しくもない世界 ◆WwHdPG9VGI 氏 遠坂凛、ロック、レヴィ、野原しんのすけ、涼宮ハルヒ 291 「射手座の日を越えていけ」(前編)「射手座の日を越えていけ」(後編) ◆LXe12sNRSs 氏 トグサ、ゲイン・ビジョウ、住職ダマB、ゲイナー・サンガ、ドラえもん、フェイト・T・ハラオウン 【第七回放送】 292 第七回放送 ◆WwHdPG9VGI 氏 ホテルダマ(フェムト)
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孤独な笑みを夕陽にさらして ◆lbhhgwAtQE 『警告します。禁止区域に抵触しています。あと30秒以内に爆破します』 既に禁止エリアに指定されていた地区A-4に足を踏み入れた瞬間に聞こえたのはそんな警告音。 「――ったく、どこまでも俺達を追い詰めて遊ぶ気かよ……」 これで、地図の外へ出た時と同じ警告がされることを次元は確認したことになる。 警告音に従い、スタコラと禁止区域を出ると、次元は近くにあった電柱に寄りかかった。 「さて、これからどうするかだが……」 地図の範囲外、及び追加指定された禁止エリアに進入した場合の首輪の反応は確認した。 埋葬までは行かないが、ソロモンや圭一の遺体を弔うこともした。 蒼星石の残骸ごとだが首輪のサンプルも回収した。 とすれば、ここに留まっている理由は無い。 脱出の鍵を握ってあるであろう青狸やその仲間と思われる少年達を探す為にも、移動すべきだろう。 だが脇腹を負傷している以上、激しい動きは出来ない。 ならば、なるべく敵に会わないように移動しなくてはならない。 次元はそう考えると、幹線道路を一本外れた道を警戒しながら南下しはじめた。 そのように、歩き始めてから少しして。 ――だから! あたし一人で行くからいいって言ってるでしょ!!―― 突如、耳にそんな若い女性の声が飛び込んできた。 「……こりゃあ、何の騒ぎだってんだ?」 音源は幹線道路の方向。 次元は声の主の正体を確かめるべく、幹線道路に繋がる路地へと入ると、その陰からその様子を見始める。 すると、彼の目に映ったのは一台の軍用トラックと、そこに乗る複数の男女。 「参加者……だろうな」 首で鈍く光るそれを確認すると、次元は彼らの正体を見極めるべく、観察を続ける。 ――危険といったら危険だ。絶対に行かせる訳には―― ――それじゃ、誰がルパンを弔ってあげるのよ! まさか放ったらかしにしておく気!?―― ――ルパン、なかま! アルルゥもルパンの所行く!―― 「ルパン……だと!?」 次元の耳が捉えたのは、常に自分の隣にいた頼れる相棒の名前。 どうやら、会話から察するに彼女らはルパンと接触していたようだ。 「あいつが……ねぇ」 彼女らがルパンと接触していたのなら、その居場所を聞き出して是非合流したいところだ。 ――もし彼が生きていたとしたら、の話だが。 現実では、ルパンは既に死んでしまったという。 ならば、合流が叶うはずもなく、路上で堂々大声を上げるという危険行為を行う彼らに接触する必要も無い。 ――だが。 「――あー、お取り込み中悪いんだがなぁ、ちょっといいかい?」 気付けば次元の足は彼女らのいるトラックへと向いていた。 ◆ 時はやや遡り。 赤いコスプレ少女、そして金髪青服の剣士の襲撃から何とか脱出したトグサ達を乗せたトラックは道路を北へと走っていた。 そして、そのトラックの中で襲撃によって肩を負傷したヤマトはアルルゥに手当てをしてもらっていた。 「…………ありがとう」 「……ん!」 アルルゥはハルヒや長門の持っていたハンカチを細く千切ったものを包帯代わりにして、黙々とヤマトの肩に巻いていく。 そんな姿を見て、ハルヒは感心する。 「ふぅん……アルちゃん、随分手馴れてるわね」 「……ん。おねえちゃんのやりかた見てたから慣れてる」 「しっかりしてるのねぇ、アルちゃんは」 ハルヒがそう言って頭を撫でてやると、アルルゥは「んふ~」と気持ち良さそうな声を出して鳴く。 ……そして、一通り手当てが終わると、ハルヒは今度はヤマトの方を向く。 「……それに引き換え、あんたはねぇ……まったく! 子供の癖にあんな大見得切って飛び出しちゃって無謀にも程があるわ」 セイバーを食い止めるために立ち向かったことを指してハルヒは半ば非難するような形で喋る。 「ああ言うのは、勇気じゃなくって蛮勇か無謀って言うのよ! 車が間に合ったからいいけど、もし少しでもタイミングがズレたら……」 「ヤマトをあまり責めないでやってくれ」 ハルヒの言葉を遮ったのは、運転席のトグサだった。 「本来あそこであの剣士に立ち向かうべきだったのは俺だ。つまり、君の責めを受けるのは俺のはずだったんだ」 「だ、だけど……」 「それに……今はそっとしておいてくれないか」 ちらりとトグサは後部座席の向こう、荷台にいるヤマトの顔を見る。 その顔は、痛みや疲労から来るものとは違う、悲しい表情をしていた。 「ぶりぶりざえもん…………」 ヤマトが思うは、身を挺して剣士をトラックから退けてくれた役立たず――いや、かけがいのない仲間であり、自分たちにとって真の救いのヒーローだった豚のこと。 彼の脳裏にはその豚が最後に見せた勇者の眼差しが焼きついていた。 その表情を見て、ハルヒも言葉を詰まらせる。 「そ、それは分かってるけど…………」 流石のハルヒも、先程の一連の出来事を見て、そんなヤマトとぶりぶりざえもんの並々ならない関係は察していた。 自分だって、みくるの死をあんな形で見せられたら、こうなって、いやもっと酷いことになるかもしれない。 だが、それでも彼女は―― 「涼宮ハルヒは、あの時金髪の剣士に立ち向かった石田ヤマトの事が心配だった。……だからこそ多少乱暴な物言いになっている。そう私は推測する」 「――ゆ、有希!!」 つまりはそういうわけだった。 結局はハルヒも出会って間もないとはいえ、行動を少しでもともにした仲間が危険な目に遭って平然としていられるほど薄情ではない。 「ま、そ、そういうわけだから、次からは自分の身の事もちゃんと考えなさい、いいわね!?」 「…………」 ハルヒの問いかけに、ヤマトは黙ったまま。 そんな彼を見ていて、彼女はふと思い出した。 自分にも離れ離れになったままの仲間がいたことを。 「ねぇ……そういえばルパンはどうしたの? さっき病院にいたってことは橋を渡ってきたはずでしょ。あそこにいたはずのルパンはどうしたの?」 口ではそう言いつつも、薄々と気づいていた。 橋にいたはずの彼が、橋を渡ってきたこのトラックにいないという事は……。 すると、運転席からその答えが聞こえてきた。 「橋の途中には確かに君がルパンと呼んでいたと思われる男性がいたよ。…………ただし、遺体の状態でね」 トグサは直接生前のルパンを見たわけではなかった。 だが、橋を通過時に見たその男の遺体は、ハルヒの話を聞いていたヤマトから伝えられた特徴と一致する部分が多すぎた。 それゆえ、彼は橋の男をルパンと確定した。 「昼の放送でも、ルパンという名前が呼ばれていた。…………彼の死は確実だろう」 「……そう」 そして、それを聞いたハルヒの口から漏れたのは、そんな溜息ともつかない言葉。 彼女の中で予感は確信へと変わった。 ハルヒは自分が間に合わなかったことに悔しさを覚えると同時に、ある決意をした。 「――ねぇ、えっとトグサさん、だったっけ。車止めてくれない?」 「どうした? 具合でも悪くなったのか?」 ミラーで追跡が無いことを確認してトラックを路肩に停車したトグサは、後ろを振り返る。 すると、後部座席にいたハルヒは、先程とは違う面持ちをしたまま口を開いた。 「あたし、ちょっと用事があるから、ここで降りるわ」 「……は?」 いきなりの言葉に、トグサは言葉を失う。 「一体どうしたんだ? 何でわざわざ降りるなんてことを……」 「言ったでしょう、用事が出来たのよ」 「だからその用事っていうのは何なんだ? 君が助けようとしたルパンという男はもう――」 「その話は聞いたわよ。……聞いたからこそ、私はあいつに会いたいのよ。――そしてちゃんと弔ってあげたいの」 ハルヒは俯き加減に言葉を紡ぐ。 「あいつはね……ルパンはね、仮にもSOS団の団員なの。そして団長であるあたしは、団員をちゃんと弔う義務がある。……あいつの体、橋にいるまんまなんでしょ?」 「あぁ。あの時は病院行くのに忙しかったから――って、そうじゃなくって! そんなのを認められるわけが無いだろう! 後ろからはまだ襲撃してきた連中が追いかけてきてるかもしれないんだぞ」 「だから! あたし一人で行くからいいって言ってるでしょ!! あたし一人で行くだけなら、あんた達に迷惑が掛かる訳でもないし」 そんな言い分を聞いて、トグサは更に語気を強めた。 「尚更駄目だ! 君はまだ重傷患者なんだ。そんなふらついた体で一人にするわけにはいかない」 「――それに、先程自身で言っていた“自分の身の事もちゃんと考えなさい”という注意事項に抵触する。……明らかな矛盾」 長門もそう言いながら、静かにだが反論する。 ――だが、それでもハルヒは意志を曲げない。 「……そ、それはそれ! これはこれよ! 誰が何といっても私は――」 ハルヒが車を出るべくドアに手をかけようとするが、その手をトグサが掴んで止める。 「危険といったら危険だ。絶対に行かせる訳にはいかない」 「それじゃ、誰がルパンを弔ってあげるのよ! まさか放ったらかしにしておく気!?」 「ルパン、なかま! アルルゥもルパンの所行く!」 そして、ここで更に荷台でヤマトの手当てをしていたアルルゥが加わるものだから、話は更にややこしくなる。 「おいおい、君までそんな――」 「……いいの?」 「ん! ルパンなかま! ハルヒおねーちゃんが行くならアルルゥも行く!」 「アルちゃん――!!」 ハルヒは、アルルゥの小さな体を抱き寄せる。 ――が、一方でトグサは抗議を続ける。 「今の状況が分からないのか!? 武器も無い、襲撃者に追われてる可能性がある、夜が近い、それに何よりその頭の怪我。……何一つ安心できる余地が無いんだぞ!」 「そ、そんなの何とかしてみせるわよ! それに武器ならこのカメラだってあるんだし!」 ハルヒはデイパックから着せ替えカメラを取り出すと、それを掲げる。 だが、何も知らないトグサにとってはそれはただの変わった形をしたカメラにしか見えない。 ――そもそも、着せ替えカメラは武器としてはとても利用できた代物ではないわけだが。 「おいおい、そのカメラのどこが武器――」 トグサの苦言が続きそうになったその時だった。 「――あー、お取り込み中悪いんだがなぁ、ちょっといいかい?」 トラックに乗る誰のものとも違う、渋い男の声が車外からしてきた。 トラックに乗る面々に声を掛けてきたのは、黒に身を包み、帽子を目深に被った男。 いかにも怪しいその男に、皆はすぐに警戒をする。 トグサは銃に手をかけ、長門は眼鏡を掛けてタヌ機の使用準備をする――が。 「おっと、そんな警戒しなさんな。……俺はゲームに乗っちゃいねえよ」 男は早々に両手を軽く挙げて、警戒を解くように呼びかけてきた。 だが、彼らは構えを解かない。 トグサ達にとって、あくまで今の次元は突然の闖入者。 出来ればトグサもこのような疑心暗鬼になるような真似はしたくなかったが、先程の襲撃があったばかりである以上、警戒するに越したことは無かった。 「……あんたは誰だ?」 「俺は次元大介。――さっき、お前さんらの話の中に出てきたルパンって奴の知り合いさ」 「……ルパンの知り合いですって!?」 次元の自己紹介に一番驚いた顔をしていたのは他ならぬハルヒだ。 「それじゃ、あんたが早撃ちが得意だっていう次元大介ってわけ!?」 「他に同姓同名の参加者がいない以上、その次元大介が俺なのは確かだろうな」 「――――で、その早撃ちが得意なあんたが、どうして俺達に近づいてきた?」 その問いを聞くと、次元は帽子に手を当てて顔を下へ向ける。 「ま、やっぱそこが気になるだろうな。……正直、俺も隙だらけで格好の的になりそうなお前さんらに近づくのはリスクが高いと承知していたよ」 「……? だったら何故?」 「――ルパンの野郎がどんな連中と行動していたのか……それが知りたかったのかもなあ、あいつの相棒を長年してきた俺としてはよ」 そんな次元の言葉に一同が黙る中、ハルヒが口を開いた。 「――あんた、本当に戦う気は無いのね?」 「そっちから襲ってこない限りはな。それにあの仮面野郎のいう事を聞くほど俺だって馬鹿じゃあない」 すると、ハルヒは何か納得したように頷く。 「そう……。だったら信じてあげる。敵じゃないってね」 「お、おい、そんな安易に――!!」 「前にルパンから聞いた事があるのよ。次元っていう相棒がどんな男なのかってね。……それを聞く分だと、私にはこいつがあたしたちを襲うとは思えないわけ」 「そりゃどうも、っと」 おどけてみせる次元を見て、トグサも観念したように銃から手を離す。 長門は依然、眼鏡を装着したままだったが。 「名乗ってなかったな。……俺はトグサ。一応、元の世界では警察に所属していた」 警察手帳を見せて自己紹介をするトグサに、次元は一瞬怯む。 彼は今までに警察から追われるような事を少なからず……もとい大いにしてきた。 反射的に警察と聞いて、足が逃げようとしたが……今はそうもいってられない状況だ。 いつぞやのルパンと銭形のように共闘関係を結ぶ他ないだろう。 「あぁ、こっちこそよろしく頼むよ」 ◆ ホテルで何かがあったこと、市街中心地で巨大な爆発があったこと、病院にて赤いコスプレ少女や金髪青服の剣士に襲われたこと。 次元がトグサ達と接触して手に入れた情報はどれも明るくないものばかりだった。 そして、何より知りたかったルパンの動向については―― 「なるほど、お前さん方を庇ってねぇ……あいつらしいな」 女の為に身を犠牲にする――まさにルパン三世という男の生き様の集大成のようだ。 「……私達がもっと早く助けを呼んでればルパンも――」 ハルヒは俯きながらも、言葉を続ける。 だが、そんな彼女の肩に次元は手を置く。 「いんや、お前さんが気に病むことはない」 「…………」 「それにお前さんとそこの……アルルゥだったか? お前らを結果的に助けられたんだ。あいつだって本望だろうよ」 それを聞いて、ハルヒは黙ったまま涙を流しはじめる。 今まで我慢していた分も含めて、堰を切ったようにそれは流れる。 「……ハルヒおねーちゃん、また泣いてる?」 アルルゥがそんなハルヒの顔を見て尋ねるが、彼女は答えない。 今のハルヒはただ泣くばかりであった。 次元はいきなりの落涙に戸惑うが、そんな彼へ今度はトグサが問いかけてきた。 「……それで、さっき言っていた話は本当なのか?」 「さっきの? ――あぁ、小次郎の事か? こんなときに出鱈目言えるかよ。んなことしたらお前さん方に何されるやら」 トグサが問いただしたのは、次元が話した佐々木小次郎がこの道の先で襲撃をしてきたという話。 ルパンの話をする前に、交換条件として先に話していたのだ。 「本当だとしたら、この先にはまだその小次郎という男がいるということになるが……」 「それはどうだろうな。あいつ、戦いが終わったら西の方に行っちまったみたいだから、今はいないんじゃないか?」 「そうか……」 子供達を運んでいる以上、ゲームに乗った参加者のいる方角へ車を走らせることは出来るだけしたくない。 「小次郎って奴はどうも〝兵〟を探してるらしいからよ。子連れのあんたらなら襲う気は起こさねぇかもな」 「兵……か」 トグサはちらりと長門の方を見る。 強化義体である彼女の力を見たことのある彼からすれば、彼女はいわゆる兵に部類する存在だ。 もし、彼女の力量をその小次郎という男が見極めたとすれば……。 「平気。私がボロを出さなければいいこと」 「……え、いや、しかし――」 「このまま南下しても敵がいる可能性がある。……それにもう少し北上すれば映画館がある。そこで休憩できる」 トグサが迷っている間に、長門が新たな提案をしてくる。 「映画館か。……ま、怪我人もいることだし、休憩するにはもってこいかもな。いざって時の避難口も多そうだしよ」 「怪我人って……そういえば、あんたも大怪我してるじゃないか」 トグサが指差した先は、次元の脇腹。 布を巻いても尚血が滲むそこは、ソロモンに食らわされた一撃による傷のある場所。 決して軽傷とはいえないが、次元はそれを隠すように笑う。 「これか? ま、かすり傷だ、大層なもんじゃねぇ。……そんじゃ、あんた方は早ぇとこ映画館かそこらまで行って休んどくこったな」 「……あんたはどうするんだ?」 「俺か? 俺は少しばかり用事が出来たわ」 「用事……だと?」 次元は頷く。 「ああ。相棒の顔を一度拝んでやりたくてよ。……こんなところで死んじまった馬鹿な相棒の顔をな」 次元の言葉に真っ先に反応したのはついさっきまで泣いていたハルヒだった。 「拝むって……あんたもしかして……」 「お前さんのその体じゃ、こっから橋まで行くのも大変だろ。……だから、俺が代わりにあいつを弔ってきてやるよ」 「……そう。なら、あんたに任せるわ。相棒のあんたが行った方があいつも喜ぶだろうし」 「ま、俺より不二子や他の女が行った方が喜びそうだがな、あいつの場合」 ――と、おどけて見せるとハルヒも「そうね」とその泣きはらした顔に笑みを浮かべる。 だが、その言葉に驚いたのはトグサだった。 「――本気か? 怪我してるっていうのにそんな……」 「だから言ったろ、かすり傷だって。それに俺は小次郎に兵のレッテル貼られてるんでな。あんたらの傍にいたんじゃ厄介なことになるだろうよ」 確かに次元が小次郎から狙われているとするならば、連れて北上することは危険だ。 ならば、この措置もやむなしか……。 そう悟ると、彼はおもむろにメモ用紙を取り出し何かを走り書きして、それを次元へと手渡した。 「……こいつは?」 「首輪やこのゲーム自体に対する俺の考えをまとめた考察だ。道中、もしタチコマという名の青い蜘蛛みたいな戦車を見つけたらこれを渡して欲しい」 「蜘蛛みたいな戦車……ねぇ」 訝しげにする次元であったが、腕が槍になる人間や意思を持った人形とつい先程まで一緒だったことを思い出し、ありえない話ではないと考える。 「それとセラスという金髪の婦警がいたら、俺が無事だと伝えてやってくれ」 「あぁ、了解了解」 するとハルヒやアルルゥも身を乗り出して、次元に声を掛ける。 「――あ、それならあたしもキョンっていうぱっとしない男子学生がいたら、『勝手に死んだら許さない!』って――」 「――アルルゥもおねーちゃん達に無事だって――」 「あぁ、待った待った!! 俺は電話交換手でも郵便屋でもないんだ、そんな一度に伝えられても覚えきれないぞ!」 矢継ぎ早に伝言を伝えられ、流石の次元も戸惑ってしまう。 次元はひとまずメモ用紙を取り出すとそれに順にトグサらが口にした知人の名前をメモしてゆく。 そして、それが終わると彼はトラックの荷台にいたままになっていた少年に声を掛ける。 「よぉ、ボウズ。お前さんはいいのか? 何か伝えとくことがあるなら聞いとくぞ」 そんな次元の声に顔を上げると、ヤマトは力無い声で呟く。 「……八神太一っていうゴーグルつけてる俺と同い年くらいの子供がいるので、見つけたら俺が無事だってことを伝えてください」 「八神太一ねぇ……了解了解」 メモを一通り終え、次元はそのメモをポケットへと突っ込む。 そして、それと同時に別のメモ用紙を二枚、トグサに手渡した。 「……こいつは俺が実際に禁止エリアに入って調べた情報だ。……なんかの形で役立ててくれや」 「ああ、そうさせてもらう」 すると、メモを見ながら、トグサは気付いたように問う。 「――そういえば、お前の知り合いは誰かいないのか?」 「いるにはいる……峰不二子っつう女がな。けど気をつけろ、あいつは心の底で何考えてるか分からないから」 「あぁ、承知した」 「――んじゃ、日が完全に沈まないうちに、とっとと出発するかね」 大きく伸びをして、次元は道路の南方を見据える。 「そんじゃ、ガキ共は任せたぜ、トグサ」 「ああ。そっちも無事でいろよ」 「――分かってるさ。……そんじゃ、また会えたらな」 次元がトラックから離れ、南へと――橋へと向かって歩き出す。 すると、ハルヒがトラックから身を乗り出して次元へと叫ぶ。 「次元――!! ルパンを頼んだわよ!!」 夕陽が差し、黒一色の影となった男の背中はその声を聞いて、片手を挙げて答えた。 その男の背中はハルヒ達にはとても大きく見えた――。 【C-4/幹線道路上 一日目/夕方(放送近し)】 【次元大介@ルパン三世】 [状態]:疲労(小)、ショック、わき腹にケガ(激しく動き過ぎると大出血の恐れあり・一応手当て済み) [装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING(ズボンとの間に挟んであります) [道具]:支給品一式4人分(水食料二食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(34発) @HELLSING、レイピア 蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用) ハリセン、望遠鏡、ボロボロの拡声器(運用に問題なし) 、蒼星石のローザミスティカ トグサの考察メモ、トラック組の知人の名前宛てのメッセージを書いたメモ [思考・状況] 1:周囲を警戒しながらD-3の橋へ行き、ルパンを弔う。 2:トグサらの知り合いを見つけたら伝言を伝える。 3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す 4:圭一と蒼星石の知り合いを探す。蒼星石の遺体については慎重に取り扱う。 5:怪我の治療ができる場所(できれば病院以外)を探す。 6:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する。 7:仲間を見つけられたら、首輪を回収する。 基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない [備考] 情報交換により、ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)、赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)、 羽根の生えた黒い人形(水銀燈)、及び金髪青服の剣士(セイバー)を危険人物と認識しました。 【トラック組(SOS団) 運転:トグサ】 【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】 [状態]:自分の不甲斐なさへの怒り [装備]:73式小型トラック(運転席) S W M19(残弾1/6)、暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本 [道具]:支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん 首輪の情報等が書かれたメモ2枚 [思考]: 基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索 1、進路を北へ。目指すは映画館。 2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。 3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。 [備考] 風・次元と探している参加者について情報交換しました。 情報交換により佐々木小次郎という名の侍を危険人物と認識しました。 【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】 [状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、重度の疲労、右腕上腕に打撲(ほぼ完治)、右肩に裂傷(手当て済)、SOS団特別団員認定 [装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(荷台) [道具]:支給品一式、ハーモニカ@デジモンアドベンチャー、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り3回)、真紅のベヘリット@ベルセルク、ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし) [思考・状況] 1、ぶりぶりざえもん………… 2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。 3、八神太一、長門有希の友人との合流。 基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。 [備考] ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。 ぶりぶりざえもんは死亡したと思い込んでいます。 【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)、左上腕に負傷(ほぼ完治) 心の整理はほぼ完了、回復直後による疲労感 [装備]:73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ) [思考・状況] 基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。 1、ひとまず映画館に到着したら作戦会議 [備考] 腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。 【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:左腕骨折(添え木による処置が施されている)、思考にノイズ(活性化中?)、SOS団正規団員 [装備]:73式小型トラック(後部座席) [道具]:支給品一式/タヌ機(1回使用可能) @ドラえもん [思考・状況]: 1、涼宮ハルヒの安全を最優先。 2、小次郎に目を付けられないように注意する [備考] 癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:右肩・左足に打撲(ほぼ完治)、SOS団特別団員認定 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席) [道具]:無し [思考・状況] 1、トグサ達についていく [共通思考]:映画館で休息をとる。佐々木小次郎を最優先に警戒。 [共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります) RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク(荷台に置いてあります) 時系列順で読む Back 「ブリブリーブリブリー」 Next Infection of tears 投下順で読む Back 「ブリブリーブリブリー」 Next Infection of tears 185 どうしようか 次元大介 206 【背中で泣いてる 男の美学】 187 「救いのヒーロー」(後編) トグサ 203 【薄暗い劇場の中で】 187 「救いのヒーロー」(後編) 石田ヤマト 203 【薄暗い劇場の中で】 187 「救いのヒーロー」(後編) 涼宮ハルヒ 203 【薄暗い劇場の中で】 187 「救いのヒーロー」(後編) 長門有希 203 【薄暗い劇場の中で】 187 「救いのヒーロー」(後編) アルルゥ 203 【薄暗い劇場の中で】
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セラス・ヴィクトリア CVは折笠富美子。 非参加者では、「ひぐらしのなく頃に」にて前原圭一らのクラス担任である知恵留美子役を務めた。 【本編での動向】 ドラえもんを青いジャック・オー・フロストと認識。やっぱり猫には見えんよなあ。 トグサと合流。渋いコンビを結成し、ホテルへと移動。 トグサから首輪解除についての談義を経て、トグサの帰りをホテルにて待つことに。 果たして彼は無事セラスの元に帰ってくるのだろうか。 放送に対しては懐疑的な念を抱く。理由はアレクサンド・アンデルセンが死んだから……気持ちはよくわかる。 大ボケっぷりは続いているようで、バトーとロベルタの戦闘を見てもボーッとしていた。 が、トグサの同僚と解るとバトーを信用し、朝比奈みくるを助ける。そして吹っ飛ばされ日光浴へ…… 戦闘後、みくるに看病されるが、その間は悪夢に魘されていた。ウィンダムハジけすぎ。 現在は、襲ってきたキャスカに対処中である。 ホテルの最上階に立て篭り形成を整えるも、キャスカが騙して連れてきたゲイン・ビジョウの介入により窮地に立たされる。 重傷を負いあわや死亡かとも思われたが、みくるの血を吸い復活。キャスカを追い払う。 みくるが吸血鬼になってしまったことに傷心気味だったが、既に死んでしまっていたことに気づいた後はさらに落ち込む。 放送後、ゲインの仲間の獅堂光がガッツたち大人数と帰還するが、その中にはみくるを殺したキャスカの姿も。 野原みさえ等の接触もあってなんとか暴走せずに留まるも、彼女を守ると言うガッツには納得がいかないようだ。 その後、身動きの取れない参加者を捜索するため、セラスはストレイト・クーガーと組んでF-8へ。 ラディカルグッドスピードの速度を直に体感し、哀れ嘔吐と共にぶっ倒れた……。 支給品はエクスード(風)、バヨネット。 名前 コメント 確かドラキュリーナは男しか吸血鬼に出来なかっただろ -- 名無しさん (2015-03-31 17 34 53) 何でみくるの血を吸うと吸血鬼になるんだ? -- 名無しさん (2015-03-31 17 34 02) セイバーとの死闘は正にヒラコー節全開 -- 名無しさん (2013-07-17 22 21 47) 史上何人目か、、、ゲロにまみれたヒロインは、、、 -- 名無しさん (2009-06-27 00 09 31)
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マテバ M-2006M 2.5in. ▼マキナ・テルモ・バレスティック(マテバ)社製 ▼リボルバー ▼SA/DA ▼装弾数 6発 ▼.357マグナム弾使用 ▼サイボーグにも有効 ▼トグサが使用 ▼トグサは自宅のクローゼット内の上の棚に隠していた ■S.A.C. 1st 第11話「亜成虫の森で PORTRAITZ」 に登場。 パワードスーツの警備員にトグサが発砲。 S.A.C. 1st 第26話「公安9課、再び STAND ALONE COMPLEX」にてトグサが党本部へ向かう時に携帯していたもの。 □登場作品 「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」 初めまして! 劇中の動画を見る限りでは作動がオートマチックになっているんです。 公式設定を知らないので確証はありませんが、形状から判断する限りではシングル/ダブルアクションだと思います(モデルの実銃のほうがそうなので)。 作画ミスなのか、あのような銃を劇中のマテバ社は製造しているのか、そのへん分かれば教えてくださ~い。 -- east (2008-11-02 21 26 04) はじめまして。 劇中で動作しているのは「亜成虫の森で」だったでしょうか。 確認してみましたがオートマチックともそうでないとも判別できないような…。 確かどこかで「M2008とは違いシンプルなリボルバー」だと書いてあったと記憶しているんですが…どの資料だったかは忘れてしまいました。(汗 ただ少なくともM2006Mの資料を見てみると、オートリボルバーであるM2008の設定にはオートに関係した画が描かれているのにM2006Mではそのようなものは描かれていません。動作形式はおっしゃる通りSA/DAですね。 追加しておきます。 -- 管理人 (2008-11-02 22 40 17) そうですね。動作しているのが確認できるのは「亜成虫の森で」ですね。 私も調べた範囲ではSA/DAリボルバーだと思うのですが、劇中では発砲したとき既にシリンダーが回転しているんです。 これはM2008と同じ作動形式ですから少し気になっていたんです。 どうもありがとうございました。 ところでこのような指摘というよりは質問のようなコメントを入れて良かったのでしょうか? -- east (2008-11-03 12 12 04) 名前 コメント [PR] 五月人形 岩槻
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441:弥次郎:2022/09/11(日) 23 26 39 HOST softbank060146109143.bbtec.net 憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」5 C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア 「カナン」の臨時首都東京は、未だに空白のスペースが大きい。 これは、未だにエクソダス完了から時間が経っておらず、攻殻日本政府や民間の都市計画が進んでいないことに由来する。 無論、最低限の建造物やエクソダスの際に建物ごと退避させたものは点在しているのであるが、それでも空白は存在した。 特に郊外ともなれば、なおのこと空白地帯は存在するのだ。本来は街の形成が進められるはずだったが、処々の理由から停滞気味だ。 『望郷派の声の拡大、さらには公共事業の受注をめぐる政府と企業間の癒着が指摘されて政治的に問題が表面化。 これによって、新しいベットタウンになるはずの街は工事が途中で停滞せざるを得ず、まだ完成していない。 そして、その隙間にちょっと後ろめたいところのある連中が集まるようになって、治安が悪化。 場合によっては工事そのものが停滞するなど、お決まりの事実上の乗っ取りが起こったわけだな』 「まだ都市部では人口過密が問題になっているのに、受け入れ先ができていないのか……」 『ああ、ここに居つく努力をするのも、望郷派の過激派から見れば故郷を忘れようとする裏切り行為だからな。 そんな連中が意図的に破落戸を集めて妨害させているって話もある。いずれにせよ、碌な話じゃねぇな』 そんな構築途中である都市の上空を飛行するティルトローター機の中で、公安九課の面々は会話をしていた。 人員輸送のティルトローター機のほか、武装ヘリも同行させる形で、公安九課は九課としては大所帯の殴り込みに来たのだった。 『見ろよ、眼下の道路。荒れ放題だ。 元々は綺麗に整地され、インフラと箱物、そして住宅地を作る土台になるはずだった』 イシカワの言葉に、トグサは眼下の道路をへと視線を送る。 「ブリーフィングで知っていたとはいえ……これはな」 荒れ放題というのはよくわかった。一般的なアスファルトなどで固められていたり、あるいは土や砂で形成されたそれは、劣化している。 劣化しているどころか、意図的に破壊された跡さえも窺えるような、ひどい壊れ方をしていたのだった。 そもそも空という目立つルートを使うことになったのも、道路が碌な状態ではなく、襲撃などのリスクがあるとみなされたためだ。 『地球連合が都市フレームまでは作って、あとは俺たちの国で使えるインフラを作ってくれという話だったんだが、まあ、この有様だ』 「基礎フレームがむき出しになっていないだけましって話だが……」 バトーとイシカワのそんな会話を聞きながらも、トグサは思うのだ。 大地はあり、海もあり、空がある。そんな場所にまた住めるというのは、とてつもない幸運なのだと。 エクソダスにあたって、トグサは宇宙というものを学ぶ機会に恵まれた。 どれだけ宇宙が広く、その実として生命が生きていくには過酷であるかということを。 高々人間という生物を遥かに超えた生物がどれほど宇宙に存在し、生存競争というものが繰り広げられているかを。 それは想像さえも難しいほどに激しく、苛烈で、容赦がなく、スケールが大きなものだった。 442:弥次郎:2022/09/11(日) 23 27 10 HOST softbank060146109143.bbtec.net (俺たちは、今を生きていられる幸運を知らなさすぎるな……) それだけのことを知ることができて、今を生きているということを、この惑星に移住してきてから強くトグサは実感していたのだ。 自分の暮らしていた地球があっけなく砕かれて崩壊するのを見たのもある。 それほどまでに、自分たちは儚く、弱く、小さい存在なのだと。 そしてそれは、未だに小さな我を張り続ける人々への、無意識化の苛立ちにもつながっていた。 しかし、思考の海に沈んでいたトグサに気が付いたのは素子だった。 「おい、トグサ。大丈夫か?」 「あ、はい……」 「作戦前だ、ぼさっとするな。 今回は現場に出るんだからな」 そうだ、とトグサはパンパンと顔を叩いて意識を入れ直す。 これまでは要人警護において、要人の傍に控えて警護するという仕事がメインに振られていた。 だが、今回は鉄火場の最前線に躍り込むことになるのだ。義体化率の低いトグサにとっては、状況が違い、尚且つ油断一つが命とりになりかねないモノだ。 「ですね……少佐、精肉屋は現れるでしょうか?」 その問いかけに、素子はしばらく沈黙を作った。 おのれの内側で、答えを組み立てているようであった。 「そうだな……奴が一体どうやって犯罪者やテロリストの情報を得ているかは不明だ。 だが、結果だけを見るならば、可能性は高い。今回も先んじられる可能性がある」 「そうなったら、どうするんです?」 「無論逮捕、と言いたいところだが……相手は正体不明のテロリストだ。 全身義体でも難しい武器を振り回し、おまけに戦闘も行っていることも考えれば、鉢合わせになれば命がけになりかねん」 一応、今回九課では重装備を持ち込んでおり、さらには攻撃ヘリまで用意して支援体制を整えている。 それだけ今回のテロリストが危険度が高いということであり、同時に、鉢合わせするかもしれない 「そんなに……」 「戦闘用に開発された義体であっても、あれほどの馬力や膂力を出せるのはオーバースペックだというのが専門家の見解だ。 正直なところ、テロリストと戦いながら精肉屋と戦うのは勘弁してほしいところだな」 「……」 それはつまり、それ以上の強化がされた義体を使っているか、はたまた光学迷彩による欺瞞かということになる。 いずれにしても、尋常ではない戦闘用義体を用いている可能性はあるのだ。 「だからこそ、今回はトグサ、お前を呼んだ」 「俺を、ですか?」 「ああ。元刑事のお前ならば、現場に残った痕跡から何かを見つけ出せると期待しているのさ」 「期待はありがたいですけど……プロでも苦労するほどめちゃくちゃにされていたんでしょう? 俺なんかで大丈夫ですか?」 「何か断片的なモノでもいい。軍人上がりの私たちや鑑識とは違う視点が欲しい。 まあ、あくまでも奴がいるか、その証拠を発見できればの話だがな」 443:弥次郎:2022/09/11(日) 23 27 41 HOST softbank060146109143.bbtec.net 頼んだぞ、と言葉を残した素子の背中を、なんともむず痒い思いを抱えトグサは見るしかなかった。 期待され、信頼されているというのはうれしいところだ。 だが、自分がやるにはちょっと案件として大きくはないか、と思うのも事実だ。 (と、いけない、そろそろか……) 『まもなく到着だ。総員準備を始めてくれ』 イシカワからのアナウンスが入り、ヘリ内は賑やかになり始める。 今回は建造中の建物上空にへりで乗り付け、そこから降下して建物上層から順に制圧を行う計画だ。 地上には控えの人員がタチコマらとともに待ち構えており、逃走してくるテロリストを抑えることになっている。 「……」 「少佐?」 しかし、緩やかな旋回に入ったヘリからロープが垂らされた時、素子は表情を硬くしていた。 「静音ヘリとはいえ、反応が薄い……?」 「え?」 「各員、降下急げ!」 そして、言うや否や、素子はその身をロープ伝いに空中へと躍らせた。 「お、おい!少佐!」 「くそ、急ぐぞ」 先んじた素子に続き、バトーやパズらも続けて降下した。 トグサもロープを手に取ったところで、ようやく気が付いた。 (反応が少なすぎるのか…!) 静音性の高いティルトローター機を用いているとはいえ、人気の少ないところにヘリが数機飛んでくれば当然その存在は派手に誇示される。 そも、建物を拠点としているテロリストや犯罪者が外部への警戒を全くやっていないというのはほとんどありえない話だ。 監視カメラか、あるいは肉眼かで警戒をしているのが普通であろう。 にもかかわらず、上空にへりが差し掛かってもまるで建物から反応がない。無論はずれを引いたという可能性はある。 あるいは、ここに居座るテロリストたちが先に察知して逃げ出した可能性だってありうるのだ。 だからこそ、素子は違和感を感じ、急いで降りて行ったのだ。 「……よし」 対サイボーグを前提とした重装備の重さを感じながらも、トグサは空中へと身を躍らせたのだった。 444:弥次郎:2022/09/11(日) 23 28 30 HOST softbank060146109143.bbtec.net 以上、wiki転載はご自由に。 やっとかけた…… 返信は明日。おやすみなさいませ。