約 173,352 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2629.html
「よろしくお願いします!」 「……よろしく」 フィールドに降り立ったミスズ。バイザーで口元しかわからないが、挨拶を返しくれるスポーツ精神はあるようで、相変わらずの大剣を構えて仁王立ちのイスカ。 ミスズの方は、ヘッドパーツ、胸部アーマーやら脚部にも装甲が付けられていて、背中にはさっき見たのとは違い、ロケットが付いてない機翼。 そして手に持つは両刃の光剣ダブルライトセイバー。なんか、いつも見てるミスズと比べて、ものすごく格好いいな。 ダブルライトセイバーを構えて地を蹴り、イスカに向かうミスズ。 そして、真正面から両者切り結ぶ。 今のところ、イスカはあの大剣しか使ってはいない。ミスズは他にも武装を使うのだろう。でも、火器類はさっきみたいに、あの大剣で防がれるかもしれない。しかも、移動は最小限、武道のような足運び、そして大剣を片手だけで扱い、ミスズのダブルライトセイバーを捌いている。 ダブルライトセイバーを棍のように扱い、中国のアクション映画さながら流れるような攻撃を加えていく。だが、イスカは幅広な大剣を使いそれすらもことごとく往なしていく。 「たぁっ!」 ミスズの気合いの一声。 大剣の間合いから一歩踏み込む。懐に入り込み大剣の刃に触れる寸前まで、身体を押し出し、付けているバイザーごと頭部を刺し貫こうとする。 だが、それも身体を軸足でない方を後ろに滑らし、半身になり大剣で反らすイスカ。 「甘いっ!」 「!?」 反らされた瞬間、ミスズはそのまま受けた反動を利用して、グルンと身体全体を独楽のようにして捻ねった。光学の剣特有の動作音を強く発しながら、エネルギーの刃がイスカに迫る。 ……どうだ!? 「――当てられると思ったんですけどね」 瞬時に間合いから離れたイスカを見て、ミスズが驚いている。 そこには、バイザーが付いてない姿のイスカがいた。空いていた方の手にナイフを持ち、逆手に握っている。 二人がいる奥の方、バイザーはずいぶんと遠くに飛ばされているみたいだ。 とっさの判断でナイフを持ってきて頭部を紙一重でガードはしたが、バイザーに当たりあられもない方向に飛んで行ったということかな。 隠れていた目元、イスカの瞳は真っ赤になっていて、深紅の大剣と相まって、血の色に思えてしまった。……本物の悪魔みたいな、こんな悪魔型もいるのか。周りの悪魔型はもう少し可愛らしいのが多いのに。 「……少しはできる」 顔が若干嬉しそうに見えた。ミスズの事を好敵手と認めたらしい。 そして手に持っていたナイフを腰に仕舞い、大剣を両手で持ち始めるイスカ。ここからは本腰を入れてやるということみたいだ。 「相手も本気みたいだ。あれは二度は通じないだろうからな。とりあえずけん制!」 ミスズの手からは、シンプルなハンドガンが転送されてきて、空中を飛んでつかず離れずの位置でイスカに向け撃ち込む。 「……無駄だ」 しかし、どんな場所からでも、あの大剣で防がれる。 前後左右器用に大剣を使い、死角がないように、鉄壁の防御となっている。よほどの高火力の武装でないとあれを崩すのは難しそうだ。 「……来ないならこっちから行くよ」 大剣を持ったまま移動することが出来るのかと思ったけど、軽々と使っているのだから、移動も支障ないのか。 大剣を後ろに倒し、ミスズに向けて駆けていく。 ミスズの真下の近くまできて、そのまま足を曲げ地面から一気に跳躍。背中に付いたブースターみたいのを補助に使い弾丸のように跳んだ。 「……それ!」 「くぅっ!」 ミスズはあまりの跳躍の速さに回避行動が間に合わず大剣の弾丸が激突する。 持っていたハンドガンは弾き飛ばされ、持ち手と腕を使いダブルライトセイバーで盾にしたが、ミスズ自身も吹き飛ばされる。 イスカは大剣を握り直し、膝を曲げて地面に降り立つ。空中を飛ばれてても、まったく不利にもなってない。素人の僕から見てもすごく強いな。 ミスズは空中のまま木の葉のように翻し態勢を立て直す。 「このままだとやられる。ミスズ、昨日考えたのやるぞ!」 「わかりました!」 来る前に言ってたのかな? 淳平の大きな声に負けない程の声量で答えるミスズ。 光刃を消した柄をを腰のスカートに仕舞い、両手から転送されてきたのは、今度は武骨なサブマシンガンの銃二丁で、強く握りその場からもっと高く飛び上がる。 「よし、弾丸包囲だ。いけ!」 「了解。はぁぁー!」 あれが新戦法とやらなのか、サブマシンガンをイスカに向け乱発しながら、周りを縦横無尽に飛び回っている。 バババっと断続に銃声を轟かせ、空中を駆ける天使。 なるほど。 大剣では一方向しか展開できないとみて、四方八方から銃撃を加える作戦か。淳平のくせによく考えるな。これならもうちょっと学校の勉強とかにも向けて欲しいのだけど。 荒野のステージには、もうもうと土煙が立ち始め、空中を飛んでいるミスズは見えるが、イスカのいる辺りの確認がまったくできない。 サブマシンガンを撃ち切り、両者がいた付近から、できるだけ離れた位置に降り立つミスズ。全力疾走後みたいに、銃を持った両腕をダラリと下げ肩で息している。 「……はぁ……はぁ……どうでしょうか?」 「わからん」 土煙が上がり続けていて、何も反応がない。静寂が場を包む。あんなに撃ち続けていて銃声があったのに、急に静かになるとなにか不安が残る。 煙が少しずつ減ると、周りが確認できてきて……―― 「――カハァッ!」「ミスズ!!」 ミスズは目を見開き顔を苦悶にし、同時に淳平は声を上げた。 煙の風向きが丸まり、目を離した筈はないのに、突然姿を現し疾駆してきた赤目の悪魔。その手に持つのは大剣ではなく、腕部に取り付けた杭打ち機『パイルバンカー』 それをミスズの胸部、正確には鳩尾に重く突き上げていた。ボディーブローのごとく剛腕で打ち、アーマーがあるとはいえ、杭のある腕で殴られたミスズは口から空気しか出せない。 「……楽しかったよ。じゃあね」 瞬間、火花が飛び散り金属製の杭を射出。 貫かれたミスズはなす術もなく、その場の空間から掻き消えていった。 ―――― 「やっぱり、勝てなかったか」「いやでも、初めて大剣以外に使ったのを見たぜ」「ああ、バイザー取っ払った姿も初めてだし」「かなり、善戦した方だよな」「いやー、あんなアホそうな学生がねえ」 観戦していた周りのギャラリーはもう試合はないとみて、感想を口々に出しながら、バラけて行った。 画面を見ていた僕はすぐさま淳平の傍に駆け寄る。 「すいません、マスター。負けてしまいました」 「いいって、いいって。気にすんな……おう! 螢斗」 僕に気が付き、今までミスズをなぐさめていた手を止めて振ってきた。 「はぁ……なんで、勝負しかけたの?」 「だってさ、あんな試合見てたら、挑戦してみたくなるじゃん。やっぱ、まじかで見るとすっげー強いな」 「……。ミスズは、平気? なんともない?」 「はい。大丈夫ですよ。ご心配おかけしました」 「あれ~、お~い」 アホな淳平を放っておいて、僕はミスズが心配になり声をかける。やっぱり電脳空間といえどあんな杭が刺さったら痛いものだろう。あんなの物がリアルバトルなんかで使ってやられたら、絶対に神姫が危ない。最悪、死んでしまうし、武装神姫の世界でも命がけの戦いがあるんだな。 「キミたち、こんにちわ」 と、突然声が聞こえてきた。横から声をかけられたと気付き、僕と淳平は振りかえった。 見れば、向こう側にいたストラーフのオーナーの人が僕たちに挨拶をしてきてくれていた。 「さっきのでかい声にちょっと驚いたけど、結構やれるのにもっと驚いたわ」 嫌味がないように、素直に淳平の事を称賛してくれている。 また勇気と無謀を履き違えた人が申し込んできたと思ったんだろう。実際、僕もミスズはともかく淳平が指示して戦わせる姿が思い浮かばなかったからな。 「でも、ボロ負けだったじゃないすか」 「いいえ、あの突くのを囮にして本命は回転斬りのところ、結構危なかったのよ。私の指示が聞こえてなかったら、イスカは一本とられてたわ」 「え、そっちすか? 俺は弾をばら撒く作戦とか自信あったんすけど」 「あれはだめよ。相手の姿見えなくしたら、次の行動読めなくなるし、現に防ぎきっているのわからなかったでしょ。あと、いくら機動力のあるアーンヴァルでも、大きすぎる動きをしたら次の行動に支障が出るわ。だから大振りなパイルバンカーの攻撃も食らうのよ」 「ははー、なるほど。参考になるっす」 ダメだ。聞いている僕にはついていけない会話だ。バトルの意見交換をされても入り込めない。 でも、僕はこの人に用があって来たんだ。神姫バトルに興奮している場合じゃない。 「あ、あの!」 「ん? ああ。そうだったな。ええと俺は伊野坂 淳平。神姫はミスズ。こいつは長倉 螢斗です。俺の友達なんですけど、実はこいつの用事がおねえさんに会う事だったんですよ。バトルは俺のただの気まぐれで、俺の方はただの付き添いですんで」 「へぇ、私は宮本 凛奈。神姫はイスカね。ちょっと戦いすぎて今はスリープモードになっているけど。で、私に用事って、なにかな?」 違う人という可能性もあったけど名前を聞いて。この人なんだと確信した。単に似ているだけの可能性もたった今消えた。 「あの、……山猫型の神姫をなくしたりしてませんか?」 「もしかして!? あの子のことを知っているの」 「はい。つい最近拾いまして、……僕の神姫になっています」 動揺しているこの人の淡い水色の目を、真っ直ぐに見つめて言う。シオンを追い詰めることをするようには見えないけど、でも彼女は苦しんでたんだ。ちゃんとした神姫オーナーだったら悲しませるような事はしない。 「……そう。あの子……よかった」 でも、この人は僕の神姫になっていたという事に安堵していた。 「なんで!? 元々あなたのでしょ。責任持って神姫を扱ってください!」 「……おい」 「あ……すいません。……失礼な事を言いました」 おもわず声を荒げてしまった。淳平に止められなかったら言いたいこと全部をここでぶちまけていた。 「いえ、私が悪いのだし。あの子だって恨んでいたでしょ?」 「恨んでいるなんて言ってませんでしたし、逆に悲しんでいました。傍にいられなくなる程に。僕の神姫になってくれる了承もしてくれましたけど、まだ引きずっているんです」 「……そう。わかったわ。詳しく話したいのだけど、ここじゃ無理ね。私この後用事があるのよね、携帯のメアド教えてくれる? 後で連絡するから」 「わかりました」 ポケットから携帯を出して、お互いのプロフィールを送受信する。携帯はシンプルでストラップもなにもない。ぼくも、そうなんだけどね。 「あー、おれもしていいっすか?」 頭を掻いてなにやら言いずらそうにしている。まあ、僕のせいで空気が重くなってしまったし、淳平もこの空気を読んでいてくれてたんだろう。 「ふふ。まあ、いいわよ」 「そうっすか!? やったー!」 了承してくれた宮本さんに、淳平はガッツポーズをしてものすごく喜び、すぐさま携帯を取り出して操作している。美少女じゃなくても結局綺麗な女性だったら誰でもいいのか。 そして、胸ポケットには凍えるような瞳をして淳平を見るミスズが。やばいだろ、あの目は。 「あ、それじゃ。そっちの都合でいいので、後ほど連絡を。ほら、行くよ淳平」 「またレクチャーしてくださーい」 僕は危機的状況を理解してない淳平を引っ張って、ゲーセンの出口に向かう。 後ろからは「また、後で」と小さく聞こえ、それに返事をしてその場をあとにした。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/akb44/pages/3590.html
三咲舞花をお気に入りに追加 三咲舞花とは 三咲舞花の52%は濃硫酸で出来ています。三咲舞花の27%は税金で出来ています。三咲舞花の8%は毒電波で出来ています。三咲舞花の6%は波動で出来ています。三咲舞花の4%は覚悟で出来ています。三咲舞花の3%は純金で出来ています。 三咲舞花@ウィキペディア 三咲舞花 三咲舞花の報道 【ジャナドル日記 Azully】レースクイーン写真紹介!「SUPER BATTLE of MINI 2020」@筑波サーキット - サンケイスポーツ 三咲舞花をキャッシュ サイト名 URL 三咲舞花の掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 三咲舞花のリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 三咲舞花 このページについて このページは三咲舞花のインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される三咲舞花に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1199.html
水辺に泳ぐ女神達──あるいは入水(前半) 2037年の夏もピークを過ぎ、秋の気配が密かに忍び寄っている。 私・槇野晶も稼ぎ時に働き、また“妹”たる神姫達と共に様々な所へ 物見遊山に出かけたが……思えば“夏らしい事”は余りしていない。 そこで、私は彼女らにこんな提案をしてみる事としたのだな。有無。 「なぁ、皆……八月最後の定休日、ここは一つ泳ぎにでも行かぬか?」 「え?!い、いいんですかマイスター?でも、水着なんてあります?」 「案ずるな、ちゃんと作っておいた。だからこそ、今日しかないのだ」 「……塾の宿題も終わったし、それならボクらも安心して行けるかな」 「でも……マイスター、本当に……ほんっとうに“大丈夫”ですの?」 ロッテが、何度も念を押す様に私を見上げて問い掛ける……そう言えば あの事を知っているのは彼女だけだったか。心配するのも無理はない。 だがそれ故に連れていってやらないというのは、“妹”達が可哀想だ。 「む……正直、カナヅチが治ったとは言い難い。苦手は克服したがな」 「ふぇ?ま、マイスターって泳げないんですか?そんな印象は~……」 「……泳ぎが下手なだけであって、入水即溺死等という事はないぞ?」 「それでも意外なんだよ。インドア派でも結構動くもん、マイスター」 「歩くのはいい、走るのも蹴るのもな。だが……イマイチ泳ぎはなぁ」 準備をしつつも私は鼻を掻く。何故か水が苦手でな、理由は分からん。 ロッテと暮らし始めたばかりの頃は本当に酷くて、文字通り溺れたな。 今はマシだが、まだまだ自在に泳げるとは言い難い。浮き輪は必須だ。 と言う訳で愛用の浮き輪を、空気を抜いた状態でバッグへと押し込む。 ……待てそこ、笑うな!?猫柄の浮き輪位、別に構わぬだろうがッ!! 「なら、アルマお姉ちゃんは……クララちゃん、お願いしますの♪」 「わかったんだよ。これもマイスターの為だもんね……大丈夫かな」 「いざとなったら、あたしが動きますから……って、マイスター?」 「……いや、さっきから何を相談している?皆、準備は出来たのか」 貴様らを咎める間、ロッテ達は何事か密談をしていた様だ。気になるな。 まあ、深く追求してもしょうがない。皆が水着と足ヒレ等を用意したのを 見届け、私も替えの服やアンダー等をバッグに詰め込んで、ビルを出る。 照り付ける様な“クレイジーな”暑さを堪えつつも、ノースリーブの私は 両肩と胸ポケットに神姫を搭載するお決まりのスタイルで、電車に入る。 「ふぅ……ミストでワンクッション置いても、この寒暖差は堪えるな」 「相変わらず、車両の冷房は殺人的に効いてるんだよ……電気の無駄」 「MMSのあたし達は何ともないですけど、マイスター大丈夫です?」 「む?少々冷えるな。ビルの居住区も結構エアコンは効かせてあるが」 「でも個人的な好みに配慮がない分、ここの方が数段寒いですの……」 ぼやいてもしょうがないとは理解しているが、流石にこれは肌に悪い。 極力風の当たらない席に座り、急ぎ海浜区域のレジャー施設を目指す。 夏休みの盛を過ぎた今ならば、都心と言えども混雑は若干緩和される。 案の定、たどり着いたプールの人混みはテレビで見る程多くなかった。 「さて、着いたぞ皆。まず入場券を買ってと……大人一人頼めるか」 「え、え?あのお嬢ちゃん?……お父さんかお母さん、いないの?」 「馬鹿者ッ!この通り、私は子供料金ではないぞ!……それからだ」 「す、すみませんすみませんっ!……え、これは武装神姫、です?」 最初から子供扱いする不埒な受付嬢を喝破し、“妹”達を台へ降ろす。 彼女らの扱いがどうなっているのか、今回はリサーチしなかったのだ。 という訳で、彼女ら自身の口から自分達の処遇について聞いてもらう。 「はいですの♪わたし達は料金とか必要ですの、受付のお姉さん?」 「え?え、えーと……持ち込みはいいですけど、水は大丈夫です?」 「はいッ。水中で胸を開いたりしなければ、なんともありません!」 「そう言う物なんですね……わ、分かりました。でも壊れても……」 「弁償はしない、だね?それ位はボクらも分かってるもん、大丈夫」 受付の若い娘は、神姫を知っている様だった。説明の手間が省けたな。 そう言う訳できちんと私の入場料を払い、四人で女子更衣室へと赴く。 ……こら、此処からは見るなッ!!女子の着替えを覗くな貴様ぁッ!? 「マイスターの水着はセパレートタイプなんですの?ってこれは~……」 「有無、お前達と同じデザイン……というより、この水着を元にだな?」 「あたし達の水着を作ったんですね?柄や色は違ってますけど……ふふ」 「皆、お揃いなんだよ……パレオまであるもん、マイスターに感謝だよ」 ──────ちょっと遅い夏、精一杯堪能するよっ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/892.html
僕は、多くの戦士達を見てきた 彼ら彼女らに翼を与え、更なる空へと羽ばたかせて来た だけど、結局後には空しさが残った 皆最後には堕ちてしまう 僕はでも、決まった場所を行ったり来たりしか出来ないから 結局また戦士を見つけて翼を与える 戦士から戦士へ 人から人へ 僕はかもめだった 僕に見込まれたものには、必ず栄光と死をもたらすけれど "Я чайка" 今日も琥珀は剣を打つ 鳳凰杯に出展した時に、調子に乗って三本も四本も仕事を請けるたものだから、オーバーワークも甚だしい 此処の所工房(リフォームしたて)に篭り詰めで、私としては退屈極まりない 「あいつの所にまたお見舞いにでも行ってやろうかなぁ・・・」 はっ!!違う違う!か・・・っ勘違いしないでよ!別にあいつの事なんか何とも思って無いんだからね!単に暇で暇で仕方が無いからちょっと・・・あいつも大変だから行ってやろうかなーとか思っただけで、別に心配とかしてないんだから!本当なんだから!! 「何か随分盛り上がっているね・・・どうしたの?」 「ゔぁ!?こ・・・っ琥珀?何よぅ・・・出て来たんなら声掛けなさいよ、もう!!」 「何度も掛けたんだけど何か一人悶えてたからさ」 「・・・っ!!ええい!五月蝿いわね。あによ?今日はもうあがるの?」 「いや、流石にちょっと僕一人じゃ仕事が追いつかなくなったからさ・・・手伝って欲しいんだけど・・・駄目かな?」 「え・・・?良いの?アンタいっつも仕事中は見るなって言うじゃない」 「勿論見せられない部分の所は見せないよ・・・でも・・・こんな事頼めるのはエルギールだけだし」 顔から火が出そうになったのが、判った 実は私こと「花型MMSジルダリア」の『エルギール』は、私の今のオーナーたる神浦琥珀にでれでれなのだった(注1) 強大な火のマナと、金属の匂いが大気に満ちているのが判った 薄暗い部屋は、想像していたようなおどろおどろしい黒ミサ的な空間ではなく、ごく普通の、レトロな鍛冶部屋だった そう、ごく普通・・・普通? 否、私が間違っていた・・・室内を派手な色の大蛇がのたくり、襟巻きの付いた蜥蜴が後ろ足で走り回り、巨大な陸亀がのそのそと這いずり回っていた 挙句体長50センチを越えるカメレオンと、武装神姫が上に乗るのに丁度よさげなサイズの水亀がその群れの中に加わっていた(注2) 「・・・てかコイツらここで飼ってたの!?しかも増えてるし!!」 「いいじゃない、爬虫類好きだよ」 「聞いてないわよ!!」 「突っ込みご苦労様」 「まさかと思うけど『手伝い』ってこの突っ込み役とかじゃ無いでしょうね?」 「?それもしてくれるならそれはそれでありがたいな」 「づぁ!?もしかして今の墓穴・・・?」 「そういう事だね・・・さ、こっち来て」 通された先には、既に形の打ち上がった武器が、ひぃふぅみぃ・・・六振りもあった 「注文された瞬間より明らかに増えてんじゃないの!こんなんで体壊したら洒落にならないじゃないの!!」 「心配してくれてありがとう・・・エルギールは優しいね・・・言われた通り、この作業が終わったら今日はもう寝る事にするよ」 微笑む琥珀・・・良く見るとその目の下には濃い隈が出来上がっている 普段無表情なだけに、こういう状況でこういう顔をされると言葉も出ない・・・(注3) 「・・・わっ私は何をすれば良いのよ?」 「晶の注文してきたやつだからそれなりに美観も整えておかないと笑われるだろう?だから今回はエングレービングとか飾りをいつもより細かくしようと思ってね・・・」 「・・・もしかして・・・その仕上げ私がやるの?」 「うん、エルギールは手先が器用だろ?だからいっそもうデザインから何から全部任せちゃおうかなぁって」 「あ・・・っあとの三本はどうするのよ・・・」 「こっち三つは・・・そうだね、この長剣だけは任せちゃおう」 「・・・・・・」 「じゃ、任せたから」 言いつつ、神姫サイズの工具と金箔、銀箔他様々な素材を私に渡して、本人は残り二振りの仕上げに取り掛かる・・・普段見せない集中した表情・・・不覚にもときめいた(注4) (・・・っと、いけないいけない、私も集中、集中) 工房は見せてくれないが、琥珀の剣製に関わるのはこれが初めてではなかった そも、完成したばかりの武器(流石にオーダーメイドは殆ど触らないが)をいつもテストしているのは私だったし、琥珀のデザインした透かし彫りとかで、細かい部分は私が彫っていた それというのも、ここに来る前に、私はとあるプロジェクトに参加していた経歴があり、琥珀が私を入手した経緯もそのプロジェクトにあるからだ 武装神姫の中には、あるものは踊りであったり、歌であったりといった、芸術的なセンスを磨く事に喜びを見出す者も存在する だが、武装神姫の性質上、そういった能力を「ダウンロードして終わり」という風には出来ない 結局、先天的にそういった能力を持たない者は、磨くしかない 武装神姫にそういう技術を教える事が可能かどうか、研究している所は多数存在しており、私はそういった機関のひとつ・・・たしか高屋機関だか何だか言う所が主催していたと思う・・・で「ジルダリアの適性」を図る目的で絵画や彫刻の勉強をしていた事があった 彫金に興味があった私と、神姫用の武装を作っていた琥珀 当時の私の担当教官にコネのあった琥珀が、私を譲り受けたのはそういう経緯からだった 「最初は合わなかったわねぇ」 よく作品のデザインと名称で揉めた 自慢出来る事ではないが、どうも琥珀のデザインする武器は地味に過ぎ、私の求めるものは実用性が無かった さらに、ネーミングセンスが私には無い・・・というか、作品にタイトルを付けるのが面倒なので、ついテキトーな名前になってしまう・・・「無題」というのが一体いくつあるだろうか? 対する琥珀のネーミングセンスは独特に過ぎ、余り一般受けしそうもない代物だ・・・本人は「普通の人は買わないから良いんだよ」と言っているが いずれも、私が少しずつバトルを知り、琥珀と打ち解けて行く事で少しずつ刷り合わせはされてきてはいるが 琥珀が私を見ている事を知覚した 「良いデザインが浮かぶ?」 「・・・そうね、まぁ見てなさいな」 私は工具と、白い染料を手に取った 蒼い鍔に白い唐草文様のコントラストが自信作の巨大なジャマダハル 紅色の柄に、黒曜石をあしらった銀色の王冠型ポンメルが眩しいショートソード 金冠が両端に嵌った黒い鈷杵には、ぱっと見には判らないが柄に蔦をイメージした模様を彫りこんでみた 刀身にルーン文字が刻まれたフォールスエッジの長剣には、蝙蝠の翼をイメージしたやや大袈裟な鍔を添えてみた(喋る魔剣だったらしく、あやしいボケに突っ込みを入れつつ彫り込んだ) それぞれに、『閃牙(センガ)』『舞剣(マイヅル)』『魔奏(マソウ)』『空牙(クウガ)』という名を与えられた武器達 この四振りの仕上げは私の・・・ある意味に於いて最初の本格的な作品なのかも知れない 少し・・・否かなり誇らしかった 「・・・ねぇ琥珀・・・」 「琥珀・・・?」 座ったまま、真っ白になっている琥珀 「・・・・・・もう!人が折角気分出して一大決心を話そうとしたのに!空気読めないんだから!!」 うんしょ・・・とひざ掛けを肩から掛けてやり、小さく唇にキスをする うん、眠っている間は可愛いものじゃない 「・・・う・・・」 「!!!!ちょっ!何でこのタイミングで起きてくんのよ!信じらんない!」 「もう一度・・・」 「え?」 「もう一度、してもらえるかな・・・キス」 かもめは、もう飛び去って久しかった 剣は紅い花の誇り 注1 本人はバレていないと思っているのでそっとしておいてあげて下さい 注2 ボナパルト君とヴェートーベン君本人である 注3 大体いつもこの手口でいやらしい事を要求される 注4 今更何を
https://w.atwiki.jp/fullgenre/pages/297.html
【ルルーシュ・ランペルージ】 3 000 不幸の星・序章 ◆KS.UfY2NoY 010 反逆 する 者たち ◆1aQTY.tC/A 深夜 043 Be Cool! ◆EboujAWlRA 黎明 【枢木スザク】 4 020 BLACK&WHITE ◆KS.UfY2NoY 深夜 047 スザク と 銃口 ◆U1w5FvVRgk 黎明 069 BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち ◆U1w5FvVRgk 早朝 080 今後ともよろしく ◆y6S7Lth9N6 朝 【C.C.】 5 000 不幸の星・序章 ◆KS.UfY2NoY 035 ウィッチ×ブレイド ◆tu4bghlMIw 深夜 060 相乗りヘブン ◆EboujAWlRA 黎明 077 命の価値 ◆y6S7Lth9N6 早朝 084 価値ある命 ◆ew5bR2RQj. 朝 【ロロ・ランペルージ】 4 038 三人寄れば……一体どうなる? ◆SVPuExFbKQ 黎明 046 三竦み ◆U1w5FvVRgk 黎明 068 二人の黒い殺し屋 ◆ew5bR2RQj. 早朝 072 Ultimate thing ◆EboujAWlRA 早朝 【篠崎咲世子】 5 042 くノ一は見た! ◆KKid85tGwY 深夜 054 真実の果てに ◆ew5bR2RQj. 黎明 071 元教師とメイドさん ◆6tU9OIbT/c 早朝 082 人間考察 ◆.WX8NmkbZ6 朝 096 仮面ライダー vs 寄生生物 ◆ew5bR2RQj. 朝 【ジェレミア・ゴットバルト】 4 011 盤上のトリック劇場 ◆DZllJyXPF2 深夜 051 LOST COLORS ◆ew5bR2RQj. 黎明 063 オレンジ焦燥曲 ◆4Er6hgpSa6 早朝 085 RIP ◆.WX8NmkbZ6 朝
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/265.html
前へ 先頭ページ 次へ 第七話 OFイクイップメント クエンティン達は、鶴畑屋敷の地下にある特設の武装神姫バトルトレーニングルームへ来ていた。仕方なく。 「僕の権限でここから追い出すことだってできるんだからな」 そう鶴畑大紀に言われたことは――興紀が許さないだろうから――特に気にならなかったが、余計な面倒を起こしたくなかった二人は渋々ながら彼に従った。 眠る必要のないクエンティンはどうということもなかったのだが、理音のほうはというと……。 オーナー席に着いたとたん、こっくりこっくり舟をこぎ始めていた。肉体的にも精神的にも疲労がかなり募ってきているのである。 こりゃお姉さまの指示は望めないな、とクエンティンはあきらめ、バトルスペースへと登った。ちょっとした違和感が後ろ髪を引いたが、今はその原因がわからず、クエンティンは立ち止まらなかった。 バトルスペースはバーチャルではなく、リアルバトル用のものだった。円柱の形をしており、面積は半径十五メートルほど、高さもそれくらいである。人間には狭く感じるが、体長わずか十五センチちょっとのクエンティンにとっては、一対一の勝負をするには必要十分な広さであった。 鶴畑大紀は興奮を抑えられていないようにクエンティンには見えた。まるで新しいおもちゃを手にした子供のようだ。実際子供なのだが。 スタート地点に登壇する。 「さあ、ちゃっちゃと終わらせましょうよ。子供は寝る時間よ」 「子供はいつまでも遊びたいんだよ」 クエンティンの挑発に、鶴畑大紀は乗らなかった。余裕綽々の態度である。おおいに勝算があるようだった。 「なあ、僕が勝ったら」 鶴畑大紀はとんでもないことを言い出した。 「そのイクイップメント、貰うぞ」 何のことだ、と思い、すぐにエイダだと気がつく。 くれよ、ではなく、貰うぞ、という否応のない表現が、鶴畑大紀という人間の傲慢さをよく表していた。 負けたらどんなに抵抗したところで、自分からエイダは引っぺがされる。興紀の言っていたとおり引っぺがすことが不可能ならば、ばらばらにされることは間違いない。 なんてこった。いきなり負けられなくなった。クエンティンは焦った。 ここまでやっておいて興紀が出てこないところを見ると、寝ているのだろうか。いずれにせよ彼の手助けは無いと考えたほうがよさそうだ。そもそも助けられたくは無いが。 今の自分に対してそこまで自信たっぷりに言い放つということは、やはり大きな勝算を持っているに違いなかった。 普通の神姫ではどんなに違法なパーツをつけたところで、エイダと融合したクエンティンには勝てない。エイダの性能はもう武装神姫という玩具の範疇を超えていた。 少なくとも武装神姫のノーマル装備がまったく通用せずかつ人間用の拳銃弾をはね返すような相手と複数対峙しそれらをいとも簡単にスクラップ同然にして、自らも二十ミリの大口径機関砲弾を素で防ぎきる性能を誇るような代物に、普通の武装神姫がどんなに徒党を組んでかかったところでかなう筈がないのである。 思い上がりなどではない。クエンティンが今まで実際にこのボディで体験してきた事実だった。 「アタシに勝ちたいなら戦車でも持ってきなさい」 そのとおりであった。 しかし、鶴畑大紀はフン、と鼻で笑った。 「その余裕、こいつを見ても言ってられるかな」 鶴畑大紀が右手に携えていた頑丈そうな金属製アタッシュケースを開くと、中から一体の人形が自分から躍り出た。 『人形ではありません。武装神姫です』 エイダが訂正する。 しかし、あんなタイプの神姫をクエンティンは見たことがなかった。 その神姫を一言で表すならば、棺、だった。 全身をホワイトピンクのメインカラーが彩っている、古代エジプトの棺のような装甲にその武装神姫は全身を覆われていた。見えるのは顔だけだが、素体タイプはもちろんサングラスのようなバイザーに目が隠されどのコアなのか判別できない。 唐突にチリチリという電子音とともに棺が細かいビットと化して散らばり、すぐに収束、マントとなる。 その神姫はどうやら素体はアーンヴァルタイプらしかった。あの憎たらしいノーマル主義なアイツと同じ、天使型。 それでも、もう天使の面影はどこにもない。 頭部には結んだ髪の毛を模したパーツが三対取り付けられ、全身をホワイトピンクの装甲で補強している。脚部はクエンティン同様足首が無くとがっており、首もとの球体から全身にピンク色のエネルギーラインが通っている。 股間部にはやはり立派な突起物があった。 「エイダ、あれ……」 『間違いありません。私をもとに作られたOFイクイップメントシリーズの一つ、MMSタイプ・アージェイドです』 デルフィのゼロシフターのように情報公開されたようである。 「OFイクイップメントって、なに?」 『私のような武装神姫の総合戦闘支援システムと、その専用装備を含めた総称を、オプショナリーフレームイクイップメント、OFイクイップメントと呼びます』 「何であいつがそれを持っているのよ!?」 「なんでって、当たり前だろう?」 鶴畑大紀が代わりに答えた。 「僕ら鶴畑家はこいつの筆頭出資者なんだから、サンプルを貰うのは当たり前だ。お兄様から聞いてないのか? 僕にとっては、お前が持っている方がおかしいんだ」 要するに目くらましのために、大元のエイダ、デルフィとは別の、どどのつまり試供品をあてがわれたわけだ、とクエンティンは考えた。 「お兄様から聞いたよ。本当の試作品はお前が付けてるヤツだってな。普通に頼んでもどうせ譲ってくれやしないだろうから、弱らせたあとに引っぺがしてやるのさ」 あの男、身内とはいえ意外に口が軽いな、とクエンティンは小さく悪態をついた。 「そんなホントのことしゃべるなんて、アンタ間抜けじゃないの?」 「お前が馬鹿だ。本当のことをしゃべるってことは、お前はもう檻に入れられたも同然なんだよ」 クエンティンは後ろを振り返った。バトルスペースの端っこを、いつの間にかオレンジ色のエネルギー膜が取り囲んでいたのである。 ブレードで切りつけようとする。その途端、エネルギー膜から強烈な電撃が放たれた。 「ぐあああっ!?」 『無駄だってば。もう逃げられないよ』 スピーカー越しに鶴畑大紀の声が聞こえた。 『それにお前の声は眠りこけているご主人様には届かない。おとなしくそのイクイップメントを渡すか、僕のミカエルにぶち壊されるかだ。選べ』 「どっちも嫌よ!」 『じゃあ壊れろ。行け、ミカエル!』 「イエス、マスター」 ギュオオッ! 熾天使の名を冠したその神姫が、マントをはためかせ猛スピードで接近してきた。 ミカエルはオレンジのエネルギーブレードを手の甲から放出し、切りかかってくる。 「くっ!」 自らのブレードを交わしてクエンティンは回避。左へ間合いを取りながら、 ツツツシュ! ショットを放出し牽制する。 『そんなもの、ミカエルには効かないよ』 ミカエル、エネルギーシールドを展開してショットをすべて防御。 『ウィスプでやれ!』 鶴畑大紀の命令でミカエルのマントがバラバラになり、無数のビットに変形、クエンティンへ突進する。 『レーザーで迎撃してください』 すかさずエイダがアドバイスを出す。 クエンティンはダッシュをしつつ、ウィスプと呼ばれたそのビット群を一つ残らずロックオン。 ガシォーン! 幾十本ものレーザーが応酬する。 爆発。黒煙がフィールドを埋め尽くす。 『敵機接近』 乗じてミカエルが突撃。黒煙をまといながら出現する。ビットとなって撃墜されたはずのマントが復活していた。 エネルギーブレードを振るう。命中。 「ぐうっ!?」 焼け付くような痛覚がクエンティンを襲う。右肩から左わき腹の装甲にかけて袈裟懸けに焦げ付いた切り傷がついた。とっさに広報へスウェーバックしたのだが、少し間に合わなかった。 『オブジェクト、出ます』 フィールド表面がぐにゅぐにゅと変形してゆく。ファーストレベルのスタジアムにも使われている実体ホログラム技術である。ホログラムでありながら触れたり持ち上げたりできるのだ。 岩山が連なり、谷間には天然ガス掘削基地を模した建造物が再現されている。 『鉄骨や鉄板などのオブジェクトを利用してください』 クエンティンは下降。建造物をすり抜けつつ、両の手元に一番近い鉄骨を引きちぎる。実体ホログラムは物体の材質的特性も可能な限り再現されるから、鉄骨はかなり重いはずである。だがクエンティンはその重量をまったく感じていなかった。エイダの反発重力機能の応用で、重量をカットしているのだ。 後方からミカエルが追ってきているのが分かる。クエンティンは上昇段階でいきなり振り向くと、二本の鉄骨を時間差で投げつけた。 「!?」 ミカエルは一本目は避けたものの、修正照準で投げられた日本目には思い切り衝突した。投げられた鉄骨の速度は非常に速く、鉄骨そのものの質量と相まってミカエルを圧し戻すには十分だった。ミカエルは建造物に墜落した。 その拍子にガスタンクが潰されたようで、建造物はミカエルを巻き込んで盛大な爆発に包まれた。あまりにも大量のガスが貯蔵されていると設定されていたためか、赤黒いきのこ雲が上がるほどだった。 「ぃやった!」 さすがにあの爆発では生きてはいないだろうとクエンティンは確信した。 その油断が隙を生んだ。 『爆心地より高エネルギー反応』 「えっ!?」 ズィ、ビュームッ!! 爆煙立ち上る残骸より金色の大出力ビームが飛び出した。 回避は間に合わない。クエンティンは最大出力でシールドを展開して、真正面からビームを受け止めた。 しかし、半分も受けきらないうちにシールドは散り散りになって瓦解。 「うああ!」 火花を散らしながら、クエンティンはバランスを崩し落下してしまう。 『ダメージ75パーセント突破。危険です』 エイダの警告を聞き終わらないうちに、クエンティンは岩壁に墜落した。 いまだ煙の納まらない建造物から、棺状態のミカエルが現れる。 『終わりだな』 嘲笑をこめた口調で鶴畑大紀が言った。 『そいつを渡す気になったか?』 「フン、前口上はいいからさっさと殺ったらどう? さっきから思ってたけど、そのカンオケ状態、たらこキューピーに見えるのよね」 岩壁にめり込んだままクエンティンが挑発した。 なんとこれが、とくにたらこキューピーのあたりが、鶴畑大紀の逆鱗に触れたらしかった。 『死ねぁー!』 彼の絶叫とともにミカエルが棺状態を解いて突撃する。 エネルギーブレードを展開。真上から振り下ろす。 ガギンッ 「……ばーか。だからアンタはお子ちゃまなのよ。そのまま遠くから撃ってりゃよかったのに」 切りつけられる間際、クエンティンは両手を突き出し、ミカエルの両腕をグラブして封じる。 「エイダ!」 『ハッキングを開始します』 エイダはミカエル、というよりはアージェイドのメインシステムに侵入、お目当てのプログラムを瞬時に探り当てた。 「作戦成功。アンタの得物、いただくわね」 水色のスパークが二体の間に発生する。すると一つのデータ粒子の塊が、ミカエルの方からクエンティンへ移動した。 『サブウェポン、ウィスプのデバイスドライバを取得しました』 「行っけー!」 クエンティンの腰にあった三つのはさみの形をしたスカートパーツが分離する。 それらはがっちりとミカエルを拘束したかと思うと、無理矢理クエンティンから引き剥がす。ウィスプとクエンティンの右手の間には水色のエネルギーワイアーが張られた。 「うおりゃっ!」 それを振り回す。 ミカエルはウィスプに引っ張られ、そのまま岩山に激突。岩の破片がバラバラと舞う。 間髪いれずにクエンティンは下に引っ張り、ミカエルを地面にぶつける。 再び岩山へ。続いて端のエネルギー膜へ。ミカエルは電撃を受ける。 「アンタの負けよ。ノックアウトは癪だから、ギブアップしなさいな」 『く、くそっ。誰がギブアップなんぞするもんか。ミカエル、振りほどけ! 反撃しろ!』 だが、ミカエルはもがくだけで振りほどけない。ウィスプの拘束は強力だった。ジャッジAIは戦闘不能を判断しない。 「早くしないと大事な神姫が壊れちゃうわよぉ」 『まるで悪役です』 「もともとそうよ」 掛け合いつつ、振り回すのはやめない。ミカエルはだんだん弱っていった。 『や、やめろぉ! もうやめてくれえ!』 ついに鶴畑大紀は弱音を吐いた。 「そこまでだ。試合を終了しろ」 予期せぬ方向から声がかかった。 冷静な、しかし威圧感のある声。 『試合終了。ノー、コンテスト』 ジャッジAIの音声とともにエネルギー膜が消え、オブジェクトも無くなりただの平地になった。 声の主を確認した鶴畑大紀の顔がみるみる蒼白になってゆく。 「お、お兄ぃ、さま……」 仕立てのよい白いスーツを着て、出入り口に興紀が腕を組んで直立していた。 「お前もよく分かっただろう、プロトタイプの実力が」 「なーんだ、やっぱり兄貴がけしかけたのね」 クエンティンの言葉に、興紀はフン、肩をすくめた。 「ど、どういうことだ!?」 冷や汗をだらだらと垂らしながら、次男坊はうろたえた。 「だからぁ、アンタはこのお兄様に利用されたのよ。エイダの戦闘データを取るためにね。アンタはつまり、かませ犬なの」 「なんだとお!?」 「大紀」 「ヒィッ!」 興紀の一言に、次男坊は硬直。 まるで蛇ににらまれた蛙だな、とクエンティンは思った。 狡猾な蛇に、太った蛙。良いたとえだ。 「あとで私の部屋に来い。アージェイドは捨てるな」 「は、はい、お兄様……」 蛙はそのばにへたり込んだ。 「夢卯理音嬢」 「……んぐ?」 今までずっと眠りこけていた理音が、興紀の声で目を覚ました。 「申し訳なかった。明日は昼までゆっくり休むとよい」 興紀はそれだけ言って出て行った。 理音は再び大きく振り子運動をやり始める。 「ああもう、お姉さまったら。ちゃんとお部屋に戻って寝ましょうよ」 クエンティンはグラブ機能で理音を肩に担ぐと、そのまま引きずっていった。 人間も持ち上げられるのか。便利な機能だ、とクエンティンは思った。 バタン。トレーニングルームの扉が閉められる。 バトルスペースでぐったりしているミカエルと床に座り込んだまま動かない次男坊を残したまま、オートで照明が落とされた。 部屋は真っ暗になった。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2467.html
キズナのキセキ ACT0-6「異邦人誕生 その1」 ◆ あの暑い夏の日以来、『ポーラスター』には行っていない。 武装神姫の雑誌も手に取りはしなかったし、ネットで情報を集めることも、いや、ネットにつなげることさえしていない。 放課後は時間が余った。 クラスの友人たちが、男の子と一緒の集まりに誘ってくれて、一度は参加したが、気が晴れることはなかった。 二度と参加する気はなかったし、誘われることもなかった。 学校には黙々と通い、勉強したから成績も上がったが、だから何の意味があるというのだろう。 あれから三ヶ月たった。 あの暑さの面影はどこにもなく、冬の足音が聞こえてきている。 だが今も、心の傷は癒えることなく、疼き続けている。 とても大切なものを、一番大切な人に壊された。 久住菜々子は今も笑えないままでいる。 ◆ 久住頼子はため息をつき、孫の様子を眺めている。 唯一の孫であり肉親でもある久住菜々子は、自室の机に向かって宿題を黙々と片付けている。 菜々子は、中学二年の秋の様子に逆戻りしていた。 笑わなくなった。 いつもやぶにらみで、誰も信用しない。 話をするのも、クラスで仲がいい数人と、頼子くらいだった。 美貌に影を落とし、近寄りがたい雰囲気を放ち続けて、もう三ヶ月が経つ。 頼子は考えを巡らせる。 そろそろ何か手を打たなくてはならない。 高校時代は短く、しかしまばゆい輝きを放つ、かけがえのない青春の時間だ。 それをこんな風に暗い色で塗りつぶしては罰が当たろうというものである。 ここは、孫のために一肌脱ごう。 そう心を決めると、頼子は腕まくりして、肩をいからせた。 ◆ 「あなたにプレゼントがあるのよ」 「……またそのパターン?」 菜々子が呆れて、深いため息をつく。 だが、頼子には全く悪びれる様子がない。 「あらー、覚えててくれたのね」 「頼子さんのお節介に付き合ったのはあれが初めてだったから、印象深くて」 「じゃあ、わたしが何を出してくるのかも当ててみる?」 「そんなの、言うまでもないわ」 にこにこ顔の頼子に対し、菜々子はこれ以上はない仏頂面だ。 この状況で頼子さんからのプレゼントと言ったら、武装神姫以外にはあり得ない。 菜々子が落ち込んでいたこの間にも、頼子さんは飽きもせずに神姫センターにせっせと通い、ファーストリーグへと昇格していた。 菜々子は今さら神姫のオーナーになる気はなかった。 ミスティこそ、自分のただ一人の神姫だと信じていた。しかし、そのミスティはもういない。 「まあ、武装神姫なんだけど。とりあえず見なさいな」 答えは予想通り。いや、予想するまでもない、決まりきった答え。 だが、頼子さんがちゃぶ台の上に置いた箱は、菜々子の想定外だった。 「これ……見たことない」 「菜々子がしょぼくれてる間に、新発売になったのよ。新規参入、オーメストラーダ社の最新型」 汎用性の高さ故、多くのマスターたちが好んで使っている、フロントライン社のストラーフやアーンヴァルとは明らかに異質な武装。 装甲は流麗なカーブを描き、タイヤが全部で三つ装備されている。 ハイマニューバ・トライク型 イーダ……それがこの武装神姫の名前だった。 真新しい神姫を前に、興味がないと言ったら嘘になる。 どうしても止められない胸の高鳴りは、二年あまりの間、毎日培ってきた武装神姫への興味のたまものだ。 しかも、自分が知らない新製品である。 触れてみたいと思わない方がおかしい。 だが、喜んで触ってしまっては、頼子さんの思うつぼだった。 今回は、中学生の時のようには行かない。 「……いらないわ」 「……そう? 言い忘れてたのだけど」 頼子さんが不適に笑った。 「この神姫のコアは、ミスティのものに換装してあるわよ」 その一言に菜々子の心は射抜かれた。 ミスティはマグダレーナに完膚無きまでに破壊されたが、コアは比較的無事に残っていた。 だからといって、新しい神姫にそのコアを移植する気にはなれなかった。 そうこうしているうちに、このお節介な祖母が、勝手にコアを換装してしまったというのだ。 お節介にもほどがある。 そう思いながらも、菜々子は努めて平静を保ちながら、イーダの入った箱をいそいそと自室に運んだ。 頼子さんはお茶を飲みながらほくそ笑んでいたようだが、気にしないことにした。 ◆ 期待と不安を、心に入り交じらせながら、菜々子はセッティング作業を行う。 ミスティが使っていたクレイドルは、この三ヶ月の間に埃だらけになっていた。 菜々子は埃を丁寧に拭うと、箱の中からイーダ型の素体をそっと取り出し、クレイドルの上に乗せた。 紫色のロール髪が可愛らしい。 菜々子は久しぶりに少し胸を高鳴らしながら、PCから登録画面を呼び出す。 おなじみのオーナー登録。イーダ型の口から流れる声に少し戸惑う。 登録作業はスムーズに進み、ついにイーダ型が起動した。 瞳に光が宿り、ちょっと気が強そうな表情で、菜々子を見上げてくる。 「あなたがナナコね?」 「え? ……ああ、そう……だけど……」 「もっとちゃんとして、わたしのマスターなら。……はじめまして。わたしはミスティ。これからよろしくね」 菜々子は面食らった。 なんだ、この神姫は。 わたしは今さっき、確かに、オーナーの呼び方を登録したはずだ。 「ちょっと……わたしの呼び方は、マスターで登録したはずだけど」 「いいじゃない。名前で呼んだ方がフレンドリーで」 菜々子はミスティの物言いにカチンと来た。 そして、心に失望が満ちる。 この神姫はミスティじゃない。断じて、ない。 ミスティのコアを使っているとはいえ、ヘッドもAIも新調されている。おまけに別機種だから、基本の性格設定もストラーフのミスティと同じになるはずがない。 そんなことは分かっていた。 だが、菜々子には淡い期待があった もしかしたら、ただ素体が換装されただけで、正確も記憶も受け継いだミスティが起動するのではないか、と。 淡い期待は粉みじんに撃ち砕かれた。 ミスティはわたしを呼び捨てにしたりしない。 ミスティはこんな口調でしゃべったりしない。 ミスティは生意気に口答えしたりしない。 ミスティはこんな居丈高な態度をとったりしない。 「ふざけないで」 自分でも驚くほどに暗く、寒々とした口調。 そして本心をオブラートに包むことなく口にする。 「あんたがわたしの神姫だなんて……絶対に認めない」 それを聞いたミスティの両目が見開かれ、絶望に暮れた顔を見せたが、菜々子は無視した。 すると形のいい眉を釣り上げ、果敢にも、生意気にも、ミスティは言い返してきた。 「わがまま言ってんじゃないわよ! ちゃんと電子頭脳に登録されてるんですからね! オーナー登録したのはナナコだって!」 「だから、勝手に呼び捨てするなって、言ってるでしょう!」 「別にいいでしょ! わたしがそう呼びたいんだから!」 「よくない! ちゃんとマスターって呼びなさいよ!」 「ふーんだ、ナナコ、ナナコナナコ!」 「こっの……わがまま神姫!」 二人の口論は延々と続いた。 これが菜々子とイーダのミスティの出会いの夜だった。 ■ 「わたしたちは決して良好な関係で始まったわけじゃなかった。むしろ最悪だったわね。二人とも意地っ張りだから、お互いの主張は平行線で、歩み寄る様子もなかったわ」 ミスティはまた苦笑する。 いつもの自信に溢れた笑いではなくて、どこか陰のある笑い方。 「でもね……わかる? 起動してすぐ、『自分の神姫として絶対に認めない』って言われたときの気持ち……。 あれはキツかったな。起動していきなり、絶望に突き落とされた気分だった。 だから、怒りを奮い起こして、懸命にすがりついたの……ナナコに。 あの日から、わたしの戦いが始まった……初代のミスティに挑む戦いが」 もうやめて、とわたしは言いたかった。 ミスティがコアの内に秘めている過去の記録を、無理矢理聞き出しているような気分だった。 ミスティにとってつらい思い出なら、これ以上話さなくていい。話すべきじゃない。 でも、わたしは言えなかった。 ミスティはわたしを見つめながら話していたから。 わたしは彼女の話を聞かなくてはならない。親友として。その責任を果たすために、彼女の言葉のすべてを聞かなくちゃいけなかった。 ◆ 一週間ほど後、菜々子はミスティを連れて『ポーラスター』へ向かった。 気に入らないとはいえ、武装神姫を手に入れたのだ。 つまり戦う手段を再び手にした……お姉さまとその神姫に挑む手段を。 菜々子の意志は、昏い情念に燃えていた。マグダレーナを破壊し、お姉さまに復讐する。わたしと同じ気持ちを、お姉さまにも味あわせる。 そのためには、この生意気な神姫を強くしなくてはならない。たとえ気に入らない神姫であっても、今はわたしの武器だ。 「……久住ちゃん……久しぶり」 「ご無沙汰でした、花村さん」 『七星』のリーダー格である花村耕太郎は、菜々子を心から心配そうに出迎えてくれた。 「大丈夫なのかい?」 「ええ」 「……ほんとうに? 無理してないかい?」 「大丈夫ですから、今日から復帰です」 菜々子は少し苛立ちながら、言い切った。心配してくれるのはありがたいと思うが、腫れ物に触るような態度は、菜々子の望むところではない。 むしろ花村は、菜々子の態度に、さらに心配を深めていた。 菜々子は笑わない。まるで、初めて『ポーラスター』に来た頃の……『二重螺旋』を結成する前の『アイスドール』そのものだ。 笑顔が絶えなかった菜々子の心は、初めて出会った頃に逆戻りしているのではないか。 その原因が、菜々子を笑顔にしていた理由……桐島あおいなのだろうから、なおさらやりきれない。 だが、菜々子の深い絶望は、花村の想像を超えていた。 久しぶりのバトル、その第一戦から、菜々子の怒りが炸裂した。 「なにやってんの、あんた! そんな動きも出来なくて、勝てるわけないでしょうが!」 菜々子の神姫は、今話題のオーメストラーダ社の新型だ。 起動して間もないのだろう、武装もセッティングもノーマルのままであることは伺い知れる。 にもかかわらず、菜々子はかつての愛機・ストラーフのミスティ同様の戦い方を強要した。 もちろん、そんなことが出来るはずもない。 大型の副腕を持つイーダ型は、ストラーフ型と似ているから対比されることも多いが、戦い方は全く異なる。 そもそもイーダ型の副腕は独立稼働しないし、ストラーフのような頑健なレッグパーツがあるわけでもない。 イーダ型の特長は、それらを補ってあまりある、トライクの高機動性と変形機構にある。 それを生かさずして、バトルでの勝利は望めない。 しかし、菜々子は、ふがいない戦いを続ける彼女の神姫を罵り続けた。 的確な指示も出さないくせに、試合に負けたことをすべてミスティのせいにする。 ミスティはいちいち菜々子に食ってかかり、二人は激しい口論を繰り広げる。 そして、必ず最後に、 「あんたがわたしの神姫だなんて、絶対に認めない」 まるで決めゼリフのように言って、ミスティを黙らせた。 これには『ポーラスター』の常連たちも、辟易した。 自分の神姫にそんな言葉を、衆人環視の中で堂々と投げつけるなんて、ありえないことだ。 自分の神姫を虐げているとしか思えない。 今の菜々子は実に見苦しかった。 ◆ 「起動したばかりの神姫で、そんな戦い方は無茶だ。わからない久住ちゃんじゃないだろ?」 「そんな生ぬるいこと言ってちゃ、お姉さまには勝てない」 花村が諭す言葉を菜々子はまるで意に介さない。 花村の心配は的中していた。 菜々子はにこりとも笑わない。バトルスタイルは、勝利優先に逆戻りしている。 まるで初めてあった頃の菜々子のようだ、と花村は思い、いや、と首を振った。 もっとひどい。 瞳は昏い情念に燃え、心は復讐にとりつかれている。姉と慕った人を倒すことしか頭にない。 それを自らの神姫に押しつけ、痛罵する。 今の菜々子は見るに耐えない。 このままでは、次の『七星』候補などと言うことはできなくなる。 花村は呆れたように吐息をつくと、どうしたものかと思案した。 □ 「その直後だな。菜々子ちゃんが初めてこの店に来たのは」 日暮店長がミスティから話を引き継ぐ。 「花村くんが連れてきたんだ。エルゴに集まる常連さんたちはくせ者ぞろいだから、菜々子ちゃんにもいい刺激になるかも知れない、ってな」 肩をすくめて言う店長に、ミスティは苦笑した。 「まあ……それでわたしは大変な目にあったわけ。今思い出しても、我ながらよくやったと思うわ」 店長もミスティを見つめて苦笑した。 この店でも何かあったらしい。 ミスティと出会った頃の菜々子さんは相当荒んだ性格だったようだ。 さもありなん、と思わないでもないが、今の菜々子さんの姿からは想像するのが難しい。 実際、ミスティの話を頭の中で想像しようとしても、できなくて困る。 大城も同様だったようで、俺たちは二人して首をひねっていた。 ◆ その客は、あまり乗り気そうじゃない少女の手を引いて、強引に店に入ってきた。 「店長、こんにちは」 「いらっしゃい、花村くん」 ホビーショップ・エルゴの店長、日暮夏彦にしてみれば、花村耕太郎という青年が、これほどの美少女を連れてくることが驚きだった。 しかし、この上もなく不機嫌そうな表情が、美貌を台無しにしている。笑えばさぞかし魅力的だろうに。 日暮は花村に、店の奥の階段を目配せした。 彼のお目当ては、エルゴの二階、バトルロンドの対戦コーナーだ。 数日前、日暮店長は花村から電話で相談を受けた。日暮は快く、彼の相談内容の根回しを行った。 いま二階では、花村の策謀が、今や遅しと待ち構えている。 花村は日暮に軽く会釈し、菜々子を連れて、二階へと上がった。 エルゴの二階は、バトルロンドの対戦スペースとして開放されている。 『ポーラスター』に比べたら、規模は随分小さいが、それでも観戦用の大型ディスプレイや、一休みできるラウンジなどが備えられており、神姫プレイヤーにはとても居心地のいい空間に思えた。 花村と菜々子は、奥のテーブルの一つに向かい合って座る。 端から見れば、ちょっとしたデート中のカップルに見えるだろうか。 花村としては、本当はそうであれば嬉しいのだが、いかんせん、向かいに座る彼女は、これ以上ない仏頂面だった。 花村は、自販機で買ってきたジュースを菜々子に手渡す。 無言で受け取った菜々子は、それを手にしたまま、大型ディスプレイに映し出されるバトルに目を向けていた。 「どうだい、いいバトルしてるだろ?」 そう言った花村をじろりと見る。 花村は観戦用の大型ディスプレイに目を向けたまま楽しげだ。 仕方なく、菜々子もディスプレイに視線を向けた。 確かに、ぱっと見ただけでも、素晴らしい対戦ばかりが繰り広げられていることがわかる。 片目に眼帯をかけたストラーフ型は、接近戦メインかと思えば、スイッチが切り替わったかのように、精密射撃で敵を翻弄している。 同じストラーフ型でも、燐というバトルネームの神姫は、空中で華麗な機動を決めて、相手を倒す。 あるツガル型はまったくのノーマル装備だったが、実に多彩かつクレバーな戦いぶりを披露している。 ノーマルと言えば、アーンヴァル型の一人は公式武装のみのカスタムだ。マイティという彼女もまた、華麗な戦いぶりを披露している。 その相手は、ありえないほどのジェット推進装備を施しているマオチャオ型。あんなのでコントロールできるのかと思いきや、光学武装による分身攻撃さえ見せつけた。 そして、大型ディスプレイにドレスアップされたハウリンが映し出されると、周囲の観客のボルテージが上がる。相当人気の神姫なのか、観客からかけ声すら上がっていた。 この盛り上がりを、菜々子はどこか懐かしく感じた。 そう、ここのバトルのあり方こそは、わたしとお姉さまが追い求めていた理想に近い。 まだ『二重螺旋』が現役だった頃は、こんな楽しさが『ポーラスター』でも感じられた。毎日のように。 だが、菜々子はそんな感傷を振り払う。 やぶにらみのまま、花村に言った。 「試合内容がどうあれ、勝てなかったら意味ないわ」 ゴスロリドレス姿のハウリンは、次々と武器を取りだしては攻撃し、相手を翻弄する。 非武装派の神姫と見せかけて、実はバリバリ武闘派の暗器使いだったらしい。 やがて、必殺技を派手にたたき込んだハウリンが、勝利者になった。 ギャラリーの盛り上がりは最高潮に達した。 まるでプロレスみたいだ、と菜々子は思った。 勝負を見せるのではなく、試合展開や凄みを見せるもの。 それは今の菜々子が求めるものではない。 「ここの人たちがおもしろいバトルをしてるからって、強いとは限らない。強さが伴わない魅せる戦いなんて、大道芸にもならないわ」 あまりに痛烈な菜々子の物言いに、花村は言葉を失った。 だが、代わりに言い返そうとする声が響いた。 「聞き捨てならないわねー」 にこやかに笑って、二人のテーブルのそばに立ったのは、女性だった。 長い黒髪に、はっとするほどの美貌。 肩の上にいるのは、さきほど観客たちを盛り上げていた、ドレス姿で戦うハウリンである。 「戦いは強く美しく。武装神姫はそうでなくちゃ」 美貌のマスターは、魅力的な微笑を浮かべながら言い切った。 菜々子は胸を突かれる。 彼女の姿に、一瞬、おあいお姉さまの姿がダブって見えた。 昔の桐島あおいは、こんな風に笑いながら、同じようなことを繰り返し菜々子に語ったものだった。 ただの感傷だ。 菜々子は首を横に振り、幻影を振り払う。 気が付くと、先ほどからのバトルで興味を引かれた神姫とそのマスターが勢ぞろいしている。 「みんな集まってるわ、花村くん」 黒髪の美少女マスターの声に、花村はほっとした顔で頷いた。 そして、菜々子の方に向き直り、こう言った。 「君がそこまで言うなら、実際にここの常連さんたちと戦ってごらんよ」 「え?」 「勝つためだけのバトルが本当に正しいのか否か、彼らを相手に試してみるといい」 「なんでわたしがそんな……」 「今の君は見苦しい。少し頭を冷やしてもらうといいよ」 花村の顔はいつになく真剣で、瞳は挑戦的な光を帯びている。 菜々子は悟る。 今日、花村が自分をここに連れてきたのは、このためだったのだ。 はじめから予定されていた策略。 エルゴの常連たちが相当な実力者であることは、先ほどのバトルを少し見ただけでもわかる。 つまり、ここの連中を使って、わたしに制裁を加えようと言うわけか。 しかし、菜々子は断る気がなかった。 花村がここまでして仕掛けた策略に対し、持ち前の負けん気が首をもたげたのだ。 「いいわ。やってやろうじゃない」 菜々子は吐き捨てるように花村に答え、立ち上がった。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2133.html
ウサギのナミダ ACT 1-17 □ その日は、あまりにもいろいろありすぎて、アパートに帰り着いたときには、すっかり疲れ切っていた。 水浸しの服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びると、あとはもう寝床にごろりと横になって、他に何をする気も無くなっていた。 体は疲れていたが、意識は妙に冴えていた。 まだ興奮しているのだろう。 今日あった出来事を反芻しようとするが、うまく頭が回らない。 結局俺は、ボーッと天井を見上げながら、ただただ寝っ転がっていた。 どのくらいそうしていただろう。 携帯電話に着信があった。メールの着信音。 ゆっくりと手を伸ばし、液晶画面を見る。 約束通り、久住さんからだった。 メールの文面は、彼女らしく、簡潔だった。 「今日は生意気なことを言って、ごめんなさい。 明日、午前11時に、JR○○駅改札前で待っています。 追伸。 ティアの写真、送ります。」 添付ファイルを開く。 俺は小さく吹き出した。 ティアとミスティが一緒に写っている画像だ。 Vサインを出しながらティアの肩を抱いて余裕の笑顔のミスティに対し、ティアはなんとも間抜けな表情で肩をすくめている。 バカだな。笑えばいいのに。 俺はその画像だけで、ひどく安心してしまった。 ティアは無事だ。久住さんのところにいる。いまはそれでいいのだ、と思えるほどに、心に余裕ができていた。 メールの返事を送る。待ち合わせと画像の件に了解の旨を伝えた。 それにしても。 久住さんが指定した待ち合わせ場所が不可解だった。 最寄り駅からだと、ちょうど東京をまたいでいく感じになる。 そんなところで待ち合わせとは……他に行くところでもあるのだろうか。 まさか、彼女なりの嫌がらせというわけでもあるまい。 ……そんなことを考えること自体、俺の心が疲れている証拠だ。 俺は目覚まし時計をセットする。 明日の約束に遅れるわけにはいかない。 そして、寝床に横になると、不意に睡魔が襲ってきた。 疲れた……。 そう思いながら、睡魔にされるがまま、眠りに落ちていった。 翌朝。 異常に早く目が覚めた。 まだ気が高ぶっているのかも知れない。 だが、体の疲れはとれているし、頭の中もすっきりしていた。 時間にはまだだいぶ余裕がある。 俺はゆっくりと身支度を整え、駅前で朝食を取ることに決めて、家を出た。 ティアのいない一晩で、俺は心の整理がついていた。 必要な時間、だったのだろう。久住さんはそれがわかっていて、俺にこの時間をくれたのかも知れない。 結局、一番大事なことは、ティアが俺のそばにいることだ。 そのためなら、別にバトルロンドにこだわる必要はないのだ。海藤とアクアのように。 誰に見せることもなくなるだろうが、ランドスピナーを自在に操り、走る楽しさをティアが感じ続けてくれるなら、それでいいのだ。 それをティアに言ってやるつもりだった。 ティアは……どんな顔をするだろうか。 それにしても、今日の待ち合わせ場所は不可解だ。 待ち合わせなら、うちの最寄り駅、そうでなければ、三駅ほど離れた久住さんの最寄り駅でもいいはずなのに。 なぜ二時間近くもかかる遠いところ、しかも大都市というわけでもない、ごく普通の駅前なんて指定したのだろうか。 久住さんは、よくわからない人だ。 彼女にはいつも驚かされる。 それは不快ではなく、むしろ嬉しいサプライズが多いわけなのだが。 今日の待ち合わせ場所も、彼女の特有のサプライズなのだろうか。 やっぱり、よくわからない。 俺は電車の中で、つらつらとそんなことを考えている。 二時間近くかかった列車の旅も、ここで終着だ。 たどり着いたその駅は、全く普通のJRの駅だった。 時間よりも十分ほど早い。 待ち合わせは改札の前なので、もう一度駅名を確認してから、改札を通った。 彼女は先に来ていた。 ……だが、声をかけるのがためらわれた。 あそこにいる女性は、本当に、久住さんだろうか? いつもと雰囲気がまるで違っていた。 いつもの久住さんは、細いジーパンなどを履き、スポーティーな格好だ。それに武装神姫収納用のアタッシュケースを持ち歩いている。 ところが、待ち合わせの場所にいたのは、 「あ、遠野くん」 そう言って、微笑みながら小さく手を振ったので、やはりこの少女は久住さんで、待ち合わせの相手はどうやら俺であることを、かろうじて認識できた。 「おはよう、久住さん……待った?」 なんとかここまで口にできた俺を、むしろ誉めてもらいたい。 女の子に免疫のない俺は、緊張がすでに最高に達し、思考は遙か彼方に吹っ飛んでいた。 もちろん、表情に気を使う余裕などこれっぽっちもない。 「わたしも今来たところ。……でも、早かったですね」 「……遅刻すると、いけないと思って。でも待ち合わせ場所に完璧に変装した人がいたからびっくりしたよ。その格好どうしたの?」 「さすが遠野くん、いい心がけです。これですか?それは…まだ秘密です」 にっこりと笑う久住さん。 反則度が五割増しくらいになっている気がする。 これは久住さんによる何かの策謀なのだろうか。 俺にとってはもうサプライズを通り越して、遠大な陰謀の一端ではないかと思われる。 この時点で俺はもうドギマギした気持ちをどうにも持て余しており、すがりつく話題を必死に捜していた。 そして、巡り巡った思考の末、一番大切な今日の本題にたどり着いた。 「あ、あの……てぃ……ティア、は……?」 「大丈夫。ちゃんと連れてきました。 いつも胸ポケットが定位置みたいでしたのでコートの内ポケットにしっかりと。 ……ティア」 久住さんが、下げたハンドバッグにその名を呼ぶと、二人の神姫がバッグの口からひょっこりと顔を出した。 ■ 菜々子さん(ミスティのマスターも、名前で呼ぶことをわたしに要求した)の呼びかけに、左右の大きな内ポケットにそれぞれ隠れていたわたしとミスティは前を塞ぐボタンを弾け飛ばしてから顔を出した。 すぐに目が合う。 マスター。 一日会っていないだけなのに、ひどく懐かしい気持ちになった。 同時に、罪悪感が沸いてくる。 それは、わたしの噂で迷惑をかけたことと、マスターに無断でいなくなったことの両方の意識が入り交じった複雑なものだった。 マスターは少し驚いたようにわたしを見つめ、 「ティア……」 わたしの名前を呟いて……そのまま、地面に両膝と両手を着いてうなだれてしまった。 ええぇ? マスターは大きく一つため息をつく。 「どんだけ心配したと思ってるんだ……」 あ……。 昨晩、久住さんが言ったとおり。 マスターは、本当に、わたしの心配をしてくれていたんだ。 わたしのことなんて、忘れてそれで……幸せになってくれればよかったのに。 それでも、マスターが心配してくれたことが嬉しくて。 自分が消えようとしてたことなんて棚に上げて。 なんてひどい神姫だろう。 「ごめんなさい……」 結局、いつもの言葉を口にするしかない、わたし。 でも、マスターは、 「おまえが無事なら……いいさ」 そう言って顔を上げた。 もう、いつもの無表情だった。 包帯を巻いていない、左手の甲を差し出す。 「戻ってきて……くれるよな?」 マスターは相変わらず表情を表に出さなかったけれど。 でも、声が、少し震えていた。 わたしは、菜々子さんのバッグから出ると、マスターの左手に乗り移る。 そのとき、後ろを振り返ると、ミスティが笑顔で頷いていた。 □ 左胸のポケットの重さに、俺は心底ほっとする。 俺は立ち上がると、久住さんに頭を下げた。 「ごめん。見苦しいところを見せてしまって……」 「ううん……ふふふ、いいリアクションでした」 「それから……ありがとう。ティアを見つけてくれて……昨日も、気を遣ってくれて……」 「大したこと、してないわ」 そう言って、久住さんは首を横に振った。 彼女がどんな思いなのか、その表情から伺い知ることはできなかった。 久住さんは、一度目を閉じて、うん、と頷くと、俺を見た。明るい表情。 「さて、用事も済んだことだし……ねえ、遠野くん、連れて行きたいところがあるの。付き合ってくれる?」 「え? あぁ……」 やはり続きがあった。 「はじめから、そのつもりだったんだろう?」 「やっぱり、わかる?」 「そうじゃなきゃ、こんな遠くに呼び出したりしないだろう?」 「まあ、ね」 久住さんは反則度五割増しで笑っている。 彼女を勘ぐっているのは、俺の神経が過敏なのか、疑心暗鬼すぎるのか。 俺が何となく即答できずにいるのを見て、彼女は言った。 「大丈夫。ただのホビーショップなんだけど……遠野くんも、きっと気に入ると思うわ」 「ホビーショップ……?」 ただのホビーショップなら、途中過ぎた秋葉原でも事足りる。 わざわざこんなところまで来るというのには、理由があるのだろうが……。 まあ、考えていても仕方がない。 せっかくこんな遠くまでやってきたのだから、このあたりのホビーショップでバトルロンド観戦も悪くはないだろう。 俺たちの顔が知られているわけでもないのだから。 「わかった。付き合うよ」 「決まりね」 久住さんはにっこりと笑う。 俺と彼女は並んで歩き出した。 駅前の商店街を歩いていく。 何も特別なことなどない、どこにでも見られる、ごく普通の商店街だった。 いったい、何を考えているんだろう? 俺は隣を歩く久住さんを盗み見る。 ……えらく細い肩が視界に入った。 久住さんは、男の俺に比べれば確かに小柄だったが……こんなにも細い肩だったろうか。 いや、全身が細くて華奢な感じがする。 それでも、痩せすぎという感じではなく、女性らしい柔らかな体つきだった。 いかにも、女の子という感じで……。 これでとても美人なのだから、俺が隣にいるのがえらく場違いに感じてしまう。 というか、端から見たらどうなのだろう。 一緒に並んで歩いているなんて、まるでデートみたいなのではないだろうか。 ……デート!? 俺と、こんなに可愛い女の子が!? いやいや、違う。 これは久住さんの厚意で、ホビーショップに案内してもらっているだけなのだ。 だが、一度意識してしまうと、頭では否定していても、感情が沸騰してしまう。 おかげで、女の子にろくに免疫のない俺は、久住さんの隣で緊張しっぱなし、彼女を意識しすぎて頭の中は真っ白という状態に陥った。 「ここよ」 目的地に着いたことを久住さんが教えてくれなければ、ぎくしゃくとした足取りのまま、どこまでも歩いていったかも知れない。 俺たちがたどり着いたのは、彼女が言ったとおり、ホビーショップの店先だった。 それほど大きいとは言えない、商店街にある個人経営の普通のホビーショップ。 店の看板を見上げる。 『ホビーショップ・エルゴ』とあった。 エルゴ……? 「って、ここ……あの、エルゴ……なのか?」 「うん」 久住さんはあっさりと頷いた。 「遠野くんだったら、きっと来てみたいだろうと思って」 それはもちろんだった。 ホビーショップ・エルゴといえば、武装神姫ファンならば知る人ぞ知る名店だ。 俺が知るエルゴ評でもっとも印象的だったのは「武装神姫の魅力がすべて詰まっている店」というものだった。 さらに、ここのバトルスペースの常連達は、有名な神姫プレイヤーばかりなのだ。 ティアを迎える前から、一度は来てみたいと思っていた。 久住さんは店の自動ドアをくぐっていく。 俺もあわてて後に続いた。 「いらっしゃいませ」 元気のいい女性店員の挨拶が出迎えてくれる。 店内を見渡した俺は、圧倒された。 気合いが入っている、なんてものじゃない。 武装神姫のパッケージ商品はもちろん、追加武装からカスタムパーツ、専用工具にメンテナンス用品、果ては神姫専用のオリジナル衣服まで。 ありとあらゆる武装神姫関連製品が所狭しと、しかしきちんと系統立てて、わかりやすく並べてある。 秋葉原などの大型店舗に比べたら小さい店ではあるが、へたをすればこっちの方が品揃えがいいんじゃないか? 店頭に置ききれない分は、検索端末で在庫確認、注文もできるようになっているみたいだ。 端から物色したい気持ちになるが、今日は久住さんの付き添いである。 とりあえず我慢して、久住さんに目を移す。 「おひさしぶり、静香さん!」 「あら、菜々子さん、元気だった?」 久しぶりの再会に、エプロンをつけた女性店員とハイタッチなんかしている。 女性店員はめちゃくちゃ美人だった。流れるような黒髪が印象的な美人。 久住さんとはタイプが違うが、男だったら思わず振り向いてしまうほどの美貌だ。 武装淑女にはえらく美人が多い気がするが……美人じゃないとバトルロンドをやってはいけないという掟でもあるんだろうか。 なんて、腐った思考をしていた俺に、その店員さんが視線を向けてきた。 俺の上から下までさらり、と視線を流し…… 「彼氏?」 久住さんへの問いに、俺は思わず吹き出した。 久住さんは、店員さんの耳元へ口を寄せ、何事か囁いている。 そして、 「ふぅん……」 また俺をさらりと見渡した後、なにか納得げに頷いていた。 ……なんなんだ。 「ところで、店長は?」 「奥で作業中。呼んでくる?」 「ううん、いいわ。こっちに戻ってきたら、わたしが来たこと伝えてくれますか? 言えばわかりますから」 「わかったわ」 店員さんが頷くのを確認して、久住さんは俺のそばに戻ってきた。 「先にティアとミスティを預けてしまいましょう」 「え?」 神姫を預ける? 久住さんは俺を店の一角に案内する。 そこは神姫サイズの机や椅子が並ぶスペースだった。 いまも数人の神姫がたむろしている。 あとで説明を受けたが、神姫学校と言って、エルゴで神姫を預かるサービスなのだそうだ。 「ティアはこっちね」 「ミ、ミスティ……ちょっとぉ!?」 ミスティはティアに腕を絡めて、ぐいぐい引っ張っていく。 以前にも利用したことがあるようで、勝手知ったる、という感じだった。 「わたしたちは、上ね」 久住さんは俺を店舗の二階へと案内する。 店の二階はバトル用のスペースになっており、バトルロンド用の筐体が並んでいた。 筐体の数こそ、ゲームセンターに比べれば見劣りするが、観戦用の大型ディスプレイも設置されているし、多人数対戦用の設備も備わっている。 休憩スペースで観戦もできるようになっていて、いたれりつくせりだった。 小さな店なのに、多くの常連が通うのも、当然だと思う。 近くにあったら、俺だって常連になっているだろう。 久住さんは差し向かいになれる小さなテーブルのある休憩スペースに、俺を連れてきた。ちょうど誰もいない。俺たちは向かい合って腰掛けた。 大型ディスプレイでは、現在プレイ中のバトルロンドの様子が映し出されている。 思わず目がいってしまう。 バトルをしているのは、アーンヴァルとマオチャオ。 アーンヴァルはノーマル装備の組み替えのカスタムらしい。 一方のマオチャオは、巨大なブースターを背負い、高速で滑空している。 バトルは白熱している。その動きから、両者ともかなりの手練れだとわかる。 「あの神姫……両方とも見たことあるな……」 「ああ……マイティとねここ、有名だもの」 久住さんのさも当たり前のような答えに、俺は吹き出した。 『公式武装主義者』と『雷光の舞い手』かよ!? 俺でもその二つ名を知っている、有名な武装神姫だ。 その二人が普通に草バトルしているこの状況って……。 いきつけのゲーセンにしか行ったことのない俺にしてみれば、スタープレイヤー同士のバトルをあっさり観戦できるこの状況が、とんでもなく贅沢なことに思えた。 「さっきの、店員の女の子もね、有名よ?」 「へえ……?」 「ドキドキハウリンのマスター」 「ぶっ」 俺が驚く様を、久住さんは面白そうに見ている。 まったく、俺は井の中の蛙だ。 彼女が『天才』戸田静香か。 秋葉原の神姫バトルミュージアムで、バトルロイヤル五二機撃墜を達成したハウリン。 そのマスターはあらゆる技術を身につけており、武装、ソフトウェア、果ては神姫用の衣服まで作成するとか。 バトルも強いが、ショーマンシップでバトルを盛り上げることを一番とする、趣味人。 どんな人物かと思っていたが、まさかあんな美人が……。 俺は首を振った。 世の中、わからないことが多すぎる。 俺たち二人は、そこでしばらくバトルロンドを観戦していた。 白熱の攻防を見ていると、やはり血が騒ぐ。 俺もバトルしてみたい、と思う。俺の、武装神姫と。 「やっぱり、バトルロンドはいいな……」 心からそう思う。 ティアに、バトルしなくてもいい、なんて言ってやるつもりだったが、心の底では納得していなかったのかも知れない。 バトルに挑む神姫達の美しい姿、マスターが繰り出す知略の攻防、そして神姫とマスターがともに掴む勝利の達成感。 何物にも代え難い、と思う。 「遠野くんは……どうして武装神姫をはじめたの?」 唐突な、久住さんの問い。 「どうしてティアを自分の神姫にしたの? あのレッグパーツはどこで手に入れたの? どうしてあの戦い方にこだわるの? ねえ……」 まっすぐな視線に射抜かれて、俺は身動きすることができなかった。 「教えて。わたし、あなたのこと……あなたたちのこと、何も知らない」 ■ ミスティはわたしの腕を取って、ぐいぐいと引っ張っていく。 わたしは歩調を合わせるのがやっと。 彼女は妙に楽しそうに見えた。 神姫学校のスペースには、何人かの神姫が集まって、グループを作って歓談しているようだった。 ミスティは、グループの一つに近づいていく。 グループの輪で、中心になっていた神姫が、近寄ってくるわたしたちに気がついて、顔を上げた。 ツガル・タイプだ。 瞳に少し気位の高そうな光を宿している。 「あら、珍しい……ミスティ、ひさしぶりね」 「ごきげんよう。調子はどう?」 まずまずね、なんて答えたツガル・タイプは、ミスティに腕を抱えられているわたしを見た。 「その子は?」 「この子はティア。わたしの親友」 「親友? あなたの?」 何か信じられない珍獣を見るような視線。 それでも、ツガル・タイプの彼女は、微笑んで挨拶してくれた。 「はじめまして、ティア。わたしはシルヴィア。ミスティの昔なじみよ。よろしくね」 「は、はい……ティアです……よろしく……」 お辞儀をしたわたしの頭の中に、浮かんでくるものがある。 ツガル・タイプのシルヴィア……? 聞いたことがある。確か…… 「レッド・ホット・クリスマス……?」 シルヴィアさんは頷いた。 その二つ名は全国大会でも知られた有名な神姫の名だった。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1906.html
別にどうという事も無い 70年前の国民的アニメで、永遠の小学生達が遊んでいた様な、時代に取り残された空き地が、丘の上にぽつんとあった だがそこは彼女達にとってだけ、聖地であった 「闘いに呪われ、闘いに祝福された存在」彼女の目指す/彼女の嫌う偉大な女王ならば、そう表現しただろう身長15センチの戦女神・・・武装神姫・・・彼女達こそ、2030年代に生まれた人類数千年の願望の結晶であった 「リライト」 本来の武装を一切装備せず、ヴァッフェバニーのブーツといくつかの銃器、短いが幅広の剣のみで武装した軽装のストラーフ・・・「ニビル」だった 砂埃を巻き上げる風に、マントがはためく 腰に差した拳銃はダブルアクションのリボルバー・・・いつでも抜き放ち、発砲する事は出来る 待ち人はなかなか来ない。元来気の長い「たち」では無い彼女にとって、この数分、否数十秒、否々数瞬はひたすら焦れる 紅い・・・ 甲冑姿の紅緒が太刀を履いて現れる 草もまばらなむき出しの地面に、その姿は異様に映えた 『・・・待たせたな・・・装備を探すのに手間取った』 ニビルは感情を顔に表さなかった 襟が口元を隠す・・・同じ風で、紅緒のポニーテールも流れた 『始めようか・・・私達の勝負を』 ただその一言、それを聞く為だけにこうして待っていた気さえした ゆっくり頷く これからようやく始まる、二人の闘いの為に・・・ 晴天の下に白刃が閃く 綺麗な弧状の残影を引き摺りながら舞ったそれはしかし、苦も無く、神姫の体にはやや幅広な片刃剣によってブロックされる ならば、と刀身同士が噛み合った場所を支点に跳躍(注1)。ニビルの背面を取る 「へぇ!」 感嘆の声をもらすニビル・・・くそっ余裕かまされてる 着地と同時に大地を蹴り疾駆。太刀は肩の高さで切先を背側に流し、地面に水平に構える 懐に飛び込んで絶句。マントを被ったままの癖に振り返りが速過ぎる 「はああああああっ!!」 勢いを殺さず(殺せず)突撃。ニビルの左手がヒップホルスターのコンバットナイフを抜き放つ 空気を薙ぎ斬る様な猛撃。だが交差法だ、私の太刀がナイフの刀身を断つ 飛び込めたと感じた瞬間、ニビルが恐ろしい速さで身を引く。背面には大口径ライフル・・・間合いを取られるととても困る 「かなり動けるようにはなったけど、まだまだ荒いわね華墨!喰らいなさいな!!」 強烈な爆音を無数に響かせながら、スケールメートル(注2)レベルで.30口径のバトルライフル(注3)を乱射するニビル、間合いを調整すべく走る私・・・が、装甲は無残に削り取られ、一発が太刀の刀身を掠め、中ほどからへし折る 「おぉっ!?」 呻きながら後方に跳躍・・・私の跳躍力は普通の武装神姫のそれを大きく上回る 着地点すれすれに3発着弾、被弾を免れたのは運以外の何者でもない 判ってはいたが・・・流石に手強い・・・!! 懐かしい軽口の聞こえない戦場で、私は貧弱なコバットプルーフから状況打開に努めた ばきんばきんばきんばきん!! 硬い音が連鎖、ハンドスプリングで二回後転しつつ、凶暴な神姫用マグナム弾のあぎとから逃れる (太刀なし・・・相手は防弾マント・・・きついな) 流石に何時迄も回避し続けられるものではない。華墨の軽業は動きこそ速いものの、何度も見せれば当然容易に軌道を読まれ、見切られ易い 腰に残った脇差は、決め手に使う事が多い武器ではあるが、主力にするには頼り無さ過ぎる (まして技量差を埋める程の装甲の優位も無い・・・) 華墨自身が、どちらかというと装甲など飛び道具相手に間合いを詰める数瞬もてば良いと割り切るタイプだったので、重装甲を纏っていたのは彼女の少ない戦闘経験の中ですらごく初期の間だけだった 彼女が今迄闘って来た環境では、サイフォスの重装甲形態もかくやという重装甲主義者がごろごろ居た事もあって、むしろ装甲には頼れないと言ってさえ良かった (いっそ無手で格闘戦にもちこむか?) あまり実戦で試した事は無いが、多分それなりに腕力もある方だと推察出来た為、脇差と短機関銃の二択よりは幾分「まし」に思えた (やって見るしかないな) 焦れたニビルが剣を構えて突っかけて来る。赤熱した刀身から充分推察出来る破壊力を、わざわざ体で浴びる程華墨はマゾヒズムに目覚めている訳でも無かった 『はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』 振り下ろされる熱化剣、それをホールドしたニビルの左拳に集中力を注ぎ、脇差を抜くそぶりを見せた左手はそのままに、右拳を突然繰り出す 『!?』 直前に察知して拳を引くニビルその右手の人差し指が短銃身のリボルバー(注4)の引き金を絞るより迅く、華墨の左手の白刃が閃く!! びきいいいいいぃぃぃん!!・・・と 異様に響く金属音を周囲に響かせながらニビルの剣がへし折れる 同時に発砲される銃弾、銃弾・・・! 「そうそう何度もお気に入りをぶっ壊されてたまるモンですか!!」 降り注ぐ痛みは、私の身体機能が壊れていく事の証左、この闘いがバーチャルで無い事の証 そして、飛び散る鮮血は私が「普通の武装神姫」で無い事の、この上なく雄弁な自己紹介であった 「ぐっ・・・ああぁっ!!!」 慣れる事は出来ない、鉄の味 慣れる事は出来ない、死の感覚 だが、私はこんな闘いを、既に九度、繰り返していた 即ち、既に数度、普通の神姫や、人間であれば「死んで」いる程の重症を経験していた 私の体に図らずも宿ってしまった「オーバーロード」「Gアーム」「呪われた蟲毒」であるところの異能力「ギガンティス」が、私の肉体(そう表現して良いなら)を文字通り「身長15cmの人間」にし、さらにそこに、無限ともいえる自己修復能力と不死性を付与したからだ 最早私は、厳密には「武装神姫」というカテゴリからは外れた存在になりつつあり、この体では公式戦に出る事は不可能だろう だが 否、むしろだからこそ 私は「槙縞ランキング」(注5)に情熱を注ごうと決めていた バーチャルバトルが主体の「槙縞ランキング」ならば、私の肉体的特長は問題にならない 何よりも、あそこには私が 私と『マスター』が求めた最強の女王 「クイントス」が居るからだ 「また私の勝ちね・・・これで10戦8勝2分けかしら?」 無様に地べたに這い蹲る私を覗き込む紅い双眸 「・・・そうだな・・・今回は・・・いけると思ったんだが・・・な」 「猫跳びの後着地が一瞬もたついたからだろうね」 急にマスターの声がかかって周りを見渡す 居なくなってしまった私の『マスター』佐鳴武士に代わって、半ば強引な手段で私を自身の神姫とした(してくれた)等身大ストラー(違)神浦 琥珀・・・ 「ただいま華墨・・・その分じゃ随分立ち直ったみたいだね」 「いつまでへばってんのよ!雑魚みたいに!!そんな傷さっさと治して、今日は琥珀に剣打ってもらうんでしょ?」 やかましくまくしたてるジルダリア「エルギール」に急き立てられて、私はしぶしぶ立ち上がる 言われる通り、既に傷は消えつつあった 「じゃあ今日はここまでね。今日の戦績はしっかり記録しとくからね」 言いつつ、ニビルはトレードマークの赤い靴に履き替えて、その場を後にしようとする 「あ・・・!待って」 口には出さず、なに?という視線だけ此方にめぐらす彼女の仕草に、思わず胸が高鳴る 「・・・ありがとう・・・付き合ってくれて。まだ本格的に復帰出来るかどうかは判らないけど・・・ニビルと闘った事は忘れないから・・・!!」 しどろもどろな私に、ニビルは高飛車な笑みで返し、最初に会った時と同じ様な台詞でこう返すのだった 「ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング2位(注5)のランカーとして貴女の帰還を祝わせて貰うわ」 「私はニビル。〈神の星〉暗黒星ニビルよ。槙縞ランキングへお帰りなさい、華墨!」 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ 注1.鳳凰杯編Ⅰ 「蒼い翼」参照。因みにクイントスはこの動きを「猫」或いは「猫跳び」と呼んでいる。 軽業以外の何者でもない動きだが、運動能力が体長に吊り合っていない神姫ならではのコンバットトリックとして有用であろう事は想像に難くない 注2.戦う神姫は好きですかより。今回は特に有効に機能してくれる 注3.アサルトライフルの中でも、米国がNATOライフル弾としてゴリ押しした結果、フルオート火器には不向きと判っているのに大口径で過剰威力の7.62mm×51弾を採用させられた不幸なものがいくつかある。そういったものの中には名銃と呼ぶに相応しいものも存在し、ファンは悔恨の念も込めてこう呼ぶ。今回ニビルが使用したのはFN社のFAL。装弾数20発、速射ピッチ秒間10.8発の代物で、フルオートで使うには余りにも不向き・・・の神姫スケール仕様(長い) 注4.ニビルは常時、メインハンドガンとは別に一挺の小型ハンドガン、一挺の超小型(デリンジャー等の様な)拳銃をバックアップとして装備している。今回のバックアップはM66の2.5inバレル仕様・・・の神姫スケール仕様 注5.この後、前回の上位戦で闘わなかった強豪ランカーと闘って、すぐにランクを8位迄落としている(笑)
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/182.html
-”A”- 私はアーンヴァルタイプのMMS。 愛称はアルファ。 マスターが最初に購入したMMSだから。 ”A”を指すコード。 闘技場へはマスターのセカンドカーで行き来する。 マスターが運転し、他の神姫たちは後部シート。 セカンドシートは私の定位置だ。 帰路。 戦績が悪いときは家までの一時、この位置は地獄に感じる。 戦績が良いときは天国だ。 運転中、マスターが私たちに言葉をかけることは無い。 それでも 機嫌の良いマスターの横顔を眺めていられる。 他の神姫たちの目を気にせずに。 ガレージに車を入れるとマスターはさっさと二階の居住区画へと階段をあがっていく。 他の神姫たちはこのガレージが兵舎となる。 指揮官機である私だけが二階に入ることを許されていた。 「今日はよくやった。 各自装備の手入れがすんだらゆっくり休め。 後はまかせたぞ、ブラボー。」 今日の戦闘データのやりとりを終えると私は二階へと向かう。 人間用の階段も飛行ユニットを装備したアーンヴァルタイプの私には苦にならない。 「失礼します!」 ドアにあけられたMMS用の出入り口 (元はネコ用だと聞いた)の前で声をあげてから5秒後に入室する。 マスターが入室を拒むときは何か返事があるからだ。 返事がないということは入室を許可されたと判断するのが常だった。 マスターはさっそくネットワーク端末に向かい、今日のニュースに目を通されている。 机の角へと飛び上がって、直立不動の姿勢をとる。 「戦闘結果のご報告にあがりました」 「ん。データ送っといてくれ」 ちらりと私を一瞥して視線をモニターへ戻す。 「マスター…」 私の言葉をさえぎるように小さくため息をつくマスター。 「ワイヤレスは情報漏れの危険性が高い。か? ったく・・・」 ネットワーク端末につないだ接続用ケーブル、 その先を指でつまむマスター。 私はこれ以上ないくらい素早い動きで 自分の端子口をあける。 「接続準備完了!」 ──!! ズブリと一気に差し込まれる端子。 その衝撃が全身をかける。 カチリと私の奥に端子がおさまる。 声が出そうになる。 マスターはモニターへ視線を戻してネットワーク端末を操作しはじめる。 端子をくわえこんだ私の部分が熱くなる。 んぅぅ・・・ 有線接続にどうしようもない昂りを感じる。 マスターの横顔。 マスターがネットワーク端末を操作する動作。 それを見て机の端で身悶えする自分。 …最低だ。 頭の中であらん限りの罵倒を自分に浴びせる。 でも コアが熱くなるのがとまらない。 マスター!マスター!マスター! ……… …… … 「…だなぁ。まぁ、こんなもんか…」 ブッ! モニターを眺めながら片手で乱暴に端子を引き抜くマスター。 「ひぁ」 思わず小さな声が漏れた。 本棚の隅。 何かの部品を梱包していた気泡緩衝シート (プチプチのアレ)が私のベッドだ。 ここからだと部屋が見渡せる。 警備には最良のポジション。 そして、マスターの寝顔も。 武装神姫のAIは成長する。 それが武装神姫の魅力であり強さであると言う。 そしてAIの成長に失敗したものは捨てられる。 … AM6:45 そっと、マスターの枕元へ降り立つ。 寝息でマスターが熟睡していることを確認する。 「…マスター…」 大きなその頬へそっと自分の頬を寄せる。 温かい。 不自然なその格好のままでも 苦痛を感じないこの身体に感謝する。 AM6:59 そっと身を離して目覚まし時計の鳴るのを待つ。 ”piririri!!!!!” 「起床時間です!おはようございます!マスター!」 挨拶が返ってくるかどうかは… 残念ながら確率が悪い。 「ガラクタども!お前らはマスターを愛しているかっ?!」 配下の神姫を前にして今日も私は闘技場の格納庫で叫ぶ。 「相手のガラクタどもを残らずファックしてやれ!総員出撃!!」 私は戦い続ける。 オイルと硝煙にまみれて。 失敗したと言われぬように。 捨てられぬように。 愛しているから。 end-