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「舞美ちゃん、格好いい!」 「えー、そうかなぁ。舞のトナカイも可愛いよ」 「えりかちゃんのミニスカサンタ、なんかエロい…」 「ちょっと栞菜! 離れてよっ!」 「………動きにくい」 それぞれの衣装に着替えて準備を進めていく。雑誌の企画であったメンバートーク。 『もしも℃-uteだけのクリスマス☆パーティーを開催したら…』 本当に出来たことはすごく嬉しいんだけど。あるんだね、雪だるまの衣装…。 「愛理、ちっさー。まだ着替え終わんないの?」 「も、もうすぐ終わります」 「千聖はトナカイだから早いと思うんだけどなぁ」 「お嬢様の千聖がトナカイって変な感じするけどね」 ……確かに。でも、本人は楽しみにしてたからいいのかな。 でも、びっくりした。お嬢様の千聖がまた出てくるなんて。 「ごきげんよう」 「「「「「「ち、ちっさー(千聖)?!」」」」」」 柔らかい物腰で部屋に入ってきたのは千聖だった。 その姿に一瞬戸惑ったものの、すぐにみんな理解する。 「……お嬢様の千聖だよね」 「ええ。お久し振りです」 「……記憶はどうなってるの?」 「ちゃんと覚えてますわ。“千聖”に戻って以降の事も」 「……ずばり質問。何で出てこれたの?」 「ごめんなさい。私も何でかは分からなくて」 「じゃあ、サンタさんの悪戯ってことで」 「「「「「あ、愛理っ?!」」」」」 「えっ!? 私、何か変なこと言った?」 愛理の発言にみんな驚いたけど、本人は真面目に答えたようだ。 でも、なんか納得できるかも。 「そうかもしれないわね。サンタさんの悪戯ってことにして下さい」 「よし。じゃあ、みんな揃ったことだしパーティーの準備開始っ!!」 「「「「「「おおっ!!」」」」」」 こうして、サンタさんの悪戯からクリスマスパーティーは始まったのだった。 衣装は担当のみぃたんと栞ちゃんがネットやお店に行ってレンタルしてきてくれた。 いろいろ問い合わせたり、スタイリストさんに相談したりしたらしい。 店員さんがコスプレしてるお店に入るのは、少し勇気が必要だったらしいけど。 ゲームは定番のビンゴ。景品は愛理と千聖が出せる範囲の予算で買ってきたらしい。 うん、愛理に全て任せないでよかった。景品、豪華になり過ぎる予感がするもん。 お泊まり会になってたら、私が床で寝てた可能性は否定出来ない……かな。 料理は私達担当。でも時間がなくて、ケーキ以外は無理だった。 さくらんぼ、みかん、メロンなど。みんなが好きなフルーツがのったフルーツケーキ。 細かく切ってクリームに混ぜてスポンジの間に挟んだり、チョコで文字を書いたり。 あまりの出来の良さに三人でハイタッチしちゃった。 テーブルの上に来る途中で買ったサンドイッチやオードブルを綺麗に並べて、 愛理と千聖が着替え終わるのを待った。 「お待たせしました」 そう言って出てきた千聖の格好は…… 「「「「「ト、トナカイじゃないっ!?」」」」」 「えへへ。衣装、替えてみました」 千聖の後ろから出てきた愛理が得意顔で言った。 ……千聖のお姫様姿はいいんだけど、愛理のトナカイ姿って。 「あ、愛理がお嬢様にはお姫様の衣装の方がいいんじゃないって」 「ちょっと気になってたんだよね。トナカイ衣装も」 「愛理、雪だるまは?」 「ん~~、無理っ!」 笑顔で否定ですか。そんなキャラだよね、私って。 「じゃあ、始めようっ! みんなコップ持った? せーの…」 「「「「「「メリークリスマスっ!!」」」」」」 携帯の音量を上げて『ぴったりしたいX mas』、『白いTOKYO』をBGMに。 王子様がいるんだしってことで『王子様と雪の夜』も。 ビンゴゲームでは千聖が一番になった。景品は図書券1000円分。 ちなみにビリは私。……床で寝ることにならずに済んで、ほんと良かった。 そして、お腹もかなり満たされた頃にケーキの登場となった。 箱からゆっくり出されていくケーキ。 「「「「すご~~いっ!!」」」」 「スポンジの間にフルーツを入れたクリームを挟んであるんだよ」 えりかちゃんが説明しながら、器用に切り分けていく。 七等分は難しいから八等分。残った一個は千聖が持って帰ることになった。 最初は遠慮してたんだけど、もう一人の千聖用にって言ったら納得してくれた。 「じゃあ、改めて…」 「「「「「「「いただきま~すっ!!」」」」」」」 「美味し~いっ!」 「うん。クリームがあまり甘くないから、私でも食べられるし」 「今度はみんなで作ろうよ」 「「「「「「賛成っ!!」」」」」」 最後に『きよしこの夜』を歌ってパーティーは終了した。 お嬢様の千聖もすごく満足してくれたみたい。 「私、思ったんです」 「ん? 何を?」 後片付けが終わって部屋の鍵をかけた時、 おもむろに千聖が口を開いた。 「私が出てこれたのはサンタさんの悪戯じゃなくて、プレゼントじゃないかしらって」 「プレゼント?」 「そう。サンタさんからのプレゼント」 嬉しそうに笑う千聖。 だったら、私達だってそうだ。 「私達もプレゼントもらったよ」 「早貴さん?」 「お嬢様の千聖とまた会えた。 サンタさんからじゃないともらえないプレゼント」 「フフフッ。そう言ってもらえると嬉しいです」 「私も嬉しかったよ」 「うちも」 「またお買い物行きたいな」 「舞も行きたい」 「また来年も会えるよね」 「はい。お会いしたいです」 また来年。 こうして、サンタさんへのプレゼントの予約で クリスマスパーティーは終わったのだった。 Merry Christmas♪ 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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――ザクッ ザクッ ザクッ 硬いものを削り取る鈍い音とともに、私の顔に冷たい飛沫が襲い掛かってくる。 「舞ちゃぁん・・・」 情けない声で一応抗議を試みるも、彼女の顔は、正面にいる私の方に向けられることはなかった。 午後2時。横浜にある瀟洒なカフェの端っこの席で、舞ちゃんはさっきから延々とイチゴカキ氷の頂点にスプーンを突き刺し続けている。無表情で。 完全に右側を向いたままになっている舞ちゃんの視線の先には、えりかちゃんと千聖。すっごく楽しそうに、メニューを見ながらにこにこしていて、ラブラブだ。いいですなぁ。 “今日えりかちゃんとちーがお泊りでデートするから、尾行する。協力して” 数時間前、舞ちゃんからこんなメールが来た。 今日はオフで、予定は特になかった。なんとなくダラダラしたい気分ではなかったから、私は舞ちゃんからのそのお誘いに、悩むことなく乗らせてもらった。・・・のはよかったんだけど。 一体どうやって聞き出したのか、舞ちゃんは待ち合わせの駅で私と合流すると、まっすぐに今いるこのカフェへ足を運んだ。そして、しばらくすると、本当に千聖とえりかちゃんが現れた、というわけだ。 舞ちゃん、恐ろしい子!数日前にテレビで見た、知人の持ち物に盗聴器をしかけてどうのこうのという恐ろしい事件を思い出したけれど、それ以上は考えないほうがいいような気がして、私は記憶にふたをした。 ――ちなみに、今の今まで、今日の私たちはろくに会話もしていない。だって舞ちゃん、何か怖いんだもん。 「すみませーん、このトロピカルフラッペを・・・」 「トッ、トロピ・・・!」 えりかちゃんのオーダーを聞いた舞ちゃんは、元々大きすぎるぐらいパッチリな目をカッと見開いて、イチゴ味の氷に、さっきよりも強い攻撃をお見舞いした。塊が、私の鼻の頭に直撃する。 「ケッケッケ」 「・・・何で笑ってんの」 「いやぁ~トロピカル何とかって、カップルで食べる用の大きいやつだったなぁって思って。本当仲いいね、えりかちゃんと千聖って。そう思わないかい?舞ちゃぁん」 さっきから顔をイチゴまみれにされてるんだから、これぐらいのイジワルは許してもらいたいなあ。 「別に舞は・・・・あっ、ごめん。めっちゃ愛理の顔飛んでんじゃん。舞のカキ氷。」 やっと私の方に向き直ってくれた舞ちゃんは、拭いきれていなかった赤いシロップをおしぼりで取ってくれた。少し落ち着きを取り戻したのか、照れくさそうに笑う。 「あんな大きいの頼んだら、どうせえりかちゃん途中で食べるのやめちゃうよ。ウチおなかいっぱいだよーとかいって。そしたら千聖は一人でわしわし食べちゃうんだよ。おなか冷えちゃっても知らないんだから。」 「千聖、残った食べ物とかすっごい食べたがるもんねぇ」 「またぷくぷくしてきたら大福って呼んでやる。」 本当は、2人がひとつのものを食べてるっていうのが気にいらなすぎるだけなんだろうけど。舞ちゃんは大抵のことはちゃんと分別がつくし我慢もできるのに、千聖が絡むと本当に見境がなくなってしまう。 みんなは結構そういう舞ちゃんを心配するけれど、私は正直面白がってしまっているところもある。嫉妬、いいじゃない。これぞ青春!って感じじゃないか。とかいってw ケッケッケ 「・・・・ごめんね、今日」 「えっ」 私がそんなことをとりとめなく考えていると、急に舞ちゃんが腕を突っついてきた。 「ごめんって、何が?」 「こんなことに付き合わせちゃって。何か、一人じゃ冷静でいられない気がしたから、つい。」 「そんなの別にいいよ。私が好きでついてきたんだから。私も、あの2人がどうするのか気になってるし・・・」 ――まぁ、正直私は舞ちゃんに協力しているつもりはないし、かといってえりかちゃんと千聖のことを応援しているわけでもない。 もちろん、えりかさんえりかさん言ってる千聖のことを、自分の方に振り向かせたいと思っているわけでもないけど。 私自身が千聖に対して抱いている感情は、難しくてまだよくわからない。何と言っても2回ほどそういうアレをアレしてしまった仲だから、普通の関係じゃないことは確かだけれど・・・。 もうすぐえりかちゃんは、キュートを卒業する。そのことは、もうずっとずっと前に告げられていたら、寂しいけれど動揺はしていない。もうその時期は過ぎた。 でも、千聖は・・えりかちゃんは、今、何を考えているんだろう。キュートを離れてからはどうするつもりなんだろう。そして、私は残された千聖にどう接するべきなんだろう。 お嬢様の時の千聖は、何でも抱え込んでしまうところがある。えりかちゃんの卒業が近づいている今だって、一見何にも変わっていないような顔をしているけど、その胸のうちにある本当の気持ちなんて、実際のところわからない。 だから、今後の自分の身の振り方を考えるためにも、今日の2人の行動を追跡するのは有効かもしれないと思って、こうして尾行に参加させてもらったわけで。 私にとっては、誰と誰がくっつくとかそういう話じゃなくて、千聖が一番傷つかないで笑っていられることが重要なのだと思う。 千聖が幸せならそれでいい。その幸せを運んでくれるのがえりかちゃんなのか、舞ちゃんなのか、はたまた違う誰かなのか、しっかり見極めたい。 「カキ氷、溶けちゃうよ、舞ちゃん」 「うん。・・・エヘヘ」 ズタズタになったかき氷が、やっと本来の目的どおりに舞ちゃんのお口に運ばれていくのを確認して、私も放置気味だったシフォンケーキにフォークを入れた。 「あっ、これおいふぃ。ふわふわだー」 「本当?舞のあげるから一口ちょーだい」 「どーぞどーぞ!」 お互いいろいろ考えていることは違うんだろうけれど、とりあえず甘いものを堪能して、不穏な空気は回避できそうだった。・・・できそうだったんだけれど。 「お待たせいたしましたー。トロピカルフラッペでございます」 「「すっごーい!!」」 「ん?」 少し離れた席から湧き上がる歓声に、横目で視線を送ると、ちょうど噂のトロピカルなんとかが2人のテーブルに運ばれるところだった。 大盛りの氷を彩る、虹みたいにカラフルなシロップ。てっぺんには純白のアイスクリーム。それらを引き立てるように、側面にはマンゴーとかパイナップルとかバナナとか、南国情緒ただようフルーツがたくさん盛り付けられている。 これは、甘いもの大好きなえりかちゃんと千聖にはたまらない一品だろう。 「いいねー、あれ!おいしそう」 見てる私まで、関係ないのにテンションがあがってしまう。 「えー、こんなに食べれるかなぁ。千聖氷頑張ってね!ウチはフルーツとアイス担当になるからぁ」 「まあ、ずるいわえりかさんったら。ウフフ」 千聖がえりかちゃんをデコピンする真似をして、えりかちゃんは「ヤラレター!」なんてわざとらしくのけぞる。80年代か。2人はふざけながらさっそく氷の壁面を崩して、「おいしー!」と笑いあっている。 「ふ、ふふ・・・ふふふ」 「ま、舞ちゃん落ち着いて」 「ふざけんな」の「ふ」なのか、はたまた怒りのあまり笑い出したのか。舞ちゃんの小刻みに震える手で削られた氷が、また私に攻撃をしかけてきた。 「千聖、バナナ食べる?はい、あーんして」 「あーん。・・・おいしい。えりかさんも、あーん」 「やーだ、はずかしいよ」 「もう、千聖のも食べてください?ウフフ」 馬鹿か、貴様ら。何で煽るんだYO!舞ちゃんの大きな目は比喩じゃなくこぼれ落ちそうで、可愛らしい蕾のような唇からは「ちーがえりかちゃんのバナナを食べる・・・えりかちゃんがちーのマンゴーを食べる・・・」と深読みしてはいけない言葉が念仏のようにあふれている。 「で、出ようか舞ちゃん!」 隣のカップルのドン引きな視線に耐え切れず、私は半ば引きずるように、舞ちゃんの手を掴んでレジに向かった。幸い、トロピカルなんとかに夢中の二人はこちらには気づいていないみたいだ。 「マンゴー・・・バナナ・・・」 「・・・とりあえず、出てくるまで近くで待とうよ。そこ、ベンチあるし。」 「・・・次は、中華街だから」 「え?」 ふらつく舞ちゃんを支えるようにして、通りのベンチに移動すると、舞ちゃんは据わった目で私を見た。 「次、中華街に行くから。あの2人」 「え、どうして知ってr」 「つ ぎ は 中 華 街 だ か ら」 「・・・・・・・・はい。」 私の背中を、ひんやりした汗が一筋流れ落ちた。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「お待たせ。・・・あら、愛理?怖い顔してどうしたの?」 えりかちゃんにからかわれてムスッとしてたら、いつの間にか千聖が撮影を終えて戻ってきていた。プレゼント用のポラロイド写真を何枚か手に持っている。 「千聖ぉ。ううん、大丈夫。次私の番だよね?ちょっと行ってきまっす!」 これが終わったら、2人でお出かけなんだ。気を取り直して行こう。 「行ってらっしゃい。」 「千聖!早く!舞と一緒にメッセージ書くんでしょ?」 舞ちゃんにひきずられながらも、千聖は手を振って見送ってくれた。 「おっ。今日は手鞠の前列トリオか。」 廊下を歩いていると、後ろから舞美ちゃんとなっきぃがパタパタ走ってきた。三人一緒に撮影するらしい。 「こりゃ何だか珍しい組み合わせで、えーと、空いた時間などにいろいろな話ができそうだよね!なっきぃ!」 「そうだね!最近興味のあることとか、うーん例えば最近話題のショッピングスポットの話とかね!キュフフ!」 ? 「え、愛理どうしたの?」 「ハハ・・・」 何だろう。あきらかに不自然な会話だけど、意図がわからなくて突っ込めない。 2人とも、怖いぐらいにさわやかな笑顔だ。 えりかちゃんといい、今日はせっかくの千聖とのお出かけなのに、なにやら不穏な空気が立ち込めているような気がしなくもない。 「はーい。じゃあ次三人もっと近くに寄って。」 「はい!」 何枚目かのショットで、なっきぃと舞美ちゃんが私の背後に回った。 「「ミ・ル・ク・ジェ・ラート」」 「はっ!?」 「鈴木動かない!」 「あ、すみません。」 「キュフフ。愛理知ってる?こないだ横浜にできたショッピングモールにね、すーごくおいしいジェラートのお店があるんだって。」 なっきぃが小さな声で囁いてきた。 「そうかぁ!そこのミルクジェラートがおいしいってわけだねなっきぃ!」 「矢島!」 舞美ちゃんは声が大きい。 「愛理の大好きなミルクジェラートを食べながら」 「のんびりお買い物とかできるんだろうね。」 「甘くて柔らかいミルクジェラァートゥ」 「とろんとろんな口どけに2人の仲もとろけちゃう、とか言ってw」 「それが食べれるのはぁ、あのショッピングモールだけ!」 何なんだこの人たち。ジェラート屋さんのサクラ?わざとらしすぎる。 でもずっと耳元でジェラートジェラート言われていたら、だんだん食べたくなってきた。 3時のおやつに、千聖とジェラートなんていいかもしれない。 「はい、OKです!ポラにメッセージ書いて、後は解散でいいよ。次、梅田と有原ね。」 「ありがとうございまーす!」 「あ、あの舞美ちゃん。さっき言ってたショッピングモールって、横浜のどこにあるの?」 なぜか超ご機嫌でLALALAとか歌ってる背中に、思い切って声をかけてみる。 「おっ!行くの!?」 「うん、今度行ってみようかな。」 「へー今度ねえ。うん、場所はね・・・」 やった。行きたい場所が決まった。 「おかえりなさい。」 楽屋に戻ったら、千聖がパタパタ走り寄ってきた。 「あのね、今日のお買い物なんだけれど、さっきえりかさんに教えてもらった場所で、横浜に・・・」 「ジェラート!」 「えっ」 しまった。洗脳が。 「愛理?」 「ん、ごめん。」 「あのね、横浜にショッピングモールがあるんですって。可愛いアクセサリーやお洋服のお店がたくさん入ってるみたい。そこはどうかしら?」 「あー・・・うん、ちょ、待ってて。」 えりかちゃんが鏡越しに、ニヤニヤ笑いながらこっちを見ていた。 千聖をその場に残して小声で詰め寄りにいく。 「もしかして、舞美ちゃんたちとグルなの?」 「えー?何のことだか梅さんわかんないよ。」 「尾けたりしないでよ。」 「いやいや、私そんな暇じゃないもん。今日はデートなんだよ♪」 本当かなあ。 「舞美たちがどうとかってなんのことか知らないけど、今日はなっきぃも舞美も学校の用があって急いでるって言ってたよ?」 うーん。 確かに、2人ともわき目をふらずにポラにサインを書きなぐっているみたいだ。 先に書き始めていた舞ちゃんもびっくりしてその様子を凝視している。 「わかった。せっかく千聖も行きたいって言ってるんだし、そこにする。ジェラート、おいしかったら次はみんなで行こうね。」 「そだね。じゃあ、栞菜待ってるし撮影行って来るね。」 「うん。・・・ありがとう。」 その時の私は、後ろを向いた私の背後で三人がピースサインを出し合っていたなんて知るよしもなかった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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いろんな意味で いろんないみで (頭)本来の意図とは異なる見方をすると。
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グズグズ悩んでいるうちにキャプテンが私とみやを呼びにきてしまった。 「ちょっと待ってて、梨沙子と話がしたいんだけど。」 「みや、後でいいよ。」 「でも何か言いたいことがあったんでしょ?」 「いいってば!」 自分でもどうしていいかわからない気持ちになって、思わずみやに大きい声を出してしまった。 「・・・・そか。ごめんね。先、行ってるから。」 「あ・・・」 みやはちょっと悲しそうな顔で笑って、キャプテンと一緒に歩いていってしまった。 人に当り散らすなんて、一番やっちゃいけないことなのに。 それも、私を心配してくれているみやを傷つけてしまった。 「うー・・・最低だ。」 何だか悲しくなってきた。 今日は何もかも全部がうまくいっていないような気がする。 どうしてこうなっちゃったのかな。千聖の秘密を知ったとき、誰にも言わなければよかったのかな? それとも、ももだけじゃなくてみんなに言って相談するべきだったのかな? 「梨沙子、行こっか。」 まぁが何にも聞かないで、優しく肩を抱いて一緒に歩いてくれた。 みんな私に優しくしてくれてるのに、私は迷惑をかけてばっかりだ。 私なんか、ダンスの振り覚えるのは遅いし、歌だってももやみやみたいにかっこよく歌えてないし、すぐ集中力がないって怒られるし、 あ、ヤバイ。泣きそうになってきた。 「まぁ~・・・。」 私はちっちゃい子がママに甘えるみたいに、まぁの腰にしがみついて、引きずられるように部屋を移動した。 当然コメ撮りも最悪な感じで、私のところで何度もつっかえて撮りなおしの連続になってしまった。 なんだかんだ言っても、ももや千奈美は仕事になれば頭を切り替えてちゃんと仲良く目を合わせて笑ったりなんかしている。 みやだって、さっきのことはなかったように私に話を振ってくれる。 あぁ、私だけ子供だ・・・。 マネージャーから何度も何度も怒られてるうちに、大きな手に胃がギューッと握られてるような感覚になって、私はついにうずくまってしまった。 「梨沙子?」 「どうした?」 「・・・・・・・・・・・おなか、痛い。」 その後すぐのことは、あんまりはっきり覚えていない。 貧血みたいに体がグワングワンして、多分まぁと熊井ちゃんに抱えられて医務室に連れて行ってもらったんだと思う。 しばらく休んでいるように言われたから、体を横にしてブランケットに包まった。 午後の気持ちいいお日様のにおいに和んでウトウトしかけた頃、小さなノックの音が聞こえた。 ちょっとめんどくさいから、眠っているふりをしていたら、「シーッ」なんて言いながら人が入ってきた。 「寝てるね・・・」 この声は、愛理だ。嬉しくて飛び起きそうになったけれど、横にもう一人誰かいる感じだったから、そのまま寝たふりを続けた。 「ベリーズもコンサートが近いから、スケジュールが詰まっていて疲れてしまったのかもしれないわね。」 「だね。」 この喋り方。 私が自販機の前で、偶然聞いてしまったあの時と同じだ。 舞ちゃんの吐き出す言葉を、優しく包み込んでいた・・・・ 千聖だ。 ももや私に見せていたのとは違う、今の千聖の本当の姿でここにいるんだ。 目を開ける勇気は出なかった。 私が起きてると知った時の、愛理と千聖の慌てる顔を想像したらなんだか辛くなってしまった。 「お熱はないみたいね。何か、飲み物でも用意しましょうか。」 ちょっと体温の高い、丸っこい指が私のおでこに触れた。 「あ、じゃあ小銭あるから私行って来るね。梨沙子のこと見ててあげて。・・・あと、今のうちに明るい方の千聖になっておいて。」 「ええ。」 愛理が扉を閉める音がした。 ついに2人っきりだ。 もう今からじゃ、ももに助けを求めることなんてできない。 薄目を開けて見つめた千聖の顔は、別人みたいに落ちついた優しい顔で、私はなんともいえない恐ろしさを感じた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ “舞ちゃん、もうちょっと千聖のこと優しく扱ってあげたら。” 前にそう言っていたのはなっきぃだったっけ。それともえりかちゃんかな。 私は昔から、千聖をどこかに連れて行くとき、手首や肩を掴んで引っ張る癖があった。 千聖も特に何も言わなかったから、指摘されるまで気づかなかった。 あんまりお行儀のいい行動じゃないから控えるようにはしていたけれど、気をつけていないとついやってしまうみたいだ。 そう、今みたいに。 「舞・・・・さん」 千聖の苦しそうな声で、はっと我に返った。 顔をあげると、痛みに耐えるような表情の千聖と目が合う。 私は力いっぱい千聖の両腕を握り締めていたみたいだ。 「ごめん・・・」 謝って力は緩めるけれど、千聖の体から手を離すのは嫌だった。 触れたままの千聖の二の腕が、熱を持っているのが伝わる。 私の手もズキズキ痛んでいるぐらいだから、千聖はもっと痛かっただろう。 「舞ちゃん・・・ちっさー痛そうだよ。放してあげて。」 栞菜がそっと私の手に手を重ねる。 「もう、今のちっさーを受け入れようよ、舞ちゃん。 ちっさーはね、大好きな舞ちゃんが自分のせいで傷つくからって、キュートをやめようかって私に相談してきたんだよ。」 「栞菜、その話は」 「ううん、言わせて。・・・・・舞ちゃんは、そんなこと望んでないよね?でも、今のままじゃちっさーは舞ちゃんのためにいなくなっちゃうかもしれない。 私は嫌だよ。めぐがやめちゃって、ずっと7人で頑張ってきたのに。もう大好きな人がいなくなるのはやなの。舞ちゃんも、ちっさーも、みんなでずっと一緒にこれからも頑張っていきたいのに。」 最後の方はもう悲鳴のような声になっていたけど、栞菜は私から目を逸らさずに思いをぶつけてきた。 でも、私の耳にはその言葉が半分も入っては来なかった。もっと大きすぎる衝撃で、頭が真っ白になってしまっていたから。 ・・・千聖が、キュートを? 辞める? 私が責めたから? 「わ・・・・私は・・・・」 違う。 私はそんなことを望んでいたんじゃない。 でも、私のせいで、千聖は 「舞美、・・・・何がどうなってるの?千聖が辞めるって、どうして?お願い、ちゃんと説明して。」 背後でキャプテンの声が聞こえた瞬間、私の心は現実に戻った。 「千聖がやめることなんてない。」 自分のものとは思えない、低い声が口を飛び出した。 栞菜の手も千聖も振り解いて、ドアの方に向かって歩く。 「舞ちゃん!」 「・・・・しばらく一人にして。その間に、みんなに千聖のこと話して。」 不思議な感覚だった。体全部が心臓になったみたいにドクドクしているのに、頭は冷え切っている。 「・・・・・千聖がやめるぐらいなら、私がいなくなるから。」 吐き捨てるような口調でそう言い残して、早足で去っていく。 誰も追いかけてこない。たまたま目にした衣裳部屋に入って、隅っこで膝を抱えてうつむいた。 私は、何をやっていたんだろう。 まったく自覚のない涙が、ポツリと一滴膝に落ちた。 次へ TOP
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「・・・・ごめん。」 私よりも先に冷静になった愛理が、難しい顔のまま謝ってきた。 息が荒くなって、手が震えている。愛理らしくもない。こんな風に他人と思いっきりぶつかることなんてほとんどないんだろう。私を見つめる丸い目に、まだ興奮の色が残っている。 「あ・・・ほ、ほら、舞ちゃんも謝ったほうがいいんじゃないの?何かよくわかんないけど。ね、だよね、舞美?もーやだなあ、怒ってたのは私なのにさ。アハハ・・・」 「は、はは。そうだね。舞、愛理と仲直りしよう。」 すっかり私たちに圧倒されて落ち着きを取り戻したちぃが、慌てて私を宥めにかかった。 聞き分けのいい愛理は、すなおに仲直りの握手をしようと手を差し伸べてくる。 でも私は、その手を握ることができなかった。 ここで愛理に謝るのは、千聖のことをみんなに話していいと了承することと同じだ。それだけはできない。 「舞ちゃん、私も言いすぎた。仲直りしようよ。」 「舞ちゃん。」 「ほら、舞ちゃん意地はってないで。」 ああ、まただ。 また私が悪者になっちゃうのか。 そんなに、前の千聖に会いたいと望むことはいけないことなの? 「舞。」 私は無言で、舞美ちゃんの手を払いのける。 自分が正しいという自信があるのなら、たとえ味方がいなくても戦える。 でも今は、足元が揺らいで心もとない。 みんなも私と同じように、千聖のことを思っているというのがわかっているからだ。 前にもこんなことがあったな。 千聖があの千聖になっちゃうずっと前、多分まだ2人とも小学生のときだった。 私はちょっとした誤解でマネージャーからこっぴどく叱られたことがあった。 でも私は、自分は間違っていないと頑として謝らなかった。 みんなは私に謝れと言う。 私は自分の潔白を証明する言葉がわからなかったから、拳を握り締めて大人を睨み付けることしかできなかった。 その時、千聖だけは私をかばってくれた。 事情なんて知らないくせに、私を守るように前に立って、鼻水たらして大泣きしながら反論してくれたのだった。 舞ちゃんはそんなことする子じゃない、舞ちゃんは悪くない。 そんな風に泣きわめいて、全面的に私を信じてくれた。 結局それがきっかけになって私の無実は認められ、千聖は泣いてぶっさいくになった顔で照れくさそうに笑っていた。 そう、いつも千聖は私のことを一番に信じて、わかってくれるんだ。 きっと今、ここに前の千聖がいたら、あの時と同じように私を守ってくれるだろう。 私にとって、千聖は大きな支えであり、理解者でもある。その支柱がなくなったら、私はただの自分勝手なワガママ人間になってしまう。 私にはやっぱり、どうしても千聖が必要なんだ。元気で、明るくて、私を勇気付けてくれる、前の千聖が。どうしてもこれだけは譲れない。 「・・・・えっ、何これ。どうしたの?」 突然私の耳に、久しく聞いていない独特の甘い声が届いた。 「えっ、な、なんかあったの?梨沙子大丈夫?」 「もも~・・・どうしよう、みんなに千聖のことが」 梨沙子が泣きながら駆け寄っていく先には、ももちゃんと 千聖。 軽く目を見開いた千聖が、戸惑った表情で部屋を見回していた。 「ちっさー、お帰り。」 「ええ・・・あの」 「待って!」 舞美ちゃんと千聖が話を始める前に、私はみんなを押しのけて、両手で千聖の腕をきつく掴んだ。 「きゃっ」 「舞!?」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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それから千聖は、私を連れて順番にみんなのところをまわった。 「千聖ぉ~」 「さっきは、心配してくださったのにごめんなさいね、早貴さん。茉麻さんと友理奈さんも。」 駆け寄って来たダチョウ倶楽部…じゃなくてネプチューン…じゃなくてくまぁず+なっきぃに、深々とお辞儀をする千聖。 「いいよそんなの。お帰り、二人とも。キュフフ」 なっきぃはいつもどおり、明るい声で笑ってくれた。 「また友理奈さんって言ってるー。ウチも千聖さんて呼ぼうかな。」 「まあ、嬉しいわ。」 不思議ちゃん同士の、新しい友情が芽生えたみたいだった。 妙にポワポワした会話に、なっきぃたちと目を合わせて笑ってしまった。 「…千聖。」 茉麻が千聖の肩を抱く。 「キャラ変わって大変なこともあると思うけど、まぁはいつでも千聖のこと抱き締めてあげるから。一人で抱え込んだらダメだよ。」 「茉麻さん…」 千聖を慈しむように見つめるその顔は本当のお母さんみたいに優しくてたくましかった。 「わたしはベリキューみんなの茉麻ママなんだからね。聞いてる?舞ちゃんにも言ってるんだよ!」 「「は、はい!」」 思わず千聖と声を合わせて返事をすると、茉麻は満足そうに笑った。 「あっ、そうだ千聖…さん、何かね、お嬢様の手助けができるような説明書とかないかな?」 「説明書?」 「ウチなんかそういうのあると安心するからさあ、何でもいいの。千聖の手引書とか、千聖マニュアルとか…あれ、ウチなんか変なこと言ったかな?おーい…」 熊井ちゃんは、超能力でもあるのか。 岡井千聖マニュアルを持ってコピー機へ走るくまぁずを見送って、次はソファでくつろいでる三人のところへ向かった。 「あー!やっと来た!おー嬢様ー!」 「きゃん!」 よっぽど待ちくたびれていたのか、千奈美は千聖の腕を掴むと、自分の横に据え置いた。 「千聖ぉーみずくさいなあ。ちぃに相談すれば一発で全部解決したのに。これからはもっと頼ってよね。ベリーズで千聖が頼れる相手は桃だけじゃないもんにー!」 「ちょっとそうやってまた変なこと吹き込んでさー!いい、千聖?徳さんはアテにならないんだから。やっぱり千聖のお姉ちゃんはわ・た・し!」 「ウザッ・・・今日からはウチがお姉ちゃんだよ千聖!」 「ももだよ!」 「ウチだってば!」 「あ・・・あのぉ~お二人ともぉ~・・・」 桃ちゃんと千奈美は千聖を両側からひっぱり合う。 こないだ国語の授業で習った、大岡裁きというやつを思い出した。 でもこの二人じゃ、千聖が二つに分裂するまでひっぱり合いそう・・・ そんなことを考えていると、 「舞。」 舞美ちゃんが私の横に腰を下ろした。 「心配かけてごめんね、お姉ちゃん。」 「何言ってんの。舞は戻ってきてくれたじゃないか。がんばったね、本当に。舞はキュートの・・・・私の誇りだよ。」 私の頭を力強い手がクシャッと撫でる。 舞美ちゃんは、いつも私を見守ってくれた。 私が千聖を傷つけてしまった時も、 独りよがりな思いでみんなとぶつかった時も、 舞美ちゃんは私を見捨てないでくれた。 「お姉ちゃん。」 「まだ、そう呼んでくれるの?私、舞にも千聖にも何もしてあげられなかったのに。」 「そんなこと言わないでよ、お姉ちゃん。私たちが仲直りできたのは、舞美ちゃんたちのおかげなんだからね。」 「あーっ舞舞美がイチャイチャしてる!」 ちぃにからかわれて、私たちはパッと体を離した。 「まあまあ、私たちのことは気にしないで!さあ、ちさまいは次行ってきな!」 照れた全力リーダーが、桃ちゃんとちぃから千聖をもぎとって、私の方へぶん投げた。 「ちょっとー!まだしゃべってたのにぃ!」 桃ちゃんたちのぶーたれる声を背に、私たちは次の目的地に向かった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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夢の中で、私は籠の中に閉じ込めたちっさーを眺めていた。 ちっさーはちょうちょだった。 あの可愛いリボンのワンピースを着て、レモン色をもっと薄くしたような、綺麗な羽を震わせている。 小さな触覚。小さな手足。小さな羽根。 とても可愛くて思わず手を差し入れたら、私の爪先よりも小さなちっさーの手が、けなげに人差し指を握ってきた。 ここから出して、と言われてるみたいだ。 もうずっと昔、私は幼稚園で捕まえたモンシロチョウを虫かごに入れて家にもって帰ったことがあった。 図鑑を読んで、えさを調べて、一生懸命お世話をしたけれど、モンシロチョウはすぐに弱ってしまった。 泣きながらお母さんに助けを求めると、お母さんは私をなぐさめながらこう言った。 「ちょうちょはね、せまいところでは生きていけないの。お花がたくさん咲いてる広いところに、帰してあげよう。」 お母さんと手を繋いで、ベランダからモンシロチョウを外に出してあげたあの日のことは、なぜか今でもはっきり覚えている。 風に煽られながらどんどん遠ざかる白い羽を眺めて、私はどんなに大切にしていても、ひとりじめはできないものがあるということを学んだ。 そっか、ちっさーは今ちょうちょだから、ちゃんと自由にさせてあげなきゃいけないんだね。 「ごめんね。」 籠の鍵を開けて、人差し指にしがみついたままのちっさーを外に出してあげた。 これでよかったんだ。私は空っぽになった籠を見つめて、不思議と幸せな気持ちになっていた。 “メールだよ!メールだよ!” 着信音で、私の意識は現実に引き戻された。 喉がヒリヒリして、瞼が痛い。 時計を見ると、もうすぐお昼になるぐらいの時間だった。 今日は休日で仕事もない。 普段なら学校の友達や、えりかちゃんや愛理と遊びに出ているところだけれど、今日はとてもそんな気分になれなかった。 ちっさーと私がレッスンの合間に大トラブルを起こしたのは昨日のことだった。 私は大泣きして、自分で立ち上がれないほどに打ちのめされてしまったから、そのままタクシーで自宅に送り届けられた。 私の家につくまでえりかちゃんが側にいて、ずっと手を握ってくれていたけれど、ちっさーはあの後どうしたんだろう。 みんながついていたから、きっと一人ぼっちではなかっただろうけど。 「まだ泣いてるのかな・・・」 私を睨んでいたちっさーの顔が、後悔と悲しみに染まっていくあの瞬間を思い出すだけで、また涙が溜まってくる。 ちっさーが本当に、私のことをエッグだから区別していたのかなんてもうどうでもいい。 そんなことより、優しいちっさーにあんな顔をさせてしまったことが悔しくてしかたがなかった。 さっきの夢の中みたいに、早くちっさーを解放してあげればよかった。 少し時間を置いたら、ちっさーは私のことを許してくれるだろう。 でももう私たちは二度と心から笑い合えないかもしれない。 「ちっさー・・・ちさと・・・」 枯れるほど流したはずの涙が、まだボロボロとほっぺたをすべり落ちていく。 それを乱暴にぬぐいながら、さっき来たメールを見ようと、まだ着信ランプの光っているケータイに手を伸ばした。 「栞菜ー。ちょっと」 その時、ちょうどお母さんが私を呼ぶ声がした。 何だか急いでるみたいだから、とりあえずケータイは置いてリビングに向かった。 「・・・・えりかちゃん。」 リビングのガラス扉に背中を向けて配置されたソファに、お母さんと楽しそうに話しをする見慣れた背の高い後姿があった。 「来ちゃった。ごめんね、連絡もしないで。」 「ううん。・・・栞菜の部屋、行こう。」 こんな私にも、まだこうやって訪ねて来てくれる人がいるんだ。 そんなことを思ったらまた泣きそうになってしまって、私は早足で部屋に戻った。 「タピオカジュース、買ってきたんだよ。栞菜ここの好きだって言ってたでしょ。」 返事ができない。 何か言ったら感情が溢れてしまいそうで、私は必死で歯を食いしばった。 「栞菜。」 えりかちゃんはいつもと変わらない態度で、私の横に座って、髪を撫でてくれた。 気持ちが押さえきれない。 「私、ちっさーにひどいことした・・・もう自分が嫌だ。」 言葉を吐き出すとともに、えりかちゃんの胸に飛び込んだ。 「栞菜、大丈夫。栞菜が思ってるよりずっと、みんな栞菜のことが大好きなんだよ。ちっさーだって同じだよ。」 「でも、私は・・・」 「何があったのかはわからないけど、本当に意地悪な人はそうやって自分以外の誰かのために泣いたりできないよ。ウチは栞菜の優しいとこ、たくさん知ってる。そんなに自分を責めたらウチも悲しくなっちゃうよ。」 えりかちゃんの言葉全てが心に沁みて、悲しいのと嬉しいのがごっちゃになった涙が次から次へと溢れた。 ひとしきり泣いて落着いてから、えりかちゃんの持ってきてくれたタピオカジュースを2人で飲んだ。 丸くて甘いつぶつぶが、疲れた喉を優しく撫でるように通っていくのが気持ちいい。 女の子には時々甘いものが必要だって何かの歌にあったけれど、確かに今の私にのささくれた心も、優しくてとろけるような甘い味を求めていたみたいだ。 少しずつ気持ちが落ち着いていく。 今なら、冷静に話ができそうだと思った。 「えりかちゃん、栞菜の話、聞いてくれる?」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 電車のドアが開くと同時に猛ダッシュで階段を駆け上がり、PASMOを叩き付けて改札を飛び出した。 なっきぃから涙声の電話をもらってから約30分で、私はレッスンスタジオの最寄り駅に到着した。 …なっきぃ、何があったの。 今日はなっきぃと栞菜がちょっと言い争いになった。 私は揉め事や喧嘩が苦手だから、いつもみたいにすぐに割って入った。 なっきぃが引き下がってくれてその場は収まったけど、もしかしたら私の強引な仲介が泣くほど辛かったのかもしれない。 あるいは栞菜と鉢合わせになって第2ラウンドが…そっちか!栞菜か! 「開けるよ、なっきぃ!栞菜!」唯一電気が点けっ放しだったロッカールームに直行して、ドアを開ける。 「…………あれ?」 なっきぃはいたけど、栞菜はいなかった。 栞菜はいなかったけど、ちっさーと舞がいた。 「みぃだん…」目を真っ赤にしたなっきぃがしがみついてきた。 一体これはどういう状況なんだろう。 ドアに近いベンチでなっきぃが顔を覆っていて、一番奥のロッカーの前でちっさーがぼんやりと空を見つめていて、そのちっさーの肩に指を食い込ませながら舞が何かを呟いている。 「どどどうしたの、なっきぃ。栞菜は?」 「…?栞菜?いないけど」 「そっか。」 だとしたら、なっきぃは一体何で泣いてるんだろう。 いや、なっきーだけじゃなくて、あの二人も。 「何があったか聞いてもいい?」 「いいけど、うまく答えられないと思う。」 「そっか。」 とりあえずなっきぃは落ち着いたみたいなので、私はちっさーと舞のほうに向かった。 「大丈夫?二人とも。」 「舞、美さん」 ちっさーは相変わらず、夢でも見てるような顔でこっちを見た。 「やだ!舞美ちゃんに話しかけないでよ!」 突然、舞が起き上がってちっさーを突き飛ばした。 「ちょっと!舞!」 お嬢様化したちっさーのことが気に入らないのは知っていたけど、こんなことを許すわけにはいかない。 「もうやだよ、舞美ちゃん・・・舞どうしたらいいのかわかんないよ」 「舞・・・・」 舞も泣きながら私の腰にすがり付いてきた。 右になっきぃ、左に舞。 ちっさーは相変わらず表情のない顔で私たちを眺めていた。 「あの、さ、とりあえず今日は帰ろう?タクシー呼んで四人で帰ろうよ。もうけっこう遅い時間だし。また今週中にレッスンあるから、そのとき話そうよ。うん。今日は落ち着いたほうがいい。」 「・・・そだね。」 力なく立ち上がったなっきぃが、荷物をまとめ始めた。 「・・・・舞美さん。私、父が迎えに来てくれるので。早貴さんと舞さんとご一緒にお帰りになって。」 「でもちっさー」 「舞さんって呼ばないでよぉ・・・・!バカ!」 ずっと黙っていたちっさーがやっと喋ってくれたけれど、何か言うたびに舞が過剰反応してしまって、あまり会話にならない。 こんなに情緒不安定な舞を見たのは初めてだった。 「大丈夫です。私のことはお気になさらないで。」 「ほら気にするなって言ってる。もう帰ろう。」 ど、どうしよう。こんなことになるとは思ってなかった。 いくら鈍い私でも、今ちっさーと舞を一緒にしておくわけにいかないのはわかった。 舞もちっさーも、私の決断を待つように黙り込んだ。 「千聖。お父さんはいつ来るの?」 沈黙を破って、なっきぃがちっさーに話しかけた。 「きりがないから、私たちは三人でタクシー乗って帰るよ。でも、千聖のお父さんが来るまでは待つ。それでいいよね、みぃたん。」 「あ・・・うん、うん!それがいいよ!なっきぃの言うとおり。ちっさー、パパは今どのへんかな?」 すると急に、ちっさーの顔がこわばった。 「え、どうしたの?パパ遅くなりそうなの?」 ちっさーは何も答えない。 「・・・千聖。本当はお父さん、来ないんじゃないの。」 「え」 なっきぃが聞くとほぼ同時に、ちっさーは私たちの横をすり抜けるようにして、ロッカー室を飛び出していった。 「ちっさー!」 「嫌!二人とも行かないで!舞と一緒に帰るんでしょう!?」 必死にしがみつく舞の手を離すことはどうしてもできなかった。 リーダーなら・・・・こんな時どうするべき?私じゃなくて、佐紀だったらどうしてる?先輩達なら・・・ 「私、追いかけてくる。」 私がもたついてる間に、なっきぃが走り出した。 再び泣き出した舞の頭を撫でながら、私は今までの人生最大ともいえる挫折感をじわじわと味わっていた。 私、ちっさーを見捨てちゃったことになるの? 本当にこれで良かったの? キュートは問題のないグループだと言われていた。 でもそれは、皆がお互いを温かく守りあっていたから。 私の力なんかじゃ絶対にない。 むしろ、こういうときに決断もできないような私がリーダーだなんて。 「ご、ごめん。見失っちゃった。どうしよう・・・・。」 しばらくしてなっきぃが戻ってきた。 必死で追いかけたんだろう、呼吸がすごく乱れている。 「ありがとうなっきぃ。じゃあ、まずちっさーのパパとママに連絡してみよう。」 携帯を開いてアドレスを確認していると、いきなり画面が着信通知画面に変わった。 「ちっさーだ!」 急いで電話に出た。 「もしもし、ちっさー戻っておいで!」 “舞美さん・・・・・私、ごめんなさい。大丈夫ですから。一人でも平気です。” 「何言ってんの。ダメだよ。一緒に帰らないならちっさーの家に連絡するよ。」 “両親には、今連絡を取りました。私のことなんかより、舞さ・・・・・ま、舞ちゃん・・・をお願いします。” それだけ言うと、ちっさーは電話を切ってしまった。 「ねぇ、舞。ちっさーが舞のこと、舞ちゃんって言ったよ。良かったね。」 「・・・・その人に言われても嬉しくない。」そっか。難しいね。 「みぃたん。そしたら、本当に千聖が連絡とってるのか確認とって、OKだったら私たちもここ出よう。もう本当に時間やばいから。」 あぁ、なっきぃは冷静だ。順序を考えて行動している。 それに比べて私は何て。 「連絡取れた。千聖から迎えにきてほしいって電話あったって。」 「そか。じゃあ、私達も出よう。」 三人とも無言で、ビルの出口を目指す。 突然呼び出されて、突然の事態に対応できず、しまいには助けを呼んだひとに助けられてしまった。 私、バカじゃなかろうか。 タクシーは既に入口に止まっていた。これもなっきぃが手配してくれたのかもしれない。 凹んだ気持ちのまま乗り込むと、疲れ切っていた舞が寄りかかってきて、そのまま寝込んでしまった。 本当はこんなになる前に、私が気づいてあげるべきだったのに。つくづく鈍感な自分が嫌になった。 「みぃたん。」 「ん?」 「来てくれて、ありがとう。みぃたんがキュートのリーダーで良かった。」 キュフフと照れたように笑うと、なっきぃも寝る姿勢に入った。 単純な私はこんな一言だけで十分浮上できるみたいだ。 結局、何があったのかはわからなかった。でも話すべき時が来たら、いつかは教えてくれるだろう。 こんなリーダーでも、頼ってくれる人がいるんだ。もっともっと頑張っていかないと。 ・・・ちゃんと、舞とも話をしないとね。 両肩に二人分のぬくもりを感じながら、私はちっさーへのメールを打ち始めた。 ******************** どこをどう走ったのかもうわからない。 レッスン着に室内履きのまま、私はにぎやかな街の中を一人で彷徨った。 いつの間にか大粒の雨が降り出して、体中を打ち付けられた。 もう涙は出なかった。 頭がぼんやりして、何か考えようとしても何も思いつかない。 私のせいで、私が存在することで、大切な人が傷ついてしまう。 もうあの場所にはいられない。濡れて帰るにはちょうどいい気分だった。 狭い路地を何度か曲がった辺りで、私はバッグの中で携帯が振動していることに気づいた。 「あぁ・・・・」 早貴さんや舞美さんから、たくさんの着信。メール。 こんな私をまだ心配してくれるなんて、本当に優しい。 画面をスクロールしていくと、早貴さんの前に、もう一通メールが届いていた。 「栞菜。」 たわいもない、雑談のメールだった。 それが何故か今は心にしみてくる。 栞菜に会いたい。 もう何も考えられないぐらいに疲れ果ててていたけれど、私は力を振り絞って返信を打った。 《栞菜にお話ししたいことがあるの》 次へ TOP