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山折村商店街の南口アーケード街。 交通の要所に店舗を構え、普段は観光客で賑わっている浅野雑貨店――その裏手には、一軒の寂れた商店がある。 店主の高齢化に伴って数年前に畳まれたこの商店は、 今では浅野雑貨店がダミー施設だと近隣にバレないよう、研究所によって土地ごと買い取られたいわゆる緩衝エリアだ。 そんなゾンビもいない商店に踏み入り、彫像のように不動を貫いている迷彩服の男がいる。 研究所が独自に保有する戦力ではなく、国家から送り込まれてきた秘密特殊部隊だ。 雑貨店から持ち出された土まみれの武器が乱雑に詰め込まれた店内で、ガーゴイルのように片膝を立てて鎮座する。 動かざること岩のごとし。 仮に何も知らない者が屋内を覗いたとして、背景と見紛うほどに動かない三樹康に気付くことはない。 視界の隅に映った迷彩柄を認知した瞬間には、その違和感は額に開けられた穴から命と共に流れ出しているだろう。 そんな傍から見ればターゲットの到来を静かに待ちわびているような佇まいだが、彼の行動は作戦待機ではなく休息だ。 だらけた姿勢ではなく、訪問者を直ちに撃ち抜ける姿勢を維持して休息を取っている。 脳への負担を最小限に抑えるため、眼を閉じ視覚より侵入する情報を完全遮断。 複雑な思考も遠ざけ、集音機から拾われる音だけで周囲を探察する。 結論として、不幸な訪問者が訪れることはなかった。 そうして、小一時間ほど経過しただろうか。 ―――いるな。 側から見れば眠っていたかのような三樹康の、その目がゆっくりと開いた。 科学の粋を集めた防護服の集音機能が、空気を伝う僅かな振動を捉えたのだ。 ―――獲物だ。 風の音を縫って運ばれてくる人の声と足音。 あらゆる生物がゾンビと化したこの村で、会話の声は予想以上に透る。 地震によって隆起した地面は、歩行する本人は気をつけているつもりでも、思わぬ物音を響かせる。 動くには十分な理由だ。 テロの元凶を征伐して数時間。 脳震盪によるダメージも、背中の強打によるダメージも、これしきの小休止で消えることはないが、状態は安定している。 それ以外の部分――僅かながら蓄積していた疲労に関しては解消されている。 死神がその細長い目をゆっくりと開き、新たな惨劇を求めて立ち上がる。 ◆ 『けーすけ、泣いてたの?』 『泣いてなんかねーやい! 目にムシが入っただけだっての!』 『さっき春ちゃんにいじめられてたのに!』 『そんなんじゃねーよ! おれのじーちゃんは村長だぞ! 村の親分なんだぞ! 親分はエラくて、絶対泣かないんだ! いざというときにみんなを守らないとだからな!』 『もー、じゃーいいもーん。 けーすけが泣きそうなときはねーえ、わたしがおててをぎゅっとしてあげる!』 『あ、や、やめ。恥ずかしいだろ』 『やーめなーいもーん! けーすけがみんなを守るんだよね。 だったら、けーすけは光お姉ちゃんが守ってあげる!』 『いいよ、そんなカッコ悪いよ!』 『お姉ちゃんの言うことを聞きなさーい! ふふっ、ぎゅーっ!』 『やあっ……、あああ~~っ……』 ■ 『ねえ、圭ちゃん。圭ちゃんは本当に、本当に八柳くんがやったと思う?』 『それ以外ありえないだろ! 証拠だって出てるし目撃者も複数いる。そうでもなけりゃ俺だって信じなかったよ。 素直に謝るなら、――ほんの少しでも反省するなら、おじさんやおばさんに俺も一緒に頭を下げたさ! 俺じゃない、俺は何もしてないって! なんだよそれ!』 『私は、私は……うん、そうだね。 現実感がまるでないんだ。珠が記憶を失って、哉太くんが犯人で、それは確かなはずなのに。 泣いて、泣いて、一生分かもしれない涙を流したら。 なんだか、何もかもが蜃気楼のような、まぼろしだったんじゃないかって思えてるの』 『光。今のお前は傷付きすぎて、その優しいまぼろしにすがってるだけだ。 あいつのことは忘れろ。考えるな』 『優しいまぼろし……。うん、そうなのかもしれない。 けれど、全部蓋をしちゃっていいのかな? 肝心の珠が、事件のことはまだ何も話していないんだし……』 『珠はそれだけ傷ついたってことだろが。 ここであのバカに甘い顔すればどうなる? それこそ、閻魔のヤローと同類に成り下がるだろ。 お前らが許しても、俺は向こうが頭下げるまで絶対許さねえ!』 『そう……そうだね。たぶんきっと、それが正しい。 でもね、圭ちゃんだって、本当に辛かったなら、無理しなくていいんだよ?』 『無理してるだって? 俺がそうだって言うのか?』 『だって圭ちゃん、つらいときはいつも自分を奮い立たせようとするから』 『…………』 『私ね、怖いんだ。 当たり前だったものが消えてなくなる。 人も、景色も、思い出も、変わってく。 でもね、それでも、変わらない物はあるよ』 『光……』 『ね、そうだ。手つなご』 『あ、ちょっと、引っ張るなって』 『ふふっ、離してあげないもん。 ――みんなが自分の道を歩んでいったとしても、私は圭ちゃんのそばにいたい。 何があろうとも、何がどう変わろうとも、私はずっとあなたの隣にいる。 だから、ね……』 『だ、ダメだ光!』 『どうして?』 『そこから先は、俺から言う! 俺から言わなきゃダメだろ!』 ■ 発展の波は山折村にも押し寄せ、幼い頃の記憶を置き去りにするがごとく変わっていく。 村が変われば、友との関係も変わる。 道を分かつ友が現れる。 それはかつて哉太と決別した時に思い知らされたことだ。 それでも今朝、哉太と会って圭介は確かに救われる思いがした。 またやり直せるんじゃないか。 どうしようもないくらいに決裂したと思っていたけれど、それは思い込みだったんじゃないか、と。 幼馴染の少女の死に様がチラついて離れない。 死して一つの命が終わりを迎えたとき、最も鮮烈で美しい思い出が遺された者の身に焼き付けられると聞いたことがある。 幼馴染が全員そろうことはこの先、もう二度とない。 淡い期待は、彼女の死によって粉々に打ち砕かれた。 哉太の事件のとき、圭介は食事が喉を通らないほどに憔悴した。 そのときは光が、最も辛いはずの立場にいる光が、手を取ってくれたのを覚えている。 打ち砕かれた平穏と、消えてなくなりそうだった親分としての自信を、光が修復してくれた。 今は望むべくもない。 光は本能に突き動かされるだけの、特別な、ただのゾンビ。 圭介は一人ですべてを背負わなくてはならない。 そのはずなのに。 日野光が、山折圭介の手を取る。 そのような指示はしていないはずなのに、在りし日の記憶通りに、そのしなやかな手で圭介の右掌を包み込む。 (まさか、正気を……) 取り戻したのか。 そう言おうとして、その底冷えのする冷たさに背筋が凍り付く。 光は決して正気を取り戻してはいない。 未だゾンビのままで、女王は生きている。 落胆する。そして、けれども、安心してしまった。 今正気を取り戻したとして、何を言えばいいのか。 村を襲う特殊部隊を殺してやったと胸を張ればいいのか。 自分たちの故郷が踏み躙られてしまったことを嘆き悲しめばいいのか。 ―――それとも。 みかげの死を目の当たりにしてから、ゴリラ女と戦っていた時には考えずに済んでいた恐怖が再び心を蝕んでいく。 それまでよりも、より速く、より深く心を蝕んでいく。 母は無事だ。村で虐殺に勤しんでいたクソヒーローはこの手で誅することができた。 哉太もうさ公も、多少やつれてはいたが無事だった。 ゴリラ女と出会って絶体絶命の危機だったにもかかわらず、自分も光も生き延びた。 生物兵器の軍団すら返り討ちにしてやった。 もしかすると、大丈夫なんじゃないか? 親しい村のみんなは、どうにかこうにか生き延びてるんじゃないか? そんな淡い期待は地に晒されたみかげの骸が打ち砕いた。 『だが次期村長を名乗った以上、手を汚すのを躊躇うな。でなければ上月みかげのようにまた、失うことになるぞ』 幻影の言葉が反響する。 失う。一体誰を? 先を行く碧の後ろ姿を目に入れ、咄嗟に目を逸らした。 それとも、諒吾なのか。珠なのか。哉太なのか。それとも……。 その横顔を見ることができなくなる。 目に映った瞬間に、その顔が崩れ落ちて、骨だけになってしまうのではないか? 悪夢のような幻影が思考を覆う。 けれど、そんな弱気を知ってか知らずか。 光は圭介の掌を包み込んでくる。 冷たいぬくもり。 不安を霧散してくれたはずのぬくもりが、今や恐怖の源泉になっているようで。 では光の手を振り払うのか? (それもダメだ……!) そうするが最後、二度とその手をとることはできなくなる気がする。 恐怖を忘れたかった。自分を奮い立たせられるものが欲しかった。 その昏い願望が届いたのか。 ゾンビとなった六紋兵衛がとある一方向に向き直る。 生物兵器の集団を見つけたときと同じ仕草だ。 浸食する恐怖を使命感と怒りで塗りつぶし、圭介は心を奮い立たせた。 ◆ サバイバルナイフに斬馬刀、青龍刀に薙刀、弓矢に防刃チョッキ。 浅野雑貨店から移動させた武器は数多いが、三樹康個人にとっては相性の悪い武器が大半だ。 防具に至っては一切不要。持ち歩いても嵩張るだけ。 高火力の銃器もなかったわけではないのだが……。 ―――機関銃本体があっても弾がないのは片手落ちだろ。ちゃんと隅々まで探しとけっての。 レミントンM700とて4キロ弱はある。 どこぞの国民的アニメで出てくるような四次元ポケットなど存在しない以上、使えない武器をじゃらじゃら持ち歩くのは得策ではない。 ―――ま、こいつは使えるだろ。 ガラクタの山から掘り出したのはスモーク弾。 敵の視界を覆い隠すほか、味方への信号弾としても使用される武器。端的に言えば煙幕だ。 それと、一部異能への対策のための厚めのシーツも忘れない。 ―――さて、ここで待ち伏せてもいいんだがね……。 天から情報を得ていなければそうしただろう。 だが、わずかな思考の後、その選択を放棄した。 酸の異能者、哀野雪菜が高い確率で混じっている。 血が転じた酸は非常に強力で、わずかな飛沫でも寝袋に大きな穴を開け、石畳や鉄すら溶かすとのこと。 さらに銃創を酸で強引に塞ぎ、出血を瞬く間に抑えるというのは乃木平天からの情報だ。 痛みにもほとんど怯まなかったのは、極限状態に追い込まれてエンドルフィンあたりが過剰に分泌されているのか、それとも異能の副産物か。 強酸というが、どれほどの強さなのか、上限は不明。 射程範囲ギリギリからの銃撃では、心臓や脳に届く前に銃弾が溶かされる可能性も考慮しなければならない。 確実に処理するなら、点や線よりも面、瓦礫などによる圧殺が望ましい。 とはいえ、ここで虎の子のウィンチェスターマグナムを消費するのは、牛刀を以って鶏を割くようなものでもある。 初撃のターゲットとしては適さない。 ―――小田巻と互角にやり合うボウズもいるっつう話だ、初撃を外せば取り逃すだろうな。 そんな人物が天を追跡しているなら、最大限の警戒網を敷いていると考えて然るべき。 偶然出会った人間を分かりやすい囮として運用しているか、突発的に銃撃されても対応できるだけの対策をしているか。 手段は不明だが、出会い頭の邂逅や待ち伏せは通用しない前提で考えるべきだ。 たとえば、標的が金属鍋でもかぶっていれば、それだけでヘッドショットの成功率は半減する。 H K SFP9で、スペック上の射程範囲外から金属を貫くのは厳しい。 対して、天から仕入れた情報によれば、相手の武器はデザートイーグル.41マグナム。 スペック上の射程も長く、防護服を貫きうる規格である。 撃ち合いは相手に分があるだろう。 レミントンから持ち替えをおこなう際の秒の空白もまた、命取りとなりうる。 ―――裏から回って背後を取るとするか。 周辺で銃撃戦に移行して、万が一この武器捨て場に篭城されても面倒だ。 三樹康個人とは取り合わせの悪い武器防具も、異能との併せ技で悪用される可能性は捨てきれない。 商店街南口からアーケード街に入り、東口へ移動、背後からショットを決めることを選択。 方針が決まれば行動は素早く。 音もなく商店を脱し、作戦行動に移った。 第一目的地は今いるブロックの対角側の地点だ。 移動時間にして約一分弱。 移動距離で表せば百メートル強。 僅かな時間、僅かな距離。 けれども、新たな勢力が入り込むには十分な隙間であった。 ■ 南口から最初の角を曲がり、まっすぐ進んで東出口を目指す。 予定通りにルートを進行していたそのとき、集音器が北西方向より新たな勢力の訪れを告げる。 ―――なんだ? ざ、ざ、ざ、ざ、と鳴り響くそれは、規律に満ちた複数の跫音。 北西方向、北アーケード街のほうから向かってくるそれは、素人集団の散発的なものではなく、完全に統率されたものである。 ―――どこぞの一個小隊でも突入してきたのかね? 冗談のような思考を速やかに振り払い、警戒レベルを一段引き上げる。 天はすでに研究所に向かった。 真珠は村人の利用こそ許可されているが、ターゲットの性質上、こんな堂々と商店街を闊歩することはあり得ない。 他の同僚はそもそも村人をゾロゾロと引き連れること自体があり得ないだろう。 ―――複数の正常感染者が固まってんのか、疑似的に軍を作り出す異能か、ゾンビや感染者を操作する異能か。 ―――蓄音機や電話機よろしく、音そのものを操作する異能って線もあるな。 存在を隠さないのはこの期に及んで警戒心が薄いのか、それともそれだけ異能と地力に自信があるのか。 後者と捉えて対処すべきであろう。 ―――やむを得んね。ターゲットは変更だ。 当初のターゲットと新たな訪問者、意図せず挟み撃ちのような形になったが、そこは柔軟に捌いてこそである。 判断は迷わない。商店を背に両手で銃を構え、新たなターゲットの現れを待つ。 天井を覆うアーケードで屈折した陽光は、本来の影とは別に北から南へと地面に薄い人影を形作る。 それを目印に、角からぬっと姿を現したその影の主に、鉛弾を一発、二発と打ち込むべく、腕を伸ばし。 「……なんでアンタがここに?」 網膜に映し出された、いるはずのない同僚の姿。 横合いから確かに捉えた防護服のほつれ。 想像上の警笛が非常ベルのごとく、頭蓋に鳴り響く。 「制圧しろ、ゴリラ女!」 風雅のすぐ後ろから現れた二人のうち、少年のほうが三樹康の疑問に応答した。 山折圭介。村内の若者の中心的存在だ。 もっとも、事前によさげなターゲットを品定めしていた広川と違って、三樹康は一村人の顔や名前までわざわざ覚えはしない。 エラそうなガキを頭と瞬時に見立て、その心臓を撃ち抜くべく発砲するが……。 銃弾は圭介の心臓を貫通することなく、からんと地面に落下する。 「キャラ違ぇだろ……!」 風雅がその身を以って少年を守ったのだ。 H K SFP9による射撃では防護服を貫けない。 特殊部隊に対する最強の防壁である。 ならばとH K SFP9からレミントンM700への持ち替えを思案し……。 すぐにその思案をゴミ箱に叩きつけ、転がるようにその場を飛び退いた。 ―――足音はもっと多かった。こいつらだけのはずがねえよな。 パシュン、パシュンという乾いた音と共に石畳を覆う砂利が跳ねる。 あのまま狙撃銃を構えていれば、発射の瞬間に銃弾が防護服に命中し、狙撃銃の銃口をずらされていた。 そして、虎の子の一発を無駄撃ちしていただろう。 射手は拳銃を構えた青髪の女。SPのごとく、堂にハマった姿勢で銃口を向けている。 ―――ブルーバード……! ハヤブサⅢのパートナーとして現地入りしているという不確定情報は耳に入れていた。 銃をメインウェポンとし、出どころ不明の怪情報ではあるが某国際諜報機関最強との異名を持つエージェント。 実のところ、三樹康はブルーバードの顔など知らないが、そういう前提で対峙すべき相手だ。 ―――こんな機密情報の塊をハヤブサIIIが対処してないとは思えないが、合流してなかったのかね? 三樹康が花子との戦いの最中にホテルを倒壊させたことで、彼女は解放された。 そんな事情を三樹康は知る由もない。 商店街が狙撃手の縄張りとなったことで、以降花子も近寄ろうにも近寄れなくなったという事情を汲み取る術もないだろう。 ―――で? まだ打ち止めじゃないよな。最低あと一人いるだろ。 風雅の左肩、防護服に開いていた穴を三樹康は見逃していない。 ブルーバードの銃では防護服は貫けない。 「おいおいマセガキ君よ、その歳でもう女侍らせて戦力貢がせてんのかい? いっぱいいるんなら、一人くらい俺にも紹介してくれよ」 「ざけんなよ、村人を皆殺しに来たお前らに話すことなんざ一つもねえよ。 それともなにか。こっちのゴリラ女が俺の恋人だっつったら、アンタはこいつを優先して狙ってくれるか?」 「そいつが恋人は無理がありすぎんだろ、お前の倍くらい生きてんだぜ? さすがに犯罪だわ。 ま、周りのゾンビ女たちはともかくだ、お前の名前くらいは教えてくれたっていいだろ?」 「おとといきやがれっつーの!」 いつでも銃を撃てる姿勢で、けれども軽薄に敵との対話を試みる。 一方で圭介は拒否以上のなにものでもない態度ながら、会話には乗る。 こいつがみかげを殺したんじゃないのか。 そのとおりだと答えられれば、絶対に頭に血を昇らせてしまうだろう。 そんな思考のぐらつきを見透かされないように、軽口に乗って虚勢を張る。 (どちらにしろ、無事に帰すつもりはないんだ) ならばと、この空白の時間を圭介は刺客を配するための時間稼ぎに。 そして三樹康はその刺客を敢えて誘うために。 三樹康の目には、アーケード通りの先や物陰に不審な人影は一切映らない。 風雅の後ろで視認しにくいが、圭介がほかの正常感染者と連絡を取っているような素振りも一切ない。 背後に回れるほどの時間は経っていないはずだ。 ―――なら、頭上だな。 圭介の視線が三樹康からわずかに逸れた。 三樹康が先ほどまで背にしていた商店の上階から、一つの影が手にした刀を突き立てるように急降下する。 同時に、ブルーバードからの援護射撃が三樹康を襲う。 防護服は貫かない射撃とはいえ、機動力を削ぐには十分すぎる威力の射撃である。 銃弾回避の姿勢から続けざま、全身をばねのようにしならせて、地面を一転、二転、三回転。 鉛玉はぱす、ぱす、ぱすと割れた石畳にさらなるヒビをいれる。 斬撃はヒュン、ヒュン、ヒュンと空をきる。 伏兵の存在に気付いていたからこそ、敵の攻撃と自身の回避のタイミングを合わせるだけでよかったが、なかなかヒヤリとさせてくれる。 お返しとばかりに銃口を襲撃者に向け、一引き。 だが敵もさるもの。バックステップをしながら、もう一振りの刀の棟で弾丸をガード。 片手持ちの刀で弾丸を弾くなど、腕を持っていかれそうなものだが、ゾンビと化してリミッターの外れた腕力ならば問題ないらしい。 ―――思ったよりも戦力が多いもんだ。 三樹康は薄ら笑いを表に出しながら、内心困惑する。 伏兵がいるとは確信していたが、それは剣士ではなく狙撃手。 風雅の防護服の穴は刀で斬り裂かれた跡ではない。 穴を開けたヤツがまだ別にいるのだ。 「手荒な歓迎ありがとよ。 お名前を教えてくれねえならお前のことはマセガキかホスト野郎って呼ぶしかないが……。 いや、しかしまた、早々たるメンツだねこりゃ」 村王と王妃。そんな二人を守る親衛隊のように、精鋭の女ゾンビたちがずらりと並ぶ。 SSOGナンバー2の暴力装置に、諜報組織自称最強の銃使い。 まさに夢のコラボレーション。 無名の女剣士も手練れな上に、少年の武器は破格の威力、謎の狙撃手のオマケ付き。 大田原でさえ正面突破は望み薄。 「そっちの二人が顔を合わせる機会なんざ、G7のサミットくらいじゃないか? あとironwood、任務の二重受託は隊規違反だぞ? ……まっ、ゾンビになりゃ聞こえてねえか」 「そこんとこは安心しなよ、コイツだけじゃなくて、アンタもこれからその一員になるんだからさ。 ってか、この青髪女のこと知ってんだな。やっぱ関係者だったのか」 「おいおいそいつは俺らとは関係ねえぜ。 コードネーム:ブルーバード。国連様の下部組織の、特殊工作員さ。 国際条約破ってるようなヤバい研究してる研究所に忍び込んで、 事故に見せかけて研究成果をぶっ壊したりするのがお仕事だ。 うちらと出会えば殺し合いが始まる仲だが、なんでこの村にいんのかねえ?」 三樹康の言葉に、圭介が遙をギッとにらみつける。 だが、それ以上は自制する。挑発だということくらいは分かる。 ―――ま、今のでキレて駒の頭をブチ抜くようなアホじゃあないか。 いきり立って駒を一つ切り捨ててくれるなら儲けもの。 その程度の安い挑発でしかなく、焚き付けでしかない。 別にブルーバードが本当にそんな仕事をしているのかも定かではないのだ。 「うちの隊員を要人警護に使うのはそれはそれはお高いぞ? ブルーバードまで警備につけるとなりゃ、8ケタは固いぜ? 戦力だけじゃなくて金もむしり取っておくかい? それとも、お前の保険金で代わりに支払っといてやろうか?」 「はっ、村をこれだけ荒らしてるんだ、10割補償くらい効くだろ」 「欲張りすぎだっつーの」 言葉をかわしながら、三樹康は風雅の後ろに身を姿を隠した圭介の出方を伺う。 未だ狙撃手が姿を現すことはない。さすがに剣士の不意打ちを凌いだ今で動くことはないか。 同僚も剣士も銃士も突出して飛び込んでくることはなく、にじり寄って距離を詰めてくる。 圭介がゾンビたちと共にじりじりとにじり寄る。 三樹康も相手の歩に合わせて、じりじりと後ずさる。 安易にユニットを動かせば、空けた穴から銃弾が撃ち込まれる。 安易に撃てば碧、遥、風雅からの三方袋叩き。 牽制合戦。 その打破に必要なのは、新たな変数の代入であろう。 それこそが確実にいるはずの狙撃手であり、その狙撃を成功させるために一斉に襲撃が始まる。そう三樹康は予測する。 一歩下がる。一歩進む。二歩進む。二歩下がる。三歩下がる。 圭介の注意が逸れた気配を三樹康は見逃さなかった。 横目でその方向に注意を向ければ……。 ―――なんだ、ゴミ箱と自販機じゃ……。自販機……!? その脅威度の高さに気付いた三樹康に対し、遥が威嚇射撃をおこない、牽制する。 防護服を貫かないことと、当たれば致命的な隙は免れないことは両立する事象だ。 牽制としては十分であろう。 それに乗じて風雅が手にしたものこそが自動販売機。言い換えるならば、500kgを超える巨大な鉄塊だ。 金属が擦り切れるような音を出しながら、風雅は自販機を抱えて持ち上げた。 「おいおい冗談だろ? ironwood、そんな装備で大丈夫か?」 「問題ねえよ! さあお前ら、あいつを捕らえろっ!」 「いやあ、自販機で殴られたら死ぬだろ!」 自販機を盾に、まさにブルドーザーのごとく風雅が迫りくる。 直撃すれば、防護服を身に着けていようがいまいが地面ごと均されてしまうだろう。 「っしゃぁねぇな!」 三樹康は手早くH K SFP9をホルダーに仕舞って、代わりにスプレーのような缶を取り出した。 ピンを抜き、放物線を描くように放り投げる。 その軌道は風雅を飛び越え、圭介に達するものだ。 「打ち落とせ!」 圭介はそれを爆弾と認識、主の警護を最優先に命令する。 命令を受けた風雅は自販機を持ち上げて高く飛び上がり、バレーボールのスパイクのように物体を地面に叩き落した。 自販機の中のジュースやコーヒーが内部でぶつかっているのか、金属の耳障りな異音が鳴り響く。 だが命令の遂行には問題ない。 缶は無事、地面に叩き落され、破裂し。 「なんだ、毒ガス!?」 ―――スモーク弾だよ。仕切り直しだ。 ■ 爆発に替わって噴き出されるのは、いかにも身体に悪そうな濃い紫煙だ。 SSOGにとってはなじみ深い訓練用カラーであり、猛毒を意味するわけではないのだが、一般に出回るものでもない。 知識がなければ飛び込むのは躊躇するカラーであろう。 美羽風雅という難攻不落の要塞に守られた指揮官を撃ち抜くという難題ミッション。 出し抜くアテはあるが、そのための時間が必要だ。 稼いだ数秒で素早く弾丸を補填し、紫煙の奥に目をやれば。 紫の中から現れる赤。 すさまじいスピードを伴った巨大な物体が三樹康目がけて飛び込んでくる。 「ぉぉぉおおおっっっ!!」 当たれば当然即死は免れないそれを、すんでのところで回避。 赤の正体は風雅の持っていた自販機だ。 サイボーグの腕力にモノを言わせ、投げ槍のように一直線に投げつけてきたのだ。 自販機は地面に衝突したかと思えば一回二回とひしゃげながらバウンドしてようやく止まり、 中でアルミ缶でも潰れたのか、あるいはビンでも割れたのか、盛大な音と共に色とりどりの液体が地面に広がっていった。 「ガキの癇癪じゃねえんだぞ!? 適当な方向に投げやがって!」 数年前、自力で歩けるようになった娘がそこらのものをポイポイ投げていたのは記憶に新しい。 眉をしかめはするがかわいいものだった。 キャッチしてやさしく投げ返してやると、キャッキャと喜んだものだ。 いい歳した女が鉄塊やら巨大モニュメントをポイポイと投げてくるのはとてもかわいいものではない。 キャッチなんてできないし持ち上げるだけでも血管が切れるほどの負担がかかるだろう。 空調の室外機。定食屋の電子看板。カーネル像よろしく、山尾リンバを象ったご当地店頭人形。 自動販売機よりは小さいものの、直撃はご法度な大型の物体がぞくぞく飛んでくる。 リンバ像を目と鼻の先でかわせば、先に投げていた自動販売機に衝突してダメ押しのようにどデカい音を立てた。 「ヲヲヲオオオ……」 「グオオオォォ……」 ―――ああ、狙いはそっちね……! ―――ゾンビを取りつかせて身動きを封じようってハラか! ガシャンガシャンとでかい音を立てれば、当然ゾンビが反応して集まってくる。 今や圭介のゾンビ軍団は烏合の衆ではない。 美羽風雅にブルーバードというエース級の精鋭が所属している。 ゾンビの集団ごときに遅れを取るSSOGではないが、雑兵にまとわりつかれながらエース級を相手にするのは不味いだろう。 ……ただし、準備と情報があれば対処は可能だ。 ジリリリリリリリリ!!! 集まりかけたゾンビは明後日の方向へ向かい去っていく。 三樹康は浅野雅のスマホに素早くアラームをセットし、はるか遠くへ全力投擲したのだ。 圭介から見て、ゾンビたちは遠距離かつ目視外で数も不明、そして三樹康の位置も煙の向こうとなれば、 異能の補助があってもゾンビたちを手足のように操ることはできない。 雑兵を足止めにする作戦は不発となった。 ただし、その僅か数秒だけは、三樹康の妨害を受けることはない。 煙を抜けた途端に銃撃を受ける心配はない。 人道さえ無視すれば、有毒性は判別可能だ。 圭介にとって、遥は村に仇なす不審者。 使いつぶすことに躊躇はない。 遥が紫のガスの真っただ中で深呼吸をおこない、それで生命反応は奪われていない。 炭鉱のカナリアのように、ゾンビを汚染のバーターとして利用する。 追跡は可能。 風雅を先頭に紫煙を抜けて、圭介は三樹康と再び相対した。 内心、確信する。 (俺の勝ちだ……!) 環境がそろった。 その根拠こそ、特殊部隊にも通用する、不可視の弾丸という切り札だ。 今、紫煙の向こうに六紋兵衛を待機させている。 湯川邸で取り逃がしたゴリマッチョの特殊部隊は、不可視の弾丸というギミックに気付いたがために、狙撃にしくじった。 そこで初見殺しを徹底するために、六紋兵衛だけは場に出さずにいたが、しかし配備する場所も銃撃のタイミングも決めかねていた。 相手側から煙幕という非常に都合のいい環境を作り上げてくれたのだ。 利用しない手はないだろう。 いかに特殊部隊といえども、情報がなければ回避は不可能。 それは、手駒にしたゴリラ女が物語っていることだ。 噴き出しそうになる汗を抑え、瞬きも忘れて虹彩を絞る。 これは村の王からの勅命だ。 侵略者どもよ、その身をすべて山折に捧げよ。 そのような勅命を乗せた弾丸が兵から侵略者へと放たれ。 「よう、そこにいたのかい……!」 「……バカな!」 成田三樹康は不可視を回避した。 銃声とともに煙がわずかにゆらぐ、それが銃弾の通り道。 風に覆い隠されようとも、そのゆらぎの跡は忘れない。 未だ先の見えない煙の向こうへ、三樹康は込められた銃弾すべてを惜しまずに撃ち込んだ。 どさりと鈍い音がした。 大きく、柔らかくて重いものが地面へと崩れ落ちた。 同時に、金属製の比較的軽い何かが地面に落ち、アーケード街の通りにからんからんと小気味いい音を響かせる。 未だ煙の向こうは不可視のエリア、だが圭介は必殺の切り札を失ったことを自覚する。 切り札とは成功させてしかるべきだ。 成功させることで、兵士は勢いに乗り、自軍の士気は最高潮に達する。 逆にしくじれば、士気は急落する。 奇襲を受けた兵たちが浮足立つかのように、ゾンビ兵たちは硬直してしまった。 実際にゾンビ兵が浮足立ったわけではない。 端的に言えば、圭介が次の手を打てていないのだ。 圭介自身が思考の狭間に陥ってしまったから。 思考を立て直すのに時間を要したから。 戦力上はいまだ圭介有利な盤面であるにも関わらず、とっさに次の手を打てない。 素人指揮官の弱点である。 「殺気を読めば、あれくらいかわすのはワケないんだぜ?」 ―――まっ、半分くらいはウソだけどな。 圭介にプレッシャーをプレゼントする。 あくまでプレッシャーであり、半分くらいはハッタリだ。 三樹康は残念ながら、死角から放たれた銃弾を殺気だけで捉える才覚を持ち合わせていない。 それができる人間がいないとは思わないが、そんなのは一握りの天才か人類の突然変異種のようなものであろう。 だが、SSOGは一つの部隊である。 命の分け目を属人的な個人技能に依存させるのはよろしくない。 命を扱う組織である以上、言葉にできない直感を言語化・収集し、才なき者にも扱えるように訓練に取り入れ、死亡率を減らす試みは当然おこなう。 殺気を読むとは、敵の仕草を洞察力を駆使して分析し、敵が仕掛けてくるタイミングを効果的に測る技術。 五感を超えた第六感として突如湧いてくるものではなく、シミュレーションと実践訓練の末に再現可能な技術だ。 逆手に取ってくる玄人は当然ながら存在する。 たとえばハヤブサIII。 三樹康の眼を自身に釘付けにする理由を用意し、これを囮に罠への誘導と野生児の奇襲を成功させた。 だが、山折圭介は経験豊富なエージェントではない。今日戦場に出た、ただの村人だ。 風雅という巨大戦力を自身の守りに使う時点で実戦慣れしていない。 素人が、特殊部隊のサイボーグという強力な戦力を得てしまえば、慢心が生まれないはずがない。 何より、美羽風雅が敗れているという時点で山折圭介の一挙一動を注視しない理由がない。 要するに、不可視の弾丸は、真の撃ち手である山折圭介を注視すれば気付ける。 山折圭介が自らの意志を以って弾丸を撃たせたとき、それは不可視ではなくなるレトリック。 ―――さて、尻込みするか、やぶれかぶれで向かってくるか……。 敵が浮足立ったその空白の時間を使い、マガジンに素早く全弾リロード。 ようやく圭介の中に危機感が首をもたげてきたか。 「全力で潰せ!」 自身もダネルMGLを構え、三樹康を手駒にする方針から全力で排除する方針に転換。 「おお、怖え怖え」 三樹康は踵を返して走り去る。 踵を返してとは言っても、ほぼ身体は圭介たちの方を向けたバック走のような走り方だ。 追うべきか追わざるべきか、圭介に判断の迷いが生じるが……。 獲物を諦めていない、ねっとりとした視線をマスクの向こうに見て、全身の毛が逆立つ。 「逃がすな、絶対に逃がすな!」 逡巡は5秒。 仮に見失えば、三樹康は圭介を必ず付け狙う。 暗闇の中で獲物を付け狙う蛇のような、不可視の暗殺者となる。 不可視の弾丸で狙う側が、狙われる側に落ちるのだ。 絶対に逃がしてはならない。 すでに三樹康は東出口を抜けている。 アーケード街を東に抜けた先は、狭い路地の入り組んだ古民家群。 路地裏に逃げられる前に、美羽風雅の膂力で葬るか、身動きを封じてダネルMGLの一撃で吹き飛ばすべきだ。 風雅に全速力で三樹康を追う勅命を下した。 風雅が速度をトップスピードへと引き上げるために大きく踏み込む。 自身の身を疾風と化し、人ではなく小型車のようなプレッシャーを以って距離を詰めるのだ。 その爆発的な脚力で地を蹴ったその瞬間。何かが壊れる音がした。 「……は?」 思わず声を漏らしてしまったのは仕方のないことだろう。 自分を守る鉄壁の盾。最強の特殊部隊ゾンビが小石にでもつまずいたかのように突如崩れ落ちたのだから。 村に仇なす者たちを元より使いつぶすつもりで乱雑に扱っていた。休ませるという発想がなかった。 ゾンビの肉体的な負担は異能で感じ取れても、機械の仕様は想定の領域外だ。 超人的な出力の反動として、定期的にメンテナンスと排熱をおこなわなければ、システムダウンするということなど知る由もなかった。 「こんな田舎村じゃ実感ないかもしれねえが、外じゃ働き方改革ってのが提唱されてんだよ。 ちゃんと休み取らせないと、肝心なところでガタが来るんだってよ。 自販機なんて装備して大丈夫かって言ってやったろ?」 前向きで後ろに逃げていたはずの三樹康は、いつの間にか片膝をつけて狙撃の構えへと移行していた。 行動が速い、まるでこうなることが分かっていたかのように。 ほかのゾンビに命令を出すより、ダネルMGLの引き金を引くより、三樹康の指が引かれるほうが早い。 温存していた一発だが、その使い時はあやまたない。 流れるような一連の所作に一切のムダはなく、圭介のアクションは間に合わず。 轟音と共に射出され、高速回転しながら空気を引き裂き突き進む弾丸は、 美羽風雅のコアをたやすく貫通し、その中心に二度と塞がらぬ穴を開けた。 サイボーグの巨体がどさりと崩れ落ちる。 「いやあ、こんなレアモノ、撃ち抜ける機会なんざはないぜ。スコア5000点クラスだな」 愉悦に満ちた声だった。喜色しかなかった。 「悪いが、自己防衛の範疇、ってことで許してくれよ? ま、もう聞こえてねえわな。あ~、幹部候補殿には……あとで謝っときゃいいか」 仮にも部隊の仲間のはず。 なのにそこに一切の惜別の言葉がない。 圭介を守る盾が一つ失われた。 それだけでも激震が走るが、厄はそこで終わらない。 隣にいた光までぐらりと膝をついた。 サイボーグを防護服ごと貫通した弾丸は、安全地帯であったはずの真後ろにまで到達する。 勢いを落としながらも空間を穿ち、その先にいた光の肩を突き破っていた。 「な……何だよこれ……」 「なんだよって、ニチアサ見ないのかい? 群れて出てきた再生怪人が弱体化してるのはお約束だろが」 三樹康は難易度の高い二枚ぶち抜きを成功させてご満悦だ。 そういうことじゃない、という反論の言葉は出ず。 一瞬で起こされた惨状を前にただ呆然と呟く圭介。 「ああ悪い、隣のコのほうことを言ってんのな。 まあ俺らは公務員だ。賠償は生き残ってから国に請求してくれよ。 嬢一人分呼んだくらいのカネなら余裕でむしり取れるだろ。 次はもっとかわいい子を呼べばいいって」 「……あ?」 「ああ、悪い悪い、ちょっと声色が浮かれてたわ。でも仕方ないだろ? 弾一発で的一つに当てるより、的二つに当てられるほうが気持ちいいんだから、そこは勘弁してくれよ」 圭介の思考が沸騰した。 「うおおおおおおっっッッ!」 手にしたダネルMGLの引き金を引く。 グレネード弾が発射され、着弾点に破壊をまき散らすが……。 「怪我した素人が、ロクに狙いも付けずに撃ったもんがそうそう当たるもんかよ」 三樹康よりもはるか手前に榴弾は着弾。それも方向自体がずれている。 ただ土煙がもうもうと上がっただけだ。 ―――にしても、青いねえ。 この局地戦において、風雅の真後ろという一番安全な場所を割り当てた時点で、圭介との関係性などとうに推測している。 連鎖や二重命中のほうが実際に気持ちいいのはそうだが、普通はわざわざ言ったりはしない。 圭介の腰が引けて、逃げ一辺倒になられると面倒なのだ。 それに戦力面で言えばまだ圭介のほうが上だという事情もある。 チンピラや反社そのもののような安い挑発だった自覚はあるが、圭介が乗ってくる勝算もそれなりにあった。 三樹康とて、妻の香菜や娘の三香を淫売呼ばわりされた挙句、ゲーム感覚で撃ちましたと言われればキレる。 ここでキレなければ彼氏の資格はないだろう。 鉄壁の盾を失って、感情のままにその身をさらけ出した、隙だらけのターゲット。 弾の切れた狙撃銃からはとっくに持ち替え済みだ。 「後でちゃんとナイフをプレゼントしといてやるから、安心して逝っとけ」 「――――!!」 続けざまに発射された弾丸は圭介の額に吸い込まれるように突き進み。 引き金を引くミリ秒前に横合いから突き出された刀によって打ち払われた。 圭介への追撃は、遥の手にある銃口の向きを目視し、取りやめた。 「~~~♪」 三樹康がそのファインプレーに口笛を吹く。 銃弾弾きは厄介だが、それだけで浮足立つこともない。 なにせ、日本で最も銃弾を斬り捨てられたことがあるのは成田三樹康その人である。 普段の訓練相手は大田原源一郎やオオサキ=ヴァン=ユンといった上澄みも上澄み。 何百発の訓練用ゴム弾を斬り捨てられたことか。 銃弾弾きの極意は人間離れした動体視力でも銃弾よりも速く動ける超人的な身体能力でもない。 銃口の向きから照準を割り出せる演算力と、引き金を引く瞬間を見極める洞察力である。 一瞬のうちにおこなわれるバントがその正体であり、プロテニスプレイヤーやメジャーリーガーならば再現可能な技術だ。 なお、薩摩クラスのエイムであれば、大田原クラスの達人であっても照準を割り出すのは困難であるため、素人相手に披露するのは非常に危険な技術でもある。 一定レベルの射手だからこそ通用する技だ。 原理が分かっているなら過度に恐れる必要はない。 「助かった、碧!」 「ところでお前、実は正常感染者だってことはないよな?」 三樹康がそう疑うのも無理はない。 碧の動きのすべてが圭介の指示とは思えないほどに、動きに柔軟性がある。 生前という言い方は正確には誤りだが、圭介の異能がこなれればこなれるほど、そして元の関係が深ければ深いほど。 その動きは生前の動きに近くなるのか、あるいは圭介の感情をうまく解釈して動いてくれるのか、動きがよくなる傾向がある。 だが三樹康の言葉には圭介は耳を貸さない、答える必要もない。 圭介は、碧は、即座に追撃の構えに移行する。 ナイフで日本刀とやり合う覚悟は三樹康にはない。 やれと言われればやるが、この装備で自ら日本刀相手にインファイトをおこなうのは、村に送り込まれたメンバーの中では大田原くらいだろう。 日本刀の先っぽでも防護服にかすればそれでアウトな以上、達人クラス相手に超接近戦は避けたい。 「畳みかけろっ!」 圭介の指示のもと、浅葱碧が二刀を構えて三樹康に迫る。 遥は光の前で人間の盾となりながら、遠距離から三樹康を狙う。 正面からの銃弾は打ち払い、刀をかわそうと左右にブレればそこを銃撃が狙い撃つ布陣である。 個の強さでは美羽風雅が頭一つ抜けているが、技ならば碧が随一だ。 同じ道場に通い、同じ流派を学び、そしてその剣術を何度も見せてもらったこともある。 圭介は碧ができることを知っている。 三樹康に俊足で迫るその走法は、縮地法と呼ばれるものだ。 ゾンビと化したことでそのリミッターは外れ、ロードバイク並みの速度を維持することが可能となる。 並みの狙撃手ならばその速さに対応しきれず、鎧袖一触。瞬く間に首を飛ばされているだろう。 だが、三樹康は並みではない。超一流の狙撃手だ。 銃撃一発。 ただそれだけで、ギィィィンと鼓膜を鋭く刺すような響音があたりを震わせ、碧の速度がMAXからゼロへとリセットされる。 縮地術は前傾姿勢からの踏み込み技術。 初速をMAXにして、敵が己を認識する前に距離を詰める技術だ。 だが、宙を浮いて移動しているわけではない。頭や心臓は身体のブレで上下左右にそらすことはできても、軸足だけは即座には動かせない。 そこを狙い撃てば踏み込みは崩れる。 弾かれようが避けられようが、速度を殺すことは難しくない。 「くそ、まだだ!」 敵が銃持ちならば、対抗の技術が八柳流にはある。 激突するかのような勢いで古民家群のブロック塀に向かって突き進んだ碧は、 その脚力でブロック塀を蹴り付け、宙へと踊り出る。 「おいおい、俺は一発芸大会の会場にでも迷い込んじまったのかよ?」 地面の隆起や地割れをものともせず、ブロック壁を蹴るたびに速度を上げていく碧。 走者本人が二次元から三次元へと変幻自在の軌道を取ることで、被弾を限りなくゼロに近づける狙撃手殺しの技。 「ハハッ、生きがいいねえ。こりゃあ狩りがいがあるってもんだ」 明確な脅威を前に三樹康は嗤う。 それは銃という武器への絶対の信頼だ。 人間が銃弾より早く動くなど、生命の造りとして不可能だ。 ゾンビと化して肉体のリミッターが外れたところで、決して覆らない、絶対の真理である。 「二発だな」 八柳流が誇る銃兵への特攻奥義。 それを撃ち破るのに必要な弾丸の数を三樹康は試算し、宣言し。 そして二発の銃声が響いた直後、碧は競技に失敗したかのようにぼとりと地面に落ちていた。 二発目の銃弾を弾いた刀の一本がすっぽ抜け、おかしな姿勢で落ちたせいで腕の一本が曲がっている。 銃兵に対策するために編み出された技を、三樹康は宣言通り二発で容易く撃ち破った。 圭介の全身からぶわっと汗が噴き出した。 本体を直接狙おうとすればするほど、変幻自在に飛び回る術者に翻弄される。それが猿八艘の意図する絡繰りだ。 だが、人間は空中で方向を変えられるようにできてはいない。 そしてこの手の曲技は精密無比なバランスの上に成り立つものだ。 次に踏み込む位置は分かっているのだから、本体の派手な動きは一切無視して、着地に合わせて銃弾をぶち込めばいい。 足を撃ち抜かれるか姿勢を崩すかの二択を強制的に突き付ける。 それだけで、中空の舞いは打ち止めとなる。 さらなるスピードと勘を備えて縦横無尽に飛び回るクマカイには及ばない。 実際に戦場を渡り歩き、さらに洗練された動きで迫りくるオオサキにも及ばない。 木更津組をはじめとした村の歪みたちには効果覿面であれども、絡繰りが割れれば対処可能な初見殺し。故に一発芸。 碧の手からすっぽ抜けた日本刀は、たまたま民家の庭でゾンビとなって白目を剥いていたアナグマに突き刺さり、血飛沫を散らしている。 そして碧自身は着地に失敗し、最初に地面に接した右腕からは乾いた音が鳴り響く。 「あーあ、かわいそうに。無垢な動物を巻き込んじまった」 心の奥底で二連鎖成功の華やかなチェイン音を鳴り響かせながら、心にもない哀れみを述べる。 まだ碧と三樹康の間に距離はある。健常であっても詰められる距離ではない。 遥の援護もいつの間にか飛んでこなくなっている。 なぜと関心を移せば、カチカチとむなしく空の銃のトリガを引いていた。 銃撃回数を三樹康は数えていたが、圭介は数えていなかった。 自分が手にしていない銃の残り弾数だ。 指揮の初心者がそこまで気をまわせるはずもない。 目の前の対処に手いっぱいで、兵衛が銃撃されてからは、頭の中からすっぽ抜けた。肝心な場面で弾倉が尽きていた。 どれだけ強力な軍団を編成しても、この軍団は個人の思惑を超えることはない。 自分の思う通りに動かせる部隊というのは、すべて圭介が責任を負い、勝敗は圭介に帰結する部隊である。 それを指摘してくれる同行者も、指南してくれる経験者も、導いてくれる大人も、圭介にはいない。 あるいは碧を巻き込むことを厭わずにダネルMGLの狙いを付けていれば、消耗はもう少し少なかったかもしれない。 もっと根本的な戦略ミスを詰めるならば、銃火器に熟達している遥にダネルMGLを持たせて撃たせていれば、碧ごと三樹康を巻き込む目もあっただろう。 一騎当千の強力な駒を手に入れたことによる慢心。 知己を巻き込む覚悟の欠如。 顔なじみを使いつぶすことへの恐怖。 遥への不信感。 遥に知己を巻き込ませる指示を出すことへの生理的な嫌悪。 すべてを総合した結果の圭介の判断ミスであり、 そして身内への情の厚さを見抜いて小さな判断ミスを誘発させ続けた三樹康の着眼。 視線が黒い銃口に吸い込まれる。 捕食者の眼が圭介を射抜く。 (くそ、こんなところで死ぬのか?) 俎上の鯉。袋の鼠。 感覚が鈍い。時が止まったように動けない。 (まだ、何も為してないのに。光を取り戻してないのに……!) マスクの向こうに愉悦に満ちた目が映る。 何もしなければ、このまま額と心臓を撃ち抜かれて死ぬだろう。 (ダメだ、死ねない、死にたくない……! このまま死んだら、俺はなんのために……!) 脳に負荷をかけ、ウイルスの影響を強めることで異能はより強くなる。 死の危険、強い感情、著しい興奮、事態の理解。 正負いずれがきっかけであれども、ウイルスが活性化すれば異能は徐々に開花する。 範囲、精度、そして再現度。 圭介の異能はゾンビを操り従える能力だ。 ゾンビの数が減るほど精度は高くなり、一体に限れば人間の真似事をさせることすら可能になる。 村王の命令は絶対だ。 誰だろうと、その命令には逆らえない。 村王は死にたくないと仰せだ。 すべての村民はその命令に従って、村王を守らなければならない。 ◆ 「ぁん?」 幾度となく聞いた、火花散る音が響き渡る。 その結末を目にして、三樹康がわずかに声を漏らした。 「……ったく、往生際が悪いもんだ。 素直に死んどいたほうが楽だったんじゃないのかねえ? ま、俺に言わせりゃ愛しの彼女を戦場に連れ回してる時点で手遅れだけどな」 事故、人質、誤射、機動力の低下、危険人物との遭遇の増加。 その他もろもろのリスクを増加させてまで恋人のゾンビを同行させるのは、それを上回るリターンがあるからにほかならない。 安心感か、不安の払拭か、使命感か、それは分からないが。 決して、彼女の安全安心を主眼に置いた行動ではない。 仮に香菜や三香がゾンビになり、自身が圭介と同じ異能を得たとして、三樹康は絶対に妻子と連れ立って歩くことはない。 三樹康は指輪こそはめているが、入籍はおこなっていない。 戸籍上は妻とも娘とも他人である。 SSOGである三樹康の存在そのものが、愛する妻子の最大のリスクだからだ。 SSOGの敵は、SSOGの名を聞いて手出しを控えるような生ぬるい相手ではない。 圭介の場合も同じ。 圭介の存在そのものが彼女らの最大のリスクであった。 あるいは彼女に母親のような役割でも求めていたのか。 いずれにせよ、何もかも、もう手遅れだ。 結論として、山折圭介には銃弾が当たらなかった。 そして山折圭介はブルーバードに抱えられたまま、無様に逃げ出したのだ。 エージェントとしての肉体に疲労を感じないゾンビの体質であれば、若者一人抱えて走り去ることは可能である。 死屍累々の現場を後に、曲がり角の先へと圭介とブルーバードは消えていった。 追うことは難しくないだろう。 たとえゾンビとなって感覚を失っても、人ひとり抱えて走るのと数キロの武器を抱えて走るのとでは身体にかかる負担が違う。 「まわりのやつに合流されたら面倒だが……しゃあねえなあ。 と、その前に」 「う、う、うぁぁああ……」 「アンタ本当にゾンビだったのかい。 悪いが、今は時間が惜しくてな。ナイフよりはこっちのが早いんで」 風雅の銃も回収できる。どうせたいして使っていないだろう。 運命の果てを嘆き悲しむような声に一切の憐憫を抱かず。 この場で唯一息のあった赤髪の少女に銃口を向けて。 ◆ 「えっ……」 二つの衝撃が圭介の身を伝っていった。 自分の身が押し出されたような衝撃に、地面に激突する衝撃の二つ。 圭介の急所を銃弾が貫通することはなかった。 圭介が命を散らすことはなかった。 死にたくないという本能に基づく強い感情と、より精密さを増した異能が合わさって。 王の命令のとおりに、ゾンビが身を呈して圭介の身を守った。 生気のない目。光のない目。 けれども此度の行動だけは本来の日野光と一切の相違はない。 村の仲間たちを守ろうとする親分が圭介である。 そして光は、彼が弱音を吐いた時、彼を優しく守るのだ。 ガキ大将、親分、村長。 一介の勢力の頂点に立つ孤独を理解し、支えきり、身を呈して守るのが彼女の誓い。 ゾンビであっても、人間であっても、そこは変わらなかった。 それゆえの結果。 頭と胸。 上月みかげとまったく同じ場所に、山折村の王妃は2輪の赤い花を咲かせた。 圭介の手を光が取ることは、もう、ない。 その目に光が戻ることも、もう、ない。 日野光の命が断たれたことで、半ば無意識に出した命令は最も近くにいるゾンビ、遥が引き継いだ。 圭介は目の前の光景を信じられず、一度出した命令が撤回されることもなく。 みかげのように別れの言葉を告げることすら許されず、力無く倒れ伏した光の身体はどんどんと遠く小さくなっていく。 ◆ 人形のようにぱくぱくと口を開閉し、何も考えられない。 何も起こらなければ、遥に抱えられたまま、何も考えられないままに遠ざかっていたのだろうが。 幸か不幸か、そこにさらなる契機が訪れる。 それは断末魔。 三人目の顔なじみの死を意味する死神の足音。 浅葱碧の頭に黒い鉛弾が撃ち込まれ、三つ目の花が咲きほこった音である。 圭介の思考は、真っ黒に塗りつぶされた。 【美羽 風雅 死亡】 ※E-5 六紋兵衛の近くにライフル銃(残弾1/5)が転がっています。 ※E-6 浅葱碧の近くに打刀×2、木刀が転がっています。 【E-5・F-6境界部付近/古民家群/一日目・日中】 【成田 三樹康】 [状態]:軽い脳震盪、背中にダメージ [道具]:防護服、拳銃2丁(H K SFP9)、サバイバルナイフ2丁、双眼鏡、レミントンM700 [方針] 基本.女王感染者の抹殺。その過程で“狩り”を楽しむ。 1.山折圭介とブルーバードを追って殺害する。 2.「酸を使う感染者(哀野雪菜)」を警戒。 3.ハヤブサⅢを排除したい。 4.「氷使いの感染者(氷月海衣)」に興味。 5.都合がつけば乃木平天の集敵策に乗る 6.小田巻真理が指定の場所に現れれば狩る [備考] ※乃木平天と情報の交換を行いました。手話による言葉にしていない会話があるかもしれません。 ※ハヤブサⅢの異能を視覚強化とほぼ断定しています。 【E-5~F-6のいずれか/古民家群西部付近 or 商店街東口付近/一日目・日中】 ※どの方向に逃げたのかは後続の書き手様にお任せします 【山折 圭介】 [状態]:鼻骨骨折(処置済み)、右手の甲骨折(処置済み)、全身にダメージ(中)、放心 [道具]:懐中電灯、ダネルMGL(3/6)+予備弾5発、サバイバルナイフ、上月みかげのお守り [方針] 基本.VHを解決して……? 1.??? 2.??? 3.??? [備考] ※異能によって操った青葉遥(ゾンビ)を引き連れています。 ※青葉遥(ゾンビ)は銃火器などを所持しています。銃の種類及び他の所有物については後続の書き手様にお任せします。 ※学校には日野珠と湯川諒吾のゾンビがいると思い込んでいます。 103.研究所へ 投下順で読む 105.いのり、めぐる 時系列順で読む 昼月堕ち、羽朽ちる碧い鳥 山折 圭介 炎 対感染者殲滅構想「OPERATION TD」 成田 三樹康
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭 最終話『すべての真相』前編 上条「御坂を……渡せだって…?」 薄暗い舞台裏に上条の声が少し響く。 それに対し、答えるのは海原。 海原「そうです、時間はありません。早くしないとここが皆さんにバレてしまいますよ?」 上条「それより何を企んでる?御坂をどうしようってんだよ。」 上条は一気に警戒を強めた。 もしかして結標を使って美琴に酒を飲ませたのも、海原の企みだったのではないかと考えた。 さらに海原は言う。 海原「企んでるも何もボクは御坂さんと少しばかりお話がしたいだけですよ?それ以上何もありません。」 上条「……本当か?魔術が関係してるんじゃないだろうな。お前には前科もあるし……それにその紙袋はなんだ?中に何が入ってる。」 海原「これですか?これならすぐに見せますよ。だから早く御坂さんを「やだ!!」……え?」 真剣な表情で話す海原の台詞が大声で遮られた。 美琴だ、美琴が赤い顔のまま海原を睨んでいる……のだが酔っているせいもあって全く怖くない。 むしろ可愛いので海原は見惚れているようだった。 美琴「私は絶対当麻の側にいるの!!絶対離れないんだから!!」 そう言って美琴は上条の腕に抱きつき、その瞬間海原が固まった。 急に抱きつかれた上条は 上条「こ、コラ離れなさい!!今上条さんは真面目な話をしてるの!!」 美琴「や~だ~!!離れない~!!」 なんとか離れさそうとするも美琴は全く離れようとせずに駄々をこねる。 真剣な雰囲気は一気に消し飛んだ。 すると海原が 海原「……これはどういうことですか…?」 上条「え?どういうことって?」 海原「だからなんで御坂さんが貴方に抱きついたりしているんですか!?それも下の名前で呼んだり……ま、まさか付き合ってるのですか!?」 海原は震えておりかなり焦った様子だ。まあこの状況を見れば勘違いするのは当然だろう。 そんな海原に上条はとりあえず聞いてみる。 上条「……もしかして御坂が酔ってること知らねーのか?」 海原「え?酔ってるんですか?なんだよかった……ってよくありませんよ!?せっかく人1人気絶させてまで御坂さんに会いに来たのに これじゃちゃんと話せないし意味ないじゃないですか!!」 上条「知らねーよそんなこと!!ていうか気絶させたってなんだよ!」 海原「あ、あれはしょうがなかったんですよ!ボクが準備しているところを天草式の牛深?に見られてしまったので……」 上条「見られたくらいで気絶させんな!!で、御坂に何しようとしてんだ?」 海原「な、何って……これを渡そうかと思って…」 そう言って海原は持っていた紙袋から大きなゲコ太のぬいぐるみを取り出した。 このぬいぐるみはビンゴ大会で海原がゲットした物だ。 上条「え?何?ほんとにそれだけのために御坂に会いにきたわけ?」 海原「だからそうやってずっと言ってるじゃないですか!!全く……なんで信じないんですかね…」 いやまさかホントに何もないとは考えないじゃん、と上条は思ったがとりあえず今は黙っておく。 そして海原は上条にくっついている美琴に近づき、ぬいぐるみを差し出す。 海原「えー……コホンッ!ど、どうぞ御坂さん。」 ただ渡すだけなのにかなり緊張しているようだ。額には若干だが汗がにじみ出ている。 だが美琴は 美琴「………いらない。」 上 海「「え」」 なんと美琴が受け取りを拒否、海原から身を隠すように上条の後ろに隠れる。 海原はその場で固まってしまったし上条はものすごい気まずさを感じた。 上条「え、えーと……なんで?お前カエル好きだろ?」 美琴「だって当麻以外の人から何かもらったら浮気ってことになっちゃうから……」 上条「ああなるほど………ってならねーよ!!まず浮気とか言ってるけど俺たち付き合ってねーだろああごめんウソ上条さんが悪かったから泣かないでお願い。」 美琴「ぅー……」 涙目でギューと腕に抱きついてくる美琴の頭を撫でて必死になだめる。 端から見ればまさにバカップル(付き合ってないけど…)、2人の間に入り込む隙などないように思えるが今回ばかりは海原も引かない。 海原「……そうですか…じゃあこれならどうです?」 上条「これなら……!!?」 次の瞬間、上条の目に映ったのは自分だった。 上条の顔になった海原はニヤリと笑う。 上条「お、お前……どうやって…」 海原「ビンゴのときに運良くアナタの手の甲の皮を手に入れられましたからね。ボクはなぜか御坂さんに避けられてるから アナタの顔を使って2人きりになって、これを渡そうと思ったんですよ。」 上条「なんて無駄に手の込んだことを…」 海原「ああそういえば牛深を気絶させたのもこの姿を見られたからなんです。彼に説明するのもめんどくさくて。さて、これなら御坂さんも受けと」 ドゴォォォォンと上条たちの後ろで轟音が鳴った。後ろで、といってもその轟音の原因は海原が入って来た入り口から飛んで来ていた。 魔術バリアのおかげで火災などは起きていないが明らかものすごい威力。 そして上条にはその飛んで来たものに心当たりがものすごいくらいあった。 上条「ま、まさかこれは……」 麦野「みぃぃぃぃぃいい~つけたぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ~♪」 美琴「あーむぎのんだー。」 やっぱり麦野だった。 麦野はふらふらしながらゆっくりと3人に近づいてくる。まさにホラー。 上条「ん?ふらふら……ふらふら!?まさか酔ってんのか!?ていうか酔ってるのにどうやって演算を?」 麦野「こ~の電撃娘が……私より先に彼氏を作ろうなんて良い度胸してんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!」 美琴「ふえ?」 酔っぱらって凶暴さを増す麦野は、酔っぱらって乙女チックになっている美琴目がけて『原子崩し』をぶっ放す。 美琴目がけて、ということは美琴に抱きつかれている上条にも標準は定まっているわけで…… 上条「ちょ、ま、まーっ!!!!!!!!!」 上条はわけのわからない言葉を叫びながら腕にくっついていた美琴を即座に抱きしめ、横っ飛びで床に倒れ込み麦野の攻撃を回避する。 それくらいヤバい状況だというのに美琴は 美琴「えへー当麻ー……もっとギューってして!」 上条「おいぃぃぃぃいいいい!!!!!この状況で抱きつく力強めるの止めてもらません!?死ぬから冗談抜きで!!」 海原「さすが第4位…恐ろしいですね…」 麦野「……ん?なんで上条が2人いるのかしら…?まあいいや。両方吹っ飛ばせば♪とりあえずこっちの上条から消し飛ばそ。」 上条「……あれ?標的って御坂じゃなくて俺なの?さっき御坂のこと狙ったんじゃ?ていうかやっぱり俺のほうを先に狙いにくるのね!!」 話している最中に麦野に狙い撃たれ美琴を抱えたまま必死で『原子崩し』をかわす。 なぜか標的が美琴から上条に移ったようで麦野は何発か上条を狙うが中々当たらない。ていうか当たったら死ぬ。 麦野「おい避けんな!!当たらねーだろ!!」 上条「無茶言わないで!?避けなかったら上条さん死んじゃうから!!そ、そうだ海原!御坂を頼む!」 海原「え?」 美琴を抱えたままこれ以上麦野の攻撃を避けるのは無理。 上条の姿のままの海原に美琴をパスして麦野の攻撃を避けまくる。 パスされた美琴はというと 美琴「あー……当麻が行っちゃった…ってこっちも当麻?……………えへ、とうまー♪」 海原「わわっ……こ、これは夢でしょうか……」 美琴は少し疑問に思ったようだが結局海原を上条と思い、思い切り抱きついた。 抱きつかれた海原は予想外だったのと嬉しさのあまり固まってしまった。 が、 美琴「……?あれ…当麻?……当麻じゃない…抱きしめ心地も匂いも違うし王冠かぶってない。」 上条でないことに即座に気づき、不満そうな顔で海原から離れた。 海原はものすごく名残惜しそうだった。 で、本物の上条はというと 上条「あ、逃げ場が……」 麦野「や~と追いつめた……」 麦野の攻撃をうまく避けていたのはよかったが、調子に乗ったせいか不幸のせいか角に追いつめられてしまった。 追いつめたことにご機嫌な様子の麦野はニヤニヤと笑みを浮かべながら攻撃態勢に入る――― ??「麦野ストーップッッッ!!!」 麦野「あぁ?!!」 上条に向けて『原子崩し』を発射しようとする麦野に誰かが勢いよく飛びついた。 上条「絹旗!!」 飛びついたのは麦野と同じ『アイテム』に所属する絹旗。 飛びつかれた麦野はバランスを大きく崩し、『原子崩し』は全く別のところに着弾した。 そして麦野を必死で抑えている絹旗が上条に向かって叫ぶ。 絹旗「とりあえず超逃げてください!!数秒なら抑えられますから!!」 上条「お、おう!てかなんで麦野さんは酔っぱらったんだよ…」 滝壺「それはシャケ弁ゲットできたことに浮かれてお酒大量に飲んだんだよ。」 上条「あ、滝壺いたんだ。よし、ありがとな2人とも!!御坂!早く来」 美琴「と~ま♪」 上条が呼ぶ前に美琴は後ろから元気よく飛びついて来た。 『とーま♪とーま♪』と言いながら後ろから首に腕を回しギュッと上条に抱きつく。 美琴の小さいながらにしっかりと柔らかい感触がわかる胸が背中に当たり上条は顔を赤くする。 上条(胸が……それに素直な御坂……か、可愛いかも………ってそんなこと考えてる場合じゃなーい!!!) 本当にそんなこと考えてる場合じゃない。 美琴が後ろから抱きついてきたのでお姫様だっこではなく、おんぶで最初に入って来た入り口から飛び出した。 海原「あ!ちょっと待ってください!!ボクも行きますよ!!」 さらに海原も続く、もちろん上条の姿のままだ。 上条「なんでついて来るんだよ!!」 海原「アナタが御坂さんを連れて行くからですよ!!!」 美琴「とーま早~い!!」 美琴をおんぶしたまま、追ってくる海原を振り切ろうと必死に走るが海原も必死。 まあ麦野が迫ってくるという理由でもあるのだが。 上条「くそっ!しつこいな……」 海原はぴったり後ろにくっついて追いかけて来ている。 海原が手を伸ばせば上条に届くが距離だが、止めないのはここで止めてしまうと麦野や会場内の連中が追いかけて来た場合美琴が怪我をする可能性があるからだ。 で、さっき小萌先生とステイルと会ったロビーまでたどり着いたのだが、そこで待っていたのは衝撃の出来事だった。 上条「ていうかこっちに誰かいたらヤバいよな……え…なんで『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が!?」 ステイル「あ、もう戻ってきたのかい?言われた通り止めておいたよ。」 なんとなんとステイルの『魔女狩りの王』が出入り口を塞いでおり、小萌先生は呆然とそれを見ていた。 確かに止めておいて、とは言ったものの止め方がえげつない。 上条「だからみんな会場内にとどまってたってわけね……ん?じゃあ麦野さん達はどうやって舞台裏に…?」 ステイル「あ、さっきそこのロビーのトイレから3人くらい舞台裏に走っていったけど?」 つまり酔っぱらった麦野が気分を悪くしたので、介抱するために混んでいる会場内のトイレではなくロビーのトイレに来ていた。 そして会場内に戻ろうとした時、丁度上条と美琴を目撃し追いかけた、というわけだ。 上条「あ、そういうことか。ていうかいつのまにルーンを貼ったんだ?」 ステイル「そりゃ前持って貼っておいたのさ。何か緊急事態が起こった際にいつでも『魔女狩りの王』を使えるようにね。」 美琴「わー……すごいけど暑い……汗が…」 上条「ん?大丈夫か御坂?」 確かに熱かった。 『魔女狩りの王』のせいで汗が吹き出る。 それくらい暑い状況だがステイルは涼しい顔で ステイル「そりゃ摂氏3000度だからねがふぉう!!」 海原「御坂さんが暑がってるじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!!」 タバコをくわえたままステイルは横へ吹っ飛んだ。 もうお分かりかと思うが、美琴の抱きつかれたことでテンションが上がりすぎた海原がステイルの脇腹に飛び蹴りを食らわせたのだ。 上条「おい何やって……あ。」 上条がふと会場の入り口に目をやると『魔女狩りの王』がゆっくりと消滅していた。 どうやら蹴られた+打ち所が相当悪かったせいでステイルは脳震盪を起こしてしまったらしい。 上条「海原!お前どんだけ強く蹴ったんだ!!」 海原「知りませんよ!?ていうかこの状況まずいんじゃ……」 自分がやったのにもかかわらず焦りを見せる海原。 だが『魔女狩りの王』はまだわずかだが燃え残っている。 ステイルの意識がまだかすかにあるおかげだが、後数秒もしたら完全に消え失せ会場内いる人々は上条に襲いかかってくるだろう。 上条「や、やば!逃げるぞ御坂!!しっかりつかまっとけ!!」 美琴「うん!!えへへ……」 美琴はギュッと上条に抱きつく力を強め、上条はまたまた走り出そうとする。 海原も2人の続く。 海原「あ、ちょっと!ボクも行きますよ!!で、どこに?」 上条「えーと……この階はもう無理だし…外!外だ!!えーと、エレベーターはあっちか。」 で、エレベーターの前までやってきたのはよかったのだが 上条「エレベーター……4つもあるのになんで全部1階と最上階で止まってるんだよ……なら階段!!」 やはり上条の不幸は健在だった。エレベーターがこの階に来るのを待っていれば確実に後ろの連中に追いつかれる。 仕方がないので上条はエレベーターの隣にある階段を大急ぎで駆け下り始める。 海原「この後どうするんですか!?」 走りながら上条にそう尋ねたのはもちろん海原。 上条「下に行ってから考える!てかお前いつまで俺の顔でいるんだよ!!なんかやなんだけど!?」 海原「…悔しいですけどこの顔でいればまた御坂さんが抱きついてくれる可能性があるのでずっとこのままでいます。」 上条「マジで海原の顔に戻してくれ…」 話しながらもどんどん階段を駆け下り、現在5階と4階の間。 だが7階では『魔女狩りの王』が消滅してしまったらしく、上からは大勢の足音と小萌先生の『みんな止まるのですよー!!』という声が聞こえる。 ついでに『こ、小萌先生の命令ならボクは止まる!!みんなも止まるんやー!!』とかいうエセ関西弁まで聞こえてきた。 上条「青ピか……たまには、いい働き、するんだ、な。」 青ピに感謝し、息をきらしつつ上条はそう言った。 こうして青髪ピアスは犠牲になった。 そんなこんなで1階に到着。 美琴をおんぶすることに疲れた上条は、彼女をソファに座らせ自分も息を切らしながら隣に座り込んだ。 美琴は当然すぐさま上条にくっつく。 海原「ちょ、休んでる暇なんてないんじゃ!?」 上条「だ、大丈夫だ、この、後、この、階、のどっか、に、隠れ、れ、ば……」 息をなんとか整えようとするもなかなか回復せず、ゼェゼェと息を切らし続ける。 そんな上条の代わりにどこに隠れようかとロビーを見渡したとき上の方から『建物内もくまなくさがせー!!』とか聞こえてきた。 それを聞いた上条は 上条「ま、マジか……どうしよ…」 当てが外れどうしようか悩むも 海原「じゃあこうしましょう。ボクが御坂さんと2人で逃げるのでアナタはおとりとして犠牲になってください。」 そう言って海原は上条の頭の上の王冠を手に取った。 上条「あ、おい海原!」 海原「これがあれば御坂さんにボクが本物だとわかってもらえますからね。さて御坂さん、行きましょうか―――――」 海原が王冠を頭にのせ美琴に手を伸ばした時だった。 海原「え?」 その手(正確には腕)が何者かに掴まれた。 その人物とは 神裂「追いつき、ましたよ。」 上 海「「え」」 美琴「とうみゃ~♪」 神裂だった。どうやら上からマッハスピードで駆け下りてきたらしい。 さらに王冠をつけているため変装した海原を上条と思っているようだ。 神裂は海原の腕を握る力を強め、海原は青ざめ、上条は逃げるため立ち上がり、美琴は上条の名を呼びくっつき続けた。 上条(王冠を海原が盗ったせいか…なんかついてるぞ!ていうか神裂も酔ってるんじゃ……?) などと考えていたが階段からはさらに足音が聞こえてきたので上条は先を急ぐ。 ちなみに神裂はやけ酒のせいでマジで酔ってます。 上条「よし!じゃあな海ば…上条!!行くぞ御坂!!」 美琴「えへー」 上条は海原のことをわざと『上条』と呼び、美琴を再びお姫様だっこして建物を飛び出した。 その際後ろで海原が何か言っていたが気のせいということにしておいた。 が、上条の不幸はまだ終わらない。 上条「おおっ!?んじゃこりゃ!すっげー雪じゃねーか。」 上条と美琴が建物から出るとそこは白銀の世界が広がっていた。 どうやらパーティが始まってから今までの6時間の間に降り積もったらしい。 降っている雪はまだまだ止む気配はなく、数十メートル先が見えない大雪だ。 美琴「ロマンチックだね♪」 上条「そんなこと言ってる場合か!!ていうかこれだけ降ってたらロマンチックもへったくれもねーよ!!」 まるでコント。 相変わらず酔いのさめない美琴を抱えながら上条は考え尽くす。ここからどうするべきかを。 上条(どうせ海原が変装解いたら俺が逃げたことはすぐわかるよな。じゃあ…駅まで走る……ダメだ。 この大雪の中御坂抱えて走っても終電に間に合わねぇ。タクシーも見当たらない、車で誰かに送ってもらうのも無理!) 正直な話ここに美琴を置いて上条だけ逃げれば万事解決する。 追ってくる連中の狙いは上条なわけで美琴を置いて逃げても彼女に危害が加えられるということはまずない。 自分一人ならなんとか逃げ切る自信はあった。 だが…… 上条「よし…御坂お前建物に戻れ。俺だけ逃げる。」 美琴「え……行っちゃうの?じゃあ私も!私もついてく!!」 上条「ダメだ。2人じゃ逃げれないしお前も危ないってあ、あれ?なんで泣いてるんでせう?」 美琴「ヤダもん…私も当麻と行きたいもん……」 上条「いやいやだから危ないから俺1人で行くごめんほんと泣くの止めて。建物の中から受付の人見てる……」 美琴「グスッ……泣くの止めたら、一緒に行っていい?」 上条「いやダメ……」 美琴「ふぇぇぇ…」 上条「………一緒に行こう。」 美琴「うん!ずっと、ずーっと一緒だよ?離れちゃヤダからね?」 パァァァっと美琴の顔は明るくなった。 泣き止んだ美琴はギューッと抱きついてきた。 上条は顔を赤くしながらもまた考える。 上条「つーか御坂が一緒だと………て、手詰まりだ。長い距離は走れないし行く場所がない……」 美琴を抱えながらこの大雪の中を走るのは絶対キツい。スピードも落ちるし追いつかれる可能性が高くなる。 やっぱりなんとか説得して一人で逃げようかと考えていると 美琴「ねぇ行くところがなくて困ってるの?私近くに良い場所知ってるわよ?」 上条「え!?ほんとか!?」 上条は目を輝かせた。 まさに救いの手、酔っているということで若干不安はあるものの他に策も思い浮かばないし時間もないのでここはおとなしく美琴に従うことにした。 美琴「じゃーまず左!左へレッツゴー♪」 上条「よしきた……ん?」 上条が大雪の中を走り出そうとしたところ暗闇の中に人影が見えた。 その人は明らかにこちらへむかってきている。 瞬時に上条は警戒心を強めて 上条「誰だ……!!…って、お前は……」 上条は知っていた。その近づいてくる人の名を。 上条「バードウェイ!?」 バードウェイ「上条……ってことはやっと着いたのか…?」 なんと『新たなる結社』のボス、バードウェイだった。 彼女は自分に積もった雪を払いのけ上条の前までやってきた。 上条「な、なんで今更……?」 バードウェイが来たことがあまりに予想外だったため上条は思わず尋ねた。 するとバードウェイは上条を睨みながら バードウェイ「今更ってお前が『お願いしますきてください。』って言わないで勝手に電話切るから遅くなったんだろうが!! あの後むかついてすぐ出発したのはよかったけど、この建物建ってる場所が複雑なんだよ!!迷っただろうが!!」 上条「怒る理由が理不尽だなおい!!……そういえばオルソラやシェリー達も迷ったって言ってたっけ(半分はオルソラのせいらしいけど……) で、なんで徒歩で来たんだ?それにマークやパトリシアは?」 バードウェイ「あー……実は迷ってるうちにこの大雪で車が動かなくなってな……降りて歩いてたら吹雪のせいでマーク達とはぐれたんだ。」 簡単に言うと迷子ということだ。歩いた距離は結構長かったようでバードウェイは少し疲れているように見える。 しかしこの極寒の中、長距離を歩いてきたのにもかかわらず完全防寒服のおかげで全く凍えていない。 バードウェイト「そういうわけで一人歩いてきたんだが……その女の子はなんなんだ?」 上条「え……まあいろいろあって……って今ちょっとヤバいんだ!そこの建物にみんないるから休んでてくれ!それじゃ!!」 バードウェイ「な!?お、おい待て!!せっかく来てやったんだぞ!?」 バードウェイが別に凍えたりしてないことがわかったので無視して先を急ぐことにした。 そして上条は美琴を抱えたまま大雪の中を走り出す。 と、走り出して10秒も経っていないのに後ろから大きな音が聞こえた。 上条が必死で走りながら後ろを振り返ってみるとなんとそこにはどでかいゴーレムが。 上条「おぉ……マジデスカ…」 シェリー「エリス!!上条当麻を捕まえな!!」 なんとなんとシェリーがエリスを形成していた。 エリスの上にはシェリーの他にオルソラも乗っており、どうやら協力を依頼されたようだ。 しかし――――― 上条「へ?」 エリスに乗ったシェリーとオルソラは上条とは全く反対の方向へ進んで行った。 さらにそのエリスの後ろには 建宮「追えー!!追うのよなー!!絶対に逃がしちゃならんのよ!!既成事実を作られたらもう勝ち目は無くなってしまうのよ!!!」 五和「か、上条さーん!待ってくださーい!!」 対馬「ていうか牛深は?」 香焼「さっきからずっといないっすよ、それより追わないと!!」 天草式十字淒教の面々が続いて走って行くのも見えた。かなり必死の形相だ。 上条「……どういうこと…あ、海原か。よく逃げられたな。」 走って行く人々の先頭には上条の姿のままの海原が必死で走っているのが見えた。 上条「つーかなんでアイツ変装解かないんだ?まさかまだ御坂に抱きついてもらいたいからなのか?」 まさにその通りだった。 反対方向に走っていったのはどっちに走って行ったのかわからない上条を追いかけようとしてただ単に勘がはずれただけだ。 そんなわけでとりあえずは助かった、今のところ他の追っ手は見あたらない。 しかしまだ追っ手が他にいることは間違いないので上条は美琴の道案内に従い雪の中足を進めていく。 上条「御坂っ!こっちであってるのか?」 美琴「うん!ほらここよ♪」 上条「え?もう?」 走り出してわずか3分。 上条は美琴の言葉を聞き急ブレーキをかけ停止し、そのせいで雪ですべってこけかけた。 美琴が上条に教えた建物、それはホテル。外見からものすんごい高級感が漂っている。 上条「………さて、他の隠れがを探すか。って、おい!こら御坂!」 美琴「よーし!!早速入ろ!!」 上条が諦めて立ち去ろうとしているのにもかかわらず、美琴は上条の腕から地面にうまいこと降りてホテルへと入ろうとする。 当然のごとく上条は美琴を引き止める。 上条「待て待て待て!!俺にこんなとこ入る金なんてねーよ!!」 美琴「そんなの気にしない気にしない~、ぜ~んぶ私が払ってあげるから♪」 上条「そんなのダメに決まってるだろ!?だから別の―――」 そこまで言って上条の視界は真っ暗になった。 何も見えない、そしてものすごく冷たい。 上条「なんでこう不幸なんだろうか……」 上条は持ち前の不幸を発揮して思いっきりすべってこけていた、しかも顔面から。 雪が積もっているためけがはないが、寒い。 美琴はそんな上条を見てけらけら笑い、ふらふらとホテルへ入って行ってしまった。 上条「御坂!待て―――――」 上半身を起こしていたはずなのにまた視界が真っ暗になる。顔は冷たいし背中が痛い。 インデックス「とうまー!どこ行ったんだよー!!」 レッサー「ちょっと本当にこっちで合ってるんですか!?」 バードウェイ「合ってるに決まってるだろ!私はアイツが御坂美琴とかいう女を抱えて走って行くのを見たんだからな!!」 姫神「絶対。追いつく。」 フロリス「上条当麻ぁー!!私を置いて行くなんて良い度胸じゃない!!」 吹寄「あのバカ!!女の子と2人きりで何をしようと考えてるわけ!?見つけたらただじゃおかないわ!!」 風斬「み、みなさん怖いです……」 上条はインデックスや自分のクラスメイト達(書いてないけどクラスの女子全員)、さらにその他数名に踏まれていた。 彼女達はシェリーやオルソラ天草式の面々よりもスタートが遅れたため建物入り口でバードウェイと鉢合わせた。 そのため正確に上条を追いかけてくることができたのだ。 だが転けて倒れている上条には全く気づかず、全員がそのまま通過していった。 当然踏まれた上条へのダメージはでかい。 上条「……もうやだ…上条さん死んじゃう……」 上条は倒れたまま泣いた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭
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「ディオの部下―――という事か」 ストレイツォは腕を組んだままそう返す。 「確証はねぇが、そうだろうな。 何れにせよ、あのGDS刑務所の奥にDIOのヤローが潜んでいるのは間違いねぇ」 カウボーイハットの伊達男が吐き捨てるようにそう言った。 ストレイツォと吉良が、轟音と上空での光に気づいたのは十数分は前。 直後に教会を出て現場へと向かっていたが、途中で例の『放送』があり、足を止めその内容を聞く。 死者の数。浮かれ騒ぎの様なアナウンスの声。地図を持ってきた鳩。 そして何より、同門であり朋輩である、ダイアーの死を告げる声。 それら全てを、ストレイツォは飲み込んで、足を進めた。 上空の光は、一箇所にとどまっていない。正確な位置を目視で確認するのは至難の業だ。 自覚している以上に、ストレイツォの内心に焦りがある。そのことがさらに迷いを生んでいた。 「…ツォ…ストレイツォ…!」 背後から、吉良の鋭い呼びかけ。 意識を引き戻し、視線を巡らせると、既にGDS刑務所らしき建物のすぐ前に居る。 ストレイツォの目には、一種魔法めいた異国の建物。吉良からすれば、今までいたイタリア風の街並みとは異なる、近代的建築物。 その前にいるのは、時代がかったカウボーイと、その男に抱きかかえられた、怪我人と思しき少女。 「徐倫。なんにせよアイツは、ディオの手下に違いねぇ」 男が少女にそう告げる。 「やつに気づかれているのか、たまたまなのかは分からねぇが、どっちにせよ今は戦える状況じゃねぇからな」 見れば、そのさらに奥には、たった今戦闘したであろう相手が倒れているのが微かに見える。 ふわり、とでも言うかの足取りで、ストレイツォは音もなく歩を詰める。 「その話、詳しく聞かせてもらおう」 そして四人は、再びサン・ジョルジョ・マジョーレ教会にいる。 厳密にはさらに一人。未だ目を覚ましていない牛柄服の青年(リキエル)もだが、今ここでの会話には関わっていない。 状況は複雑だ。 ストレイツォが理解できたのは、このカウボーイハットの男と、連れの少女は、「ディオから隠れ逃れてきた」こと。 そして逃げる直前、「ディオの部下らしき男に襲われ、危うくもそれを撃退した」こと。 付け加えて、「上空で戦っているであろう轟音と光の反射は、ディオの部下である隼、『ホルス神のペットショップ』によるものだろう」こと。 自分が、「吸血鬼ディオ」と戦うために出向いてきた波紋戦士である、ということを納得してもらうのには少し手間取った。 男は明らかに不信感を持っていたし、同行の少女を守ろうと警戒もした。 ストレイツォの言を背後から吉良が補足してくれたことと、その少女がとりなしたことが功を奏したのかもしれない。 結局男はストレイツォと同行し、そして「まずはここを離れるべき」と主張。ストレイツォの先導で、先程までいた教会に戻ってきている。 少女は激しく疲労していたが、ストレイツォが渡したボトルの水を飲むことで回復しつつあるようだった。 その少女を気遣いながら、カウボーイハットの男、ホル・ホースは言葉を続ける。 「さっきアンタは、『吸血鬼ディオを倒すため、師匠や仲間と、ジョースターたちの手助けに向かっていた』って言ったよなぁ?」 情報、状況を整理しきれずにいるストレイツォに確認を取る。 「―――そうだ。トンペティ師は居ないようだが、さっき響き渡った声や名簿とやらによれば、ウィル・A・ツェッペリとダイアーはこの会場に集められているようだ。そして…奴の言が真実なら、ダイアーは既に死んだ」 冷静に、感情を表さぬよう端的に告げる。 「そりゃご愁傷様。だがアンタ、何て言われてやってきたか知らねぇが、ディオをただの吸血鬼だと思って戦おうってンなら、負けるぜ」 「何?」 僅かに怒気を孕んでしまう。 誇り高き波紋戦士。何より、朋輩ダイアーの死を含めて、「負ける」の一言で済ませられるのは心外だ。 「おっと、波紋がどーの、って事じゃねぇ。ジョースターの爺も波紋使いだってのは知ってる。けど、それだけで勝てる相手じゃねぇから、奴は手助けを必要としてんだろ?」 ジョースターの爺、というのが引っかかったが(ツェペリが新たに弟子にしたジョナサン・ジョースターという人物は20歳そこそこの青年と聞いている)、名簿にはジョースター姓の人間が何人かいた。 どこかで混同しているのかもしれないが、ひとまずはホル・ホースに続きを促す。 「『世界』…。奴は文字通り、『世界を支配するスタンド』をもっている。 スタンド、ってのは、精神のエネルギー。人によって能力は様々だが、ディオのそれは近距離パワー型。単純に、その吸血鬼のパワーを二人分持ってると言って言いだろう。 そして、能力は『不明』…。 超スピードだとかトリックだとか、そんなチャチなもんじゃあねぇ。 少なくとも、その謎を解かない限り、『俺たちに勝ち目は無ェ』」 ストレイツォの知らない、特殊な能力を持っている。しかもそれが何なのかは不明だが、『世界を支配する』とまで言えるものだという。 付け加えれば、二人を襲撃した針の革を着た怪物に、氷の塊を放つ隼。 既に、ディオの部下たちが集結しつつあると考えられる状況……。 しばし、ストレイツォが押し黙る。 話から察するに、このホル・ホースも、ディオと戦ってきた正義の戦士のようだ。 確かに態度には軽薄さが伺えるが、敵の事情にも詳しく、状況判断能力も低くない。それに何より、少女を助けるために自らの命を賭けられる男。ひとまず信頼しても良いだろう。 「…何にせよ、ディオの居場所ははっきりした。 そして、ディオもまた部下を集結させつつあるというなら、我々も仲間を募って立ち向かうしかあるまい。 特に、ツェッペリとジョースター…。それと君の言う、『ジョースター一行』の仲間達か…」 眉根を寄せつつ、ストレイツォがそう宣言する。 不退転。波紋戦士の誇りに賭けて、吸血鬼ディオに対して、「逃げる」「諦める」という選択肢は無い。 その顔に、ホル・ホースがついと顔を寄せ、 「…その件についてなんだが」 小声で話しかけてきた。 「ジョースター一行については全部教える。ほかのディオの部下についても、だ。ただ、もし奴らと出会っても、おれのことはひとまず伏せておいて欲しい」 「何? 何故だ?」 「あいつらとは、ちょっとばかし誤解があってな。 おれは敵だと思われているんだよ。 いいか、こいつは結構複雑な問題だ。よく聞いて、納得してくれ。 おれは一時期、DIOの内情を探るため、奴らの手下に接近していた事がある。 例えば、鏡のスタンドを使うJ・ガイルとかだ。 こいつは殺人鬼のクソ野郎だったが、奴から他のディオの手下やら、奴らの動向やら、いろいろ仕入れられた。 ただ、そのJ・ガイルって奴は、ジョースター一行にいたポルナレフってやつの妹を殺した真犯人だったんだよ。 そこで、J・ガイルと一緒にいたおれは、『ディオの仲間だ』と思われちまった…。 ああ、ポルナレフのやつが悪いわけじゃあねぇ。確かにちとばかし直情的で困ったもんだが、あいつは正義に燃えて、ディオを追っている。アンタなら信頼してもらえるだろう。 けど、その誤解から、おれはジョースター一行とは共同戦線を組めないんだよ。 完全に、仇の仲間だと『誤解』されちまっているからな…」 ホル・ホースの話は、なるほど確かに複雑な状況のようだ。 「ならば、私が間に立って事情を説明すれば…」 「いやいや、無理だ。状況が落ち着けば可能かもしれないが、そこはまず待ってくれ。 もしアンタがおれの名を出せば、その時点で警戒される。 ただでさえこんな状況なんだ。誤解の種をわざわざ振りまく必要も無いだろう?」 確かに、そうかもしれない。 しかし何も話さずに同行して、後で知られた場合も厄介なことにはなりそうだが…いずれにせよ、込み入った話ではある。 「とりあえず、了承した。実際にどうなるかは保証できないが…」 結局ストレイツォとしてはそう答えるしかない。 簡単な情報交換と休息。 しかしその間にも状況は変化している。 外の様子を伺っていた吉良が戻ってきて、「やはり見失った」と告げる。 これは、最初にストレイツォたちが目標としていた、上空での轟音と光の反射の主、ホル・ホース曰く『ホルス神のペット・ショップ』の事だ。 吉良も、狭い入口から外を探っていただけだった以上、上空すべてを監視できていたわけではない。 もとより、双方移動しながらの事だった上、間に放送などがあった以上、見失ったとしても致し方ない。 いったい誰が、ディオの部下と戦っていたのか。 気になるといえば気になるが、もはやどうもできない。 「それで、ストレイツォ」 ぐ、っと、今度は吉良が顔を寄せ話しかけてくる。 「あいつらとはどういう話になった?」 「とりあえず同行はしない。あの少女の休息時間をもっと取りたいようだし、ホル・ホースは戦士だ。自分たちの身は自分たちで面倒見れる、と。 名簿にメモをしたが、彼の知っているディオの手下と、ジョースターの仲間たちの名は聞き出せた。 できれば、彼らを探し出し、戦力を増やしてディオに挑みたいのだが…」 視線が絡み合う。 吉良はしばし思案した様子で、しかし続けてこう言った。 「徐倫…」 不意に出たその単語に、ストレイツォは少し戸惑う。 「ストレイツォ。放送を聞いたとき、それをメモしたのは私だ。そして自慢じゃあないが、私は結構記憶力は良い方だ。 最初、あの男は、同行している少女を、『徐倫』と呼んだ。 名簿にある名前でそれと似た名前は、『空条徐倫』ただ一つだ。 少し似た響きでアイリンという名もあるが、まあそっちでは無いだろう」 ゆっくりと、確認するように、言葉をつなぐ。 「そして、『空条徐倫』…あと、『アイリン・ラポーナ』は、ともに死亡したと告げられていた…」 「!?」 ストレイツォの顔がこわばる。 「彼らは…放送を確認していない、と言っていた……。 ディオから逃げるのに必死で、その時間が取れなかった………とも」 そのため、吉良がメモしていた名簿と地図の印を、ホル・ホースに渡して写させている最中だ。 76人という膨大な人数の死者数だけに、写しを取るだけでも一苦労である。 ストレイツォが呼吸を整え、両足から床に微弱な波紋を流す。 波紋は、生命のエネルギー。屍生人や吸血鬼にとっては破壊をもたらすもの。 しかし、床を伝って届いた微かな波紋が、壁際に座り込んでいる少女に、ダメージを与えた気配はない。 もとより、彼女は刑務所の前からここまで、朝日を全身に浴びてやってきているのだ。屍生人であるハズは…無いのだ。 「名前を騙っているのか…、そもそも名簿や放送が誤り、嘘なのか…、或いは………」 吉良の言葉がストレイツォの中に浸透していく。 「死から蘇る…又は、死んでいないのにかかわらず、主催者側に死んだと思わせる何らかの手段があるのか………」 「何者だ…」 ストレイツォは吉良以上に混乱する。 「彼女の中は『生命のエネルギー』に満ちている…。 しかし、その肉体は『死んでいる』………」 波紋の伝わり方、その流れからストレイツォが感じ取った結論は、彼女が屍生人であるというものよりも、奇っ怪で悩ましい、理解を超えたものであった。 ☆ ☆ ☆ ポルナレフ、アレッシー、エンヤ婆……。 ジョースター一行も、ディオの手下も、この膨大な76人もの死者の中に名が上がっている。 アレッシーはたしか再起不能になったはず、とか、エンヤ婆はあの後ジョースター達に捕らえられたため、別の刺客に粛清されたと聞いているが…等など、気がかりになる事はいくつもある。 いくつもあるが、問題はそれじゃあない。 空条承太郎が最初に殺され、そしてポルナレフまで死んだとなれば、花京院、アヴドゥル、そして老いぼれのジョセフ…と、残りのジョースター一行は、DIOに対抗できるとはとても思えない面子だ。 もとより、ホル・ホースは、ストレイツォと『仲間』になって、『ともにDIOに立ち向かおう』などとは、さらさら考えていない。 むしろ、DIOの対処を奴らに押し付けて、できるだけ離れていようと、そう考えている。 (もちろん、彼らが『運良く』DIOを倒してくれれば、『儲けもの』ではある、が) そのためにも、情報が必要だ。 DIOの手下がどれだけいて、DIOに立ち向かおうという人間がどれだけいるのか。 それを把握するためにも、聞き逃した放送の情報をストレイツォから引き出したのだが…。 「放送で読み上げられた死者」としてチェックの入っている名。 『空条徐倫』。 どういう事だ…? ホル・ホースは、傍らで座り、壁にもたれ掛かって、何事かを思案しているのか、或いはただ休んでいるのか分からぬ少女を見る。 先ほどの感情の爆発から一転、それまで以上に空虚な表情である。 空条徐倫。曰く、空条承太郎の娘。曰く、GDS刑務所の収監者。 『糸』のスタンドを使い、先ほど殺された野球帽の少年の友人。 どろどろに意識と肉体を『溶かす』スタンドによって死に瀕している父、承太郎を助けること。 エルメェス・コステロ。ナルシソ・アナスイ。ウェザー・リポート。F・F…。 F・F…? 再び、名簿を開いて名前を探す。 ある。『F・F』の名は、名簿にある。 エルメェス、アナスイ、ウェザー、エンポリオ等もある。 話半分、ハナから与太話と思っていたのは確か。 彼女は空条承太郎の縁者か何かかもしれないが、娘などということは有り得ない。 彼女の語っていた承太郎は、明らかに自分より年上だ。 人となり風貌などは似ているが、実在したとしても別人だといえる。 別人? 再び名簿に目を向ける。 参加者の中に、やはり『空条承太郎』の名がある。 しかし、そこには「放送で読み上げられた死者」として、チェックが入れられていない。 ストレイツォが記入し漏らしたのか? いや、最初の段階の死者はそもそも放送では読み上げていなかったのか? しかし、読み上げなかったのであれば、なぜ名簿に名前があるのか? ホル・ホースの頭がフル回転で状況を整理する。 ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎は、最初の会場で殺されている。 しかし名簿によれば、空条承太郎はまだ生きてこの奇妙な街のどこかにいる。 それがもし正しいとすれば―――この会場にいる空条承太郎こそ、ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎とは別人で同姓同名の、空条徐倫の父親なのではないか―――? 待て。待った。違う、そこじゃない。そこが問題なんじゃあ無い。 再びホル・ホースがかぶりを振る。 問題は、放送で『空条徐倫』が『死んだ』とされたのは本当なのか。 本当だとしたらなぜ、今生きているはずの徐倫が死者として名を告げられたのか。 そして―――。 『F・F・F(フリーダム・フー・ファイターズ)…』 あの針の化物が襲いかかってきた時に徐倫が呟いた、この言葉―――。 (徐倫―――…、一体お前は…?) 視界の中、『糸』が、ホル・ホースに向かって放たれた。 「うおぉああぁあっ!!??」 背後を見やる。 そこには、『糸』でがんじがらめにされた青年の姿。 そう、この会場で最初にホル・ホースが出会い、完膚無きまでに叩きのめされた「牛柄の服を着た青年」が居たのだ! 「とりあえず…ハナっから『撃つ』のも何だし、『糸』で縛り上げたけどさ……」 徐倫の気のないセリフに、ストレイツォ達の声がかぶさる。 「しまった、目覚めていたかッ!?」 「待て、攻撃するなっ…! そいつにはまだ…」 瞬時に駆け寄る二人に、ホル・ホースは『皇帝(エンペラー)』を出して牽制。 「おい、仲間か!? 見知らぬ仲ッて訳じゃなさそうだがよぉ~!?」 二人が足を止める。 「いや、我々はその男に襲われたが、撃退して縛り上げていたんだ」 なるほど、確かによく見ると、糸の前に両腕と胴体がロープで縛られているのがわかる。 ただ、縛りが甘かったのかどうなのか、ところどころ緩んで、這うように移動することはできる状態のようだ。 「や…やめてくれ、息が……息ができない……ッ! まぶたが下がるッ……!」 「ニャにィ~~!? てめー、おれを忘れたとは言わせねぇぞ!? さっきはよくもやってくれたなぁ!!!???」 「ヒィイィィィ~~~!! 覚えて無いッ!!! アンタ誰だッ!!?? おれは何で縛られてんだッ!!?? やめろっ……息がッ……!!」 あまりの狼狽ぶりに、逆にホル・ホースが面食らう。 徐倫は糸を戻し、ストレイツォ達もゆっくりと歩み寄る。 「…何だか、随分と態度が違うな……」 「無理もないだろう、ストレイツォ。あれだけ君に容赦なくしてやられたんだからな」 会話の内容に、青年の腫れた顔から、どうやら自分が手も足も出なかったこの青年を、ストレイツォは余程の目に合わせたと思え、複雑な気分になる。 その悔しさからか、ホル・ホースはいささか乱暴な動作で青年に『皇帝』を突きつけ、 「てめー、一体何者だ? なぜおれ…この二人を襲った?」 相手がしらばっくれていることもあり、自分がストレイツォ達より前に青年に完膚無きまでに負けたことをごまかしつつ、そう問いただす。 「わ、分からねェ……。自分でも分からねェんだよ~~~!! 神父に……神父に言われたんだ……。 そしたら、急に変なところに連れて行かれて……殺し合いしろとか……。 そんで、息が苦しくなって、また、まぶたが落ちてきて、水を……水を飲んだら……」 縛られたまま、這うようにのたうつように体を揺らすが、ぐいと『皇帝』を突きつけられどうにもできない。 「まぶた、だの、水、だの、どーでも良いンだよッ!! てめーは何者で、なぜ襲ってきた!!??」 ひいっ、と再びの悲鳴。 「リキエルっ! おれの名前はリキエルっ…! DIOの息子だっ!!」 「「「「!!!???」」」」 叫びを聞く4人それぞれに衝撃が走る。 「神父が、おれたちのことを『DIOの息子』だって、そう言って……それで、『空条徐倫』の足止めをしてこいって言われて………! そしたらいつの間にか変なところに………」 ―――神父。DIOの息子。空条徐倫。死んだ肉体に生命をみなぎらせる少女。波紋戦士。殺し屋。殺人鬼。死んだものとして名を告げられた少女。空条承太郎の娘―――。 ☆ ☆ ☆ 体中が痛む。 糸で縛られた。 弾丸も受けた。 何より、自分のスタンド能力、〈マニック・デプレッション〉で筋肉を過剰に膨張させたことが、疲労と痛みを齎している。 スタンドの弾丸も、糸の攻撃も、すべて致命傷には至っていない。 最後に受けた側頭部の攻撃は、その衝撃は激しく、脳震盪を起こしてしばし意識を失わせるものだったが、その直前に能力を使って「側頭部の筋肉をさらに過剰に膨張させる」ことで、やはり脳への損傷は防いでいた。 そのあとの数発、追い打ちに関しても同様だ。意識を失いつつも残っていた効果が、多くを防いでくれた。 結論から言えば、今マッシモ・ヴォルペが負っているダメージは、ほぼそのすべてが、自らの能力によってもたらされた一時期な副作用なのだ。 普段以上に筋肉を過剰に膨張させた結果の、疲労であり痛みなのだ。 八つ当たりだった、と言って良い。 自分の寄る辺なき人生を導いてくれた老人、コカキ。 依存であると言われても、それでも自分を必要としてくれていた少女、アンジェリカ。 二人の死は、既に「知っている」事だった。 新たなパッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナ。彼の放った刺客、パンナコッタ・フーゴ。 彼らの手により、二人はすでに死んでいる。 その名が、なぜ改めて告げられたのか。 その理由、真実は、今のマッシモには分からない。 わからないが、それでも―――。 あたしは ――― DIOを ――― 許しては ――― ダメなんだっ………!!! そうだ。 逆恨みだと言われようと、親しき者を殺されたのなら、決してその相手を許してはならない。 八つ当たりだったといっても良い。 悲痛な叫びを放った少女を攻撃したのは、単なる八つ当たりだ。 もちろん、彼女がDIOを許さないというのであれば、「DIOの友」である自分は、彼女の敵である、というのもある。 だが。 やはりそれは、ただの八つ当たりだ。 彼女が憎いわけでもない。傍らにいた男のことなど気にもしていない。 ジョルノ・ジョバァーナ。バンナコッタ・フーゴ。カンノーロ・ムーロロ。シーラ・E……。 自分が殺すべき相手は、彼らだ。 しかし―――。 最初に殺されたジョルノ。 彼は本物だったのか? 死んだはずの仲間が、再び殺されたと告げられる。 死の様を目の当たりにした怨敵が、未だこの会場のどこかで生きていると教えられる。 名簿も、放送も、確証のない戯言かもしれない。 そうだ。マッシモは考える。 彼はその誰のことも、ここで見てはいないのだ。 敵も、友も、誰ひとりとして、ここで会ってなどいない。 そして、放送や名簿が真実ではないと言い切れぬのと同様に、自分の記憶も真実だと言い切れないとすら思えてくる。 何が真実、誰が本物で、何がそうでないのか。 結局―――『何も分からない』ではないか。 ゆっくりと、彼は上体を起こす。 感覚が、気配を告げている。 逃走の気配。 戦っている気配。 歩み寄り探っている気配。 いくつかの気配が、このGDS刑務所の周りで蠢いている。 友のことを思う。 それは、新たな友であろうか。それとも、名簿に書かれている旧き友のことであろうか。 この気配について、或いは逃げ去った二人について、新しき友に告げるべきだろうか。 名簿に書かれた怨敵を探し、まだ生きているとされている旧き友を訪ねるべきだろうか。 マッシモ・ヴォルペは友のことを思い、それから何故か不意に、兄のことを思い出した。 痛みは、風の中に去ってゆく。 訪れるものは何か。赴くべきは何処か。 マッシモ・ヴォルペには―――『何も分からない』。 【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内部 / 1日目 朝】 【H&F】 【ホル・ホース】 [スタンド] 『皇帝-エンペラー-』 [時間軸] 二度目のジョースター一行暗殺失敗後 [状態] 困惑 [装備] なし [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針 死なないよう上手く立ち回る 1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。 2.徐倫に興味。ただ、話の真偽は不可解すぎるぜ。 3.DIOの息子? 空条承太郎は二人? なぜ徐倫の名が死者として呼ばれた? [備考] ※第一回放送をきちんと聞いていません。 内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。 【F・F】 [スタンド] 『フー・ファイターズ』 [時間軸] 農場で徐倫たちと対峙する以前 [状態] 軽い疲労、髪の毛を下ろしている [装備] 空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪 [道具] 基本支給品×2(水ボトル2本消費)、ランダム支給品1~4 [思考・状況] 基本行動方針 存在していたい(?) 1.『あたし』は、DIOを許してはならない…? 2.ホル・ホースに興味。人間に興味。 3.もっと『空条徐倫』を知りたい。 4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。 [備考] ※第一回放送をきちんと聞いてません。 【ストレイツォ】 [能力] 『波紋法』 [時間軸] JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前 [状態] 健康 [装備] なし [道具] 基本支給品×3(水ボトル1本消費)、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪 [思考・状況] 基本行動方針:仲間を集い、吸血鬼ディオを打破する 1.ホル・ホースは信頼できると思うが、この徐倫という娘は一体何者なのか? 2.青年(リキエル)から話を聞き出すべきか? 3.吉良などの無力な一般人を守りつつ、ツェペリ、ジョナサン・ジョースターの仲間等と合流した後、DIOと対決するためGDS刑務所へ向かう。 [備考] ※ホル・ホースから、第三部に登場する『DIOの手下』、『ジョースター一行』について、ある程度情報を得ました。 【吉良吉影】 [スタンド] 『キラークイーン』 [時間軸] JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後 [状態] 健康 [装備] 波紋入りの薔薇 [道具] 基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:静かに暮らしたい 1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。 2.死んだと放送された『空条徐倫』に、「スタンド使い」のホル・ホース…ディオ? ディオの息子…ねぇ…。 3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。 4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。 [備考] 【リキエル】 [スタンド] 『スカイ・ハイ』 [時間軸] 徐倫達との直接戦闘直前 [状態] 両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、縄で縛られてる [装備] マウンテン・ティムの投げ縄(縛られている) [道具] 基本支給品×2、 [思考・状況] 基本行動方針 ??? 1.ヒィイィィィィ~~~!! 何が何だか分からねェ~~~!! 息が、息が出来ねぇっ…!! ※第一回放送をきちんと聞いてません。 【E-2 GDS刑務所・正門の内側 / 一日目 朝】 【マッシモ・ヴォルペ】 [時間軸] 殺人ウイルスに蝕まれている最中。 [スタンド] 『マニック・デプレッション』 [状態] 痛みと疲労、数箇所の弾痕(表面のみ、致命傷にいたらず。能力を使えばすぐにでも治せる程度)、『何も分からない』 [装備] 携帯電話 [道具] 基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ [思考・状況] 基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。 1.友を思い、怨敵を思う。 2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 前話 登場キャラクター 次話 097 君は引力を信じるか ストレイツォ 129 AWAKEN ― 乱 094 羊たちの沈黙 (下) ホル・ホース 129 AWAKEN ― 乱 097 君は引力を信じるか 吉良吉影 129 AWAKEN ― 乱 094 羊たちの沈黙 (下) F・F 129 AWAKEN ― 乱 097 君は引力を信じるか リキエル 129 AWAKEN ― 乱 097 君は引力を信じるか マッシモ・ヴォルペ 122:神を愛する男たち
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「なんとしてもこいつを沈めろ!!ブラックハウスまで行かせるな!!」 急旋回を繰り返しながら、タチバナは列機にそう叫んでいた。 タチバナ小隊は、ソロモンからア・バオア・クー方面にやや離れたところで、敵のムサイと一機のMSを迎撃していた。そのMSは碧色のリック・ドムⅡで、パイロットはパトリック・コーラサワーだった。そして、ムサイはマネキンの指揮するクロメルである。 連邦軍の追撃部隊として、誰よりもはやくこの宙域にさしかかったタチバナ小隊は、全速力で突っ込んでくるクロメルとリック・ドムⅡに遭遇した。クロメルは瞬く間にサラミスの一隻を沈め、そのままソロモン方面へと突破しようとしたのである。そして、タチバナ小隊とマネキン戦隊との死闘が幕を開けた。 たった一隻で突っ込んできたにもかかわらず、マネキンのクロメルは死をも恐れぬ勢いで追撃艦隊を駆け抜けつつあった。行く足を乱された追撃艦隊は思わぬ損害を被り、友軍艦どうしでの衝突さえ起こった。タチバナはそんな味方戦艦群の間を縫って飛ぶ。列機を務めているのはPJだ。急激な機動を繰り返すタチバナにしっかりとついてくる。たいした腕だ。 「敵ムサイに対して、後方斜め下から攻撃をかける!碧のドムに気をつけろ!」 PJにそう告げ、タチバナは機体を一気にダイブさせた。敵のほぼ真下にまで潜り込む角度だ。ちらと後ろを見れば、PJは寸分も距離を置かずについてきていた。やるようになった。 クロメルの艦底部がどんどん小さくなり、豆粒ほどの大きさになったとき、タチバナは愛機の機首を起こした。猛烈なGが体をシートに押しつける。常人ならば首の骨がへし折れてもおかしくはない。機首がクロメルにまっすぐ向き、タチバナはレールガンの発射ボタンに指をかけた。 「後方斜め下から敵機!セイバーフィッシュ2機が急速接近!」 クロメル艦橋では、荒れ狂う戦場を目の前にしながら、オペレーターが正確な報告を行っていた。 「バレルロール!敵にこちらの腹を見せるな!対空砲火、弾幕が薄いぞ!!」 マネキンの命令も、いつにもまして力が入っている。マネキンはすでに死期が近づきつつあることに気づいていた。だがその前に、なんとしてもフェイトのもとまでたどり着きたい。もっとも、まだフェイトが生きていればの話ではあるが。 クロメルは進みながら真横に回転し、船体上部にある無数の対空火器がタチバナ達を狙い始めた。そこへさらにパトリックのリック・ドムⅡが駆けつけ、ジャイアント・バズーカを乱射し始める。 「オラオラオラァ!!クロメルはやらせないぜぇ!!」 あまりの弾幕の激しさに、タチバナはこのまま攻撃することを諦めた。 「ダメだ!一度離脱!!」 「了解!」 PJを従えたまま、右へ急旋回して弾幕から抜ける。そうしている間にも、クロメルのメガ粒子砲は近づいてくる連邦軍の艦船に対して斉射を繰り返し、あらたに一隻のマゼランがその餌食となった。 「なんて奴だ…!」 クロメルを睨みながら、タチバナはつぶやく。すでに追撃艦隊は、その進撃を阻まれただけでなく、クロメルのさらなる攻撃によって完全にパニックに陥っていた。各々の戦艦は勝手な方向へと逃げ回り、追う側だったはずの連邦軍は追われる側に成り下がっていた。 「あ~あ、取り乱しちゃってまあ…」 不意に起こったその声に、タチバナは上空を振り仰いだ。クロメルを見下ろす位置に、ペング・ウォルフのGファイターとピクシーのセイバーフィッシュが並んで飛んでいた。 「ペング・ウォルフ曹長!ご無事で!」 「ちょっとミサイルの補給に戻ってただけだ。ピクシーは借りてた。すまんな。」 「いえ。それよりごらんの有様です。はやくなんとかしないと。」 「ふむ、二正面攻撃だ。お前とPJはクロメルを挟んで俺たちの反対側に回り込め!PJ!小隊長のケツにしっかりついて行けよ!」 「簡単です!」 「言うじゃねえか。」 ペング・ウォルフが微笑むと同時に、タチバナが再びのダイブに入った。PJも慌ててそれについていく。 クロメルは、連邦軍追撃艦隊の群れを完全に抜け、いよいよブラックハウスに迫りつつあった。クロメルのレーダーが未だに飛び続けるバルディッシュの反応をキャッチしたとき、マネキンはその孤独なパイロットに心から尊敬の気持ちを持った。 「生きていた…!生きていてくれたか!!」 片肺でここまで走ってきたクロメルの、最後の疾走が始まった。 [削除][編集][コピー] 09/29 01 15 Windows(PC) [384]エルザス 383 唐突に、ブラックハウスが動き始めた。黒猫とフェイトは一瞬格闘をやめ、その巨体に目をやった。 「動き出した…黒猫さん、これまでです。私は、あの船を沈めます。」 「行かせない。たとえ刺し違えてでも、あなたを止めて見せる。」 また戦いが始まった。もう両方ともボロボロだった。フェイトの機体は身軽だが装甲は薄いらしく、黒猫の攻撃がかすっただけでも装甲板が吹き飛んでしまった。一方黒猫のRXはそれ以上に生傷だらけだ。すでに左腕は失っている。もともと攻撃を受け流す戦法の黒猫は、致命傷さえ避けられれば多少の損害は仕方ないと思っている。さもなければ徒手空拳などという戦い方はできないのだ。 それにしても、ビームスピアーを持ったフェイトの戦い方は厄介だった。すこし距離を置いてから、信じられない速度と機動力で一気に接近し、強烈な一撃を繰り出してくる。 「行きます!!」 「受けて立つ!!」 全身全霊を賭けた戦いに、終わりはあるのか。 そこまでブラックハウスに恨みがあるのか、それとも絶対に逆らえない命令なのか。 ナノハは、フェイトがこうまでしてブラックハウスに執着する理由がわからなかった。 「フェイトちゃん、どうして…?」 なおも戦い続けるフェイトと黒猫を前に、ナノハは涙を止めることができなかった。ブラックハウスを守るためには、戦わなければならない。だけど、戦いたくない。 「友達だって、言ったのに…」 泣き崩れる寸前のナノハを横目に、シンは拳を握りしめていた。ジオンには復讐するつもりだった。なにがあっても、妹と家族の仇を討つと、心に誓ったはずだった。だが、この光景を前にした自分の姿はいったいなんだ?フェイトがジオンであることは、サイド6でもうわかっていたじゃないか。なぜ、自分は戦えずに、こうして見ていることしかできない?敵なのに。フェイトは敵なのに。 「あぁ…」 握りしめていた手をほどいたとき、シンは答を見つけた。見れば、シンの手は小刻みに震えていた。 俺は、恐いんだ… 簡単なことだった。目の前の戦闘があまりにも人間離れしすぎていて、自分が割って入っていける気がしないのだ。 「俺は、…なんて弱い…」 そのとき、大きな破裂音がして、シンは黒猫とフェイトの戦闘に視線を戻した。シンは息をのんだ。黒猫のRXが、右腕を切り落とされていた。一瞬の隙をつき、フェイトの渾身の一撃が炸裂したのだ。 両方の腕を失ったRXのコックピットで、黒猫はすでに意識を失いつつあった。衝撃で頭を強く揺さぶられ、脳震盪を起こしていた。薄れゆく意識の中、黒猫は必死で機体を操作した。言うことを聞かない腕が恨めしい。バルディッシュはRXに背を向け、進んでいくブラックハウスを見下ろしていた。 「行っちゃ、ダメだよ…フェイト…」 そこで、黒猫の意識がとぎれた。 [削除][編集][コピー] 09/29 01 17 Windows(PC) [385]エルザス 384 ついにやった。あまりにも強い敵を、自分は倒した。 フェイトは、そこで一度深く息をついた。見下ろしたブラックハウスには、シンのディステニーとナノハのレイジングハートがとりついたままだ。だが、こちらに向かって来る気配はない。ならば… バルディッシュのバーニアが火を噴き、目の前のブラックハウスへと突っ込んでいく。 「来る…!!」 バルディッシュが動き始めたとき、シンはついにディステニーを駆った。横にはナノハがいて、後ろにはブラックハウス。フェイトの背後には黒猫がいるからブラックハウスの砲は使えない。つまり、自分が彼女を止めるしかない。 ―――できるか? 自問する。 ―――わかるもんか。 自答する。 それでも、やらねばならない。結果がどうあれ、自分が戦うしかない。追い詰められた自分の境遇を実感しながら、なぜかシンは自分が喜んでいることに気がついた。戦いの舞台に上がれることが嬉しい。自分の覚悟が、誇らしい。 「シン君?」 動き始めたディステニーを見て、ナノハがつぶやく。 「ナノハ、ごめん。すこしだけナノハの友だちを傷つけるかも知れない。」 「そんな!?」 「でも、約束する!」 「!?」 「彼女は俺が止める。この命に代えても…」 「命って、シン君、死んじゃだめだよ…!」 「ごめん…でも、行かなきゃ。ナノハは下がってろ!」 「シン君!待って!二人が戦うことなんかないよ!どうして二人が戦わなきゃ…シン君!」 シンはもう答えなかった。きっとナノハにはわかるまい。男って時々、命を賭けてでもかっこつけようとするものだ。たぶんそれが、名誉のために戦うってことなんだろう。 シンにもう迷いは無かった。対峙したバルディッシュを前に、シンの中で何かが弾けた。神経が研ぎ澄まされ、全身の感覚が一気に鋭敏になっていく。 「勝負だ!フェイト!!」 「次はあなたなのね。」 フェイトは疲れていた。実際、黒猫を相手に激闘を繰り広げた結果、彼女の集中力は限界を迎えつつあった。それでも… 「ブラックハウスは沈めなきゃいけない…」 なにかの呪詛であるかのように、フェイトはそうつぶやいた。 「行くよ、バルディッシュ。」 時間をかけている暇はなかった。戦いが長引けば弱っている自分に不利だ。一気にたたみかける。 「フェイト!聞こえていたら答えろ!なんで君は、そこまでしてブラックハウスに執着する!」 戦いながら、シンの声が聞こえてきた。せっぱ詰まったような声だ。それもそうだろう、ディステニーも右腕と左足を失っているのだから。ゆえに、勝機はある。 「それが、約束だから。ゼロとの。」 「またゼロか!だれなんだよそいつは!」 「とっても孤独で、たった一人で苦難に立ち向かうひと。だから私は、あのひとを支えてあげなくちゃいけない!」 ゼロを思うと、フェイトの中にまだ力がこみ上げてきた。そうなのだ。自分は負けるわけにはいかない。ゼロの夢を実現するために。そのためなら、自分は喜んでこの身を捧げよう。だがその前に、この船は沈めなきゃいけない。 気づけば、フェイトは泣いていた。なぜ泣いているのかわからない。負けるとは思っていない。きっと任務を果たせると信じている。それでも… 「この船は沈めなきゃいけない!!」 悲鳴にも似たフェイトの叫びがこだまし、バルディッシュのビームスピアーがディステニーの胴体を切りつける。 「だああああああああああああああ!!」 衝撃がシンを襲い、その瞬間にバルディッシュがディステニーの直近まで間合いを詰める。 「ゼロは戦います。昨日よりずっと、今日よりずっと、強くなっていけるようにって。だから私は!」 「そんなのに、君がつきあう必要はない!!」 「違う!彼が目的を果たせるように、私は戦わなきゃ!」 ビームスピアーを振りかざし、バルディッシュはディステニーにとどめを刺す。 「それが私に命をくれる!!」 ビームスピアーがコックピットを貫くかと思われたその瞬間、シンは全力全開で叫んでいた。 「なら、なんで泣いてんだよぉぉぉ!!!」 「!?」 ビームスピアーがすんでの所で止まり、同時にコックピットのハッチが開いた。中からシンが飛び出てくる。シンはそのままバルディッシュに飛びつき、なおも叫んだ。 「自分をそんなにいじめなくていい!そんなつらい役目を買ってでなくてもいい!もっと、もっと自分を大事にして… 生きろ!!」 [削除][編集][コピー] 09/29 01 22 Windows(PC) [386]エルザス 385 一瞬の静寂があった。遙か遠くで爆発がおこり、シンがそちらを向いたとき、バルディッシュのハッチが開いた。 「フェイト…」 華奢な躰を漆黒のノーマルスーツに包んだフェイトは、おそるおそるシンを見上げていた。 「おいで。こっちへ。もう大丈夫だから…」 「シン…」 一歩、フェイトが足を踏み出した。シンは彼女に手を差し出す。 「もういいんだ。フェイトが抱え込む必要はない。一人にならなくていい。」 「シン…!」 フェイトはシンの手を取り、そのままシンの懐へ飛び込んだ。 「恐かった…寂しかった…つらかった…苦しかった…」 シンの胸に折りたたんだ両腕を押しつけながら、フェイトは一気に心情を吐露した。同時に涙が視界をぼやけさせる。涙は先ほどからとどまることを知らない。 シンはそんなフェイトをやさしく抱きしめつつ、やさしい言葉で彼女を包む。 「フェイトは真面目で一途だから、そうなっちゃうんだよな…だけどもういいんだ。フェイトは、俺が守る。」 「守る…?」 「そう、守る。」 「シンが、守る…」 その言葉を繰り返しながら、フェイトは自分の胸に暖かいものがわき上がるのを感じていた。初めてのようで懐かしい、不思議な感覚だった。 「フェイトちゃん…」 気づくと、ナノハのレイジングハートがすぐ目の前まで来ていた。そのハッチが開き、ナノハも飛び出してくる。 「ナノハ…」 フェイトはナノハに気づき、そちらに向き直った。フェイトに抱きとめられたナノハは、フェイトの顔をまじまじと見てから、ゆっくりと口を開いた。 「…なんだかいっぱい話したいことあったのに、変だね、フェイトちゃんの顔見たら、忘れちゃった。」 「私は…そうだね。私もうまく言葉にできない。…だけど嬉しかった。」 「え?」 「まっすぐ向き合ってくれて。」 そういってフェイトは、シンとナノハを交互に見た。 「私は、ジオンの人間だから、連邦軍のひとは、きっと私のことを憎んでると思ってた。だけど二人は違った。二人とも、私のことを受け入れようとしてくれた。私は、二人を危険な目に遭わせたのに…」 「…フェイトだけのせいじゃないさ。それが戦争なんだ…」 ジオンに殺された妹のことを思い出しながら、シンが言った。 「…こんな私でも、まだ友達と思ってくれる?」 シンを殺めようとした我が手を見ながら、フェイトが言った。 「もちろん。」 シンとナノハの声が重なった。それだけで、フェイトの瞳にまた涙が溢れる。 「…ありがとう……でも、どうすればいいの?私、みんなを殺そうとしたんだよ?どうやって償えば…」 「償う必要なんて無い。簡単だよ…」 フェイトの瞳をまっすぐに見つめながら、ナノハが言った。 「名前を呼んで。」 「名前…?」 「それだけでいい。ただ名前を呼んでくれさえすればいいんだよ。」 「なのは…」 「…うん。」 「なのは。」 「うん!」 「君の手は温かいね、なのは。」 フェイトを見つめていたナノハの目にも、すでに涙が浮かんでいた。 「…少しわかったことがある。友だちが泣いていると、同じように自分も悲しいんだ…」 「フェイトちゃん!」 ナノハはフェイトに抱きついた。大粒の涙をこぼしながら、二人はお互いの躰を強く抱きしめる。シンは黙ってそれを見ていた。 [削除][編集][コピー] 09/29 01 24 Windows(PC) [387]エルザス 386 「バルディッシュ、敵に拿捕された模様です!」 「なんてこと…!」 クロメルの艦橋で、マネキンが絞り出すように言葉を発していた。フェイトを助けにここまでやってきたのに、その懸命の努力は水泡に帰した。 がっくりとうなだれるマネキンを、オペレーターの報告がさらに追い詰めていく。 「後方より敵戦闘機編隊!前方からは黒い木馬が接近してきます!」 「いよいよ万事休すか…」 クロメルを追ってやってきたのはタチバナ小隊の戦闘機であった。そしてクロメルの行く手を阻むかのように、前方からはすでにバルディッシュとレイジングハート、そしてディステニーを回収しつつあるブラックハウス。マネキンはここが潮時だと感じていた。 投降する意志はない。だからといって部下達を自分の心中につきあわせるつもりもない。 「全艦に、総員退艦を発令しろ。」 「艦長!?」 オペレーター達が一斉にマネキンに視線を注いだ。ここまで来て何を言うのか、そんな顔をしていた。 「無意味に命を散らすことはない。今のジオンには死んでいく者がたくさんいる。だが大事なのは生き残る者だ。貴様らは生きて戦争から生きてかえれ。」 「ちょっとちょっと、何言ってんですか大佐ぁ!」 突然、パトリックにリックドムⅡがクロメル艦橋の前に現れた。パトリックは迫り来るタチバナ小隊に牽制射撃を続けつつ、マネキンに呼びかける。 「今更水くさいですよ!ここまでついてきたんです!最後くらいご一緒させてください!」 ジャイアント・バズの弾が切れ、パトリックは武装をシュツルム・ファウストに持ち替えた。この武器は使い捨てだから、リックドムⅡはあと一撃しか放てないことになる。 「自分は大佐のためなら喜んで死ねます!!」 「パトリック…」 戦場のまっただ中にいることも忘れ、マネキンはモニターのパトリックを凝視していた。ずっと彼の面倒を見てきたつもりだった。だけどいつの間にか、守られているのは自分になっていた。それが嬉しいような悔しいような不思議な気持ちがして、マネキンは思わず微笑んでいた。 「他の者も、気持ちは一緒か?」 艦橋を見渡すと、オペレーター達が一斉に首を縦に振った。 「大佐とご一緒できるなら、本望です。」 パトリックが改めてそう言い、マネキンはいよいよ覚悟を決めた。 「貴様らの命、確かに受け取った。もう戻れないと思え。いいな?」 「ハイ!!」 男達の声が揃い、パトリックはタチバナ隊の迎撃へと向かっていった。 「クロメルはこのまま全速前進!!黒い木馬の進路を阻め!たとえスクラップになってもだ!!ひるむな!!」 絶叫に近いマネキンの号令とともに、もうボロボロのクロメルが身をよじるようにもだえながら進んでいく。幾筋もの火線がその船体を襲い、あちこちから装甲板が吹き飛ばされていくが、クロメルは決して止まろうとはしなかった。 [削除][編集][コピー] 10/07 00 13 Windows(PC) [388]エルザス 387 「また突っ込んで来る気か?ジオンめ、同じことを何度も!!面舵いっぱい!左舷弾幕であいつを沈めろ!」 ブラックハウスで指揮をとっているのは京であった。あずにゃんは一時的に救護室で休んでいる。阿部軍医があずにゃんのショック状態を治してくれれば良いと思いつつ、京は迫ってくるクロメルから目を離そうとはしなかった。すでに乃人を失った段階で、ジオンの将兵は船をぶつけてでもこちらを沈めようとしてくることはわかっている。同じ轍を踏むつもりはなかった。 「これがソロモンでの最後の戦闘だ!すべて撃ち尽くせ!」 京の命令通り、ブラックハウスからは視界を覆うほどの弾幕が張り巡らされ、それらすべてがクロメルめがけて飛翔していった。ブラックハウスの攻撃はクロメルの舳先に集中していた。そこにはコムサイが格納されている。先ほどの戦闘では、沈めたと思った敵艦からコムサイが飛び出してきて乃人が犠牲になってしまった。そのあやまちを繰り返すまい。京の明確な意志の現れだった。 「とんでもない弾幕だな…」 クロメルを上空から見下ろしながら、タチバナはつぶやいた。あまりの弾幕のすさまじさに、タチバナ小隊は味方に撃たれるのを避けるため一時的に退避していた。碧のリックドムⅡが追いかけてきたが、途中でクロメルへと引き返していった。よほどあの船が大切らしい。 「いつまでもこうしてる訳にはいかない。もう一度攻撃を仕掛けよう。残ったロケット弾とミサイル、すべてをあの船にたたき込むんだ。とどめはタチバナ小隊でさしてやる。」 タチバナは列機にそう告げ、機体をクロメルの右舷側めがけてダイブする。すぐあとからPJ、ピクシー、そしてペング・ウォルフが続き、各々が残っている武装を確認した。 「敵艦真横より雷撃!ペング・ウォルフ曹長、合図を任せます!」 「了解。全機俺に続け。」 ペング・ウォルフのGファイターがずいと前にせり出し、旋回を始めた。セイバーフィッシュ3機が続いて旋回し、クロメルの真横からその船体を狙う位置についた。 「何があってもまっすぐ飛べ!慣性に引きずられたら雷撃は当たらん。いいか、なにがあってもだぞ!!」 言いながらペング・ウォルフは、Gファイターの速度を上げていった。弾幕にがんじがらめにされたクロメルはみるみるうちに迫ってくる。と、クロメルがこちらに気づいたらしく、対空砲火の灯りがチカチカと瞬いた。直後にそれらは実弾となってタチバナ小隊に飛来し、コックピットのすぐ横を何発もの曳光弾やビームが通過していった。操縦桿を引き起こしたくなるのを必死にこらえつつ、タチバナ小隊は耐えていた。もうすぐ発射地点に到達する。そこまでまっすぐに飛ばなくては、直進するだけのロケット弾はクロメルには命中しない。永遠のような数秒間。ひときわ大きなビームがタチバナのすぐ横を過ぎ去ったとき、ピクシーが異変に気づいた。 [削除][編集][コピー] 10/07 00 14 Windows(PC) [389]エルザス 388 「前方にさっきの碧のリックドムだ!こっちを狙ってやがる!!」 見れば、クロメルへ向かって邁進するタチバナ小隊の真正面にシュツルム・ファウストを構えたパトリックのリックドムⅡがいた。シュツルム・ファウストの向く先には、一番目立つGファイターの姿があった。 「退避しろ!曹長!!」 タチバナは声を荒げて叫んだ。だが、かえってきた声は異様に落ち着いていて、そして陽気だった。 「バカ言うな、絶好の雷撃コースだ。」 「ペング・ウォルフさん!!」 彼の隣を飛ぶPJの絶叫が無線に混じる。次の瞬間、リックドムⅡのシュツルム・ファウストが火を噴き、「鉄拳」の名を冠した無骨な弾頭はGファイターの左翼を直撃した。 「曹長!!」 タチバナが叫ぶ中、Gファイターはまだ飛んでいた。爆発は機体の一部をえぐったのに、抱えている大型ミサイルは無事だった。リックドムⅡはきびすを返してクロメルへの最短距離をとった。 「曹長、今のうちにミサイルを捨てて離脱するんだ!」 「まだいけるさ…見ろよ、敵さんは柔らかい腹を晒してくれてる。」 ほんの一瞬、タチバナはクロメルのほうへ目をやった。ついに両方のエンジンが停止したクロメルは、ほとんど慣性の力だけでなおもブラックハウスへと向かいつつあった。パトリックのリックドムⅡはもうすぐクロメルに到達する。 「戦艦にミサイルをぶち込めるとは、雷撃屋冥利に尽きるな…」 照準器いっぱいに敵艦の姿が迫ってくる。もはや傷ついた僚機に目をやっている暇はない。 「行くぞ。雷撃用意!!」 凄味をましたペング・ウォルフの声。タチバナは発射ボタンに指をかける。安全装置は解除してある。 「ってぇぇぇぇぇ!!」 ペング・ウォルフの合図で、4機の戦闘機が一斉にミサイルを発射した。重いミサイルを放った反動で機首が跳ね上がるのを押さえつつ、タチバナは再びGファイターに目をやった。 「小隊長、冥土の土産に、スカートつきを一機もらっていくぞ。」 Gファイターは煙を吹き出していた。飛んでいる機体からバラバラとあらゆるパーツが抜け落ち、それでもペング・ウォルフはまっすぐ飛んでいた。 「やめろ!やめろ!やめろ!」 Gファイターの向かう先にはリックドムⅡの姿があった。もはやよけられる距離は残されていない。 「よせ――――――ッ!!!」 タチバナの絶叫は、リックドムⅡに機首をめり込ませ、四散したGファイターの爆発音にかき消された。直後にセイバーフィッシュがクロメルを飛び越え、ついでミサイルがクロメルを直撃した。 「敵艦、轟沈!」 カントーが戦果を報告したがその声色は決して明るくなかった。 「ペング・ウォルフ曹長…」 アークがその名をつぶやいた。京は制帽を被り治し、わき上がってくる様々な思念を押しやった。 「後方からナガモン中尉達が戻ってきている。黒猫中尉も一緒だ。彼女らとタチバナ隊を収容し次第、ブラックハウスは第二連合艦隊に合流する。別命あるまで戦闘態勢を維持。」 「アイ、マム!」 カントー、アーク、はちゅねが応じるが、仕事が手につかない様子なのがはっきりとわかった。無理もない、と内心に思いつつ、京はこの激戦に生き残った奇跡を噛みしめていた。 ブラックハウス隊が、この一戦でどれだけの傷を負ったのか、想像もつかない。おそらくその傷はこれからその深さをまし、兵士達の心を締め付けるのだろう。 それでも、兵士たちの心とは関係なしに、この無慈悲で凄惨な戦いは続いていく。破滅の色合いを強めてきたジオンはいよいよ狂的な抵抗を見せるだろう。これからさき、どれほどの殺戮が繰り広げられるのか、見当もつかない。 それでも、と京は思う。それでも今この戦いを生き抜いたことを、自分は素直に喜びたい。散っていった仲間達に申し訳ないと思う気持ちはある。 だが、それにもまして、自分が生きていることの喜びをこれほど強く感じたことはいままでなかったのだ。 艦長席に座り直した京は、そこから戦場を見渡した。無数のMSの残骸。戦艦のスクラップ。かろうじて見えるヒト型のものは宇宙を漂う死体か。 戦いはまだ続いていく。大義も名分も失ってなお、人の争いへの本能はとどまるところを知らない。
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谷口が消えてしまった。消えてしまったと一言に言っても、家出をしたとか学校を中退したとかのレベルの話ではない。文字通り、存在そのものが消失してしまったのだ。 違和感は今朝からあった。ギリギリ遅刻寸前で教室に入っても、見覚えのある1年からの友人の姿が見えなかったし、そもそも谷口の席自体がなかったのだ。しかしその時は深く考えることもなく、担任の岡部がHRにやって来る前に急いで自分の席に着くことで頭の中がいっぱいだった。 本格的に異変に気づいたのは1限目の休み時間になってからだった。暑さでぐったりしているハルヒに何気ない日常会話のつもりで、今日は谷口は休みなのかと語りかけると、ハルヒはなにを言っているんだこいつはという目つきで俺を見て、「谷口って、誰?」と返答したのだ。 ハルヒによる数々の変態的椿事に巻き込まれてきた俺だ。俺の脳内の超常的感覚アンテナが敏感にハルヒから発せられるP波に気づいた。これはおかしい、と。 ハルヒは性格から価値観にいたるまで壊滅的に一般常識と食い違った部分を多く持っているが、根は真面目な常識人だ。と古泉が前に言っていたことがある。こんなアイスクリームを取り上げられた子どものような仏頂面のままで面白くもないジョークを言うようなヤツではない。こいつがそう言うからには、本当に谷口って誰?と思っているのだろう。 「谷口? うちのクラスにそんな生徒、いたっけ?」と国木田が鮭の皮を神経質に剥ぎ取りながら言った。 既視感を覚える。前にもこんなことがあった。俺の記憶の片隅に強く刻まれているイメージだ。 しかし今回の場合は以前の一件とは若干様子が違う。俺の席の後ろにはショートカットバージョンのハルヒが鎮座しているし、理系クラスに古泉の姿もある。廊下ですれ違った朝比奈さんと鶴屋さんも、俺に笑顔で手をふってくれた。なにも変わらない。いつもと同じ、ごくごく普通の学園風景。 ただ一つ違うのは、我がクラスが全校に誇る希代のお調子者、谷口が、その存在ごときれいさっぱり消えてしまったということだ。 クラス名簿を確認しても担任の岡部にそれとなく訊いてみても、得られる情報はなし。 俺は困惑した。疑惑の眼差しで下敷きをうちわ代わりにするハルヒを見る。前回の消失事件の真犯人はこいつじゃなかったが、谷口オンリーがこの世から消えているという事実を鑑みたところ、どう考えても犯人はこいつとしか思えない。 しかしハルヒが谷口を消した犯人だと決めつけるのは早計だろう。こんなことをできるのはハルヒか長門くらいだが、そもそも2人にはそうする動機がない。 俺は国木田との昼食を早々に切り上げると、早足で教室を出た。目指す先は文芸部室だ。 SOS団のブレインである長門なら、きっと何かを知っているはずだ。 俺が部室棟の一角にある文芸部室のドアを開けると、やはり長門はそこにいた。いてくれると信じてたぜ。そして少し意外だったが、長門以外にも部室内にSOS団の団員が揃っていた。 朝比奈さん。古泉。2人も来ていたのか。 「長門さんから話は聞きました。あなたのクラスメイトの、谷口さん、でしたっけ? 彼が涼宮さんの力によって消失してしまったのだとか」 古泉、お前。谷口のことを覚えているのか? 一年つきあってきた国木田でさえ忘れていたのに。いや、そんなことはどうでもいい。やはりこれはハルヒの不可思議パワーのせいなのか? 「ええ、そうです。これは涼宮さんの能力によるものです。とある出来事から、涼宮さんはあなたのクラスメイト、谷口さんを嫌ってしまった。それも、いなくなってしまえばいいのに、というくらい激しい嫌い方を、です」 どういうことなんだ。一体ハルヒと谷口の間に何があったんだ? 「あなたのせいですよ」 俺のせい? 谷口がハルヒに嫌われるのは2人の間の問題だろう。俺は関係ないじゃないか。 「キョンくん……。あの、これを見ても、思い出さない……?」 そう言って、朝比奈さんはハンガーにかかっていた愛用のメイド服を取って俺の前につき出した。恥らうふうに朱色に頬を染める朝比奈さんの姿は卒倒しそうなほど愛らしかったが、今はそんな場合じゃない。 朝比奈さんのメイド服と俺と谷口の消失の関連性? ホワッツ? 朝比奈さんのメイド服……メイドと言えば、お茶……お茶といえば静岡県。静岡か。富士山? そういえば富士山の名前の由来は、竹取物語で帝がかぐや姫にもらった不死の薬を捨てたから不死山、富士山と呼ぶようになったと聞いたことがあるな。そうか。つまり朝比奈さんは月からやってきたかぐや姫だったということか。新事実だな。ていうことは何か。未来人は月に住んでいるということか。スペースコロニー。藤原の野郎は月というより火星人っていう感じだな。まあ仮性人の俺も他人のことは言えないわけだが。 違うな、この線じゃないな。朝比奈さんのメイド服……メイドといえば市原悦子。見たわよ~。違うな。こっちでもないな。 あっ! そういえば。思い出した! あの夜。俺が勘違いで谷口に嫉妬に燃やし、決闘することとなったあの時。俺はあのメイド服を着ていたんだった。オーマイガッ! なんてこったい、あのこと朝比奈さんにバレていたということか!? 「そうです。まさにそのことです。あなたが朝比奈さんのメイド服に身をつつんでいた時、谷口さんは何を着ていました?」 そうだ。あの時、谷口は教室においてあったハルヒの体操服を……まさか、それが原因か!? 「おそらくは。まあ厳密に言えば、それだけが原因というわけでもないのですが。しかし、それがもっとも大きなファクターの一つであることは確かです」 自分の使用済み体操服を勝手に着用されるということに嫌悪感を感じることは分かるにしても、それで人間一人を消すっていうのも乱暴な話じゃないか。 「ですから、それだけが要因じゃないんですよ。あなたはネットオークションである物を手に入れ、谷口さんにプレゼントしましたね。それも理由の一つです。そしてその後。谷口さんと仲直りしたあなたは、よく谷口さんと一緒に遊びに行っていましたね。学校帰り、休日を問わず。SOS団の活動も休みがちになるほど」 おいおい。ちょっと待ってくれよ。ハルヒがSOS団の活動を大事にしてるのは最古参の俺が一番よく知っているが、俺がそれに参加する回数が減ったからって、それを谷口のせいにするってのはいかがなものだろう。どういう交友関係を持とうが、それは俺の自由じゃないか。ハルヒだってそれくらいのことは理解できるはずだ。 「いろいろあるんですよ。涼宮さんの心の中も、一枚岩ではないのです」 やれやれ。相変わらず無茶苦茶なヤツだな。 理解しがたいことだが、谷口の消えた理由はだいたい分かった。で、どうすればいいんだ? 谷口をこの世に呼び戻す方法はあるのか? 俺はお面のように変化のない長門の顔に目をやった。 「………彼の存在は涼宮ハルヒの情報改変によりデリートされてしまったが、完全に消えてしまったわけではない。涼宮ハルヒの中にも、谷口という高校生男子にいなくなってもらいたいという意思と、いかに嫌いな相手でも消えてしまえばいいと願うことは人道に反するという倫理観がせめぎあっていたと思われる。そのため、今回の件は不完全な形で安定してしまっている。涼宮ハルヒと近い位置にある我々、彼女の能力を知る者の記憶の中に谷口の情報が残留していることがその証拠。情報がわずかでも残っているならば、手はある」 具体的にはどうすればいいんだ? 「………こうする」 長門はゆっくりと俺たちの前を横切り、団長机に置いてあるパソコンの電源を入れた。起動音と共にパソコンが立ち上がる。 俺と朝比奈さんと古泉の3人が長門の背後からデスクトップを覗き込むが、そこには何も映し出されていなった。いつもならハルヒがペイントし、長門が微調整を加えた複雑怪奇なZOZ団シンボルマークが壁紙として表示されるはずなのに、パソコンの画面上にはアイコンやマウスカーソルさえも表示されることなく、ただただ画用紙のように真っ白なだけの平面が展開されていた。 「………谷口の残留情報は我々の脳内以外にも、空気のように大気中を漂っている。たとえばこの長門有希というインターフェースは便宜上、有機生命体という形を持っているが情報とはそもそも形のないもの」 長門はパソコンをじっと見つめたまま、ぶつぶつと例の超高速早口で何事かを唱え始めた。 「………谷口を形成していた情報を、このパソコンの中に集め、封入する。このパソコンを通し、彼とのコンタクトを図る」 よく見ると、画面についたほこりさえも見えないほどの純度を保っていたデスクトップに、ぼんやりと薄い色がにじみ出はじめた。最初は違和感程度にしか感じなかったそのにじみも、次第に濃くなり、やがて人にモザイクをかけたような具合に変化してきた。 「だいぶ谷口さんの情報が集まってきたようですね」 神秘の宇宙パワーを目の当たりにして、古泉も嬉しそうな表情だ。俺としちゃ親友の進退がかかった一瞬なわけだから、オカルトじみた未知の現象を楽しむ余裕はないのだが。 クイズ番組のモンタージュのようにモザイクが徐々にとれ、人間の体を形成していく谷口の情報たち。 そしてついに谷口情報が100%集まったのか、完全なオールバックの姿がデスクトップ上に現れる。 「どうも、谷口です」 生まれたままの一糸まとわぬ裸体で現れた谷口は、笑顔で挨拶した。相変わらず妙に律儀なヤツである。両手で顔を覆い、きゃっと顔を伏せる朝比奈さんが最高にかわいらしい。よくやった谷口。いや、これは谷口のやったことじゃないか。 「だったらったーたったらったーちゃーちゃーちゃっちゃっちゃちゃらら」 やおらハレ晴れユカイのメロディーを口ずさみながら、中国拳法のような型を見よう見真似で踊りだす谷口。なにをやっているんだ、こいつは。 「あれ、そこにいるのはキョンじゃないか。何やってるんだよ、そんなブラウン管の向こう側で」 あれ、向こうからこっちが見えるのか? 会話もできているようだが。 「………パソコンはあくまで意思疎通の媒体。会話は可能」 そうか。それはよかった。会話ができなかったらどうしようかと思ったところだ。それはそうと、いい加減谷口にも何か服を着せてやったらどうだ? 裸じゃ何かと気になるだろう。何からナニまで。 「………このパソコンの中は今、様々な情報で満ちている情報飽和空間。この空間内にいる限り、情報刺激を加えたものすべてが反映されることになる。彼が衣服を着用したいと思えば、その思念が周囲の漂流情報体に影響を及ぼし、情報を形質化させる」 ええと、要するに、谷口が服を着たいと願えば服が出てくるということか? 「………そう。安直に言うならば、なんでも願い事がかなう空間」 なるほど分かり易い説明だ。おい谷口、聞いたか? 服を着たいと願うんだ。そしたら服が出てくるから。 「え? やだよ。何言ってるんだよキョン。せっかく開放的な気分にひたっているってのに、水をさすようなこと言わないでくれよ。野暮だな。俺は裸がいいんだよ。言うなれば、野生的な俺を見てくれって感じ?」 いや、見たくないから。指の隙間からこっちを垣間見てる朝比奈さんは見たいのかもしれないが、俺は見たくないから。 「なんて言うかさ。すごいパッショナブルだよ。全てを外気にさらしてるって。そして感動的なほどにトゥギャザーだよ」 トゥギャザー言うな。 で、長門。谷口が完全に消えてしまったわけじゃないことは分かったが、このままってわけにもいかないだろう。どうやれば、元通りこっちの世界に復帰できるんだ? 「………ここに、谷口のTFEIを用意した。これにパソコン内の谷口情報を移し変えるする」 いつの間にか長門の隣に、北高の制服を身にまとった谷口1/1モデルTFEIが用意されていた。まるで本物の人間だ。芸が細かいな。まさにファン垂涎の出来だ。 「………さあ。彼をパソコンの中からこちらへ移るよう話して」 谷口、おそらく事情は飲み込めてないと思うが、これは夢なんだ。いいか? 夢だから登場人物や世界観、現在進行形で目の前で起こっている出来事などは全て無意味なイメージ映像なんだ。お前が朝目が覚めてこの夢に対してなんらかのリアリティを感じたとしても、それはお前の一時定な心的興奮からくるものに他ならない。いいな。そのことを念頭に置きつつ、俺の言うとおりにしてくれ。谷口、そこから出てこっちのお前の体に移るんだ。 「やだね」 な、なに!? 「まあ、これはキョンの言うとおり夢なんだろうな。何故か知らないが俺の思い描いたものが全て理想通り現れるし。たこ焼きだってパッキン美女だって思いのままだ」 なんという情報の無駄使い。 「なんでかな。感覚的に分かるんだよ。そっちに行ったら、この夢のような夢から醒めてしまうって。夢のような夢? いや、夢のようなドリーム……なんでもいいか。とにかく俺は、眠っている間くらいは嫌なこと全て忘れてこの理想郷の中で過ごしていたんだ。邪魔してくれるな」 ああ…まあ一理あるな。俺だって夢の中くらいは嫌なことも忘れて楽しい思いをしていたいし。だが悲しいかな、これって現実なのよね。ハルヒの力を知らない一般人の谷口に、事情を説明することができない状況がもどかしい。 でも、ダメだぜ。谷口の居場所はそんな情報空間じゃないんだ。親友である俺が認めない。お前の居場所はこっち側の現実世界なんだ。必ず連れ戻してやるぜ、谷口。 HOI☆HOIと気分よさそうに踊りつつ、美女に囲まれ狂ったように頭からドンペリを浴び続ける谷口に背を向け、俺を長門に問いかけた。 長門、谷口がいる空間に俺も行くことができるか? あ、いや、俺もあっちで思う存分遊びたいということじゃなくてだな。こうなったらひっぱたいてでもあの馬鹿を連れ戻すんだ。 情報飽和空間の中はひどく居心地の良いところだった。暑さや寒さなどの概念はなく、まるで38℃の静かな水中をゆっくり進んでいるような心地よい錯覚を覚える。あたり一面が真っ白で、なにも見当たらない。地面さえも目には見えない。しかし大地はそこにしっかりと存在している。長門が言うには、俺が大地を脳内で無意識的にイメージし続けているから、意識的に願わなくても足場はあるのだという。まあ、この空間内にいる俺は人間ではなく、俺と言う人間が持っていた情報を長門の力で情報飽和空間に移送した意識体だから、地面も酸素も、あってもなくても関係ないらしいのだが。 「ひどく居心地の良い空間ですね。猛暑の折など、ここへ来させてもらいたいものです」 「そうですね。ここなら夏の暑さも冬の寒さも関係ないですし」 そうそう、言い忘れていたが、古泉と朝比奈さんも俺に同行している。思うところがあるわけではなく、単なる好奇心らしい。断る理由もなかったから、反対しなかったらみんな仲良く長門がここへ送ってくれたのだ。 俺たちの目の前には、豪華な社長椅子にふんぞりかえって左右に情報から作り出した都合のいい美人の女性をはべらせた谷口がいる。なんて欲望に忠実であり、そしてチープな男なのだ。 おい谷口。遊園地は楽しかったか? もう十分遊んだだろう。さ、帰るぜ。 「ふん、やだね。俺は帰らないぜ。あんなつまらない現実世界になんか。俺は一生夢の中で暮らすんだ」 出たよ、漫画や小説で器の小さいチンピラが言いそうなセリフ。「夢の中で暮らしたい」、「俺はビッグは人間になるんだ」 「やれば出来るけど、やらないだけだから」。このへんのセリフを言うヤツが実在したとは驚きだった。そして同時にそれが俺の親友であったとは。驚愕と落胆の新事実だ。 「キョン、お前もここで遊んでいけよ。楽しいぜ? 何せ、自分の思ったことがそのまま反映されるユートピアなんだからな。親友のよしみで、特別にタダで遊ばせてやるよ!」 口には出せないが、ここはお前のただれた頭の中じゃなくて、長門の作り出した情報飽和空間なんだぞ。入場料をとるんじゃない。お前こそまず長門にリベートを支払うべきだと主張したい。 おい谷口、現実から目を背けたままいつまでも自分の世界で遊びほうけててどうする? そろそろ目を覚まして学校に行く時間なんじゃないのか? 「口うるさいな、キョンは。固いこと言うなって。お前もゆっくりして行けばいいじゃん。そこの2人みたいにさ」 俺が振り向くと、異様な光景がひろがっていた。 不気味なくらいスラッとスレンダーな体をした白馬。それにまたがる、一昔前の少女コミックに出てきそうな王子様。まつ毛の長い、涼やかな目元、カールした頭髪、風になびくマント。どこをどう見ても王子様だ。その王子様が、真っ赤に顔を染めた朝比奈さんをお姫様だっこしてバラの花をくわえている。 なんだこのシュールな光景は!? 「あれが朝比奈さんの願望か。俺たちより年上とは思えない少女趣味なんだな」 谷口のセリフにはっとする。そうか。ここは自分の願いが具現化する空間。つまり自分の理想がそのまま像を結ぶ世界なのだ。 なんだろう。朝比奈さんを抱くあの王子様。どっかで見たことのある顔なんだが……はて誰の顔に似ているんだったっけ。自分の記憶力に難があるとは思わないが、あそこまで少女漫画チックにデフォルメされてたら、元の顔が誰だか分からない。あの不気味な王子様の顔の元ネタが、朝比奈さんが行為を抱く相手なんだろうか。美化されすぎていて誰だか判別できないが。 さらに別視点に移すと、古泉が扇子で自分をあおぎながら高笑いを上げ、優雅に将棋を指していた。 「はっはっは。いやあ、6枚落としでも勝ってしまうとは。悪いですねえ。僕が強すぎてしまって」 「ううぅ、竜王者なみの棋力を持つ古泉様に私め程度の者が相手になるわけがございません。相手をしてもらえただけでも感謝感激の極みでございます~。ありがとうございました」 自分の頬がひきつるのが分かる。古泉と将棋板を挟んで対面に土下座して許しを乞うているのは、なんとも情けない泣き面をさらす俺だった。さらにその周りには、古泉を称える森さんや新川さん、田丸兄弟などの機関関係者の姿も。 こいつ……。いつも俺にゲームで負けていたのをそこまで根に持っていたのか……。今度会う機会があったら、森さんたちにこのことを教えてやろう。 「「「「古泉様、最高!」」」」 「ワンモアセッ!」 「きもかっこいい~!」 処遇はきまったな。 「キョンよ。いい加減お前も自分に素直になれよ」 谷口が俺に語りかけてくる。全裸で。まるで悪魔のささやきだ。 うるさい! 俺はお前を救おうと……目を醒まさせようとここに来たんだ。俺まで変な妄想にとらわれたら、誰がお前を助けるって言うんだ!? 「そうは言うけどさ。キョン。後ろを見ろよ」 俺の首筋にふっと、暖かい息がかかった。俺の耳元で、誰かが俺の本名をつぶやく。 どきりとする。背筋に冷たいものを感じ、俺はおそるおそる、肩越しに後ろを振り向いた。 「どうして……私を見てくれないの?」 黄色いカチューシャと、髪留めでとめたポニーテールが視界に入る。 「……好きだよ……」 「キョンよ、お前やっぱ……」 やめろ! 俺はかぶりを振って谷口に向き直った。あいつはこんなこと言わないんだ。これはあいつじゃない。 制服越しに感じられる、背中の指先の感覚。 谷口。お前、いい加減にしろよ。俺は、帰るからな。これだけ言っても俺の言葉がお前の耳に届かないんなら、仕方ない。一生でも永遠でも、好きなだけここで脳内ユートピアに頭までつかって腐ってろよ。 もう、俺はお前の親友じゃない。絶交だ。あばよ。 俺は谷口に背を向けて歩き出した。俺の背後に、黄色いカチューシャの女は、もういなかった。 長門に連絡をとろう。俺はすぐにでも、この薄気味悪い空間から脱出したいんだ。あばよ、谷口。 「待てよ、キョン」 谷口の声が、俺を呼び止める。 「その……悪かったよ。からかったりして。俺も遊びが過ぎたよな。勘弁してくれ」 振り返ると、北高の制服を着て恥ずかしそうに鼻をこする谷口が立っていた。 「自分の思い通りにことが進む世界なんて、面白みも何もないもんな。こんなところ、まっぴらごめんだぜ。俺は、厳しくても自力で困難を乗り越えてつかむことができる理想の方が好きだ。それに……お前と縁を切るなんて嫌だしな」 谷口……。ありがとう。わかってくれて。 「いいってことよ。さ、そうと決まればさっさと帰ろうぜ!」 ああ! 戻ろう、俺たちがいるべき場所へ!」 長門の用意したTFEIに収まり、元の人間谷口となんら変わらない姿をした谷口は、俺とともに昼休みの校舎の物陰にひそんでいた。俺たちの前方を、ハルヒが腕を組んで歩いている。 長門の言によれば、ハルヒの内面で谷口の存在情報が非常に希薄になっているらしい。このままでは谷口の存在情報は薄れて消えてしまい、そうなったが最後、完全にこの世から谷口の存在は痕跡を残さず消滅してしまうという。 「………涼宮ハルヒ内で谷口の存在が希薄になっているのなら、その存在感を上げれば事態は解決する」 そうは言うが、長門よ。どうやればいいんだよ。 とにかく谷口。お前これから、自分の存在というものをハルヒに嫌と言うほど見せ付けてきてやれ。 「え? なんで?」 いいから。早くしろよ。 「ああ、わかったよ。何だか知らないが、それくらいなら。まあ、夢の中だしな」 夢の中だからって、あんまし無茶はするなよ。特に安直な下ネタなんかはハルヒには厳禁だ。気をつけろ。 「やれやれ。夢の中でまで、お前らの変な行動につきあわされることになるとはね。ま、いいや。そこまで言うなら、谷口さんここにあり!ということを涼宮に見せ付けてきてやんよ!」 頼もしいな、谷口。余裕の表情を浮かべる谷口は、足音を殺して背後からハルヒへ向かって駆けていった。 「涼宮ああああああぁぁぁぁぁぁぁ! うおおおおぉぉぉぉぉぉ! 涼宮ああああああああああああ!!」 「へ? ぎゃあああ!?」 振り返りかけたハルヒに後ろからしがみつく谷口。 「頼む! お前のハイソックスを俺にくれ! かたっぽでいいんだ! なあ、頼む!!」 ……谷口、お前ってヤツは……。 「こんのアホンダラが! いっぺん死んでこいクサレ谷口!!」 ハルヒのナックルパートが谷口のアゴを的確にとらえて放たれた。 でも、良かったな谷口。ハルヒがお前のことを思い出してくれたぜ。 昼休み明けの5限目が終わったところで、谷口が俺の元にやってきた。 「なあキョン。俺さ、さっきまで保健室に寝てたんだけど。記憶がなくてさ。俺、なんで保健室で寝てたかしってる?」 まさか本当のことは言えないよな。ハルヒのパンチで脳震盪を起こして運び込まれたなんて。 軽い貧血だよ。いきなり1限目中に倒れてな。あわてて保健室に担ぎ込まれたんだよ。本当だぜ? 長門の情報操作は完璧だ。 「ふーん。そうだったのか。ま、いいや。でさ。保健室で寝てた間に、俺、変な夢みたんだ」 そ、そうなのか…。それは、大変だったな。 「いい夢だったんだけどさ。なんか途中で変な展開になってさ。せっかくお楽しみのところへキョンが邪魔にしやってくるんだよ」 そうか。そりゃ悪かったな。 「まったくだぜ。幸福の絶頂を味わってたのによ、空気読めないキョンが俺にむかってさっさと目を覚まさないと絶交だ!なんて脅すだ」 まあ、夢の中の話だから。水に流してくれよ。 「でもさ。なんでかな。不思議と嫌な気持ちはしなかったんだ。むしろ、嬉しかったっていうか。俺が間違った方向へ進もうとしているところをお前が力づくで止めにきてくれたみたいでさ」 俺は言葉をうしなってそっぽ向いた。顔、赤くなってないよな。 「ありがとよ、キョン」 変なヤツだな。夢の中でのことを現実世界にもちこむなんて。馬鹿やってないで、さっさと6限目の準備しろよ。 「夢の中のことを話すのもバカバカしいと思ったけどさ。何故か、一応お前に礼が言っておきたい気分だったんだ。そんだけ。じゃな」 おい谷口。 「なんだ?」 今日、帰り予定あけとけ。ラーメンおごってやる。 これで、谷口を消失させたハルヒの一大事件は無事終結を迎えた。 あれだけハルヒに強いインパクトを与えたんだ。二度と谷口がこの世から消えてしまうなんてことはないだろう。 ちなみに、古泉があっちの世界から帰ってきたのは3日後。朝比奈さんが戻ってきたのは、それから更に1週間後のことだった。 ~完~
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(二日目)10時42分 凄まじい轟音と共に、高層ビルと同じ高さの砂埃が舞い上がった。 ブリッジを支えていた石柱は、アメ細工のようにグニャリと折れ曲がり、ブリッジごと黒い翼に呑み込まれていった。白髪の少年の眼前にある、ブリッジの終着点である国際ターミナルの全面ガラス張りの巨大な出入口を突き抜け、あらゆる物を貫通し、ターミナルの反対側で停泊している数機の旅客機を吹き飛ばした。 行倒しになった飛行機は、遅れて一際大きい爆発音と共に炎上した。ブリッジから数百メートル先までの国際ターミナルを跨ぐ一直線上は、ドロドロとした黒い物体一色に染め上げられる。 『一方通行(アクセラレータ)』の背中から噴射されたものは翼というより、何か意志を持った黒い液体のようにも見える。 白髪の少年の背中から噴射している『竜王の翼(ドラゴンウイング)』は、空中で巨大な半円を描くように湾曲し、『一方通行(アクセラレータ)』の正面に伸びていた。 『一方通行(アクセラレータ)』は両腕を前に突き出す。ゆっくりとその腕を真横に広げ、十字架のような格好をとった。 『竜王の翼(ドラゴンウイング)』もそれに倣う。 一対の黒い塊は二手に分裂し、真横に動いた。 バキバキと鉄注や鉄筋はへし折れ、ガラスをふんだんに使用した芸術的な建築物である国際ターミナルは、大量のガラスの破片をまき散らしながら、中心から横一直線に引き裂かれた。 ヒュン、と。 一瞬で、黒色の翼は『一方通行(アクセラレータ)』を中心に、円を描くように仰ぐ。 高層ビルやプロペラが、高さ二〇メートルの位置で真横に切断された。 ズズズウン!!と、大きな音を立てながら、『一方通行(アクセラレータ)』の真正面にある国際ターミナルと同じように、周囲の建物が崩れ去り、莫大な量の粉塵が吹き荒れた。 瞬く間にして、直径一〇〇〇メートル弱の一帯は瓦礫の山と化した。 粉塵が荒れ狂う中、黒色の翼はゆっくりと立ち上がり、長さは約五〇〇メートルまで伸びていた。白髪の少年は空を見上げた。 パン!と、翼の先端から、まるで蠅の群れが霧散するように黒い物体が四方へと飛び散った。 その破片一つ一つが、鋭い羽根へと変貌する。無数の羽根は、目に止まらぬ速度で粉塵の中を突き抜けていった。 五〇〇メートルまで伸びていた翼は、わずか一〇メートル足らずの長さに収縮した。 白髪の少年は辺りを見回す。自分が立っているのは高さ二〇メートル程のブリッジだった。しかし、今は見る影も無く、彼の前後の橋は既に崩れ落ちており、左右にあったガラス張りの塀すら吹き飛んでいた。たった一本の石柱に支えられた一〇坪程度の床に立っているようなものだった。 「――――――――ら――スト――――――オ――――――――――ダ―――――――」 『一方通行(アクセラレータ)』は、必死に言葉を紡いだ。彼の頭に、耳鳴りがしそうなほど大きな声が「聞こえた」。 (今、貴方の魂は『神の世界(ヴァルハラ)』に密接に『干渉(コンタクト)』している。『神の物質(ゴッドマター)』が貴方の感情にリンクして、大量に溢れ出しているから感情をコントロールして!ってミサカはミサカは貴方を支えていることをアピールしてみる!) 「――――――ど――――う――――――やれ――――ヴァ―――――――wrd――」 (自我を忘れないで!気を抜くと、貴方の魂が『神の世界(ヴァルハラ)』に完全にとりこまれて『死んで』しまうから! ―――ッ!!呑み込まれちゃダメ!魂が『神の物質(ゴッドマター)』に溶け込んで霧散しちゃう! !!!そ、そうだ!あ、あな、貴方の、本当、の、なっ、名前、名前を!思い出して!! 私は知ってるけど、『今の貴方』は知らないはず!!だ、だか、キャッ!) 『時間割り(カリキュラム)』によって『力』に目覚めて以後、彼の世界は一遍した。生徒数二〇〇〇人に届く学校にいながら、彼一人だけの特別クラスが用意された。体育祭にも文化祭にも参加しない。狭い教室に、机がポツンと一つ置いているだけ。 別にそれに不満を持った覚えは無い。 『絶対能力(レベル6)』に進化するための特別クラスで、多くの研究者に囲まれながら、そこで淡々と『時間割り(カリキュラム)』をこなしていった。 『絶対能力(レベル6)』にたどり着ける者として、『一方通行(アクセラレータ)』と呼ばれるようになった。 検体名『一方通行(アクセラレータ)』。 それは、すなわち学園都市最強の称号。『超能力』を身につけるべく、この学園都市に入り、『時間割り(カリキュラム)』を受ける人々全ての憧れの的。 最初、この名前は自ら好んで使っていた。自分は最強だ。自分は特別な存在だ。選ばれた存在なんだ。と、悪を倒す正義のヒーローの素質を持っているものと信じて疑わなかった。両親に名付けられた名前よりも、『一方通行(アクセラレータ)』という名に酔いしれていた。 『一方通行(アクセラレータ)』の真の意味に気づかないまま。 月日が流れ、検体としてのコードネームが自分自身の固有名にすり替わった頃、二万人の『妹達(シスターズ)』殺害による『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画が始まった。 外を出歩けば、狂気に満ちた馬鹿な連中に目をつけられ、返り討ちにし、何回、何千回と同じ顔をした少女を殺し続ける日々。彼の表情にあまり変化が見られなくても、彼の心は徐々に深い『闇』に侵されていった。 そして、上条当麻との出会い。 そこで味わった敗北という土の味。 能力を制限され、『打ち止め(ラストオーダー)』無くしては生きられない体となり、様々な人々を通して、『人』としての意味を学んでいる。 『一方通行(アクセラレータ)』では無い、『人』としての自分。 一度たりとも、考えたことは無かった。 真っ白な世界に、『俺』はいる。 (俺は、一体―――――――――――――――――――――――――――――――誰だ?) (俺の―――名前は――――――――――――――――――何だ―――――――――?) 『俺』の声と、 (俺の――――――――――――――――――――――――――――――――――――) 『僕の――――――――――――――――――――――――――――――――――――』 『僕』の声が、 (名前は―――――――――――――――――――――――――――――――――――) 『名前は―――――――――――――――――――――――――――――――――――』 重なり、 「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ら」 『誰』かの、 「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ラ」 声が、 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――んラ」 聞こえる。 闇を焼き尽くさんとする灼熱の戦火の中、一人の少年の叫び声が聞こえた。 『俺』を、呼んでいる。 「おいっ!!大丈夫か!?目を覚ませ!!―――――――――――――――――――――ッ!!!」 「ナ―――――3――――――魔―――――――――え――――――em ――――――?」 聞き慣れぬ少年の叫び声と共に、真っ白な世界に覆われた視界が、明確になっていく。 頭に流れ込んでくる黒い何かは、自我が闇に呑み込まれる錯覚を覚えながら、その勢いを増した。 だが反対に、心は高揚し、そして、異常なまでの冷静さがあった。 まるで体全体に熱気と冷気を同時に当てられ、その間で交じり合うような感覚。 胸に溢れんばかりの何かを吐き出すように、白髪の少年は絶叫した。 「ォォォおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああアアア!!!」 『一方通行(アクセラレータ)』は、真名(まな)を、取り戻す。 「俺は――――――――――――――――――――――――――――――――――――」 (アプリケーション〇〇九一。検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号。個体名、ラストオーダーより起動の申請。 検体名、アクセラレータ以外の申請は、パスワード――クラス『A』の入力が必要。 入力確認、開始―――――――――――――――――――――――『ブルーE.M.』と判定。 『受理』 〇〇九一。アプリケーションコードネーム、『ドラゴンウイング』を確認。『マザー』による検体名、アクセラレータの存在を確認。 『三次元空間』演算による座標指定。――――――――――――――――――――完了。 アプリケーションコードネーム、『ドラゴンウイング』。 起動―――――――――――――――――――――――――――――――――――開始) 『打ち止め(ラストオーダー)』の無機質な声が、白髪の少年の脳内に響き渡る。 だが、白髪の少年には届かなかった。心の内に鳴り響く轟音に、全てが掻き消されていく。 (AIM拡散力場――――――――――――――――class;3.64。Level『A』と断定。 ヴァルハラとのアクセスによる『共振』を感知。 IFM振動数を空間周波数から逆算―――――――――――――――――――――成功。 130,55[Dz/s] 。SLF;4897.001[BQ/s]。 エマージェンシーモードのブルーアクセスのため、カウント00.00。) 夜空を焼き尽くさんとする灼熱の戦火の中、一人の少年の叫び声が聞こえた。 『俺』を、呼んでいる。 「おいっ!!大丈夫か!?目を覚ませ!!―――――――――――――――――――――ッ!!!」 聞き覚えの無いはずなのに、ひどく懐かしい声。 「こんなとこで死ぬなよ!!……それに、『打ち止め(ラストオーダー)』はどうした!?」 俺の『世界』は、この少年との出会いから、変わりはじめた。 「くそっ!アイツらああああ!!フザケんじゃねえぞ!!おいっ!起きろ!!俺たち、約束しただろ!?必ず生き残るって!」 その出会いは、さらなる『絶望』の始まりであり、たった一つだけの『希望』。 「聖人だろうが魔神だろうが関係ねえ。世界の意思?バッカじゃねえの」 『俺』は願った。 「いかなる理由があろうと―――、ラを傷つけるやつは許さねえ!!神だろうと悪魔だろうと、全員俺の敵だ!」 そして、辿り着いたのだ。 白髪の少年は、髪を掻き上げた。 手にこびり付いたのは、一筋の涙。 とある少年の後ろ姿が脳裏に焼き付いていた。 『今の彼』は知らない、真の強者の姿。 その少年が、彼の『名前』を呼び続けていた。 「グチャグチャうっせえンだよ―――――――――――――――――――――――当麻」 白髪の少年の頭に、感情の無い『打ち止め(ラストオーダー)』の声が響き渡る。 (『竜王の翼(ドラゴンウイング)』に関するステータスを確認。 ヴァルハラとのシンクロ率―――――――――――――――――――――――2.00% ゴッドマターの出力量――――――――――――――――――――――――グリーン アプリケーション〇〇九一。正常動作―――――――――――――――――――確認) (『接続(アクセス)』―――――――――――――――――『完了(コンプリート)』) 不思議な気分だった。 脳に直接、冷水を流しこんだような冷静さと、激しく燃え盛る激情に体が震えながらも、全身を突き抜ける爽快感がある。 無地の紙に、あらゆる色が描かれるような情報の把握。 全てが見通せるような視界。 『何か』が違っていた。 (血が流れてるのに痛みが無ェ。なのに、風や温度の感覚がある。一体どうなッてンだ?) 「ラストオーダー」 彼の周囲には誰もいない。共に在る『彼女』に話しかける。 「あれはお前の記憶か?」 (うん。って私の記憶を見たの?ってミサカはミサカはとっても恥ずかしがってみたり!) 「…ありゃア、『戦争』の最中か?辺り一面が火の海だったぜ。あの『無能力者(レベル0)』に叩き起こされるヤツだったんだが…あンなこっ恥ずかしいセリフを言うとは、かなりのオメデタさンだな」 心の隅で、自分が決める『善人』の像と被ったことは口が裂けても言えない。 (あちゃー…って、ちょっと待って!?ミサカはミサカはそんな記憶は無いよ!ってそれは違うって断言してみる!) 「…なンだと?」 (私の魂も貴方の魂を通して『神の世界(ヴァルハラ)』にアクセスしてるから、記憶を垣間見ちゃったと、ミサカはミサカは思ったんだけど…) 「なら、『この時代の俺』の記憶の残滓だったンだろうな……おかげで、助かったぜ」 (よく頑張りました!とミサカはミサカは『今の貴方』に盛大な拍手を送ってみたり!) 「手が無ェだろ。お前」 (そういう悪質なツッコミはNGだよ!ってミサカはミサカは貴方のマナーの無さにプンプン怒って警告してみたり!) 「勝手に言ッてろ」 『打ち止め(ラストオーダー)』の声を無視して、何気なく右手を前にかざす。 ブバッ!!と、突然の爆風と共に、前方100メートルにある大量の瓦礫が勢いよく吹き飛んだ。 「……ハァ?」 白髪の少年は首をかしげた。 操作しようとしたでは無く、前方に佇む瓦礫の山が鬱陶しいと『思った』だけだ。 (貴方の力は『ベクトル操作』だけど、この状態時には、触れることが無くても半径三一〇・一七メートルの範囲内なら『ベクトル操作』が可能だよ。でも、この『力』は既存の物理法則が成り立たないから、ミサカネットワークによる演算処理が行えないし、ベクトルの方向性は通常の数万倍だから、緻密な操作が一切行えないの、ってミサカはミサカは説明してみる!) 「…オイ。俺はまだ何もしちゃいねェぞ。ただ手を動かしただけだ」 (『操作』するというより、『思い込んだ』ことがそのまま現実に『反映』するの。けど、今の開発段階では物体を操作することだけ。食べ物が欲しいって望んでも生み出すことはできな…) もの凄い勢いで、白髪の少年の手元に何かが飛んできた。 それを掴んで、視認する。 「……缶コーヒーが飛ンできたンだが、しかも俺が飲みてェと『思った』銘柄だ」 (――――――――――――――) 『打ち止め(ラストオーダー)』が沈黙する。 白髪の少年は、『打ち止め(ラストオーダー)』の説明と身に起こった現象で、自身の能力を把握した。 『ある範囲内の物体を支配する力』 つまり、演算などを用いて、現実の操作で自分の理想に沿うように動かす力では無く、現実を理想に沿うように動かせる力。 白髪の少年は小さく笑った。 「物事を自分の思い通りに動かせる、か。まるで神様みてェな力じゃねえか」 自分の願望が、領域(テリトリー)内における物理法則(ルール)なのだ。 まさに『神の如き者(ミカエル)』。 神の領域に踏み入った学園都市第二位『絶対能力者(レベル6)』の名に相応しい力。 少年に向かい風が吹いた。白い長髪が大きく風に靡く。 少年は絶叫した。 「フッ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」 かつて自分が願っていた力。二万人の少女を殺し尽くして初めて到達する領域。 その力が、手中にある。 心の奥底から震える驚喜を、体から解き放った。 溢れんばかりの高揚感を噛み締めながら、声を殺して、彼は告げる。 「ラストオーダー」 (…分かってる) 『打ち止め(ラストオーダー)』に声をかけた白髪の少年は、鋭く目を細めた。 「ドラゴンはまだ…死ンでねェ」 ターミナルの残骸の向こうに見えるのは、黒い煙が幾つも立ち上がる飛行場。 その先に漂う強烈な存在感を、白髪の少年は感じ取った。 『行くぜ』と思った瞬間、 バオォ!!と、足元の床を、ブリッジを支えていた一本の柱ごと吹き飛ばし、弾丸並みの速度で、前方へと突進した。 風に靡く『竜王の翼(ドラゴンウイング)』は、一本の直線を描いた。 白髪の少年は、一〇〇〇メートル以上ある距離を一秒強で詰める。 そこには旅客機や運搬車が巨大な黒煙を上げて炎上し、ターミナルの残骸などが散乱している光景が広がっていた。 所々で警報が鳴り響き、消火作業をしている大型スプリンクラーが作動しているが、そんな作業でこの火災が止められないことは目に見えていた。 白髪の少年は周囲を見回す。 これだけの騒ぎになっていながら、誰一人としていない。 (避難が完了したにしては早すぎる。ってことは予め、これは予想されてたってことか。それに今回の大規模な避難が秘密裏に行えたってことは統括理事会クラスの大物が承認してたことになる。アレイスターの関与は間違いねェ……チッ!学園都市ってのは、どこまでも食えねェ連中がいるもンだぜ) はき捨てるように、少年は舌打ちをした。 ブツッ…と、突然、周囲のスピーカーから回線が焼き切れたような音が聞こえると、甲高い警報の音が止み、少年の周辺に覆っていた黒煙は一瞬で消え去った。 (うるセェと『思った』らスピーカーが故障して、前が見えねェって『思った』ら煙が消し飛ンだ上に、スプリンクラーまでオジャンかよ。…ったく、強すぎる力ってのも考えもンだな) しかし、遠い場所では警報の音は鳴り響き、砂塵と黒煙が混じり合った巨大な煙は依然として空に昇っている。黒煙が消し飛んでいる地点を身長と視界から捉えられる遠近感覚、傾斜角を見積もり、自分の領域(テリトリー)の境界線を割り出した。 (煙の変化から見て、効果範囲はざっと半径二〇〇メートルってトコか。この力はまだまだ発展途上の上に不安定だな。今回はちッとばかり範囲が狭いらしい。――――が) 白髪の少年は宙に浮いたまま、ある方向に目をやる。 まるで船を引きずったように、アスファルトや地面が抉り捉れ、ターミナルから遠く離れた第二滑走路まで伸びていた。その終着点に、無数の鋭い羽根で出来た奇妙な漆黒のオブジェがある。 その目標物との距離は四〇〇メートル弱。 『竜王の翼(ドラゴンウイング)』から放たれた一部が変質した羽根。 スライムのように粘着性の高い液体の時もあれば、鉄板をバターのように切り裂く硬度を持つ時もある。鋭い羽根は後者の性質を持っていた。『何か』に無数の羽根が突き刺さり、巨大な黒いサボテンのような印象を与える。 もし、その『何か』が人間であった場合、肉や骨は跡形も無く切り刻まれ、おびただしい血の跡と僅かな肉片しか残っていないだろう。 しかし、その『何か』が『魔神』であった場合――――――――――――――――――― パリン!というガラスが割れたような音と共に、無数の黒い羽根は粉々に砕け散る。その粒はカットされたダイヤモンドのように煌びやかな光沢を放ちながら崩れ落ちていった。 そして、『魔神』の姿を捉える前に、 『魔王』は動く。 「潰せ」 少年の周囲にある旅客機二機と、一五台の運搬車が浮かび上がった。 さらに、半径二〇〇メートル以内にある残骸全てが、地球の自転と同じ、時速一六六六キロの速度で『魔神』に襲いかかった。 グシャアア!! 突如、投下された爆弾が地面に突き刺さり、爆発したような黒煙が舞い上がる。 二〇トンを超す旅客機のような鋼鉄の塊でさえ、破片をまき散らしながら、バスケットボールのように地面をバウンドし、二列の滑走路を越えて飛行機整備用の格納庫に直撃した。 白髪の少年の周囲には、何も無かった。 下には、地下通路がむき出しになった地面のみ。塵一つ、彼の周りには存在しない。機械が溢れる飛行場で、その一部だけ、金属類の物体が皆無だった。 一〇メートルを超す黒の翼を羽ばたかせながら、少年は接近する。 ものの数秒で、立ち上る黒煙は、『魔王』の領域(テリトリー)に入った。 「邪魔だ」 轟!!と、土砂の入り混じった黒煙が吹き飛ばされ、その周囲に散乱していた何かの部品やガラス、タイヤや鉄筋などが紙クズのように『魔王』の前方に飛んでいった。 音速を超えた破片の雨は、飛行場から十数キロ離れた学園都市を覆う城壁に激突した。 残ったのは、直径四〇メートルを超すクレーターのように、ポッカリと穴が開いた土の地面。 その中心に『魔神』はいた。 無傷。 服に塵一つさえ付いていない。 その光景を見降ろしながら、白髪の少年は息を呑む。 「超能力で『チカラ』を手に入れて以来、俺は周りに随分とバケモノ扱いされてきたが…」 赤い眼光が、『魔神』に殺意を込めた視線を送る。 キイイイイイィ!!と、直後、耳を劈くような一際高い音が鳴り始めた。 周囲には、再び砂埃が舞い上がり、『魔神』の正面には、まるで水で出来た壁があるかのような波紋を帯び、眩い光が生じる。 『魔王』の『願望』が実現する世界で、『殺せ』という『法則(ルール)』が適応されない。 「俺がバケモノなら、テメェは一体何なンだよおおおおおおおおおおおおオオオ!!!」 白髪の少年は、心に溢れ出す『殺意』と、『竜王の翼(ドラゴンウイング)』を『魔神』に向けた。 空間に揺らぐ波紋はさらなる拡大を見せ、響き渡る音と目が眩むような光は激しさを増した。そして、その波紋の中心に、二対の『竜王の翼(ドラゴンウイング)』は激突した。 しかし、ドロドロとした黒い何かは、まるで透明なガラスに泥水が当たるかように弾かれていく。 『竜王の翼(ドラゴンウイング)』に呑み込まれた物体は、数百万Gという力で圧縮されてしまう。翼が黒く見えるのは、当たった光が全て翼の内部に取り込まれてしまうからである。ブラックホールのような吸引性を持っている翼を弾くこと自体、異常なのだ。 鋭く尖った赤い視線は、眩い光の中、『魔神』の深淵な黒い瞳と交差した。 辺りには鼓膜が破けそうなほどの高音が響き渡っているにも関わらず、『魔王』は、『魔神』の言葉がはっきりと聞き取れた。 「弱い。弱すぎる。興ざめだ」 失望の色を露わにした声を、『魔神』は紡ぐ。 その言葉に、白髪の少年の喉が、砂漠のように干上がった。 「……………………………………………………………………………………………ッ!!」 この恐怖を、彼は知っている。 かつて、自分を最強から引きずり下ろした少年の姿を、 『垣間見た』。 瞬間。 白髪の少年の顔面に、『見えない』右手の拳が突き刺さった。 「ブッ!……ガハァア!?」 『魔王』の脳天に、頭を貫くような激痛が走った。 急に鼻の周辺が熱くなり、目下からは涙が溢れる。 両手で顔を押さえたまま、円状の砂埃を発てて、地面に着地した。 ポタ、ポタ、と。両手から流れ落ちる血で、アスファルトに赤い斑点を作る。 (一体、何が…) 理解できなかった。 少年は殴られた。 鼻の骨をへし折られた。 それは分かる。 では、一体誰に殴られたのか?『魔神』は指一つとて動かしてはいない。 その時、悲鳴に近い少女の叫び声が「聞こえた」。 (『恐怖』や『絶望』を考えてはダメ!範囲内の人間に『死ね』と『願った』ら、実現可能な殺害方法によって死ぬけど、これは貴方も例外じゃないの!もしも貴方が『死にたい』って『思った』ら、同じように死んでしまう!ってミサカはミサカは貴方に警告してみる!! さっき貴方は、『ドラゴン』の視線から、一年前に『上条当麻』に殴り倒された時のことを思い出した!その『恐怖』があまりにも強烈で具体的だったから、大気の圧力で、その時の同等の威力を持つ衝撃波が作り出されて、それが『現実』になっちゃったの!) 「―――――――――――――――――――――――ッ」 軽い脳震盪が起こり、白髪の少年の頭は大きく揺らいでいた。 目元の涙を、赤く染まった袖で拭った。鼻血と服に付いた乾いた血も相まって、生臭い鉄の匂いが酷く鼻につく。 しかし、体がフラつく状態であっても。獣のような眼光は『魔神』を捉えて離さなかった。 『魔神』の異変に気づく。 黒髪の少年の周囲だけが、蜃気楼のように揺れていた。 フワリと、クレーターのように陥没した地面から体を浮かせた。 目線が白髪の少年と同じ高さになると、その浮上が止まる。 『魔神』と『魔王』の視線は再び交差した。 黒髪の少年は、白髪の少年を見つめ、言葉を紡いだ。 「所詮は人が作り出した、『余』の紛い物か」 「…なンだと!?」 白髪の少年は言葉を張り上げた。言葉の意味を理解できなかった。 (―――――――――――――――、っ!!) 『打ち止め(ラストオーダー)』は絶句した。 (え、ウソ!?『ドラゴン』の『神の物質(ヴァルハラ)』とのシンクロ率が三〇%を超えてる!? 『マザー』によるアプリケーションで『感情』と『魂』の範囲固定化を組み込んで、私たちの魂を合わせても二・〇%が限度なのに! やばい!やばいよ!!早くここから逃げて!!) 少年の脳裏に、昨日、少女が言った言葉が頭をよぎった。 ≪能力なんて貴方が一〇〇人いようが勝てっこないしー。天然の『神上』だもんねーって、ミサカはミサカは反則すぎる彼の設定に世界の不条理を訴えてみたりー≫ その現実が、目の前に立ちはだかっていた。 少年は奥歯をギュッと噛みしめた。 (『恐怖』や『絶望』を感じるな!俺は。俺はッ!!) 「俺は、『絶対能力者(レベル6)』!『神の力』を持つ絶対者なンだよォ!!」 これは『魔神』に言った言葉では無い。自分自身に言い聞かせた『魔王』の『願望(ルール)』。 だが、彼は知っている。 『圧倒的』な力は、『絶対的』な力には敵わないことを。 だからこそ、『魔神』に紡がれた言葉は、心に強く響いた。 「だから貴様は、『神の如き者(ミカエル)』なのだろう?」 『魔神』の表情からは笑顔が消えた。 『魔神』は、まるで『魔王』が視界に入っていないかのように、独白する。 「『竜』とは古来から『破滅』を象徴する生き物だ」 両腕を大きく広げた。彼の周囲の大気の歪みは、さらに増す。 「『無』から『有』を作り出すのが『神』というのなら」 蜃気楼のような空間の歪みは『魔神』の左右に大きく広がっていく。 「余は『有』を『無』に帰す『神(バケモノ)』だ」 白髪の少年の背後から噴射している黒い翼は、その歪みに打ち震えた。 『魔神』は、告げる。 「神を殺す『神』――――――――――――――これこそが『ドラゴン』たる存在の本義」 『魔神』の左右に広がる、蜃気楼のような空間の歪み。 『魔王』の役目は終わった。 「退場しろ。『魔王』。これが余の―――――――――――――――――――――――――」 四〇〇〇メートルを超す滑走路を覆い尽くすほどの巨大な大気の揺らぎは、『あるもの』を形作る。 「――――――――――――――――――――『竜王の翼(ドラゴンウイング)』だ」 透明な一対の『翼』が、全てを薙ぎ払う。 激しい光が周辺一帯を包みこんだ。 この瞬間、第二三学区が『消滅』した。
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468 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 22 33.82 ID mxtGUJ670 タイトル「トラッシュキャッチャー」 みなさん、こんにちわ。 アライさんトラップ研究所、通称、ATLです。 今回はアライちゃんに限定した捕獲トラップを開発したので、そちらを見て頂こうと思います。 469 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 23 15.14 ID mxtGUJ670 開発の経緯としては、親のアライさんが何かしらの原因によって巣に帰ってこなくなってしまった時、取り残されたアライちゃんをどのように確保するか、という問題がありました。 アライちゃんは動きが鈍いですが体が小さいため、人間では届かないようなところに入り込んでしまうことがあります。 また、アライちゃんは成長期であるため、食欲旺盛です。 そのため、早急に対策を取らないと糞害などの異臭被害も考えられるのです。 以上のことは別にアライちゃんに限った話ではありませんが、手軽な捕獲トラップを作る、という目的をもって開発しました。 前置きはこれぐらいにして、実際のトラップを見て頂きましょう。 470 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 23 51.84 ID mxtGUJ670 全体図としてはこのようなものです。 https //i.imgur.com/0y5vRYW.png 本体は左手の二段重ねの装置になります。 右手の坂はオプションパーツです。 まず、アライちゃんは坂を上って装置のステージに辿り着きます。 アライちゃんが登りやすいように、坂には凹凸を作っています。 ステージに辿り着くと、匂いに引き寄せられたアライちゃんは上部の部屋に入ります。 誘導には「アライフレグランス+」を使用します。 これが今回のトラップの概要です。 ...これで終わりか、って? いえ、終わりではありませんよ。 装置の下部の鍵付きの扉が気になりませんか? では、部屋に入った後のことについてお話ししましょう。 471 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 26 09.58 ID mxtGUJ670 装置の中身は透過するとこのような感じになります。 https //i.imgur.com/earHSkL.png 紫になっている床は説明のために塗っているだけで、実際は他の床と同じ色になっており、簡単に区別がつかないようになっています。 また、上部の部屋の一部は、「アライフレグランス+」発生装置、及び、エサの排出装置になります。 そう、上部の部屋の右側ですね。 では、捕獲のメカニズムを説明しましょう。 まず、少量のエサを排出し、「アライフレグランス+」で誘き寄せます。 そして、アライちゃんが部屋の中に入り、エサを食べているときに床が開きます。 それが、紫で示した場所です。 センサーには重力センサーを採用し、一定時間重みが加わると開く仕組みになっています。 では、下部の装置はどうなっているのでしょうか? それは、冷蔵庫になっています。 センサーに引っ掛かったアライちゃんは冷蔵庫に落とされます。 灰色に見えるのは金網で、その下は猫砂を敷いておきます。 アライちゃんが出した糞尿は金網をすり抜けて、猫砂にたまります。 猫砂は匂い問題を解決してくれます。 何より、匂いは空気より重いため、上から下に流れる傾向があることから上部の部屋に匂いが漏れることはありません。 また、アライさんは一般的に低温では半冬眠状態になりやすく、無駄なカロリーを消費しまいと静かになります。 これは多くの観察記録で確認されています。 つまり、匂いも音も両方解決してくれる夢のトラップなのです! 472 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 26 43.89 ID mxtGUJ670 ちなみに、冷蔵庫の電源は野外コンセントを利用します。 https //i.imgur.com/bhhuOYV.jpg また、上部の部屋に誘導するために坂を用意しましたが、棒を用意して登り棒の要領でアライちゃんを登らせる方法もアリだと思います。 その方が野生に近いかもしれません。 さて、説明が長くなってしまいましたが、実際のトラップのデモを見て頂きましょう。 473 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 28 12.33 ID mxtGUJ670 今回はとある街の路地裏に設置しました。 果たして、どのような映像が撮れるのか、楽しみですね。 アライちゃん1「いもーとたち、しっかりついてくるのりゃ!」ヨチヨチ アライちゃん5「かってにすをはなれちゃったけりょ、りゃいじょうぶなのりゃ?」ヨチヨチ アライちゃん2「かえってこないおかーしゃんがわるいのりゃ!」ヨチヨチ アライちゃん3「そうなのりゃ! アライしゃんたちはしまいりゃけれいきていくのりゃ!」ヨチヨチ アライちゃん4「うつくしいきずななのりゃ!」ヨチヨチ アライちゃん6「あたらしいすがみつかるといいのりゃ!」ヨチヨチ 奥の方からアライちゃん姉妹がやってきたようですね。 いい実験材料です。 アライちゃん3「スンスン... むこうからいいにおいがしてるのりゃ。」ヨチヨチ アライちゃん1「スンスン... ほんとなのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん2「いそぐのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん4「おねーちゃん!?」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん5「おいてかないでほしいのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん6「あたらしいすにするのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ どうやら匂いに引き寄せられてアライちゃんたちがトラップに向かっているようですね。 アライちゃん1「あそこにのぼれるところがあるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん2「いってみるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん3「アライしゃんをほめるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん4「おねーちゃん、まってほしいのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん5「はやいのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん6「アライしゃんもおねーちゃんみたい、ぎぃ!?」ヨチヨチヨチヨチ グシャ アライちゃん1「うしろからへんなこえがきこえたのりゃ。」ピタッ クルッ アライちゃん2「いもーと、どうしたのりゃ?」ピタッ クルッ アライちゃん3「アライしゃんはさきにいってるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん4「いもーとのへんなこえがきこえたのりゃ?」ピタッ クルッ アライちゃん5「どうしたのりゃ?」ピタッ クルッ アライちゃん6「いぃぃたいぃぃーーーーー!! ぴぃーーーーー!!」ジタバタ 野良猫「ニャー...」グチャグチャ カメラをズームにしてみましょう。 あぁー...、これはどうやら姉妹の内の一匹が、野良猫に足をやられたみたいですね。 で、野良猫はそのアライちゃんの肉を貪っていますね。 何気に、一匹抜け駆けしているアライちゃんがいたような気がしますが。 アライちゃん1「のりゃ!! に、にげるのりゃ!!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん5「はやく、あたらしいおうちにいくのりゃ!!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん2「いもーとがぬけがけしてるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん6「おねーちゃーーーーーん!! たすけてーーーーー!!」ジタバタ アライちゃん4「しまいのために、ぎせいになるのりゃ!!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん1「いもーとのことはわすれないのりゃ!!」ヨチヨチヨチヨチ アライちゃん6「おねーちゃんのばかーーーーー!! ぎにゃーーーーー!!」ジタバタ 野良猫「ニャー...」グチャグチャ 果たして、「美しい絆」とは何だったのでしょうか。 こちらは置いておいて、抜け駆けしたアライちゃんの様子を見てみましょう。 474 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 28 53.45 ID mxtGUJ670 アライちゃん3「けっこうしんどかったのりゃ...」ヨチヨチハァハァ お、このアライちゃんは難なく坂を上ってきましたね。 アライちゃん3「こっちからいいにおいがするのりゃ。」ヨチヨチハァハァ ステージを歩いて部屋の前まで来ましたね。 アライちゃん3「なかにはいってみるのりゃ。」ヨチヨチハァハァ アライちゃん3「おぉ!! きれいなのりゃ!」ハァハァ キレイといっても、何もないんですけどね。 キョロ キョロ アライちゃん3「あ、たべものがあるのりゃ!」ハァハァヨチヨチ 順調に誘導されていますね。 アライちゃん3「いただくのりゃ!」パクッ さて、落とし穴の上で止まりましたね。 アライちゃん3「おいしいのりゃ! でも、ひとくちしかないからものたりな」 パカッ アライちゃん3「のりゃ!?」ヒュー キィー パタン これで、捕獲完了です。 ポロッ そして、新しいエサの補充です。 どうですか? エサが一口サイズなのは、食べこぼし防止のためです。 食べこぼしから警戒されてしまうかもしれませんからね。 下の冷蔵庫の様子は後でまとめて見ることにしましょう。 まずは、野良猫から逃げ惑う姉妹の続きに戻りましょう。 475 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 30 14.17 ID mxtGUJ670 アライちゃん1「こ、このさかをのぼるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん2「いそぐのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん5「アライしゃん、そろそろつかれたのりゃ。」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん4「あとちょっとなのりゃ! がんばるのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ 姉妹は坂を上り始めたところですね。 アライちゃん6「...」シーン 野良猫「ニャーン。」クシクシ 捕まったアライちゃんは食べられて、野良猫は前足で顔を擦っているようですね。 野良猫「...」ジーッ おや、野良猫が姉妹の方を見ていますね。 ノソ ノソ ノソ ノソ 野良猫がアライちゃんに近づいていますね。 アライちゃん1「い、いもーとのようになりたくないのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん2「あとちょっとなのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん4「これをのぼりきれば、あたらしいおうちなのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん5「アライしゃんはもうあるけ、にゃ!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ グシャ あ、野良猫が新しいアライちゃんを捕らえましたね。 アライちゃん2「なんなのりゃ!」ハァハァ ピタッ ハァハァ クルッ ハァハァ アライちゃん1「い、いもーとのひめいがひこえたのりゃ!」ハァハァ ピタッ ハァハァ クルッ ハァハァ アライちゃん4「のりゃ?」ハァハァ ピタッ ハァハァ クルッ ハァハァ アライちゃん5「のりゃーーーーーん!! いちゃいのりゃーーーーー!!」ジタバタ 野良猫「ニャー!」 476 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 31 02.28 ID mxtGUJ670 アライちゃん1「いもーとたち、さきにいくのりゃ!」ハァハァ アライちゃん2「おねーちゃん!?」ハァハァ アライちゃん4「どうするのりゃ!?」ハァハァ アライちゃん1「さっきはおもわずにげちゃったけど、アライしゃんがいもーとをまもるのりゃ!」ハァハァ 妹のために自分の体を張るとは...、アライさんの行動原理では考えられませんね。 やはり、研究は奥が深いですね。 アライちゃん2「おねーちゃん...」ハァハァ アライちゃん1「はやくするのりゃ!!」ハァハァ アライちゃん2「さきにいってるのりゃ!!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん4「おねーちゃんのことはわすれないのりゃ!!」ヨチヨチヨチヨチハァハァ 勝手に足止め役が死んだ事になっている気がしますが、それは置いておきましょう。 アライちゃん1「おい、おまえ! それはアライしゃんのたいせつないもーとなのりゃ!」ハァハァ アライちゃん5「お、おねーちゃん...」ハァハァ 野良猫「...」ジーッ 野良猫が手を止めて、アライちゃんの方を見ていますね。 襲撃されたアライちゃんは足がズタズタで、歩けそうにありませんね。 アライちゃん1「さっさと、はなすのりゃ!」ハァハァ 野良猫「...」アム アライちゃん5「ぴぃーーーーー!」ジタバタ おや、野良猫がアライちゃんを咥えましたね。 タッ タッ タッ タッ タッ アライちゃん1「い、いもーとーーーーー!!」ハァハァ アライちゃん5「おねーちゃーーーーーん!!」ジタバタ アライちゃんは野良猫と一緒に消えてしまいましたね。 おそらく、巣に持ち帰ってゆっくり食べるのでしょう。 真相は分かりませんがね。 アライちゃん1「い、いもーと...」ペタァ アライちゃん1「うぅ、のりゃーーーーーん!!」ビエーン おやおや、泣き出してしまいましたね。 妹を殺されて悲しいのか、恐怖から解放されて泣いているのか。 興味深いですね。 さて、こちらのアライちゃんが泣き止むまで、先に向かわせた二匹がどうなったか見てみましょう。 477 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 31 46.63 ID mxtGUJ670 アライちゃん2「こ、ここまでくればいいはずなのりゃ。」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん4「あ、あそこからなかにはいれそうなのりゃ。」ヨチヨチヨチヨチハァハァ アライちゃん2「いそぐのりゃ。」ヨチヨチヨチヨチハァハァ 二匹はステージを歩いて、部屋の入り口まで来ましたね。 アライちゃん2「なかはそれなりにひろいのりゃ。」ハァハァ アライちゃん4「あれ? おねーちゃんがいないのりゃ。」ハァハァ 二匹は中に入っていきましたね。 アライちゃん2「ホントのりゃ。 いもーとがいないのりゃ。」ハァハァ アライちゃん4「どこにいっちゃったのりゃ?」ハァハァ キョロ キョロ キョロ キョロ 部屋の中を見回していますが、当然いるはずもありません。 なぜなら、この下にいるのですから。 アライちゃん2「あれ? あそこにごはんがあるのりゃ。」ハァハァヨチヨチ アライちゃん4「のりゃ? ホントなのりゃ。」ハァハァヨチヨチ エサの方に向かいましたね。 アライちゃん2「少ししかないのりゃ。」ハァハァ アライちゃん4「どうするのりゃ?」ハァハァ アライちゃん2「アライしゃんがたべるのりゃ。」ハァハァ アライちゃん4「ズルいのりゃ!」ハァハァ アライちゃん2「おねーちゃんであるアライしゃんにゆずるべきなのりゃ!」ハァハァ アライちゃん4「だったら、かわいいいもーとにゆずるべきなのりゃ!」ハァハァ あぁ、喧嘩を始めてしまいましたね。 アライちゃん2「かわいげのないいもーとなのりゃ!」ハァハァ アライちゃん4「こころのせまいおねーしゃんなのりゃ!」ハァハァ アライちゃん2「のりゃ!」フシャー アライちゃん4「のりゃ!」フシャー パカッ アライちゃん2「のりゃ!?」ヒュー アライちゃん4「のりゃ!?」ヒュー キィー パタン 姉妹揃って捕獲完了ですね。 ポロッ さて、最後の一匹の動向を見てみましょうか。 478 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 32 36.75 ID mxtGUJ670 アライちゃん1「うぅ...、いもーと...」グシュグシュ 鼻声になりながら、すすり泣いていましたね。 アライちゃん1「いもーとのぶんまでせいいっぱいいきるのりゃ。」 ようやく、歩き出しましたね。 アライちゃん1「いいにおいはこっちからするのりゃ。」ヨチヨチ 追われるものが無くなったためか、歩みがゆっくりですね。 さて、ステージまで来ましたよ。 アライちゃん1「あそこからはいれそうなのりゃ。」ヨチヨチ さて、入り口に来ましたが、どんな反応をするのでしょうか? アライちゃん1「うゆ? いもーとたちがいないのりゃ。」キョトン 中に入ってきましたね。 アライちゃん1「おーい、いもーとたちー! ...へんじがないのりゃ。」 中を見回してますね。 アライちゃん1「おかしいのりゃ。 においをおってここまできたから、ここにいるはずなのりゃ。」 キョロ キョロ アライちゃん1「ん? あれはなんなのりゃ?」 アライちゃんがエサの方に向かってきてますね。 アライちゃん1「スンスン... とりあえずたべれそうのりゃ。」パクッ 他の姉妹とは違い、警戒しながら食べましたね。 キョロ キョロ アライちゃん1「さて、いもーとをさがさな」 パカッ アライちゃん1「のりゃ!?」ヒュー キィー パタン これで、このアライちゃんも捕獲完了です。 ポロッ エサの補充を忘れなく、ね。 さて、ここまでとある姉妹の捕獲までの過程を見て頂きました。 次は、下部の冷蔵庫の様子を見て頂きましょう。 479 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 34 31.89 ID mxtGUJ670 冷蔵庫内は撮影のためにごくわずかな明かりを灯しています。 まずは、始めのアライちゃんが落ちてくるところから見て頂きましょう。 パカッ アライちゃん3「のりゃ!?」ヒュー キィー パタン アライちゃん3「のりゃ!?」ギシッ 金網は、アライちゃんが落下してきても壊れないように設計されています。 ご安心を。 アライちゃん3「うぅー。 しゃ、しゃむいのりゃ...」ブルブル 流石のアライちゃんも寒さで震えていますね。 アライちゃん3「あんまりうこきたくないのりゃ...」コスリコスリブルブル アライさんが良く見せる、空中手擦りをしていますね。 アライちゃん3「このままりゃと、ねちゃうのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん3「おかーしゃん... しゃむいのりゃ...」コスリコスリブルブル パカッ アライちゃん2「のりゃ!?」ヒュー アライちゃん4「のりゃ!?」ヒュー キィー パタン おっと、他の姉妹も落ちてきましたね。 エサは、金網をすり抜けて下に落ちたようですね。 アライちゃん2「さむいのりゃ!」ブルブル アライちゃん4「どこなのりゃ!」ブルブル アライちゃん3「しずかにするのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん2「いもーと!」ブルブル アライちゃん4「おねーしゃん!」ブルブル アライちゃん3「ここはさむいのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん2「た、たしかに、おおきなこえをりゃしてるばあいじゃないのりゃ...」ブルブル アライちゃん4「とりあえず、かたまるのりゃ...」ブルブル お、三匹のアライちゃんが固まりましたね。 アライちゃん3「しゃむいのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん2「からだをうごかさないとあったかくならないのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん4「でも、ここはさむいのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん3「うごきたくないのりゃ...」コスリコスリブルブル さて、このアライちゃんダンゴがどこまで大きくなるのでしょうか? 少なくとも、あと一匹は落ちてくるのは確定してますよね。 480 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 35 40.65 ID mxtGUJ670 パカッ アライちゃん1「のりゃ!?」ヒュー キィー パタン アライちゃん1「さ、さむいのりゃ...」ブルブル アライちゃん2「おねーしゃんなのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん3「おねーしゃんもおちてきたのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん4「いきていたのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん1「ア、アライしゃんもそこにいれてほしいのりゃ...」ブルブル さて、これでアライちゃんダンゴは四匹ですね。 アライちゃん1「いもーとたち、こんなところにいたのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん2「おねーしゃんもぶじでよかったのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん3「のりゃ? ほかのいもーとはどうしたのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん4「のらねこにたべられたのりゃ...」コスリコスリブルブル さて、この後沈黙が続くんですよね。 寒い中、思考が停止していますからね。 アライちゃん3「ん、んーーー...」ブリュブリュブリュ アライちゃん1「いもーと、こんなところでうんちしちゃダメのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん2「へやのすみでしてくるのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん4「きたないのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん3「うごきたくなかったのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃんが大を催したようですね。 食事中にこの動画を見ていた方は、大変申し訳ございませんでした。 アライちゃん3「うゆ? うんち、のこってないのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん1「ホントなのりゃ...」コスリコスリブルブル アライちゃん2「このすきまからおちたのりゃ?」コスリコスリブルブル アライちゃん4「それならそれでいいのりゃ...」コスリコスリブルブル そして、沈黙。 無駄なカロリーを消費しないためとはいえ、これは面白いですね。 寒さを凌げそうな場所があれば、多少は動き回るのでしょうけどね。 481 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 38 09.49 ID mxtGUJ670 如何だったでしょうか? この後、二組のアライちゃん姉妹がやってきて...、九匹ですかね? 追加で捕獲できました。 このトラップは、「アライフレグランス+」発生装置、及び、エサの排出装置、猫砂の交換など、一ヵ月に一回は補充、交換が必要です。 また、冷蔵庫の扉を鍵付きにしているのは、アライさんが開けられないようにするためです。 アライちゃんは扉を開ければ捕獲できますし、しばらくなら静かなため、持ち運びも問題ないでしょう。 まだ改良の余地がありそうですが、データを収集してうまくフィードバックできたら、と考えています。 それでは、今回はこれで失礼します。 482 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/23(土) 20 40 03.46 ID mxtGUJ670 SS速報Rの「アライちゃんのいる日常4」に出てきた『ゴミパンドラの箱』をATL風に書きました。 作者から使用許可は頂いています。 484 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 20 55 06.33 ID SAKNlR8To 乙乙ー 身を寄せあって寒さに耐えてるの好き 485 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 21 50 28.41 ID ojd/mm6i0 乙でした 落ちたアライちゃん同士が頭ぶつけて脳震盪起こしたり、金網がめり込んで無様な顔になる様子が目に浮かびますねぇ 餌はヨチヨチでは届かない高さに吊るせば、重力センサーの上に留まる可能性が上がって補充の頻度も落とせるかと それに互いに踏み台にしようとする姉妹の醜い争いも見れそう 486 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 23 45 09.27 ID IuxwCCwy0 乙でした 向こうはインターンシップで街に成体が基本的にいない設定ですが もし親もいたらどういう結果になるかが気になりますね 487 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/24(日) 00 05 58.37 ID svh/Hzum0 485 エサのところは、アラ日を読んだ時に自分が書いた内容だと思い込んでました。 後で、作者さんに確認したら 485 と同じ仕組みを言われました。 自分が勘違いした方向で書いたらどうなるか試したかったので、このような形にしました。 488 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/06/24(日) 16 33 12.30 ID hvRhzpTS0 面白かった 490 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 23 06 16.74 ID ucTXUaz30 ふと思った事、元ネタでもなんだけど、これアライちゃんだけじゃなく、 普通に野ネズミとか野良猫とかその他の動物も罠にかかっちゃうよね? 野良ならいいけど、飼い猫とか飼い犬だったら大問題よね。 491 : ◆cOAKBMeRl6 [sage]:2018/06/25(月) 19 41 03.87 ID 6u4nQtON0 490 そうなんですよね。 そこのところも含めて改良版を書いていこうと思います。 492 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/25(月) 19 54 22.79 ID wHTTp0jW0 490 フレグランスもろもろで対策してるだろ ペットなら飼い主がトラップに近付けさせないし 493 : ◆cOAKBMeRl6 [saga]:2018/06/25(月) 20 37 22.43 ID 6u4nQtON0 492 フレグランスはあくまでも匂いだけで、他の動物には有効ではないんですよね。 なので、指摘の通り、飼い猫が入り込む可能性は考えられます。 そう考えると、私の書き上げたトラップは大抵、他の動物もかかる可能性があるものばかりですね。 改良、頑張ります。 494 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/06/25(月) 23 02 44.75 ID PWjlp6xWO アライさんを引き付ける匂いはありますし、 動物が近寄らない匂いとかで遠ざければ、 今までのトラップの改良になるかな? 他にも改良案を考えれば一つお話が書けますね。 改良応援してます、頑張ってください。 495 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 13 44 12.95 ID l8lrsmiKO 音声認識とモーションセンサーで「のりゃ!のりゃ!」ヨチヨチシッポフリフリを検知した時だけが開く…とか 顔認証でアライさんの顔を検知したら開く…とか? 496 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 15 39 18.42 ID LIN6xfbi0 495 サンドスターで検知すればどうだろう? 497 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/26(火) 16 37 19.56 ID ffEc4jpQ0 サンドスターでセンサー作れるならアライさん探知機とかも作れそう 498 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 16 41 56.89 ID e+fLH3nH0 サンドスターに放射線を当てたらどうなるのかとアライちゃんたちに放射線を当てると悪影響があるを見てみたいですね 【アライさんトラップラボ】シリーズ
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僕はあれから必死に特訓を続けた あんなに恐ろしいバトルを目の前で見せられて、今までのようなバトルが通じない それが分かったから……それに僕の肩には皆の命が掛かっている だから僕は負けるわけにはいかないのだ そして僕はついに八つのバッチを集めてポケモンリーグへと挑戦した 修行を積んだ僕のポケモンは四天王を次々と倒しついにチャンピオンのところまで来た この次はゲームではワタルのはずだがいかりのみずうみのイベントのときにワタルが居なかった おそらくあの人はこのゲームの中には存在しないのだろう つまり…………僕の予想ではチャンピオンはあいつだ 出木杉は最後の扉を開けて入る 全体は赤い鉱物で囲まれていて中央に水場があるバトルステージ その奥には赤髪で目つきが鋭い少年が居た 『よぉ 久しぶりだなぁ』 こいつだ……こいつが僕の友人を………… 「お前を倒すまでは死ねないんだよ………ロケット団のボス……シルバー!!!」 ラジオ党にいたロケット団幹部を脅したらボスの名前を吐き出した 『へぇ……そこまで調べたんだ』 「親のすねかじりが偉そうにしないでほしいよ」 『てめぇ……殺す』 「僕もそのつもりだ!!」 双方は懐からボールを取り出しフィールドに投げつけた シルバーは前にも出した青く巨大な龍のポケモン…ギャラドス 出木杉は黄色く小型のポケモンを繰り出した 『サンダースか………』 「スネオ君のイーブイを僕が育てて進化させたんだ」 タイプ的には僕の方が有利だ……… しかし相手はあのシルバーだ……油断した瞬間負けが決まる…… 「サンダース10万ボルトだ!!」 『ギャラドス…ハイドロポンプ」 サンダースの全身から電気が放出されギャラドスの口からは大量の水が発射された それはぶつかりあったが……電気分解によって酸素と水素に変わっていった 「そんな攻撃じゃ僕のサンダースには適わないぞ!!」 『少しは強くなったようだな………ならギャラドス火炎放射……』 今度はギャラドスの口から炎が放出される 『お前が電気技で来るのは読んでいた…それで電気分解を発生させることによって酸素が増える それを利用し火炎放射をすれば威力はあがるだろ……』 あいつはそこまで考えていたのか 「サンダース高速移動で回避しろ!!」 サンダースは目にも止まらぬ速さで火炎放射を回避した 『それなら動きを止めるだけだ……地震だ…」 ギャラドスは地震を発生させた 地震の振動と発生した水の衝撃波によってサンダースはその場から動けなくなってしまった 『再び火炎放射だ』 ギャラドスは再び炎を放出する それをサンダースは避ける術は無く直撃した 「サンダース!!」 サンダースの体力は今の一撃によってかなりのダメージを受けたが ぎりぎり瀕死には至らなかった 『今楽にしてやるよ………破壊光線だ!!』 シルバーは残酷にもほとんど体力の無いサンダースに最強の攻撃を繰り出す 「サンダース……電磁波だ!!」 しかし遠い位置にいたサンダースの電磁波はギャラドスには届かず破壊光線が命中してしまった 「戻れ……サンダース」 出木杉は手元にあるボールにサンダースを戻す 『次の獲物はどぅしたよぉ さっさと出せよ』 「僕が次に出すのは獲物では無い…… 狩人だ!!」 出木杉は次にオーダイルを繰り出した 「これは剛司君のポケモン!! オーダイル水中に飛び込め」 『ギャラドス……返り討ちにしてやれ』 しかしギャラドスはそのまま動かず オーダイルは水中に飛び込んだ 『な……何をやっているんだ!!』 「君は二つのミスを犯した 一つはサンダースに破壊光線を使ったこと この技の反動によってギャラドスは疲労していた 二つ目はさっきの地震だ あれによって溢れた水は電磁波をよく通してくれたよ」 ギャラドスはさっきの電磁波によって麻痺していた 「オーダイル!!噛み砕くだ」 オーダイルは水中でギャラドスの尾に噛み付いた 『ギャラドスとっとと反撃しろ!!』 「水中にいる敵には麻痺したギャラドスに攻撃できる手段はない…… それに噛み付いてるオーダイルを攻撃したら自分もただでは済まないはずだ」 ギャラドスは尾を必死に振っているが強力な顎をもつオーダイルが離れることは無い 『それでもかまわん!!ギャラドス破壊光線』 ギャラドスは少し躊躇していたが、仕方なく口内に黄色い光を蓄える 「いまだ!!冷凍パンチ」 オーダイルはギャラドスから離れて水中から飛び出しギャラドスの顎に冷凍パンチを繰り出した ギャラドスは大きく仰け反り戦闘不能となった 『前とは随分違うようだな……しかし次はこうは行かない!!』 シルバーはモンスターボールを投げる 中からはニヤリと笑みを浮かべたゲンガーが出てきた 『シャドーボールだ!!』 ゲンガーは黒い球体を作りオーダイルに投げつけた 「再び水中に潜り込め!!」 オーダイルは再び水中に潜り込んだ 『二度も同じ戦法が通じるか!! 10万ボルトだ』 ゲンガーは電撃を水中に流し込んだ 「オーダイル!!!!」 オーダイルは感電しながらもなんとか水中に出てこれた しかし弱点の電気攻撃を水中で食らったことにより満タンだった体力はほとんど残っていない 『クク………これで終わりだぜ シャドーボール!』 弱点の攻撃を食らってからまもないオーダイルがシャドーボールを回避することは不可能だった 「戻れ オーダイル」 出木杉はオーダイルを手持ちに戻し次のポケモンを繰り出した 投げたボールからは両手にスプーンを持ち髭を生やした黄色いポケモン……フーディンが出てきた 『へぇ……あのときのユンゲラーか………』 「あの時とはレベルが違うから覚悟しとくんだね」 『フン………シャドーボールだ!!』 ゲンガーはシャドーボールをフーディンに投げつける 「リフレクター!!」 フーディンは自分の目の前に透明の壁を作り出す その壁は黒い球体をフーディンから遮断した 『防御技か………しかしこれは防げない…10万ボルトだ!!』 「こっちにも同じ戦法は通用しない! 雷パンチだ」 フーディンは右手に電力を溜め込む それはゲンガーが放出した10万ボルトの電力も蓄積する 「GO フーディン!!!!」 フーディンは一瞬でゲンガーの目前に現れ電気を纏った拳で一撃を食らわした ゲンガーは後方に吹っ飛び壁に激突した 既にゲンガーは瀕死していてゲンガーの周りに電磁波が発生していた 『い………一撃だとっ!!』 「お前のゲンガーの10万ボルトが強力だったから倒せたんだよ」 『くそ……戻れ!!今度はこいつだ!!』 シルバーの投げたボールからはあの時の巨大なサイドンが出てくる 「あの時の復讐をしてやる………」 「サイケ光線だ!!」 フーディンは所持していたスプーンを交差させその中心から七色の光線が飛び出す 『地震だ!!』 地震の振動によって体制を崩したフーディンはサイケ光線は地面に命中し 振動によって発生した衝撃波はフーディンに襲い掛かる 「リ………リフレクターだ!!」 しかし体制を崩したフーディンはリフレクターを十分に作ることはできず 衝撃波はフーディンを襲った 「フーディン!!」 一応リフレクターは作れていたので直撃は免れたものの 衝撃波は完全に防げずフーディンの体力をごっそりと持っていった 『はっ…この程度か……サイドン突っ込め」 サイドンは大きな足音をたてながらフーディンを追い詰めていく 『岩雪崩……』 サイドンはフーディンの真上の壁をドリルで破壊した 破壊された壁の残骸がフーディンに落下していく 「フーディンサイコキネシスだ!!」 落下していた岩は重力を無視しその場に浮き始める それはやがてサイドンを襲い始めた その岩はサイドンを襲ったが一部はドリルによって砕かれ 直撃した岩もたいしたダメージは与えることはできなかった 『サイドンの防御力に岩ごときがダメージを与えられるとでも思うか?』 「そんなの分かりきったことだ………僅かな時間を稼ぐのが僕の目的だから威力は関係ない」 フーディンの傷は既に癒えていた 『自己…………再生か』 「例え僅かでもダメージを与えているこっちの方が有利だぞ」 『サイドンの耐久力を軽く見ると痛い目みるぜ……』 「サイドンは厄介なポケモンだがどんなポケモンにも弱点はあるんだよ…サイケ光線で足元を狙え!!」 サイケ光線はサイドンの足元を正確に狙っていく それによってサイドンはバランスを崩し地面に跪こうとしている 「いまだ!!サイコキネシス」 サイドンが地面に跪こうとしたその瞬間サイドンは赤黒い光に包まれ宙に浮かび上がった 「そのまま中央の水場へ投げ飛ばすんだ!!」 叫んだ瞬間は既にサイドンは水場に沈んでいた 「サイドンは水を大の苦手としてる………それなのに中央に大きな水場があるのは痛手だったな」 『だいぶ腕が立つようだ………ただその程度ではサイドンは倒れることは無い』 その瞬間水場からサイドンは飛び出しフーディンに向かって突撃した 「今すぐリフレクターをはれ!!」 フーディンの前には透明な壁が作られたがサイドンはそれを簡単に砕きフーディンへと直接攻撃した そしてその場にフーディンは倒れこんだ しかしサイドンもフーディンの隣で倒れこんでいる 両方とも戦闘不能になった 348 名前:赤髪 ◆zEGjIzNk6I [sage] 投稿日:2006/12/18(月) 16 57 18 ID ??? 『リフレクターのせいでサイドンまでダメージを受けたか……』 お互いに次のポケモンを繰り出した 出木杉は背中に炎をかかげたポケモン、バクフーン シルバーは巨大な犬のようなポケモン、ウインディを繰り出した 『お互いに炎タイプか……ならばこの技はバトルをより熱く盛り上げてくれる…日本晴れだ!!』 ウインディが遠吠えをあげると共に室内だというのに太陽光が降り注いだ そしてステージには熱気がこもりはじめた 「炎タイプのポケモンに相応しいステージだ…バクフーン火炎放射だ!」 バクフーンは口内に炎を収束し一気に放った それと同時にウインディも炎を放った 二つの炎はステージの中心でぶつかり合いやがて爆発を起こした 爆発による煙でステージは暗闇へと変化した 『ウインディ神速だ!!』 突然の攻撃命令に出木杉は翻弄されてしまった 「バ…バクフーン雷パンチだ!!」 しかし出木杉の攻撃命令の瞬間には既にバクフーンはウインディの神速によって 傷を負っていた 「怯むなバクフーン!!スピードスターで対抗するんだ」 煙の中を無数の輝く星が舞いやがて何かに命中した 「そこだバクフーン!!火炎放射」 強力な炎は煙を切裂きながら進んでいく しかしその炎は何にも当たることは無くやがて壁に防がれた 「ばかな!!スピードスターは必ず命中する技のはずだ!!」 煙が引くとそこには傷ついたバクフーンと大量のウインディがいた 「影分身だと!!」 『いくらスピードスターでも影分身による分身に一度命中すれば消滅するよな』 「くそっ 立てバクフーン!!」 バクフーンはまだ致命傷は受けておらずまだ戦える状態であった 「電光石火と火炎車の組み合わせで一体ずつ潰していけぇ」 バクフーンは炎を身に纏いながら電光石火を始めた どんどんウインディの分身は消えていくが一向に本体に直撃することは無かった 「本体がいないだと…………」 バクフーンは二つの技の併用によって体力を消耗してしまっている 『戦略が甘いんだよ!!いまだウインディ!!』 シルバーが叫んだ瞬間地響きがなりバクフーンは宙に舞い上がっていた そうウインディは影分身をした後に穴を掘るで地中にしばらく潜んでいたのだ 効果ばつぐんの穴を掘るの攻撃はバクフーンに致命傷を与えた 『分身の中に必ず本体がいるって発想が貧しすぎるんだよ とどめをさしてやれ』 ウインディは火炎放射をバクフーンに向けた その時バクフーンは最後の力を発揮して炎タイプ最強の技…大文字を繰り出した 『ばかな!!致命傷を与えたのになぜそんな体力のいる技を』 バクフーンは体力を全て使い切り大文字をしたことで気絶してしまった しかしバクフーンが残りの全エネルギーを注ぎ込んだ技が ほとんどエネルギーを注ぎ込まなかった技に勝てるはずもなくウインディは 自分の火炎放射+大文字を直に受けた それは炎タイプでダメージが半減されるといえど体力の半分は奪い去っていった 出木杉は手元からボールを取り出す 中からは黄緑色の体で首周りに花があるポケモン……メガニウムが出てきた 『炎タイプのウインディに草タイプのメガニウムとはな………俺も舐められたものだ 火炎放射で焼き焦がしてやれ』 ウインディは命令通りに火炎放射を繰り出す 「ソーダービームだ!!」 メガニウムは太陽光を花に蓄積しはじめた 『遅いんだよ!!』 「はっしゃぁ」 ソーラービームは従来の半分のスピードで太陽光の蓄積を完了し 口から眩い一筋の光を発射した その一筋の光は炎を切裂きウインディへと直接攻撃をした ウインディは光のよって後方の壁へ激突した 効果がいまひとつだったこともあり致命傷にはならなかったが 今まで蓄積したダメージの上乗せにより戦闘不能へとのった 『草タイプにやられるなんて………くそっ』 シルバーは予想外の事態に明らかに動揺している ウインディはシルバーの手持ちの中でも上位な方であったからだ 『俺も気を抜けばやられる……今までで最高のバトルだ…行くぞ!!!』 シルバーはボールを地面に投げつけ中からは二本の角を生やし三本の尾を持つケンタロスが出てきた 『メガニウムを蹴散らせ』 ケンタロスは大きく足踏みをし振動が発生し衝撃波がメガニウムを襲う 今までなんども見た地震攻撃だ その衝撃波はメガニウムを容赦なく襲った 『くははははははははは』 シルバーは高笑いをする そのとき衝撃波は一筋の光が貫いた 衝撃波は一瞬にして消滅しその光はステージの上の壁を破壊した 破壊した壁の残骸がケンタロスに襲い掛かる 『全て破壊しろ』 ケンタロスは二本の角を使い次々と落ちてくる岩を破壊していく しかしその行動は確実にケンタロスの体力を奪い去っていく 「攻撃は岩だけじゃないっ ギガドレインだ」 メガニウムはケンタロスに緑色の光を当てる その光はケンタロスの体力をメガニウムへと運ぶ架け橋になった 体力の低下でケンタロスは全体的に能力ダウンし岩はケンタロスに激突した 『ケ……ケンタロス!!』 ケンタロスは大ダメージは負ったがまだ戦えるようだ 『接近戦に持ち込め ケンタロス突進だ』 ケンタロスは豪快な足音をたててメガニウムへ突進する 重量級ポケモンのメガニウムは回避することは不可能である 「受け止めんだ」 メガニウムはわずかに後退し全体重を体の前にかけた メガニウムとケンタロスは衝突した ややケンタロスの方が押している やはり助走をつけて突っ込んだだけのことはある 『どうした?お前のメガニウムは遠距離でビーム使わなきゃかてないのか?』 シルバーは見抜いてしまった メガニウムの技はほとんど遠距離ではないと使用できないことに 「そう来ると思っていた………のしかかりだ」 メガニウムは宙へと飛び上がりケンタロスは勢い余ってよろける そこへメガニウムはのしかかった 「君はさっきから僕がビーム系の技しか使わないから接近戦に持ち込めば勝てると思う しかし僕はそんなに甘くは無い」 ケンタロスは気絶してしまった 『ここまで追い詰められたのはいついらいだろうな………しかしこいつは俺の最強のしもべだ お前の残り二体を打ち砕いて俺を勝利へと導く』 最後のボールを天へ投げた その中からは巨大で重量感のある体…大きな翼をかかげて頭には二本の触覚があった 『カイリュー……お前をバトルに出したのはいついらいだろう? ………そんなことはどうだっていい……このバトル絶対勝つ』 シルバーは完全に冷静さを取り戻していた 先ほどの対メガニウム戦での敗北で自分がどういう状況に置かれているかが理解できたからである 『いけぇカイリュー!!高速移動から火炎放射だ』 カイリューは一瞬でメガニウムの元へとたどりつき口内に収束した炎を解き放った その炎は先ほどのウインディとは桁違いの火力でメガニウムを燃やし尽くした 出木杉は指示する間も無くメガニウムを戦闘不能にしてしまった 「ば………か………な」 メガニウムは出木杉の手持ちの中で二番目の能力だった それをカイリューは一瞬にして戦闘不能にしてしまったのだ 「こっちもラストバトルだ………いけぇ」 投げたボールからは巨大で重量感のある体…大きな翼をかかげて頭には二本の触覚のあるポケモンが出現した 出木杉の投げたボールからはなんとシルバーと同じポケモン…カイリューが出てきた 「ドラン(カイリューの名前)…………向こうのカイリューは今まで戦った敵の中で最強だ 一回のミスが敗北に繋がる可能性がある」 『最後にそっちもカイリューとはな……今までで最強の敵で最高のバトルだ』 お互いはどちらも落ち着いているがその瞳は勝利への執念で黒く輝いている 「『龍の息吹!!』」 お互いのカイリューは全く同じタイミングで緑色の息を相手に向けて発射した その息吹はぶつかり合い消滅したが、やや出木杉の方が押していた 「こっちのほうが力は上のようだね」 『力だけで勝てると思うな カイリュー龍の怒りを連続発射しろ』 カイリューは口内に青い炎を収束し解き放った 「地震で全て葬り去れドラン!!」 地面を振動させ衝撃波を複数発生させる これは龍の怒りよりは大きく龍の怒りは全て衝撃波に飲み込まれた さらに残った衝撃波はシルバーのカイリューへと襲い掛かった 『竜巻だ』 カイリューは羽を一振りさせ竜巻を発生させた その竜巻はなんなく衝撃波を消し去りドランのほうへと進んでいく 「電磁砲だドラン!!」 ドランは口内に電気を蓄積し発射した 竜巻に電磁砲は直撃し竜巻はしだいに収まっていった その瞬間ドランは右方に吹っ飛んでいった カイリューがドランに爆裂パンチを命中させたのだ シルバーは竜巻でドランの目晦ましをさせてその後に死角から爆裂パンチを打ち込んだのだ 爆裂パンチはタイプの関係で威力が半減していたが ドランは脳震盪で混乱を起こしてしまった 「ド……ドランしっかりするんだ!」 出木杉の必死の叫びはドランへは届かず暴走を始めた 『主人の命令無しでいつまで俺に歯向かえるか見ものだな……』 カイリューも行動を開始する まずドランは長い尾を硬化させてカイリューへと振り向けた 『受け止めて投げつけろカイリュー』 カイリューはドランに尾を受け止め投げつける準備をした しかしドランはそのまま尾を振り回しカイリューは地面に叩きつけられた ドランは混乱によって野生の本能が発揮された 『火炎放射だカイリュー!』 カイリューは口から炎を吐き出す 今度はドランは電磁砲を発射した 火炎放射は電磁砲にかき消され電磁砲はカイリューに命中した 普段なら麻痺するところだが火炎放射によって威力が落ち麻痺はなんとか避けられた 『カイリュー龍の怒りを乱射して相手の動きを止めろ!』 カイリューは命令どおりに龍の怒りを乱射した しかしその中にドランは突撃して龍の怒りを受けながらもカイリューの元へとたどり着いてしまった そしてドランは右手に冷気を溜め込みカイリューへ攻撃した 弱点の攻撃を受けたカイリューは体力を大きく損傷し 残りは半分くらいとなった しかしドランの方も龍の怒りの乱射を受け体力を半分近く持ってかれてしまった ドランの混乱はここで解けた 「大丈夫かドラン!?」 ドランはまだ十分戦える状態であったが 先ほどの暴走で疲労していた 『やっぱりペース配分を考えずに行動したら疲労で倒れるに決まってるだろ カイリュー……雷だ』 カイリューは触覚から雷を放出する それはドランへと直撃した 命中した後もしばらくドランの周囲には電流が漂っている ドランは麻痺してしまったのだ 『ついに運にも見放されたか……いや?既に混乱になった時点で見放されてたか……クックックッ』 シルバーは既に勝利を確信したのか顔に笑みを浮かべている 「しっかりするんだドラン!」 ドランは出木杉の声を聞き空中へと飛び上がった しかしスピードは最初の半分以下となってしまっている 『カイリュー…あいつを空中から突き落とせ』 カイリューは高速移動でドランの下へと飛来した そして尾でドランを捕らえて地上へと投げつけた ドランは地上で意気消沈している 「しっかりしろドラン!ドラン!」 ドランは返事をしない これ以上ダメージを受ければ命を落とす危険性すらある 『お前ごとそいつも葬ってやる……カイリュー破壊光線だ!』 カイリューは口内に赤黄色の光の収束しそして解き放った ドランの居た周辺には煙が立っている 煙のせいで何も見えないが直撃してたなら既に消滅しているだろう 『俺の勝ちか……所詮あいつもその程度か』 「それはどうかな?」 『!?』 上空から声がする 上方にはなんと先ほど葬り去ったはずである出木杉とドランが居た 『ばかな……あの攻撃を逃れただと…?』 「ドランはフスベの龍使いの一族の長に貰ったものだ…お前ならこの意味が分かるだろ」 『神…速』 「そうだ…この技はどんな技よりも素早く動ける技だ お前もウインディでよく知ってるはずだ」 『しかし…しかしあれだけ体力を失っていれば 普通は動けないはずだ!』 「僕はカイリューに黄金の実を持たせていた これは体力を4分の1程度回復してくれる」 『チッ…だがな…結局は俺の有利には変わりないんだよ!再びこの技で鎮めてくれる カイリュー破壊光線!』 シルバーは攻撃命令をした しかしカイリューは攻撃をしなかった 『どうしたカイリュー!俺の命令が聞けないのか!』 「聞かないんじゃない…聞けないんだ! 破壊光線発射の反動が大きかったようだな」 「そしてこの状況が分かるかい?僕は今君のカイリューの真後ろにいる そして君のカイリューは動くことはできない」 『……………』 「チェックメイトだ ドラン破壊光線!」 ドランは口内に光の粒子を収束し解き放った その光はカイリューに直撃しカイリューは凄まじい音と共に地上へと落下した 落下したカイリューは地上にいたシルバーを下敷きにしていた そして出木杉はシルバーの元へと駆け寄る 「僕の勝ちだ…皆を開放してもらうよ」 『………………』 トレーナーの敗北によりシルバーに乗っていたカイリューは消滅した シルバーは頭から流血していた 『あぁ…約束だったな これがあればこのゲームをコントロールできる』 シルバーは水晶の綺麗なペンダントを渡す 『今まで俺は色々な奴と戦ってきたけど お前とのバトルは今までで最高のバトルだった……』 「僕も君とのバトルはこれまでで最も面白いバトルだったよ」 『俺はな……ロケット団のボスの子供だからって色々な奴に敬遠されたんだ……… それを怨みながら育った……そして俺は3年前にロケット団のボスになった……』 シルバーは足元から消滅しはじめている 『ロケット団のボスなんてつまらないものだった…… なにもかもを数で押しかけて俺より強い奴なんて一人も居なかった…………』 『俺はそんな奴らに失望して旅を始めたんだ………… そうしたらボスも居ないのに……あいつらは勝手に色々な商売を始めて全て失敗した……』 「それは僕が潰して歩いたんだ」 『やはりな……お前ほどの実力があるならできると思った……… ロケット団は潰れて当然の組織だ………』 既に体の半分は消滅した 「僕もそう思うよ」 『……………………俺のこと忘れないでくれるか?』 シルバーは肩まで消え始めている 「忘れたくても忘れられないよ」 『………………ありがとう…………』 シルバーは完全に消滅した 出来杉はシルバーから授かったペンダントに自分の思考を伝える そうしたら出木杉の周りを光が包み込み やがてその光は出木杉と共に消滅した 出来杉たちメンバーは未来の世界から帰還した 出来杉は皆の命の恩人ということになって のびたやその他のメンバーも出来杉には頭が上がらなくなった ゲーム体感マシーンの故障については 検査をしてみたところ何の異常も発見されず プレイしたゲームが古すぎたということで解決された しかし命に関わる大事件であったためにこの体感マシーンの運営は休止になり 再開は未定だそうである これは余談だがこのポケットモンスタークリスタルを持ってきたのは出来杉であり 出来杉がソフトに細工を施してこの事態を起こした可能性も考えられる しかしこれだけの高度な細工を施すのは2000年代には不可能であり とくに指摘されることは無かった 本当に出来杉がその時代の人間であればの話だが……… 出来杉はこの事件によってその後の未来が大きく変化した 将来静香と結婚しドラえもんの道具を使って大企業の社長にまで上っている 結果この事件で一番得したのは出来杉であった 出来杉について未来で調査したところ 正体不明であったらしい ここまでのことは一部の人間は知っているが この後の調査をした人間は全て行方不明になったそうだ 結局出来杉は何者なのかは誰も知らない………
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「彼のこと? ええ、知ってます」 誰に訊ねられた訳でもなく、彼女は口を開く。 それは、ほんの二年前の出来事だった。 「話せば長い、かもしれません」 流れるような綺麗な金髪。年齢相応の、しかしどこか子供っぽさもまだ残る、整った顔立ち。少女といっても差し支えない。 そんな彼女が、二年前に「彼」と遭遇した。 若くして優秀な魔導師だった彼女は、内乱の続くある次元世界に向かうよう指示された。 「内乱がようやく収まる兆しが見えたんです。私は、執務官として現地の難民キャンプ視察に向かう途中でした――」 ゆっくりと、しかし饒舌に彼女は語りだす。 あの日、対峙した敵のことを。 負傷した自分を助けてくれた、敵のことを。 冷徹さとプライドを併せ持った、敵のことを。 ACE COMBAT ZERO 金の閃光、円卓の鬼神 前編 その日、フェイト・T・ハラオウンは第四四管理世界"ホフヌング"の空に飛び込んでいた。 搭乗するヘリはえらくオンボロで、ときどき機体全体がガタガタ揺れる代物だ。しかし、これでもまだ恵まれている方なのだ。地上からのルート では、質量兵器で武装し、ゲリラ化した難民が襲撃してくることがある。先日は難民キャンプに向かう管理局の救難物資移送部隊が待ち伏せ攻撃 に合い、積荷を根こそぎ奪われてしまった。 無政府状態の続くこの地、しかし管理局は残された難民たちへの援助を怠ることはしなかった。それが、各管理世界の治安を預かる身の責務なの だから。 「申し訳ありませんねぇ、こんなオンボロヘリしかなくて」 髭を生やした中年のヘリのパイロットは、キャビンでシートに座るフェイトに声をかけた。 「いえ……とんでもないです。私の方こそ、お邪魔じゃありませんでした?」 フェイトはシートの後ろに積み上げられている、大量の食料と医薬品にちらっと視線をやった。このヘリは、この世界における管理局の拠点と難 民キャンプを行き来する輸送便なのだ。キャンプまでの定期便は存在せず、また現地の航空管制がお粗末なことから魔導師の飛行は禁止されてい るため、フェイトは無理を言ってこのヘリに乗り込んだ。シートはボルトとナットで固定した後付けで、整備員たちが設置してくれたのだ。 「いやいや、こっちこそとんでもない。こんな美人が乗ってくれるなんて、退屈な輸送任務が楽しい旅行のような気分ですさ」 ところが、パイロットは豪快に笑って思わぬお客さんを歓迎してくれた。 フェイトはそんなパイロットに頬を緩くして、ふと窓から見えるこの世界の様子を伺う。 ジャングルに覆われたこの世界は、辺り一面が緑一色だった――否。ところどころで昇る黒煙、火災と思しき炎。管理局が介入する以前はもっと ひどかったらしいその光景を見て、フェイトの胸がちくりと痛む。 十年続く内戦は、やっと終結しようとしている。それなのに、未だ戦闘行為をやめない者がいるのだ。 手元の鞄に入れてきた資料を見ると、管理局は少なくとも戦闘に介入はしていない。この世界で覇権を争う勢力に対して、停戦と交渉を求めたの だ。「次元航行艦隊を出撃させる」と圧力をかけたと噂されるが、結果として各勢力は停戦に合意。大規模な戦闘行動は一切中止され、管理局仲 介のもと、交渉が進められている。 「それでも命令に従わない連中がいるもんで。こうしてときどき小規模な戦闘が起きてるそうですわ」 現地の事情に詳しいヘリのパイロットは、そう語ってくれた。 どうして、戦闘をやめないのだろう。これ以上戦ったところで、難民が増えるだけだと言うのに。 眼下のジャングルに潜んでいるであろう、ゲリラたちに向けてそんな視線を送ったフェイトはため息を一つ吐き、資料を元の鞄に戻す。 目的地である難民キャンプまであと十分。オンボロとは言え、さすがにヘリの足は速かった――そう、オンボロとは言えヘリは管理局の官給品だ。 パイロットの無茶な操縦にも応えてみせる。例えば、いきなりの急上昇にだって。 「……っ!?」 いきなりどっと上から襲い掛かってくるGに、たまらずフェイトはシートを掴む。ヘリのコクピットでは、パイロットが操縦桿を思い切り引いてい た。 「乱暴な運転ですいませんね。でもご勘弁を! ちょっとシャレになんない事態です!」 パイロットの言葉だったが、それだけでは状況は理解できない。もっと詳しい説明が欲しかったが、パイロットはそれどころではないらしい。こ うしている間にもヘリは右へ左へ旋回し、何かから逃れるように急機動を繰り返す。積荷はワイヤーでしっかり固定されていたが、シートベルト もないフェイトはシートに掴まるのみだった。 その時、ちらっと一瞬だけ窓から見えた。青空を駆け抜ける赤いジェットの炎、耳障りな轟音。資料でしか見たことがないが、あれはまさしく―― 「せ、戦闘機!?」 ヘリに群がるのは、紛れもなく戦闘機だった。九七管理外世界にて、空を飛ぶことを許されない人が作り上げた、鋼鉄の翼。ヘリのすぐ側を弾丸 が駆け抜けていく辺り、彼らの敵意はすでに剥き出しだった。 ゲリラのものだろうか。しかし、たかだかゲリラが何故戦闘機を。 疑問が脳裏を駆け巡る一方で、ヘリは巧みな回避機動で戦闘機からの攻撃を逃れようとしていた。 「こなくそ」 操縦経験の長いパイロットは、オンボロの愛機に鞭を打つ。エンジンが高鳴り、機体はぎしぎしと軋みを上げながらも速度を上げていく。 戦闘機の数は四機。鼠を追いかける猫の如く群がってくるが、パイロットの技量が低いのか、放ってくる機関砲弾は大きく逸れていくばかりだ。 業を煮やした編隊長機と思しき機体は、急上昇。ヘリと距離を取って、その機首を向けてきた。 途端にヘリの機内で鳴り響く、ロックオン警報。オンボロとは言え一応官給品、警戒システムは第一線のものを搭載している。 「くそったれ、こんなオンボロにミサイルぶっ放す気か!」 パイロットは口汚く、敵機の行動を罵った。奴が距離を取ったのは、ミサイルを発射するためだった。このヘリは警戒システムはあっても、フレ アのようなミサイルへの妨害手段を搭載していない。何しろオンボロなのだから。 その時、コクピット内にロックオンとはまた別の警報が鳴り響く。アナログ式の計器で確認すると、ロックされているはずのキャビンの扉が、開 いていた。 はっとなって、パイロットは振り返る。シートに座っていたはずのフェイトが、キャビンの扉を開けて身を乗り出していた。 「ちょ――何してるんですかい、危ない!」 「このままじゃ撃墜されます、私があいつらを引きつけるから、今のうちに――」 「馬鹿言っちゃいけねぇ。お嬢さんみたいな美人にそんな危険な役目を……」 パイロットは必死に彼女を止めようとしたが、聞くはずもなかった。 跳躍。フェイトは扉から飛び降り、青空へと駆け出した。 無論そのままでは、彼女は地面に叩きつけられるのを待つばかりだ。重力は、人間が空を自由に舞うことを許してくれない。 だが、それを可能にしてしまうのが、彼女たち魔導師だった。 「バルディッシュ!」 Yes,Sir 手に握るは、彼女の髪のそれと同じ、金色のアクセサリー。そいつはフェイトの呼びかけに答えてみせた。長年の相棒バルディッシュは、ただち に状況を読み取り、動き出す。 瞬間、光がフェイトを包み込んだ。執務官用の黒い制服は溶けて消え、代わりに彼女の身体を覆うのは、魔女の羽衣――黒を貴重にしたバリアジ ャケット。手にしたのは同じく黒い斧状の武器――バルディッシュが変化した姿。 時空管理局本局執務官、フェイト・T・ハラオウンの戦闘態勢、インパルス・フォーム。それが、今の彼女の姿だった。 「どういうつもりか知らないけど――」 飛行魔法を使って、空中で静止。戦闘機も彼女の存在に気付き、ヘリではなくフェイトに狙いを定めていく。 話し合う余地は、ない。 「そっちがやる気なら、こっちだって!」 Sonic Move どっと、得意の高速移動の魔法を駆使し、フェイトは正面から突っ込んでくる戦闘機に対して戦いを挑んだ。 「――戦闘機と戦うのは、初めてでした。でも、負ける気はしなかった」 身振り手振りを加えて、彼女は当時の空中戦の一部始終を話してくれた。 右手が自分、左手を敵機に見立てて空戦機動の再現を図るが、途中で無理だということが分かり、彼女は苦笑い。なまじ機動を覚えているため、正確 に再現しようとすると手が回らなくなる。 「実際、勝てない相手ではなかったです」 そう、彼女は四機もの敵機を相手に、圧勝してみせた――。 敵の編隊の懐に飛び込んだフェイトは、バルディッシュを構え、得意の高速機動で敵機に迫る。 彼女は知る由もないが、敵機の名はF-5Eタイガーと言う。安価で整備性が高く、そして俊敏な運動性能を誇る、金の無いゲリラには打ってつけの軽戦闘機。 もちろん、フェイトにとっては敵機の種類などどうでもいいことだ。降りかかる火の粉は、払うまで。 「っと……」 ソニックムーブ。真正面から機関砲を撃ちかけてきたF-5Eを、高速水平移動でやり過ごす。 赤い曳光弾がかすめ飛び、続いて敵機とすれ違う。その瞬間を待っていたかのように、フェイトはもう一度、ソニックムーブを発動。端から見れば、金色の 閃光がF-5Eに飛び掛ったかのように見えただろう。 敵機との距離を一気に縮めたフェイト、彼女の視界に映るのはコクピットで身をよじり、驚いた様子でこちらを見上げるパイロットの姿。追いつかれるとは 思ってもみなかったらしい。その油断が、命取りとなる。 Haken Slash バルディッシュから電撃を纏った金色の刃が現れ、それをフェイトは振り下ろす。パイロットを殺す訳にはいかない。狙いはF-5Eの機首、機関砲とレーダー が搭載されている部分。 「はぁっ!」 魔力で形成された刃が、ジェラルミンの肌に食い込む。思いのほか、F-5Eの機首は簡単に切断できた。 スパッと綺麗に"鼻"を切られる形となったF-5E、パイロットは悲鳴を上げ、思わず射出レバーを引いた。途端に吹き飛ぶキャノピー、そして打ち出される 射出座席。搭乗員を失ったF-5Eはそうでなくても、照準に必要なレーダーと主武装たる機関砲を失ったことで戦闘能力を損失していた。 「残り三機――」 無人状態になってどこかに飛んでいくF-5Eを尻目に、彼女は振り向き、残りの敵機に備える。 本来なら連携攻撃でも仕掛けてくるのだろうが、彼らの技量はあまり高くないらしい。三機がそれぞれバラバラのタイミング、バラバラの方位から接近、フェ イトを狙う。 敵機は後ろ、右、正面から接近してくる――それなら。 正面の敵機に対して、フェイトは周囲に魔力弾を浮かび上がらせ、叩き込む。フォトンランサー、誘導機能のない単純な魔力弾だが、牽制なら充分。 距離を詰めてから撃つつもりだったのか、正面から接近してきたF-5Eは自分が発砲する前に撃たれたことで、左に急旋回して回避。 こっちも、とフェイトは同様にフォトンランサーを、側面から接近中のF-5Eに撃ち込む。照準も何も無い適当な射撃だったが、やはりF-5Eは恐れをなして回避 機動。残すは後方の敵機のみ。 Warning! Check 6,Sir! 大丈夫、分かってるよ――後方から接近するF-5Eに気付き、バルディッシュが警告を送ってくるが、彼女はそれを見越していた。 正面、側面から接近してくる敵機はまだ旋回中。今なら後ろの敵機に専念出来る。そう考えて、フェイトは急降下。直後、自分がそれまでいた空間を引き裂く のは、赤い曳光弾。あのままいたら、蜂の巣だっただろう。 少しばかり背筋に冷たいものを感じながら、フェイトは待つ。ほんの数瞬した後、上空を駆け抜けるのはジェットの轟音。 今だ、と今度は急上昇し、フェイトはF-5Eの後ろを奪った。F-5Eのパイロットは後方の魔女の存在に気付き、ラダーペダルを蹴って機首を左へと逸らす。 Plasma Lancer 「ファイアッ」 しかし、多少進路を逸らしたところで逃げられるはずが無い。状況を読んだバルディッシュが、詠唱を代行し、すでに誘導機能を持つ魔力弾、プラズマランサー を用意していた。フェイトは射撃命令を下すだけだ。 放たれた複数の金色の弾丸、その行く先をフェイトはコントロールする。コクピットは論外だ、主翼、尾翼と言った失えばあっという間に錐もみ状態になる部分 も駄目。ならば残すは――乏しい航空機の知識を絞り、フェイトが最善だと考えた部分は、F-5Eのエンジンノズルだった。 F-5Eのパイロットは魔力弾が自分を追いかけてくることに驚き、慌てて操縦桿を捻って左へと急旋回を図るが、遅い。プラズマランサーは確実に、F-5Eのエンジン ノズルを貫いていた。 即座に墜落には至らなかったものの、ノズルを貫かれてエンジン出力が低下したF-5Eに、戦闘を続行する力は残っていなかった。キャノピーが吹き飛び、次に飛び 出すのはやはり射出座席。心臓たるエンジンに傷を負ったF-5Eは、そのままゆっくり機首を下げて眼下のジャングルへ吸い込まれていった。 「……っまだやるの!?」 彼女としては、こちらの実力を見せ付ければ相手は引くだろうと考えていた。 だが、残り二機のF-5Eは引くどころか、敵意を剥き出しにした高速機動でフェイトに迫る。 ヘリの方は、とフェイトは後方に飛んで迫る敵機から逃れつつ、視線を宙に泳がせる。あの気のいいパイロットが操縦するヘリは、上手く逃げおおせただろうか。 だが、人の心配をするほどの余裕を、敵機は与えてくれなかった。下手に機関砲で攻撃するより、彼らはミサイルで遠距離から攻撃することを選んでいた。 Missile, brake! バルディッシュが警報を放つのと、正面にいる二機のF-5Eの主翼下から、閃光が走ったのはほぼ同時だった。閃光の先を駆けるのは炎と鉄の矢、ミサイル。短距離 空対空ミサイルの代名詞である、AIM-9サイドワインダーだ。それらが二発、白煙を吹きつつフェイトに迫る。 回避、と言う言葉が脳裏をよぎるが、フェイトは無理だと首を振った。あっという間に超音速にまで加速したAIM-9を避けるのは、至難の業。ソニックムーブでも 一発は避けられても、もう一発が直撃する。 瞬時にそこまで考えて、彼女が下した結論は、迎撃。回避が無理なら、撃ち落すしかない。 「こんのぉ……!」 フォトンランサー・ファランクスシフト。以前は長ったらしい詠唱をしなければ放てなかったが、日々の鍛錬を欠かさないことで、ある程度省略は出来た。 ――しかし、発動に時間を食うことには変わりない。だが、一度に大量の魔力弾を放てるこの射撃魔法が、ミサイル迎撃にはもってこいだ。 迫るAIM-9、フェイトはじわりと、バリアジャケットの中で冷たいものが流れるのを感じつつ、魔力弾を遠慮なく放つ。 "ファランクス"の名に恥じない大量の魔力弾の雨。その中に、二発のAIM-9は自ら飛び込む。魔力弾を避けながら目標に進む、など器用な真似が出来るはずも無く、二 発のAIM-9は爆発。爆風が巻き起こり、破片が飛び散る。バルディッシュが自動で防御魔法を発動させていなければ、裂傷の一つでも負ったかもしれない。 だが、フェイトは無傷だった。爆風と煙が晴れたところで、彼女はバルディッシュを構え、敵機の第二波に備える。 「あ――あれ?」 彼女の顔に浮かぶのは、怪訝な表情。自分一人だけ戦闘態勢を維持していると言うのに、二機のF-5Eは反転し、アフターバーナーまで点火して逃げ出していた。どんどん 遠くなっていくジェットの轟音と小さな機影を目の当たりにした時、フェイトはようやく彼らが諦めたと言うことに気付く。ミサイルまでもが通用しないなら、もはや 勝てないと踏んだのだろう。 ふぅ、と小さくため息が出た。妙に拍子抜けしたような表情を浮かべ、フェイトは構えを解いた。 「本当に拍子抜けでした。これからだって時に、逃げちゃったんですもん」 わずかに不満げな表情を見せる彼女の口ぶりは、普段の大人びたものとは違っていた。年相応の少女のような口調。 決して好戦的と言う訳ではないのだろうが、せっかく火の点いた闘志を不完全燃焼のままにしてしまうのは、彼女にとって面白くないらしい。 「でも、後ですぐに分かりました。彼らは逃げたんじゃなくって、命令で後退したんです。見ていられなかったんでしょうね、"彼"は」 彼女の口から出た"彼"と言う言葉。ようやく、我々が追いかけていたものが、姿を現したのだ。 ともかくも、敵の撃退に成功したフェイトは、ひとまずあのヘリの行方を追うことにした。 広域探査の魔法を駆使すれば、発見は決して難しくないだろう――落ちてさえいなければ、の話だが。 Target mine 「よかった、無事だったんだ」 ほっと胸を撫で下ろし、フェイトはバルディッシュが指示する方向に向かおうとした。探査魔法で探りを入れた結果、あのヘリは無事に難民キャンプに向かっている ようだ。 この時、彼女は完全に警戒を解いていた。敵機の存在は気がかりだったが、途中で逃げ出すような連中だ。万が一またやって来ても、あの分なら容易に撃退出来る。何 より、本来の任務である難民キャンプの視察があった。敵の脆弱さ、任務への責任感が、フェイトの警戒心を緩やかに溶かしていた。 ゆえに、彼女は気付くはずもない。はるか上空から、一機の荒鷲がすでに流れるような金髪を目視していることに。 ――Sir! フェイトよりも早く気付いたのは、相棒であるバルディッシュ。彼女は何?と口を開きかけて、ふっと突然、太陽の光が遮られたことに気付く。 何だろう。純粋な疑問を抱き、振り返ったその先に、一機の戦闘機がいた。 太陽を背にした、凶悪とも受け取れる質量兵器の面が、そこにあった。 「……っ!」 本能的な恐怖を覚えて、闇雲な回避機動。戦闘機――彼女は知る由もないが、F-15Cイーグルと言うこの機体の主翼の付け根が、チカチカと瞬く。 ぶんっと機関砲の弾丸が、身体のすぐ傍をかすめ飛ぶ。あと一瞬、一瞬でも反応が遅ければ、この弾丸は彼女の身体を貫いていたはずだ。 逃げろ、逃げろ、逃げろ。その言葉だけが、脳裏を支配する。 "コイツ"は、さっきのとは格が違う。 ソニックムーブを連発して、フェイトはとにかくもF-15Cと距離を取る。急降下してきたこのF-15Cが、姿勢を立て直している今がチャンスだ。 けほっ、と小さく咳き込み、整った顔立ちに辛そうな表情を浮かべる。急加速の連続は、バリアジャケットがあると言えど、容赦なく身体を苦しめる。 ――離れた、この距離なら。 F-15Cが機首を上げて水平飛行に戻り、その矛先をフェイトに向ける。彼女がバルディッシュを構えたのは、それとほぼ同時。 Photon Lancer 「当たって!」 素早く周囲に魔力弾を浮かび上がらせ、使い慣れた射撃魔法を機関砲の如く大量に叩き込む。ファランクスシフトほどではないにせよ、彼女は敵機がこれを避けきれる とは考えなかった。 だが、現実は彼女の考えを否定してみせた。あろうことか、F-15Cはアフターバーナーを点火。赤いジェットの炎を派手に吹かし、猛然と加速。自ら魔力弾の雨の中に 突っ込んできた。それを見たフェイトの表情が、驚愕で歪む。 右へ左へ、自由自在にロールしながら的確にフォトンランサーを回避し続けるF-15Cはフェイトに肉薄、射撃に集中して身動きの出来ない彼女に機関砲の照準を合わせる。 回避は、間に合わない――瞬時にそこまで判断できるのは、さすがと言うべきか。左手を掲げて、防御魔法を展開。直後、身体全体を揺さぶるような激しい衝撃が走り、 展開された防御魔法の先で火花が散る。F-15Cの放った機関砲弾が、今まさに殺到しているのだ。実際はほんの数秒だったにも関わらず、フェイトにはそれが永遠のように すら感じられた。 「っく……」 何とか防ぎきるが、決してノーダメージではない。掲げた左手は痺れてしまい、反撃に移れない。そんな彼女の状況を知っているのか、F-15Cは無防備な背中を晒したまま フェイトの側を通り過ぎる。 その瞬間、彼女は確かに目撃した。両主翼を蒼で彩ったF-15Cの垂直尾翼、そこに赤い猟犬――"ガルム"の横顔が描かれていることに。 猟犬。そう、コイツはまさに猟犬だ。狙った獲物は逃がさない、どこまでも追いかけ、その鋭利な牙で仕留める。一瞬でも気を抜こうものなら、容赦なく噛み付いてくる。 だが、フェイトの闘志は折れなかった。恐怖に震える身体を叱咤し、バルディッシュを構え直す。 いっそのこと、使ってしまうべきだろうか。真ソニックフォームを――ちらりとそんな思考が脳裏をよぎるが、彼女は首を振る。アレはまだ試作段階だ、実戦で使うには 不安要素が多すぎる。 「野犬狩りだよ、バルディッシュ」 Yes,Sir どっと加速。行き過ぎたF-15Cを、彼女は追いかける。 F-15Cはと言えば、フェイトが追ってきたのを見て機首を跳ね上げ、急上昇。主翼先端からヴェイパーと呼ばれる白い水蒸気の糸を引きつつ、反転。機首を眼下のフェイトに 向けてきた。また急降下で速度をつけながら攻撃するつもりだ。 だが、今度はフェイトも迎撃態勢を整えている。天から真っ逆さまに落ちてくる猟犬に向けて、魔力弾を放つ。 無論、F-15Cはその程度であれば回避してしまうだろう。案の定、主翼を翻したF-15Cは降下をやめず、捻りこむようにして魔力弾を回避。 「ターン!」 フェイトの一声で、回避された魔力弾はくるりと反転し、F-15Cを後方から襲う。放ったのはフォトンランサーではなくプラズマランサー、ある程度の誘導が可能だ。 命中こそしなかったが、いきなり後方から魔力弾を浴びせられたF-15Cはたまらず機首を上げ、急降下から機体の姿勢を水平に戻し、そのまま上昇へと移る。さすがに驚いた に違いない。 逃げるF-15C、だがフェイトはその進路を先読みし、ソニックムーブで先回りする。 「バルディッシュ!」 Zamber form 相棒への掛け声。同時にバルディッシュが姿を変え、金色の長い刀身を持った剣と化す。ジェットザンバー、伸びる刀身はフェイトの身長すらも上回る。それを振りかざし、 彼女は正面、自ら自分の前に躍り出る羽目になったF-15Cに向かって振り下ろす。 金色の刃がF-15Cを捉える、かと思われた。 突然、F-15Cの主翼下で閃光が走ると同時に、何かが飛び出すのが見えた。 ミサイル! 生存本能が脳裏で叫ぶ。フェイトは咄嗟に、F-15Cに向かって振り下ろしていたバルディッシュの刃を、腕をねじって強引に進路変更。ぷちぷちと腕の筋肉の繊維 が切れるような気がしたが、ミサイルの直撃をもらうよりマシだ。 加速しきる前のミサイルに、バルディッシュの刃が横から殴りかかる。機能不全でも起こしたのか、それとももともと不良品だったのか。ともかくも、ミサイルはその進路を 強引に変え、どこかに飛び去って行った。 ほっと一息つく間もなく、フェイトは視線を上げる。F-15Cは自分の真上を通り過ぎて行った――これが狙いだったのか。 苦痛を訴える身体。バルディッシュも無理はしないでください、マスターと心配してくれる。 だが、ぼーっとしている訳にはいかない。あのF-15Cの前でそんなことをしたら自殺行為だ。 バルディッシュをザンバーフォームからハーケンフォームに戻し、その場で反転。案の定、F-15Cは急旋回して再度こちらを攻撃しようとしていた。 一撃、大きいのを叩き込んで脅かして――考えて、すぐに行動に移る。持ってきたカートリッジは少ないが、惜しまず二発ロード。バルディッシュが機械音を立てて、身体を 流れる魔力が爆発的に増加するのが分かった。 「トライデント――」 構えて、直射型の砲撃魔法の名を唱えようとする。トライデントスマッシャー、ただの砲撃魔法ではなく、自身の得意とする魔力の電気変換も入っている。上手く行けば、直 撃は無理でも掠るだけで、電気系統をショートさせられるかもしれない。 そんな考えの下、砲撃魔法を放つ直前、F-15Cの主翼下で再び、何かが放たれた。またミサイルに違いない。 「え……!?」 回避か迎撃か。 トライデントスマッシャーの詠唱を中止し、とにかく行動しようとしたフェイトの顔が、疑問と驚愕で染まる。 F-15Cの放ったミサイルは全て、ロケットモーターに火を灯すことが無かった。すなわち、発射ではなく投棄。 いったい何を考えているのか、この猟犬は。それは大事な牙のはずだろうに――問いかけた疑問の答えは、即座に返ってきた。 F-15Cのエンジンノズルから、赤いジェットの炎が巻き起こる。響き渡るのは轟音。アフターバーナーが、点火されたのだ。機体は猛然と加速する。 ただの加速ではなかった。ミサイルを捨ててまで機体を軽くした結果、この猟犬は爆発的なまでのスピードを得ていた。フェイトの対応が、間に合わないほどに。 急接近するF-15Cの右主翼の付け根に、閃光が走る――機関砲が、放たれたのだ。 対応が間に合わないマスターに代わって、バルディッシュが自動で防御魔法を展開。しかし衝撃までは防ぎきれず、フェイトは一秒間に百発分もの打撃を浴びた。防御魔法と バリアジャケット、二重の防衛ラインを持ってしても、彼女は脳震盪を起こしてしまった。 フラつき、暗くなる視界。それでも彼女は歯を食いしばって、行き過ぎたF-15Cを探す。 「どこに――」 青空に視線を巡らせるも、頭が上手く回らない。このまま意識を手放せたら、どれだけ楽なことか。 直後、背中に大きな衝撃が走った。寸前、バルディッシュが何か言った気がする。今思えば、あれは警告だったのだ。敵機が後方から接近していると。 だが、遅すぎた。F-15Cが放った一撃は、今度こそ彼女の意識を闇に叩き落すのに充分なものだった。 「――――……ッ」 闇へと引きずり込まれて行く意識の最中、彼女が最後に見たのは自分を撃墜したF-15C、そいつが突然、左のエンジンから派手な黒煙を上げ始めた姿だった。 そこで、彼女の意識は途絶えた。 目次 次へ
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深い山林に囲まれた山の中――― そこは雨露を辛うじて凌げる古びたコテージ。そのベランダ。 「………」 その取っ手に寄りかかるようにして夜空を見上げる女性が 宙に向かって手を伸ばす。空に煌く瞬きを手で掬おうという仕草。 当然その手は満天に届く筈もない。冷たい夜の空気を掻き回すのみ―― 遥か天空に鎮座する星々にその身を届かせる事はおろか 彼女は仲間や親友。それに慣れ親しんだ世界の元に帰る事すら出来ない。 「どったの?」 戸の中から同居人の天衣無縫な魔法使いがヒョコッと顔を出す。 深刻な面持ちの彼女と対照的なその仕草。 それはまるで、この世の悩み事という概念から隔離されているかのような能天気な面持ちだ。 「七並べはお嫌い? じゃUNOにしようか。」 「う、ううん……もういいよ。青子さん強いもの。」 既に一ヶ月を超える同居の士。手持ちの鞄からヒラヒラとカードゲームなどを見せびらかしてくる彼女。 だけど…とてもそんな気分にはなれない魔導士である。 彼女の申し出に作り笑いだけを返し、高町なのはは雲一つ無い夜空を変わらずに見上げる。 「……何ムクれてんのよあのコ?」 「極悪過ぎたんじゃないの? 貴方のハートの9止めが。」 「負けて癇癪起こすなんて案外子供ねぇ。」 何か後ろで好き放題言われている。 人を肴にケラケラと笑っている性悪魔女と白猫を背に―― 突如、彼女の胸に去来してきた嫌な小波に……身を竦ませずにはいられない。 焦ったところで出られるわけでもない。方々手を尽くして何の手がかりも無い。 完全なクローズドサークルに閉じ込められてしまった自分。 だが、だからこそ余計に他の仲間の―――親友の安否が気遣われてしまう。 (フェイトちゃん……) 特に今、その心を貫いた嫌な予感は果たして杞憂なのだろうか? この猛烈な胸騒ぎは… 10年片時も離れなかった金の髪の少女との仲。それは既に兄弟同然の絆となって彼女らを結んでいる。 どんなに離れていても、例え星の海に隔てられていようと――彼女達は互いの危機を肌で感じ取る。 そんな非科学的な事が現実にあるのだ……この世界には。 懐のリボン――それは片時も身から離さずに持っている生涯の友との絆の証。 それを今一度握り締め、なのはは言い知れぬ不安にかられた瞳を夜空へと向ける。 奇しくもそれは異なる大地で魔導師の黒衣が―― 天翔ける駿馬の放つ、青白い流星に飲み込まれたのと同時刻の事であった―― ―――――― 「……………」 その刹那の瞬間が――フェイトに全てを理解する時間を与える。 もはや敵に叩き落とす以外に用途を為さぬ稲妻の鉄柱を肩に抱え 迎え撃つは巨大な天馬の飛翔の奔流。 初動に合わせて最強最速の雷電によって斬って落とさんと身構えた華奢な体躯。 そして、そんなこちらの狙いが分かっているだろうに 敵は悠々と絶対の自信を以って最後の激突の火蓋を切ってきた。 「――――、、、」 騎兵の口からフェイトには聞き取れない何かの呪文のような言葉が紡がれる。 同時――相手の腰まで伸びた長髪が一斉に逆立つ。 そしてもはや目視出来るほどの青白い魔力をその場に迸らせるライダー。 果たしてそれは目の前でゼロから時速400kmにまで加速するロケットスタートを切った! ――― 速い! ―― 最高速度ならばフェイトの方が上だ。 しかし加速性能はこちらと比較してもほぼ互角! その逞しい四肢が醸し出す馬力、爆発力は人間の常識を遥かに覆す。 次いでサーヴァントが高らかに―― 「――――、!!!」 真名開放と共に全てを曝け出す! 天に地に、謳い上げるように紡いだ彼女の神言――ベルレ、フォーン 次いで眼前に現出した巨大な力は、まるで流星そのもの。 そんな桁違いの魔力の塊を見据えた時―― (………バルディッシュ) 壮絶な決意と怒りと、仲間を救わねばという使命感。 その狭間に追いやられた滓かな理性が―― (ごめん……私間違えた、かも…) こう呟いた。 それはシグナムと同様、土壇場で致命的なミスを犯したのかも知れない――という予感。 フェイトのオーバードライブは「誰よりも速く」「自身の最強の攻撃を当てる」 この二つのプロセスを成し遂げられるが故に最強たりえる電迅の剣。 だが敵が彼女最高のアドバンテージたるスピードで並んできた場合―― 「誰よりも速く」の要素がまず消える。 滑走距離はせいぜい60、70m弱。加速のみの勝負と相成るこの場面。 ここで上位幻想種たる天馬は、雷光に決して劣らぬ疾走を見せる。 加えてこの凄まじい向かい風は恐らくペガサスの疾走が醸し出す圧倒的な質量と圧力の賜物だろう。 その暴風がフェイトのスタートを疎外する。絶好のスタートを阻止する。 故に加速勝負では――良いとこ五分! では互角の速度を見せる相手である場合 当然、残り一つの要素である「力」を以って敵と凌ぎを削らねばならない。 ―――空気が震え、敵が接近してくる。 故に彼女のありったけ――己の出力を限界以上に高めたオーバードライブ・ライオットのみが 彼女の命運を左右する切り札となるのだが… しかしその邂逅、早撃ちガンマンのように振り向き様に互いの得物を抜いた瞬間 引き金を引くまでの間にのみ、敵の武器の威容を観察出来る時間が双方に与えられる。 ライダーはこちらの武器を見てなお――笑いを崩さなかった。 ライオットブレードを間近で見てそれでも正面から勝負をかけてきた。 それは多分――勝てると確信して来たから。 絶対の自信があったから。 対して今、相手に集約されていく力の凝縮率のあまりの凄まじさに―― 怒りも悔しさも戦意すらも凌駕する感情に、一瞬だが確実に溶かされてしまったのはフェイトの方。 何をやってもどうしようもない。 そういった理不尽な力というものはこの世に確実に存在する。 かつて一度だけ――その身をもって体験した…… その奔流を一度、自身の体で受けた…… 圧倒的な破壊力を持つ―――とある魔導士の集束砲を…… だからこそ感じ取れてしまう―― (なのはと……なのはの集束砲と同レベル、以上…?) それは圧壊の力を前にした感覚に他ならない。 肌で感じたAランク宝具というものの威容。 相手を決して許さないと雄々しく立った理性。それとは裏腹に本能に刻まれた恐怖が 全身の筋肉を強張らせ、一瞬でその身に鳥肌と冷たい汗を浮かばせる。 技も技術も用を成さない。 潰し合いにおいて最後にものを言う問答無用の「力」 技術に秀でた自分が唯一持ちえなかった「出力」という力。 それを補うためにデバイスや自身の特性を最大限に生かし 速度と切れ味を極限まで高めた彼女。 であったが、やはり圧倒的な本当の力を前にした場合――その巨大な剣は実はただの誤魔化し… 己がコンプレックスを補うためのハリボテに過ぎないのではないか?と思い悩む事が少なからずあった。 彼女は………過去に何度か思い立った事はあるのだ。 ライオットとなのはのスターライトブレイカーを どんな形でも良いから今一度、正面からぶつけ合ってみたいと。 局随一とまで噂される規格外の集束砲に果たして自分はどこまで食い下がれるのだろうかと―― もっとも実際、Sランク同士のオーバードライブのぶつけ合いなどそう出来る事ではない。 それは模擬戦ですら危険の伴う所業。 その上、それほどの規模の力場に耐えうる結界を張るだけでも大仕事だ。 故にそう簡単に許可の降りる行いではなかった。 だからこそ今まで実現しなかった親友との本気の再戦であったのだが 正直―――その結果を知りたいと思う反面、知るのを恐れる自分も確かに存在したのだ。 もしあまりにも呆気なく潰されたらやはりショックだろうから。 自重と引きの速さで両断する重さと切れ味を両立させた日本刀さながらの雷光の太刀。 それは果たして隕石の如き圧倒的な密度と質量を持った「力」に通用するのだろうか? そこには奇跡、覚醒、奮起、友情、そして逆転などという都合の良い要素は無い。 現実の戦いはあくまでロジック通りの結果しか叩き出さない。 そう、刹那の一瞬にて彼女の全身の毛穴を総じて開かせ冷たい汗を噴き出させた 決意と怒りを一瞬にして溶かしていったモノは―― ――― 問答無用の「死」の予感 ――― そしてフェイトに与えられた時間の正体こそ、 ――― 走馬灯 ――― 絶命を前にした人間に与えられた 最後の時間であったのだ。 ―――――― ―――空間が歪む 余剰の力と力をぶつけ合った場合、極稀にこういった現象が起こる事がある。 上空から観測する者がいるならばそれは 金と青白い光が紡ぐ一組の十字架に見えたかも知れない。 紫の残光を尾に引く青白い流星。 黄金のプラズマを場に迸らせる稲妻。 その激突の余波は一瞬で――― ――― 大地を十文字に断ち割った ――― 駆け抜けた二条の影。それらが巻き起こすソニックブームは付近の崖を容易く削り取り 爆心地より立ち昇る二条の魔力は雲を貫くほどに高く聳え立つ。 剣閃一縷にして切り結んだ二人の疾駆者。 耳を劈く轟雷、鼓膜を貫く疾走の余波が―― キィィィィ――――――.........ン 、、と 暫く耳鳴りのように辺りに響き渡る。 やがて耳障りなサウンドが空気に溶けてなくなり 周囲を見渡せる余裕を観測者に齎したこの戦場において―― 二つであった人影は――今や一つ。 濛々と立ち込める噴煙の中、彼女はゆっくりと身を起こす。 その長い長い腰まで垂らした髪が………ファサリと、地面を薙いだ。 ―――――― それを今わの際の光景と―― 一瞬でも思った自分を許せなくて フェイトは裂けるほどに強く、唇をギリっと噛む。 ここでこんな肝心の場面で一瞬でも弱気に駆られた――引こうとした自分に サンダーレイジをぶち込んでやりたい気分だった。 相変わらず自分は弱くて、臆病で―― いつだって誰かに助けられたり支えられていなければ立ってもいられない。 それを認めてそれも自分だと受け入れた事もある。 でも―――この手に剣を取った以上 戦いの人生を選んだ以上、それでは済まされない場面が確実にある。 そんな当然の事をいい加減、思い知らなければならないのだ! 負けられない戦いがある。自分の敗北が他者の命をも左右する事がある。 ならばその日、その時だけは―――強くあれ 相手は外道にして人を食らう悪鬼。かけがえの無い友達を傷つけ奪う者。 ならば遠慮する事は無い―――鬼をも食らう雷獣となれ フェイトの眼前に迫る騎英の疾走――ベルレフォーン まるで全空域から魔力を集束させている高町なのはを前にしたような絶望感。 それは恐らく、いや間違いなく虚仮脅しではないだろう。 アレがスターライトブレイカーに匹敵するようなものならば――生半なモノでは太刀打ち出来まい。 ――まだ、大丈夫 ――もっと引き付けて 故に恐らく手に持つ剣を同時に放っていたら負けていた。 最大出力の砲撃でも太刀打ち出来なかっただろう。 このまま普通に撃てば自分は殺される―― 10年の歳月を経た経験が彼女にそう警告し、踏み止まらせたのだ。 故に僅かながらに許されたこの時間。それは負けを偲ぶためのものでは断じてない。 それは勝利のための滑走路。 0,01秒以下の凝縮された思考にて、フェイトは少しでも、少しでも 敵の「力」に対抗するためのモノを己が引き出しから総ざらいしていく。 超巨大剣ならではの独特の構え。 腰を更に極限まで絞り込み、自身の身体の後ろに隠すように振り被ったその姿勢。 腰に溜めた捻りを更に溜めて、溜めて、待つ―― 速度勝負においては必ずしも先に疾駆した者が勝つわけではない。 助走を敢えて捨てて一瞬に全てを集約させる速さもまた存在する。 ――即ち、剣術の居合い 後より出でて先に立つ。 その鞘にて極限まで力を溜めて鞘走りと共に一気に解放する超速の秘剣。 その発動は、遅らせ瞬の間に凝縮させればさせるほどに――抜き放った時の速度が増していく。 「………」 チリチリと肌を、全身を焼く感覚がフェイトを襲う。 敵が迫る…! 何という熱量!! 一旦、引いてやり過ごすという選択をしなかったのは正解だ。 あれは到底、背中を見せて逃げられる類のものではない。 掠っただけでも身体の半分を削り取っていく代物だろう。 当然、シールドなどは紙の盾ほどの役にも立つまい。 まさに、まさに、なのはに敗れた時の状況と瓜二つという事だ。 だがバインドで四肢を絡め取られたあの時とは違う。 手は動く。足もだ。抗うための剣も手に入れた。 恐怖に引きつった顔を浮かべて為す術もなく堕とされたあの時とは断じて違うのだ! ――まだ、まだ間に合う ――極限までひきつけろ 大丈夫、初速で遅れを取る事は無い――! 自身に残ったカートリッジを全て叩き込む。 意識が遠のき、内から破裂するような感覚。漏れる嗚咽を必死に噛み殺す。 つくづくこのシステムは高町なのはにとっては天啓のような武装だと思う。 彼女ならここにきて二倍、三倍の出力増強という苛烈な追い込みも可能だっただろうに。 だが自分はダメだ。いわば銃の口径のようなもの。 市販のベレッタでマグナムの弾を撃てば当然、銃身は吹っ飛ぶ。 一度の放出量の細さをこれほど恨めしいと思った事は無い。 限界のコップに更に水増しをするカートリッジ――それを叩き込めた数はせいぜい二発 何の、それがどうした。それで上等。 少しでも、少しずつでもいい。 足りない部分を埋めろ。 出来る事は何でもやるんだ! 重さで適わないなら切れ味を上げろ。 もっともっと速度を上げて全てを断ち切れ。 刀でダイヤを斬る行為は無謀で物理的に有り得ない? 否、極限の技と修練の果てに―――それを成し遂げる者もいるのだ! 神々しいまでに輝く天馬とそれに跨る美しき邪神が鼻先にまで迫る。 それでも未だに微動だにしないフェイト。 だがその瞳、その佇まいから――無限の宇宙に匹敵する 神域に届くほどの気勢と気迫が充満していくのを感じる。 そしてフェイトとライダーが互いの顔を認識できるほどの距離にまで迫った時―― 殺劇の空間に身を委ね、魔導士の身体が圧倒的な熱に覆われた瞬間 青白い流星に包まれながらフェイトはゆっくりと目を閉じる。 足りるのか――届くのか――果たして自身の全てを賭けた剣は 強大な暴力に当たって砕けぬ頑健強固の切れ味を得られたのか? 分からない……もはや我が手に収めてきたものの中でも例を見ぬ 空前絶後の真っ向勝負。どれだけのものなのか自身、見当もつかない。 故にあとは、そう――あとは自分との戦い これほどに練磨した心でも完全に消す事は出来ぬ過去の敗北の記憶。 あのスターライトブレイカーに刻み付けられたトラウマを今、踏み越えよ! 自分の10年が試される――さあいよいよだ…! その一歩を今、踏み出そう!! 「疾風……迅雷…」 常に彼女の内にあり、彼女に力を与えてくれる大事な人達。 その顔を一人一人思い出し、一心に込めてフェイトは目を見開き――己が全力の言葉を口に出す。 そして、、 二つの疾駆が―――次元を切り裂いた ―――――― 巨大なグランドクルスが刻み付けられた 荒廃に破壊を塗りこめたような大地に―― 残された人影は、一つ―― 濛々と立ち込める噴煙の中、ゆっくりと身を起こす。 その長い長い腰まで垂らした髪が――ファサリと、地面を薙いだ。 「…………、」 ――――全てが終わり、 雄大な翼を広げた天馬はもう、いない。 二条の光に切り裂かれた世界はもはや無音。 その只中において―― 頬を撫でる―――――「金」の髪が 泥に汚れ、苦悶に喘ぐ美麗な顔を……覆って隠す。 「は………ぁ、………うぅ…」 苦しげな吐息で空っぽになった肺に空気を流し込む彼女。 荒れ果て、蹂躙の限りを尽くされた大地にその身を横たえ 弱々しい呻きを漏らしたのは―― 黒衣のBJを完全に欠損し、柔肌の半分以上を晒している 両サイドで留めた髪がほどけ、長髪を腰まで垂らした金髪の魔導士―― 「……………生き、て……る」 フェイトテスタロッサハラオウンその人であったのだ。 酷い有様だった。 今やその四肢、その指一本に至るまで満足に動かせない。 不規則に乱れた挙動を以って、ありとあらゆる内蔵が内から彼女を責め苛む。 「勝った……勝った、のか………?」 脳震盪を起こしたその頭が状況を正しく整理するにはまだ数十秒の時を要し 喉の奥からひり出す様な不自然な呼吸のままに紡がれる言葉は掠れて音にならない。 暫く呆然と、その場に横たわり空を見上げるフェイト。 信じられない――― 言葉にならない浮遊感にも似た、実感の伴わぬ達成感。 それを彼女は未だに受け止め切れない。 本当に自分はあの凄まじい力に打ち勝てたというのか? 自分がこうして存命している事が何よりの証なれど―― 本当に、本当に自分はあのスターライトブレイカー並の一撃に並べたというのだろうか? 寒気すら感じない麻痺した肉体。その心身は 燃え盛る炎の中に、迫り来る津波にその身を躍らせて生還したようなものだ。 今更ながらに彼女の心が凄まじい恐怖を訴える。しかしそれでも―― (よかった……) それでも、生を拾えた事が素直に嬉しい。 自分はここで死ぬわけにはいかないのだから。 ここで何としてでもあの強力な相手を退けなければならなかったのだから。 何故なら自分は今、窮地に陥っているであろう仲間を助けに―― 助けに―― 「………ッ!!!」 ビクンと半分失神しかけていた体が跳ね上がる。 「あ……ぐ、、!」 直後、半強制的な覚醒に際し、麻痺していた身体各種神経が軒並み目を覚ます。 それに伴う苦痛にフェイトは盛大に顔をしかめる。 全身を苛む激痛から逃れるように自身の肩を抱き、身を縮めて寝返りを打つ。 その一動作だけで彼女は残った体力を総動員しなければならない。 それは当然の事――フェイトも重々承知の上。 魔力エンプティに陥った身体。それは当たり前のようにこうなってしまう。 しかもオーバードライブ解放その他各種様々な追い込みを以って放った一刀。 その代償は――決して軽くは無い。 そう……もはやこの身体は動けない。 動力を伝える機関が軒並み焼きついてしまっている。 最低限の回復まで少なくとも数日以上の時間を費やさねばならないだろう。 そう、動けない――動かない だというのに――― 「う……ぐうう…!」 ここで意識を覚醒せざるを得ない事情が彼女にはある。 ここで倒れ付し、眠るわけにはいかない事情が彼女にはあるのだ。 「シ、シグ……ナム。」 残酷なる現実。 倒れ、気絶するのは救助を待つ―― 待てる人間にのみ許された行為だ。 今のフェイトは、違う。彼女は救助される側ではなくする側。 槍で貫かれ、崖に落ちていった騎士を救う為に彼女は騎兵の宝具すら凌駕し、踏み超えたのだから。 「シグナ、ム……ッ!」 (待ってて下さい……今…) 今、助けに行く――彼女の心を占めるはその一念のみ。 ズリズリと地面に爪を立てて這いながらに進む。 華麗、美麗の名を欲しいままにしたSランク空戦魔導士の成れの果て。 荒地の凹凸に身が擦れる度に全身に激痛が走る。 まるで体内の神経がむき出しになったかのようだ。 何の……それくらいが丁度良い。その痛みが手放しそうになる意識を繋ぎ止めてくれる。 美しき戦乙女――ヴァルキュリア同士の戦いは 黄金の稲妻纏う黒衣の女神の勝利に終わった……? だがしかし勝者の姿は落ち伸びる武者のそれと相違なく―― 奈落へと落ちた烈火の将シグナムを求めて 彼女が安息に身を委ねるにはまだ早急に過ぎる事であったのだ。 ―――――― それは次元を裂きし創生の光の如し。 魔力の奔流より分け放たれて 逆の方角へと飛び荒ぶ事になった影と影。 地を這い、遠き奈落へとその身を向かわせるフェイト。 そんな魔導士から遠ざかるように「彼女」もまた――巨大な影となりて上空を飛ぶ。 「――――、」 しかし威容と呼ぶに相応しい神々しい御姿は成りを潜め 大気を余さず掬い取る様なはばたきにも力が無い。 そも、その背に雄大に抱えていた純白の羽が――片方、ごっそりと抉り裂かれていた。 弱々しい嘶きと共にやっとの思いで宙を翔ける幻想に生ける駿馬。 その背には――これまた右半身に無残な傷を負った彼の主の姿があった。 「――――、ペガサス…」 魔導士を落ちた武者と例えたが、こちらもまた見るからに大概な有様だ。 歩兵(飛兵というべきか)と騎兵の違いこそあれ、彼女らは共に戦力の全てを使い果たしていた。 双方共に戦場から落ち延びる武者に例えられて然るべきのその姿。 「貴方――どういう、つもりです…?」 駿馬の白い背に背負われ、もたれかかるように その身を預けていたライダーの口から紡がれる―― それは憤怒の色を灯した懐疑の言葉であった。 そう、言うまでもない―― 彼女の言葉はこの「不可解」な結果に対してのもの。 共に強大な力を携えた者同士の全力の疾走。それは返す返すも術者に生還の余地を残さない。 それは力の劣る方がその激突の余波を一身に受け――確実に塵と化すはず。 間違いなくどちらかが死ぬ勝負であったのだ。 だのに双方がこうして生きている。この結果が示す事はもはや一つしかなく―― 「……無様な―――」 引いたのだ――どちらかが。 いや「どちらか」などと遠まわしな言い方はすまい。 絶対の自信を以ってAランク宝具を解放した騎兵の方が正面衝突する筈だった軌道を――外した。 真芯を外した激突はどちらか一方に叩き込まれる衝撃を脇に逃がし 辛うじて双方、互いの側面を切り抜ける余裕――隙間を残していた。 結果――淀まぬ太刀筋にて真芯を切り抜けたフェイトと異なり 側面を向けた……引いてしまったライダーは分散した力の余波を側面に貰い こうして右半身に多大な損傷を負ってしまったのである。 「私の真名解放に逆らった―――違いますね…… ペガサス……貴方は…」 だがいかに幻想種と言えど騎兵の手綱が発動してから抗う事は出来ない。 故に初めから―――その疾走が始まる前から彼は全霊をかけて軌道を逸らしていた。 結果、自分らは惨敗。見事な羽は無残に削り取られ ライダーもすれ違い様に高圧電流の塊のような剣に焼かれて完全に右半身を喪失。 「く、―――」 予想だにしなかった事態。 全幅の信頼を置いていた使い魔のまさかの裏切り。 流石のライダーも動揺を隠せない。 今もなお手綱に支配された四肢に逆らうかのように泡を吹いて離脱していく天馬。 英霊としての一騎打ちを挑んでおいて、よりにもよって騎兵が騎馬に裏切られるとは… この無様な結果。所詮、自分は尋常な果し合いなどをする輩とは程遠い―― 一騎打ちを望めるような者とは一線を画す存在だとでもいうのか? ―― 原因は、何となくだが理解している ―― 何故そんな光景が幻視されたのか分からないが、奇しくも今日と全く同じ状況で 自分はあのような光の剣閃に幾度と無くその身を焼かれ――敗れ去ったのではなかったか? あの金髪の乙女が極大の剣を構えた時、一瞬だが確かに垣間見た決定的敗北のデジャビュ。 金髪の――剣士の――ヒカリノ――剣閃――――― その白昼悪夢の如き既視感を、駿馬も共に見ていたのだとしたら―― 「―――馬鹿な…」 それこそ愚かなことだった。 そんな妄執、振り切って然るべき事だったのだ。 確かに決闘とは言った。だが自分は下手な博打などを打って酔狂に楽しむ趣味はない。 断言する。勝機はこちらにあった。 あの剣は確かにデウスの雷撃の如き凄まじいものではあったが、それでも聖剣の一撃には及ばなかった筈だ。 かつて我が疾走を真正面から斬って捨てたアレこそは、星の瞬きが生み出した最強の神造兵器の性能と あのセイバーの凄まじい剣戟が合わさって初めて――地上に並ぶ者なき古今無双の破壊力を発揮する。 対して此度、相手は生粋の剣士では無かった。多大な深手を負わせてもいた。 セイバーのエクスカリバーと同等以上のモノを出せるわけがない。 あのまま突っ込んでいれば――競り負ける要素は皆無だった筈だ。 ―――ライダーの遠目が遥か後方を見やる 遠のいていく荒野に、地に四肢を這わせている相手の姿があった。 見る見るうちに遠ざかる、その愛しき獲物の姿。 今からでも戻ってその首筋に牙を突きたてれば――こちらの勝ち。 だのに今の騎兵には地を駆ける逞しい脚力も 疾走する天馬を御する力も残ってはいない。 「無念……という言葉の意味が理解できましたよ。 フェイト―――悔しい結果です。」 不条理な結果に歯噛みするライダー。 土壇場で臆したペガサスの首筋にギリリ、と爪を立てる。 皮肉なものである。 今世最大の疾走者同士の戦いは寸でのところで――互いの自己のトラウマを揺り動かす事態となり 苦しくもそれを踏み越えた者と踏み止まってしまった者の差が勝敗を決める事になったのだから。 勝敗の悔しさに身を震わせる。彼女をしてこんな感情は初めての事ではないだろうか? 蛇神の化身は屈辱を決して忘れない。 いつか、いつかまた相見えたその時は―― 突き立つ剣のように尖った牙を噛み鳴らせ、敗辱に震えるその身を抱く。 そんな今は憤怒と復讐に燃える瞳が―― ――― ペガサスは臆したのではない ――― あの騎士王の忌わしき黄金の剣に何度と無く薙ぎ払われたその記憶によって 「黄金の剣には決して勝てない」という既成事実を植えつけられた駿馬。 主を背に頂いておきながら御身を跡形もなく薙ぎ払われた。 己を愛してくれる騎手を討たれた駿馬の無念――いかほどのものか計り知れるものではないだろう。 彼は今わの際に思ったのだ。 次は、絶対に主を守る。 あのような危機に決して主を飛び込ませはしないと―― ――― この駿馬は宝具の縛りにすら逆らって……主を守ろうとしたのだという事に ――― 改めて騎兵が理解するのは………もう少し後の事である。