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武装神姫のリン 番外編その3「小さな幸せ」 リン…それは私の名前。 武装神姫第1弾、MMS TYPE-DEVIL「STRARF」のシリアルナンバー3600054468である私の名前。 マスターは私にこの名前を貰いました。 でも私、マスター、茉莉との問題を乗り越えてから2ヶ月ほど経ったある日、私はどうして「リン」という名前に決めたのか、ふとその理由が気になってしまいました。 そうして一週間が過ぎようとした頃、私は我慢できずにマスターにその理由を聞きました。 今回はそのときのお話しです。 それは用事で茉莉が実家に帰っていて、ティアもそれについていてしまい久々に2人きりになれた日のことでした。 「マスター…あの。」 マスターはいつものように顔を横に向けてくれました。 「どうした? なんか欲しいモノでも見つけたのか?」 「いえ…そうじゃなくて、聞きたいことがあるんですがいいですか?」 「ああ、いいよ。」 「じゃあ、なぜ私の名前はリンなんですか?」 「ああ、それか…」 マスターの顔がいつもと違って少し不安そうな、なんとなく力が抜けたような表情に変化しました。 「あの…マスター? お気に触ったんだったらすみません、でも…」 「じゃあ今からその名前に関連する、ある所に行くけど何も言うなよ。」 私はその言葉の意味を理解できず、ただただ 「はい。」 そう応えるしかありませんでした。 私の答えを聞いたマスターはすぐに進行方向を変え、駅へ。 そうしてJRと私鉄をいくつか乗り継いで郊外の町に着きました。 「ここにくるのは、久しぶりだな。」 やはりマスターの表情はいつものような元気がありません。 「あの…」 「何も言わない約束だろ。」 マスターの声がいつも以上に優しく感じられたので私は 「はい…」 口をつむぐまえにそう呟くことしかできませんでした。 そのままマスターは駅からの一本道をひたすらに進みます。 その日はまだ初夏だというのに日差しは強く、空が晴れていたことを覚えています。 焼き付けるような日差しの中を、マスターは途中で買ったミネラルウォーターを手に持ったまま歩いていきました。 そして着いたのは、お寺。の裏手にある墓地でした。 藤堂家の方々が代々眠る場所。そこにマスターは私を連れてきたのです。 私はその時点で大体の事情は把握できていましたが、マスターが口を開くまで待ちました。 マスターはミネラルウォーターを墓石にかけて、残った分はお供えを置くと思われる場所に置かれた湯のみに注ぎました。 そして私を手に乗せて、そこに眠るマスターの"家族"の名前が刻まれた石版の目の前に手をもって行きます。 それを見たとき、私は確信しました。 「リンていうのは。俺の妹になるはずだった子の名前なんだ。」 それと同時にマスターは私の問いへの"答え"を口にしていました。 それからマスターは全て話してくれました。 リンという名前はマスターと4つ違いの、今頃は茉莉とほぼ同じ年齢になっているはずだった妹に与えられるはずの名前だったのです。 それは今から17年前。マスターがまだ7歳のころ。 お母様(いまはそう呼ばせていただいています)は至って健康で、2回目ということもあり出産には何の問題も無いだろう、そう主治医の先生もおっしゃっていたそうです。 しかし予定日の2週間前、事件は起こったのです。 それはマスターとお父様(お父様はなかなか私がこう呼ぶことを許してくれませんでしたが今は大丈夫です。)が面会を終えて帰宅した直後でした。 突然お母様が出血したのです、原因は不明。 しかしそのタイミングは夜勤の引継ぎ時間帯であり、ナースセンターに人があまりいない状態。 しかも就寝の確認で夜勤の看護士の内の大半が各々担当の部屋を回っているとき。しかもお母様の部屋は巡回の最後の部屋。 お母様は必死にナースコールのボタンを探しましたが、不幸にもボタンがベッドの裏側まで落ちていて拾うことが出来ません、痛みをこらえることはできてもそこまで手を伸ばすことがお母様には出来ませんでした。 お母さんは必死に助けを求め、叫びました。 そうして巡回の看護士1人がそれを聞きつけるまでに20分の時を要しました。 お母様は緊急処置室にうつされ、処置が行われました。 マスターとお父様が知らせを聞きつけ病院にたどり着いたのがそれから30分後。 お母様は命に別状はありませんでしたが…おなかの子はすでに亡くなっていました。死産だったのです。 事前に女の子と判っていたので、お父様やマスターは意気揚々とその子の名前を考えていた矢先の出来事でした。 「今思うと茉莉が入院しているときに何度も何度も会いに行ったのは、そのときに亡くした"妹"を再び失うのはイヤだという気持ちが実はあったのかも知れない。」 そうマスターは最後に付け加えました。 「リンって言うのは俺が考えた名前だ。母さんが結構キリっとした目だったから妹なら似てほしいとおもった。それで辞書に載ってた『凛々しい』ていう言葉から凛ってな。 オヤジに話したら好評でそれにしようなんて車の中で話していたときに電話が掛かってきたからな。今でも覚えてるよ。」 「すみません!!」 わたしは謝っていました。 「あの、私。マスターが名前をくれたのが起動してすぐだったので何か理由があるのかな?と思っただけなんです。それがこんなにも深い事情があったなんて。本当にすみません。」 それを聞いたマスターはポカンとした顔で。 「はは、ちょっと懐かしくなっただけだよ。もちろんあの時は悲しくてしょうがなかったし、神様がいるんなら出てこい!! ってぐらい怒ったりもした。 でも過ぎたことは仕方ないし。過去は変えられない。 俺は今は幸せだぞ~リンがいて、茉莉がいて、ティアまでいる。そして皆元気でいてくれてる。それがおれの幸せだ。」 「マスター……私、どんなことがあっても絶対マスターの元を離れません。たとえ離れても、必ず帰ります。」 「ああ、約束だぞ。」 「はい、約束です。」 そして"凛さんに挨拶をして"帰りました。 その夏は茉莉とティアを連れて久しぶりの墓参りにやってきて墓石を綺麗に掃除しました。 そしてマスターは私たちのことを報告したのです。 実際に手に触れることも、顔を見てあげることさえ出来なかった。でも確かに存在した…凛さんに。 その頃からです、マスターと絶対に離れたくないと思ったのは。 理由はもちろんマスターを悲しませたくないというのもありますが、私だけじゃなくてみんなが元気でいること。 それこそががマスターの、茉莉の、ティアの、そして私の小さいながらもかけがえの無い幸せだと気がついたからです。 だから私はこれからもマスターの側を離れないでしょう。それこそ一生。私の"命"が続く限り。 TOPへ
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概要 運用 ステータス情報Lv1 Lv60 アップデート履歴 コメント 概要 運用 ピックアップ ステータス情報 太字はマスクステータス Lv1 Lv60 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 パッシブスキル 備考 防具名 神姫名 N 20 40 0 250 50 ため時間減少 ため時間を減少する R 20 50 0 400 100 SR 20 55 0 550 150 UR 20 60 0 700 200 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 溜時間 溜倍率 射程 アクティブスキル 備考 近接武器名 神姫名 N 0 100 0 0 0 スキル名 R 0 100 0 0 0 SR 0 100 0 0 0 UR 0 100 0 0 0 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 リキャスト リロード 溜時間 溜倍率 射程 弾速 弾数 アクティブスキル 備考 遠距離武器名 神姫名 N 0 0 0 0 0 スキル名 R 0 0 0 0 0 SR 0 0 0 0 0 UR 0 0 0 0 0 アップデート履歴 日時:2000.0.0 内容: コメント 名前 コメント
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過去と流血に囚われし、嘆きの姫(その三) 第六節:感触 ハンカチで止血されつつ、私は外神田の古びた外科医へと運び込まれた。 幸いにも目立った患者はおらず、すぐに処置室での治療が行われたのだ。 消毒液やガーゼによる激痛は、筆舌に尽くし難い。だが私は幸運だった。 「お~、晶ちゃんよぅ来たのう。今度は何をしたんじゃ?……おお?」 「先生、外傷と火傷があるみたいですの。出血は酷いですけど~……」 「ほうほう。こりゃまた派手じゃのぅ。ハンダごてでも掴んだかの?」 「痛たたたた!?そ、そう言う事にしといてくれぬか藤村先生……ッ」 好々爺の藤村先生は、私が店を開くよりも前から度々世話になっていた 熟達の外科医だ。私がロッテを受け入れて、彼女の為にと物を作る様に なってから、未熟や油断故に生傷を作った私を的確に治療してくれる。 喰えない所もあるが、その腕は確かだ。私が言うのだ、間違いはない! 「ふむ……そうか、ハンダごてか。久しぶりじゃのぅ、そんなドジは」 「まぁ、そうなのかもな。して、どうだ先生……流石にこれは拙いか」 「いやいや。火傷と裂傷は多少あるが、どっちも筋は切っておらんよ」 「え?そ、それじゃあマイスターの“手”は大丈夫なんですかッ!?」 「有無。暫く痕は残るが、問題なかろ。ショック症状もなさそうじゃ」 その藤村先生は、私に何があったか……敢えて深く聞かずに治療した。 幸いにも出血以外大したことはない、という事らしい。有り難い物だ。 軽く傷の消毒やパッチによる火傷した皮膚の修復、軟膏の塗布に包帯の 巻き付けが為され、手当は完了する。痛みは酷いが、これも痛み止めで 抑え付けてくれた。後は様子見……という事で漸く先生の診断を聞く。 「さて、両手の怪我じゃがさっきも言った通り大した事はなかったの」 「む、そうか……?その、怪我した時は指の筋や神経でも切ったかと」 「ははは、晶ちゃんらしいの。血は酷かったが、傷口は手の縁じゃよ」 私の診断結果は、手の軽い火傷。即ち、弾痕等は見受けられないのだ。 あの拳銃は実弾を撃つ物ではなくて、エネルギー弾を放つ構造となる。 そう考えると、爆破の際に見かけた“プラズマの波紋”も説明が付く。 ロキ……あの娘も、確かに“プラズマ・ボマー”と言っていたからな。 「あの爆弾も……ひょっとしたらプラズマ弾を用いた物かもしれんな」 「……プラズマって、そこまで万能だったのかな。マイスター……?」 「プラズマを収束する銃は、ウィルトゥースも使用しているだろう?」 「あ、そう言えばそうですねぇ……なら、あの娘の持ってる武装って」 そう。神姫サイズの武装としてプラズマを利用できる程度には、技術も 進歩している。これを応用して、高密度のプラズマを球状に圧縮すれば 爆弾や銃弾として利用する事も、決して不可能ではないだろう。だが、 アルマ……茜が気付いた通り、ロキは重火器をプラズマ系で固めている 可能性があるのだ。これは、弾切れせず戦い続けられる事を意味する。 「放置しておけば、本当にその身が尽きるまで爆破し続けますの……」 「んむ?おお、そう言えば今日も秋葉原ではテロがあったそうじゃの」 「あ゛……嗚呼、それで驚いてハンダごてを掴んでしまってな。有無」 「やぁ、酷かったらしいぞ?ウチにも何人か、軽いケガで来たかのぅ」 慌てて場を取り繕いつつ、あの後何があったのかを藤村先生から聞く。 どうやら今回も、軽傷者を何人か出した物の……死者はいないとの事。 爆破されたビルも、高架下というその構造が幸いしてか致命的な損傷は ないらしい。被害の少なさに安堵するが、それと同時に私はふと思う。 「……ひょっとしたら、あの娘には迷いか優しさが残っているかもな」 「それは、わたしも思いますの……ロキちゃんは、まだ大丈夫ですの」 「え!?マイス……じゃない、晶お姉ちゃん。本気なんですかッ!?」 それは私が見出した可能性。しかし、茜……アルマとクララは狼狽える。 怒りでも嘆きでもなく、ただ私に対する衷心より発せられた意見だった。 「ボクは反対だよ。マイスターがこうして傷ついたのに続けるなんて」 「あたしも嫌です……お姉ちゃんが、また怪我したらなんて思うと!」 茜に至っては、最早泣きそうな表情をしている……私が、あの様な行動に 出る等とは想像すらしていなかったのだろう。更に、相手が本当に危険な 存在であるという実感が、彼女らのブレーキとなっているのだ。しかし、 部外者……藤村先生と看護婦が見ているここでは、説得も出来ぬな……。 「ほほ。茜ちゃんや、君のお姉さんはどれだけ怪我しても退かぬぞ?」 「え……?どういう事ですか、藤村先生。お姉ちゃんが……どうして」 「そりゃ、やりたい事があるからじゃよ。どれだけ生傷を作ってもの」 「……そして手酷く傷ついても、傷を治して再び挑んでいたのかな?」 『そうじゃ』と、藤村先生は肯いた。その通り、私はどれだけの苦労を しても……どれだけ傷ついても。ロッテの為、神姫の為に突き進んだ。 故にこそ、アルマやクララとも大事な“絆”を繋げられたのだと思う。 「ん、傷の処理は終わっとる。込み入った話は、待合室でするとええ」 「忝ないな、藤村先生。では暫し、待合室を占拠させてもらおうか?」 ──────私は、諦めないよ。 第七節:認識 保険証を翌日持参する、という念書を書いてから私達は会計を済ませる。 藤村先生の言う通り、多少の痛みはあるが……私の手は問題なく動いた。 どうやら、これからも“マイスター(職人)”としてはやっていけそうだ。 その結果に安堵しつつも、私は夕日の差す待合室のベンチへと腰掛ける。 「まぁ……皆も認識したと思うが、私の目標は更に先鋭化しつつある」 「……あの娘をどうにか止めて……改心させて、あげたいんですね?」 「その通りだ。今の彼女を放置すれば、その行く末には破滅しかない」 それが“当局による拿捕・破壊”なのか、“憎悪による自滅”なのかは 分からない。しかし凶行を繰り返すロキを放っておけば、何らかの形で 悲惨極まる結末を迎えてしまう事は……火を見るよりも明らかだった。 「彼女とて、その出生を考えれば神姫と言えるだろう。故に、かもな」 「神姫の為に生きてきた、自分を偽れないから……助けたいのかな?」 「如何にも。しかも、まだ助けられる可能性があるのだ……必然だな」 “神姫の笑顔の為”。たったそれだけの為に、歩姉さんを喪ってからの 私は存在する。ここで彼女を見捨て、世の横暴に委ねる事は出来ない。 無論こうして“悪党”を助けたい私の願望も、身勝手かもしれんがな? 「あの娘が憎悪を抱いて、滅びていくのは……耐えられませんの?」 「嗚呼、耐えられぬ。例え元のマスターが、邪悪だったとしてもな」 非常に難しい決断ではあったが、答えを出す事自体への躊躇はなかった。 死の商人として悪徳を振りまいたのは、マスター達“ラグナロク”の罪。 だが多くを傷つけたとは言え何も知らず、思慕の為にやったロキの行いは 果たして、死を以て償わねばならぬ程の“罪”なのか?私も、本来ならば 『そうだ』と答えただろう。しかし、歩姉さんは決して断罪を望まぬ筈。 あの人はそういう女性だ……そして私は、彼女を目指し生きてきたのだ。 「それに不可解なのは、彼女がマスターを喪ってもなお動いている事だ」 「あ……そう言えば、神姫はマスター情報の登録が抹消されると……!」 「機能を停止するんだよ。“マスター”は、一人しか存在できないもん」 「で、死んだっていう認識があるのに……ロキちゃんはまだ動けますの」 「そうだ。彼女には、マスター情報による行動抑制がないのかもしれん」 出自を考えると、それも頷ける話だ。オーナーとして想定されたのは、 何時死んでもおかしくないテロリスト。彼女は、そんな存在の試作機。 となれば、一々“マスターの死亡”で初期化されていては不便だろう。 故に、その辺の抑制コードを外されている可能性は十分に考えられた。 そもそも“アシモフ・プロテクト”さえ、無いのかもしれんのだ……。 「でも、あたしは反対です。やっぱり、マイスターを傷つけたくない!」 「ボクも嫌なんだよ……マイスターがそれを望んでいても、危険だもん」 無論それは、大きな危険を伴う。万一次に彼女を改心させられなければ、 その場で皆殺しにされてしまう程のリスクを孕んでいる。忌避したいのは アルマやクララでなくとも、当然だった。どう説得した物か……迷うな。 「……わたしは、マイスターと一緒に……あの娘と対峙しますの!」 「ロッテちゃん!?本気ですか?……マイスターが、傷つくのに?」 「そうなんだよ、ボクらだけじゃない。皆が傷つくかもしれないよ」 だが、そんな空気の中で決然とロッテは言い切った。私の胸ポケットから 身を乗り出し、自分の胸を叩いて決意を確固たる物としている。“茜”の 肩に乗っていたクララが、ロッテの本心を量りかねてか説得に回る。茜も 同様に、泣き叫ぶ様にして縋る。しかし、ロッテの意志は……固かった。 「ここでロキちゃんを見殺しにする方が、傷つきますの。皆の“心”が」 何処までも真っ直ぐに、信念を貫く瞳で皆を見回すロッテ。彼女の気配に アルマとクララは、息を呑み言葉を失った。そう……改心させようとして 失敗すれば、皆が傷つくだろう。しかし、諦めれば“心”の犠牲を伴う。 ロッテは、最初からその“両天秤”に対して答えを持っていたのだ……! 「……ロッテちゃん、意思は固いんですね?マイスターも、ですね?」 「有無。私はどうにかして、彼女を暖かい日常へ引き戻してやりたい」 「ロキちゃんに以前と同じ生活は、与えてあげられないんだよ……?」 「同じ物なんて、必要ないですの。わたし達が、包めばいいですの♪」 ロッテは微笑み、接近したクララを抱きすくめた。それは、眼前に聳える “不安”という硝子の壁を打ち砕く様に、優しく強く……抱きしめる腕。 そうだ、彼女は誠心誠意……ロキを助けたい、その一心のみで決断した。 一切の妥協も、打算も……権謀術数も無い。“真心”から産まれた言葉。 何時だって、私達の中心となってきたのは……彼女、ロッテの魂なのだ! 「……そう、ですね。かつてはあたしも、同じ様にして戻ってきました」 「思い出したか茜……いや、アルマや。故にこそ、私はまた救いたい!」 「わかりました。あたしだけ助かって、って訳にはいきませんからね?」 「ボクも、助けられたって意味では同じだもんね……覚悟を、決めたよ」 「それなら……ロキちゃんの背景と、現在の状況を調べてみますのっ♪」 『はいっ!!!』 ──────皆と一緒なら、必ず……大丈夫だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
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アンジェラスの愛を受け入れる。 こうなってしまったのもの俺の所為だ。 アンジェラスにとってこの罪とは愛情表現だ。 だから俺はこの罪を受け入れる。 「俺は愛してるよ、アンジェラス」 「ご主人様!」 アンジェラスの奴は俺の顔に飛びつきキスしてくる。 しかも狂ったかのように。 ちゅううっ…れろっ…くちゅくちゅくちゅっ…… 「…んふ…ん…じゅる………!」 「……んぅ………」 激しく唇同士ぶつけるアンジェラスと俺。 でも人間の俺に武装神姫のアンジェラス。 身長差が違うし唇の大きさも違う。 それでもアンジェラスは一所懸命にキスしてくる。 いや、キスというよりディープキスだ。 「ご主人様は私のモノ。この世の中でたった一人の…」 「………アンジェラス…」 「たった一人の愛しい人。殺したい程に…」 言い切り終わるとまたキスしてきた。 もう俺はアンジェラスに身体を預けていたので何されようがどうでもよかった。 そして明日から新しい生活が始まるのだ。 アンジェラスと俺だけの生活が…。 …。 ……。 ………。 「おい、ルーナ」 「あ、どうでしたダーリン?あたしの小説は??」 俺は神姫用のスケッチブックを机に置く。 そして一言。 「ボツ!」 「酷~~~~い!!!!」 俺の返事に困惑するルーナ。 どうやら期待していたみたいだ。 でも残念だったな。 結果はボツだぜ。 「ヤンデレなのはいいんだけど、なんで俺達がキャラなんだよ?」 「だって扱いやすいでしたんだもの」 「肖像権侵害で訴えてやろうか?」 「そんなぁ~…」 今度は泣きそうな顔をしながら俺に迫ってくる。 その時だ、ルーナの巨乳がブルンと動いたのは。 もう溜まりません。 性欲を持て余す。 「特盛り!」 「はい?」 「あぁーいや、何でもないよ!気にすんな!!」 「変なダーリン?じゃあ今度はオリジナルキャラクターで書けば大丈夫ですね」 「ん~まぁ、多少良くなるんじゃないのか」 「ではすぐに書きます!楽しみに待っていてくださいね、ダーリン♪」 「…おう」 できれば、書いて欲しくないがそんな事は…言えないよなぁ。 ルーナの心底悲しむ顔なんか見たくないしな。 でもなんでいきなり小説なんか書こうとしんたんだろう? 動機がさっぱり解からん。 まぁいいや。 俺はパソコンに向かいヤンデレが出てくるエロゲーを起動する。 えぇーと、確か三日前のセーブデータは…あれ? なんか知らないセーブデータがあるぞ。 試しにそのセーブデータをロードしてやってみた。 するとゲームはすぐに終わって画面はスタッフエンドロールになってしまった。 ちょっ!? もう終わっちまったぞ! 俺はここまでゲームを進めた覚えはないし…。 ん~! ちょっとまて、パソコン、ヤンデレ系のヒロインが出てくるエロゲー、そしてルーナが書くヤンデレ系の小説…。 あぁ~そいう事か。 ようやく解かったよ。 「ル~ナ~」 「な、なにダーリン?変な呼び方なんかしちゃって」 「五月蝿い!テメェ、また俺のエロゲーをやったろ!」 「ゲッ!?バレてしまいましたわ」 「『ゲッ』じゃねぇー!つーかぁ、毎回毎回俺のアカウントによく入れるよな。一周間ごとにパスワードを変えているんだぞ」 「ダーリンのパスワードなんてお茶の子さいさいですわ!」 「威張るな!今日という今日は許さん!!擽りの刑に処す!!!」 「キャハハハハーーーー!!!!ゆるじでーーーー!!!!」 俺の部屋でルーナの叫び声が響く。 その叫び声を聞きやって来たアンジェラス達。 そして俺とルーナが戯れている姿を見てクスクスと笑われたのは言うまでもない。
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4th RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~3/4』 「こいつらが飛んできたせいで彼女が転んだんです」 警備員にそう言って、動かなくなった武士と騎士 (眠っていてもその顔はやはり濃かった……) を渡した後、こっそりと連れてきたレミリアと白黒神姫二体を人気のない玩具コーナーの箱の影に立たせた。 片腕が破損したアームパーツを外し、レッグパーツだけを装備しているため不自然に足が長くなり見た目のバランスが悪くなったレミリアは、色褪せた “リボルテックせんとくん” の箱に寄り掛かり、クールに腕を組んでいる。 「第三のヂェリーって知ってる?」 見た目はニーキと変わらないはずなのに、甲高い声もフレンドリーな性格もあの偏屈悪魔と大違いだ。 姫乃はどのようにあのストラーフを育てて、あんなへそ曲がりにしてしまったのだろうか。 レミリアの右側では、黒い神姫がいつの間にか武士と騎士から拝借した剣二本を両手に持って、振ったり眺めたりしている。 レミリアを挟んで左側の白い神姫は、さっきからずっとモジモジクネクネと落ち着きがなく、時折俺と目が合ったかと思うとものすごい勢いで顔を背け、またチラリチラリとこちらを向いている。 蒼く丸い瞳を上目に何かを言いたげだが、口を開きかけてもすぐに 「あ……」 と目を逸らしてしまう。 これでは話しかけようにもまともに会話なんてできないだろうと思い、とりあえず白い神姫は放っておいてレミリアの話に乗っかった。 「ヂェリー? なんだそれあぁっつあたた痛い!」 「神姫用の添加剤みたいなものよ。 口から飲むんだけど、神姫にとってのビールみたいなものなんですって」 姫乃は平然と解説してくれるが、血が止まりかけていた切創から再び血がにじみ出るくらい俺の手を握り締めてくれた。 「なにすんだよ! 俺の痛がる姿をそんなに見たいか!」 「ん? あ、うわ!? ごめん弧域くん! なんで私こんなこと――」 パッと手を話した姫乃には本当に悪気は無さそうなのだが、 「んー、でもなんでだろ。 なんとなく弧域くんに裏切られたような気がするのよねぇ」 と首を傾げてワケノワカラナイコトを言う。 「勘弁してくれよ……それで? その第三のヂェリー? がどうしたよ」 「第三のヂェリーって最近になって発売されたものでね、普通のヂェリーに似せてつくられた安物なのさ。 不味くはないし値段も半分くらいで悪いこと無しみたいだけど、ヂェリー好きの神姫にとっちゃあ飲めたものじゃないよ」 「ふうん。 神姫の世界も世知辛いもんなんだな」 「一日中お客さんの相手をしてさ、神姫にイタズラしようとする悪ガキだとか、万引きの見張りだとか、ある意味バトルより大変なんだよ、私達の仕事。 まぁ、だからこそ仕事上がりのヂェリーは格別なんだけどね」 「……まさか、あそこで労働条件がどうとかって叫んでる神姫達の要求って」 「今拡声器で叫んでるアーンヴァルはフランドールって名前で、私と同期でこの仕事も随分長いんだけどさ」 《繰り返す! 店側は第三のヂェリー支給を即刻撤回し、今までどおり普通のヂェリーを支給せよ!》 「新人の時からヂェリーのために生きてるような神姫でね。 いつものヂェリーが第三のヂェリーに変わった途端、他の神姫をまとめ上げてこの騒動、ってわけ」 「す、すごい行動力ね」 「あん? そのヂェリーが変わったのっていつの話なんだ?」 「昨日だけど」 「見切り発車すぎるだろ! もうちょっと作戦とか練れよ!」 「私に言われてもなぁ」 「お兄さんの言うとおりだよまったく。 おかげでボクと、」 黒い神姫は白い神姫を親指でクイッと指差して、面を膨らませている。 「エル姉がとばっちりを受けてるんだから」 見た目だけでなくその仕草もどこか背伸びした子供っぽい。 「どういうこと?」 「私達アルトレーネ型とアルトアイネス型は第三のヂェリーと同時期に発売されて、イメージキャラをやってるんです。 テレビのCMを見たことありませんか? 二人一緒にヂェリーを一気飲みするんですけど」 あ、もちろん私とメルが出てるわけじゃないんですけどね、と白い神姫エルは付け加えた。 「ボクとエル姉は起動されてから、ヂェリー売り場でずっと売り子をやってるんだ」 大学生になってからは部屋にテレビなんてないし (パソコンで十分だ) 、CMも久しく見ていないからそもそもヂェリーの存在すら知らなかったわけだが、それが神姫にとってのアルコールならば、アーンヴァル型のフランドールだったか? あいつが店に反旗を翻したくなるのも分からないでもない。 神姫達の雇用者が安上がりなものを選んだところで、そんな事情を神姫達に理解しろと言っても 「はいそうですか」 とはならないだろう。 ヂェリーの味は神姫にしか分からない。 普通のヂェリーと第三のヂェリーの違いなんて、人間からすれば広告通り 「昨日までのヂェリーと変わらぬ美味しさ」 なのだ。 仮にあのフランドールが立ち上がらなくても、いずれ他の神姫が彼女の代わりとなる運命なのだろう。 「だからボクとエル姉にお客さんの前で第三のヂェリーを飲ませた後、 《なにさこれ不っ味ぅぅうううい!》 って言わせるつもりらしいんだ」 「第三のヂェリーは売れなくなる。 市場から第三のヂェリーが消える。 自分達のヂェリーが元に戻る。 やったあ! ――って寸法なんだってさ。 いくら日本が狭いといっても、どれだけの数のヂェリーが出まわっていると思ってるんだろうね」 やれやれ、と首を振るレミリアの釣り上がった口からは、この状況を呆れているのか楽しんでいるのか区別がつかなかった。 「あなたたち三人だけがこの作戦に反対したの?」 「レミリア姉さんの他にも私とメルを庇ってくれた神姫はいるんですけど……」 「今はあそこでまとめて縛り上げられてるよ。 みんな腕はあるんだけど、いかんせん多勢に無勢ってとこだね」 フランドールを頂点とした玩具箱のピラミッドの最下層に、四体の神姫がガムテープでぐるぐる巻きにされてうな垂れている。 その隣に乱雑に放置されたパーツの山は、剥ぎ取られた武装なのだろう。 「こっちの半過激派は残り三体であっちの過激派は多数か。 俺が行ったとしても警備員に止められるだけだろうし、これは警備員が強攻策に出るのを待つしかないか」 「……そうだねぇ。 それしかない、か」 レミリアの甲高い声にわずかに影が落ちた。 神姫にもこんな表情ができるんだなと思わせるような、ふっ、と遠い目がフランドールへ向けられる。 「なにか、それじゃ駄目な理由があるの?」 「できれば私の手で、そうじゃなくてもせめて神姫達だけで解決したかったんだけどね。 仕方ないか」 「そうだよな。 やっぱ古くからの友人が突っ走ったら自分の手で止めたいもんな」 「……うん。 まあ、それもあるんだけどさ……」 「考えてもみてよ。 もし神姫が暴走したとして、捕まえられた後は何をされると思う?」 レミリアの言葉をメルが引き継ぐ。 それは神姫に限らない話だ。 どんなロボットだろうと、暴走を始めたならばまず緊急停止。 そして安全を確保した上で原因究明。 もし暴走の原因が突き止められなかったとしたら―― 「……リセットされるか、メーカーに送られる?」 「お姉さんは優しいね。 お姉さんみたいな人に買ってもらったストラーフ――私の妹はきっと幸せ者だよ。 リセットされるだけなら、まだいい。 メーカーに送られて身体も心も新品同様になって帰ってきたとしても、まだいい。 お客さんに危害を加える可能性があったり営業に使えない神姫は破棄されるんだ。 ……店のデータが漏れないようにコアとCSCをハンマーで粉々に砕いた後でね。 ま、結局残った素体に新しいコアとCSCを組み込むだけだから、普通にリセットされるのと変わらないんだけどね」 気丈にそう言うが、レミリアが過去に神姫のコア――頭部を破壊されるところを間近で何度も見てきたことが痛いほど伝わってくる。 本人は堪えたつもりだろうが、震えた声でそんなことを言われて、こっちまで……泣きたくなる。 「せめて神姫達だけで解決できたら、店も少しは考えてくれるかなって思ってるんだけどね。 ……甘い考え、かな」 姫乃が俺のシャツの裾を今にも泣き出しそうな、縋るような顔で掴んだ。 「弧域くん……」 俺だってなんとかしたい。 なんとかしたいが。 「もうアイツらは事を起こした後だ。 今からレミリア達だけで解決しても正直、フランドールが無事でいられる可能性は……」 「それでもアイツは私の、たった一人の同期なんでね。 少しでも可能性があるならそれに賭けてみるよ。 申し訳ないね、お客さんにこんな話を聞かせちゃってさ。 これは私達の問題だから、私達で解決してみせるよ」 片腕になったアームパーツを再び背負ったレミリアは軽く背伸びをして、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすように 「さて!」 精一杯の笑顔を見せてくれた。 「あのアル中のこと、いつか殴ってやらないとって思ってたんだ。 いい機会だし、一発ガツンとやってやるか!」 「ボク達も行くよ、レミ姉」 「一人よりも二人、二人よりも三人ですからね」 武士と騎士が持っていた刀と剣をそれぞれ持ったエルとメルが、レミリアの後に続く。 剣一本とはいえ素手よりはマシでも、相手は完全武装した神姫だ。 戦力としては圧倒的に劣る。 「待て待て。 お前ら玉砕覚悟で正面から行くつもりだろ。 さっきはレミリアのアームが折れるだけで済んだけど、今度はそうはいかないぞ」 「もちろん、そんなこと分かってるさ。 ベテランの悪魔型一体に、剣の扱いに長けた戦乙女型が二体。 それでも数の暴力には敵わないだろうね。 それでも私達は――」 「無駄死は許さん。 もう目の前で神姫が壊されるのはこりごりなんだ」 レミリアの話で思い出したくもないことが頭に浮かんでしまった。 こいつらがあのマオチャオのようになるなんて、そんなことは断じて許さない! 「二十分――いや十分待て。 突撃はそれからだ」 出鼻を挫かれたレミリア達と姫乃を残して、俺はその場を離れた。 《再々度繰り返す! さっさと普通のヂェリーを渡しなさい! いつまで待たせる気だ!》 痺れを切らしたフランドールがもう天使とは程遠い要求をし始めた頃。 依然その周りを囲む店員と警備員、どんどん増えていく野次馬達に紛れて、俺達はできるだけ囚われた神姫達に近い方向へ回りこんだ。 「そろそろだ。 準備はいいか」 足元の神姫達が頭を立てに振ったその時、フランドールを守るように堂々と立っていた神姫達が俺の放った “それ” に気づいた。 「なんだあれ、こっちに来るぞ」 「あれは……ホイホイさん? 売り場から逃げ出したのだろうか?」 背丈は神姫より幾分低く、3.5頭身の体にピンク色の長い髪と大きな丸い目をつけた顔は常に笑ったまま。 頭に兎の耳のようなリボン。 メイド服のようなエプロン姿に――凶悪な機関銃。 「いけ、ホイホイさん(重戦闘Ver.)! 奴らを蹴散らせ!」 警備員の目を盗んで神姫コーナーに放り込んだホイホイさん(重戦闘Ver.)はピラミッドに陣取る神姫達を害虫と認識し、たった一人でもまるで臆することなくフルオート射撃を放った。 機関銃の反動に身体を震わせながらも変わらぬ笑顔が怖い。 「う、うわぁなんだアイツ!?」 「ガッ!? ク、クソッ被弾した! 十二号より本部! 十二号より本部! 未確認の敵が出現! 指示を!」 「本部てっどこ、う、うわぁ!」 殺虫剤すらものともしない “黒い閃光” を殺傷するほどの弾丸の嵐が神姫達に襲いかかる。 さっきまで雛壇のように並んでふんぞり返っていた神姫達はあっという間にその統率を失い散り散りになった。 「あのホイホイさんどうしたの? まさか、お店の?」 「いいや、十分前に俺の物になったホイホイさん(重戦闘Ver.)だ」 姫乃達と一旦別れた後、ホイホイさん(重戦闘Ver.) と電池を買ってトイレで組み立てたのだ。 もしホイホイさん(重戦闘Ver.)の起動にパソコンが必要だったらアウトだったが、さすが老若男女問わず人気があるだけあって、電池を入れるだけで最低限の機能 (目前の害虫を駆除) は働くらしい。 「くそっ、たかがホイホイさん一体如きに怯むな! おい、そこのお前達も後ろに隠れてな……あ、な、何故お前達が!?」 「それはもちろん、あなた方がホイホイさんと遊んでらっしゃる間にですわよ。 先程はよくもやってくれやがりましたわね」 エルとメルが開放した囚われの身だった神姫達は武装を取り戻し、先頭に立つお嬢様言葉の神姫は景気付けと言わんばかりに最初の一体を吹っ飛ばした。 「ぎゃっ!?」 強烈な打撃を放った後も悠然と歩くお嬢様の後に他の神姫も続く。 「もうエルとメルを庇う必要はありませんもの。 今度は全力で相手をして差し上げますから――全力で後悔なさい!」 助け出された四体とエル・メルがホイホイさん(重戦闘Ver.)の弾幕を前に慌てふためく神姫達に果敢に向かっていき、そこからはカンフーアクション映画のような乱戦となった。 当然神姫の事情など知ったことではないホイホイさん(重戦闘Ver.)は誰彼かまわず攻撃するが、新たに戦場に加わった神姫達はその程度の銃弾などものともしない。 エルとメルも流石は戦乙女型というだけあって、剣で弾を上手く捌きつつ戦っている。 この調子だと、雑魚達はすぐに片付くだろう。 残りは―― 「やっぱり私の邪魔をするのか、レミリアァ!」 「私を助けてくれる、と言ってほしいね。 フラン」 頂点から憤怒の形相で見下ろす天使と、麓から陽気に見上げる悪魔。 二人の間を遮る神姫はいない。 「不味いヂェリーなんて何の価値もない! アンタだってそう思うでしょう!」 「にゃはははそのとーり! コクの無さといい喉越しの悪さといい、第三のヂェリーなんてもはやヂェリーとは呼べないね!」 「だったらどうして私の邪魔を!」 「――でもね、フラン」 諭すように、レミリアは友へ話しかける。 ゆっくりと、一本だけとなった腕を後ろに引いた。 その腕の先には、メルが騎士を殴った携帯 「あれ? あの携帯……」 がある。 「どんな理由があっても、神姫は人に害を与えちゃいけないんだよ」 「黙れ! 一人でいい子ぶって、お前はいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!」 フランドールが蹴り飛ばした拡声器が音を立てて落ちた。 閉じていた翼が主の激昂に呼応するように広がる。 戦闘機のような、硬く、冷たい、天使の翼。 柔らかく軽い羽などない。 そこにあるのは、獲物を消し去る鋼鉄の爆薬。 「いつも――――正しいことばかり言う!!」 「悪魔型のくせに、って? そりゃそうだよ。 友が道を踏み外したなら、それを正すのもやっぱり友なんだよ」 フランドールが翼をさらに大きく広げた。 レミリアが身体を大きく捻った。 姫乃がスカートのポケットをまさぐった。 「私を見下すなああああああああああ!!!! 『 禁弾――!』」 「何度でも、何度でも、私が正してやるさ、友よ。 『 神槍――!』」 『 ス タ ー ボ ウ ブ レ イ ク ! ! 』 『 ス ピ ア ・ ザ ・ グ ン グ ニ ル ! ! 』 不規則な軌道を描きながら飛来する幾本ものミサイルを突き破りながら、レミリアの槍(姫乃の携帯電話)はフランドールに直撃し、フランドールは携帯電話と一緒に頂上から落ちていった。 少し遅れて、槍の驚異から逃れた数本のミサイルがレミリアに着弾した。 いくら小型軽量とはいえ神姫にとっては重さがある携帯電話を投げる無茶をしたことで、エネルギーを使い果たしたレミリアはミサイルを防ぐことも躱すこともできず、飛来した全弾を浴びて倒れた。 「わ、私の携帯……」 NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~4/4』 15cm程度の死闘トップへ
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考えている、アタシこと豊嶋神無は考えている。誰の事を? それはまあ、彼女・・・じゃなくて彼の事を。 「だってさあ、男の子なんだよ?」 数学の吉田先生の方程式をガードするようにノートを立て置き、そんなふうに呟く。はっきりとしない感情。窓際席ゆえの暖房と、意外に暖かい冬の日差しの二重奏にぼんやりするのとはまた別の、良いような悪いような心地。 微音、叩。 「神姫って普通、女の子じゃないの・・?」 ロウの姿を思い浮かべる。顔の造形は女性的。あまり詳しくはないけれど、普通の神姫と変わりはないように見える。けれど、胸はない。父さん曰く「強化改造の影響」ということらしいけれど、そうじゃない気がする。まあ、男か女かなんて、“下の方”を調べてみればわかるはずなんだけど・・ 「できる訳、ないじゃない・・・」 ただ“その辺り”を見つめるだけだって何か恥ずかしいから、わざわざロウ用のショートパンツ作った位なのに、そんな事したら恥ずかしくて死んじゃうよ。 微音、叩、叩。 「大体、触るのだって怖いのに・・・」 ロウは普通の神姫より頑丈らしいし、その手足、後【背中の手】は大きいけど、首とか二の腕とかなんてちょっと触ったら折れちゃいそうなほど細い。すぐ痛がらせちゃいそうで触れない。でも、あの髪くらいなら触っても大丈夫かな? でも、何かヘンな事言われそうで、それが、また、怖い。 「・・・でも、今日手に触っちゃったんだよね・・・。あんな事くらいで喜んじゃって。そう言えば、ショートパンツあげた時もバカみたいに喜んでて・・・」 微音、叩、叩。軽音、叩、叩。快音、叩叩叩叩叩。 「・・・ってうるさいなあ、さっきか・・・ら?」 その音がした方を振り向く。それは窓の方、よく考えればアタシが窓際、しかもここ3階、つまり人がいる訳ない方向。振り向いたら確かに人は居なかった。でも、“居た”。 快音、叩、叩叩。 「・・カンナっ!」 「・・・え、ロウっ!?」 直ぐさま窓の鍵を外して、そっと開く。と・・・ 「カンナぁっ!!」 「うわっ!?」 急、飛込。回避。 「おりょ!?」 通過落下転倒、横転横転、巻込横転薙倒横転転倒横転、横転横転横転。 「きゃあっ!?」 「なんだぁ!?」 「うわ、机が!?」 横転激突、停止。 「ううううぅう・・・」 「・・・ロウ、あんたって・・・」 窓からアタシ目掛けて飛びかかってきたロウを避けたら、ロウはそのまま教室の中に突っ込んで机を吹っ飛ばし、クラスメイトの足を引っかけ、ホコリを巻き上げながらすごい勢いで転がって、教室の反対側の壁で止まった。ノートも教科書も机も椅子も薙ぎ倒されて、教室はメチャクチャ。クラスメイトのあびきょーかんの声。どういう勢いで飛んできたの、あんた。 「豊嶋さん! これは一体なんです!?」 「あ、吉田先生! ええと、まあ、うちの犬です」 「犬ぅ?」 「あー、いたかった。カンナよけるなよ~」 「犬って、神姫じゃん、これ」 クラスメイトが指摘する。いやまあそうなんだけどそうじゃないと言うか・・・。 「・・・ところでさ、ロウ、何しに来たの?」 「カンナのべんとーとどけに!」 確かに大きな手の中にアタシのお弁当箱が握られてる。とりあえず近づいてそれは渡して貰う。 「・・・で、用が済んだなら早く帰る!」 「は~い!」 疾走、跳躍、飛込、消。 また同じ窓から、ロウは北風みたいに飛び出していく。あんまりに唐突な出来事に、誰も声が出せないみたい。 「・・・ええと、まあ、ごめんなさい」 残りの授業時間は、お説教と教室の片づけだけで終わった。 「まったく、あいつったら・・。夕飯ヌキにしてやる」 「まあ、そのお陰で神無はお昼抜きにならなくて済んだんじゃない」 「このぐっちゃぐちゃの寄り弁見てもそんな事言うの?」 机を向かい合わせにしていた秋子にそう言い返す。ご飯とミニハンバーグとポテトサラダとオレンジが混ざっててすごい味がするんだよ、これ。 「でも、神無が神姫持ってるなんて知らなかった。あ、でも犬飼ってるって言っていたね。それがあの神姫?」 「うんまあ・・・。でもあの武装神姫っていうの? あれはしてないよ」 でも、神姫の事であんまり騒がれるのが嫌だったので、秋子も含めて学校では誰にもロウの事は言ってなかった。神姫って高いらしいから、知られると特に男子が騒ぐんだよね。大体あいつみたいなやっかい者の事を人に知られたら恥だし・・・って遅いかもう。 「確かに、神無がそういう事するようには見えない。まあ、私もそうなんだけど」 「え? 秋子にもいるの、神姫?」 「ええ。兄のお下がりみたいなものが、1人」 「どんな性格なの?」 「可愛いよ、人なつっこくて。でもちょっと頑固な所がある」 「ふうん、うちのロウよりはまともみたい」 「そうでもないのだけど・・。でもそんなに変なの、あの神姫?」 「うん、すごく変。だって“男の子”なんだよ? それに騒がしいしものは壊すしごはん犬食いだし・・・」 「男の子? そんな事もあるの?」 「あるみたい」 「ふうん。でもそう、“男の子”ね・・」 「?」 「なあなあ!! あの神姫って豊嶋のものなんだろ? カッコイイな!」 「へ!? あ、うん?」 突然、甲高い声が耳元を直撃。見上げると居たのはクラスメイトの男子。ええと確か相原武也君(男子の名前なんて全員は覚えてないや)。いきなり馴れ馴れしく話しかけられて、ちょっとびっくりする。 「俺も神姫持ってるんだけどさ、あのハウリン、見た事もない武装だよな? 何処で手に入れたんだ? バトルやらないか?」 「いや、あれ父さんが会社から連れてきた試作品?だから売ってないし、そのバトルってのもちょっと出来ないんだよね。アタシはマスターとか言うのじゃないし」 「え!! 豊嶋の親父って神姫メーカーに勤めてんの? 嘘!? 何か非売品パーツとかも貰えるの!? いいな、俺にも少し分けてくれないか?」 あ、やばい言っちゃった。だから神姫の事言わないでいたって言うのに。 「いや、そういうのはちょっと・・・」 「じゃあ、バトルだけでもしない? レギュレーションがマズイならフリーバトルでいいしさ。あ、もちリアルバトルは無しな、今修理中のパーツがあるしセッティングも・・」 「いやだからムリなんだってば・・・」 なんかよくわかんない単語の連続と、そもそもよくわかんない男子に話しかけられるウザさでちょっと嫌になる。けど相原君のこの勢いをどうやって止めれば・・・ 「・・・私の神姫で良ければ、会わせてあげてもいいわ。直接、バトルは無理だけれど、装備やバトルデータ共有で参考にはなると思う」 「何? 法善寺も神姫持ってるの!? だったら・・今度お前んちに行ってもいい?」 「え、あの、いやそれは・・・」 「お~い武也、体育館行こうぜ!」 「ああ、今行く! じゃあ、法善寺また後でな!」 そう言って、友達に呼ばれた相原君は教室から走り去って行った。 「う~ん、言うだけ言って帰るし。でも、良かったの秋子? あんな事言っちゃってさ」 「・・・私の神姫、ちょっとバトル嫌いなだけだから」 「いやそうじゃなくって相原君を家に呼ぶって話。秋子って、男の子と遊ばないでしょ普段。神姫の事も隠してたんだから、そっちに興味ある訳でもなさそうだし。アタシを庇ったって言うなら後でアタシが断るよ?」 「そうじゃないの。ただ、ちょっと相原君に興味があるだけ」 「・・・あ、なるほど。秋子って相原君好きなんだ」 「・・ちょっと、興味があるだけだって」 クールな秋子が珍しくしおらしい顔を見せる。そういうのまだ興味ないんだって思ってた。でもそんな事も無いよね。 「うん、わかった。出来る事があったら応援するよ」 「それはいいけれど、神無は、自分の事も考えた方が言いよ」 「へ? どういう、意味?」 「え!神姫での犯行だったんですかあの窃盗!!」 豊嶋甲の裏返った声が、BLADEダイナミクス第4研究部に木霊する。周りの部下に変な目で一瞬見られるが、部長が変なのはいつもの事と、すぐに視線は消える。 『ああ、私がずっと犯人を追っていたんだ。そちらの方は処理出来たんだが、それよりちょっと気になる事があってな』 甲がパソコンに写した複雑な面持ちを知ってか知らずか、ボイスチャットの相手は少し重い声色に変わる。 「気になるって、もしかして犯行に使われた武装神姫の事ですか、“ファナティック”さん?」 甲は画面の向こうの低い電子音の主、ネットハッカー“ファナティック”に問いかける。“彼”はハッカーとは言え通常のそれとは毛色が違い、メーカー等関係者への有用な情報提供、ネットに漂う違法神姫サイトのクラッキングなど、MMS、特に神姫を守護する存在として有名だった。甲自身も研究の支援を受けた経緯があり、“彼”には無二の信頼を寄せていたのだ。 『いや、それを破壊した者の事だ。お前の神姫、確かロウ、と言ったな』 「ええまあ。ってロウがどうかしたんですか?」 『そのロウが、犯人の神姫を破壊した』 「へ!? ロウが!? そういえば庭に何か居たとか・・・でも何も無かったしなぁ・・・」 『それは私が回収した。犯人を追跡する途中で、その現場を目撃したんだ。どうもお前の家に盗みに入る所を、ロウが阻止したらしい』 「うちに盗みに? 本当に入ってたのかよ・・・」 『問題は其処じゃない。その神姫が、“自分の同類である神姫を何の躊躇いもなく破壊した”と言う事だ』 「・・・どういう、事ですか? 大体ロウはそんな凶暴な訳ないし・・・」 『その神姫は、“神姫を認識していない”。認識していなければただの人形と同じように“壊せる”。それどころか下手をすれば人間にも危害を加える可能性がある』 「う、嘘でしょ!?」 思わず甲は画面にかぶりつく。 『その神姫は、論理プロテクトが外れている可能性がある。いや・・適応されなくなった、とでも言った方が正しいか。確かその神姫は、自分の事を“男”と思っていると言っていたのだったな?』 「変な話だと思うけど、別にいっかと思ってたんですが」 『・・・普通はもっと怪しむがな。ともかく、そいつにお前は「留守中の家を守れ」と言ったのだったな』 「ええまあ、犬だし、昼間うちは蒼とロウしかいないから、家を守るのはお前の役目だって言ったけども確か」 『つまりはその“家を守る”為なら誰を傷つけても何とも思わないという事だ』 「そんな! そんな事、出来る訳・・・」 『“人間”ならば家族を守る為になりふり構わず、なんて事は普通だろう? いや、もっと残酷な手段であろうと日常茶飯事ではないか? “G・L”に感染しているとすれば、そんな事も有り得るんだろうな』 「へ? “G・L”って何のことで?」 『後で話す。まずは確認してからだ。今からその神姫に会う』 「ロウに会うって・・・」 『お前の家が近いと判ったからな、もう家の近くに来ている。もうすぐ・・・』 「もうすぐ・・・ 来たわね」 塀の上を歩いて来る影を見つけ、アニーはボイスチャットを一旦保留する。【玉座】を操作して、緩い速度で、その影へと近づく。 「ガッコってとこ、おもしろそーだな、カンナもいるし。もっといたかったけど、でもカンナがかえれっていうし・・・」 「はあい、あなたがロウ君ね」 「? あんただれだ? ロウとおんなじか? おんなじみたいなにおいがする」 「・・ふうん、自覚もあるんだ。それにジャミング無しでも“2次感染”もしない、本物ね、“G・L”だわ」 「だから、あんただれ?」 「ああ、ごめんなさい。あたしはアニーちゃんって言うのよ。あなたに大事な事を教えに来たのよ」 「え!! それってセンセってやつか! ガッコでいろんなことおしえてくれるひと!」 「先生? まあ、そうとも言えるかもね」 「やったー! これでおれもガッコにかよえる~!!」 「え!? いや、そういう事じゃないんだけど・・・」 「そうすれば、ずっとカンナといっしょだ!」 彼女、いや彼の名はロウ。それは「狼」ではなく、「浪」でもなく、「桜」でもなく、「Law」でもなければ、「Low」でもない。「ろー」、それはただ家族の為にある名。 ・・・“男”としての誇りに満ちた名。 “女性”を失い、同族を握り潰し、そして己が身すら省みる術を知らない。だが、家族があり、誇りがあり、・・・そして“愛するもの”が居る。 その“心”の何処が、劣ると言えるか? その心の何処が、狂っていると言えるだろうか? 答えを出せる“人間”は居ない。 ―第1章 狂犬 終― 目次へ
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第8話 「初戦」 「ンなーっはっはっはっはァ! ぅワガハイの最高傑作! バイオレント・ブラック・バニー! 略してB3(ビー・キューブ)よ! 今日は最高の成果を期待しておるぞォ!」 「サー、コマンダー」 「……なぁ、神姫のオーナーってのは皆あんなテンションなのか?」 「……私は今まで以上に遼平さんの事が好きになれそうです」 武装が揃ってから更に3日。 ネットで行える簡易バーチャルトレーニングで大体の動き方をマスターした俺とルーシーは、いよいよ初の実戦に参加する事にした。 ……と言ってもそう大げさな話じゃない。 今や武装神姫を扱った店は街のそこかしこにあり、神姫オーナーであればいつでも参加できるシステムを設置している店もあるのだ。 休日なんかにはちょっとした大会が開かれる事も多いようだが、普段行われるのは公式トーナメントやリーグ戦みたいなモノじゃなく、個人同士の草バトルって所だろう。 で、そんな俺たちの初陣の相手が、さっきからハイテンションで大騒ぎしてるオニイチャンってワケだ。 年は俺より少し若いくらいで、なんだかヘンなシミだらけのズボンにベスト、ご丁寧に頭には同じ模様のハチマキをしてる。 「アレはシミではなくて都市迷彩です。 それにハチマキじゃなくてバンダナですよ」 ルーシーが小声で注釈を入れてくるが、俺はそういうのに詳しくないんだって。 ま、そういう事に疎い俺でも分かるくらいにあからさまなファッションの軍隊フェチだった。 「退くな媚びるな省みるな! 敵前逃亡は問答無用で軍法会議! 兵士に命を惜しむ事など許されぬ! そう、お前の前に道はなく、お前の後ろに道が」 「そろそろ選手のご登録をお願いしたいのですが宜しいですか」 「あ、ハイ」 天井知らずに上がりっぱなしのテンションは、店員さんの必要以上に事務的な口調に大人しくなった。 っと、こっちにも来た。 「それでは、こちらにオーナー名と神姫のパーソナルデータ入力をお願いしますね」 キツめな感じの美人さんだけど、さっきと違ってにこやかだ。 どうやら店員さんもアレはやかましいと思ってたらしい。 えーっと、そんじゃ… オーナー名:藤丘 遼平 武装神姫:TYPE DEVIL「STRARF」 ニックネーム:ルーシー と、こんなトコかね。 『それでは両者、スタンバイ!』 さっきの店員さんによるアナウンスが入る。 「ビィィィ!キュウゥブッ! んGoGoGoGoォオゥ!!!」 「サー、コマンダー」 「んじゃ行くか、ルーシー?」 「ハイ。 あなたとなら、何処までも」 ……何処で憶えてくんのかね、そういうセリフ。 崩れたビルの立ち並ぶ廃虚をステージに、バトルはスタートした。 まずは索敵からか。 「相手のバッフェバニーは遠距離戦闘重視の重火器装備型…『ガンナー・ブラスター』です。 早めに接近しないと厄介ですね」 「初陣が真逆のタイプってのは嫌なもんだな」 「負ける気はありません…前方に反応」 緊張した言葉とほぼ同時、ビルとビルの隙間を縫うようにして何かが迫ってくるのが目に入った。 一瞬戸惑った俺が命じるより早く、ルーシーは大きく跳んで回避行動を取っていた。 着弾。 閃光。 爆発。 「…ミサイル?」 「誘導式ではないので、正確にはロケットですよ。 妄想スレ第2段の198さん、ありがとうございました」 「誰?」 「こちらの話です。 …来ますよ」 崩れたビルの残骸を乗り越えて敵が姿を現す。 左肩にはバズーカ砲、ロケットポッドを右肩に。 両手にはそれぞれガトリングガンと大ぶりのコンバットナイフを携え、のっしのっしと歩みを進めてくる……その顔は赤いスコープにガスマスクのせいで表情が読めない。 『ンなーっはっはっはァ! そこな新兵! こそこそ隠れて様子見とは兵士の風上にも置けぬ奴! このB3とワガハイが、フヌケた貴様らに戦場における鉄の掟というモノを叩き込んでくれるわっ!』 あーうるせぇ。 「ドンパチのルールブックにゃ不意打ち上等って書いてあんのか?」 『ムっふっフーン、モノを知らぬ奴め。 この世には『勝てば官軍』というすンばらしい言葉があるのだ! 勝った者にのみ全ての権利が与えられる! 即ちルールを決めるのもまた勝者! つまりすなわち勝利は勝ぁぁぁぁぁっつッ!』 「サー、コマンダー」 ……本格的にワケ分からんなお前ら。 「ま、向こうさんから来てくれたんなら探す手間が省けたな」 「そういう事を言ってる場合ですか」 すいっ、と持ち上げられたガトリングガンが狙いを定める前に、再び跳躍。 弾丸の雨が虚しくビルの壁を穿つのを尻目に、着地したルーシーがこちらに尋ねる。 「どうしましょう?」 「初の実戦なんだし……ここはやりたいようにやってみ」 「……了解」 『むヌぬっ、敵の眼前で作戦会議とは悠長な! 静かにせんかァ! ここは戦場だぞォ!』 相手オーナーの怒声を無視し、前傾姿勢になったルーシーは距離を詰め始めた。 ロケットポッドが迎撃を始めるが、最初の攻撃で誘導式でないと判っている。 最初から当たらない位置のモノは完全無視、被弾する位置にあるモノはサブマシンガンで撃ち落としていく。 その間、視線は相手に固定したまま。 『「なにー!?」』 くそ、向こうと俺の声がカブった。 つかルーシー、お前ちょっとスゴい? 距離が縮む事を嫌ったB3は後退を始めるが、なにしろこっちとは「一歩」の長さが違う。 あれよあれよと言う間に戦闘は至近距離でのそれに移った。 向こうもこの距離ではガトリングガンの取り回しは不可能だと悟り、もう1本コンバットナイフを取り出しての2刀流に切り替えた。 こっちもナイフ2刀流で斬り結ぶ! ……が、ルーシー自身の両手は空いているワケで。 サブアームが相手のナイフを押さえつけている間に、ひょいと掲げたサブマシンガンを相手の顔面に向けてブッ放しやがった。 ががががががっと派手な音がして頭が何度も揺れた後、B3は仰向けにぱったりと倒れた。 『んンNoおぉぉぉおおぉぉうッ!? B3! 応答せよびぃきゅうぅぅぅぅッぶ!』 「ルーシー、お前それちょっとエグい」 「勝てば官軍、負ければ賊軍……勝負の世界は非情なのですよ」 『衛生兵! えーせーへーえぇぇぇぇぇ!!!!』 しれっと言ってのける15センチ足らずのオモチャ。 コイツはやっぱり悪魔かなぁと思って嘆息した俺の視界で、動くものがあった。 「ッ……、」 どごおぉぉんっ! 突然起こった爆発に、俺の口から出かけた言葉が止まった。 スコープとガスマスクがダメージを緩和したのか、大の字になったB3の肩にマウントされたバズーカ砲から煙が昇り、射撃直後を物語る。 そして濛々と爆煙に包まれているのは……ルーシーの頭部付近。 「ルーシーっ!」 背筋の凍るような思いが俺の口を再び動かす。 「返事しろおい!」 「無事です」 冷静な声が響き、風に吹き散らされた爆煙の中からススけたルーシーの顔が見えた。 顔周辺のダメージはそんなものだが、片方のサブアームが手首の辺りから吹き飛んでいる。 どうやらそれを盾にして直撃を防いだらしい。 それを見てもB3は追撃しないし立ち上がらない。 どうやらバズーカは1発きりで、さっき与えた頭部への衝撃はオートバランサーか何かに影響を与えたらしい。 実質、勝負はここで決着ってワケだ。 ほっとした俺、ぽかんとしている相手オーナー、悔しげな表情のB3、無表情のルーシー。 なんだか妙な沈黙の後、ルーシーはおもむろにしゃがみ込んでB3のそばに膝を着くと、残ったサブアームを動かし始めた。 その手に握られているのは、ほとんど使う事もなく無傷に近いアングルブレード。 「はいはいストップストップ、もう終わっただろ。 こっちの勝ち」 俺の言ってる事を聞いているのかいないのか、ルーシーは見せつけるようにブレードを振り翳したまま動かない。 「こら、あんま脅かすなって」 刃に照り返る陽光を受けたB3の顔に、はっきりと恐怖の色が映る。 「ルーシー」 ぐっ、とアームデバイスのシリンダーが動く。 「やめろバカ!」 制止の声と風を一度に裂いたブレードが、鋭い音を立ててコンクリートの床に突き立った。 ……丸く湾曲した刃と床の隙間に、B3の白い首筋が挟まっている。 顔を上げれば、相手オーナーが白いハンカチを必死に振る姿があった。 「ンんバカモノおぉぉっ! 勲章ではなく命ひとつを持ち帰れば良いと教えたはづだろぉがっ!」 「サー、コマンダー」 「試合前と言ってる事が違うんだが……」 「アレがあの人たちの絆の形なのでしょう」 ひしと抱き合う(?)2人を眺めて、にこにこ笑顔のルーシー。 ……ホント、あの氷みたいな目ェしてた奴とは思えんね。 「……ちょっと、興奮しました」 俺の視線に気づいてか、わずかに肩を落とした。 人間で言えば『カッとなった』んだろうが……あんまコイツは怒らせない方がいいかも知れない。 「今、何か失礼な事を考えましたね?」 「いぃえぇメッソーもない」 「怪しいです」 「最愛のパートナーに信じてもらえないとはツラいなぁ」 ちゃかしたセリフに、テレたように小さく微笑む。 「最愛、ですか……嫌わないでくださいね」 「つまんない心配しない」 あっちほど熱烈じゃないが、こっちもちょっとイイ雰囲気。 ひとしきり泣いたり感動したりして気が済んだのか、向こうのオーナーが握手を求めてやってきた。 胸ポケットからはB3が覗いている……ちょっと微笑ましいな。 「いやいやいや諸ォ君! 今回は良い勉強をさせてもらったぞぉ!」 「ま、こっちも楽しかったよ。 ちょっとヒヤっとしたけどな」 「うむ! 記念すべき初陣を勝利で飾れなかったのはヒッジョーォに無念ではあるが、今日この日の戦いはワガハイとB3の輝ける第1歩として生涯この胸に刻もうぞ!」 「お前あんだけ偉そうな事言っといて自分も初心者かコラ」 バカ笑いするミリタリーマニアから視線をそらすと、ルーシーがB3の頬をそっと撫でている所だった。 「さっきは怖がらせてごめんなさい。 貴女の心優しいオーナーに、最大限の感謝を忘れずにね」 「……イエス、マム」 ルーシーの柔らかい微笑みと、風にかき消されそうなB3の声を幕に、俺たちの初陣は終わった。 「ついでにそちらのオーナー。 差し出がましいようですが『バイオレント』は『Violent』で頭文字は『B』ではありません。 その子の為にも早めの改名をお奨めします」 「ンなんとぉーっ!? ワガハイ一生の不覚ぅッ!」 「サー……」 その後、彼の神姫は『バーニング・ブラック・バニー』に改名したとかしないとか……ちゃんちゃん。
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注意:この話はエロ・グロ・神姫破壊が含まれた打ちっ放し短編です。それでもいいよとおっしゃられる方はどうぞ。 連続神姫ラジオ 浸食機械 ~ファタモルガナ~ 1:末路 「そーれ」 少女の軽快なかけ声と共に空を切る音が響く。続いてグチュっと言う音と 「ひぎゃぁう」 奇妙な叫び声があがった。 「大命中、やっぱり私はすごいね、マスター」 先ほどかけ声をあげた少女が振り返り僕に語りかける。少女と言っても彼女はニンゲンでは無かった。全長16センチの機械仕掛け、武装神姫と呼ばれるロボットである。彼女はカブトムシをモチーフにしたランサメント型と呼ばれるタイプだ。しかし彼女は製品版とはカラーリングが異なっている。武装はシルクのような光沢のある白に塗られている。素体も白をを基調として所々に黒や金が使われていた。腰まであろうかという髪は青みがかった黒で、リボンでポニーテールにまとめられていた。 「ねえねえ、次はどれをいってみようか?やっぱり派手にどばーって出る方がいいかな」 彼女の足下には彼女ほどのサイズのナイフや釘が乱雑に散らばっていた。彼女は今までこれを「的」に投げて刺す遊びをしていたのだ。ちなみに勝率はなかなかのものである。 「マヤ、しばらく待ってくれ。彼女と話がしたいから」 マヤと呼ばれた神姫は少し不満げに頬をふくらませたが、分かったと答えて手に持っていた千枚通しを床に置いた。僕はそれを見届けると机の上の瓶を手に「的」に近づいていった。 「気分はどう?お友達のことが心配でここに来たみたいだけど技量は考えた方がいいよ」 「的」は、壁に手足を埋め込まれ、服を破かれ半裸になった少女はこちらにおびえた様な目を向けるばかりで答える様子はない。白い張りのある肌に何カ所もナイフや釘が突き刺さりだいぶ出血しているのだから答える気力も無いのかもしれない。もっとも、背中に生命維持のためのチューブを何本もつないでいるのだ。そこから送られる薬品のおかげで、まあ、とりあえずすぐ死ぬことはないだろう。 「まあ、どうでもいいけど。そうそう、ここに連れてこられたとき自分の神姫、確かヴィクターちゃんだっけ?のことすごく心配してたねよね、だから連れてきてあげたよ」 僕の差し出した瓶の中身を見て彼女は目を見開く。瓶の中には彼女の神姫であるオールベルンパール型のヴィクターが入れられていた。武装を外され、薔薇シフォンに身を包んだ彼女は四肢を金の鎖で絡め取られ、足を大きく広げた姿で瓶の中に閉じ込められていた。 「ヴィクター!」 痛いだろうに無理矢理身ををよじり少女は自分の神姫の名前を叫ぶ。しかしヴィクターは目を閉じたまま動かない。 「スリープモードのままだったね、ごめんごめん」 僕はヴィクターに送っていた彼女を眠らせる電波を止める。すぐに彼女は目を覚ました。そして目の前に広がる自分のマスターの惨状を見てその表情が怒りに染まる。振り向いて僕を見つけると飛びかかろうとでもしたのだろうか、身をよじるが鎖にからめとられて動くことができない。それでも構うことなく僕の方に向かってこようとする。鎖を切れない身をよじり、殺してやると叫びながら。 「殺すんなら一撃でやってくれなきゃお断りだよ。もっともその機会はないだろうけどね」 叫び続ける彼女の入った瓶を机の上に置くとマヤがその周囲にカメラを設置していく。 「い、一体何する気?ヴィクターにはひどいことしないで」 残念だけどそれは無理な話だ。負けがかさんだ友達を救いにやってきた彼女を美馬坂は許すなと言った。お友達はお友達でひどい目に遭っているが彼女もまたひどい目にあう、彼女の神姫と一緒というのがまあ、救いか。 僕はヴィクターの入った瓶にポケットから取り出したものを入れる。それは蛇だった。神姫サイズにミニチュア化されたアナコンダが三匹。もちろん本物ではないが面白い機能として体内のカプセルを対象に射出できると言う機能がある。そのカプセルの中にはこれまたミニチュアの蛇が何匹も入っている。つまりこれを使えば神姫の受胎、産卵ショーが楽しめるというわけである。 蛇に巻き付かれおぞましさに顔をゆがめるヴィクター、それを見て必死に彼女の名を叫ぶ少女だがその声は突然の殴打により止んだ。部屋に男達が入ってきた、仮面をつけ、手には様々な器具を持っている。彼女を殴ったのはその男達の一人だ。恐怖におびえ、声も出せない彼女を男達が取り囲んだ・・・ 蛇に身をまさぐられるおぞましさを感じるヴィクターだったが主のピンチと僕への怒りから気丈な表情を向けてくる。しかし蛇の一匹が彼女の秘所に潜り込もうとするとさすがに表情が変わった。肝心なところはスカートで隠れているが本能的に恐怖を感じるのだろう。膝をもぞもぞさせるが蛇を防ぐことなどできない。 「いや、やめて!」 そうヴィクターが叫んだとき、部屋の壁が明るく光る。壁にはモニターが埋め込まれており彼女の痴態が大画面に表示される。呆然としたヴィクターが嫌々と首を振り鎖につながれた手足を振り回すが無駄なあがきだった。存分に彼女の腹上を満喫した蛇はやがてカプセルの射出を始める。ドレスの腹の部分がふくらみまるで妊婦のようになった。その頃になるとこちらの様子に気がついたのか男達の何名かがこちらにやってきて彼女の痴態を眺める。その股間は一様に怒張していた。 「良かったわね、あなたのこと見てみんな興奮してくれてるわよ。いっぱいかけてもらうといいわ」 マヤの言葉に美馬坂の根回しが効いているのか男達は彼女の痴態をおかずに自慰を始める。ヴィクターが自分の運命に気がつき妊娠しながらもそれはやめてくれと懇願するがそんな彼女の顔に早速白濁がぶちまけられる。射精は続き、ドレスはカウパーでべったりと肌に張り付き彼女の美しい胸や腹のラインを浮きだたせている。そんな彼女に興奮したのか注がれた精液は彼女の膝ほどになった。 うつむいて小声で殺してやるとつぶやく彼女にマヤが声をかけた。 「ねえ、さっき産み付けられた卵だけどさ、あれって温度が一定になったら孵化するのよね」 その声に瓶の口を向いた彼女の顔にこれ以上ないと言った絶望的な表情が浮かぶ。 「元気な赤ちゃん、産んでね」 「いやぁぁぁぁ!蛇のママになんかなりたくない、マスター、ねぇ助けて、マスターぁ!」 ついに弱音を吐き出した彼女だが無情にもその腹がもぞもぞと動き始めた。産まれるのだ。 「お願いやめて出てこないで、助けてマスター、助けてよ、うぁぁぁああああん」 泣きじゃくり、もがく彼女のスカートからゾルッという音と共に蛇が落ちてくる。ヴィクターが悲鳴を上げ、それを境にどぼどぼと蛇の子が生まれていく。その光景が引き金になったのかさらに男達がオーガズムに達し、滝のような精液が注がれていく。生まれた子蛇は母乳を求めてか早速彼女の胸に群がっていく。出産のショックで、精液の雨も小蛇たちの乳辱もほうけた顔で受け止めるヴィクター。そして腹があいたことを悟った二匹目の蛇が彼女の腹の中へと潜り込んでいった。 戻る
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晴れた昼下がり。 特にやることもないのでボーッとしてるわたし。 「何ポケッとしてるの?」 横からわたしの顔を覗き込む人がひとり。 上へはね気味の髪型にはつらつとした表情。 「悩んでることがあったらすぐに私に相談しなさいっ…ごほっ」 胸を叩いて…勢いよく叩きすぎてむせてるこの人は天乃宮未来(あまのみやみらい)、わたしの一年先輩なの。 「でも…先輩は微妙に専門外なの、神姫ファイトの話だから」 「バトロンの事? …スィーマァちゃんの事ね?」 「はい…」 あれから敗北を重ね、後一敗で40連敗。 いまのスィーマァなら勝てる相手でも決着がつかない。 「うーん。…やっぱり精神的な問題じゃないかな?」 「やっぱりその結論に達しますの…」 一度も勝ってない(引き分けはある)となれば、自分のアイデンディティに疑問を持つのは当然。 しかも自分を負かす相手は必ずゲイトだ、自信が持てなくなるのはわかる。 「最低でも年度が変わる前に何とかしないと、下手したら思いつめて…」 その言葉を受けて怖い映像が頭をよぎる。 「ひゃーっ!? まずいよマズイのぉっ」 「慌てない。大事なのは「なにが得意かを気付かせる」って事かしらね」 スィーマァの得意なのこと? …うーん、ケーキの切り分け? 「駄目だこいつ…早く何とかしないと…」 「ひどいですよ先輩~!」 拳と拳がぶつかる。 …拳というより、鉄拳と言った方が適切か(材質的な意味で) 「右から踏み込まれた時の反応が遅い! 相手が拳を握った瞬間に手を出す!」 「ぐぅぅ…!」 アームとアームのぶつかり合い。 本来、機械腕による格闘戦を得意とするムルメルティア。だがスィーマァは正直、アーム戦が苦手であった。 「くぁっ!」 左アームでナァダの攻撃を受け流す…が 「右がガラあきになってるぞ」 ズシッ 「ぐぉふぅ……!?」 本体へ直接攻撃を受け、吹き飛ぶスィーマァ。 「すまん、強く叩き過ぎた」 反応はない、痙攣を起こしている。 「まずいな」 …… 「………う」 「気がついたか?」 右わき腹への鈍痛と共にスィーマァは目を覚ました。 「自動修復機能の許容範囲で良かった。もし限界を超えていたら腹を開かにゃならんしな」 「ぴっ!?」 自分の腹が開かれるのを思い浮かべ縮こまる。 「ふ…ふふ…」 「どうした?」 顔を伏せたまま笑うスィーマァ。 「…私って、ホントに駄目ですね……ふふ」 「おいおい…」 「生まれて一度も勝ったことのない、得意なはずの分野も苦手、オマケに戦意までうしなうなんて…」 ぽろり、ぽろりと零れ落ちる涙。 「私なんて…武装神姫失格ですね…」 ぽんっ そっと頭に置かれる手。 「みぇっ?」 ぱたん そしてそのままナァダの膝枕へ。 「…確かに、戦いの本質は勝つことにある。しかし勝つという気持ちが負けていれば勝てる戦いも勝てない、お前の状況はまさにそれだ」 「……」 「自分に自信が持てない者が勝てるはずが無い、…そのはずだ」 ふわりとした髪を撫でる。 「アーム戦がどうしても駄目なら、その発想を捨ててしまえばいい。ようは逆転の発想だな」 「……」 「…スィーマァ、どうした?」 「…すぅ…」 「何だ、寝てしまったのか。…まあ、話を聞いていたのならどうにかなるだろう」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 夜、具体的には午後11時05分。 かたっ 「すぴーっ…」 ひゅっ…がたん! 「むぅ……どうも寝苦しい…」 多分夕飯のコロッケが胃をムカムカさせてるんだと思う。 微妙な吐き気を催しつつ起き上がる…と、ここで机に目がいった。 ひゅっ ひゅっ 小さな影が素振りをしていた。 「スィーマァ」 「あ…!? すみません、起こしてしまいましたか?」 「んー、胸やけで起きただけだから違うの」 …そうだ、この際だから聞いてみよう。 「スィーマァ、あなた…ゲイトに勝てる自信ある…?」 それを聞き、少し黙った後。 「自身はないですけど、勝てる見込みは掴みましたよ」 あら、いつの間に? 「だから、ちょっと用意してもらいたい物がいくつか…」 「これで負けたら40連敗だな、古代」 「いちいち言われなくてもわかっているの!! そのテングっ鼻をへし折ってやるから!!」 嫌味で言ってるにちがいない、こいつは昔っからそうだったもん。 「さあ、さっさと始めようぜ」 …… リフトから対戦筺体へと進入してゆく神姫達。 そのデータと姿が液晶に映し出される。 ゲイトはスタンダートなチーグル+サバーカ装備。 対するスィーマァが携えるものは、拳銃ただ一丁のみであった。 「古代、遂にヤケでも起こしたのか?」 「そんな訳ないじゃないの、わたしはいつでも真剣に組んでるもの」 あまりにも自信が溢れているすすみを見 「…何を企んでいる?」 そう呟いた吹雪であった。 [battle start スィーマァVSゲイト] 特攻神姫隊Yチーム?に戻る トップページ
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第6話 「世論」 なんだかんだと小難しく考えたって、結局のところはやっぱり『ハイテクオモチャ』なワケ。 昔の話なんざどうでもいいし、後々どういう評価をされようと今の俺には関係ない。 取りとめもなくそんな事を考えていると、ニュース番組からも『武装神姫』って単語が聞こえてきた。 ホントに際限ないなと苦笑いしながら目をやったが、生憎ソレはあんまり楽しい話題じゃなかった。 『違法改造・販売業者を摘発 高額な美少女ロボットに傾倒する若者たちの実像』 ……要するに神姫の外見(そとみ)や中身をマニア向けにカスタムして売ってた連中がとっ捕まったって事らしい。 スタジオに設置された円状テーブルでは、良識派の看板背負ったオトシヨリが低俗なワカモノの行動を盛んに批判していた。 頭は寂しいのにヒゲだけもっさりしたオッサンが『縄文時代における遮光器型土偶を筆頭に世界中には女性を象った人形が数多く』と長そうなウンチクを披露し。 白衣で白髪のジーサンは『犯罪心理学的立場から見るに女性をイメージさせるものを所有したがるのは幼稚な独占欲の現れであり』とブツブツ。 さらに大ボリュームなパーマ頭に分厚い化粧のオバサンが『オモチャとはいえ『女を売る』こと自体がヒワイでサベツ的で低俗で下品でイヤラしくて』とヒステリーを起こしてる。 こういう答えの出ない論争に熱くなれるのは当人たちだけで、見てる方はどんどん冷めてくる。 実際、俺は『なんでココの連中は皆メガネかけてるんだろう』とか『おじいちゃんそんなエキサイトしたらアタるんじゃない?』とかをボーっと考えてた。……が、ルーシーは難しい顔をしてる。 「あんまりマトモに考えない方がいいぞ。 こういう連中は自分の信じてる事だけ喋ってるだけなんだから」 そう言ってみたが、小さく首を振った。 「違法に改造販売されたという神姫の事を考えていました」 ……あんまり小難しい話って嫌いなんだけどなぁ、俺。 「基本的に私たちはオーナーに対する『拒否』や『意見』という権利を認められていません」 「……のワリにゃ俺の考えた名前を片ッ端から斬り捨ててくれたような気がすんだけど」 「反面、購入者であるオーナーには完全上位者としての権利が発生し、それによりオーナーの決定には絶対服従……それが不当な命令や違法な改造であっても、私たちに『No』という選択肢はないんです」 俺の呟いたヒトコトを黙殺して自分の話を続ける。 ……お前ソレ絶対服従とかウソだろ。 「ですが、幸か不幸か……私たちに搭載されたAIには一通りの基本知識がプログラムされています」 「改造だろーが転売だろーが、ソレがどういう意味なのかは判るって事か」 「ハイ。 『所詮はオモチャ』……その通りであり、それ以上でもそれ以下でもないのですけれど」 小さく俯いたが、声の調子は変わらない。 「運命に逆らえず、そういう道を辿った神姫の事を考えると……少し、哀しくなります」 こういう時、俺はどう答えてやればいいんだろう。 あいにく女と付き合った事なんか学生時代にしかない俺の頭にはカッコいいセリフなんかちっとも出てこなくて、映画やドラマみたいにキメられない。 ……だから。 「俺、そういうの嫌いでさ」 しょうがないんで、さっきのコメンテーターみたいに俺の言いたい事だけ言う事にした。 「だからお前も言うな」 よくあるだろ? マンガなんかで『ウンメイがどーのシュクメイがどーの』ってヤツ。 あーゆーの見ると冷めるんだ。 よくあるパターンだなーってさ。 「……オーナーは、強い方なんですね」 俺の言葉をどう脳内変換して受け取ったのか、ルーシーはなんだか嬉しそうに笑ってそんな事を言った。 ……もしやお前、俺のこと『運命なんかに左右されてたまるか!俺の道は俺が切り開く! それが俺のジャスティス!』とか血管ふくらまして叫ぶ熱血硬派だと思ってる? ゴメンそれすごい誤解。 別に俺カッコいいこと言ったつもりないよ? あんま美化すると現実見てから辛くなるぞ? そう訂正しようと思ったが、コイツはもう「嬉しそう」って言うか「誇らしそう」に見えるくらいイイ笑顔になってたんで、結局言えず終いだった。 ……しょーがないじゃん、せっかく笑ってんだもん。 暗い顔させたくねーな、って思ったんだもん。 なんか俺って自分で思ってるよりコイツに入れ込み始めてんのかな、と思った……そんな1日。