約 173,352 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2544.html
触手と美咲さん こんにちは。フブキタイプの美咲です。主である先生の神姫をさせていただいています。 今日も今日とて、広大なテーブルの上を手磨きで磨いております。このテーブルは本当に広く、バトルフィールドとして使用できそうなほどです。バトルフィールド・テーブル。……響きがもう不人気確定ですね。 このテーブル、実はそれほど汚れていませんし、毎日磨くほど汚れもしないのです。それでも私が磨くのは、私が起動したての時に先生に『私にお手伝いできることはありますか?』と聞くと『いいえ、何も。あなたは何もしなくても大丈夫ですよ、美咲さん』と言われたのです。その時、私は、主である先生のお役に立つことのできない不甲斐ない駄目神姫なのだと絶望すると、『そ、そんなに落ち込まないでください! ……そ、そうだ、このテーブル、このテーブルを磨いてください! それはもう、顔が写るが如くピカピカに!』といった具合で、先生から初めて仰せ付けられたご命令なんです。 あの時は、先生が私に求めるものが何なのかまだ理解しておらず、とにかく役に立たなくてはと必死だったのです。今では『何もしなくていい』と言われたらお言い付け通りきちんと何もせず待機できます。 ……何もしないのに、きちんと、というのはおかしいですね。 「みっさっきっさぁーん♪」 どうやら、先生がご帰宅なされたようです。 「はい、何のご用でしょうか」 「本日もまた、美咲さんの為に仕事時間を削って新たなる装備を開発いたしました!」 仕事時間は削らないでください。いや、先生のなさるお仕事に特定の拘束時間がないのは重々承知なのですが、少しは会社側の事も慮ってあげてください。 「それは、どんな装備なのですか?」 ちょっとドキドキしながら、先生に尋ねます。私のため、という言葉に胸が高鳴ります。 「はい。この装備、その名は『怪しい触手EX』!」 私の胸の高鳴りを返してください。 先生の手の中には、うねうねと怪しくうねる物体。あれを装備と呼んでいいのでしょうか。装着されてないのにあんなに動いています。おかしいです。 というか、触手って……やらしいイメージしかないじゃないですか! 「それをまさか、私に装備しろと?」 「はい、そうですが」 「慎んでお断り申し上げます」 いくら先生の頼みとはいえ、あんな怪しさ満載っぽい装備を着けるなんて、無理です。あ、名前に既に怪しいってついてました。 すると、先生は私の手を取り、真摯な表情をしました。 「この装備は、美咲さんの戦闘データや行動パターン等を参照して、美咲さんの動きにこと細やかに対応します。ですから、逆にいえば美咲さんにしかフィットしない、美咲さん専用装備なのです。扱いは少々難しいかも知れませんが、美咲さんなら使いこなせると信じていますよ……」 「先生……」 で、結局装備してしまう私を、誰が責められましょうか。だって、『信じていますよ』なんて囁かれるように言われたら、是も非もないじゃないですか。それとも、私が軽い女なだけなのですか? まあ、装備するだけなら、まだいいと言えましょう。ですが状況はさらに悪いです。先生に言われるまま流されるまま、気が付けば行き付けの神姫センター。先生はこの神姫センターではかなりの有名人なので、自然と視線が集まります。 「おいみろよあのフブキ。触手リアルwwwキモwww」「さすが先生wwwやる事パネェwww」「うわぁ、動いてる……」「触手フブキハァハァ……」「あの触手でセルフ触手プレイですねわかります」 ……先生、帰りましょう。 「さて、対戦相手を探しましょう」 「やるんですか! この装備で!」 「もちろんです。でなければわざわざ神姫センターに足を運ぶこともありませんよ、美咲さん」 確かに、新装備といえばイコールで対戦というのが今までの流れでしたが、まさかこんな武装とはとても呼びたくないイロモノな代物でもバトルすることになるとは思いませんでした。 「触手ですと!? そう聞いては黙っていられませんですね!」 シュバッ! と、私たちのいる待ち合い席に神姫が一体やってきました。その子はマリーセレスタイプです。 「この地区一の触手使い、マリーセレスのステルヴィアがお相手致すですの!」 ババーン、といった感じで、ステルヴィアさんは高らかに宣言します。その腰には、恐らくカスタム品と思われる、通常のマリーセレスタイプのよりも長い触手がうねうねしてます。正直怖いです。 「というわけで、お相手お願いします先生。あ、僕はカシワギ・ケイゴと申します。どうも初めまして」 「おや、これはこれはどうもご丁寧に」 先生とケイゴさん(ぽっちゃり系)が固く握手をし、私たちはポットへ運び込まれていきます。 「では、いつもの如く、試合開始直前になってからの装備説明をさせていただきます」 「もう少し事前に、できれば自宅にいる時点でしていただきたいです」 しれっと言い放つ先生に、私もしれっと返します。ですが無視された模様。 「今回の装備であるこの『怪しい触手EX』ですが、なんと美咲さんの意志にあわせて動いてくれるという、画期的な装備なのです」 「……画期的? 意志に合わせて動くというなら、プチマスィーンズもそうなのではないでしょうか」 私が言うと、先生は指を左右に振ります。 「いいえ、あれらとは一線を画します。美咲さんの意識、無意識、思考パターン、防衛本能等々、とにかく美咲さんの脳内を忠実に反映致します」 「え゛」 はっ、と振り返ると、ホウキを持って掃き掃除する触手、雑巾で拭き掃除をする触手、神姫センターの出口に向おうとする触手、先生にハートを飛ばす触手等、確かに私の頭の中をトレースしている。 「犬の尻尾の触手バージョンですね」 「タチが悪すぎます! 私の思考がダダ漏れじゃないですか!」 先生にハートを飛ばす触手を恥ずかしさから必死に絞り上げますが、一向に堪える様子がありません。く、所詮パーツと言うわけですか。 「でもそれなら、私じゃなくても操作可能じゃないですか?」 ハートを飛ばす触手を玉結びにしますが、自動的にシュルシュル解けていきます。忌々しい! 「いえいえ。普通の神姫であれば、自分の意識、無意識を制御できずに暴走してしまいますよ。この装備は、自我を、アイデンティティーというものを確率した神姫でなければ制御できません」 「……つまり、どういうことですか?」 先生の言ってることはいまいち要領を得ません。自我やアイデンティティーなら、私だけでなく、どんな神姫も持っているはずです。 「では、簡単に一つ聞きましょう。“あなたは何ですか?”」 先生の質問に、思わず小首を傾げてしまいます。私に追随して二本の触手もくいっと曲がります。 「それは……難しい質問ですね」 自分が何なのか。どの観点から答えればよいのか。武装神姫の中での何かであるなら、私はフブキタイプであると答えられます。私単体としての何なのかであるなら、主である先生の神姫、美咲と名乗れます。ですが、そういう限定的な条件無しの、そう、この世界に存在する存在としての何なのか、と問われているとしたら……私は、どう答えればよいのか。 ……自分でも何を言ってるのか、わからなくなってきました。 「まあ、そういう事なのです」 先生のお言葉に、意識が現実に引き戻されます。と同時に、触手も再び活動を始めました。触手達もどうやら私と一緒に深い思考に陥っていたらしく、一切の動きを停止していたようです。 「……やはり、わかりません。どういうことですか?」 「ま、小難しい話は後にしましょう。今はレッツバトルです!」 誤魔化すように先生は笑い、私をポットに収めます。 「フッフッフ、いよいよ来ましたですの。私とあなた、どちらがより優れた触手使いであるか、今ここで決着をつけるですの」 「いや、私は別に優れてなくていいです」 ステルヴィアさんの言葉に即否定の返事を返します。 「フフフ、とても謙虚なのですの。ですが、私には見えますの。あなたの中に眠る、触手への限りなき欲求が、潤うことのない渇望が!」 「どこにそんなものが見えてるんですか……」 私の触手も……いえ、私のなんかでは決してないですが仕方なく装備している触手も、私に同調してうんざり気味に左右に揺れました。 危ない……危うく触手を自分のものとして認めてしまうところでした……。 「ウフフ……わかっていますの。あなたも早く戦いたいのですね。長々と失礼いたしましたですの」 「何も分かってないじゃないですか!」 「まいりますの!」 こちらの意志や発言を完全無視して、ステルヴィアさんは動き始めた。通常より長い触手パーツはどうやら足の役目もあるらしく。物凄い複雑な動きで素早い移動をこなします。よく絡みませんね。そこはやはり、地区一という実績の裏付けなのでしょう。 「って呑気にしてる場合じゃない!」 私は取り敢えず、手近な障害物に身を隠します。地区一の使い手相手に真正面から挑むほど、私は自信家ではありません。 あ、失礼いたしました。今バトルしているフィールドは、遺跡〔砂漠〕です。砂漠の中に、朽ちた遺跡が建っているだけのフィールドです。 「隠れても、無駄ですの!」 ステルヴィアさんは物凄い早さで平行移動。すぐに障害物の裏に周り込んできました。が、予測済みです。私の触手が、ステルヴィアさんの足下から迫ります。 ……ハッ、私の“仕方なく嫌々装備している腰パーツにくっついている触手”が、です。決して、決っっっして私のではありません! 「フフ、無駄ですの」 なんと、下から迫る触手が、ステルヴィアさんの触手に踏みつけられて阻止されました。このままでは釘付けにされてしまうのは確実なので、すぐさま踏まれた触手を本体から分離し、迫るステルヴィアさんから距離をとります。 「逃がしませんですの!」 シュルシュル、と、こちらの触手とは違う、機械的シルエットの触手が全て伸びてきます。私も対抗して触手を伸ばし、絡め取ります。奇しくも、触手対触手の真っ向勝負となりました。 「く、や、やりますの……」 「あのー、なんだか凄い接戦に見える最中に申し訳ないんですが……」 「な、なんですの!」 全ての触手を伸ばしきり、凄い形相で力勝負をしているステルヴィアさんに一言。 「私、まだ触手余ってます」 シュルシュル、と、ステルヴィアさんの触手を絡めている触手とは別の触手をステルヴィアさんに見せます。あ、青ざめた。 「な、なんてことですの! 数の差で勝負が決してしまうなんて……やはり、戦争は数だったですの……」 というわけで、全ての触手を絡め取られて抵抗できないステルヴィアさんを、私の触手で絡め取ります。 ……否! 私が“仕方なく嫌々装備している腰パーツにくっついている触手”が、です! 決して、断じて、私自身の触手ではありませんし、私が望んで装備した触手でもありません! 「くっ……ですの」 「勝負は決しました。大人しく降伏してください」 「……何をおっしゃるですの? なぜ、私が降伏しなければならないですの?」 「へ?」 な、何なんですかこのステルヴィアさんの余裕発言。まさか、まだ隠しダマが!? ゆ、油断できない相手です! 「触手勝負に置いての敗北とは、相手の触手によって高ぶらされてオーガズムに達した瞬間と、古より伝えられているですの」 「……は?」 ……言ってる意味を理解できない。いや、個人的意志で理解したくないです。 なんか、筐体を囲む人々から「触手・プレイ! 触手・プレイ!」なんてコールすら聞こえてきます。ケイゴさんに至っては、高性能そうなカメラを構えて鼻息を荒げています。 ……先生! 助け船を是非! 「美咲さん、あなたの超絶テクの見せ所です! さあ、皆さんのご期待に沿えてみせましょうぞ!」 先生!? 「さ、さぁ、はやく、めくるめく快楽と官能の世界へ、私を連れていってですの!」 ステルヴィアさんもなんでそんな艶っぽい表情と潤んだ瞳でこっちを見てるんですか!? ……な、なんなんですかこの異様な雰囲気は。まるで常識的な私が非常識のような、イレギュラーのような、そんな雰囲気は。もしかして、周りの皆さんのほうが正常で、私が異端なのでしょうか。 ……そうですか、私が異端なのですか。ならば、正常化を計らなければ……ふ、ふふ……あはは。アハハハ。アハハハハハハ! アハハハノ\ノ\ノ\ノ\!! 「あ、そんな、いきなり激しっ! だめ、そんなとこ、深い、深いですのぉぉぉ♪」 私が次に正常に戻ったときには、身体中をあらゆる液体やグリスで濡らしたステルヴィアさんと、勝者を告げるジャッジが私の名を宣告していました。ギャラリーの興奮も最高潮のようです。私が正気を失っている間になにが起きたのか……考えたくもありません。 まあ、前後の記憶と状況からナニがあったというのは想像できますが……。 「お見事です、美咲さん。あなたの触手使い、実に見事でした」 「こんなにも誉め言葉が嬉しくないという状況も珍しいですね」 ああ、もう嫌だこんなの……。 ポットから出て開口一番、先生は私をお褒めくださいましたが、ちぃっとも嬉しくありませんでした。何故でしょう。触手の所為です。 「……参りましたですの。今回は私の完敗ですの」 私たちのいるブースに、ステルヴィアさん達がやってきました。ステルヴィアさんは触手を器用に使い、私の目の前に降り立ち、ひしっと私の手を握ってきました。 「美咲さん……あなたこそ、この地区一の触手使いに相応しいですの! 私が認めるですの!」 「いや、いりませんそんなお墨付き」 迷惑極まりありません。 「そうですの……なら、仕方ありません」 そう言って、ステルヴィアさんは私から離れます。どうやら、やっと私の気持ちに気付いてくれたようです。 「地区一では足りないと言うわけですのね! では、そう、あなたは今日から触手使いの中の触手使い、『触手マイスター』を名乗るといいですの! それだけの実力を、あなたは私に示したですの!」 ……訂正、気付いていませんでした。 「いりません!」 「まあまあ美咲さん、せっかくくれると言うのですよ。貰っておきましょう」 「断じていりません!」 「タダですよタダ」 「いくらタダでも、後から高くつくようなものはいりませんから!」 そして先生、なぜそんな二つ名をプッシュするんですか! イヤですよ触手マイスターなんて! 『触手マイスター』美咲。イヤすぎます!! なんか、私の名前まで卑猥に見えてくるじゃないですか! 「触手マイスター殿、気に入っていただけたようですの」 「まったく真逆の感情をこれでもかと表に出しているのに、なぜそんな答えがでたんですか!?」 「いいではありませんか、『触手マイスター』美咲さん」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 結局、私の自害寸前の説得(「触手マイスターと呼ばれるくらいなら死にます」「すみませんでした美咲さん! ですからその刃をお納めください!」なやり取り)によって、何とか変な二つ名は付きませんでしたが、ステルヴィアさんからは「触手マイスター殿」と呼ばれるようになってしまいました。 あ、触手ならその場で焼却処分いたしました。 「ところで先生、結局、バトル前に言っていた、神姫の自我とは何なのですか?」 「ん、ああ、そういえばそんな話をしてましたね」 忘れていたようです。今は帰宅途中の車内。助手席から先生を見上げます。 「バトル前、美咲さんに問いかけましたよね。「あなたは何か」と」 「はい」 私は結局、その問いには答えられなかった。今も、だ。 「私はですね、思うんですよ。その問いに答えられなくなった神姫こそが、自己を確率し、人のような自我を、アイデンティティーを手に入れた神姫ではないか、とね」 やはり、先生のおっしゃることはよくわかりません。自分が何かがわからない状態が、なぜ個人として成り立つのでしょうか。 「神姫は人によって製造され、この世に誕生します。それによって、神姫は一定の知性を最初から備えているのです」 「はい」 なんだか違う話を始めたような気がしますが、聞きに徹します。 「であるからにして、目覚めたばかりの神姫に「あなたは何か」と聞いても「武装神姫である」としか返りません」 確かにそうです。自分が何か、と聞かれたら、デフォルトの記憶の中から、自分が武装神姫であるというデータを引き出し、相手に答えます。それが、普通の神姫です。 「ですが今日、美咲さんに同じ質問をしたら、「難しい」と答えました」 「はい、確かに」 そう、普通なら武装神姫ですと答えればよいものを、私は迷いました。確かに武装神姫ではありますが、それだけではありません。先生の神姫であるし、美咲という、私だけの名もあります。ですから、何か、と聞かれても、それがどの答えを求めての問いなのか、わかりません。 また逆も然り。私が何か。それに対しても明確な答えが出せません。武装神姫というのも、先生の神姫であるということも、美咲という名前も、すべて後付けのような気がします。自分というものは何なのか。考えれば考えるほど輪郭がぼやけていき、やがては、自分は本当に武装神姫なのか、という、馬鹿げた考えに至ります。それはつまり、確固たる“個”を無くしているということではないでしょうか。 「……やはり私にはわかりません。なぜ答えられないのが、アイデンティティーの確立なのですか?」 「武装神姫が、自分は武装神姫の何タイプであると言うのは、確かに全と個を分けた考え方でしょう。しかし、明確に個を答えられるのは、それが“個”であると教え込まれているからです。そして、その“個”は“全”に所属する全ての個体に教え込まれています。 “全”に与えられた“個”……これは結局、“全”ではないでしょうか」 ……。やはり、先生のお言葉は、矮小な私では理解できません。 「完全なる“個”、すなわち自我、アイデンティティーとは、“全”から教えられたものではなく、それに対して何らかの懐疑的な思考を行う事、あるいはその過程ではないかと私は思います」 ですが、先生の言わんとしていることはなんとなくですが、わかります。 「つまり、全と個をはっきり隔てることがアイデンティティーではなく、全と個を隔てようと思考する事がアイデンティティーだ、ということですか」 「……さぁ?」 盛大にずっこけました。さぁって……。 「あくまで私の考えがそうである、という話です。もしかすると、起動したての神姫のように、自信をもって自分を語れる者こそがアイデンティティーを持っているのかもしれない。いや、そもそも、アイデンティティーというもの自体……」 途端にブツブツと、私にすら聞き取れない程度の言葉で呟き始める。あれは多分そう、思考のスパイラル。自己を考えた私と同じく、自身の思考をさらに思考し、それすらも思考する。永遠に終わりのない思考の連鎖。今、先生はそこにいる。 「先生っ!」 「……あ、おお、すみません。少し考え事を……いや、あー……」 そう呟いた次の瞬間、先生は伸びをして首を鳴らしました。 「いやー、考えても答えなんて出ませんね。そんな非効率的で時間の浪費以外の何者でもない行為、やめてしまいましょう!」 ニコ、と私に向き笑いかけてくれる。ですが今、私たちはそれどころではないと先生は気付いているのでしょうか。 「それもよろしいですが前、前ぇぇぇぇ!」 「ん? うをぉぉぉ!?」 先生の車は、華麗なドリフトターンを決め、無事ガードレールとの接触を避けました。 今度から運転中には話し掛けないよう、心掛けます……。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1675.html
――私がダメージチェックをしながら瓦礫から身を起こすと、GA4“チーグル”アームパーツを振りぬいた姿勢のロゼさんの瞳も、さすがに驚愕に見開かれました。 「こいつ、まだ……!」 驚かれているようですね。それはそうでしょう。さっきからアレだけ攻撃を食らいまくっていた上に、今またストラーフの象徴ともいうべきチーグルの渾身の一撃を食らって吹き飛んでも、それでもまだ沈まないのですから。 ここはバトルエリア:ゴーストタウン、条件は高重力。より重装備な方がより動きを制限されるこのエリアをあえて選んだのは、佐藤さんとしては自信なのでしょうか、それともハンデなのでしょうか。 「アンタ……なんなのよ、なんだってのよ! 何で今ので決まらないのよ!」 ロゼさんは、サバーカを盛んに踏み鳴らし、地団太を踏んでいらっしゃいます。 そしてチーグルのいかつい指とご自身の指をシンクロさせてこちらをびしっと指差しまして。 「駆け出しのクセにナマイキ!」 いえそう仰られても困るのですが。 と言いますかね、正直自分でもビックリです。 そうですね、強いて思い当たる点といえば……。 「……ご存知でしょうか?」 これもまた心理戦、せいぜいもったいぶって、低い声で言ってみます。 「な、なによ」 「武装神姫の成長には、バトルにおける戦い方も反映されると言うことを……」 「何言ってのよ、当たり前じゃない」 「そうですね、ごく当たり前のことです。 敵に攻撃を当てるほどに命中率が、 敵にダメージを与えるほどに攻撃力が、 スキルを使うほどにスキルポイントが伸びていく、というのは。 そして……」 「…………!」 ここまで言えば、ロゼさんもお察しいただいたようですね。 「そして、敵の攻撃を食らうほどに、ライフポイントが伸びていくのです!」 しかももともとハウリンタイプは武装神姫の中でもLPが多く、伸びやすいと言う特長もあります。 私もお返しのようにびっとロゼさんを指差して力強く断言しました。 「即ち! 今までの対戦を全て全損敗北している私は、そんじょそこらの駆け出しとは一線を画したLPを誇っちゃっていたりするのですよ!」 「胸張って言うことかーっ?!」 いやごもっとも。 それにしても、あのオーナーにしてこの武装神姫あり。ロゼさんもまた、見事なツッコミスキルをお持ちのようです。 まぁそれはともかくと致しまして。 『まだ行けそうですね、犬子さん』 「はい」 マスターさんのお声に、私ははっきりと答えます。 『ロゼさん、驚かれてるようですね。今の攻撃で勝負が決まらなかったのが意外のようです』 「そのようです」 『つまり、今の攻撃はロゼさんにとってかなり自信のあった攻撃と言うことになります』 「……と、いうことは?」 『風輪渦斬と忠実なる守り手は、そこにぶつけましょう』 風輪渦斬と忠実なる守り手、それぞれ棘輪と胸甲・心守のスキルですが、共通するのは「相手の攻撃を無効化できる」点です。 「なるほど、さすがはマスターさん」 私は両手の手甲・拳狼を打ち当てて、構えを取ります。 相手の大技を防ぐ手立てがあるなら、通常攻撃さえ凌げばいいと言う事。 つまり―― 「私はまだまだ、沈みませんよ!」 両の拳を構え、私はロゼさん目指してまっすぐに駆け出しました。 「お疲れ様でした」 バーチャルモードから目を覚まし、コンソールのスキャニングエリアから身を起こす私に、マスターさんがすかさずご挨拶いただきました。 「いえいえ、マスターさんもサポートありがとうございました」 マスターさんがこちらにかざされた掌に、私はいえーい♪と同じく掌を打ち合わせ、ハイタッチをします。 「おかげさまで、今回はいろんな経験値をがっぽりゲットです!」 「それはよかったですねぇ」 和やかに会話しながら、私はマスターさんの手に乗り、対戦PODを後にします。 視界の隅に、なにやら俯いて拳を震わす佐藤さんの姿をお見かけしましたが、まぁ今はマスターさんにご報告するのが先です。 「ロゼさんは、回避よりも防御を優先する方だったのも幸運でしたね。私のにわか格闘でも、それなりに当てることができました!」 私はにっこりと満面の微笑を浮かべます。マスターさんは、そんな私の話をにこにことご機嫌よさそうにお聞きくださっています。 「お陰様で、貴重な格闘経験値を稼げました! 幸先いいですよマスターさん! しかもその上ですね……」 ドッグテイルもぱたぱたと快調のなか、私はびっと、Vサインをマスターさんに示しました。 「いつも通りの全損敗北で、LP経験値もまるっと最大値ゲットです!」 「ふざけんなコラ!」 私たちが喜びを分かち合い労いあっていると、いつの間にやらお近づきになっていた佐藤さんからそんなお言葉をいただきました。 その肩に腰を下ろしているロゼさんも、なにやら憮然とした表情です。 「お前ら思わせぶりな事言っといて、ちょっと打たれ強いだけのまるきりド素人じゃねーか!」 ……一体何を怒っていらっしゃるのでしょう佐藤さんは。せっかくの勝利なのですから、もうちょっとお喜びになればよいかと思います。 そんなに大声出して、肩のロゼさんも顔をしかめておりますよ? 「あ、佐藤君お疲れ様です。いやー、噂どおりお強いですねぇ」 そんな佐藤さんに、マスターさんはいたってにこやかにご挨拶されました。 と、ふと訝しげなお顔になり。 「ところで、思わせぶりって何のことでしょう?」 「お前、どんな条件だって勝てるみたいなこと言ってたろうが」 「……言いましたっけ?」 「言っていませんかと」 マスターさんは小首をかしげて私に確認をお求めになられたのですが、私にも記憶にないため、そうお答えします。 「言った! 確かに言ってたっつの!」 うーん? どういうことでしょうか? 念のためログをさかのぼって見ましょう。 ……やはり、その発言はどこにも……。 あ。 「マスターさん、『どんな条件にしろ、結果は変わりません』というお言葉ならありました」 「そう、それだ!」 「あー、はいはいはい、言いました、それなら確かに言いましたよ」 「ほら見ろ、やっぱり言ったじゃねーか」 「ですが、『どんな条件でも勝てる』なんてつもりで言ってたりはしませんよ?」 「……は? どういうことだよ?」 「いやですねぇ、始めたばかりでしかも恥ずかしながら未勝利な僕たちが、ちょっとやそっとのハンデを頂いたくらいで歴戦の佐藤君たちにバトルで勝てるわけないじゃないですか、はっはっはっは」 「そういう意味かよっ?!」 「当たり前ですよねぇ、今の私じゃ100回戦ったって、どんな条件でもロゼさんには勝ってこないですよ」 「ふふん♪ わかってんじゃない、アンタ」 「ええ、本当にお見事なお手前でしたねぇ」 「胸をお借りさせていただきました」 「そうねぇ、アンタも素人丸出しだったけど、格闘のセンスはそんなには悪くなかったんじゃない? さすがハウリンよね」 「おお、これは嬉しいお言葉を頂いてしまいました」 「よかったですねぇ、犬子さん」 「はい、ロゼさんのお墨付きをいただけるとは、励みになります」 そんな風に和やかに会話する私たちをよそに、佐藤さんはなにやらコメカミの辺りをピクピクと震わせていらっしゃいます。 「……そうかナメてんだな、お前ら俺をおちょくってんだな?」 「? いえ滅相もない」 「~~~~~!」 素できょとんとされるマスターさんに、さすがの佐藤さんも言葉がないご様子です。 俯いて肩と拳を震わせて、そのままの姿勢で5秒。 何か叫び声が上がるのでしょうか?と思っていましたら、不意に肩を落としては~~~~~っと息を長く吐き出しまして。 「……もういい、とっとと次いくぞ。こんな茶番、さっさと終わらすに限る」 くるりと踵を返し、一人お先にターミナルへと歩いてかれました。 「二本目は、そっちが条件決めな」 肩越しにそんな風に言い捨てる佐藤さん。 その背中に、にこやかにマスターさんがお声をかけました。 「はい、では二本目は暗算勝負で」 「アンザン? そんなステージあったか?」 佐藤さんの足が止まり、こちらを振り返ります。 「いえバトルのステージではなく、道具を使わずに計算する方の暗算で」 「…………は?」 あ、佐藤さんのこんな無防備なお顔は、初めて見たような気がします。 「え、いやその、ほら……バトルで、じゃないのか?」 「いやですねぇ、バトルでの勝負でしたら、今しがたついたばかりじゃないですか」 なにやら自信なさげに問いかけてきた佐藤さんに、マスターさんはにこやかに笑いながら、ですがばっさりと一刀両断にされました。 「言ったじゃないですか。僕は『犬子さんが何も出来ない』と仰られたことを否定するために『どちらの武装神姫が優秀か』を証明するために競っていると」 そこでにっこりと会心の笑みを浮かべるマスターさん。……いつもは仏が宿って見えるかのようなマスターさんの笑顔ですが、今日は何だか悪魔が宿って見えます。 「『どちらの武装神姫が強いか』に関しては文句なしにそちらに軍配が上がりましたが、まぁそれは武装神姫の優秀さを示すうちの、一側面に過ぎませんよね」 「てめぇ、最初から……!」 佐藤さんも、さすがに気がついたようです。 そう、これこそがマスターさんの勝算。 これぞ『バトルで勝てないなら、バトル以外で勝負をかければいいじゃない』作戦です! あ、ちなみに作戦名は、僭越ながら私めがつけさせていただきました。 「ちょ、どーすんのよアキ?! アタシ暗算勝負なんてやったことないわよ?!」 肩のロゼさん、佐藤さんの髪の毛を引っ張りながら慌てておられます。 「バ、バカ! オタオタしてんじゃねぇ! どんなにバカでもお前だって武装神姫なら、アタマにコンピューター乗ってるんだろうが!」 「誰がバカよ誰が! バカアキのクセに!」 「論点違ぇ! とにかく条件は同じなんだ、お前だって計算くらいやれる!」 「わ、分かったわよ……とにかくやってみるわよ」 「おう、お前ならできる!」 ……僭越ながら。 その会話を聞いて私は、自身の勝利を確信したのでした。 「ところでマスターさん」 「なんでしょう犬子さん」 「なにやらすごい事になっているのですが」 「すごい事になっていますねぇ」 と言うわけで、佐藤さんとの勝負との二本目に突入するわけですが。 『はーい、皆さんお待たせしましたー!! これより"神姫三本勝負"の二本目! 暗算対決を開始しまーす! 審判兼司会は私、スタッフ浜野でお送りしまーす!!』 ノリノリの浜野さんのマイクパフォーマンスに、歓声で応えるギャラリーの皆さん。ノリのよい方々です。 ここは4階バトルスペースの一角、イベントなどで使われる事を想定しているのであろう簡易ステージ上です。 簡易と言うだけあって床から一段高くなっているだけの、10人も並べばいっぱいになりそうな手狭なステージですが、その上には堂々と"神姫三本勝負!"の題字が飾られています。 今回の勝負の審判役は、公平公正を期すためにと心苦しいながらもお仕事中の浜野さんにお願いしてみました。 そのところ快くお引き受けいただいた上で『準備があるからちょっと待って』と言われたので、てっきりお仕事をしばらく離れるとご同僚の皆様に引継ぎをお願いしているものと思ったのですが……こんなものを用意していたようです。 そして私たちはステージに設置された卓球台くらいの机の上の両端に、オーナーの方々は椅子に、神姫は机の上で、向かい合うように腰掛けております。 向いに座る佐藤さんたちも、困惑を隠しきれないご様子です。 そして私たちの前には、突発イベント見守るギャラリーの皆様が、ざっと30人ほど。 どこから見てもゲリライベントです。 もはや単なるオーナー同士の揉め事の範疇を越えています。 浜野さん、ノリがよすぎです。お仕事の方は平気なのでしょうか? というか神姫三本勝負ってなんですか。 「マスターさん、どうしたものでしょうか」 「うーん、ある程度は耳目を集めるのも狙いのうちではありましたし、その意味では願ったりな情況ではありますが……さすがに予想を超えてますねぇ」 困惑する私たちをよそに、浜野さんのMCは続きます。 『対戦者はこちら! 当店未曾有の30連勝にリーチまでこぎつけた期待のホープ、ロゼことローザリッター! 惜しくも30連勝は逃してしまいましたがその実力は折り紙付き! この勝負に先立って行なわれた一本目のバトル勝負では、まったく危なげなく勝利を収めています!』 浜野さんがステージ左手に控える佐藤さんたちへ手を差し伸べ、佐藤さんたちが戸惑いながらもギャラリーに手を振ると、途端にギャラリーの皆さんが沸きまくります。 「いよ! 待ってました!」「ロゼちゃーん!」「ストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「佐藤はカエレ」「オーナーはむかつくが、ロゼちゃんは応援するぞ!」「ロゼさま俺を罵って!」「30連勝、惜しかったなー」「また頑張れよー!」 そんな歓声の収まりきらぬうちに、今度はステージ右手の私たちに手を差し伸べ。 『対するは新進気鋭! まだデビュー間もないというのにこの勝負を挑んだ命知らず! 犬子さんだー! 先だっての勝負では残念ながら勝利は逃してしまいましたが、そんな事ではめげない注目の前向きっ子! 自身で提案した暗算勝負で、巻き返しを図れるかー?!』 とりあえずご紹介を受けましたので、マスターさんともども深々と頭を下げてご挨拶します。 「がんばれよ!」「応援してるぞー!」「ハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「その度胸気に入った! ウチに来て妹をファックしていいぞ!」「あのオーナーをギャフンと言わせてやれー!」「骨は拾ってやるからなー」「気合入れろー」 こちらでも、負けないくらいにギャラリーの皆さんは沸いてます。 「というか、盛り上がる名目さえあるなら何でもいいのではないでしょうか」 「何でもいいんでしょうねぇ」 『さて、それではルールを説明いたします!』 そういって浜野さんは、なにやら手の平に乗る程度の小ぶりなカゴを取り出し、机の上に置かれました。 中には、なにやら小さな紙片が大量に入っているようです。アレは……レシート? 『取り出だしましたるこのカゴは、3階某レジより借りてきた、不要レシート入れです! ――皆様、平素よりのご愛顧、誠にありがとうございます』 浜野さんがMCを中断して深々と頭を下げますと、ギャラリーの皆さんから笑い声が漏れ出しました。 そして浜野さん、今度はコルクボードを取り出しまして。 『こちらから無作為に取り出したレシートを10枚、こちらのボードに上下5枚ずつ貼り付けまして! その合計金額を計算していただきます! 勝敗のポイントは、計算の正確さと早さ! 金額を間違えたら、一円ごとに一秒のペナルティになるとします!』 おおー、とギャラリーの皆様から低い歓声が上がります。 ……いや今の、感心するところなのでしょうか? 「まぁギャラリーのお約束と言う奴ではないですかねぇ」 「……なるほど、つくづくノリがよいギャラリーの皆様です」 「と言いますか、浜野さんの手馴れっぷりとあわせて考えると、このお店ではわりとこの手のゲリライベントが頻発しているのではないかと」 「頻発していましたか」 つまり、よく訓練されたギャラリーの皆様であったようです。 と申しますか、先ほどよりも広い意味で、浜野さんお仕事の方は大丈夫なのでしょうか? 『では、少々お待ちを』 そして私たちに、メモ用紙とボールペンが手渡されました。ボールペンは人間サイズのため、肩に担ぐようにして書かねばならないでしょう。私はメモ用紙の端に走り書きをし、その感触を試します。 うん、インクの出に問題はなさそうです。その他諸々の下準備も、抜かりナシです。 「いけそうですか?」 「お任せください」 マスターさんのお声に、私は僅かにそちらを見上げて笑顔で答えます。その時窺ったマスターさんのご表情も、落ち着いたものです。信頼されていると見るべきでしょう。これは負けられませんね。 ……そんな大切な勝負なのですから、勝手に動くのは止めなさいこの不良品ドッグテイル。 そうこうするうちに、浜野さんは無造作につかみ出されたレシート束から、10枚を選び出されたようです。 『ところでロゼさんに犬子さん』 浜野さんはレシートをコルクボードに貼り付けながら、不意に私たちに話しかけられました。 「はい?」 「なによ?」 『1から10までで、好きな数字はなんです?』 「……そんなの、ナンバーワンに決まってるじゃない!」 「でしたら私は、ラッキーセブンを」 『なるほどなるほど、1と7ね……はいお待たせしました!』 言いながら浜野さん、なにやらボードに手を走らせ、そのまま手前側にボードを伏せ、その上に 手を置いて押さえました。 「これはもしや……」 マスターさんの呟きを耳にし、私は振り返ってそちらを見上げます。 「マスターさん、なにか気になることが?」 「ええ、念のためですが……ボードの向きには、気をつけてくださいね」 よくは分かりませんが、マスターさんの仰ることです。警戒しておきましょう。 『では、いよいよ勝負開始です! お二人は、そのメモ用紙に10枚のレシートの示す合計金額を記入してください。 記入が終わったらメモ用紙を裏返し、その上にペンを置くところまで行なって、計算終了とみなします』 「はい」 「りょーかい」 『では、行きますよ……スタート!』 ば、と浜野さんが、私たちに見えるようにボードを起こされました。 ……すなわち、私たちには上下逆に示されるように。 なるほど、マスターさんが警戒されていたのはこれですか。 「ちょ、何よそれ?!」 「落ち着けロゼ!」 ロゼさん達の悲鳴をよそに、私はざしゃあ!と全力でボールペンを走らせます。そして記入を終えたメモ用紙を素早く裏返し、その上にペンを置きます。そして正座しつつ。 「終わりました」 「早っ!」 ロゼさんは、まだボールペンを必死に動かされていました。どうやら、人間サイズのペンにお慣れでないご様子。このあたりは、「ロゼさんはバトルに専念している武装神姫で、生活サポートの方はあまり行なっていないのではないでしょうか?」というマスターさんの読みどおりでしょう。 また、ボードが上下逆に示されたのも、ロゼさんの混乱に拍車をかけたと思われます。 浜野さんから見て手前側に伏せたボードを、私たちに開示するように逆から起こせば上下逆になる……言ってしまえばごく当たり前のことですが、それをあらかじめ警戒していなければ混乱も致し方ないでしょう。 私とて、マスターさんからご警告を受けていなかったら、戸惑っていたやも知れません。 「ところで犬子さん」 「何でしょうマスターさん」 囁かれるようなマスターさんの問いかけに、私はマスターさんにだけ聞こえるような声で振り返らずに返事いたします。 「あの、印のついたレシートにはお気づきですか?」 「はい、あの赤丸ですね?」 マスターさんの仰るとおり、上下二段に5枚ずつ貼り付けられたレシートのうち、上段の左から4枚目と一番右下の2枚には赤丸で印がつけられていて、気に留めておりました。 「アレには念のためご注意を。……2ラウンド目があるかもしれません。気を緩めずにお願いします」 「了解です」 それは私もうすうす感じていたことですので、異論などありません。 そうこうしているうちに、ロゼさんも計算終了されました。 慣れない作業に、ロゼさんはややお疲れ気味……と申しますか、「何でアタシがこんなことしなくちゃいけないの?!」とでも言いたげな憮然としたお顔です。 「こんなの、武装神姫のやることじゃないわよ!」 訂正、実際に仰られました。 双方が計算終了したのを確認して、浜野さんは再びボードを伏せられます。 『はい、お二人ともお疲れ様です』 そう言って浜野さんは、私たちそれぞれに笑いかけられました。 私はマスターさんを笑顔で見上げます。計算の結果には自信あり。そして明らかにこちらの方が早く終わりました。マスターさんのご信頼に、応えることが出来たものと自負しております。 そんな私の心を汲んで下さったかのように、マスターさんは優しく笑って頷いて下さいました。 ……こら、落ち着くのです、ドッグテイル。 ですがマスターさんが、ふとその表情を僅かにお引き締めになられたので、私も正面に向き直り、浜野さんを見上げます。 果たして、浜野さんはびしっ、と何やらフシギなポーズを決めて。 『それでは第二問に参ります! さあ、お二人とも準備して! メモ用紙もまた表に戻してねー』 「んだと?」 「き、聞いてないわよ?!」 やはり来ましたか。私はマスターさんを振り返って頷きあうと、落ち着いてペンを再び担ぎメモ用紙を裏返します。 ロゼさんはと言いますと、慌てておられてペンを取り落としたりなどいています。そのほど予想外だったのでしょうか? 「れ、冷静になれロゼ! 逆に考えれば、今の遅れを取り戻すチャンスだ!」 「そ、そうね、そうよね!」 『はーい、お二人とも準備できたねー? 計算終わったら裏返してペンを置くのも一緒だからねー。 じゃあ、今度はボードは見せないでいくよー』 「え、ちょ?!」 さらりと付け足された新条件に、ロゼさんが抗議の声を上げましたが、浜野さんの進行は止まりません。 『今度は、赤丸のついたレシートは除いた合計金額をどうぞ』 新たな条件設定を聞いた瞬間、私のペンが再びざしゃあ!とメモ用紙の上を踊ります。 「慌てんなロゼ! 過去ログを検索するんだ!」 「そ、そんなこと言っても急には見つか」 「終わりました」 「「早っ!」」 今度の叫びは、佐藤さんともどもでした。 それにしても、マスターさんのご指示通りに警戒していて正解だったようです。 赤丸のついた上段の左から4枚目と一番右下のレシート……上下を戻せば、上段の左端と下段の左から2枚目、即ち左上から数えて1枚目と7枚目。 まさに私たちが先ほど答えた数字です。これは何かあると考えるのが自然ですよね。 ですのであらかじめ別枠で赤丸印だけの合計を算出し、それを総計から加減乗除したパターンをいくつか計算をしておいたのです。結局一番簡単なパターンでしたが。 そうこうしているうちに、ロゼさんも該当のログデータを見つけたのか、ペンを走らせ始めます。 そして程なく、ロゼさんもメモ用紙を裏返しペンを置いて計算終了の姿勢になりましたが、そのお顔は憮然としたままです。 ……すねた表情もわりと似合っていて愛らしいストラーフタイプのフェイスがちょっと羨ましく感じたりもしましたがそれはさておき。 『はい二人とも終わったね? 今度こそお疲れ様ー、もう問題はないから安心してね?』 ギャラリーの皆様から笑い声が上がり、ロゼさんはますます拗ねた様にそっぽを向かれます。 ……このあたり、佐藤さんと通じるものがあります。やはり武装神姫は、オーナーに似るものなのでしょうか? 「計算対決とは聞いてたけど、こんなにイジワルされるとは思わなかったわよ」 そんなロゼさんに対し、メモを回収しながら浜野さんが宥めにかかります。 『ごめんねー、普通に神姫のスピードで計算されても、人間にはどっちが早かったか区別つかない事があるから、その辺の差がはっきり出るようにしたんだ』 たしかにそれもごもっとも。ロゼさんには悪いことをしてしまったようですが。 『では、結果発表ー! ロゼさんが……第一問、95,970円! 第二問、8万飛んで230円! 対する犬子さんは……第一問、95,970円! 第二問、8万飛んで230円! 同じ回答です!』 おおー、と低い歓声の上がるギャラリーの皆様。 と、浜野さんが茶目っ気たっぷりに小首をかしげ。 『でもこれ、正解なんですかね?』 結局、ギャラリーの皆様のお連れしてる武装神姫の方の何人かに手伝って頂き、検算をしていただくこととなりました。 ……いやまぁ確かに、アトランダムに選出されたレシートの金額の合計を浜野さんがあらかじめご存知のはずないですし、人間の浜野さんに武装神姫並の計算スピードを要求するのも無茶だとは思いますが……失礼ながら、ちょっと締まらなかったですね。 「ん、間違いない、金額はあってるよ」 「はい、こちらの計算でも、間違いありません」 「うむ、二人とも正解であるな」 『はーい、ご協力感謝ですー、これよろしかったらどうぞー』 ご協力いただいた武装神姫の方々になにやらチケットらしきものをお渡しする浜野さん。それを受け取った武装神姫の皆さんは、ギャラリーの皆さんから拍手を受けつつ、オーナーの下へお戻りになられました。 『ご有志のみなさん、ご協力ありがとうございましたー。お渡ししたのは当店で使える300円割引チケットです、次回のお買い物の際にご利用くださいー。 ……というわけで! 結果は両者共に正解! イジワルな条件の中、見事に正解したのはさすが武装神姫! はい皆さん拍手ー』 わー、と拍手と歓声を上がるギャラリーの皆さん。 が、すぐに浜野さん両手を広げてそれを制し。 『ですが、勝負は無情! 共に健闘を讃えたいところでありますが、勝敗はきっちりつけましょう。 どちらも正解であったならば、勝者は当然! 二問とも圧倒的なスピードで回答した、犬子さんだー!』 「よっしゃ!」「よくやった犬子さん!」「お利口ハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「ナイスガッツ!」「よくぞ佐藤をギャフンと言わせてくれた!」「ロゼちゃんも頑張ったぞー!」「おめでとう!」 先ほど以上の、盛大な拍手と歓声が上がります。 再び私とマスターさんは、深々と頭を下げました。 ですが。 「何やってんだよロゼ!」 そんな激白と、それと共に机に振り下ろされた拳の音に、会場が静まり返ります。 「なによ、あんな風にイジワルされたらしょうがないじゃない!」 心外だ、と言う風に反論するロゼさん。 ですが佐藤さんの言葉は、激しさを増すばかり。 「あんな子供だましにご丁寧に引っかかってんじゃねーよって話だよ!」 「そんな事言ったって……!」 「あっちの素人ハウリンに出来て、何でお前にできねーんだよ! お前の頭に詰まってるコンピューターは 飾りか、ええ?!」 「そ、そんな言い方しなくたって……!」 と言うかロゼさん、泣きそうな表情です。 「なんだよあれ」「ひでーなー……」「泣き顔ストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「あんな言い方しなくっても」「俺もあんな風に言われたことあるぜ……」「これだから佐藤は」「武装紳士の風上にも置けねーな」「ロゼちゃんが可哀想だ」「ああ、できるなら俺が代わってあげたい……むしろ代わって」 周囲からも、そんなヒソヒソ声が聞こえて参ります。浜野さんも、声をかけあぐねているご様子。 ですが……これは見ていられませんね。 私はマスターさんを見上げます。マスターさんは、私が何も言わないうちに頷いて下さいました。 「僕も同じ気持ちです。行ってきて下さい」 「はい!」 マスターさんの信任を得たなら、怖いものなどありません。 私は机を渡り、佐藤さんたちの前に立ちます。 「佐藤さん、つかぬ事をお伺いしますが」 「あん?」 唐突に話しかけた私を、胡乱な目で見る佐藤さん。 「もし私が、『ロゼさんと同じ素体・同じ装備でバトルしたら、条件は同じだから互角に戦える』と言い出したら、どう思われますか?」 「……は?」 とりあえず、こちらに興味を引くことには成功した模様です。 ですので、そのまま有無を言わさず押し切ることにします。 「おそらく佐藤さんは、鼻で笑われることと思います」 「……………………」 佐藤さんは、ロゼさんともども無言です。こんなことを言い出す私の意図を探っているご様子。 「同じハードで戦ったとしても、私とロゼさんでは、ソフト――戦闘経験が決定的に違います。 例え私がロゼさんとハード的に同じ条件を揃えたとしても、互角に戦えることなど有り得ません」 「……………………」 佐藤さんは無言ながら、その目が鋭いものへと変わっていかれます。わたしの言わんとすることを、お察しいただけたのでしょうか。 「それは即ち、計算能力においても同じことが言えます」 『とにかく条件は同じなんだ、お前だって計算くらいやれる』とは、勝負の前に佐藤さんがロゼさんに対して飛ばした檄であり、私が勝利を確信した言葉でもあります。 確かに単純な計算能力であるなら、基本的に同等の能力を持つ思考回路を搭載した武装神姫同士なら、さほど差はないでしょう。 ですが、その計算を効率よく行なうための最適化に関しては、その武装神姫の経験がものを言います。 ましてや今回の勝負に関して言うなら、純粋な計算能力以外の要素、いわば機転を要求される要素が多く含まれておりました。 私はこの勝負に際して、あらかじめログデータの中から過去に受け取ったレシートデザインの検索および今回の勝負に必要な合計金額の算出欄の確認を行い、ピンポイントで合計金額のチェックを可能にしました。 さらに、ボールペンの試し書きを行なってそのペンを活用しての筆記動作の調整・最適化を図り、加えてマスターさんのご助言を受けて問題の提示がトリッキーである場合への警戒を済ませておきました。 それから実は、解答を筆記し始めた時には実は計算を完全には終了しておらず、確定した部分から筆記しつつ、残りの計算は並行処理で続けていたり、なんて事も行なっていました。 もちろん、計算機能そのものの最適化も、この騒ぎになるずっと以前、日常生活でのサポート業務の時点でとっくに済ませております。 すべて、マスターさんの生活サポートを主として活用されてきた私の経験から導き出された、計算の効率化のための工夫です。 たかが計算ですが、私はそのたかが計算のための研鑽を怠らずにいた、その結果なのです。 「ロゼさんを、あまり責めないであげて下さいませ。バトルの経験についてはロゼさんが勝り、計算の経験については私が勝った――それだけのことでございます」 「……………………」 言うべきことを全て言い終えた私は、一礼してマスターさんの元へと戻ります。 「よく言った犬子さん!」「グッジョブ!」「お叱りハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「いいぞー!」「ざまーみろ佐藤」「ロゼちゃんを苛めた罰だー」「俺も叱ってください」 なにやら喝采を浴びているようですが、面映いので意識的に気にしないようにしまして。 『はーい、それじゃあここで、5分間の休憩を挟みまーす』 タイミングよく、浜野さんがステージにカーテンを引いてくださいました。 ふと振り向いた私に、先ほどまでとは打って変わった雰囲気のお二人が目に止まります。 佐藤さんは俯き加減でなにやらぼそぼそとお話しをし、ロゼさんはそっぽを向いて何かを口走っているところです。 ……少し気になりますね。 ログデータ、巻き戻し。佐藤さんの口元をアップにて再生。口唇の動きをスキャニング。 発音された母音は、順に「a,u,a(促音?),a,a,(一秒ほどの間があき)i(長音?),u,i,a」と思われます。 そこから類推される発言内容候補から、意味が通るものを選び出すと……はて? 「ところでマスターさん」 「なんでしょう犬子さん」 「『カルカッタは、いい国だ』とは、どういった意図に基づく発言なのでしょうか?」 「僕の方がどういう意図の質問かとお聞きしたいのですが」 「は、これは失礼しました。佐藤さんの口唇の動きを解析したところ、そのような発言をされていたと類推されましたので」 「犬子さんは、読唇術の心得がおありでしたか」 「はい、まだまだ試験運用中の拙い芸ではございますが」 マスターさんは一つ頷き、それから何度か『カルカッタは、いい国だ』という言葉をお口の中で転がしまして。 「……もしかしてそれは、『悪かったな、言いすぎた』と言っていたのではないでしょうか?」 「おお」 ぽん、と手のひらに拳を打ち降ろします。 「さすがはマスターさん、そちらのほうが状況に即しておりますね」 「お二人の表情を見ても、おそらくそうは間違っていないでしょう」 「なるほど、そういったアプローチもあるのですね」 そういう要素も加味するべきでしたか。道理で『カルカッタは、いい国だ』や『丸まったら、いいスイカ』では、意味が通らないはずです。 状況からの類推も考慮する、という要素を加えて、今度はロゼさんの発言も解析してみます。 佐藤さん「悪かったな、言いすぎた」 ロゼさん「べ、別に気にしてなんかないわよ! アキの口が悪いのなんて、いつものことだし」 おお、今度は会話が自然です。その後もお二人はぼそぼそと会話を続けておられるようですが、これならば安心でしょう。 「お二人は無事、仲直りができたようです」 「それはよかったですねぇ」 「うんうん、犬子さんお手柄」 浜野さんからも、そんなお声をかけていただきました。 浜野さん、少し照れくさそうに頭をかいておられます。 「うーん、ヘタに他人が口出すと余計こじれるかな、とか思って声かけにくかったけど……案ずるより生むが易し、だったね」 む? そういうものなのでしょうか。 いえ案ずるより生むが易しの方でなく、余計にこじれかねなかった、と言う部分が。 恥ずかしながら私は、そこまでは考えが及びませんでした。 私はただ、同じ武装神姫としてロゼさんを見ていられなかっただけなのですが、それでこじらせて余計にロゼさんを窮地に追い込むかもしれなかった、となれば……。 「……私の行動は、浅はかさだったのでしょうか」 「いえ、そんなことはありませんよ犬子さん」 自省する私に、すかさずマスターさんがお声をかけて下さりました。 「犬子さんのお言葉で、佐藤君が落ち着く目算はついてましたよ。……第一、浜野さんご本人から言い出したことじゃないですか」 「ん? 何のこと?」 ややいたずらっぽい口調のマスターさんのお言葉に、浜野さんが首をかしげます。 マスターさんは、そんな浜野さんを笑顔で見上げまして。 「佐藤君は、それほど悪い方じゃない、ということですよ」 「ああ、なるほどね」 浜野さん、マスターさんの言葉にからからと笑って頷いていますが……私にはなんの事やら。 「……申し訳ありませんが、お話の飛躍についていけていません」 「これは失礼しました。つまりですね、佐藤君は本当にあんな風に思って本気で怒っていたわけではなく、ちょっと熱くなって心にもないことを言っていただけで、我に返ったらすぐさま謝罪するあの姿勢こそがあの方の本質ではないかと、そういうことです」 そういえば浜野さんも、佐藤さんを『ちょっと熱くなりやすくて口が悪くて、思ったことをそのまま口にしちゃうだけ』と評されておりましたね。 なるほど、ここまでご説明いただければ、私にも理解が及びます。 「つまり、佐藤さんが私の言を受け入れてくださったというよりは、横槍が入ったことで佐藤さんが我に立ち返るきっかけになったと、そういうことですね」 極論すれば、話しかける内容も何でもよく、私でなくとも良かったと言うことでしょう。 強いて言えば、こじれるかも?と言う危惧をしなかった私の空気の読めなさが功を奏したといったところでしょうか。 ううむ、まだまだ未熟ですね、私は。 「半分正解、といったところですね。"犬子さんが行なった"ということにも、意義はありましたよ」 は? そうなのでしょうか? 「なに、簡単なことさ」 言葉を継いだのは、茶目っ気たっぷりのウィンクを披露する浜野さんでした。 「神姫の言うことに耳を傾けないような人が、この店にくるわけないじゃない」 ……つい今しがたの佐藤さんとロゼさんのやり取りを目の当たりにしておいてそう断言できる浜野さんの、懐の広さを垣間見た気がします。 「まぁ、僕たちが口を挟むよりはうまく行く公算が高かったのは確かですね」 決め台詞を取られてしまったであろう、軽い苦笑いのマスターさんがそう補足いたしました。 ちらりと、佐藤さんたちのご様子を伺います。 佐藤さんが悪態をつき、ロゼさんが拗ねて、ロゼさんが反撃して、佐藤さんがやり込められる。 お二人の仕草や表情から察するに、そんなご様子です。 でも、そんな二人のやり取りには陰や険はまったくなくて、むしろ軽妙とすら言えるテンポで。 つまりは、私たちと初めて顔を合わせた時のままのお二人のご様子。 あれがきっと、あの方々の在り方なのでしょう。 ……うん。 「ところでマスターさん」 「何でしょう犬子さん」 「先ほどの、『佐藤さんは、実は悪い方ではない』と言うお話ですが」 「はい」 私は、にっこりと笑ってマスターさんを見上げます。 「私も同意いたします」 「ご同意頂き感謝です」 マスターさんに、笑って頷いていただきました。 ……ええ、私はその程度の一言でドッグテイルが起動するお手軽武装神姫ですとも。 「それでマスターさん、それを踏まえた上で、これからはいかがいたしましょう?」 「ええ、殲滅プランは必要なくなったわけですから」 「和解プランですか」 「和解プランです」 「ん? どーするのかな?」 「ああ、浜野さんにも話を合わせていただけたら、助かるのですが……」 「浜野さんにとっても、悪い話ではないかと」 「ほほう? 聞きましょう」 和やかな雰囲気の佐藤さんたちを尻目に、そんな打ち合わせをする三悪人。 さて、最終局面です。 『はいでは、休憩も済んだところで、次の勝負へ移りたいと思いまーす! さあ、皆さん拍手ー!』 浜野さんのMCは相変わらず絶好調、ギャラリーの皆様のテンションも衰えを知りません。 対面の佐藤さんたちはすっかり復調されたようで、主従共に自信に溢れた不敵な笑顔です。 『勝負はとうとう最終局面です! 一本目のバトル勝負ではロゼさんの勝利! 続く二本目では犬子さんが暗算勝負を提案し、見事これを勝利! 決着は三本目に持ち込まれることとなりましたー! さあ、この接戦を制するのは果たしてどちらか?!』 おおおおおおおお! と怒号のような沸きを見せるギャラリーの皆様。 『さてそれで肝心の三本目の勝負なのですが、どんな勝負にしましょうか?』 そこで、すっとマスターさんが挙手します。 「それについて、僕から提案があるのですが、よろしいでしょうか?」 『とのことですが、いかがでしょう佐藤君?』 「……とりあえず、言ってみな」 佐藤さんは、鷹揚に頷きました。そのお顔には、どんな勝負になっても自分たちは負けないという自信に溢れています。結構なことでございます。 が、その自信が命取りです、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 「ありがとうございます。今までは武装神姫同士を競わせていたわけですが、三本目は趣向を変えて、どちらがより良いオーナーかを比較してみてはいかがでしょうか?」 意表をつかれたらしく、へえ、と佐藤さんが興味深そうなお顔になりました。 「どうするんだ? 装備のチューンナップの腕でも競うのか?」 「それでも構いませんが、もっと手っ取り早く済む方法がありますよ」 さすがはマスターさん。実際に行われたら確実に敗北する提案を、ごく自然にさりげなくスルーされました。 「へえ、どんな?」 「はい、それはですね」 マスターさんが笑顔で頷きます。 ……仏ではなく、悪魔の方で。 「当事者の方に、お聞きしてみるのですよ」 <その14> <その16> <目次>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2373.html
第三章 深み填りと盲導姫 あらすじ: 夏のある日、俺達は神姫センターでサマーフェスタを楽しんでいた。 そんな時、ある人物と出会い、神姫の一つの可能性を垣間見る事に…… 第一話:宝探姫 第二話:双銃姫 第三話:違法姫 第四話:諸刃姫 第五話:成上姫 第六話:肩書姫 第七話:激動姫 第八話:実践姫 第九話:鉄鳥姫 第十話:血戦姫 第十一話:追剥姫 第十二話:負傷姫 第十三話:再生姫 第十四話:塵刃姫 第十五話:生贄姫 (この話ではウサギのナミダに関して一部のネタバレが存在しますのでご注意ください) 第十六話:偽眼姫 第十七話:鳥討姫 第十八話:札無姫 第十九話:罪明姫 (この話ではキズナのキセキに関して一部のネタバレが存在しますのでご注意ください) 第二十話:道行姫 この物語においては以下の作品から、キャラクター、設定を借りております。 また、ネタバレの点もあるため、読む時には注意をお願いします。 ウサギのナミダ、キズナのキセキ、HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 15cm程度の死闘、Black×Bright、The Armed Princess -武装神姫- 鋼の心 ~Eisen Herz~、ツガル戦術論 トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2194.html
『武装神姫~PRINCESS BRAVE~』 PSPでゲームが出ますね。なんとなくカスタムロボっぽい気がする。バトロンから何か引き継げたりは… しないんだろうな。 パジャマの胸に抱き締めた、お気に入りのぼろい絵本。 眠れない小さな『姫』は、今夜もその物語に思いをはせる。 それは遠くよその国の、遠く古い物語。 それは、真実の愛を探す旅に出た、小さな『姫』の物語。 天使のようにあどけなく、 剣士のように力強く、 瞳には燃えるような光を、胸には熱い勇気を秘めた、麗しき姫。 牙を鳴らし咆える竜の火も、百万の敵も恐れず、その揺るがぬ思いは絶望の魔女も討ち倒す。 彼女は、そんな『姫』に憧れていた。 彼女は、そんな『姫』になりたかった。 そして彼女は、今夜もそんな『姫』に思いをはせる。 そんな『姫』を夢に見る。 そして、『姫』は目覚める。 まだ受かるかどうかわかりませんが、某夏のイベ用に外伝執筆中。更新頻度が遅くなるかもです。全三部作、不定期更新。 第一部『BRAVE』 第一話『始動!武装神姫!』 第二話『激突!戦場へ!』 第三話「始まりの終わり」>『始まりの終わり』 第四話『夢のヒーロー』>『夢のヒーロー』 第五話『駆け抜ける旋風!嵐のタッグバトル!』 第六話『破れ!必殺のトルネード』 第七話『最強への道!蹴散らせ強敵達』 第八話『武装神姫の秘密!?』 著 ぞんだー 今日 - - 昨日 - - メニューへの追加、ならびに第一話へのリンクをしておきました。リンクのページタイトルが一致していないと、リンクが繋がりませんので注意してください。 -- 第七スレの6 (2009-12-10 23 27 42) 第1話が2種類あり、どちらが正しいか分かりにくいので不要な方は消すと良いかもしれません。 -- 名無しさん (2009-12-11 15 20 54) すみません、わざわざありがとうございます。不要な一話はID登録が済み次第削除しますので、もう少しだけお待ち下さい。 -- ぞんだー (2009-12-11 16 27 27) はじめまして、一介のわんこ好きであります。 一話掲載時から読ませていただいておりましたが・・・ すばらしい! 主人公と幼なじみの何とも言えない距離感、バトルの描写・・・ そして何より『凛』の「ハウリン」らしさ! テンポのよい話の進行も読んでいてワクワクします。 ショップを見ていても少々元気のない近頃の神姫界に吹き込む一筋の風、その今後に期待させていただきます。 頑張ってください! -- はんぺん (2010-02-06 02 08 53) はんぺん様。あわわ、ありがとうございますー。誉められ慣れていないモノでわたわたしてしまいました。 そう言っていただけるととても励みになります。まだ拙い文章ですが、どうかこれからもよろしくお願いします。 -- ぞんだー (2010-02-06 23 54 51) いつも楽しく読まさせていただいております。 いいですね、主人公曰く天然記念物の典型的な絡み方(笑) ヒカリのアーンヴァルに見ない性格にギャップがあっていいですね。 とっても可愛いです。 ヒカリとイリアの勝負は一体どうなることやら…ですね。 更新楽しみにしてます。 頑張ってくださいねっ! -- デハ (2010-02-22 10 00 46) では様 -- ぞんだー (2010-02-24 16 46 36) デハ様 ありがとうございますー。王道な展開で進めたいと思っているので、またあんなヤツが出るかもです(笑 今後も楽しんでいただけるようがんばりますので、また感想下さると嬉しく思います。 -- ぞんだー (2010-02-24 16 59 57) 凛の一途さに心熱くし、ヒカリの無邪気さに心温くしながら、毎話楽しく読ませていただいております。 メインのバトルパートはもちろんのこと、所々に散りばめられている小ネタを見つけるのも楽しいですね。 主観の人物の言葉がどこまで口に出していて、どこまでが内心の呟きなのかがたまに気になりますが、私だけが思う些細なことである気もします。失礼。 文章から、此の作品が…「こういうもの」が好きなんだな、という印象を受けました。そういう気持ちを持ち続ける限り、さらに素敵な作品となっていくことでしょう。 語りが長くなってしまいすみません。 これからの更新も楽しみにさせていただきますね。 -- 通りすがりの仮面ライター (2010-03-26 10 19 25) 通りすがりの仮面ライター様 御感想ありがとうございます。まだまだ文章としての完成度が低いので、気になった点等ご指摘頂けるのはとても助かります。 今後も楽しんで頂ける作品をお見せできたらと思うので、よろしければまた書き込んで下さい。 -- ぞんだー (2010-04-01 12 42 53) 続きあるのん? -- なゆき (2014-10-11 19 00 20) だめもとでコメントしましたが続きがくるとは(^^) まだまだ続くのかな? 続くのならたのしみにしてます♪ -- なゆき (2014-10-12 11 46 24) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/298.html
Show No Mercy - なさけ むよう - 前編 (… 何が、どうなっているんだ?) 俺は、今、目の前で起こっている状況が理解できていなかった。 「どうしたの? 早く武器を捨てないと、あの天使子ちゃんの頭に風穴あいちゃうわよ?」 俺の武装神姫・アルトの前に、そんなことを言いながら凄んでいるストラーフタイプがいる。 そしてその少し後ろに、天使子…アーンヴァルタイプの首をつかんで引き寄せ、頭に銃を突きつけているストラーフタイプ。 2人のストラーフは公式のイメージからはあまり想像できないような笑みを浮かべ、対するアーンヴァルは訴えかけるような怯えた表情でこちらを見ている。 「マスター…」 アルトが戸惑ったような様子で俺に話しかける。 いや、俺の判断を求められたって俺だってワケわかんねぇよこんな状況。 (いや待てよ、待て待て…もう一度最初から思い返してみよう…) * * * …そうだ、事の起こりはバトルセンターの辻対戦だ。 例の賞金1億のバトルロイヤル。その練習というか前哨戦というか、巷では大小さまざまな規模のバトルロイヤルが行われていた。 ファーストランカーである俺のアルトには大会そのものへの参加資格はないが、辻対戦のバトルロイヤルとなれば話は別だ。 むしろ、ボスクラスの仮想敵として歓迎される事すらある。 今参加しているバトルロイヤルも、そんな感じで誘われたんだっけな… 「いや、俺のアルトはファーストだよ? それに、やるからには俺たち容赦しないよ?」 それでもかまわない、全国相手にするんだから本気でやってくれた方が練習になる、とかなんとか… ほほぅ~、俺のアルトで練習かい? 言っちゃってくれちゃったな? よーし、お望みどおりたーっぷりと経験値稼がせてやろうじゃねぇの。 そんな感じで、俺とアルトは今のバトルロイヤルに参戦したんだよなぁ…。 < < < 切りかかって来たマオチャオタイプを紙一重で避け、そのまま距離を取ってビームライフルを二射、三射。 バランスの崩れた所にビームを撃ち込まれたマオチャオは、しかし強引に体を捻ってアーマーで受け、致命傷を回避する。 (意外とやるわね…) 空中から見下ろす私を、体勢を立て直したマオチャオは鋭く、そして驚いたような目で見つめている。 私…武装神姫のアルトは、ハウリンタイプの武装神姫だ。 だが、ハウリンタイプなのは基本の素体だけで、いわゆる公式の武装は一つも装備していない。 腕部にはシールドが接続されたアーマーユニット。マニピュレーターも大型の物が装着されている。 レッグユニットはスラスターやその他諸々を内蔵したこれまた大型の物で、私のシルエットを他の神姫にはあまり見られない末広がり状のものにしている。 そして一番目を引くのが、背中にある四基のブースターポッドだ。 普通の神姫よりも一回り大型化している私が、接近戦での素早さを売りにしているマオチャオタイプを驚かせる程の機動力を発揮出来るのは、このブースターポッドに負う所が大きい。 マスターによると、なんでも昔のアニメに登場したカオスなんとかというロボットから発想を得たとの事らしい。 そういう原典のある物は研究され易く、対処されるのも早いのでは? と聞いた時のマスターの複雑そうな表情は今でも記憶に残っているのだが… とにかく、私はこの武装でここまで戦って来たし、ファーストリーグでも戦い抜いている。 こんな所で出汁に使われるつもりは毛頭ない。 …眼下のマオチャオが頭を振り、意を決したように跳躍して来る。 私は、その決意を受けて立つべく突進する。 爪をかわしてビームを射つ。ビームをかわして爪を振るう。 (…! 意外と…) 確か、このバトルに参加している神姫はほとんどがセカンドリーグ中位クラスのはずだ。 実際、生存者が三割を切った現状でも私はほとんど消耗していない。半分の力も出してはいないのに、だ。 そんな私に、ここまで食いついて来る神姫がいるとは思っていなかった。 最近のセカンドリーグには、躍進著しい神姫が増えている。もしかしたらこの子も、まだ見ぬ強者の卵なのかもしれない。 …だからと言って、ここで私が負けてあげる理由は何一つないのだが。 動きに少々“ひねり”を加える。 途端にマオチャオの動きが乱れる。 うん、まあ、こんな所でしょうね。この子一人にばかり時間をかけてもいられないし。 すれ違いざまに軽く足を当てると、マオチャオがこちらに倒れ込むようにバランスを崩す。 このまま抜刀して薙払って終わ [!警報!:右後方中距離に銃器形状:電磁場変化無し:温度変化無し:被ロックオン反応無し] ブースターポッドを接続しているバックユニットに内蔵されたサポートAI“壱松”が私を狙う誰かの存在を告げる。 ガイドレーザーの反応も温度変化も無い所からすると、光学照準の火薬式ライフルの類だろう。脅威度はそれほど高くない。 ビームサーベルを抜こうとした左手を裏拳の要領でマオチャオの鳩尾に入れ、そのまま体を回してビームライフルを私を狙う銃口の持ち主に向けて一射、二射。 はたしてそちらには、廃ビルの上でスナイパーライフルを構えたハウリンタイプ。 それを確認した私の頬をライフル弾が掠め、彼女のヘッドギアを私の撃ったビームが掠める。だが、それを気にした様子も無く、彼女が次弾を装填するのが見えた。 (なるほど…ここまで生き延びるだけの事はある、か) 私はそこでビームライフルを手放しもう一回転、空いた右手で意識を失って落下しようとしているマオチャオを掴んで引き寄せ、 その体を盾のように構えると同時にブースターを全力噴射、スナイパーの彼女に向かって突進する。 マオチャオの体越しに、彼女が明らかに動揺したのが見て取れる。 (…さすがに、揺れたわね) このチャンスを逃す手は無い。 今度こそ左手で抜刀、マオチャオの背中にサーベルの柄を突き立てて零距離でビームを発生させる。 上がった悲鳴はマオチャオのものか、ハウリンのものか。 私はそのまま速度を緩めずに彼女にぶち当たり、さらに廃ビルの屋上に残った構造物にぶち当たる。 サーベルを持つ手に三度目の手応え。私がそれを感じたのに少し遅れて、構造物が崩れ落ちた。 私が見下ろす前で、二人の神姫がポリゴンの塵になって消えようとしている。 「こ…な、ひ…ど…」 絞り出すようなハウリンの声。 「…そうね」 私はそう答えた。 彼女たちが消え去るのを見届けてから、私は落としたビームライフルを拾いに廃ビルの屋上から飛び降りた。 * * * 「マスター、戦況を」 「オーケーアルト、残りはお前含めて一ケタだ。もう少し行ったトコに4人ほど反応がある。他はどれも遠いし…もうほとんどタイマンだな」 「なら、結局皆そこに集まる事になりそうですね」 「あぁ…お、解像度変わった。あ? なんじゃこりゃ」 「どうしました?」 「いや、なんかここもタイマン×2みたいなんだが…えらく間合いが近いのがいるな。データ回すぞ」 「はい…来ました。確かに、格闘距離にしても近過ぎますね。組み技でしょうか?」 「神姫がか? そりゃ面白ぇな。マジでそうなら決着がつく前に見ておきたいな」 「同感です。加速します」 「燃料の残りには気をつけろよー」 * * * 広大なフィールドのそこここにあるゴーストタウンエリアのひとつ。 4人の神姫が戦っているのは、その中央付近に設けられた広場のようだった。 アルトはガレキの間を抜けてすべるように飛びながら戦場に近づいていく。 このままウマいこと漁夫の利が取れりゃ楽なんだが…なーんてコトを俺が思ってると 「ぅあああぁーーーーッッッ!!!」 悲鳴。ひとつ決着ついたか。 「マスター」 「組み技の方じゃねぇな。うし、勝った方に奇襲だ。カブトの緒を締めなおすヒマなんざ与えんな!」 「了解」 奇襲とは言うものの、今参加しているシステムだと索敵範囲を少し広げりゃお互いの位置は丸見えだ。 だから、少々トンチが必要になる。 アルトは相手との間に比較的大きなガレキを置く位置にまわり…ブーストポッドからミサイルを発射した! 轟音とともに吹き飛ぶガレキ。相手に襲い掛かるその破片に隠れてアルトがビームサーベルを構えて突進する。 だが、破片に気を取られたハズの相手は即座にアルトに注意を移し、大きくバックステップして初撃をかわす! (にゃろう、意外と冷静だな) でなけりゃなんか優秀なバックアップがついてるか、だな。俺は適当な理由をつけて納得しておく。 初撃をハズしたんなら奇襲は失敗…そんならとっとと切り替えて仕切り直し、だ。 だが、ソコで相手の神姫…ストラーフタイプだ…がわけのわからないことを言い出した。 「おーっとそこまで! 動いちゃダメよ! 武装解除しておとなしくなさい!」 「でないと…あの天使子ちゃんがタダじゃあすまないわよ?!」 そのストラーフが指差した先には、同じストラーフタイプに首根っこを引っつかまれて 頭に銃を突きつけられた天使子ちゃん…アーンヴァルタイプの武装神姫がいた…。 もどる/後編へ
https://w.atwiki.jp/rondoverification/pages/15.html
移動距離計算 最大前進可能距離 = 補正機動力 x 1.25 最大後退可能距離 = 補正機動力 x 1.00 (最大 = 6秒間で移動できる) 補正機動力 補正機動力 = 基本機動力 x (1 + 重量補正) x(1 - 水中補正) 基本機動力 = 素体機動力 + CSC機動力 + 装備機動力 + スキル機動力 重量補正 重力係数=(ハイグラビティ=2 ローグラビティ=0.25 アクア=0.75 ディープシー=0.5 アステロイドベルト=0 その他=1) 修正済み重量 = 装備重量 x 重力係数 基本重装性能 = 素体重装性能 + CSC重装性能 重量補正 = (1 - 修正済み重量 / 基本重装性能) / 2 水中補正 素体水中適正=(★=150 ◎=125 ○=100 △=50) 武装水中補正=耐水 (パイレーツコーディネート時にはさらに+25) ステージ係数=(アクア=0.5 ディープシー=1 その他=0) 水中補正= ステージ係数 x (100 - (素体水中適正 + 武装水中補正 + CSC水中補正)) / 100 機動力算出方法 手順 1.機動CSCを入れた神姫Aを用意する 2.対照となる神姫Bを用意する 3.Aに遠距離武器のみ、Bに準備100の中距離武器のみの武装を用意する 4.My神姫バトルでステージをアステロイドベルトにして、3.の装備で戦闘開始 5.これでAが1秒間に動いた距離がわかる 6.あとは移動距離計算式から逆算(Excelなどで計算式をつくっておくと楽) ステージをアクアやディープシーにすれば耐水性能も計算できる。 機動修正のあるCSC 種類 レアリティ 説明文 効果 入手方法 エメラルド ★ 回避 回避センス+機動性能±0/+10/+20成長限界±0/+5/+10 所持素体×1で自動入手CSCパック/スタンダード1CSCパック/スタンダード22GEMと交換 ブラッドストーン ★★ 命中回避 命中センス+回避センス+攻撃センス-防御センス-機動性能±0/+10/+20暗視性能±0/+?? CSCパック/スタンダード2CSCパック/アッパークラス1CSCパック/アッパークラス2「『CUTE』が500ポイント以上で勝利する」達成2GEMと交換 マラカイト ★★★ 機動力 機動性能+10/+20 CSCパック/アッパークラス1CSCパック/レア1「『CUTE』が1000ポイント以上で勝利する」達成10GEMと交換 キャッツアイ ★★★★★ 機動力一部の能力センス 機動性能±0/+20/+40一部の能力センス+?? 50GEMと交換
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/475.html
凪さん家シリーズ 真・凪さん家の十兵衛さん 凪さん家の弁慶ちゃん 第零話「それは」「常」 「ぃさ~ん」 う、む…なんだこの甘酸っぱい感覚は…。 「にぃさ~ん!」 む、なんだこれはなんていうゲームだ。 「にぃさ~ん!起きてよぉ~!」 おいおい、最近のゲームでもこんな展開は見かけないぞ?王道か、王道という物か?しかしだなぁ、今はそれだけじゃ勝ち残れないぞ?最近は甘酸っぱ辛いのでないとだなぁ~。 「遅刻するよ~!」 仕方ない、ここはお決まりの台詞でも言っておこうか。 「うむ、あとゴフンッ!!」 言っておこう、まず始めに言っておこう。俺は確かに「後五分」と言うつもりだった。 そう、言うつもりだったんだ。だがなぁ、実際に出た単語は腹に衝撃をくらったせいで思わず出た「ゴフンッ!」というなんとも情けない単語だ。 って、さすがにこれでは起きて文句の一つも言わなければ男たるもの…というか主人公としてどうか。 よし言ってやろう。 「おい、一体何をするんだ!」 目を開け、ガバッと夏用布団を退かす。そう、今は夏。月で言うなら七月である。窓から降り注ぐ日の光が容赦なく俺に突き当たり、いやぁもう熱いよ。これだから夏ってやつは…。 って違うだろ。今大事なのは俺のレバーに朝っぱらから強烈なスパーキンを食らわしたやつに小言の一つでも言う事だろうが! 「おい、起こすのは良いがやり方が違うだろう?一般的にはだなぁ、「この~!」とか言って布団を剥いだり、知らんうちに布団の中に潜り込んでびっくりさせたり…」 ここまで言って俺は気がついた…何を寝ぼけているんだ俺は…見ると俺を覗き込むのは見知った少女…では断じてなく… 「ち、千空…」 凪千空、俺の…弟だった。って、まぁ待て千空、そんな変人を見る目で俺を見るな。いや確かにお前はだな、はっきり言って女にしか見えない。それこそどこのゲームだといわんばかりであって、お前のその全身からあふれ出る乙女のオーラというかなんというか。 「に、兄さん?」 「む、なんだ」 「えっと…こんな事言うのも何なんだけど…」 「なんだ」 「その…大丈夫?」 ガーン…分かる、分かるぞ俺には…その台詞の間には「頭」という単語が合体して「頭大丈夫?」となるんだろう?そうなんだろう!? 「あ、あぁ、寝ぼけていただけだ…」 「そ、そう…なら良いんだけど…」 こらまてこっちを見てくれ。兄さん悲しくなるじゃないか。…ってそうだ忘れていた…。 「おい千空」 「…え、何?」 「そういえば…よくも俺の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んでくれたな?」 「あ、それは~…」 「おい、こっちを見ろ」 「僕じゃなくて…」 「オマエジャナイナラダレナンデスカ?」 「そこに…」 「む?」 千空がその細くてしなやかな指を指す。その方向を見ると。 「…あ」 「あ…じゃない」 そこには小さな人形が立っていた。15cmサイズのそれは俺のひざの上で仁王立ちしている。 「やっと気付いたな?」 「あぁ、やっと気付いたよ…」 そう、これはゲームとかじゃない。というか俺が主役なのかすら怪しい。なぜならこの話は、目の前にいるこの小さな人形、“武装神姫”の話なのだから。 ちなみにこの目の前にいる神姫は「弁慶」千空の神姫で、犬型らしい。 「弁慶、お前が俺に朝の一撃を」 「目、覚めた」 「あぁ…怒りがわくほどにな」 「でも兄さんが悪いんだからね~?」 と、千空が横槍でグサリ。ぐ、それを言われると確かに…。 「とにかく、もう朝ごはん出来てるんだからね?早く着替えて降りてきてよ?創さんはもう食べてるんだから」 「あ、あぁ」 そう言ってリビングに向かう千空。そして去り際に顔をドアからちょこっと出して 「急いでね!」 と笑顔で言う。お前なぁ、その笑顔反則だぞ?まったくお前が妹なら…。 「おい」 「!?っと」 「急ぐ!」 「はいはい、分かってますよ弁慶さんっと」 そこでやっと大地に立つ俺。それと共に弁慶も膝の上から床に降り立った。 「いいか、急げ」 と言うと弁慶も下に下りていった。 「あぁ…眠ぃなぁ」 さてと…仕方ないからさっさと準備するとしよう…。 それにしてもさっきから焼き魚の香ばしい匂いがするな。うむ、よきかなよきかな。 「おはよう、千晶君」 「おはよう御座います千晶さん」 リビングに入るといつもの挨拶。俺ももちろん返す。 「おはよう御座います創さん、ミーシャ」 創さんは俺の従兄弟に当たる。年はそこそこ離れているがそんなに離れてもいない。 そしてミーシャだが、彼女は人間じゃない。彼女は創さんの武装神姫だ。なのでこの家には武装神姫が二体いる事になる。これって結構凄いんじゃないか?だって神姫一体買うってのは最新型パソコンを一台丸々買うことと同じなんだぞ? 「あ、やっと降りてきたね?はい、どうぞ」 と千空がご飯を盛った茶碗を目の前に置いた。 「ん、ありがと」 「じゃ、いただきま~す」 「いただきます…と」 今日の朝飯はザ・日本の朝食といった感じ。といえば大体想像がつくだろう? ぱくりと一口 「うむ、いつもの如く美味いな」 「やだなぁ兄さんってば」 「そういえば和食は久しぶりだったね」 創さんが言う。そうそう、まったくもって久しぶりだ。最近パンばかりだったからな。 「え、あ~そうか、兄さん好きだもんね~和食」 「むぐ、まぁな」 「何かあったんですか?」 「え、いやぁ特には。たまたまその…安かったから」 「「なるほど」」 我が家の家事担当は家計も考えておられるのだ。偉大な弟だなまったく。 『次のニュースです、先日起こった違法改造神姫による~』 TVから聞こえたニュースに反応する二人。まぁそりゃそうか…神姫のオーナーにとっては知っておかねばならないニュースだし。 とくに創さんはこの手の事件についての仕事をしているのでなおさらだ。 「減りませんね~神姫犯罪」 「うん、人は便利な物が現われると必ずといって良いほど悪用する人がいるから…」 「ひどい話だなぁ…」 「まぁ出来ることならすぐにでも捕まえたい所なんだけど」 「まずは警察が動かないことには…でしょ?」 「うん、その通り、下手には動けないのも事実」 「頼んだよ!ミーシャ!」 千空がミーシャにエールを送る。 「はい!一日でも早く多くの笑顔を取り戻すためにぃぃ!」 とガシッと拳を突き上げるミーシャ。 「おやおや、僕は置き去りかな?悲しいなぁ」 「え、あ、いや、そういうわけじゃ」 「ははは、わかっています。それに、確かに僕よりミーシャの方が頑張ってくれていますから」 「え、そんなぁマスターったら、恥ずかしいじゃないですかっ」 ぺちっと創さんの腕を叩くミーシャ。顔が赤くなっている。 「ははは、真実ですよ?ミーシャ」 「マスター…」 見つめ合う創さんとミーシャ…む、なんだこの甘酸っぱ辛い雰囲気は。 「オアツイネ~」 「きゃぁーみてるこっちがてれちゃう~」 からかう凪兄弟。 「こら、大人をからかわないで下さい?」 と笑いながら制す創さん。少し照れているのか? 「「は~い」」 と生返事で返す俺たちであった。 そんなこんなで朝食を済ませ、三人揃って玄関前。これから俺は専門学校にチャリで、千空もチャリで高校に、創さんは車だ。 「じゃ、行ってきます」 「行ってきます」 バタンと車のドアが閉まる。 「あ、そうだ」 千空がなにやら思い出したようで、ドアにノックする。 「ん?何かな?」 「今日の晩御飯はどうします?」 あぁ、なるほど。 「う~ん、まだ何時に帰れるかのめどは立ってないですね…」 「じゃあいつものように連絡で」 「ええ、分かりました、じゃあ、行ってきます。二人も気をつけて行ってきて下さい」 「うん」 「はい」 ブゥゥゥンと遠ざかって行く車を見送り、俺たちもそれぞれの学校へ向かう。 「じゃ、行ってくるね。兄さん」 「行ってくるぞ」 「おう、行ってこい」 「サボらないでよ?」 「サボらないよ」 「サボるな」 「だからサボらんて」 俺はどんだけ信用無いんだ?兄さんますます悲しいぞ。 「じゃ」 「ん」 千空の通う高校と俺の通う専門は反対方向だ。なのでここでお別れとなる。 小さくなる千空の背中を曲がり角で消えるのを確認して、俺も学校に向かうことにした。 「今日も良い朝ね~」 「はい、京都」 神姫オーナー御用達の某ホビーショップと同じ商店街にある喫茶店「LEN」 「おっはよ~!!」 「おはよう御座いますお二方」 「よ」 「おう!」 千空が通う超巨大学園「私立黒葉学園」 「あ、ちーちゃぁ~ん」 「おはよう御座います千空さん、弁慶」 いつもの朝、いつもの日常 「私はもうこの人達を信じたくない…です」 「人間なんてただの鍵。開けるためにしか必要ないわ」 「向かうは日本だ、晴明」 「はい。楽しみです!」 そして加わる日常、交わる関係 ここから始まる、すべてが始まる…。 そして続いてゆく。 「神姫…ねぇ~…」 第零話「それは」「常」 完 次回 真・凪さんちの十兵衛さん 第一話 歓 凪さんちの弁慶ちゃん 第一話 それは始まり
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/282.html
そのじゅうに「口に出して言うには恥ずかしい話」 あれからと言うもの、僕とティキは勝ち方を忘れたんじゃないかと言うくらい連敗続きで。 『勝つ』事のみにとらわれず、『成長』する事に重点を置いているわけだから、今まで見たいな出鱈目をしていないんだから、その所為で勝率が下がるって言うならわかる。 それでも勝つ気でバトルしてるわけで、ハナから負けるつもりなんて、さらさらない。 だと言うのに、一向に勝ちが見えてこないってのは、どうしてなのか? そして今日も今日とて負け戦。 「ティキ、ごめんなー……」 正直僕は意気消沈。だって、どう贔屓目に見ても、僕はティキにうまく指示を出せていない。 「そんな、マスタが悪いのではないのですよぉ~ ティキだって……思った通りに動けて無いのですぅ」 僕の頭の上でがっくりと肩を落とし、ティキは泣きそうな声で言った。 実際のところ、僕もティキも負け込んでいる理由なんてわかっている。 あの日、エルゴで見たあのバトル。あの衝撃が未だに脳裏に、メモリにこびり付いているからだ。 ……あんな風に、動けるはずも無いのに。 「今日俺、部活サボるから付き合え」 そういって無理やり連れてこられたのは、一番近所にある神姫センター。 確かに僕は部に顔を出す事を禁止されていて暇をもてあまし、資金も無いのにバトル三昧で、その上敗戦続きだった訳だから文句らしい文句は言えない。 それに式部がそんなヤツだってことを僕は百も承知で、そしてそんなヤツでも僕にとっては得がたい友人なので、付き合うことにはやぶさかでなく。 て言うより、チョットだけ式部に気まで使ってしまう位な微妙な立ち位置にさえ居るわけで。そして僕はそれを正直に口してしまう事しか出来なかったりもする。 「なあ、お前は武装神姫のオーナーだって事、学校じゃ隠してんだろ? なのに、こんな学校の近所で僕と一緒にいていいのか?」 我ながら自虐的。学校ではいたって目立たなかった僕が、すでに武装神姫にはまっている所謂オタクであるという噂はすでに学年中に広まっていて、更に僕はそれを隠すのを止め、堂々と神姫バトルを行っていたんだから、噂が真実だと言うのは周知の話。 だからそんな僕と一緒にいたら、式部も同じ扱いを受ける事は必至で。 そんな事を考えていた僕に、式部は僕の頭――ティキの定位置だけど今ティキはそこには居ない――を殴る事で返す。 「――っ! お前なぁ! これ以上僕がバカになったらどうすんだよ!!」 「そんな頭ならバカにでも何でもなっちまえ!」 そう言って怒っている式部を少し睨んだりもしたけど、正直言って怒ってくれた式部がうれしい。 間違ってもそんな事、口に出したりしないけど。 だから僕は、ありったけの感謝をこめて、 「……ありがと」 と、ぶっきらぼうに言う。 「なんだ? 殴られて礼を言うなんて、お前Mか? 気持ち悪!」 「んなワケあるかー!」 コイツはこんなヤツだから、だから僕にとっては何物にも換えられない大切な友人なんだ。 僕と式部がそんなやり取りをしているそのテーブルの上では、ティキがきらりに弱音を吐いていたりする。 「ティキはどうやって戦っていいのかわからないのですよぉ~」 半泣き状態。 そんなティキを見て、きらりは少し困った顔をする。 「ティキちゃん、そんなの、私も同じだよ。でもね、それって、私たちにまだ限界が来ていないって事なんだよ」 「限界、ですかぁ?」 「そう、限界」 きらりはもう一度繰り返す。 「私たちは、まだ何者にもなれる可能性が、それこそ無限大にあるの。確かに、得意な攻撃パターンや、戦法っていうのは存在するけどネ」 そう言って、きらりはティキの頭を撫でる。 「だから、ティキちゃんは他の誰かのような武装神姫じゃなくて、『ティキちゃん』になればいいんだよ。もちろん、お手本にする人が居てもいい。だけど、ティキちゃんはその人にはなれないでしょ?」 「……ハイですぅ。ティキはティキにしかなれませんですよぉ~」 「きっとティキちゃんは、他の誰かになろうとしてたんじゃないかな? だから、自分のやりたい事がわからなくなちゃったんだよ」 ティキに向けられているハズのきらりの言葉は、僕の胸にも響いた。 「そうだぜ? お前らはお前らにしかなれねーよ。そんな事して、自分たちの可能性を狭めたら勿体ねーだろ?」 式部がきらりの言葉に続く。だけどその言葉は僕にも向けられていた。 「俺としてはさ、お前らがそんなんじゃ張り合いがねーワケよ。あんな、らしくないやり方じゃぁさ」 まるで見ていたかのような事を言う。 ……見てたのか! 僕がギョッとして改めて式部を見ると、そこにはニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべる友人の顔があった。 言いたくは無いし、思うのだって恥ずかしいけど、コイツってイイヤツだ。改めてそう思う。 僕とティキは顔を見合わせる。そして二人で照れ笑いを浮かべた。 「そんじゃぁさ、取りあえずリハビリって事で、チーム組んでバトロイでもしようぜ」 そういって立ち上がった式部ときらりに、僕とティキも続く。 その日、僕達は久しぶりに勝利を手にした。 終える / もどる / つづく!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1749.html
{Eins} 前回はルーナ…『Zwei』を調べた。 中身は『Vier』と『Drei』とは多少違っていたので新しい情報は手に入った。 でも前回も残念ながら俺の記憶に関する事が書かれていなかった…。 畜生…いつになったら解るんだよ。 …落ち着け、俺。 ここで舞い上がっても仕方ないじゃないか。 最後の『Eins』のセキュリティーを突破する事に成功した。 ホント、セキュリティーを突破するのにどれだけの労力を使ったことやら…。 「…どんな事が書かれているかな?」 注意深く見ながら次々に色々な項目を見ていく。 『Zwei』と同じく製造の日記みたいな感じに書かれていたが…量は少し多いみたいだ。 西暦2027年12月×日 我が社が武装神姫というプロジェクトに参加する事になった日。 そこで我が社はオリジナル、つまり試作型MMS(Multi Movable System)を開発する事になった。 試作型の数は四体。 西暦2029年2月1×日 この時はまだ武装神姫は一般に公開されていなかった。 『Eins』は『Zwei』と一緒に誕生したMMS。 『Eins』の識別はAngel Type Version One。 西暦2030年4月2×日 攻防システムでトレーニングした結果。 近距離能力: ◎ 中距離能力: ◎ 遠距離能力: ◎ 攻撃能力: ○ 防御能力: ○ 加速能力: ◎ 最高速度能力:◎ 今までに無い最高の結果となった。 これは我々研究チームに多大な期待をもたらしてくれそうだ。 西暦2030年8月×日 『Eins』と平行に製作された『Zwei』は近距離奇襲攻撃に特化したMMSに決定された。 暴走の危険は検知され危険度は99%。 だが暴走の危険に注意し、このまま更なる研究が続けば、通常のMMSよりも数十倍の能力を引き出されると肯定したが油断は禁物。 危険度が高すぎる。 厳重に警戒し注意を怠ってはならない。 他の武装神姫に比べ、体重は通常。 西暦2030年10月×日 『Eins』の状態が急変したのを我が社のスーパーコンピューターが察知。 人間の『感情』というものを身につけた。 原因は不明、この事がきっかけとして『Eins』と平行に製作されたいた『Zwei』とは別々の研究をされる事になった。 今だに何処にも支障がない『Zwei』はそのままプロジェクト研究を続ける。 『Eins』は一時中断、西暦2030年10月2×日に別のプロジェクト研究に移行。 西暦2030年11月×日 この研究に置いて『感情』というモノは邪魔である。 そこで我々は特別にもう一体、素体ボディを用意する事にした。 『感情』というデータだけを移しかえるためだ。 これで暴走の危険度も減少してくれたら尚いいことなのだが…。 期待は出来ない事は明白だ。 西暦2030年11月1×日 まったくの同型を用意するのに困難したが、無事に用意できた。 ただし、同型といっても大きさは人間サイズである。 これは別のプロジェクトで使用するための物だったが、急遽こちらに手配してもらったのだ。 この際仕方ない。 早速、データを移行するための研究が進められた。 西暦2030年11月2×日 準備は整った。 『Eins』が眠りについてる頃に密かに実験を開始した。 だが、ものの見事に実験は途中で失敗。 実験中、異変に気づいた『Eins』は目を覚まし、そこにいる研究員を6名を皆殺しにしたのだ。 どうやらこれは暴走ではなく元々ある自己防衛が働いたものだと予測。 ただ、『感情』は途中まで実験していた為に『感情』というデータは半壊状態になる。 中途半端なデータ移行実験のせいでオリジナルのデータも破壊されたかもしれないと予測。 もう一つの素体ボディについては現状維持のまま保管された。 西暦2030年11月2×日 本来、『Eins』のノーマル武装で敵を全滅する予定だったが西暦2030年11月2×日に起きた事件で装備品をつける事によって拒絶反応がでてしまった。 そこで我々は密かに開発していた装備品を装着する事にした。 元々市販品になる予定の物と酷似しているが、その理由は目立たないためだ。 装備品の詳細は下記に記されている通り。 腰部装甲:ヴィーゼ・STHP・スカート スカートアーマー。 とても頑丈で空対空、空対地、地対空、どんな場所で適応できる。 実用性と未来的デザイン、その両方を兼ね備えた素晴らしいパーツだ。 胸部装甲:レイディアントアーマー 胸部アーマー。 以下同文。 手首部装甲:レイディアントリストガード 手首アーマー。 以下同文。 リアパーツ&背部装甲:レイディアントリアプレート リアパーツでもありながら背部装甲でもある背後アーマー。 背中の六枚の帯状パーツは自由に可動し敵の攻撃を防ぐ。 以下同文。 以上である。 ただこの四つのパーツは『Eins』に装着したら『Eins』のデータが入り込み二度と他の神姫には使えないのが難点だ。 さらにこのパーツは装着した神姫がパーツデータを改ざんできるので上記に書かれているデータを信用してはならない。 もうすでに『Eins』は何等かの細工をしているに違いない。 ついでに、実験で失敗したもう一つの素体ボディにもサイズは違っても同型のパーツを装着させた。 西暦2030年12月2×日 西暦2030年11月2×日に実験を行ってから『Eins』は我々の命令を完全に否定するようになった。 仕方なく直接データを改ざんや調査しようとすれば、再び自己防衛が働き研究員を殺す。 それどころか、『Eins』の研究部屋に入室しようとすれば瞬時に殺される。 拘束プロテクトが働いているにも関わらず、武器も持たずに人間を紙をシュレッダーに入れたように細切れにしてしまうのだ。 レプリカ神姫にも同様の結果になる。 もう迂闊に近づく事が出来なくなってしまった。 故に研究も一時的に現状維持に決定した。 西暦2031年5月1×日 『Eins』が原因不明の暴走。 研究員14人、機動隊32人を惨殺。 『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』に迎撃させたが、残念ながらいまひとつ成果は得られなかった。 こうなってしまったら『Drei』『Vier』も同じ結果になると推定され試作型MMSによる迎撃は不可能と判断。 暴走してから数十分が経過した時、『Eins』の近くに居た一人の少年によって『Eins』の暴走を止める事に成功した。 『Eins』が装着していた装備品は解除され現在の装備品は厳重に保管された。 予測通り、装備品は『Eins』が改ざんしたデータばかりだった。 このデータをもう一つの素体に移植。 少年の名は…ある研究員の保護により記載されていない。 西暦2031年5月1×日 上記に『Eins』は一人の少年に暴走を止められたと書いてあるが、何故今までその少年がこの研究所に居たのかは機密事項扱いなっていた。 プライバシー保護という名目もあるが、腑に落ちない研究員が大半だ。 更にその少年は毎日、ここの『Eins』に会って話していたという。 本来ならば人間が近づくだけで殺されたというのに、何故『Eins』は少年を殺さなかったのか…原因は不明である。 さらに『Eins』の場所は24時間体制で六つの監視カメラで監視されているのに、少年が『Eins』の場所に侵入した画像が映っていなかったのだ。 ここで少年が言っていた『『Eins』に会って話していた』という言葉が嘘になる。 だが、嘘発見機に掛けても結果は嘘をついていなかった。 原因不明な事ばかりで我々研究員の頭を悩ませる事ばかりである。 西暦2031年5月1×日 突如の『Eins』の暴走事故により、試作型MMSの研究は一時的に凍結。 研究の中断は余儀なくされ、確定は確実。 『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』はこの日をもって完全凍結された。 西暦2040年5月1×日 武装神姫が稼動、発売されてから9年。 ※神姫タイプ以外のMMSはこの限りではない。 武装神姫のシステムが総合的にバージョンアップし、ある程度安定してきた。 しかも武装神姫の人気は徐々に上がっていくのを見て我が社の試作型MMS研究が再開される事が決定した。 しかし、いくらバージョンアップしたとはいえ、9年前同様に暴走してしまったら危険。 我が社は試行錯誤を繰り返した結果、試しに人間と生活させる事にした。 人間と一緒に生活させれば、我々人間がどのように生きているのか生活面の知識が増えるだろうと予測。 そうする事によって我が社の四体の試作型MMSはこの世の中の知識を身につける。 そうすれば、人間がMMSをどのように使役しているか、自分達がどのような存在か知る事になる。 結果、試作型MMSは自分達がどのような存在か理解し、無駄な抵抗をしないまま研究できる。 しかし、ここで少し問題が発生した。 この四体の試作型MMSと一緒に生活する人間を決めなければならないという問題。 我が社の人員から選んでもよかったのだが、9年前の事故によって誰もが拒否した。 だが、斉藤朱美研究員のスカウトによって一般人がこの大役を受け持つ事になった。 現在は 斉藤朱美研究員の弟、天薙龍悪に四体の試作型『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』を監視させ、今に致る。 ここで文章が終わっていた。 「…おいおい。マジかよ…これ…」 『Eins』の過去は悲惨過ぎる。 『感情』というデータが出来たぐらいで邪魔物扱い…研究の支障にあたるからってあまりにも酷過ぎるぜ。 けどその実験は失敗し『Eins』に皆殺しにされたみたいだけど…中途半端な実験で『感情』というデータは半壊状態か。 なんとも惨たらしい事件だ。 あと気になるのはノーマル武装からオリジナル武装に変更した事。 市販予定の装備品を改造して『Eins』に装着したみたいだが、火に油を注ぐようなものだと思う。 ハナッから危ない『Eins』に強力な装備品を渡してどうするてっんだ。 それに死人も出ているにも関わらず…。 でもこの会社ならヤりかねないかもな。 人間の命なんて、なんとも思っちゃーいないだろう。 そして最後に『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』にも書かれていた西暦2031年5月1×日の『Eins』の暴走事件。 今回は『Eins』のデータだったため、『Eins』と『Zwei』が殺し合いをしてる画像があった。 姉妹同士で殺し合いかよ…。 しかも『Eins』が持っている武器は殺傷能力が高い物ばかりだ。 さらにあのアーマーだ…到底『Zwei』は勝てない。 そのおかげで『Zwei』は内部をボロボロにされたみたいだが、ここで少し疑問点が浮かびあがってくる。 『Eins』の装備している武器は確かに強い…けどあの武器だと外側にも強烈なダメージがでるはず。 なのに内部だけとはこれいかに? こればっかりは俺の想像はつかない。 一時保留だな。 …一番不思議なのは『少年』というのが気になる。 殺戮マシーン化してる『Eins』をどうやって止めたというのだ。 原因は書かれていないのでこれも解らない。 これも一時保留だな。 「アンジェラス…あいつはかなり酷いメにあってきたみたいだな」 この四つのデータの中で一番酷いかもしれない。 ルーナも可哀想な過去だったけどアンジェラスとは比べ物にならない。 とてもじゃないが、声をかける言葉が見つからない。 何も言ってやる事が出来ない…情けなさすぎるぜ…俺。 「あいつ等はこの過去を覚えているのか?」 もし覚えているなら教えるべきか? いや、寧ろ教えない方がいいかもしれない。 あまりにも酷過ぎる事しか書かれていないからな。 口にする俺も心が痛い。 「もう…閉じるか」 閲覧している『Eins』のデータを閉じようとマウスを動かした、とその時だった。 一番最後にリンクらしきものがあったのだ。 「『Schatten Eins』…なんだよ、これ?」 まだデータがあるというのか!? しかもこれは『Eins』のデータからのリンクでしかなさそうだ。 …気は進まないがこれも調べさせてもらうとしよう。 結局の所、俺の記憶に関する事は何も書かれていなかったのだから。 「…そういえば、アンジェラスと家で会った時…『初めまして…かな?』と言ったよ~な。まるで以前会ったかのような口ぶり…気のせいか」 フと、そんな事思い返しながらマウスを動かし『Schatten Eins』のデータに侵入しロック解除しようとする。 でも時間がかなり掛かりそうだ。 「やっぱり今度にしとくか。今日は辛い過去を見ちまったからな」 勝手に見といてなんだけど、辛いのは事実。 出来れば『Schatten Eins』のデータはこれ以上の酷い過去がありませんように、と願うだけ。 そして『Eins』と同じ名を持つ『Schatten Eins』とはどんなデータなんなのか。 これはあくまでも俺の勘だが…とてもイヤな予感がする。 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2609.html
3ページ目『フィギュアじゃない』 「ごめんなさい。私はちゃんと玄関からお邪魔しなきゃ、って言ったんですが、この疫病猫が」 「仲間を売って自分だけ助かろうとするとはオマエ、それでもキャッツアイの一員かにゃ。やれやれ、3rd素体の神姫は、猫を敬うこともできないシケた連中ばっかりにゃ」 「貴様がキャツアイを脱退すればいいだけのことだ。難しいことはない」 「にゃんという暴言! 聞きましたかヤンデレお嬢さん。最近さーほむほむがワガハイに冷たいんにゃよー」 「ヤンデレって私のこと? ねえ私のことなの? って、そんなことより――」 時折、弧域と鉄子の話し声が聞こえてくる孤独な部屋は、三人の闖入者の登場により急に騒々しくなった。 引っ越してきて三年目になるこの部屋は未だ、弧域ですら侵入を許されたことのない姫乃の聖域である。人当たり良く素直で通っている彼女(例外あり)でも、部屋の至る所に隠してある有害図書や器具などの秘蔵物の発覚を恐れたりと、他人に踏み込ませない領域というものは人並みにあるのだ。 しかし姫乃は闖入者の姿を見て興奮するあまり、秘蔵物のことなどすっかり忘れ、闖入者達を抵抗なく迎え入れてしまった。自分は机に着いて、三人を机の上に上げてじっくり観察しようと、目を皿にした。 「あなた達って武装神姫、よね? どうして動いてるの? もしかして昔作ったフルラドスの魔法陣で召喚された使者じゃないの? あれは自分でも傑作だって思ってたくらいだもの、他に考えられないわ! そうなんでしょ!」 窓を閉め、弧域とおそろいの電気ストーブのスイッチを入れても、一度冷やされた部屋はそう簡単に暖まるものではない。しかし姫乃は、自分の手がかじかみ動かないことすら、もう眼中に無かった。 恐怖心が綺麗サッパリ霧散した後も、心臓はまだバクバクと鳴りっぱなしで、姫乃は無意識に胸を押さえていた。机の上に立ち、人間のように動き、言葉を自在に話す人形に心をときめかせずにはいられなかった。 主に中学生時代に夢見て、今目の前にいる【異界からの使者】。数年が経過した今であっても、それは姫乃の好奇心をこれ以上無いくらいくすぐった。 「ワガハイ達神姫は立派な科学の結晶にゃ。魔法陣にゃんて痛々しいモノにお呼ばれされた覚えはにゃい」 「うんうん! そうよね、簡単に秘密をしゃべるわけにはいかないものね。大丈夫よ、私はその辺りはちゃんと心得てるつもりだもん」 猫型の武装神姫、マオチャオにキッパリと否定されても、姫乃は肩を落とすどころか、むしろ謎が深まったことを喜びさえしてしまう。まったく未知の3体に触れようとする手を抑えるのにも、早くも限界が訪れそうだった。興奮しすぎてみっともなく鼻息を荒くしていることにさえ気付けないでいる。 ただし。語尾を「にゃ」に変えて話すマオチャオはカタログで見られるようなごく普通の武装神姫だが、姫乃は頭の隅で冷静に (実物は随分とバカっぽいのねえ) という第一印象を受けてもいた。 「レーダーを扱えるのが貴様だけ、というのが問題だな。おかげで俺は貴様に振り回されざるを得ない。しかし使い方を覚えるのも面倒だな……」 ほむほむと呼ばれた神姫も同じくマオチャオだが、言葉遣いだけでなく見た目も「にゃ」のマオチャオとは異なっていた。額に白く無骨なシールドを被り、大きな目の上半分までを隠すように覆うことで目付きが悪く見えてしまっている。胴体も、戦車の装甲のような装備で覆われ、さらに背面には巨大なハンマーがたすき掛けされており、このマオチャオの戦闘への意気込みが見て取れる。しかし脚部だけは何故か、スポーツカーを思わせる真紅の端麗な装備が使用されていて、無骨な上半身に流麗な下半身と、全体的なバランスは大きく損なわれている。 「あの空間に少人数で飛び込むのだけは避けたいですし、カグラの暴走はレーダーとデコイを得る代償と考えるしかなさそうです」 もう一体、部屋に入って最初に姫乃に侘びを入れた神姫はマオチャオではなかった。弧域が飾っているそれと同じ金髪蒼眼の戦乙女型、アルトレーネである。物々しくも洗練された全体的なシルエットを、白と青のコントラストがさらに凛々しく引き立てる豪奢な武装。バイザーを上げたヘルメットが何よりも戦乙女らしさを醸し出しているが、そのヘルメットの頭頂の隙間から何故か、ピョコンと三角形の耳が覗いていて、すべてを台無しにしてしまっている。 三者三様の人形。小さくて可愛らしい、と言うには着飾っているものが少々物々しいが、武器や防具といった日常とはかけ離れた物が、姫乃の妄想をいっそうかき立たせた。 (すごい、すごい、すごいっ!) 見覚えのあるマオチャオもアルトレーネも、実際にそれらが動いているとなれば、姫乃の目にはとにかく素晴らしいものに見えた。なにせ【召喚した妖精や悪魔の類が武装神姫の体を借りて動いている】らしいのだから、召喚の触媒になり得る武装神姫に、興味を持たない理由はない。黒歴史を葬るために切り刻み灰と帰したノートですら (私のバカ、なんで捨てちゃったのよ) と今更になって惜しむ始末である。 「ねえ、少しでいいから、触っていい?」 「ううん、やっぱりマスターと同じように、本当に神姫のことを忘れてしまってるみたいですね」 「目覚めた神姫に触れれば記憶が戻るかもな――よし、心ゆくまで触っていいぞ」 「待つにゃほむほむ。こういう時は普通、自分の体を差し出すものじゃにゃいか。何の躊躇も無くワガハイを差し出そうとするとはアレかにゃ、ワガハイの体は俺の物っていうジャイアニズムに目覚めたのかにゃ」 「あなた達、ジャイアンのこと知ってるの!? そ、それってもしかして、アカシックレコードから引用して、たり?」 「なんだか私、この方に上手く説明できる自身がないんですけど……」 アルトレーネの「説明」という言葉を聞いた姫乃は、椅子の上でサッと姿勢を正して身構えた。異界からの来訪者は、まず召喚者に事情を説明する暗黙のルールがあり、召喚者はそれを聞かなければならない――という【設定】を、忠実に守るためである。彼女の心はもう立派な召喚士のそれへと変貌していた。 「なんでも話して。私、あなた達がどんなに不思議なことを話しても絶対に否定しないから」 「既に変な方向に誤解されてるみたいですが……分かりました。私達も状況をすべて知ってるわけではないので、あまり鵜呑みにしないで下さいね」 コホン、とひとつ咳払いしたアルトレーネはスカート状のアーマーを折りたたんで、その場に姿勢良く座った。ハンマーを持ったマオチャオも、その隣に片膝を立てて腰を下ろした。もう一匹、「にゃ」のマオチャオは姫乃に指で喉を撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らして一人悦に浸っている。 「まずは自己紹介としましょう。私はアマティといいます。こっちのクールなマオチャオがほむほむで――」 「俺の名はホムラだ」 「その馬鹿っぽいのがカグラです」 「馬鹿とはにゃんにゃふにゃあああん♡ そ、そこはだめにゃああぁああ♡」 姫乃の十指による技巧にされるがままのカグラは、最後のプライドを振り絞って拒絶の言葉を吐き出すも、表情も体も既にとろけきっていた。 カグラを弄びつつも、姫乃は一言一句聞き漏らすまいと真面目に耳を傾ける。 「これはこれはご丁寧に。私は一ノ傘姫乃っていいます」 「初めまして一ノ傘さん、と言いたいところですが、実は私達――」 「やあねえ、姫乃って呼んでよ。私達の仲じゃない」 「仲? ……いえ、確かに『実は私達、お会いしたことがあるんです』って言おうとしましたけど、せいぜい顔を合わせたことがあるってくらいで、そこまで親しいわけじゃないです」 「【猫戦乙女の憂鬱】の最終話で会ってるにゃ」 「貴様は黙ってろ」 「そうなの……残念」 「兎に角、まずこれだけは認識して下さい」 力を込めたからか、アマティのヘルメットからのぞく三角の耳がピンと尖るように立った。その耳に手を伸ばしたいけれど話の邪魔をするわけにはいかないと、一人葛藤する姫乃だった。 「私達神姫は、姫乃さんと同じように心を持ってます。妖精だか何だかが取り付いたフィギュアなんかじゃなくて、CSCとこの頭、コアによって見たり聞いたり感じたり考えたりできるMMSなんです」 ■キャラ紹介(3) カグラ 【 2/2 】 彼が幽鬼のような表情で帰ってきた理由を、留守番をしていた次女達はすぐに知ることとなった。彼が鞄から机の上に出したモノ、それは変わり果てた長女だった。 彼が帰ってくるまで騒々しくケンカをしていた次女達が絶句する中、彼はパソコンを起動し、メンテナンス用アプリケーションを立ち上げた。そして淡々と、収集した画像を整理するような無感動さで、次女達のオーナー登録を次々と抹消していった。混乱の極地にある次女達にはもう、彼のやっていることが理解できなかった。 呆然と立ち竦む次女を荒々しく掴んだ彼は、無造作に胸のカバーを開き、CSCを抜き取った。心を失った次女は、内部に精密機器が詰まっているだけの人形となった。だから、自身がゴミ箱へ放り投げられたとしても、反応することはない。 「ひ……」 机の上に散らばっていた【長女だったモノ】も片付けた彼の手が、三女に伸びた。 「ひゃあああああああああっ!?」 三女が駆け出すより速く、彼の手が伸びた。乱暴に掴まれた三女はありったけの力で暴れ、彼の手に噛み付いた。小さいとはいえ戦闘できるよう作られた神姫の力は強く、肉を噛み千切り、力尽くで手の中から逃れることができた。三女の身体が床へ自由落下する。しかし、その床へ到達するまでの時間は、三女にとってあまりに長すぎた。着地の瞬間、床と彼の足裏の間で押し潰された三女からはもう、CSCを抜き取る必要もなくなっていた。 足裏に鋭い痛みが走ることで、僅かに我を取り戻した彼は、荒い息を吐きながら部屋の中を見回した。 四女と五女は姿を消していた。 次ページ『アマティ、キレる』 15cm程度の死闘トップへ