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#navi(なのはクロスの作品集) どこかわからない場所で、俺は誰かに話しかけられていた気がする。 そいつは俺の知ってるやつで、そいつも俺のことを知っていた。 色んなことを話された。世界のこと、管理局のこと、機動六課のこと。 でも、そこはやっぱり夢で、目を覚ますと何も思い出せなくて。 ひとつだけ、頭に残っていたのは・・・。 あの人を救ってくれ、そんな悲しい願いだった。 シン編第八話 『 エピローグ 』 シン「はぁ、今日も忙しかったな。体がガタガタだよ」 機動六課に配属になってもうすぐ一年。 最近はスカリエッティも事件を起こさなくなり(むしろナンバーズをつれて遊びに来るし) 六課の面々は本気で来るのか来ないのか分からなくなった『カリムの予言』を信じて 日々、訓練に明け暮れている。(最近休日が多くなった気がするけど) シン「後は、報告書をはやて部隊長に届けるだけか」 俺も最近はティアやスバルたちと共になのは隊長たちに訓練を受けている。 理由は俺の斜め後ろをふわふわとついて来る・・・。 デス子「今日も激しかったですねマスター。私壊れちゃうかと思いましたよ♡」 シン「誤解を招くことを大声で言うな!」 このはた迷惑なミニ美少女?にあった。 なんでも俺の相棒だったデスティニーがロストロギアを取り込んだ結果こうなったらしいが俺は断じて認めたくない、いや絶対に認めない! ・・・話がそれたな。 問題は調査の結果、このデス子(愛称)は特殊なユニゾンデバイスらしく、融合すると 魔力がまったく無い俺にもほどほどに魔法が使えるらしいと判明したことだ。 原理はわからないけど、俺にも魔法が使えるのなら、(実戦に出られるかどうかはさておき) せめて、護身くらいはできるようになりたい。 隊長たちには、そう無理を言って訓練への参加を許可してもらっている。 シン「同じユニゾンデバイスなのに、リインフォースとは全然違うんだよな」 デス子「当然です。私はユニゾンデバイスの中でも特別製の・・・」 シン「・・・デス子」 デス子「ええ、思い出しました。といっても未来の出来事を思い出したというのも変な話ですけど」 そうだ、俺はこの後過去の世界に飛ばされて、リインフォースを助けるために 闇の書の防衛プログラム(闇の書の闇)と戦ったんだ。 それで、最後に止めを刺して俺はそのまま――― シン「死んだ、よな」 デス子「あのまま落ちたならそうなりますよね。でも、それなら私達はどうして消えてないんでしょう?」 俺と感覚を共有していたデス子にもわからないとなると、わかりようがないか。 いや、でも微かだけど・・・。 シン「・・・あの後、誰かに助けてもらった気がするんだ。死んだには死んだけど魂は救われたというか・・・う~ん」 デス子「助け? 不可能ですよ。闇の書の中ですよ?」 そう、理屈で考えれば不可能だ。 でも、それをいうならこの状況だって明らかに無理があるじゃないか。 闇の書の闇は倒したけど、俺だってこちら側には帰れなかったんだから・・・。 シン「・・・さっぱりわからない」 デス子「う~ん、もしかすると、闇の書を倒して時点で歴史の転換点が確定していたのでしょうか。 だから、マスターが死んでも影響はなかった」 シン「でも、俺たちはこうして生きてるぞ」 デス子「そりゃそうですよ。だって、この時間軸ではマスターは死んでないんですから」 シン「 ??? 」 デス子「少し情報を整理しましょうか。ポテチでも食べながら」 シン「どこから出したんだよ、それ」 前の歴史では、この後リインフォース(闇の書)の残留思念に触れたことで眠っていた次元跳躍能力が暴走し、 シン・アスカは過去に飛ばされてしまった。 そこでなのは達と遭遇したことで、未来でシンと出会う前に彼女たちはシンを知っていたというタイムパラドックスが発生する。 しかもこのまま時が進めば、同じ時間軸にCEから来たばかりのシンと十年前に飛ばされたシンの二人が同時に存在することになる。 もちろん、タイムパラドックスによる時間の歪みは際限なく増殖して時間連続性の崩壊を招くため、世界は歴史を修正しようとした。 スカリエッティの予測では、一番手っ取り早い修正方法は歪みの原因となったシンをあのままCEで死んだことにすることだった。 シンがいなければ、時間の歪みは二度と起こらない。 ただし、シンはミッドチルダに来ることもなく、機動六課にも存在しなかったことになるため、 このIFの歴史もなかったことになり、なのは達の世界からシンに関するあらゆるものも共に消えてしまう。 それを止めるには、更にてっとり早い方向に歴史を修正させるしかない。 そこで思いついたのが、リインフォース(闇の書)を残留思念にしないこと。つまり、リインフォースの生存である。 リインフォースさえ生きていれば、シンが感応し過去に飛ばされることはない。 修正は、シンが十年前の海鳴市に行き、なのはたちと知り合ったという部分だけで済むはずだ。 デス子「それが、スカリエッティと機動六課の立てた計画でした。うまくいくかどうかは完全に賭けでしたけどね」 シン「俺だって好きで過去に跳ばされた訳じゃない。なのはさん達に出くわしたのだって本当に偶然だったんだ。」 デス子「そこですよ。そもそも、マスターがなのはさんたちと出会っちゃうからいけなかったんです。 おまけに、幼いはやて部隊長にパルマまで決めて」 シン「どこでそれを聞いた!?」 デス子「・・・さぁさぁ、話を元に戻しましょうか」 シン「待て、割とマジで待ってくれ。あれは事故だったんだ。わざとじゃないし、俺はそんなこと望んでたわけじゃ・・・」 デス子「はいはい」 シン「まともに聞けよ! 最近、マスターがただの愛称になってきてないか!?」 だが、闇の書の修正プログラムを完成させる前に防衛プログラム(闇の書の闇)が再生を開始。 再び暴走する前に、リインフォースごと闇の書を葬らなくてはならなくなった。 何とかそれを阻止するため、シンは闇の書の中にわざと収集されて再生途中の防衛プログラムを直製破壊しようとした。 ここで防衛プログラムの破壊に成功すれば、消滅した防衛プログラムをわざわざ再生したことにするよりも、 防衛プログラムは修正プログラムの完成前に“再生しなかった”と歴史が修正する可能性が高くなるからだ。 ただし、逆にシンが死亡するか、そのまま防衛プログラムを倒せなければ 歴史はそのままシンを消滅させる方向に修正するかもしれない。 デス子「あくまでも全て可能性でした。なにせ、前例も検証する時間もないわけですから、 予測と想像で動くしかなかったんです」 シン「そこまではわかってるんだよ。そのために頑張ってきたわけだし」 デス子「そうですね。でも、問題はここからです」 決着はほぼ相打ちに近い形で終結した。 闇の書の防衛プログラムは消滅したものの、シンを撃破することに成功した。 シンは、勝ちはしたものの未来への帰還が叶わなかった。 この時点で、どちらに修正されるかは五分だったはずだ。 鼻の差での勝利だったのか、それともシンに関する歴史を修正するのがよほど難しかったのか。 判断は難しいが、とにかく歴史はシンを勝者に選んだ。 そして、一番影響の少ない時間(歪みの発端となった少し前)に新たなスタートラインを引いたのだろう。 デス子「私たちが生きているということはそういうことなんでしょうね。わかりましたかマスター」 シン「・・・・・・」 デス子「マス、ひゃー? なにひゅるんでひゅか?」 シン「・・・いや、安心しようと思って」 ポテチを食い漁りながら難しい話をするデス子の頬をひっぱってみる。 うん、いつものデス子だ。 シン「・・・って、こんなことしてる場合じゃない!!」 俺が生きていて、闇の書の闇が倒されたなら・・・。 シン「あいつが、生きてるはずじゃないか!」 デス子「でも、十年前の私たちに関する記憶は持ってないかも・・・あ、マスター待って!」 デス子を置いて、俺は走り始めた。 記憶の有る無しなんてどうでもよかった。ただ、一目生きている姿を見たかった。 あいつの傍でなら、きっとはやてもみんなみたいに笑っていられる。 リインと一緒になって幸せそうに笑っていられるはずだ。 ・機動六課 隊長室前 はたて隊長の部屋に着くと、俺は勢いよく中に入っていった。 シン「すいませんはやて部隊長。入りますよ!」 そこにいたのは、驚いた顔をしているはやて部隊長とリインフォースⅡだけだった。 リインフォースは・・・ここにはいない。 はやて「ああ、びっくりした。どないしたんやシン。 ノックもなしで女の子の部屋に入るなんて、嫌われても知らんで」 シン 「自動ドアでノックも何も・・・って、この会話はもういいんだよ。はやて部隊長、リインは!」 はやて「そこにおるやないか」 リインⅡ「はいです」 シン「そうじゃなくて、もう一人のリインのほうです!」 はやて「・・・シン、本当に大丈夫なん? リインはこの世に一人だけやで?」 シン「そん、な・・・」 駄目だったのか、やっぱりリインフォースの運命は俺じゃどうしようもなかったのか。 そう諦め始めた時、リインがふと気付いたように言った。 リインⅡ「もしかして、リインフォースのことですか?」 シン「え?」 はやて「なんや、そういうことなんか。道理で話が通じんわけやな~」 シン「いるんですか。生きてるんですか!」 リインⅡ「失礼な。私のお姉さまが資料を取りに行っただけで死ぬわけないです!」 はやて「シンに紹介したときに、紛らわしいからリインフォースはリインフォース、リインフォースⅡは リインって呼んでるって言うとったやないか。もう忘れてしまったん?」 シン「はああああぁぁ・・・」 いっきに体から力が抜ける。よかった、生きてた。生きててくれた。 情けないことに、そのまま俺はへなへなと床に座り込んでしまった。 けど、不思議と気分はすっきりしていた。 やり遂げた充実感と守れたという満足感が心を満たしている。 こんな気持ち、戦争をしていた頃には一度だって味わえなかった。 これが、人を救うってことか。 はやて「シン、疲れとるんやないか。部屋に戻って休んだ方が・・・」 シン「いえ、大丈夫です。一人で立てますから」 本当は、このままここで眠ってしまいたいくらい疲れている。 訓練のせいだけじゃない。あの戦いのことも影響しているのかもしれない。 体はボロボロだったし、ほとんど感覚はなかったけど一度死んでしまったしな。 だからなのか、俺は後ろのドアが開いたことも、彼女が後ろに立ったことさえ気付かなかった。 リインフォース「ゆっくり休むといい。あれだけ頑張ったのだからな」 俺と同じくらい赤い瞳と、見るものを引き付ける長い銀色の髪。 あれから十年たったのに、何も変わらないまま彼女はそこにいた。 シン「久しぶり・・・っていっていいのか?」 リインⅠ「私にとってはそうなるが、きっとお前には違うのだろう」 シン「でも、ずいぶん時間がかかったけどこうしてまた会えたよ」 リインⅠ「そうだな。だから、この十年間お前に言えなかったことを言おうと思う」 リインⅠ「ただいま、シン」 シン 「・・・ああ、おかえり。『祝福の風 リインフォース』」 ・時空管理局外部研究施設 スカリエッティ研究所 同時刻、シャマルはスカリエッティに呼ばれて彼の研究所に来ていた。 管理局との司法取引で次元犯罪者でなくなった彼は、今やガジェットを含む質量兵器の 平和利用の第一人者として自分の研究所まで持っている。 出迎えてくれたウーノに研究室に通されたシャマルは、コーヒーに塩を入れていたスカリエッティに 挨拶もそこそこに本題をぶつけた。 何故自分達だけが、シンがいなくなったあとにミッドチルダで起こった騒乱の記憶を 思い出したのかという疑問を。 シャマル「リインフォースはヴォルケンリッター兼ユニゾンデバイスとして新たに生誕した。 歴史はそういう風に辻褄を合わせたわ」 スカリ「実に興味深い事例だね。実証データが取れないのが残念で仕方がない」 シャマル「わからないのは、私とあなたの記憶のことよ。 歴史の改変に巻き込まれていながら、どうして私たちの記憶だけが戻ったのかしら」 機動六課の医務室で目が覚めた時、シャマルはあの悪夢は全て自分ひとりの妄想だったのだと 悲しく思いつつもほっとしたものだ。 それだけに、スカリエッティからそのことで話があるといわれたときには本当に驚いた。 急いで確認してみたが、やはり機動六課で覚えているのはシャマルとリインフォースだけだった。 (リインフォース自身も、シャマルが自分が消滅した世界を覚えていることに驚いていた) もちろん、彼女の生存は喜ぶべきことだ。 だが、だからといって納得がいったわけではない。 シャマル「話があるって事は、だいたいの見当は付いているんでしょう?」 スカリ「見当・・・? 悩むほどの事じゃないだろう。記憶が残っているのは、 事件が終わっていないからに決まってるじゃないか」 シャマル「・・・冗談、よね?」 笑えない、という風にシャマルは眉をひそめる。 一方、スカリエッティは相変わらず胡散臭い微笑を浮かべたままだ。 スカリ「リインフォースが、プログラムが見つかるまで消滅を選ばなかった。これはありえる話だね。 防衛プログラムが何らかの原因で一ヶ月もの間再生しなかった。これもないことはないといえるだろう。 だが、一箇所だけどうしても解消しきれない矛盾がある。わかるかね?」 シャマル「・・・・・・修正プログラムの存在」 それは気付いてみれば単純な、そして致命的な矛盾だった。 スカリ「ご名答。あれは僕達が未来で作り過去へ送ったオーバーテクノロジーの産物だ。 歴史に組み込むにはあまりに異質すぎる」 シャマル「ということは・・・」 スカリ「修正プログラムをもう一度作成し、過去へ送らない限り歴史の矛盾は解消されることはないんだよ。 そして、そのために私たちの記憶だけが残された」 シャマル「どういうこと? 例え記憶があったとしても、私たちだけじゃ、 闇の書の修正プログラムなんて作りようがないわよ」 スカリ「プログラム作成に関しては心配は無用だよ。君が思っているよりもはるかに簡単に作り出せるからね」 シャマル「そんなにあっさり? 改ざんされる前の歴史からデータを持ち出せたっていうの?」 スカリ「いや、消滅した世界から物を持ち出すのはさすがの私でもできやしないさ。 だが、その代わりに作成手順をすべて記憶している。 二百三十一万とんで三百五十一通りを丸々、ここにね」 そう言って自分のこめかみを指でとんとんと叩いてみせるスカリエッティに、改めて驚かされるシャマル。 この男の才能に底はないのだろうか。 無駄なことに費やされていることがつくづく惜しい。 アニメに出てきた変身ベルトなんて作ってないで、義手の一つでも作ればいいのに・・・。 スカリ「後は、時間跳躍システムを使って過去にプログラムを送るわけだが、 これは管理局内部の情報がなければ面倒な問題でね。 転送の瞬間を見られてはまずいんだよ。 だからこそ、誰にも見られないタイミングを調べてもらう協力者がいる。」 シャマル「まさか、それが私の記憶が消えなかった理由・・・」 スカリ「ご名答。世界の修正とやらもなかなか舐めたことをしてくれる。 自分達のわがままは自分達で通せということらしい」 シャマル「・・・すぐに準備してくるわ。十年前以前で、無限書庫に絶対に人がいない瞬間を 調べればいいのね」 ウーノ「送りましょう」 スカリ「そうしてくれ」 シャマルが下準備をしようと席を立ち、ウーノが機動六課まで彼女を見送っていった。 一人になったスカリエッティは自らに残った記憶を記録としてつづり始める。 スカリ「さて、私もこちらの方を仕上げておくとするかな」 スカリエッティ・レポート シン・アスカの持つ次元跳躍能力が発端となった一連の事件はこれで幕を閉じた。 関係者の記憶は歴史に改ざんされ、崩れかけた世界は彼の頑張りによって安定を取り戻した。 今のところは不自然な点は見られない。 しかし、直に歴史は闇の書の修正プログラムが存在しない矛盾にさし当たるだろう。 その時までに、装置とプログラムを再び完成させて矛盾を解消すること。 恐らく、それが私の記憶が残っていた理由だ。 シャマル女史もその手助けをするために残されたと推測できる。 だが、私にはまだ彼女には言っていないことがある。 シン・アスカが十年前に何を為したか、どんな戦いを潜り抜けたかの記憶が 私の頭に断片的ながらも入り込んでいることだ。 もしかしたら、二度とこの事例が起こらないよう外部から彼を監視する。 そんな厄介な役割まで押し付けられたのかもしれない。 シン・アスカの所持する人型起動兵器『デスティニー』と、 それをユニゾンデバイスに変化させた『セイオウノツルギ』の関連性。 それらが『次元跳躍能力』と繋がって出来た新たな力。 疑問はまだ尽きないが、戦いは終結している。 今はこの不安定な平和を謳歌するとしよう 願わくば、この平穏が永遠に続かんことを。 スカリ「ふむ、私には似合わないセリフだったかな」 さて、歴史が防衛プログラムよりシン君を選んだのは単なる偶然か、それとも、 既にシン君が歴史にとって欠かせない存在となるまでに食い込んでしまっているのか。 いずれにせよ、その答えが出るにはそう時間はかからないだろう。 彼らは、すでに動き出しているのだから。 ・??? 議長「セイオウノツルギが完全に目覚めつつあるようだな」 書記「順調で何よりだ」 評議員「もう一つのほうも、聖王教会への仕込みが終わったところだ。信仰に厚いカリムのことだ。 すぐに機動六課へ譲ってくれる」 書記「手の上で踊っていることに気付かないとは、哀れな道化だな」 評議員「とはいえ、我々に必要なものはまだまだ多い。全てが揃うまで油断は出来んぞ」 議長「その通りだ。失敗は許されん。この計画は千年という膨大な年月をかけた管理局最大の悲願なのだ」 議長「では、青き清浄なる世界のために」 書記・評議員「「青き清浄なる世界のために!」」 ・機動六課 はやての隊長室 はやて「な、なんや。この恋人っぽい会話と雰囲気は。よりにもよって、リインフォースとのフラグやて・・・」 リインⅡ「シン×リインⅠ、そういうのもあるのか・・・」 シン 「あ、はやてもただいま」 はやて「よ、呼び捨て! やっと私の気持ちに応えてくれる気になったんやな!」 シン 「大げさすぎるだろ! いや、そうじゃなくて・・・どう説明すればいいんだよ」 はやて「よし、まずは式場の予約や。邪魔が入らんよう四十秒で支度するで!」 シン 「いきなり結婚式!? 色々とすっとばし過ぎだ!」 リインⅠ「ふふ、応援するよシン」 はやて「行くでシン! このはやて・アスカとさっそくウエディングドレス選びや!」 シン「助けないのかよ、あんたって人・・・わああああぁぁぁ」 新しい面子を迎え入れて、更に賑やかになった機動六課。 けど、これもきっと日常になる。 皆が笑って過ごせる、そんな毎日になっていく。 確かに世界は悲しみに満ちていて、いつ崩壊するかわからない危ういバランスの上に立っているのかもしれない。 今もどこかで戦争が起こっていて、そこには泣いてる人や人の命をもてあそぶヤツがいて。 殺して殺されて、奪って奪われて、悲しみや憎しみだけが広がって・・・。 そんな力で作った未来の先に『戦争のない世界』なんてないのかもしれない。 それでも、俺は戦う。 俺たちの目指した“閉じた運命の環”とあいつらの目指した“これから”のどちらが正しかったのかを確かめるために。 本当に平和に必要なものを見つけるために。 俺の大切な人たちがいつまでも笑顔でいられるように。 俺は生きていく。 戦争の可能性に満ちた世界で“みんな”を守り抜くために。 ・十年前 はやての家 後に『闇の書事件』と呼ばれることになる戦いが終息してから一ヶ月。 見つかった修正プログラムが完成するまでの間、『防衛プログラム』が息を吹き返すことはなく、 私は八神家の一員としておだやかな生活を手にしていた。 はやて「リインフォース、夕飯は何がええかなぁ」 リインⅠ「そうですね。昨日はシチューでしたから、今日はご飯物などいかがでしょうか」 はやて「あは、採用や♪」 けれども、目をつぶると思い出すのは私と同じあの赤い瞳。 誰も覚えていない、本当にいたことすら定かではない男のこと。 夢のようにおぼろげな日々だったが、私の中には確かに彼への思いが残っている。 そう、我が主にして差し上げているように、膝に抱いたあの男を優しく撫でたこともあった。 はやて「ああ!!!」 リインⅠ「どうかしたのですか、我が主?」 はやて「大変なこと忘れとった!!! まだ、私リインフォースにクリスマスプレゼントあげてへん!!」 リインⅠ「私に・・・ですか?」 はやて「うん、なのはちゃんやすずかちゃん達にはお返ししたし、シグナム達にもあげとったのに・・・。 はぁ、今頃になって思い出すやなんて」 リインⅠ「・・・気に病む必要はありません。プレゼントなら『真っ赤な目をしたサンタクロース』に貰っています。 何物にも変えがたい、私が一番欲しかったものを」 はやて「リインフォース、サンタさんが真っ赤なのは服のはずやで??」 リインⅠ「いつか、我が主にもわかるときがくるでしょう」 はやて「???」 リインⅠ「そう、いつかきっと・・・」 また、会える日がくる。 『必ず帰ってくる』 私は、あの男と確かにそう約束したのだから。 第一部 『魔法少女、救いました』 完 #navi(なのはクロスの作品集) ----
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守ること…それは正義だと思っていた… 奪うこと…それは悪だと思っていた… 私の力は守るための、悪者を懲らしめるためのもの… 守るためには戦うことも必要だとあの人も言っていた。 いつも正しいことをしてきたあの人が言うならやはり自分は正しいのだと思った。 そう思い戦ってきた。戦っていくと決めていた…… 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY-SIN In the Love- PHASE-5「狂気の祭典―天使降臨」 「どっちと戦うのだ?」 「未確認の3機だ。気は進まないけどな」 クライムインパルスはガデッサに接近。人がいる中であのメガランチャーを何度も使わせるのはまずい。 (見た感じ射撃タイプだ。接近戦なら…) ガデッサはランチャーを腰にマウントしビームサーベルで応戦する。パワーも運動性もガデッサが上回っている。 しかしインパルスは巧みな動きでガデッサを会場から押し出していく。 「このまま海の上まで…」 海上まで行けば周りの被害を気にせず戦える。シンはこんな戦い方をするのは初めてだった。 「レイジングハート出せる?」 バリアジャケットに着替えたなのはは会場脇の輸送艦にいた。避難誘導を引き継いだので自らも出撃するためだ。 「問題ありません」 スタッフが答える。それを聞くとなのはは専用機に乗り込む。 この『レイジングハート』は無印フリーダムを基に魔導師対応のSMSに改修したものだ。なのはの特性に合わせ砲撃戦重視の調整がなされており(フリーダムもだが)、専用長槍型複合魔法兵器『ディバインバスター』と魔力により遠隔操作可能な『アクセルシューター』を装備しオリジナル以上の性能を持っている。 「高町なのは、レイジングハート、行きます!」 キラはガラッゾ、ガッデスの2機と戦いながら残った2機のジンクスを探していた。3機に割り込まれた際に見失った。しかし離脱したにしては速すぎる。 (どこかに回収艇がいるのか…?) レーダーにそれらしき反応はない。 また新しくやってきたガンダムタイプのことも気になっている。少なくとも統合軍所属の機体ではない。 予定と違うことからスカリエッティが裏切ったのは間違いない。3機のUnknownもスカリエッティの差し金だろう。ならばそれと戦っている以上味方と判断するのが妥当だが自演の可能性も否定できない。スカリエッティが相手ならば。 「くそっ…」 こんなはずではなかった。今日という日は更なる平和への第一歩となるはずだった。スカリエッティは何かしら仕出かすとは思っていたがまさか新型、それも太陽路を積んだ機体を出してくるとはさすがに予想していなかった。 キラが思考しているとガラッゾがビームクローを収束させ振り下ろしてくる。ビームシールドを展開するフリーダム。しかし出力では核動力が上のはずなのにガラッゾの攻撃がビームシールドを切り裂く。キラはシールドにビームの先端がめり込むと同時に機体を後退させていたためダメージこそないが、ガラッゾの出力に驚愕する。 (間接のパワーだけなら機体重量で説明がつくけど…。あれは僕たちの知っているGNドライヴとは違うのか?) ガッデスがGNバルカンをばら撒く。フリーダムは確実に追い込まれていた。 海上に出たインパルスとガデッサ。インパルスはガデッサとクロスレンジで戦闘を続ける。しかし傍目からでも明らかにインパルスが劣勢である。 「押されておるぞっ! しっかりせんか!」 「一度体勢を立て直すべきです」 「そうは言うけど…」 ガデッサは距離を離せないと見るや接近戦にスタイルを変えてきた。どうやら格闘戦でも十分倒せると踏んだようだ。 「離れたら回り込まれやすくなる。右側に回られたら終わりだ」 シンの右目は閉じたまま。昼間の明るさでさえ耐えられないのだ。夜になったとはいえ今開けようものならビームがぶつかる光で焼かれ失明まっしぐらだ。 右目が開けられないことを除いても敵パイロットは強い。ブランクのあるシンでは正面からの攻撃でも避けきれないかもしれない。未だにインパルスが目立ったダメージを負っていないのは正直運である。 「機体もパイロットも向こうが上か…」 インパルスの攻撃をかわしたガデッサに蹴り飛ばされる。そこにバルカンが降り注ぐ。インパルスはシールドで防御しながら接近し再び格闘戦へ。しかしガデッサはその動きを見切っていたのか、肘のビームカッターでインパルスのシールドを真っ二つにする。 「ったく、ウンザリだな…!」 フリーダムと戦闘している2機の間を極太のビーム、否、魔力光が通り過ぎる。 『これは…』 「キラさん!」 ストライクフリーダムの横にレイジングハートが並ぶ。どちらも原型となった機体は同じだが今となっては大分姿が異なる。 「大丈夫!? 苦戦してるみたいだけど…」 『GNドライヴの性能が別物だ。気をつけて』 なのはは気を引き締める。あのキラが苦戦する相手だ。少なくとも機体性能は上だと考える。 (でも負けるわけにはいかない…。平和を壊そうとする人なんかに…!) なのはは廃墟となった会場を見る。こんなことをする者を許してはおけない。 『なのはは青い方を頼む。もう1機は僕が』 「了解」 なのはは距離をとりながらガッデスに照準を定める。レイジングハートの持つディバインバスターの魔力カートリッジを交換。 「いくよ…全力全開っ!!」 魔方陣が描かれ桜色の魔力光が撃ち出される。 「うわっ!? なんだ?」 ディバインバスターの余波はインパルスとガデッサの所まで及んでいた。機体が激しく揺れる。 「凄まじい魔力じゃな」 会場の方を見れば今の攻撃の余波で外壁が一部吹き飛んでいた。 「あれは…」 戦闘中にも関わらずシンはその攻撃を行ったであろう機体―レイジングハート―に目を奪われる。 夜とはいえ見間違えるはずがない。あれは…。 「シンっ!」 「!?」 アルの声で視線を戻す。目の前にガデッサのメガランチャーがあった。 (やられる!) しかし発射されたビームはエセルが咄嗟に発動させたGNフィールドにより減退。致命傷にはならなかった。メガランチャーがチャージされておらずガンモードだったことも幸いした。 「悪い、助かった」 「いいえ。しかし今のでGN粒子の残量がかなり減りました。このままでは…」 エセルの言うとおり粒子残量はわずか。バッテリーもPS装甲に当てているため武器に使用するのは避けたい。 「このうつけがっ! なにをボーっとしとる!」 「…ああ」 「…どうした? どこかケガをしたのか?」 心配そうに尋ねるアルにシンは「大丈夫」と告げると敵機に向き直る。 (今は気にするな。そんな場合じゃないし余裕もない) シンは自分に言い聞かせる。その横顔をアルとエセルはじっと見つめていた。 「ねばるねぇ彼は。旧式の機体に不完全な魔導書、落ちぶれたパイロット…さっさとやられるんじゃないかと心配していたが」 そう思っていたとは到底見えない表情でスカリエッティはモニターを見ている。 「しかしエースオブエースの力はすごいな。チートじゃないのかと疑いたくなるよ」 そう言って小さなコンピュータ端末を見る。そこに高町なのはの経歴や魔法適正といった個人情報が表示されていた。 「ドクター、そろそろ時間です」 ウーノが声をかける。しかしスカリエッティは手を上げて制する。 「少し延期しよう。彼女たちの出来を見たい」 「…我慢弱いのではなかったのですか?」 「私は過去を振り返らない男なのだよ」 スカリエッティの「○○な男」が変わるのはしょっちゅうなのでウーノは何も言わないことにした。 そんな彼女の気持ちをよそにスカリエッティは旧友の行動を考える。 (インパルスか…。完成していないのか、パイロットを考えてか……。こちらも急いだほうがよさそうだな) レイジングハートの圧倒的な火力の前にガッデスは回避で精一杯…でもなかった。ガッデスから射出されたGNビームサーベルファングの機動性はアクセルシューターをはるかに上回っており、レイジングハートは早くも片方の翼を失っていた。 ディバインバスターは射程、威力に優れカートリッジシステムにより連射も可能だが当然『構える』必要があり、そこを狙われうまく立ち回れない。 多少のダメージなら無視できるし量産期クラスの攻撃ならバリアで無効化できるため今まではあまり気にしなかったがこうなってくると、 「もっとスピードが欲しかったかな…」 レイジングハートは決して鈍重ではないが姿勢安定を重視しているので高機動というほど でもない。そもそもアクセルシューターで大抵の事態に対応できた。 ガッデスが接近してくる。見た目判断ではあるがガッデスには一撃で相手を破壊できるような武装はない。手に持ったヒートサーベルでバッサリいくつもりだろう。 (接近戦はきついけど…このまま離れてても勝てない。イチかバチかで…) レイジングハートは接近戦用の武器を持っていない(ディバインバスターで打撃は可能)。しかしあまり使わないが接近戦において必殺の魔法はある。 「レイジングハート、ブラスターⅡ!」 レイジングハートが光を放つ。ディバインバスターからも翼のように魔力があふれる。 ガッデスはサーベルファングで牽制しながらさらに加速。レイジングハートの右肩にファングが突き刺さるがなのはは気にせずブースター+魔力を全開。 「ACS…ドライブ!!」 レイジングハートが桜色の魔力をまといガッデスに突撃。相対速度もあり今から回避運動に入っても遅い。狙いは下半身。それだけ吹き飛べば当然戦闘不能だ。 しかしなんとガッデスは機体をずらし胴体中央をさらけ出す。 「!? だめっ!」 なのははギリギリで機体ごと横にそれコックピットへの攻撃を避ける。そこにすかさずファングが一斉に襲ってくる。加速と動揺でロクな対応も出来ずレイジングハートは両手足と頭を破壊される。 「そんな……どうして…」 なのはは敗北したことよりも敵機の動きが信じられなかった。 「なのは!?」 レイジングハートの撃墜に気をとられるキラ。無理も無い。なのははキラ、アスランに次ぐ腕の持ち主なのだ。その上キラは味方がやられるのに慣れていない。ストライクフリーダムは完全な無防備となっている。 『余所見とはいい度胸だなぁっ! スーパーコーディネイター!』 「くっ!」 少女と思しき怒声と共にガラッゾが両手のビームクローを収束させ突進してくる。フリーダムはドラグーンを展開し迎え撃つが、ガラッゾはドラグーンが並ぶ瞬間を狙い回転、ビームクローの余波で迎撃してしまう。 「なに!?」 まさかの力押し。ドラグーンが撃墜されたのは初めてだ。 ガラッゾは回転しながら突っ込む。フリーダムは胸部のカリドゥスを発射。ガラッゾビームクローで防御するが体勢を崩しビームクローも消失する。 『しまったっ!』 フリーダムは両腕を切り落とそうと接近。攻撃態勢に入った瞬間ガラッゾが一歩分間合いを詰める。 『な~んてな。ひっかかてんじゃねーよ!』 「!!」 ガラッゾの握られた拳。そこには打撃用のGNスパイクが。この超接近状態ではビームサーベルを振り下ろすよりも早く攻撃できる。 ガラッゾは高速でフリーダムに拳打の嵐を浴びせる。 衝撃を生かし一気に離れるフリーダム。PS装甲があるため致命傷ではないがカリドゥスと右のマニュピレーターが破壊されている。 「何者なんだ……」 キラは焦る。なのはがやられたならば青い機体もこちらに向かってくるだろう。そうなれば… (スカリエッティは何を企んでるんだ…?) 「もうチェックとは…彼らを買いかぶりすぎたかな?」 スカリエッティはつまらなさそうに言う。いくら対策を用意していたとはいえ、キラ君たちにはもっと奮闘して欲しかったのだ。 「シン君もいっぱいいっぱいだし…」 モニターには回避に徹するインパルスが映っている。 「お言葉ですがドクター。今回∞ジャスティスやバルディッシュを出撃できないようにしろと仰ったのはあなたですが?」 ウーノの言うとおり今回アスランのジャスティスとフェイトのバルディッシュが出撃していないのはこの一味の仕業である。アスランとフェイトを仲間とは別行動にさせたのはドゥーエであり、彼らの愛機はオーブ本国に置きっ放しなのだ。 「…」 「……」 「では行くか。もうすぐ良い子は寝てしまう時間だ」 「…はい」 スカリエッティは白衣を脱ぎウーノから着替えを受け取って部屋から出て行った。 「くそっ、あいつやられたのか…」 シンはレイジングハートが撃墜されたのを知りつぶやく。頭の中によぎるのはかつてのメサイア宙域戦でのこと。あの時レイジングハートは他のオーブ勢と同じく無傷だった。 (あっさりやられて…平和ボケでもしてんじゃないのか…) 怒りやら悔しさやらが募るが今はそれどころではない。インパルスはガデッサの砲撃にさらされ大ピンチである。 「撤退しますか?」 「それm「冗談ではない! 死ぬ気で戦え!」…だよな」 「それもいいかも」と言おうとしたシンは反省。敵の狙いが分からないが平気で民間人を巻き込むような相手を放っておくのはいただけない。会場にはまだ多くの人間がいるのだ。 (こうなったら相打ち覚悟もアリか…?) 楓たちの言葉が浮かぶ。 「相打ちは不許可じゃぞ。妾はまだ死ぬつもりはない」 「俺も死ぬ時は独りでって決めてるんだ。得体の知れない連中と心中なんて出来るかよ」 海面スレスレからビームライフルを連射するインパルス。ここならビームは減退しいきなり撃破されることはない。粒子残量なんて気にせず撃ちまくる。 (といってもあの火力ならあんまり関係ないか?) そう思った矢先、ガデッサがメガランチャーをチャージしだす。隙だらけなのだが利き目が開けられない上あの機動力では当てられない。避けるしかないがそれも難しい。水中に逃げ込んでもダメっぽい。 「…やっぱ死ぬかも」 「諦めるなぁーっ!」 ロックオンされるインパルス。ガデッサの指が引き金を引く。凄まじい出力のビームが発射される。 「やってやるさ…!」 インパルスはわずかに左に移動。右半身が丸々吹き飛び爆発。ガデッサは巻き込まれないよう少し離れようとする。 その途端、煙の中から何かが飛んでくる。 意表を突かれるもガデッサは回避。放たれた物体は…ナイフ。 (しまった!? これは…) こんな物頭部にでも当たらなければダメージにはならない。つまり回避…目を逸らさせるのが目的。あまりに陳腐な手。 ガデッサのパイロットは急いで自機のカメラを煙に向ける。 『うおおおおっ!!』 「!!」 動けるのが不思議な位壊れたインパルスがビームサーベルを左手に逆手で握り黒煙から飛び出していた。 ガデッサの頭部から右肩までが切り裂かれる。コックピットを激震が襲うがパイロットは構わず反撃に転じようと距離を取る。 「お見事です、マスター」 エセルがスパークの走るコックピットでシンを称賛する。 「相手はまだやる気のようじゃな」 アルはメガランチャーを構えたガデッサを見やる。 「メインカメラ無しでやろうってのか…」 少量の出血をしながらシンは敵機を確認。 あの手の大型兵器は兵器自体に専用カメラが付いていて顔が無くても狙えることが多い。 「もう同じ手は使えないぞ……」 メガランチャーがバチバチ音を立てながらチャージを開始。 (相手は片腕。射撃と格闘は同時に出来ない。なら…) シンはペダルを踏み込む。撃たれる前に仕掛けるしかない。 ガデッサもチャージ半ばで発射しようとする。その時…、 『ごきげんよう、世界中の皆さん。我々はソレスタルビーイング』 突然モニターに男が…ジェイル・スカリエッティが映った。 「細かい話は抜きにして要点を話そう。我々ソレスタルビーイングの目的はただひとつ。武力による全世界からの紛争及びそれに与する思想の根絶だ。そのため我々は擬似太陽炉搭載型StSを使ってあらゆる紛争に介入、終結させる。 ちなみに今回襲撃事件を起こしたのは統合軍の新型MS破壊のためだ。新しい兵器は争いを呼んでしまうからな。 なお我々は相手が民間人だろうと女子供だろうと一切容赦しない。争う者、争おうとする者、争いに賛同する者、争いを傍観する者…それら全てを世界中から排除する。 ただ勘違いしないでもらいたい。我々は世界の支配や人類の根絶やしにしたいのではなく、世界の平和を望んでいる。 行き過ぎた方法と思うかもしれないが、今の世界では表で分からないだけで似たようなことは行われている。隠そうとしないだけマシと思ってくれ。 それでは諸君、争いの無くなった世界でまた会おう」 モニターが元に戻った時3機のStSは撤退していた。今回は顔見せということらしい。 「明らかに見逃されたな…」 シンは息をつく。手が震えている。 インパルスはシールド損失、左足に大ダメージ。右半身はサヨウナラ。つまりは大破。だがMSよりも… 「会場は?」 ヘリコプターがいくつも飛んでいる。救助活動は行われているようだ。しかし救えない命はたくさんあるだろう。 「白河たちは大丈夫なのかな?」 到着したとき傷だらけのことりは見たが、それ以外のメンツは見ていない。 「見に行かんのか?」 アルが問うと通信が入ってくる。 『こちら統合軍所属キラ・ヤマト。そちらの所属は?』 フリーダムがゆっくり近づいてくる。レイハは他で回収しているようだ。 「いかがいたしますか?」 今のシンに所属はない。どこかの高校生軍人みたく「○○高校○年○組出席番号○番、二学期もゴミ係の~」とか名乗ったらカッコイイのかもしれないが、相手がフリーダム王子では確実に滑る。そもそも今は一学期でシンは妹係(杏に強制的にやらされている謎係)。 (でもこのまま逃げたらマズイだろうしな…) MSの不法所持は当然重罪。正体を明かせばいいのかもしれないが、MIA扱いのおかげで追われていないためこれもNG。何か適当な言い分が必要だ。 「むぅ…」 あまりのんびり考えている時間は無い。妹脳と評判の頭を使う。 『お~い』 下から女性の声が。見下ろせば『管理局』と書かれたボートのデッキに茶髪ショートカットの少女―八神はやて―が虎模様のメガホンを持って立っている。 『キラ君ええねん。それウチで用意した秘密兵器なんよ』 関西弁でキラに呼びかける。こちらをかばう気のようだ。 (どういうことだ…仮面野郎の差し金か? よりによって管理局かよ…) シンは苦々しい顔でボートの少女を見る。月で負けていなかったら踏み潰すぐらいしたかもしれない。 (くそっ。この間はエースオブエースに会うし…。もう管理局とは関わりたくないっての) 『そんな話聞いてないよ、はやて』 『いや~ごめんな~。ほら、こういうイベントで襲撃されるのがお約束やん? だから隠し玉は必要かなーって思うて。4ターン目あたりで味方増援があると燃えるし』 『あまり僕やラクスの知らないところで行動して欲しくないんだけど…』 キラにしては冷たい口調。しかしはやては気にせず続ける。 『そう言わんと。秘密を秘密にする最良の手段は誰にも言わないこと、やろ。これも全て“完全平和”のためやて』 『…分かったよ。なら僕は戻るよ。対策を練らなきゃね』 「っ。対策って…救助を手伝うのが先じゃないのか…?」 廃墟での救助活動は大変だ。しかしMSなら簡単に瓦礫をどかせるため1機いれば効率は跳ね上がる。にも関わらずフリーダムはアルテリア建設予定地の管制室へ向かってしまった。 シンは今すぐにでも追いかけるか会場へ行くかしたかったが、はやてを無視するわけにもいかない。仕方なくその場にとどまる。 『ほなそっちのMS。付いて来てや』 動き出したボートに続くインパルス。ボートは会場へ向かう。 「まさかのドッキリやな。どっかにカメラでもありそうや」 会場脇の広場、そこでシンとはやては対峙していた。アル&エセルは本の戻りコックピットに置いてある。本当は室内がよかったはやてだがどこも崩れており使えなかった。なので丁度人のいないこの広場にした。 救急車のサイレンやヘリコプターの飛ぶ音がそこら中から聞こえる。シンはどうにも落ち着かない。さっさと切り上げようと話す。 「軍に突き出すか? もしかしたら勲章がもらえるかもしれないぞ?」 シンは前大戦においてZAFTで一番戦果を挙げた。つまり一番人を殺した。戦時中は称えられても、敗残兵となれば単なる大量殺人犯となる。それを捕まえたとなれば間違いなく出世できる。 「ケンカ腰やな~。そないな事せんって。まずは自己紹介しよ、じこしょーかい。初対面では常識やで」 ヘラヘラした様子で言う。先ほどの発言からすると彼女はシン・アスカを知っている。MSのパイロットがそうだとは思ってなかったようだが。 「俺を知ってるんだろ。なら必要ない」 かなり冷たく言うシン。管理局の人間と仲良くするつもりは毛頭ない。 「ならわたしからな「無視!?」八神はやて17歳。見ての通り管理局所属*のかわいい女の子や。好きなものはかわいい女の子と男の娘。特技は煙に巻くこと。彼氏いない暦と3サイズは…ナイショ☆」 「*以降は容量の無駄使いだな」 「絶望した! 20バイトにも満たないことへの容赦ないツッコミに絶望した!!」 「なら俺はもういいな。じゃ、そゆことで…」 そうはさせじと去ろうとするシンの学生服を掴むはやて。 「ちゃうやろ!? そこは『ヴァーチェ呼んで来い』やろ!? わたしらの出会いはまだ始まったばかりやで!」 「じゃあ今この瞬間打ち切りだ。第2部があるといいな」 「ぐふぉぅあっ!! シビレる! 今のはサイコーや!」ウインク シンは学校にいるような錯覚を覚える。管理局はもっと真面目な人間ばかりだと思っていた。 「さてと。じゃあツッコミ上手な君の名前その他モロモロ言ってもらおか」 「…シン・アスカ。風見学園2年。以上」 「短いっ!? それじゃ名前と学生であることしか分からん!」 「他に言うことは無い」 「趣味は? 特技は? 好きなアニメは?」 ジタバタするはやて。シンと同年齢とは思えない。シンもよく「子供っぽい」と言われるがここまで酷くは無い…ハズ。 「趣味はガンプラ、特技はフラグ立て、好きなアニメはシ○タープリンセス…ですよね?」 二人とは別の声が答える。 シンがそちらに顔を向けるとお嬢様っぽい人物―瑠璃―が執事っぽい男を伴って歩いてきていた。先ほどの答えは瑠璃のものらしい。 「アンタは? どこでそんなこと知ったんだ?」 シンは彼女を知らない。自分のことを知っているということは一般人ではない、と警戒する。 (さっきので合っとるんや…) はやても瑠璃に会ったことはないが別に警戒はしない。ヤバイ相手だったらシンが先に何とかするだろうし、シンで敵わない相手なら自分がどうこうできるワケがないためである。 「わたくしは覇道瑠璃。名前ぐらいは聞いたことありません?」 シンはニュースや新聞はあまり見ないが、覇道という名前には聞き覚えがあった。 「風見学園を建て直したのが覇道財閥だったな。関係者か?」 総帥の娘あたりだろうと思いしゃべったシン。そこをスパーンとスリッパではたかれる。 「アホーーーっ! 覇道瑠璃ゆうたら覇道財閥の現総帥や! メディアに顔出さんので有名やで!」 はやてはこれでも労働者なのでニュースと新聞は毎日チェックしている。 「な、なんだと…? 女総帥といったらいかにもな美女or年齢不詳なロリじゃないのか? こんな中途半端な子が…」 「気持ちはよ~分かる。けどな、あの執事っぽいメガネを見てみ? あんな“れざーど”な声っぽいの連れてるのは覇道財閥の総帥ぐらいやで…」 「た、確かに…。超絶キャラの濃い“れざーど”を使うにはかなりの能力が必要だ。なら本当に……」 ワナワナと震える二人。ゲーム脳という共通点があった。 「と、とにかく、意外かもしれませんがわたくしが覇道財閥総帥の覇道瑠璃なのです。シン・アスカさん、あなたのことはあなたの友人から聞きました」 それを聞いてシンは不適に笑う。 「ふん、何を言ってるんだ。俺がシ○プリ好きなことは誰も知ら…」 「真弓さんから聞きましたよ。白河さんと眞子さんも『あ~』って顔をしていましたね」 「( ゜Д ゜)マヂ?」 「こっち見んな」 シンはしょっちゅうプリムラに熱く語っている。そこから洩れたようだ。 「とにかく本題に入りますね。シン・アスカ、わたくしに力を貸してください」 「なんのために?」 「来るべき変革に備えるため、です」 「変革? どういうことだ?」 「今は話せません。しかしこのままでは世界はある一人の人間の望んだ道を進むことになってしまいます。あなたはそういうのはお嫌いでしょう?」 「……」 『嫌いだった』というのが正確だろう。今のシンはラクス達の望んだ世界を半分受け入れている。 今回のことも別に今の世界を覆すためではない。 「ちょ~いと待ったぁ」 はやてが口を挟む。 「覇道の姫さんには悪いけど、こっちが先に目つけたんや。シン君にはウチに来てもらうよ」 何やらはやてもシンを招き入れたいらしい。 「管理局には何があっても行かない」 「何も聞かんと拒否!? お嬢口調がそんなにいいか!?」 「管理局が嫌いなんだ。それとお嬢様口調は間に合ってる」 はやてはそれを聞いてガックリと膝を着く。 シンの過去には管理局が大きく関わっている。管理局に入るなどアリエナイ。 正直はやて個人は嫌いなタイプではないのだが、管理局の人間であれば仲良くするつもりはない。 「ではさっそく…」 「え? いや、アンタについて行くのも遠慮したいんだけど…」 「!?」 「なんだその『必殺技が効かなかった主人公』の顔は? 俺は誰にも手を貸さない」 「な、なんですって……?」 かなり驚く瑠璃。横の“れざーど”な執事が進み出る。 「お嬢様のお誘いを断るのですか?」 声を口調も“れざーど”だった。 「お、俺は自分の意志で戦う。誰かに理由をもらうつもりは無い」 気圧されながらも答える。肝心の“理由”はまだ見つかっていないが…。 「それに力が必要ならフリーダムがいるだろう?」 今回フリーダムは随分苦戦していたが、シンは平和ボケでもしていると考えている。 「彼らとは別に事を進めているのです」 執事がメガネを直しながら言う。 「こっちもや。ついでに言えば管理局やのうて“わたし”に力を貸して欲しいんやけどな」 はやても真面目にしゃべる。 管理局は統合軍の一部だ。そこに所属する人間が外に内緒で何をしようというのか。可能性のあるものは限られてくる。 シンは改めてはやてを見る。まさかこの小さな少女は… シンが口を開こうとすると誰かの電話が鳴る。 「失礼」 言って執事がポケットから電話を取り出す。 戦闘後間もないのに通話可能な電話は珍しい。 「お嬢様」 電話を切った執事が瑠璃に耳打ち。 それを聞いた瑠璃は安心した表情を見せる。 「アスカさん。あなたのご友人が全員救助されました」 「! 本当か!?」 「ええ。今病院で確認がとれたそうです」 「そうか…」 シンは安堵する。 ケガはしているだろうが生きていることが分かれば今はいい。 (今度は失くさなくてすんだな…) 「我々はこれから病院へ向かいますが…一緒に来ますか? 車がありますよ」 「…じゃあ、頼む。あ、でも」 シンはインパルスを見る。放置はマズイ。 「コレはこっちで何とかするわ。取引材料になるしな」 ニンマリするはやて。 シンとしては悩み所だが今はことり達が気になるので構ってはいられない。 瑠璃も相手に交渉の余地を与えたくないがことり達は彼女にとっても友人。一刻も早く無事を確かめたい。 「よろしいですか、アスカさん?」 「ああ」 シン、瑠璃、執事はリムジンに乗り込む。 「さってと。どないしようかな、コレ」 シン達が去った後、はやては悩んでいた。 インパルスを迅速に隠したいが人手が足りない。誰か呼べばいいのだが、シンに言った通り他人には知られたくないのだ。 「はやて」 後ろから声がかかる。 振り向けば金髪ロングでスタイル抜群の親友―フェイト・T・ハラオウン―だった。服に血が付いているのは救助活動を手伝っていたためか。 「お疲れー。被害状況は?」 「死者は今のところいないみたい。ただ…」 「ただ?」 「傷口をGN粒子に侵食された人が大勢いて…」 「…そか」 二人は鎮痛な表情をする。 今回採用されたGNドライヴには大きな欠陥がある。噴出されるGN粒子に強い毒性があり、体内に入ると遺伝子を破壊する可能性があるのだ。それは傷が一生治らないこととほぼ同義である。大怪我でもしようものなら数日後に死に至ることもあり得る。 「それで、はやて。これは? 軍の物じゃないね」 フェイトはインパルスを見上げる。 現在『ガンダム』は統合軍しか所有していない。しかしこの機体には統合軍のエンブレムは入っていない。さらに軍と呼べる組織は統合軍ぐらいしかないため、必然的に軍用機ではないということになる。 「出所は分からんけど切り札になるかも知れん機体や」 「切り札? 何の?」 「…今は何も聞かんとコレ隠すの手伝ってくれんかな?」 はやてはフェイトに真剣な顔を向ける。 「はやて?」 「そしたらちゃんと全部話すから、な?」 (ソレスタルビーイング、か。上手く利用できるといいけどな…) (何もできなかったな…) リムジンからボロボロの会場周辺を見るシン。 敵は本気ではなかった。にも関わらず自分は終始苦戦。 ことりがペシャンコになるのは防げたが彼女が傷だらけなのには違わない。 由夢達に背中を押されたのになんと情けないことか。 (結局俺は…無力のままなのか……) その手はまだ震えていた。 『いや~、結構苦戦したッスねー。案外ラクショーかと思ってたんスけど…』 『それはアタシらのことを言ってんのか? ああ?』 『ち、違うッスよ。やっぱスパコと白い悪魔は強いなーって…』 『確かにな。真っ向勝負じゃキツかったぜ。くそっ。ムカツク!』 モニターの向こうで二人の『姉』が賑やかに話している。 『…さっきからどうしたんスか? 黙っちゃって』 モニターに映る無邪気な少女が尋ねてくる。この少女はガッデスのパイロットであり、ウェンディという。 ガラッゾに乗っている口調の荒いノーヴェも訝しんでいる。 「…」 尋ねられたガデッサのパイロットは自身の手の平を見る。 グローブで見えないがそこには汗をびっしょりとかいているのが分かる。 こんなのは初めてだった。訓練でも、回数は少ないが実戦でも無かったことだ。 『おーい』 あの瞬間、煙から飛び出した敵機はこちらのコックピットを狙えたハズだ。 外したのか外れたのか、それは分からない。だが、 「このままでは済ましませんよ…」 茶色のロングヘアーを持ったパイロット―ディード―は低い声で呟いた。 ―やっぱり経験は偉大だね。シン君がただの才能を持っただけのパイロットだったら負けていたカモ。戦況的には統合軍の敗北だけど。 しかしあのマッドサイエンティストは何を考えてるのやら。“知る”のは簡単だけどそれじゃあ面白くない。色々手を回したんだし、じっくり楽しませてもらうよ。 赤いGN粒子を浴びた娘達はどうなってるのか、シン君に一杯食わされたパイロットはどうするのか、シン君は理由を見つけられるのか…。 今回の事件が憎しみの始まりだよ―
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前ページ次ページなのはクロスの作品集 同時刻 海鳴市 海鳴臨海公園前 リインⅠ「・・・・・!」 それぞれがシンの勝利を願いながら公園に留まっている中、リインフォースが突然膝を突いて倒れかける。 その顔は青ざめており、駆け寄った彼女達にただならぬ事態が起こったことを予感させた。 シャマル「リインフォース!?」 リインⅠ「・・・・なんでもない。少し眩暈がしただけだ」 大したことでないとわかり、ほっと胸をなでおろす一同。 クロノやシグナムなどごく一部の人間だけが、それがリインフォースのついた 嘘であることを見抜いていた。 シャマル「防衛プログラムが再生しつつあることで何か悪影響が出てるのかしら?」 クロノ 「暖かい所まで連れて行ったほうがいいかもしれないな ヴィータ、手伝ってくれ」 ヴィータ「あいよ。ほら」 彼らは、なのはやフェイトに余計な心配をかけないように、 わざとリインフォースを離れたところまで連れて行った。 あのリインフォースが取り乱し、崩れ落ちるほどの事態。 考えたくなくても、答えは絞られてくる。 ナノハたちからは見えない場所まで離れると、リインフォースはぽつりとそしてはっきりと、 彼らが一番信じたくなかった言葉を呟いた。 リインⅠ「・・・・シンが・・・・敗れた」 ヴィータ「・・・嘘、だろ・・・。なぁ、嘘だって言ってくれよ!」 クロノ「ヴィータ・・・・」 ヴィータ「だって、あいつあんなに自信満々だったじゃねぇか・・・。 レリックを使えば簡単だって、絶対帰るって約束したじゃねぇか!」 悲嘆の涙をこぼしながら、リインフォースに突っかかるヴィータ。 彼女だって、リインフォースをせめても仕方がないのだと分かってはいるのだ。 しかし、シンはヴィータとはやてを本当の妹のように可愛がっていた。 闇の書と歩んできた血の歴史の中で、始めて出来たはやてと同じくらい大切な人。 失うことを全く経験していないヴィータにとって、その恐怖はもしかすると、 シンの抱いている闇と並ぶかも知れない。 クロノ「落ち着くんだ、ヴィータ。リインフォースは、シンが死んだとは言っていない。 そうだなリインフォース」 リインⅠ「・・・ああ。辛うじてだがまだ息はある。だが、それも・・・」 それも時間の問題だが、と言いかけてリインフォースは言葉を濁した。 あの化け物が、自分を殺しに来た相手に容赦するとはとても思えない。 よしんば脱出の手段を残していたとしても、満身創痍のシンの離脱を『防衛プログラム』が 見逃してくれるかは怪しいものだ。 シンが生きていたことを喜ぶことすらままならない現実に、彼らは臍を噛んだ。 そう、シンは生きている。しかし、生きているだけでは意味がないのだ。 あまり大勢が抜けても不振がられるという理由から、シグナムとシャマル、ザフィーラはなのはたちから隠れて、 念話にて相談し合うことにした。 ちなみに、ヴィータは頭を冷やしてくると言い残し一人で出て行ってしまっている。 結界を抜けた形跡がないため、公園内のどこかでリインフォースにあたったことをしょげているのかも知れない。 リインⅠ『レリックの爆発によって拡散した魔力を『防衛プログラム』がかき集め始めている。 再生の時間は更に短縮されたと思っていい』 クロノ 『それを許していることから考えて、シンの傷はかなり深いみたいだな』 シグナム『増援も出せず、手を貸すことも出来ない、か。歯痒いな、せめて主はやてがご健在ならば・・・』 皮肉にも、管理者である八神はやてへの侵食は、それ事態が収集去れたものの脱出を封じ、 外部からの進入をほぼ完全にシャットダウンする防護シャッターのような役目を果たしていた。 『防衛プログラム』にとっては棚から牡丹餅と言ったところか。 もっとも、それすらも計算どおりというのなら、順風満帆と言い直さなければならないが。 クロノ『あの時、シンを行かせた僕の責任だ。やっぱり止めるべきだった・・・』 ザフィーラ『今更嘆いたところで始まらん。それにこれは、誰かが責任を取れば それですむような単純な問題でもない』 リインⅠ『・・・・シンは帰って来ると言っていた。それを信じるしかない。 それよりもシャマル。急いで儀式の再開の準備を』 シャマル『儀式の再開って・・・・そんな!』 リインⅠ『こうなっては・・・・もうどうしようもない。主はやてを、救うためだ』 シンが敗北したという事実。 それは同時に防衛プログラムを破壊することが出来なかったことになる。 リインフォースを救う手段は完全に潰えた。 選ばなくてはならない。 はやての命かリインフォースの命か、どちらかを生かし、どちらを見捨てるかを。 しかし、クロノはその場でYESとは言わなかった。 クロノ「リインフォース、はやてのリンカーコアが侵食しきるまでのタイムリミットは?」 リインⅠ「・・・・三十分。いや、二十五分が限界だ」 クロノ「儀式再開に五分、儀式完了に八分、予備の二分を合わせても十分余る。 リインフォース、その十分を僕にくれないか?」 リインフォースはクロノの意図が読めず、怪訝そうな顔をする。 クロノ「時間が必要なんだ。シンが脱出するにも、僕達が儀式を再開する決断をするためにもね。 それに、その十分があれば事態がまた動くかも知れないだろ?」 知れないといいながら、まるで事態が動くことが必然であるかのような口調だ。 彼には何か、状況がひっくり返るという確証があるのだろうか? しかし、あくまで希望を捨てないクロノとは対照的に、リインフォースの心は急速に熱を失っていった。 シグナム「不思議そうだな、リインフォース。クロノが諦めないことが、そんなに不自然か?」 リインⅠ「・・・・シグナム」 彼女の異変に始めに気がついたのは、クロノと入れ替わりにやってきたシグナムだった。 なのは達を誤魔化しているのが辛かったのか、心なしかいつもより元気がないように見える。 リインⅠ「どうして私の考えを? 守護騎士と闇の書とのリンクは切れているはずなのに・・・」 シグナム「何年お前と付き合っていると思っている。それに立場上、相手のたち位置に 立って物を考える癖がついていてな」 剣士とは、切りあう相手が次にどんな行動を取るかを読めなければ勤まらない。 ある意味、前衛においてもっとも心・技・体の内の“心”が試される職業(?)なのだ。 長年守護騎士達を率いてきた経験と剣士としての勘が、身内にも気付かれにくいリインフォースの内面の変化を読み取ったらしい。 シグナム「聞いておきたいことができた。少し付き合ってもらうぞ 」 リインⅠ「クロノ達と合流しなくてもいいのか。誤魔化してまでこちらにきたのだろう?」 シグナム「頭脳労働はシャマル達の仕事だ。どの道、私では何も出来ん」 本人が聞いたら呆れてため息を吐かれそうな台詞だ。 骨の髄まで戦士であるシグナムに、頭を使った作業を求める方が間違っているのだとリインフォースは記憶しておくことにした。 話すといっても、時間が切迫しているため、のんびりお散歩している余裕はない。 シグナムとリインフォースは、少し遠回りをしながら、なのは達の所へ戻ることにした。 シグナム「そういえば、お前を見捨てることで主はやてを救おうと考えたこと、 まだ何とも言っていなかったな。 守護騎士を代表してここで謝らせてくれ。――――すまなかった。」 リインⅠ「謝る必要などない。守護騎士は、どんな状況下であろうと主を守ることに最善を尽くすのが勤めだ。 私を犠牲にしてそれで済むのなら・・・」 シグナム「それが・・・・お前が迷っている理由か?」 リインフォースがぴくりと反応する。 そのまま歩みを止めた彼女を見て、シグナムは満足したように滑り台にもたれかかった。 積もった雪が僅かに零れ落ちる。 シグナム「シン・アスカが敗北したことで、管制人格を保全する方法は露と消えた。 どれだけ足掻こうと、精神論で現実は覆せない。 気持ちでは事実はひっくり返らない。 現段階での最善の方法は、リインフォースと呼ばれた個体ごと早急に闇の書を消滅させ、 主はやてを解放することだ。 お前が言いたいことは大体そんなところか」 リインⅠ「・・・・・・それは、剣士としての経験からきた推測か?」 表面上は冷静に取り繕うリインフォースだったが、先程から自分の考えを寸分たがわず当てられるのだから、 心中は穏やかではない。 シグナム「いや、私もちょうど同じことを考えていた。 確かに、シンが倒れた今、現状の回復は絶望的だろうな」 リインⅠ「それがわかっているのなら・・・!」 シグナム「ふ・・・どうやら、私もあの男に火を移されたらしくてな。 どうにも、何とかなる気がしてくる。 これだけ絶望的だというのに、おかしなものだ それに、リインフォース。お前こそ“らしく”ないぞ」 リインⅠ「私は正常に動作している! 烈火の将、お前こそシンに情を移しすぎて おかしくなっているのではないか?」 カチンときたために口から漏れた安っぽい挑発。 それを聞くと、シグナムはにやりと笑ってこう言い放った。 シグナム「長い間共に生きてきたが、怒ったお前を見たのは初めてだな」 今度こそ、リインフォースは絶句した。 迷うこともなく、戸惑うこともなく、間違っているかどうかすら考えない 主の願いを叶えるだけの完璧なプログラム。 その定義が音を立てて崩れようとしている。 考えてみれば、リインフォースと名付けられる前の管制人格だった頃の自分ならば、 シンの提案に乗ろうと考えただろうか? いや、それどころか誰の意見も聞こうとせずひっそりと消えていたはずだ。 リインⅠ「狂い始めているのは・・・・私・・・」 シグナム「・・・だけとは思わないことだ。私もシャマル達も、もしかするとなのは達も、 誰かさんのせいでずいぶん考え方を変えられてしまった」 ヴォルケンリッターのシグナムといえば、平和ボケした楽観論など考慮に値しないと真っ先に切り捨てる騎士だった。 なのに、シンに火を灯された今のシグナムには、それが希望を持った人間の強さだと思えるようになっている。 それが不愉快に思えないのだから、不思議なものだ。 だが、リインフォースはヴォルケンリッターに比べて、シンやはやてと接していた時期が少ない。 恐らく、ヴィータの時と同じように、自分の中に生まれつつある変化をどう受け止めればいいのか分からないのだ。 リインⅠ「・・・・シグナム、私はどうすればいい。 希望を託したシンは倒され、防衛プログラムを止める術は、 闇の書を破壊するしかなくなってしまった。 以前の私なら、可能性が消えた時点で躊躇わずに消え去ることを選んでいた。 選べていたはずなのに・・・・・」 考えれば考えるほど、はやてやシンの悲しむ顔が頭に浮かんでくる。 そんな顔をさせたいわけじゃないのに・・・・。 そんな思いをさせたいわけじゃないのに・・・・・。 諦めなければならない。けど、諦めたくない。 消えていくことが・・・・・どうしようもなく、怖い。 シグナム「・・・・お前がしたいようにすればいい。例え主はやてとお前、どちらかが消えるとしても、 それを選べるのはお前と・・・主はやてだけだ。 ただ・・・私としては、失って悲しんで諦める。そんなに繰り返しにはいい加減幕を引きたいのだがな」 そういい残すと、シグナムは先になのは達の元へ戻っていった。 あえてリインフォースを置いていったのは、彼女に考える時間を与えたかったというシグナムなりの 不器用な気遣いだったのかも知れない。 シグナム「こちらの用は終わった。そちらの様子は?」 クロノ 「依然、変化なし。口が裂けても順調なんていえないよ」 シグナム「その割には、焦っているようには思えないな」 クロノ「君の方こそ、リインフォースが助からないっていうのによく笑ってられるね」 シグナム「・・・ふふ、不思議とそういう気分にはならなくてな」 クロノ「・・・僕もだよ。お互い、いつの間に楽観論者に“させられた”んだろうね」 シグナム「このままでは終わらないだろうな」 クロノ「もうひと悶着あるだろうね」 シグナム「われ等が動けるのはその時だな」 クロノ「残念だけど、今回ばかりは出番がないかもしれないよ?」 シグナム「その分、奴が働いてくれるだろう。そう思わなければやってられまい」 クロノ「そうだね。・・・・・・・・・・この闇の書の事件が終わったら」 シグナム「・・・ん?」 クロノ「四家族合同で旅行に行かないか? 三泊四日でどこか景色のいいところへ」 シグナム「いいな。主はやてに相談して置こう」 クロノ「僕も母s・・・リンディ提督に掛け合っておかないと・・・・ (ノリノリで賛成するんだろうなぁ)」 シグナム「・・・・・ふ、ふふ」 クロノ「・・・・・・は、ははは」 断っておくが、彼らは現実から逃げているわけでも、気がふれたわけでもない。 諦めることに疲れたもの同士、じっとチャンスを待っているのだ。 シンのもたらすかもしれない、万に一つの可能性を信じて。 リインⅠ「諦めの・・・・幕を引く、か」 はたして、一ヶ月前のあの日にシンと出会わなければ、シグナムはそんなことを言っただろうか。 もっとも、それを言うならこの公園に集まった誰しもがそうだ。 人の心を動かす力・・・本当に魔法使いと呼ばれるべきは、そんな心を持った人なのかも知れない。 絶望的な未来を覆そうとする心。相手の心を揺り動かすほど熱意。重圧に押しつぶされず意志を貫き通せる強さ。 それは、長い戦いの年月を生きていく中で、ヴォルケンリッターとリインフォースが しだいに忘れていった強さだった。 リインⅠ「そうだな、私も最後の一瞬までシンを待つことにしよう。 約束・・・・してしまったからな」 守れないとわかっていても、守る努力をしない言い訳にはならない。 リインフォースには、自分のために全力を尽くしてくれたシンを見送ることが 自分に出来る最後の手向けに思えた。 リインⅠ「ただ、主はやてに苦しめてすまなかったと謝れないのが心残りだが・・・」 もっとも、あの優しいはやてのことだ。返事もまたずに許してくれるに違いない。 そう、ちょうどこんな風に・・・ ?『そんなこと・・・・せんでいいよ。リインフォース』 それは、公園からでは聞こえるはずのない八神はやての声だった。 リインⅠ「・・・・まさか! 主はやて! どこにいらっしゃるのです!?」 微かな魔力反応を辿ると、行き着いたのは公園の入り口だった。 急いで駆けつけるリインフォース。 なのはたちも、念話の際に発せられた魔力を探知したのか同じ場所を目指して 飛んでいくのが横目で確認できる。 やがて、見えてきたのはアルフに抱かかえられた闇の書の主『八神はやて』本人だった。 病院に入院しているはずの彼女を公園まで連れてきたのだから、 当然怒りの矛先はアルフに向かう。 リインフォースが着いたときには、既にフェイトがアルフを叱り付けていた。 フェイト「ハァハァ・・・・アルフ! どうしてはやてを連れてきたりなんか!」 アルフ「ごめんよフェイト。でも、はやてがシンのためにどうしてもって言うから・・・・」 はやて「無理に・・頼んだんは・・・私なんよフェイト・・ちゃん。アルフを・・・責めんといて」 アルフは、たまたま様子を伺いにはやての病院へ舞い戻っていたのだが、 その時にはやてに説得されたらしい。 シンに関して、みんなに伝えなければならないとても重要なことがある、と。 リインⅠ「主、すぐに病院に戻りましょう。ここではお体に触ります」 はやての顔色は相変わらず悪いままだ。 息も絶え絶えで話す姿は、とても外に出せる状態とは思えない。 クリスマスから一ヶ月近くたっているが、未だに公園にはところどころ雪が残っている。 氷点下に達する寒さは、体力を消耗したはやてにとっては劇薬同然だろう。 はやて「病院・・・で、休んどった・・・ら、良くなる・・・もんでも・・・ないやろ・・・」 リインⅠ「そうだとしても、今あなたの体は弱りきっています。さ、早く暖かいところへ・・・」 はやて「・・・大丈夫や。・・・もうじ・・・き、シン・・・兄が『闇の書の闇』に勝って・・・ 帰ってくる。 ・・・そやから、もう・・・少しここ・・・に、いさ・・・せて」 熱によるうわごとではない。はやては本気でそう言った。 シンが負けたのは、闇の書と繋がっているはやても感じているはずだ。 それなのに、どうやって防衛プログラムに勝つというのか? リインⅠ「シンが・・・勝つ? 何を言っているのです主はやて・・・。彼はもう・・・」 はやて「リインフォース。強い・・・想いは、力に・・・なる。 感じるやろ、シン兄を包む鼓動を・・・」 リインⅠ「・・・・・・・これは!?」 あまりに魔力反応が微弱過ぎたため気が付かなかった。 この魔力の波長は、まだ闇の書が夜天の魔道書と呼ばれていたころに 一度だけ記録されたことがある。 リインⅠ「そんな、こんなことが・・・!?」 しかし、あれは使用者が極めて限定されることと、次元境界線への簡易干渉の多発から厳重封印を施し放棄されたはず。 それを魔力も持たない人間が使用しているなどありえるのだろうか。 リインⅠ「セイオウノツルギは、『聖王』がこの世に生誕することで始めて封印が解けるはず・・・。 それがどうして・・・」 約1000年前、古代ベルカの戦乱期にアルハザードの技術をもって作り出された 究極を望まれた兵器。 敵対する『王』を討ち取るためにそれぞれの『王』が生み出した『対王殲滅用魔道兵器』。 聖王を守る剣ではなく、聖王を殺すための剣。 それが『セイオウノツルギ』の正体である。 だが、何故アームドデバイスだったはずの『セイオウノツルギ』が融合騎となっているのだろうか? リインⅠ(シン、そしてデス子・・・。お前達は一体・・・?) 前ページ次ページなのはクロスの作品集
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前ページ次ページ~週間! レディオ女難デスティニー!~ 1 ――Pi Pi Pi Po-n……―― 「さすが、女難ネタは住人のお家芸だな!」 「シン・アスカの!」 『女難、ラジオ~!!』 「皆さんこんばんわ! 前回の放送終了と同時に各世界の女性陣から何とも言えないプレッシャーと実力行使を受けた メインパーソナリティ、シン・アスカです!!」 「今回アシスタントを担当するキラ・ヤマトです」 「……何であんたがここにいるんですか?」 「僕に言われても……」 ――カンペ「まずは種世界のキャラからってことで」―― 「……みたいだよ?」 「……まぁいいですけど。えーっと、キラさんはこの番組についてどれだけ知ってるんですか?」 「君の日頃の女難を話のネタに、時にはゲストを交えつつ面白おかしくトークを繰り広げるって聞いたんだけど……」 「……間違ってないのが腹立つ」 「ま、まぁまぁ……」 「……えーっと、それでは! 今回もお付き合いのほどをよろしくお願いします!」 「女難ラジオ始まります」 ――カンペ「CM入ります」―― ~この番組は、シン総合女難!?スレ住人有志一同の提供でお送りします~ 「さて改めましてこんばんわ、このスレの主役で22スレ目になってこの先どんな話が待ってるのか期待半分不安全開の メインパーソナリティ、シン・アスカです」 「こんばんわ、このスレではネタキャラであることがほとんどのアシスタント、キラ・ヤマトです」 「エロゲー作ったりニートだったり、キラさんも散々な扱いですよね」 「毎回女難に巻き込まれて酷い目に遭う君よりはマシだけどね」 「……喧嘩売ってんすか?」 「やめてよね、本気で戦ったら君が僕に勝てるはずないじゃない」 「一回倒してるでしょうが!?」 「あ……あれは、その……」 ――カンペ「とりあえず話を進めて」―― 「ちっ……えーっと? 今回も、リクエストが来てます」 「ありがたいことだよね」 「作者も、まさかまたリクエストが来るとは思ってなかったみたいです」 「スルー覚悟だったみたいだしね」 「えっと……今回のリクエストは、ラジオネーム21スレの 915さんからです」 「21スレの 915さん、ありがとうございます」 「リクエスト内容は 『某氏の作品で良く活躍されている空気義姉妹(SHUFFLE!の空気ヒロイン シアと なのはstsの空気キャラ ギンガさん)を取り上げてあげてほしい。』とのことです」 「うーん……このスレの女性陣は皆個性的だからね。 彼女達みたいに比較的大人しい人は影が薄くなりがちなのが可哀相かな?」 「……俺としてはそういう人達に頑張ってほしいです」 「切実だね……それでは、早速今回のゲストの登場です」 ――カンペ「ギンガさんとシアさん入りまーす」―― 「こんばんわ」 「こんばんわ~!」 「こんばんわ、ギンガさんにシア」 「僕は……初めまして、かな?」 「そうですね。えっと、とりあえず二人とも自己紹介を……」 「あ、はい。では私から」 「お願いします」 「皆さん初めまして。時空管理局陸上警備隊第108部隊所属、ギンガ・ナカジマ陸曹です。 現在は機動六課に出向中、局員IDは……」 「ギ、ギンガさんストップ! そこまで詳しく言わないでも大丈夫です!」 「そ、そう?」 「えと……次は私でいいかな?」 「うん、どうぞ」 「皆さんこんばんわ! 『SHUFFLE!』のヒロイン、リシアンサスです。 シアって呼んでくださいね! こう見えても、神界のお姫様なんだよー」 「自分で「こう見えても」なんて言うなよ……」 「とても気さくな方ですよね、シアさんって」 「うーん……庶民派お姫様、って感じかな?」 「確かにそんな感じですけど……」 「任せてください! 夕飯のお買い物とか炊事・洗濯まで何でもできるよ!」 「……ますます庶民派……」 ――カンペ「そこが彼女の良いところでもあります」―― 「ところで、二人はこのラジオがどういうものか知ってるのかな?」 「あ、うん。前回の放送も聞いてたよ」 「私も聞かせてもらいました」 「……………………」 「シ、シン? どうかしたの?」 「いえ……その……」 「な、何かあったの?」 「冒頭でも言ったけど……前回の放送を聞いた、って八神隊長達が……」 「あ、あはは……シン君の部屋まで来てたもんね」 「……有無を言わさず訓練場まで連行された」 「その後凄い音が響いて……訓練場がほぼ全壊したのよね……」 「え、えっと……大変だね」 「なんで……こんな……!」 「わ、シ、シン君!」 「げ、元気出して……」 ――カンペ「一旦CM入ります。その間にシン君を」―― ~「シンパパ~」 「シン……これはどういうこと?」 「シン! 私と言うものがありながら!!」 ある日突然娘が出来た!? その衝撃は止まることを知らず、周囲を巻き込み大騒動!! アニメ『女難メーカー』! Midchilda-DXにて絶賛放送中!! ~ ――カンペ「CM明けます。3,2,1……」―― 「……落ち着いた? シン君」 「あぁ……その……皆、ごめん」 「気にしないで。気持ちは、その……分かるから」 「えーっと……そ、そう言えば、僕達って皆年齢近いよね?」 「そ、そうですね。えっと……」 「私とギンガさんが17歳でシン君が16歳、キラ君が18歳……だったよね?」 「そうだな。ってことは、俺が一番年下なのか」 「でも、皆もう働いてるんだよね?」 「まぁ、一応……」 「僕とシンは軍人だし……」 「私も、管理局局員ですしね」 「皆凄いなぁ……やっぱり、訓練とか厳しいの?」 「軍学校だと……まぁ、実技と理論で……俺は実技は得意だったけど、理論が……。 そこを出てからは、MSの整備と戦闘データの見直し、書類 作成とか……。 あ、あとMSでの仮想戦闘訓練もだ」 「僕は……まぁ、事情がちょっと特殊だから、そういうのは全部飛ばしちゃって」 「私も、六課出向中は高町教導管やフェイト執務管に訓練をつけてもらって……訓練が終わってからは事務仕事……かな」 「う~……私、運動は好きだけど……喧嘩とかは嫌だなぁ」 「喧嘩って……まぁ、シアらしい表現だけど」 ――カンペ「勉強が苦手なのはシンと一緒ですね」―― 「嫌な共通点だな」 「ちょっと複雑だよね」 「うーん……シンはまぁ、事情が事情だけに仕方ないっていうのもあるけど」 「シアさんの場合も、異文化の学校だから、というのもあるのかしら?」 「え、え~っと……英語と世界史が……」 「なら仕方ないんじゃないか? 元々言語も違うんだろ?」 「うん。やっぱり違う国の言葉って難しいよねぇ」 「歴史もな。自分の国の歴史だったらそうでもないけど……」 「僕も、工業カレッジだったから……文系よりは理系が得意だし」 「私は……特に可もなく不可もなく、といった感じで……」 ――カンペ「ではこの辺で今回のトークテーマを」―― 「えーっと……今回のトークテーマは、と……」 「あ、これだね。はい、シン君」 「サンキュ。えーっと、今回のトークテーマはこれです!」 『空気キャラ脱却! ギンガ・シアのメインヒロイン化計画!!』 「………………」 「………………」 「……あれ? 二人とも、どうかしたか?」 「……シン……もしかしたら、地雷踏んだんじゃない?」 「え?! だ、だけど俺は原稿読んだだけですよ!?」 「うぅ……いいもんいいもん、どうせ私は影が薄いもん……」 「スバルにはちゃんとしたメインのネタがあるのに、私は名前すら出してもらえない……」 「カエちゃんやリムちゃんは徐々にスレ内の人気を確立してるし……」 「ナンバーズですらちゃんと名前で呼ばれてるのに……」 「えーっと……どうしようか?」 「どうしようって言われても……」 ――カンペ「どうにかして慰めて」―― 「あー、その……ほら、二人もちゃんとネタがあるんだし……」 「でも名前が出てこないんだよ?」 「そ、それも一種のキャラだって思えば……」 「ですが……」 「そ、それにほら! 今回はそんな待遇を変えるためのトークネタなんだし!!」 「そ、そうそう。どうすれば自分がメインのネタを貰えるか考えれば……」 「……そう、そうだよね! 私達にだってまだチャンスはあるよね!!」 「そう……よね。今からでも、まだ遅くはないはず!!」 「よし! じゃあ気を取り直して……どうすればいいんだ?」 「考えられる手段は、今までのイメージ……空気キャラってイメージを払拭して、それぞれの長所とか魅力を前面に押し出す……ってとこかな」 「でも、イメージの払拭って難しくないかなぁ?」 「なら、長所を挙げていこうか」 「そうですね」 ――カンペ「方針がまとまったところで一旦CM入ります」―― ~「僕は……君の敵?」 「お前!! どうして!?」 「お前は……ここで討つ!!」 今度はRPGで女難が勃発!? 入り乱れるキャラ、様々な難関! 全てを乗り越えろ!! ロールプレイングゲーム『女難大冒険~解き放て女難の連鎖!~』! 絶賛予約受付中! ~ ――カンペ「CM明けまーす。3,2,1……」―― 「えーっと、それじゃあ……シアとギンガさんの長所か」 「自分の長所って、自分じゃ中々気づきにくいよね」 「とりあえず、俺とキラさんが二人の長所を挙げていけばいいんですかね?」 「それでいいんじゃないかな?」 「二人ともよろしくお願いしま~す!」 「な、何だか緊張するわね」 「じゃあ、まずはシアからかな」 「そうだね……えーっと、思いつくだけでも……」 「家庭的、気さく、人懐っこい……」 「運動も得意、神界のプリンセス、回復魔法の腕はトップレベル……」 「な、何か恥ずかしいなぁ」 「そう言えば、シアさんの世界の魔法と私の世界の魔法は違うのよね?」 「そうなのか?」 「うん。ギンガさんの世界の魔法は……何か色々複雑みたいだけど……私の世界の魔法は、複雑な手順とかは特に無いんだよ」 「一般の人でも道具を使えば魔法を使えるって書いてるけど……」 「うん。他にも錬金術なら普通の人でも使えるよ」 「便利だけど……その反面、危険なことも多そうね」 「う~ん……やっぱり、事故とか犯罪はあるし……」 「どの世界でもそういうのは同じなんだな」 ――カンペ「世界が変わっても人の本質はそうそう変わらないのです」―― 「じゃあ次はギンガさんかな?」 「よ、よろしくお願いします」 「えーっと……面倒見が良い、妹思い、大人びてるけど親しい人には少女らしい一面有り……」 「魔導師としての腕前も確か、特殊スキル持ち、並の男の人より強い……」 「軍人さんとしてもとっても優秀なんだよね~」 「わ、私なんて、フェイトさん達と比べるとまだまだで……」 「スバルにシューティングアーツを教えてたこともあるんですよね?」 「元々は母が教えていたんだけど、途中からは私が……」 「ってことは、スバルの師匠ってことになるのか?」 「師匠と弟子かぁ」 「そ、そんな……スバルより少しは上手く使えるというだけで、師匠と呼ばれるような力は……」 「この謙虚なところも長所かな?」 「嫌味に感じさせないのも長所だね」 「うぅ……は、恥ずかしい……」 ――カンペ「そろそろ終了の時間です」―― 「っと、そろそろお別れの時間が近づいてきたようです」 「もう? あっという間だったね」 「そうだねぇ。私、もっと皆でお喋りしたかったなぁ」 「そうね。たまには、こういうのも楽しいわね」 「えー、いかがでしたでしょうか? ラジオネーム21スレの 915さん!」 「私達をゲストに呼んでくれてありがと~!!」 「ありがとうございました」 「えーっと、シアさんとギンガさんのキャラ・長所については作者の主観なので、 『てめぇシアにはまだ良い所があるだろうが!!』とか、 『ギンガさんの素晴らしさが分かってねぇ!!』とか、 そんな意見もあるかと思いますが……」 「その辺はご容赦していただけるとありがたいです」 「番組へのリクエストや、この人を呼んでほしい、この事について話してほしいとかがあったら、 ぜひぜひリクエストを送ってください」 「質問や普通のお便りも勿論歓迎しまーす!」 「また、新コーナーも募集中です。まぁ、ありきたりだけどお悩み相談とか…… ラジオドラマとかはどうなのかしら?」 「ラジオドラマはまた追々決めていけばいいんじゃないかな? それでは、短いお時間でしたが! この時間のお相手は」 「ラジオの時間内は平和に過ごせているシン・アスカと!」 「同じくこのラジオではネタキャラ扱いされていないキラ・ヤマトと」 「目指せ空気キャラ脱却! リシアンサスと」 「せめて名前が出てくれれば……ギンガ・ナカジマでした」 『では、また次回!』 「シン、お疲れ様」 「キラさんもお疲れ様でした」 「でも、君はまだもう一頑張り……かな?」 「へ?」 「ほら、ブースの外……」 「ブースの外って…………はぁっ!?」 ~この番組は、シン総合女難!?スレ住人有志一同の提供でお送りしました~ 前ページ次ページ~週間! レディオ女難デスティニー!~
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前ページ次ページなのはクロスの作品集 シンの日記 ○月△□日 今日は時空管理局による、闇の書事件に関する泊まりこみの調査があるそうだ。 俺は行ってもジャマになるので、かねてからの打ち合わせ通り、高町家へ泊まることになった。 …なったんだが、転びそうになったなのはにパルマって、マジ切れした恭也さんに殺されかけたり(俺は助けようとしただけだ!) 恭也 「御神不破流の前に立ったことを、不幸と思え!」 美由希さんのお着替えに出くわしたり(恭也さんがドアを開けたんじゃないですか!) 美由希「だいじょうぶ。高町美由希の小太刀二刀は…恭ちゃん以外には…誰にも、絶対負けないから!」 詳細は後日改めて書くことにしよう。 デス子の日記 同月 同日 マスターは気付いてないようですが、高町家の人々の動きは人間じゃありませんよ! なんですか『神速』って!他にも『虎切』『薙旋』『閃』…。 木刀とはいえ、何で生きてるんですか、マスター! なのは隊長が何故あんなに強かったか、わかった気がします。 本人はフルボッコにされた後、御神流の真髄をみたと言い残して倒れましたが、 私には数時間で起き上がったマスターのほうがよっぽど怖かったです。 (本人は全方位S・L・B+ライオネットザンバーよりは痛くなかったといってました) シンの日記 ○月△☆日 忍さんが借りてきたビデオを皆で見ることになった。 なんでも、俺が退屈気味だったのを見越して借りてきたらしい。嬉しいんだが、何で全部ロボット物なんだ? まあ、わざわざ持って来てもらっといて邪推するのはよそう。 とりあえず、帰ってきたなのはにセットしてもらって(旧式のビデオデッキは使い方がわからない)ビデオを一緒に観賞した。 マサキ「チャージなどさせるものか!」 マサキ「この俺を誰だと思っているのだ?」 マサキ「塵ひとつ残さず、消滅させてやる!」 あ~なんだろう。なぜか今取り返しのつかないことをしているような…。 みずから破滅の扉を開いたような…。おまけに、なんでさっきからなのは隊長の顔が浮かぶんだ? デス子の日記 同月 同日 マスターは本気で気付いてないんでしょうか…。あそこまで的確に死亡フラグを立てるなんて…。 もう最近はわざとやってるんじゃないかって思えてきました。 シンの日記 ○月+□日 ようやくはやて達が帰ってきた。処分は軽いって聞いてたのに、皆元気がない。 その理由はリインフォースにあるらしい。 はやて「処罰は保護観察と管理局の仕事に従事で済みそうなんやけど、リインフォースが強力すぎてユニゾンの許可が下りそうにないんよ」 シン「確かにあの強さで暴れまわったら、とんでもないことになりそうだな。」 シグナム「闇の書は他を破壊するための存在になっていたからな、仕方あるまい。」 リインⅠ「申し訳ありません、主はやて」 シャマル「問題は、はやてちゃんのデバイスをどうするかですけど…」 そのとき、俺はふと思いついた。 シン「なあ、闇の書の一部を使ってリインフォースの妹を作れないか?」 今思えばあの時この発言をしなければ、リインⅡは歴史から消滅していたかもしれない。 俺は相当危ない橋を渡っているんだと思い出し、ひさびさに冷や汗が流れた。今更だが、はやてがリインⅠとリインⅡのダブルユニゾンなんて事になったら、俺の身が持たないぞ。 デス子の日記 同月 同日 ついに来ましたよ。私がマスターの部屋に隠したシグナムさんの下着を彼女に発見されるそのときが! これでマスターも一巻の終わり・・・・・と思ったんですが、何故かシグナムさんは顔を真っ赤にして、 「ほどほどにしておけ//////」 と言ってなにもせず出て行きました。 マスターはもちろん、私もさっぱりわけがわかりませんでした。悔しかったので、今度はシャマルさんの下着を隠しておきます。 追伸 とうとうマスターはリインフォースさんにもやってしまいました。 彼女のお風呂に遭遇した上、事故って生パルマをかましたのです。案の定、屋根まで飛んだマスターでしたが リインⅠ「なるほど。これが主はやての言っていたノリ突っ込みというやつか」 リインフォースさんは全く恥らっていませんでした。これが天然というやつなんでしょうか? シンの日記 ○月△▲日 女ばかりの場所に住むと決まったときから覚悟はしていたんだ。 でも、自分でも思う。これはあまりにもひどい! 機動六課でもここまでパルマが暴発することはなかったのに・・・。 唯でさえ俺は皆を騙してるんだ。これ以上迷惑はかけたくない。 このままじゃいけないと思った俺は、皆とできるだけ近づかないようにした。 八神家を出て行くことはできなくても、せめて皆に不快な思いはさせたくない。 デス子の日記 同月 同日 マスターが何故か皆を避けるようになりました。 朝ごはんと夕飯以外はずっと出かけていますし、お風呂も近くの銭湯で済ましています。 はやてちゃん達も心配しています。一体マスターに何があったんでしょうか? シンの日記 ○月△●日 この間の一件で士朗さんに目をつけられた俺は、道場で御神流を習うことになった。 士郎さん曰く、「君はナイフでの戦いに慣れすぎている。他の武器も使えるようにならなければ臨機応変に対応できない」んだそうだ。 確かにその通りだと思った俺は、早速その日から特訓することにした。 しかし、皆強いなぁ。人間とは思えないよ。俺もあのくらい強ければ足手まといにはならないのにな。 デス子 今日からマスターは士郎さんに誘われて御神流を習うことになりました。 しかし、高町家ってなんでこんなに戦闘力が高いんでしょう? アカデミーのナイフ戦でトップだったマスターが霞んで見えます。まあ、頑丈さならダントツでマスターでしょうけど・・・。 シンの日記 ○月△Ф日 皆を避けるのが苦痛になってきた。 前は、ザフトにいた時は、こんなに辛くはなかったはずなのに…。くそっ、俺はいつの間にこんなに弱くなってしまったんだ? 俺ははやて達を守るって約束したのに・・・。 もっと強くならないと皆を守れないのに! そうだ、俺は憎しみで強くなってきたんだ。 昔の様に何もかも捨てて憎しみに身をゆだねれば、俺はまた強くなれる! 誰でもいい!憎める相手が欲しい!身を焦がすほどの憎しみがわく相手が・・・。 俺を強くしてくれる相手が欲しい! デス子の日記 同月 同日 マスターが皆を避け始めてから、八神家には元気がなくなりました。 そのことをマスターに告げたら、「気のせいだろう。どのみち、やがては帰らなきゃならないんだ」と言って、相手にしてもらえませんでした。 口には出していなかったけど、その目はとても寂しそうでした。 最近のマスターは皆を騙していることの罪悪感とわざと増やした仕事のせいで、精神的にも肉体的にも疲れきっているようです。 昔みたいに一人で考えすぎて暴走しないといいんですけど・・・。 シンの日記 ○月△■日 体がだるい。昨日の疲れがまだ取れていないんだろうか? 御神流の特訓に深夜まで及ぶ反復訓練、多少の無茶は承知の上だ。 少しふらつくが立ち上がれる。 大丈夫だ。俺はこんなことで負けてられない・・・。 デス子 同月 同日 マスターは相当無理をしているようです。 でも、私達が何を言ってもまともに取り合ってくれません。 いったいどうしたら・・・。 同月 同日 気が付いたら海鳴大学病院にいた。 記憶をたどってみると、どうやら朝食を食べた後に倒れたらしい。 はやて「あ、まだ起きたらあかんよ」 その声ははやてか。まさか平日だったのに、学校を休んでまで付き添ってくれてたのか? シン 「・・・・・はやて、学校はどうしたんだ?」 はやて「その前に言う事があるんやないか?」 当たり前の話だが、はやては見るからに怒っていた。 シン 「それは、皆を避けていたことか。それともこうして倒れたことか。」 はやて「八神家の誰にも相談せえへんかったことや」 そうか、この人は誰よりも家族を大事にする人だったな。 これ以上は誤魔化しきれないと判断して、俺は観念して話し始めた。 シン 「・・・俺は、皆に嘘をついてるんだ。なのに皆はそんな俺に優しくしてくれた。それが俺には辛かったんだ。」 はやて「シン兄は真面目過ぎるんよ。人には誰でも隠し事の一つや二つはあるもんや」 シン 「俺は、皆に迷惑をかけた。お風呂に出くわしたり、胸をもんだり、女性にとっては苦痛だろ。」 はやて「わざとや無いことは守護騎士達もわかってる。胸だってシン兄が来る前には私が揉んでたんや。シン兄、何をそんなに怖がってる?」 シン「怖がる?俺が?」 はやて「そうや。私にはシン兄が何かを怖がっているように見える」 シン「・・・・・怖がってるか、そうかもしれないな」 俺は今までのことを思い返してみる。 シン 「不安だったんだ。八神家はとても居心地がよかった。でも、俺が来たことでそれが壊れるんなら、俺はいないほうがいい。あの暖かさを 失いたくなかったんだ」 はやて「私達の絆はそんなに簡単に壊れたりせんよ!家族なんだから、信じてあげようって言ったのはシン兄やないか!シン兄は私達のことを家 族やって思ってないんか!!」 シン 「ちがう!俺は・・・」 はやて「思ってるんやったら、変な遠慮はせんでええ!そんなことされても迷惑なだけや!!」 それだけ言うとはやては泣き出してしまった。 情けない、俺はいつもこうだ。周りを見ずに一人で突っ走って、いつのまにか大切な人たちを傷つけていく。 そして終わったころに後悔するんだ。 俺は前にもやった様に、はやての頭をやさしくなでた。そういえば、マユが大泣きした時もこうして頭をなでてやってたっけ。 シン 「・・・本当にごめん。ずいぶん心配かけたみたいだな。許してくれ」 はやて「・・うん・・・わかってくれれば・・・・ええんよ」 シン 「本当にごめんな。・・・・それから、その、ありがとう」 俺ははやてに散々謝った後、迎えに来たリインフォースと共に八神家へ帰って来た。 はやて 「シン兄、おかえり」 リインⅠ「お帰りなさい、シン」 シン 「ああ、二人ともただいま」 ずっとこの家に居たはずなのに、俺はなぜだかとても懐かしかった。 デス子 同月 同日 らき☆すけがいつもより激しかったのは、精神的な不安が原因だったんですね。 改めて考えてみると、十年前にたった一人、しかも自分が何気なくした事が歴史を大きく狂わせることになるなんて、 普通なら正気じゃいられませんよ。 マスターは真面目すぎるんですよ。まあ、それがマスターのいいところなんですけど。 ところで、脅かそうとベットの下に潜んでいて出るタイミングを失った私はどうすればいいんでしょうか? シンの日記 ○月△?日 俺は機動六課に入って変わることが出来た。隊長達の過剰なスキンシップで、あれだけ頑丈だった心の壁はあっさり粉砕された。新人組のおかげで苦手だった人付き合いも慣れてきたし、ヴィヴィオや白レン達も俺の心を癒してくれた。 そして何より、彼女達は俺よりもはるかに強かった。逆に俺が守られるくらいに強かった。 だから、どこか安心していた。必ずみんな帰ってくると。 そのころから俺の心から強くなろうとする欲望が、憎しみが消えていった。 十年前にきてリインフォースの話を聞いたあの日、無性に怖くなったのを覚えている。 機動六課にいた時には感じなかった『目の前で守りたいものを失う』恐怖。 ステラやマユを失ったときのように、自分が無力だと思い知らされる悲しみ。 もうあんな思いをしたくなかった俺は、再び力を求めた。 だけど、俺はもう誰かに憎しみを抱くことができなくなっていた。 悔しいがあの禿の言葉が頭に浮かぶ。俺の欲しかった力って何だったんだ? 人を殺せる力? 人を憎める力? 人を守れる力? 人を笑顔にできる力? 人を支えられる力? わからないものを考えても仕方がない。俺が今すべきことは、万が一暴走プログラムが再生したときに、 みんなの役に立てるくらいに強くなっておくことだ。 だから後悔しないように、俺は今日も道場で剣を振るっている。 もしかしたら来るかもしれない、絶対に来て欲しくない時に備えるために・・・。 デス子 は~、今日もマスターはがんばってますね~。 あれから八神家の雰囲気も元に戻ったし、万々歳だとは思いますけど。 なんか退屈なんですよね~。前みたいにらき☆すけ~なことも少なくなりましたし、修正プログラムの完成も順調ですし・・・。 あうう、もうポテチがなくなっちゃいました。また、買ってこないと・・・。 退屈だとお菓子の減りも早いですね~。 前ページ次ページなのはクロスの作品集
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#navi(なのはクロスの作品集) プラントに留学したばかりの頃、俺はいつも思ってた。 どうしてこんなことになったんだろう、って。 家族を失って、故郷を失って、人殺しを学んで・・・。 罪のない人を傷つける奴らが憎かった! 力もないくせに誇りだけ高い故郷が許せなかった! 自分勝手な理由で戦火を拡大させる連中を止めたかった! 俺を支えてくれたかけがえのない人々を守りたかった! なにより無力な自分が一番許せなかった! なのに・・・・世界はいつも俺を裏切った。 当然だ、あの世界は議長じゃなくあいつらを選んだんだ。 そんな世界に俺はいらない。 いらないから、俺は最後に世界から捨てられた。 未練はない。 未練なんて残らないほど、奴等に全てを奪われたから。 俺は許せなかった。 俺の家族を、マユを、ハイネを、ステラを、レイを、議長を、艦長を奪ったあいつらを。 自分達の侵した罪から逃げて、未来だけ作ればいいと思ってるあいつらを。 だから、いっそすべてを道連れにしてやろうと思った。 守りたかったものを奪われる苦しみを、あいつらにも思い知らせてやりたかった。 人を殺すことの重さを、背負っていかなきゃならない重さを思い出させてやりたかった。 スイッチを押したことは、今でも後悔してない。 復讐のために、平和のために、手向けのために、俺はできることをやっただけだ。 そうして俺は、最後に残った命すら自分から捨ててやった。 捨てた――――はずだった。 なのに、そんな俺を彼女達は受け入れてくれた。 力のない俺を、死に急いでいた俺を、罪悪感に苦しんでいた俺を 何も言わずにただ認めてくれた。 忘れかけていた気持ちを思い出させてくれた。 失った心の隙間を自分達の心で埋めてくれた。 だから、今度こそ彼女たちを守りたいと思った。 例え力がなくたって、俺のできることをやろうと誓った。 軍人としては失格だ。あいつには思いだけで何ができると はねつけられるかもしれない。 でも、きっと思いだけでもできることはある。 だって、俺の大切な人達は…。 いつも『思いを力に変えて』戦っているのだから シン編第七話 前編 『 勝 利 を 掴 む 掌 の 槍 』 何故、あの男は立ち上がる事が出来た? 多くの魔法を用い、並みの魔導師なら絶命するほどの砲火を浴びせた。 無尽蔵の魔力にさらし、自力では動くことも不可能なほどに痛めつけた。 なのに、あの男はまだ立っている。 止めを刺すために放った最強の殲滅魔法『アルカンシェル』までも消滅させて。 まるで最初から存在しなかったかのように、忽然と消滅させて。 消滅させた―――――瀕死の魔導師もどきが? ―――――ありえぬ。 『闇の書の闇』は、再び魔法を発射する体制にはいる。 四本の腕にそれぞれ展開させた魔法陣は、収束砲撃魔法でも屈指の破壊力を持つスターライトブレイカーを 撃つためのものだ。 威力では『アルカンシェル』に劣るが、スターライトブレイカーは闇の書が収集した 攻撃魔法の中でも屈指の破壊力を持っている。 それを四つ束ねることが出来るのならば、どれほど防御を重ねようと無意味だろう。 まして、対象物はバリアジャケットすらまともに機能していないのだ。 偶然は二度続かない。 『アルカンシェル』は、一度放てば一定空間を消滅させるまでどのような干渉も受け付けない。 だからこそ、闇の書への唯一の対抗手段なのだ。 それを素人同然の魔導師が消し去ったなど、一ミリの思考も費やす価値の無い妄想にすぎない。 着弾前に消滅したのは、魔術構成に何らかの不備があったからだと『闇の書の闇』はそう計算した。 だが、『闇の書の闇』は最後まで気付かなかったようだ。 “奇跡”は計算では計り切れないことに。 シン「・・・・来るか」 『闇の書の闇』の殺気が膨れ上がった瞬間、シンはアロンダイト・キルスレスを握る右手に力を込めた。 ―――――オオオオオオオオオオッ 聞きなれてきた咆哮と共に、スターライトブレイカーが四発同時に撃ちだされる。 凄まじい発射音を周囲に響かせながら、重なり合い、混ざり合うピンク色の殲滅光。 周りに浮遊している肉塊をことごとく消滅させながら向かってくるそれは、 さながら死神が鎌を振り下ろすかのごとく、シン目掛け一直線に向かってきた。 対するシンは、アロンダイト・キルスレスを構えたまま動かない。 剣で魔法を迎撃しようというのか。 あまりにも無謀すぎる。片腕では見よう見まねの紫電一閃すら放てないと言うのに。 それとも、傷のせいで立ち上がるのが精一杯だったのか。 避けるだけの体力が残っていなかったというのか。 否、シンは動けなかったのではない。動かなかったのだ。 フリーダムでオーブ海戦を戦った時、俗に言うSEED覚醒状態のキラ・ヤマトは、 ビームライフルの光弾を手に持ったビームサーベルで弾き返していた。 キラ・ヤマトにできることが、強くなったシン・アスカに出来ないはずがない。 デス子「駄目、間に合わないっ!」 デス子の悲鳴さえ意に返さず、シンはただひたすら集中する。 シン(意識をあれだけに向けろ。チャンスは一瞬・・・・着弾する瞬間!) 預かりものの左目を凝らし、意識を研ぎ澄ませることで迫りくる閃光に『黒い線』が映し出されていく。 万物創生の時より定められた運命である『死』が、シンの左目を通じて顕在したのだ。 シン(『線』は何とか見えてきた。後はこれを辿って行けば・・・・) ぎりぎりのタイミングであったアルカンシェルの時とは違い、 スターライトブレイカーは弾速が遅いため、着弾まで幾秒かのタイムラグが存在する。 なのはがバインドを用いてその欠点を補ったように、『闇の書の闇』は四つ束ねて撃つことで有効範囲を広げ、 相手の回避を封じようとしていた。 しかし、魔法が巨大になってしまったことが、このときばかりは裏目に出てしまったようだ。 的が大きくなったことで『死の点』を逆に狙いやすくしてしまったのである。 シン「そこだぁぁぁぁっ!!」 スターライトブレイカーが間近まで迫ったその刹那、シンは『線』の終着駅である『点』に思いっきり剣を突き立てた。 ずぶりという泥を刺したような感触がシンの手に伝わり、あれほどに鳴り盛っていた轟音がぴたりと止む。 それは、永い年月様々な魔法を収集してきた『闇の書の闇』ですら経験の無い異様な現象だった。 ――――――――――!? デス子「・・・・SLBが・・・きえ・・・てく!?」 デス子の目の前で、『闇の書の闇』の目の前で、スターライトブレイカーが霧が晴れるように薄れていく。 空気に溶けていくように霞んでいく様は、まるで消しゴムか何かで世界から削り取られているようだ。 やがて、スターライトブレイカーは残留魔力も残さず、跡形も無く消えてしまった。 巻き込まれた風と溶け残った残骸だけが、SLBが確かに存在したことを訴えていた。 もしも、その『眼』を知るものならこう表現することだろう。 ―――――スターライトブレイカーを“殺した”と。 シンが、手品や御伽噺にでてくる魔法使いのように巨大な魔法を消して見せたことに デス子は一抹の不安を抱いた。はたしてこれは現実なのだろうかと。 デス子(・・・夢・・・じゃないですよね) 分からないのなら確かめてみるしかない。 デス子は夢か現実か見分けるために一番単純で手っ取り早い方法を取ることにした。 すなわち、『頬を思いっきりつねってみる』という、古典的かつ確実な手段である。 シン「ん? おい、デス・・・・ふぉ!? 」 デス子「・・・・!(マスターが痛がっている。なら、夢じゃない!)」 ただし、自分のではなくシンの頬だったが。 シン 「って、何だよいきなり。痛いだろうが!」 デス子「マスター! ホントにマスターなんですね! 無事なんですね! 幽霊じゃないんですね! 生きてるんですね!」 シン 「幽霊って・・・・俺があれくらいでやられるわけないだろ。俺の頑丈さはお前が一番知って・・・・」 デス子「ますたああああああ! ますたあああああああ! うわ~~~ん ま゛っ゛す゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 シン「うわぁ大声で泣くな! 貧血気味なんだから騒いだら頭に響くんだよ!」 シンが意識を取り戻したことに喜びを爆発させるデス子。 憎まれ口を叩くものの、シンの頬もつられて緩みっぱなしだ。 デス子「だって・・・・本当にもう駄目だって、マスターが死んじゃうって・・・・でも、私には何もできなくて・・・・悔しくて悲しくて・・・・ なのにマスターが生きてるから・・・・私、わたしは・・・・!!」 デス子の言葉が、シンの心に突き刺さる。 大切な人がいなくなる恐怖は、シンもよく知っているからだ。 シン「そう・・・だったのか・・・。待たせてごめんな。けど、もう大丈夫だから」 デス子「・・・・ぐすっ、それにしてもマスター。いつの間にイメチェンしたんですか? バリアジャケット(ふく)も変だし、目も片方青くなってますよ?」 シン「・・・・お前!?」 さっきから可笑しいとは思っていたが、どうやらデス子自身に力を発揮している自覚はないらしい。 デス子「ま、まさか死に掛けたせいで戦闘力がアップして、穏やかな心(?)を持ちながら純粋な怒りで目覚めるというあの伝説の・・・・」 シン「シリアスな場面でぼけないでくれ、頼むから」 人間が自覚無く力を発揮することは、シンの『時空跳躍能力』の例も含め ありえないことではない。 だが、機械であるデス子が潜在的な能力を無自覚で発揮することなどあるのだろうか? コンピューターが勝手にダウンロードしたプログラムを、コンピューター自身も気付かないうちに作動させてしまうようなものだ。 気にはなったが、こればかりはスカリエッティかマリーさんに聞いてみるしかない。 シン「帰って時間が出来たらきっと話す。だから今は・・・こいつを!」 デス子「は、はい」 シンは戦いのみに集中するために、走りながら口を使ってアロンダイト・キルスレスと右腕を御神流で使う鋼鉄製の糸“鋼糸”で巻き始めた。 使えない片腕分の握力をなんとかカバーするためである。 魂が重なっている影響か魔力は多少回復していたが、全身の骨の軋みは止まず 怪我のほうも血が止まっているだけで傷は塞がっていなかった。 左腕など、レリックの爆発を近距離で受けたため肉が削れて骨と神経が覗いている。 なんとか短期決戦で仕留めなければ、自己再生能力と魔力量の差でジリ貧だ。 シン(生半可な攻撃じゃすぐに再生されちまう。奴を倒すには『コア』を狙うしかない) ―――――奴の殻を破り、肉の盾を剥がし、骨を砕き、弱らせに弱らせて中枢を叩く。 シン「デス子、頼む」 デス子「カートリッジロード!」 腕とアロンダイトから合計三つの薬莢が排出され、シンの魔力が一時的に増幅した。 それはそのまま身体能力の強化に当てられ、大地を駆ける力となる。 だが、それは以前の比ではない。 ユニゾンに慣れてきた最近でもこれほどの速度を出せたことはない。 デス子(ぅく、何で怪我してるのにこんな速度が出せるの!?) アロンダイトに宿ったキルスレスの使用者を強化する能力と、ザックスの持つジェノバ細胞の力が混ざり合い、すさまじい脚力と跳躍力が生まれたのだ。 そのスピードは、デバイスで飛行する際の速度ですら完全に上回っていた。 だが、シンの身体能力の増強に驚いているのはデス子だけではなかった。 シン(すごい。これがフェイトさんや皆が戦いで見ている光景なんだ。これなら、俺だって!) 黒一色で分かりにくいが、回りにあるもの全てが自分よりも遅く動いているように感じる。 自分の体がまるで風そのものになったような気分だ。 シンは、魔法を使えなくとも努力しだいでここまで強くなった人間がいたことに 驚きとある種の感動を覚えていた。 かなりの距離があったはずなのに、『闇の書の闇』がもうこんなに近くに見える。 その時、突然沈黙を続けていた触手たちがシンに襲い掛かってきた。 あるものは体当たりを、あるものは身を捩じらせシンを絡めとろうとし、 あるものは魔法の詠唱に入っている。 動きを見せない本体を守ろうとして防衛機構が働いたのか、『闇の書の闇』の無意識の本能がなしたのか。 いずれにせよ、やっかいなことにかわりはない。 シン「そこをどけええええええええ! 連牙 飛燕脚!」 シンは最初に突っ込んできた竜頭の如き触手にセネルの技の一つを叩き込んだ。 慣性を利用して放たれた無数の強烈な蹴りを受け、触手が根元から千切れ跳んでいく。 シン(空中なのにこんな威力が出せるのか!?) 相変わらず蹴った本人が一番戸惑っていたが、敵は驚く暇も与えてくれない。 技を放った隙を狙って、残りの触手も貪るように襲い掛かってきたからだ。 空中では動きが取れないと踏んだのだろう。 デス子「来ます。右から三! 左から四! 後ろから一! 前から三!」 しかし、その位で怯むシンではない。 シン「甘いんだよ! そんなことで―――」 千切れた触手の断面を足場にして再度空中に飛び上がり シン「―――やられるか! メテオショットォォォ!」 右手の剣から、隕石の形に固められた闘気を触手全体に打ち下ろした。 この一撃を、シン目掛けて殺到していた触手は正面から受けてしまう。 骨が砕けるような音が断続的に響き渡り、瞬時に数十の触手が黒い大地にひれ伏していく。 シンが、顔の半分を潰されながらも向かってきた触手をクッション代わりに切り裂きながら着地した時には、 ほとんどの触手が息の根を止めていた。 シン「よし、これで周辺は片付いたな。あとは本体を・・・・「マスター後ろです!」何!?」 自分に強大な力が宿ったことによる僅かな油断か。 はたまた、敵を排除したことによる気の緩みか。 そんな気の迷いが、背後から迫る触手への反応を一瞬遅らせることになった。 避けきれないと判断したシンは、左手の代わりに頭を支えにして、アロンダイトで触手の突撃を裁ききろうとする。 シン「ぐうウウウウウウウウウウウああああアアアアア!!」 全長15mはあろうかという触手の突撃は、シンの全力をもってしても容易に止まるものではない。 傷口が開き血が噴出すのも省ない中で押し合いが続き、触手の慣性は少しずつ殺されていく。 そこへまた別の触手が、今度は側面から突っ込んできた。 シンは、拮抗していた力を飛び込んできた触手の方へ流し、触手を触手の盾にする。 同士討ちのような形で二対の動きが止まったところに、シンの連続切りが炸裂し どちらがどちらかわからないほど細切れにされた触手は、そのまま地面に転がった。 だが、触手の追撃はそれで終わりではなかった。 シン「はぁはぁ、どうなってるんだ。・・・・くそ、またか!」 次は真下から、その次は真正面から、倒したはずの触手が山のように生えてきたのだ。 『闇の書の闇』が存在する限り、触手もまた無限に再生する。 二十倒せば四十増え、四十切れば八十生える。 倒した触手の下からまた新しい触手が生え、その数はいっこうに減る様子を見せなかった。 デス子「まさか再生力まで強化されてるなんて・・・」 シン 「ちくしょう、こんなことで!」 予想をはるかに超える再生能力に、シンとデス子も次第に焦り始める。 触手の攻撃を縫う様にかわすと、それを狙ったかのようなタイミングで魔法弾が飛んできた。 アロンダイトで直撃しそうなものは弾くが何発かは体をかすめていく。 デス子「(たかだか触手だと思って甘く見てた! こんなに厄介だったなんて) このままじゃ囲まれます。 マスター、一度退避しましょう!」 幾ら強力な力が使えても、こうまで触手に阻まれては『闇の書の闇』まで近付くのは無理だ。 逆にこちらが消耗し物量に潰される。 一旦距離をとらなければ不利だと訴えるデス子だが、シンは頑なにそれを拒んだ。 シン「ここで引いてどうなるって言うんだ。空が飛べないなら這ってでも行く。 俺達にはもうそれしか残ってないんだよ!」 左から迫ってきた触手の胴を裂き、背後からの魔法を避けながらシンは反論する。 デス子「だからって、地上からじゃどうしようもないじゃないですか!」 話している間に、また左に二本触手が生えてくる。 このまま、翼を折られた雛鳥のように、蟻に啄ばまれる哀れな最後を遂げるなどごめんだ。 しかし、現実にシンの言っている以外の方法が無いことも事実だ。 思えば、シンが今まで戦えたのは触手の攻撃範囲外である上空にいたことが大きい。 ヴォワチュール・リュミエールの破損が無ければ、こうまで押さえ込まれはしなかったはずだ。 デス子(・・・そう、空にいたときはこれほど厄介じゃなかった。 やっぱり、触手から逃れる最善の手段は空を飛ぶこと。 でも、翼の折れたこの状況でどうやって・・・!?) 三次元的な機動、多方面からの攻撃、飛行できるゆえの戦術、空を飛べばそれらの要素が全てついてくる。 デス子(なんとか・・・なんとか飛ぶことさえできれば・・・・) 思い悩むデス子の眼に、ふと空中に浮かぶ『闇の書の闇』が残した残骸が写った。 デス子は、シンが訓練をしている合い間によく戦術研究と称して漫画を読んでいた。 その中でも、一際思い出深いワンシーンがデス子に語りかけてくる。 翼も無いのに空を駆けていた主人公。彼がどうやって空中で敵と渡り合っていたのか。 重力に縛られながら、どうやって敵を倒したのか。 ―――――答えは足場だ。 デス子「マスター、もしかしたらですけど、まだ私達は空を飛べるかもしれません」 シン 「翼は両方やられてるんだぞ。空に上がる手段なんて・・・」 デス子「あるじゃないですか! 皆から貰った力と今のマスターの力を合わせれば ・・・空にだって飛べます!」 そういうと、デス子は魔力をある一点に集め始めた。 シン「デス子、何を・・・!?」 シンの胸元が光り始めたと思うと、彼らの足元に赤色の魔方陣が形成された。 しかも、古代ベルカ式であるシンが本来使えるはずのないミッドチルダ式の魔法陣だ。 デス子「帰ったら、ユーノさんに感謝しないとですね」 それはユーノが出発前に渡してくれたお守り型のアクセサリーだった。 補助魔法を全く使えなくとも魔力さえ込めれば予め設定されていた簡単な魔法が 使用できる発掘品で、本当なら気軽に貸せるような代物ではない。 デス子が発動させたのは、その中にあったフローターフィールドという補助魔法だ。 本来は落下時の衝撃を和らげるための魔法だが、硬度を上げれば空中の足場として 形成することもできる。 デス子「この空間の中心部は無重力です。あそこまで飛び上がれば、フローターフィールドを足場にして奴と真正面からぶつかれます!」 重力の束縛が無いのなら、足場を利用することで慣性を利用して飛び跳ねられる。 そうすれば、飛行できなくても三次元戦闘を展開することが可能なはずだ。 デス子「『闇の書の闇』が動きを見せていない今ならやれるはずです! 空で決めますよマスター!」 シン 「あ、ああ、今度こそ、この悪夢を終わらせてやる!」 言うが速いが、シンは階段状に展開したフローターフィールドを一目散に駆け上がっていった。 このとき、シンは気付くべきだった。 確かに傷口からの出血は止まっている。 だが、治りきっていない傷が全く痛まないのは異常ではないのか。 痛みがないのなら、左腕の神経が寸断されていなければならないはずだ。 なのに、わずかながら左腕の感覚は残っている。 痛みが無いのに感覚はある、それが意味する答えは一つしかない。 つまり、『エクストリームブラストフォーム』を使用したシンの体からは 痛みを感じるプロセスが切除されていたのである。 人は、痛みを感じるから身体の異常個所を判別できる。 自分の死を実感し、恐怖し、危うくなれば引き返すことが出来る。 言い換えれば、痛みがあるからこそ人は戦いに恐怖する。 自分の体をいたわり、無意識のうちに無理をしないようになる。 もちろん、死を恐れないといっても不死身ではない。 常人と変わらず怪我もすれば血も流れる。 だが、意図的に痛みの感覚を削除すれば、内臓が潰れようとも四肢を貫かれようとも怯むことも臆することもない。 最後の最後まで、その先に訪れるものに気付かないまま戦い抜く究極の戦士。 皮肉にも、それはシンがたったいま切り捨てたばかりの理想の姿だった。 #navi(なのはクロスの作品集) ----
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前ページ次ページサモンナイトクロス 冷たい……というよりは乾いた静寂が、場を支配していた。 シンはただ痴呆のように茫然としてベッドの上――よく見ればこれもコズミック・イラの技術体系とは違う――に座っている。 どうしようもなく、目の前の少女を観察する。 そもそも、この少女は細かく観察すると奇妙な姿だった。妙に青白い肌をしているし、肌の一部は明らかに有機物ではない。シンの知識の中で例えるなら……サイボーグかアンドロイド、といったところになるのだろうか。 「申し遅れましたが、私は医療看護用自動人形(フラーゼン)のクノンと申します。本来ならばアルディラ様に仕えている身ですが、現在アルディラ様はこちらにいらっしゃいませんので」 シンがじろじろと見ていたせいだろうか。求めていたわけでもないのに、少女――クノンはそう告げてくる。 ともあれ、名乗られたら名乗り返すのが礼儀であろう。シンは後頭部を掻きながら右手を差し出し、 「あ、ああ。俺はシン。シン・アスカ。シンでいいよ」 「はい、分かりました。シン様」 ……クノンは、差し出したシンの右手を握ってくる様子もない。行き場のなくなった右手に空しいものを感じながら、シンは手を引っ込めた。 (とりあえず……信用はできるかな) シンはそう判断を下す。非常に機械的で融通が利かなそうではあるが、その分嘘を吐いてくる可能性も低い。 そうと決まれば、情報を収集するのにうってつけと言えた。主観性の薄い情報は貴重だ。 「あのさ、俺がこの世界に召喚されたって話だけど……」 段々と、言葉が尻すぼみになる。自分がどれだけ馬鹿なことを言っているのか、とシンは内心で気恥ずかしさを覚えていた。 それに対し、クノンは平然と答えてくる。 「あなたのいた世界がどういった世界かは知りませんが、この世界は〝リィンバウム〟と呼ばれています。この世界では召喚術が発達しているのです」 「はあ」 シンは気のない返事をした。まあ、このくらいなら分からないこともない。シン達の〝地球〟という言葉に相当するのがその〝リィンバウム〟なのだろう。 そして、召喚術が発達している…… 「あれ? じゃあ、その召喚したものってどうするんだ?」 ふと、シンは生まれた疑問を投げかけた。召喚術とやらを使える人間がどれだけいるかは知らないが、もしも召喚したものを元に戻せないのなら今頃この世界は召喚獣でありふれているのではないか。 「召喚した際、術者は召喚獣と誓約を行います。細かい説明は省きますが、その制約の条件は〝元の世界に戻すこと〟です」 「なんだ、じゃあ召喚したものを元に戻せるんじゃないか。なら俺も――」 「できません」 きっぱりと。安堵しかけたシンに、クノンは無情とも言える宣告をした。 「なんでだよ!」 「召喚獣を送還できるのは、召喚した術者だけだからです」 さも当然のごとく、彼女は言った。訳が分からず、シンは眉根を寄せる。 そんなシンを知ってか知らずか、クノンが続けてくる。 「召喚師と何らかの理由で別離、もしくは召喚師が死亡した場合、送還されていない召喚獣は二度と元の世界へと還れません。そういった召喚獣を〝はぐれ〟と呼びます」 唐突に。何の脈絡もなく、シンは悟った。 ――要するに。 「その……俺も〝はぐれ〟ってこと?」 「細かい事情は省きますが、そういうことです」 言葉にならない衝撃に、シンがぐらりと頭を揺らした。そのまま、ベッドに倒れこむ。 「それでは、失礼します。何かご入り用があればお呼びください」 クノンは律儀にぺこりと頭を下げて、シンのいる部屋から出て行った。 ――これが、ざっと一時間ほど前の話である。 ふらふらと。これ以上ないほどに頼りない足取りで、シンはいずことも知れぬ場所を歩いていた。 その表情には覇気がない。生気すらない。普段が意気に満ち溢れているだけに、それがなくなると途端に貧相に見えてくる。 もっとも、それも仕方のないことだろうが。 嬉しいことがあった。悲しいこともあった。死にそうな場面で奇跡のような幸運に出会ったこともある。 そのすべてが水泡に帰した。もう、シンは元の世界には戻れない…… これから、この世界でどうしていけばいいのだろう。あの世界をさておいて、この世界で平穏に暮らすのか。 悪くはないのかもしれない。少なくとも、誰も自分を責めることはできない……が、それを皮肉と感じる内は受け入れられそうにもない。 「……あれ?」 ばったりと、シンは足を止めた。 考え事をしていたせいだろうか。とりあえず外の空気を吸おうとしたはずが、いつの間にやら見覚えのない景色に変わっている。 白い砂浜。寄せては返す波。無意味なまでに輝く太陽を反射してきらめく海。そして、その向こうに見える水平線…… さーっと、今度はシンの顔から血の色さえ失せてくる。 「迷っ……た……?」 まずい。知らない土地で遭難する危険性は、アカデミーで叩き込まれている。そこで生き抜く方法も。 しかし、それはあくまでシンのいた世界に適用される教訓だ。この世界で通用するかは分からないし、何よりろくな装備もない。 そこらの人間が相手であれば負ける気はしないが、もしもこの近辺に、熊か何かがいたら。いや、もしかしたらもっと危険な何かかもしれない。 などと膨らむだけ膨らむ想像に、シンが身震いしていると―― 「下がりなさいっ! 一人を相手にそんなにたくさんで、恥ずかしくないの!?」 声が響いた。言葉からすれば怒声ではあるが、響きはむしろ悲鳴のそれに近い。 シンは思わずそちらに目をやり――その光景に、思わず硬直した。 ひとりの少女が、そこにいた。年の頃は十歳ほど。いかにも勝気そうに吊り上った目と長い金髪、被った大きな赤い帽子が特徴的である。 何か赤い、丸いものを庇うように抱えて、周囲に群がる〝もの〟に対して威嚇的な視線を向けている。 それは、なんというのか……ゲル状の何かだった。昔やったゲームなどではそれこそ〝スライム〟などと名付けられていたモンスターにそっくりである。 (ああ、本当にここ、そういう世界なんだ……) 理解していたものの、そういった現実を実際に突きつけられるのは辛い。シンは一瞬座り込んで現実から逃避したくなったが、そういうわけにもいくまい。 「やめろッ!」 叫んで、シンは少女の前に躍り出た。そのまま庇うように、手を広げる。 「あ、あなたは……?」 少女が眼を丸くしてシンを見やる。どう言ったものか。シンは迷ったが、とにかく叫んだ。 「君は俺が守るから! だから、安心しろ!」 半ば自棄的ではあったが、心底からの言葉であった。 もう二度と、自分の目の前で弱い存在が理不尽に死ぬのは許さない。妹の携帯に、シンはそう誓ったのだから。 そして、うねうねと近づいてくるゲル状の物体を睨み据える。 武器はない。銃もナイフも、自らが命を預けていた〝インパルス〟もない。それでも戦わなくてはならない。 シンは拳を固めた。ゲル状の相手に、物理的な打撃は通用するのだろうか。やや疑問には思ったが、やるしかないのだ。 周囲にさっと目を走らせる。数は三体。いったいどんな能力を持っているかはまったく不明だが…… などと考えていると、突如としてスライム(仮)の一体が動いた。それも、予想よりも遙かに俊敏な動きで。 「うおっ!?」 飛びかかってきたスライムを間一髪で避ける。 「このっ!」 避けざまに拳を叩きこむ。しかしそれはスライムの外観通りの感触――要するにゼリーの塊に手を突っ込んだような手応えしか残らず、明らかにダメージはない。 おまけに、拳を引きはがすことができない為にシンの次動作が数秒遅れた。 その隙を逃さず、スライムの一体がシンに飛びかかってくる。 衝撃。シンの身体は予想外のスライムの力に、軽々と吹っ飛ばされていた。そのまま強かに背中を打ちつける。 「弱ッ!?」 視界の外から、シンの不甲斐無さに少女が思わず突っ込んでくる。 (しょうがないだろ、この状況……) 内心で言葉を返すも、予想外にダメージは大きい。こちらからの攻撃は通さないくせに不公平だ、とシンは文句を言いたかったが声が出ない。 意識が遠くなってきた。気絶してはいけない、と念じるものの意志とは別に身体が意識を閉ざそうとしている。 己の無力さに歯噛みしながら……シンの意識は、闇に落ちた。 「あの、大丈夫ですか?」 真上からの呼び声と、後頭部に感じる柔らかな感触に、シンは目を覚ました。 瞼を薄く開くと、心配そうに彼の顔を覗き込む女性と目が合う。女性はシンの目が開いたことに安堵してか、にっこりと微笑んだ。 逆光で顔は判然としないが、赤い髪の色が眼に付く。 「ルナ……」 思わずそう呟いてしまったのは、望郷の念からだろうか。シンには分からなかった。そんなシンの呟きを耳にしてか、女性はきょとんとした様子で首を傾げる。 「ルナ?」 「あ、いや……」 (何を言っているんだ、俺は……) 胸中で自嘲しつつ、シンは頭を横に向けた。同時に、自分の頭が何の上に乗っているのか気付く。女性の太腿だった。それも生肌の上。 慌てて、シンは視線を真上に戻す。頬が紅潮しているのが分かった。 (いや確かにステラの胸も柔らかかったけどこれはこれでまた別の柔らかさがって、何考えてるんだ俺――) などとシンが悶々としていると、 「何鼻の下伸ばしてるのよっ!」 怒号と共に、シンの顔面に小さい靴底がめり込んだ。 痛みに声すら上げられず、シンは顔を両手で押える。鼻血は出ているが、不思議と鼻は折れていない。 「な、何するんだよっ!?」 思わず起き上がって抗議するシンを、靴底をめり込ませた張本人――先ほど襲われていた少女の吊り上がった目が迎撃する。 「ふんっ。みっともない顔を矯正して差し上げたんです」 シンの眼光に少女は臆することもなく、尊大な態度を崩すこともない。さすがに頭に来て、シンは唸った。そんなシンを、女性が押しとどめる。 「ま、まあまあ、ふたりとも落ち着いてください」 「……思いっきり落ち着いてる」 明らかに落ち付いていない様子で、シンは答えた。その際に、判別し辛かった女性の顔がはっきりと見える。 年は、シンより幾つか上だろう。背中まで伸びた赤い髪と頭に被った白い大きな帽子が特徴的な、全体的に柔らかい風貌の女性である。 よくよく見れば、ルナマリアなどとはこれっぽっちも似ていない。姿も、雰囲気も、何もかも。 そういえば、とシンは周囲を見渡した。先ほど少女を襲っていたスライムの姿は見当たらない。そのシンの視線に気付いてか、少女が刺々しく口を開いた。 「それなら、その人が倒してくれました。あっさりと」 皮肉たっぷりにそう告げる少女の態度がまたしても頭に来たが、今度はシンは耐えた。 「い、いえ、たまたまですよ。この剣があったから……」 と、女性は近くの岩場に立てかけてあった剣をシンに見せた。 シンは剣など詳しくない――というか見たこともないが、そんな彼の目から見ても奇妙な剣であった。 剣のサイズとしては大きい方だろう。刀身だけで一メートル以上ある。それを眼前の女性が軽々と持っていることも不思議だったが、もっと目を引いたのは剣の装飾というか、材質である。 何でできているかは知らないが、簡潔に言えば……翡翠の宝石を固めて剣にしたような、そんな剣だった。 「へえ。あんた、凄い剣士なんだな」 「いえ、そういうわけでも……」 感心したようにシンが頷くと、アティは照れたように頬を掻く。 そんなやり取りをしていると、背後から益々もって嫌味な声が聞こえてきた。 「それよりも、あなた何者? この島の住人なの?」 「………………」 シンは答えない。別に他意があって答えないわけではない。答えられないのだ。 この島の住人か、と聞かれれば――ノーだ。そもそもこの島どころか、この世界の住人ですらない。 さて、どう答えたものか。シンが逡巡していると、少女はそれを別の意味に取ったらしい。声を荒らげて、 「ちょっと、人の話を――」 「待ってください、ベルフラウ」 少女の言葉を遮り、女性はぺこりと頭を下げた。 「すみません、私はアティって言います。この子はベルフラウ。私の生徒です」 「私はまだ、あなたのことを先生とは認めていません」 シンにとってはどうでもいいことをベルフラウが指摘する。それは当人たちの問題なのだろうと勝手に納得することにして、シンは頷いた。 「俺はシン。シン・アスカ」 「分かりました、シン君ですね」 ……確かに年上には違いないのだろうが、君付けで呼ばれるとこそばゆい感じがする。ザフト内では呼び捨てだっただけに尚更だ。シンは慣れない感覚に、とりあえず首筋を掻いた。 「それで……あんた達は、どうして?」 「あの、私たちは嵐に遭って遭難してですね……」 「……そうなんだ」 シンが思わず呟いた瞬間、向う脛に痛みが走った。 「痛っ! なにすんだっ!」 「こっちが真剣なのに、つまらないことを言ってるからですっ!」 理不尽だ。シンはそう思った。決してギャグで言ったわけではない……こともなかったかもしれないが、いきなり蹴ることもないだろうと思う。 「はぁ……まったく、助けに来てくれた時はカッコよかったのに……」 深々と嘆息して何やらぶつぶつと言っているベルフラウは無視し、シンはアティに向きなおった。 「ごめん……悪いけど、俺も似たようなもんなんだ。だから、この島のことはよく分からない」 「そうですか……」 僅かに意気を落としたようなアティに、シンは取り繕うように続ける。 「あ、いや、でもさ、誰もいないってわけじゃないみたいなんだよ。だから、きっと無人島とかいうことはないと思う」 「あ、そうなんですか? それなら何とかなりそうですね!」 案外とあっさり気を持ち直したアティが頷いて、それから頭上に浮かぶ太陽を見上げた。気付かなかったが、陽は既に傾きかけている。 「でも、もうすぐ日も落ちるみたいですし。島の探索は明日になってからにしません?」 「そうだな。体力のことも考えなきゃいけないし」 多少は軍人らしく、シンは冷静な判断を下した。それからちらりと、ベルフラウの方を見やる。 彼女はこちらの視線に気付くと明後日の方向を向きながら、 「……まあ、仕方ありませんわね」 と、ぶっきらぼうに言ったのだった。 静かな夜だった。月の明かりは強く、また篝火もあるために決して暗くはない。もっとも篝火を焚いたのはシンやアティでなく、たまたまベルフラウが拾ったはぐれ召喚獣――本人は〝オニビ〟などと勝手に名付けていた――が火炎を起こしたのだが。 流石に見張りも立てずに寝るのは物騒だということで、シンは自ら見張りを買って出た。正直疲れてはいたが、こういった場面では男の出番だろう。 シンが偶然にも持っていた、味の悪い携行食を食べる必要もなかった。近くには食用の木の実があったし、数も申し分なかった。こういったアナログな技術というものも馬鹿にしたものではない。 煌々と燃える火をじっと眺めていると、オーブが炎に包まれた日を思い出す。 アスハの〝中立〟という理念のためだけに犠牲になった両親と妹を…… 瞼が重く、緩くなる。目頭が熱くなったので、シンは咄嗟に上を向いた。そうしなければ、泣き出してしまいそうだった。 「ここから見る星って、奇麗ですよね」 聞こえてきた声に、シンは視線を下に戻した。寝ていたと思っていたアティの目が、まっすぐにこちらを見ている。隣に横たわるベルフラウは、とうに寝息を立てているようだった。 「なんだ、寝てなかったのか?」 「いえ、ちょっと目が覚めただけです」 ふうん、とシンは気のない返事をする。アティは気にした風もなく、再び夜空へと顔を向けた。 「私、時々思うんですよ。もしもあの星を間近で見られたらどんなにいいだろうな、って」 「……そんなにいいもんでもないと思うけど」 シンは、宇宙にいた頃を思い出して呟いた。 大概の星というのは近づけば決して奇麗ではないことが分かる。特に月など、クレーターだらけで墓場か何かにすら見えるほどだ。宇宙から見て奇麗に見えるものなど、それこそ地球くらいのものだろう。 「あはは。まるで見てきたみたいな言い方ですね」 屈託なく笑うアティに、シンはどう言い返したものかと迷う。結局、その口から出たのは意味のない吐息だけだった。 宇宙。プラント。共に駆け抜けた戦艦と同僚、そして愛機。シンは目を閉じて、それらの光景を思い出す。感傷的になっていることは自覚していたが、止めるだけの自制もシンは持ち合わせていなかった。 代わりというわけでもないが、事務的な口調で告げる。 「寝れなくても、目くらいは閉じとけよ。明日はこの島を探索するんだから体力もいるし」 「はい、分かりました」 (これじゃあ、どっちが年上だか分かったもんじゃないな) 苦笑して、シンは再び星空を見上げる。 星は、先ほどと変わりなく瞬いていた。 前ページ次ページサモンナイトクロス
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前ページ次ページなのはクロスの作品集 はやて編1話『死亡フラグと暗躍する影』 現在 時空管理局本局次元航行部隊 アースラ艦内 会議室(はやて失踪から3日) 中破ついでに(提督権限で)大改修を施していた『クラウディア』がyagamiに強奪されてからすでに三日がたっていた。 時間跳躍システムを作った博士達に設計させたせいで、個人趣味大爆発の「ぼくのかんがえたさいきょうせんかん」となっていた『クラウディア』だ。三連装アルカンシェルに、全方位に展開する四重の物理魔法混合バリア、副兵装は光子魚雷、ドリル、極大ホーミングレーザー・・・etc おまけに何がなんだかわからなくなった動力炉とシステム、自己再生にエネルギー回復(∞)、人型に完全変形など、もはや「聖王のゆりかご」など歯牙にもかけないくらいの超絶魔改造を施していたのだ。赤子にピストルならぬ、ジブリールにジェネシスである。 それだけにyagamiの手に渡ったのは重大な失態だった。 クロノ「はやてはあんな厳重な警備網をどうやって突破したんだ?」 ユーノ「時空管理局の警備はCE世界並だからね。あってもなくても同じことだよ」 アルフ「というかSSランクのはやてには警備なんて意味が無いと思うけど・・・」 そんなくだらない会話を繰り返しながらも、穏健派は着々と準備を進めていた。 既に名のある人物や起動兵器をいくつも呼び寄せ、過激派筆頭yagamiの捜索に全力を尽くしてる。もっとも報告があるまでは暇なので、こうして三人でコタツを囲んでいるわけだが・・・ アルフ「ん~、普通の暖房もいいけど、こういうのも悪くないねぇ~」 クロノ「あんまりピリピリしすぎるなって、エイミィから送られてきたんだ。しかし、これはいいものだ」 ユーノ「和むなぁ。ん、誰か来たみたいだよ」 定時連絡だろうか?いや、それなら通信ですればいいことだ。足音がこの部屋の前でぴたりと止まり、短いノックが三回続く。 ギンガ「時空管理局 陸上警備隊第108部隊所属のギンガ・ナカジマ陸曹、入室します」 クロノ「よし、入っていいぞ」 この部屋のドアは個人個人で設定された名乗り方で名乗らないと、開かないようになっている。 過激派のスパイを司令部まで通さないための処置だ。 ギンガ「クロノ提督、話が・・・?」 コタツに並んで入っている三人を見て、少々困惑するスバル。 クロノ「ああ、かまわないから君も入ってくれ」 ギンガ「あ、はい。・・・・・・失礼します」 最初は戸惑っていたようだが、徐々に慣れてきたのか顔もほころんできた。 ユーノ「それで?何かあったの?」 ギンガ「はっ、そうでした!実は、スバル達の午後の訓練が終わった後のことなんですが・・・」 なんでも、スバル達が訓練(隊長達はいないので、ギンガが指導している)を終えた後、部屋に戻ろうとしたら、偶然ヴィヴィオと会って手紙を渡されたそうだ。 ティアナ・ランスター二等陸士とも相談して、検査で異常が無かった為アースラに持ってこようとしたが、丁度アースラに用事があったため、ついでにギンガが持ってきたらしい。 アルフ「確か今ヴィヴィオは過激派のみんなと一緒にいるんじゃなかったっけ。はい、みかん」 ギンガ「あ、ありがとうございます。それでティアナ・・・二等陸士が言うには、これ過激派からの手紙じゃないかって。ヴィヴィオも八神部隊長 から預かったって言ってたそうですし・・・」 クロノ「はやてから?どれどれ・・・」 拝啓 穏健派筆頭 クロノ・ハラオウン殿 このまま周辺への被害が広がれば、減給ではすまなくなるのでここらで決着をつけようと思うんよ。 表向きは起動六課の訓練ということにして、上層部には許可を取っといたから問題はあらへん。 私の集めた最強軍団と正々堂々勝負や! 場所は第119管理外世界の座標軸AAK9396のUSG8434 時間は五日後の○○月△■日の正午から 事前の罠設置などの小細工は無し 死人が出るとまずいので武器は基本的に非殺傷設定 医療班は両陣営から必ず何名か派遣すること 胸と背中に風船を一つずつ付け、全て割られたものは失格 勝敗は両陣営の持っている旗をとったほうが勝ちや 追伸 スレで『空気』の諸君、『クラウディア』はいつか返すから、堪忍な~。 クロノ「ぐあ~!!!あのキチガイ狸、人をコケにしやがって~!!!!」 怒り狂ったクロノはアースラの訓練ルームに突撃していった。 恐らく気を静めるためにガジェットドローンのコピーを破壊しまくるのだろう。 ギンガ「うん、おいしい!それにしても、真正面から来るなんて、過激派もよほど自信があるみたいですね」 ユーノ「(クロノはスルーなのか)まあ、そうなんだろうね。アルフ、僕にもみかん頂戴」 アルフ「はい、ユーノ。実際、前の時は穏健派の勝利といってもぎりぎりだったしね」 ギンガ「穏健派は基本的に非戦闘員が多いですからね」 ユーノが三つ目のミカンを剥いていると、クロノが荒い息をしながら戻ってきた。 アルフ「おかえり~。結果はどうだった?」 クロノ「・・・・・・自己新記録だった」 ギンガ「喜ぶべきか、悲しむべきか・・・」 ユーノ「さて、ほどよく頭も冷えたことだし、会議を始めようか」 コタツから出たがらなかったギンガを交えて、yagamiの手紙に対する極秘会議が始まった。 ちなみに傍から見ると、コタツで雑談しながらみかんを食っているだけにしか見えないだろう。会議の内容は大方の予想通り、内容は提案を受け入れる方向で決定した。 ユーノ「ところでクロノ、僕はちょっと単独行動を取りたいんだけど・・・。」 ギンガ「この大変なときにですか?」 ユーノ「どうしても気になることがあるんだ。今回の過激派の行動、変だと思わないかい?」 アルフ「いつも変だから気づかなかったけど(フェイトも便乗の権化みたいになってたし)・・・」 ユーノ「あまりにも行動が的確かつ速すぎる。どうも僕には誰かが裏で糸を引いている気がするんだ」 クロノ「確かにな。最初の戦いからたった三日で行動を開始したのも気になる。ユーノ、調査を頼めるか?」 ユーノ「ああ、まかせてくれ!」 この時、二つ返事を返したユーノが彼らにはとても眩しく見えた。 ぶっちゃけ、死亡フラグ確定である。 現在 過激派 クラウディア艦内 会議室(ほぼ同時刻) はやて「ふっふっふっ、いい加減穏健派もしぶといなぁ。『空気キャラ』が『メインキャラ』に勝てるわけ無いのに・・・」 リインⅡ(本編でははやてちゃんもほとんど空気でしたけどね) 穏健派がコタツでみかんを食っているころ、はやては強奪したクラウディアで次元世界を彷徨っていた。 すでに集めた人員の総戦力は、時空管理局すら軽く叩き潰せるほどだ。おまけに、超絶魔改造のおかげで最大搭乗可能人数も格段に上がっているため、衣食住に困ることは無い。 なのは「はやてちゃん、早く穏健派を倒してシンを救おうね(その役目は私だけで十分なの)」 アティ「この調子なら穏健派なんて、余裕で叩き潰せます。(あなた達もね・・・)」 だがはっきり言って、チームワークは致命的に無い。むしろ表面上は笑っていても、裏では牽制し合っているのだ。 閉鎖空間にいるため、一度火が付くと穏健派と戦う前に全滅する可能性もある。 過激派にとっては、開戦は早いほうが都合がいい。 そんなとき、管理局の制服を着た青髪のロングヘアーの女性が一人、会議室の扉をノックした。 はやて「だれや!今はまだ会議中やで!」 ???「すいません。ですが、穏健派からこれが・・・」 謎の女性が差し出したのは、一通の手紙だった。 クロノのところに届いたものと全く同一の封筒でもある。 なのは「送り主はクロノ君みたいだね?」 アティ「なんて書いてあるんですか?」 拝啓 過激派筆頭 八神はやて様 いい加減にしてくれ。これ以上、君達の馬鹿騒ぎに付き合っていられるか! シンのためにも、次の戦いも我々穏健派が勝つ。 表向きは起動六課の訓練ということにして、上層部に許可を取っておいたから なんの問題もない。 思う存分僕達に叩きのめされてくれ。 場所は第119管理外世界の座標軸AAK9396のUSG8434。 時間は五日後の○○月△■日の正午から 事前の罠設置などの小細工は無し 死人が出るとまずいので武器は基本的に非殺傷設定 医療班は両陣営から必ず何名か派遣すること 胸と両肩に風船を一つずつ付け、全て割られたものは失格 勝敗は両陣営の持っている旗をとったほうが勝ちだ 追伸 君達ももうすぐ二十歳なんだから、大人しく仕事してくれ! あまりシン一人にこだわると、行かず後家になるぞ。 はやて「余計なお世話や!あの真っ黒クロノ助~!!既婚者がなんぼのもんや~!!!!」 怒り狂ったはやては外の管理外世界に突撃していった。 恐らく気を静めるために、何もない地表を破壊しまくるのだろう。 反応がクロノと一緒なところをみると、案外二人は似たもの同士なのかもしれない。 なのは 「武器は非殺傷設定、ちょっと不自由だね。(せっかく思いっきり撃てると思ったのに)」 アティ 「戦略を練り直さないといけませんね(余計なことを・・・)」 リインⅡ「そういえば便乗さんが来ませんでしたね・・・。今日はどうしたんでしょう」 彼らが考え込んでいる間に、いつの間にか管理局の制服を着た女性は居なくなっていた。 よく観察すれば気付いただろう。そんな女性がこのクラウディアにいるはずがないと・・・。 誰も居ない格納庫で女性は変装を解く。 ドゥーエ「ふふ、単純な連中ね」 ナンバーズの2番、ドゥーエは別任務に従事していたが、今回の事態に急遽召集されていたのだ。 ドゥーエ「さあ、ドクターの指示通りに動いたけど、これからどうなるかしら?」 しかし、ドゥーエはクラウディアから長距離転送で帰還するまで自身を見ている人陰に最後まで気付かなかった。 朝倉 「へぇ、面白い情報が観測できそうね♪またとない機会だわ♪」 激突する思い、それぞれの思惑、そして暗躍する影、幾多の次元世界を巻き込んだ戦いは終局を見せ始めていた。 はたして、勝つのはどちらか?そして置いてけぼりのシンに未来はあるのか? ???「ふふふ、全て私の計画通り。穏健派も過激派も私の手の内で踊り続けなさい(微笑) シン編 第一話『希望』 十年前 海鳴市 海鳴大学病院 病院に着くとシンは士郎さんにお礼を言って、一目散にはやての病室に向かって走っていった。 シン 「はやて! 大丈夫か!」 シグナム「静かにしろ、主はまだ眠ったままだ」 ドアを開けると、はやてのベットの周りには既にヴォルケンリッター達が集合していた。 しかし、シンが来たというのにだれもがうつむき、一人として顔を上げようとはしない。 たったそれだけのことが、シンに逃れられない現実をつきつけた。 シン 「・・・再生が・・・・始まったのか?」 ザフィーラ「すでにリンカーコアへの侵食が始まっている。早ければ、あと10時間ほどで再び自動防衛プログラムが再生され、主はやて は・・・・」 デス子 「は、はやてちゃんが死んじゃうなんて絶対だめです!」 ザフィーラ「しかし、主はやてを救うには、自動防衛プログラムが再生する前に、闇の書を破壊するしかない」 デス子 「それって・・・」 シャマル 「つまり、リインフォースごと・・・破壊するってことよ」 デス子 「そんな、前やったみたいに自動防衛プログラムだけ分離すればいいじゃないですか! そうすれば・・・」 シグナム 「残念だが、それは無理だ。前の時は主はやてが『闇の書』の内部に取り込まれても、自我を保っていたから出来たことだ。おまけ に、テスタロッサが中から、なのはが外から魔力を叩き込んでようやくな」 ザフィーラ「だが、二度の侵食で主のリンカーコアは酷く傷ついている。この状態ではユニゾンどころか、自動防衛プログラムを抑えることすら かなうまい。 もし無理にでも実行すれば、逆に主が防衛プログラムに取り込まれる」 シグナムはベットに寄り添うと、そっとはやての頭をなでた。 ぱっと見た限りでは、とても安らかな寝顔をしている。だが、注意深く見ればその顔色は普段より青く、呼吸も速い。 主と繋がっているヴォルケンリッターは、今このときもはやての命が削られているのを感じていた。 シグナム「情けないことだ。主を守るはずのヴォルケンリッターが、主の危機に手も足も出ないとは・・・」 ヴィータ「ちくしょう! なんでだよ! なんでこうなんだよ!」 堰を切ったようにヴィータが泣き出した。 シグナム「・・・ヴィータ」 ヴィータ「こんなのありかよ!シンも家族に加わって、修正プログラムも見つかって、これからって時に!」 ザフィーラ「もういい、ヴィータ。リインフォースはこうなる運命だったんだ!」 ヴィータ「そんなんで納得できるか!あいつの思いがそんな軽い言葉で・・・。ちくしょお!ちくしょお!」 シャマル「・・・ヴィータちゃん」 泣き崩れたヴィータをシャマルが支える。そのヴィータにシグナムは非情も取れる言葉をかけた。 シグナム「言うな、ヴィータ。我々は主はやての騎士だ。主のためにこの命を使えるなら本望。そうだろう、鉄槌の騎士よ!」 彼女も正しいとは思っていない。だがそうとでも思いこなまければ「夜天の書」を改造したものたちに運命をもてあそばれ、ようやくつかんだ小さな幸せすらも許されなかったリインフォースがあまりにも哀れだ。 ヴィータ 「けど、けどよ! リインフォースだってきっと・・・」 ザフィーラ「無理だ、ヴィータ。我々にはもうどうすることもできん」 シグナム 「リインフォースも、あの時既に覚悟を決めていた。私達にできるのは、せめて最後に幸福のまま閉じてやること。それが今できる最 善の選択だ」 デス子 「そんなことない!・・・うまく言えないけど、そんなことをしても、はやてちゃんは絶対喜びません!マスターも何とか言ってやって くださいよ」 だが、シンは何も答えずに、ただ唇をかみ締めているだけだ。 デス子 「マスター? 何で黙ってるんですか! なんで何も言い返さないんですか!」 デス子にはシンの意図が読めなかった。いつもなら、守護騎士達の言葉に真っ先に「そんなことはない!」と否定してくれるはずなのに・・・。 シン 「・・・・・・シグナム、肝心のリインフォースはどこへ行った」 シグナム「朝、公園を出て行ってそれっきりだ。リンクも切っているらしく居場所はわからない。じきに向こうから連絡が来るだろう」 シン 「そうか、ならいい。」 デス子「何がいいんです。マスターいい加減に・・・?」 よく見ると、シンの肩が小刻みに震えている。拳も握り締めたままだし、なによりその目は怒りで真っ赤に燃えていた。 デス子 (もしかしてマスター怒ってる?) シグナム「デス子、悲しいのはみな同じだ。だが、こうなってしまってはもはや私達は無力だ。諦めるしかない」 シグナムの一言に、とうとうシンの堪忍袋の緒が切れた。 シン 「少し出てくる。行くぞデス子!」 シグナム「待て、どこに行く気だ!主はやての傍に・・・」 シン 「いい加減にしろ!泣き言も言い訳も、もうたくさんだ!あんた達は本当にそれでいいのかよ!リインフォースを見殺しにして、はやて が喜ぶとでも思ってるのか!」 シャマル「そんなこと・・・、他に方法がないなら仕方がないでしょう!」 シン 「なら、探し出せばいいだろ!はやてならそう言う筈だ!あいつはやさしいから、家族を犠牲にしてまで生き残ったらきっと死ぬまで後 悔し続ける。はやての騎士の癖に、そんなあいつの気持ちもわかんないのかよ、あんた達は!!」 現に、はやては十年たってもリインフォースのことが心の傷になっていた。 決して表には出さなかったけど、リインフォースを思い出すたびに辛かった筈だ。 シン 「何もかもわかったような口調で・・・悔しいと言いながら何もしないで・・・。本当にリインフォースが大切なら最後まで諦めるな!!!」 ヴォルケンリッター「「「「・・・・・・」」」」 シン「俺は一人になっても絶対リインフォースを助けて見せる!あんた達はそこであいつの不運を延々と嘆いてろ!」 誰一人反論する間も無く、シンとデス子は病室から出て行った デス子はマスターに話しかけるべきか、ほっとくべきか迷っていた。 なにせ廊下を突き進むシンは、不機嫌が具現化したように黙りこんでいる。 しかしこのままではいっこうに前に進まない。デス子は意を決して話しかけた。 デス子「あの、マスター?何であそこまで・・・」 シン 「・・・デス子、お前はカルネアデスの船板って知ってるか?」 デス子「カルネアデスの船板・・・ですか?確か・・・」 カルネアデスの船板・・・・船が難破し、ある男が命からがら、一片の板切れにつかまったが、そこへもう一人、同じ板に掴まろうとする者が現れた。しかし、二人も掴まれば板が沈んでしまうと考えたその男は、後から来た者を突き飛ばして、おぼれさせてしまったという例え話だ。 シン「今の状況と似ていると思わないか? デス子、お前ならどちらを助ける?」 はやてを犠牲にすればリインフォースは助かる。リインフォースを犠牲にすればはやてが助かる。つまり、どちらかが救われるためにはどちらかを必ず犠牲にしなければならない。 デス子「そんなの・・・選べるわけないじゃないですか!溺れて大変なら私の翼で両方助けます!」 シンは病院について初めて笑った。デス子の答えはあまりにも幼稚だ。 そう、自分と同じくらいに・・・。 シン 「小学生の解答だな。だけど、それでこそ俺の愛機だ」 デス子「やった~って、それ、褒めてるんですか?けなしてるんですか?」 シン 「もちろん褒めてるぞ。あいつらが出せなかった答えだからな」 デス子「あいつらって・・・。ヴォルケンリッターのことですか?」 さっきのことを思い出し、急にシンの顔が険しくなる。 シン 「・・・・あいつらはリインフォースを助けられないって諦めてた。それが、どうしても許せなかったんだ。」 はやてが倒れたと聞いても、本当は心のどこかで安心していたのかもしれない。 リインフォースを助けようとするのは俺一人じゃない。ヴォルケンリッターや皆もきっと手伝ってくれると・・・。 だが、予想を裏切るヴォルケンリッターの情けない姿に、シンは失望よりも先に怒りがわいてくるのを感じていた。 それを我慢できるほど、シンは大人ではないし、今度ばかりは我慢する気もなかった。 シン「言い過ぎたとは思ってるし、あいつらも色々遭ったんだって知ってる。でも、俺はシグナム達にだけは簡単に諦めてほしくなかったんだ。 だって俺と違って、まだ間に合うかもしれないんだぞ!相手が死んでしまったあとで後悔しても、手遅れなんだ!!」 そういってマユの携帯を握り締めるシンを見て 何故彼が怒っていたのか、ようやくデス子にも理解できた。 デス子「・・・マスターはやっぱり私の最高のマスターです♪」 シン 「なんだそりゃ?」 シン「それよりデス子。真面目な話、俺がこれから言うことは可能か?」 シンは修正プログラムを渡したときから、完成が間に合わなかった場合をずっと考えていた。 はやてがいないなら、防衛プログラムは分離できない。 ならどうやって、分離せずに再生を止めるのか・・・。 考え抜いた挙句、シンの出した答えはデス子の常識を覆すものだった。 デス子「・・・・・マスターも私を笑えないと思います、無茶苦茶にも程がありますよ」 シン 「・・・・・無理・・だったか?」 デス子「絶対に不可能でないのが恐ろしいところですね。かなり低いですが、可能性はあります。危険ですしお勧めはできませんけど・・・」 シンはホッと胸をなでおろした。さっきは守護騎士達にああ言ったものの、このやり方の他には何一つ思いついていない。 これが駄目だったら、方法を考えるとこからやり直しだった・・・。 シン 「できるなら問題ないさ。俺はこれからクロノに会って、もらってこなきゃならない『物』がある。お前は・・・・・」 デス子「わかってますよ。リインフォースさんを探すんですね」 さすが、長い間生死を共にしただけはある。普段はバラバラでも緊急時は息がぴったりだ。 シン 「あいつに勝手に消えてもらっちゃ困るからな、頼むぞ!」 C.E世界にいたときは、ただ目の前の敵を倒しているだけでよかった。 機動六課にいたときだって、ただ皆の手伝いをしているだけでよかった。 だけど、今度は流されるだけじゃ駄目だ。全て自分で考えて行動しなけりゃならない。 一度でも、たった一つでもミスをすれば、恐らく全ては水泡に帰す。 それでも・・・ デス子「マスター! ヘマしないでくださいよ!」 シン 「今の俺は昔の俺とは違うんだ!絶対に二人を『闇の書の呪い』から助けだしてみせる!!」 シンがデス子と別れたころ、ヴォルケンリッターの面々はシンの言葉で自分を取り戻していた。 そこには先程までの絶望感も徒労感もない。 一対一なら敗北は無いと言われた、古代ベルカの守護騎士達が威風堂々と立っていた。 シグナム 「まったく、とんだ醜態をさらしたものだ。新参者のシンに説教をされるとは・・・・」 ヴィータ 「ああ、あそこまでいわれて黙っているわけにはいかねぇ」 ザフィーラ「我々としたことが、主が再び倒れたことで気が動転していたようだな」 シャマル 「はやてちゃんなら、きっとシン君と同じ事を言ったでしょうね」 意識が戻らないはやてに別れを言い、ヴォルケンリッターは病室を後にした。 リインフォースを見捨ててもはやてを助ける考えなど、もはや頭から消えている。 シャマル「私ははやてちゃんを看病しながら指示を出します。シグナムは時空管理局のフェイトちゃん達に協力を仰いでください。 ヴィータちゃんとザフィーラはリインフォースの捜索をお願いします」 シグナム「わかった、行くぞお前たち!ヴォルケンリッターの名誉にかけてもリインフォースと主はやてを救って見せる!」 ヴォルケンズ「「「おう!(はい!)」」」 ヴォルケンリッターが、再び希望を取り戻し行動を開始する。リインフォースのことを諦めていた元の歴史からは、考えられないことだ。 シグナム 「我等、夜天の主の元に集いし守護騎士」 シャマル 「主あるかぎり、我等の魂、ひとつたりともつきることなし」 ザフィーラ。「この身に命があるかぎり、我等は御身と仲間のために」 ヴィータ 「我等が主…夜天の王八神はやての願いのもとに!」 ここでもまた少しずつ、しかし確実に歴史がずれ始めていた。 闇の書の自動防衛プログラム再生まであと『12時間35分』 前ページ次ページなのはクロスの作品集
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前ページ次ページなのはクロスの作品集 十年前 海鳴市病院の一室(シンが消えてから74時間58分後) デス子から聞いた事実はとんでもないものだった。 俺が消える? ミットチルダが崩壊する? 冗談じゃない!俺は彼女たちのおかげで変わることが出来たんだ! こんなことで、かけがえのない仲間たちとの大切な時間を失ってたまるか! デス子「どうするんですか?十年前の隊長達に思いっきり顔を覚えられてるじゃないですか。このままじゃ・・・」 シン「隊長たちもそのへんのことは考えてるはずだ。デス子、何か預かってるものはないのか?」 デス子「あ、スカリエッティさんとシャマルさんからならあります」 シン「この宝石か。ん、手紙がついてるな」 シン・アスカ君 これを使わないときが来ることを願っている。 闇の書のカケラに共鳴したというなら、おそらく君は地球の海鳴市にいるはずだ。 おそらく、そのカケラには消えていった闇の書の『主と共に生きたい』という願いがこめられていたのだろう。 シン「そうか、それで俺はあの時・・・。」 過去の八神部隊長たちと遭遇しても、絶対に記憶に残るようなまねをしてはならない そうなった場合、このまま君を連れ帰っても歴史が君を『存在してはいけないもの』として、消去するかもしれないからだ。 デス子「もう遅いですけどね。でも、かもしれないってことは、このまま帰っても消えない可能性はあるんですね」 シン 「あのな『軍人は常に最悪の状況を想定して行動すること』だって、軍の教官が言ってただろ。」 デス子「私は軍人じゃなくMSですから」 シン 「最近はMSかどうかも怪しくなってきてるがな」 わずかでも帰還できる可能性を上げたいのなら、これを使うといい。闇の書の修正プログラムだ。完成にはあと一ヶ月かかるが、 これを使えばリインフォースを救うことができる。もしも、リインフォースが生きていたのなら、君が闇の書のカケラに感応することはない。 よって、このような事態にはならないし、歴史の修正も少人数の記憶の改ざん程度で済む。 (矛盾が生まれないように、無限書庫で見つけたとでも言っておくこと) シン「無限書庫か、今の俺じゃ入るのも厳しいな」 だが、この方法は実現が難しい。 それに、リインフォースの存在が歴史にどれほどの影響を与えるかは未知数だ。 まあ、君のことだから実行するかどうか聞くまでもないと思うがね。 シン「すごいな、スカリエッティ。唯の電波じゃなかったのか」 デス子「さすがは歴史に名を残すとまでいわれた大天才ですね。」 追伸 私も早く孫の顔が見たいものでね。余計なお世話と思ったのだが、 結婚式の日取りと重婚が可能な次元世界を見つけておいた。なに、何も心配はいらない。籍はもう入れておい…《グシャッ》 シン 「くそ、やっぱりいつものスカリエッティだった!早く戻って叩きのめさねば・・・」 デス子「趣旨変わってますよ。それからマスターが居候するんならわたしはどこに住めばいいんですか!」 シン 「そ、それは・・・」 やばい、すっかり忘れてた。外のはやて達をあんまり待たせるわけにも行かないし、いったいどうしたら・・・。 デス子「ふっふっふっ、マスター。ここはひとつ私に任せてください!」 シン 「そんな恐ろしい事が出来るか!」 デス子「じゃあ、何か思いついたんですか?」 シン 「・・・・・デス子、任せた」 デス子「・・・・・・マスター、情けないです」 十年前 海鳴市はやての家リビング(シンが消えてから78時間33分後) 現在、デス子は、なのはとフェイト、クロノにユーノ、そしてはやてとヴォルケンズに囲まれている。 情けない話だが、俺はその様子を少しはなれた場所で壁にもたれかかって見物していた。 それというのもこのデス子が、俺に自分が説明している間、絶対に口を挟まないでと約束させた上に デス子「ついでだから、一度で話してしまいたいんです。他に伝えておきたい人がいれば呼んでください」 などと言い出したからだ。これで失敗したら三日は昼飯抜きだぞ。 デス子「さて、今から話すことは超極秘事項です。他の誰にも話さないでください」 その場に集まった全員がうなずいたことを確認すると、デス子は再び話し始める。 デス子「実は、私は人間じゃありません。ユニゾンデバイスです」 ちょっと待て!そこからばらすのか?みんな目が点になってるぞ。 デス子「私のロードはシン・アスカ。『裏』時空管理局局員です。」 シン 「はあ?」 勝手に管理局を作り上げるな!なんだよ、その『裏』時空管理局って、。 ユーノ「ま、まさか、彼があの『裏』時空管理局の人間だったなんて・・・」 クロノ「知っているのか、ユーノ!」 いやいやいやいや、そんなもの在りませんから。何を言ってるんですかミナサン。 なのは 「『裏』時空管理局って?」 ユーノ 「僕も噂でしか聞いたことはないんだけど、時空管理局が対応できないほどの事態が起こったとき動き出す闇の管理局があるらし い。」 シグナム「くだらん噂だと思って聞き流していたが、まさか実在したとは…」 ないない。そんなものは過去にも未来にも全く存在しない唯のうわさです! あんた達も簡単に信じるなよ。 デス子 「闇の書が発動したという情報を得て、マスターが一人で向かったのですが交信が途絶えてしまって…。それで私もこっちに来たので す。」 リインⅠ「なるほど、それならあの場所に潜めたのも、シグナム達の連携攻撃を受けて三日の入院ですんだのも、全て説明がつくな。。」 ザフィーラ「今はもう存在しないはずのユニゾンデバイスを従えていることが何よりの証拠か」 当事者置いてけぼりですか、そうですか。って、無理がありすぎるだろ。 俺は隠れながら、身振り手振りでデス子に指示を送った。 シン(もう、そこらへんに、しとけ) ふう、ちゃんと伝わっただろうか デス子(まかせてください、ここからが本番ですよ♪) どうやら伝わったようだな。かなり間違った方向に。 ヴィータ「しかし、おかしくねーか?シンはどう見ても未成年だ。『裏』時空管理局ってーのはそこまで人手不足なのか?」 デス子「良くぞ聞いてくれました!実はマスターは聞くも涙、語るも涙の人生を歩んできたのです。」 デス子、もうそれ以上余計なことを言わないでくれ、と俺は心の中で声が枯れるほど叫んでいた。 ばれたらばれたで、ここには居られない。ばれなかったらばれなかったで、嘘をつき続けることになる。 そうか、これがチェックメイトにはまったという奴か。 もう、好きにしてくれ。 デス子「マスターは幼い頃両親と妹を目の前で殺され、生き残るために『裏』時空管理局に入って、人を殺すための訓練をひたすら受けてきまし た。魔力が全く無いにもかかわらず、訓練学校を優秀な成績で卒業したマスターは『裏』管理局にはいっても大活躍でした。」 あながち間違ってはいないが、何かが決定的に間違っている気がするぞ。 デス子「ところが、戦っていく中でマスターの胸にはむなしさが募っていったのです。親しかった同僚に裏切られ、信頼していた上司を手にか け、最後には家族を殺した男に親友と恋人を殺され、全てを奪われました。戦いに疲れたマスターは『裏』時空管理局を抜けて、時空管 理局に入ろうと考えました。その男に命がけで復讐するよりも、復讐を捨て、人々の幸せを守ることを望んだのです。」 はやて 「うう、私こうゆうの駄目なんよ。涙が止まらへん」 フェイト「そんなの・・悲しすぎる・・・」 なのは 「ひどいよ、なんでシンお兄ちゃんだけがこんな目にあうの?」 ほんと、なんで俺だけがこんな目にあうんだろ(いろんな意味で) 今考えてみれば、俺って本当に不運な人生を歩んでるんだな。 でも、後悔はしていない。もし俺が自分の進んできた道を否定すれば、死んでいった、俺が殺した多くの人の生き様を否定することになるから。 デス子「今回の任務が終われば、晴れて時空管理局に入れるはずでした。『俺は、この力を人々を守るために使いたいんだ』そう言って笑ってい たのに、まさかこんなことになるなんて…。」 デス子のうそ泣きにつられて、みんな泣き出している。 どうやら完全に信じ込んでしまったようだ。まあ、ところどころ事実だったから 完全に嘘というわけじゃないんだけど、騙しているというのはどうも居心地が悪い。 デス子(どうです、マスター?うまくいったでしょう♪) シン (ああ、だけど俺は人として何か大切なものを失った気がするよ) もう手遅れだが、こいつに任せるべきでは無かったとあらためて思う。 俺が一人で自責の念に捕らわれていると、はやてが泣きながら抱きついてきた。 はやて 「シン兄、記憶が戻った後もいつまでもこの家にいていいんやで」 シャマル「ええ、あなたはもう私たちの大事な家族です」 シグナム「色々とすまなかった。私に出来る事があったらなんでも言ってくれ」 ユーノ「僕は、記憶を蘇らせる方法がないか。無限書庫で調べてくるよ」 クロノ「時空管理局に入りたいなら、口利きは任せてくれ」 なのは「私達は皆、シンの兄ちゃんの味方だからね」 シン 「あ、ありがとう」 俺は何もかもぶちまけたい衝動を必死で抑えた。 ここで真実を喋れば、未来にどういう影響が出るかわからない。 心苦しいけどスカリエッティに言われた通り、あと一ヶ月誤魔化しきらないと。 十年前 海鳴市 はやての家 シンの部屋(シンが消えてから78時間53分後) デス子の苦しい言い訳によって辛くも窮地を逃れた後、俺ははやてにあてがわれた部屋で布団に横たわっていた。 シン 「こちらにいられるのはあと一ヶ月か。それまでに片をつけないとな」 オーブにいた頃以来だな、こんなに暖かい空間にいられたのは・・・。 あのあとすぐに軍に入ったし、機動六課は・・・なんというか殺伐としている。 デス子「マスター、本当にリインフォースさんを助けるんですか?こういっては何ですけど、歴史ってあんまり弄ったらまずいんですよね」 シン「確かにそうだろうけど…。それでも俺は、助けられるなら助けたい。」 俺はこちら側へ飛ばされたときのことを思い返していた。 はやて部隊長がデバイスを見詰めていた時の、あの寂しそうな顔はもう見たくない! シン「俺は、それができる力を持っていたんだ。」 はやて「シン兄、ちょっとええか?」 噂をすればご本人の登場か。 しかし、シン兄か。なのはのお兄ちゃんもいいが、はやての呼び方も悪くないな。 シン「ああ、大丈夫だぞ」 部屋に入ってきたはやては少し泣き疲れているようで、いつもの覇気が感じられなかった。 シン 「どうかしたのか、はやて。」 はやて「シン兄、少し話があるんや」 デス子「・・・・・(ばりぼり)」 シン 「・・・・・・・」 はやて「・・・・・・」 デス子「・・・・・(ムシャムシャ)」 シン「デス子、ポテチ食ってないでいい加減席をはずしてくれ」 デス子「は~い(ぱりぽり)」 空気を読めない奴だ。それにあのポテチは一体どこから? あとで厳しく追求する必要がありそうだな。 はやて「その、シン兄に聴きたい事があってきたんや。」 シン 「俺に聴きたい事?」 はやて「リインフォースの事なんやけど、なんであの日、みんなと公園に行ったんか、シン兄は知ってる?」 どきりとした。やっぱり子供だからって、はやてははやてだ。 この勘の鋭さは変わってない。 シン 「いや、俺は海鳴市に来たばかりだったから知らないんだけど・・・。」 はやて「そうやったんか・・・。ごめんな、変なこと言うて」 シン 「何か気になることがあるのか。俺でよかったら相談に乗るぞ?」 はやて「・・・・・・うん、じゃあ聴いてくれる?」 はやては少し考え込んでいたが、決心したように喋り始めた。 リインフォースが防衛プログラムの再生で悩んでいる事、そのせいで自ら消滅しようとしている事、俺が知っていたことも知らないことも全て話してくれた。 はやて「さっきはもしかしたら、私はリインフォースを見張っておくためにシン兄を利用しようとしたんかもしれんて、少し自己嫌悪になっとっ たんや」 シン 「・・・・それで元気がなかったのか」 こうして話を聞いていても、はやてのリインフォースを思う気持ちは痛いほど伝わってくる。 シン「気にするな、俺は気にしてない。まあ、これは俺の親友が言ってたんだけど。 それに俺だってはやての好意を利用してるんだ。へんな言 い方だけどお互い様だよ。」 はやて「そやけど・・・」 シン 「それにリインフォースだって、はやてに黙って消えたりしないさ、お前が認めた大事な家族なんだから、信じてあげような」 俺は隣に座っているはやての頭をやさしくなでた これは嘘だ。はやて部隊長に聞いた話では、リインフォースははやてに何も言わずに消えようとしていた。 だが、例え未来に影響がなかったとしても、真実を告げる勇気は俺には無い。 はやて「うん、私がリインフォースを信じんで誰が信じてやれるんや!シン兄ありがとう、なんか楽になったわ。お礼にお風呂沸しとくから早め に入ってしっかり疲れを取るんやで♪」 シン 「ああ、わかった」 はやてが部屋を出て行ったのを確認して、俺も自分のすべきことをするために動き出した。 さあ、まずは当事者に話を聴いとかないとな 前ページ次ページなのはクロスの作品集
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前ページ次ページなのはクロスの作品集 時間が無いので、事態が沈静化したところからお送りいたします。 ユーノ 「こほんっ、無限書庫の闇の諸関連の本を全て漁ってみたんだけど、残念ながら暴走を止める方法はわからなかったよ」 シグナム「すまない。結局お前の案に頼ることになりそうだ」 シン 「しかたないさ(最初からそれほど期待してなかったからな)」 もしも無限書庫を探したぐらいで方法が見つかったなら、未来の世界でリインフォースは死んではいなかったはずだ。 あんな身近な場所を(仕事においては)切れ者であるリンディ提督が見逃すはずは無い。シンにとっては、念のために確認しておくか、ぐらいの気構えだった。 ザフィーラ「ではシン、そろそろ具体的な方法を聞かせてもらおうか?」 シン 「ああ、用は自動防衛プログラムの再生を遅らせればいいんだろ。なら、話は簡単だ。闇の書の中に入って直接そいつを破壊すればいい」 シャマル「闇の書の中に、って・・・」 全員「「「「え、ええぇぇ~~~~~!!!!!」」」」」 シンの言い出した作戦は、なのは達の度肝を抜き、ヴォルケンリッターを驚愕させた。 自動防衛プログラムがこちら側に呼び出せないなら、自分達で闇の書の中へ乗り込もうというのだ。 一見乱暴な理論に聞こえるが、時間の無い現状ではこれが一番手っ取り早く判りやすい。 なのは「そ、そんなことできるの?」 シン 「闇の書の特性にリンカーコアを持つ生物を『収集』する機能があっただろ。あれを使って内部に入り込む」 ヴォルケンリッターはリンカーコアだけを抜き出すことで、対象を闇の書に直接『収集』することは無かったが、本来は闇の書内部に丸々取り込むことも可能である。前の戦いにおいても、戦闘中にフェイトが闇の書に取り込まれる事態が発生している。 ヴィータ「ちょっと待てよ、シン。そもそもお前にはリンカーコアがねーだろ!」 シン 「ああ、それなんだけどな。どうやら、デス子とユニゾンしたときだけ、リンカーコアが発生するらしいんだ」 これは少なからず、古代ベルカの時代から存在していたヴォルケンリッターに衝撃を与えた。 自分達の薄れかけた記憶をたどってみたが、そんな話は聞いたことが無い。それならば、デス子と名乗る摩訶不思議なユニゾンデバイスは一体なんなのか? シャマル「そんな・・・リンカーコアがない人間が魔法を使えるようになるなんて・・・。(古代ベルカでもそんな技術はなかったはずなのに・・・それ になぜリインフォースとの戦いのことを細部まで知っているの?彼は一体・・・?)」 シャマルはシンに悟られないように、リインフォースにそっと念話で連絡を取る。 シャマル(リインフォース、あなたは彼の素性について何か聞いてないの? ) リインⅠ(いや、話してくれた以上のことは何も・・・。私も今回の事件が終わったら、聞かせてもらおうと思っていた。だが、まだ止めておこ う) ザフィーラ(奴が何者かなど、今はたいした問題ではない。我々は主はやての信じた人間を信じるだけだ) 守護騎士達にはそのやり取りだけで十分だった。 シンが裏表の無い人間なのは、一緒に暮らしていた彼女達が一番よく知っている。 彼が自分から話してくれないのは、それなりの理由があるからだ。あえて言葉に出さなかったが、誰もが心の中で納得していた。 アルフ「というかデス子は本当にユニゾンデバイスだったんだ!?」 デス子「もちろんです! いったいなんだと思ってたんですか! この作戦で汚名返上です! これからは食ってばかりの駄目デバイスなんて言わせませんよ! (そして、ご褒美に翠屋のシュー・ア・ラ・クレムをおなかいっぱい・・・ぐへへっ)」 デス子は誰に言うわけでもなく自身の決意を叫びだしたかと思うと、自身の妄想に浸り始める。先程からしきりにヨダレをぬぐっているから、どうせまた食べ物関係だろう。ちなみに、駄目デバイスの自覚はあったのか、と全員が思ったのは言うまでもない。 シン 「まぁ、こいつはいろいろ規格外だからな。(元人型兵器だし、中に正体不明のロストロギアも入ってるし)」 フェイト「でも、『収集』ではいるってことは『夢の牢獄』に囚われることになるよ。シンお兄ちゃんを信じてないわけじゃないけど・・・あの場 所は・・・・」 それこそ一番の問題だった。取り込んだ生物を無力化するための『夢の牢獄』は、心の傷が深ければ深いほど取り込まれやすくなる。 おまけに今回はタイムリミット付き、なんとか呪縛から逃れても防衛システムが再生すれば本末転倒だ。 シン「心配要らないさ、フェイト。俺の場合は、デス子と分離すればリンカーコアも消滅するし、そうなれば異物として『夢の牢獄』から弾き出 されるはずだ。あとは闇の書の闇を発見して破壊すれば終了だろ」 シンは安心させるために頭を撫でるが、フェイトの不安は消えていないようだ。 確かに不安要素は多い。『夢の牢獄』についてはフェイトだけしか体験しなかったため、あまりに情報が少なすぎる。 しかし、フェイトに涙目で上目遣いをされては、リンカーコアが消滅しても、『夢の牢獄』から出られないかもしれないとはとても言いだせなかった。 シャマル「・・・え、まさか、シン一人だけで闇の書の中に入る気ですか!」 ヴィ-タ「冗談じゃねぇぞ! たった一人で自動防衛プログラムを破壊なんてできるわけねぇだろ! アルカンシェルまで持ち出してようやく倒 した化け物なんだぞ!!」 焦りだすヴィータたちを尻目に、シンは厳重にケースに保管された赤い結晶を取り出した。 素人ならば唯の大きな宝石に見えただろう。だが、ここにいる人間にはソレがどれだけ危険なものか本能で理解できた。 シン 「そこでクロノから借りた(貰った)こいつの出番だ。レリックという名の超高エネルギー結晶体で、こいつを使えば、いくら自動防衛プ ログラムでも粉々に吹き飛ばせる・・・・はずだ」 なのは「でも、そんなすごいものを闇の書の中で爆発させたらリインフォースさんが・・・」 リインⅠ「私なら大丈夫だ。もともと闇の書は強大な魔法を収集するために作られたもの。そのくらいの魔力なら問題ないだろう」 レリックをその程度扱いとは、つくづくとんでもないロストロギアだ。 まあ、街の大半を破壊しておいて、まだ、本格的な暴走が始まってない、などと言い出すのだから始末におえない。 最初に作った人間はおそらく相当の天才だったのだろう。 リインⅠ「それより、シン。聴きたい事があるんだが」 シン 「なんだよ、俺が話せることは大体話したと思うけど・・・」 リインⅠ「主はやてのリンカーコアが元に戻るまで、一年は掛かる。『収集』で内部に入ったとして、お前はどうやって闇の書から出る気 だ?」 なのは 「え、どういうこと!!」 シャマル「なのはちゃんとフェイトちゃんを足したくらいの莫大な魔力を持ってないと、闇の書からの脱出は不可能なのよ。 いえ、例えあったとしても、夜天の書の主であるはやてちゃんのサポートがないことには・・・・」 それこそが、シンが一人で向かうといった本当の理由だった。 確かに皆で行けば生存率、成功率は上がったのだろうが、自動防衛プログラムを倒したとしても、 闇の書から脱出が出来なければ唯の自殺行為にすぎない。 ちなみに、ユニゾンによって魔法が使えるようになっても、シンに生まれる魔力はせいぜいC-。(エリオにもボロ負けしたし・・・) そんな貧弱な魔力では、はやてのサポートなしで闇の書からの脱出は不可能だ。 ヴィータ「まさか、死ぬ気じゃねえだろうな、シン!! だとしたらお前を生かせるわけにはいかなねえぞ!!!」 リインⅠ「私をあれだけ引き止めておいて、今更自分が消えるなどと言い出してみろ。 私はこの身が消えることになっても、全力でお前を止める!」 リインフォースの言葉を皮切りに、シン以外の全員が騎士甲冑やバリアジャケットを装備し、デバイスをシンに向けた。 ヴィータなど、既にカートリッジリロードを済ませている。 シン「し、心配しなくても大丈夫だ。方法はちゃんとあるから、絶対に生きて帰ってくるって!」 ヴォルケンリッター達の殺気立った視線を、シンは目を逸らさずに(冷や汗をかきながら)真っ直ぐ見返した。 あえて言わないがすさまじく怖い。方法が無いなんて言ったら、その場で再起不能になりそうだ。 そう思わせるだけの殺気がシンに向けられていた。 シグナム「・・・・・嘘はついていないようだな、安心したぞ」 そう、脱出の手段はある。だが、それは時間跳躍システムによる十年後への再転移によってだ。 時間を見積もっても、あと一週間はかかるはずだったが、色々調べた結果、 ご都合主義的に、スカリエッティが緊急時の強制再転送システムを組み込んでくれていた。 未練がないとはいえないが、どの道いつかは戻らなければならないんだし、 リインフォースを救って未来に凱旋するのも悪くない。 それと、もう一つ話しておくことがあった。 シン「あ、リインフォース。少し話があるんだけど・・・」 リインⅠ「なんだ?」 シン 「・・・定時までに戻らないようなら、さっき言ってたとおり、俺ごと闇の書を破壊してくれてかまわない」 リインⅠ「・・・お断りだ。弱音を吐くとはお前らしくないぞ?」 シン「ごめん、だけどさすがに今回ばかりは・・・・」 リインⅠ「シン、私もこの計画が成功すると信じている。一緒に八神家に帰る約束、忘れていないだろうな?」 シン「・・・そうだったな。少し弱気になってたみたいだ。(ここまで来て、後戻りはできない。絶対に成功させないと・・・)」 負けられない戦いを前に、シンはあの穏やかだった八神家での生活を取り戻す決意と、自身の全てをかけて戦い抜く覚悟を決めた。 『収集』の準備が整い、装備の最終点検をするシン。 持っていくものはできるだけ少ないほうがいいのだが、相手は精鋭が十人がかりでようやくしとめた化け物だ。 なのは達は今持っている物の中から役に立ちそうなものを選び、シンに手渡した。 ユーノ「これは小型のデバイスみたいなもので、いくつか魔法が登録してあるから魔力をそそげばオートで発現するよ。 まあ、本当はロストロギアなんだけど僕にとってはお守りみたいなものだから。」 シン「でも、そんな大事なもの本当に貰っていいのか?」 なのは『あげるんじゃないよ、貸すんだけだよ。あとで絶対ユーノ君に返してね」 そう言われても返すのは十年後になるのだから、どちらかといえばユーノのほうが忘れていそうだ。 苦笑いを浮かべるシンを見て、なのは達は不思議そうに顔を見合わせた。 ヴォルケンリッターからは魔力カートリッジをあるだけ貰った。 シグナム「我々全員分のマガジンだ。少しは魔力の足しになればいいんだが・・・」 ヴィータ「唯でさえ、キケンな戦いなんだ。装備だけでもしっかり整えておかねぇとな」 シン 「気持ちはありがたいんだが、さすがにこんなには持ってけないだろ!」 シンの目の前には魔力マガジンが山のように積まれている。 冗談ではなく、どこからこんなに集めたのかってくらいにマガジンの山ができているのだ。 シャマル「風呂敷に包めば問題ありませんよ。ほら、こんなに簡単♪」 シン 「ど、どんだけ・・・。じゃなくて、機動力も下がるし6,7個で十分だよ」 懸命に断ってなんとか諦めてもらったが、三人ともあからさまに残念がっていた。 天然の恐ろしさを改めて実感したシンであった フェイト「あの場所は本当に人の心を引き付けるから、何があっても夢だってことを忘れないで必ず帰ってきてね! 確かに夢は心地いいかもしれないけど、終わってしまった過去は変えられないんだから・・・」 シン 「だからそんな心配そうな顔するなって。帰ってきたら、またどこかへ遊びにつれてってやるからな」 フェイト「・・・・・うん、今度は海に行きたい。もちろん二人っきりでね♪」 シン 「・・・・さすがにそれは勘弁してくれ」 誰のものかはわからないが、背中に突き刺さっている幾多の圧迫感が「私も連れてって」と恨みがましく告げていた。 リインⅠ「この前と違って戦いの場は闇の書の中だ。おそらく奴の戦闘力も大幅に上がっているはず…。 例えお前が失敗しても、ここにいる誰もお前を責めはしない」 ザフィーラ「・・・・どんなことがあっても、必ず生きてもどれよ。リインフォースとお前を同時に失えば、あの主でも発狂しかねん。 多少心は強くても、いまだ、九歳の女の子なのだ」 シン「わかってるさ、できるだけ早く帰ってくる」 前に資料として戦闘データを見せてもらったときがあったが、あの化け物は半端じゃない。 四つ重なった物理魔法混合結界に、おそらく主力魔法だろう広域殲滅魔法。そして、幾多の魔導師達を絶望させた、ほぼ無限の自己再生能力。 例えレリックを使うとしても、困難どころかほぼ不可能に近い成功率だ。 (試しに計算してみたが、0が小数点の後ろに6つ並んだ時点で電卓を投げ出した) だが、どんなに希望のない状況でも、リインフォースを救えなければきっと俺は俺が許せなくなる。 大切な人たちを守れずに、何度も何度も後悔と懺悔を繰り返してきた。 それも今日限りだ。俺はリインフォースを救って前に進んでみせる! シャマル「準備は完了しました。いつでも行けますよ」 デス子「行きましょうか、マスター(これで皆さんともお別れですね)」 シン「それじゃ行って来る。(さよならだ、十年後にまた会おうみんな。その時はリインフォースも一緒だ)」 シンとデス子は闇の書の光に消えていった。 どれだけ時間がかかっても、必ず帰ると心に誓って・・・。 君たちに最新情報を公開しよう。 大切な人達を失った運命の日から数年。 シンの前に再び選択のときが迫る! 逃れられない過去、失った絆、そして現われるマユ・・・。 自動防衛プログラムが復活したとき、はたしてリインフォースの願いは彼に届くのか? 次回、GUNDAM PARUMA DESTINY 『夢の牢獄』 君もこのスレで、エクストリームブラスト承認!」 さあ、嘘設定はどれでしょう。 目が覚めると俺は自分のベットに寝転んでいた。おかしい。ユニゾンしていた筈なのに、いつの間にか服も私服に変わっている。 ・・・・・・自分のベット? 身の毛がよだつような感覚に、俺は急いで起き上がると見覚えのある部屋を見回した。 (・・・俺の・・部屋? ・・・だってあの日、俺の家は燃え尽きて・・・・) ここが二階であることなどまるで考えずに、ベランダから外に飛び降りた。 落下の勢いを殺すために回転着地を決めて、服が汚れるのも気にせず上を向く。 庭(そこ)から見上げた光景は、俺にとって信じがたいものだった。(そんな・・・これが俺の望んだ世界・・・) 何年も忘れていた、忘れようとしていたアスカ家が、そこにあるのが当たり前であるかのように悠然と建っていた。 これは・・・本当に夢なのか? いつも家族で過ごしていたリビング、母さんが料理を作りマユがソレを手伝っていた台所、 俺や父さんがよく寝転んでいたソファー。家と共に燃え尽きてしまった懐かしい思い出が次々と俺の中に蘇ってきた。 全てがあの日のままだ。みんなが逝ってしまった、あの時の・・・。 分からなくなってきた。これが・・・夢? 本当は、こちらが現実だったんじゃないのか? オーブは焼かれないで、母さんと父さんとマユとみんな一緒に平和に暮らして アレは全部俺の妄想で・・・本当は戦争なんて最初から・・・。 マユ「お兄ちゃん? 起きたの?」 シン「えっ、マユ? 本当にマユなのか!」 ドアを開けてリビングに入ってきたのは間違いなく死んだはずの俺の妹、マユだった。 通りすがりの女子中学生を見て、何度考えただろう。生きていたら13歳、ちょうどあんな感じだったのかと・・・。 マユ「な~に、お兄ちゃんまだ寝ぼけてるの? もう私の入学式は終わっちゃったよ」 シン「入学・・式? ・・・そうか、もう中学生だったな。制服もよく似合ってるよ」 マユ「ふふっ、ありがと?」 ああ、そういえば、今日は入学式だったな。 ずいぶん背も伸びたな、もう母さんと並ぶくらいにまで成長してる。もっとも俺や父さんに比べれば、まだまだだけどな。 マユ「朝ごはんは食べたの? 買い物に行ったお父さんもお母さんもカンカンだったよ?」 シン「あ、ああ、そうなのか? 入学式に行けなくて悪かったな、マユ」 マユがここに居る。一緒に喋って、一緒に笑って、もう一度同じ時間を過ごせる。 そう考えると今までくだらないことを考えていた自分が馬鹿みたいに思えた。何を馬鹿なことを考えてたんだ。俺の居場所はここ以外にないだろ。子供じゃあるまいし、魔法なんてあるはずがない。あれは夢だったんだ。 ははは、馬鹿みたいだな、まったく、この年になってまるでゲームみたいな夢を・・・。 マユ「もう! 近所のステラお姉ちゃんとレイお兄ちゃんも来てくれたのに、お兄ちゃんだけは全然起きないんだもん」 シン「・・・・・あ」 その一言が、俺の中の何かを粉々に打ち砕いた。 俺が守れなかったせいで死んでいった二人が、オーブに居るはずがない。心に焼きついた凄惨な記憶が、俺に何もかも思い出させた。 マユ「さ、皆のところへ行こう? みんなお兄ちゃんを待ってるんだよ」 俺はマユが伸ばしてくれた手を、乱暴に振り払った。 そうでもしないと飲み込まれそうだった。何も考えず、何の不安もなく夢を見ていられた・・この懐かしい幸福に・・・。 マユ「お兄ちゃん?」 シン「・・・・・・やめよう、マユ。俺がマユに会っていいのは思い出の中だけなんだ」 マユ「・・・・・お兄ちゃん、どうしてそんな悲しいこと言うの?」 シン「マユ達と一緒にそっちにいけば、俺は俺を待ってる守りたい人達を守れなくなる!それに、俺はそっちに行っちゃいけない!行っていいは ずがないんだ!!」 今でも夢に見る、マユや父さん母さんが死んだときのことを。 ステラが殺されたときの、レイが死んだときの、悪夢のような光景が頭から離れない。 そして、多くの命を奪ってきた自責の念は、俺が幸福に浸ることを絶対に許さなかった。 シン「命令に従って、多くの人の未来や幸せを奪ってきた。殺して、殺して、俺みたいに家族を失った人間をたくさん増やしてきた。 そんな俺が、みんなと同じところへ行けるわけが無い!」 マユ「・・・・せ、戦争をしたならみんなそうだったはずだよ! お兄ちゃんだけが悪いわけじゃないよ!!!」 シン「俺は多くの人を不幸にしておきながら、何の罰も受けてない。それどころか、俺は今誰よりも幸せなんだよ! そんなことが、そんな不公平が許されていいはずが無いだろ!」 マユ「・・・・・そんな」 シン「俺は戻って守らなくちゃならないんだ、帰って救わなくちゃならないんだ。そうして、犯した罪を償わなくちゃならなくちゃいけないん だ!そうじゃないと・・・俺は、俺はぁぁ!」 罪の意識に心が折れそうになる。頭がぐちゃぐちゃになって、もう何も考えられなかった。救えなかった。守れなかった。助けられなかった。 俺がもっと強かったら・・・。誰にも負けないくらい強かったら、この夢と同じ世界に居られたはずだ。 だからもう負けられない! 失えない! そのためにはどんなことをしてでも・・・。 マユ「もうやめて! お兄ちゃん。もういい、もういいよ」 シン「そんなわけが・・・・」 マユは俺に抱きついて、錯乱した俺を必死に止めようとしてくれる。突き放そうとした俺の腕は、マユの涙を前にあっけなく力を失った。 ああ、また大切な人を泣かせてしまった。俺はいつまでこんなことを続ければいい。 もう耐え切れなかった。人のやさしさが苦しい。誰かの温もりすら寂しい。そんな矛盾に何年苦しんできた? あと何回失って、あと何回大事な人を泣かせれば、俺は安息を得られるんだ・・・。 シン「ごめん、マユ。僕は・・・マユを・・・皆を・・・うああぁあぁぁああぁ」 マユ「大丈夫、もう苦しまなくていいよ。私達はここで幸せに暮らしてる。だから、泣かないで・・・・やさしいお兄ちゃん」 俺はマユを抱きしめていた手を離すと、マユと一緒にソファーに座った。 子供のころは二人で座っても隙間だらけだったのに、今ではぎゅうぎゅう詰めなのが、時の流れを思い出させて・・・なぜだか少し寂しかった。 シン「・・・・俺はやっぱり馬鹿だ。マユやステラを守れなかったから、替わりにリインフォースを救えば許されるかもしれないって、心のどこかで 考えてた。俺は許して欲しかったんだ。戦争だから仕方がないといって殺した人たち、守るといいながら見殺しにした大切な人々、そし て、目の前で死んでいったマユや父さん達に・・・・」 マユ「誰もお兄ちゃんのことは恨んでない。だから安心して、もうお兄ちゃんが苦しむ必要なんかないんだよ。一緒に向こうへ行こう。そうすれ ばそんな苦しみすぐに忘れるよ」 シン「・・・・そうかもしれないな。・・・俺も・・疲れた・・・・」 それができたら、この幸福な世界で一生を過ごせたら、俺はきっと最高に幸せだろう。 もう戦って大切なものを失うこともない。誰もが幸せで誰も傷つかない。たとえ夢でも、それは俺が叶えたかった一番の望みだったはずだ。 でも、約束したから・・・・。 なのは「あげるんじゃないよ、貸すんだけだよ。あとで絶対ユーノ君に返してね」 フェイト「・・・・・うん、今度は海に行きたい。もちろん二人っきりでね♪」 はやて「家族は信じあうもんやで、シン兄」 リインⅠ「シン、私もこの計画が成功すると信じている。一緒に八神家に帰る約束を忘れたのか?」 シン 「わかってるさ、できるだけ早く帰ってくる」 自分の心の内を明かして何もかも吐き出したおかげで、俺はようやくわかった。俺が望んでいたのが本当は何だったのか。 そして、いま何をすべきなのか。 シン「・・・・俺は、もう行かないと・・・・」 マユ「そんな・・・いや!絶対に行かせない!」 俺を必死で止めようとするマユを見て、心がずきりと痛む。 それでも、俺を待ってくれている人達のためにも、ここに留まることはできない。 シン「マユ、わがままを言うんじゃない。・・・・時間がないんだ」 マユ「どうして!? 戻ったらきっとまた苦しむことになるよ。お兄ちゃんは私達と一緒にいたくないの? ここには何でも有るんだよ。お兄 ちゃんが守れなかった物だって、おにいちゃんが欲しかった物だって!」 シン「・・・・」 マユ「望めばなんでも手に入るんだよ。それなのにどうして・・・」 シン「俺はここに来ても構わない。むしろあれだけ酷いことをしたのに、みんなといられるなら喜んでここに残る。でも、あいつはまだここに来 るべきじゃないんだ。俺の勝手な理屈でリインフォースまで死なせるわけにはいかないだろ?」 マユ「・・・・自分のことより皆のことを先に考える性格、変わってないねお兄ちゃんは」 マユは掴んでいた俺の手を自分の両手でそっと包み込んだ。 マユ「・・・・・悔しいけど、お兄ちゃんにとって私達はもう過去なんだね」 シン「・・・そうだ、過去は消せない。だからこそ、唯の自己満足でもいいから、新しい仲間を守って、一緒に未来を作らなくちゃいけないんだ。 それが、俺の贖罪だから・・・」 マユ「少し寂しいけどしかたないよね、私達は死んじゃったんだから」 シン「ごめんな、マユ。これが俺の選んだ道なんだ。たとえ夢でも、もう一度話せて嬉しかった」 マユ「お兄ちゃん、私も嬉しかったよ。でも・・・」 シン「・・・そんな寂しそうな顔するなよ。そうだ、いい事考えたぞ!」 マユ「えっ?」 シン「何十年先かわからないけど、いつか俺の代わりに俺の仲間がそっちへ行くと思う。みんな優しいから、マユもきっと友達になれる。それな ら俺がいなくても寂しくないだろ。マユは強い子だから」 そこに俺はいちゃいけない。たとえ許されても、この血塗られた手でマユの頭は撫でられない。 この返り血を浴びた体じゃ、目立ちすぎてみんなと遊びに行くのも無理だ。 だけど、みんながマユと同じところへいけるなら、俺は・・・どんな敵とだって、戦ってやるさ。 シン「さあ、もういかないときっとみんなも心配してるぞ」 マユ「・・・うん、わかった。でも、何年かかってもいいから、お兄ちゃんもいつかきっと来てね。また、昔みたいに色んなことして遊ぼうよ。今 度はおにいちゃんの友達も一緒に♪」 シン「・・・・・・ああ、約束だマユ」 マユ「うん、約束だよお兄ちゃん」 その言葉を最後に、マユの体が輝き始めて、あっという間に消えていった。 輝きを放ちながら消えていくマユはとても綺麗で、とても可憐で、大げさかもしれないけど俺には天使のように思えた。 シン「何度も約束を破り続けてごめん。俺は最後まで悪いお兄ちゃんだったな。でも、俺は俺の全てを失ってでも、皆を守りとおすって決めたん だ。だから、さよなら、マユ。」 風に懐かしい塩のにおいが混ざっている。 シンが目を開けると、夕焼けに照らされた慰霊碑の前に立っていた。 色とりどりの花も今は茜色一色に染まっている。周りには誰もいない。波の音だけが静かに、そして延々とながれていた。 シン 「デス子、いるんだろ。いや、最初から居たはずだ」 デス子「・・・はい、あなたの傍でずっと見ていました」 たとえ服が変わっても、ユニゾンをとかない限り、俺達が離れることはない。 だったら、答えは一つだ。こいつはわざといない振りをしていた。 シン 「なんで黙って見ていた? たとえ見かけが変わっても、一声かければお前が居るとすぐに気付いたはずだ。 俺があのまま夢に飲まれたらどうするつもりだったんだ?」 デス子「マスターが夢の中に留まるなら、それでもいいと思っただけです。あれも一つの幸福の形ですから・・・」 永遠に夢を見続けることが幸福、か・・・そうかもしれないな。間違っている、「そんな幸福は偽者だ!」なんて言えるのは、 正義という言葉に踊らされた偽善者か、自分が幸せである事に気づいてない愚か者だけだ。 どん底に落ちた人間はそれがどんな幸福でも掴みたがる。そこには本物と偽者の境界線などありはしない。 俺がそうだったから、よくわかる。 シン 「一つだけ聴きたい事があるんだ。俺は・・・・マユが消えるとき笑っていられたか? ・・・それとも悲しい顔をしていたのか?」 デス子「・・・・終始・・・笑っていました。ご立派でした、マスター」 シン 「・・・・・・・・そうか、やっぱりお前は嘘が下手だな、デスティニー」 デス子「・・・私は、マスターの愛機ですから」 シン 「・・・情けない所を見せたな」 です子「いいんですよ(そんなところも含めて、私はマスターが大好きなんですから)」 シン 「・・・・ありがとう。そろそろ、行こうか。思ったより時間がかかったみたいだ」 住み慣れた家が崩壊していく。 俺の望んだ夢が消えていく。 残ったのは何もない闇と・・・目の前に立ち塞がる馬鹿でかい化け物だ。 シン「あれが、闇の書の闇。再生機能によって無限再生する化け物か。再生はほとんど終わってるな」 デス子「行きますよ、マスター。もう一度ユニゾンです!」 シン「感謝してるよ。たとえ夢だとしても、お前のおかげでもう一度マユと話せた。 その礼だ!今日この場所で、破壊しかできないお前の運命を俺が終わらせてやる!」 再び輝きを取り戻した赤い翼が深遠の闇に舞い上がる。 シンの魔法を使った初めての実戦が、今始まろうとしていた。 前ページ次ページなのはクロスの作品集