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二百年は優に超える生涯の中で。 ここまで最悪な巡り合わせの日はそうはなかった。 白昼の中、二人の殺人者(マーダー)に狙われた魔女は心中でそう吐き捨てた。 「それもっ!これもッ!全部乃亜が悪いんだわッ!」 逃げる幼女の姿をした女──ルサルカが憤りながら人喰影を敵に向けて伸ばす。 倒せるとは元より思っていない足止めの為だ。 背後に迫る、雷を放つ白銀の髪の少年から逃れるための迎撃手段だった。 常人を遥かに超えたルサルカの脚力を持ってしても降り切れない速度。 獲物を追い詰める獰猛さがヴィルヘルムを彷彿とさせる子供。 会敵の際名前を尋ねると、彼はゼオンと名乗った。 「フン」 ルサルカの抵抗を鼻で笑い、修羅の雷帝がその手の大刀を振るう。 突風が吹き抜けた様な音が響き、ルサルカの放った食人影が薙ぎ払われる。 否、それだけではない。魂で作った食人影達は、振るわれる刀に“食われて”いた。 恐らく、あの大刀は相手の魂を斬り結ぶだけで吸収できる聖遺物なのだろう。 それの意味する所は即ち、ルサルカは能力を使えば使う程消耗していくが。 逆に敵は、ルサルカから吸収したエネルギーをそのまま継戦に扱えるということだ。 シュライバーやメリュジーヌ程ではないにせよ、難敵と言う他なかった。 「ザケル!!」 (……っ!こんな、時に………ッ!) 反撃として飛んでくる雷を必死に躱して、思考を巡らせる。 状況は頗る付きで悪い。 損傷こそ仙豆で治癒したが、ルサルカの身体には未だ鋭い痛みが走っている。 恐らくメリュジーヌの攻撃が、自身の聖遺物に僅かに被弾していたのだろう。 未だ肉体が崩壊する気配が無い為僅かに掠った程度の損傷だろうが、痛みは一向に引かず。 そんな劣悪なコンディションで、二人の手練れを相手にしなければならない。 運が無さ過ぎて乾いた笑いすら出てくる始末だった。 「このォッ!!」 再び食人影がゼオンに向けて殺到する。 真正面から勝負した所で、一瞬で剣に打ち払われてお終いだ。 変幻自在の食人影の波状攻撃だからこそ、目の前の少年の足止めとして機能している。 とは言え、本当に足を止めるための障害物以上の約張りは果たせていないが。 「下らん」 だがやはり、彼女が操る魔術と鎬を削る大刀鮫肌の相性は芳しくなかった。 食人影を形作る魂が削り取られ、強度を保てないのだ。 加えて、剣の担い手の少年の技量も年齢を考えれば驚異的と言える水準の物。 多大なる才能の持ち主でも、血反吐を吐くほどの修練を積んで至れる領域だ。 ルサルカは少年の技巧を見てある人物を想起する。 聖槍十三騎士団黒円卓第五位、ベアトリス・キルヒアイゼンを。 黒円卓の中でも最高峰の剣技を誇った彼女に比べればまだ技巧的には幼い。 時折放つ雷撃も、存在を雷そのものに変える事ができるベアトリスには劣る。 (でも───今の私が勝てるかって言うと別問題なのよねぇ……!) そう、彼に目の前の少年がベアトリスには劣っても。 それでルサルカが勝てるかと言えば別の話だ。 彼女の本領はあくまで権謀術数を用い、罠を張り巡らせた状態で行う戦争なのだから。 劣悪なコンディションで行う遭遇戦など、彼女が最も避けたい条件下だった。 (この子だけでも厄介なのに───) ルサルカの劣勢を加速させている要因は、それだけではない。 放たれる雷を転がる様に躱し、間髪入れずバッと半身になりながら起き上がった瞬間。 雷の合間を縫い、ルサルカの身体を貫かんと殺意が飛来する。 「クソッ!」 超人たる黒円卓の反射神経と身体能力をフルに発揮し。 顔面に突き刺さる筈だった魔力の込められたナイフを躱していくものの。 完璧には避けきれず、避けきれなかった紅い長髪が斬り落とされてしまう。 パラパラと地面に落ちていく女の命を目にして、思わず毒を吐いた。 「毎日トリートメントしてるのよ!?」 子供には分からない苦労でしょうけどね!と、吐き捨てる暇すらない。 兎に角走らなければ、次は本当に命を失うのだから。 人を遥かに超えた身体能力で疾走するが、背後の殺戮者達は平然と追従してくる。 このままではジリ貧だ。 (どうする……!?) 創造さえ決まれば、目の前の少年には勝てるだろう。 しかしそれにあたって問題が二つある。 一つは相手が二人の為、一度の発動で両方を仕留められるか分からないこと。 補足できている状態ならルサルカの創造は二人纏めて術中に嵌める事ができるが。 目の前の少年とは違うもう一人───ナイフ使いの方が問題だった。 此方の方は戦闘を開始してからロクにルサルカの前に姿を現していないのだ。 今も少年の後方、白いマントの影に隠れて常に補足されない様に立ち回っている。 それでいてルサルカの反撃は正確に回避してのけており。 間違いなく素人ではない。こと殺しの腕に関してはプロだ。 創造を使ったとしても補足しきれず、相打ちになる可能性がある。 もう一つは相手が間髪入れずに攻め立ててくるため、創造の詠唱の時間が取れない事だ。 単純な事ではあるが、逃走と応戦をしつつ詠唱を行うのは不可能。 ある程度纏まった隙を作らなければ話にならない。 (と、なると……後残る選択肢は……!) 自身の能力の他に斬れるカードはもう一つある。 ブックオブ・ジ・エンドだ。 空間に罠を仕掛けた過去を挟む戦法は、あまり期待できない。 ゼオンもまた、メリュジーヌの様にマントで飛翔する術を備えているし、 振るわれる大刀の効果で、仕掛けた罠ごとエネルギーにされてしまう。 だが直接斬った効果はメリュジーヌにも通じた。一撃入れればまず間違いなく隙は作れる。 今振り返ればメリュジーヌに効果を発揮した時に創造を使っていれば。 もしかすれば、勝利していたのは自分だったかもしれない。 今更言っても仕方ない事だし、今考えるべきは現在進行形の苦境を切り抜ける方法だけど。 (──形成で攻撃しつつ反転して、距離を詰めてからこの刀を使う。 そして相手が混乱したところを創造で一気にカタを着ける!) 瞬きの間に作戦を組み上げる。 選択肢が少ない為どうしても単純な方法にならざるを得ないが、通す自信はあった。 何しろ、ここまでずっと逃げの一手を撃って来たのだ。 既に相手はルサルカを敵ではなく狩りの獲物として見ている筈。 となれば、敵手は既に此方の戦意を完全に奪った物として展開しているだろう。 その隙を突く。大規模な形成の攻勢で気を引いてから、一気に進行方向を反転。 フェイントで一気に距離を詰めた後、本命であるブック・オブ・ジ・エンドを使用する。 毛先の一本でも触れればいいのだ。条件はそう難しくない。 ブック・オブ・ジ・エンドを何方か一方に発動すれば同士討ちすら狙える。 そうでなくても混乱に乗じて創造を発動するのは十分可能だろう。 (一番いいのは刀を使った後にそのまま逃げられることだけど……!) 依然としてシュライバーやメリュジーヌの脅威は健在だが。 かといって出し惜しんでそのまま抱え死んでは間抜けすぎる。 そんな愚行を真なる魔女たる自分が犯す筈もない。 真の強者は、カードの切り時を見誤らない。 「ザケルガ!!」 槍の様に迫ってくる雷撃を、屈んで躱す。 今迄の雷撃より威力は強力そうだが、軌道が直線的過ぎる。 これならば、先ほどの雷撃の方が余程厄介だった。 だが、チャンスだ。ここで一気に身を翻す!! 「喰らいなさい!」 わざと大仰に叫び、これから行うのは強い攻撃だと印象付ける。 事実逃走にリソースを割いていた先ほどまでより強い攻撃なのは間違いなく。 それ故に、本命を隠す良い目くらましとなる。 向こうは立ち止まった此方に構わず突っ込んでくる、好都合だ。 彼我の距離は二十メートル程、瞬きの間に詰まる距離。勝負をかける。 「形成(Yetzirah───イェツラー)血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)!」 ルサルカにとって唯一幸運と言えたのは、形成が連続使用可能だった事だろう。 もしシュライバーの様に形成すら数時間のインターバルを必要としていれば… 勝敗はとっくに決していたのは間違いなく。 巨大な鉄の乙女と夥しい数の量の鎖が現れ、少年へと殺到する。 常人であれば恐怖を通り越して絶望する血と殺意の波濤も。 修羅の雷帝には歩みを止める理由にはならない。 「レードディラス・ザケルガ!!」 巧みに操られる雷撃のヨーヨーが、拷問器具の群れを迎え撃つ。 爆発音めいた轟音が響き、大気を揺らす。 さしものゼオンの雷でもその全てを相殺する事は出来ず、生き残りの鎖が彼の首を狙う。 だが、これで討ち取れるならとっくにルサルカは勝利を掴んでいる。 その想定の確かさを示すように、迫る攻撃に対しゼオンは即座にヨーヨーを放棄。 大刀を片手で軽々振るい、残存の拷問器具全てを薙ぎ払った。 ここまで先ほどまでの焼き直し。重要なのは、これからだ。 「───ここッ!」 雷撃を掻い潜り、その手の栞を刃に変えて。 ルサルカは刀の間合いに入る事に成功した。 いけると思った。掠るだけでも此方の目的は達成できるのだから。 ここまで懐に入り籠めれば当てるには十分。 躱せるとしたらそれはシュライバーやメリュジーヌくらいだろう。 更にナイフ使いの方も完全に射線が重なっているため手出しできない。 同士討ちになる可能性が非常に高い、射線が重なった状況だからだ。 もしナイフを投げたとしても、ゼオンの背が盾となり自分には当たらない。 (フフ……親友になるか恋人になるかお姉ちゃんになるか……貴方は何がいい?) 栞にしていたブック・オブ・ジ・エンドを戦闘態勢に移行。 ここまで空間に罠も張らず、温存しておいた成果を今こそ見せよう。 過去を挟み同士討ちを誘発すれば、ナイフ使いはどれだけ狼狽するだろうか。 敵手の狼狽えた顔を想像して、思わず笑みが零れる。 その瞬間の事だった。卓抜した技巧とタイミングでまたしてもナイフが飛来したのは。 「……チッ!」 飛んできたナイフを剣で打ち払う。 折角の好機。この程度でおじゃんにするわけにはいかない。 その意志の元遂に刃の切っ先を突き出す。 ナイフに対処した一瞬を突き、ゼオンはルサルカに空いている片方の手を向けるが。 最早手遅れだ、例え雷撃を受けてもこのまま押し切る。 ベアトリス程では無いとは言え、黒円卓の魔人でも受ければダメージは免れない雷だが。 それでもこれが決まれば殆ど勝利のため、一発なら割り切って耐えてやろう。 そんな覚悟を胸に放たれたルサルカの刃が、敵手へと迫る──── 「えっ」 ここで計算違いが起きた。 幻影のような霧が、ゼオンの五体を包んだのだ。 距離感が狂い、霧を吸い込んだ途端立ち眩みの様な眩暈を覚える。 間違いなく魔術による攻撃。 それも魔道に精通した自分でも即座に対処するのは難しい水準の物だ。 (───それでも、この距離なら!) だがそれでも既に自分は刀の間合いに入っている。 ほんの一秒感覚を狂わされたところで誤差の範囲内だ。 軌道を修正するまでもない。何も問題はない。 一秒の誤差に食い込む様に少年がこちらに手を向ける。 また電撃が来る。だが、この距離なら大技を放つには近すぎる。 今までの威力であれば心の準備はすでに済ませた。重ねて問題はなく。 来る痛みに備え、歯を食いしばりながら最後の一歩を踏み込む! 「ジケルド」 ルサルカが踏み込んだのと、少年が言霊を放ったのはほぼ同時だった。 そして、切っ先が触れる前の刹那。コンマ数秒の差で。 少年の掌から発生した球場の力場が、先んじて刃に着弾し。 着弾の瞬間、ゼオンに届くはずだった刃の進行方法がグリンッ!と明後日の方角を向く。 刀が向いた方向は、巨大な鉄製の看板がある方向だ。 メリュジーヌとは違い、ゼオンの髪が短かったことが災いした。 加えて突進という攻撃そのものが、前方からの干渉には強いが、横からの力には弱い。 故に超人の身体能力を有するルサルカでも、軌道を即時修正するのは不可能だった。 結果、無防備な横腹を雷帝ゼオンの前に晒すことになる。 「テオザケル」 雷光が轟き、魔女の思考と肉体を容赦なく灼き。 ブック・オブ・ジ・エンドも付近に取り落としてしまった この瞬間ルサルカは、己の敗北を認識した。 ▽▲▽▲ 劣悪な肉体的コンディション。不得手な遭遇戦。 武装特性の相性の悪さに、数の不利。 様々な要因から敗北を喫し、アスファルトの上にへたり込んだ上で。 それでもルサルカは底を感じさせない、不敵な表情を作り。 堂々と、自身を下した少年に話を持ち掛けた。 「───ねぇ、坊や?どう?私と組まない?」 艶めかしく泰然とした態度で、魔女は自信を下した二人組に共闘の打診を行う。 その様は幼児に敗北したとはとても思えない程自信に満ちたもので。 百年を超える生涯の中で培った老獪さが発揮されていた。 「私は皆でお手て繋いで脱出何てキャラじゃないしぃ。自分が助かればそれでいいのよね。 だから私が助かるためなら、君たちと一緒にマーダーをやっても全然オッケーってわけ☆」 語るその言葉には本心と虚偽が織り交ぜられていた。 まず自分さえ助かれば後はどうなっても良い、というのは彼女の偽らざる本心だ。 だが、彼女は現時点でマーダーをやるつもりがなかった。 何故なら、マーダーとして優勝を目指すという事は、つまり。 あの狂人ウォルフガング・シュライバーを下して優勝を目指すという事に他ならないから。 目の前の少年は強い。如何に雷を扱っても、ベアトリスを想起するのは尋常ではない。 だがそれでもシュライバーには敵わない。それがルサルカの見立てだった。 故にこれはこの場を切り抜けるための方便。 少し隙さえ作ってしまえば、簡単に手玉にとれる。彼女はそう確信していた。 「私もこの島に来てからかなり溜まってるしぃ、見逃してくれるなら役に立つわよ?」 色々とね? そう囁く声は思春期の少年なら思わず胸が高鳴る妖艶さ、艶めかしさを秘めていて。 更に、総身に巡らせた魔力は魔女が実力者である事を如実に示す。 目の前の少年は、此方の力量も測れない愚鈍な凡夫と違う。 少なくとも、組んで損はない。そう思わせる事ができるはずだ。 ルサルカはそう考えていて、事実その予測は正しかった。 醸す色気は幼いゼオンにとってどうでも良かったが、実力については疑っていない。 絶望王などの自分に迫る強者がいる以上、戦力は多いに越したことはなかった。 「フッ、話が早いな。いいだろう」 ニィ…とサメのように並んだ歯を覗かせて。 笑みを浮かべながら、ゼオンはルサルカの申し出を快諾。 了承の言葉を聞いた瞬間、ルサルカは心中でほくそ笑んだ。 これで一瞬でも警戒が緩めば、付け入るスキは十分ある。 一時的に敗北を喫しても、所詮少年とは年季が違う。 そう、立ち回り次第では。 逆にシュライバーやメリュジーヌにぶつける削りとして利用してやることも── 「────丁度、試したい術があったところだ」 は? そんな惚けた声をルサルカが発するのと同じタイミングで。 ゼオンは現状に最も適した呪文を唱えた。 「バルギルド・ザケルガ」 「───っ!?」 殆ど零距離の間合いで、雷光が煌めく。 咄嗟に躱そうとルサルカは身を翻すものの、距離が近すぎた。 当然の如く、放たれた呪文は直撃する事となる。 「きゃああああああああああぁあああああ゛あ゛あ゛ッ!!!」 直撃した電撃は、容赦なくルサルカの瑞々しい肌を灼いた。 じゅうじゅうと肉が焦げ、喉が張り裂ける勢いで悲鳴が周囲に木霊する。 五秒…十秒…二十秒……雷の勢いは一向に落ちない。 それどころか、時間が経つごとに勢いが増してすらいた。 「この雷はお前の身体がボロボロになるまで電撃の苦痛を与え続ける」 (かっ…解呪!解呪、しなきゃ………!) 百年以上魔道に手を染めてきたルサルカだ。 威力を増していく電撃に苛まれながらも、何とか呪文の解析と解除を試みようとする。 だが、できなかった。雷は、彼女の意識をも灼いていた。 もしこれが、他者にかけられた物であれば彼女は問題なく解除できただろう。 しかし例え遍く問いに、瞬時に解を導く答えを出す者(アンサートーカー)であっても。 ゼオンの雷はその思考力を容赦なく灼き、雷を受けている間は証明不能となった。 ルサルカもまた、未来でゼオンの雷を受けた答えを出す者の少年と同じ状態に陥っており。 思考できれば対抗策も用意できただろう。だが対抗策を用意する為に考える事ができない。 しかもその状態がもう一分以上続いているのだ。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」 「痛みで気絶する事も許されない。 体が壊れる前に限りなく増していく雷の激痛で心の方がぶっ壊れる」 つまり、この痛みを味わいたくないならお前は俺に従うしかないわけだ。 そう言って、ゼオンは凶悪な笑みでルサルカに告げた。 「が…あ゛……あ………っ゛」 三分経ってようやく、ぐしゃりとルサルカの身体が崩れ落ちた。 評価を訂正。このガキ、ベアトリスよりよっぽどタチが悪い。 そう考えた余裕は、直ぐに再び押し寄せた電撃の痛みの波濤に飲み込まれた。 「この痛みを味わいたくなければ…そうだな、二人殺して首輪を持ってこい。 そうすれば奴隷じゃなく下僕として扱ってやるさ」 前提として、ゼオンは目の前の雌猫の事をまるで信用していない。 それどころか戦闘を開始してから、ルサルカの思考は彼に筒抜けだった。 マーダーとして手伝う、という言葉が方便であることも。 シュライバーやメリュジーヌなる強者と自分をつぶし合わせようとしていることも。 ブック・オブ・ジ・エンドという刀が彼女の切り札ということも、全て把握していた。 頭に被った、さとりヘルメットという支給品で。 短時間の間ではあるが、装着すれば相手の心を読み取れると説明書に書いてあった道具。 ゼオンも記憶の読み取りや消去はできるが、相手が無抵抗でなければできない。 しかしさとりヘルメットは装着するだけで相手の思考を読み取れる。 それは策謀をこそ武器とするルサルカに敵面の効果を発揮していた。 だからこそ、バルギルド・ザケルガの使用に躊躇なく踏み切ったのだ。 「ジャック」 「はーい。なに?」 既に効果の切れたヘルメットをランドセルに戻し、ゼオンはもう一人の下僕に声をかける。 「おー、コゲコゲ」と意識の朦朧としたルサルカを枝で突いていた幼女。 ジャック・ザ・リッパーは呼びかけられてキョトンとした顔で向き直る。 その表情にはルサルカの拷問に加担した後ろめたさは全く宿っていなかった。 そんな彼女に、ゼオンは無言であるものを手渡す。 「俺の雷の力を籠めた結晶だ。念じるだけで雷の激痛を呼び起こすことができる」 「へぇ……ねぇねぇ!使ってみてもいい?」 「あぁ」 「ありがと……えいっ!」 「っ!?が…!があああああああッ!があああああああッ!!」 まるで玩具を妹に買い与える年の離れた兄妹のようなやりとりと共に。 ルサルカの身体を、再び発狂しそうな超激痛が襲う。 雷から解放されたばかりの身体に塩を擦り込む所業に、ルサルカは悲鳴を上げた。 「あはははははっ!面白~い!!」 (こ、のクソガキども……) のたうち回るルサルカの様が面白かったのか、ジャックは無邪気に、酷薄に笑う。 対するルサルカはプスプスとモノが焦げる音を響かせ、屈辱の極みにあった。 黒円卓に名を連ねる私が、シュライバーなんて狂人の同僚と殺し合いをさせられ。 メリュジーヌにさんざんボコられた傷を癒して早々に。 こんな精通もしてない様なクソガキ共にいいようにされているなんて! その事実だけで狂い死にしそうな屈辱だった。 だが、当然彼女をそんな状態に追いやった元凶二人がルサルカの心境を慮るハズもなく。 冷酷に、下僕が置かれた最悪の現状と、そこから解放されるための命令を繰り返す。 「いいか、お前の身体に常に雷の激痛を流し続ける。もし命令に背くことがあれば…… このジャックが、一瞬でお前を廃人にするレベルまで痛みの強さを引き上げる。 そんなことになりたくなければ、お前は俺の言うことを聞くしかない、分かるな?」 ゼオンは読心を行った際にルサルカが魔道に長けている事も把握していた。 故に、呪文を勝手に解呪されるリスクを下げるために痛みは常に行動ができる閾値付近に。 余計なことに思考を割けない状態にまで常に追いやる。 そして、その気になればお前など一瞬で廃人にできると脅しをかけ。 それが嫌ならお前は生存者の首輪を持ってくるしかないと突きつけた。 「く…そ……」 二度目の放送を迎えようとしているこの局面。 既に参加者間の顔も割れつつあるだろう、そんな時勢に。 二人も参加者を殺せば、後戻りできなくなる。 マーダーとして歩むほかなくなり、なし崩し的に少年に協力せざる得なくなる。 別にマーダーに身を落とす事については何とも思っていない。 人を殺す良心の呵責など、魔女は持ち合わせていないのだから。 だが、ゼオンは自分を使い潰すことを躊躇しないだろう。 そして、対主催からも見捨てられてしまえば、自分は完全に孤立し。 シュライバーもいる以上、生き残りの芽は完全になくなる。 (何で……私ばっかり、こんな目に………) 少なくともこの島では悪事は何一つ行っていないというのに。 自分ばかりこんな災難が降りかかるのか、乃亜を呪いたい気持ちで彼女の胸は満ちていた。 誰でもいいから助けて欲しい。あとシュライバーを何とかしてほしい。 助けてくれたら男だろうと女だろうと、この身体を抱かせてやってもいい。 だが、そんな都合のいい奇跡(ヒーロー)に助けを願うには。 彼女の魂は既に汚れ過ぎていたし、彼女自身にもその自覚があった。 だから、彼女はこう言うしかない。 「わか……った………わ……… でも、少し……時間を、ちょうだい」 「あぁ、放送までは傷を癒すがいい。 もう死んでる奴の首輪でやり過ごされてもウザいからな。 お前に働いてもらうのは死者の確認を行ってからだ。まずは偵察からだ。さぁ行け」 当初の予定通りシュライバーやメリュジーヌをけしかける選択肢は棄却する。 考えてみれば、二人はルサルカを殺してからゼオン達を襲うだろう事が予想されるから。 だから、今思いつく選択肢は二つ。 弱そうな対主催に怪我人のフリをして近づき、二人を殺して術を解かせるか。 それとも、強そうな対主催に救助を乞い、ゼオン達を打倒してもらうか。 このどちらかに命運を賭けるしかない。 近くに落ちていた刀を支えに、よろよろと立ち上がり命じられるままに歩き出す。 超人たる黒円卓の肉体だ。放送までの二時間程で戦闘可能なまでには回復するだろう。 だが、体には常に雷の痛みが第二の首輪の様に体を苛んでいる。 自力での呪文の解除はやはり困難と認識せざるを得ない。 だが、それでも。 「諦める……もんですか……この程度で………」 ルサルカの精神は未だ健在だった。絶望すらしていない。 絶対に、切り抜けて見せる。生き残って見せる。 クソガキ共を惨たらしく殺していない。 メリュジーヌを足元に跪かせていない。 ずっと追い求めていた、そしてやっと糸口を掴んだ願望の成就を成し遂げていない。 だから終わる訳にはいかない。それも、この程度の苦境で。 「───■■■■………」 苦痛に苛まれながら、うわ言の様にもう覚えていない誰かの名を呼ぶ。 彼女自身はその名が何なのか、最早認識できてはいないだろうが。それでも呼んだ。 掠れ、消えかけた所にブック・オブ・ジ・エンドの過去で塗りつぶされた愛しい記憶。 それでも、その名を追いかける事だけは諦めない。 だからこそ、かつて黒円卓の双璧たる副首領も彼女を選んだのだろう。 淀み、穢れ、大地に堕ちきってなお、星は星。 きっと命果てる時まで、その瞬きを消す事などできはしない。 ▽▲▽▲ 生まれたての小鹿の様な足取りで、ルサルカが歩いていく方向を眺めながら。 開口一番、ジャックが気にしたのは彼女の持っていた刀の事だった。 「よかったの?あの刀だけでも取り上げておかなくて」 ジャックから見ても、あの刀には妙な力を感じた。 ほぼ間違いなく、サーヴァントの宝具に匹敵する代物だ。 回収しておけば、きっと戦力となっただろうに。 そんな思いから口に出た問いかけだった。 ゼオンは彼女のそんな問いに対し首肯で応える。 「あぁ、あの刀はこのままこの女に使わせる」 ゼオンも、ルサルカの振るっていた刀がただならぬ一刀である事は承知していた。 彼女のランドセルから奪った説明書と、読心によって得た情報。 その二つと照らし合わせると、この刀は非常に強力な精神操作… 否、過去の改竄の効果がある事は分かっていた。 同時に、ゼオン自身はこの刀を使うつもりは無かった。 右天と言う道化が用いて居た、失意の庭と同じ厄物の気配を感じ取ったからだ。 恐らく、開示されていないリスクが存在する。迂闊に使うわけにはいかない。 何しろ結果的に精神に作用するのだ。精神汚染など受ければ深刻な影響を受けかねない。 女の能力は把握した。刀の間合いに入らず、このまま使わせ続けるのが最も適当な扱いだろう。 「不服そうだな、何か文句があるのか?」 「なんでもなーい……あのビリビリ、私たちに使わないでね」 「それはお前の働き次第だ」 本来であれば折角手に入れた戦利品だし、自分の物にしたくてジャックは不満げだった。 だから気安い態度を取っていたが、口答えはしない。 彼の機嫌を損なえば魔女を灼いた呪文が、自分に向けられることになるかもしれない。 そんなのは御免だ。 あっさりと引き下がり、話題を方向転換する。 「それで、これからどうするの?」 「今はあの雌猫が獲物を見つけるまで待ちだな。それまでは…腹ごしらえでも」 「ごはん!」 主の言葉を食い気味に、ジャックは声を上げた。 食い意地の張った奴だと思いながらも、彼女の前にゼオンは掌を水平に開く。 その手には、ある植物の種があった。 灰原哀から奪い取った支給品にあった、畑のレストランと言う名の種だ。 「何が喰いたい。この種を植えておけば、食いたい物が中に入った大根になるんだそうだ。 今から植えておけば、飯時には実ができると説明書には書いてあった」 「へぇー…!凄いね!じゃあじゃあ、ハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」 「いいだろう。じゃあこれを丁度いい場所に撒いてこい」 その命令にはーい!と元気よく返事をして、ジャックはシュタタタと駆けて行く。 王たるもの、飴と鞭だ。いずれ殺しあう事が約束された間柄ではある物の。 最初から指示に従う気のない雌猫と違って、ジャックはある程度重用してもよかった。 バルギルド・ザケルガを見せたのだ。叛意を挫く鞭としては十分だろう。 そしてこれが飴となるなら、安いモノだ。 (比較的従順ではあるが、奴も俺の首を狙っている事に変わりはない) ルサルカとジャックの相違点は、マーダーのスタンスを取っているかどうかでしかない。 懐いている風に見えても、彼女がついて来ているのは自分に利用価値があるからだ。 もし無くなれば、彼女は一切の呵責なく自分を切り捨てるだろう。 (もっとも、それは俺の方も同じだがな) ジャックを雷で脅さずそれなりに重用しているのは、彼女が優秀だからだ。 お荷物になったり、マーダー行為に消極的になればルサルカの様に使い潰すつもりでいる。 だから、彼女が此方の寝首を狙っているとしても、それはお互い様。 その時に至るまでは、これまで通り従順であるなら、雷で従わせたりはしない。 恐怖政治は手っ取り早いが、必要以上に反感を買う。 ジャック以上の手駒を見つけたりをしない限りは、今の同盟に近い関係を維持。 それが彼の決定だった。 「さて………」 ルサルカの身体にはゼオンの髪の毛で作った分身を取り付けてある。 これであの女の居場所は把握可能だ。簡単な命令なら下せるようにもプログラムした。 勝手に取り外せば、即座に最大の苦痛を与えられる事になるのはあの雌猫も分かるだろう。 後は、雌猫の斥候の成果を食事でもしながら待てばよい。 だが、その前にもう一つ。 「───お前はどうかな」 ヒュッ、と。風を斬って。 投擲された刀を、鮫肌で事も無げに弾く。 すると弾かれた刀はくるくると宙を舞って。 まるで示し合わせた様に、投擲した少年の手へと舞い戻った。 「真実(マジ)ィ?気づいてるとか思わなかったわ~!」 きゃっきゃっと道化の様な所作で。 いつの間にか、ゼオンの背後に少年が立っていた。 気づいたのは、ついさっきだ。 まずジャックが気づき、その時の表情の変化からゼオンも遅れて気づいた。 単独であっても気づいていただろうが、タイミングはもっと遅れただろう。 目の前の少年は一見ただの馬鹿のようであるが。 ただの馬鹿にそんな芸当ができる筈がない。 確信と共に、ゼオンは問いかけた。 「……それで、何の用だ?」 「ン~☆そんなんお前も勿論(モチ)で分かってんだろォ?」 ニっと欠けた歯を覗かせて。 顔中にガムテープを巻き付けた怪人。 殺しの王子様(プリンス・オブ・マーダー)は王として。 次の瞬間には自らを雷で灼きかねない修羅の雷帝に相対し、不敵に微笑んだ。 「ボクチン、オメーと友達(ダチ)になりたくてさァ。会いに来ちった☆ 先ずは今のマガジンに載ってる連載で好きなの教えてよ~ォ」 ぎらぎらと淀んだ輝きを放つその瞳は。 支給品など使うまでも無く、殺す側の存在である事を示していた。 【E-2 /1日目/午前】 【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】 [状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、ジャックと契約、魔力消費(小)、疲労(小) [装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!! [道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、ランダム支給品5~7(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品) [思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。 0:さて、こいつは使えるか… 1:ジャックを上手く使って殺しまわる。 2:雌猫(ルサルカ)で釣りをする。用済みになれば雷で精神崩壊させる。 3:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。 4:ジャックの反逆には注意しておく。 5:ふざけたものを見せやがって…… [備考] ※ファウード編直前より参戦です。 ※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。 ※ジャックと仮契約を結びました。 ※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。 ※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。 【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Grand Order】 [状態]魔力消費(小)、疲労(小) [装備]:なし [道具]:基本支給品、探偵バッジ×5@名探偵コナン、ランダム支給品1~2、マルフォイの心臓。 [思考・状況]基本方針:優勝して、おかーさんのお腹の中へ還る 1:お兄ちゃんと一緒に殺しまわる。 2:ん~まだおやつ食べたい…… 3:つり、上手く行くかなぁ? [備考] 現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。カルデア所属ではありません。 ゼオンと仮契約を結び魔力供給を受けています。 ※『暗黒霧都(ザ・ミスト)』の効果は認識阻害を除いた副次的ダメージは一般人の子供であっても軽い頭痛、吐き気、眩暈程度に制限されています。 【輝村照(ガムテ)@忍者と極道】 [状態]:全身にダメージ(中、腹部に大きなダメージ再生中)、疲労(中) [装備]:地獄の回数券(バイバイン適用)@忍者と極道、 破戒すべき全ての符@Fate/Grand Order、妖刀村正@名探偵コナン、 [道具]:基本支給品、魔力髄液×10@Fate/Grand Order、地獄の回数券@忍者と極道×2 [思考・状況]基本方針:皆殺し 0:さァて、生存(イキ)るか死滅(くたば)るか。 1:村正に慣れる。短刀(ドス)も探す。 2:ノリマキアナゴ(うずまきナルト)は最悪の病気にして殺す。 3:この島にある異能力について情報を集めたい。 4:シュライバーを殺す隙を見つける。 5:じゃあな、ヘンゼル。 [備考] 原作十二話以前より参戦です。 地獄の回数券は一回の服薬で三時間ほど効果があります。 悟空VSカオスのかめはめ波とアポロン、日番谷VSシュライバーの千年氷牢を遠目から目撃しました。 メリュジーヌとルサルカの交戦も遠目で目撃しました。 【ルサルカ・シュヴェーゲリン@Dies Irae】 [状態]:全身に鋭い痛み (中)、シュライバーに対する恐怖、キウルの話を聞いた動揺(中)、バルギルド・ザケルガのスリップダメージ(大)、メリュジーヌに対する妄執(大)、ブック・オブ・ジ・エンドによる記憶汚染 [装備]:血の伯爵夫人@Dies Irae、ブック・オブ・ジ・エンド@BLEACH [道具]:基本支給品、仙豆×1@ドラゴンボールZ [思考・状況]基本方針:今は様子見。 0:ゼオンの言葉に従い二人の参加者を殺す…又は誰かに助けを乞う。 1:シュライバーから逃げる。可能なら悟飯を利用し潰し合わせる。 2:ドラゴンボールに興味。悟飯の世界に居る、悟空やヤムチャといった強者は生還後も利用できるかも。 3:メリュジーヌは絶対に手に入れて、足元に跪かせる。叶わないなら殺す。 4:ガムテからも逃げる。 5:キウルの不死の化け物の話に嫌悪感。 6:俊國(無惨)が海馬コーポレーションを調べて生きて再会できたならラッキーね。 7:どんな方法でもわたしが願いを叶えて───。 [備考] ※少なくともマリィルート以外からの参戦です。 ※創造は一度の使用で、12時間使用不可。停止能力も一定以上の力で、ゴリ押されると突破されます。 形成は連発可能ですが物理攻撃でも、拷問器具は破壊可能となっています。 ※悟飯からセル編時点でのZ戦士の話を聞いています。 ※ルサルカの魔眼も制限されており、かなり曖昧にしか働きません。 ※情報交換の中で、シュライバーの事は一切話していません。 ※ブック・オブ・オブ・ジ・エンドの記憶干渉とルサルカ自身の自壊衝動の相互作用により、ブック・オブ・ジ・エンドを使った相手に対する記憶汚染と、強い執着が現れます。 ※ブック・オブ・ジ・エンドの効果はブック・オブ・ジ・エンドを手放せば、斬られた対象と同じく数分間で解除されます。 【さとりヘルメット@ドラえもん】 絶望王に支給。 頭に被れば三十メートル以内にいる人間の心の声を聞く事ができる。 ただし乃亜の調整を受けており、心を聞く事ができる対象は一人だけ。 また対象が三十メートル以上距離を取るか、使用開始から一定時間経過で使用不能となる。 一度使用すれば六時間は連続不能。 【畑のレストラン@ドラえもん】 右天に支給。 食料品生産系のひみつ道具で、地面に植えると桜島大根のような巨大な大根になり。 大根の中にはそれぞれの食べ物が最適な状態で完成している。 付属の栄養剤を使用すれば、一時間から二時間程で食べられるまで成長する。 また、大根自体も結構美味しい。 109 束の間の休息 投下順に読む 111 竜虎相討つ! 103 割り切れないのなら、括弧で括って俺を足せ 時系列順に読む 104 僕は真ん中 どっち向けばいい? 081 悪鬼羅刹も手を叩く ゼオン・ベル 114 死嵐注意報 ジャック・ザ・リッパー 089 その涙の理由を変える者 輝村照(ガムテ) 079 空と君のあいだには ルサルカ・シュヴェーゲリン 000 [[]]
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心のすべてを 心のすべてを (ハーレクインコミックス・キララ) オススメ度: #ref error :指定ページの閲覧権限がありません。ログインするか、別のページの画像ファイルを指定してください。3.5 藤田和子 著 アマンダ・ブラウニング 原作 ジャンル ロマンス 原題 Something From The Heart 2010年8月11日発行 ハーレクインコミックス・キララ CMK-090 ISBN 4-596-97090-9 備考 カテゴリ:ハーレクインコミックス・キララ/1-100 タグ: アマンダ・ブラウニング 藤田和子 評価3.5
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RED・MOON~2つ名狩りの魔女~ 第十九章:火竜狩り {初めに… この作品は東風の作品「MELTY KISS」の人狼側からの話です。 よって、その作品と世界観が同じはずですが、稀に違うところもあるかもしれません。その時は温かい目で見過ごしてください… ついにここまで来た~! ようやくサブタイトルにもある主人公が登場ですよ。 残す所、あと1章。 第十九章:火竜狩り 1 今宵、大勢の魔女が死んだ。大勢の人狼が死んだ。 だが、それは所詮、大して価値のない戦いの中で死んだ者達。 そう。 この二人の勝敗の前では、今夜死んでいった者達の命は無に等しいだろう。 なぜなら、この二人の戦いの結果が今夜の勝敗と言っても過言ではないのだから。 学校《アンナマリア》の名の由来となる魔女。学校の校長にして、炎を操る者達にとっては最強とも言われる存在。火竜の二つ名を持ちエンシャロムに住まう竜。 アンナマリア。 対するは、大神を心酔し、大神に忠誠を誓い、大神のために戦い、数多くの魔女や人狼。格上と言われえてきた者達を打倒してきた。二つ名狩りの異名を持つ魔女。大神への愛が彼女の支え。世界全てへの憎悪が彼女の力。憎炎の魔女。 シャシャ・ランディ。 アンナマリアは大魔女が大神より奪い取った核の守護者にして保持者。大神の力を持つと言っても過言ではない。そんな彼女が勝利すれば、核が大神に戻ることもなく、今夜の戦いでは魔女の勝利となるだろう。ただシャシャがアンナマリアを降すことがあれば、核は大神へ戻り、ついに大神は自身の力の復活に大いに近づく。大神が以前のような偉大なる力を取り戻すのは時間の問題となるのだ。 シャシャにとっては、圧倒的な格上との戦い。 同じ炎を使う者として不利な戦いである。 しかし、シャシャの目には不利など一切感じさせなかった。 ★ ☆ ★ どれほど戦っているだろうか…… 正直、シャシャにはわからなかった。そのようなことを考えているような暇がなかったのだ。大神の姿が無いことにも気づかなかったほどだ。おそらく大神は完全に高みの見物ということで、シャシャの気が散らぬよう別の場所から見ているのだろう。しかし目前のアンナマリアという魔女。確かに今まで戦ってきた者とは比べようがなかった。魔法の練度、スピード、破壊力。どれをとっても桁外れだ。認めたくはないが、シャシャが上回っている所は無いだろう。 「荒れ狂う嫌悪(ペルム・オディウム)!」 灼熱の炎のう渦がアンナマリアを襲う。だが、彼女は真っ赤に燃え上がっている自らの(すでにその髪を髪の毛と言っていいものであるのなら)長髪を払い除けると、手をかざす。 「火喰(ペルノティア)」 彼女の差し出される手に炎が飲み込まれていく。シャシャは舌打ちをする。すでに何度も見ている技だ。子供と戯れるかのように自分の技がこうも簡単に対処されるのは癪に障った。 「殺す。殺す殺す」 ブツブツと呟くシャシャ。ジワリジワリと彼女の憎悪や烈火の如き怒気が増すにつれ彼女の魔法は強くなっていく。 「あなたの魔法はまだまだ未熟なのですよ」 「うるさい! ババァ」 口うるさく罵りながら炎を放つも、アンナマリアの炎がそれを相殺する。 「身の程をわきまえなさい。 炎尾(フルガウラ)」 「甘き焦燥(ドゥリシス・クピディタス)」 アンナマリアの放った鋭い炎をシャシャの炎の壁が弾き返す。一瞬、炎により互いに姿が見えなくなった途端に、シャシャは走り出し炎を突き破ってアンナマリアの目前に踊り出る。 「お前が身の程を知れ。 咲き乱れる我が愛(ヴォシス・メイ・アモル)」 殴りかかる様に差し出された拳より炎が上がりアンナマリアを襲うが、彼女の炎の髪が彼女を守り同時にシャシャの炎を弾き飛ばす。 「炎痕(フラムマトリック)」 「火喰(ペルノティア)!」 アンナマリアより波打つように放たれた紅蓮の炎は、シャシャが差し出した掌に吸い込まれ消えていった。 「火竜の使う魔法って言っても、案外楽勝ね」 得意げな顔に見下した目つきでシャシャは言う。アンナマリアは少し驚いた顔を見せるが、彼女のその表情を見てすぐに消した。 「傲慢ですね。あなたはどこまでも傲慢。まったくもって虚栄心も甚だしい。確かに、あなたの才は認めなくてはなりません。天才。とでも言うのでしょうね。天賦の才能の持ち主です。数回しか見たことのない魔法を自分の技へと昇華させる適応力に、応用力。それも実戦で失敗を許されない場での使用。相手の虚を突くには申し分のない思いっきりの良さです。あなたを見ていれば、今までどのような戦いをしてきたのかが分かります。そして実戦でこそあなたは強くなってきたんでしょうね。そして、常にどうにかなってきた」 アンナマリアの目は憐れみと蔑むを混ぜ合わせたような微妙なものになった。 「それがあなたを傲慢にさせたのでしょうね。今回だって大神に任せておけばいいものを、あなたはあえて火に飛び込んできた。 あなたは獣だ。それも未熟で、幼い歯の生えたての獣。自身の力に酔いしれ、恐れを知らぬ幼子です。餌を見れば周囲などお構いなしに飛び掛かる。しかし、そろそろ覚える頃ではありませんか? 餌だと思って飛びついたそれは、実はあなたの方が餌になる物もあるということをね」 薄らと笑うアンナマリアにシャシャは吐き気を覚える。彼女の目つきは嫌いだ。話し方ももちろん嫌いだが、それ以上に彼女を見るその目つきがどうしても許せない。今まで殺してきた奴らと同じ目をしているのだ。シャシャは魔法により赤より変色をしているどす黒い瞳でアンナマリアを睨む付ける。メラメラと燃える赤ではなく、ドロドロと激情が融けきらず蠢いているようなその瞳で。 「私をそんな目で見るな! 私にそん目付きを向ける奴は許さない! 私はお前よりも強い。 私はお前を殺して火竜の二つ名を得る。 私は大魔女になる魔女なんだ! 私は……私こそがオリスの伴侶となるのに相応しい女だ! 誰にも文句は言わせない! 誰にも邪魔はさせない! 誰も彼も、どこもかしこも、どれもこれも全部、そう全てを焦土にしてやる。地獄の底など生ぬるい。 オリスや私を裏切った奴ら、罵った奴ら、蔑んだ奴ら、刃向う奴ら。憎い。憎い、憎い。私はもう何一つ貴様らになどくれてやるものか。これからは私が奪うんだ。全てを!」 シャシャの爆発する激情は彼女の周囲の炎に勢いをつける。まるで周囲は地獄絵図の如く。呼吸を吸うだけで肺が焼け落ちるような熱気に包まれている。 「消え失せろ。お前も、この学校も、全て! 陶酔の憎悪(ナルシズ・オディー)」 シャシャのかかげる手の上に炎が集まっていき巨大な火の玉が出来上がる。それは以前、ジャンバルキアの三姉妹と戦った時に見せた湖を消した技であった。 アンナマリアの表情からも笑みが消えた。 熱量が今までの技とは桁外れに違うのだ。彼女はアンナマリアをこの学校ごと消し飛ばす気でいたのだ。中にいる魔女はともかく、人狼達のことなどすでに眼中にない。彼らの命などは彼女にとっては燃えカスにも思っていない。大事なのは大神・オリスのみ。あとはおまけなのだ。いざとなれば平気で殺して見せるだろう。今のように。今まで共に暮らしてきた者達であっても、良心の呵責など彼女には無い。彼女の頭の中には大神の事しか無いのだから。オリスに「勝て」と言われたことしかないのだ。自分のために勝ってこいと言われ任されたことは何よりも大切なことだ。むろん自分の命よりも。 「歪んでいますよ。あなたの心は」 「歪んでる? 狂ってるって言って!」 舌打ちするように言うアンナマリアにシャシャは手を振り下ろす。巨大な火の玉は容赦なくアンナマリアを襲った。彼女は避けることなく正面より受けて立った。 「罪をも焼き尽くす炎王(ペクトラン・カェス・フレムペラート)」 アンナマリアより出る炎は一瞬、巨大な生物のような形を成したかに見えるとシャシャの火の玉と衝突した。 ぶつかり合った衝撃により、目が眩むような光に、蒸発してしまいそうな熱。耳が無くなったかと思うほどの音により自身の体が消滅したかのような錯覚に囚われる。見えず、聞こえず、感じない。自身が叫んでいるのか黙っているのか、立っているのか寝ているのか、目を開けているのか閉じているのかも分からない。シャシャは途方もない恐怖に襲われ意識が飛びそうになったが、渾身の力を込めて意識を集中させた。 自分はどうなっているのか? 相手はどうしているのか? 周囲は? 少しでも把握しようと全神経を集中させ、波を感じ取るためにアンテナを張る。できそうなことは全て行う。どんに細かなことだろうと試す。で、なければすぐに恐怖が彼女を飲み込もうとするからだ。冷静さを保つためには懸命に考え、まるで乳飲み子のように何もできず震えるこの状況を打破しなければならないのだ。 すると、彼女の行いが功を奏したのかはわからないが、次第に失っていた感覚が戻ってきた。 2 最初に見たのは満天の星空と満月。 そう、空が見えたのだ。彼女は仰向けに倒れていた。ゆっくりと仰向けのまま手足を動かす。問題ない。四肢は動いた。 彼女は起き上がり周囲を見てみると今までいた本校舎は跡形もなく消えていた。だが、本校舎だけではなくここら周辺を焦土へと変えるつもりだったシャシャの考えに反し、破壊されていたのは本校舎だけであった。残りの本校を囲むようにして立つの塔は建っていた。両側の《守護》《治癒》の塔は半壊程度はしていたが、奥の《加護》の塔だけは無傷であった。アンナマリアが意図して守ったとしか思えないが、守ろうとして守れるほどに余裕があるのは癪な話である。 シャシャは盛大に舌打ちしながら起き上がる。着ているワンピースは破れ襤褸のように彼女の体に纏わりついている状態だった。 立ち上がり周囲を見てみるがアンナマリアらしき影はない。満月に加え周囲の炎のおかげで暗いイメージは無い。むしろ夜の割には明るいとさえ感じる。正面のローライズ山脈、最高峰の山・エンシャロムの頂すら見える。 山間の風に吹かれ寒ささえ感じながらシャシャは警戒する。アンナマリアを打ち取ったとは思っていなかったのだ。彼女のとっては最高の魔法をアンナマリアの魔法が弾いた。被害がこの程度に済んだのはそのせいだろう。そんなことをやってのけるアンナマリアが、死ぬわけがない。シャシャの心の中ではそう言っているのだ。 しかし、先ほどの魔法でほとんど力を使ってしまった。あの魔法が彼女にとってのとっておきとも言えるのだが…… シャシャは決して暑さのせいではない額の汗を拭い、切れかけている息を整える。膝が笑いそうなのを抑え歩き出した。ここまでくると彼女の並みはずれた気力が彼女を支えていた。 「どこに目を付けているのですか?」 その声は頭上から聞こえてきた。 見上げればアンナマリアが宙に浮かんでいる。まるで重さをどこかに忘れてしまったかのようにフワフワと。 「私の家を壊してくれましたね。まったく。これだから不躾な方を家に招待するのは嫌だというのです」 「宙に浮かべ、攻撃が当たらないと思ってるわけ?」 アンナマリアの独り言のような言葉など無視し、牙を剥くように笑みを見せるシャシャ。そんな彼女にアンナマリアは冷ややかに一瞥すると、視線を空へ向け目を閉じる。 「あぁ、そうですか。すでに生徒達は外に……それはよかった」 「何をブツブツ言ってんだ! 狂おしき嫉妬(アイヴィー・インヴィディア)」 彼女の放った魔法はあっけなくアンナマリアに取り込まれ、逆に何倍もの炎となって彼女に降ってきた。 「恋しき虚栄(アマティス・インプセマ)」 シャシャは降りしきる炎を熱風と飛ばし弾き飛ばした。弾かれた炎は今までの炎とは少し違う。地面に落ちる炎は纏わりつくように、まるでネットリとした炎。炎の持つ熱も先ほどまでよりも高い。 「私がなぜ浮いているかを聞きましたね。簡単ですよ。ここからならばあなたがよく見えるでしょう? 今から使う魔法は、視界が悪くなるのでね。 湧き上がる大地の怒り(アヴァンドゥ・エザフォ・スィモズ)」 途端にシャシャの足元の地面より炎が湧きあがり高々と火柱が起こる。彼女が避けることができたのは、ガルボとの試練で血反吐を吐きながら訓練した波の感知のおかげであった。目では到底、その火柱を避けることはできない。確認した時にはすでに火達磨になっているだろう。 「よく避けましたね。誇っていいですよ。 では……生徒達もどうやら避難が済んだようですし、家も無くなってしまいましたからね。もう加減する必要もないでしょう」 そう言うとアンナマリアは次々と火柱を上げる。シャシャの視界はほとんど炎で覆われる。縺れる足で何とか回避していくシャシャ。 地鳴りと共に湧き上がる炎が容赦なく彼女の手を焼き、足を焼き、髪を焼き、肌を焼いていく。シャシャも同じような魔法を持っているが、それとは桁外れの炎である。シャシャは僅かな波の変化を感じ取り地面を蹴ると、そこから炎が上がる。 彼女は両手を別々の火柱に突っ込む。自身の血肉が焦げる匂いを感じ、焼ける痛みが脳天を突く。 「火喰(ペルノティア)! んで、 陶酔の憎悪(ナルシズ・オディー)!」 言葉通りに身を削りながら炎を吸収したシャシャは、そのまま吸収した炎を集め火の玉を築き投げつける。 いきなりの反撃に、それも想像以上に強力な魔法にアンナマリアの顔にも焦りが見えた。彼女は初めて一喝を入れて、両手で押さえつけながら軌道を逸らす。 シャシャの火の玉は無傷であった《アンナマリア》の《加護》の塔を消し、そのままエンシャロムの山肌を縫って上空へ飛び去り大爆発を起こした。 一瞬、昼間のように明るくなり遅れてくる爆風が周囲の炎を消していく。 もはや立っているのも限界といった感じに肩で息をするシャシャは、痛々しく火傷をした両手をダラリと下げながら立っている。だが、アンナマリアを見るその目はまだ怨嗟と憎悪の昏い冥い炎を燃やし続ける。いや、さらに勢いを増していた。アンナマリアと戦えば戦うほどに、油を注ぐが如く火の勢いは増す。 同じく両手を火傷したアンナマリアは、信じられないものを見るかのようにシャシャを見ている。すでに何度死んでいてもおかしくない敵、すでに力を枯渇していてもおかしくない敵がまだ立ち向かってくるのだ。認識を改めなければならない。目前のシャシャ・ランディはただの魔女ではない。大神への病的な愛と使命感が彼女に不可能と言えることを可能にしている。まったく根拠も信憑性もないことだが、アンナマリアは認めざる得ない。でなければ目前の状況を説明できない。 この魔女は危険だ。 未だ諦めを知らぬシャシャの笑み。緩く吊り上げられた口より獣の如く涎が垂れながらも狂気の目をランランと輝かせてアンナマリアを見上げる笑みを見ながら、彼女は今日初めて人間らしい寒気をその背に感じた。 「どうすれば、そのような笑みが出るのです? どうすればそこまで狂えるんです? どうすればそこまでの憎悪を身に宿せるのです? いいでしょう。ならばこの私がその笑みごと、その狂気ごと、その憎悪ごとあなたを灰に変えて差し上げる。この火竜の名によりてね」 彼女は高々と手を上げると大地が激しく揺れ、大地は悲鳴を上げるかのように轟音を鳴らす。それはしばらく続き、何物も立っていることを許さない揺れにまでなっていた。 永遠に揺れ続けるのではないかと思うほどに勢いを増していた地震、そして地鳴りだが、そしてそれは急に止んだ。今までの揺れなど無かったかのように、音など無いかのように、揺れは止まり静寂に包まれる。逆に静けさが耳に痛いと感じるほどに。 「星喰(アヴィステラ)」 呟くようにアンナマリアが口にした瞬間だった。彼女の背にするエンシャロムが爆発した。噴火である。エンシャロムの頂より上がる巨大な火柱は世界を飲み込まんとするかのように大空を埋め尽くす。赤々と世界中を照らしたその溶岩、炎は形を成し、一匹の生き物のような姿に。それは一見すればトカゲのような顔に手足。しかしそれは六つの瞳に四枚の羽根を持ち、それを広げれば羽根が視界を埋め尽くす。空想上の竜というよりも、本当にトカゲに羽根の生えたのがイメージに合う。あの巨大なエンシャロムが、子供の作る砂山のように見えた。 それが首を振る仕草を見せれば、無数の溶岩の塊が大地に降り注ぎ焼き尽くす。それが一度口を開き声を出せば、向けられた方向の空は赤々と照らされた。 あまりの光景に、シャシャは開いた口が塞がらなかった。目の前の幻想的かつ圧倒的な火の塊に感動すら覚えてしまった。 これがアンナマリアである。エンシャロムの覇者と言われた魔女の実力。噂通りの、否、噂以上の化け物である。炎の怪物もその名に恥じぬほどの迫力。神話時代より以前に我が物顔で世界を闊歩した怪獣。まさしく星すら飲み込んでしまいそうな規格外のデカさであった。 その火の怪獣がシャシャを見ると、大口を開け啼く。すると、その口より発せられた声が炎となって一帯を舐める。世界全てを焼き尽くすかのような業火にシャシャは飲み込まれるも自らの炎で身を守る。怪獣の炎はシャシャの炎に比べて色鮮やかで澄んでいる。まるで聖なる炎とでも言うかのようなそんな色だった。 シャシャの憎悪に塗れたどす黒い炎が怪獣の炎を押し返す。すると怪獣は前足の爪で地面を抉るように突き立てる。と、シャシャの足元、否その一帯全ての地面よりマグマのような火柱が上がった。 逃げようがなかった。どこへ逃げても攻撃の範囲内なのだから。浄化の炎により姿が見えなくなったシャシャの方を満足げに見るアンナマリア。彼女の顔より笑みがこぼれた。 その時である。地の底より響き渡るような雄叫びと共にその火柱を強引に引き裂いてシャシャが飛び出してきた。吹き上げられた炎を利用し、上空にいたアンナマリアと同じ視線まで来たのだ。 「咲き乱れる我が愛(ヴォシス・メイ・アモル)」 アンナマリアに突き出される拳より発せられる炎。しかし、それが届く前にアンナマリアの怪獣を尾がシャシャを叩き落とす。 尾による衝撃も、地面に衝突する衝撃も彼女は無意識のレベルで魔法を放ち緩和したのだろう。シャシャにはまだ息があった。ただ、それでも満身創痍。全身より痛々しく煙が上がり、火傷を負い、意識も朦朧。呼吸も弱弱しく体のあちこちが小刻みに痙攣を起こしていた。 「執念とはかくも恐ろしい」 アンナマリアは彼女の行動にゾッとしながらも冷たく言った。しかし、ここまで粘ったシャシャですら、すでに風前の灯火。息も絶え絶えで動くことすらできずに横たわっている。 それでもアンナマリアは油断しなかった。まるで格上と戦っているかのように慎重に、不用意に近づくことはしない。彼女の怪獣は喉を鳴らし、シャシャに止めとなる炎を吐き出した。全てを飲み込む近くの熱気ですら人を灰にできる業火。 シャシャの視界にぼんやりと迫りくる炎が見えた。 この時シャシャは自分の負けを思い知る。苦痛はすでに無い。恐怖も無い。ただ彼女にあるのは敗北の悔しさ。自分の力に対する落胆。敗北を許す自分に対する憎悪であった。 こんな所で負けるわけがない。あんな、女に負けるわけがない。 そんな思いが彼女の中に黒く渦を巻きはじめる。 アンナマリアが憎い。アンナマリアの怪獣が憎い。アンナマリアに勝てない自分が憎い。爬虫類の出来損ないのような怪獣に負けることが憎い。 憎い憎い憎い――…… 男も女も、子供も老人も、魔女も人狼も、犬も猫も、虫も花も、この世界の全てが憎たらしい。同じ場に立ち存在していることが赦せない。塗り潰せ。自身の中も外も、全てを塗り潰してしまえ。自身の怨嗟と憎悪に冥い世界にしてしまえ。 こんな壊れた世界は黒い炎で埋め尽くしてやる…… 一瞬、シャシャの体が激しく痙攣したかと思うと、シャシャは体を持ち上げ唸り声を上げる。握られた拳からは黒い血が出ていた。彼女は嘔吐する。胃の中には何もないので胃液と自身の血液を枯れるまで吐き出す。 その頃には、彼女の闇のような冥い瞳は完全に正気を失い、闇が涙のタールとなって溢れるかのように彼女は黒い涙を流す。 「この私が負けるなど、この私が赦さん!」 すでに言葉になっているかすら怪しい金切り声を上げた瞬間。シャシャの全身から黒い炎が吹き上がった。今までのような炎ではない。もっと粘りがあり、色も黒々して、まるで炎ではないかのような。邪悪な炎。それを飲み込むようにアンナマリアの怪獣の炎が襲いかかったが、変化が現れるのはすぐのこと。 美しい真紅の炎はみるみる間に黒く変色し、最後には真っ黒になり消えていく。黒い炎がアンナマリアの炎を喰らった。 シャシャより出る炎は止めどなく溢れ、世界を赤く染めた怪獣の光を暗い炎で覆い尽くさんばかりに肥大していた。 「なんということ……」 アンナマリアは血の気が引いていくのを感じながら呻いた。シャシャの炎は今までに見たことがない。他の炎を喰らい尽くす炎。墨をぶちまけたような色の炎は何とも禍々しく、気色の悪い瘴気を放つ。 「今まで、多くの魔法を見てきました。どんなに奇抜な魔法も、どれほど危険な禁忌にも目を通りてきたつもりですが、このような炎を見るのは初めてです。何と、禍々しく、なんておぞましい。これが……これは人が出せる炎ですか? 一体どのようになれば、こんな物を世に出せるのです? 魔女と戦うのならば、相手になりましょう。人狼とも、相手になりましょう。例え神であっても負けるつもりはありません。ですが、相手が未知の悪魔となれば話は別です」 初めてアンナマリアが弱音を吐いた。 シャシャの黒い炎は触れた物を構わず飲み込み燃やしていった。 「燃えろ燃えろ燃えろ。全て燃えろ」 すでにどこまで認識しているのか不明なほどに、シャシャ自身が黒い炎に塗れている。黒い涙を流し嬉々として飛び回る様に笑い、叫ぶ。 「そう、話は別です。が、私はあなたを殺しましょう。いえ、ここであなたは死ななければならない。あなたをここより生きて返せば、世界に大いなる災いをもたらす存在となるから」 シャシャはアンナマリアの言葉に気が狂ったかのように笑いだす。 「火竜ぅぅぅ……今日からは私が名乗る。星喰よぅ。その名の通りか試してやるぅぅ。この私の世界を喰らい尽くしてみろぅ」 アンナマリアにはすでにシャシャが人には見えなかった。 「塵も残ることは許しません。私の全力であなたを殺します」 アンナマリアの声と共に怪獣がシャシャに襲いかかる。それを見て彼女は喜んだ。 「キィウィィ……私の憎悪の深さに恐怖しろ。 熱き淫らなこの世界(カルベルス・マルデ・オリス)」 シャシャの魔法で今まで散々と散っていた黒い炎たちが一カ所に集まり始め巨大な塊となる。それは決してアンナマリアの怪獣に引けを取ることはない大きさだ。その姿やまさに…… 「大神……」 アンナマリアの口から洩れた。 その黒い炎は一匹の牙剥く獣の姿となる。黒い体に赤い瞳の大きな獣。彼女が心酔してやまぬ。心焦がれてやまぬ存在。大神・オリス。彼女にとっては世界とはオリスただ一人なのだ。 もはやシャシャに人の言葉を発する理性など残ってはいなかった。声にならない雄叫びと共に、巨大な黒い炎はアンナマリアの怪獣とぶつかり合い、牙を剥き合い、引き裂き合い、燃やし合う。 その光景は遥か彼方、グレーランドを越えた地点。別々の場所に避難した《アンナマリア》の魔女達にも、オリスによって避難した人狼達からも見ることができた。彼らは何が起こるにしろ、自分達が歴史に残るであろう戦いを見ているのだと悟った。決して話しても信じてはもらえぬ壮絶な戦いの生き証人なのだと。 そして人狼達は歓喜し、魔女達は嘆いた。 黒き獣が赤き怪獣を押し返し燃やし尽くしていく。徐々に徐々に。 誰もが(信じられないことだが)、誰もが確信したのだ。 あの火竜が落ちた。 あのアンナマリアが二つ名狩りの魔女に殺されたのだと。 ★ ☆ ★ シャシャの獣がアンナマリアの怪獣を飲み込んでいく中、シャシャの腕がアンナマリアの胸部を抉っていた。 息が詰まるアンナマリアの顔に顔を近づけるシャシャの笑みは邪悪そのものである。そのまま引き抜こうとするとアンナマリアがそれを掴み遮る。 「あなはこれが大神の手に戻った時の危険性を理解していない!」 「知るかよ。死ねよ」 無情に言い放つシャシャは一気に引き抜く。アンナマリアの中より出てくる大神の核。それに伴い、アンナマリアは燃えそのまま消えていった。 この戦いはシャシャの勝利となった。 歓喜に震えるシャシャだったが、大神の核が輝き始めシャシャに力を送り込み始めた。それはドンドンドンドン増えていき、彼女が抑えきれなくなるほどに。 「や、やめて! いらない」 次から次へと流れ込む莫大なエネルギーに彼女の黒い憎悪の炎を抑えがきかなくなった。シャシャの体から堰を切ったかのようにさらに溢れ出す。嗚咽しながら嘔吐すれば、口からタールのような黒い液体が出てきてそれが炎になる。止めどなく口から溢れはじめる。 まさに彼女は自身の憎悪の炎で焼かれて死にかけていた。 そんな時、黒い炎が裂けた。 「我が核よ。心臓よ。主が戻った。我が元に来い」 重い声が聞こえてきた。シャシャはその声が聞こえただけで安心し、プツリと意識を無くし倒れる。その間も垂れ流される炎を気にすることなく歩み寄るのは、黒い毛並に赤い瞳の大狼である。 シャシャの手にあった核はブルブル震えはじめると、オリスの元へ飛んできて彼の体の中に納まる。 そして彼の中で鼓動を打ち始めたのだ。 「あぁ、まさに生き返った気分だ」 愛おしそうに自身の中より響く鼓動に耳を傾けながらオリスは呟くと、倒れ炎に塗れるシャシャに息を吹きかける。すると嘘のように黒い炎が消えていく。 「よくやってくれたな。シャシャ。愛しい子よ。よくやったぞ」 オリスが再度、彼女に息を吹きかけると彼女の全身に受けた傷が癒え消えていく。気付けば白い肌の生娘がそこに眠っているようにしか見えなかった。 「ゆっくりと休むがいい。これだけのことをやってのけたのだ。さぞかし、疲れただろう」 沈みゆき満月を見ながら、オリスはシャシャを担いで呟く。 彼の視線の先、そこにはエンシャロムと呼ばれる山があった。しかし、その山は姿形のない空想の産物のように消えていた。根こそぎ山は抉り取られていた。 シャシャの黒い炎は大陸最高峰と言われたエンシャロムすら食らい尽くしたのだ。 オリスはその光景に微かに笑いながら、踵を返すと消えていった。
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autolink NK/W30-015 カード名:心の変化 誠士郎 カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1000 ソウル:1 特徴:《武器》? 【永】 あなたのターン中、他のあなたのキャラすべてに、パワーを+500。 【自】[①] あなたのクライマックス置場に「かみかざり」が置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは他の自分のキャラを1枚選び、そのターン中、パワーを+4000。 ……いえ、『奴』には何も変化はありません…… レアリティ:C 14/08/12 今日のカード ・対応クライマックス カード名 トリガー かみかざり 1・炎
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第09回トーナメント:決勝② No.6410 【スタンド名】 ダーティ・ロットン・バスターズ 【本体】 ハシム・バラミール 【能力】 物体に同化し、自壊する オリスタ図鑑 No.6410 No.6425 【スタンド名】 アストロブライト 【本体】 西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ) 【能力】 描かれた星座からイメージを具現化する オリスタ図鑑 No.6425 ダーティ・ロットン・バスターズ vs アストロブライト 【STAGE:閉店した百貨店】◆4AA1FCGO3Q 閉店した百貨店4Fの家具売り場。 指定開始時刻よりかなり前に来た星司郎は、いつものように『せいざのほん』を眺めながらソファに腰掛けていた。 やがてこっちに近づく足音に気づいて顔を上げる。 (……まだ指定時刻までには……数分あるが……対戦相手が来たか?) 通路に姿を表したのは、この季節にファー付きのジャケットを羽織った外国人らしい男。 「……自分は『西獅子 星司郎』、あんたが対戦相手の……」 「『ハシム・バラミール』デース!サスガ日本人!ほんとに集合時間より早く来てルンデスネー!」 星司郎の自己紹介を遮るように、笑顔でハシムは右手を差し出す。 仕方なく立ち上がり『せいざのほん』を広げたままソファーの上に置いて握手する星司郎。 と、その『せいざのほん』へとハシムが目を向ける。 「ン~……『せいざのほん』?……ア!ワタシこの星座知ってマスよ!」 と言って、背表紙を指さす。 その先には、星空に重ねるように描かれた、棍棒を構える勇士の絵。 「『Orion』……『オライオン』……デスネ」 「ああ……日本では『オリオン』と発音するのが普通だが」 「Oh...『オリオン』、そうそう!『ポセイドン』の息子にしてテンカムソーの狩人!!」 「……良く知ってるんだな」 意外そうにハシムを眺める星司郎。 それを気にせずベラベラと続けるハシム。 「狩猟と月の女神、ついでに純潔の女神で男嫌いのハズの『アルテミス』が、ドーいう訳か惚れたのがこの『オリオン』」 「イヤ、最高の狩人である彼と、狩猟の女神『アルテミス』が惹かれ合うのも当然デスカネ~?」 と、意味ありげな顔をして星司郎の顔を見る。 「ドッコイ、『アルテミス』にはビョーキレベルでシスコンの『アポロン』という兄がイタ!」 「その嫉妬したシスコン兄貴の策略で殺されてしまったんデスよね~、Oh...そして星になった『オリオン』カワイソウ……」 「いくらシスコンとはいえ、『アポロン』酷い兄デスネー。そう思いマセン?」 「…………詳しいんだな……まぁ……その話も『という説もある』……ってやつだが」 「Oh...失礼シマシタ!セーシロ―サンならモチロンご存知!シャカにセッポ―ってヤツでしたネ!HAHAHA!」 「他の話もあるんデスネ!シスコン兄貴に妹が苦しめられる話ヨリ、もっと幸せな話の方がワタシも嬉しいデ―ス!」 「…………」 何か言おうと口を開くが、咄嗟に言葉が出ない星司郎。そこへ 「おそくなってごめんなさい!」 場に似つかわしくない、幼い少女の声。 「ン?」 「え?」 同時に怪訝な顔で声の方へ振り返る星司郎とハシム。 そこにいたのは、年の頃なら10歳前後、眉の高さに切り揃えられた黒い髪、白いフリルの襟周りが着いた黒いワンピース。 やはり全くこの場に似つかわしくない、くりっとした目の愛らしい少女が息を切らせて立っていた。 (この子は……?……って言うか、ピアノの発表会みたいな格好だな……) と、思ったのは星司郎。 (Oh...格好は欧風だけど、ニホンニンギョー・ドールみたいな女の子ネ) と、外国人向け土産物屋で見た日本人形を思い出したのはハシム。 「あれぇ?……まだ1分以上あった!」 息を切らせながらも、細い腕に巻かれた腕時計を見て、その少女が再び声を上げる。 「もう2人ともいるから、ちこくしたかと思っちゃった!」 と言って、恥ずかしそうに星司郎とハシムを見渡し……怪訝な顔で自分を見る2人に気づいたのか 「あ!ごあいさつがおくれました!こんばんは!わたし、このしあいの立会人です!」 「なっ!?……君が?」 「Oh...Jesus...アナタみたいなコドモが?」 同時に驚く2人。 「そうです!わたしが立会人!じゃなきゃここまで来れないよ!」 何故か得意げな表情の少女。 (おいおい……どうなってるんだこの『トーナメント』は……) (ゴモットモ……HAHAHA) ものすごく微妙な表情になる星司郎とハシム。 そんな2人をよそにポケットからメモのような物を取り出し、それを広げて読みあげる少女。 「えーと……そっちのお兄さんが『ニシシシセーシロ―』さん、だよね!……えーと、スタンド名は『アストロブライト』」 「……えっ」 「えーと……かかれたせいざから、そのせいざのイメージをぐげんか?する能力??」 「おい!」 「あっ!読んじゃだめな所も読んじゃった!」 てへっ、とばかりに舌を出す少女。そして困った顔になる。 苦笑いを浮かべつつも、ヒュウ!と口笛を吹いたのはハシム。 「え、えーーーーーーと……じゃあ、そっちの外人のおじさん『ハシムバラミール』さん……も、ちょっと読むから!」 「ぐんたい?の蚊のようなスタンド。物体と……どうか?して爆発する……ここまで!」 「これで不公平じゃないよね!」 また何故だか得意げな表情をする少女。 やれやれ、と言った具合に顔を見合わせる星司郎とハシム。 「で、えーと……」 またメモを読み始める。 「あ!あった!えーと『23 00をもってバトルかいし。どちらかの戦闘ふのう・降伏をもってけっちゃくとする』!」 「ということで23 00になったらはじめてくださいね」 再び少女は腕時計を見る。 「あ!あと14秒!2人ともよういしてください!」 「お、おい!あと14秒って君!」 「Oh!イキナリ!?」 突然の宣告に慌てる星司郎とハシムにお構いなく、少女はカウントダウンを始める。 「あと10秒……あと8秒……5、4、3、2、1、はじめーーーーーー!」 叫ぶやいなや、ぴょん、と飛んでソファの後ろに隠れ、少女の姿は見えなくなった。 「…………まいったな」 「ヤレヤレ……マ、そういうコトらしいので『試合』を始めマショウ」 そう言うと、薄笑いを浮かべつつハシムが数歩、後ろに下がった。 (!……しまった!) 『せいざのほん』は先程のまま、背表紙の『オリオン』の絵を向けてソファーの上にある。 (あの子のせいで、少し自分の『能力』がこの男にバレてしまっているぞ) (『せいざのほん』を手元に持っておきたい……距離は自分の方が近いが……その挙動をこの男は見逃してくれるだろうか) (あの男の『能力』……群体の『蚊』スタンドが爆発する?とか言っていたが……) チラチラと『せいざのほん』を見ながら逡巡する星司郎にハシムが声を掛ける。 「ン~~~、セーシロ―サン。その本が気になりマスか?」 「アナタの『能力』……『描かれた星座からイメージを具現化する』って言ってマシタが……その本が必要なんデスか?」 「………」 「マ、とりあえず念の為、マズその本を爆破しマース。私の『能力』ご覧くだサーイ!」 そう言ってハシムがニヤリとした瞬間、彼の回りに渦巻くような蚊柱が現れた。 (これは……っ!) 「行けッ!『ダーティ・ロットン・バスターズ!』」 『蚊』が一斉に『せいざのほん』の置かれたソファーに襲いかかる。 「マズいッ!『アストロブライト』ッッ!」 星司郎もスタンドヴィジョンを発現させつつ、ソファーへと走る。 己は本へと一直線、『アストロブライト』は側のベッドから毛布を掴みとりハシムの方に投げつけた。 「ヌッ!」 バッと広がった毛布がめくらましになった一瞬、星司郎は本を掴み、そのまま転がって隣のタンスの裏に隠れる。 (ハァ……ハァ……、とりあえずこいつを……) 『せいざのほん』を軽くタップし何事か呟くと、そこにあった『星座の絵』から人型のイメージが浮かび上がった。 と、ハシムの声がする。 「セーシロ―サンやりマスネ!本取られてしまいマシタ!HAHAHA!」 「アナタも、アナタのスタンドも素早いデース」 「……」 「デ、『イメージの具現化』はしたんデスか?」 「……」 ヒタヒタとハシムが近づいてくる足音が聞こえる。 「ン~~~、カクレンボ?」 足音が止まる。 「そのタンスの裏に隠れているようデスが……次はそのタンスを爆破しようと思いマース」 「っ!」 (!!やられるッ!) ハシムの言葉に星司郎の反応は素早かった。 全身の力を込めてハシムの声がした方向へタンスを押し倒し、同時に『アストロブライト』を構えさせる。 「オット……アブナイ」 その行動を読んでいたかのように最小限の動きで、倒れてくるタンスを躱すハシム。 そこへ『アストロブライト』が殴りかかろうとするが、 「オットット」 射程の外へと飛び退いた。 「アナタのスタンド素早いデスが、射程短いデスネ」 「さっきアナタ本を取ろうとした時、射程があればスタンド使って取ってマス」 「そうしなかったのは、極端に短い射程……『近距離型』スタンドって事デスよネ」 (く……バレバレだな……) 冷や汗を浮かべる星司郎に対し、薄笑いを浮かべるハシム。 圧倒的キャリア差から来る自信 ― もっとも、だからと言って油断する男ではないが。 「そして、アナタも馬鹿じゃナイ……ここまでは躱されるの予想してたデショ?」 「つまり『次』の攻撃が本命……」 と言って、ハシムが視線を横にずらす。 そこには『アストロブライト』の能力によって具現化された『棍棒を構えた勇士』― 今まさにハシムに殴りかかろうとしていた。 「ン~~『オライオン』……いや『オリオン』デスか?しかしスデにッ!『ダーティ・ロットン・バスターズ』ッ!」 瞬時に蚊柱が『勇士』の足元から包み込むように立ち上り、そして ― 鈍い破裂音が続けざまに響き ― 『勇士』は粉々になって消滅した。 「……」 「ト……言う訳デ、スデに備えていたんデスよ。アナタとワタシじゃ経験が違い過ぎマース」 フン、と鼻を鳴らしながら、姿を現した星司郎に話掛けるハシム。 「『オリオン』は爆発して消滅シマシタ。この距離デスが、まだ『具現化』シマスカ?」 「モットモこのまま戦えば、次に爆発するのはセーシロウサン、アナタね」 「Oh...チビっているの解りマース!変なプライドいりまセーン!命あってのモノダネ!いいデスか?」 「……『降伏』してクダサイ。ワタシ血生臭いの苦手デース……HAHA」 ゴクリ、と星司郎には自分が唾を飲み込む音が聞こえた。 この男と自分では戦闘のキャリアが違い過ぎる。 そして直感だが……この男は必要ならば『殺し』も躊躇しないだろう。 (……しかし、陽沙君との約束もある……簡単にあきらめる訳にも、な……) (それに……まだッ!) 「まいったよ……あんた、本当に何もかもお見通しだ」 「ン~……『降伏』デスカ?」 「……でも、あんた幾つか勘違いをしてる。まず……自分はまだ『降伏』しない」 「ホゥ……じゃぁ仕方ありまセン……『ダーティ』……」 「そして、さっきあんたが爆破したのは『オリオン』じゃない」 「ン?」 「名前で言うなら『ポルックス』」 「??」 「星座で言うなら『Gemini(ふたご座)』の弟の方だ……そしてッ!」 と、言うと同時に『アストロブライト』が倒れたタンスをハシムの方に蹴飛ばした。 反射的にそれを避けたハシム目掛けてどこからか矢が飛んでくる。 これまた反射的に急所を避けたが、矢は肩口に突き刺さった。 「グ……ッ!何ダ!?」 矢の飛んできた方を見れば、先ほどの『勇士』とよく似た顔をした人物が矢をつがえている。 星司郎はハシムから離れるように後方に飛び退きつつ、 「あんたを狙ってるのは兄貴の方……『カストル』だ!馬術の名手って事だが、星座絵だと大抵矢を持っててな!」 クローゼットの裏へと逃げ込んだ。 矢を突き立てたままハシムも、『カストル』の攻撃を避ける為に近くにあった食器棚の影に身を隠す。 一瞬の静寂。 声をあげたのはハシムだった。 「ナルホド……痛テテ……油断、イヤ見事に勘違いシマシタ……セーシロ―サンお見事デス……」 「しかし……ワタシ言いました…ッ……このまま戦えば、次爆発するのはアナタと」 (…………) 身を隠したまま、黙ってそれを聞く星司郎。 「ツゥ……ワタシが甘かった……『降伏』など求めずに……スグ『始末』するべきデシタ」 「イツモの抗争であれば、そうしてマシタ……この戦いも『試合』だと思って舐めてマシタ……」 「この『試合』も『命の奪い合い』……そうデスネ?」 (……おい……なにもそこまで……あの立会人の子だって『戦闘不能』か『降伏』が決着だと言って……) 「……アナタ、立会人の子に聞いてますヨネ?ワタシの『能力』……『同化して爆発する』」 「最初、蚊柱を見せたのは、タダのフェイク……その前から、少しづつ『同化』させておけばいいんデス」 「アナタが手に取る前に、スデに十分『同化』は完了してたんデスよ……HAHA」 (手に取る前に?……!……まさか!) 『それ』に気づいた星司郎の背筋に冷たいものが走る。 「『せいざのほん』まだ持ってマスネ?Goodbyeセーシロ―……『ダーティ・ロットン・バスターズ』!」 ハシムが己のスタンドの名前を叫んだ瞬間、『せいざのほん』を入れていた星司郎の胸元が爆ぜた。 「ぐああああああああッ!」 瞬間、『アストロブライト』で『せいざのほん』を抱きかかえ、本体が直接爆発のダメージを受けるのは回避した。 ……が、本体への直撃を回避しても、スタンドヴィジョンで爆発のダメージを全て引き受ける形になってしまった。 『アストロブライト』のヴィジョンは半壊状態。そして、当然の様に本体の肉体にも ― 強烈なダメージ・フィードバック……両腕の筋肉はボロボロに傷ついている。 胸部も同様、アバラの数本くらい折れているかもしれない。 そして腕も胸も皮膚は裂け、血が滴り落ちている。 「がっ……ぐううっ……!」 たまらず崩れ落ちる。 『カストル』の矢を受けた肩を抑えながら姿を現したハシムが、その傷だらけの星司郎を見下ろしていた。 「『描かれた星座から、そのイメージを具現化する能力』……元の絵がなくなれば、イメージも消えるようデスネ」 『せいざのほん』が爆散した瞬間、『Gemini(ふたご座)』の『カストル』が消えた事にハシムは気づいていた。 「それにしても……サスガ素早いスタンド。直撃は防ぎマシタか……しかし……」 「本も失い、スタンドもアナタもボロボロ……でも、モウ『降伏』しなくて結構デス」 ゆっくりと、雲のようにハシムの回りに『蚊』が集まり始める。 「くぅ……っっっ」 なんとか傷だらけの痛む体を起こし、ボロボロの『アストロブライト』を構えさせようとするが……ダメージが大きすぎるのだ。 (っ……だめだ……体もスタンドも動かない) 「フ~~~~~~……最後まで諦めナイ……立派デスが」 なんとか抵抗を試みようとする星司郎を見て、大きくため息をつくハシム。 「そのボロボロのスタンドで、そのボロボロの体で……この雲のような『蚊』の群れをどうやって躱しマスカ?」 「セーシロ―……今度こそサヨナラデス……『ダーティ・ロットン・バスターズ』……」 一斉に自分へと向かい始めた蚊を見ながら、星司郎は考える (体もスタンドも動ごかすことが出来ない……『せいざのほん』も失われてしまった) (……また、自分の流した血の点を使ってでも、『何か』を『具現化』するか?) (この距離で……『りゅう』や『うみへび』を呼び出したところで、間に合うのだろうか?) (間に合わないだろうな……あの『蚊』の群れはコンマ数秒後には自分に到達する……) (『レティクル』で絡めとるか?『エリダヌス』川に流すか?) (だめだな……どれも強引に『蚊』を突っ込まれて終わりだ) (一瞬で……瞬間的にあの男を無力化出来なければ…………そんな便利なもの……) ・ ・ ・ ・ (……ある!) 1秒にも満たない時間の中での逡巡と閃き。 「くうッッ!」 血だらけになった手を振ると、床の上が血の滴でパッと染まる。 (これだけの血飛沫!どこかつながるはずだ!探せッ!!!) 必死で目を凝らして床の上に『星』を探す。 突然の星司郎の奇妙な行動。 しかしハシムは動じない。 (ナルホド……血で描かれたモノからデモ、星座を『具現化』出来るんデスかネ……しかし遅いッ!) 星司郎の行動から『アストロブライト』の能力を推測しつつ、冷静に判断する。 (この距離ッ!全方位からの『蚊』の群れッ!何を『具現化』しようと捌き切れないッ!) 「突っ込めッ『ダーティ・ロットン・バスターズ』ッ!」 『蚊』の羽音が更にそのトーンを強めたその瞬間、星司郎が呟いた。 「間に合ったようだ……見つかったよ……『アストロブライト―――Perseus(ペルセウス座)』……」 たちまち床が輝き、逞しい肉体をした戦士が現れる。 勇者『ペルセウス』は輝く兜を被り ― もとよりハシムは『具現化』されたものの相手をする気はない。 星司郎と『アストロブライト』を『蚊』の群れに襲わせるのみだ。 「フン、その戦士一人でこの『蚊』、ドウ捌くとッ?」 右手には輝く剣を携え ― その持った剣をハシムに向けて振りかぶるペルセウス。 「無駄デース!」 剣での斬撃など、余裕で躱せる。 これは過信でもなんでもなく、ハシムにとっては実際そうであった。 シャムシールをもった抗争相手の殺し屋に狙われるなど、彼にとっては『日常』でしかない。 剣の軌跡を見切ろうと『ペルセウス』を視界に入れる。 その時、ハシムは『見て』しまった。 左手にはメドゥーサの首を持つ。 「ア……」 その『首』と目が合った。 瞬間、その事がもたらす『結果』を理解する。 「シクジッタ……」 ハシムは石になった。 「はぁ……はぁ………痛っ……うぐ……」 傷付きボロボロになった自分。 掻き消えた『蚊』の群れ。 残されたのは石像となった男。 痛む体でそれを眺めながら、静寂の中、星司郎は思う。 (勝った……のか?……勝ったよな?) 「…………」 静寂。 「……おい!立会人!終わったぞ!」 静寂。 「あれ……あー……立会人さん?」 静寂。 「あー……立会人さん……出てきてもらえないか?」 「なによう」 「うわっ!」 突然の声に驚いて振り向くと、後ろに黒いワンピースの少女が立っていた。 「あ……『試合』終わったのだが……どうすればいい?」 「ん?」 きょとん、とする少女。 「いや……『試合』……終わったんだが、自分はこの後、どうすればいいんだ?」 「あれ、お兄さん『降伏』するんですか?」 「何?」 「ん?まだおわってないよね?」 「……言ってる意味が解らないんだが……」 「ん?」 また、きょとん。 「……君、始まる前に『戦闘不能』か『降伏』をもって決着とする、と言ったよな?」 「うん」 「ご覧の通りだ。この男は『戦闘不能』。決着だろう」 と言って石像となったハシムを指さす。 「んー……だって、いま石になってるけど、いつ元にもどるかわかんないもん」 「自分が能力射程以上に距離を取れば回復すると思うが……それまでは恐らく石のままだ」 「それはお兄さんがそー言ってるだけでしょ!いまこのしゅんかん元にもどったらどーするの!」 「…………なに?」 「お兄さんがもしウソついてたら、わたしダマされて『けっちゃくー!』って言わされたことになっちゃいますよ!」 「…………」 ……どうしろというのだ。 「……しかし実際、この男は石になって動けない。攻撃も出来なければ、自分が攻撃しても抵抗出来ない」 「このままバラバラにすれば、元に戻ることもなく死んでしまう状態だ。これでも認めてくれないのか?」 「だーかーらー、それはお兄さんがそう言ってるだけでー……あ」 と、少女はくりんと目を上に向ける。 「ん?」 そして、得意げな顔で星司郎に視線を戻し、 「じゃあ、この石をバラバラにして!」 「なっ!?」 「そうすれば『戦闘ふのう』かくじつですよね!」 ……なぜ『良い解決方法思いついちゃった』とでも言いたそうな顔をしてるのか。 「もし、この外人のおじさんがほんとは抵抗できるとかなら、バラバラにされそうになったら反撃するだろうし」 「……君は何を……」 「そうします!立会人のわたしがそう決めました!うん!」 ……なぜ『いかにも名案』といった具合に、うんうんと頷きながら、とんでもない事をいうのか 「お兄さんのスタンド、この石像をバラバラにするぐらいできるでしょ?さ、おねがいします!」 ……なぜ、微妙にワクワクした顔をしているのか。 そして、更に星司郎にとって不快だったのは、この立会人の少女が(恐らく)10歳前後であること。 そして、白いフリルの襟周りが着いた黒いワンピース……星司郎にとっての『ピアノの発表会』の格好をしていること。 そして、黒く美しい髪を綺麗に切りそろえたおかっぱ頭をしていることだった。 「ふぅ…………」 眉を八の字にしたまま、大きくため息をつく星司郎。 「お兄さん?」 「……馬鹿馬鹿しい」 「ん?」 「あんた達は参加者が死ぬと給料が上がるシステムでも採用してるのか?……付き合いきれんよ……自分は帰る」 「え!かえっちゃうの!?『試合』どうするのー?」 「……さっきも言ったが、自分が能力射程以上離れれば、その男は元に戻ると思う」 「そうしたら、その男とあんたで勝敗を勝手に決めてくれればいい」 「えー!そんなのこまります-----!」 口を尖らせて少女が言うが、 「……自分もこれ以上困りたくないんでね。それじゃ、後は上手くやってくれ」 「えー、ちょ、ちょっとお兄さーーーーん」 後ろで少女が何かまだ抗議しているのが聞こえるが、無視して試合会場を後にする星司郎。 (……陽沙君には申し訳ないが……しかし、人一人の命と引換えでは彼女も納得しない……と信じたい) (って、痛っぅ……まずは病院だな……そして、陽沙君に言い訳の連絡だ……) 徐々に視界が戻る。 (ン……) 身体感覚がじわりと回復してくる。 (コレは……) ゆっくりと意識が戻ってくる。 (そうか……) 最後に見たのは『ペルセウス』が持つメドゥーサの首。 (HAHA……ワタシ、石になってたんデスネ……) ……はっきりとしてくる記憶、動くようになった体。 何故かは解らないが、石化が解除され元に戻ったようだ。 (……ここは、さっきの『試合』会場のママ……) (『試合』は終わったのか?……セーシロ―は?) 当たりを見回す。 星司郎が最初に座っていたソファーに横になっているのは……立会人の少女だ。 「ア……アノー……立会人サン?」 「ん?……あ!……おじさん!元にもどったんだ!だいじょうぶですか?」 うとうとしていたのだろうか。ハシムに声を掛けられ、少女はガバっと体を起こした。 「エート……『試合』は……どうなったんデスカ?セーシロ―サンは?』 「あ!そうそうそう!聞いてくださいよー、あのお兄さんがね……」 少女は星司郎との先ほどのやりとりをそのままハシムに伝え始める。 「……でー、おじさんとわたしでどっちの勝ちかきめて!って言って、かえっちゃったんですよー」 「………………」 「お、おじさん?」 ……なんだと。 眼輪筋が細かく震えるのが解る。 下唇がヒクヒクと痙攣するのが解る。 ……ふざけるな。 これだけの戦いをしておきながら、相手の命を奪う覚悟を決めることもせず ― 自分の戦いに自分で決着をつけることもせず、戦いの場から逃げ出し ― 動けない・意識のない状態に追い込んだ相手に、その勝敗を決めさせようとする。 ……なんという傲慢。 ……なんという偽善。 ……ふざけるなよ。 ハシムにとって、戦いとは常に生存闘争だった。 相手を殺すのは自分が生きるためだった。 勝利というのは相手の敗北=死と引き換えに、自分の寿命が伸びる事だった。 今、ハシムの目の前にいる少女と変わらぬ年齢の頃に起こった、超大国による『正義の掃討作戦』の日 ― 彼の生まれ育った村が破壊し尽くされ、家族も友人も皆殺しにされた日から、ずっとそうやって生きてきた。 セーシロ―……予言してやる。 貴様はいつか『正義』をスポンサーに、良心の呵責なく人を殺す日が来る。 いつの間にか硬く握りしめていた拳。 爪が掌に突き刺さっているのを感じた。 「え、えーーーーと、おじさん?」 (ハっ!) 少女の声で我に帰る。 「だいじょうぶ?まだぐあい悪そうだけど」 「ア……エエ、大丈夫デス」 (イケマセンネ……つい熱くなってしまいマシタ……HAHA) 「でねー、お兄さん、わたしとおじさんできめて、って言ってたけどー……わたし、わかんない!」 「だから、もうおじさんにきめちゃってほしいんです!」 「ということで、おねがいします!この『試合』どっちの勝ち?」 ……そう、腹を立てても仕方がない。 自分は常に『善人』でいられると思ってる幸せなやつに腹を立てても意味が無い。 実際、セーシロ―はそうやって生きてきたんだろう。 これからもそうやって生きていくんだろう。 アー、うらやましいデスネ!(ボウヨミ) 「ねー!おじさん!どっち?」 「ア、ハイハイ……そうデスネ……」 自分の顔を覗き込む少女に、作り笑いを返す。 「ン~……、セーシロ―サンは、『試合』の決着前に、試合会場から離脱しまシタ」 「残念デスガ、それは『試合放棄』と考えるのが普通じゃないデスカ?」 「んー、お兄さんは『試合ほうき』か。なるほど!」 「つまり『試合』としては……セーシロ―サンには申し訳ないデスガ……ワタシの『勝ち』じゃないデスカネ?」 「うん!なるほど!じゃあきまりですね!」 少女はニッと笑う。 「決勝戦、おじさんの勝ち!けっちゃーーーーーく!」 ……クソ。 ★★★ 勝者 ★★★ No.6410 【スタンド名】 ダーティ・ロットン・バスターズ 【本体】 ハシム・バラミール 【能力】 物体に同化し、自壊する オリスタ図鑑 No.6410 < 第09回:決勝③ > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
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狂科学者(ドクトル)は組織に仕える科学者である。 良心の歯止めのない悪の科学の粋を尽くし、数多の超兵器マシーンと薬物生成能力により、ヒロインを肉体から改造できる特徴を持った王道(?)のスタイルである。 その主たる任務はヒロイン怪人化改造計画だ。
https://w.atwiki.jp/2chroyal/pages/183.html
心の闇 ◆i7XcZU0oTM 少し、夜の闇が薄くなってきた頃。 街中を歩く、4人プラス1台。 やはり、殺し合いの最中とだけあって、緊張感に包まれている……かに見えた。 だが、その中でも。 ある意味、異彩を放っている人物が、1人がいた。 「うーん、やっぱり……いや……」 「……まださっきのこと考えてるのかよ……」 「だって、あんなオイシイ場面、忘れろって方が酷だしー」 「勘弁してくれよ……」 そう、801の姐さんである。 残念ながら現実では未遂に終わったが、801の姐さんの脳内では、ドクオ×照英の妄想が危険な領域まで達していた。 それこそ、一般人が内容を知れば、即座に引いてしまう程の濃厚な……。 そんな様子に呆れたように、ドクオが言う。 「この状況、理解してるのか? そんな呑気な事考えてる場合じゃないだろ」 「だからこそだよー。こんな状況だからこそ、こうやってリラックスさせようと思ってさー」 「じゃあさっきのはなんだったんだよ……どう考えても、自分の欲のためにやったろ!」 「まあまあ、固い事言わないで……」 「『固い事』じゃねーよ……普通だろ……」 相変わらずの解答に、ドクオは溜息を付く。 ……下手したら、命が無くなる前に、俺の後ろの童貞が無くなるんじゃないか。 そんな心配が、ドクオの心を刺激する。 「でも、何だか羨ましいです。……僕なんか、怖くてどうしようもないのに……」 つい、照英の口から弱音が零れる。 「……本音を言えば、私も怖いよ……」 ……別に"現状を理解していない"から妄想に耽っている訳ではない。 "現状を理解した上で"妄想に耽っているのだ。 本名は思い出せないものの、あくまで801の姐さんは2chの住人。つまり、一般人に分類される。 ……心の中では他人と同様に、死ぬのを恐れている。 だが、自棄になっても何にもならない。ドクオに出会う前に、少し考えていたのだ。 自分には、「生きて帰って同人誌を書く」と言う目標がある。 それを、果たすために、最初は殺し合いに乗ろうかとも思っていた。 だが、どうしてもそんな"勇気"を、801の姐さんは持てなかった。 ……今考えてみれば、そこで殺し合いに乗らなくて良かった。 「でも、立ち止まっててもどうしようもないし! だから、前向きに生きた方がいいじゃん」 「……そうですね!」 照英の顔に、笑顔が浮かぶ。 ……まだまだ幾多の困難は待ち受けているだろうが、諦める訳にはいかない。 ――――自分たちが、こんな所で死ななきゃいけない理由なんてない。 だからこそ、生きなければならない。 そして……生きて、帰らなければならない。 ◆ 「……ん? あれって……」 照英が、突然声を上げて一点を指差す。 そこには……誰でも知っているような、スーパーマーケットのチェーン店があった。 ……店舗は大きく、スーパー本体だけでなく他の店舗も附属しているようだ。 もちろん、駐車場も広々としている。 「ふぅん、スーパーかぁ……ちょっと、行ってみない?」 「僕は構いませんよ……お婆さんは?」 「わしも構わぬ」 「よーし、それじゃ……T-72神には駐車場で待っててもらうとして……ドク君はどうするの?」 「え、俺?」 素っ頓狂な声を上げ、自分を指差す。 「私たちと一緒に行く? それとも、残る?」 「あ、いや、じゃ、残るわ」 「そう……もったいないなぁ」 何がだよ……と言いかけたが、何とか寸での所で呑み込む。 下手に何か言えば、またネタにされそうだ。 (建物の中では、何が起こるか分かりません。できれば、私がついて行きたいが……その代わりと言っては何ですが、 私の支給品を使いなさい。中身の確認はしていないので、役に立つ物があるかは分かりませんが……) 「ありがとう、助かるわー……あ、私も残りの支給品、2つ分見てなかったなぁ」 そう言うや否や、猛スピードでT-72神の中に入りこむ801の姐さん。 ……中から感嘆の声が漏れてくる。 まさか、戦車をもネタにするのか……? だが、別にそんなことは無く、少し時間をおいた後に鞄を抱えて出て来た。 「入ってたのは……煙幕弾とダイヤモンドの指輪だったけど、私の分は……良く分からない物だったよ」 「……指輪はともかく、煙幕弾は役に立つんじゃないか」 「なら、ドク君が持ちなよー。何かの役に立つかもしれないしさ」 結局、5つあった内の2つを俺が持って、残りは姐さんたちが持つことになった。 その後、軽く手を振って、姐さんたちはスーパーの中に入っていった。 「……」 急に、静かになった気がする。まあ、当然と言えば当然か……。 と言うか、殺し合いの最中なのに騒がしかった今までの方がおかしいような気がする。 ……まあ、一人でビクビクしながら歩くよりは、まだマシかもしれないが。 その時、ふと頭に浮かんだ事があった。 ……もし、本当に殺し合う事になったらどうなる? 今はまだ、運良く誰にも襲われてはいないが、いつかは襲われるかもしれない。 そうなったら、俺はどうなる?少なくとも俺は……戦えない。 俺は所詮、とりえも何もない男だ。そんな俺に、何が出来ると言うんだ。 頭が回る訳でもない。腕っ節が強い訳でもない。統率力がある訳でもない。 そんな俺に…………何が…………。 「畜生……何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……」 頭を抱え、肩を落とす。 本当、何で俺がこんな目に。 俺は、何も悪い事なんかしてないじゃないか。 特に、こんな殺し合いに巻き込まれるような事なんて、何もしてないじゃないか。 なのに、何故。もう、訳分かんねえよ。 ただでさえ暗い気分が、さらに淀んでいく。 あぁ……憂鬱だ。 「もう最悪だ……もうどうしようもねえ……」 (そんなに悲観することはない、人の子よ) 突然、T-72神が話しかけて来た。 いったい、何なんだ。 こんな状況で、悲観的にならない方がおかしいだろ……。 いつ死ぬか分からないのに、楽観的でいられるかよ。 (今の所、弾薬はありませんが……手に入れた暁には、必ずやひろゆきを粛清して……) ……そんなものはうんざりだ。 具体的な方法もないくせに、そんなこと言うなよ。 そんなことは、方法を見付けてから言ってくれよ。 ……何だか腹が立ってきた。 そう思った途端、自分でも意識せずに、つい本音が口から飛び出していた。 「……その弾薬をどうやって手に入れるってんだ。探し回るのか? ……何処にあるのかわからないのに、 そんなこと、出来る訳ないだろ! そもそも、『ひろゆきを倒す』って言ってるが、ひろゆきの居場所知ってるのか!? それも知らないで、そんなこと言ってんのかよ!? 無責任にも程があるだろ!!」 (それは……) 「……ハァ、ハァ……」 全て吐き出して、荒く息を付く。 ……ここに来て、初めて本音を言ったような気がする。 (…………) 「……ふっ」 胸の内を少し吐き出したせいか、頭が幾分か冷えた。 それと同時に、何となく後ろめたさも、何故か感じてしまった。 (……確かに、少々無謀とも言える計画です) 「……少々どころじゃないだろ……」 ボソッと呟いたこの一言は、幸運にもT-72神には聞こえなかったようだ。 結果、それに気付かずにT-72神は話を続ける。 (…………ですが、今は……この『無謀』に賭けるしか、方法がないのです) 「…………そうか」 何か、余計に鬱になった気がしてきた。 結局、何の解決案も無く、ただ俺の気分が余計に沈んだだけ。 ……いいことなんか何もありゃしない。 「……はぁ……」 もう一度、溜息をつく。……さっきよりも、溜息が重い気がする。 当たり散らした所で、状況が良くなる訳でもない。 T-72神を責めても、どうにもならない。 そんなことは重々承知している。 だだ、それでも愚痴りたい時だってあるだろ。 俺なんか、精々こうやって愚痴ってるのが精一杯なんだ。 ――――俺にできることなんか、何もねえんだよ。 ◆ (……大丈夫かなぁ、ドク君) 何だか、不安だ。 一応、T-72神と一緒に待たせてあるから、少しは安全だろうけど。 いくら弾が無くて戦えないとは言え、まかりなりにも戦車だ。 少しくらいなら、攻撃に耐えられるはず。 「かなり広いですね……」 その心配をよそに、照英さんはしきりに辺りを見回している。 「こう広いと、誰かが潜んでいても不思議ではないのう」 「ですね……気をつけて行きましょう」 もし、襲われでもしたら……。 嫌なイメージが、頭によぎる。 振り払おうにも、こういう物に限ってしっかりと頭に残るんだから……。 でも、実際襲われでもしたら、どうなるだろうか? 今の所、武器になり得る物を持ってるのは、私と照英さんくらいだ。 でも、もし相手が銃でも持ってれば……。とても太刀打ちできそうにない。 できれば、誰もいないでいてくれればいいなぁ。 ……そう言う訳にも行かないかもしれないけど。 (……置いてある物は、どれもよくあるものばっかりかぁ) 改めて辺りを見てみると、本当に何の変哲もないスーパーだ。 食料品やら何やらが、普通に陳列されている。 その内の1つを手に取ってみるが、特に変わった所もない。 ……至って普通だ。 そして、少しの時間が流れた後。 「…………」 「特に、何もありませんでしたね……」 事務室やら業務員用の更衣室なども見て回ったが、結果は変わらず。 ……なんだか、徒労に終わってしまった感が強いなあ。 でも、危険な目に遭わなかっただけ、まだいいか。 「そろそろ、ドク君達の所に戻ろっか。何も無かったって事も、一応教えてあげないとね」 そう思って、出口に歩き出した時だった。 「……何か、変な音がしませんでしたか?」 確かに、変な音がした。 いや……今も、その"音"は聞こえている! その音は……2人が待つ駐車場から聞こえてくる……。 ――――何だか、嫌な予感がする。 というか、とんでも無い事が起こっているに違いない……! 「……急がなきゃ!」 ◆ (まだ帰って来ないな……) 姐さん達が、スーパー内に入っていってから結構経った。 と言っても、具体的にどんだけ経っているかは良く分からないが。 どっちにしろ、とっとと帰って来て欲しいもんだ。 さっきのやり取りの後から、T-72神はずっと黙ったままなんだ。 このままだと、どうにも気まずくていけない……。 とはいえ、こっちから話題を振る気にもなれない。 別に、T-72神の過去やら何やらを知りたい訳でもないし。 「……2ちゃんでも見るか……」 やる事なんてない。 せめて、スレに書き込めればマシなんだが、それも出来ないんじゃ、出来ることは限られる。 結局、特に目的も無く板を巡り、スレを巡るくらいしかできない。 ……相変わらず、下らないスレばっかだな。 俺はいつ死ぬか分かんねぇってのに、こいつらは呑気に無駄な時間を過ごしてやがる。 ――――いつもなら馬鹿にするような奴らでも、今は羨ましいよ。 少なくとも、俺みたいに命の危険に晒されてる訳じゃねえんだから。 ……本当なら、俺も今頃は暖かい布団の中で眠ってるって言うのに。 くそ、何で俺がこんなことに……。 (あぁ……もう最悪だよ……) どんどん鬱が酷くなってきた……。 もう、どうすりゃあいいんだ。 そう思っていた時だった。 「――――おや、こんな所に人が」 「……何だお前」 誰かが、歩いてくる。 街灯に照らされたその姿は……どこかで見た事のあるような中年の男だった。 スーツの袖には血を滲ませ、何を考えているか分からない表情でこちらに近づいてくる。 一体、こいつは何者だ? どう考えても、まともな奴じゃなさそうだが……。 「ほう、これは……戦車ですか。あなたの支給品ですか? だとしたら、ずいぶん羨ましいですねえ。 私も欲しいですよ」 「いや、これは……」 (……残念ながら、私は支給品ではありません) 俺が答えようとしたが、そこにT-72神が割り込む。 「では、私と同じく参加者の1人ですか……これは面白い……なら……」 「おい、一人で何ブツブツ言ってんだ?」 俺の問いにも答えずに、中年の男は何やらブツブツ呟いている。 ……何だよ、また変な野郎なのか? もうこれ以上変人が増えるのは勘弁して貰いたいんだが。 「――――さあ、出てきなさい」 そう言うと、男は何か球のようなものを取り出し、その場に放り投げる。 すると……光と共に、何かが球から飛び出してきた! 「……どうです、この姿。美しいでしょう」 ……何を言っているんだこいつは。 こんな、四足歩行の何とも言えないバケモノが、美しいだって? 一般的な感性を持ってるか怪しい俺でも、そうじゃないと思える。 しかし……こいつは、強そうだ。 威圧感とでも言えばいいのか、そんな物をこいつからひしひしと感じる。 「何言ってるんだ……ふざけてるのか」 「ふざける? ご冗談を。私は至って真面目ですよ」 ……どこをどう見れば真面目なんだ。 (……我が名はT-72神。汝に問う。私と共に闘う意思はあるか?) 「誠に残念ですが、そのお誘いは丁重にお断りします。私には、私の『仕事』があるので。 ――――このネメアと共に、優勝すると言う仕事がね」 と言う事は……こいつ、殺し合いに乗ってるのか!? だとしたらヤバい! とてもじゃないが、こんな化け物相手に戦える訳がない。 ……一応、武器みたいな物はあるが、こんなもんじゃあいつは倒せない。 (……ならば、ここで汝を粛清する!) 「いいでしょう、やってご覧なさい。……できるものならね。ネメア、アイアンヘッド」 男がそう言うと、化け物は大きく跳躍し……T-72神に攻撃を仕掛けた! だが、意外にもバックでかわす。 「ほう……戦車の癖に、小回りが効くんですね! ……もう一回、アイアンヘッド!」 ここで、俺の頭の中にある考えが浮かぶ。 ――――今、あいつの意識はT-72神に向いている。 なら……それを利用して、ここから逃げ出せるんじゃないか? (うぐっ……!) 「ほほう……直撃は避けましたか。ですが、その美しいボディがヘコみましたよ?」 (この程度……損傷の内に入らないッ!) 幸いにも、T-72神自身も戦いに集中している。 こんな手強い相手をしている時に、俺なんかを気にかけてたらやられるからな。 その選択は、当然とも言えるか。 とにかく……逃げ出すなら今しかない! 「くうっ……!」 そこからの行動は素早かった。 持っていた鞄を素早く背負い、あいつらと真反対の方向に走る。 …………これでいい。 これで、いい。 俺は死にたくないんだ。 死にたくないだけだ。 「まさか、気づいていないとでも?」 「え……」 その声に反応して振り返った時。 もう、その時には全てが遅かった。 「――――メタルクロー」 化け物の爪が、いとも簡単に、俺の服を引き裂く。 そのすぐ下にある、俺の体も。 まるで、紙でも破るかの如く。 あっさりと、切り裂かれた。 (ドクオ……!!) 「うぐ、あ」 その場に、崩れ落ちる。 何か、生温かい液体が、俺の体から……流れ出てる……。 ああ、そうか。 俺の血か。 「痛、え……こん、なに、痛いなんて」 死ぬって、こんなにも苦しくて、辛くて、痛い物なのか。 今まで、人生に絶望して自殺を図ったこともあったけど、そんなの目じゃないな。 まあ、いままでと違って、今度は本当に死ぬんだから、苦しいのは当然か。 ああ、でも何か急に痛く無くなってきたな。 多分、大量出血で意識がヤバいんだろう。 ……何で、こんな時だけ頭が回るんだ。 この頭の回転の良さが、もっと前に発揮できてれば、俺も変われてたかもな。 今更、そんなこと考えても、無駄だけどさ。 「く、そ………………」 今までの人生、面倒なことばっかりだったな。 だけど、それももう少しで終わる。 それと同時に、この殺し合いからも解放される訳だ。 ……やっと終わるのか。 ここに来てからそんなに時間は経ってないはずだが、ずいぶん長かった気がするな。 「………………こんなとこで、死ぬなんてなあ………………」 もう、体も動きゃしない。 まあ、今更動いた所でもうどうしようもねえけど。 それなら、諦めて死んだ方がいいかもな。 あ、でも未練も無くはないな。 童貞のまま、死ぬことになるのがなあ……。今更どうしようもねぇけど。 何か、考えるのももう面倒だ。 「……ドクオ殿……」 ん? 今、何か声が聞こえたような。 何だよ、聞こえない。 誰かが、どっか遠く離れた場所で話してる。 聞き取れねえ。 ……まあ、もうどうでもいいか。 「あー…………マンドクセ…………」 倦怠感の中、俺は、深い闇へと堕ちていった……。 ◆ 「……そんな……」 目の前に広がる光景に、思わず息を飲む。 謎の人物と生き物に向かいあっているT-72神。 そして……血の海に倒れる、ドクオ君の姿。 「ドクオ殿!」 (来てはいけません!!) 思わず駆け寄ろうとしたお婆さんを、T-72神が制止する。 しかし、その制止を振り切り、そのまま倒れているドクオ君の傍に駆け寄る! 「お仲間が注意してくださったのに……行きなさい、ネメア」 一瞬の出来事だった。 何かが、猛スピードでお婆さんに突っ込んできて……。 ――――そのまま、撥ね飛ばした。 それだけでは終わらずに、地面へと打ち付けられたお婆さんを……。 「――――この程度ならば、技を使う必要もありませんね」 ――――あっけなく、踏みつぶした。 「お、お婆さん……!」 「おっと、動かない方が良いですよ? ……あのお婆さんのようになりたいのなら、話は別ですがね」 走り出そうとしていた足が、止まる。 「……今の一撃……即死には至らずとも、あの様子なら遅かれ早かれ死ぬでしょう」 「ちょっと……今、自分が何をしたか分かってる!?」 お姐さんの怒声が飛ぶ。 しかし、その怒りを嘲笑うかのように、男性は答える。 「フフフ、まあそう怒らずに……」 「こんなことされて、怒らない方がおかしいって!!」 「怒りは冷静さを失わせます。落ち着いた方が良いですよ?」 「そうねぇ……あんたを一発殴れば、少しは落ち付けるかもね!」 「これはこれは、相当御怒りのようで…………2人も殺害したことですし、私は退散するとしましょう。 ここでやりあって、無駄に体力を消費するのは、私とネメア共々、得策ではないので」 こうしている間も……あの化け物が、僕達を睨み付けている。 僕も、お姐さんも、T-72神でさえ、身動きがとれない。 ……怖い。 お婆さんや、ドクオ君を殺された怒りや恨みがあるはずなのに。 真っ先に出て来た感情は、"恐怖"だった。 「それでは……さようなら。……ネメア、追撃されないように3人を見張っていなさい」 悠々と、男性は立ち去っていく。 ……そして、男性の姿が消えた頃、化け物も走り去っていった。 ◆ 静寂。 「…………」 「…………」 (…………) 誰も、何も言えなかった。 誰もが、心に後悔を抱える結果になった。 ただ、2人の亡骸の前で、立ち尽くすしかなかった。 何故、ドクオ君が、お婆さんが死ななきゃならないんだ……! 僕が、しっかりしていれば……!」 照英が、涙を流しながらその場にへたり込む。 (責任は…………私にあります) T-72神も、見た目では分からないが、自身を責めて項垂れる。 ……T-72神の不注意も、確かにこの惨事の原因と言えなくもない。 だが、原因は1つとは限らない。 もしかしたら、あの時ドクオが逃走を図らなかったら。 図ったとしても、店舗の方に向かったとしたら。 そもそも、内部を調べずにここを通り過ぎていれば。 ……可能性の話をしたら、切りが無い。 重苦しい雰囲気の中、801の姐さんが口を開いた。 「………………ねえ、2人とも。そんなに、自分を責めないでよ」 「でも……」 「考えてみれば、悪いのはドク君とお婆さんを殺したあいつだし、元を辿れば、ひろゆきがこんな事しなければ、 こんな事にもならなかったんだから……だから、自分を責めないでよ」 「……」 そう語る801の姐さんの目にも、涙が。 そうやって考えを切り替えて割り切ろうとしても、やっぱり悲しい。 短い付き合いではあったものの、かけがえのない命。 失われてからでは、もうどうしようもない。 「とりあえず……こんな所に放置してちゃかわいそうだよ。だから……きちんと、埋めてあげよう」 「……はい」 (……私も、協力しましょう) 【ドクオ@AA 死亡】 【麦茶ばあちゃん@ニュー速VIP 死亡】 【残り 53人】 【B-2・スーパー駐車場/1日目・早朝】 【801の姐さん@801】 [状態] 健康、悲しみ [装備] グロック17(16/17) [道具] 基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、不明支給品×2(801の姐さん視点で役に立ちそうに無い物) [思考・状況] 基本 生き残って同人誌を描く 1 とりあえず、2人を埋葬する 2 ドク君……お婆さん…… 【照英@ニュー速VIP】 [状態] 健康、不安、悲しみ [装備] 金属バット@現実 [道具] 基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、冷蔵庫とスク水@ニュー速VIP、サーフボード@寺生まれのTさん [思考・状況] 基本:殺し合う気は無い。皆で生きて帰る 1:…… 2:いざ闘うとなると、やっていける自信がない…… 3:誰も死なないで済む……はずなのに…… 【T-72神@軍事】 [状態] 装甲の一部にヘコミ、燃料満タン、カリスマ全開、悲しみ [装備] 125ミリ2A46M滑空砲(0/45)、12.7ミリNSVT重機関銃(0/50) [道具] 基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、煙幕弾@現実×3、親のダイヤの結婚指輪のネックレス@ネトゲ実況 [思考・状況] 基本 人民の敵たるひろゆきを粛清し、殺し合いを粉砕する 1 …… 2 私は、保護対象を守れなかった…… 3 弾が欲しい…… ※制限により、主砲の威力と装甲の防御力が通常のT-72と同レベルにまで下がっています。 ※制限により、砲弾及び銃弾は没収されました。 ◆ 「……戻りなさい、ネメア」 ボールに、ネメアを戻す。 ……常時出しっぱなしにしておくのも、あまり意味はない。 (…………予想外だった) 最初は、私のスキを突こうとして、逃げ出した情けない男のみを殺害してから撤退しようと思っていた。 ……最初の一撃で、あの戦車を破壊するのは骨が折れると判断したからだ。 それに、あの発言――――私と共に闘う意思があるか。 間違い無く、殺し合いに反抗しようとする者の言葉だ。なら、最初から「協力」を申し出る必要はない。 しかし、運の悪い事に、仲間であろう連中が出て来てくれたお陰で、もう1人殺害することになった。 私の『仕事』のためだと割り切り、もう1人殺害しておくことに決めて……それを決行した。 この調子で、減らしていけば……私が優勝するのは、時間の問題だ。 もちろん、殺し合いに乗っているのは私だけではないだろう。 他の殺し合いに乗っている連中も、今頃は殺し合っている最中だろう。 しかし……このネメアがいる限り、私の負けは有り得ない。 ――――それに、ちゃんと"切り札"だってあるのだ。 だが……今の所懸念材料が、1つだけある。 (……腕の傷の、まともな手当てをしなければ) 確か、まだ地図を見ていなかったな。 ……何か、役に立つ場所が載っているかもしれない。 「どれどれ……病院がありますが、ここからは少々距離が離れていますね……」 よく見れば、先程までいた公園の方が病院に近かったようだ。 ……もう少し早く気がつけばよかったのだが。 まあ、こちらに向かった事で、得られたメリットもあったから、良しとしよう。 (さて……行きましょうか……) 痛む腕を抑え、歩き出す。 ……『仕事』の為にも、私は立ち止まってなんかいられない。 【B-2・スーパー付近/1日目・早朝】 【クタタン@ゲームハード】 [状態] 右腕に切り傷(中)、健康 [装備] ネメア@ポケットモンスターアルタイル・シリウス [道具] 基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=02】)、ちくわ大明神@コピペ、不明支給品(0~1) [思考・状況] 基本 優勝し、世界を美しいモノへ創り上げる 1 相手を見極め、出来るならば他の参加者に「協力」を呼びかける 2 いわっちには自分の思想を理解してもらいたい 【ネメア@ポケットモンスターアルタイル・シリウス】 [状態] 支給品、健康 [思考・状況] 基本 クタタンの指示に従う ※使える技は、アイアンヘッド、悪の波動、メタルクローの他にもう1つあるようです。 何があるかは次の書き手の方にお任せします。 ≪支給品紹介≫ 【煙幕弾@現実】 5つセットで支給された。 ピンを抜いて投げると、一定範囲に煙幕を張り、視界を遮る。 煙幕内に入ると咳き込むかもしれない。 【親のダイヤの結婚指輪のネックレス@ネトゲ実況】 ブロントさんの親の物。 これを指に嵌めて殴ると多分奥歯が揺れるくらいの威力があるらしい。 だが大した武器にはならない。 50話時点 現在位置地図 No.45:カルネアデスの板 時系列順 No.52:おっぱいなんて、ただの脂肪の塊だろ No.49:銭闘民族の特徴でおまんがな 投下順 No.51:メンタルヘルス No.31 8→0→1 完成でスーパー戦隊のブルーとピンクタイム T-72神 No.72 戦争を知らない大人たち No.31 8→0→1 完成でスーパー戦隊のブルーとピンクタイム ドクオ 死亡 No.31 8→0→1 完成でスーパー戦隊のブルーとピンクタイム 801の姐さん No.72 戦争を知らない大人たち No.31 8→0→1 完成でスーパー戦隊のブルーとピンクタイム 照英 No.72 戦争を知らない大人たち No.31 8→0→1 完成でスーパー戦隊のブルーとピンクタイム 麦茶ばあちゃん 死亡 No.36 すべては、セカイ動かすために。 クタタン No.76 さー、新展開。
https://w.atwiki.jp/babai/pages/24.html
悪夢は、夢が個人的なものである以上、その人が理解せねばならない特別の事柄を示している。そしてその理解は、理解に対する理解(反省)を必要とし――全ては、全ての人が「夢のような」幸福を感じられるような結論へ、善良な人へと導かれるような結論へ為されねばならない。例:民衆は天才に、人民は貴族に、人間は神に、地上は天国に、地球は太陽に、万人はひとつに。 つまり、悪夢に対する勝利は、健全で目覚めた理性にあるのだ。健全で目覚めた理性の鍵は、良心にある。良心は今は――天国で眠っているが、人は地上にあっても目を覚ますことが出来るし、そうならねばならない。そのときは、地上は天国に移行するか、あるいはこの私が地上となって、降り注ぐ良心の王座を、形成するのだろう。 おいおい
https://w.atwiki.jp/sssr/pages/55.html
きゃらくたー イギリス・陸軍 イギリス・ロイヤルネイビー イギリス・RAF #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 イギリスはヴィクトリア朝の政治的、経済的優位が約束されていた時代は完全に過ぎ去っていた。第一次世界大戦による若年層の大幅減、世界恐慌、植民地経営の限界。 日の沈まぬ国と謳われた大英帝国は、広大な領地に十分な軍事力を展開できなくなっていた。 1936年現在、依然として国際社会でいろいろな役割を果たしてはいるが、それを成し遂げるための国力に事欠くようになっていた。 だが、一人の王女がその逆境に立ち向かおうとしている。 工業力 ■■■■■■■■□□ 多くの海外領土と元世界一の工業力 技術力 ■■■■■■■■■□ 産業革命以来の技術力、掃いて捨てれるほどの職工 陸軍力 ■■■■■■■□□□ 植民地人がいっぱい☆ 海軍力 ■■■■■■■■□□ グランド・フリートは旧式艦がいっぱい☆ 空軍力 ■■■■■■■■■■ 防衛戦に力を発揮。人材も欧州1 登場キャラクター #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 城寺 六子(しろでら むつこ) 誕生日12月14 日 魔法女帝 本名、ジョーズィナ・スティグマ(*1)・アルビオン。 わがままなイギリス帝国第2皇女である。ほぼ確実にハッピーエンドを迎えられないことで有名。まじかる☆じょーじに変身・・・ていうかじょーじだけに常時(ry 現行の体制では自分に権力が無いのでモズリー師弟を使って絶対王政の復活を企てている。 ただし、好きな人に対してはたまに献身的になったり、甘えたりする。 1918年のロンドン魔導事変(*2)において誕生、イギリス政府はヴィクトリア・ウィンザーとして養育することにした。 だが、イギリス国内にいると正統性に難癖つける方がいるので極東の同盟国日本で密かに育てることにした。この時、和名が付いた。 日本にいるときに日野と付き合っていた。(ただし彼女の中では現在形である) 彼女は姉の王位を半ば強引に譲り受け(*3)をついで即位する。 戦争大好き。植民地大好き。イギリス料理大好き。日野大好き。コスプレ大好き。原爆大好き。 フォース能力を持つ。基本的に破壊にしか用いない。 花では黒百合に喩えられる。極端なフリル好きで、下着・普段着はもちろん軍服・パイロットスーツにまでフリルをつけている。 愛銃はエンフィールドNo.2。誕生日に丸男から二十六年式拳銃も貰っており併せてつかっている。 また、彼女は信任の厚い人物にコルト・ベスト・ポケットをプレゼントする。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 エドレア・アルビオン 誕生日6月23日 王冠を放り投げた愛・・・? 本名、エドレア・エータ(*4)・アルビオン。 1918年のロンドン魔導事変において誕生、年齢は六子より1歳上に設定されている。 六子などとは比べ物にならないほどのフォースを胸のたぷんたぷんとした部分に持つ(あまり使わないけど) やはり国内にいると正統性に難癖つける方に命を狙われるので、アメリカに留学していた。 が、勝手にドイツに遊びに行ってたりする親独家。 父が六子の雑煮を食べ餅をのどに詰まらせた後、即位する。 六子とはその外見や、活発・権威主義者であるという点を除けば正反対な点が多く、 エドレア 六子 優しい 冷酷非道 平和主義者 絶滅主義者 オサレ フリルしか着ない 回復魔法 攻撃魔法 ホーリー デス ぽよよん ぷるるん 海軍 空軍 百舌君(よく浮気するが) 丸男 天然ボケ 謀略家 と比較される。 実は百舌LOVEだったりする。 六子にコキ使われてた百舌の世話をしてあげるうちに、恋心が芽生えたものと見られる。 自分の気持ちに気づき六子に対して百舌の所有権を主張したがかなわなかった。 全てがどうでもよくなり王位も放棄。 このとき六子に対し王冠を投げつけた(フォーク)ので「王冠を放り投げた愛」とよばれた。 家名のアルビオンはもともとの名前のウィンザー家を、彼女がイングランドの古名にちなんで(勝手に)改名した。それにより、スコットランドやウェールズに少なからず反発をもたらした。 ちなみに、みらくる☆えどわーどに変身できる。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 城寺 絵里 ルール・ブリタニア 本名、エリザベス・ベータ(*5)・リジョシー(*6)・アルビオン。 六子が憤死する直前、彼女の残りカスのような良心とフォースがこの世に留まったことで生まれた存在(*7)。 混乱する英国をまとめ、戦後のイギリスの舵取りをすることになった。 彼女の存在は幽界と現世の狭間に位置しており、非常に不安定。 そのせいか時たま「よくないもの」を招きよせてしまう。 事実、英国はその後インド独立や英国病、イングランド銀行の破綻、 度重なる海外出兵(アメリカより戦争している)など、次々と不幸な出来事に 見舞われる。まあ世界帝国の時代のツケが回ってきた、ともいえるが。 半分この世の人ではないため、どこかボーッとしていてとらえどころがないが、 そこは六子の分身。芯はしっかりしている。 幾たびの苦難を乗り切り、英国が再び大国としての地位を取り戻したのは、 まぎれもなく彼女の功績といえる。 フォース力はほぼ無尽蔵。いくらでも異世界から引っ張ってこれるが、 その力を使うことはない。 愛銃はS W M10。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 ジョージ5世 私は特別な存在なのだ 前国王がくれた初めての爵位。 それは「ヨーク公」で、私は27才でした。 その格は高くてノーブルで、こんなに素晴らしい爵位をもらえる私は きっと特別な存在なのだと感じました。 今では私が国王陛下。 子供にあげるのはもちろん「ヨーク公爵位」。 なぜなら、彼女もまた、特別な存在だからです。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 ウィンストン・チャーチル #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 大英帝国首相 (CV 青野武) 泣く子も黙る大英帝国救国の英雄…のはずだが 傍目からみるとただの酔っ払いのオヤジ。 スコッチをしこたま飲んで便所をウロつくのが日課。 だが、若いころは植民地反乱の鎮圧で世界中を飛び回り、硝煙の臭いをたっぷりとかいできた根っからの戦争屋。 軍人たちからは「おやっさん」として慕われる一方、 酔いに任せた戦争指導は煙たがられているようだ。 一次大戦でケマルにガリポリでガン掘りされた屈辱を晴らすべく トレーニングを重ねており、早朝のウェストミンスター宮前では、 竹刀を持った近衛兵に、代わる代わるナニをぶったたかせているチャーチルの姿がみられる。その姿はBBCによって全国放送され、「大英帝国今だ衰えず」のアピールになったとかならないとか。 愛車はマーク?菱形戦車。ガソリンの代わりにスコッチを入れても動く特注品である。 アンソニー・イーデン #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 毎度フルボッコ 何度英国で外務大臣をやっても毎回フルボッコの祖国を見てきた男 自分が悪いのかと本気で思いつめている。今回の世界ではバーバラがいるなど少し違う環境に期待を寄せている。 某レザードに似てるとかは言ってはいけない。 実務能力は非常に高いのだが精神的に弱いところが多く、クソマジメかつ落ち込みやすい性格で、追い込みすぎると奇行に走る。 モンティと不仲に陥ったときなど、頭に紙袋をかぶって引きこもり、 「バーバラが茶箱に入って『エルサレム』を歌うまでここから出ない!」とわめいていた。 朝海には恐すぎて近づけず、チャーチルには軟弱者のレッテルを貼られ話を聞いてもらえない苦労人 戦中はチャーチルや六子が表立って重要な交渉を実行したのでイーデンの実権は限られていたものの、 その分イギリスの将来を鑑み、フランスのシャルル・ド・ゴールとの交渉などに尽力した。 ある時百舌 雄頭の画策により、「ちょっと中東行って来て☆」と六子に命令され文官なのに中東英軍最高司令官に任命されたこともある。 そのとき実際に軍の指揮を執ったのはアレクさんだった。 戦後冷戦構造が構築されていく中、最前線であるドイツの協力が必要不可欠と考え、 アレクさんやリデルハートと協力し、ドイツ軍復活への協力を条件としたナチ戦犯の減免に尽力した。 ロザリンド・ケッセルリンクやエリカ・フォン・マンシュタインなどの早期釈放を実現したのは彼の密かな貢献があったからである。 チャーチルが政界から引退した時、遂にイーデンは首相になった。 が、 国内経済はガタガタ スエズ動乱では大失敗などあまりよい首相在任とはいえなかったようだ。退任時は「諸君はみな私を捨てようとしている、捨てている!」と叫び、理性を失いながら、辞任したという。 しかし彼の在任中、アメリカとフランス両国と非常に緊密な関係にあったのは確かなようである。 朝海 蓮(あさみ れん) #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 悲劇の宰相? 長く大英帝国の中枢で活躍し宰相にまで登りつめるが、 運悪く宰相になった時期にドイツが領土拡張政策を推し進める。 彼女はイギリスの軍事力強化のため、チェコスロバキアを見捨て、1935年の英独海軍協定の締結などドイツの国力を助長させる無能な融和外交を展開せざるを得なかった。 ポーランドと同盟を結びドイツを牽制したが失敗し、責任を取る形で辞任した。 …というのが彼女が歴史書に残した名前の全てであり、そして建前である。 しかし実際はドイツの拡張により欧州に変化が訪れる事を強く望んでおり、 ドイツが再び欧州大戦を起こすように暗躍していた。 そしてもちろん、最後はイギリスの勝利で終わるように、だが結果的にイギリスを崩壊寸前まで追い込んだ無能首相の烙印を押されることになってしまった。 正義感が強く規律に厳しいように振る舞っているが、実際は各国の内情を知りつくし、高官のあらゆる弱味を握り、 清濁問わない手段で英国の地位向上と戦争の誘発を狙ってきた。そしてその目論見は成功し第二次世界大戦が勃発させた魔性の女。 しかし大戦に対しても何らかの腹案を持っていたらしい彼女の誤算はチャーチルが自らの弱味(*8)を弱味と思わず自分の思うがままにならなかったことと、 彼女自身の病弱な身体に起因する短い寿命であった。 結果として戦争に対する彼女の腹案は彼女自身の亡骸と共に墓場に埋められることとなり英国は無策のまま国力全てを使い果たす戦争に巻き込まれることとなった。 諜報部でありながら正義感の強いシンクレアに対し恋慕にも近い深い敬愛を抱いてはいたが、立場とポリシーの違いからシンクレアからは嫌われている。 また彼女自身もそれを仕方のないことと受け入れ、死ぬまで恋慕の情を表に出すことはなかった。その反動か同じ相手を慕うサイモンには優しく接している。 またチェルウッド卿とは過去政界において兄と妹のような親しい関係だったが、今では利用する者とされる者の関係であり、僅かな心苦しさを感じている。 セシル・オブ・チェルウッド卿 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (セシル・オブ・チェルウッド卿.PNG) 国際平和に奔走した男 「わが国の利益と世界の幸福‥両立は厳しいか‥」 父は3度に渡って英国首相を勤めた由緒ある家柄で、容姿端麗、性格もよく、周りから非常に人気があった。 法律を猛勉強した彼は国際平和への貢献に一生を捧げる決意をした。 1次大戦後、国際連盟の創立に尽力し37年にノーベル平和賞を受賞する。 その知識を買われ、すでに高齢だったにも関わらず六子の相談役として英国の中枢でその辣腕を振る事となった。 36年の時点ですでに70歳を超えていたが池面を維持できていたのは六子のフォースの力があったからに違いないと言われている。 1923年から45年までイギリスの国際連盟、連合の代表を務めたがその間絶えず、英国の利益と世界の幸福の間で揺れ動いたと言われている。 平和の使者としての立場を明確にするためにも、情報担当としての裏の汚い仕事は極力避けたがっていたが、彼の能力がそれを許さなかった。 しかし、彼の強い平和への意志に共感していたシンクレアがその度に仕事を代わりに実行していたので、 チェルウッド卿の平和の使者としてのイメージは最後まで崩れる事はなかった。 最期を迎える時までシンクレアとの熱い友情は途絶える事はなかったという。 朝海蓮には利用されていることを薄々感じているものの、有能かつ妹のような存在である彼女を信じてあえて目を瞑っている。 ユーフェミア・サイモン #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 大英帝国影の立役者 「わが国が斜陽国家などと‥絶対に言わせません!」 英国最高裁長官 大蔵相 外務大臣 内務大臣 司法長官 などなどなどなど責任ある仕事を果たしてきた彼女は大英帝国を影から支えるなくてはならない存在である。六子からの信任も厚い。 いつでもきちんとした身なりをし、堅苦しく、言葉少なめで中性的な顔立ちの彼女は冷酷な女として皆から「あまり傍にいてほしくない英国閣僚No.1」の称号をひそかにもらっていた。 36年までインドに赴任していたが、独立運動を圧力で押さえ込むことに失敗、自分のやり方に疑問を持ってしまった。 傷心を癒す間もないまま英国本土で次の仕事についていたある日、サイクス・ヒュー・シンクレアから「お嬢はもう少しやわらかくなったほうがいいぜ?」と言われ、 今までの自分を変えるため頭にリボンを結わえてみた。 周りからの反応は上々でリボンを誰にもらったのかからかわれるサイモンの姿がよく見られるようになった。 アドバイスをくれたシンクレアに人生初めての恋心を寄せてはいるのだが‥ シンクレア自身は気づいた様子はない。前途多難な様子である。 サイクス・ヒュー・シンクレア #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 ヒーローになり損ねた男 「満って奴は‥どえらい奴なんだぜ?」 英国情報担当。イギリス情報局秘密情報部SISの創設に尽力した男 その情報収集能力はずば抜けており満の野望をいち早く見抜き、六子に警告するよう 何度も報告書を提出していたハズ‥だったのだが欧州に変化が訪れるのを期待する朝海 蓮の妨害などによりその声は届けられなかった。 ドイツを警戒するイーデンなどとは仲がよい。六子に疎まれてセシル・オブ・チェルウッド卿に よく職を奪われていたりもする。が、それは表向きで裏の汚い仕事はシンクレアが一手に引き受けていたりもする。 チェルウッド卿の平和への信念に共感しているからである。 暇になった時はロンドン市街で子供たち相手にヒーローごっこをして遊んでいる姿をよく見かける。 誰に対しても優しい鋼の心を持っているためイギリス閣僚からは比較的好かれている。 最も朝海 蓮とは会うたびに衝突しているようだが‥ ベリンダ・リデルハート #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 戦略家 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 マデリーン・ビーヴァーブルック 身長133cm 体重34kg B61 W47 H62 (CV:門脇舞以) 天才幼女 英国の軍需大臣。もともとは貧乏貴族の出身だが、 父親の遺産を元手に株に手を染め、またたくまに英国有数の資産家へと のし上がる。イギリス版フォードとも言うべき人物で、 第二次大戦期にはドイツを遥かに上回るスピードで航空機の増産に成功し、 バトル・オブ・ブリテンの勝利に貢献する。 また彼女の発刊した新聞は、英国史上類を見ないほどの発行部数を誇った。 大好きな言葉は「いっぱい」「でっかい」「たっぽし」。 幼女のくせにけしからん。 喫煙習慣の持ち主で葉巻を愛好する。また、ロールスロイスを堂々と免許有りで運転するので、イーデンなどうるさ方とは不仲。 某ルートで「大人の階段」を上った。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 ハリファックス卿 六子の執事 貴族出身の閣僚。 過去にインドで総督をやっていたこともある。今はある王族の執事をしている。 ミュンヘン協定のため満と会談を行ったこともある融和主義者でもある。 六子の元執事でもあり、信任もあつかったので首相になれたかもしれない人(*9)。 愛銃は執事の頃に六子から貰ったコルト・ベスト・ポケット。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 ウルキュース・チャドウィック イギリスの物理学者。ノーベル物理学賞受賞。 優れた科学者だが、アニメーションやコミックを愛好しており、それを大量にコレクションしている。学会の会議をアニメ鑑賞で潰してしまうことも珍しくない。 マンハッタン計画にも参画した。戦争終結後はアメリカが各開発技術の独占を狙ったため、六子はイギリス独自で核開発を行うべく、彼にマンハッタン計画のノウハウを生かして核開発を主導するよう命じる。 核開発は六子が生きている間に終結しなかったが、城寺絵里の時代に成功し、彼女から騎士の称号を授けられる。核開発には良心の呵責を感じたが、それが必要なことであると信じていた。 戦後、核開発よりも光の巨人が出てくる特撮に熱中したために、六子の死に間に合わなかったとの風聞があるが、事実か否かは分からない #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 暮目あとり オクスフォード卒業後弁護士となり、ロンドンのスラム街の人々の救済にあたる。WW1で負傷した後、 政治の世界に身を投じて国を中から変えていくために労働党に入る。彼女の人柄からスラム街を中 心に下流市民からの絶大な支持もあり下院議員となる。 チャーチルの後釜として首相に就任するや、WW2で疲弊した人々を守るためイギリスの戦後復興を 推進、労働党の公約であった基幹産業の国有化と「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる社会保障制度 の確立を行い、社会主義政策を推進し実行した。しかし、人間の救済はできたが復興の代償にアメリカ からのマーシャル・プランを受け入れるなど圧力に屈したために経済的主導権を失われ、国家の救済は できなかった。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 アンニューリン・ベヴァン 赤い女王 ウェールズ出身の労働党員。 社会主義体制が発足した暁には国家元首となるだろうと目されている社会革命家である。 名言に「This Is My Truth Tell Me Yours」というものがある。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 ハリエット・マクミラン 「いまや変革の風がこの大陸を吹きぬけている」 イーデンが泣き喚きながら首相を辞めたのでそのポストに納まった人。 以前から保守党内で有力政治家として台頭し、重要なポストを歴任していた。イーデンの内閣では外務大臣を務めた。 彼女は大英帝国の夢を捨てて、「小英国」としてヨーロッパの一員に相応しい路線を模索した。 が、欧州経済共同体(EEC)加盟しようとするとド・ゴールにいぢめられる。 アフリカ訪問時には植民地の独立を促し、アパルトヘイトを非難した。 内政面で思いっきりずっこけてイギリス病を促進させてしまう。 結局、元閣僚がソ連の色仕掛けにあってたことがばれてしまい、辞任した。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 須波 真凛 (すば まりん) 命を賭けて英国の空を護った技術者 イギリス戦闘機開発の第一人者であり霜月・ソジロー・メッサーシュミットの好敵手。人前では常に笑顔を絶やさず謙虚で優しい。しかし、どんな病状、相手、状況でも同じように優しい対応をとるので、その笑顔が場合によっては周囲の涙を誘う。 ちなみに朝海蓮とは通院先の病院で知り合った友人であり、悩み事を聞いたりする仲である。 元々優秀ではあったが病弱でもあった彼女は1935年持病が急速に悪化、最後に世界旅行に行ってから研究職を引退し、持病の治療に専念しようと考えていた。 しかし旅行途中のドイツでナチスの脅威とその技術力の高さに圧倒された彼女はすぐにイギリスに帰還、以後最低限の治療以外を拒否し犠牲的なまでに病弱な体を酷使して戦闘機『スピットファイア』の設計に尽力し、RAFの空軍力に大きく貢献する。その設計の完成度は敵であるガーラント少将に『スピットファイアが一個軍団欲しい』と言わしめるほどであった。 彼女が咳をするとイギリスの戦闘機開発が一日遅れると言われており、彼女の死はイギリス戦闘機開発の停滞に直結するため時代が下ると政府がわざわざ病院の中に研究室を造り、そこで治療しながら開発を行うようになる。(史実では37年に死亡) しかし、少しでも病状が良くなると病院を抜けて現地でRAFのパイロット達からスピットファイアや敵戦闘機の評判や問題点の聞き込みに行く。そのため政府、RAF、研究室のいずれからも彼女の人望は厚いが同時に心配もされている。 口癖は、『私がやらないといけないことですから』 ちなみに角砂糖の入った袋を常に携帯しており、スナック菓子のように角砂糖を食べるハイレベルな甘党という側面がある。 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 アームストロング イギリス有数の軍需企業ヴィッカース・アームストロングの代表取締役。 先祖代々多芸多才である事で知られ、彼もまたアームストロング家に代々伝わる芸術的な造船術やら生産術を駆使して英連邦各国に武器を供給している。 軍需企業の代表とは思えない心優しい大男ではあるが現実的な視点も持ち合わせており、企業と従業員を守るには破壊の為の創造を続けるしかない事を理解し、更なる企業努力に励む。 ツクッ=テ=ハヴィランド社 #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 「アァン!?ワクワクさん? 歪みねえな、あの技術力」−ヘリントン社長 英国を代表する航空機メーカー。 社員はわずかに取締役兼技術主任のジェフリー=ワクワク(左)と テストパイロット兼営業マンのウィリアム=ゴロリクソン(右)の2名である。 しかしモスキートを初めとする独創的な飛行機を数多く設計し、 その機体は戦略爆撃において猛威を振るった。 今日もトンでるアイデアを実現化すべく、楽しくコカインをヤりながら 研究にいそしむふたりであった。 ジェフリー・ワクワク ツクッ=テ=ハヴィランド社取締役兼技術主任。 もともとはただのフリーター(でジャンキー)の兄ちゃんだったが、 ある日のっぽなおじさんから飛行機設計の技術を教え込まれ、 ハヴィランド社を任されることになった。 独創的なアイデアと高い技術力の持ち主であり、ソ連のやっこさんと並び、 ダンボールとセロテープで作られた飛行機を飛ばすことの出来る数少ない人物。 某御大との血のつながりはない。多分。 ウィリアム=ゴロリクソン ツクッ=テ=ハヴィランド社テストパイロット兼営業マン。 人語を解する天才熊(ややメタボぎみ)であり、ハヴィランド社の一角に住み着いていた。 高慢ちきな性格で、ワクワクさんが何かするたびに「何これ(嘲笑」とバカにするが、本心では彼のことを尊敬している。 テストパイロットとしての腕前は一流で、特に戦略爆撃において高い能力を発揮する。 1944年にはRAFの正式メンバーとして迎えられ、53年には元帥の地位まで獲得する。 負けず嫌いな性格から、しょっちゅうほかのパイロットと「ねぇ、あとで勝負しようよ!(迫真」と衝突しているが、皆とは基本的に、互いに良きライバルとして認め合っている。 (史実キャラ…ディックソン) ノッポ・デキルカナード #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。ワクワクさんに飛行機設計を教え込んだ伝説の設計士。 航空機開発の草創期に大活躍した人物だったが、ワクワクさんに後をまかせて空の舞台からは引退した。しかしあふれ出るものづくりの情熱は収まることを知らず、 結局、第二の人生を艦艇設計に捧げようと決心した。 当時海軍休日で技術力の低下と人材難に悩んでいたウルフ社に入社し大活躍。 特に空母の設計において英国海軍に多大な貢献を果たした。 この功績に驚いたウルフ社社長は、彼を副社長に迎え、社名を 「デキルカナード・アンド・ウルフ社」に変更した。 無口だが表現力豊かでダンスの達人でもある。その実力はフレッド=アステアに並ぶとさえいわれている。 設計図を引くときはいつもタップダンスをしているが、それで線が曲がることは一切無い。 (史実…ハーランド・アンド・ウルフ社) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (イギリスバー_ファシスト連盟.PNG) #ref error :ご指定のページがありません。ページ名を確認して再度指定してください。 百舌 雄頭(おず もず) ファシストにして準男爵にして六子の使い魔 名誉革命の際オランダから付いてきた、スチュアート王家の従者の家系。 本名オズワルド・マックス・モズレー。 「専制君主となった時のために」という理由から、六子の指示でファシスト党を組織して補佐すべく努力している。 冷静な判断力やさまざまな武器の取り扱いに長けるなど非常に優秀な人間ではあるのだが、口答えはできても六子の言う事には(本能的に)絶対服従。 但しそんなものがなくても基本的にはフォースグリップで強制執行。 皮肉屋で英国的ジョークセンスにも溢れているが、誰に言おうとも何だかんだで暴力的に粉砕される等、貧乏くじを引かせたら右に出るものはいない。 たらしの才能もある。成功した試しは一度も無いが。 エドレアさんにプロポーズされたときは六子のお仕置きを恐れ、 ケツまくって逃げ出したらしい…。 世界第二の"鋼鉄の胃腸"を持つ男。 大戦中、チャーチルに親子ともども牢獄にぶち込まれる。 暇なので法律の勉強をし、戦後弁護士として活躍する。 出所後に自動車レースに興味を持ち始め、F1に参加したり、SMを公開されたりと多彩な趣味を持っている。
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ある男の家に、一匹の赤ちゃんれいむがいた。 これは、ゆっくり愛好家である男の家に暮らしていたゆっくり一家の末子である。 一家が親子水入らずでハイキングに出かけたある夏の日、里一帯は午後から急な夕立に見舞われた。 それ以来、ゆっくり一家は帰って来なかった。 男は信じたくなかったが、おそらくは隠れる場所の無いところで雨に降られ、全滅したのだろう。 しかし生まれて間もないこの赤れいむだけは、部屋の物陰で寝過ごしており、 ハイキングに行きそびれて運良く生き残ったのであった。 家族がいつまでも帰って来ないことに、赤れいむは夜通し泣きじゃくり、男もつられて涙をこぼした。 男は、一家の忘れ形見であるこのれいむだけでも大切に育てようと思った。 さて、ある程度育ったゆっくりならいざ知らず、赤ゆっくりの育て方を男は良く知らなかった。 なので、母ゆっくり達がいた頃の飼育法を見よう見真似でやってみるしかなかった。 赤ゆっくりは食べ物をうまく消化出来ないことがある。 なので、食べ物は親ゆっくりが一旦咀嚼し、ある程度餡子に変えた状態で与えるのだ。 少なくとも、男が見ていたゆっくり親子はそのようにしていた。 男もそれに倣い、野菜など歯ごたえのあるものは、自分が咀嚼して吐き出したものを与えた。 本来ならすり鉢などですり潰せば良いだけだろうが、今は自分が親代わりなのだ。 ゆっくりなりの親子のコミュニケーションというのを体験させた方が生育上良いと思った。 赤れいむも、そうして与えられた物を喜んで食べた。 餡子には変わっていなかったが、噛み砕かれた食べ物は赤れいむでも消化出来たようだった。 そのように男は一つずつ、親ゆっくりから学び取った赤ゆっくりの育て方を実践していった。 半年が経ち、男の世話の甲斐あって、れいむも立派なゆっくりに成長した。 すでにバレーボールほどの大きさがある。親に似た、心豊かなゆっくりである。 度々外に遊びに行っていたので、運動能力も充分。虫を追いかけて捕まえることも出来た。 ある日れいむは、男に対してこのように言った。 「おにいさん、いままでれいむをゆっくりさせてくれてありがとう! れいむはもうひとりでもいきていけるよ!だからもりにいってみようとおもうよ! ばっぢがあるともりのゆっくりとゆっくりできないから、ばっぢをゆっくりとってね!」 突然の申し出に男は驚きつつも、言われた通りに飼いゆっくり証明バッヂを取ってやった。 「本当に行くのかい? ずっと家でゆっくりしていっても良いのに」 「ゆ!でもれいむは、おかあさんやおねえちゃんたちをさがしてみようとおもうよ! もうしんじゃったかもしれないけど、もしかしたらいきているかもしれないよ!!」 「そうか……一緒にいられないのは残念だが、そういうことなら仕方ない。 餞別にお菓子を持たせてあげよう。それと雨には気をつけるんだよ」 「ゆっ!おにいさんありがとう!れいむはいってくるよ!!」 またいつでも帰って来いよ、と言って男は旅立つれいむを見送った。 れいむがもらったお菓子は飴だった。れいむは飴を一粒舐めながら道を歩いていった。 しばらくして、近くに川の流れる林道に出た。この辺りはお母さんと一緒に一度来たことがある。 そう思って歩いていると、口から飴をこぼしてしまった。道を外れ、なだらかな坂を転がっていく飴玉。 れいむが目で追っていると、坂の下にいた二匹のまりさ達が飴を拾って舐めていた。 「しあわせー!」と言っては吐き出し、二匹で回し舐めしている。 そしてれいむと目が合った。せっかくなのでれいむも坂を下り、まりさに話を聞くことにした。 「ゆっくりしていってね!」 「「ゆっくりしていってね!」」 「このへんではみないれいむだね!」 「れいむはにんげんにかわれていたんだよ。でもさっきひとりだちしてきたんだよ。 そのあめもにんげんがくれたんだよ」 「ゆっ!もっともってたらまりさにちょうだいね!」 「いいよ!でもれいむのしつもんにこたえてね! はんとしぐらいまえ、このあたりでゆっくりのいっかをみなかった?ばっぢをつけてるいっかだよ!」 「ゆゆ?まりさはむかしのことなんておぼえてないよ!」 「そういうのはぱちゅりーにきいてね!」 ということで、れいむはまりさ達の群れに案内され、群れの長であるぱちゅりーの前に通された。 ぱちゅりーは他のゆっくりに比べて知能が高く、記憶力も良いらしかった。 れいむが事情を話すと、すぐに答えが返ってきた。 「むきゅ!たしかにみたわね!このもりをぬけたはらっぱでゆっくりあそんでたわ!」 「ゆゆゆっ!ほんとう!?」 「ゆん!でもおおあめにふられて、みんなとけちゃったみたい。これがそのときのこったばっぢよ! にんげんよけになるかとおもったけど、ゆっくりだけではつけられないからとっておいてるの」 そう言うとぱちゅりーは、巣の奥から沢山の飼いゆっくりバッヂを運んできた。 ちょうど家族の人数分あり、親姉妹達のもので間違いなさそうだった。 れいむは親たちが生きているというわずかな可能性を断ち切られ、意気消沈した。 「ゆ~・・・やっぱりれいむのおかあさんたちはもういないんだね」 「ゆっ、れいむ!げんきだしてね!」 「まりさたちがともだちになってあげてもいいよ!!」 「むきゅ、そうね!いくあてがないなら、わたしたちのむれでゆっくりしてもいいのよ!かんげいするわ!」 「ゆっ!そうさせてもらうね!これからよろしくね!」 しかし家族の死を確認出来たことは、前へ進むために過去を吹っ切ったという意味も持っていた。 れいむは森の群れの中で、野生ゆっくりとしての新しい生活を始めた。 他のまりさと仲良くなってつがいになり、ゆっくりしたかわいい赤ちゃんを沢山産んだ。 時には他所の一家の親が狩りに行っている時、その子供の面倒を見たりもした。 長ぱちゅりーが体調を悪くした時も、群れのみんなで交代して看病をした。 家族を失ったれいむにとって、群れというコミュニティでの生活は、心の充足をもたらした。 れいむはとてもゆっくりできていた。 れいむが群れに馴染んで来てしばらくした頃、群れの中である奇病が報告された。 突然口の中が痛いと言い出すゆっくりが現れたのだ。 しかし一見口の中に怪我などはなく、原因は不明とされていた。 一応、ぱちゅりーが薬草として知られている草をいくつか食べさせたが、効果は薄かった。 発症したゆっくりの痛みは日に日に増していくようだった。 「ゆぎい゛ぃぃぃぃぃぃ!!いだい!!いだいよぼおおおぉぉぉ!!」 「まりさ!おちついてね!ごはんをたべてゆっくりねたらきっとなおるからね!!」 「いや゛だびょぉぉ!!ごばんだべだぐないぃぃぃぃ!!だべるどいだいのぉぉぉ!!」 「ゆゆっ・・・どうずればいいのお゛ぉぉぉぉぉ!?」 あるまりさの一家などは大パニックであった。大黒柱である親まりさが奇病を発症し、 三日三晩のた打ち回った挙句、やがて餡子を吐き出して死んでしまった。 それはれいむが初めてこの群れに来た時、友達になってくれたあのまりさであった。 こうなると群れは恐慌状態である。やがてその家の子まりさまでもが痛みを訴え出した。 「ゆ゛~!ゆ゛~!いちゃいよおかあしゃん!」 「ゆっくりでぎないよぉぉぉぉ!!」 「ゆゆゆ!みんながまんしてね!ゆっくりなおってね!なおらないとまりさおかあさんみたいにしんじゃうよ!!」 「「ばりざじにだぐないよぉぉぉぉぉ!!」」 「むきゅ・・・もしこのびょうきがどんどんうつったら、むれのみんながゆっくりできなくなってしまうわ。 かなしいけど、なおすほうほうがみつかるまでどこかにでていっていてもらうしかないわね」 「どぼじでぇぇぇぇ!?まりざだちなんにもわるいごどしでないよぉぉぉぉ!!」 「うるさいよ!おまえたちはいるだけであぶないんだよ!」 「まりさたちといるとゆっくりできないよ!ゆっくりでてってね!!」 病気を恐れた群れのゆっくりたちは、一家を追い出して隔離してしまった。 れいむは心苦しかったが、群れを守るためだと自分に言い聞かせ、みんなと一緒に病気の家族を追い立てた。 さて、そうなると事態は深刻である。痛みを訴えれば、病気の感染者として群れから隔離されるのだ。 事実、その後も激しい痛みを訴えたゆっくり達が、家族ごと群れから追い出され、森の奥へと隔離されていった。 そんな雰囲気の中なので、口の中が痛み出したゆっくり達も、しばらくは痛みを我慢して黙っていた。 発症するのは子ゆっくりや赤ゆっくりが多かったため、両親は喚くわが子の口を封じるのに一苦労である。 中には自分達が追い出されない為に、痛みを訴える子供達を巣の奥に押し込めておく親ゆっくりもいた。 それだけならまだしも、痛みに暴れまわるわが子を思わず押し潰してしまう親までいたのだ。 また今は健康な他のゆっくりも、どこから感染し、いつ自分も発症するかわからない。 自然とゆっくり同士のコミュニケーションは減り、群れの縄張りは静かになっていった。 今や群れ全体がゆっくり出来なくなっていたのだ。 「ゆぅ・・・なんだかむれがばらばらになっていくよ。これじゃゆっくりできないよ」 「みんながもっとゆっくりできればいいのにね・・・」 れいむたち夫婦も、巣に篭もってごはんをもそもそと食べていた。 群れ全体を包む緊張感の中での食事は、ちっともしあわせではなかった。 もうすぐ冬がやってくる。越冬の為にみんなで協力し合わなければならない時に、こんな調子では…… その時、子れいむの一匹が木の実を食べて「ゆ゛っ」と呻いた。 「おかあさん・・・なんだかおくちのなかがいたいよ・・・」 「ゆっ!?」 「まりさも!まりさもいたいよ!!」 「なんだかゆっくりできないよ!」 「ゆ゛ゆ゛っ!!おちついてね!!きのせいかもしれないよ!」 「ぎのぜいじゃないよ!!いだいよ!!ごはんだべられないよ!!」 「な゛んでぇぇえ゛ぇぇ!?でいむおながへっでるのに゛ぃぃいいぃぃ!!」 「い゛ぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!!」 次々に騒ぎ始める子ゆっくりたち。痛みを感じていない子ゆっくりも、病気のことは知っているのだろう、 痛みを訴える姉妹たちから離れ、親にすがりつくようにして震えている。 れいむはどこか他人事だと思っていた脅威が、とうとう自分達の家族を襲い始めたことに戦慄した。 そして何より、自分の口の中にも何か違和感があることに気付いてしまったのだ。 いや、以前から気付いていたはずだ。しかし無意識のうちに気付かないフリをしていたのだ。 いたいいたいと泣く子供達を見ているうちに、その違和感が痛みに変わっていくのを感じた。 「ゆゆゆゆ!れいむもなんだかいたくなってきたよ!!」 「ぞんなぁぁぁ!れいむまでびょうきになったら、まりざどうすればい゛いのぉぉぉぉ!!」 「おかあしゃん!いたいよ!こわいよ!!」 「ばりざじにだぐないよぉぉぉぉぉ!!」 「なにごれぇぇぇぇ!!れいむなんにもわるいごどじでないのにぃいぃぃぃぃ!!!」 「ゆ゛っぐりざぜでよぉぉぉおおぉぉ!!」 巣の中はパニック状態だ。痛み自体はまだそれほどでもないのだが、家族が群れから追い出され、 ゆっくり出来なくなるというビジョンの恐怖が、混乱に激しく拍車をかけていた。 そしてやがて待っているのは、苦しみのた打ち回った末、餡子を撒き散らして死ぬ運命である。 あまりの恐怖に錯乱した一匹の子まりさが、叫びながら巣から飛び出していってしまった。 「ゆゆっ!ゆっぐりまってね!!いまそとにでちゃだめだよ!!」 「ばりざぁぁぁぁあのあかちゃんをづがまえでえぇぇぇ!!でいぶだぢゆっぐりじだいよぉぉぉぉ!!」 「ゆっ・・・わかったよ!!みんなはここで静かにまっててね!!ゆっくりなおってね!!」 「ゆ゛っ・・・ゆ゛っ・・・ゆ゛っ・・・」 錯乱状態のれいむに頼まれ、親まりさが飛び出した子まりさを連れ出すことになった。 親まりさが巣穴の外に出てみると、辺りに他のゆっくりの姿は見当たらない。どこも同じような状況なのだろうか。 しかしそれなら好都合だ。他のゆっくりに見つかる前に連れ戻してしまえば、追放は免れるかもしれない。 足跡を辿って子まりさを追っていくと、林道に差し掛かった辺りで一人の若い男に捕まっていた。 (ゆゆっ!?あれはにんげんだよ!ゆっくりにげるよ!!) もう親まりさの頭の中は、子まりさを見捨てて恐ろしい人間から逃げることで一杯だった。 しかし腐っても我が子のことなので、もう少し遠巻きから様子を見てみる。 人間は、掴み上げた子まりさに何やら話しかけているようだ。 「おいおい、全然ゆっくり出来てねえゆっくりだな。血相変えてどうした」 「ゆががががが!!ゆっくりはなじでね!!ぐぢのなががいだくてゆっくりでぎないんだよ!!」 「口の中? 口内炎かなんか出来たのか? どれ、ちょっと見せてみろよ」 と言うや、男は子まりさの口を顎を外すような乱暴さで、上下にがばっと開いた。 子れいむは「ゆ゛ぎっ」とうめきを上げ、親まりさも一瞬恐怖した。 「あ~あ、こりゃひでえ。見事な虫歯だな」 「ふ、ふじば?ひゃにひょれ!?ぶっふりえぎる?」 「何言ってんのかわかんね。口の中っつーか歯が痛いんだろ? 虫歯は歯の病気だよ。 しかしゆっくりも虫歯になんてなるんだなあ。歯磨きどうしてるんだ? お母さんが磨いてくれなかったの?」 「ゆぶっ!だじがにはがいだいよ!!ふしばってなあに?はみあきなんてきいだごどあいよ!!」 「お母さんも歯磨きしてないのか? とするとゆっくりにはそもそも虫歯という概念がなかったのかな。 確かに俺も結構色んなゆっくりを見てきたけど、虫歯の心配してる奴なんかいなかったな。 ま、お前らのことだからどうせ人間の食べてる物でも横取りして食ったんだろ。 人間の口には虫歯のばい菌がいるからね。それで移ったんだ。自業自得だね!」 「ゆ゛ゆ゛!!ばりざにんえんのものなんへとっへないお!!もうゆっふりはなしへね!!」」 「まあまあ、せっかくだから俺が虫歯抜いといてやるよ。そらっ」 そういって男は、子まりさの口から歯を一本ブチッという音を立てて抜き去った。 それも一本だけではなく、太い歯を何本も何本も。 抜かれるたびに子まりさは「い゛があああああああああああ」と悲鳴を上げていたが、男はケタケタ笑うだけだ。 歯茎に空いた穴から餡子が噴き出し、男の手を汚す。 結局5、6本の歯を抜いてから、男は子まりさをべしゃっと投げ捨てた。 「い゛がい・・・・いだいよぉ・・・」 「は~あ、元から苦しんでるゆっくりを虐待しても面白くないね。 まあ良い悲鳴聞けたし、もう帰っていいよ」 「ゆぎぎぎいぃぃ!!しね!!ゆっくりできないにんげんはゆっくりじね!!」 「ゆっくりはてめえらだけでしてろ、カス」 悪態をつく子まりさを男は爪先で蹴飛ばし、道を去っていく。 吹っ飛んできた子まりさは親まりさに激突し、二匹は「ぶげっ」とうめいて餡子を吐いた。 「お、おがあざんんんんん!!どうじでだずげてぐれながっだのぉぉぉぉぉ!!」 「じがだないでじょおおおぉぉぉぉ!!にんげんにづがまっだらしんじゃうんだよおおぉぉぉぉ!!」 「がわいいごどもをだずげるのはとうぜんでじょぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!」 としばらく言い争ってから、親まりさは本来の目的を思い出し、 他のゆっくりが現れる前に、子まりさを巣へと連れ帰った。 巣ではれいむと子供達が痛みと恐怖に震え続けていた。帰って来た二匹を目に留めたれいむは慌てて駆け寄る。 「ゆゆっ!ほかのみんなにはみつからなかった!?」 「だいじょうぶだよ!でもまりさのこどもはにんげんにつかまっていじめられたよ。はをいっぱいぬかれたよ」 「にんげんに!?ころされなくてよかったね!!」 「ゆぐ・・・ゆ゛ぐぅ・・・」 れいむが帰って来た子まりさを見ると、口元を餡子まみれにして涙ぐんでいる。 しかし家を飛び出す前と違って落ち着いているようだ。痛みはどうしたのだろうか。 「ゆっ?まりさ、もうおくちはいたくないの?」 「いだいよ・・・でもにんげんにはをぬかれたらすこじおさまっだよ。 まりさはおくちじゃなくてはがいたかったんだよ」 「は?」 そう言われると、口の中でも特に歯が痛むような気がしてくる。 ゆっくり達が歯の痛みに気付けなかったのは、ゆっくり特有の鈍感さ、大雑把さに加え、 虫歯というものを知らなかったので、歯が痛むという感覚に馴染みが無かったからだ。 しかし言われてみれば段々そんな気がしてきたのだ。 「ゆゆっ!たしかにはがいたいきがしてきたよ!!」 「れいむ・・・れいむはにんげんにかわれてたっていってたよね?」 「ゆ?そうだけど、それがどうかしたの?」 親まりさのれいむを見つめる不穏な目つきに、れいむはたじろいだ。 「さっきのにんげんは、まりさのくちがいたいのは“むしば”だっていってたよ。 ゆっくりはむしばにならないのに、にんげんからうつったんだっていってたよ」 「ゆ・・・?なにいってるの?むしばってなあに?」 「とぼけないでね!!」 いきなり親まりさはれいむに体当たりした。 まさかそんなことをされるとは思っていなかったれいむは簡単に吹っ飛ばされ、 後ろにいた子ゆっくりもれいむにぶつかって転がっていった。 「きっとれいむがにんげんのくちについたものをたべたからいけないんだよ!! れいむがかみくだいたあんこをたべたあかちゃんたちにもむしばがうつっちゃったんだよ!! れいむがむしばをむれのみんなにうつしたんだよ!!」 「ゆゆ!?」 そういえば、お兄さんはゆっくりの親がするように、一度噛み砕いて柔らかくしたものをれいむに食べさせてくれた。 そして自分も同じように、自分の家族だけでなく群れの赤ちゃんたちに、噛み砕いた餡子を食べさせていた。 更にこれはれいむも覚えていないことだが、最初に痛みを訴え出したまりさはれいむの落とした飴玉を拾って舐めていた。 これにより、そのまりさの家族および仲が良い家族の赤ちゃんなどは細菌に感染していくことになる。 本来ゆっくりはミュータンス菌などの虫歯の原因になる細菌を保持していないので、 どのような生活を送っても虫歯に苦しむことはない。しかし、一度何かの原因で他の動物から細菌に感染してしまえば、 食べている側から食べ物を餡子に変換するゆっくりである、虫歯が進行していくのはあっという間なのであった。 「れいむのせいでむれのみんなはゆっくりできなくなっちゃったんだよ!! にんげんにかわれたきたないゆっくりはゆっくりしね!!」 「ゆゆっ!!?どうじでぞんなごどい゛うのぉぉおお゛ぉぉぉぉ!!」 「ゆ゛ぅぅぅ!!まりざだぢのはがいだいのもおがあざんのせいだよ!!」 「きちゃないおかあさんからうまれたかられいむたちもゆっくりできないんだよ!!」 「ゆっくりできないおがあざんはゆっぐりぢねぇぇ!!」 親まりさは親れいむに激しい体当たりを始め、子供達もそれに便乗した。 家族によって巣から追い立てられ、やがて森の広場まで追い込まれたれいむ。 いつの間にか一匹の子供がぱちゅりーを呼び出しにいっており、その報を聞いた他のゆっくりも集まっていた。 れいむはまりさや子供達に叩かれ続けながら、ぱちゅりーに涙目で訴えた。 「だずげてばぢゅりぃぃいいぃぃ!!でいむのかぞくがいじめるのぉぉぉ!!」 「むきゅ!れいむ、こんなことになってほんとうにざんねんだわ!」 「!?なにいってるのぱちゅりー!?はやくみんなをとめてね!!」 「うるさいよ!びょうきをもちこんだれいむはゆっくりしんでいってね!」 「おまえのせいでみんなゆっくりできなくなったよ!!」 「おお、きたないきたない」 「ゆっくいしんえね!」 大小さまざまなゆっくりがれいむを取り囲み、罵詈雑言を浴びせていた。 みんなの怒りの渦の中で、れいむの思考は真っ白になっていった。どうしてこんなことに? れいむは今まで群れの為によく働き、みんなとも仲良く出来ていたはずなのに…… 「れいむ!あなたのせいでむれはめちゃくちゃよ! にんげんのかいゆっくりなんてなかまにしたのがまちがいだったわ!!」 「なんでばぢゅりーまでぞんなごどい゛うのぉぉぉぉおおぉぉぉ!? でいぶなんにもわるいごどじでないよぉぉぉぉおお゛ぉぉぉぉ!!」」 「むぎゅうう!みぐるしいわ!!おまえをむれにおいていくわけにはいかないのよ!! ゆっくりしないででていきなさい!!ころされないだけありがたくおもってね!!」 「ぞんなああ゛ぁぁぁぁあ゛ぁぁぁぁぁ!?」 普段は温厚なぱちゅりーからは考えられないほどの暴言であった。 それもそのはず、実はぱちゅりーの歯も数日前から痛み出していたのだ。 虫歯の痛みとそこから来る怒りが、ぱちゅりーから冷静な思考力を奪っていた。 ぱちゅりーの合図で何匹ものゆっくりが飛び出し、れいむにボコボコと体当たりを仕掛けた。 れいむはそのまま巣の縄張りから押し出され、「にどとはいってこないでね!!」と唾を吐かれ、 ボロクズのように捨てていかれた。辺りには小雨が降り出していた。 「ゆぐうぅぅぅぅ・・・どぼじでごんなごどにぃぃぃぃ・・・」 れいむはまたしても家族を失ったのだ。それもみんなに憎まれるという最悪の形で。 残ったのは全身の傷と、口の奥底から無限に湧き上がってくる虫歯の痛みだけ。 とにかく、雨を凌ぐためにゆっくり出来る場所を探さなくてはならない。 れいむはべちょべちょになりながら、森の中を這うように跳ねて行った。 やがてれいむは、木の下に住居を構える一匹のまりさの姿を見つけた。 「ゆ!あめがやむまですこしやすませてね!」 「いいよ!ゆっくりしていってね!!」 まりさは快くれいむを受け入れてくれ、れいむにはそれが心に沁みて嬉しかった。 木の下の巣はとても暖かく、雨の冷たさに感覚を失ったれいむの肌をじわりと癒していった。 まりさはまだ少し小さいようだったが、他の家族の姿は見当たらなかった。 狩りにでも出ているのかと思ったが、この天気なら帰って来ても良さそうだし、巣の中も家族がいるにしては質素だった。 「いまからごはんにするところだよ!いっしょにたべようね!」 「ゆ~?まりさのかぞくはいないの?」 「ゆ・・・おかあさんもおねえちゃんもみんなおくちのびょうきでしんじゃったよ!」 「ゆ゛!?」 「まりさはげんきだけど、かぞくのびょうきのせいでむれからおいだされたんだよ。 だからほかのゆっくりとゆっくりするのはひさしぶりでうれしいよ!ゆっくりしていってね!」 一人で集めたであろう、とても多いとは思えない備蓄かられいむの分もご飯を並べ、 無垢な笑顔を向けてくる子まりさ。れいむは愕然としていた。このまりさは自分達が群れから追い出したまりさの子供であった。 そしてこんなに優しいまりさから家族を奪い、ゆっくり出来なくしたのは自分なのだ。 その自覚は、みんなにお前のせいだと喚き立てられるよりも、ゆっくり確実にれいむの心を苛んでいった。 「ゆっくりたべてね!」 「ゆっ・・・むーしゃ、むーじゃ、じあわぜぇぇ~~!!」 「ゆゆっ!そんなにおなかすいてたの?」 れいむの滂沱の涙に、驚きつつも楽しそうに笑う子まりさ。 れいむの歯は相変わらず痛んだが、そんなものは心の痛みに比べれば大した痛みではなかった。 食後も二匹は互いに頬ずりしたり、巣の中で飛び跳ねたり、お歌を唄ったりして過ごした。 子まりさとれいむにとって、久々に思う存分ゆっくりできる時間であった。 結局雨は夜まで降り続き、子まりさはれいむに泊まっていくよう促した。れいむもその言葉に甘えた。 二人は寄り添うようにして寝床に就いた。だが子まりさのゆぅゆぅという寝息が聞こえても、れいむは寝つけなかった。 「ゆ・・・なんでこんなことになったのかな・・・」 ゆっくりの口癖であるこれは、必ず物事の責任の所在をどこかに見つけ出すことで、 自分がゆっくりすることを正当化したがるという習性に由来するものである。 れいむはゆっくりの中では聡明な方であったが、所詮ゆっくり。餡子脳の限界には勝てなかった。 今までは自分が悪いのだという気がしていたが、断続的に自分を苛む虫歯の痛みが、 自らも理不尽な暴力の犠牲者であるというような被害意識を刺激し続けていた。 その感情はやがて、自分のかつての恩人であるお兄さんへの恨みへと転化していった。 そうだ。あのお兄さんが自分にばいきんを移したから、自分は今激痛に苦しまされている。 しかも仲が良かった群れをめちゃくちゃにし、この子まりさや自分から家族を奪い、不幸のどん底に追い込んだ。 全部あのお兄さん……いや、ばかなにんげんのせいではないか。 そのせいで自分は、多くのゆっくりの恨みを買い、要らぬ良心の呵責と歯の痛みに苦しまされているのだ。 自分には何の責任も無い。いやしくもゆっくりの親の真似などした、あの人間が全て悪いのだ。 朝になって目覚めた子まりさの隣に、れいむの姿は無かった。 小雨の夜のことである。 あるゆっくり愛好家の男の家の戸を、何者かが激しくどんどんと叩いた。 「誰だろう? こんな夜中に……」 夢の入り口から引き戻された男は、開ききらない眼を擦りながら玄関へと向かった。 新たに飼い出したゆっくりれいむも目が覚めてしまったらしく、不安そうに玄関を眺めている。 「ゆぅ・・・おにいさん、なんだろう?」 「ちょっと様子を見てくるから。れいむはそこでゆっくりしててね」 男の家は村の外れにある。通りがかりの旅人が訪ねて来たり、急病人に軒を貸すことも少なくない。 今回もその類だろうかと思いつつ、男は玄関の扉を開いた。 「ゆ゛がぁぁぁぁああ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!」 「うわっ!? ゆ、ゆっくり?」 飛び込んで来たのは、憤怒に顔を歪ませたれいむであった。 大きく剥かれた歯は虫歯によってガタガタに変形し、顔全体の禍々しさを一層増している。 そんなゆっくりの恐ろしい形相に男は気圧され、思わず腰を抜かしてしまう。 すかさず飛び掛り、激しく連続で踏みつける虫歯れいむ。 「おまえがっ!!おばえのぜいででいぶはぁぁぁぁっ!!」 「ちょ、ちょっと痛い痛い!」 「じね!じね!!ばがなにんげんはゆっぐりじないでじねぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!」 「ゆっ!おにいさんにらんぼうしないでね!!」 その様子を見ていた飼いれいむは、闖入者に体当たりをぶちかまし、家の外まで吹っ飛ばした。 水を吸ってぬかるんだ地面に叩きつけられた虫歯れいむは、泥まみれになりながらも起き上がり、男を睨み付けた。 その形相の異常さと、ゆっくりなんてどれも変わらんという理由から、男はそれがかつて飼っていたれいむだとは微塵も気付かなかった。 「ふぅ、びっくりしたなあ……有難う、れいむ」 「ゆっ!こんなにやさしいおにいさんをいじめるゆっくりなんてゆるせないよ!ぷんぷん!」 「ゆ゛ぎぃぃぃぃぃ・・・」 虫歯れいむは更に腹が立った。新しい飼いれいむは丸々と育っており、普段のゆっくりぶりが見て取れた。 自分が与えられていた幸せを取られたというような錯覚、何も知らずにゆっくりしている飼いれいむへの理不尽な恨み、 そして自分のことを完全に忘れ、新たな被害ゆっくりを生み出そうとしている男への怒り。 様々な感情が入り混じって、虫歯れいむの肉体は無意識のうちに全身全霊のタックルを繰り出していた。 これまで狩りでどんな大きな獲物を仕留めた時も、捕食種と戦いになった時も、このような攻撃は出来なかった。 そのような生涯最大の攻撃だった。これに当たって無事でいられる者はいない。そう確信できた。 男は玄関に立て掛けてあったつっかえ棒で、飛んでくる虫歯れいむを叩き落した。 「ゆ゛びぇっ!!」 「何があったのか知らないけど、人間に危害を加えるゆっくりを放っておくわけにはいかないな。 村の人達がゆっくりを危険視して、罪のないゆっくりまでも駆除されてしまう」 「ゆっ!ゆっくりのてきだね!ゆっくりしないでしね!」 軒先に飛び出し、虫歯れいむを容赦なく踏みつける飼いれいむ。 しばらく餡子を吐きながらうめき声を上げていた虫歯れいむだが、何度目かの踏み付けで、完全に潰れて絶命した。 「お疲れ様、れいむ。餡子の匂いがするとゆっくりが怖がるから、ちゃんと片付けておこうね。 もう遅いから、お前は先に寝床に戻って早く寝なさい」 「ゆぅ~~、おにいさん、れいむなんだかねむくなくなっちゃったよ。ねるまえにおはなしきかせてね!」 「ははは、しょうがないなあ。じゃあ今日はどんなお話をしようか」 飼いれいむと談笑しながら、死体を手際よく片付けていく男。 やがて玄関の戸が閉まると、後には何も残らなかった。 終わり このSSに感想を付ける