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【名称】 :忘却の彼方 【カテゴリー】:エレメント 【ランク】 :中級C-2 【初出作品】 : 【他登場作品】:【コスプレ戦士キョウカ ep.1】 【備考】 : 黒い触手の塊あるいはタコのように見えるラルヴァ 触手で捕らえた生き物の記憶を食べていると考えられている その本質はエネルギー体であり触手などは体に触れられるほど凝縮したガス状のモノである 大きい個体ほど凝縮している密度が高く魂源力以外の攻撃が効きにくくなる 数センチ程度なら家庭用の扇風機でも散らすことが出来る 中心部を壊すと忘却エネルギーが周囲に拡散して消える 最長でおよそ6時間程度の記憶を無くさせたという記録があるが 今の所忘却の彼方が起こした事件でで深刻な記憶障害に陥った例は無い トップに戻る 上に戻る
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インターフェイスを経由していないかたは一度ご覧ください できるだけラノのバージョンで読んでください 3 「ぬををおおおーーーッ!! ――よし、一匹は俺でなんとかなる。お前たち、あと二匹は頼ん だッ!」 クマ階堂悟郎が、満身の力を籠めた両腕で魔甲蜈蚣〈ダイア・ピード〉を押さえ込む。魔甲 蜈蚣の毒牙が悟郎の首筋に食い込んでいるようにも見えるが、ヒグマの分厚い毛皮が肉にまで 達するのを防いでくれているのだろう。 魔甲蜈蚣はおおよそ体幅が30センチ、そして節足肢の幅もほぼ同じくらい。長さは実に6 メートルにもおよぶ、実にラルヴァらしいラルヴァだった。 その毒々しい紅色の外殻は7・62ミリライフル弾を受けつけず、重火器以上の破壊力か、 心得のある異能者の、魂源力(アツィルト)をまとった攻撃によってのみ打ち砕くことができ る。といっても固さそのものが普通のムカデ並というわけではなく、魂源力の籠った日本刀で あっても、斬撃能力そのものが向上されていないと刃を通すのは至難の業だ。 これだけ巨大な中級怪物が3体も出た場合、普通なら6人だけで対処するということはない。 急ごしらえの第8分隊にとって、魔甲蜈蚣はあきらかに荷の重い相手だった。三匹中の一匹を、 悟郎がひとりで抑えてくれているだけでも相当の行幸だ。あとでクマ牧場のヒグマさんにはた っぷりとごちそうを振る舞う必要があるだろう。 魔甲蜈蚣の残り二匹は出遅れていたものの、その無数の肢でもって急斜面をガサガサと音を たてながら登ってきている。 クマ階堂と、ひときわ大きかった一匹目の魔甲蜈蚣の勝負は我慢比べに移行していた。ヒグ マのパワーを得ている悟郎が魔甲蜈蚣を押し潰すのが先か、あるいは魔甲蜈蚣の毒牙がクマ階 堂の分厚い毛皮を貫くのが先か…… 残された組み合わせは、2対5――魔甲蜈蚣に「助け合い」の精神はないとはいえ、依然厳 しい戦いとなるだろうことに変わりはない。 「米良さん、援護はたのむ! 〈降ろす〉……ヒマはないか」 綾乃へ明確な指示を出してから、明日羽がやや期待の入り交じった視線を投げかけた先には 二礼がいる。彼女は実家の祭神を喚び出す能力を持っている巫女ではあるが、降神の儀式とい うのはそんなに簡単ではない。 「〈場〉の準備からしてないっすからねえ。しかもここは蝦夷地だし……もしかしたら、物珍 しさでひょっこり出てくるかもしれないっすけど」 あまり自信のなさそうな口調で応じた二礼だったが、 「なら、やってみて。一匹はちょっと連れまわしてくるから」 といって、質が前に出た。 「へ? あの化け物をひとりで引きつけるっていうんですか?」 露骨に胡散くさそうな顔をした綾乃に対して、質はそっけなく答える。 「ひっぱるだけ。間違っても倒すのは無理だから期待しないで」 崖を登ってくる魔甲蜈蚣はもう20メートルほどにまで近寄ってきていた。右の一匹に狙い を絞り、質はポケットから銀色のものをつまみ出すと、そのまま落とす。パチンコ球だ。 パチンコ球を20メートルの高さから鉄板へ向けて落としても大した音はしないものだが、 質の手を離れた銀球は、魔甲蜈蚣の頭にあたって異様なまでに鈍い響きを発した。上へ跳ね返 らず、斜め下へ落ちていくところを見ると、衝撃はほとんど全部魔甲蜈蚣に加えられたことが うかがえる。 魔甲蜈蚣が長大な身をしならせ、多脚をせわしなく動かしてキチキチと音を鳴らした。これ がこいつなりの怒りの表現なのかもしれない。基本は巨大な虫であるから、発声器官はないの だ。 質はといえば、無表情にパチンコ球をもうひとつ落としただけ。 反り返っていた魔甲蜈蚣の、背面ほどの硬度はない、腹側にあたったパチンコ球は、今度は 跳ね返されずにめり込んだ。 耳障りな雑音をあげながら、魔甲蜈蚣が山肌に順面で着地し直す。心持ち、先ほどより地面 と胴体の間の隙間が狭くなったようにも見える。 確実に質ひとりを目がけて、大アゴを打ち鳴らしながら魔甲蜈蚣が迫ってきた。ギリギリま で引き寄せて、質が崖ぎわからジャンプすると、その身がふわりと宙に浮いた。魔甲蜈蚣は半 身を伸ばしたが、質はその頭上を飛び越えて、谷底へ緩降下していった。方向転換して、魔甲 蜈蚣がそのあとを追う。 質の声が響いた。 「倒す方法は持ってないですからね、期待しても無駄だからそのつもりで!」 「え? なに、弱いとかいっといて念動力者かなにかですかあの人? パチンコ球で怪物の装 甲ぶち抜くし!」 綾乃が素っ頓狂な声をあげたところで、三匹目の魔甲蜈蚣が崖のふちから頭を出した。牙の 先から、毒液が滴り落ちる。 明日羽は刀を構えて前に出た。 「説明はあとで。私が頭を抑えて、やつの隙をうかがう。拍手くん、私の合図で発勁を打てる か?」 「こいつにダメージ通すとなると、たっぷり30秒は練気しないと無理!」 「相変わらず役に立たないっすねえ」 右手で御幣をつけた榊の枝を、左手で鈴を振りながら、二礼が軽口をたたく。すでに楮(こ うぞ)と三椏(みつまた)で漉かれた和紙を敷き、中央に実家のご神木の枝から削り出した木 刀を置いた、簡易陣で降神の儀式をはじめていた。普通神事の間は無駄口を慎むものだが、彼 女の実家の神さまは割に鷹揚な性格らしい。 「……練り終わったあとなら、気を五秒くらいなら保持できる、たぶん」 先輩としての威厳を示すためか、敬がなんとか請け合う。明日羽はひとつうなずいて、綾乃 のほうへ首を巡らせた。綾乃もこくりとうなずいて、合図を待つ。 魔甲蜈蚣は崖を登りきり、長い長い胴体を二度ほど折り返してから、人間どもへ、感情のこ もらぬ四つの単眼を向けた。一瞬の停滞。 「いまだ!」 叫ぶと同時に、わずかに右まわりの弧を描きながら、明日羽が突撃を敢行する。 「――ッつぇいやァッ!!」 裂帛の気合とともに、綾乃が火焔弾を放り投げた。さほどの豪速球というわけではなかった が、確実に魔甲蜈蚣の頭部に命中し、派手な爆発を起こす。 狙いどおり、明日羽は視線を封じられた魔甲蜈蚣の側面にまわりこむことができた。 喚声とともに刃を振るい、節肢を二本ばかり斬り飛ばす。何百本あるのか見当もつかないほ どだが、わずかであってもダメージはダメージだ。 首を振って魔甲蜈蚣は炎を振り払ったが、 「まだまだァッ!!」 綾乃の二撃目、三撃目が、悪趣味な紅色の外殻に弾けて爆閃を散らした。 爆風で長大な身をあおられかけ、腹側をさらすのはまずいと本能で察したのか、魔甲蜈蚣は 地面を節肢でしっかりとつかむ。 体高が低くなった魔甲蜈蚣の上を取って、明日羽が刀を逆手に持ち替え、体節の隙間へ刃を 打ち降ろした。鈍い金属音が響いたが、魔甲蜈蚣の身体へ食い込むにはいたらない。 「くっ……なんて硬さだ」 背中側の外殻を貫くことはできない、明日羽はそう判断したが、ラルヴァのほうは、側面の 小娘に目もくれず、一番小うるさい相手のほうへと突き進んでいく。 もちろん狙われたほうはたまったものではない。 「ちょっ……こっちくんな!」 綾乃は迎撃の火焔を浴びせるが、当然ながらより引きつける結果となるだけで効果は振るわ ない。 テンパリかかる綾乃へ、二礼がうしろから声をかけた。 「メラ子、こっち!」 「いいか、あの紙踏む前に、二回お辞儀して、二回拍手して、もう一回お辞儀だぞ」 捕足を加えてから、敬は綾乃と魔甲蜈蚣の間に割って入った。肩幅に開いた両脚で地面を踏 みしめ、腰を落とす。 「さあこい、一発は入れてやる……って、シカトかてめぇッ!?」 立ちはだかる敬に対して、魔甲蜈蚣は面倒くさいとでもいいたげに長大な身を捻って迂回し た。それほど綾乃の火焔攻撃がうっとうしかったのか。 「俺の脇を素通りするたぁ、ふてえ根性だ。振り向かせてやるぜ……!」 全身の気を錬成して左の掌底へ集束させていく敬だったが、同じく魔甲蜈蚣から無視されて いる明日羽が声を張った。 「フルパワーで打つなら、頭部側から36個目の体節を狙って! そこがそいつの魂源力の 要のようだ。刃物は通らないが、発勁なら浸透させることができるはず」 「36個目って……これ数えろと!?」 一般的なムカデの体節が200を超えることはないが、魔甲蜈蚣の場合はあきらかにもっと 多い。しかもかなりの速度で動いている。 とっさには無理だろう。 「〈縛〉で止めるから、ちょっと待って! ほら、メラ子早く」 さすがに余裕がなくなってきたか、舞いの動作は止めないものの、二礼の言葉に常の軽い調 子はない。最後の一拝と同時になぜかすっ転びながら、綾乃が和紙の敷物に飛び込む。二畳ほ どしかない、大して広くもない空間だが―― 魔甲蜈蚣が綾乃の後を追って結界へ突っ込むと、雷鳴を凝縮したような、残響こそないがす さまじい音があがった。見えない巨大な手で頭をつかまれたかのように、魔甲蜈蚣の前進が食 い止められる。胴体部が暴れ狂い、敬と明日羽はとっさに身を伏せて躱した。 「……ちっ、経費は学園持ちだっていうから、思いっきり高いやつ持ってきたのに」 悠然とした所作を保って舞い続けてはいるが、二礼の額には玉の汗が浮かんでいた。敷物に 記されている祝詞の文字が、蒼く発光している。二礼が神楽を通じてささげている魂源力を、 片端から消費しているのだろう。中級ラルヴァは霊的にも強大なパワーを持っているらしい。 魔甲蜈蚣は、闇雲に振り回していた胴体を落ち着かせ、がっしりと数百本の肢で地面をつか んだ。拘束されていた頭部が、じりじりとだが、動きはじめる。大アゴを開いて、結界の下地 になっている敷物へと迫る。霊媒質になっているだけで、物理的にはただの和紙だ。 「結界を破る気か……!」 怪物の意図を察して、立ちあがった敬がうしろから距離を詰める。 「動きが止まった、拍手くん、チャンスだ!」 「よっしゃ、36番目だったな!」 明日羽は、異能の力で魂源力の流れを視覚的に捉えることができる。魔甲蜈蚣は魂源力を攻 撃的な能力にはあまり転化していない。ならば魂源力の中枢に打撃を与えれば、防御力が弱ま って、綾乃の火焔や敬の通常発勁で充分なダメージを与えることができるようになるはずだ。 魔甲蜈蚣が結界用紙に大アゴを触れさせようというところで、 「今日の俺の全力だ、釣りはいらねぇから持ってけやァッ!!」 敬の、文字どおりに全身全霊が籠った左の掌打が、頭側から36個目の体節にたたき込ま れる。 瞬間、魔甲蜈蚣の全節足肢が、動きを止めた。明日羽の眼は、たしかにラルヴァの魂源力と 敬の魂源力が衝突したのを捉えていた。敬の魂源力は、一般人にしては多い、という程度だが、 総量(ストック)と流量(フロー)はイコールではない。全身の魂源力ほぼすべてを瞬時に放 出し切ることのできる敬の全力発勁は、その一撃に限れば歴戦のベテラン異能者とまったく遜 色ない。 確実に魔甲蜈蚣を弱体化させた。 とはいえ、倒しやすくなっただけで、凶暴さや攻撃力が低下したわけではない。 魔甲蜈蚣の動きが変わった。肢を踏ん張って、結界に突っ込んでいた頭部を引き抜きにかか る。いまの一撃は相当に効いたらしい。 「冗談じゃねえ、食われてたまる……か」 力を出し尽くしてふらふらになった敬は、魔甲蜈蚣が結界から抜け出すのと入れ替わりに 〈縛〉がかかるのもおかまいなしで和紙の敷物へと倒れ込む。 「センパーイ、だいじょぶですかー?」 綾乃がその身を揺するが、精根尽きはて、その上、結界へ踏み込む際に礼を失したものを等 しくいましめる〈縛〉を食らった敬はまったく応答しない。 「しばらく転がしておけばある程度回復するから、それより隊長を援護してあげて。こっちは もうちょっとかかる」 榊の枝を振りながら、二礼が綾乃をうながす。狙っていた獲物がどちらも安全地帯に逃げ込 んでしまったことを察したのか、魔甲蜈蚣は明日羽のほうへと向かっていた。明日羽は退がろ うとしないが、いくら防御力が低下したといっても、いまだ鋼の強度を誇る魔甲蜈蚣の外殻を 貫くのは難しいだろう。 「結界内から撃っちゃダメですか?」 「たぶん〈縛〉がかかるから、出て」 簡易的なものとはいえ、神域内での荒事は厳禁だろう。大丈夫であれば、安全なところから 一方的に遠隔攻撃ができるので楽ですむのだが、いまもし失敗すれば明日羽の命に関わる。 「うひぃ、了解……っと、なんか身体軽いな」 「いちおう〈加護〉はかけたから、がんばれ」 二礼のエールを背に、綾乃は結界から足を踏み出した。 「っし、いくぜ化けムカデ、食らえぇぇっ!『祝福されし灼熱波〈セイクリッド・バーニング ウェイヴ〉』!!」 いま考えたばかりのかけ声とともに、綾乃の両手から炎の束が迸り出た。結界内にしばらく とどまって気力と体力が回復している上に、もらったばかりの加護が乗っている。即席でこん な芸当ができるとは、荒削りながら綾乃はかなりセンスが良いらしい。 魔甲蜈蚣の背に直撃した灼熱波は、先ほどまでの、爆発したり弾き返されておしまいだった ものとは違った。炎の渦と化して、長大な怪物を包み込む。魔甲蜈蚣が身悶えして苦しみはじ めた。 「おお、いけるんじゃね?」 我ながら会心の攻撃に、綾乃の頬がゆるむ。 しかし―― 魔甲蜈蚣は、その身を丸めると地面を転がりまわりだした。意思を持つかのようにまとわり ついていた炎も、振り払われて消えていく。 火を揉み潰し終え、再び全身を伸ばした魔甲蜈蚣は、片方の触角が焼け落ちた頭部を綾乃へ と向けた。 「結界に戻るんだ、米良さん!」 駆け寄った明日羽が、魔甲蜈蚣へと刀を突き込んだ。魂源力の隙間を狙った今回の攻撃は見 事に決まり、尖っ先が二割ほど体節の継ぎ目にめり込む。青紫の、毒々しい色をした体液が噴 き出した。 苦痛の感覚はあるのか、魔甲蜈蚣が大きく身を捻った。突き刺さってしまった刀は抜くこと ができず、明日羽は仕方なく得物を手放したが、跳び退がるのが一瞬遅れ、波打つ胴体の直撃 を受けてしまった。 吹き飛ばされる。 ぶつかってから明日羽へ攻撃を決めたことに気づいたらしく、一度地面ではねてから動かな くなった彼女へ向け、魔甲蜈蚣が動きだした。 「――先輩っ!」 後退するどころか前へ出ながら、綾乃が火焔弾を投げつけた。しかし、まだ中等部生である 彼女にフル・パワーの攻撃を連続で出せるほどの魂源力はない。さっきの「祝福されし灼熱波 〈セイクリッド・バーニングウェイヴ〉」も、結界内での休息と、もらった「加護」の賜物だ。 魔甲蜈蚣の側面で爆発が生じたが、注意を引くこともできなかった。どうやら、攻撃を受け たら単純に応戦する、という性質ではないらしい。直前にダメージを与えてきた相手を狙うの だろうか。 どうにか半身を起こした明日羽だったが、もう逃げられる距離ではなくなっていた。魔甲蜈 蚣が、大アゴを全開に広げる。 刹那。 すさまじい速度で飛来してきた二礼の木刀が、魔甲蜈蚣の頭を消し飛ばした。 木刀はそのままの勢いで、はるか山嶺の稜線目がけて飛んでいく。 振り返った明日羽と綾乃が見たのは、舞うのを終えている二礼と、相変わらず伸びたままの 敬、そして―― 雅やかな雰囲気の、羽衣をまとった天女。どうやら彼女が二礼の実家の祭神さまらしい。六 等身弱の、十歳ちょっとの少女にしか見えないのは、招請の儀式が完璧ではないからだろう。 神さまは、左手に光を束ねて象作《かたちづく》られている弓を下げていた。どうやらこれ で木刀を射ち出したようだ。 『結界の外へ攻撃する手段はこれくらいしかなくてな』 「いや、助かったっすよ。また木刀なくしちゃったのは痛いっすけど」 『まったくだ、あいつをあまり削るなよ。いちおうあれもあれで〈神〉なのだからな。従者が いなくなっては、出雲へ出向くとき恰好がつかん』 「次のはなくさないように気をつけるっす」 神さまとごく普通に会話をしている二礼の様子に、明日羽と綾乃は目をしばたたかせるばか りだったが、 『なんだその間抜け面は? こちらへこい、歩ける程度には体力を回復させてやる。だが、も う戦いは控えたがよいぞ』 神さまのほうは気安いようで、敬を足蹴にしながらふたりへ手招きする。敬がうめき声をあ げながらも、もぞもぞと動きだしたところを見ると、虐待しているのではなく回復させてあげ ているらしい。 そこへ、全身擦り切れまみれになりながらも、クマ階堂悟郎が現れた。 「いやあ、まさか中級の大物にひとりで勝てるとは思わなかったぞ」 「まじであれをひとりで倒しましたか……化け物め」 綾乃が呆然となるのも当然だろう。こちらは総力戦の挙句に、神さまの助けまで借りてよう やく勝ったというのに。 『あの奇怪な毛玉はなんだ?』 「いちおう、うちの学校の先輩っすよ。動物と融合できる能力を持ってるっす」 二礼の説明で納得したのかどうか、神さまはクマ階堂へも鷹揚に話しかけた。 『お主もこっちへこい、傷くらいは治してやろう。それと、お主蠱毒(こどく)に冒されてお るぞ。放っておくと、その羆神(カムイ)との合身を解いた途端に死ぬ』 「な、なんだって!?」 『とりあえず毒も抜いてやるから、あとで当宮へ詣るように』 「あ、はい、わかりました。お賽銭はいかほど準備していけばよろしいでしょう?」 『ふむ、話の理解が早いやつだな。あとでこいつに聞いておけ。……二礼、水増し請求して自 分の懐に収めようなどとは考えないようにな』 「いやっすねえ、金銭にはがめつくないっすよ自分」 『うん? だれと一緒だと思ってもらっては困るだと?』 「なにもいってないっす、なにも考えてないっす」 にこやかに首を振る二礼の表情が、普段より硬いのは気のせいだろうか。 ――ようやく、なにか忘れていたことを一同が思い出したのは、消耗した四人への応急処置 を済ませた神さまが去り、再出発の準備ができてからだった。 「……あ、重換先輩どこ?」 綾乃がぽつりとつぶやく。 「そういえば」 「あのムカデももう一匹残ってるはずなんだよな……」 「む、いわれてみれば足りなくなっている」 四人が崖ぎわへ行って周囲を見まわしている間に、明日羽は本営へ問い合わせてみた。こち らかテレパスを発信する手段はないので、モバイルを使うことになる。 回答まで十数秒。緊張していた明日羽の表情が、安堵へと変わった。 「――大丈夫、無事らしい。魔甲蜈蚣の反応も消えていないようだが」 「よかった。迎えにいけそうっすか?」 二礼の質問に、明日羽は少し難しい顔になった。 「北へ900メートル、結構いっちゃってるな。それに、あれがもう一匹いるとなると――」 「一度、戻ったほうがよさげじゃないかと」 綾乃の提案は現実的なものだった。神さまも、もう戦うのは避けたほうがよいといっていた ほどだ。綾乃本人に加え、全力で発勁を打った敬、降神を行った二礼も、歩く体力はあるもの の魂源力は空っぽだ。まだ元気に戦えるのはクマ悟郎くらいだろう。 明日羽自身も、傷を治してはもらえたが本調子にはほど遠い。しかも、魔甲蜈蚣の分厚い外 殻に負けて、刀は刃こぼれしてしまっていた。 「そうだな。ほかにも戻っている分隊があるようだし、二階堂先輩にはそっちのチームの元気 な隊員と合流して再出撃してもらうか」 撤収申請は受理され、ラルヴァのいないルートを教えてもらって、第8分隊はベースキャン プへ帰還することになった。 ※ 14個の分隊と12名の遊撃担当、さらにバックアップの自衛隊と政府直属の特務部隊―― これらすべての連携を保持するために、司令部はフル回転していた。 弥乃里の「位相界の眼〈Ethereal Eye〉」は、決して怪物の存在を見落とさぬ、神眼に等し い能力ではあるが、 「実際にフタを開けてみるまでなにが出たのかわからない」 というこまった特性がある。いまのところ蟲型ラルヴァ以外は出現していないようだが、蟲 型といってもその強さはピンキリだ。大々蚊〈ガガガンボ〉のようなネタレベルの雑魚もいれ ば、魔甲蜈蚣〈ダイア・ピード〉のように並の異能者では太刀打ちできないほど強力なやつも いる。 作戦開始から2時間で、すでに、14分隊のうち3分隊が継戦能力を喪失していた。下級を 16体、中級を2体倒した第8分隊は及第点といえたが、第2分隊と第14分隊は最初の遭遇 戦でリソースの大半を使い切り、遊撃隊員に救出されていた。 「戦力は等分に割り振ったはずなのよねえ。それが下策というのはわかっているけど、組織戦 じゃないし……やりにくいわあ」 各分隊と遊撃手、バックアップチーム、そしてラルヴァ反応――それらが刻一刻と投影型デ ィスプレイ上で動くのを見ながら、都治倉生徒課長はため息をついた。 通常の組織戦編成であれば、アタッカーをまとめて打撃チームが編成される。それと複数の 援護チームをセットにし、斥候の得てきた情報を元に展開、攻撃を開始――もっとも、古びて 久しいこのやりかたは、今世紀に入ってからの対テロ戦争においてはまったく役に立たなくな っているが。 相手が知性を持たない蟲型ラルヴァとなれば、もはやその動きには秩序の欠片もない。 「せめて軍隊アリレベルでいいから動きに法則があれば、罠張ってさっさと片づくんだけど」 そういいながら、都治倉はディスプレイへ目をやった。「位相界の眼〈Ethereal Eye〉」が 捉えているラルヴァ反応は547体。2時間で150は減っているが、このペースだとあと7 時間以上かかってしまう。そんなに長く戦い続けられるほど体力のある者は、異能者といえど も多くない。 「一度昼くらいで切り上げて、シフト制にして3日くらいじっくりやろうかしらねえ……」 そう、大儀げにつぶやく都治倉のかたわらへ、学園生がひとりやってきた。 涼しげな声が響く。 「私を使ってはどうですか? 50くらいなら一時間で片づけてきますが」 「あなたの仕事は本営の防衛よ。戦力になる人は出払っているのだから、きちんとポジション を守ってちょうだい」 大仰な動作で肩をすくめてみせた学園生に対し、都治倉は少し表情を緩めた。 「フォクシィア、あなたに頼んで楽をしたいとは、私も内心では思っているのよ。だけど今日 は特異技研もきてるし、自衛隊も展開してる」 「ええ、承知してます。出し惜しみということでしょう。しかし、連中は見てるだけで本当に 役に立たない。軽火器で始末できるものくらい、事前に処分しておけばいいものを」 「私の顔を立ててくれているのよ。裏を返せば学園側の指揮能力の不足を印象づけようとして いる」 フォクシィアと呼ばれた少女の表情が変わった。 都治倉は、自嘲ぎみに笑い、話を継ぐ。 「あなたは本当にこんな話にばかり興味を持つのね。——普段の好成績は末端の異能者チーム の編成と連携の妙によるもので、個々は充分に優秀なはずの急造チームをまともに運用できな いというのなら、学園上層部は分不相応な戦力を抱えているということになる。動員された学 園生の指揮権をもぎ取るには、充分な大義名分になるわね」 「それがわかっていながら、なお私を使おうとしないのはなぜでしょうか?」 「あなたが〈ジョーカー〉だからよ。ここでも〈ジョーカー〉にすがるというなら、私が普段 の仕事で学園を統括できているのも〈ジョーカー〉に頼っているからにすぎない、という証明 になるってわけ」 フォクシィアの顔に理解の色が浮かんだが、続いた科白は皮肉げな口調だった。 「あなたの〈ジョーカー〉というのは、デリンジャー軍曹ですか。上官にはしたくないが部下 にはもっといらないタイプの人間ですね。学園での彼女の、スタンドアロンな立場は適正にあ っていると思っていましたが」 「あなたNATOではOF2でしょ。もしあの娘と同じ戦場に立つことがあったら、あなたが 上官よ」 「学園での私はしがない中等部生ですよ。風紀委員長どのに逆らうなど」 そういうフォクシィアだが、実際のところまったく中等部生には見えない。168センチの 長身で、白皙の大人びた美貌。教室にいるときも口ぶりはいまとまったく同じだ。カナダから の留学生だから同い歳の日本の子より年上に見える、といっても、ここまでくるとやや無理が ある。 とはいえ彼女は本当に生まれて14年しか経っていないのだが。 「そういえば、戦術プランナーがいませんね。演算系の異能者も全員出払っていたのですか?」 フォクシィアが話題を変えた。それでも、あくまで戦術的なことだ。 「将来有望な〈策士ークオレンティンー〉ならひとり心あたりがあったのだけどね。歳之瀬(と しのせ)先生に拒否権を発動されちゃって、連れてこられなかったわ」 「拒否権? 双葉学園では一般教諭にそんな越権を与えているのですか?」 「比喩よ、冗談。でも、強く反対されたのはたしかだけどね。『雑魚の掃討戦に〈ワンオフ〉 を呼び込むつもりか』だなんてすごまれちゃ、さすがに無理を押し切れないわ」 「演算系の異能者ひとりに〈ワンオフ〉が興味を持つ? その一般教諭、偏執狂かなにかでは ないのですか。精神鑑定はしてあるのでしょうね?」 フォクシィアは、胡散くさいというレベルを通り越して、攻撃的な口調になっていた。都治 倉は、意識して穏やかな声で応じる。 「歳之瀬先生は、目をかけていた教え子が怪物に再起不能な障害を負わされて以降、戦闘に長 けていない有望な異能者を外部の目にさらすことを極端に恐れるようになっているわ。気持は わかるけれどね」 「ここに詰めている非戦闘要員は有能でないとでも? 自分が目をかけていない学園生なら、 どうなってもいいというのですかその教諭は」 僭越な物いいに、都治倉はさすがに柳眉をつりあげた。 「口が過ぎるわよ。あなたは強いからそういうことがいえる」 「あなたこそ、我々の過去をわかっていていったでしょう?」 「なら、目をかけていた者を喪った悲しみ、目を配れなかったがゆえに守りきれなかった後悔 ——わかってもいいんじゃない?」 「……浅慮でした。慎みます」 一礼し、ひとつ息をついてからフォクシィアはきびすを返した。見事な超ロングストレート の銀髪がひるがえる。 「やっぱりまだまだ子供ね」 司令室から退出するフォクシィアの背中を見送って、都治倉は教育者としての、慈しみある 笑みを浮かべるのだった。 その一方、四方山智佳は視線誘導方式のポイントカーソルを動かして、フォクシィアの行く 先をマスキングしていた。 「あんま動かんでほしいなあ。みーの異能って問答無用なんだからさ。ディスプレイ上にいき なり怪物反応が出たら大混乱になるじゃないか」 もちろん口に出してはいない。フォクシィアの正体を知らされているのは、司令部の学園生 スタッフの中では弥乃里と智佳だけだった。彼女はかなり高位のデミヒューマンラルヴァの一 種なのだ。ランクでいえば中級S−1。決して無条件で友好的な種族ではない。もちろんそう いう意味では、となりの国の同じ人間と大した違いはないというものだが。 ——と。 [まこちはだいじょうぶなの?] モニタの一隅に、テキストボックスが現れた。弥乃里からのプライベートメッセージだ。異 能力「位相界の眼〈Ethereal Eye〉」を使用している最中の弥乃里は、極度の集中を必要とし、 外界を知覚することがほぼできなくなる。つまり完全に無防備な状態になるわけで、彼女が通 常の討伐ミッションには喚ばれない最大の要因がこれだった。 智佳は、弥乃里の捉えた怪物反応の情報をコンピュータへ伝える脳発火読み取り装置にひと つデコード回路を追加して、自分の端末へ簡単な文章を送信できるように細工していた。返信 のほうは、弥乃里が周辺情報の遮断のためにつけているイヤホンの、緊急事態通知用のスピー カを通じてテキストを読みあげられるようにしてある。 いまのところ注意されたことはない。割に堂々と改造を施したので、ちょっと調べればわか るはずだ。つまり黙認されているのだろう。 各分隊へ伝達するべき情報を手早く選別してテレパス班の端末へ、あるいは直接、各分隊長 の持つ端末へ送りながら、智佳は返信メッセージを入力した。 [無事だよ。久留間先輩が迎えにいったから、たぶん15分くらいで戻ってくる] [よかった〜] ほんの短いテキストだが、弥乃里がどれだけ安堵したのか、智佳には我がことのようにわか っていた。質の異能はあきらかに戦闘向けではない。いや、ほかの、しかるべき能力を持った 者と組めば、ひょっとすると戦略級のすさまじい威力を生み出すかもしれなかったが、いまの ところは、まだ実現性はなかった。智佳自ら「情報集約〈Intelligent Node〉」の異能で調べ たのだから間違いない。可能性の示唆がなされたにとどまっている。 はやく質が帰ってきますように。この先は喚び出されることがありませんように。 その願いと裏腹に、今後学園が自分たちの異能を手放すつもりはないだろうということには、 智佳も弥乃里も薄々勘づいていた。 前へ 次へ インターフェイスページへ トップに戻る
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爽やかな朝。 起き出した町のざわめきに、小鳥の可愛らしい声が混じる。 晴天の空から降り注ぐ陽光に朝露をきらめかせ、青葉を広げる庭の植木たち。 爽やかな朝。大事なことなので二度言いましたよ。 「……これが朝食かい?」 テーブルの上に並んだ豪華絢爛な料理を前にして、明日羽が呻く。 そこには麻婆豆腐やエビチリ、チンジャオロースといった日本人に愛されている中華料理が並んでいた。 マーボー豆腐はぷるんとした以下略。 わかりやすく言うとそれは昨晩の余り物だった。 油でテカるピーマン。胃袋を締め上げる山椒の匂い。べったりとチリソースが染みて膨れた海老。 夕飯として見れば豪華で美味しそうな料理の数々も、起き抜けではさすがに見るのも辛い。しかも、すでに昨日たっぷり味わった品々だ。 明日羽は、中国人が朝食にお粥を食べるのに、重大な理由があるような気がした。 「いやー、作りすぎちゃってさ。テヘ」 「テヘじゃないっての。なんで昨日食べた分と同じだけ出て来るんだよ」 「お昼にはお弁当に詰めて持っていくよ」 「まだあんのかよ……」 「おかわりもいいぞ!」 「……俺は大好物だからいいんだけどさ」 普通に食卓について食べ始める敏明を見て、何故か巡理は上機嫌で頷いて、彼と自分の分を皿に取り分ける。 うんざり顔の明日羽はお湯を沸かし、永谷園のお茶漬け(梅)を用意した。それにお新香だけで済ませるつもりだった。 「あれ、昨日と同じー? まあ美味しいからいっかー」 遅れてやってきた春亜は特に悩むことも無く敏明らと並んで食卓に着く。 明日羽は少女の身体をしばし眺め、たぶん油は全部偏った部分に付くのだろうと納得する。自分はきっとほとんど身につかないタイプだ。そういうことにしておこう。 昨晩とあまり変わらない食欲を見せる同居人たちに、明日羽は妙に疲れた声音で一言こぼす。 「……みんな若いな」 「センパイも一個しか違わないじゃないか」 明日羽は眉を下げた笑みで応え、一人さらさらとお茶漬けをかきこむのだった。 双葉邸の住人たちが揃った登校風景は、三度目にしてかなり賑やかなことになっていた。 敏明、巡理、明日羽、春亜に、偶然居合わせた敏明のクラスメートの大渡が加わって五人ものグループが出来ていた。 五人が古い警察ドラマよろしく横並びになっていると確実に道を塞いで迷惑なので、自然と二人と三人に別れて歩道を行く。 前を行く男二人の会話は部活動についてだ。 「今日から二週間の仮入部期間だってよ。毎日違うとこ覗けるんだと。俺はゲーム部以外はあんま興味ないけど」 「俺はどうするかな……そういえば、本田君は?」 敏明はふと思い立って訊ねてみる。 先日、生徒指導室に呼び出された本田君は指導教員の説教を遮り、いかにエロゲーが素晴らしいかということを一生懸命説いたという。 特に紅白の衣装に身を包んだ巫女を触手で快楽責めにして異形の子を産ませることの素晴らしさを声を大にして語った。なお、巨乳がモアベター。 彼の言葉にいたく感動した先生はその日ソフマップへ走ったらしい。 ちなみにその熱弁は指導室の外まで漏れ、たまたま通りがかった風紀委員見習いの耳に届いていた。本田君は懲罰台に送られ、良い笑顔で気絶していたとか。 そんな彼の前にはなぜか山盛りのチャーハンが供えられていたという。本田君が目が覚めてから食べてみたところ「冷めてたけど味はまあまあ」ということだった。 それはさておき、昨日の部活動紹介ではエロゲプレイング宣言する部は存在しなかった。当然だが。 「本田はパソコン系の全部回るとさ」 「やっぱりか」 それでエロゲ同志を探そうというのだろう。 「お前はどうするんだ? 俺と一緒にゲーム部行くか」 「まぁ……考えとく」 大渡や本田のように素直にオタ趣味の部活に入ってしまえばいい。 だが、後ろを歩く同居人たちの存在があるために、見栄を張りたいという思考が邪魔をするのだった。 それに……と、敏明は想像を巡らせる。 そういう類の部活の連中に同居人の存在がバレてしまえば、昨日の友は今日の敵となるだろう。 現に、にこやかに話しているように見える大渡も、チラチラと後ろを気にしては表情を固くしていた。センパイを見て別のとこ固くするなよ、と敏明は念じる。 そして、お定まり的に考えて、バレない保証などはこれっぽっちも無かった。 「死亡フラグを自分で追加するのは馬鹿馬鹿しいよな」 「あん? どうした?」 「いや、こっちの話。とりあえず、部活は仮入部期間に考えとく」 「そんなこと言ってると結局帰宅部になったり……ん?」 「どうした?」 「いや、あそこの曲がり角に……」 大渡が指差した十字路の右手から、何かが飛び出してきた。 「……犬?」 大きさはおよそ中型だろう、赤茶けた犬は妙に低い姿勢で荒い息を吐きながら、のそのそと十字路を歩き回っていた。 「野良犬? なんかちょっと動きが病気っぽいけど……」 「どうしたんだ、急に立ち止まって」 「あ、センパイ。ほら、あの野良犬が……」 そう答えつつ振り返った敏明は、明日羽が鋭い目付きでこちらを……その向こうの犬を睨んでいることに気付いた。 「あの……センパイ?」 「敏明クン、覚えておくといい。双葉区では野良猫が異様に多いせいか、野良犬は滅多に見かけないんだ」 「え、でも」 「あれは……」 言葉の途中で明日羽は肩に下げた布袋に手をかけ、一気に中の棒状の物体を引き出す。 「ラルヴァだ」 白刃が鞘走るのと、犬ラルヴァが駆け出すのはほぼ同時だった。 一直線にこちらへ、敏明たち目掛けて走ってくる犬ラルヴァに対して、迎え撃つ明日羽は上段から袈裟懸けに刀を振り下ろす。 敏明にはジャストミートに見えた。だが、刃は宙を裂いて抜け、犬ラルヴァは横の塀に飛び乗った。 明日羽の瞳は、その犬ラルヴァの挙動を見抜いていた。正確にはどのような行動を取るかはわからないが、脚部に増えた魂源力の光が、その動きの先読みを容易にする。 さらに、犬ラルヴァの全身に魂源力の流れが纏わり付いた。 「させるか!」 何かを仕掛ける前兆を読み取り、明日羽は一息に踏み込む。切っ先を犬の鼻面に向け鋭く突き出した。 悲鳴を上げ、塀から落ちた犬ラルヴァは、しかしすぐに立ち上がると明日羽を避けて敏明に向かって飛び掛っていった。 「俺かよ!」 ひらひらと舞う明日羽のスカートに気を取られていた敏明は、犬ラルヴァが眼前に迫ってもすぐには動けない。 「くっ……」 打開策があるとすれば、それは敏明自身の異能だ。 それがどんな効能を持つ物なのかは未だに教えられていないし、自分でもまったくわかっていない。 ただ、魂源力を纏った攻撃は通常の兵器よりもラルヴァに高い効果があるという話は聞いている。 「オアーッ!」 敏明は光る右の手を握り絞めると、謎の奇声を発しつつ、でたらめに突き出した。 大仰な身振りで遅い、無様な攻撃だ。空手なども習ったことがない上、殴り合いのケンカなどというものとも無縁だったのだから仕方がない。 しかし、刀傷を負っているためか、動きの鈍い犬ラルヴァに当てることは出来た。 自身の突っ込んでいく勢いでカウンターとなり、魂源力が満ちた拳の直撃を受けた犬ラルヴァは断末魔を上げて倒れた。 その身体は燃え尽きた灰のように崩れ落ち、風に溶けて消えていく。 ラルヴァを倒した。その感触が右手にはっきりと残っていることに、敏明はよくわからない動悸を感じた。今更ながらに汗が吹き出てくる。 「すげえな、双葉!」 言葉の出てこない敏明の代わりに、歓声を上げたのは大渡だった。 「お前の異能ってそのパンチだったのか! そんだけ威力があればあんな犬っころの一匹や二匹楽勝だな!」 安く請合う大渡の言葉に、敏明もまんざらでもない様子で笑い返す。 しかし、刀を鞘に収めた明日羽は、二人の後ろで険しい表情を浮かべていた。 (敏明クンの異能は、直接攻撃ではない、か) 消費する魂源力の量とそれによる攻撃の威力はまったく釣り合っていなかった。実戦中の異能を見慣れている明日羽は、そう結論づける。 あれだけの魂源力が攻撃的な異能に費やされれば、当たった瞬間にラルヴァが粉微塵になったとしてもおかしくはない。 「……」 とはいえ、明日羽はその場では何も言わない。実際に敏明の異能が何かまでわかったわけでもないのだ。 それよりも、明日羽には気になるものが見えていた。 周囲に拡散した魂源力の流れが異様に多い。 その原因は、すぐに知れた。 「まだいたか」 先程、犬ラルヴァが飛び出してきた十字路から、別の一匹が現れたのだ。 「……む?」 それだけではなかった。 さらに、背後の別の路地からも、また離れた道端からも、ぞろぞろと何頭も出てくる。 匂いに釣られて集まってくるように、そこかしこから湧き出るように、似たような形の犬のラルヴァばかりが増えていく。 「なん……だと……?」 犬ラルヴァが瞬く間に十数頭も、その場に集まっていた。 「くっ……多すぎる」 再び刃を抜き放ち、敏明と大渡の前に立ちはだかるように構える。 「学園に連絡を」 「は、はい」 指示に慌てて学生証の通信機能を立ち上げる敏明は、しかしその指の動きを止めてしまった。 「あ、あれ?」 敏明の手が、未だに光を放っているのだ。 異能の制御はまだ不完全とはいえ、ある程度身に付けたはずだった。光を放つほどの魂源力の消耗は、意識さえすれば抑えられるはずだ。 しかし、力を使っているという感覚の無いまま手の光は明滅する。強くなり、弱くなり、切れかけの電球のような不安定な光を放ち続けていた。 「なんで……」 「敏明クン、落ち着いて。ちゃんと制御できるはずだ」 「センパイ……で、でも」 「いいから、深呼吸をして。緊張して制御が甘くなっているんだ。大丈夫、私たちが君を守る」 明日羽は巡理と春亜を横目で眺め、頷く。 この場には戦闘に参加できる異能者が三人もいる。数が多いとはいえ、下級のラルヴァが相手なら、救援が来るまでの時間を稼ぐくらい出来るはずだ。 「大渡、といったか? 連絡は君がしてくれ。そしたら、なるべくここから動かないように」 「ハ、ハイ」 話しているうちにも、ラルヴァたちはジリジリと彼らに近付いてくる。すでに道は前後とも大量の犬ラルヴァによって塞き止められていた。 目の届く範囲には、他の歩行者が見当たらないのは幸か不幸か。他の異能生徒がいれば助け合うことも出来たかもしれないが、他の一般人がいなくて良かったとも言える。 「アタシの出番かな」 軽い口調で、しかし声音には緊張を滲ませて春亜が呟く。 明日羽はそれなりの実戦経験を積んでいるが、一人で道の前後からの襲撃を捌ききれるような異能は持ち合わせていない。誰かが後ろを守らなければいけなかった。 春亜はポケットから伸びるイヤホンを両の耳に付けると、腰を落として身構えた。ただ、それは格闘技的な構えではない。脱力するように肩や腰をゆらゆらと揺らし、ゆっくりと左右へのステップを始める。 ダンス。それは異能を用いるための、儀礼的な舞だった。 彼女の体が、うっすらと光を纏う。 明日羽でなくても見て取れるそれは、魂源力を帯びて反応する儀礼装飾――魔法系異能者が時折用いる、自身の肉体への儀式付与だ。 幾何学模様をその身に浮かび上がらせた春亜は、手振りも加えてさらに大きく舞い踊る。 手を振り上げ、腰を廻し、足踏みは加速……官能的に、情熱的に、ダンスは盛り上がっていく。ついでに敏明と大渡の視線は彼女の揺れるスカートに釘付けだ。 明日羽の目には、周囲に散った魂源力が春亜の踊りに導かれて美しい流れを形作るのが見えた。 そして、魂源力の流れの中に、別種の光が生まれる。 ぱしり、と空気が爆ぜ、次の瞬間には空間を割り裂いて稲光が走った。 その場の人間の鼓膜が震えるより早く、犬ラルヴァは吹き飛ばされ、宙に居る間に身体を失って消え果てた。 「アタシのダンス、シビれるでしょ?」 踊りながらニコリと微笑んで見せる春亜の後ろで、親指立てて同じくスマイルの男二人。 『グゥゥルルルゥル』 犬ラルヴァたちは、仲間を一匹吹き飛ばされて激昂したのか、凶暴な唸り声を上げ始めた。 低い合唱を浴び、明日羽と春亜は表情を引き締める。 ほんの数秒の睨み合いの後、ラルヴァが一斉に駆け出した。 春亜は動きを止めることなく踊り続け、むしろそのスピードを加速させていく。青白い雷光が何発も路上に放たれた。 降り注ぐ電撃の槍は突っ込んでくる犬ラルヴァにあやまたず突き刺さり、次々に屠っていく。 だが、敵の数に対して、連射速度は若干遅い。少しずつ彼らとの距離が詰められていく。 春亜の魔法は踊るという行動が条件になっているため、どうしても発動に時間がかかるのだ。肉薄され、踊ることを妨害されてしまえば、もはや迎え撃つ術すら失う。 すべての犬ラルヴァを倒すのが先か、それともその前に接触を許してしまうのか。微妙な距離と数だった。 逆を守る明日羽は、眼前に飛び掛ってきた犬ラルヴァを斬り払った。苛烈な打ち込みに胴を半ば以上も薙ぎ斬られ、犬ラルヴァは一撃で倒れる。 彼女には遠距離攻撃の手段が無い。下手に敏明たちから離れることもできず、目前での一撃必殺に集中するしかなかった。 この犬は死ねば完全に消滅するタイプのラルヴァだった。刀にはラルヴァの血糊が残ることは無いので、そのために刃が鈍るということはない。 だが、斬る時にはラルヴァも骨はあり、それを断ち切る威力の斬撃でなければ必殺たりえない。そして、固い骨を斬り付け続けて、刃がまったく欠けずに済む保証は無い。 また、明日羽は超人系異能者ではあったが、その異能の特殊性のためか、自身の肉体の強化はほとんど出来ない。魂源力の浸透した肉体は、少し常人の平均値より運動能力が高いという程度だ。真面目に鍛えたアスリートには劣る。 もちろん、持久力もほぼ人並みでしかない。 「シィッ」 鋭い呼気と共に振り抜いた切っ先で、真横を通り過ぎようとした犬の首を斬り落とす。勢い殺さず振り上げ、袈裟懸けに落として次のラルヴァへ。 斬撃の連続は舞踊にも似た滑らかな動きへと繋がっていく。 二人の異能者による苛烈なダンスを見ながら、敏明たちは縮こまっているしかない。 敏明の手の攻撃はラルヴァにある程度効果があるかもしれないが、犬ラルヴァたちの素早い動きにはとても追いつけないため、手出しすることも出来ない。。 不意に二匹の犬ラルヴァが道の左右に分かれて、明日羽へと迫った。どちらも明日羽の横を抜けていく動き――刃が同時には届かない間合い。 連携などという意識は犬ラルヴァには無い。ただ偶然そうなっただけだが、あっさりと明日羽は弱点を突かれてしまった。 上手く対処できないものか、その思考で明日羽の手も一瞬、鈍る。 春亜は自分のほうの対処だけで手一杯だ。 突破される。そう思った瞬間、 「右へ!」 鋭い声と共に、乾いた炸裂音が響き渡った。殴りつけられたように動きを止める左側の犬ラルヴァ。 明日羽は慌てて右側のラルヴァの足を斬りおとし、倒れたところで首筋を割く。 振り返ると、それまで敏明や大渡と共に見ていただけの巡理が拳銃を構えていた。 「メグ……なん、で?」 敏明は疑問の声を上げる。 彼は巡理が自分の護衛者であるということを聞かされていない。だから、彼女が護身用の武器を持っているということすら知らなかった。 「トッシー……後で、説明するよ」 小さく呟いた巡理は倒れた犬ラルヴァに銃口を向け、立て続けに銃弾を放ってトドメを刺す。 明日羽は巡理に何かを言おうとして、しかしすぐに向き直った。犬ラルヴァはまだ残っている。 巡理は明日羽と春亜の両方を援護し始めた。どちらかが隙を突かれそうになるたび、的確に迎撃していく。 四匹目を撃ち倒したところで、遊底がバックしたまま止まった。 ロックを外してスナップで弾倉を振り落としながら、ポシェットから換えを取り出して装着、再びスライドするまでに数秒。それは実銃を扱う訓練を受けた者の動きだ。 「これなら、応援が来る前に片付きそうじゃないか?」 学園への連絡を終えた大渡は三人の女子の戦いぶりに素直に感心していた。だが、敏明は巡理の慣れた手つきを見ながら、眉を寄せて複雑な表情を浮かべる。 ずっと一緒に過ごしてきたはずの幼馴染の、隠された一面を垣間見てしまい、驚きが隠せないようだった。 迎撃の合間に巡理が敏明の顔を伺うが、目が合うとすぐに逸らしたてしまった。 学園から応援がやってきたのは、すぐ五分後のことだった。 路地の向こうから五人の少年少女たちが駆けて来たかと思うと、瞬く間に犬ラルヴァたちを殲滅してしまった。 それから遅れてやってきたマイクロバスで、敏明たちは学園へと送られることになった。 「あのラルヴァがこんなにたくさん群れているところは初めて見ました」 リーダーらしい少女は、あの人にも伝えておこうかしら、などと呟く。 学園に着くとそれぞれの教室ではなく、まずは全員が異能研究棟に連れられていくことになった。 犬ラルヴァが大量に現れ、しかもその標的にされたのだ。ただごとではないと判断され、聴取を受けることになるのも当然だった。 会議室のような部屋に通され、しばらく待っているように言われる。 「……は、ぁ」 椅子に座ると同時、明日羽が長く細い溜息を吐き出すのを敏明が聞きつける。 「センパイ、大丈夫?」 「ん? すまない、少し疲れただけだ。ケガなどはしていないよ」 汗と疲労の浮かんだ弱い笑みに、敏明は眉尻を下げる。 「俺、何も出来なくて……」 「仕方ないさ。敏明くんの異能はまだなにが出来るのかもわからないし、制御も覚えたてだ。学園での戦闘訓練もまだ始まっていないのだろう?」 言いつつハンカチで汗を拭うと、もう明日羽はいつものようなさっぱりした表情に戻っていた。 「とにかく全員無事でよかった。山崎も実戦経験は無いと言っていたが、冷静に戦えていたな」 「……そう、だね」 「どうしたんだい?」 「いや、メグがあんなふうに戦えるなんて、知らなかったから」 そう言って巡理のほうを見やると、彼女は気まずそうに俯いてしまう。 「そうか、聞いていなかったのか……いや、黙っていたというべきか」 「えっと、それって……」 敏明の疑問と巡理の沈黙。その二つを推し量って、明日羽はふむと吐息するように頷いた。 「……私の口からそれを言うのは、良くなさそうだな」 ドアがノックされ、スーツをつけた男が一人やってきた。無表情に部屋に居る面々を見回す。 男の纏う雰囲気は、学園に属する教職員とはどこか異なるもののように見える。 「河越明日羽。君からだ」 「ここで話すのではないのか? ……それに、一人ずつ?」 「いいから来なさい」 有無を言わさぬ口調に、明日羽は釈然としないながらも立ち上がる。 不安そうに見送る敏明に、また後でと声をかけ、男の後について部屋を出た。 廊下をいくらか行くと、男は別の部屋のドアを開けて入っていった。そこで事情を説明させられるらしい。 (といっても、私たちにも事情はさっぱりわからないんだが) わけもわからずとにかく剣を振るっていただけの明日羽からしてみれば、説明できることなど限られている。 その部屋は小さく、テーブルが一つと向かい合わせの椅子があるだけだった。刑事ドラマでよく見る取調室に似ているようだった。 案内の男とは別に、すでにそのテーブルには一人の男がついていた。 白髪交じりの髪をオールバックにした痩せぎすの壮年男性。 「河越明日羽」 男が、低く柔らかい声で彼女の名を呼ぶ。その響きに、明日羽は何故か鳥肌が立つのを感じた。 明日羽に椅子を勧めるでもなく、男はささやくように優しく話しかける。 「今、君が請け負っている任務の三倍の報奨を出すと言ったら、我々の実験に協力してくれるかな?」 「……は?」 先ほどの戦闘の話をさせられるのだとばかり思っていた明日羽には、男の言葉がまったく理解できなかった。 思わず聞き返しながら、警戒を強める。 「……何の話だ?」 「双葉管理の孫を護衛する任務。そちらを止めて我々に協力するなら、三倍の金を出すと言っているんだよ」 協力、実験、その言葉の意味はわからない。 だが、 (三倍の報奨金……) その額に、少なからず明日羽の心が揺らいだ。 明日羽は別に金儲けの好きな類の人間ではない。だが、彼女には金の必要な理由がある。 「君は奨学制度の充実したこの学園に来て、しかも結構なラルヴァを退治して報奨金を稼いでいるね。しかし、ほとんど実家に仕送りしているそうじゃないか」 「どうして……」 そのことを知っているのか。 ことさら秘密にする話ではないが、初めて会った男の口から聞かされるには不愉快な話だ。 次の一言で、不信感は一気に膨れ上がる。 「君の家の道場、門下生が減っているらしいじゃないか。経営は、当然苦しいのだろう?」 明日羽は奥歯を噛み締め、反発的に怒鳴り返すのを辛うじて堪えた。 「先ほどの戦闘と関係の無い話なら、帰らせていただきます」 無理やりの敬語で断ると、さっさと回れ右をする。 制止の声は掛からなかった。男はただ妙に落ち着いた笑みで見送る。 体当たりする勢いでドアを開けて廊下に飛び出すと、 「きゃっ」 「わあ!」 ちょうど歩いていた白衣の女性とぶつかってしまい、バランスを崩した。 明日羽はなんとか踏みとどまったが、女性は手に持っていた書類を投げ出してしまう。 バサバサと乱雑に舞った紙束に、女性は慌てて手を伸ばす。 「す、すいません」 「あ! ダメです!」 明日羽が拾おうとすると、妙に強い声に遮られた。 「あ、あの……この書類は生徒さんには見せられないものなので」 女性は言い訳するようにそう呟くと、一人で書類をかき集め、そそくさと立ち去ってしまう。 女性を見送った明日羽は、ひらりと一枚の紙が落ちたのに気付いた。廊下の先を見やると、女性の姿は既になくなっていた。 どうしたものかと思いつつ、一応拾い上げる。 生徒には見せられないと言っていたので目を逸らそうとするのだが……好奇心には勝てず、つい手元に視線を落とす。 そこに書かれていたのは、人名の並んだ表だった。 名前の横に書かれているのは異能の名前だ。その人物が持っているものだろう。 表には優先順位という項目があり、他にも数字などが書かれていた。 「これは……」 並んだ名前の中に、見知ったものがいくつかあることに気付いた。 数日前から対ラルヴァ戦闘で怪我をして、入院しているというクラスメート。 そして、そこから少し離れた欄には『高田春亜』の表記。 「……なにが、どうなっているんだ?」 正体の掴めない不安が、明日羽の胸にこみ上げてくる。 この表も、先ほどの男の話の意図も、よくわからない。 廊下の向こうから敏明たちが首を捻りながらやってくるまで、明日羽はそのまま立ち尽くしていた。 to be continued... ラブ……コメ……? 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装飾 素材 装飾 名称 素材1 素材2 素材3 素材4 素材5 炎の腕輪 炎の指輪*1 壊れた腕輪*1 火の欠片*1 氷の腕輪 氷の指輪*1 壊れた腕輪*1 水の欠片*1 大地の腕輪 大地の指輪*1 壊れた腕輪*1 地の欠片*1 雷の腕輪 雷の指輪*1 壊れた腕輪*1 雷の欠片*1 光の腕輪 光の指輪*1 壊れた腕輪*1 光の欠片*1 闇の腕輪 闇の指輪*1 壊れた腕輪*1 闇の欠片*1 魔の腕輪 魔の指輪*1 壊れた腕輪*1 魔の欠片*1 業火の腕輪 業火の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 火の欠片*1 凍土の腕輪 凍土の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 水の欠片*1 地殻の腕輪 地殻の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 地の欠片*1 雷嵐の腕輪 雷嵐の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 雷の欠片*1 神聖の腕輪 神聖の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 光の欠片*1 暗黒の腕輪 暗黒の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 闇の欠片*1 星界の腕輪 星界の指輪*1 壊れかけの腕輪*1 魔の欠片*1 灼熱の腕輪 灼熱の指輪*1 綺麗な腕輪*1 火の結晶*1 永久氷壁の腕輪 永久氷壁の指輪*1 綺麗な腕輪*1 水の結晶*1 地球の腕輪 地球の指輪*1 綺麗な腕輪*1 地の結晶*1 轟雷の腕輪 轟雷の指輪*1 綺麗な腕輪*1 雷の結晶*1 天使の腕輪 天使の指輪*1 綺麗な腕輪*1 光の結晶*1 魔神の腕輪 魔神の指輪*1 綺麗な腕輪*1 闇の結晶*1 大魔界の腕輪 大魔界の指輪*1 綺麗な腕輪*1 魔の結晶*1 火龍のアミュレット・改 火龍のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 火の欠片*2 瑞雲のアミュレット・改 瑞雲のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 水の欠片*2 天山のアミュレット・改 天山のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 地の欠片*2 雷電のアミュレット・改 雷電のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 雷の欠片*2 極光のアミュレット・改 極光のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 光の欠片*2 銀河のアミュレット・改 銀河のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 闇の欠片*2 流星のアミュレット・改 流星のアミュレット*1 神々の遺産*1 古の祓物*1 魔の欠片*2 アグニのアミュレット・改 アグニのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 火の結晶*1 ボレアスのアミュレット・改 ボレアスのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 水の結晶*1 イナンナのアミュレット・改 イナンナのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 地の結晶*1 ソールのアミュレット・改 ソールのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 雷の結晶*1 ヤハウェのアミュレット・改 ヤハウェのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 光の結晶*1 サタンのアミュレット・改 サタンのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 闇の結晶*1 メフィストのアミュレット・改 メフィストのアミュレット*1 魔界磁鉄鉱*1 大祓の祭具*1 魔の結晶*1 剛力のネックレス・改 剛力のネックレス*1 銀鉱石*1 保護のアンクレット・改 保護のアンクレット*1 銀鉱石*1 起動のゴーグル・改 起動のゴーグル*1 銀鉱石*1 疾風のブーツ・改 疾風のブーツ*1 銀鉱石*1 敬遠のマフラー・改 敬遠のマフラー*1 銀鉱石*1 鋭敏のペンダント・改 鋭敏のペンダント*1 銀鉱石*1 結界のイヤリング・改 結界のイヤリング*1 銀鉱石*1 堅忍のロザリオ・改 堅忍のロザリオ*1 銀鉱石*1 マッスルベルト・改 マッスルベルト*1 銀鉱石*1 マジックピアス・改 マジックピアス*1 銀鉱石*1 剛力のネックレスⅡ改 剛力のネックレスⅡ*1 プラチナ鉱石*1 保護のアンクレットⅡ改 保護のアンクレットⅡ*1 プラチナ鉱石*1 起動のゴーグルⅡ改 起動のゴーグルⅡ*1 プラチナ鉱石*1 疾風のブーツⅡ改 疾風のブーツⅡ*1 プラチナ鉱石*1 敬遠のマフラーⅡ改 敬遠のマフラーⅡ*1 プラチナ鉱石*1 鋭敏のペンダントⅡ改 鋭敏のペンダントⅡ*1 プラチナ鉱石*1 結界のイヤリングⅡ改 結界のイヤリングⅡ*1 プラチナ鉱石*1 堅忍のロザリオⅡ改 堅忍のロザリオⅡ*1 プラチナ鉱石*1 マッスルベルトⅡ改 マッスルベルトⅡ*1 プラチナ鉱石*1 マジックピアスⅡ改 マジックピアスⅡ*1 プラチナ鉱石*1 剛力のネックレスⅢ改 剛力のネックレスⅢ*1 金塊*1 保護のアンクレットⅢ改 保護のアンクレットⅢ*1 金塊*1 起動のゴーグルⅢ改 起動のゴーグルⅢ*1 金塊*1 疾風のブーツⅢ改 疾風のブーツⅢ*1 金塊*1 敬遠のマフラーⅢ改 敬遠のマフラーⅢ*1 金塊*1 鋭敏のペンダントⅢ改 鋭敏のペンダントⅢ*1 金塊*1 結界のイヤリングⅢ改 結界のイヤリングⅢ*1 金塊*1 堅忍のロザリオⅢ改 堅忍のロザリオⅢ*1 金塊*1 マッスルベルトⅢ改 マッスルベルトⅢ*1 金塊*1 マジックピアスⅢ改 マジックピアスⅢ*1 金塊*1 眠れる子羊Ⅱ 眠れる子羊*1 水銀のしずく*1 痺れ対策の減給Ⅱ 痺れ対策の減給*1 水銀のしずく*1 石の護身像Ⅱ 石の護身像*1 水銀のしずく*1 盲知らずのサングラスⅡ 盲知らずのサングラス*1 水銀のしずく*1 黙れない喉Ⅱ 黙れない喉*1 水銀のしずく*1 狂気の護符Ⅱ 狂気の護符*1 水銀のしずく*1 魅惑の写真集Ⅱ 魅惑の写真集*1 水銀のしずく*1 統べる勲章Ⅱ 統べる勲章*1 水銀のしずく*1 呪われた藁人形Ⅱ 呪われた藁人形*1 水銀のしずく*1 毒の瓶詰めⅡ 毒の瓶詰め*1 水銀のしずく*1 死の宝石Ⅱ 死の宝石*1 水銀のしずく*1 スタンガードⅡ スタンガード*1 水銀のしずく*1 超セクシーな下着 セクシーな下着*1 妖怪の思い出*1 高級毛皮*1 コカトリスの王冠 コカトリスの鶏冠*1 ヴィガネッラの鏡*1 バジリスクの眼球 バジリスクの瞳*1 魔の結晶*1 竜鱗 金塊*1 竜骨*1 最大最強のZUN帽 最強のZUN帽*1 神霊石*1 レッドベレー グリーンベレー*1 鳥人の宝玉*1 幻魔石*1 グレンデルの篭手 巨人の篭手*1 要石*1 忍者の篭手 盗賊の篭手*1 ゴム*1 究極陰陽玉*1 殺人蟷螂の篭手 蟷螂の篭手*1 鋭利な刃物*1 フェアリーランジェリー フェアリーブルマー*1 高級毛皮*1 精霊石*1 妖精の忘れ物*1 プラチナガントレット ガントレット*1 プラチナ鉱石*1 隕石の欠片*1 博麗のリボン ハイリボン*1 トラペゾヘドロン*1 金塊*1 究極陰陽玉*1 オストラコン*1 八咫鏡 オリハルコン*2 八坂瓊勾玉 アダマンタイト*2 復元の腕輪 再生の指輪*1 幻魔石*1 金塊*1 恍惚の腕輪 瞑想の指輪*1 幻魔石*1 金塊*1 進化の腕輪 修練の指輪*1 幻魔石*1 金塊*1 スーパーマナストーン マナストーン*1 トラペゾヘドロン*1 金塊*1 スーパースキルストーン スキルストーン*1 トラペゾヘドロン*1 金塊*1 大魔道士の髪飾り 魔道士の髪飾り*1 オストラコン*1 賢者の欠片*1 巨匠の鞘 達人の鞘*1 オストラコン*1 賢者の欠片*1 オーバーソウルリング クリスタルリング*1 夜のヴェール*1 水晶の髑髏*1 デスビホルダーアイ ビホルダーアイ*1 ソロモンの鍵*1 ダークブルーリボン ブルーリボン*1 水晶の髑髏*1 シャングリラクラウン エルドラドクラウン*1 神秘的な枝*1 ヴァンパイアロードリング ヴァンパイアリング*1 ソロモンの鍵*1 十二翼の熾天使の翼 天使の翼*1 魔王の彫像*1 オリハルコン*1 光の結晶*3 テレスコープ*1 魔公爵閣下の心臓 魔神の心臓*1 魔王の彫像*1 アダマンタイト*1 闇の結晶*3 勲章*1 レアプラチナジュエル プラチナジュエル*1 オリハルコン*1 アダマンタイト*1 パラケルススの大肩章 パラケルススの肩章*1 水晶の髑髏*1 魔の結晶*1 ムサシの大肩章 ムサシの肩章*1 水晶の髑髏*1 鉄塊*2 マタベエの大肩章 マタベエの肩章*1 水晶の髑髏*1 神秘の竹*2 ドワーフの大肩章 ドワーフの肩章*1 水晶の髑髏*1 要石*2 カグツチの大肩章 カグツチの肩章*1 水晶の髑髏*1 火の結晶*1 ヴァルナの大肩章 ヴァルナの肩章*1 水晶の髑髏*1 水の結晶*1 アトラスの大肩章 アトラスの肩章*1 水晶の髑髏*1 地の結晶*1 インドラの大肩章 インドラの肩章*1 水晶の髑髏*1 雷の結晶*1 イルダーナの大肩章 イルダーナの肩章*1 水晶の髑髏*1 光の結晶*1 バロールの大肩章 バロールの肩章*1 水晶の髑髏*1 闇の結晶*1 剛力のネックレスⅣ改 剛力のネックレスⅣ*1 エメラルド*1 保護のアンクレットⅣ改 保護のアンクレットⅣ*1 エメラルド*1 起動のゴーグルⅣ改 起動のゴーグルⅣ*1 エメラルド*1 疾風のブーツⅣ改 疾風のブーツⅣ*1 エメラルド*1 敬遠のマフラーⅣ改 敬遠のマフラーⅣ*1 エメラルド*1 鋭敏のペンダントⅣ改 鋭敏のペンダントⅣ*1 エメラルド*1 結界のイヤリングⅣ改 結界のイヤリングⅣ*1 エメラルド*1 堅忍のロザリオⅣ改 堅忍のロザリオⅣ*1 エメラルド*1 マッスルベルトⅣ改 マッスルベルトⅣ*1 エメラルド*1 マジックピアスⅣ改 マジックピアスⅣ*1 エメラルド*1 龍鱗 竜の生き血*1 火の結晶*1 水の結晶*1 地の結晶*1 雷の結晶*1 真・八咫鏡 八咫鏡*1 竜の生き血*1 黒曜石*1 ヒヒイロカネ*1 真・八坂瓊勾玉 八坂瓊勾玉*1 竜の生き血*1 黒曜石*1 ヒヒイロカネ*1 神社の護符 大社の護符*1 竜の生き血*1 全滅と生還の境界 上昇と下降の境界*1 竜の生き血*1 時を止める時計 ストップウォッチ*1 竜の生き血*1 無限再生の腕輪 瞬間再生の指輪*1 魔光石*1 ウロボロスの尾*1 無我瞑想の腕輪 忘我瞑想の指輪*1 魔光石*1 ウロボロスの尾*1 究極進化の腕輪 試行錯誤の指輪*1 魔光石*1 ウロボロスの尾*1 剛力のネックレスⅤ 剛力のネックレスⅣ改*1 ダイヤモンド*1 保護のアンクレットⅤ 保護のアンクレットⅣ改*1 ダイヤモンド*1 起動のゴーグルⅤ 起動のゴーグルⅣ改*1 ダイヤモンド*1 疾風のブーツⅤ 疾風のブーツⅣ改*1 ダイヤモンド*1 敬遠のマフラーⅤ 敬遠のマフラーⅣ改*1 ダイヤモンド*1 鋭敏のペンダントⅤ 鋭敏のペンダントⅣ改*1 ダイヤモンド*1 結界のイヤリングⅤ 結界のイヤリングⅣ改*1 ダイヤモンド*1 堅忍のロザリオⅤ 堅忍のロザリオⅣ改*1 ダイヤモンド*1 マッスルベルトⅤ マッスルベルトⅣ改*1 ダイヤモンド*1 マジックピアスⅤ マジックピアスⅣ改*1 ダイヤモンド*1 ソリデオ レガリア*1 スーパーエイジャ*9 魔王の彫像*9 ゆっくりの称号 ゆっくりの王冠*1 ヒヒイロカネ*1 素材 名称 素材1 素材2 素材3 素材4 素材5 星屑の欠片 鉄鉱石*1 竹竿*1 つけもの石*1 精霊石 光の欠片*1 闇の欠片*1 魔の欠片*1 銀鉱石 鉄鉱石*1 鋼鉄*1 妖怪の思い出 星屑の欠片*1 壊れた財宝*3 ゴム 壊れた財宝*15 隕石の欠片 鉄鉱石*1 竹竿*1 つけもの石*1 綺麗な鏡*1 鋼鉄*1 幻魔石 魔源石*1 精霊石*1 人の智慧 隕石の欠片*1 壊れた財宝*3 高級毛皮 星屑の欠片*1 隕石の欠片*1 神々の遺産*1 大祓の祭具 古の祓物*1 魔源石*1 水銀のしずく 星屑の欠片*1 精霊石*1 壊れかけの腕輪 壊れた腕輪*3 神々の遺産 鉄鉱石*1 竹竿*1 つけもの石*1 妖精の忘れ物 神々の遺産*1 壊れた財宝*2 古の祓物 魔源石*1 壊れた財宝*2 魔源石 火の欠片*1 水の欠片*1 地の欠片*1 雷の欠片*1 素早い木材 綺麗な鏡*1 鋼鉄*1 壊れた腕輪 壊れた財宝*4 火の欠片 水の欠片*1 地の欠片*1 水の欠片 火の欠片*1 雷の欠片*1 地の欠片 雷の欠片*1 水の欠片*1 雷の欠片 地の欠片*1 火の欠片*1 光の欠片 闇の欠片*1 魔の欠片*1 闇の欠片 光の欠片*1 魔の欠片*1 魔の欠片 光の欠片*1 闇の欠片*1 鉄鉱石 竹竿*1 つけもの石*1 竹竿 鉄鉱石*1 つけもの石*1 つけもの石 鉄鉱石*1 竹竿*1 綺麗な鏡 鋼鉄*1 壊れた財宝*2 鋼鉄 綺麗な鏡*1 壊れた財宝*2 オリハルコン オリハルコンの欠片*4 アダマンタイト アダマンタイトの欠片*4 火の結晶 火の欠片*4 水の結晶 水の欠片*4 地の結晶 地の欠片*4 雷の結晶 雷の欠片*4 光の結晶 光の欠片*4 闇の結晶 闇の欠片*4 魔の結晶 魔の欠片*4 鉄塊 鉄鉱石*4 神秘の竹 竹竿*4 要石 つけもの石*4 大きな鏡 綺麗な鏡*4 ダマスカス鋼 鋼鉄*4 魔界磁鉄鉱 鉄鉱石*2 竹竿*2 つけもの石*2 綺麗な鏡*2 鋼鉄*2 神霊石 隕石の欠片*1 幻魔石*1 鳥人の宝玉 素早い木材*1 水銀のしずく*1 壊れた財宝*5 神秘的な枝 壊れた財宝*20 プラチナ鉱石 銀鉱石*1 隕石の欠片*1 魔源石*1 金塊 鉄塊*1 神秘の竹*1 要石*1 大きな鏡*1 ダマスカス鋼*1 綺麗な腕輪 壊れかけの腕輪*3 ヴィガネッラの鏡 壊れた財宝*40 鋭利な刃物 壊れた財宝*30 竜骨 ヴィガネッラの鏡*4 究極陰陽玉 竜骨*1 オリハルコンの欠片*1 アダマンタイトの欠片*1 幻魔石*2 トラペゾヘドロン エメラルド*1 ダイヤモンド*1 精霊石*2 オストラコン 竜骨*1 魔光石*2 オリハルコンの欠片 竜の生き血*1 アダマンタイトの欠片 黒曜石*1 古代の円盤 鉄塊*1 神秘の竹*1 要石*1 夜のヴェール 大きな鏡*1 ダマスカス鋼*1 魔光石 火の結晶*1 水の結晶*1 地の結晶*1 雷の結晶*1 水晶の髑髏 魔界磁鉄鉱*1 鳥人の宝玉*1 神秘的な枝*1 エメラルド 光の結晶*2 闇の結晶*2 ダイヤモンド エメラルド*1 魔の結晶*1 水晶の髑髏*1 賢者の欠片 オリハルコンの欠片*2 アダマンタイトの欠片*2 隕石の欠片*1 スーパーエイジャ エメラルド*1 ダイヤモンド*1 オリハルコン*1 アダマンタイト*1 魔王の彫像 魔王の欠片*4 ソロモンの鍵 ヒヒイロカネ*2 金塊*1 アースの怒り ソロモンの鍵*2 精霊石*1 勲章 アースの怒り*2 幻魔石*1 テレスコープ 勲章*2 魔光石*1 ウロボロスの尾 テレスコープ*2 エメラルド*1 ヒヒイロカネ ウロボロスの尾*2 ダイヤモンド*1 竜の生き血 スーパーエイジャ*1 ヒヒイロカネ*1 ウロボロスの尾*1 黒曜石 スーパーエイジャ*1 ソロモンの鍵*1 アースの怒り*1 勲章*1 テレスコープ*1 素材セットA 壊れた財宝*10 素材セットB 壊れた財宝*10 素材セットC 壊れた財宝*10 素材セットD 賢者の欠片*1 水銀のしずく*1 素材セットE 賢者の欠片*1 プラチナ鉱石*1 壊れた財宝の山A 火の結晶*1 壊れた財宝の山B 水の結晶*1 壊れた財宝の山C 地の結晶*1 壊れた財宝の山D 雷の結晶*1 壊れた財宝の山E 光の結晶*1 壊れた財宝の山F 闇の結晶*1 壊れた財宝の山G 魔の結晶*1 壊れた財宝の山H 鉄塊*1 壊れた財宝の山I 神秘の竹*1 壊れた財宝の山J 要石*1 壊れた財宝の山K 大きな鏡*1 壊れた財宝の山L ダマスカス鋼*1 素材セット物の内容 素材セットA:鉄鉱石・竹竿・つけもの石・綺麗な鏡・鋼鉄 素材セットB:火・水・地・雷の欠片 素材セットC:光・闇・魔の欠片 素材セットD:火・水・地・雷の結晶 素材セットE:光・闇・魔の結晶 壊れた財宝の山A~L:壊れた財宝*3 名前 コメント
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【ある中華料理店店員の選択】 その3 7.最高の再会、最悪の再会 一瞬の圧迫感、そして続く浮遊感。 「うおっ」 背中から何か柔らかいものの上に拍手は落下した。 体の何処にも被害は無い。 床が薄く輝き、その光に照らされて周りを見ることが出来た。 周囲は一面黒い壁。 凡そ3m四方だろうか、上はもっと余裕がありそうだが夕焼け空は見えずに薄ぼんやり天井のような所が見える。 ここが、あの壁の中だった。 体が妙に重く感じられるのは。 「そうだ、あいつは?」 手元の鈴を見ると輝きは強くなり、振動でスズムシのように鳴いていた。 しかし周囲を見渡しても誰も見えない。 「何処にいるんだ!?」 体を起こして四つんばいになる。 床もあの柔らかなゴムっぽい感触なのか少し不安定な感じがした。 「遅かった……のか?」 がくりと肩を落し、うな垂れ床を見る。 「……」 「……」 目が合った。 光る床に長く黒い髪が広がり、所々汚れた制服、口元にはマフラー、腕には腕章、そして寝ていても自己主張を忘れないおっぱい。 約15時間ぶりの再会だった。 今までからすると短い時間での再会、しかし拍手の顔が笑うような、泣きそうな、くしゃくしゃの顔に変わっていく。 それを呆気に取られたような顔で見上げる黒い瞳。 「よ」 「の」 二人の声が重なる。 「良かったぶ」 「のかんか痴れ者がっ!」 四つんばいで覆いかぶさるようにしていた拍手の股間に下から掬い上げるような膝が入った。 「ふ」 口から僅かな空気を漏らすと、拍手はゆっくりと横向きに倒れていく。 余りの激痛に指一本動かすことすら出来ず、口の端からは泡が漏れていた。 「いきなり押し潰されたと思えば圧し掛かってきおるとは、恥を知れ!」 拍手はそれに応えない、いや応えられない。 余りにも綺麗に入りすぎたのか、白目を剥いていたからだ。 時折思い返したかのように拍手の体がビクンビクンと痙攣する。 それをまったく気にすることも無く胡坐をかいた少女がひたすら罵り続けるという全く持って、奇妙な空間が広がっていた。 「えらい目にあった……えーっと神様?」 「うむ、この身は神楽二礼《かぐらにれい》のものではあるがな」 発光する床に胡坐を掻いている少女が応えた。 それにまだ鈍痛が残る部位に負担を掛けぬためか、それとも敬を表するためか正座で向き合う拍手。 二人が座る光る床は神楽二礼の能力である神下ろしの舞台、ある程度の治癒効果が泡吹いて白目で痙攣していた拍手を10分ほどで動けるまでに回復させていた。 「何でまた神様が中に入ってるんだ? あいつは?」 「眠っておる、この空間を維持するのに随分と無茶をしおったからな」 3m四方の場を見回す神様。 「二礼だけでは場を維持できん、かと言って下りているのも燃費が悪い」 「はぁ」 「本来神下ろしとは巫女の身を寄り代にして行われるもの、これが一番良い選択だ」 しかし、と区切り。 「何しにここへ来た」 「知り合いが行方不明にあったら探すのが普通だろ?」 「格好着けたつもりか、たわけが」 サムズアップをまでして見せた拍手に三白眼になった神様が返す。 「いや、その、そんなにばっさり切り捨てられるとかなりキツイんですが……」 「本心からじゃ、余計なことをしおって。あれを見ろ」 神様が壁の方を指差した。 大人しく従う拍手だったが、特に何も見当たる物は無い。 だと言うのに何処と無く違和感を感じた。 先ほどまでと何かが違う? 「壁が少し近くなったような気がする?」 「うむ、場が狭まっておる」 「やっぱりか……あと、ここってやっぱりアレの中になるんだよなぁ」 さっき背中から取り込まれた時のことを思い出した。 その前に見て、触れた感触、そして今も場の向こう側で囲い込むようにある黒い壁。 「『転がり目玉』か、こいつ」 夏にこの場所で神下ろしを手伝いボロボロになって倒した下級ラルヴァ。 自らの形を変え、その身を石に変化する黒い目玉。 変化した時はラルヴァの反応を出さないという性質がせんせーさんの索敵能力から逃れていたのだろう。 しかしそれでも疑問がいくつか残る。 「夏のときにいたのは残さずに倒しきったんじゃなかったっけ、まだいたのか?」 「何を言っておる、こやつはあの時の畜生じゃ」 「へ?」 「貴様が倒し損ねておったんじゃろ、役立たずめが」 「いや、いやいや、それは無い」 あの時に放った渾身の発勁は間違いなく手ごたえがあった。 鉄鍋越しの一撃だったとはいえ、下級ラルヴァが耐えられるような威力では無いはずだ。 「とどめを貴様に託したのが最大の失策じゃ。こやつは何故にその身を変貌させた?」 「何故って、確かあの時は俺の血を吸って口付きになったんだったか」 止血の為に巻いたバンダナから俺の血を啜り、ただの目玉から進化した。 「まさか、俺の勁が無効化されていた……?」 あれは自分の出来る技のうちでも最大最高のはず、仕留めたと思っていたのは勘違いだったというのだろうか。 拍手が両の手のひらを見つめた。 あの時に空いた空洞は今は跡形も無く塞がっている。 「無効化などされておらん、仕留めきったと思っておったが……触媒となったのが貴様の血だったのが原因かのぅ」 「俺の血が?」 「うむ、血とは生命の源、貴様らのいう魂源力も溶け込んでおる。それを吸って変化しおったのだ、貴様の一撃も同じ力である以上その威力を軽減させたのであろうよ」 「なるほど、でも仕留めそこなったのはそれで納得いってもでかさがおかしい。あいつは50cm程のサイズしかなかった筈だ」 周りの壁、そして外にいたときに叩いた感触は分厚いコンクリートそのもの。 どう考えてもサイズが夏の時の比では無い。 「食ったんであろうよ」 対する神様の応えはシンプルなものだった。 「食った?」 「でかくなるには食うのが一番早い。仕留めそこなったとはいえその身は僅かであった筈、始めは己が身よりも小さき蟲どもを。次いで畜生どもを片端から」 食らい、肉とし、増える。 夏のあの日より5ヶ月と少し。 以前の轍を踏まぬよう、その身が獲物を取り込む罠と成り得るほどに周到に。 そういえば復讐心というか敵意を持った相手にはとことんまで抗うような性格のラルヴァだったな、と拍手は思い出した。 「そうか、文化祭の時からこっち風紀委員が総出で猫の失踪を探ってたな。その犯人はこいつか」 「童であろうと人一人消えれば騒ぎになるが、畜生が消えてもさほどのものではない。これほどの体躯になるまで幾つの魂を食ろうたのじゃろうな」 「そうして虎視眈々と機会を窺って、昨日ついに行動に打って出たってことか……」 昨夜、神楽が訪ねて来る寸前、裏口から妙な音が聞こえた。 あの時は直後に表の扉が開いたので引き返したが、あのまま裏路地に出ていればと思うと拍手の背に冷たい汗が流れる。 「しかしあの時、よくぞ儀を行っていたものよな」 「うん?」 「ちゃはんとかいう炒り米の奉納を受ける為に呼びだしに応じたが、あれが無ければ危うかった。場から出たとはいえすぐに戻るわけでは無い、貴様が持っている鈴の片割れの中でまだ居残っていたのよ」 そして、店を出た直後に路地裏の方へ進み、暗がりを覗き込んだ際に飲み込まれたということらしい。 「そうそう、これを返しておくぞ。実に良いものであった」 神様が胸元に手を突っ込み赤い何かを取り出し拍手に放る。 片手でそれをキャッチした拍手の手の中にあったのは、 「これ、俺が渡したお守り? 元から大分ボロだったけど酷くなってないか?」 昨夜に神楽と神具の鈴と交換した『安産祈願』のお守り。 拍手の言うとおり、端のほうが僅かに焦げたようになり、他の部分も糸がほつれて見るも無残になってしまっていた。 「それを作ったものは持ち主のことを相当気に掛けていたのだろう、下手な護符など及びにつかぬほど強き力が篭められておった」 「そっか……」 幼少の頃から病気がちで体を鍛えに鍛えても未だに人並みの力しか持たない身だが、致命的な怪我や病を持ったことは無かった。 聞けば難産で下手をすれば死産の可能性まであったと聞く。 それらの厄災を跳ね除け、ここまで身を守ってくれていたお守り。 「それが無ければこの場を作ることも出来ずに今頃は囲う壁の一部であっただろうよ」 最後に一仕事、己が使命を全うしてくれたのだ。 拍手はそっと胸ポケットにそれを仕舞い込んだ。 「さて、改めて問うが何をしにきた?」 そんな拍手に神様が問う。 「あいつは今寝てるんだよな」 「二礼のことか、うむ。一つの身に二つの心は持てんからな、この身に入っている間は無理やりに眠らせておる」 それを確認すると拍手は頷き、 「助けに来た」 本心を言う。 普段であれば隠すべき相手に聞こえぬ今は、聞こえぬからこそその目を見つめ返すことが出来た。 「ふむ、それは良いがどうするつもりだ?」 神様が続ける。 「体躯もそうだが生命力もこの間の比ではない、あの時ですら貴様の一撃では止めには至っておらん。今の貴様に何か術《すべ》はあるのか、よもや何も考えておらんとは言うまいな」 もっともな言い分だった。 今の状態は完全に籠の中の鳥、逃げ出すには籠を破壊するか入り口を開けるかしないといけない。 それに応えるかのようにゆっくりと正座の拍手は前に倒れていき、 「……ごめんなさい」 「貴様は本当に何も考えぬ馬鹿だな」 見事な土下座だった。 それからしばらく何も出来ず、無言の時間が流れた。 神楽の中に入っている神様は場の中央に胡坐を掻いて座り込み瞑想を、拍手は壁を観察して回っていた。 「何か無いか、突破口になりそうなものは……」 体の形を変え、石にもできる不思議生物とはいえラルヴァという生き物である以上何かあるはず、口元に手を当てあれこれと考えながら拍手は歩く。 こんな時、仲間たちならどうしていただろうか。 冬季休校に入る前まではほとんど毎日顔を合わせていた級友達を思い出す。 「ま、少なくとも諦めるって選択肢だけは絶対に持ってないわな」 それだけは間違いない。 変態揃いと悪名高い2-Cではあったが、あの連中の心が折れるのだけは想像がつかなかった。 簡単に折れた自分とはわけが違う、そして自分ももう心が折れはしない。 拍手が制服の上から自分の胸に手を当てた。 「しかし、それとこれとは話が違うわけでマジで何か方法無いもんか」 口調だけはおちゃらけているが、拍手の内心はかなり焦っていた。 気付かぬほどにゆっくりとではあるが、確実に場が狭くなってきている。 神様が瞑想してそれに抗っているのか今は侵食が止まっているようだが、そう長くは持たないだろう。 目を瞑るその額にうっすらと汗が滲んでいるのが見えた。 「俺に力さえあればなぁ」 拳を握り、魂源力を奮い立たせようとするが上手くいかない。 精神統一して時間を掛けて汲み上げるならともかく、拍手には咄嗟に魂源力を使うことはできない。 足りない分は気で補うが、それでも一般人よりも少しは強い程度。 手首には風紀委員の班長に掴まれた時の感触がまだある。 今こそいちかばちかで発勁を打ち込むかべきだろうか? 力を篭められた手がギリ、と音を立てた。 「力か、貴様は魂源力とやらが足らんのか?」 「神様は応えづらいことを聞くなぁ」 瞑想の体勢を崩さずに問うてくる神様に拍手が苦笑いを返す。 「魂源力が生まれつきもってはいるけどほとんど無いんだよ。無さ過ぎてちゃんとした異能力にすらならない」 友人にどうしたら仕えるのかコツを聞いたこともある。 帰ってきたのは「勘」や「慣れ」、「考えるな感じろ」という答え。 「無さ過ぎて使えないのなら、足せばよかろうに」 「足せばって……無理だ。超科学でも魂源力の供給する機械なんて聞いたことも無い」 魂源力と名はついて、計ることは出来てもその実態はあまり解明されていないのだ。 分かっていることは異能力を使うためのエネルギーで、ラルヴァに対する人類の切り札ということくらいだろう。 「ふむ、近《ちこ》うよれ」 「ん?」 「近《ちこ》うよれと言っている」 「はぁ」 拍手が言われるままに場の中央へと歩み寄る。 間近に立ったのを確認すると神様も瞑想を止めて立ち上がると、それにつられて床に撒かれた髪が僅かに上質な絹の擦れあうような音を立てて纏まっていく。 よく見ると服は汚れているが、髪や体には埃一つついていなかった。 「神様が入ってる効果か?」 思わず拍手の口から疑問がこぼれるが、 「何を馬鹿なことを言っとる、ほれ背中向けんか」 「何だよ神様?」 「つべこべ言わずにさっさとせい」 訝しがる拍手の腕を掴んで無理やり背中を向かせる。 当然拍手には神様の姿が見えなくなり、薄明るい床と真っ黒の壁しか見えなくなった。 微妙に不安を感じ始めた拍手をよそに、背後ではごそごそと神様が背中を撫で回しはじめた。 「ちょ、神様くすぐったいって」 「多少痛いかもしれんが、堪えろ」 「へ?」 言われて直後、拍手の背中に当てられた神様の手がほんの一瞬だけ眩く光った。 「ぐ、あ……」 拍手が膝をつき、両腕で自分を抱きしめたまま頭を床に擦り付ける。 意識の奥、普段魂源力を取り出す際にイメージする井戸が輝いていた。 普段は真っ暗な中にぽつんと浮かぶ井戸の奥から桶一杯分の魂源力しか取り出すイメージしかできないというのに。 今は井戸どころかそれ以外の部分も白く塗りつぶされていく。 「あ、あががが」 魂源力と気を混ぜた時とは比べ物にならないほどの衝撃が襲う。 内側から膨れ上がる何かに体が破裂しそうな気さえ拍手には感じられた。 「しまった、そういう力もあったか」 神様が呟く声も痛みで聞き取ることなど出来ない。 「――ッ!?」 声さえあげることなく拍手は一分程のあいだ、床をのた打ち回った。 本人の体感時間はおそらく一分ではなくもっととてつもなく長い時間であっただろう。 やがて暴れる動きが緩慢になり、ようやく荒い息共に拍手は動きを止めた。 「なんだ……神様何したんだ?」 ゴロリと仰向けに寝転がり息も絶え絶えに黒い天井を見上げる拍手。 「うむ、貴様の発勁とやらを真似てみた」 「ダメー! 人にそんな危ない事しちゃダメー!」 「やかましい。送り込み破壊するのではなく、密度を上げて純粋に送り込むだけだったのだが」 神様が寝転んだままの拍手の下半身を見やる。 「……ふむ、存外上手くいったな」 「え?」 つられて拍手も自分の足を見た。 制服のズボン越しに自分の足が輝きを放っているのが見える。 「何だコリャ」 対極図を捩った様な幾何学模様の光が足を取り巻き床にも模様が繋がったまま、まるで根を張ったかのように広がっていた。 「上手くはいったが非常に不味い、おい貴様」 「え、これ俺の能力? ひゃっほーい! これで俺も能力者だぁーッ!」 「黙れ馬鹿め」 嬉しそうに自分の足をペタペタと撫で回す拍手の頭に神様のおみ足が華麗な軌道を描いて直撃する。 「お、おおおおおおお」 学園御用達のローファーキック、硬い素材が側頭部にぶちあたりでかいタンコブになっていた。 今度は足ではなく自分の頭を撫で回す拍手。 しばらく掛かるかと思われたが、すぐにタンコブは小さくなりうっすら血がにじんでいた部分も傷跡すら無くなる。 「おお、凄いぞ俺ってあいたぁっ!」 「凄くなどあるものか、良く聞け」 今度は勢い良く頭を平手で叩いた神様が拍手に言う。 「貴様の能力はおそらく地より力を吸い上げる類のものだ。普段は呼び水になるべき力が溜まる前に使われていたのだろう、まぁそんなことはどうでも良い。 問題は、だ」 床に広がっている文様を指差し、 「今ここにおいては場の力を吸い上げておる、見よ」 次に壁の方を指差した。 言われるままにそちらを見れば先ほどよりも若干速い速度で場が縮み、壁が迫ってきている。 場の広さは2,5m四方にまで狭まっていた。 「状況は最悪じゃ。貴様が決めろ」 「決めろって何を……?」 うむ、とかなり神妙な顔をした神様が頷く。 「神楽二礼の力は場を作り我の寝床とを繋ぐ道を作るもの。我が帰るのと同時に無理矢理この身をあちらに引きずり込めなくも無い」 「何だそれ、ようするに神様とこいつは逃げれたのかよ?」 「だが、人をあそこに運び入れたことなど無い。どんな変化をもたらすか分からん」 「変化って……死ぬとかか? 逃げ込んで死ぬなんて本末転倒じゃねぇか」 拍手が叫んだ。 「死ぬかも知れんし死なぬかも知れん。だが、何より寝たままの二礼の魂がどうなるのかが分からん。だからこそこの場に留まっておったのじゃ」 神様の、神楽二礼の顔が歪む。 「本当に最悪の場合はその手を使うつもりであったが、まだ手段はある。貴様のせいで猶予がもう無いがな」 「手段? どんな手段だ?」 問う拍手。 「今のまま壁に穴を開けて抜ける自信はあるか?」 そう返されて拍手が手を握り、開く。 正直なところ良く分からない。 今までとは段違いに体の中に力はある。 あるが、既に厚みは1mを越えているであろう黒い壁を貫けるのだろうか。 しかもただ貫けば良いと言うわけではない。 人が通れるほどの広さを空けたところで、その上で進化した『転がり目玉』からは追撃の危険性もある。 いや、そもそも始めての力を制御できるかどうかもあやしい。 一撃で『転がり目玉』を倒し脱出するというのがベストだが、そう上手くはいかないだろう。 「わかんねぇ」 それが拍手の正直な感想だった。 いけるかもしれないが、いけないかもしれない。 最悪の場合、ほとんど効かずに無駄に場を狭めて壁に飲み込まれるという可能性もある。 何せ敵は拍手の血で進化したのだから。 それに、今日は入島ゲートを越えてから星崎と蛇蝎さんに会った。 あの二人が何かしらの行動を起こしてくれている可能性だって有る。まぁ、これは希望にすぎないが。 「でも、とりあえず試してみる価値はある!」 やらずに死ぬよりやって死ねだ。 行き当たりばったりその場のノリで、それでこそ拍手敬。 後先考えずに行動したせいでクラスメートの星崎真琴、六谷彩子《ろくたにあやこ》から何度飛ばされ殴られたことか。 今回は命が掛かっている分慎重になるべきなのだろう。 しかし縮こまっていてもしょうがない。 「よーっし、いっちょやってみっか」 壁の手前へと移動する。 手のひらを見ながら握り、開いた。 「うん」 力の通りは悪くない。 意識するだけで手のひらに力が集まるのが分かった。 これが考えずに感じるということだったのか、拍手は納得した。 結局のところ持たねば分からぬ類のものだったのだ。 うじうじと悩んでいてもしょうがなかった。 もう体の底から汲み上げるイメージはいらない。 呼吸を落ち着かせ、全身の力を左手の手のひらに集まるように。 「ぬおっ」 ズッと壁が近寄った。 力を集めたのに合わせて減った分を足に展開されている紋様が場から吸い上げたせいだ。 発動するには力を他人からもらわないとダメ、発動したら勝手に動く。 「厄介な能力にあたったなぁ」 ただ、この力を集める能力というのは拍手にとっては好都合だ。 己の持つ唯一の武器が非常に使いやすくなる。 力が集まったせいで輝きを増している左手に、もう一度全身から力が集まるようにして。 「いくぞ!」 さらに吸い上げたことで近寄る壁にカウンターを合わせるようにして渾身の勁を合わせた。 白く発光したエネルギー波のようなものが手のひらから膨れ上がり、黒い壁を抉り取っていく。 抉られた表面が波打ち、千切れ飛んだ黒い肉片が他の壁に触れては沈み込み溶けこんで吸収されていく。 放たれた光は一気に進み、分厚い壁の向こう、コンクリートに変化させている表面に達するとそこにヒビをいれ、 「くそっ、無理か……!」 そこで止まった。 掲げられた左手を中心として円錐のように抉り取った穴は周囲から水と肉が膨れ上がる醜悪な音を立てて盛り上がり元に戻る。 その部分の修復に力が向いたのか、狭まった場も元と同じように広がった。 「ぬお」 突如として体に圧し掛かってくる疲労感に立っていられることも出来ず尻餅をついた。 発勁を打った後に何時も襲い掛かってくるものだ。 能力で魂源力を増やすことは出来ても、それを操りきる為の体力が拍手には無い。 ふひー、と口の端から吐息を漏らして肩を落とした。 「何を勝手に馬鹿なことをしとる! この馬鹿が! 畜生脳が!!」 「あいだぁっ!?」 盛大に頭を張られて拍手が叫び声を上げる。 「見たか、勝手なことしおって場が減っただろうに!」 「えー、でも戻ったから問題無い問題ない」 「あるわ! 馬鹿が!」 もう一度頭に平手打ちをお見舞いしようとするが、拍手は頭を動かして避けて見せた。 「この阿呆ぅが……まぁいい。それで、さっきので何か思いつくことでもあったのか?」 避けられた手をプラプラ振りながら神様が問う。 「いや、全然。疲れただけだわ」 あっさりと無意味だったことを認める拍手にげんなりとした目を向ける神様だったが、急に真剣な顔になった。 「これで打つ手は無しか?」 「ああ、今ので無理ならもうどうしようもないな」 間違いなく現時点で最大の一撃だった。 連発をしようにも前にしか打てない上に一撃あてたら次の一撃を当てに前に進まねばならない。 そんなことしている間に間違いなく上下左右から壁に押しつぶされる。 ここで完全に拍手には打つ手が無くなった。 いよいよもっては愚作ではあるがその手段を取らねばならないだろう。 「ふむ、ではそこで手段だ。良く聞け拍手敬」 初めて神様が拍手を名前で呼んだ。 能面のように表情を消し、言う。 「貴様の命を捧げろ、それで間違いなく二礼は救えるだろう」 「俺を食うのか?」 拍手が動揺も無しに応えた。 古来より神は人身御供を贄として奇跡を起こす。 ある種予想出来なくも無い提案だった。 「誰が貴様など食うか、貴様を食うぐらいならちゃあはんとやらを食う方が良い」 「じゃ、何で命を」 「我が、貴様に下りる」 右手の人差し指が、拍手の胸元に突きつけられた。 まるで心臓を越えて拍手の魂を指差すかのように。 「……何だって?」 「神の力を貸してやろうというのだ。代償は間違いなく命になるだろうがな」 さぁ、と一つ置き、 「選べ、拍手敬よ。 人の子よ。 思い人の為に命を捧げる覚悟はあるか?」 歌うように、神楽二礼の顔で神様が笑う。 これが、ただの中華料理店店員だった拍手敬の人生最大の選択となる。 「俺は……」 『神様力を貸してくれ』 『きっと壁の向こうで仲間がいてくれる』 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む その日の放課後、ソラはヒナと一緒に下校している途中に呼び出された。 「危ないことしないでね」 「大丈夫。俺、結構強いんだぜ」 そんな何気ない会話しかすることが出来なかった。 だがそれも仕方の無い話だ。水際警備隊の仕事は、常に危険と隣り合わせで極秘扱いの物なのだから。 ヒナに話が聞こえないような位置に移動して、端末に応答する。 「遅くなってすみません」 「うむ、それはいい。空から百を超える魂源力《アツィルト》の接近を観測した」 用件はいつもの事といえば、それまでの内容だ。 「わかりましたけど、空軍や他の航空戦力は何やってるんですか?」 「別件で大量発生した鳥型ラルヴァの討伐に出動している。君の任務は、このタイミングの良すぎる襲撃に人間が関わっていればその撃退、ただのラルヴァの大量発生ならばその殲滅だ」 また、バックアップ無しの空中戦か。いつもの事と言ってしまえばそれまでだが、今回は気合の入り方が違った。 「良いもんだな、声をかけてもらえるのって」 「ん、何か言ったか?」 「いえ、何でも」 聞かれなくて良かったと思いながら、ソラはゆっくりと上昇していった。 * そんなソラを、ファインダーに収めていた人物がいた。 太陽の光を背に真っ直ぐに空へと上っていく人影、わざとハレーションを残し、丁度光で顔が隠れるようにしてシャッターを切る。 宗教画に描かれた天使のような一枚となった。 「……外には出せないな」 ボソっとつぶやいてカメラを構えていた男、二階堂侍郎はカメラをしまい、バイクに跨った。 (今日は空がキナ臭い) アクセルを絞り、自宅であるマンションへ急ぐ。 侍郎は武道に明け暮れる他の兄弟たちと違い、天才高校生カメラマンとしてその名を馳せていた。 高台にある高層マンションの最上階、カメラマンとしての収入があっても少し苦しいところだが、侍郎は多少の無理をしてでもここに住んでいた。 「シュン」 ベランダに出て腕を差し出すと、一羽の隼《ハヤブサ》がそこにとまった。 侍郎が唯一心を許せる友と認める隼《ハヤブサ》のシュンである。急降下で獲物を仕留める隼《ハヤブサ》は、生息にある程度の高さが必要なのだ。 「いくぞ」 侍郎の声に答えるように、シュンが泣き声を上げる。鷹狩りに利用される猛禽類だけあって、隼《ハヤブサ》も頭が良かった。 「合体変身!」 掛け声と共に侍郎は光に包まれる。それが晴れるとバイザーに鳥の翼の意匠をあしらった白い全身スーツの男が現れる。 「……空は俺が守る」 そう言って侍郎は、着ている服を脱ぎだした。 翼の力を使って飛ぶためらしく、侍郎は変身したら全ての服を脱がないとその力を一〇〇パーセント活かせないのだ。 上着をたたみ、パンツと靴下は洗濯機に放り込んで、侍郎は空へと飛び出していった。 * 「蜂? 凄いデカイ蜂だ」 学園の上空に現れた多数の魂源力《アツィルト》反応の元は、どうやらこの蜂の大群だったらしい。 「アイスさん、どうやらただのラルヴァの大量発生みたいです。これより殲滅に移ります」 ソラは『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』を展開させる。 「いや、待て! もっと上に一つだけ動きが違う反応がある、その正体を探ってくれ」 「でも……」 まだかなりの上空にいるとはいえ、ラルヴァは結構な数だ。学園に降りていったらちゃんと対応できるのだろうか。そもそも自分をすんなり通してくれる保障も無い。 「心配無い。どうやら物好きな空の守護者がやって来たようだ」 「空の守護者?」 ソラが周囲を見回すと、ブンと空気を切り裂くような音がして、蜂のラルヴァの一匹が消える。 代わりに現れたのは、白い特撮ヒーローのような格好をした人影だった。 「あなたは?」 「……空は俺が守る!」 ソラの問いかけと微妙に、ずれた答えを返す白い人影。 「放っておけ、そこはソイツに任せておけば大丈夫だ」 「わかりました。ここは頼みます」 アイスの指示に従いまた上昇を始めながら、ソラは白い人影に声をかけた。 答えの代わりに人影は、また一匹のラルヴァを切り裂く。 確かにこの強さなら、心配は要らなさそうだ。 * 侍郎は次々と蜂のラルヴァを墜としていった。 空を飛ぶ生き物の中で、隼《ハヤブサ》を超えるスピードを出す者はいない。 合体変身した侍郎も変わらずにその能力を持っていた。 上昇と降下を繰り返し、目にも止まらぬ速さで蜂の群れを鋭い爪で切り裂いていく。 (……数が多い) 合体した生物の能力を再現するには、魂源力《アツイルト》を消費するため、侍郎も長時間の飛行には耐えられない。 今の時点で倒したのはおよそ半分といったところである。 (早く片付けなければ) しかし、蜂型ラルヴァも全くの低能という訳ではないようで、徐々に群れとしての統率を取り戻し、侍郎のスピードに対応してきた。 上昇と降下の僅かな隙間を狙って、数匹の蜂が侍郎を囲む。 「くぅ」 侍郎はそれを足場に拳を放つが、一撃必殺の威力は無い。 四方から巨大蜂のグロテスクな顎が、迫ってくる。 「フェザーエッジ!」 侍郎の身体から、鳥の羽の形をした魂源力《アツィルト》の刃が放たれる。 侍郎を囲んでいた、蜂の群れがそれによって切り裂かれていく。 今のでかなりの力を使ってしまい、残りの魂源力《アツイルト》はもう心許無い。 巨大蜂はかなり減らしたが、それでもまだ半分ほど残っている。 (最後まで持つのか?) いや、弱気になる訳にはいかない。自分が守らなければ、誰が空を守るというのか? 気持ちを奮い立たせ、また構え直す。一撃必殺の切り裂き攻撃はもう使えないが、だからといって引く訳には行かない。 「うぉぉ!」 無口な侍郎にしては珍しく、雄たけびを上げてまだ五十を超える蜂の群れへと向かっていった。 * 侍郎が戦い続けるその上空でソラは、この騒動の原因らしい存在と対峙していた。 「女王蜂って訳か……しかし、それは何だ」 蜂をそのまま巨大化させた下のラルヴァと違い、蜂の怪人といった感じのラルヴァが愛おしそうな様子で、男を抱えて飛んでいる。 男はずっと笛に口をつけているが、音は聞こえてこない。 「アイスさん、蜂のラルヴァを操っていると思わしき存在を捕捉しました」 「どんな様子だ?」 アイスの問いに思わずソラは口ごもった。 なんて説明すればいいんだ、これ。 「ええと……、二人、いや一人と一匹です」 見たままを正確に言うなら恐らくこうだと思う。 「こちらでは魂源力《アツイルト》の反応は一つしか捕捉できていない。状況は正確に報告したまへ」 「は、はい。笛を吹いた男が、女王蜂らしきものに抱えてられて飛んでます」 「ラルヴァが人間に命令されて人を襲っているのか!?」 通信の向こうで、アイスが息を飲む。 「『別に珍しいこっちゃねえだろ?』」 女王蜂が、言葉を発した。 「『オレはハーメルン、このは孔雀蜂共の裏ボスってヤツだ』」 どうやら、この笛の男が能力によって女王蜂のラルヴァをひては、蜂のラルヴァ全体を操っているのだろう。 だったらやるべきことは一つだ。 「うりゃあ!」 ソラはハーメルンと名乗った男をめがけ蹴りを放つ。この際とにかくこの蜂の怪人は無視だ。 「『バカか? 初めから狙ってくる事がわかれば、コイツなら簡単に防げるんだよ』」 ハーメルンと名乗った男は、中肢に抱えられたまま勝ち誇るように宣言する。 「それはどうかな?」 ソラは指の微かな動きで狙いを定め、透明な脚で辺りを薙ぎ払う。 とっさの事に女王蜂は上脚を使ってガードする。 そしてその一瞬の隙をソラは見逃さない。 「ただの超能力による右ストレート!!《ファントム・ギャラクティカ》」 意識が他に移った刹那、ハーメルンの笛に拳を叩き込む。 バラバラに砕けた笛がソラに吸い込まれていった。 「な……」 初めて、ハーメルンという男が自分の声を発した。 「ぎゃぁぁああああああ!」 そしてそれはすぐ、断末魔の悲鳴に変わった。 * ソラ達の戦いを遠くの空から二人の人影が、観察していた。 以前学園に姿を現した直進する刺繍糸のスティッチ《ストレイト・ステイツチ》という小太りの男と、原点《ウルケル》を名乗る無精髭の男だ。 「これは、俺の任務のハズだろう」 スティッチが不機嫌そうな様子で、ウルケルに声をかける。彼の任務は、ソラなど水際警備隊にプレッシャーを与え、双葉学園に不和と違和を蓄積することである。 「良いじゃないか、利用できる物は何でも利用すれば、はグリムリアの連中も、自分の手柄だと思っているだろう」 ウルケルは、ニヤリと含みのある笑いを漏らす。 グリムリアとは、ラルヴァと共闘するゲリラ朽ち逝く灰姫《トウルーエンド・グリムリア》の事である。 ウルケルは事前にこの計画を察知し、裏から有形無形のサポートをしていたのだった。 * あれから更に六割近く減らしたところで、流石に厳しくなってきていた。 「……ハァハァハァハァ」 魂源力《アツイルト》を上手くやりくりしなければならず、全てを一撃必殺という訳にもいかない。 「どうした? もうギブアップか、侍郎兄さん? これだからもやしだって言うんだ」 突如現れた黒い影が蜂の一匹を打ち墜とした。 「悟郎!」 現れたのは五つ子である二階堂兄弟の五男、哺乳類との合体変身の能力を持つ二階堂悟郎である。 「蝙蝠《コウモリ》を捕まえるのに苦労してな」 その漆黒の姿は蝙蝠《コウモリ》と合体したものであるらしい。やはり飛ぶのに邪魔になるのか、普段は変身しても着ている胴着を脱いでいた。 「余計なお世話だ」 振り絞った魂源力《アツイルト》を拳に乗せ、近くの蜂に叩き込む。 バツンという音を立てバラバラになった蜂が落ちていく。 「空を守るのは俺だ」 「へ、それだけ言えれば問題ないな。真空・竜巻通し!」 悟郎の背中からマントのような物が現れ、回転する悟郎に巻き取られるうちに先端が鋭い砲弾のようになる。それが蜂の群れに飛び込み、一瞬のうちに数十匹の蜂を撃墜していく。 弟にばかりイイ格好させるものかと、侍郎もまた群れに飛び込んでいく。 (足りない力は闘志で補えば良い! 俺は、俺達は二階堂兄弟だ!!) 普段無口なためなかなか分からないが、侍郎はかなり熱い心を持った男であった。 * 女王蜂に首筋を噛み付かれたハーメルンは、一瞬のうちに干からび、灰になった。 「よくぞあの男から解放してくたな。礼を言うぞ少年」 身体に付いた灰を払い、女王蜂が口を開いた。 その威圧感は、ハーメルンに操られている時の比ではない。 「しかし、せっかくの我が子らがどうやら全滅させられてしまったようだ。たらふく食べてまた生まねばならんな」 「行かせるか!」 ソラは女王蜂に飛び掛っていった。同時に後ろから見えない刃で切りつける。 しかし女王は前股と中股を上手く使って両方を受け止める。 「また奇襲か芸の無い。お前のその玩具、あの男には見えなかったようだが、妾にははっきりと見えるぞ」 「それでも俺にはこれしか無いんだよ」 今度は女王蜂の足元から、槍を伸ばす。 女王蜂は身体を捻ねってかわすと同時に、ソラへ針を突き出した。 「ぐぅ」 何とかよけられはしたが、針がかすっただけでその部分から服がボロボロと灰になって崩れる。 「ったく、どうしてこうも破られるんだ」 「よく避けたな。しかし次はそうはゆかんぞ」 あらゆる角度から女王蜂がソラに攻撃を仕掛ける。手のような前股、脚のような後股、暗器のように奇襲を掛けてくる中股、そして一撃必殺の針とその攻撃は変幻自在にソラを攻め立てた。 (つ、強い) 見えないというアドバンテージを失ったソラは、何とかギミックを総動員して攻撃を防いでいるが、全く反撃に移る隙が見当たらない。 「まあ良い、面倒だ。貴様は妾をあの男から解放した功績もある故、今回は見逃してやろう」 決定打に繋がらないことに苛立ちを覚えたのか、女王蜂は『『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』をかいくぐって降下を始めた。 (しまった) ソラは慌てて追いかけるが、安全装置《セーフティ》のせいで思うように降下速度が出せない。 「くっそお!」 機能がだめなら自力で急ぐしかない。ソラは足場《ステップ》を飛び出して、表面を駆け出した。 * 「ハァ!」 「とりゃあ!」 ほぼ同時に侍郎と悟郎が蜂を打ち墜とす。 百を超えていた蜂の大群を、たった二人で倒してしまったことになる。 「もともと力が尽きかけてた割には、よく持ってるじゃないか」 「……お前こそ、飛ばし過ぎだ」 二人とも満身創痍といった様子であった。 そこに一つの影が迫る。先程まで相手をしていた蜂を大きくしたようなものではなく、蜂の怪人というシルエットだ。 「ソイツを通さないでください。ソイツが親玉です」 「兄さん、アレをやるぞ」 悟郎は侍郎に合図を送った。 「ああ、いいだろう」 頷いて侍郎が高く飛び上がる。 「うわああぁぁぁぁっ!!」 悟郎はまた漆黒のな竜巻となる。 「スーパー!」 「ダブル!」 「「キィィィィィック!!!」」 白と黒の人影が上下に分かれ、蹴りを放つ。 「グワァァァ!」 悲鳴を上げボロボロになりながらも、女王蜂はまだ下を目指そうとする。 「……倒しきれなかったか」 「いや、最後のトドメは間に合ったようだ」 再び身構える侍郎を制し、悟郎が女王蜂の上を指差す。 その先にはソラが、自分の能力で作り出した足場を真っ直ぐ女王蜂めがけて駆け下りて来ていた。 「ただの超能力による右ストレート!!《ファントム・ギャラクティカ》」 「ば、馬鹿な……妾が、死ぬなど……ありえん」 駆け下りた勢いをそのまま乗せた拳でソラの足場に叩きつけられ、女王蜂は灰になって崩れた。 「助かりました。大丈夫ですか? 二人とも」 ソラはあの大群を全部狩りつくしてくれたらしい二人に声を掛けた。 「……問題、ない……」 気が抜けたのか、ついに侍郎の変身が解ける。 すかさず悟郎がそれを受け止め、 「すまないな、地上まで降ろしてやってくれ」 気を失った侍郎を足場《ステップ》に横たえた。 「ちょっと、そんなの自分でやってくださいよ」 いきなり全裸の大男を押し付けられたソラが抗議する。 「俺もそろそろ限界なんだ。変身してられているうちに胴着を取りに行かないとならんのでな」 しかし悟郎はそれだけ言い残して、『透明な多脚戦車《ファントム・ギャラクティカ》』を上手く足場に利用して急降下していった。 超音波で空間を把握する蝙蝠《コウモリ》にとって、透明な事は関係ないらしい。 ソラの苦労を知ってか知らずでか、シュンが一回ピィーと鳴いた。 結局ソラは、どうする事もできずに侍郎と一緒に降りてきいた。 (しかし、この後どうしたら良いんだ?) この気を失っている全裸の男がどこの誰なのか、ソラは全く知らない。 どうしたらいいのか全くわからないままソラは、地上についてしまった。 「また全裸か!!」「変態だー!」「この変質者!!」「どうして全裸の変態ばかり空から降りてくるんだ?」 どこか聞き覚えのある罵倒がソラを出迎える。 だがソラはそんなもの全く気にもならない。ただヒナがそこにいてくれるだけで何も恐れるものは無かった。 「ただいま」 「危ないこと無かった?」 「大丈夫」 ソラが「俺は結構強いっていっただろ?」と続けようしたところで、 「空は……、俺が……、守、る……」 まだ戦っているつもりでいるのか、最悪のタイミングで侍郎がうわ言を口にする。 「そんな、ソラ……、上半身はだけてるし、その人は裸だし……不潔、不潔だわ!」 わなわなと首を振り、ヒナが去っていった。 「ちょ、誤解だ。待ってくれ! ヒナぁぁぁぁ」 慌てたソラは、珍しく土煙を上げてヒナを追いかけていった。 ちなみにヒナのソラに対する誤解は数日で解けたが、侍郎の同性愛者説は島の外部にまで流れかなりあとまで尾を引いたという。 了 二階堂シリーズ トップに戻る 作品保管庫に戻る
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「やあ、君たち。クラウンスレイヤーの失礼な態度は、僕が代わって謝罪してあげるよ」 「僕のことは、メフィストと呼んでくれればいい」 Hypergryph開発、Yostar運営によるタワーディフェンスゲーム『アークナイツ』に登場するキャラクター。 非プレイアブルキャラのためゲーム中にボイスは無いが、アニメ版では 天﨑滉平 氏が声を担当している。 同作に登場する敵組織「レユニオン・ムーブメント」(以下「レユニオン」)の構成員。 一見するとまだ若い少年だが、レユニオンでは幹部に位置している。 基本的に相棒のファウスト(医者ではない)と共に行動する。 名前の由来は相棒と合わせて、ドイツの戯曲『ファウスト』に登場する悪魔「メフィストフェレス」と思われる。 彼の性格は一言で表すとサイコパス。 常に薄ら笑いを浮かべており、レユニオンによる暴動を「ゲーム」と称して楽しんだり、 ストーリー中盤では暴動による犠牲者(メフィスト曰く「臆病で残忍な虫けらたち」)に火を付け、 「恐怖のシンボルにしてやったんだ!」と嬉々として語るなど、実に分かりやすい悪役ポジション。 その悪辣さと後述のアーツ能力から、ロドスだけでなくレユニオン内部でも印象は非常に悪い。 メフィストもまたロドスのオペレーター達を虫けら呼ばわりするなど、ロドスのことは見下している。 一方で、そのロドスの活躍によって「ゲーム」を破壊されると途端に焦り出したり、怒りを露にするなど冷静さを失う一面もある。 戦闘時は彼が指揮を執り、相棒のファウストが攻撃を担当するフォーメーションをとる。 また、彼の部隊の配下にチェスで例えた独特の指揮を出し、配下もそれに即座に従い行動する。 確かに配下も感染者集団ではあるが同時に暴徒でもあり、「チェスのコマを動かすように」正確に指揮するのは本来容易ではないはずである。 にもかかわらずそのような優れた指揮が可能なのは、彼のアーツ能力が関係している。 + メフィストのアーツ能力について メフィストのアーツ能力は「源石を寄生させた人間の肉体変化および洗脳」。 つまり、彼の指揮に配下が驚くほど正確に行動を行うことが出来るのは洗脳で意識を飛ばされているため。 また、肉体の変化に関しては彼自身が「不死身の衛兵たち」と呼ぶように常識を逸しており、 都市の壁を破壊できるほどの爆弾を使っても傷一つ付けられないほどの強靱な体に再生させてしまう。 意識が飛んでいるため痛みや恐怖を感じることも無く、その体で肉壁を作ったり、 体の一部を剥ぎ取って武器として投げ付けるという恐ろしい攻撃手段も平然とやってくる。 この特徴が再現された結果、なんとゲーム中での彼は回復役となっている。 ただしゲームバランスの問題で流石に不死身と呼べるほどの耐久力(回復力)は無く、 メフィスト自身は攻撃能力を持っていないため、相棒のファウストの方が厄介な存在である。 物語中の動向 ドクターを救出し、チェルノボーグからの脱出を目指す序章(0章)において早速登場する。 上記のファウストとのフォーメーションや、チェスのような指揮を披露してロドスのオペレーター達を徐々に追い詰めるが、 信号弾を見て駆け付けたニアールの救援により阻止される。 想定外の妨害を受けて「ゲーム」を破壊されただけでなく、 ニアールに「貴様は半錯乱状態になった暴徒をのさばらせているだけ」「自分の低劣な趣味を満足させるために好き放題やっている」と指摘されて逆上。 冷静な指揮が出来なくなったためか、ロドスを取り逃がしてしまった。 その後は4章で再登場。上記の"恐怖のシンボル"をロドスの小隊に見せ付ける。 ここではファウストがおらず、部隊の配下はフロストリーフらロドスの小隊に呆気なく一蹴されてしまう。 しかし、メフィストはこの時「スノーデビル小隊」と呼ばれる精鋭部隊と共に行動しており、 フロストリーフが目前まで迫ったときに「今回の舞台の真の主役」として、 スノーデビル小隊、並びにその隊長であるフロストノヴァをロドスに紹介した。 なお、フロストノヴァには「獣以下の殺人狂のお前を雪原の人柱にしてやるべきか」と言われるなどかなり嫌われてしまっている。 "恐怖のシンボル"も彼女のアーツ能力によって氷漬けにされていた。 龍門の攻防を巡る5章でも登場。 近衛局ビルの屋上にて、チェン率いる近衛局と対峙する。 ここで初めて明確にアーツ能力を披露しチェン達を苦戦させるが、土壇場でロドスが介入。 エリートオペレーター・ブレイズの大技により展望デッキに巨大な亀裂が入り、配下の大部分が落下してしまう。 また、ファウストの部隊である迷彩狙撃兵達もブレイズに文字通り炙り出され、手の内が全て見破られた。 メフィストはロドスの小隊はフロストノヴァに倒されたと思い込んでいたため完全に想定外であり、作戦は失敗。 そしてまたもや逆上しロドスのオペレーター達とチェンに攻撃するよう指示するが、 ファウストは冷静に撤退を選択。その場を離脱した。 なお、メフィストは事前に救援を要請しており本来であればレユニオンの援軍が駆け付けるはずだったのだが、 何故かどの部隊も来ることは無かった (口ぶりからファウストは援軍が来なかった意味を理解していたようである)。 + 6章以降 錯乱状態となったメフィストを引き連れて龍門から撤退を図るファウスト達。 しかしメフィストはアーツ能力で配下を更に変化させ、もはや敵味方の判断も付かない怪物を生み出してしまう。 それを見たファウストは襲われる同胞達の救助を行った後、配下の狙撃兵達にメフィストを拘束させた。 その後、迫る近衛局とロドスの合同部隊からメフィスト達を生かして逃がすためにファウストは殿を務める。 それは二人の永遠の別れとなることを意味していた。 「サーシャ!」「そんなのダメだ!」 「一人になっても、生きていけ。死ぬな。 ──これが俺の最後の願いだ」 ファウストとの別れの後、茫然自失するメフィストを連れた狙撃兵の部隊はスノーデビル小隊と合流。 彼らの命をかけた協力により龍門からの撤退に成功する。 「チェルノボーグには行くな」というファウストの遺言に対し、他に行くアテもないとして、撤退後はチェルノボーグへと向かった。 チェルノボーグの中枢エリア一角に到着後、狙撃兵達はタルラに従うサルカズの戦士と遭遇する。 実力差から戦う前から死を覚悟する狙撃兵だったが、そこでメフィストが交渉を持ちかけて彼らを逃がす。 メフィストはロドスの小隊がドクターを連れて石棺の間から出てきたのを録画映像で確認しており、 石棺の間にどのような秘密があるのか、何故ロドスはここからドクターを連れ出したのか、それを探るために訪れたという。 「変な機械。僕をどこに連れてくの? もしかして、僕の欠けたところを補ってくれるの? それとも傷痕を癒やしてくれるの? それとも、あいつみたいに全てを忘れさせるの? もし全てを忘れられるのなら…… 僕は、忘れたいの?僕の、望みは……」 一人の少年が、石棺の中で眠りに就いた。 + 8章では… 「あれ」はもはや感染者ではない。 別の生き物だ。 石棺で眠りに就いたメフィスト。 しかし、石棺によってもたらされた変化は治療ではなく、なんと異形の姿への変異だった。 その姿は巨大な白い鳥。体は白い結晶体で出来ており、翼は脆く飛ぶことはおろか体を支えることもままならない。 また、人間の姿であった頃よりも体の源石結晶がかなり巨大化して体中から飛び出してしまっている。 なお、この姿では会話テキストでの名前がメフィストではなく「???」と表記されており、作中人物からも戦闘前は「あれ」とのみ呼ばれている。 メフィストとしての自我は保てておらず、少年時代の頃のように歌い続けることしか出来なくなってしまった。 人間の姿でなくなることで再び「歌う」ことが出来るようになるとはなんとも皮肉な話であるが、 その歌によって周囲に源石の粉塵をまき散らし、感染させてしまう重大な汚染源となってしまっただけでなく、 粉塵を吸い込んだ感染者の一部をアーツ能力によって石棺を守る洗脳状態としてしまっている (操られていない者もいるのはメフィスト自身に操ろうという意思が無いため)。 また、操られている感染者も最終的にはメフィストと同じ異形の怪物に成り果てる可能性があるという。 この異形の存在と対峙したドクターとケルシーの小隊は、重大な感染源であるその怪物を制圧し、感染源の拡大を阻止することを余儀なくされる。 元凶である石棺はケルシーの手によって停止させられたが、メフィストがその後どうなったのかは明言されておらず不明。 ゲーム中では「Mephisto・歌う者」表記。 人間の姿であった時と同様に回復能力を持っている(自分を回復することは出来なくなっている)他、 歌によって周囲に源石の粉塵をまき散らす能力が「フィールド全体への毒ダメージ」として再現され、 一定量のHPが減る毎に専用のモーションと共に毒を与えてくる。 また、人間の姿の時には無かった通常攻撃も行うようになった。 毒を防ぐ手段は無く、高火力のスキル攻撃で一気にダメージを与えようとすると一瞬で毒が蓄積し戦線が崩壊する。 さらに一度倒しても黒いバリアのようなものに籠もって回復して復活し攻撃力が上がったり、 ワープで移動するためブロックできず、時間をかけて倒すことも難しい…とかなりの難敵となる。 また、戦闘開始時には怪獣映画のような重々しい雰囲気のBGMが流れているが、 第一形態を倒すと『Lullabye』というBGMに変化する*2。 公式チャンネルの動画 6章と8章では彼らの過去について知ることが出来る。 + メフィストの過去について "メフィスト"はコードネームで、本名はイーノ。出身地はウルサス帝国。 幼年時代のイーノは現在とは真逆の臆病な性格で、その性格からいじめられっ子であった。 さらに家族からは日常的に虐待を受けていた。 相棒のファウストと出会ったのはこの時期であり、ファウストの本名はサーシャ。 浮浪児であるサーシャにイーノは食事を差し出したり、本の読み方を教えた。 いじめと虐待を受ける日々を過ごすイーノにとってサーシャとの交流は大きな心の支えであった。 だが虐待は次第にエスカレートしていき、イーノの精神も狂っていく。 さらに、源石を喉に詰められるという凄惨な仕打ちを受け、鉱石病に感染してしまう。 歌うことが好きだったのだが、喉が侵された影響で歌えなくなってしまう。 しかし、感染者となったイーノはアーツ能力に覚醒。 いじめっ子達をアーツ能力で操作し、虐待していた家族を皆殺しする。 サーシャはこのアーツ能力の危険性を察し「もうこんなことはするな」と釘を刺したが…。 その後は二人で街を離れ、凍原の採掘場にいた所をタルラに発見・保護される。 発見された当時は当然戦闘を行える年齢ではなかったため、アリーナの下でサーシャと教育を受けていた。 アリーナはその中でイーノが内に秘めた凶暴性を感じ取っており、特に気に掛けていた。 そしてアリーナの死後、イーノの成長と共に性格は歪み、アリーナが危惧していたように残酷になっていく*1。 成長後、タルラが用意した新しい名前の中から"メフィスト"を選び、以後メフィストを名乗るようになった。 タルラが「あの村での惨劇」から別人のように変化してしまったことには気付いていたものの、 「サーシャとタルラ姉さん以外に誰も信じられないから」「何をするのか自分で選ぶのも嫌だから」 という理由で、彼女の言うことには常に従っていた。 MUGENにおけるメフィスト(アークナイツ) 名無しのぽろろ氏が原作のスプライトを使用して製作したものが存在する。 「歌う者」形態で、概ね原作再現志向で作られている。 基本動作は通常攻撃、ワープ移動、粉塵放出の3種類と少なく、さらにステータスがLIFE60000・ATK450・DEF450ととんでもないことになっている (原作でのステータスをそのまま反映したらしい)。 一定のダメージを受けると粉塵放出によって相手に毒ダメージを与える点や、体力を削り切ると形態変化の演出が入る点も再現されている。 ただし、味方への回復は再現されていない模様(勝利モーションで回復行動と同じ動きをする)。 なお、毒ダメージの再現は永続ターゲットではなく隔離技術が用いられており、 紹介動画では通常本体ターゲットを取るのが困難なF1(ただしLifeSet無し改変)を倒している。 ステータスが高すぎることや、毒が通用する相手には非常に強い一方効かない相手には通常攻撃しかできないことから、 狂以上の凶悪キャラではあるものの非常に相性が出やすく、名無しのぽろろ氏曰く「性能はある意味ネタ」とのこと。 なお、隔離技術を多数使用しているため当然WinMUGEN専用。 また直接フォルダ内のBGMを再生するAudioPlayという技術を使っているが、 当時のAudioPlayの不具合によりCharaRegisterや十徳ナイフといったMUGEN用ツールでは起動不可能になっている。 ツールで起動したい場合はdefファイルを開き、 ;st6=AudioPlay/DLLCALL.cns のようにAudioPlay記述をコメントアウトするか消しておくこと。 出場大会 「[大会] [メフィスト(アークナイツ)]」をタグに含むページは1つもありません。 *1 ロドスのオペレーターに「源石の影響で性格が変わる」「二重人格を持つ」という人物らがおり、 メフィストの性格が幼年時代とかけ離れたものになってしまったのはこれと似たような理由ではないか、との推測もある。 *2 余談だがこの曲、物悲しい曲調であるにもかかわらず、 公式twitterにて「さらなる決戦の支えに、ぜひこの曲をお聞きください。」と 紹介され 、 プレイヤーからは「支えとは?」総突っ込みを受けていた。
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天道 ユリカ 「もう十年だもん。私、あのときのお兄ちゃんと同い年なんだよ」 基本情報 名前 天道 ユリカ(てんどう ゆりか) 学年・クラス 3年M組 性別 女 年齢 18歳 身長 161cm 体重 49kg スリーサイズ B 85 W 58 H 84(Cカップ) 性格 物静か 生い立ち 学園の研究施設で働く考古学者の娘 基本口調・人称 私、あなた、~です 特記事項 キャラデータ情報 総合ポイント 24 レベル 8 近距離攻撃 1 遠距離攻撃 1 異能のレベル 9 体力・防御力 2 学力 1 魅力 7 運 3 能力 非能力者とマジックアイテムを融合契約させる その他詳細な設定 十年前自分の能力によって多くの人を不幸にしてしまった経験から自分の能力を嫌い封印している その壮絶な経験から周りより大人びているが外見とは裏腹にどこかおバカである 融合契約 意識を失った非能力者とマジックアイテムを一体化させる事によって 魂源力や契約を必要とするマジックアイテムの能力を非能力者に発動可能にする 融合契約中は身体も強化される 登場作品 【喫茶アミーガで今日も特訓中】 作者のコメント
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日本の某県某所、深い森が広がる山の上を一機の減りが飛んでいる。 乗り込んでいるのは、双葉学園の異能力者で結成されたラルヴァ討伐チームの生徒達である。 「しかし、俺達を出すなんてよっぽど大物なんだろうな」 特徴的なオレンジ頭の伝馬京介が、いかにもめんどくさそうに言った。 「お前は何でさっきのブリーフィングをサボったんだ? これだから馬鹿の馬の字だって言うんだ」 眼鏡をかけた少年、氷浦宗麻は心底呆れたように吐き捨てる。 真面目な宗麻とぶっきらぼうな京介はお互いに仲が悪く、特に宗麻は事ある毎に京介の苗字にかけて馬鹿にしている。 「サボった訳じゃねえ、俺の超振動ナイフはお前の細っこい剣と違ってメンテが面倒なんだよ」 二人の間に緊迫した空気が流れたとき、姫川哀が間に入った。 「あの……私はギリギリになっちゃったから話聞けてないんだけど」 「何やってるんだよ、ノロマ」 京介と哀は学園に来る前からの幼馴染と言う事もあって、京介の哀に対する物言いは割とキツイことが多い。 「だって女子は水泳だったんだもん」 哀の方は京介の態度には慣れた様子で、むしろ濡れた髪を気にしていた。プールの水は塩素が強いので、このまま放っておけば痛んでしまうだろう。 体育の授業中の出動だったので、京介と宗麻は体操服のままである。 「コラ、姫川さんは何も悪くないだろう」 「けっ、俺のときとずいぶん態度が違うじゃねえか」 「当たり前だ。さあ、あんな馬鹿は無視して、今回のおさらいをしましょう」 これまでの態度が嘘のように、宗麻は喜々として語りだした。 「今回の目的は、M.I.A.――作戦行動中行方不明者の捜索です」 「捜索? 俺達に向いてる仕事とは思えねぇけど……」 「キョウちゃん、ちゃんと最後まで聞こうよ」 「行方不明になったのは、寺井歩、千倉美星、緑川昇の三名……」 哀は今出てきた名前が全部知らないものであった事に少しだけ安心した。 「このチームは、寺井の飛刃操作(エッジ・ワークス)と千倉の銃弾の雨(スコール・ブリット)で足止めし、緑川の魔滅の炎(フィアマ・デラ・プリフィカズィーネ)で止めを刺すというスタイルだったようです」 「ウチと同じ、ハッキリとキーマンがいるチームか?」 京介がつぶやく。その視線の先では哀が神妙な表情で何かを考えているようだった。キーマンという言葉に何か思うところがあるのだろう。 「緑川の能力は、対象の魂源力(アツィルト)を内側から燃やし尽くすそうです。魂源力(アツィルト)がたくさんある上級ラルヴァの方が効果的な能力ですね」 宗麻はずっと哀から視線を外さないまま、ニッコリと笑って答える。 「質問したのは俺だろうが」 「うるさいヤツだ。どうせお前に話したって、言ったそばから忘れるクセに」 「何だと!」 「もう……キョウちゃんも氷浦くんも、何ですぐケンカになるの!」 京介と宗麻はそれぞれお互いを睨み、哀にちらりと目線を送る。二人とも、頬がほんのりと赤くなっていた。 当の哀は二人の様子に気付かず、ポカンとしている。 「えーとにかく」 宗麻がごまかすように説明を再開した。 「三人は当初の任務通り熊鬼(ゆうき)を倒したという報告の後、影縫(かげぬい)と遭遇したと報告を入れたきり行方不明になっています」 「ユウキ? 誰だそいつ」 「カゲヌイってどんなラルヴァなの?」 二人の声が重なった。 「あー、ブリーフィングの途中申し訳ないが、到着だ」 今まで黙っていたヘリのパイロットから声がかかる。 「あ、ごめんなさい」 「悪いな、ここまでは来るのに燃料がギリギリなんだ。終ったら給油して拾いに来てやるから。帰って来いよ」 「オウ!」 「当然です」 「がんばります」 三人はもう一度軽く装備を確かめた。 「……ところで、降下ってまたいつものアレやるの?」 不安そうに哀が聞いた。 「あ? 当たり前だろ他にどうするって言うんだ」 質問の意味がわからないといった様子で京介が答える。 「パラシュートとか、梯子とか……」 哀の言葉はポツポツと最後には聞こえないほど小さくなっていった。 「高度や木の関係でパラシュートは使えませんから、使うとしたら梯子という事になりますが」 「俺は使わねーよ。下から見たらパンツ丸見えだな」 「キョウちゃん!」 慌ててスカートの裾を押さえる哀。 「決まりですね。行きましょう」 ドアが開かれる。 ローターのけたたましい音と共に大量の空気が流れ込んでくる。 「おっしゃあ!」 気合の一言で京介の脚に炎のような深紅の魂源力が集まり、鎧として結晶化する。 「ホラ哀」 「うう……なるべくゆっくりね」 しぶしぶといった様子で、哀は京介にしがみ付く。既に目には涙が溜まっていた。 「努力しますよ」 いつも穏やかに笑っている宗麻だが、このときの笑顔は何となく信用できないと哀は思った。 「行くぜ」 まず初めに、哀を抱えた京介がドアの外に飛び出す。 「きゃあぁぁぁぁ」 そして哀の悲鳴が響く中を宗麻が続いていった。 「死ぬなよ。ガキ共」 誰もいなくなったヘリの中で、パイロットが呟く。 外からはまだ、ローターよりも大きく哀の悲鳴が聞こえていた。 そして、空中。 「ああぁぁぁ」 未だに哀の悲鳴が続いていた。 よく続くこんなに息が続くものだと京介は思う。というか耳が痛いのでいい加減止まって欲しかった。 少し先行して落下していた自分と哀がが木の上に差し掛かったところで、宗麻をみやる。 宗麻がうなづくと、何か見えない力のようなものが自分達を受け止めた。 そして遅れて来た宗麻を京介が受け止めると、三人は再び落下を始めた。これが直接触っている物以外の半径五メートル四方の動きを止める宗麻の能力である。 途中で止まったとはいえ、それでも約三階分の高さから二人を抱えて着地できるのは、脚力を強化する京介の能力がもたらしたしなやかさと、バランス感覚の賜物である。 普段は何かと理由をつけてケンカばかりしている二人であるが、こういったチームプレーは絶対に外さなかった。 「うぅ、怖かったぁ」 無事に着地が済むと、哀は震えながらその場にうずくまった。 「いい加減慣れろよ、まったく耳元で叫びやがって」 これ見よがしに京介が耳をほじる。 「すみません、この方法が早くて確実なものですから」 哀の背中に向かって申し訳なさそうに、宗麻が声をかける。 「確実っていっても目安なんでしょ?」 恨めしそうに哀が首だけを回して宗麻を見やる。 「はい、この辺りで反応が消えているようですね」 視線から逃れるように、宗麻は急にきびきびと周囲を探り始めた。 「あーはいはい。わかったから、いい加減とっとと探して帰ろうぜ」 返事を待たずに京介が歩き始めると、宗麻と哀もそれに続いた。 「で、さっきの話なんだけど、どんな化物だって」 歩き始めて数分、ポツリと会話が途切れたところで京介がさっきのラルヴァについて話を戻す。 しかし、宗麻は答えない。 「さっきの話なんだけど、どんなラルヴァなの」 険悪な空気になるのを察した哀が同じ質問をすると、宗麻は喜んで話し出した。 「熊鬼は熊のラルヴァというか、ほぼ熊そのものです。昔は山の神として崇められていたとか。怪力の持ち主ですが、縄張りを荒らさなければ無害なため中級A-1となっています」 「無視とか子供っぽいこといつまでもやってんじゃねぇよ」 宗麻は、なおも無視して説明を続ける。 「影縫は、群れで行動する下級ラルヴァで、空飛ぶエビのようなものだそうです。尾の部分の針で影を射抜かれると動けなくなるとか」 「お前の力に似てるな、そいつらの方が強そうだけど」 「試してみるか」 宗麻と京介はそれぞれ武器に手をかける。 「だから二人とも、ケンカはやめようよ」 放っておくと、この二人は本当に戦い出してしまうので、哀はとにかく話を続ける。 「ねえ、その熊鬼はどうして討伐指定になったの? 縄張りを荒さない限り無害なんでしょ」 「この辺りはトンネル建設が決まっていて、その作業の人が襲われたんです」 「胸クソわりぃな、国の都合かよ」 「……それでも私達みたいな能力者が普通に生きていくためには、学園とか国の命令で動かなくちゃいけないんだよね」 哀のつぶやきに京介と宗麻は答えることができなかった。 「ねえ、あれ……」 しばらく続いた気の重い沈黙を破って、哀がある一点を指差した。 倒れた木の根元に、何か黒い塊が蠢いている。 一つ一つの大きさはおよそ二○から三○センチ。鈍く光る外殻に覆われたそれが群がる様は、無数の触手を持つ新種の生物を思わせる。 「影縫は群れで行動し……、動けなくした動物を生きたまま食べるんです」 びちゃびちゃと不快な音を立てるそれを指して、搾り出すように宗麻が言った。 「散りやがれ、このエビ野郎」 京介が駆け出していく。強化されたその脚力で蹴りだされた身体が、一瞬にして音の壁を超える。 群がる影縫のギリギリ手前で、京介が急停止すると、後からやってきた空気の波に、影縫のほとんどが吹き飛ばされた。 直接突っ込まなかったのは、生存の可能性を考慮してのことである。 「くっ、哀見るな」 しかし、出てきたのは、行方不明の誰ともつかない状態だった、 ゆらゆらと虚空を漂う影縫の無機質な緑の目が、哀達を捕らえる。 「来ますよ。離れないでください」 宗麻が能力を展開する。 近くにいた影縫やそれが飛ばした針が空中に押し止められる。 しかし、剣が届く範囲には限りがあるため、影縫に止めを誘うとすると、どうしても哀から離れてしまう。 「クソッ! キリがねえ」 京介が一呼吸の間に十数匹を切り裂く。 しかしその数はあまり減ったようには見えない。 「おかしい」 動きを止められた影縫を切り捨て、宗麻が言った。 「こいつ等が弱すぎる。報告で聞いていた能力者のチームだったら、この程度のラルヴァは二、三分で殲滅できるはずだ」 「知るかよ。疲れてたんだろ」。 背中合わせに立ち止まる京介と宗麻。 パラパラと京介に切り刻まれた影縫達が地面に落ちていく。 「キョウちゃん、氷浦くん」 立ち尽くしていた哀が二人に声をかける。 「哀、隠れてろ!」 「すみませんが、フォローする余裕は無さそうです」 「……」 哀の能力はとても強力だが、効果は一匹に限られる。こういったラルヴァが相手では、役に立つことはできない。 自分のアンバランスな無力さに、ただ苛立つことしかできなかった。 京介と宗麻、二人合わせて落とした数は百を超えたくらいだろうか、やっと数が目に見えて減ってきたように感じる。 しかし、まだ四分の一程度に過ぎない。 「とにかくやるしかねぇんだろ、だったらさっさと片付けてやる」 「そう言う事だな、考えるのは後でいい」 京介と宗麻は再び飛び出してく。 「別にお前は考えててもいいんだぜ、お前なんかいてもいなくても変わんねぇからな」 「抜かせ」 京介の着地のタイミングを狙った針を宗麻が切り捨てる。 哀を物陰に残して、二人はかなり群れの奥まで切り込んでいった。 「立チ去レ」 低い唸り声が響いてくる。 影縫の群れとの反対側、森の奥から木々を押し退け、大きな影が近付いてくる。 「人ヨ、立チ去レェェエェェ!」 哀が身を隠していた岩を砕き、その巨体が現れた。 「熊鬼!?」 「まだ生き残ってやがったのか」 熊鬼が凄まじい勢いで、哀に突進する。 京介も宗麻も影縫との戦いで手一杯で、今からでは哀のフォローに間に合わない。 「山ヲ、汚スナァ!」 熊鬼の動きが哀に向かって腕を振り上げたところで、急に停止した。そのまま影縫から哀をかばうような位置に回りこむ。 視線を交わしたラルヴァを完全に支配するという哀の能力である。 「姫川さん」 「哀!」 ようやく哀の元に京介と宗麻が駆けつけてきた。 「私は大丈夫。今からは私も戦うから」 後ろに控えていた熊鬼が身構える。 「心得タ」 「……ごめんね」 影縫に向かっていく熊鬼に哀の言葉は届かない。 熊鬼は圧倒的だった。 その巨躯からは想像がつかない俊敏な動きに加え、データ通りの怪力、鋭い爪は軽く触れただけで易々と影縫を切り裂いていく。その咆哮は、衝撃だけで影縫の針を吹き飛ばした。 「やるじゃねえか、クマ公。こっちも負けてられねえぜ」 熊鬼の活躍の前に京介も改めて闘志を燃やし、力強く地面を蹴りだした。 赤い閃光が尾を引く。それが通った後には切り刻まれた影縫の死骸だけが残された。 「お前だけにおいしいところを持って行かれてたまるか」 宗麻も、京介や熊鬼程ではないにしろ確実に影縫を屠っていった。 「ウオォォー!」 熊鬼も咆哮を上げ、更に死骸の山を築いていく。 数分後には影縫の群れはすっかり消えていた。 「思ったより時間が時間がかかったな」 地面を焼き焦がし、京介が停止した。 「お前がちょこまかと動きすぎるからだ。逃げて散らばったヤツをいちいち追い回すのに無駄な時間がかかった」 木の枝をなぎ払い、宗麻も戻ってきた。 熊鬼もまた付き従うように哀の傍らに控えている。 「ねえ氷浦くん、この子助けてあげる事はできないのかな」 ねぎらうように熊鬼の頭を撫でながら、哀は宗麻に問いかけた。 「それは残念ながら許可する事はできないよ」 気まずそうに顔を逸らした宗麻からは、それでもきっぱりとした否定の言葉が出る。 元々熊鬼の縄張りに踏み入ったのは人間だ。そして、熊鬼が現れてくれたおかげで影縫退治が助けられたのも事実だった。 しかし、哀の力は一度発動させてしまったら、その対象が死ぬまでは解除ができない。 「恨むなら僕を恨んでください」 宗麻が剣を構える。 「待てよ」 宗麻の肩に京介の手が置かれる。 「邪魔をするな」 振り払う宗麻に、京介が落ち着いた声で告げた。 「お前の細っこい剣じゃ、コイツは斬れないだろ」 「そんな、キョウちゃんまで……」 熊鬼の扱いに不満を持っていたはずの京介の言葉に、哀はショックを隠せないようだ。 京介も哀の方は見ずに語る。 「悪いな、確かにそのクマ公はかわいそうだと思うけどよ……、俺には、お前の方が大事なんだよ」 京介の脚を覆う魂源力の鎧が、刃を思わせる鋭いシルエットに変化する。スピードやジャンプ力を重視した通常形態に対し、一撃必殺に特化した京介の本気の力である。 「逃げて」 「させるか!」 「不需要我領受(いらないのなら私が貰い受けるぞ)」 京介が熊鬼に回りこむよりも早く、熊鬼の後ろに青年が立っていた。深い水のを思わせる青い毛髪と、サファイアの輝きを持つ瞳、温もりを感じさせない白磁の肌は、一目でその青年が人とは違う何かであると感じさせる。 青年が熊鬼に顔を近付けると、鈍い光が青年に向かって吸い込まれていく。 「魂源力《アツィルト》を吸ってる!?」 魂源力を全て吸われた熊鬼がぐったりと、青年の腕の中から落ちていく。 哀は自分の能力が解除されたのを感じた。つまり熊鬼は魂源力の消耗で事切れたのだ。 青年はゆっくりと哀たちの方へ歩いてくる。その後ろにある新たにできた肉の塊に生き残っていた二、三匹の影縫が飛びついていく。 「何者だ……お前」 不測の事態に備え、宗麻は能力を全開にする。哀と京介の動きも止める事になるが、この得体の知れない相手にはどれだけ備えても不足という事は無いだろう。 「是那樣(ああ、そうか)……海一つ越えただけで言葉がかように異なるとは、人間とは厄介なものだ」 薄笑いを浮かべ、青年は宗麻の能力の範囲にギリギリ触れない所で立ち止まった。 「何モンだテメェ」 宗麻の能力で動きを止められているなか、京介が無理やり口を動かす。 「幻死の遣い。確かそう人間には呼ばれている」 幻死の遣いは、ゆっくりと値踏みするように京介、宗麻と視線を送った。そして視線が自分にに向かって来た時、哀は全力で能力を放った。 しかし、ほんの一瞬前までそこにいたはずの幻死の遣いが、哀の視線の先から消えていた。 「ほう、お前は目玉に魂源力が集まるのか」 耳元で囁くような声をかけられる。 熊鬼の後ろに現れたのと同じように、いつの間にか幻死の遣いは哀を後ろから抱きしめるように立っていた。 「くぅっ」 宗麻は京介へ視線を送ると、能力を解除した。 「テメェ、哀から離れやがれ」 同時に京介が幻死の遣いに飛びかかる。 「少しはやるようだな。先程の小娘達は、言葉を聞く余裕も無かったからなあ」 幻死の遣いがその動きを読んで飛び退く。 余裕を見せるように、嘲ってはいるが初めて京介にも動きを捕らえる事ができた。そのまま一気に畳み掛ける。 しかし、あと一歩の所で幻死の遣いを捉えきることができない。 「ふむ、速さは互角か。しかし小回りは苦手なようだな」 「クソォ」 京介は能力の鎧を一撃必殺形態から通常形態に戻した。バランスを増した脚力で、更に加速する。 「ほぉ更に速くなるのか。だが動きが直線的過ぎてかえって読みやすくなったぞ」 「ほれ、鬼さんこちら」 幻死の遣いはその場をほとんど動かずに、超音速の突進をかわし続ける。その動きにはまるで踊りを踊っているかのような余裕が伺えた。 だがそれで良い。 ほとんど動いていないつもりの幻死の遣いだが、わずかずつではあるが確実にある一方に向かっている。 そして、丁度そこに到達したとき、事態は一気に進む。 「な、何」 幻死の遣いを、宗麻の能力が捕らえる。 「この馬鹿が上手く目立ってくれてたからな、僕の気配は読めなかっただろう」 「ふん、この程度で捕らえたつもりか」 押さえつける力を幻死の遣いが、無理やり振り解くように動く。 「もちろんそんなつもりは無いさ」 能力を破られ、苦痛を感じているはずの宗麻が不敵に笑い、右手を上げた。その先に繋がっていた哀が、幻死の遣い目の前に躍り出る。 瞬間、交わされる視線。 「く、しまっ……」 幻死の遣いの、彼が彼として最後に放つ言葉は、最後まで紡がれることは無かった。 「うりゃあぁぁぁ!」 次の瞬間には、京介の一撃必殺形態の蹴りが決まっている。お互いの行動のタイミングをそれぞれが熟知した完璧な連携だった。 凄まじい衝撃波が派手な土煙を上げる。今まで上級ラルヴァであっても文字通り一撃で屠ってきた、京介の一撃必殺形態での蹴りである。当然今回も土煙が晴れると、幻死の遣いが灰になっているものだとそこにいる誰もが信じて疑わなかった。 「マジかよ。これで倒せないなんて」 しかし土煙が晴れて現れた幻死の遣いは、額を少し切った程度で、ほぼ無傷と言って過言ではなかった。 「余裕ぶってた訳だぜ」 これだけの魂源力《アツィルト》障壁なら、まともにダメージを与えられるのは醒徒会長の十二神将くらいだろう。 改めて、敵の強さにぞっとさせられる。 「とことん付き合ってやるぜ」 「いいよ。キョウちゃん」 強がって再び魂源力を集める京介を、哀が制止した。 「この人もさっきの熊鬼も、ただ生きていくために行動してただけなんだと思う。それでも、こうやってぶつかってしまったら、戦って、殺さなくちゃいけないなら、私が背負うから」 戦闘で守られ、自分が背負うべき罪も肩代わりさせてしまったら、自分は何のために存在するというのか。 だから自分で命じなければならない。 人の形をしたものに、死ね、と。 哀の目が鈍く光る。 「御心のままに」 幻死の遣いは、自分の首に手刀を突き入れる。 それは直接手を下さない分、より一層自分がこのラルヴァ以上に理から外れた存在である事を思い知らせた。 「姫川さん……」 「私は大丈夫だから。帰ろ」 哀は無理に笑顔を作った。 しかしそれは、これからは仲間として自分の罪は自分で背負っていくと、そんな決意の表れだった。 ここで使っている外国語はエキサイト翻訳をベースにしています おかしいのがあったら指摘してくれるとありがたいです トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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水無瀬 響 基本情報 名前 水無瀬 響(みなせ ひびき) 学年・クラス 高等部 二年生 C組 性別 女 年齢 17 身長 157cm 体重 42kg 性格 温厚で物静かな平和主義者世界平和を真面目に願っている優等生 生い立ち 不明 基本口調・人称 おしとやかで感情を表にださない一人称は私 二人称はあなた 特記事項 他人に流されやすいが意外に芯は強い黒髪ロングヘアーの美人スリーサイズは87/58/64とそこそこおっぱい キャラデータ情報 総合ポイント 22 レベル 7 物理攻防(近) 1 物理攻防(遠) 1 精神攻防 6 体力 2 学力 4 魅力 4 運 3 能力 なし 特記事項 秀才 その他詳細な設定 戦闘能力に関しては不明な点が多い 異能力者ではないと自称しているが、魂源力は蒼魔と同じくらいある 力や体力は殆どないが学力は高い典型的なガリ勉タイプ かわいいので許されている 登場作品 【双葉学園忌憚研究部 第一話「薪流し」 前編】 作者のコメント 秘密の多いヒロイン 更新も多分多くなるヒロイン