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前へ 「・・・・・」 「・・・」 ダンスレッスンの休憩中。 スポーツドリンクを飲んでいると、無言の舞が隣に座った。 そして、私の顔をじーっと睨み付けながら、ため息をつく。 「なに?どうかしたの」 「は?なんでわかんないの。ほんとちしゃとってさぁ」 ったく、なにイライラしてるんだろ。女の子の日なのかしら。なんて、言ったら余計に機嫌を悪くするのはわかっているので、黙ってるけど。 「あのさ、舞ちゃん。千聖はガチで鈍いから。何にも言わないで、何かをわからせようってのは難しいからね。自分で言うのもなんだけど」 そう切り出すと、舞はわざとらしくため息をついて、肩をすくめた。 そして、こんなことを言い始めた。 「舞、知ってるんだからね。」 1. 遠征の時、また舞美ちゃんの部屋に行ったでしょ! 2. みやとこそこそメールしてるでしょ! 586 お疲れ様です 2が楽しそうかな 「こそこそみやとメールしてるの、舞知ってるんだからね」 「は・・・」 うわあ・・・ばれていたとは。 仕方ないか。舞はいつだって、私の携帯を、まるで自分のもののように勝手にいじくってしまうから。 メールも写メも、どんなアプリで遊んでるかさえも、舞はきっと把握していることだろう。だけど・・・ 「てか、みやびちゃんからのメールにはパスがかかるようになってるはずなんですけど。何でメールきたとか知ってんの、おかしいじゃん!」 「え、簡単にわかったけど。パスワード。Miyabichandaisukiでしょ?」 「うわあ・・・・・」 なんだこいつ。ストーカーか。そんなに好きなのか、千聖のことを! いや、だがしかし、これは困ったことになったのだ。 なぜなら・・・ 1. みやびちゃんは、なんかエッチなメールを送ってくる 2. みやびちゃんに、お嬢様がいろんな人とアレなことを相談している 588 2かな 589 2かな… 「なんだよ、miyabichandaisukiとか。舞に申し訳ないと思わないの?」 「別にいいじゃんか。てか舞に関係あるの?」 そう反論したら、舞のやつ、すごく悲しそうな顔をしてきた。 だってだって・・・うちら別に、恋人同士じゃないじゃんか。これは浮気でもなんでもないのに。そんな表情を見せられると、自分が悪いんじゃないか、なんて思わされてしまう。 「・・・メール、中身、みたの?」 「見た」 私は思わず、ため息をついてしまった。 みやびちゃんに送っていたメール。それは、お嬢様のときの私が、いろんな人とフテキセツな関係を持っていることについての相談だったから。 ℃-uteのメンバーでは近すぎて打ち明けにくく(というか、全員当事者だし)、パパにもママにも言えない。地元の友達なんて絶対ダメ。 私は客観的に、お嬢様のやっていることを見てほしかった。だから、周りの人の中で一番おとなっぽいみやびちゃんに、話を聞いてもらっていた。 “別にそんなに悪いことじゃないと思うけど” みやびちゃんは、そう言っていた。 それが千聖の気持ちを落ち着ける行為なら、いいんじゃない?と。 なるほど、そういう考え方もあるのか。と私は少し気持ちが楽になった。 だけど、舞はそんな風には考えてくれないだろう。 鈍い私だってさすがに、わかっているんだ。舞が私をどういう目で見ているのか、ぐらい。 「・・・みやの意見、正しいと思ってる?」 案の定、舞は表情を硬くして、厳しい口調で問い詰めてきた。 「正しいとか、よくわかんないけど。 千聖じゃ考え付かないような意見だったから、すごく参考になった」 「何それ。じゃあまだやめないってこと?舞美ちゃんと触りあったり、愛理と」 「あー、もう、声大きいから!」 スタッフさんとか周りにいるのに、舞はどんどんヒートアップしていく。 わかってる。たぶん私は、すごくかわいそうなことをしているんだろう。 今ここで、舞が納得するような言葉をかけるのは簡単なことだ。でも、そんなことをして、何になるというんだ。どうせ、私はまた・・・ 「とりあえず、レッスン終わってから話そう」 私は舞の手を取って、半ば無理やり体を起こさせた。 しぶしぶながらも、それに応じてくれる舞。 すでにストレッチを始めているみんなのところへ、二人で歩いていく。 「ちしゃと。これだけはさきに言っとくけど、舞はね、何もあれ自体をやめさせようっていうんじゃないから」 「んん?なに、どういうこと」 「・・・・だから」 1. 舞美ちゃんとちしゃとがしていることを、したいでしゅ 2.なっきぃが持ってた雑誌に書いてあったことがしたいでしゅ 593 なっきぃはどんな雑誌持ってたんだw 2で 「舞はあれがしたいな、なっきぃが読んでた雑誌の・・・」 「はい、休憩終わり!℃-ute集まって!」 ちょうど、ダンスの先生が私たちを呼びに来てしまって、話はそこでぶったぎられた。 中島の野郎、また変な雑誌を。まったく、かわいいなかさきちゃんはどこへ行ってしまったんだ。 前もそうだった。ギョカイのエロビデオのせいで舞が頭パーになって、私はセクハラみたいなことをされたんだ。 今度はいったいなんだ。私に何をしようっていうんだ。あのくっそ魚介類が(ry 「岡井!集中!」 結局私は、舞の発言が頭から離れず、ミス連発で叱られまくるという失態をさらしてしまったのだった。 * * * * * 「おい、ギョカイ。雑誌見せろ」 レッスン終了後、舞がマネージャーさんと話している隙を見計らって、私はナカジマのかばんをがっと掴んだ。 「は?え?なに?」 有無を言わさず、中にあった冊子を引きずり出す。 ギャル系のモデルさんが元気に笑う表紙。その特集ページの見出しを見た私は、思わずその雑誌で、なっきぃの頭をスパーンとやってしまった。 「ギュフーッ!」 「おっまえふざけんなし!」 “プチレズエッチで、キレイを磨こぅ★女の子同士だから安心だょ” これだ。これに決まってる。舞が言ってるのは、間違いなく。 「何がプチレズだ!そういうことはねぇ、お気軽にやるもんじゃないんだよっ」 「えええ?千聖が言うことじゃないでしょうが!やじさんにえりかちゃんに」 「うるさいだまれ!どーすんだよ、また舞がおかしくなったら」 私の発言で、だいたいの事態を理解したらしいなっきぃ、「だからさっき、熱心にこれ読んでたんだね、舞」なんてしみじみつぶやいている。 「え、でもさー、千聖だってさー、そんなこと言ったってさー」 「なんだよ」 「みやびちゃんで考えたら、ちょっと興奮すんじゃないの?キュフフフ」 1. リ ・一・リ<いいえみやびちゃんは女神様なのでそういう(ry 2. モジモジ リ*・一・;リ ソワソワ 596 キモオタのちっさーなら1でしょw 597 遅ればせながら1で でも展開によっては2にも 「・・・なんか勘違いしてるようだけど」 私はナカジマの肩をガッとつかんで、強制的に着席させた。 「いいですかちさとのみやびちゃんへのきもちというのはそんなよごれたものではなくもっとキラキラしたあこがれとそんけいとがいりまじったきよらかなものであって」 「キモ・・・」 ありえない。みやびちゃんという存在は、もっと千聖の手の届かない、はるか遠くにいる人なのだ。 だからこそお嬢様の行動を相談できるし、その言葉はすーっと胸の中に入ってくる。 「…じゃ、じゃあさ、やじーは?」 「舞美ちゃん?」 「そ。だって、リアルに今、お嬢様とアレしてるのは、やじーでしょ? この雑誌に書いてあるのは、二人がやってることとそう変わらないと思うよ」 ――舞美ちゃんとしていること、か。 ぶっちゃけ、お嬢様が勝手にしていることとはいえ、私だって、まあ若干ちょっとはわかっているんだ。 ベッドに寝かされて、舞美ちゃんが覆いかぶさってきて、あの大きくて少し乾いた手で体をなでてきて、さらに気分が乗ってくると、ぎゅーってして、心臓の音とかがじかに体に響いたりして・・・ “千聖、かわいいね。怖くないから、力抜いて・・・” 「キュフフフ・・・千聖、今ちょーエロい顔してる」 「はぁ!?してねーし!」 ――いや、してたんだろうけど。だってしょうがないじゃないか、あの超男前(?)のやじさんですよ。 じーっと見つめられたり、かすれた声で耳をくすぐられたら、そりゃあもう、グフフ・・・ 「ふーん、舞美ちゃんならアリなんだね」 「うわあ!」 気が付くと、舞がナチュラルに背後にたたずんでいた。 私の肩にあごを乗っけて、耳に息を吹きかけてくる。 「あぅ」 なんだその技は。さっそく、ギョカイのエロ雑誌を役立てているのか。 貞操の危機を感じて、私は慌てて体を離した。 「ま・・・とりあえず、みやとのメールのことは不問にしてあげる」 「あー、そりゃどうもね」 「でもそのかわり、舞から1つ、お願いがありましゅ。さっきも言ったけど・・・」 「・・・この雑誌に書いてあること、やりたいっていうんだろ」 聞くまでもない。私は舞の目の前に、その表紙をずいっと突き出した。 「わかってるなら話は早いね。いつにする?今日?あるいは今日?もしくは今日?」 1. リ*・一・リ<・・・ウフフフ、舞さん。ごきげんよう 2. リ ・一・リ<・・・ちょっと待ってて、ママに電話してくる 600 お嬢様はいざというときに出てきて欲しいから2で 601 2でお願いします 長い付き合いだ。私だってさすがにわかっている。 こうなってしまったら、舞は絶対に譲らない。 私に選択肢なんて残されてはいないのだ。願わくば、あまりヒドイことをされませんように。そう祈るのみだ。 「・・・ちょっと、ママに電話してくるから待ってて」 「は?言うの?舞とエッチするって」 「言うわけないでしょ!帰り、遅くなるって伝えるだけ」 余計なことを言えば、ママには何かしら気づかれてしまうだろう。 18歳になって、仕事の時間に制限がなくなって、ラッキーだったのかもしれない。シンプルに、仕事で遅くなるからとだけ伝えて、私はすぐに二人のところへ戻っていった。 「おかえり、ちしゃと」 「おー・・・」 舞ちゃん、めっちゃにこにこしてる。 可愛いけど怖い。私が席を外してる間に、また余計な学習をしたんじゃないかと。 「ちしゃと、仮眠室空いてるってさ。よかったね!」 「は・・・」 舞の言う、“仮眠室”とは、事務所の上の階にある、寝泊り用の部屋のこと。 朝早いときとか、許可があれば使わせてもらえるから、私も何度か利用したことがある。 「あそこでやるのかよ・・・」 「だって、家じゃ無理だし」 「あ、でもねさきが調べたところによると、ラブホテルって女の子同士でも入れるらしいよ!」 「お前マジ黙ってろギョカイ」 どうにも、気持ちが晴れない。 たった1歳とはいえ、一応私は舞より年上なわけで・・・本音を言ったら、あまり、主導権を握られたくはない。 だけど、私は本当に、今から何をされるのか、実のところ具体的にはわかっていないのだ。 えりかはなんていうか・・・すごくいろいろ上手だったし、舞美ちゃんは舞美ちゃんという存在だけで、無条件に安心感を与えてくれる。 じゃあ、舞は?私は安心して、舞に身をゆだねていいのだろうか。そもそも、舞は“どっち”を望んでいるんだろうか。 「ねえ、舞」 仮眠室へ向かうエレベーター。 その中で、私は舞に問いかけた。 「舞は、千聖に、えりかや舞美ちゃんみたいなことをしたいって思ってるの?それとも、私が舞に、何かしたほうがいいのかな?…んー、言ってる意味、わかる?」 「あー、わかるぅ」 「お前どこまでついてくるんだよギョカイ」 「・・・んー」 舞は軽くうなずくと、口を開いた。 1. 舞の思うようにさせてほしいでしゅ 2. ちしゃとが舞に、今まで知ってきたことをしてほしいでしゅ 604 うぅどっちだろ…難しい… 1の途中でお嬢様出現で2へって感じなのかな… とりあえず舞様の顔を立てて1で 605 確かに難しいですね…こういう経験少ないと言うより皆無ですから 1も2もある展開で 「とりあえず、舞の思うとおりにさせてほしいな」 「えー・・・」 「だって、今まで舞がどれだけ我慢してきたとおもってんの。ちしゃとの振る舞いに。それぐらい当然でしょ」 「わかったよ、そんな怒んないでよ」 思うとおりかぁ・・・。 私はふと、舞に手錠をかけられて、股間をまさぐられた事件を思い出した。 ああいうのはちょっとなあ。怖いのと痛いのは勘弁。 「てか岡さん、股間ってあんた、女の子でしょうが」 「うるさいわ、マジそろそろ帰れよナカジマ!」 「帰らないよ!さきは見届け人なんだからね!まったく、二人ともさきがいないとダメなんだからぁ」 うっぜえ…なにこの子。 だけど、今回に限っては、これでいいのかもしれない。 なっきぃがいちいち口を挟んでくれるなら、舞もそうひどいことはしてこないだろう。 どうやら、仮眠室になっきぃが居座ること自体は、舞も納得しているようだし。 久しぶりに赴いたその部屋。 地方のお仕事で利用するビジネスホテルとよく似た造りで、まるで遠くの地に来てしまったかのような錯覚を覚える。 1. さっそく舞様が押し倒してきて・・・ 2. 一緒にお風呂にはいるでしゅ 607 …押し倒すかw 1で 608 いやこの見届け人もしかすると参加してくるかもしれないので ここは2で 千聖という存在は、いつでも私に、新鮮な刺激を与えてくれる。 ショートカットにした後頭部。そこからつながるうなじがやけに生々しく白く見えて、私は気が付くと、仮眠室のベッドに、千聖を押し倒していた。 「え・・・待って待って舞ちゃん!」 うるさい。 ばかちしゃとのくせに、私が何をしようとしているのか、正確にわかっているんだ。 そう思うとなぜか悔しくて、手首を押さえる手に少し力を込めた。 「舞がどんだけ待ったと思ってるの」 「だって、」 「てか、もう言い訳聞かないから。好き、ちしゃと。だからいいよね」 顔を近づけると、千聖はギュッと目をつぶった。 唇がくっつく。あったかくて柔らかい。かかる吐息は、自分のなのか、千聖なのか。 頭がくらくらする。 顔を離して、ほっぺたやおでこ、鼻先に唇をすべらせていく。 ふにふにと柔らかい、肌の感触が気持ちいい。 「んん・・・」 千聖少し顔を横に振ってるけど、たぶん嫌がってはいないと思う。 あいかわらず目を閉じて、私の顔を見ようとしないのは気に入らないけど。 「なっちゃん、まだ続きしていい?」 「お、おっけー」 「てか、それは千聖に聞くべきだろうが」 第三者がいるおかげで、私もなんとか暴走せずにいられている気がする。 えりか?舞美ちゃん?みや?そんなものは、舞が全部上書き保存してやるでしゅ。 「えっと…次、何やるんだっけ、なっちゃん」 「んー、雑誌によるとぉ」 1. 脱がせてあげましゅ 2. 脱がせあうでしゅ 3. 舞を脱がせるでしゅ 4. なっちゃんは脱がなくていいでしゅ 611 4だなw 612 今日はここまでにさせていただきます! 突発にかかわらずご参加いただきありがとうございました! また来週再開できたらと思います ぬるいエロですが本番突入といった感じで 本日はありがとうございました! 15 スレ立てありがとうございます 最後の選択は 4. なっちゃんは脱がなくていいでしゅ は、当然入れていただくとしてw 2. 脱がせあうでしゅ を希望しておきますハァハァ 次へ TOP
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「お疲れ様でしたー!」 そして、閉幕後。 無事に初日を終えて、達成感と充実感に満たされながらも、私はやっぱり千聖のことが気がかりで仕方なかった。 舞台の中で、千聖は私のアドリブに笑顔で応えてくれた。歌の時も、目が合うと笑ってくれる。でも、これは実はあんまりいい傾向じゃない。 千聖は裏で喧嘩や揉め事があると、反動なのか、ステージではものすごく愛想が良くなる。ということは・・・ 「はい、℃-ute集まってー!」 軽い反省会の後、無事初日を終えたお祝いということで、ちょっとした懇親会みたいなのがあった。 キュートのみんなと、共演者のみなさんと、スタッフさん。ちっちゃい部屋で、ジュースを飲みながらみんなでお喋りをする。そんなささやかなパーティーの中で、私は意を決して、ニコニコ笑っている千聖に近づいていった。 「千聖、ちょっと」 「ごめんなさい。舞さん、後でもいいかしら」 「・・・うん」 撃沈。 口調は柔らかいけれど、きっぱりはっきりと拒まれてしまった。「いいの?」なんて愛理となっきぃが千聖に聞いているけれど、当の本人はまったく意に介していないみたいだ。 「はぁあ・・・」 肩を落として元いた席まで退散すると、苦笑しているえりかちゃんと舞美ちゃんが苦笑で迎えてくれた。 「何だ何だー?またケンカ?今度はどうしたの?最近毎日ケンカしてるじゃーん、とかいってw」 「うー…もうだめかも。舞、消えてしまいたいよ・・・」 「そんなこと言わないで、舞ちゃん。今は間が悪いんだよ。あせらないあせらない」 両側から頭をなでたり、肩を抱いてくれたり。今はそんな二人の優しさが心地いい。でも、根本的な問題が解決したというわけじゃない。千聖との問題を解決させない限りは、いつまででも自分の胸に、このもやもやは燻り続けることになるんだろう。 「えりかちゃん、お願い。舞、今日中になんとかしたいよ。どうにかならないかな」 今は、恋敵じゃなくて、お姉ちゃん。私はえりかちゃんの腕を両手で握って、綺麗な形の目をじーっと覗き込んだ。 「今日中ねぇ」 「ていうか、今すぐ。」 よっぽど必死な顔をしてたんだろう。えりかちゃんは「わかった」と軽くうなずいて、千聖の側に行ってくれた。二言三言会話を交わすと、2人はそっと部屋を出て行く。・・・今は、えりかちゃんを信じて待つしかない。 「お姉ちゃん・・・」 祈るような気持ちで舞美ちゃんに寄り添っていると、急に後ろから「舞ちゃん」と名前を呼ばれた。 「なっきぃ。」 「今、いいかな」 眉をしかめて、ずいぶん深刻そうな顔をしている。 「舞ちゃんさ、千聖と何かあったの?」 「うん・・・ちょっと、ケンカ中かな」 「・・それ、私のせい?」 「え?」 なっきぃの言葉は予想外だった。私は目を瞬かせる。 「さっきね、千聖と愛理と3人で話してるときに、その・・・痴漢、の話になったのね。愛理が昔被害にあったことがあって、とっさにピンで手刺して撃退したとか、そういう話なんだけど」 愛理、つえぇ。 「まあ、それは別にいいんだけど、その時千聖がこう言ったの。“そういう犯罪は、絶対に良くないわ。痴漢や強制わいせつは、とても怖いことなのよ。それなのに舞さんはどうして・・・あぁ、ごめんなさい。何でもないの”」 「うわぁ」 私は気が動転して、「なっきぃ、千聖のモノマネうまいね」なんて間抜けな感想を漏らしてしまった。 「もう、何それ」 「・・・ごめん」 「だから、ちょっと気になって。舞ちゃん、千聖にちょっとやりすぎな悪戯でもしちゃった?ほら、だって、私と変なの見ちゃったから、もしかしてそれが原因だったら申し訳ないし・・・」 舞美ちゃんの手前、なっきぃはぼかしぼかし喋っていたけど、言わんとすることは十分わかった。 「・・・そうじゃないよ」 だから、私は即否定した。別に、なっきぃが悪いわけじゃない。 「あれは、ただのきっかけだから。遅かれ早かれ舞は千聖にああいうことして怒らせることになったんだろうし」 なっきぃが黙って、まじまじと私の顔を見る。 「・・・・・え、つまり、舞ちゃんは、無理やり千聖とエッチしたってこと?」 「ちょ、ちょぉなっきぃ」 気が動転したのか、なっきぃは意外なほど大きな声でそう言った。周りにいた人たちの視線が集まる。 「ど、ど、どどどどうしよう!私のせいで舞ちゃんが」 「え?え?え?え?」 泣き崩れるなっきぃに、目にいっぱいクエスチョンマークが浮かんでる舞美ちゃん。愛理はスタッフさんとの話を中断して、目をしばたかせてこっちを見ている。 「・・・舞が?チカン??ちっさーに???エッチ????えええ?」 「みぃたぁん・・・うわあああん」 「いや、違う。違わないけど。待って、舞の話を聞いて」 いよいよ手に負えない感じになってきたところで、目の前のドアが開いた。場違いなほどすっきりした顔で、えりかちゃんが戻ってきた。 「舞ちゃん、お待たせ・・・え、あれ?」 泣きじゃくるなっきぃに、ぽかーん顔の舞美ちゃん。困惑する周りの皆さん。異様な光景に一瞬躊躇するも、えりかちゃんはすぐに気を取り直して「とりあえず、行ってきたら?」と私を促してくれた。 「でも、」 「ケッケッケ。よくわかんないけど、こっちはまかせて」 「うん。千聖待ってるよ。奥から2番目の部屋ね。」 「・・・わかった」 あきらかに面白がってる愛理はともかく、えりかちゃんがそう言うなら。私は大急ぎで、目的の部屋に向かうことにした。 「・・・・千聖。」 第3稽古室と書いてあるその場所で、千聖はほおづえをついていた。 私が入っていっても別に驚かなかったから、きっとえりかちゃんから少し説明があったんだろう。相変わらず私の顔を見ようとはせず、しかめっつらであっちの部屋から持ってきたお菓子をぽりぽり食べている。 「・・・舞ちゃん、立ってないで座ったら」 「あれ。お嬢様じゃないの?また戻ったの?何で?」 「わかんないよ。えりかちゃんがスイッチ入れてくれるのかと思ってたけど、違うみたい。なんか勝手に変わるのかも・・・って別に今そんなのどうでもいいじゃん」 千聖はやっと顔を上げて、自分の隣の椅子を私のために引いてくれた。不機嫌なことに変わりはないけど、今度は私をちゃんと正面から見てくれた。 「怒ってるんだからね」 「うん」 「何であんなことしたの」 まだ少し怯えているのが、目の動きでなんとなくわかる。その顔を見てると、こんな状況だっていうのに、変に胸がドキドキする。 「何その目。やっぱり舞ちゃん変だよ。絶対おかしいから」 「だからごめんってば。謝ってるじゃん」 「何だその言い方。どうせ反省してないんでしょ」 「はぁ?してるし」 千聖は少し調子を取り戻してきたみたいで、徐々に言い合いがヒートアップしてきた。 この勢いなら、なしくずしで仲直りできるかもしれない。 でも、私はちゃんとけじめはつけておきたいと思った。それが千聖への誠意であり、わざわざ機会を作ってくれたえりかちゃんへの礼儀でもある気がするから。 オホンと一つ咳払いをして、話を軸まで戻す。 「・・・なっきぃの家で、エッチビデオを見て」 「は?え?・・・うん」 「それで、何て言うか・・・・千聖と同じようなことしたら、どうかなって思ったの。まあ痴漢はだめだけど、エッチぐらいなら受け入れてくれるかななんて思って。それで、あんなことをしました。すみませんでした。」 こうして言葉にすると、私って本当に最低なことしたんだなとあらためて感じる。何だ、その理由は。 「最悪・・・」 「でも!私は千聖が良かったんだよ。舞美ちゃんでもえりかちゃんでもなっきぃでも愛理でもなく、千聖としたかったの。好きなの、本当に。千聖のことが。 だから舞以外の人とはしないでほしかったの。・・・でもあんなことはしちゃだめだったと思うけど・・・ごめんなさい・・・」 自分でもかなり勝手なことを言ってるとわかっているから、最後のほうは尻すぼみになってしまった。はずかしくて千聖の顔を見れない。 「もう、わかったから。舞ちゃん」 少し時間が経ってから、千聖はそっと私の顔を撫でた。顔を上げると、たまに見せる、困ったような笑顔をしている。 思わず抱きつくと、優しく背中に手を回してくれた。そして、「でも、本当に怖かったんだよ」とつぶやいた。 「ごめんね」 「舞ちゃんが、違う人みたいに見えた。舞ちゃんにされたことも怖かったけど、それより、舞ちゃんと千聖の関係がめちゃくちゃに壊れちゃうんじゃないかって思って。それが一番怖かった。」 「ごめん、千聖」 「千聖、舞ちゃんのことちゃんと好きだよ。だから悲しかったの」 本当にバカ。信じられないぐらいバカ。 許されると思って調子にのって、こんなことまで千聖に言わせるなんて。最低人間だ、私。 頭の上に鉛でも乗っけられたように、自然に頭がズドーンと下がっていく。 「そんな顔しないでよ、舞ちゃん。相方がそんなんじゃ、千聖も元気でないよ」 「・・・まだ、舞は千聖の相方でいいの?」 「当たり前でしょー」 それで千聖は、やっと、しばらくぶりに満面の笑みを見せてくれた。 「もうあんなことしない?」 私の髪を撫でながら、お姉ちゃんな声で千聖が聞いてくる。 「・・・それはわかんない。だって、やっぱり好きなんだもん。千聖のこと」 「最悪・・・」 でもその声は柔らかくて、千聖はまた困ったように笑っていた。 「千聖。」 「うん」 自然に顔が近づいて、唇が重なる。今度は千聖は暴れないで、じっと受け入れてくれた。 あの時みたいに、興奮はしなかったけど、私は幸せだった。キスで穏やかな優しい気持ちになれるなんて知らなかった。それはごく普通のキスだけれど、今まで何度かした中で一番気持ちがよかった。 「・・・そろそろ戻らなきゃ。千聖、先に行くね」 しばらくして顔を離すと、少し赤い顔で千聖は勢いよく立ち上がった。・・なんだ、ムードも何もあったもんじゃない。 「一緒に戻ろうよ」 「やだよ。えりかちゃんに何か言われる。さっきだって舞ちゃんが来る前すっごいからかわれたんだから」 千聖はこういうとこ、結構ドライだと思う。まあ、やっと許してもらえた立場で文句は言えないけれど。 「ねえ、私とえりかちゃんどっちが好き?」 その代わりといっては何だけど、千聖が部屋を出る寸前、私は本日最後のワガママをぶつけてみた。千聖は目をパチパチさせながら振り返った。 「ねえ、どっちが好き?」 語気を強めてもう一度問いかけると、千聖は少し考え込むように黙ってから、黙って唇の端を吊り上げた。これは、なかなか嫌な笑顔だ。 「・・・えりかちゃん、かな」 「はぁ!?何でよ」 「えりかちゃんは舞ちゃんみたいに、千聖が嫌がることしないもーん」 自分から仕掛けたとはいえ、千聖の返答に、私はガックリ肩を落とした。 「・・・もーいい。さっさとえりかちゃんのとこ行けば?舞もすぐ戻らせていただきますから」 「・・・でも、舞ちゃんのことも好きだよ。」 苦笑したまま私を置いて行こうとした千聖は、去り際そんなことを口走った。 「は・・」 「うへへ、大好き!」 ニカッと笑って、ピースサイン。今度は振り返らずに、鼻歌なんて歌いながら、千聖の声は遠ざかっていった。 「・・・何それ。ずるい。」 後悔とか、反省とか、安心とか。いろんな気持ちが混じって、私は一人静かな部屋でじたばたした。 「やっぱバカだな、舞って。千聖バカって感じだ」 千聖バカ、か。自分でいうのもなんだけど、こんなしっくりくるあだ名も珍しい。 「ふふふ」 とりあえず、このニヤニヤが収まるまではここにいよう。唇を指でなぞって、私はもう一度小さな笑い声を漏らした。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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遠慮がちに私の顔を伺い見る表情は、もうあの天真爛漫な千聖のそれではなくなっていた。 何かに怯えるように潤んだ瞳。女らしく、柔らかそうな胸の前で組まれた手が小刻みに震えている。 「ちさ・・・とも、ももちゃんが、好きだよ。」 もう演技なんかできなくなっているのに、必死に微笑みを作る表情が健気すぎて、私はもう一度千聖をギュッと抱きしめた。 「ももちゃん、」 柔らかい吐息が耳にかかる。 こんな小さい体の中に、大きすぎる秘密を抱えて奮闘していたと思うだけで、胸が締め付けられた。 「・・・千聖、もものことお姉ちゃんみたいな存在だって言ってくれたよね。私も、千聖のこと本当の妹だって思ってる。だから、」 「ごめん、もも。そろそろ準備しなきゃならないんだ。」 ポンと肩を叩かれて、振り向くと舞美が泣き笑いみたいな表情で立っていた。 「千聖も疲れてるみたいだから、この辺にしといてあげて。」 「そっか、忙しいのにごめんね。千聖の顔見れてよかった。」 よかった。舞美が止めに入らなかったら、私は千聖が必死で守ろうとしているものを、みんなの前で暴いてしまうところだった。 千聖はまだ何か言い足りなさそうな顔をしていたけれど、私が体を離すと、ももちゃんまたね、といつもどおりの顔で笑ってくれた。 「さ、梨沙子ぉ。ベリーズの楽屋戻ろう。」 「え~、もうちょっといる~」 すっかりくつろいでる梨沙子とは対照的に、栞菜と愛理はなんともいえない表情で私を凝視している。 ありゃ、さすがに怪しまれたか。ここは墓穴をほらないうちに退散しよう。 「ほらぁ、梨沙子。」 「ん~~~ちょっと待って~」 無理矢理両腕を引っ張ると、梨沙子はぴょんと跳ね起きて、私のいる方とは逆へ歩いていった。 「りーちゃん?」 「でえええいっ!!」 梨沙子はいきなり千聖の頭を小脇に抱え込んで、そのまま後ろに倒れこんだ。 ゴーン! じゅうたんが敷いてあるとはいえ、なかなかすごい音がした。 千聖はびっくりしたように目を見開いたまま、硬直している。 「こっこのヤロー!!」 すぐに舞ちゃんと栞菜が梨沙子と千聖を引き離すと、2対1で取っ組み合い・・・もとい、プロレスを始めた。 「千聖、大丈夫?」 「え、ええ・・・ありがとう、桃子さん。」 あ。 まあいいや、聞かなかったことにしよう。 千聖は涙目で頭をさすっているけれど、表情は案外ケロッとしている。 私は全然プロレスのことはわからないけれど、どうやら見た目ほど痛い技でもないらしい。 「ギブ!ギブ!ごめんなさーい!」 「まだまだぁ!」 どうやらあちらのプロレスも佳境に入ってきたらしく、栞菜が梨沙子の腕に足を絡めてねじったり、舞ちゃんが顎を掴んでぎりぎり締め付けたりしている。 「ストーーーーップ!!!!」 さすがにしびれをきらしたなっきぃが、白いバスタオルを投げて3人の動きを封じた。 「あのね!もう準備しなきゃいけないってみぃたんが言ってるわけ!今日は何しに来たの!仕事しに来たんでしょ!」 独特の高い声でキャンキャン怒られると、妙に堪えるらしい。3人とも一気にしょんぼりしてしまった。 「だってぇ。確認したかったんだもん。」 「確認?」 ヤバい。 「じゃ、じゃあね!今度こそ、お邪魔しましたー!」 梨沙子の口をガッとふさぐと、何とか楽屋の外に連れ出した。 「何でー・・・ももだって、千聖に本当のこと聞こうとしてたじゃん。」 何だ、知ってたんだ。梨沙子は見てないようで見てるから怖い。 「いい?梨沙子。今の千聖にプロレスごっこは禁止。それから、梨沙子は嘘がつけないんだから、愛理たちに千聖の話を自分から振るのはダメ。」 「わかった。」 「あーあと、」 「もー!まだあるの?」 唇を尖らせる梨沙子をまぁまぁとなだめて、話を続ける。 「あと、梨沙子には重要な任務があります。 あとでスタジオでベリキュー鉢合わせになるから、その時ちゃんと千聖のこと守ってあげるの。」 「任務だって。かっこいい。」 「でも、梨沙子が今の千聖の状態を知ってるってことをキュートに知られちゃだめ。」 梨沙子のクリンクリンの瞳に、クエスチョンマークがいっぱい並んだ。 「ももぉ。わかんなくなった。」 「・・・・まあいいか。ももとの内緒ごとを守ってってこと。それと、あと1個。」 もーやだ!と露骨に目で訴えてくるのを宥めて、ベリーズの楽屋の前で最後の任務を言い渡した。 「・・・今から、ももは千奈美と仲直りをするから。梨沙子にはその手伝いをしてほしいな。」 梨沙子はちょっと目を見開いたあと、思い切りニカッと笑った。 「いーよ。それは面白そう。」 「ありがと。」 2人で一緒に、「せーの」で楽屋のドアを開ける。 キュートとの再会まで、あと何時間ぐらいかな。 とりあえず、私と梨沙子はミッションクリアのために、仏頂面の千奈美の方へ歩み寄っていった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「だから!おっとりして上品になっただけで、基本的な性格はそんなに変わってないんだってば!」 「それじゃよくわかんないってばー。じゃあさ、好きな食べ物とか変わったの?あと何だろう好きな・・・好きな・・・Tシャツ?」 「ええ!?」 「熊井ちゃん、それどうでもよくない?」 「本当だよ!思いつかないなら無理矢理質問しないでよ!」 「なんだーなかさきちゃんのケチ!」 「意味わかんないよ!」 「なっきぃ、それはまあいいとして、この事って他に誰が知ってるの?キュートのマネージャーさんは?スタッフさんは?ていうか、千聖の家族は?」 「あと犬!千聖んちの犬は知ってるの?パインと・・・リップスティックだっけ。リップスティックってすごくない?名前。面白いよねーあはははは」 「熊井ちゃん犬は今いいから。でさ!なっきぃ」 「もう!また顔近い近い!大きい二人で責めないでよぅ!」 ドアを少し開けてすぐに聞こえたのは、なっきーのキャンキャン小型犬ボイスだった。 そこに熊井ちゃんのくまくまボイスと、茉麻の突っ込みが重なる。もはやトリオ漫才だ。 「ていうかね舞美、よくわからないんだけど。そもそも千聖は、どうしてお嬢様キャラになったの?記憶は?前とは別人?」 「えっえっ・・・・ちょまって。ごめんなんか私混乱して・・・別人、じゃないと思うけど」 「やっばいウケるんだけど。千聖お嬢様ー☆とか呼んだ方がいいのかな。ていうかやっぱり私のこと千奈美さんって言ってきたりすんの?千聖が!あの!千聖が!超ー面白くない?桃も桃子さんって言われたんでしょ?マジウケるわー」 「・・・徳さんテンション高すぎ。」 どうやら千奈美だけはこの状況を楽しんでいるみたいだ。何をそんなにはしゃいでいるのかわからないけれど、困った顔で固まっている舞美ちゃんを放って、今日は険悪状態だったはずのももちゃんにまで話しかけている。 「あー・・・それでね、別に接し方は前と同じで大丈夫だよ。ウチも最初どうしようかと思ったけど。」 「了解ー。でもびっくりだね。そんなこと本当にあるんだ。大丈夫かな、上手く接していけるか心配かも。」 「わからないことは、千聖本人にも聞いてみるね。ベリーズが何でも協力するから。」 えりかちゃんにみやにキャプテン。こちらは比較的落ち着いて、しっかり話をしている。 愛理と栞菜はまだク゛スク゛ス泣いている梨沙子を励ましているみたいだし、どうやらえりかちゃんたちのグループが一番頼りになりそうだった。 個人的にまだ気まずさが残っていることもあって、まずはこの3人に話しかけてみようと思った。 でも 「えりか・・・」 「あーーー来たー!ちょっとー遅いよー!」 部屋に踏み込んだ瞬間、千奈美が飛びついてきた。 「みんな心配したんだよー舞ちゃん。ほら、入って!お・嬢・様も!」 「・・・ごめんね。」 テンションMAXに見えても、やっぱり千奈美は年上なだけあって、ちゃんと私のことまで気遣ってくれた。 「おかえり、舞。ちっさー。」 「よかったー!舞ちゃん千聖と会えたんだね。」 私が戻ってきたことで皆が凍りついたらどうしようかと思ったけど、千奈美が勢いをつけてくれたおかげで、ごく自然に輪の中に加わることができた。 「愛理。」 私は千聖と小指をつなげたまま、愛理のところまで歩いていった。 まずやらなければいけないこと、それは 「さっきは、ごめん。」 拒んでしまった愛理の手を、私からつなぎに行くことだった。 「舞ちゃん・・・ううん、こっちこそ。」 愛理は私の手を強く握り返してくれた。どこからともなく湧き上がる拍手。 ちょっと、いやかなり照れくさくて、2人で顔を見合わせて笑ってしまった。 愛理は千聖のことが大好きで、私も千聖が大好き。私は愛理のことが大好きで、愛理もきっと私のことを。 それさえわかっていれば、もう余計なことは何も言わなくても十分だった。 「あ・・・それ黄色い糸だね、千聖。舞ちゃんと千聖の糸でしょ。」 ちょっと赤い目のまま梨沙子がはにかんだ。 「ええ。梨沙子さんが教えてくれた魔法で、復活した糸なのよ。」 「えへへ・・・魔法かあ。へへっ。」 本当に、千聖は人を喜ばせるのが上手だ。 魔女ッ子志願の梨沙子には、とても嬉しい言葉のようだった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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千聖もう寝てるんじゃないの、とか 今会ってもしょうがないよ、とか そんな口を挟む間もなく、私は舞美ちゃんのお兄さんが運転するワンボックスカーに詰め込まれた。 仲間を思う舞美の気持ちがどうとか、絆がどうとか、舞美ちゃんがそのまま男になった感じの男の人が喋っている。 時刻は午前3時。まさか千聖の家まで3時間もかからないだろう。本気なのか、この人達は。 「私ね、やっとわかったんだ。」 私のことは着替えさせたくせに、自分はネグリジェのままの舞美ちゃんが語りだした。 「舞が今のちっさーを受け入れられないなら、それはもう仕方ないと思ってた。 仕事の時にちゃんとやってくれるならっいいかって。でもそれは違うよね。 舞ももう現実と向き合っていかないといけなかったんだ。」 やだ。何言ってるのお姉ちゃん。だって、舞は。 「私やえりが最初に気づいておくべきだった。舞がどれだけしっかりしてたって、まだたったの13歳なのに。 何もかも自分で判断させるなんておかしかった。舞がもし良くない態度でちっさーに接したら、その場で注意するべきだったんだよ。なっきーはちゃんとそうしてたのに、リーダーの私は」 「待って、舞美ちゃん。何で今そんなこというの?っていうか、今私たち何しに行くの?」 「何しにって。」 舞美ちゃんは相変わらず無表情のまま顔を近づけてきた。 「今までのこと、謝りに行くんだよ。」 「・・・・・なんで。やだよ。別に私は悪くない。」 「だって、舞泣いてたじゃない。千聖に会いたい、謝りたいって。」 ああ、それは違うんだよお姉ちゃん。あの千聖に謝りたいんじゃなくて、前の千聖にだよ。 「ちっさーは優しいし、人の思いやりがわかる子だから大丈夫だよ。私もついていってあげるから。 このままじゃ舞のためにも、ちっさーのためにもならない。そうだよ、うんそうだ。」 舞美ちゃんは完全に舞美ワールドに入ってしまって、私の声なんか聞こえてないみたいだ。何だか悲しくなってきた。 「降ろして。私があの千聖に謝ることなんて何もない。舞美ちゃんには関係ないじゃん。それにあれはなっきーが」 「舞。じゃあ何でちっさーは泣いてたの?あんなに雨ふってたのに、何で一人で帰るなんて言ったの?なっきーが全部悪いとでも言うの?」 舞美ちゃんの声はあくまで冷静だったけれど、私を見据えたまま一歩も引かない。 年上だけど、リーダーだけど、どこかで私は舞美ちゃんをなめていたのかもしれない。 でも今の射抜くような視線は、言い逃れや責任の押し付けなんて許さないような迫力がある。 「このままじゃだめなんだよ、舞。」 「降りる、降ろして。舞歩いて帰る。」 「バカなこと言わないの。できるわけないでしょ。舞、逃げないの。」 「もう、やだ何で・・・舞だって、いろいろ考えてるのに。みんなでそうやって舞を責めるんだ。」 もう悔し紛れの逆ギレしかできない。 車はどんどん加速していく。 こんな気持ちのままあの千聖に会って、何をしろっていうんだろう。 「みんな舞よりも、あの千聖を取るんだね。なっきーも、舞美ちゃんも、もう舞の味方じゃないんだ。どうでもよくなっちゃったんだ。」 「それは違うよ。みんな心配してるんだよ、舞とちっさーのこと。どうでもいい人のために、ここまでするわけないじゃないか。」 少しだけ、舞美ちゃんの表情が緩んだ。 「舞、辛いかもしれないけど聞いて。ちっさーはもうずっと今のままかもしれない。治るかもしれないし、そんなことは誰にもわからないよね? だから、舞も意地張ってないで今のちっさーを受け止めてあげてほしいんだ。」 ・・・ああ。どうしよう。もうこの件で人前で泣くのは終わりにしたかったのに。私の目の前はまた霞んできた。 「わ、わかってるもん。」 「うん。」 「あの千聖が、前と同じで舞のこと思いやってくれてることも、見ていてくれてることもわかってる。 千聖が、私にひどいことされても、私の前で泣かないようにしてたのも知ってるよ。 でも舞には前の千聖じゃなきゃだめなの。どうしても会いたいんだよ。あきらめられないの。」 「そっか、うん、わかった、ごめん。ごめんね舞。急すぎたよね。」 舞美ちゃんのぬくもりが体を包む。抱きしめられると、どうしようもなく胸が切なくなって涙が止まらなくなる。 “お兄ちゃんごめん、やっぱり行かない戻って” “ちょ、おま” どうやら引き返してくれるらしい。私の背中をさすりながら、舞美ちゃんも少し鼻を啜っていた。 「ごめんね、私暴走して。どうしても今じゃなきゃって思っちゃって。アホなリーダーでごめん。」 「ううん、ありがとう。・・・舞、昨日のことだけはちゃんとあの千聖に謝るから。 明後日レッスンあるでしょ?できたら明日、相談に乗ってほしいな。」 「うん、うん。わかった。明日起きてから、ゆっくり話そう。そうだね、ゆっくりでいいんだ。」 ありがとう、お姉ちゃん。 まだキュートは私の居場所でいいんだね。優しい腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「ゲキハロが終わったら、千聖と2人で旅行に行って来るから。」 それは、ゲキハロのお稽古真っ最中のことだった。 レッスン終了後、着替え中にえりかちゃんが私に告げた言葉。 「は・・・」 突然の報告に、とっさに言葉が出なかった。 「何・・・で」 やっとしぼり出した声は、私らしくもない弱弱しいもので、ちょっと情けない気持ちになる。 「何でって、これのお礼にね。」 そう言ってえりかちゃんが指で弄んだのは、キュートのメンバー全員でえりかちゃんの誕生日に贈った、ハートのネックレスだった。 「だ・・・だってそれは、舞たち全員からっ」 「うん、もちろんわかってるよ。ウチが千聖にお礼したいのは、ウチと一緒にみんなへのお返しプレゼントを考えてくれたこと。」 えりかちゃんの話は続く。 「ま、旅行って言っても、横浜だけどね。観光して、中華街でご飯食べて、ちょっといいホテルに泊まる。」 「ま、待って。ホテ、ホ、ホテルじゃなくていいじゃん!えりかちゃんちでいいじゃん!」 「えー、いやいや、それはちょっと。ムフフフ」 私の背中を、イヤーな汗が滴り落ちる。 えりかちゃんは、私の千聖に対する気持ちを知っている。知っていて、こういうことをわざわざ言うというのは、つまり、その、なんだ、うん。 「ま、舞の方が、千聖のこと好きだもん」 「・・・だとしても、千聖はウチのお誘いに乗ってくれたよ。すごく嬉しそうに。舞ちゃんは、千聖が望んでいることでも認めたくないの?」 「でも、だって・・・」 こういう時のえりかちゃんは、いつもの天然で優しいお姉ちゃんじゃない。私の知らないことをたくさん知ってる、18歳の大人の顔をしている。ここで私が「嫌だ」といっても、絶対にその予定を白紙にはしてくれないだろう。 「一応、舞ちゃんには言っておいたほうがいいと思ったから。」 「そんな思いやり、嬉しくないよ・・・」 「黙って行ったら、その方が嫌だったんじゃないの?」 悔しい。悔しいけれど、えりかちゃんは舞の気持ちなんてお見通しなんだ。しかも、純粋に私を思いやってる気持ちだけじゃなくて、自慢っていうか、上手くいえないけれど、そういう気持ちも入ってる気がする。 ふと、千聖の方に視線を向ける。 千聖は上半身下着のまま、なっきぃと何か楽しそうに話している。なっきぃが千聖のブラのタグを見ていたから、下着の話でもしてるんだろう。そういえば、今日の2人の下着は色違いだ。仲良しだから、一緒に買いに行ったのかもしれない。 だからって、別になっきぃに嫉妬心は沸かない。2人の関係は信用できる。なっきぃは千聖にすごく優しいし、もちろん変なこともしない。 その点では、愛理はちょっと怪しい(性的な意味で)。舞美ちゃんも危ない(悪気のない暴力的な意味で)。もちろん、えりかちゃんなんて論外だ。もし千聖とえりかちゃんがオソロのブラなんてつけてたら、絶対に剥ぎ取る。 「何がそんなに気に入らないの?」 えりかちゃんの声は相変わらず笑っている。わかってて聞いてるんだ。もー、普段はドMのくせに、こういう時はとことんイジワルなんだから! 「・・・わかってるなら聞かないでよ。」 そういうとこに泊まるっていうのは、つまり、そういうことをするっていうことでしょ。 去年の夏、えりかちゃんと千聖がコテージでしていたことを思い出す。 千聖の上に覆いかぶさる、えりかちゃんの白い背中。 その背中に回された、千聖の小麦色の腕。 2人の唇がくっつく。おっぱいも、大事なとこもくっつく。 えりかちゃんの茶色い髪と、千聖の黒髪が混じる。 聞いたこともないような、甘ったるくて甲高い千聖の声。えりかちゃんの湿った声。 私は悔しくてたまらなかったのに、そのことを思い出すたびに、頭がボーッとして、体がおかしくなっていた。 恥ずかしながら、夜ベッドの中で、えりかちゃんを自分に置き換えて妄想したこともある。 そして、誕生日に、千聖に同じ事をして欲しいとねだった。果たしてその願いは聞き届けられたのだけれど、いろいろ不本意な形に終わった(そもそも失神したのでよく覚えていない件)。 こんなんじゃ、えりかちゃんに全然勝てない。おまけに、こうしてまた差をつけられてしまうのを、指をくわえて眺めているだけなんて。 「事後報告、いる?」 「いらないよっ」 もう聞いてられない。私はえりかちゃんの元を離れて、舞美ちゃんに頭を撫でてもらいにいった。 「お姉ちゃん・・・」 「ん?どうしたの?よしよし」 大きい手にわしわし頭を撫でられて、少し気分が良くなった。 「えりかちゃんにいじめられた。」 「ええ?えり、コラだめじゃないかー!とかいってw」 えりかちゃんは黙って肩をすくめて両手を挙げるジェスチャーをした。欧米か。 再び千聖の方をチラ見する。すると、視線がぶつかった。何となくピースサインを送ると、首をかしげながらピースを返してくれた。三日月目のスマイル付き。あぁ、やっぱり可愛いな・・・ そのまま2人して手遊びゲームをしていたら、ふいに後ろから肩を叩かれた。 「ん?」 そこにいたのはなっきぃ。いつのまに着替えを終えたのか、バッグまで持って、今にも帰れそうな感じだ。 「舞ちゃん・・・今日、一緒に帰れる?」 「?舞と?うん、大丈夫・・・」 突然のなっきぃからのお誘い。ちょっとびっくりしたけど、もちろん嬉しくないわけがない。ちゃきちゃき着替えを済ませて、私は一足先に、なっきぃと一緒にレッスン場を出ることにした。 「今日暑いねー。」 「うん・・・」 「稽古楽しいよねー」 「そうだね・・・」 外に出てからいろいろ話を振ってみるものの、なっきぃは上の空だ。 「ねぇ、なっき・・・」 何か悩んでるなら、と口を開きかけた時、ぴたりとなっきぃの足が止まった。 「舞ちゃん。あのさ、」 「うん。」 いつもの可愛らしい声より、少し低くて真剣な雰囲気。私の背筋も伸びる。けれど、次のなっきぃの一言によって、盛大に脱力させられることになるとは・・・ 「ま、ま、舞ちゃんて、・・・・・エッチビデオとか、み、み見たことある?」 「・・・・・・・・はああ!?」 次へ TOP
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前へ 「りーちゃん。」 千聖の唇が、私の名前を刻む。 もう、だめかもしれない。 せめて、愛理が戻ってくるまでは・・・そう思っていたら、千聖は急に頭を私の肩に乗せてきた。 「わあっ!どうしたの?」 「ちょっ・・・と、待って、ごめん」 大きなため息をついて、千聖はそれっきり黙りこんでしまった。 「千聖も、調子悪くなっちゃったの?」 「んー・・・」 困ったな。大人を呼びに行ったほうがいいのかな。 でも私もまだちょっとおなかチクチクしてるし、あんまり動きたくない感じだ。 「千聖。ベッド半分こしよう。」 とりあえず私は体をずらして、千聖を隣に寝かせてみた。 せまいベッドだけれど、横向きになれば十分一緒にお布団の中に入れた。 「ありがとう、梨沙子さん。」 あ、お嬢様の時の喋り方になってる。 ボーッとした顔してるから、無意識なのかも。 何度かめんどくさそうに瞬きを繰り返したあと、千聖の唇から寝息が聞こえてきた。 どうしたんだろう、急に。疲れちゃった? 特にすることもないから、何となく千聖の顔や体をぺたぺた触ったり、クンクンしたりして暇をつぶした。 千聖はおなかはぺったんこだけれど、腕や足には適度におにくが付いてて女の子っぽい。 ぷくぷくした感触が気持ちよくてつっついて遊んでいたら、眠ったままの千聖が何か呟き出した。 「んん?」 そういえば愛理が、千聖はよく寝言を言うんだよといっていた気がした。これか。 「・・・・い。・・・ぃ。」 「えっ?何?」 耳を近づける。 「こわい・・・」 「怖、い?千聖、怖いの?何が怖い?」 「わか・・・ない。怖い・・・・」 千聖はギュッとみけんに皺をよせて、ちっちゃい体を震わせている。 「千聖、大丈夫だよ。梨沙子がそばにいるから。怖くない、怖くない・・・・」 寝言を言ってる人に話しかけちゃいけないって誰かが言ってた気がするんだけど、大丈夫だよね? 「りさ・・・こ」 「うん、そうだよ。梨沙子が守ってあげるからね。なんにも怖くないよ。」 「・・・・だ、れ?」 「ん、だから、りさこ」 「・・・たし、・・・・・私・・・だれ・・・・・?」 ――ああ。 千聖はきっとこんな風になっちゃって、自分がどんな人だったのわからなくなって、夢の中でまで悩んでいるんだ。 「ちさとぉ・・・」 おさまりかけていた涙が、ボロボロ落ちていく。嫌だ、こんなのは可哀想すぎる。 「ただいまー。遅くなっちゃった・・・・あれ?どうしたの?」 その時、愛理がペットボトルを何個か持って戻ってきた。 「梨沙子、泣いてるの?」 「愛理ぃ・・・・」 次へ TOP
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前へ 全・然・納・得・いかないな。 「愛理?どうしたの」 「ううん。」 私の知らない間に、この数日間いろいろなことがあったみたいだ。 舞ちゃんと千聖が楽屋を出た後、舞美ちゃんを中心に当事者それぞれが話をしてくれた。 「・・・だからね、みんな。悪いのはなっきぃだから。舞ちゃんのことは責めないで。」 「なっきぃ。これはみんなが悪いんだ。舞が出してたサインを誰も拾ってあげられなかったから、あんなことになったの。 舞も本当に反省してる。まだいろいろ整理できてないことはあるみたいだけど、ちゃんと今の千聖と舞なりに向き合ってみるって。今2人はその話してるんだよ。」 要は、千聖にひどいこと言った舞ちゃんを許せってこと?反省してるからって? そんなに単純な話なのかなぁ。 今日の千聖の、尋常じゃない真っ青な顔と目の下の隈を見ていたら、千聖がどれだけこの件で傷ついて悩まされたのかおのずと伝わってくる。 私は頭を打って変わった千聖のことを、それまで以上に大切に、そして慈しむ気持ちで見守ってきていたつもりだ。 活発で天真爛漫な千聖も大好きだったけれど、柔らかく優美で儚い心をもった今の千聖には、ある種の同調と羨望の念を抱いた。だからいつでもそばにいて、千聖をなるべく痛みから遠ざけてあげるようにしていた。 ・・・舞ちゃんが前の千聖を恋しく思っていて、その気持ちがよくない方向に傾いていたのはわかっていた。 それでも私や栞菜が守っている限り、直接手出しはしてこないと思っていた。 油断していた。 舞ちゃんに問い詰められて、どんなに怖かっただろう。 自分のせいじゃないことを責められて、どんなに苦しかっただろう。 そのことを考えるだけで、私の中に黒く凝った感情が湧き上がってくる。 どうも、舞ちゃんをはいそうですかと簡単に許せないみたいだ。 最年少?私や千聖とたった1歳違うだけじゃないか。そんなの舞ちゃんの振る舞いを許す理由になんてならない。 たまには私が我を張らせてもらったっていいだろう。 「舞美ちゃん。悪いけど私は、舞ちゃんとは少し距離を置かせてもらうから。・・・今舞ちゃんが千聖に見せてる、千聖が前の千聖に戻るためのマニュアルっていうのにも私は何にも書かない。私は今のままの千聖がいい。」 「え、な、愛理?」 全く想定してない答えだったらしく、舞美ちゃんは口をぱくぱくさせている。 「・・・愛理がそういうなら、私も。」 栞菜がおずおずと手をあげて、腕を絡めてきた。 「昨日、ちっさーにキュートを辞めるべきかって相談されたの。」 「「「「えっ!」」」」 それは知らないよ、栞菜。そういう大事なことは早く言おう。 「今すぐに決めるわけじゃないっていうから、一応黙っていようと思ってたんだけど。でも、私も愛理と同じ。舞美ちゃんの言うことはわかるんだけど、まだ納得しきれない。 みんな、舞ちゃんに甘いよ。 それに・・・お嬢様ちっさー、すごく魅力的だし、無理に元に戻らなくてもいい気がする。」 さては様子見てたな、栞菜。コウモリめ。 でも私たちの気持ちは概ね一緒のようだから、ここは手を組ませてもらうことにした。 「というわけなので、私たちはこれまでどおり、お嬢様の千聖を支持します。仕事面でのキャラ作りのサポートはするけど、それ以上はしないから。」 「ちょ、ちょっと・・・えーどうしよう・・・」 「栞菜ぁ。愛理も、ワガママ言わないでよぅ。キュートのためじゃない。」 舞美ちゃんとなっきぃはかなり必死に舞ちゃんを擁護しているけど、えりかちゃんはさっきから何も言わない。 天然なようで重要なところは結構冷静なえりかちゃんのことだ。自分があんまり事態を把握していないことについては、必要以上に口を挟まないというスタンスなんだろう。 「これはワガママじゃないよ。キュートが団結するのはいいことだけど、皆が同じ意見を持たなきゃいけないなんて絶対間違ってる。よって、われわれはここに、お嬢様千聖を支持することを誓う!!」 カ゛チャ。 「・・・・・愛、理?」 ハイになった私が栞菜とともに椅子に上って高らかに宣言したのとほぼ同時に、舞ちゃんと千聖が楽屋に戻ってきた。 次へ TOP
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「舞美ちゃん、格好いい!」 「えー、そうかなぁ。舞のトナカイも可愛いよ」 「えりかちゃんのミニスカサンタ、なんかエロい…」 「ちょっと栞菜! 離れてよっ!」 「………動きにくい」 それぞれの衣装に着替えて準備を進めていく。雑誌の企画であったメンバートーク。 『もしも℃-uteだけのクリスマス☆パーティーを開催したら…』 本当に出来たことはすごく嬉しいんだけど。あるんだね、雪だるまの衣装…。 「愛理、ちっさー。まだ着替え終わんないの?」 「も、もうすぐ終わります」 「千聖はトナカイだから早いと思うんだけどなぁ」 「お嬢様の千聖がトナカイって変な感じするけどね」 ……確かに。でも、本人は楽しみにしてたからいいのかな。 でも、びっくりした。お嬢様の千聖がまた出てくるなんて。 「ごきげんよう」 「「「「「「ち、ちっさー(千聖)?!」」」」」」 柔らかい物腰で部屋に入ってきたのは千聖だった。 その姿に一瞬戸惑ったものの、すぐにみんな理解する。 「……お嬢様の千聖だよね」 「ええ。お久し振りです」 「……記憶はどうなってるの?」 「ちゃんと覚えてますわ。“千聖”に戻って以降の事も」 「……ずばり質問。何で出てこれたの?」 「ごめんなさい。私も何でかは分からなくて」 「じゃあ、サンタさんの悪戯ってことで」 「「「「「あ、愛理っ?!」」」」」 「えっ!? 私、何か変なこと言った?」 愛理の発言にみんな驚いたけど、本人は真面目に答えたようだ。 でも、なんか納得できるかも。 「そうかもしれないわね。サンタさんの悪戯ってことにして下さい」 「よし。じゃあ、みんな揃ったことだしパーティーの準備開始っ!!」 「「「「「「おおっ!!」」」」」」 こうして、サンタさんの悪戯からクリスマスパーティーは始まったのだった。 衣装は担当のみぃたんと栞ちゃんがネットやお店に行ってレンタルしてきてくれた。 いろいろ問い合わせたり、スタイリストさんに相談したりしたらしい。 店員さんがコスプレしてるお店に入るのは、少し勇気が必要だったらしいけど。 ゲームは定番のビンゴ。景品は愛理と千聖が出せる範囲の予算で買ってきたらしい。 うん、愛理に全て任せないでよかった。景品、豪華になり過ぎる予感がするもん。 お泊まり会になってたら、私が床で寝てた可能性は否定出来ない……かな。 料理は私達担当。でも時間がなくて、ケーキ以外は無理だった。 さくらんぼ、みかん、メロンなど。みんなが好きなフルーツがのったフルーツケーキ。 細かく切ってクリームに混ぜてスポンジの間に挟んだり、チョコで文字を書いたり。 あまりの出来の良さに三人でハイタッチしちゃった。 テーブルの上に来る途中で買ったサンドイッチやオードブルを綺麗に並べて、 愛理と千聖が着替え終わるのを待った。 「お待たせしました」 そう言って出てきた千聖の格好は…… 「「「「「ト、トナカイじゃないっ!?」」」」」 「えへへ。衣装、替えてみました」 千聖の後ろから出てきた愛理が得意顔で言った。 ……千聖のお姫様姿はいいんだけど、愛理のトナカイ姿って。 「あ、愛理がお嬢様にはお姫様の衣装の方がいいんじゃないって」 「ちょっと気になってたんだよね。トナカイ衣装も」 「愛理、雪だるまは?」 「ん~~、無理っ!」 笑顔で否定ですか。そんなキャラだよね、私って。 「じゃあ、始めようっ! みんなコップ持った? せーの…」 「「「「「「メリークリスマスっ!!」」」」」」 携帯の音量を上げて『ぴったりしたいX mas』、『白いTOKYO』をBGMに。 王子様がいるんだしってことで『王子様と雪の夜』も。 ビンゴゲームでは千聖が一番になった。景品は図書券1000円分。 ちなみにビリは私。……床で寝ることにならずに済んで、ほんと良かった。 そして、お腹もかなり満たされた頃にケーキの登場となった。 箱からゆっくり出されていくケーキ。 「「「「すご~~いっ!!」」」」 「スポンジの間にフルーツを入れたクリームを挟んであるんだよ」 えりかちゃんが説明しながら、器用に切り分けていく。 七等分は難しいから八等分。残った一個は千聖が持って帰ることになった。 最初は遠慮してたんだけど、もう一人の千聖用にって言ったら納得してくれた。 「じゃあ、改めて…」 「「「「「「「いただきま~すっ!!」」」」」」」 「美味し~いっ!」 「うん。クリームがあまり甘くないから、私でも食べられるし」 「今度はみんなで作ろうよ」 「「「「「「賛成っ!!」」」」」」 最後に『きよしこの夜』を歌ってパーティーは終了した。 お嬢様の千聖もすごく満足してくれたみたい。 「私、思ったんです」 「ん? 何を?」 後片付けが終わって部屋の鍵をかけた時、 おもむろに千聖が口を開いた。 「私が出てこれたのはサンタさんの悪戯じゃなくて、プレゼントじゃないかしらって」 「プレゼント?」 「そう。サンタさんからのプレゼント」 嬉しそうに笑う千聖。 だったら、私達だってそうだ。 「私達もプレゼントもらったよ」 「早貴さん?」 「お嬢様の千聖とまた会えた。 サンタさんからじゃないともらえないプレゼント」 「フフフッ。そう言ってもらえると嬉しいです」 「私も嬉しかったよ」 「うちも」 「またお買い物行きたいな」 「舞も行きたい」 「また来年も会えるよね」 「はい。お会いしたいです」 また来年。 こうして、サンタさんへのプレゼントの予約で クリスマスパーティーは終わったのだった。 Merry Christmas♪ 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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遠ざかるちっさーの背中を見送るなっきぃは、また落ち込んだ表情に戻ってしまった。 「何かごめんね。茉麻ちゃんも、友理奈ちゃんも。」 「あ、ううん全然。」 沈黙が訪れた。 なっきぃが涙目になってしまっていることに気がついて、私も熊井ちゃんも声をかけようがなくなってしまったのだった。 「私、千聖のために何にもできない。悔しい。」 なっきぃはキュートのまとめ役みたいなところがあるから、すごく責任を感じてしまっているみたいだ。 「なっきぃ、・・・千聖のこと、どうしてもうちらには話せないかな?」 思い切ってそう切り出してみると、なっきぃは明らかに動揺した表情で、瞳を揺らした。 「千聖のことも心配だけど、何だかまぁはなっきぃのことも心配だよ。 話して楽になるなら、そうしたほうがいいと思う。 ベリーズじゃ、力になれない?」 「そうだよ、なかさきちゃんが元気なくなるとつまんないよ。」 私たちはグループこそ違うけれど、同じキッズ出身の仲間で。 その大切な仲間達が何か抱え込んでいるなら、一緒に悩んで解決したいと思うのは自然なことだった。 しばらく考え込んだ後、なっきぃは険しい表情のまま、私と熊井ちゃんの顔を見比べた。 「ありがとう。・・・・・・・・・みぃたんに相談してみる。一緒に来てくれる?」 「みぃたん。」 みんながいる部屋に着くと、なっきぃはちぃと喋っていた舞美ちゃんを端っこに連れ出して、ぼそぼそと話しを始めた。 ところどころで舞美ちゃんが「えぇっ!何で」とか「でも・・・待って」とか結構な大きさの声で叫ぶから、だんだんとみんなの視線は2人の方へと集まっていった。 「茉麻、なっきぃと舞美ちゃん誰の話してるかわかる?」 私がなっきぃと一緒に帰ってきたからだろう、舞ちゃんがとても強張った顔をして、おそるおそる話しかけてきた。 誰の、と言っている時点で大方話の予想はついているのかな。 それでも私は千聖のために、今は知らないふりをしておくことにした。 「わかんない。ちょっと深刻そうな顔してるね。」 「ねぇ~まぁ。千聖どこにいったか知らない?」 今度は梨沙子と愛理だ。 「戻ってこないの。ケータイはおきっぱなしだし、ももと一緒にいるのかな?もものも電源入ってないんだ。」 あんまり不安そうな顔をするから、私はそれで、梨沙子がすでに千聖の件について何か知ってるということを悟ってしまった。 「千聖はもものところだよー。大丈夫だよ梨沙子。」 熊井ちゃんがそう答えると、梨沙子はほっとした顔になった。 「そっか、ももならいいんだよね、愛理?もう知ってるし」 「ちょっと梨沙子!シーッ」 「あばばばば」 普段はおっとりマイペースなくせに、熊井ちゃんはこういうのは聞き逃さない。 「なーに?ももと梨沙子は千聖のあの変な喋り方のこと知ってるの?」 「えっ・・・!」 「熊井ちゃん待って、その話は」 あわてて止めたけど、少し遅かったみたいだ。 依然話し合いを続けるなっきぃと舞美ちゃん以外の、キュートメンバー全員の視線がこっちに向けられた。 何も言わない。 どう切り出したらいいのかわからないんだろう、みんな黙って私と熊井ちゃんを見ている。 「・・・・・ねー!!!もう!!!なんなの今日!!!みんな内緒ばっかり!」 その時、空気が不穏になってきていた楽屋に、思いっきりテーブルを叩く音が響き渡った。 今日の不機嫌MVP、千奈美の爆弾が落ちた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -