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179 WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. 「......」 キング・ブラッドレイは考える。 南方で起きた大規模な爆発の音。 彼がそれを聞きつけたのは、御坂美琴が眠りについてから程なくしてのことだった。 彼が悩んでいるのは、これからの方針について。 あの爆発音のもとへ向かうか、それともこのまま目的の地、アインクラッドへと進むか。 そもそもアインクラッドを目的地としているのは何故だ。 それはヒースクリフも目指しているかもしれないという可能性を託しているだけだ。 しかし、このゲームが始まってから一日が経とうとしている。 彼が会場全体を動き回っているとしたら、既に訪れ去っている可能性も低くは無い。 つまり、アインクラッドとやらに行っても、ヒースクリフに会える保証はないわけだ。 それに対してあの爆発音。 流石に、あれほどの爆発をまともに受けていれば生きてはいまいが、あれが起きたということは、少なくともあそこに何者かがいたということだ。 生存者がいなくとも、あの爆発に惹かれる者もいるだろう。 状況を把握しようとする者。 無謀にも被害者たちの生存を願う者。 戦闘を望み、脚を運ぶ者。 ヒースクリフではなくとも、参加者に遭える可能性は前者より高い。 「ふむ...」 と、なるとだ。 このままアインクラッドに向かうよりは、あちらに向かった方が益はある。 (そうなると、彼女を連れていくべきではなさそうだ) 回復結晶とやらで怪我は回復させたものの、疲れて眠っているところを見ると、全てが元通りという訳ではなさそうだ。 そんな彼女を戦場へ連れて行き、なにか妙な失態を冒そうものなら目も当てられない。 デイバックに入れて向かってもいいが、彼女を庇いながら戦うのは少々面倒だ。 ならば、ここに残し、体力の回復に専念させた方がいい。 もしかしたら、なにものかが襲撃してくる可能性もあるが、その時はその時だ。 それで命を落とすようなら、自分の同盟相手には不釣り合いだっただけの話だ。 念のため、『一旦南へ向かう』とだけ書置きを遺して、御坂をイェーガーズ本部の一室へと放置。 キング・ブラッドレイは疾風のごとく爆心地へとその足をすすめた。 同行者の体力の回復。襲われた時の責任はとらない。 この二つが既に矛盾しており、その矛盾から御坂美琴との不和を生む可能性は充分に高い。 彼は、そのことに気が付いているのだろうか。きっと気が付いている。 それを承知だからこそ――― 【D-4/イェーガーズ本部/一日目/夜中】 【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】 [状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟 睡眠 [装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、回復結晶@ソードアート・オンライン(3時間使用不可)、能力体結晶@とある科学の超電磁砲 [道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊 [思考] 基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。 1:橋を渡りキング・ブラッドレイと共にアインクラッドに向かう。 2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。 3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。 4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。 5:殺しに慣れたい。 [備考] ※参戦時期は不明。 ※槙島の姿に気付いたかは不明。 ※ブラッドレイと休戦を結びました。 ※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。 ※マハジオダインの雷撃を確認しました。 次なる戦場を求めて歩き出したエスデス。 しかし、ふと別の考えがよぎり、その足を止める。 「...あれほどの爆発、力に自信のある者なら放っておかないだろうな」 あの爆発は周囲に響き渡っている。 必ずやなにかしらの理由で惹かれる者はいるはずだ。 状況を把握しようとする者。 無謀にも被害者たちの生存を願う者。 戦闘を望み、脚を運ぶ者。 ただの一般人が脚を運ぶのはまずないが、少なくともそれなりに腕に自信があれば訪れるはずだ。 それに、戦いの連続でそろそろ小腹が空いてきたところだ。 少々疲れた身体を癒すのも兼ねてここで待ってみるのも一興だ。 地に腰を落ち着け、ごそごそとデイパックから取り出したのは、巨大な魚の丸焼き。 『アヴドゥル。お前の支給品に魚介類の詰め合わせがあったな。小腹が空いたからひとつ焼いてくれ』 『...私の炎はそのためにあるわけじゃないんだがな』 能力研究所へ向かう道中、そんな会話をしながらアヴドゥルに焼かせた魚だ。 それを食す前に研究所から立ち昇る煙を見つけたために食べる機会がなかったのだ。 焼き魚に、自らが破壊した駅員室の破片を付きさし串替わりにして、腹に被りつく。 うむ、美味い。 流石に冷めてしまっているが、この食べやすさは中まで火が通っていた証拠だ。 咄嗟の注文でも、極めて冷静に、丁寧に炎の威力を扱える男だ。 彼の本気を見れなかったのは悔いが残るし、改めて惜しいと思える人材だ。 尤も、部下ですらない男の死をいつまでも引きずる彼女ではないが。 ...己の半身が焼かれた直後に焼き魚を平気で喰えるような人間は、会場広しといえども彼女くらいだろう。 (しかし、こいつは存外便利なものだ) 焼き魚を頬張りながら、目の前に横たわらせたまどかとほむらの死体を見ながら思う。 ロイ・マスタング。 彼が自分をここまで追いつめ、いや、そもそも仮にもセリューの上官である自分を殺すと決意したのはこの死体の影響が大きい。 これが無ければ、おそらく彼は中々殺す決意をしなかっただろうし、したとしても中途半端な覚悟で終わっていた可能性も高い。 この死体を卯月が作ったと知ったからこそ、彼は卯月諸共エスデスを殺す決意に踏み出した。 そのため、どうせならもっと有効活用できないかと思い、あらかじめ回収しておいたのだ。 (怒りとは視野を狭めやすいものだが、時には大きな力となる。奴はそのことを改めて教えてくれたからな) 感情は時に戦局を覆す大きな力となる。 あれを見て感情を滾らせるような者とは、是非戦ってみたいものだ。 例えば、美樹さやか。 まどかからは、正義感が強く感情的になりやすい魔法少女だと聞いている。 あの死体を見せれば戦わない理由はないだろう。 例えば、佐倉杏子。 彼女とはDIOと戦う前に交戦したが、あの時はグランシャリオを使わせているにも関わらず、呆気なく勝負がついてしまった。 あれの相性に適合していないこともあったのだろうが、ウェイブ以上に精神に乱れがあったせいだろう。 そのウェイブも、覚悟を決めれば完成された強さの限界を超えてみせた。 ならば、ウェイブやマスタング同様、直情型に思えた彼女もまた、死体を見せて怒らせればもっと楽しめるかもしれない。 例えば、エドワード・エルリック。 彼とまどかたちは直接の面識はない。 しかし、前川みくの首を切断したことだけでも怒っていた男だ。 マスタングが死んだことも併せて教えてやればそれはそれは烈火のごとく噛みついてくることだろう。 「おっと。エドワードには一応首輪の解除を頼んでいたのだったな」 まあ、敵対するぶんにはなにも問題はない。 そのぶんお楽しみが増えるだけだ。 「さて。誰が最初にやって来るか...」 氷の女王は、己の空腹を満たしつつ訪れるであろう来客を待つ。 数刻後、完食した魚の骨が地面に捨てられるのと同時に、南方から電車が一台やってくる。 電車が半壊した駅に停まると、乗客がその姿を現した。 「ようやく来たか。さて、お前は私を愉しませてくれるのか?」 「あなたの愉しみなど知りませんが...その命、有意義に使わせていただきます」 ☆ ヒースクリフ―――茅場晶彦は考える。 (承太郎、ジョセフ・ジョースターは脱落し、ゲームに乗っているであろう者はほとんど呼ばれていない) コンサートホールで合流した面子は既に半分となり、友好的な関係を作れていたジョセフもまた死んだ。 モハメド・アヴドゥル、空条承太郎、鹿目まどか、暁美ほむら、ジョセフ・ジョースター... 思えば、エスデスと敵対はしなかった面子はことごとく死に至っている。 エドワードはどうなっているがわからないが、足立も足立で後藤を押し付けられるなど散々な目に遭っているらしい。 まるで死神だな、と思うのと同時に、そんな中でもこうして五体満足でいられる自分は幸運だな、となんとなく思う。 (とはいえ、銀に繋がる有益な情報はまだ得ていない。黒くんが見つけていれば話は早いが...) 地獄門で黒にはカジノ方面を探索するように伝えてある。 銀がそちらにいれば何の問題もないが、万が一南西方面にいた場合は厄介だ。 銀は盲目で、一人ではなんの戦闘力も有していないときく。 おそらくは腕の立つ者が同行しているのだろうが、もしもその保護者が籠城を決め込んだ場合、銀を確保するのが非常に困難になってしまう。 それに、合流が遅れれば遅れるほど、銀を失うリスクは高まってしまう。 (少し予定を早めるか) もともと、銀を確保してから南西を見て周る予定ではあった。 しかし、先程例を挙げたように、南西付近にいた場合非常に厄介なことになる。 ならば、銀は黒や学園にいる者たちと出会えていることに期待して、南西側を先に調査しよう。 それに、自分は南東側は黒やアカメたち、北西側はまどかや承太郎、北東側はこの目で情報を得ているが、南西に関してはほとんど情報を手に入れていない。 云わば魔境のようなものだ。 RPGでも、魔境には重大なイベントが隠されているのはお約束だ。向かう価値は充分にあるだろう。 「尤も、ゲームの筋書き通りとはいかないだろうがね。さて、この選択がどう出るか」 ☆ 魏が電車にて北上している最中のこと。 突如、大規模な爆発の音が鳴り響き、同時に電車が一時停止した。 どうやら、爆発の影響で線路に異常がないかを確認しているようだ。 魏は考える。 放送で聞いた首輪交換機について。 報酬が得られなかった首輪とは、十中八九自分のものだ。 電車から降りて取りに戻るのも悪くはないが... (たしか、あの首輪はランク1。入れ直したところで大したものは貰えないでしょうね) それに、首輪は自分が生存している間はずっと保管しているらしい。ならばそう焦ることもあるまい。 と、なればこのまま北上するのが賢い選択だろう。 あの爆発を受けて生きている者はそういない。 生きていても、満身創痍なのは確実だ。 電車の中で、支給品にあったうんまい棒なる菓子やパンを食しつつ身体を休める魏。 あまり腹は膨れなかったが、何も食べないよりはマシだ。 それからしばらくして。 線路に異常なし、と判断した電車は再び北へと向かう。 やがて、辿りついた先にいたのは、一人の女。 魏が今までに見てきた女性の中でもかなりの美貌といえるが、左半身には、全体を覆う火傷の痕が痛々しいほどに刻み込まれている。 自分も人のことを言えないが、と思いつつ、黒の死神に刻まれた火傷の痕をなぞる。 そして、気付く。彼女の足元に転がる見覚えのある半分の顔に。 「ひとつ聞いておきましょうか。"ソレ"はあなたがやったのですか?」 「ん、ああ、こいつか」 エスデスは、地面に寝かしていた死体を掴み、持ち上げる。 「そういえば、おまえはこいつを襲っていたな」 「...?」 「お前は知らないだろうが、私もあのコンサートホールにいたのだよ」 「そうですか」 「それで、だ」 エスデスは、"まどか"側の頬をつまみ、軽く引っ張ってみせる。 「私がお前が殺そうとした"こいつ"をこうしたとして―――お前はどうするんだ?」 まどかは魏が狩りそびれた獲物だ。 そんな獲物を横取りされて頭にこない狩人はいないだろう。 「別にどうも思いませんよ」 だが、契約者は合理的だ。 魏がまどかを襲ったのはあくまでも優勝への第一歩に過ぎず、その過程の戦闘になど想いを馳せることもなければ、逃がした標的を横取りされようが思うところなどない。 「なんだつまらん」 「ただ」 だが、魏はまどかに借りがある。 見事に一杯食わされ、あまつさえ肩に傷を負わされるという屈辱が。 そして、その屈辱を晴らしたかったと思うのは、契約者としてではなく魏志軍という一人の人間の意思だ。 「彼女には借りがある。彼女に返せなかったぶんは、同行者であったあなたに清算してもらうことにしましょう」 「八つ当たりというやつか。それも悪くない」 静かに笑みを浮かべる魏と、戦いへの期待を膨らませ、凶悪な笑みを浮かべるエスデス。 両者が互いに手をかざすのと同時。 水流と氷がぶつかり合い、戦いは始まる。 「懐かしいな、その帝具」 「あなたもこれを知っているのですか...まったく、それほどまでに有名な道具なのでしょうかね」 「それは元々私が部下に与えたものでな。お前がどれほど使いこなせるか、見せてもらおう」 魏が操るのは、駅員室の地下を走っていた水道の水。 地面から溢れだす水流がうねり蛇の如くエスデスへと襲い掛かるが、エスデスはそれに氷をぶつけて防御。 角度や方向、形を変えながら攻撃するも、それらは容易く氷の壁で防がれてしまう。 「ほう、中々使いこなしているようじゃないか。それで?まさか私をこのまま倒せるとでも思っているのか?」 「さて。それはどうでしょうか、ね!」 水流をエスデスの正面から襲わせ、エスデスもまた氷の塊をぶつけてそれに対応する。 「防ぎ続けるのは私の性に合っていない。このまま攻めさせてもらうぞ」 ぶつけた氷塊は、たちまち水流を凍りつかせ、あっという間に氷塊と水流の絡み合った氷の彫像が出来上がる。 氷とはもともと水を凍てつかせて形成されるもの。 デモンズエキス、いやエスデスの常識外れな力があれば、一瞬で水を凍りつかせるなど容易いこと。 液体を操るブラックマリンと全てを凍らせるデモンズエキスはこれ以上なく相性が悪かった。 「むっ」 しかし、その事実に魏は驚かない。 エスデスが氷を操ると解った時から、魏の狙いは接近戦へと変わっている。 如何に強大な力を持っていようとも、あれほどの水流を凍らせれば次に氷を作るのには時間がかかるはず。 そう判断した魏は、水流を放つと同時にナイフで己の手首を斬りつけつつエスデスへの距離を詰めていた。 振るわれる右腕と共に飛来する血液。 それはエスデスの眼前にまで迫り 「大味な技を囮に必殺の技を隠す。中々面白いが、相手が悪かったな」 身体に付着することなく、突如現れた氷の膜に防がれた。 魏の考えは決して間違ってはいない。 能力を派手に使えば、休む間もなしに能力を発動することは困難。それは、エスデスにも当てはまることだ。 だが、彼女のそのインターバルは極端に短い。ほんのわずかにタイムラグがあるだけで、僅かな力なら発動することが出来る。 魏は舌打ちをしながら指を弾き、氷の膜を破壊する。 「血が付着した部分を消し飛ばすことができる...なるほど、聞いた通りの力だ」 エスデスは氷で作った急繕いの剣を振るい、魏はそれを左手に持つアーミーナイフで迎え撃つ。 しかし、いつまでも密着して凍らされては敵わないので、すぐに距離をとると共に腕を振るい血を放つ。 「確かに強力だが、弱点が多すぎる。ひとつ」 飛ばされる血を氷の剣を振るい付着させる。魏は指を鳴らすが、破壊されるのは氷の剣だけ。 「こうやって人体以外のものを割り込ませてしまえば、それだけでほぼ無力化されてしまう。ふたつ」 エスデスは巨大な氷柱を魏に放ち、魏はそれに血を飛ばし、指を鳴らして破壊する。 その隙をつき、エスデスは魏への距離を一気に詰める。 先程魏がやったのと同じく、大味な技を囮に接近戦へと持ち込む腹積もりだ。 魏は再び腕を振るおうとするが―――間に合わない。 氷のグローブを纏ったエスデスの拳のラッシュがそれを許さない。 ラッシュの速さでは会場の中でもトップと言えるDIOの『世界』と曲がりなりにも殴りあえたのだ。 その威力と速さを捌きつつ反撃するのは至難の業だろう。 「血を飛ばそうというのなら、どうしても大ぶりな動きになってしまう...そのため、動きを制限されては反撃が難しい。私は流れる血にさえ気をつけていればいいのだからな。そして三つ目」 ついには反応しきれなくなったエスデスの拳が、魏の胸板を捉える。 以前受けたスタープラチナ、程とはいえないが、その重い拳を受けて魏は後方へと吹き飛ばされる。 「斬撃ならいざ知らず、打撃では血をばら撒けないためこうして遠慮なく攻撃ができる。どうだ、私の拳も中々のものだろう」 胸部に受けた痛みにより、魏は一瞬だが息を詰まらせる。 そんなことをお構いなしにエスデスは再び魏へと肉迫するが 「!」 エスデスの足元の地面が盛り上がったかと思えば、水流が踊り狂い、そのままエスデスをのみこみ、姿さえ見えなくなってしまう。 やったか、などとは思えない。 これはあくまでも牽制程度にしか考えておらず、少しだけ時間を稼ぐための苦肉の策だ。 いつ全てが凍りつき再び相対してもいいように、目は離さない。 「なにっ!?」 が、しかし、確かに時間は稼げたが、彼女の行動は予想を超えていた。 水流の全てを凍らせるのではなく、一部だけを凍りつかせ小さなトンネルを形成。 これでは、僅かな時間しか持ちこたえられないが、彼女の身体能力ならそれだけでも充分。 一直線に駆けだした彼女は、あっという間に魏との距離を詰め、その手に持つ巨大な氷のハンマーで魏を殴りつける。 魏は咄嗟に防御の耐性をとるものの、耐え切ることはできずに吹き飛ばされ、囮に使った水流の成れの果てにぶつけられた。 そして、間髪をいれずに投擲される氷の槍は、魏の左肩を貫きその場に固定させる。 「ぐあああっ!」 「悪くない悲鳴だ。...よし」 エスデスは、魏から一定の距離をとり氷の弾丸を宙に浮かせる。 「戦いもいいが、そろそろ単純に苦痛の悲鳴も聞きたかったところだ...さあ、愉しませてもらおうぞ」 エスデスは戦闘狂であるのと同時に拷問マニアである。 人体のどこをつけば苦痛を最大限に与えられるか、ぎりぎり死なないラインはどこなのか。 拷問による悲鳴を聞き愉悦を抱くためだけに、彼女は拷問について熱心に勉強している。 この会場に来てからは戦闘は存分に楽しんだが、拷問はほとんど手を付けていない。 そろそろ拷問欲求を満たしたいところだ。 できれば足立あたりがよかったが、まあ仕方ない。 それでは拷問を開始しよう。 「...さきほどあなたに指摘された弱点ですがね。私もここに連れてこられてから痛感していたのですよ」 ぼそぼそと、氷塊に縫い付けられた魏は語る。 「恥ずかしながらその弱点を突かれて逃走を喫したことすらある。とはいえ、これもまた対価であるためおいそれと変わることはできない」 よく聞き取れないが、諦めたのかと思い、氷の散弾の第一投を放つため、右手を挙げる。 そして、気が付く。 魏の目はまだ死んでいない。 「けれど、そんな能力でも工夫はできる―――例えばこんなふうに」 パチン、と音が鳴り響き。 「ッ!?」 同時に、エスデスの爪先に痛みが走る。 エスデスは視線を逸らし、確認する。 削られていた。 エスデスの爪先が、消え去っていたのだ。 エスデスが僅かに怯んだ隙を見逃さず、魏は懐から球状のものを取り出し投げつける。 (なんだこれは) 見覚えのないそれに、かつて噂で聞いたことのある帝具を思い浮かべる。 帝具『快投乱麻ダイリーガー』6つの球の帝具であり、そのひとつひとつに属性が付与されており、投げると効果が発動するというものらしい。 それでなくとも、この戦況で使うのなら有効打となるものだろう。 そう判断したエスデスは、飛来するそれを凍らせ 「ただのビリヤードの球ですよ。尤も、少々細工を施してありますが」 ようとするがしかし、球は突如軌道を変化させ、エスデスの技から逃れる。 更にその球から細い水流が飛び出し、エスデスの右肩に付着する。 そして。 ―――パチン 指が鳴ると同時に、エスデスの肩の一部が吹き飛ばされる。 その隙をつき、魏は右手首から流れる血を氷の槍に擦りつけ、指を鳴らし破壊。 拘束から逃れることに成功する。 「随分と小さいですが、まあ、一撃は一撃です」 魏が球に仕込んでいたのは、己の血液を溶かし合わせた少量の水。 カジノにて眠りにつく前、球に穴を開け、その水を入れて蓋をしておいた。 中にある水を、ブラックマリンで操作することによって、魏は変幻自在の魔球を投げることが出来たのだ。 そして、エスデスの爪先を吹き飛ばしたタネは至って簡単だ。 エスデスが水流の相手をしている際に、魏は右手首の血を地面に流していた。その地面を消し飛ばす際に、エスデスの爪先も巻き込まれただけのこと。 派手に水流を操っていたのも、全てはこの設置型の罠の目くらましである。 (だが、運が悪い...もう少し踏み込んでいれば片足は奪えただろうものを) 「面白い戦い方をする奴だ。そういうのも悪くない」 「あなたに褒められても嬉しくはないですね」 魏は思う。 これだけやっておいて、比較的余裕があった自分が半死人の筈のあの女に与えた傷は微々たるものだ。 相性の問題もあるが、やはりあの女の力は底知れない。 このままでは負ける。かといって、逃走手段も限られている。 さて、どうするか。そんなことを考えていた折だ。 「随分と派手にやっていると思えば、あなたでしたかエスデス」 「中々面白いことをしている。どれ、この老兵も混ぜてはくれんかね」 この逆境を覆す転機が訪れたのは。 ☆ (さて、どうしたものか) 西へ向かう道中、大規模な爆発音が響いたかと思えば、こんどは荒れ狂う水流と氷塊がぶつかり合う超常現象合戦だ。 何者かがいるに違いないと判断して脚を運んでみたが、状況は最悪といえる。 多くの参加者と敵対し、イェーガーズもまた壊滅したために孤立しつつもその圧倒的力を誇るエスデス。 自分とほとんど同じタイミングで辿りついたとみえる眼帯の男―――能力研究所で出会った喋るステッキの情報が正しければ、殺し合いに乗っているキング・ブラッドレイで間違いないだろう。 もう一人ゲームに乗っている参加者もいる。 更にいえば、その内二人はまず間違いなく話が通じない相手。 家庭用RPGでいえば、必須レベルアップの最中に、その地域に見合わない強さを持つ野良モンスター三体と同時に遭遇してしまう。 そんな在りえるレベルでの最悪な状況だ。運に任せて逃げるを選択するのが最善の策だろう。 (だが、やりようはいくらでもある―――それに、これくらいの困難は無いと面白くはないだろう?) 簡単すぎるRPGなど退屈以外のなにものでもない。多少の刺激があってこそ、楽しみは生まれるものだ。 例え、現状が考えられる中で不幸な部類に含まれていようとも。 例え、UB001なる者から依頼を託されていようとも。 そんなことで、研究者であり開発者でありプレイヤーでもある茅場晶彦の好奇心は揺るがない。 ただ、己の欲求を満たすことだけが彼の行動原理である。 かつて幾千ものプレイヤーを巻き込んでまで、かつて夢見たあの城を追い求めたのも。 こうして、ただの一プレイヤーとしてゲームに臨んでいるのも。 全ては己の飽いてやまない欲求に従っているだけのことだ。 そして、それを達成するためならば―――茅場晶彦は手段を択ばない。 「久しぶりだな、ヒースクリフ」 歩みよってくるヒースクリフに、エスデスは敵対の意を見せずに再会の言葉を交わす。 「時間にして思えばそうでもありませんが、たしかにあなたとは随分長い間会っていないような気もする」 「首輪の方はどうだ。なにか成果はあったのか?」 「残念ながら。そもそも首輪自体が中々手に入らないものでね」 それより、と言葉を切り、ヒースクリフはしゃがみ込み足元に転がるモノの顔を覗きこむ。 「彼女たちの骸...私がいただいてもよろしいですか」 「なんだ、死体愛好者だったのか?それとも人肉主義者か?」 「違いますよ。まどかは共に脱出を志した同志です。その骸はしっかりと弔ってやりたい」 「お前がそんなに義理堅い奴とは思えんがな」 「これでも人並みの情はあると自負しているつもりですけどね。それと、ついでですが」 エスデスに背を向け、ヒースクリフは魏志軍を鋭い目つきで睨みつける。 「彼の相手は私がしても?」 「どうした、やけにやる気があるじゃないか」 「彼は以前、まどかを襲撃している。同志を襲われた借りは必ず返す主義ですので」 「どの口がいうのやら。...コレももう少し使いたかったのだがな。まあいい。死体もあの男も好きにしろ」 「ありがとうございます」 思ったよりも話が通じるんだな、と意外に思うヒースクリフだが、それだけで彼女に抱く印象が全て覆るわけではない。 エスデスはこの殺し合いにおいて厄介な女だという認識は。 だが、とりあえずいまやるべきことはこれだ。 「魏志軍...まどかや承太郎たちからきみの話は聞いている」 「あなたもコンサートホールにいたというのですか...それで、あなたは私をどうするつもりですか」 「一度襲ってきた以上、襲われる覚悟もあるだろう。つまり」 魏志軍が構えをとるのと同時にヒースクリフは駆け、魏志軍との距離をあっという間に詰める。 (速い!) 身にまとった鎧や盾からは考えられない速度で動くヒースクリフを見て、魏の心中に僅かに焦燥が生じる。 (...が、しかし。反応できない速さではない) 突き出される盾を躱し、右腕を振ろうとする。 それを認識したヒースクリフは、なんと魏の右掌に蹴撃を当てることにより魏の動きを制御。 それだけで血をばら撒かれるのを防いだ。 魏は舌打ちをしつつも、飛び退きヒースクリフから距離をとる。 (面倒な敵だ) ただでさえ高い身体能力に加え、鎧や盾に身を包まれた男だ。 血を浴びせるのは至難の業だろう。 ブラックマリンを使おうにも、エスデスがいる以上ほとんど効果はなさない。 ならば。 魏は、ヒースクリフやエスデスには目も暮れずにこの場からの逃走を試みる。 逃がしてたまるかとでもいうように、彼を追うヒースクリフ。 エスデスと新手の眼帯の男は追ってくる様子はない。 好都合だ、と魏は思う。 今まで逃走用に使用してきたスタングレネードはあとひとつしか残っておらず、タネも割れている以上、使うことは得策ではない。 それに、魏の目的はあくまでも首輪の補充。 エスデスとヒースクリフ。この二人に同時に襲い掛かられては流石に生きて帰ることはできないだろう。 だが、こうして彼一人を誘い込めば、いくらでも対処のしようはある。 思い通りにことが運んでくれたことに、魏は思わず笑みを浮かべる。 (これでいい) 逃げる魏を追いながら、茅場晶彦は思う。 いまの彼のスタンスは、『まどかの敵討ちに燃える男』となっている。 無論、彼女の死体を見てなにも思うことはなかったかといえば嘘になるが、それで敵討ちに燃えるなどという感情がある筈もない。 悪趣味なものだと内心エスデスに引いていた程度である。 エスデスにどこまで勘付かれているかはわからないが、結果として、魏とは一対一に持ち込めたし、エスデスもブラッドレイもこちらを追ってくる気配はない。 二つの不純物を取り払うことで、彼の目的の第一歩へと近づけた。 そのことを実感すると、茅場晶彦もまた思わず笑みを浮かべていた。 (意外と簡単に済んだが、さて、ここからがひとつの正念場だな) ☆ 「追わなくてよかったのかね」 去っていくヒースクリフと魏志軍を手を出さずに見届けていたエスデスに、ブラッドレイは問う。 「ああ。奴は私の知り合いだからな。その意は汲み取ってやるさ」 「知り合い、か」 「あいつは常に腹に一物を抱えているような男だからな。仮に裏切ったとしてもたいして驚かんさ」 それに、と付け加えるように氷の剣の切っ先をブラッドレイに向けて言い放つ。 「魏志軍の奴とももう少し戦いたかったが―――いまの私の興味はお前にある」 「ほう。私のことを知っているのかね?」 「卯月から聞いている。セリューやウェイブたちを圧倒した男だとな」 「卯月...島村卯月、彼女か。それで、きみはどうする?セリューくんたちの無念を晴らすために戦うかね?」 「いいや。奴は確かに貴様に敗北した。だが、殺したのは別の男だ」 もしも、セリュー達がキング・ブラッドレイに殺されたのなら、口上にもそのことを付け加えただろう。 だが、セリューを殺したのはおそらくゾルフ・J・キンブリーであり、彼もまた放送で呼ばれている。 マスタングもここで永遠の眠りにつき、ウェイブも既に離反している。 ならば、もはや口上にすら付け加える必要はない。 「私の愉しみの糧となってもらうぞ、キング・ブラッドレイ」 「取り繕いもしないか。それもまた良し」 エスデスに応じて、ブラッドレイもまた剣を抜き、構えをとる。 エスデスには先に去った二人を追わないかを尋ねたが、ブラッドレイ自身にも当てはまる。 先程、エスデスは来訪者をヒースクリフと呼んでいた。 それは即ち、当面の目的として接触しようとしていた男の名である。 棚からぼた餅とはよく言ったものだが、やはり御坂を置いて来てまで進路を変更した価値はあった。 だが、いまは彼に、戦場から去る者たちに構っている場合ではない。 眼前には、絶対なる強者がいる。 ブラッドレイの欲求を満たすに足る絶対的強者が。 ならば、力を温存する意味もないだろう。 ブラッドレイは、眼帯を外し『最強の眼』を露わにする。 二人の視野外で、水流による破壊音が響き渡るが、両者は意にも介さない。 ただ、眼前の強者と戦いたい。その想いだけが両者を占めている。 そして、幾度かの水流の音が鳴り響くのと同時。 両者は、共に駆け出した。 →
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167 Over the Justice ◆MoMtB45b5k ウェイブ、そしてサリアとの交戦を最大限に愉しんだエスデス。 その足は西へと向いており、自らが辿ってきた道を引き返しつつあった。 (御坂美琴……) 目的は、御坂美琴だ。 雷撃を生み出す少女。 DIOと戦った後に定めた最初の標的。 (まずは、やはり貴様だ) ジュネスの方角から感じる熱い気配。 イェーガ―ズの獲物たるアカメ。 ペットには丁度よい足立。 興味深い身体能力を持った後藤(らしき男)。 追いたい相手は多かった。 が、サリアの操るアドラメレクの雷。 それがエスデスに、ここまでやって来た本来の目的を思い起こさせた。 狡噛慎也からの情報で東を選んでここまで来たが、反対方向にいるか、どこかですれ違った可能性も十分にあるのだ。 (楽しみは多いがな) くく、と笑みを漏らしながらエスデスは足を進める。 日は西の方角に沈みかけている。 真夜中に始まったこの戦いも、既に半日が経とうとしているということだ。 『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』 そんな思考を読んだかのように、広川の声が響き渡る。 少し足を緩めながら、エスデスは放送に聞き入る。 広川は首輪交換機の件で何かしらのヘマをやらかしたようだが、今はさして興味はない。 重要なのは、死者の発表だ。 (セリュー……逝ったか) クロメに続き、セリューも命を落とした。 セリューの掲げる正義も、魔物がうごめくこの場では通用しなかったということなのだろう。 (莫迦どもめ) いちいち涙を流したりなどはしない。 (……仇を取る相手が増えたな) しかし、クロメの時と同じく、心中でただそっと、誓う。 『そのことを肝に銘じてこれからもゲームに励んでくれたまえ。それでは、健闘を祈るよ』 放送は終わった。 死者の中には暁美ほむら、空条承太郎、ジョセフ・ジョースターの名前があった。 自分以上の時間操作能力を持っていたであろうほむらをはじめ、いずれも黙って狩られるようなことはないであろう強者たちであった。 その3人も、6時間の間にその命は戦場の露となった。 70人以上がいた参加者も、残っているのは半数を切った。 名簿を再確認してみたが、あの友アヴドゥルの仲間たちなどは遂に全滅してしまったようだ。 生死を分けたその条件は、恐らく単純な腕力だけではないだろう。 知力、体力、気力、精神力、そして運。 全てをバランスよく持っている者もいれば、どれか1つが欠けていて、それを補うだけの何かを持っている者もいるはずだ。 そんなことを考えながら、再び足を速める。 先ほどは通り過ぎた図書館の辺りまで辿りついた。 東西を分けるような奈落も、戦闘の跡も、何も先ほどと変わりはない。 だが一点、エスデスの気を引くものがあった。 南の方角にある、小さな建物。 そこから、先ほどまでは微塵も感じられなかった、隠しようもない死臭と汚臭が立ち込めている。 最初にエスデスが通ってから再びここに来るまでのいっときの間に、何かが起きたということだろう。 (面白い) 目的が随分と多くなったが、今の第一の目標は御坂美琴。それは変わりはない。 だが、それに固執するつもりはない。 むしろこの場では、はっきりとした目的を持って行動するよりも、興味の赴くままに立ち回ったほうがより楽しめるはずだ。 先ほどのウェイブの想定外の成長と反抗を思い返しながら、エスデスは笑う。 (一目見てみるか) 西に向かっていたその足を一点、線路の方へ向けた。 # (ほう) それは、幼少時より幾多の戦場を駆け巡って地獄を見、また自らの手で作り出してきたエスデスをしても、なかなかに凄惨と呼べる光景であった。 部屋の中は夥しい血が飛び散っている。 エスデスには馴染みのない近代的なシンクに、目玉が転がっている。 ゴミ箱には、人間の残骸が無造作に打ち捨てられている。 椅子には、確かに見覚えのある2人の少女が、文字通り『縫い合わされて』鎮座している。 そして、部屋の隅で膝を抱え、震えている少女――。 「セリュ……さ……セリューさん、セリューさん……」 「セリューとは私の部下、セリュー・ユビキタスのことか?」 「!?」 エスデスの鋭い問いかけに、少女ははっと顔を上げる。 ここに他人が入って来た事にすら気付いていなかったらしい。 慌てて糸を向ける。 「もう一度聞くぞ。貴様は私の部下、セリューとどういう関係だ?」 糸を造作もなく氷の剣で断ち切ると、エスデスは再び問いかける。 無慈悲に放送で知らされたセリューの死。さらに直後に現れた、謎の女。 卯月は完全にパニックに陥っていた。 「ぶか……部下……」 しかし、田村玲子から感じたような殺気は感じない。 乱れきった頭で、必死に考える。 「もし、かして……、エス……デス……さん?」 「いかにも。イェーガ―ズの長のエスデスとは私のことだ」 「あ、うあ……」 エスデス。 セリューが全幅の信頼を置いた、正義の象徴。 「うああああああああああ!!!」 その人を前に、卯月の思考は真っ白になる。 エスデスに縋りつき、子供のように泣きじゃくった。 # (なるほど) いく分落ち着きを取り戻した卯月から事の大まかな顛末を聞き出したエスデスは、一人頷く。 (セリュー……貴様は、残したのだな) 力及ばず命は尽きたセリューではあるが、自らを慕う者を残すことは果たせたようだ。 (いいぞ、それでこそ私の部下だ……) 弱くとも、勝者にはなれなくても。 意思を継ぐ者を、強さの可能性を残せたならば。 それは、上出来なことだ。 「……」 黙り込んだエスデスに、卯月は不安げに顔を向ける。 卯月は、怖かった。 エスデスはいわば上司の上司であり、正義の象徴だ。 しかしその佇まいは、会ったばかりの頃のセリューとも、あのブラッドレイとも何かが違う、異質な恐怖を感じさせた。 「あの、エスデス……さん、は、正義の味方……なん、ですよね?」 おずおずと問いかける。 「正義、のために……たたかって、くれるんですよ、ね!?」 「正義、か……」 問いかけにエスデスは、ふふ、と笑う。 「セリューの仇を取ってやるのもいいが…… ……上司として、あいつの誤りはきちんと正しておこう」 冷気のような吐息が感じられるほど、卯月の近くに歩み寄る。 「あ……」 「言っておくが、私はあいつが言うような正義の味方じゃない。 更に言えば、正義になど何の価値もない」 「――え」 その言葉を聞いた瞬間、卯月の顔は絶望に染まる。 正義に価値はない? それではセリューは、自分は……? 「この世で価値があるのは強さ、ただそれだけだ。 正義、それ自体は実に結構なことだ……だが」 少し言葉を切り、続ける。 「正義を為すには力が、強さが必要だ。 強さがなければ、正義も悪も等しく無価値だ」 「強さ……つよさ……」 あまりに無慈悲な言葉に、卯月の視界は真っ暗になりそうになる。 強さ。 それは、自分に何よりも足りないものだった。 正義を為すことなどできないのではないか。 田村玲子から、ブラッドレイから逃げ出した自分は。 セリューを守れなかった自分は―― 「ふ……そう不安がらなくてもいい」 震え、へたり込みそうになる卯月の体をエスデスは支える。 「貴様がやったのだろう? 『これ』は」 椅子の上から、繋ぎ合わされた2人の死体を掴む。 そして、その顔を卯月の鼻先へ突きつける。 「ひっ!?」 自らの犯した罪に、卯月は怯える。 「あ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!!」 「何を謝る必要がある? こいつらは弱かった。だから死んで、こうしてその生を愚弄されている。 ただそれだけのことだ。弱者が蹂躙されるのは当然だ」 エスデスは、死体を床に投げ捨てる。 「殺したのも貴様か?……違うのか」 卯月からも手を離すと、室内をゆっくり歩きまわる。 「私はこいつらとは知り合いでな。魔法少女の強さはよく知っている。 ……が、こうして敗北した以上は、単なる肉塊にすぎん。 肉塊を貴様がどう扱おうと、誰も文句を言うことはない」 カツカツと靴音を立てながら、室内を円を描くように歩く。 「その帝具……」 「あ……」 卯月の元に戻ると、にわかに手をとり、クローステールを検分する。 「貴様によく適合しているようだ。そうでなければ、ああ綺麗にはいかん」 転がる死体を、その縫い目を一瞥する。 「ふ……セリューの忘れ形見か……」 そしてその手は、そっと卯月の腕をなぞる。 「――!」 「怯えるな」 そのまま手を、服の上から体に這わせる。 「っ、ぁ……」 手が体を撫でる度に、卯月の柔らかな体がびくんと跳ねる。 「覚えておけ。 正義を為したいなら、セリューの意思を継ぎたいなら、奴を越えたいなら――」 エスデスの手は、ついに制服のボタンを外し服の中に侵入する。 「強くなれ。お前にはその資格がある。 この世で最も価値があるのは強さだ。決して、忘れるな――」 血が凍っているのかと思うような冷たい手が、卯月の素肌の、クローステールには覆われていない部分を撫でる。 未知の感覚に卯月の体は弛緩し、心は陶然とする。 ニュージェネレーションズの仲間のような、仲のいい女の子同士なら。 いつもの346プロの控え室でふざけてじゃれ合ったり、成功したライブの後に感極まって抱き合ったり。 そうしている時に、意図せずお互いの肌や胸に触ってしまうことはある。 しかし、この状況はそんなものとはあまりにも違っていた。 もういないセリューの最も信頼する人物に、弄ばれている。 自分の作り上げたモノが、すぐそばで見守っている中で。 濃密な死臭が充満する中で。 アイドルとしての道を歩んでいれば、ありえない、いや、あってはいけない光景。 卯月には、もうこれが現実なのかどうかが、分らなくなりつつあった。 (つよ……さ……、セリュー、さ……) 強さ。 セリュー。 翻弄され続ける卯月の脳裏には、最後までその二つの言葉だけが浮かんでいた。 ♯ 「ふふ」 膝の上で寝入っている卯月の髪を撫でながら、エスデスは思わず笑みをこぼす。 ここに来たのは単なる好奇心であったが、セリューの忘れ形見という収穫を得られた。 (拾い物だ) 嬉しいことに、なかなか上等な形見だ。 アカメの一味のものであったはずの帝具、千変万化クローステール。 それがなぜこの少女の手にあるのかは今はどうでもいい。 DIOのインクルシオ、サリアのアドラメレクもそうだったが、重要なのは、この少女が帝具を使いこなしているということだ。 服の下を覆い防御手段とするという使用法を、自ら使っていたという程度には。 エスデスが卯月に強くなる資格があると言ったのは、何も慰めたかったわけでは全くなく、本心だ。 (2人の代りに入れるのもいいだろう) ちょうどこの場で、イェーガ―ズには欠員が2人出てしまった。 島村卯月の、アイドルという職業。 それ自体は理解はエスデスの知識には無かったが、歌や踊りを披露する踊り子のようなものであることは、彼女の言葉から理解できた。 踊り子。 イェーガ―ズとしての任務をこなすならば、その能力は大いに生かすことができる。 流れ者の踊り子を装わせ、更にクローステールの力を引き上げれば、どんな町にも入り込める優秀な諜報員になることが十分に可能だろう。 聞くところによればあのアカメも、帝国の犬として初期にこなした任務の中には、旅芸人のふりをした反乱分子に潜入し、殲滅せしめたというものがあるというではないか。 そんなことを考えながら、卯月の肌を撫でる。 すると、微かに身をよじる。 白い肌には傷一つない。 本物の戦場を、本当の修羅場を知らない者の肌だ。 今の島村卯月には、帝具を扱う能力はあっても戦いに臨む心構えが致命的に欠けている。 より多くの実戦、そして殺人を経験させたい。 残った33人、誰が相手でも不足はないだろう。 話は断片的だったが、卯月は図書館で自分の求める御坂美琴と会い、そして完敗を喫したらしい。 事が上手く運ぶなら、自分がサポートについた上で御坂と再び戦わせるのも面白いかもしれない。 とはいえ、まずはやはり馴染みのない電車という乗り物を使い、セリューの死体があるという南の小島を目指す。 そこで卯月には、セリューとの訣別、そして超越という意味も込めて彼女の首切りをやらせたい。 もっとも首輪交換が実施されたことを考えると、すでに切られた後かもしれないが、その時はその時だ。 エスデスは笑い続ける。 ここに残った参加者たち。 この先、どんな人間に会えるのか? (くく……面白い、面白すぎるぞ……) そして未だ生きる最愛の人、タツミは、この場でどんな道程を辿り、どんな強さを身に付けたのか? 違う種類の狂気を纏った2人。 縫い合わされた少女たちの虚ろな目だけが、彼らの姿をじっと見つめていた……。 【D-6/駅員室/一日目/夜】 【エスデス@アカメが斬る!】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気、欲求不満(拷問的な意味) [装備]:なし [道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。 0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。 1:電車で南に向かい、セリューを弔う。 2:島村卯月に実戦と殺人を経験させたい。 3:御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。 4:クロメとセリューの仇は討ってやる。 5:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。 6:タツミに逢いたい。 7:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。 8:拷問玩具として足立は飼いたい。 9:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。 10:後藤とも機会があれば戦いたい。 11:もう一つ奥の手を開発してみたい。 [備考] ※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。 ※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。 ※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。 ※DIOに興味を抱いています。 ※暁美ほむらに興味を抱いています。 ※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。 ※自分にかけられている制限に気付きました。 ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。 ※平行世界の存在を認識しました。 【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、睡眠中 [装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン [道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの) [思考] 基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!! 0:エスデスさんの下で強くなりたい。セリューさんに会いたい。 1:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。 2:高坂穂乃果の首を手に入れる。 3:高坂勢力、及びμ sを倒す。 [備考] ※参加しているμ sメンバーの名前を知りました。 ※服の下はクローステールによって覆われています。 ※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています ※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。 ※本田未央は自分が殺したと思っています。 ※μ s=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。 ※放送で本田未央の名前が呼ばれなかったことに気付いていません。 時系列順で読む Back 黒交じりて、禍津は眠る Next Look at me 投下順で読む Back 黒交じりて、禍津は眠る Next Look at me 153 堕ちた偶像 エスデス 171 地獄の門は開かれた 156 ずっといっしょだよ 島村卯月
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090 足立透の憂鬱 ◆BEQBTq4Ltk 「さて、これからの事について話そう」 コンサートホールの淵に座り脚を組みながら語り掛けるエスデス。 座ることにより強調される身体のラインと胸部、長い脚と整った顔立ちは正に美女。 氷のように美しい彼女だがその性格に難があるのが非情に残念である。 コンサートホールの客席最前列に座る人物が数人。 アヴドゥルの隣に承太郎が座り、一つ席を開けてまどかが座っている。 彼女から二つ席を開けた所に足立が座っておりその隣にヒースクリフが座っている構図だ。 (頼むから可笑しな事を言うんじゃあないぞ) アヴドゥルはエスデスの言葉に嫌な予感を感じながら次なる言葉を待つ。 出会いは最悪だった。まさか交戦状態に陥るなど誰が予想出来るのか。 強烈な性格を持つエスデスだがそれで見た目はパーフェクト、神は遊んでいるのだろうか。 「まずはまどか。大分落ち着いたか? 先ほどは随分と大変だったが……生きていて何よりだ」 「あれは皆さんのおかげです……ご迷惑をお掛けしました」 エスデスが最初に話し掛けたのは鹿目まどか。 エルフ耳の男に襲撃された鹿目まどかは他の助けもあり生き延びていた。 元凶は逃がしてしまったが再度襲われる危険もあるため、こうしてエスデスは皆をコンサートホールへ集め直していた。 「……殺し合いに乗った馬鹿がいたからな。気にすんじゃねえ」 「承太郎の言うとおりだ。君が気負う必要はないぞ」 「ありがとうございます。承太郎さん、アヴドゥルさん」 謝罪をするまどかに精神的負担を掛けないように承太郎が返答する。 それに続きアヴドゥルも発言しまどかのフォローに回る。 さり気なく、自然に言葉を紡ぐことよって負担を減らすのは大人の勤めだ。 大人と言ってもそれ程まどかと年が離れている訳ではないのだが。 (そうだお前らはまどかのフォローに回ると思っていたよ) 声には出さないがエスデスの顔は終始笑っている。 精神が一番不安定であるまどかに話し掛け彼女の口から言葉を引き摺り出す。 現環境で話を振らなければまどかは沈黙を貫くだろう。 最初に話し掛けたのはエスデスなりの優しさである。 しかしその優しさは仲間に掛ける優しさではなく、手駒に掛ける優しさ。 承太郎達がフォローするのを含めて全て彼女の思い通りに進んでいた。 「話というのも情報交換……と言いたいがまぁ、粗方済んでいるだろう。 私が提案するのは変わらずDIOの館に攻めこむことだが……意見を聞きたい。特に承太郎とアヴドゥル」 全員が全員顔を合わせての情報交換は済んでいない。 しかし足立とヒースクリフが、まどかと承太郎が、エスデスとアヴドゥル。 それぞれが交換を終えており、エスデスが居ない間にもアヴドゥルとヒースクリフ達は交換している。 アヴドゥルと元から知り合いである承太郎にとっては無意味に近い。 つまり、ある程度の情報は持っており特別な時間を設ける必要がない。 情報交換を行いたければ道中にでも勝手に話せばいいだけのこと。 エスデスが進めるのはDIOの館に攻めこむ事。 アヴドゥルから聞かされた危険な男であるDIO。 エスデスの興味は全力で彼に注がれており、今でもDIOを勝手に狙っている。 「意見ってのはなんだ。 まさかとは思うが俺が何か言ったら攻め込むことを中止するタマには思えないが」 「言うな承太郎……私はDIOに対する知識が無くてな」 「エスデス……テメェまさかDIOのことを知らねえ癖に攻め込もうとしてるのか?」 「ああ。私がDIOについて知っていることはアヴドゥルが教えてもらった悪ということだけだ」 信じられないぜ。口には出さないが承太郎は帽子を深く被り思った。 椅子に腰を掛けるのも大分大雑把になってしまう。 エスデスがDIOのことを知らないで倒すと言っているのが理解出来ないといった態度だ。 当然である。会ったこともない人間を見ず知らずの他人から聞いた情報だけで殺す。 普通の人間には出来ない発想である。 DIOが倒すべき相手に変りないため何とかなるが、仮にDIOが悪ではなかったとしたら。 誰が責任を取るのだろうか。 「私を睨んだところで何も変わらないんだ承太郎……私だって苦労している、何故か此処でも苦労している」 まどかを挟み横目で睨んでくる承太郎に対しアヴドゥルは小声で釈明を行う。 承太郎の視線は「なに面倒なこと吹き込んでやがる」と言った威圧的な視線であった。 しかしアヴドゥルがエスデスに言ったことはDIOが危険人物であることだけ。 全てはエスデスが勝手に盛り上がっているだけであり、アヴドゥルに非はない。 小声を聞いた後でも承太郎はアヴドゥルを睨んだまま。 その瞳はお前が喋ろと命令しているような冷たい視線であり、アヴドゥルは仕方なく口を開いた。 「足立さんやヒースクリフさんにもまだ説明していなしエスデスにもちゃんとしたことは言っていない。 まどかも承太郎から聞いているかどうか怪しいから私の口からある程度だけ話させてもらおうか。DIOは……吸血鬼だ」 「は?」 「どうした足立、間抜けな声で」 アヴドゥルの口から語れるDIOの詳細。 彼が知っていることを「ある程度」だけ話し始めた。 まずはDIOの正体――人外なる吸血鬼であること。 足立は驚きの声を上げ、エスデスがそれを問い詰める。 「どうしたって……吸血鬼が存在すると思います?」 「可笑しくないと思うぞ」 「……あっはい」 有りの儘リアクションを取った足立は会話が自然に成立してしまい唖然とする。 「何か言いたいことがあるのか」 「言いたいことって言うかまぁ、俺はスタンドだとか魔法少女だとか馴染みが全くなくてですね。 そう簡単に吸血鬼とか信じられないんすよ。この殺し合いも含めて、ね」 「実際に起きているんだから受け入れるしかあるまい。 それに足立よ、お前だって「今」力が無いだけじゃないか?」 「何を言っているか解りませんね……アヴドゥルさん、続きー」 エスデスに何を言っても通じない。 自分の中にある固定概念が絶対であると認識している女に何を言っても無駄だ。 足立は自分の主張が通らないと諦め、アヴドゥルに話しの続きをするように溜息を吐きながら振った。 その言葉にアヴドゥルは頷き、席から立ち上がる。 主張する側の人間が傍聴側と同じ目線で話すよりも効果が上がる。 舞台の淵に座るエスデスと客席に座る足立達を視界に捉えるように立ち位置を調整した。 「言ったとおりDIOは吸血鬼だ。 過去にジョースターさんの……空条承太郎のお爺さんに当たるジョセフ・ジョースター。 更に時を遡りジョースターさんのお爺さんであるジョナサン・ジョースターの友がDIOだ」 「吸血鬼だから何世代に渡っても生きてるんすねー……はぁ」 「ジョナサン・ジョースターはその生命と犠牲にDIOと共に海底に沈んだ……はずだった。 長い年月を経て首だけだったDIOはジョナサン・ジョースターの身体を乗っ取り現世に復活した」 (首だけって……最初に言っとけって話しなんだよなぁ) 「随分と奇妙な存在なんですね、DIOは」 「そうだヒースクリフ。信じられないと思うが事実だ、なぁ承太郎」 「……ああ」 流れるように進むDIOの正体。 本来ならば吸血鬼など誰も信じないが、聞いている人間は皆異能を持っている。 一部例外が居るが、どいつもこいつも日常に相応しくない経歴を所有しているのだ。 今更吸血鬼の一人や二人では驚かない……可笑しな話ではあるが彼らはそれなりに修羅場を通り抜けてきた。 「お前らの知り合いなんだ、アヴドゥル。 DIOもスタンド能力を持っているのだろう? そのスタンドとやらを教えてくれ」 「その通りだが能力は不明でな……ん? エスデス、今お前は「まるでスタンドを知らない」ような言い方だったと思うんだが私の耳が詰まっていたかもしれない。 済まないがもう一度言ってくれないか?」 「お前は何を言っているアヴドゥル。私はスタンドを知らないから聞いているんだ」 「あー、そうか……そうなのかエスデス」 アヴドゥルの頬を伝う汗が静かに床へ落ちた。 彼がエスデスと出会った時、彼女は氷のスタンドを発現していた。 魔術師の赤の炎を相殺するほどの能力で、本人曰く三割程度の力だと言うのだ。 DIOの刺客と同格かそれ以上のスタンド使いだと思っていたがどうやら違うらしい。 「幽波紋とは……私の魔術師の赤や承太郎のスタープラチナのようなもの、と言えばいいか?」 「それは知っている……が、まぁいい。 私に説明するのも面倒なんだろ。DIOが吸血鬼ということも解った。 ならば太陽が昇っている今が好機だな……これから私が編成を発表させてもらう」 「――は?」 エスデスの発現には毎回驚かされる。 アヴドゥルは驚愕の声を挙げ、また始まったと半ば諦めている。 黙って聞いていたまどかは何の脈絡なく提案されそうになる編成に頭の処理が追い付いていない。 ヒースクリフは黙って聞いている。 承太郎はエスデスへ鋭い視線を送った後、早く喋れと促した。 足立はもうどうにもでなれと言わんばかりの態度で手を振っていた。 「私とアヴドゥルとヒースクリフが外に出て更に仲間を集める。 索敵と悪を殺すことも含めたちょっとした遠征に向かおうと思う。他は留守番だ。 なにか意見があれば気にすること無く発言してくれ――ますはアヴドゥル、この中で少しだけではあるが一番付き合いがあるからな」 「そうか、ならば言おう。意味が解らん」 「DIOは危険な奴なんだろ? そして此処は殺し合いの会場だ。 わざわざ奴の名前が記載されている施設があるんだ、攻め込むのは普通だろう。 編成についてだが……あまり聞くな。お前とヒースクリフは私と共に外へ出る、なぁヒースクリフ」 結局私の言い分は無視されているではないか。 と思い、拳を握るアヴドゥルだがどうせこの女には伝わらない。 若干音を響かせるように客席に腰を降ろした。 エスデスに振られたヒースクリフは眉を動かす。 席を立ち上がることはしないが、自分の意思を示すため口を動かした。 「人選について気になることもありますが……構いません」 「……まじ?」 「少しの間だけ行ってきます」 ヒースクリフの肯定に、隣に座っていた足立は何度目になるか解らない驚きの声を上げた。 付き合いは短いがこの中では一番ヒースクリフと長いのが足立。 エスデスとの合流も素直に受け入れていたことから、ヒースクリフは思ったよりも好戦的らしい。 「……承太郎」 「骨は拾ってやる……が、死ぬんじゃあねえぞ」 「当然だが……損な役回りは私以外に適任が居ると……はぁ」 承太郎に助け舟を要求したアヴドゥルだが悲しい瞳であしらわれる。 どうにでもなれと思いながら重い腰を上げて彼らは仲間と敵を求めてホールを出た ☆ 「私達を指定した理由……あるのかエスデス」 ホールの外に出たアヴドゥルはエスデスに編成の理由を問う。 この女のことだ、何も考えずに選んだ訳ではないだろう。 言葉を聞いたエスデスはアヴドゥルの方へ振り返ると、黒い笑みを浮かべて答えた。 「鹿目まどかは精神的に疲労しているからな。あいつには残ってもらい安静にしてもらわなくてはならん。 大人しい見た目をしているが襲撃者を殺す覚悟を持っている……面白い手駒だからな」 手駒。 この言葉に怒りを覚えるアヴドゥルだが、今は黙ってエスデスの話を聞く。 ヒースクリフは興味を示しながらエスデスの声に耳を傾けていた。 「精神が歳相応に脆いなら誰かが傍で支えてやらんとな。 この面子の中であいつと一番付き合いがあるのは承太郎だ。セットで置いておけば鹿目まどかの疲労も和らぐだろう」 (こ、この女……頭が良く回るそれもジョースターさんと同じくらい……ッ! やはり敵に回すと厄介な女だぞこいつはぁ……エスデス、何を考えているんだ) 戦闘を求めるイカレタ美女エスデス。 性格と人間性に難有りだが他人への配慮と一瞬で他者の状況を見抜き、良采配をする手腕。 相当なやり手である。しかも上位の戦闘能力を所有していると来たもんだ。 敵に回すと自分が劣勢になるのは間違いない。 エスデスの言葉が本当ならクロスファイアー・ハリケーンは彼女の力三割で相殺されてしまう。 何処まで規格外の女なのか。流れる汗は止まらない。 「もう一人の足立だが……感性が一番一般人に近いからな。 言い換えればあいつは一番の弱者、まどかの気持ちが一番理解出来るかもしれない」 「足立さんは刑事と言っていました。きっと彼女を支えてくれるでしょう」 ヒースクリフの言葉を聞いてエスデスの口角が更に上がる。 最も彼女は足立が何か隠しているのが気になっているため、敢えて安全な状況に置いた。 身の安全がある程度保証されていれば、賊は動きやすいだろう。 「私なりの配慮だよアヴドゥル……だからそこまで警戒する必要もない。 神経を張り巡らせても精神を疲労するだけだ……どうもスタンドとやらは使用の都度疲れるらしいからな」 「むぅ……疑っていたのは事実だが、そう言われると申し訳ないな。すまなかった」 (この女ぁ~私が常に臨戦態勢を取っていたことに気付いてるッ!) エスデスには常に警戒しなくてはならない。 隙を見せれば殺される。最も今はその気にはないようだが。 「それでこれから何処へ向かうのでしょうか」 「そうだなヒースクリフ、これから向かうのは――」 バッグから地図を取り出したエスデスは男二人に見えるように広げるととある地点に指を置いた。 その場所はコンサートホールから然程離れていなく、探索といっても数時間も掛からないと思われる。 ――能力研究所。 【D-2/コンサートホール前/一日目/朝】 【エスデスと愉快な(巻き込まれた)仲間たち】 【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】 [状態]:健康、異能に対する高揚感と興味 [装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン [道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×3@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2) [思考] 基本:主催への接触(優勝も視野に入れる) 0:もっと異能を知りたい。見てみたい。 1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す 2:同行者を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする 3:神聖剣の長剣の確保 4:DIOに興味。安全な範囲内でなら会って話してみたい。 5:キリト(桐ヶ谷和人)に会う 6:花京院典明には要警戒。 [備考] ※参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。 ※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。 ※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。 ※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。 ※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。 ※この世界を現実だと認識しました。 ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。 【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康、精神的疲労(小) [装備]: [道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る! [思考] 基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。 0:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ、イギー 1:能力研究所に向かって……逃げたい。 2:エスデスは相当ヤバイ奴。まどかも危険な匂いがする。 3:ジョースターさん達との合流。 4:DIOを倒す。 5:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか? ※参戦時期はDIOの館突入前からです。 ※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。 ※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っています。 ※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。 ※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。 ※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。 ※スタンドがスタンド使い以外にも見える事に気付きました。 ※エスデスがスタンド使いでないことを知りました。 【エスデス@アカメが斬る!】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。 0:能力研究所に向かい人を探す。そのあとコンサートホールへ戻る。 1:DIOの館へ攻め込む。 2:クロメの仇は討ってやる 3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。 4:タツミに逢いたい。 [備考] ※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。 ※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。 ※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。 ※DIOに興味を抱いています。 ※暁美ほむらに興味を抱いています。 ※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。 ※自分にかけられている制限に気付きました。 ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 ※足立が何か隠していると睨んでいます。 コンサートホールに残された三人は黙っていた。 会話の切り口が掴めずに、エスデス達が去ったあとは終始無言。 流石に疲れたのか、やっとの思いで足立が口を開いた。 「改めてだけど俺、足立透。一応刑事なんだけど武器も何もなくて頼りにならないけどよろしくね。 そんじゃ、俺トイレ行ってくるから」 右手を頭部に当て出来るだけ笑顔で彼は発言した。 一番の年長者である自分が場を保てなくてはどうするのか。 そんなことを思う人物ではないのだが、足立は仕方なく喋っていた。 「よ、よろしくお願いします。それと足立さん、武器がないなら――」 トイレに行こうとする足立を呼び止めたまどかはバッグから何かを取り出した。 その球体は足立もよく知っている非日常の象徴である兵器。 「一つだけお渡ししますのでどうぞ……簡単には使えないとは思うんですけどね」 「主榴弾か……うん、ありがとまどかちゃん」 まどかに軽い礼を言いながら足立は彼女の手に握られていた主榴弾を取りポケットに入れる。 単発の高火力兵器のため、周りの状況も考えながらではないと使えない。 最もスタンドやら吸血鬼やら魔法少女やらが存在する会場で気にする必要もないが。 「承太郎……くんもよろしく」 「…………あぁ、よろしく」 年齢に似合わない外見の承太郎が放つ威圧感は凄まじい。 何故学ランを着ているか訪ねたくなるが学生だからだろう。 足立は手を振りながらトイレに向かった。 【D-2/コンサートホール/一日目/朝】 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:疲労(小)、精神的疲労(小) [装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース [道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、穢れがほとんど溜まったグリーフシード×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ [思考・行動] 基本方針:主催者とDIOを倒す。 0:まどか、足立と一緒にエスデス達の帰りを待つ。 1:偽者の花京院が居れば探し倒す。DIOの館に関しては今は保留。 2:情報収集をする。 3:後藤とエルフ耳の男、魔法少女やそれに近い存在を警戒。 まどかにも一応警戒しておく。 【備考】 ※参戦時期はDIOの館突入前。 ※後藤を怪物だと認識しています。 ※会場が浮かんでいることを知りました。 ※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。 ※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。 ※まどかを襲撃した花京院は対決前の『彼』だとほぼ確信していましたが、今は偽者の存在を考えています。 ※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。 ※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:ソウルジェム(穢れ:中)、花京院に対する恐怖(小) 精神的疲労(中) 全身打撲(中) [装備]:魔法少女の服 [道具]:手榴弾 [思考・行動] 基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。 0:危険人物を...? 1:魔法少女達に協力を求める。悪事を働いているなら説得するなどして止めさせる。 2:早く仲間と合流したい。ほむらと会えたら色々と話を聞いてみたい。 3:これ以上大切な人を失いたくない。 【備考】 ※参戦時期は過去編における平行世界からです。3周目でさやかが魔女化する前。 ※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。 ※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。 ※花京院の法王の緑の特徴を把握しました。スタンド能力の基本的な知識を取得しました。 ※承太郎の仲間(ジョースター一行)とDIOの名前とおおまかな特徴を把握しました。 ※偽者の花京院が居ると認識しました。 「あぁ……どうなってんだか」 鏡に映る顔は窶れている。 なんで俺がこんな目に会わなくちゃいけないんだ。世の中クソだな……。 ま、手榴弾が手に入ったのは有り難いが使い所がねえぞコレ。 スタンド使いとかいうペルソナの上位互換に通じるとは思えない。 魔法少女だってよく解かんないし吸血鬼ってなんだよ馬鹿か、こいつら馬鹿なのか? 本当に何ていう一日だよ……全く。 「エスデス……アイツが一番頭おかしいでしょ」 美女の癖に頭がイカれてやがる。 名前しか知らないDIOを攻め込むとか常人の発想じゃねえ。 しかもアイツ……俺に対して『今、力が使えない』とか言いやがった。 ペルソナを知っているのか……いや、アイツは俺とは何も関係性が無いはずだ。 じゃあハッタリか……あぁクソ! 何なんだあの女は!! もう外行ったまま帰ってくんな! 顔や身体が良くてもそれ以外がクソ過ぎる。 「そういやまどかちゃんはこの手榴弾、一つ渡すって言ったな」 ってことは他にもなにか持ってんだろ。 ――何とか殺せないもんかねぇ。 特に空条承太郎、アイツも絶対やばいでしょ。 ペルソナ使えない俺じゃ無理無理って話。 黙って薬飲んで死んでもらいたいが――上手くいくか微妙だな。 【足立透@PERSONA4】 [状態]:健康、鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×8@現実、手榴弾 [思考] 基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする) 0:何とかまどかと承太郎を青酸カリで殺せるように立ち回る。 1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害 2:自分に扱える武器をほぼ所持していない為、当面はヒースクリフと行動を共にする 3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う 4:いざという時はアヴドゥルに守ってもらう。 5:DIOには会いたくない。 [備考] ※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後 ※ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません ※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。 時系列順で読む Back ダークナイト Next 汚れちまった悲しみに 投下順で読む Back ダークナイト Next 汚れちまった悲しみに 081 曇天 ヒースクリフ 110 ぼくのわたしのバトルロワイアル モハメド・アブドゥル エスデス 空条承太郎 099 再会の物語 鹿目まどか 足立透 106 お前がまどかを殺したんだな
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美しい女だった。 女性美の極みの一つとでも言うべき美躯を軍服に包み、膝上まである白いブーツを履いた脚を組んで、無造作に積み上げた男達の身体の上に座った女を、一言で形容するならば、そうなる。 腰を越える程の長さの、高空の色を思わせる蒼い髪は、癖も枝毛も全く無く伸び、氷雪の結晶の様な白い肌には、染み一つ無い。 鼻梁のライン、唇の形。詩人の夢想がそのまま現実になったかの様な美貌は、老若男女を問わず衆目を惹きつけて止まないだろう。 凡そ己の美に自負を持つ者ならば、嫉妬を禁じ得ない。それほどの美女だった。 その美女は一体何をしているのかと言えば、柳龍光という小男をじっと見つめている。柳に向けて、学者が観察対象を観る様な眼差しを向けている。 160cmに満たない矮躯の男を、一秒と目を離さずに見つめて居る。 それほどの美女に目線を向けられて、一向に感心を示さないのが、柳龍光という男であった。 女性美に何ら感心を持たない、と言うよりも、自身に眼差しを注ぐ美女に対して、興味も関心も抱いていない。そんな風情だった。 美女がいきなり服を脱いで全裸になろうが、五体が弾け飛んで無数の肉片になろうが、関心を向ける事は無いだろう。ひょっとすれば、認識すらしないかも知れなかった。 「ふむ」 柳の無関心を意にも介さず、観察を続ける美女。名前をエスデスという。 一千年の歴史を誇る帝国。その滅亡時の、国家の内外で起きた無数の戦闘・戦役に於いて最強の呼び名を恣ままにした将軍であった。 一個の兵としても、一軍の将としても、無双。 作戦目的を達成出来ずに退いた事も有るが、それとても敵がエスデスを避けて、作戦目的を達しただけであり、エスデス当人の武威の翳りとは決してなることは無かった。 単に強いだけの猪武者に非ず。率いる軍を持たなければ無力な将に非ず。 万夫不当の強と、攻めれば落とし戦えば勝つ軍略とを併せ持つ、凡そ戦場に生きる者にとっては、味方であれば万の軍勢よりも頼もしく、敵であるならば死の具現とも言うべき存在。 それがエスデスという女だった。 必然。その眼差しの持つ圧は強い。万軍を射竦め、一騎当千の勇者の背筋を凍らせる圧が、その視線には篭っている。 エスデス自身の美貌も併さり、到底無視などできぬ筈のそれを浴び続け、全く意に介さぬ柳龍光という男。当然只者では無い。 日本に伝わる古武術────空道を習得し、世界中の警官、SP、軍人といった、命のやり取りに身を置く者達からは、『絶対』の存在とされている、ドクター国松と立会い、左腕を奪った程の武練の主である。 明るみになっている罪状だけでも死刑になる程の、凶猛外道な悪逆の徒である。 しかし、それだけでは無い。それだけで存在そのものを無視される程、エスデスの纏う圧と気は軽くは無い。 強さでも、凶悪さでも無い。得体の知れない何かの理由で、柳龍光はエスデスを無視し続けていた。 「成る程」 眼差しに籠る圧が強くなる。獲物を前にした飢狼を思わせる、剣呑で獰猛な眼差し。 「たいしたものだ」 実際、柳龍光の動きは賞賛に値した。 何某かの依頼を受けて赴いたこの場所、明らかに堅気の者では無い男達が屯する、この事務所風の場所へ堂々と正面から扉を開けて入り、誰何の声に対して、ご丁寧に名乗りを挙げてから、この場に居た男達全てが床に伏すまで、掛けた時間は五分足らず。 エスデスが積み上げ、腰を下ろした六人を除いて、床上に死体の様に転がって居るのが十七人。 併せて二十三人が、半死半生となるまでに掛かった時間が、たったの5分足らず。 戦意のあるものを、武器を手にしたものを、優先して倒す。後に残った元々それ程ヤル気の有った訳ではない者達は、完全に戦意を失っていた為、撃ち倒すのは容易な事だった。 素人目から見ればその程度だが、無論エスデスはそれだけではない事を見て取っている。 単純に、戦意のあるものを、武器を手にしたものを、優先して倒すといっても、一人一人条件が異なる。 距離が有る。群れの中に紛れて居る。異なる方向から同時に襲撃して来る。武器といってもドスも有れば、日本刀もあれば拳銃も有る。 しかも襲って来るタイミングはバラバラだ。全員がお行儀良く順番に並んで襲いかかって来るわけではない。 これらの要素を精確に判別し、より自身に近い者を、より自身に危険な者を、優先して倒して行く。 そうやって二十三人を無害化し、残敵を相当し尽くしたのだ。 強い。そう断言できる。 武練の高さもそうだが、状況判断能力と個々の動きを予測する、或いは誘導する能力が極めて高い。 完成された強さを持つウェイブですら、帝具なしでは勝負になるまい。激烈凄惨な修行の果てに身につけた怪異な肉体操作を以って、文字通り悪鬼羅刹の如くに闘う、皇拳寺羅刹四鬼でも、初戦による未知というアドバンテージが無ければ、勝敗は窺い知れない。 それ程の強さを持つのが柳龍光であった。 たまらぬ男であった。 「なあマスター。」 柳龍光は、逃げ回った結果、最後に残った男が絶叫して振るった日本刀を苦もなく避け、顔に右掌を押し当てたところだった。 「その技は一体どういう原理なんだ」 掌を顔に押し当てた。傍目にはそう映るだろう。だがそうではない事をエスデスは理解っている。柳の掌と男の顔には、僅かな隙間が有った。にも関わらず、男の顔の皮膚は柳の掌に密着している。稼働中の掃除機を頬に押し付けられた時に似ていた。 そして柳は、男の顔の皮膚が張り付いた右掌を、何の躊躇いもなく引いた。 ピリッとも聞こえた。ベリッとも聞こえた。 男の顔の皮膚は、柳の掌にまるで吸い付いて居るかの様に引っ張られ、剥がれた。 顔面の筋繊維が剥き出しになった事を理解し、獣じみた絶叫を上げてのたうちまる男に視線を向ける事無く、柳龍光はエスデスに向き直る。 「へえ…光栄な事だねえ。伝説に残る様な英霊様が、私の技なんかを気に掛けてくれるなんて」 話の邪魔だとばかりに、足下の男の頭に、靴の踵を踏み下ろす。鈍い音がして男は静かになった。頭蓋が割れたかも知れない。 「同じ事なら私にも出来るぞ。だが、お前の技は私には理解出来ん」 丁度その時、エスデスの尻の下の男が意識を取り戻し、自分が置かれた状況に気付いて、怒りの篭った呻き声を発した。マゾの気がある男なら、大枚叩いてでも尻を乗せ続けてくれと頼むだろうが、生憎と男はマゾでは無かったらしい。 「こんな風にな」 呻いた男の頭に掌を乗せるエスデス。同時に、頭部へと染み入る冷気に男が困惑混じりの悲鳴を上げた。 エスデスの口の両端が吊り上がる。嗜虐への愉悦に満ちた笑顔。マゾならばそれだけで達してしまいそうな酷薄な笑みを浮かべて、エスデスが掌を引くと、異音を発して男の頭皮が髪ごと剥がれる。 「冷気で肌を張り付かせたのかい?」 「ああ、そうだ。然しお前の技は、冷気を用いてはいないのだろう?」 話の邪魔だと言わんばかりに、泣き叫ぶ男の眉間に拳を入れるエスデス。鈍い音がして男は静かになった。脳挫傷は確実だろう。 「容赦が無いね」 「弱者は強者に蹂躙される…。当然の事だろう。」 「ああ……良いねえ…………。」 嗜虐に満ちた笑みを浮かべるエスデスに、柳龍光は感じいった声で応じた。 「容赦も情けもない。絶対的な強さで相手のプライドも人生も纏めて踏み躙る。」 「……………………」 「泣いても、謝っても、土下座して許しを乞うても、許さない。」 「………………………………」 「私は今朝、夢を見たんだ。」 エスデスの反応を他所に、柳龍光は語り出す。 「寒い、北の国でね。何もかもが凍りついていたんだ。人も、城も。それだけじゃ無い、男も女も年寄りも子供も殺されて、死体を晒されていてねえ。 残った連中は纏めて生き埋めさ……。皆助けを求めていたよ。」 「私の足元に跪いた男にか」 エスデスの眼が細められる。まだ殺気も何も放ってはいない。しかし、この女の身体のうちに満ちるものに、どんな愚鈍な者あっても気付く、そんな剣呑な“圧”を、エスデスは纏い出した。 「そうだよ………ああ、彼、惨めだったねえ。哀れだったねえ。戦争で負けて、サシの殺し合いで負けて、死ぬ事も出来ずに捕まって、自分に助けを求める皆んなに無様な負け犬の姿を晒して………。」 恍惚とした表情で、柳龍光は喘ぐように言った。 「君が跪いていた男の頭を蹴り砕いた時、射精していたんだよ。わたしは!」 ねっとりとした声色。聴いたものが不快感を、気の弱い者ならば怖気を感じる。そんな声。 「……………………………………」 「羨ましいって、そう思ったね。許しを乞うことすら、そんな事をする自我すら打ち砕かれて、犬畜生に成り下がった姿を、昨日まで尊敬の眼差しを向けていた連中に晒す……。 心底羨ましかったよ。妬ましいとすら思ったよ」 「敗者を羨ましいと思うのか」 「哀しそうな顔するからねえ…。 強くなる為に、積み上げてきた努力も、それまで捧げてきた全ての時間も、根こそぎ無くなってしまうんだよ。 哀しいよねえ。プライドずたずただよねえ。滅ぶものって、いいよねえ」 射精でもしてしまいそうな程に、感極まった声と表情で、柳龍光は語る。 「甘美なんだろうねえ、小便漏らすかもしれないねえ。敗北に身を委ねるという事は」 「…………………………………………」 「だけどね。わざと負ける。それだけは出来ない。死力を尽くしてね、思いつくことは全部やってね。その上で負けるんだ。一片の弁解も弁護の余地も無い敗北。 どうやっても、何をやっても助からない。言い訳の余地のない絶望。絶対的な敗北……。私が望むものはたったこれだけなんだ」 「つまりお前は此処に─────」 「そうさ、敗北(まけ)に来たんだよ」 もはや咽び泣く様な声で、今にも絶頂する寸前の女の様な調子で、柳龍光は話し終えた。 ────成る程な。 エスデスはサディストである。それも筋金入りの、超一級。Sの中のS。ドSである。 サディストというものは、いたぶる相手が何を嫌がるのかを精確に理解し、どうすればより効率良く相手を嬲れるのかを、正確に洞察できるという。 Sの中のSであるエスデスは、柳の独白から、なぜ柳が自分に対して無関心でいられるかを理解した。 一片の弁解も弁護の余地も無い敗北。それが柳龍光の求めるものなら、柳に敗北を与える力を十二分に有するエスデスを無視するのは────否。意識にすら乗せないのは当然だ。 幾ら柳がエスデスの眼から見ても、強者の称号を持つにふさわしいとは言え、所詮はただの生身の人間。サーヴァントを害する術など持ちはしない。 成程。今しがた柳龍光が駆使(つか)い、エスデスが異なる原理で再現して退けた技─────空掌であれば、エスデスを傷つけることも出来よう。 そして、エスデスの知らぬ技。自らの身体を液体とイメージし、力を抜き、手足を脱力(ゆる)ませる事で鞭と化す技、鞭打。 筋肉(にく)でも骨格(ほね)でもなく、皮膚そのものを痛めつけるこの技は、素肌(はだ)を持つ生物であれば等しく効果を発揮する。 柳龍光の未知の(しらぬ)未来の話では有るが、恐竜の顎より脱出してのけた白亜紀の原人ピクル。 権力。財力。知力。軍事力。あらゆる『力』を、産まれ持った暴力(ちから)のみで、嘲笑い、捻じ伏せた、地上最強の生物。“巨凶”範馬勇次郎。 そして異世界の住人である悪鬼(オーガ)。 これら規格外の怪物達にすら通じる鞭打ならば、サーヴァントといえども有効(つうじる)だろう。 そう、サーヴァントに只の生身による攻撃が通じればだが。 当然通じるわけが無い。ならば柳はこう思うことだろう。『同じ生身であれば、と』。生身でさえあれば、負けなかったと。 エスデスがサーヴァントの身の上である限り、柳龍光の一切の攻撃を『サーヴァントである』というだけで無効化してしまう限り。 柳龍光の四肢を捻じ切り、臓腑を抉り出し、凡そエスデスの知るあらゆる拷問を用いても、柳龍光に敗北を認めさせる事は不可能。 エスデスにとっては癪に触る話だが、こればかりは仕方が無い。 「一片の弁解も弁護の余地も無い敗北。実に好ましい言葉だ。」 お前に与えてやれないのが残念だ。という想いを込めて、エスデスが呟く。 「君は与える方が好きなんだろう?」 エスデスの想いを知ってか知らずか、柳龍光が訊く。 「ああ。それも死力を尽くした戦いの後なら尚更な。強ければ強いほど、折れなければ折れぬほど。屈服させ、蹂躙する甲斐が在る」 柳龍光の眼には、雪と氷で出来た戰乙女の像を思わせるエスデスの全身が燃えている様に見えた。 否。実際には燃えてなどいない。全身から発散される気炎が、炎の如くエスデスを取り巻き、それが気配に敏感な者の目に、全身を包む炎の様に見えているだけだ。 蒼氷色(アイスブルー)の瞳に、外見から受ける印象とは全く逆の、地獄の業火の如き眼光を宿し、エスデスが獰猛に笑う。 「伝説となる程の力と名を持つ者が集うこの聖杯戦争。さぞ蹂躙しがいが有る者達が集って居る事だろう」 未だ見ぬ強敵達と相見える時が待ちどうしい。 未知の強者達との全知全能を尽くした死闘に心が躍る。 死闘の果てに、技も力も術も届かず、撃ち倒され、心折れた敵が命乞いをする様を夢想する。 「私達は、どうやら似た者同士の様だね」 柳が笑う。 「ああ…確かにな」 エスデスが笑う。 一片の弁解も弁護の余地も無い敗北。それを与えたい女と、堪能したい男。求めるモノに向ける視線は正反対の方向を向いて居る。 だが、男女は真実同類だった。 先ず闘争を、全力を尽くし、死力を尽くし、全知全能を尽くした闘争を。敗北も蹂躙もその果てに有るからこそ価値が有る。 弱敵を踏み躙るのも、態と負けるのも、共に彼らにとって価値も意味も存在しない。 求めるモノが異なるだけで、そこに至るまでの道程が全く同じ男女は、未だ始まらぬ聖杯戦争に無言で想いを巡らせていた。 【CLASS】 アーチャー 【真名】 エスデス@アカメが斬る! 【属性】 混沌・悪 【ステータス】 筋力: C 耐久: C 敏捷: B 魔力:A 幸運: C 宝具;A+ 【クラス別スキル】 単独行動:A マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。 ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。 対魔力:B 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。 宝具【魔神顕現デモンズエキス】の影響で、高いランクを獲得している。 【固有スキル】 ドS:A 敵を蹂躙し屈服させる事を、至上の喜びとする精神性。 他者の苦痛と嘆きを何よりも好む。 ランク相応の精神異常と加虐体質の効果を持つ。 帝国最強:A 1人の兵としても、軍を率いる将としても、帝国最強の名を恣にした事に由来するスキル。 ランク相応の無窮の武練及び軍略の効果を発揮する。 獣殺し:A 幼少期に、住んでいた北辺の地の獣を狩り尽くした逸話に基づくスキル。 天性の狩人であるアーチャーは獣の殺し方を知っている。 獣の属性を持つ者に対し特攻効果を発揮する。 拷問技術:A 解剖学や薬学(毒)を用いて巧みに拷問を行う。 卓越した技量により、生かさず殺さず延々と苦痛を与え続けられる。 【宝具】 【魔神顕現デモンズエキス】 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~聖杯戦争のエリア全域 最大補足:自分自身 無から氷を生み出し、自在に操る帝具。その来歴はある超級危険種の血を搾り取ったもの。 一口飲むだけで、脳裏に響き渡る、殺戮を求める声により正気を保てなくなるが、アーチャーは全てを飲み干したうえで、殺戮へと駆り立てる声を自身の自我により制圧。完全に自分のものとしている。 『氷を生み出す』と言ってもその応用性は非常に広く、基本技としての氷の矢の射出や、氷の剣や槍、鎧といった武具の生成。これらの武具は、大きさを任意で変えることができる。 氷を浮遊させ、その上に乗る事で、速度は遅いものの飛行を可能とする。 氷だけでなく冷気も操ることができ、触れる事で対象を凍らせることや、大河や城塞を凍結させる冷気を繰り出せる。 果ては独自行動が可能な『氷騎兵』の大量作成。一国を覆い尽くす吹雪を起こす『氷嵐大将軍』といった、理外の威力を持つ宝具。 【摩訶鉢特摩(マカハドマ)】 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:聖杯戦争のエリア全域 最大補足:ー 愛しい男を逃さない為に編み出した時空間凍結技。二十四時間に一度しか使えない。極僅かな間、時を凍らせ、万象を停止させる。 【Weapon】 サーベル 【聖杯にかける願い】 思うように生きて死んだので、特に願いは無い。 【方針】 闘争と蹂躙を愉しむ。愉しめそうな相手を探す。 【解説】 千年続いた帝国の滅亡期の将軍。帝具抜きでも万軍を寄せ付けぬ武練と、麾下の精鋭を手足の如く操る用兵術を持って、帝国の周辺諸国や、国内の反乱勢力に恐れられた。 闘争と、その結果としてある敗者の蹂躙とを、何よりも好む戦闘狂にしてドS。 生涯唯一の心残りは、恋した少年の笑顔が、遂に自分に対して向けられなかった事。 【マスター】 柳龍光@バキ外伝 ゆうえんち バキ本編に登場するより大分前の話である『ゆうえんち』からの参戦。バキ本編からでは無い。 本編とは別人レベルで凄みと気持ち悪さを獲得し、夜の公園で本部以蔵を殺せそうなオーラを漂わせている。 【技】 空掌: 掌に真空を作り出す技。 紙のように柔らかく軽いモノは吸い難く、硬く重いモノは吸い易いとされる。 触れてもいないのに皮膚を吸い寄せることや、掌を壁に張りつかせてビルの高層階に窓から侵入することが出来る。 鞭打: 脱力する事で腕を鞭と化す技。柳龍光の鞭打は『水銀の鞭』と称される域。 皮膚を的とした技で有る為、素肌を持つ相手ならば等しく有効な技。 毒掌: 各種毒物を満たした壺に手を浸し、その後解毒する。 これを繰り返す事で、手を致死毒の塊に変えてしまう技術。 この行は凄まじい苦痛を伴う為に、中途で断念。若しくは手首を切断する者が出る程。 毒としては神経毒で、眼球に触れただけで失明する。 【聖杯にかける願い】 無い 【方針】 敗北を教えてくれそうな相手を探す。
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171 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. ☆ 「...マスタングさん」 「......」 放送が終わり、告げられた死者の名を噛みしめる。 暁美ほむら。 空条承太郎。 西木野真姫。 自分が守れなかった者たち。そして 「セリュー...」 未央や卯月を逃がし、マスタングに全てを託して戦場に残った彼女。 あの爆発だ。 生きて帰れる確率はゼロに等しい。 それは覚悟していた。だが、改めて確定されると、やはり堪えるものがある。 だが、いや、だからこそ彼はやり遂げなければならない。 卯月を説得すること。そして、それでも彼女が傲慢を振りかざし続ける時には――― 託された二つの首輪を握りしめて誓う。 (力を貸してくれ、セリュー。どうか、彼女がこれ以上過ちを犯さぬよう...) セリューの。そして、ほむらや承太郎の死を無駄にしないためにも。 彼らは傷だらけの身体に鞭をうち、駅への一歩を踏みしめていく。 「...?」 駅が目前にまで迫った時だった。 二人の鼻腔が、妙な臭いを捉えた。 「な、なに...これ...」 「...まさか」 未央はその親しみの無い臭いに嫌悪感を抱き、マスタングは慣れ親しんだその臭いに顔をしかめる。 (...首を落とせば、それだけでも血の匂いは充満する。ならば、あそこには...) まどかとほむらの遺体が安置してある可能性が高い。 そして、可能性は低いが、もしこの匂いに彼女がつられていれば... 「...未央。少しの間だけここに入っていてくれ」 「え...でも」 「卯月は既に放送で君の生存を知っている。だから念のためだ」 もし、卯月がセリューの死を知り、彼女を生き返らせようとゲームに乗ったとして。 真っ先に狙うとすれば、戦闘力を持たない未央だろう。 彼女を人質にでも取られてしまえば、もう打つ手はなくなってしまう。 もっとも、卯月がそこまで冷静に、正確に動けるかどうかは甚だ疑問ではあるが。 ...とにかく、彼女の武器は糸であり、腕さえ押さえてしまえばどうとでもなる。 故に、未央の力を借りるのは、彼女を拘束し、糸を取り上げてからの方がいい。 ひとつ懸念があがるとすれば、自分も見た『疑似・真理の扉』に似たデイバックの構造だが...この点に関してはほとんど問題はない。 あのとき見た『マヨナカテレビ』とその要素の一つである『シャドウ』とやらは、極限状態に追い込まれている者にしか現れないと言っていた。 ならば、まだ極限状態にはない者、意識がある者が入った場合どうなるか―――道中、未央が入って確かめた。 結果、『マヨナカテレビ』や『シャドウ』は現れず、ただ漆黒の空間に浮かんでいるような状態だったという。未央曰く、「宇宙にいるのに似た感覚かも」らしい。 その宇宙についてはマスタングも未央も行ったことはないのでなんともいえないが。 それでいて、手を伸ばせばデイバックのファスナーに触れ、出入りは自由にできるというのだから、本当に変わった代物だ。 (『マヨナカテレビ』とやらの時は出られないが、そうではない時は出入りは自由...奇妙にも程があるぞ) だが、この際使えるものはなんだって使わせてもらう。 マスタングを心配そうに見つめながら、デイパックへと入る未央。 彼女が入りきるのを確認すると、それを担ぎ、マスタングは駅員室の扉に手をかける。 (できれば、ここにいてほしいが...) 彼女がここにいれば、それに越したことはない。 だが、いなくとも、ほむらたちの遺体だけは埋葬、せめて火葬はしてやりたいと思う。 音を立てぬよう、ゆっくりと戸をひき 「ッ...!?」 あまりの臭気に、部屋の中を見る前に思わずその手を止める。 (なんだこの臭いは...) 首を斬れば、確かに血は流れる。 しかし、それだけではこうまで強烈ではないはずだ。 ここまで臭いが充満するには、もっと... 「どうした?入ってこないのか?」 声がした。 卯月のものとは違う、透き通る氷のような声。 気付かれたか。 戸から手を離し、戦闘態勢をとる。 いつでも錬金術を発動できるように、手袋を嵌め直す。 「私はエスデスだが...お前は誰だ?」 エスデス。 セリューが語っていたイェーガーズの長だ。 「...私は、ロイ・マスタング。この殺し合いには乗っていない」 「マスタングか。卯月から聞いているぞ」 「卯月と出会ったのか!?」 「ここで寝ている。...それで、入ってこないのか?」 再びの誘いに、マスタングは考える。 エスデスは、セリューやウェイブがその実力に絶対の信頼を置く者だ。 彼女が味方についてくれれば、かなり心強い。 しかし、卯月が既に接触している以上、マスタングの悪評が流されている可能性は非常に高い。 その場合、エスデスとも戦う可能性、ひいてはこの戸を開けた瞬間に罠にかかる可能性もあるが... (...悩んでいてどうする。動かなければ卯月を止められないだろう!) ここで退けば、エスデスとの誤解が生じたまま戦うことになるかもしれない。 それは駄目だ。そんなことになれば、エンヴィーたちやキング・ブラッドレイとの戦いの二の舞だ。 彼女がもし敵視しているのなら、その誤解を解かなければならない。 もはやこの命、自分一人だけのものではないのだから。 そして、マスタングは再び戸に手をかける。 彼が扉を開いた先にあったのは。 ひとつの、地獄だった。 ☆ 心地よい死臭が充満する部屋の中で、島村卯月はエスデスの膝で眠りについていた。 (それにしても...お前とはほとほと縁があるようだな、足立) 卯月が眠りにつく前に聞き出した情報によれば、足立はまどかを殺しただけではなく、コンサートホールの火災を起こし、更にはほむらを殺し、承太郎にまで勝利を収めたというのだ。 (まさかお前がそこまでやれる男だとは正直にいえば思っていなかったぞ...次に会った時が楽しみだ) おそらくは様々な要因が絡み合ったが故の結果だろうが、過程はどうあれ、足立は一人でまどか、ほむら、承太郎、セリューを退けてきたのだ。 その成果は充分に強者のものといってもなんら遜色ない。 自分以外のイェーガーズの面々でも挙げられそうにないものだ。 ともすれば、DIOにも匹敵する楽しい戦いができるかもしれない。 いや、足立だけではない。 最強の眼を持つホムンクルス、キング・ブラッドレイ。 強力な電撃を操る御坂美琴。 驚異的な身体能力を持つ危険種、後藤。 限界を超えて進化してみせたウェイブ。 ナイトレイドの切り札、アカメ。 そして、自分と同じ『世界』を操るDIO。 また、エドワード・エルリックをはじめとした、大物ではなくとも面白そうな者たちもまだ多い。 (まったく、この会場には楽しみが多すぎる) せっかくの機会なんだ。可能ならば、全ての楽しみを味わい尽くしたいものだ。 そのためには、一刻も早く行動を再開するべきである。 そこで寝ている暁美ほむらのように楽しみを減らしてしまってからでは遅いのだ。 そろそろ動くか、とエスデスが卯月を起こそうとした時だ。 何者かが、戸の前に立った気配がした。 しかし、その何者かは、微かに戸を揺らすと、それだけで留まり、部屋に踏み入ろうとしない。 この臭いにつられてきたのだろう。 警戒しているのか。ならば仕方ない。こちらから入りやすいように誘ってやろう。 「どうした?入って来ないのか?」 そう声をかけると、気配は警戒心を露わにする。 ふむ。どうやらただのデクの坊ではないらしい。 とはいえ、このまま硬直状態を続けていても仕方あるまい。 「私はエスデスだが...お前は誰だ?」 まずはこちらから名乗り出る。 こうすることによって、会話の主導権を握り、部屋へ入るように誘導をする。 エスデスの名を聞いただけで逃げるような相手なら、ハナから期待などしない。 「...私は、ロイ・マスタング。この殺し合いには乗っていない」 名乗りが功を制したのか、相手もまた名乗り返してきた。 ロイ・マスタング。 卯月からの情報では、最後までセリューと共に戦ってきた男らしい。 ただ、現状では敵か味方はわからない。そんな印象だった。 「マスタングか。卯月から聞いているぞ」 「卯月と出会ったのか!?」 「ここで寝ている。...それで、入ってこないのか?」 再び流れる沈黙。 どうやら、マスタングは何事か考えているようだ。 まあ、無理もないだろう。 死臭ただよう密室に、戦場を知らないはずの卯月がいるというのだ。 違和感をおぼえるのは仕方ないだろう。 だが、時間をかけ過ぎだ。 いくら怪しくとも、なにかしらのリアクションもないのはじれったい。 はやる気持ちを押さえつけ、彼が戸を開けるのを待つ。 それから少しして、ようやく彼は戸を開けた。 その時の彼の表情といったらもう! ...罠も仕掛けていないのに、なんでわざわざ開けるのを待っていたかだと? 簡単だ。そちらの方が面白そうだからだ。 ☆ 結論からいえば、罠などなかった。 だが、エスデスがこちらを警戒しているだけならばどれほどよかっただろうか。 真っ先にマスタングの目に飛び込んできたのは、血にまみれた壁や床。 ―――なんだこれは。 「どうした?なにを呆けている」 エスデスの言葉にも耳を傾けず、ずかずかと押し入り、現場を物色する。 ―――なんだこれは。 ゴミ箱には人間の残骸らしきものが乱雑に詰められており、台所には目玉も転がっている。 ―――なんだこれは。 振り返ると、そこには笑みを浮かべるエスデスと眠る卯月。そしてもう一人床に寝ている何者か。 いや、違う。 『二人』が『一人』に縫い合わされ、虚ろな目でこちらを見つめていた。 彼女たちを最後に見た時は、既に息絶えていた。 だが。 彼女たちが生前なにをしたというのだろうか。 どれほどの罪を背負えばこんな罰が下されるのか。 ...いや、これは罰などというそんな高尚なものではない。 これは、純粋なる悪意の塊だ。 ―――な ん だ こ れ は 。 「...エスデス。これはきみが?」 「いいや。私が来た時には既にこうだった」 「下手人は?」 「殺したのは足立だが、縫い合わせたのはこいつだな。立派なものだろう?」 エスデスが、『悪意』を掴み継ぎ目をなぞる。 『立派なもの』。 その言葉に、マスタングのこめかみがピクリと動く。 「帝具というものは、素質がある者でしか使いこなせない暴れ馬でな。ここまで使いこなせる者もそういないぞ」 「卯月を起こせ」 「本来の使い手が誰かは知らないが、大した訓練も無くここまで使えるんだ。もしかしたらソイツよりも適正があるかもしれないな」 「起こせと言っている」 間に立つエスデスなど眼中にないかのように、マスタングは卯月へと歩み寄っていく。 「...ふっ。なにをそんなに怒っている。奴らがこうなったのは、やつらn」 パチン エスデスの言葉を聞き終える前に、マスタングがゴミを払うように腕を振り、鳴らされた指の音と共に焔が走り爆発を起こす。 爆発に吹きとばされたエスデスの身体はガラスを突き破り、駅員室の外へと放り出される。 「はっ!...え、エスデス、さん?」 熟睡していた卯月も、この轟音と熱気の中では呑気に寝ていられず、たちまち飛び起きた。 キョロキョロと辺りを見まわすが、立ち昇る土煙で視界の大半を塞がれ、自分を覆うように張られていた氷の壁が確認できるのみだ。 「答えろ。島村卯月」 ☆ 突然の轟音に起こされた私がまず見つけたのは、わたしを守るようにそびえ立っていた氷の壁でした。 なぜこんなものがあるのか。どういう状況なのか。それを考えるよりも先にわたしは。 (エスデスさん?エスデスさん!?) わたしの後にここへやってきた、セリューさんの尊敬する人―――エスデスさんを探しました。 あの人は、わたしの犯した罪を見ても、責めるどころか褒めてくれました。 謝る必要は無い。強くなる素質がある、と。 それからのことはあまり覚えていませんが、『強いことこそが正しい』という言葉だけはやけに印象に残っていました。 とにもかくにも、連れてこられたニュージェネレーションのみんなも死んでしまったせいで、いまの私の拠り所はエスデスさんだけです。 ...あれ。エスデスさん『だけ』?なんで? ...いいえ。そんなことはどうでもいいのです。 とにかく、彼女がいないこの瞬間が、どうしても怖くて、心細くて。 だから、わたしはすぐに探しに行こうとしました。 「答えろ。島村卯月」 だけど、それは聞き覚えのある声に止められて。 振り返り、土煙が晴れた先にいたのは、見覚えのあるあの人で。 けれど、その顔はまるきり別人で。 「彼女たちをああしたのは―――おまえか」 彼―――マスタングさんは、まるで敵に向けるような表情で私を睨んでいました。 そのあまりの威圧感に、わたしは、つい言葉を詰まらせてしまいます。 彼のいう彼女たち―――ほむらちゃんとまどかちゃんのことでしょう。 言われなくてもわかります。 「その服はなんだ?わざわざ彼女から剥いだのか」 恐怖に震える全身を抑えきれず、つい頷き肯定してしまいます。 嘘でもなんでも、誤魔化してしまえばこの瞬間からは逃げられるかもしれないのに。 けれど、なぜかわたしは自分の行いを否定することはできませんでした。 「た、たむら怜子に不意打ちされたくなくて、それで」 「......」 マスタングさんの表情は変わりません。 わたしの言ったことが通じたのかどうか... それすら聞くのを憚られるほどに、わたしは彼に恐怖を抱きました。 「なぜ、こんなことをした。彼女たちがきみになにかをしたのか?」 ふるふる、と首を横に振ってしまいます。 当然です。彼女たち―――特にほむらちゃんは、私にも最期にお礼を言ってくれました。 感謝の意はあれど、恨む気持ちなんて微塵もありません。 「ならば、なぜだ。なぜ、彼女達をあんな目に遭わせている」 わたしだって、なんであんなことをしたのかわかりません。 クローステールの練習だって、もっといい方法があったはずです。 ほむらちゃんはセリューさんの友達で、まどかちゃんもほむらちゃんの大切な人。 なのに、どうしてわたしはあんなことをしてしまったのでしょう。 あんな、あんな残酷なこと――― ―――何を謝る必要がある? ふと、エスデスさんの言葉が頭をよぎります。 ―――こいつらは弱かった。だから死んで、こうしてその生を愚弄されている。ただそれだけのことだ。弱者が蹂躙されるのは当然だ そんなはずはない。彼女達が悪いなんてありえない―――そう言ってしまえばいいのに。 なぜかわたしにはその言葉を否定できません。 ―――こいつらは私の知り合いだ……が、こうして敗北した以上は、単なる肉塊にすぎん。肉塊を貴様がどう扱おうと、誰も文句を言うことはない 知り合いなら、セリューさんみたいにもっと悲しんであげればいいのに。 そんな思いも浮かんできましたが、すぐに別の言葉に塗りつぶされてしまいます。 弱者が蹂躙されるのは当たり前。違う。私がやったのは許されないこと。違う。弱いことが罪。違う?死者は丁寧に弔わなければならない。違う? 頭の中がぐちゃぐちゃでこんがらがって。 なにが正しくてなにが間違っているのか。私は私がわからなくなりそうです。 でも、そんな中でも。 ―――この世で最も価値があるのは強さだ。決して、忘れるな エスデスさんのその言葉だけは決して揺らがなくて。 マスタングさんの射殺すような視線には耐えられなくて。 わたしは、わタしは。 「ほむらちゃんたちが、弱かったから」 震える声でそう口にした瞬間、まるで空間が凍りついたかのように、マスタングさんの表情が驚きで固まりました。 「わたしは生きていて、ほむらちゃんたちは死んでいる」 違う。そんなことを言いたいんじゃない。 頭の中ではいくらでも否定の言葉が浮かんできます。 「なら、わたしは悪くない。悪いのは、しんじゃったほむらちゃんたちです」 なのに、わたしの口は止まってくれません。 否定の言葉を口にすることができません。 「弱いから、なにをされても文句はいえないんです。強いから、なにをしても文句はいわれないんです」 頭の中で、ことりちゃんを殺してわたしを護ってくれたセリューさんの姿が浮かび上がってきます。 【セリューさんが強かったからわたしを守ることができた】 いくら周りに悪と見なされていても、そんなことはお構いなしに正義の味方の筈のセリューさんを圧倒したキング・ブラッドレイの姿が浮かび上がってきます。 【セリューさんよりもあの男の方が強かったから、彼は未だに生きている】 「だって、『正義』とは『強さ』だから」 どうしても、言葉は止まってくれません。 ああ。ああ。 こんなにも残酷なことを言っているのに。 涙の一つも流れない私は――― ☆ 突如、放たれた氷の散弾がマスタングに襲い掛かり、身体を傷付ける。 ぎょっとする卯月を余所に、痛みに動きを止めたマスタングの腹部に蹴りを入れ、彼の身体を窓から叩き出す。 「いいぞ。よく言った。それでこそ、セリューが遺した価値があるというものだ」 氷の主は、もちろんエスデス。 彼女はマスタングの焔が着弾する寸前、氷の壁を張り、ついでに激しく後退することにより、ダメージを回避した。 爆発も、マスタングの焔とエスデスの氷がぶつかったことにより生じたものである。 その結果、彼女は傷一つついておらず、こうして五体満足で立っている。 (まだ完全には振り切ってはいないようだが、死の寸前でもあれだけできれば上出来だ) 人間というものは死に直面してこそ本性を表しやすい。故にマスタングが卯月を追い詰めるまでわざわざ待っていたのだ。 卯月はエスデスが仕込んだ自然の摂理を口にできた。 これなら卯月も調教する余地はあるというものだ。 ボルスやウェイブのような実力や覚悟もないのなら、それくらいはやってもらわねば困る。 「卯月は私の部下なのでな。そういう訳で手出しをさせてもらったぞ」 そして、マスタングを吹き飛ばす際に奪い取ったデイバックの中を探り、入っていたものを取り出す。 「うわっ!」 「やはりな。放送で呼ばれていない以上、マスタングと行動していると思っていたぞ」 取り出され、乱暴に投げ捨てられたそれは、きょろきょろと周りを見渡し状況を確認しようとする。 それの存在になにより驚いたのは――― 「え...みお、ちゃん?」 「そうだ。お前がやり残していた仕事、そして私の与える最初の試験だ」 「し、しまむー...」 卯月を目の当りにし、未央は恐怖に震えあがる。 いくら知り合いだとはいえ、いや、知り合いだからこそ、こうして一度は殺されかけた相手に向き合うのは怖い。 説得しようとここまで来たというのに、本能的に、尻もちをついたまま両手で後ずさってしまう。 ぐにっ なにかを手で踏んづけた。 慌ててそちらをふりむくと、そこには見覚えのある顔が。 「ほむらちゃ...」 彼女のもう半分を見たその瞬間。 未央は絶句した。 ほむらの遺体には顔の半分がなかった。いや、正確にはあるのだが、別の少女の顔なのだ。 ホラー映画や漫画に出てくるようなつぎはぎの顔、なんてまだ可愛いものだ。 これに込められている恐怖に、残虐さに。 未央の喉からなにかが込み上げてくる。 「ぅっ、うぷっ」 もはや出しつくした筈の吐しゃ物が床に吐き出される。 その様をしばらく笑みを浮かべて眺めていたエスデスは、やがて未央に歩み寄ると、死体を持ち上げて告げた。 「これをやったのはな、そこにいる卯月だ」 「えっ」 「私の命令じゃないぞ。卯月が、自らの意思でだ。...なんなら味わってみるか?あいつが生み出した『死』の味を」 エスデスは未央の髪を掴み、ほむらとまどかの残骸が詰められたゴミ箱へと顔を沈めさせる。 充満する臭気が、鉄と血の味が、死者の味が未央の顔中にへばりつく。 「――――――!!」 未央が必死に足をばたつかせ抵抗し、悲鳴をあげようとする。 だが、喉に深刻なダメージを負い、且つ残骸に埋もれているこの状況ではくぐもった悲鳴をゴミ箱の中であげるのが精いっぱいだ。 「ふむ。激痛による悲鳴は数多く聞いてきたが...たまにはこういう悲鳴も悪くはない」 そんなことを呟きつつも、未央を抑える手は力を緩めない。 やがて、それなりに満足したのか、未央の頭を引き上げ床に投げ捨てる。 「どうだ。お前のいたところでは中々味わえないものなんじゃないか?」 「うっ...ぇぐっ...」 「もし卯月に殺されてたら、お前もあそこに入っていたかもしれないな」 笑みを浮かべながら嬉々として告げるエスデスの考えが、卯月はわからなかった。 なぜ、未央を煽るようなことを言うのか。そんなことをすれば、彼女は必ず... それがわからないエスデスではあるまい。 「なんで...なんでなの、しまむー」 「あ、あの」 「真姫ちゃんだけじゃなくて、ほむらちゃんたちまで。なんでこんなことを」 恐怖しか抱いていなかった未央の瞳に、別のものが混じりはじめる。 いまは困惑でしかないそれだが、それは厄介なものへと変化すると、卯月は確信した。 ニュージェネレーションの中でも、多くのメンバーの顔色を窺ってきたからわかる。 困惑の延長上にあるもの。そうだ、これは――― 「卯月」 エスデスの言葉に、ビクリと卯月の身体が跳ねあがる。 「私はマスタングに用があるのでな。この場はお前に任せる」 背中を向けたまま語られる言葉に、エスデスに対する畏怖が、恐怖が、恍惚が、憧憬が。 正負の混ざった様々な感情が卯月の中に湧き上がってくる。 「私が何を言いたいか、わかるな?」 その言葉に、卯月の全身が震えあがる。 エスデスは割れた窓から去り、この場には卯月と敵対意識が芽生え始めている未央が取り残される。 そんな状況で任せることなどひとつしかない。 それを認めてはいけないのに。 嫌だとハッキリと言わなければいけないのに。 頭の中とは裏腹に、卯月の右手は、クローステールを握る右手はキシリと音を鳴らしていた。 「...みお...ちゃん」 「しま、むー」 見慣れているはずの仲間なのに、なぜか歩み寄ってくるその姿は死神のようで。 未央は尻もちをついたまま動くことができなくて。 そんな彼女に、震える声で卯月は告げた。 「わたしのために―――今度こそ死んでください」 パンッ 一際甲高い音が鳴ると同時に、隆起した土の塊が卯月に襲い掛かる。 塊は卯月の胸部を殴りつけ、後方へと吹き飛ばす。 「ほう。これが錬金術か。中々興味深いな」 駅員室の外で、マスタングと対峙していたエスデスが思わず感嘆の声を漏らす。 「...卯月が倒れたぞ。気にかけなくていいのか」 「構わん。言っただろう、あいつは帝具を使いこなしているとな」 「...田村からの情報通り、糸を巻きつけているのか」 「なんだ。既にタネを聞いていたのか、つまらん。...なら、なぜ効かないかもしれない攻撃をした?お前の得意とするらしい炎なら、一撃であいつを殺せただろう」 「炎で攻撃すれば、貴様は止めただろう」 「わかっているじゃないか。ならば、私が次にすることも読めるか?」 エスデスは、背後に手をかざし、幾千もの氷柱を放つ。 氷柱は瞬く間に駅員室を破壊し、その内装を露わにしていく。 「未央!」 「安心しろ。卯月はもちろん、本田未央もたいして傷付けてはおらん。あまり傷付けすぎては練習にならんからな」 エスデスが指を鳴らすと、彼女の背後に一瞬にして巨大な氷の壁がそびえ立つ。 これで、未央たちとは完全に分断された。 「練習、だと」 「卯月は帝具こそ使いこなしつつはあるが、実戦経験は皆無でな。最初の相手としては申し分ないだろう?」 マスタングは、エスデスの言葉がわからなかった。 いや、意味こそは伝わっているが、理解したくなかった。 未央が卯月の練習相手?実戦の? 「未央っ!」 「グラオホルン!」 そびえ立つ氷の壁を破壊するため指を鳴らそうとした瞬間、エスデスは両手を振るい巨大な氷塊を召還。 氷と炎の衝突は爆発を起こし、衝撃波が辺り一帯の地を鳴らす。 「私がそれを許すと思うなよ。そのためにここにいる」 「貴様...!」 「解りやすく言ってやろう。本田未央を救いたければ、私の屍を越えていけ」 邪悪な笑みを浮かべ、大げさな手振りでエスデスは告げる。 お前の相手は私だと。 「......」 マスタングの拳が握り絞められる。 「...まどかはおまえの仲間だったのだろう。あの姿を見てなにも思わないのか」 「仲間...という程の間柄ではないが、確かに敵対はしていなかったな。だが、死ねばただの肉塊だ。どう扱おうが興味はない」 怒りに。 「お前の部下のセリューがなんのために戦ったのか、お前にはわからないのか」 「あいつを逃がすためだろう。ただ、セリューは弱かったからその果てに死んだ。それだけだ」 悲しさに。 「セリューは、ほむらの死を悲しんでいた。卯月も未央も護ろうとしていた。...部下の気持ちを汲んでやらんのか」 「生きている間なら気を遣ってやるさ。だが、死ねばそれまでだ。死者そのものに価値はない」 虚しさに。 「...まさか、この期に及んでまだ躊躇うつもりか?」 そして。 「そんなのだからお前は何も守れんのだ」 彼女の言葉と。 「本田未央だけじゃない。ほむらもセリューも承太郎も西木野真姫も。全てはお前の躊躇いが殺したのだ」 振り下ろされる巨大な氷塊を最後に。 「動けぬのなら、迷いを抱いたまま死んでしまえロイ・マスタング」 ロイ・マスタング―――いずれは大総統になる男は、ここに消えた。 →
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175 激情の赤い焔 ◆BEQBTq4Ltk 激情の元に放たれた焔は人間一人程度の体積ならば簡単に飲み干してしまう。 真理の扉に触れたロイ・マスタングが操る錬金術は掌を合わせることにより、術式を省き、術を完成させることが出来るのだ。 ある程度の術式や錬成陣を省くことにより、こと戦闘に置いては、予備動作を抑えることから有利に振る舞うことが可能となる。 掌を合わせ、指を弾くだけで焔を錬成出来るため、人間の身でありながら戦闘能力は生身の一個兵隊と肩を並べるだろう。 しかし。 焔の錬金術師が対峙している相手もまた、人智を超えた怪物である。 錬金術師ではないものの、人体は生身でありながら一つの世界にて実質の最強を誇る氷の女王。 エスデス。そう呼ばれる女は帝具によって氷を自由自在に操り、予備動作など存在しない。 マスタングが放った焔に対し、氷をぶつけることで相殺させると大地を蹴り、距離を詰める。 「もっと楽しませろロイ・マスタング……まだ始まったばかりではないか!」 エスデスが右手を薙ぎ払うとそれに伴い氷が生成され、マスタングに飛翔していく。 一発一発が拳銃の弾丸に勝り、弾倉が無限でもある。彼女もまた生身でありながら一個兵隊と肩を並べる怪物だ。 「楽しむだと? 何を言っている」 マスタングの足元が隆起すると、氷の弾丸から彼を守る土の壁が現れ、全てを粉砕。 パラパラと落ちる氷を見つめるエスデスの表情は――笑っていた。 「私はお前を楽しませるつもりなど――無いッ!」 「だが私は楽しんでいるぞ……勝手に楽しませてもらおうか」 弾かれた指。 その音は焔の合図であり、土の壁ごと焼き尽くすように広範囲の火炎がエスデスを包み込む。 中心に立つ彼女は氷で己を覆うと身体に迫る熱を全て遮断し、何事もないようにまた、距離を詰めた。 マスタングまで残り五メートルと云ったところで、氷の槍を生成し投擲。更に己の距離を詰める。 氷の槍に対しマスタングは身体を捻ることで回避し、それを掴み錬成を行う。 青い閃光に包まれた氷槍は小ぶりながら無数の氷塊と変化し、彼は両掌にありったけ握り込み。 「戦闘に快楽を覚える奴に碌な人間はいない――貴様もだエスデス」 一斉にばら撒く。 勢い付けているエスデスは急停止を試みるも、簡単には止まれずに大地を削る。 両腕を交差し迫る氷塊を防ぐも、血が流れ大したダメージではないが傷を帯びた。 「上だ」 彼女の発した言葉に導かれるまま頭上を見上げたマスタングの視界には人間三人程度の大きさを誇る氷塊。 予備動作無しの能力は厄介だ。などと愚痴を零す暇も無く、焔を錬成し、熱よって蒸発させる。 「次は左だ」 「何度でも焼き尽くす」 またも迫る氷塊に向け焔を放つ。 上空から注ぐ水滴を拭いながら左側も消滅させ、安心――という訳にもいかない。 視界をエスデスに向けた所で、眼前には笑顔を浮かべる悪魔の姿があった。 「――ッ」 氷塊の相手をしていた隙に距離を詰められていたらしく、彼女は拳を振り上げていた。 錬金術も間に合わ無ければ、素手で防ぐことも難しい。つまり、攻撃を受けるしかない。 顎を撃ち抜かれたマスタングはたたらを踏むことになるが、意識は保っており、掌を合わせる。 指を弾くことによって己の目の前に焔を発生させ、追撃を防ごうとするもエスデスは上から降って来た。 氷を己の足場とし、上空から跳んで来た彼女は掌をマスタングに向けると氷槍を飛ばす。 焔の錬金術師は横に跳ぶことで回避し、お返しと謂わんばかりに焔を飛ばすも氷によって防がれてしまう。 両者が大地に着地したところで、エスデスが言葉を漏らす。 「火力は大したものだ……今まで出会った人間の中でもかなりの存在だ」 「そのようなことを言われても何も響かん。貴様とお喋りをするつもりは無いぞ」 「氷塊の対処から見て、戦況判断処理能力も悪く無い……だが、感情のままに戦うことは悪く無い。 しかしマスタング、足元がお留守ではないか?」 「な――ッ!」 自分周辺の足場が凍らされていることに気付くも、既に遅かった。 マスタングの足も徐々に冷凍されており、このままは身動き一つ取ることも出来ない。 即座に焔を限界まで弱め錬成し、己の足場に焚き付け解凍を始める。 「芸達者な奴だ。殺すには惜しいが……相容れることは無いだろうな」 エスデスは口上を待つような人間では無く、隙を見せればお構い無しに突く女である。 足場が凍っているマスタングを見逃すような甘いことはせずに、殺さんと距離を詰めるも――左足が爆ぜた。 「言い忘れていたがピンポイントでも可能なのだよ、私の能力は」 「面白い……この会場に居る人間はどいつもこいつも私を楽しませてくれる!」 今まで対処して来た大振りな焔では無く、人体の部分箇所を焼くための焔。 拷問にでも使えそうな、人体の特定箇所を削ぎ落とすように放たれた焔はエスデスの左足を焼いた。 その衝撃に体勢を崩し前のめりで倒れこむ彼女だが、即座に立ち上がりマスタングに視線を戻す。 彼は氷から開放されており、今度は此処ら一帯を焼き尽くすような焔を錬成していた。 一種の美しさすら感じられる悪魔の炎に、エスデスの心は惹かれていた。 「全てを焼き尽くして見せよ」 一帯を焼き尽くす焔が相手ならば、一帯を覆う氷で相手するのが礼儀であろう。 草地はその緑を失い、生命の息吹を感じさせない程度には凍っていく。 焔が弾かれてからその炎を走らせるまでに、氷の女王が放った冷気は周囲を氷河の大地へ昇華させる。 生物は何一つ生きていないような歴史を感じさせるこの地を、焔の錬金術師が全て焼き尽くす。 幾度なく蒸発し、視界は煙によって何も映らない。 一度に多くのエネルギーが衝突した故に、爆発が周囲を飲み込んでしまう。 煙に加え、爆炎と砂塵も相まり誰が立っているかも解らない。だが、どちらも立っていよう。 彼らがこんなことで倒れるなど予想もつかず、現に戦闘音は鳴り止まない。 マスタングは適当に氷塊を掴み上げると、周囲にばら撒き耳を澄ませた。 草地を焼き尽くしたこの状況で氷塊が響く音は衝突音。そして、周囲には何も無い。 「そこか」 故に対象はエスデスぐらいだろう。 音の場所に焔を走らせ――氷が消える音だけが耳に残る。 「しまっ――」 「貴様が今焼いたのは私の氷だ」 後ろを取られた。 マスタングの背後に回ったエスデスは再度、彼の身体を凍らせる。 足が凍り――次は腕を覆う。先程のように焼かれては厄介故に焔の始点である腕を潰す。 「貴様……ッ」 「さぁ、これでお前の打つ手は無くなった。 私に与えた傷は氷塊と先程の爆発……実に充実した時間だった」 優位に立ったエスデスは望まれていない感想を呟くと氷槍を精製し握り込む。 マスタングは視界に映ったそれに対し、汗を浮かべるも対処する手立ては無い。 「此処で終わる……か。私はこれまでなのか」 「そう落胆することも無い。お前は今まで戦った人間の中でも……先程言ったとおりだ。 その殲滅力は随一だったよ。お前の名を私の中に刻んでおくぞ」 「全く嬉しくないな。貴様に刻まれるぐらいならばいっそ此処で殺せ」 「言われなくとも殺すさ」 マスタングに走る激痛。 背中から伝わる熱を帯びた痛みと、身体の芯まで凍ってしまいそうな冷気。 エスデスの操る氷槍が背中に突き刺さり、生命の象徴である鮮血が滲み出ていた。 腕が凍らされており、頼みの錬金術は使えない。 大地に腕を擦り付け、氷をある程度削ぎ落とせば、意地にでも扱えるだろうが、エスデスは許してくれないだろう。 目の前で不審な動きを見せれば殺される。その事実は覆しようのないものだ。 瞼が重くなる。 思えば殺し合いに巻き込まれてから数時間だが、身体への負担は濃い。 エンヴィーの襲来に始まり、エスデスとの死闘。疲労も限界に近いだろう。 後藤との戦い後に行った人体錬成。その後に休む間もなくキング・ブラッドレイの襲撃もだ。 此処まで戦ったロイ・マスタングを責める人間はいないだろう。 不器用ながらも彼は、殺し合いを止めるべく己の身体を酷使した。 結果が伴うことが無くても、彼は戦った。 彼が居なければ生存者は現在よりも少なくなっていただろう。 しかし誰も彼を讃えない。 辛いのは参加者の共通事項であり、マスタング一人に功績が与えられる訳でも無い。 今、彼の近くに居るのは冷徹な氷の女王ただ一人。 死際に優しい言葉を掛ける――人間ではあるが、敵に情けは掛けないだろう。 現に氷槍でマスタングの背中を貫いてから、彼女は何処かに消えた。 残されたマスタングの視界には焼け果てた野原が、寂しく写り込んでいた。 →
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175 ホログラム ◆BEQBTq4Ltk ← 時が凍てついたようだった。 背後から響いた声に従って振り向くと、本田未央の視界にはエスデスが映っていた。 腕に傷を覆い血を流していた。 逆に言えば、それしか傷が見えておらず、彼女は笑っており、健在といった様子だった。 そしてこの場に居るべきあの男が居ない。冷や汗が流れてしまう。 ロイ・マスタングは――エスデスに――。 「どうした卯月。本田未央を殺すのではないのか」 「エスデス、さん……」 涙を拭い、鼻水を啜りながらも、島村卯月は強い瞳でエスデスを見る。 セリュー・ユビキタスは偉大な存在だった。その彼女が心酔エスデスもまた、尊敬の対象である。 彼女達にマイナスなイメージを抱くことは無い。 それは今までも、そしてこれからでもあり、殺し合いが終わった後でも。 「私はセリューさんの信じた正義を信じます……でも、それは人を殺す正義じゃない」 「……ほう」 本田未央から離れ、力強い瞳でエスデスを睨みながら島村卯月は告げる。 その言葉に恨みはない。単純に人間として尊敬している面もある。 セリュー・ユビキタスとエスデスが居なければ、島村卯月はとっくに死んでいただろう。 だから、感謝も込めて決別の言葉を送る。 「誰かを守る正義……凛ちゃん、みくちゃん、プロデューサーさんは死んでしまいました。 南ことりちゃんも由比ヶ浜結衣ちゃんも暁美ほむらちゃんもみんなみんな……でも私達は生きているんです。 もう誰も悲しんでいる所を見たくないから……私は、貴方達から受け継いだ正義でみんなを守るために、頑張ります」 言い切った。 これでエスデスとは決別することになるだろう。 一緒に過ごした時間は少ないが、その中で彼女は決して芯の折れない人物だと認識した。 欲しい物があれば力で手に入れるタイプであり、戦闘を求める人間は決まって――。 「そうか、その道を歩むのか……ならば、まずは私から本田未央を守ってみせろ」 新たな戦闘を巻き起こす。 氷を放とうとするエスデスは、一度行動を停止し本田未央を見つめながら。 「それはマスティマか……お前も帝具を使うのなら、手加減は要らないな」 島村卯月に守ってみせろと言った手前ではあるが、本田未央も戦闘能力を保有しているならば話は別だ。 エスデスはどのように島村卯月の凍った心を本田未央が解凍したかは知らないだろう。 だが、どんな形にせよ本田未央が島村卯月に勝った。言葉でも心でも力でも。 単純な勝敗で優劣を着けれる訳でも無いが、何にせよ本田未央が島村卯月を上回ったのは事実である。 「さぁ、このピンチをどうやって防ぐ! 仲間を見捨てるか? 協力するか? お前たちの力を見せてみろ」 広範囲に薙ぎ払われた氷の波に対し、本田未央は島村卯月を抱え飛翔し空へ逃げる。 重力に従い身体に負荷が掛かるも、我慢しなければエスデスに凍らされてしまうのだ。 「どうした、軌道が不安定だぞ」 「こっちは今さっきやったばっかりでコツも何も……うわっ!」 襲い掛かる氷塊を避けるために右へ左へ回避し続ける本田未央だが、今にも当たりそうである。 一か八かで試したマスティマだ。扱いに慣れていないため、空中での動きは見ていて不安すら残る。 見ていて不安すら残る。 「ほう……腕は凍っていたのに此処まで来たか、ロイ・マスタング」 エスデスを包み込むように大地が隆起し、彼女を閉じ込めた。 錬成の発動主目掛け、本田未央は移動し、瞳に涙を浮べながら駆け寄った。 「マスタングさん……よかった、生きていたんです……ね……っ」 「あぁ、遅れてしまってすまない……」 その姿は満身創痍だった。 背中や顔面からは血が流れ、腕や足は所々焦げており、立っているのが不思議なぐらいに。 エスデスの氷を焼き尽くすためにマスタングは己の腕を大地に擦り付け、可能な限り削った。 その際に発生した痛みは常人ならば意識を手放すほどだ。 そして、開放された腕から放たれる焔によって残りの氷を焼くのだが、己の身体にも負担が掛かる。 出来る限り抑えたつもりではあるが、疲労も重なり思うように制御出来ず――此処まで辿り着いたのだ。 「此処は私に任せて……島村卯月を救えたんだな」 「マスタングさん……私、その」 「ごめんなさい!」 「すまなかった」 マスタングと島村卯月の声が重なって響く。 「私が残っていればセリュー君は……本当にすまない」」 「私だってたくさん迷惑を掛けて、その、あの……」 「頑張ったんだな」 「…………私もちょっとは力になりたかったから」 マスタングが駆け付けた時、本田未央と島村卯月が一緒に居るのが不思議だった。 島村卯月は既に手遅れであり、非道の道を歩んでいたかと思えば、本田未央が救ったようだ。 どんな言葉や手段で正気にさせたか見当も付かないが、笑顔の彼女達を見れたことでどうでもよくなってしまった。 ならば、後はこの笑顔を守るだけである。 「エスデスは私が引き受ける。君達が敵う相手ではないからな、逃げてくれ」 「でもマスタングさん……そんなボロボロで」 「セリューさんはマスタングさんを救うために戦った……だったら私も」 困ったものだ。 肩を落とし溜息をつくマスタング。彼女達は逃げるつもりが無いらしい。 しかし、エスデスに挑んだ所で、彼女達が勝てる見込みは零である。 無限に生み出される氷塊に対し、糸と翼では太刀打ち出来ないだろう。 第一に普通の少女である彼女達を戦闘に巻き込むなど、絶対にさせない。 「いや、ここは退くんだ。私も後から追い付く」 「でも」 「でもじゃない――信じてくれ」 「……行こう、未央ちゃん」 最初に折れたのは島村卯月だった。 少なからずセリューやエスデスと過ごした時間から彼女は戦闘に置いて様々なことを学んだ。 その中に。覚悟をした人間に何を言っても無駄。これを学んだ。 そしてマスタングは絶対に退かないだろう。 身体は満身創痍でも、瞳は強く前を向いている。戦っていたセリューのように。 「解りました。必ず後で合流しましょうね、私、待ってますか――ぁ」 本田未央も悟っていた。 セリューが残ったように、承太郎が戦ったように。マスタングも己を曲げるつもりは無いと。 彼の言うとおり不慣れな帝具しか武器の無い自分達が近くに居れば、邪魔であることも理解している。 悔しい。折角島村卯月を取り戻したのに、また誰かと離れる。それも自分の力不足で、だ。 覚悟を決め、マスタングに別れの言葉を告げるが、言い切る前に詰まらせた。 合流場所を決めていないだとか、時間を決めていないなど、言いたいことはまだまだある。 けれど、マスタングの表情を見て、固まってしまった。 どうしてなのか。 これから戦いに臨むと云うのに、どうしてそんな安らかな笑顔でいるのか。 理解が出来なかった。けれど、何故だか涙が溢れてしまう。 まるでこれから死ぬのが解っているように――。 「行こう、未央ちゃん」 「あ、と、しまむー……私、絶対に待っているから、だからマスタングさんも――絶対に」 「君達は生きてくれ――それが私の願いだ」 「どうしてそんな――っ」 笑顔なのか。 またも言葉を言い切る前に島村卯月が本田未央の腕を掴みながら大地を駆ける。 転びそうになるも、何とか体勢を立て直しマスタングの方へ振り返ると彼が投げたバッグが迫っていたため掴む。 見る限り彼の所有していたバッグらしく、なにやらメモ紙が挟まっていた。 走りながらのため、ブレが始まり読み辛いが文章も短かったため、簡単に解読出来た。 『エドワード・エルリックを頼れ』 その文章を胸に留め、彼女達は走り続ける。 立ち止まることも無ければ、振り返ることも無い。 たくさんの人達に紡がれたこの生命、絶対、無駄にするものか。 【D-6/一日目/夜中】 【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】 [状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い、右耳欠損(止血済) [装備]: [道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪 [思考・行動] 基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。 0:生き残る。 1:エドワードとの合流。 2:島村卯月を守る。 [備考] ※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。 ※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。 ※狡噛と情報交換しました。 ※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました ※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。 ※田村と情報交換をしました。 【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い [装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン [道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの) [思考] 基本:誰かを守る正義を胸に秘め、みんなで元の世界へ帰る。 0:セリューとエスデスのことは忘れない。 1:エドワードとの合流。 2:本田未央を守る 3:μ’sのメンバーには謝罪したい。 4:結局セリューは生きて……? [備考] ※参加しているμ sメンバーの名前を知りました。 ※服の下はクローステールによって覆われています。 ※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています ※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。 ※μ s=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。 島村卯月と本田未央が離れた後に、轟音が響く。 エスデスが己を包み込む大地の球状ドームを破壊した音だ。マスタングの前に氷の女王が再び立ち塞がる。 「まさか彼女達が離れる間まで待ってくれるとはな……一応だが礼を言っておこう」 「島村卯月は形だけだとは云え志を共にした同士だからな。新たな門出を祝おうじゃないか」 笑みこそ浮かべてはいるが、両腕に冷気を纏わせ何時でも開戦可能な状態にまで彼女は仕上げている。 対してマスタングは満身創痍だ。奇跡でも起きない限り、彼の負けは確実だ。 だが、簡単に負ければ本田未央達にエスデスの魔の手が――と、考えていたが、彼女は待ってくれた。 エスデスは話が通じない相手だと認識していたが、常識は持ち合わせているらしい。 ルックスやプロポーションは抜群であり戦場とは無縁の場所で会いたかった――余裕がある時ならば口走っていただろう。 「なにか、匂わないか?」 「……気になってはいたが、嗅いだことの無い匂いだから無視していた。マスタング、知っているのか」 「そうか……貴様の世界には無かったのだな」 マスタングは思う。誰がコレをばら撒いたかは解らない。 結果として犯人は本田未央であるが、彼がその真実を知ることは無い。 正攻法でエスデスに挑むのは残念ながら手負いの状態で勝利を掴むのは厳しい。 相手は国家錬金術師にて氷を操るアイザックをも上回る氷雪系最強の女だ、賢者の石も無い状態で勝つ可能性は低い。 最も賢者の石があれば使うのか、という話になるが今は関係ない。 「最期に彼女達の笑顔を見れて救われた気分だよ」 「彼女……あぁ、卯月達か。 どんな手品を使ったかは知らんがあの心を動かした本田未央は大したものだよ」 「だろうな……私もそう思うよ」 「それで、貴様はどうするんだマスタング。 このまま未練を垂れ流して終了……何てことにはならないだろう?」 エスデスが残ったのはマスタングと会話をするためではなく、更なる闘争を楽しむためだ。 それなのに対する彼は問いかけを行ったり、逃げた本田未央達のことを話したりと覇気に欠けている。 しかしその振る舞いに隙は無く、覚悟と意思を持った表情で氷の女王を睨んでいるのだ。 「この匂いはガソリン……聞いたことはあるか?」 「いや、無いな。それは一体何だ」 マスタングは確信する。どうやら天の風向きは此方に傾いているようだ。 彼女がガソリンを知らないならば、一思いにこの戦いを終わらせることが出来る。 さて、どう説明しようかと悩むもとりあえず口を動かした。 「油は知っているか」 「勿論、料理にも使うし拷問にも――――――そうか、そうか……そうなのだなマスタング!!」 油の話題を振ったことでエスデスも気付いたのか、彼女の表情は狂喜に満ち始める。 腕を大いにに広げて天を仰ぎ、これから起こるであろう出来事に感謝を込めて叫ぶ。 「面白い! 貴様の本気とやら、どうやら私も覚悟を決めなければいけないらしいなッ!」 「私が全てを焼き尽くす――もう誰も失わせないために、まずは貴様からだエスデスッ!!」 掌を合わせ見慣れた、手慣れた錬成の蒼き閃光が夜を照らす。 これがきっとロイ・マスタングにとって最期の錬成となる。彼も覚悟をしていた。 走馬灯とでも云えばいいのか。 殺し合いが始まってから出会った人間の姿が彼の脳裏に浮かび上がっていた。 救えなかった佐天涙子。子供でありながら迷惑を掛けてしまった白井黒子、小泉花陽。 共に戦ったウェイブ。生命を救えなかった名も知らぬ犬。トラウマを与えてしまった高坂穂乃果。 己の手で殺してしまった天城雪子。 他にも救えなかった暁美ほむら、空条承太郎、セリュー・ユビキタス。 先程、逃がした島村卯月と本田未央。他にも多くの参加者と遭遇したものだ。 時間も経過し、参加者は半数近くになっている。 この殺し合いを企てた広川に断罪の焔で焼き尽くしたい所だが、その役目は鋼の錬金術師に譲ることにしよう。 彼ならやってくれる。そして元の世界へ戻った後にも上手いこと中尉に説明してくれるだろう。 さて、未練はあるが、駄々をこねても仕方が無い。 彼が指を弾いたその時。 赤き紅蓮の焔が一帯を焼き尽くした。 「私の前では全てが凍る」 爆炎は会場に広く轟いただろう。 その中心に立つ女――エスデスは左半身を焼かれても、生きていた。 ロイ・マスタングが放った最期の焔。ガソリンも相まって弩級の殲滅力を誇っていたのは事実だ。 全てを浴びていればどんな参加者でも死んでいたのは確実だ。例外は無いだろう。 奥の手。 エスデスの帝具であるデモンズ・エキスの奥の手は――世界を止めること。 つまり、時間を凍らせ一時的ではあるが、自分が世界の頂点に立つことを意味する。 問答無用の最強能力ではあるが、エスデスは一日に一度しか使えない。 そしてこの会場に存在する時間停止保有者は暁美ほむら、エスデス、そしてDIO。 暁美ほむらは既に死んでおり、エスデスは知らないがDIOも生命を落としている。 彼女が時間停止を発動した今、誰も世界を握ることは出来ないだろう。 主催者の介入や支給品をフル活用すれば可能かもしれないが、そんなことを考えても仕方が無い。 時間を止めたエスデスは氷で全身を覆うことにより、迫る焔から身を守ることにした。 マスタングを殺せば全てが解決するのだが、既に焔が放たれているため、そう、遅かった。 最期の最期にマスタングにしてやられた。 氷も殆ど溶かされてしまい、左半身を焼かれてしまう始末だ。 氷による応急処置を施したが……戦闘は行えるレベルにまで整えた。 「ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハ!! 面白い、どうしてこうも楽しませてくれる……!!」 マスタングの首輪を拾い上げ、次なる闘争を目指す。 嗚呼、身体の限界も感じている。 けれど、止まりはしない。 身体の半身を焼かれて尚、氷の女王は新たな戦場を求めその足を動かした。 【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】 【D-7/一日目/夜中】 【エスデス@アカメが斬る!】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、全身に打撃、高揚感、狂気、左半身焼却(処置済) [装備]:なし [道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3、マスタングの首輪 [思考] 基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。 0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。 1:御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。 2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。 3:タツミに逢いたい。 4:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。 5:拷問玩具として足立は飼いたい。 6:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。 7:後藤とも機会があれば戦いたい。 8:もう一つ奥の手を開発してみたい。 9:島村卯月には此方から干渉するつもりはない。 [備考] ※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。 ※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。 ※アヴドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。 ※DIOに興味を抱いています。 ※暁美ほむらに興味を抱いています。 ※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。 ※自分にかけられている制限に気付きました。 ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。 ※平行世界の存在を認識しました。 ※奥の手を発動しました。(夜中) 時系列順で読む Back 絶望を斬る Next その血の記憶 投下順で読む Back 絶望を斬る Next 小休止 171 地獄の門は開かれた ロイ・マスタング GAME OVER エスデス 179 WILD CHALLENGER(前編) 本田未央 186 その手で守ったものは(前編) 島村卯月
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【開催期間】 第1回 2016年1月22日(金)~2016年2月5日(金) 第2回 2016年10月7日(金)~2016年10月21日(金) 【ミッション】 (前半10月7日(金)~10月14日(金)) 中級 品 個数 スタミナ計 1回 友情ポイント 200 10 3回 ハイダークエッグ 2 30 5回 チケット 20 50 10回 ハーダークエッグ 2 100 15回 キングダークエッグ 1 150 スタミナ1あたり Exp900/tk0.13/友1.3 【配布キャラ】 (ボス) 「アカメが斬る!エリア:闇/死者行軍:クロメ」 (ミッション報酬) 「無.人間/桐一文字 アカメ」 【スクラッチキャラ】 (☆7) (※第2回再醒) 「水.人間/エスデス→水.人間/魔人顕現:エスデス→水.人間&魔物/帝国最強の女将軍:エスデス」 (☆6) 「闇.人間&魔物/アカメ→闇.人間&魔物/一撃必殺:アカメ」 「炎.人間/マイン→炎.人間/浪漫砲台:マイン」 「風.人間/チェルシー→風.人間/変幻自在:チェルシー」 (※第2回追加) 「闇.人間&魔物/ナイトレイド:アカメ」 「水.人間&魔物/初恋の女将軍:エスデス」 (☆5) 「光.人間&獣/レオーネ→光.人間&獣/百獣王化:レオーネ」 「無.人間&機械/タツミ→無.人間&機械/悪鬼纏身:タツミ」
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110 ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. 「なあ、エスデス。お前はイェーガーズの長だと言っていたな」 「ああ」 「仲間を増やすのなら、能力研究所よりイェーガーズ本部という場所の方がいいんじゃないのか?」 「ふむ。まあ、お前の言い分もわからんでもないが、余計な心配は無用だ。確かにクロメは死んだが、残るウェイブとセリューも私と同じく悪を討つための駒を増やしているだろう。 ならば、一所に固まるよりはこうして分散しておいた方が悪を追い詰めやすい。そうだろう、ヒースクリフ?」 「私に同意を求められても困りますが...エスデスの意見には一理ありますね」 「いや、しかしだな...」 「同じイェーガーズの一員なら、エスデスと似たような方針をとるかもしれません。そうなると、イェーガーズ本部で大人しく待っている可能性は低いと思います」 「わかっているじゃないかヒースクリフ」 「私も異能力というのは個人的に興味がありますから」 「ほぉう」 「...わかった。このまま研究所へ向かうとしよう」 溜め息をつき、しぶしぶとエスデスの後についていくアヴドゥル。 正直に言えば、アヴドゥルはエスデスをどこかに押し付けたかった。 わざわざ彼女の仲間であるイェーガーズの本部へ行こうと提案したのも、彼女の部下なら彼女の手綱をひいてくれるかもしれないという希望的観測からだ。 流石に全員が全員、エスデスと同じわけではあるまい。仮にそうだとしても、今回のように遠征をするのなら、人数が増えるだけ自分とエスデスが組まされる可能性は低くなる。 時期を伺い、『お前とは敵対しないが、しばらく別行動をとらせてもらうよ』などと告げて承太郎やまどか、一般人の足立とヒースクリフを連れてエスデスから逃げることもできる。 尤も、現実にはこうしてあっさりと否定されてしまったし、ヒースクリフもノリ気であったのだが。 そんな適当な雑談を交えつつ研究所へと向かう一行。 「アヴドゥル、私は何も考え無しに一番近いからここを選んだわけではないぞ」 「なに?」 「長年の勘が告げているんだよ。あそこには戦いの火種が渦巻いているとな」 エスデスが笑みを浮かべると同時。 「アヴドゥルさん、あれを」 「研究所の方角...あれは、煙か?」 「そうら、みたことか」 ☆ ガツン。ガツン。 何度も、何度も床を殴りつける音が木霊する。 「ちくしょう...ちくしょう...!」 護れなかった。 片足を失い、精神を壊され、それでも生きようとしていたみくを。 止められなかった。 御坂がみくを手にかけることを。 雫が床に落ちてはねる。 彼はなにもできなかった。 国家錬金術師。人柱。 そんな肩書きはこの場では無意味だ。 エドワード・エルリックはどうしようもなく無力だった。 『ジョセフ様...』 「...いまのワシらには、どうにもできん」 ジョセフもエドワードと同じだ。 彼も何もできなかった。 御坂の言った支給品がなにかを確認する。 御坂が殺し合いに乗っていることを考慮して拘束しておく。 止める方法などいくらでもあったはずだ。 だが、現実は残酷だ。 ジョセフ・ジョースターはどうしようもなく無力だった。 (いまのワシにできることは...) ジョセフは踵を返し、エドワードに背を向ける。 『どこへ行かれるのです?』 「ジャックと杏子を探しにいく。彼らが苦戦しているのなら手を貸さないわけにはいかん」 『エドワード様は...』 「いまは一人にしておいた方がいい...が、万が一のこともある。もし彼が現実に耐え切れず自殺でもしようものなら...」 『...わかりました』 ジョセフはみくのことについてはほとんど知らない。 薄情とも思われるかもしれないが、悲しみの度合いはエドワードに比べれば低い。 そのため、この場で一番動けるジョセフが彼らを探さなければならないのだ。 階下からは何の音も聞こえない。 戦いは終わったのか、それとも膠着状態でいるのか。 無事に勝てていればいいが、そうでない時は... (いずれにせよ、用心せねばな) ☆ 足音を殺し、物陰に隠れながら棟内を確認するジョセフ。 (酷い有り様じゃわい...) 崩れた壁、ひび割れた床に天井... どれほど暴れ回ればこれほど荒れるというのか。 電気系統も壊れているようで、薄暗く奥まで見通すことができない。 (念写が使えればいいのだが...文句ばかり言っておれんな) ゆっくりと、身をかがめながら曲がり角に差し掛かったときだ。 ―――カツン カツン カツン 足音がする。 おくびも警戒心を抱かず、自分がここにいるとアピールしているかのような足音だ。 (まさか後藤か?) 足音は一つ。 ジョセフが認識しているのは、ジャック、杏子、後藤の三人。 ジャックも杏子も、DIOに対してはいい印象を持っていないようだった。 ともすれば、DIOも警戒対象に入っているはずであり、なにより足音が一つだけなのは考えづらい。 となると、敵陣においてもこうも悠々と歩けるのは消去法で後藤となる。 (二人は負けたということか...?クソッ!) もしこの足音が後藤であるならば、また二つの若き命が失われたことになる。 あの時杏子たちに後藤を任せたことは正しかったのか。その答えを知る者は最早いない。 二人の仇をとってやらねばと思う反面、自分一人では勝ち目がないとも思う。 (逃げることは可能、だがな) いまのジョセフに使える物には、シャボン玉セットがある。 シーザー程練られたものではないが、さやかの時と同様に波紋を流して使用すれば時間稼ぎにはなる。 その隙にエドワードのもとへ辿りつき、彼と共に撃退ないし脱出すればいい。 近づいてくる足音に対してジリジリと後退しながら、シャボン玉とハーミット・パープルを使えるよう準備だけしておく。 だが、万が一別の者であればシャボン玉を無意味に消費するのは好ましくない。 どの道、まずは拘束すべきだろう。 足音が曲がり角に差し掛かるタイミングを見計らい、スタンドを行使する。 「ハーミット・パープル!」 人影に茨が迫る。 暗がりでハッキリとは見えないが、後藤ほどは背丈が大きくないように見える。 人違いか?などとジョセフが思った瞬間。 ―――全てが、凍った。 「は...?」 それは一瞬だった。 スタンドが突き出した右手と共に凍らされたかと思えば、床も天井も、一瞬にして凍りついたのだ。 逃げようにも、氷に足をとられて身動きができない。 (ジャック...?いや、違う。彼は水分が無ければ能力を発動できんと言っていた。それに、こんな能力が使えるのなら後藤にもひけをとらないはずだ) 氷の上を人影が歩いてくる。 人影は、手を伸ばせば届くほどの距離で動きを止めた。 ここまで近づいてきてようやくジョセフは人影の正体を認識できた。 ジョセフが彼女に抱いた印象は、氷のように美しい女。 「私に攻撃してきたということは...お前がここで暴れた者と判断して間違いないな」 聞き惚れそうな透き通る声で、女はジョセフに声をかける。 「...あ~、驚かせたのはすまんかった。このままでもいいから、事情を話させてくれんかのう」 身動きがとれない状態に内心冷や汗をかきつつ、ジョセフは冷静に交渉する。 本当ならすぐにでも拘束をといてほしいものだが、非があるのは先に攻撃した自分だ。 不必要にこちらが有利になるように持ち掛ければ警戒が強まるのは当然であるため、あえて自らが不利な状況での対話を望んだ。 「わかった。話してもらうぞ」 女がパチンと指を鳴らすと、ジョセフの右腕と両脚の氷が弾けてとんだ。 あっさりと解放されたことを意外に思いつつ、ひとまず礼を言おうとした矢先だ。 「ただし、私の暇つぶしに付き合った上でな」 突如女はジョセフの顔面を掴み、床へと押し倒した。 「ぬおっ...!」 「悪く思うな。ここに連れてこられてから、興味深いことは多くあったがちょっぴり退屈していたんだ」 倒されたジョセフの両手両足が再び氷で拘束される。 「だ、だから事情は話すと言って...」 「それが真実かどうかは別問題だ。故に、徹底的に搾り取ってやる」 (こ、コイツのこの目...イカレてやがる、クレイジーだ!) 女が浮かべているのは笑顔。その目は、獲物を見つけた肉食動物よりも鋭く、今まで見てきたドス黒い悪とも違う濁りに包まれている。 その目と女の言葉から、ジョセフは直感した。 こいつがやろうとしていることは、尋問という名の拷問であり、こいつはそれを愉しみながらやりのける危険な女だということを。 「さて...そうだな。まずは、手から出した茨について聞こうか」 女は、氷で作った剣をジョセフの右目に向ける。 (マズイ、このままでは非常にマズイ!) 身動きのとれない現状。 逆らえば殺される。 逆らわなくとも拷問される。 どうすればいい、どうすればこの場を切り抜けられる...! 「この後に及んでなお諦めていないか。だが、それもいつまで続くかな」 必死に頭を回転させるジョセフだが、女はそれを待ってはくれない。 剣はジョセフの右目へとゆっくり近づき... 「エスデス、誰かいたのか?この氷は普通ではないが...」 どこか聞きなれた声が曲がり角から聞こえる。 「見ろアヴドゥル。賊を一人掴まえたぞ」 「あ、アヴドゥルじゃとぉ!?」 「その声...ジョースターさん!?」 氷の上を滑りそうになりながらも、人影がジョセフへと駆け寄ってくる。 そのがっしりとした体格に、凛々しい眉、厚い唇は、間違いなくジョセフの戦友モハメド・アヴドゥルのものだった。 「やはりジョースターさんか!エスデス、拘束を解いてくれ。彼は私の仲間なんだ」 「そうか...だが、本当にこいつはお前のいう『ジョースターさん』か?」 「なに?...ああ、そうか。そうだったな」 「な、なんじゃアヴドゥル。どういうことじゃ?」 勝手に納得するように話す二人に、さしものジョセフも困惑の色を示す。 「ジョースターさん、スタンドを見せてもらえませんか?」 「それは構わんが...この氷が邪魔でのう」 「エスデス、腕の部分だけ拘束を解いてくれ」 「こいつのスタンドとは、先程の茨のことか?」 「そうだ。なら、この人は間違いなく...」 「姿かたちだけなら模倣は難しくない...そうだろう?」 「む、むう...しかし、念写してもらおうにもここにはテレビのようなものはない」 会話の内容から、どうやら他人に変装している者がいるということだけはわかった。 しかし、スタンドですら証拠にならないというなら、どうやって本物であることを示せと言うのか。 「...ジョースターさん。我々は、カイロでついにDIOの館を見つけ、突入しようとしてここに連れてこられた...そうですね?」 「...?なにを言っておる。確かにカイロであると見当はついておったが、ワシらはまだ奴の居場所を突き止めておらんかったじゃろ」 「!貴様...偽者か!エスデス、このまま押さえていろ。こいつは私が焼き尽くしてやる!」 「なんでそうなるんじゃあ!?」 自分はDIOの館を見つけていない。 アヴドゥルはDIOの館を見つけている。 この意見の食い違いから、ジョセフはサファイアの言う『平行世界』の可能性に思い当たる。 容姿から立ち振る舞いに言動まで、間違いなく目の前の男はモハメド・アヴドゥルである。 しかし、彼がDIOの館を見つけたという、未来の時間軸から連れてこられたとすれば、この食い違いにも納得できる。 問題は、アヴドゥルはその可能性を知らないということだ。 知らなくても当然だろう。音ノ木坂学院にあれほど参加者が集まったというのに、平行世界の存在を知っていたのはサファイアだけだったのだから。 「い、いいか。落ち着いて聞けアヴドゥル。平行世界というものがあってだな...」 「訳の分からないことで誤魔化すつもりか...そうやってまどかの時のように人を欺き手にかけようという腹だな!?」 (やっ、やっぱりこうなるのォ~?チクショウ、広川!お前のくだらない仕掛けはこれを狙っていたのなら予想以上の効果をあげたぞッ!...ん?いま、まどかと言ったか?) 「アヴドゥル。お前いま、まどかと言わなかったか?」 「そうだ。貴様も放送で知っているだろうが、彼女は奇跡的に生き延びたのだ。涙ながらに教えてくれたぞ、貴様の外道染みた行為をな...」 「誤解だ。儂は彼女の友達から聞いただけじゃ!」 「言い訳はそれだけか...『マジシャンズ・レッ』」 「落ち着いてください、アヴドゥルさん」 怒るアヴドゥルを止めたのは、ジョセフの話術でもエスデスでもなく。 遅れてやってきた、まるでコスプレのような鎧や盾を身にまとった男性だった。 「これだけの情報で決めつけるのは早計ではありませんか?」 「ヒースクリフ...しかし」 「...ジョースターさん。その友人からは、まどかのことをなんと聞いていますか?」 「心優しい少女だと聞いておるよ。容姿の方は念写で見させてもらったが、桃色の髪のツインテールで小柄な少女だ」 「友人の名は?」 「美樹さやか」 「...アヴドゥルさん。彼があなたのいうジョセフ・ジョースターであるかどうかはわかりませんが、まどかを襲った犯人かどうかを論じれば高確率で『シロ』です」 「な、なぜだ?」 「犯人はまどかに名乗る暇すら与えずに襲撃した...つまり、彼女については知らないはずです。そんな男が『まどかを殺した』と認識した後に彼女の友人と遭遇しまどかの容姿を知れば、取るべき行動は限られてくる」 「ボロが出ない内に始末する...か?」 「ええ。しかし、美樹さやかの名前は放送で呼ばれていない。つまり生きているということです。尤も、状況が許さなかったか、まどかが生きていると知り、美樹さやかと遭遇される前に殺してここまで来た可能性も無きにしも非ず、といったところですが...それを言い出せばキリがない」 「ならどうしろというんだ」 「もっと単純なことでいいのでは?例えば、自己紹介などどうでしょうか。即席で趣味まで模倣するのは難しいと思います」 アヴドゥルは、顎に手をやりしばし考え込む。 やがて顔をあげ、ジョセフに問いただした。 「...名前に生年月日、それに趣味をお願いします」 まるで日本の面接だな、と思いつつジョセフは答えた。 「ジョセフ・ジョースター。一九二〇年九月二七日生まれ、妻の名まえスージーQ、趣味・コミック本集め」 「一九八一年の映画『類人猿ターザン』の主演女優は?」 「ボー・デレク」 「『今夜はビート・イット』のパロディ『今夜はイート・イット』を歌ったのは?」 「アル・ヤンコビック」 やけに自信満々に答えたジョセフの口にした名に、エスデスとヒースクリフの二人は首を傾げる。 「誰だそいつらは...ヒースクリフ、お前は知っているか?」 「いえ。聞いたことがあるような、ないような...」 そんな二人をよそに、アヴドゥルは納得したかのように振り向いた。 「本物のジョースターさんのようだ。あんなことを迷いもせずに答えられるのは彼くらいだ。エスデス、氷を解いてくれ」 おもちゃをとられた子供のような不満げな表情を浮かべつつも、仕方あるまいと呟き、ジョセフを拘束していた氷を解除した。 「ふぃー、助かったわい。ヒースクリフと言ったか、礼を言おう」 「いえ、お構いなく」 「すみません、ジョースターさん」 「気にするな。お前も、ロクな目に遭っとらんのじゃろう」 「ジョセフ・ジョースター。お前はここに一人でやってきたのか?」 「そういうわけではないんじゃが...ううむ、どこから話せばいいものか」 どうしたものか、とジョセフは考える。 この氷使いの女はエスデス。タツミからは、危害は加えないかもしれないが少々厄介な奴だと聞いており、自分もそれを実感している。 アヴドゥルが共に行動していることから、ゲームに乗る者ではないのはわかるが、いまの状態のエドワードに会わせてもいいものか... そんなことを考えていた時だ。 「無事か...おっさん」 ジョセフの背後から聞こえたエドワードの声。 ジョセフはもう立ち直ったのかとも思ったが、エドワードの姿を見てすぐに考えを改める。 「ワシは大丈夫だが...きみこそもういいのか」 「...ずっと止まってるわけにもいかねえよ」 どうにか己の足で歩いてはいるが、その目には先刻までの生気は宿っていない。 無理をしているのは誰の眼から見ても明らかだ。 「お前がジョセフの同行者か。ならば洗いざらい話して貰うぞ、今までのこと、そしてここでなにがあったかをな」 だが、そんなことなどお構いなしとでも言うように、エスデスはエドワードに命令する。 エドワードは、短く「ああ」と頷き、彼女の用件にしたがい、近くの部屋での情報交換を提案する。 その様子を見たジョセフは、なんとなくエスデスを気に入らないと思い、アヴドゥルに視線を移した。 「...私だって、苦労しているんですよ」 ジョセフの視線の意図を察したアヴドゥルは、深く溜め息をついた。 ☆ 背もたれのついた椅子が五つ並べられる。 一つの椅子を中点として、四つの椅子が半円状に並べられる。 中点にはエスデスが座り、部屋の入口に近い順からエドワードとサファイア、ジョセフ、アブドゥル、ヒースクリフの順に座る。 喋るステッキサファイアの存在にはさしもの三人も困惑や興味の色を示したが、いまは情報交換を優先すべきだろうというサファイア自身の進言により、どうにか質問攻めからは逃れる。 「さて、ジョセフ・ジョースター。まずはここで起きたことを話してもらおうか」 「構わんよ」 ジョセフは語る。エドワードと御坂との遭遇。後藤、DIOとの戦い。そして御坂の裏切りを。 「DIOがここに...」 「なんとか撃退することはできたが、トドメは刺せておらん。追おうにも、みくや御坂のこともあったので不可能だった。それに奴のあの奇妙な能力には迂闊に踏み込むのは自殺行為じゃ」 「奇妙な能力ですか」 「ああ。本当に奇妙な能力だった。突然消えたり、コンマ一秒の差もなく同時に攻撃を叩き込んだり、な」 「―――ほほう」 ジョセフたちの体験に感嘆の声をあげたのはエスデス。 奇妙な能力を聞いて恐怖や困惑の色を浮かべるどころか、興味や好奇心といった感情を醸し出しているのだ。 「どうかしたのか?」 「いいや、なんでもないさ。なんでも、な」 隠すつもりもない笑みを見て、そんなわけないだろうと思いつつ、アヴドゥルはヒースクリフと共にジョセフからもたらされた情報を整理していく。 「後藤ですか...まどかと承太郎からは随分危険なやつだと聞いています」 「!承太郎と会ったのか!?」 「ええ。いまはコンサートホールでまどかと足立と共に待機しています」 「そうか...」 「ただ...棟内を探索中、後藤と奴を引き受けたという二人は見つけられませんでしたが、血だまりの中に白いスーツの切れ端と人間の腕らしきものは見つかりました」 「ッ!...そうか」 白いスーツの切れ端。 間違いない、ジャック・サイモンのものだ。 そして人間の腕ということは...少なくとも彼は片腕を失っている。 そんな状態で後藤から逃げおおせるのは贔屓目に見ても厳しい。 彼の生存は絶望的とみていいだろう。 杏子は脱出した後藤を追ったか、それとも肉の一かけらも残さずに食われたか... それを知るには後藤本人に会うか放送を待つしかない。 若き命を失ったことに歯がゆさを憶えるが、ギリッと歯ぎしりをすることで感情が爆発するのをどうにか抑える。 「おまえさんたちの方はどうじゃ。こちらとしては承太郎やまどかなど気になることが山ほどあるのだが」 「あの二人とはコンサートホールで合流し、いまは別行動をしている。それだけだ」 「それだけって、おまえさん...」 「お前はここで起きたことを話した。私たちはコンサートホールでのことを話した。これで対等だろう?」 「もっと知りたければこちらから話せということか...仕方ないのぉ」 この座る位置からしてそうだが、エスデスはチームの主導権を握りたいと思う性格らしい。 手順を踏めば主導権を取り返すことはできるかもしれないが、いまはそんなことをしている場合ではないし、余計な問題は起こしたくない。 情報交換を円滑に進めるため、ジョセフはあえてエスデスに主導権を握らせたままにしておいた。 「ワシはG-7の闘技場で目が覚め、その近辺で美樹さやかと初春という少女と出会ったんじゃ」 一呼吸を置き、タツミの存在を知らせるべきかどうかを考える。 タツミは、彼の仲間であるアカメの名を知らせることは禁句としていたが、彼自身については禁止としていない。 タツミがエスデスを完全に敵だと認識していれば、ジョセフにアカメと同じように扱えと伝えるはずなので、タツミに関して告げることに問題はあまりないと判断する。 「その後、タツミという少年と合流し、ワシと初春、さやかとタt」 「タツミと会ったのか!?」 突然の声に思わず驚いてしまうジョセフ。いや、彼だけでなく他の三人もだ。 当然と言えば当然だ。なんせ、先程までは女王気質にしか感じられなかった彼女の雰囲気が、タツミの名を聞いた途端に一変したのだから。 「あ、ああ...確かに会ったが...」 「タツミは元気だったか?」 「う、うむ。いまはさやかと共に行動しておるよ」 「そうか。ふふっ、タツミのやつめ...こんどこそ逃がさないからな」 ほんのりと頬を染め想いを馳せるエスデス。その様は、乙女が初恋の人に向けるものとしか思えなかった。 他の者、特に彼女にロクな印象を持っていないアヴドゥルにはその様子が殊更異様なものに見えた。 アヴドゥルは、エスデスからはアカメとイェーガーズの名前しか聞いておらず、名簿でみた限りではアカメと関わりのある者だろうなと思っていた程度だ。 いままでエスデスにその考えを伝える機会がなかったが、まさか彼女がタツミという名にこうも反応するとは思ってもいなかったのだ。 「つ、つかぬことを聞くがエスデス。そのタツミという少年とはいったい...」 「私が惚れた男だ」 (惚れた男―――だと!?) アヴドゥルとヒースクリフに衝撃が走る。 二人のエスデスに対する認識は、戦闘狂のイカれた女だ。 三度の飯より戦争だとでも言いそうな彼女が男に惚れたというのだ。 意外性どころの話ではない。 「...どう思う、ヒースクリフ」 「...まあ、恋愛は個人の自由ですから。そのタツミという少年のことはひとまず置いておきましょう。いまはそれでいいですか、エスデス」 「ああ。あまりに嬉しかったものだからつい、な。ジョセフ、続きを話してくれ」 アヴドゥルはタツミをアカメと同じ暗殺者ではないかと疑っている。 しかし、それを知ってか知らずかのエスデスのこの態度だ。 もしアヴドゥルの懸念が真実であれば、エスデスはどのような反応をするのだろうか。 タツミに対して怒りを燃やすか、この場で暴れまわるか...ロクなことにならないのは容易に予想できる。 それに、タツミが暗殺者であると判明すれば、エスデスは彼の仲間に当たるジョセフにも手を出すかもしれない。 故に、この場はタツミには触れず、後から個人的にジョセフからこっそりと聞こうとアヴドゥルは密かに思った。 尤も、エスデスは気に入った相手は過去に構わずスカウトするような人間だ。 ましてや、惚れた男相手なら尚更自分の物にしようと情熱的になればこそ、アヴドゥルの懸念するようなことにはならないのだが、それを彼が知る由はない。 それからジョセフは、音ノ木坂学院での一件、そしてこの能力研究所での一件について語り、次いでエドワードが温泉近辺での出来事を語った。 その後、アヴドゥルが己の知り得る情報を開示していく。 エスデスと別れ、仲間を集めていたこと。 花京院の偽者と思しき男がまどかを殺そうとしたこと。本物と思われる花京院がほむらをエスデスから助けたこと。 どうにか生き延びたまどかは承太郎が保護し、いまは足立とコンサートホールで待機しているということ。 魏志軍という男の襲撃もあったが、無事欠員や重傷もなく撃退できたこと。 これだけなら不安要素などさほどなかった筈だ。そう、『参加者が異なる時間から呼び寄せられている可能性』を知らなければ。 (イヤな予感が当たってしまったか...!) 「ふむ...情報を整理すると、現状警戒すべき悪はDIO、後藤、魏志軍、エンブリヲ、サリア、御坂美琴。保留で佐倉杏子といったところか」 「いや、警戒対象には花京院もいれてくれ。...アヴドゥル。慌てずに聞け。そのまどかを撃ったという花京院は本物の可能性が高い」 「!?そんなバカな、彼がそんなことをするはずが...!」 「わかっておる。だが、彼にはそれをやりかねない時間があるのだ。サファイア、説明してくれ」 『わかりました。平行世界...というものをご存じですか?』 「SF小説などでもよく題材に使われるパラレルワールドのことですか」 『その認識で間違いありません。広川は殺し合いを円滑に進めるために同じ世界の参加者でも異なる時間から連れてきている可能性が高いのです』 「つまりは、どういうことなんだ?」 『花京院さんは、一時期肉の芽というDIOの細胞によりあなた達の敵だったと聞いています。彼はおそらく、承太郎様に敗北する前の、その肉の芽がつけられている時間から連れてこられたのだと思います』 「...!だ、だがそれではエスデスからほむらを守ったというのは矛盾するのでは」 「いいえ、矛盾ありませんよ」 時間軸がどうであれ、花京院がまどかを撃ったことを認めたくないアヴドゥル。 反論したのは、彼の同行者であるヒースクリフだった。 「もし花京院が偽物であった場合、まどかを攻撃した際の状況が成立しないんですよ」 「どういうことだ」 「偽者を騙るメリットは、そのモデルに殺意を押し付けられることです。つまりそれには名乗りはもちろん、モデルが殺し合いに乗ったことを広めるスピーカー役が必要となります。 ですが、花京院はそのどちらもすることなくまどかを殺しにかかった。...彼女の名前すら聞かずにね。わざわざスタンドの模倣までして花京院の悪評を広めるには、効率が悪いとは思いませんか?」 「だ、だがそれではほむらを庇った理由は...」 「それがほむらを庇ったのではなく利用するためだとしたら?まどかの殺害は支給品を増やすためだけのものであり、それからは他の参加者に紛れて殺人を繰り返すつもりだったとしたら?」 「...!」 「また、本物の花京院自体が全く別の場所にいて、偽物の花京院がエスデスを攻撃したとしても、彼女に名乗ることすらしないのは不自然なんですよ。アヴドゥルさん、あなたがあれほど警戒する力の持ち主なんでしょう? 花京院を追いこむのにこれ以上ない人材のはずです。なのに一度たりとも名前も姿も明かさなかったというのは...」 「なんということだ...このままでは承太郎たちが危ない!」 椅子から立ち上がるアヴドゥルの手を掴み、ジョセフがどうにか諌めようとする。 「落ち着くんじゃアヴドゥル!」 「ですがこのままでは!」 「いえ、彼は大丈夫でしょう」 動揺するアヴドゥルとは対照的に、ヒースクリフはあくまでも冷静に見解を述べる。 「承太郎は私たちと合流する際に、偽物であることよりも肉の芽について警戒をしていました。つまり、彼は花京院が肉の芽に操られている可能性も忘れていないということです。 それに、彼は花京院に勝っているのでしょう?手の内を知り尽くしている相手です。多少は苦戦しても、易々と敗北することはないでしょう」 「そ、そうか...」 「...ただ、心配なのはむしろ花京院です」 一度は収まりかけたアヴドゥルの動揺が、再び色濃くなっていく。 「まどかは花京院に致死寸前にまで追い込まれました。それだけでなく、先輩の死で精神が不安定になっています。 もし、そんな彼女が花京院と遭遇すれば...もし、花京院に承太郎や足立が追い詰められれば...」 「――――ッ!」 その先は考える間でもないと言わんばかりに、アヴドゥルが部屋の入口へ駆け出そうとする。 「ジョースターさん、すぐにコンサートホールへと戻りましょう!」 「待て、勝手な行動を」 するな、と言葉を繋ぐ前に、ジョセフの背筋が一瞬で凍りつく。 殺気だ。エスデスの放った殺気がジョセフの足を縫いとめたのだ。 「ジョセフ、事情は後で説明してやる。ヒースクリフ、グリーフシードとやらはまだあるか?」 「ええ」 ヒースクリフはデイパックからグリーフシードを一つ取り出し、アヴドゥルに投げ渡す。 「アヴドゥル、そのグリーフシードを持ってすぐにコンサートホールへ戻れ。手遅れにならんうちにな」 「うっ...し、しかし」 「早く行け、まどかたちを殺したいのか?...約束だ。私はこいつらを殺さん。こいつらには別の仕事を任せるだけだ」 「...その言葉、嘘じゃあないだろうな」 「二言はない」 アヴドゥルは、横目でジョセフに視線を送ると、ジョセフはそれに無言の頷きで返す。 「...この場は信じるからな」 アヴドゥルは一人部屋から走り去っていく。 ジョセフは内心止めたいと思っていたが、エスデスの刺すような視線により断念をせざるを得なかった。 「お前さん...どういうつもりじゃ」 「余計な邪推をするな。私は自分の駒は裏切らないだけだ」 「ならばなぜワシらを止める」 「お前達には別の仕事があるといっただろう。...ヒースクリフ、私は少し席を外す。アヴドゥルが焦っていた理由を教えておけ」 頷くヒースクリフを確認すると、エスデスはジョセフたちには一瞥もせず部屋から姿を消した。 「...先程、魏志軍という男に襲撃されたと話しましたよね。その際、まどかは彼を殺そうとしたんです。承太郎とアヴドゥルさんを囮にね」 「なんじゃと?さやかからは優しい子だと聞いておるが...」 「おそらく、彼女もそんなつもりはなかったでしょう。しかし、先輩の死に続き再び殺されかけたんです。...彼女も、必死だったに違いありません。その行動の結果が、二人を囮のように扱ってしまったとすれば不思議ではありません。 だからエスデスは、まどかと一番信頼関係が築きあげられている承太郎、感性が一般人に最も近い足立をコンサートホールに残したのです。私がこちらにいるのはまあ...数合わせです。自分が負担になっているとまどかに思わせないためのね」 「そういうことか...なら、ワシらもすぐにアヴドゥルと共にコンサートホールへと戻ろう」 「それはできません。エスデスはあなた達に『仕事を与えるからここで待っていろ』と言いました。これを破れば、あなた達は敵とみなされ厄介なことになるかもしれません」 「しかしじゃな...」 「このままあなた達がいけば、私は彼女の怒りを買い殺されるかもしれない...お願いです、もう少しだけ待っていてください」 ジョセフからすれば、殺し合いに乗っていなくとも危険人物であるエスデスの言うことなど聞くいわれはない。 しかし、懇願するように頼み込むヒースクリフの表情は本気だ。 エスデスはこのままジョセフたちを逃がせば、ヒースクリフを殺すだろう。 「...あんたらがここに来るまで、何事も無かったんだよな」 今まで口数の少なかったエドワードが尋ねる。 「ええ。コンサートホールからここまではさして苦労もありませんでした」 「だったらよ、あのアヴドゥルって人はコンサートホールまでは危険な目に遭う可能性は低いってわけだ」 「む...確かに、後藤やDIOがコンサートホールの方面に逃げていれば必ずすれ違うはず...」 「待とうぜ、ジョースターさん。わざわざヒースクリフさんを危険な目に遭わせる必要はねえよ」 そう言った彼の眼は、先程よりは生気を取り戻していた。 時間をおいたのが利いたのだろう。精神的な疲労はまだ見えるが、会ったばかりの他者にも気を遣える程度には冷静さを取り戻していた。 「ありがとうエドワードくん。すみません、ジョセフさん」 「仕方あるまい...お前さんも、だいぶ苦労しているようだしな」 三人はひとまず席に着き、それきり言葉を発することなくエスデスの帰りを待った。 五分程経過しただろうか。 ドアを空けてエスデスが姿を現した。 「待たせてすまなかったな。ジョセフ、エドワード。お前達はこっちの解析を頼む」 入って来るなり、エスデスはジョセフとエドワードに円状の物を投げ渡す。 「っとと...なんじゃこれは」 ジョセフ達が渡されたのは、金属だった。 その形状から、これは皆に着けられている首輪であることをジョセフは察した。 だが、彼らはロクに交戦しておらず、首輪を手にするには誰かを殺さなければならないはずだが... 「―――おい」 エドワードがエスデスを睨みながら口を開く。 「あんたらは此処に来るまで誰も殺してないって言ってたよな」 その声には、怒りが、敵意が隠すことなく込められている。 「だったら、この首輪はどこから持ってきやがった」 エスデスはその怒りも敵意もどこ吹く風といった表情で言い放った。 「サンプルならすぐそこにあっただろう」 瞬間、エドワードが掴みかかろうとエスデスに肉薄する。 彼を突き動かしたのは純粋な怒りだ。 エスデスに掴みかかる寸前で、しかしそれは背後から肩を掴まれ遮られる。 「落ち着いてください」 エドワードを取り押さえたのはヒースクリフ。 それを見たジョセフは目を見張る。 (速い...!) 一番近くにいたジョセフでさえ、エドワードを取り押さえるには至らなかった。 だが、エドワードが跳びかかることを想定していたとしても、それなりに経験を積んだだけの人間とは思えない程に素早かったのだ。 ジョセフからしてみれば、さやから魔法少女にすら匹敵するほどに見えた。 エスデスが、動けないエドワードを見下す。 「なにを憤っている。奴らは死んだ。なら、死体をどう扱おうが私の勝手だろう」 「だからって...!」 「呆れたやつだ。人間は死ねばそれだけの肉塊だ。そんなこともわからないのか」 エドワードは言葉を詰まらせる。 人間の身体など水、炭素、アンモニア、石灰、リン、塩、硝石、イオウ、マグネシウム、フッ素、鉄、ケイ素、マンガン、アルミニウムと幾何かの元素の合成物でしかない。 エスデスの言葉は極端ではあるが、かつてエドワード自身が幼い頃の修行で得た答えと似通ったものだ。 だが、それでも弔うこともせずに平然と遺体を辱める行為と言動にエドワードは怒りを覚えずにはいられなかった。 「...ふっ。どうあっても納得できないようだな。だが...」 エスデスがエドワードの頬を掴み、顔を近づける。 「奴らがこうなったのはお前が弱かったからだ、エドワード・エルリック」 エスデスの冷たい吐息が、視線が、言葉がエドワードに降りかかる。 「憶えておけ。弱者は何をされようが文句は言えない。私の行動を否定したければ、強くなってみせろ」 エスデスとエドワードの視線が交差する。 やがて、エスデスはエドワードの頬から手を離し、踵を返した。 「これ以上ここにいても意味はないな。行くぞ、ヒースクリフ」 名前を呼ばれたヒースクリフは、エドワードから手を離し、エスデスの後を追う。 「待てよ」 投げかけられるエドワードの声に、エスデスの足がピタリと止まる。 「こんな状況だ。あんたのやったことも間違ってないのかもしれない」 エドワードの一挙一動に対して、いつでも反応できるようにジョセフとヒースクリフは互いに動ける準備をする。 「だが、やっぱりあんたは気に入らねえ」 言い放つエドワードの眼には、確かに敵意や怒りが宿っている。 しかし、彼はそれ以上エスデスをどうすることもなく、部屋が静寂に包まれる。 やがて、エスデスは小さく笑みをこぼすと、再び歩きはじめた。 「ここから先はお前達の好きにするといい。また会おう、エドワード・エルリック。それにジョセフ・ジョースター」 片手をあげ去っていくエスデスに続き、ヒースクリフもまたエドワードたちに会釈をして部屋から立ち去った。 ☆ 「さてと。これからの方針だがな、私は北へ行こうと思う」 能力研究所の裏口で、エスデスはヒースクリフとこれからの方針について話し合っていた。 話し合うと言っても、エスデスが一方的に決めているだけであるのだが。 「ふむ...しかしここから北ですと、範囲が随分と狭いですが...」 「だからこそだ。DIOは手傷を負っているのだろう?となれば、なるべく参加者との接触を避けたいと思うはずだ」 「故に北、ですか...しかし、アヴドゥルさんたちの到着を待たなくてもよろしいのですか?」 「奴の能力を聞いたら俄然戦る気が湧いてきた。奴との戦いは一人で集中したい。お前がアヴドゥルを遠ざけたのもそれが理由だろう?」 瞬間、ヒースクリフは木々がざわめき小鳥が逃げ出す錯覚を覚えた。 エスデスの眼光が鋭くなり、ヒースクリフの背筋に怖気が走る。 だが、彼はそれを恐怖とは思わない。 「...はて、なんのことでしょうか」 「とぼけるなよ。花京院の件について、お前はわざと奴が本物である可能性を強調していた。アヴドゥルをコンサートホールへ戻らせるためにな。 お前は他人の能力についてえらく関心を持っていたようだからな。DIOの能力を聞いたときの私の反応を見て、思ったんだろう?『奴らの戦いを見てみたい』とな」 「......」 「アヴドゥルやまどかのように他人の能力を警戒するのではない。しかし、足立のように腹に一物を抱えているわけでもない...他人の能力を知ってお前はなにがしたいんだ?」 一歩間違えばエスデスに命を刈り取られかねない状況。 しかし、エスデスの問いに、彼は笑みを浮かべている。 彼は、エスデスのような戦闘狂ではない。かといって、この状況で気が触れたわけでもない。 「私はただ興味があるだけですよ。私の知らない未知の存在にね」 彼は、ただ知りたかった。 科学者としての好奇心。 ゲームクリエイターとしての創作意欲。 湧き上がってくる少年のような好奇心。 彼はそれらを満たしたかった。 主催に接触しようという彼の目的も、己の欲求を満たすための手段の一つにすぎない。 いまのヒースクリフ―――否、芽場晶彦にとってこのバトルロワイアルはそれが全てだった。 彼の答えを得て、エスデスは小さく笑みをもらす。 「お前も変わったやつだ...己の欲望を満たすためなら、手段を択ばない。それが自らを危険に晒すことになろうともな」 「それはあなたも同じでしょう」 「違いない」 エスデスと芽場晶彦は、互いにくすくすと笑い合い、やがて笑いが収まると北へと向かって歩き出した。 エスデスはほくそ笑む。 (DIOの能力は間違いない...時間停止だ) よもや、一日に二度も同じ領域に踏み込んだ者たちに遭遇するとは、夢にも思っていなかった。 平行世界だかなんだか知らないが、自分のいた世界ではこんな体験はできなかっただろう。 (おまけにDIOは私と違い、何度も時間を止められるらしい) 今度ばかりは死ぬかもしれないな、と思いつつも、彼女の笑みは未だに絶えない。 (そうだ。極限までの命のやり取りこそが真の闘争だ。さあ、どちらかがくたばるまで楽しませてくれよ、DIO) 勿論、彼女は負けるつもりなど微塵もない。 そして、DIOを殺した後も彼女の戦は終わらない。 とにかく出会う参加者たちと戦いを挑み、気に入れば勧誘し、そうでなければそのまま殺す。 そのためにわざわざエドワードを挑発し、アヴドゥルを一人戻らせたのだ。 首輪を外させることもそうだが、それ以上に闘争の火だねとなればこれほど嬉しいことはない。 欲をいえば、前川みくの首切りをエドワードにやらせたかったが、あまり遊んでいてはDIOを逃がしてしまう可能性がある。 アヴドゥルを先にコンサートホールへ向かわせたのも、楽しみが減るのを防ぐためだ。 コンサートホールにいる者たち、特に承太郎はこのまま自分と相容れるとは考えにくい。おそらく終盤までには確実に離反するだろう。 闘争の火だねはまだまだ多い。 DIOとの戦いからが、自らにとってのバトルロワイアルが始まることをエスデスは確信する。 そして、彼女を迎えるように雷鳴が鳴り響く。 (どうやら、私の読みは当たったらしい) 研究所での闘争には乗り遅れてしまったが、今度こそ逃すわけにはいかない。 距離からして、急げばさして時間はかからないだろう。 「急ぐぞヒースクリフ。今度こそ愉しい戦に乗り遅れんようにな」 【F-2/一日目/昼】 【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】 [状態]:健康、異能に対する高揚感と興味 [装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン [道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2) ノーベンバー11の首輪 [思考] 基本:主催への接触(優勝も視野に入れる) 0:もっと異能を知りたい。見てみたい。 1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す 2:同行者を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする 3:神聖剣の長剣の確保 4:DIOに興味。安全な範囲内でなら会って話してみたい。 エスデスとの戦いを見てみたい。 5:キリト(桐ヶ谷和人)に会う 6:花京院典明には要警戒。 [備考] ※参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。 ※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。 ※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。 ※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。 ※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。 ※この世界を現実だと認識しました。 ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。 ※平行世界の存在を認識しました。 【エスデス@アカメが斬る!】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3 [思考] 基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。 0:DIOと戦うために北へ向かう。見つからなければコンサートホールへと戻る。 1:DIOの館へ攻め込む。 2:クロメの仇は討ってやる 3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。 4:タツミに逢いたい。 [備考] ※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。 ※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。 ※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。 ※DIOに興味を抱いています。 ※暁美ほむらに興味を抱いています。 ※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。 ※自分にかけられている制限に気付きました。 ※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。 ※足立が何か隠していると睨んでいます。 ※平行世界の存在を認識しました。 エスデスたちが北上するのとほぼ同時刻、ジョセフとエドワードは研究所の入口から外へと出た。 「みくという子の埋葬はいいのか?」 「...確かにしてやりたいけど、あんたの仲間を追うのが先だ。早く行こう」 先刻よりはだいぶ立ち直ったように見えるエドワードの言葉に、ジョセフは頷きで返す。 狙ってやったのかどうかは知らないが、エスデスの言動はエドワードに火を点けてしまったらしい。 尤も、エスデスのそれは、スポ根漫画によくある敢えて悪役を演じて鼓舞するものではなく、単純に本人が愉しみたい故のものであるだろうが。 とにかく、アヴドゥルの後を追おうとした矢先のことだった。 「ムッ!?」 北部で雷が鳴り響く。 この晴れ渡った空で雷が落ちることなどありえない。 ならば、一体だれが。心当たりはひとつしかない。 「...ジョースターさん。やっぱり、あいつをこのまま放っておくわけにはいかねえよ」 エドワードがポツリと呟く。 「御坂...じゃな」 「ああ。あいつ、あのままだと絶対に止まらねえよ」 そういうなり、エドワードはいきなり両手を合わせ 「ぬおおおおお!?」 ジョセフとエドワードの間に、隆起した壁が立ちふさがる。 「あんたはあのアヴドゥルって人とコンサートホールに行ってくれ!あいつは俺が止める!」 「待つんじゃエドワードくん!」 ジョセフの呼びかけに答えず、エドワードが走り去っていく。 先手を取られた。 エドワードが『あいつを放っておくわけにはいかない』と言った瞬間、ジョセフは彼が単独行動に出る可能性を察していた。 そのため、いつでもスタンドを出せるようにしておいたのだが、エドワードはそれすらも読みきり、錬金術を用いてジョセフから離脱した。 (くっ...どうする、どうすればいい!?) 彼を放っておくわけにはいかない。 しかし、それはコンサートホールの方も同じだ。 コンサートホールか、エドワードの後を追うか。 彼の選択肢は――― ☆ 『奴らがああなったのは、お前が弱いからだ』 エスデスの言葉が脳内で反芻される。 (そうだ。みくが死んだのは、あいつにみすみす殺させちまったのは俺の責任だ) 彼女達だけではない。 後藤に殺されたと思われるジャック・サイモン エドワードと彼は、交わした言葉も少ない。ただ、みくの居場所を教えてもらっただけの間柄だ。 だが、それでも命が失われたという事実は彼には重い。 自分が後藤と共に戦わなかったせいで死んだとすれば...いや、事実そうなのだろう。 エドワードの左拳が悔しさで握り絞められる。 (...だからって、これ以上死人を増やしてたまるかよ!) だが、ここでエドワードが膝を折るわけにはいかない。 今までもそうだった。 かつて、自分達が追い求めたものの巻き添えで殺された男がいた。 彼の家族は悲しんだ。彼女たちに糾弾されるのは当然だとすら思っていた。 だが、彼女達は糾弾するどころか、悲しみに耐えながら言ってくれた。 ここであなた達が諦めれば彼の死は無駄になる、自分達の納得する方法で前へ進めと。 今回もそうだ。 ここで全てを諦めれば、それこそみくたちやジャックの死を無意味なものとなってしまう。 エドワード・エルリックに出来るのは、いくら無力感に打ちのめされようが、どれだけ泥にまみれようが、己の信念を貫き成し遂げようと前へ進むことだけだ。 (俺のせいで殺しに乗ったってんなら、これ以上殺すってんなら、百万発ぶん殴ってでも止めてやる。首を洗って待ってやがれ、御坂美琴...!) 『鋼』の二つ名を与えられた国家錬金術師、エドワード・エルリック。 爆弾狂、ゾルフ・J・キンブリーすら認めた彼の『殺さない』覚悟は、このバトル・ロワイアルという非常な現実の中でもまだ折れていない。 【F-2/一日目/昼】 ※能力研究所内に、前川みくの死体(首切断)、食蜂操祈(ミイラ体、首切断)、ノーベンバー11の残骸が放置されています。 【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:疲労(中~大) 、ダメージ(大) [装備]:いつもの旅服。 [道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、 カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(アサシン2時間使用不可)、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス- 食蜂操祈の首輪 [思考・行動] 基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。 0:アヴドゥルを追いコンサートホールへと戻るか、エドワードの後を追うか... 1:仲間たちと合流する 2:DIOを倒す。 3:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。 [備考] ※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。 ※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。 ※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。 ※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。 ※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。 ※魔法少女について大まかなことは知りました。 ※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。 ※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。 [サファイアの思考・行動] 1:ジョセフに同行し、イリヤとの合流を目指す。 2:魔法少女の新規契約は封印する。 【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(大) [装備]:無し [道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、 不明支給品×0~2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、 パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1~0 前川みくの首輪 [思考] 基本:主催の広川をぶっ飛ばす 0:雷のもとへ向かい、御坂をボコしてでも殺しを止めさせる。 1:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。 2:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。 3:ひと段落ついたらみくを埋葬する。 [備考] ※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。 ※前川みくの知り合いについての知識を得ました。 ※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。 ※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。 ※エスデスに嫌悪感を抱いています。 アヴドゥルは走る。 道に躓き、転びそうになりつつ、それでも走り続ける。 彼が求めるのは仲間の安否。 (私の嫌な予感はこれだったか...!) もしも花京院がコンサートホールを襲撃すれば、まどかは恐怖から彼を殺してしまうかもしれない。 そして、まどかが彼を殺せば承太郎はまどかを殺すだろう。 あの場に残っているのは一般人の足立だけ。刑事とはいえ、一般人がスタンド使いと魔法少女を止めることは不可能だ。 つまり、惨劇を止められる者はあの場にはいない。 だが、そんなことはあってはならないのだ。 (早まるなよ、承太郎、まどか、花京院!) アヴドゥルは冷静ではなかった。 ジョセフ自身が先に行けと促したこともあるが、あれほど警戒していたエスデスにジョセフを預ける形になったのは、心のどこかでエスデスに信頼を置いていたのかもしれない。 一方的な約束ではあったが、キッチリ時間を守り、コンサートホールに承太郎たちを連れてきたこと。 彼女なりに気を遣い、まどかに悲しむ時間を与え、負担にならない編成を組んだこと。 あれほど強大な力を持っているのに、全てを殺しまわるのではなく、一応は主催を倒すことを目的としていること。 危険で厄介な女ではあるが、警戒心の中にほんのわずかにでも『頼もしい』『信用できる』と思う心がなかったとは断言できない。 故に、冷静さを欠いたアヴドゥルは彼女の言葉に従ってしまったのかもしれない。 魔術師は気づかない。 彼の想いを嘲笑うかのように、コンサートホールの方角から煙が立ち昇っていることに。 【E-2/一日目/昼】 【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康、精神的疲労(小) [装備]: [道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る! グリーフシード(有効期限あり)×1@魔法少女まどか☆マギカ [思考] 基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。 0:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ、イギー。 1:急いでコンサートホールに戻り、花京院の件を伝えて惨劇を防ぐ。 2:エスデスは相当ヤバイ奴。まどかも危険な匂いがする。 3:ジョースターさん達との合流。 4:DIOを倒す。 5:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか? ※参戦時期はDIOの館突入前からです。 ※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。 ※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っていますが、ジョセフと行動していたことから警戒心は薄まっています。 ※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。 ※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。 ※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。 ※スタンドがスタンド使い以外にも見える事に気付きました。 ※エスデスがスタンド使いでないことを知りました。 ※平行世界の存在を認識しました。 時系列順で読む Back 雷光が照らすその先へ Next 不穏の前触れ 投下順で読む Back 雷光が照らすその先へ Next インヴォーク 090 足立透の憂鬱 ヒースクリフ(芽場晶彦) 127 ならば『世界』を動かす モハメド・アブドゥル 123 無数の罪は、この両手に積もっていく エスデス 127 ならば『世界』を動かす 102 noise エドワード・エルリック ジョセフ・ジョースター 129 Crazy my Beat
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「両目という器官は状況把握において非常に優れた代物だ。身体が対処に追いつくかどうかは別としても、見えている限りは情報を収集できるわけだからな」 荒れ果てた教室の中、腰元まで伸びた、蒼い髪が特徴の女は、荒れた部屋で悠然と語る。 見る者すべてが美しいと称するような整った顔立ち、抜群のプロポーションに透き通るような青い肌。 この美女の名はエスデスという。 「両目を失い視界を失えばどうなるかわかるか?まず、何も見えない恐怖に苛まれ精神をやられる。慣れるまでには相応の時間を必要とするだろう」 彼女の語りを冷や汗混じりに聞くのは、氷の十字架に括りつけられた金髪の小柄な少女。 彼女の名は北条沙都子。雛見沢という村に住む小学生である。 「ならば最初から目を瞑り暗闇に慣れておけばいい...という考えも無駄だな。『その気になれば見える』のと『どうあがいても見えない』のでは精神的な疲労は比べ物にならない。その為、拷問の際に最初から目を潰す方法もあるにはある」 「......」 「だが私は最後まで目を潰すことはせん。何故だかわかるか?」 「......?」 「目を潰せば恐怖の効率は断然いいが、それでは過程が楽しめない。自分がどうやって、なにをされているかをその目で見せた時の反応が見れなくなってしまう。 両手足の爪を一枚一枚剥がした時の苦痛を。尻から耳まで男の精を注がれた時の屈辱を。身体の皮膚を少しずつ、少しずつめくっていって、内臓が露わになっても死ねない時の絶望を味わった時の表情がな」 「ッ!!」 これから私は宣言通りにお前を甚振る。 そんな、エスデスの宣告に沙都子はなにも答えない。否、答えられないのだ。 彼女の口は猿轡で塞がれているからだ。 「当然、拷問の際には自殺する権利も没収する。相手の都合で終わられては困るからな。さて、貴様はどんな顔を見せてくれるかな?」 妖艶さすら感じる美しい微笑みでそっと沙都子の頬に手を添える。 沙都子は何もできない。 目を閉じれば、気を失ってしまえば己の末路を知らなくて済むかもしれないのにそれすらも許されない。 拘束されているのを除いても、エスデスの醸し出す空気に圧倒されているのだ。 「最初はそうだな...軽めのやつからにしよう」 つぅ、とエスデスの指が沙都子の頬から頸をなぞり、ほのかに膨らんだ胸をなぞり、腹部に辿り着いたところでピタリと止まる。 トンッ、と軽くエスデスの指が沙都子の腹を押す。 触れたかどうかも怪しいほどの優しさでだ。 「~~~~~~~ッッ!!!」 だが、それだけで沙都子の腹部に激痛が走り、身体が震えガシャリと氷の十字架を鳴らし、両目は見開かれ、轡を噛まされた口からは涎が滲み出る。 苦痛にもがく沙都子を見ながらエスデスは口端を吊り上げた。 「肝臓を押した。軽い力でも正確に突けばそれなりの痛みを与えることが出来るのだ」 息を切らしながら俯く沙都子の髪を掴み、ぐいと持ち上げる。 「次はどうしてやろうか。爪をはぐか、耳を削ぐか。片目だけ抉るのも面白そうだ」 笑みと共に齎される提案に、沙都子の目から涙が滲み、轡を噛む歯がキリキリと音を鳴らす。 己の末路が嫌でも脳裏を過り脳髄は恐怖に支配される。 (助けて) 自然と、心の中で助けを求めていた。 そんな都合のいいことなんてないのはわかっている。それでも縋らずにはいられない。 (助けてにーにー!!) 涙が頬を伝い、地面に落ちて跳ねる。 「沙都子ォ!」 それに応えるかのように第三者の声が響く。 己の名を呼ぶ叫びに希望を抱き、顔を上げ、その表情はそのまま停止した。 現れた男は金髪の髪に厳つい顔、アロハシャツというチンピラじみた中年オヤジ。 それは沙都子のよく知る顔だった。 「このクソ女がァ、前歯へし折ってやろかいぃ!!」 男の名は北条鉄平。沙都子の最も会いたくない男だった。 ☆ 「なんねこれは...」 北条鉄平は転送された平屋の中、壁に背を預け虚空を見つめ黄昏ていた。 ここに連れて来られる前のことを思い出す。 日々、孤独死やヤクザによる粛正という末路を悪夢という形で見せられ続けていた彼は、己の人生の虚しさから心身を摩耗していき、ふと姪である沙都子に会いに雛見沢へ足を運んだ。 それからは沙都子を気に掛けるようになり、パチンコで手に入れたお菓子をあげ、更には不良に絡まれた彼女を助けたりもした。 そして、二人きりで歩く夕暮れの歩道で、少しの時間だけだがお喋りをして、彼女から「虫がいい」「都合のいい看護役が欲しかっただけではないのか」と厳しい指摘はあったものの、どこか和やかな雰囲気で会話をし、また今日のようにお喋りでもしたいと思いながら孤独なアパートの部屋への帰宅途中だった。 気が付けばあの惨状を見せられ、この小屋に送られていた。 (いつものワシなら、迷うこと無かった筈やろ) 鉄平は自分が禄でもない人間であることを自覚している。 金を稼ぐために人を騙し、傷つけ、言うことを聞かなければ暴力で従わせて。 それらの行為になんら疑問を抱かず、むしろ楽しんでいた節もある。 だから、こんな状況であれば率先して他人を切り捨て己の保身に走ったことだろう。 配られた支給品も、優勝を目指すにはおあつらえ向きのものだった。 だが、己のことばかり優先した末の結末を知ってからは、どうにもそういう気分になれない。 他者を切り捨ててまであのアパートに戻ったところでどうなるというのか。 (...帰ったところで、なんもないねんなあ) 元々、今までの罪に見合うよう苦しみぬいて誰にも迷惑をかけず死ぬつもりだった。 己の行いでできた沙都子との溝は埋められないことも理解させられた。沙都子が苦しむくらいなら、もう会わない方がいいとまで思っている。 だというのに、元の生活に戻るために他人を犠牲にしてしまえば本末転倒だ。 ただ、自殺ができるほど勇気も無いため、流れに身を任せるしかないというのが彼の出した結論だった。 あのアパートを思い出すボロ小屋を後にし、鉄平は充てもなく歩き続けた。 やがて見つけたのがそこそこ年季が入った校舎。 沙都子は普段はこういう学校に通ってるのだろうかとなんとなく足を踏み入れ散策をしていた時だった。 ガシャン、ドン、となにかが壊れるような音が上階から響いた。 誰かが上の階にいる。 そう確信した鉄平は逃げようとしたが、しかし今さら警戒して延命したところでどうにもなるまいと、半ば失意のもと、音の主と接触する為に足を運んだ。 やがて辿り着いた先にあったのは割れたガラス窓に、床に散らばる包丁やバット、針などのたくさんの凶器の類。 部屋の中の役者は、透き通るような水色の髪の女と、氷の十字架に張り付けられ苦しみえづく金髪の少女。 その少女を。北条沙都子を見た瞬間、鉄平は弾けるように駆け出し、掌の中のソレを口の中に含んだ。 「このクソ女がァ、前歯へし折ってやろかいぃ!!」 拳を握りしめ迫る鉄平にも、女―――エスデスはなんら怯むことなく、むしろ邪悪な笑みを浮かべたまま待ち受ける。 それに構わず鉄平は拳を振るった。エスデスにではなく、沙都子を拘束している氷の十字架目掛けて。 ガシャン、と派手な音と共に氷が砕け、沙都子の拘束もまた解ける。 ほう、とエスデスが感嘆の声を漏らすのも束の間、すぐに鉄平へと右脚での蹴りが放たれる。 鉄平はそれを左腕で防御するも、しかし蹴りの衝撃は殺しきれず地から足が離れてしまう。 このままでは吹き飛ばされると判断した鉄平は、咄嗟に沙都子の服を掴み、共に吹き飛ばされることでエスデスとの距離を空けた。 「沙都子!大丈夫か沙都子!?」 衝撃と痛みに耐えつつ、鉄平は沙都子の猿轡を外し、頭に手を添えながら呼びかける。 「―――ぃやああああああああ!!!」 しかし、沙都子は絶叫と共に鉄平の腕を振り払った。 「さとっ...!」 「ぁ...あぁ...!」 この異常事態においても怯え震える沙都子に鉄平は息を呑む。 原因は解っている。 かつて、沙都子の兄、悟史がいた頃から二人に振るっていた暴力。 自分と妻から刷り込まれた恐怖の記憶が、沙都子の心には根付いているのだ。 「なんだ、親子かなにかと思えばそういう関係か」 己を助けた鉄平に感謝することもなくひたすら拒絶する沙都子の様子を見て、彼らの関係を察したエスデスは愉快気に嗤う。 そんな彼女の邪悪に歪んだ笑みに鉄平の背筋には悪寒が走り、確信する。 鉄平は曲がりなりにも裏社会を垣間見ている。 その為、気性は横暴でも辺りかまわず噛みつくのではなく、園崎家のような本物の極道や、警察や児童相談所などの公的機関などの手を出してはいけない領域は弁えている。 そんな経験で培われた生存本能は確かに告げていたのだ。この女には絶対に関わってはいけない。二人纏めて殺されると。 (...すまんなあ、沙都子) 心の中で彼女に詫びる。 このまま沙都子を連れて二人で逃げるのは無理だ。一人で逃げ出したところで逃げ出せるかもわからない。 どう転んでもこちらが損をするしかない最低最悪の賭けだ。 「このクソガキが!いつまでもガタガタとうざったいんや!」 だから、鉄平は己の命を諦めた。沙都子が逃げられる万に一つの可能性に賭けて。 恫喝と共にパァン、と小気味のいい平手打ちの音が鳴り響く。 「おうガキ、ワシはなあ、この別嬪な姉ちゃんと大人の話すんねや。お前みたいなガキいるだけでも邪魔になんね。わかったらとっとと去ねやこのダラズ!!」 虐待をしていた時を思い出し、同じように唾を吐き捨て、罵声を浴びせ手を挙げる。 その一連の流れをその身で受けた沙都子は、怯えた顔のままわたわたと鉄平の言葉に従い立ち上がる。 振り返ることもせず、エスデスとも鉄平とも目すら合わせず、沙都子は去っていく。 背中越しに消えていく気配を感じながら鉄平は彼女へと想いを馳せる。 (もう叩かんッて約束、破っちまったなあ) 沙都子を逃がす為とはいえ、別れ際に交わした約束を反故にした後ろめたさに気が重くなり、そんな善良ぶる自分に、今さらなにを虫のいいことをと自嘲する。 (せめてもの詫びじゃ。こんなもんで今までの行いを無くせるなんて思っとらんが...) 再び掌で口元を隠し、その裏で仕込まれた支給品を舌に乗せる。 (こいつはワシが食い止める!) 鉄平が取り込むのは、ヘルズ・クーポンと呼ばれる身体能力を増強させる麻薬。 極道が人外の忍者に対抗する為に生み出された地獄への回数券。 鉄平の決意に満ちた眼差しを受け止めるエスデスは、闘争への愉悦に心を躍らせた。 ☆ はあ、はあ、と息を切らしながら沙都子は走る。 覚束ない足取りで、ただただ我武者羅に逃げ続ける。 (どうして) ぶたれた頬の熱さに困惑する。 (どうしてあの人が) 沙都子にとって北条鉄平は災害のようなものだ。 彼との思い出の中に、安らぎや喜びは一切なく、あるのは心身に刻まれた恐怖と痛みだけだ。 なのに、確かに彼は自分をエスデスから護る為に殿を引き受けてくれた。 自分を逃がす為に、憎まれ口をたたいて、後くされが無いように送り出してくれた。 不器用ながらも、彼が自分を想ってやってくれたことくらいはわかる。 だからこそわからない。あの理不尽で横暴な男が、自分を庇うこと自体が。 (っ...か、関係ありませんわ) それでも忘れた訳ではない。 彼から受けた恐怖を。痛みを。屈辱を。 大好きな兄・悟史の失踪を。 あんな気まぐれ一つで全てを許せるはずもない。 だから沙都子は止まらなかった。 一度も振り返らず、鉄平のこともエスデスのことも振り払うように一心不乱に走り続けた。 「きみ、どうしたの?」 かけられた声に、思わず身体が震え足が止まる。 「ひっ」 「ご、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど」 震え、喉を鳴らした沙都子に、声をかけてきた青年は汗をかきながら慌てて弁明する。 その優し気な声音に、躊躇いつつも、少なくともいまここで害を為そうというわけでは無いと判断。 震える身体で、勇気を振り絞り沙都子は叫んだ。 助けて、と。 ☆ 散弾銃のように降り注ぐ氷の粒を、鉄平は必死に身を捩り、机や椅子を盾にし、ダメージを避け続ける。 本来ならば当に地に伏せている鉄平の身体能力はヘルズクーポンで底上げされている。 その為、常人ならばとうに捕まっている勢いのエスデスの攻撃を視て辛うじて対処することが出来ている。 だからこそ鉄平は焦っていた。 ヘルズクーポンの効果がいつ切れるかわからないのもあるが、なによりエスデスがこれほどの猛攻においても息も切らさず余裕の笑みすら浮かべているからだ。 「こんのクソ女がぁ...!」 毒づく鉄平だが、しかしこれは逆に好機ととらえる。 相手がこちらをなめているのならそれだけ時間を稼ぎやすく、自分も下手に倒そうとせずに防御に専念できる。 時間をかければかけるだけ沙都子を逃がせるならば、この勝負は鉄平に有利であるのは間違いない。 「どうやらそれで手詰まりのようだな」 エスデスが状況の膠着を許せばの話だが。 それは突然だった。 エスデスの放つ氷弾が威力と速度を増し鉄平へと降り注ぐ。 これは避けきれないと即座に判断した鉄平は、両腕で頭を抱え込むようにして防御の構えを取る。 その為に、防御に回した腕と目が一瞬だけ重なったその瞬間。 エスデスは瞬く間に鉄平との距離を詰め、顔面を掴み地面に叩きつけた。 背中から身体中を走り回る衝撃に鉄平がくぐもった悲鳴を上げるが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに鉄平の四肢が氷で拘束され床に縫いつけられる。 時間稼ぎしか考えない敵などエスデスにとっては闘争相手に成りえない。 故に、ここからは戦闘狂としてではなく、彼女のもう一つの顔―――拷問狂としてのお楽しみの時間だ。 「んぎっ!」 「ふふっ、醜くくぐもったいい鳴き声だ」 鉄平の肩に氷の剣が突き立てられる。 エスデスは鉄平の両手足を拘束し拷問を兼ねた実験にとりかかっていた。 「なるほど。これが貴様が飲んだ薬の効果か」 鉄平の肩口に刻まれた傷口が再生していく様を観察し感心する。 エスデスの生きた世界にも薬で身体能力を異常に強化する術があったため、鉄平の再生の種をすぐに見破ることが出来た。 エスデスが鉄平の懐から取り出したヘルズクーポンを指で摘まみピラピラと振り検める。 「どれ」 連なるシートの内、一枚を口に含む。しかし身体にはなんら変化が生じず、ただエスデスの舌で麻薬が転がされるだけだ。 「ふむ。どうやらこの薬は身体能力の劣る者が強者に追い縋る為のものらしいな。私に効かぬのも無理はない」 興味を無くしたエスデスはヘルズクーポンを破り、再び鉄平の身体に剣を突き立て始める。 その度にあがる悲鳴に、エスデスの笑みはより深まり妖艶さも増していく。 再生と破壊が繰り返される鉄平の身体だが、しかし心まではそうはいかない。 ―――もうやめてくれ。沙都子の逃げる時間は稼いだのだ。もう終わらせてくれ 絶え間なく与えられる激痛と齎される恐怖に、鉄平の脳裏にはそんな弱い考えが満ちつつあった。 どんどん恐怖と焦燥が表情に表れていく鉄平を見ながら、エスデスは嗤う。 こんな楽しいことを終わらせる訳がないだろうと。 (沙都子...) 切り刻まれ痛めつけられ続けられながら、鉄平は朦朧とした頭で考えるのは沙都子のことだった。 彼女は目の前に迫る死の脅威よりも自分を恐れていた。 あの光景に改めて己の所業の愚かさを思い知らされ、こんな自分が彼女を心配するなど滑稽なものだと自嘲する。 それでも祈らずにはいられない。せめて最期くらいは伯父らしくありたい。 (...この期に及んで自分のことばっかやんなあ) 結局のところ、沙都子に指摘された通り、自分が寂しくなって都合のいい相手を求めただけなのだろう。 だからこんな最期を迎える。自業自得とはこのことだ。 (ほんま、くだらん男やなあ) もう飽きたと言わんばかりに眼前に突き付けられる氷の剣にも抵抗する気力はない。 剣が眼球を貫く瞬間を見るのも恐いため、鉄平は諦めるように己の瞼を閉じた。 「......」 だが、来ると思っていた痛みが来ない。疑問のままに鉄平は瞼をあげる。 氷の剣は、鉄平の眼球を貫く寸前で黒い影に纏わりつかれ止められていた。 遅れて、エスデスと鉄平に覆いかぶさるように影が躍り出る。 エスデスが飛び退き影の襲撃を躱すと、代わりに鉄平が影に包まれる。 影は鉄平を中心に渦巻くように蠢き壁を作る。 「な、なんねこれは」 「間に合った」 パチクリと目を瞬かせる鉄平の眼前に、一人の男の背中が現れる。 ヒーロー。 氷の女帝を前にしても臆さぬ凛としたその背中に、鉄平はその文字を見ずにはいられなかった。 ☆ 許せない。 佐神善は胸中で怒りを燃やしていた。 彼は吸血鬼(ヴァンパイア)だ。殺し合いの経験は何度もある。 だが、慣れているからといって生物の殺害になんの躊躇いもないわけではない。 そもそも彼は戦いなんて嫌いだ。吸血鬼と戦うのも己の力を誇示する為でなく、親友が殺され悲しみを知り、もう二度と失わないと決意したからである。 故に善は誰も彼もに殺人を強要するこの殺し合いに、主催の子供たちに憤慨していたのだ。 (いけない...冷静さだけは失うな) 深呼吸と共に、熱くなる思考を落ち着ける。 クリアになったその頭でまずするべきことを考える。 まずあの子供たちとの戦力差。 自分をこうも容易く拘束しここまで連れて来たのだ。 恐らく、いや、確実に自分一人でどうこうなる相手ではないだろう。 だからといって素直に従う訳にもいかない。 つまり、必要なのは協力者。それも、他の参加者と殺し合うのを良しとしない実力者というあまりにも都合のいい存在だ。 それでも成し遂げなければならない。誰かの命を護るために戦う。それが佐神善の信念だから。 周囲の探索を始めてほどなくして、校舎のある方角から金髪の少女が駆けてきた。 まだこちらに気が付いていないようだったので、声をかけると少女は怯えるように身体を震わせた。 脅かすつもりではなかったと口ごもりながら弁明する善。 それが功を為し、少女は意を決したかのように叫んだ。 助けて。叔父が私を逃がす為に校舎で戦っている―――と。 (そんな、もう戦いが始まっているなんて!) 善は少女から、名前と事情をかいつまんで聞くと、すぐに校舎へと駆け出した。 争いを止める為に、命を救う為に。 校舎に近づけば、なるほど確かに何者かが争う物音が聞こえる。 善はすぐに吸血鬼(ヴァンパイア)の姿に変身し、棟内には入らず翼を生やし外から観察する。 (見つけた) 一部が倒壊し凍てついている棟内で、女に押し倒されている男を見つけた。 彼が少女、沙都子の言った叔父だろう。 善は迷うことなく、己の能力である"影"を分裂させ、女と叔父の間に壁を作り分断、救助した。 「なんねこれは...」 呆ける鉄平をチラ、と横目で見ながら観察する。 エスデスから付けられていた傷は見る見るうちに再生している。常人なら既に動けないほどの深さのものもだ。 鉄平も自分と同じヴァンパイアなのだろうか。 (いや、そんなのは関係ない) 鉄平の正体がどうであれ、彼を助けることには変わりない。 「沙都子ちゃんの叔父さんですね。あなたを助けに来ました」 「ど、どういう...」 「頼まれたんです。沙都子ちゃんに、あなたを助けてくれって」 「......!」 善の言葉に、鉄平は己の服の裾を掴みながら唇を噛み締める。 あれほど恐れていた自分を助けようとしてくれた。 あの夕暮れ時の歩道で諦めかけていた想いへと沙都子が歩み寄ってくれたのだと思うと、嬉しく思うのと同時にこれまでの非道が胸に重くのしかかってくる。 その様子から、沙都子と鉄平の間には並々ならぬ事情があるのだろうと善は察する。 それを解決するには恐らく一朝一夕で済まされないのだろう。 それでも。 「ここは僕に任せて行ってください。沙都子ちゃんが待ってます!」 善は信じる。 真っ先に彼を助けてくれといった沙都子を。沙都子を護るために己の命すら賭けていた鉄平を。 「...すまんなあ、兄ちゃん」 しわがれた、普段の彼からは想像もつかないほどに掠れた声で、感謝を兼ねた謝罪と共に鉄平は駆け出し戦場から去っていく。 過去の後悔を胸に。護るべきものを護る為に。もう二度と過ちを繰り返さない為に。 鉄平は、刻まれた痛みすら凌駕し走り続ける。 【北条鉄平@ひぐらしのなく頃に 業】 [状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、身体にダメージ(大、ヘルズクーポンで治癒中) [装備]:ヘルズクーポン(半数以上使用及び廃棄)@忍者と極道 [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2 [思考・状況] 基本方針:沙都子を助ける。 0:沙都子と合流する。 1:園崎家の面々がいれば注意する。 [備考] ※参戦時期は本編23話より。 鉄平が去ってからほどなくして、氷柱が影の壁を突き破り善に迫る。 その速度に驚愕し目を見開くも、顔を傾けて辛うじて回避する。 「私の名はエスデス。お前の名前を聞かせてもらおうか」 影が霧散し、改めて対峙することになる二人。 エスデスは愉快気に口角を吊り上げ、そんな彼女に善は険しい表情で返す。 「佐神善だ」 「その顔、なにか言いたいことがあるようだな」 「なんであんなことをしていた」 善の言うあんなこと、とは、鉄平にしていた拷問まがいのことだ。 万が一正当防衛だとしても、悪戯に甚振るあのやり方は悪意を持っていなければ起こることはありえない。 「あんなこと...ああ、あの男にしていたことか。なに、なんてことはない。ただの趣味だ」 ピクリ、と善のこめかみが動く。 「威勢よく啖呵を切ってきたのでどの程度やれるか期待していたのだがな。私から逃げるばかりで大して面白くもなかった。だからせめて甚振ることで発散したかったのだ」 「そんなことで...」 いっそ朗らかにさえ見えるほどの調子で語るエスデスに、善の声に怒気が孕まされていく。 こんな異常事態なのだ。己が生きる為に戦い殺してしまったというだけならば、まだ理解はできるし、どうにか説得したいとも思う。 だが、エスデスは違う。明確な愉悦の欲求を満たす為だけに鉄平や沙都子を痛めつけていた。 仲間である狩野京児も似たようなことはやっているが、少なくとも彼は何の罪もない人々を傷つける真似はしない。 言い方は悪いが、しっかりと相手を選んでやっている。それを好ましく思う訳ではないしむしろその部分だけは相も変わらず嫌悪しているが。 ともかく。エスデスも京児と同じ残虐非道の拷問狂ではあるが、彼のように人を思いやる心が無く、周囲に災害を撒き続けるというならば許せない。許せるはずもない。 だから善は叫ぶ。己の怒りを訴え、覚悟を示す為に。 「そんなことでお前は人を傷つけるのか!!」 激昂し放たれる敵意と殺意を身に受けたエスデスの背筋にゾクゾクと寒気が走る。 (おお、これだ...この緊張感こそが戦いだ!!) エスデスはここに連れて来られる前―――生前のことを思い出す。 生きていた頃はその実力を以て己の欲するままに世界を蹂躙していた。 部隊の将として戦に勝利し。欲望を発散する為に戦闘と拷問に興じ。気に入った者を武力で手に入れた権力で引き抜いたりもした。 その中で、唯一成就しなかったのが想い人、タツミへの愛。 彼は異形と化しても尚、エスデスの美貌にも強さにも屈服することなく抗い続けた。 きっと、マインという恋人がいなくとも自分の想いが叶うことはなかっただろう。 しかしそれで諦められるエスデスではない。 己の死という形で一度は敗北で終わってしまった恋だが、だからこそチャンスがあればそれを掴む。 イェーガーズ屈指の愛妻家且つ円満家族であるボルスですら、二度もフラれて尚機会を見つけてはアタックを繰り返し恋を成就させた。 ならば自分にもその権利はまだあるはずだ。 この殺し合いを制し、再び生の権利を手に入れ帰還し、タツミのハートを掴むためにアプローチをかける。 優勝の褒美でタツミを歪めるのではない。生還し、己の力でタツミを射止めるのだ。 かといって、それまでの過程で合理的に物事へと取り掛かり、エスデス自身を曲げられるのも癪に障る。 だからこの殺し合いを思う存分満喫する。 血を。死を。戦闘を。拷問を。己の欲するままに振りまいてこそ『エスデス』だ。 (佐神善。単純な戦闘力では負ける気はせんが、しかしその威圧感、非常に興味深いぞ!!) 人の為に戦う者でありながらエスデスの本能にすら響くほどの殺意を放てる者などそうはいない。 信念のもとに鍛え上げられたのか、なにか秘めているものがあるのかはわからないが、これほどまでに戦闘意欲を掻き立てられるのは久々だった。 わざわざ鉄平を見逃しただけのことはあった。 もはやこの戦いに雑音は不要。 「さあ楽しませてもらうぞ佐神善!」 「うおおおおおおおお!!」 両者の叫びと共に、互いに駆け出し、氷のグローブに纏われた拳とヴァンパイアの拳が衝突し―――闘争は始まった。 【校舎】 【佐神善@血と灰の女王】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本方針:殺し合いを止めて主催を倒す。 0:エスデスに対処する。 1:犠牲者は出したくない。 [備考] ※参戦時期は燦然党決戦前。 【エスデス@アカメが斬る!】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本方針:この催しを楽しむ。 0:佐神善で遊ぶ 1:気が向いたら鉄平と沙都子を追う [備考] ※参戦時期は漫画版死亡後より。 ああ、そうだ。 佐神善。 私を満足させてくれたら褒美として教えてやろう。 お前があの小娘にどう吹き込まれたかはわからん。 だが、最初に罠で攻撃を仕掛けてきたのは。 明確な殺意を込めて私を殺そうとしたのは―――あの小娘だ。 ☆ パチン。 指を鳴らすその動作は、かつての時間を再びやり直す合図。 パチン。パチン。パチン。 どれほどの回数指を鳴らし続けてきただろう。どれほどの惨劇を目の当たりにしてきただろう。 そんな経験を経た沙都子ですら、首輪を着けての殺し合いという状況は初めての経験だった。 この世界は失敗だ。そう判断し己の命を断とうとして、ふと手を止める。 スタート地点が雛見沢でなく。見る景色が全て初めてのもので。なにより傍に古手梨花がいない。 この異様すぎる世界で、果たして自分の魔法は適用されるのか?もしかして、万が一死んでしまえば、梨花と会うことすらできなくなってしまうのではないか? ではこの状況はなんなのか。繰り返す力を使った弊害かバグなのか。それとも... (...とにかく今は生き残るしかありませんわね) ここで死ぬのは安直にすぎる。ひとまずはルールに則り優勝を目指すべきだ。 沙都子はさっそく、飛ばされた校舎で道具を集め、己の潜伏する校舎の一室に罠を張り巡らせた。 敵を殺せる鉄パイプや包丁等も用いての本気の罠だ。 しかし、その罠も最初に表れたエスデスに容易く破壊された上に、沙都子自身も捕まってしまった。 嬉々として甚振ってくる彼女に耐えている時に現れたのが鉄平だった。 普段の彼ならば平然と沙都子を差し出し己の保身を測るだろう。しかし、今回の鉄平は常に沙都子を護るために行動している。明かなイレギュラーだ。 そして逃がされた先に出会ったのが佐神善だった。彼は会ったばかりの沙都子の頼みを引き受け、現場に向かってくれている。 過程はどうあれ、今の彼らを見れば彼らを邪悪に分類する者はいないだろう。 しかし、優勝しか手段ないというなら彼らもまた犠牲にしなければならない。 『うまい話がタダであろうはずもない。だがそなたは対価を払うことを意識する必要はない。繰り返す者として...時の渦を巡ることそのものが、我が鑑賞に値すれば。それで対価には十分だからな』 力を与えたあの女は確かにこう言った。 ならばこれはあの女からの試練なのか?如何な犠牲を払ってでも願いを達成するという覚悟を試しているのか? 「梨花...」 震える己の掌を見つめる。 梨花を取るか、多数の善なる命を取るか。 かつて梨花に投げかけたものに似た選択肢を突きつけられる。 ちがうのは、梨花が受験を受けてもその手を汚すことはないが、自分の場合は間接的にせよ直接的にせよ善なる者すら排除することになる。 別の世界のカケラで見た部活メンバーたちのように、互いを信じあい奇跡を起こすこともできなくなるだろう。 (それでも私は) それでも、雛見沢で向けてくれた梨花の笑顔が。共に紡いできた絆が。あの輝かしかった日々が忘れられない。 あの日々を取り戻す為にあんな力にまで手を染めたのだ。 だからもう引き返せない。 例えどれだけ手を汚そうとも。 自分を救おうとしてくれる者がいても。 鉄平のような歪みによって生じた善性でさえ。 世界も可能性も。 摘んで。 摘んで。 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで 摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで摘んで その果てに理想(あのこ)を掴み取る。 それこそが己が目指す未来。つまりは約束された絶対の未来。 (待っていてくださいませ梨花。大好きな梨花。二人の幸せな世界を掴むまで、私は諦めませんわ) 先ほどまでの困惑が嘘だったかのように、クスクスと笑い嗤う。 紅い月に照らされたその笑みは。 三日月状に歪んだその口角は。 誰が見ても魔女そのものだった。 【校舎近辺】 【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に 業】 [状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、身体にダメージ(大) [装備]: [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本方針:覚悟を示して願いを叶える。手段は択ばない。 0:エスデスから離れる。鉄平や善が消耗させてくれるのを願う。 1:暗躍し、鉄平や善のような味方をしてくれる者を利用しつくす。 [備考] ※参戦時期はシャンデリアで心中後~23話の鉄平を知る前。