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コンコン ど、どうぞー 何時もどおり部室にノックで確認をとって入る俺。 ヒュー紳士的ー、しかし今朝比奈さんの声、どこか上擦っていたような? 「うぃーすってみんなどうした?」 何時もと同じ面子だが、何時もとは様子が違う。 特にハルヒ以外のメンバー 「どうしたんだ?みんな?」 「いえ、別に何もありませんよ。」 と言った古泉の顔が笑いながら少し引きつっているように見える。 長門は相変わらず本を読んでるが席が窓側の近くから、廊下側の近くに移動されている。 朝比奈さんもここなしか、いや明らかに廊下側の近くの席に座っている。 そして皆の正反対の位置でハルヒがニヤニやしながらパソコンに向かっていた。 しかし朝比奈さんならまだしも、長門や古泉が観察対象から自ら離れるなど、なかなかないことだ、どんな近寄りがたい事をしてるんだ? 俺はハルヒが何をしているのか気になり、ハルヒ近ず。 何やら何かBGM的な音楽と女の声がパソコンから聞こえてくる。 オイMASAKA!? 俺は素早くハルヒの後ろに回りこむと、そこにはゲームの画面があった。 『えへへへ、キョンくーん。』 メッセージウインドウにはそう書いてあった。 さらに足元にゲームのパッケージが落ちていた、なになに? 東鳩2?意味わからん、だがパッケージのあるシールでこれがどういうものかが確定した。 さあ深呼吸だ★ 「エロゲーかぁぁぁぁ!!」 「そうよ。」 「うお!びっくりした突然振り向くな…。」 「突然叫んだヤツの台詞じゃないわよそれ。」 いやお前に問題がってそんなことはどうでも良い。 「でどこから仕入れてきた、こんなもん。」 「コンピ研ロッカー室から」「許可は?」 その時隣の部屋から。 『ああーマイユートピアはいずこに!!!?』 『お気を確に部長!』 『オレのこのみんが…オレのまーりゃんが…』 『諦めるな!まだ探して無いところがあるはずだ!』『エヘヘへもう生きてる意味すらわからない…』 『部長ー!部長ー!』 ………ご愁傷さまだが学校に持ってきてまでやるお前らにも問題あるぞ? そしてこいつにも大問題があるぞ、俺柄みでな! 「つーか俺の名前でプレイするなぁぁ畜生がぁ!!」 「だって、誰かに見つかった時にあんたのせいに出来るしー。」 SATUGAIしてー。 そんな沸き立つ感情を内に秘め、なんとかこの場を納める事に専念した。 「なあハルヒそれやるんならみんな帰していいだろ?俺は残るからさ。用事があるんだってさ。」 そういうとハルヒが皆の方を向く。 待っていましたと全員が逃れたくて、必死に首を縦にふる。 それを見たハルヒは、 「じゃあ良いわよ、今日は用事がある人はかいさ「「「おつかれさまでした!!」」」 「ハヤ」 ものすげー速かった。 おいおいこいつは世界を狙えますよ? 「さてハルヒ、部室に二人きりだな?」 ちょっとご機嫌に言ってやると 「そうね?じゃあどうするぅ?」 やけに挑発的だ。 「決まってるだろそんなの…。」 だんだんとハルヒの陰と俺の陰が一つに重なっていく。 「エロゲーじゃー!エロゲー祭りじゃー!!」 「うほほーい!この展開有り得ないけど胸が土器☆土器☆するぜぇ、なあハルヒ!」 俺たちは一つの画面に身を寄せてエロゲーを楽しんでいる、いつもはすれちがっていた二人が一つになれた。 俺らはこの一体感とエロゲーを満喫している、青春最高! 終わり
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今更ながら気付いたが、まだ日中にも関わらず森の中は非常に気味が悪い。いやはや、よくぞハルヒは一人で追いかけてきたもんだ。 と、そんなことを思慮深く考えていたせいかは知らんが、俺は繋いでいた手に一層の力を込めた。 瞬間、白いシーツに赤ワインを垂らしたように、ハルヒの耳が朱の色に染まっていく。 そして彼女は、そんな乙女じみた反応に比例するように、とてもとても力強く俺の手を握り返してきた。 こんな初々しい様子を見せられて、愛しく思わないやつがいるだろうか? いるなら出てこい、俺が骨の髄まで叩き込んでやる。 ……なんてな。困ったもんだ、どうやら俺は本気でこいつに――。 俺がむやみやたらと感慨にふけっている間に、眼前にそこはかとない光が射し込んできた。 あまりの眩しさに目を瞑る。久しぶりに本物の光を見たような気分であるのは何故だろうかね。 いや、理由は分かってるか。俺の目の前にいる彼女。こいつが希望の光を与えてくれた。 森を抜け出た直後、完全に置き去りにされていた他の連中が、俺たちの姿を見つけるやいなや揃って駆け寄ってきた。 「キョンくん、あの、その、佐々木さんのことなんですけど……」 「もう大丈夫です、朝比奈さん。ご迷惑お掛けしました。早く佐々木を助けてやりましょう」 俺がなるだけ明るく、そう発すると、朝比奈さんはアスファルトに咲いたタンポポを見つけたように顔を明るくして、 「そうです、頑張りましょう。あたしも、あたしに出来ることなら何でもやりますから」 爽やかな風が通り抜けた。 美術館にも飾れるであろう容姿の女神様は、天候を操る能力まで兼ね備えているようだ。 ハルヒとは別種の救いを俺に与えてくれる。心の補完のためには確実に必要な存在だね。 「僕も尽力します。姫様たっての希望でもありますから」 「あ、あたしだって、佐々木さんのために頑張るのです!」 と、古泉と橘も続いた。 この二人にも感謝しなきゃな、とは思いつつも「ああ」と投げやりに返してしまう俺。本能のままに生きているということを証明した瞬間でもあった。 「じゃあみんな、張り切っていくわよ! 出発進行!!」 そのまま俺の腕をつかんで、再びハルヒは歩き出した。一国のお姫様とは思えぬ行動力。 しかし、ここは全力で抵抗をさせてもらう。 「待て、ハルヒ」 現在持ち得る力を全て足に集約させ、懸命にフルブレーキングを試みる。それでも引きずられるのはどういう了見であろうか。 そんな俺に対して、ハルヒは眉間にしわを寄せながら、 「あによ」 あによ、じゃない。無鉄砲に進みやがって。 そんなことやってたら佐々木を助けるのがいつになるかなんて検討もつかんぞ。ましてや、また犠牲者が増えるかも……。 「じゃあどうすんのよ! あたしに意見したんだから、何か考えの一つくらいあるんでしょうね!」 沈黙。 そこまでは全く考えていませんでした。 「いや、あの……えっと、じゃあ、朝比奈さん」 俺が苦し紛れに名を呼ぶと、朝比奈さんが肩をビクッと震わせた。 何にもしてないはずなのに、犯罪でも犯したような気分に苛まれる今日この頃。 「あー……うん、そうだ。一度アジトに戻って、喜緑さんのところを訪ねてもらえませんか。何とか協力をお願いしたいんですが」 たまには考えずに話し始めてみるもんである。俺の口から零れ出たその言葉は、今の状況に対して真に適切な案であったと我ながら思うね。 さて、当の朝比奈さんは、瞼で大きな目をパチクリと往復させて、 「ええっと……それ、あ、あたし一人でですかぁ?」 「いえ、もちろんもう一人付けますよ」 冗談じゃない、一人だなんて危険すぎる。 これ以上誰かを傷つけたくはないんです。朝比奈さんほどの可憐なお方は特に。 「僕がご同行いたしましょうか?」 「却下」 「冗談です」 冗談だかマイケルだかは知らんが、こいつにだけは任せられん。それこそ朝比奈さんが傷物になる可能性がある。 そんなことになったら、こいつを殴り倒すどころじゃすまんね。 「それに僕は姫様のお供をすることが至上命題でもありますから」 知るか、そんなもん。 「橘、頼めるか」 消去法っていったら橘に失礼だが、実質余るのはこいつしかいない。 女二人だけだが、橘だったらそこらへんの雑魚くらいは倒せるから大丈夫だろう。 「任せてください。あたしがついているからには、朝比奈さんに指一本触れさせません!」 頼もしい言葉だね。若干信用はしかねるが。 しかし、おい、あからさまに古泉を睨むのはやめなさい。 「大丈夫よ、橘さん。古泉くんには好きな人がいるから。みくるちゃんに手を出すようなマネはしないわ」 と、ハルヒ。 ちっとばかり肝を抜かれたが、まあ確かに、こいつなら普通の付き合いをしていても何ら不思議はないな。 しかし古泉は、何やら分かっていないといった表情で、 「僕に、想い人ですか? そんな方はお見受けしないように存じますが……」 「あれ、古泉くんって森さんのこと好きじゃないの?」 終始ニヤケ面だった顔が固まった。心なしか青白くなっている気もする。大丈夫かよ、こいつ。 数秒の後、古泉はやっとのことで有機活動を再開し、 「有り得ません、絶対!」 明確な拒絶を感じるね。 森さん、という俺にとって未知のワードは、そんなに古泉の琴線に触れるものがあるのか。 「ふーん、そうなんだ。あたしは結構お似合いだと思うけどなあ」 と、ハルヒが含みのある笑いをしながらのたまった。 古泉は未だにしどろもどろ。主従関係の常を見た。 うむ、しかしこれはいい弱みを握れた。さすがハルヒと言うべきか。 「ま、それでも健全な男女が二人きりだったら何が起きても不思議じゃないわね」 というわけで、なんだかんだで結局、喜緑さんのところには朝比奈さんと橘の二人で行ってもらうこととなった。 「ところでみくるちゃん!」 「は、はい」 「アジトって何、どこにあんのそれ?」 「えっとぉ、城下町の」「城下町! ああもう、それじゃあそんな格好してちゃダメじゃない。あたしが見繕ってあげるから、こっちに来なさい!」 朝比奈さんが全て話し終わる前に一気にまくし立てたハルヒは、その勢いを持続したまま、年下と間違えてしまいそうな彼女をテントへと引きずっていった。そんな彼女の手には巻き込まれた橘の姿が。 「ひょえええ」 荒野に虚しく響く二重の叫び声。 それをバックグラウンドとし、俺は近くの岩に腰掛けた。 「ふう」 今更になって体に痛みを感じる。それこそこれまで経験したことがない、焼けるような痛みだ。 アメージング。少しだけだが、みんなと触れ合えたことで安心したから再発したんだろうな。 などと、俺に似合わなずセンチメンタルな気分を味わっていると、 「お隣、失礼します」 失礼させません。 「冷たいですね。お姫様にはあんなに優しいあなたが」 俺は女には誰にでも優しいんだよ。紳士として当然のたしなみだ。 「いえいえ、しかしあれには驚かされましたよ。あなたの口からハルヒ、とはね」 お前は一度その減らず口を釘で打ち付けた方が良さそうだ。今なら俺が自ら承ってやる。 「ご遠慮願います。ところで、朝比奈さんたちはあなたのアジトとやらに行くとして、僕たちはどうするんですか?」 沈黙、再び。 「まさかとは思いますが、何も考えていないなんてことは……」 「悪いか?」 開き直るほかなかった。 「まあ悪い悪くないで言ったら、10 0の割合で悪いかと」 100%じゃねえか。だいたいさ、お前も何か考えろよ。 誰か知り合いに石になった人間を元に戻してくれるやつとかいないのか? 「残念ながら」 「……そうかい」 俺は少し残念そうに言った。端からこいつに期待なんてしてなかったがな。 その言葉を境に、それ以上古泉が話しかけてくることはなかった。俺は延々と続く荒野を見ながら思う。 今日はやけに沈黙が続く日だ。 「おっまったせー!」 一キロ先にも聞き取れるような声が沈黙を一突き。それは近くの山々にぶつかって、若干のエコーがかかっている。 俺は遠くからも聞こえてくる反響音にも耳を傾けつつも、目の前に降臨した三人の天使を眺める作業に躍起となった。 ……はずだったのだが、俺はハルヒ一人から目を離すことができなかった。そりゃ朝比奈さんも素晴らしいんだが……むう、こりゃどうしたもんかね。 それにしても人間塞翁が馬。辛いことがあったと思えばこれだ。これだから人生というやつは面白いのだろうけどな。 なんて俗物的な考えをしていると、ハルヒが多少訝しげにこちらを一瞥し、 「どしたの?」 分からないことは訊く、当然のこと。5歳児にだって簡単に行うリアクション。 しかし、それを答える側となると話は別だ。訊ねる側に比べ、飛躍的に上昇した言語レベルが必要とされる。ある所説によると、返答は限界への挑戦とも称されるそうだ。 まともに返す場合は少しでも相手に伝わりやすくするため、ごまかす場合は少しでも質問の主から遠ざけようとするために尽力する。 そして、今回の俺のケースは後者にカテゴライズされ、上手くそれを実行しようとした結果、もれなく辞書にも載ってしまいそうな悪い例を披露してしまった。 「えっと、だな……そう、空は青いな、と思って」 ポカーンとした表情のハルヒ。朝比奈さんと橘はその隙にとハルヒの腕から脱出し、おしゃべりモードに突入した。 二人の「綺麗ですねー」というレスポンスを耳の端で捉えながら言葉を反芻し、よくよく考える。 前述すら弾いてしまう、悪い例にすら分類されない超絶タームを自らが発したということに気付くのに、それからそう長くはかからなかった。 「……あんた、何言ってんの? バカじゃない」 ぐぅの音も出ないほどの的確さ。反論の弁も無いとはこのことを指すのだろう。 俺が言葉に詰まったところを見ると、ハルヒは古泉に森さんのこと言及したときと同種の顔をして、 「はっはーん、もしかしてあたしに見とれてたってわけね。ほら、素直に言っちゃいなさい、今なら許してあげないこともないから」 「ああ、めちゃくちゃ綺麗だ。三人の中で誰よりも」 恐ろしいほど滑らかに口から言葉が出た。これが若気の至りであろうか。いやはや、怖いもんだね。 虚を突かれ、呆気にとられていたハルヒは徐々に頬を赤く染め上げた。お話中だったはずのお二人も顔を真っ赤にしている。 ん、ああ、古泉は説明する気にもなれん。強いて言えば、殴りたくなるような顔をしていたよ。 「ふ、ふんっ! よく分かってんじゃないの! アホのあんたにしてはマシな答えね!」 「そりゃどうも」 褒められているのか貶されているのかイマイチよく分からん。 しかしまあ、ハルヒの照れた顔が見れたからよしとするか。 「照れてなんかなーい!!」 ……そんな軽口を挟んだ三時間後―― 「――おい古泉、てめえやっぱり道間違えたんじゃねえのか」 「そんな筈はないと思うのですが……」 またその返事か。だとしたら、どうしてこんな状況なのか説明してもらおうかね。認めたくないが、認めざるを得ない。 現在、俺たちは遭難している。 話は三時間前に遡る。つまりは、俺とハルヒのたわいもないやり取りが終わった辺りだ。 「そろそろわたしたちは行きますね」という朝比奈さんにしては珍しい、モデラートのリズムのお言葉が契機だった。 俺は「一段落したらこっちから連絡します」と残し、名残惜しくも二人と別れた。 ある程度の距離まで二人を見届けると、ハルヒはくるりと俺に向き直り、 「で、あたしたちはどうすんの? もちろん決めてあるんでしょうねえ?」 と、そのときの俺が最も追求されたくないゾーンに土足でずんずん踏み込んできた。 ハルヒの顔に浮かぶ悪の笑み。それによると、どうもこちらの様子が分かって訊いているらしい。ここはスキップを使ってもらいたかった。 それに俺は特にボロを出すようなマネはしなかったはず……ああ、あれか。シックスセンス恐るべし。 さて、悪魔の笑みの効能なのか、俺の手乗り文鳥並みメンタルに与えられたダメージは、存外大きいものとなっていた。 そして、そのように精神を病んでいたためであろう。古泉に助けを求め目配せなどしでかす始末。 しかし、そんな俺の大英断をダンゴムシのごとく丸め込み、あいつは我関せずとばかりに朝比奈さんたちが旅立った方角を細い目で眺めている。 ……後で覚えてやがれよ、くそっ。 わずかの時間、古泉をシバくという別ベクトルの感情に想いを馳せていると、いつのまにやら、ハルヒは笑顔を極悪から得意満面に変化させ、胸を張りながら物申す。 「あたしの知り合いに王女様がいてね、その人なら何でも協力してくれると思うの」 この言葉に反応したのは他ならぬ古泉。 「なるほど、鶴屋さんですか」 「そ、古泉くんも分かってるじゃない」 「確かに彼女なら快く協力してくれるでしょうからね」 完全に蚊帳の外にいる俺。 「そういうわけよ! あたしたちの目的地は鶴屋さんとこで決定ね!」 ふむ、別に反対する理由もない。よし、じゃあ俺たちも行くとするか。 佐々木、待ってろよ。 ――と意気込んどいてこの様だ。 情けない、ああ情けない、情けない。 一句読んでみたが気休めになるわけでもなく、余計にブルーになった。心の中も猛吹雪である。 「だいたい、この山は絶対通らなきゃならんのか? もっと安全なルートはねえのかよ」 「ごちゃごちゃうるさいわよ! これが一番近い道なの! ちょっとでも早く佐々木さんを助けたいんでしょ!」 「そりゃそうだが……」 「じゃあ文句は言わない! いいわね?」 「……了解しましたよ、お姫様」 だが、本格的にマズいんではなかろうか。先程から延々と同じ場所を歩いている気がする。あ、だから遭難か…………へっくしょん…………にしても、寒いな……。 「大丈夫?」 「ああ、大丈夫だよ」 「あんた、首寒そうね」 ん、そういやマフラーとかしてなかったな。 「しょうがないわね、はい、これ」 自分が巻いていたマフラーを外して、ずいっと突き出す。 「いいよ、お前が巻いてろ」 いくら寒いからと言って、女の子から防寒具を奪い取るほど落ちぶれちゃいないさ。 「うるさい! 大人しく言うこと聞きなさい」 ハルヒが「とりゃー」と嬌声を流しながら俺の首目掛けて飛びついてきた。 同時に、腕に柔らかいものを感じ、理性がフライングしかける。……生きててよかったなあ……。 「あなた方がいれば凍死する心配はなさそうですね」 遠い目で戯れ言を抜かすな、バカやろう。 「いや、しかしですね……あれ…………」 「おい、どうした?」 「……急に、眠気が……」 「あたしも……何だか……眠い……」 おいおい、冗談じゃねえぞ。 「お前ら、絶対寝るんじゃねえ! 本気で死んじまうぞ…………いっ!?」 二人の体がフェードアウトしていく。雪が溶けていくように。 「……んだよっ、これ……くそっ、ハルヒ! 古泉!」 俺の叫びも虚しく、やがて、二人の体は完全に消失した。 「…………嘘、だろ……」 情けなくも、泣きそうになったとき、ふと、そう、何の前触れもなく突然に、背中を冷たい汗が流れた。 二人が消えたからか……いや、違う。 「……お前、誰だ……?」 あまりの威圧感に意識を失いそうになったが、何とか紡ぐように言葉を吐き出す。 吹き荒れる吹雪の奥で、そこだけがぼやけている。夏の日の、蜻蛉みたいに。 「――涼宮……ハルヒ――」 対峙するだけで気絶しそうなほどのプレッシャーを受ける。 佐々木と共に戦った怪物より、遥かに強い。 ハルヒに借りたマフラーが顔にぶつかり、俺を現実に返した。 冷静になった俺は、そいつの言葉を省みる。確かに言った、涼宮ハルヒと。 「――――連れ戻す――――」 結論。 こいつは俺が倒さなければならない。あいつらが消えたのはこいつの仕業だ。 「……ハルヒは渡さねえ」 「――無謀――」 無謀、か。 確かにお前の言うとおりかもしれん。だがな、それでも……やるしかないんだよ。 「俺がみんなを守るんだ」
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中庭が見えてくる。おお、居た居た。相変わらずのムカツク程の爽やかな笑みで古泉は俺を待っている。 ただいつもと違うことがあった。 古泉と一緒に、なぜか我が愛しのエンジェル朝比奈さんもセットでついてきている。 昨日俺は朝比奈さんにも涙ながらのご叱責を受けている。しかも平手打ちのオマケつきだ。 正直いってかなり気まずいな・・・更に歩を進めながらそう考えていると 「お待ちしていましたよ。わざわざご足労頂きまして恐縮の極みです」 お前の社交辞令じみた挨拶などどうでもいい。それよりなぜ朝比奈さんもいるんだ? 「それは、私が無理行って古泉くんについてきたからです。 昨日はキョンくんの気持ちも知らずひどいこと言って・・・しかも叩いたりまでして・・・ごめんなさい」 朝比奈さんは申し訳なさそうに小さな身体を折り曲げる。 「いえ、俺の方こそ申し訳ありません」 俺も素直に謝罪の意を示す。 「あと今日こういう場を設けたのは謝るためだけじゃないんです・・・」 朝比奈さんは言葉を続けようとするが・・・。 「実はですね――」 急に話に割り込んできた古泉がその笑みを途端真剣な表情に変え、語り出す。 「昨夜、閉鎖空間の発生が確認されなかったのです」 そうだった・・・アレだけハルヒを怒らせたんだ。灰色空間の1つや2つ発生してもおかしくない状況だったろう。 そんなことまで失念していたなんて本気で昨日の俺はどうかしてたらしい。 「まあ、そのこと自体は我々機関にとっては喜ぶべき事実です。 しかし、この事実は違う意味を持ってもいるのですよ」 何だって言うんだ。もったいぶらずさっさと言え。 「涼宮さんはあなたを信頼していた、そしてあなただけは何があってもついてきてくれていると信じていた。 しかし、昨日のあなたはその期待を裏切ってしまった。その時の涼宮さんの怒り、悲しみ、絶望は いかほどのものだったでしょう?想像も及びません」 俺だって少しは反省している。説教なら聞き飽きたんだがな。 「まあ、聞いてください。 とにかく涼宮さんのあの時の感情の起伏は凄まじいものでした。 正直あの後、僕はすぐにアルバイトに駆けつけなくてはいけないことも覚悟しました。 しかし、閉鎖空間は発生しなかった。このことが何を意味するかお分かりですか?」 全くわからん。 「つまり、涼宮さんは『力』を失ってしまったのかもしれないということです。 普通、あれだけの感情の起伏や不満が観測されれば閉鎖空間どころか世界の崩壊だって ありえますからね。しかしそのような自体にはならなかった。涼宮さんの『力』が消失したためだ、 と考えるのは当然の帰結というものです。僕にも俄かに信じられませんでしたが・・・。 機関の上層部はこの『何も起こらない』という不気味さに戦々恐々としていますよ」 俺は呆然としていた。ハルヒが『力』を失っただと? 今まで俺達、いや特に俺をアレだけ何度となく騒動に巻き込んでくれたあの『力』を? そんな話、信じろと言われて「はいそうですか」と信じられるもんか。 しかしあの灰色空間が発生しなかったのは何よりの証明のなんじゃないのか・・・? いや・・・しかし・・・そんなまさか・・・。 「と、まあそんな話は嘘なんですけれどもね」 おい、古泉一発殴らせろ。というか黙って殴られろ。直立不動で歯を食いしばれっ! 「ここから先は朝比奈さんに説明していただきましょう」 今にも古泉に殴りかからんか、という俺を尻目に朝比奈さんはおずおずと前に出てきて 戸惑った表情を見せつつも、ポツポツと静かに語りだした。 「キョンくんに涼宮さんの本当の気持ちを知ってもらおうと思ったんです・・・。 昨日は私もどうかしちゃってて・・・落ち着いて話せなかったから・・・」 ハルヒの本心ですか・・・。俺も考えてはみたんですがね・・・。 「涼宮さんがまだバンド結成すると言い出す少し前、部室で偶然2人きりだった時、私に話してくれたんです・・・」 『涼宮さ~ん・・・今度の撮影でもまたあの衣装を着て外に出なくちゃいけないんですか~?』 『当たり前じゃないのよ、みくるちゃんは2作連続での主演女優よ?光栄に思いなさい!』 『ふえ~ん、恥ずかしいですよ~』 『泣き言言わないの。それに今回の文化祭は映画だけじゃない、取って置きのサプライズプランを考えてあるんだから!』 『・・・さぷらいずぷらん、ですか?』 『今はまだ言えないけど、きっと成功すればあたし達SOS団が文化祭での主役になること間違いなしよ! 皆の驚く顔が目に浮かぶわ、特にバカキョンなんて余りの驚きにアゴが外れるんじゃないかしら?』 『それは、私もやらなきゃいけないことなんですか・・・?』 『勿論よ!今回のプランはあくまでもSOS団団員全員が揃って初めて意味があるんだから!』 『映画の撮影は・・・』 『勿論、同時進行よ。まあちょっと時間的にきついかも知れないけど高校生活のたった3年間、2度と訪れない青春の 1ページなんだからそれくらいの無茶はなんてことないわ!』 朝比奈さんの回想をまとめると、大体こんな感じの会話が交わされたそうだ。 「きっとそのサプライズプランがこのバンドのことだったと思うんです。 あの時の涼宮さんは、本当に楽しそうな笑顔でした。この1年半、涼宮さんの色んな表情を見てきましたけど その中でも1番って言えるくらいでした」 俺は朝比奈さんの話に黙って耳を傾けていた。 朝比奈さんは更に続ける。 「それに涼宮さんは『SOS団の団員全員でやらないと意味がない』って言っていました。 私達皆でやらないと意味がないって・・・。 私、それでわかりました。涼宮さんはどうしてもSOS団の全員で文化祭のステージに立ちたいんだなって。 そしてそれが実現することを何よりも楽しみにしているんだなって」 朝比奈さんは語りは止まらない。 「確かに昨日の涼宮さんは凄い怒っていたかもしれません。古泉くんの言うように世界が崩壊してしまっても おかしくないくらいだったかも知れません。それでもそうしなかったのは涼宮さん自身のどんな大きな不満や 怒りなんかよりも全員でステージに立ちたいっていう気持ちの方がずっと強かったからなんじゃないかって思うんです・・・」 朝比奈さんはそこまで語り終えると小さく息をつき、真剣な眼差しで俺を見つめた。 「つまり今の話を要約しますとですね、涼宮さんは閉鎖空間を発生・拡大させ、この世界を崩壊させてしまうことより SOSバンドとして文化祭に出場するためにこの世界を守ることを選んだ、という訳ですね。 まあ、僕も朝比奈さんからこの話を聞くまでは、正直本気で『力』の消失を疑っていたのですが。 そういう訳ならば僕も納得がいきます。実際その『力』のせいで僕のベースの腕前は未だプロ級を保ったままですしね」 古泉がすかさず解説を入れる。 朝比奈さんの熱弁を受け、俺はなんとも複雑な気持ちだった。 「俺はどうすればいいんでしょうかね・・・」 「涼宮さんに謝ってあげてください。きっと涼宮さんもキョンくんには悪いと思っているはずで・・・ 素直になれないだけなんだと思います。それで『また一緒に練習頑張ろう』って。 そう言ってあげてください」 俺は、ハルヒがなぜアレだけバンドにこだわったのか、どうしてあんな短期間の内に3曲も書くほどの熱意を見せたのか、 その理由がわかった気がした。 「わかりました、俺、ハルヒと話をしてみます」 俺がそう答えると、朝比奈さんの真剣だった表情が天使かと見紛う程の嬉しそうな顔になった。 「本当ですか?」 「ええ、昨日は俺もどうかしてました、何とかハルヒと話をして、謝ってみます」 「よかった~。キョンくんならきっとわかってもらえると思いました」 朝比奈さんは本当に嬉しそうだ。 そして古泉はやれやれといった表情を浮かべ、 「話もまとまったようですね。いやはや良かったです。 実は僕もですね、演奏しているのが何だか楽しくなってきてしまってですね、 こんなことでバンドが解散、なんてことになるのはいささか悲しかったんですよ」 よく言うぜ、お前はハルヒのご機嫌取りが最優先だろうに。 「そんなことはありません。機関の思惑やその一員としての使命感を抜きにして・・・ いちSOS団の団員として、僕は文化祭でのバンド演奏を成功させたいと思っていますよ それにベースを弾くのも楽しくなってきましたしね。何と言っても重低音がいいですね。 下半身にこう、グッと響きます。なんとも気持ちのいいものですよ」 古泉のその台詞が何とも変態的に聞こえたのは気のせいだろう。 「私もです。最初はキーボードなんか弾けないって思ったけど、 皆で演奏してたら、何だか楽しくなってきちゃいました。 本番のために、鍵盤に突き刺す用のナイフも買ったんですよ?」 本気にしてたんですか・・・朝比奈さん・・・。 「冗談です♪」 「僕も涼宮さんの言うとおりにステージ用の靴下を新調しましたよ。 ただ困ったのが、なかなかサイズに見合うものがなかったことですね。 こうなったら着けないで出演しようかと考えたくらいですよ」 五月蝿い古泉。お前は黙っていろ。大体何だサイズって。そんなにデカイのかよ。 とにもかくにも、俺がハルヒに謝るということで話は何とかまとまった。 「そういえば――」 俺には1つ疑問に思っていることがあった。 「長門がこの場に来ていないのはなぜだ?」 そうである。今後の世界の行く末にも関るかも知れないという非常に重要なこの昼休み会合だったはずだが、 なぜかそういった事情に一番精通しているはずの長門の姿が見えない。 「長門さんは一応お誘いはしたんですがね・・・」 古泉は溜息をつき、答える。 「行く必要はない、と断られてしまいましたよ。理由を聞いたんですがね、 『彼を信じている』と、ただ一言。それだけですよ。 あなたを信頼しているのは涼宮さんだけじゃない、ってことです」 昨日、教室で呆然としている俺に同じ台詞を言った長門の姿が思い出される。 そうか、ありがとな長門よ。お前の信頼にも応えてやらなきゃな。 (おまけ 古泉視点です) その後、教室へ戻る道すがら、僕は彼に語りかけました。 「知っていますか? バンドというと一見花形はボーカルやギターのように思われがちですが、 実はそれ以上にベースやドラムの役割が重要なんですよ」 「それは初耳だな」 「この2つのパートはリズム隊と言ってですね、 バンド全体の演奏のテンポやリズムを司る役割として、非常に重要なんです」 「なるほどな」 「だからですね、ベースとドラムの演奏があっていないと、どんなにボーカリストが上手かろうが ギタリストの技量が高かろうが、キーボードが火を噴くような壮絶な演奏をしようが、 バンド全体としての音は締りの悪いものになってしまうんですよ」 「それはそれは、責任重大だな」 「つまりですね、バンドにおいてはベーシストとドラマーのコンビネーションが何よりも肝心ということです。 結論として、あなたと僕は一心同体も同然!ということです。 早速今夜から2人きりでの夜の個人練習に励みましょ・・・」 「黙れ、変態が」 彼はそう言うと歩を速め、スタスタと自分のクラスの教室に向け、歩いて行ってしまいました・・・。 「・・・マッガーレ・・・」 (キョンたんは相変わらずツンデレですね。まあ、そういうところも愛しいんですけどねwww) 教室戻った俺はハルヒを探した。 しかしその姿を見つけることは出来ない。 結局、その日は放課後までハルヒは教室には戻ってこなかった。 もしかして帰ってしまったのか? タイミングを逃したのかもしれない・・・。 そう考えながら、廊下を歩いていた俺の視界に見覚えのある人影がうつった。 「長門・・・」 その人影とは誰あろう長門であった。 長門はいつもの液体ヘリウムのような目で俺をみつめ、静かに言葉を吐き出した。 「涼宮ハルヒは軽音楽部の部室にいる」 「ほんとか!?」 どうやら帰ったって訳じゃなかったみたいだ。 「涼宮ハルヒはあなたを必要としている。行ってあげて」 俺はその一言で完全に決心がついた。 「重ね重ね済まないな。長門よ」 「いい」 ふと気付くと長門は手に筒状の何かを持っている。 「ところでそれは何だ?」 長門は表情1つ変えず答える。 「ダイナマイト。ステージでアンプを爆破するために調達した」 オイオイ・・・。長門もハルヒに言われたことを本気にしていたのか・・・。 それにしても・・・。 「お前も文化祭の本番を楽しみにしているのか?」 俺は何気なくそんなことを聞いてみたい気分になった。 「それなりに」 俺はそんな言葉を呟いた長門の表情の中に少しの期待を見出すことが出来た。 そして俺は今、軽音楽部の部室兼SOSバンドの練習室の前に立っている。 長門の言うことが正しければ、ハルヒはこの中にいるはずだ。 ふと気付くと、教室の中から何かが聞こえてくる。 それは聞き覚えのあるメロディー、昨日俺が聴いたハルヒのオリジナル曲に相違なかった。 意を決して中に入る。 するといた。ハルヒである。 ハルヒは背を向け、アンプに腰掛けてギターをつま弾いている。 そのメロディーは、昨夜俺が聴いた3曲の中の1曲、 確か『ハレ晴レユカイ』とかいうタイトルの曲だ。 俺はしばらくハルヒの弾くギターの音色に聴き惚れてその場に立ち竦んでいた。 しばらくして、演奏がピタッと止んだ。どうやら俺が入ってきたのに気付いたらしい。 ハルヒは首だけ振り返り、俺の姿を認めるとすぐにまた背を向けてしまった。 気まずい沈黙が流れる。俺は再度意を決して言葉を発する。 「今の良かったぞ。何て曲だ?」 知ってるくせにな。我ながら白々しい。 ハルヒは背を向けたままだ。無視されているのかと思いきや、静かに口を開いた。 「何よ、あんた脱退したんじゃなかったっけ?」 何とも厳しいお言葉だ。しかし俺はめげない。 「その筈だったんだがな。どうもこのままだと寝覚めが悪い――」 ハルヒは黙って俺の言葉を聞いている。 「そりゃあ俺は音楽的な才能もないし、いつまで経ってもまともに演奏できてない。 だから、お前の要求はいくらなんでも無理だろうって思う時もある。 でも・・・それでも俺はこのSOSバンドでの文化祭を成功させたいと思ってる。 朝比奈さんや長門や古泉と一緒に・・・、 そしてハルヒ、お前と一緒に・・・文化祭のステージに立ちたいと思ってる。 だから・・・昨日は済まなかった。俺にもう一度ドラムを叩かせてくれ」 俺がそこまで言い終えると、相変わらず背を向けたままのハルヒが口を開く。 「何よ、そんなこと言って、あんだけ取り乱したあたしが何だかバカみたいじゃない・・・」 抱えていたギターをアンプに立てかけ、ハルヒはこちらを向く。 「でもまあ、あんたがどうししてもって言うなら・・・許してあげないこともないわ!」 「ほんとか?」 「た・だ・し!団長に逆らった罪は重いわよ! これからあんたには罰として寝る暇も惜しんでドラムの練習に励んでもらうわ! 勿論映画の撮影に力を抜くことも絶対許さないだからね!」 かなり重い罰を課されてしまったようだがそれでも俺は心底安心していた・・・。 その安心感が俺に不用意で思い出すだけでも恥ずかしい一言を言わせてしまった。 「よかった。これでまたお前の歌が聴けるんだな・・・」 言った瞬間顔から火が出そうな恥ずかしさに襲われた。 手元にショットガンがあったなら、すぐにそれを口にくわえて引金を引きたいぐらいだね。 そうして涅槃の境地に到りたいくらいさ。 「ふ、ふんっ!SOS団団長の神聖なる歌声をタダで聴けるのよ! 少しはありがたく思いなさいよねっ!」 ハルヒも心なしか顔を赤らめているように見えるし・・・。 俺は気を取り直し、ハルヒに話しかける。 「実はな、さっきお前が弾いてた曲は既に知っていたんだ。 昨日お前が落としてったMDでな」 ハルヒは特に驚いたこともなく答える。 「何よ、無い無いと思ってたらあんたが持ってたってわけ?」 「別に悪気があったわけじゃないんだがな。まあとにかく曲聴いたぞ」 「ふん、せいぜい私の作った曲のクオリティの高さに驚いたでしょうね」 ハルヒは吐き捨てるように言う。 「ああ、凄かったよ。アレならオリコン10位以内だって狙える」 これは俺の本音だ。 しかし、ハルヒは一層顔を赤らめる。茹で上がったエビみたいだ。 「あ、当たり前じゃないっ!今の日本の音楽業界は腐ってるわ! あんな有象無象のクオリティの低い曲が売れるぐらいならそれくらい当然よ! むしろ1位を取って然るべきね!」 それは流石に無理だろうが、ハルヒの機嫌も何とか少しは上向きになってくれたようだ。 「とにかく! あたし達SOSバンドが文化祭のステージをジャックするにはまだまだ練習が足りないわ! 今からすぐに練習よ!キョン!そうとなったら今すぐに他の団員達を招集しなさい!」 こうしてSOSバンドの活動再開が高らかに宣言されたというわけだ。 そこからの数日はこれまで以上の多忙を極めた。 まずは映画の撮影。文化祭本番3日前に何とかクランクアップしたものの、 超監督の理解不能な撮影方針によって取り溜められた映像の殆どが訳のわからないものであり、 ギリギリのウェイトレス衣装で未来人的なナゾのビームを目から発射させられている朝比奈さんや スターリングインフェルノとかいうショボイ棒切れをくるくる振っている黒ずくめの悪い宇宙人長門、 やっとのことで自分の持つ超能力を自覚したはいいものの、ニヤニヤ笑ってるだけで存在感のない古泉、 その他、再度脇役で登場した鶴屋さんのぶっ飛んだアドリブ、国木田や谷口のビミョーな演技、 今回は人語を話すという暴挙は犯さなかったものの、 それではタダの猫であり劇中に登場する意図が全くわからないシャミセンのあくび、 訳もわからずはしゃぎまわるだけの俺の妹、といったようなものであった。 こんなものを編集させられる俺は一体どうすりゃいいんだ? 本当にこれなら朝比奈さんのプロモーションビデオを作った方がマシってもんだ。 まあ、そのくらいにヒドイ出来だったわけである。 そんな状況に頭を抱えていた俺ではあったが、ハルヒも何だかんだいっては手伝ってくれた。 しかしそれでも映画としての体裁を整えるにはほど遠い。 これはもう本気で今年こそ朝比奈プロモーションクリップにするしかないと思っていた俺に救いの手が差し伸べられた。 それは誰あろう長門である。何か長門に頼ってばかりだよな・・・俺。 長門は大量のビデオテープを目の前にし、ウンウン唸っている俺を見かねたのか 「貸して」 と言うと全てのテープを家に持って帰ってしまった。 するとびっくり、次の日には長門は全ての映像編集を完成させてしまっていた。 朝比奈さんの目から出るビームのCGや効果音、BGMまでばっちりだ。 「完成した」 そう言ってマスターテープを俺に手渡す長門、これまた去年も同じようなことがあった気がするな・・・。 そして問題のバンドである。 ハルヒの作ったオリジナルの3曲が既存の2曲と共にセットリストに加わり、 SOSバンドは殆どのメンバーが初心者にも関らず、5曲も演奏しなければならないという重荷を課せられた。 いや、初心者といってもハルヒのトンデモパワーでプロ並みの腕前になってしまった古泉と朝比奈さんはまだいい。 結局初心者のままの俺は、毎日ヘトヘトになるまでドラムを叩き続けていた。 God Knows...とLost MyMusicの2曲に関しては何とか形になってきたものの、更に3曲を覚えるのは相当にキツイ。 しかしハルヒにアレだけの見得を切ってしまった以上、俺も諦めるわけにはいかない。 とにかく毎日、暇を見つけては軽音部の部室に出向き、寝食を忘れてといっていいほど練習を繰り返した。 そのおかげかこれまでペンダコすら出来たことのない俺の指には立派なマメが出来てしまったりもした。 更に、ドラムのことは同じドラマーに聞けばよいと考えた俺は週末、映画の撮影の後、独りで駅前のライブハウスに足を運んだ。 そう、あのENOZのライブを見に行ったのである。 率直に言って彼女達の演奏は相変わらず素晴らしかった。 狭いライブハウスではあったがその分観客の熱気も凄まじく、演奏中はあちらこちらでモッシュ&ダイブまで起こっていた。 そしてGod Knows...とLost MyMusicに関しては彼女らが本家であり、岡島さんのドラム演奏は非常に参考になった。 俺はライブ終了後、挨拶も兼ねて彼女達の楽屋を訪ねた。 ENOZの面々は初め俺を見たときは誰だかわからなかったようだったが、ハルヒの名前を出すや否や、合点がいったらしい。 俺はSOS団がバンドとして文化祭に出演すること、彼女達が本家である2曲をカバーさせてもらうこと、 ハルヒが作ったオリジナル曲のこと(勿論デモテープも聴いてもらった。すこぶる好評だった)等をつらつらと話した。 「そうかー、あの涼宮さんがねー」 ドラムの岡島さんが感慨深げに呟く。 「涼宮さんならきっとまたスゴイ演奏をしてくれると思うよ」 「私達、ほんと涼宮さんには感謝してるんだ。 あのステージが無かったら私達の曲を皆に知ってもらうこともなかった思うし・・・。 きっと卒業してメンバーも皆バラバラになって、バンドも自然消滅してたかも知れない・・・」 ベースの財前さんは遠い目をして語る。 「今私達が4人で活動を続けられるのもあのステージがあったからだと思う。 本当、涼宮さんには足を向けて寝れないわ。勿論ギターを弾いてくれた長門さんもね」 ひとしきりの会話を終え、俺は本題でもあるドラム演奏についてのアドバイスを求めてみた。 するとドラムの岡島さんはひとしきり考えた後・・・ 「口で言ってもわからないところがあるし・・・。そうだ! 実際に叩いてみるのが手っ取り早いと思うよ?」 と言うと、客のいなくなったステージに俺を上げてくれ、実演を交えた指導を行ってくれた。 時々、「ここの叩き方はこう!」とか言ってスティックを持つ俺の手を握られたりしてしまうなど、 何とも気恥ずかしいば場面もあったりもしたが、岡島さんは流石本家だけあり、非常に的を得た指導だった。 「本当にありがとうございました」 俺は懇切丁寧なアドバイスをくれた岡島さんはじめとするENOZの面々に頭を下げた。 「いいのよ、このくらい。私達が涼宮さんに受けた恩に比べればなんてことないわ」 岡島さんが恐縮する。なんて腰の低い良い人達なんだろう。少しはハルヒに見習わせたいね。 「最後に1つだけアドバイスさせてほしいんだけど・・・」 「何でしょう?」 「バンドっていうのは、メンバーが誰ひとり欠けても成り立たないものだと思うの。 私達も今でもこの4人でやれてることに凄い喜びを感じてるしね。 だから君もバンドのメンバーを・・・SOS団のメンバーを大切にしてあげてね。 そうすれば技術とか関係なく、きっといい演奏が出来ると思うよ」 朝比奈さんや古泉が同じようなことを言っていたのが思い出される。 SOS団のメンバー全員で・・・か。俺にもやっとハルヒの気持ちがわかってきたのかもしれない。 俺はもう1度彼女達に謝辞を述べ、帰途につこうとした。 すると財前さんがニヤニヤとした表情で近寄ってきて、俺に耳打ちをしてきた。 これまたちょっと恥ずかしいな・・・。 「そういえば・・・その後涼宮さんとはどうなのかな?『オトモダチ』の関係から進展した?」 「はぁ?」 俺は何とも間の抜けた声をあげてしまった。正直彼女の質問の意図するところが掴めない。 そんな俺の間抜けな表情を見て、彼女達は意外そうな表情を浮かべたかと思うと、 一様にやれやれと両手を挙げ首を振るジェスチャーをしている。「だめだこりゃ・・・」なんて言葉も聞こえたりする。 まだ状況を良く掴めないまま呆けてる俺に財前さんは更に言葉を続ける。 「まあ、君のペースでやればいいんじゃないかな? そんな所も君の味だと思うし・・・。 でも女の子を余り長く待たせるのは感心しないよ~?」 「はあ・・・??」 最後まで彼女達の言わんとするところはわからぬまま、その日は終わった。 そしてとうとう文化祭の当日になるわけだが、実はこの前日ちょっとした問題が発生していた。 というのも文化祭のステージにおいて何らかの出し物をする際は文化祭の実行委員と生徒会の許可を取らなくてはならないのだ。 俺達はバンド練習と映画撮影に夢中でそんな当たり前のことも忘れていた・・・。 出し物の申請期限はどうやら一昨日だったらしい・・・。あの時は映画の編集で忙殺されていたからな・・・。 さて、この事実をハルヒが知ったらそれこそ世界崩壊一直線だ・・・。 しかし、この件に関しては生徒会長と「太いパイプ」とやらを持つ古泉の口利きによって何とかなり、 特別に申請抜きでも文化祭のステージに出演できる運びとなった。 古泉には感謝したいところだが、そもそもそんな基本的なミスをお前が犯すとはな・・・。 俺達がどれだけバンドと映画だけに集中していたかが伺えるというものだ。 ちなみにあの毒舌生徒会長は、 「フン、またあのおめでたい女のご機嫌取りの為に使われるのはいい気はしないが、 今度はバンドだろ?せいぜいマトモな演奏になるように願うぜ。 まあ、あの女にはマジで音楽の才能はあるみたいだしな――」 と、相変わらずハルヒのご機嫌取りに利用されるのに不満げながらも 「そうそう、古泉。お前ステージで全裸になるんだって? あの女の歌を聴いているのも癪だし、お前がぶら下げている方の『ベース』でも見に行ってやるよ」 と、煙草をくゆらせながらのたまってくれた。 というか生徒会としては文化祭のステージでストリーキング行為を行うことにはお咎め無しなのか? 古泉も古泉だ。「是非楽しみにしていてください」なんて言ってんじゃねえ。 さて、本当の問題はこのことではない。 実は、俺の腕が限界に来ているということだ。 端的に言うと、凄く痛い。 この1ヶ月、慣れないドラムという楽器を叩きに叩きまくり、 特にこの数日間は寝食も忘れて練習に没頭していたこともあり、とうとう腕が悲鳴をあげたというわけだ。 「何も前日にこんなことになる必要はないじゃないか・・・」 風呂の中で腕をマッサージしながらひとりごちた。 果たして、明日のステージを無事こなせるだろうか・・・。 文化祭当日である。結局腕の痛みは取れないままだ。 勿論、このことはハルヒはじめ他の団員には話していない。 後で考えれば、長門あたりに頼めば一瞬で治療してくれたりしたのではないかとも思うが、 残念なことにその日の俺はそこまで頭が回らなかった。 ステージでの出し物が行われるのは午後からである。 それまで俺は去年と同じように谷口と国木田と共に校内をグルグル回っていた。 視聴覚室では俺達が制作した映画が上映されているはずだが、 あんなわけのわからない映画を、しかも編集段階でイヤというほど見たものを、 改めて見に行くほど俺はヒマではない。 「まあとりあえずはナンパだろ。今年は結構他校からも女の子が来てるからな」 相変わらず谷口はナンパにしか興味がないらしい。成功率ゼロのくせによく懲りないもんだ。 「それより僕はお腹が空いたな。なんか食べに行こうよ」 とは国木田の弁である。 「そういえばキョン、今年は朝比奈さんのクラスの出し物の割引券とか貰ってないの?」 そうだった。去年と同様、朝比奈さんのクラスは焼きそば喫茶をやるらしく、その割引券をしっかり今年も貰っていたのだ。 ついこの間朝比奈さんが鶴屋さんと共に俺のクラスまでわざわざ足を運んでまでくれたのに失念していた。 「おお!マジか!今年も朝比奈さんのあの衣装が見れるっていうならこりゃナンパどころじゃないな!」 谷口も飢えた魚のような食いつきを見せる。 うむ。確かに朝比奈さんと鶴屋さんのあの麗しいウェイトレス姿を見れるというのならば行って損はない。 もしかしたら余りの麗しさに俺の腕も癒されたりしてな。 結論から言うと、今年も朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶は素晴らしかった。 何が素晴らしいって、ウェイトレス姿の朝比奈さんと鶴屋さん以外にない。 基本的に去年の衣装と似たものだったが、それをベースに更なるバージョンアップを施したものらしい。 しかし、本当に朝比奈さんのクラスにはプロ並みのデザイナーか何かがいるに違いない。 これがSSなのが残念だね。是非皆にお見せしたいくらいさ。 ちなみに、食券のもぎり役である朝比奈さんは少し恥ずかしそうな面持ちであったが、 それとは対照的に今年も廊下にまで出て客引きをしていた鶴屋さんは何とも元気であった。 「お、キョンくんとそのオトモダチ!いらっしゃいっ!」 「今年も盛況ですね」 「去年があんだけ大繁盛だったからねっ!味を占めて今年もまったく同じ出し物にしたのさっ! いやぁほんとにボロ儲けだよっ!笑いが止まらないねっ!」 「鶴屋さんや朝比奈さんがいますからね」 「ありゃー、キョンくんも上手いこというねっ!おねえさん感激にょろよっ!」 いやいや、本心ですよ。 「そういえばキョンくん、今年はバンドやるんだってねっ!みくるから聞いたよっ! めがっさ頑張るにょろよっ!あたしも見に行くよっ!」 「ありがとうございます」 鶴屋さんは台風が過ぎた後の晴れ渡った青空のような笑みでそう言うと、俺の腕をバンバンと叩いた。 正直、痛めていた腕にはかなりの衝撃だったが俺は何とか表情を崩さずにいた。 その後、ナンパをしに行ってしまった谷口と他のクラスの出し物を見に行ってしまった国木田と別れ、 俺は独りで校内をブラブラとしていた。午後のステージまではまだ時間がある。 ちなみに、朝比奈さん以外の団員達のクラスの出し物についてもここで紹介しておこう。 長門のクラスは今年も占いの館とやらをやっている。 どうやらこちらも去年好評だったのに味を占めたようだ。 黒ずくめの悪い魔法使いの衣装に身を包んだ長門が相変わらず、一歩間違ったら未来予知とも言えるような 具体的過ぎる占いをして、客を引かせてしまっているのではないかとの心配もしたが、 チラッと覗いてみた感じ、何とかしっかりやっているようだ。 古泉のクラスは今年は演劇ではないようだ。 「映画にバンドに演劇、いくら僕でもちょっとこれは厳しいですしよかったですよ」 なんて古泉は前に言っていたが、果たしてアイツのクラスでは何をやっているのかというと―― 何と、『執事喫茶』であった・・・。これはアレか、所謂メイド喫茶の男版みたいなもんか・・・。 パリッとしたタキシードに身を包んで接客をしている古泉、ムカツクが似合っている。 「お帰りなさい、お嬢様」とか白々しい台詞まで吐いてやがる。 客層も女の子が殆どで、他校からきたと思しき子も見受けられる。 その殆どが古泉のタキシード姿に見とれているようだ。やっぱりムカツクな。 というかよく執事喫茶なんてやろうと思ったな。それだけ古泉のクラスにはイイ男が多いってことか。 古泉は俺の姿を見つけるや否や気味の悪い笑みを浮かべ、こう言った。 「バンドの出番までにはまだ時間がありますからね。 今までそちらの活動で忙しく、クラスの出し物の準備に貢献できなかった分、 こうして午前中だけでもクラスのために奉仕している、というわけです。 せっかく来たんですし、お茶でも飲んでいきませんか?」 断る。野郎に「お帰りなさい、ご主人様」とか言われて喜ぶような特異な性癖は持ちあわせちゃいない。 「それは残念です。 実のところ、今回の出し物は当初は執事喫茶ではなく『自動車修理工喫茶』に僕はしたかったんですけどね。 ウェイトレスの衣装はタキシードでなく全員ツナギでね。勿論ターゲットとする客層は男性です。 でもその意見はクラス会議で却下されてしまったんですよね・・・」 当たり前だ、変態め。大体何だツナギって。そんなもん喫茶店じゃねえ。ハッテン場になっちまう。 そんな変態古泉を無視し、更に俺は校内をブラブラしていた。 しかし特に目につくような出し物はない。 正直、それでもこうしてブラブラしていないと午後のステージのことが気にかかってしまう。 そして腕の痛み。コイツはとうとう最後までどうにもならなかったみたいだ。 そして午後、俺はステージに出演する生徒の控え室である舞台裏の楽屋に足を運んだ。 そこには俺以外の面子が既に顔をそろえていた。 「ちょっと遅いわよ!キョン!」 そう言うハルヒは何とバニーガール姿でギターを抱えている。どうやら去年と同じ衣装でステージに上がるらしい。 ちなみに長門は相変わらずあの黒ずくめの魔法使いの衣装。 当初はハルヒとお揃いでバニーガール服のはずだった朝比奈さんは、映画で着ていた戦うウェイトレスの衣装である。 ハルヒいわく映画の宣伝の一環らしい。 そして全裸での出演を宣言していた変態古泉はなぜかさっきの執事の衣装である。 「本当は全裸のはずだったんですが・・・急遽文化祭実行委員の方からクレームが入りましてね。 土壇場での衣装変更ですよ。靴下を着けても駄目だそうです・・・」 残念そうに語る変態。実行委員の皆さん、グッジョブです。 しかし、俺だけ普通に制服か。逆に浮くんじゃないか、コレ? 「いよいよ本番ね!あたし達SOSバンドが文化祭を牛耳る日がとうとうやってきたのよ! みんな、気合入れていくわよ!」 張り切って叫ぶハルヒ。 「練習の成果を見せるときです~!」 意気込む朝比奈さん。 「全裸でないのは物足りないですが、やるだけのことはやりましょう」 ニヒルに微笑む変態古泉。 「・・・」 無言ながらその瞳の奥には燃える意気込みが感じられる、ように思える長門。 「みんな準備はいいわね!さあSOSバンドの華々しいデビューの瞬間よ!」 最後にハルヒが俺達に再度気合を入れる。 準備は整った。こうなったら俺も覚悟を決めるしかない。 腕の痛みを忘れるくらい叩いて、叩いて、叩きまくってやるさ。 俺達、SOS団のためにも。 そして、何よりもこの日を楽しみにしていたハルヒのためにもな。 舞台の袖、俺達は出番を待っている。 さっきまで興奮気味だったハルヒも黙っているし、朝比奈さんも幾らか緊張したような面持ちだ。 ニヤニヤ笑っていた古泉も真剣な表情になっている。 長門は・・・相変わらずだろう。生憎、トンガリ帽子と舞台袖の暗さによって表情は伺えないが。 舞台では俺達の前の出番である軽音楽部のバンドが演奏している。 メンバー皆がデーモン小暮みたいなケバケバしい衣装を着込んで、グロテスクなフェイスペイントを施し、 騒音とも思えるような大きな音にのせて「SATSUGAIせよ!」とか「下半身さえあればいい!」とか連呼している。 オイオイ、物騒なバンドだな。というか、コイツら去年も出てなかったけ? サクラと思しき一部の男達は盛り上がっているが、正直それ以外の観客はドン引きだ。 会場の空気も薄ら寒いものになっている。 オイオイ・・・俺達の出番の前になんてことしてくれるんだよ・・・。 「テンキュウ!」 曲が終わり、ボーカリストが吐き捨てる。 やっと終わってくれたみたいだ・・・。 次が俺達SOSバンドの出番である。緊張が高まる ステージではいったん幕が閉められ、楽器やアンプ、音響のセッティングが行われているようだ。 朝比奈さんも古泉も長門も誰一人言葉を発しようとしない。 そんな中、ハルヒは緊張した面持ちを更にグッと引き締め、ウサミミのヘアバンドを揺らしながら じっと舞台の床に視線を向けたり、虚空を見つめたりしている。 こいつがここまで緊張するのははじめて見るんじゃないか? 「ハルヒ、緊張しているのか?」 俺は思わず聞いてしまった。ハルヒは俺の方へ振り返ると―― 「そんなわけないでしょ、それよりキョン!今日こそはショボイ演奏は許されないんだから、 しっかり叩きなさいよねっ!」 ああ、わかってるさ。その為に一度は脱退したこのバンドに戻ってきたわけだし、今日まで練習してきたんだからな。 今日こそはハルヒ、お前の信頼とやらに応えてやろうじゃないか。 「続いては、一般参加の『SOSバンド』の演奏です」 放送部の女子部員によるアナウンスが流れる。いよいよ出番だ。 観客は『SOSバンド』という珍妙な名に反応しているようで、少しザワザワしている。 クスクスという失笑もあちらこちらから聞こえたりして・・・まあ予想はついたがな。 そんな会場の雰囲気もどこ吹く風、ハルヒはギターを抱えて颯爽とステージへと歩いていく。 それに続いて朝比奈さん、同じくギターを抱えた長門、ベースを抱えた古泉、 最後に俺、がステージへと上がっていく。 観客が意外に多い・・・。それにステージってこんなに高かったのか? 俺は今更ながら、多くの観客の前に立ち、演奏をするという行為にどうしようもない緊張を感じていた。 チクショウ、足が微妙に震えてやがる。 ハルヒや長門、古泉といったギター組はシールドをアンプに接続し、チューニングを行っている。 朝比奈さんはキーボードの前に立ち、念入りに鍵盤の感触を確かめている。 俺は、ドラムセットに座ると、1つ息をつき、前を見た。 観客席となっている体育館のフロアにはいつのまにか大勢の人が集まっている。 この全ての人間の視線が自分に向くんだ。これで緊張しない方が嘘ってもんだぜ。 そしてこの位置だと、俺の真正面にはギター&ボーカルのハルヒが立つことになる。 正直言って、ハルヒはバニーガール服を着込んでいるわけであり、ここからだとお尻のラインや 露出しているキレイな肩などが丸見えであり、目のやり場に困るところである・・・。 メンバーの配置は観客から見て左から―― キーボードの朝比奈さん、ギターの長門、ギター&ボーカルのハルヒ、ベースの古泉 そしてハルヒの真後ろにドラムの俺、という形である。 と、そんなこんなしている内にギター組のチューニングも完了したようだ。 相変わらず観客はざわついている。そりゃそうだろう。 『SOSバンド』なんて変な名前の集団が出てきたと思ったら、 見た目だけは文句のないバニーガールに妖精のように可憐なウェイトレス、 置物のように静かに佇む黒い魔法使いにタキシードの変態執事がいるんだもんな。 去年の文化祭でハルヒと長門のステージを目撃している人間なら少しは驚きが少ないかもしれないが・・・。 ふと気付くと、メンバー全員が俺へ視線を向けている。 朝比奈さんは女神のような微笑を浮かべ、長門は相変わらず無表情ながらも真摯な瞳で、 古泉はコレまでにないくらい気持ち悪いニヤケ顔で・・・。 それぞれがこのステージに立てたことに言いようのない満足感を覚えていることがそこから伺えた。 そして、ハルヒ。客席に背を向け、俺を見つめるその顔は―― おそらく一生忘れることも出来ないだろうというくらいに、優しい、優しい笑顔だった。 ハルヒが俺に向かって頷く。ウサミミが揺れている。 その仕草をみた朝比奈さん、長門、古泉は途端に真剣な表情になる。 どうやら演奏開始の合図らしい。 俺はハルヒに向かい、黙ったまま頷き返し、スティックを振り上げた。 後編へ
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涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. の後書きです。(ネタばれしてますので注意) この物語は涼宮ハルヒの憂鬱がガープス妖魔夜行の世界観で成り立っていたなら、どんな世界が紡がれるのか、といいますか、ガープス妖魔夜行の世界と涼宮ハルヒの憂鬱は相性がいいのではないかと思い、書き始めたものです。 どこが違うの?と指摘があったように実際すごく相性はよかったということになります。普通のSSとは楽しみ方が違っちゃってますが、その辺は作者の趣味とご理解ください。 とりあえず、舞台となるガープス妖魔夜行について、少し説明が必要ですね。 妖魔夜行シリーズは、ハルヒと同じ角川スニーカー文庫を中心に展開されたライトノベルで、妖魔夜行(1991~2000年)と続編の百鬼夜翔(2000~2005年)が出版されています。 ストーリーの特徴は、SS内でも紹介した実在する『妖怪』をストーリーのメインに据えています。 重要なのは、この『妖怪』とは、 ・猫又、河童など一般的に妖怪と分類されるもの ・オーディン(北欧神話)、アテネ(ギリシア神話)など信仰される神々 ・人面犬、トイレの花子さんなど都市伝説 ・暴行された女性の怒りが実態化したヒューリー、理想の社会の歯車 妖怪サラリーマン など、人がその存在を信じる、もしくは、愛情・憎しみ・信仰など人の想いを反映して、『妖怪』が存在するという設定です。 そして、妖怪の強さは、主にそのことへの人の想いとその妖怪が生きてきた時間に影響されます。 したがって、最強の存在が本作の『あれ』となるわけです。 まあ、これ以下は超ネタばれですので、本編を読んだ後にどうぞ。 こんな作品ですが、ここまで読んでくれる人がいたなら、作者として感謝に絶えません。 敬具 では、超ネタばれキャラ設定をお話しますと・・・反転してますw 涼宮ハルヒ(人間) 3年前に滅びた最強の妖怪から力と呪いを受けた不幸な少女。キョンとの出会いは彼女にとって救いとなるのかな。 キョン(人間) 涼宮ハルヒと出会って『妖怪』の存在を知ることになり、いろいろと巻き込まれる本作の主人公。いいひと?「いい人って、神様みたいだね。感謝してよし、不満を言ってよし、いなくてもいい。」とはわたしは思わないんですけどね。 長門有希(文車妖妃) 妖怪団員そのいち。文章の妖怪である文車妖妃は妖魔夜行の東京での戦いで消滅しましたが、あまりにぴったりだったので、現代風にアレンジして復活。でも、3歳だからちょっと弱く、世間知らずなところあり。 百鬼夜行に登場する巨大ネットワーク『バロウズ』所属。バロウズの位置づけは、広域組織。(広域暴○団?) 朝比奈みくる(『禁則事項』) 妖怪団員そのに。でも、『禁則事項』で正体は『禁則事項』なのです。未来からきたのも本当。 妖怪タイムマシンもいずれ生まれることでしょうしねえ・・・ 古泉一樹(人間:微妙超能力者) 笑顔はくせですよ?超能力者ですが、ほとんどの場所で使えないという欠点あり。 原因は、SS読んでねw ちなみに、彼の『相棒』も妖魔夜行本編からの登場となりました。 ネットワーク『機関』所属。『機関』の位置づけは、日本政府直属の妖怪組織。 鶴屋さん(ちゅるや人形) 『鶴屋家』のリーダーだけど、鶴屋さんとちゅるやさんを同時に出したかったんですよ。 ちなみに、『鶴屋家』の位置づけは、妖怪的には地元集団。(地元○くざ?) 朝倉涼子(ミセリコルデ) ナイフの名前が決まった時点で、運命が変わっちゃったのは秘密。猟奇殺人犯が使っていたナイフに対する恐怖から暗殺を生業とする妖怪として誕生、生活している。 悪のネットワーク『ザ・ビースト』に力を貸してるけど、所属しているわけじゃない。 オリジナルな妖怪さんです。 サンダルフォン(天使) エヴァのあれが元ネタじゃなくて、ユダヤ教の天使の中で、妖魔夜行に登場せず、モーゼを導いたというメタトロンの兄弟で胎児の性別を決める天使。 つまり、誕生を司る天使という位置づけが気に入って採用。人間を見下しているのは、天使の特徴ですね。 『機関』メンバーズ 新川さん(幻の日本兵) フィリピンで日本兵発見というガセ情報があったのを思い出して、作ったオリジナル妖怪。 スネークはコードネームですよ?『機関』所属。 筒井さん(戦艦 大和) 名前だけ登場。戦艦の名前は地方名なので、その名前に由来する人物から。強さが三戦艦中二番目なのは秘密です。 坂本さん(戦艦 土佐) 名前も出てません。戦艦3人の中で一番強い人。これは、戦争中に日本の子供たちがあの土佐があったら・・・と思ったという話を聞いて決定。 廃墟で有名な軍艦島の名前の由来でもありますよ? 天城さん(戦艦 天城) 地震が大嫌いな戦艦3人衆で一番弱い人。関東大震災で壊れて処分されたのが原因なのでした。 UFO、ゼロ戦、カマイタチなどは正規の所属ではなく、お手伝い組です。 忘れてました。本SSの栄えある最初の妖怪さんに気づいた人は相当妖魔夜行に詳しい方のはずです。 キョンにお小遣いをあげた渡橋のおばさん・・・実はこの方は妖魔夜行本編にも登場する渡橋 八重さんという縁結び神社の大注連縄(おおしめなわ)という妖怪さんなのです ♪ 長くなっちゃうのでこのくらいにしますね ♪ 、
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中3の冬 受験勉強の息抜きにふと書店に寄ってみた。そこで一冊の本をみつけた 「『涼宮ハルヒの憂鬱』・・・?」 なぜこの本が気になったのかというと、この本の主人公と俺は同じあだ名だったからだ。妙な近親感ってやつ?しかも国木田って苗字のヤツも出てるし・・・ 感想はというとなかなかおもしろかった。そしてこの本は気晴らしに読んだ一冊で終わるはずだった。 おめでたいことに高校に合格した。国木田も合格した。これからどんな高校生活が始まるのかという期待と不安に俺も例外なく襲われる。 入学式が終わってクラスでのホームルーム、担任の岡部は顧問をつとめるハンドボール部について語った。そして出席番号順に自己紹介。俺はあたりさわりのないことを言ってすぐに自己紹介を終えた。そして俺の後ろの女子の番。 ハルヒ「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未 来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」 なんだと!?涼宮ハルヒ?そして自己紹介の内容はおぼろげな記憶だがあの本と同じ。どうなっているんだ? さっきしまったクラス名簿を引っ張り出す。朝倉涼子、国木田、俺、涼宮ハルヒ、谷口、これは偶然なのか? クラス中がハルヒの自己紹介にあっけにとられている、俺はあっけにとられるどころでは済まされなかった 「なぁ、あの自己紹介すごかったな」 俺はいろいろ探りをいれるためにハルヒに話しかけた。 ハルヒ「あんた宇宙人なの?」 「違うけどさ・・・」 ハルヒ「だったら話かけないで」 そうはいかないさ、あの本は俺が小さいころに忘れてしまったサンタクロースからのプレゼントかもしれないんだからな 「もしかして中学の校庭に奇妙な絵かいた?」 ハルヒ「誰からきいたの?」 「中学のときウワサできいた」 ハルヒ「本当よ」 ビンゴ、ということは・・・ 「教室の机全部廊下にだしたのもお前か?校舎の屋上に星マークをペンキで描いたのもお前か?学校中に変なお札を貼ったのもお前か?」 ハルヒ「そ、そうよ・・・だからそんなに迫らないで!」 そうはいかねぇ、まだまだ聞きたいことがあんだよ 「付き合う男はみんな振ったんだろ?普通の人間だからって理由で」 ハルヒ「あ~もうそうよそうよ!わかったならこれ以上質問しないで!」 その時教室に岡部が入ってきた。あとはあとで聞こう。 俺は確信した。おそらくあの本は俺の高校生活を著したものだと。すげぇよ、あれが全部本当なら俺は高校生活は薔薇色じゃねぇか。 休み時間もハルヒを捕まえていろんなことを聞いた 「髪型毎日変えてんだろ?」 ハルヒ「・・・・・・、あんた以前どっかであったことある?」 「いや、今日がはじめてだ。あと着替えは場所をきにしろよ」 ハルヒ「もう!なんなのよ!アンタってストーカーなの?気持ち悪い!」 ハルヒは走ってどっかいっちまった、不思議探索か・・・? ハルヒはすごく驚いていた。俺はやりすぎたと思ってはいるが、まるで人の心が見える能力を手に入れたようで興奮がとまらない。 今日はあれっきりハルヒは戻ってこない。そして昼休みの時間 谷口「おい、キョン。お前どんな魔法を使ったんだ?」 「魔法って何だ?てかもうあだ名で呼んでんのかよ」 谷口もあの本のまま、そういえば俺は思いっきりあの本のシナリオを無視しちまっている。 まぁ大丈夫だろ、こんなにも共通点が多いんだからちょっとくらい・・・ 谷口「俺、あんなに怖気づいたハルヒなんて初めて見たぞ。お前なんていったんだ?」 傍から見たら変態な質問を浴びせていたなんていえねぇよな。 谷口「驚天動地だ」 国木田「昔からキョンは変な性癖があるからねぇ」 ずいぶんな言い様だな 朝倉「あたしも聞きたいな」 でた、殺人宇宙メカ。ちょっと遊んでみるか 朝倉「入学初日からいざこざがあるのは気持ちよくないわよ」 「それより宇宙人っていると思うか?もしかしたら身近にいるかもしれない」 朝倉「・・・・、なんの話?」 この反応おそらく・・・ 「いや、あの自己紹介聞いちゃったからさ」 朝倉「そう、まぁとにかくみんな仲良くいきましょうね」 そういうと朝倉は笑顔で向こうにいった 次の日からハルヒは休み時間になるとすぐ教室から出て行き、放課後もすぐ教室を出るようになった。予定通り。 GWが終わって少し経ったある日、席替えをした。ハルヒは俺の後ろの席ではない。さすがにあの本どおりにはいかないか。仕方ないこっちから行こうか。 「部活作んないのか?」 ハルヒ「・・・・なんでよ?」 「全部の部活に仮入部してもしっくり来るものがないんだろ?だったら自分で作っちまえよ」 ハルヒ「・・・・、それもそうね」 「俺も手伝うからさ」 ハルヒ「別にあんたの手伝いなんていらないわ」 「一人で部員集めから書類提出までやれんのか?」 ハルヒ「・・・・・、わかったわよ」 「じゃ~俺は書類やるから、部員集めと部室確保よろしくな」 ハルヒ「なんで勝手に役割決めるのよ?」 「部員と部室は当てがあるんだろ?」 ハルヒ「・・・・・・・」 よし、とりあえず順調だ 終業のチャイムがなる。ハルヒが俺の前にやってきた ハルヒ「ちょっと来なさい・・・」 「部室に行くんだろ?」 ハルヒ「そうよ・・・」 そして文芸部の前にやってきた。ハルヒはノックもせずに入った。そして予定通り窓際にはパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読む少女。 ハルヒ「ここが部室よ、あの子は唯一の文芸部員だけど本さえ読めれば別にいいって」 長門「長門有希」 窓際の少女はわずかに顔をあげ、表情なくそう言った。 「長門さんとやらよろしくな」 長門「よろしく」 俺はハルヒを振り返って 「部員はあと2人は必要だな、心当たりあるんだろ?」 ハルヒ「・・・・・」 次の日、部室にいくと長門だけがいて昨日と同じ姿勢で本を読んでいた。 「何を読んでいるんだ?」 長門は返事のかわりにハードカバーの背表紙をみせた。SFの小説らしい 「面白い?」 長門「ユニーク」 「どこらへんが?」 長門「ぜんぶ」 「本が好きなんだな」 長門「わりと」 「そうか・・・」 長門「・・・・」 「長門は宇宙人なんだろ?」 長門「・・・・・・、いきなり何をいっているの?」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」 長門「!!あなたは何者?まったくのノーマークだったはず」 ビンゴ 「俺は普通の高校生さ、ハルヒとその周辺の状況は結構知っているけどな」 すげぇ、俺は今宇宙人の一枚上手にいる。これが幼いころに捨てちまった非日常か 長門「・・・・・」 ハルヒ「ごめん、少し遅れちゃった。ちょっと捕まえるのに手間取っちゃって」 予定通りハルヒの後ろには可憐な美少女がいた、朝比奈さんだな みくる「なんなんですかー?ここどこですか、どうしてあたし連れてこられたんですか?」 実物もかなりかわいいな ハルヒ「静かにして」 みくる「・・・はい」 ハルヒ「紹介すr「朝比奈みくるさんだろ?」 みくる「ふぇ?どうして名前を・・・」 ハルヒ「そうよ、連れてきた理由とかはもう知ってんでしょ?」 「ああ、確かに年上なのにロリっぽくかわいくて胸が大きい。萌えが重要なんだろ?」 みくる「な、なんでそんなことまで・・・・」 ハルヒ「みくるちゃんゴメンね、あいつすごく変なヤツなの。あんなのと一緒にいたくななら無理に入らなくてもいいわ」 みくる「・・・・・」 視線の先には長門がいた みくる「そっか・・・私この部活に入ります」 ハルヒ「そ、そう?みくるちゃんなら殺伐とした雰囲気を和らげてくれるわ、よろしくね」 みくる「よろしくお願いします」 ハルヒ「あと部活名考えてきたわ」 「・・・・・・」 ハルヒ「今回は先に言わないのね」 「団長に花をもたせてやってるのさ」 ハルヒ「SOS団よ。世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」 みくる「ほ~」パチパチパチ 長門「・・・・・・」 ハルヒ「じゃ~明日からちゃんときてよね。今日は解散」 そう言ってハルヒは帰った 部室にはまだ俺と朝比奈さんと長門がいる 「朝比奈さん」 みくる「は、はいっ」ビクッ 「朝比奈さんは未来人ですよね?」 みくる「ふぇ!?い、いきなり何を・・・」 「ハルヒの監視のためにこの時代に派遣されているんですよね?」 みくる「あ、いやそのぉ・・・」 「あと胸に星型のほくろがあるはずです。確かめてみてください」 みくる「ふぇぇぇぇ!!!私、男の人に体見せたことないのに!!!」 「質問の答えは話したくなったらでいいですよ、それではさようなら」 そして俺は部室を出た。 キョンが帰ったあとの部室 長門「朝比奈みくる、これは予定された未来?」 みくる「いえ、しかし涼宮さんによる改変と考えれば納得がいくと思います」 長門「これは涼宮ハルヒが望んでいない事象、あの不確定要素が存在は涼宮ハルヒによるものではない」 みくる「でも、私たちのことを知っていましたよ?私たちと同じ異能力者と考えるのが適切かと・・・」 長門「涼宮ハルヒはあの不確定要素を快く思っていない、それでも存在している」 みくる「・・・・・、情報統合思念体はどう解釈しているのですか?」 長門「不確定要素はまったく因果関係がなく発生した。時間軸が異なる世界からの干渉の可能性も視野にいれている。情報統合思念体は今は様子をみるにとどまっている」 みくる「私たちも今は待機なようです」 長門「私と朝比奈みくるは不確定要素と接触して情報を引き出すべき」 そして部活は本格的に始まった。一応筋書き通りに進んでいる。パソコンを奪い取ったり、サイトを立ち上げたり・・・・そういえばサイト立ち上げのとき長門から本貸してもらってないな 「長門、俺に話さなければならないこととかないか?」 長門「あなたはすべて知っているはず。何も話すことはない」 なるほど・・・ ハルヒと朝比奈さんはちゃんとバニーガールでビラ配りもした。やっぱ実物は目にいい。 朝比奈さんはビラ配りの次の日学校を休んだ。 ハルヒ「みくるちゃんは?」 「今日は休みだ」 ハルヒ「そう・・・」 「新しい衣装か?」 ハルヒ「そうよ、みくるちゃんは本当にかわいいからね」 そういえばハルヒは朝比奈さんがいないとすごくつまんなそうだ ハルヒ「謎の転校生とか来ればいいのに・・・」 待望の転校生が来た 朝の教室はその話題で持ちきりだった 「今の時期にくる転校生なんて謎だな」 ハルヒ「そうね、同じクラスじゃないけど」 「もう転校生見たか?1年9組で古泉一樹って男子らしいぞ」 ハルヒ「へぇ~、あとで見にいくわ」 ついに超能力者が入部か・・・ その日の部活、朝比奈さんは復活した。今は俺が持ってきたオセロで俺と対戦している。 長門は相変わらず読書。 みくる「涼宮さん遅いですね。」 「転校生でも連れてくるのでしょう」 みくる「転校生ですか?」 「1年9組に来たようです、時期が時期ですしハルヒが興味を示したようで・・・」 みくる「へぇ、そういえばキョン君はどうして人の心とかいろいろ知っているんですか?」 「俺は一回この日々を見たんですよ。多少のズレはありますけどね」 今の俺かっこよくきまってたよな? みくる「どこで見たんですか?」 「禁則事項です」 みくる「そうですか・・・あ、また負けちゃいました・・・」 「オセロはとりあえずはさむだけでは勝てませんよ、二手三手先も読まないと」 みくる「ふぇ~奥が深いんですね」 「慣れればきっと勝てるようになりますよ」 視線を感じて振り返ると長門が盤をじっと見ていた 「長門もやるか?」 長門は首をわずかに縦にふった。 「ルールはわかるか?」 長門は首をわずかに横にふった 「じゃ~教えてやるぞ」 3人でオセロをしているとハルヒが転校生を連れてやってきた ハルヒ「転校生連れてきたわよ。1年9組に今日やってきたの、名前は・・・」 「古泉一樹くんだね?」 古泉「おや?もうご存知でしたか」 ハルヒ「古泉くん、アイツはめっちゃ変なヤツだから気をつけてね」 古泉「はぁ・・・ところでこの部活に入るのはいいのですが何をやる部活なんですか?」 ハルヒ「宇宙人や未来人や超能力者を見つけ出して一緒にあそぶのよ」 みくる「!!」 長門「!」 おもしろい光景だ 古泉「はぁ、なるほど。いいでしょう、僕も入部します」 ハルヒ「あの変なヤツがキョンで、あのかわいい子がみくるちゃん、あの眼鏡っこが有希」 古泉「みなさんよろしくお願いします。」 ハルヒは学校を案内してあげるといって古泉を連れ出し、朝比奈さんは用事があるといって先に帰ってしまった。部室には俺と長門だけ 長門はずっと本を読んでいて一緒にオセロをやる雰囲気ではない。俺も帰ることにした。 「じゃあな、長門」 長門「あなたに一つ忠告する。」 「なんだ?」 長門「涼宮ハルヒと出会ったばかりの頃のあなたは涼宮ハルヒに対してとてもしつこかった。そのことを涼宮ハルヒは快く思っていなかった。そこで涼宮ハルヒはあなたを予知能力者としてみることであなたの存在を合理化した。涼宮ハルヒはあなたの能力に惹かれているが、あなたの存在そのものには好意的ではない。これはあなたの未来に対する解釈と現実とに大きなズレを生むかもしれない。気をつけて」 これではますますあの本のことなんて言えないな、予知能力者を演じつつハルヒのご機嫌をとらないと楽しい高校生活とは決別か・・・でも俺にはあの本があるんだ、大丈夫だ 「わかったよ、創造神さまにこれ以上嫌われたら大変だもんな、ありがとな」 長門(そして涼宮ハルヒがいくらあなた自身を改変しようとしても改変できない・・・) 土曜日、朝9時北口駅前集合 金曜日の部活中の第1回ミーティングにて ハルヒ「果報は寝て待ってもやってこないわ。果報は探し出すもの。だから探しに行きましょう」 「不思議を探すんだろ?」 ハルヒ「そうよ、市内をくまなくさがすの。明日朝9時に北口駅前に集合。遅れちゃだめよ」 そして急遽決まった不思議探索、これも予定通り。 俺は突如決まるはずの罰金が嫌だから一番最初に集合場所につくようにした。 古泉「いや~みなさん早いですね」 一番最後は古泉、でも罰金はなかった ハルヒ「二手に分かれて街を探索して、何か見つかりしだいケイタイで連絡しつつ時間まで探索継続。あとで反省と考察をするわ。じゃ~くじでグループを決めるわよ」 俺は朝比奈さんと二人組になった。ハルヒは朝比奈さんをじっと見つめていた。 ハルヒ「キョン、これはデートじゃないんだからみくるちゃんに変なことしたら許さないからね」 「わかったよ」 不思議ったって簡単にみつかるもんじゃない。 「朝比奈さん、そこらへんをふらふら歩きましょう」 みくる「あの・・・ちょっとお話が・・・」 「どうぞ」 みくる「お分かりのとおり、私は未来人です。」 「ああ、はい。そのことに関しては全部知っていますよ」 みくる「では、お聞きします。去年の冬あなたは何をしていましたか?」 「していたことといえば受験勉強ですが」 みくる「かわったことはありませんでしたか?」 「・・・・・とくにありません」 みくる「そうですか・・・」 「去年の冬になにかあったんですか?」 みくる「はい、私たち未来人は私が今ここにいるように時間をさかのぼることができます。でも去年の12月3日から約1週間だけはどうしても侵入できないんです。」 俺があの本を購入して読み終えるまでの間か・・・ みくる「キョン君はいろいろなことを知っています。なら、この期間についても何かご存知なのかと思って・・・」 「残念ながら力にはなれません。」 そしてしばらくブラブラしているとハルヒから電話があった 『12時にいったん駅前に集合』 集合後、昼飯をファミレスで食べ、午後の部のくじ引きをした。 俺は長門とだ ハルヒ「じゃ~4時集合ね」 「行くか」 長門「・・・・」 「この前の話なんだが」 長門「なに?」 「俺は最近でしゃばらないでいるつもりなんだが、ハルヒはまだ俺を嫌ってるのか?」 長門「前よりは改善された、しかしあなたは一人の人間というあなたよりは予知能力者としてのあなたのほうが大きい」 「そうか・・・、でもどうして同じようなことされた長門や朝比奈さんは俺を避けないんだ?」 長門「あなたと決別するのは私と朝比奈みくるが所属する派にとって得策ではない。それにあなたは悪い人間ではない」 「そっか、ありがとな。そういえば長門は図書館って知ってるか?」 長門「?」 お礼と言ってはなんだが、俺は本好きな長門を図書館に連れて行った 長門「ここが図書館?」 「そうだ」 それからしばらく長門は本にかじりついて離れなかった、気がついたらもう3時だ 「長門そろそろいくぞ」 長門「・・・・・」 長門は名残惜しそうに本を眺めている 「じゃ~図書カード作ってやるよ」 長門「図書カード・・・?」 「それがあればここの本ならなんでも借りれるんだ」 俺はカウンターで図書カードを作った 「ほら」 長門「・・・・ありがと」 長門はさっそくデカルトとゲーリングスの哲学書を借りた 長門「最後にひとつ聞いていい?」 「なんだ?」 長門「あなたの未来に対する解釈ではこの先どうなる?」 「ハッピーエンドだな」 長門「そう」 そして駅前に戻ることにした どうやら向こうのグループも収穫はなかったらしい ハルヒ「次回は絶対に不思議を見つけてやるわ、今日はもう解散。月曜日は反省会よ」 ハルヒは真っ先に帰ってしまった 古泉「じゃ~僕も帰ります。話によるとあなたは僕の正体をもう見抜いているのでしょう?今日はゆっくり話す時間がなくて残念です。」 「ああ、じゃあな」 みくる「今日はありがとうございました。また月曜日にあいましょう」 「さようなら、朝比奈さん」 長門「さようなら」 「おう、じゃあな」 週明けの部室 長門と古泉はもう来ていた。ちょうどいい、古泉と話をしよう 「古泉、今ならハルヒもいないし話ができるだろ?」 古泉「そうですね、念には念をということで場所を変えましょう。」 俺たちは食堂まで行き、テーブルについた 古泉「といってもあなたは僕の全部を知っているのでしょう?」 「ああ、だから俺からの質問はない。お前から俺に聞きたいことはあるか?」 古泉「そうですねぇ・・・あなたの予知はどれくらい当たりますか?」 「俺の行動を含まなければ7割はあたると思うぞ」 古泉「そうですか、ん?あなたは自分の予知と同じようには行動しないんですか?」 「ああ、俺がみたのと同じように行動するのは不可能だ。環境は同じでも俺本人は言うことを聞いてくれないらしい」 古泉「予知の中でのあなたと現実のあなたの行動のズレで何か問題はおきないんですか?」 「そうだなぁ・・・今のところは大丈夫だ」 古泉「そうですか・・・では、部室に戻りましょう」 部室のドアをあけると予定通り朝比奈さんが下着姿で立っていた、エプロンドレスを持ったまま固まっている。ほら、俺の予知はすばらしい。 「失礼しました」 俺たちは廊下で待っていた 古泉「さっきのも予知していたんですか?」 「ああ、まったく同じだ」 古泉「んふっ、罪な人です」 しばらくして中から「どうぞ」という朝比奈さんの声が聞こえた。 「すみません」 みくる「いいえ、見苦しい姿をみせたこっちこそすみません」 朝比奈さんはハルヒの注文を守っているらしい。やっぱメイド服を着込んだ朝比奈さん(実物)はすげぇかわいい。 みくる「どうぞ」 朝比奈さんはみんなにお茶を注いだ、笑顔で湯のみをわたされると本物のメイドさんにお茶をくんでもらっているようだ。とてもすばらしい。 結局その日、ハルヒはこなかった 次の日の教室 「昨日もう一回歩ってなんか見つけたか?」 ハルヒ「うるさいわねぇ、知ってんならわざわざ聞かないでよ」 やっちまった・・・また機嫌損ねちまったか? ハルヒ「日常がつまんないから変なヤツに言われた通りにSOS団作ったのに。萌えキャラとか謎の転校生も入団させたのに。何も起こらないのはどうしてよ?なんか大事件でも起きなさいよ」 弱気なハルヒってのもいいな・・・やっぱり・・・ 体育で外に出ようと下駄箱を開けると一通のかわいらしい手紙が入っていた 「きたか・・・」 体育終了後に回収しよう。 もちろん内容はわかっている。差出人は朝倉だろ? 俺は無視する。殺されかけるなんてごめんだからな。あと長門に報告だ、バックアップがもうすぐ暴走するってな 長門「パタン」 ハルヒ「今日は解散」 いつもの長門の合図で今日の部活は終わった ハルヒは真っ先に帰り、古泉と朝比奈さんも帰った 残るのは俺と長門だけ、よし作戦決行だ 「長門、これを見てくれ」 長門「放課後誰もいなくなったら、1年5組の教室にきて・・・?」 「俺の下駄箱にはいっていた手紙だ。俺の予知では手紙はお前のバックアップである朝倉からのもので、俺が教室に入るなり暴走する。」 長門「・・・・・」 「だからちょっと叱ってやってくれ」 長門「わかった、いってくる」 まぁこれで大丈夫だろ、朝倉は明日からカナダだ 俺は長門が帰ってくるまで部室で待つことにした 1年5組教室 朝倉「どうして長門さんが?」 長門「あなたがここで暴走すると彼から聞いたから」 朝倉「長門さんはあの不確定要素の言うことを信じるの?」 長門「そうすることで今まで上手くいった、これからも上手くいくはず」 朝倉「私は彼に正体がバレているわ、彼相手に目立った行動なんてできるわけないじゃない。ただ私は最近の涼宮さんの教室での様子について話を聞こうとしただけよ。涼宮さん、最近いつにも増して不機嫌だから・・・。涼宮さんがいないときをはかってね。それに今彼の身に危険が及ぶことは情報統合思念体にとってなんの利益もないわ」 長門「ではなぜ彼はこんなことを?」 朝倉「徐々に予知と現実にズレが生じている証拠じゃない。」 長門「たしかに」 朝倉「長門さん、冷静になって。私はあなたのバックアップであなたに歯向かうことはできないのよ?そして私たちが頼れるものは最終的には情報統合思念体だけじゃない」 長門「そう、わかった。それでは帰る」 朝倉「さようなら」 部室 「よう、長門お帰り。朝倉はもう消えたか?」 長門「どういうこと?」 「なにが?」 長門「朝倉涼子はあなたから最近の涼宮ハルヒの様子を聞きたかっただけ」 「そんなはずはない、朝倉は俺を殺そうとするはずだったんだ!」 長門「あなたは朝倉涼子が私のバックアップだと知っている、朝倉涼子もあなたに知られていることに気づいている」 「ああ、初日ちょっとからかっちまったからな」 長門「正体が知られている相手に釣り針を落とすの?」 「・・・・・・・」 長門「あなたの予知にもズレが生じ始めている。これからはあなたを信頼しきるのはできない」 「・・・・・・」 長門「帰る」 長門は部室を出て行った。ちくしょう、どうなってんだ?俺は確かにシナリオに従わないときもある、しかし今まで上手くいったじゃないか。朝倉が明日からも学校にいるなんてあの本には書いていなかった。どうすればいいんだ・・・ 家に帰るとすぐにベッドに入った。あの本なんて手に入れなければよかった。そうすれば俺は予知とか関係なしにあの本のシナリオにそって行動したかもしれないじゃないか。 いつまでたっても眠れない、もう1時半だ その時携帯が鳴った、誰だよこんな時間に・・・古泉!? 古泉『大変です!涼宮さんが閉鎖空間に閉じ込められました!』 おい、うそだろ?まだそれは早いはず、さらに俺も一緒にそこにいるはずだろ? 長門“そこで涼宮ハルヒはあなたを予知能力者としてみることであなたの存在を合理化した。涼宮ハルヒはあなたの能力に惹かれているが、あなたの存在そのものには好意的ではない。” まさか!おいおい冗談だろ・・・、俺はアイツに願われてアイツと一緒にいくはずだろ! 古泉『ちゃんと聞いているんですか!!??』 「悪い、もう一回言ってくれ」 古泉『ですから、あなたの見解を聞きたいのです。あなたの予知ではこの状況で何がおきるんですか?』 「俺はハルヒと閉鎖空間に閉じ込められて、校舎を探索して・・・」 古泉『それで?』 「すげぇでかい神人がでてきて・・・ハルヒと一緒に校庭にいって・・・おびえるハルヒを庇って・・・・日常に嫌気をさしてるハルヒを説得して・・・」 古泉『それで?』 「き、キスして世界は救われる・・・」 古泉『あなたには失望しました・・・今回の閉鎖空間は我々でも姿をとどめることも、長時間いることもできないんです。生身のあなたでは到底そのシナリオは達成できるわけありません。我々は全力をつくしますが、明日また会えるかはわかりません。それでは・・・』 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、絶対そうなるはずだ!だってあの本に書いてあったんだから・・・ ?「それはないわ」 「誰だぁ!?なぜそんなことがいえる!!??」 ここは俺の部屋だ、俺のほかに誰もいないはず・・・ 身を起すと信じられないものを見た 朝倉がベッドのすぐ横に立っていたのだ 「お前、どうやってはいったんだぁ!?」 朝倉「私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースよ、情報操作ができるに決まってるじゃない」 「何しにきたんだよ!?」 朝倉「昨日のお礼よ。あなたは私の読みどおりに私を救ってくれたじゃない」 いつの話だ?いつの話だ?いつの話だ?思い出せないぞ!! 朝倉「あなた、予知能力なんてないんでしょ?」 「!!!なんでだぁ・・・なんでしってるんだぁ・・・?」 朝倉「これ」 朝倉はあの本を持っていた 朝倉「本棚に置いておくなんて無用心ね、涼宮さんとかが家にくるときとかどうしていたの?」 言葉もでないし、頭は朝倉の言葉を理解できない 朝倉「この本、私たち急進派が去年の12月3日にあなたの視線が特定の本棚を向く瞬間に発生させた情報なの。そしてあなたはこの本を買った。」 朝倉「この本は私たち急進派が作戦を失敗した時のあなたの周辺の世界をあなたの視点で綴ったものなの」 意味がわからない意味がわからない意味がわからない・・・・ 朝倉「人は一回できあがったシナリオを完全に再現することはできないでしょ?台本を読んだあなたはおもしろいくらいにシナリオをずらしたの」 朝倉「急進派はタブーとされる限度以上の情報操作をしたわ、涼宮さんにもね・・・。そして長門さんも情報統合思念体ですら見抜けなかったわ」 「なんで俺が世界を壊さないとなんだぁぁぁ!!!なんで俺なんだぁぁぁ!?」 朝倉「それはあなたは急進派が失敗した世界でのキーパーソンだったからよ、そしてあなたを少しずらせばあっという間にすべてが崩れた」 「俺はぁ・・・・俺はぁ・・・!!」 朝倉「あなたはとてもおろかだわ、この本の世界のあなたは普通を愛せた人間だったのにこの世界のあなたは欲にまみれている・・・」 もう力がはいらない・・・ 朝倉「私たちは少しだけ涼宮さんに変化があれば満足したのに、あなたはすべてを壊した。まぁいいわ、お礼を言っておかなくちゃ。ありがと」 「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」 そしてこの世界は消失した。俺はとても馬鹿な人間だった。 おわり
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涼宮ハルヒの約束 機種:PSP 作曲者:神前暁,中矢博元 開発元:ガイズウェア 発売元:バンダイナムコゲームス 発売年:2007 概要 『涼宮ハルヒの憂鬱』の初のゲーム化作品。ジャンルは非日常体験アドベンチャー。 ゲームで初めてモーションポートレートを使用。開発元が同じ『とらドラ・ポータブル!』でも同じシステムが使われている。 アニメの音楽を担当した神前暁がスタッフに参加。 また「冒険でしょでしょ?」「恋のミクル伝説」といったアニメテーマソングも使われている。 収録曲(サウンドテスト順) 曲名 作・編曲者 補足 順位 さあ、行くわよ! いつもと変わらぬ日常 優しさの予感 かくしてトラブルの女神は舞い降りた あの…それ、本気ですか? 危険がいっぱい!? 憂鬱な午後 閉鎖的閉鎖空間 手のひらの中の世界 崩壊 なつかしい日々 伝えたいキモチ もう一度、アナタと… カタストロフ 恋のミクル伝説 涼宮ハルヒ(神前暁) 歌:朝比奈みくる(後藤邑子) 渚のビーチバレー ラブラブポーカー ザ・デイ・オブ・サジタリウス 最終未来を見せて!(ハルヒバージョン) 作:田代智一編:安藤高弘作詞:畑亜貴 歌:涼宮ハルヒ(平野綾) 最終未来を見せて!(みくるバージョン) 歌:朝比奈みくる(後藤邑子) 最終未来を見せて!(長門バージョン) 歌:長門有希(茅原実里) 最終未来を見せて!(三人バージョン) 歌:平野綾、後藤邑子、茅原実里 世界が夢見るユメノナカ(ハルヒバージョン) 歌:涼宮ハルヒ(平野綾) 世界が夢見るユメノナカ(みくるバージョン) 歌:朝比奈みくる(後藤邑子) 世界が夢見るユメノナカ(長門バージョン) 歌:長門有希(茅原実里) 世界が夢見るユメノナカ(三人バージョン) 歌:平野綾、後藤邑子、茅原実里 冒険でしょでしょ? 作:冨田暁子編:藤田淳平 歌:平野綾サウンドテスト未収録 サウンドトラック 涼宮ハルヒの約束 世界が夢見るユメノナカ/最終未来を見せて!
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入学式から2週間ほどがたつ。 ほとんどの生徒はまだ仮入部しているころあいかもしれないが、僕は真っ先にこの部活に入ったさ。 アイドル研究部 全く持ってすばらしい部活だ。こんな部活があるところに入学できるなんて。 今日も朝倉さんの髪からはいい匂いがした。 席が離れてるのが残念だ。今度は真後ろになるように祈っておこう。 さて、今日も授業が終わり、僕は部室にむかう。 昨日の放課後はクラスに残って、双眼鏡を持って校内のアイドルを観察してたんだけどね。 今日はその報告さ。 で、その報告をしているときだった。 扉が開いて、一人の少女が中に入ってきたのだ。 涼宮ハルヒ 朝倉さんより劣るものの、なかなかの美少女だ。 彼女がいろんな部活に仮入部していることは知っている。 だから、ここにも来たのだろう。 僕なら、こんな美少女がむこうから近づいてくるならたとえ、1日でも大歓迎さ。 ただ、今は違う。 だって、今僕が報告していることは、 昨日、涼宮ハルヒが仮入部していたテニス部についてなのだから。 とりあえず、ササッとメモを隠し、僕は冷静をたもったね。 「仮入部したいんですけど」 やっぱり仮入部ね。 まあいい、せいぜい楽しんでいってくれ。僕も一緒に楽しむことにしよう。 「部長さんは?」 部長は今、僕の目の前にいる。 報告している相手が部長だからね。 で、もちろん涼宮ハルヒは部長の近く、つまり僕の近くに来たわけだ。 フフ、まずは匂いのチェックをさせてもらおう。 なかなかいい匂いだ。 朝倉さんほどではないけどね。 「ここって何するとこ?」 それから、部長の熱心な説明が始まる。 喋り終えた後の涼宮ハルヒはポカーンとしていたが、まあいい。 きっと彼女のことだ。そのまま帰るということはあるまい。 案の定、彼女はこのままいつづけた。 まあ、今まで見てきたところ、彼女も人間観察が好きなようだし、もしかしたらそのまま入部してくれるかもしれない。 と思ったのだが、涼宮ハルヒは急に立ち上がり、どこかへ向かった。 ただ、観察用紙を持っていったから帰ったというわけではないのだろう。 さて、僕も今日も実行に移すことにしよう。 美術部の成崎さんあたりがいいかもしれない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さて、今日もいろいろ収穫があった。 あの成崎さんのゆったりした手の動きが美しい。 今度、匂いを嗅いでみることにしよう。 そして、僕は部室に戻ってきたんだが、そのころには涼宮ハルヒも戻ってきていて、何かを読んでいるようだ。 あの紙には見覚えがある。 表紙にはこう書いてあるはずだ。 『観察対象:涼宮ハルヒ』 そりゃもう、背中は冷や汗ダラダラさ。 そりゃもう、涼宮ハルヒが次にこちらを睨んだときは怖かったさ。 そりゃもう、半殺しぐらいは覚悟したさ。 「あんた、何者?」 涼宮ハルヒは言った。 そんなことを言われてもなんていえばいいのだろう? 「白状しなさい。あたしに隠してること全て」 しかたない、ここはおとなしく言っておこう。 先ほど、髪の匂いを嗅いだこと、一番最初の体育の授業はちゃんと着替えを見ていたということ。 さらには、関係ないのに朝倉さんの後ろの席になりたいということまで言った。 「他にもあるでしょ?」 僕は、もしかしてめったに話をしない涼宮ハルヒと話していることはかなり貴重なのではないか?と思いながら 「断じてない」と答えた。 だが、涼宮ハルヒはそれでも納得していない様子だ。 他に何を知りたいというのだ? 「まあいいわ、でも今度あたしを観察しているようであれば、今度こそ白状してもらうからね」 だから、何を白状すればいいのか僕には全く持って分からない。 まあ、どちらにしろ、「分かった」とは言うけどね。 仕方ない、やっぱり僕は、朝倉さん一筋でいこう。 今度は、朝倉さんの後ろの席になりますように。 ん?あそこにも美少女が! ふむふむ、朝比奈みくるというのか・・・ 終わり
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プロローグ ある日の午前十一時半、倦怠生活に身をやつしている身分の俺には一日のうちでもっとも夢膨らむ楽しい時間。このところ妙に開放感を感じているのは、きっと束縛感の塊のようなやつが俺から少なくとも十メートル半径にいないからだろう。精神衛生的にも胃腸の機能的にも正常らしい俺は、さて今日はなにを食おうかとあれこれ思案していた。その矢先に机の上の内線が鳴った。無視して昼飯に出かけるにはまだ二十分ほど早いので仕方なく受話器を取ると総務部からの転送だった。お客様からお電話よ、と先輩のお姉さまがおっしゃった。俺を名指しで外線?先物取引のセールスとかじゃないだろうな。 「キョン、今日お昼ご飯おごりなさい」 あいつ俺に電話するのに代表にかけやがったのか。 「職場に直接かけてくんな。携帯にメールでもすりゃいいだろ」 「いいじゃないの。あんたがどんな人たちと働いてるか知りたかったのよ」 俺の周辺に涼宮教を広めないでくれ。 「俺とお前の職場じゃ昼飯を食うには離れすぎてるだろ」 「じゃあ、北口駅前でね」 そう言っていきなり切りやがった。相変わらずこっちの都合なんてないんだよなぁこいつは。 「すいません、外で昼飯食って打ち合わせに直行します。三時ごろ戻ります」 俺は戻りが遅れることを予想して上司に言った。いちおう取引先に会うカモフラージュのためにカバンを抱えて出た。中身は新聞しか入ってないんだが。 「キョン!こっちよこっち」 北口駅を出るとハルヒが大声で叫びながらハンドバッグを振り回していた。俺は横を向いて他人のフリ、他人のフリ。 「恥ずかしいなまったく」 「この近くにイタリア人がやってるフランス風ニカラグア料理の店が開いたのよ」 どんな料理だそれは。 ハルヒにつれて行かれた開店したばかりという瀟洒な料理店は意外に混んでいた。ニカラグアがどんな国かは知らないが、まあ昼時だからそれなりに客も入っているようだ。そのへんのOLが着る地味なフォーマルスーツに身を包んだハルヒはズカズカと店の中に入り込み、ウェイターが案内しようとするのも構わずいちばん見晴らしのよさそうな窓際の丸テーブルにどんと腰をおろした。 「あーあ。ほんと、退屈」 ハルヒがこれを言い出すのは危険信号だ。俺はパブロフの条件反射的に身構えた。何も言わない、何も言うまいぞ。 「あんたさぁ、」 腕を組んでテーブルに伏したままハルヒが呟いた。 「なんだ」 「仕事、楽しい?」 キター!!これはまずい展開だぞ。話の行方を考えて返事をしなくては。ハルヒがこういう話の振り方をするとき、不用意な俺の発言でとんでもない事件に巻き込まれることが歴史を通じて証明されている。 「半年だし、まあやっとペースに乗ったところって感じかな」 「あたしは退屈。こんな生活が退職するまで続くかと思うと憂鬱になるわ」 「定年までいることはないさ。結婚するとか、転職するとか、資格を取ってキャリアを重ねるとか、いろいろあるだろ」 「あんた、有希と結婚したとして、こんな生活が延々続くことに耐えられるの?」 「生活は安定するさ」 いや、今なんか問題発言がなかったかハルヒ。 「あたしは耐えられないわ。人に使われて歯車を演じるだけの人生なんて」 人、それを“歯車にさえなれない”と表現するんだが。そんなことをハルヒに向かって言ったら牙をむいて頭ごと食われそうなのでやめとこう。 「貯金して海外旅行でも行ったらどうだ」 「毎年それでリフレッシュするわけ?帰ってきて自分が飼われてるのを実感するだけよ」 「うーん……。お前を満足させられる会社ってのが、そもそもあるのかどうか分からん」 それ以上会話が続かず、俺たちはしばらく黙っていた。ハルヒは眠そうにニカラグア産コーヒーをすすった。もしかしたら俺たちはこのまま、一生社会のしがらみの流れに身を任せて生きていくしかないんじゃないか。そう思わせるような雰囲気が、俺とハルヒの半径二メートルくらいを充たした。だがまあ、それも悪くはないと思う。今までハルヒに付き合っていろいろやってきたが、もうお遊びは終わりだ。 俺は倦怠感に身をゆだね、持ってきた新聞を広げて壁を作った。ゆっくりしよう、どうせ戻りは三時だし。 「気がついた!」 ハルヒの声が店内に響き渡わたり、俺は新聞を落とした。突然俺のネクタイを締め上げた。ずいぶん前に似たようなシーンに遭遇した覚えがあるぞ。 「く、苦しい離せ」 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら」 「何に気づいたんだ」 「自分で作ればいいのよ!」 「なにをだ」 「会社よ会社」 うわ、まじ、やめて。ハルヒは携帯電話に向かって怒鳴った。 「全員集合!」 1章へ
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涼宮ハルヒの憂鬱 涼宮ハルヒの憂鬱の曲一覧です。 No.40 雪、無音、窓辺にて。 曲元 キャラクターソングVol.002 アーティスト 茅原実里 BPM 280 変速 無 停止 無 難易度 周65 楽5 踊8 激14 鬼17 作20 歌詞 無 動画 無 容量 2.3MB ダウンロード ダウンロード No.38 世界が夢見るユメノナカ 曲元 涼宮ハルヒの約束 アーティスト 平野綾・後藤邑子・茅原実里 BPM 85-170 変速 有 停止 有 難易度 周0 楽0 踊0 激8 鬼13 作0 歌詞 有 動画 無 容量 4.21MB ダウンロード ダウンロード No.6 雪、無音、窓辺にて。 曲元 キャラクターソングVol.002 アーティスト 茅原実里 BPM 140 変速 無 停止 無 難易度 周0 楽0 踊11 激10 鬼9 作8 歌詞 無 動画 無 容量 2.16MB ダウンロード ダウンロード
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声で ずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に 呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、 あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、 この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。 まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。 失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。 幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡