約 243,074 件
https://w.atwiki.jp/wiki9_vipac/pages/1771.html
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/986.html
運命の出会い 2 寮の近くにあるファミレスで、上条は冬休みの宿題と格闘していた。今回は、美琴の協力もあってか、数学やら英語やらの宿題は早々に片付いていた。しかし、最後に残された宿題。国語の課題だけは、どうにもこうにも解けないものとして、上条の前に立ちはだかっていた。課題の内容は、『この高校を選んだ理由』高校を紹介するためのパンフレットやホームページに載せるためらしい。そんなもの課題じゃなくて、有志から募集すればいいものをと思われたが、上条の高校はそれほどレベルも高くなく、有志なぞ殆どいないらしい。果たして、迷惑なことに冬休みの宿題と相成ったわけである。上条にとってはこの課題は、他の宿題と違って容易に解決の出来るものではない。なぜなら、彼は記憶喪失だから。今年の八月以前の記憶はすべてなくしており、すなわち高校の志望理由もすっかり消えていた。小萌先生にすべてを打ち明けて相談しようと思ったが、その考えはすぐに否定された。記憶喪失になった理由は、魔術がらみのこと。さらにインデックスも絡んでいるとなると、小萌先生の警戒は強くなる。下手をすれば、彼女が学園都市から追い出される事態に発展するかもしれない。また、インデックスと小萌先生は知り合い同士だ。インデックスに記憶喪失のことが漏れるのも、上条は避けたかった。(今まで通り隠し通すしかないか…)何度繰り返しても同じ結論に達したところで、上条は小さなため息を一つついた。ただ、今回は少しばかりヒントがあった。上条のクラスには、偶然同じ中学出身のヤツがいたが、冬休みにはいる前、そいつから課題のことが話題に上っていた。しかも、ありがたいことに話題を振ってきたのは向こうの方。自然な感じで情報を聞き出すことに成功したのだった。「この課題どうしようか…まさかクジで決めたなんて書けないし…」「適当にでっちあげればいいじゃねーか?」「それで、原稿用紙埋めるのはつらいぞ。上条はいいよな、運命的な出会いがあったんだから… 確か、郵便局強盗のあった翌日だったか?お前、運命だーなんて叫びながら志望校決めて。 次の日から人が変わったみたいに厄介な人助けまでしだすし。 おまけに女子からモテるようになりやがって!!」「いやいや、上条さんは女子にモテた覚えなんて、ございませんことよ」「どの口が言いやがる!!」と言う会話があった。なお、当然のごとくこの後男子全員からボコボコにされたが、それはまた別のお話。これまでの情報を整理すると、郵便局強盗のあった日、何か運命的な出会いがあった。それ以来、厄介な人助け― おそらく、不良から救ったりとか、危険な ― までするようになった。ということだ。----(固法先輩が私に用って、なんなんだろう?)美琴は風紀委員一七七支部に向かって歩いていた。今日は黒子が非番の日のはずである。ならばパートナーの初春も非番のはずだ。そんな日に、しかも黒子に内緒でと断られた上での呼び出し。何かあると考えるのが普通であろう。(私、何かやらかしたかしら? ここのところ、アイツの宿題見てただけだし… まさか固法先輩、それを監視カメラで見てて…)と、最近何かと思考が上条に結びついてしまう彼女だった。自分で想像して、頬を赤らめて…すでに重症である。一七七支部を通り過ぎてしまっていることに気付かないほど…美琴は慌てて引き返し、一七七支部に入っていった。「こんにちわ~固法先輩」「あぁ~御坂さん。わざわざ呼んじゃってごめんなさいね」といいながら、固法は美琴に席を勧め、紅茶を出してくれた。美琴は一言お礼を言い、のどが少し渇いていたので、紅茶を一口飲んだ。それを合図とばかりに、固法は話し始めた。「今日来てもらったのは、見てもらいたいことがあったのよ」そういうと、ノートパソコンを美琴の方に向けた。そこに映っていたのは、監視カメラの映像。美琴は、まさか!と思ったが、それは違った。一年以上も前の日付が表示されていたからだ。そこに映っていたのは、とある郵便局。美琴自身も映っていた。ここでの出来事は、多少おぼろげにはなっていたものの、美琴は記憶していた。「もしかして、これ郵便局強盗の?」「そう。この犯人が少年院から脱走してね。 どうもその状況から外部からの協力者がいたみたいなの。 もしかしたら、この中にいるかもしれないんだけど、何か気付いたことない?」確かに、郵便局の外に仲間がいれば、逃走する際も都合がいいだろう。もし、脱走を手伝うとしたら、この画面に映っている可能性は高いと感じた。だが、監視カメラの映像が進んでも、美琴は手がかりになりそうなものを見つけることは出来なかった。「ごめんなさい、特に気付いたところは…」動画が最後の方に来て、画面の中の美琴はポケットの中から何かを取り出す動作を始めた。美琴は今まで忘れていたことを思い出し、顔は青ざめていく。次の瞬間、記憶は間違っていなかったことを証明した。超電磁砲を放っていた。美琴は思わず固法の方を見る。「大丈夫よ。別にあなたを叱るために見せたんじゃないんだから。 中にいる人を助けるために、能力を使ったんでしょ? 実は郵便局の中には、私と白井さんがいたのよ。 だから、あなたには感謝しているの」「く、黒子がいたんですか!?!?」「ええ、あなたはすぐに立ち去ったみたいだし。 やっぱり白井さんには内緒にしておいた方がいいのかなぁ~って思って、 あなただけを呼んだのだけれども…」「いえ、単に面倒なことに巻き込まれたくなかっただけで…」「そう。でも、御坂さんってなんかヒーローみたいね。 やっかいごとに首を突っ込んで、 それでいて自分が勝手にやった事って感じに何も言わずに立ち去るって…」美琴は、その言葉が『アイツ』に対してよく言っていることと同一だと感じた。いつも彼の行動を見るたびに、彼女はその言葉を吐いていた。しかし、固法から見れば、美琴も同一。行動の基本原理は同じなのだと。『困っている人を助けたい』考え込んでいる美琴を見て、固法はのぞき込むように「どうしたの?」と聞いてきた。何か犯人の手がかりでも見つけたのかと思ったのだろう。美琴は、「いえ、何も」と否定した。固法は、念のためと言ってもう一度動画を再生させたが、やはり、犯人に関するものは見つからなかった。しかし、美琴は気付いてしまった。そこに映る、ツンツン頭の男を----上条はファミレスのテーブルに散らばった原稿用紙をボーッと見つめながら考えていた。記憶喪失のことについては、自分なりに納得していたつもりだった。過去の自分と、今の自分は別の人間だと。仮に、記憶喪失が治ったとしても、過去の自分に不利益にならないように、人間関係には注意してきたつもりだった。しかし、この冬休みの作文課題の所為で、一つの可能性に気付いてしまった。『過去の自分には好きな人がいたのではないか?』クラスメイトの言った、「運命的な出会い」と言う言葉には、その可能性があると気付かせてしまう。現状を察するに、付き合っていた人はいないはずだ。しかし、片思いなら話は別だ。もしそうならば、今の上条当麻が乗っ取ったことで、付き合うという可能性を奪うこともある。とはいうものの、片思いの相手がわかったとして告白をしようなどとは考えていない。それこそ、乗っ取った人間、つまり他人が付き合ってることになるわけだから…なので最低限その片思いの相手と良好な関係にしておこうという結論に達した。今回は少しは情報がある。出会った日付、志望校が決定したこと…それらを総合すれば、相手の特定が出来るかもしれない。しかし、上条自身の情報収集能力はたかがしれている。協力を仰ぐにしても、記憶喪失のことを知っている必要があった。結果的に、協力を仰げるのは一人しかいない――御坂美琴。(…あの時は気にするなとか言ったくせに……)自責の念は覚えたものの、上条は携帯電話を取りだし、御坂美琴に電話をかけていた。----一七七支部を出ると、美琴の携帯が鳴った。発信元は上条当麻だ。『もしもし、御坂か?ちょっと頼みたいことがあるんだけれど』「なに?また宿題?」『まぁ、そうなんだけど…作文課題でさぁ』「作文くらい、自分で書きなさいよ。そこまで面倒見切れないわよ」『それはそうなんですが、一人じゃ解決できない問題にぶち当たりまして。 というか、御坂にしか相談できないことなのですよ』「はぁ?なにそれ??はっきり言いなさいよ!」『簡潔に申しますと…記憶に関することでして…』それを聞いて、美琴はハッとした。上条の記憶喪失を知る人間は、自分を含めて多くはいない。それが作文とどう結びつくかは理解できなかったが、助けを求めてきている以上、協力しないわけにはいかない。いや、協力したかった。これ以上の内容は、電話でやりとりするようなものではないと思った美琴は、上条の居場所を聞き出すと、そこに向かって走っていた。-----しばらくすると、美琴がファミレスに走って入ってきた「おーい!御坂!!ここだ、ここだ!!」「はぁーはぁーご、ごめん。待った?」美琴は肩を上下に揺らして息をしていた。相当急いできたのだろう。「大したことじゃないから、ゆっくりで良かったんですけど」「な、何が大したことじゃないよ!アンタにとっては重要な問題でしょ!?!?」というと、美琴は運ばれてきた水を一気に飲み干していた。「ま、ありがとな」上条は、自分のことを心配してくれた美琴に素直に感謝の言葉をかける。急いできたせいか、美琴の顔は真っ赤になっていた。「な、なによ。で、用件をいいなさいよ!」せかすように、美琴は早口でしゃべっていた。上条は、記憶をなくす前に運命的な出会いがあったことと、その日付。今通っている高校を志望校として決めたこと。そして、その日を境に厄介な人助けもするようになったことを伝えた。「で、アンタはその運命の人がわかったらどうするの?代わりに告白でもする気?」「いや、そんなことはしねーよ。悪いだろ、過去の俺に。だから、険悪な関係にならないように注意するだけだ」「わ、わかった。じゃあ、調べてみるから…」少し安心したような表情をした美琴は、バッグから小型のノートパソコンを取り出した。美琴がノートパソコンに触れると、手を動かすこともなく画面が遷移していく。おそらく、能力で操っているのだろう。「お前、なにやってんだ?」「決まってるじゃない!監視カメラのサーバーにアクセスしてるの。 ちょっと待って、もう少しでセキュリティ解除できるから」「あの~御坂さん。それって違法じゃ…??」「大丈夫よ!今まで失敗したことないし。よし完了!!」さも当然のようにハッキングを行う美琴に、罪悪感を感じていた上条も流されてしまい、画面を注視してしまう。まず映ったのは、上条の通う高校の正門だった。画面は超高速の早送りになっていて、上条には雲や太陽が動いているのしかわからなかったが、能力を使えばこの超高速も認識できるのだろう。「いた、いた」という美琴の声とともに画面が停止すると、そこには上条が立っていた。そこを起点にして、美琴は監視カメラを切り替えていった。上条の行動をよく見るためか、先ほどと違って5倍速くらいのスピードになっていた。このスピードなら上条の目でも追えそうだ。まずは順送りで見ていく。しかし、事件性のある箇所は見つからなかった。監視カメラの死角になる場所もあるが、前後の時間経過から考えると、何かあったようには思えない。最終的に、上条が帰宅して追跡は完了した。今度は、高校の正門から時系列を逆順にして、行動をたどっていく。順調に巻き戻されていっていたが、途中で美琴の手が止まった。正確には手を動かしてなかったので、画面が止まったという方が正しい。「う、うそ…」美琴は小さくつぶやいていた。「御坂、どうした?」「えっ?ううん、なんでもない。なんでもない」焦ったように、美琴は答えていた。美琴は、巻き戻しの作業を再開した。先ほどまでの楽しそうな表情とは打って変わって、何か、見てはいけないようなものを見てしまった。そんな表情に変わっていた。巻き戻し作業はついに完了し、寮をでる上条の姿で止まっていた。「あーやっぱり手がかりなしか…」「………」「ん?御坂、どうした?」----はじめは気付かなかった。上条が日付しか言わなかったから。事件のことを言ってくれていたら、ハッキングなんてしなかった。監視カメラの映像ファイルには、誤操作の防止や検索のために様々なフラグがある。そのファイルには、犯罪の証拠画像としてのフラグが付いていた。コメントには、『郵便局強盗事件』。そう、あの事件。美琴は不安だった。この映像をみた上条が、自分のことをどう考えるかを。だから、ノートパソコンの画面に映している映像とは別に、美琴は必死になって他の映像を何度もチェックした。彼の心に変化を起こすような、出会いがないかを果たして、そのような映像はついに見つからなかった。郵便局前を映し出す映像以外は。美琴は悩んでいた。この映像を上条に見せるべきか否か。記憶喪失によって消えてしまった自分と、記憶喪失によって生み出されてしまった自分。この2つの自分の間で、苦しむ彼を救いたかった。この映像は、彼を救う手段になるかもしれない。しかし、さらに苦しめる可能性がある。美琴は思い悩んだ末、彼の強さを信じることにした。それでも足りないなら、自分が支えになると決意した。「…ごめん、一つだけ見せてないカメラの映像があるの……」重い口を開け、美琴は言葉を発する。そして、ノートパソコンを操作し、件の映像を見せた。----ノートパソコンに映し出されたのは、郵便局前の監視カメラの映像だった。映像からは、物々しい雰囲気が伝わってきた。上条は、その日が『郵便局襲撃事件』だったことを思い出す。察するに、その現場なのだろう。映像は他のものより鮮明だった。事件の証拠品として、アーカイブされたときの圧縮率が低く設定されているのだろう。それぞれの人の目の動きまでわかるくらいだった。画面の中央にはツンツン頭の男が映っている。見まがうことなく上条自身だった。そのすぐ前には、茶髪の女の子。御坂美琴が立っていた。美琴は、超電磁砲を放ち、その場を去っていく。画面の中の上条は、目で美琴を追いかけていた。「こ、これって…」「そう…過去のアンタが言ってた条件から考えると……『運命の人』ってのは、私の事みたい…」「で、でも、お前の話じゃ、不良に絡まれてるお前を……」「よく動画を見ればわかるけど、アンタは私の後ろ姿しか見ていない。だから初対面だって思ったんでしょ。」「で、どうする?」美琴は一呼吸置いて聞いてきた。まっすぐな目で。「…………」どうすると聞かれても、上条は混乱している頭を整理するので手一杯で、なにか答えを出すことは叶わなかった。「こうなったからには、正直に言うわ。 私は、アンタが、上条当麻が好き。 アンタは、過去と現在の二人の上条当麻がいると思っているかもしれないけれど、 私にとっては、そんなの関係ない。 どちらも同じ上条当麻で、私が一番好きな人」思わぬ告白に、上条はドキッとした。目の前にいる少女は、頬を赤らめてはいるものの、真剣なまなざしだった。「……俺には、記憶がなくて、だから過去の自分と…」「そんなの聞いてない!」上条の言葉を、美琴は強い口調で遮った。「そんなの聞いてない。私は、今の上条当麻がどう思っているか聞きたいの!!」「…記憶喪失とか、そういうのを抜きにすれば、今の俺はオマエのことが……好きだ。」美琴は、真剣な表情を崩し、安心したようににこやかな表情になった。「なら、問題ないんじゃない? 過去の上条当麻も私のこと好きだったみたいだし。 私なら、過去の上条当麻が戻ってきても、ソイツを好きでいられるわよ。 だって、私にとってはどちらも同じ上条当麻なんだから」「そうだな…」一つ間を置いて、上条は言葉を絞り出した。「御坂美琴さん、私、上条当麻とお付き合いしてください」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1025.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素直になったら 黒子の気遣い お姉さまの様子がおかしい。 白井黒子は思っていた。 数日前から無理やり笑っているようなそんな感じがする。 常盤台中学内では分からなくもないが、同室である自分にさえ何か隠している。 まあ元々あまり弱音は吐かない人だ。 人のことには首を突っ込むくせに。 どうしても気になった白井は思いきって聞いてみた。 「お姉さま?最近どこか変ですわよ?」 「え、そう?」 「何か悩み事でもあるんですの?」 「べ、別にないわよ…」 明らかに沈んでいる。 あの類人猿が寮に来た時、実は御坂はピンチだった。 それでも何か隠している感じはしなかった。 なのに今回は明らかに隠している。 「本当にないんですの?」 「ないわよ」 「それならいいのですが」 この状態では話してくれそうにない。 そう思った白井は翌日初春に聞いてみることにした。 御坂の様子がおかしいのは自分が寮監から制裁を受けた時、 つまり初春、佐天の二人と遊んだ時からだったから。 「お姉さまに何がありましたの?」 翌日、風紀委員一七七支部で初春に聞いてみた。 「御坂さんがどうかしたんですか?」 「初春達と遊んだ時から何か様子がおかしいんですの」 「私たちと遊んだ時…あ!」 「何か思いだしたんですの?」 「いや、アレは白井さんには言えません」 初春は顔をちょっと赤くし何か顔が緩んでいるような、そんな表情をした。 「どうして言えないんですの?」 「それは…」 完全に緩みだした。 これはもう多少痛い目にあわせないといけない。 グリグリ 「痛いです。頭をグリグリしないでください」 「なら、何があったのか吐くんですの」 「それは無理です」 「次は金属矢でハチのs」 「やっほー、初春いる~?って、何やってるの!?」 「佐天さ~ん助けてください」 「そういえば、佐天さんも知っているんですよね」 「何がですか?」 「あなたたちと遊んだ時、お姉さまに何があったのか」 「あぁ、アレですか」 「佐天さん、教えてくれますよね?」 「いやあ、白井さんには言えないなあ」 「吐かないと二人ともハチの巣ですわよ?」 白井は足につけてある金属矢を手に取る。 鬼みたいな表情をしながら… 「「言いますからそれだけはご勘弁を!」」 流石に命が惜しかった二人はあの日に会ったことを吐いた。 「お、お姉さまがキス!?」 「はい」 「あの類人猿があああああ!」 「「ひぃ!!」」 鬼も逃げ出してしまいそうな、そんな顔を白井はしている。 初春、佐天の両名はただブルブルと震えていた。 そんなことはお構いなしに普通の顔に戻って白井は考え込む。 「それにしてもおかしいですわね」 「ど、どうしてですか?」 「それだと落ち込む理由になりませんの」 「え、御坂さん落ち込んでるんですか?」 「真っ赤になって去って行ったのに?」 これには二人とも驚いた。 好きな人にキスして、一人で悶々としているだろうと考えていたから。 「流石にこれはお姉さまに直接聞くしかありませんの」 「でも、話してくれるでしょうか?」 「御坂さん、なかなかそういうこと話してくれないからなあ」 「初春、私は用事を思い出したので今日は帰りますの」 「ちょっと待ってください。まだ仕事が」 「誰のせいでこんな用事ができたと思ってますの?」 「うぅ」 言い返せなかった。 そもそも自分たちの軽い気持ちでやったゲームが最終的に御坂を落ち込ませたのだ。 その後処理をしようとしている白井を止める権利は自分たちには無い。 「それでは」 一言だけ残し、白井は風紀委員一七七支部から出て行った。 街に出た白井はとある人物を探していた。 「ったく、あの類人猿はどこにいますの?」 出る前に出現場所を調べておくんだったと思いながら街をさまよった。 探し出して五分後、初春に調べさせようかと考え始めた時、目的の類人猿は見つかった。 「上条さん、ごきげんよう」 「ん、白井か」 「何ですかその反応は」 「わりぃ」 挨拶もそこそこに白井はストレートに質問をぶつける。 「あなた、お姉さまのことどう思ってますの?」 「御坂のこと…か?」 「ええ」 「自分でもよく分からねえんだ」 「なら質問を変えます。お姉さまからのキスは嫌でした?」 「そんなわけねえだろ!」 「それなら、お姉さまのこと嫌っていませんわよね?」 「嫌いになんかなるかよ」 「そうですか、そのお言葉お忘れにならないように。それでは」 いきなり声をかけ、御坂に関する質問をしてきたらすぐ去って行った。 上条は何だったんだあいつ?と思いながらも担任に指定された場所へ向かった。 上条と別れた白井は美琴がいるであろう寮に戻ってきた。 自室のドアを開けてみる。 そこにはどんよりとした空気を身にまとった愛しのお姉さまがいた。 「おっねえさまーーーー」 「…」 相変わらず落ち込んでいるようである。 流石にこれは重病だと認識した白井は美琴に普通に声をかける。 「お姉さま?」 「あ、黒子おかえり」 「お姉さま、いくつかお伺いしてもよろしいですか?」 「何?」 「どうしてお姉さまはあの殿方とキスをしたのに、そんなに落ち込んでいますの?」 「!!」 まさか黒子にばれているとは。 「どうしてそれを」 「初春達に吐かせましたの」 やっぱり誤魔化せなかったか…と少し自嘲的な感じで思いながらポツポツと話し出した。 「キスしてた瞬間はね、どうでもよくなったの。 でも、し終わった時は恥ずかしくなってすぐ寮に帰って来たわ」 寮に帰って来た時からなんだけどと御坂は続け 「冷静になったら今度はこれからどうやって会えばいいか分からなくなったのよ 今まではさ、ビリビリしたり追いかけまわしたりしながらも普通に会えたじゃない? でも、あんなことしちゃったらその関係も終わっちゃうんじゃないかって思って…」 ここまで話して御坂の目に涙がこぼれた。 それでも白井は何もせず黙って聞いていた。 「そう思ったら…ぐすっ…もう悪いことしか…ぐすっ…考えられなくなっちゃって… だいたいいきなり声かけてきてキスされたら…ぐすっ…黒焦げにしてやるわよ」 そしてとうとう、御坂の涙腺が崩壊した。 「うわわああああん」 白井は感情をコントロールできなくなった御坂を泣きやむまでずっと抱きしめた。 あれから何分たったのだろう。 時間を忘れるほど泣いた御坂が落ち着いたのを見計らって白井は質問を続ける。 「お姉さま、お姉さまが好きになった殿方はその程度で人を嫌う人間ですの?」 フルフル 「ならばなぜそんな考えに至りますの?」 「だって…ぐすっ…私なら嫌うと思ったから」 「それなら上条さんにされたらどう思いますの?」 「えっ?」 「答えてください」 「そんなの嬉しいに決まってるじゃない…」 「嫌ではありませんの?嫌ったり黒焦げにしたりしませんの?」 「嫌なわけないじゃない!嫌うわけないじゃない!」 「それなら問題ありませんわね」 「えっ?」 上条にした質問に上条と同じ答えを言ってきた御坂にそろそろ潮時かと、今日の上条との会話を伝える。 「あの殿方も同じことを言いましたの」 「どういう…こと?」 「キスが嫌だったかと聞くと『そんなわけねえだろ!』と。 お姉さまのことを嫌っていないか聞くと『嫌いになんかなれるかよ』と」 「嘘…」 「本当ですの。私が直接この耳で聞きましたから」 未だに信じられないと言いたそうにしている御坂に最後に一言告げる。 「ですから、そんなに不安になる必要は一切ありませんの」 「黒子ぉ」 御坂は本日二度目の大泣きをした。 30分後、御坂は泣き疲れたのかぐっすりと眠っていた。 その寝顔にはさっきまでの負のオーラは無くなっていた。 それからまた30分後、御坂の携帯が鳴りだした。 その音で目を覚ました御坂は携帯のディスプレイを見た。 そこには『メールあり』と表示されている。 誰からだろうと御坂は携帯を開いた。そこには… From:上条当麻Sub:『今からいつもの公園に来てくれ』 これだけ書いてあった。 「どうしよう黒子」 「行ってくればいいじゃありませんの」 「でも…」 「そんな調子だと、本当に嫌われますわよ?」 黒子の言葉にそれだけは嫌だと思った御坂は呼び出された公園へ向かった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素直になったら
https://w.atwiki.jp/psp_railgun/pages/22.html
ギャラリーキャラクターコメント ILLUSTRATION ギャラリー キャラクターコメント ギャラリー起動時にランダムでキャラが現れてコメントして行ってくれる。 コメントは時間帯及び達成度によってコメントが変化する。 時間帯の方はいつでも可能だが、達成度の方は進めてしまうと、聞けない音声が出てくる可能性があるので、好きなキャラのすべてを逃したくない人はこまめに確認しておこう。 時間帯 御坂美琴 白井黒子 初春飾利 佐天涙子 06 00~9 59 おはよう! 良い一日になるといいわね おはようですの。一七七支部に何か御用で? おはようございます。よく眠れましたか? おっはよーございます!今日もハイテンションでいきましょー! 10 00~13 59 こんにちは。今日の調子はどう? ごきげんよう。ランチの頃合ですわね こんにちはー。お腹が空いてきました こんにちはー。放課後まだかなー 14 00~17 59 お楽しみの放課後っと。何しよっかなー ごきげんよう。気だるい昼下がりですこと こんにちは。ゆっくりしてってくださいね お、こんにちはー。何をチェックしちゃいます? 18 00~21 59 こんばんは。暗くなってきたわね こんばんはですの。残業もありませんし、優雅な夜を過ごしたいものですわ こんばんは。お風呂に入ってこようかな こんばんは!夜はまだまだこれからですよー! 22 00~25 5922 00~1 59 まだやることあるんだ?がんばり過ぎも体に良くないわよ? はぁ~っ、夜更かしはお肌の大敵。早くお休みになるのがよろしいかと けっこう遅い時間ですね。明日の支度は大丈夫ですか? こんばんは。ついつい夜更かしってやつですか? 2 00~5 59 ……おはよう。いつもこんな時間に起きてるの? ど、どなたか、熱いコーヒーを入れてくださいまし……上と下のまぶたが…… はぁぁ~っ、目がしょぼしょぼします ……まだ起きてるんですか?もう起きたんですか? ふあああ…… メッセージの変わり目を4時間毎と仮定してみたので、不足があるかもしれません。 達成度 キャラクター セリフ 3% 御坂美琴 まだまだ見られるものが少ないわ。これからどんどん集めて行きましょう! 3% 白井黒子 優れたデータベース……とはとても言えませんが、ま、これからですわよね 3% 初春飾利 まだデータが十分とは言えませんけど、がんばって揃えて行きましょう! 3% 佐天涙子 まだちょーっと寂しい情報量ですけど、これからドンドン集めていきましょう! ILLUSTRATION No.は左上を1とし、そこから右に移動するごとに1ずつ加算した値を使用。 Page 時期 No 入手イベント 1/5 第一章 1 あれは『空き地のカミキリムシ』の話題みたいです 2 わたくし達が調べているのは『空き地』のカミキリムシです 3 4 あれは『空き地のカミキリムシ』の話題みたいです 5 6 7 これならケーヤクセーリツだよ、おねえちゃん! 8 ほら、あんまり暴れると落ちますわよ 9 それじゃ、気を引き締めて行くわよ! 10 小学生と間違われてもぶべっ!! 11 12 嘘でしょ。あれを喰らって、力技だけで起き上がる、普通?! 13 14 御坂、言い訳は? 第二章 15 16 2/5 17 18 19 20 21 22 23 第三章 24 その先に恐るべき真実が隠されているというのにっ! 25 ふふふふ。敵情視察ってヤツです 26 すっごいスピードで泳げたりして 27 28 29 30 31 キャンディッドフォトというのだよ初春 32 3/5 33 34 35 36 ごきげんよう、お姉さま。それにしてもあっちーですわね 37 ……それにしても、またネットの都市伝説、か 38 みんな御坂さんと一緒に調査したいんですよ 39 わ、わたくしは、そう、ブルーハワイを! 40 憧れるほどのものでは…… 41 こっちは帽子専門のコーナーか……うっ! 42 初春ぅ、それ一口だけ味見していい? 43 ここで、大量のロケット砲を作っていたんです! 44 45 出ました! 恐らくここが襲撃予定地点です!! 46 ……逢辰先輩、いえ、あなたは誰ですの? 47 48 4/5 第四章 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 第五章 59 60 61 62 63 64 5/5 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/430.html
憎まれる風の馬鹿(上) 「なんで私(わたし)まで勾留されるのか納得いかないんだけど。まったくもって。」 「暴れすぎですのよ。」 第7学区の警備員の詰所でツインテールの少女、白井黒子は隣の椅子に座らされている別の少女に呆れたように言った。 白井と同じぐらいの年頃に見える少女は中途半端な長さの黒髪を後頭部で束ねた髪型をしている。 銀色のチェーンについた胸元のネックレスは縁が金色で中心部は鮮やかな青をベースとしたデザインとなっている。 一見してお洒落なアクセサリーに見えるが、実はこれは携帯音楽プレイヤーである。 アクセサリーと音楽機器の融合というテーマでとある企業が作った試作品だが、 値段の割に操作性や液晶の広さなどが今一歩というなんともな品である。 ヘッドフォンをネックレス部分に収納しているためやや厚ぼったいのも客がつかない理由の一つである。 少女は座らされているといっても別に取り押さえられているわけでも拘束されているわけではない。 ただ頭にタンコブを一つ作っているだけである。 「だって100パーもってあっちが悪いじゃない?」 「街中で派手にドンパチする迷惑を考えなさいな。」 一応任意同行となっているが半ば勾留という態で少女はここにいる。あまり良い意味ではない。 事件の発端は二十分ほど前。 最近、同一の能力者によるものと思われる事件が多発していたため、 風紀委員も警備員も見回りの回数をいつもより増やしていた。 見回り中の白井はひったくりの現場に遭遇し、被害者に怪我がないことを確認した直後、 風紀委員(ジャッジメント)ですの!と逃げる不良たちの前に立ちはだかった。 風紀委員だとなんだガキじゃねえかお嬢ちゃんどかないとケガしちゃうぜーと 一通りお約束(死亡フラグ)を果たした不良達をさてどうあしらって差し上げましょうかと考えていたら さっきの被害者が「アックソックザアァァァァァァァン!!!」とか叫びながら突撃しつつ 衝撃波を不良達(プラス白井)に向けて放ってきた。吹っ飛ぶ不良達。白井は空間移動で難を逃れた。 そこで終わっていれば良かったのだが不良の一人がそこそこ(おそらくLV3程度)の能力者だったらしく ふははは俺様の真空断熱(ゾージルシー)を使う時が来たようだな!!とか言い出して超能力バトル勃発。 最終的に巨乳の警備員が「派手に喧嘩してる馬鹿はどこじゃーん!」と(若干楽しそうに)拳で二人ともぶっ飛ばして終結した。…なまはげ? 「くそう…善良な一般学生が手助けしたのにこの仕打ち。感謝状ちょーだいよ諭吉の絵のついてるやつ。」 「一般人が危険に飛び込んでいくのは感心しませんの。更に騒ぎを大きくするのはなおさらですわ。」 「風紀委員だったらいいんだ。私も風紀委員になろうかな?」 軽いノリで言いながら指をピストルのようにしてバーンバーンとふざける少女に白井はやれやれと呆れたような溜息をついた。 「私たちは別に力を振り回したくて風紀委員をやっているわけではないですわ。誤解なさらないでくださいな。」 「…てゆうか風紀委員の権限ってたしか校外じゃ通用しないんじゃ…。 でもあなた、えー名前は?」 「白井ですわ」 「白井さん、テレポートってかなり便利なんでしょ? 普通に生活してるだけじゃ持て余すんじゃないの?」 「別にそんなことはありませんわ…多少できることの幅が広がりますけれど。」 そう白井が答えた時、巨乳の警備員が不良を他の警備員に引き渡し、現場を確認し終わったのか戻ってきた。 「おっ待たせじゃーん。そんじゃちゃちゃっと状況聞かしてもらおうじゃん?」 風紀委員第一七七支部 「昨日も警備員によってスキルアウトが倒れているのが発見されました。」 パソコンの前の初春は白井に最近のスキルアウト返り討ち事件について報告していた。 襲撃事件、ではなく返り討ち事件。である。 犯人の手口はこれ見よがしにブランド物のバッグなどを持ち歩きながら治安の悪そうな場所をうろうろし、 タチの悪い連中が関わってきたら返り討ちにして身ぐるみ剥ぐというものである。 発覚したのは一昨日だが、事件の性質上被害者から証言が得にくいという点や よからぬ目的でわざわざ監視カメラの死角に犯人を追い込む「被害者」も多いため、 被害者の数は発覚していないところで数倍はいるだろうと推測される。 「被害者は昏倒、全身への打撲、ひどい耳鳴り、吐き気などの症状を訴えています。特に耳が痛いと言っています。」 「犯人の目星は?」 「単独犯か複数犯かはまだ判りません。 他には大きな音がして被害者が吹き飛んだという証言ぐらいですね。これだけだと何とも言えないです。 あと衛星からの観測で周囲の大気の不自然な揺らぎが観測されたらしいので、 おそらく大気操作系か音波操作系の能力者かと。 とりあえず絞った学生のデータが……あっ」 初春は画面の右下に開いていた監視カメラの映像を分割していたウィンドウを画面一杯に広げた。 「どうしましたの?」 「ここ、この人、なんか怪しくないですか?」 分割された映像の一つを拡大すると、確かに怪しい人物が映っていた。 もうすぐ五月だというのに、スカーフ、サングラス、マスク、耳あて、ニット帽子という出で立ちだ。 極めつけに、晴れだというのに体格に合わないレインコートを着ていて、体のラインもはっきりとしない。 「…………怪しすぎますわね。」 「あっ!この派手派手なバッグ、ブランドものですよ。」 「でもこんな浮いた格好している方って普通はスルー…って絡まれてる!?」 「あ、逃げてきますねー。追ってますねー。この先は監視カメラとかないですねー。」 「はぁ…初春。私はこの地点に行ってきますの。衛星から大気の揺らぎが観測されたら警備員に連絡を。 彼らの行き先を予想してナビをお願いしますわ。」 その裏路地に白井が到着すると、不良達はいきなり現れた白井に狼狽したが、 『むぅ…こいつは!!』『知っているのか、山本!!』 『こいつは噂に聞く風紀委員のテレポーター女狂戦士(アマゾネス)白井!! まさか本人をこの目で見ることになるとは…!!』『な、なんだってー!!』 とか大騒ぎして勝手に逃げていった。 (名前まで広がってるんですの…。)白井はややげんなりとしながら駆けていく彼らを見送った。 「やぁー。まったくもって助かった。ありがとね。ヤバかったよ。昼にも合ったよね?」 そう言う女は先ほどまで不審者不審者してた(と思われる)女だ。 つけていたゴタゴタとした小道具は地面に散らばっている。不良達に脱がされたのか、もしくは自分で脱いだのだろう。 レインコートの下は上下のデニムだった。上が水色、下が藍色である。アクセサリー型音楽機器はつけていない。 ただ首に巻いている赤色のスカーフだけは外していない。 「…巌霧砕戸(いわきりくだきと)でしたわね。」 「砕(くだき)でいいよ。」 「そんなに親しくなった覚えはありませんし、するつもりもありませんの。」 えぇーと岩霧が残念そうな声を出す 昼の時も感じたがどうやらこの少女、結構馴れなれしい性格らしい。 「主に度重なるスキルアウトへの暴力的な能力使用の容疑などで拘束しますわ。」 そう言われて岩斬は「む」と短く唸った。 「できるだけ注意深くやってたんだけどなぁ。やっぱいつかはバレるもんだね。まったくもって」 「特に証拠も無いハッタリでしたのに。お認めになるんですの?」 「しまったぁぁぁぁあああ!!」 (馬鹿ですの…) 頭を抱えオウマイガーッ!!と天を仰ぐ岩霧を見て心中で呟く白井であった。 「いや、ちょっと待て…私別に悪い事してなくない?正当防衛じゃん。」 「明らかに過剰防衛ですの。他にも器物損壊や窃盗などの容疑がてんこもりですわ。申し開きは警備員の詰所でしてくださいな。」 「やだね」 即答すると岩霧は一歩白井へと踏み出し、勢いよく右手を突き出す。 それだけでギイイイン!という飛行機が滑空するような轟音が裏路地に反響し、路地に面した窓ガラスが砕け散る。 Lv3の(ソニックブーム)というのが彼女の能力だ。 対象物に向かって極高圧と極低圧による圧力の波を放射する。簡単に言えば衝撃波を操る能力である。 衝撃波は彼女の手の平数センチで拡散してしまうのだが、拡散して音波となった状態でも 至近距離なら人を吹っ飛ばし、昏倒させる程の威力をもつ。 ちなみに窓ガラスは固有振動数による共振によって割れたのではなく、 気圧が急激に変化した結果、内側または外側に向かって弾け飛んだのだ。 たかが音、と侮るのは危険である。 紛争地帯の兵士には、戦争後も頭痛や記憶障害に悩まされるケースが多く起こる。 戦争によるストレスの結果、というのもあるのだが、その大きな要因の一つとして外傷性脳損傷(TBI)がある。 これは『目に見える外傷はないが、脳組織の一部が破壊される』ケースである。 その原因は戦場で繰り返し爆弾の攻撃を受け、超音速の爆風がもたらす圧力変化の波が脳組織を破壊するために起こるのだ。 このように、音というのは案外危険なものであったりもするわけだが 「そうですの」 当たらなければどうということもない。 一瞬で岩霧の背後に空間移動した白井はそのまま岩霧に触れ、 次の一瞬で岩霧は地面に組み伏せられていた。 ドカドカドカッ!!という音とともにデニム生地の袖を貫通した金属矢がコンクリートに突き刺さる。 岩霧が気がついたときには既に勝負がついていた。 「それ以上抵抗すれば体内に空間移動させますわよ?」 「うわぁ…まったくもって風紀委員はえげつない。 私はただ世のため人のため自分のために持ってるアドバンテージを有効活用しただけなのに。」 要は力を振いたくて仕方のない能力者か。と白井は結論づける。 「まったくもってどこが悪いのか判らないんだけど。教えてよ。」 「それを考えるのが反省というものですわ。 私個人としては取り返しのつかない事態になる前にやめておけというところですわね。」 この「返り討ち」が繰り返されれば被害者に後の人生を潰すような大怪我を引き起こすかもしれないし この犯人が返り討ちにあって酷い目に合うかもしれない 全く関係のない通りすがりが巻き込まれる可能性だってある だから止める。ただこの街に住むみんなを守るために。 白井は初春に連絡して、もう警備員に連絡したことを確認した後このまま待機することにした。 「わーすごーい風紀委員だー。ナマ捕り物ー?」 その時、裏路地になんとも間延びした声が響いた。 そちらを見れば制服姿の女生徒がこちらを見ている。おそらく高校生ぐらいだろうと白井は推測した。 「危険ですから近づかないで下さいな。」 地面に縫い付けているとはいえ危険な能力者である。一応注意を呼び掛けるが、 女生徒は「わーい写メール写メール。ケータイケータイ……」と手提げ鞄の中をゴソゴソとやっている。 地面の岩霧が逆上して暴れるのではないかと警戒していると、顔だけ白井に向けた岩霧が女生徒を無視して話しかけてきた。 口元には笑みが浮かんでいる。 「ふふふふふ。」と、わざとらしく笑うというより発音するように言い、 「私だけが犯人だと思ったが大間違い…。 私たちのグループは四人や五人ってもんじゃない…。 それに私たちのボスは……………」 最後の方は小声でごにょごにょと言っていてよく聞き取れない (組織的な能力者によるスキルアウト狩りですの?…いや、ハッタリかもしれませんの。 後で読心能力者(サイコメトラー)が読めばハッキリしますわ。) それでも気になって白井は地面の能力者に話しかけた。 「そのボスの名前は?」 「―――――――――」 岩霧は少しの沈黙のあと口を開いた。 ところで、白井黒子は一ヶ月ほど前に常盤台中学に入学したばかりで、 風紀委員として実戦に投入されるようになったのもその頃からだ。 高いポテンシャルを持つ彼女の活躍(と始末書の数)は風紀委員の中でも特に目を見張るものであったが。 踏んだ場数の数というのはそんなに多くない。 結果として 白井黒子の背中に何かが刺さり、強烈な電流が流れた。 「なっ…!」 意識の落ちる前に白井が見たのは銃のようなものをこちらに向けている先ほどの女生徒だった。 おそらく離れたところから電極を相手に発射するたタイプのスタンガンだろう。 「―――は――――――――た」 女生徒が何か言っていたが、その前に白井の意識は落ちていった。 続く
https://w.atwiki.jp/masirowiki/pages/152.html
YouTubeでの弾き語り配信第一七一回~第一八〇回「第〇回」または「楽曲名」をクリック/タップすると配信のアーカイブに飛びます 赤字は真白ユキオリジナル楽曲 一部YouTubeの著作権判定によりミュートとなっている楽曲あり 第一七一回 2023/11/02 OverTheDogs「おとぎ話」 ONE OK ROCK「wherever you are」 相対性理論「ペペロンチーノ・キャンディ」 真白ユキ「表情」 ACIDMAN「FREE STAR」 第一七二回 2023/11/08 大塚愛「さくらんぼ」 THE BLUE HEARTS「1000のバイオリン」 尾崎豊「I LOVE YOU」 UA「Moor」 GOING STEADY「夜王子と月の姫」 第一七三回 2023/11/14 スガシカオ「夜空ノムコウ」 花澤香菜「sweets parade」 空猫くるみ「ciel」 aiko「星のない世界」 ハンバート ハンバート「プカプカ」 第一七四回 2023/11/17 宮沢賢治「星めぐりの歌」 BUMP OF CHICKEN「スノースマイル」 小林右京「顔の良いやつは音楽をやるな」 古川本舗「Alice」 真白ユキ「ふたりのくに」 第一七五回 2023/11/21 椎名林檎「ギブス」 ポルノグラフィティ「メリッサ」 kemu「六兆年と一夜物語」 高橋広樹「チチをもげ!」 YOASOBI「優しい彗星」 第一七六回 2023/11/22 古川本舗「グレゴリオ」 Perfume「マカロニ」 ClariS「SHIORI」 東京事変「入水願い」 RADWIMPS「なんでもないや」 第一七七回 2023/12/02 恣ノ宮うか「Restrictions」 aiko「KissHug」 ヨルシカ「春泥棒」 大槻真希「memories」 大塚愛「プラネタリウム」 第一七八回 2023/12/12 ナノウ「文学少年の憂鬱」 DECO*27「むかしむかしきょうのぼく」 星野源「Family Song」 七八くまの「あいのかたち」 YEN TOWN BAND「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」 第一七九回 2024/01/10 Uru「星の中の君」 松田聖子「赤いスイートピー」 Vaundy「怪獣の花唄」 YUKI「プリズム」 ネクライトーキー「オシャレ大作戦」 第一八〇回 2024/01/23 UA「Moor」 尾崎豊「I LOVE YOU」 七八くまの「あいのかたち」 スガシカオ「夜空ノムコウ」 BUMP OF CHICKEN「スノースマイル」 空猫くるみ「ciel」 真白ユキ「ふたりのくに」 酵穣桃桜「桃花、咲く頃」(one chorus) 前→YouTubeでの配信の軌跡17 次→YouTubeでの配信の軌跡19
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/805.html
「それで。結局、私たちに超調査させてたのはなんだったんです?」 延々と続く面白みに欠ける映画を呆と眺めながら絹旗は問うた。 ここ数日、理由も明示されぬまま、絹旗たちは一つの施設について調べさせられていた。 本来そういう面倒な下準備は下部組織に任せるものなのだが、如何せん理由が理由だ。 垣根が統括理事会を敵に回す以上、それ相応の内容のはずだ。 他に任せられるようなものではないのだろう。 (そういう意味では……最初から、それなりに超信頼されていたんでしょうか) いや、もしかすると自分たちが加担するのすら織り込み済みだったのかもしれない。 最初から計算ずくでこちらの意志に任せるような発言を取ったのだとしたら、それはもうパフォーマンスでしかない。 そこまで考え、絹旗は寒気を覚える。 誘導尋問にも似たそれに操作され『自分の意志で』垣根に肩入れしたのだとしたら。 ……けれど。 (今さら言っても詮無い事ですし、たとえそうだとしてもこれは私の選んだ事です) 小さく、悟られぬように頷き、絹旗は顔を上げる。 「あれは――なんだっていうんですか」 訝しげな表情で絹旗はそう言った。 学園都市、第七学区にある建造物。 統括理事長、アレイスター=クロウリーの居城。 学園都市最大の特異点。 通称『窓のないビル』。 のっぺりとした壁面だけを晒すそのオブジェは、その名の通りに窓はおろかあらゆる出入り口が存在しない。 何も知らぬものが見れば(スケールはさておき)奇妙な石碑か何かだと思うだろう。 完全に密閉され、空気は元より放射線や宇宙線までも、ありとあらゆる物質の出入りを拒絶した難攻不落の城塞。 壮大な引き篭もり。いや、言葉を選べば籠城か。 何かから逃げるように彼は鉄壁を築き上げていた。 けれど、中にアレイスターがいる以上、外部との連絡手段が何かしらあってもおかしくはない。 そうでなければ彼はそれこそ単なるオブジェと成り下がってしまうのだから。 アレイスターへの直通のパイプ。絹旗が調べていたのはそれだ。 調べた。散々手を付くし、一歩間違えば即死しかねない致命傷を得る可能性もありながら書庫への直接のハッキングまで実行した。 本来その手の事は彼女の専門でないが、なんとかやってのけてみせた。 だが。 結果、何もなかった。 完膚なきまでに、何もなかったのだ。 「窓のないビル――以前、一発ぶちかましてみた事がある」 あまりスマートなやり方ではないがな、と垣根は肩を竦めた。 「結果、案の定と言うかなんと言うか……傷一つ付かなかった」 垣根帝督。 学園都市の頂点に君臨する超能力者の一角。 この世の法則を超越した、文字通り常識外れな力を振るう少年。 その力を正面からぶつけても無傷だったというのだから正攻法はもちろん裏技を使ったとしてもあの牙城を突き崩すのは不可能という事なのだろう。 「常識が通用しないどころか、非常識すら通用しねぇ。あれは超科学とかSFとかの域を越えちまってるんだろうよ。 魔法のバリアが張ってあったとしても俺は納得するぜ」 だが、と垣根は手にしたピンセットを掲げる。 「滞空回線……コイツが存在する以上、あのビルへのアクセスはあるに決まってる」 「……で? もったいつけないでさっさと吐きなさいよ」 麦野は垣根に視線を向けず、いらつく様子で足を組みなおして、は、と息を吐いた。 「そのピンセットを使って滞空回線の中身を掻っ攫ってきたんでしょう? で、その中にビルの内部へのアクセス方法があったんじゃないの」 「ご明察」 ぱちん、と指を鳴らし垣根はにやりと笑った。 「盲点だった。あぁ、自分で言うのもなんだが、俺の未元物質があまりに強力なもんでな……。 だが、コイツで崩せない物理法則があるなら他の法則で崩せばいい。 そうさ。俺以外にもこの町には五十八人も既存の物理法則を無視する連中がいるじゃねぇか」 その言葉に、絹旗はぴくりと反応する。 具体的に思い当たったわけではない。 ただ、その人数がなんとなく何を指すのかが分かった気がした。 「空間移動能力者、ですか」 「正解。奴らは既存の三次元空間を無視して物体を移動させる術を持つ。窓があろうがなかろうが関係ねぇんだよ」 頷き、垣根は一部の書類をガラスの机の上に放った。 クリップで留められたそれには、一枚の写真が添付されていた。 顔写真。少女のものだ。 髪を二つに括った彼女は。 これが、統括理事長の城への唯一の『鍵』。 「空間移動系大能力者、結標淡希――窓のないビル内部への『案内人』だ」 ―――――――――――――――――――― 夜。 最終下校時刻を過ぎた校内は、当然だが闇に包まれ沈黙していた。 そんな中職員室だけが光を持ち、中には残業に勤しむ教師がまだ教材のプリント作りをしていた。 「――――――」 そんな横を、上履きを脱いで足音を立てないようにそろりそろりと歩く。 見つかれば大目玉では済まないだろう。 鍵閉めの教師にだけは鉢合わせしたくないが、多分、大丈夫だろう。 いつものパターンならもう二時間ほど前にそれは終わっているはずだ。 果たして誰にも遭遇せずに目的の扉の前に着いた。 沈黙のままにバックパックから取り出した携帯端末を扉の横に取り付けられた認証装置に無理矢理接続した。 ボタンを幾つか操作し、待つ事数秒。 ピ、と小さい音を立てて鍵が外れた。 手早く端末を取り外し滑り込むように扉の隙間から室内に入った。 そして内側から鍵をかけ、そこでようやく、初春は安堵の息を吐いた。 風紀委員第一七七支部。最終下校時刻を回り、室内には誰もいない。 室内は、しん――――と静まり返り、初春は思わず息を止めたが、自分の心臓の音がいやに大きく聞こえた。 そろそろと、誰にも気付かれないように、奥へと進む。 靴下が床をする音と関節が軋む微かな音が酷く耳障りだ。 明かりは点けない。 誰かに気付かれたら大変だ。 そしてようやく、いつもの場所に辿りつく。 この部屋の、初春の定位置。パソコンの前だ。 お気に入りの椅子に座り、初春はバックパックを下ろし中からゴーグルとグローブを取り出した。 まるで軍用の暗視ゴーグルか何かのように見えるそれと、赤いラインの入った普通の黒手袋にしか見えないそれの、 端から出ている線の先に付いたプラグをパソコンの接続端子に押し込んだ。 グローブを手に嵌め、感触を確かめるように何度か握る。 「………………」 パソコンの電源ボタンを押し、ゴーグルを被る。 カリカリとハードディスクの駆動音が聞こえ、初春はそれが煩わしくてイヤホンを着け目を閉じた。 数瞬の静寂。 そして、静かにOSの起動音が流れた。 目を開く。 ゴーグルから映像が網膜に直接照射され、外部に光を漏らさぬままデスクトップの光景が眼前に広がった。 ぐ、と手指に力を入れると、ばらばらとプログラムの窓が乱れ咲いた。 初春の両の手に嵌められたグローブ。 使用者の微かな手の動きを感知してコマンドを入力する操作デバイスだ。 マウスやキーボードなどの一般的な入力機器を遥かに凌ぐ超高速の操作ができるものの、それを正確に操るのには相当の慣れが必要となる。 それを動かすにも専用のプログラムをインストールする必要があるし、かなりのマシンスペックを要求される事からほとんど使う事はなかったが。 ぴっ、と左手の人差し指を振る。 開かれたのはネットワークへの接続許可を確認するウィンドウ。 ただし、その先は。 ――――学園都市のあらゆるデータが収められた巨大サーバ、通称『書庫』。 目の前に広がる数行の英文に初春は、ごくり、と思わず空唾を飲み込んだ。 初春は今まさに学園都市の知識の中枢へとハッキングを仕掛けようとしていた。 いつになく緊張する。 初春は本来、その手の輩からそれらを防衛する立場にある。 一部からは守護神だとか呼ばれていたりするのだが、そんな事はどうでもいい。 確かに初春の構築した防衛システムは強固だが、今回のこれとは全く関係がない。 初春が何者であれ、事が発覚すれば少年院行きは免れないだろう。 学園都市ではハッキングは重犯罪だ。 自覚はある。 わざわざ入室履歴も残さないように詰め所に忍び込んでいるのだ。 自室にあるパソコンからでは十全の力を引き出せないから。 捕まる気などさらさらない。 全てを終わらせて、何食わぬ顔でまたいつもの何もない日常へと戻るために。 「――――行きます」 小さく、己に宣言して。 初春は初めて自らの能を攻撃に使用した。 滝のように流れる英数字。 鳴り止まない警告のアラート。 一つ一つが致命的なまでのセキュリティを掻い潜りながら初春は『書庫』にアタックを仕掛ける。 かつてないほどに脳と指は動いてくれた。 愛機も、自ら組んだプログラムも、万全の働きをしてくれる。 まさかこのような事に使う破目になるとは思ってもいなかったが、初春の思いに応えるかのように相棒は静かに駆動音を響かせた。 眼前に広がるデータの嵐。 一言で表すならば最悪だった。 セキュリティなんて生易しいものではない。 一つ一つが片っ端から殺しにかかってくるような、凶悪な代物だ。 無数に現れるそれの、たった一つでさえ掠りでもすれば即座に武装した警備員がこの場に踏み込んでくるだろう。 けれど引き返そうとは思わない。 ようやく掴んだ手懸かりを見失うわけにはいかない。 もはやそれ以外に初春の進むべき道はなかった。 いったいどれくらいの時間が過ぎただろうか。 数分か、数十分か、それとも数時間か。 時間感覚の麻痺した初春の脳では判断できなかったが、唐突に、視界が開けた。 「…………突破、した?」 思わず呟き、数秒してからようやく深い溜め息を吐いた。 果てしない脱力感に初春は椅子に崩れる。 グローブを嵌めた手にじっとりと感じる冷や汗が気持ち悪い。 吐き気にも似た倦怠感に深呼吸をし、初春は再び体を起こした。 ――まだ、本番はこれからだ。 「………………鈴科百合子」 『書庫』の統括する学園都市のあらゆるデータ。 学園都市に住まう学生はもちろん、そうでない人々や学校、研究機関、そして研究内容や過去の事件。 そこには文字通り全てが存在する。 ここにないものは、ない。……はずだ。 動作は一つで済む。 けれどその一歩を踏み出すのがどうにも恐ろしかった。 もしも。 もしも。 もしも。 嫌な予感がぐるぐると脳裏を駆け巡り、気付かぬままに指先が震えていた。 今ならまだ間に合う。 悪いことは言わない、引き返せ。 そう本能が告げている。 ここから先には最悪な結末しか存在しない。 何故かは分からないけれど、それが理解できてしまった。 確信じみた予感に寒気を覚える。 さっきから何やらかちかちと喧しい。 そんな大きい音を立てられては見回りの教師にばれてしまう。 そんな事はどうでもいいのに、目の前の『書庫』の情報こそが重要なのにどうしても意識を逸らせてしまう。 ほんの少しの条件を入力する、たったそれだけの事から精神が逃避してしまう。かちかちかちかち。 動作は一瞬で済む。そのために万全の準備をしてきた。 早く、早くしなければ見つかってしまうリスクは時間と共に跳ね上がってゆく。かちかちかちかち。ああ煩い。 目を背けるな。現実を直視しろ。そうでなければ、そうでなければ何一つできやしない。 なんのために自分はここにいる。掛け替えのないものを失わぬためだ。かちかちかちかち。 そのためにこんな途轍もない真似をしている。今までいったい何をしてきた、初春飾利。この唯一の武器は全てこの時のためではなかったのか。かちかちかちかち。そう、たった一人の友人を守れずなんの『守護神』だ。 かちかちかちかち。 かちかちかちかち。 かちかちかちかちかちかちかちかち。 ああ、さっきから煩いのは私の歯だ――! がぎり、と軋む音を立てるほどに噛み締め、涙で茫洋となった視界を目をぎゅっと瞑る。 まぶたに押し出された涙は頬を伝い唇に溜まる。 口の中に感じるのはその味か、それとも血のものなのか。 そんな些細な事はどうでもいい。再び目を開く。 相変わらず濡れた眼球の表面に歪曲されたゴーグルの光線は歪んだ画面を投影するが、見ずとも分かる。 体は動いてくれた。 初春は一度深く息を吸い。 震える嗚咽を吐き出し。 それに条件を入力し。 もう一度息を吸い。 静かに吐き出し。 検索をかけた。 そして。 絶望が現れた。 検索結果 該当件数; 0件 一致する情報は見つかりませんでした。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1139.html
憎まれる風の馬鹿(上) 「なんで私(わたし)まで勾留されるのか納得いかないんだけど。まったくもって。」 「暴れすぎですのよ。」 第7学区の警備員の詰所でツインテールの少女、白井黒子は隣の椅子に座らされている別の少女に呆れたように言った。 白井と同じぐらいの年頃に見える少女は中途半端な長さの黒髪を後頭部で束ねた髪型をしている。 銀色のチェーンについた胸元のネックレスは縁が金色で中心部は鮮やかな青をベースとしたデザインとなっている。 一見してお洒落なアクセサリーに見えるが、実はこれは携帯音楽プレイヤーである。 アクセサリーと音楽機器の融合というテーマでとある企業が作った試作品だが、 値段の割に操作性や液晶の広さなどが今一歩というなんともな品である。 ヘッドフォンをネックレス部分に収納しているためやや厚ぼったいのも客がつかない理由の一つである。 少女は座らされているといっても別に取り押さえられているわけでも拘束されているわけではない。 ただ頭にタンコブを一つ作っているだけである。 「だって100パーもってあっちが悪いじゃない?」 「街中で派手にドンパチする迷惑を考えなさいな。」 一応任意同行となっているが半ば勾留という態で少女はここにいる。あまり良い意味ではない。 事件の発端は二十分ほど前。 最近、同一の能力者によるものと思われる事件が多発していたため、 風紀委員も警備員も見回りの回数をいつもより増やしていた。 見回り中の白井はひったくりの現場に遭遇し、被害者に怪我がないことを確認した直後、 風紀委員(ジャッジメント)ですの!と逃げる不良たちの前に立ちはだかった。 風紀委員だとなんだガキじゃねえかお嬢ちゃんどかないとケガしちゃうぜーと 一通りお約束(死亡フラグ)を果たした不良達をさてどうあしらって差し上げましょうかと考えていたら さっきの被害者が「アックソックザアァァァァァァァン!!!」とか叫びながら突撃しつつ 衝撃波を不良達(プラス白井)に向けて放ってきた。吹っ飛ぶ不良達。白井は空間移動で難を逃れた。 そこで終わっていれば良かったのだが不良の一人がそこそこ(おそらくLV3程度)の能力者だったらしく ふははは俺様の真空断熱(ゾージルシー)を使う時が来たようだな!!とか言い出して超能力バトル勃発。 最終的に巨乳の警備員が「派手に喧嘩してる馬鹿はどこじゃーん!」と(若干楽しそうに)拳で二人ともぶっ飛ばして終結した。…なまはげ? 「くそう…善良な一般学生が手助けしたのにこの仕打ち。感謝状ちょーだいよ諭吉の絵のついてるやつ。」 「一般人が危険に飛び込んでいくのは感心しませんの。更に騒ぎを大きくするのはなおさらですわ。」 「風紀委員だったらいいんだ。私も風紀委員になろうかな?」 軽いノリで言いながら指をピストルのようにしてバーンバーンとふざける少女に白井はやれやれと呆れたような溜息をついた。 「私たちは別に力を振り回したくて風紀委員をやっているわけではないですわ。誤解なさらないでくださいな。」 「…てゆうか風紀委員の権限ってたしか校外じゃ通用しないんじゃ…。 でもあなた、えー名前は?」 「白井ですわ」 「白井さん、テレポートってかなり便利なんでしょ? 普通に生活してるだけじゃ持て余すんじゃないの?」 「別にそんなことはありませんわ…多少できることの幅が広がりますけれど。」 そう白井が答えた時、巨乳の警備員が不良を他の警備員に引き渡し、現場を確認し終わったのか戻ってきた。 「おっ待たせじゃーん。そんじゃちゃちゃっと状況聞かしてもらおうじゃん?」 風紀委員第一七七支部 「昨日も警備員によってスキルアウトが倒れているのが発見されました。」 パソコンの前の初春は白井に最近のスキルアウト返り討ち事件について報告していた。 襲撃事件、ではなく返り討ち事件。である。 犯人の手口はこれ見よがしにブランド物のバッグなどを持ち歩きながら治安の悪そうな場所をうろうろし、 タチの悪い連中が関わってきたら返り討ちにして身ぐるみ剥ぐというものである。 発覚したのは一昨日だが、事件の性質上被害者から証言が得にくいという点や よからぬ目的でわざわざ監視カメラの死角に犯人を追い込む「被害者」も多いため、 被害者の数は発覚していないところで数倍はいるだろうと推測される。 「被害者は昏倒、全身への打撲、ひどい耳鳴り、吐き気などの症状を訴えています。特に耳が痛いと言っています。」 「犯人の目星は?」 「単独犯か複数犯かはまだ判りません。 他には大きな音がして被害者が吹き飛んだという証言ぐらいですね。これだけだと何とも言えないです。 あと衛星からの観測で周囲の大気の不自然な揺らぎが観測されたらしいので、 おそらく大気操作系か音波操作系の能力者かと。 とりあえず絞った学生のデータが……あっ」 初春は画面の右下に開いていた監視カメラの映像を分割していたウィンドウを画面一杯に広げた。 「どうしましたの?」 「ここ、この人、なんか怪しくないですか?」 分割された映像の一つを拡大すると、確かに怪しい人物が映っていた。 もうすぐ五月だというのに、スカーフ、サングラス、マスク、耳あて、ニット帽子という出で立ちだ。 極めつけに、晴れだというのに体格に合わない男物らしい不審者のような濃紺のトレンチコートを着ていて、体のラインもはっきりとしない。 「…………怪しすぎますわね。」 「あっ!この派手派手なバッグ、ブランドものですよ。」 「でもこんな浮いた格好している方って普通はスルー…って絡まれてる!?」 「あ、逃げてきますねー。追ってますねー。この先は監視カメラとかないですねー。」 「はぁ…初春。私はこの地点に行ってきますの。衛星から大気の揺らぎが観測されたら警備員に連絡を。 彼らの行き先を予想してナビをお願いしますわ。」 その裏路地に白井が到着すると、不良達はいきなり現れた白井に狼狽したが、 『むぅ…こいつは!!』『知っているのか、山本!!』 『こいつは噂に聞く風紀委員のテレポーター女狂戦士(アマゾネス)白井!! まさか本人をこの目で見ることになるとは…!!』『な、なんだってー!!』 とか大騒ぎして勝手に逃げていった。 (名前まで広がってるんですの…。)白井はややげんなりとしながら駆けていく彼らを見送った。 「やぁー。まったくもって助かった。ありがとね。ヤバかったよ。昼にも合ったよね?」 そう言う女は先ほどまで不審者不審者してた(と思われる)女だ。 つけていたゴタゴタとした小道具は地面に散らばっている。 この乱雑ぶりを見るに自分から脱ぎ捨てようだ。ニット帽やサングラスだけでなくトレンチコートも脱ぎ捨てられたまま放置されている。 トレンチコートの下は上下のデニムだった。上が水色、下が藍色である。アクセサリー型音楽機器はつけていない。 ただ首に巻いている赤色のスカーフだけは外していない。 「…巌霧砕戸(いわきりくだきと)でしたわね。」 「砕(くだき)でいいよ。」 「そんなに親しくなった覚えはありませんし、するつもりもありませんの。」 えぇーと岩霧が残念そうな声を出す 昼の時も感じたがどうやらこの少女、結構馴れなれしい性格らしい。 「主に度重なるスキルアウトへの暴力的な能力使用の容疑などで拘束しますわ。」 そう言われて岩斬は「む」と短く唸った。 「できるだけ注意深くやってたんだけどなぁ。やっぱいつかはバレるもんだね。まったくもって」 「特に証拠も無いハッタリでしたのに。お認めになるんですの?」 「しまったぁぁぁぁあああ!!」 (馬鹿ですの…) 頭を抱えオウマイガーッ!!と天を仰ぐ岩霧を見て心中で呟く白井であった。 「いや、ちょっと待て…私別に悪い事してなくない?正当防衛じゃん。」 「明らかに過剰防衛ですの。他にも器物損壊や窃盗などの容疑がてんこもりですわ。申し開きは警備員の詰所でしてくださいな。」 「やだね」 即答すると岩霧は一歩白井へと踏み出し、勢いよく右手を突き出す。 それだけでギイイイン!という飛行機が滑空するような轟音が裏路地に反響し、路地に面した窓ガラスが砕け散る。 Lv3の(ソニックブーム)というのが彼女の能力だ。 対象物に向かって極高圧と極低圧による圧力の波を放射する。簡単に言えば衝撃波を操る能力である。 衝撃波は彼女の手の平数センチで拡散してしまうのだが、拡散して音波となった状態でも 至近距離なら人を吹っ飛ばし、昏倒させる程の威力をもつ。 ちなみに窓ガラスは固有振動数による共振によって割れたのではなく、 気圧が急激に変化した結果、内側または外側に向かって弾け飛んだのだ。 たかが音、と侮るのは危険である。 紛争地帯の兵士には、戦争後も頭痛や記憶障害に悩まされるケースが多く起こる。 戦争によるストレスの結果、というのもあるのだが、その大きな要因の一つとして外傷性脳損傷(TBI)がある。 これは『目に見える外傷はないが、脳組織の一部が破壊される』ケースである。 その原因は戦場で繰り返し爆弾の攻撃を受け、超音速の爆風がもたらす圧力変化の波が脳組織を破壊するために起こるのだ。 このように、音というのは案外危険なものであったりもするわけだが 「そうですの」 当たらなければどうということもない。 一瞬で岩霧の背後に空間移動した白井はそのまま岩霧に触れ、 次の一瞬で岩霧は地面に組み伏せられていた。 ドカドカドカッ!!という音とともにデニム生地の袖を貫通した金属矢がコンクリートに突き刺さる。 岩霧が気がついたときには既に勝負がついていた。 「それ以上抵抗すれば体内に空間移動させますわよ?」 「うわぁ…まったくもって風紀委員はえげつない。 私はただ世のため人のため自分のために持ってるアドバンテージを有効活用しただけなのに。」 要は力を振いたくて仕方のない能力者か。と白井は結論づける。 「まったくもってどこが悪いのか判らないんだけど。教えてよ。」 「それを考えるのが反省というものですわ。 私個人としては取り返しのつかない事態になる前にやめておけというところですわね。」 この「返り討ち」が繰り返されれば被害者に後の人生を潰すような大怪我を引き起こすかもしれないし この犯人が返り討ちにあって酷い目に合うかもしれない 全く関係のない通りすがりが巻き込まれる可能性だってある だから止める。ただこの街に住むみんなを守るために。 白井は初春に連絡して、もう警備員に連絡したことを確認した後このまま待機することにした。 「わーすごーい風紀委員だー。ナマ捕り物ー?」 その時、裏路地になんとも間延びした声が響いた。 そちらを見れば制服姿の女生徒がこちらを見ている。おそらく高校生ぐらいだろうと白井は推測した。 「危険ですから近づかないで下さいな。」 地面に縫い付けているとはいえ危険な能力者である。一応注意を呼び掛けるが、 女生徒は「わーい写メール写メール。ケータイケータイ……」と手提げ鞄の中をゴソゴソとやっている。 地面の岩霧が逆上して暴れるのではないかと警戒していると、顔だけ白井に向けた岩霧が女生徒を無視して話しかけてきた。 口元には笑みが浮かんでいる。 「ふふふふふ。」と、わざとらしく笑うというより発音するように言い、 「私だけが犯人だと思ったが大間違い…。 私たちのグループは四人や五人ってもんじゃない…。 それに私たちのボスは……………」 最後の方は小声でごにょごにょと言っていてよく聞き取れない (組織的な能力者によるスキルアウト狩りですの?…いや、ハッタリかもしれませんの。 後で読心能力者(サイコメトラー)が読めばハッキリしますわ。) それでも気になって白井は地面の能力者に話しかけた。 「そのボスの名前は?」 「―――――――――」 岩霧は少しの沈黙のあと口を開いた。 ところで、白井黒子は一ヶ月ほど前に常盤台中学に入学したばかりで、 風紀委員として実戦に投入されるようになったのもその頃からだ。 高いポテンシャルを持つ彼女の活躍(と始末書の数)は風紀委員の中でも特に目を見張るものであったが。 踏んだ場数の数というのはそんなに多くない。 結果として 白井黒子の背中に何かが刺さり、強烈な電流が流れた。 「なっ…!」 意識の落ちる前に白井が見たのは銃のようなものをこちらに向けている先ほどの女生徒だった。 おそらく離れたところから電極を相手に発射するたタイプのスタンガンだろう。 「―――は――――――――た」 女生徒が何か言っていたが、その前に白井の意識は落ちていった。 続く
https://w.atwiki.jp/toaru-mikoto/pages/19.html
美 失礼しま~す 固 あら、どうしたの?今日はみんな揃っているのね 黒 ええ、どうしても一七七支部を見学したいとお姉様が仰るものですから 固 そう?じゃ、ゆっくりしていって 佐 ありがとうございます 固 せっかくだから、麦茶でも入れる? 美 いただきます 佐 いただきまーす。この暑さ、どうにかならないのかな 黒 やっぱり室内は涼しくていいですわね 美 まさか、暑いのが嫌でここに連れてきたわけじゃないわよね 黒 おっほほほ、ち、違いますわ 黒 初春、都市伝説についてのデータを調べてくださる? 初 はい、都市伝説関連、特に、カミキリムシについて、ですよね 初 う~ん、『空き地のカミキリムシ』については、詳細な報告があまりありませんね… 佐 どれどれ?…なんだか、あっさりしてる報告ばっかりだね 固 何を調べてるの?なになに? 固 『空き地のカミキリムシ』についての報告書? 初 あの、これはっ 固 別に怒ったりしないわよ。平時に報告書をチェックしておくのも仕事だし 佐 あの、どうしてカミキリムシについて詳細な報告が残っていないんですか? 固 大体は報告を受けた風紀委員や警備員が、その場でお説教をしておしまい、だからかな 美 お説教? 固 立ち入り禁止の空き地に近づかなければそんな被害にも遭わないのですから、処置としては妥当ですわ 黒 実際にケガをさせられたって報告も見当たらないようですし 黒 あっても髪を少し切られた程度 黒 こう言ってはなんですけれど、面白半分で虚偽の目撃報告をする子供も多いんですの 黒 つまり実害が認められず、事件なのかイタズラなのかハッキリしていない状態なのです 固 存在するかどうかも分からない都市伝説の調査をするほど、警備員も暇ではないということね 美 風紀委員も警備員も、『空き地のカミキリムシ』を事件として捉えていないってことか… 美 う~ん、ここまで来て収穫なしか 黒 そんなこともありませんわよ。わたくし達が調べているのは『空き地』のカミキリムシです 佐 そっか、子供たちが集まりそうな空き地を調べるんですね 初 学園都市の不動産データベースにアクセスしてみます 初 取り壊し中の物件を含めて432件、純粋な空き地と呼べるのは176件ですね 美 そのうち、第七学区に絞るとどのぐらいになる? 初 該当するのは41件です 佐 41件か、結構な数だね 黒 しらみつぶしに見て回るには、ちょっと無理のある数ですわ 美 そのうち、子供でも入れそうな場所ってある? 佐 監視カメラがついてないとか、警備ロボットがあまり来ない場所とか 初 届け出にある警備計画と照らし合わせてみます 初 出ました。13件です 佐 さっきより減ったけど、やっぱり多いね CHATIN !!入る⇒ガールズトークモード 直接△⇒この子達、多分何かを隠してますよね? 直接×&切&直接じゃない△&切⇒…フフフフ、また一人、み~つけた 入らない↓ 黒 で、お姉さま。調査するにしても、どこから当たりますの? 佐 空き地の場所はわかったけど、全部行くのって結構大変そうですけど 美 やっぱり、近場の空き地から手当たり次第に回ってみるしかないか 黒 そんな適当な調査方針で大丈夫ですの? 美 その調査方針を固めるための手がかりを見つけようって言ってんのよ 美 さあ、行くわよ! 肝心の子供がいなければ、出てきても意味がないと思うんだけどなへ
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/618.html
とある学生寮。 その夜は蒸し暑く、少女は中々寝付けずに布団から這い出した。 パジャマ代わりに着ていた白いシャツが、汗で肌に張り付いている。 時計の針は午前一時を指していた。 「こんな時間まで起きてるなんて珍しいな……」 少女は冷蔵庫から冷たい麦茶を出して、コップに注いだ。 ベタベタのシャツを着替えようか考えて、面倒だと思い、コップの中身を飲み干す。 もう一度布団に戻ろうとしたが、窓から入る風の音を聞き―――― 「外は涼しそうだな……」 そんな風に思った。 コップを流し台に置き、玄関に向かう。 チェーンを外して扉を開けた。 「わっ!?」 少女は驚きの声を上げた。 部屋の前に、髪の真っ白な女の子がしゃがみ込んでいたのだ。 「あの? 気分でも悪いんですか?」 恐る恐る、少女が女の子の肩に触れる。 すると―――― コロン…… と、女の子の頭が転がり落ちて、肉の無い、むき出しのドクロがこちらを向いて笑った。 首の断面からは、青い血が噴出して、少女の白いシャツを汚した。 「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」 【第九話・悪夢! 雨の夜の再会!!】 美琴「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」 黒子「うひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」 とある病院の一室。 すっかり日の落ちるのも早くなり、夕暮れの赤い日が、白いカーテンの隙間から差し込んでいる。 その部屋に、二人の少女の悲鳴が木霊した。 一人は友人の話のオチに驚き、もう一人は隣から飛んできた電撃に驚いた。 佐天「あははははは!! いい! いいリアクションですよ御坂さん!!」 私、佐天涙子は腹を抱えてその様子を眺めていた。 美琴「ひ、ひどいわよ佐天さん!? 最近の外の様子はどうだって聞いたのに! それ怪談じゃない!?」 佐天「ええ。ですから、最近外で流行ってる話です。『青い血の女の子』の話」 黒子「もう夏も終わりだというのに、今更怪談話も無いものですの……」 あれから、さらに一週間が過ぎた。 御坂さんと白井さんの傷は随分回復して、御坂さんは今日退院する。 白井さんは、流石に内臓へのダメージが大きいため、もうしばらく様子を見るらしい。 佐天「あはは。でもまぁ。御坂さんたちの怪我も大丈夫みたいですし、心配事が一つ減りました」 美琴「ええ。ごめんね? 毎日お見舞いに来てもらって」 佐天「いいですよ。好きで来てるんですから」 佐天「さて……それじゃあ、私はこの辺で」 荷物を持って、丸イスから立ち上がる。 美琴「え? でも、私ももう出るけど……?」 佐天「いえ。ちょっと急いでるんで」 私は慌しく立ち上がり、病室の扉に手をかける。 そこで立ち止まり、振り返らずに、二人に声をかけた。 佐天「……御坂さん。白井さん」 美琴「何?」 佐天「私、二人に会えてよかったです」 突然の言葉に、二人は呆気にとられているらしい。 一瞬静まり返って、御坂さんが困ったように返事した。 美琴「あはは……何よ佐天さんったら! 突然そんなこと言って!」 黒子「本当ですの! それじゃあ私たちが死んでしまうみたいじゃありませんの!」 佐天「はは! なんでもないです! それじゃ!!」 そして、そのまま部屋を後にした。 閉じた扉の向こうから電話の着信音が聞こえた。 私は、足早にその場を離れた。 美琴「どうしたのかしら……佐天さんったら」 黒子「きっと心配してくれていたのですわ。お姉さまの元気なお姿に感動したのでは?」 美琴「ふ~ん……佐天さんってそんなにロマンチストだっけ?」 美琴は自分の荷物を鞄に詰め込みながら、佐天から感じた違和感について考えていた。 黒子は、「私たちが死んでしまうみたいじゃありませんの」と言った。 けど、あれはどちらかというと…… そのとき、美琴の携帯電話から着信音が響いた。 黒子「お姉さま。病院では携帯の電源は……」 美琴「わ、分かってるわよ! さっき久しぶりに電源つけて忘れてたのよ!」 黒子の突っ込みに反論しながら電話に出た。 電話の相手は―― 美琴「もしもし? 初春さん?」 花飾りの少女。初春飾利。 美琴「ごめんね初春さん。今まだ病院だからさ。あとでかけ直すから――――」 初春『御坂さん……』 美琴「……? 初春さん?」 初春の声が震えている。 何かあったのだろうか? 美琴「どうしたの? 何かあった?」 初春『……さんが……』 美琴「え?」 初春『佐天さんが……行方不明で……』 その言葉の意味がわからなかった。 だから、きっと続きがあるのだろうと、初春の言葉を待った。 だが―――― 初春『佐天さんが……夕べから連絡取れなくて……』 美琴「佐天さん……が?」 初春『学校にも、来なかったし……今も、携帯も通じなくて……』 それは、きっと病院に居たから電源を…… 美琴「ちょ、ちょっとまって初春さん! それって、勘違いってことない?」 初春『そんなはずありません!! だって、実際連絡が――――!!!』 美琴「だ、だって! 佐天さんなら今、ここに居たもの!!」 初春『――――え?』 きっと、初春にとってその言葉は予想外だったのだろう。 先ほどの美琴のように、初春は黙り込んでしまった。 美琴「だから、ね? たまたま連絡が取れなかっただけじゃ……」 初春『そんなはず……ないです……』 美琴「どうして?」 初春『だって……佐天さん、部屋の鍵も開けっ放しで、他の誰にも連絡が無くて……』 美琴「たまたまよ……大丈夫。佐天さん急いでるって言ってたから、きっとそれでじゃない?」 初春『……』 初春は納得がいかなそうではあったが、とりあえずは落ち着きを取り戻し、電話を切った。 美琴「ふぅ……どういうことかしら?」 黒子「なんだか嫌な感じがしますの……」 美琴「また、ろくでもないことが起こってるんじゃないでしょうね……!」 美琴は、手に持った携帯電話をギュッと握り締めた。 体調は万全とはいかないまでも、絶対安静というワケではない。 黒子「無茶は――――止めても無駄ですわね」 美琴「よく分かってるじゃない」 呆れて溜息をつく黒子を尻目に、美琴は荷物の詰まった鞄を提げて、病室の扉に向かった。 美琴「佐天さんは、私の親友は私が守るわ……」 美琴の脳裏に過ぎるのは、今まで戦ってきた敵。 ブラッククロスの怪人。四天王。そして、学園都市の裏側で暗躍する科学者や能力者の影…… 佐天『私、二人に会えてよかったです』 美琴「そう思ってるのは、私たちだって同じなんだから……!」 風紀委員第一七七支部。 初春飾利は、美琴への電話を切ってからも落ち着かない気分で居た。 初春「佐天さんが病院に……?」 なら。今からでも向かえば会えるかも…… いや、もし何事もないのなら、ワザワザそんなことをしても意味は無い。 そして、何かあったのだとしたら、きっと彼女は自分と鉢合わせしない方法を考えているだろう。 だから、やはり意味は無い。 初春「……心配かけて……もう!!」 嫌な想像を断ち切ろうと、大きな声を出してみた。 しかし、胸のモヤモヤが晴れることはなかった。 不安に駆られたまま、初春はその日の業務を片付けるためPCに向かった。 御坂美琴は常盤台中学の学生寮に帰ってきた。 途中、どこかに佐天の姿がないか注意を払っていたが、どこにもその影はなかった。 美琴「とにかく。一旦荷物を部屋に置いて、それから寮監に挨拶して……」 これからやることを頭の中で整理する。 一つ。退院の報告を各所に済ませる。 二つ。寄って来るであろう後輩たちにも挨拶。それからついでに情報収集。 三つ。結局それでは何も得られないだろうから、自分の足で学園都市中を探して回る。 美琴「よし。まずは二週間ぶりの我が家に――――って、きゃっ!?」 玄関を開けて中に入ろうとした途端、前から同じようにやってきた少女とぶつかってしまった。 少女は後ろに倒れて、尻餅をついている。 美琴「ご、ごめん! 大丈――――」 少女を引っ張りあげようと右手を出しかけて、美琴は固まってしまった。 思わず悲鳴を上げそうになって、差し出そうとした右手を口にあて、無理やり何とかそれを押さえ込んだ。 ぶつかった相手は常盤台の制服を着ている。 どうやらこの寮に住んでいる生徒のようだ。 ただ―――― 「すみません…………あの? どうかしましたか?」 少女の髪も肌も、色が抜け落ちたように真っ白だった。 おいおい……今はまだ日が落ちたばかりだし、別に寝苦しくもないわよ? 少女は、鈴科百合子と名乗った。 何かの縁だからと、荷物の片づけを手伝ってくれるという。 しかし……こんな子がこの寮にいただろうか? こんなに目立つ外見なのだから、学校にいたって気付きそうなものなのに…… 鈴科「この髪、目立つでしょう? 生まれつきなんです……」 美琴「へぇ……アルビノ……っていうんだっけ?」 鈴科「ええ。肌が白いのはいいんですけど、髪はちょっと変ですよね……」 「第一位みたいに、能力の弊害とかならカッコいいんですけどね」と、彼女は漏らした。 学園都市の第一位・一方通行『アクセラレータ』。 今まであまり興味も無く、詳しく調べたりもしなかったのだが、彼女によると第一位の能力者もまた、 白い髪と白い肌、そして赤い目を持つらしい。「能力の弊害」と、彼女は言った。 美琴「ねぇ? 鈴科さんってさ。前から常盤台に居たっけ?」 鈴科「いいえ。先週転入して来たんです。レベルが上がって……」 ああ、なるほど。 自分が入院している間のことだったのか。 まったく心臓に悪いなぁ……とは思ったが絶対に口には出さない。 流石に失礼すぎる。 美琴「そっか。じゃあ、これからよろしくね鈴科さん」 鈴科「ええ! よろしくおねがいしますね、御坂さん!」 美琴は差し出された鈴科の手を握ろうとした。 そして気付く―――― 美琴「……あれ?」 たしか、アルビノっていうのは、髪や肌なんかのメラニン色素が欠乏してる人のことで…… ということは、別に血の色に変化は無いはずよね? 美琴「ねぇ、鈴科さん……指、さっき倒れたときに切ったんじゃない?」 差し出された掌。 その人差し指の小さな傷から、「青い」血が滲んでいた。 鈴科の顔を見る。 青い目がギョロリとこちらを見つめていた。 幽霊なんかではない。怪談なんてものは何かの見間違いか思い込みか、でなければ作り話。 もしくは、実際に存在する『何か』が、人の口を渡り渡って変化したもの。 美琴「貴女まさか――――!?」 鈴科『ナイトメア』 室内が冷たい空気に包まれる。 この世ならざるモノの気配。 美琴「………………馬?」 鈴科の背後から、突然馬が現れて、嘶いた。 そしてその光景を最後に、美琴の意識は途切れた―――― 同時刻。 まだ、佐天との連絡は付かない。 今、初春飾利は、佐天涙子の部屋にいる。 いつ帰ってきても良いように。 初春「まったくもう! 部屋の鍵を開けっ放しにするなんて無用心なんですから!」 携帯電話が放置されていた。 近所に出かけるのなら、そういうこともあるだろう。 だけど帰ってこない。 何となく、このまま待っていても一生帰ってこないのだろうと思った。 時計の針が、カチカチとうるさい。 初春「……どうしたっていうんですか?」 携帯電話に着信は無い。 時計がうるさい。 初春「何で……何も言ってくれなかったんですか?」 その音に急かされて、初春は部屋を飛び出した。 待っていても会えない。 嫌な、確信めいたものがあった。 初春「……っ! 佐天さん……お願い! 無事でいて!!」 心の叫びが口に出る。 気付けば、初春は一七七支部に進入していた。 ここのPCからなら、学園都市のセキュリティーにだってハッキングできる。 PCが立ち上がるまでの僅かな時間さえもどかしく、初春は落ち着き無く指を動かした。 初春「佐天さんの行きそうなところはどこ……?」 頭脳をフル回転させる。 初春は、決して感の良い人間ではない。 ただ、世界で一番の親友だと信じている彼女のことなら、誰よりも分かるつもりだった。 初春「夕べから連絡が取れない……なのに今日御坂さんと会っていた?」 ということは、誘拐ではない。自分の意思で姿を隠したのだ。 なら、人気のないところを通って移動しているはず。 まずは人通りの多いエリアを無視して、監視カメラの映像をハッキングする。 ブラッククロスの出現以降その数は減っているものの、それでも夜遊びを控えない者も多い。 スキルアウト達の溜まり場にも佐天は寄り付かないはず。 治安の悪いエリアもカット。 あとは―――― 初春「お願い……ここに居て……!!」 願いを込めて、エンターキーを叩いた。 雨が降っていた。 ここは、地盤沈下や建物の老朽化で危険区域とされている廃墟群の真ん中。 私は雨宿りしようと、古くなった、今にも崩れ落ちそうなビルの軒先にしゃがみ込んだ。 こう天気が悪いと、ただでさえ憂鬱な気分が余計に滅入る。 御坂さんは思ったよりも元気そうだった。 流石は、私の憧れの人。 白井さんも同じく。 でも、無茶をさせてしまったのは事実だ。 二人には感謝してもしきれないな…… そして、初春…… 「結局、お別れは言えなかったな……」 アルカールさんからのアドバイスだった。 会えば別れが辛くなる。 だから、初春にだけは絶対に会えなかった。 連絡も、誰よりも早く切った。 携帯を持つ手が震えた。 そして着信拒否にしたあとで気付いた。 「もう、携帯なんか持たないんだから関係ないじゃん」 最後の最後まで、なんか抜けちゃってるんだよなぁ…… 考え事をしていると、バチャバチャという誰かの足音が聞こえてきた。 こんな時間に、雨の中こんな所を……? すぐに動けるように身構えた。 腰に隠した拳銃に手を添える…… 足音が近づいてきた…… 「…………」 すぐそこの角まで近づいている。 ……来る――――!! 「止まれぇ!!」 飛び出して銃を突きつけた。 初めて持つ殺人の道具の重みに、手が震えている。 このまま撃っても当たらないだろう。 いや―――― 「……え?」 撃つ必要は無かったのだから、どうでもいい。 初春「……佐天さん」 佐天「……初……春……?」 どうして――――? 佐天「うわっ!?」 初春が飛びついてきた。 暴発しないよう、慌てて銃から手を離す。 銃は、カラカラと乾いた音を立てて地面を滑った。 初春「佐天さん……良かった……また、会えた……!」 私の腕の中で、初春が泣いている。 いや、雨の所為で、どれが涙なのかは分からないのだが。 全身ずぶ濡れなのは、きっと傘もささずにここまで走ってきたから。 佐天「初春……どうして?」 初春「それはこっちのセリフです!! 何なんですかその拳銃は!? どうしてそんな物を……!?」 佐天「……」 初春「何を……隠してるんですか……?」 佐天「それは――――」 それは、言えない。 いや。別に言ってしまっても構わないのだ。 本来なら、説明してしまったほうが手間が省けるというものだ。 何故なら、そうすれば記憶を消去されて、この関係も忘れることができるのだから。 この胸の痛みさえ、消し去ってくれるというのだから…… そのとき―――― 「感動の再会だな」 闇の中から声が聞こえた。 二度と聞きたくないと思っていた、地の底から響いてくるような、悪魔のようなその声。 私を殺した男の声だ。 佐天「……シュウザー!!」 深い闇の中から、鉛色の両腕をぎらつかせ、二メートルを超える巨体が現れた。 銀の髪を逆立たせた厳つい大男は、歪で醜悪な笑みを浮かべている。 ブラッククロス四天王。最後の一人。 不死身の男。 シュウザー。 シュウザー「くくく……!! まさか本当に、あのときの小娘がなぁ……!!」 よくもまぁ……ここまで対照的な再会があるものだ……! 初春「ブ、ブラッククロス……!?」 佐天「下がってて初春!!」 私は初春を庇うように一歩前に出た。 前とは違う。 もう、むざむざ殺されたりはしない!! シュウザー「麗しき友情というわけだな。だが……いかんせんその気持ちは友人には伝わらなかったらしい」 シュウザーの目が初春に向けられる。 止めろ……そんな邪な目で初春を見るな……! 初春「さ、佐天さん……? こ、これって……!?」 佐天「――――逃げて初春……! 早く!!」 シュウザー「逃がすものかよ……!!」 シュウザーが右腕を振りかぶり駆け出した。 こっちに突っ込んでくる。 このままでは、初春もろともあの爪で刻み殺される……!? 背中の熱を思い出す。 鼻血を噴出して倒れる友の姿を思い出す。 させるわけにはいかない―――― どうやら、先延ばしもここまでのようだ。 あの時と同じだ。 戦う手段ならある。 けど怖かった。 怖いけど……けど―――― 『一般人に正体を知られた場合は、全ての記憶を消去される』 でも、『記憶』と、『親友』ならどちらが大切か。 考えるまでもない。 世界がスローモーションに見える。 心臓が燃えているようだ。 体中を、何か熱いものが駆け巡る。 握る拳は炎になる。 踏み出す足は光になる。 吹き荒ぶ風を額で切り裂き、蒼いマントをなびかせる。 身を包む紅い鎧は、手探りの闇の中でも鮮烈に輝いていた――! 佐天「変身! アルカイザー!!」 佐天『ブライトナックルッ!!』 光の拳が、シュウザーの斬撃を迎え撃つ。 以前アルカールによって放たれたブライトナックルは、この男の豪腕に対して互角に渡り合った。 そして―――― 佐天「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 アルカイザー、佐天涙子のブライトナックルは、その一撃を遥かに凌駕する……! シュウザー「ぬぅおおッ!!?」 振り下ろされた鋼の爪は木っ端微塵に吹き飛び、鉛色の豪腕をも巻き込んで炸裂した。 シュウザー「ふ……ふはは!! たしかに……! 報告の通りの強さだ!!」 自身の腕が破壊されたというのに、シュウザーはその事実に驚喜している。 シュウザー「くくく……これだ……これこそが……!」 佐天「……っ!?」 不気味さを感じ、それ以上の追撃を躊躇ってしまう。 初春「――――」 初春飾利は信じられない光景に言葉を失っていた。 ようやく、居なくなった親友に会えたと思ったら、突然銃を突きつけられた。 そのことを問い詰めようと思ったら、今度はブラッククロスの怪人が現れた。 だから、逃げないといけないと思った。 けど足が動かず、逃げそこなった。 怪人が迫ってくる。死ぬと思った。 そうしたら、目の前の親友が、紅いヒーローに変身していた。 これは『夢』? それとも、『悪い夢』? 佐天「シュウザー……! 私の友達には、指一本触れさせない!!」 シュウザー「……くっ、くくくかかかかかか!!! そうだ! それでいいのだアルカイザーよ!!」 嫌らしい笑みを浮かべ、シュウザーはビルの上へ飛び上がった。 シュウザー「追って来い!! 決着をつけよう!!」 逃がさない……! アイツだけは放ってはおけない! 絶対に!! 初春「佐天さん!!」 ふいに、背後から声をかけられた。 この姿のときに本名を呼ばれて、頭が冷えていく感覚を覚える。 佐天「ごめんね……初春。今まで黙ってて……」 初春「行かないで……」 佐天「もう、行かないと」 初春「何で、佐天さんが……?」 佐天「……」 初春「行かないで……佐天さん……」 残念だけど。 その願いは聞けない。 もう終わったから。 佐天涙子は。 佐天「初春」 初春「……」 今日。 死んだ。 佐天「バイバイ、初春。貴女に会えて、本当に、本当に良かった……」 落ちこぼれのヒーローは、日常を捨てた。 【次回予告】 雨の夜! 再びまみえる佐天とシュウザー!! 青い血の少女・鈴科百合子は一体何者なのか? 暗躍するブラッククロスの黒い影! そして、佐天を襲う新たな絶望とは!? 次回! 第十話!! 【再来! ブラッククロス四天王!!】 ご期待ください!! 【補足】 ・鈴科百合子について。 一方通行では無いです。名前だけ貰いました。 ちなみに、実際には人間はアルビノでもウサギのように目が赤くはならないそうです。 なので血が青かろうが目が青くなることはないのですが、演出でそうしています。