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「どうしたの。もう帰ったのかと思ってたよ。」 「私も自主練習をしようと思って。早貴さんがいらっしゃるまで、ロッカー室を使わせていただいてたの。」 お邪魔だったかしら?と言われたので、首を横に振る。 「ちょっと休憩しようと思って来ただけだから。千聖こそ、私のことは気にしないで歌続けてて。」 結局考え事に耽っていた私は、別に休憩を取るほど疲れてなんてなかったのだけれど。千聖に気を使わせたくなくてとりあえずそんなことを言ってみた。 手持ち無沙汰なので、ロッカーを開けてケータイを取り出す。 メールが着ているみたいで、ピンクのランプが点滅している。 「・・・栞菜だ」 急いで作った文章なのか、今日はふざけすぎてごめんねとか、なっきーが悪いみたいな言い方して私が子供だったとか、私への謝罪がところどころ二重の内容になりながらびっしりと書かれている。 だから私も、“なっきーも言い過ぎてごめんね。”とだけ返した。 完全解決とまではいかないけれど、とりあえず今日の分の仲直りはできそうだ。 少し気が楽になったので、端っこで歌を練習する千聖の方に意識を向けてみた。 今は都会っ子純情を歌っているみたいだ。可愛い声だな、と思った。 えりかちゃんいわく、お嬢様化が始まった当初の僕らの輝きは本当にひどかったらしい(いまだにその話を振るとえりかちゃんは死にそうになる)。 千聖特有の子供っぽい柔らかい声から、元気をポーンと抜いたような感じだったそうだ。・・・それはちょっと聞いてみたかった。 今歌っている声も、確かに以前に比べたら声量が落ちているようにも聞こえる。でもやけに甘く可憐な味があって、これはこれで結構いいんじゃないかなと思った。 しばらく目を閉じて聞いていると、何か違和感を覚えた。 「千聖さ、何基準で歌ってるの?千聖のパートだけ練習してるんじゃないよね。他の人の・・・」 私はそこまで言って、はっと気づいた。 千聖が練習しているのは、自分のパートと愛理のパートだった。 「・・・千聖。」 何て言ったらいいんだろう。私は結構人の地雷を踏みやすいから、余計なことを口走りそうで怖かった。 少しの間沈黙が訪れる。 「早貴さんには以前お話ししたことかもしれませんが」 やがて千聖が口を開いた。 「愛理は私の目標・・・・いえ、私のライバルなのです。」 そう言い切る千聖の瞳はあまりにもまっすぐで、私は思わず息を飲んだ。 舞美ちゃんと2人、キュートの楽曲のメインパートをまかされているセンターの愛理。 ソロパート自体ないことも珍しくない、後列組の千聖。 身の丈に合わない目標だと一笑したり、あるいは簡単に頑張ってなんて言えない真剣さがそこにあった。 「うん、覚えてるよ。千聖前にも私に話してくれたもんね。 愛理がライバルだって。でも、ほら、あのことがあってから、千聖はいきなり愛理と仲良くなったじゃない。だからもう、ライバルとかじゃなくなったのかと思ってた。 なっきーに言ってくれた気持ちはしぼんじゃったのかと思ったよ。」 嫌な言い方かもしれない。でも、私に思いをぶつけてくれた千聖には、自分の気持ちを自分の言葉で伝えたかった。 「ええ。私は確かに、愛理ととても親しくなりました。」 千聖は怯むことなく、少し考えてからまた言葉をつないだ。 「変わってしまった私を一番最初に受け止めてくれて、孤立しないように側にいてくれたのは愛理ですから。私は愛理の優しさにいつも救われています。 だからこそ、大好きな愛理に負けたくないのです。」 「うん。」 私は千聖の手を握った。 「よかった、千聖の気持ちを教えてくれてありがとうね。やっぱり千聖は変わってな・・・」 その時、ものすごい音を立ててロッカールームのドアが開かれた。 「舞さん。」 「舞ちゃん。」 目を吊り上げた舞ちゃんが立っていた。 「なっきーの嘘つき。元の千聖に戻って欲しいって言ってたじゃん。嘘つき!」 大きな目から涙が零れ落ちていた。 「なっきーは舞の気持ちわかってくれてるって信じてたのに。」 「舞ちゃん、待って」 すごい力で私の手を振り切って、舞ちゃんは一直線に千聖に向かって行く。その勢いのまま、千聖を壁際まで追い詰めた。 「もう嫌だ。全部あんたのせいだよ。千聖を返して。私からキュートのみんなを取り上げないでよ!!」 私は呆然と、胸倉を掴まれてガンガンとロッカーに押し付けられる千聖を見つめた。 どうしよう。 どうしたらいいの。 舞美ちゃん、えりかちゃん。 言うことだけは一丁前で、こんなときにどうすることもできない自分が悔しかった。 「お願いだから元に戻ってよ千聖ぉ・・・」 舞ちゃんが千聖の胸に崩れ落ちる。 舞ちゃんに泣いてるのを悟られないように、千聖が口を押さえて嗚咽をこらえている。 もう私にはどうすることもできない。 にぎりしめたままの携帯を開いて、震える指で履歴をたどる。 【もしもし?】 「・・・っ・・ちゃ・・・・」 電話口に聞こえた声に返事をしようとしたけれど、嗚咽でまともに喋ることができない。 【なっきー?何、なんかあったの?】 舞ちゃんの泣き声が耳に響く。あんなに強気な子を、私のせいで追い詰めてしまった。 「助けて・・・舞美ちゃ・・・みーたん、助けて・・・・」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「よし、この部屋空いてる。千聖、入って入って。」 物置部屋みたいになっている一室に、千聖を招き入れて鍵を閉める。 「で、どうしたの?ブラが壊れた?見せてみて。」 「あ・・・は、はい。」 千聖はお嬢様らしい、胸元のサテンが可愛い水色のカットソーをおずおずとめくりあげる。 あ、何かエロい。こういうシチュエーションがそそるとかなんとか同級生が言ってた。 こんな大人しいお嬢様が顔を赤らめて自ら乳(しかも大きい)を見せてくるとかきっと男子にはたまらんだろう。って私は女子だから関係ないんだけど。 「んん?・・・・千聖、寒がりだっけ?」 カットソーの下にキャミを着ていて、それをめくるとさらにシュミーズまで着ている。ブラはまだその先か。 「あ、えと、寒がりではないのですが。」 ボソボソと喋りだした内容を要約すると、こういうことらしい。 最近学校で友達に胸が大きいといわれるようになって、しかもクラスの男の子が、陰で岡井の胸がどうのこうの噂しているのを偶然聞いてしまった。 もともと自分の胸のことは気に入ってないから、最近はなるべく目立たないようにちょっと着込んでいる。 「そっか。気にしてるんだね。でも大きいのは長所だと思うよ?堂々としてればいいのに。キュートのみんなだって、ちっさーいいなとか言ってるじゃん。」 「そう、でしょうか。」 千聖は複雑そうな顔をしながらも、最後の一枚をまくってブラを見せてくれた。 「あらら・・・これはやっちゃったね。」 白いフロントホックのブラをつけているけれど、肝心のホックが飛んで真ん中から綺麗にパックリ割れている。 「これさ、さっきの梨沙子のすごい攻撃で?」 「ええ、多分。あ、でももともと少し弱ってきてたから。梨沙子さんのせいというわけでは」 たしかに頭からゴチンてやられた時、胸すっごいたわんでたかも。災難だったね千聖。 「うーんどうしようか。今日ダンスとかあれば、替えの下着もあったんだけどねー。ガムテ?いやいや、そんなわけには。」 ・・・・ん?でも何か・・・・ホックって、そんなに弱い? 「千聖。ちょっと、背中。」 「え、は、はい。」 ごそごそまさぐってタグを確かめる。 「・・・・これ、カップ数、全然あってないよ。そりゃブラも痛むよー。無理矢理つめこんでるんだもん。」 千聖が身につけていたのは舞m、じゃなくて愛r、じゃなくて、とにかくあきらかに千聖にあっていないサイズのものだった。 「ごめんなさい、えりかさん・・・」 「え、いーよ別に。ていうかウチに謝ることじゃないけど。でも、千聖。いくら自分の胸が嫌でも、ちゃんとした下着をつけたほうがいいよ。あのね・・・」 私は友達やお姉ちゃんから聞いた、胸に関するマメ知識を次々に披露していった。 小さいブラつけても胸が小さくなるわけじゃないとか、 逆にお肉がもれて贅肉に変わっちゃうかもしれないとか、 血流が悪くなって代謝も落ちて体に悪いとか、 私が話すひとつひとつを、千聖は真剣に聞いてくれた。 「・・・だから、今度ママに頼んでちゃんとしたやつ買ってもらいな?もし恥ずかしかったらウチがついていってあげるよ。」 「ありがとう、えりかさん。」 千聖はにっこり笑うと、ギュッと抱きついてきた。半裸で。 「うおっ。」 「私、えりかさんに相談してよかった。こういうお話は、えりかさんに一番聞いて欲しかったから。愛理や舞ちゃんたちは、歳が近すぎて。舞美さんは・・・・えと・・・」 舞美さんは、服装以外男だからね。 「えりかさんがいてくれてよかったわ。」 「千聖ぉ。・・・・・いやいや、そういってくれるのは嬉しいんだけど、結局ブラは直ってないわけで。」 「あ・・・・」 「まかせて。私にいい考えがある。」 この時の私は、まいあがってる時の自分が、舞美よりよっぽど物事の判断がおかしくなるタイプの人間だということにまだ気づいてなかった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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楽屋の雰囲気が悪い。 メンバー間で何があったわけでもない。 でも、流れている空気はかなり張り詰めている。 「はぁ~あーもう。ムカつくんだけど。」 さっきから何度目かの大きな独り言が、千奈美の口を突いて出た。 「ちぃ、どうした?」 すぐにみやとキャプテンが、千奈美の機嫌をとり始めた。 千奈美は時々、私生活であった嫌なことを引きずって仕事場に来る。 いつもはムードメーカーで元気に振舞っているから、千奈美がこうなるとベリーズ全体に影響が出てくる。 根っからワガママな子じゃないし、ああして誰かがなだめればすぐに解決するのだけれど、正直私はそのことを快く思ってはいない。だから、ご機嫌とりの役はずいぶん前に放棄してしまった。 ここにいても仕方ないか。今日はキュートもいるらしいし、あっちの楽屋でも覗いてこようかな。 久しぶりに千聖の「桃ちゃぁーん」が聞きたいし。 「えー何?ももどっか行っちゃうの?ここは空気が悪いって?とぅいまてーんねー。」 扉の前で振り返ると、頬づえをついた千奈美が目を細めて私を眺めていた。 もー。絡まないでよ。 ちょっとちぃ、とキャプテンが宥めようとしているけれど、こういう時に強く言い切れないタイプなのはわかりきっている。 私がニコニコしてごめぇんとか言えば済むのかもしれない。実際それで切り抜けたことも、あるといえばある。 でも、今日はあいにく私もそんな気分ではないのだった。 「仕事とプライベートぐらい分けたら?高校生にもなって、一番子供じゃんそういうとこ。」 思わず毒づくと、千奈美の顔色が変わった。 「もも!今のはないよ。ちぃに謝りなって。」 「あーいとぅいまてーん」 「ちょっと!!マジむかつく!何あの顔!てかみんな笑うとこじゃないんだけど!」 思いつく限りで一番憎たらしい変顔を披露して、千奈美の怒号を背にさっさと楽屋を出た。 別に私と千奈美は、取り返しがつかないほど険悪なわけじゃない。 仲いい時はいいし、千奈美のくったくのなさには救われることも多い。 ただ、根本的な考え方や価値観が違い過ぎるから、こうやってたまにひどくぶつかることも結構ある。 まぁでも、今のは私も悪かったかな。大人げなかった。頭冷えたら、軽く謝っておこう。 「あれ・・・梨沙子?」 キュートの楽屋の前まで行くと、梨沙子が所在なさげに扉の前をウロウロしていた。 ベリーズの方にいなかったから、てっきりこっちに入り浸ってるのかと思っていたんだけれど・・・ 「入らないの?」 「あ、うん。あー、うー・・・」 梨沙子はモゴモゴ言いながら、私の様子を伺うようにじっと見つめてきた。 「どうかしたの?」 「もも・・・ちょっと、こっち。」 歩き出した梨沙子の横に並ぶ。 「どこ行くの?」 聞いても生返事しか帰ってこない。 しばらく歩いて、誰も使わないような古い自販機の前で梨沙子が足を止めた。 「何だ、もういない。」 残念そうに呟くと、また何か言いたげに私を見た。 「ももはさぁ、千聖と仲がいいよね?」 「うん、仲良しだよ。」 「うーん。あのね、これは例えばの話なんだけど、最近千聖がお嬢様キャラに変わったって聞いたことある?あ、例えばだからね?それで、前の明るい系の千聖に戻る練習を舞ちゃんとしてるとか。全部例えばなんだけど・・・・」 うん、梨沙子。それはたとえになってないよ。 「ようするに、千聖が何かの理由でお嬢様キャラになっちゃって、元に戻るように舞ちゃんとここで特訓してたのを梨沙子が見ちゃったってこと?」 「あばばばばばば」 「なるほど。」 梨沙子の言うことが本当なら、すごい話だ。あの千聖がお嬢様キャラって。 ドラマや漫画じゃあるまいし、まだ半信半疑だけれど。 「梨沙子この話、他の誰かにした?」 「う、ううんまだ。何かももすごいね。探偵みたい。」 「・・・。じゃあ、約束ね。これはももと梨沙子だけの秘密。愛理に知ってるか聞くのもだめ。OK?」 梨沙子はちょっと不満そうだったけれど、しぶしぶうなずいた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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ちっさーって、美人なんだ・・・ 小鳥のさえずりのような「僕らの輝き」を聞いたえりかちゃんがヒーヒー言いながら去っていくのを見届ける横顔を見て、私はそんなことを考えていた。 マスカラののりがとても良さそうな長くて濃い睫の下で、少し茶色がかった瞳が不安げに揺れている。 「えりかさん、体調を崩されてしまったのかしら。」 目が大きいとか、くっきり二重とかいうわけではないけれど、ちっさーの目は切れ長で黒目がちでとても神秘的だ。困ったような表情で見つめられて、少しドキドキしてしまった。 私とちっさーが一緒にいる時は、大抵一緒にバカなことをやって大笑いしていたから、ちっさーと言えば笑顔、元気、明るい、という印象が強かった。 そのギャップの大きさもあるのか、こうして間近で見つめるおしとやかなちっさーはとても可憐で、守ってあげたくなるようなオーラを纏っている。 「大丈夫だよ。なんかテンション上がりすぎちゃっただけだって。ちっさーが気にすることないよ。」 私が明るく返すと、ちっさーは胸の前で握った手を少し緩めて 「ありがとう、栞菜さん。」 とにっこり笑った。 ・・・千聖はふざけてるわけじゃないよ。 昨日の夜、電話で愛理から真面目なトーンでそう言われたことを思い出す。ちっさーが変わってしまったあの日から、私は何となくちっさーと二人きりになることを避けていた。 元気キャラじゃないちっさーとどうやって話したらいいのかわからなかったし、もしこれが全部ちっさーのわるふざけだったら、私はちっさーを嫌いになってしまいそうで怖かったのだ。 そしてそんな風に考える自分のことも何だかイヤになってしまって、ここ数日、かなり落ち込んでいた。 そんな時、私を気遣ってくれたのか愛理が電話をくれた。私はちっさーに関して自分が思っていることを全部打ち明けた。 感情が高ぶって途中でボロボロ泣いてしまったけれど、愛理は優しい声であいづちを打ちながら、私の話を聞いてくれた。 「そうだよね、千聖が急に違う人になったら怖いよね。」 愛理の声はとても落ちついていて、しゃくりあげる背中をさすってもらっているような気持ちになった。 「でも、あの千聖もちゃんと千聖だよ。 変わっちゃったように見えるかもしれないけど、前と同じで優しくてみんなのことを大好きって思ってくれてる千聖のままだ。 だから私は今の千聖と一緒にいるの。」 何か気が合うっていうのもあるんだけどね、なんて照れ笑いしながら愛理は言った。 「明日、栞菜も千聖と話してみたら?何にも心配することないよ。」 そんな愛理からのアドバイスで、今日はずっと千聖と話す機会を伺っていたのだけれど、結局今に至るまでずっと話しかけられなかった。 「栞菜さん、あまり私とはお話したくないでしょうか?」 「へえっ!?」 悶々と考えこんでいると、いきなり千聖に話しかけられた。 「家族にも、友達にも、千聖は変わってしまったと言われます。でも私には、以前の私がわからなくて。大好きな方たちを困らせてしまうのは嫌なのですが・・・」 「ちっさー・・・」 そっとハンカチで目じりを押さえるちっさーを見ていたら何だかとても悲しくなってしまって、私はちっさーの頭を抱え込むように抱いて一緒に泣いた。 「不安にさせてごめんね、ちっさー。でもキュートはちっさーの家族だから。話したくないなんてありえないから。本当にごめんね。」 そして、いつまでも戻ってこない私たちをなっきーが呼びに来てくれるまで、ずっと抱きしめあって泣いた。(なぜかなっきーも号泣した。) 「どーしたの!?瞼腫れてるじゃん!」 鼻をグズグズさせながら休憩室に戻ると、舞美ちゃんが慌ててかけよってきた。 「喧嘩?殴り合いとか?仲直りは?」 「違うよぅ。」 慌てる舞美ちゃんがちょっと面白くて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。 「私たちは仲良しでっす!さて、顔洗ってくるね!いこ、ちっさー」 「あ、栞菜さん。」 「・・・栞菜でいいよ」 「はい。・・・・・栞菜。」 ちょっと!私だってまだ愛理さんなのに!と愛理が後ろで叫んでいるのを尻目に、私とちっさーは手をつないで水道まで走った。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「千聖。ちょお~っと後ろ向いてて。」 肩を掴んでくるりと反転させると、私はおもむろにワンピースを脱ぎ捨てた。 「これ、使って。」 後ろから手を回して、自分がつけていたブラを千聖の胸にあてがう。 「えっ!で、でも、これ・・・えりかさんの・・・」 「大丈夫。私は、えーっと、よく考えたらもう一枚持ってた!だから気にしないで、つけて?」 背中のホックを止めてあげる間、ちょっと下に首を傾けて大人しくしてくれる姿が可愛らしい。 もし本物の妹がいたら、こういうふわふわした子がいいな。 お嬢様の千聖はこちらが困ってしまうほど従順で柔らかくて素直で、何でもしてあげたくなってしまう。 ああ、こんなに可愛いならもっと早く新しい千聖と接しておけばよかった。 一人で悶々としてる時間は無駄だった。 私はどうも、考えすぎて二の足を踏んでしまう傾向があるみたいだ。 私だけはみんなと千聖を客観的に見守るだなんて単なる口実で、結局ヘタレえりかだから千聖から逃げていただけだったんじゃないか。 これからは、もっとこっちの千聖とも積極的に関わっていこう。可愛いし。 「んー・・・ちょっと、アンダーが、緩い?あんまり動かなければ平気かな。」 体格差がかなりあるから仕方ないけど、最近お菓子の食べすぎを自認している身としてはちょっとへこまされる。 胸の形を整えてあげて、洋服をかぶせると、見事なお椀が2つできあがった。 「おぉ~いいね!千聖、隠すよりこうした方が絶対いいよ。女らしくて綺麗。」 「そ、そうですか。あの、ありがとうございます。」 もともとブラに備わっているぬいつけパット的なもののせいで、立派なおっぱいがさらに立体的になっているのは仕方ない。(舞美のに比べたら偽装にもならない程度!) 「えりかさん、本当にいろいろご迷惑をかけてしまって。」 「いいって~キュートの仲間じゃないの。これからも何でも言ってよ。」 「はい。」 前の千聖も、今の千聖も、やっぱり笑顔が抜群に可愛い。 この顔を見せられると、つられてにっこりしてしまう。 皆がお嬢様千聖に甘くなってしまうのがなんとなくわかる気がした。 楽屋に戻るとすぐ、私はマネージャーの元へ急行した。 「ちょっと、お耳を拝借・・・・」 「・・・・というわけなんだよ、なっきぃ。いろいろ心配かけてごめんね。」 衣装合わせを終えた私は、なっきぃを誘って、隅っこの方で私と千聖の空白の数十分について説明をした。 目線の先には、胸元を押さえてうらめしそうにこちらを見るマネージャー(巨乳)。 「う~ん。それはいい話だねといいたいところなんだけど、1個言ってもいい?」 「はい。」 「別に、えりかちゃんが千聖にブラジャー貸す意味なくない?その行動ムダじゃない?えりかちゃんはそのまま自分のブラつけてればよかったんじゃない?」 「うっ」 「ていうか、すぐ近くにスーパーあるんだから買いに行けばよかったと思うんだけど。何もマネージャーから剥ぎ取らなくても。頼んでくれればなっきぃが行ったよぅ。」 「ぐっ」 「もーびっくりしたよ。えりかちゃんいきなりマネージャーに脱いで!とか言い出すんだもん。ちょっと冷静になればさぁ・・・ってえりかちゃん!そんなへこまないでよぅ。」 「1個じゃなくていっぱい言ったね・・・」 本当におっしゃるとおりすぎて、さっきまでの得意げな気分はしぼんでしまった。 要領がいい悪い以前に、判断がめちゃくちゃじゃないか、私。 いつもより心もとない胸元に、余計に風が吹きすさんだ。 「ごめんごめん。なっきぃつい言いすぎちゃうね。でも、千聖が嬉しそうだからこれで良かったんだと思うよ本当に。うん。それに、えりかちゃんが千聖のこと気にかけてたってわかってなっきぃも安心した。」 「・・・本当?」 なっきぃが指差す方向を見ると、ちょうど千聖がサイヤ人のような衣装を合わせているところだった。私となっきぃの姿を確認すると、軽く手を振ってきた。 「明るくなったよね、お嬢様。きっとえりかちゃんのおかげだよ。」 「なっきぃ・・・」 お姉ちゃんみたいな口調でなっきぃに励まされて、じんわり胸が熱くなった。 「あーでも、あの胸はちょっとヤバいね。えりかちゃんのパットのせいだ。キュフフ」 「・・・もうしわけありませんでした。」 数日後、私のプチ偽装ブラを気に入ってくれた千聖が、ライブトークの時にまでそれを装着して【ロケットおっぱい】【メロンπ】【( 三 ) 】などと話題をかっさらうことになったのはご愛嬌。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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どうして? 何が? えりかちゃんは何のことを言ってるの? たくさんの疑問が頭をよぎる。 「愛理どうしたのー?えりかちゃんにちっさー取られちゃってやきもち?」 「栞菜。あのさ」 栞菜の手を恋人つなぎにしてみる。こうすると、栞菜は真面目に話を聞いてくれるようになる。 「栞菜さ、えりかちゃんに何か・・・されたことある?」 「え、何かって、何かって、何?」 「すごいスキンシップとか。」 栞菜の顔がちょっと強張った。あるんだ。 「まあ、えりかちゃんは皆にペッタペッタするから。」 そうかなあ。 「私にはしないよ。」 「愛理にはそういうのしにくいもん。」 ・・・そうなんだ。あんまりされても困っちゃうけど、ちょっとそれ寂しいかも。 「それで、愛理はちっさーがえりかちゃんに何かされたって思ってるの?」 すごいな。栞菜はこういうことに関する勘が鋭い。 「わかんない。でも、今の千聖にあんまり変なことしてほしくないとは思う。」 まださっきのえりかちゃんの発言のことは言わないほうがいいかもしれない。 「そうだよねー。私たちのお嬢様だもんね。」 二人の方に目を向けると、えりかちゃんが指で千聖にグロスを塗っていた。 「千聖にはオレンジが似合うと思うよ。可愛い。」 顔に右手を添えて、親指で唇を撫でている。千聖の唇と、えりかちゃんの指が同じ色に染まる。 それを見ていたら、さっきのトイレでのことを思い出した。 あの唇から、エッチな声出してたんだ・・・。一体どこまでしていたんだろう。 私がまだ経験できてない、梨沙子が言ってたアレも、もう知っているのかな。えりかちゃんに教わって? そんなことを考えていたら、またお腹の下の方が熱くなってきた。 「ちっさーと栞菜、ちょっと来てー?」 舞美ちゃんが二人を呼んだ。 「はーい。愛理また後でね。」 栞菜は手を解いて舞美ちゃんの所へ行く。 千聖も席を立ったから、あぶれたもの同士と言わんばかりにえりかちゃんが近づいてくる。 「愛理元気―?」 「まあまあかな。昨日寝つき悪くて。」 何かふわふわした会話だな。多分、核心に触れていないからだ。 「でも愛理、すごい目キラキラしてる。アドレナリン出まくってますって感じで。やっぱり興奮するよね。千聖の一人エッ」 「ちょっと!やだ!」 私の大声で、楽屋にいた皆が目を丸くして振り返った。 「ごめん。なんでもないよ。」 何を言ってるのえりかちゃん。やっぱり千聖に何かしたの?ううん、それよりも 何で私がそのことを知ってるってわかったの・・・・? 「梅さん大きいほうしたくてね、遠くのトイレ探してたの。・・・びっくりしたよ。ドア開けたら個室挟んで何かエロいこと言ってるんだもん。あの愛理が。」 いつもの天然なえりかちゃんじゃない。大人の女性の、何もかも見通したような怖い目をしていた。綺麗な顔に迫力が加わって、私は何もいえなくなる。 「今、千聖にいろんなこと教えてる最中なんだ。だから」 “ジャマしないでね” 頭が真っ白になった。 「ち・・・・千聖に、変なこと、しないでよ・・・・」 蚊のなくような情けない声で訴えてみたけれど、えりかちゃんは口元を少し歪めただけだった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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【愛理さん舞美さん】岡井ちゃんが遠くに行ってしまった件(ソースあり)【ごきげんようってなんだよ】(329) ちっさーのキャラ替えを断固阻止したい人の数→(773) 「ああぁ~・・・」 パソコンの前で、私は頭を抱えた。これはおそらく昨日のキューティーパーティーのことだろう。(とは言っても何が書いてあるのか怖いので、私はいつもマイミスライムしか見てない) 冒頭でいきなり「ごきげんよう」をかまされた時は本当にあせった。 愛理が即「はい、千聖お嬢様。」と返したから、その場は何とか切り抜けることができた。 千聖も空気を読んで、お嬢様語を封じて明るい雰囲気を出してくれたのだが、いつも聞いてくれるファンの人達にはやっぱり違和感を覚えさせてしまったみたいだ。 「もー本当・・・私のせいだ。ダメだ。本当私最悪だ。」 あの時、私が千聖にちょっかいを出さなければ。体勢を崩した千聖を支えてあげていれば。こんな事態にはならなかったはずだ。 私もえりと同じで、最初は千聖の悪ふざけを疑った。 服装まで変えて、ウケるねーなんてのんびり話していたけれど、千聖はいつまでたっても元の千聖に戻らなかった。 可愛らしいスカートを履く。食事のときにレースのハンカチを膝に敷く。 そんなことが積もり積もって、私はようやくこれはあの時の後遺症なんだと気づいた。 それに、千聖はお調子者でいたずらっ子だけれど、みんなを困らせてまでそれを続けるような子じゃない。 動揺するみんなを見て泣きそうな顔をする千聖を見ていたら、間違いないと確信できた。 同時に、千聖から取り返しの付かない何かを奪ってしまったという絶望感と罪悪感で胸が押しつぶされそうになってしまった。 千聖の顔を見ると、涙が出そうになる。そして目をそらす。千聖が悲しそうに私を見つめる。そんな悪循環がずっと続いた。 みんなが徐々に新しい千聖を受け入れるようになっても、私はほとんど会話をすることができなかった。 リーダーなのに、こんなんじゃ駄目だと思ってはみても、じゃあどうしたらいいのかがわからない。 えりは千聖のキャラがつぼにハマって盛大にふいた後、「あれは演技じゃないからもう私は認める」と言い、徐々に順応してきているみたいだ。 でも私は自分に責任がある以上、そんなに簡単に新しい千聖を受け入れるわけにはいかないのだった。 「おはよーございまーす・・・」 今日も又、イマイチ元気が出ないままレッスンスタジオに向かう。 「舞美ちゃん、大丈夫?ずーっと元気ないね。飴でも舐める?」 「ん、大丈夫。体調でも悪いのかな?あはは・・・」 学校帰りなのだろう、まだ制服を着たままの早貴が気を使って話しかけてくれた。 私は何をやってるんだろう。リーダーなのにみんなを心配させて、リーダーなのに困っているメンバーを助けてあげることもできない。 あ、ヤバイ。ちょっと泣きそう。最近は柄にもなく感傷的になりがちだ。 「ごめん、早貴ちゃん。ちょっと私・・・」 「うん?」 「私・・・」 「・・・うん・・・」 「走ってくる!」 「ええ!?ちょっと!」 「みんなによろしく!」 そう言い残して、私は屋外のちょっとしたグラウンドみたいな場所に向かった。 クサクサしてるときは、やっぱり体を動かすのが一番だ。隅のほうでストレッチをしていると 「舞美さん。」 いきなり後ろから声をかけられた。 「あ!千聖!!おはよー!!!今日まだ会ってなかったね!!!ところで何してるの!?」 うわあ我ながらひどい空元気。千聖も目をパチクリさせている。 「ええ、ごきげんよう。少し早く着いてしまったものですから、体を動かそうと思って。」 千聖は濃い目のピンク地に小さな黄色いドットが入った可愛らしいジャージを着ていた。 こういうレッスン着ひとつにも変化を感じられて、また少し気持ちが重くなってしまった。 「もし嫌でなければ、一緒に何かしませんか?」 「え?あ、うん」 「じゃあ、ひとまず一周走りましょうか。よーい、ドン!」 いきなり掛け声をかけて、千聖が走り出した。 「ちょっとちょっと!千聖!」 慌てて追いかけるけれど、千聖はさすがにお嬢様になっても足が速い。なかなか距離が縮まらず、私の闘争本能に火がついた。 「あは、あははははははは」 笑いながら加速する私に少し驚きながらも、千聖はいたずらっ子のようにニヤッとしてさらにスピードを上げた。 戻らない私たちを心配したのか、いつのまにかみんなが集まってきていた。 楽しげな私たちをあっけに取られたように見ている。 やっぱりこの子は千聖でいいんだ、と私は思った。 こんな風に無心で走ることの楽しさを共有できるのは、千聖しかいない。 キュートのリーダーとしてはまだ、これからどうしていけばいいのかはわからないけど、 私は今の千聖の中に元の千聖を見つけられることができて、少し心が軽くなった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「七組はスキー学校でたっぷりしぼられたんだろ?なんちゅーかさ、開成にもいろんな先生がいるってのがわかっただろ?ん?いやいやいや、俺なんかまだぬるい方だって、いやホントに」 概要 スキー学校明けの、ワンリキーの授業にて。 まさかその某先生と、次の年に同じ学年を教えるとは思いもしなかっただろう。 関連項目
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「お疲れ様でしたー!」 そして、閉幕後。 無事に初日を終えて、達成感と充実感に満たされながらも、私はやっぱり千聖のことが気がかりで仕方なかった。 舞台の中で、千聖は私のアドリブに笑顔で応えてくれた。歌の時も、目が合うと笑ってくれる。でも、これは実はあんまりいい傾向じゃない。 千聖は裏で喧嘩や揉め事があると、反動なのか、ステージではものすごく愛想が良くなる。ということは・・・ 「はい、℃-ute集まってー!」 軽い反省会の後、無事初日を終えたお祝いということで、ちょっとした懇親会みたいなのがあった。 キュートのみんなと、共演者のみなさんと、スタッフさん。ちっちゃい部屋で、ジュースを飲みながらみんなでお喋りをする。そんなささやかなパーティーの中で、私は意を決して、ニコニコ笑っている千聖に近づいていった。 「千聖、ちょっと」 「ごめんなさい。舞さん、後でもいいかしら」 「・・・うん」 撃沈。 口調は柔らかいけれど、きっぱりはっきりと拒まれてしまった。「いいの?」なんて愛理となっきぃが千聖に聞いているけれど、当の本人はまったく意に介していないみたいだ。 「はぁあ・・・」 肩を落として元いた席まで退散すると、苦笑しているえりかちゃんと舞美ちゃんが苦笑で迎えてくれた。 「何だ何だー?またケンカ?今度はどうしたの?最近毎日ケンカしてるじゃーん、とかいってw」 「うー…もうだめかも。舞、消えてしまいたいよ・・・」 「そんなこと言わないで、舞ちゃん。今は間が悪いんだよ。あせらないあせらない」 両側から頭をなでたり、肩を抱いてくれたり。今はそんな二人の優しさが心地いい。でも、根本的な問題が解決したというわけじゃない。千聖との問題を解決させない限りは、いつまででも自分の胸に、このもやもやは燻り続けることになるんだろう。 「えりかちゃん、お願い。舞、今日中になんとかしたいよ。どうにかならないかな」 今は、恋敵じゃなくて、お姉ちゃん。私はえりかちゃんの腕を両手で握って、綺麗な形の目をじーっと覗き込んだ。 「今日中ねぇ」 「ていうか、今すぐ。」 よっぽど必死な顔をしてたんだろう。えりかちゃんは「わかった」と軽くうなずいて、千聖の側に行ってくれた。二言三言会話を交わすと、2人はそっと部屋を出て行く。・・・今は、えりかちゃんを信じて待つしかない。 「お姉ちゃん・・・」 祈るような気持ちで舞美ちゃんに寄り添っていると、急に後ろから「舞ちゃん」と名前を呼ばれた。 「なっきぃ。」 「今、いいかな」 眉をしかめて、ずいぶん深刻そうな顔をしている。 「舞ちゃんさ、千聖と何かあったの?」 「うん・・・ちょっと、ケンカ中かな」 「・・それ、私のせい?」 「え?」 なっきぃの言葉は予想外だった。私は目を瞬かせる。 「さっきね、千聖と愛理と3人で話してるときに、その・・・痴漢、の話になったのね。愛理が昔被害にあったことがあって、とっさにピンで手刺して撃退したとか、そういう話なんだけど」 愛理、つえぇ。 「まあ、それは別にいいんだけど、その時千聖がこう言ったの。“そういう犯罪は、絶対に良くないわ。痴漢や強制わいせつは、とても怖いことなのよ。それなのに舞さんはどうして・・・あぁ、ごめんなさい。何でもないの”」 「うわぁ」 私は気が動転して、「なっきぃ、千聖のモノマネうまいね」なんて間抜けな感想を漏らしてしまった。 「もう、何それ」 「・・・ごめん」 「だから、ちょっと気になって。舞ちゃん、千聖にちょっとやりすぎな悪戯でもしちゃった?ほら、だって、私と変なの見ちゃったから、もしかしてそれが原因だったら申し訳ないし・・・」 舞美ちゃんの手前、なっきぃはぼかしぼかし喋っていたけど、言わんとすることは十分わかった。 「・・・そうじゃないよ」 だから、私は即否定した。別に、なっきぃが悪いわけじゃない。 「あれは、ただのきっかけだから。遅かれ早かれ舞は千聖にああいうことして怒らせることになったんだろうし」 なっきぃが黙って、まじまじと私の顔を見る。 「・・・・・え、つまり、舞ちゃんは、無理やり千聖とエッチしたってこと?」 「ちょ、ちょぉなっきぃ」 気が動転したのか、なっきぃは意外なほど大きな声でそう言った。周りにいた人たちの視線が集まる。 「ど、ど、どどどどうしよう!私のせいで舞ちゃんが」 「え?え?え?え?」 泣き崩れるなっきぃに、目にいっぱいクエスチョンマークが浮かんでる舞美ちゃん。愛理はスタッフさんとの話を中断して、目をしばたかせてこっちを見ている。 「・・・舞が?チカン??ちっさーに???エッチ????えええ?」 「みぃたぁん・・・うわあああん」 「いや、違う。違わないけど。待って、舞の話を聞いて」 いよいよ手に負えない感じになってきたところで、目の前のドアが開いた。場違いなほどすっきりした顔で、えりかちゃんが戻ってきた。 「舞ちゃん、お待たせ・・・え、あれ?」 泣きじゃくるなっきぃに、ぽかーん顔の舞美ちゃん。困惑する周りの皆さん。異様な光景に一瞬躊躇するも、えりかちゃんはすぐに気を取り直して「とりあえず、行ってきたら?」と私を促してくれた。 「でも、」 「ケッケッケ。よくわかんないけど、こっちはまかせて」 「うん。千聖待ってるよ。奥から2番目の部屋ね。」 「・・・わかった」 あきらかに面白がってる愛理はともかく、えりかちゃんがそう言うなら。私は大急ぎで、目的の部屋に向かうことにした。 「・・・・千聖。」 第3稽古室と書いてあるその場所で、千聖はほおづえをついていた。 私が入っていっても別に驚かなかったから、きっとえりかちゃんから少し説明があったんだろう。相変わらず私の顔を見ようとはせず、しかめっつらであっちの部屋から持ってきたお菓子をぽりぽり食べている。 「・・・舞ちゃん、立ってないで座ったら」 「あれ。お嬢様じゃないの?また戻ったの?何で?」 「わかんないよ。えりかちゃんがスイッチ入れてくれるのかと思ってたけど、違うみたい。なんか勝手に変わるのかも・・・って別に今そんなのどうでもいいじゃん」 千聖はやっと顔を上げて、自分の隣の椅子を私のために引いてくれた。不機嫌なことに変わりはないけど、今度は私をちゃんと正面から見てくれた。 「怒ってるんだからね」 「うん」 「何であんなことしたの」 まだ少し怯えているのが、目の動きでなんとなくわかる。その顔を見てると、こんな状況だっていうのに、変に胸がドキドキする。 「何その目。やっぱり舞ちゃん変だよ。絶対おかしいから」 「だからごめんってば。謝ってるじゃん」 「何だその言い方。どうせ反省してないんでしょ」 「はぁ?してるし」 千聖は少し調子を取り戻してきたみたいで、徐々に言い合いがヒートアップしてきた。 この勢いなら、なしくずしで仲直りできるかもしれない。 でも、私はちゃんとけじめはつけておきたいと思った。それが千聖への誠意であり、わざわざ機会を作ってくれたえりかちゃんへの礼儀でもある気がするから。 オホンと一つ咳払いをして、話を軸まで戻す。 「・・・なっきぃの家で、エッチビデオを見て」 「は?え?・・・うん」 「それで、何て言うか・・・・千聖と同じようなことしたら、どうかなって思ったの。まあ痴漢はだめだけど、エッチぐらいなら受け入れてくれるかななんて思って。それで、あんなことをしました。すみませんでした。」 こうして言葉にすると、私って本当に最低なことしたんだなとあらためて感じる。何だ、その理由は。 「最悪・・・」 「でも!私は千聖が良かったんだよ。舞美ちゃんでもえりかちゃんでもなっきぃでも愛理でもなく、千聖としたかったの。好きなの、本当に。千聖のことが。 だから舞以外の人とはしないでほしかったの。・・・でもあんなことはしちゃだめだったと思うけど・・・ごめんなさい・・・」 自分でもかなり勝手なことを言ってるとわかっているから、最後のほうは尻すぼみになってしまった。はずかしくて千聖の顔を見れない。 「もう、わかったから。舞ちゃん」 少し時間が経ってから、千聖はそっと私の顔を撫でた。顔を上げると、たまに見せる、困ったような笑顔をしている。 思わず抱きつくと、優しく背中に手を回してくれた。そして、「でも、本当に怖かったんだよ」とつぶやいた。 「ごめんね」 「舞ちゃんが、違う人みたいに見えた。舞ちゃんにされたことも怖かったけど、それより、舞ちゃんと千聖の関係がめちゃくちゃに壊れちゃうんじゃないかって思って。それが一番怖かった。」 「ごめん、千聖」 「千聖、舞ちゃんのことちゃんと好きだよ。だから悲しかったの」 本当にバカ。信じられないぐらいバカ。 許されると思って調子にのって、こんなことまで千聖に言わせるなんて。最低人間だ、私。 頭の上に鉛でも乗っけられたように、自然に頭がズドーンと下がっていく。 「そんな顔しないでよ、舞ちゃん。相方がそんなんじゃ、千聖も元気でないよ」 「・・・まだ、舞は千聖の相方でいいの?」 「当たり前でしょー」 それで千聖は、やっと、しばらくぶりに満面の笑みを見せてくれた。 「もうあんなことしない?」 私の髪を撫でながら、お姉ちゃんな声で千聖が聞いてくる。 「・・・それはわかんない。だって、やっぱり好きなんだもん。千聖のこと」 「最悪・・・」 でもその声は柔らかくて、千聖はまた困ったように笑っていた。 「千聖。」 「うん」 自然に顔が近づいて、唇が重なる。今度は千聖は暴れないで、じっと受け入れてくれた。 あの時みたいに、興奮はしなかったけど、私は幸せだった。キスで穏やかな優しい気持ちになれるなんて知らなかった。それはごく普通のキスだけれど、今まで何度かした中で一番気持ちがよかった。 「・・・そろそろ戻らなきゃ。千聖、先に行くね」 しばらくして顔を離すと、少し赤い顔で千聖は勢いよく立ち上がった。・・なんだ、ムードも何もあったもんじゃない。 「一緒に戻ろうよ」 「やだよ。えりかちゃんに何か言われる。さっきだって舞ちゃんが来る前すっごいからかわれたんだから」 千聖はこういうとこ、結構ドライだと思う。まあ、やっと許してもらえた立場で文句は言えないけれど。 「ねえ、私とえりかちゃんどっちが好き?」 その代わりといっては何だけど、千聖が部屋を出る寸前、私は本日最後のワガママをぶつけてみた。千聖は目をパチパチさせながら振り返った。 「ねえ、どっちが好き?」 語気を強めてもう一度問いかけると、千聖は少し考え込むように黙ってから、黙って唇の端を吊り上げた。これは、なかなか嫌な笑顔だ。 「・・・えりかちゃん、かな」 「はぁ!?何でよ」 「えりかちゃんは舞ちゃんみたいに、千聖が嫌がることしないもーん」 自分から仕掛けたとはいえ、千聖の返答に、私はガックリ肩を落とした。 「・・・もーいい。さっさとえりかちゃんのとこ行けば?舞もすぐ戻らせていただきますから」 「・・・でも、舞ちゃんのことも好きだよ。」 苦笑したまま私を置いて行こうとした千聖は、去り際そんなことを口走った。 「は・・」 「うへへ、大好き!」 ニカッと笑って、ピースサイン。今度は振り返らずに、鼻歌なんて歌いながら、千聖の声は遠ざかっていった。 「・・・何それ。ずるい。」 後悔とか、反省とか、安心とか。いろんな気持ちが混じって、私は一人静かな部屋でじたばたした。 「やっぱバカだな、舞って。千聖バカって感じだ」 千聖バカ、か。自分でいうのもなんだけど、こんなしっくりくるあだ名も珍しい。 「ふふふ」 とりあえず、このニヤニヤが収まるまではここにいよう。唇を指でなぞって、私はもう一度小さな笑い声を漏らした。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「あ・・・おかえり、千聖。」 はしたないところを見られてしまった。正気に戻った私は恥ずかしくなって、すぐに椅子から降りようとした。 「ふ、ふふ」 「千聖?」 「グフフフッ愛理ぃ、何やってんの?ウケるぅ!」 千聖が私の椅子に飛び乗って、右手をかざして一緒に宣誓してきた。 「これぇ、何の誓い?」 私の顔を覗きこむその顔は、長年見知った半月眼のクシャクシャ笑顔だった。ちょ、ちょっとまさか元に戻ったの? 「よ、よかったね?ちっさー。うん、これでいいんだよ、ね?」 ・・・栞菜。 「私も元に戻ると思ってました」 ・・・えりかちゃん! 「ほら、これでよかったじゃないか!これで愛理と舞も仲直り・・・ってちっさー!?ちょっと!」 いきなり、肩にミシッと重い感触。 視線を向けると、千聖が腕にしがみついて体を持たれかけさせてきていた。 「ご、ごめんなさい、愛理。これが限界みたい。」 「へぇぇ?」 またお嬢様千聖の、わたあめみたいにふわふわした喋り方に戻った。 「・・・もしかして、今の全部」 「そう、千聖の演技。すごくない?女優になれるよ。舞もびっくりした。」 舞ちゃんが無理矢理栞菜側の椅子によじのぼって、私の手から千聖をもぎとろうとした。 させるか! 千聖の小さい体を抱え込んで遠ざけると、舞ちゃんはムッとした顔になった。 「何だー演技か!でも本当すごいよ!舞もちっさーも頑張ったじゃないか!」 「へへへ。今は短かったけど、3分ぐらいならずっとあのテンション維持できるんだよ!ね、千聖?」 3分て。ウルトラマンか。 「でも、こんなにぐったりしちゃうんじゃ千聖が可哀想。千聖の心はオモチャじゃないのに。」 「オモチャだなんて思ってないよ。大体、こっちが本来の千聖なんだよ。それを愛理がさぁ」 「待って、舞さん、愛理も。」 口論になりかけたところで、千聖が口を開いた。 「ありがとう、2人とも私のことを思ってくれているのよね?とても嬉しい。」 そんな風にニッコリされてしまうと、何も言えなくなる。 「あんまり無理しないように気をつけるから、このまま訓練を続けたいわ。でも、できれば今の私のことも好きになって欲しいの。」 前半は私の顔を、後半は舞ちゃんの顔を見つめながら千聖は腕に力を込めてきた。 「なっ、そ、と、とにかく、千聖の訓練は今までどおりしゅいこうしましゅから!舞の話はここまで!」 あ、今のちょっと可愛い。 舞ちゃんは今までみたくお嬢様千聖にあたれなくなって、照れて体をあちこちぶつけながら床に下りた。 「愛理ぃ。」 「・・・わかったって。さっき言ったとおり、キャラ作りには協力する。」 あんな天使みたいな笑顔で頼まれたら、しょうがないなあなんて甘くもなってしまう。 「よし、じゃあキュート集合!残り時間は特訓に使うよ!ちっさー、まずはノートの86ページを・・・」 コンコン 「誰かいますかー?」 コンコン 「愛理、いる?梨沙子だよー」 げっ 「梨沙子と、桃子だ。どうする?忙しいって言う?」 「いいよ。逃げることない。これはいい実戦になるよ。千聖、さっきの桃ちゃぁん!て言い方思い出して。」 ちょっとこめかみに青筋を立てながら、みんなのとまどいをまるっと無視して舞ちゃんがドアを開けた。 舞ちゃん、アグレッシブ! 「いらっしゃい。」 こうしてお嬢様千聖をめぐる、ベリVSキュートの第1ラウンドが幕を開けた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -