約 355,679 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/696.html
ストーリー参考:X-FILESシーズン1「ディープ・スロート」 ハルヒがX-FILE課を設立して3ヶ月がたった。 元々倉庫だったところをオフィスにするため机を運んだりなんだりと 最初のうちはバタバタと忙しかったが、最近はようやく落ち着いてきた。 その間にもハルヒは暇を見てはX-FILEを読み漁っていた。 なお、X-FILE課は副長官直属の課となったため、事件性が見出せれば アメリカ中どこにでも出張できる。 まあ、この点に関しては退屈なデスクワークから開放されたことを ハルヒに感謝しなきゃな。 そうそう、ハルヒの世界に与える能力だが、古泉曰く高校卒業時には もはや消失していたらしい。 ハルヒ観察の任務であった長門がいなくなった点から見てもその通り なんだろう。 結局、最後の最後まで各自自分の正体をハルヒに明かさず、長門に 至っては「任務」と言う言葉をハルヒに伝えただけだった。 ハルヒとしてはどこかの諜報員とでも思ったに違いない。 それで政府が存在を隠しているとか考えたのかもしれないが。 故にハルヒ自身はまだ宇宙人・未来人・超能力者に会ったことが無いと 思ってるわけだ。 しかし、気になることがある。 古泉の「機関」はハルヒの後始末などを目的とした組織なのに未だ 健在、長門に至っては「別の任務」と言っていた。 そしてそれは意外な形で俺たちの前に現れることになる・・・ ワシントンD.CのFBI本部から少し離れたバーでハルヒと待ち合わせをしていた。 「遅いぞハルヒ。」 「キョンにしちゃ早いじゃない。なんなら1杯奢ってあげようか?」 「おいおい、まだ昼間だぞ。」 そんなやり取りをし空いた席に着き注文を済ませた。 その後ハルヒが1束の書類を俺に手渡してきた。 「なんだこれは?」 「エレンズ空軍基地の軍人の1人が行方不明になっているという情報よ。」 「軍のことなら軍に任せておけばいいじゃないか。」 「それがそうでもないのよ。この件に関しては軍は家族にすら詳細を 明かしてないの。それを不審に思った家族がFBIに捜索願を出してきたのよ。」 「軍にも何か事情があるんだし、怪我とかで治療してるんじゃないか? で、家族に心配かけまいと何も言わないように本人が言ってるとか。」 「それじゃもっと変よ。それに、私この件について1ヶ月間捜査してたの。 もちろん軍からは何も得られず。それに妙なことに先日上から捜査中止 命令が出たわ。」 破天荒な捜査をしているから中止命令が出たんじゃないかと言おうと思ったがやめた。 「それにこのエレンズ空軍基地ではおかしなことに63年から6人の飛行士が 行方不明になってるのよ。どう考えたっておかしいでしょ。」 「それに関しては噂を聞いたことがあるな。ロシア領空を誤って通過して 撃墜されたとか・・・まあ、噂の域を出ないが。」 「とにかく、何かを隠蔽しようとしていることは確かだわ。だから2人で アイダホに向かうわよ!」 「ちょっとまて。この件とX-FILEとどう関係がある?お前の守備範囲は 宇宙人など超常現象だろ。ただの失踪事件じゃないか?」 「なんとなく勘が働くのよ。絶対に何かあるわ!」 そういうとハルヒは席を立ちトイレのほうへ向かっていった。 しかし、勘だけで動くところはSOS団にいたころとまったく変わって ないな・・・などと懐かしく思ったりもした。 私がトイレに入ろうとしたとき、初老の男性がいきなり声をかけてきた。 「失礼、涼宮捜査官。率直に言おうこの事件から手を引いた方がいい。 その方が身のためだ。」 「なんですって?」 「軍はFBIの介入を望んでいない。」 「あなたは一体何者?」 「私は・・・君達の仕事に関心を抱いている者だ。力になりたいと 思っている。」 「どうして私達のことを知っているのかしら?」 「立場上政府に関することは何でも知っている。いろいろな情報が 入ってくるのだよ。」 「あなた一体誰?職業は?」 「そんなことはどうだっていい。君とキョン捜査官の身を案じるから こそ言うんだ。残念だが事件のことは忘れたまえ。」 「それは出来ないわ。」 「君達にはもっと大切な仕事があるだろう。せっかくの才能を無駄に するもんじゃないな。」 そういうと男性は人ごみの中へ消えていった。 わたしが呆然と立ち尽くしていると近くからキョンが、 「おい、ハルヒどうした?」 「ううん、何でもないわ。」 (あの男性は一体何者なのかしら・・・敵?味方?) そう考えながら私はトイレに向かった。 どうも気になる。 あのハルヒが普通の失踪事件に興味を見出すとは思えない。 そう思った俺はFBI本部の資料室で過去の新聞を調べてみた。 --エレンズ空軍基地 UFOのメッカに-- やはり超常現象か・・・ 確認するためハルヒに電話をかけてみた。 「もしもし、ハルヒか。」 『何よ、キョン』 「おまえ、俺に何か言い忘れてるだろ?」 『言い忘れてることって?』 「おまえ、アイダホに行くのはUFOが目的じゃないだろうな?」 キョンからの電話に雑音が入ってる!私は電話に雑音が入っているのを 聞いた後家の窓の外を見た。 黒いバンが外に止まっていた。 (盗聴されてるわ・・・) 「聞いてるのか?出張旅費が下りたのは捜査の為だぞ。科学雑誌に 投稿するような報告書書くのはごめん被るぞ。」 『キョン、電話ではまずいわ。明日飛行機の中で説明するわ。』 そういうとハルヒは電話を切った。 次の日、アイダホに着いた俺たちは早速依頼人の家に向かった。 そこでは失踪した軍人が以前からかぶれのような症状を訴えて いたこと、またある日から急に性格が変わり奇妙な行動を取ったり どなりちらすなどをするようになったことを伝えられた。 また、依頼人と同じような現象にあったという人を教えられ 依頼人と共にその人の家に向かった。 そこで見た光景は、まさに精神疾患にあった男性だった。 その男性の夫人話ではストレスによるものだろうと言っていたが・・・ その後、依頼人から軍の連絡先を教えてもらい、こちらも 泊まっているモーテルの電話番号を教えておいた。 「キョン、あれってどう思う。」 「やはり夫人の言うとおりストレスによるものなんじゃないか。」 「でも、彼らはベテランのパイロットでしょ?ストレスに対する 免疫は一般の人に比べればはるかに高いと思うけど。」 「聞いた話なんだがこのあたりでは『オーロラ計画』と言う名前で 新型飛行機のテスト飛行を行ってるらしい。その計画の重要性から 重圧に負けてストレスがたまったんじゃないか。」 「それはありえないと思うわ。だって依頼人の家の写真見た? 大統領からも表彰されるほどの腕前のパイロットよ。それほどの 腕なら何だって乗りこなせると思うわ。」 確かにハルヒの言うとおりだ。 男性の症状から見ても極度の恐怖や拷問などで無いとならないような ものだった。 一体ここでは何が起こってるんだ・・・ 「とりあえずエレンズ基地に行ってみましょう。」 ハルヒはそういうと車をエレンズ基地へ向かわせた。 車をエレンズ基地のフェンスのそばに置き近くの高台からエレンズ 基地を観察してみた。 「特に目立ったものは無いな。」 「あたりまえじゃない。そんなものがあったら全然秘密じゃないわよ。」 ハルヒの言うとおりだ。 俺とハルヒは夜までエレンズ基地を観察していた。 途中、SOS団の時の活動などの思い出話もしたりした。 「結局、有希はなんだったのかしらね。」 「さあな・・・」 いまさら宇宙人でしたと言っても納得しないだろうな。 と、まあ話し込んでいるうちに深夜になった。 眠りこけていると突然ハルヒが、 「ちょっとキョン起きなさいよ!」 「なんだよ・・・何かあったのか?」 「基地の上空を見てみて。」 基地の上空の空を見ると2つの光が空を舞っていた。 「普通の飛行機なんじゃないのか?」 「よくみてなさいよ。ほらあれ!」 ハルヒが指差すと2つの光はおおよそ普通の飛行機では考え 付かないような動きで飛び、最後に交互にきりもみ飛行しながら雲の上に消えていった。 「なんなんだありゃ・・・」 「とにかく中に潜入できないかしら・・・」 そうハルヒが言った瞬間、フェンスの中から男女がフェンスの 裂け目と思われるところから急ぎ足で出てきた。 逃げようとする男女をハルヒが、 「FBIよ、止まって!止まらないと撃つわよ。」 と威嚇し男女のカップルと話をすることが出来た。 カップルの話によると今日見たような光景は日常茶飯事で見られ、 中にはもっとすごい飛行をするときもあったという。 また、行った事はないがフェンスから15Kmほど離れたところに 格納庫らしきものがあるとも言っていた。 ただ、今日は普通ではヘリで追いかけられることもないのに、 なぜか突然ヘリが現れ一目散に逃げてきたと言う。 ある程度話を聞いた後2人別れ、ハルヒと共にモーテルへ戻った。 戻ったときにはすでに朝だったが。 フロントに行くと、依頼人から夫が家に帰ってきたと言う伝言を受けた。 さっそくハルヒとともに依頼人の家に行くと、依頼人である夫人は 「この人は夫じゃない!」と泣きはらしていた。 俺とハルヒは色々と質問をして本人かどうか確かめてみたが、やはり 本人らしい。 しかし夫人は「どこか夫とは思えない」という。 釈然としないままとりあえず失踪人は帰ってきたので依頼者宅を後にする。 「キョン、どう思う?」 「わからん。おれには普通にしか見えなかったのだが・・・」 「でも、基地でのことを質問するとなぜか不自然な答えが返って きたわよね・・・」 「そういえばそうだな・・・」 「もしかして、記憶を操作されたんじゃないかしら。」 「そんなば・・・」 「そんなば・・・なに?」 「いや、ありえんだろう。」 「そうかしら。キョン、早速今日の夜にエレンズ基地に潜入して みましょう。なにかわかるかもしれないわ。」 「ああ、そうだな・・・」 記憶操作か・・・長門たちの専門分野だったな・・・まさかとは思うが・・・ 俺は一抹の不安を胸に車へと乗った。 夜、ハルヒと共にエレンズ基地に潜入した。 情報通り15Kmほど離れた場所に格納庫らしきものがあった。 一筋の光が漏れている。そこから中を覗けそうだ。 早速ハルヒは中を覗きこんだ。 「なによこれ・・・凄いわ・・・」 ハルヒは驚愕しながらもカメラのシャッターを押し写真を撮っていた。 「キョン見なさいよ、これ。」 ハルヒに言われ中を覗くと・・・UFOらしき物体があるではないか! 「これは一体・・・」 「UFOに間違いないわ。写真に収めたし物的証拠もばっちりよ。」 「テストパイロットたちはこれを操縦したためにあんな目にあった のか・・・」 「たぶんね。」 俺たち2人は隙間からUFOと思しき物体をまじまじと見ていた。 そのため近づいてくる人影に気がつかなかった・・・ そうあの人影に・・・ 「そこまで....」 小さな声が聞こえ俺とハルヒは後ろを振り向いた。 そこにいた人物は・・・長門有希そのものだった! 「有希・・・有希じゃない!なぜこんなところに?」 長門は何も答えない。 「どうしたんだ長門!俺達のこと忘れちまったのか?」 俺がそう言うと、 「あななたちは見てはいけないものを見てしまった....」 「よってこの場で抹殺する....」 ハルヒがあっけに取られた顔で長門を見ている。 「なぜ・・・なぜなの有希・・・」 そうハルヒが言った途端、長門の両腕にブレードのようなものが 出現した。 早く逃げなければ!恐らく別の兵士もすぐに迫ってくるに違いない。 俺は呆然とするハルヒの手を取り元来た道をダッシュで逃げようとする。 「ハルヒ逃げるんだ!今の長門には俺たちの言葉は通じていない!」 「でも・・・でも・・・」 「いいから速く!」 俺とハルヒは猛ダッシュで逃げた。 途中ハルヒはカメラを落としてしまい、 「あ、カメラが!」 「今回は諦めろ!今は命が大事だ!」 カメラを見た瞬間長門が呪文を唱えている光景が見えた。 やばい!空間封鎖でもするつもりか! と、驚愕していると途中で呪文が途切れ、 「舌かんだ....」 俺とハルヒはその言葉を聞くとあっけに取られた。 が、すぐに我に返り逃げる。 「逃がさない....」 そういうと長門はこっちに向かってダッシュしてきた! 長門のスピードでは追いつかれるのも問題だ!まずい!まずい! そう思いながら走り続けていたが一向に長門が迫ってくる様子が無い。 恐る恐る後ろを見ると最初の長門のいた位置から10mほどのところで 長門がこけて倒れている。 どうやら絡まった雑草に足を引っ掛けたようだ。 「うかつ....」 チャンスだ!俺はハルヒの手をつかみ猛ダッシュで走った。 「戦闘モード変更。長距離狙撃モード....」 そうつぶやくと長門の手はバズーカー砲のようになっていた。 げ!あんなのに撃たれてはまず助からない! そう思った瞬間前方に人影が見えた。 よく見ると意外な人物・・・それは喜緑江美理だった! 両方に囲まれ万事休す!そう思ったとき、 「2人とも早くこっちへ遮断フィールドを張ります!」 その言葉を聞き俺とハルヒはすぐさま喜緑さんの元に向かった。 遮断フィールドが張られた直後長門からすさまじいビーム砲が フィールドに当たった。危機一髪だった。 「あなた方を車まで転送します。そのあとは出来る限り迅速に逃げて!」 「なぜあなたが俺たちを助けてくれるんですか?なぜ長門は俺たちを・・・」 「今は説明している時間はありません。いずれ分かるときが来ます。」 そう喜緑さんがいうと次の瞬間には俺とハルヒは車の中にいた。 「ハルヒ!車を出せ!急ぐんだ!」 「わかってるわよ!」 そういうとハルヒは猛ダッシュで車を基地とは逆の方向へ走らせた。 その頃基地では長門の下に兵士が集まっていた。 「追いますか?」 「いい....物的証拠は何も無い。」 「わかりました。では各自引き上げます。」 そういうと兵士はカメラを取り上げフィルムを出し燃やした・・・ そして喜緑江美理の姿も消えていた。 次の日、俺たちはワシントンD.CのFBI本部のオフィスにいた。 「なんで有希が私たちを殺そうと・・・しかも初対面みたいな 態度で・・・」 ハルヒは自分の席で悲嘆にくれていた。 「しかもまるで宇宙人みたいな感じで・・・喜緑さんも・・・」 ハルヒは自分の力を失った後も長門たちの正体を知らなかった からな・・・ 「ハルヒ、多分長門には何か事情があるに違いない。喜緑さんも 言ってたじゃないか『いずれ分かるときが来ます。』と。」 しばしの沈黙の後ハルヒはいつもの元気な声で、 「そうね!私達がX-FILEを追う限りきっと答えは見つかるわ! 絶対にね!」 「そうだな。俺達で真実をつかむんだ。」 「あたりまえでしょ!私を誰だと思ってるのよ!涼宮ハルヒよ!」 妙な自信を持ってしまったハルヒだが、まあこれでいいんだろう。 しかし、長門の「別の任務」とは一体・・・ 次の休日、私は家の近所のグラウンドでジョギングをしていた。 そこへ以前現れた初老の男性がまた姿を現した。 「命を落とすところだったな。これからはもっと慎重に行動するんだな。」 「そうね、考えておくわ。」 「まあ聞け、今後も利害が一致する場合には君に情報を提供しよう。」 「あなたの目的はなんなの?」 「君と同じ、『真実』さ。」 「あそこで見たもの、一体なんだったの?」 「UFOの技術・・・かな。」 「涼宮捜査官、1つ教えてもらいたい。君は確固とした証拠も無いのに なぜ宇宙人の存在を信じてるのかね?」 「それは・・・存在を否定する証拠もまた無いからよ。」 「そのとおり。」 「やっぱり彼らはいるのね?」 「もちろんだとも。ずっとはるか昔の時代からね。」 そういうと男性はグラウンドから姿を消した。 「有希や喜緑さんもやはり宇宙人なの・・・?」 私は一人グラウンドの真ん中で放心状態で考えていた・・・ <再会・終> 涼宮ハルヒのX-FILES おまけ2 ハルヒ「まさか有希が本当に襲ってくるとはね。」 キョン「喜緑さんが出てくることも意外だったな。」 ハルヒ「あの男って一体何者なのかしら。」 キョン「作者設定では最後には正体は;y=ー(゚д゚)・∵. ターン」 ハルヒ「キョン!いやあ!死なないで!」 ???「このスモークチーズで助かるにょろよ!」 ハルヒ「あなたは・・・鶴屋さん!」 鶴屋 「あたしって出てくる役割あるのかなぁ・・・」 キョン「というドリームをみた。」 ハルヒ「たぶん鶴屋さんには出番無いかもね。」 鶴屋 「にょろーん・・・」 キョン「作者はヘボで気まぐれなんで大目に見てやってください。」 次回 涼宮ハルヒのX-FILE あったらお楽しみにw 次へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1697.html
それはとある日曜日の朝のこと ハルヒに用事があるとのことで町内不思議探索は中止となり 布団に包まって気が済むまで寝ようとしていると携帯が鳴った ハルヒか?と思ってディスプレイを除いてみたが電話番号が表示されるだけで名前がない つまり電話帳に登録していない奴から電話がかかってきたと言うわけだな すでに5秒ぐらい着メロが鳴り続けているからワン切りでも無さそうだ これ以上鳴らして相手に迷惑をかける訳にもいかんだろう、間違いだったらその旨を伝えればいいだけだしな 「あ、もしもしキョンさんですか」 通話ボタンを押すと女の声が聞こえてきた 俺のあだ名を知ってると言うことは少なくとも間違い電話ではないと言うことだな もしこれで間違いだったらそのキョンとあだ名を付けられたやつに同情しよう 「え~っと失礼ですがどちら様で?」 「あ、ごめんなさい私は吉村美代子です」 思い出した、妹とは同級生だがとても同じとは思えないほどに大人びた容姿をしている娘だ 通称 ミヨキチ 、最後に合ったのはかなり前だ忘れてても仕方ないだろう 「あぁ君か、久しぶりだね、確か去年の3月の終わり以来か」 去年の3月の終わり俺とミヨキチは映画を見に行った、詳しくはSOS団の発行した部誌を見てくれ 「はい、お久しぶりです。」 「それにしても俺の携帯番号なんてよく解ったね」 「あ、はい妹さんから聞いたんです」 なるほどね、だがミヨキチぐらいなら教えてもかまわんがあまりいろいろな人に教えるなよ妹よ 「それで今お暇でしょうか?」 「あぁちょうど予定が無くなったんでね暇を持て余していたところだ」 「もし宜しければ今日1日私に付き合っていただけませんか?」 「あぁ別にかまわないよ、また映画かい?」 「はい、迷惑でしょうか?」 「意や別にかまわないよ、最近映画を見ていなかったしたまに見るのもいいだろう」 「よかった、ではよろしくお願いしますね」 それから彼女は前回と同じようにこちらの予定を気にしながら待ち合わせの場所と時間を提案した 今回は普通の駅前の映画館で問題ないらしい 「急な電話すみませんでした」 「いやいや別にかまわんよ」 低姿勢なのは変わらないな、まぁ変わる必要もないが それから軽く準備をして念のため待ち合わせ時間の1時間前には家を出る とりあえずこの時間なら途中何らかのトラブルがあっても大丈夫だろう 「あれ~キョン君どっか行くの~?」 家を出ようとしたら妹が声をかけてきた 「あぁミヨキチに映画に付き合ってくれないかって言われてな」 「そっか~がんばってね~」 何を頑張れと言うのだ妹よ、それに古泉みたいににやけるな気味が悪い それにしてもこいつの事だから「あたしも行く」とか言いかねないと思ったのだが 言われなくて安心したよ、もし行く事になったら代金は俺持ちになるだろうからな そして自転車を漕ぐ事30分待ち合わせ場所近くの駐輪場に到着 前に自転車を撤去されたことがあったからな、路上駐車はやめることにした そして待ち合わせの場所に歩いていくとミヨキチはすでに到着していた まだ30分も前だというのにいるとはなどうやら俺は待ち合わせに相手より先に着くってことに縁が薄いらしい 「早いねもう来てたのか」 「いえ今来たところです」 とてもじゃないが妹と同級生には見えないな、下手すると朝比奈さんよりも大人に見える 「それじゃちょっと早いが映画館の方に移行か」 「あ、はい」 「今日はなんて映画を見るんだい?」 「あ、×××××ってのが見たいと思ってるんです」 その映画の名前を聞いてちょっと違和感を感じた 何も変な映画だとかそういうのじゃない、普通の映画だ ただ問題なのは普通の映画だからだ、前回のようにPG-12などの規制がかかってるわけでもない このぐらいの年なら普通に見たいと思っておかしくない映画だ、これだと俺をわざわざ誘う必要もない まぁ彼女には彼女なりの理由があるのだろう、詮索はここまでにしていた方がいいな そのあと券を買う際に代金はどちらが払うかと言うことになった 俺が2人分払うと言ったのだが結局はそれぞれ自分の分を自分で払うことになった 全く、別に遠慮する必要はないんだがな しかし久々に映画を見るのもいいものだな、最後に見た映画が文化祭のSOS団の映画だからなお更だ SOS団でもこのぐらいの映画が作れればと思ったが監督が監督だ、まず無理だろうな 映画を見終わって外に出ると空が暗くなりかけていた 本人はいいと言っていたがさすがに一人で返すわけにも行かないので家まで送っていくことにした 送っていくことにしたのはいいのだがなぜかミヨキチはさっきから無言だ チラッと横を見ているとどうやら俯いている、俺なんか悪いことしたか? しばらく歩いていくと見覚えのある人物に出会った 「お、ハルヒじゃないか」 「ん?キョンじゃないの何して…そちらの方は?」 「あぁ妹の同級生のミヨキチだ、今映画を見てきたところだ」 「あらそう、よかったわね。私お使いがあるからもう行くね」 なんだ?ハルヒの奴機嫌が悪そうだったな、何かあったんだろうか 「あのキョンさん今の人は…?」 「あぁ俺が入ってるSOS団っていう団の団長だ」 そういうとミヨキチは何かを考えるそぶりを見せた後 「あの、キョンさん今の方に伝言をお願いできますか?」 「あぁ別にかまわないが知り合いだったのか?」 「いえ、そういう訳ではありませんが『負けません』と伝えてもらえますか?」 「解った伝えておこう」 「それでは私の家はすぐそこですので、今日は本当に有難うございました」 そういうとミヨキチは小走りで自分の家のほうに走っていった 「負けません」か…あいつらなんかの勝負でもしてるのか? 俺には伝言の意味がよく解らなかったが俺に対する伝言じゃないんだ別に問題ないだろう 気が付くと太陽はもう殆ど沈んでおり俺は自転車を家の方向に向けてペダルに力を入れた
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1945.html
第一話:世界改変 俺はくらくらする頭を抱えながら起き上がった。 とりあえず周りの状況を確認しないと・・・ ぼんやりする中、鉄格子・鍵・硬いベッドなど見ているうちに 自分が置かれた状況を理解する。 牢 屋 に 閉 じ 込 め ら れ て い る 牢屋のつくりは古っぽく、ゲームで出てくる牢屋かと思った 兵士らしき人影もちらほら見える 「はぁ・・・こんな所で見張りなんかしてないで、ナンパいきてぇ・・・」 「ダメだよ、ちゃんと監視して無いと」 どっかで聞いた事がある声だが、頭がガンガンするせいでよく思い出せない とりあえず俺はこのままする事が無くここで一生を過ごすことになりそうだ。 悲観的になるなよ、俺・・・ そういえばほかのやつらはどうしたんだろ? 「ここにいる」 「うぉ!!」 情けない声を出したがこの場合は仕方ないだろう 真後ろに長門が居るんだから 「静かにして・・・・ここから脱出する。」 「できるのか?」 「出来る、ただし短距離しかワープできないため、ここを出たら見張りの兵士との戦闘は避けられない」 要は牢屋からは出れるがこの部屋からは出れないらしい。 「長門、とりあえず外に出してくれ。出来るだけ見つからないように逃げてみる」 「わかった、これよりワープを実行する epacsecigamedomlliks」 俺たちはいつの間にか牢屋の外に立っていた 「わたしは姿を消すが、あなたの姿まで消せない、とりあえずこの部屋から出ればわたしが見つけた抜け穴から出られる」 ヒュッという音と共に消えた えーと、長門は戦闘を回避できるが、俺はそのまま行くと戦う事になるのか? しかしここは脱出する事しか選択肢が無い 兵士の様子を見てみるか・・・・ !? あの二人は!? 「あ、警備室に無線忘れた!!」 「あ、ちょっと!!行かないで!どうせナンパ行くためでしょ!!」 「WAWAWA忘れ物~♪」 ドタドタドタ、キィー バタン!! ごゆっくり~というセリフがこれほどまでに合うシーンは多分後にも先にもこれが最後だろう 兵士たちが居なくなったことを機会にまんまと部屋を出る事が出来た 意外とあっけなかったな 「二人の兵士がこの部屋から出て行ったが何があった?」 「警備室に忘れ物を取りに行ったらしい。その後は知らん」 とりあえず俺たちは抜け穴と言われる所から、牢屋のある建物から抜け出した 振り返って建物の全体を見てみる 「お城じゃねえか!!」 「涼宮ハルヒはあの城の玉座に居ると思われる。しかし、今の私達では涼宮ハルヒに会うことすら出来ない。 私の情報操作能力も制限をかけられ、世界の正常化は愚か、涼宮ハルヒの正常化すら出来ない」 おいおいマジかよ、ハルヒはまさに女王ってことか。冗談きついぜ 「現在、涼宮ハルヒの中に存在する別人格は 前にいた世界にはいなかった存在 おそらく俗に言う異世界人だと思われる しかし肉体のないソレはただ漂っているだけの存在だった 変わったきっかけは涼宮ハルヒ 彼女の力を乗っ取り、宿主をコントロールするまでに至った この世界で私は今、魔法使いと言う事で指名手配されている。ここにいると目立つ、隠れ家に案内する」 えーと、まさかここ、中世ヨーロッパを舞台にしたゲームの中って事はないだろうな。 「あなたの考えている事は間違いではない。涼宮ハルヒ(偽)はゲームを舞台とした新たな世界を作っている。」 長門に見事考えを読み取られ、この先にする苦労を思うと 俺はただため息をつくしかなかった 「ちょっと!キョンが逃げ出したってどういうこと!?」 「見張りの兵士二人が行方不明、争った形跡は無く、鍵も開けられていなかったとの事です」 「有希には制限をかけたはず・・・兵士が見張りをしていればあそこからは出られないはずなのに」 「これからどうしますか?」 「国を挙げて有希とキョンの捕獲を実行するのよ!失敗はゆるされないわ!! あと見張りしてた兵士が見つかったら、その場で処刑して構わないから」 「(ハルヒってこんなキャラだったか?どちらにしろここは従うしかないか)」 「どうしよう、見つかったら即処刑かよ!!」 「僕まで巻き込むなよ!!」 「よし、あの人に頼ろう」 「誰だよ、あの人って」 「そこに誰かいるの!?」 「やべ!!」 さて、俺は長門の隠れ家に来たのだが・・・ 「おかえり~キョンくん!!」 ナゼ妹が居る・・・しかもシャミまで 「この世界のあなたの家を隠れ家にしている」 「よりによってこの場所かよ。城も近いぜ」 「問題はない、姿も消せるし、灯台下暗しということわざもある」 「城の人たち、ここ通り過ぎてカルウィン平原に向かったみたいだよ」 キョンの本名は何?? やれやれ、ここでしばらく世話になりそうだ。 「長門、ここにいる妹は前の世界の妹なのか?」 「そう、しかし記憶を操作した後が見られるため今の状況を不審にはおもってない」 「その方が助かるよ・・・」 とりあえず家の中をいろいろ探した。 家の構造は前の世界とほとんど変わらなかったが、物とかが変わっていた まずタンスの裏には剣が、ベッドの下にはエr、いやこの国の歴史の本や 居間には盾が、押し入れには鎧が入っていた 正直言おう。頭がくらくらしてきた この後絶対にモンスターと戦わされるだろう、ゲーム世界の特性として 長門はタンスから文化祭で使った衣装を引っ張り出してきたみたいだ 『魔法使い長門』 その言葉がとことんにあってるぞ、その格好は とりあえず世界地図と歴史の本を開いたが 今まで居た世界とは違うらしく 大陸は二つしかなく歴史も大幅に変わっていた ハルヒは王族の直系かよ ん?ここにある名前は・・・古泉? 歴史の本には世界弓使い最強決定大会優勝とかかれている・・・ ご丁寧に住所付だ この国にプライバシーと言う物は無いのか? 「これから古泉一樹に会いに行くべき、彼を仲間に加えれば戦力の32.4%の増加が見込める」 どうやら俺たちの行動は決まっているらしい 誰か裏で操作してないだろうな? 地図を見ると、カルウィン平原を南東に下ったコルメット森の奥のメデカン村に住んでいるらしい ふと思った、ネーミングセンスなさ杉 ハルヒ(偽)のネーミングセンスはともかく 俺は剣なんか持った事なんて無いし、 ましてや戦闘経験なんかない ほとんど長門や古泉に頼っていたからな 「戦力的に見て俺はどうなんだ?」 「ここの普通の住人と相対評価した結果 キョン127.3% わたし134.8% 古泉一樹 147.9%の戦力になるとの計算結果が出た ちなみにこの辺りのモンスターは126.4%ほどの強さ」 おいおい長門まで俺のことキョンって呼ぶのかよ。 とりあえず戦力にはなるらしいが俺はまだまだひよっこらしい ・・・ ちょっと待て、 じゃあ、俺はそこらへんの住人よりは強いのか? ハルヒ(偽)が俺たちを消そうと思っているなら住人よりも俺たちは弱いはずだ 「その点については私にもわからない、情報操作の制限は出来ても禁止まで出来なかったのを見ると 能力の改変するのは下手だと思われる」 物を作る事は出来るが個々の能力まで細かく設定できないってことか 「今日は休息するべき、予想以上に疲労が溜まっている」 長門に言われた通り、いつの間にかクタクタになっていた とりあえずベッドに入って寝るとするか その夜はこれまでに無いほどぐっすり眠った よほど疲れていたのだろう 夢らしい夢は一切見なかった 第二話:戦闘 昨日はぐっすり眠れたおかげか 久しぶりに気持ちの良い起き方をした こうもすっきり起きられたら遅刻なぞしなくてすむようになるだろう とりあえず顔を洗い、歯磨きもして、 まだ誰も居ないであろう居間に向かった 驚いた、長門がすでに居間にいた お茶を飲んでいる 「おはよう、長門」 ・・・ 返事が無い、聞こえなかったのか? ガシッ!! 「!?」 バシッ!バシッ! バシィバシィ! ドゴォッ!! ヒョイ シュッ ドォォォォォォォン 「ぎゃあああああああああああああ!!!」 ※何があったかはご想像にお任せします はっ夢か!! なんつー夢見ちまったんだ ブ●イト艦長も爆笑だっぜ! 変な夢見たせいでテンション下がりまくりの俺だった とりあえずあの後長門に殴られることは無かった 「異常空間の発生を確認したが、すぐに正常化した」 長門が何かつぶやいていたが気にしないで置こう ってちょっと待てなぜ長門が俺の部屋に居る 「出発する、城の兵士たちが家の一軒一軒を回っている。見つかる前に平原を南下したほうが良い」 やれやれ、まったく忙しい世界だ 俺たちは急いで支度し 「じゃあねー」という妹の声を聞き 重い鎧を引きずりながら平原とやらに出た なんか所々に動いている物が見えるな・・・ 多分モンスターか城の兵士だろう どちらにしたって見つかったら戦闘は回避できないとかんがえていいだろう さて見つからないうちにメデカン村に行きますか しかし俺の願いも虚しく モンスターに見つかってしまった 兵士じゃないだけマシか 遠くからにおいを嗅ぎつけてきた狼と すぐ近くをのろのろと歩いていたスライムにはさまれてしまった さてみなさんはゲームをする時、特にRPG等の戦闘の場合、どんな戦いをするだろうか 今回のように人数とモンスターの数が同じの場合 二人で分散して攻撃するか 二人で一匹をすばやく倒すかするだろう 俺たちは後者の戦い方をした すばやい動きと牙の攻撃力が侮れない、狼が危険だと判断したからだ つーか剣の重さは勘弁してくれ 振り回すだけで精一杯だぞ まあ振り回すだけでも攻撃は当たるんだがな(一体どうなってんだこの世界 「なぜ、俺たちはこんな所で怪物と戦っているんだ?」 「今はそれを気にしている余裕は無い、目の前の状況をなんとかするべき」 まあそれもそうだが さて肝心の狼はたおしたのだが スライムは斬っても斬っても復活してくる どうなっているんだ?死神代行も真っ青になるんじゃないか? 「長門!狼は倒したが、このスライムまったく攻撃が効かないぞ!!」 「解析の結果、火に弱い事が判明、こちらで攻撃する。」 そういったあと長門はまたあの呪文を唱えた 「bmobemalfcigamedomlliks」 スライムは蒸発した もしこれがゲームなら「キョン達はスライムたちとの戦闘に勝った」 というような文章が表示されているだろう そんな事はどうでもいいが 俺たちはすぐにその場から離れた 誰かに見つかったらまた戦闘になりかねんからな 「待って」 聞き覚えがある声がした 俺の恐怖を感じさせる声だ 「なぜここにいる?」 多分俺よりも先に振り向いたのだろう 長門が明らかに驚いたみたいな声を出していた 赤の他人にしてみたらわからないかもしれないが 俺も恐る恐る振り向いた 朝倉涼子がそこにいた 「なぜって、ここの世界の創造主に作られたからよ」 「あなたは以前の記憶を持っているのか?」 長門は人の感情や考えを読み取るのは苦手だった気がする それは今も変わってないのだろう 「ええ、持っているわよ。わたしの覚えている最後の記憶は有機連結を解除されるところだわ」 当たっている。じゃあ以前の朝倉がここにいるのか? 「あなたの情報は以前と違う、普通の人間としてここに存在している」 「それはそうよ、ここの創造主の偽涼宮さんに普通の女の子として作られたから もちろん情報操作は出来ないし、今の私には感情がある。自分が昔したことに自分で怯えているわ トラウマになっているくらいよ」 朝倉のセリフが本当かどうかわからないが 長門の言う事は信用できる 今の朝倉はええっと 対有機ヒュ-マノイドインターフェイスだったけ? あれじゃないのは確かだ 「ここにいる理由は一つ、幽霊となった涼宮さんを引き渡しに来たわ」 WHAT!? 今なんと? 「この世界の創造主に肉体から追い出された涼宮ハルヒは、魂の状態となって漂っている所を私が見つけたの」 いやそれはいいんだが、ハルヒがいるのかどうかすらもわからないため 普通の人が聞いたら「何言ってんだ?」と言うだろう 「そういえば、長門さんは見えてもキョンくんには見えないんだったわね」 「私が、見えるようにする」 「そこまで情報操作できるの?偽涼宮さんに制限かけられたんでしょ?」 「空間を制御する情報操作は一切出来ないが、能力を変えたり物を作ったりするのは少し出来る」 「ハルヒが見えるのか?」 「maastsohgnoitibbeytilideabomlliks」 せめて質問に答えろよ 物凄い近くにハルヒがいてのけぞってしまったじゃないか 「なーにしてんのよ、バカキョン。」 「YUKI,N 見えてる?」 ああ見えてるさ、ってオイ 「それにしてもあんたたちが不思議な事に関わっていたなんて驚きだわ まあ野球といい、シャミセンといい、みくるビームといい、不思議な事はあったし なんとなく感づいていたけどね」 「じゃあなぜ、お前は不思議な事から目をそらした?お前はそんなこと、ムシする性格じゃないだろ」 「なぜって、私が関わったら世界が変わっちゃうような気がしたからよ。 自分に回りの環境を変える能力はあるってなんとなく自覚してたし 私は普通の日常の中で不思議な事に出会ってみたいのに 不思議な事が普通になるってつまらないじゃない?」 まあそれもそうだが というか俺たちがハルヒのご機嫌を取っていたのを ハルヒは気付いていたんだな 「そして私が不思議な事に関わった瞬間今回のように世界が変わってしまったわ でもそれは私の体を操っている異世界人のせいなんだけどね」 「ちなみにハルヒはどこまで認識してるんだ?」 「最初から今まで、全部朝倉さんに教えてもらったわよ もちろんあんたと朝倉さんに何があったのかもね」 「私この状態になって孤独を感じたわ このまま誰にも気付かれずに永遠に彷徨うことになるなんて嫌と思った でも朝倉さんが気付いてくれてよかったわ」 「えーと、ハルヒは生き返ることはできるんだよな?」 「できる、ただ偽涼宮ハルヒをどうにかして肉体から追い出さなくてはいけない」 「古泉くんに会いにいくわよ、その方がこの後が楽でしょ?」 「そりゃそうだな。」 「それにしてもここからメデカン村まで100キロなんてめんどくさいわね」 「おまえは(幽霊だから)一番楽な役だろ!」 「体力は自信あるわよ!でも今は関係ないけど・・・ 私が言いたいのは時間がかかることが嫌なの」 「かといってどうにかできるのか?」 「抜け道知ってるけど行ってみる?」 朝倉が話を聞いていたらしい、割り込んできた 「信用できんな、罠にはめるつもりだろ」 いつから俺はこんなに疑り深くなっちまったんだろうか? 「ちょっと待って、キョンが疑うのは無理も無いけど朝倉さんは嘘をつかないわ」 言われてみればそうである 襲われた事はあったが嘘をつかれたことは無い でも信じていい物か? どうする俺?どうするよ? 信用 疑念 冒険 (次回へ)続く!! 第三話:カード+モンスターラッシュ さて以前三枚ほどカードを持っていたが いよいよ選ぶ時が来たのである 「すまんが信用できん」 俺そうきっぱり言った バコーン 「あんたバカァ?朝倉が普通の女の子って聞いたでしょ!?」 殴られた後頭部をさすりながらハルヒのセリフを聞いていた ってちょっと待て、お前幽霊なのにどうやって殴った? 振り返りハルヒのほうをみてみると ハルヒの後ろにゴゴゴゴゴゴゴという効果音付で神人(ミニサイズ)が立っていた 「これが私のスタンドよ!」 時が止まったような気がした 古泉が見たら泣くぞ 泣くとはとうてい思えないが 「ギャグはほっといて、早く行きましょ?キョンくん」 笑顔はとても素敵なのだが 朝倉が言うとどうしても「早く逝きましょ?」に聞こえてしまう よほど病んでいるな 「私がいる限り、あなたに傷一つ付けさせない」 頼もしいことを言ってくれるな長門は 「あら?あなた達そういう関係だったの?」 ゴゴゴゴゴゴという効果音が大きくなるにつれて ハルヒの後ろにいる神人も大きくなっている 「待て、誤解だ。ただ長門が万能だから、俺が対応できないことを長門にやってもらっているだけだ」 「ソレもそうね、以前の私ほどでは無いけど、周りの環境を変えることが出来るんだったわよね」 神人が小さくなって完全に消滅してしまった どうやらハルヒの怒りに比例して大きくなるらしい 今のハルヒに力はないとはいえ これからも機嫌を取らねばならんな。やれやれ ふと気付いたことがある 男1に女(2+幽霊)っていう今の状況はなんだ? まるでハーレm(ry さて俺の変な妄想はさておき 朝倉が言った抜け道という名の洞窟の前に来ていた なんか半強制的につれてこられたような・・・ 「ここ、とおるのか・・・?」 「ここ、通るのと通らないのは三倍近く違うわよ?」 「決まり!こことおるわよ!!」 強引に決められた・・・俺に決定権と言う物はないのか? さて洞窟に入った三人と幽霊一匹だが モンスターの数が今までの比じゃなかった 100匹近く倒しただろうか 砂漠の中を一週間彷徨ってきた人もびっくりする位ボロボロだ 「護身用ナイフ持ってきてよかった♪」 「油断しないで、この先にもっと強いモンスターの存在が確認された」 「うりゃー!!」 ええっと・・・朝倉・・・ナイフ標準装備なのか・・ そして長門、俺はもうだめだこれ以上戦えん ハルヒ、お前がいて助かった。神人がいなかったらもうすでに全滅していただろう。 「キョンって、剣の使い方ヘタね。私が見本見せてあげるわ」 見本ってどうやって見せてくれるんだよ お前幽霊だろ 「どうするって、あなたの体を乗っ取ればいいじゃない」 涼しい顔して何恐ろしいこと言ってるんだよ!! 「これでよしっと」 許可なく人の体操るな!! しかしもうすでに操られているためその突っ込みが聞こえることはなかった 「計画通り」 ん?何かいったか? 「何も言ってないわよ?」 なら良いんだが・・・ さて、いわゆる傍観者となってしまった俺は ハルヒの戦い方を見ていたが 俺の体だとは思えない動きをしていた。 あれ?俺が使いこなせてないのか? 「剣道って知っているよね?あれを思い出すとわかりやすいわよ」 そういえば中学に習ったな・・・ 基本はあれと同じか 「さて大体わかったわね?次の戦いはあんたに任せるから実行しなさいよ!!」 いきなり実戦かよ 「ねぇ、あれってなにかしら?」 朝倉が指をさした方向を見た 光り輝く目が二つ・・・ 冷や汗が頬をつたう ソレは火を噴いてきた 「情報分析完了、名称:ファイヤードラゴン」 なんですとー!? 「私が気を引く。朝倉涼子は左、あなたは右を攻撃して」 「ハルヒも手伝え!」 「ここに来てMP(精神力)切れちゃった・・・」 いざって時に使えないな、おい 「bmobemalfcigamedomlliks」 ボン!! 爆発音と共にドラゴンに攻撃を開始した ドラゴンのファイヤーブレス!! キョン達は避けた キョンの攻撃 「落ちろドラゴン!!」 右翼を切り落とした 朝倉の攻撃 「いつまで持つかしら?」 左翼を切り刻んだ 長門は呪文を唱えた 「mrotswonscigemabomlliks」 吹雪いてきた・・・ ドラゴンに大ダメージ!! なあこのゲームっぽい表現やめないか? さてドラゴンにそこそこのダメージを与えたが 最後のとどめがなかなか刺せない 「弱点判明:額の宝石」 「あの炎をなんとかしてくれ!!俺がとどめを刺す!!」 「私のナイフで目を潰すわ。その隙にお願い!」 そういうと朝倉さんは軽い身のこなしで頭までいくと予告どおり目潰しした 「今よ!」 「いわれんでもわかってるさ!」 「てやっーー!!」 そう叫びながら高く舞い上がり 鷹もびっくりな勢いでドラゴンの額めがけて急降下した そして頭に飛び乗ると 剣で宝石を何度も突き刺した 三回くらい繰り返し 「これで、ラストーー!!」 某赤い巨大人造人間のパイロットと同じくらいの大声でとどめを刺した バリーーン 「ギャォォォォォォ!!」 ドシーン 大きな効果音と共にドラゴンは倒れた 戦利品として100ルピーとドラゴンの角を手に入れた 「ふぅ、出口まであともうちょっとよ、もうちょっとがんばりましょ」 「疲労度:76.7% 問題はない」 「俺もあともうちょっと持ちそうだ」 「MPも回復したから戦闘は私に任しちゃっていいわよ」 俺たちはまた歩き出した 洞窟出たらゆっくり休みたいぜ そして出口付近に来た そこには誰かがいた 「お前らは!!逃亡者のキョンと長門、そして反逆者の朝倉!!」 コンピ研部長が居た!! 本名なんだっけ? 面倒くさい、コンでいいや 「逃亡罪、反逆罪により、このメカでお前らを抹殺する!!」 「あら、久しぶり。涼宮さん(偽)の部下の中でランクの低いのは今も変わらないのかしら?」 「今はエリートクラスだ!!元エリート!」 「オメーに言われたくねーよ、負け組が」 あのー二人とも?知り合いですか? というか本性が見え始めていますが・・・ 「こいつは俺よりも年下なのにエリートクラスにいた女だ!! なのに涼宮様の命令が気に入らないといって突如消えた!!」 「正直、付き合いきれなくなったのよ。別に辞めるのは個人の自由じゃない?」 このままじゃいつまでたっても終わりそうにないと思った 俺は、適当なところで会話をきり 「どちらにしたってお前の作ったメカとやらに戦わなければならないんだろ?」 と言った。 「そうだった、いけ!!RX-78-2!!」 「ガン**?ってなぜモザイクが!!」 「禁則事項らしいわよ」 「ハルヒ、お前が使うセリフじゃないだろ」 さーて人間型巨大ロボットが出てきたが、 さっきのドラゴンでボロボロになった、 俺たちでは勝てる気がしない 誰か代わってくれ、図書券やるから 「勝率23.7%・・・」 微妙にリアルな数値が出てきたな・・・ 「その確率100%にしてやるわ!!」 無茶いうな! 「オラオラオラオラ!!」 神人の強大なパンチが炸裂 ズカーーン ロボットの腹に巨大な風穴が開いた・・・ 冗談きついぜ・・・ 「自爆装置ガ作動シマシタ。爆発マデ後10秒・・・」 やばい!! こんな洞窟、爆発で崩れちまうぞ!! 「皆出口まで走れ!!」 9 8 7 6 5 4 3 2 1 間に合ってくれ!! 「rairredcigemabomlliks」 ドーーーーン!! ・・・ 助かったのか? 周りを見渡してみると 息が切れた様子の朝倉と余裕の表情のハルヒといつもの無表情の長門が居た あ、黒焦げのコンピ研部長(略称コン)も居た そして目の前には森が広がっていた 続く・・・ 第四話:暴走 爆発の衝撃を間一髪で避けた俺たちは弁当を食べていた どこで用意したのか疑問に思ったが、長門のことだろうどうにかしたんだろ あまり深く追求しないことにした 「キョンくん、キョンくん。」 「さっきもう食べたでしょ」 「まだ何も言ってないにょろ」 「ねぇ、キョン。誰と話してるの?」 「え?」 あれ?さっきまで誰かと会話してたはずなんだが・・・ まったく覚えてない。 気のせいか? 「そこのサンドイッチ取って、お願い♪」 なぜ朝倉がこのメンバーに馴染んでいるんだろ? 偽ハルヒとは違う誰かが裏で操作してるんじゃないか? 「そういえば、そこで伸びているやつはどうするんだ?」 俺はコン(コンピ研部長)を指差した 「問題はない、二日後に目が覚めるように私が催眠術をかけておいた」 「ナイフが刃こぼれしてるわね・・・まあ森を抜ければ村はすぐだし、肉弾戦でがんばるわ」 肉弾戦もできるのか・・・ 朝倉は宇宙人属性は抜けたみたいだが 情報操作以外の能力は以前のままらしい・・・ 「今日はここで野宿すべき、モンスターとの戦いで疲れが溜まりすぎている」 「賛成だわ、洞窟の中のモンスターは大体片付けたみたいだし、洞窟の中にしましょ」 朝倉のセリフを聞いていたが 変な妄想が俺の頭の中に回る・・・ こんな妄想する俺に嫌気が指した 日が傾き黄昏時になってきたころ 岩山の洞窟の中で焚き火をしていたが 朝倉にいないことに気付き 外に出てみた 岩の上に座っていた朝倉は夕日を眺めていた 「ねぇキョンくん」 朝倉は振りかえって言った 「なんだ?」 「インターフェースの時を思い出していたんだけど あの時は恐ろしいことをしたと思っているわ だからあの時言えなかった事言わせて・・・」 「いえなかった事って?」 『ごめんなさい』 「もういいよ、さっきは疑ってばっかりですまなかった」 朝倉から聞くはずもない言葉を聞いた その言葉は人間にしかいえない言葉 一番感情の出る言葉 インターフェースは偽りの笑顔を作ることはできる しかし、感情込めて言葉を言うのはまた別だ そしてインターフェースの時の朝倉は謝罪の一言も言わず目の前から消えた あの時も夕方だったな・・・ 「寒くなってきたな・・・中に入ろうぜ。」 「うん」 今の朝倉は何も悪くない このまま友好な関係が続くことを祈る さて、一眠りし朝になったら 「うりゃーーー!!」 ハルヒの幽波m・・・いや神人に起こされた そして古泉に会うため 森の道なき道を進んでいたのだが モンスターや兵士など全然見当たらず 意外にあっけなく半分ほどまで来てしまった あれ?洞窟の中が難易度強すぎたのか? 「まったく、モンスターどころか人影すら見えないじゃない」 そういえば長門がさっきから無言だった なにかがあれば喋る長門だが 今は恐ろしいほど無口だった、これが普通なのにな 「どうしちゃったのかしら?長門さん?」 「さあな、俺もこの状態は初めてだ」 「エラーの蓄積を確認、強制シャットダウン・・・」 バタッ!! !!?? 何が起きた? 長門が倒れただと!? 「これは・・・インターフェイスじゃないから断定は出来ないけど、 強制シャットダウンという状態じゃないかしら?」 「どういう状態だ?」 長門は普通の人間じゃない 俺たちには判断できない病気みたいな物があるんだろう ここには朝倉しか元インターフェースがいないため 判断を任すしかない 「エラーが予想以上に溜まった時に一時的に機能停止してエラーを取り除く作業を行なうんだけど そのときのバックアップを任されてたのは私なの。」 「今まではそんなことはなかったぞ?」 「エラーが溜まるのは条件がいろいろあるんだけど そのうち一番大きい原因が情報統合思念体にアクセスできないことなの もちろんそれだけでこうなることは少ないわ。他に原因があると思うの」 「他の原因って?」 さっきから短いセリフばっかだな、俺 「人間の簡単な言葉に直すと妨害電波かな? そしてインターフェイスに必ず支給されるのは妨害電波探索装置なの」 名前は普通なんだな・・・ もっと難しい言葉だと思ったのに 「有希の体、私が操ろうか?このままほっとくのも危険だし今日中にこの森出たいし」 「問題はないと思うわ」 「そうしてくれ。その方がこの後色々面倒なことになら無そうだ」 目の前でハルヒが長門の中に入っていくのを見ていた あ、念のために言っとくが今のハルヒは幽霊だ。 変な勘違いはゴメンだからな 「有希の体って操りやすいわね、やっぱり宇宙人のだけはあるわ」 正確には対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだ お、ここに来て初めてフルネーム言えたな、俺 さて、さらに森の奥に進んでいくと さらに森がうっそうとしてきた 樹海を思い出してしまう・・・ というか事の発端も森の中だったな 「この先に巨大生物を確認したわよ!それにしても便利ね、この体」 「警戒してるのか?それで」 「油断しないで、予想よりも大きそうだわ」 朝倉が言う方向をみると高さ50メートルくらいのの木(?)からいくつかの触手が出ていた 気持ち悪!! とりあえず向かってくる触手を斬って斬って斬りまくったが 触手の数は減るどころか増える一方だ 「この触手再生している!」 ハルヒ=長門がそう叫んでいたがあいつには炎が使えないらしい そりゃそうだ、ハルヒはインターフェースじゃない インターフェースの性能を引き出せといっても無理だろう 「弱点とかわかんないのか!?」 「解析中だけど、あと一分くらい掛かりそう!!」 時間稼ぎしろって事か、難しいぞ 「あ さ く ら リョウコ連弾!!」 うぉ!、触手をまとめて蹴り上げて最後にかかと落としだと!? なんという危険な技!!(いろんな意味で 「キョン!!危ない!!」 やべぇ!!大量の触手がコッチ来た!! 俺は必死になって剣を振り下ろした 振った瞬間は目を閉じていてはっきりとは覚えていない 「えっ!?何今の!?」 「なんなの・・・!?」 ハルヒ=長門と朝倉のセリフは驚きの声がはっきり聞き取れた 俺はここに来て閉じていた目を開けた 木から伸びていた触手の残骸と木本体が真っ二つに割れていた ここから木本体まで五メートルはあるぞ? 自分で自分がしたことが信じられなかった しかし間違いのない事実だった 俺は斬撃を飛ばしていた そして次の瞬間笑いがこみ上げてくるのが抑えられなかった 「あっはははははは!!」 「壊れた!?」 「快感だ!斬撃を飛ばすことがこんなに快感だとは!!」 俺は剣を振り回し、何回も斬撃を飛ばしていた その後ははっきり覚えていない・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「こんなのキョン君じゃない!!」 「誰か止めてっ!!」 えーキョンたんが壊れてしまったので僕が解説しますマッガーレ キョンたんは斬撃飛ばしていて、とても危険です でもそんなキョンたんも大好k 「邪魔だ!!」 ザシュ!! ぎゃああああああ!! 「叫び声聞こえたけど誰か斬られたの!?」 「誰も斬られてないわ!ソレよりも彼を止めなきゃ!」 放置プレイですかそうですか。 「再起動の成功を確認、優先行為を彼の静止に移行。」 おや、長門さんが復活したようですよ? 涼宮さん、影が薄いのにさらに薄くなりそうですね 「有機連結の解除を申請」 さらさら・・・ アーーッ!! これからは長門有希という個体が説明する。 話の展開が早いが問題はない。作者の文章力不足のせい 私は目の前で錯乱している『彼』を静止を実行しようとしていた 対象の精神安定度25.125% 肉体疲労度32.576% etc・・・ これらの計算結果から導き出す答えは一つ 計算結果を導き出したわたしは行動にする 「owiasuuykoniisamatinnoykanerawa」 この言葉は特定の読み方をすれば意味のある文字列になる 他の高速言語にも適合するので試してほしい 話が別のルートに逸れてしまった 今のは忘れて・・・ 高速言語を唱えた私は手を変化させ 彼の斬撃を避けながら近づき 金属のように硬くなった銀色の手を振り下ろした カランカラン 金属が地面に落ちる音がする。それは彼の剣だ 彼の剣をすばやく回収し、その場から離れて彼の様子を見た バタッ!! 「終わった・・・」 そう告げると彼の斬撃によって見通しの良くなった森の向こうに出口があるのに気付き 『朝倉涼子』と『涼宮ハルヒ』に向かって 「すぐそこに出口がある」と告げて 私達は歩き出した 次回、涼宮ハルヒの冒険第二章 『古泉一樹の事件』 以下次の章に出てくる(予定の)セリフ 「森さん、よろしくお願いします」 「早く古泉くんを見つけないと死刑だからね!!」 「古泉っ!?」 「血・・・イヤァァァァァァ!!」 「今の私は情報収集能力が普通の人間と同じ」 「ナイフ・・・良いの無いわね・・・」 「待った!!」 「この事件相当暗い人間が犯人でしょうね」 「異議ありっ!」 「ありがとうございます、涼宮さん」 第二章へ続く・・・
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2209.html
もしハルヒが日記帳、もしくはブログなんかを日々つけていたとしたらどんな文章を書いているのか、まぁ確かめる術はどれだけ権謀術数を極めてもゲーデル命題の如く不確定の問題として終わりを告げてしまうのだろうが、まぁここは読者の特権、言論の自由がブラウン運動並みに行き交うこのブログ空間に、徒然なるままに載せてみようかとか考えた末の、結実した成果がこれである。 キョンなら何と言うだろうか?全く悪趣味なことを考えやがる、とこれを唾棄するのかもしれないが、本当にあるなら見てみたい気がする、と彼の中で悪魔の囁きが首をもたげかけたあたりで、古泉にその心情を見抜かれ、「あなたが見せて欲しいと言えば、見せてくれるんじゃないですか?あなたがたは理想形といっても良いくらいの信頼感で、結ばれているのですから」などと保険会社の営業担当者並みの笑顔を浮かべながら訳知り口調で口走り、タダほど怖いものは無いということの証明となりそうなスマイルだなと、キョンが感想を心の中で一人ごちることだろう。 そんなこんなで、キョン口調を真似た一読者のお送りする『涼宮ハルヒの回想』。挿絵も全く無く更に横書きなため読みづらいことこの上ない感じで、誰にも気取られずにスタート! 『涼宮ハルヒの回想』 あたしはよく、寝る前にふと見慣れた天井を見つめながら考え込む癖があった。最近はもうないけれど、去年の今ごろ、北高に塾に行かず独力で合格してから、周りの本当につまらないクラスメイトたちのお別れ会とかいう互いの思い出作りに奔走する、本当にくだらない集まりに行くのも当然断って、ただ、ひたすら何も起きずに中学生が終わっちゃったことへの後悔と、これからあの北高に行くことへの少しの期待感とが混じり合った、感傷にも似た感情を抱いていた三月の下旬頃は、よく、こんなことを考えてた。ていってもそれは、その時まで考え通しだったことをまた、同じように繰り返していただけだったんだけど。 このまま何も起きずに、変な出来事、宇宙人、異世界人、未来人、幽霊、妖怪、なんでもいいのよ、面白そうなものと何も出会わずに、それなりに人生を歩んで、つまり大人になって、定番の家族ドラマみたいに安定した家庭を築かされて、やることと言えば誰かの世話、日常の人間関係の保全、公私問わず社会が押し付けてくるその他諸々の義務、普通の人が普通にやらなきゃいけないこと・・そういった本当につまらないこと、別にあたしでなくても良いような物事しか経験しないで人生を終えるようなことがあったらどうしようって、ほんと、いつものように焦ってた。焦りの気持ちが心の中で一定量を越えると、あたしは布団の中にうずくまって、早く眠りにつこうとした。夢の中くらいでしか、あたしが触れ得る非日常らしい世界が待っていないことを、どこかで知っていたからなのかもしれない。早く寝てしまおう、寝て起きたら、いつのまにか現実が夢に置き換わっていて、もしかしたらあたしのところにも変な出来事が訪れるかもしれないって。今日も何も無かったことの苛立ちを、夢の中で晴らそうって、考えるようになっていたのかもしれない。 そうした夜はいつものようにやってくるし、朝はまた相変わらずの顔で今日も元気に人生を過ごそうと励ましてくる。外へ出ても拡がっているのは、次元断層の隙間なんて1ミクロンもない当たり前の世界、平凡な日常。空を見てもアダムスキー型UFOの群体なんて飛んでないし、ただ、どこかの唱歌の歌詞にありそうな「雲ひとつなく晴れ渡る青空」が、のっぺりとした顔で眼前に広がっているだけ・・。あたしじゃない誰かの元に、ちっとも普通じゃない、とっても面白い出来事が天賦人権のように与えられている代わりに、あたしのところには安全で、安定した、時間の相対性なんて微塵も感じさせないような絶対的で堅牢な平和が、要りもしないのに日々あたしの上に降り注いでくる。あたしの中学生活の三年間は、そうした絶対的秩序と言う刑務所からの大脱走のために、そのほとんどを費やされてきたって言っても、ほんと、言い過ぎじゃないわね。それくらいに、あたしは「いろんなこと」をやっていたから。ネットで評判になってた、一枚ウン千円もする霊験あらたかなお札を、親父に小遣い前借りして三ダースほど購入して、教室の窓全てに貼ってまわったり、七夕の日に校庭で、「あたしはここにいる」って意味の、地球外生命体にも見えるくらい大きな絵文字を石灰で描いてみせたり・・。そう、このとき、校庭にやってきた男・・あれ、何て名前だったっけ?・・北高の制服を着た、あたしの絵文字製作事業を手伝ってくれた男が、あたしの中で唯一の「おもしろいこと」への鍵だった。あいつは未来人、宇宙人、超能力者、異世界人について、何故だか知らないけれど知っているように思えた。ただ、あたしみたいな中学生のくだらないたわ言を、そこらへんのくだらない大人やクラスメイト達みたいに言葉面の上で同意しておいてあたしのことを避けるような態度には、少なくとも思えなかった。 なにより、あたしの本当に端から見たらばかげてる絵文字製作を、あの男は無駄口叩きながら、でも、真剣に手伝ってくれた。あたしは最初、手伝ってくれるとは思っていなかった。当然でしょ?いきなり誰だかわからない女の子に、そんなことを手伝えっていわれたら、普通は親御さんを探すか、家は何処かとか、聞いてくるはずよね。もしくはあたしの言葉に苦笑いして、じゃあねと手を振るか、そんなことしても変わるわけない、宇宙人なんて、NASAの丁稚上げで、未来人に至っては、ネタ的に面白いから、小説の物語を進めるためのファクターとして流行しただけなんだよって、日常的な言説を持ち出して説教したりするのが、考えうる一般の人の対応だと思うの。 あの男は、あたしの言葉を受け止めるのでもなく、説教するわけでも、話題をそらすわけでもなくて、ただ一緒に、世界を変える行動を手伝ってくれた。それがあたしにとっては、一番嬉しかったことだった。 あたしは、世界が面白くなる行動を起こすんだって思っていた。世界に、あたしはここにいるんだって、訴えたかったのよ。でも・・もしかしたら、世界に訴えたかったんじゃなくて、ただ、誰かと一緒に、「何か」をしたかっただけなのかもしれない。「あたしの世界」は、あたしだけじゃ変わらない、誰かと一緒に、何かをやることで面白くなるのかもしれないって、あの数十分間の間に、少し思った。 それが、SOS団を作る素地になっていたのかも・・しれないけど、 よくは分からないわ、北京で蝶が羽ばたいたからなのかも、しれないしね。 あのときの感じを、信頼してよかったなって、ほんと、今なら言える。あのときの感触を信じて、わざわざ山の上にある県立の普通レベルの北高にいったからこそ、あたしは萌え記号の塊みたいなみくるちゃんに会えたし、無口キャラで眼鏡っ娘の有希とも会えた。入学してまもなくの五月に転校してきた謎の転校生の古泉くんとも、北高に行ってなかったら会えるわけも無かっただろうしね。まぁ、キョンは別になんでもないんだけど、あいつがぐだぐだ垂れた説教が無かったら創部っていう手段を考え付かなかったかもしれないし、SOS団結成も無かったのかもしれない・・なんていうのは、ちょっと、いえ、かなり誉め過ぎね、キョンはただの団員、それ以上でも以下でもないんだから。SOS団が結成されたのは必然なのよ、シュレーディンガーの猫みたいに観測者の存在なんかで確率論に堕さない、これだけは変わらない、唯一つの真実なの!神様がサイコロを振ろうともね! ――三月下旬、SOS団団長涼宮ハルヒ、記す。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/894.html
涼宮ハルヒの追憶 chapter.6 ――age 16 ハルヒは気付いていた。 でも、それを言ったらSOS団はなくなってしまうかもしれない。 そしたら、ハルヒ自身が楽しいことは行えなくなってしまう。 ハルヒはそれにも気付いていた。 そもそも、ハルヒの鋭さからいったら気付かないほうがおかしいんだ。 長門は知っていたのだろうか。 朝比奈さんも知っていたのかもしれない。 古泉だって本当は分かっていたのかもしれない。 そう、俺だけが気付いていなかった。 のんべんだらりと日々を過ごし、SOS団にそれとなく参加する。 それの繰り返し。 俺は何をしていたんだ? いいんだよな俺は? 傍観者でいていいんだよな? その夜、そんなことをベッドに入り考えた。 あまりに色々なことがありすぎて、落ち着くことができず、寝たのは明け方だった。 学校へと向かう上り坂。 最近の不眠の影響は俺の肩を上から押さえつけた。 俺の体調は最悪を超えて、すでに限界を迎えていた。 いつ倒れてもおかしくない、本当だったら一日中寝ていたいぐらいだ。 だが、家に寝ていることが一番の苦痛だってことは俺は分かっていた。 それは、俺の望む傍観者なのかもしれない。 でも、それでは一向にこの問題は解決せず、俺の目の前をちらつくんだ。 俺にはこんだけの経験を踏んで分かったことがある。 今回の事件は俺が解決することはおそらく不可能だ。 そんな俺が唯一できること。 それは、あの部室でみんなが帰ってくることを待つことだ。 そして、思いを馳せればいい。 みんなの苦しみを少しでも感じていたいんだ。 その思いの通り、俺は放課後部室へ向かった。 夕方の部室に哀愁を感じながら、パイプ椅子を取り出して、どっと座り込んだ。 後ろに飾ってある朝比奈さんの衣装達。 デフォルトのメイドさんに、映画祭の時のウェイトレス衣装や呼び込み用のカエルスーツ、 野球に出たときのナース服。 どれもすでに必要の無いものとなっていた。 その気持ちはあの時の公園に似ていた。 長門の指定席は空席のままで、目の前にはハンサムスマイル野郎もいない。 団長様も椅子にふんぞり返ってはいなかった。 でも、俺は待たないといけないんだ。 そのまま、俺は一時間ぐらいSOS団の思い出をめくっていた。 少しうつらうつらきていた頃、部室のドアが音を立てて開けられた。 ビクッと身体を震わせ、ドアの方を見た。 「ハルヒ……」 そこにはハルヒが真剣な顔をして立っていた。 春だというのに顔は汗ばんでいて、髪が顔に張り付いていた。 「キョン! 古泉君が……」 そこまで言うと、ハルヒはその場に崩れた。 古泉、お前は大丈夫だよな? どうしたんだよ? 「ハルヒ!」 俺はハルヒに急いで近寄り、ハルヒの肩をつかんだ。 「どうしたんだ! 古泉がどうしたんだよ?」 「古泉君が、怪我で、分かんないけど大怪我で病院に運ばれたって」 予想が当たってしまった。 「死ぬわけじゃないんだろ? どこの病院だ!」 「前にキョンが入院してた病院よ」 ハルヒはやけに小声で話した。 「いくぞハルヒ! 古泉のとこに行ってやらないと!」 「行きたくない」 「え?」 「行きたくない」 「なに言ってんだ! 古泉を見舞いに行かなくていいのかよ!」 「じゃあ、手つないで?」 ハルヒはうつむいたまま、俺に顔を見せようとしない。 「分かった。俺の手ぐらい貸してやる、だから古泉のところにいこう。 俺達以外の最後のSOS団団員なんだ。見守るのは団長の役目だったんじゃなかったのか?」 「うん」 「ほら、手を貸せよ」 そう言って、俺はハルヒの手を力強く引っ張った。 ハルヒの手はとても冷たかった。 「ちょっと、痛い! 強く引っ張りすぎよ!」 ハルヒは立ち上がると、俺に精一杯の笑顔を見せた。 「まったく、キョンのくせに生意気よ! 団長様が手をつないでやろうっていうのに、どういう考えなのかしら!」 と、ハルヒは笑顔から怒り顔にフェイスチェンジした。 「古泉君をお見舞いするわよ! 早く!」 そう言うとハルヒは突然走り出した。 そして、ハルヒは振り返って心からの笑顔で――そういう風に見えた――俺の手を引っ張った。 「待てよ、急に何なんだ! さっきのはなんだったんだよ」 「どうでもいいでしょそんなこと!」 そうして俺達は学校を出た。 俺とハルヒは手を繋いだまま古泉の待つ病院へと向かっている。 ひたすら無言で、春だっていうのに手が汗ばんでいた。 どこか気恥ずかしくて、手を離してしまいたがったが、 俺には手を繋いで欲しいと言ったハルヒの気持ちも少しだけ分かった。 ハルヒは怖いのだ。今、ハルヒははっきりではないが自分の能力に気付いている。 長門も朝比奈さんも消えてしまっていた(ハルヒにとっては転校と、嫌われた)。 それを自分のせいだと思っている。 そして、今回の古泉も自分が悪いんじゃないかと思っているのだろう。 不可抗力なのはハルヒも分かっているはずだ。 でも、それでも、責任を感じてしまっているのだろうか? 俺はそんなハルヒの冷たい手を温めているのが少しだけ誇らしかった。 俺は繋いでいる俺の左手を通して、ハルヒにかかる苦しさと寂しさが少しでも伝わって欲しかった。 「ねえ、キョン?」 ハルヒは俺を見つめてきた。 「なんだ?」 「古泉君は大丈夫よね? いなくなったりしないわよね?」 「不吉なことを考えんな、古泉なら大丈夫だ」 「そうよね」 そうだよ。それに、そんな暗い顔はお前には似合わねーんだよ。 どうすれば、元のハルヒに戻ってくれるんだ? 「ハルヒ、顔が暗いぞ、お前らしくもない」 「暗くなんかないわよ!」 ハルヒはムスッとした後、そのままうつむいたまま歩き続けた。 痛い。苦しい。 ハルヒは明らかに無理をしていて、それは鈍感な俺でも分かるほどだ。 「大丈夫だ」 俺が言うと、ハルヒは返事もせず黙って歩き続けた。 ハルヒは俺の手を強く握った。 病院に到着すると、俺は受付で看護婦さんに古泉のことを聞いた。 怪我は主に左足の大腿骨骨幹部(膝から上の太い骨)骨折で、 高所からの転落や高速度での自動車事故が原因で起こる重大な損傷らしい (らしいというのも、看護婦さんも原因がわからないみたいだ)。 その他にも踵骨(かかとのことだ)にヒビが入り、靭帯も損傷しているみたいだ。 運良く血管や神経の損傷は免れたみたいで後遺症が残ることはないらしい。 骨の位置を直す緊急手術はすでに行われていて、 この後は歩行のためのリハビリテーションが始まるらしい。 まあ、つまり、命に別状はなかったわけだ。 「よかった、古泉君なら大丈夫だと思ってたわ!」 ハルヒはほっと胸を撫で下ろし、やっと笑みを見せた。 「さっきまで暗い顔してたのはどこのどいつだ。 言っただろう、古泉なら大丈夫だって」 「バカキョンに言われたくないわ!」 ハルヒは満面の笑みで俺の手を引っ張った。 「行きましょう! 古泉君が待ってるわ!」 「まったく、お前は調子がいいな」 よかったよ。ハルヒが笑顔になって。 「やれやれ」 俺とハルヒは急いで古泉の寝ている病室に向かった。 「ハルヒ、すまんがもう手は離してくれないか?」 そう俺達はここまでずっと繋いだままだった。 「分かってるわよ! キョンが寂しそうだったから繋いであげていたのに! こっちの気持ちも考えて欲しいものね」 ハルヒは手を腰に当て病院だというのに怒鳴り散らした。 逆だろとは言わないでおこう。あとが怖そうだ。 看護婦さんから聞いた病室は俺がかつてお世話になったところだった。 無駄に広い病室でハルヒが一緒に寝泊りしてくれていたんだっけな。 ノックしてドアを開けた。 「古泉入るぞー」 俺はできるだけの笑顔で病室に入った。古泉の真似だ。 古泉はベットに横たわっていた。 いつもの如才のない笑みはなく、ただぼんやりと天井を見上げていた。 病室は簡素なもので、ベッドと小さなテーブルがあった。 階は最上階で、風の通りもよかった。 部屋の雰囲気は長門のそれと似ていて、無機質に感じられた。 「おい、古泉! 人が来たのになにぼーっとしてんだ!」 古泉はこちらを見ると、 「あ、お二人とも無事でしたか。よかった」 と言って、困ったような笑みを見せた。 「なにが無事でしたかだ、お前のが無事じゃねえだろうが」 「そうでしたね。当分動けそうにはありません」 「古泉君、安心して、副団長の座は帰ってくるまで誰にも明け渡さないから」 これがハルヒなりの最高の気遣いなのかもな。 「それはありがたいことです」 古泉はハルヒに微笑みかけた。ハルヒはそれに応じた。 だが、古泉の笑顔はいつもと違い、引きつっているように見えた。 「高いところから落ちたんだってな。受付の看護婦さんから聞いたよ。 『子供とホモは高いところが好き』って言うのは本当だったんだな。 都市伝説かと思っていたんだが」 重い空気を変えようとできるだけ鉄板ネタから入ることにした。 「ホモは余計です。僕は同性愛者ではありませんよ。 純粋に女性のことが好きです」 「古泉の女性の趣味って気になるな」 と俺は気にもならないことを言った。 でも、沈黙のままでいるのは苦しすぎた。 「女性の趣味ですか。そうですねえ、涼宮さんみたいな人ですかね」 「と、突然何を言い出すんだ! いるんだぞハルヒはここに!」 「みたいな人といっただけで涼宮さんではありませんよ」 古泉は少し困ったような表情を浮かべた。 「そ、そうよ! 団員同士の恋愛は硬く禁じられているのよ!」 ハルヒは腕を組みながら、顔をあさっての方向に向けて言った。 というか、なんだその反応はハルヒに恥ずかしいなんて感情あったのか? そんなことを思っていると、古泉が俺を真っすぐ見据えていることに気付いた。 「ん、どうした?」 「いえ、なんでもありません。それはそうと、涼宮さん。 一階に行ってジュースを買ってきてくれませんか? 団長に頼むのも悪いのですが、お願いします」 「えー、なんで? キョンに行かせればいいじゃん。 雑用係はキョンって決まってるのよ?」 古泉は俺と二人で話したがってる。 おそらくハルヒには話せないことなんだろう。 古泉がハルヒにお願いすることなんてありえないし、 それに古泉はさっきから俺をずっと見つめ続けていた。 「お願いします」 古泉は強く言った。ハルヒに対する初めての意見だ。 「しょ、しょうがないわね! 今回だけよ! 古泉君が怪我してるからだからね!」 「すまん、ポカリ頼む」 「ちょっと! なんであんたの分まで買ってこなきゃならないのよ!」 「お前らの分は俺がおごってやるから、それで勘弁してくれ」 「すみません、僕もポカリスウェットでお願いします」 「もう!」 俺はポケットに入っている財布から千円札を抜き出し、ハルヒに渡した。 ハルヒは俺から引きちぎるように奪って、肩を怒らせながら病室を出て行った。 「行ってくるわよ!」 「やれやれ、ジュース買いに行かせるのにどれだけかかるんだよ」 「まったくです」 古泉はデフォルトの笑顔を見せた。 「時間がありません、始めましょうか。 涼宮さんが帰ってくるまでに話し終わらなければ」 「やっぱりか。なにか話したそうだったもんな」 「やはり分かりましたか。 でも、あなたが分かったということはおそらく涼宮さんも分かったことでしょう」 「そうだろうな」 そして、古泉は天井を見つめたまま話し始めた。 「まず、あなたには謝らなければなりませんね。 部室で突然殴りかかって申し訳ありませんでした。 あの時は僕も精神的に限界だったんです」 「いや、それはいい。俺も悪かったからな。 それはそうと、お前が精神的に限界とは珍しいな何かあったのか?」 「荒川さんが亡くなられました」 古泉はそう、事務的に伝えた。 「は? 荒川さんが? どうしてなんだ?」 「理由は僕と同じです。高所からの転落です。 ……というのは半分は本当で、半分は嘘です」 「で、本当の理由はなんなんだ?」 「少し長くなりますが」 「かまわん。続けてくれ」 古泉は白い天井を見つめたまま息をふうっと吐き出すと、 ゆっくりと一語一句聞き取れるよう話した。 「閉鎖空間でのことです。 その日涼宮さんの機嫌は大変悪く、最大級の閉鎖空間が生まれました。 そうですね、大きさとしては関西全域といったところですか。 その日というのは、長門さんが消えた日のことです。 僕達『機関』のものはほとんど総出で『神人』狩りに行きました。 当初はいつも通り、アクシデントも無く無事に終わると、 おそらく全員が思っていたことでしょう。規模が大きいだけだと。 閉鎖空間内に入るとその楽観的な思考はいっぺんに吹き飛びました。 いつもの灰色の空間ではない、薄暗く、『神人』だけが光るものでした。 ただ、それだけなら予定通り『神人』を倒してしまえば終わりです。 でも、そうはいかなかったんです。 『神人』は僕らを排除するかのように、暴力性を増し、明らかに強くなっていました。 安易に飛び込んだ者は叩きつけられて、死にました。 僕の隣には荒川さんが浮かんでいました。 荒川さんの顔は見て取れるほど怒りに満ちたものでした。 そして、僕自身も怒りというか、憤怒というか、 そうですねやるせなさと無力感、突撃してはやられていく仲間たちを見続ける悔しさ。 僕達『機関』の者はいわば戦友のようなものです。 そういえば分かってもらえますか?」 古泉はここまで話すと、俺の方を見て微笑んだ。 俺は古泉の語るその話に圧倒されていた。そこには明らかな意思があったからだ。 「ああ、分かるよ」 古泉はまた天井を見つめ、続けた。頬には涙がつたっていた。 「僕は強くなった『神人』に対して恐怖を感じ、その場から動くことができませんでした。 しかし、荒川さんは仲間を助けるために飛び込んでいきました。 無常にも『神人』によって一撃で叩き落され、底の見えない暗闇へと落ちていきました。 僕はそれをただ見つめていました。もう、赤い球体の数は二、三ほどのものでした。 その直後、僕は激しい嘔吐感に襲われ、吐きました。 頭がふらふらして、そのまま意識を失いました。 そして目覚めると、この病院だったわけです」 「そうか」 「後で聞いた話によると、その時残った者は閉鎖空間内から脱出したそうです。 そして僕も助けられ、一命を取り留めたわけですね。 閉鎖空間は拡大する一方でした。 あなたと部室で会った後、僕は再び閉鎖空間に向かいました。 『神人』が弱体化していたら、という淡い期待を抱くことで自分を保ちました。 僕はあの時見た『神人』が頭の中でフラッシュバックして、僕の中に居続けました」 古泉はそこでまた息を一つふうっと吐き出した。 「それは怖かったですよ」 古泉は俺を見て笑顔を見せた。 「閉鎖空間に入ると、前回と同じ、薄暗く、どこか陰鬱とした空間が僕を包みました。 『神人』は暴走を続けていました。 ただ、あなたが見たときと違い、街があるわけではありません。 『神人』は破壊の対象がないため、街を破壊するのではなく、 空間自体を破壊しようとしていました。 あまりの既視感に僕はまた意識が朦朧としてきていました。 どうしようもありませんでした。 僕はまた意識を失っていき、深い、深い、底へと落ちていきました。 薄れゆく意識の中で、その空間に僕達とは違う存在が飛び回っていることに気付きました。 『神人』でもなく、『機関』のものでもない別の存在がね。 あれはなんだったんでしょう。 そして僕はそのまま、底の見えない暗闇と同化していきました」 「これで僕の二日間にあった出来事は終わりです」 「そうか」 「また気がついたら病院にいました。 僕は何もできませんでした。僕は無力なんです」 「古泉、お前は無力なんかじゃないぞ。 何もしないでただぼんやりとしていた俺なんかよりずっとな」 そうなんだ、古泉は守ろうとしていた。 俺は何をしていた? 長門からただ逃げて、朝比奈さんに抱きしめられても何も答えられず、 ハルヒが苦しんでいても何もしてやれない、最低の男だ。 「ありがとうございます。その一言で僕は救われます」 古泉は笑った。俺はどんな顔をしてる? 「このぐらいでいいなら何度でも言ってやるぞ」 「もういいですよ。あなたに褒められるのもこそばゆいですから」 と言って、古泉はまた笑った。 「時間が無いので、次にいきましょう。今までのは僕の話です。 これから話すことは涼宮さんのこと、そしてSOS団についてです」 「頼む、俺は知りたいんだ」 「分かりました。では今回の事件についておさらいしましょうか。 現在、涼宮さんの能力は収束に向かっています。 理由は分かりません。残った『機関』の者が調査しています。 閉鎖空間は今もって存在し、強靭な『神人』によって、 空間は指数関数的に拡大し続けています。 長門さんを始めとするTFEI端末は減少し続けています。 朝比奈さんら未来人も一斉に帰還しました。 これらから分かることは何でしょう?」 「何も分からん」 実際に分からない。なぜハルヒの能力が収束しているのかだって? 「実は昔からいろいろな疑問が生じているのですよ。 なぜ涼宮さんはあの能力を持ち、そして行使することができるのか。 そして能力の元となるエネルギーはどこから来ているのか。 前にも言いましたよね。この世界の物理法則は保たれたままだと。 物理法則で一番大事なものはなんでしょう?」 こんなの俺でも知ってる。 「質量保存の法則かな」 「そうです。この世界にあるものは保存されるという、 ごく単純な理論がすでに破綻してしまっているのです。 では、涼宮さんがどこからエネルギーを持ってきているのか。 昔から『機関』内では論争が続いていました。 ある人は涼宮ハルヒがすでに内在していたものだと言い、 またある人は涼宮ハルヒは現人神なのではないかと言いました。 そして僕はそのほとんどがくだらない、馬鹿げたものだと考えていました。 人は人である以上、神のことを考えることはできないからです。 ですが、ただ一人、そう荒川さんの意見だけが僕の心に引っかかりました。 涼宮ハルヒの能力の元はこの世界とは違う、 パラレルワールドから引き出されたものではないか? 『機関』内では無視されましたが、 僕はこの意見がとても気に入りました。 『機関』がほぼ壊滅し、そして能力が収束していっている今なら、 この荒川さんの意見が正しいものだったと僕は声を大にして言えるでしょう」 「俺にはまったく分からないが」 古泉は俺を無視して続けた。 「パラレルワールド。つまり、異世界のことです。 この世界とは時間も空間も違う存在。 これだと、全ての辻褄が合ったんですよ!」 古泉は少し興奮しながら言った。 俺は妙に『異世界』という言葉だけが気になった。 それ以外は全く理解できなかったが。 「どう辻褄が合うんだ?」 「まず、これを裏付ける証拠として、 長門さんが涼宮さんの能力が収束している理由が分かっていないのが挙げられます。 宇宙的存在であるはずのTFEI端末が分からないもの、 それはこの宇宙外の話なのではないでしょうか? 次に、朝比奈さんもそうです。 未来が分かるはずの朝比奈さんが帰らなくてはならなかったのでしょう? 帰った理由は簡単です。時間をワープすることができなりそうだったからです。 そもそも、タイムジャンプはこの時代の科学者ですら否定的な意見です。 ではなぜ、可能だったのか? 涼宮さんの能力の発現によって、 タイムジャンプが可能なほどの時間の揺らぎが生じたと考えるのが妥当でしょう。 そしてその能力が収束している、つまり時間の揺らぎは減少していったのでしょう。 そのため、緊急で帰還することを選んだのでしょう。 ここに矛盾があります。未来が分かるはずの未来人が帰ったのか。 それはこの後起きることがこの時間軸とはまた別の時間軸の出来事なのでしょう。 つまり、異世界での出来事なのではないかと」 「理屈は分からんが、 とにかくその異世界というのはハルヒが望んでいたことなのは確かだ」 「そうです。それが第三の証拠です。 未だ現れない異世界人。これも前からの疑問ですね。 でも、僕はおそらく異世界人であろう人に会いました」 「さっき言った、閉鎖空間で見たって人か」 「その通り。閉鎖空間に他人がいるのはおかしな話ですよね。 そう考えると、あれは異世界人だったとしか思えないのです」 「なんでいるんだろうな?」 「これも推測ですが、こちらの世界に来ようとしたのではないかと」 「ハルヒに会うためか?」 「わかりません。ただ、分かることが一つだけあります。 涼宮さんが能力を発するたびに、 この世界のエネルギーは増え、あちらの世界のエネルギーは減少します。 これは何を意味するでしょう?」 「なんだろうな」 「あちらの世界が不安定になる、これだけは明らかです。 今回の能力の収束はこれに由来するのではないか。 あちらの世界が不安定にならないように、涼宮ハルヒに対抗してきた。 こう考えてみてはどうでしょう。 そして、こちらの世界とあちらの世界を繋ぐもの。 それは、閉鎖空間なのではないかと。 今回の閉鎖空間は今でも拡大を続けている、史上最大のものです。 そのためあちらの世界と繋がり、異世界人がやってきたのではないかと、 そう僕は考えるわけです。以上です、長くなってすみません」 「いや、いいよ。全く分からなかったが、妙に説得力があった」 そう、俺は全く分からなかった。 だが、一生懸命に語る古泉はとても格好よく見えたし、 俺はただ相槌をうつだけだったが、なんとなく伝わった気がした。 「あ、あと一つこれは涼宮さんには言えませんが、 僕は彼女を非常に憎んでいます。 それも殺してやりたいぐらいにね。 でも、涼宮さんは悪くないんです。だから、苦しんです。 閉鎖空間は彼女の心そのものです。 そして、僕達を排除しようとしたのも、殺そうとしたのも彼女です。 僕達『機関』の戦友たちは涼宮ハルヒに殺されたんです」 古泉は俺をじっと見つめながら笑った。 俺はそれに恐怖を感じ、狂気を感じた。 静まる俺と古泉の病室に、外から女性の声が突然聞こえた。 「あの、中入っても大丈夫ですよ?」 ガランッ。 何かが落ちる音共に、人が駆けていく音が遠くなっていった。 もしかして。 「もしかして、ハルヒが聞いていたのか?」 「そうかもしれません。でも、これでいいのかもしれません」 「バカ野郎! 殺したいなんていわれて平気でいられるやつがいるか!」 「早く追いかけないんですか? 涼宮さんは僕ではなく、あなたを待っているはずですよ」 古泉は嫌な笑みを浮かべた。 「分かってるよ! くそっ! どいつもこいつもなんなんだ!」 病室のドアを開けると、角のへこんだポカリスウェットが3つ転がっていた。 みんなで飲むつもりだったんだろう。 俺はその一つを病室のテーブルに置き、 古泉に「早く直せよ。ありがとな」と言って病室を飛び出した。 病院で走るわけにもいかず、歩いてハルヒを探した。 一階まで降りると、ハルヒは自販機の横のベンチに座っていた。 顔を両手で覆っていた。 近づくと、肩を震わせ、声にならない声で泣いていた。 「聞いてたのか?」 「……うん」 ハルヒはひどく詰まった声で答えた。 「どうしよう、古泉君にも嫌われちゃった。もうSOS団は解散ね」 「そうかもな」 俺はハルヒの右側に座って、地面を見つめた。 「あたしね、あたしだけで生きていけるように、頑張っていたの。 でも、みんなと出会って、楽しくなってた。 今まで全部一人でやって生きてきたのに、みんなといるのが楽しくなってたの。 でも、でもね。あたしは大切なものができるのが怖いのよ。 大切なものはいつか別れる時来るの」 いつか別れる時が来る。 俺は自分の中で繰り返した。それは朝比奈さんが話したことでもあった。 「だから、あたしは友達なんて作らなかった。 それより一人で生きていったほうが楽だし、強くなれるもの。 その分努力もした。でも、あたしは寂しかったのかもしれない。 宇宙人とか未来人とか超能力者とか全部人ではないものを求めてた。 だって、その人たちとは別れが来ないかもしれないでしょ? 楽しいだろうなってのは本当。でも、それは表面上の理由。 あたしはまた手に入れて、また失った」 ハルヒ。言ってくれるのは嬉しいんだ。 でもな、ハルヒ。俺はまだお前を受け止める自信が無いんだ。 「あたし、古泉君に殺されるのかな? あたし、いつのまにか殺人者になってたのね」 ハルヒは泣き続けていた。ハルヒの泣き顔はとても綺麗だった。 ハルヒ。ごめん、何も言えなくて。 ハルヒ。 「バカ。お前は殺されないし、殺人者でもねーよ」 「キョンが言ったって、意味が無いわ」 確かに気休め程度のクソみたいに陳腐な言葉を並べて、 ハルヒを慰めることができるか? できねえよ。 「分かった。何も言わない。 ただ、ポカリスウェットは飲んどけ。 時間が経って冷えるとまずくなるからな」 俺がへこんだ缶を手渡すと、ハルヒは力なく受け取り、膝の上で持った。 俺はもうひとつの缶を開け、一気に飲んだ。 そして左手でハルヒの右手を取り、ゆっくりと握った。 ハルヒの右手は震えていて、ひどく冷たかった。 二十分ぐらいたっただろうか、 突然ハルヒは立ち上がり、ポカリスウェットを一気に飲み干した。 「ぷはっー!」 お前はおっさんか、というツッコミをする暇もなく、 「帰るわよ! キョン! こんなとこいても無駄だわ!」 「おい、突然どうしたんだ?」 「帰るって言ったのよ、聞こえなかったの? もう、家に帰りましょ。暗くなってきてるし」 「あ、ああ。じゃあ、帰るか」 戸惑う俺を横目にハルヒは缶用のゴミ箱に空き缶を投げ入れると、 俺の手を引っ張った。 病院を出ると、空には月だけが輝いていた。 俺達を照らすのは街灯の光と、行きかう車、建物から漏れる白い光だ。 隣にいるハルヒは泣いてすっきりしたのか、急に機嫌が良くなっていた。 SOS団でのハルヒと同じはずなのに、不自然なのはどうしてだろう? もうすぐ駅に着く。その間俺達は手を離さなかった。 無言のまま歩き、つながっている手だけをしっかりと握った。 春の夜風が心地良い。肌寒いぐらいのそよ風が頬を撫でた。 もうすこしでさよならだ。 虫達も息を潜める、そんな静かな深い夜だった。 突然、後ろから大きい足音が聞こえるまでな。 それは一瞬のことだ。 突然に後ろで人が走る音が聞こえて俺が振り返ると、 そいつはやたらと大きなナイフを胸に構え、俺たちに突進してきていた。 「※※※!※※※※※※※※※?※※※※※※※!」 訳の分からない奇声を上げながらものすごい勢いで突っ込んできた。 「危ない! ハルヒ!」 「え? なに?」 俺はハルヒを引っ張り、倒れるようにしてそいつの一撃を避けた。 なんなんだ? 俺達はいつ暗殺者に狙われるようになったんだ? 避けられた謎の暗殺者はすぐに切り返し、俺たちを見つめた。 かなり大きい男? 「※※※※※?」 訳が分からない。何語を喋ってるんだ? 俺の英語の成績ぐらい調べといてくれ。 とりあえず立ち上がらなきゃ! このままだと逃げられん! 「※※※!」 またそいつは突っ込んできた。まずい! 逃げられん! しかし、ハルヒがナイフを突き刺そうと突っ込んできた暗殺者の手をタイミングよく蹴り、 ナイフを吹き飛ばした。 そのあとハルヒは左足で暗殺者の膝辺りを蹴り、そいつは横に倒れた。 「まったく! その程度であたしを狙うなんてバカ丸出しだわ!」 ハルヒは立ち上がるとそう叫んだ。 だが、そいつもすぐに立ち上がり、背中からさらに大きなナイフ? いや、もう剣といってもいいぐらいの長さの刃物を取り出し、 ハルヒに向かって一直線に刃物を突き立てた。 まずい、近すぎる。避けきれない! ハルヒをかばおうにも間に合わず、目をつむってしまった。 目を開けると、ハルヒに突き刺そうとしたナイフを右手でつかみ、 手を血だらけにした、短髪の少女が立っていた。 「長門、だよなお前?」 そう、そこには消えたはずの長門が立っていた。 「有希なの?」 「そう」 暗殺者はガクガクと震えだし、ナイフの柄から手を離した。 「今は時間が無い。事情の説明は後」 「情報連結解除開始」 そういうと、あの日と同じようにナイフがサラサラと分解していった。 「※※※!※※※※※※!」 そいつはいきなりうめき声のようなものをあげると、長門を睨み付けた。 長門は高速で何か呪文のようなものを呟いた。 「――――パーソナルネーム―――を敵性と判定。 当該対象の有機情報連結を解除する」 「※※※※※※※※※※※※!」 「んっ!」 目の前で謎の言葉の言い合いが行われていた。 長門はその内容が分からなくて、暗殺者は何語かも分からなかった。 が、突然暗殺者は消え、俺は呆然とその様子を眺めていた。 「逃げられた」 長門は俺達のほうを振り返り、そう言った。 右手からはおびただしい量の血が流れ出ていた。 よく見ると、少し悔しそうにも見えた。 「有希!」 突然ハルヒは長門に抱きついた。 「有希! どうしたの? 転校したんじゃなかったの? 大丈夫なのその右手」 そういうとハルヒは頭のトレードマークを解いて、長門の右手首を縛った。 「これで、少しは血が止まると思うわ」 ハルヒはにっこりと笑って長門を見つめた。 「ああ、有希。ありがとう、あたしを助けてくれたのよね?」 「そう。右手の損傷もたいした事無い。今、直す」 長門はまた高速で呟くと、長門の右手は徐々に塞がっていった。 「すごい!すごい! どうやったらそんなことできるの?」 ハルヒは目を輝かせて長門を見つめている。 そんなハルヒと長門を見ている俺は無様に尻もちついたままなんだがな。 って、おい! ハルヒの前でそんなことやっちゃっていいのかよ! 「問題ない。あなたたちを守るために再構成された。 記憶も何もかも全てそのままで」 「有希!」 ハルヒはまた長門に抱きついた。 「よかった。有希が戻ってきてくれて。 でも有希は人間じゃないのね? もしかして宇宙人?」 「そう」 「当たりね。その右手首に付けてるやつはあげるわ! あたし達を守ってくれたお礼よ!」 「分かった」 ハルヒに抱きつかれてる肩越しに、長門は俺を見つめた。 「なんだ?」 「そろそろ」 「なに―――」 「キョン君ー! 涼宮さーん! 無事でしたかぁー?」 遠くから愛らしい声が聞こえた。 やれやれ、そういうことか。この団専用のエンジェルがお出ましだ! 俺は立ち上がり、手を振ってその声に答えた。 ハルヒもその声に対して大声を上げ、手を振って答えた。 朝比奈さんは息を切らしながら俺達のところにたどり着くと、 「よかったぁー。殺されちゃうかと思いましたよおぉ」 と言って、可憐な涙を拭った。 「ばかねぇー。あんなんであたしが死ぬわけ無いでしょ?」 ハルヒはそういって、朝比奈さんを抱きしめ、頭を撫でた。 顔は困ったような、嬉しさを隠せない様子だ。 「でもでもぉ。本当に危なかったんですよぉ? 長門さんが遅かったらって思うと……」 「大丈夫よ。あたしはここにいるし、キョンもあそこでぼけーっと突っ立ってるでしょ?」 いや、普通に立ってるだけだがな。まだ動悸はおさまらないが。 「みくるちゃんは未来人なのよね?」 「そうです」 って、おい! 朝比奈さんまで認めてるんだよ! 古泉の話をどこまで聞いたか分からんが、ハルヒも信用しすぎだろ。 「てことは、古泉君は超能力者ね。キョンはただの一般人ぽいし」 まあ、俺もすぐに気付いたがな。 それより聞いておかなきゃならないことがあるな。 「ところで長門、さっき襲ってきた人は何者なんだ? ここの国の人ではなさそうだったが」 俺は平然と立っている長門に尋ねた。 「この宇宙ではない宇宙から来たもの。 通俗的な用語を使用すると、異世界人にあたる。 この宇宙空間には存在しないため、我々情報統合思念体も把握できていなかった。 でも、今回対象はこの世界に突然に現れ、明らかな意思を持って行動した」 「明らか意思か」 「そう、彼の意思は『涼宮ハルヒを殺す』ことだけ」 ハルヒは朝比奈さんとじゃれあっていたのをやめ、長門の話に集中した。 「そうなんです」 朝比奈さんは唐突に割り込んだ。 「この時間軸上に存在しないはずのことだったんです。 でも、突然現れて、緊急に出動要請が出たんです。 涼宮さんの命が狙われているって。今回は光線銃の携帯も許可が下りました」 そう言って朝比奈さんは腰につけていた光線銃を取って、俺達に見せてくれた。 ハルヒはそれを興味深げに見ると、朝比奈さんから奪い、俺に打つ真似をしてきた。 あぶないからやめなさい! 子供じゃないんだから! ハルヒは銃を下げると、 「とにかく、あたしの命を狙ってる異世界人とやらがいるわけね。 そいつらは危険なの?」 長門はハルヒをじっと見つめると、 「とても危険。我々情報統合思念体でも勝てるかどうかは微妙。 でも、彼らにも弱点がある。この世界では、こちらの物理法則に従わなければならない。 これからあなたはわたしや朝比奈みくると一緒にいることを推奨する」 長門は俺の方を向くと、 「あなたも、わたしたちとともにいなければ危険」 俺もか。 「そう、文芸部の部室に泊まるのが一番安全。 あの空間はちょっとした異空間になっていて相手も攻め込みにくい」 「部室? そこで泊まるのか。ばれたらまずいんじゃないのか?」 「大丈夫、情報操作は得意」 確かにお得意だろうがな。 はあ、一般人だったはずの俺がいつのまにか暗殺者に狙われるまでになったか。 「部室でお泊りか、なんか楽しくなってきちゃった! もっといろんなもの持ち込まないと!」 ハルヒは乗り気だがな。 「わたしもいっぱい準備しなくっちゃ!」 朝比奈さんもだいぶ乗り気のようで。 そして俺は気付く。なんであの部室はあんなに生活できるまでにものが溢れていたのか、 実はこのためだったのかもしれない。なんてな、偶然だろ? 「これでSOS団も復活ね! 今日の夜から部室でお泊りよ!」 「はぁーい」 朝比奈さんの愛くるしい声が月夜に舞う時、長門は細い光を放つ街灯を見つめながら頷いた。 やれやれ、好きにしろよ。 もう。 「SOS団はやっぱりこうでなくっちゃ!」 仁王立ちするハルヒの叫び声が、肌寒い春の夜に響いた。 chapter.6 おわり。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1696.html
今日もハルヒの声が聞こえる。 「風邪を引くなんて、気合いが足りないのよっ!」 おいおい、その台詞は医者の言う台詞じゃないぞ、ハルヒ。 「その程度の風邪で薬なんか要らないわっ!気合いで寝て治しなさい!」 もう少し、優しく言った方がいいんじゃないか? 「今の段階では、安静にして養生するのが一番です」って感じで。 「まあまあ、ああいう話し方こそ涼宮さんらしくていいんじゃないでしょうか?」 お前はいつまでハルヒの太鼓持ちをするつもりか? 俺が言っているのは「ハルヒらしさ」の問題じゃなくて、「医者らしさ」の問題だぞ? 「ははは、でも、あなたも随分医者らしくない感じですよ?」 確かにな。「キョン先生」はないだろう。院内放送でもそう呼ばれたぞ。いつまでこのあだ名がついて回ることやら。やれやれ。 説明しよう。 高校時代、ハルヒの特訓のおかげで成績を持ちなおすどころか、大飛躍させた俺は、何を考えたのか近くの医大になんか受かってしまった。なぜかハルヒも一緒だがな。 だが、一年先に卒業した、麗しのマイ・スウィートエンジェル・朝比奈さんは何故か看護学校に行っていた。 打ち合わせ不足が原因だろう。なにより、俺の成績が医学部に行けるほど上がるとは、俺自身も思わなかったしな。 朝比奈さんに「ひどいですぅ、、なんで教えてくれなかったんですかぁ?」と涙目で言われたときには、何とも言いようがなかったな。 で、朝比奈さんの方が先に卒業して看護婦として就職したわけだが、就職先が例の機関の病院とはな。古泉が手を回したのか。 俺たちもなにやらかにやらやらかしながら、どうにか医大を卒業し、医者になったわけだが、研修医としてつとめたのが、機関の病院だぜ?そのときのあいつの台詞を思い出すな。 「そちらの方が何かといいのではないですか? 我々にとっては涼宮さんの監視には非常に都合がいいわけですし、なにより、あなた自身が涼宮さんと.....」 これ以上言うな。大体お前の言いそうなことは想像できる。 と言うわけで、冒頭の台詞に戻るわけだ。 ちなみにハルヒも俺も長門も古泉も内科だ。ここまで合わせなくてもいいだろうとは思うがな。 ああ、言っておこう。朝比奈さんはハルヒの診察室付きだ。あのコンビで良く診療が出来るものだ。いや、心配なのは朝比奈さんのことじゃないぞ。ハルヒの方だ。 まあ、どじっこナースな朝比奈さんが今まで医療ミスを起こさずに来れたのも奇跡としか思えないがな。さて、ハルヒ大先生の診察室でも覗いてみるか。 「あ、キョン!丁度いいところに来たわ!」 ハルヒよ、 いいところ とはどういうことだ? 「ねえ、この病院の白衣ってイマイチじゃない!これじゃ、みくるちゃんの魅力も半減よ!?」 そんなこと言ってもしょうがないじゃないか。それが制服ってもんだろう。 「この馬鹿キョン! それだからあなたは医者になっても雑用係のままなのよ! いい?制服やルールって物は、都合が悪くなったら、変えてしまえばいいのよっ!」 で、もう一度聞こう。 いいところ ってなんだ? 「で、みくるちゃんのために新しいナース服を用意したのよ。キョン、よーく見なさいっ! みくるちゃん、入っていいわよ!」 「は、はーい.....」 正直、たまりません。 「ちょっとキョン!何いやらしい目で見てるのよ!」 やれやれ。おまえは見ろと言ってるのか見るなと言ってるのか、どっちなんだ? それより不思議なのはあの寡黙な長門さえも外来を担当していると言うことだ。何故か患者がすぐに良くなると言うのですごく人気だ。 医者としての知識は確かに長門が最優秀だ。しかし、あの宇宙的パワーで情報改変をしているのではないだろうか? ちょっと診察室を覗いてみようか。おや、診察中のようだ。 「胃の調子が悪いのですが...」 「あなたは胃癌。」 おい、長門!いきなり診断をつけるな!普通は胃カメラやらレントゲンやらで見つける物だぞ! 「......大丈夫。生体情報をスキャン。胃に早期の腫瘍を発見した。胃カメラを使わなくても分かる。」 いや、でも、検査をせずにいきなり病名を告げられるのはどうかと思うぞ? 「......そう。」 で、治療はどうするんだ。外科に頼んで手術の手配をしないとな。 「必要ない。腫瘍の情報結合を解除した。もう治っている。」 で、このぽかーんとした顔をしている患者をどうするんだ? 「記憶を修正。胃炎の薬を処方して帰ってもらう。」 やれやれ。宇宙的パワー全開だ。 古泉の野郎はあの0円スマイルでずいぶんと患者に人気がある。まあ、病院に来るのは年寄りばかりだから、婆さんに人気があると言ってもいいだろう。 「そういうあなたこそ優しくて人気があるのですよ?みなさん、慕ってくれているじゃないですか。」 うるさい。顔を近づけるな。そもそも慕ってくれていたって、俺の本名を知ってる患者は1割もいないんじゃないか? ピンポーン「内科のキョン先生、内科のキョン先生、病棟にご連絡ください」 やれやれ。仕方がない、仕事に戻るか。 ---end. 続かない。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5428.html
ハルヒに巻き込まれて数ヶ月、日々起こる非日常の連続に俺の精神は多少の事では動じない強靭さを手に入れていた。 つもりだったんだがな……。 休日、いつものようにハルヒに呼び出されていた俺が駅前に辿り着くと、そこにはいつもの4人と……誰だ? あの黒人 ハルヒ「この可愛いのがみくるちゃん、こっちの静かな子が有希。彼は古泉君で……あそこに居る、まぬけな顔をしてるのがキョンよ」 黒人「ハジメマシテ、キョンサン。ニャホニャホタマクローデス」 やたらフレンドリーに俺の手を握りしめるのは、ニャホニャホタマクローさん……らしい。 えっと……どうも。 おい、この人誰が連れてきたんだ? っていうかこんなことをするのは ハルヒ「あたしよ!」 やっぱりか。 ハルヒ「あんたは遅いし、そこでふらふらしてたから捕まえてきたの」 文書の前後で意味が繋がってないんだがな。 で、この人がどうかしたんだ。道案内とかか? ハルヒ「ちょっと違うわ。彼は日本の文化を知りたいんだって」 日本の文化? タマクロー「ソウナンデス。ニホンコライノセイギノミカタ、ミトコウモンヲサガシニキマシタ」 ハルヒ「じゃ、行くわよ。みんなついてきて~」 3人「は~い」 ……お、おい?! なんでみんないつも通りなんだよ? 数時間後――俺達は映画村に来てしまっていたわけだが…… タマクロー「スバラシイ、コレガシタマチブンカデスカ」 ハルヒ「そうよ~。古き良き時代って奴よね」 みくる「ふぇ~……タイムスリップしたみたいです」 それ、随分前からですよね。 で、ハルヒ。俺達をここに無理やり連れてきた理由ってのはなんだ。 ハルヒ「そんなの決まってるでしょ? 今からあたしたちでタマクローに水戸黄門を見せてあげるのよ。あんたは意味もなく殺される町民Aね。 古泉君は同心で、みくるちゃんは越後屋の一人娘で有希はその妹って設定でいきましょう」 1人娘なのにその妹ってなんだ。 ハルヒ「じゃあ、有希は後妻の連れ子って事で」 古泉「心得ました」 みくる「が、がんばります……」 長門「把握」 ……まあ、朝比奈さんと長門の着物姿が見れそうだからいいか。 タマクロー「タノシミデス」 ハルヒ「何言ってるの? あんたもやるのよ」 タマクロー「ワタシモ?」 ハルヒ「あんたは……そうね。凄腕の素浪人、珠九郎ね!」 お題は水戸黄門じゃなかったのか? ――なんて俺の突込みが聞き入れられるはずもないわけで、それぞれに着替えを終えた俺達は……高校生にもなって何やってるんだ? 俺。 珠九郎「おや、お似合いですよ、キョンさん」 そりゃどうも……あ、あれ? 珠九郎さん今、普通に話してませんでした? ハルヒ「みんな着替えたわね!」 ん、お前も着替えてるって事は今回は監督じゃないのか。その格好で何の役をやるつもりなんだ? ハルヒ「決まってるじゃない、水戸黄門よ! さ、朝比奈みくるの冒険 EP江戸を撮るわよ!」 ……かくして、日本史上類を見ない『新解釈水戸黄門』のはじまりはじまり~……。帰っていいかなぁ~。 ところでハルヒ、お前水戸黄門ってどんな話しなのか知ってるんだろうな。 ハルヒ「もちろんよ! 印籠片手に敵を行動不能にする本格派老人アクションでしょ?」 前半はどう考えて間違ってるが、後半は意外にあってるな。 それはいいとして……全員が町人とかじゃ悪人役が居ないじゃないのか?。 ハルヒ「甘いわね、本当の悪は身近に潜んでいるものなのよ~」 なるほどな。納得だ。 珠九郎「……」 ハルヒ「あんたもやっとわかってきたじゃない! じゃあ最初のシーンは……みくるちゃんと有希が悪事を企んでて、それをあんたが見つけるの」 一応最後まで聞いてやろうか。 ハルヒ「とりあえずそこまでよ。ほら、有希とみくるちゃんはそこの店から適当な箱を持って出てきて。出番が無い人はカメラとレフバン!」 みくる「は~い」 お団子頭の朝比奈さんも可愛いなぁ……。 ハルヒ「で、二人が裏道を歩いてる時に路地から出てきたあんたがぶつかるの」 へいへい。 シーン1 町で評判の美人姉妹、有希とみくるが怪しげな箱を何やら大事そうに持って歩いている。 ――そんな二人が裏路地を歩いていると おっとぉ。 みくる「きゃっ!」 ガッシャン。 急に飛び出してきた町人A――つまり俺――とぶつかり、二人は箱を落としてしまう。 ……で、次は何だ? え~なになに古泉からのカンペによると…… おっとすまねぇお嬢さんがた、怪我はないかい?(何だよこの口調は) みくる「だ、だいじょうぶです! なんともないんです!」 有希「平気」 あ、大事そうな箱が壊れちまったじゃないか。すまねぇ、こいつは大変な事を……ん、これは。 みくる「ああ! そんな」 有希「見られた以上、生かしてはおけない」 まってくれ、俺は何も見なかった! だから命だけは! 有希「問答無用」 白昼堂々、ちっこい娘さん相手になんの抵抗もせずに、胸にかんざしを深々と刺された俺は早々に出番を終えた。南無。 シーン2 ――川原のそばで寝ている俺の隣で、古泉が何やら難しそうな何も考えていなさそうな顔をしている。 古泉「鋭い刃物で一突き、これはかなり腕の立つ人間の犯行でしょうね」 おい古泉、なんで俺の着物をそこまではだけさせるんだ。傷口の所だけでいいだろ。 ハルヒ「こら! 死体が喋るな!」 へいへい。 古泉「これだけの事ができる人間は、そう多くはありません。例えば……そう、最近よく聞く流れの浪人……とか」 なるほど、ここで珠九郎の出番なのか。 ――場所は変わって下町の長屋。 珠九郎「で、私に御用とは」 やっぱり普通に喋ってる。 古泉「先日、殺しがありまして。その下手人を探しているんです」 珠九郎「なるほど、それで私が疑われていると」 古泉「端的に言えばそうなります。かなりの達人でなければ、人を一瞬で殺す事何てできませんからね」 珠九郎「買いかぶりでは? 私にそんな腕があれば、こんな浪人家業なんてやっていないでしょう」 なんであんた浪人にそこまで詳しいんだよ。 古泉「――もっふ!」 突然刀を抜いた(そもそも同心は簡単に刀を抜かないはずだが)古泉の一撃を、あっさりと珠九郎は避けてみせる。 珠九郎「……何の真似ですか」 古泉「失礼ですが試させて頂きました。やはり……貴方は強すぎます。ですが、それだけではお縄にする訳にもいきません」 珠九郎「……」 古泉「暫くの間、貴方を監視させて頂きます。それでは……また」 ――立ち去っていく古泉を、珠九郎はじっと見つめている。 おお、シリアスな展開だな。 シーン3 越後屋の店先でのんびりと団子を食べている珠九郎。 みくる「お茶が入りました~」 珠九郎「アリガトウ、ミクルサン」 何で今更カタコトなんだよ。 みくる「それで、さっきのお話ですけど……」 珠九郎「ドウシンサンノコトデスカ? ダイジョウブ、ボクハムジツデスカラ。キットシンハンニンガミツカリマスヨ」 よりによって長文がカタコトってのはどうなんだ。 ――店を出る珠九郎、みくるはそれを見届けると店の中へと入っていく。 みくる「……ふぅ」 店の奥に戻ったみくるの表情は晴れない。 そこにやってくる有希。 有希「姉さん。今のお客」 みくる「……珠九郎さんの事?」 有希「彼にも死んでもらう」 みくる「えええ! そんな、どうして?」 有希「役人は彼を疑っている。このまま彼に失踪してもらえば、私達は安心」 みくる「そんな?! そんなの駄目です!」 有希「そうしなければ、この店を守れない」 みくる「だからって、何の関係もない珠九郎さんにそんな酷い事を」 有希「もう、後戻りはできない」 ……なんだか話の雲行きが怪しくなってきたな。 シーン4 ――下町の長屋、あばら家同然の珠九郎の家。周囲を見回してから、長門は家の中へと入っていく。 珠九郎「おや、貴方は……確か越後屋の」 有希「……」 無言のままかんざしを構えて飛び掛ってきた長門を、珠九郎はなんとかかわす。 珠九郎「何をするんですか!」 有希「貴方には死んでもらう」 珠九郎「何故です?」 有希「問答無用」 狭い部屋の中で長門から逃げ惑う珠九郎、しかし追い詰められてついに転んでしまう。 有希「覚悟召されよ」 その時、窓から飛んできた風車……――が、カメラを持っていた俺の足元に刺さった。 ばか! 危ねぇだろ? 本当に投げるな! ここは後でエフェクトで誤魔化すって言ってただろうが! ハルヒ「だってそこでちょうどいい風車が売ってたんだもん。ま、そんな事はどうでもいいのよ。 ……まちなさぁい!」 無駄で長い口上と共にその場に現れたのは、それっぽい杖を手にしたどうみても町娘にしか見えない着物姿のハルヒだった……。 なあ、やっぱり黄門様が町娘って違わないか? ハルヒ「水戸黄門って何人も居たんでしょ? 1人くらい女の子も居たわよ。きっと」 いるわけないだろ。 有希「貴女は」 ハルヒ「あたしは越後のちりめん問屋のご隠居よ! 越後屋の娘、有希。観念してお縄につきなさい!」 ちりめん問屋のご隠居にそんな権限があるのか? 古泉「ここからは僕からお話しましょう」 もったいぶってハルヒの後ろから現れたのは、説明したくて仕方ないといった顔をした元超能力者、現同心の古泉だった。 古泉「この事件にはあまりにも手がかりが少なかった。ですから僕は、犯人がこのまま隠れていられないように準備をしました」 有希「準備」 古泉「そうです。犯人はかなり腕の立つ存在、それがそもそも嘘なんです。そう触れ回れば、真犯人は疑いを掛けられた人に興味を持つ。その人を失踪でもさせれば 濡れ衣を着せられるかもしれない、とね。その結果、目ぼしい人物が見つかればいいと思っていましたが……まさかいきなり殺そうとするとは」 珠九郎「では、僕を試したのも」 古泉「すみません。貴方を囮にしてしまいました」 有希「でも、何故私の動きが。この周辺に役人は居なかった事は確認済み」 ハルヒ「そこであたしの出番な訳よ! 古泉君……じゃなくて同心さんに頼まれて、珠九郎さんの様子をあたしが見守ってたわけ!」 古泉「ご隠居様でしたらどこに居ても目立ちませんからね」 いや、目立つだろ。 有希「……迂闊」 ハルヒ「さあ! 年貢の納め時よ!」 有希「ここで捕まるわけにはいかない」 ――部屋の奥にある勝手口から外へ逃げていく長門 古泉「逃がしません!」 ハルヒ「まちなさ~い!」 シーン5 ――大通りに出た3人が睨みあっている。その様子をたまたまその辺に居た観光客は携帯やカメラ片手に見守っていた。 有希「こうなったら仕方ない。ここで貴方達を始末して、自分の安全を確保させてもらう」 古泉「手荒な真似はしたくありませんが……止むを得ません」 十手を構える古泉と、かんざしを持つ長門がじりじりと距離を詰める。 ハルヒ、お前は何もしなくていいのかよ? ハルヒ「あんたね~。正義の味方が1:1の勝負に手出しするわけないじゃない」 水戸黄門は普通に袋にすると思うが。 睨み合う2人――長門は無表情だが――先に仕掛けたのは古泉の方だった。 せめて怪我をさせないようにとの配慮なのか、十手を片手に組み付こうとする古泉の腕をすり抜け 古泉「しまった!」 すれ違いざまに、長門は古泉の腰にあった刀を奪い取っていた。 有希「公務中の事故により殉職」 不吉な事を口走りつつ、刀を手にした長門が一歩踏み出したかと思うと――次の瞬間、古泉の体は通りの先まで吹き飛ばされていた。 観客「おおおおーーー!!!」 い、今何をしたんだ? ……っていうか古泉、生きてるか? 普通に切られた様に見えたぞ? 古泉「ご安心を。ちゃんと寸止めしてもらえましたから」 何で寸止めで吹っ飛ぶんだよ。 古泉「僕の脇腹に刀が触れた瞬間、長門さんは一回刀を止めてくれたようです。ですが、その後に振り飛ばされた様ですね」 まあ、今更長門が何をやっても驚かないが……。っていうか、このシーンは長門が捕まって終わりだったんじゃ? ハルヒ「いいアドリブね。でも、最後に勝つのは正義の味方なのよ!」 杖を両手で構えてご機嫌なハルヒと、 有希「その意見には同意。勝った方が正義となる」 それを迎え撃つ刀を構えた長門。 ……おいハルヒ、ところでどうやって杖で刀と戦うつもり ハルヒ「先手必勝ー!」 聞けよー! 飛び掛ったハルヒの杖はあっさりと避けられ、次の瞬間 ハルヒ「あああ!!」 長門の刀を受けた杖は、あっさりと分断されてしまった。 ハルヒ「なんで? これって中に刀が入ってるんじゃないの?」 それは違う時代劇だ。 ハルヒ「こうなったら奥の手よ! 必殺の印籠を……あ、あれ? 印籠は?」 印籠は普段角さんが持ってるはずだぞ。 ハルヒ「角さんはどこ?」 っていうかお前、助さんも角さんも八兵衛もお銀も弥七も飛び猿もキャスティングしなかっただろうが! ハルヒ「……飛び猿って誰よ」 そろそろ新キャラに馴染めよ! 有希「覚悟」 みくる「待って!」 絶体絶命のピンチにやってきたのは、有希の姉であるみくるだった。 みくる「もういいの! お店なんてどうなっても。だからお願い、これ以上罪を重ねないで!」 有希「……それでは困る」 みくる「え?」 有希「私の目的は越後屋を手に入れること。その為に、私はここに居る」 長門、随分ノリノリだな。 みくる「な、何を……言ってるの?」 有希「ご禁制の品に手を出したのはお店の為ではない。貴女に罪を被せて、店を手に入れる為」 みくる「そんな? そんな事をしなくても私達は姉妹なんだから」 おお、朝比奈さんも役に入りきってらっしゃる。 有希「違う、私は後妻の娘。お父様の跡を継ぐのは貴女。どれだけ店の為に尽くしても、それは変わらない」 有希は刀をハルヒからみくるへと向ける。 有希「貴女に罪を被せるよりも、こうすれば早かった」 みくる「そんな……」 有希「さよなら、姉さん」 振り上げられる刀。 ハルヒ「だ、だめ! 誰か!」 雰囲気に呑まれて悲鳴をあげるハルヒ。 古泉「く……どうすれば?」 役に立たない古泉。 振り下ろされた刀は――ガキッ!! 有希「!」 珠九郎「サセマセン」 颯爽と現れた素浪人、珠九郎の刀によって防がれたのだった。 みくる「珠九郎さん!」 有希「邪魔立てするつもり」 珠九郎「ユキサン、アナタハマチガッテイル」 有希「間違ってなどいない、越後屋は私にこそ相応しい」 珠九郎「チガイマス。エチゴヤノホントウノカチハ、ミクルサンノエガオトマゴコロアフレルセッキャクデス」 聞き取りにくい事この上ないな。 珠九郎「ソノコトニキヅケナイアナタニハ、エチゴヤヲツグシカクハナイ!」 有希「なんと」 狼狽する長門の手首に、珠九郎の一撃が飛ぶ。 有希「くっ」 刀を落とした有希は、その場に崩れ落ちるのだった。 エピローグ ハルヒ「本当にいいの?」 みくる「はい。妹が戻るまで、ここで頑張ろうと思います」 古泉「ですが、彼女は貴女の事を……」 みくる「それでも、あの子は私の妹なんです。それに、珠九郎さんも居ますから」 珠九郎「ユキサンガモドルマデ、ミクルサンハボクガマモリマス」 ハルヒ「そっか……。じゃあまたね! 近くを立寄ったらお団子食べにくるから!」 みくる「はい! 待ってます!」 看板娘の健気な笑顔とそれをそっと見守る珠九郎を見て、越後屋の未来は明るいと感じたご老公の足取りは軽かった。 めでたしめでたし ハルヒ「か~っかっかっか~~!」 ハルヒ、お前それが言いたかっただけだろ。 後日談―― ハルヒ「それにしても有希、ずいぶんノリノリだったじゃない」 長門「時代劇は毎日ラジオで聞いている」 みくる「迫真の演技でした~」 確かにいい絵が撮れたな。 ついでに、これで今年は映画の撮影で悩まされずに済みそうだ。 みくる「それにしてもあのタマクローさん、嬉しそうに帰って行きましたね」 ハルヒ「国に帰ったらみんなに話して聞かせるって言ってたから、SOS団の名前もいよいよ全世界に知れ渡ったって事よね!」 それは勘弁して欲しいんだけどな。 古泉「それにしても変わったお名前でしたよね、ニャホニャホタマクローさん」 みくる「あの、パソコンで見つけたんですけど、タマクローさんって有名な人みたいで歌まであるみたいですよ」 ハルヒ「そうなの? どんな曲?」 みくる「え、えっと。……ガーナのサッカー協会会長♪ ニャホニャホタマクロ~♪」 長門「ニャホニャホタマクロ~♪」 ハルヒ「ニャホニャホタマクロ~♪」 古泉「ニャホニャホタマクロ~♪」 ……ふぅ……やれやれ………………医者で政治家、結構偉い。ニャホニャホタマクロ~♪ おしまい お題「ニャホニャホタマクロー」「水戸黄門」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4631.html
次の日、金曜日。 昨日は色々な問題が無遠慮に俺へと押し寄せ、また、古泉とケンカじみたもんまでやっちまったがために、俺も閉鎖空間を作り出してしまいそうだと思わんばかりのグレーな気持ちで帰宅することとなった。 帰ってからの俺の気分はハッキリ言って北校に入学して以来最悪な状態を記録していたが、やっぱりトンデモ空間などは発生していなかったようなので、つくづく自分は普通の普遍的一般的男子高校生だと思い知る。 しかし普通の高校生はそんなこと考えんだろうとも思い、そうやって俺は己の奇異さにも気づいたのである。 そして今朝の登校の際には、今度はブルーな気持ちを抱いていた。 一年前にも俺はこの長く続く坂道を憂鬱な気分で歩いていたが、それはこの理不尽に長い通学路に対し学生が交通費支給デモという意味不明な行動を起こし、そしてその理不尽な要求が通ってもおかしくないほど強制労働的であるがゆえだった。 もちろん、今は違う。では何故ブルーだったのか。 それは、今日の俺の心の中は鬱々前線真っ盛りで人的災害警報が発令中であり、本日は晴天にもかかわらず、所によりハルヒの矢のような叱咤が降り注ぐでしょうという予報も出ていたからだ。 どんな人的災害に注意が必要なのかといえば、ナイフを持った女子高校生通り魔との遭遇によって刺殺されないようにせよということである。それが予報であるのは、まだ《あの日》に行くと決まったわけではないからに他ならない。俺も長門も、是非免れたい危機である。昨日のそう遅くない夜、長門に電話をしてみたもののコール音しか返事をしなかったのも気に掛かるんだ。やはり……あいつの感情の部分は強くなっているのだろうか。何度も電話をかけるような無粋なことはしなかったが。 そしてハルヒの叱咤の雨が降るとされた場所は学校の教室で、その局所的な矢の雨が降り注ぐ地点はもっと詳しく予報されていた。そこはあいつが座っている席の前……つまり俺の席だ。正直、これは間違いないと感じていた。なんせ、その現象が起きる原因とされたのは俺なのだから。 とは言うものの、その大元の原因を作ったのは何を隠そうハルヒ自身なのだが。 そう。俺は今週の頭、編集長へとジョブチェンジしたハルヒ団長殿に磔にされて「恋のポエム書け!」という無茶な命令を受け、そして俺はその任務を今日も完遂出来なかったために、ハルヒは今度こそ俺を視線や苦言やらで射殺さんとするだろうというこれは不可避の人的災害だと予想されたのだ。このときは。 教室に着いた俺にハルヒは一言ポエム作成の進行状況を聞き、歯を食いしばって目をギュッとつむった俺に意外にも、 「……そう。期日が迫ってるから、明日の不思議探索は機関紙の制作にまわそうかと考えてたんだけど」 と、危険な不思議探索をやらずにいられるならポエムを書いたほうが良いのかなと俺に思わせるようなことを言い、 「うん、書けないってんならしょうがないわ。じゃあ、明日の探索は、気合入れて不思議ちゃんを探しに行くわよ!」 そして決心させた。探索の対象が単なる自称異星人で実際は奇人ちゃん程度ならどれだけ良いか(会いたくはないが)と俺が思っていると、ハルヒは続けて、 「そろそろ本当にSOS団結成一周年なんだもん。このまま何も見つけられずにその日を迎えたんじゃ、この団の創立目的が忘却の彼方に追いやられちゃうかんね!」 その目的を達成したがために異世界は忘却の憂き目に遭遇しているんだぞとは言えず、俺は、今こそSOS団が不思議発見を断固否とするべく再結集するときなのだなとおもんばかっていた。 だが、この時点での俺はまだ気付いていなかった。既にハルヒの周りでは、渦を巻いて事態が錯綜していたことを。 昨日の災難はまさに俺たちが問題の渦中に放り込まれたというだけで、こいつが静かであるのは、ただ、台風の中心は不気味に静かだということだったんだ。 以前の俺は、あいつらに勝手にやってろなどと言ったこともあったが……今は違う。 この一年、俺はハルヒたちに散々な目に合わされ、自分の生き方が大きく変わってきた。 だが、振り返ればわかる。 これはもちろん、散々楽しいことを俺たちSOS団が行ってきた結果、俺の世界が大いに盛りあがったということだ。 だからというわけじゃない。俺は当然のこととして、今回の問題にぶつかることとなる。 それが動き出したのは、午前の部の中休みの谷口と国木田との会話からだったのだろう。 そして、この事件の中心人物は二人いる。 一人はもちろんのこと、そしてもう一方は当たり前であった。お気づきだろうが、あえて名前を呼ばせて頂く。それは――、 ハルヒ。 長門。 ……事件は、俺の予想斜め上で降りかかる。 なあ、教えてくれないか? お前たちの願いってのは……一体なんなんだ? 第七章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4740.html
第一話 「おはよう、涼宮さん。最近嫌な事件が続いてるのね」 あたしが朝教室に着くなり阪中さんが話しかけてきた。 「おはよ。なにそれ?どんな事件?」 そう返事すると少し驚いたような顔をして教えてくれた。 「知らないの?最近この辺りで女子高生が誘拐される事件が続いてるのね。犯人はまだ捕まってないし…怖いのね…」 えっ?そんな事件があったなんて全然知らなかったわ…これは気になるわね… 「涼宮さんも気をつけた方がいいのね。それじゃあまたなのね」 そう言い残し自分の席へと戻って行った。 それと入れ替わるようにキョンが教室に入ってきた。 「おう、ハルヒ。おはよう。…どうした?」 ボーッと考え事してたからだろうか、あたしの顔を覗きこむようにたずねてきた。 …って顔近いわよっ! 「キョン!大事件よ!」 さっき聞いたばかりの事件をキョンに話した。 「ああ、その事件なら俺も知ってる。昨日のニュースでもやってたしな。 嫌な話しだぜ…」 なんだ、知ってたんだ…それなら話は早い! 「いい?これは放っておけない大事件だわ!早速今日の放課後からSOS団で調査開始よ!」 あたしは椅子の上に立ち上がり、しかめっ面をしたキョンへと高らかに宣言した。 「おい、ハルヒ!バカな事言うな。警察でも探偵でもない俺達に何ができる?」 むっ…なに呆れた顔してんのよっ! 「もし事件に巻き込まれたらどうするんだ…危険な目にあうかもしれないし…俺は…嫌だぞ、ハルヒがいなくなったりするのは…」 とつぶやくのが聞こえた。 「え…それってどういう―」 「と、とにかく事件のことは警察にまかせておけよ。わかったな?」 「わ、わかったわよ…」 急に話を終わらせたキョンにしぶしぶと答えるとちょうど岡部が入ってきた。 「みんな、おはよう。ホームルーム始めるぞ。それとハンドボールはいいぞ!」 岡部の戯言が耳に入らないくらいあたしはドキドキしていた。 さっきの言葉、どういう意味だったのかな…もしかしたらキョンもあたしのこと…好き、なのかな? いつか…この大好きって気持ちをキョンに伝えたい。今週の不思議探索の時に…頑張ってみようかな… その日あたしは授業中もずっと一人でにやけていた。かなり危ない人みたいね…今日はすごくいい日だわ!記念日にしてもいいくらいに。 そんなことを考えているとあっという間に放課後になった。 「キョン!掃除なんてさっさと終わらせて部室に来なさいよ!遅れたら死刑なんだから!」 「はいはい、わかってますよ。団長様」 いつもみたいな会話をして、一人で部室に向かった。 そして勢いよく部室のドアを開いた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「あ、涼宮さん。こんにちわー」 あたしが部室に入るとメイド服姿のみくるちゃんがお茶の準備をしようと立ち上がる。 「ヤッホー、みくるちゃん。あれ、有希と古泉くんは?」 「えっと、二人ともクラスの用事で遅れるそうです。さっき部室に来て涼宮さんに伝えておいてくださいって言ってましたよ」 温度計とにらめっこしながらみくるちゃんが答えてくれる。 「そうなの。…ん?」 机の上に置いてあるものに気づく。編みかけの…マフラーかしら。 「みくるちゃん、マフラー編んでるの?あっ、もしかして好きな男の子に?」 冗談めかして言ってみる。 「え?あぁっー、そ、それは…その…」 んー、顔を真っ赤にしたみくるちゃんも可愛いわね! 「実はキョンくんにプレゼントしようと思って…この前新しいお茶の葉をくれたからそのお礼に。このお茶がそうなんですよ」 瞬間的に思考が凍りついた。 嬉しそうな顔したみくるちゃんがあたしの机にお茶を置く。 ちょっと待って…キョンが?みくるちゃんに?いつのまに…? 自分の中で黒い嫉妬が生まれるのがわかる。 「えへへ、マフラー渡す時にキョンくんにわたしの気持ちを伝えようかなって、ふふ、そう思ってるんです」 その言葉を聞いて、さらに黒い嫉妬は叫びをあげる。 「そん……対……許……わよ」 「はい?どうしたんですか?涼宮さん?」 聞き取れなかったのだろう、みくるちゃんが側に来る。 「そんなの絶対に許さないわよっ!なによ!こんなお茶いらないわ!」 机の上に置かれたお茶を思いっきり床へ叩きつけた。 ガシャーーンと陶器が割れる音が狭い部室に響きわたる。 「な、なにするんですか!せっかくいれたお茶なのに…」 泣きそうな顔でみくるちゃんが睨んでくる。 「SOS団は団内恋愛禁止なのよ?それを…あんたは!」 自分の感情を抑えきれなくなりみくるちゃんに掴みかかる。 「しかも…キョンだなんて…絶対に認めないわ!キョンはあたしのものよ?あんたなんかよりあたしの方がずっとキョンにぴったりだわ!諦めなさい!これは団長命令よ!?」 「わ、わたしだってキョンくんのこと大好きなんです!諦めたくありません!それに…わたしの気持ちなんだから涼宮さんには関係ないじゃないですか!」 思ったより強い力で突き飛ばされあたしは尻餅をついた。 なによ…みくるちゃんのくせに! 目の前が怒りで真っ赤にそまる。 そして気がつくとあたしはみくるちゃんを思いっきり突き飛ばしていた。 「あっ…」 みくるちゃんが後ろに倒れると椅子に強く頭をぶつけ、ガンッと鈍い音がした。 しばらく苦しそうにうめいていたがやがて動かなくなる。 ハッと一気に現実に戻った私は目の前の光景を見つめた… 「み、みくるちゃん?…嘘でしょ…?目を…開けてよ…」 震える手でみくるちゃんをゆさぶる… でも…ぴくりとも動かない。 「そ…そんな…い、嫌…嫌あああああああああああああああああああああああ!」 叫び声が響き渡る。 どうして…どうしてこんな事に…どうすればいいの… その時、ノックの音がして、部室のドアが開いた。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「うー、寒い寒い。っ!おい!ハルヒ…なにやって…」 部室に入ってきたキョンが目を見開いてあたしをみつめる。 最悪…よりによってキョンが入ってくるなんて… 「なんで朝比奈さんが倒れてるんだ?なにがあったんだよ!なあ!ハルヒィ!」 大声で問い詰められて身体の震えがいっそう激しくなった。 どうしよう…このままじゃキョンに嫌われちゃう。嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だ! 「脈がない…死んでる、のか…」 キョンがみくるちゃんの脈を確かめながらつぶやく。 「あ、あたしは悪くない…みくるちゃんがキョンの事好きだって言うから…つい…カッとなって…」 「…お前がやったのか?どんな理由があるにしろお前が朝比奈さんを殺したことには変わりないんだぞ!」 すごい顔をしながら睨んできた。 「だってだって…嫌だったもん!キョンがとられちゃうの嫌だったもん!」 必死になって言い訳を並べる…きっとあたしは泣きそうな顔してるんだろうな… もうおしまいね…二度と今までの日常には戻れないだろう。 しばらく沈黙の時間が続く。やがて、 「…ハルヒ、聞いてくれ。俺がにいい考えがある…だから安心しろ」 さっきとはうってかわって ものすごく優しい声でキョンが言った。 最初キョンの言っている事がよく理解できなかった。てっきり怒鳴られてすぐ警察につきだされると思ってたのに… 「それって…あたしを助けてくれるって、意味…?」 「そうだ…こんな時だけど…俺はハルヒが好きなんだ!だから…離れたくない!」 「あたしも…嫌。大好きなキョンと離れたくない…ずっと、ずっと一緒にいたい!」 我慢しきれず涙がこぼれる。 「絶対俺がなんとかするから。頑張って二人で乗り越えよう。な?」 そう言って優しく抱きしめてくれた。 「うん…うん。二人で…頑張る!」 あたたかいキョンの腕の中で、あたしは泣いた。 こんな状況だけどすごく幸せで嬉しかった。 だってそうでしょう?ずっと好きだった人と両想いだったことがわかったんだから。 でも、この時あたしは気付いていなかった。自分の犯した罪の重さを、そして、どんな結末が待っているのかを… --------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「とりあえず…もうすぐ長門と古泉が来るから急いで死体を隠さないとな」 キョンは辺りをみまわしながらいろんな所を探ってる。 「よし、掃除道具入に隠しておこう。後でもっとわかりにくい場所に移動させれば大丈夫だ」 キョンがみくるちゃんの死体、かばん、制服などを掃除道具入につめこみ、床にちらばった茶碗の破片を片付けた。 「これでよし…っと。ハルヒ、二人が来てもいつも通りふるまうんだぞ?」 「うん…わかった。」 私は団長机へ、キョンはいつもの場所へと座る。すると、 「いやあ、遅れてすみません。」 「……………」 相変わらず笑顔の古泉君と無言の有希が部室に入ってきた。 「おう。遅かったな。今日はどのゲームにする?」 「おや、あなたから誘ってくるなんて珍しい。そうですね、今日は―」 キョンの向かい側の椅子に座る古泉君。有希は窓辺に座って読書を始める。 私はネットサーフィンでもしようとパソコンの画面に集中する。けど、どうしても視線は掃除道具入へといってしまう。 「涼宮さん?さきほどから落ち着かない様子ですが、どうかされました?」 キョンとチェスを始めた古泉くんが聞いてくる。 「ああ、こいつ朝から体調が悪いみたいなんだ」 「そう、そうなのよ!でも平気だから気にしないで」 キョンのフォローで助かった。 「そうでしたか。ところで朝比奈さんの姿が見当たらないようですが、どこへ行かれたのでしょう。先程部室に顔を出した時にはいらっしゃったのですが」 いきなりみくるちゃんの話題が出て思わず息をのむ… 「あ…えっと…」 「朝比奈さんならお前らが来る前に用事を思い出したとかで先に帰っていったぞ」 またもキョンがフォローしてくれる。 でも、少しずつ身体が震えてきた… 「なるほど。…涼宮さん?本当に大丈夫なんですか?震えていますが…風邪ですか?無理なさらないほうが…」 心配そうな顔をした古泉くんが話しかけてくる。 「うん。そうね…今日はもう帰るわ。このまま解散にしましょ」 「おう。わかった」 「かしこまりました」 「……………了解」 それぞれに答えみんなが帰り支度を始めた時、 ガタッ…! 掃除道具入から音がした。 っ…!なんで…!こんな時に! みんなの視線がいっせいに掃除道具入へとむけられる。 気になったのか有希が立ち上がり掃除道具入の扉に手をかける。 どうしよう!まずい、まずいまずいまずい… もう、ダメだ…諦めて目をつぶった時、 「長門、中のホウキが倒れただけだろ。気にするな」 有希を止める声が聞こえた。 「………………そう」 有希はほんの少し怪訝そうな表情を浮かべたが、やがて扉から手を離した。 それを見てあたしは気づかれないように息を吐き、そのまま椅子にもたれかかった。 本当に危なかった…キョンが止めてくれなかったら今頃… 「それじゃあお先に失礼いたします」 「………お大事に」 二人が先に出て行くと部室には私とキョンだけが残った。 「ふー、なんとか誤魔化せたな。大丈夫か?ハルヒ」 「う、うん…大丈夫…ありがと」 キョンは掃除道具入を開けて中を覗きこんだ。 「死体を運べるくらい大きなバッグを探してこなきゃな。ちょっと待っててくれるか?」 そう言うとキョンは部室を出ていこうとした。 「キョン!なるべく…早く戻ってきてね」 「ああ。わかってるよ。すぐ戻るからおとなしく待ってろよ」 キョンを見送って一人になると今さらながら自分のしでかした事に頭を抱える。 これから一体どうなるんだろう… 誰にも見つからないでうまく隠せるのだろうか… 私は椅子に座ったまま目を閉じた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4103.html
「没ね」 団長机からひらりと紙がなびき、段ボール箱へと落下する。 「ふええ……」 それを見て、貴重な制服姿の朝比奈さんが嘆きの声を漏らす。 学校で制服を着ているのが珍しく思えるなんて我ながらオカシイと思うが、普通じゃないのはこの空間であって、俺の精神はいたって正常だ。 「みくるちゃん。これじゃダメなの。まるで小学校の卒業文集じゃない。未来の話がテーマなんだから、世界の様相くらいは描写しなきゃね」 ハルヒの言葉に朝比奈さんが思わずびくりと反射するが、ハルヒは構わず、 「流線形のエレクトリックスカイカーが上空をヒュンヒュン飛び交ってるとか、鉄分たっぷりの街並みに未来人とグレイとタコとイカが入り混じってるとか。そーいうのがどんな感じで成り立っているのかをドラマチックに想像するの。将来の夢なんかどうでもいいのよ。それにドジを直したいだなんてあたしが許可しないわ。よってそれも却下」 グレイは未来の人間だって説もあるんだから、下手するとその未来は単に魚介類が陸上歩行生物に進化しただけの世界になるかも知れんぞ。まあ、どうでもいっか。 ハルヒは朝比奈さんに対し一通りダメ出しを終えると、ふてぶてしく頬杖をついてピッと朝比奈さんの指定席であるパイプ椅子を指さし、そこに戻ってもう一度やり直しという指令を無言で示した。 「うう」 朝比奈さんがカクンとうなじを垂れる。 それはハルヒの電波な未来観にへこまされているわけじゃあなく、いや実はそれもあるかも知れないが、今はもっと別の理由が考えられる。それはリテイクの厳しさを三倍程度にしちまう理由だ。 指示を受けてずるずると定位置へと引き返す朝比奈さんの後姿を見送りながら、ハルヒは団長机をパシンと叩き鳴らし、 「ちょっとみんな! 今回はノルマも少ないし、ページ数だってやたらになくてもじゅうぶんなの! 気張りなさい!」 俺はやや不機嫌なトーンを呈したハルヒの叱咤を半身に受けながら、パソコンを挟んで対面している古泉へと鋭利にこしらえた視線をありったけ突き刺し、それを受けた古泉は苦笑しながら、予想外でしたという陳謝を俺にアイコンタクトにて返信する。 しかし、これまた困ったことになっちまった。 ハルヒの腕章に黒マジックでしたためられた文字が今は何を表しているのかもう分かっている頃だと思うが、現在の涼宮ハルヒの役職は編集長である。 それはまさに肩に書かれているだけで、自称以外の何者でもないのは既に周知の事実であろう。 とゆうか、打ち上げ花火のような事件のときに作ったその布切れをよっくぞまあ今まで保管しといたもんだ。俺としてはそれが再び陽の目をみることなく、そのまま日に焼けない様に永久保存されといて欲しかったね。今からでも遅くないぞ。ついでにSOS団の皆が抱えてるトラウマも一緒に凍結しといてくれ。 「……それも良いかもね」 カチリ、何か良からぬものを踏んじまった音がした。 幻聴であって欲しいと俺の耳は切に願ったが、 「そうだわっ! SOS団の偉業を未来人に知らしめるために、あたしたちの功績を遺産として残すのよ! 今回の詩集だってもちろん入れなきゃね!」 俺の目は、今にも花びらが炸裂しそうなハルヒスマイルを映していた。 「何にだよ」 わかっちゃいるがな。一応。 「タイムカプセルに決まってるじゃない!」 ハルヒは色めきたって、やけに懐かしいワードを口に出した。 まあ正直なところ、俺もその計画自体に物言いをつけようとは思わん。が、それにはこれから書かされるであろう詩集は入れないぜ。 「なんでよ?」 「なんでだろうな」 そんなもん決まってる。他動詞的に作られたポエムがまともな形を成すとは思えんからだ。 それに前回の機関誌ならハルヒの論文が未来人にも有用だそうだからまだいいものの、今度の詩集ばっかりは後世の人間が見たところで「こいつぁクレイジーなヤロウだ!」とかいった驚嘆句しか出てこないだろう。未来に欧米かぶれがいるかは知ったこっちゃないが、無駄な驚きで寿命を無為に減らすのは気の毒である。なので、出来上がった詩集は俺が墓場まで持っていこうと思う。 「…………」 ――何だか長門の無言が聞こえた気がした。気のせいか? 「ってゆーか、そんなことを話してる場合じゃないでしょうが!」 ハルヒが不機嫌を取り戻す。それもやるけど、と続けて、 「みくるちゃんは受験生だし、あたしたちもボヤボヤしてらんないでしょ。学校があわただしくなる前に今年分の会誌は急いで仕上げないと困るの! これにつまずいてる様じゃ、これから先の団の活動に支障がでちゃうじゃないっ!」 一見まともなことを言っているようだが、よくよく考えればSOS団本位でしかない主張を団長もとい編集長はがなりたてている。 ――と、ここで一度、現在の俺たちの状況を整理しておこう。 場所はもちろんSOS団本部兼文芸部室である。 時の頃をおおまかに言うと、朝比奈さんが受験生なので俺たちは高校二年生ということになり、もう少しばかり掘り下げると一学期の初頭で、その時期に俺たちは二回目の機関誌の製作に取り掛かっているってわけだ。 我らが北校の学校方針から考えるにそれだけでも十分全員が忙しい身の上であることは想像するに難くなければ、朝比奈さんにとっては未来に帰りでもしない限り、この世界で生きていく上で至極当然にリテイクを重ねられている暇などない。 更に悩みの種となっているのが、今回の機関誌の企画である。 詩集だって? 冗談じゃないぜ。 そんなら前回の小説の方が幾分マシだったねと言えるもんだ。 それに古泉、こないだまで俺たちゃあ結構奔走してただろうが。イベントのスパンが短か過ぎる。 俺の視線に込められたそんな訴えを古泉は受信し、窮したように顔を苦ませる。なにか含む所がありそうだ。 ついでに俺たちがどんな奔走をしていたかと言えば、俺の旧友である佐々木との再会、そしてSOS団とは別種の異能、異性質な輩たちとのいざこざや、長門の病気だ。 長門が学校を病欠したとき、一時は天蓋領域とやらの侵攻を受けたのかと心配したのだが、本人いわく只の風邪だったらしい。そうは言っても、長門がウイルスですらも無い下等な雑菌に敗北を喫すること自体異常事態であるのに違いないのだが。 しかし何も知らないハルヒからしてみればそれは正常な状態異常でしかなく、俺たちにも懸念を抱く以上のは出来そうになかったので、長門には一般的な病人に対する普通レベルの介抱を行うことにした。 皆の心配を一身に受ける長門は、 「何か食べたいもんでもあるか?」 「お寿司」 などといった要求はしなかったが、心なしか、守られる側に立った状況を存分に味わっているようだった。 そしてハルヒは泊まり込みで看病するとガヤいだのだが(俺もそれには賛成だったが)長門の強い希望により、俺たちは日付が変わる前には渋々と部屋を出ることとなった。 そして何故か帰宅の途につけという要求は朝比奈さんに対して特に強かったようで、 「特に朝比奈みくる。あなたは早く帰って」 という言葉も賜った。 ……流石にショックだったせいか、次の日の朝比奈さんの挙動はかなり変だった気がする。 しかしまあ、既に出揃っている特殊な奴らは倍になったというのに、一向に異世界人は姿を見せんもんだ。 とは、俺が異種SOS団との諍い時に漏らしてしまった、会いたいという願望とは違った意味の言葉だ。 そのときの俺の言葉に対し、古泉は「もしかしたら、既に異世界人は僕たちと邂逅を果たしているのかも知れません」ときた。どういうことかと尋ねれば、 「異世界人は、異世界に存在することによってその定義を満たします。しかし、例えば未来人は時間を操作することよって、宇宙人は未知の知識によって、そして僕などは超能力の行使によって己の存在をより明確なものにしますが、異世界人はただ異世界から訪れたというだけで、僕たちにとって普通の人間以上の存在には成り得ない可能性があります」 もっとも、それが一般的な人類ならばの話ですがね。と続けて、 「なので、むしろ既にこちらの世界には別の世界へと渡る能力を持った者が存在し、そしてその者は、僕らの関知し得ない世界でSOS団に尽力しているのかも知れません。今の僕たちが存在するのも、その人物が異世界で頑張ってくれているからなのかも知れないのです」 つまり異世界人は異世界で頑張っているということなんだそうな。 どっちにしろ推察の域を出ない話だし、仮に現実だとしてもそれは認識の外だ。 まあ、もしそれが本当なら、一度は会ってみても良いかも知れん。 何だかんだいって、俺はハルヒが作ったSOS団とこの生活を気に入ってるんだからな。 そして異世界人が俺たちと同様同等の苦労をしているであろうことは身を持って分かることなんだし、俺が感謝の意を唱えてその苦労をねぎらっても悪くはあるまいて。 っと、話が脱線気味になっちまった。その軌道修正も兼ねて、少し時間を遡って今回の事の起こりから辿っていってみることにするか。 それでは回想列車、レッツゴー。 ……… …… … 放課後の文芸部室。佐々木たちとハルヒ以下俺たちとの一件も多少の落ち着きを見せ、俺たちSOS団全員が比較的普段通りの活動に従事していたときだった。 コンコン。 「失礼する」 扉をノックする音が聞こえたと思いきや、返答を待たずにすらりと長身な眼鏡の男とそれに伴う女性、つまり腹づもりの黒い生徒会長と喜緑さんが部室へと進入してきた。 「なにしに来たのよ。なんか文句でもあんの? 勝負事なら喜んで受け取るけどね」 生徒会からSOS団に対する文句などは重々にあるだろうし、勝負を受諾されても困る。 「ふん」 会長は入り口に立ったまま、 「君に対する苦言なら山のように持ち合わせているが、生憎そのようなものを言い渡しにこんな辺境までやって来る程私は暇ではないのだ。今日こちらへ足を運んだのは他でもない。一つ気になることがあるものでな」 「なによ。言ってみなさい」 ハルヒの方が偉そうなのは毎度のことだ。 「どうやら文芸部には新入部員が居ないようだが、その分で今年度の文芸活動は一体どうするつもりなのかね?」 「は?」 とは、俺の口をついて出た言葉だ。 ……以前にも、生徒会から文芸部的な活動を求められたことはあった。 それは文芸部およびSOS団潰しのある意味で真っ当な思惑によるものだったのだが、しかしてその実態は裏で古泉が根回しをしていたことによって発生したイベントで、しかも既に事の収まりを見ているはずだ。 それに文芸部部長の長門だって、新年度のクラブ紹介で分かる人が聞けば見事なのであろう論文を発表しているんだし、文芸活動はそれでオールクリアーにしときゃあ通るだろう。いいじゃん、それで。 しかもこれから進路の話やらで忙しくなるっちゅうのに、また機関誌でも発行しろとの一言が発せられるものであれば、ものの見事に層の薄いSOS団はペシャンコになっちまうぜ。本当に俺たちを潰す気か? 会長は。 そう思って俺は古泉に目配せしたが、何故だか古泉もハンサム顔に微小な驚きの色を浮かばせていた。 これは成り行きを見守っていくしかないなと思い、俺はそれ以上言葉を作らなかった。 「もちろん会誌を製作するわよ」 ハルヒは元から俺たちを潰す予定だったらしい。 「いや、それはもう良い。今回文芸部には、来年度用の我が学校のパンフを製作して貰おうかと思っている。潤沢に割り当てられた部費が、不明な団体の意味不明な活動で消費され尽くしてしまってはかなわんからな。それにこの時期は私も色々と忙しい。それもあって、例年は生徒会執行部が製作している学校案内書を君らに一任してみようとなったわけだ」 なるほど。来年用のパンフなら時間だって十分あるし、写真を切り貼りして文章をとってつければいいようなもんだから、苦になるほどじゃないだろうな。それで部費の分配に対する大義名分が得られるのなら、こっちの精神衛生面的にも好都合だ。まともに頑張っている他の部活動員に対し、多少は後ろめたさを感じることがなくなって良い。 「そんなのあんたたちでやってなさいよ。あたしたちもヒマじゃないの。もう会誌の内容も決めてあるんだから」 どうしてもハルヒは俺たちを潰したいらしい。 「まあ……キミたちが自主的に活動を行うと言うのなら、こちらはそれでも構わん。しかしそれが口からでまかせであった場合、私にも存在しないはずの団を抹消するための手間が生じてしまうのを覚えておくといい。そうだな、一度企画書を作成して明示して貰おうか。今から生徒会室まで来たまえ」 「ヒマじゃないって言ってんの! 無駄な心配してる余裕があるんだったら、あんたがここに書類持ってきなさいよ!」 どう考えても生徒会長の方が多忙を極めているはずであろうが、俺は別に会長の擁護をするわけもなく。 「何を言っているんだ君は。私は文芸部部長を呼んでいるのだ。部外者は口を挟まないでくれたまえ」 と……珍しく喜緑さんが長門に合図し、長門は生徒会長についていく。 「ちょっと、待ちなさいってばっ!」 二つのハリケーンが合流を果たしたかのような勢力で、会長の後姿をハルヒが追う。 おかげで残された俺たちと部室はいやに静かだ。 しかしまあ会長。企画書なんぞ出さなくたって、あの団長殿が言い切ったことが実行に移されるのは確実なんだがな。悲しいくらい否が応にも。 「おや、どうしたのですか? 何か他に用事でも?」 ん? 何故かまだ部室には喜緑さんが残っている。 前回の佐々木団との一悶着の際、病床に伏していた長門の代わりに我らSOS団の宇宙人ポストに入って奮闘してくれたので多少の親睦はあるが、 「すみません。実は、お話しておきたいことがあるんです」 身の上話でもするのだろうか? 喜緑さんが部室に取り残された朝比奈さん、古泉、俺に対して言い放つ。 「まずは長門さんの能力が弱体化している件についてなんですが、それは彼女と思念体との接続が弱まってきているためだと考えられます」 ――長門が自分でも制限をかけちゃいるが。 「ほう。しかし何故、長門さんと思念体との接続状況が芳しくないのですか?」 こういう説明を受けている時なんかの古泉の返答は助かるな。 喜緑さんは続けて、 「はい。実は、わたしたちのようなインターフェイスには上の方から一つ禁令が下されているのですが、その禁令に長門さんが少しずつ触れてきているがゆえに、思念体から敬遠されているみたいなんです」 どんな禁令を……ん? そういえば以前に長門から聞いた記憶がある。 「確か、死にたくなっちゃいけないってやつでしたっけ」 そのまま俺は疑問も口に出す。 「長門がですか? 俺にはそんな風には……むしろ、生き生きしてきたように感じますが」 そうだ。長門の鉱石の様だった瞳にも、だんだんと血が巡り出してきたかのような、柔らかさと温かみが度々見受けられるようになってきていた。春休みの映画撮影(予告編のみ)の最中なんか、長門的には最高にハッチャケていたような様だったぜ。死にたいなんて、そりゃ相反してる。 「死にたい、ですか。それはまたどういうお話なのでしょうか?」 確か、アポだかネクロだか、自殺因子って単語もあったかな。 「ふむ……PCD、のように聞き受けられますね」 「古泉。いったい何だ? それは」 「例えば生物の進化の過程において、あらかじめ死が決定された細胞のことです。オタマジャクシの尻尾が、カエルへと変態する際に失われるといったような。その例のようにPCDはむしろポジティブな細胞の消失ですし、これが行われなければ僕たちにも手指などのパーツが形作られません。これをアポトーシスと言います。このように細胞の自殺が計画的に行われる、それがプログラム細胞死なのです。他にもネクローシスという、」 よし解らん。次へ行ってくれたまえ。 喜緑さんが古泉の言葉を受けてコクリと頷き、 「わたしたちインターフェイスは人類と同じ物質で構成されています。我々が死ぬような事態は殆どないのですが、有機的な活動を行う過程によって死の概念が組み上げられてしまうといったことなどが憂慮されます。思念体は元より死の概念を持ち合わせていないので、わたしたちによって情報構成に自殺因子が紛れ込む可能性をひどく嫌っているんです。恐らく、良い変化は期待されませんので」 ニコリと笑って、 「ゆえに、わたしたちは死を思うことを禁じられています」 うん。長門の話もたしかそんな感じだった。 「なるほど。情報統合思念体は群体のような性質を持っていると思うのですが、多細胞生物に見られるPCDにも一応の懸念を発起させている訳ですね」 「そんなところです」 喜緑さんは続けて、 「あと、先日の長門さんの不調は病気などではありません。おそらく、上の方と何かトラブルがあったのだと思います」 まあ、原因が周防九曜じゃないならそんなところだろう。俺は得心したように頷いて、 「して、そう思う理由は?」 と質問した。喜緑さんは微笑を消し、 「……あの日以降、長門さんと思念体との接続が異常なほど軽薄なものとなっているからです。なので、今の長門さんには殆ど力の行使が認められていません。皆さん、どうか長門さんをよろしくお願いします」 無論だね。むしろ注文を受ける前から走り出してる程に気をつけてるさ。 「ありがとうございました、喜緑さん」 俺の言葉を最後に、喜緑さんはぺこりと退室の礼を尽くし部屋を退出した。 そして閉められた扉は程なくしてドバン!と破裂音を上げ、 「おっまたせー! 勢いで計画進めてたら、こんななっちゃった! まぁ、善は急げ!美味しいものははやく食え! ってことでいいわよね! 明日の団活からさっそく原稿の執筆に取りかかるから、みんな楽しみにしてなさい!」 そう声高々と宣言するハルヒの後には長門の姿があり、ハルヒが右手で俺たちへと提示する紙には、 『企画内容:詩集。上稿予定:今週中』 というデススペルだけが書きなぐられていた。 俺には、最早それが死神との契約書にしか見えていなかった。 そんなこんなでやっと次の日になったかと思やぁハルヒは、休み時間が来るたびに何やらハサミで紙をショッキリショッキリいわせていた。 一体お前は何やってんだと聞けば、 「ひみつ! 放課後まで待ってなさいっ!」 と、ニカリとした笑みを作りながら溌剌と意気の良い返事をするばかりだった。 恐らくハルヒは俺の妹のようにハサミを装備することで破壊衝動を満たす化身へと変貌しているわけでなく、なんらかの創作活動に勤しんでいるのだろうから、折角だし作品の完成まで楽しみにしておくか、と俺は自分の席にいるときも心して後のハルヒへ目をやらずにいた。 そうなると俺はこれといってやることもないので、隣の窓越しに広がる過剰に陽気の良い春模様の空を見やり、その余った陽射しを我が身に受けて体内に貯蓄し、無駄に消えゆくエネルギーを減らそうといった仕事に献身していた。 ああ、春ってのはなんでこんなにも素晴らしいのだろうね。爛漫。 そして放課後、文芸部室にて。 朝比奈さんは俺たちにお茶を配膳する業務を終え、既に部室の風景と化していた。長門は最初から風景だった。 部室なら長門に何事もなかろうと、俺はいまだ姿を見せぬハルヒを待つ事もなしに古泉とヘブンオアヘルという創作トランプゲームに興じていた。 どんなゲームかと言えば、最初から片方がジョーカーとエースを手に持ち、相手をかどわかしながら選ばせるといったもので、つまり二人で行うババ抜きの最終決戦だけを抽出しただけである。これは経験によって無駄を省かれた。 しかし、単純なゲームをいかに楽しく行うかというテーマに沿って繰り広げられる熾烈な心理戦も、単純作業の繰り返しには飽きが来るという人間の心理の前には立つこと敵わず、また古泉も俺に敵わず(逆にやり込められている感がないとも言いがたいが)いつの間にか俺たちのやっていることはカードを弄びながらの雑談へと変わっていた。 「しっかしハルヒの奴、何でまた詩なんかに興味を惹かれたんだろうな。俺たちが詩なんか嗜んだ所で、痛い目と身悶えするような駄文を見るだけだろうに」 古泉はカードを四隅の一点だけで倒立させようと試みながら、 「そうでしょうか。感性多感な時分の僕たちの心模様を紙へと投影してみることは、未来の自分がそれを見た際に、その時代の感傷を想起さし得る貴重な宝物になるのではないかと」 「どうだか。次の朝にでも目が覚めたら、貴重な資源をゴミに変えてしまったってのに気がつくだろうぜ。その後に色んな意味で後悔するだけさ」 実体験ですか?という古泉からの質問に対し、俺は見聞きした深夜のラブレター作成理論の応用だと答えておいた。 「それはさておき、今回涼宮さんが機関誌の内容に詩集という形を取ったのも、受験生の朝比奈さんや僕たちへのちょっとした配慮なのかも知れませんね。詩なら、文量が少なくて済みますから」 「それこそ問題だ。少ない文字で成り立たせにゃならんから、構想に余計時間がかかる。それにどんな詩を書くのかも考えにゃならんから、よほど手間だ」 ズバン! 「待たせたわねっ! みんなは一秒が千秋に感じる程に待ちわびていたことだと思うわ! 今回も時間がないから、みんなの詩のテーマはコレで決めちゃいましょうっ!」 心臓を打ち抜くような音を鳴らしてハルヒが扉を押し開いてきた。 驚きの眼を配る朝比奈さんとハルヒの途方もない思い違いに呆気に取られている俺に、ハルヒは何やら励んでいた創作活動の賜物と思われる物体を、左手で作ったOKサインのOを示す指に挟んで見せびらかしていた。 「サイコロ、ですか?」 多分古泉の質問はその通りの答えだろう。 俺にも、それは三角形の紙を八枚セロハンテープで繋ぎ合わせて作られたフローライトナチュラル八面体に見える。 「そっ。特にキョンなんか書き始めるまでにも時間かかりそうだから、今回も内容はアトランダムに決めるわっ! キョン。雑用でしかないあんたのために労を負った団長様に感謝しなさいよね!」 先程の俺の言葉を見れば感謝すべきであろうが、アトランダムの偶然性に対し不満があったので「すまんな」という謝辞にて言葉を終了した。 ハルヒはフッフンと得意げに天井へと高々にサイコロを掲げ、 「それぞれの面にお題が書いてあるから、これをホイコロリンッって投げて出たヤツを詩の内容にすること! 異議があるなら言いながら投げるといいわよ。そして忘れちゃいなさいっ!」 俺には言い捨てる言葉もないが、 「しかしまた何でサイコロなんだ? わざわざ紙を切ってゴミを増やさずとも(そして作らずとも)、前みたいにくじ引きかアミダで決めりゃ良かったじゃないか」 という小さな疑問を投げかけた。 それを聞いたハルヒはチッチッっと右手の人差し指をメトロノームにしながら、 「それじゃバラエティに貧するってものよ! SOS団たるもの、些事の決め方にも広く手をのばしていかなきゃ! そして、ゆくゆくは世界の森羅万象を掴み取るのよっ!」 グッと決めポーズ。ハルヒは今日も絶好調なようである。ま、絶不調でなくて何よりだろうね。世界の平和的に。 だが、恐らくこのネタは外部から、というかテレビから受信して閃いただけだろう。 と、俺は手元に落とされた八面体ダイスを見ながらそう推察してみた。 何故かと言えば、サイコロのやっつの面に書かれているワードはそれぞれ 『私の詩』『未来予想図』『恋の詩』『本音の詩』 『元気が出る詩』『褒められた詩』『失敗した詩』 とあり、後半のテーマが若干日本語として妙なのはハルヒに国語力がないからではなく、お昼の某テレビ番組で転がされているサイコロに書かれた『~話』をそのまま詩という言葉に変換したせいだと思われるからだ。 「じゃっ、順番は団への貢献度が多い人からね! 序列は大事よ! 大きな組織の中では特にねっ!」 じゃ俺からでいいだろ。 「なんでよ? はいっ! 最初は副団長からっ」 SOS団は小規模だから、と説く前に、ハルヒはひょいと俺の手からサイコロをつまみ取り、流れるような動きでそれを古泉副団長へと手渡した。 古泉は卵をのせるような手の平の中でそれを弄び、 「さて、なにがでるかな?」 合唱しようと思ったが、古泉が出す目は大体の予想が立つし、多分予想通りである。 スマイル仮面の古泉のテーマは多くて二択であり、およそ『私』か『本音』だと、 「……おやっ?」 俺と古泉が思わず言葉を漏らす。 「褒められた詩、ですか。僕が以前に書いたポエムの傑作を載せるということでしょうか?」 書いてる姿も含めてそれも見てみたい。が……何だ? 確率論が復活したのか? 本来ならおかしくはないはずなのに俺が妙に思っていると、 「ちがうちがうっ。褒められたときの気持ちやらをポエムにするのよ」 俺にとって古泉のそれは不愉快なポエムになるなと思っていたら、ハルヒは続けざまに、 「でも、振り直しっ。それは国木田が書くから」 国木田? 「そうよ。名誉顧問と準団員には既に振ってもらって、『元気』『褒め』『失敗』は決まってるから」 ハルヒはくるリとメンバーを見回し、 「みんなもカブっちゃったらもう一回! 同じことやっても良いものは生まれないし、SOS団はバラエティに富んでないといけないって言ったでしょ!」 それよりも近い過去に序列がどうのと言ってた気がするが、それは覚えていないらしい。 「って、じゃあ俺はサイコロの振りようもないだろうが。全員が振った後じゃ、必然的に残りの一つに決まっちまうだろ?」 「いいじゃん。特に変わらないわ」 実際問題どうでもよかったし、例え同じサイコロを八つ同時に八人が投げたところで結果は変わらないであろうから、俺はそこで閉口した。 そして古泉は『本音』を出し、次いで長門が『私』、朝比奈さんが『未来予想図』、ここで俺は再度口を開いて抗議の旨を団長、いや編集長へと必死に訴えたが、ハルヒはガイウス・ユリウス・カエサルがルビゴン川を渡った際に言い放ったのと同じ言葉で俺の訴状をねじ伏せた。 ――そしてまた次の日の放課後。現在に至る。 目の前のハルヒが何故こんなにも不機嫌なのかと言えば、 「ちょっとみんな! あの三人はすぐ詩を完成させて持って来たってのに、何でみんなはちーっとも筆が進んでないのよ!」 ハルヒが代わりに言ってくれた。その理由を申せと仰るのであれば、説明するまでもなく「そりゃそうだ」の一言に尽きる。 鶴屋さんは『元気』、国木田は『褒められた』、谷口は『失敗』の詩を書いており、言葉そのままでも違和感のない程にそれぞれピッタリはまった題目だ。 一夜で詩が書けた理由としては、各自それのネタなんていくらでもあるだろうし、万能である鶴屋さんの才の一つに詩的才能が含まれている予測は疑いようもなく、国木田と谷口なんかは適当に済ませたのだろう。 重ねて俺たちときたら、古泉と朝比奈さんのテーマはまるで名探偵にズバリズバリとトリックを言い当てられて言葉を失った犯人のようにアワワとしか言いようがなくなってしまうようなものであるし、『私』の長門なんか前回の小説で自分のことであろう作品を書いているので、俺と共に前回とお題がモロかぶりである。 言うまでもないとは思うが、俺は『恋』のネタである。 もう、そんなもん俺の在庫には最初っからないんだし、長らく入荷待ちの札が掛かってるだけだっつーのに。 それらの理由により、俺はもう一度ハルヒに儚い希望を提訴してみた。 「ハルヒ。じゃあ皆のテーマを変えてくれないか? 俺だって恋なんてもんは幼い頃、従姉妹に一方的に苦い思いをしただけだし、それ以来そういった甘そうなのは味わったためしがないんだ。だから俺の中にあるそんなネタは、前回の小説が最後っ屁でもうグウの音も出ん。終了だ」 却下。という二文字の一言が虚しく飛んでくると思っていたが、 「そうなのですか? むしろ味を感じないのは、あなたにとってそれが空気みたいな物だからなのでは?」 予想に反し、助け舟を渡してやった筈なのにそれを撃沈させるかのような言葉が古泉から飛んできた。 「うん? どういう意味だそれは」 特売アイドルみたいなスタイルのお前と違って、俺にはそんなに身の回りに溢れているもんじゃないんだよ。それにそんなことを言われるとな古泉。俺だって……泣くんだぞ。 「いえいえ、そうではないですよ」 若干苦味を持たせたスマイルで、 「あなたにとって必要不可欠であるにも関わらず、身近に存在しすぎてあなたが気付いていないだけ。ということです」 ほう。そいつは嬉しいじゃないか。つまり、俺に想いを寄せているがそれを伝えられずにいるうら若き乙女の視線が、恋の矢の如く俺の後頭部に突き刺さっているのが古泉には見えるってわけだな。 何だか涙が別の理由で出てきそうだと思っていると、 「古泉くん。それどういうこと? 団長に報告もなしに男女交際をしている輩がいるっていう告発?」 そう古泉に話しかけながらも、ハルヒの視線はまるっきり俺の方へと向いている。 そんな目をされても俺はなにも知らん。 「そうではありません」 今日が、古泉にとって初めてハルヒにノーと言えた記念日となった。 「僕はただ、恋とは意識して感じ取れるものではなく、無意識の内に自分が恋に落ちていたという事実を自らが認識した際に知り得るものだ、という考えを述べたまでですので、他意はありません。ご安心を」 「ああ、なるほどね。それはあたしと似たような捉え方だから良くわかるわ」 うん? お前、恋愛は精神疾患だとか言ってなかったか? 「もちろん。風邪と同じでかかりたいと思ったときにはかからないし、忘れてる頃にはいつの間にやら患っているものってことよ。まさに病気じゃない。あたしは抗体持ってるから絶対かかんないけどね」 蝶がヒラヒラと舞い寄ってくるような古泉の思想が、ハルヒの例えによって一気に消毒液臭くなった。 俺は飛び去った蝶の採集を試みるように、 「じゃあハルヒ。抗体持ってるってんなら、以前に恋患いの経験があるんだな?」 「あるわよ」 「へっ?」 っと、俺がハルヒから思わぬクロスカウンターを喰らって目を丸くしていると、 「はしかやオタフク風邪と一緒よ。ちっちゃい頃に感染しとくべきなの。それは」 ……やれやれ。まったく、現実的なものにはどこまでも夢のない奴だな。非現実に見せる積極性をピコグラム単位でも振り分けてみたらどうかと提案するね。それだけでも、お前には男共がわんさと群がってくることだろうぜ。黙ってりゃあもっと良い。 「ド馬鹿キョン! つまんない奴らがいくら集まっても、あたしの欲求は埋めらんないのっ!」 壊れたミニカーのようにキーキー言っていたハルヒは、俺に近づいてきて急に止まったかと思えば、俺の心臓あたりをスイッチを押すようにしつつ不敵な笑みを浮かべ、 「だからね! あたしが集めて作ったSOS団は、みーんな粒ぞろいの精鋭なのっ! 全員一緒なら意図せずとも世界は盛り上がっちゃうって寸法よ! わかるわねっ!」 「……ああ、よく分かってるさ。もちろんだ」 ――そうだとも。佐々木の閉鎖空間をめちゃくちゃにしたあいつらなんかとは、SOS団は全く存在を異にする。 俺たちだってそれぞれ形は違っちゃいるが、いつの間にかそれはパズルのようにガッチリ組みあがって、今では全員で一つのものになっていたんだ。前回の事件で、俺たちはそれを身にしみて感じる事が出来たのさ。 ――そして、その中心にいるのは……ハルヒ。いつだってお前なんだ。 「なにアホヅラかましてんの! そんな暇あったらとっとと書きなさい! ちなみにテーマ変えはなしっ!」 それは変えて欲しかったが、俺はもうハルヒに抗弁をたれるまでには至らなかった。 ハルヒは憤怒しているように見えたが……その表情はまさに、楽しくて堪らないともの語っていたからな。 しかしいつまで経っても団員の誰一人としてポエムを完成させることはなく、修練の結果は翌日に現れるといったハルヒ理論により、詩の作成は宿題という形で団員に背負わされ、俺たちは普段よりも重い足取りながら、いつもの並びで帰路についていた。 「もしかしたら涼宮さんは、己の能力と僕たちの正体に気付いているかも知れません」 何の脈絡もなしに世界が終焉を迎えそうなことを言い放っているのは、もちろん古泉である。 「そりゃまた、えらく段階を踏まない話だな。なぜそう思う?」 ハルヒと朝比奈さんが先頭、次いでハードカバーを読みふけりながら歩く長門、そして最後尾の俺と古泉。 古泉は部室からずっと手に持っていた物を俺に見せるように掲げ、 「……これですよ」 「って、ハルヒが作った只のサイコロじゃないか」 テーマ決めの際に使用された八面体の紙製サイコロだった。 ちなみに、このサイコロ君は生まれて間もなく存在意義を失ってしまった可哀相な奴である。 というより、また使われるようなことがあっては堪らんので、俺としてはいち早く鉄のゆりかごの中で眠って頂き未来人に起こされる日を待って頂きたい次第である。……そういえば、タイムカプセルって自分たちで掘り起こすもんだったよな? 「その話はまた別の機会にしましょう」 古泉の提案を拒む理由は皆目なかったので、俺は話を聞く態勢に入った。 「何故、今回のテーマを涼宮さんがこのような物で抽選したと思います?」 「そりゃあおそらく、学食でテレビでも見ててネタを頂戴したんだろ」 ふむ、っと古泉は視線のみを数瞬だけ横に流して、 「たとえば、涼宮さん自身がクジの偶然性に疑問を持っていたとします。そして無意識の内に、確率を確認するのにはこの上なく最適であるサイコロという手段を取ったのであれば……涼宮さんは表層の意識に限りなく近い所で、己の能力の存在について勘付いているという可能性が示唆されます」 それを聞いた俺は「へえ、」と一呼吸おいて、 「考えすぎじゃないか? あと、お前たちの正体に気が付いてるという予測は何処から立つんだ?」 ほのかに微笑んだ古泉は手に持っていたサイコロを俺に渡し、俺がそれをつぶさに眺めていると、 「これに書かれているテーマですよ。偶然にしては……余りに、僕らが有する要素に対して的を射すぎている。なので涼宮さんは僕たちの正体を心の何処かで知っていて、これによって確証を得たいのかも知れません。これも多分、無意識の内の行動でしょうがね」 はん。年がら年中どこまでも特殊な存在と一緒に過ごしてたら、だれだって少しはそう思うだろうぜ。 「それも深読みし過ぎだろう。サイコロのネタだって、提供元はシャミセンの親類が経営する洗剤会社に違いない」 この言葉に古泉はいつものスマイルを取り戻し、 「そうですね。それに僕たちが一発で各自のテーマを当てなかった理由は、むしろ涼宮さんは自分にそんな能力があるということを否定したいからなのでしょうし、ひょっとしたら、単純に涼宮さんの力が弱まっているだけなのかもしれませんしね」 ん? ちょっと待て。一つだけ合点がいかない。 「……俺のテーマが『恋』になった理由は何だ?」 「それは本当は朝比奈さんが未来人であるように、あなたも本当は恋を」 「なあ古泉。だいたい生徒会長は何でまたこんな時期に文芸活動を要求してきたんだ? まあ当初の要求は文芸部的なんてのじゃてんでなかったが。機関が関係してるのか?」 「それなんですが」 と古泉はスマイルのレベルを最小にまで下げ、 「これは僕らの手回しによるものではありません。会長なりに考えてみた結果なのかも知れませんが、若干、あの人に生徒会長の仮面が定着し過ぎている感が否めませんね。いえ、もしかしたら、喜緑さんの手によるものだったというのも考えられます」 「ほう。まあそれなら重要だったよな。長門に何かがあったのは分かってたのに、俺たちはその何かまでは知らなかったわけだし」 古泉はフフフと不気味に笑い、 「それなんですが、僕にはおおよその見当が付いています」 一体それはなん、まで俺が言葉を出したときだった。 ゴスンッ! ――今の音は長門の頭から出たのか電柱から出たのか、一体どっちだ!? ……なんて、不毛な論議に変換している場合じゃない。 「ちょっと有希っ! あたま大丈夫!?」 ハルヒは長門がアッパラパーになっていないか心配しているのではなく、本を読みながら電信柱に頭部を強打した長門を案じながら、怪我の有無を確認している。 そして古泉と俺は長門が電柱にケンカを吹っかけた光景を目撃して目を丸くし、朝比奈さんはわたわたと長門に気遣いの言葉を途切れとぎれでかけていた。 「心配しなくていい、平気」 いやゴッツンコした所が小高い山を作って、まだ春だってのに紅葉を迎えてるぞ? 「大丈夫か?」 駆け寄る俺に、 「ありがとう。……みんなも」 たんこぶを抑えるのをガマンしている様に見える長門が答えた。 「でも、珍しいわね。有希が物にぶつかるだなんて。そういえば……見た覚えがないわ。いつも本読みながら歩いてるってのに」 「別のことでも考えてて、そっちに気がいってたんじゃないか? 詩とかポエムとか……ポエムを」 「そ、そうなのかな……」 俺のギャグにハルヒは悩ましい顔を作ってしまったので、 「すまん冗談だ。多分、まだ調子が戻ってなくてフラついたんだろ。長門も読書は中断してハルヒたちと歩くといい」 「…………」 沈黙する長門をハルヒと朝比奈さんに任せ、俺は古泉の話の続きを聞くために後列へと戻った。 「長門さんに怪我はありませんでしたか?」 「ん、おでこがプックリだが心配なさそうだ」 「そうでしたか」 そう話す古泉は、どこか嬉しそうな面持ちである。 「なにか良いことあったか」 ムッとした俺が硬質な感触のする言葉を作ると、 「……むしろ現在、機関はある懸念を抱えて悶然としています。ですが、確かに最近の長門さんの変化については喜ばしいことのように思いますね」 「弱っている長門が良いってのか?」 それでは語弊がありますね、と古泉は微笑をたたえ、 「近頃、というか先程の長門さんもそうなのですが……とても人間味を感じませんか? TFEI端末として弱体化してきているというのは、ちょっとずつ長門さんが人間に近づいていきるという側面があると思うのです。それはあなたにとって嬉しいことでしょう? もちろん、僕にとってもね」 俺を目で落としてどうするんだと言わんばかりの温和な視線で、古泉はふわりと柔和な笑顔を作った。 「……そうかもな。俺にとって、そりゃもちろん嬉しいことだ。それに俺たちだけじゃない。ハルヒに、朝比奈さんに、そして何より……長門自身にとってな」 そう。長門にむける心配は、そろそろ見方を変えなけりゃならんのかもしれん。 力を失っていく宇宙人に対するそれから、細腕で柔弱な少女への気配りへと。 「ところで、お前が抱えてる懸念ってのは一体なんなんだ? 俺以外に話せる奴なんていないだろうし、話してみるだけでも多少違うんじゃないか?」 俺の言葉に古泉はどんな表情を出して良いのか解らないといった顔つきになり、 「……そうですね。話しておいた方が良いかも知れません。あなたには」 「なんだ?」 俺の目を見て、 「程ない以前、閉鎖空間と《神人》が久しぶりに乱発された時期がありましたよね?」 「ああ、佐々木とハルヒが出会った日以降だったっけ。お前でも疲労の色が隠せてなかったよな」 「それなんですが、閉鎖空間の発生は二週間ほど前……特定すれば土曜日にまるっきり沈静化しました」 土曜日? ――ああ、俺が佐々木たちと会合した前日か。だが、 「良かったじゃないか。この言葉以外に何がある?」 古泉は全然良くないことを話すような顔で、 「それが、不可解な点がいくつかあるのですよ」 「一体どこにあると言うんだ?」 「まず、何故に突然閉鎖空間の発生が沈黙したのか。機関の諜報部をもってしても原因が判明しません。そして他に……これは閉鎖空間内で《神人》の討伐を担う役割の僕や仲間たちしか感じないのですが……」 古泉は前方で談笑しているハルヒを一瞥し、 「閉鎖空間は世界中の何処にも発生していないにも関わらず、僕たちにはそれが存在しているという確信が、沈静化した直後から心の隅の方で、こうしている今でもくすぶり続けているのです。……それによって一つの推測が立つのですが、これは多分、あなたは聞きたくもない話です」 「聞きたくないかは俺が判断する。さわりだけ言ってくれ」 古泉は眼に真剣をやつし、神妙な雰囲気でこう言った。 「――涼宮さんが、まさに神と呼ぶに相応しくなったのではないか? という内容です」 「そうか。そりゃ全くもって聞くだけ無意味な話だな」 ハルヒが神だって? あいつはいつだって奇想天外な行動を起こしちゃいるが、根っこの方は特に変わりのない普通の女の子じゃないか。お前だって良く知ってるはずだろ。そんなの、考えるだけバカらしいってもんだ。 「ええ、全くです。仮にこの推論が当たっていたとしても、何が起こるのか皆目見当が付かない故に対処の方法も思い浮かびません。なので案じたところでどうにもなりませんし、ただの杞憂であればなお良いだけです。すみません、あなたはこの話を忘れて下さい。それに僕も――」 古泉は、長門の後ろ姿を温もりさえ感じる視線で見つめながら、 「……いかなる憂いすら、今の彼女を見ていると消し飛んでしまいますよ」 そうだな。俺たちが憂うべきものは、今のところ帰ってからどうやったらポエムを書かないで済むか考えることだけだろうぜ。 「……まあ、そうですね」 古泉はまた思案顔を作り、悩ましげに顎を支えていた。これはこいつの癖になっちまったのかね? 「無駄な心配はしないに限るぞ。時間と神経を無為に減らすだけだ」 いつもより元気はないが、それでも十分爽やかなスマイルで、 「……そうすることにしましょう。まあ、詩は頑張って執筆してみますがね」 「ああ。やっぱり俺もお前にならって机の前で頑張ってみるかね。思えば、書かないで済むかなんて思案することだって無駄なんだしな」 「ふふ。お互い頑張りましょう」 そうやって、その日俺たちはそれぞれ自分の家へと足を辿り着かせた。 ……さて、無から有を創造するある意味で神的な作業に入るとするか。 ――俺はこのとき、この平穏は当分の間続くものだと信じていた。 SOS団は今までにない程まとまっていたし、ハルヒと長門が落ち着いてきているのは良い変化だと疑わなかったからだ。 だが、それは違った。それらの吉兆は、裏を返せば……最悪な事態が引き起こされる前兆でもあったんだ――。 第一章