約 374,265 件
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1079.html
83 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/09/08(土) 03 52 29 フェイトの掻き消えるような超高速の移動。 第一歩で最高速に達し、なのはの放ったバレルショットを追い抜き、地を這うようにランサーへと襲いかかる。 その直前、ランサーが気付いたのかセイバーの猛攻を受けつつ地這いの一撃を跳び上がり回避する。 だが、それは予想されていたこと。 ランサーを交差すると同時に術式を解除、地面を滑りながら減速し、次の術式を起動させる。 その背後では、物理衝撃を伴う衝撃波が両者を巻き込み、空中に投げ出すと同時にバインドし固定させる。 その認識と同時、なのはは第二射のチャージを終え。 「ディバイン……バスター!」 その主砲を発射した。 最初に放たれた衝撃波はともかく、彼女の主砲弾は減衰されぬまま直撃すれば周辺区画にさえダメージを与えるだけの威力を有する。 故に、その射線上にフェイトが立ち塞がり、 『Round Shield』 衝撃波と主砲に対し防壁を展開した。 「な……めんなあっ!」 空中に固定されたランサーはその裂帛の叫びと同時、力ずくでバインドを叩き壊し己の槍を迫り来る砲撃に叩き付ける。 元よりそれは点を穿つ物。 面を吹き飛ばすその砲撃の前では余りにも無力。 だが、それをして凌駕するが故に彼の者は英雄である。 穿たれた点よりその身を躍らせ――驚くことに空中でありながら空を蹴りその軌道を変えてのけた――砲撃の主の元へと飛びかかる。 だが既に彼女は地面にはない。 その事実を前に一瞬混乱し、標的を見失う。 そして着地する寸前、膝を折り曲げ衝撃を吸収しようとしたその僅かな隙。 「せえええいっ!」 真上より少女が迫る。 膝が曲がっていなければ跳び上がることは出来ない。 だが、膝を曲げる隙が存在する限り上空の敵の一撃を迎撃することは出来ない。 その常識を熟知するが故に、槍の柄を地面に叩き付け跳び上がる。 その動きに気付いた直後、なのはの放った渾身の打撃は、途方もない速度の回し蹴りの前に防がれ、のみならずその身を蹴り飛ばされる。 「はあああああっ!」 だがそれすらも作戦の内。 主砲弾を塞ぎきったフェイトが、なのはと逆方向、即ち真下より襲いかかる。 「っ!」 僅かに舌打ちが漏れる。 元より無理を重ねた体術。 自由になる箇所などありはしない。 「なっ……!」 だが槍の英霊はそれを凌駕した。 背後より迫る斬撃をその槍で受け止め、のみならずその先端を突き出し、フェイトの肩を突き刺し、貫通させたのだ。 槍の先端を隠すように覆う革袋が赤く染まる。 「ぐううっ……」 完治しきらぬ傷の上から更に一撃を受け、飛びそうになる意識を歯を食いしばり堪えた。 斬撃は止められ、肩口には槍が突き刺さっている。 「てええいっ!」 だがそれでもバルディッシュを全力で振り抜き――空中であることで、それは何とか可能であった――それ以上の行動が取れず、飛びかかった勢いのままランサーに激突する。 元よりランサーに飛行能力はなく、そしてフェイトのダメージは深い。 「おおおっ!」 フェイトに突き刺さった槍を起点にランサーの蹴りが炸裂する。 その衝撃で突き刺さった槍がフェイトの肩を更に切り裂き、それと同時に互いがコントロールを失う。 二人が墜落を始めたのは当然の結果であった。 「フェイトちゃん!」 空中で姿勢の制御を取り戻したなのはが落下するフェイトの元へと飛び上がる。 意識は失せているのか、ただコントロールするだけの力を失っているのか、バルディッシュをその手に抱え、無防備に落下していく。 「レイジングハート!」 『Flash Move』 加速Gが蹴られた腕を痺れさせる。 完全に防御しきったと思ったが、ダメージが残っていたようだ。 だがそれに頓着している暇はない。 更にその身を加速させ、落下寸前のフェイトの身体を受け止める。 フェイトの身体はそう重い物ではない。 だがそれでも重力加速の加わった衝撃は同程度の体格の、しかも腕を負傷しているなのはが受け止めるには強すぎた。 飛行のコントロールに数割でも力を割いていれば避けられただろうが、急激に加えられた衝撃は、ただ真っ直ぐ飛ぶことだけに全力を傾けていたなのはが地面に激突するに十分なだけのベクトルを与えた。 『Impossible crash evasion! Five seconds to crash』 地面との激突が不可避であるとレイジングハートが告げる。 「っ……フェイトちゃん、力抜いてて!」 歯を食いしばりフェイトを抱きしめる。 返答を聞き取る暇すらなく、地面に激突する。 だがそれでも可能な限り上方にベクトルを与え続け、結果水切りのように地面を幾度となく跳ねた。 ランサーは最後の放った蹴りで完全にコントロールを失い錐揉み状態で落下していく。 だがそれでも落下予測地点にセイバーが立っているのをその視界に収めた。 歯軋りする。 だがそれに意味はない。 セイバーに対する油断は無かったとはいえ、あの少女達を侮っていた事を内心で認めた。 放った魔術からあの二人が只者ではないとは思っていたが、これほどの攻撃をしてくるなど思ってもいなかった。 そして女性であったが故にか、全力を出すことを躊躇していた部分もあったと自覚した。 だが最早躊躇はない。 あの二人は、未熟ながらも十分すぎるほど戦士だと理解させられた。 そして地面への墜落寸前、セイバーが垂直に打ち上げたその一撃は、地面という強固な支えによって刃に等しき貫通力を見せつけた。 もっと直接的に言葉にしてしまえば、拳がランサーの正中線に『突き刺さった』のだ。 それに対した反撃の槍は錐揉み回転の勢いを加えて右の腿を貫通し、そこで両者が静止する。 槍の衝撃は拳の衝撃を殺したのか、腹部より突き刺さったそれは、貫通することなく数個の内臓を破砕して止まった。 只の人間なれば致命傷の一撃である。 静止したそれは、まるで一つの彫像のようであった。 だが、互いの勝利への意思が彫像のままで終わらせはしない。 彫像に見えたのはほんの一秒ほど。 次の瞬間にはランサーの左拳がセイバーの頬を捉えて弾き飛ばす。 突き刺さっていた槍は膝近くまでを切り裂きランサーの手の中に戻る。 「やりますね」 セイバーの表情から笑みが消える。 「お前達もな……正直、怪我人と少女だと侮っていた、特にお前とは直接戦っているだけにな」 それだけ言って、白槍の先端から血染めの革袋を投げ捨てる。 驚いたことに、血で染まったはずの槍の先端は白く輝いていた。 血の濁りなど微塵も存在しない。 まるでその槍が、白くあることを宿命付けられたかのように。 「なら……今楽にしてあげる」 腕を突き出し、ガンドの狙いをつける。 まるで死にかけた獣のようにふらふらと歩み寄るヴィルベルトの姿はとても痛々しい。 それを止めてしまいたかったという部分も、あったのかもしれない。 純粋な破壊力を有する呪いの弾丸が指先より放たれた。 呪いの弾丸を無防備なままにその身に受け、ヴィルベルトが血を吐き倒れ伏す。 それと同時に、握られた槍は僅かな光と共に彼の手から消え去る。 僅かに語られた断片的な情報を信じるならば、召還された場所へ送還されたのだろう。 既に握りしめる力も、離そうとする力もなかったのか、固定されたように手の形は槍を握ったままだった。 僅かに呻き声が聞こえてくる。 だがそれでも意思は潰えていない。 既に意識もないだろうに、前へと進もうとしている。 手が僅かに動き、既に存在しない槍を探している。 ……少なくとも今、殺すことはしたくない。 甘さからではなく、まだ聞かねばならないことがあるからだと、自分は甘い人間ではないと言い聞かせる。 その執念の源には何かの誤解がある。 「この誤解を解きたい……違うわね」 そう言った感情とは違う。 きっとその理由が純粋に知りたいのだ。 考えてみれば、自らはどこか漠然と生きてきたような気がする。 魔術師として生きる事、そこに疑念や迷いが有るわけではない。 だが自分はこれほど、意識を失っても前へ前へと進めるほどの強い意志が持てるのか、それを知りたいのか。 違うわね、と自嘲気味に首を振る。 それだけの意思を、自分も持ちたいのだ。 彼女のよく知る人物への興味も、きっとそう言った部分がある。 「ならばこそ、ね……」 彼の話が聞きたかった。 その為に、あの殺気の主を止めねばならない。 その為には―― 槍兵への人質作戦:「動くなランサー!」主を人質に戦闘停止を呼びかける マスターへの降伏勧告:縛り上げ、意識を無理矢理にでも戻し、主の口から戦闘停止を呼びかけさせる
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1312.html
97 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/01/31(木) 04 30 48 青年が青銅の槍にて刺し貫かれて、戦場に横たわるは、まことにふさわしきものなり。その死においては、一切が正しきものに映るなり――ホメロス 莫耶を逆手に構え、じりじりと右へ、桜の方へと歩いていく。 「……なるほど、なるほど」 その意図を察したのか、男は笑いを浮かべながら逆へと歩いていく。 円を描くような動きで桜を背後に庇う位置に付ける。 「これで文句はあるまい? 誰かが気になって戦えぬ、というのも妙なことだが……それで戦闘力が下がっては元も子もない」 その全力を叩き潰してこそ最強に至る道はあると続け、カポーテを振る。 「さあ、君のその礼装で突いてきたまえ、背後の者と生きるために出来ることはそれしかないぞ?」 (……先輩) その時、桜の手が背中に触れ、頭の中に桜の声が響く。 これは接触型の念話か。 (振り返らずに聞いてください、正直な話、あの人に勝てますか?) (正直、厳しい相手だな、足止めが精一杯で、今生きてるのが不思議なくらいだ) (だったら……作戦があります) 振り返らず、注意を正面に向けたまま桜の言葉を聞く。 それは乱暴な策だが、勝利の可能性を跳ね上げるだろう。 どこかでそう考えるが、桜の身体が問題だ。 試したことのない事だし、そしてここは現実と似通ってはいるが違う世界だ。 仮にそれであの男に勝ったとして、桜の身体や心が持つのか、考えるべき事は山ほどある。 だが、今のまま戦っていても展望が見出せるかと言われれば、そこには疑問符が付くか、否と言われるかだろう。 (分かった……でも無茶はしないでくれよ? 桜が無事じゃなかったら……その、なんだ、困るし) 素直に言葉を告げられない自分に溜息が出る。 (任せてください、絶対無事に帰りましょう) 背を向けたまま、絶対見えないはずなのに、背中越しに感じた温かさだけで、桜の極上の笑顔を幻視した。 『……ほう、何か企んでいるようだが、上手く行くかな』 努めて冷静に、クロード・シュバリエは敵である少年少女の能力を分析する。 まず少年の能力。 礼装と覚しき剣をどこからか取りだした能力、恐らく工房からの転送であり、ただ一対の武器のための魔術では無駄が多すぎることから幾つも存在すると考えておいた方が無難だろう。 礼装そのものは能力を発現させていないが、幾つかの刻印が見えたことから考えれば、恐らくなにかの能力を有するタイプ。 少なくともこの空間に於いても剣としての性能を失っていると言うことはあるまい。 剣術に関して言えば並の闘士にやや勝る、と言ったところだろうか、こちらの攻撃をきっちりと受け止めてくる。 剣にさえ注意を払えば驚異度はそう高くはない。 次に少女の能力。 少なくとも鉄球を弾き飛ばすだけの攻撃型魔術を連続して使用可能なだけの魔力を保有しているが、魔力を術へと変換する効率はそう高くはない。 だがその鉄球を弾き飛ばすだけの魔術というのが尋常ではない。 礼装『死招きの鉄球』は一つ一つに魔術師の肉体を焼き入れた礼装だ。 世界各地で伝承される、身を炉にくべた呪鉄の逸話にヒントを得た我が祖は戦に勝利する度、そしてその身が滅びる度に新たに鉄球を作り上げた。 その身に込められた魔力を内蔵した鉄球を操作し、攻防を一体化させた鉄球を弾くだけの魔術、それは言うなれば魔術師を吹き飛ばす事さえ可能な力と言うことに他ならない。 驚異度としては遙かに少女側が上だろう。 はてさて、どちらを中心に据えた攻撃か、本来ならば迷いべきところかもしれないが、迷うことはない。 「だがそれもよし、だ」 どちらが来ようと、戦闘の終結は近いという予感がある。 敵は追い詰められており、窮鼠が猫を噛むか、それとも、ただ蹂躙されるに終わるか。 戦いにおいて、歓喜の内に勝利するが最善なれど、歓喜の内に死ねるなら、それもまた良し。 そんなことを考え、笑みを浮かべたままに第一歩を踏み出した。 魔力を込め、莫耶を投擲する。 投擲されたそれは、円運動を描きながら空を舞う。 「勝負を捨てたかッ!」 だがそれが届くよりも早く、素手になったのを見て取って一気に距離を詰めてくる。 それがまず第一手。 タイミングを合わせた背後からの連べ打ちが周囲の鉄球を薙ぎ払う。 「投影――」 左手に干将を投影し、こちらからも距離を詰める。 桜に全幅の信頼を置き、連べ打ちの後も尚残る鉄球を完全に無視する。 あくまでこの策の主役は桜である以上、ここは全力で敵本体の足を止める――! 心臓目掛けて突き出された刺突剣を干将で受け止める。 「だが只の剣では!」 高々と掲げるように振り上げた剣を、更に投影した莫耶で受け止める。 ぎちりと脳が歪む。 「ふっ!」 跳ね返された勢いをそのままに、高々と跳び上がった男が、空中の鉄球を蹴りその勢いを反転させる。 頭上を取るという、陸戦では有り得ぬ制空権の確保。 だがそれとて想定の内。 男の周囲を守る鉄球は残り三つ。 内二つを目掛け、双剣を鉄球目掛けて投げ付ける。 命中した鉄球は怯むように男から離れていく。 刺突が迫る。 狙う先は左肩、鎖骨から垂直に突き入れれば心臓までは凡そ20センチ、それを通されれば死は免れない。 空中の敵は何処までも驚異だが、最後の鉄球を蹴飛ばした以上、行動の自由は無い。 投擲した莫耶が手の内に戻る。 「なっ……!」 元より投擲は弧を描いて手の内に戻るべく放たれた物。 敵の刺突を肩で止める。 僅かに莫耶が肩に沈む。 その勢いを受け止めながら、前へと跳ぶ。 刺突の勢いは残り、その跳躍は捻れ、無様に地面に投げ出される。 だが、ここに策は為る。 男が着地した瞬間、桜が呪を結んだ。 「Es flustert――Mein Schatten löscht den Boden!」 「!」 非現実に侵食された空間が、更なる非現実に侵食される。 瞬時に地面が闇に侵食され、男を飲み込む。 カポーテを翻し、己が周囲に残る最後の鉄球に叩き付け、地面より離れ、飲み込む対象が消えた闇が消え去る。 「させるかっ!」 地面に残る干将を拾い上げ、背後より攻め掛かる。 それを回避する事など出来はしない。 干将が右腎臓を刺し貫く。 舞い戻る鉄球を回避し、男から離れる。 位置を見れば挟み撃ちの形。 だが、近接戦の心得のない桜を曝してしまっているこの状況は危険だった。 桜も今の魔術で消耗している。 自らの暗部を現実にしたそれは桜の悪夢そのものだ。 トラウマの自ら引き出す魔術など、正気の沙汰ではないが、桜はそれをやりきった。 桜を守るためにも、こちらから攻めなければ……? そう考えた直後、音が聞こえた。 世界を超えるような、狂気が生んだ音が。 「やるな……だが、まだだ!」 「いや、お前の負けだ」 冷静に告げる。 聞こえてくるのはロールスロイス・ガスタービンエンジンのエキゾーストノート。 その正体は考えるまでもない。 最高速のままに機体から何かが飛び出す。 カタパルトで撃ち出すような勢いでもって、桜と正対していた男に向けて飛び掛かる。 その正体は考えるまでもない。 「ライダー!」 ダメージを受けていたと言うこともあるのだろう。 初撃こそ三つの鉄球で防がれたものの、鉄球を弾き飛ばした次の蹴りでその身体を吹き飛ばす。 魔力を込めた一撃は、男の身体を弾丸と変えて建造物を貫通し、視界の外へと吹き飛ばした。 だがその事を考える必要はない。 優先されるべき事は幾らでもあった。 「サクラ……無事で良かった、遅れてしまって」 ライダーが桜の元へ走り寄り、抱き寄せる。 その様子は友情とも愛情とも違う、万感の思いが込められているように見えた。 「大丈夫、先輩が守ってくれたから」 「……ライダー、済まないがもう一戦頼めるか、すぐ向こうで名城が戦ってる」 十字路で遮られ、姿こそ見えていないが、戦いの様子は見て取れていた。 戦斧が振り下ろされ、爆発し、炎が燃え上がる。 「ええ、分かりました……シロウ、感謝します」 「礼を言われる事でもないって、それよりも、急ごう!」 頷き、走り出す。 幸い距離は長くはなく、十字路を曲がる。 視線の先では―― インフェクション:存在が希薄となった名城が絶望的な抵抗を続けていた ディマイズライフ:名城がこちらに吹っ飛んできた マゴットコロニー:互いに手詰まりとなったのか、全ての動きが止まっていた 投票結果 インフェクション:0 ディマイズライフ:5 マゴットコロニー:0
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1349.html
434 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2008/02/18(月) 02 37 58 「名城、ちょっと聞きたいことがあるんだが」 「え? 何?」 「その、オーギュメントの必殺技……カレイドフェノムだっけ? アレを撃てるのは一発と考えた方が良いよな?」 様々な思考が浮かぶ中で幾つかの可能性を除外しつつ聞く。 「うん、それで?」 「足止めに特化したカレイドフェノムはあるか?」 「……幾つかあるけど、あの速度が相手だと厳しいかも」 少し考えてから名城が答える。 「当てる自信は無い、でも手段は『ある』んだな」 「うん、ある、けど……」 「なら行ける」 交差点の中央に莫耶を突き立てる。 「ライダー頼みの大味な作戦だが、紛れはないはずだ」 「あれは一直線にしか発動できないから真正面に立たないとならないし、打つまでシールドが持つかどうか分からないし……」 「……安全に立たせてみせるさ」 自信たっぷりにそう言いながら、その実自信などまるで無い。 だがこの膠着状態を長く続けるわけには行かないというのは共通の認識ではあった。 作戦の大まかな説明を終え、帰ってきたのは否定だった。 「先輩が危険すぎます」 「それに無茶しすぎ、命がけでしょ、それ」 「そうですよ! それなら私がやります」 「でもな、他に確実な作戦は無いだろ? だからやる……少しくらい格好付けさせてくれないか?」 そう言って歯を見せて笑ってみせる。 震える足を叩いて止める。 呆れるような溜息が漏れた。 「そういう事を言うとは思わなかったわ」 「私も初めて聞きました」 「……今日の映画の影響かな」 その言葉で一瞬だけ笑う。 気付けば桜も、名城も口元に笑みを浮かべていた。 名城の手、その甲が胸元に触れる。 「頼んだわ……行くわよ桜」 少しだけ表情に迷いを浮かべ、背を向ける。 一度深呼吸をして左右を見やる。 左手側には屋根の上に上った桜がこちらを見やり準備良しのサインを送っている。 右手側では名城が忙しげにオーギュメントの準備をしている。 『あと5秒』 桜からの念話が入り、雑念を打ち切ると、僅かに血の残る干将を構える。 名城が準備良しのサインを出す。 弓を引き絞るように、目標点を見据える。 『3秒』 脳内に設計図を走らせる。 同時に走った頭痛は、全身に広がり掛けている。 設計図を走らせただけで既に限界は近い。 この魔力行使に失敗すれば自滅するという事実を理解しても止まらない。 『1秒前――!』 屋根の上で桜が立ち上がる。 視界の先にライダーが現れ、その直後に敵が視界の中に現れる。 それと同時に、干将を渾身の力を込めて投擲する。 『ゼロ!』 桜が屋根の上から魔術の連べ打ちを放つ。 ダメージなど無い、だが一瞬ライダーからの注意を逸らし、それと同時に干将が敵の目前に到着する。 ――I am the bone of my sword 全身に魔力を滾らせる。 それを驚異と見て取ったのか、それともただ目の前に在ったというだけの理由か。 既に射程の外に逃げ去ったライダーも、屋根の上で連べ打ちを続ける桜をも無視し、真っ直ぐに直進してくるのが見えた。 その背後に存在する、そうと認識できるほどの空間の歪みは、腕に突き刺さったオーギュメント『ロッティン・バウンド』のカレイドフェノムの前兆に他ならない。 絶叫と共に『それ』が放たれる。 それは颱だ。 全てを飲み込む大竜巻が迫る。 非現実でありながら現実を侵食する強固なる幻。 それに対する手段はただ一つしかない。 阻む物の無い路上で、走らせた設計図を真名と共に真実と為す――! 狂い、暴虐を振るうのみとなったバーサーカーが一瞬動きを鈍らせる。 目の前に現れた物への対処を決めかねたのか、その宝具の特性故の僅かな隙故か。 そこにあったのは城壁である。 熾天覆う七つの円冠。 かつての『アーチャー』が最も得意とした防具であり、衛宮士郎の使える最大の防壁である。 だがそれは同時に自らを切り裂く鋭い刃に他ならない。 既に数度の投影を行った上での最大の護りの展開。 それは脳髄を切り裂くような幻痛を巻き起こし、防壁の維持さえも不可能としてしまう物だ。 歯を噛み砕くように食いしばる。 だが続いて巻き起こった炎の柱が、存在を失いかけた城壁を吹き飛ばしていく。 阻む物の無くなった路上で、それでも両者が笑みを浮かべた。 輝く泥のような波紋がバーサーカーの周囲に広がっていく。 その泥に飲まれ、衛宮士郎の存在が歪められ、空間内に情報体として撒き散らされる。 だがそれは分かっていたこと。 狙いの通り、バーサーカーが立ち止まったその位置は、名城の真正面。 この時あるを待っていた名城に対し、ウツロはその存在すら知覚できていない。 その完全なる隙を突き、名城の『ジーザス・シュラウド』がそのカレイドフェノムを発動させる。 炸裂する数個の光塊。 それは呪縛の『原罪』だ。 ありとあらゆる色を含んだ呪縛の光がウツロを包み込み、本来僅かでしかないオーギュメント特有の隙を最大まで拡張し、その身を停止させる。 時間にすれば数秒でしかない隙。 だがそれだけの時間、完全な自由を得ていたライダーが何をしていたか、最早それを考える時間すらバーサーカーには与えられていない。 魔力が奔り非現実の空間ごと切り裂いていく。 切り裂かれた首より溢れる血液が魔法陣を描き、その身が白い光に包まれる。 光の中から現れたのは幻想種たる天馬。 その天馬を完全なる兵器へと変える輝く縄を手に、周囲を薙ぎ払いながら舞い上がる。。 『騎英の―― 僅かの後に軌道を変え、直上から舞い降りる光は、まさしく雷光だ。 ――手綱!』 まるで互いに引き寄せているかのような速度で、雷土が地上を撃つ。 絶叫が響く。 痛みによる苦しみの叫びではない。 その絶叫は、恍惚による物。 その恍惚と共に、バーサーカーはその身を消失させた。 『Battle Termination』 センターオーパスのその表示と共に、再び世界が揺れ、非現実の空間は現実空間に上書きされる。 三者が、三様に消え去った衛宮士郎を呼んだ。 最初に倒れている衛宮士郎を見つけたのはライダーだった。 すぐさま駆け寄り、状態を確認する。 「う……ライ、ダー?」 「はい、無事ですか? 士郎」 「ああ、なんとか……気分が悪い程度で、何の問題も……」 立ち上がろうとして、再び倒れ込む。 「無茶をする……幾ら『空間が消滅すれば元通り』と言う説明を受けていたとはいえ」 「……全くです」 桜は安堵していたが怒ってもいた。 情報空間に撒き散らされる瞬間を目撃していたからだ。 それは酷くショッキングな光景だった。 「いや、ホントは食らうつもりは無かったんだけど……間に合わなかったんだ」 そう言って衛宮士郎は頭の中に残った設計図を消し去る。 幾らか頭は晴れたが、肉体はまるで自分の物とは思えぬままで、正に満身創痍と言って良かった。 「まあ、結果良ければってことで……それより三人とも、大丈夫なのか?」 「私は大丈夫です」 「少なくとも士郎に心配されるほどではありません」 「うんうん」 桜、ライダー、名城が順に答える。 「とりあえず安全な場所に隠れていてください、私は他の面々に連絡を取りに行きます」 説明する暇など無かったが、ライダーはこの戦場における状況をほぼ正確に判断し、優勢を確信していた。 このSC空間突入直前に、戦場に来た全員の無事を確認している。 このまま戦闘を続ければ、恐らく敵を圧倒できるだろうという確信があった。 「そっか、とりあえず少し……」 ふーっと力が抜け、最後まで言い終えることなく意識を失った。 「無理もありませんね……二人とも、士郎をお願いします」 そう言って、士郎の身体を二人に預けた。 不退転:それと同時、殺意を感じた 暗殺者:同時刻、ビル内下層 騎乗兵:同時刻、ビル内上層 投票結果 不退転:1 暗殺者:5 騎乗兵:0
https://w.atwiki.jp/outerzone/pages/25.html
神-----信仰の対象として尊崇・畏怖 (いふ) されるもの。人知を超越した絶対的能力をもち、人間に禍福や賞罰を与える存在。 デジタル大泉典より引用。 神……それは、人々の信仰の対象。 国・宗派によって信ずる神は違う。 しかし、共通していることは、”神に縋る”という人の感情が存在することだ。 「え~と……ここで合っているのかな……?」 地図を片手に歩いている着物姿の少女はこの店が探し求めている店なのか不安げに佇んている。 着物少女の名前は関織子。 旅館「春の屋」で若おかみをしている小学6年生。 春の屋に訪れるお客さんの笑顔を見ることに喜びを感じる織子は、とある宿泊客が『買い物を買いにいきたいがどうしても外せない用事で買いに行くことができない』と困っているのを知ると、自分が代わりに買ってくると申し出たのだ。 「ご……ごめんくださーい……」 『アンティークショップ・美紗里』と看板が掲げられた人気を感じさせない店に少し怖気づいた織子は恐る恐る店内へ入った――― (わぁ……色々と不思議なのがたくさん売られている!) 織子は店内に置かれている様々な物が展示されているのを興味深そうに眺める。 「でも……どれがどれだかわからないわ……店員さんは何処にいるのかしら?」 機械製品に疎い織子は紙に書かれている品物がどれかわからないため、店員に直接聞こうと周囲を見渡す――― ―――すると。 「あら……可愛らしいお客さんね。ようこそ、アンテークショップ・美紗里へ。私は店長のミザリィ』 そこにいたのは、神秘的な雰囲気を漂わせた大人の女性がいた。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 (綺麗な女の人……グローリーさんみたい) 織子は店長と名乗るミザリィを見て、かつて春の屋の宿泊客で織子の友人となった占い師の女性を連想した。 「あ、あの……”これ”が欲しいのですが、ありますか?」 織子はミザリィに客から手渡された紙を見せる。 「どれ?……ああ、これのことね」 ミザリィは紙に書かれている品物を持ってきてくれた。 「わざわざ持ってきていただいて、ありがとうございます。それでは、それを買います」 織子は商品を購入した――― 「……それにしても、貴方が使うようには見えないけれど?」 ミザリィは織子に尋ねる。 「あ、はい。実は……」 ―――かくかくしかじか 「ふ~ん。その年で偉いわね」 「えへへ。若女将としてお客さんには笑顔で帰ってもらいたいので!」 ミザリィに事情を話すと、褒められ、織子は照れる。 「それじゃあ、そんなあなたに貴重なプレゼントを贈るわ」 そういうと、ミザリィは瓶を取り出す。 「そ、そんな。私がしたかったからやっていることなので!」 織子は申し訳ないと顔をブンブンと振り、断ろうとするが――― 「あら。気にしなくてもいいわ。私も贈りたいと思ったから贈るだけだから」 ミザリィは織子に瓶を手渡す。 「わ!?……凄いキラキラして綺麗」 (金平糖みたい……ふふ、鈴鬼君がみたら間違って食べちゃいそう) 織子はミザリィから手渡された瓶の中の虹色の石に目を輝かせて眺める。 「ふふ……それは” 星晶石”。今のあなたにとってただのキラキラした綺麗な石。だけど、あなたの意志が認められたらきっと素敵なことが起きるわ」 ミザリィは織子を見つめながら意味深なことを予言した――― ☆彡 ☆彡 ☆彡 「……」 (なんだか、可笑しなことが続いちゃってる……) 織子は自室で物思いにふけている――― あれから、お客様に買い物した品物を渡すと、大いに喜んだ。 その姿を見た織子も喜ぶが、奇妙な展開になった――― その客は”お礼”と称して買い物へ行った店の店主であるミザリィさんのように”キラキラしたカード”を織子に手渡したのだ。 織子は受け取れないと拒否したのだが、押し切られて結局受け取ってしまったのだ。 そして、次の日、旅館の倉庫を整理していると、織子へと書かれた箱を見つけ、箱の中身を確認すると、たんぽぽとコスモスが押し花とされたキラキラした本の栞がそこにあった。 あれよあれよと”キラキラした物”を3つ手にした織子は頭を悩ます。 「う~ん。駄目……さっぱりわからないわ。ウリ坊達ならこれが何かわかるかな?」 織子はそう思うと、友達の幽霊達に聴きにいこうと立ち上がった瞬間――― ―――パァァア! 「な、何!?」 畳みの上に並べていた3つのキラキラから突如、まばゆい光が発生して織子ごと部屋を包み込む――― ☆彡 ☆彡 ☆彡 「……ここは?」 光が収まり、目を開くと、そこは自分がいた部屋ではなく果てしなく広い広い場所。 見る者を魅了させる星々が輝く。 「綺麗……。そ、そうだ。ウリ坊!?美代ちゃん!?鈴鬼君!?」 綺麗だなと感じるが、一人であることに不安を覚える織子はいつも自分の傍にいる春の屋で知り合った3人の幽霊達の名前を呼ぶ。 ―――シィン。 反応は帰ってこない――― 「みんな!?そんな……!」 織子は寂しさと恐怖で目に涙が浮かぶが――― 「ようこそ、常ならぬ願望を抱く新たなマスター候補者よ」 織子に『泣いている暇はないぞ?』というかの如くどこからか男の人と思しき声が聞こえてきた。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 「―――ここかしら?」 あれから、織子は男の人から聖杯戦争の予選を受けてもらうと言われた。 正直、夢だと思ったが、自分のほっぺをつねってみると痛みを感じたため、夢ではないと織子は理解する。 セイントグラフなるカードやそれを使って召喚せよや地図アプリの使用方法など色々と教えられたが、機械に疎い織子はちんぷんかんぷん。 その様子を星々を通じて見ているのか、男の人はため息らしきのを吐いた――― それから時間がかかったが、なんとか試行錯誤して地図アプリを使い指示された場所まで歩いた。 たどり着くと円形の複雑な陣が描かれ、そこから真っ黒な何かが現れた。 男の人曰く、その”シャドウ”と呼ばれるのを倒すと予選を突破したことになるらしい。 男の言葉が言い終わると同時にシャドウが織子に襲い掛かってきた。 「きゃ!」 幸い、速度が鈍いため、小学生の織子でも難なく避けきることができたが――― 魔術師でもない普通の一般人である織子にシャドウを倒す対抗手段はない。 攻撃→避けるを繰り返していると、シャドウの姿が人の形に変容しだした。 「え!?人の形になった!?」 「シャドウは、時間が経つにつれて強化される。そんなに悠長な時間はないぞ?早くサーヴァントを召喚する事だ」 「そんな!召喚ってどうすればいいの!?」 召喚方法が分からず、避けながら戸惑う織子に対し男は冷静な声で返す。 男曰く、先ほどの聖闘士グラフを用いて『英霊の座』に接続しなきゃいけないらしい。 そして接続するには”意志”が必要だそうだ。 話の最中でもシャドウの速度は加速度的に上がっていき、織子はかわすのに精一杯になっていった。 「痛ッ!?」 剣の切っ先が足を掠り織子は痛みに蹲ってしまった。 そして無情にもシャドウは攻撃を手を緩めようとせず、織子に剣を――― (私……死ぬの!?) 織子の脳裏を埋め尽くす死の気配。 凜はその感触で長くのばされた時間の中、様々な考えが浮かび消えていった。 ―――そんなの駄目。ここで私が死んだら、ウリ坊・美代ちゃん・鈴鬼君と二度とあえなくなっちゃう! そして何よりも大切な”お父さんとお母さん”とも会えなくなっちゃう!!! 織子の心の中に渦巻く感情を爆発させた瞬間、握っていたカード「セイントグラフ」が宙に浮くと光を発した。 その光にシャドウは攻撃を中断して後方へ下がる。 マイクテスト、マイクテスト。あーー、もしもし、聞こえるかー? 「え?え?……私の胸!?」 織子は何処からか聞こえる声の元を探そうとしたら、自分の胸から聞こえたことに吃驚する。 ハロー!ニンゲン!キィの名前はキィという!よろしくな! 「わ、私は関織子。よ……よろしくお願いします」 自分の胸から挨拶され、織子も自己紹介を交わす。 「ひょっとして……あ、あなたがサーヴァントなの?」 「うむ。キィはバーチャドールでサーヴァントだ!」 織子はバーチャドールとまた知らない単語を聞かされ頭を傾げるが、とにかく、自分のサーヴァントであることを理解する。 「お、お願い!キィちゃん!シャドウをやっつけて!」 マスターとなった織子はサーヴァントのキィに攻撃するようお願いするが――― 「それは、無理だ」 「ええ!?」 (どうして!?それじゃあ私、死んじゃうわ!) あっけらかんと応えるキィに織子は驚愕する。 「キィはサーヴァントとして召喚されたが直接攻撃はできない。だが、一緒に暴れまわることはできるぞ?」 キィはニヤっとすると――― 「ハンシン、覚悟はできてるな?」 ……Are you Ready?――― ピシィ!! キィの言葉に反応して、織子の胸に硝子の氷柱が飛び出す! まるで、ガラスの心が反応したかのように。 GO Liiiiiiive!! ―――パリィィィン 硝子の氷柱は向日葵とコスモスの花になり――― 手には竹箒を握りしめていた。 「え?え?」 (向日葵にコスモス?) 急展開に織子は戸惑うばかり。 「おい!ハンシン。ボーっとするな!!前を向け前を!!!」 「え?」 キィの言葉に前を向くと――― 「……」 今まで、様子を窺っていたシャドウが織子に再び、剣を構えだすと襲い掛かってきた。 「さぁ、戦うのだ!ハンシン」 「た、戦うってこの竹箒で!?……そんなの無理よ!」 (そんな!?箒で剣に敵う訳ないじゃない!) キィは戦うよう織子に命ずるが、織子は無茶いわないでと抗議する。 「大丈夫だ!キィを信じろ!!」 キィは織子に自分を信じるよう伝える。 ブォッ――― シャドウの剣が織子の脳天へ向かって振り下ろされる――― 「ッ……」 もう駄目―――。ごめんなさい。お父さん、お母さん――― 織子は無駄だと思いながらも竹箒でガードする。 ガギィィン――― 「……え?」 なんと、金属音が聞こえただけで、竹箒が剣を受け止めたのだ! 「だから、キィを信じろと言っただろ?さぁ!反撃だ!!」 ―――シンギュラリティエクス 「わ!?わわ!!」 キィの言葉に反応すると織子の体が勝手に動き出し――― ブォ!!! 竹箒でシャドウを打ち上げ、空中で高速に叩く!叩く!!叩く!!! ―――クルクルクル 回転しながら勢いよく竹箒で地面に叩きつける!!!!! 「……!!??」 シャドウは織子の攻撃に耐えきれず――― シュゥゥゥ――― ―――消滅、露散した。 ―――スタッ 織子は見事に着地すると、前にいる女の子――― パァン――― キィとハイタッチした。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 「はぁ……はぁ……はぁ……」 シャドウが露散する中、織子は昂った体を鎮めようと息を整える…… 「やったなハンシン!」 目の前の少女はニコッと織子に笑みを見せる。 「えっと、貴方がキィ……ちゃん?」 織子は目の前の少女が先ほどまで自分の胸から聞こえた声の持ち主ではないかと思い尋ねた。 「うむ。キィはキィだ!それとちゃんづけはいらん。キィでよい」 キィは織子の尋ねにそうだと肯定する。 「ふっふっふ……このキィがサーヴァントとして召喚されたからには大船に乗った気持ちでいるがいいぞ」 キィはVサインを織子に向ける。 「そうと決まったら、早速コンビの名前を考えねばな……」 キィは顎に手を添えると思案しだし――― 「……うむ。やはり、あれしかないな。……我らは帰宅部だ!」 キィは宣言する。 「き……帰宅部!?」 キィの宣言に織子は目を丸くする。 「そうだ!この世界はリグレットがかつて行っていたことと同類のようなものだ。マガイモノだ!キィはそんな世界を認めることはできない!だから、現実世界に戻る……つまり、帰宅部ということだ!」 キィはそういうとこぶしをギュと握る。 「安心しろ。キィが知っている帰宅部の皆はキィにたくさんのことを教えてくれた。そして、今は皆、現実を受け入れて精一杯生きておる!だから、帰宅部という名ならハンシンも必ず元の世界へ帰れる!」 キィはそういうと、織子の目を見つめた。 「う……うん」 (リグレットとかまた、わからない単語が出てきたけど……とりあえず、キィはこの変な場所から皆がいる春の屋へ戻る手助けをしてくれるってことなのかな?) キィの熱い思いに織子は圧倒される――― そんなやり取りをしている内に織子とキィが佇む場所が闇に呑まれだし――― 「こ、ここは……」 目の前の景色の変化に織子は周囲を見渡す。 (ここって……教会かしら?) どうやら、教会らしき場所へいるようだと理解した。 すると――― 「……ほう、このような幼き少女が試練を突破できたとは……ふっ、これも一興か」 不敵な笑みを浮かべる神父がいた――― ☆彡 ☆彡 ☆彡 「……これで説明は以上だ。理解できたかな?」 「え、え~と……」 あれから言峰綺礼と名乗る神父から”聖杯戦争”についての説明を受けたが、今まで普通に旅館の若女将として働いていた織子には夢物語のようにしか聞こえなかった。 「まぁ、幼き少女が全てを理解するのは難しいだろう……だが、理解しておくことは二つ。今、君のいる都市は『パラディウムシティ』といい君が過ごしていた世界ではない。そして、聖杯戦争に参加意思を示し、聖杯を手にすれば君の”望む願い”が叶うということだ」 綺礼は織子に話す。 「望む願い……」 (私が望む願い……) 「おい!キレイとやら!キィたちは聖杯戦争に参加しないからさっさとハンシンを元の世界へ戻してやれ!」 ここまで、神父と若女将のやり取りを黙って聴いていたキィは綺礼に食って掛かる。 しかし――― 「それは無理だ」 綺礼はキィの要求をにべもなく断る。 「な……何故だ!」 当然キィはそんな回答に納得することができず、綺礼の眼前にさらに顔を乗り出す。 「……そんなに近寄るな。聖杯戦争に参加するか否かは私や貴様が決めることはできない。あくまでも意思決定は選ばれたマスターだけだ」 そういうと、綺礼は目線を若女将に向ける。 「それに、聖杯戦争で優勝すれば、新たな理のもとで運営される宇宙の中で、全ての人間はそのままの姿で転生する。貴様のいう帰宅部の目的とやらと何の違いもないではないか?」 綺礼はフッ……とキィに話ながら微笑する。 「同じではない!世界の理を改変するということは、理不尽でも今までの世界で精一杯生きている人達を冒涜する愚かな行為だ!キィは断じてそのようなマガイモノを利用した企みを認めるわけにはいかない!」 キィは綺礼に啖呵を切って聖杯での望みを否定する。 「頭から聖杯を否定するとは、とても英霊の座にいるサーヴァントとは思えん発言だな」 キィと綺礼の言い合いは次第にヒートアップしていく――― 「……」 織子は沈黙のまま目を瞑っている。 ―――やがて、ケツイが定まったのか両目を開くと。 「……私、参加します!」 力強くハキハキした声で意思表示をする。 「お、おい……」 若女将の参加の意思表示にキィは戸惑いを隠せない。 「だって、他の人が聖杯を手にしたら願いによっては他の宇宙……えっと、私の住む世界にも影響を与えらられてしまうかもしれないんですよね?私……ウリ坊や美代ちゃんに鈴鬼君や”お父さんとお母さん”に会えなくなった世界に変えられちゃったらやだもの!だったら、私が聖杯を手にして元の世界へ帰るわ!!!」 ”両親を亡くした”織子にとって今、ウリ坊達と囲まれた生活は失いたくない現実。 それゆえに織子は聖杯戦争に参加の意志を表明した。 「フッ。どうやら、英霊としての役割を自覚できぬサーヴァントに比べ、少女は聖杯戦争のマスターの資格を十分に有しているようだな」 「ッ!?……」 綺礼の勝ち誇った表情を見て、殴り掛かりたい気持ちをキィは歯を食いしばり、耐える。 「関織子。貴様の参戦を聞き入れた。聖杯は君を歓迎するだろう。あと細かいのは端末のヘルプで参照できるが、まぁ、そこのサーヴァントがそういう操作は得意なはずだ。分からなければ頼ることだ」 「……」 綺礼はチラッとキィの方へ目線を向け、キィはそれを無言で睨む。 「わかりました。……それでは、これで失礼します」 織子は綺礼に頭を下げると出入り口に向かって歩く。 「喜べ若女将。君の願いはようやく叶う」 綺礼は立ち去ろうとする織子の背中へそう言葉を投げかける――― ―――織子とキィは教会を後にした。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 「ごめんね。キィ……せっかく私の為に神父さんに色々詰め寄ってくれたのに」 織子はキィの想いに反した行動を謝罪する。 「……なぁ、ハンシン。キィはやっぱり納得でき……ッ!!」 キィは織子に話しかけようとしたそのとき――― ―――織子の心の奥に踏み込みますか…? はい いいえ ドクン!とキィの体に悪寒が全身に巡り走る。 「……どうしたのキィ?」 「い、いや。なんでもない……」 キィの様子の変化に気づいた織子は心配そうに顔を覗くが、キィは大丈夫だと返事を返す。 「……そう?」 織子は『本当に?』と思いつつもスタスタと前を歩く。 「……」 (そうか……キィがオリコのサーヴァントになったのは”そういうこと”なのか……) 前を歩く織子の背中を眺めつつキィは悟った――― 自分が此度の聖杯戦争のサーヴァントとして召喚されたわけを――― 「キィー?置いてっちゃうよ―――?」 織子は立ち止まっているキィに声掛けする。 「……ああ。今行く!」 (そして、織子の心の奥に踏み込むとしたらハンシンではなくキィなのだな?) キィはリグレットのときの相棒の姿を想起する。 (……はたしてバーチャドールのキィにできるのだろうか?……いや、キィがやらなきゃいけない!でなければ、帰宅部の皆に顔向けができぬ!) そう、人の想いを痛みを引き受け、受け入れるのがバーチャドールの役目なのだから――― かくして、一組のマスターとサーヴァントの帰宅部(コンビ)ができた。 【サーヴァント】 【CLASS】 キャスター 【真名】 キィ 【出典】 Caligula2 【性別】 女 【ステータス】 筋力E 耐久E 敏捷C 魔力A++ 幸運A 宝具A++ 【属性】 中立・善 【クラス別能力】 陣地作成:A+ 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。 ”神殿”を上回る”大神殿”を形成する事が可能。 道具作成:B 魔力を帯びた器具を作成できる。 【保有スキル】 バーチャドールキィ:A 聖杯戦争のマスターが一人脱落するたびに力が解放される。 マスターは解放された能力を行使することができる。 一人目 キキィミミ めっっっちゃ耳がよくなる。特定のワードを検知するようになる。範囲は一エリア分。ただし、ワードの範囲が広いため、必要な情報以外も多く集まるのが欠点。 二人目 キィ憶消去パンチ キィ憶消失パンチを受けた者は数日の記憶が曖昧となる。 三人目 ピッキィング 簡単な構造の鍵や魔術結界なら解除できる。 四五人目 ハッキィング 人が多く集まっている場所や騒ぎになっている場所などヘルメス・トリスメギストス内の力の流れを感じ取れる。 六人目 マスターキィ 殺害もしくは魂食いをされたNPCの情報やそのときの状況を覗くことができる。 七人目 バーチャドールキィ 人の想いを受け止める。それは、不安も悲しみも欲望も。 マスターの身体能力が全ステータスA+になる。 フロアージャック:A+ 相手サーヴァントとの戦闘中、具現化して曲を歌う。 歌う曲により、マスターのステータス強化に繋がる。 キィがハンブンもらった!つまり、ハンブンっこだ:C サーヴァントとマスターは一心同体。 マスターが死ねばサーヴァントも消滅する。 サーヴァントが消滅すればマスターも死ぬ。 【宝具】 『カタルシスエフェクト』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人 マスターの心の貌を具現化させてサーヴァントと互角に戦う能力を付与する。 シンギュラリティエクス 竹箒で相手を高速で叩く スラッシュレイド 素早く踏み込み竹箒の打撃と蹴りを繰り出す。 ハイディスターブ [射撃カウンター](飛び道具の宝具の発動をキャンセルさせる)敵の懐に踏み込み回転叩きを繰り出す。 ドレッドノート [必中]サーヴァントの防御が薄い急所を狙い、威力の高い竹箒の打撃を繰り出す。 ブロークンサーフィス [ガードブレイク](防御の宝具の発動をキャンセルさせる)高くジャンプし強力な叩きつけでガードをも破壊する強烈な攻撃。 ソニックレイド [空中攻撃]高く飛び立ち空中の敵に回転しながら竹箒の打撃を見舞う。 カルニヴァル [突撃カウンター](大軍・大城宝具の発動をキャンセルさせる)回転しながら敵を竹箒で叩き、敵の宝具を挫く。 ツインアセイル 回転で威力を増した攻撃を放つ。最後の蹴りには相手を吹き飛ばす効果を持つ。 アンダーテイカー 目にも止まらぬ竹箒の打撃で敵を圧倒する。 ダンスマカブル 素早い突進で相手を竹箒で叩きながら回り込み最後に背後から強襲する。 【WEAPON】 歌声 【聖杯にかける願い】 無い。キィはマガイモノ(聖杯)によって叶える願いは断固認めん! 【人物背景】 uの後続として開発された試作品のバーチャドール。uを母のように強く慕っている。試作品の為、始めは人の価値観を完全には理解できなかったが、リグレットによる偽りの世界を破壊するために力を貸したニンゲンとその仲間たちとの交流で人の持つ価値観や可能性を理解した。 【方針】 マスター(関織子)の心の奥に踏み込むために当面はマスターが死なぬよう戦闘指南しつつ絆を深める。 【把握媒体】 ゲーム。(続編ものですが、キィは2のキャラで前作を知らなくても把握できます) プレイが厳しいなら実況などのプレイ動画。 【マスター】 関織子 【出典】 若おかみは小学生(映画) 【性別】 女 【能力・技能】 霊界通信力:幽霊や魔物が見れ、彼らと放せる能力。交通事故での死にかけたのをきっかけに得た 【weapon】 竹箒:キィの能力で精製された竹箒。 サーヴァントの力が込めれているので、非常に頑丈(宝具にも耐える)。 キィが直接戦闘するサーヴァントではないため、織子がそれを駆使して聖杯戦争を戦い抜く。 【人物背景】 明るく元気な小学生。梅の香神社での神楽を見学した帰りの高速道路で大型トラックによる交通事故に巻き込まれて両親を亡くす。その後、祖母に引き取られ、幽霊であるウリ坊と出会う。そしてウリ坊の提案で祖母の経営している旅館『春の屋』の若女将として働くこととなった。始めは若女将としての修行に四苦八苦していたが、宿泊客のあかねの為に露天風呂プリンを作り、彼の悲しみを浄化した。また、元気のない占い師の水領に心からのおもてなしをして彼女の元気を取り戻らせるなど若女将として成長を重ねる。秋になり、とある一家が春の屋に泊まりに来る。事情があって病院食のような食べ物しか口にできない一家のお父さんのために奔走して改良した食事を提供してお父さんを喜ばせる。しかし、そのお父さんが交通事故を起こしたトラックの運転手であることを知ると同時にこれまで夢の中で慰めてきた両親の幻からの別れを告げられたことに衝撃を受け、部屋を飛び出す。仲良しのウリ坊達を探すが彼らの姿はもうほとんど見えず旅館をさまよう。織子を心配しに様子を見に来たグローリーに慰められ織子は落ち着きを取り戻し、生前の両親や祖母がいつも話していた"花の湯温泉のお湯は誰も拒まない"という言葉を使って、一家を春の屋旅館に留めてライバル旅館の子は織子を認めさせた。 【マスターとしての願い】 世界の理を大きく改変するような願いを持つマスターには聖杯を渡さない。 自身の願いは思い出の詰まっている現在の春の屋旅館を本館として残しつつ、はなれに別館を建てて春の屋を大きくする 【方針】 序盤は情報収集・戦闘訓練(キィによる指南)に集中。 【ロール】 シカルゴ街にあるとある旅館にて住み込み中。お手伝いをしながら若女将としての修行中。 【令呪の形・位置】 右手の甲に、露天風呂プリンの形 カラメルソース・プリン・皿の3画 【把握媒体】 映画もしくは映画版の小説。 テレビ版は若干若おかみこと関織子の設定が違うのでご注意を。 参戦時期は映画内の木瀬一家が宿泊にくる前(両親の幻との離別を受け入れられる前※抱え込んでいる織子の心の奥)となっています。
https://w.atwiki.jp/animefate/pages/48.html
人は、平等ではない。 生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、 病弱な体を持つ者、生まれも育ちも才能も人間は皆、違っておるのだ。 そう、人は差別される為にある。 だからこそ人は争い、競い合い、そこに進歩が生まれる。 不平等は悪ではない。平等こそが悪なのだ ■ 神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、帝国の象徴と言えるその男は「黄昏の間」と呼ばれる空間にその身を置いていた。 神を殺す、ラグナレクの接続により全人類を集合無意識へと回帰させ「嘘のない世界」を創生するという 人の身にとって大きすぎる野望をこの男は抱いていた。 「皇帝陛下!」 自らの野望に半陶酔していた所にきた突然の来訪者に眉をひそめる。 見ればその男はギアス嚮団に所属する研究員のようだった。 ギアス嚮団 ギアス能力者を誕生・研究するべく、シャルル自らが結成した組織であり その存在は秘中の秘とされている。 「エリア11の冬木市地下大空洞に新たに発見された遺跡奥の黄昏の扉が異常な反応を示しています!」 そう研究員が告げたとほぼ同時に黄昏の間に大きな揺れが発生する。 黄昏の間は思考エレベーターであるアーカーシャの剣と呼ばれる人間に干渉するシステムの置かれる仮想空間であり外界とは断絶された場所である。 その黄昏の間にこのような地震めいた揺れが起こるなど本来ならば考えられない事態であった。 戸惑うのも一瞬、皇帝陛下シャルル・ジ・ブリタニアの脳内に思考エレベーターからありえない来客からのメッセージが流れてくる。 その説明はこんな一文から始まった ──Apocrypha(アポクリファ)運営チームの最高責任者キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグじゃ。 説明は至って簡単かつ明瞭なものであった。 1つ、並行世界における冬木市で近い未来に聖杯戦争が起きるということ 1つ、聖杯戦争とは7人のマスターとサーヴァントが最後の一人になるまで殺しあうバトルロワイアルだということ 1つ、勝者にはあらゆる願いを叶えるとされる万能の願望機『聖杯』を行使する権利が与えられること 1つ、その聖杯戦争のマスターの一人に神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアが選ばれたということ 「なんでも・・・と言ったな。それは文字通りどのような願い事でも叶えるということか?」 数十秒の思考の末発した問いに声の主は肯定の意を伝える。 「ふはははははははは。面白い!未だ実現せぬ我が願望、それがまさかこのような抜け道で達成される日が来ようとはな!」 皇帝は疑わなかった。 その声の主の持つ異常なまでの説得力もあったが、何よりも自身の信念によるものだった。 世の中は不平等であることを。 自分は選ばれた人間であることを。 聖杯戦争で勝ち抜きその悲願が必ずや達成されることを。 「人は平等ではない。不幸な境遇に生まれたものが幸福を享受したいならばそれ相応の努力が必要である。 ならば皇族として生まれた者は努力しなくてもよいのか?・・・否ぁ! 選ばれし者はその境遇に甘受することなく更に高みに昇らなければならない。 人生は、上がるか下がるか。現状維持などない。なぜなら、自分が成長しなくても時間だけは過ぎていくからだ。 なればこそ、此度与えられたこの境遇、試練、現皇帝陛下であるこのシャルル・ジ・ブリタニアが必ず乗り越えて見せようぞ!」 威風堂々と宣言する皇帝陛下の姿を見て、声の主は 冬木市に発見された黄昏の扉をシャルルのみに通れるよう限定的に並行世界へと繋いだことを告げその存在を消していった。 シャルルの手に痣のように浮かぶ令呪を残して。 その日の晩、時の皇帝陛下シャルル・ジ・ブリタニアは扉の先へと向かっていった。 ■ ■ 月の綺麗な夜だった。 それはエリア11に似て非なる世界だった。 人気のない広場の真ん中でシャルルは告げる。 己の悲願を叶えるべき半身となるサーバントを告げる言葉を。 「神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアが告げる。 我が悲願、我が野望を叶えるために此度の聖杯戦争を勝利に導く誇り高き騎士よ。 我が望みに応えて今、この時を持って我に忠誠を誓い現界せよ!」 その言葉に応えて一筋の光が生まれる。 その者の存在感は圧倒的だった。 その存在は赤、圧倒的な赤だった。 見た目だけではない、全身に漂わせる血の香りがそう思わせたのだろう。 英国貴族、ヘルシング家に使役されている吸血鬼であり、対吸血鬼組織『英国国教騎士団(ヘルシング機関)』の対化物の切り札、殺し屋にしてゴミ処理屋。 その真名をアーカードとする化物がそれだった。 「問おう、貴様が私のマスターか?」 ■
https://w.atwiki.jp/yugami_yusya/pages/41.html
状況 出会った相手 戦った相手 状況 出会った相手 衛宮士郎 イリヤ 遠坂凛 アーチャー バーサーカー ランサー ライダー アルクェイド 戦った相手 ランサー ライダー 七夜志貴
https://w.atwiki.jp/magicacell/pages/19.html
[二日目/朝] 聖杯戦争。 それは魔法少女たちによる釁られた戦いだ。 神父さんは、私にそう語って聞かせた。 寝ぼけた眼で、自分の左手に刻まれた三画の刻印を見やり、私は思う。 ああ。あれは、夢じゃなかったんだ。 月の綺麗な昨日の夜更けに、私が呼び出したサーヴァント。 ――ライダー。 三騎士のクラスには届かなかったものの、私の招来に応えてくれた英霊。 混乱のせいでどんなやり取りを交わしたかは覚えていないけど、ファーストコンタクトは概ね良好だったような気がする。 ……しかし召喚に成功した安堵のあまり、そのまま寝てしまったというのは我ながら、情けない限り。 肝心なところで締まらないのはそろそろ何とかしたいところだと真摯に思う。 それは兎も角。 私はこれで、とりあえずスタートラインには立てたことになる。 聖杯戦争がどういうものかは、神父さんから聞いた。 聞いたからこそ、私がやらなくちゃならない。 きっと、これは私にしか出来ないことだから。 魔法少女―― キュゥべえと契約し、騙された女の子たち。 私も、その一人。 どうしてキュゥべえが現れないのかはわからないけれど、だからこそ、今しかない。 昨日から仮病を使っていたから、部屋の時計が既に遅刻確定な時間を指していることにも驚きはしなかった。 家族に心配をかけるのは申し訳ないからあまりやりたくはなかった。でも、今日はしなくちゃならないことがある。そう前もって決めていたから、体調不良と嘘をついて、今私は学校を休んでいる。 サーヴァントとの、意思疎通。 召喚時に満足に出来なかった分、今日は一日たっぷり使って――お互いのことを知っておく必要があると思った。 ……いくら私でも、碌に会話すらしていないような状態で無防備に外出することが危険なことは分かる。神父さんによれば私は六番目のマスター。つまり、少なくとも五人の魔法少女が、既にサーヴァントを召喚してこの町へ潜んでいるのだ。 怖いと感じる想いは、勿論ある。 ただ、それ以上に強い想いがあるから、私はそこへ身を放り込むことが出来た。 ――悲しい。 初めて聖杯戦争について聞いた時、私はどうしようもなく、悲しくてたまらなかった。 そして思った。 見滝原の魔法少女として、やらねばならないことがあると。 それはあまりにも――きっと誰に聞かせても、反対されるどころか笑われてしまうようなバカげたコト。 ライダーのサーヴァント。 私の、サーヴァント。 彼は、どんな反応をするだろうか。 きっと、怒られるに違いない。 最初から関係性を悪くしてしまう未来が見える。 それでも。私には、胸の内を隠したまま、“仲間”と戦っていくなんて器用なことは出来そうにもないから。 だから、正直に話すことにした。自分が聖杯戦争に参加する理由。 聖杯戦争の、解体。 そんな――あまりにも矛盾した理由を。 ◆ 「ふああ……」 欠伸を押し殺すこともなく漏らして、――鹿目まどかは、リビングへと歩を進めていた。 家には自分以外誰もいないらしい。母の詢子はいつも通り会社勤めで、弟タツヤも学校へ行っている。ここまでは予想通りなのだが、この静けさからするに父・知久も何処かへ外出しているようだ。 どうしたんだろうと思わないでもないが……結果から言えば好都合だった。 ぺたぺたと、裸足で廊下を歩いていく。 程なくして、リビングへ辿り着いた。 扉を開け、ラップのかけられた朝ご飯が置いてあるテーブルへ近付く。 ベーコンエッグの乗った食パンに、レタスとトマトのサラダ。スープが冷めてしまっているのが少し残念だったが、そこは寝坊をしたこちらの落ち度として諦めるしかない。 「……あれ?」 ――と。 その時、初めてまどかはこの空間に存在する“違和感”に気付いた。 何故にそんなにぺらぺら言葉が出てくるのだろうと思うくらい、真実“捲し立てる”という表現こそ正しいであろうテレビショッピングの売り子。……問題は無論そこではなく、何故テレビが誰も居ないのに点いているのかということ。 消し忘れだろうか。不思議そうな表情を浮かべながら、まどかは振り返り。 硬直した。 比喩抜きに、その場で硬直した。 何故今の今まで気付かなかったのか、自分でも信じられない。 きっと、余りにも大きすぎる違和感だったから、見落としてしまったのだろう。 それほどまでに、その人物は鹿目まどかの世界の中で浮いていた。 薄ぼんやりと思い出される、昨夜の記憶。 そうだ、この人が―― 「ぬう……なんと興味深い代物! 現代にはこのように面妖な宝物が溢れているというのか…… 良い! 心が踊る! 余の時代にもこの男が居たならば、余の行軍も数倍は利便に進んだかもしれぬな」 テレビショッピングを前に、子供のようにはしゃいでいる大男。 明らかに現代の風景から浮いた外套と鎧帷子姿の、日本人離れした赤毛の巨漢。 その光景はあまりにもシュールレアリスムにあふれており、事実上初の邂逅であるというにも関わらず、まどかは呆気に取られてしまった。家の煎餅を勝手に食べていることなど、彼の豪快さを前にしては心底どうでもよく思えてくる。 この人が、私のサーヴァント。 三画の令呪によって繋がれた、無双の英霊が一騎。 未だ自分の存在に気付かず、テレビへ熱狂する大男へ……まどかは恐る恐る声をかけた。 「――あの」 「ほう! 濯いだ瞬間キュキュっと食器の汚れが落ちる油……面白い! 余の時代にも厨房に立つ者は常々肉の油が染み付いて取れんと嘆いておったものよ! 益々興味深いぞ、この時代は!」 「あの!」 ライダーの貌が、まどかの方を漸く向く。 意を決したように、呼吸を整え、問う。 「昨日のこと、あまりよく覚えてなくて……それで。 貴方が、私のサーヴァント――なんですよね。“ライダー”さん」 一瞬の逡巡すらなく。 間髪入れずに、ライダーはニヒルな微笑みを浮かべて。 そして返答する。 「――応とも。いかにも余が、うぬの呼び出したサーヴァントに他ならん」 威風堂々・豪放磊落―― この英霊を評するならば、そんな言葉以外にない。 たとえ今、過去、未来のあらゆる存在を連れてきても、この男を“折る”ことの出来る存在など居りはすまい。 まさに“王者”。 魔法少女として過酷な定めを背負っているとはいえ、ある程度の平和が確約された世に生を受けたまどかでさえ、この人物にはそんな感想を抱かざるを得なかった。 「我が名は征服王イスカンダル。昨夜にも名乗ったつもりであったが、記憶が朧気ならばもう一度名乗っておくとしよう。そして余からもだ、小娘。問おう」 イスカンダル――征服王。 歴史の授業で、耳にしたことがあった。 マケドニアの覇者。 アレキサンドロス三世、アレクサンダー大王、或いはイスカンダル。 世界史の分野にさほど詳しいわけではなかったが、そんな渾名や伝説から弱小さを感じる者など居るはずがない。 「――貴様が、余のマスターで相違ないな?」 「……は、はい! 鹿目まどか――私が、貴方のマスターです!」 良し。 破顔するライダーのサーヴァントを前に、まどかは思う。 この男ならば――どんな英雄豪傑と相対しても、負けはしないに違いないと。 そんな、価値観を一変させるような邂逅。 時間にして、午前九時三十分。 この時を以って、鹿目まどかの聖杯戦争は――真に“始まった”。 ◆ 「――ふむ。ならば小娘、貴様は聖杯を拒む……というのだな?」 喧しく騒ぎ立てるテレビの音声は、もう消えていた。 難儀な話題ではあるが、先延ばしにするわけにはいかない。 そう思ったまどかは、ライダーへと“本題”を切り出した。 ――即ち、自身の聖杯戦争に対する歪んだ体勢を。 願いを求めず、この戦争を止め、解体するという目的を。 ライダーはそれを聞けば、ふむと頷き……そして先のように、問い返す。 こくり。 まどかが頷けば、ライダーは腕組みして唸った。 「余はな、さしたる願いは持たん」 窓から見える外の風景へ目を向けて、ライダーは言う。 聖杯に託す願いがないという時点で、サーヴァントとしては異端である。 だが、この征服王に限っては頷ける話だ。 その生き方は伝承に聞くだけでも圧巻の覇道一色。 実際に言葉を交わせば交わすほど、聖杯という宝具を用い願いを叶える等と謳う風には見えなくなっていく。 「この現代を制覇し……軈ては征服し尽くてやろうとは思っているが、その道筋を聖杯なぞに委ねては征服王の名折れよ。故に余自身の手で成さねば意味がない。だが、聖杯が全くの無用かと言われれば、それも否だ」 実に他愛ない調子で世界征服を語る姿にも、まるで荒唐無稽なものを感じない。 彼ならばやってのけると、理屈より先に直感で理解してしまう。 しかし、彼が如何な豪傑であれども、その肉体はサーヴァントという器に縛られたままだ。 聖杯戦争が終われば消滅し、あるべき場所へ戻っていく。 「有り体に言えば、受肉だな。本来の肉体が戻れば、興の乗らん縛りとは無縁で動くことも出来るだろうよ。つまりだ、小娘よ。貴様の望みは解ったが、余を納得させるだけの理由が足りん」 ライダーにとってまどかの道へ従うことは、謂わば。 聖杯という、この現代に於いて再び夢へ挑む切符を、自らの手で破棄することを意味する。 当然、二つ返事で了承できるものではない。 まどかは、思わず黙り込んでしまう。 何しろ相手は、遙か太古から現世まで語り継がれる大王だ。 それを納得させるなど、容易なはずがない。 ――ふと。令呪の存在が頭に浮かぶ。 神父の説明を思い出す。 “令呪はサーヴァントへの絶対命令権だ。 対魔力のスキルを持つサーヴァントにも、令呪を受け入れる契約を交わしている以上は問題なく作用するだろう。 ――然しだ。令呪の効力は瞬間的で、且つその内容が明確であればあるほど効力を増す。 逆に長期的で曖昧な命令であれば……必然、その効力は弱くなっていく” ……駄目だ。 小さく頭を振って、頭の中に思い浮かべた可能性を否定する。 方針の強要は神父の説明へ当て嵌めれば、紛れもなく後者の部類。 それに、サーヴァントへ無理やり自身の考えへ頷かせるなどまどかとしても本懐ではない。 彼は道具ではなく、共に戦ってもらう“仲間”なのだ。 自分の思い通りに事を進めるために、令呪などという道具に頼るのは――言うまでもなく、ズルだ。 「……だって、悲しいですよ。こんなの」 「ふむ?」 気付いた時には、声が口から溢れていた。 聖杯戦争に参加したのは、確かに短絡的な一時の感情に任せた結果である。 けれど――まどかは今でも、その選択に後悔などしていない。 むしろ、ああしなければならなかった――とさえ、思っている。 「みんな、色んな願いを持って魔法少女になった。……でも、本来魔法少女っていうのは、夢と希望に満ちた存在。誰かを助けて、誰かの笑顔の為に行動できる――そんな、ユメみたいな存在のはずなんです」 願いは、数あれど。 最初はみんな、そういう思いで魔女と戦ってきたはずだ。 それが、魔法少女の真実を知るにつれて――歪んでいった。 聖杯戦争のような、魔法少女の本来のあり方と明確に異なった戦いに望みを託すしかなくなるほどに、彼女たちは追い詰められ、摩耗し、傷ついて、変わっていってしまった。 「魔女になりたくないのは私だって……誰だって同じ。私だって、運命を変えられるならそうしたいと思う。だけどその為に魔法少女同士で戦う、殺し合うなんて。そんなの絶対におかしいって、何度でも言い返せます」 だから、たとえそれしか希望がなくても。 聖杯戦争という仕組みに鹿目まどかは否を唱える。 破壊せんとする。流水の流れに背く川魚が如く。 「ライダーさんにとって、聖杯が必要なことは分かります。それでも、私だって譲れない」 ライダーは答えない。 ライダーは応えない。 ただ、少女の目をじっと見つめていた。 「私は――聖杯戦争を認めない」 確固と断ずる。 魔法少女同士で戦う趣向へ、まどかは納得出来ない。 先のことなんて何も考えていない、馬鹿げた理想論。 もしも非業の最期を遂げ、それを改変したいと願う英雄が召喚されていたならば、この陣営の決裂は不可避のものとなったろう。聖杯戦争の否定は即ち、サーヴァントの存在意義の否定と同義である。 だからこそ、彼女は運が良かった。 征服王イスカンダルとは、最果ての海(オケアノス)を目指した覇者(ライダー)。 見果てぬ夢、向こう見ずな願い、無鉄砲な戦い――そういうものに“慣れている”英霊。 それ以前に、第一。 一介の子女の分際で、サーヴァントへ毅然と決裂必至の喝破を飛ばしてみせる姿が、彼を不服にさせる道理はない。 「……言うではないか、それでこそこのイスカンダルのマスターよ」 ライダーが浮かべた表情は、笑み。 口にする言葉は、まどかへの賞賛であった。 まどかは驚愕に顔を染め、ライダーを見上げる。 大きくごつごつとした無骨な手が、桜色の髪の毛を無神経にわしゃわしゃと撫でた。 「気に入った。どれ、せめて飽きるまでは――貴様の妄言に付き合ってやろうではないか、小娘」 「……! 本当、ですか……!?」 「男に二言は無い。余が飽きるようなことがあれば話は別だがな……尤も」 不敵なものへ、笑みの形が推移する。 見据えるのは己がマスターでも、現代の景色でもない。 聖杯戦争。程なく訪れるだろう、英雄豪傑たちとの闘争だ。 剣士、弓兵、槍兵、魔術師、暗殺者、狂戦士。 その中には必ずや、自分よりも強大な英霊が存在することだろう。 「此度の遠征。退屈を想う暇すらも、与えてくれはせんのだろうなあ」 良し。 もう一度、ライダーは頷いた。 心が躍る。何処の英霊が来るか知らないが、存分に競わせて貰おうではないか。 魔法少女(マスター)、鹿目まどか。 騎兵(ライダー)、イスカンダル。 その主従が目指すは――“聖杯戦争の破壊”。 ■ステータス情報開示 クラス:ライダー 真名:イスカンダル 属性:中立・善 パラメータ:筋力B 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具A++ クラススキル: 対魔力:D 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。 騎乗:A+ 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。 ただし、竜種は該当しない。 固有スキル: 神性:C 明確な証拠こそないものの、多くの伝承によって最高神ゼウスの息子であると伝えられている。 カリスマ:A 大軍団を指揮する天性の才能。 Aランクはおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。 軍略:B 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。 自らの対軍宝具の行使や、 逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。 宝具: 遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ) ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:100人 「神威の車輪」による蹂躙走法。『神威の車輪』完全解放形態からの突進。雷気を迸らせる神牛の蹄と車輪による二重の攻撃に加え、雷神ゼウスの顕現である雷撃効果が付与されている。 猛る神牛の嘶きは通常使用時の比ではなく、静止状態から100mの距離を瞬時に詰める加速力を持つ。 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール) 由来:ゴルディアス王がオリュンポスの主神ゼウスに捧げた供物であったものをイスカンダルが自身の佩刀「キュプリオトの剣」で繋いでいる紐を断ち切って自らのものとしたという故事から。 彼が「騎乗兵」たる所以である、二頭の飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)が牽引する戦車(チャリオット)。地面だけでなく、空までも自らの領域として駆け抜けることが可能。神牛の踏みしめた跡にはどこであれ雷が迸る。 キュプリオトの剣を振るうと空間が裂け、どこであろうと自在に召喚できる。戦車は各部のパーツを個別に縮小・収納が可能で、走破する地形に合わせた最適な形態を取ることが出来る。御者台には防護力場が張られており、少なくとも血飛沫程度なら寄せ付けない。 地上で通常使用した場合の最大速度は約時速400Kmほど。真名解放無しでも対軍級の威力・範囲を持ち、初見でのウェイバーの見立てでは「近代兵器に換算すれば戦略爆撃機にも匹敵」。キャスターが呼び出した膨大な数の海魔がひしめくトンネルも、雷撃を纏った掘削機の如く軽々と海魔たちを粉砕し踏破している。下記の『王の軍勢』と同時使用することもできる。 王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ) ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人 由来:マケドニアの重装騎兵戦士団。 召喚の固有結界。ライダーの切り札。 展開されるのは、晴れ渡る蒼穹に熱風吹き抜ける広大な荒野と大砂漠。障害となるものが何もない地形に敵を引きずりこみ、彼が生前率いた近衛兵団を独立サーヴァントとして連続召喚して、数万の軍勢で蹂躙する。 彼自身は魔術師ではないが、彼の仲間たち全員が心象風景を共有し、全員で術を維持するため固有結界の展開が可能となっている。要は、生前の軍団を丸ごと召喚・復活させる固有結界。 時空すら越える臣下との絆が宝具にまで昇華された、彼の王道の象徴。 征服王イスカンダルの持つカリスマ性を最大限に具現化したものであり、召喚される中にはライダー本人よりも武力に優れた者や、一国の王としてBランク相当のカリスマを具える者も複数いるらしい。これは彼が生前、個人として武勲を立てた英雄ではなく、軍勢を指揮して戦った英雄であることに由来する。 召喚された臣下はそれぞれ英霊として座にあるサーヴァントであり、全員がランクE-の「単独行動」スキルを持つためマスター不在でも戦闘可能。なお、聖杯戦争のルールに従って召喚されているわけではないのでクラスは持っていない。また、ライダーの能力の限界として、臣下が自身の伝説で有しているはずの宝具までは具現化させることはできない。 一度発動してしまえば近衛兵団はライダー曰く「向こうから押しかけてくる」ほか結界の維持は彼ら全員の魔力を使って行われるため、展開中の魔力消費は少なく済む。ただし、最初に彼が『英霊の座』にいる軍勢に一斉号令をかける必要があるため、維持は簡単でも展開そのものに多大な魔力を喰う。また、軍勢の総数が減るに従って負担が激増していき、過半数を失えば強制的に結界は崩壊する。 本来、世界からの抑止力があるため固有結界の中にしか軍勢は召喚・展開できないが、一騎程度であれば結界外での召喚や派遣も可能。劇中では英霊馬ブケファラスや伝令役としてミトリネスが結界の外にも現れている。 前の話へ戻る 次の話を読む
https://w.atwiki.jp/kakiteseihai/
書き手聖杯戦争へようこそ 本編はこちらから。 オープニングはこちらから。 メニューはこちら @wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 編集モード・構文一覧表 @wikiの設定・管理 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 @wiki更新情報 @wikiへのお問合せフォーム 等をご活用ください アットウィキモードでの編集方法 文字入力 画像入力 表組み ワープロモードでの編集方法 文字入力 画像入力 表組み その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン一覧 @wikiかんたんプラグイン入力サポート バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、お問合せフォームからご連絡ください。
https://w.atwiki.jp/holygrailwartrpg/pages/53.html
素質 素質はそのキャラが生まれ持った個性 自由に決めることができるマスタースキルとは違い、素質はダイスによって決定されるランダムなスキルです。セッション開始前に1d6のダイス結果によって対応するスキルを入手します。 特に記載のない限り聖杯戦争中一度のみ使用可能で、素質を振り直すこともできませんが、その分強力な効果を有しています。 素質一覧 ダイスの出た目に対応するスキルを入手します。素質は戦闘における切り札にもなるものなので、他PLにうっかり漏らさないように注意しましょう。 マスターシートの素質の欄には、効果内容の部分を記載してください。 ダイス目 対応クラス 素質名 効果内容 1 全 魔力の器 過剰供給|【任意発動】任意のステータスに補正5。ただし対象に5点ダメージ 2 全 癒し手 穏やかな温もり|【任意発動】自身の手番、または移動フェイズに発動可能。任意の対象のHPを3D6回復 3 全 天才 選局眼|【任意発動】任意の対象の任意発動スキルを再使用できるようにする。ただし、聖杯戦争中にn度のみ、の文言があるスキルは再使用できない 4 全 抗いし者 運命変転|【任意発動】自身の判定を振りなおすことができる。このスキルは聖杯戦争中2回使用できる 5 全 調停者 平穏の使者|【任意発動】同盟ポイント、逃走待機ポイントを1回復する 6 セイバー 選ばれし者 超直感|【任意発動】自身の防御または幸運判定時に補正5 アーチャー 狙撃手 狙い撃ち|【任意発動】先手判定時に使用可能。先手判定前に単独行動と同条件で攻撃を行う ランサー アスリート 電光石火|【任意発動】先手判定時、判定を破棄して最初に行動できる ライダー 召喚者 召喚魔術|【任意発動】先手判定時のみ発動可能。HP15点、英雄点10点の搭乗物を召喚できる。搭乗物のステータスは最低Eランクが必要で、ステータス表記は 1:E 2:D 3:C 4:B 5:Aと置き換える。この搭乗物はサーヴァントとは別に前衛に存在できる キャスター 大地主 龍脈提供者|【任意発動】陣地作成を再度使用することができるようになる アサシン 用意周到 脱出経路|【任意発動】気配遮断の処理終了後、別エリアにいるアサシンを呼び戻すことができる。この時逃走判定はいらないが、逃走待機ポイントは減少する バーサーカー 傀儡 極限供給|【任意発動】マスターのHPを消費し、消費数分任意のステータスに補正。この時、マスターのHPが0になってもよい。また、このスキルでHPが0になったマスターはあらゆる手段で蘇生できない 目次 メニュー はじめに 基本的に用意するもの ゲームの流れ FAQ ルール マスター + ... ー アライメント ー 逃走待機ポイント ー 令呪 ー 素質 ←現在ページ サーヴァント + ... ー クラス ー 宝具 ー ヒント 監督役(GM) エリア 各フェイズ + ... ー 移動フェイズ ー 遭遇フェイズ ー 戦闘フェイズ 各判定 + ... ー 先手判定 ー 逃走判定 ー 物理攻撃判定 ー 物理防御判定 ー 魔術攻撃判定 ー 魔術防御判定 真名看破 スキル + ... ー マスタースキル ー クラススキル ー 単独行動 ー 気配遮断 前衛と後衛 再契約 脱落 陣営 同盟 + ... ー 援護 ー 裏切り ー 同盟の解散 魂喰い 最終戦闘 状態異常
https://w.atwiki.jp/infinityclock/pages/269.html
どんな微かでも みんなを愛してた。 ♠ ♥ ♦ ♣ サーヴァントとしての健脚で、櫻井戒は駆けた。 松野一松とそのサーヴァントがどちらの方角に追われていったのかは、すぐに分かった。 あの怪人のたどって行った道の、ところどころ――まるで、何気なく左手で触るような位置に、石化した跡が点々と続いていた。 ほどなくして、探していた紫パーカーの青年は、猫背のまま向こうから歩いてきた。 1人きりだった。 少しの距離があるところで、こちらに気付いたように立ち止まった。 「松野さん、無事で良かった……シップはどうしたんだい?」 暗いぼそぼそとした声で、松野一松は答える。 「死んだよ。怪人もいなくなった」 「それは……」 陰鬱な声に、鳴から聞いたシップのステータスの低さに、そういうこともあるのかと腑には落ちる。 どんな言葉を駆けるべきか躊躇った。 しかし――すぐに、彼を話をするために探していたわけではないと思い出した。 「なら、都合がいい」 携えていた大剣を、そのまま松野へと向けた。 相手が、ぎょっとしたようにその眼を見開く。 「なんで……?」 「僕のマスターの身に降りかかる危険を、いち早く取り去るためだよ」 櫻井戒は、松野一松、シップの主従とこのまま関係を持ち続けることを、極めて危険だと判断していた。 それは、彼等が同盟を組むにしてもメリットが少なすぎる、むしろ鳴たちのお荷物になる弱さの主従であり、共にいれば彼等をかばうだろう鳴の負担が増えるから――というだけの理由ではない。 そもそも、松野一松の雇い主である人物のことを、鳴も蛍たちも楽観的に考えすぎている……と思っている。 ブレイバーにも英霊になるだけの思慮深さはあるようだが、それでも『物事の裏を読む』ことができるほど人間の悪事に精通しているわけではない。 おそらく、依頼人は『一条蛍をマスターだと疑って、身辺を探るために調査員を雇った』わけではない。 いくら信頼できる会社に頼んだとはいえ、聖杯戦争のことを何も知らない一般人(松野が依頼を受けなければそうなる予定だった)に『一条蛍はマスターなのかどうか』を探り出せるかどうかは怪しいし、 そもそもとっくに一条蛍の個人情報をある程度は手に入れる段階まで調べあげているのだ。 『依頼人は一条蛍を既にマスターだと確信しており、それ以上の手がかり(例えば彼女の周囲に他のマスターが接触していないかどうか等)を求めて調査員を雇った』と考えるべきだ。 だとすれば、避けなければならない展開は、その依頼人に『一条蛍と接触している東恩納鳴』のことまで割れてしまうことだ。 『なるべく他のマスター殺害に鳴を巻き込みたくない』というランサーの方針を維持するためにも、鳴にはできる限り、小学生としての日常に浸かっていてもらわなければならない。 そこを脅かされてはならない。 さらに言えば、この依頼人であるマスターを討伐することにも、鳴を巻き込むのに気が進まない。 『松野一松が依頼人に送る報告を逆に利用して、依頼人を捕まえる罠をしかければいい』と鳴は乗り気になっていた。 しかし、そのマスターを捕えてどうするつもりなのか。 まさか脱出狙いに転向させるなど叶うはずもないのに、殺さずには済ませられない。 彼女には見えていない。しかし、それでいい。 実際にそのマスターを殺す現場になど、居合わせなくてもいい。 そもそも、相手も社会人でありそれなりに地位のある人物が予想される以上、簡単に『おびきよせ作戦』に引っかかるはずもないのだ。 一条蛍がマスターだと確信しているのなら、わざわざ意味ありげな餌に食いつかなくとも、一条蛍を先に捕まえて拷問でもするのが最も手っ取り早いのだから。 もっとも効率的に解決させる方法ならば、外道の手段がある。 『一条蛍の調査中』に、松野一松が、『明らかに事故(ヘドラに巻き込まれた等)ではない形』で、遺体として発見されることだ。 そうすればどうなるか。 警察が呼ばれる。警察が松野一松の遺族に連絡を入れる。 当然、調査を依頼していたフラッグ・コーポレーションにも連絡が入る。 すると、『松野一松が誰から依頼を受けて調査をしていたのか』が警察に伝わる。 警察に、その依頼人を捕まえることまでは期待していない。 しかし、『捜査線上に、その依頼人の名前が上がる』ところまで行けば充分だ。 サーヴァントの霊体化があれば、セキュリティの堅固な会社から情報を盗み出すことはできなくとも、警察の会話を立ち聞きするぐらいはできる。 それさえできれば、櫻井戒だけで、そのマスターを暗殺する機会が訪れる。 それは、思いついただけの策だった。 実際に実行するとなれば、断念していたはずの策だった。 櫻井戒は己のことを手段を選ばない屑だと規定しているけれど、基本的には幼いころから武道の道に通じてきた好青年でもあり、 聖杯戦争で勝つためならば積極的に人道をふみにじっていくような外道ではない。 何より、それは正しい魔法少女――プリンセス・テンペストの説いた『正義のため』に反する行いだ。 仇敵である『聖贄杯』でもあるまいに、そこまでの非道を行う必要はないと判断していた。 しかし、彼の言い放った言葉――『聖杯を獲る手段が他になければ、無辜のマスターを殺すのか』という欺瞞を撃ちぬく言葉は、決定的だった。 これ以上、遠慮も配慮も何も無しに、それを言う人物と共にいてはいけない。 松野にこれから口止めをしたところで、彼と一緒にいれば、鳴はその言葉をいやおうにも思い出すだろう。 そうなれば、遠からずごまかしきれなくなる。 己が生還するための道は、ランサーが聖杯を獲るための道であり、なおかつ犠牲の上に成り立つ道だということに。 そうなれば、鳴という少女は――あの無垢な正しい魔法少女は必ず、自分を止めるために動くだろう。 己が身を戦場で危険にさらすことになっても、令呪の全てを使い切ることになっても――最悪は、ランサーを止めるために立ちはだかり、敵に無防備な背中を晒すことになっても。 それは、絶対に阻止しなければならない。 「あなたは厳しいことを言いながらも、僕のことを優しい人間だと見積もり過ぎているよ。 僕はマスターを……大切な人達を不幸にしないためなら、何でもする」 遣り切れない、とは思っている。 己の眼差しは、憂いを隠せていないかもしれない。 しかし、それでも非道を実行する。 英霊になる以前の、生前の行状からもずっとランサーはそうだった。 大切な女性を救うためならば、親友といっていい仲だった者が相手でも、実際に殺すことこそなかったもの、殺す覚悟で相対したこともあった。 そもそも、一族の呪いを解いて妹を救うためであり、かつ叛逆すれば己と妹も殺される境遇だったとはいえ、 アサシンの連続殺人どころではない――数百人か数千人単位かで無辜の人間が殺されることになる『黄金錬成』の儀式を、肯定する側にいたのだ。 いずれ学校が戦場になり、彼のクラスメイトたちも皆がその生贄にされる可能性があると知っていながら、それを黙認するような立場の人間だ。 己を腐りっきった屑と自称するまでに至るほど、必要とあれば手を汚すことに躊躇はしない。 「これは別にあなたを恨んでいるわけでも、見下しているわけでもありません……いや、何を言っても言い訳か」 すぐに終わらせよう、と言葉を途切れさせ、苦しませない斬り方を心掛けるように構えた。 松野はただ、それを呆然と見ていた。 呆然と見つめたまま口を開いた。 「……いやー、ジョーカーちゃんの言う通り演技してほんと正解だったよ、これ」 ごくカラっとした、さっきまでのぼそぼそ喋りとは似ても似つかない声だった。 「それにしても、まさか出会いがしらに殺す宣言されるとか、アイツ何やらかしたんだろ」 右手を後頭部にあててぼりぼりと掻くのと同時に。 その周囲に、サーヴァントの少女たちが出現していく。 驚いたが、同時に納得もし、先刻の『サーヴァントは消えた』という言葉に納得しかけた己を叱責した。 バーサーカーのマスターがばらまいていった魔力の残り香にしては、気配が濃すぎると思っていたところだ。 シップとは似ても似つかない、白黒の巻き毛にトランプ柄の衣装を着た幼い兵士たちだった。 紫のパーカー周囲にはハートが囲み、スペードとクラブの柄が前線に出て槍と棍棒を突き出す布陣だ。 先頭には、ひと目で実力者だと分かるだけの気迫を持った、スペードのエース。 「貴方、松野さんじゃありませんね。……いや、『松野さん』ではあるのか。ご兄弟ですか?」 よく見れば、紫パーカーの男はさっきまでと違うズボンを着ている。 まるで、顔が瓜二つの男と、着ているパーカーだけ入れ替えたかのように。 「同じ顔が、二つあったっていいよな?」 そう言うと、男は素早くわしゃわしゃわと髪を撫でつける。 わざとらしくぼさぼさにしていた頭髪を、アホ毛2本のみの髪型へと戻した。 松野一松では絶対にしない、明るいにこにことした自然な笑顔で名乗る。 「どうもー。松野家の長男、松野おそ松でーっす」 右手の人差し指で、鼻の下を得意げにこすった。 ♠ ♥ ♦ ♣ 「――ダメ」 その一言で、望月の心臓に吸い込まれようとしていた鎌はぴたりと止まった。 その鎌は、一松の額に刺さる直前で動きを止めていた。 ……一松の、額? 気付けば一松は、望月の前に立っていた。 兄の手をふりほどき、望月の前に、彼女を庇うように、そこに立っていた。 「一松、何してるの?」 望月へのとどめを制止した兄は気が付けば目の前にいて、一松にそう訊ねていた。 自分が庇ったことを自覚して足はがくがく震えはじめたけれど、心底から『止めろ』と思ったことは事実なので今さらどくわけにもいかない。 「そんなにその子が大事だったの?」 うるっせぇ、と言わんばかりに真正面からガンを飛ばすようににらみつける。 ところが。 視線がぶつかった次の瞬間、おそ松は笑った。 ふっと、わざと作っていた挑発的な表情から、自然な笑顔へと戻るように笑った。 「あのさぁ、一松」 うん、と一つ頷き。 次の瞬間、がいん、と頭を派手に叩かれた。 容赦のない、げんこつだった。 「お前、こんなに大事なことを、なんで言わなかったの」 戸惑ったようにどよどよっとなるサーヴァントの少女たちを待っててね、と制して、 据わった眼で詰め寄られる。 いや、なんで今まで言わなかったとか、こいつにだけは言われたくない。 「俺、お前のことは外で映画を見ただけでもきっちり報告をいれてくれる子だと思ってたんだよ? なんで今回は言わなかったの、すっげぇ大事なことじゃん!?」 苛ついたようにダンダンダン、と地団太を踏み鳴らされた。 なぜ急にこんなに怒り始めたのか、一松には分からない。 「な、なにそれ。自分だってこっそり聖杯戦争やってたくせに」 もう長男にとって、彼等を始末することは確定だったはずだ。 どうしていきなりごね始めたのか、一松には分からない 「そこじゃねぇよ! どうでもいいんだよ聖杯戦争なんか!!」 言い切った。 さっきまで聖杯に願って死んだ人たちを取り戻すとか何とか言っていたくせに、『どうでもいい』とか掌を返した。 じゃあ報告しろと言っていたのは何だ。 分からない。 この長男のラインが分からない。 聖杯戦争がどうでも良くなるほどの重大事なんか―― 「友達ができたなら、ちゃんと言えよ!!!!!!!」 ――――――――――えっ 全く予想もしていない方向からガツンと殴られた、気がした。 「お前が猫以外の他人を庇うなんてよっぽどのことじゃん!! なんで言わないの!? 友達多いトッティならともかく、お前は言わなきゃだめだろ!! お前に友達ができないの十四松とかみんな気にしてたの、知ってるだろ? お兄ちゃん、てっきり弟のガールフレンドぶっ殺すとこだったじゃん!」 「い、いや、今まで、友達とか考えたことなかったし。こいつサーヴァントだし」 いや、弟のガールフレンドぶっ殺すも何も、直前にその弟を殺そうって話してたじゃないかアンタ。 色々とツッコミどころ満載な雰囲気におののきながらも、ぼそりぼそりと答えると、兄は納得したように「あー」と頷いた。 「なるほどね。自覚無かったんだ。まぁ分かるよ。 初めての経験だもんね、それは仕方ない。でもさ、俺びっくりしたよ。本当にびっくりしたよ。 お前でも、女の子をかばって身体張ったりするようになったんだ」 そう語るうちに、1人で納得したのか、うんうんと頷く。 右手がゆっくりと、こちらの頭上にのびた。 ぽむ、と掌が髪の上に置かれる。 「やるじゃん! すっげぇ見直した! お前が女の子から『楽しかった』って言われるなんてよっぽどのことじゃん。すごいすごい」 ワシワシと撫でられた。 褒められている。すごく撫でられている。 こちらとサーヴァントを殺そうとした人間に、今は褒められている。 その時だった。鎌を持ったジョーカーの少女が、硬い声で会話に割り込んだ。 「マスター。田中が、あと数分でこの近辺に到着するとクラブの5から報告がありました」 「マジで? 俺らがちゃんと捕まえたか確認しに来るの?」 「そのようです。向こうとしては、約束の成立を確認したい立場ですので」 「んー、田中ちゃんの令呪だと『一松とそのサーヴァントに手を出すな』とまでは言ってないしなぁ。 しばらく、俺の気が変わったことは、ばれない方がいいと思う」 「御意。具体的には?」 「そうだなー」 ちら、とこちらの格好を上から下まで見られた。 「ねぇ、何の話してるの?」 「よぉし。一松、『ばんざい』しようか」 「は? なんでばんざい?」 「いいからいいから」 ぐい、と両腕が引っ張られて頭上へと上がる。 直後、パーカーの裾を掴まれて強引に脱がされた。 ばんざいの状態だったので、するりと袖を抜かれる。 「え、いやちょと待てゴラ!」 話の流れは見えないしさすがに気持ち悪いわ! と思ったら、 腕まで自由になった直後に、ぼすっと何かを投げつけられた。 兄の着ていた、赤いパーカーだった 「はい、これ着て。さすがにズボンまで履きかえてる暇はないか。 それから髪はちょっと整えないとね。 あとボソボソ喋るのもなるべく禁止。闇のオーラも引っ込めてほしい。 田中ちゃん達には『弟』とは言ったけど『一卵性』とは言ってないから、たぶんこれでばれないでしょう! あとは、ジョーカーちゃんが考えた言い訳を覚えて――「いや、何言ってんの?」 「ん? 正しい『おそ松兄さん』のやり方」 「正しいおそ松兄さんのやり方って何だー!?」 「言っとくけど、これ別にお前のためとかじゃないよ?」 嫌な予感がする。 嫌な予感がすることなのに、この兄がわざわざ『弟に責任はない』とか言及しているのが、なおさらいつもと違う。 「ちょっとけじめをつけるだけだから。 こっから先は、ギャグとか言わない自己責任アニメみたいな感じで」 ♠ ♥ ♦ ♣ 松野家長男であるおそ松の眼から見て。 いや、おそ松以外の眼から見ても。 松野一松には、友達ができない。 本人は、友達なんか一生要らないと言っている。 でも、本当は友達がほしいと思っていることを、松野家の兄弟は知っている。 松野家の六つ子の四男にとって、友達を作るということは他のどんな行為よりもハードルが高い。 それだけ、一松は兄弟以外にとてつもない壁を作っている。 まともに会話ができないし、善意を示されても受け取ることを拒否するし、人と距離を縮めるのが怖いから毒舌を吐いて突き放す。 自分には価値が無いから、友達になってくれる人間なんているはずがないと諦めている。 この先、ニートが珍しくやる気を発揮して、猫カフェとかの面接を受けて仕事に就けることがあったとしても。 独り立ちがしたくて、財力も住むアテも何もないのに、家を飛び出してどうにか生きていくことができたとしても。 そういうハードルを越えられた時も、ついぞ友達を作ることだけはできないのではという気がする。 イヤミやチビ太、ハタ坊、トト子といった幼なじみとはずっと交流があるけれど、一松が彼らのことを『友達』の括りにいれないのはたぶん、 あくまで『六つ子』として親しくなった関係であり、『一松が自力でつくった友達』ではないからだ。 それはきっと、松野家に宝くじが当たって、それこそ一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入るよりも珍しく、とてつもない重大事だ。 なぜなら、お金は世の中のどこにでもあって、たまたま六つ子のところには入ってこないだけに過ぎないけれど、 『一松の友達』は、一松自身が頑張らなければ世界のどこにも存在しない。 一松は、頑張れない。 兄弟(みんな)がいるから友達は要らないと、自分に言い聞かせていた。 その、一松が。 自分が死んでも守りたいほど――誰かのことを大切に想い、近い距離に置いている。 サーヴァントだから、という理由だけではない。 サーヴァントが死んでもマスターは即死しないのに、それでもおそ松の手を振り払って庇おうとした。 直後に一松と眼をしっかり合わせて、本気の眼なのかどうかも確かめた。 まったく、おそ松の愚弟ときたら、自分が自分にとってどれだけの偉業を成し遂げたのか、ぜんぜん自覚していなかった。 その相手は幼い女の子で……見た目の年齢差とか考えると犯罪じみてくるから、『ガールフレンド』なのかとか考えるのは、ひとまず止めておくけれど。 『イッチー』というあだ名で呼ばれて、『楽しかった』と本心から言ってもらえる関係を作っている。 あの性格がひんまがった一松を相手に、『楽しかった』と言ってくれている。 なんだ、この女の子めちゃくちゃいい子じゃん、と思った。殺そうという発想はもう無かった。 精神年齢を比べれば、おそ松は、一松よりもずっと子どもだ。 だがしかし、おそ松は一松の兄であり、一松はおそ松の弟だった。 聖杯に願いを賭けて、最終的にみんな生き返らせればいい、という神父の話は、ころりと信じた。なぜならおそ松は、バカだから。 それに、ヘドラのとてつもない被害だとか、自分が命令してシャッフリンがやってきた罪の重さだとかを考えると、 『これはいつもと同じで、どうにかやり直しの効くイベントなんだ』と思いながら聖杯戦争に臨める方が、正直なところ楽だったから。 それに、その案ならば、最終的には兄弟の誰も喪わずに、確実に元の世界に帰ることができるから。 少なくとも、六つ子の誰かを永久に失うことになるなんて、最初から考えもしていなかった。 とりあえず『また兄弟揃ってのニート生活に戻る』ことは大前提のように、ことさら意識するまでもなく、そう動くつもりだった。 聖杯を獲って一攫千金だと目が眩んでいた時も、シャッフリンのしでかしたことに怯えて泣いてしまった時も、今になってもずっとそうだった。 だって仕方ない。 別に他人なんかどうなってもいいとまでは思わないけれど、会ったことのない有象無象の命と、身内のそれとで、前者を取れと言うのはちょっと有り得ない。 『いつも通り』ならば、『いつも通りにやってもいい』ならば、六つ子は平気で兄弟同士を蹴落とし合う。 自分の保身のために襲われている兄弟を見捨てて逃げるぐらいは平気だし、聖杯はおろかおやつの取り合いをするだけで殺し合いに発展する。 別にすごく仲の良い兄弟じゃない。 5人の敵と言っても正しい関係だ。 だけれど、せっかく兄弟が真剣にがんばって、きっと緊張したり、不器用に話しかけたり、たぶん猫と遊んだりしながら友達を作ったのに、女の子を庇う気概を見せたのに。 それを応援しないなんて、そんなのは兄弟(強敵)として失格なのだ。 この戦争が終わるまでの関係だろうと、二人にとって後味の悪い終わらせ方なんてしたくない。 世の中には、お互いに憎からず思っていても、振られて別れて、離ればなれになってしまうような二人だっているのだから。 ……一松が探さないなら、俺達も探さないよ? 弟の猫(ともだち)がいなくなった時、一松にそう言った。 弟は、自分で探り探りして、そして見つけたのだ。 本気の本気で睨み返してきたのが、その証拠だ。 だから、お兄ちゃんは応援する。 そういうものだ。 とてもシンプルな理由だ。 弟にはじめて友達ができて、兄は本当に嬉しい。 すごく寂して、すごく嬉しい。 たとえ今が聖杯戦争の真っ最中だろうと、 『田中』を初めとする身内を失った人たちからクズ外道と謗られようとも、 こればっかりは仕方ないし、絶対に譲れない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 住宅街の中にぽつんと作られたある程度の広場――公民館の駐車場に、戦場は移されていた。 「最初は『ちょっと理由があって、アンタらと一緒にいるのが良くないからウチの弟を探さないでください』ってお願いしに来たつもりだったんだけど。 なんか試しに一松の振りしてみたら、『交渉の余地無し』って感じ?」 スペードのエースが、眼にも止まらぬ敏捷さで槍の穂先から火花を生み出し、捌いている。 火花を生むのは、おそ松の台詞が届いているのかいないのか、青年の携える闇色の大剣が、受け止め、押して押され、弾くことで生まれる剣戟だった。 眼にも止まらぬ速さ。それはありきたりの表現だが、おそ松の視界では本当に追いつけないどころか、火花の煌きさえ残像でぶれて見えるほどのありさまだ。 おそ松どころかそれ以下のスペードの上位ナンバーでさえも、割って入ることを許されないレベルの戦闘だと悟り、ただ槍を構えるのみに徹している。 剣戟の風圧だけで、駐車場のアスファルトに亀裂が入り、破片となって散っていく。 両者の風圧はの余波は、やや離れた場所で観戦するおそ松たちにも届いていて、その迫力に周りを囲むハートシャッフリンたちを振るえさせつつも、 『エースが戦っているのだから自分たちもしっかししなければ』と言わんばかりに背筋を伸ばしてまっすぐな防御陣をつくらせる。 何も知らぬ者から見れば、黒いセイバーの青年とランサーの少女の激突かと錯覚しそうなほどの、真っ向からの決闘じみた攻防だった。 『マスター、戦況はスペードのエースに有利です。ご安心を。 得物と技量では相手の方が上、敏捷さと小回りでこちらが勝っていると言ったところでしょうか』 そばにいるジョーカーから、念話が届く。 ひょえー、シャッフリンちゃんってこんな強かったのかー、とおそ松はその感想を念話に出さずに内心にしまった。 直接話すこともできる状況ではあるのだが、ある理由から、この戦闘では念話で話そうということになった。 『……なんかごめんね? ころころスタンス変えちゃうマスターに巻き込んじゃって』 『変わっておりません。我々の仕事は、一貫して主様に下郎の刃を近づけないこと』 『……ありがと』 すぐそばにいるハートの3番の服を着たシャッフリンの手を、ぎゅっと握りしめた。 よく目を瞠って見れば確かに、敵のランサー(ランサーなのになぜか剣使いだ)は、大剣を生かした押しつぶすような打ち下ろしの攻撃をよく行い、スペードのエースは小回りを利用した攻撃を駆使しているように見えた。 スペードのエースは槍を振り回しての足払い、足先狙い中心の攻撃に切り替えて攻勢を続けている。 圧倒的に身長で上回っているランサーは、低所からの攻撃を裁くために必死になっているように見えた。 『ここで仕留めますか?』 『んー。でも、あのひとを消しちゃうと、田中ちゃんの仲間も半日以内に死んじゃうんでしょ? ならいいや。ただでさえ約束破って逃げることにしたのに、これ以上恨み買うのも良くないと思うし』 『御意。しかし、敵の方はこちらを仕留めるまで退くつもりは無いようです』 『どうにかやっつけて、一松を諦めてくれたらいいんだけどねー。 あ、でもスペードちゃんたちの方が危ないようなら、その時は遠慮しないでいいから』 『各スペードにそう伝達します』 やがて両者は、いったん仕切りなおすように間合いを取った。 槍使いの筋骨たくましい身体と、魔法少女のみずみずしい白肌を、汗が幾筋も浮いてはすべっていく。 おそ松は、早く終らせたい一心で呼びかけた。 「ねぇ、そろそろ止めにしない? これってそっちのマスターに無断でやってるんでしょ? 早いとこ終わらせないとマスターが来ちゃうよ?」 「そういうわけにはいかない。 貴方の弟は、僕のマスターの生命線になる情報を握ってしまっている。だから、このまま消えられては困る。 あの人の様子だと、威圧されたり拷問でもされたりしたら、すぐに情報を吐いてしまいそうだろう?」 「あーそれは有りそう。うちの兄弟どいつもクズだから」 『マスター、そこは嘘でも否定すべきかと』 「――じゃなくて。ほらそこは俺からよく言って聞かせるから。 もう絶対にそっちに関わらせないから」 「それだけじゃない。貴方はどうやって弟さんの危機を察知して、タイミングよく現れた? 貴方も僕たちの動きを見張っていたんじゃないのか?」 「ぎくっ」 「しかも、カマをかければそこまで動揺するということは、『弟のことが心配でつい』というわけでもなさそうだ。 そうやって得た情報を、誰かに売ろうとしていたか、聖杯を狙っていて利用できると踏んでいたか」 「ぎくぎくっ」 「ちなみに、その『売ろうとしていた相手』のことは教えてもらえるかな?」 「いや~、それは無理かなぁ。正直に言ったらおれもジョーカーちゃんも、たぶん全方向から許してもらえないなぁ……」 『まさにこのサーヴァントのマスターを人質に取っていましたからね』 『ジョーカーちゃんのせいだからね!?』 「なら仕方ない。今は貴方を拷問して洗いざらい吐いてもらう時間も惜しいんだ。 つまり、分かるだろう?」 「い、いや、でもさ? スペードのエースちゃん達も強いよ? すぐには倒せないよ?」 「ここからは、そうはならない」 そう言い放ったのは、おそ松だけでなく、己の両手にある大剣――偽槍に対してもだった。 己が腐っていることが鳴に露見して、信用を失ったり嫌われたりするのはちっとも構わない。 けれど、それであの無垢な少女が、ランサーのために穢れようとすることだけは、あってはならない。 一刻も早く、全ての災いの種を潰す。 しかし、単純な力量のぶつけ合いでは、スペードのエースが現状で上回っている。 状況の膠着を打破するためには、単純な白兵戦に勝る技を繰り出すしかない。 もしもマスターがこの場に来てしまえば、穢れを見せまいとしてきた、これまでの全てが無駄になる。 その焦りが、らしくない早急な判断に繋がっていく。 禁忌であり切り札となる宝具の使用を、そこに決断させた。 「行くぞ――そして来い、偽りの槍よ」 元々、彼はその宝具――『創造』の使用を、生前から極力は拒んでいた。 一度でも吸い取られれば、魂を吸いつくされて心の無い戦奴にされる不安は、彼にとって何よりも忘れ難いものだ。 しかし、サーヴァントとしての彼はその『戦奴にされる』という状態まで宝具――真名を開放して、初めて行使する手段となっている。 そのために、生前は戦わない時でも絶えず感じていた喰いつくされるような灼熱地獄も、召喚されてからはまるで感じたことがない。 その安堵が、彼の鬼札を切る判断を緩めてしまったことは否めない。 かくして、彼は開いた。 地獄への扉を。 ココダクノワザワイメシテハヤサスライタマエチクラノオキクラ 『許許太久禍穢速佐須良比給千座置座』 「血の道と 血の道と 其の血の道 返し畏み給おう」 その詠唱が始まった時、『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』が哭き始めた。 猛悪なまでの、凶念がやって来る。 寄越せ、寄越せ、魂を寄越せ。 「な、なにこれ!? 何かヤバい! 分かんないけどヤバいことだけは分かる!」 『おそらくは、固有結界の詠唱かと』 その槍の意味をしらないシャッフリン達にも、おそ松にも伝わるほど、凶暴な『飢え』が槍から叫ばれている。 それも、敵に向かって訴えるものではない。 使い手である、櫻井戒への要求であり、支配欲であり、代償であり、蹂躙だった。 にも関わらず、それらを向けられていないシャッフリンの全てが、間接的に伝わってくる余波の振動ひとつで『食われる』恐怖を、『地獄の業火で焼かれるように』料理される感覚を知覚してたじろいでしまう。 その吠え猛りを直接に受け止めることが、そのまま櫻井にとっての狂信となる。 この狂った穢れに耐えきれる己は、この凶暴さを利用しようとする櫻井戒は、 まぎれもなく、魂から腐りきった屑である。 「禍災に悩むこの病毒を この加持に今吹き払う呪いの神風」 この世に存在する天つ罪、国つ罪の全てを己が被ろう。 畔放(あはなち)、溝埋(みぞうめ)、樋放(ひはなち)、頻播(しきまき)、串刺(くしさし)、生剥(いきはぎ)、逆剥(さかはぎ)糞戸(くそへ)。 ありとあらゆる、全ての穢れを己に集めよう。 「橘の 小戸の禊を始めにて 今も清むる吾が身なりけり」 生膚断(いきはだたち)、死膚断(しにはだたち)、白人(しらひと)、胡久美(こくみ)、己が母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、畜犯せる罪、昆虫(はうむし)の災、高つ神の災、高つ鳥の災、畜仆し(けものたおし)、蠱物(まじもの)する罪。 全ての罪悪を、全ての病を、全ての災害を、引き受けよう。 「千早振る 神の御末の吾なれば 祈りしことの叶わぬは無し」 全ての穢れは、己にあり。 我が祈りは、無双なり。 なればこそ、愛しい者たちが穢れを被る道理は無し。 それが叶わぬことなど有り得ないと、眩しい世界を守るために己を穢す祈りの歌だ。 「創造」 人間が、己自身を毒の地獄へと変性させる。 此処にいるのはもう――いやとっくに、『優しくも厳しいお兄さんの櫻井戒』などではない。 全身が腐りきった、異形への創造だ。 それまでの激しい剣戟と比べれば、いっそ軽くおだやかな動きで大剣が動いた。 スペードのエースはそれを槍の先端で難なく止め、打ち払う動きにつなげようとする。 つなげようとした――できなかった。 先端が、その瞬間に腐り落ちた。 日中にいちど折られ――そしてダイヤのシャッフリンが鍛えなおしたスペードの槍が、ほぼ『溶けた』と言っていい腐敗速度でボトリと落ちた。 「!?」 スペードエースはその表情に驚愕を浮かせながらも、とっさの判断から槍の石突でランサーの身体を打つべく槍を回転させる。 回転させようとした――すでに槍の石突まで、得物の全体に腐敗が進行していた。 瞬く間にボロボロと形を崩していく槍に、スペードのエースは数秒も断たないうちに無手となる。 「――!」 それでも闘志を失わず、ランサーに組み付いて得物を奪おうとした身体が抉られるように倒れた――得物も使わない、ただの蹴りに倒された。 まるで、蹴激の威力だけではない、身体を真の意味で『削る』ような別の力が、そこに働いたかのようにキレイに倒された。 「エースちゃん!?」 おそ松の悲鳴は、おそらくエースの耳に届かなかった。 倒れた瞬間に、巨大な大剣がその顔面に真上から刺さったからだ。 シュウシュウと、硫酸でも爆ぜるような腐敗の音が、致命傷を受けたエースの鼻梁あたりから聞こえてくる。 彼女は顔面を潰されてもまだ戦おうとするかのように、どこかにいった得物を探すかのようにジタバタと動いていたが、ランサーはそれをすっかり無視して剣を引き抜いた。 残ったスペードの軍団を突破しようと、散歩か何かと変わらぬ平常の足取りでスタスタ歩く。 そこからは、腐敗地獄だった。 しかもその地獄そのものは、先ほどまで人間の姿だったサーヴァントただ1人を指していた。 槍をひとたび振るうごとに、受け止めたスペードの槍の方が腐る。 数で包囲してランサーを槍で突き刺したところで、刺した槍の方が腐って、ランサーにはボロボロの木切れで突かれたほどの傷跡さえ残らない。 刺した槍から腐敗が伝染して、シャッフリン自身が両手から腐っていく。 シャッフリン達に、初めから回避するという選択肢は無い。 避けたり、逃げたりすれば、後方にいるジョーカーとマスターが護れない。 スペードのキングが腐敗した大剣で腹を貫かれ、 スペードのクイーンがそのまま振り回された大剣をぶつけられてキングごと腐り、 スペードのジャックがランサーの身体に槍を突きたてたばかりにその両手をボロボロと腐り落とし、 スペードの10がジャックを開放しようと支えて、ジャックに触れた面から腐り始め、 クラブのジャックが、気配遮断で潜っての不意打ちを頭部に与えようとして、頭部に振り下ろした棍棒が腐ったためにバランスを崩して落下し、 クラブの9が、少しでもランサーの足を止めようと足元にしがみついて上半身を腐らせた。 「相手が悪かったね」 数字の大きい方から次々と倒れていくシャッフリンたちを哀れむかのように、腐敗地獄は宣告する。 その声まで、声帯を腐らせたかのようにヒビ割れていた。 姿は人間で、しかしそこからは鼻が曲がりそうな――曲がるのを通り越して鼻まで腐りそうなほどの腐臭がおびただしい。 素手だろうと、武器越しだろうと、『相手に触れることでしか戦えない』者に、 黒円卓の第二位が破れる道理など絶対に有り得ない。 時間をかけないという宣言の通り。 一分も断たないうちに、兵士たちの数が半分を割った――それも、致命傷を受けたのはほとんど上位ナンバーだった。 戦場の兵士たちに使う用語で言えば、壊滅状態だった。 折り重なったトランプ兵士たちのさらに向こう側には、ガタガタ震えるハートに囲まれて、それ以上にガクガクと震える彼女たちのマスターがいる。 初めて目の当たりにする『可愛がっていたシャッフリン達が犠牲になっていく姿』に、歯の根がカチカチとなっている。 しかし彼は、震えながら、ハートの3番を付けたシャッフリンと、ジョーカーの柄に鎌を持ったシャッフリンを両腕で抱きしめるようにしている。 彼女たちと念話で何事かを話すように、視線を交わしている。 そして、傷つきながらも立ち上がろうとしている生き残りシャッフリン達に、泣きそうな声で言い放った。 「ジョーカーちゃんごめん。令呪、使う。 『諦めるな。命令を待つんじゃなく、周りを見て戦え』」 マスターの身体から、令呪の発動を示す魔力光が放たれた。 その輝きに呼応するように、シャッフリン達の眼に戦意が宿り始める。 戦線に加わらずに待機していたダイヤのスート十三体までも加わり、マスターを囲んでいたハートのスートのうち約半数も前線に加わるよう前にでる。 「もう一回! もう一回、令呪を使うから。『■■、■■■■■■■■■■、■■■』」 二回目の令呪は、ごく小声だった。 何を言っているか、唇の動きだけではランサーにもいまいち読み取れない。 しかし、一回目の令呪を重ねがけするような類のそれだったらしく、生き残ったシャッフリンたちが、ボロボロの者も含めて気力をより充溢させたように立ち上がる。 「それは根本的な打開策にはならないよ。僕みたいな屑と出会ってしまったのが運の尽きだ」 幾らなんでも、令呪の大判振る舞いにもほどがあった。 ここでシャッフリン達が倒されたらマスターの死も避けられないとはいえ、それでランサーの腐敗を食い止められない以上は焼石に水にもほどがある。 だが。 「…………屑って誰のこと?」 櫻井戒の言った言葉に対して、松野おそ松が顔を上げた。 ふたたびランサーと目を合わせ、そう訊ねた。 「僕のことだよ。松野さんたちとは、住んでいる世界が違うことがよく分かっただろう。 とても家族には見せられたものじゃない。こんな腐った世界に好きこのんで浸かっていられる、汚い手も平気で使う人でなしが、屑でなくて何なんだ?」 それは、彼を諦めさせるための台詞だった。 戦争も殺戮も、裏社会の黒円卓のことも何も知らない、 ただの貧相で弱っちい『バカ兄貴』が、そこそこ強いサーヴァントを引いただけでどうにかなる世界ではないのだと、 そう悟すための、台詞だった。 だから、 「そんなわけ、ないじゃん」 真っ向からの否定が返ってくるなんて、思わなかった。 「アンタ、兄弟が誘拐されたのに見捨てて家で梨食ってたことある?」 「――え?」 何か、ひどく人間失格な行為を聞いた気がする。 おそ松が口火を切るのに合わせて、シャッフリン達も腐らずに残っていた武器を構えて臨戦態勢を取った。 時間をかけるわけにもいかないランサーは、戦闘の続きを再開してシャッフリン達をどかすために大剣を振るい始める しかし、声も枯れよとばかりの大声で、その男はがなり立て始めた。 「おやつの今川焼欲しさに弟妹(きょうだい)とガチで殺し合ったことは? 弟がそこそこ頑張ってたバイトを、気に入らないからってだけでメチャクチャに荒らしたことある? 女を買う金を作るためだけに、家財道具全部売り払って家族に怒られたことあんの!? 自撮りの背後に全裸で映り込んだことは!? リア充がバーベキューしてるのにムカついて石投げたことは!? ハロウィンの日に知り合いの家に勝手に上がりこんで、家財道具ぜんぶ巻き上げたことはあるか!! どれも無いんじゃないの!?」 大剣の一刺しで、クラブのシャッフリンを庇ったハートの腹を貫く。 しかし嫌が応にも耳に入って来るのだ。 櫻井戒は、悪の組織に所属する堕落した存在だ。 しかし、社会的な常識はバッチリある。 だから『そんなゲスいことをする人間が本当にいるのか?』と素で思ってしまう。 危うく自分が8歳の妹からおやつを取り上げて1人ゆうゆうと食らう光景を想像しそうになり、イカンイカンと首を横に振った。 「就活に充てるために貰った金で、真昼間っから酒飲んだことは? 弟が勝ってきたパチンコの金、根こそぎぶんどったことある? 親友が金を貸してくれなかったからって、八つ当たりでそいつの車をボコボコにしたことある!? 小さな女の子を連れてパチンコに行ったことは? ゲームなんだって勘違いして、たくさんの人を殺すように命令して自覚無しだったことはあんの? どれも無いのに、自分のことを『屑』とか言ってんじゃねぇバーカバーカ!!」 どうやらハートのシャッフリンに限れば、他のシャッフリン達より頑健さが抜きんでているらしい。 刺しても払っても腐敗の進行速度が遅いし、それを心得ているかのようにクラブがやスペードの残党が攻撃されそうになると庇うように前に出てくる。 しかしなぜだろう。 黒円卓で、様々な悪逆非道に手を染めた狂人たちなど見慣れているはずなのに。 何百人を殺したとか犯したとか聞かされるより、 常識ある人間として、そっちの方が生理的に屑に感じてしまう不思議。 ――いや、違う。 松野おそ松が自分のことをどう罵ろうと、櫻井戒が屑だということに変わりないはずだ。 櫻井戒が己のことを屑だと自称するのは、べつにただの自虐とか被虐趣味だとかでは断じてない。 妹や大切な人を穢さないためならば、自分がどんな汚れ役でも引き受けると、 家族や近しい人達を守り抜くという、誇りも確かに存在する自己認識なのだ。 「だいたいアンタ、俺が弟の為にここにいると思ったか!! 違うもんね!! 俺、嫌々やってるだけだからね!! 実はさっきだって、弟殺せば聖杯が手に入るって思ったら弟殺しかけたからね!! 本当は今だって、こんなんとっとと終わらせてハムカツ食いたいぐらいしか考えてないからね!!」 何度も何度も起き上がる、ハートのシャッフリンたちに焦燥を感じる。 ハートたちが倒れそうになったら武器を持たないダイヤのシャッフリンがそれを支え、敏捷さでわずかに勝るスペードの下位ナンバーたちは攻撃するよりもちょろちょろと駆けまわり、ランサーの視界を遮るようなものを投げつけて攪乱に徹し始めている。 そいつらを掃討するための効率的な攻撃手順を、頭の中で組み立てる。 しかし、声は聞こえている。 そして思う。 「弟妹(きょうだい)は、もっと大切にした方がいいんじゃないかな?」 思っただけでなく、口に出してしまった。 櫻井戒にとって、日常とは眩しく美しいものだ。 弟妹(きょうだい)とは(妹しかいないけれど)、無垢でかわいらしくて仕方がないものだ。 誘拐されたのに忘れ去って呑気に梨を食べるなど考えられない、外道の所業だ。 『日常』を踏み躙るような発言を口にされて、つい『相手の言葉に耳を傾けている』ことを認めてしまった。 「うっ、せー、よ!! やっぱりお前は『屑』じゃねえだろ! 『弟を大切に』とか『長男だから』って言われるのが一番ムカつくんじゃボケェ!!」 彼の『己は真底から腐った屑である』という自己規定に、『この眩しい日常で生きることを選べない人間だから』という憧れもあったことは想像に難くない。 「弟達なんか嫌いだし! 死ねばいいのにって割と本気で思ってるし!! 何かあると比べられるし、どこ言っても指さされるし、 こっちが寂しがってるのに遊んでくれないし、お兄ちゃんだからって優しくしてくれたことなんかほとんど無いし! 家族に見せたくないとかバカじゃねぇの! どうせどんな弟妹(きょうだい)だって、そのうち自然に汚れてくもんなんだよ! 今は可愛い年頃かもしれないけどな! どうせあと十年もしたら溺愛された反動で頭がアホの子とかになって、危ない彼氏とかにガンガン貢いだりして家族の頭が痛くなったりするんだからな!」 「ひ、人の妹を一緒にするな! 僕の妹は誰にも汚させない!!」 つい、ガチの反論になった。 逆に言えば、櫻井戒には、日常こそが地獄だったと主張する人種への耐性が無い。 そして、このK市に松野家ほど、眩しい若者時代だとか、あたたかな日常だとか、美しい兄弟愛に対する幻想を破壊する家庭はない。 一方でおそ松は、信じている。 味方は己とシャッフリンだけであり、兄弟は五人の敵である。 世界はすべからく、五人の敵に比べれば取るに足りない中立であり、 六つ子に産まれてしまった日常とは、常に甘やかな地獄なのだ。 「汚さないとか無理に決まってんだろバーカ! むしろ俺だったら率先して道連れにするね! 誰か1人だけ上に行くとか絶対に許せるか! 行先が地獄でも皆一緒なら怖くねぇだろそっち選ぶわ!! キレイなままでいてほしかったら時間でも止めてみろバーカ!!」 もはや、何を言っているのかを自覚しているかさえ怪しい。 けれど、自分自身と兄弟に対する扱いならば、彼はとてもよく知っていた。 なにせ、彼の自意識はたいそう小さくて扱いやすい。 おそ松にとって、時間とは止まらなくていいものだ。 なぜなら彼は、十年たってもやっぱりバカだから。百年先も、生きていればバカをやっているから。 「ふざけるな! 大切な妹を邪道に引っ張りこむなんて、そんなことができるわけないだろう!」 この『聖杯戦争』の中で、櫻井戒も、大切な妹と同年代のマスターを穢れた行いに巻き込むまいとした。 けれど頼もしい彼女は、隙あらばとランサーを助けようと、自ら戦場に出ようとして、なかなかうまくいかなかった。 そんな思いもあって、ランサーはいっそう強く否定の言葉を吐いた。 大切な存在を、自分と道ずれに地獄に落としても上等だなんて、そんな行いがあってたまるか。 そんな人間がいるとしたら、それこそが真のクz―― 「――っ!」 その考えが、脳裏をよぎりそうになったのと同時だった。 一斉に槍と棍棒を叩きつけられた櫻井戒の身体に、『それらが身体を擦る感覚』と、『切り傷を受けたような痛み』が襲いかかったのだ。 「痛い、だって?」 有り得ない。 大剣を大振りに振りぬいて包囲を振りほどき、見下ろせば。 確かに振り払われたシャッフリンの得物には腐食が起こり始めているものの、その速度はスペードのエースを潰した時に比べれば極めて遅々としており、未だ形が崩れていない。 そして己の身体を見下ろせば、武器を撃ち込まれた箇所には、確かに血が滲みはじめている。 「まさか……」 ダメージが、わずかなりとも通るようになっている。 黒円卓第二位の『創造』が、ただの社会最底辺の一般人の心底からの叫びを聞いただけで、綻びそうになっている。 原因があるとしたら、しかしそのせいでしか有り得ない。 エヴィヒカイトの『創造』とは、『そうではないはずがない』と当たり前のように狂信している自分論理の思い込みに由来する。 『それが当然の摂理なのだ』と当たり前のように完全に信仰していなければ、その鉄壁は途端に乱れて崩れ去る。 本来ならば、ただの一般人が『お前はクズじゃない』と吐いたところで『なんでこいつは水が低い所から高いところに流れるようなことを言っているんだ』としか響かないはずの狂信が、ぐらぐらと揺るがされている。 攻撃が有効になったのを見て、シャッフリンたちの眼に『狙い目だ』という不屈の意思が強く輝き始めた。 円形にランサーを包囲し、残ったわずかな人数でも頼りにしあうように目線を交わし合う。 そう、シャッフリンたちだって、もはや人数が三分の一以下に減り、ほとんどが負傷しているか、地面に倒れてもがいている。 それでも、その動きはむしろ洗練されたものになっていた。 洗練されているというよりも――よく、連携が取れていた。 結果的にランサーを『(狙っての事かは怪しいにせよ)おそ松の言葉が効力を発揮するまで、足止めしきる』という役割を果たせるほどに。 誰かに武器が直撃しそうになれば、誰かが手を引いて回避させる。 まだ少しは戦闘力のあるスペードやクラブが犠牲になりかければ、ハートが盾になって少しでも持たせる。 その原因は、重ねがけした令呪の一つ目にあった。 『命令を待つのではなく、横を見て戦え』と。 元々、シャッフリンとはジョーカーという指揮官があってこその存在だ。 しかし、横の連携が取れないわけではない。 彼等は、複製されたホムンクルスだ。個にして全であり、全にして個である。 とあるシャッフリンの後継機では、それを利用した52体全員による『踊ってみた』動画が作られたほど、動きを合わせることは難しくない。 そのことに『集団で一つの作業をすることに慣れている』人物が気づいて、『それが実現しやすいように』令呪で能力を手助けしてやれば、 ジョーカーの命令を待たない一糸乱れぬ連携など、できないはずがない。 「君たちは弱い……しかし、しぶとくて強い」 次々と増えていく切り傷に舌打ちし、ランサーは思うままにならない己が身体でシャッフリンと相対する焦燥を感じた。 松野家のバカ息子は、1人1人ならただのゴミだ。 二十数年生きてきて、それはおそ松も何度となく身にしみている。 そして、シャッフリン達も1人1人ならそう強くない。 スペードのエースは強かったけれど、あれも『先陣を切る』という斬りこみ隊長として求められる役割のための強さでしかない。 しかし今、おそ松にはシャッフリン達がいる。 シャッフリン達には、おそ松がいる。 自分1人では勝てなくとも、自分『達』ならば勝てるかもしれないと、賭けている。 (不味いな……彼等を見つけてから、一体どれほどの時間が経過した?) 本当なら、とっくに口封じを完了させているはずだった。 己が切り札が解除されかかっているという前代未聞の事態もあり、しかしここで撤退するわけにもいかないとランサーは懸命に打開策をひねり出そうとする。 「……ッェ」 しかし、その好機らしきものは向こうからやって来た。 おそ松が、えずくような呼吸を一つ吐いた。 そして次の瞬間、立て続けにゲホゲホと咳きこみ始めて、身を折ったのだ。 ランサーの視力なら、彼が口から吐き出したものの色は分かる。 赤だ。 吐血した。 ハートの3が気遣うように彼を助け起こし、彼の方もそれに甘えるように身をくの字に折ってぶるぶると震えている。 目にするのは初めてだが、包囲を続けながらも主人の方を心配げに見ているシャッフリン軍団を見て、ランサーもさすがに察した。 魔力切れだ。 当然の帰結だった。 プリンセス・テンペストはおそなくとも身体を改造された人造魔法少女であり、保有する魔力量は一般的な魔術師よりもよほど潤沢にできている。 対して、松野おそ松は、魔術師の素養も何もあったものではないただの屑ニート。 シャッフリンはサーヴァントとしては破格なほどに燃費の良い性能をしているけれど、 しかしそれでも、マスターの魔力を必要としない時は『他のサーヴァントをエネルギー源として使った場合』のみだ。 いくら全員で個だからといって、性能Aランクがごろごろと並ぶスペードのエースを含めた53体のサーヴァントを、一般人1人の魔力で動かしていたことには変わりない。 しかも夕刻からずっと、おそ松を守るためにシャッフリンはほぼフルメンバーで働かされっぱなしだった。 今や普段は魔法の袋の中に待機させているシャッフリンも、戦闘向きではないダイヤやハートの下位ナンバーも含めた、フルメンバーで動かし続けている。 令呪を二回も消費したのは、大判ぶるまいでも何でもなかった。 そうしなければ、本当に魔力が足りなかったのだ。 (そう言えば……) 己が常に浴びている偽槍の苦痛に比べれば、ここで伝播する偽槍の邪気は大海の中の一滴のようなものであり、おそ松と櫻井戒では住む世界が違うと先ほどは諭そうとした。 しかし、その一滴こぼれただけの灼熱でも、ただの一般人にとっては業火の炎に充てられるような苦痛のはずだ。 腐り切ったランサーの身体からは、そばにいるのも耐えがたいほどの腐敗臭がしたはずだ。 なぜ、その邪気に耐えてまでここにいる。 自他共に認めてしまうほどの屑が、なぜその地獄のなかで正気を保って啖呵を切り続けていた。 この男は、決して何の頑張りも責任もなしに、ノーリスクでこの場所に立っているわけじゃない。 むしろ、全力でそれらの上に立っている。 ――誰のために? それを考えた時に、理解できた。 二回目の令呪を唱えた時の唇の動きを、今ならはっきりと読唇できる。 そりゃあ小声で言いたくもなる。 妹が大好きな櫻井戒だって、そんなことを言うとなればつい小声にもなるだろう。 『弟と、そのガールフレンドを、守護れ』 まったく、聖杯戦争で自らのサーヴァントに命じる令呪ではないと、戒でさえそう思う。 理解すれば、決して嘲りではない笑みが口元に浮かぶのは抑えられなかった。 「ずいぶんと無理をする……何故そこまで?」 「しーて言えば……さっき、すげぇ嬉しいことがあったから」 弱々しく笑って、そう言った。 紫のパーカーで口元をぐしぐしと拭い、ハートの3とジョーカーに寄りかかるようにして無理矢理立っている。 なんだ、そうか。 先ほどは弟なんか嫌いだと言ったけれど。 それはそれで、嘘では無かったのかもしれないけれど。 けれど、決してそれが全てでもなかったのだ。 ここで退けばランサーに追われて殺される人間がいて、 彼はその人を殺させないためにここにいる。 君も、同じじゃないか。 僕と正反対のようで、しかし、守りたいものは同じじゃないか。 揺らぎは消えた。 『こんなあり方の人間がいるならば、自分はどうなのだろう』と揺らがされていた迷いが、消えた。 きっと今ならば、創造を復活させて彼等を殲滅できるだろう。 しかし。 「ねえ、もう、良くない?」 互いが互いのことを正しく理解したときに、戦う理由は消滅した。 ここまで全力の全開を出せたのが、すべて特定の人間のためだったのだ。 逆に言えば、そこまでの事情がなければ彼はここまで出来なかったし、 なんだかんだでこの人間が、それ以外の目的でランサーたちの情報を『聖杯戦争を賢く生き延びるやり方』のために使って、それでランサーとそのマスターが窮地に陥るところはなかなか想像できない。 互いに互いの立場を何となく理解したので、『相手もそうなんだな』と了解すれば、まぁお互いが不利になる行動はとりたくないな、という気持ちも生まれつつある。 拳を交わして友情が、なんていうきれいな戦いでは無かったけれど。 「ああ、そうだな。……すまなかった」 ランサーの停戦宣言を聞いて、おそ松はそのままずるずるとアスファルトの駐車場に倒れ伏した。 ハートの3番が、かいがいしくひざまくらの姿勢を取る。 他のシャッフリン達も、盾となる数人のハートを残して霊体化した。 「あー……………疲れた」 「しかしどうしたものかな。僕のマスターの同盟者を探ろうとしてる人物の情報は、結局手に入らないままだ」 「いや、そこはアンタ1人で決めることじゃないでしょ」 マスターにもっと相談してからだ、と暗に言われた。 億劫そうにしながらも、ひざまくらのままでおそ松はゆるゆると突っ込む。 「例えばさ、人間の気持ちをエスパーする猫がいて、それが弟妹と仲良かったりするじゃん?」 「は?」 「人の気持ちが分かっちゃう猫だからさ、色々と暗黒面なことを弟妹に吹きこんだりもしちゃうわけだよ。メンタル追い詰めるかもしれないんだよ。 でもさ、その弟は、猫と仲良くしたがってるわけだよ。……俺はそういう時に、猫を取り上げるのは、気が進まないんだけど」 「……それは、猫自身が善意であるという前提だろう?」 「ここには悪意のある猫しかいないっけ?」 「まぁ……そうでもない、か」 妹と同じ字を名前に持つ少女のことを思い出せば、否定することはできない。 言い負かされたような悔しさに見下ろせば、『してやった』という顔をしているにやけ顔がある。 直後に、またゲホゲホと咽始めたけれど。 男女問わず、こういう陽気なタイプにランサーは弱い。いや変な意味ではなく。 「互いの問題が片付いたら、また会えるといいね」 「そん時は同じ戦いもう一回やれって言われても、できないからね」 そんな言葉を別れのあいさつ代わりに、ランサーは背を向けて帰還を始めた。 彼のマスターの元へと。 そして、残されたマスターは呟くのだ。 「もう、働きたくない……」 ♠ ♥ ♦ ♣ 目覚めた元山のところへと戻ってきたバーサーカーは、明らかに様子が違っていた。 呆然として、ぶつぶつと言葉を呟き、それ以外には反応もない。 「音楽家は、また『アレ』をする……呼ばれた……私のことを呼んだ……」 いつもの動作ではあったかもしれないが、こんなに同じ言葉ばかり繰り返し呟くのは初めてだった。 妄執だけでなく、恐怖めいた感情を感じさせるのも初めてだった。 予選からずっとそばにいれば、分かって来るものだ。 「アレは良くない……とても、良くない……アイツは私を呼んだ……おねぇ……なんて呼んだ?」 ひとまず動かないバーサーカーから脇差を縛られた後ろ手で拝借し、ロープの拘束を外した。 それでもまだ、呟き続けている。 それは、サーヴァントの少女を『音楽家』だと判断して襲い掛かったことに関係しているのではないか。 元山がそう推測するのは、難しくないことだった。 同時に、初めての本格的な罪悪感が彼の胸を刺した。 彼女には、特定の復讐相手がいて、その『音楽家』を探しているのだ。 おそらく、その音楽家とやらの『人を不幸にする音楽』によって、打ちのめされるほど酷い目にあったのだろう。 しかし自分は、『不快な音を撒く者』が相手だったとはいえ、彼女の復讐とは直接的に関係のないNPCやマスター達をして、 『あれが音楽家かもしれない』と適当なことを言って彼女の復讐心を利用していたも同然のことをしていた。 それは己が芸術を完成させるためには正すべきことだったけれど、 バーサーカーにしてみれば、本命の音楽家はどこだろうと焦燥に苛まれる日々だったのかもしれない。 幾ら元山のために召喚されたサーヴァントだからと言って、元山はこれまで、彼女の助けになったことがあるのだろうか。 彼女のために『音楽家』を探してやりたい。 君と話がしたい。 元山は初めて、そう思った。 だから、二画目の令呪であっても、バーサーカーのために、ためらわなかった。 「バーサーカー。『落ち着いて、君の本当の仇について思い出してくれ』」 それは、いわば彼女の狂化を一時的にでも解こうとする命令であり、いくら令呪の魔力をもってしても、彼女の精神汚染の深さを加味すればそう通用しないはずの命令だった。 しかし、彼女の願いは『音楽家に一太刀でも浴びせる』ことだ。 ほんの数十分の短い時間であれど、彼女に『マスターとサーヴァントの意思が合致した命令である』という多大な魔力ブーストをもたらした。 だから、彼女に対して、『落ち着いて』そして『音楽家のことを思い出す』効力をもたらした。 「私は――」 だから彼女は、その瞬間だけ取り戻していた。 『家族想い』の、不破茜を。 聖杯戦争家族計画 おそ松さん