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死恐怖症。 タナトフォビア。 死そのもの、またはそれに関連した事柄に対する恐怖症の俗称。 意識の喪失による無。 死に伴う孤独や痛み。 理不尽で悲惨な死。 生や死そのものの不可解さ。 死ぬことによる他人からの忘却。 身近な誰かの死。 これらについて病的な恐怖心を滲ませる人間は、タナトフォビアに羅患している可能性があるとされる。 彼ら、彼女らにとって人生は絶望の旅路だ。 どんなに楽しい時間を過ごしていても死の影が常に付きまとう。 集合体や高所への恐怖症とは違い、解放されることはない。 何年後、遅くても何十年後には必ずやってくる恐るべき「おしまい」を恐れながら生きていくしかない。 ◇◇◇ 努力することは素晴らしい。 努力しないで現状に文句を垂れる者は浅ましい。 金。 社会保障。 愛。 幸福。 足りない足りないとほざく有象無象の何と惨めなことだろう。 しかし、しかしだ。 世の中には、ほんの一定数だが、いる。 努力する、しないではなく。 そもそも、努力すらさせてもらえない人間が。 未来はいつだとて閉ざされ、一筋の希望も見えやしない。 立って外に歩き出そうにも、物理的な障害があるから叶わない。 そんな中で希望を抱こうとすれば、痛みと苦しみが笑いながらやってくる。 そんな、世界に嫌われているとしか思えないような人間が、この世には確実に存在する。 九條未咲という少女もまた、その一人だった。 鎖に繋がれて、いつでも薄暗い部屋の中で一人きり。 犬用の餌皿に乱暴に盛り付けられた食事と一日一杯の水だけで体の健康を維持する暮らし。 体を壊せばおしまいだ。 殴られ、罵られ、放置されて死んでしまう。 だから未咲は体を猫みたいに丸め、温めて必死に祈る。 どうか、風邪だけは引きませんように。 病気だけは、しませんように。 神さま、わたしはまだ死にたくありません―― そう。 彼女は、世界に愛されていなかった。 運命に、蛇蝎のごとく嫌われていた。 ◇◇◇ ……その日は、いつもより少し「しつけ」が長かった。 きっかけは、少女の母親が旦那を問い詰めたことだった。 女の旬を過ぎてなお変わらない嫉妬深さを持つ彼女は旦那のメール履歴を漁り、浮気の証拠を発見して突き出したのだ。 何しろただでさえ遊び人、浮気性な男だ。 これまでにもこんなことは何度もあった。 浮気がバレて、母親が激怒して、父親が何か口を返して大喧嘩になる。 大抵その皺寄せは少女に来るところも、ずっと変わらない。 ただ、ひとついつもと違うのは。 今日は――最初から父親の方も虫の居所が悪かったことだ。 問い詰められた父親は母親に拳を振るった。 一も二もなく、顔面を殴り飛ばした。 そこから始まるのは、物を投げ合い、口汚い暴言を飛ばし合う地獄絵図。 喧嘩の激しさがいつもより上なのだから、当然、来る皺寄せもそれだけ大きくなる。 母が、父が。 かわるがわる現れて、少女を殴り、蹴り、辱めた。 おまえのせいだと。 おまえみたいな陰気な娘がいるのが悪いと。 それに対し少女は謝るだけだ。 自分の正当性なんて、聞き入れられるとはとっくに思っていない。 いや、それ以前に。 自分が正しいという考えさえ、ずっと昔にどこかへ置き去りにしてしまった。 殴られ、叩かれ、意識は時折火花を散らして飛んでいく。 その度に寝ていると咎められ、蹴り起こされてはまた同じことを繰り返す。 少女には、もはや冷静な頭なんてものは残っていなかったが―― 同年代の子供に比べてただでさえ発育の悪い彼女なのだ。 このまま嬲られ続けていれば、今日こそは保たなかったろう。 何せ終わる兆しが一向になく、どんどん振るわれる手足の勢いは増している。 掴まれ、投げ飛ばされるようになったらいよいよだ。 鈍器で殴りつけられるようになったらそろそろだ。 頭を直接床にぶつけられるようになったら、もうすぐだ。 「その時」は近いと、未咲にもなんとなく分かった。 生物としての直感だった。 それがあるなら、生物としての本能も当然ある。 いや――それどころか彼女の本能は、常人のものよりずっと上であった。 虐げられて痛め付けられ、あらゆる希望と尊厳を奪われてもなお。 それだけは明確に、変わることなく少女の中にある。 少女は空っぽだ。 九條未咲は人形だ。 それでも。 人形は一つだけ、願いを持っていた。 死にたくない。 生きていたい。 どんなに不運でも、生きていられればいい。 死ぬのはこわい。 どんな痛いことよりも、死ぬことだけがこわい。 声をあげようにも意味のある声が出せない。 暴れたくても手足が竦む。 結果、聾者のように意味の通らない呻き声をあげるだけ。 ――神さま、神さま、どうかわたしを助けてください。 わたしは死にたくない、死にたくないんです。 それだけなんです、生きていたいんです。 だって死ぬのはこわいから。 死んだ後に何があるのかなんて誰にもわからない、天国や地獄が本当にある保証はどこにもありません。 おそろしい血の池で溺れるのも、金棒を持った鬼に叩かれるのも我慢できます。 でもなにもない暗闇で動けないまま放っておかれるのは耐えられません。 だから、だから、だから、だから! どうか助けてください、わたしをひとりにしないで! その声に、しかし散々少女を嫌っている天の神が応えることはなく。 怒りに肩を震わせている父親は、ゆっくりと硝子の灰皿を振り上げた。 あれで殴られれば、未咲の脆い骨など軽々と砕かれてしまうだろう。 加えて狙いは頭部。 言わずと知れた人体の急所。 絶望に顔を染め、逃げようと足を動かすが足は鎖で繋がれている。 もうだめだ。 もう、どうにもならない。 筆舌に尽くしがたい恐怖に震えながら、最後の抵抗として目をつぶる。 そして未咲は、神さまを恨んだ。 たとえ自分がこれからどこに行くにしろ、どこにも行かないにしろ、ずっと恨み続けてやる。 子供じみた、だからこそ何より強い想いを発して。 父の手に握られた灰皿が、その小さな頭にゆっくりと迫り…… 「■■■■■■■■」 少女の目の前で――その首が胴を離れた。 飛び散る飛沫が煤けた服を久々の水気で染めていく。 怒りの形相を浮かべたままの首が畳の上に落ちる。 それからやや遅れて、首から上をなくした父の体が崩折れた。 「……え……?」 その先に、見慣れない男がいた。 右の手首から先を父の血でべっとりと汚して、全身も未咲と同じく返り血に塗れた青年。 錆びついた槍と泥や煤で汚れた鎧を纏った、美しいのにどこか「ズレた」見た目の騎士だった。 顔は狂ってしまっているかのように口元だけ笑顔を浮かべている。 いや、事実狂っているのだろう。 何故なら正気の人間に、こんな目はできない。 騎士の目に宿る瑠璃色は、静かなる狂気の光で満ちていた。 突然静かになったことを不審に思ってか、襖を開けて母親が顔を覗かせる。 そこに、騎士は無言で携えた槍を突き出した。 母親もまた、何が起こったかすら分からないまま、絶命。 眉間に大穴を開けて、間抜けに口を半開きにして無様に死んだ。 「■■■■■■■■」 時間にして、たった二十秒ほど。 たったそれだけの時間で、何年にも渡り九條未咲を苛んできた「地獄(かてい)」は完膚なきまでに崩壊した。 九條家の人間は今や、未咲しかいない。 暴力と暴言に始まり、あらゆる悪意を向けてきた両親は一瞬にして殺された。 この――おぞましい騎士の手で。 底知れない妄執を香らせる美丈夫によって、ゴミのように命を絶たれた。 それを見て、未咲はおずおずと口を開く。 殺された父と母。 その死体を交互に一度だけ見て、震えを押し殺して声を発した。 「かみさま、ですか?」 「■■■」 違う、といったように聞こえた。 「■■、■■■■■■」 何を言っているのかは理解できないが―― 未咲にはひとつ、わかったことがある。 この人はきっと、いい人ではない。 しかし、自分を助けてくれる。 自分を死から遠ざけてくれる。 永遠に、近づけてくれる。 ……それを証明するように、 九條未咲の手の中には、 小さな翼付きの指輪が握られていた。 ◇◇◇ 九條未咲は、歴史に詳しくない。 義務教育をまともに受けていないのだから当然だが、それだけに彼女は自分のサーヴァント……『バーサーカー』を本物 の騎士なのだと疑いもせずにそう信じ込んだ。 しかし、それは誤っている。 部分的に見れば当たっているが、真実はその真逆だ。 バーサーカーは騎士ではない。 騎士を名乗り、自分を騎士と信じ、その末に天寿を全うした「妄信の怪物」。それが彼だ。 ついぞ自身の在り方を正しく見つめることなく、妄想症(パラノイア)に身を委ね続けた奇人。 彼の活躍を記した前後編の小説は、かの聖書の次に世界中で多く読まれたという――彼はまごうことなき精神異常者であ りながら、世界中の誰からも深く愛された。 弱者から奪わず、常に自分が信じるままの高潔な騎士であり続けた男。 精神を病んでいながら、深い見識と様々な技術で立ちはだかる問題を解決してのけた彼。 錆びた槍と煤けた防具、痩せた駄馬と一人の臣下だけを連れて果てない旅に出た滑稽で幸福な愚か者。 彼は風車を巨人と呼んで突撃し、地平線に数え切れないほどの大軍勢を見た。 そんなもの、実際にはどこにもいないにも関わらず。 けれどそれは、彼にとってはれっきとした真実の世界なのだ。 ゆえに彼は狂戦士(バーサーカー)。 狂気にして正道を成す、矛盾したピエロ。 彼はかつて、自らの名をこう名乗った――「伝説の騎士」ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと。 だが、それは偽りの名である。 彼の真実はアロンソ・キハーナという下級貴族で、間違っても騎士などではない。 その現実さえ逞しい妄想でねじ曲げて、今彼は此処にいる。 助けを求めた一人のか弱い幼娘の願いに応えて、 虚弱な体を彼女の「信じる気持ち」で武装して、ドン・キホーテは仔雲の地に召喚された。 「わたしね、生きたいの」 血の臭いがまだ辛うじて届いていない、九條家のリビング。 ソファに腰かけたバーサーカーの膝上にちょこんと座って、未咲は彼に自分の願いを口にした。 「死にたくない。ずっとずっと生きていたい」 永遠。 永遠だ。 終わらない寿命がほしい。 それは年相応の願望ではとてもなく、しかしタナトフォビアの患者としては当たり前の願いごとだった。 一生抱え続けなければならない恐怖から解放される、そのどれほど幸福なことか。 「だから、たすけてください」 バーサーカーの顔を見上げる。 乾いた血飛沫を、つたない指先で剥がして。 「わたしに、永遠(ずっと)をください」 バーサーカーは意味の通る言語は発さない。 だが彼は、この「伝説の騎士」は、少女の懇願にゆっくりと首を縦に降った。 彼は強い。 夢見た姿なのだから当然だ。 しかし本来なら、さしもの彼も自分の妄想だけでは人類史に名を残した英雄達に比べれば弱小の半端者止まり。 このように高ランクの狂化を施すことで、どうにか中級サーヴァントとして運用できる程度の三流英霊。 にも関わらず、今のバーサーカーは上級サーヴァントに匹敵するステータスを得ていた。 ドン・キホーテは妄想の産物。 アロンソ・キハーナの夢見る気持ちから生まれた架空の騎士。 それだけに、彼の強さは信じる思いの強さに依存する。 九條未咲は、自分を助けてくれた彼に強い信頼の念を捧げていた。 ――軟禁同然で虐げられ続ける毎日と、 ――間近に迫った死の運命から救い出してくれた、 ――神さまよりずっと優しい無敵の騎士。 その信頼が、何よりバーサーカーを強くする。 ドン・キホーテは九條未咲の最後の希望。 だから強い。どこまででも強くなる。 今まで何一つ掴めなかった幸薄の少女に、望むだけの永遠をやるために。 ――騎士道物語『ドン・キホーテ』は、此処に再開された。 【クラス】 バーサーカー 【真名】 ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(アロンソ・キハーナ) 【出典】 ドン・キホーテ 【性別】 男 【属性】 混沌・善 【身長・体重】 190cm・80kg 【ステータス】 筋力D 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運A 宝具C+++ (本来のステータス) 筋力C 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具C+++ (スキル「妄信の怪物」によるステータス) 筋力A 耐久A 敏捷B 魔力E 幸運A 宝具C+++ (宝具『騎士道物語』によるステータス) 【クラススキル】 狂化:B 全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。 【保有スキル】 妄信の怪物:EX 自らを別な存在と信じ込む余り、自己を物理的に変革させる究極のパラノイア。 揺るがぬ妄想を以って人々に希望を与え、正義を執行し、その旅路を世界中に知られた彼の場合ランクは規格外。 自身の筋力、耐久、敏捷のステータスを1ランクアップさせる。 またこのスキルはAランクの「精神汚染」も兼ね備えており、狂化スキルと相俟って彼の精神に干渉することは極めて困難 となっている。 伝説の騎士(偽):A 「妄信の怪物」に由来する自己強化スキル。 何かを守るために戦う時、誉れある戦いに臨む時、筋力、耐久、敏捷に更なるバフが施される。 Cランク相当の「無窮の武錬」スキルを始めとした様々な戦闘系スキルも内包しており、彼の戦闘能力はこのスキルに裏打 ちされたものである。 専科百般:B かつて正真の貴族をも驚愕させた、狂人とは思えないほどの深い見識や技術の数々。 戦術・学術・隠密術・暗殺術・詐術・話術・その他総数32種類に及ぶ専業スキルについて、Cランク以上の習熟度を発揮で きる。 とはいえ今回はバーサーカーで召喚されているため、実質的に使用できるスキルの数はそこから多少減る。だが隠密・暗殺 術を用いたアサシンの真似事、狂いながらも的確に駆使する戦術や学術に基づいた対応力など、彼は持てる才能を聖杯戦争 の中で存分に発揮してのけるだろう。 【宝具】 『騎士道物語(ドン・キホーテ)』 ランク:C+++ 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:1 ――彼に伝説はない。それどころか、彼は正当な騎士ですらない。 妄想と憧れだけで遍歴の旅を繰り広げ、その活躍を世界中の人間に愛された、人類史上最も幸福な精神異常者。 そんな彼が魅了され、絶えず抱き続けた底なしの妄想が昇華された対己概念宝具。またの名を、自己改変・世界侵食宝具。 彼の活躍を強く望み、信じる者がある限り、彼は決して挫けない。進み、ねじ伏せ、夢見た騎士道を実現させる。 「妄信の怪物」「伝説の騎士(偽)」という二つの虚構で徹底的に支えられた戦闘技能は宝具の効果で更に高められ、彼の 武芸は人類史に名高き無双の戦士達と比べても何ら遜色のない領域にまで達している。宝具の効果は信じる強さと状況に依 存し、誰かを守る時に最大となる。 更に真名解放を行うことで、一時的にだが自身の脳内に存在する幻想風景を外部に投影することができる。 風車の巨人、地平を埋め尽くす大軍勢、背筋も凍るおぞましい魔竜。 生半なサーヴァントでは、彼の見る過酷な世界を生き抜くことなど出来はすまい。 【武器】 錆び付いた槍と防具一式。 愛馬ロシナンテは今回は置いてきている。 ライダーのクラスで召喚されると、ステータスは落ちるがロシナンテも同伴で呼び出されるらしい。 【人物背景】 本名、アロンソ・キハーナ。 世界中で聖書の次に読まれたという小説、「ドン・キホーテ」の主人公。 しかし当聖杯戦争では彼はれっきとした実在の人物であり、その勇ましくも滑稽な旅路をミゲル・デ・セルバンテスが書き 留め、出版したという設定。 彼は当初、何の変哲もない下級貴族の男だった。 が、当時の欧州で大流行していた騎士道物語と出会ってから、彼は変わる。 自らをドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと名乗り、まるで自身が本物の騎士であるかのように振る舞い始めたのだ。 そう――アロンソ・キハーナは物語に没頭するあまり、重篤な妄想症(パラノイア)に取り憑かれてしまったのである。 痩せ馬に跨って各地を駆けた彼は時に笑い者にされたが、不思議と彼には尊敬と友情が集まった。 本来彼はスキルの存在を踏まえても三流以下の弱小サーヴァントで、狂化を施してようやく使い物になるレベルの存在だ。 にも関わらず今回これだけのスペックを持つサーヴァントに仕上がっているのは、ひとえにマスターの境遇が大きい。 虐げられ、辱められ、あらゆる未来を幼くして奪われた悲運の童女。 彼女は「ドン・キホーテ」以外の希望を知らない。だから、誰より彼を強く信じる。 信じる想いがある限り、信じる想いから生まれた妄想の騎士は無敵。 最後の希望は斯くして立ち上がった。 【特徴】 藍色の瘴気を全身に帯びた、長身痩躯の美丈夫。常に口元に笑顔を浮かべている。 本来彼は壮年の男だったとされるが、そこはこの手の妄想の常、顔立ちが美化されている。仕方ない。 金髪を腰の下ほどまで長く伸ばし、瞳には美しくも狂気的な瑠璃色の光が煌めいている。 【サーヴァントとしての願い】 騎士としての本分を尽くす。 【マスター】 九條未咲(くじょう・みさき) 【武器】 なし 【能力】 なし。体力がなく、虚弱で、幸が薄い。 【特徴】 身長136cm、体重34kg。夕焼け色の瞳を持つ。 灰髪ショートヘアで頭頂部には二本のアホ毛があるのが特徴。 襤褸布のように煤けた上下の寝間着姿。 【人物背景】 十三歳の少女。本来なら中学生だが、学校には通っていない。 一人称「わたし」、二人称「あなた」「君」「◯◯さん・くん」。 遊び人の父親とヒステリー持ちの母親のもとに生まれ、双方のストレスの捌け口として使われ続けてきた。 ほぼ軟禁同然の形で虐待されてきたため、実年齢より言動がいくらか幼い。 バーサーカーにより両親は既に殺害され、ようやく真の意味での自由を手にすることとなる。 永遠に幸せに生きたい。彼女の願いはただそれだけ。 幸せになるため努力することすら許されなかった籠の中の鳥は、妄想の騎士により連れ出された。 抱える病みは『タナトフォビア』。死を恐れ、忌む。死にたくない。生きていたい。それがすべて。 【マスターとしての願い】 幸せに、永遠に生きたい
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登録日:2022/03/28(月) 15 00 00 更新日:2024/03/17 Sun 13 43 35NEW! 所要時間:約 ? 分で読めます ▽タグ一覧 コルネリアス・ルッツ ルッツ ローエングラム王朝 上級大将 偽ワーレン 元帥 射撃の名手 殉職 銀河帝国 銀河英雄伝説 銀河英雄伝説登場人物項目 銀英伝 智者は智におぼれる。ヤン・ウェンリーのカレンダーも残りすくないぞ。 コルネリアス・ルッツは、銀河英雄伝説に登場する人物。 ゴールデンバウム王朝及びローエングラム王朝に仕えた軍人で、射撃の名手として名高い。 OVA版の声優は堀勝之祐、Die Neue These版では野島裕史が務める。 ■[来歴]■ 登場時系列としては、OVA版外伝の『決闘者』が初となる。 当時は少佐で、決闘の代理人として候補したラインハルト・フォン・ミューゼル大尉に対し、慣れぬ旧式の火薬式銃の使用方法をアドバイスしている。 その後はラインハルトが開いた元帥府に招集されている。当時の階級は中将。 アムリッツァ星域会戦では第12艦隊を強襲し、ボロディン中将の旗艦を含んで残8隻まで削り切る戦果を挙げる。 続くアムリッツァ会戦ではキルヒアイス率いる別動隊としてワーレン中将共々に参加し、自由惑星同盟の残存艦隊を後背から突く事に成功する。 リップシュタット戦役では引き続きキルヒアイス旗下で辺境星系の鎮圧を担当。そのためラインハルトの元で戦っていた諸将と比べて出番は少なめ。 更に言えばこの後の帝都オーディンへの急襲ではガイエスブルグ要塞に残留したため活躍していない。 リップシュタット戦役を終えてラインハルトが帝国の実権を握るとその戦功により大将に昇進している。 ラグナロック作戦では、ロイエンタール指揮下で第9次イゼルローン攻略作戦に従事。 この時、ロイエンタールとレンネンカンプの衝突に際して仲裁を行い、年上であるレンネンカンプも従ったことから信頼信用は決して低くないことがうかがえる。 ヤンがイゼルローンを放棄した際には要塞内部に仕掛けられた罠の可能性に勘付いて調査を実施し、爆弾解除を成し遂げた。 そのままイゼルローン要塞の要塞司令官として駐留し、以後のバーミリオン開戦には参加していない。 同盟領制圧後、ローエングラム王朝勃興と同時に上級大将に昇進した。 第10次イゼルローン要塞攻略戦では、ヤンが仕掛けた5回の罠に引っかかったと思わせて艦隊を出撃させる。 しかし彼らが遺していった本物の置き土産により要塞制御システムが無力化され、再度ヤン艦隊によるイゼルローン要塞の攻略成功を成し遂げられてしまう。その後はトゥール・ハンマーによって艦隊の数割を損失し惨敗、撤退する。 この失態によって前線から遠ざけられ、フェザーン警備司令官に左遷されてしまう。そこで代理総督邸の爆弾テロ事件に巻き込まれるが、入院先の看護師と恋愛関係になるなど慶事もまた訪れた。 ラインハルトがハイネセンへ行幸するにあたり、ロイエンタール弑逆の嫌疑が噂されていたため、自分が無任所である事と「妹夫婦が新領土にいるので顔を見たい」と理由をつけて同行する。 しかし旧同盟領・ガンダルヴァ星系の惑星ウルヴァシーで発生した動乱によってラインハルトが危機に陥ると、負傷したナイトハルト・ミュラーらと一緒に逃がすため単身で殿を務める。一個小隊ほどの追撃を抑えきるが、旗艦ブリュンヒルトの発進に気を取られているうちに銃撃を受け死亡する。 元々嫌疑がかかっていた所にラインハルトが信を置いて行幸したにもかかわらず、その管轄下で皇帝狙いの攻撃で重臣を失う事件が起こった事でロイエンタールはさらに追い詰められ、第二次ランテマリオ会戦の戦端が開かれる起因に繋がってしまった。 彼の死後、ラインハルトによって元帥号が授けられているが、これは「生きて元帥杖を手にするつもり」と約束したルッツへの罰だと言い放っている。 ■[人物]■ 普段は温和な性格だが、直情型のビッテンフェルトに「(興奮すると目の色が藤色の彩りを宿す事から)ポーカーするときにサングラスが必要な男(*1)」と称されるほど内に秘める熱情は大きい。 また沈着かつ豪胆と称されるようでもあり、特に艦隊運用では諸将に見られるダイナミックな戦術は好まないが堅実で過不足なく任務を実行できる人物である。 ヤン・ウェンリーからは名将と、メルカッツ提督からは屈指の用兵家と称される事からも、彼の手腕は窺える。 知謀でも劣っていた訳では無く、自由惑星同盟が放棄したイゼルローン要塞を再奪取後に置き土産が無いか隈なく捜査したり、ハイドリッヒ・ラング率いる内国安全保障局を警戒するなど一介の将としての才覚を見せている。 真面目な人物である一方でかなりの冗談口も叩く方。 ラインハルトの『芸術の秋』で古典バレエの観賞に同行させられたビッテンフェルトを笑い話の種として扱ったが、その直後に詩の朗読会に同行するよう要請が下ると頭を抱えているシーンがあった。 また数少ないアイゼナッハの声を二度聞いた人物で、高級士官クラブ「海鷲」でコーヒーカップを落とした彼の「しまった」と喋るのを聞き漏らさなかった。この時同席していたミッターマイヤーと、「あいつ口が利けたのか」と語ったり、「夫人と接吻くらいはするだろう」と彼の寡黙さを冗談めかしていたりする。 ラインハルト元帥府の将官の中ではワーレンと並んでキルヒアイスと行動を共にしていた期間が長く、 「親友贔屓で今の地位にいるわけではない」と決して軽んじていたわけではないのだが、それでも数で同等のリッテンハイム艦隊を烏合の衆と見なして自ら率いる高速艦800隻でかき回す姿には感服していた。 この再評価もあってか、キルヒアイスが死亡する原因となったパウル・フォン・オーベルシュタインには「心にもない弔辞を読んでやるために先に死んでやるものか」と豪語するほどの嫌悪感を見せていた。 ■[係累]■ クララ フルネームは不明。フェザーン警備司令官として赴任後に代理総督邸で起こった爆弾テロで負傷した後、入院した病院で知り合った女性。 婚約はしていたようで、ラインハルトのハイネセン行幸の際には空港で見送る姿が見られた。 ルッツの死後は従軍看護婦育成のために設立された『ルッツ基金』のメンバーとして参画。同時にルッツに与えられるべきだった10万帝国マルクの下賜を謝絶し、この基金の運用資金に回されている。 ユリウス・エルスハイマー ルッツの妹の夫。ロイエンタールの指揮下で新領土の民事長官を務めている。 ロイエンタールの反乱の際には怯えながらも面と向かって、「公人として」皇帝への反逆に加担できないこと、「私人として」ルッツの死の責任が明確にされていない以上、義兄の仇ともいうべき相手に味方することに耐えられないと告げた。ロイエンタールも「勇気と正義に適う」としてエルスハイマーを軟禁にとどめ、叛逆に加わっていないことを示したミッターマイヤー宛の書状を持たせた。 ロイエンタール敗走後は彼から新領土の全権を預かり、帝国軍に統治権を引き渡した。 ■[部下]■ ホルツバウアー 中将。作中では明確にされていないが、自信と兄をルッツに助けてもらったことがあり、そのことから強く敬愛しているらしい。 第二次ランテマリオ会戦では、上官の復讐戦のために旧ルッツ艦隊を率いてミッターマイヤーの指揮下に加わり、クナップシュタイン艦隊を壊滅させた。 オットー・ヴェーラー 中将。第10次イゼルローン要塞攻防戦時に、ルッツが駐留艦隊を指揮して出撃した後に要塞の守備を任される。 しかしヤン艦隊が先の攻防戦の時に仕込んだ要塞無力化のキーワードによって防御システムを無効化され、侵攻してきたヤン艦隊の陸戦部隊に対し装甲擲弾兵部隊を投入し艦隊帰還までの時間を稼ごうとするが、トールハンマーの封印を解除され艦隊が帰還できない状況に追い込まれてしまった。 ヴェーラーは部下の安全な退去を条件に要塞の明け渡しを決め、自身は失陥の責任を取り白いテーブルクロスを敷き、その上でブラスターで頭を打ち抜き自害した。 ■[余談]■ ワーレンとの混同 OVA版では、度々容姿が似ているアウグスト・ザムエル・ワーレンと見分けがつかないとネタにされている。ワッツとかルーレンとか言われたり。 髪型や全体的な容姿が似ている事や、OVA版初期の方ではキルヒアイスの副官として両名が一緒の画面に映るシーンもあり、その影響で両者の人相が混合してしまった人も多いのではないだろうか。 道原版ではゴツゴツした四角い姿のワーレンと細面のルッツの形で区別されている。 Die Neue These版ではルッツは金髪の美男子なのに対し、ワーレンは茶髪ツーブロックのケツ顎筋肉とかなり差別化されている。それはそれでワーレンが誰なのか分からない人が続出したが 追記・修正はヴァルハラでいただきますが、どうかそれが遠い未来のことであるように……。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] フジリュー版はイメージ的にワーレンと容姿逆だよなぁと思う今日この頃。 -- 名無しさん (2022-03-28 22 47 33) せめて武器の携帯は射撃の名手であるルッツにも認めさせてキルヒアイスと二人体制にすべきだったよなあ・・・。 -- 名無しさん (2022-03-28 23 47 15) 名前 コメント
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地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうど良い感じにカチ割れるんじゃないかと言うくらいにに冷え切った朝だった。いっそのこと、むしろ率先してカチ割りたいほどだ。 自宅のベッドから発せられている甘美な誘惑を全力で振り切り、通学のための身支度を済ませようと、一階の洗面台に向かった。 鏡の前に立ち、鏡面世界の自分に対面を果たす。うっし。本日も男前だ。朝の光で自慢の金髪が輝いていやがる。 そして真冬の水道水を顔面にかけた。 「くはあ!冷てー!」 身震いするほど凍てつく冷水のおかげで、眠気覚ましの効果は抜群だ。 「さてと。お母さんが起きる前に朝飯を作んねーとな」 確か冷蔵庫に卵が大量にあったから、オムレツでも作るか。 「いただきます」 俺特性であるフワとろオムレツと目玉焼きをテーブルの上に配膳をし、母親と共に手合わせる。 「わるいね。本当なら私が作るべきなんだろうが」 「いいさ。お母さんは昨日遅かったわけだし。早起きくらいどうってことねーよ」 我が家は母親と俺の二人暮らしなので、母親が仕事で遅いときは、こうやって俺が朝飯を作ってやっている。 父親はどうしたって?俺が中坊の時に死んじまったよ。 「よしよし。本当に良い子だね、お前は。見た目ヤンキーなのに」 ヤンキーは関係ないだろ。これでも進学校に通っている、れっきとした真面目高校生だ。 朝食を終え、俺にとって大切な日課である紫煙を堪能していた時、微かな機械音が居間に流れているのを感じた。 携帯電話を手に取り、ディスプレイに目を通す。一体誰だよ。こんな朝っぱらから。 『着信 ハル』 あの女が人の迷惑を顧みないのは、いつものこんだが、勘弁して欲しいものだ。他にイタ電相手がいないのか?俺もだが。 『出るのが遅い。せっかくこのあたしがかけてやってるんだから、1コールで出なさい』 「おかけになった電話番号は、現在、電波の届かない所にございます」 とりあえず切っておいた。理由?なんかイラッときたからだよ。 『……なにしてんのよ?あんまりふざけると死刑にするわよ』 「で、こんな朝からなんのようだ?涼宮ハルヒさん」 電話口に現れたのは、朝から不機嫌エンジン全開な涼宮ハルヒである。 彼女との出会いは、桜がとっくに散り、映画業界陰謀短期集中型一過性休日集合週間なる別名「ゴールデンウィーク」が過ぎたあたりの、日本晴れの日だった。 その日、俺は退屈な学業を終え、早々と帰宅に勤しんでいると、駅前の大通りにて、涼宮ハルヒが頭の悪そうなアホヤンキーにからまれていたのだ。 今思い返せば退屈なだけだったと思う。 暇つぶしと下心が7:3くらいの心境で、躊躇うことなくそのアホヤンキーをぶっ飛ばしていた。 「なに?正義の味方きどり?寒いわ」 この言葉が彼女の第一声である。恩着せがましく聞こえるだろうが言わせてくれ。それは無いだろ。 「別に。ただの暇つぶし。他意は……ちょっとしかない」 それだけ聞くと、涼宮ハルヒは長髪を翻し、まるで俺の事など記憶からデリートしたかのように、その場を去っていた。お互い第一印象は良い方ではなかったと思う。 だが、話はここで終わりではない。 その後も、俺達は幾度となく様々な場所でこいつと顔を会わせるようになった。ある時は学校の学食で。ある時は、たまたま入ったコンビニで。 まあ、お互い目立つからな。顔を覚えちまうと、どうも目に付くようだ。 最初こそ無視しあっていたが、そんな偶然を一ヶ月も共用していると、何だかバカらしくなり、気がついたら話しかけてた。 多分、お互い退屈してたんだろ。街で出会った同級生。俺と涼宮ハルヒの関係を言葉で表すとこんな物だろ。 『ちょっと、聞いてるの?返事くらいしなさいよ』 「聞いてるよ。今日学校サボるから足になれだろ?勘弁してくれ。こう見えて、俺はヘタレでビビリの小心者なんだ。学校サボるなんて恐れ多いことできるか」 『そのツラで何を今さら。どうせ便所で煙草フカしながら話してんでしょ?だからあんたは背が低いのよ。古泉君みたいに健康的に生きなさい』 「お前は俺の母親か」 『は?ふざけてんの?』 この女はなんでこんなケンカ腰なんだ?もう少しフレンドリーに話せよ。ツラはいいのに。もったいない。 『いーい!?あたしは光陽園駅にいるから、つべこべ言わずにとっとと来なさい!』 勘弁してくれと言いたい。しかしこの状況では、かけ直しても出ないだろう。なにより電話代の無駄である。どうせ無料通話分だろうが。 しかしどうもしっくり来ない。涼宮ハルヒがワガママで自己中心的な言動を取るのはいつもの事だが、いままで相手の状態を考慮せずに突っ走ることはなかった。 涼宮ハルヒが無理難題を言うときは「今ならあたしの言う事を聞いてくれる」と、考えてないようで考えているのだ。俺と古泉一樹くらいしかわからんだろうが。 煙草を携帯灰皿に捨てて、深ーく深呼吸。やれやれ、気にならんわけじゃないしな。冬休みが近い今日ぐらい、サボっても問題ないだろう。表向きはそれなりに品行方正な学園生活を送っていたわけだし。 襲撃みたいに唐突な電話を切り、煙草を吸い終えると、父親の眠る仏壇に手を合わせた。あー、とりあえずいってきまーす。お父さん、サボることは内緒にしといてくれよ。 光陽園駅前は朝の通勤ラッシュでごった返していたが、その美しい黒髪は見る者全てを魅了してやまなかった。これでもうちょっと素直ならな。 乗ってきた中型バイクを光陽園駅の入り口で仁王立ちをする涼宮ハルヒの前に横付けに停車した。 「遅い」 いや、ロボットみたく言われたことしかできないような美人は魅力的ではない。涼宮ハルヒはこのくらいでちょうど良いのかも。 「道が混んでいたんだよ」 その上、バイクってのは構造から言って、風を全身に受けなきゃならないから、冬はあまり走りたくない。 しかし、カエルを捕食する蛇のように睨みつける涼宮ハルヒの目は、いつもより陰りが見える。寝不足か? 「だったらもっと早起きしなさい」 「お前の予定を予言して早起きしろってか?俺は超能力者じゃねーぞ」 「あたりまえじゃない。超能力者なんか、そう簡単に現れるわけないでしょ」 だろうね。「実は僕は超能力を使用できまして、世界平和のために日夜戦っています」なんてことがいきなりおこるか。 大体、そんな世界平和組織が、一般人に話を持ってくるわけが無い。仮面を被った昆虫人間が所属する組織よろしく、内部で秘密厳守な命令でも下っているさ。多分。 「で、俺は制服姿のお前を、どこに連れて行けばいいんだ?」 サボるならもっと目立たない格好で来いよ。まぁ、こいつの場合は目立つから制服脱いでもあんまり変わらんだろうが。 「あんたも制服じゃない」 俺は母親を悲しませたくないだけだ。結構無理して進学校に通わせてくれている母親に「学校サボる」なんて言えなかった。これでも罪悪感は感じているんだよ。 「あたしも家からそのまんま出てきたから、仕方ないのよ」 急な思いつきか。急なのは今に始まったことじゃないが、考えずな行き当たりばったり行動なんて珍しい。 周りにはそう思えるだろうが、彼女は頭の回転と行動力が異様に早いだけ。早すぎて常人には着いていけないのが現状である。 「別に今さら見つかってもいいわよ。成績は良いから、学校側は黙認するだろうし」 そうでしたね。一学期の期末試験は学年トップでしたね。俺は……まぁ中盤より上くらいだ。 「それじゃあとっとと行くわよ」 「どこへ?」 男性のように豪快に股を開いてシートに跨る涼宮ハルヒに聞いてみた。 「あんたはあたしの指示通り走行すればいいの」 涼宮ハルヒに予備のヘルメットを渡し、グリップを回す。 メタル色のマフラーから排ガスが漏れる。それでは交通法規を守って出発進行。 バイクを走らせること数時間。ダラダラと寄り道しながら着いた場所は、西宮南部に面した大阪湾が一望できる丘だった。 「で、ここに何の用だ?まさか寒中水泳でもしたくなったとか言うなよ」 「そんなわけないでしょ」 シートから降りて、減らず口と共にヘルメットを投げ返してきた。 すると、彼女はその場にしゃがみこんでジッと海を見始めた。一体なにがしたいのか。 「……理由なんかないわよ。ただ、なんとなく海が見たかっただけ」 俺のほうを見ずに、抑揚無い言葉で話し始めた。 「いや、無いわけじゃないわ。知ってるでしょ?あたしん家が、あんまり上手くいってないことくらい」 前に聞いたことがある。涼宮ハルヒの両親は、ここ数年ほど、離婚の話で盛り上がっているとかな。 「原因は……まぁあたしなんだけどね。小学生の時くらいまでは優等生で通ってたあたしが、中学に上がった途端、奇妙奇天烈な行動ばかり起こしたから。 そのせいで二人とも責任のなすりつけ合いになって……バカよね。別に二人のせいなんかじゃないのに」 なんでこんなにいたたまれない気分になるのだろうか?とりあえずポケットから煙草を取り出し、場繋ぎのためにも火を灯すことにした。 「あたしは別に後悔なんかしてない。あたしの人生だもん。好きに生きるわ」 「……してない「つもり」だった?」 「……うん。今朝、起きたらママと親父がケンカしてたのよ。しかも、察する限り一晩中寝ないで。どんだけ言い足りないのよ。 それ見てたら、「このまま自分のやりたいように好き勝手生きてもいいの?」って思っちゃって……」 なるほどね。なぜ俺「だけ」が彼女の思いつきに付き合わされた理由がわかった。なぜなら涼宮ハルヒの狭い交友関係の中で、俺だけが片親だからだ。 十代後半くらいの子供だったら、大多数は両親揃っているはずだ。 でも俺は違う。俺は母親と二人暮らしってことに関しちゃ嫌気はさしていないが、困っていないわけでもない。 そして涼宮ハルヒは、家庭に問題を抱えている。それも自分のせいで。 お互い特殊な家庭を持つ身の上であり、俺なら黙って話を聞くぐらいはしてくれると思ったんだろう。 「ハル。俺は聖人君子なんかじゃない。だから「お前の気持ちはよくわかる」なんてことは言わない。つーか言えない」 だって俺は「涼宮ハルヒ」じゃないからな。 「だから理解できる努力をする。話したいことが他にもあるんだろ?」 話してもらうだけでいい。 聞くだけでいい。 今の俺の役割は、彼女を理解すること。それだけだ。 理解した上で、どうにかするのは俺の役目じゃない。誰の役目かって?さぁな。こいつを無償の愛で愛せるような聖人君子くんだろ。 その後は日が暮れるまで、涼宮ハルヒの一人話が繰り広げられた。内容は……特に思い出すほど重要な事柄ではなかった。他愛もなさすぎて語る必要も無いね。 俺と涼宮ハルヒが光陽園駅に戻ってきた頃には、肌寒い冬の夜空が頭上に広がっていた。おぉおぉ。みんな寒そうに歩いてやがる。 「はい、到着」 「寒い。あんた、あたしに風引かせるつもり?」 自分で命令しといてめちゃくちゃ言ってやがる。そんな短いスカートでバイクに跨る君が悪い。ついでに言うとバックミラーには何度か写ったぞ。君の下着が。あぁ、はしたない。 「死ね」 結構な言い草である。 「それじゃあ俺は帰るぞ。じゃあな」 「ふん。じゃあね」 涼宮ハルヒから受け取ったヘルメットをシート下のトランクにしまい、エンジンキーを回す。グッドバーイ涼宮ハルヒ。 「ずいぶんと遅くなっちまった」 バイクを法廷速度を時速五キロメートルほどオーバーで、気持ーち早めに走らせ、月が支配する世界を疾走していた。今日の晩飯は何かな~と。 呑気な事を考えていたせいか失念した。交通法規の大原則は、歩行者優先であると言うことを。 「なっ!?」 眼前の十字路を横切る人影にフラッシュライトが当たり、その顔が、一瞬だけ驚愕に目を見開いた。 アスファルトをこするタイヤの音。 摩擦熱のせいで焦げ臭い。 道路に投げ出せれた長い黒髪。 「……ハァ……ハァ……」 咄嗟の出来事のわりに、上手く反応できたのは神の気まぐれかもしれない。謎の人影に衝突する瞬間に片足でブロック塀を蹴り飛ばし、なんとかバイクの軌跡を逸らすことができた。 「てめぇ!こんな夜道でいきなり飛び出してくんじゃねーよ!もう少しで潰れたガマガエルみてーにするところだったじゃねーか!」 バイクから降り、飛び出した人影の襟首を吊るし上げる。この制服は北高のセーラー服だな。小学生じゃねーんだから、いきなり飛び出すんじゃねーよ! と、ここでその人物の顔が月明かりに照らし出された。 「ごめんなさいね。ちょっとボーっとしてたわ」 かなりの美人がそこにいた。それこそ涼宮ハルヒとタメを張れるくらいの超絶美人女子高生のな。 「……ったく、勘弁してくれ」 こんだけの美人が謝っているんだ。怒る気も失せた。少々名残惜しいが、彼女の襟から手を離すことにした。 すると手を離した瞬間、この轢きそこなった彼女は、マジマジと俺の顔を覗き込んできた。なんのつもりだ?生憎俺は君の幼馴染でも生き別れた兄貴でもねーぞ。多分。 「ん……なんでもないわ。お構いなく」 いや、構うわ。はっきり言って良い気分はしない。 「ふーん……そう、それじゃあね」 満足したのかどうかは知らんが、彼女は手の平をヒラヒラと振りながら、眼前の宵闇へと溶けていった。 もしもこれが月曜九時の恋愛ドラマなら、今頃バックコーラスが大音量で流れているだろう。そしてここから恋が始まかもな。 だけど彼女の微笑は、そんな恋愛ドラマには似つかわしくない程に酷く不気味で、それこそ生気の無い、能面やマネキンが口元を無理矢理歪めたようだった。 「……っくそ。なんなんだ、この寒気は」 体中の血管が根こそぎ吹雪に晒されたような欝感覚。もしかしたら背後に雪女かなんかがいて、耳元に氷の息吹でも吹きかけているのかもしれない。もちろんただの比喩だが。 交通事故未遂と寒波のせいで、中も外も冷やしてしまった俺だが、慣れ親しんだ自宅の玄関を開き、なんとか安堵の吐息を漏らせた。 「ただいまぁ~、なぁ聞いてくれよ。実はさっきそこで交つ……お母さん?」 唯一の家族である母からの返事が返ってこない。 おかしいな。今日は仕事が休みだから家にいるはずなのに。昼寝でもしてるのか?つっても、もう夜だが。 「……お母さん?出かけてるのか?」 今にも幽霊が飛び出てきそうなほどに静かで不気味な狭い廊下を歩き、リビングの扉を開く。 「なんだよ。いるじゃないか。「おかえり」くらい言ってくれよ」 母は電灯も点けずに、リビングの食卓の上でうつ伏せで突っ伏していた。 その姿を見て、こんなに寒いのに何故か汗がダラダラと流れ落ちる。 しかも俺の足が母に一歩一歩近付くことに、体内の発達した直感力と、卓越した危機察知能力がレッドアラートで警鐘を鳴らしている。そう、その姿はまるで……。 「……おい!?お母さん!?」 そこにあったのは、ナイフではらわたを抉り出された母の遺体だった。 「つまり自宅に帰って来た時には、既に母親が亡くなっていたと」 「……はい」 俺よりいくらか歳を取ったくらいの若い女性刑事が、凛とした言葉で遺体の状況を聞いてきた。 現在の時刻は22時15分。本格的に胃が給料の支給を求めている。 だが残念ながら口が食物を受け入れてくれそうも無いため、胃袋にはもう少し我慢してもらおう。 リビングにて母の遺体を発見した俺だが、なぜか頭だけは恐ろしいほどに冴え渡っていた。 誰がどう見ても死んでいるのがわかる。よって119番ではなく、速攻で110番。10分後には制服警官数人に、若い女性刑事と初老の男性刑事が家にいた。 母の死因は腹部を鋭利なナイフで切り裂かれたことによる失血死らしい。即死ではなく、数分間は意識があったようで、惨い殺しだったと警官が語るのを聞いた。 そして今は「簡単な取調べ」を受けるために、火サスではお馴染みの取調室にて、半軟禁みたいなことをされている。 「オーケー。それではもう一度聞くわね。君は母親の死亡推定時刻、どこで何をしていたのかしら?」 女性刑事の瞳が、探る様に鈍く煌いた。 「何度も言わせないでください。光陽園学院には行かず、サボって遊んでいました」 女性刑事は手元の紙にボールペンを走らせた。 まさか俺が母親を殺したと疑っているのだろうか? ……無理も無いよな。気分は悪いが、アリバイだって「サボって遊んでいた」なんて曖昧だし、最近は真面目に学校に通っていた。 それを今日いきなり学校を休み、その日にこんな事件が起きたんだ。俺が警官なら絶対疑う。 「それではそのアリバイを証明することはできるかしら?」 「……はい。その時一緒に遊んだ友達が」 そこまで発言した瞬間、取調室の扉が勢い良く蹴り飛ばされた。 「ちょっと!あんたのママが死んだって本当なの!?」 取調室の扉に暴行を働いた少女こそ、俺のアリバイを証明する人物です。もう少しおしとやかに登場できないのか?パンツ見えそうだぞ。 「うっさい!それより本当なの!?」 涼宮ハルヒの瞳が、驚くほどに無の光を放った。どんな顔をしていいのか分からないのだろう。 「ご覧の通りだ。母親は殺されて、俺は取調べを受けている」 つーかよく来てくれたな。確かに証言のために呼んだが、正直あまり期待はしてなかったよ。 「あたしだってこのくらいの分別はつくわよ」 そうかそうか。これで俺はこの取調べから解放されるな。そう思ってありふれたパイプ椅子に腰を下ろし、涼宮ハルヒが口を開くのを待ち望んだ。 だが、 「ハルヒ!」 またも取調べ室に突撃してくる人物がいた。それも二人。取調べ室ってのは、こんなにも騒々しい物なのか? 「親父にママ!?なんでここにいるのよ!?面倒だから黙って出てきたのに!」 そう言えば前に一度だけ涼宮ハルヒの家にお邪魔した時、この二人を見たことがあった。どこかで見たと思ったが、両親だったか。 父親は呼吸を荒くしながら涼宮ハルヒの方を睨みつけている。だが対照的に、母親の方は目元をハンカチで拭いながらメソメソと泣いている。 おいおばさん。なんであなたが泣いてるんだよ。泣きたいのはこっちだ。 「まさかお前が警察にご厄介になるなんて……恥ずかしくないのか!?」 「ちょっと親父!なに勘違いしてるのよ!?あたしじゃなくてこっちの」 「言い訳は聞きたくない!」 めちゃくちゃなオヤジだな。聞きたいのか聞きたくないのかどっちだよ。混乱してんじゃねーよ。 「まったく!お前はいつからこんな子に育った!こんなガラの悪そうな少年と仲良くなったり、最近は帰りも遅いじゃないか!」 「そんなの関係ないでしょ!あたしが誰と連もうかあたしの勝手よ!」 「大体ハルヒがそうなったのも、お前の育て方が悪かったからだ!だから市立じゃなくて光陽園にしかいけないんだ!」 「わ、私のせいだって言うのですか!?あなたが家庭を顧みることができたらこんな」 「うるせぇっ!」 怒号と共に、目の前の無機質なアルミ机が吹き飛び、室内にいた全ての人間が俺を注視する。 「こんな警官に見られた場所でワーワー喚きやがって!恥ずかしくねーのかよ!?」 ふざけた抜かしてんじゃねーよ!子供が大切だと思うなら、こんな場所で口喧嘩なんかするな。 「おら、もう結構だ。とっとと家に帰って家族会議でも離婚調停でも何でもしてくれ。ハッキリ言って迷惑だ。消えろ」 ここに警察がいなかったら、絶対にこのクソオヤジに飛び蹴りの一つでもかましていたはずだ。友人の親?知るかよ。 「あんたらは親ですらない。親だったら子供の気持ちを汲んでやれよ」 もううんざりだ。どうにでもなれ。 「彼女を帰していいのか?君のアリバイを証言する人物だろ?」 女刑事は「何考えてるんだこいつ」と怪訝な表情で俺を見据えている。 どうでもいいよ。だって俺は無実だし。アリバイ証明なんか必要ないね。 「そうか。ではもう一度初めから聞かせてもらえないか」 「なんでもどーぞ……と言いたい所ですが、そろそろトイレに行かせてくれませんか?本気で漏らしそうなので」 プチ軟禁状態にされて数時間もイスから動いてねーんだ。そろそろ水分抜かな、恥ずかしい事態になりそうだ。 「それもそうだな。ここで小休止を取ろう。新川、彼をトイレまで案内してやってくれ」 「かしこまりました。森警視」 監視付きかよ。勘弁してくれ。 トイレ内部はそれなりに清潔さを保たれており、これなら落ち着いて用を足せる。 「って、見られて喜ぶ性癖は無いのですが」 見られて無けりゃな。 「それは失礼。だが、取調べ中の人間から視線を外すわけにはいけませんので」 勘弁してくれ。そんな風に放尿シーンをジッと見られては出せるもんも出せない。この初老刑事は、何故こんなにも実直なのだろうか。 「逃げたりしませんよ。つーか逃げられません。だってここは三階ですよ?」 トイレの窓の外には月が世界を照らしており、十二月らしい寒風が吹き荒れている。こんなところからどうやって逃げろって言うんだよ。 うんざりな取調べとは言え、逃げてなんになる。そりゃ拘束緊迫軟禁プレイなんて勘弁して欲しいが、大体逃げたりしたら俺が加害者として断定されそうでだ。 ここはうんざりな取調べに、うんざりするほど付き合うくらいしか逃げ道はないのさ。 「新川警部、鑑識から報告がありました」 トイレの外で、三十代前後くらいの男性が声を張ってきた。 この声は多分、俺の家にやって来た制服警官の一人だ。胸元に名札があって、田丸(裕)とかって書いてあったな。 「失礼、少しここを離れますので、用が済みましたら呼んでください」 へいへい。と軽い口調で返事をしておいた。 こんなトイレから脱出困難なことくらい新川警部にもわかっているのだろう。じゃなきゃこうも簡単に目を離してくれるはずがない。 「……悪いな新川警部。俺にはここでノンビリしてる時間なんかないんだ」 トイレの窓を全開にし、寒波を顔面に浴びる。っへぷし! 鼻をすすって窓の下を見ると、一つ下層のトイレの窓が視認できる。さらに目を凝らせば、同じく最下層の窓も。 「さすがに窓は閉ってるな……あ~仕方ない」 制服のシャツの袖を二つに破る。これを簡易式バンテージにして…… 「一つ間違えたら重傷。間違えなくても軽傷。勘弁してくれ」 溜息を漏らしながらも、窓から外へと身を乗り出し、柔い手すりを掴む。そういやなんかの映画で、こうやって懸垂トレーニングをしてる筋肉マンがいたっけ。 「さぁて、男をみせろ。頼むから間違っても笑いを見せるんじゃねーぞ。絶対に笑えない事態になる」 呼吸を整え、自分なりにタイミングを計り……アン、デゥ、トゥルワ! 手すりから一思いに手を離し、飛び下り自殺まがいの荒芸をした。 「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 最下層のトイレの窓を握り拳が捕える。 窓ガラスが飛び散り、腕に小さなガラスが突き刺さったが、何とかトイレ内部の壁を掴むことができた。 ギリギリ成功である。あと一瞬遅かったら、鉄筋コンクリート相手に正拳突きをブチ込むところだった。 ハードなスタントモノマネのせいでガラスが突き刺さった箇所から血が流れ出ているが、今はそんなことどうだっていい。 手すりから手を離し、無事とは言い難いが警察署の敷地内に脚を踏ん張ることができた。 署内から騒がしい空気が感じられたため、一目散にその場から駆け出すべきである。 出血箇所を手で押さえながら、全力疾走。とにかくここから離れないと。 繁華街のビルに、パトカーのサイレンがやかましく反響している。 「バーカ。そんな小回りの効かないパトカーで、俺が捕まるかよ」 裏路地と裏道を渡り歩き、廃ビルと工事現場を抜け続けたおかげで、今のところはこちらに追いつく気配は無い。 あのまま警察に任せて取調べを受けてるべきだったかもしれない。 だけどな、殺されたのは俺の母親なんだぜ?それなのにそのまま丸投げなんかできるか。 「警察なんかに任せられるか。俺が絶対に母親を殺した野郎を捕まえる」 学ランの裏ポケットからタバコを取りだし、火を灯す。 「覚悟しろよ殺人鬼。世の中には絶対に喧嘩売っちゃならない相手がいるってことを教えてやるよ」 煙を吐き、気分が高揚してから携帯電話のダイヤルをプッシュしていく。 「もしもし、俺だ。ちょっといいか?」 受話器の奥で、電話相手の溜息が聞こえてきた。こんな夜分遅くに電話かけてスマンとは思ってるよ。だがな、お前しか頼れる奴がいないんだよ。 「やれやれ。と言うべきですかね」 「だから悪かったと言ってんだろうが。古泉」 笑顔が癖の男には珍しく、厄介なことに巻き込まれたと言わんばかりにウンザリしているのは古泉一樹である。 涼宮ハルヒと僅かに交流を持てた頃、古泉一樹と出会った。五月と言う中途半端な時期に転校してきたことから、彼女に「謎の転校生」と呼ばれている。一体どこの国基準で謎なんだか。涼宮王国か?ハルキングダムか? それ以来涼宮ハルヒは事あるごとに古泉一樹を財布にし、色々場所や施設へと連れまわした。それって世間一般的にはカツアゲと言う行為なんだぜ? いや、カツアゲとは言わんか。なぜならこいつは涼宮ハルヒにベタ惚れしているからな。言うならば、双方合意の上のデートもどきである。両方困ってなければいいか。 「今、とても失礼なこと考えていますよね?」 さぁ?なんのことだか。 「まったく。いくら取り調べが嫌だからと言って、三階から飛び降りるなんて馬鹿ですよ。見てくださいよ。この血だらけの包帯」 ああ、血も滴るいい男だな。って、ごめんなさいごめんなさい。シリアスパートに戻すので、110番を押さないでください。 「僕の両親がカナダに出張していたから良い物を……もう少し自分の身を大事にしてください。死ぬ気ですか?」 「死ぬ気なわけねーだろ。死ぬ気でなんかしようとする奴は死ぬだけだ」 ああでもしなきゃ逃げられなかったからな。 すると古泉一樹は「ああこの馬鹿には何を言ってもダメだ」と悟ったのか、無言のまま包帯や消毒薬を片していった。 「……なぁ、ところでお前の両親は元気してるか?」 古泉一樹が救急箱を片す所を見ながら、なんとなく聞いてみた。いや、聞かずにはいられなかったと言うべきか。 「……えぇ。先日カナダから電話がありましたので。正月には一時帰国をすると」 そうか。と答え、古泉一樹から借りた毛布を被り、上質なソファーに身体を休める。 「家に入れてくれてありがとな。明け方には出てくから、それまで辛抱してくれよ」 この寒空で野宿なんかしたら死んでしまう。かと言ってホテルに泊まる金も無い。だからこうやって信頼できる奴の家に転がり込むぐらいしかできなかった。 古泉一樹は良い奴さ。容疑者であり逃亡者である俺を「友人だから」と言う理由だけで上げてくれた。 だからこそ甘えるのは一晩だけだ。彼にも迷惑がかかるし、俺が気にする。 「それでは僕は自室に戻ります。おやすみなさい」 一人暮らしにはもったいないくらい広いリビングの灯りが落ち、青白い月の光が俺の身体を照らす。 「……畜生……お母さん……なんで死んじまったんだよ……」 毛布と暗闇が顔を隠してくれるからいいが、嗚咽だけはどうにもならない。ひょっとしたら、自室で寝ている古泉一樹にも聞かれているかもしれない。 でも、今まで必死に我慢してきた涙が、ここに来てダダ漏れだしてしまった。 人間である以上、死は避けられない。 だけど……こんな終わり方、唐突すぎるだろう! 俺はまだ母親に甘えたいんだ!生んでくれてありがとうって言ってないんだ! ちくしょう。畜生。チクショウ。 止まらない。どうやら俺は自分が思っている以上にヘタレでカッコ悪いガキのようだ。 毛布の中で母親と歩んできた記憶の逆流に呑まれ、結局一睡もできなかった。 第二章へ続く
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CMWC NONEL COMPETITION6 已むを得ず、無題 作:塩瀬絆斗 これまで推測していた《釣針の五種類》によれば、この記号の並びは「AIUE」を表しているのだ。躊躇うことはなかった。今の俺にはどんなことでもが手がかりとなっているのだから。この四つの記号は「ダイスケ」を示すに違いない。そして、この推測は先ほど考えた段階的複雑性にも合致しているように思えたのだ。四つの記号の一番最後のものは「け」であるが、「か行」は《直線形状》を除外してはじめの行である。つまり、この行に相当する記号は段階的複雑性において初期的な役割を担っているのではないか。「け」の《中心形状》は、Zの斜めの棒が上下の棒に対して垂直をとっている形になっている。他 の《中心形状》と比較すると複雑性の面では最も初期に位置しているだろう事が容易に想像できるのだ。それは「だ」にもいえることで、俺が手に入れている「が行」は《中心形状》が尖山型だった。段階的複雑性によれば、これ以降の行はこれより複雑な形状でなければならない。「だ」の記号はそれに合致しているように思えた。もっとも、「が行」と比較すると、《中心形状》が角形や円形で、上下に張り出しているものは複雑性の面では逆行しているような気もするのだが。ともあれ、俺は新たに「か行」、「さ行」、「だ行」を手に入れた。これならば穴埋めの作業は飛躍的に進むはずだ。(判明文字を示す。未解読文字は×) き×し×そう××こうそくし×い×× ×す××う×いえ×あい××××××い せ×××××あ×か××い××いうこ× ×し×せおそ×く×す××せいこう す×だ×うそ×ご×だいすけ×× ×××し××い×××××んきん し××か×さん×ん×××××う ××あ×え×だいすけ×こ×あんご う×き×し×そう××××しかい どくす××う×いえかいどくさ× ××で×がさ×い×う×し× サイモン・シンは解読作業には一種の快楽があるのだろうと言った。その通りだった。俺は今の自分が置かれた状況を忘れて解読に没頭していたのだ。 穴埋めの後に俺に訪れたのは、達成感だった。そこには「拘束」、「成功」、「解読」といった単語が読み取れたのだ! この解読法は間違っていないのだ。そして、これは間違いなく指示書だった。となると、どこかに「盗む」というような言葉があるに違いない。しかし、俺が次に目を付けたのは六行目の右端の三つの記号だ。穴埋めでは「んきん」となっている。俺は先ほど「監禁」という言葉が入っているのではないだろうかと推測したのだが、それに似ているのだ。しかし、これは「監禁」ではない。なぜなら、最初の「ん」の前が、二番目の「ん」の前にある記号の《中心形状》と一致していないからだ。これは「軟禁」といっているのではないだろうか。ただし、これは確実ではない。そこで俺が目を転じたのは、一番最後の一文字分の未解読部分だった。この一文字は《釣針の五種類》から、「お段」の文字を示している。そしてこれは指示書だ。ここには命令が、つまり、「~しろ」と書かれているのではないだろうか。そこで、少し考えを進めてみることにした。 段階的複雑性だ。 《中心形状》は、「さ行」は円形が上向きに付いている。それとは逆のものもある。円形が下向きについている場合だ。これは「さ行」の次の行ではないだろうか。《中心形状》には円形や角形が上下に飛び出ているものもある。もしかすると、その前段階である、《中心形状》が上か下に飛び出ている記号が関係しているのではないだろうか。もし円形が下に飛び出ているものが「た行」だとすれば、その次の行は円形が上下に飛び出ているものがくる、という具合だ。そして上下に飛び出るものは二種類あって、右が上に出て左が下に出ているもの(右上突出)、右が下に出て左が上に出ているもの(左上突出)、だ。上突出、下突出、右上突出、左上突出……四種類だ。そしてこれに円形と角形の違いが加わり、八種類。「あ行」と「か行」はこの部類には含まれないから除外して「さ行」から「わ行」までを数えると、その数は八。笑いがこみ上げてくる。そしてどうだろう! 尖山型がその後の濁点行を示しているとすると、上下突出と右上突出、左上突出で、その数は四つになる。「が行 」「ざ行」「だ行」「ば行」だ。最後に残った「ぱ行」はこの暗号に記されなかったのだろう。 もし、一番最後の文字が「ろ」を表しているとすると、この論理は支えられる。この記号は角形左上突出「お段」だ。円形突出型はその組み合わせが「は行」で終わる。ということは、「ま行」は角形上突出型になっているはずだ。こうなれば、芋づる式だ。「や行」は角形下突出。「ら行」と「わ行」が角形の右上か左上突出になっているはずだ。そして、一番最後の記号が「ろ」ではないかという推測はこれに競合しない。となれば、最後の記号は「ろ」だろう。さらに分かることがある。もし最後の記号が「ろ」であれば、上下突出の後には左上突出がくるのだ。現に「だ行」は左上突出になっている。「が行」が尖山上突出。「ざ行」は自動的に尖山下突出になり、その後の「だ行」が尖山左上突出になっているのだ。 この推測を足がかりにして穴埋めを進めていくと、それはするすると解けていったのだ。 きりしまそうじをこうそくしないふを ぬすむようにいえばあいによつてはたい せつなひとをあずかつているというこ をしめせおそらくぬすみはせいこう するだろうそのごはだいすけをみ はりにしてれいのへやへなんきん しろほかのさんにんはべつのよう じをあたえるだいすけはこのあんご うをきりしまそうじにわたしかい どくするようにいえかいどくされ るまでにがさないようにしろ (霧島ソウジを拘束し、ナイフを盗むように言え。場合によっては大切な人を預かっているということを示せ。おそらく盗みは成功するだろう。その後はダイスケを見張りにして例の部屋へ軟禁しろ。他の三人には別の用事を与える。ダイスケはこの暗号を霧島ソウジに渡し、解読するように言え。解読されるまで逃がさないようにしろ) 俺はどっと疲れを覚えたが、それ以上の戦慄を覚えた。それは、この指示書に俺の名前が間違いなく記されていたからである。 俺は狙われていた……! なんてことだ。なぜ俺が? 逮捕協力の情報を警察へ渡したからだ。《アイコノクラスト》が報復に動いたのだ! だが、この指示書には殺人の話は書いていない。「他の三人」への別の用事というのは、暴行事件のことだろうか。いや、そんなことよりも、指示書と実際の出来事の間に微妙な違いがあることのほうが気になる。それは例えば、「ナイフを盗」ませるようにいっているにもかかわらず、俺は包丁を盗むように強要された。俺に暗号を渡したのはダイスケではなく、あの蛇の男だった。そもそも、この暗号はあの四人よりも上位の人間が書いているように思える。リーダーだろうか。しかし、凶悪な少年グループである《アイコノクラスト》のリーダーの指示をきちんと遂行しないのは問題がありはしないだろうか。内部にちょっとした諍いが起きている? どういうことだ……。 なにが起こっている? 誰がダイスケを殺した? 6、コミカル・エクスプロージョン 「大丈夫か?」 いつの間にか寝てしまっていたようだ。拘置室の外にあの刑事が立っていた。今は何時だろう。窓の外からは光が差し込んでいた。 「また話を聞きたい」 「ええ」 俺はそう返事をして立ち上がった。しかし、同時に寝惚けていた頭に《釣針暗号》のことが浮かび上がってきたのだ。 「そうだ、俺、あの暗号を解読したんです!」 「なんだと?」 刑事は俺がポケットから紙を取り出すのを驚いた表情で眺めていた。 俺はすべてを説明した。 「……なるほど」刑事は難しい声を漏らした。「君ははじめから狙われていた、と。だが、それだけでは君の殺人の容疑は晴れないだろう。その文章が君の殺人の動機を後押ししているように見える。部屋に軟禁されたことによって殺害の理由が生まれたのだ、と」 「……そんな」 朝から気の滅入ることだった。 俺は昨日と同じ取調室で刑事と相対していた。 「彼女が今日も署に来てるぞ」 刑事の最初の一言はそれだった。俺の脳に一気に血液が廻るのが分かった。ユウリ! 「相当君のことが心配なんだろう。『彼はいつ解放されるんですか』『彼は大丈夫ですか』と矢継ぎ早に質問されたよ。なんとも答えられなかったのが残念だったが、いい子じゃないか」 「……ええ。監禁されたときもずっと彼女のことを考えていました。……そうですか、ユウリが……」 「会ったり物の受け渡しは許されている。後で面会するといい」 「そうですね」 刑事の姿勢が正される。目つきが変わったのが分かる。 長い言葉のやり取りがあった。疲労感が募る。ユウリは大丈夫だろうか。 時計を見る。午前十一時三十分。今日は……確か九月三十日だった。 こんなときにこんなことを思うのは馬鹿馬鹿しいが、現実逃避をしたいんだろう。《電ミス》の競作募集は今日で締め切りだった。今日の二十三時五十九分五十九秒だ。とてもじゃないが、間に合わない。この時間を過ぎても投稿を許されるだろうが、それでは俺のプライドが許さなかった。ああ……、小説家になるという漠然とした夢が随分遠くへ行ってしまったような気がする。俺は家に帰れるだろうか。冤罪という言葉が耳のそばを弾丸みたいに掠めていく。そんなのは嫌だ。しかし、警察は俺が犯人であると考えている。 俺は――……。俺がすべてに決着をつけるしかない。 考える俺が解離していくような気がした。刑事の質問に答える俺がいて、それとは別に考える俺がいる。 まずなんとしても解決しなければならない問題は、密室の問題だった。糸を施錠ツマミにくっつけてそれを換気扇の隙間から引っ張るというのは施錠ツマミの強度から考えて難しいだろうと思われた。それに、テープでくっつけたとすると、万が一テープが取れなかった場合に重大な証拠になるだろう。俺が現場を見たとき、施錠ツマミにはそんなものはなかった。結果としてなかったのかもしれないが、犯人が証拠を残す可能性を孕んだままトリックを実行するとは思えない。そして鍵は俺が持っていたから、犯人は確実に施錠ツマミに細工を施したのだろう。ドアノブを外したのだろうか。しかし、あのドアノブのネジは随分特殊な形状をしていた。それに、内側のドアノブを外すにはやはり部屋の中にいなければならない。換気扇を外すのも無理だろう。枠が錆び付いて動かすことも出来ない。それ以前にあそこに体を入れるにはかなりの大男でないと高さが足りない。普通の人間なら手が届くくらいだろう。そして、そんな大男だったら、あの隙間から出入りするのは不可能だ。そして、も したとえ隙間から出入りできても、結局、枠は部屋の内側からしかつけることが出来ない。窓に関しても同様のことがいえるだろう。ドア周りは外へ通じる少しの隙間も出来ないような構造になっていた。となると、やはり犯人は換気扇の隙間から何らかの方法で施錠したのだ。そして、その方法はもはや糸しかないのだろうと思う。 俺は刑事に言った。 「密室のことですが、犯人は糸を使って施錠ツマミを回したんじゃないでしょうか。それ以外に考えられないんです」 「ふむ」刑事は俺が犯人である可能性も考えている。そのための深い唸りなのだろう。「実はそれは試してみた」 「本当ですか?」 「ああ。ただ、テープで施錠ツマミにくっつけたんだがテープは張り付いたままな上に施錠ツマミを回転させることすら出来なかった。一本の糸では力が不足するんだ。二本や三本で、というのではない。力のかかり方が、施錠ツマミを回転させるには不十分なのだ。施錠ツマミは開錠状態で反時計回りに九十度回転するが、ツマミの上下に異なる方向で力が加わればうまくいくはずだが……そうなると、反対側にも窓がなくては難しい。それに、部屋を隔てた位置だから犯人は二人以上いたことになる。それでは、君を犯人と考えている我々は君の共犯を探さなければならない。あの子が共犯だというのなら別だが」 「バカな!」それは信じられない物言いだった。「俺は犯人じゃないし、あいつだって違う!」 刑事は分かっている、というように軽く手を挙げて見せただけだった。 刑事との話は大した進展も見せることなく休憩に入った。 面会室の扉の前で、俺は少し身だしなみを整えていた。 「ソウジ君」 昨日会ってから一日も経っていなかったが、久し振りに彼女の顔を見たような気がした。 「ユウリ」 俺たちは互いに名を呼んで触れ合った。 「大丈夫?」 「ああ」 しかし、彼女の顔には隈が目立って見えた。 「お前、寝てないのか?」 「……心配で」 「ダメだろ、ちゃんと寝ないと」 「でもソウジ君が警察にいるのに寝ていられないよ」 「心配するな。俺は絶対大丈夫だから」 ユウリと言葉を交し合う。それは束の間の幸せであった。 しかし――。 なぜだろうか。先ほどから俺の全身を包み込むこの悪寒は。総毛立ち、粟立ち、精神がざわめく。額からは脂汗が吹き出していた。 ダメだ。そんなのは、ダメだ。俺は去来したものを拒み続けた。 そんなことは、絶対にない。 だが、それは――。俺を占めていくそれは……。 ユウリを見る視界が滲んでしまう。止め処なく涙が溢れていた。 「どうしたの、ソウジ君!」 頭を抱える。違うんだ。違う。絶対に違うんだ。優しいんだ。そんなことなんて絶対にしないんだ。認められない。却下だ。でも涙が止まらない。信じたくない。 ――すべてを闇に葬り去るか? 心の奥から声が聞こえる。それは解離した俺の、考える俺の声のようだった。しかし、それは紛れもない俺だった。 「ソウジ君、しっかりして! 今誰か呼んで来るから」 「……いや、いいよ。大丈夫」 そう言うのが精一杯だった。 確かめないと。そうだ、確かめないと。だって、これが本当のことだって決まっていないんだから。そうだ、笑って首を振るに違いない。そうだ、そうに決まってる。笑って――。 「私は犯人なんかじゃないよ」 って! 7、AUDI, das ist “With the LEGO”! 「聞きたい、ことがあるんだ……」 「なに?」 ユウリが俺の顔を覗き込む。それだけで、俺は何も言えなくなってしまう。でも、言った。それは彼女を信じているからでもあったからなのだと思う。 「君は……」唾を飲み込む。それは重い重い重力子だった。「なんて言えばいいんだろう……。君は、俺が、あの部屋に閉じ込められていることを、知っていた?」 「どうしたの、急に?」 笑ってる。そうだ、そうだ。でも内奥から湧き出る、何かは俺を突き動かしていた。もしかしたらあの刑事の言葉がずっと俺の心の奥底に突き刺さって光を放ち続けていたのかもしれない。そうだ、これが俺の自家製の大義名分だって、俺は自分に言い聞かせているんだ。なぜならそれは絶対に間違っていることだから。 「この事件の犯人の条件は、まず第一に、ダイスケがあの部屋にいることを知っていなければならないっていうことだ。そして、それを知っていたのは俺とあの三人組だ。でも、実はもうひとりいる。《釣針暗号》を書いた奴だ。三人組は事件のときにアリバイがあって、犯行に及ぶことが出来なかった。俺は犯人じゃないから、自然的に犯人はその《リーダー》ってことになる」 「急にどうしたの? もしかして、事件が解けたの?」 「まあ、そう言うことになるのかもしれない。俺は間違っていると思うけど」 「すごい!」ユウリは目を輝かせた。「さすがソウジ君だね。なんでも出来ちゃうんだから」 「そうかな……。で、その《リーダー》は俺を指名して、拘束するように言っていたんだ。つまり、俺は待ち伏せされていた。でも、どうやって俺を待ち伏せしたんだろうか。俺は自分の家の前で囲まれたんじゃないのに。犯人は、俺があの道を通るって知っていたんだ。でも、そんなことを知っている人はいなかった。――君以外には」 「どういうこと?」 非難するような目で俺を見る。怒っているんだ。そうだ、それは当たり前だ。誰だって疑われるのは嫌いだ。信じていたいし、信じられていたいんだ。 「君は、俺が拘束されていることも知っていた。俺があの英語のメッセージで伝えたからだ。君は、あのメッセージに気が付いていた。君は俺が部屋を脱出した後に、まずダイスケに施錠を解かせた。そして転がっていた包丁で彼を殺害した。密室トリックはごく簡単なものだった。施錠ツマミにがっちりはまる大きさの輪をタコ糸で作るんだ。その輪の、施錠ツマミの上下に当たる部分に長い糸をくくりつける(輪と糸のくくりつけの順序は逆の方が効率がいい)。施錠ツマミの上から出る糸は換気扇の隙間から外へ。下から出る糸は反対側へ引っ張りたい。施錠ツマミの上下に異なる方向への力を加えたいからだ。しかしそれが問題だった。だからダイスケの死体を利用した。君はダイスケの死体を部屋のドア側の左隅に移動させて彼を滑車代わりに使ったんだ。でも、これだけだと服の生地の摩擦が強すぎて、滑車の代わりが出来ない。といって、首などに糸をかければ痕が残ってしまうかもしれない。だからゴミ袋を被せたんだ。滑りやすくするようにね。ダイスケの体を通してその糸も換気 扇から外へ出しておく。そしてドアを閉めて外へ出る。換気扇の外から糸を引っ張るんだ。施錠ツマミの上部の糸は左方向の力を加える。でも、その力だけでは不十分なんだ。しかし、ダイスケの体を滑車代わりにした下方の糸は上方の糸とは反対の右方向の力を加える。その二つの力が組み合わさると施錠ツマミはようやく回転して施錠が可能になるんだ。施錠ができたら、上方に繋いだ糸を部屋の内側方向へ強く引っ張る。すると、輪が施錠ツマミからすっぽ抜けてしまう。後は糸を引っ張って回収する。迷彩柄のバンダナは俺から《電ミス》の競作についての話を聞いたときのことから残そうと思ったのか。施錠を確認した君は、俺が来ているであろう自分の部屋へ急いだんだ。だから、君の部屋の前で、俺は君に背後から声をかけられたんだ。俺の部屋に行っていたというのは嘘だったんだ。一番の決め手は、君以外に俺を待ち伏せさせることができた人がいなかったっていうことだ。君からの連絡があって、タイミングよくあの四人組が現れたんだから……。それに、昨日の君の言葉がある 。君は実際にあの三人組の顔を見たことがないのに、連行される三人組が俺を拘束した連中だと断言していた。俺を担当した刑事は俺の話で三人の内のひとりが蛇に似ていると知っていたが、実際には見てもよく分からなかったと言っていたのにね」 ユウリは黙って俺を見つめていた。 どうして否定してくれないんだ。ほら、どんでん返しだ。そうじゃないと面白くない。 「はあ」ユウリの口から溜息が漏れた。「やっぱ、殺しとくべきだったのかな」 なんだって? 今ユウリはなんて言った? 誰か巻き戻ししてくれないか。 「マスコミが少年グループって繰り返すのはいい隠れ蓑だったんだけどね。あたし女だし。女の子が《アイコノクラスト》のリーダーだなんて誰も思わないよね」 悪戯っぽい笑みだった。なんていうことだ。いつもの彼女じゃない。 しかし、辻褄が合うのも道理だった。指示書と実際の四人組の行動に微妙な違いがあったのは、女に扱き使われているという意識が芽生え始めたからだろう。ちょっとした反抗心が彼らをひねくれさせたのだ。それに指示書の、盗みは成功するだろう、という楽観的な言葉と、先ほどユウリが口にした言葉、「なんでも出来ちゃうんだから」。そこに、共通して俺の能力を認める姿勢が垣間見えるのだった。 「いつ分かったの?」 「つい今しがたさ……」自暴自棄だ。なんでこんなことになってしまったんだろう。「君のことを考えて、君の事を見た。その時に、神様が妙な考えをふっと投げ込んできやがったんだ……。ユウリ、本当なのか?」 「ダイスケはね、警察にあたしたちの情報をリークしてたんだよ。だから、あいつの付き合ってる女を拉致したの。そうしたら大人しくなったけど、あいつが存在する以上あたしたちはずっと危険に晒されているわけでしょ。だから、粛清しようと思ったの。でも、ただ殺すだけじゃ、ダメ。そこでソウジの出番よ。ソウジはあたしたちのメンバーの逮捕に協力した。だから、鉄槌を下そうと思ってね。そこで、ソウジに罪を被せてダイスケを粛清する計画を立てた。あは、一石二鳥ってやつ。これ、ソウジと付き合う前の話ね。計画には自信があった。部屋に閉じ込められたソウジがすぐに脱出することも分かってた。あたしのことが心配だもんね。ご苦労ご苦労。あ、でもこの隈は本物。ソウジが逮捕されるまでは安心できないもん」 ――つまり、ユウリは今回の計画のために俺と……。俺はそんな女を心から……。 涙なんか枯れた。こんなドン底ってあるか? 何してくれてんだよ、運命の女神。その前髪を引っこ抜いてやろうか? 俺はユウリと一回もあんなこともそんなこともしてないんだぞ。その理由も今分かったが。 そのときだった。面会室のドアが開き、あの刑事が顔を出した。 刹那。 ユウリの細い体が俺と彼女とを隔てる机を飛び越していた。手を付いてくるりと俺の背後へ立ち首に腕を絡ませる。その手にはバタフライナイフが握られていた。 「近寄らないで。あたしはこのまま出て行くから、邪魔しないでよね。善良な市民が死ぬよ」 刑事はただ狼狽した。何が起こっているのかまったく見当が付いていないようだった。 「おい、やめるんだ」 「命令しろなんて言った? 邪魔するなって言ったのよ。この男の首、掻っ切るよ」 「分かった。邪魔はしない」 刑事は両手を挙げてユウリの――こんなに可憐なのに悪魔的な少女の言葉を聞き入れた。 俺はユウリに抵抗しなかった。できなかった。まだ信じていたから。情けないと思う。でも、彼女をずっと信じていたかった。 「ねえ、拳銃って持ってるの?」 「いや、普段は装備倉庫にある」 「じゃあ、そこに案内して」 「何を考えてる?」 「兵力増強。《アイコノクラスト》っていうくらいだから破壊能力ないとね」 刑事は身構えたままユウリと、俺とを見つめた。 「ソウジ君は君の恋人じゃなかったのか?」 「まあ――仮契約ってやつ?」 「ソウジ君、君しか彼女を止められない。やめるように言ってくれ」 俺は答えなかった。もし連れ去られるならそれもいい。この世なんてどうにでもなれ。 「ねえ、“ソウジ君”殺すよ」 「分かった。だが、待ってくれ。倉庫には鍵がかかってる。それを開けさせてからじゃないと中には入れない」 刑事の目は俺に注がれていた。随分親切にしてくれた。 恩返しなんて期待してるんだろうか。そうだろうな。武器なんか持ち逃げされたら絶対に職を失うもんな。家族はいるんだろうか。なんかいい父親っていう感じがするな。家族はいい。心の居場所だから。 俺は自分の両手に目を落とした。随分綺麗な手じゃねえか。今まで苦労なんてそんなにしてこなかったものな。そつなく生きてきたんだ。多分これからも。 深呼吸した。 刑事は面会室のドアのところに立って、ユウリの進路を塞いでいるように見えた。時間稼ぎだろう。この間に狙撃部隊とかを外に待機させているんだろうか。そうしたら、もしかするとユウリは撃たれて死んでしまうかもしれないな。それはすごく惜しいし、嫌なことだ。ユウリはかわいい。優しい。理解がある。頭もいいだろう。気が利くし、スタイルがいい。こんな女の子を喪ってはいけないだろうな。それに、この先、俺がこんな子と一緒になれるなんてないだろうな。 もう一度深呼吸した。 どうすりゃいいんだ。外に出ればユウリが殺されるかもしれない。今下手なことをすれば俺の首から血が吹き出るだろう。どんな窮地だよ。まさに《電ミス》だ。なんで現実に演じなきゃいけないんだ。俺は書いて送るだけでいいんだ。いや、もう今日中に出すのは無理だろうな。何もかも終わりだ。俺の人生――平凡。まあ、最後にこうしてドラマが生まれたからよしとするか。警察で人質事件なんて新聞の一面だぜ。美少女が犯人で、俺はその恋人ってことになるんだろうな。 「頼む」 刑事の口がそう動いたような気がした。 もういやだ。 「刑事さん」俺は疲れ切った口を動かしていた。「もうユウリの好きなようにやらせてくださいな。どうせ、彼女が捕まっても《アイコノクラスト》は存続し続けるでしょう。ここで起こったことなんか些事なんだ。さあ……。俺は大人しくユウリに従います。さあ――」 「見損なったぞ」 「ソウジはよく分かってるよ。ここを出たら部下にしてあげよう」 そうかい。 刑事の目。俺の心を突き動かそうとする。 そうかい――……。 だったら、ちょっと頑張ってみてやってもいいんだぜ。 ユウリを失う? 刑事の信用を失う? 自分の命を失う? 否だ。 全部取る! 新聞の一面だって、だ! もう俺は決めた! 「ユウリ、ちょっとごめんな」 「え?」 俺は思い切り肘をユウリの腹にめり込ませた。そうさ、手加減なんて一切しなかった。殺す気でやった。それは半分嘘だが。 「うぐっ!」 ナイフが手元から床へ跳ねた。ユウリが苦しんでいた。当然だ。肋骨にぶち込んだ。 「でかした、ソウジ君!」 刑事が駆け寄ろうとする。 「ちょっと待ってください!」 俺は倒れこむユウリを見つめた。苦しんでる姿もかわいいんだ。こいつは本当に完璧な女なんだ。ただ、ちょっとひねくれちまった。 深く息を吸い込む。 「おい、俺はお前が好きだ! こんな事するんじゃねえ!」 矛盾してるかなんてどうでもいい。 無理やりその体を起こさせる。 「こんな事して損するな! 普通の女になれ! 俺が絶対大切にしてやる!」 「ば、馬鹿じゃないの……」 ユウリが忌々しげに俺を見つめる。 「そうだよ、俺は馬鹿だ。それでお前を好きになっちまった。でも、好きだっていうのは馬鹿でも誰でも本当なんだ。俺がお前を叩き直す。付いて来い、絶対だ。放さないぞ」 ユウリの口元に笑みが浮かび上がった。そう、笑えばいい。かわいい女には笑顔が似合うんだ。 「……もう、好きにしてよ」 それきり彼女は目を閉じてしまった。俺の腕に重さがさらにかかった。 「ということです。刑事さん聞きましたか」 刑事は唖然としながらも口を開け放したまま頷いた。 「ただし」死んだ化け物が起き上がったみたいにユウリが口を開いた。「治療代はソウジ持ちでね。……すごく痛い」 「はい」 8、タイトルは最後に 俺が諸々の用事から解放されたのは夜も十時になってからだった。 ユウリは病院へ運ばれて、治療が終わり次第事件についての処罰が待っているということだった。これまでの《アイコノクラスト》での犯罪もこれで暴かれていくのだろうか。いや、俺が暴いていく舵取りをしなければならないのだ。それは、もうあのときに覚悟した。それに、俺は知っていた。俺の一撃で苦しむユウリの表情に、どこか安心したような響きが混じっていることに。これまでの日常から彼女は抜け出したかったのかもしれない。俺が彼女を救い、変えていくんだ。それが使命なんだ。だから、俺は彼女と出逢ったに違いない。 部屋のベッドに倒れこんだ。 色々なことがありすぎた。今日で三か月分くらいは生きた気がする。 しかし、改めて驚いた。自分のあの行動力に。人は変われるのかもしれない。違いない。人を心から好きになるということが、俺を変えたんだ。 そうさ、間違いなくユウリは俺にとって人生を転換させる運命の女神だったのだ。 では、いっちょ、小説家の夢も……。そう思い起き上がってあることに気付いた。時計の針は十時半を過ぎていた。あと一時間半だ。間に合うか? まさに窮地だった。 パソコンを立ち上げ、キーボードに向かう。 脳裏を駆け巡っていく、これまでの光景。世界が変わって見えた。その映像が俺の指を動かしていく。文字が止め処なく溢れていく。 ――間に合え! 【了】 . . .
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編集の前にトップページか参戦作品でガイドラインを読んでから編集してください。ガイドライン違反の内容は削除対象となります。 「機動戦士Ζガンダム」 放映日時 TV版:1985年3月2日~1986年2月 劇場版:第一部 機動戦士Ζガンダム A New Translation -星を継ぐ者- 2005年5月28日公開 劇場版:第二部 機動戦士ΖガンダムII A New Translation -恋人たち- 2005年10月29日公開 劇場版:第三部 機動戦士ΖガンダムIII A New Translation -星の鼓動は愛- 2006年3月4日公開 概要 TV版機動戦士Zガンダムに新規映像と新解釈を盛り込んだ富野 由悠季による新訳版。 20年近く前の映像と新規作画の映像とをミックスするという大胆な手法でも話題となった。 ストーリー 地球連邦とジオン公国による一年戦争から8年後の宇宙世紀0087年。地球在住の特権階級の権益を代表する地球連邦軍のエリート部隊「ティターンズ」と、その専横的な支配に反発するレジスタンス組織「エゥーゴ」の間で、連邦を二分する戦乱が始まろうとしていた。ティターンズの拠点であるスペースコロニー・グリーンノアに住む少年カミーユ・ビダンは、些細な事からその戦いに巻き込まれてしまう。権威主義的な軍人への私的な反発心から、ティターンズの新型モビルスーツであるガンダムMk-IIを奪取。偵察任務に就いていたエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉と運命的な出会いを果たす。その後、かつての一年戦争の英雄アムロ・レイや強化人間の少女フォウ・ムラサメを始めとした多くの出会いの中で、少年は大きく成長していく。物語中盤以降では、ジオン再興を目論むハマーン・カーン率いるアクシズも参戦し、三つ巴の戦いが繰り広げられていくこととなる。 基本的な運用 登場人物 カミーユ・ビダン 本作の主人公。17歳。 自分の女性的な名前にコンプレックスを持っておりすぐに人を殴る。それがきっかけでガンダムMk-IIに乗ることに。遊びでやってんじゃないんだよー! 「カミーユ」という名はフランスあたりではふつうに男の名前である。 初っ端から生身の人間相手にバルカンをぶっ放すというとんでもない事をしでかす。おかげで現在でもマジキチ扱いされている。 ニュータイプとしての能力は歴代でも最高といわれTV版ではその強すぎる能力故に精神が疲弊していく。劇場版では迎える結末が大きく異なる。 監督曰く、映画のカミーユは溜め込まず受け流す術を知ったとの事。 前作ではシンの親友兼アドバイザーとして活躍。今作でもシンとの友情は変わらない。 ビーム・コンフューズのみ新録をしている。そしてリアル系では珍しく「技名」を叫ぶ。「武器名」ならちょくちょくいるのだが……。 クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル) 27歳。今作では00のコーラサワーより年下である。 サングラスをかけて変装しているが、その正体はなんと、ジオンのエースだった赤い彗星ことシャア・アズナブルである!(棒)原作では割りといろんな人にバレてたけどハマーン以外はみんな空気読んでた。 相変わらず赤が好きなようである。 暗殺されたエゥーゴの指導者ブレックス・フォーラの遺志を受けて、その跡を継ぐ。 今回はいつものアレはないので安心して育てられる。 ファ・ユイリィ 17歳。 カミーユの幼馴染。フラウ・ボゥを彷彿とさせるほどカミーユからぞんざいに扱われる。だけど最終的にはカミーユのパートナーの地位を得る。 カミーユの世話を焼きたがるあまり、エゥーゴのパイロットとなる。 主な搭乗機はメタス。 アポリー・ベイ ジオン公国時代からのシャアクワトロの部下その1。階級は中尉。今回は百式の武器で参戦。劇場版で苗字がつきました。やったね! アポリー・ベイは偽名で本名はアンディ。 シャトルの操縦もこなす。 ロベルト ジオン公国時代からのクワトロの部下その2。階級は中尉。今回は百式の武器で(ry同僚のアポリーは苗字まで付いたのにロベルトは据え置き、ロベルトが何をした。 ロベルトは偽名で本名はリカルド・ヴェガ。 スパロボやってるとアポリーとセット的なイメージを持ちがちだが、実はかなり初期に戦死している。アポリーが戦死したのは後半。 アムロ・レイ 24歳。 一年戦争で活躍した当代随一のエースパイロット。その能力から連邦に危険視され、軟禁されていた。まぁたった一機で戦局を覆す能力を持ったパイロットなんて危険視されて当たり前だわな。 領地を出られない以外は一応、待遇は国賓クラス。彼女もできました。 カツに説得されカラバに参加。当初はブランクから戦うことに怯えていたが、徐々に勘を取り戻し若きニュータイプであるカミーユを導いていく。でも地球を離れることはできなかった。そこをつっつかれると怒る。 搭乗機はリック・ディアス。TV版ではディジェに乗り換えるが、劇場版にはディジェが登場しない(SRWZでは隠し機体で登場)。 顔は劇場版、しかしノーマルスーツは逆シャアなのは前作から。 機体 Zガンダム/ウェイブライダー 全高:19.8m、重量 28.7t 後半の主役機。Z計画で開発された可変型MS。 ウェイブライダーに変形する事で、単独での大気圏突入及び大気圏内での単独飛行が可能。SFSとしても使用可能でありドダイのように使う事もできる。 TV版ではその設計にカミーユが関わっていたが、劇場版では関与していない。 物語終盤では機体に搭載されたバイオセンサーと、カミーユのニュータイプ能力が共鳴し、超常的な性能を発揮する事もあった。 今回新たに「ビームコンフューズ」を習得。サーベルのビーム部をライフルで弾いて範囲攻撃するというもの。「パイロットが『技名』を叫ぶ」という宇宙世紀シリーズでは唯一の『技』(『武器名』ならば無くもない)。 新録があるアムロもビームコンフューズ用のセリフが用意されている。 バイオセンサーが多少不調なのか、ウェイブライダー突撃はできないがハイパービームサーベルは使える。この武装はニュータイプLV4が必要だが、参戦時カミーユはニュータイプLV3で、使えるまで結構な経験値を必要とする。 百式 全高:18.5m、重量 31.5t Z計画で開発された機体。パイロットはクワトロ・バジーナ。金色のMS第一号。この金は耐ビーム・コーティングを施された結果なのだが、「対ビーム効果があればいいなー」程度で効果は低い。 紛れも無いガンダムタイプなのだが、「ガンダム」の名が無いためアムロのABには対応していない。 ガンダムとしての名はδガンダム(デルタガンダム)、γガンダムであるリック・ディアスの次に開発されたからである。 「百年使えるMS」という願いを込めて名付けられた機体だが、クワトロに僅か半年でおじゃんにされた。ラスボス級に二人掛りでボコられたんだから仕方が無い。むしろよく大破せずに生き残った。 一方ジュドーはデチューンされた百式でネオジオンのMS相手に無双していた。 敵の攻撃を回避する事を基本コンセプトにしているため、盾を持たない。 バックパックは任意に着脱が可能であり敵に向けて飛ばすことができる。 メタスとともに可変機として開発が進んでいたが、変形トラブルにより可変機としての開発は断念された。 少し自粛したZと比べると寧ろ強化が目立つ、希少な続投組。 メガバズーカランチャーはどこからともなく飛んでくる。流石にアーガマの名前は出さないけど相変わらず照準は定まらない。 ビームライフルを外すと物凄く恥ずかしい事になる。初撃が外れてるのに「遅い!」と言いながらさらにビームライフルを乱射しながら突っ込むクワトロ… メタス 全高:19.4m、重量 40.1t Z計画によって開発された黄色いボディの試作型可変MS。レコアが搭乗し、後にファが搭乗する。劇場版では各人用に2機登場。 あくまでMA時のテスト機であるため、MS状態は上半身と下半身が数本のパイプで繋がれているだけのやっつけ形状。 グリプス戦役の最後まで戦い抜いた機体だが、当然ながら修理装置などは積んでいない。逆にエネルギーや弾薬などの補給機として働いていた。劇場版では百式のメガバズーカランチャーのエネルギー供給役をやっている。 ビームサーベルを6本も積んでいるという設定がある。 補足 前作はifルートが正史では?とよく言われているが、そうなるとハマーンとは和解している事になる。 公式ページで特に表記されていないが今回も劇場版設定で参戦である。前作ではちゃんと劇場版表記だったため、発売前は「今回はTV版になるのでは?」という予想も見受けられた。 過去参戦作品 スーパーロボット大戦 第2次スーパーロボット大戦 第3次スーパーロボット大戦 スーパーロボット大戦EX 第2次スーパーロボット大戦G 第4次スーパーロボット大戦 第4次スーパーロボット大戦S スーパーロボット大戦F スーパーロボット大戦F完結編 スーパーロボット大戦COMPACT スーパーロボット大戦64 スーパーロボット大戦リンクバトラー スーパーロボット大戦COMPAC2第1部 スーパーロボット大戦COMPAC2第2部 スーパーロボット大戦COMPAC2第3部 スーパーロボット大戦IMPACT スーパーロボット大戦α スーパーロボット大戦α外伝 第2次スーパーロボット大戦α 第3次スーパーロボット大戦α 終焉の銀河へ スーパーロボット大戦A スーパーロボット大戦R スーパーロボット大戦COMPACT3 スーパーロボット大戦D スーパーロボット大戦Scramble Commander スーパーロボット大戦MX スーパーロボット大戦GC スーパーロボット大戦XO スーパーロボット大戦Scramble Commander the 2nd劇場版準拠 スーパーロボット大戦A portable 声優のみ劇場版
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地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうど良い感じにカチ割れるんじゃないかと言うくらいにに冷え切った朝だった。いっそのこと、むしろ率先してカチ割りたいほどだ。 自宅のベッドから発せられている甘美な誘惑を全力で振り切り、通学のための身支度を済ませようと、一階の洗面台に向かった。 鏡の前に立ち、鏡面世界の自分に対面を果たす。うっし。本日も男前だ。朝の光で自慢の金髪が輝いていやがる。 そして真冬の水道水を顔面にかけた。 「くはあ!冷てー!」 身震いするほど凍てつく冷水のおかげで、眠気覚ましの効果は抜群だ。 「さてと。お母さんが起きる前に朝飯を作んねーとな」 確か冷蔵庫に卵が大量にあったから、オムレツでも作るか。 「いただきます」 俺特性であるフワとろオムレツと目玉焼きをテーブルの上に配膳をし、母親と共に手合わせる。 「わるいね。本当なら私が作るべきなんだろうが」 「いいさ。お母さんは昨日遅かったわけだし。早起きくらいどうってことねーよ」 我が家は母親と俺の二人暮らしなので、母親が仕事で遅いときは、こうやって俺が朝飯を作ってやっている。 父親はどうしたって?俺が中坊の時に死んじまったよ。 「よしよし。本当に良い子だね、お前は。見た目ヤンキーなのに」 ヤンキーは関係ないだろ。これでも進学校に通っている、れっきとした真面目高校生だ。 朝食を終え、俺にとって大切な日課である紫煙を堪能していた時、微かな機械音が居間に流れているのを感じた。 携帯電話を手に取り、ディスプレイに目を通す。一体誰だよ。こんな朝っぱらから。 『着信 ハル』 あの女が人の迷惑を顧みないのは、いつものこんだが、勘弁して欲しいものだ。他にイタ電相手がいないのか?俺もだが。 『出るのが遅い。せっかくこのあたしがかけてやってるんだから、1コールで出なさい』 「おかけになった電話番号は、現在、電波の届かない所にございます」 とりあえず切っておいた。理由?なんかイラッときたからだよ。 『……なにしてんのよ?あんまりふざけると死刑にするわよ』 「で、こんな朝からなんのようだ?涼宮ハルヒさん」 電話口に現れたのは、朝から不機嫌エンジン全開な涼宮ハルヒである。 彼女との出会いは、桜がとっくに散り、映画業界陰謀短期集中型一過性休日集合週間なる別名「ゴールデンウィーク」が過ぎたあたりの、日本晴れの日だった。 その日、俺は退屈な学業を終え、早々と帰宅に勤しんでいると、駅前の大通りにて、涼宮ハルヒが頭の悪そうなアホヤンキーにからまれていたのだ。 今思い返せば退屈なだけだったと思う。 暇つぶしと下心が7:3くらいの心境で、躊躇うことなくそのアホヤンキーをぶっ飛ばしていた。 「なに?正義の味方きどり?寒いわ」 この言葉が彼女の第一声である。恩着せがましく聞こえるだろうが言わせてくれ。それは無いだろ。 「別に。ただの暇つぶし。他意は……ちょっとしかない」 それだけ聞くと、涼宮ハルヒは長髪を翻し、まるで俺の事など記憶からデリートしたかのように、その場を去っていた。お互い第一印象は良い方ではなかったと思う。 だが、話はここで終わりではない。 その後も、俺達は幾度となく様々な場所でこいつと顔を会わせるようになった。ある時は学校の学食で。ある時は、たまたま入ったコンビニで。 まあ、お互い目立つからな。顔を覚えちまうと、どうも目に付くようだ。 最初こそ無視しあっていたが、そんな偶然を一ヶ月も共用していると、何だかバカらしくなり、気がついたら話しかけてた。 多分、お互い退屈してたんだろ。街で出会った同級生。俺と涼宮ハルヒの関係を言葉で表すとこんな物だろ。 『ちょっと、聞いてるの?返事くらいしなさいよ』 「聞いてるよ。今日学校サボるから足になれだろ?勘弁してくれ。こう見えて、俺はヘタレでビビリの小心者なんだ。学校サボるなんて恐れ多いことできるか」 『そのツラで何を今さら。どうせ便所で煙草フカしながら話してんでしょ?だからあんたは背が低いのよ。古泉君みたいに健康的に生きなさい』 「お前は俺の母親か」 『は?ふざけてんの?』 この女はなんでこんなケンカ腰なんだ?もう少しフレンドリーに話せよ。ツラはいいのに。もったいない。 『いーい!?あたしは光陽園駅にいるから、つべこべ言わずにとっとと来なさい!』 勘弁してくれと言いたい。しかしこの状況では、かけ直しても出ないだろう。なにより電話代の無駄である。どうせ無料通話分だろうが。 しかしどうもしっくり来ない。涼宮ハルヒがワガママで自己中心的な言動を取るのはいつもの事だが、いままで相手の状態を考慮せずに突っ走ることはなかった。 涼宮ハルヒが無理難題を言うときは「今ならあたしの言う事を聞いてくれる」と、考えてないようで考えているのだ。俺と古泉一樹くらいしかわからんだろうが。 煙草を携帯灰皿に捨てて、深ーく深呼吸。やれやれ、気にならんわけじゃないしな。冬休みが近い今日ぐらい、サボっても問題ないだろう。表向きはそれなりに品行方正な学園生活を送っていたわけだし。 襲撃みたいに唐突な電話を切り、煙草を吸い終えると、父親の眠る仏壇に手を合わせた。あー、とりあえずいってきまーす。お父さん、サボることは内緒にしといてくれよ。 光陽園駅前は朝の通勤ラッシュでごった返していたが、その美しい黒髪は見る者全てを魅了してやまなかった。これでもうちょっと素直ならな。 乗ってきた中型バイクを光陽園駅の入り口で仁王立ちをする涼宮ハルヒの前に横付けに停車した。 「遅い」 いや、ロボットみたく言われたことしかできないような美人は魅力的ではない。涼宮ハルヒはこのくらいでちょうど良いのかも。 「道が混んでいたんだよ」 その上、バイクってのは構造から言って、風を全身に受けなきゃならないから、冬はあまり走りたくない。 しかし、カエルを捕食する蛇のように睨みつける涼宮ハルヒの目は、いつもより陰りが見える。寝不足か? 「だったらもっと早起きしなさい」 「お前の予定を予言して早起きしろってか?俺は超能力者じゃねーぞ」 「あたりまえじゃない。超能力者なんか、そう簡単に現れるわけないでしょ」 だろうね。「実は僕は超能力を使用できまして、世界平和のために日夜戦っています」なんてことがいきなりおこるか。 大体、そんな世界平和組織が、一般人に話を持ってくるわけが無い。仮面を被った昆虫人間が所属する組織よろしく、内部で秘密厳守な命令でも下っているさ。多分。 「で、俺は制服姿のお前を、どこに連れて行けばいいんだ?」 サボるならもっと目立たない格好で来いよ。まぁ、こいつの場合は目立つから制服脱いでもあんまり変わらんだろうが。 「あんたも制服じゃない」 俺は母親を悲しませたくないだけだ。結構無理して進学校に通わせてくれている母親に「学校サボる」なんて言えなかった。これでも罪悪感は感じているんだよ。 「あたしも家からそのまんま出てきたから、仕方ないのよ」 急な思いつきか。急なのは今に始まったことじゃないが、考えずな行き当たりばったり行動なんて珍しい。 周りにはそう思えるだろうが、彼女は頭の回転と行動力が異様に早いだけ。早すぎて常人には着いていけないのが現状である。 「別に今さら見つかってもいいわよ。成績は良いから、学校側は黙認するだろうし」 そうでしたね。一学期の期末試験は学年トップでしたね。俺は……まぁ中盤より上くらいだ。 「それじゃあとっとと行くわよ」 「どこへ?」 男性のように豪快に股を開いてシートに跨る涼宮ハルヒに聞いてみた。 「あんたはあたしの指示通り走行すればいいの」 涼宮ハルヒに予備のヘルメットを渡し、グリップを回す。 メタル色のマフラーから排ガスが漏れる。それでは交通法規を守って出発進行。 バイクを走らせること数時間。ダラダラと寄り道しながら着いた場所は、西宮南部に面した大阪湾が一望できる丘だった。 「で、ここに何の用だ?まさか寒中水泳でもしたくなったとか言うなよ」 「そんなわけないでしょ」 シートから降りて、減らず口と共にヘルメットを投げ返してきた。 すると、彼女はその場にしゃがみこんでジッと海を見始めた。一体なにがしたいのか。 「……理由なんかないわよ。ただ、なんとなく海が見たかっただけ」 俺のほうを見ずに、抑揚無い言葉で話し始めた。 「いや、無いわけじゃないわ。知ってるでしょ?あたしん家が、あんまり上手くいってないことくらい」 前に聞いたことがある。涼宮ハルヒの両親は、ここ数年ほど、離婚の話で盛り上がっているとかな。 「原因は……まぁあたしなんだけどね。小学生の時くらいまでは優等生で通ってたあたしが、中学に上がった途端、奇妙奇天烈な行動ばかり起こしたから。 そのせいで二人とも責任のなすりつけ合いになって……バカよね。別に二人のせいなんかじゃないのに」 なんでこんなにいたたまれない気分になるのだろうか?とりあえずポケットから煙草を取り出し、場繋ぎのためにも火を灯すことにした。 「あたしは別に後悔なんかしてない。あたしの人生だもん。好きに生きるわ」 「……してない「つもり」だった?」 「……うん。今朝、起きたらママと親父がケンカしてたのよ。しかも、察する限り一晩中寝ないで。どんだけ言い足りないのよ。 それ見てたら、「このまま自分のやりたいように好き勝手生きてもいいの?」って思っちゃって……」 なるほどね。なぜ俺「だけ」が彼女の思いつきに付き合わされた理由がわかった。なぜなら涼宮ハルヒの狭い交友関係の中で、俺だけが片親だからだ。 十代後半くらいの子供だったら、大多数は両親揃っているはずだ。 でも俺は違う。俺は母親と二人暮らしってことに関しちゃ嫌気はさしていないが、困っていないわけでもない。 そして涼宮ハルヒは、家庭に問題を抱えている。それも自分のせいで。 お互い特殊な家庭を持つ身の上であり、俺なら黙って話を聞くぐらいはしてくれると思ったんだろう。 「ハル。俺は聖人君子なんかじゃない。だから「お前の気持ちはよくわかる」なんてことは言わない。つーか言えない」 だって俺は「涼宮ハルヒ」じゃないからな。 「だから理解できる努力をする。話したいことが他にもあるんだろ?」 話してもらうだけでいい。 聞くだけでいい。 今の俺の役割は、彼女を理解すること。それだけだ。 理解した上で、どうにかするのは俺の役目じゃない。誰の役目かって?さぁな。こいつを無償の愛で愛せるような聖人君子くんだろ。 その後は日が暮れるまで、涼宮ハルヒの一人話が繰り広げられた。内容は……特に思い出すほど重要な事柄ではなかった。他愛もなさすぎて語る必要も無いね。 俺と涼宮ハルヒが光陽園駅に戻ってきた頃には、肌寒い冬の夜空が頭上に広がっていた。おぉおぉ。みんな寒そうに歩いてやがる。 「はい、到着」 「寒い。あんた、あたしに風引かせるつもり?」 自分で命令しといてめちゃくちゃ言ってやがる。そんな短いスカートでバイクに跨る君が悪い。ついでに言うとバックミラーには何度か写ったぞ。君の下着が。あぁ、はしたない。 「死ね」 結構な言い草である。 「それじゃあ俺は帰るぞ。じゃあな」 「ふん。じゃあね」 涼宮ハルヒから受け取ったヘルメットをシート下のトランクにしまい、エンジンキーを回す。グッドバーイ涼宮ハルヒ。 「ずいぶんと遅くなっちまった」 バイクを法廷速度を時速五キロメートルほどオーバーで、気持ーち早めに走らせ、月が支配する世界を疾走していた。今日の晩飯は何かな~と。 呑気な事を考えていたせいか失念した。交通法規の大原則は、歩行者優先であると言うことを。 「なっ!?」 眼前の十字路を横切る人影にフラッシュライトが当たり、その顔が、一瞬だけ驚愕に目を見開いた。 アスファルトをこするタイヤの音。 摩擦熱のせいで焦げ臭い。 道路に投げ出せれた長い黒髪。 「……ハァ……ハァ……」 咄嗟の出来事のわりに、上手く反応できたのは神の気まぐれかもしれない。謎の人影に衝突する瞬間に片足でブロック塀を蹴り飛ばし、なんとかバイクの軌跡を逸らすことができた。 「てめぇ!こんな夜道でいきなり飛び出してくんじゃねーよ!もう少しで潰れたガマガエルみてーにするところだったじゃねーか!」 バイクから降り、飛び出した人影の襟首を吊るし上げる。この制服は北高のセーラー服だな。小学生じゃねーんだから、いきなり飛び出すんじゃねーよ! と、ここでその人物の顔が月明かりに照らし出された。 「ごめんなさいね。ちょっとボーっとしてたわ」 かなりの美人がそこにいた。それこそ涼宮ハルヒとタメを張れるくらいの超絶美人女子高生のな。 「……ったく、勘弁してくれ」 こんだけの美人が謝っているんだ。怒る気も失せた。少々名残惜しいが、彼女の襟から手を離すことにした。 すると手を離した瞬間、この轢きそこなった彼女は、マジマジと俺の顔を覗き込んできた。なんのつもりだ?生憎俺は君の幼馴染でも生き別れた兄貴でもねーぞ。多分。 「ん……なんでもないわ。お構いなく」 いや、構うわ。はっきり言って良い気分はしない。 「ふーん……そう、それじゃあね」 満足したのかどうかは知らんが、彼女は手の平をヒラヒラと振りながら、眼前の宵闇へと溶けていった。 もしもこれが月曜九時の恋愛ドラマなら、今頃バックコーラスが大音量で流れているだろう。そしてここから恋が始まかもな。 だけど彼女の微笑は、そんな恋愛ドラマには似つかわしくない程に酷く不気味で、それこそ生気の無い、能面やマネキンが口元を無理矢理歪めたようだった。 「……っくそ。なんなんだ、この寒気は」 体中の血管が根こそぎ吹雪に晒されたような欝感覚。もしかしたら背後に雪女かなんかがいて、耳元に氷の息吹でも吹きかけているのかもしれない。もちろんただの比喩だが。 交通事故未遂と寒波のせいで、中も外も冷やしてしまった俺だが、慣れ親しんだ自宅の玄関を開き、なんとか安堵の吐息を漏らせた。 「ただいまぁ~、なぁ聞いてくれよ。実はさっきそこで交つ……お母さん?」 唯一の家族である母からの返事が返ってこない。 おかしいな。今日は仕事が休みだから家にいるはずなのに。昼寝でもしてるのか?つっても、もう夜だが。 「……お母さん?出かけてるのか?」 今にも幽霊が飛び出てきそうなほどに静かで不気味な狭い廊下を歩き、リビングの扉を開く。 「なんだよ。いるじゃないか。「おかえり」くらい言ってくれよ」 母は電灯も点けずに、リビングの食卓の上でうつ伏せで突っ伏していた。 その姿を見て、こんなに寒いのに何故か汗がダラダラと流れ落ちる。 しかも俺の足が母に一歩一歩近付くことに、体内の発達した直感力と、卓越した危機察知能力がレッドアラートで警鐘を鳴らしている。そう、その姿はまるで……。 「……おい!?お母さん!?」 そこにあったのは、ナイフではらわたを抉り出された母の遺体だった。 「つまり自宅に帰って来た時には、既に母親が亡くなっていたと」 「……はい」 俺よりいくらか歳を取ったくらいの若い女性刑事が、凛とした言葉で遺体の状況を聞いてきた。 現在の時刻は22時15分。本格的に胃が給料の支給を求めている。 だが残念ながら口が食物を受け入れてくれそうも無いため、胃袋にはもう少し我慢してもらおう。 リビングにて母の遺体を発見した俺だが、なぜか頭だけは恐ろしいほどに冴え渡っていた。 誰がどう見ても死んでいるのがわかる。よって119番ではなく、速攻で110番。10分後には制服警官数人に、若い女性刑事と初老の男性刑事が家にいた。 母の死因は腹部を鋭利なナイフで切り裂かれたことによる失血死らしい。即死ではなく、数分間は意識があったようで、惨い殺しだったと警官が語るのを聞いた。 そして今は「簡単な取調べ」を受けるために、火サスではお馴染みの取調室にて、半軟禁みたいなことをされている。 「オーケー。それではもう一度聞くわね。君は母親の死亡推定時刻、どこで何をしていたのかしら?」 女性刑事の瞳が、探る様に鈍く煌いた。 「何度も言わせないでください。光陽園学院には行かず、サボって遊んでいました」 女性刑事は手元の紙にボールペンを走らせた。 まさか俺が母親を殺したと疑っているのだろうか? ……無理も無いよな。気分は悪いが、アリバイだって「サボって遊んでいた」なんて曖昧だし、最近は真面目に学校に通っていた。 それを今日いきなり学校を休み、その日にこんな事件が起きたんだ。俺が警官なら絶対疑う。 「それではそのアリバイを証明することはできるかしら?」 「……はい。その時一緒に遊んだ友達が」 そこまで発言した瞬間、取調室の扉が勢い良く蹴り飛ばされた。 「ちょっと!あんたのママが死んだって本当なの!?」 取調室の扉に暴行を働いた少女こそ、俺のアリバイを証明する人物です。もう少しおしとやかに登場できないのか?パンツ見えそうだぞ。 「うっさい!それより本当なの!?」 涼宮ハルヒの瞳が、驚くほどに無の光を放った。どんな顔をしていいのか分からないのだろう。 「ご覧の通りだ。母親は殺されて、俺は取調べを受けている」 つーかよく来てくれたな。確かに証言のために呼んだが、正直あまり期待はしてなかったよ。 「あたしだってこのくらいの分別はつくわよ」 そうかそうか。これで俺はこの取調べから解放されるな。そう思ってありふれたパイプ椅子に腰を下ろし、涼宮ハルヒが口を開くのを待ち望んだ。 だが、 「ハルヒ!」 またも取調べ室に突撃してくる人物がいた。それも二人。取調べ室ってのは、こんなにも騒々しい物なのか? 「親父にママ!?なんでここにいるのよ!?面倒だから黙って出てきたのに!」 そう言えば前に一度だけ涼宮ハルヒの家にお邪魔した時、この二人を見たことがあった。どこかで見たと思ったが、両親だったか。 父親は呼吸を荒くしながら涼宮ハルヒの方を睨みつけている。だが対照的に、母親の方は目元をハンカチで拭いながらメソメソと泣いている。 おいおばさん。なんであなたが泣いてるんだよ。泣きたいのはこっちだ。 「まさかお前が警察にご厄介になるなんて……恥ずかしくないのか!?」 「ちょっと親父!なに勘違いしてるのよ!?あたしじゃなくてこっちの」 「言い訳は聞きたくない!」 めちゃくちゃなオヤジだな。聞きたいのか聞きたくないのかどっちだよ。混乱してんじゃねーよ。 「まったく!お前はいつからこんな子に育った!こんなガラの悪そうな少年と仲良くなったり、最近は帰りも遅いじゃないか!」 「そんなの関係ないでしょ!あたしが誰と連もうかあたしの勝手よ!」 「大体ハルヒがそうなったのも、お前の育て方が悪かったからだ!だから市立じゃなくて光陽園にしかいけないんだ!」 「わ、私のせいだって言うのですか!?あなたが家庭を顧みることができたらこんな」 「うるせぇっ!」 怒号と共に、目の前の無機質なアルミ机が吹き飛び、室内にいた全ての人間が俺を注視する。 「こんな警官に見られた場所でワーワー喚きやがって!恥ずかしくねーのかよ!?」 ふざけた抜かしてんじゃねーよ!子供が大切だと思うなら、こんな場所で口喧嘩なんかするな。 「おら、もう結構だ。とっとと家に帰って家族会議でも離婚調停でも何でもしてくれ。ハッキリ言って迷惑だ。消えろ」 ここに警察がいなかったら、絶対にこのクソオヤジに飛び蹴りの一つでもかましていたはずだ。友人の親?知るかよ。 「あんたらは親ですらない。親だったら子供の気持ちを汲んでやれよ」 もううんざりだ。どうにでもなれ。 「彼女を帰していいのか?君のアリバイを証言する人物だろ?」 女刑事は「何考えてるんだこいつ」と怪訝な表情で俺を見据えている。 どうでもいいよ。だって俺は無実だし。アリバイ証明なんか必要ないね。 「そうか。ではもう一度初めから聞かせてもらえないか」 「なんでもどーぞ……と言いたい所ですが、そろそろトイレに行かせてくれませんか?本気で漏らしそうなので」 プチ軟禁状態にされて数時間もイスから動いてねーんだ。そろそろ水分抜かな、恥ずかしい事態になりそうだ。 「それもそうだな。ここで小休止を取ろう。新川、彼をトイレまで案内してやってくれ」 「かしこまりました。森警視」 監視付きかよ。勘弁してくれ。 トイレ内部はそれなりに清潔さを保たれており、これなら落ち着いて用を足せる。 「って、見られて喜ぶ性癖は無いのですが」 見られて無けりゃな。 「それは失礼。だが、取調べ中の人間から視線を外すわけにはいけませんので」 勘弁してくれ。そんな風に放尿シーンをジッと見られては出せるもんも出せない。この初老刑事は、何故こんなにも実直なのだろうか。 「逃げたりしませんよ。つーか逃げられません。だってここは三階ですよ?」 トイレの窓の外には月が世界を照らしており、十二月らしい寒風が吹き荒れている。こんなところからどうやって逃げろって言うんだよ。 うんざりな取調べとは言え、逃げてなんになる。そりゃ拘束緊迫軟禁プレイなんて勘弁して欲しいが、大体逃げたりしたら俺が加害者として断定されそうでだ。 ここはうんざりな取調べに、うんざりするほど付き合うくらいしか逃げ道はないのさ。 「新川警部、鑑識から報告がありました」 トイレの外で、三十代前後くらいの男性が声を張ってきた。 この声は多分、俺の家にやって来た制服警官の一人だ。胸元に名札があって、田丸(裕)とかって書いてあったな。 「失礼、少しここを離れますので、用が済みましたら呼んでください」 へいへい。と軽い口調で返事をしておいた。 こんなトイレから脱出困難なことくらい新川警部にもわかっているのだろう。じゃなきゃこうも簡単に目を離してくれるはずがない。 「……悪いな新川警部。俺にはここでノンビリしてる時間なんかないんだ」 トイレの窓を全開にし、寒波を顔面に浴びる。っへぷし! 鼻をすすって窓の下を見ると、一つ下層のトイレの窓が視認できる。さらに目を凝らせば、同じく最下層の窓も。 「さすがに窓は閉ってるな……あ~仕方ない」 制服のシャツの袖を二つに破る。これを簡易式バンテージにして…… 「一つ間違えたら重傷。間違えなくても軽傷。勘弁してくれ」 溜息を漏らしながらも、窓から外へと身を乗り出し、柔い手すりを掴む。そういやなんかの映画で、こうやって懸垂トレーニングをしてる筋肉マンがいたっけ。 「さぁて、男をみせろ。頼むから間違っても笑いを見せるんじゃねーぞ。絶対に笑えない事態になる」 呼吸を整え、自分なりにタイミングを計り……アン、デゥ、トゥルワ! 手すりから一思いに手を離し、飛び下り自殺まがいの荒芸をした。 「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 最下層のトイレの窓を握り拳が捕える。 窓ガラスが飛び散り、腕に小さなガラスが突き刺さったが、何とかトイレ内部の壁を掴むことができた。 ギリギリ成功である。あと一瞬遅かったら、鉄筋コンクリート相手に正拳突きをブチ込むところだった。 ハードなスタントモノマネのせいでガラスが突き刺さった箇所から血が流れ出ているが、今はそんなことどうだっていい。 手すりから手を離し、無事とは言い難いが警察署の敷地内に脚を踏ん張ることができた。 署内から騒がしい空気が感じられたため、一目散にその場から駆け出すべきである。 出血箇所を手で押さえながら、全力疾走。とにかくここから離れないと。 繁華街のビルに、パトカーのサイレンがやかましく反響している。 「バーカ。そんな小回りの効かないパトカーで、俺が捕まるかよ」 裏路地と裏道を渡り歩き、廃ビルと工事現場を抜け続けたおかげで、今のところはこちらに追いつく気配は無い。 あのまま警察に任せて取調べを受けてるべきだったかもしれない。 だけどな、殺されたのは俺の母親なんだぜ?それなのにそのまま丸投げなんかできるか。 「警察なんかに任せられるか。俺が絶対に母親を殺した野郎を捕まえる」 学ランの裏ポケットからタバコを取りだし、火を灯す。 「覚悟しろよ殺人鬼。世の中には絶対に喧嘩売っちゃならない相手がいるってことを教えてやるよ」 煙を吐き、気分が高揚してから携帯電話のダイヤルをプッシュしていく。 「もしもし、俺だ。ちょっといいか?」 受話器の奥で、電話相手の溜息が聞こえてきた。こんな夜分遅くに電話かけてスマンとは思ってるよ。だがな、お前しか頼れる奴がいないんだよ。 「やれやれ。と言うべきですかね」 「だから悪かったと言ってんだろうが。古泉」 笑顔が癖の男には珍しく、厄介なことに巻き込まれたと言わんばかりにウンザリしているのは古泉一樹である。 涼宮ハルヒと僅かに交流を持てた頃、古泉一樹と出会った。五月と言う中途半端な時期に転校してきたことから、彼女に「謎の転校生」と呼ばれている。一体どこの国基準で謎なんだか。涼宮王国か?ハルキングダムか? それ以来涼宮ハルヒは事あるごとに古泉一樹を財布にし、色々場所や施設へと連れまわした。それって世間一般的にはカツアゲと言う行為なんだぜ? いや、カツアゲとは言わんか。なぜならこいつは涼宮ハルヒにベタ惚れしているからな。言うならば、双方合意の上のデートもどきである。両方困ってなければいいか。 「今、とても失礼なこと考えていますよね?」 さぁ?なんのことだか。 「まったく。いくら取り調べが嫌だからと言って、三階から飛び降りるなんて馬鹿ですよ。見てくださいよ。この血だらけの包帯」 ああ、血も滴るいい男だな。って、ごめんなさいごめんなさい。シリアスパートに戻すので、110番を押さないでください。 「僕の両親がカナダに出張していたから良い物を……もう少し自分の身を大事にしてください。死ぬ気ですか?」 「死ぬ気なわけねーだろ。死ぬ気でなんかしようとする奴は死ぬだけだ」 ああでもしなきゃ逃げられなかったからな。 すると古泉一樹は「ああこの馬鹿には何を言ってもダメだ」と悟ったのか、無言のまま包帯や消毒薬を片していった。 「……なぁ、ところでお前の両親は元気してるか?」 古泉一樹が救急箱を片す所を見ながら、なんとなく聞いてみた。いや、聞かずにはいられなかったと言うべきか。 「……えぇ。先日カナダから電話がありましたので。正月には一時帰国をすると」 そうか。と答え、古泉一樹から借りた毛布を被り、上質なソファーに身体を休める。 「家に入れてくれてありがとな。明け方には出てくから、それまで辛抱してくれよ」 この寒空で野宿なんかしたら死んでしまう。かと言ってホテルに泊まる金も無い。だからこうやって信頼できる奴の家に転がり込むぐらいしかできなかった。 古泉一樹は良い奴さ。容疑者であり逃亡者である俺を「友人だから」と言う理由だけで上げてくれた。 だからこそ甘えるのは一晩だけだ。彼にも迷惑がかかるし、俺が気にする。 「それでは僕は自室に戻ります。おやすみなさい」 一人暮らしにはもったいないくらい広いリビングの灯りが落ち、青白い月の光が俺の身体を照らす。 「……畜生……お母さん……なんで死んじまったんだよ……」 毛布と暗闇が顔を隠してくれるからいいが、嗚咽だけはどうにもならない。ひょっとしたら、自室で寝ている古泉一樹にも聞かれているかもしれない。 でも、今まで必死に我慢してきた涙が、ここに来てダダ漏れだしてしまった。 人間である以上、死は避けられない。 だけど……こんな終わり方、唐突すぎるだろう! 俺はまだ母親に甘えたいんだ!生んでくれてありがとうって言ってないんだ! ちくしょう。畜生。チクショウ。 止まらない。どうやら俺は自分が思っている以上にヘタレでカッコ悪いガキのようだ。 毛布の中で母親と歩んできた記憶の逆流に呑まれ、結局一睡もできなかった。 第二章へ続く
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メロー・バルニコフ 出典 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 メロー・メジドヴィチ・バルニコフ (ロシア語 Меллоу Междович Барников、アディゲ語:БарнӀык Мэллъоу Мэждо ыкъор、ロシア語ラテン翻字 Mellou Mezhdovich Barnikov、1976年11月4日 - )は、北カフカスの政治家、元劇作家、元著作家。北カフカス第7代大統領。 メロー・バルニコフ Меллоу Барников2022年 撮影 北カフカス連邦 第7代 大統領任期 2022年6月10日 - 出生 1976年11月4日(46歳)ソビエト連邦 ロシア・ソビエト社会主義共和国 マイコープ(現アディゲ共和国)政党 無所属、国民の友(2019 - )出身校 ロストフ国立大学(現南部連邦大学)前職 劇作家、著作家配偶者 スヴェトラーナ・バルニコワ宗教 イスラム教スンナ派署名 略歴 1976年、ソビエト連邦・ロシア社会主義共和国南部、アディゲ自治州の主要都市マイコープに生まれる。 現在のロシア連邦・ロストフ州に位置するロストフ国立大学(現南部連邦大学)で経済学の学位を取得し、経済学者への道を進もうとしたが、結局劇作家の道へ進んだ。 その後、北カフカス紛争終結後に帰還した地元でキャリアを積み劇団を組織し、自身も俳優として活動した。2003年に発表された戯曲『雪解け水』は国内外で有名になり、主に旧ソ連諸国ので上映された。並行して、著作家として執筆業にも注力し、アディゲ語の書物をロシア語に翻訳するなどを行った。 2006年9月、発表した戯曲『首のない鳥』が政権を批判したとして逮捕され、同年12月に投獄された。2008年2月に釈放されたものの、当局により創作活動は禁止され、監視がつく中で半ば自宅軟禁のような生活を送った。 2010年に創作活動を再開し、反体制派の文化人の一人とみなされるようになった。 2019年7月に政党『北カフカス行動党』を劇団の同僚と共に立ち上げた。党名は翌年3月に『国民の友』と改名された。 2020年4月に連邦最高議会選挙では多くの候補を自党から擁立。政府による逮捕以降、政治的アウトサイダー・また反露派とみなされていた彼はポピュリストとして人気を誇り、選挙では同党から過半数以上の議員を選出する大勝利を収めた。但しバルニコフ自身は2022年の大統領選挙に出馬する意向であったため、あくまで議員としての出馬はしなかった(北カフカス憲法では大統領と連邦最高議会議員は兼任できない)。 2022年の大統領選挙に出馬し、68.16%の得票率で当選した。 2022年6月10日、第7代北カフカス連邦大統領に就任した。 呼称 アディゲ語読みはメロー・バルニク(アディゲ語では姓は名の上にくるため、厳密に言えばバルニク・メロー)。名はメロウ、姓はバーニコフもしくはバルニクと呼ばれることも多い。 日本では「バルニコフ大統領」という表記が多い。 来歴 生い立ち 1976年11月4日、ロシア・ソビエト社会主義共和国(当時)のマイコープにアディゲ人として生まれた。父のメジド・バルニコフはソヴィエト科学アカデミー会員の地質学者で、母はエンジニアだった。父の仕事の関係で、幼少期の3年間をロシアのカザンで、4年間をウクライナのドネツクで過ごした。更に9歳のころにはロシアのロストフ・ナ・ドヌに移り、以降長きにわたって同地で暮らすことになる。祖父のラムザンは共産党員であったが、大粛清に巻き込まれ親戚の多くを失った。 子供の頃から芸術に興味を示し、10代後半にはロストフ州の劇集団『RAMT』の演出に度々参加した。学業面ではロストフ国立大学で運輸経済学を専攻し、大学卒業後経済学者を目指すものの修士号取得に失敗。以前から興味があった劇作家の道を選んだ。 歴史的にチェルケシアと呼ばれた地域出身のために母語はアディゲ語。ただし両親の教育方針もあってロシア語にも堪能で、幼少期よりロシア語とアディゲ語の2言語を操ることができた。政界進出以降、公の場ではロシア語を話すことが多くなったが、場合によっては通訳を介さず英語で話すこともある。 劇作家としての活動 「雪解け水(英語版)」も参照 2002年に撮影された写真 1996年に大学卒業後、ロストフにてRAMTの下で演出家として働いた。翌年からは劇作家としての地位を与えられ同劇団に作品を提供した。 1998年にRAMTでの職を辞し、情勢が安定した祖国北カフカス連邦に帰国した。同年より故郷マイコープの劇団『アスラニ』で劇作家として勤務し、同時に著作業も開始した。アスラニ時代、彼は持ち前の明るい人柄と創作の才能を生かし、アディゲ共和国立楽隊指揮者(当時)で、指揮者として当時から名高かったトゥガン・ソヒエフや、後に劇団の同僚かつ政治家として内務大臣となるマゴメド・アリエフらと人脈を築いた。アスラニ時代の代表作は『枯れた嘶き』が挙げられる。 著作家としてはシェイクスピアなど演劇の歴史に関する著作を多く行ったほか、アディゲ語の書物をロシア語に翻訳する翻訳業も多く行った。 2001年にアリエフらと共に劇団『ロボドニ』を創設、代表となった。同時に、役者としてもそこで活動した。ロボドニは当初より高く評価され、自ら演劇を上映しただけでなく、各地の劇団にも脚本を提供し、更にテレビ方面にまで手を伸ばすほど成長した。2003年に代表作『雪解け水』は大ヒットを飛ばし、全国の劇場で上演されたのみならず、各テレビ局もこぞって放映権を獲得した。海外では主に旧ソ連諸国に広がり、時のロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンは「多くの感動的で華やかな宝石も、この作品には比肩しうることなどあり得ない。」と絶賛した(皮肉なことに、バルニコフとプーチンは政治家としてのちに対立することとなる)。 政府批判と逮捕 創作活動と並行して、バルニコフは不安定な状態が続く北カフカス社会への問題提起も行っていた。強権的な手法で民衆を弾圧し、ロシアに追従を強めるランキン政権には否定的で、知名度を持つロシアでの反発を恐れず、度々これを批判していた。 2006年8月、バルニコフは戯曲『首のない鳥』を発表した。この戯曲は同年9月3日に上映されたが、劇中で当時の北カフカス連邦大統領セルゲイ・ランキンや首相キリル・ポノマレフ、国営テレビの司会者だったヴェーレ(レフ・スヴェーレフ)らを「狂った鳥の頭」、「ロシア領北カフカスの総督」、「北カフカスのゲッペルス」などと揶揄したことが話題となった。この表現は政府による言論統制と、与党北カフカス人民党の一党独裁への反対として盛り込まれた。これは大きな反響を呼び、批評者の中には「勇気の作品」と高く評価する者もいた。しかし上映の2週間後の17日、バルニコフの影響力の大きさを危惧した北カフカス国家治安部隊(ミリツィヤ)に、バルニコフは逮捕された。 バルニコフは「個人への根拠なき悪評の流布」と「国家の安定を著しく失わせる行為」によって有罪と宣告され、12月にマイコープ刑務所に投獄された。翌年4月には釈放されたものの、8月に再び逮捕。再度の投獄ののち翌年2月に釈放されたが、当局から要注意人物としてマークされた。 彼は当局より2年間の活動禁止を言い渡され、ミリツィヤから監視を受けつつ半ば自宅軟禁のような生活を送った。当時について、バルニコフは「灰色の日々」と述べている。 2010年に活動禁止が解除され、ロボドニに再び復帰。彼は復帰するやいなや当局に監視される日々を描いた『開かれた檻』を出版し、これが国内で大反響を呼んだ。以降、バルニコフは優れた劇作家としてのみならず、反政府派の知識人の代表とみなされるようになった。 政界へ 「国民の友」も参照 新党結成 国民の友 Друг народа 党首 オクサナ・プロホロワ創立 2019年7月30日 旧名 北カフカス行動党(ПДСК)本拠所在地 クラスノダール政治的立場 中道、反露、反汚職、欧州統合主義連邦最高議会 60/110地方の首長 159/68,399公式サイト Drug_naroda2022 随筆『開かれた檻』の流行によって、国民の間ではバルニコフを権力への反抗者として、現実の大統領選挙への出馬を期待する動きが起きた。2010年の復帰後よりバルニコフはより政治色を強め、2015年反政府デモでは反政府団体「全カフカス人民連合」の支援を公にしていた。北カフカス大統領府長官でバルニコフの友人・ロボドニの法律顧問弁護士であったイヴァン・コンドラチュクによれば、「彼(バルニコフ)は出馬を最後まで決めかね、2019年の大統領選挙では不出馬に終わった。彼は最後まで悩んでいた。」と、バルニコフ自身は政界進出に乗り気でなかったようである。 2019年7月22日、バルニコフは政界進出を発表し、翌年の連邦最高議会選挙に参加する意思を表明した。7月30日にはアリエフやコンドラチュク、オクサナ・プロホロワらロボドニの同僚と共に新党「北カフカス行動党」を創立した。議会選挙までの間に、この政党にはのちの外務大臣エヴフィミヤ・ティマコワらが入党した。 2020年の連邦最高議会選挙には過去最多となる21党もの政党が乱立しており、有力政党が与党の北カフカス人民党と、南部で強勢を誇る輝く祖国党、貧困層からの支持を集める北カフカス共産党に、カフカス地方の平和のため党という、北カフカス政界の混沌を現した状態となった。そうした中、バルニコフは密かに権力闘争で内部崩壊の危機にあったカフカス地方の平和のため党党首のルスラン・マフメドフと会談。カフカス地方の平和のため党を北カフカス行動党に合流させ、新党「国民の友」を作ることで合意し、大量の有力な候補者を確保した。結果的に国民の友党は実質二党を兼ねる状態となり、選挙で60議席という過半数以上を占める圧勝を収めた。 但し、憲法の規定により議員と大統領の兼任ができないことから、バルニコフ自身は2022年の大統領選挙を見据えて出馬は見送った。議会において事実上の与党となった国民の友党は反ロシア・民主化政策を推し進め、2021年8月にはあらゆる言論規制の撤廃が議会で可決された。 大統領選挙 北カフカス大統領選挙の決選投票の勢力図。緑がバルニコフ勝利地域、赤がコルニエンコ勝利地域。バルニコフは東部と南部で得票率が高い。 詳細は「2022年北カフカス大統領選挙」を参照 2021年12月、バルニコフは期待に応えて翌年2022年の大統領選挙への出馬を表明した。 内政面では最優先に「反汚職」を掲げ、税金の浪費を止めることを公約している。外交面では旧来の極端なロシア追従外交に反対し、ロシアへの武器供与の即刻停止を公約している。 2022年の4月に行われた調査では、輝く祖国党のイリヤ・メリコフに次ぐ9%の支持を獲得して現職のクヴァーリンを上回った。選挙戦本番直前でクヴァーリン大統領が暗殺される事件が起きると、後任のボリス・イーギンが巻き返しを図ったが、それを上回る勢いで草の根での支持が広がって最有力候補に躍り出た。次いでイーギンは失言事件を起こし、選挙戦から脱落した。2022年5月25日、第一回投票で北カフカス共産党のヴィタリー・コルニエンコ(15.8%)、メリコフ(10.2%)の両名を大きく引き離してバルニコフが28.1%の得票を得た。単独過半数には届かなかった事から、決選投票で2位のコルニエンコと争う形となった。 決選投票では『首のない鳥 2』と題して、支持者に投票を呼び掛けるキャンペーンを行った。相手候補のコルニエンコが共産党党首であったことから、バルニコフは「祖国の赤化」の危機感を煽り立てた。決選投票を前にしてもバルニコフ支持の勢いは留まらず、むしろ勢いを増して日を追うごとにコルニエンコとの差を付け、世論調査での支持率は50%以上に達すると見られている。6月4日、投票日を翌日に控えて臨んだコルニエンコとの生中継討論会で、バルニコフは勝利を確実にしたと言われる。コルニエンコがバルニコフを「人種差別主義者」と非難し、わざとウクライナ語で討論を始めると、バルニコフはドネツク時代に身に着けた流暢なウクライナ語を披露しスタジオを驚かせた。 6月5日、出口調査の段階でバルニコフが60%以上を得票し、圧倒的な大差を付けて大統領に選出される事が確実となり、コルニエンコは敗北を宣言した。イングーシ自治州とクラスノダール共和国のみでコルニエンコ氏に敗北したが、それ以外のすべての共和国で勝利した。 大統領就任 2022年クリスマスの演説にて 2023年北カフカス独立記念日にて、妻スヴェトラーナと娘と共に 2022年6月10日、大統領就任。北カフカスの政治史では、往々にして新たな大統領は就任後しばらく自派が少ない議会に手を焼いていたが、2020年連邦最高議会選挙で国民の友党は過半数を占めていたため、バルニコフは議会を最初から味方につけることに成功した。 圧倒的な支持の下で、バルニコフは国政改革を断行。国務大臣を総入れ替えし、就任から2日後にはリュドミラ・ゴリコワ検事総長の辞任を要求するなど徹底的に前政権色の払拭を行った。前々から公約に掲げていた汚職対策としては、議会に汚職対策委員会(ФАК)を設置し、オリガルヒの規制を行った。バルニコフ政権下で議員の免責特権は廃止され、汚職疑惑があった議員数名について告発が行われた。 このような政策は西側諸国から一定の評価を受け、2022年11月にはアメリカ合衆国国務省が北カフカスについて「未だ未熟ではあるものの、法律主義や経済において健全化がなされようとしている」と評している。 このように良好な出だしを切ったように見えたバルニコフだったが、早々にロシア問題に足を取られることとなる。7月9日にバルニコフは前政権が承認していたロシアへの重火器提供を中止し、既に提供した重火器のうち未使用のものについてロシアに返還を呼びかけた。しかしこの呼びかけはロシア政府から反発され、拒否されたのみならず国内の親ロシア派、とりわけ北カフカス人民党に猛反発を受けた。 11月2日、ロシアとの国境検問所にて、ロシア連邦軍への動員を逃れるために入国しようとしたロシア人男性ら4人がチェチェン人の国境警備兵に射殺される事件(モテリ・ポリャナの銃撃事件)が発生すると、バルニコフはロシア政府の賠償を求める抗議に直面した。バルニコフは検察が発表していた、「被害者は銃を持っており、発砲しようとしたため警備兵が自衛として発砲した」という見解を支持し、賠償に応じない姿勢を示したため、ロシアから猛烈な抗議を受けた。2023年1月5日に親ロシア派の武装した集団が連邦最高議会を占拠し、バルニコフら政府関係者と議員が議会中で包囲される事件が起きた。バルニコフは無事だったものの議員3人が死傷し、大量の死者を出す騒乱となった。 このような状況の中でもバルニコフは反ロシア政策の推進を止めず、2023年中にウクライナ侵攻においてロシア軍の補給線となっているタマン半島の封鎖を検討するなどしている。 ソユーズ通信の2022年の調査では、北カフカス国民のうち32%がバルニコフはロシアへの強硬策を撤廃するべきだと考えていることが明らかになった。政権支持率はほぼ横ばいではあるものの、民族主義者層から支持を集める一方でロシア系住民などは不支持の傾向が強まっており、明らかな分断がみられる現状である。 政治問題 詳細は「灯火党#政治問題」を参照 クルド難民問題やQアノン問題などを追うルポライターの林賢治やアメリカの政治専門紙ザ・ヒル、独紙ビルトは、北カフカス政府と民族主義的で極右イスラーム原理主義勢力である灯火党等の、「過激思想組織」の存在と関係性をホワイトウォッシュ化する北カフカス政府(バルニコフ政権)のプロパガンダに関して警告している。灯火党はアメリカ合衆国国務省にテロ組織認定を受けているが、バルニコフ政権は同団体に対して規制などを講じておらず、自由に活動しているのが現状である(ただしこのようなことはバルニコフ政権に限った話でなく、クヴァーリン政権やマフメドフ政権でも起こっていた)。 民族主義者の強硬派として目される元軍人のシャミル・バサエフを国防大臣に任命したことは、ロシア政府およびジョージア政府の猛反発を招いた(バサエフは北カフカス紛争と、アブハジア紛争で戦歴がある)。ロシアのテレビ司会者であるウラジーミル・ソロヴィヨフは、「これ(バサエフが国防相に任命された事)は北カフカスが極端な民族主義に走ろうとしているゆるぎない証拠だ」と述べている。なお、北カフカス内務省管轄下の北カフカス国家親衛隊に属する連隊「シャミール連隊」の指揮官を務めているのは、シャミル・バサエフの息子のヌリ・バサエフである。 外交姿勢 アメリカとの関係 ロシアの圧力にさらされる中、アメリカ合衆国からの支持を仰いでいる。かつてのマフメドフ政権のように、バルニコフは北カフカス連邦が北大西洋条約機構(NATO)の一員となることを希望し、アメリカに接近する外交を行っている。2022年9月に訪米し、ジョー・バイデンアメリカ合衆国大統領と会談を行った。会談の中で、バイデンは北カフカスのNATOへの「将来的な加盟」を支持した一方、「国内の不安定な情勢と未熟な統治機構」のために即座加盟は困難を極めると発言したと報じられた。 ロシアとの関係 もともとはロシアに長く住んでいたこともあって強固な反ロシア派ではなく、マフメドフやシュトーケンら他政治家に比べればかなりの穏健派としてとらえられていた。しかし、親露派政権への反対やロシアからの圧力の反動で強硬化せざるを得なくなったとされている。バルニコフはヴォルゴグラード条約の結果として国内にロシア軍が駐留することは「動かしようのない事実」として容認する一方、「北カフカスの国土をロシアの広大な軍事基地にしてはいけない」とも述べている。 2022年6月30日にはロシア連邦のプーチン大統領と電話会談を行ったが、詳しい内容は明らかにされていない。 中国との関係 貿易額は急速に増大しており、2022年において、輸出入とも中国が最大の相手国となっている。国交樹立23周年に当たる2022年10月には、習近平国家主席(党総書記)と祝電を交換した。 2022年12月、中国企業に買収されていた多数の軍需企業を国有化した。 逸話 クバン・スタジアムにて クラスノダールに本拠地を置くサッカーチーム「FCクバン・クラスノダール」の熱狂的ファンであり、休暇の際には必ず観戦を行っている。 「ミーム文化」の愛好家であり、個人のツイッターアカウントではよくミーム画像を交えてジョークを飛ばしている。 劇作家時代、演劇批評をしたことがあり、その際アレクサンドル・タラソフの演劇を公に酷評した。一方のタラソフはロボドニの公演でおおっぴらにヤジを飛ばすなどの挑発を行った。このことからタラソフとは犬猿の仲であり、現在に至るまで和解をしていないという。 『首のない鳥』で「北カフカスのゲッペルス」と揶揄したテレビ司会者のヴェーレとは2015年に和解している。以降、彼等は友人として度々SNSに露出している。 現在ロボドニの代表を務めているエフィム・アブリコーソフとは大親友であり、家族ぐるみの付き合いがある。 家族 妻スヴェトラーナとの間に、一男一女をもうけた。 著書 開かれた檻 ウィリアムの戯曲哲学 1995年 - ドネツクでの19歳 関連項目 北カフカス 北カフカスの大統領 スヴェトラーナ・バルニコワ
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「――きて……ちゃん」ユサユサ 京太郎「んん……」 「――起きて、京ちゃん」ユサユサ 京太郎「んぁ……咲?」 咲「おはよ、京ちゃん」 京太郎「……なんで?」 咲「なんでって、毎朝のことだよね」 京太郎「……そうだっけ?」 京太郎(毎朝のこと?) 京太郎(あれ……いつもは目覚ましか母さんに起こされてたような) 咲「じゃあ、はい。いつもの」 京太郎「い、いつもの?」 咲「うん……したいって言ったの京ちゃんだよ?」 京太郎「したいって、なにを?」 咲「だから、おはようのキス! もう、言わせないでよ……」 京太郎(どうしよう、全く身に覚えがない) 京太郎(これじゃまるで恋人同士……) 京太郎(俺の記憶が混乱してるのか?) 京太郎(こいつが嘘ついてたら絶対ボロ出すし……) 咲「あ、でも舌入れたらダメだよ? 学校行けなくなっちゃうし」 京太郎「し、舌だって?」 咲「そ、そんなにしたいんだったら、いいけど……」モジモジ 京太郎「きょ、今日は体調悪いからっ」 咲「あ、どこ行くの!?」 京太郎「な、なんだったんだ?」 京太郎「咲のやつ、悪い物でも食ったのかよ」 京太郎「寝間着のまま外に飛び出してきちゃったけど……」 「あ、見つけました」 京太郎「あれ、小蒔? どうしてここに」 小蒔「もう、探したんですよ? 起きたらお布団の中からいなくなってますし」 京太郎「悪い悪い……って、あれ?」 小蒔「さぁ、帰りましょうか」 小蒔「――あなた」 京太郎「あ、あなた?」 小蒔「? どうかしたんですか?」 京太郎「不思議そうな顔すんなよ、俺がおかしいみたいじゃないかっ」 小蒔「実際おかしなこと言ってます。だって、私たち夫婦の契を交わしました」 京太郎「夫婦の契!?」 小蒔「はい、初めてはホテルのベッドで……」ポッ 京太郎(身に覚えがないパート2!) 京太郎(こいつもかよ!) 京太郎(捕まったらヤバそうな雰囲気しかしねー!) 京太郎「じゃ、じゃあ俺ちょっと用事があるから……」 小蒔「……女の人、ですか?」 京太郎「いや――」 小蒔「霞ちゃんや春たちだったらまだ許せます」 小蒔「でも、それ以外の女性だったら私――」 小蒔「――その方が羨ましくて妬ましくて……なにするかわかりませんよ?」ニコッ 京太郎「え、なっ――足が……!」 小蒔「ふふ、わかってもらえたんですね」 京太郎(なんだこれ、何かに押さえつけられてる!?) 京太郎(また過保護な神様か!) ――キキーッ! 衣「きょうたろー、こっち!」 京太郎「――っ、体が動く……!」 衣「早く!」 京太郎「くそっ」 小蒔「あ――」 バタンッ キキーッ! 京太郎「ふぅ、助かった……」 衣「大丈夫?」 京太郎「ああ、なんとかな……」 衣「うん、これも偏にハギヨシの運転技術のおかげだ」 京太郎「ともかく、ありがとな」ナデナデ 衣「えへへ、褒められた」 京太郎「一体二人ともどうしちまったんだかな」 衣「まったくだ! きょうたろーは衣の伴侶だというのに!」 京太郎「……あん?」 衣「だって、ずっと傍にいるって約束してくれた。家族になるって」 衣「衣のこと、泣かせないって」 京太郎(またこれかよ!) 京太郎(なんだこいつら、どっか別の世界から電波受信してるんじゃないだろうな!) 京太郎(くそ、車の中じゃ逃げ場がない……!) 衣「ともかくこれで安心だ」 衣「今は衣がいるし、ハギヨシもいる」 衣「このまま屋敷まで帰ろう」 京太郎(ヤバい、そこまでいったらもう出られない予感しかしない) 京太郎(どうにかして車を止めないと!) 京太郎「ぐっ、いたたたたたたっ!」 衣「きょ、きょうたろー?」 京太郎「腹が……今すぐトイレ行かないとヤバい!」 衣「なんだそんなことか。大丈夫、衣がちゃんと処理してあげるから!」 京太郎(全然大丈夫じゃねーっての!) 京太郎(汚物の処理とか愛が大きすぎだろ!) 京太郎(どうする、このままじゃ一生屋敷に軟禁……冗談じゃない!) ハギヨシ「二人とも、捕まってください!」 キキーッ! 京太郎「あいたっ」 衣「あうっ」 「京太郎くん、早く降りて!」 京太郎「ありがたい!」 衣「きょうたろー、待って!」 京太郎「ここまで来たら大丈夫か?」 京太郎「……助かったよ」 豊音「いえいえ、困ったときはお互い様だよー」 豊音「私も京太郎くんのピンチにいてもたってもいられなかったから」 京太郎「そうか……ん?」 京太郎(俺のピンチに? どうやってそれを察した?) 京太郎(それに、なんの脈絡もなくここに来てるって、もしかして) 京太郎(……違うかもしれないし、確認だけはとっておくか) 京太郎「なあ、姉帯」 豊音「なに?」 京太郎「今日はいきなりどうしたんだ? こっち来るなら連絡くれよ」 豊音「ごめんね? 京太郎君にも秘密にしておきたかったから」 京太郎「なんだ、サプライズのつもりか?」 豊音「えへへ、実はね?」 豊音「京太郎くんを、連れて帰っちゃおうかなって」 京太郎「……やっぱりかー」 豊音「えっとね、京太郎くんを連れて帰って、結婚してね?」 豊音「それからそれから、ちょっと恥ずかしいけど……子供作ったりとか」 豊音「そしたら私たちもお父さんやお母さんみたいになれると思うんだ」 京太郎「そ、そうか……」ダラダラ 豊音「きゃっ、言っちゃったよー!」 京太郎「じゃあ、ちょっと腹痛いからトイレ行ってくるよ」 豊音「うん、私はここで待ってるね?」 京太郎「それじゃ」タタッ 京太郎「危なかった……」 京太郎「あいつが素直なやつで助かった」 京太郎「まぁ、見つかったらなにされるかわからないけど」 京太郎「……考えないようにしよう」 京太郎「にしても、喉渇いた。汗かきすぎたか?」 「あれ、お兄さんやないですかーぁ」 京太郎「――っ」 憩「? どうして身構えとるんですか?」 京太郎「お前、もしかして俺に会いに来た?」 憩「自意識過剰ですかーぁ?」 京太郎「いや、違うならいいんだ」 京太郎(そうだよな、こいつとは東京で一回会ったっきりだし) 京太郎(俺の考えすぎか……) 憩「見たところお疲れみたいですけど」 京太郎「ああ、ちょっと朝からハードで……」 憩「ふむ……飲み物、いりますかーぁ? 私の飲みかけでよければ」 京太郎「ん、もらう。正直喉カラカラでさ」チュー 京太郎(生き返るー) 京太郎(あーもう、こいつが天使に見えてきた) 京太郎(格好と相まって白衣の天使?) 京太郎(癒される……気が抜けて体の力が――) 京太郎「――あれ?」ガクッ 憩「薬、効いたみたいですねーぇ」 京太郎「く、薬?」 憩「心配はいらへんですよーぉ? ちょーっと力抜けるだけですから」 京太郎「ちょっ――」バタッ 憩「んしょ、お兄さん重いですねーぇ」 京太郎「な、んで、こんな……」 憩「えー? 決まっとるやないですかーぁ」 憩「お兄さんのこと、欲しくて欲しくてたまらないんですよーぅ」 憩「気にせずじっとしてていいですよーぉ? 優しく、優しくしますからーぁ」 京太郎「か、考え、なおせ……」 憩「お兄さん初めてですかーぁ? うちもですよーぉ」 京太郎「くっ……」 京太郎(万事休すか……!) 京太郎(意識が、遠くなって――) 京太郎「――はっ!」 京太郎「今のは……夢?」 京太郎「はは……だよな、現実のわけないだろ」 京太郎「もう朝かー、全然休んだ気がしないな」 「あ、起きてたの?」 照「はい、お水」 京太郎「ああ……ありがとう、照ちゃん」 照「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」 京太郎「なんかすごい夢見てさ……てか、照ちゃんはなんでここに」 照「なんでって……ここ、私たちの家だよ?」 京太郎「家、俺たちの?」 「ママー、お腹空いたー!」 照「料理の途中だから下に降りてるね」 京太郎「あ、ああ……」 照「京ちゃん、大好き」チュッ 京太郎「家、子供……」 京太郎「はは、これも夢、だよな?」 つづくわけがない 最後におまけ 「……私たちの出番がない!」 「そーだそーだ! 慰謝料が発生するよコレ!」 京太郎「いや、そもそもお前らのこと知らないし」 「あわっ!? あんなことしたくせに! 責任取れー!」 「あ、生涯賃金の半分支払ってくれるなら許してあげてもいいよ?」 京太郎「だから知らねえつってんだろうがっ」 おしまい
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概要 舞台 主人公 攻略対象キャラステイル アーサー レオン セドリック 隠しキャラ:ジル ラスボス キミヒカ関連話 コメント 概要 フリージア王国が舞台。 ティアラが16歳に成長した誕生祭で見ず知らずの婚約者を決められるところから始まる。 クライマックスの対峙シーンでは王の啓示とされていた予知能力を覚醒させる。 舞台 ”キミヒカ”のフリージア王国 乙女ゲーム「君と一筋の光を(キミヒカ)」の舞台となる大国。 王配が事故で死に、後を追うように女王陛下も亡くなり、予知能力を得た幼い女王が好き放題に贅沢三昧をするため税上げや、逆らった上層部や騎士を人事や処刑、気に入らなければ戦争に同盟に処罰に法律など、女王一人で平民の生活を脅かし続けて、平和な大国はみるみるうちに周囲の国々にも警戒される独裁国家となった。(*1) 13年に宰相が婚約者の病を治すために提言した〝特殊能力申請義務令〟を幼い女王が成立させ、女王が全ての国民の特殊能力を把握し、優れた特殊能力を持つ国民に女王の命令に背けない隷属の契約をするか、処刑されるかの選択を迫った。 結果、女王に反抗の意を示した貴重な特殊能力者が大量虐殺されることとなる。(*2) ”キミヒカ”のアネモネ王国 8年頃に前女王と前王配と同盟を結ぶ。だが続けて両人が亡くなることとなったが友好の印の一つであった新兵合同演習を続けていた。 11年にアネモネで行われる新兵合同演習に向かうフリージア王国騎士団が何者かに襲われ、更に崖崩れが起き、アネモネ騎士団にも多くの犠牲が出た。 現場にいた者は助かっておらず、犯人もともに死んだのかこの一件で互いに非を認めず膠着状態となりフリージア王国騎士団がアネモネに攻め入り、アネモネ王国は惨敗した。アネモネ王国は降伏するしかなくなり、多くの条約を飲み、なんとか和平同盟にこぎつけた。 その和平同盟を確かなものにするためフリージア王国宰相とフリージア王国摂政が女王の婚約者にと第一王子が選ばれる。 ”キミヒカ”のハナズオ連合王国 ゲームが始まる1年前、突然コペランディ王国の使者がハナズオ連合国に来訪する。 ラジヤ帝国の属国となったコペランディ王国からチャイネンシス王国に属国となるか、植民地となるか選択を迫られる。 チャイネンシス王国ヨアン国王は降伏して国名が残っても、負けるとわかっていて抗ってもラジヤ帝国の傘下に入れば強制的にチャイネンシス王国は奴隷生産国となり、国民をラジヤに差し出さねばならなかった。ならば植民地としてでも自国の文化は残したいとヨアンは考えたが、ランスとセドリックが引き止め続ける。だが、期限が近づき、ヨアンから一方的に同盟を破棄される。 その決断を聞いたセドリックは女王プライドにハナズオ連合国を救ってほしいと単身で懇願に来て、プライドはその場で同盟に了承し、兵を挙げセドリックと共にハナズオ連合国に到着し、防衛戦の為に陣を張ったフリージアは、敵国からの侵攻が始まった途端、反旗を翻しチャイネンシス王国を襲い始めた。 プライドはセドリックから聞いた話の裏でステイルの特殊能力で秘密裏にコペランディ王国とラジヤ帝国と契約を交わしていた。 プライドに嵌められ、利用され、三国とフリージアから侵攻を受けたチャイネンシス王国は敗北。ラジヤ帝国の属州となり、国名も文化も奪わる。 その事実にランス国王は乱心、フリージアからの合図で奇襲をかけるはずだったサーシス王国は、国王乱心により何の指示もないままチャイネンシス王国が蹂躙されていく様を見る事しかできなかった。 ”キミヒカ”のハナズオ連合王国 サーシス王国 ゲームではアネモネ王国と貿易ではなくムスカリ王国と貿易を始めていた。 チャイネンシス王国を守る為、セドリック第二王子がフリージアの援軍を率いてきたが、フリージア王国が裏切り、更にランス国王が乱心し、指揮系統が乱れた。 その後、セドリック第二王子は女王プライドに口外の禁止と国を開き、無償で黄金をフリージアに差し出し続ける。 ランス国王は乱心したまま、セドリック第二王子が国王の代理をつとめる。 ”キミヒカ”のハナズオ連合王国 チャイネンシス王国 コペランディ王国に降伏か蹂躙を迫れられ、17年に国の名前、文化を残す為降伏を考え、サーシス王国を守るため。一方的に同盟を解消する。 だが、サーシス王国のセドリック第二王子が援軍として連れてきたフリージア王国が裏切り、結果ラジヤ帝国の植民地となり、国名も文化もなくなった。 セドリック第二王子が“嘘の”援軍の話をしてチャイネンシスの全面降伏を止めなければ属州になることはなかった。 しかもそのせいで親友であるランスが心を病んでしまった。 更に反旗を翻したフリージア王国に、脅されるがままセドリックはサーシスの金脈を全てフリージア王国に譲渡すると誓約書を交わしていた。 その為、誰が見てもセドリックがフリージアと繋がり、チャイネンシスを売ったようにしか見えず、"元"チャイネンシス王国ヨアン国王はセドリック第二王子を強く恨んでいる。 侵略を受けた後、裏切ったサーシスを恨むかのようにチャイネンシス側から国境の通りに壁が築かれる。 ”キミヒカ”のラジヤ帝国 ゲーム内ではチラチラでてきた国。 第一作目では物語の主軸後半から女王プライドの協力者。ただし、ポジションは小ボスやモブ。 しかも小ボスとして立ちはだかっても攻略対象者には全く歯が立たず、苦戦すると尻尾巻いて逃げちゃうか、とどめを刺される。 ラジヤ帝国自体もプライドが断罪されるとあっさり撤退する。 主人公 ティアラ 「全シリーズにわたって主人公に好感が持てる」「まじ天使」と話題のキミヒカの第一作目の主人公。 ラスボスの姉プライドに傷つけられた攻略対象キャラ達の傷を癒す主人公。 エンディングでは断罪された姉に代わり女王陛下になって攻略対象キャラと共に国を平和に導いていく。 幼い頃は身体が弱く、周囲に隠されて育ったが、6歳の生誕祭でお披露目される。 だがその時には既に馬車事故で父上が亡くなり、憔悴し始めている母上がいたが、母上の前だけは良き姉であるプライドに、影で「役立たず」「王家の面汚し」などと罵られ、自分に自信をなくしてしまう。 更に母上が亡くなり、王位をプライドが継いだ後には離れの塔に閉じ込められながらも、生まれ持っての優しい心は失わず、健気に生きていく。 プライドのことは「プライド様」「女王陛下」と呼び、委縮するばかりだったが、どのルートでも断罪されたプライドに対して「お姉様」と呟き 最後まで憎みきれず、姉に愛されたかったと、姉妹としての関係を持つことにずっと憧れていたと涙ながらに語る。 予知の回数はプライド以上に多いティアラだが、ゲームでは全て夢だと思い込んでいた。(*3) 攻略対象キャラ ステイル 若き摂政。クール系の眼鏡をかけた知性派キャラ プライドのせいでティアラ以外には大分腹黒な策士眼鏡。 母親に会いたい想いをプライドに利用され嵌められ、隷属の契約を結んでしまい、補佐ではなく奴隷となってしまう。 ティアラ生誕祭前日にプライドに命令され、母親を殺害し、自死と口外を禁止されている。 生誕祭当日は殆ど感情がなく、形だけ最低限の礼で終えてしまうが、ティアラは跪くステイルの両手を握りしめて「お兄様」と笑う。 天涯孤独になったステイルにとって久しぶりの家族の温もりで義兄としてプライドに気づかれないように、 目に入らないように軟禁された幼いティアラを守っていくうちにティアラの幸せこそがステイルの希望となる。 プライドの命令で非道な政治や時には能力を利用して暗殺に手を染めても心を失わず、ティアラの前だけでは優しい兄に、人間でいられた。 イベント 体調を崩したステイルが養子に入ったばかりの頃を思い出す回想シーン ティアラの6歳の生誕祭を思い出す回想シーン ステイルルート 他の攻略対象者ルート ステイルは隷属の契約で、プライドの命令通りにティアラたちに立ち向かう。 最後は、攻略対象者にすべての終結を託して斬られるか、自ら腹に剣を突き立てる。 アーサーのことは「使いにくい男」と評し、絡む度に不機嫌になっていた。(*4) アーサー 父の影を追う銀色短髪碧眼の正統派イケメン騎士団長。 騎士団長だった父親が何者かに嬲られ、崖崩れに巻き込まれる姿を13歳の頃に目撃し、自身には助ける力もなく、ただ泣き叫ぶ。 父親とは騎士になるか否かで喧嘩が絶えなかったが、父親が最後に望んだ騎士になるため、そして父親の死に「お気の毒」と言った女王の真相に迫るために騎士になることを決める。 だが、父、母を家族を守ることから逃げてきた己では立派な騎士にはなれないと己を殺し、立派な騎士だった父親に近づくため、髪型を真似、父親の友人から生きていた頃の父親の仕草などを真似し、騎士を演じ続けていた。 だが、ティアラがピンチの時やプライドを倒すときには往来の性格である乱暴口調になり、そのギャップもあいまってシリーズまたいでファンが多い。 騎士団長に就任し、ティアラの生誕祭で16歳のティアラに出会い、次第に自分という人間を愛せるようになっていく。 父を真似て生きてきた自分もまた自分であると、父に似せて生きてきた自分も受け入れ、生きていく。(*5) ステイルのことを「底の知れない…薄気味悪い男」だと評し、ティアラにあまり信用しない方がいいと助言していた。(*6) 好みのタイプは「気高い女性」(*7) イベント 不在のステイルの代わりにプライドの護衛となり、プライドの口から父親の真相を知ったアーサーが雨に打たれながら父親の仇であるプライドの妹であるティアラを拒絶するイベント(*8) 上記イベントの翌日風邪を引き、高熱で寝込むティアラの額に触れ、熱が引き目を覚まし、本当の特殊能力を自覚するイベント アーサールート 他の攻略対象者ルート レオン 心を病みながらも自国を誰よりも愛した女王の婚約者。 お色気単品勝負ならこのシリーズでは最強。 レオンとティアラの恋愛シーンはすごくドキドキする場面が多く、後半からはかなり濃厚な恋愛シーン。 プライドと婚約後、帰国し再びフリージア王国に戻る前夜に弟たちに騙され、城下に降りてしまう。 そして翌朝に酒場で酔いつぶれているところを衛兵に発見され、フリージアへの移動も遅れてしまい、婚約者プライドの不興を買ってしまう。 この事件のせいで王族の高潔さを重んじるアネモネ国から事実上の国外追放を言い渡され 更にプライドが酒場にいた民を全員"罪人"として差し出さねば婚約破棄して即刻軍を放つと宣言される。 11年の騎士団の件で攻め入られているレオンは、フリージア騎士団の強さをよく知っており、本当は自身が罰せられるべきと何度も思いながらも多くの民を救うためその要求に応え、自身に関わった無実の酒場の男女全員を差し出し、レオンの目の前でプライドにより嬲り殺されることとなる。 既にフリージアの宰相が王配業と宰相業をこなしていたため"名ばかり王配"として、婚姻する訳でもなく、婚約者のまま「嫉妬」「愛してる」と愛した民を嬲り殺した言葉でプライドに心を追い詰められる 自分と共にいるとその人が死んでしまう。傷ついてしまう、不幸になってしまうと思い込み、人と関わること自体を恐れるようになる。 その恐怖と拒絶の対象の元であるプライドから逃げ出したかったが、心を壊しながらも愛する自国とフリージア王国の同盟を壊さないため。 プライドにより独裁国家となったフリージアから自身を追い出した自国を守り続けるために、プライドの玩具になり果てることを選んだ。 イベント 弟であるアネモネ国王エルヴィンとアネモネ国摂政のホーマーがプライドに殺され、嘆き悲しみ立ち上がるイベント レオンルート ティアラに心を癒されて元の完璧王子に戻ったレオンは非の打ち所がない完璧な王子様(*9) 弟であるアネモネ国王エルヴィンとアネモネ国摂政のホーマーがティアラに自身達がレオンへの嫉妬で悪評を広めたことを認め、荒廃したアネモネ王国の為にレオンに帰ってきてほしいと頼み込み、更にレオンの心を追い詰める。 ゲームラストでは2年間の引き篭り期間を経て、久々に剣を握ったにもかかわらず最終局面では行く手を阻む攻略対象者と剣で良い勝負をし、 ラスボスプライドには剣と己が肉体で押し勝ち、最後は弟を撃ったプライドの銃で見事彼女の心臓を撃ち抜き、最強女王プライドを自らの手で倒す。(*10) エンディングはティアラと共にアネモネ王国とフリージア王国を合併し、両方の国の王配として共に国を平和に導いた。 他の攻略対象者ルート 他の攻略対象者に王配を譲り、自国へ帰っていき王となった途端、アネモネ王国が息を吹き返し元の貿易国として栄え始めたとされる。 セドリック 王道本命キャラで俺様ナルシストのティアラの婚約者。 生まれた頃から鎖国された国の第二王子として育ち、国中の民にチヤホヤされ生まれ持っての美形も相まって俺様且つ自分の美しさにだけは絶対の自身と矜持を持つナルシストだったが、ゲーム開始の1年前のある出来事まで無知という欠点があった。 「見たら忘れられない」神子として幼い頃。ある種心酔に近い形で大人たちに何でもかんでも吸収させられる。自身が慕う兄から王の座を奪ってしまうのであれば、何も学ばないと勉学や稽古から逃げ続ける。 そんな彼に残ったのは端正な顔立ちで「俺が美しければそれだけで価値がある」と思うようになり、過剰に装飾品を身に着ける要因となった。 ゲーム開始時にはつらい経験を経て俺様な性格でもふさわしい王子だったが、ラスボスプライドのせいで重度の人間不信であった。 プライドはセドリックにサーシス王国を属州とすることを宣言する。 だが、「ティアラを自分へ恋に落とさせること」と「自分を愛したティアラを自身の手で殺すこと」を条件に出し、もし条件が満たせれば「サーシス王国の属州への取りやめ」「"元"チャイネンシス王国の解放」をすると約束する。もし、一つでも条件を果たせなかったらサーシス王国の民も奴隷としてフリージア王国に出荷させると脅す。 その目的を果たす為、婚約者発表されてからティアラを口説いていく。 どのルートに行っても彼女に恋心を抱いた俺様ナルシストセドリック(*11) イベント ティアラと見つめ合ったセドリックがティアラに口付けをしようとするシーンで寸前に義兄ステイルに止められる。 城下に逃げて追ってから隠れながら身を寄せているときにティアラが作った料理を先につまみ食いするイベント 1年前にコペランディ王国に降伏か蹂躙かを迫られたことをティアラに語る。 セドリックルート 1年前、プライドに嵌められセドリックが守ろうとした大切な人達を自分の行動で不幸にしてしまう。 その時の苦渋と後悔からセドリックは立ち上がり、国の為に努める立派な王子として「二度と人を信じない決意」と「消えない心の傷」を抱いて成長するが、1年後ゲーム開始時にはティアラの婚約者として再びプライドに人生を弄ばれる。 そんなセドリックの俺様な強引さに振り回されながらもティアラは笑顔と優しい心で接し続け。いつの間にかセドリックは本当にティアラに心を奪われ、愛に触れ、人を信じられるようになっていく。 だが、クライマックスでヨアンはプライドの命令でセドリックに立ちはだかるが、最後には道を譲り深かった絆をみせる。 ラストには1年前から乱心していた「もはや骨と皮だけ」のランス国王がご都合主義で目を覚ます。 他の攻略対象者ルート 隠しキャラ:ジル ジルベールの幼少期の姿 全員攻略した上でプレイ可能な隠しキャラクター。凄腕の天才謀略家。 宰相として優秀なだけではなく、人を欺き、情報を操り、思い通りに動かす天才。 ゲームの中はずっと年老いた老人の姿でたまにちらっと出てくる姿は13歳の謎の青年の姿。 隠しキャラルートが解禁されると、最初の選択肢でティアラに「離れの塔から逃げ出す」という選択肢がでて、それを選ぶとティアラはシーツやカーテンで窓から逃げ出し、謎の青年ジルと出会い、彼の助けにより城下へ逃げ出すことが出来る。 ジルは自らが提言した〝特殊能力申請義務令〟をプライドに悪用され、その法に対する罪の意識と最愛の婚約者を失ったショックで老人と婚約者と初めて出会った13歳の姿にしか年齢操作ができなくなる。 婚約者の最後の願い「私の分まで生きて」という言葉が呪いとなり、自分の発案で成立されてしまった〝特殊能力申請義務令〟の懺悔の為だけで生きるようになる。 ジルの生活は、自身の財産を必要最低限以外全て貧しい国民達に捧げ、国から隠れるように生きる希少な特殊能力者を持つ民を彼の手腕で匿っていた。(*12) イベント 「結局どちらにせよ病を癒す特殊能力など見つかりませんでした」と自嘲じみた表情で呟くジルとその服の袖を悲しげな瞳で握り締めるティアラのスチル ジルルート 閉じ込められた離れの塔からジルに連れられ、ロープで伝って降りて逃げる ゲームのラストでもジルルートだと彼自身ではなく、今まで攻略したキャラクター全員が味方になり、力を合わせてプライドを倒す。 その際に最終決戦でプライドの足場もろとも城の塔をキャラクター達にがっつり破壊させて倒していた。(*13) 恋愛の要素がものすごく薄い。他の攻略対象者がティアラとの少なくともキスシーンは絶対ある中、ジルはキスは手の甲止まりだったし、愛を説くシーンすらない。 エンディング後のスチルでは元の姿を取り戻して大人になったジルと幸せそうに微笑むティアラの姿 他の攻略対象者ルート ラスボス プライド プライドの前世”私”含めてプレイヤー100人中100人が好きにはなれないラスボス 攻略対象キャラ全員に消えない傷を作る張本人 「君と一筋の光を」のラスボス。 主人公ティアラや攻略対象者の宿敵であり、極悪非道の自己中心第一王女。 ゲームのどのルートであろうと必ず攻略対象者に断罪され、死ぬ悪役。バッドエンドでは逆にティアラか攻略対象者が死ぬ。 予知能力を使って攻略対象者を嵌めたり、悲劇が起こることを予知しても高みの見物をしたりする。 予知以外の特殊能力は持たず、努力する描写もないが冷酷かつ洞察力に裏打ちされた謀略を巡らせ、作中最強のアーサー以外には一対一で破れることがないなど知勇ともに優れたラスボスチートであり、力の使い方を間違ってはいるが無能ではない。 父親が事故に合い、母親である女王陛下もそのショックのせいで、後を追うように亡くなってしまったので 予知能力を得ていたプライドが早々に王位を継ぐが、今までも我儘放題だったプライドは母親の愛情を独り占めしていたティアラを妬み、離れの塔に軟禁する。 国の習わしで女王の補佐に優れた特殊能力を持つ者を養子に迎えるため、庶民のステイルが選ばれたが、 「庶民出の他所の子どもなんで、義姉だからって本当に私の言うこと聞くのかしら?」という不安から、母親に会わせると嘘をつき絶対服従させる隷属の契約を結ばせる。 その時にステイルの怒りや憎しみの反応が楽しくなって人を苦しめる快楽を覚えた。 好みのタイプは「自分に都合の良い人間」(*14) 顔だけで言えば一番好みの男性は飛び抜けてセドリック。あくまで顔だけ、ですか。 当時から、彼とラスボスプライドとのやり取りでもその節はちょこちょこ出ていた。(*15) ヒールは7センチが動きやすかったが、お気に入りは13センチ。 つまり、動きやすいのが182cmで、お気に入りは188cm。 キミヒカ関連話 章 話数 サブタイトル 備考 1 コメント このコメント欄はwikiの情報充実のために設けた物です。 編集が苦手な方は以下のコメントフォームへ書き込んで頂ければ有志でページに取り込みます。 表示される親コメントには限りがあるので、返信の際は返信したいコメント横のチェックを付けて返信するようご協力お願いします。
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あ ヴァイン【ゔぁいん】 ヴァル・ファスクの一員。EDENの民を装いエルシオールに潜入、エンジェル隊とタクトとの信頼関係に目をつけ、自らが操るルシャーティを使い、その撹乱と断絶を図る。しかしエンジェル隊を通じて「人の心」に触れ、幾度の苦境も切り抜けて行くその力に次第に惹かれて行く。そして最後は、利用しながらも「姉」として接してきたルシャーティを救うべく、彼女を連れてヴァル・ファスクから脱走、その時に受けた傷が元で死亡する。 ウォルコット・O・ヒューイ【うぉるこっと・O・ひゅーい】 アニメ版エンジェル隊の直属の上官。「白き超新星の狼」と呼ばれるほどの猛者だったという過去を持つが、現在は退役間近という年齢もあってか、非常に温厚な老紳士と化している。毎日のように起きるエンジェル隊の不祥事の後始末に追われる日々を送る一方で、本人もなかなかノリのいい性格をしており、しばしばエンジェル隊と共に災厄の一端を担う。エンジェル隊の面々を「娘」と呼ぶなど、単なる部下と上官以上の思いを彼女たちに対し抱いている点も見せる。特に軍への入隊を手助けし、エンジェル隊結成以前も部下と上官の関係にあったフォルテとは親密な仲にある。ちなみに髭を卑下されると若き頃の力を取り戻し、その怒りを爆発させる。 エオニア・トランスバール【えおにあ・とらんすばーる】 トランスバール皇国の皇子。皇王ジェラールの皇位簒奪に反発して反乱を起こし失敗、皇国から追放処分を受けるが、辺境にて黒き月と接触、無人艦の大部隊を率いてトランスバール帰還を果たす。そして皇位の掌握を狙い再度クーデターを起こし、皇王の抹殺と皇国の大部分の制圧に成功した。しかし彼の野望も結局は黒き月に利用されたに過ぎず、エルシオールとムーンエンジェル隊を中心とした皇国軍の反撃を迎え撃つが敗退。黒き月からは用済みとされ、救援を要請するものの黙殺されてしまう。最期はクロノ・ブレイク・キャノンに撃たれ、乗艦と運命を共にした。 か クレータ【くれーた】 エルシオールの整備班長。白き月の巫女であり、ロストテクノロジーの結晶である紋章機の整備・研究に尽くす。日々出撃に追われる紋章機の点検、調整を的確にこなすプロとしての一面を見せる一方、某アイドルにお熱なところも見せる、ソバカス面がチャームな女性。 クロミエ・クワルク【くろみえ・くわるく】 エルシオール艦内のクジラルームの管理人。クジラルームに住む宇宙クジラを始めとする動植物の管理を行う。また、テレパス能力を持つ宇宙クジラの思念を読み取る能力があり、重要なメッセージを察知した宇宙クジラの言葉をタクトに伝える役も果たす。温厚で誰とも柔和に接する性格なのだが、時に底の知れない腹黒さを見せる。 ケーラ【けーら】 エルシオールに勤務する女性医師。戦闘やトラブル続きのエルシオール艦内で、乗員の心と体のケアを行う。医務室に詰めることの多いヴァニラを影ながら支え、優しく見守るお姉さん的存在でもある。 さ シヴァ・トランスバール【しゔぁ・とらんすばーる】 トランスバール皇国の女皇。皇王ジェラールと聖母シャトヤーンとの間に設けられた子で、その事実は長い間、ジェラールと庶民の女性との子として隠された。他の皇子や皇女とは異なり、白き月のシャトヤーンの元で育てられ皇国暦412年のエオニアのクーデターの際は、王族のほとんどが戦死または抹殺された中でトランスバール王家唯一の生き残りとして、エンジェル隊の護衛の下で逃避行を続けた。エオニア討伐の後、トランスバールの女皇となり戦後の復興を指揮するが、次いで新たなる敵・ヴァル・ファスクの来襲に直面する事になる。一時は国家の存亡の危機すら迎えるが、皇国の総力を挙げての迎撃を指導してこれを撃退、逆にヴァル・ファスク本星へ侵攻してその指導者・ゲルンを破りエオニア戦役から続いた戦乱に終止符を打った。 シェリー・ブリストル【しぇりー・ぶりすとる】 エオニアに付き従う参謀格の女性。エオニアに対する忠誠心は人並み外れ、彼が最初に反乱を起こした際も、辺境へ配流となった際も共に付き従っている。エオニア戦役においては高速艦隊を率いてエルシオールを追撃し、何度も激戦を繰り広げた。しかし結束力を深めたエンジェル隊の前に敗北、最後は大破した乗艦ごとエルシオールに体当たりを試みたが果たせず、戦死する。 シャトヤーン【しゃとやーん】 「白き月」の聖母。時空震(クロノ・クエイク)により滅亡の淵に追いやられていたトランスバールを救い、それ以降、トランスバール皇国民の畏敬の念を一身に集める存在となる。ちなみに「シャトヤーン」とは白き月の聖母の総称であり、その名は後を継ぐために生まれたクローンに引き継がれることとなっている。現在のシャトヤーンは強制的に皇王ジェラールの妃とされ、次いでエオニアのクーデターにより白き月に半軟禁状態とされたが、エンジェル隊の活躍によりその身を解放された。しかし落ち着く間もなくヴァル・ファスクが来襲、黒き月の管理人であるノアの協力を得ながら白き月のテクノロジーをもって対策にあたり、苦境に立つシヴァやエンジェル隊を精神的に支え続けた。 た ダルノー・ブラマンシュ【だるのー・ぶらまんしゅ】 ブラマンシュ財閥当主。汎銀河コンツェルン、ブラマンシュ家を統べるミントの父親。一惑星を統べるほどの強大な力を持つ家の当主として、非常に厳格な性格の持ち主であり、他者の意見を一切許さないその性格はミントが家を離れる直接の原因となる。 な ネフューリア【ねふゅーりあ】 ヴァル・ファスクの女性。エオニア戦役後、反乱軍残党のレゾムに従い、輸送船団を襲撃するなど海賊行為を繰り返していた。しかしその真の目的は白き月の掌握であり、密かに回収した黒き月のテクノロジーを用いて巨大艦「オ・ガウブ」を建造し、トランスバール皇国に侵攻する。クロノ・ブレイク・キャノンをも防ぐネガティブ・クロノ・フィールドを駆使し、さらにオ・ガウブから次々と生み出される艦隊をただ一人で操って見せた。エルシオールを撃沈寸前まで追い込み、トランスバール本星の目前まで兵を進めるものの、黒き月の管理人・ノアの協力を得て白き月で作られた決戦兵器の前に敗れた。 ノア【のあ】 EDEN防衛システム「黒き月」の管理人。エオニア戦役の際は黒き月のインターフェースで、白き月との融合という自らの目的のため言葉巧みにエオニアを操り、黒き月から無尽蔵に生み出される無人艦隊によって皇国軍に大損害を与えた。その後、黒き月の破壊と共に姿を消したが、ネフューリアの手から逃れたコア部に存在した姿でタクトたちエンジェル隊と再び接触する。黒き月を破壊され、更にはトランスバールを守るための力をネフューリアに利用され、その苛立ちを周囲にぶつけることもあったが、エンジェル隊やシヴァ、シャトヤーンらとの触れ合いで 次第にその心を開き、ヴァル・ファスク迎撃のために最後まで尽力する。 は ま メアリー少佐【めありーしょうさ】 トランスバール皇国軍の少佐。エンジェル隊に対抗して結成されたツインスター隊の司令役を努め、幼いココモとマリブの世話も見る、言わばお母さん的存在。元々がエンジェル隊に対抗して組織されただけあって事ある度にエンジェル隊への対抗心を剥き出しにするが、逆にトラブルに巻き込まれて辛酸を舐めることも。ちとせ加入以降も状況は変わらず、むしろ更なるトラブルメーカーを抱え対応に苦慮していた様子である。「わたし応援隊」なるものを心の中で支えとするなど、さりげなく内向的な一面も持つ。別名「金色の吠える流星」。 や ら ルシャーティ【るしゃーてぃ】 EDENの民で、総合情報集積体「ライブラリ」の管理者。ヴァル・ファスクのヴァインにより操られ、エンジェル隊内部の撹乱に利用される。ヴァインがその目的を果たすと今度は七番機奪取のために力を使われ、追撃するエンジェル隊を尻目にヴァル・ファスクの元へ戻ることとなる。その後ヴァル・ファスク脱走を決意したヴァインに連れられてEDENへ帰還するが、彼は逃亡の際に受けた傷が元で死亡する。ヴァル・ファスクとして自分を操り続けながらも、最後に心を開いてくれたヴァインに対する、そのやり場のない思いを抱えて行くこととなる。周りを取り巻く環境と対照的に、本人は非常に温厚な性格で少しボケ気味なところも見せる。 ルフト・ヴァイツェン【るふと・ゔぁいつぇん】 トランスバール皇国軍将軍で、宰相を兼務。エオニア戦役発生時は准将の身でムーンエンジェル隊司令官の座にあった。しかしシヴァ皇子を連れての逃避行とエンジェル隊の指揮は自分には重荷と判断し、士官学校時代の自分の教え子、タクトにその任を委ねる。エオニア戦役後は主要幹部のほとんどが戦死した皇国軍を再編し、同時に宰相としてヴァル・ファスク来襲の対応に追われるシヴァを内政・外政に渡って支えた。エンジェル隊のその後の活躍からすると、タクトを見出したその慧眼に狂いはなかった様だ。 レスター・クールダラス【れすたー・くーるだらす】 エンジェル隊副司令でタクトの親友。平民の出ながら士官学校を優秀な成績で卒業し、自ら志願してタクトの副官を願い出た。そしてエンジェル隊司令官に着任したタクトに続き、その副司令に着任する。日頃から抜け出しがちなタクトに代わってエルシオールのブリッジに詰め、挙句にブリッジで寝起きするほどの仕事の鬼。それでいて公私に渡ってタクトを支える事は忘れず、不穏になったエンジェル隊との仲を指摘するなど、鋭い点も随所で見せる。しかし、その鋭さが自分自身の周囲に向けられることはまず無さそうである… わ