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心、わたしの胸のどこに ◆GO82qGZUNE 恋をした。 誰よりも幸せな恋をした。 けれど私は灰かぶり姫なんかじゃなくて─── ハッピーエンドは失われた。 ▼ ▼ ▼ 人の悪意には慣れている。 生まれが生まれだ。嫉妬や羨望の的にされるのなんて日常茶飯事だし、謂れなき誹謗中傷を受けた数だって数えきれない。 人との別離には慣れている。 というよりも、最初から何も感じない。この世に良い人なんて誰もいなくて、誰もが打算だけで動いていて、だったらそんな他人なんかに感情を動かすほうがどうかしているのだ。 少なくとも、ほんの少し前までの自分はそう考えていた。 だから、本当なら、あんなものを見せられてもどうってことはないのだ。 氷に閉ざされていた私の心は、そんなものでは動かなかった。 そのはずなのに。 「藤原さん……」 ふとした瞬間にリフレインする。その情景が脳裏にこびり付いて離れない。 乾いた空疎な爆発音、いっそ冗談めいて噴き出る鮮血、くるくると回る首。 綺麗に整えられた桃色の髪はざんばらに飛び散って、もう生前の可愛らしさなんてどこにもなく。 ───信じない。 ぽとりと落ちた首が転がる。光を失った虚ろな目が、こちらを見る。 ───それでも信じない。 この子に驚かされるのは、いつものことだから。 きっと今回だってそうだ。自分が声をかけたら藤原さんは何でもないことのように起き上がって、「なーに本気にしてるんですかー」なんて間の抜けた顔で笑うに決まっている。それで私が安心して少し泣きそうになると、「あれあれ泣いてるんですかー?」なんてからかうに決まっている。 人の姿をした家畜……プライドがなく他人を貶めるしか能のない地球の癌。ああ、考えるだにおぞましい。 だなんて私が怒り、石上くんが困り、会長が静かに嗜める。そして皆で笑うのだ。これまでずっと繰り返されてきた日常が、明日からもきっと続く。 そうなんでしょう? これもきっと、あなたの悪戯なんでしょう? TG部で色々遊んでいるあなたのことだもの、私の知らない最新鋭のゲームだとか、VRだとか、とにかくそういうものを用意してドッキリでも仕掛けているのでしょう? ねえ、藤原さん。 藤原さん─── ◆ 泣き叫ぶ少女の声が、夜の森に響いた。 エリアC-7、街の外れにある小さな森の中。木漏れ日となって降り注ぐ月の光に照らされて、四宮かぐやは常の気高さとはかけ離れた姿を見せていた。 すすり泣くような声とは違う。声を殺して泣くのとも違う。子供がするようにあらん限りの声を張り上げた絶叫。世の悪意に立ち向かえる強さを持たない幼児のような泣き叫ぶ声は、森の闇に溶け消えて、残響となって木々の葉を揺らすのみ。 殺し合いを宣言された場で無防備に大声を出す危険性を理解できないほど、四宮かぐやは愚かではない。 しかし、これは賢明とは愚かしいとかそういう問題ではないのだ。 今でも気を抜けば脳裏に浮かぶ。一面に鮮血が飛び散り、そこで起こった惨劇を生々しく想起させる。泣き別れの首と胴体、あらぬ方向に投げ出される手足。吹き飛んだ頭部はおかしな形に陥没し、下顎の無くなった光のない目がこちらをじっと睨めつけている。 それでも理解できない。 何故、藤原千花が死ななければならなかったのか。 そう、藤原千花は死んだ。それは変えようのない事実だ。 遠隔で網膜に投射するVR映像? あるいは都合の良い夢を見せる催眠療法の発展系? あり得ない、そんなものが現実に存在するものか。仮にそんな技術があったとして、それを一学生に過ぎない千花が用意できるか? できたとして、それで見せるのが彼女らしくもない血生臭い悪趣味なスプラッタであるのか? ひぅ、と捩じれた息を呑みこむ。過呼吸気味に酷使された肺が悲鳴を上げ、生理現象としての咳がこみ上げて激しく咽込む。 信じられなかった。藤原千花が殺されたことも、自分や生徒会の面々が殺し合いなんてものに巻き込まれたことも。 そして─── 「私、なんで、こんな……」 藤原千花の死に、四宮かぐやがこれほどまでの悲しみを抱いてしまっていることも。 「あなたは、勝手なんですよ……いつも騒動事を巻き起こして、いつも私のことをからかって、私を怒らせてばかりで、素直に礼も言わせてくれなかった……本当はいつもあなたに感謝してた。あなたのことを頼りに思っていた……私の傍にいてくれてありがとうって、これからもずっと一緒にいてねって……いつかそれを伝えようって、会長ほどじゃないですけど、そう思っていたんですよ……?」 言葉が途切れる。 思考が霞む。 血濡れた情景しか映さなかった脳髄が、唐突に過去の情景を描いていく。 生徒会の記憶、そこで過ごした日々。くだらなく低レベルで、四宮の人間としてこんなことでいいんだろうかと自問自答することもあったけど、でも確かに楽しかった日常の記憶。 笑顔。 藤原千花は、四宮かぐやの記憶の中で、ずっと笑顔を浮かべていた。 それを見て、かぐやもまた、ずっと笑顔でいられた。 そのことを自覚して、かぐやは泣き濡れた顔のまま笑い、 「……ああ、そっか」 何もない虚空を掻き抱き、自らの腕に顔を埋めて。 「私は、あなたを、親友だと思っていたんですね」 響き渡る慟哭の声。 見守る者はなく、見咎める者もなく、その声はただ夜半の風を揺らすばかりで、ただ虚空へと消えていくのみだった。 ◆ 結局のところ、かぐやにできることとは、一体何なのだろうか。 少し考えて、答えは出なくて、もう考えること自体に嫌気がさしてしまう。 考えてみよう。今からかぐやたちは凄まじい豪運を発揮して、なんと誰も死ぬことなく殺し合いから脱出することができました。 自分も、会長も、あと石上くんも、特に大きな怪我もなくPTSDとかの後遺症とかもなく、なんか平穏に、嘘のように、元の日常に帰ることができました。 めでたしめでたし───なんてことになるわけがない。 だって、藤原千花は死んでいるのだ。 もうどうしようもなく、救いようがないほどに、死んでいるのだ。 どうやったって元の日常は戻ってこない。 5人揃ったあの生徒会は、二度と元には戻らない。 完全無欠のハッピーエンドは既に失われている。今からどう足掻こうとも、かぐやたちは不可逆のマイナスを常に背負っていかなければならない。 ならば優勝を目指すべきか? 優勝して、元の日常を返してくださいと、そう願えばいいのか? ───本当に? 会長を、白銀御行を一度殺害した上で、そう言えと言うのか。 ……結局のところ、答えなんか出るはずもなかった。 闘えばいいのか、逃げればいいのか、それとも仁愛とか正義とかを掲げて仲良しこよしで群れたらいいのか。どれが正解なのか分からない。 けれど、それでも湧き上がってくる感情はある。 「会長……」 会いたいです、今すぐに。 情けない姿を見られても構わない。本当はそんなところあなたに見せたくはないのだけど、でもこんな時くらいはいいでしょう、だなんて。 ねえ、会長。 こんな汚い私とは違うあなたなら。 私の見る景色を変えてくれたあなたなら。 きっと強く立ち上がってくれてるだなんて、強く正しく私たちを導いてくれるだなんて。 そんなことを期待している私は、やっぱりあの頃と変わらない、打算と利己しかない氷のままなんでしょうか。 ねえ、会長。 私は卑しい、人間、ですか? 四宮かぐやは、白く輝く月を見上げ、歩みを進める。 静寂が支配する世界にあって、ただ見上げる。そうすることしかできない。今だけは顔を上げておきたかった。 俯けば─── きっと、涙が落ちてしまうから。 【C-7・森/1日目・深夜】 【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】 [状態]:憔悴、混乱、悲しみ [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本方針:決めかねている。 1:会長たちと合流したい。 [備考] 具体的な参戦時期は後続に任せます Next 共闘 Previous 最初に生まれてくるということ 前話 お名前 次話 Debut 四宮かぐや 素直じゃない私を 目次へ戻る
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ヨシオミは終始ニヤニヤしていた。 「いいものが見られる。ついてくればわかる。」 ヨシオミは最近なんだかテンションが高いし、自信家。 何もないといってるけど、明らかに嘘。前はこんなに上機嫌な顔を見るのは 何日もなかった。今ではもうずっと。 彼女ができたわけじゃないな。勝手に確信。ダサ坊度が抜けてない。 あとはせいぜい宝くじでも当たるかしないと、こいつの人生はかわらねえだろう。 わけもわからず俺はヨシオミにならって、テニスコートのフェンスに体を浸す。 夏は好きだ。春も秋も冬も、まあそれなりに好きだけど、7月の今思うに、 夏が一番美しい季節。木々の緑も空の青も、やたらと濃くなって、 その輪郭をはっきりさせているから、陽の熱が空気を揺らすプロセスの隅々まで 手に取るようにわかる気分だった。そしてそれは逆説的に、景色をくすませて、 世界の美しさをさらに強調してる。 スイカの塩みたいな感じ。的を射てるとは思うけど、俺もやっぱり馬鹿だ。 でもなんか、スイカ食べたくなってきたのは本当だ。季節をそうやって味わえるのが 俺が日本人たるゆえんなのかもしれないとも思う。国語の試験で、そんな文章を 読んだ。多分。 「スイカ食いたくねえ?」 「食いてえ」 じゃあコンビニにでも と言いかけたのをかぶせるヨシオミ。 「真鍋キレーだと思う?」 ドキッとした。確信を揺らがせたから余計に。 コイツも男だから、すべったことを口走っても本当は不思議でもなんでもないが、 それでもあんまり女に興味がなさそうというか、未だに興味をもたれてなさそうな オミがこんなこと言い出すのはやっぱ不意打ち。夕立が降る前に帰ろう。 それでも会話のテンポは崩れない。 「いや、やっぱキレーなんじゃない?あんま話したことないけど。」 ぶっちゃけなくてもわかってる話、俺もオミ同様、女に興味をもたれていない。 まじめに男と女の倫理というか、節度というか、そういうのを割と尊重してきたら、 「フツー」の金の使い方が馴染まなくなった。「フツー」の使い方ってのは、 金を払って、新しいコミュニケーションを買うやりかた。だからマザコンはモテない。 たまには焦るけど、無い袖は触れなかった。 真鍋は実際キレイだ。俺が万一告白されたら二つ返事するに決まってる。成績も 結構優秀だし、いつもグループの中心に、会話の面白さと可愛らしさで花を添えてる。 いい噂のネタに事欠かない。 「真鍋ノーパンなんだってよ」 全身の力が抜けた。 そりゃあずっこけたままツッコむ。 「ハァ?何ソレ?」 「だから確認に来てるんだよ。」 「ってか…オミマジウケるってソレ。誰情報だよ。」 「いや、女の盗み聞き。名前は知らない。」 「ありえねーって、ソレ。さすがに。チュウボウの妄想だろそんなん。」 オミはニヤついてる。マジか。なんだコイツ。正直今日キモイな。 「それにさ、確認ったってどうすんのよ。」 「いや、なんかのきっかけで、チラ、とかねーかなと思って。」 「アッホくせ。」 「どうせ暇だろ?付き合えよ、教室ん中いても不健康だろうよ。」 正解。クラブのチケットでもプレゼントしてやりたいよ。それにしてもそんなにまで俺ら暇だったのか。 軽く戦慄。そりゃあもし実際そうで、見えたりとかしたら相当なハッピーサプライズ。 けど、俺が期待を仕込んだ妄想を膨らますには、少々浮きすぎて、輪郭薄い。 その真鍋は自分たちから20m位はなれたところで、バドミントン中。 大体のやつは体育館でやってるけど、多分今いっぱいなんだろう。トラフィックジャムには勝てない。 スポーツのバドミントンじゃない。やんわりした弧を描いては沈み、沈んではまたエッジの 利いた弧を再び描く。リズムは何度でも途切れては、また始まる。呑気な鳥だよ。鬼だって昼寝する。 真鍋は、視界の中のひとつの物語のようにしか見えない。輪郭は今、もっともっと広い。 「じゃあそうだったら明日の昼飯おごってやるよ。」 「オーケイ。忘れんなよ」 ハイハイ。俺は膝を折ってその場にあぐらをかいた。「じゃあ当たってなかったらスイカ買ってきてよ。」 「オーケイ。」羽のシュプール描く音も、テニスボールの弾む音も、この景色によく似合ってる。 雲が速いなあ… 日常でどれだけ狭い視界で暮らしているかがよくわかる。今は目の支配できる端から端まで、 その彩を浴びることができてる。ちょっと蒸し暑いのも、それはそれで夏の重要な重低音。 景色から零れ落ちた羽が俺のテリトリーに触れる。俺を取り戻す。拾い上げると、そこに 真鍋の手があって、沿って顔を動かすと、いつもの天使の笑顔。羽は喪よりは天使に似合う。 俺は剣も持てないし、魔法も使えないモブの一人。無力なプレーヤー。 「ありがとう」 これまた素敵な魔法。彼女は元のところへ早足に戻り、何事もなく飛ぶ練習を始める。 調和してる。そのまんまじゃないか。サイコウの暇だ。俺はオミのほうをチラリとも見なかった。 遠く、鐘の音が通る。少し長めの風が生まれる。 「オイ、オミ。もう帰ろうぜ。タイムアップだよ。スイカもってこい。」 俺もオミも、気のない返事しか返さない会話。それはそれでアリっちゃアリだけども、 でもオミはそう思ってなかったみたい。 「オイ!」 多分その魔法が、俺の世界を不自然にずらした。輪郭は狭まって、砂に立つ影に導かれる。 あっという間に俺の目を奪われた。大きな世界に浸り続ける作業は強制終了。 命令もしてないのに体中に電気と液体を流し込む機関を刺激する。俺は無防備だった。 それ以上に真鍋は無防備だった。その一瞬、真鍋は、制限される高さを羽に許すどころか、 一切注意を払っていなかった。そのせいで蝋の羽はトチ狂って禁を無視。高く上りまくって、 主を危険にさらす。矛盾。コマがひとつ二つ送られた。現世の常識もしらねえほどウブ?まさか。 彼女は膝をたたんでその両手を、彼女の前側だけにあてがおうとしたのだ。 彼女が俺に向けていた背は、明らかにそのあおりを食ってる。おかげで度肝抜かれた。大穴だ。 空に舞う紙くずが光を遮って曲げる、こともされない。ディスプレイ越しのCGじゃない。 羽はトチ狂って高くひるがえり、呑気に空気に漬かることを全身で楽しむようなペースでしか、進まなかった。 その先にあったのは、彼女の生の体ひとつ。たいした面積でもない覆いだと思っていたが、それがはがれることで、 ようやく160cmは長いとわかった。柔らかな曲線は腰の辺りから膝下まで渡る。緩やかに、コワク的に。 両脚。その付け根。すらりと伸びた真ん中の境界。そしてその下に、奥に、真鍋の儚さがひそんでる。 ふいに浮かぶ笑顔。リアルに通る感覚。あの柔肌も、唇も、風と熱と冷気と、そして何者かの視線の全てを 全部吸い上げて、彼女の真んナカに流しているんだ。 網膜を持って行くのは、何も悪魔に限ったことじゃない。それどころか、いわんや。 俺のすべての視線を縛るポイントは、真鍋の瞳に吸い付いた。喜怒哀楽のない、ただ素直に、 驚いた顔。そして多分彼女の視線のすべても同じようなプロセスをたどって、俺の目に釘付けられたとわかった。 目の端で、ようやく輪郭を削られて行く白。波打つ二つの宝石。こみあげる太陽より赤い熱。 心地よく、痛く、同じ電気が俺の同じところを劈いてく。彼女のはっきりと示す矛盾。太陽に唇まで 捧げる危険を押して、天使は、その感性を選んだの? 酔いからさめて気がつけば彼女は消えた。他にも色々なものが目の前から消えてたかもしれないけど、輪郭の外。 今わかった。アダムだって木の実の一つ二つ食うさ。罪くらい甘んじて背負う。だけど俺以外の誰かが、 そんなこと言い出したらきっとぶん殴る。俺はやっぱりモブどまりだ。 「いやー、ヤベエよ。コレ。マジで。すごくね、アレww」 甘いけど苦い。そんな心は誰かと分けちゃいたいけど、少なくとも今は、何故か、オミとは気が進まなかった。 砂が低く旋回する。女の残り香。俺は祈った。できれば他人からこの景色について聞くことがない様に。 苦いけど、やっぱ甘い。俺の体は正直に、当たり前に、ちゃんと動いていたからわかる。 俺は彼女に向いてない。そんな気がする。 (end)
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「久しぶり……って言ってるんだけど、無視?」 「あ、いや、後藤さ……貴女、生きて――」 「ん? や、アンタに言ったわけじゃないんだけど」 凍りついたように動けなかった高橋が、我に返って発した言葉を、しかし彼女はただ一言で斬り捨てた。 なぜだ。 後藤真希生存の可能性については、先日の中澤と紺野による説明から理解できる。 だが高橋愛は後藤真希の弟子だったはずではないのか。 それに、声をかけたのが高橋に対してではないとすれば、必定それは、 「れいな。アンタに言ってるんだけど?」 聞きなれない声が、だが、れいなの胸の奥から郷愁を引き出した。 声は確かに聞きなれない。 彼女の容姿も肉眼でじかに見るのは初めてだ。 しかしこれは。この感覚は。 「ま、待ってください後藤さん! 一体いままでどこに、いやそれより――」 「っさいなぁ。アンタに用はないって言ってんでしょうが」 刹那、高橋に向けられたのは殺意をともなう氷の一瞥だった。 ブリザードを浴びたかのように、高橋の全身が強張るのがわかった。 "脅威"の右腕が無造作に振りあがる。 「危ないッ!」 かばうように踊り出たのは咄嗟の判断だった。 直後に、その行動は正解だったと思い知る。 高橋に向けられた"脅威"の掌を中心に景色が、空間が捻じれ、渦を巻き、放たれたのだ。 地面と平行に走るいかずちとでも表現すれば良いだろうか。 雷鳴が轟き、破壊の奔流は地面を派手に蹂躙し、余波だけで背後にあったビルを二棟倒壊させた。 無事だったのはれいなの周辺約一メートルの範囲と、余波からもまぬがれた背後の地面数十メートルだけだ。 「ふぅん。けっこー適当にやったんだけど。詠唱もないのにたいした威力ね、超能力」 "脅威"はその光景にたいした動揺も見せず、ただ自分の掌を見つめて感心したような声を上げている。 彼女の言葉に、周囲の惨状から意識をそらさざるを得なかったのはれいなも同様だった。 「詠唱」という超能力者が使うはずもない単語。 加えて、まだ超能力の威力について深く知らないかのような彼女の口調。 嫌な予感がする。 同時に、彼女が"後藤真希"の姿をした"別の誰か"であることも理解した。 「なん、や、これ……。こんなん、昔の後藤さんだってそう簡単には――」 「……高橋さん、上のハンターさんも連れてできるだけ遠くに避難してください。 アレは後藤真希さんなんかじゃない」 「後藤さんやないって、じゃあ一体」 「アレは、アレは――」 ――魔術師、です。 回答をそう濁したのは、無意識がそれを認めることを拒んだからだろう。 超能力者の彼女にとっては寝耳に水の回答ではあったのだろうが、 れいなの口調に鬼気迫るものを感じたのか、高橋は言われるまま瞬間移動で姿を消した。 先にこの機体の威力を見せたのは正解だったのかもしれない。 あの"脅威"としょせん人間の延長線上にいる超能力者では、 そもそも生物学的に規格が違いすぎる。 「お。空気読めんじゃんあのコ。改めて久しぶり、れいな。 じゃあまあ早速だけど、どんくらい腕上げたか見てあげる」 彼女はにこやかにそう言って、腰のベルトに提げた白い拵えの日本刀を一息に抜き放った。 鯉口を切る動作。鞘も持つ角度。抜き放った刀身を保持する姿勢。 その一連の動作だけで、予感がひとつひとつ確信に塗りつぶされていく。 応じるように、れいなもウェポンラックから取り出した刀を正眼に構えた。 「あ、そだ。ついでにこの身体の調子も見ておかないと」 思いついた調子で言うと、彼女は傍らにあったマンホールの蓋を念動力で目の高さまで持ち上げた。 滞空し、くるくると回転するそれを彼女は満足げに見つめる。 次いで、氷のような視線がれいなを貫いた。 ああ、やはりこの感覚は――。 「んじゃー、ピッチャー第一球、投げますッ!」 刀を握った右手を彼女が振るうと、 その動作に呼応するかのようなタイミングで中空の蓋が轟きを残して掻き消えた。 音速を超えた速度で迫る、もはや刃物と化した回転する凶器。 れいなは視認すらできないそれをこともなげに刀の柄頭で地面に叩きつけ、八極拳の震脚の要領で踏み砕く。 「お、さすが。お見事」 なぜ念動力の調子を確認するのに先ほどのような直接攻撃ではなく、 マンホールの蓋を操って投げるという間接攻撃を選択したのか。 それはおそらく彼女が、――れいなの"能力殺し(スキルキリング)"について熟知しているからだ。 「じゃ、次」 念動力による補助があるのか、彼女は瞬間移動と見まがうような速度で肉迫してくる。 柄を握る腕を顔の右横に置いた構えから、神速の一太刀が浴びせられる。 示現流、蜻蛉(とんぼ)の構えから放たれる初太刀は二の太刀要らずの一撃必殺。 超能力――否、魔力の補助を受けた彼女のそれは極意、雲耀(うんよう)の域に達している。 切先はれいなの腕、間接部に照準されていた。 防弾繊維は防刃機能までは備えていないものだ。 まともに受ければ容易に断ち斬られることは間違いない。 だが、すでにれいなは身体に染みついた足捌きで移動、刀を右肩の上に廻し、相手の初太刀を抜いている。 右肩の太刀に遠心力を加えてそのまま廻し、さらに肩を入れて返しの一撃を放つ。 柳生新陰流は三学円の太刀がひとつ、斬釘截鉄(ざんていせってつ)。 示現流を先の先を制する必殺の殺人剣とするなら、柳生新陰流は後の先を制す転(まろばし)の活人剣。 スーツによって膂力、スピードを増したれいなの斬撃を回避することは不可能。 かと言って刀で受ければ、切先の単分子層は容赦なく相手の刀を裁断するだろう。 今の一合は完全にれいなの斬釘截鉄が制したと見える。 「へぇ。上げてんじゃん、腕」 しかしそれはあくまで、――常人の域での話。 彼女は不敵にも微笑むと、れいなの斬撃を刀の側面で撃ち、流した。 パワードスーツの豪腕に振るわれたそれを、 まして必殺の一撃を外された姿勢から瞬時に流すなど、尋常ではない。 距離とスーツの膂力を考えれば、銃弾の軌道をそらすような神業だ。 しかも、この至近距離はれいなの"能力殺し"の有効範囲内。 すなわち彼女は超能力や魔力に頼らず、純粋な個人の技量と膂力でそれを成したことになる。 やはり彼女は、もはや人間などではないのだ。 「ほら、驚いてる暇なんかない、よッ!」 左右から八の字を描くような廻し撃ちが次々とれいなを襲う。 これは柳生新陰流の勢法。 彼女もこの流派の技を使いこなしている。 当然だ。れいなに最初にこの勢法を教えたのは誰あろう、――彼女自身なのだから。 れいなは常道を無視し、繰り出される撃ち込みをあえて刃部で受けにかかる。 刃部で受けさえすればそれだけで彼女の刀を裁断できるのだ。 だが、彼女はたくみに手首をひねり、先と同じように刀の側面、 鎬(しのぎ)を使ってれいなの刀身側面を撃ちすえてそれを防ぐ。 れいなの撃ち込みに対しても、同様に鎬をぶつけて斬撃は流される。 結果、二人の斬り合いはまさに"鎬を削る"の語源にふさわしい激烈な真剣勝負の様相を呈していた。 十合。二十合。 斬り結ぶたび、剣戟は無人のビル街に鳴り響く。 懐かしい。 時折浴びせられる指導的な罵声。 もう何度見たかわからない、様々な古流剣術を修めた彼女特有の変幻自在の太刀筋。 それらがあまりにも懐かしい。 やはり、そうなのだ。 たとえ後藤真希の姿をしていようと。 目の前の彼女は、まがいなく――。 「アハハッ! やば、ミキ相当愉しいかも! そろそろこういうのも混ぜていこうか!」 彼女が距離を取り、空に掌を向け、何か異国の言語を早口に紡ぐ。 網膜に表示された周囲の気温が、氷点下近くまで下がっている。 同時に湿度も異様に下がり、空気中の水分が何処かで消費されていると知る。 気がつけば、れいなを中心に巨大な氷の柱が何本も地面から生えていた。 見間違えようのない、これは"氷結"の魔術。 彼女は地を蹴り、柱を蹴り、れいなを撹乱するように周囲を跳び回りつつ、斬撃を浴びせてくる。 それらを半ば無意識に受け流し、れいなはスーツの中で涙をこぼした。 「美貴ねえ……。」 眼前で哄笑を発するヴァリアントでも人間でもない、後藤真希の姿をした彼女は、 れいなが捜し求めていた実姉、藤本美貴以外の何者でもなかった。 それを確信した瞬間、内部電源の活動限界を告げる機械的な電子音が内耳を木霊した。
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深々。 降り積もる雪は白く、軽い。 夜の闇に雪の景色は、古ぼけた街道をモノクロに染めていく。 まるで褪せた写真のように味気ない背景は、時間の止まったような感覚すら覚えさせる。 冷えて行く温度が、周囲から全ての熱量を消し去るにつれて、現世からも隔離される浮遊感が、木製の建屋に染みていく。 町は眠っている。 何もかもを知らないで、ただいつもと同じだけの自分だと思っている。 その歴史情緒溢れる一角の、垣根の向こうに孕んだ物を知らないでいる。 きっと誰もが夢にも見ないのだろう。 変わることを。 変わってしまった事を。 止まる景色の中で、積み重なる白い嵩だけが、時間の経過を知って居た。 時計の音は小さく、意識しなければそのかち、かち、とした鼓動は聞き取れなかった。 どこまでも無音に思える周囲に、自分だけが溶け込んでいない。 灯りの無い室内は暗く、窓の外は白く。 まるで現実感を感じさせないものが、網膜を叩いている。 眠気が頭の中に広がってきたのを機会に、ようやく時計を確認して見たら、そろそろ日付の変わる頃合いだった。そろそろ明日の準備を済ませて、シャワーを浴びて髪の毛を乾かし、暖かいベッドに潜らなければ。だって明日だっていつも通りに学校はあるし、機能もあまり寝ていないし、大体、肌に悪い。 そもそもあまり几帳面な性分では無いし、片付けるのなら明日でもいいのではないか。 けれど床の汚れは今のうちに拭いておかないと、この年代物の畳に引導を渡してしまうだろう。第一これ、どうすれば取れるんだろう。染み抜きとか使ってどうにかなる物なのか、ちょっと解らない。 そこまで考えて、妙に冷えた思考に驚きを覚えては見たが、こんなものか、という白けた感慨が続けて出てきてしまうのだ。中々薄情な物ではないか。 そもそも悲しんだり驚いたりする資格などあるのだろうか。今更しおらしいリアクションをしてみた所で、多分、全て遅い。でもただ一つ、弁明が許されるとすれば、別にこういった事を望んだ覚えなど一度も無かった筈なのだ。 退屈が嫌いで、飽きが溜まらないのは確かで、常に変化を求めて生きて来た。 それは貪欲と言うべき程ではあったが、だからと言って日常に安らぎを覚えない訳では、勿論無い。平凡な女子高生で有るのだ。そんな大それたことを望みはしない。 ただ、珍しい服とか、好きな歌手の新譜とか、少しばかり大人の真似事みたいな恋だとか、そういう物に憧れた程度。料理に混ぜる鷹の爪くらいの刺激があれば、きっと満足だったのではないか。 けれど目の前に在るのは、まるで劇薬だ。 鍋の中にぶちまけられたのは、胡椒や塩ではなく猛毒だ。 与えられた刺激が最後、御馳走様が南無阿弥陀仏。 妙な笑いが、口から洩れた。 ぬるりとした感触を、右手の中で握りしめる。手にしっかりと馴染む、持ちやすい柄と、園先につながる銀色の刃がきらりと光る。 畳の上に横たわる、肉色のズタ袋。 顎の下をずたずた。 腹の上をざくざく。 十七年の生活の中で、一度も見た事が無い家族の表情。 歪んだ顔。 けれど、もう動く事もない。呻く事もない。 私の眼には真っ赤に映る。 純白の窓の外。漆黒の部屋の中。 目の前だけが、深い赤。 汚れたキャンバスに、勢い任せにぶちまけた赤い絵の具。 闇の中で色が見えるわけもないのに、とてもとても鮮やかに、深紅に映る。 綺麗な、赤。 生まれて初めて綺麗と感じた赤。 だけど少し錆びたような ―――赤銅の色。 ▼ 赤銅京都 ▼ 『赤銅色』 銅と金の合金である、赤銅を思わせる色。しゃくどういろ、もしくはあかがねいろ。 黒褐色肌や、髪の毛の色の形容として用いられる。 なお、赤銅に発熱処理を加えると、青紫がかった黒色に変色する―――――――― ▼ 青。 それが私にとっての絶対であり、崇拝対象となる。 かつてシャガールの絵を視た時、私の頭は青に染められた。 優れた芸術というのは、その凄さが言葉で説明できなくても、心に響き、魂を穿つと言う。 少なくとも小学生のころ、まだ存命だった父と共に訪れた美術館で、私はその間隔を確かに味わった。 マルク・シャガールとは、とてつもなく綺麗な青色を使う画家で、私の美的センスの根底を固めたのは、まちがいなく彼なのである。 それからというもの、私の中で「青」は新しい物。特別な、新鮮な色としてインプットされた。 青は私にとって特別な色であると断言する。 逆に古臭い物は、私の眼には赤茶けて映る。 まるで錆びた鉄のような、苦くて酸っぱくて、眼に痛い色。 鳥居の赤。夕焼けの赤。日の丸の赤。イライラする。 この街は真っ赤だ。大人も、子供も、同級生も、みんなみんな真っ赤な錆びだ。 新しい風の無い、死んだ空気の香りに、いつだって胸がむせる。焼けて焦げそうになる。 そんな赤さの象徴である私の名前など、最も強い嫌悪の対象でしかない。 赤石 紅子。 ふざけた様な名前だが、れっきとした私の本名である。 生まれた瞬間に「紅く在れ」と言われているとしか思えないようなこの名前は、勿論全く好き」ではない。 この名前、近所にある稲荷の千本鳥居で出会った両親が、それにちなんで神様の加護が有るように、と名付けたそうだ。 だが自分の名前にどんな意味や願いが込められていようと、流石に首をかしげたくなるようなセンスじゃあないか。 おかげで私は「あかちゃん」等と言う不快極まりない仇名を賜り、小学生の時点で既に、名前を変えたい一心で強い結婚願望を抱いてしまうほど 捻くれた人格形成に一役買ってくれた。 そういう訳で思春期の私は、信心深い両親が嫌いで、要らん縁結びをした神様が嫌いで、ついでに古臭いこの街が大嫌いだった。 ここは四季に色づく町、古都、京都。 山河とビルが同居し、和と洋の建築が適合する風景。 現代と歴史が手を取り合って、この街の絶妙なバランスは出来ている。 住み慣れた人間でこそ有り触れたものと感じるそれは、本来とても特別な空間。 かつての都であるその町の表情は、如実に季節の色を反映する。 「忘れられた日本の姿」というものがこの街のセールスポイントであり、周知の認識でもあった。 だとしても、である。 京都と言う町に生まれた人間が、古風に育つとは限らない。 そもそもこの街が人気を持つのは、ありふれた文明社会に飽きた人が、「古い」という「新しさを求めているだけに過ぎない。 それは街の歴史を懐かしむノスタルジイなんてものではなく、やはり自分にとって非日常となる体験の刺激でしかない。 そういう刺激を好むなら、そこが京都でもタージ・マハールでも、趣味にさえ合えば、彼らは関係ないのだろう。 結局人間なんていうのは、自分の日常から脱却して、常に新しい何かを求める生き物なのだ。 それならば、人を最も苦しめて死に追いやる毒は、「退屈」であると断言できるんじゃないだろうか。 だから、田舎の人間が都会の華やかさに憧れ、都会の人間が田舎ののどかさを愛するように、 歴史の街で生まれた私が「新しさ」を求めてるのは当然の事だろう。 正直言って私は、この街の古臭い空気やはっきりしない住民、辺りに漂う、まるで夕暮れ時のような後ろ向きさに閉口している。 この新しい世紀に、この街ときたら、未だに恥の美学やら、暗喩の奥ゆかしさなんてものを有り難がっているのだから救えない。 そのくせ礼儀作法に五月蠅い旧型人間どもは、人への不満だけは一人前にコレクションしているのである。 NOと言えない日本人と言うやつが見たければ、此処にわんさか生息していると観光客に教えて差し上げたい。 成長し、十七を数えた私は、この街からしてみればエキセントリックな人間といえる。 頭を茶髪に染め、海外のブランドを好み、常に先鋭的なファッションを好む様は、年齢的に珍しくはあるまい。 学生と言う人種はことさら、これらに敏感で、私にとっては正直、居心地のいい生活環境なのである。 赤石さんはいつもお洒落だね。 新しいことはいつも赤石さんが最初に見つけて来るんだよ。 しまいには、赤石さんが眼を付けた物は流行るとまで噂されている。 私自身、そう持て囃されることが嫌ではなかったのだが、だからといって皆の中心人物に祭り上げられると言うことはなかった。 それは私が積極的に、他人との関わり合いを避け続けていたからに他ならない。 だって、いくら学生で新しい物に憧れている連中だからと言って、根っこがやはりこの街の人間。 なぁなぁで周りに合わせ、空気を読み合い、異口同音で流行の尻尾だけ追っている。 真似をしても開拓しようと言う気持ちがさっぱりありゃしない。 なにせ、あいつら根っこが古臭いのだ。
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「テンイセカイって知ってるかい? つまりよ、すげえ食い物と金を持ってる連中が、俺らのお隣に引っ越してきたわけだ。 この砂漠の向こうによ、オアシスがチンケに見えるほどのデカい街ってのがあるってんだよ。 まさに殺り放題の奪い放題ってことよ。さあ、仕事の時間といこうじゃねえか!」 ―――サンダツ者ゲルゴーグ 略奪団長 「グロンダストだ。あそこで手に入る発掘兵器は、文明の遅れた我々が生き残るための、イチかバチかの賭けなのだ。」 ―――ある国の探検家 概要: 数百年前に勃発した全面核戦争により全ての文明が滅びた地域 住民たちは僅かに残ったオアシスや食料を巡り互いに争っている テクノロジーの名残である機関銃や装甲車両を駆使して略奪を行うオーク、 都市廃墟にてガラクタを拾い集めるゴブリン、その他放射能により変異した者たち… 彼らが元々どのような種族だったのかは今となっては知りようがない 詳細: 灰色の空に赤く焼けた砂に覆われた世界。都市の廃墟に残るのは僅かな水場と文明の残骸ばかり。 まさに荒廃したる、この地の名はグロンダスト。何故この地がそう呼ばれるのか。 超人種族が最初に降臨した都市のあちこちにある看板に、そう書いてあったからである。 (ところ変わればこの世界をグラバーンだのデフロストだのマケドナルドだのケンターキーだのと呼ぶ向きもあるようだ) 数百年前、この地球全土を巻き込む最大最悪の核戦争によって人類とこの世界は滅びてしまった。 跡に残されたのは高濃度の放射能に汚染された荒野と、完膚なきまでに破壊された都市の廃墟だけ。 しかしながら全ての生物が地球から滅び去ってしまったわけではなかった。 少なくともミミズとゴキブリは都市の下水道で無事に生き残ってしまったわけだが、 発達したバイオ技術はそれだけではないものを生き残らせてしまったのである。 超人兵士計画、そう呼ばれる極秘計画が核戦争前の世界に存在したかどうかは定かではない。 だが来るべき核戦争だか人類の終末だかを見越して、進化した人類を作り出そうという事業はあったはずだ。 人類の持つ肉体ポテンシャルを引き上げ、また放射能による汚染にも耐えられるように、 放射線から遺伝子を保護する特殊生体分子を組み込むなど、あらゆる遺伝子改造や実験が繰り返された。 そうして生み出された新人類のアーキタイプは世界が滅びた後、核シェルターの中で百年以上の時を過ごしたのである。 かくして先人たちの叡智と熱心な研究のおかげで、核戦争後の世界を逞しく生き抜く次代のミュータントたちが誕生した。 唯一の問題は、シェルターから自由になった彼らは、世界に人類の文明を復興させるという目的を完全に忘れてしまったことである。 おそらく寝起きに食べたグロンダスト社製のカンヅメが、脳の正常な発育に良くなかったのであろう… とりあえず不毛の大地でミュータント種が生き残れるように、先人たちは考えられる限りのサポートを尽くしたようだ。 その一つが放射線エネルギーで成長するスイバクキノコであり、栄養満点でゲロマズなミュータントたちのソウルフードである。 これらはグロンダスト社会における通貨としても使われ、大きさや色彩によって様々な値段のバリエーションがある。 またミュータントのメスは総じてたいへんカラダが丈夫であり、たった数日から数週間の妊娠で仔を産みなすとの噂である。 実を言えば、そういう特質を持ったメスでなくては、苛酷な環境における長期間の妊娠など肉体が耐えられないのだ。 結局、このイカれた世界で最もハバを利かせているのは、知性を持つミュータントの代表であるオークたちだ。 オークとは大概緑色か褐色の肌色をした大柄なミュータントで、全体的に人間を歪めたような凶暴な姿をしている。 背丈や体つきなど個体差の大きい彼らではあるが、でかい顔をしているのは決まってカラダのでかい奴だ。 彼らはそこらの廃墟から掘り出したナイフやら鉄パイプで武装して徒党を組んで他の弱そうなミュータント連中(同族含む)を 見つけては、襲い掛かってブチ殺して食料や武器を手当たり次第に奪い取るという生活を送っている。 そうして弱肉強食の世界で鍛えられたオークの徒党は、次第に凶暴さと武装にも磨きがかかっていくことであろう。 ついには武器工場から発掘したマシンガンなど、テクノロジーの残骸をも使いこなすいっぱしの超人兵士へと成り上がるのである。 廃墟や下水道に隠れ住む小柄なゴブリンは、非力だが悪知恵が働き、数だけは多いという連中である。 彼らはガラクタなら何でも拾い集めてくるという習性を持ち、それを他のミュータントに売りさばいて生活している。 ゴブリンたちの手で不定期に開かれる闇バザールは権威あるもので、オークといえども滅多に無体な真似はできない。 商人たちの方でもはぐれオークや他種族の奴隷といった頼もしい用心棒を雇って、お客様にニラミを利かせているのである。 ほぼ物々交換という形であれど、商取引と言う概念を存続させているのは彼らの数少ない功績ではあるが 同時に詐欺やギャンブルといった悪徳もしっかり伝えてしまっているのは科学者たちも予期しなかったことであろう。 顔面にたった一つの目玉しか持たないサイクロプスは、グロンダストの鍛冶屋とも呼ばれる種族である。 彼らの目玉は生物工学だかナノテクだかの真髄であり、サイクロプスは脳よりもまず目玉でものを考えるという。 実際、彼らは何か機械の部品やら残骸を目にしただけで、この材質が何で、どういった用途に適するのかなど、 工学テクノロジーに関する情報を、網膜の裏側でありありと見ることができるらしい。 ときには機関銃や装甲車両の設計図までもが詳細に浮かび上がり、彼らは実際にそれを製作してしまう。 その際は眼球から放射される種々の奇怪な光線、そういった超能力か魔法のようなものがたいへん役に立っているという噂である。 グロンダストで見かける新品の物騒なウェポンがあれば、サイクロプスの仕業であると見てまず間違いない。 ホフゴブリンは、痩せぎすの肉体と冷酷な知性を持ったミュータント種族で、気の長さと種としての統制は際立っている。 彼らは都市に居住することを好まずに、峡谷などに独自の小部族ごとにテントを張り、イバライノシシを飼いならして生活している。 雑多なミュータントたちの中では唯一と言っていいほど、彼らは真っ当に人類の文明をなぞろうとしているように見える。 もっとも、原始的な遊牧生活を始めた彼らが、無事に科学を発達させるまで順当に数千年の時がかかるだろうが… 巨大な体躯と再生能力を持ち食欲のまま彷徨い歩くトロルなどは、知性をまったく失ってしまったミュータントである。 (脳細胞が日々再生、再構築するという現象が、いかに記憶情報の保存に不向きかお分かりいただけるだろうか?) 彼らの皮膚に共生するカモフラージュ細胞は、環境に応じて如何ようにもその性質を変化させ、 砂漠にはサンドトロル、湿地にはスワンプトロルなど多様なトロルが存在するように見せかけている。 (肝心のカモフラージュ効果については、トロル本人が獲物を前にじっと身を潜めていないためいまいちのようである) さらに最悪なのは、核戦争で破壊されたと思われたインスタントバイオミキサーなる装置が、 どうやら何者かに発掘されて無事に稼動しているらしいということである。 バイオミキサーとは、要するに何かの生き物の遺伝子(大抵は血とか皮膚)を放り込むと、 自動的に欠損部分を補うように遺伝子がツギハギされ、その結果見たこともないキメラ的生物が誕生するという、 まさにLSDをやった科学者の悪ふざけとしか思えないようなシロモノである。 おそらくバイオミキサーには核戦争後の世界を新たな生命で満たすためという崇高な目的もあったのだろう。 ところが生み出された生物は、不細工なドラゴンや形の狂ったマンティコアなど凶暴で手のつけられない異形のモンスターばかり。 食事時になると飛んできて糞をばらまくハーピーなどは、マシンガンのいい射撃練習相手になっているようだ。 かくも有象無象のミュータントとバケモノ共に彩られるグロンダストがこの多元世界に転移してきたのは まさに他の国々や種族にとっては大いなる試練、あるいは神のありがたきイヤガラセであろう。 【補記】 元の国名は荒廃国家ゾーマでしたが、某魔王様と被ったために様々な案が出ました デフロスト、グラバーン、デファイロスト、グロンダストなどの案が出され、今のところ意味被りもないグロンダストを採用しています 名称変更など良い案があればスレで出してもいいし、必要なら投票で決めても良いと思います
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『印/骰子/奴』 シナリオ概要:現代、オーストラリアを旅行していたはずの2人ですが、突然見知らぬところに閉じ込められた状況からセッションがスタートします。2人はここから脱出出来るでしょうか?2人用クローズドシナリオです。 推奨技能:聞き耳、ナイフ、歴史、博物学などは多少助けになるかもしれません。無くても構いません。 所要時間:2時間半~3時間前後 難易度:初級者~中級者。ただしロストの可能性はあります。 こんな方におすすめ:なぞなぞが好きな人 探索者の条件:一緒にオーストラリアに旅行に行くくらいは仲のいい2人。クローズド状況からセッションスタートになるため、持ち物は持ち込めません。 PLの条件:義務教育は終えている+αの知識。 【セッションスタート】 そこにあるのは無のみです。何もないし、何も感じません、話すこともできません。 唯一、可能なのは思うことだけです。思いますか? 【思う】 あなたが思うとそこに主体が生まれ、どこからか声が聞こえてきます。 声「自分の中から出てくるのに、今の自分の中にはないもの。それを求めよ」 ヒント: 「それは浮かぶものである」 「それは降りてくるものである」 「それは湧くものである」 《アイデアロール》(成否にかかわらず行えばOK) 「そう言えば一緒の相手がいたはずだ」ということを思い出すと、身体の感覚が戻ってきて 身体の後面には硬い平面の触感、前面には妙な生暖かさを感じ、自分たちの置かれている状況をなんとなく理解します。 あなたたちは硬質の壁でできた狭い立方体のような空間に無理な姿勢でぎゅうぎゅうに詰め込まれています。 (イラストなどでぎゅうぎゅうの状態を表示してください) 何の覚えもなく極限の閉鎖空間に閉じ込められていることを認識したお二人はSAN値チェック 0/1d6 目を開けても閉じても風景が変わらない真っ暗闇の中で、2人は自分のポケットに何か入っていることに気が付きます。 【ポケットのものを取り出す】 《DEX×5》 成功→手に入る 失敗→筋を違えてしまいHP-1、2回目以降は失敗するたびにSAN-1、 【マッチ】(先にアイデアロールに気がついた方にはマッチ、そうでない方にナイフがポケットにあります) 真っ暗闇なので、手探りでそれが何か認識する他はありません。 「それは手のひらに収まるほどの小さな2つ折りのボール紙のようです。 谷折りを開いた片方の面には短冊状のボール紙が並んでおり、短冊の先っぽには平べったく丸い何かがついています。 並んだ短冊状の根元はボール紙に繋がっていて、そのボール紙にはザラッとした手触りの横帯があります。」 (ブックマッチ、紙マッチというものです。もしPLがマジでその存在を知らなそうだった場合は、その時点で箱マッチに形を変貌させてください) それがマッチであると認識すると、 「闇とは無知。知恵の光を灯すべし」と声が聞こえます(声は人間の内なる理性の声です) 【ナイフ】 「それは手のひらに収まるくらいの柄があり、その先には革で出来たカバーのようなものがついています。 カバーを外した下にはするどい金属製の刃がついているようです。」 それがナイフであると認識すると、 「理解できないもの、自分と異なるものは敵である。敵は滅ぼさなくてはいけない」と声が聞こえます(声は人間の攻撃性の声です) 【マッチに火をつける】 マッチは合計10本あります。なので、残り9本です。 そして、自分たちの閉じ込められている状況がもう少しわかります。 あなたたちを閉じ込めている立方体の面にはそれぞれ何か記号のような痕跡があります。 中心に象徴的な記号のようなものが描かれ、その周りには文字のような紋様が三行ずつ彫り込まれているように見えます。 マッチはもう少しで消えてしまいそうですが、立方体の面の一つを照らして見てみることができそうです。上下左右手奥手前で指定してもらってください。 (最初のマッチでわかるのは、6つの面の記号+選んだ1面の1行目です。1行目が問題文+周りを知るための指示、残りの2行がヒントです。マッチを使うたびに1行ずつ確認できます) (イラストなどでぎゅうぎゅうの二人に加えて、壁に記号や文字がある状態を表示してください) 【6つの面】 向かって左の面 楕円のドーナツ 1行目 「ここはお前の中だが、実際は外だ。お前自身を傷つけるものを生み出し、それから守るものを作り続ける。 それは外のものを内のものにする過程」 2行目 「浮き輪もちくわは空気やすり身が詰まっている方が内側である。だから浮き輪もちくわも穴は外側である」 3行目 「傷つけるものは酸、守るものは粘液である」 答えは「胃」です。 正解すると、硬い壁は徐々に柔らかくなり、ところどころに皺があるぬるぬるとした粘膜の壁に変わります。そして壁の向こう側から声がします(聞き耳ロール) 上の面 偏った二重丸 1行目 「お前はここで光明を見いだす。しかし、おそらくお前がそれを見ることは一生ないだろう」 2行目 「自分の右手で自分の右手を掴むことは出来ない」 3行目 「だから光を見ている場所を自分で見ることは出来ない」 答えは「目」、厳密には「網膜(目は鏡で見れるため)」です。 正解すると、硬い壁は徐々に薄い膜のような壁に変わり、向こう側から声がします。 (正解後、次にマッチをつけたときにはこの壁にはうっすらと血管が透けて見えてもよいです) 向かって右の面 同心円 1行目 「ここはお前の最も速く動かせる部位である」 続き「ここをできるだけ速く動かしてみよ。そうすればこの周りのことも少しわかるかもしれない」 2行目 「Hz」 3行目 「受信する側も同じ振動数で動くかもしれないが、そちらは自分の意志では動かせない」 答えは「声帯」、正解すると、硬い壁は強靭な弾性を持つ靭帯状の壁に変わり、向こう側から声がします(聞き耳ロール) 周りを知る条件は「出来る限り高い声を出す」です 条件を満たすと、接している面とのつながりについてわかります。 偏った二重丸の面とは特につながりを感じない。棒グラフの面とは液体の流れる脈でつながっている。4つの三角の面とは空気の通る管でつながっている。謎の言葉の面とは霊妙な働きでつながっている。 2行目はヘルツ。周波数・振動数の単位です。 画面奥の面 棒グラフ 1行目 「ここは誰もが持っている調べを奏でる。それを知るための小手調べ。 続き「他者の調べに合わせて箱を叩けば、この周りを少し知ることができるかもしれない」 2行目 「13/52」(52はトランプのこと、ジョーカーを含めて53枚でもいい。4つのスートのうちの1つ、「ハート」を示している) 3行目 「調べを調べるのは小手だけではない。胸に手を当てて考えて、それがネックになるかもしれない」 答えは「心臓」、正解すると硬い壁は徐々に拍動をはじめ、弾力のある筋肉組織の壁に変わり、向こう側から声がします(聞き耳ロール) 周りを知る条件は「相手の脈を取り心拍に合わせて、箱を叩く」です。 周り:楕円のドーナツ、偏った二重丸、同心円、4つの三角の面と液体の流れる脈でつながっている。 2行目は52枚というのはトランプ、13というのは4つのスートにうちひとつ、すなわちハート(心臓)です。 3行目は脈の手首で取るものでなく、胸に手を当てても、頸動脈で取ることもできることを表します。 下の面 4つの三角 1行目 「ここは内と外が交わり、水と風が火を交換している。火は全ての土の中に1番多いエレメント」 続き「自らの意志で交換を止めてみれば、この周りを少し知ることができるかもしれない」 2行目 「風は外から来て、水は内を流れる」 3行目 「火を含んだ水は赤く、そうでないものは黒い」 答えは「肺」、 正解すると、硬い壁はゆっくり伸び縮みする柔らかい肉壁に変わり(正解後、マッチをつけるとまだら模様だとわかります)、向こう側から声がします(聞き耳ロール) 周りを知る条件は「息を5ラウンド止める」です。しばらく窒息ロールを行うことを伝えてOKなら実行してください(CON×10から成功するたびに×9、×8、×7、×6と減らして判定する)。5ラウンドの間に窒息が起こった場合も条件成立です。窒息の場合は1d6ダメージが生じます。 周り:楕円のドーナツの面とは柔らかい膜のようなもので隔たっている。同心円の面とは空気の通る管でつながっている。棒グラフの面とは液体の流れる脈でつながっている。謎の言葉の面とは霊妙な働きでつながっている。 4つの三角は古代ギリシャとか錬金術でいう地水火風にあたります。 「ここは内と外が交わり、水と風が火を交換している。火は全ての土の中に1番多いエレメント」は「内呼吸と外呼吸が交わり、血液と呼吸が酸素を交換している。酸素は地球全体で1番多い元素」と読み替えられます。ここに地水火風が出てきます。 画面手前の面 謎の言葉 ここをマッチで照らすと、「得吾 孤疑人 得流後 棲務」の文字が刻まれていることがわかります。 《日本語》に成功すると、これは「えご こぎと えるご すむ」と読むのではないかと思います。 失敗すると、よくわかりません。 「えご こぎと えるご すむ」が判明した後に 《歴史》、《博物学》、《哲学に関連した技能》、《知識の1/3》のいずれかでロールして成功すると、 これは哲学者デカルトの有名な「我思う、ゆえに我あり」という言葉であり、認識と行為遂行の主体となる自我や精神を意味しているとあなたは知っています。 【技能ロールに失敗】 確かこれは「我思う、ゆえに我あり」という言葉だったと気がします。 そして、成否に関わらずこの面から自分を見ているような不思議な感覚にとらわれ、閉じ込められてる体が消えた状態で箱の中が表示されます。(イラストなどでぎゅうぎゅうの身体が透過もしくは消えて、箱の中全体が見えている状態を表示してください) さらにイス人の声がします。マッチが消えると感覚は戻ります。 【正答と誤答】 問題に正解するたびにイス人の声が順番に聞こえます (聞き耳ロールに成功すると直前の声と同じ声だったかどうか判定できます。イェクーブの声と区別するため) イス人の声 「まったく傷つけずにここから出すのは難しい。しかし何か方法はないか」 「彼の認識は複数の肉体の感覚から出来ているようだ。そして驚くべきことに二重だ。」 「複数の機能のうちの1つを犠牲にすれば面を破って外に出ることが出来るかもしれない」 「ナイフを使え」 「彼の機能の中には重要な繋がりを持つものがあるようだ」 「逆に言えばそうでないものもあるようだ」 間違えると、間違えた答えにまつわる恐ろしい現象が闇の向こうに見えたり、探索者に起こったりしSAN値が減少します。そしてイェクーブの声が順番に聞こえます 例 口 闇の向こう側にたくさんの牙が生えた口があなたを犠牲にしようと数えきれないほど蠢いているのが見えます のど のどの中に蛇がのたうつような感覚を覚えます 脳 闇の向こう側に蠢く脳みそが見え、皺の間から無数の眼球がせりだしてきます 耳 恐ろしい女の悲鳴が壁の向こう側から聞こえてきます などなど 正解に惜しい場合はSAN減少はなし。全然違う場合は1d6まで増やしてください。 声帯に対してのど、胃に対して腸などは0。胃に対して口と答えたら1 イェクーブの声 (聞き耳ロールに成功すると直前の声と同じ声だったか判定できます。イス人の声と区別するため) 「この中に2人でいる限りは、我々がこの者たちを外に出すことはできない」 「1人になればそいつを通常通り外に出すことができる」 「それは中にいる2人にさせるしかない」 「ナイフを使え」 「1人を殺せ」 「そうすれば出してやる」 【解決法】 立方体の面のいずれか、もしくは面と面の接している辺をナイフで切り裂くとそこから脱出することができます。 「箱のどこにナイフを使うか?」を明確に聞いてください。 煮え切らないようなら、ナイフでつついたりしても描写するのも可です。 【面にナイフを使った場合】 心臓(棒グラフの面)を切ったら死亡です。 Cogitoの面を切ったら、自我を失ってロストです。ただし、ここだけは切ると選択した後にシークレットダイスを振って、《幸運》で判定し、成功した場合「しかし、自我を失ったら人間はどうなってしまうんだろう」と不安を感じると一度危険を示唆してください。 肺(4つの三角の面)を切ったら、呼吸が出来ず、声も出せません。脱出した後に窒息ロールを適宜行ってください。イス人に会ってマッチを擦れば助けてくれます。 胃、網膜、声帯の場合はその機能を失って生還します。 【辺を切る場合】 心臓の周りはすべて動脈なので死亡です。 Cogitoの周りはつながっている先の機能が麻痺して動かなくなります。そしてイス人にも治せません。肺なら死亡です。この場合もシークレットダイスで《幸運》判定をして、成功の場合、危険を示唆してください。 肺と声帯の間は気管なので、のどにぱっくりと傷が開いて、呼吸は出来ますが声が出せなくなります。 胃と肺の間は解剖学的により正確に合間を切る必要があるので、《DEX×2》、《ナイフ》の半分、もしくは《医学-15》のうち一番高いもので判定することを伝えてから、実行させてください。失敗すると横隔膜を切り、呼吸が苦しくなりますが、死には至りません。 胃と目の間、声帯と目の間にはつながりがないので成功すればダメージを負いません。《DEX×5》、《ナイフ》、もしくは《医学》のうち一番高いもので判定します。失敗するとどちらかを”少し傷つけ”ます。少しというのは、ストレスを感じると胃が痛くなったり、少し視力が落ちたり、声が少ししゃがれる程度です。さらにイス人に治してもらえば、元に戻ります。 【イス人との邂逅】 立方体をナイフで切り裂いて脱出するとあなたたちは闇の中に巨大な自分の肉体が横たわっていることに気が付きます。次の瞬間めまいがすると、自分の肉体は消えます。 そして一辺が10cmほどの立方体が自分の足元に落ちているのを見つけます。 その立方体の一部には傷がついています。 そして、自分の「体の一部(犠牲にした部分)」に切り裂かれたような痛みを覚えます。 闇の中から立方体から脱出したことについて驚きの声がします。 そして、二人であったことにさらに驚きます。 やがて、その声は近づいてきます(【聞き耳】に成功すれば、その声が正解時に聞こえていた声だということがわかります) 「マッチを使いますか?ナイフを使いますか?」(マッチが残っていなかった場合は最後の一本ポケットに入っていたことにしてもかまいません。《幸運》で判定してもいいと思います) 【マッチを使う】 イス人の姿が顕わになり0/1d6のSAN値チェックです。 しかし、「おお、これが君たちの知性か!興味深い!」などと言って、失った機能を一部治してくれます。 ただし、イス人は「遺伝子工学は苦手だ」と言って、治った部分には変な痕跡が残ります。瞳の色が人間ではありえない色に変わったり、ロボットのような声が時々出たり、肋骨の脇にエラが付いたり、妙に胃がもたれるようになったりなどです。KPが自由に決めてもらってけっこうです。”少し傷つけ”た程度のものは治ります。 そして、イス人に治してもらった部位には探索者同士に不思議な共有感覚が生じます。遠く離れていても、相手の見ているものが時々見えたり、相手が咳き込むと自分も咳き込んだり、相手が息を止めていると自分も苦しくなったり、胃の痛みなどを共有します。 質問されれば、以下のことを答えます。 立方体は精神を取り出して、あとから肉体を入れ替える箱。 あれを使ってイェクーブという征服種族は自分たちと狙った星の住人の精神を交換して体を乗っ取り、侵略する。 自分たちはかつてあの箱を封じた。しかし見逃した一つの箱に探索者たちは囚われていた。 一つの箱に偶然にも二人の精神が閉じ込められていたため、立方体はバグを起こして転送をまぬがれていた。 自分たちは人間とは違う知性を持っている。 特に時間についてはまったく異なる認識をしている。それを指して我々を偉大なる種族と呼ぶものもいる。 帰りたいと伝えれば 「我々とは違った知性を持つ種族よ。あなた方にも敬意を払おう。君たちのおかげで我々にとっても有益なアイデアをもらった。群生する昆虫の郡知性と我々の精神を入れ替える方法だ。我々の派閥が我々の種族内で主導権を握った際には君たちとは友好的な関係を結びたいと思う」みたいなことを言って、どこかのオーストラリアの都市にテレポートさせてくれます。 無事に生還したあなたちはオーストラリアでエアーズロック、シドニーのオペラハウス、グレート・バリア・リーフ、メルボルンマーケット、セント・パトリック大聖堂、コアラ、カンガルー、タスマニアン・デビルなどをしたたかに楽しみます。 2人で旅行しているとあることに気が付きます。最後に傷つけた部位には奇妙な共有感覚が宿っているのです。 (胃と目の間、声帯と目の間はご褒美として遮断できもするテレパシーが備わっている状態です) 2人は今後引き裂き難い不思議なつながりを持って生きていくのでした。END SAN値回復2d6+全部(目、胃、心臓、肺、声帯、精神)を解き、痕跡が生じない脱出1d3 【ナイフを使う】 「野蛮な種族め。さっさとどこかへ行くがいい」的なことを言われて、オーストラリアの砂漠にテレポートさせられます。 (傷つけた場所は治してもらえません。場合によっては死亡するでしょう)END SAN値回復1d6 【箱の中で相手が死んだ場合】 「良かった!箱の中の精神が1つになったぞ」という声が聞こえ、生き残ったあなたは強烈なめまいを覚えます。 そして全身に違和感を覚えます。うまく、体を動かすことができない感じです。むしろ筋肉や神経ひとつひとつの働きそのものがすべて思い通りにならないかのようです。 手を動かそうとすると、まるでムカデの触肢のようなものが視界で動きます。 体を見てみると、それはまるでぶよぶよとした灰色の芋虫のようです。やがてあなたは自分が繊毛に縁取られた紫色の口と赤いトゲをはやした巨大な灰色の毒虫のような存在になっているということに気が付きます。 そして、自分がいる場所は地球から遠く離れた星であり、もう二度と地球には戻れないと知ります。 1d10/1d100のSAN値チェック SAN値が残れば、この星でこの種族の支配者になることも可能かもしれませんが、それはまた別のお話。END
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この街『冬木市』には現在さまざまなマスター、サーヴァントが集まっている。そのためいろいろな噂が流れている。 例えば――犯罪者を狩る、サムライとニンジャの二人組のような。 冬木市から外れた地区には、大きな森がある。 そう、少々の銃声程度では周囲の住民に気づかれないほどに。 その中で起こる爆音、そして炎。周囲に立ち込める硝煙の匂い。 森は四人の男により正しく戦場と化した。 追う側は二人。 一人はボディアーマーにフルフェイスヘルメットの完全武装の兵士。 一人は迷彩色のズボンに上半身は何も着ず、筋骨隆々の身体をさらしている男。肩には弾帯をたすき掛けにしている。 二人の軍人は、手にそれぞれFN F2000とM134を抱えていた。 追われる側は二人。 1人は下半身に黒い小袴、足袋。上は手に手甲、長袖の黒い着物の上から羽織を着た総髪隻眼の男。 彼は人間業とは思えないほど、縦横無尽に林を駆け、十数mを飛び跳ねる。 もう一人はジャケットにジーンズ。顔に掛けたサングラスの淵からのぞく目尻には、頬まで届く深い傷跡。手にする杖から見ても、彼が盲目である事は一目瞭然だった。 だが、彼は盲目とはとても思えないほど、まるで見えているかのように走っている。 もし、彼らの生死を分けた理由を求めるとするならば。 それは、心構えだったのかもしれない。 林の中、木の裏側に片目総髪のサーヴァントは逃げ込んだ。 軍人が木ごと砕かんとミニガンのスイッチを押そうとした瞬間、総髪の男は手より輪状の武具を召喚し、上空へ投げた。 その行動に何の意味があるのか、軍人が一瞬思考したことで、二人の生死を分けた。 暗闇の中、ぷつん、と何かが切れる音が鳴り、次に軍人の真上から銀で編まれた網が落下した。 軍人の身体に絡みつく網。皮膚にまとわりつく違和感。男は自分の慢心に対し激怒する。 初めからあのサーヴァントはこの場所に罠を仕掛けていたのだ! だが、この程度ならミニガンの銃口を相手に狙い、スイッチを押すのに支障はない。 男は銃口を向けようとし――そこで初めて罠が一つだけでないことを悟った。 男の真上から独特の飛来音を発し、落下する輪状の武器。総髪のサーヴァントは既に棍を召喚し、振りかぶっている。 「輪とこの棍、どちらを避ける!」 総髪の男が叫ぶ。 軍人のサーヴァントは一瞬戸惑う。だが瞬時に思考を切り替え、遠くの間合いより投げられる棍より近くの輪を避ける方が先決と判断。 地面に転がり、輪を避け――そこで思考が途絶えた。 軍人のサーヴァントは総髪のサーヴァントの操る棍の特性と威力、速度を見誤っていたのだ。 総髪の男はまるで稲妻のごとく棍の節を外して伸ばし――節の間に鎖が仕込まれている七節棍と呼ばれる武器だ――軍人の男の頭蓋を打ち砕いていた。 軍服と盲目の男の戦いも佳境を迎えていた。 軍服の男は弾倉を落とす。球を打ち尽くしたと見た盲目の男は、目の前の男に向かった突進した。 だが、実は軍人の男はライフルの薬室に一発弾丸を残していた。 この距離なら外しようが無い。男はヘルメットの中でほくそ笑む。 その余裕が、二人の生死を分けた。 ライフルから銃弾が発射。頭部へと確実に命中するはずだった弾丸は、正眼に構えた刀に直撃し――二つに分かれ、男の背後にある木に当たった。 ライフルの弾を剣で斬った!? 驚愕した男は慌てて弾倉をライフルに挿入しようとし。 「遅い!」 瞬間、盲目の男は軍人のマスターに斟酌の間合いまで接近していた。十間を一息で詰める古流剣術の歩法だ。 男は真上に刀を掲げ、振り下ろす。軍人はとっさにライフルを掲げ盾にした。 刀とライフル。本来ならば防げるはずが、ライフルは鏡のような断面を残し、切断された。 さらに男は振りおろした両腕を返し、瞬時に切り上げる。徹甲弾でさえ防ぐNIJ規格レベルIVのボディアーマーがあっさりと切り裂かれた。 軍人のマスターは切断面から血を噴出させ、どう、と音を立て倒れた。 男は刀の血振るいをし、残心。周囲に殺気を感じないことを確認し、杖に納刀した。 杖を地面に突いた男に、暗闇の中何処からか近づいてきた総髪のサーヴァントが話しかけた。 「護、そちらも無事だったようだな」 「無事と言えば無事だが……今一つな戦いだった、土鬼」 サングラスをかけた盲目のマスター――土方護は総髪隻眼のサーヴァント――土鬼に対し、不満をあらわにした。 「一撃で相手を仕留めるべきだった。切り上げの際に予備の拳銃を突きつけられたら、そこでお仕舞いだったからな」 護はサングラスのフレームを中指で押し上げ、土鬼に対し顔を向けた。まるで、見えているかのように。否、彼は真実盲目だが『見えて』いるのだ。 護の視界を見る者がいれば、一昔前の3Dゲームか3DCADを想起するだろう。護の目に映る光景は、黒いバックに白いワイヤーフレームで構成された世界だからだ。 その理由は護の書けるサングラスにある。このサングラスは、サングラスと杖の先端から発せられた超音波の反響音から立体映像を分析、構成し網膜に直接投影する最新鋭の視覚障害者用補助システムなのだ。 本来は単体だと解析が遅れ、スパコンのバックアップがあってリアルタイムで機能する代物だが、なぜか現在も問題なく使用できている。 聖杯戦争に参加する盲人に対する、せめてものハンディってやつか。そう護は判断していたが、理由は不明である。 何時停止するか分からないゆえさほど期待はしていないが、敵が見えないと勘違いするなら利用する。その程度には護はサングラスの利点をとらえていた。 実際護は見えずとも他の四感で戦える鍛錬を積み、殺気で敵の位置を判断する事が可能なのだから。 「そっちこそ、お前がその気なら一撃で仕留められたんじゃないのか」 「かもしれん。だが俺はまだ、サーヴァント戦にも現代戦にも熟知していない。敵を知り、己を知らばというやつだ。 特に、サーヴァントとマスター2人に対しどのように接すれば、一騎ずつ分けられるか知りたかった」 「そういえばお前の望みからすればそれを知るのは当然か。全く『サーヴァントとの一騎討ち』ってのは……およそ暗殺者(アサシン)らしくない望みだよな」 「クラスは俺が決めた訳じゃない。俺を、いや英霊を完全に召喚するのは聖杯といえど不可能だった。そのためクラスを当てはめる必要があった。 そして俺の適性はアサシン以外になかった。それだけの事だ」 「俺は聖杯なんぞ興味は無いし、勝手に人を呼び出し殺し合いをさせる奴の思惑通りに動きたくない気持ちもあるが」 護は杖の先を指で弾いた。 「一方でそんな事はどうでもいい、と考える自分もいる。俺が求めているのはこの剣を振るえる『戦場』と『理由』だからな」 「戦場ならお前の時代にもあるのではないか?」 「お前のように剣術や棒術が実戦で使われる時代ならまだいいさ。 だがさっき戦った連中のように、銃器が戦闘の主たる武器に変わった現代で剣を振るう事しかできない阿呆がどう生きていけばいい?」 護は杖の先で地面をたたいた。 「だから、手前勝手に人を呼びつけサーヴァントとやらを召喚させ、さあ戦えというのは腹が立つが、戦いそのものはむしろ望むところなのさ」 「随分と身勝手な理屈だ」 「自ら望んだ道だ。その程度の覚悟は必要だろう。俺は『手段』のためなら『目的』は選ばんからな」 「そこは俺も同じだ。俺がこの聖杯戦争に求めるのは、聖杯を手中に収める『結果』ではなくそこまでの『過程』。俺の修めた裏の武芸が古今東西の英霊相手にどこまで通用するかだからな」 土鬼は袖の内に手を収めた。 「問題は、この聖杯戦争の場合、誰がマスターに選ばれるか、俺たちサーヴァントには基準が不明という事だ。最悪の場合、何も知らない女子供がマスターになる可能性もある」 「そういう事態も有り得るか。覚悟も戦う術もない奴を戦争に巻き込めば、面倒くさい事になると決まっているんだ。全く、ふざけやがって」 冷静な土鬼に対し、護は忌々しげに舌打ちした。 「そういう女子供となると、剣も鈍るか?」 土鬼の問いに対し、護は足を止め、土鬼を睨みつけた。 「勘違いするなよ。相手がサーヴァントという『凶器』を俺にぶつけるのなら、例え女子供だろうと敵だ。そして俺自身が追い詰められれば、何者の命も絶つ! 過去そうしてきたようにな」 「祖に遭うては祖を斬り、仏に遭えば仏を斬る……というところか。それでも、無辜の人間まで殺そうとしないあたり、凶刃を振るう血に飢えた人斬りという訳でもないのはありがたい」 「もし、俺がそんな虐殺者だったらどうする気だった?」 「そんな奴、さっさと打ち殺して他のマスターを探すか、次の機会を狙ったさ」 「こいつ……」 護と土鬼は互いを見つめ笑いあった。 常識の枠を踏み越えた行動を、人は時に『狂気』と呼ぶ。それを為す者を『鬼』と呼ぶ。 この二人は正しく習得した技を極める事のみを目的とする『剣鬼』であった。 【サーヴァント】 【CLASS】 アサシン 【真名】 土鬼 【性別】 男性 【出展】 闇の土鬼 【パラメーター】 筋力C 耐久D+ 敏捷A 魔力E 幸運A 宝具B 【属性】 中立・中庸 【クラス別能力】 気配遮断:A+ サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。 【保有スキル】 千里眼:D 視力の良さ。動体視力、遠近感、周辺視野、暗順応の向上。 直感:A 戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。 鍛錬、戦闘経験により研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。 一寸の見切り:A 敵の攻撃に対し、間合いを計り回避する能力。同じ敵の同じ技は一度見れば完全に見切ることが出来る。 但しランク以上の見切りを阻害するスキルでの攻撃、範囲攻撃や技術での回避が不可能な攻撃は、これに該当しない。 常在戦場の心得:B 常に十全の戦闘能力を発揮するため、盤石の態勢を整える技術。 デバフを無効化し、状態異常の防御や回復に有利な補正を得る。 戦闘続行:A+ 万人に一人の生命力。 HPが0になっても、判定次第で蘇生する。 左腕不随:B+ 前兆なく突発的に左腕が麻痺し、長くて2時間は指一本動かすこともできなくなる。 頭部に打撃を加えられると発症する可能性が高まり、回復するまでの時間も長引く。 【宝具】 『闇の土鬼』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:― 裏の武芸を極めた土鬼の象徴。 闇の武芸における全ての武具を魔力の続く限り無限に召喚し、自在に操る。 武具はDランク相当の宝具として扱われる。 七節棍:七つの節に鎖が仕込まれてあり、土鬼の技術により伸縮自在。 土鬼はこれを主武器とし、両端を敵の間近で投げる戦法を用いる。 霞のつぶて:指で石、または鉄の玉を弾く。他の武芸では「指弾」「如意珠」とも呼ばれる技。 ただの石ころが、土鬼の手にかかればDランク相当の宝具と化す。 錫杖:先端が尖っていて、槍としても使える。 尺八:吹けば毒針が発射される。 仕込み傘:傘の根元に針が仕込まれており、さらに骨も針になっている。 心臓を突いても痛みはなく、肉が閉まり傷跡を残さず出血もしないが、数十分後確実に死ぬ。 輪:中国武術で使う圏に近い。 投擲や紐を付けて振り回して用いる。 銀線:極細で出来た鋼の糸。 太い木の幹や人間の首も両断する。 銀網:髪のように細い鋼の糸で編まれた網。 蜘蛛の巣のように相手をとらえる。 梅吒:梅の花を模した武具。ひもにつけて振り回す。 先端の針には毒がある。 飛孤:熊の爪を模した武具。紐に付けて投擲する。 当たれば爪が肉に食い込むよう作られている。 多条鞭:ある時は一本に纏わり相手を打ち据え、ある時は十数本に分かれ相手を絡め取る。 双条鞭:二本の軟鞭。当たれば骨も折れる威力を誇る。 毒針:長さ二寸程度の細い針。 土鬼は飛ばした武具の影に隠れるよう投擲する使用法を好む。 手甲鉤:手甲に取り付けられる熊の爪の様な武具。 投縄:両端に分銅が付けられており、相手に絡みつくように作られている。 縄に針が付けられている物もあり、針には毒が染み込ませてある。 編笠:目元まで覆い隠す深い編み笠。 頭頂部には鉄板が仕込んであり、盾としても使える。 仕込み槍:先端部に鎖を仕込んだ節があり、伸縮自在。 角手:手にはめる太い針が付いた、ナックルダスター状の武具。 含み針:口中に含み、不意を突いて吐き出す。 弓矢:Dランク相当の宝具ではあるが、ごく普通の弓矢。 刀:Dランク相当の宝具ではあるが、ごく普通の打刀。 『血風陣』 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大補足:100人 生前戦ってきた血風党の党員を召喚し、連携による波状攻撃、一斉攻撃を仕掛ける。党員の武具は上記『闇の土鬼』にある物と同一である。 本来この宝具は土鬼の物ではないが、並行世界の同一存在『直系の怒鬼』の影響により、使用できるようになった。 【weapon】 宝具欄を参照。 【人物背景】 横山光輝作「闇の土鬼」の主人公。 元は貧しい農家に生まれ、口減らしに土へ埋められる。 だが極めて稀な生命力を持っていたこの赤子は土中で泣き叫び、恐れた父親に鍬を振るわれるが、それでも生きていた。 その生命力に注目した大谷主水という裏の武芸を修めた武芸者に拾われ、土鬼と名付けられた。 十数年後、血風党という暗殺集団の脱党者だった主水は元同士に襲われ、死の間際に土鬼に対し裏の武芸で天下一の武芸者を目指す夢、それを土鬼に託そうとした旨を語る。 それを聞いた土鬼は要人暗殺のために結成されたはずが、平和な時代で単なる血に飢えた暗殺集団に堕ちた血風党を滅ぼし、その過程で裏の武芸を究めんと決意した。 紆余曲折の末、血風党の長、無明斎と対峙するが、無明斎は圧倒的な優位にありながら土鬼を殺そうとしなかった。 幕府の急速な大名弾圧から血風党の末路を悟り、せめて自分が編み出した裏の武芸を土鬼に残し、完成させてほしいと願ったからであった。 血風党の四天王を倒し、本拠の血風城まで辿り着いた土鬼に無明斎は稽古をつけ、裏の武芸のすべてを伝えた。 その後、刺客として現れた柳生十兵衛と戦い、無明斎の前で打ち破り裏の武芸を極めた事を証明する。 土鬼は血風党の始末をつけ自決する無明斎、炎に包まれる血風城を見届けた後、いずこかへと去った。 その後の土鬼の行方は、定かではない。 人生の目的は裏の武芸の神髄を見極める事で、対戦した宮本武蔵(土鬼はそうとは知らず戦っている)から「お前は死ぬまで敵を求めてさまようだろう」と評されている。 【方針】 サーヴァントとの一騎打ちを望む。 【把握媒体】 横山光輝作「闇の土鬼」全三巻が発売中です。 【マスター】 土方護 【出展】 死が二人を分かつまで 【性別】 男性 【能力・技能】 一刀流、新当流、無外流、示現流など複数の流派を習得している。 達人の腕前と「断罪」が合わさり、飛来する拳銃、小銃の弾丸、鉄パイプ、自動車のドア、超硬合金、果てはミサイルまで切断する。 【weapon】 単分子刀「断罪」 鞘が盲人用の杖に偽装されている仕込み刀。銘の断罪は刀匠が犯罪に対する思いにより入れてある。 切れ刃の部分が単分子層で形成されており、理論上あらゆる物質を切断できる。 大太刀「鬼包丁」 刀身三尺を超える実戦刀。 こちらも切れ刃が単分子層なのか、ビルの鉄柱をも一刀両断できる。 ナイフ ジャケットの内に忍ばせている。数は十数本。 刀の間合いより遠い相手に対し用いる。 サングラス 超音波の反響音を解析した映像を、網膜に直接投影する。 銃の弾道予測プログラムが搭載されており、銃口の向きから事前に弾丸の予想軌道を映像にして示す。 他に音声を識別し、人物を登録する機能や、骨振動を利用した通信機能、補聴機付。 【人物背景】 漫画『死が二人を分かつまで』の主人公。 少年の頃、飲酒運転の事故に巻き込まれ両親を失う。その後祖父の知人である剣術の師範に引き取られ、剣の修行に没頭していた。 他者から見て異常な程の鍛錬の量は如何なる理由か不明だったが、もしかしたら両親の敵を討つためだったのかもしれない、と推測されていた。 そして中学二年の時、事故を起こした男が酔っぱらい道端で寝ている姿をまるでゴミを見るかのような目つきで見据え、敵に対する関心を失ってしまう。 だが剣術をやめることなく、さらに激しい修行を自らに課してゆく。稽古時間は日に15時間という常軌を逸した量だった。 二十歳を越えた頃、師匠との闇稽古で師を打ち殺し、真に剣鬼の道へと突き進むことになる。 その後、繁華街でヤクザ相手に喧嘩を吹っ掛けたりしていたようだが、エレメンツ・ネットワークという犯罪被害者を母体としたヴィジランテグループに所属。 現代戦闘の軍事訓練を受けた後、派遣先のチェチェンで戦闘中、炸裂弾の破片を至近距離で浴び視力を失う。 日本に帰還後、目が見えなくても戦えるよう鍛錬を積んでいたが、エレメンツ・ネットワークによる最新鋭の視覚補助システムの提供及び実験を条件に都市犯罪に対する自警を承諾する。 そして、テスト中に将来の伴侶となる遠山遥と出会う事になる。 性格は天邪鬼。自称剣を極める事しか頭にない一般社会不適合者。 悪人相手には容赦がなく手足三本を切り落としたり、一度斬った腕の腱を、縫合手術を受けた後もう一回斬りに行ったりとかなりドS。 かといって外道というほどでもなく、独自の正義感をもち、子供相手には悪態をつきつつも優しい一面がある。 子供でも犯罪者なら剣で掌を刺し貫いたりするが。 この護が召喚された時間軸は最終回、全てが終わった後、数年後に結婚するまでの間である。 【マスターとしての願い】 剣を振るえる戦場を望む。相手が強者で悪党ならば尚良し。 【方針】 マスターとの一騎打ちに持ち込めるよう、状況を整理していく。 【ロール】 剣術道場の主 【把握媒体】 漫画が全26巻発売中です。
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―――――――――――――――――――――― それからというものの 彼女は呼んでもないのに毎日家に遊びに来た 闇属性のチャイムが高々と平沢家室内に鳴り響き気分を害しながらドアを開ければ中野梓 あっちで中野梓 こっちで中野梓だ 私がいくら断ってもこの媚びた野良猫は 図々しく家に上がり込もうとしてムカついた私が 会心のハイキックをこめかみ辺りにお見舞いしてあげるんだけど 「そういうトコも含めて全部好きだよ」 とかいう半ば宗教めいた台詞を熟れ過ぎたトマトみたいに真っ赤になった顔で言う始末でもう何なの お姉ちゃんはこの野良猫を(恐らくは憐れみの意志からだが)可愛がってあげているので何とも言えないが こんなこと続けても私を振り向かせるなんてできっこないのに何してるんだろう ただこの黒い猫は お姉ちゃんとも遊ぶ もう好きじゃないんじゃないの? って3連鎖までしかできないぷよぷよに夢中になる中野梓の背中に私は問いかけたかった 好きなものだけに齧り付けばいいっていう 私の考えがおかしいとは部屋の隅に溜まる埃の一粒程にも思わないんだけど そんなある日 またしても39度の破滅的な熱気は猛威を奮う 家のアイスと飲み物を全消費しても尚 暑さは容赦なんかしてくれない 勿論イフリート召喚したような灼熱地獄にか弱く可愛いお姉ちゃんが耐えられるはずもなく 私達平沢姉妹はユートピアでありアルカディアであるエデンである市民プールへ出かける気満々だった ゼウスも本妻認定しちゃうレベルの色気を潜ませるアルティメットお姉ちゃんビキニを拝めるので テンション高速エレベータで絶賛上昇・・するかと思いきや出発寸前に鳴るチャイムの音がそれを阻止する ぴんぽーん 案の定玄関に立つのは中野梓ちゃん お姉ちゃんも優し過ぎるもんだから「あーあずにゃんだー あがっていってよー」なんて言っちゃって この子は着実に 調子に乗りつつあるようだ 「ねぇ憂、今からプール行くんでしょ?」 なんで知ってんだよ今日朝決めたんだよ 「一緒に行こうよ!ね?」 私は困惑するんだけど主であり神であるお姉ちゃんが許可してしまうので断れない ああ折角お姉ちゃんの水に濡れた髪とか肌とか爪とか空気存在概念森羅万象が一人占めできるかと思ったのに なんてことを考えていると 梓ちゃんと目が合った ・・・生意気 ―――――――――――――――――――――― 中野梓のプールでの振る舞いは媚薬とマタタビとドラッグ全部一緒に呑みこんだ発情期の猫のようで 微塵の凹凸も色気もないある意味奇跡的なその身体を以て必死のセクシャルアピールを試みていた 小学二年生の女子が着るようなピンクの水着は哀しいまで似合っていて 嫌でも視界に入る 「ねぇ憂、あっちでスライダーやろうよ!」 「ほら憂、パスパース」 「唯先輩の水着も可愛いけど、私のも負けてないよね」 世界で一番市民プールを楽しんでるのは絶対的に間違いなくこの中野梓で そもそもそれはスライダーじゃなくてただの滑り台だし (そりゃあお前の体躯からしたらスライダーかもしんないけど) みるみる内に日焼けしていく様はまるで昆虫の変態する瞬間を 高速カメラで眺めているような不思議な光景だった そのせいもあってかスペシャルお姉ちゃんビキニを網膜に焼きつける暇は無く 終始梓ちゃんに振り回されて何時の間にか空が茜色カラスが鳴いて 門限ギリギリ帰宅の時間だよコンチクショウ 「たのしかったねーあずにゃん」 「そうですね。憂も、楽しかったよね?」 もう知らないよどうでもいいよ この黒猫の異様なまでの執着心はどこから来るんだろう 簡単にお姉ちゃんから私に乗り換えてよくここまでハマれるもんだ 最近根負けしてきたよ 帰り道 私の脳内は そんな一昨日の晩御飯程にどうでもいい思考でがっぷりと埋まっていた そして中野梓は 妙に不安そうな顔で空を眺めていた 我が家へ帰宅すると 頭が痛い 頭痛で痛い ズキズキズキ お姉ちゃんも似たような症状を訴えていて これは不味いなとシックスセンスで予知した瞬間体温計のアラームが鳴る 39.0 久々にはしゃいだせいかはたまた身体が弱っているのかわからないけれどこれは結構クリティカルで 何故なら今平沢家には私とお姉ちゃんしかいない 私の体調は蟻の糞程に無視していいとして何よりお姉ちゃんが苦しんでしまうのが世界崩壊並に不味い 多少無理してでも看病に勤しなければ 御粥でも作ろうか?いやまずお姉ちゃんをベッドに連れてって 官能的な汗ふいて着替えさせてあげて水分補給も忘れずに その後半分は優しさで出来てる薬を探して お姉ちゃんが飲みやすいようにイチゴ味のゼリーオブラートも一緒に渡さないといけないけど なにか栄養のあるもの食べた後の方がいいだろうか?いや ダメだ 冷蔵庫は宇宙創世期を彷彿とさせる見事なまでのがんらんどうかつすっからかんの空っぽぷりだ まず買い物 行けるだろうか てか 行かなきゃいけないんだけど お姉ちゃんは守らなきゃ お姉ちゃんを護らなきゃ ぐったりしたお姉ちゃんを背負って部屋へと運ぶ途中に着替えとタオルを取ろうと洗面所へ向かう この汗びっしょりなまま床に着いたらお姉ちゃんが可哀そうだ嗚呼可哀想可哀想 ごめんねお姉ちゃん無理させちゃって 引き出しから安物の黄色いタオルを取り出し ふと鏡を見る そこにいたのは そこにいたのはまるで人を喰らう鬼のような形相でこちらを見ているそいつはまるで暴慢な鬼のような面で こちらを睨むそいつはまるで己の欲望に酔いしれる鬼のような視線でこちらを見るそいつはまるで肉親をも 躊躇なく喰らい尽くす鬼のような佇まいでこちらを指すそいつはまるで自分以外を認めない傲慢な鬼のような 瞳でこちらを観るそいつはまるで外へ出るのを恐れている臆病な鬼のような涙を流すそいつはまるで大事な 事に気付かない振りをしながら心の奥底で自分自身を戒める鬼のような汗を流すそいつはまるで自分が 強いと思い込まないと気が済まなくて何かから逃げ続けている鬼のような悲哀を持つそいつはまるで自分の 愛が天も次元も突破するくらいに誰かに届いて実を結んでいるものと勘違いしている鬼のような恥を散らす そいつはまるで見なきゃよかったと後悔するものに直面する鬼のような愚かさを露呈するそいつはまるで 怒り喚けばそれが意味を持つと盲信する鬼のような未熟さを隠さないそいつはまるで好きでい続けることの 意味と理由を思い出せなくなって狂信するしかなくなった鬼のような虚しさを披露するそいつは 私の姉である 平沢唯の たった一人の 妹だった この意味を私は理解した 途端に意識が落ちる 目の前がブラックアウト真っ暗になってゲームオーバーのカウントダウン Continue? 0 ―――――――――――――――――――――― 少しずつ広がる視界は眼球の表面にでんぷん糊でもくっ付けたみたいに不鮮明で なんとか目を凝らすとそこに立つのは黒髪ツインテールが似合う小さな女の子中野梓ちゃん 話を聞くとお姉ちゃんに預けたままだったリップクリームを返してもらいに来たところ 家の様子がコンヒュ喰らったみたいにおかしかったから入ってきたそうだ 私は見事なまでにベッドで寝転んでいて脇を見ると見事なまでに薬と御粥が置かれていて 見事なまでに看病されてしまったようだ きっとお姉ちゃんの手当てにも手を抜いたりはしないだろう 私と違って 満遍なく好意を振り蒔けるのだ 私と違って 人間らしい人間なのだ 「憂、大丈夫!?」 親の今際の際に立ち会うみたいに必死こいた顔で私を観るこの子は きっと恐らく間違いなく清涼純粋ピュア100%に私が好きで それは素晴らしい事なんだろう 私はお姉ちゃんが大好きだ それは地球が丸いってのと同じくらい否定しよう無い絶対確実1000%の事実だけども 梓ちゃんのそれとは掛け離れた一種の逃避と引き籠りで 他の全てをシャットダウンする 一番近い存在である姉に依存して 他の好きを拒むんだ それが良いか悪いかはともかくとして 残念ながら少なくとも今はそこに身を置くことに徹しているので 梓ちゃんとは結ばれない 感謝はしてるけれどね まぁ今までの非礼は詫びた方がいいかもしれない 39度の女子高生は 中野梓と仲良くなった ただそれだけしか進展してないけど 数日数週間じゃそんなもんだろう 夏休みが終わる頃には 何かが変わっているかもしれない だってこの子 マジで毎日通ってくるからね 好き好き大好き超愛してる? Love Love Love You I Love You? ・・まだわかんない 終わり 戻る
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マブラブオルタネイティヴ~暁の空へ~ 外伝 雛鳥 BETAの波を掻き分ける、12機の吹雪――その一連の動きには、小さな違和感が積み重なることで生まれた、大きな歪が存在した。 「B203、遅れているぞ。204…前に出すぎだ、隊列を乱すな。」 網膜投影に中隊長の顔が映る――普段の柔和な笑顔とは違った顔…目は見開かれ、物言わぬ威圧感がある。 「すっ、すみません!!」 「わかってるわよ!……Merde!(クソッ!)」 中隊長の叱咤とエレメントの苛立った声を聞きながら、ふと我に返る。 (いけない、この前も散々叱られたんだった…。) だが、時間が経てば再び焦る…突撃前衛が足止めをした突撃級の息の根を止め、迫り来る要塞級の腕を切り落とし、前へと進む……前へ、前へと。 どうせ自分には未来が無い…未来へと命を繋ぐことが出来ない……ならば、自分に出来るのは目の前の人類の敵を殺すことだけ…前へ進み、戦い、前のめりに死ぬことだけ―――シュミレーターと言えど、ひたすらに化物を挽肉にするという単純作業は、少女の心を容易に蝕んでいく。 「っ!…あっっ!!」 視界の隅に影が映る。――咄嗟に離れるものの衝撃を受け、思わずうめき声が漏れる――視覚外からの一撃。 「ちーちゃん!危ないっ!!」 B103――聞き慣れた仲間の声がしたかと思うと、強襲掃討装備の吹雪が目の前に現れる。 4門の87式突撃砲から吐き出される36mm劣化ウラン弾が、目の前の異形をなぎ払う――正確に、そして的確に。 「中隊各機、鶴翼型にて戦線を維持。」 「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」 10機の吹雪が陣形を取り、我武者羅に向かってくるBETAを迎え撃つ。 「B203、状態を報告しろ。」 「はっ!…左腕中破…でも主機に問題ありません、まだいけますっ!!」 素早く機体を立て直す――冷や汗が出る――もたもたしただけ、皆に迷惑がかかる。 「分かった…ただし、しっかりと回りに合わせ、無理はしないこと。」 「了解ですっ!」 返事だけは良いのだからと苦笑する中隊長、直ぐに顔を引き締めると中隊各機に激を飛ばす。 「中隊各機、兵器使用自由。囲まれる前に傘弐型にて突撃するっ!」 「「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」」 国連軍横浜基地所属 再訓練部隊 B中隊 5月7日 シュミレーター訓練結果 シュミレーション難易度:B 目標:60分生存―クリア 中破:3 小破:7 備考:中隊の連携に問題有、特にルイーセ訓練兵、前田訓練兵に指導の必要性有。 「はぁ、問題児…か……。」 B中隊を教導する間桐辰妃は、思わず溜息を吐く――何故こんな状態なのかと。 佐官尉官を訓練兵として扱わざるを得ない再訓練部隊では、部隊編成にも何かと気が使われている。 気性の荒い者や、出向中の帝国軍衛士は日野のA中隊へ回される傾向にある。 逆に士門のC中隊には誰の配慮か、比較的大人しい面子を集めている傾向がある。 つまり、自分のB中隊には何の問題もない無難な面子が集まる……はずであった。 しかしながら、現実は違う――多くの問題児の存在。 そもそも、前線には気性の荒さが問題となるような衛士は珍しくなど無い。 そういった方向性とは違った問題が、B中隊には存在した。 高貴な生まれとしか隊員達は知らないが、実はノルウェー王国の第3王女であるソニア・ルイーセ訓練兵。 この横浜基地で知らぬ者はいない極東の魔女こと、香月副司令の関係者たる宗像美冴訓練兵、風間祷子訓練兵。 非常に扱いに困る3名…そして、品行法方正とは言えないその他数名。 逆に普段は品行方正であるにも関わらず、何度注意しても問題が改善されない前田千歳訓練兵もまた、どうしていいか非常に困る。 単なる訓練兵の指導のように、ただ単に力で押さえつけても上手くはいかない。 (むしろ、完全に品行方正な軍人の方が珍しいのかしら。) 自分の上司を思い浮かべ、次にCPである…まさに品行方正な少女を思い出しながら、辰妃は歩いていった。 再訓練部隊では、シュミレーター訓練や実機訓練の後、必ず専属医療チームによる健康診断が存在する。 圧倒的衛士不足の現在、その実力よりもこの健康診断の結果が、衛士復帰への重大な判断材料となると言っても過言では無い。 一度の戦闘すら耐えられない衛士など、使い者にならないからである――もちろん、実力が高いに越したことは無いのだが。 「ちょっと、どういうこと!?」 健康診断を行っている一室の前、その廊下で苛立っている少女がいた。 周りの人間には勘弁して欲しいとばかりに溜息をつく者もいるが、本人は気付いていない。 「あの…落ち着いて下さい、ソニアさん。」 「私に散々この隊の流儀だなんだって言って、なんであいつ等はいないのよ!?」 「仕方ないやろ…あの二人は特別なんやで。」 「はぁ!?この私を差し置いて特別っ?」 一人喚いているのがソニア・ルイーセ訓練兵、宥めているのがファム・ティエン訓練兵、さらに苛立たせているのが田沼福太郎訓練兵である。 ことの始まりは、大したことでは無かった。 入れ替わりの激しい再訓練部隊において、隊の連携を高める為にも日ごろのコミュニケーションは重要である。 その為、健康診断時において、問題があって精密検査まで回るなどのことが無ければ、基本的に全員が終わるのを待ちながら談笑するのが通例となっていた。 ソニアなど、自分が人の為に待つという状態を嫌がり、入隊当初は揉めたものである。 紆余曲折の末、他人に合わせることを納得しはじめていたソニアであった…が、最近特殊任務で訓練をたまに抜けていた宗像、風間両名が、本日も同様に小さな少女に連れられ、皆を待つことなく行ってしまったのだった。 ただでさえ、シュミレーター訓練の結果でイライラしていたソニアには、耐え難い状態らしい。 「あのなぁ、お前が名家の生まれやって言うけど……あの二人は此処の実質No.1の関係者…少なくとも此処じゃ、お前よか特別やで?」 「こんのぉ「そ、ソニアさん。」…わかったわよ。」 怒鳴りかけたソニアであったが、さすがに目の前で泣きそうな少女に見つめられては、気が萎えてしまうというものである。 「でもさぁ、ソニアちゃんの言うこともその通りなんだよね~。今日のはともかく…普段の訓練ですら、たま~に抜けるのを朽木大尉が黙ってるんだから…よっぽどだね。」 故意かたまたまか、話を二人から上官へと話を摩り替えたのは、柳夏純訓練兵。ちなみにずっと会話に参加せず、本を読んでいるのが、チャンドリカ・ワルダナ訓練兵である。 問題の宗像、風間の2名、そして廊下で待っているのが5名。残りは5名であり、現在は健康診断を受けている。 「あの人も偉そうなこと言っても、上に逆らえないだけやろ…鬼教官も形無しやな。」 「ま~たそうやって福ちゃんは嫌味ったらしく言う。朽木大尉の悪口ばっか言ってると、また虎ちゃんと喧嘩になるよ?」 嫌そうな顔をして語る福太郎、彼は何かと朽木を毛嫌いしており、現在診断を受けている芦川虎児訓練兵のような、朽木を慕っている隊員と揉めることもあるのだ。 「福太郎が偉そうに言うんじゃないわよ!」「おうふっ!!」 「…口は、災いの元。」 鳩尾に拳を受け、うずくまる福太郎、冷ややかに呟くチャンドリカ。 年齢も元の階級も違う男女が集う再訓練部隊は、多少馴れ馴れしすぎるくらいで丁度良いのかもしれない。 「貴様らっ!何を騒いでいる!!」 「け、敬礼!!」 突然響く、辰妃の声――とっさに直立し、敬礼する4人…としようとプルプルしている1人。 敬礼を返し、不機嫌そうに辰妃が呟く。 「貴様らな…仲が良いのは良いが…常識として、迷惑にならない範囲というのがあるんじゃないか?」 「「「す、すみませんっ!」」」 緊張する3人に対し、あららと緊張感無く笑っているのが1人、そして…頑張っているのが1人。 「それにな…少し話を聞かせて貰ったが…お前らに忠告しておく。」 難癖をつけられれば、上官批判ともとられかねない会話を思い出し、とっさに青くなる一同。 「朽木大尉の前で、く・れ・ぐ・れ・も、先ほどのような会話をするな……あの人は、鬼教官どころか……………ほ、本物の鬼だ……。」 突然何かを思い出したのか、小刻みに震えだす辰妃。 「きょ、教官!?大丈夫ですか?」 この辰妃の怯えっぷりは、たっぷりと尾ひれがついた後に再訓練部隊や子鬼に知れ渡ることとなる。 こうして今日もまた、嘘か本当か分らない朽木の噂話が増えていくのであった。 Fin.
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最期に見た夢 ◆7.egbPFHBY たゆたう水の流れの中に強い意志の力を宿し、小津麗はマスク越しに眼前の敵を睨みすえる。 鮮やかな蒼に彩られたスーツに身を包み、麗は水色の魔法使い―マジブルーとしての自分を解き放った。 「なぁ~るほどねぇ~…てめぇも“変身”するわけだ…」 対峙する黒い甲冑の男―<クエスター・ガイ>は僅かに唇を歪め余裕の表情で彼女と向き合った。 両者の視線が僅かに交錯する。沈黙が生れる。お互いが一歩も動かない硬直状態。 それを破ったのは戦いの本能に突き動かされたアシュだった。 グレイブラスターの照準にマジブルーを捉え、躊躇うことなく引き金を引く。 ―だが。 「なんじゃこりゃ!?」 引き金を引いても銃は何の反応も示さない。引き金の乾いた音が鳴り響くだけだ。 男の動揺を見逃さず一瞬の隙を突いてマジブルーが叫ぶ。 「ジー・マジカ!」 突き出したスティックから水の柱がガイを襲う。 魔法により生成される水は物質としての物理法則に支配されない。 ゆえにその勢いは閃光のように早く鋭く、一本の矢のごとく対象へ襲い掛かる。 「グハァツ!!」 自らの中枢器官であるゴードムエンジンを咄嗟に交差した腕で庇ったものの、水流の凄まじさに ガイは背後へ吹き飛ばされた。木々をなぎ倒し、地面へと無様に突っ込む。 「…わたしと貴方が戦う理由なんてないわ。わたしはあの子が心配なの! あなたみたいに殺し合いを楽しんでいる連中が他にもいてあの子を狙うかもしれない。 ここは見逃すから、私たちのことはかまわないで!!」 マジスティックを構えたまま、麗は叫んだ。 もしも再び立ち上がってくるようなら今度こそこの男を殺さねばならないだろう。 それは出来れば避けたかった。 「なぁ~るほどねぇ…能力には制限があるのかぁ~~~…ロンとかいう野郎、俺たちに教えてないルールがまだまだあるってことかね~…むかつくぜぇ~~!」 ぶっ倒れたままの格好で独り言のようにガイは呟いた。 まるで麗の言葉が聞こえていないかのように。 ゆらり、と幽鬼のようにガイは立ち上がってきた。 クエスターの武器に弾切れもジャムもありえない。それでも武器が使えないのはなんらかの外的要因により、その性能が制限されているからだ。 恐らくは首につけられたこの枷の影響だろう。同じく今はアシュとしての術も使えないはずだ。 右腕の装甲は今の攻撃で粉々にくだけてしまっている。 しかし、彼はそんなことをまるで気に留めていなかった。 戦いはアシュの本能だからだ。 「くっ! ジー・マジカ!!」 再び攻撃魔法を唱え今度は小規模な津波を発生させる。 攻撃よりも押し流すことを麗は選択した。近づきたくない、というのが理由だった。 「しつこいんだよぉ!」 ガイは機能不全に陥った二丁の拳銃を投げ捨て、素早く支給品のクエイクハンマーを取り出した。 やおら金剛力をふるってハンマーを地面へ振り下ろす。 「ウォラァッ!!」 地響きを引き起こすほどの力場を発生させるツールの性能を引き出し、襲い掛かる水の柱を真っ二つに引き裂く。 左右になぎ倒される水の障壁を破り、その先で驚愕する麗とバイザー越しに視線が交わった。 「――!!」 刹那、その人間を大きく上回る獣の敏捷性でガイがマジブルーへと肉薄する。 「ジ・ジーマ…―」 慌てて回避のための呪文を唱えようとスティックをかざす。しかし。 「遅いんだよぉ!!」 砕けた腕でマジブルーの喉笛を締め上げ、空中へ持ち上げる。 そのまま急直下で地面へとしたたかに叩きつけた。 次いで逃れられぬようにその首を足蹴にし、何度も何度も踏みつける。 「か・ハぁ―…」 魔法は通常、呪文の詠唱により機能する。呼吸の制限を受けた状態では魔法は起動しない。 「どうした! どうしたぁ!?さっきみてぇにでっけー水柱を出してみろよ!!」 嬲ることに快感を覚えるアシュの本性をさらけ出し、ガイは高らかに叫んだ。 相手を恐怖と暴力で支配し、破壊する。それこそがアシュの本能だ。 『マー…ジ…」 しかし。時として人は恐怖を乗り越える力を発揮する。 しばしば発揮されるその強い意思の発露は“勇気”と呼ばれた。 魔法は勇気の具現だ。この極限状況にあって尚、麗が想うのは家族のこと。 「……マジ…―…マジ……―」 そして、一人無力なまま走り去った少年のことだった。 「そろそろ止めといくかぁ?」 全ての能力を封殺されてもガイにはその身に生来備わった悪魔の身体能力がある。 個人の運動能力は制限に値しない。 このままマジブルーの首の骨を力任せにへし折れば戦いは終わる。 「…マ・ジー…ロォ!!」 まばゆい閃光が辺りの景色を極彩色に染め上げる。 「な・なんだぁ!?」 網膜に再び光を取り戻したとき、そこに立っていたのは先ほどまでのマジブルーではなかった。 原始の魔法により、その身をさらに昇華させたレジェンドフォームへと変貌を遂げたマジブルーの姿だった。 その手には古代のマージフォン<ダイヤルロッド>が握られている。 威風堂々たる風格は先ほどまでとは別次元の強さを備えていることを如実に指し示していた。 「…生意気なんだよォ!」 獣の猛々しさで襲い掛かるガイの姿は人間に無意識での恐怖を与え硬直させる。 しかし。レジェンドマジブルーは全くそれを意に介さずに魔法聖杖を構え、叫ぶ。 「マジ・マジ・ゴジカ!」 獅子の意匠を持つ杖が光り輝き、水流を螺旋状に練成した衝角が敵を四方から襲う。 まるで衝角の一本一本が意思を持つ龍が如く、黒い獣を貫いた。 「ゲハァッ!…こ・これは!?」 全身の装甲を穿たれ、砕かれ、盛大に破片をばら撒きながらガイの身体は宙を舞った。 既に手負いの状態でガイに次の攻撃をよけきる体力は残されていない。 ガイは知らなかったが、目の前の相手もまた異能の力を持つ種族と人間との混血であったのだ。 怒りの鬼神は息も絶え絶えに泥水にまみれて自由の効かない身体を震わせていた。 ゴードムエンジンがガイの生命力の減退を反映し、その勢いを弱めていく。 既に風前の灯のガイを見下ろし、レジェンドマジブルーはその最後の審判を下さんと 聖なる杖を高々と頭上に掲げた。 「マージ・ゴル…―」 その時だった。 長きに渡り監視者の追撃をかわし肉体が滅びて尚、人に災いをもたらす悪の権化に三度、悪徳の女神が微笑んだのは。 今にも冷酷な判決を下さんとしていたレジェンドマジブルーの身体が粒子に包まれ、その身を 消失させたのだ。 「え…?」 腕にはダイヤルロッドを握った感覚が残ったまま。麗は青いジャケット姿へとその姿を還元されていた。 麗の戸惑いの表情に、今にも消えかけていたガイの瞳に金色の輝きが蘇り刹那の内に熾烈な死闘の幕は下りた。 「…時間切れだぜぇ…―ざぁ~んねんでしたぁ!!!」 麗は自らの身に何が起こったか、しばらく理解できないでいた。 深々と胸を刺し貫くガイの右腕が次第に逃れようのない現実を突きつける。酷く、残酷な真実を。 「え…? ア…アァ……う…嘘……―」 噴水のように噴出す鮮血がガイの傷ついた装甲に浴びせかけられていく。 勝利の歓喜に打ち震えながら、ガイは右腕を引き抜いた。 麗の身体が力なく崩れ去る。そして、自らの鮮血が生んだ血の池へとその身を沈めていった。 光を失った瞳に自らを祝福する兄や姉、弟たちの姿がよぎる。 暖かく柔らかなまなざしで見つめる両親。その大きな目を潤ませ微笑むランプの精。 そして― 「ヒカル…せん…せい…-―」 愛する者の顔だけが浮かばない。 「どう…して…思い出せないよぉ…―」 逆光の恋人は笑っているのか、悲しんでいるのか。それすら今の麗にはつかめない。 全て儚い幻と化して消えていく。 そして、全てが暗闇に閉ざされた。 【名前】小津麗@魔法戦隊マジレンジャー [時間軸]:Stage47 結婚式の途中 [死亡場所]:B-4森林 1日目 黎明 [状態]:死亡。ガイの渾身の一撃に胸を貫かれ失血死。 [装備]:マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー [道具]:操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー 、何かの鍵、支給品一式 [末期の言葉]「どう…して…思い出せないよぉ…―」 【クエスター ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】 [時間軸]:Task.23以降 [現在地]:B-4森林 1日目 黎明 [状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。 ただし、精神的には高揚感あり。戦いを心底楽しんでいます。 [装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー、釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー [道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(麗のものは全て搾取済み) [思考] 基本方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る 第一行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。 参考:1本目のペットボトルを半分消費しました。 【小津麗 死亡】 残り38名