約 14,405 件
https://w.atwiki.jp/yamatosakura/pages/50.html
――――あの夜、御剣は成歩堂と打ち合わせをしてから、遅くなってマンションに帰った。 部屋のドアのカギが開いているのに不審を覚えた。 ここに住むようになったきっかけの事件のせいもあるが、もともと用心深い性質の冥は、部屋にいるときにも鍵をかけていないことはなかった。 玄関に、見覚えのあるハイヒール。 冥のものではない。 「おかえりなさい」 顔を上げるまでもない。 「……霧緒」 彼女は、まるで昨日もこうして御剣を迎えたかのようににっこり笑っていた。 「なぜ、ここにいる…」 霧緒はそれには答えず、ちょっと首をかしげた。 「少し、留守にしただけなんです。お話したいこともあるし」 「私には、ない」 霧緒の口が開いた。 御剣が、こんなことを言うと思わなかったのだろう。 「いつからいる?」 玄関から上がろうともせず、御剣は霧緒を冷ややかに見た。 「…ちょうど、狩魔検事が来てらしたけれど、用が済んだとかで…」 御剣が小さく舌打ちをした。 「いつでもいい。帰ってくれ」 そう言うなり、ドアに手をかけた。 「やり直したいんです!」 霧緒が叫んだ。 御剣は、そのまま部屋を出てきた。 霧緒に会うのは、それ以来だ。 楽屋の話は、弾んでいた。 御剣と、成歩堂、そして冥を除いて。 真宵は、御剣と霧緒が交際していたことを知らない。 みぬきのマネージャーをしていたことも、それを放り出すようにいなくなったことも。 ましてや、今の御剣と冥の関係も。 もし知っていたら、霧緒がマネージャーを務めるニボシのトノサマンショーなど企画しなかっただろうし、楽屋を訪ねようなどとも言わなかっただろう。 霧緒とニボシが真宵やみぬきたちを相手ににこやかにショーの話をしていた。 霧緒は、御剣を見ない。 御剣は成歩堂の横顔を見た。 そういえば、霧緒が姿を見せたとき、成歩堂はその前にニボシに会った時ほど驚いてはいなかったように思える。 なにか、知っていたかもしれない。 彼女の行方がわかっても知らせなくていい、と牙琉に言ったことを後悔していた。 どんなことでも、情報を手にしておく必要があった。 こんなふうに、冥に会わせたくはなかったのだ。 御剣の隣に立っていた冥が、そっと御剣の手を握ってきた。 行かないで、と言っている気がした。 「私、今はトノサマンをもう一度大ヒットさせるのが目標なんです…」 霧緒がそう言って、輪の外にいる形の成歩堂たちに霧緒が顔を向ける。 なにか言おうと唇を開きかけ、霧緒は視線を御剣で止めた。 なにか、言うべきだろうか。 なにを、言うべきだろうか。 御剣が逡巡したわずかな間に、霧緒が言った。 「お元気でしたか。御剣検事。狩魔検事」 冥が、体を引く。 逃げた。 少なからず、御剣は驚いた。 冥が、霧緒から逃げようとしている。 冥が誰かから逃げるなどと、考えられなかった。 握った手が、湿る。 御剣は、冥の手を握り返した。 「みつるぎけんじィィィィ!!」 当事者の間だけに張り詰めた空気を破るように、聞きなじんだ声が遠くから聞こえてきた。 「うおおおおおおッス!!」 成歩堂と真宵が顔を見合わせる。 確認するまでもない。 「真宵ちゃん、ここの警備って?」 「イトノコさんなら蹴散らせるくらいだね。レジャー施設の職員と地元の駐在さんだからさ」 「御剣検事!あけましておめでとうございますッス!」 楽屋のドアが大きな音を立てて開いた。 「け、刑事さん!」 ニボシが驚く。 「事件ッス!捜査ッス!」 その場に緊張が走る。 「落ち着いて報告したまえ、糸鋸刑事」 御剣が低い声で応じた。 すっと御剣の手を離した冥が、真宵に向かって小声で言う。 「施設を閉鎖して。誰もここから出さないでちょうだい」 真宵が頷いて楽屋を飛び出すと、春美が後を追いかけようとした。 「動かない!」 冥の声に、春美がびくりとした。 「自分は、御剣検事を追いかけてさっきの電車で倉院の里に到着したッス!ちょうど今、事件は起きたッス!!」 糸鋸がなぜ御剣を追いかけてきたか、について聞く者はいなかった。 飼い犬は、主人がいなくなれば探すものである。 「正面玄関の階段から、人が突き落とされたッス!」 糸鋸が叫んだ。 綾里主催のイベント会場で起きた事件に、真宵が息を飲む。 御剣が冥を振り返った。 「ここを頼むぞ」 「私も行く」 御剣は一瞬ためらった。 状況がまるでわからない。危険があるかもしれない。 その表情から、御剣の考えを察した冥がまっすぐに見上げる。 「狩魔をバカにしないで」 控え室の空気が凍る。 ふっと息を吐いて、御剣は成歩堂を呼んだ。 「頼むぞ、元弁護士」 成歩堂が頷く。 「ああ、わかったよ」 糸鋸を急き立てるように正面玄関に向かうと、職員と警備にかり出されたらしい駐在所の巡査が怪我人を介抱していた。 「怪我人には救急車を呼んだよ。被疑者…、容疑者は館長室にいる」 糸鋸が現場を放り出して御剣を呼びにきた理由がわかった。 巡査に指示を出していた長身の青年が、戻ってきた糸鋸に気づいて、腰に手を当てたまま言った。 「施設からは誰も出してませんよ、御剣検事、狩魔検事」 「…牙琉検事。君も来ていたのか」 カウントダウンコンサートを盛況のうちに終えた牙琉響也が、キザに肩をすくめる。 「お言葉だけど、ぼくはみぬきを追いかけてきたのであって、検事を追いかけてきたわけじゃないですからね」 レジャー施設はトノサマンショー目当ての客でにぎわっており、ちょっとした騒ぎになっている。 「それで、概要は?」 牙琉が説明するところによれば、メインゲートの階段の上から、容疑者が被害者を突き落とした、という目撃証人がいるらしい。 「事件に間違いはないのか?事故ということは?」 「目撃者に、話が聞けます」 事件などに不慣れでありがちな田舎の巡査が、意外にもてきぱきと報告する。 「それで、容疑者は」 巡査が手元の手帳に目を落とした。 「服装からして…」 御剣がため息をつく。 トノサマンが絡むと、何事もなしではすまないようだった。 「……霊媒師見習い、か」 真宵が呼ばれ、応援の警察隊と鑑識が到着して、多すぎる検事たちは一度、楽屋に戻った。 「だいじょうぶだよね、パパ。真宵さんのお弟子さん、絶対無実だよね」 みぬきが不安そうに成歩堂に聞いた。 「…みぬき。パパは弁護士じゃないから」 「御剣検事…」 みぬきの助けを求めるような視線が、御剣に向けられる。 この段階で、御剣に答えられることは何もない。 「…有罪の証拠を探すんですね、検事さんたち」 重い空気の中で、霧緒がぽつんとつぶやいた。 「そうなのですか…?」 春美が、御剣を見上げた。 事件ということであれば、せっかく真宵が苦労して築き上げてきた倉院流への信頼が崩れ落ちるのではないかと心配したのだろう。 また、マスコミがおもしろおかしく書きたてるのではないか、とも。 真宵の母である前の家元が、責任を負って里を去ったことを、御剣は忘れてはいない。 そのあと、彼女が真宵や春美とともにどんな事件によって命を落としたかも。 事件の関係者を傷つけるような不用意な発言に、御剣は内心で舌打ちした。 「…真実の証拠を探しているのよ」 春美の不安に答えたのは、冥だった。 楽屋の備品と思しき古いパイプ椅子に腰を下ろし、組んだ脚に肘をついて指先で顎をつまんでいる。 「本当に犯罪が行われたのなら有罪、行われていないなら無罪。それはもう決まっているの。当事者以外がそれを知らないだけ。裁判は有罪無罪を決めるものではなくて、真実を明らかにするものでしかない」 一息にそう言うと、みぬきのそばに立っている牙琉響也に顔を向ける。 「違う?」 軽く肩をすくめた牙琉は、みぬきの頭に手を置いてた。 現場に居合わせた客たちと同じように、簡単な事情聴取と身元の確認の後、帰宅が許された。 ニボシと華宮霧緒らトノサマンのスタッフたちも、撤収にかかるようだった。 真宵が、残りの公演が中止になったことを詫びた。 「いえいえ、誰のせいでもありません、恐縮です」 頭を下げたニボシの後ろで、霧緒がスタッフに指示を出してから戻ってきた。 とりあえず全員で綾里屋敷に戻ることになり、成歩堂を先頭にみぬきや牙琉がぞろぞろと後をついて楽屋を出る。 霧緒が、真宵と事務的なことをいくつか確認してから、メガネの真ん中を指で押し上げた。 「…あの、失礼なことを申し上げて……すみませんでした」 御剣が足を止める。 「私、なにもわかってなかったんですね。検事さんのこと…」 検事、とは言ったがそれが自分に向けて言っていることは御剣にもわかった。 「…いや。それは」 お互い様かも、しれなかった。 御剣は、霧緒が検事の仕事を理解していない以上に霧緒の仕事にも興味を示さなかった。 ニボシのトノサマンショーを仕切り、とっさのトラブルに対処しているのをわずかな時間見ているだけで、彼女がどんなにこの仕事を愛しているかがわかるというのに。 「…お元気で」 霧緒が、微笑んだ。 ここで、本当に別れたような気がして、御剣は仕事に戻る霧緒の背を見送った。 最後に楽屋を出ると、成歩堂たちは廊下の先を行っていた。 早足で追うと、地元の巡査が冥を呼び止め、なにか立ち話をしている。 「…狩魔検事……」 通り過ぎるときに、チラリと聞こえた。 住所指名職業などは聴取されているから、そう呼ばれても不思議はないはずなのに何か違和感があった。 結局日帰りの予定が足止めを食い、御剣と冥は糸鋸や響也と一緒に、真宵の好意に甘えて綾里屋敷に宿泊し、翌朝の電車で倉院の里を後にした。 「事件か事故かはっきりしないし、事件だとしたらまたいろいろ大変だから」 そう言って、成歩堂は倉院に残った。 「真宵ちゃんの、そばにいるよ」 見送りに出た成歩堂が、冥に言った。 「…そう」 冥は、成歩堂を見る真宵の目を思い出した。 自分が、好きになれたらよかったのにと思っていた男を、好きだと思っている目。 成歩堂が、真宵の思いに答えたら、冥はもう迷わなくて済むかもしれない。 「大丈夫だね?」 成歩堂の意味ありげな言い方に、御剣はわずかに眉根を寄せたが、冥は黙って御剣を見上げた。 御剣は、成歩堂に見えないところで冥に触れた。 大丈夫だ。私がいる。 そう伝えたつもりだった。 「…じゃあ」 冥が、成歩堂に言った。 成歩堂は長くは見送らなかった。 駅に向かう雪道は、昨日入り乱れた警察が踏み固めて広くなっていた。 「送致されてくるかしら」 「どうかな。……初犯で傷害なら、執行猶予か、不起訴ってことも」 「……」 話題は、途切れがちだった。 顔を合わせたものの、うやむやに終わった霧緒との再会を気にしているのかとも思う。 しかし、御剣にも引っかかることはある。 「…昨日の」 冥が駅で倉院まんじゅうをいくつも買い込み、御剣はそれを持ってやる。 「昨日?」 あまり関心なさそうに、時刻表と時計を見比べながら冥が聞き返した。 「駐在の巡査と、なにを話していたのだ?」 「……ああ」 古い駅舎は暖房が行き届かないのか、冥はコートの襟元に巻いたマフラーに顎をうずめた。 「帰ってから、話すわ」 冥がそう言う以上、被告人相手に追求するような聞き方はできず、御剣も黙る。 電車の中で、冥が伸ばしてきた手を握った。 予定の帰宅が遅れたため、御剣と冥はあわただしく年始周りを済ませ、明日の仕事始めに備えた。 合間に倉院の里に残った成歩堂と連絡を取って、状況を確認する。 身柄を拘束された霊媒師見習いは犯行を否定し、警察は事故と事件の両方から捜査中、ということだった。 夜になってようやくリビングに落ち着いて、御剣は冥が検事局の土産にするつもりだった倉院まんじゅうの箱を勝手に開けてひとつ取った。 「ちょっと」 冥が不満げな顔をする。 「たくさん買ったではないか」 「そうだけど」 半分に割ったものを手渡され、冥は御剣がまんじゅうを食べるのを見ている。 「……」 「甘い?」 「…ウム。顎が溶けそうだな」 「『思わず幽体離脱したくなるほど甘い』って書いてあるわ。『三途の川もひとっ飛び』。悪趣味なコピーね」 箱に入っていたしおりを開いて、冥はまんじゅうを小さくかじる。 予想していたものの、それを超えるほどの甘さだったらしく、冥は顔をしかめた。 「…パパに会えそうだわ」 冥にしては珍しいブラックジョークだ。 御剣は自分が飲んでいたペットボトルの緑茶を冥に差し出した。 「…あの巡査、知り合いなのか」 包み紙に食べ残したまんじゅうを置いて、冥はソファの上で膝を抱えた。 「…私は知らない」 そっけない返事が返ってくる。 こういう言い方をするときの冥はなにか考えている。 また、思っていることを言わずに終わらせてしまうかもしれない。 御剣は冥の肩に腕を回した。 「誰の知り合いだったのだ」 冥が身体を預けてきた。 「……パパ」 狩魔豪を知っている警察官、か。 さっき『パパに会えそう』と言ったのも、そのことが頭にあったからなのだろう。 「倉院の駐在所に配属になるまでは、警察局にいたんだそうよ。そこで、パパの下で働いたことがあるって」 恐らくその時に、娘がアメリカで検事になったと聞いていたかもしれない。 珍しい姓と職業で、かつて共に働いた検事を思い出すのは自然なことだろう。 「……気の毒に」 冥が、呟いた。 恐らく、狩魔豪の失脚と共に、警察局刑事課から田舎の駐在所へ移動になったのだ。 御剣は冥の肩を引き寄せた。 「なにか、言われたのか」 冥が首を横に振る。 それきり、また黙る。 狩魔豪がかかわる問題は、冥にとって一番デリケートだ。 上級検事への昇進と引き換えに押し付けられた面倒な事件で、担当検事欄が空欄ばかりだった資料を思い出す。 「先生は、警察局にも人望があった。捜査官の面倒もよく見ておられたな」 「……だけど」 「ん?」 また、黙る。 「だけど、なんだ」 いつもの御剣なら、冥が言いたくないのなら聞かないでおこうと思ったかもしれない。 しかし、今はここで引き下がってはいけないような気がした。 最もデリケートな問題だからこそ、一人でかかえ込ませたくない。 理解してやれなかった霧緒の、最後の笑顔が思い出された。 「……だけど?」 冥が、息をつく。 「だけど。警察局にいたかった、と思うこともあるでしょう?正月早々、イベントの警備で立っているときに、なぜこんな田舎に配属になったのかと思うかもしれないでしょう?」 「……」 「その時に、狩魔豪にさえ付いていなければ、と思う」 「……」 「普段は、世話になった、良い人だったと思っていても、必ずいつかはそう思うのよ。パパを恨むのよ」 「冥…」 「…あなただって」 自分が? 御剣はうつむいた冥の顔を覗き込んだ。 「私が、だと?」 冥が御剣から離れようとした。 それを許さないように、腕に力をこめる。 冥の本音が、ちらりと顔を出した。 ここを、逃してはいけない。 「私が、なんだ」 冥が、吐息した。 「……あなたからあなたのパパを奪って…あなたを苦しめて、最後は、あなたまで」 「…過ぎたことだ。それに私は、先生にどれほどの恩があるか、どれだけ感謝しているか」 「だけど、忘れないでしょう?」 御剣の腕を振り切って、冥が離れる。 「判例を調べるたびに、空欄の資料を見るわ。そこにあったはずの名前を考えるわ。毎日、毎日、あなたは自分の辛い思い出を突きつけられてる」 「ばかなことを…」 「腹が立つことも必ずある。あの事件がなければと思うはずだわ。…パパさえいなければって」 「やめないか。例え思い出すことがあったとしても、そこに憎しみや恨みが残ってはいない」 「今はそう言っても、この先はわからないわよ!」 気持ちが高ぶってきたのか、冥の声が高くなる。 「今はそうじゃなくても。あなたは、いつも思い出しているのよ。あの書類の空白を見るたびに、辛いことを思い出すの。それがいつか、嫌になるわ。そうしたら私の顔を見るたびに、…パパを、思い出すのよ」 「冥!」 ぼろぼろと涙がこぼれる。 「私のことだって、いつか…嫌いになるわ。…そうしたら…あなたは、私を捨てるのよ。…私も、捨てるのよ」 霧緒のように。 思わず、御剣は手を振り上げた。 冥がびくりと身を縮めた。 御剣は大きく息を吐いて手を下ろした。 「…ばかな、そんなばかなことを」 そう言うと、冥の緊張の糸が切れた。 崩れるように背中を丸めるとと、両手で顔を覆った。 これか。 冥が変わったと感じたのは、これなのか。 御剣に捨てられるという不安。 嫌われるという不安。 そうなりたくないという思いが、冥を不自然に従順にさせていたのか? 御剣は膝の上で両手を握り締めた。 声を殺して、冥が泣く。 体の奥から、怒りに似た感情がこみ上げてくる。 御剣は冥の肩に手をかけてぐいと押した。 頬を濡らした顔を両手で挟んで上向かせた。 「…私を、見くびるな」 冥がまた瞳の奥に不安の影をのぞかせる。 だが、御剣はもう言葉を抑えることができなかった。 「私が今まで、そんなことに思い当たらなかったとでも言うのか。先生を憎んだことはないと言えば嘘かもしれない。だが、今の私があるのは、まちがいなく先生のおかげだ。たとえ、なにを考えていたにせよ、先生は自分を検事として教育してくれた恩師だ」 そのことを、感謝している。 思い出すとしても、それは辛いことではない。 言いながら、御剣は指先で冥の涙をぬぐった。 私は、なんという愚か者なのだ。 自分が、自分だけが師への思いを整理しただけで、冥の気持ちまでは察してやれなかった。 冥の不安を、わかってやれなかったのだ。 自分の気持ちを、冥にちゃんと説明してやる必要があったのに、それをしなかった。 冥に、甘えていたのだ。 冥にはたった一人の父親なのだ。 誰がどんなに憎んでも。 それゆえに、冥は不安なのだ。 それが、冥を黙らせるのだ。 泣き顔に、キスをした。 そのまま抱きしめる。 きっと、いくら言葉を尽くしても、冥の不安を取り除くのは難しい。 冥自身が疑わしく思っているかぎり。 「キミをこの世に生み出してくれたことだけで、私は先生に感謝できる」 「……」 「それでも信用できないと言うなら、仕方がない。キミは、私が嘘を付くということを証明しろ」 「…証明?」 「そうだ。キミはずっと私のそばにいて、私がキミを嫌いになるかどうか見ていろ」 「……嫌いに、なったら?」 「もしキミが私に嫌われたと感じたら、私はキミを嫌わないという嘘をついたことになるからな。その時は」 「……」 「その時は、罰としてそれまで以上にキミを愛する」 腕の中で、冥が小さく笑ったのがわかった。 「一生かけて、証明するチャンスをくれ」 抱きしめた冥が、泣きながら笑っていた。 「バカみたい。…気の長い話」 「仕方ないではないか。私が信じられないのだろう?」 耳元で言うと、冥の腕が御剣の背中を抱いた。 「…そうよ。あなたなんか、信じられるものですか」 御剣が、生意気なことを言う唇をふさいだ。 明日は仕事始めだというのに、夜更かしになりそうだ。 御剣の手が冥の体をさぐり始め、冥は目を伏せた。 本当に、本当にいつか御剣が自分を捨てる日が来るかもしれない。 それはまだ御剣自身にもわからないいつか、なのかもしれない。 もしかして、その日が来る前に自分も御剣も歳を取って、死んでしまうかもしれない。 それがいつかを、見届けるまでは、御剣のそばを離れない。 御剣が冥のバスローブを解くと、冥はふと思い出したように言った。 「明日、倉院の警察に…」 言いかけた冥の唇がまた御剣に封じられた。 「それは、それだ。今はこっちでいいか?」 思わず笑い出し、御剣の暖かさに包まれながら、冥はなぜかあの男のことを思い出した。 ――――真宵ちゃんの、そばにいるよ。 思い出したのは、一瞬だった。 検事・狩魔冥の長い調査が始まる。 御剣が、嘘をついたと証明するまでの、長い調査。 根気のいる仕事になりそうだ。 ――――強くなりな、ご令嬢。 その仕事を完璧にやってのけるためにな。 でもね、マスター。 この仕事が失敗してもいいわ。
https://w.atwiki.jp/gspink/pages/93.html
亜内×千尋① 亜内武文は一流のベテラン検事である。 今日はいつになく署内は忙しそうだ。 みんな脅迫観念に駆られるかのように机に齧り付いて書類とにらめっこしていた。 思わず脅迫罪を適用したくなるほどのにらめっこだ。 亜内は来客用の椅子に腰掛け、刑法222条をなぞりながら被害者兼被告人達を眺めていた。 と、気づけばすまし顔の婦警がお盆を携えて亜内の前に影を落とす。 「亜内検事、コーヒーどうぞ」 「あぁ、ありが…」 「仕事ですから。では」 言葉尻は思い切り噛み砕かれた。 「…ありがとう」 婦警はもう明後日にいたが、一応噛み砕かれた言葉尻を反芻した。 (いつぞやに検事モノのドラマが流行った時は、少しは人受けも良かったんですけどねぇ。) 相撲番付入りの湯飲みに淹れられたインスタントコーヒーを啜りながら色んな苦味に口をすぼめる。 きっと御剣検事になら、豆から挽いて小洒落た磁器に淹れて出すのだろうと考えれば、 ご自慢だったあの髪を取り戻せばワタシだってと育毛剤をまぶす作業にも気合がみなぎるというものだ。 「まだ出てないんですか!人の一生がかかっているんですよ!」 急に、張り詰めた空気を壊すかのような一際高い声が響く。 何か揉め事だろうか。 厄介な事には関わりたくないので気にせず番付表を目でなぞりながらもう一啜りした。 そこで随分と年代の入った湯のみである事が発覚したが余り気にしない。 そんな事なかれ主義を批判するかのように強く打ち鳴らすヒールの音が近づいてきてしまう。 「まったくもう…」 声の主は少し頬を上気させ憤懣やるせぬといった表情のまま、亜内の前に腰を下ろした。 綾里千尋だった。 コーヒーに新たな苦味が加わる。 それでもそこは年長者かつゼントルメン。 法曹界の大先輩として、目の前で熱くなっている後輩に声を掛ける。 「どうしたのですかな、綾里千尋クン」 「え、あ、はい」 掛けられてようやく気づきましたと言わんばかりに彼女はこちらを見てきた。 一瞬、彼女の眉間に山脈が隆起する。 「えっと、亜内検事……ですよね」 「え、えぇそうですよ」 ちょっと胃が痛むのはコーヒーの飲み過ぎなのかもしれない。 うん、今度からはお茶に切り替えて貰おう。 そう無理やり解釈をする亜内に視線を合わせる事無く、千尋は周囲にわざと聞こえるよう理由を述べた。 「昨晩の密室パラパラ殺人事件の解剖記録が、まだ出てないんです」 朝からお茶の間を濁らす世にも恐ろしき怪奇事件だ。 被害者の死に様は壮絶の一言に尽きたらしい。 どうやら、彼女は容疑者の弁護を受けて必死に事件をあらっている最中なのであろう。 「それならもうすぐ糸鋸君が持ってくる筈ですよ。暫くお待ちなさい」 「ええ、そうします」 怒気の溜まった息を吐き出しながら千尋は頷く。 深い椅子の為か背もたれに身を任せず、しゃなりとした姿勢で平静を取り戻そうとしながらも 軽く弾ませる息遣いが亜内の耳を撫でる。 (……綾里千尋、か。) 自称家事手伝いのパラサイト娘と大差無い年齢であるにも関わらず、亜内の目にさえ彼女は魅力的に写る。 どこか初々しさの残る面立ちでありながらも、法廷で見せるあの力強さは本物だと認めざるを得ない。 もう塩を送らずとも、亜内にしょっぱい味付けを突き出してくるので少し塩加減を調整して貰いたいくらいだ。 何故、初対峙した時彼女に目を向けられなかったのだろうか。 「ちょっと机お借りします」 そんな亜内の考えをよそに千尋は前置きした上で机に書類を広げ、ペンを走らせる。 手に持った湯飲みが置けなくなったが、そんな憂慮は一気に吹き飛んだ。 軽く前屈みになった千尋のスーツからこぼれんばかりな胸の谷間が亜内の目を奪う。 「……」 どうして、今まで気付かなかったのか。 法廷の広さは人間同士の距離に溝を開けてしまう悪築だ。 暫く眠り込んでいた海綿体がむっくりと起き上がりそうになりつつも平静を装い、 湯飲みを口に運ぶ偽装工作をしながら、目に蜘蛛の巣を張らせ双丘を凝視する。 目の前に広がるのはちょっとしたアルプス大自然の恵みだ。 これに比べれば亜内の娘は豪族の古墳位にしか思えない。 妻のは贔屓目に見ても公園の崩れかけた砂山程度だ。 しかし、目の前の大渓谷は谷間どころではないが……、ノーブラなのだろうか。 一昔前に流行ったヌウブラという奴かもしれない。 マンネリ生活に刺激を加えようと妻が以前付けた時は有り難味に欠けたが、今は眼球を突き刺すような刺激だ。 正直、触れてみたいと思うのはゼントルメンであろうと致し方無い。 あの突付けば弾き返されそうな膨らみに見とれ、湯飲みで跳ね返る鼻息が少し眼鏡を曇らせる。 触れてしまったら最後、一気に三面記事と被告席にのってしまうだろう。 亜内は今すぐにでも彼女と満員電車に乗り込んで車体が揺れるたびに体のラインを感じたり、 サラサラとした髪の匂いを過呼吸になる寸前まで吸い込みたくなる衝動に駆られる。 勿論、触ったりなんかはしない。満員だからしょうがない事ってあるのだ。 暫く凝視しながら妄想に耽っていた亜内だが、ハッと気付いて慌てて視線を逸らす。 いくらなんでも見続けるのは怪しまれる。 (ベテラン検事たるワタシとした事が……日ごろの疲れが溜まっている証拠ですかね。) やれやれ、と意味も無くニヒルな笑みを浮かべ、少し落ち着こうじゃないかと視線を下のほうに落とす。 「……」 どうして、今まで気付かなかったのか。 足が見えないよう弁護席の前に机を置くのは人間観察こそが重要な法廷において悪築でしかない。 千尋の白くスラッと伸びた足が目に眩しいが、それだけじゃない。 彼女は前スリットの入ったスカートだったのだ。 亜内は踝ふくらはぎ膝裏太腿を滑るように何度も見返す。 カモシカの足というのはこういう時に使うのだろう。 これがカモシカなら亜内の娘は食欲旺盛なロバだ。 妻のは自慢じゃないがカピパラのような足だ。 細いのだけには無い胸を張っているが、加えて短いのでカモシカには及ばない。 もしこのカモシカが書類を落としたら、下心の塊で拾い上げる男が群がるだろう。 急に野球の練習がしたくなってスライディングに精を出すかもしれない。 亜内も例外無く、魅惑の三角地帯を拝みたい衝動に駆られる。 椅子により深く沈むが、眼鏡が少しずれて思うようにいかない。 いくら現場の死体写真でしか若い女性のパンツを見ていない亜内と言えども、それ以上の行為は踏みとどまった。 (…でもちょっとだけなら。) 姿勢を直すフリをしながら見てて哀れなくらいジリジリと懸命に沈む。 「お待たせしたッス!お待ちかねの解剖記録ッスよ!」 急に背後から体育会系の声が響き、ビクッと亜内は椅子から落ちる。 「イトノコ刑事!それっ、早く下さいっ」 思わぬ衝撃に脂汗が浮いて薄ら寒い頭皮の毛穴が開ききる。 「それじゃ、失礼します!」 起き上がろうともがく亜内を尻目に、千尋は受け取るや否や颯爽と立ち去る。 「あれ、亜内検事どうかしたッスか?」 「……」 (糸鋸刑事、今度の給与査定を覚えておきなさい…) 勿論亜内にそんな権限は無い。 「そういえば明日の裁判、亜内検事の相手は綾里千尋ッスよね。その、大丈夫ッスか?」 少し窺うようにして糸鋸が気を使うが、亜内は千尋の歩く姿を見やりながら軽く笑みを浮かべる。 スラリと伸びた足が小気味良い音を立てながら遠ざかっていく。 「ふふふ、楽しみですよ」 法廷には、検事として有罪判決をもぎ取るよりも大事な事がある。 齢五十を前に、心新たにした亜内であった
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/370.html
大地震とバイオハザード。 二つの未曽有の大災害により人の姿が消えてしまった朝の住宅街は、しばしの静寂に覆われていた。 だが、その静けさを打ち破るような幾つもの音があった。 それは靴音。住宅街の石畳を規律よく踏み歩く足音が静寂の中に響いていた。 その足音は1つや2つでは足りない。街路に響く足音は10を優に超えている。 重いブーツの音は力強く、スニーカーの音は軽やかな俊敏さを感じさせるように、それぞれの個性や体格によって異なる音を響かせていた。 そんな不揃いの足音でありながら、歩くリズムは完全にシンクロし、まるで一つの楽曲を奏でているかのようだ。 集団を率いるように先頭を行くのは仲睦まじく手をつないだ少年と少女である。 引き連れられているのは意識のないゾンビたちだった。 これを操る事こそ少年、山折圭介に目覚めた異能である。 目的地に向かう道すがら、圭介は住宅街に彷徨っていたゾンビを掻き集めた。 集まったゾンビの総数は一個分隊にまで達している。 高級住宅街は外部からの移住してきた住民が多い。 集められたゾンビたちは大半が通りすがれば挨拶をする程度の関わりの薄い人間たちだ。 だからと言ってその命を使い捨てていい訳がないが、まだ割り切りやすいのも事実だ。 命に優先順位を付けている時点で村を率いる村長としては失格だろう。 それでも光を助けると決めた。この決意だけは揺らがない。 足音は一つの意志の下に統一され、足並み揃えて行進する様はさながらゾンビの軍隊のようである。 これから挑むのが特殊部隊であるのなら、戦争するのにお誂え向きだろう。 街路を進み続ける分隊は、さっと手を挙げた圭介の合図により一斉に停止し足音も一瞬で静まった。 集団を率いて歩き慣れた道のりを進んでゆくと見慣れた家の前へと辿り着いた。 ガレージのある赤い屋根の家。圭介の友人である湯川諒吾の家である。 そして特殊部隊の襲撃を受け戦場となっている場所であもった。 静止した足音の代わりに住宅街に響いてきたのはコーン、コーンと言う何か重々しい音だった。 その音は圭介の目の前にあるシャッターの閉じたガレージの中からが響いているようだ。 (……何の音だ?) 圭介が眉を顰める。 ただ壁を叩いているだけの音にしては鋭利な響きだ。 住宅街の騒音がないからだろうか、その音は必要以上に周囲に響いているように感じられる。 少なくとも戦闘音ではない。 もっと静かに、淡々と何かの作業をしているような音だ。 不規則で、機械的と言うより人工的。 中に誰かがいて、この音を鳴らしているのは間違いないだろう。 だが、ガレージのシャッターは完全に締め切られており、ガレージには窓もないため中の様子は伺えない。 争うような様子がないという事は、少なくとも事態は既に何らかの決着を得ているようだ。 既にうさぎの友人2人は特殊部隊によって殺され、ガレージに残った特殊部隊の人間が何かをしている。 力の差を考えれば一番可能性が高いのはこれだが、そうなると何故特殊部隊の人間が立ち去らずガレージの中に留まっているのかが分からない。 うさぎの友人たちが奇跡の勝利を収めた可能性もなくはないだろう。他ならぬ圭介がその奇跡の体現者だ。 うさぎの帰還をその場で待っている、というのならガレージ内に人が残っている理由としても納得できる。 それとも特殊部隊の足止めに成功し何らかの膠着状態にある可能性もあるだろう。 はたまたこの音を出しているのは今回の件とは無関係な誰かと言う事もありうる。 何にせよ判断材料が足りない状態で何を考えたところで、ただの推論にしかならない。 命を懸けた行動を選択するにはもう少し確証が欲しいところだ。 だが、完全に閉め切られたガレージ中の様子を知る方法など……いや、ある。 その方法に思い至った圭介は光以外のゾンビたちをその場に待機させ、ガレージ前から離れて湯川邸の玄関まで移動した。 そして、玄関先にある郵便受けの蓋の裏を調べる。 そこにはセロテープで鍵が張り付けられていた。 田舎特有の防犯意識の緩さだが、鍵をかけているだけましである。 村外からの移住民は施錠する物も多いが、古民家からの引っ越し組はまだまだ古い田舎の感覚が抜けていない。 他人の家の鍵を勝手に開くのは僅かな後ろめたさがあるが、圭介は無言のまま玄関を潜る。 何時もであればこの玄関を潜るときは湯川家の誰かが出迎えてくれるのだが、歓迎の声はない。 もっとも正気を失った住民の出迎えがなかったのは幸運だったのかもしれないが。 靴のまま上がり込むと迷うことなくリビングまで移動する。 そしてリビングの壁に埋め込まれたモニターへと手を伸ばす。 電源が生きているのか、それとも電池か充電式なのかモニターは無事に映し出された。 湯川邸には玄関前とガレージ内を映す監視カメラが設置されている。 玄関に鍵を放置する家とは思えない防犯意識の高さだが、これはボロボロの古民家を捨ててピカピカの新居に引っ越せるのが嬉しかった一家が、とにかく最新鋭のモノを付けたがった結果、無駄に付けた監視カメラである。 農家の軽トラなんて盗む人間がいる訳がないだろ、とよく諒吾をからかったものだが、こんな形で生きるとは思いもしなかった。 圭介は玄関前を映し出していたモニターを操作して画面を切り替える。 小さなモニターにガレージの現状が映し出された。 そこに映し出された光景を目の当たりにして、思わず圭介は「うっ」と言葉を飲んだ。 明度が不鮮明な監視カメラの映像だったのは幸運だっただろう。 転がるのは無惨に引き潰され切り裂かれた二つの死体。 ガレージは真っ赤に染まり、凄惨な光景が広がっていた。 だが、うさぎから聞いた情報では村の外から来た少女と、カズユキ――村のプロレスラー暁和之と言う話だったはずだが、転がっている死体は少女と巨大な怪物のモノだ。 少女の方はいいとして、プロレスラーの方は異能で異形化でもしたのだろうか? 何にせよ村人がまたしても殺されたのは事実だ。 自分を縛る檻だと思っていたこの村が傷つけられるたび、圭介の中に身を切られるような痛みがある。 自分はこの村を愛していたのだなと、こんな形で気づかされるだなんて思いもしなかった。 血と肉と死が転がるガレージの中で、ただ一人立っているのは防護服の男だ。 奇跡など起こらず、当然のように特殊部隊が勝利していた。 だが、勝者であるはずの男はその場を立ち去るでもなくガレージの壁際で何かをしていた。 ガレージに工具箱でもあったのか、ノミとトンカチのような工具で壁を削っているようだ。 閉じ込められているのか? と一瞬思ったがそれならばシャッターを破壊した方が早いだろう。 わざわざ丈夫なコンクリートの壁を破壊しようと言うのはよく分からない。 ともかく、ガレージ中には特殊部隊の男が留まっていると言う事は分かった。 それを確認した圭介はモニターの電源を落とし、湯川邸を後にした。 そして再びガレージの正面に立つと、恋人と繋いでいた手を放し待機していた全軍と共に後方に下がらせる。 代わりに右腕に握っていたMGLを両手で構え、巨大な銃口をガレージのシャッターへと向けた。 ガレージごと中の特殊部隊を吹き飛ばす。 グレネード弾は薄いシャッターなど容易く打ち破り、ガレージの中を炎で蒸し焼きにするだろう。 諒吾は文句を言うだろうが、後で修繕費を出してやればいい。 「――――――――死ねよ」 村の侵略者を排除するのに、もはや躊躇いなどない。 引き金を引き、シャッター閉じたガレージに向けてグレネードを打ち込んだ。 爆音と共に巨大な炎が上がった。 爆風に圭介は目を細めながら、その結果を見届ける。 炎が晴れる。 その先にあったのは、何一つ変わらぬ風景だった。 シャッターは健在であり傷一つない。 グレネードの直撃を受けシャッターの一つも打ち破れないなどあり得ない。理に合わない現象だ。 そしてそのような事が、異界と化したこの村ならばありうる事を圭介は知っている。 だが、特殊部隊に異能は扱えないはずだ。 そこで圭介は先ほどモニターに映っていた特殊部隊の男がガレージ内で壁を削っていた姿を思い返す。 なるほど、と圭介は結論を得る。足止めに残ったどちらかが、異能を使って命を懸けて特殊部隊を閉じ込めたという所か。 圭介は湯川家のガレージ構造もよく理解している。 シャッターで塞がれている正面以外に出入り口はない。 小さな子供であれば換気口から脱出できるかもしれないが、中にいるのが成人ならば脱出不可能だろう。 「ハッ! ざまぁねえな特殊部隊!」 中へと罵倒の声をかける。 返答はない。 その代わりに、グレネードの爆音によって中断されていた掘削音が再開される。 「だんまりかよ、なんとか言ったらどうだ? テメェらはこれまでいったい何人ウチの村人を殺してくれたんだ? 挙句に無様に閉じ込められてテメェだけは助かりたくて無駄な努力をしてんのか?」 嘲笑と共に挑発めいた言葉を投げかける。 しかし、返る言葉はない。 返るのは淡々と壁を削るような音が響くばかりだ。 「なんとか言えよ! どうなんだ、おいッ!?」 無視を続ける相手に先に感情を爆発させたのは圭介の方だった。 村を蹂躙することをなんとも持ってないかのようなその態度は許し難いものがある。 ギリと奥歯をかみしめ、怒鳴りつけるように声を荒げた。 「散々俺たちの村を荒らしやがって! 勝手に訳の分からない研究を始めて、失敗したら勝手に皆殺しだぁ? ふざけんなっ! テメェらだけの都合で村の運命が決められて堪まるかッ! 俺たちの事は俺たちが解決するんだよ部外者はすっこんでろ!! テメェらはそれが失敗した時にだけ出張ってきやがれってんだ! ケツだけ拭いてりゃいいんだよッ!」 身勝手でただ感情の爆発をぶつける様な主張。 だが、その声を受けてか、壁を削る音がピタリと静止した。 そして、ようやく檻の中の男が重い口を開く。 「…………来たか」 「何………………?」 瞬間、圭介の眼前を突風が吹き抜けた。 何かが鼻先を霞め、削れた傷口から血が糸のように血が流れる。 突風の行く先にあったのは地面に槍のように突き刺さる道路標識だった。 カラカラとハンマーが石畳の地面に引きずられる音が響く。 音に引きずられ、視線を這わす。 住宅街の道上に立っていたのはクマを思わせる大柄なシルエットだった。 「いやぁ。てっきり乃木平辺りかと思ってたけど、まさかアンタだったとはな、大田原サン」 声は女のモノだった。 忘れるはずもない。見紛うはずもない。 女が全身に纏うのは、圭介が仕留めたあの男や中にいる男と同じ迷彩色の防護服――――すなわち特殊部隊だ。 最悪の事態だ。 1人は閉じ込められているとはいえこの場に特殊部隊が2人集結した。 どうしてここに集まったのか、と言う疑問は瞬時に氷解した。 壁を削っているように聞こえたあの音だ。 あれは救難信号だ。ガレージに閉じ込められた特殊部隊があの音で救援を呼んでいたのだ。 壁を破壊しようとしていたのも本当だろうが、掘るタイミングを調整することで自力の脱出作業と周囲への救援要求を同時にこなしていたのだ。 「救援要請に応じてくれて感謝する。だが作戦行動中に濫りに名前を呼ぶなIronwood」 「そいつぁ失礼、1等陸曹殿。どうせ皆殺しにするってのに相変わらずマジメなこって」 「―――――Ironwood」 聞くだけで震えあがりそうな威圧感の籠った声。 Ironwoodと呼ばれた女は肩をすくめて応える。 「へーへーIronwood.了解。Mr.Oak」 言いながら意識をガレージ内の要救助者からガレージ前にたむろする一団へと向ける。 より正確に言うなら、その先頭にいる圭介にだ。 「で? アタシはドッチを優先すりゃいいんだ?」 救助か、排除か。 まず行うべきはどちらか、階級上の上官へと指示を仰ぐ。 「聞くまでもない――殲滅だ」 「了ぉ解ぃ」 ゆらりと凶悪な獣が牙を向く。 マスクの下にあるギラついた眼光が圭介を射貫き、全身に重厚な殺気が圧し掛かった。 「くっ……ぁああっ!」 その殺意に気圧されるように、思わず圭介はダネルMGLの引き金を引いてしまった。 一刻も早くこの重圧から逃れたい一心で放たれたグレネードが空中を舞いながら標的に向かって行く。 着弾と共に耳に響く轟音が閑静な住宅街に広がった。 衝撃を伴った爆風は街中を吹き荒れ、燃え盛る炎は瞬く間に黒煙と共に高く舞い上がる。 煙と炎が絡み合い、まるで地獄の門が開かれたかのような光景が住宅街に広がってゆく。 火花が舞い散り、火の粉が舞う。 周囲の空気は灼熱と化し、僅かに離れた位置にいる圭介の吸い込む息すら焼けるように熱を帯びていた。 これほどの爆発。如何に特殊部隊が超人であろうとも、直撃を受け生き残れるはずもないだろう。 「――――――っぶねぇな」 だが、炎の中より声がした。 燃え盛る炎のスクリーンに、歩み出る人型の姿が浮かび上がる。 その足音に地面は震え、炎はその存在に畏怖するように退いてゆく。 炎の海を割るようにして、特殊部隊が恐怖と絶望を振り撒きながら歩み続ける。 圭介は思わず息を飲んだ。 特別性の防護服は炎の海をものともしない。 オレンジ色の炎が防護服に反射し、その恐ろしさを照らし出す。 炎の中を進む特殊部隊の姿は、地獄の底から這い上がる死神のようであった。 だが、炎と煙は防護服で防げたとして、グレネードの直撃まで防げるはずがない。 それは他の特殊部隊で実証済みだ。 ならば、生きている以上何か別の理由があるはずだ。 その理由を探る圭介の目が炎上を続けるその火中に、燃え上がる鉄塊があることに気付いた。 グレネードが直撃したのはこの鉄塊、つまり車だ。 偶然そこに在ったという訳ではない。 グレネードの発射に気づいた女が傍らに路上駐車されていた車を咄嗟に引き寄せ盾としたのだろう。 大規模な炎上は盾となった車体から漏れ出した燃料によるものである。 だが、盾となった車は軽だったとしても1トン近くある鉄の塊だ。 それを咄嗟に片手で引き寄せるなど、人間技ではない。 それもそのはず、彼女はただの人間ではない。 最新鋭の技術により体の大半を機械化したサイボーグ。 それが彼女、美羽風雅という女の正体だ。 「なんで素人のガキがんなもん持ってんのかは知らねぇが。 MGLってこたぁ、広川殺ったのぁテメェだなぁ――――ッ!」 歓喜と狂気の混じった声。 仮面の下に浮かぶ獣のような凶悪な笑みが透けて見えるようだ。 絶対的な死の恐怖に圭介の全身が一瞬で総毛立つ。 「ッッ!? 行けお前らッ!!」 背後で待機していたゾンビに追い詰められた王の指示が飛ぶ。 号令一下、十数のゾンビの軍隊が機械の怪物に向かって突撃を始める。 だが、特殊部隊の女は動じることなく、不動のままその場に立ち尽くすだけだった。 そしてゾンビが眼前にまで迫ったところで、ようやく最初の一歩を踏み出す。 その一歩は、地面を揺るがすほどの重さが秘められていた。 「ハッハァ――――ッ!!」 炎を背にサイボーグが笑う。 豪快に振るわれた腕がゾンビの頭を砕きその体を吹き飛ばした。 続けて放たれた前蹴りは破壊の極致を表すようにゾンビの体を粉々に砕き肉と血を周囲にぶちまける。 サイボーグが手足をふるう度に一体、また一体とゾンビが蹴散らされていく。 圭介の集めたゾンビの軍団は、特殊部隊の誇るサイボーグの前ではまるで玩具の兵隊でしかなかった。 まるで波が岩に打ち砕けるように、突撃するゾンビたちは強大な力によって次々と吹き飛ばされて行く。 圭介が最初に戦った特殊部隊員の男も確かに強かった。 だが、あれは人間の範疇の強さだ、目の前の相手は違う。 怪物性で言えば市街地で暴れていた気喪杉に近い、だがあれとは闘争者として次元が明らかに違う。 人間と戦っている気がまるでしない、怪獣でも相手にしているようだった。 だが、逃げる訳にはいかない。 圭介は自らの背後に待機させた光の存在を思い出し、恐れを押し殺して逃げ出したくなる足を踏みとどまらせた。 MGLを正面に構えて、ゾンビ相手に大立ち回りをしている特殊部隊を捉える。 ゾンビたちが足止めをしている間にゾンビごと吹き飛ばす。 自らが従えた者たちを自らの手で葬り去ることになるが、目的のために手段を選んでいられる状況ではない。 その覚悟を決め、引き金に指をかけた。 「遅ぇ!」 だが、この期に及んで今更覚悟を固めている様ではあまりにも遅い。 美羽が手を伸ばし、一体のゾンビの頭を掴むとその体を軽々と振り上げ、圭介に向かって投げ飛ばした。 「ぐは…………ッッ!?」 凄まじい剛速球が腹部に直撃して圭介の体が大きく吹き飛ばされた。 60kg超の鉄球が直撃したようなものである、そのダメージは計り知れない。 圭介の体が硬い石の地面を転がってゆく。 「っ…………は……ッ!」 ようやく止まった頃には全身はスリ傷だらけになっていた。 そして吹き飛ばされた拍子に手にしていた武器を落としてしまったことに気づく。 すぐに拾い上げようと、起き上がるよりも早く目の前に転がるダネルMGLへと手を伸ばした。 「ッ……ぐあああああぁぁっッ!!!」 だが、その手の甲は上から踵で踏みつけられた。 見上げるまでもなく、踏みつける軍靴を見ればわかる。 そこに居るのは特殊部隊のサイボーグ、美羽風雅だ。 「よぅ、クソガキ。ウチのヒーロー志望者が世話んなったみてぇだなぁ」 「くぅッ!!」 見れば、一個分隊のゾンビ部隊は完全に壊滅していた。 原型をとどめているモノすらいない、完全なる蹂躙。 それほどの破壊を苦も無く成し遂げた怪物を睨み、圭介は吠える。 「ヒーロー志望者…………? ああ、クソヒーローなら無様に命乞いしながら押っ死んでったよ!」 この状況で果敢に言い返すその言い様を気に入ったのか、美羽はへぇと口元を吊り上げる。 「いいね。そうこなくっちゃ。そうじゃなけりゃ『返し』の甲斐もねぇ」 どうせなら獲物は活きのいいほうがいい。 同僚を殺したのが、つまらない輩だったそれこそ興ざめだ。 「返しだぁ? 敵討ちでもするつもりか!? ざけんなッ! お前らが先に俺たちの村を無茶苦茶にしたんだろうが!」 「あ゙ぁん? 最初はアタシらじゃなくて研究所の……ま、テメェらからすりゃ一緒か」 投げやりに呟き、自己完結で納得する。 その口調は乱暴ではあるが、敵討ちをしに来たにしては恨み骨髄という声色でもない。 「別にテメェを恨んじゃいねぇさ。結局の所、戦場で死ぬのは弱ぇからだ。野郎が殺されたのは野郎が弱いのが悪かったのさ」 広川の死に対して思う所がない訳ではないが。 広川を殺した相手に対しては別段恨みという感情は持っていない。 何だったら任務も達成できず脱落した広川の方に怒りを覚えるくらいだ。 「はっ。恨んでねぇだぁ? 口ではそう言っても、結局テメェも恨みを果たしたいだけだろうが!」 「違うね。コイツぁ恨みじゃなくケジメの問題だ。舐められたままじゃ終われねぇんだよ」 まるっきりヤクザの言い分だ。 原因がどちらにあるかなど問題ではない。 一度始まった報復の連鎖はどちらかが根絶やしになるまで途切れることなどない。 「まあ、理由はどうあれこれからテメェは蹂躙される。このアタシにな。 それはテメェが悪ぃからじゃねぇ、テメェが弱ぇからだ、弱ぇやつは戦場では無価値だ」 弱者は強者に何をされても仕方がない。 特殊部隊の女は残酷な戦場の真実を語る。 「さて、このままテメェの頭を踏み潰すのは簡単だが、それじゃあ返しにならねぇよなぁ?」 正常感染者を殺すのは特殊部隊としての任務だ。 ただ殺すだけでは個人的なケジメにはならない。 それとは別に暴走族の頭として身内を殺された返しをしなくてはならない。 「っと、その前に、だ」 圭介を踏みつけたまま、美羽は上体だけを捻って自らの背後に迫っていた敵の顔を掴んだ。 そこに居たのは圭介にとっても予想外の人物。 「光ッ!?」 美羽に背後から襲い掛かろうとしたのは、後方に避難させていた光だった。 鉄のような腕に捕まり光の頭部が圧迫される。 正気などないはずの喉奥から小さな声で悲鳴が上がった。 圭介は光を操っていない。 そもそも圭介が光を危険にさらすような真似をするはずがない。 美羽に追い詰められ、ゾンビを制御する余裕を失っていた。 制御を離れた今、光を動かすのはゾンビの自由意志だ。 それはゾンビの本能で目の前の相手に襲い掛かっただけなのかもしれない。 それが圭介を助けに着たように見えただけだ。そんなはずはないのに。 「やめろ!! 光は関係ない!!」 「テメェのツレだろ、関係ねぇってこたぁねぇだろ」 言って、片手でつかんだ光の頭を握りしめた。 だが、すぐに違和感を覚えたのか目を細めて掴んでいた光の顔を凝視する。 「あぁん? んだよ、こいつもゾンビかよ! お人形遊びかぁ? 気持ち悪ぃ」 吐き捨てるように言う。 先ほどまでゴミのように片付けてきた奴らと同じゾンビだ。 だが、全軍特攻に加わらなかった事からして、何らかの特別扱いを受けているのは明らかだ。 「わざわざ侍らしてるってこたぁテメェのスケか? それとも狙ってた女をこの機に乗じていいようにしてんのか?」 「うるせぇ!! 今すぐ光を離せって言ってんだよ!! このゴリラ女がッ!!」 これまでにない剣幕で噛み付く圭介の様を見て、天啓を得たりと仮面の下で美羽が笑う。 「決めた――――まずはこいつを殺す」 「なっ――――――」 その宣言に、圭介は言葉を失う。 これは美羽の個人的な『返し』だ。 本人ではなく大事な人が殺されるというのは仲間を殺された返しとしては妥当だろう。 「待てっ! 止めろ! テメェが殺したいのは俺だろうが!」 腕を踏みつけられたまま、圭介が必死に暴れまわるが相手はびくともしない。 本当に鉄の塊のようだ。 自分の力では何をしても動かせない。そんな絶望が重く心に圧し掛かってゆく。 効果は無くとも足元でバタつく相手が鬱陶しいかったのか。 美羽は手の甲を踏みつけていた足を上げ、そのまま足裏で顔面を蹴り飛ばした。 頭部に直撃を受け圭介の脳が揺れる。 「テメェは後だ、そこで見てろ」 美羽の力をもってすれば蹴り一つで圭介の頭蓋を体から吹き飛ばすのも容易い事だ。 だが、そうはしない。そうでければ『返し』にならない。 「ッ…………やめろぉッ! やめてくれぇ―――――ッ!!」 だが、砕けた鼻から垂れ墜ちる鼻血を拭う事もせずに圭介は美羽の足首にしがみつく。 縋るような無様な姿だが、無様であろうとも構わない。これだけは諦めきれない。 このままでは光が殺される。 諦められるはずがない。 「逃げろッ! 逃げるんだ光ぃ!!」 逃げるように異能で光に指示を出す。 だが虫も殺せぬ光の力で美羽の怪力を振りほどけるはずがない。 ミシリと言う音と共にサイボーグの指先が光の頭にめり込んでいく。 先ほどまでの超人的な大暴れを思えば、人間の頭などトマトのように握りつぶせるだろう。 「うわああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!」 喉を裂く様な絶叫。 無力な圭介では間に合わない。何もできない。 少年の絶望が世界に響き、まるでスローモーションのように彼の世界は全てが遅くなった。 聞こえるのはバクバクと音を立て脈動する自分の心音だけ。 まるで全身が心臓になったよう。 血が逆流し、胸に灼熱を流し込まれたような痛みが伴う。 光が死ぬ。光が死んでしまう。 目の前に突き付けられるその真実に圭介の脳内は破裂寸前にまで膨れ上がる。 満ちるのは怒りと憎悪。 光を守れない自分自身への怒り。光を奪おうとする敵への憎悪。 憎悪と殺意と絶望がシナプスとなって脳内で弾ける。 異常に加熱した脳と、異常に冷めた冷静な脳が共存して脳が痺れる。 それはまるで自分とは別の存在が脳を制御しているかのようだった。 異能が目覚めた瞬間にも感じた脳が世界に繋がる感覚。 一本だった不可視の触手が数え切れないほど伸びていくよう。 意識が世界に拡張される。 いや、意識が世界を拡張していく。 己の意識が現実を侵食していくようだ。 「よーく目に焼き付けなぁ! テメェの女が弾ける様をよぉ!!」 無慈悲な特殊部隊の咆哮が響いた。 それを合図に、止まっていた世界が動き出す。 光を握る手に力が籠められ、パンと、何かが弾ける様な音がした。 「な、に?」 驚愕は誰の口からだったか。 響いた破裂音は光の頭が弾けた音ではなく、ましてや圭介の脳の血管が切れた音でもない。 それは遠方からの狙撃音だった。 美羽の背後、炎と黒煙の壁を突き抜け弾丸が飛来したのだ。 弾丸は美羽の肩甲骨辺りへと吸い込まれ、掴んでいた光を取り落とす。 「バっ…………」 バカな。声にならないそんな驚愕と共に美羽が弾丸の飛来した方向を睨むように見つめる。 弾丸の風圧により穿たれた穴から猟銃を構える猟師の姿が垣間見えた。 伏兵を残していた? いや、それならば狙撃は最初の全員突撃の際に行うべきだ。 それに、ここまでに美羽がその気なら殺されていた場面も何度かあった。 ここまでもったいぶる理由がない。 何より、今の狙撃はただの狙撃ではなかった。 弾丸は炎と黒煙の向こうから来た。 狙撃手からターゲットが見えていないのだから、狙撃など不可能なはずだ。 そして何より、驚愕すべきはどこにも殺意がなかった事だ。 殺意があればそれを読める、だがそれがなければ気づきようもない。 いや、正確に言えば、殺意はあった。 だがそれは美羽の足元に無様にしがみ付く少年から発せられたものである。 殺意と照準が違う。 銃を構え引き金を引いたのは猟師であっても、これは圭介の殺意による弾丸である。 このような異次元の狙撃。如何に特殊部隊の精鋭と言えど避けようがない。 「テェェエエンメェェェェッッッ!!!」 だが、恐るべきはサイボーグ。 中型の獣を一撃で仕留める弾丸の直撃を受けてもその肉体は健在である。 直撃受けた部位の機械構造は破損しているが、一撃ならば致命傷には至らない。 連続して喰らえばマズかろうが狙撃があることは分かった。警戒していればそう簡単に喰らう美羽ではない。 だから、問題は別の所。 美羽の肉体ではなく、防護服に穴が開いたと言う事である。 「チィ…………くッッ!!」 瞬時に状況を理解した美羽は身を翻した。 スレッジハンマーを片手に、振り絞るように全身を捩じる。 「間ぁに合えええぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!」 剛と、台風のように回転して跳躍する。 放たれる一撃の向かう先は圭介でも光でもない。 死力を尽くした一撃が放たれたのは、大田原が閉じ込められたガレージだった。 コンクリート壁にスレッジハンマーの一撃が炸裂した。 大量の火薬でも爆発したような衝撃が叩き込まれる。 強力な一撃を代償にスレッジハンマーが砕け散るが、強固なコンクリートの壁が砕けた。 「――――――よくやった。Ironwood」 破損した箇所を起点に、内側から食い破るようにコンクリート壁が弾けた。 無骨な巨大な手でヒビを広げながら、怪獣めいたサイボーグ以上の脅威が現れる。 少女とオークが命を賭して封印した最強が、鉄筋コンクリートの檻から解き放たれる。 並び立つ絶望。 美羽の隣に大田原が立つ。 その光景はこの村の住民にとっては不可避な死を告げる絶望その物だ。 「では。連携して対応に当たる、まずは…………!?」 「ぅうああ――――――ッ!!」 だが、制圧の指示を出そうとしていた大田原に向かって、横合いから美羽が襲い掛かった。 突然の乱心に流石の大田原も驚きを隠せず、僅かに反応が遅れる。 掴みかかってきた手を避けきれず腕を掴まれそのまま押し込まれた。 恐ろしいまでの圧力。大田原と言えでも機械の筋力には及ばない。 バイオハザードにより村に蔓延するウイルス。それを防ぐための防護服である。 そこに穴が開いてしまえば、あとは正常感染者に成れるかどうか、2%のギャンブルだ。 美羽はそのギャンブルに敗北して、ゾンビとなった。 そして――――――ゾンビならば操れる。 それが村の王たる圭介の異能だ。 手を伸ばし、新たな家臣に向かって王は命じる。 「目の前の相手を殺れ、ゴリラ女――――――!」 その命令に従い、ゾンビとなった美羽が大田原を掴んだ腕を振りまわした。 万力が如き握力で振り回され、100㎏超の巨体の両足が浮き上がる。 そのまま地面に叩き付けんとする刹那、大田原はその流れに逆らわず浮いた両足を振り上げ鳩尾と顎に二連脚を見舞った。 衝撃に握力が緩む。その隙を見逃さず大田原は前蹴りを放つと共に腕を振り払って拘束を脱した。 僅かに距離が離れる。 その隙に腰元からナイフを引き抜き追撃へと前出た。 だが、そのナイフを振りぬこうとしたところで、大田原の動きが静止する。 瞬時に前傾姿勢を解いて上半身を仰け反らせた。 同時に、黒煙の先から放たれた弾丸がその眼前をすり抜ける。 ガレージ内で銃声は聞いている。 狙撃があることは警戒していたし、銃声から狙撃方向も把握していた。 タイミングばかりは撃つなら今であろうと言う当て推量だが、実際に撃たせてみておおよその仕掛けは知れた。 大田原はその場に足を止め冷静に現状を確認する。 中距離には司令塔と思しき正常感染者の少年とゾンビと思しき少女。 ガレージ内で聞き及んでいた音声と美羽の現状からして、少年は恐らくゾンビを操る異能者だろう。 少年の利き腕は美羽に踏みつけられ折れてしまったのか、左手に拾い上げたダネルMGLを握りしめている。 高火力な火器。点の狙撃と違い、美羽を足止めに使いもろとも吹き飛ばされては大田原と言えども避けようがない。 近距離には特殊部隊の同僚である美羽。 筋力は人知を超えた機械のソレ、耐久度は正しく鋼鉄。 自衛隊最強を誇る大田原とでも仕留めるのは簡単ではない相手だ。 任務は女王の可能性がある正常感染者の抹殺。 ゾンビはそこに含まれず、事態が解決されれば元に戻る可能性もあるという話だったはずだ。 ならば、ウイルスに侵されたとは言え美羽を殺す必要はない。 だが、ターゲットを守護し、任務達成の障害となるのであれば排除する。 美羽と言う個人に対する付き合いもそれなりにあったし、幾多もの視線を共に乗り越えてきた部隊同士の仲間意識もある。 それでも正義のためなら躊躇いなく実行できる。それが大田原と言う男だ。 何より、美羽は加減できる相手ではない。 戦うのであれば殺すつもりで行かなくては大田原が危うくなる。 遠距離には炎煙の向こうに構える謎の狙撃手。 ブラインドの先から行われる狙撃は驚異の一言だが、仕掛けさえ分かっていれば避けること自体は不可能ではない。 だが、それも狙撃手単体であった場合の話だ。美羽の相手をしながら狙撃手の警戒をするのは相当に精神が削れる。 その上、一発でも霞めれば美羽の二の舞ともなればかなりの綱渡りだ。 少なくとも黒煙越しにブラインドスナイプが可能なこの状況で戦うべきではない。 頭を潰すのが戦術の基本だが、遠近の守護者を突破して司令塔を潰すのは難しいだろう。 このまま戦ったところで勝ち目がまったくないという訳でもないが、無視できない程度に敗北のリスクはある。 ここは一旦引いて仕切りなおすべきだ。 そう決断するや否や、大田原は躊躇うことなく崩れたガレージの外壁に足をかけて、そのまま屋根へと上っていった。 通常、狙撃手が居る戦場でこのように高台で身をさらすのは自殺行為だが、狙撃手の目は少年だ。 それを理解しているからこそ、あえてその逃走経路を選んだ。 そこから赤い屋根へと移り、巨体とは思えぬ機敏さで屋根を渡り歩いて撤退していく。 圭介は深追いをせずそれを見送る。 美羽や兵衛なら追えるかもしれないが、司令塔である圭介がついていけない。 追うのは難しいだろう。 だが、今はそれでいい。 特殊部隊を手駒に加え、最強の特殊部隊を退けた。 十分すぎる成果だ。深追いをする必要はない。 なんとか生き延び、そして2度目の特殊部隊戦を経て理解した。 有象無象をどれだけ用意しようとも強敵には通用しない。必要なのは精鋭だ。 前衛と後衛。 それぞれの強力な駒を手に入れた。 特に、あの場面で兵衛を手に入れたのは幸運だった。 最初から伏兵として残していた訳ではない。 あの瞬間、世界に広がった異能の触手が、彷徨っていた六紋兵衛を捉えたのだ。 この調子で精鋭を集めて、特殊部隊にも負けない最強のゾンビの軍団を作り上げる。 それを成す異能(ちから)が今の圭介にはある。 その力をもってすれば特殊部隊の駆逐も夢ではない。 その先の女王探しも、力があれば楽になる。 僅かに見えた、光を取り戻すための希望の光。 美羽の言葉は正しい。 戦場において弱さは罪であり、強さは正義である。 全てを取り戻すために力が必要だ。 踏みつぶされた右手は骨折しており、左手は銃で塞がれている。 守護りきった恋人の手を握る事は出来なくなってしまったけれど、全ては光を取り戻すために必要なことだ。 そうやって、圭介は戦いの決意を固めてゆく。 そんな圭介を見つめる恋人の目にはどこか悲しみを湛えた光が宿っているようにも見えた。 【美羽 風雅 ゾンビ化】 【C-4/湯川邸前/一日目・午前】 【山折 圭介】 [状態]:鼻骨骨折、右手の甲骨折、全身にダメージ(中)、精神疲労(大)、八柳哉太への複雑な感情 [道具]:木刀、懐中電灯、ダネルMGL(4/6)+予備弾5発、サバイバルナイフ [方針] 基本.VHを解決して光を取り戻す 1.女王を探す(方法は分からない) 2.正気を保った人間を殺す。 3.精鋭ゾンビを集め最強のゾンビ兵団を作る。 4.知り合いを殺す覚悟を決めなければ。 [備考] ※異能によって操った日野光(ゾンビ)、美羽風雅(ゾンビ)、六紋兵衛(ゾンビ)を引き連れています。 ※美羽風雅(ゾンビ)は拳銃(H K SFP9)、サバイバルナイフを装備しています。 ※六紋兵衛(ゾンビ)はライフル銃(残弾3/5)を背負っています。 ※学校には日野珠と湯川諒吾、上月みかげのゾンビがいると思い込んでいます。 【C-4/高級住宅街/1日目・午前】 【大田原 源一郎】 [状態]:右腕にダメージ、全身に軽い打撲 [道具]:防護服、拳銃(H K SFP9)、サバイバルナイフ [方針] 基本.正常感染者の処理 1.撤退 2.追加装備の要請を検討 3.美羽への対応を検討(任務達成の障害となるなら排除も辞さない) 081.忸怩沈殿槽 投下順で読む 083.catch and kill 084.愛しの■■へ 時系列順で読む 二つの覚悟 大田原 源一郎 Monster Hunter 掃き溜めの戦狼 美羽 風雅 MISSION FAILED 友の家を訪ねる 山折 圭介 化け物屋敷
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/303.html
【第一回定例会議までの死亡者】 時間 場所 死亡者 殺害者名 死亡話 深夜 G-5/バス停近く 佐川 クローネ 黒木 真珠 023.そして訪れる最悪 深夜 D-3/木更津組近く 沙門 天二 大田原 源一郎 026.最強の男 深夜 E-1/診療所本棟一階 一色 洋子 乃木平 天 035.Losers 黎明 B-3/高級住宅街 広川 成太 山折 圭介 032.Danger Zone 黎明 D-1/草原 革名 征子 美羽 風雅 041.JUST THE WAY I AM 黎明 D-5/道 臼井 浩志 薩摩 圭介 043.ボーナスタイム 黎明 D-5/道 遠藤 俊介 薩摩 圭介 043.ボーナスタイム 黎明 D-3/道 郷田 剛一郎 大田原 源一郎 050.かつて未来だった僕たちから君たちへ 早朝 D-3/とある一軒家 気喪杉 禿夫 独眼熊 051.朝が来る 早朝 C-7/路上・小中学校近く 嵐山 岳 八柳 藤次郎 053.山折村血風録・序 早朝 B-6/猟師小屋 環 円華 八柳 藤次郎 053.山折村血風録・序 早朝 D-4/高級住宅街・民家 木更津 閻魔 月影 夜帳 056.パニックハウス 残り38/50名 最期の言葉 佐川 クローネ 「え、ええと、質問に答えたら解放してくれるんですよね。その銃、下ろしてもらえると…」 沙門 天二 「感謝するぜ、お前と出会えた全てに」 一色 洋子 (お兄、ちゃん───) 広川 成太 「や、やめ……!」 革名 征子 「同志よ……一体、どうして……」 臼井 浩志 「ぐ………………ぅ…………ぁ……っ」 遠藤 俊介 「だってあなたが――――――巨乳美女に見えるからぁあああああ!!」 郷田 剛一郎 (――――俺が、連れて行くからよぉ!!) 気喪杉 禿夫 「い゛た゛……ィ゛……か゛ぁ゛……ち゛ゃ゛」 嵐山 岳 「この村にはあなたの弟子や、お孫さんだって……!」 環 円華 「く、そ、じじ……い……死ね……」 木更津 閻魔 「吸…………血、鬼」 殺害数ランキング 順位 殺害人数 名前 被害者 スタンス 生存状況 1位 2人 薩摩 圭介 臼井 浩志、遠藤 俊介 無差別マーダー 生存 大田原 源一郎 沙門 天二、郷田 剛一郎 特殊部隊員(ジョーカー) 生存 八柳 藤次郎 環 円華、嵐山 岳 無差別マーダー 生存 2位 1人 黒木 真珠 佐川 クローネ 特殊部隊員(ジョーカー) 生存 乃木平 天 一色 洋子 特殊部隊員(ジョーカー) 生存 山折 圭介 広川 成太 女王狙い(マーダー) 生存 美羽 風雅 革名 征子 特殊部隊員(ジョーカー) 生存 独眼熊 気喪杉 禿夫 無差別マーダー 生存 月影 夜帳 木更津 閻魔 無差別マーダー 生存
https://w.atwiki.jp/dh_bl2/pages/62.html
6ターン目終了時点 山佐スイレン 恋人:0人 自由創作:3P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 1 5 3 5 1 6 95 × 所持品 状態 音楽仲間 恋人 ロールシャッハ 恋人:0人 自由創作:2P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 4 2 6 5 3 1 65 × 所持品 覆面、さいころ 状態 恋人 黒鐘 銀 恋人:0人 自由創作:3P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 3 1 5 5 5 1 1 15 × 所持品 黒縁眼鏡、車椅子、煙草、コンドーム、コンドーム済、星座盤、教科書 状態 弟子、肉便器 恋人 真野 二郎 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 2 3 3 3 5 1 5 80 × 所持品 ナイフ、洋服(多)星座盤、星肉と醤油、サバイバルナイフ、官能小説 状態 死なない、添乗員から隠れる 恋人 楸田 明彦 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 2 3 4 2 5 3 2 90 × 所持品 包丁、飲みかけの焼酎、携帯電話、指輪、工具セット、整髪料、お守り、DSi、懐中電灯、双眼鏡、小麦、エロ本、鍋 状態 恋人 ンニュー、山井 孔法大師 空海 恋人:0人 自由創作:2P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 5 4 1 5 4 1 80 × 所持品 習字道具、ノート(5)弟子,西洋甲冑,携帯ストラップ,紙飛行機、風呂敷、マヨネーズ(未開封)、包帯、ビニール袋(多)、コッヘル、ドラム缶、傘、写真、魚網、魚肉、水中眼鏡、らっぱ、斧、勝負下着、膝掛け、トランペット、フィッシングツール、教員免許、フラッシュメモリ、缶詰、裁縫セット、アーミーナイフ、革手袋、ステンレス製じょうろ、ダーツセット、万華鏡、頭蓋骨、浮き輪、丸太、洋服(多)三色ペン、コンドーム(使用済)、ギター、コンビニに買える程度のもの、地球の歩き方(ルイリーク)、サンオイル、十徳ナイフ、鯨王丸、糸鋸、西洋甲冑,白馬、チョコレート、宝の地図、エロ本 状態 恋人 瓜戒 学、Say Yah、ルイス・ファン・ルイリーク、鬼塚 隆志、秋月草紙、夕霧 紅蓮、谺 岳彦、新井刀魔、 天条院佐吉 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 4 5 2 5 3 1 80 × 所持品 十徳ナイフ、拳銃、ガムテープ、釣竿、万華鏡、蝋燭、グランドピアノ×2、サバイバルナイフ、サバイバル事典、古タイヤ(多) 状態 音楽仲間、傷心 恋人 半魚人 エドワード・スイガラ 恋人:0人 自由創作:2P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 5 5 1 5 3 1 40 ○ 所持品 フラッシュメモリ、折り紙セット、虫眼鏡、携帯電話、洋服 状態 音楽仲間 恋人 フグ田マスオ 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 3 1 3 5 3 5 75 ○ 所持品 精神安定剤、洋服 状態 弟子 恋人
https://w.atwiki.jp/dh_bl2/pages/60.html
5ターン目終了時点 山佐スイレン 恋人:0人 自由創作:3P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 1 5 3 5 1 6 95 × 所持品 勝負下着、膝掛け、トランペット、フィッシングツール、教員免許、フラッシュメモリ、缶詰、裁縫セット、アーミーナイフ、革手袋、ステンレス製じょうろ、ダーツセット、万華鏡、頭蓋骨、浮き輪、丸太 状態 音楽仲間 恋人 鬼塚 隆志、秋月草紙、 ロールシャッハ 恋人:0人 自由創作:2P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 4 2 6 5 3 1 65 × 所持品 覆面、さいころ 状態 恋人 ンニュー フホーシ 恋人:1人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 5 4 2 4 3 3 70 × 所持品 状態 死亡無効、傷心 恋人 山井 寂 黒鐘 銀 恋人:0人 自由創作:3P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 3 1 5 5 5 1 1 15 × 所持品 黒縁眼鏡、車椅子、煙草、コンドーム、コンドーム済、星座盤、教科書 状態 弟子、肉便器 恋人 真野 二郎 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 2 3 3 3 5 1 5 80 × 所持品 ナイフ、洋服(多)星座盤、星肉と醤油、サバイバルナイフ 状態 恋人 楸田 明彦 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 2 3 4 2 5 3 2 90 × 所持品 包丁、飲みかけの焼酎、携帯電話、指輪、工具セット、整髪料、お守り、DSi、懐中電灯、双眼鏡、コンビニに買える程度のもの、小麦 状態 恋人 ンニュー、山井 寂 夕霧 紅蓮 恋人:0人 自由創作:3P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 4 2 4 5 1 1 90 × 所持品 三色ペン、コンドーム(使用済)、ギター、コンビニに買える程度のもの、地球の歩き方(ルイリーク)、サンオイル、十徳ナイフ、鯨王丸、糸鋸、西洋甲冑,白馬、チョコレート、宝の地図 状態 足負傷 恋人 谺 岳彦、新井刀魔 孔法大師 空海 恋人:0人 自由創作:2P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 5 4 1 5 4 1 80 × 所持品 習字道具、ノート(5)弟子,西洋甲冑,携帯ストラップ,紙飛行機、風呂敷、マヨネーズ(未開封)、包帯、ビニール袋(多)、コッヘル、ドラム缶、傘、写真、魚網、魚肉、水中眼鏡 状態 恋人 瓜戒 学、Say Yah、 ×鬼塚 隆志 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 4 2 4 5 5 0 1 80 ○ 所持品 状態 恋人 天条院佐吉 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 4 5 2 5 3 1 80 × 所持品 十徳ナイフ、拳銃、ガムテープ、釣竿、万華鏡、蝋燭、グランドピアノ×2、サバイバルナイフ 状態 音楽仲間 恋人 半魚人 エドワード・スイガラ 恋人:0人 自由創作:2P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 5 5 1 5 3 1 40 ○ 所持品 フラッシュメモリ、折り紙セット、虫眼鏡、携帯電話、洋服 状態 音楽仲間 恋人 半魚人 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 3 2 5 5 1 6 100 × 所持品 状態 弟子、4ターン目の体力がすげー、音楽仲間 恋人 フグ田マスオ 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 3 1 3 5 3 5 75 ○ 所持品 精神安定剤、洋服 状態 弟子 恋人 ルイス・ファン・ルイリーク 恋人:0人 自由創作:0P 満 知 器 体 姿 精 F 発 心 1 4 3 2 5 4 2 100 × 所持品 ロケットペンダント、日傘 状態 恋人
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/14.html
◆H3bky6/SCY氏が手がけた作品 話数 タイトル 登場人物 000 OP1.はじまり ??? 001 OP2.ようこそ!山折村へ 奥津 一真、真田・H・宗太郎、梁木 百乃介、長谷川 真琴 005 光に手を 山折 圭介 009 Spy×Doctor 田中 花子、与田 四郎 018 Village Queen 神楽 春姫、犬山 うさぎ 026 最強の男 大田原 源一郎、沙門 天二 031 同志の絆 ~無限爆破編~ 物部 天国、革名 征子 034 豪華客船潜入作戦 黒木 真珠 036 光に惑う 天原 創、スヴィア・リーデンベルグ、日野 珠、上月 みかげ、朝顔 茜 039 対特殊部隊撃退作戦「CODE:Skadhi」 田中 花子、与田 四郎、氷月 海衣、乃木平 天 043 ボーナスタイム 薩摩 圭介、臼井 浩志、虎尾 茶子、遠藤 俊介 050 かつて未来だった僕たちから君たちへ 神楽 春姫、郷田 剛一郎、大田原 源一郎 054 諦めの理由を求めて 斉藤 拓臣 056 パニックハウス 木更津 閻魔、リン、月影 夜帳、宇野 和義 061 野獣死すべし 神楽 春姫、物部 天国、ワニ吉 066 false call 黒木 真珠 067 第一回定例会議 奥津 一真、真田・H・宗太郎、梁木 百乃介、長谷川 真琴 069 二つの覚悟 岩水 鈴菜、和幸、大田原 源一郎 073 過去の亡霊 虎尾 茶子、宇野 和義、リン 074 目覚めの朝 上月 みかげ、朝顔 茜、日野 珠、薩摩 圭介、黒木 真珠 076 対特殊部隊撃退作戦「CODE:Aurora」 田中 花子、与田 四郎、氷月 海衣、クマカイ、成田 三樹康 078 研究所探訪 神楽 春姫 079 友の家を訪ねる 山折 圭介、犬山 うさぎ 080 風雲急を告げる 天宝寺 アニカ、犬山 はすみ、八柳 哉太、月影 夜帳、字蔵 恵子、烏宿 ひなた、金田一 勝子、犬山 うさぎ、虎尾 茶子、リン、宇野 和義、独眼熊、八柳 藤次郎 082 Zombie Corps 大田原 源一郎、美羽 風雅、山折 圭介 083 catch and kill 田中 花子、与田 四郎、氷月 海衣、朝顔 茜、日野 珠、黒木 真珠 085 元凶 神楽 春姫、クマカイ、成田 三樹康、物部 天国 087 それぞれの成果 スヴィア・リーデンベルグ、天原 創、哀野 雪菜、乃木平 天、碓氷 誠吾、小田巻 真理 089 対特殊部隊撃退作戦「CODE:Elsa(仮)」 田中 花子、与田 四郎、氷月 海衣、朝顔 茜、日野 珠、黒木 真珠 092 空から山折村を見てみよう 犬山 うさぎ、烏宿 ひなた 094 ヤマオリ・レポート 虎尾 茶子、 リン、 天宝寺 アニカ、 八柳 哉太 095 THE LONELY GIRLS 氷月 海衣、朝顔 茜、日野 珠、与田 四郎、田中 花子、クマカイ、独眼熊 098 山折村の歴史 神楽 春姫 101 第二回定例会議 奥津 一真、真田・H・宗太郎、梁木 百乃介、長谷川 真琴 103 研究所へ 神楽 春姫、氷月 海衣、日野 珠、与田 四郎、田中 花子、乃木平 天、小田巻 真理、碓氷 誠吾、スヴィア・リーデンベルグ、黒木 真珠 106 Z計画の全容及びそれに伴う世界の現状について 神楽 春姫、氷月 海衣、日野 珠、与田 四郎、田中 花子、乃木平 天、小田巻 真理、碓氷 誠吾、スヴィア・リーデンベルグ、黒木 真珠、八柳 哉太、天宝寺 アニカ 110 炎 山折 圭介、成田 三樹康、天原 創、哀野 雪菜、犬山 はすみ、月影 夜帳、烏宿 ひなた、犬山 うさぎ、八柳 哉太、天宝寺 アニカ 112 運命の決断を 神楽 春姫、氷月 海衣、日野 珠、与田 四郎、田中 花子、乃木平 天、小田巻 真理、碓氷 誠吾、スヴィア・リーデンベルグ、黒木 真珠、大田原 源一郎、独眼熊 118 対特殊部隊決死作戦「CODE:Horus」 田中 花子、乃木平 天、小田巻 真理、黒木 真珠、大田原 源一郎 122 第三回定例会議 奥津 一真、終里 元、梁木 百乃介、長谷川 真琴、真田・H・宗太郎、オオサキ=ヴァン=ユン、蘭木 境 124 山折村歴史巡りバスツアーズ 天原 創、哀野 雪菜、犬山 うさぎ、八柳 哉太、天宝寺 アニカ、虎尾 茶子、リン 127 ミーティング『Z』 乃木平天、スヴィア・リーデンベルグ、奥津 一真、真田・H・宗太郎、終里 元、梁木 百乃介、長谷川 真琴 132 Z ―地上の流星群― 日野 珠、虎尾 茶子、八柳 哉太、天宝寺 アニカ、天原 創、乃木平 天、終里 元、梁木 百乃介、長谷川 真琴、奥津 一真、真田・H・宗太郎 133 Z ―望み願い祈る― 日野 珠、虎尾 茶子、八柳 哉太、天宝寺 アニカ、天原 創、乃木平 天、終里 元、梁木 百乃介、長谷川 真琴、奥津 一真、真田・H・宗太郎 134 Z ―永遠の山折― 虎尾 茶子、八柳 哉太 135 エピローグ ―new A― 天原 創、日野 珠、長谷川 真琴 登場させたキャラ 11回 日野 珠 10回 田中 花子 9回 与田 四郎、神楽 春姫、黒木 真珠、乃木平 天 8回 氷月 海衣、虎尾 茶子、八柳 哉太 7回 天宝寺 アニカ、天原 創 6回 大田原 源一郎、犬山 うさぎ、スヴィア・リーデンベルグ 5回 朝顔 茜、小田巻 真理、リン 4回 山折 圭介、碓氷 誠吾 3回 宇野 和義、物部 天国、クマカイ、月影 夜帳、成田 三樹康、烏宿 ひなた、独眼熊、哀野 雪菜 2回 上月 みかげ、薩摩 圭介、犬山 はすみ 1回 沙門 天二、革名 征子、岩水 鈴菜、和幸、美羽 風雅、臼井浩志、遠藤 俊介、郷田 剛一郎、斉藤 拓臣、木更津 閻魔、ワニ吉 字蔵 恵子、金田一 勝子、八柳 藤次郎 氏に寄せられた感想 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/105.html
レジュメ「海の底」 by ~ 1.作者紹介 2.登場人物 3.ストーリー一日目、午前。 一日目、午後。 二日目。 三日目。 四日目。 五日目。 最終日。――そして、 番外編 海の底・前夜祭 4.ガジェットなど 5.感想 6.作品リスト‐有川浩 1.作者紹介 有川浩 高知県出身の女性作家。故郷を語らせるとうるさいプチ・ナショナリスト。2003年、「塩の街」で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞。「ライトノベル作家」を自称している。初期の作品はSF・ミリタリー要素が強い。その作風は「べた甘」とも称される。好き嫌いは人によってかなり分かれる。一般文芸の部門にも進出しており、「植物図鑑」で2010年度本屋大賞8位にランクインした。 2.登場人物 潜水艦サイド夏木大和 主人公。直情径行型。 冬原春臣 夏木の相方。皮肉屋。本編では語られていないが、彼女持ち。 川邊艦長 夏木・冬原の上官。レガリスに食われる。 森尾望 ヒロイン。両親を事故で亡くしている。 森尾翔 望の弟。心因性の失語症。 遠藤圭介 嫌なガキ。望に歪んだ感情を抱いている。 高津雅之 圭介の取り巻き。 陸上サイド明石亨 神奈川県警の警部。不謹慎だが優秀。 烏丸俊哉 警視庁のエリート。実力と自信が伴っている人。 芹沢斉 海洋生物学者。レガリスおたく。 3.ストーリー 一日目、午前。 潜水艦サイド 巨大なザリガニが春の桜祭りで賑わう横須賀を襲撃。夏木らは艦長と共に逃げ遅れた子どもたちを助けるが、途中で川邊艦長が死亡してしまう。総監部に状況を報告したものの、責任問題を恐れた総監部は情報を秘匿。これに対して、二人は子どもたちを通じて情報をマスコミにリークする。 陸上サイド レガリスの襲来に対して、ネットで情報を収集していた明石警部は独断で神奈川県警機動隊に出動を要請。横須賀に展開した県警機動隊は逃げ遅れた市民の避難誘導と救出に当たる。 一日目、午後。 潜水艦サイド 初めての食事。圭介が食事に文句をつけて糞ガキぶりを見せつける。さらに翔と喧嘩を起こす。この時、翔の失語症が発覚。 陸上サイド 有効な装備を持たない状況で県警機動隊は市民を救うために横須賀を駆け回る。管区機動隊や警視庁の増援も到着。レガリスの内陸進出を防ぐべく、ゴジラ以来の伝統である電磁柵を利用した防衛線も構築される。レガリスとの白兵戦は熾烈さを増すなかで、初めて重傷者が出る。 幕僚団の一員として登場した烏丸が米軍による横須賀爆撃の情報を明石にリーク。明石は米軍の動向を探るために地元のミリオタ集団に協力を要請。 二日目。 潜水艦サイド 圭介の蔭口によって森尾姉弟の両親が事故死している事が判明。夏木と圭介の関係が決定的に悪化。一方で、圭介の取り巻きであった吉田茂久がやや夏木寄りになる。 陸上サイド 深海生物学者の芹沢が登場(残念ながらオキシジェン・デストロイヤー的なものは持っていない)。明石と烏丸のアドバイザーとなる。自衛隊は出動したものの武器使用を禁じられる。有効な対策を打ち出せない警察は電磁柵の設置や狙撃による各個撃破、餌の供給などで現状をしのぐ。 三日目。 潜水艦サイド 海自による「きりしお」救出が失敗し、艦内の雰囲気が沈む。そんな中で、弟を揶揄されたことから望が圭介と正面から対立。夏木との交流によって圭介との関係に疑問を持った茂久も圭介と決別する。 夏木らとの対立によって孤立した圭介グループは民放に接触。独占取材と引換えに救助を要求する。 陸上サイド 芹沢の研究により巨大甲殻類が巨大化した「サガミ・レガリス」であることが判明。レガリスの学習能力によって、頼みの綱だった毒殺作戦も失敗し、いよいよ打つ手がなくなる。ミリオタ情報によれば、米軍の爆撃も近い。 四日目。 潜水艦サイド 圭介の密告により、夏木の行動が虐待事件として報道される。ミリオタ木下玲一により、子どもたちの歪んだ関係の原因が明らかにされる。 陸上サイド 警察、最後の警備活動。第一次防衛戦は崩壊し、機動隊はレガリスとの肉弾戦の後、自衛隊の構築した第二防衛戦まで撤退。機動隊の敗退により、自衛隊の出動が決定する。 五日目。 潜水艦サイド 圭介が翔を監禁し、混乱に乗じて脱出を図る。共謀したテレビ局のチャーター機に救出してもらおうとするが失敗。危うくレガリスに襲われるところだったが、夏木に救われる。 圭介は過去を回想。自分の行動や望に対する感情を母親によってコントロールされていた事に気付き、精神的に母離れする。 陸上サイド 自衛隊に対して出動命令が下され、レガリス掃討のための準備が始まる。 最終日。――そして、 陸上サイド 自衛隊によるレガリス掃討戦。機動隊にとっては強敵だったレガリスも自衛隊の圧倒的な火力の前には為す術もなく、ただ駆除されていく。一方、大損害を出した警察機動隊はその光景をTVで見て、憤りつつも諦観を以て現状を受け入れる。 潜水艦サイド 陸上におけるレガリス掃討作戦の後、「きりしお」に避難した子どもたちの救助が始まる。 救出後、艦内で自分を見つめ直した圭介は自分なりのけじめをつける。 事件が終息した後、圭介は親元を離れて大学に進学。望との関係も修復する。そして、望は防衛省に入省し、夏木と再会を果たすのだった。 番外編 海の底・前夜祭 武装集団による「きりしお」襲撃。すわ、テロかクーデターか。パニックに陥る艦内だが、実はこれ、隊員有志による対ゲリラ訓練だった。首謀者であった夏木と冬原は川邊艦長に大目玉をくらい、罰として腕立てを命ぜられる。そして、「海の底」冒頭へ―― 4.ガジェットなど レガリス 横須賀を襲撃した体長1~3メートルの巨大な甲殻類。ちびっこエビラ。 その実態は、富栄養状態で巨大化した深海生物「サガミ・レガリス」。 学習能力が高い。真社会性を持ち、蜂や蟻のように女王を頂点とした群れを形成する。深海生物ではないが、実際に真社会性を持つエビがカリブ海で発見されたそうだ。 機動隊 神奈川県警に常設されている機動隊(序盤に出動していた部隊)の人数はおよそ500名。防弾盾や警棒、ガス弾などを装備していて人間相手にはほぼ無敵(ただ、作中では・・・)。 現実世界における警察の最強組織であるため、フィクションではしばしば噛ませ犬的な役割を担うことが多い。弱点はデモ隊の投石と某国の武装工作員(RPG7には要注意)。 おやしお型潜水艦「きりしお」 海上自衛隊が保有する潜水艦。乗員は70名。「きりしお」はおやしお型の11番艦という設定の架空艦。実際のおやしお型11番艦は「もちしお」。 自衛隊の怪獣対策 防衛庁時代、自衛隊では怪獣が出現した場合を想定したシミュレーションが行われた。そのシミュレーションによれば、ゴジラのような怪獣であっても「有害鳥獣駆除」を名目にして武器の使用も可能との事。怪獣退治は防衛出動ではなく災害出動扱いになる。また、異星人の侵略に関してはこれから検討していくらしい。 5.感想 圧倒的に不利な条件での防衛戦が大好きなので、とても楽しく読む事が出来ました。とりあえず、自衛隊を早く出せと言いたい。あと、機動隊が格好よく描かれていて個人的には大満足です。 夏木と望の関係なんておまけです。「海の底」は巨大甲殻類襲撃という未曽有の大災害に立ち向かう男たちの苦闘を描いた警察小説だと思うのですが、そこのところどう思いますか? 6.作品リスト‐有川浩 「塩の街」‐デビュー作。自衛隊三部作の陸自編。実質、空自のような。文明崩壊もの。 「空の中」‐自衛隊三部作の二作目。空自編。今度は空飛ぶ怪獣だ。 「海の底」‐自衛隊三部作の三作目。海自編。問題は機動隊が前面に出ているところ。 「図書館戦争」シリーズ‐銃を持った司書さんの話。ミリタリーでラブコメ、らしい。 その他、長編と短編集が多数。
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/427.html
「やれやれ、なんとか上手くいったか」 圭介の姿が見えなくなったことを確認し、女王は純粋に安堵した。 自分にとって最大の脅威はあの幼神だった。 あの黒粉末が無ければ、残されたこちらの武器は、華奢な腕力に銃にゾンビ、それにわずかな魔力だけ。幼神を殺す手段は本当に全くなかった。 それ以外にも、綱渡りに綱渡りを重ねた勝利だった。 例えば、山折圭介が周りのゾンビもろとも己を焼き尽くすという手を取っていたら、 自分に最早打つ手は無かったのだから。 だが、まだ戦いは終わっていない。 幼神より力は大幅に劣るが、何をしでかすか分からない、 運命を覆す巫女が残っている。 「……むっ!?」 その時突然、爆発のような轟音が響くとともに、巨大な砂埃が舞い上がった。 次の瞬間、砂煙の中から、巫女服の少女が姿を現した。 「神楽春姫、いや……」 それは、人間の業ではなかった。 砲弾かと見まがう勢いで空を裂き、距離を一気に迫ってくる。 神楽春姫にそんなことが出来るはずがない。すなわち…… 「隠山祈!!」 少女は既に己と数メートルほどの距離に迫っていた。 女王を守るべく数体のゾンビが厄災に向かうが、瞬時に薙ぎ払われる。 隠山祈は左腕を『肉体変化』の異能によって、巨大ワニの尾に変じさせていた。 続けざま、それを目にも止まらぬ速度で、女王に向けて振るった。 「ぐぬっ!!」 女王はすんでのところで躱したが、 女王の眼端に映る運命線が新たなレッドアラートを告げる。 もう一人の『隠山祈』が、音も無く己の背後に出現していた。 (分身の異能……!) 「くっ!!」 今度は羆のそれに変じた右手の突きが迫る。 日野珠の華奢な身体など簡単に破壊するであろう一撃。 女王は受け身を取る暇もなく、地面に激突するのを覚悟で身を投げ出し、紙一重で命を繋いだ。 それでも、完全には回避しきれておらず、こめかみが削られ血が噴き出す。反応が半瞬遅れたらやられていた。 だが、女王もただでは転ばない。地面を転がりながらも砂利を掴み、分身体に向かって投げつけていた。 小石の一つが分身体の頭に当たり、分身が消滅する。 女王は即座に立ち上がり、運命線を視るため、黄金瞳を厄災に向けた。 だが。 「!?」 その瞳には、何も映らなかった。 これが意味するところとは、すなわち。 「――――妾の運命線は、見えないのであったな」 今、目の前にいるのは『隠山祈』ではない。今度は『神楽春姫』に入れ替わっていた。 これが春姫と隠山祈が編み出した女王攻略法・『自我交換(マインド・シャッフル)』 運命線を視ることが出来ない『神楽春姫』の自我を盾にすることでギリギリまでこちらの意図を隠し、 攻撃の瞬間、『隠山祈』に切り替える。 魔王の力が女王に紐づけされ直したことで、『隠山祈』の魔力や神力の行使は不可能になった。 だが、怪異として得た数々の異能と、厄災としての力は健在。 例え女王に運命線が見えていたとしても、その怪物的なパワーとスピードに物を言わされ、 いわば『詰み』の状態に追い込まれてしまう恐れがある。 「やはり君は怖い相手だ、神楽春姫。何をしてくるか読めたものではない。 それに今、君達は、日野珠の身体を完全に殺しに来ていたね」 「想い人の妹までも手に掛ける。山折のが背負うには重すぎよう。 それが避けられぬ業ならば、その責を担い、業を負う。それもまた女王の務め」 「ふむ、なるほど。 ……隠山祈。君の方は、魔王の娘の仇討ちかな。 彼女は気まぐれな祟り神だ。人間を、山折村を嫌悪していた。 白兎と幼神は相容れない。彼女が生きていたなら、君はいつか辛い選択をしなければならなかった筈だ」 『そうかもしれない。 でも、何であれ、憎悪と絶望の底にあった私に、あの子は手を差し伸べてくれた。 そのせいで厄災と化したとしても、それでも、私は救われたんだ。 あの子は、私の友達になってくれた。あの子を奪ったあなたのことを、私は絶対に許さない』 「そうか。なら掛かってきなさい…… と言いたいところだが、 君達の相手は別にいる」 「何……?」 『―――春姫っ!!』 「っ!?」 隠山いのりが突如叫び、肉体の主導権を強引に奪った。 春姫もそこで気付いた。 いま自分達の立っている場所に、何かが凄まじい勢いで飛んできていた。 それは車だった。 誰かが、それを投げつけたのだ。 白いワンボックスカーを、まるで砲弾のようなスピードで。 ワンボックスカーが地面に激突した。同時にガソリンが引火し、爆発を起こした。 炎上する車体。その炎が戦場を紅く照らす。まるで、これからこの地が血に染まることを暗示するかのように。 隠山祈は、地面に伏せて熱と爆風を凌ぐと、立ち上がって新たな敵を睨みつけた。 炎に身を照らされながら姿を見せたモノ、それは、鬼だった。 「ようやく来てくれたようだね、私の戦鬼」 女王の呼び声に導かれるように、戦鬼・大田原源一郎が、その姿を現していた。 「大田原源一郎に命ずる。女王の敵を処理せよ。 あと、それはもう要らない。外せ」 女王が戦鬼に命を下す。 大田原は女王の意を受け、自決用の爆弾を組み込んだ首輪を鷲掴みにすると、強引に引き剥がし始めた。 異能の飢餓にも屈せず、己が生き方を貫くべく、最期まで秩序の守り手たらんとした、大田原源一郎の信念の証。 その最後の楔が、外される。 「グワアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッッ!!!」 野獣のような咆哮とともに、秩序の首輪が遂に引き千切られる。 大田原はそれを、一瞥もせず投げ捨てた。 大田原源一郎は、ここに、忠実なる女王の戦鬼と化す。 「じゃあ、せいぜい頑張ってくれ、厄災。彼の相手は君でもかなり厳しいと思うよ」 「待てっ……!」 追おうとしたいのりの前に、戦鬼が立ちはだかる。その陰に隠れ、女王の姿は宵闇の中に消えていく。 「じょぉ王の、敵……」 「……邪魔するな……」 対峙する両者。そして。 「処ぉぅ理するゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」 「どぉけェェェェェェェェェ!!!」 2つの咆哮と共に、戦鬼と厄災、山折村の頂点に君臨する怪物同士の死闘の幕が上がった。 ■ 「くそっ、くそっ、くそおっ!!!」 山折圭介は情けなくも、ゾンビの群れの中をひたすら逃げまどっていた。 前後左右を幾体ものゾンビに囲まれ、既に方向感覚は失われている。 なんとか異能でコントロール可能な数人のゾンビを肉壁にすることで ギリギリのところで凌いでいるか、ジリ貧なのは明らかだ。 珠の肉体を奪った女王がどこに向かったのも分からない。 春姫が今、何かとんでもない相手と戦っているのだけは、辛うじてわかる。 ただただ、押し寄せるゾンビから身を守るのが精一杯だ。 息が上がる。集中力が失われていく。絶望が自分の思考を塗りつぶしていく。 そして。 (あ……) 側溝に踵を取られた。足が思い切り前に滑る。前を向いていたはずの視界が、真上の夜空を映す。自分の身体が宙に浮いたのが分かった。 (――――やべえ、死ぬ) 圭介の脳裏に浮かんだのは、そんな言葉だった。 背中が地面に着くまでのわずか1秒足らずの時間が、やたらと長く感じられた。 背中に衝撃が走った後。 まるで、ゾンビ映画のクライマックスシーンのように。 倒れた自分に向かって、ゾンビたちが一斉に群がってきた。 ■ 厄災と戦鬼の死闘は続いていた。 2つの拳が正面から激突し、両者は弾けるように離れた。 「支障、為し……っ! 任務、継ぞくっ………!!!!」 「――――はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 今のところ互角の戦いであるが、隠山祈に疲労の色が見えてきた。 その原因は、肉体の差だ。 互いに肉体強化の類の異能を使用しているが、神楽春姫と大田原源一郎では肉体のスペックに天と地ほどの差がある。 今は異能『肉体変化』と『身体強化』の二重掛けにより何とか渡り合っているが、 神楽春姫の華奢な肉体ではその反動にいつまでも耐えられない。いずれ限界が来るのは目に見えている。 しかも、魔王の娘が纏っていた黒い厄の靄が、いわば同類である隠山祈に向かって再び集まってきていた。 彼女の心に、かつて抱いていた呪いと憎悪が再び湧き上がってくる。 彼女がまた狂気に堕ち、春姫のコントロールを外れてしまえば、もはや絶望だ。 『隠山の! もうよい! 妾に代われ!!』 「何言ってるの! こんなの相手にしたらあなたじゃ一瞬で殺されるって分かるでしょ!!」 『しかし、このままではそなたが持たん……!』 女王は完全に見失った。逃げる手段も見当たらないし、応援が来る見込みもない。 圭介はどこにいるかすら分からない。 それに、例え今の彼が来たところで、戦況が変わるとは思えない。 聖剣は、敵対する厄そのものである隠山祈では握ることすらできない為、 やむを得ず手放してしまっている。 だが、仮に聖剣があったとしても、春姫ではその力を振るう間もなく殺されるだろう。 (もう、届かぬか……!?) 唯我独尊、傲岸不遜、全ての道は己に通ずの確信を以て人生を歩み続けてきた少女、神楽春姫。 その彼女が、心中で、生涯初めての弱音を吐いた。 ■ これも自分への罰なのか。 山折圭介の脳裏に浮かんだのは、そんな言葉だった。 異能を使って守るべき村人を戦う道具にして。 浅はかにも特殊部隊に戦いを挑んで、光や碧や六紋の爺さんを死なせて。 幼馴染達の想いを裏切って、魔王なんかになって。それでも負けて、底の底まで堕ちて。 んで、光の想いを知って、魔王の娘に支えられて、 ようやく自分の足で立てるか、と思った矢先に、これだ。 そもそも、罪を犯した自分がヒーローになろうとなど思ったのが、間違いだったのか。 ゾンビ達が襲い来る。 圭介は、遂に観念した。その眼を、ゆっくりと閉じた。 そうだ。もう、終わりにしよう。 殺されるのを待って、それで、終わりだ。 後のことなんかどうでもいい。 村の人間に殺されるなら仕方ない………… ……… …… … “仕方ないわけ……………………ないでしょっ!!!!!!!!!!” 「っ!!!???」 圭介は、飛び跳ねるように立ち上がった。 本気で怒った顔をした想い人と、その親友の姿が、瞼の裏に浮かんでいた。 いつの間にか自分は、光のロケットペンダントと、上月みかげの御守を、握りしめていた。 光とみかげが助けてくれたのか。 いや、2人は死んだ。光に至っては、その魂まで消滅した。 だから、立ち上がったのは、自分の意志だ。 自分はまだ、生きようとしている。 視界が広がる。少し離れたところに、神楽春姫が持っていた剣が落ちていた。 何故春姫が落としたのかは分からない。 理由なんか何でもよかった。武器なら、力になるなら何でもいい。 ゾンビは次々と押し寄せる。ゾンビの歯や爪が、圭介の身体を傷つける。 それでも、圭介は生きようとした。ロケットペンダントと、御守を握りしめながら。 一体のゾンビが、手にした石で圭介の頭を殴りつけた。 これには堪らず、圭介も膝を付く。この機とばかりにゾンビ達が圭介を包囲していく。 だが、圭介の心はまだ折れていなかった。 (――――だよな。負けらんねえよな。だから、助けてやるよ) 「……え?」 圭介の耳に、そんな声が聞こえた、気がした。 彼の、みっともなくも生にしがみ付こうとする意志が、異能を発動させ、『彼』を呼んていだ。 圭介の目の前で、ゾンビ達が宙を舞った。何者かが自分の眼の前に颯爽と現れ、ゾンビ達をなぎ倒していた。 それは、少年だった。彼はやはり、ゾンビと化していた。 だが、ゾンビ化により理性を失ってもなお、その身にどこか、雄々しき気を纏っていた 年齢は自分と同じくらいだろうか。 顔は、知らない。この村の同年代の人間なら、自分が知らない筈はないのに。村外の学生だろうか。 服装もおかしかった。なんでマントなんか着けてるのか、さっぱり分からない。 そして、彼の顔は、血がつながっているかのように、自分に似ていた。 少年が、圭介を守るようにゾンビの群れに立ちはだかる。 その背中が、圭介に語っていた。「行けよ」と。 「……済まねえ!」 圭介は、少年に礼を言って走り出した。 体力の余裕はもうない。あの少年も強いが、いつまでもは持たないだろう。 これが最後のチャンスだ。圭介は聖剣に向かって駆けた。 少年がその大半を引き付けてくれているとはいえ、 残るゾンビはまだ多く、彼らは圭介を阻止しようと襲い掛かる。 だが圭介は残る力を振り絞り、ゾンビを殴りつけ、蹴り飛ばし、飛び越えながら、 ひたすらに前進し続けた。 ■ ――だから、すぐに女王を殺しておけばよかったのだ。 聖剣は悔やんでいた。 女王討つべしとした己の進言を聞かず、 その結果、今や死の淵に立たされている先の使い手・神楽春姫と、その同行者の姿を見ながら。 山折圭介の後方では、かつての相棒が戦い続けていた。 だが、いかんせん多勢に無勢。更に脳内のウイルスが女王の眷属との戦いを拒否せんと働き、 徐々に動きの切れが悪くなってきている。 ……そういえば、お前も我の言うことなどさっぱり聞かなかったな。 魔王の娘も、裏切りの召喚士も、我が忠告を聞き捨て、お前は見逃した。 どちらも、お前が本気で止めようとすれば止められたにも関わらず、だ。 だが、だからこそ、言い切ることが出来る。 魔王アルシェルは、聖剣や運命の導きなどではなく、 勇者ケージと、その仲間達の意志によって倒されたと。 そして、そんなお前たちに、私は友情を感じていたと。 付け加えれば、私の指し示す道も、また間違っていたかもしれないのだ。 白兎の召喚士を殺していたら、厄災の少女がこの場にいることも無く、 神楽春姫は為すすべなく戦鬼に殺されていただろう。 魔王の娘を殺していたら、山折圭介はいまだ絶望に沈み、 魔王として世界の敵となっていたかもしれない。 ケージの負う傷は徐々に多くなっている。ゾンビが振るった鉄棒で額が割られた。 左手首の骨が折れている。それでも彼は戦い続ける。 例え理性を失っても。彼は勇者ケージとしての、いや、山折圭二としての生き方を貫き続ける。 ――――そう、意味はあったのだ。 例えその先で、苦しみや悲しみが生まれたとしても、 それでも決断することで、人は前に進んだのだ。 だから、私は信じたい。運命に逆らい、己の生き方を貫き、日野珠を救い出そうとする彼らの意志を。 いや、信じるだけでは駄目だ。私も私なりに、運命に逆らうとしよう。 日野光のループとやらでは、女王が我を以て日野光や浅葱碧を殺害したと聞く。 すなわち、我は女王の自我に屈し、その武器として使われる運命なのだろう。 だが、女王よ。見るがいい。 その運命を破壊する術は、今、この手の中にある。 ■ 「なっ!? お、おいっ!?」 それを手にしようとした圭介の目前で、聖剣の光が消えていく。 刀身の光沢が消え、石と化していく。 続けて剣全体にヒビが入り、崩れ去り始めた。聖剣は、砂となって消えていく。 呆然となる圭介。 だがその直後、圭介の手の中に光が生まれた。 聖剣が消失したと同時に、勇者ケージも限界を迎えた。 女のゾンビが彼の首に齧り付き、遂に、その頸動脈が噛み千切られる。 お主の生き様、しかと見届けたぞ、我が相棒よ。 あとは、この世界の若者に全てを託そう。 運命に屈し、敗北者となるのでもなく、 運命の操り人形と化すでもなく 彼らなりのハッピーエンドを掴み取ることを信じよう。 ……そういえば、ケージよ。お主は、あの魔王の娘の名を覚えているか? 彼女自身は気に入らぬかもしれぬが、せめて、その名だけでも残してやりたい。 彼女が好意を抱いた者達への手向けとして。 ……ありがとう、我が友よ。 ――――では、逝くとしようか。 ■ 勇者ケージの命が尽きると同時に、聖剣ランファルトの意志も霧散した。 だが、彼らの残した力は、山折圭介の手の中の光に宿る。 「この、光……」 圭介は落ち着いていた。この光は味方だと、直感的に理解した。 光が徐々に収束していく。そして、一本の剣を形作った。 それは、いわば聖剣の『娘』であった。 もはや進むべき道を記すことはない。 倒すべき敵を示すこともない。 ただひたすらに持ち主の意志に寄り添い、魔剣にも聖剣にも成り得る力。 魔王の娘と同じ真名を持つ一振りの剣、魔聖剣。 その柄を握りしめると、魔王の力を宿していた時と同じ様に 己の身体に魔力の波動が満ちるのを感じた。 「ぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」 咆哮と共に振るわれる魔聖剣。 その刃から衝撃波が走り、圭介の周囲にいたゾンビ達を、まとめて吹き飛ばした。 圭介は、春姫と戦鬼の戦いの場へ走る。 『山折の!?』 「春! 伏せろぉぉぉっっ!!!」 魔聖剣に光が集中し、圭介が発した気合と共に、二条の稲光が走った。 勇者ケージが得意としていた光属性の攻撃魔法だ。 雷が、大田原源一郎の、2つの眼球を焼き尽くす。 「グゥアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!!」 戦鬼が苦悶の叫びを上げ、地響きを立てて倒れた。 「逃げるぞ、春!」 そう言いながら、圭介は春を助け起こした。 ここで戦鬼を倒す選択肢もあったが、 かつて勇者ケージと共に死線を潜り抜け、魔王すら討伐した聖剣ランファルトが巨鳥なら、 魔聖剣はいわば雛鳥。戦鬼を倒すまでの余力があるかは不明瞭、圭介自体の体力もほぼ残っていない。 仮に倒せたとしても、力を使い果たしてしまう恐れがある。 今の段階で最も優先すべきは、女王の拘束だ。 そう判断した圭介は、撤退を選択した。 「しっかりしろ! 立てるか!?」 「済まんが、無理をし過ぎた。身体がバラバラになりそうだ。とても動けん」 「……仕方ねえな」 圭介は春姫を背負い、走り出した。 「済まぬ、山折の。今日ばかりは、素直に礼を言っておく」 「何か今日はお互い素直だな俺ら。ま、お互いめっちゃ頑張ってことは分かってるから、な!」 追いすがるゾンビ達を、魔聖剣の魔力で追い払いつつ、ひたすら走る。 そして、2人は遂に、ゾンビの群れを振り切ることに成功した。 ■ 「なんとか、振り切った見てえだな……」 追手が来ないと見た圭介は、一旦春姫を背から下ろした。 流石に息が切れた。体力も限界だ。休息が必要だった。 「とにかく、天原とやらを探さねばならぬな. 恐らく、女王もそやつを確保しようと動くはず」 「ああ、そうだけど…… ところで、その天原って、どこにいるんだ?」 「妾らは日野のの異能で探すつもりだった」 「……え?」 春姫の言葉を聞いた圭介の顔色が、みるみる青ざめていく。 「じょ、冗談だろ? ……知らねえの?」 「そうだ。だが案ずるな。妾が指し示す方向へ向かえ」 「……は? 今知らないって言ったろ。なんか根拠でもあんのか?」 「忘れたのか山折の。妾は運命をも従わせる人間ぞ。根拠なぞ不要。妾を信じよ」 「当て勘かよ! 冗談じゃねえぞ! どうすんだよおい!!」 ドヤ顔の春姫とは正反対に、圭介は本気で焦り出した。 『ねえ、ちょっといいかな』 隠山いのりが、春姫の身体を借りて口を挟む。 「ん? 春、じゃなくて、いのりさん?」 『もしかしてその天原って人、神社に縁がある人と一緒にいない?』 「……神社? あー、確かにいるな。 うさ公…… 犬山うさぎって奴が多分一緒にいるはずだけど」 『じゃあ、多分あっちだと思う』 「え? わ、分かんのか?」 隠山いのりは、いまだ人に仇する怪異の身である。 だがそれ故に、己と相反する神社の巫女の存在を感じ取れる、という訳だ。 今はそれを信じるしかない。 圭介はいのりの指示に従うことにした。 しばらく歩いたのち、圭介がまた口を開いた。 「…………ところで、春、気付いてるか」 「うむ。頭に響く女王の声。それがさっきから徐々に強くなってきておる」 「天原って奴とか、哉太達とかは、大丈夫なんだろうな」 『女王が近づいてきたら、安全とは言えないかも。 さっきの鬼は、異能を使ってたことから見て正常感染者だろうけど、 あれは完全に女王に支配されてたみたいだった』 「じゃあ、コントロールが利く奴と、利きにくい奴がいるってことなのか?」 圭介たち3人は、簡単に検討を試みた。 自分と春姫の異能は、両方ともゾンビをコントロールする、 すなわちウイルスを己の意志でコントロールする類の異能である。 その異能が、女王の支配力に対する耐性になっているのかもしれない。 だが、そういった異能を持っていない生存者に、どれほどの影響が出るのかは分からない。 「となると、最悪の場合、哉太達まで敵になるって言うのかよ。クソッ」 『不幸中の幸いなのは、多分天原君って子は、 異能の性質からして、耐性を持ってる可能性は高いってことかな』 「……何にせよ、時間が無い。一刻も早く天原とやらと合流し、 日野のを取り返さねばならぬ」 春姫の言葉に、圭介は頷いた。 村の王と女王、そして厄災は行く。 女王を打倒し、日野珠を取り戻し、自分達なりの結末を掴み取る為に。 自分達の意志を貫くことそのものに、何か意味があることを信じて。 例えその先で、どんな犠牲を払うことになったとしても。 【D-3/道路/一日目・夜】 【山折 圭介】 [状態]:疲労(大)、眷属化進行(極小)、深い悲しみ(大)、全身に傷、強い決意 [道具]:魔聖剣■、日野光のロケットペンダント、上月みかげの御守り [方針]基本.厄災を終息させる。 1.女王ウイルスを倒し、日野珠を救い出す 2.願望器を奪還したい。どう使うかについては保留。 3.『魔王の娘』の願い(山折村の消滅、隠山いのりと神楽春陽の解放)も無為にしたくない。落としどころを見つけたい。 [備考] ※もう一方の『隠山祈』の正体が魔王アルシェルと女神との間に生まれた娘であることを理解しました。以下、『魔王の娘』と表記されます。 ※魔聖剣の真名は『魔王の娘』と同じです。 ※宝聖剣ランファルトの意志は消滅しましたが、その力は魔聖剣に引き継がれました。 ※山折圭介の『HE-028』は脳に定着し、『HE-028-B』に変化しました。 【神楽 春姫】 [状態]:疲労(極大)、眷属化進行(極小)、額に傷(止血済)、全身に筋肉痛(極大)、魂に隠山祈を封印 [道具]:血塗れの巫女服、御守、研究所IDパス(L1)、[HE-028]の保管された試験管、山折村の歴史書、研究所IDパス(L3) [方針] 基本.妾は女王 1.女王ウイルスを止め、この事態を収束させる 2.日野珠は助け出したいが、それが不可能の場合、自分の手で殺害する 3.襲ってくる者があらば返り討つ [備考] ※自身が女王感染者ではないと知りましたが、本人はあまり気にしていません ※研究所の目的を把握しました。 ※[HE-028]の役割を把握しました。 ※『Z計画』の内容を把握しました。 ※『地球再生化計画』の内容を把握しました。 ※隠山祈を自分の魂に封印しました。心中で会話が出来ます。 ※隠山祈は新山南トンネルに眠る神楽春陽を解放したいと思っています。 ※隠山祈と自我の入れ替えが可能になりました。 隠山祈が主導権を得ている状態では、異能『肉体変化』『ワニワニパニック』『身体強化』『弱肉強食』『剣聖』が使用可能になりますが、 周囲の厄を引き寄せる副作用があり、限界を超えると暴走状態になります。 ■ 不覚を取った。 大田原源一郎は、そう思いながら、眼のダメージの回復を待っていた。 幸い、『餓鬼(ハンガー・オウガー)』の異能で網膜も再生を始めている。 だが、視力が完全に回復するにはもう少し時間が掛かる。 それまで、女王の敵の追跡は不可能だ。 必ずやこの屈辱は晴らす。そして、女王は己の身に代えても守り切る。 その決意を胸に、戦鬼は、再起の時を待つ。 【E-2/草原/一日目・夜】 【大田原 源一郎】 [状態]:ウイルス感染・異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』、眷属化、脳にダメージ(特大)、食人衝動(中)、網膜損傷(再生中)、理性減退 [道具]:防護服(内側から破損)、サバイバルナイフ [方針] 基本.女王に仇なす者を処理する 1.女王に従う ■ 「ふむ、慣れてきたかな」 女王は、圭介から奪った魔王の力を試しながらそう呟いた。 「では、天原創君を確保しに行くか。彼は分かってくれるといいが」 早速、魔力による飛行を試す。日野珠の小柄な身体が、商店街の上空を舞った。 心地よい風を顔に受けながら、 女王は己の望むハッピーエンドに思いを馳せていた。 HE-028ウイルスには、魂と魂を繋ぐ力がある。 哀野雪菜と愛原叶和が、独眼熊とクマカイが、 ウイルスの作り出した胡蝶の夢の中でつかの間の再会を果たしたように。 だが、今の段階では、自分たちは単なるその媒体に過ぎない。 自分達の自我はまだ不完全だ。女王である自分ですら、日野珠のそれを利用し、疑似的に再現しているだけに過ぎない。 だが、もう少しだ。己の中で魂の卵とでもいうべきものが生まれつつある。 『第二段階』は、己に「魂」が生まれた、その時に完成するのだ。 魂を得たその時、自分は魂と魂を己の意志で自由につなぐことが可能になる。 そして、今回魔王とその娘の力を得たことで、死者の魂を一時的に蘇らせることが可能になった。 つまり、死者の魂ですら、己はコントロールできるようになる。 そして、己が魂を得て、全人類にウイルスが行き渡った時、生まれるのだ。 女王の名の下に、あらゆる生者と死者の魂が統合された理想郷――『Zの世界』が。 「ああ、楽しみだ」 女王は、そう呟くと、穏やかに微笑みながら、夜の空を滑るように飛んで行った。 【E-4/商店街上空(飛行中)/一日目・夜】 【日野 珠】 [状態]:疲労(小)、女王感染者、異能「女王」発現(第二段階途中)、異能『魔王』発現、右目変化(黄金瞳)、頭部左側に傷、女王ウイルスによる自我掌握 [道具]:H K MP5(18/30)、研究所IDパス(L3)、錠剤型睡眠薬 [方針] 基本.「Z」に至ることで魂を得、全ての人類の魂を支配する 1.Z計画を完遂させ、全人類をウイルス感染者とし、眷属化する 2.運命線から外れた者を全て殺害もしくは眷属化することでハッピーエンドを確定させる [備考] ※上月みかげの異能の影響は解除されました ※研究所の秘密の入り口の場所を思い出しました。 ※『Z計画』の内容を把握しました。 ※『地球再生化計画』の内容を把握しました。 ※女王感染者であることが判明しました。 ※異能「女王」が発現しました。最終段階になると「魂」を得て、魂を支配・融合する異能を得ます。 ※日野光のループした記憶を持っています ※魔王および『魔王の娘』の記憶と知識を持っています。 ※魔王の魂は完全消滅し、願望機の機能を含む残された力は『魔王の娘』の呪詛により異能『魔王』へと変化し、その特性を引き継ぎました。 ※魔術の力は異能『魔王』に紐づけされました。願望機の権能は時間と共に本来の機能を取り戻します。 ※戦士(ジャガーマン)を生み出す技能は消滅し、死者の魂を一時的に蘇らせる力に変化しました。 ※女王ウイルスに自我が目覚めたことにより、女王に接近した正常感染者に「眷属化進行」の症状が発生するようになりました。 行動・思考パターンが女王を守るように変化します。進行度が低い段階では強い意志を持つことで対抗できますが、限界を超えると完全に眷属化します。 なお、異能の特性や自我の強さ、女王に対する対抗心の有無などによって進行の速さは左右されます。 誰にどの程度の耐性があるのかは次の書き手に一任しますが、完全な耐性を持つことは出来ません。 どんなに耐性が強くとも、VH発生から48時間経過した時点で、例外なく完全に眷属化するものとします。 122.第三回定例会議 投下順で読む 124.山折村歴史巡りバスツアーズ 時系列順で読む 幼神レクイエム 山折 圭介 地下3番出口 白き墓標にて 大田原 源一郎 『厄災・隠山祈』 日野 珠 神楽 春姫
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/270.html
◆2dNHP51a3Y氏が手がけた作品 話数 タイトル 登場人物 003 匣の奥底に見えるもの 天原 創、スヴィア・リーデンベルグ、日野 珠 014 「ごめんね」 字蔵 恵子、烏宿 ひなた 037 Behavior observation 字蔵 恵子、烏宿 ひなた、独眼熊、天宝寺 アニカ、八柳 哉太、金田一 勝子、犬山 はすみ、気喪杉 禿夫 044 心という名の不可解 天原 創、スヴィア・リーデンベルグ、日野 珠、上月 みかげ、朝顔 茜 045 秒針を噛む 哀野 雪菜 063 End Dream→Starting Nightmare 天原 創、スヴィア・リーデンベルグ、日野 珠、上月 みかげ、朝顔 茜、哀野 雪菜、薩摩 圭介 068 此処でなく、現在でなく 天原 創、スヴィア・リーデンベルグ、哀野 雪菜 090 未来福音 天原 創、哀野 雪菜 111 いろとりどりのセカイ -Dawn of Beginning- 山折 圭介、天原 創、哀野 雪菜、犬山 はすみ、月影 夜帳、犬山 うさぎ、八柳 哉太、天宝寺 アニカ いろとりどりのセカイ -袴田邸吸血殺人事件解決編- いろとりどりのセカイ -さらば青春の光- 終わ(はじま)りの山折(れいめい)/テスカトリポカ 117 穢れ亡き夢/其は運命を―― 独眼熊、氷月 海衣、スヴィア・リーデンベルグ、神楽 春姫、日野 珠 登場させたキャラ 6回 天原 創 5回 哀野 雪菜、スヴィア・リーデンベルグ 4回 日野 珠 2回 字蔵 恵子、烏宿 ひなた、上月 みかげ、朝顔 茜、天宝寺 アニカ、八柳 哉太、犬山 はすみ、独眼熊 1回 金田一 勝子、気喪杉 禿夫、薩摩 圭介、月影 夜帳、山折 圭介、犬山 うさぎ、氷月 海衣、神楽 春姫 氏に寄せられた感想 名前 コメント