約 24,297 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/40.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/37.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/35.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/42.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/38.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/41.html
「あーあ、なんか退屈ね。どこかにおもしろいことでも転がってないかしら」 さっきからパソコンで2ちゃんねるを覗いていたハルヒが実に退屈そうにしている!いつもならば聞き流してしまうところなのだが、最近のハルヒのいらいらは相当ひどいらしく、閉鎖空間の発生が件数、規模共にこれまでの記録を1桁上まわっているだとか、次の閉鎖空間の発生が世界の最後になってもおかしくないとかいう話を古泉から聞いた直後だった俺は、焦って古泉と朝比奈さんに目配せした。 朝比奈さんの方を向くと、自分のメイド服とハンガーに掛けてあるナース服を見比べて、頭を振る。さすがにもうコスプレではハルヒも満足しないだろう。古泉もちょっと思案顔をしていたがお手上げのポーズをしてため息をつく。いくら機関でも準備なしにイベントは用意できないのだろう。二人ともネタなしか、ここは一つ、俺が何とかしなければ…そうだ! 「長門、お前友達いるのか?」 「…いる」 「SOS団以外には?」 「…」 「俺たちはお前のことを友達だと思ったことはないぜ。お前友達いないんじゃないのか?」 唐突に長門につらく当たり出した俺を、ハルヒは何も言わずじっと見ている。古泉が何かを察したのか会話に加わってくる。 「たしかに長門さんはいつも本ばかり読んで僕らと遊んでもいませんしね。海に行ったときもそうでした。本当は僕らが邪魔なんじゃないですか?無論、僕らもあなたのことをそう思っているわけですが」 よし、みんなその調子で長門を責めろ。 「私も長門さんのことがよく分からなくて…何を考えているんですか?ちょっと不気味で、怖いです」 朝比奈さんもちょっと震えながら、かなり恐ろしいことを言ってくれる。長門はそれでも本から眼を離さない。 「おい、聞いてるのか!」 俺はつかつかと長門に近づくと、読んでいた本を奪って投げ捨てた。長門は顔を上げたが、その表情からは何も読み取れない。 「目の前の受け入れたくない現実から逃避するために本の世界にのめり込む…まったく引きこもりの典型的な自己防衛行動ですね」 「そんな人が同じ部屋にいると、こちらまで気分が滅入っちゃいます」 古泉と朝比奈さんが追い打ちを掛ける。 「いつも本を読んでるくせに、反論できるくらいの知恵もないんだな。お前本当は本を読んでる振りして、俺たちのこと観察してるんじゃないのか?気持ち悪い」 長門は少しずつうつむき、完全に頭を垂れると小刻みに震えだした。 「何だ泣いてるのか。辛気くせえ、出てけよ!」 手近にあったトランプの箱を投げつける。長門の頭にヒットして札が散乱する。長門は手で顔を覆い、小さく声を上げて泣き始めた。調子に乗って椅子を蹴る。 「オラ、早く消えろ、この陰気な文芸部員がよぉ」 「お茶あげますから早く消えてくださ~い」 朝比奈さんがポットから出したばかりのお湯をぶっかける。 「あつっ、ああっ、熱い…」 耐えきれなくなったのか、長門はやおら立ち上がると鞄をつかんで部室を出て行った。 「二度と来ないでくださいね~、次は僕のセカンドレイドをお見舞いしますよ」 ドアを開けて古泉が叫ぶ。俺は長門が座っていた椅子にどかっと腰を掛けた。 「はぁ~、せいせいした」 「あんな無表情な長門さんでも泣くんですね。正直ちょっと気持ち悪かったですけど」 「明日もしまた顔を出したらどうするか、対策を練っておきましょうか…涼宮さん?」 それまでずっと黙っていたハルヒがこちらを見る。 「…ちょっと…私…」 おもむろに近づいてきたハルヒは、次の瞬間、満面の笑みを浮かべて言った。 「おもしろそうな拷問のたくさん載ってるウェブサイトを見つけたのよ、明日から一つずつ試してみましょう!」 やった、俺の読みは見事に当たったのだ。いじめは古今東西、人類最高の娯楽として君臨してきたのだからな。 「仰せの通りに」 古泉が笑顔で礼をする。パソコンのディスプレイを覗いてみると、テキストだけで精神的にも肉体的にも参ってしまいそうな拷問の数々が、写真入りで紹介されている。これは朝比奈さんには見せられないな。 「あまり派手にやっちゃうと教師にばれてまずいことになるわ。精神的なものからやってみましょ」 「これなんかどうですか~、ずっと水を頭に流し続けるっていうのがありますよ~」 朝比奈さんは俺の心配をよそに喜々としてサイトを見ている。 「じゃあキョン、帰りにホームセンターに行くわよ!ホース買わなきゃ」 ハルヒも楽しそうに言う。 「もし明日長門さんが来なかったらどうします?」 古泉の心配ももっともだ。 「大丈夫ですよ~、私が迎えに行きますから。学校に来ていなければおうちに乗り込んで引っ張ってきてあげます」 確かに朝比奈さんなら長門を無理矢理連行しても通報されることはあるまい。 「あー、なんかわくわくしてきたわ。明日が待ちきれないわね」 ハルヒは最高の笑顔で俺の腕にすがりついてくる。そんなハルヒをどうしようもなくかわいいと思ってしまったことは俺だけの秘密だ。 ホースを買ってから家に帰ると、門の前に長門が立っていた。 「よ、元気か」 小さくうなづく。 「ハルヒはいじめに期待してるぞ。明日もいい反応しろよ」 「…わかった」 「お前にはちょっとくらい手荒なことをしてもすぐ回復するよな?血が出たりすれば盛り上がるだろうから、そっちもよろしく頼む」 「肉体的なダメージは平気…でも」 珍しく言いよどむ長門。しかし俺は無視して続ける。 「あとな、こんなところハルヒに万が一見られたら、すべての計画がパーだ。今後俺には一切話しかけるなよ。もちろん古泉や朝比奈さんにもだ」 長門は目を大きく見開いて俺を見つめる。その目に涙が光っているように見えたと思った瞬間、ぽつぽつと雨が降ってきた。 「んじゃ、また明日学校でな。逃げるんじゃねえぞ」 次第に強くなる雨の中で立ちつくす長門に追い打ちをかける。 「早く消えろよ、もううちには来んな」 長門は降りしきる雨の中を走って帰っていった。その後ろ姿を見送りながら、明日以降どうやっていじめてやろうかと考えるとじんわりと笑いがこみ上げてきて止まらなかった。 あんなに素直でかわいいハルヒと、長門を思う存分いじめられる。これでもう、ハルヒは退屈なんかすることはないだろう。そしてもちろん俺も。 以上
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5230.html
エピローグ 最後に新川さんが丁寧に謝辞を述べ、古泉が閉会の挨拶と二次会の案内をして披露宴はお開きとなった。新郎新婦は拍手の中を退場、とふつうはプログラムにあるはずなのだが、突然ハルヒが叫んだ。 「ちょっとみんな、外見て!」 「どうしたんだ?」 「すっごいじゃないの、目の前で花火をやってるわ」 「まさか、もう九月だぞ」 ハルヒの指令ですべてのカーテンが開けられた。窓の外はもう暗くなっていて、眼下に広がる俺たちの町の夜景と夜の海、そのはるか上空で、光の大輪の華が大きく広がっては消えていく。ドドンと腹の底に響くような大きな音と共に赤黄色オレンジと青に緑の輪が咲いていた。今日のセレモニーの最後を飾るイベントだと思ったらしく招待客からやたら歓声が上がっている。 「あれは誰がやってるんだ?古泉、お前の機関の仕込みか」 「とんでもない。あんな予算のかかる見世物をやるなんて聞いていません」 「あれは……」長門が宙を見つめた。「情報統合思念体がやっている」 「なんと。思念体って人類に直接干渉したりしないんじゃないのか」 「……わたしたちへのプレゼントのつもり、らしい」 こいつは驚いた。あいつらも味なマネをするな。 「……自律進化の閉塞状態を打開するヒントを得た、そのお礼」 「なんだそれ」 「わたしはあなたと出会って、自律進化を遂げた。その報告が貴重なヒントとなった」 「なるほどな。お前のパトロンも気の効いたことをするんだな」 「……あれは、主流派ではない」 主流派以外に俺たちに興味があるってのは、え。 「もしかして急進派か」 「……」 長門はなにも答えず、ただ黙って遠くを見つめた。急進派といえば、ナイフが好きなあいつが消えてからそろそろ八年になるか。あのときの二人のアクションシーンは今でも忘れない。そもそも長門と俺が親しくなったのはあいつが要因じゃなかったか。 「……おめでとう、と言っている」 「そうか。ありがとうと伝えてくれ」 かつて清涼感あふれる女子高生だった髪の長い女の子が、どこか遠くから見守ってくれているような気がする。長門はそっと俺の手を握った。俺も握り返した。 「みんな、二次会に行くわよ、あたしについてきなさーい」 とりあえずは披露宴は終わり、俺たちは控え室に戻ることにした。ほとんどが二次会に直行するようで、受付でブライドメイドとベストメンが引き出物の紙バックを配っていた。なにが入っているのか謎な年末の福袋っぽい感じもしなくもないが。 ボードに貼られた朝比奈さん撮影の写真が奪い合うようにして剥がされ、長門はもちろんメイド三人が写った写真はすぐにソールドアウトし、物好きなやつはハルヒの写真も持って帰っていた。なぜか古泉のも消え、残ったのは俺の写真だけだった。長門がそれを大事そうに一枚ずつ手に取っていた。 控え室でメイクを落とし、衣装を脱ぐと気持ちまで脱力してハァとため息をついた。 「やれやれ、やっと終わったな」 「……おつかれ」 鏡の前で赤い口紅と化粧を落とす長門を見ていると、こいつがほんとに俺の嫁さんになっちまうとはなぁなどと感慨じみたものが沸いてきた。あれれ目が潤んでる。長門の姿がぼんやりとかすんで、その隣にもうひとりの影が見えた。涙目で姿がにじんで見えていたのかそれとも本当にそこにいたのか、メガネをかけた長門だった。目をこすってよく見ようとすると、そいつは俺を見て少しだけはにかんで、スッと消えた。 長門はどうしたのという表情で首をかしげて俺を見ていた。 「……なに」 「い、いやなんでもない。古い知り合いがいたかと思ったんだが気のせいだった」 たぶん長門には分かっていたんだと思う。なにも言わなかったが、ただうなずいていた。 新川さんが自宅まで車で送ってくれるというので俺たちはホテルのロビーに降りていった。もうとっくに二次会会場に行ったかと思っていたハルヒ達がずらりと並んでいて、いやはやそこまでしなくてもいいのにバラの花びらが頭から降り注いだ。全員には無理だったが俺はそこにいる人にできるだけお礼を言った。ピエロ衣装のままの中河が笑いながら俺の手を握った。 新川さんがリムジンのドアを開けてくれ俺たちは乗り込んだ。空き缶のガラガラはもう付いていなかったが。 長門のマンションの前で車が止まった。玄関の明かりの中で新川さんに何度もお礼を言った。 「新川さん、なにからなにまでありがとうございました。機関の皆さんにもよろしくお伝えください」 「いえいえ、私どもも今日は楽しませていただきました」 「……」 別れ際に長門がなにか言いたそうにしていた。 「長門、どうしたんだ?」 長門は新川さんに近づいていきなり抱きついた。 「……お父さんを、ありがとう」 新川さんは顔を赤くして、はっはっはと笑った。 「実は私には有希さんと同じくらいの娘がいましてね。今は母親と暮らしているんですが、いい予行演習になりました。有希さん、幸せになってくださいね」 「……そうする」 里帰りがわりに新川さんに会いに行ってやろう。こいつには実家というものがなかったからな。 リムジンが走り去り、俺と長門は手をつないでマンションの玄関を入った。ひとつだけ思い出してぴたりと足を止めた。 「大事なことを忘れてた」 「……なに」 「こういうときは嫁さんを抱えて入るのが慣わしらしい」 「……そう」 長門の頬がポッと染まり、軽く手を握るようにして、俺の首にぎこちなく腕を回した。ほとんどといっていいほど体重が感じられない長門の体をお姫様抱っこで抱えてエレベータに乗った。 最初にここを訪れてからもう八年になる。あのときは寒々しい思いをしたが、今はこうやって長門の温かさを感じている。宇宙論を聞かされたり、布団で時間移動したり、缶カレーを食ったりおでんを食ったり、ここを去るたびに長門が見せていた寂しげな表情はたぶんもう見ることはないだろう。 そばにいてやりたい、難しくはないこんな単純な願いをかなえるのに長い時間をかけてしまったが、これからその時間を償っていきたいと思っている。長門よ、ずいぶんと待たせちまったな。 気がつくと七〇八号室の表札は、長門のではなく俺の名前になっていた。 足元でミャーと仔猫が鳴いて出迎えた。 「ただいま、有希」 「……おかえり、あなた」 そしてやっと、ここが俺の帰る場所になった。 END もくじに戻る
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/208.html
キョン「…で、またここか」 長門「…新しい子」 ガラガラガラ 長門「……」じーっ キョン「だからタイワンゴキブリはやめろ!そいつ噛むらいいぞ!」 長門「そう…」 キョン「そうだ、オウムなんてどうだ?」 長門「…ラン♪ランララランランラン♪」 キョン「…鳥のほうのオウムだ」 長門「鳥…」 キョン「オウムってのは言葉を覚えるらしいぞ」 長門「……」 キョン「お前とも話せるくらいにな」 長門「…この子にする」 長門「……」 オウム「……」 長門「…名前」 オウム「サントス」 長門「そう…」 サントス「ソウ…」 長門「……」 サントス「……」 長門「……」 サントス「ナンカシャベロ」 長門「…こっちの台詞」 サントス「スマンカッタ」 翌日 キョン「なあ」 長門「…何?」 キョン「昨日のオウム、ちゃんと世話してやってるか?」 長門「サントス…」 キョン「え?」 長門「あの子の…名前」 キョン「サントスって名前にしたのか」 長門「……」(こくっ) キョン「そうか…」 長門「そう…」 長門「…入って」 キョン「ああ」 トコトコトコ 長門「…結構話せるようになった」 キョン「たった一日で?どんな話するんだ?」 長門「…聞いて」 サントス「オカエリ」 長門「ただいまサントス…」 サントス「トコロデダナ」 長門「…何?」 サントス「キョウノパンチーハナニイロダ?」 長門「水色…」 サントス「ハァハァ…シュウナンカイオナヌースルンダ?」 長門「三回…」 キョン「乱闘だサントス!乱闘パーティーだ!!」 キョン「はぁ…はぁ…」 長門「……なぜ」 キョン「サントスは完全に変態だ…オウムという皮を被った狼だったんだよ」 長門「言語解析が上手くいかない…」 キョン「サントスの事は忘れろ」 長門「……」(こくっ) キョン「ところで長門」 長門「…何?」 キョン「さっきの会話の内容は事実なのか?」 長門「……」(こくっ) キョン「そうか…なら」 長門「?」 キョン「休憩3時間4500円ショップ行くぞ」 キョン「で、結局ここか…」 長門「……」 ガラガラガラ 長門「……」じーっ キョン「だからそういう物騒なのはやめろ!特にそのムカデ!」 長門「……」とことことこ 長門「今度はこの子がいい…」 キョン「あれ?お前犬嫌いじゃなかったっけ?」 長門「脱毛すればいい…」 キョン「だ、脱毛!?」 キュィィィイイイィィン!!! バリバリバリバリ 犬「ギャィィイイン!!!」 長門「……」 キョン「うわぁ…」 長門「脱毛完了…」 キョン「なぁ長門」 長門「何?」 キョン「これは脱毛じゃなくてただの刈り上げだぞ?」 長門「?」 キョン「…やっぱなんでもない。気にするな」 長門「そう…」 犬「……」プルプル 長門「…名前」 キョン「え?あ、犬の名前か…どうするんだ?」 長門「…ネオフラッシュ」 キョン「へ!?」 長門「決まり…」 キョン「そうか…」 長門「ネオフラッシュ」 ネオ「…ワン」プルプル キョン(お~お~怯えてる…可哀想に) 長門「おすわり」 ネオ「……」ちょこん 長門「お手」 ネオ「……」とん 長門「テドドン」 ネオ「……」スタッ 長門「アナルだけは!アナルだけは!!」 ネオ「ワンワン!」カクカク! キョン「アーッ!!?」 長門「ユニーク…」 キョン「くやしい…ビクビクッ」 次の日 長門「ネオフラッシュが原因不明の病で死亡した」 キョン「長門…」 長門「何?」 キョン「それはきっと…つーか絶対体毛刈り上げたことに原因があると思うわけだが」 長門「なぜ?」 キョン「そりゃ丸裸になった犬なんて寒くてすぐ弱っちまうよ」 長門「そう…でも」 キョン「ん?」 長門「いい物が見れた…」 キョン「……」 長門「獣かn キョン「いい加減にしないと俺何するかわかんねーぞ」 長門「…スマソ」 日曜日 長門「……」 『変身』『HENSHIN』 『キャストオフ』『CASTOFF』 『CHANGE BEETLE』 『CHANGE STAGBEETLE』 長門「…ユニーク」 プルルル… キョン「もしもし?」 長門「…山」 キョン「は?」 長門「夜7時集合」 キョン「集合?っておい、なg『プツッ』 指定の場所へ行くと長門はファーブル先生みたいな格好をしていた。 キョン「…で、昆虫採集ってわけか」 長門「そう…」 キョン「とりあえずカブトムシとクワガタを一匹ずづ捕まえるか」 長門「了解…」 とことことこ キョン「お、この木とか良いんじゃないか?」 長門「……」 ドガァァァン!(長門が木を蹴った音) ぽとっ キョン「お、クワガタ落ちてきたな」 長門「加賀美げっとだぜ…」 キョン「?」 長門「まだいる…そこ!」 バギィィィ!(長門が木を殴った音) ドサッ キョン「ドサッ?…ぽlヴぃえjbjぽlmkbぽ!!?」 長門「…蛇」 キョン「で、出たァァァ!!」 長門「大丈夫…ただのアオダイショウ」 キョン「ひ、ひとまずこの場を離れよう!」 長門「……」こくっ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2045.html
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2936.html
六 章 Illustration どこここ お屋敷まで歩いて戻ると、谷川氏が出迎えてくれた。 「やあ、無事に帰ってこれたんだね」 「キョン君……もうこっちの世界に帰ってこないかと思った」 朝比奈さんが俺の顔を見るなり抱きついてきた。これは困った。またハルヒが荒れるぞ。 「あ……ダメダメ。こんなところを見られたらまた同じ穴の二の舞です」 「朝比奈さん、それ意味分からないですよ。それにもう見られてます」 「みくるちゃん、あたしのキョンを独り占めしちゃだめよ!」 ハルヒまでが首に巻きついてくる。でも朝比奈さんは引き下がらなかった。 「あなたの思い通りにはさせささません!んにゅにゅ」 俺は美女二人に抱きつかれ、困ったような嬉しいようなどっちとも言えない表情で翻弄させられていた。それを見て谷川氏がニヤニヤしている。これ、もしかしてあなたの書いたシナリオですか。長門が横でイライラと三人を見ていた。 「……連結、解除する」 次の瞬間、体重がゼロになった感覚に襲われ、目の前から朝比奈さんとハルヒが消えた。俺は数メートル横に瞬間移動していた。長門が袖を引っ張っている。 などと妄想しつつ顔の筋肉を緩ませていると、目の前の風景が突然ぼんやりしてきたことに気が付いた。 「キョン君、顔が赤いわ」 「あらほんと、キョン熱があるわ」ハルヒが俺の額に触れた。 「……風邪、ひいたから」 いかん、ハルヒが二人に見える。お前らも同位体か。 それから丸一日、俺は高熱の風邪で寝込んだ。おばあちゃんを含む四人の美女が入れ替わり看病してくれ、お粥やらおろしリンゴやらを食べさせてくれた。 「今冷ましてあげますからね。ふー。はい、あーんして」 「あーん」 子供の頃、病気をするとおふくろがよく看病してくれた。食べたいものはないかと聞かれると、決まって季節はずれの果物を言ったものだ。熱でぼんやりとしたまま、たまにはこういうのも悪くはないなと考えた。ってお前、古泉だったのかよ! 「あ、だめですよ。まだ寝てなくては」 どうでもいいがその、おばあちゃんのエプロンはやめろ。 病み上がりにもかかわらず、お屋敷では二日遅れのクリスマスパーティが開催された。クリパというより忘年会だが。俺がまだふらふらしているので延期してはどうかと提案する者もいたのだが、今日やらないでどうする、というハルヒによって強行されることとなった。俺はハルヒがもらってきたというサンタの服を着せられて、ぶり返して熱が出そうな顔がますます赤い顔になった。なんか芸をやれと言われたが、風邪を引いたサンタという迫真の演技でしのいだ。 古泉のトナカイが言った。 「世界は無事救われたわけですね」 「ある意味では、な。結局向こうの世界は消滅したが」 「生き延びる世界あれば滅ぶ世界あり、ですか」 「ああ。俺たちのハルヒは安定していてよかったな」 「それはあなたのおかげですよ」 古泉は俺に向かってシャンパングラスを掲げた。キザなところは相変わらずだ。 宴もたけなわ、おばあちゃんと調子っぱずれなハルヒのカラオケと、長門の謡いの唸り声が響いた。長門、なんで高砂なんか知ってるんだ。まあ祝い事だからあながち場違いではないが。それとハルヒ、シャンパンにしては色が濃くないかそれ。一生酒は飲まないとか言ってたやつがなんでビール飲んでるんだ。 「いいじゃないのクリスマスなんだし。あそうだ、帰ったら卒業記念パーティをしなくちゃねえ。キョン、会場を用意しといてね」 やっと十二月が終わるってときにもうそんな話をしてんのか。って俺、かなり時系列が混乱してるな。 翌朝、俺たちは二日酔いの頭を抱えつつお屋敷の掃除をした。世話になったこの数日間のせめてものお礼のつもりだった。谷川氏にもおばあちゃんにも、礼を言い尽くせないほどだ。縁側を雑巾がけしながら、たぶんもう来ることはないだろうと思った。結局俺たちのモデルになった人物には会わなかったが、彼らにもよろしく伝えてもらいたい。なにがあっても元気に生きろ、と。 俺たちは長門の詠唱で元の世界に転移し、それから朝比奈さんのタイムトラベルで二月に戻った。庭の空間から俺たちの北高グラウンドに出た。谷川氏は見えなくなるまでいつまでも手を振っていた。おばあちゃんもそこにいた。さようなら、もうひとりの鶴屋さん。 グラウンドに着いた俺たちは、地元にいながら春の甲子園への出場を指をくわえて見ているだけとなった野球部連中のどまんなかに現れた。野手が唖然と俺たちを見、バッターが空振りし、キャッチャーミットからボールがこぼれた。コーチがメガホンを持ったままディレクターズチェアから転げ落ちた。またこいつらかという視線にチクチクと刺されながら、俺たちはマウンドを通り抜けた。どうもお騒がせしてすいませんねぇ。 「今日は何日だ?」 「……こっちを出て、五分後」 「あたし……吐きそう」 まだタイムトラベルに慣れていないらしいハルヒが、両手で口を抑えて水道に向かった。それ、二日酔いじゃないのか。 喜緑さんはそのまま家に帰るというので、ここで別れることにした。 「皆さん、お疲れ様でした」 「いえいえ、いろいろ助けていただいてありがとうございました」 あれだけの活躍をしたにもかかわらず、喜緑さんは疲れひとつ見せずににっこり笑って手を振った。 俺たちは一旦部室に戻った。当然だが、部屋の様子はホコリひとつ変わっていなかった。 部屋のまんなかに、ハルヒの文庫本が落ちているのに気付いた。 「これ、まだ残ってたんだな」 俺はかがんで文庫を手にとり、パラパラとめくってみた。そこにはなにも書かれておらず、目に眩しいほどの真っ白なページしかなかった。 「中身がないな。もしかして谷川さんになにかあったんじゃないか」 「僕たちが既定事項を書き換えてしまったんじゃありませんか」 「……本は存在する。未来が白紙になっただけ」 見知らぬ世界から送られてきた俺たちの未来は、未確定のものになったわけか。 「じゃあ谷川さんが書いた既定事項は消えてしまったんですか」朝比奈さんが心配そうな顔をした。 「いいんじゃないですか。元々誰が書いたのか、本人にも分からなかったくらいだし」 ニワトリと卵のパラドックスから開放されてほっとしてることだろう。 ハルヒが青い顔をして部室に入ってきたとき、長門がドアの鍵をかけた。その場にいた全員がビクッとした。俺には長門がなにをするつもりなのかは分かっていた。 「……全員に話がある」 「有希、鍵なんかかけていったい何?」 「……情報統合思念体が記憶を消せと言っている」 「どういうことなのそれ」 「……向こうとこちらでの情報の交錯は、論理的な矛盾が生じる危険性がある」 前にも聞いた、同じ理由だ。三つの世界と時間を行き来して、俺も混乱気味だ。 「長門さんのおっしゃるのは、こっちの世界にいる僕たちが、向こうの世界のことを知っていてはまずい、ということなんです」 「そういうことらしいんだ、ハルヒ」 「……こちらの世界は、向こうの世界からの派生でなければならない。情報は一方通行でしか許されない」 「実は前にも同じことがあってな、朝比奈さんと古泉の記憶を消した」 「そうだったんですか?」 古泉はちょっとばかりムッとしたようだった。 「ああ。こないだは一方的に消してしまったんだ。すまん」 「ひどいわ、って言っても覚えてないからしょうがないですね」 「ごめんなさい、朝比奈さん」 俺は両手を合わせた。朝比奈さんは苦笑していた。この人は朝比奈さん(大)に脳をいじられるのを何度か経験しているからな。 「そう……。なら、しょうがないわね」 「それに知ってはいけない未来のことも、少し知ってしまったし。仕方ないですよね」 朝比奈さんが残念そうに言った。 「よく分からないけど。知らないほうが幸せになれるなら、それでいいわ。消してちょうだい」 長門はそれを合図と見たのか、片手を上げて詠唱をはじめた。 「ちょっと待て長門」 「……なに」 「それはハルヒにやらせよう」 前回、強制的に記憶を消したことで、長門の呪文を使うのは少し気持ちが咎めた。今回は皆の総意であってほしい。 「涼宮さんが、どうすれば記憶を消せるんですか?」 「ハルヒがそう願えばそうなるだろ」 「なるほど、その手がありましたか。涼宮さんの力をもって全員の記憶を消してしまうというわけですね」 「そうだ」 「あたしにそんなことできるの?」 「涼宮さんが望めば、そうなりますよ」 「あんたたち、それでいいの?」 全員がうなずいた。 「で、具体的にどうするの?」 「みんな、手を繋いでくれ。それからハルヒが念じればいい」 ハルヒ、俺、長門、古泉、朝比奈さんの順で輪になって手を繋いだ。 「ねえ、みんなちょっと目を閉じてくれない?」 目を閉じた。俺の左にいる長門が握る手に力をこめた。鼻の先にふっとかかる息を感じて目を開けると、ハルヒの顔がそこにあった。 「あんたも目を閉じなさいよ、ジョンスミスさん」 唇に温かい感触を感じた。あの夜と同じ唇の味。禁じられた名前で呼ばれたのと、この意味不明なキスをされたことで、俺はパニックに陥り固まったまま動けなかった。 それからハルヒは唱え始めた。 「今から三つ数えると、あたしたちはすべてを忘れる。 谷川のことも、向こうの世界で起きたことも、なにも覚えていない。 あたしは未来人も宇宙人も、超能力者も、異世界人も知らない。 あたしは、自分が持っている力を知らない。 三、二、一、……」 数秒間、そのままじっとしていた。部屋を充たしている空気と時間が止まった。 「ちょ、ちょっとキョン、なんで手なんか繋いでんのよ」 「あら、ほんとだ。わたしたち、なにやってるんですか?」 「……?」 「僕たちいったいなにをしてるんでしょうね」 古泉が苦笑した。軽く咳払いして手を離した。長門は自分の右手をじっと見ていた。俺は右手にハルヒの、左手に長門の手の、それから唇に柔らかいなにかの名残りを感じていた。 「とにかく!明日は市内不思議パトロールをやるんだからね。遅れたら、死刑よ」 へいへい、またですか。もう俺たち、やることなくなってきたんじゃないのか。急にマンネリ化の空気に包まれた俺たちは、とりあえず解散することにした。朝比奈さんが、今日は自分がコスプレをしていないことに首をかしげていた。 部室のドアを開けて外に出たとき、背中に視線を感じて振り返った。長門がじっと俺を見つめていた。分かっている、俺は人差し指を口に当てて、なにも言うなと制した。ハルヒは、俺の記憶を消さなかった。長門にもそれが分かったのだろう。こいつらと過ごしたこの数日間の記憶は忘れたくない。ハルヒのその気持ちは痛いほど分かる。それはただの記憶じゃなくて、皆で共有した感情やら経験やら時間やらが詰め込まれた思い出なのだ。 いつか遠い未来に、この禁則が解けたらハルヒにも話してやろうと思う。── そう、とりあえずは宇宙人、未来人、超能力者、それから異世界人を従えた涼宮ハルヒの冒険談を。 エピローグへ