約 374,265 件
https://w.atwiki.jp/infinityclock/pages/269.html
どんな微かでも みんなを愛してた。 ♠ ♥ ♦ ♣ サーヴァントとしての健脚で、櫻井戒は駆けた。 松野一松とそのサーヴァントがどちらの方角に追われていったのかは、すぐに分かった。 あの怪人のたどって行った道の、ところどころ――まるで、何気なく左手で触るような位置に、石化した跡が点々と続いていた。 ほどなくして、探していた紫パーカーの青年は、猫背のまま向こうから歩いてきた。 1人きりだった。 少しの距離があるところで、こちらに気付いたように立ち止まった。 「松野さん、無事で良かった……シップはどうしたんだい?」 暗いぼそぼそとした声で、松野一松は答える。 「死んだよ。怪人もいなくなった」 「それは……」 陰鬱な声に、鳴から聞いたシップのステータスの低さに、そういうこともあるのかと腑には落ちる。 どんな言葉を駆けるべきか躊躇った。 しかし――すぐに、彼を話をするために探していたわけではないと思い出した。 「なら、都合がいい」 携えていた大剣を、そのまま松野へと向けた。 相手が、ぎょっとしたようにその眼を見開く。 「なんで……?」 「僕のマスターの身に降りかかる危険を、いち早く取り去るためだよ」 櫻井戒は、松野一松、シップの主従とこのまま関係を持ち続けることを、極めて危険だと判断していた。 それは、彼等が同盟を組むにしてもメリットが少なすぎる、むしろ鳴たちのお荷物になる弱さの主従であり、共にいれば彼等をかばうだろう鳴の負担が増えるから――というだけの理由ではない。 そもそも、松野一松の雇い主である人物のことを、鳴も蛍たちも楽観的に考えすぎている……と思っている。 ブレイバーにも英霊になるだけの思慮深さはあるようだが、それでも『物事の裏を読む』ことができるほど人間の悪事に精通しているわけではない。 おそらく、依頼人は『一条蛍をマスターだと疑って、身辺を探るために調査員を雇った』わけではない。 いくら信頼できる会社に頼んだとはいえ、聖杯戦争のことを何も知らない一般人(松野が依頼を受けなければそうなる予定だった)に『一条蛍はマスターなのかどうか』を探り出せるかどうかは怪しいし、 そもそもとっくに一条蛍の個人情報をある程度は手に入れる段階まで調べあげているのだ。 『依頼人は一条蛍を既にマスターだと確信しており、それ以上の手がかり(例えば彼女の周囲に他のマスターが接触していないかどうか等)を求めて調査員を雇った』と考えるべきだ。 だとすれば、避けなければならない展開は、その依頼人に『一条蛍と接触している東恩納鳴』のことまで割れてしまうことだ。 『なるべく他のマスター殺害に鳴を巻き込みたくない』というランサーの方針を維持するためにも、鳴にはできる限り、小学生としての日常に浸かっていてもらわなければならない。 そこを脅かされてはならない。 さらに言えば、この依頼人であるマスターを討伐することにも、鳴を巻き込むのに気が進まない。 『松野一松が依頼人に送る報告を逆に利用して、依頼人を捕まえる罠をしかければいい』と鳴は乗り気になっていた。 しかし、そのマスターを捕えてどうするつもりなのか。 まさか脱出狙いに転向させるなど叶うはずもないのに、殺さずには済ませられない。 彼女には見えていない。しかし、それでいい。 実際にそのマスターを殺す現場になど、居合わせなくてもいい。 そもそも、相手も社会人でありそれなりに地位のある人物が予想される以上、簡単に『おびきよせ作戦』に引っかかるはずもないのだ。 一条蛍がマスターだと確信しているのなら、わざわざ意味ありげな餌に食いつかなくとも、一条蛍を先に捕まえて拷問でもするのが最も手っ取り早いのだから。 もっとも効率的に解決させる方法ならば、外道の手段がある。 『一条蛍の調査中』に、松野一松が、『明らかに事故(ヘドラに巻き込まれた等)ではない形』で、遺体として発見されることだ。 そうすればどうなるか。 警察が呼ばれる。警察が松野一松の遺族に連絡を入れる。 当然、調査を依頼していたフラッグ・コーポレーションにも連絡が入る。 すると、『松野一松が誰から依頼を受けて調査をしていたのか』が警察に伝わる。 警察に、その依頼人を捕まえることまでは期待していない。 しかし、『捜査線上に、その依頼人の名前が上がる』ところまで行けば充分だ。 サーヴァントの霊体化があれば、セキュリティの堅固な会社から情報を盗み出すことはできなくとも、警察の会話を立ち聞きするぐらいはできる。 それさえできれば、櫻井戒だけで、そのマスターを暗殺する機会が訪れる。 それは、思いついただけの策だった。 実際に実行するとなれば、断念していたはずの策だった。 櫻井戒は己のことを手段を選ばない屑だと規定しているけれど、基本的には幼いころから武道の道に通じてきた好青年でもあり、 聖杯戦争で勝つためならば積極的に人道をふみにじっていくような外道ではない。 何より、それは正しい魔法少女――プリンセス・テンペストの説いた『正義のため』に反する行いだ。 仇敵である『聖贄杯』でもあるまいに、そこまでの非道を行う必要はないと判断していた。 しかし、彼の言い放った言葉――『聖杯を獲る手段が他になければ、無辜のマスターを殺すのか』という欺瞞を撃ちぬく言葉は、決定的だった。 これ以上、遠慮も配慮も何も無しに、それを言う人物と共にいてはいけない。 松野にこれから口止めをしたところで、彼と一緒にいれば、鳴はその言葉をいやおうにも思い出すだろう。 そうなれば、遠からずごまかしきれなくなる。 己が生還するための道は、ランサーが聖杯を獲るための道であり、なおかつ犠牲の上に成り立つ道だということに。 そうなれば、鳴という少女は――あの無垢な正しい魔法少女は必ず、自分を止めるために動くだろう。 己が身を戦場で危険にさらすことになっても、令呪の全てを使い切ることになっても――最悪は、ランサーを止めるために立ちはだかり、敵に無防備な背中を晒すことになっても。 それは、絶対に阻止しなければならない。 「あなたは厳しいことを言いながらも、僕のことを優しい人間だと見積もり過ぎているよ。 僕はマスターを……大切な人達を不幸にしないためなら、何でもする」 遣り切れない、とは思っている。 己の眼差しは、憂いを隠せていないかもしれない。 しかし、それでも非道を実行する。 英霊になる以前の、生前の行状からもずっとランサーはそうだった。 大切な女性を救うためならば、親友といっていい仲だった者が相手でも、実際に殺すことこそなかったもの、殺す覚悟で相対したこともあった。 そもそも、一族の呪いを解いて妹を救うためであり、かつ叛逆すれば己と妹も殺される境遇だったとはいえ、 アサシンの連続殺人どころではない――数百人か数千人単位かで無辜の人間が殺されることになる『黄金錬成』の儀式を、肯定する側にいたのだ。 いずれ学校が戦場になり、彼のクラスメイトたちも皆がその生贄にされる可能性があると知っていながら、それを黙認するような立場の人間だ。 己を腐りっきった屑と自称するまでに至るほど、必要とあれば手を汚すことに躊躇はしない。 「これは別にあなたを恨んでいるわけでも、見下しているわけでもありません……いや、何を言っても言い訳か」 すぐに終わらせよう、と言葉を途切れさせ、苦しませない斬り方を心掛けるように構えた。 松野はただ、それを呆然と見ていた。 呆然と見つめたまま口を開いた。 「……いやー、ジョーカーちゃんの言う通り演技してほんと正解だったよ、これ」 ごくカラっとした、さっきまでのぼそぼそ喋りとは似ても似つかない声だった。 「それにしても、まさか出会いがしらに殺す宣言されるとか、アイツ何やらかしたんだろ」 右手を後頭部にあててぼりぼりと掻くのと同時に。 その周囲に、サーヴァントの少女たちが出現していく。 驚いたが、同時に納得もし、先刻の『サーヴァントは消えた』という言葉に納得しかけた己を叱責した。 バーサーカーのマスターがばらまいていった魔力の残り香にしては、気配が濃すぎると思っていたところだ。 シップとは似ても似つかない、白黒の巻き毛にトランプ柄の衣装を着た幼い兵士たちだった。 紫のパーカー周囲にはハートが囲み、スペードとクラブの柄が前線に出て槍と棍棒を突き出す布陣だ。 先頭には、ひと目で実力者だと分かるだけの気迫を持った、スペードのエース。 「貴方、松野さんじゃありませんね。……いや、『松野さん』ではあるのか。ご兄弟ですか?」 よく見れば、紫パーカーの男はさっきまでと違うズボンを着ている。 まるで、顔が瓜二つの男と、着ているパーカーだけ入れ替えたかのように。 「同じ顔が、二つあったっていいよな?」 そう言うと、男は素早くわしゃわしゃわと髪を撫でつける。 わざとらしくぼさぼさにしていた頭髪を、アホ毛2本のみの髪型へと戻した。 松野一松では絶対にしない、明るいにこにことした自然な笑顔で名乗る。 「どうもー。松野家の長男、松野おそ松でーっす」 右手の人差し指で、鼻の下を得意げにこすった。 ♠ ♥ ♦ ♣ 「――ダメ」 その一言で、望月の心臓に吸い込まれようとしていた鎌はぴたりと止まった。 その鎌は、一松の額に刺さる直前で動きを止めていた。 ……一松の、額? 気付けば一松は、望月の前に立っていた。 兄の手をふりほどき、望月の前に、彼女を庇うように、そこに立っていた。 「一松、何してるの?」 望月へのとどめを制止した兄は気が付けば目の前にいて、一松にそう訊ねていた。 自分が庇ったことを自覚して足はがくがく震えはじめたけれど、心底から『止めろ』と思ったことは事実なので今さらどくわけにもいかない。 「そんなにその子が大事だったの?」 うるっせぇ、と言わんばかりに真正面からガンを飛ばすようににらみつける。 ところが。 視線がぶつかった次の瞬間、おそ松は笑った。 ふっと、わざと作っていた挑発的な表情から、自然な笑顔へと戻るように笑った。 「あのさぁ、一松」 うん、と一つ頷き。 次の瞬間、がいん、と頭を派手に叩かれた。 容赦のない、げんこつだった。 「お前、こんなに大事なことを、なんで言わなかったの」 戸惑ったようにどよどよっとなるサーヴァントの少女たちを待っててね、と制して、 据わった眼で詰め寄られる。 いや、なんで今まで言わなかったとか、こいつにだけは言われたくない。 「俺、お前のことは外で映画を見ただけでもきっちり報告をいれてくれる子だと思ってたんだよ? なんで今回は言わなかったの、すっげぇ大事なことじゃん!?」 苛ついたようにダンダンダン、と地団太を踏み鳴らされた。 なぜ急にこんなに怒り始めたのか、一松には分からない。 「な、なにそれ。自分だってこっそり聖杯戦争やってたくせに」 もう長男にとって、彼等を始末することは確定だったはずだ。 どうしていきなりごね始めたのか、一松には分からない 「そこじゃねぇよ! どうでもいいんだよ聖杯戦争なんか!!」 言い切った。 さっきまで聖杯に願って死んだ人たちを取り戻すとか何とか言っていたくせに、『どうでもいい』とか掌を返した。 じゃあ報告しろと言っていたのは何だ。 分からない。 この長男のラインが分からない。 聖杯戦争がどうでも良くなるほどの重大事なんか―― 「友達ができたなら、ちゃんと言えよ!!!!!!!」 ――――――――――えっ 全く予想もしていない方向からガツンと殴られた、気がした。 「お前が猫以外の他人を庇うなんてよっぽどのことじゃん!! なんで言わないの!? 友達多いトッティならともかく、お前は言わなきゃだめだろ!! お前に友達ができないの十四松とかみんな気にしてたの、知ってるだろ? お兄ちゃん、てっきり弟のガールフレンドぶっ殺すとこだったじゃん!」 「い、いや、今まで、友達とか考えたことなかったし。こいつサーヴァントだし」 いや、弟のガールフレンドぶっ殺すも何も、直前にその弟を殺そうって話してたじゃないかアンタ。 色々とツッコミどころ満載な雰囲気におののきながらも、ぼそりぼそりと答えると、兄は納得したように「あー」と頷いた。 「なるほどね。自覚無かったんだ。まぁ分かるよ。 初めての経験だもんね、それは仕方ない。でもさ、俺びっくりしたよ。本当にびっくりしたよ。 お前でも、女の子をかばって身体張ったりするようになったんだ」 そう語るうちに、1人で納得したのか、うんうんと頷く。 右手がゆっくりと、こちらの頭上にのびた。 ぽむ、と掌が髪の上に置かれる。 「やるじゃん! すっげぇ見直した! お前が女の子から『楽しかった』って言われるなんてよっぽどのことじゃん。すごいすごい」 ワシワシと撫でられた。 褒められている。すごく撫でられている。 こちらとサーヴァントを殺そうとした人間に、今は褒められている。 その時だった。鎌を持ったジョーカーの少女が、硬い声で会話に割り込んだ。 「マスター。田中が、あと数分でこの近辺に到着するとクラブの5から報告がありました」 「マジで? 俺らがちゃんと捕まえたか確認しに来るの?」 「そのようです。向こうとしては、約束の成立を確認したい立場ですので」 「んー、田中ちゃんの令呪だと『一松とそのサーヴァントに手を出すな』とまでは言ってないしなぁ。 しばらく、俺の気が変わったことは、ばれない方がいいと思う」 「御意。具体的には?」 「そうだなー」 ちら、とこちらの格好を上から下まで見られた。 「ねぇ、何の話してるの?」 「よぉし。一松、『ばんざい』しようか」 「は? なんでばんざい?」 「いいからいいから」 ぐい、と両腕が引っ張られて頭上へと上がる。 直後、パーカーの裾を掴まれて強引に脱がされた。 ばんざいの状態だったので、するりと袖を抜かれる。 「え、いやちょと待てゴラ!」 話の流れは見えないしさすがに気持ち悪いわ! と思ったら、 腕まで自由になった直後に、ぼすっと何かを投げつけられた。 兄の着ていた、赤いパーカーだった 「はい、これ着て。さすがにズボンまで履きかえてる暇はないか。 それから髪はちょっと整えないとね。 あとボソボソ喋るのもなるべく禁止。闇のオーラも引っ込めてほしい。 田中ちゃん達には『弟』とは言ったけど『一卵性』とは言ってないから、たぶんこれでばれないでしょう! あとは、ジョーカーちゃんが考えた言い訳を覚えて――「いや、何言ってんの?」 「ん? 正しい『おそ松兄さん』のやり方」 「正しいおそ松兄さんのやり方って何だー!?」 「言っとくけど、これ別にお前のためとかじゃないよ?」 嫌な予感がする。 嫌な予感がすることなのに、この兄がわざわざ『弟に責任はない』とか言及しているのが、なおさらいつもと違う。 「ちょっとけじめをつけるだけだから。 こっから先は、ギャグとか言わない自己責任アニメみたいな感じで」 ♠ ♥ ♦ ♣ 松野家長男であるおそ松の眼から見て。 いや、おそ松以外の眼から見ても。 松野一松には、友達ができない。 本人は、友達なんか一生要らないと言っている。 でも、本当は友達がほしいと思っていることを、松野家の兄弟は知っている。 松野家の六つ子の四男にとって、友達を作るということは他のどんな行為よりもハードルが高い。 それだけ、一松は兄弟以外にとてつもない壁を作っている。 まともに会話ができないし、善意を示されても受け取ることを拒否するし、人と距離を縮めるのが怖いから毒舌を吐いて突き放す。 自分には価値が無いから、友達になってくれる人間なんているはずがないと諦めている。 この先、ニートが珍しくやる気を発揮して、猫カフェとかの面接を受けて仕事に就けることがあったとしても。 独り立ちがしたくて、財力も住むアテも何もないのに、家を飛び出してどうにか生きていくことができたとしても。 そういうハードルを越えられた時も、ついぞ友達を作ることだけはできないのではという気がする。 イヤミやチビ太、ハタ坊、トト子といった幼なじみとはずっと交流があるけれど、一松が彼らのことを『友達』の括りにいれないのはたぶん、 あくまで『六つ子』として親しくなった関係であり、『一松が自力でつくった友達』ではないからだ。 それはきっと、松野家に宝くじが当たって、それこそ一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入るよりも珍しく、とてつもない重大事だ。 なぜなら、お金は世の中のどこにでもあって、たまたま六つ子のところには入ってこないだけに過ぎないけれど、 『一松の友達』は、一松自身が頑張らなければ世界のどこにも存在しない。 一松は、頑張れない。 兄弟(みんな)がいるから友達は要らないと、自分に言い聞かせていた。 その、一松が。 自分が死んでも守りたいほど――誰かのことを大切に想い、近い距離に置いている。 サーヴァントだから、という理由だけではない。 サーヴァントが死んでもマスターは即死しないのに、それでもおそ松の手を振り払って庇おうとした。 直後に一松と眼をしっかり合わせて、本気の眼なのかどうかも確かめた。 まったく、おそ松の愚弟ときたら、自分が自分にとってどれだけの偉業を成し遂げたのか、ぜんぜん自覚していなかった。 その相手は幼い女の子で……見た目の年齢差とか考えると犯罪じみてくるから、『ガールフレンド』なのかとか考えるのは、ひとまず止めておくけれど。 『イッチー』というあだ名で呼ばれて、『楽しかった』と本心から言ってもらえる関係を作っている。 あの性格がひんまがった一松を相手に、『楽しかった』と言ってくれている。 なんだ、この女の子めちゃくちゃいい子じゃん、と思った。殺そうという発想はもう無かった。 精神年齢を比べれば、おそ松は、一松よりもずっと子どもだ。 だがしかし、おそ松は一松の兄であり、一松はおそ松の弟だった。 聖杯に願いを賭けて、最終的にみんな生き返らせればいい、という神父の話は、ころりと信じた。なぜならおそ松は、バカだから。 それに、ヘドラのとてつもない被害だとか、自分が命令してシャッフリンがやってきた罪の重さだとかを考えると、 『これはいつもと同じで、どうにかやり直しの効くイベントなんだ』と思いながら聖杯戦争に臨める方が、正直なところ楽だったから。 それに、その案ならば、最終的には兄弟の誰も喪わずに、確実に元の世界に帰ることができるから。 少なくとも、六つ子の誰かを永久に失うことになるなんて、最初から考えもしていなかった。 とりあえず『また兄弟揃ってのニート生活に戻る』ことは大前提のように、ことさら意識するまでもなく、そう動くつもりだった。 聖杯を獲って一攫千金だと目が眩んでいた時も、シャッフリンのしでかしたことに怯えて泣いてしまった時も、今になってもずっとそうだった。 だって仕方ない。 別に他人なんかどうなってもいいとまでは思わないけれど、会ったことのない有象無象の命と、身内のそれとで、前者を取れと言うのはちょっと有り得ない。 『いつも通り』ならば、『いつも通りにやってもいい』ならば、六つ子は平気で兄弟同士を蹴落とし合う。 自分の保身のために襲われている兄弟を見捨てて逃げるぐらいは平気だし、聖杯はおろかおやつの取り合いをするだけで殺し合いに発展する。 別にすごく仲の良い兄弟じゃない。 5人の敵と言っても正しい関係だ。 だけれど、せっかく兄弟が真剣にがんばって、きっと緊張したり、不器用に話しかけたり、たぶん猫と遊んだりしながら友達を作ったのに、女の子を庇う気概を見せたのに。 それを応援しないなんて、そんなのは兄弟(強敵)として失格なのだ。 この戦争が終わるまでの関係だろうと、二人にとって後味の悪い終わらせ方なんてしたくない。 世の中には、お互いに憎からず思っていても、振られて別れて、離ればなれになってしまうような二人だっているのだから。 ……一松が探さないなら、俺達も探さないよ? 弟の猫(ともだち)がいなくなった時、一松にそう言った。 弟は、自分で探り探りして、そして見つけたのだ。 本気の本気で睨み返してきたのが、その証拠だ。 だから、お兄ちゃんは応援する。 そういうものだ。 とてもシンプルな理由だ。 弟にはじめて友達ができて、兄は本当に嬉しい。 すごく寂して、すごく嬉しい。 たとえ今が聖杯戦争の真っ最中だろうと、 『田中』を初めとする身内を失った人たちからクズ外道と謗られようとも、 こればっかりは仕方ないし、絶対に譲れない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 住宅街の中にぽつんと作られたある程度の広場――公民館の駐車場に、戦場は移されていた。 「最初は『ちょっと理由があって、アンタらと一緒にいるのが良くないからウチの弟を探さないでください』ってお願いしに来たつもりだったんだけど。 なんか試しに一松の振りしてみたら、『交渉の余地無し』って感じ?」 スペードのエースが、眼にも止まらぬ敏捷さで槍の穂先から火花を生み出し、捌いている。 火花を生むのは、おそ松の台詞が届いているのかいないのか、青年の携える闇色の大剣が、受け止め、押して押され、弾くことで生まれる剣戟だった。 眼にも止まらぬ速さ。それはありきたりの表現だが、おそ松の視界では本当に追いつけないどころか、火花の煌きさえ残像でぶれて見えるほどのありさまだ。 おそ松どころかそれ以下のスペードの上位ナンバーでさえも、割って入ることを許されないレベルの戦闘だと悟り、ただ槍を構えるのみに徹している。 剣戟の風圧だけで、駐車場のアスファルトに亀裂が入り、破片となって散っていく。 両者の風圧はの余波は、やや離れた場所で観戦するおそ松たちにも届いていて、その迫力に周りを囲むハートシャッフリンたちを振るえさせつつも、 『エースが戦っているのだから自分たちもしっかししなければ』と言わんばかりに背筋を伸ばしてまっすぐな防御陣をつくらせる。 何も知らぬ者から見れば、黒いセイバーの青年とランサーの少女の激突かと錯覚しそうなほどの、真っ向からの決闘じみた攻防だった。 『マスター、戦況はスペードのエースに有利です。ご安心を。 得物と技量では相手の方が上、敏捷さと小回りでこちらが勝っていると言ったところでしょうか』 そばにいるジョーカーから、念話が届く。 ひょえー、シャッフリンちゃんってこんな強かったのかー、とおそ松はその感想を念話に出さずに内心にしまった。 直接話すこともできる状況ではあるのだが、ある理由から、この戦闘では念話で話そうということになった。 『……なんかごめんね? ころころスタンス変えちゃうマスターに巻き込んじゃって』 『変わっておりません。我々の仕事は、一貫して主様に下郎の刃を近づけないこと』 『……ありがと』 すぐそばにいるハートの3番の服を着たシャッフリンの手を、ぎゅっと握りしめた。 よく目を瞠って見れば確かに、敵のランサー(ランサーなのになぜか剣使いだ)は、大剣を生かした押しつぶすような打ち下ろしの攻撃をよく行い、スペードのエースは小回りを利用した攻撃を駆使しているように見えた。 スペードのエースは槍を振り回しての足払い、足先狙い中心の攻撃に切り替えて攻勢を続けている。 圧倒的に身長で上回っているランサーは、低所からの攻撃を裁くために必死になっているように見えた。 『ここで仕留めますか?』 『んー。でも、あのひとを消しちゃうと、田中ちゃんの仲間も半日以内に死んじゃうんでしょ? ならいいや。ただでさえ約束破って逃げることにしたのに、これ以上恨み買うのも良くないと思うし』 『御意。しかし、敵の方はこちらを仕留めるまで退くつもりは無いようです』 『どうにかやっつけて、一松を諦めてくれたらいいんだけどねー。 あ、でもスペードちゃんたちの方が危ないようなら、その時は遠慮しないでいいから』 『各スペードにそう伝達します』 やがて両者は、いったん仕切りなおすように間合いを取った。 槍使いの筋骨たくましい身体と、魔法少女のみずみずしい白肌を、汗が幾筋も浮いてはすべっていく。 おそ松は、早く終らせたい一心で呼びかけた。 「ねぇ、そろそろ止めにしない? これってそっちのマスターに無断でやってるんでしょ? 早いとこ終わらせないとマスターが来ちゃうよ?」 「そういうわけにはいかない。 貴方の弟は、僕のマスターの生命線になる情報を握ってしまっている。だから、このまま消えられては困る。 あの人の様子だと、威圧されたり拷問でもされたりしたら、すぐに情報を吐いてしまいそうだろう?」 「あーそれは有りそう。うちの兄弟どいつもクズだから」 『マスター、そこは嘘でも否定すべきかと』 「――じゃなくて。ほらそこは俺からよく言って聞かせるから。 もう絶対にそっちに関わらせないから」 「それだけじゃない。貴方はどうやって弟さんの危機を察知して、タイミングよく現れた? 貴方も僕たちの動きを見張っていたんじゃないのか?」 「ぎくっ」 「しかも、カマをかければそこまで動揺するということは、『弟のことが心配でつい』というわけでもなさそうだ。 そうやって得た情報を、誰かに売ろうとしていたか、聖杯を狙っていて利用できると踏んでいたか」 「ぎくぎくっ」 「ちなみに、その『売ろうとしていた相手』のことは教えてもらえるかな?」 「いや~、それは無理かなぁ。正直に言ったらおれもジョーカーちゃんも、たぶん全方向から許してもらえないなぁ……」 『まさにこのサーヴァントのマスターを人質に取っていましたからね』 『ジョーカーちゃんのせいだからね!?』 「なら仕方ない。今は貴方を拷問して洗いざらい吐いてもらう時間も惜しいんだ。 つまり、分かるだろう?」 「い、いや、でもさ? スペードのエースちゃん達も強いよ? すぐには倒せないよ?」 「ここからは、そうはならない」 そう言い放ったのは、おそ松だけでなく、己の両手にある大剣――偽槍に対してもだった。 己が腐っていることが鳴に露見して、信用を失ったり嫌われたりするのはちっとも構わない。 けれど、それであの無垢な少女が、ランサーのために穢れようとすることだけは、あってはならない。 一刻も早く、全ての災いの種を潰す。 しかし、単純な力量のぶつけ合いでは、スペードのエースが現状で上回っている。 状況の膠着を打破するためには、単純な白兵戦に勝る技を繰り出すしかない。 もしもマスターがこの場に来てしまえば、穢れを見せまいとしてきた、これまでの全てが無駄になる。 その焦りが、らしくない早急な判断に繋がっていく。 禁忌であり切り札となる宝具の使用を、そこに決断させた。 「行くぞ――そして来い、偽りの槍よ」 元々、彼はその宝具――『創造』の使用を、生前から極力は拒んでいた。 一度でも吸い取られれば、魂を吸いつくされて心の無い戦奴にされる不安は、彼にとって何よりも忘れ難いものだ。 しかし、サーヴァントとしての彼はその『戦奴にされる』という状態まで宝具――真名を開放して、初めて行使する手段となっている。 そのために、生前は戦わない時でも絶えず感じていた喰いつくされるような灼熱地獄も、召喚されてからはまるで感じたことがない。 その安堵が、彼の鬼札を切る判断を緩めてしまったことは否めない。 かくして、彼は開いた。 地獄への扉を。 ココダクノワザワイメシテハヤサスライタマエチクラノオキクラ 『許許太久禍穢速佐須良比給千座置座』 「血の道と 血の道と 其の血の道 返し畏み給おう」 その詠唱が始まった時、『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』が哭き始めた。 猛悪なまでの、凶念がやって来る。 寄越せ、寄越せ、魂を寄越せ。 「な、なにこれ!? 何かヤバい! 分かんないけどヤバいことだけは分かる!」 『おそらくは、固有結界の詠唱かと』 その槍の意味をしらないシャッフリン達にも、おそ松にも伝わるほど、凶暴な『飢え』が槍から叫ばれている。 それも、敵に向かって訴えるものではない。 使い手である、櫻井戒への要求であり、支配欲であり、代償であり、蹂躙だった。 にも関わらず、それらを向けられていないシャッフリンの全てが、間接的に伝わってくる余波の振動ひとつで『食われる』恐怖を、『地獄の業火で焼かれるように』料理される感覚を知覚してたじろいでしまう。 その吠え猛りを直接に受け止めることが、そのまま櫻井にとっての狂信となる。 この狂った穢れに耐えきれる己は、この凶暴さを利用しようとする櫻井戒は、 まぎれもなく、魂から腐りきった屑である。 「禍災に悩むこの病毒を この加持に今吹き払う呪いの神風」 この世に存在する天つ罪、国つ罪の全てを己が被ろう。 畔放(あはなち)、溝埋(みぞうめ)、樋放(ひはなち)、頻播(しきまき)、串刺(くしさし)、生剥(いきはぎ)、逆剥(さかはぎ)糞戸(くそへ)。 ありとあらゆる、全ての穢れを己に集めよう。 「橘の 小戸の禊を始めにて 今も清むる吾が身なりけり」 生膚断(いきはだたち)、死膚断(しにはだたち)、白人(しらひと)、胡久美(こくみ)、己が母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、畜犯せる罪、昆虫(はうむし)の災、高つ神の災、高つ鳥の災、畜仆し(けものたおし)、蠱物(まじもの)する罪。 全ての罪悪を、全ての病を、全ての災害を、引き受けよう。 「千早振る 神の御末の吾なれば 祈りしことの叶わぬは無し」 全ての穢れは、己にあり。 我が祈りは、無双なり。 なればこそ、愛しい者たちが穢れを被る道理は無し。 それが叶わぬことなど有り得ないと、眩しい世界を守るために己を穢す祈りの歌だ。 「創造」 人間が、己自身を毒の地獄へと変性させる。 此処にいるのはもう――いやとっくに、『優しくも厳しいお兄さんの櫻井戒』などではない。 全身が腐りきった、異形への創造だ。 それまでの激しい剣戟と比べれば、いっそ軽くおだやかな動きで大剣が動いた。 スペードのエースはそれを槍の先端で難なく止め、打ち払う動きにつなげようとする。 つなげようとした――できなかった。 先端が、その瞬間に腐り落ちた。 日中にいちど折られ――そしてダイヤのシャッフリンが鍛えなおしたスペードの槍が、ほぼ『溶けた』と言っていい腐敗速度でボトリと落ちた。 「!?」 スペードエースはその表情に驚愕を浮かせながらも、とっさの判断から槍の石突でランサーの身体を打つべく槍を回転させる。 回転させようとした――すでに槍の石突まで、得物の全体に腐敗が進行していた。 瞬く間にボロボロと形を崩していく槍に、スペードのエースは数秒も断たないうちに無手となる。 「――!」 それでも闘志を失わず、ランサーに組み付いて得物を奪おうとした身体が抉られるように倒れた――得物も使わない、ただの蹴りに倒された。 まるで、蹴激の威力だけではない、身体を真の意味で『削る』ような別の力が、そこに働いたかのようにキレイに倒された。 「エースちゃん!?」 おそ松の悲鳴は、おそらくエースの耳に届かなかった。 倒れた瞬間に、巨大な大剣がその顔面に真上から刺さったからだ。 シュウシュウと、硫酸でも爆ぜるような腐敗の音が、致命傷を受けたエースの鼻梁あたりから聞こえてくる。 彼女は顔面を潰されてもまだ戦おうとするかのように、どこかにいった得物を探すかのようにジタバタと動いていたが、ランサーはそれをすっかり無視して剣を引き抜いた。 残ったスペードの軍団を突破しようと、散歩か何かと変わらぬ平常の足取りでスタスタ歩く。 そこからは、腐敗地獄だった。 しかもその地獄そのものは、先ほどまで人間の姿だったサーヴァントただ1人を指していた。 槍をひとたび振るうごとに、受け止めたスペードの槍の方が腐る。 数で包囲してランサーを槍で突き刺したところで、刺した槍の方が腐って、ランサーにはボロボロの木切れで突かれたほどの傷跡さえ残らない。 刺した槍から腐敗が伝染して、シャッフリン自身が両手から腐っていく。 シャッフリン達に、初めから回避するという選択肢は無い。 避けたり、逃げたりすれば、後方にいるジョーカーとマスターが護れない。 スペードのキングが腐敗した大剣で腹を貫かれ、 スペードのクイーンがそのまま振り回された大剣をぶつけられてキングごと腐り、 スペードのジャックがランサーの身体に槍を突きたてたばかりにその両手をボロボロと腐り落とし、 スペードの10がジャックを開放しようと支えて、ジャックに触れた面から腐り始め、 クラブのジャックが、気配遮断で潜っての不意打ちを頭部に与えようとして、頭部に振り下ろした棍棒が腐ったためにバランスを崩して落下し、 クラブの9が、少しでもランサーの足を止めようと足元にしがみついて上半身を腐らせた。 「相手が悪かったね」 数字の大きい方から次々と倒れていくシャッフリンたちを哀れむかのように、腐敗地獄は宣告する。 その声まで、声帯を腐らせたかのようにヒビ割れていた。 姿は人間で、しかしそこからは鼻が曲がりそうな――曲がるのを通り越して鼻まで腐りそうなほどの腐臭がおびただしい。 素手だろうと、武器越しだろうと、『相手に触れることでしか戦えない』者に、 黒円卓の第二位が破れる道理など絶対に有り得ない。 時間をかけないという宣言の通り。 一分も断たないうちに、兵士たちの数が半分を割った――それも、致命傷を受けたのはほとんど上位ナンバーだった。 戦場の兵士たちに使う用語で言えば、壊滅状態だった。 折り重なったトランプ兵士たちのさらに向こう側には、ガタガタ震えるハートに囲まれて、それ以上にガクガクと震える彼女たちのマスターがいる。 初めて目の当たりにする『可愛がっていたシャッフリン達が犠牲になっていく姿』に、歯の根がカチカチとなっている。 しかし彼は、震えながら、ハートの3番を付けたシャッフリンと、ジョーカーの柄に鎌を持ったシャッフリンを両腕で抱きしめるようにしている。 彼女たちと念話で何事かを話すように、視線を交わしている。 そして、傷つきながらも立ち上がろうとしている生き残りシャッフリン達に、泣きそうな声で言い放った。 「ジョーカーちゃんごめん。令呪、使う。 『諦めるな。命令を待つんじゃなく、周りを見て戦え』」 マスターの身体から、令呪の発動を示す魔力光が放たれた。 その輝きに呼応するように、シャッフリン達の眼に戦意が宿り始める。 戦線に加わらずに待機していたダイヤのスート十三体までも加わり、マスターを囲んでいたハートのスートのうち約半数も前線に加わるよう前にでる。 「もう一回! もう一回、令呪を使うから。『■■、■■■■■■■■■■、■■■』」 二回目の令呪は、ごく小声だった。 何を言っているか、唇の動きだけではランサーにもいまいち読み取れない。 しかし、一回目の令呪を重ねがけするような類のそれだったらしく、生き残ったシャッフリンたちが、ボロボロの者も含めて気力をより充溢させたように立ち上がる。 「それは根本的な打開策にはならないよ。僕みたいな屑と出会ってしまったのが運の尽きだ」 幾らなんでも、令呪の大判振る舞いにもほどがあった。 ここでシャッフリン達が倒されたらマスターの死も避けられないとはいえ、それでランサーの腐敗を食い止められない以上は焼石に水にもほどがある。 だが。 「…………屑って誰のこと?」 櫻井戒の言った言葉に対して、松野おそ松が顔を上げた。 ふたたびランサーと目を合わせ、そう訊ねた。 「僕のことだよ。松野さんたちとは、住んでいる世界が違うことがよく分かっただろう。 とても家族には見せられたものじゃない。こんな腐った世界に好きこのんで浸かっていられる、汚い手も平気で使う人でなしが、屑でなくて何なんだ?」 それは、彼を諦めさせるための台詞だった。 戦争も殺戮も、裏社会の黒円卓のことも何も知らない、 ただの貧相で弱っちい『バカ兄貴』が、そこそこ強いサーヴァントを引いただけでどうにかなる世界ではないのだと、 そう悟すための、台詞だった。 だから、 「そんなわけ、ないじゃん」 真っ向からの否定が返ってくるなんて、思わなかった。 「アンタ、兄弟が誘拐されたのに見捨てて家で梨食ってたことある?」 「――え?」 何か、ひどく人間失格な行為を聞いた気がする。 おそ松が口火を切るのに合わせて、シャッフリン達も腐らずに残っていた武器を構えて臨戦態勢を取った。 時間をかけるわけにもいかないランサーは、戦闘の続きを再開してシャッフリン達をどかすために大剣を振るい始める しかし、声も枯れよとばかりの大声で、その男はがなり立て始めた。 「おやつの今川焼欲しさに弟妹(きょうだい)とガチで殺し合ったことは? 弟がそこそこ頑張ってたバイトを、気に入らないからってだけでメチャクチャに荒らしたことある? 女を買う金を作るためだけに、家財道具全部売り払って家族に怒られたことあんの!? 自撮りの背後に全裸で映り込んだことは!? リア充がバーベキューしてるのにムカついて石投げたことは!? ハロウィンの日に知り合いの家に勝手に上がりこんで、家財道具ぜんぶ巻き上げたことはあるか!! どれも無いんじゃないの!?」 大剣の一刺しで、クラブのシャッフリンを庇ったハートの腹を貫く。 しかし嫌が応にも耳に入って来るのだ。 櫻井戒は、悪の組織に所属する堕落した存在だ。 しかし、社会的な常識はバッチリある。 だから『そんなゲスいことをする人間が本当にいるのか?』と素で思ってしまう。 危うく自分が8歳の妹からおやつを取り上げて1人ゆうゆうと食らう光景を想像しそうになり、イカンイカンと首を横に振った。 「就活に充てるために貰った金で、真昼間っから酒飲んだことは? 弟が勝ってきたパチンコの金、根こそぎぶんどったことある? 親友が金を貸してくれなかったからって、八つ当たりでそいつの車をボコボコにしたことある!? 小さな女の子を連れてパチンコに行ったことは? ゲームなんだって勘違いして、たくさんの人を殺すように命令して自覚無しだったことはあんの? どれも無いのに、自分のことを『屑』とか言ってんじゃねぇバーカバーカ!!」 どうやらハートのシャッフリンに限れば、他のシャッフリン達より頑健さが抜きんでているらしい。 刺しても払っても腐敗の進行速度が遅いし、それを心得ているかのようにクラブがやスペードの残党が攻撃されそうになると庇うように前に出てくる。 しかしなぜだろう。 黒円卓で、様々な悪逆非道に手を染めた狂人たちなど見慣れているはずなのに。 何百人を殺したとか犯したとか聞かされるより、 常識ある人間として、そっちの方が生理的に屑に感じてしまう不思議。 ――いや、違う。 松野おそ松が自分のことをどう罵ろうと、櫻井戒が屑だということに変わりないはずだ。 櫻井戒が己のことを屑だと自称するのは、べつにただの自虐とか被虐趣味だとかでは断じてない。 妹や大切な人を穢さないためならば、自分がどんな汚れ役でも引き受けると、 家族や近しい人達を守り抜くという、誇りも確かに存在する自己認識なのだ。 「だいたいアンタ、俺が弟の為にここにいると思ったか!! 違うもんね!! 俺、嫌々やってるだけだからね!! 実はさっきだって、弟殺せば聖杯が手に入るって思ったら弟殺しかけたからね!! 本当は今だって、こんなんとっとと終わらせてハムカツ食いたいぐらいしか考えてないからね!!」 何度も何度も起き上がる、ハートのシャッフリンたちに焦燥を感じる。 ハートたちが倒れそうになったら武器を持たないダイヤのシャッフリンがそれを支え、敏捷さでわずかに勝るスペードの下位ナンバーたちは攻撃するよりもちょろちょろと駆けまわり、ランサーの視界を遮るようなものを投げつけて攪乱に徹し始めている。 そいつらを掃討するための効率的な攻撃手順を、頭の中で組み立てる。 しかし、声は聞こえている。 そして思う。 「弟妹(きょうだい)は、もっと大切にした方がいいんじゃないかな?」 思っただけでなく、口に出してしまった。 櫻井戒にとって、日常とは眩しく美しいものだ。 弟妹(きょうだい)とは(妹しかいないけれど)、無垢でかわいらしくて仕方がないものだ。 誘拐されたのに忘れ去って呑気に梨を食べるなど考えられない、外道の所業だ。 『日常』を踏み躙るような発言を口にされて、つい『相手の言葉に耳を傾けている』ことを認めてしまった。 「うっ、せー、よ!! やっぱりお前は『屑』じゃねえだろ! 『弟を大切に』とか『長男だから』って言われるのが一番ムカつくんじゃボケェ!!」 彼の『己は真底から腐った屑である』という自己規定に、『この眩しい日常で生きることを選べない人間だから』という憧れもあったことは想像に難くない。 「弟達なんか嫌いだし! 死ねばいいのにって割と本気で思ってるし!! 何かあると比べられるし、どこ言っても指さされるし、 こっちが寂しがってるのに遊んでくれないし、お兄ちゃんだからって優しくしてくれたことなんかほとんど無いし! 家族に見せたくないとかバカじゃねぇの! どうせどんな弟妹(きょうだい)だって、そのうち自然に汚れてくもんなんだよ! 今は可愛い年頃かもしれないけどな! どうせあと十年もしたら溺愛された反動で頭がアホの子とかになって、危ない彼氏とかにガンガン貢いだりして家族の頭が痛くなったりするんだからな!」 「ひ、人の妹を一緒にするな! 僕の妹は誰にも汚させない!!」 つい、ガチの反論になった。 逆に言えば、櫻井戒には、日常こそが地獄だったと主張する人種への耐性が無い。 そして、このK市に松野家ほど、眩しい若者時代だとか、あたたかな日常だとか、美しい兄弟愛に対する幻想を破壊する家庭はない。 一方でおそ松は、信じている。 味方は己とシャッフリンだけであり、兄弟は五人の敵である。 世界はすべからく、五人の敵に比べれば取るに足りない中立であり、 六つ子に産まれてしまった日常とは、常に甘やかな地獄なのだ。 「汚さないとか無理に決まってんだろバーカ! むしろ俺だったら率先して道連れにするね! 誰か1人だけ上に行くとか絶対に許せるか! 行先が地獄でも皆一緒なら怖くねぇだろそっち選ぶわ!! キレイなままでいてほしかったら時間でも止めてみろバーカ!!」 もはや、何を言っているのかを自覚しているかさえ怪しい。 けれど、自分自身と兄弟に対する扱いならば、彼はとてもよく知っていた。 なにせ、彼の自意識はたいそう小さくて扱いやすい。 おそ松にとって、時間とは止まらなくていいものだ。 なぜなら彼は、十年たってもやっぱりバカだから。百年先も、生きていればバカをやっているから。 「ふざけるな! 大切な妹を邪道に引っ張りこむなんて、そんなことができるわけないだろう!」 この『聖杯戦争』の中で、櫻井戒も、大切な妹と同年代のマスターを穢れた行いに巻き込むまいとした。 けれど頼もしい彼女は、隙あらばとランサーを助けようと、自ら戦場に出ようとして、なかなかうまくいかなかった。 そんな思いもあって、ランサーはいっそう強く否定の言葉を吐いた。 大切な存在を、自分と道ずれに地獄に落としても上等だなんて、そんな行いがあってたまるか。 そんな人間がいるとしたら、それこそが真のクz―― 「――っ!」 その考えが、脳裏をよぎりそうになったのと同時だった。 一斉に槍と棍棒を叩きつけられた櫻井戒の身体に、『それらが身体を擦る感覚』と、『切り傷を受けたような痛み』が襲いかかったのだ。 「痛い、だって?」 有り得ない。 大剣を大振りに振りぬいて包囲を振りほどき、見下ろせば。 確かに振り払われたシャッフリンの得物には腐食が起こり始めているものの、その速度はスペードのエースを潰した時に比べれば極めて遅々としており、未だ形が崩れていない。 そして己の身体を見下ろせば、武器を撃ち込まれた箇所には、確かに血が滲みはじめている。 「まさか……」 ダメージが、わずかなりとも通るようになっている。 黒円卓第二位の『創造』が、ただの社会最底辺の一般人の心底からの叫びを聞いただけで、綻びそうになっている。 原因があるとしたら、しかしそのせいでしか有り得ない。 エヴィヒカイトの『創造』とは、『そうではないはずがない』と当たり前のように狂信している自分論理の思い込みに由来する。 『それが当然の摂理なのだ』と当たり前のように完全に信仰していなければ、その鉄壁は途端に乱れて崩れ去る。 本来ならば、ただの一般人が『お前はクズじゃない』と吐いたところで『なんでこいつは水が低い所から高いところに流れるようなことを言っているんだ』としか響かないはずの狂信が、ぐらぐらと揺るがされている。 攻撃が有効になったのを見て、シャッフリンたちの眼に『狙い目だ』という不屈の意思が強く輝き始めた。 円形にランサーを包囲し、残ったわずかな人数でも頼りにしあうように目線を交わし合う。 そう、シャッフリンたちだって、もはや人数が三分の一以下に減り、ほとんどが負傷しているか、地面に倒れてもがいている。 それでも、その動きはむしろ洗練されたものになっていた。 洗練されているというよりも――よく、連携が取れていた。 結果的にランサーを『(狙っての事かは怪しいにせよ)おそ松の言葉が効力を発揮するまで、足止めしきる』という役割を果たせるほどに。 誰かに武器が直撃しそうになれば、誰かが手を引いて回避させる。 まだ少しは戦闘力のあるスペードやクラブが犠牲になりかければ、ハートが盾になって少しでも持たせる。 その原因は、重ねがけした令呪の一つ目にあった。 『命令を待つのではなく、横を見て戦え』と。 元々、シャッフリンとはジョーカーという指揮官があってこその存在だ。 しかし、横の連携が取れないわけではない。 彼等は、複製されたホムンクルスだ。個にして全であり、全にして個である。 とあるシャッフリンの後継機では、それを利用した52体全員による『踊ってみた』動画が作られたほど、動きを合わせることは難しくない。 そのことに『集団で一つの作業をすることに慣れている』人物が気づいて、『それが実現しやすいように』令呪で能力を手助けしてやれば、 ジョーカーの命令を待たない一糸乱れぬ連携など、できないはずがない。 「君たちは弱い……しかし、しぶとくて強い」 次々と増えていく切り傷に舌打ちし、ランサーは思うままにならない己が身体でシャッフリンと相対する焦燥を感じた。 松野家のバカ息子は、1人1人ならただのゴミだ。 二十数年生きてきて、それはおそ松も何度となく身にしみている。 そして、シャッフリン達も1人1人ならそう強くない。 スペードのエースは強かったけれど、あれも『先陣を切る』という斬りこみ隊長として求められる役割のための強さでしかない。 しかし今、おそ松にはシャッフリン達がいる。 シャッフリン達には、おそ松がいる。 自分1人では勝てなくとも、自分『達』ならば勝てるかもしれないと、賭けている。 (不味いな……彼等を見つけてから、一体どれほどの時間が経過した?) 本当なら、とっくに口封じを完了させているはずだった。 己が切り札が解除されかかっているという前代未聞の事態もあり、しかしここで撤退するわけにもいかないとランサーは懸命に打開策をひねり出そうとする。 「……ッェ」 しかし、その好機らしきものは向こうからやって来た。 おそ松が、えずくような呼吸を一つ吐いた。 そして次の瞬間、立て続けにゲホゲホと咳きこみ始めて、身を折ったのだ。 ランサーの視力なら、彼が口から吐き出したものの色は分かる。 赤だ。 吐血した。 ハートの3が気遣うように彼を助け起こし、彼の方もそれに甘えるように身をくの字に折ってぶるぶると震えている。 目にするのは初めてだが、包囲を続けながらも主人の方を心配げに見ているシャッフリン軍団を見て、ランサーもさすがに察した。 魔力切れだ。 当然の帰結だった。 プリンセス・テンペストはおそなくとも身体を改造された人造魔法少女であり、保有する魔力量は一般的な魔術師よりもよほど潤沢にできている。 対して、松野おそ松は、魔術師の素養も何もあったものではないただの屑ニート。 シャッフリンはサーヴァントとしては破格なほどに燃費の良い性能をしているけれど、 しかしそれでも、マスターの魔力を必要としない時は『他のサーヴァントをエネルギー源として使った場合』のみだ。 いくら全員で個だからといって、性能Aランクがごろごろと並ぶスペードのエースを含めた53体のサーヴァントを、一般人1人の魔力で動かしていたことには変わりない。 しかも夕刻からずっと、おそ松を守るためにシャッフリンはほぼフルメンバーで働かされっぱなしだった。 今や普段は魔法の袋の中に待機させているシャッフリンも、戦闘向きではないダイヤやハートの下位ナンバーも含めた、フルメンバーで動かし続けている。 令呪を二回も消費したのは、大判ぶるまいでも何でもなかった。 そうしなければ、本当に魔力が足りなかったのだ。 (そう言えば……) 己が常に浴びている偽槍の苦痛に比べれば、ここで伝播する偽槍の邪気は大海の中の一滴のようなものであり、おそ松と櫻井戒では住む世界が違うと先ほどは諭そうとした。 しかし、その一滴こぼれただけの灼熱でも、ただの一般人にとっては業火の炎に充てられるような苦痛のはずだ。 腐り切ったランサーの身体からは、そばにいるのも耐えがたいほどの腐敗臭がしたはずだ。 なぜ、その邪気に耐えてまでここにいる。 自他共に認めてしまうほどの屑が、なぜその地獄のなかで正気を保って啖呵を切り続けていた。 この男は、決して何の頑張りも責任もなしに、ノーリスクでこの場所に立っているわけじゃない。 むしろ、全力でそれらの上に立っている。 ――誰のために? それを考えた時に、理解できた。 二回目の令呪を唱えた時の唇の動きを、今ならはっきりと読唇できる。 そりゃあ小声で言いたくもなる。 妹が大好きな櫻井戒だって、そんなことを言うとなればつい小声にもなるだろう。 『弟と、そのガールフレンドを、守護れ』 まったく、聖杯戦争で自らのサーヴァントに命じる令呪ではないと、戒でさえそう思う。 理解すれば、決して嘲りではない笑みが口元に浮かぶのは抑えられなかった。 「ずいぶんと無理をする……何故そこまで?」 「しーて言えば……さっき、すげぇ嬉しいことがあったから」 弱々しく笑って、そう言った。 紫のパーカーで口元をぐしぐしと拭い、ハートの3とジョーカーに寄りかかるようにして無理矢理立っている。 なんだ、そうか。 先ほどは弟なんか嫌いだと言ったけれど。 それはそれで、嘘では無かったのかもしれないけれど。 けれど、決してそれが全てでもなかったのだ。 ここで退けばランサーに追われて殺される人間がいて、 彼はその人を殺させないためにここにいる。 君も、同じじゃないか。 僕と正反対のようで、しかし、守りたいものは同じじゃないか。 揺らぎは消えた。 『こんなあり方の人間がいるならば、自分はどうなのだろう』と揺らがされていた迷いが、消えた。 きっと今ならば、創造を復活させて彼等を殲滅できるだろう。 しかし。 「ねえ、もう、良くない?」 互いが互いのことを正しく理解したときに、戦う理由は消滅した。 ここまで全力の全開を出せたのが、すべて特定の人間のためだったのだ。 逆に言えば、そこまでの事情がなければ彼はここまで出来なかったし、 なんだかんだでこの人間が、それ以外の目的でランサーたちの情報を『聖杯戦争を賢く生き延びるやり方』のために使って、それでランサーとそのマスターが窮地に陥るところはなかなか想像できない。 互いに互いの立場を何となく理解したので、『相手もそうなんだな』と了解すれば、まぁお互いが不利になる行動はとりたくないな、という気持ちも生まれつつある。 拳を交わして友情が、なんていうきれいな戦いでは無かったけれど。 「ああ、そうだな。……すまなかった」 ランサーの停戦宣言を聞いて、おそ松はそのままずるずるとアスファルトの駐車場に倒れ伏した。 ハートの3番が、かいがいしくひざまくらの姿勢を取る。 他のシャッフリン達も、盾となる数人のハートを残して霊体化した。 「あー……………疲れた」 「しかしどうしたものかな。僕のマスターの同盟者を探ろうとしてる人物の情報は、結局手に入らないままだ」 「いや、そこはアンタ1人で決めることじゃないでしょ」 マスターにもっと相談してからだ、と暗に言われた。 億劫そうにしながらも、ひざまくらのままでおそ松はゆるゆると突っ込む。 「例えばさ、人間の気持ちをエスパーする猫がいて、それが弟妹と仲良かったりするじゃん?」 「は?」 「人の気持ちが分かっちゃう猫だからさ、色々と暗黒面なことを弟妹に吹きこんだりもしちゃうわけだよ。メンタル追い詰めるかもしれないんだよ。 でもさ、その弟は、猫と仲良くしたがってるわけだよ。……俺はそういう時に、猫を取り上げるのは、気が進まないんだけど」 「……それは、猫自身が善意であるという前提だろう?」 「ここには悪意のある猫しかいないっけ?」 「まぁ……そうでもない、か」 妹と同じ字を名前に持つ少女のことを思い出せば、否定することはできない。 言い負かされたような悔しさに見下ろせば、『してやった』という顔をしているにやけ顔がある。 直後に、またゲホゲホと咽始めたけれど。 男女問わず、こういう陽気なタイプにランサーは弱い。いや変な意味ではなく。 「互いの問題が片付いたら、また会えるといいね」 「そん時は同じ戦いもう一回やれって言われても、できないからね」 そんな言葉を別れのあいさつ代わりに、ランサーは背を向けて帰還を始めた。 彼のマスターの元へと。 そして、残されたマスターは呟くのだ。 「もう、働きたくない……」 ♠ ♥ ♦ ♣ 目覚めた元山のところへと戻ってきたバーサーカーは、明らかに様子が違っていた。 呆然として、ぶつぶつと言葉を呟き、それ以外には反応もない。 「音楽家は、また『アレ』をする……呼ばれた……私のことを呼んだ……」 いつもの動作ではあったかもしれないが、こんなに同じ言葉ばかり繰り返し呟くのは初めてだった。 妄執だけでなく、恐怖めいた感情を感じさせるのも初めてだった。 予選からずっとそばにいれば、分かって来るものだ。 「アレは良くない……とても、良くない……アイツは私を呼んだ……おねぇ……なんて呼んだ?」 ひとまず動かないバーサーカーから脇差を縛られた後ろ手で拝借し、ロープの拘束を外した。 それでもまだ、呟き続けている。 それは、サーヴァントの少女を『音楽家』だと判断して襲い掛かったことに関係しているのではないか。 元山がそう推測するのは、難しくないことだった。 同時に、初めての本格的な罪悪感が彼の胸を刺した。 彼女には、特定の復讐相手がいて、その『音楽家』を探しているのだ。 おそらく、その音楽家とやらの『人を不幸にする音楽』によって、打ちのめされるほど酷い目にあったのだろう。 しかし自分は、『不快な音を撒く者』が相手だったとはいえ、彼女の復讐とは直接的に関係のないNPCやマスター達をして、 『あれが音楽家かもしれない』と適当なことを言って彼女の復讐心を利用していたも同然のことをしていた。 それは己が芸術を完成させるためには正すべきことだったけれど、 バーサーカーにしてみれば、本命の音楽家はどこだろうと焦燥に苛まれる日々だったのかもしれない。 幾ら元山のために召喚されたサーヴァントだからと言って、元山はこれまで、彼女の助けになったことがあるのだろうか。 彼女のために『音楽家』を探してやりたい。 君と話がしたい。 元山は初めて、そう思った。 だから、二画目の令呪であっても、バーサーカーのために、ためらわなかった。 「バーサーカー。『落ち着いて、君の本当の仇について思い出してくれ』」 それは、いわば彼女の狂化を一時的にでも解こうとする命令であり、いくら令呪の魔力をもってしても、彼女の精神汚染の深さを加味すればそう通用しないはずの命令だった。 しかし、彼女の願いは『音楽家に一太刀でも浴びせる』ことだ。 ほんの数十分の短い時間であれど、彼女に『マスターとサーヴァントの意思が合致した命令である』という多大な魔力ブーストをもたらした。 だから、彼女に対して、『落ち着いて』そして『音楽家のことを思い出す』効力をもたらした。 「私は――」 だから彼女は、その瞬間だけ取り戻していた。 『家族想い』の、不破茜を。 聖杯戦争家族計画 おそ松さん
https://w.atwiki.jp/tokyograil/pages/109.html
渋谷凛&ランサー ◆Y0s8yQbTc2 「貴方は夢なのよ……」 暗い部屋の中、カノジョは疲れたように、言葉を漏らした。 液晶越しに映る、輝く少女。 カノジョはカノジョを知っているが、カノジョはカノジョを知らないだろう。 液晶は壁だった。 カノジョとカノジョを隔てる、壁だった。 「私の夢……私の、私達の……靴を履けなかった……私達の……」 誰もが見た光、誰もが背負う影。 その光は自分ではなく、しかし、その影は自分自身だ。 「私達が見た、光なのよ……」 己が選び出した希望の光をもって、己が絶望を背負う。 矛盾。 彼女は希望であり、同時に絶望でもあるのだ。 誰もが光を見る。 誰も影を見ない。 「私の……夢……」 しかし、夢は現実ではなかった。 光が暗い部屋を照らしていた。 光が、影を強めた。 ■ 男が、口元に付いた髭を撫でる。 恐らく、日本でなくとも目の前の男を知らぬものは居ないだろう。 いや、知らぬものも増えたかもしれない。 『知らない』ことが、『知っている』者に得も知れぬ恐怖を与えるような、そんな男だった。 彼の者はアドルフ・ヒトラー。 召喚主――――渋谷凛が開いた、なんてこともない歴史の教科書にも名前と顔写真が乗った英霊。 此度の聖杯戦争においてランサーのクラスで召喚されたサーヴァントである。 教科書を閉じ、凛はヒトラーを見る。 ヒトラーは不気味に嗤っていた。 恐怖は感じなかった。 そもそも、現実味を感じていなかった。 「アドルフ・ヒットラー……本当にそっくりね」 「私は本物のアドルフ・ヒトラーさ」 「本物じゃないんでしょう?」 「アドルフ・ヒトラー本物ではないが、人々の心が噂となっていでて生み出した本物だ」 ランサーのサーヴァント、アドルフ・ヒトラー――――そんな仮面をつけられた無貌の神、ニャルラトホテプ。 かのサーヴァントは己の真名を隠すことはしなかった。 「言ってしまえば……私は魔法使いなのだよ、灰かぶりのお姫様」 「知っているの、私の事」 「可能性の一つとしてならばな。数多の少女に求められた少女よ」 数年前までただの少女であった渋谷凛。 現在の渋谷凛は、そんな過去すら信じられないような輝かしい『偶像少女<アイドル>』。 普通の少女がアイドルのトップに立つ。 誰もが夢見る、可能性という希望だった。 凛にとっても、夢の様な出来事だった。 ――――凛はうなじを触った、特に意味はなかった。 思えば、自分の経歴も信じられないようなものだ。 目の前の英傑の経歴も、ある意味では一緒なのかもしれない。 這い寄る混沌、ニャルラトホテプ。 噂話の中に生きる、願いを叶える存在。 そんな神そのものである素性を語り、現在では仮面をつけられた月に吠えるもの。 「しかし、呆けているかのように冷静だな。 ひょっとして、信じていないのか? 無貌である私に仮面をつけられた事実、これはお前が考えている以上に『深刻』なのだよ」 『深刻さを感じていない』など、誰が原因だと思っているのだろうか。 そんな野卑な言葉を飲み込む。 嘲りを浮かべたままのランサーは、ランサーが口にする文面ほどの真剣味を持っていない。 運命を嘲笑うもの。 目の前の存在はニャルラトホテプ、人々の無意識の海から生まれでた存在。 不思議なことに、凛はそのことに対してあまり疑いの念を抱かなかった。 話のスケールが大きすぎて、何もかもが夢のようだった。 魔女に化かされたような、そんな気分だった。 ――――渋谷凛は再びうなじを触った、理由は、特になかった。 強いて言えば、その動作で一人の男を思い出せた。 その記憶が凛の心を落ち着かせた。 「……」 そもそも、何もかもが夢のようだった。 夢だ、夢だ、と、言い続けた物語。 叶える、叶える、と、進み続けた道。 二人で走った道と、二人で叶えた物語。 本当に嬉しかったのに、少し経つと、本当に夢だったのではないだろうか。 凛は誘われた、あるいは、叩きこまれた。 少なくとも、凛の心の表面と呼べる場所には願いといえるものはなかった。 なにせ、願いが叶ってしまったのだろうか。 少女たちが夢を見、少女たちがそんな少女を求める『少女のための偶像<シンデレラ・ガール>』 少女たちが求めた偶像である凛もまた、ある一面においては英霊と言えるのかもしれない。 崇める少女たちが、偶像がより英霊であることを求め、聖杯戦争へと運んだ。 そんな馬鹿なことがあるのかもしれない。 「……」 それを、ヒトラーという混沌は、凛をじっと見ていた。 手を明かしたのも、混沌の計略。 あらゆる方法で、混沌は影として試練を与えようとしていた。 少女が光であるために、影を生みだすものとしてより強い光を発するように。 混沌は、偶像に試練を与えようとしていた。 時計の長身と短針が重なった。 今は魔法がかかった時間か、それとも、魔法が解ける時間か。 這い寄る混沌は、静かに笑った。 人を試す笑みであり、物を捨てる笑みだった。 ■ 耳障りの良い言葉。 煌かしい栄光。 崇め上げる視線。 世界を救う使命と使命への勇猛を、選民の傲慢と非選民への排他へと変える。 己の抱く夢と他者へと与える希望を、他者への蹂躙と自らの優越へと変える。 現在、万能の願望器そのものである宝具、『這い寄る混沌<ニャルラトホテプ>』の解放は行われていない。 聖杯戦争が聖杯戦争であり続ける限り、解放することは出来ない。 しかし、アドルフ・ヒトラーという仮面の奥に潜むものは、無謀の神だ。 この世の影であれとされて、生まれた悪意の権化だ。 一年前まで街を歩いていただけの少女が、今はスポットライトを浴びている。 そんな夢みたいな物語が実現することを体現することで、少女へと夢を与えるもの。 ああ、少女よ。 他でもない、『少女のためだけの偶像<シンデレラ・ガール>』を生み出した者達よ。 お前たちが善意の元に生み出し、自らの手に収まらぬ光に悪意を抱いた灰かぶりの姫。 お前たちが求めた偶像は今、この世全ての悪意の前に晒されているのだ。 お前たちがお前たちの生み出す灰かぶりの姫に成ろうと思う限り、そこに影はあるのだ。 影を背負わぬものが栄光であると思い続ける限り、お前たちは邪神の悪意に晒され続ける。 影を見続ける者こそが、影は消せぬものである知る者こそが、影は善ではないと気づいた者こそが。 唯一、邪神に抗えるのだ。 お前たちはお前たちが生み出した光なんて、そんな下らないものに、何を見た。 光に目が眩み、影を背負ったことに気づかず。 灰かぶりの姫を視認した目に未来への希望を宿し、影響を受けた心に灰かぶりの姫への敵意を抱いた。 灰かぶりの姫へと向ける其れは希望か? 灰かぶりの姫へと浴びせる其れは悪意か? 意味などないのだ。 意味など、何もない。 善意に意味は無いように、悪意にも意味など無いのだ。 灰かぶりの姫が、物語の後も幸福であり続けた意味など、何もないのだ。 ただ、灰かぶりの姫はそこに居るだけなのだから。 【クラス】 アドルフ・ヒトラー(ニャルラトホテプ)@ペルソナ2罪 【真名】 ランサー 【パラメーター】 筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運A+++ 宝具EX 【属性】 混沌・悪 【クラススキル】 対魔力:A+ Aランク以下の魔術を完全に無効化する。 神の御子を手にしたヒトラーは、神の御子と同等の対魔力を持つ。 事実上、現代の魔術師ではヒトラーを傷つけることは出来ない。 【保有スキル】 カリスマ:A+ 大軍団を指揮・統率する才能。 カール・グスタフ・ユングは「ヒトラーの力は政治的なものではなく、魔術である」と語っている。 人間観察:EX 人々を観察し、理解する技術。 人類の影であるニャルラトホテプは、本人が否定したい、隠したい部分も含めた全てを把握している。 しかしその性質故に、希望や創造性を決して認める事はない。 月に吠えるもの:- 無貌であるはずのニャルラトホテプが聖杯戦争においてアドルフ・ヒトラーの仮面を被せられたことで生じたスキル。 普遍的無意識に存在する、神や悪魔の姿をした人格。 あるいは、ニャルラトホテプの一側面。 自らの化身の一つである『月に吠えるもの』を行使する。 ごく限定的に後述の宝具を使用できる。 具体的に言えば、『ニャルラトホテプが被ったヒトラーの仮面』に属する集団・逸話を召喚、模倣できる。 【宝具】 『神聖魔槍・失楽園(ロンギヌス・オリジナル)』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2~5 最大捕捉:1人 アドルフ・ヒトラーが生涯の探索の末に手にした、神の御子の処刑に用いられ聖痕の一つを創りだした槍。 この宝具において傷を負った者は、永遠に治らぬ傷が創りあげられる。 それが高い神性を誇る者の場合、血を流し続けるという神秘的な概念性の毒は強さを持つ。 また、この槍を持って殺害された者はより上等な神秘を持ってしなければ蘇生されない。 『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:1000人 アドルフ・ヒトラーの仮面の奥に潜む、人々の普遍的無意識の世界に潜むニャルラトホテプという存在そのもの。 『意思』というものが全ての意味を持つ普遍的無意識の世界が存在する場合、ニャルラトホテプは全能の力を持つ。 それはニャルラトホテプが望めば世界の創造すらも容易く可能とするほどである。 ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである、正しく人間の考える『邪悪の権化』である。 人が己の中の影を見つめ続けない限り、ニャルラトホテプは悪意によって願望を叶え続ける。 すなわち、世界以外を嘲り笑うニャルラトホテプそのものが最悪の形で顕現し続ける『万能の願望器』なのである。 スキル:月の吠えるものによって限定的に一部を使用できるが、 聖杯戦争が聖杯戦争であり続ける限り、完全に聖杯の枠組みを超越した能力であるため使用不能。 【weapon】 宝具である聖槍ロンギヌス 【人物背景】 アドルフ・ヒトラーは第一次世界大戦~第二次世界大戦期において世界を混乱の渦に貶めた、大きな一因。 ゲルマンドイツを巧みな政治手腕によって支配し、第三帝国を名乗りヨーロッパを蹂躙した。 そんな男の仮面を被った、這い寄る混沌・ニャルラトホテプ。 全ての人間の意識が眠る普遍的無意識の海に生じたダークサイドの権化。 ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである為、人が人である限り絶対に滅ぼせない。 ニャルラトホテプに対抗する手段はただ一つ。 「全てを受け入れた上で、決して諦めないこと」である。 【マスター】 渋谷凛@アイドルマスター・シンデレラガールズ 【参加方法】 何者かに誘われた、そして、その何者かは他人かもしれないし、自分かもしれない。 【マスターとしての願い】 光を強めることを何者かに願われた、そして、その何者かは他人かもしれないし、自分かもしれない。 【weapon】 ある意味では、トップアイドルである凛自身が兵器とも言える。 【能力・技能】 トップアイドル『シンデレラ・ガール』 容姿、歌唱力、挙動、愛嬌、知性――――そんな言葉では説明できない、『言葉ではない魅力』 【人物背景】 彼女は少々勘違いされることが多いだけの、何処にでも居る普通の少女である。 『本当は』『実は』『意外と』、そんな言葉で修飾されることの多い、普通の少女である。 彼女はこの世のものとは思えないほど完璧な、誰もが羨むトップアイドルである。 『やっぱり』『思った通り』『さすが』、そんな言葉で修飾されることの多い、トップアイドルである。 その二つが渋谷凛であり、切っても切れない、二つの渋谷凛である。 【方針】 彼女は人から生まれたものに試されている。 -017 アインツベルンが悪い 投下順 -015 悪魔くん聖杯戦争(法) -017 アインツベルンが悪い 時系列順 -015 悪魔くん聖杯戦争(法) 登場キャラ NEXT 渋谷凛&ランサー(アドルフ・ヒトラー) 000 DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命
https://w.atwiki.jp/wiki11_row/pages/420.html
Fate/Fanzine Circle-聖杯戦争封神陣- 桃色に染まる月の中枢で、盲目白痴の皇が謳っている―――― 唄え、唄え。願うがいいさ、それで衆生は救われる。 ここは■■より両儀に分かれて四象に広がる■■の陣。故に不可能など存在しない。 俺ロワトキワ荘にて進行中の亜種聖杯戦争企画。 企画者は◆p.rCH11eKY。 2015年6月14日に企画が発足し、8月4日にオープニングが投下された。 日本の鎌倉市を舞台にした企画であり、そのため「鎌倉聖杯」と通称されている。 「相州戦神館學園 八命陣」「Dies irae」など、アダルトゲームから参戦したキャラクターが多いのが特徴。 これらの作品から、非常に凶悪なスキルや宝具を有したサーヴァントが多数登場したため、後続の聖杯戦争スレと合わせて、「インフレ三聖杯」とも呼ばれている。 しかしその一方で、おおよそインフレとは程遠い作品である、「がっこうぐらし!」のキャラが持ち込んだゾンビウイルスが、読者諸氏を震え上がらせてもいる。 これらを見下ろす黒幕も、独特な存在感を漂わせており、先の展開が気になる企画であると言えるだろう。 なお、多くの聖杯戦争スレと異なり、招かれたマスター達には、鎌倉市内でロールすべき役割が与えられていない。 このためコンペに投稿された、多くのマスター達が、住所不定の浮浪者として扱われているという、異様な光景が展開された。 2020年5月5日に本編最終話が投下。 同年5月7日から各エピローグが投下され、5月17日で全投下が終了し無事完結を迎えたかに思われたが……。 2020年9月に最終回まで投下した主力書き手の作品に某フリーゲームを対象にした盗作が発覚。 他の企画にも盗作を投下した模様。毒吐き掲示板にも事件が伝わり、それを受けてか2020年10月09日にまとめサイトのトップページから完結の文字が消去された。 参加者 No. マスター サーヴァント 名前 出展作 クラス 真名 出展作 No.01 キーア 赫炎のインガノック-What a beautiful people- セイバー アーサー・ペンドラゴン Fate/Prototype No.02 アイ・アスティン 神さまのいない日曜日 セイバー 藤井蓮 Dies irae No.03 アンジェリカ Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ セイバー 針目縫 キルラキル No.04 すばる 放課後のプレアデス アーチャー 東郷美森 結城友奈は勇者である No.05 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン Fate/stay night アーチャー ギルガメッシュ Fate/Prototype No.06 辰宮百合香 相州戦神館學園 八命陣 アーチャー エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ Dies irae No.07 アティ・クストス 赫炎のインガノック-What a beautiful people- アーチャー ローズレッド・ストラウス ヴァンパイア十字界 No.08 麦野沈利 とある魔術の禁書目録 ランサー レミリア・スカーレット 東方Project No.09 如月 艦隊これくしょん(アニメ版) ランサー No.101 S・H・Ark Knight 遊戯王ZEXAL No.10 佐倉慈 がっこうぐらし! ランサー 結城友奈 結城友奈は勇者である No.11 笹目ヤヤ ハナヤマタ ライダー アストルフォ Fate/Apocrypha No.12 みなと 放課後のプレアデス ライダー ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン Dies irae No.13 乱藤四郎 刀剣乱舞 ライダー ドンキホーテ・ドフラミンゴ ONE PIECE No.14 トワイス・H・ピースマン Fate/EXTRA ライダー 甘粕正彦 相州戦神館學園 八命陣 No.15 古手梨花 ひぐらしのなく頃に キャスター 壇狩摩 相州戦神館學園 八命陣 No.16 ??? ??? キャスター 『幸福』 地獄堂霊界通信 No.17 逆凪綾名]] 魔法少女育成計画 キャスター ベルンカステル うみねこのなく頃に散 No.18 叢 閃乱カグラ アサシン スカルマン スカルマン No.19 衛宮士郎 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ アサシン アカメ アカメが斬る! No.20 丈槍由紀 がっこうぐらし! アサシン ハサン・サッバーハ Fate/stay night No.21 エミリー・レッドハンズ 断裁分離のクライムエッジ バーサーカー ウォルフガング・シュライバー Dies irae No.22 浅野學峯 暗殺教室 バーサーカー 玖渚友 戯言シリーズ No.23 直樹美紀 がっこうぐらし! バーサーカー アンガ・ファンダージ ファンタシースターオンライン2 No. 裁定者 クラス 真名 出展作 Other ルーラー ロード・アヴァン・エジソン 紫影のソナーニル-What a beautiful memories- 外部リンク 支援サイト Fate/Fanzine Circle-聖杯戦争封神陣- スレッド Fate/Fanzine Circle-聖杯戦争封神陣- 第三章
https://w.atwiki.jp/grailwar/pages/81.html
1~6の数字が刻印されたサイコロ。 TRPG聖杯戦争は六面ダイスを多数用いる為、ダイスアプリケーションをダウンロードして使用する事が望ましい。 ダイスアプリケーション 何面ダイスを何個振る、といった行為を再現するアプリケーション。 ダイスアプリケーション例:Skype de TRPG、DiceRoller V2.0 (for Skype)、TRPGダイスツール 例に挙げたダイスアプリケーションは監督役(GM)がインストールすれば全員使用出来るので、マスター(PL)はインストールしなくて良い Skype de TRPGは「サイコロ(任意の数字)d6」と入力して使用 DiceRoller V2.0 (for Skype)は「//(任意の数字)d6」と入力して使用 TRPGダイスツールは「(任意の数字)d6」と入力して使用 判定数 先手判定や逃走判定、攻撃判定、防御判定で能力値と補正値を足した数だけ六面ダイスを振った時の出目の合計。 補正値 スキルや宝具、援護を使用して得られる値。 先手判定や逃走判定、攻撃判定、防御判定は能力値と補正値を足した数だけ六面ダイスを振る。
https://w.atwiki.jp/itan_seihaisensou/pages/20.html
リボンズ・アルマーク(亜種聖杯) 【名前】 リボンズ・アルマーク (Ribbons・Almark) 【サーヴァント】 【性別】無性(外見は男性) 【性格】 一見すると温厚な好青年。 実際は人間を下等生物と見下す残虐卑下な性格。 自分の技能を過信する。 自分こそが全人類を支配するに相応しい存在だと判断している。 【出展】機動戦士ガンダム00 【属性】秩序・悪 【ステータス】 筋力 D 耐久 D 敏捷 C 魔力 B 幸運 E 供給 B 【詳細】 外見こそ人間だが実際は「イノベイド」と呼ばれるホムンクルスの一種。 元は300年前の魔術師イオリア・シュヘンベルグによって鋳造・使役されて来たホムンクルスであったが、イオリアの死後に始まった地球のマナの枯渇によってシュヘンベルグ一族が没落。 その後に才能を買われてアレハンドロ・コーナーなる宇宙開発局所属の魔術師の末裔の元に下り、彼の配下としてシャングリラに落ち着いた。 3ヶ月前に発生した人工衛星スターゲイザーの墜落現場にアレハンドロの付き添いとして宇宙開発局主導の調査に向かい、そこでラクリマを通じて聖杯戦争の存在を認知。 アレハンドロとその他の同伴した宇宙開発局の調査員を皆殺しにしてラクリマをユグドラシル市に持ち帰り、聖杯戦争の再現を行ったこの亜種聖杯戦争の元凶である。 脳量子波と呼ばれる特殊な信号を自在に発する事が出来る。 脳量子波の応用の幅は広く、彼の高い脳量子波の操作技能によって「テレパシー」だけでなく、量子自体をレーダーとして特化させる事で「反応速度の向上」として利用可能。 機械の操作・操縦技術にも秀でている。 アレハンドロが宇宙開発局の辺境伯としてユグドラシル市の市長を務めていた事もあってか、市内全域に人脈を有している。 自分が聖杯を獲得する事で「聖杯(根源)と接続する事で、今後起こるであろう世界の全ての現象を予め理解してラプラスの悪魔を崩す形で世界を歪めて、自分こそがこの世界の救世主になる」事を目標に暗躍を続ける。
https://w.atwiki.jp/222seihaisensou/pages/13.html
はじめて?の聖杯戦争 ◆qB2O9LoFeA 「おっ、いらっしゃいませー。」 その人物ーー便宜的に彼と呼ぼうーーが最初に見たのは青い髪の少女が事務用らしいデスクの前でにこれまた事務用らしいイスに座って煎餅を食べている光景だった。 白一色の廊下。そこにデスクを挟んで立っている彼の顔を見ると「おぉっ!?もしかしてもしかすると‥‥」などといって少女は古めかしいMacを操作する。「とうとうあの世界から」とか「でも勝ち残れるかなー」とか「まあ予選次第かな」などと一人で呟いている。それに彼が困惑して声をかけようとしたとき、これまた古めかしいPHSが音を立てた。 「モッテイーケッサイゴニッワラッチャウーノワッアタシノハッ↑ズッ↑ピ。あ、もしもし?そっちもういれちゃっていい?うん、うん、なんかペース早くなってきたね。うん、そろそろルーラーさんにシフト代わるよ。んじゃねー。」 懐かしの着ウタならぬ着メロを響かせたPHSを切ると少女は彼に向き直りニッコリと笑う。 「おめでとうございます!こちらは第1回ムーンセル聖杯戦争受付です!詳しくはこの廊下の突き当たりにあります面接会場でご説明致します。あ、それとパンフレットどうぞ。」 そう言うと少女はデスクに山積みされた二つ折りの冊子を彼に渡した。 彼の困惑は深まったが別の場所で説明するといわれて素直に従おうとするのは彼の性格によるものかそれともこの異様な空間がそうさせたのか。 とにもかくにもデスクの横を通りすぎて彼は廊下を進み始める。少女の後ろにある段ボールーー中には手に持っているのと同じパンフレットがぎっしりと、恐らく百枚単位で入っている。それが何箱もあることを考えると千枚はおろか一万枚は下らないだろう。ーーに足を取られながらも進んでいく。 だが、いくら歩いても廊下には終わりが見えず同じ光景が続いている。 自然目線は彼の手にあるパンフレットへと向いた。 『第1回ムーンセル聖杯戦争~最強のマスターは俺だ!~』というタイトルの下で全身を金色の鎧で身を包んだ男が不適な笑みで腕組みしている写真が表紙だ。タイトル以外には『七番目のサーヴァントクラス決定!バーサーカー対ビースト完全決着!!』とか『スキルエラッタ プロトタイプルールとどこが変わったの?』とか『英雄王の英霊問答 第一回ゲストは仮面ライダーディケイドさん』とか『ついにあのエピローグが投下!?』などの煽り文句が並ぶ。 ページをめくると、左のページは七かけ二の十四のブロックに分けられていた。左の列にセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー←NEW!と並びクラスなるものの簡単な紹介文が書かれている。右の列にはスキルなるものが存在し、それぞれがどういった効果を持つのかが書かれていた。なかでも対魔力は太字で書かれていて、『魔力の代わりとなるものを用いた攻撃にも対応しました!』などとアンダーラインまで引いて主張している。 そして右のページの英霊問答というやたらきらびやかでこころもち材質も違うページを読もうとしたとき。 ! 今までなかったはずの扉が目の前にあった。 振り返れば白い廊下が延々と続きその果ては見えない。どうやらこの扉を開けるしかないようだと彼は悟ると銀色のノブを廻して部屋へと入った。 「お待ちしておりました。」 部屋へと入った彼をイスに座って迎えたのは黒髪の青年だった。どうぞこちらへ、という言葉と共にパイプイスを指される。彼は先ほどと同じようにデスクを挟んで青年と向き直った。 「上級AIのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと申します。」 そう言って頭を下げるとルルーシュは「規則ですので 価値 の測定を」というとその目に謎の紋様が浮かびすぐ消える。 彼はここがどこか、聖杯戦争とはなにかを尋ねる。それを聞いた青年、ルルーシュは一つ一つ説明を始めた。 「聖杯戦争とは今回我々『第1回聖杯戦争実行委員会』が主催を勤めます『第1回ムーンセル聖杯戦争~最強のマスターは俺だ!~』の略称です。」 「聖杯戦争は聖杯、つまり願望器の所有権を奪い合う戦いです。参加者の皆様には聖杯が再現した英雄をサーヴァントというプログラムとして操り、そのマスターとして最後の一組になるまで戦っていただきます。そして最後の一組には我々『第一回聖杯戦争実行委員会』から聖杯の所有権を譲渡いたします。」 「次に聖杯について説明します。聖杯は量子コンピューターを魔術的概念によって運用している自動書記装置です。地球が誕生してから地球に関する情報を全て記録しつづけています。それによって過去の英雄を再現することができるのです。」 「英雄を再現する際、一定の書式に基づいて再現されます。お手元のパンフレットの2ページを御覧ください。当聖杯戦争ではその七種類の書式に基づきサーヴァントという形で再現いたします。」 「マスターはサーヴァントを令呪と呼ばれるプログラムを用いることで使役できますが通常サーヴァントは自由意思を持ちます。サーヴァントの行動を強制させる場合令呪を一画以上使用してください。なお、一人のマスターには三つの令呪を予選参加時に支給いたします。令呪を全て使いきる、またはサーヴァントを失う等した場合マスターのデータは失われます。」 「今回、記念すべき第一回目の聖杯戦争を行うにあたりまして広くマスターの参加を募りました。有形無形問わず様々な伝達手段を試した結果、我々の予想を大幅に越える参加希望者が現れました。ですが、一度に適正に管理できるサーヴァントの数には限りがあります。そこで当聖杯戦争では臨時に予選を開催することになりました。」 「予選会場は『札幌』『仙台』『東京』『名古屋』『大阪』『高松』『博多』の七つの臨時サーバーで行われます。会場はそれぞれサーバー名の都市を再現しており、現地に配置されたエネミーを撃破することなどで本選参加のマスター及びサーヴァントを決定いたします。」 「お手元のパンフレットの四ページを御覧ください。そこに書いてある番号が参加希望者のIDです。参加希望者は聖杯戦争に道具を持ち込むことができますが、公正を期すために一度だけ元の世界に帰ることができます。その際再び聖杯戦争に参加するためにはお手元のパンフレットが必要です。また元の世界での準備期間は二十四時間とし、それ以上時間が経過した場合パンフレットが自動で消滅しますので遅れることのないようお気をつけください。また持ち込む道具は手に持てる範囲でお願い致します。浮遊、飛行できる物は持ち込む際それらの機能を無効化して検査いたします。ご了承ください。」 「参加希望者は予選開始まで一時データを凍結させていただきます。その後解凍の際一時的な記憶障害を起こす可能性がありますがただちにデータに影響はないものと考えられます。ご了承ください。」 「聖杯戦争のルールは事前に参加者への予告なく変更する場合があります。ご了承ください。」 「当聖杯戦争における参加者間のトラブルに『聖杯戦争実行委員会』は一切責任を持ちません。ご了承ください。」 「それでは さん。一時元の世界に戻られますか?もしくはデータの凍結に移りますか?」 「ルルーシュくんお疲れ~、さっきの人どうだった?」 「‥‥その名で呼ぶな連絡用AI。モデルと俺は関係ない。」 「えぇ~、でも運営用AIって言いにくいし。でどうだったの?」 「元の世界に帰ったよ。たぶん戻ってこないだろうな。」 「え!せっかくあの世界から来たのに!?あの世界ってたしか*��* 二つの上級AIの会話する姿は、見るものが見れば既視感を得られるだろう。 もっとも所詮はただのデータ。ムーンセルが観測した人物の劣化コピーでしかない。 ムーンセルが外部の願望器と接続してもっとも興味を引かれたのは自らと似通った願望器だった。 その願望器は何万という人間のデータを集めその一つたりとも元の世界に帰ることはなかった。はずだった。 ある三人の人間の例外が発生するまでは。 そしてその願望器は、その例外が発生してすぐに消滅した。そのことは聖杯にあるシミュレートを行わせる。 なぜ聖杯は消滅したのか。 ムーンセルはその現象を観測するために動き出す。万全のセキリュティを整え、規格外の人数のマスターを集め、外部の願望器と接続しデータを集める。 そしてムーンセルは考えうる最高のAIを用意した。もっとも優秀でもっとも変化をもたらすであろうNPC達を。 ぶん、という音と共に突如二人の周囲が暗くなる。それを見て連絡用AIはため息を吐いた。 「ねぇ、セキリュティに廻すリソース減らさない?最近なんか体調悪いんだけど。」 「ただ処理落ちしているだけだ。何も問題はない。」 「いやいやいやまずいですよまだ予選も始まってないのにこれは!また『札幌』サーバー落ちてるし壊れるなあ‥‥」 「‥‥もうすぐ試験用に動かしている他のサーバーのテストが終わる。そちらのリソースを回せば対処は可能だ。」 「まあ元は全部ムーンセルだしね‥‥あっそうだ。エデンバイタルのことなんだけどやっぱりうまく接続できなかったよ。あっちの 聖杯の消滅からアクセスができなくなってるみたい。神崎とローゼンは陽介くんが探してるけどなかなか見つからないっぽいね。あとアカシック・レコードはものすごい簡単にアクセスできたよ。『聖杯戦争やるのか!またあの殴り合いが見れるんじゃなっ!』ってムルムルって子が言ってた。やっぱ好きなんだね。」 「やはりムーンセル以外にもあの現象を観測していた存在はいたか。願望器ならありえるとは思っていたが‥‥」 外部との接続を強めるにしたがつてムーンセルはそのセキリュティを強めていった。それは同時に次々と現れる参加希望者達に対処するためでもある。 ムーンセルは、聖杯の消滅はウイルスの感染によるものという可能性を考えていた。あれだけのデータを集めれば悪性情報が紛れ込む可能性もある。それを考えたムーンセルは、その手足となりうるルルーシュこと運営用AIにセキリュティの強化をさせたのだ。 もっとも機能が違う連絡用AIにはそんなことはわからないしわかったとしても強化しようとは思わなかったが。 運営用AIは鳴り始めたPHSを手に取る。受付からの連絡でこちらに新たな参加希望者が向かっていることを聞くとしっしっと邪険に連絡用AIを追い払う。くちびるを尖らして出ていくのを見届けるとそれは天井を見上げた。なんとなく先程よりさらに暗くなっている気がするが彼にはそんなことは些末事。重要なのは聖杯戦争を滞りなく行うこと、そのためにセキリュティを万全にすることだ。 「全てはムーンセルのためだ。」 彼はそう呟くと扉に目を向ける。今まさにドアノブが廻り人が入ってくるところだった。 「お待ちしておりました。」 そう言うとそれは新たな参加希望者にパイプイスを指しめした。 《第二次二次キャラ聖杯戦争、登録開始中》 《主催者》 主催:聖杯戦争実行委員会 【運営用AI@第二次二次キャラ聖杯戦争】 [思考、行動] 聖杯戦争を成功させるためにセキリュティを万全にする。 [備考] 処理落ちしています。 外見はCLAMPデザインな感じの魔眼持ってそうな草食系男子です。 【連絡用AI@第二次二次キャラ聖杯戦争】 [思考、行動] 聖杯戦争をもっと楽しんでもらうためにデータの収集につとめる。 [備考] 処理落ちしています。 外見は青髪ロングの貧乳がステータスなロリです。 【探索用AI@第二次二次キャラ聖杯戦争】 処理落ちしています。 ヘッドホンを首からさげたデパートでバイトしてそうな少年です。 【ルーラー@?】 未定。 後援:願望器に関わりのある人たち [思考、行動] 聖杯戦争を楽しむ。別に参加者を送り込んでも構わんのだろう? [備考] 舞台はムーンセル・オートマトン@Fate/EXTRAです。 7月中を予選期間とし、その間に記憶を取り戻した場合、8月の本選に進みます。 登場話は予選に参加している扱いです。札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、高松、博多の予選会場が用意されています。 本選の舞台は冬木市です。 NPCが存在しており日常生活を送っています。なお、予選会場の時間は2014年の7月です。 マスターは最初記憶を失っている可能性がありますが、仕様です。 監督役のルーラーはたぶんジャンヌですがもしかしたら他のサーヴァントかもしれないし全然違う二次キャラかもしれません。 予選は2014年7月1日(火)から7月31日(木)までです。それまでに本選に出場できなかった場合消滅させられます。 外部を観測していること、参加希望者が多すぎること、それにともないセキリュティを厳しくしていることでムーンセルが処理落ちしています。AIもサーヴァントも処理落ちしています。結果的にセキリュティに穴が開いているかもしれませんがルルーシュがそのうちなんとかすると思います。 持ち込める魔術礼装などは手に持てる範囲でお願いします。生きててもいいです。個人的にはアインツベルンのホムンクルスとかいい感じです。 魔力を用いない攻撃にも神秘があれば対魔力が対応するようになりました。 後援は基本的に見てるだけの煽り担当です。つまりにぎやかしです。 パンフレットには「殺しあう」とは一言も書いていません。「なんでも願いが叶う」とは書いてあります。 パンフレットはゴフェルの木片を加工してできています。ゴフェルの木片を個人的に入手した場合勝手に聖杯戦争に参加させられます。
https://w.atwiki.jp/tokyograil/pages/117.html
聖杯のUTSUWA ◆lnFAzee5hE ◇ これは夢…… だったのか…… 悪い夢……いや…… いい夢だった…… ◇ 生きるということは常に戦い続けるということである、特に――日本全国から人が集まる物騒な都市、東京はそうだ。 学生、サラリーマン、自営業主、主婦、いや幼児や老人ですらも、自分がより良い位置へと居座るために、他人を蹴落としあっている。 だが、獣ですら休むというのに――人間が常に気を張って暮らし続けることなど出来ない。 安らぎが必要であった。人によってそれは、家であり恋人であり趣味であり、 そしてここに――『3姉妹』、実の三姉妹が経営するスナックに安らぎを求める男がいた。 ――夢を見ているような気がした。 三姉妹のママが歌うカラオケを子守唄代わりに、カウンターに突っ伏して男は眠っていた。 男は鎧を着ていた。 それは比喩表現ではなく、現代の東京に於いては実に奇妙なことであるが、男は黒の西洋鎧を纏っていた。 長女のママが男に毛布を被せようとする。冬の日であった。少なくとも、温もりもなく眠れば風邪を引くような日である。 その時、鎧が――牙を剥いた。 男の精神性を表すかのように、その鎧は尖りすぎていた。 長女の指が切れる。 「姉さま大丈夫でして?」 出血する。傷は浅い、長女は切れた指を口にやり、血を吸う。 「ほんと無駄に尖ってるのよねぇ」 「自分が傷つきたくない奴ほど、人を傷つけるんでしてよ」 「正直どこに向かいたいのか方向性がわからないんだけど」 結果として、三姉妹から毛布だけでなく、辛辣な言葉を掛けられることとなった男は、心の中でそっと呟く。 (味方は……己だけ) いつの間にか目覚めたのか、あるいは最初から寝ていなかったのかもしれない。 辛く厳しい現実の世界の前に戦うことも出来ず――何も見なかったかのように、ただじつと目を閉じることしか男には出来なかった。 気づかない間に目から涙が溢れていた。 何故、己はこうも上手くいかないのだろう。 新プロジェクトのメンバーには選ばれず、同僚からはどうも避けられている節があり、部下からも舐められているように思える。 (俺が……危険すぎる男だからか) 心の中でまで、嘘をつかなければならなかった。 社内で彼が危険な男と呼ばれている所以は、その尖りすぎる鎧にあり――ほとんど蔑称である。 それでも、誰も並び立てぬ孤高の男であると嘘をつかなければならなかった。 力もなく、それを補う要領の良さもなく、ただ孤独なだけの自分など――誰が認めたいものか。 (力【仲間】が……欲しい) 涙で――視界がぼやける。 三姉妹は店の後片付けのために、カウンターからは引っ込んでいる。 あるいはそれは、彼女たちなりの配慮なのかもしれない。 だが、泣くことなど出来ない。 プライドがあるのだ――王としての。 (……!?今……俺は何を思った?王……俺は何かを……) 涙でぼやけた視界に、紅い満月が映る。 店内に、紅い満月のオブジェは存在しない。 存在するはずのない紅い月を認識すること、それが――この戦争への参加条件。 男は――偽りの記憶の殻を被せられて、この東京で係長として働いていた。 だが、真実の彼はそうではない。 争いの絶えない国――ブリテン、百万人の王、十一人の支配者、外敵、数多くの英雄が覇権を争う国で、彼もまた戦っていた。 彼の名はリエンス王。 王の剣――エクスカリバーに選ばれず、十一人の支配者にも選ばれず、 ただ孤高と孤独を履き違えて戦うしか無かった哀れな王。 十一人の支配者の一人――ロット王と戦って敗れたはずだった。 だが、紅い月は――それを由とはしなかった。 薄れゆく意識の中に、紅い月が輝く。 彼は紅い月に手を伸ばした、何者にもなれなかった己が――今度こそ選ばれるために。 そして、彼は東京に辿り着いた。 聖UTSUWAを手に入れるために。 夢から醒めるように、チャンネルを替えるように、さくり、と記憶は取り戻された。 リエンス係長という偽りの器は今度とも利用することがあるかもしれない、 だが真の自分――リエンス王を取り戻し、偽りのしがらみから解き放たれ、どこか清々しい気分を味わっていた。 「モガママ、勘定は付けといてくれ」 瞬、と立ち上がり、偽りの安らぎを後にする。 二つの意味で、この場所は偽りの安らぎだった、とリエンス王は思う。 そもそもこの場所が偽りであったこと、そして――結局、俺は安らぎなど得てはいない、ということ。 3姉妹を出る。表の看板の明かりは消えていた。魔女の格好をした三姉妹が描かれている。 今ならば理解できる、この看板は――いや、三姉妹のママはブリテンの魔女の三姉妹がモティーフになっていたのだ。 俺の記憶か、あるいは元の世界の記憶か、どちらかはわからないが――それが元になっている。 NPCだから問題はないだろうが、百万人のアーサーや十一人の支配者がいる可能性にも留意しなければならないだろう。 もう電車は無くなっていた、NPC時代の稼ぎが入ったそう厚くもない財布の中身を確認し、タクシーを拾う。 (サーヴァントというのは、俺の家にいるのだろうか) 記憶を認識した時点で、サーヴァントが現れる。 そういうものだと思っていたが、未だロット王の周辺にサーヴァントが現れる気配はない。 ならば、すでに召喚されていて――己には見えなかっただけではないか、その可能性を考えて、運転手に家までの道を急がせる。 記憶を取り戻した今となっては、溜息の一つもつきたくなるようなアパートの前に辿り着く、 城で暮らしていた俺が、こんな豚小屋に――と文句の一つも言いたくなる。 階段を昇る。 まるで空気が粘性を持ったかのような圧力を、自室に近づくに連れてリエンス王は感じていた。 間違いなく、サーヴァントは自室にいる。 そして、巨大な力を持っている。 俺が持ち得なかった力だ。 なんとも形容しがたい、UTSUWAと呼べるものだ。 今更、退けるものか。 アーサーにも、 ロット王にも勝てなかったから、俺は聖杯を取りに来たのだ。 自室に入る。 小部屋が、まるで迷宮のように思えた。 ここにサーヴァントがいる。 とてつもなく恐ろしい気配がする。 ここにとどまりますか。 何かに聞かれたような気がした。 だから、リエンス王は叫んだ。 「お前が……俺のサーヴァントか!名を名乗るが良い!」 「ダッジャール……真名は、カオスヒーローだ、本名は忘れた」 ◇ ◇ ◇ 聖杯 獲らなきゃ 帰れねぇ うた:リエンス&ダッジャール 聖杯 欲しさに 来たぜ 東京 私 欲しくて たまらない なんで 聖杯 が 欲しいんだ なんか 他に やること 無いのか 元の 世界じゃ 殺された 一発逆転 狙うには 聖杯 獲らなきゃ 帰れねぇ 聖杯 じゃなきゃ ダメなのか 悪魔合体とか いいんじゃない? 私の 願いは ただ 一つ 認められたい それだけさ 聖杯 じゃなきゃ 帰れねぇ 悪魔の力じゃ みんな ドン引きだ 聖杯 獲らなきゃ 帰れねぇ 聖杯 よりも 愛が 欲しい ◇ 「わかった……リエンス、どうせ暇人だ。お前が聖杯を獲りたいっていうなら、協力しても良い」 「本当か」 まるで花開くかのように、リエンス王が笑った。と、同時にダッジャールもまた、嗤った。 忍び装束を着て、急所部分の防御のために、紅い鉄鋼を纏った男である。 まるで闇と血の化身を思わせる男である、邪悪な――そしてどこか、自嘲を思わせた。 「お前は……いや、お前も……」 今まで偽りの環境の中にいた、そしてこれからは仮初の主従関係の中に身を投じることとなる。 ならば、不用意に関係性を揺らがせるべきではない。 しかし、リエンス王は――王だった。 支配者として意地を通そうとするのならば、聞かなけれならない。 「俺を侮っているのか」 「当たり前だろ」 ダッジャールが言葉を返した瞬間、リエンス王に宿った令呪が鈍く――輝く。 支配者であるが故に、例え孤独になっても、卑屈になることだけは出来なかった。 だからこそ、ロット王と戦うことになったのだ。 命よりも惜しい物があったのだ。 「令呪を以て命じる――」 「だから、お前は……」 ダッジャールは抗う様子を見せなかった、ただ嘲りの表情を浮かべ、言った。 「王の器じゃないんだ」 令呪から光が失われる。 何も言わず、リエンス王は部屋の隅のベッドへと向かう。 出来たはずだった、令呪を以て――ダッジャールを従わせることが。 それでも、やはり――リエンス王の――王としてのプライドが、それを許さない。 「畜生、どいつも……こいつも……」 願わずにはいられない、力が欲しいと。 エクスカリバーにも、十一人の支配者にも、いやブリテンの大地そのものに、己を認めさせる力が欲しかった。 だが、今の己はどうだ。 従者【サーヴァント】にしか侮られる程度の、王の器でしかない。 「畜生……」 ただ、ベッドで打ち震える。 王とは器だけじゃない、そのはずなのに。 ◇ リエンス王は、まるで己を見るようだった。 そうだ、力が欲しかったのだ。 ダッジャール――いや、カオスヒーローも。 神の戦地と化した東京で、混沌の英雄として戦う以前の彼は弱者だった。 不良グループに虐げられ、常に力を欲していた。 力を求めて、仲間と共に戦った。 いや、今思えば彼らは仲間ではなく――人生で最初で最後の親友だったのかもしれない。 悪魔と戦い、天使と戦い、成長する度に思った、もっと力を。 そして――かつて彼を虐げた男に敗北し、彼は決意する。 力を――悪魔との合体を。 そして彼は、成ったのだ。 混沌の救世主【カオスヒーロー】に、悪魔を率いて、神を討つ者に。 だが、力を手に入れれば手に入れる程に、視界は広がり、上には上がいることを知った。 魔王、天魔、大天使、魔神――魔人である己ですら未だ届かぬ高み。 そして、かつての親友。 救世主【ザ・ヒーロー】 戦い、敗北した。 救世主は強く、己は弱かった。 そして、負けたが故に――偽救世主、反救世主のクラス、ダッジャールとして召喚された。 だが、後悔はなかった。 まるで、夢の様な日々だった。 いや、もしかしたら本当に夢だったのかもしれない、目を開ければ、今までのように何でもない自分がいるのかもしれない。 ただウジウジと力を求め地を這いずるだけの己がいるのかもしれない。 それでも、良かった。 良い夢だった。 本当に、良い夢だった。 ただ、不安があった。 俺は良かった。全ては夢、それで良かった。 だが、勝者である救世主は、どこへ行き着くのだろう。 ただ進み続けた先に、何が待ち受けていたのだろう。 聖杯にかける願いは無い、だが、もし許されるのならば。 「お前は……自分を救えたのか……?」 それが、知りたかった。 ◇ 予告譚 聖杯戦争に挑まんとするリエンス王、しかし彼のサーヴァント、ダッジャールはあからさまに彼を見下していた。 このままでは不味い、己の王のUTSUWAを示さなければならない。 そんな時、彼が出会ったのはこの魔法のネックレス! これを付けた時から、女性にはモテモテ、仕事はバッチリで、ギャンブルも絶好調、あとサーヴァントは憧れの眼差しで見るようになりましたし、 あとドミノ倒し出来るぐらいに聖杯が集まりましたね。 今までの人生が嘘のように上向きになる リエンス王だったが! 「アナタねぇ……約束を破りましたね、魔法のネックレスを使ってる時は令呪を使っちゃいけないって」 「いや、悪かった……でも、一回だけだ、もうしないよ、約束する」 「いいえ、もうアナタに次はありません、アナタには罰が下ります」 魔法のネックレスをリエンス王に授けたセールスマンの示談の条件とは!? 次回 『聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚』! 「しまるネックレス」! いえいえお代は一銭もいただきません。 【クラス】 ダッジャール 【真名】 カオスヒーロー@真・女神転生Ⅰ 【パラメーター】 筋力C 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A 【属性】 混沌・中康 【クラススキル】 救世主(偽):A 新たな神話の時代の敗者である彼は、高ランクの偽救世主である。 彼はその逸話から属性が秩序のサーヴァントと戦う際に全パラメーターが1ランク上昇し、 中立のサーヴァントと戦う際に全パラメーターが1ランク下降する。 敗者に口なし:C 敗れた英雄たる彼は歴史の中に埋没した存在である、 故に相手が真名を看破するスキル・宝具を発動した際、その効果を防ぐことが出来る。 【保有スキル】 自己改造:A 自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。 悪魔と合体した彼はまさに偽の英雄である。 魔術:C+ このランクは、彼がレベルの上昇によって習得し得る魔術を一通り修得していることを表す。 また、ガーディアンとしての彼の逸話から、本来ならば使用することが出来ない、ペンパトラ、アギダイン、マハラギダインの使用が可能である。 【宝具】 『偽りの救世主の末路(デビルリング)』 ランク:A 種別:対魔宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人 ダッジャールでなければ存在し得ない、平行世界の彼の宝具。 装着することで、ダッジャールの全パラメータが2ランク上昇する。 ただし、1ターン後にダッジャールはデビルリングから供給される過剰な力に抗えず死亡する。 『偽りの救世主の末路(バイバイエンジェル)』 ランク:E 種別:対神宝具 レンジ:10 最大補足:1人 ダッジャールでなければ存在し得ない、平行世界の彼の宝具。 本来の救世主を差し置いて、偽りの英雄を撃破した逸話から生じた宝具。 相手の属性が秩序、あるいは神に仕える者であった場合に発動できる。 相手の全パラメータを1ランクダウンし、ダッジャールにスキル狂化:Dを付与する。 この状態は5ターンは継続する。 『偽りの救世主の末路( そして 夢は 終わる )』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:6人 固有結界。 彼が討ち倒された場所、カテドラル下層、及びその場にいた悪魔達を再現する。 その際、彼は打倒されるべき偽りの英雄として幸運が2ランクダウンし、 引きずり込んだ敵サーヴァントの全パラメーターは1ランクアップする。 【weapon】 無銘の剣 【人物背景】 かつて、三人の少年が居た。 三人の少年は、悪魔に踊らされた。 三人は二人になり、二人は一人になった。 残った一人は真の救世主で。 消えた二人は偽の救世主だった。 だとしても。 それは良い夢だった。 【サーヴァントとしての願い】 救世主が自分を救えたかを知りたい 【マスター】 リエンス王@実在性ミリオンアーサー 【マスターとしての願い】 聖杯に選ばれたい 【weapon】 無銘の剣 尖りすぎる鎧 【能力・技能】 それなりの剣技、あと歌が上手い。 【人物背景】 選ばれて下さい それしかないの 惨めな 惨めな 手を使っても 選ばれて下さい でなきゃダメなの 選ばれない事より 惨めはないから 【方針】 未定 -004 桐山和雄&ザ・ヒーロー 投下順 -002 救世主の救い方 -004 桐山和雄&ザ・ヒーロー 時系列順 -002 救世主の救い方 登場キャラ NEXT リエンス王&ダッジャール(カオスヒーロー) 000 DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命
https://w.atwiki.jp/nijiseihaitaisen/pages/84.html
【クラス】ルーラー 【所属陣営】黒 【真名】アルトリア・ペンドラゴン(セイバーオルタ) 【パラメーター】 筋力A 耐久A 敏捷D 魔力A++ 幸運C 宝具A++ 【属性】 秩序・悪 【クラススキル】 真名看破:? 認識したサーヴァントの真名・スキル・宝具などの全情報を即座に把握する。 あくまで把握できるのはサーヴァントとしての情報のみで、対象となったサーヴァントの思想信条や個人的な事情は対象外。 また、真名を秘匿する効果がある宝具を持っていれば、このスキルの効果を防ぐことが出来る。 対魔力:B 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。 ……闇属性に染まっている為、対魔力が低下している。 【保有スキル】 騎乗:- 騎乗スキルは失われている。 直感:EX ムーンセルからのバックアップにより未来予測のレベルに達した直感。 戦闘時のみならず、平常時においてもある程度機能する。 これによりルーラーはルール違反の発生をある程度までは察知できる。 本来ならば自身の凶暴性を抑えるために大きくランクダウンするはずだったが…… 魔力放出:A 膨大な魔力はルーラーが意識せずとも、濃霧となって体を覆う。 黒い甲冑と魔力の余波によって、防御力が格段に向上している。 カリスマ:E 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。 統率力こそ上がるものの、士気は極度に減少する。 【宝具】 『風王結界(インビジブル・エア)』 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人 不可視の剣。敵に武器の間合いを把握させない。 シンプルではあるが、白兵戦において絶大な効果を発揮する。 強力な魔術によって守護された宝具で、剣自体が透明という訳ではない。 風を纏った刀身は光の屈折率を変化させ、元から有る剣の形状を不可視にしている。 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』 ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人 光の剣。人造による武器ではなく、星に鍛えられた神造兵装。 聖剣というカテゴリーの中では頂点に立つ宝具である。 所有者の魔力を光に変換し、収束・加速させる事により運動量を増大させ、 神霊レベルの魔術行使を可能とする聖剣。 【人物背景】 ブリテンの伝説的君主・アーサー王その人である。選定の剣を引き抜き、不老の王となった。 第四次聖杯戦争で、切嗣により召喚。切嗣の勝利至上の戦闘方針と、彼女の騎士としての誇りは相容れることなく、結果反目し合う。 当時、彼に直接声をかけられたのは3回のみ(つまり令呪の命令)という徹底ぶり。 第五次聖杯戦争の折、士郎の体内にある聖剣の鞘が触媒となって召喚される。士郎に剣の誓いを立て、彼とともに聖杯戦争を戦う。 今の彼女の姿は第五次聖杯戦争において、『この世全ての悪』に囚われ、性質が反転した時と同一のものだが詳細は不明。 【サーヴァントの願い】 調停者のクラスとして現界するサーヴァントは「現世に何の望みも持たない」はずだが、現時点では詳細不明。
https://w.atwiki.jp/222seihaisensou/pages/125.html
アーチャー 七つのクラスの内の一つ。主にハンドガンを武器にして戦う。中には弓を使う変わり種のアーチャーもいるが弓から剣を飛ばしてきたり空母航空隊を打ってきたりするため広い意味ではハンドガンである。 この聖杯戦争ではワイルド・ドッグ、安藤まほろ、クロエ・フォン・アインツベルン、赤城の四騎が当てはまり、ステータスを頼った近接戦闘よりもスキルや宝具や性格を武器にした癖のある立ち回りが特徴である。 アサシン 七つのクラスの内の一つ。千手扉間のみが当てはまる。 本来はハサンでなくてはなれないクラスなのだがなぜか忍者が召喚された。この聖杯戦争のいい加減さの象徴かはたまた別の理由があるかは不明。 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 同名キャラクターの一人。この聖杯戦争にはステイナイト出典のイリヤとプリズマイリヤ出典のイリヤの二人のイリヤがそれぞれマスターとして参加している。そのためそれぞれを目撃した人間に微妙に誤解や困惑を与えている。更に彼女の双子とでも言うべきクロや条件次第では外見が似るルナ、変化の術で容易にイリヤと同じ姿に化けられる卑劣様など目立ってはいないが状況を混乱させる要因もかなり多い。 外部の願望器 この聖杯戦争のムーンセルが現地の地球と共に観測しているもの。自らと似通った他の願望器を観測し、他の聖杯戦争を観測し、それを自らでシミュレートする。その切っ掛けとなったもの。現在はその『聖杯』は消滅したとか。 記憶障害 聖杯戦争に参加したマスター達が試される第一の関門。マスターは予選の段階では往々にして記憶を失っており、その事に気づいて自らが聖杯戦争に挑んでいることを思い出す必要がある。 ちなみに別に全員に記憶障害が起こるわけでも聖杯戦争がなんであるかを認識していなくても構わないようである。上級AI曰く、『仕様』。 キャスター 七つのクラスの内の一つ。兵部京介、パピヨン、フドウ、ドラえもんの四騎が当てはまる。 基本的には持久堅忍の待ちのクラスでちょっとした行動から攻め落とされることもあるので少しの油断もできないクラス。 教会組 色情狂介&キャスター(パピヨン)、間桐慎二&キャスター(フドウ)、アリス・マーガトロイド&アーチャー(赤城)、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー(ヘラクレス)からなる集団。特徴はキャスターが二騎という珍しい編成であることと、同盟関係にある集団ではなく同盟の交渉をするための集まりだということ。四組が出会った時にパピヨン達は警察に追われていたため一時的に全員で場所を動く運びになったのだが、そこから数時間に渡ってあやふやな関係のまま行動を共にしていた。その後一応盟主のような立場だった狂介組が離脱し間桐邸組に発展的に解消。 クウガ 同名キャラクターの一人。この聖杯戦争では五代雄介と小野寺ユウスケがそれぞれ変身するのだがどちらもクウガであるため当然姿が似通ってしまい、主に五代雄介の方のクウガが色々と疑われるはめになる。 クレーター 一日目の正午前に、深山町中東部辺りに出来たと思われるクレーター。製作者はクウガ(バーサーカー)。 彼はマスターの命令の元補足したキャスター・兵部京介を急襲したのだが、そのやり方は相手のいる家ごとライダーキックするというとんでもなく大雑把かつえげつないものであった。最終的に撃破には成功したもののキック自体はかわされ地形を変えるだけに留まるが、当然近くにいた住人は全滅したと思われる。市街地でクウガが本気を出すとどうなるのかの典型例と言えよう。 現代知識 現代の日本人が持つ常識的な知識、あるいはそういった知識を持つ『普通の人』とそれが生きる『社会』への教養。 基本的にはサーヴァントは召喚された際に現代知識が与えられるが、それを理解できるか、応用できるかは各サーヴァントによる。バーサーカーのようなサーヴァントはもちろん、日本人でなかったり時代が遠かったり世界のあり方がかけ離れていたりすれば与えられた知識を活かしきるのは難しい。 またマスターの場合はサーヴァントのように知識が与えられないので個々人の教養に大きく左右される。そのためマスターによっては社会生活を送ることすら困難になりえる。 鉄血同盟 竜堂ルナ&バーサーカー(ヒロ)主従と衛宮切嗣&アーチャー(クロエ・フォン・アインツベルン)の二組からなる同盟。主に新都西部を中心に活動し情報収集に努めている。 構成としては前衛で回避型のメイン盾となるルナ、中衛で刀剣の投擲を主体として戦うクロ、戦闘経験を活かしてミクロなサポートを行う切嗣、軍略スキルでマクロなサポートをするヒロといったものになっている。 戸籍 この聖杯戦争に参加したマスターには基本的に社会的地位《ロール》が与えられる。その代表格が戸籍。これがないと免許もパスポートも保険証も持てないどころか職につくことも住所を持つこともできない。 基本的には、元の世界で戸籍があればだいたいそれらしい戸籍が手に入りがち。 小学生 マスターの半分が属する社会的地位。男女比は2 8(3 7)。市内に存在が確認されている小学校は現在二校しかないため登校すればほぼ確実に他のマスターと出会うだろう。もし本選の期間が夏休みでなかったのならば。 上級AI いわゆる監督役を勤める存在。上級とあるが上級ではないAIもいるかは不明。真っ当な方法で参加すれば二人の上級AIに出会うだろうが、そもそもこの聖杯戦争に真っ当な方法で参加したマスターは少数派と思われる。 セイバー 七つのクラスの内の一つ。その中でも『最優』の誉れ高い。 この聖杯戦争ではアルトリア・ペンドラゴンとテレサの二騎が当てはまり、両者共に走攻守揃った上にアルトリアは大火力の斬撃と絶対防御を、テレサは神代に迫る剣技とクレイモアとしての異能を持つ。弱点と言える弱点もほとんどなく普通ならば優勝候補と断言できる万能さなのだが、上には上がいる。 倉庫街 冬木市の新都北部の海沿いに位置する。第四次聖杯戦争では一度に五騎のサーヴァントが顔を合わせた場所であり、この聖杯戦争でも三騎のサーヴァントがぶつかる最初の戦場となった。後にこの場所では先の戦いと無関係な四組の主従が遭遇するなど、地味ながらもターニングポイントとなる場所である。 孫悟空 ランサー、もしくはライダーのサーヴァント(嘘)。 隙のないステータスをしており、また他の主従の前に真名を明かして堂々と現れるなど破天荒な面もある(大嘘)。 間桐慎二、色丞狂介両主従と同盟を結び聖杯戦争で暗躍する(全部嘘)。 第一回ムーンセル聖杯戦争 この聖杯戦争の作中内での呼称。誰も呼ばない。 同名キャラ 平行世界の同一人物や同じ力を得たものやただ単に名前が同じものなど様々だが、ようはそっくりさん。 やたらと銀髪の少女が多かったり名前が被ったりフルネームも被ったりなど全四十人の参加者なのにやたらと被る。 人形 文字通り人形の形をしたある種の使い魔。ドールとも。遠坂凛やアリス・マーガトロイド、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン等が主な製作者。予選の段階でマスターの適性試験等にも用いられていたようであり、技術を参考にしたり滷獲して改造したりしているマスターもいる。 バーサーカー 七つのクラスの内の一つ。『最強』のクラスと呼ばれることもある。 この聖杯戦争では小野寺ユウスケ、ヒロ、ヘラクレス、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガの四騎が当てはまる。 理性と燃費とを引き替えにサーヴァントのステータスを底上げするクラスだが、サーヴァントによって個人差が激しい。顕著なのはヒロで他の三騎がAランク以上の狂化であるのに対し通常時はEランクとあってないようなもの。一方宝具は真名解放の必要のないものが多めという共通点がある。 爆破予告 ライダー・少佐が伊達男に命令して警察署でばら蒔いた怪文書の内容。当時警察署では記者会見がちょうど始まったため多くのマスコミ関係者と視聴者の目に触れることとなり元から注目されていた冬木市は更に注目されることとなった。爆破予告した場所もサーヴァントの真名を検索できる図書館やルーラーのいる教会などの重要施設が多く、しかもセイバー・アルトリアに名指しで呼び掛けるなどやりたい放題である。その後無関係ながらも実際に爆弾が見つかったり卑劣様が便乗して爆破予告したり本人達はなにもしてないのに勝手に爆発事件が起きたりしている。 冬木大橋 冬木市東部新都と西部深山町を結ぶ市の基幹道路であり、市唯一の未遠川を越える橋。だったのだが本選が始まって三時間足らずで崩落してしまったためNPCはもちろんマスターやサーヴァントも川を越えて行き来することが困難になってしまった。マスターもサーヴァントも冬木市から出ることはできず、市外の橋を使って迂回するようなことはできないため、公的な手段で川を越えることは不可能である。なお、この橋が落ちたことで(実際にはそれ以前に相当数が魂喰いされていただろうが)数百名の死傷者が発生した。第四次聖杯戦争での大火災程ではないが相当なレベルの大惨事である。 冬木ハイアットホテル 第四次聖杯戦争の時に衛宮切嗣により爆破され、その後再建された新都にある高層ホテル。 第五次聖杯戦争では大きな影響を受けなかったがこの聖杯戦争では開始早々に兵部京介によって最上階を貸し切られ、拠点とフラグを築かれる。その後も少佐が拠点を移してきたりその少佐に爆破予告されたり地下の駐車場で銃撃戦が起こって本当に爆発が起こったりと順調に巻き込まれた。最新話では生存しているマスター・サーヴァントの半数が一堂に会しもはや主戦場と化している。 病院 正式名称は冬木市立病院。新都南部に位置し、地域医療の中核を担っている。 本選開始後は矢継ぎ早にマスターが運び込まれたり急患で溢れかえったり爆破予告されたりともうめちゃくちゃ。 間桐邸組 間桐慎二&キャスター(パピヨン)、アリス・マーガトロイド&アーチャー(赤城)、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー(ヘラクレス)からなる同盟。全サーヴァントが高い耐久と魔力次第で攻勢にも転じられる能力を持つため手堅くも侮れない。前身は教会組。それまで曲がりなりにも行動を共にしていた三組が惰性で同盟のような関係になった。その成り立ちのため盟主と言える存在はいないが慎二がリーダーシップを取りがちではある。 魔力 半分ぐらいのマスターに足りていないもの。これがないとサーヴァントを戦わせることどころか維持することもできないのだが、マスターの半分は一般人であるため本当に戦わせることも維持することもできない。残りの半分も戦い出すと余裕がなくなっていくため一戦すると休憩を挟みがちであり、積極的に打って出るマスターの減少の一因となっている。 翠屋組 クロノ・ハラオウン&ライダー(五代雄介)、黒鳥千代子&セイバー(テレサ)、遠坂凛&セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)の三組からなる同盟。それぞれのスタンスに隔たりはあるものの全員が対ランサーを優先しているため同盟関係は比較的に良好で、一応互いの真名を明かし合う程の信頼は築けているもよう。編成としては、とにかく近接戦闘に長けていることがあげられる。 ミュウイチゴ この聖杯戦争のルーラーでありビースト。矛盾しきった二重召喚で生まれた天秤の守り手。その正体は街を歩いていただけで生物兵器に人体改造されて地球と人類を救う奉仕者とさせられた女子中学生である。ルーラーとしてはそれなりにやる気はあるが若干口が軽いのが玉に傷であったが、実のところは聖杯戦争妨害の腹積もりであった。 ムーンセル この聖杯戦争の『聖杯』。外部からのアクセスに対しては鉄壁のセキュリティを誇るがマスターの集め方が適当だったりサーヴァントになれないような人間でもサーヴァントにしていたりちょくちょく処理落ちしたりしていかんせん頼りない。 メタ知識 主に少佐が使用する、聖杯戦争を画面の外のプレイヤーの立場から見た知識であり、マスターやサーヴァントへの理解。第五次聖杯戦争の当事者達ですら知り得ない情報をも利用して行動を決定できるようになる最大級の反則技。ただし、どの辺りまでメタ知識を活用できるのかは不明。ドラえもんには反応したがワイルド・ドッグには反応しなかったり仮面ライダーに反応してヴァルキュリア人に反応しなかったりと割りとまちまち。また少佐以外にもメタ知識を持つ者はいるが目立った動きはしていない。総じて使いどころがありそうでない知識。 ライダー 七つのクラスの内の一つ。この聖杯戦争では少佐と五代雄介の二騎が当てはまる。 他のクラスにはそれぞれの定石とでも言うべき立ち回りがあるが、ライダーはその宝具を第一にした立ち回りが求められることが最大の特徴。両者の特殊な方針も相まって普通のサーヴァントとは大きく違う動きが求められる。 ランサー 七つのクラスの内の一つ。普通は幸運が低いのだが、この聖杯戦争のランサーであるカルナ、アリシア・メルキオット、真田幸村の三騎はなぜか全員高めである。 セイバー同様走攻守のバランスがとれているが、あちらが万能であるのに対しこちらは器用といったところ。スキルや宝具の運用がややシビアであるため格上にも格下にも勝ちえるし負けうる。マスターも試されるクラスである。 令呪 各マスターに三画ずつ与えられるプログラム。膨大な魔力の塊にしてサーヴァントへの戒めであり切り札。 これを全て失うことは死を意味する。ただし具体的にどう死ぬのかは未だ不明。 本質的には魔力であるため、魔術回路やそれに類するものがないマスターだと使っただけで倒れる。現段階では八人中六人が使用後に全員気絶または昏睡という代物。そのため魔力のないマスターにとっては最後の手段であるはずが、使うと倒れるとんでもない呪いであった。なお、令呪はある程度の知識があれば移植することも可能である。 礼装 魔術的な、あるいは非魔術的でも有用な道具ないしはそれに準ずるものの総称。基本的にはなんでも持ち込めるがクラスカードだけはピンポイントに没収するなど一部に恣意的ななにかを感じさせる。誰がどこで没収物を保管しているのかは不明。
https://w.atwiki.jp/tokyograil/pages/274.html
Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk 本当にここは異界なのだろうか――? 恐る恐る帰って来た自宅のドアの向こうにはただ平凡な日常が広がっていた。 死んだはずの母がいて、こんなに遅くまで何をしていたのと叱られた。 でも母はとても優しくて、テーブルの上に置かれた夕食を温め直してくれた サーヴァントと契約したことで自動的に桂は自身の人生と、このイミテーションの東京で与えられた役割を思い出す。 現実では死んでいるはずの羽藤真弓との二人暮らし。そう、あの夏の出来事が起こる前の何ら変わらない日常がこの東京では続いていた。 桂はほとんど食事に手を付けないままリビングを後にして自室に篭もった。 その時の心配そうな表情の母が温かく、そして痛い。 どさっと着替えることもなくベッドに倒れ込む桂。 そんな桂の気も知れず実体化した夕立はのほほんとした口調で言った。 「うーん、ムーンセルも結構エグいことするねー。さすがの私もこんなのされらたらちょおーっと嫌な気分になるっぽい?」 「わたし、どうすればいいのかな……」 「いっそのことここでずうっと暮らすのもアリじゃないかな?」 「そんな、だって……元の世界にはサクヤさんや柚明さんが――」 「でもお母さんはいないよ――?」 「ッ――!」 夕立は桂の血を啜ったと同時に彼女の記憶も垣間見ていた。 桂に起こった過酷な運命。でも桂はその運命に折り合いを付けて前を歩き出した。 そんな彼女の決意を嘲笑うようなムーンセルが与えたキャスティングだった。 「夕立ちゃん……こういう時こんなの偽物だ。とかこんなのまやかしだって言わないんだね……」 「戦争でいーっぱい、いーっぱい人が死んだからねー。真っ暗な海が艦が燃える炎で真っ赤に染まって、鉄の残骸と人がぷかぷか浮いてるの。 私がその時の戦場にいた人なら夢でも優しい世界にいたいっぽい?」 サバサバと無邪気に語る夕立に少しむっと来たのか桂は逆に意地悪な質問をしてみた」 「じゃあ夕立ちゃん自身はどうなの? さっきのは戦争に行った人の例えでしょ」 「そんなの決まってるよ。私は軍艦、鉄火場に赴き敵と砲火を交え敵艦を撃沈するのが私の使命。その結果沈むことになるのもまた本望。 ずぅっと温存されて、もう戦いが末期になったら動かす油すらも尽きて、戦争が終わったら核爆弾の標的なった艦よりは私は戦って沈んだぶん悔いはないかな? でもこうして人の身体と心を持ってるぶん、平和に暮らしたいっぽい?」 「…………」 軍艦として、人殺しの機械としての存在と、人の姿と心を持ったがゆえの平和な日常を望む存在が等価値で同居している。 夕立は歪ではあるがあやふやでない存在だと桂は思った。 「そういやマスターって聖杯にかける望みって特に無かったよね。この際、お母さんも生きてる世界で暮らしたいと願ってみたらいいっぽい?」 「そ、れは……」 願いなんてないと思っていた。 母の死は辛いけどそれを乗り越えて、保護者役の浅間サクヤと羽藤柚明という大切な人たちと同居する現実。 それに母が加わる。そんなあまりに都合が良すぎる世界。 しかし、聖杯という万能の願望器はそれすらも実現する。 「……わたし、もう寝る」 「あれれ、機嫌悪くしたっぽい?」 「べつに」 「お風呂入らないのー?」 「入りたい気分じゃない」 「じゃあ私お風呂入るー」 「えっ!? お母さんに見つかったらまずいよ」 「大丈夫! マスターのお母さんならもう寝たし、仮に起きていてもマスターが入ってると思うっぽいー」 「大丈夫かなあ……」 おっふろー、おっふろーと言い残し部屋を出て行く夕立。 桂は布団をがばっとかけて潜り込む。 ぐるぐる回る優しい世界の誘惑。 柚明がいて、サクヤがいて、母が生きている世界。 だけどそのためには他の参加者を―――― 自らに囁く誘惑の声を振り払うように耳を閉じる。 そのうちに睡魔が訪れ桂は静かに眠りに落ちた。 ◆ 「行ってきまーす」 朝。 夕べ入らなかった風呂の代わりにさっとシャワー浴びる。 長い髪をツインテールに結わえ制服に袖を通す。 朝食をそそくさと済ませると鞄を引っさげて玄関を出た。 昨日のことをなるべく思い出さないように。 一応この東京にも通学の義務はある。でも正直学校に行く気なんておきない。要はサボリである。 桂はどこにいくあてもなく山手線を乗って適当な駅――池袋に降りた 『あれ? マスター学校はサボリ? 悪い子なんだあ』 霊体化している夕立が耳元で囁く。 「こんな時に学校なんていってられないよ。それに今後もこともあるし」 午前中の池袋駅の構内は本物の池袋と同じように人でごった返している。さすがにこんな場所で襲いかかってくる参加者もいないはず。 桂は東口方面に歩いて行く。 『見て見て、ふくろうの置物があるよー。へえいけふくろうっていうんだって』 東口に向かう階段の手前に奇妙なフクロウ型のオブジェクトが鎮座しており、多数の人がそこを待ち合わせ場所にしているせいか非常に混雑している。 『――! マスター誰かが見てるっぽい。気を付けて』 「えっえっ! ゆうだ……アーチャーどこ?」 きょろきょろ見回す桂にぴったりと視線が合う人物がいた。 キャリアウーマン風の衣装に身を包んだ二十代前半の女性。 ショートボブの髪型に独特の目付きが何となく少年っぽい雰囲気を感じさせる。 彼女は桂と視線が合うとぺこりと会釈をしてこちらに近づいてきた。 夕立が何もアクションを起こさないので少なくとも敵意はないようだ。 「羽藤桂さん――ですね。私は公安局刑事課一係――じゃなかった。ルーラーの使いの常守朱と申します」 「ルーラー!?」 「あ、そんなに身構えなくてもいいです。今回はルーラーからの通達とちょっとした調査事項がありまして。ここで立ち話はあれなので近くのカフェででも」 「アーチャーは実体化していたほうがいいですか?」 「いえ、どこで誰が情報収集してるかわかりません。サーヴァントを晒すという参加者に不利益な行為はルーラーとして避けておきたいです」 「へえー、そんなことまでルーラーは考えてるんですか」 「ええ、私どものルーラーは公明正大をモットーとしてるそうですから」 公明正大という部分にそこはかとなく毒を含んだ宮守朱。 口調こそ事務的だがどこか親しみを覚える女性だった。 「それで、わたしたちに一体どんな……」 近くのカフェに移動した桂たち。朱はコーヒーを頼み桂はパフェを頼んだ。 「まずこれを」 朱は懐から茶封筒を取りだした。 「内容は一読してもらったらわかりますが。本日、聖杯戦争運営から全参加者に討伐クエストが通達されました。マスター・ジョーカーとそのサーヴァント・ギーグの討伐です」 「討伐って……これって聖杯戦争ですよね?」 「ええ、しかしジョーカーは聖杯戦争に参加するどころか無関係なNPCに強盗に放火、殺人、――それに女性の尊厳を踏みにじる行為をただ無差別に繰り返す」 朱の遠回しに述べた犯罪に桂は目を伏せる。 そんな危険な人物がこの東京で好き勝手に暴れているというのだ。 「なんでっ、そんな人を呼んだんですかっ!」 「ほんとそう思いますね。自分で呼んでうまく動いてくれないから始末しろとは」 どうもこの常守朱という女性、自分の上司――ルーラーを快く思っていないフシがある。 「書面を見ての通り討伐成功には令呪等報酬が与えられますが、無理に討伐クエストに参加することはありません。自分の力量を見計らって挑むとよろしいでしょう。 とりあえず討伐クエストの通達はここまでです。では本題に入ります」 「本題……ですか?」 「はい、単刀直入に言いますとあなたに聖杯戦争への不正参加の嫌疑がかかっています。証拠もなにもありませんが、運営の一部はそう疑っています」 「え、え、え? わたしが不正参加!? 勝手に連れて来られたのに!」 思わず声を荒げる桂。 当然だ。日常をぶち壊されて無理矢理聖杯戦争に参加させられたのに参加自体が不正とはあまりにもふざけている。 「落ち着いて下さい。まだ疑いの段階です。疑わしきは罰せず。それが法のあるべき姿ですから」 「不正と……判断されたらどうなるんですか」 「しかるべき処分が下されると思いますが詳細は私も伝えられていませんので。でもひとつだけわかりました。 あなたは自力でムーンセルに介入し参加権を得たようには思えません」 「…………」 「あの、羽藤さん」 「はい……」 「これはルーラーの使いとしての言葉でなく、常守朱一個人の言葉ですが……諦めないでください。私も諦めませんから――」 彼女は何かを伝えようとしている。 とても大切な何かを。しかしまだ桂に彼女の真意に触れる術はなかった。 ◆ 『常守監視官、いささか恣意的な言動だったように思えるが』 「恣意的? 都合の良いときだけ恣意的に解釈を変えるあなた達が私を恣意的だと弾劾するの?」 『……まあいいだろう。して羽藤桂の不正参加疑惑についてはどうかね』 「現状、彼女一人でムーンセルに進入できるような技量を持ち合わせていないわ。 確かに資料に莫大な魔力を保有してるとあるけどそれを行使する魔術の知識もない なのにあなた達はどうして彼女にそこまで拘る」 『我々シビュラ、東京聖杯、ムーンセルは公正な聖杯戦争を求めるためお互いを監視しあっている その中で我々はムーンセル内において羽藤桂の召喚タイムチャートログに不審な抜けを発見した』 「それは東京聖杯もムーンセルを監視しているんでしょう? なら東京聖杯は何と」 『不正はないと報告している。だが考えても見たまえ、あのムーンセルがログを記録し忘れるはずがない――まあこの件は調査中としておく。常守監視官は通常の職務に戻れ』 「シビュラシステム、ひとつ質問がる。どうして東金朔也を使っている? あの男は参加者にどんな影響を及ぼすか分からない。それを分かっていて使っているのか」 『東金美沙子はすでに我々からは排除されている。彼にノイズを与える者はもはや存在しない。今や彼は立派なシビュラの番人だ。公正に職務を行うだろう』 「公正? 笑えるわね。あなた達の前に狡噛慎也や槙島聖護が現れた時、聖杯戦争の運営として公正な判断ができるか見ててあげるわ」 【A-1/池袋駅/1日目 午前】 【羽藤桂@アカイイト】 [状態]やや精神的に不安定 [令呪]残り3画 [装備]通学用鞄 [道具]なし [所持金] 数千円 [思考・状況] 基本行動方針:戦わず聖杯戦争から脱出したい……はず 1:勝手に連れて来られて不正参加の疑いってどういうことなの…… [備考] ※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。 【アーチャー(夕立)@艦隊これくしょん】 [状態] 健康、霊体化中 [装備] なし(装備を実体化させていません) [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:桂の言うとおりに動く 1:マスターは願いについていろいろ考えてみてもいいっぽい? [備考] ※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。 BACK NEXT 015 禍々しくも聖なるかな 投下順 017 僕らは■■のなかで 012 私の鳥籠の中の私 時系列順 017 僕らは■■のなかで BACK 登場キャラ NEXT 000 DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 羽藤桂&アーチャー(夕立) 018 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路-