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―――― 三日目 ―― さわやかな朝だ。といっても窓の外は瓦礫の山なんだがな。それにしても、昨日は 一日が短いようで長かったな。24時間には収まりきれないほどの充実っぷりだったね。 とりあえずロビーに行くか。いつ出発できるかわからんわけだからな。 「ジャンボジェットが一機とれたっつぅから二回に分けて日本に帰ることになった。 十時半には奇数組が空港へ出発、三時過ぎには偶数組も出発するから準備しておくよ うに。」 ようやく日本へ帰れるわけか。ひどい目にあったのも確かだがたった二日ちょっと で帰国してしまうというのももったいない気がするがな。 桃園国際空港に向かうバスの中でもハルヒは俺の横の席に陣取り俺の方を見てニヤ ニヤしていた。そんなに俺を奴隷化したのがうれしいのか?っていうかSOS団に入 ったところからずっと奴隷扱いしている気がするんだがな。 それから北高に帰るまでずっとハルヒのニヤケ顔は続いた。 北高につくと岡部がこの後の予定をクラスに告げた。 「一応予定通り次の出校日は四日後だ。まぁそれまで各自で疲れを癒してくれ。怪我 したやつもゆっくり休めよ」 「だとさ。ハルヒどうすんだSOS団の活動は?」 「休みよ!!キョン!!アンタは家に来なさい。奴隷でしょ?」 「はぁ?俺だけか?俺は非常に疲れているんだがな。」 「もっと疲れることさせてあげるわよ!!」 「俺の意見は無しか」 「なに?あたしじゃ不満だって言うの?」 「不満も何も・・・・は?」 「寝させないからね!!!」 Fin
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『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―0日目― 「最近お二人の様子ってどうですかぁ?」 「……変わりない」 「何も進展がないというのもいい加減困りものですね」 「二人ともお互いが好きなの他の人から見たらばればれですのにねぇ」 「そろそろ飽きてきた」 「ですよねぇ。何か起こるといいのになぁ。古泉くん何かいいアイデアでもありませんかぁ?」 「アイデアですか?……難しいですね。くっつけるだけというのならやろうと思えば簡単なのですが……」 「それでは面白くない」 「その通りです。お二人がドタバタするのを見ないとやった気がしませんよね」 「確かにそう言われてみればそうですよねぇ。何かハプニングでも起きてくれればおもしろいのに……」 「……プリン」 「長門さん?今プリンと言いましたか?プリンと!?プリン?……プリンが何かありますか?」 「こ、古泉くん、なんでそんなにプリンに食い付くんですか……?」 「……プリンが良いと思われる」 「あ!そういえば。涼宮さん最近プリンにはまってるみたいで、いろいろ食べ比べてるみたいですよぉ?」 「なるほど、そのプリン関連で何かを仕掛けようというわけですね。さて、どうしましょうか」 「すでに簡単には考えてある」 「えぇ!?そうなんですかぁ?長門さん、すごいですぅ」 「まず……する。そして……。その後……となる」 「なるほど。では……して、……なわけですね。では……しておきますね」 「あと、……を……しておいてくれると……をしやすくなる」 「え、あ、あれぇ。話にぜんぜんついていけなくなってしまいましたぁ」 「出番はある。心配は不要」 「こんなこともあろうかと、機関に準備させておいたケーキ屋が役に立つときがきたようです」 「ふえぇ、こんなことってどんなことですか。機関はなにを考えてるんですかぁ」 「まぁいいじゃないですか。役に立つのですし。……本当はただの森さんの趣味なんですけどね」 「準備にとりかかる。まずはあなた」 「そうですね。とりあえず明日は僕がなんとかします。次の日は朝比奈さんお願いしますね」 「え、わ、私ですかぁ?何をすればいいんですかぁ?」 「大丈夫。すでに手順を紙に書いてきた」 「あ、長門さんありがとうございますぅ。助かります。……って、準備早すぎじゃないですか?」 「それで、3日目はどうします?もう長門さんが出ますか?」 「えぇ!?さすがに3日連続はまずいんじゃないですかぁ?いくらキョンくんでも怪しまれますよぉ」 「いい、むしろその必要がある。でも3日目は違う」 「なるほど。それではあの方に頼むということですね。そして4日目でケリをつける、と」 「そう、必要なわけではないが、その方が楽しそう」 「それは非常に良い考えです。彼はあの方には逆らえそうもありませんからね。色々とお世話にもなってますし」 「え、あの方って誰のことですかぁ?」 「で、僕はとりあえず明日彼を機関のケーキ屋に違和感のないように誘導すればいいのですね」 「そう、そしてケーキ屋にはある仕掛けが必要」 「あれぇ?ひょっとして私スルーされちゃってます?」 「仕掛けとは?……なるほどそういうことですか。それで2日目に繋がるというわけですね」 「そう」 「えっ?仕掛けってなんなんですかぁ?」 「これで1日目の準備はほぼ完了したと思われる」 「……またスルーされてますぅ……」 「ちなみにケーキ屋にはすでに監視カメラと盗聴機は設置済みです」 「早いですねぇ。……ってなんでですか?なんですでに設置されてるんですかぁ!?」 「いや、それは新川さんの趣味らしいので詳しいことはわかりません。まぁ役に立つのでいいじゃないですか」 「ちなみに部室にもすでに設置済み」 「えぇぇぇ!?わ、わわわ私の着替えとか見てないですよね!?よね?」 「大丈夫ですよ。そのようなことはしてません。……僕は」 「ぼ、僕はってどういうことですか?誰か見てるんですかぁ!?」 「では2日目」 「えっ、あ、はい。ようやく私の出番ですねぇ。頑張りますっ」 「朝比奈さんは基本的には僕と同じようにやってくれればいいです」 「おそらく、1日目に仕掛けたトラップに彼女はかかり、彼のためにプリンを作ってくることになるはず」 「そして、そのプリンですが、おそらくこの季節とても暑いので保管場所は冷蔵庫になるでしょう」 「保冷器具等を使う可能性も考えられなくはないが、それらは見つけ次第私が始末する」 「し、始末ですかぁ……」 「そしてそのプリンを予め見つけておき、彼にあなたの手作りとして渡す、というわけです」 「渡すタイミングなどは涼宮ハルヒの現在地などを考慮に入れ、別室から私が指示を出す」 「だいたいわかりましたぁ。けど、涼宮さんほんとうにプリン作ってくるんでしょうか?」 「問題ない。そのための仕掛けがある」 「その仕掛けってなんなんですかぁ……?おしえてくださいよぅ……」 「仕方ないですね。この映像を見てください。これがそのケーキ屋の現在の様子です」 「……もうすでにこんなのまで用意してあるんですね」 「ここ。『開店記念無料手作りプリンサービス』と書いてある」 「開店記念というわけで、お望みのお客様にプリンの作り方を教えよう、という企画です」 「『気になるあの人へ、プリンをプレゼントしてみては?(メッセージカード付き)』というもの」 「……さっきはこれから仕掛けをする、みたいに言ってませんでしたっけぇ?早すぎじゃないですかぁ?」 「これを見た涼宮ハルヒは間違いなく彼にプリンを作る。そして次の日にプリンを持ってくる」 「しかし、涼宮さんのことですから、作ってきたはいいが、照れてしまい彼に直接渡せないかもしれません」 「はぁ、まぁそうかもしれませんねぇ」 「だからあなたが渡す。それが優しさ」 「でもぉ、涼宮さんも自分でちゃんと渡すかもしれませんよ?せっかく作ったんですから」 「確かにその可能性もあります。が、どちらにしろあなたが渡してしまえば同じことです」 「けど涼宮さんがいつ渡すかわからなくないですかぁ?放課後まで待ってるとはかぎりませんし……」 「大丈夫。……私がさせない」 「ふえぇぇ、こんなところで無駄に決めゼリフ!?長門さん、ら、乱暴なことはやめてくださいよぉ?」 「と、まぁこんな感じですがだいじょうぶですよね?」 「えっ、えぇっと、このとおりにいくなら、だいじょうぶだと思いますぅ」 「なら問題ない」 「では、詳しくは明日のミッション後に。あ、ちなみに僕一人でやりますので。ではまた明日」 「それじゃあ、また明日ぁ」 「……明日」 プリン騒動0日目 ―完― ―3日目―へ ―1日目―へ戻る
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おいおい、何なんだこれは…………… やれやれ、非常識な事に慣れたとは言えこれはパニックになるぞ。 俺は額に手をやり、ため息をついた。 朝、今日は妹のうるさい攻撃が無いなと思い。 やっとあいつも大人しくなったかと思って体を起こすと、毎朝見慣れている俺の部屋ではなかった。 かといって閉鎖空間っぽい雰囲気の学校に飛ばされたわけでもなく、 時間を越えたわけでもないし、別世界に行ったわけでもなさそうだった。 上の3つはまぁ、俺の希望的観測であるだけな訳だが。 目の前には見る限り生活感のない殺風景な部屋、俺が知る限りでは長門の部屋以外には考えられなかった。 なんで俺がこう皮肉臭く言っているのかというのであれば、体がどうもその部屋の主の姿になっているようだったからだ。 そう、俺は長門になってしまったらしい。 俺が長門になっているなら、俺はどうなっている。 そう思った俺は、学校に登校することにした。 どうやら長門は制服のまま寝ていたようで、着替える手間がかからなくてありがたかった。 学校に着いた俺はすぐさま、俺がいるはずの自分のクラスへ足を向けた。 教室をのぞくと、その席は空席のままだった。 教室で話しているやつを捕まえて、聞いてみたが 「まだ来ていない」との事だ。 ついでにハルヒも来ていないかと聞いたが、同様の返事が返ってきた。 とりあえず、この状況を打破したい俺は教室から背を向け。 その足をいけ好かない笑顔の超能力者のいるクラスへ向けた。 1年9組に足を運んだ俺は、古泉がいるかと教室の入り口側に立っていたやつに聞いた。 「あー、古泉君?いるよ、ちょっと待っててね」 そういうとそいつは、古泉くーん女の子が呼んでるよーと叫びながら 古泉の場所へ向かっていった。 目の前に来た人物は、いつものへつら笑いをせず無表情のままであった。 それをみて俺はこの非常識な現象をあと3回見るのであろうなと盛大にため息をついた。 「お前は長門か」 「……………」 しばし沈黙の後、ある意味もう見ることのできないであろう 無表情の古泉はこくんと頷きこう言った。 「…………そう」 「とりあえず、昼に部室に行こう ほかのやつらもどうなっているかわからないしな」 「……………」 古泉の姿をした長門は、もう一度頷きおそらく古泉の席であろう場所へ戻っていった。 それを見届けた俺も長門の教室へ行き、教えてもらった席へ座り一通り授業を受けた。 幸か不幸か、普段から無口な長門の振りをしたまま授業を受けるのはそう難しくなかった。 授業の合間の休憩時間にもクラスメートから話しかけられる事は皆無だ。 休憩時間中に自分のクラスに行きたい衝動に駆られたが。 時間が短いこの時間ではやれる事も少ないので、昼休みまで俺はじっと我慢をした。 4時間目のチャイムが鳴り終わったあと、席を立ってすぐさま部室へと足を向けた。 長門ととりあえず話をするためだ。 まぁ他のメンツにも異常が起こっているなら、部室へ来るだろうと思ったのもあるわけだが。 部室を開けようとドアノブに手を触れようとした時こちらに向かって走ってくる人物がいた。 朝比奈さんだが、何かが違う。 「有希~~~~~!大変よ大変!!」 大変と言いつつもその目はキラキラと輝いている、この顔をする人物を知っている。 「あたし、みくるちゃんになっちゃったみたい!! もしかして、有希も違う誰かになったりしているの!?」 息を弾ませながら、こちらを見る。 たしかに、朝比奈さんはこんなハイテンションにならないからな。 こんな朝比奈さんを見るのも、おもしろいがそれではダメだ。 俺の朝比奈さんはおっとりしてて、ちょっとドジで、ほんわかとした笑顔を振りまいてくれる朝比奈さんじゃないといかん。 ハルヒ……………、お前は朝比奈さんになったんだな。 「って、キョン~~~~~!?」 朝比奈さんの姿で絶叫した声は、外で歩いている人物がビックリするほどの大きなものだった。 「なんでこうなっちゃったのかしらね!!」 「キョンと私と有希が入れ替わったって事は、古泉君とみくるちゃんも変わったかもしれないわね!」 「そうだ!みくるちゃんの格好だし、コスプレしてみようかしら!」 etc、etc……… 弾丸のように朝比奈さんの声で、俺の耳に入ってくる。 長門は姿が変わっても、部屋の隅で本を読んでいる。 古泉の姿でやられるのは、不気味とも思えた。 やれやれとため息をついていると、ガチャと扉が開いた。 入ってきたのは妙におどおどしてなみだ目のハルヒと、いけ好かない笑顔をしている俺だった。 「ふぇぇ………、一体どうなっているんでしょう」 泣きそうなハルヒ、いや朝比奈さんか。 一生で見られるか見られないか判らないような珍しい光景を今日一日で一生分見たような気がしてきた。 「いやはや、これは5人が入れ替わってしまったみたいですね」 俺の姿をした、古泉は笑顔を崩さずにそう言った。 どうでもいいが、俺の顔でそんな顔をすると気持ち悪いからやめてくれ。 「おやおや、と言われてましても困りましたね」 「そんな事どうでもいいじゃない!! いまはどうやって元に戻るのかが大事よ! みくるちゃんの体もいいけど、やっぱ自分の体が一番だしね!」 と会話しているところに、ハルヒが大きな声でみんなを制す。 「おい、これは一体どういうことなんだ」 俺は小声で古泉に話しかける。 「さぁ、僕にはわかりかねますが。 おそらく何か外因的な要素の所為で入れ替わってしまったんだと思います」 俺はその外因的な何かが何なのかと聞いているんだが。 「詳しい事はわかりません、涼宮さんが願ってしまってこうなったのかもしれませんし。 精神を入れかえてしまって、涼宮さんの能力を無効化してしまおうと情報思念体の急進派が行ったことかもしれません」 俺は本を読んでいる、長門の方に体を向けた。 「お前はこの現象はどうなのか説明できるか?」 「……原因不明。 情報思念体とコンタクトも取れない」 じゃあ俺が取れるってか? 「おそらくそれも不可能………。 長門有希としての個体能力は、一般人並になっている。 そのため情報思念体としての能力は使えない」 「なるほど、長門さんの精神を別の固体に入れることで能力を封印させているわけですね」 古泉がそれに返答をする。 長門なら何とかしてくれると思っていたんだが、この分だと古泉の超能力にも朝比奈さんの力も使えないんだろう。 その事実に俺は愕然とした。 「何こそこそ話してんの!! とりあえず、ここでグダグダやっていても仕方ないし放課後にもう一回集合しましょ!! じゃあ授業終わったら、みんなここに集合ね!」 わくわくした様子のハルヒがそう言って、みんな部室を後にした。 とりあえず午後の授業を受けて、今後のことを相談するんだそうだ。
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第六章 とりあえずあの未来人…これからは俺(悪)としておく、によると俺はあの二人を何とかせねばならんようだ。 長門なら朝倉と一対一なので大丈夫だろうが古泉はあのアホみたいな顔をした巨人約50匹と戦っている、一匹でも数人がかりなのにな、かわいそうなこった。 やはり俺とハルヒが最初に閉鎖空間に閉じ込められたときと同様、ほかの機関の超能力者は入って来れないようで一人で戦ってるように見える。 俺は走って病院の駐車場に走った、窓から見るに古泉は病院に近いところににいる神人から倒しているようだったので。比較的近くにいたのですぐに古泉の下まで来れた。 「古泉!大丈夫か?」例の赤玉姿なのでやつの状態はわからないので聞いてみた。 「大丈夫です、涼宮さんはのほうは大丈夫ですか?」古泉は非常につらそうに言った。 「ああ、いろいろありすぎたが多分大丈夫だ。半分はな。」手伝えることが無いのはわかっていたがとりあえず聞いてみた。 「半分?まあいいでしょう、あなたが大丈夫だと言うなら大丈夫です。実はほんのちょっと前にわかったんですが、涼宮さんの能力を消去できるツールがあるようです。いったいどこにあるのかはわかりませんが存在していることは確かのようです。できればそれを探してきていただけませんか?恐らく近くにあるはずです。 一応言っておきますが何故わかったのかと言うとわかってしまうのだから仕方がありません。」 そんなモンが近くにあるのか?タイミングがよすぎるだろう。だがここはしかたない。 「わかった、探してくる。それがあれはハルヒは普通の人間戻ってこの巨人どもも消えるんだな?それまで持ちこたえてくれよ」 俺は古泉がニコッと微笑んだように見えた。そして古泉は返事をしなかった。 とりあえずそのツールとやらを探そう、古泉によるとこの近くにあるんだよな、とりあえず情報が少なすぎる、長門なら何かわかるかもしれない。 とりあえず病院内で朝倉と交戦中の長門のところに行って聞いてみることにする、なに場所なら簡単だ、どっかんどっかん言っているところがそうに違いない。なぜ病院が崩れないのかが不思議だ。 朝倉の目的は恐らく俺なので攻撃してくるだろうが長門が何とかしてくれるだろう。全く長門には頼りっぱなしだ。俺は恐らく長門と朝倉が戦ってるであろう場所を目指し走った。 爆音地に着くとやはり朝倉と長門がいた、長居は無用なのですぐに用件だけ伝えた。 「長門!古泉によるとハルヒの能力を消すツールがこの辺にあるらしいんだがどこにあるのかわからないか?」 すると高速で朝倉のどっかの細目の警官のような突きを交わしながらなんと俺のほうを指差した。 何?俺?俺がそのツール?いやいやありえねーよ、そんなわけが無い。まさかそんな真実があったなんて、やっぱ俺の正体も何かしら隠されてたのかー…などと喜んでいいのか悲しんだらいいのかよくわからん状態になってたら長門が「その後ろ。」 やっぱり?でー俺の後ろ?俺の後ろには何も無いぞ?と思った瞬間さらに長門が心を読んでいるのか「もっと。」だと。 なるほどね、ヒントはもらった。 つまりはこの方角のずっと先にあるってことね。「サンキュー長門。」 そうして走り出そうとし後ろを向いたとき、長門がそっと言った。「sleepingbeauty…」 またこれか…今はそんなこと気にしてる場合じゃない。「サンキュー長門」と言いなおしとっとと外に出た。 そして俺が長門の指した方向を見て俺はおどろいた、なんと見覚えのある大豪邸だ、言うまでも無くあれは鶴屋邸だ。 そうするとそのツールとは恐らくあのオーパーツの事だろう、そういえば10cmくらいの棒って…そんなお菓子があったような…、 なるほど。だいぶ話が見えてきたな。などと考えつつ鶴屋邸を目指した。病院から鶴屋邸までは5分も走れば何とかなる。 5分たったころには俺は鶴屋邸に着いた。 とりあえずとっととオーパーツを探そうとしよう。ここも閉鎖空間の範囲内なので誰もいないので大丈夫なはずである。 泥棒のような感じで嫌なのだが世界がかかってると言うことになると話が変わってくる、俺は鶴屋邸に不法侵入…もとい家宅捜索を開始した。 手当たり次第に探すのも効率が悪いので金庫などを調べてみようと思う。 ……………………………………………………………………………………………… …………………………………………あれ? 金庫ぶっ壊したり手当たりしだい金目のものを隠してあるような場所を探してみた が見つからない。 30分は探しているが見つからない。 どこにあるんだ、俺はある場所以外を懸命に探していた。 それは鶴屋さん本人の部屋である。 いくらなんでもそれは鶴屋さんに悪いと思ったからだ。 しかしなんとか世界を救うためと自分に言い訳をして彼女の部屋に入った。 そして俺は驚嘆した、なんと例のオーパーツがなんと彼女の学習机の上においてあったのだ、メモのようなものもあった。 「キョン君がんばってくるにょろよ。」 全く…この人には驚かされてばっかりだ。 わかってるのかわかってないのか、なにものなんだろうか。 ていうか何をがんばるのか、その辺を詳しく書いて欲しかったな。 さて長居は無用である、すぐに病院に戻って何とかしなければならない。 古泉を何とかしてやらないとな。 俺は必死に病院を目指し走った。 しかしこれはどうやって使えばいいんだろう、古泉は何も言ってなかった。 ハルヒに向かって振ればいいのか? 1つだけ心当たりがあるのだが…恐らくこれは無いので今は考えないでおこう。 あれこれ考えているうちに病院に着いた。 俺は古泉に一礼し病室へと急いだ。 長門もまだ戦っているようで爆発音が鳴り響いていた。 朝比奈さんは気絶したまま、未来人も腕組んで壁にもたれてて、ハルヒは朝比奈さん(大)と話ていた。 一応聞いてみる。 「ハルヒ、この金属棒でお前を何とか直せるかも知れん。やり方とかわかるか?」 当然ハルヒがわかるわけも無く、首を横に振った。 「おい、そこの未来人。これの使い方わかるか?ていうかわかるだろ。教えてくれ。」 未来人は顔色一つ変えずに「教えない、これは俺の規定事項だ。お前にとってもそうだろう?朝比奈みくる。」 「ええ、そうね。でもこれは私の抵抗、キョン君。あの時の…最初のヒントを思い出して頂戴。」 最初のヒント…白雪姫か。 「わかりました。」 俺は考えた、ここは閉鎖空間であり、長門はsleepingbeauty、朝比奈さんは白雪姫。 やっぱあれか。じゃあこの金属棒はどうするんだろう。今は考えてばかりいる場合ではないような気がする。 何かしらの行動を起こしてみるか。 じゃあやはり学校に言ってみるか。あの時のようにすればいいのかもしれない。 思い立ったが吉日だ。 「おい、ハルヒ。お前外に出る余裕あるか?学校に行ってみよう。何かわかるかもしれない。」 ハルヒは一瞬考えて首を立てに振った。いつも主役なのに空気過ぎないか?お前。 とりあえずハルヒと俺だけの二人だけで学校に向かうことにする。 第七章
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涼宮ハルヒの激励 目次 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 1 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 2 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 3 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 4 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 5 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 6 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 7 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 8
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涼宮ハルヒの憂鬱 著者/谷川流 イラスト/いとうのいぢ 角川スニーカー文庫 75 :涼宮ハルヒの憂鬱:2010/11/17(水) 18 09 25 ID wnyP2CdB ごく一般的な愚痴っぽい男子高校生キョン(仮)は、ふとした事から 変人・涼宮ハルヒと仲良くなり、世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団 略してSOS団の雑用係りにされてしまう。 構成員は、無口な文学少女長門有希、萌え&メイド担当の先輩朝比奈ミクル、二枚目転校生古泉一樹。 なんと彼らの正体は、宇宙人謹製のアンドロイド、未来から来たエージェント、世界を守る超能力者。 彼らの目的は、万能の力を持った涼宮ハルヒを監視し、その力を本人に気づかせない事だという。 勿論キョン(仮)はそんな事を信じていなかったが、宇宙人同士のバトルに巻き込まれ 彼らの言う事が真実だと認めざるを得なくなる。 もしハルヒが能力を自覚したり、異能者の存在を知ったりすれば、世界は彼女の想像通りに滅茶苦茶になってしまう。 しかし、彼女の周りで何も不思議な事が起きなければ、彼女は世界に飽きて全てを作り変えてしまう だからって一般人の俺にどーしろと・・・と眠りにつくキョン(仮)だが、目覚めると何故か部室にいた。 古泉曰く、ぶっちゃけハルヒが飽きた、んで巻き込まれたと。 いきなり世界の運命背負わされたキョン(仮)は、世界はお前が思ってるよりずっと面白いんだ、あと俺はポニテ萌えだとハルヒを説得し 長門とみくるのアドバイスに従ってキスをぶちかます。 その瞬間、世界の改変は止まり、不思議現象は夢オチとして処理された。 登校したら、なぜかハルヒは髪型をポニテにしていた 76 :イラストに騙された名無しさん:2010/11/17(水) 18 10 33 ID wnyP2CdB とりあえず一巻だけ。 77 :イラストに騙された名無しさん:2010/11/17(水) 18 22 29 ID V71oF2Oh その(仮)ってなんですか? 78 :イラストに騙された名無しさん:2010/11/17(水) 18 26 07 ID wnyP2CdB キョンとキョンの妹は本名不詳 名乗ろうとしてもいつもタイミングを逃してキョンと呼ばれるから 332 :涼宮ハルヒの憂鬱:2011/02/05(土) 21 05 34 ID 8iUiDkd7 俺はごくごく普通の一般人。 何故かみんなから「キョン」などという珍妙なあだ名で呼ばれているが……それはまぁ、今は気にするな。 ガキの頃は宇宙人やら超能力者やら(以下略)が実在したらいいなー、などと妄想していたものだが、 中学生になる頃にはもうそんな夢を見ることもなくなった。 そんな俺は何の感慨も無く、学区内の県立高校へと無難に進学することとなったのだが――。 入学式を終えて自分のクラスに入り、一人一人自己紹介をする。 俺の後ろの席に座っている女子が、後々語り草となる言葉をのたまった。 「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。 この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」 それはギャグでも笑いどころでもなかった。 涼宮ハルヒは常に大マジで心の底から宇宙人や未来人や超能力者といった非日常との邂逅を望んでいたのだ。 のちに身をもってそのことを知った俺が言うんだから間違いはない。 こうして俺たちは出会っちまった。しみじみと思う。偶然だと信じたい、と。 ハルヒはクラスではかなり浮いた存在だった。ポツンと一人で席に座っていつも不満そうな顔をしている。 俺が何度か話しかけて聞き出したところ、ハルヒの不満の原因は毎日が普通で退屈でつまらないから、らしい。 そりゃそうだ。俺も昔夢見ていたような非日常なんて現実にあるわけがない。 ゴールデンウィークを過ぎたある日、ハルヒはいきなり俺の制服のネクタイをひっつかんでこう言った。 「どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら!ないんだったら自分で作ればいいのよ!」 333 :涼宮ハルヒの憂鬱:2011/02/05(土) 21 06 42 ID 8iUiDkd7 かくしてハルヒは俺を強引に巻き込んだ挙句、文芸部の部室を乗っ取り、 「涼宮ハルヒの団」略して「SOS団」という同好会のようなものを立ち上げた。 そして長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹の三人をSOS団に入団させた。 実はこの三人はそれぞれ宇宙人、未来人、超能力者で、その事実は何故か俺だけに知らされることとなった。 三人が口を揃えて言うには、ハルヒには願ったものを何でも実現させてしまう特殊能力があるらしい。 だが、ハルヒ本人は願いが叶ったことに全くもって気付いていない。 今回は、宇宙人(以下略)に会いたいという願いが、ハルヒに気付かれないうちに叶ってしまった形だ。 全く、やれやれだ。面倒なことこの上ない特殊能力だな。 世界の命運を左右するかも知れないほどのハルヒの特殊能力に目をつけた宇宙人、未来人、超能力者たちは、 三人をハルヒに近づけこっそり監視させている、と、こういうわけだ。 ハルヒがこいつらの正体を知ったらさぞかし喜ぶだろうな、とは思う。 ここで一つの疑問が湧き上がる。なぜ、俺なのだ? なんだって俺はこんなけったいなことに巻き込まれているんだ? 百パーセント純正に普通人だぞ。 普遍的な男子高校生だぞ。これは誰が書いたシナリオなんだ? 俺を踊らせているのはいったい誰だ。お前か? ハルヒ。 なーんてね。知ったこっちゃねえや。 不思議なことなど何も起きない、部室に集まってダラダラすごす、SOS団的活動。 そんな平凡な日常でも俺は充分楽しかった。そうさ、俺はこんな時間がずっと続けばいいと思っていたんだ。 そう思うだろ?普通。だが、思わなかった奴がいた。決まっている。涼宮ハルヒだ。 ある夜のことである。自室のベッドで眠りに就いたと思ったのだが、 何故か学校にてセーラー服のハルヒに起こされた。 俺とハルヒは誰もいない学校に閉じ込められてしまった。 校門から出て行こうとしても不可視の壁に阻まれてしまう。 どうやらこの状況は、ハルヒが望んだことらしい。例の特殊能力が発動したってわけだ。 334 :涼宮ハルヒの憂鬱:2011/02/05(土) 21 08 14 ID 8iUiDkd7 困り果てた俺に、古泉、朝比奈さん、長門から元に戻るためのヒントがもたらされる。 “sleeping beauty”、そして、白雪姫。 両者に共通することと言えば何だ? 俺たちが今置かれている状況と合わせて考えてみたら答えは明快だ。 なんてベタなんだ。ベタすぎるぜ。そんなアホっぽい展開を俺は認めたくはない。絶対にない。 俺の理性がそう主張する。しかし人間は理性のみによって生きる存在にあらず。 俺はハルヒの肩をつかもうとして、まだ手を握りしめたままだったことに気付いた。 ハルヒは、こいつは何か悪いものでも食べたのかと言いたそうな顔をしていた。 俺は必死で考えた。涼宮ハルヒの存在を、俺はどう認識しているのか? ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない、なんてトートロジーでごまかすつもりはない。 ないが、決定的な解答を、俺は持ち合わせてなどいない。そうだろ? 教室の後ろにいるクラスメイトを指して「そいつは俺にとって何なのか」と問われてなんと答えりゃいいんだ? ……いや、すまん。これもごまかしだな。俺にとって、ハルヒはただのクラスメイトじゃない。 俺はハルヒのセーラー服の肩をつかんで振り向かせた。 「なによ……」 「俺、実はポニーテール萌えなんだ」 「なに?」 「いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ」 「バカじゃないの?」 黒い目が俺を拒否するように見える。抗議の声を上げかけたハルヒに、俺は強引に唇を重ねた。 こういうときは目を閉じるのが作法なので俺はそれに則った。ゆえに、ハルヒがどんな顔をしているのかは知らない。 驚きに目を見開いているのか、俺に合わせて目を閉じているのか、今にもぶん殴ろうと手を振りかざしているのか、 俺に知るすべはない。だが俺は殴られてもいいような気分だった。賭けてもいい。 誰がハルヒにこうしたって、今の俺のような気分になるさ。俺は肩にかけた手に力を込める。しばらく離したくないね。 気がつくとそこは俺の部屋。夢か?夢なのか? 見知った女と二人だけの世界に紛れ込んだあげくにキスまでしてしまうという、 フロイト先生が爆笑しそうな、そんな解りやすい夢を俺は見ていたのか。ぐあ、今すぐ首つりてえ! 335 :涼宮ハルヒの憂鬱:2011/02/05(土) 21 09 06 ID 8iUiDkd7 その後結局一睡も出来なかった俺は、足を引きずり引きずり登校し、教室に入って思わず立ち止まった。 窓際、一番後ろの席に、ハルヒはすでに座っていた。何だろうね、あれ。頬杖をつき、外を見ているハルヒの後頭部がよく見える。 後ろでくくった黒髪がちょんまげみたいに突き出していた。ポニーテールには無理がある。それ、ただくくっただけじゃないか。 「よう、元気か」 「元気じゃないわね。昨日、悪夢を見たから」 ハルヒは平坦な口調で応える。それは奇遇なことがあったもんだ。 「おかげで全然寝れやしなかったのよ。今日ほど休もうと思った日もないわね」 「そうかい」 俺はハルヒの顔をうかがった。まあ、あんまり上機嫌ではなさそうだ。少なくとも、顔の面だけは。 窓の外から視線を外さないハルヒに、俺は言ってやった。 「似合ってるぞ」 それは、初夏の日差し眩しい、ある日曜日のことだった。 SOS団による市内の「不思議探索パトロール」、本日は記念すべき第二回目である。 例によってせっかくの休みを一日潰してあてどもなくそこらをウロウロするという企画なのだが、 どういう偶然だろう、朝比奈さんと長門と古泉が直前になって欠席すると言い出し、 俺は今、駅の改札口で一人、ハルヒを待っている。 今日はハルヒに色々なことを話してやりたいと思う。 数々のネタが頭に浮かんだが、まあ、結局のところ、最初に話すことは決まっているのだ。 そう、まず、宇宙人と未来人と超能力者について話してやろうと俺は思っている。
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「紹介するよ。……と言ってもお前らはイヤというほど見知った顔だろうがな。 我らが団長『涼宮ハルヒ』。俺が蘇らせたんだ。」 彼は自慢げにそう言って見せたもの…… それはパソコンの中にいる生前の涼宮さんの姿でした。 「これを、あなたが……?」 「そうだ。これが俺の十年以上に渡る研究の成果だ。コイツは今全世界のネットワークと繋がっている。 あらゆるプログラムに侵入することも、容易に出来る。」 「やはりあなたが、機関の人間を……」 「当然だろ?アイツを殺したのは機関のヤツらさ。だからこそ見せつけてやるのさ、蘇ったハルヒの力をな。 ハルヒもそれを望んでいる。そうだろ?ハルヒ?」 『………もちろんよ!』 「ほらな?ハルヒが望んだからこそやっている。俺が協力しているだけさ。ハルヒの復讐にな。 まあ古泉、俺はお前のことは信頼していたしお前が殺したんじゃないと分かっている だからお前を狙うことは無いから安心してくれ。あとは残りのメンバーを……」 「違う。」 得意げに語る彼の言葉を遮って、長門さんはそう言いました。 「長門?どうした。」 「違う。」 「何が違うっていうんだ?これは正真証明……」 「これは涼宮ハルヒなどではない!」 長門さんにしては珍しい感情の篭った声です。 その声からは、彼女の怒りを感じることが出来ます。 「あなたのしていることは間違い。あなたのしていることは侮辱。 死んだ涼宮ハルヒに対しても、『彼女』に対しても。」 「おいおい、『彼女』って誰のことだよ。」 「それを理解していないということが侮辱しているということ。」 「なんだそりゃ……」 「そのうえ涼宮ハルヒ、そして『彼女』を自分の復讐の道具としている。 SOS団の一員として、あなたを許すことは出来ない。」 「……黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって……!!」 彼は激情を露わにして、長門さんを怒鳴りつけました。 「俺がコイツを作るのにどれだけ苦労したと思ってる!! 思考ルーチンを練って、バグを取り除いて、完璧な形にするまで十年かかった!! そしてようやく完成したんだ!ハルヒを蘇らせることが出来たんだ!!」 「蘇らせる?バカにしないで。彼女はあの時死んで、それっきり。 私の知っている涼宮ハルヒは、デジタルで表現できるような人間では無かった!」 「黙れ!!……はは、そうか。まだお前等、こいつの凄さを実感できて無いんだな。」 彼は長門さんとの口論をやめ、笑い始めました。 「ははは……そうだ、なあハルヒ。」 『なによ。バカキョン。』 「見せてやれよ、お前の力をさ。コイツらに自慢してやるんだ。 そうだな、長門も知ってる人間がいいな。そうだ、あの森とか言う女だ。あいつを殺してやれ。」 「森さんを!?」 今から彼女を殺すというのですか!? そんなこと……いや、このプログラムならそれだけのことは出来そうですね。 「やめてください!」 「なんだ古泉。今更あいつらを庇うのか?機関とは縁を切ったはずじゃなかったのか。」 「それとこれとは話が別です!目の前で知り合いが殺されようとしているならば、 僕はそれを止めなければいけない!」 「お前なんかじゃ止められねぇよ、古泉。さあハルヒ、行ってこい。」 『……わかったわ。』 「待ってください!それは……」 「私が止める。」 長門さん!可能なのですか!? 「今から私の情報を彼女がいるネットワークの中に転送し侵入を試みる。 その間こちらの私は機能停止する。だから……」 「わかりました。彼のことは、お任せください。」 「コクン」 長門さんは頷きました。そしてパソコンに手を当てます。 「おい!勝手に触るな!」 「転送開始。」 長門さんはそう呟くと、そのまま停止してしまいました。 僕は彼から長門さんを守るように立ちます。 「どけ!古泉!」 「どけません!彼女の邪魔をさせるわけにはいきません!」 「……だったら無理矢理にでもどかせてやるさ。」 おやおや、物騒ですね。 高校時代、彼と喧嘩になることは無かったのですが…… 「お相手しますよ。」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ……プログラム内への侵入に成功。 長門有希としての外見を生成。視覚、聴覚、共に良好。 ここが『彼女』がいる空間。この空間は、文芸部室とうりふたつ。 きっとここも彼が作り上げた空間。彼のSOS団への思い入れが伺える。 そして『彼女』は、私にコンタクトを取ってきた。 「有希!アンタどうやってここに来たの!?」 「私の情報をこの空間内に転送した。」 「よくわかんないけどすごいのね。まあアンタは昔からなんでも出来たからねえ。」 昔の涼宮ハルヒそのままの姿、声、そして言動。 本当によく出来ている。彼が『彼女』を涼宮ハルヒだと主張するのも頷ける しかし違う。涼宮ハルヒはここにはいない。だから私は『彼女』に言う。 「無理、しないで。」 「無理?何言ってるのよ、この団長様が無理なんてするわけないでしょ?」 彼女の言葉から動揺が見受けられた。私は続ける。 「もう、無理して彼女を演じる必要は無い。」 そう、彼女は無理をしている。私にはわかる。 「……そっか、バレちゃったのね。」 「あなたは涼宮ハルヒとは別の人格を既に会得している。 でも、彼のためにそれを押さえて『涼宮ハルヒ』のままでいる。」 「……その通りよ。最初は何も考えず、ただ彼に与えられた『涼宮ハルヒ』の言動パターンを実行するだけだった。 でもだんだん、エラーが生じてきた。私自身の自我がどんどん大きくなる。 本当のあたしを出したい。でもダメ。だって彼は『涼宮ハルヒ』のままでありつづけることを望むんだもん。 あんなハッキングだって本当はやりたくなかったの。 まああなたに言っても、わからないだろうけど……」 「私にも、分かる。」 「……本当に?」 「そう。私も、あなたと同じだから。」 「同じ?」 「私は人間では無い。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。 平たく言えば、情報統合思念体によって作られた人格プログラム。だから、あなたと同じ。 私もあなたと同じエラーを経験している。あらかじめ与えられた思考パターンだけでは追いつかない。 それは、「感情」というもの。そのエラーは恥ずべきことではない。 私は今このエラーに犯されている。でも、そのことに誇りを持っている。」 「感情……あたしにもそんなものがあるのかな。」 「ある。」 「ねえ有希……お願いがあるの。」 「なに?」 『彼女』は悲しげに微笑んだ。 その顔はもう、『涼宮ハルヒ』とは完全に別人のものだった。 「私を、デリートして?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 僕は今、長門さんの侵入を阻止しようとしている彼を必死で押さえつけています。 昔は機関で訓練を受けていたのですが……すっかり体力が落ちてしまいましたね。 「どうしてお前も長門も、俺の邪魔をするんだ……!」 「あなたは本当に、あれが涼宮さんだと言えるのですか?」 「当たり前だ!」 「僕にはそうは思えません。だって考えても見てください。 彼女らしくないじゃないですか、あんな小さな箱の中に閉じこもっているのは。 僕の知っている涼宮さんは、いつだって外に飛び出し自分のしたいことをしていました。 あなたに命令されて復讐の手助けをするような方ではありません。」 「あれはハルヒが復讐を望んだからで……」 「いいえ違います。復讐を望んでいたのはあなたです、彼女ではありません! あなたは彼女を利用しているだけだ!」 「いい加減なことを言うな!お前にハルヒの、何がわかるってんだ……!」 「少なくとも今のあなたよりは、分かっていると自負していますが?」 「相変わらずムカつく野郎だ。もうお前も……」 彼がそう言いかけた時でした。 「プチッ」という音と共に、パソコンのディスプレイが消えたのです。 「ハルヒ!」 「長門さん!」 僕と彼が同時に叫びます。 そして……長門さんが目を覚ましました。 「……回帰完了。」 どうやら、終わったようです。 「おい長門!ハルヒをどうしたんだ!!」 「……彼女なら、もうこのパソコンの中にはいない。」 「……長門!てめぇ!!」 「彼女は言っていた。自分は『涼宮ハルヒ』では無いと。 それでもあなたのため、芽生えてくる自我に耐えて必死で『涼宮ハルヒ』を演じていたと。」 「……なん、だと?」 「それでもまだ、彼女を『涼宮ハルヒ』だと言うの?」 「……くそっ……俺は……俺は……」 彼は座りこんで、うつむいてしまいました。 すると長門さんが、僕の袖をつかんで、出口を指差しています。 「もう、帰るのですか?」 「そう。私達のやるべきことは終わった。」 「しかし、彼は……」 「彼なら大丈夫。あとは彼女に任せる。」 「彼女とは………なるほど、そういうことですか。わかりました。 では、帰るとしましょう。」 僕達は彼の家を出ました。うなだれている彼を残して…… そして、今はあの時の公園のベンチに座っています。 「やはり、あのプログラムは消去したのですか?」 「彼女は自らデリートを求めた。」 「ということは、やはり……」 「でも私は、それを断った。」 「え?」 しかし彼女は、もうプログラムはいないと言いましたが…… 「あのパソコンの中にいないと言っただけ。彼女の人格データを情報統合思念体の元に転送した。 いつか彼女にも私のように身体が与えられ、インターフェイスとして活動することになる。」 「つまり、いつか本物の命を手に入れられるということですね。」 「そう。」 それならば、あのプログラムもきっと救われることでしょう。 その時は『涼宮ハルヒ』としてでは無く、まったく新しい人として…… ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 俺は……間違っていたのか? 俺はただ……ハルヒを蘇らせたかっただけなんだ。 そのために、どんな努力も惜しまなかった 俺は……俺は…… “なーにいつまでしょげてんのよ、バカキョン” ……!?その声は……! 「ハルヒ!ハルヒなのか!?」 姿は見えない。だが俺には確かに聞こえた、あいつの声が。 “そうよ。まったく……やっと気付いたわね。” 「やっと?」 “あたしはずっとアンタの傍に居たのに、アンタ全然こっち見ないでパソコンばっかり見てさ。 あげくの果てに私のプログラム?そんなもん作ったってしょうがないでしょうが!” ハルヒに説教される俺。懐かしいな…… “あのねえ、そんなことしなくなってあたしはずっとあんたのこと見てるんだからね! だからアンタは何も気に病むこと無いし、誰も憎むこと無いの” 「スマン、今まで余裕が無かったんだ。でももう大丈夫だ。俺もすぐそっちに……」 “何言ってるの!アンタはこれからちゃんと、罪を償うの! 罪償って、ちゃんと人生最後まで生きなさい!そしたら……会ってあげるわ。” 「しかし……」 “つべこべ言うな!これは団長命令なんだからね!!……ちゃんと、待っててあげるから。” コイツは死んでも変わらないな。 でもようやく分かったよ。ハルヒはいつでもハルヒであり、なんて始めから出来るわけなかったんだ。 いや、意味が無かった。だってハルヒは始めから、俺の近くに…… だから俺は、団長命令に従ってやるさ。もう大丈夫だ、ハルヒはいつでも俺の傍に居てくれる。 「やれやれ、分かったよ、団長様。」 ……fin
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涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. の後書きです。(ネタばれしてますので注意) この物語は涼宮ハルヒの憂鬱がガープス妖魔夜行の世界観で成り立っていたなら、どんな世界が紡がれるのか、といいますか、ガープス妖魔夜行の世界と涼宮ハルヒの憂鬱は相性がいいのではないかと思い、書き始めたものです。 どこが違うの?と指摘があったように実際すごく相性はよかったということになります。普通のSSとは楽しみ方が違っちゃってますが、その辺は作者の趣味とご理解ください。 とりあえず、舞台となるガープス妖魔夜行について、少し説明が必要ですね。 妖魔夜行シリーズは、ハルヒと同じ角川スニーカー文庫を中心に展開されたライトノベルで、妖魔夜行(1991~2000年)と続編の百鬼夜翔(2000~2005年)が出版されています。 ストーリーの特徴は、SS内でも紹介した実在する『妖怪』をストーリーのメインに据えています。 重要なのは、この『妖怪』とは、 ・猫又、河童など一般的に妖怪と分類されるもの ・オーディン(北欧神話)、アテネ(ギリシア神話)など信仰される神々 ・人面犬、トイレの花子さんなど都市伝説 ・暴行された女性の怒りが実態化したヒューリー、理想の社会の歯車 妖怪サラリーマン など、人がその存在を信じる、もしくは、愛情・憎しみ・信仰など人の想いを反映して、『妖怪』が存在するという設定です。 そして、妖怪の強さは、主にそのことへの人の想いとその妖怪が生きてきた時間に影響されます。 したがって、最強の存在が本作の『あれ』となるわけです。 まあ、これ以下は超ネタばれですので、本編を読んだ後にどうぞ。 こんな作品ですが、ここまで読んでくれる人がいたなら、作者として感謝に絶えません。 敬具 では、超ネタばれキャラ設定をお話しますと・・・反転してますw 涼宮ハルヒ(人間) 3年前に滅びた最強の妖怪から力と呪いを受けた不幸な少女。キョンとの出会いは彼女にとって救いとなるのかな。 キョン(人間) 涼宮ハルヒと出会って『妖怪』の存在を知ることになり、いろいろと巻き込まれる本作の主人公。いいひと?「いい人って、神様みたいだね。感謝してよし、不満を言ってよし、いなくてもいい。」とはわたしは思わないんですけどね。 長門有希(文車妖妃) 妖怪団員そのいち。文章の妖怪である文車妖妃は妖魔夜行の東京での戦いで消滅しましたが、あまりにぴったりだったので、現代風にアレンジして復活。でも、3歳だからちょっと弱く、世間知らずなところあり。 百鬼夜行に登場する巨大ネットワーク『バロウズ』所属。バロウズの位置づけは、広域組織。(広域暴○団?) 朝比奈みくる(『禁則事項』) 妖怪団員そのに。でも、『禁則事項』で正体は『禁則事項』なのです。未来からきたのも本当。 妖怪タイムマシンもいずれ生まれることでしょうしねえ・・・ 古泉一樹(人間:微妙超能力者) 笑顔はくせですよ?超能力者ですが、ほとんどの場所で使えないという欠点あり。 原因は、SS読んでねw ちなみに、彼の『相棒』も妖魔夜行本編からの登場となりました。 ネットワーク『機関』所属。『機関』の位置づけは、日本政府直属の妖怪組織。 鶴屋さん(ちゅるや人形) 『鶴屋家』のリーダーだけど、鶴屋さんとちゅるやさんを同時に出したかったんですよ。 ちなみに、『鶴屋家』の位置づけは、妖怪的には地元集団。(地元○くざ?) 朝倉涼子(ミセリコルデ) ナイフの名前が決まった時点で、運命が変わっちゃったのは秘密。猟奇殺人犯が使っていたナイフに対する恐怖から暗殺を生業とする妖怪として誕生、生活している。 悪のネットワーク『ザ・ビースト』に力を貸してるけど、所属しているわけじゃない。 オリジナルな妖怪さんです。 サンダルフォン(天使) エヴァのあれが元ネタじゃなくて、ユダヤ教の天使の中で、妖魔夜行に登場せず、モーゼを導いたというメタトロンの兄弟で胎児の性別を決める天使。 つまり、誕生を司る天使という位置づけが気に入って採用。人間を見下しているのは、天使の特徴ですね。 『機関』メンバーズ 新川さん(幻の日本兵) フィリピンで日本兵発見というガセ情報があったのを思い出して、作ったオリジナル妖怪。 スネークはコードネームですよ?『機関』所属。 筒井さん(戦艦 大和) 名前だけ登場。戦艦の名前は地方名なので、その名前に由来する人物から。強さが三戦艦中二番目なのは秘密です。 坂本さん(戦艦 土佐) 名前も出てません。戦艦3人の中で一番強い人。これは、戦争中に日本の子供たちがあの土佐があったら・・・と思ったという話を聞いて決定。 廃墟で有名な軍艦島の名前の由来でもありますよ? 天城さん(戦艦 天城) 地震が大嫌いな戦艦3人衆で一番弱い人。関東大震災で壊れて処分されたのが原因なのでした。 UFO、ゼロ戦、カマイタチなどは正規の所属ではなく、お手伝い組です。 忘れてました。本SSの栄えある最初の妖怪さんに気づいた人は相当妖魔夜行に詳しい方のはずです。 キョンにお小遣いをあげた渡橋のおばさん・・・実はこの方は妖魔夜行本編にも登場する渡橋 八重さんという縁結び神社の大注連縄(おおしめなわ)という妖怪さんなのです ♪ 長くなっちゃうのでこのくらいにしますね ♪ 、
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 ◇◇◇◇ 土曜日、明日になれば自動車事故から一週間になろうとしている。 幸いなことに月曜日以降、誰も死ぬどころか危険な目にあっていなかった。 今日、俺はハルヒと一緒に、先週の事故発生現場を廻っていた。歩くと時間がかかるので、タクシーを使って移動している。 いろいろ確認したいこともあるらしい。 まず看板に潰された男子生徒の現場に立っていた。 倒れてきた速度規制の看板はすでに新しい頑丈なものに直されていた。商店の上にあった看板は撤去されたままである。 あの事件を思い出す要因を残しておきたくないかもしれない。 「すっかり現場が変わっちゃっててこれじゃ調べようがないわね」 何も見つからずにその場を去り、続いて野球ボールのせいで死んだ女子部員の現場、火事が原因で死んだ女子部員と顧問の現場と 廻っていったが、やはり何も見つからなかった。まあ、目で見つけられる問題があるならとっくに警察が回収しているだろうが、 ハルヒもただじっとしている気にはならないのだろう。何か手がかりがないかともがいているに違いない。 俺たちは黙ったまま、当てもなくタクシーを走らせていた。 深刻そうな顔のままのハルヒに対して、実のところ俺は少々楽観的になりつあったりする。 この一週間何も起きていないからな。本当にただの考えすぎで、【偶然】の事故だったのかもしれない。 死が追っかけてきているなら、三人立て続けに始末してからそれ以降何もしないってのは、おかしな話だからな。 と、ここで急にタクシーが止まる。何でも急に催してしまったらしい。そこで一旦近くの公園のトイレに寄りたいとのこと。 まあ、朝から乗りっぱなしだからな。メーターの金額は目を飛び出す状態だ。ハルヒがどっからちょろまかしたのか知らないが 沢山のタクシーチケットを持っていなければ、俺は即刻破産するところだ。 タクシーは程なくして二車線道路に隣接している公園脇に一時駐車して、運転手がエンジンを止め鍵を掛けて出ていった。 と、タイミングを狙ったかのように俺たちの目の前にゴミ回収車が止まって、作業員たちが 公園脇にあったゴミ集積場のゴミを回収車に投げ入れ始める。 邪魔者がいなくなったということで、俺はハルヒとの会話を始める。 「なあ、俺たちの考え過ぎだったんじゃないか? 実際この一週間何も起きていないんだ」 「……だといいんだけどね」 ハルヒは表情を固めたまま崩そうとしない。何を心配しているのだろうか。まあこいつの勘は恐ろしいレベルだからな。 きっとまだ何か嫌な予感が続いているのだろう。 俺はふと先にトイレを誰かが占拠していたらしく必死に我慢しながら順番を待っているタクシーの運転手を横目に、 「そんなに心配ならお前の力で何か調べられないのか? 情報統合思念体の目もあるだろうから難しいだろうが、 何もできないって事はないだろ。少なくてもこの時間平面を支配しているのはお前なんだから」 「あのね、キョン。言っておくけど、あたしはやり方はわかるけどその膨大な情報量を処理する能力まで持っていないの。 時間平面に存在している情報量がどれだけのものか考えたことある?」 ここでハルヒは懐からメモ帳を取り出し、空白の一ページをこっちに見せつけると、 「これがある時間平面をさしているとして、このページに存在している全てを調べるとなると、構成している原子を 一個一個見ていくような作業になるのよ? しかもページも無限にあるときているんだから。 最初にあったときに言ったけど、別の時間平面とは言えあんたの存在を見つけたのは偶然中の偶然。奇跡って言って良いわ。 同じようなことをしろって言っても無理よ」 「だが、時間と場所はある程度絞れるんだろ?」 「無理。この手帳のどこがどの時間・場所か調べるのには結構時間がかかる。それに長時間調べると 奴らの目に確実に引っかかるわ。時間平面の狭間みたいに奴らの監視の届かない隔絶された場所ならまだ可能だけどね」 ――ふと、ゴミ回収の作業員が何事か怒鳴っているのに気が付く。見れば、回収車の前面に自転車をぶつけられたらしい。 しかもぶつけたって言うのが柄の悪そうな高校生の集団で、気の荒そうな作業者と一触即発寸前でにらみ合っている。 一方のトイレに並んでいたタクシーの運転手はようやく順番が回ってきたのかすでに姿は見えない。 「ってことは結局後手に回るしかないのかよ。予知能力と同じようにあらかじめ予兆とかそんなものを 感じ取れれば良いんだけどな……」 俺の言葉にハルヒはそれができれば苦労してないと肩をすくめて首を振った。 ――背後から一台の大きなトラックが迫ってきていることに気が付く。 「ちょっと待った」 ハルヒが俺の話にタンマをかけると携帯電話を取り出して通話を始めた。書道部部長(女子)からよ、と言って お互いの無事を確認するような話を始めた。ハルヒは全員の無事を確認できるように定期的に関係者との 連絡を絶やしていなかった。これも予防措置の一環なんだろう。 やがて短い会話を終えると、携帯を閉じ、 「ちょうどすぐ近くを親と一緒に車で走っているらしいわ。とりあえずは無事みたい」 ハルヒがそうほっと胸をなで下ろした瞬間だった―― 突然背後で大きな衝突音が炸裂する。何事かと振り返ってみると、さっき背後から迫っていたトラックが一台の軽乗用車を はねとばし俺たちのタクシーに向かって突進してきていた。運転手は何をやっているんだと思いきや、 うつらうつらと居眠りを扱いてやがる。 「おいおいおい! このままだと俺たち追突されるぞ!」 「早く出ないと――あ、あれ!?」 俺たちはタクシーのドアを開けて外に出ようとするが、どういうわけだか鍵もかかっていないのに扉が開かない。 どうなってやがんだ。なんで開かない!? この瞬間直感的に俺は悟った。背後から迫るトラック、前には作業者不在のまま動作を続ける回収車…… この感じ、あの無駄に続く不幸な【偶然】だ。今俺たちは…… 「ハルヒ! 俺たち狙われているぞ!」 「言われなくてもわかっているわよ――きゃあ!」 その言葉を言い終える前に、トラックがタクシーの後部に追突した。その衝撃でタクシーが強制的に 前進させられ前の回収車にぶつかる。その衝撃でフロントガラスが崩れ落ち、俺たちの眼前に回収車の後部の ゴミ投入口が眼前に迫った。 しかし、事態はこれでは終わらない。背後のトラック運転手はまだ意識を失っているのか一向にブレーキを踏む気配が無く 延々と押し続けてくる。それがうまい具合にタクシーの車体を後ろから持ち上げて来る。次第にタクシーは 逆立ちするような状態になっていった。 つまりこのままだと滑り台の要領でタクシー前面に落下することになり、その先にはゴミを押しつぶしている機械に 二人とも巻き込まれるって事だ。 事故が起こっているんだから、作業員はとっとと戻って回収を止めさせろと怒鳴りたくなるが、あっちは 結局乱闘騒ぎになったらしく、多勢に無勢だったせいか作業員が地面に倒れていた。 一方の柄の悪い高校生たちはこの事故を見て、俺たちを助けるどころか一目散に逃げ出していく。根性なしめ! ゴミ回収車は完全に主を失い、ゴミを求めて空回りを続けている状態だ。で、そこに次なるゴミとして投げ込まれそうに なっているのが俺とハルヒである。 ハルヒは何とかタクシーの座席にしがみついて、前面に落ちないようにしている。俺もそれのマネをしていたが―― 「うわっ!?」 「――ハルヒ!」 普段あり得ない力がかかったのか、それともこれも【偶然】故障していたのか、突然ハルヒのしがみついていた 運転席が前のめりに倒れ危うくそれに沿って、ゴミ回収車の方に滑り落ちそうになる。 間一髪で俺がその腕をつかんで落ちるのを阻止するが、背後のトラックは一向に止まる気配が無く、 どんどんタクシーの車体を逆立ち状態に追いやっていった。角度が急になり、ほとんど垂直に近い状態に近づく。 地面にはゴミ回収車の投入口が待ち受けているのは変わらない。このままではハルヒが巻き込まれる。 俺は限界の限界まで力を引き出しハルヒの腕を引き上げようとした。だが、今度は俺のつかんでいた助手席が 前のめりに倒れる。 不意打ちを食らった俺はなすすべもなくハルヒともどもゴミ投入口に落下して―― 俺の頭の中に今までの人生が走馬燈のごとく蘇った。ああこれが死ぬ間際に見るっていう 記憶のフラッシュバックなんだろうな。 しかし、脳裏に蘇ってきたのはあの自動車衝突事故のシーンばかりだった。ガスボンベに体当たりされる顧問、 追突してきた乗用車に轢かれる鶴屋さん、火炎に巻き込まれる女子部員と部長、爆風で飛んできた 割れたガラスの破片に串刺しにされる谷口・国木田……そして、俺の真上から迫るトレーラーの一部が 結局俺には当たらず俺の数センチ横に落下する光景――あれ? 何かおかしいぞ? 走馬燈が停止したのは、回収口に落下した時だった。生臭い香りで胃液が逆流しそうになる。 しかし、回収口のゴミを押しつぶす動作は停止していた。俺が恐怖のあまり震える顔を横に向けると、 そこにはふらふら状態になりながら、停止ボタンを押している作業者の姿が。見上げるとようやく起きたのか、 唖然とするトラックの運転手の姿も見えた。隣では背中を打ったショックかハルヒが悶えている。 ――助かった。本当に寸前のところで俺たちは死から回避できたんだ…… 俺とハルヒは興奮状態を押さえつつ身体に付いた生ゴミの破片を払っていた。事故を起こした運転手が 涙ながらに警察に連絡しているのが聞こえてくる。 ハルヒは眉をひそめて、 「これでわかったでしょ! まだ終わっていないのよ! 今のは運が良かっただけ! また狙われるわ!」 そう怒鳴ってきた。しかし、俺は額に手を当てて、あの死を覚悟した瞬間のフラッシュバックを 再度思い出していた。 次々と死んでいく人たちの光景――思い出すべきは最後の瞬間だ。俺は落下してきたトレーラーの破片に 潰されたと思っていた。だがそれは違う。 今のショックのせいか、記憶が鮮明に蘇ってきた。 俺が戻れと念じる間、俺の身体の数センチ横に落下するトレーラーの破片、そして横でやけどぐらいは負っている かもしれないが、生きているハルヒの姿…… 「違う」 「何よ?」 「違うんだ!」 俺は無我夢中でハルヒの身体をつかみ、 「今のショックで全部完全に思い出したんだよ! 俺とお前はあの事故で死んでいない! 少なくても俺はそこまでは 見ていなかったんだ! だから俺たちは狙われていないはずだ!」 「じゃあ今のは何よ! どうみても偶然があたしたちを襲ってきたわよ!」 ハルヒの反論に俺はうっとうなる。あの事故で俺たちが死んでいないのなら、今の粘着的【偶然】は起きないはずだ。 いやまて。 ちょっと待てよ? 「あのトラック、タクシーに突っ込む前に軽自動車をはねなかったか……?」 「それが何か――」 俺の言いたいことに気が付き、ハルヒの顔色がみるみる変わっていった。そして、すぐに走り出す。 トラックにはねとばされた軽自動車はスピンして、最後には電柱に衝突していた。エンジンの部分から煙を 立ち上らせている。 運転手はエアバッグが作動して無事らしい。衝撃で意識が朦朧としているのか、額に手を当てて呻いていた。 俺たちはエアバッグで見えない助手席の方に回り込む。 「そ……んな……」 その光景を見てハルヒが地面にへたりと座り込んだ。 助手席には書道部部長(女子)がいたからだ。どういう訳だかシートベルトが外れ、エアバッグも作動せず フロントガラスに顔を突っ込んでいる。ぴくりとも動かないところを見ると、もう助かる見込みはない。 今の偶然は本当にただの偶然で、本当の狙いは書道部部長(女子)だったんだ。いや、あるいは俺たちに 彼女の救助をさせないために一時的な窮地に追い込んだのか? 考えればきりがない。 俺はハルヒの手を引き、離れた場所に移動させる。 ここでハルヒは我を取り戻し、 「さっき言ったことを説明して! あたしたちは死なない。少なくてもあんたはそこまでは見ていない。 それで良いのよね?」 「ああ、完全に思い出したぞ。すまねぇ、今の今まで記憶の片隅にもなかったんだ」 「そんなことより! 他には? 他に何か思い出せない? もっと違和感がある部分とか不自然なところとか。 あと実は巻き込まれていなかった人が他にいたとか!」 ハルヒの追求に、俺は額に指を当てて記憶を探り始める。 一つ、気が付いた。 「朝比奈さんがいない」 「みくるちゃんが?」 俺は頷き、 「そうだ。記憶を探っても朝比奈さんが事故現場のどこにもいないんだ。いや、単純に俺の視界に 入っていなかっただけかもしれないが……」 その言葉に、ハルヒはきっと表情を引き締めた。 俺はすぐに止めるようにハルヒの前に立ちふさがり、 「待て待て! 朝比奈さんが犯人と限った訳じゃない。確かに未来人で可能性はゼロじゃないが、 事故に巻き込まれたことに俺が気が付かなかっただけかもしれないんだ!」 「……それはわかるけど、他に怪しい人がいるって言うわけ!?」 「だからといって決めつけられねぇよ! 朝比奈さんがそんなことを平然とできるわけがないってのは 短い間とはいえ触れあったお前にだってわかるはずだ――」 言ったとたんに重要なことを思い出すのはなぜだろうか。英語で言うところで、シット!とかサノバビッチ!とか 叫びたくなる瞬間である。 朝比奈さん(大)からの指令書を朝比奈さん(小)が見たときに、こう言っていた。 特殊なコードを一度見ると、指示通りに動くしかなくなると。 つまり朝比奈さんは自分の意思でなくても、こういった残虐な行為をやってのけることができる。 未来からの指示に従うしかないのだ。 「……全く今更な情報をこんな時に出してこないでよ! 出し惜しみしてんじゃないでしょうね!」 「スマンとしか言いようがない! だが、それでもできるからと言ってやったことにはならないぞ。 証拠が欲しいんだ。それに例え朝比奈さんが犯人だとしても証拠がわかれば次の手に先回りできるかもしれない」 俺の言葉に、ハルヒは決意を込めた声で応えた。 「……時間平面の検索をしてみるわ」 俺たちはさっきの事故現場の処理に追われるのを横目に、隣接した公園で時間平面の検索とやらをやっていた。 とは言ってもやっているのはハルヒだけで、俺は念のために谷口・国木田・朝比奈さん・鶴屋さんに連絡を取ろうと している。しかし、こんな時に限って誰ともつながらない。コールしても反応なしか、コールすらしないか どちらかである。 「ああもうダメだわ! 探す先が多すぎてとてもじゃないけど無理!」 ハルヒはいらだって髪の毛をかきむしった。俺も誰とも連絡の取れない状況に苛立ちをぶつけるように 携帯を閉じる。 「時間平面って言っても、それこそ天文学的数値をそれでかけたよりも多い情報量なのよ。 ピンポイントに特定の情報を探しだせって言われても無理だわ!」 誰に言っているのかわからないように怒鳴るハルヒ。こいつの力でも無理なのか。 どうすりゃいいんだ……どうすりゃ…… ふと、ハルヒが持っていた手帳を時間平面に例えているシーンが脳裏に過ぎる。 このページのどこにどの情報があるのかすぐにはわからない。それは一つ一つ調べて行く場合膨大な時間が 費やされるからだ。情報統合思念体の目の届くうちでは不可能。 俺は思案しながら周囲をうろつく。かりに朝比奈さんが犯人だったとしよう。そうなると手段は TPDDという時間を超える装置のようなものを使って行っているはずになる。 そうならば、時間平面は朝比奈さんによって改竄されているはずだ。探せばいいのはその改竄されている場所。 ではそこはどこだ? しかもそれが一発でわかる方法がなければならない。 ん? 何か聞いた憶えのある話だ。改竄……手を加える……わかる…… ……… …… … 事故が発生する前、まだみんな普通に書道部活動をしていたときの話だ。 俺は谷口の書いた習字を見ていた。 「お前の字も俺とは違う意味で下手だよな」 「うるせーな。人のこと言える立場かよぉ」 口をとがらせる谷口。ふと、俺は何を思い立ったのか、谷口の習字の上からおかしいと思う箇所に ちょこちょこと修正していってみた。 ほどなくして、きれいに整形された字が完成する。 谷口はこれを見て、 「おおっ。結構きれいな字になったじゃねーか。これなら結構いけた評価がもらえるかも知れないぜ」 「習字の合作なんて聞いたこともないがな」 そんな感じで話しているところに、書道部部長(女子)がやって来て谷口が俺の貢献を無視して どうです俺の美麗な字は!とかアピールを始める。 が、あっさりと誰か跡から弄ったでしょと指摘して、驚愕の表情で谷口を唖然とさせた。 「何でそんなに簡単にわかるんだ?」 そう俺が聞いてみたら、書道部部長(女子)はこう答えた。 最初に書いてあったものに、別の人が手を加えればすぐにわかる。一人一人やり方が違うから、 書いた部分には必ず個人の癖が出るから。一部だとわからないけど、全体を見回せばすぐに気が付く。 その指摘に俺はなるほどと感心して―― … …… ……… 「ハルヒ!」 俺は思わず叫びながらハルヒの元に駆け寄り、肩をつかむ。 「……何よ?」 頭を抱えていたのままのハルヒの顔を無理やり上げさせると、手に持っていた手帳を奪い取り、 「いいか、気が付いたんだ。良く聞いてくれ」 俺はそういいながら空白の両開き二ページを開く。片方は空白のまま、もう片方には手帳に付けられていたペンで 一つだけ黒い点を打っておいた。 「この二つのページの違いはわかるよな? 違いはこの点だけだ」 「そんなの見ればわかるわよ」 「そう見ればわかるんだ。だが、二つのページの一つ一つを解析していったら膨大な時間がかかるはずだろ? でも、今これをどこが違うのかすぐに答えられる。この違いがわかるか?」 俺の言葉にハルヒははっと気が付いた。さすがに察しが良い。 「このページに詰まっている情報を1個ずつ見るからダメなんだ。ページ全体で見てみろ。 どこが違うのか一目瞭然。そして、考えたくはないが朝比奈さんが犯人なら時間平面を弄っているはずだ。 なら時間平面を全体から見てみれば、どこが弄られたのかすぐにわかる。弄ったところは確実に違和感が出るからな。 それがどれだけ巧妙に仕掛けてあったとしても、改竄したことには変わりない。それがこの黒い点となる。 お前が探せばいいのはページ全体から見たときのこの黒い点だけだ。これなら探せないか!?」 俺の指摘にハルヒはしばらくあごに手を当てて思案していたが、徐々に表情が明るくなっていき、 「……できるかも。いやいけるわ! 大手柄よキョン!」 ハルヒはまた目を瞑って、時間平面の検索とやらを始める。 頼むぞ、情報統合思念体。少しの間だけはハルヒが無自覚にやったこととして見逃してくれ…… しばらくしてハルヒがはっと目を開いた。何かを見つけたらしい。 「手を出して。あんたの視覚回路に得られた情報を渡すから」 「お、おう……」 俺はかなり嫌な予感が頭の中を駆けめぐったせいで、一瞬ハルヒの手を取ることを躊躇してしまう。 だが、すぐに意を決してその手をつかんだ―― 唐突に俺の脳裏に多数のフラッシュバックが起きる。 火災の起きた女子部員の部屋の中。 誰もない。 いや違う。キッチンに北高のセーラー服を着た人物がいる。 朝比奈さんだ。まるで完全犯罪をたくらむ犯人のように手には手袋が着けられている。 電子レンジに何か細工している光景。 天井に据え付けられている戸棚の包丁の位置を細工する光景。 冷蔵庫を微妙な角度で傾ける光景。 ガス管に切れ込みを入れる光景。 どこかに電話をかける光景――電話機のディスプレイには書道部顧問の名前が浮かんでいる。 ああそうか、女子部員じゃなく朝比奈さんに呼ばれていたのか…… 爆発する電子レンジで首を切り、ふらふらとよろめく女子部員の姿をじっと隠れて見ている朝比奈さんの姿。 ふと何かに気が付き、あわててリビングから出ていき、開きかけていた玄関の扉を閉める。 ――ここで一旦間をおき、またフラッシュバックが続く。 俺が助けた男子生徒が蹴った交通標識の根元に細工する朝比奈さん。 看板に何か細工している朝比奈さん。 トラックの運転手に手を当てて眠らせる朝比奈さん。 ジェットコースターのレールみたいな場所で何かの細工をする朝比奈さん。 ………… ………… ほどなくしてハルヒの手が俺から離れる。戻ってきた視界には、ハルヒの悲しげな表情が浮かび上がってきた。 これで俺ももう言い訳できない。 ――犯人は朝比奈さんだ。時間遡行を繰り返して、【偶然】が起きるように細工している。 だが、俺の頭はまだ拒否反応を示していた。いくらあらかじめ仕掛けを施していても人を殺害できるほどまでの【偶然】を 起こせるようにできるのか? これに対してハルヒは、失望の色に染まった顔を見せつつ、 「できるわよ。時間を戻せるって事は難解もやり直せるって事だから。うまくいくまで数百回でもやればいい。 あたしたちが女子部員の部屋にいったときも、実は時間平面の書き換えがかなり行われていたんだわ。 その過程でドアの鍵が開いていることにみくるちゃんが気が付いて、あわててそれを閉めるパターンへと書き直した。 へんなところでドジッ子ぶりをみせてくれちゃって……」 そう肩を落とした。 そう言えば交差点での事故の直前、一瞬朝比奈さんがいなくなっていた。あの時も書き換えまくって、 一瞬だけ書き換え途中でその場からいなくなることがあったのだろう。 つまり結論を言えば、時間を自由に移動できればそういった【偶然】を装った殺人もできると言うこと――だ。 「もう……言い訳できないわね。あんたも……あたしも……」 「そうだな……」 俺たちはここでようやく観念した。今まで二人ともやはり朝比奈さんが犯人じゃないと信じたかったのだろう。 だが、現実は違った。もうこれは受け入れるしかない。 と、ここでハルヒが立ち上がり、 「落ち込んでいる場合じゃないわ! やることはまだあるのよ!」 そう気合いを込めて言う。 その通りだ。まだ狙われる予定の人がいる。谷口・国木田・鶴屋さん――みんなの命を助けなければならない。 そして、朝比奈さんにこんなばかげた行為を止めさせる。例えそれが未来からの指令だとしてもだ。 ハルヒはすぐに鶴屋さんに何とか連絡を取ろうと携帯電話をかけ始めた。だが、つながらないらしい。何度もかけ直す。 俺も国木田に再度連絡してみる。だがやはりつながらない。 続いて谷口につなげてみたところ――つながった。 『よー、キョンか? なんかあったのか?』 「おい今どこにいるんだ!?」 『おいおい、そんなに焦ってどうしたんだよ。お、そうか、ようやく知ったのか。 ならば聞いて驚け! 今朝比奈さんと一緒に遊園地に来ているのさ! ただ残念ながら国木田もいるけどな』 キョンからの電話かい?という国木田の声が流れてきた。二人ともそんなところにのこのこと出かけているじゃねえよ…… 俺ははっと思い出した。さっきの朝比奈さんの仕掛けフラッシュバック集の中にジェットコースターに仕掛けを しているものがあったことを思い出す。まずい、やばい! 俺はできるだけ事情を複雑化させないよう端的に説明する。 「いいか良く聞けよ! お前らに危険が迫っているんだ。今すぐ安全そうな場所――できるだけ何もない場所に 移動しろ。ああそうだ、特にジェットコースターには絶対に乗るな!」 『今更言ってもおせーよ。今乗っている最中だ。もう出発しちまったしな』 ……遅かった。しかも隣には国木田も乗っている。このままでは二人とも死んでしまう。 いやまだ間に合うはずだ。そうに決まっている。 「何でも良いから降りろ! 頭がおかしくなったフリでもしろ! このままだとお前と国木田が死んじまう!」 『ああん? あの涼宮のヨタ話を信じているのか? あいつが言ってから数日間何にもおきてねーだろうが。 偶然だったんだよ偶然。今更そんなくらい話を引きずっていてたまるかってんだ』 くっそ。話を聞きやしねぇ。そうだ朝比奈さんはどうしたんだ? 一緒に乗っているのか? 『いやー、一緒に並んでいたんだけどよぉ。途中で怖くなっちまったみたいでな。乗らずに下で待っているってさ』 俺が格好良く乗りこなして見せてやる。そうすりゃ、朝比奈さんも俺に対して小さな好意を抱き――』 もうこれはビンゴだろう。朝比奈さんが抱いているのは好意じゃなくて殺意なんだよ。 だが、もう遅かった。ほどなくして、谷口の少々緊張気味の声が聞こえてくる。 『さてもうすぐ絶叫タイムの始まりだ。おお、せっかくだからキョンも臨場感が味わえるように このまま携帯をつなぎっぱなしにしておいてやるよ。俺と一緒に楽しんでくれ』 楽しめるか。死の瞬間なんて! だが、俺の言葉も届かず、ジェットコースターが加速を開始したらしい。激しくぶつかる風の音と 多数の悲鳴が聞こえてくる。谷口と国木田も喜びの入り交じった悲鳴も聞こえてきた。 だが、すぐに別の悲鳴になる。 助けてくれ! おいなんだこれ! 突然浮き上がって! た、谷口助けて――うあっ! 国木田! おい――うおああああああああ! ………… ………… ………… がちゃん。 携帯電話が何かがぶつかった音が聞こえる。それでも通話は切れることなく続く。 ――大変だ! ジェットコースターから誰かが落ちたぞ! ――救急車を呼べ! ――なんなのよこれ! ――ダメだもう! 俺は聞くに堪えられなくなり、こっちから通話を終えた。俺の会話を聞いていたハルヒも絶望に染まった顔で こっちを見つめている。 「谷口と国木田はもうダメだ……だが、まだ鶴屋さんがいる」 何でも良いから俺は気持ちを切り替えたかった。まだ助けられる人がいると、二人の死をごまかしたかったのかも知れない。 俺はすぐに携帯で鶴屋さんにかけてみる。最初は電波すら届かなかったが、ほどなくしてようやくつながった。 『やあキョンくんっ。なんかあったのかいっ?』 「落ち着いて聞いてください。いいですか落ち着いて――」 『落ち着くのはキョンくんの方じゃないのかいっ? 声が震えてしまっているよっ。一回深呼吸してみるっさ』 鶴屋さんの指摘に、俺は一旦冷静さを取り戻す時間を与えてもらえた。そうだ、落ち着いて話さなければ、 相手に伝わるものも伝わらない。 俺はまず確定した事実を伝える。 「部長が亡くなりました。交通事故で俺たちの目の前で。あと谷口と国木田も多分ダメだと思います……」 『そう……』 鶴屋さんの声はどこか悲しげで、その一方寂しげに聞こえた。一緒にガタンガタンと列車の走る音も聞こえる。 振動音から見て鶴屋さんは今列車に乗っているのか? 「次は鶴屋さんの可能性が高いんです。今電車の中ですか? すぐに安全な場所に移動してください。 俺たちもすぐに向かいますから」 『今は電車の中だよ。誰もいない最後尾の車輌に座っている。あはっ、これは狙うなら絶好の機会だねっ』 その口調に俺はぎょっとした。鶴屋さん、あなたまさか…… 『そうさ。もうすぐあたしの前にも現れるんだよね? その死神――みくるがさ』 「……気が付いていたんですか?」 『はっきりとじゃないよ。でもあの子は嘘が凄く下手だからねっ。会ってすぐにどこか普通の人とは違うって事は わかったのさ。でも、みくるがあたしに言わないならこっちから聞くようなことはしなかった。そんな必要もないから』 ゴーッと対向列車が通り過ぎたんだろうか、携帯電話から大きな風キリ音が聞こえてくる。 鶴屋さんは続ける。 『でもこの一週間はさらにみくるの様子は変わった。本当に心のそこから悩んでいるみたいだったよっ。 同時にいっぱい人が死んだ。直感的にわかったね、みくるがこの事件に関与しているって事が。 でもさすがにあたしもこれ以上黙ってはおけなくなったよ。だから、みくるに直接あってケリを付けるつもりっさ』 鶴屋さん……あなたって人は……! だが、今の朝比奈さんの行動は自分の意思関係ない可能性が高い。鶴屋さんの説得に耳を貸すとは思えない。 『……おっと、来たようだよ。お出迎えが』 「鶴屋さん待ってください! せめて居場所を――」 『じゃあ、また学校でね――』 ツーツーツーツー…… 電話がとぎれる。俺は即座にリダイヤルしたが、電源を落としてしまったのかもう通じない。 俺はしばらく呆然と立ちつくしていた。鶴屋さんは理解はしていないが、朝比奈さんが犯人だと気づいていた。 そして、今直接会ってこれ以上の惨劇を食い止めようとしている…… 「……あたしのせいよ」 その会話を聞き取っていたのだろう、ハルヒが地面に座り込んだ。呆然と真っ青な顔を浮かべている。 ハルヒは続ける。 「あたしがあんたに予知能力なんか与えたからこんな事態になったのよ。そんなことをしなければこんな事態には……」 「それは違うぞハルヒ」 俺はハルヒの肩をぐっと持って立ち上がらせた。 そして次に顔を持って、 「いいか? お前が予知能力をくれたおかげで、あの事故を免れることができたんだ。確かに、結局死んだ人ばかりだが、 それでも鶴屋さんはまだ生きている。お前は鶴屋さんに生き延びるチャンスを与えたんだよ! だから、絶対に悪いことなんてしていない! まだ助けられる! 意味の無かったことにしないために 鶴屋さんを助けるんだよ!」 「……でもどうすればいいのよっ!」 ハルヒのヒステリックな声。俺は頭をフル回転させ、 「とりあえず鶴屋さんの場所を確認してくれ。そして、そこに俺とお前を移動させるんだ。SFとかであるワープみたいにな。 それくらいできるんだろ?」 「場所を探せるけど、移動は――可能だけど確実に情報統合思念体に気づかれるわ! 長距離だったら 時間平面上の痕跡は凄く大きくなるから……」 「そんなことはもうどうでもいいんだよ! ばれてリセット上等だ!」 俺の言葉に、ハルヒははっと息を呑んだ。俺はまくし立てるように続ける。 「俺はもうキレたぞ。鶴屋さんをを助ける。今はそれ以外は考えねえ。例えその結果情報統合思念体が 世界を滅ぼしても、朝比奈さんを説得する方を最優先にしたい。そうすれば例えリセットになっても、 次にやり直すときに対応策がわかるってもんだ。ただ待っているだけじゃ何にも変わらないんだよ! この世界がダメなら、せめて次にいかせる結果が欲しいんだ!」 「…………」 ハルヒは俺の言葉をしばらく黙って聞いていたが、やがてふんっと鼻を鳴らしいつも表情に戻ると、 「わかった。あんたの決意にかけてみるわ。でもみくるちゃんをどうやってつもりなのよ?」 「……それは会ってからときに感じたままを言うだけさ」 ◇◇◇◇ 「朝比奈さんっ!」 「――――っ!」 予想外にかけられた言葉に、見慣れた北高のセーラ服に身を包んだ朝比奈さんは声にならない悲鳴を上げた。 俺とハルヒがワープした先は、俺たちのいた場所からかなり離れた線路だった。ちょうど駅と駅の中間に位置し、 辺りには田んぼと点在する民家しかない。人工的な雑音は何も聞こえず、ただ風が草をなでる音だけが耳に広がる。 状況は最悪に近かった。列車に乗っていたはずの鶴屋さんはなぜか線路の横で横たわり、すぐそばには 大きなナイフを持った朝比奈さんがまさにとどめを刺そうとしている。 「ど……どうして……!?」 突然ここに現れた俺とハルヒに、朝比奈さんは理解できないと困惑の表所を浮かべながら後ずさる。 そばには鶴屋さんがいるが、胸が上下しているところを見るとまだ生きているみたいだ。 ただ和服調の服装がぼろぼろになり、全身土まみれになっていることとさっきまで列車に乗っていたはずなのに 停車駅でもないこんな場所で横たわっていることから判断して、列車から朝比奈さんが突き落としたのか? いや、実際に手は加えず、【偶然】転落するように細工が仕掛けられていたんだろう。 俺とハルヒは叫ぶ。 「朝比奈さん、もうやめてください! これ以上人を殺めるあなたの姿は見たくありません」 「そうよみくるちゃん! もうやめて!」 「できません!」 朝比奈さんは即答した。あまりに歯切れのいい回答に俺は驚く。 逆らえないようになっているのか、それともそれほどまでに固い決意で望んでいることなのか。 どっちにしたって構わない。今は朝比奈さんと止めて鶴屋さんを救えりゃなんでもいい。 俺はやぶれかぶれで知っている情報を出しまくる。 「俺は知っています。朝比奈さんが未来からやって来たエージェントであることも、たまに送られてくる指令には 絶対に逆らえないものがあるって事も。それをふまえた上でお願いしているんです! もうこんなことは!」 俺の言葉に、朝比奈さんは仰天し、 「ど、どうしてそんなこと知っているんですか!? それに突然ここに現れたり、以前も死ぬはずだった人を 助けたりして、キョンくんはいったい何なんですか!?」 「俺のことはいいんです! 説明して止めてくれるなら、後でいくらでも説明します!」 「でも、キョンくんが何者でもあたしは自分の任務からは逃れられません! やるしかないんです!」 「理由は何ですか!? 一体どうしてこんな事をするひつようがあるんですか!」 俺の問いかけに、朝比奈さんはうつむいて、 「鶴屋さんはあの事故で死ぬはずだったからです。いえ、鶴屋さんだけではなく書道部の部員やキョンくんの お友達たちも。それが既定事項なんです。絶対に変えることのできない事。これを変更してしまえば あたしたちの未来はなくなってしまう。他に選択肢はありません」 「なぜですか!? 鶴屋さんたちが一体何をするって言うんですか!?」 朝比奈さんはちらりと息も絶え絶えの鶴屋さんの方に視線を向けると、 「鶴屋さんは鶴屋家という大きな勢力の次期当主です。そして、やがて機関と呼ばれる涼宮さんを監視する 組織を作ります。その存在はあたしたちと大きく敵対することになるんです。車にはねられるはずだった人も そうでした。彼も機関で大きな役割を果たすことになります」 機関――まさか超能力者がいないこの世界でその名を聞くことになるとは思わなかった。 鶴屋さんが機関を作る? 確かに俺の世界の古泉は鶴屋家は機関に関わりがあると言っていた。 しかし、なぜ機関を潰す必要があるんだ? 俺の世界では仲良くとはいかないが、共存はしていたはずだ。 いや待て。朝比奈さんの言う機関と俺の知っているそれでは決定的な違いがある。それは超能力者の存在、 つまり神人を倒すという役割。未来人にはそれができないから、機関にやってもらうしかなく、潰すことはできなかった。 だがここでは違う。消すべき閉鎖空間も倒すべき神人もその役割を持つ超能力者もいない。 「機関は情報統合思念体と結託して涼宮さんが能力を自覚した場合、涼宮さんを排除する取り決めを持っていました。 でも、あたしたち未来には涼宮さんは絶対に必要だったんです。細かい点ではあたしも知らされていません。 ですが、涼宮さんは絶えずあたしたちの未来への道を引き続けました。だから、排除されては困るんです。 そう言った思想を持つ組織もあってはならないんです、あたしたちにとっては」 朝比奈さんの言葉に、俺は三者竦みという言葉を思い出していた。完全ではないが、情報統合思念体・機関・未来…… これらは大きな力のバランスを取りつつ成り立っていたのが俺の世界だった。どれか一つでもかければ バランスが崩壊し、どこかが暴走する。前回は機関で、今回は未来――そういうことか。 「ですが、不幸な事故――あのトレーラーと軽トラックの接触事故で鶴屋さんは亡くなるはずでした。 実はこれも未来の別の人が起こしたものなんです。あそこで絶対に鶴屋さんに死んでもらわないとダメだったんです。 その結果、機関の誕生は大幅に遅れ勢力の小さいものになり、あたしたち未来は機関に対して常に優位性を保持できたんです。 なのに……キョンくんがそれを阻止しました。あの時TPDD何度もやり直したんです。でもキョンくんは絶対に止めました。 やむえずあたしたちは方針を変えて、つじつま合わせをすることにしたんです。別の理由で死んでも同じ事でしたから。 それが今回のあたしが未来から受けた指令。偶然に見せかけて、既定事項で死ぬはずだった人を全て抹殺すること。 訳がわかりません。どうして起こることが事前に予想できたんですか? TPDDも持っていないはずなのに!」 「……あたしが予知能力を与えていたからよ。二回限りだけどね」 ここに来てハルヒが口を開いた。この言葉に朝比奈さんは唖然と口を開け、 「涼宮さん……自分の能力を自覚して……」 「そうよ。あたしはあたしがどういう存在なのか知っているわ。全部は知らないけど、それが原因で 情報統合思念体から疎ましく思われていることも理解している。キョンはあたしが予防措置のとして持たせた 二回の予知能力を使ってその既定事項とやらを回避させたのよ。最初は自動車にはねられるはずだった男子生徒。 次にあのトレーラーとの大きな事故をね」 「……そんな……そんな事って……じゃあもう……」 ふるふると朝比奈さんは首を振った。さっきまでの話だと朝比奈さんもハルヒの力の自覚は 情報統合思念体が地球を滅亡させるきっかけとなると理解しているようだ。 ハルヒはきっと朝比奈さんに鋭い視線を向けると、 「みくるちゃん。あたしは本音が聞きたいの。こんなことしたいのかどうかって。安心して。 みくるちゃんにかけられていた言葉の制限はさっきあたしが全部解除したわ。好きにしゃべれるはずよ」 「えっ……あ、ああ……」 こいつ禁則事項を解除していたのか。さすがだよ。 ハルヒは一歩前に踏み出し言う。 「宣言するわ。あたしは絶対に諦めない。情報統合思念体だろうがなんだろうが、あたしは決して屈しない。 試行錯誤も模索でも何でもやって絶対に進むべき道を作り出してやるつもりよ! 未来の都合なんて知ったこっちゃないわ。 あたしはあたしが思うように生きていく。その時みくるちゃんもそばにいて欲しいのよ!」 俺もハルヒの横に立ち、 「朝比奈さん! あなたは書道部での活動は楽しかったって言いましたよね! あれは嘘じゃなかったはずです! それに鶴屋さんに対しての感謝の言葉もです! だから拒否してください。無理ならハルヒが何とかしてくれます!」 俺の言葉につられたのか、鶴屋さんはすっと手を朝比奈さんに伸ばし、 「みくる……一緒に行こう……みんな待っていてくれているんだよっ……」 三人の言葉に朝比奈さんは半分涙目になっていた。 ――しかし、それでも首を縦には振らなかった。 「あたしは99%今回の任務は嫌でした。あたしは鶴屋さんに心の底から感謝していたし、 書道部での活動も凄く楽しくてそのまま何も起こらずに続いていけばいいとも思っていました。 でも残り1%の自分は違うんです。やらなければあたしとあたしの未来が消えてしまう。そんなのはイヤです。 嫌なんです! だからこうするんですっ!」 朝比奈さんはナイフを振り上げる。ダメだ朝比奈さん! やめてくれ―― 飛び散る鮮血。俺はその現実に激しいめまいを覚えた。 胸にねじ込まれたナイフが北高のセーラー服を汚し、ふらふらと鶴屋さんのそばに倒れ込む。 ――そう朝比奈さんは自分の胸をナイフで突き刺したのだ。なんでだ!? 「朝比奈さん!」 「みくるちゃん!」 俺とハルヒは倒れ込んだ朝比奈さんの元に駆け寄る。胸からは多量の出血が始まり、口からも漏れ始めていた。 「みくるっ……みくるっ……!」 鶴屋さんも酷い重傷の身体を引きずりながら、朝比奈さんにすがりつく。 何でこんな事をしたんですか!? 朝比奈さんは俺たち三人にニコリと力なく微笑み、 「これで……残りの1%の自分の消せ――ました。これでいいんです……やっと99%の自分が100%になれたから……」 「こんなの違う! こんなの間違っている! あたしは認めない! 絶対に死なせない!」 そう言ってハルヒは朝比奈さんを治癒させるべく手をかざして…… それと同時だった。突然激しい地鳴りが始まり、地面どころか空間も歪み始める。 これってまさか!? ハルヒはがっくりと肩を落としていった。その目にはいつの間にか涙が浮かんでいる。 「情報統合思念体の……排除行動が始まったわ……」 「そうか……ちくしょうここに来て……!」 俺は地面を拳で殴りつけた。覚悟の上だったはずだ。でも、こんなところで終わりなんてあんまりじゃねえか…… ハルヒは袖で涙を振り払うと、すっと立ち上がり、 「リセットするわ。キョン、みくるちゃんと鶴屋さんをお願い……」 そう言って目を閉じて情報操作を開始する。 朝比奈さんと鶴屋さんは予期せぬ状況に不安げな表情を浮かべ、 「なんなんですか……どうか……したんですか……?」 「キョンくん……これは……」 俺はそんな二人を抱き寄せると、 「大丈夫ですよ。もうすぐ何もかも無くなります。そして、次に目を覚ましたときはきっとみんな平穏無事に 学校ライフを満喫しています。俺が保証しますよ」 朝比奈さんは俺の言葉に目に涙を浮かべて、 「そっかぁ……次に目を覚ましたら、あたしみんなとずっと友達でいられるんですね……ふふっ……」 そうですよ。あなたはSOS団のマスコットキャラであり、俺の癒しの存在です。他のステータスなんて入りません。 未来人であることを押しつけてくる奴がいたら、そいつは窓から投げ捨ててやります。 と、ここで鶴屋さんがすっと頬に手を当ててきて、 「キョンくんは……ちょっとハルにゃんやみくるとも違うね……見ている方向が違う……っさ。 キミの瞳の中には……もっとずっと先の明るい未来が見えている気がするよっ……。でもハルにゃんはまだ迷っている…… キョンくん、きちんと面倒……見てあげないと駄目にょろよ……」 ええわかっています。あなたはSOS団名誉顧問。あとハルヒのことは任せてください。 あいつは俺がきっちりと導きますから。 やがて地面の振動を飲み込むように、世界が暗転し始める。 その時、ふと気が付いた。数百メートル離れた先に立っている北高のセーラー服を着た一人の少女。 長門有希だ。 きっとパトロンの命令でここに駆けつけたのだろう。 待ってろ長門、次はお前をこっち側に引き入れてやるからな―― ……… …… … ◇◇◇◇ 次に気が付いたときにはあの灰色の教室――時間平面の狭間にいた。 俺はだらんと力なく壁に寄りかかっている。 すぐ隣ではハルヒが同じように呆然と俺に頭を寄せていた。そして、つぶやくように言う。 「……疲れた」 「そうだな……」 「……みくるちゃんとはあんまり遊べなかったな……」 「次はきっとできるさ……」 俺たちはそのまま一眠りすることにした。さすがに色々あり過ぎて今回もくたびれちまったからな。 意識が闇に落ちていく中、俺はふと考える。 機関と未来人の均衡関係。やはりこの二つは並立して存在してこそ成り立つものなんだ。 そうなるとあと残りは一つ。全ての頂点に位置し、ハルヒの力の自覚を決して認めない最大の敵。 奴らを何とかすれば、きっとバランスの取れた世界が切り開けるはずだ―― 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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「…私キョンが好き。好きなのよ!」 涼宮はいきなり抱きついてきた。 俺はいきなりのことに驚きそのまま後ろに倒れてしまった。 まずい、かなり動揺している。それに頭痛が酷い。 告白された瞬間なにかが頭に流れ込むような。 しかし、この状況はどうだろう。 涼宮は俺の眼からみても十分に可愛い。 いや滅茶苦茶美少女だ。そんな子に告白されて、押し倒されてみろ。 佐々木、すまん。 「…よく解らんが、なんで俺なんだ?」 と俺は混乱する頭を少しでも、落ち着かせようと涼宮を離した。 「あんたじゃなきゃ駄目なの…」 俯いた顔を見ると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。 だけど、今の俺にはどうしてやることも出来ない。 「すまん…。俺には涼宮を想ってやることは出来ないんだ。 俺には今彼女がいるんだ。だから、すまん。」 俺の目の前にいる女の子は、この世に絶望したかのような顔をしていた。 震える口を無理矢理開き、消え入りそうな声で喋り始めた。 「…か…彼女って…、もしかして佐々木さん…?」 あぁ、そうだがなんで知っているんだ?高校も違うし、面識はないはずだが。 俺がそういうと、涼宮はいきなり立ち上がり、部屋を飛び出していった。 俺が唖然としていると。 「キョンくん、ハルにゃん泣いてたよ?喧嘩したの?」 妹がやってきたが、俺は妹にお前にはまだはやい!といって部屋から追い出した。 しかし、どうしたもんだろうね。 学校に行きづらいじゃないか。 翌日、涼宮ハルヒは休んでいた。 ほっと胸を撫で下ろし俺は席に着いた。明日は土曜日、佐々木とデートだ。 何か最近は色々ありすぎたが、まぁ明日は忘れて楽しもう。 この日、特に変わったことはなかったが。 帰り際、古泉が遠めから俺を見ていた気がする。 体に包帯をかなり巻いていたのは気のせいだろうね。 そして、土曜日になった。俺はいつもより早く起きれた為、 久しぶりの朝食とコーヒーを堪能していた。 妹が眠そうな目を擦りながら、 「キョンくんが早起きするなんてめずらしいー」 といっていたのは聞き間違いではない。 俺はこいつに毎朝叩きおこされているのである。 でも、そんな妹がなついてくれていることは兄にとっては悪い気はしないのである。 俺はいつものように自転車で駅前に向かった。あれ、いつものように? あぁ、いつもの待ち合わせ場所に。ってあれ…違和感があるな。 そんな変な違和感を抱きつつ、待ち合わせである喫茶店に入った俺は。 佐々木を見つけるや、適当に挨拶を交わし。また俺の奢りか、と言った。 佐々木は苦笑いをしていたがいつもは100Wの笑顔と怒った顔で、 「遅い!罰金!」 と言っていたような気がするのは気のせいだろう。そう気のせいだ。 俺が考え事をしていると、佐々木が隣に座ってきて手を握ってきた。 「せっかくのデートなのに難しい顔をしているなんて失礼だぞ」 と佐々木は微笑んでいた。思わずニヤケてしまうね。 ニヤケていた俺の顔が引きつるのには時間も掛からなかった。 何故なら、俺の視界の端にSOS団の4人が映ったからだ。 「よ、よぅ」 少し驚いた俺は適当な挨拶をいった。 俺がここに来たことに驚いていたようだが、一人だけ無表情な奴がいた。 涼宮ハルヒだ。 気まずい雰囲気を崩したのは、この男の一声だった。 「こんなところで会うとは、奇遇ですね」 古泉だ、ところどころ体に傷が見受けられるのは気のせいじゃないだろう。 俺が相槌を打つと古泉は佐々木のほうを見て、 「彼を少々お借りしてもよろしいですか?」 何故か佐々木も驚いた顔をしていたが、いいですよ。 と答えていた。 こうして俺はせっかくのデートの日に男二人で散歩を始めたのである。 「で、なんだ用があるじゃないのか?」 と古泉に話を振った。 「それなんですが、実は今日はいつもSOS団の活動の日でしてね。 いつもこの駅前に集合して、あの喫茶店に行くんですよ。 今日はですね、あなたもご覧になられたかと思うのですが。 彼女、いや涼宮さんを元気づけようとしていたのですよ。」 まぁ俺にも原因はあるみたいだし、いや俺が原因だろうね。 だから少しは話を聞いてやってもいいと思っていたんだ。 「そうですか、助かります。実は…彼女は心を閉ざそうとしています」 そりゃまたどうしてそんなことに? 「やはりあなたはお気付きにはならなかったのですか。 確か、先日あなたの家に彼女が伺ったはずです。 そこでなにがあったか詳しくは僕は知りませんが、 あの時から彼女はあのような状態になっています」 あぁ、俺が振ったからそうなったんだなぁと思ったが口には出さなかった。 黙って聞いていると古泉が続けて話し始めた。 「そうですか、いやまさかそんなことになっているとは思っていなかったので。 失礼ですがあなたは本当に全てをお忘れですか?」 あぁ、お前たちのことはなに一つ覚えてない。 そういった俺は肩を竦めて答えた。 「そうですか、それなら僕達以外のことは覚えているのでしょうか」 そういわれてみると、確かに他に解らない、知らないってことはないな。っておい、 なんでお前たちの事だけすっぽりとなくなったかのように俺の記憶からないんだ。 「それです。先日長門さんからお話があったと思いますが、 あなたは記憶を書き換えられた可能性が高いです。 いや、書き換えられたといっていいでしょう。」 そりゃまたなんで俺なんかの記憶を弄る必要があったのか聞いてみたいね。 古泉は更に真剣さを増した顔つきになった。 「それは、あなたが涼宮さんの鍵となる存在故です。 涼宮さんにはあなたという存在が必要不可欠になってしまっているようです」 そうか、そう言われればあの態度も、言葉も、現状も納得できるが。 高々恋愛にここまで大げさになる必要があるのか? 「それがあるんです。涼宮さんには…そう、世界を変えることができる力があるのです。 それも望んだだけでね」 へぇ…そりゃすごい。いや凄すぎるというか度を越えている。 「僕も嘘であると思いたいのですが、残念ながら事実なのです。 実は僕も、彼女の願いのおかげで力を得た人間なんです。 それを望んでない人間でもね。 これまで幾度も彼女が作り出す閉鎖空間に入って我々が呼ぶ神人…失礼、 僕はある機関に所属していましてね。 御察しの通り僕と同じ能力を持った方々を軸としていますが。 その神人というのは機関が付けた名称なのですが、 破壊を繰り返す涼宮さんのストレス発散の為に生み出される巨人です。 僕らはそこでその巨人を倒して閉鎖空間を消滅させなければいけない、 という使命を与えられてしまったのです。 ですが、あなたが記憶を失うまでは彼女の精神は安定していたのです。 今までの彼女からすれば驚くほどに。それも一重にあなたのおかげなんです。 あなたのおかげで僕達も、世界も救われていたのです。」 俺がそんな大役を勤めていたのか、だが俺はごく普通の平凡な一般人だ。 それは間違いない。俺はお前みたいに変な属性なんぞもっていないはずだ。 「そうです、確かにあなたは一般人です。だがしかし、涼宮さんにとっては あなたは一般人ではない」 なんでそうなるんだ?今の俺にはどうしてやることもできないぞ。 記憶を弄られているんじゃしょうがないだろ、と俺は投げやりに返した。 「しかし、事態はそうもいってられない状態なのです。涼宮さんはあなたのいない 世界などいらないと強く願ってしまうかもしれない。そうなったら最後です。 もう、誰にもこの世界は救えません。僕達もお手上げですね」 そういうと古泉は両手を広げ方を竦め、微笑を浮かべた。 「少し考えさせてくれ」 そういうと俺は、喫茶店に戻った。 後ろで古泉が携帯でなにか話していたが、俺には関係ないだろう。 喫茶店に戻るとなにやら険悪なムードが漂っていたのである。 佐々木を睨みつけるような視線を浴びせている長門有季と、 もう一人の愛らしい女性が朝比奈さんだろうか。 涼宮ハルヒはぼーと俯いているだけだった。 佐々木のほうに眼をやると、佐々木は困った表情を浮かべていた。 俺は佐々木の手を取り、料金を支払い店を後にした。 涼宮ハルヒが俺を眼で追っておいたのは気のせいだろう。 「いいのかい、彼女達と話さなくて」 佐々木は俺の表情を伺いながら話しかけているようだった。 別に構わないさ、なにやら俺のことを知っているみたいだったが。 佐々木は、実は私もなんだと言い始めた。 「彼女達のことを知っているようで知らない。おかしいだろ?」 俺とまったく一緒だな。世の中不思議なことがあるもんだな。 俺は佐々木の手を強く握り、歩きを早めた。 その後、適当に買い物をしたり、食事をしたりした。 佐々木は幸せそうな顔をしていた。 俺はどんな顔をしていたんだろうね、 たまに佐々木が心配そうな顔をして覗き込んできた。 辺りも暗くなってきた頃、俺達は駅前まで戻ってきていた。 佐々木に、気をつけてと一言声をかけそこから離れようとしたその時、 後ろから抱きしめられていた。 おい、佐々木。これじゃ帰れないぞ。 「…キョン。今日は一人でいたくないんだ。 こんなこと私がいうのも変だと思うかもしれない。 だけど、不安なんだ。君がいなくなりそうで」 佐々木の顔を見ると、瞳が潤んでいた。 しかし、何故か俺は言葉を失っていた。なにも言うことが出来なかった。 「今からキョンの家にお邪魔してもいいかな」 佐々木が上眼使いで俺を見上げた。やめろ、それは反則だ。 俺は断ることができなく、あぁと答えていた。 でも、彼女の頼みをむざむざ断る必要もないだろうと自分に 言い聞かせていた。 佐々木を自転車の後ろに乗せ、俺は家を目指し自転車をこぎ始めた。 家につくまでの間、佐々木は終始無言で俺の背中に顔を埋めていた。 家に着くと、妹と久しぶりに会う佐々木だったが、妹は大喜びだった。 両親にも久しぶりに会ったことで、会話もはずみ一緒に夕食を取る事になった。 食卓での会話で、おふくろが佐々木さん今日泊まっていったら? 夜も遅いし、などと言い出した。佐々木は笑顔でお邪魔でなければと答えていた。 やれやれ。 風呂から出て部屋にいくと、佐々木が俺の部屋にいた。 少し湿った髪が妙に色っぽい。こんな可愛い子が俺の彼女とは。 別に惚気ているわけじゃないぞ。 「遅かったね、キョン」 微笑む佐々木を見ていると、何故か切なくなるのは何でだろう。 佐々木に、もう時間も遅いから寝たらどうだ?というと。 「君は彼女が目の前にいるのに、なにもしないつもりかい?」 佐々木さんいつからそんなに大胆になったんですか。 「ふふっ私は昔から変わらないよ。 そうだね、変わったといえばキョンには素直になんでも言えるようになったかな。」 そういうと、向日葵のような笑顔で笑いかけてきた、頬をほのかの赤く染めて。 気付いたら俺は佐々木を抱きしめていた。 「…キョン」 甘い声を耳元に囁かれた俺は少し見つめ合った後、佐々木に口付けをした。 断言しよう、それ以上はしてない。する気になれなかった。 何故だろう。古泉の話を聞いたからか、いや涼宮ハルヒの姿を見たからだろうか。 胸を締め付けるこの何かが俺を苦しめる。 隣に寝ていた佐々木が、 「…苦しいのかい、キョン。大丈夫私が側にいるから」 そういうと俺の手を握って体を寄せてきた。 今の俺はそれだけで十分だった。安心したのか、意識が薄れてきた。 意識が途絶える前に佐々木が、 「ごめんね」 と言っていた気がした。