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回の00「不変ではいられない僕ら」 2037年9月。高校二年の夏休みを満喫しきった藤原雪那(ふじわら・せつな)は、その長い休暇のほとんどを自分の武装神姫、マオチャオのティキと共に過ごした。 例えば初めて大きな大会に参加してみたり、ティキをつれた家族旅行に出かけたりなど。 当然、今までに知り合った仲間たちとの交流も大切にし、何かのたびに待ち合わせては地元の神姫センターなどに通ったりもしていた。何も変化が無かった、というわけではないが。 特別な何かがあった訳ではないが、それでも昨年までとは違う夏休みを終え、それでも厳しい残暑に打ちのめされながらも、一年前では予想もしていなかった新たな習慣が繰り返されている。 先週も一人で都内にまで足を伸ばし、ホビーショップ・エルゴでバトルをしたばかりだった。エルゴでの、初めてのシルヴェストルのお披露目をかねたそのバトルは――なんと言うか、散々な目に遭わされたのだが。 そして3連休の真ん中日曜日、シルヴェストルの改良もあったので雪那もティキも空調の利いた自室にこもっていた。 「そう言えば……」 細かいパーツに苦戦しながら、雪那は口を開く。雪那の手伝いをしているティキは、自分のオーナーの言葉に視線を向けて反応した。 「……そろそろこの家に来て一年がたつんじゃないの?」 「えーっと、うーん?」 なにやら考え込み始めるティキ。 神姫のこういった見せ掛けの記憶の揺らぎは、人とのコミュニケートを潤滑にするための、いわば機能の一つだ。 記録を参照するだけなのだから、わざわざ考え込むような、思い出すかのような時間は必要ない。しかし、そうある方が人間はその“個体”と“対話”した気分になるものだ。 「そうですよぉ! 今日でちょうど一年になるのでっすよぉ♪」 思い出し、そしてティキは飛び跳ねて喜ぶ。 「そっかー。じゃあ、今日がティキの誕生日だなあ」 作業を中断し、大きく伸びをしながらティキに微笑む。 「なんかお祝いでもしなきゃね」 「お祝いですかぁ!」 目をきらきらと輝かせるティキ。それに、どうしようかねー、といいながら雪那が頭を傾げていると、呼び鈴の機械音が響く。 この時間雪那の母、藤原舞華(ふじわら・まいか)は自宅に接している店舗の方に居る。その事を知っている人ならば、たとえ郵便公社の配達員でさえ店舗に行くはずなのだが、なぜか自宅の呼び鈴が鳴った。 「僕に、かな?」 ティキに向けてそう言うと、雪那は玄関に向かう。 しかし程なくして自室に帰ってきた雪那は、怪訝な顔で大きな段ボールの箱を抱えていた。 「? 何なのですかぁ?」 なんとも形容しがたい表情の雪那に、ティキが質問する。 「……それが、なんて言うか」 歯切れが悪い。 「?」 「ティキ宛の、宅配物なんだ。……しかも親父から」 ほぼ時を同じくして、ここは結城邸。 「で、あの男の子とはどうなったの?」 その顔には隠そうともしない好奇心でいっぱいになっている。 その朔良=イゴール(さくら・――)に、少し寂しげな顔を見せて結城セツナは答える。 「多分、フラれちゃった。かなあ……」 「多分? かなあ、って?」 「はっきり言われたわけじゃ、ないから」 セツナはそう言うと、自分のカップのふちを指でなでながら話し始めた。 さらに同時刻。 式部敦詞(しきぶ・あつし)は自分の部屋で昨日の事を思い出し、また怒りを顕わにしていた。 「ったく、あのトウヘンボク! あんなんだったらまだ朴念仁の方がましだ!!」 自身の神姫、きらりとTVゲームをしながら昨日から何度目かにもなる言葉を繰り返す。 「そんな事言っても、仕方が無いでしょう? マスターだって雪那さんの言い分、納得してたじゃない」 人が使うものとは大きさも機能もまるで違うコントローラを駆使しながら、きらりは言った。 「そうだけどよー」 「大体マスターは司馬さんを応援してたんじゃない。だったら雪那さんの考えも、歓迎こそすれ責めるのはどうかと思うわ」 ここで言う司馬とは神姫を通して知り合った友人、司馬仙太郎(しば・せんたろう)の事である。 「いや、別にオレは司馬のダンナを応援してるわけじゃネーよ?」 「アレ? 違うの?」 「オレは周りがハッピーになれば良いと思ってるだけだ。だから、誰かを好きな奴がいて、そいつと付き合えるようになるならそれが良い、てだけ。司馬のダンナが結城を好きなら応援するし、だけど結城が雪那を好きなら雪那をたきつけるさ」 それって立派な三角関係の出来上がりだよ? 己のマスターのその言い分を聞き、どこら辺がハッピーなのかきらりにはチョット理解出来なかった。それでもあえて口にはしなかったが。 「つまりさ、雪那が結城の事が好きになるなら、それでそこの二人はハッピーだろ? ま、司馬のダンナは泣く事になるけど。でも万が一、結城が司馬のダンナの事好きになるなら、それでもハッピーじゃん。でさ、結城が司馬のダンナを好きになるよりも、雪那が結城の気持ちに応える方が、確立としては高いと思ったわけ。なのにさ、結城の気持ちに気付いてないならまだしも、只はぐらかしていたって言うアイツは、ヤッパリどうかって思うわけよ」 器用に自分の自機を操作しながら、敦詞は思う所を吐き出す。 敦詞の意見が正しいのかどうかはさておき、それでも敦詞の思いをきらりは理解した。 しかし昨日、雪那の言い分も聞いてしまったわけだから、雪那も考えも一応理解しているわけで。 きらりは途方にくれる。 その途端、きらりが操作していた機体が、敵機に撃ち落されてしまった。 「でもそれって、全部憶測なんでしょ?」 そう言って、朔良はわずかに残ったカップのお茶を飲み干す。 「まあ、ね。あくまでそういう風に感じた、ってだけ。それ以上は別に避けられているわけでもないし」 その会話をそばで聞いていたセツナの神姫、海神ⅡY.E.N.N(わだつみ・せかんど・わい・いー・えぬ・えぬ)こと焔(えん)は、実は気が気じゃなかった。 焔は昨日、雪那と敦詞の会話を偶然にも聞いてしまっていた。しかもその後に敦詞に見つかってしまい、セツナには秘密だと一方的に約束されてしまった。 実際問題、セツナと敦詞では、セツナの方が焔の中では上位に存在している。オーナーの友人でしかない敦詞より、オーナーであるセツナの方が優先されるのは当たり前だ。 しかし、だからと言って、その会話のありのままをセツナに話してしまうのは、あまりにも憚れた。 決して大げさな話ではない。大それた決意でもない。でもだからこそいえない事もある。 「ま、あんまり考えていても、なんともならないわね。この話はこれでおしまい」 セツナのその一言に、焔は安堵の息を吐く。その話題が長引けば、ぼろを出す危険が増すだけだ。 「で、今日は本当は何の用なの?」 まさかその話題だけで家まで訪ねて来たわけじゃないのでしょう? と、セツナは空になったカップにお茶を注ぎながら朔良に促す。 朔良は、ヤッパリ判ってた? と、茶化したように言うと、言葉を続けた。 「実はね、セツナに引き取ってもらいたいものが有ってサ」 そう言うと朔良はかばんの中から小さな箱を取り出す。 「実は、私も武装神姫やってみたいと思ってさ、ちょうど良いからってこれを注文したんだ。……だけど、これが届いた頃には、興味が無くなっちゃったんだよネ。まぁ、色々理由はあるんだけど、それは追求しない方向で。で、何もしないで寝かしちゃうのもこの娘に悪いから、有効に活用できそうな人に、って思って」 「って、それってリペイント版の!」 朔良が取り出したその箱には、MMS TYPE DEVILと印刷されていた。 話は雪那とティキに戻る。 今は亡き父の名で送られてきたその箱を前に、雪那とティキは何も出来ずにいた。 冷静に考えれば父、修芳が生前に日時指定して送った物だろう。だが、判ってはいても一寸した不気味さを醸していた。 ……少々時期がずれたとはいえ、夏場という季節のせいもあるかもしれない。怪談の旬はやはり夏場であろう。 なにより、昨晩見た心霊番組がいけない。その内容をついつい思い出してしまう。 「……よし」 意を決して雪那はその段ボール箱に手をかけ、箱を封じているガムテープをはがし始める。 はたしてその中には、更なる段ボール製の箱が収められてあった。 しかし不気味さはさらに増す。 何が不気味と言えば、その段ボール製の箱は、その見える全てを完膚無く、一部の隙も無く、真っ黒に塗りつぶされているのだ。 ティキは恐怖に震えながら、ぎゅっ、と雪那の腕にしがみつく。 「は……ははは。一体、これは何なんだろうね」 引きつった笑いを浮かべながら、雪那は恐る恐るその箱を取り出す。 案外、軽い。 箱の大きさの割には重くは無い。 持ち上げて裏も見てみるが、案の定裏面も一切の余白も無く真っ黒に塗りつぶされてあった。 雪那はそっ、とその箱を部屋の真ん中に置く。 「……どうしようか?」 ティキに聞いても返事は無いだろうと予測してはいたが、それでも思わず聞いてしまう。そして予測をまったく違えることなく、ティキはただ雪那につかまって震えているだけだった。 埒が明かない。そう思った雪那は、頭を振ると勢いに任せてその箱を開封する。 恐る恐る覗き込む雪那の目に、どこかで見たようなブリスターパックが入る。 「???」 いぶかしみながらパックを引っ張り出す。 雪那によって姿を現したそれをティキは覗き見る。そしてそれを確認した途端―― 「みぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 すさまじい悲鳴を上げて、部屋の隅に逃げ出した。 雪那とティキが目にしたそれは 一週間前エルゴに行った際、ティキをデータ上とはいえ破壊ギリギリまで追い込んだ、ネメシスという名の神姫と同型同色の 黒い、アーンヴァル。 トップ / 次回
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登場人物 星野慎一 16歳 高校一年生 以前は明るい性格だったが、父親が殺人(正当防衛だが)を犯してからは、後ろ向きで極端に人付き合いを恐れるようになってしまった。ネロと出会い、予想だにしない日々を過ごすことになる。 上岡梓 16歳 高校一年生 慎一の同級生。男女わけ隔てなく接する明るい性格なので、同姓異性問わず人気がある。が、神姫オーナーであることは周りには隠している。現在は従兄の修也宅に下宿中。 上岡修也 20歳 株関係の仕事らしい 「弾丸神姫」リュミエのオーナー。梓の従兄。しっかりしてるようで、どこか抜けている青年。しかしバトルオペレーションの腕はかなりのもので、実はれっきとしたファーストランカー。ただし下位。 小林高明 21歳 サポートセンター研究所勤務 修也の友人で、ネロ用の偽造データを作成した。神姫犯罪関連の仕事をしているらしい。修也曰く、「タヌキ」。 青葉かすみ 21歳 サポートセンター研究所勤務 どう贔屓目に見ても15,6歳、制服を着せれば下手をすると中学生くらいに見えてしまうほど小さくて童顔なのだが・・・・・・21歳の、高明の同僚。修也の幼なじみでもある。感情の起伏が少なく、誰に対しても敬語で話す。 津雲はやて ?歳 研究所手伝い ある事情からかすみが保護している少女。かなり気が強いが、けして喧嘩っ早いわけではない。 登場神姫 ネロ 悪魔型 慎一が偶然出会った神姫。すでに別のマスターがいるので、慎一をマスターとして認識することができない。一人で色々抱え込んでしまう性格。その身体には、重大な秘密がある。 ミナツキ 猫型 梓の神姫。生真面目で責任感が強い。バトルサービスに参加したことはなかったが、彼女もまた、数奇な運命をたどってゆくことになる。 リュミエ 天使型 修也の神姫。冷静沈着だが根は熱く、しかも主人同様どこか抜けている。視覚情報処理能力が高い。バトルサービス草創期からの古強者で、二つ名は「弾丸神姫」。 彼女の活躍は弾丸神姫で。 舞姫 天使型 かすみの神姫。主人以上に感情を表すことがなく、ほとんどしゃべらない。研究所で開発される装備・パーツのテストヘッドとしての役割を持つ。 秋葉 犬型 舞姫と同じくかすみの神姫。温厚な性格で、舞姫が愚痴をこぼせる唯一の相手。舞姫と違い、秋葉は神姫スケールでの細かい作業を担当する。 アリス 悪魔型 はやてと関係があるらしい神姫。気が強く口調がきついあたり、はやてとよく似ているが……? 幻の物語へ
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第5幕「心の指し示す場所」 焔は自問自答を繰り返す。 ワタシはご主人の意に適っているのか? と。 出る答えは決まっていた。 海神の代わりたる自身はその代理としての役目を果たさなくてはならない。 以前であれば、そこで思考は終わっていた。 だが、 はたしてそのワタシの思いは、ご主人の求めるものと同じであるのか? それこそ以前であったなら、その答えを「是である」と言えただろう。 しかしそこで焔は思う。 ならばなぜワタシはフブキではないのか? 普通の感覚で答えれば「フブキは限定品だから」で片付く問題である。が、結城セツナという少女は、自身が自室から一歩も外出する事なく、現在発表されている全てのMMSを手に入れるだけの環境を持っているのだ。 そんな、ある種の特権を持つ彼女に、「限定品だから」というだけの理由でフブキを入手できないはずがあるのだろうか? 否。 実際焔が目覚める前、セツナの目の前には全ての武装神姫があったのだ。当然そこにはフブキもあった。 ならば…… 焔は考える。 ならばワタシは何を望まれてここにいるのだろう、と。 当たり前のことではあるが、その日もセツナは学校に登校していた。 学校に来るぐらいならば焔との関係をどうにかしたい、という子供じみた思いがあるのと同時に、学校にいると焔と一緒では無いので楽だ、という矛盾した思いも去来する。 焔と一緒にいる事は、ある種の苦痛を伴った。 膨れ上がったわだかまりは、セツナの精神を大いに疲弊させる。 元来人付き合いの苦手なセツナは、そのコミュニケート能力の脆弱さを持って、焔との関係を円滑にする術を知らない。 だから放課後にもなると、焔との距離感をどう埋めようか、とばかり考えてしまう。 そしてもちろん今もその事で頭が一杯になっていたので、その友人が声をかけるまで存在を感知する事が出来なかった。 「ねえ、セツナったら。大丈夫?」 朔良=イゴール(さくら・―)という名のハーフの少女は、この学校内で唯一セツナの趣味を知るものである。 突然現れた(少なくともセツナにとっては)友人に、驚いた様子を微塵も表に出さずセツナは微笑む。 「大丈夫って、なにが? いつもと何も変わらないわよ」 「もうっ! アタシにまでウソつかなくてもいいんじゃない」 頬を膨らませて抗議する友人をみて、それもそうだ、と思い至ったセツナは、 「それじゃあ、少し付き合ってもらえるかしら?」 と言って、今度は笑う事をやめた。 二人が向かったのはとあるドールショップである。 ドールショップ、と言ってもドールハウスがメインでありドールは販売されていない。ドールハウスに使用する様々な小物が製造、販売されている個人経営の店だ。 個人経営の強みかそれともアバウトさか、座席は少ないがお茶も楽しめるらしい。 らしい、と言うのは、セツナはこの店を訪れた事がなく、朔良がつい最近見つけたばかりの店だからである。 セツナ達の学校から駅二つ隔てた場所にあるその店の名は『妖精館』。何とはなしに気恥ずかしくなる名前であった。 「いらっしゃいませ~」 「なのですよぉ~♪」 ドアに取り付けられたベルの音に反応して接客するその声に、セツナは聴き覚えがあった。 思わず声の主を注視する。 目が合った。 「…………………………………………」 「…………………………………………」 「あ、結城さんなのですよぉ♪」 そこにいたのはセツナよりわずかばかり背の低い眼鏡をかけた少年と、その少年の所有するマオチャオの武装神姫だった。 二人とも、可愛いフリルのエプロンを身に着けてそこにいた。 「こちら、ブレンドとカモミールティーです」 その少年は少し照れくさそうにカップを二つ置く。 「ありがとう」 セツナはにっこりと笑みを浮かべた後、耐えるようにクツクツと笑い出した。 「堪えるくらいなら笑ってくださいよ~」 困ったような顔で抗議する少年。その顔を見てセツナは更におかしくなった。 少年は困り顔を更に情けなくして、店の奥に戻る。 少年が奥に消えたのを見計らい、朔良は小声で訪ねた。 「ねぇねぇ、知り合い?」 「うーん、今はまだ友達……の友達くらい、かな?」 そう言ってセツナは少年――藤原雪那(ふじわら・せつな)――が消えた方に視線を移す。 友人のその表情を見た朔良は思うところもあったのだが、とりあえず今はその友人の悩みを聞きだすことが第一だと考え直した。 「で、悩みの種はやっぱり焔ちゃん?」 何の躊躇もなく、迂遠な表現の一つもなく切り出した。 セツナはその友人の遠慮のなさに苦笑しつつ、うなずく。 「やっぱりねー。セツナったら他の人が頭を悩ますような事は簡単にこなすくせに、こういう事ばかりに悩むんだもん」 そう洩らして朔良はブレンドを一口含む。 「あ、結構おいしい」 「……私ね、あの娘が何を考えているのか良くわかってないの」 ブレンドの感想に反応する訳でなく、セツナは自身の心情を吐露した。 「本当なら私はあの娘の事を一番知ってなきゃいけないのに、私はあの娘が良くわからない」 俯いてそう話すセツナを見て、本当にこの娘は不器用なんだから、と朔良は嘆息する。 「あのね、セツナ」 わざわざそこで一拍置いた。 「だからセツナは頭でっかちが過ぎるのよ。神姫とそのオーナーはこういう関係じゃないといけない、ってどこかで思い込んでいない?」 セツナがその言葉を理解しようと考え込む前に、朔良は畳み掛けるように言葉を続ける。 「考えるよりも前に思い出す! セツナとアタシ、どうやって友達になれた?」 そう言われて、セツナは思い出した。 最初から結城セツナと朔良=イゴールは仲が良かった訳ではない。 どちらかと言えばお互い嫌い合っていた。 セツナは朔良の事を「大勢でなければ何も出来ない集団のリーダー格」と思っていたし、朔良は朔良でセツナの事を「頭と財力に物を言わせたいけ好かない女」と思っていた。 表面上も裏さえも、お互いになるべく関わりあうのを避けていた。 とあるキッカケで話す事がなければ、今でも二人はお互いを嫌っていただろう。 言葉を交わす事がなければ、お互い理解など出来なかったはずである。 「……忘れてた」 もう、一年以上前のことだ。 朔良はニッコリと笑う。 「ならやるべき事はもうわかるよね?」 「そうね、ありがとう。おかげでスッキリしたわ」 セツナも笑う。放課後の学校で見せた作り物とは違う、心からの、決意を秘めた笑顔で。 と、ここで話が終われば少しはキリが良かったりもするのだが、それで二人の会話が終わる訳ではない。 話の上では完全に蛇足ではあるのだが。 朔良はスッキリとしたセツナの笑顔を確認すると少しだけ意地の悪い考えを頭にめぐらせる。 当座の悩みに対する解決法を見出したセツナは改めてカモミールティーを味わっていた。 「ところでさ」 「ん?」 「さっきの子とデートの一つでもした?」 「――?! ッッッ」 その朔良の不意打ちにセツナがむせる。 苦しそうにコンコン咳き込んでいる自分を見て、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる友人を、苦しいながらも恨めしそうにセツナは涙目で睨む。 「セツナってさ、本当はああいうのが好みだもんね~」 言外に、木井津沙紘(きいつ・さひろ)の様なタイプではなく、という意味がこめられていた。 「何事も話してみなきゃ始らないよ?」 未だ苦しそうに咳き込む友人に追い討ちをかけるように言った。 奥から雪那がタオルを持って心配そうにやってきたが、セツナは何も言えなかった。 トップ / 戻る / 続く
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各種設定集 ~人物編~ 岡島 士郎(おかじま しろう) 当SSの主人公(一応)。25歳。国立大学出身の首都圏に位置する某県某市役所職員、 いわゆる普通の公務員。 近隣の市に両親が在住、姉(未登場)と妹(優衣)がいる5人家族3人姉弟の真ん中っ子。 性格は見た目温厚、でも熱血漢という、まさに主人公の典型である。でもやっぱり健全な20代男子。 現在、4体のMMSを所有し、神姫バトルの世界ではリアルリーグと称される1stリーグの中位に位置する。 最近は、近所の大学に通うために居候してきた妹、優衣に振り回されることが多い。 岡島 優衣(おかじま ゆい) 士郎の妹。18歳。士郎の住むアパートの近くの某私立大の一年生(予定)。 性格は、ハ○ヒ(某の憂鬱)と智ち○ん(某あ○まんが)とシンタ○ー(某P○PUWA)を足して2で割って5倍に 濃縮したような超絶アタシ系暴走少女である。これでも3年間生徒会書記を(あくまでも推薦狙いで)勤めた。 四月からは士郎の住んでいるアパートへ(母が無理矢理に押し進めて)居候することとなるわけだが…。 また、学校説明会の日、五人目の神姫であった天使型MMSビアンカを半ば強引に実家に連れて行き、 実質、新たなマスターとなる。勿論バトルの経験はなく、今後の成長は未知数である。 ○鶴畑家の人々 長兄 興紀(おきのり) 表では好青年を演じているが、実は冷酷かつ残虐な性格を持つ。でもやっぱり健全な(ry 六大学と言われる某大学の3年生。20歳。 神姫バトルにおいて天才的な戦術眼と指揮能力を発揮し、その能力を生かして、父には内緒で ベンチャー企業を立ち上げている。 7歳の時に実の母を事故で亡くし、現在の母である元側室の子の大紀と和美とは腹違いの兄妹である。そのため、 大紀と和美を兄妹として見ていない。 究極の神姫を育て上げることを信条としており、所有MMSは[ストラーフタイプ]の「ルシフェル」のみ。 現在リアルランキング54位。 次男 大紀(ひろのり) 兄の威を狩る狐…もといピザ。私立男子高校1年。15歳。 実力は大したことはないが、兄の威光と恵まれたパーツ、洗練された神姫育成環境の下、金を積んでの八百長試合で上位に上がる。 負けた時は、腹いせに下位リーグの連中をいたぶるのが趣味。 所有MMSは[アーンヴァル]タイプの「ミカエル」、同タイプの「アラエル」他 現在リアルランキング144位 長女 和美(かずみ) 鶴畑家の末娘でピザ小学生。12歳。 高飛車で見栄っ張りで傲慢という可愛さの欠片もない性格。 神姫バトルデビュー前の新人で、所有MMSは[サイフォス]タイプの「ジャンヌ」。 各種設定集 ~神姫編~ -主人公側- ヴェル(犬型素体) 主人公、岡島士郎の所有する一体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「緑色」から。 性格は気だてのいいお姉さんタイプで、他の神姫のまとめ役である。 また士郎に対する愛情も人一倍であり、美人を見て鼻の下を伸ばす士郎に嫉妬する事も多い。 一番長く神姫バトルの世界に居るので、戦闘経験は一番豊富。また、過去に「ルシフェル」と呼ばれていたノワル、「ミカエル」と呼ばれていたビアンカと戦い、いずれも撃破している。 ノワル(悪魔型素体) 士郎の二体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「黒」から。 元々は鶴畑興紀の所有している「ルシフェル」の名を冠する13番目のMMSであったが、三年前、ヴェルとの試合に於いて敗北を喫し、 廃棄処分にされる所を士郎に引き取られる。 「ボク」の一人称で話すノー天気な性格だが、感情が負の方向に高ぶると元の冷たい口調が出る事がある。 元々、興紀の元で徹底された訓練を積んでいたため、バトルにおいてはかなりの実力を誇る。 ジャロ(ネコ型素体) 士郎の三体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「黄色」から。 性格は天然気質のお気楽キャラだが、リアルリーグで馴らしたバトルの腕は確かである。 好物はシュークリーム。 マタタビ酒を飲むと、性格が清楚な箱入り娘キャラと化す。 コニー(兎型素体) 士郎の四体目の神姫。 名前の由来は、イタリア語の「兎」から。 元々、武装パーツに付いていた頭部ユニットだったので、士郎の経済状況から、なかなかボディを貰えず、使役ユニットである プチマスィーンスetc...に馬鹿にされる事が多々あり、一時はひねくれた性格だったが、藤堂亮輔の所有するリンとのバトルで吹っ切れる 事が出来た。しかし、そのバトルの際に付けられた「乱射魔(トリガーハッピー)」の二つ名で呼ばれることを極端に嫌っている。 現在は、崇拝する「BL○CK L○GOON」のレ○ィの口調&性格etc...を真似ていて、いつかは「二丁拳銃(トゥーハンド)」の二つ名で 呼ばれる事を夢見ている。 現在、セカンドクラスで戦っており、実はバトルにおいては5人の中では一番未熟だったりする。 好物はニンニク煎餅。 ビアンカ(天使型素体) 士郎の五体目とされる一番新しい神姫。 名前の由来は、イタリア語の「白」から。 元々は鶴畑大紀の所有する神姫「ミカエル」の№1であったが、ノワル同様ヴェルとの試合に於いて敗北を喫し、廃棄処分にされる所を 士郎に引き取られる。ノワルと違うのは、修復の際、全ての記憶をリセットしている所であり、以前の大紀と居た記憶は無い。 なお、第11話の際に、士郎の妹である優衣に半ば強引に実家に連れて行かれ、現在優衣が新たなマスターとなっている。 性格は非常に素直な優等生タイプ。 まだデビュー前ではあるが、鶴畑家の訓練を受けているために、戦闘スキルはかなり高い(ハズである)。 -鶴畑兄妹- ルシフェル(悪魔型素体) 鶴畑興紀の所有する神姫。 名前の由来は、キリスト教における「サタン」の別称「ルシフェル」より。 究極の神姫を育て上げることを信条とする興紀の考えに則り、興紀自身の立てた戦略や指示に付いてこられなくなった同型素体は、戦闘データを 採取された後廃棄され、前回のデータを周到し、改良された新たな別の素体である「ルシフェル」が誕生する。 そのため、興紀のデビューからの通算敗北数(非公式含む)である"30番目"に登録された悪魔型MMSが現在の「ルシフェル」の名を冠している。 また、岡島士郎の所有する「ノワル」や陽元治虫の所有する「エル」は、"廃棄された"「ルシフェル」シリーズの内の1体である。 興紀に絶対忠誠を誓う「機械」のような性格であり、「エル」の様な性格が設定されたのは極めて稀である。 ミカエル(天使型素体) 鶴畑大紀の所有する神姫。 名前の由来は、キリスト教における四大天使の一人である「ミカエル」より。 戦闘能力に於いては、鶴畑家の訓練を受けているため、最高水準の能力を誇るが、如何せんマスターがアホなので付いていけていない。 また、大紀が興紀の真似をし、敗北を喫した同型素体は尽く廃棄されている。士郎の「ビアンカ」はその中の一体である。 興紀の「ルシフェル」同様、大紀に絶対忠誠を誓う「機械」のような性格。 アラエル(天使型素体) 前スレ208氏の「アラエル」の頁を参照。 ジャンヌ(騎士型素体) 鶴畑和美の所有する神姫。 名前の由来は、中世ヨーロッパの英雄「ジャンヌ・ダルク」から 本来、近接・突撃戦闘を信条とする騎士タイプだが、和美の美学から、中~遠距離を主体とした実弾装備を多く持たされることが多い。 その姿は、さながら「難攻不落の要塞」である。 興紀の「ルシフェル」、大紀の「ルシフェル」他同様、和美に絶対忠誠を誓う「機械」のような性格。
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ちっちゃいもの研の日常-02 ここは東杜田の片隅にある、ちっちゃいもの研・・・。 「CTaさん、ちょっとお願いします。」 見慣れない顔の男が、CTaに設計図のチェックを依頼している。 「うーむ、よしよし。 これでいいんじゃないかな。」 「あ、ありがとうございます!」 ダメ出し28回目にして、ようやく通った模様。 彼の目の下には、はっきり とした隈がうかんでいる。 ちょっと足もおぼつかない様子。 「・・・あのなぁ、いくら若いと言っても無理をしちゃいかんぞ。 あとで 言っておくから、先帰って寝ろや。」 彼は今年配属になった新人。なんでも、久遠のツテで本社へ入社したとかで、 当初からバリバリ仕事をこなし、ついには腕を買われてちっちゃいもの研へ 配属になったという経緯がある。 「はぁ、ありがとうございます。ですが、ちょっと私用で機材を使いたいの で、昼まではいることにします。」 というと、ちょっと頭を下げて自分の作業台へと戻った。 「ん〜? 何を作っているのかな〜?」 こそこそと隠れるように作業をする彼の元へ、CTaが行ってみると・・・ 武装神姫。 にやり、意味深長な笑みを浮かべるCTa。 「ちょ、ちょっと・・・何ですか・・・って、えぇ?!」 「いいモン持ってるねぇ。」 「ボクのマーヤに触らないで下さい!」 慌てて、伸ばされたCTaの手から、マーヤと呼ばれた「ツガル」を守る。 「ほうほう、だいぶ疲れている感じじゃないか。」 「もう、ほっといてください! ・・・先週の対戦で、左膝負傷しちゃった からねー・・・ ようやく手が空いたから、今治してあげるよー。」 「やさしくしてくださいね、おにいさま。」 そのやり取りに、CTa暴走。 「ぐわあぁぁっ!! おにいさまと、おにいさまと呼ばせたな!」 「な、何ですかいきなり!!」 背後からの叫び声に、びっくりして作業する手を止める男。 「認定! ちっちゃいもの研の、神姫使いリストに強制編入!」 「ちょ、ちょっと、CTaさん・・・。」 「ときにお前、神姫のメンテナンスはできるか?」 「はぁ・・・よほどコアが傷ついていない限り、治せる自信はありますよ。」 「よっしゃ! 決まった! お前、あたしの下、ナンバー2決定!」 「何なんですか、いったい!」 と、男が叫んだとき。CTaの白衣のポケットから、沙羅とヴェルナが顔を覗 かせた。 その姿に、男は驚き、固まった。 ・・・CTaさんも、神姫使い だったのか?! ということは、もしかして・・・自分は久遠さんにもはめ られてしまった可能性も・・・?! 混乱する彼にCTaは追い討ちをかける。 「それだけの神姫に対する愛、そして裏付けられた技術。 おまえ、あたし の一番弟子決定だわ。」 「はぁ?」 「はーい、拒否権無ーし。 いやー、困ってたんだよー。 最近、神姫関連 の修理だの研究だの、依頼が多くて多くて。あたし一人じゃ手一杯でさ。」 「そういうことだったんですか。」 「ただーし! 神姫とかをいじる人間は、ここでは偽名を持たなくっちゃい けないんだな、これが。 そーすっと、あんたの場合は・・・ 本名がアレ だからぁ・・・ 『Mk-Z』でどうだ。 うん、これがいい。 決定ね。」 言うが否や、CTaは近場の端末を操作し、研究所の所内用名簿から彼の本名 を抹消し、「Mk-Z」と冗談抜きで入れてしまった。 「あ・・・。」 悲しそうな顔をする、Mk-Zと名付けられてしまった彼。 「大丈夫。こうすれば、あんたもこそこそすること無く、存分にマーヤへ愛 を注ぐことができるのさっ!! どうだっ!」 「どうだ、と言われましても・・・」 「なにぃ? 嬉しくないのか?」 「い、いえ、嬉しいんですけど、なんか納得いかない気がして・・・」 「あんたが納得いかなくても、あたしは納得したからいいよ。」 「そ、そんな〜!」 悲鳴を上げるMk-Z。と、彼の手元へ、沙羅とヴェルナがやってきた。 「どうもっス! 沙羅って言うっス! こっちはヴェルナって言うっス!」 「よろしくおねがいします〜。 そうそう、先ほど関節がっ、て言っておられ ましたよね。ここに、マスターが作った削りだしの強化関節がありますので、 ぜひお使いください。」 そういいながら、ヴェルナはリゼにも使われているあの強化関節パーツを一組 差し出した。 美しく、鈍い光沢を放つパーツに、目を奪われるMk-Z。 「せっかくだから使ってくれよ。 あたしの弟子になってくれた以上は、悪い ようにはしないよ。 もちろん、通常業務の上でも、ね。」 ・・・変なノリで、変なところに転がり込んでしまった気がしない訳でもない。 でも居心地は悪くなさそうだな・・・。 こういう仕事も、いいのか・・・な? Mk-Zは、自分の置かれた境遇が、じつはとても恵まれているのではないか、 と思い直し、CTaにちょっと感謝をしていた・・・。 それから一週間後。 「はい、あーん。」 「・・・おにーさまー、この塩鮭、美味しいですー!」 「おー、そうかそうか。 じゃ、こっちの唐揚げもあげよう。」 「えっ! いいんですか? それでは・・・いただきまーす!」 昼休み、マーヤに仕出し弁当を分け与えるMk-Zの姿が。さっそく、CTaによって、 マーヤにも食事機能が搭載されていた。・・・いや、むしろ彼が進んで食事機能 を搭載した、と言うべきか。と、 「Mk-Zよぉ。さっき知り合いから電話があってな。 バトルに負けた神姫を叩き 壊したアフォがいたらしくて。 その神姫を、これから連れてくるそうなんだが、 お前に任せてもいいか?」 本来の医療関係の仕事の資料を山と持ったCTaが、Mk-Zに声をかけた。Mk-Zの 目つきがかわった。 「なんですと? 負けた神姫を、叩き壊した・・・だって?」 弁当にいったん蓋をすると、マーヤに命じた。 「マーヤ、受け入れ態勢を整えるんだ。」 「わかりました、おにーさま!」 「人間に叩き壊されたとなると、相当の傷を負っているだろう・・・。 任せて ください師匠! 神姫ドクター・Mk-Zの名にかけて、ちっちゃい心、救います!」 マーヤと並んでぐっと拳を挙げたMk-Z。 にやりと笑みを浮かべ、それに答えるCTa・・・。 ここに、ちっちゃいもの研「最強」の、神姫ドクターコンビが誕生した。。。 <トップ へ戻る<
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武装神姫のリン 番外編その3「小さな幸せ」 リン…それは私の名前。 武装神姫第1弾、MMS TYPE-DEVIL「STRARF」のシリアルナンバー3600054468である私の名前。 マスターは私にこの名前を貰いました。 でも私、マスター、茉莉との問題を乗り越えてから2ヶ月ほど経ったある日、私はどうして「リン」という名前に決めたのか、ふとその理由が気になってしまいました。 そうして一週間が過ぎようとした頃、私は我慢できずにマスターにその理由を聞きました。 今回はそのときのお話しです。 それは用事で茉莉が実家に帰っていて、ティアもそれについていてしまい久々に2人きりになれた日のことでした。 「マスター…あの。」 マスターはいつものように顔を横に向けてくれました。 「どうした? なんか欲しいモノでも見つけたのか?」 「いえ…そうじゃなくて、聞きたいことがあるんですがいいですか?」 「ああ、いいよ。」 「じゃあ、なぜ私の名前はリンなんですか?」 「ああ、それか…」 マスターの顔がいつもと違って少し不安そうな、なんとなく力が抜けたような表情に変化しました。 「あの…マスター? お気に触ったんだったらすみません、でも…」 「じゃあ今からその名前に関連する、ある所に行くけど何も言うなよ。」 私はその言葉の意味を理解できず、ただただ 「はい。」 そう応えるしかありませんでした。 私の答えを聞いたマスターはすぐに進行方向を変え、駅へ。 そうしてJRと私鉄をいくつか乗り継いで郊外の町に着きました。 「ここにくるのは、久しぶりだな。」 やはりマスターの表情はいつものような元気がありません。 「あの…」 「何も言わない約束だろ。」 マスターの声がいつも以上に優しく感じられたので私は 「はい…」 口をつむぐまえにそう呟くことしかできませんでした。 そのままマスターは駅からの一本道をひたすらに進みます。 その日はまだ初夏だというのに日差しは強く、空が晴れていたことを覚えています。 焼き付けるような日差しの中を、マスターは途中で買ったミネラルウォーターを手に持ったまま歩いていきました。 そして着いたのは、お寺。の裏手にある墓地でした。 藤堂家の方々が代々眠る場所。そこにマスターは私を連れてきたのです。 私はその時点で大体の事情は把握できていましたが、マスターが口を開くまで待ちました。 マスターはミネラルウォーターを墓石にかけて、残った分はお供えを置くと思われる場所に置かれた湯のみに注ぎました。 そして私を手に乗せて、そこに眠るマスターの"家族"の名前が刻まれた石版の目の前に手をもって行きます。 それを見たとき、私は確信しました。 「リンていうのは。俺の妹になるはずだった子の名前なんだ。」 それと同時にマスターは私の問いへの"答え"を口にしていました。 それからマスターは全て話してくれました。 リンという名前はマスターと4つ違いの、今頃は茉莉とほぼ同じ年齢になっているはずだった妹に与えられるはずの名前だったのです。 それは今から17年前。マスターがまだ7歳のころ。 お母様(いまはそう呼ばせていただいています)は至って健康で、2回目ということもあり出産には何の問題も無いだろう、そう主治医の先生もおっしゃっていたそうです。 しかし予定日の2週間前、事件は起こったのです。 それはマスターとお父様(お父様はなかなか私がこう呼ぶことを許してくれませんでしたが今は大丈夫です。)が面会を終えて帰宅した直後でした。 突然お母様が出血したのです、原因は不明。 しかしそのタイミングは夜勤の引継ぎ時間帯であり、ナースセンターに人があまりいない状態。 しかも就寝の確認で夜勤の看護士の内の大半が各々担当の部屋を回っているとき。しかもお母様の部屋は巡回の最後の部屋。 お母様は必死にナースコールのボタンを探しましたが、不幸にもボタンがベッドの裏側まで落ちていて拾うことが出来ません、痛みをこらえることはできてもそこまで手を伸ばすことがお母様には出来ませんでした。 お母さんは必死に助けを求め、叫びました。 そうして巡回の看護士1人がそれを聞きつけるまでに20分の時を要しました。 お母様は緊急処置室にうつされ、処置が行われました。 マスターとお父様が知らせを聞きつけ病院にたどり着いたのがそれから30分後。 お母様は命に別状はありませんでしたが…おなかの子はすでに亡くなっていました。死産だったのです。 事前に女の子と判っていたので、お父様やマスターは意気揚々とその子の名前を考えていた矢先の出来事でした。 「今思うと茉莉が入院しているときに何度も何度も会いに行ったのは、そのときに亡くした"妹"を再び失うのはイヤだという気持ちが実はあったのかも知れない。」 そうマスターは最後に付け加えました。 「リンって言うのは俺が考えた名前だ。母さんが結構キリっとした目だったから妹なら似てほしいとおもった。それで辞書に載ってた『凛々しい』ていう言葉から凛ってな。 オヤジに話したら好評でそれにしようなんて車の中で話していたときに電話が掛かってきたからな。今でも覚えてるよ。」 「すみません!!」 わたしは謝っていました。 「あの、私。マスターが名前をくれたのが起動してすぐだったので何か理由があるのかな?と思っただけなんです。それがこんなにも深い事情があったなんて。本当にすみません。」 それを聞いたマスターはポカンとした顔で。 「はは、ちょっと懐かしくなっただけだよ。もちろんあの時は悲しくてしょうがなかったし、神様がいるんなら出てこい!! ってぐらい怒ったりもした。 でも過ぎたことは仕方ないし。過去は変えられない。 俺は今は幸せだぞ~リンがいて、茉莉がいて、ティアまでいる。そして皆元気でいてくれてる。それがおれの幸せだ。」 「マスター……私、どんなことがあっても絶対マスターの元を離れません。たとえ離れても、必ず帰ります。」 「ああ、約束だぞ。」 「はい、約束です。」 そして"凛さんに挨拶をして"帰りました。 その夏は茉莉とティアを連れて久しぶりの墓参りにやってきて墓石を綺麗に掃除しました。 そしてマスターは私たちのことを報告したのです。 実際に手に触れることも、顔を見てあげることさえ出来なかった。でも確かに存在した…凛さんに。 その頃からです、マスターと絶対に離れたくないと思ったのは。 理由はもちろんマスターを悲しませたくないというのもありますが、私だけじゃなくてみんなが元気でいること。 それこそががマスターの、茉莉の、ティアの、そして私の小さいながらもかけがえの無い幸せだと気がついたからです。 だから私はこれからもマスターの側を離れないでしょう。それこそ一生。私の"命"が続く限り。 TOPへ
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概要 運用 ステータス情報Lv1 Lv60 アップデート履歴 コメント 概要 運用 ピックアップ ステータス情報 太字はマスクステータス Lv1 Lv60 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 パッシブスキル 備考 防具名 神姫名 N 20 40 0 250 50 ため時間減少 ため時間を減少する R 20 50 0 400 100 SR 20 55 0 550 150 UR 20 60 0 700 200 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 溜時間 溜倍率 射程 アクティブスキル 備考 近接武器名 神姫名 N 0 100 0 0 0 スキル名 R 0 100 0 0 0 SR 0 100 0 0 0 UR 0 100 0 0 0 武装 本来の装主 レア度 攻 防 ス 体 ブ 展開 回復 走速 走費 跳費 浮費 防費 リキャスト リロード 溜時間 溜倍率 射程 弾速 弾数 アクティブスキル 備考 遠距離武器名 神姫名 N 0 0 0 0 0 スキル名 R 0 0 0 0 0 SR 0 0 0 0 0 UR 0 0 0 0 0 アップデート履歴 日時:2000.0.0 内容: コメント 名前 コメント
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アンジェラスの愛を受け入れる。 こうなってしまったのもの俺の所為だ。 アンジェラスにとってこの罪とは愛情表現だ。 だから俺はこの罪を受け入れる。 「俺は愛してるよ、アンジェラス」 「ご主人様!」 アンジェラスの奴は俺の顔に飛びつきキスしてくる。 しかも狂ったかのように。 ちゅううっ…れろっ…くちゅくちゅくちゅっ…… 「…んふ…ん…じゅる………!」 「……んぅ………」 激しく唇同士ぶつけるアンジェラスと俺。 でも人間の俺に武装神姫のアンジェラス。 身長差が違うし唇の大きさも違う。 それでもアンジェラスは一所懸命にキスしてくる。 いや、キスというよりディープキスだ。 「ご主人様は私のモノ。この世の中でたった一人の…」 「………アンジェラス…」 「たった一人の愛しい人。殺したい程に…」 言い切り終わるとまたキスしてきた。 もう俺はアンジェラスに身体を預けていたので何されようがどうでもよかった。 そして明日から新しい生活が始まるのだ。 アンジェラスと俺だけの生活が…。 …。 ……。 ………。 「おい、ルーナ」 「あ、どうでしたダーリン?あたしの小説は??」 俺は神姫用のスケッチブックを机に置く。 そして一言。 「ボツ!」 「酷~~~~い!!!!」 俺の返事に困惑するルーナ。 どうやら期待していたみたいだ。 でも残念だったな。 結果はボツだぜ。 「ヤンデレなのはいいんだけど、なんで俺達がキャラなんだよ?」 「だって扱いやすいでしたんだもの」 「肖像権侵害で訴えてやろうか?」 「そんなぁ~…」 今度は泣きそうな顔をしながら俺に迫ってくる。 その時だ、ルーナの巨乳がブルンと動いたのは。 もう溜まりません。 性欲を持て余す。 「特盛り!」 「はい?」 「あぁーいや、何でもないよ!気にすんな!!」 「変なダーリン?じゃあ今度はオリジナルキャラクターで書けば大丈夫ですね」 「ん~まぁ、多少良くなるんじゃないのか」 「ではすぐに書きます!楽しみに待っていてくださいね、ダーリン♪」 「…おう」 できれば、書いて欲しくないがそんな事は…言えないよなぁ。 ルーナの心底悲しむ顔なんか見たくないしな。 でもなんでいきなり小説なんか書こうとしんたんだろう? 動機がさっぱり解からん。 まぁいいや。 俺はパソコンに向かいヤンデレが出てくるエロゲーを起動する。 えぇーと、確か三日前のセーブデータは…あれ? なんか知らないセーブデータがあるぞ。 試しにそのセーブデータをロードしてやってみた。 するとゲームはすぐに終わって画面はスタッフエンドロールになってしまった。 ちょっ!? もう終わっちまったぞ! 俺はここまでゲームを進めた覚えはないし…。 ん~! ちょっとまて、パソコン、ヤンデレ系のヒロインが出てくるエロゲー、そしてルーナが書くヤンデレ系の小説…。 あぁ~そいう事か。 ようやく解かったよ。 「ル~ナ~」 「な、なにダーリン?変な呼び方なんかしちゃって」 「五月蝿い!テメェ、また俺のエロゲーをやったろ!」 「ゲッ!?バレてしまいましたわ」 「『ゲッ』じゃねぇー!つーかぁ、毎回毎回俺のアカウントによく入れるよな。一周間ごとにパスワードを変えているんだぞ」 「ダーリンのパスワードなんてお茶の子さいさいですわ!」 「威張るな!今日という今日は許さん!!擽りの刑に処す!!!」 「キャハハハハーーーー!!!!ゆるじでーーーー!!!!」 俺の部屋でルーナの叫び声が響く。 その叫び声を聞きやって来たアンジェラス達。 そして俺とルーナが戯れている姿を見てクスクスと笑われたのは言うまでもない。
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過去と流血に囚われし、嘆きの姫(その三) 第六節:感触 ハンカチで止血されつつ、私は外神田の古びた外科医へと運び込まれた。 幸いにも目立った患者はおらず、すぐに処置室での治療が行われたのだ。 消毒液やガーゼによる激痛は、筆舌に尽くし難い。だが私は幸運だった。 「お~、晶ちゃんよぅ来たのう。今度は何をしたんじゃ?……おお?」 「先生、外傷と火傷があるみたいですの。出血は酷いですけど~……」 「ほうほう。こりゃまた派手じゃのぅ。ハンダごてでも掴んだかの?」 「痛たたたた!?そ、そう言う事にしといてくれぬか藤村先生……ッ」 好々爺の藤村先生は、私が店を開くよりも前から度々世話になっていた 熟達の外科医だ。私がロッテを受け入れて、彼女の為にと物を作る様に なってから、未熟や油断故に生傷を作った私を的確に治療してくれる。 喰えない所もあるが、その腕は確かだ。私が言うのだ、間違いはない! 「ふむ……そうか、ハンダごてか。久しぶりじゃのぅ、そんなドジは」 「まぁ、そうなのかもな。して、どうだ先生……流石にこれは拙いか」 「いやいや。火傷と裂傷は多少あるが、どっちも筋は切っておらんよ」 「え?そ、それじゃあマイスターの“手”は大丈夫なんですかッ!?」 「有無。暫く痕は残るが、問題なかろ。ショック症状もなさそうじゃ」 その藤村先生は、私に何があったか……敢えて深く聞かずに治療した。 幸いにも出血以外大したことはない、という事らしい。有り難い物だ。 軽く傷の消毒やパッチによる火傷した皮膚の修復、軟膏の塗布に包帯の 巻き付けが為され、手当は完了する。痛みは酷いが、これも痛み止めで 抑え付けてくれた。後は様子見……という事で漸く先生の診断を聞く。 「さて、両手の怪我じゃがさっきも言った通り大した事はなかったの」 「む、そうか……?その、怪我した時は指の筋や神経でも切ったかと」 「ははは、晶ちゃんらしいの。血は酷かったが、傷口は手の縁じゃよ」 私の診断結果は、手の軽い火傷。即ち、弾痕等は見受けられないのだ。 あの拳銃は実弾を撃つ物ではなくて、エネルギー弾を放つ構造となる。 そう考えると、爆破の際に見かけた“プラズマの波紋”も説明が付く。 ロキ……あの娘も、確かに“プラズマ・ボマー”と言っていたからな。 「あの爆弾も……ひょっとしたらプラズマ弾を用いた物かもしれんな」 「……プラズマって、そこまで万能だったのかな。マイスター……?」 「プラズマを収束する銃は、ウィルトゥースも使用しているだろう?」 「あ、そう言えばそうですねぇ……なら、あの娘の持ってる武装って」 そう。神姫サイズの武装としてプラズマを利用できる程度には、技術も 進歩している。これを応用して、高密度のプラズマを球状に圧縮すれば 爆弾や銃弾として利用する事も、決して不可能ではないだろう。だが、 アルマ……茜が気付いた通り、ロキは重火器をプラズマ系で固めている 可能性があるのだ。これは、弾切れせず戦い続けられる事を意味する。 「放置しておけば、本当にその身が尽きるまで爆破し続けますの……」 「んむ?おお、そう言えば今日も秋葉原ではテロがあったそうじゃの」 「あ゛……嗚呼、それで驚いてハンダごてを掴んでしまってな。有無」 「やぁ、酷かったらしいぞ?ウチにも何人か、軽いケガで来たかのぅ」 慌てて場を取り繕いつつ、あの後何があったのかを藤村先生から聞く。 どうやら今回も、軽傷者を何人か出した物の……死者はいないとの事。 爆破されたビルも、高架下というその構造が幸いしてか致命的な損傷は ないらしい。被害の少なさに安堵するが、それと同時に私はふと思う。 「……ひょっとしたら、あの娘には迷いか優しさが残っているかもな」 「それは、わたしも思いますの……ロキちゃんは、まだ大丈夫ですの」 「え!?マイス……じゃない、晶お姉ちゃん。本気なんですかッ!?」 それは私が見出した可能性。しかし、茜……アルマとクララは狼狽える。 怒りでも嘆きでもなく、ただ私に対する衷心より発せられた意見だった。 「ボクは反対だよ。マイスターがこうして傷ついたのに続けるなんて」 「あたしも嫌です……お姉ちゃんが、また怪我したらなんて思うと!」 茜に至っては、最早泣きそうな表情をしている……私が、あの様な行動に 出る等とは想像すらしていなかったのだろう。更に、相手が本当に危険な 存在であるという実感が、彼女らのブレーキとなっているのだ。しかし、 部外者……藤村先生と看護婦が見ているここでは、説得も出来ぬな……。 「ほほ。茜ちゃんや、君のお姉さんはどれだけ怪我しても退かぬぞ?」 「え……?どういう事ですか、藤村先生。お姉ちゃんが……どうして」 「そりゃ、やりたい事があるからじゃよ。どれだけ生傷を作ってもの」 「……そして手酷く傷ついても、傷を治して再び挑んでいたのかな?」 『そうじゃ』と、藤村先生は肯いた。その通り、私はどれだけの苦労を しても……どれだけ傷ついても。ロッテの為、神姫の為に突き進んだ。 故にこそ、アルマやクララとも大事な“絆”を繋げられたのだと思う。 「ん、傷の処理は終わっとる。込み入った話は、待合室でするとええ」 「忝ないな、藤村先生。では暫し、待合室を占拠させてもらおうか?」 ──────私は、諦めないよ。 第七節:認識 保険証を翌日持参する、という念書を書いてから私達は会計を済ませる。 藤村先生の言う通り、多少の痛みはあるが……私の手は問題なく動いた。 どうやら、これからも“マイスター(職人)”としてはやっていけそうだ。 その結果に安堵しつつも、私は夕日の差す待合室のベンチへと腰掛ける。 「まぁ……皆も認識したと思うが、私の目標は更に先鋭化しつつある」 「……あの娘をどうにか止めて……改心させて、あげたいんですね?」 「その通りだ。今の彼女を放置すれば、その行く末には破滅しかない」 それが“当局による拿捕・破壊”なのか、“憎悪による自滅”なのかは 分からない。しかし凶行を繰り返すロキを放っておけば、何らかの形で 悲惨極まる結末を迎えてしまう事は……火を見るよりも明らかだった。 「彼女とて、その出生を考えれば神姫と言えるだろう。故に、かもな」 「神姫の為に生きてきた、自分を偽れないから……助けたいのかな?」 「如何にも。しかも、まだ助けられる可能性があるのだ……必然だな」 “神姫の笑顔の為”。たったそれだけの為に、歩姉さんを喪ってからの 私は存在する。ここで彼女を見捨て、世の横暴に委ねる事は出来ない。 無論こうして“悪党”を助けたい私の願望も、身勝手かもしれんがな? 「あの娘が憎悪を抱いて、滅びていくのは……耐えられませんの?」 「嗚呼、耐えられぬ。例え元のマスターが、邪悪だったとしてもな」 非常に難しい決断ではあったが、答えを出す事自体への躊躇はなかった。 死の商人として悪徳を振りまいたのは、マスター達“ラグナロク”の罪。 だが多くを傷つけたとは言え何も知らず、思慕の為にやったロキの行いは 果たして、死を以て償わねばならぬ程の“罪”なのか?私も、本来ならば 『そうだ』と答えただろう。しかし、歩姉さんは決して断罪を望まぬ筈。 あの人はそういう女性だ……そして私は、彼女を目指し生きてきたのだ。 「それに不可解なのは、彼女がマスターを喪ってもなお動いている事だ」 「あ……そう言えば、神姫はマスター情報の登録が抹消されると……!」 「機能を停止するんだよ。“マスター”は、一人しか存在できないもん」 「で、死んだっていう認識があるのに……ロキちゃんはまだ動けますの」 「そうだ。彼女には、マスター情報による行動抑制がないのかもしれん」 出自を考えると、それも頷ける話だ。オーナーとして想定されたのは、 何時死んでもおかしくないテロリスト。彼女は、そんな存在の試作機。 となれば、一々“マスターの死亡”で初期化されていては不便だろう。 故に、その辺の抑制コードを外されている可能性は十分に考えられた。 そもそも“アシモフ・プロテクト”さえ、無いのかもしれんのだ……。 「でも、あたしは反対です。やっぱり、マイスターを傷つけたくない!」 「ボクも嫌なんだよ……マイスターがそれを望んでいても、危険だもん」 無論それは、大きな危険を伴う。万一次に彼女を改心させられなければ、 その場で皆殺しにされてしまう程のリスクを孕んでいる。忌避したいのは アルマやクララでなくとも、当然だった。どう説得した物か……迷うな。 「……わたしは、マイスターと一緒に……あの娘と対峙しますの!」 「ロッテちゃん!?本気ですか?……マイスターが、傷つくのに?」 「そうなんだよ、ボクらだけじゃない。皆が傷つくかもしれないよ」 だが、そんな空気の中で決然とロッテは言い切った。私の胸ポケットから 身を乗り出し、自分の胸を叩いて決意を確固たる物としている。“茜”の 肩に乗っていたクララが、ロッテの本心を量りかねてか説得に回る。茜も 同様に、泣き叫ぶ様にして縋る。しかし、ロッテの意志は……固かった。 「ここでロキちゃんを見殺しにする方が、傷つきますの。皆の“心”が」 何処までも真っ直ぐに、信念を貫く瞳で皆を見回すロッテ。彼女の気配に アルマとクララは、息を呑み言葉を失った。そう……改心させようとして 失敗すれば、皆が傷つくだろう。しかし、諦めれば“心”の犠牲を伴う。 ロッテは、最初からその“両天秤”に対して答えを持っていたのだ……! 「……ロッテちゃん、意思は固いんですね?マイスターも、ですね?」 「有無。私はどうにかして、彼女を暖かい日常へ引き戻してやりたい」 「ロキちゃんに以前と同じ生活は、与えてあげられないんだよ……?」 「同じ物なんて、必要ないですの。わたし達が、包めばいいですの♪」 ロッテは微笑み、接近したクララを抱きすくめた。それは、眼前に聳える “不安”という硝子の壁を打ち砕く様に、優しく強く……抱きしめる腕。 そうだ、彼女は誠心誠意……ロキを助けたい、その一心のみで決断した。 一切の妥協も、打算も……権謀術数も無い。“真心”から産まれた言葉。 何時だって、私達の中心となってきたのは……彼女、ロッテの魂なのだ! 「……そう、ですね。かつてはあたしも、同じ様にして戻ってきました」 「思い出したか茜……いや、アルマや。故にこそ、私はまた救いたい!」 「わかりました。あたしだけ助かって、って訳にはいきませんからね?」 「ボクも、助けられたって意味では同じだもんね……覚悟を、決めたよ」 「それなら……ロキちゃんの背景と、現在の状況を調べてみますのっ♪」 『はいっ!!!』 ──────皆と一緒なら、必ず……大丈夫だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
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新たに産まれ落ちた、その意味を 静かな冬の夜、と言っても暖冬の今年は雪など欠片も見あたらんが。 ともあれ今日の雑事を終えた私は、神姫達が眠る自分の寝床に赴く。 HVIFを得た事で、私の寝床では常にもう一人が眠る事になった。 「……すぅ、すぅ……」 「葵め、いい寝顔だな」 今日は槇野葵……立場上では私達“四姉妹”の三女となったロッテ。 諸処の事情でHVIFの運用にあたっては、当番制を敷く事とした。 昨日はアルマである茜、明日はクララである梓、明後日はお休みだ。 非番のHVIFは、下階の居室で自己メンテナンスをしながら眠る。 「人型神姫インターフェイス、か……便利ではあるのだがな」 “人間の心”と“神姫の心”に、違いは殆どないと私は思っている。 故にこそ、役割の違う“肉の躯”と“殻の躯”は共にあるべき要素。 それぞれの立ち位置を認識し、更に己を高める素地であってほしい。 その為に……他の理由もあるが、常時使わせる事は躊躇われたのだ。 「えと。マイスターをずっと待っていたんですよ、ロッテちゃん」 「……ボク達も、マイスターを待っていたんだよ。話があるもん」 「おお、アルマにクララ……ロッテの素体は寝ているか。何だ?」 クレイドルのベッドに腰掛けた二人が、所在なげに私を見つめている。 どうやら二人でずっと話をしていた様だが、深刻そうな表情だな……? 二人を抱き上げベッドに腰掛けて、話し出すのを待ってやる事とした。 そうして先に口を開いたのは、未だ心に傷を持つ……アルマであった。 「うんと、えっと……あたしを抱え込んで、後悔してないですか?」 「後悔だと?何故そう思うのか、話してみてくれぬか……アルマや」 「はい。あたしは猪刈さんにずっと酷い事されて、辛い日々でした」 そう言い、ジャケットに覆われた上から自らの胸を撫でるアルマ。 修理及び改造の際に、猪刈めが植え付けた歪んだ胸は一度外した。 だが“女性”にとって己の乳を失う事は、多大な心的苦痛を伴う。 故に私は、二人より僅かに大きい胸部パーツを彼女に与えたのだ。 しかし痛ましい日々の思い出を掻き消すには、まだ至らぬ様だな。 「マイスター達は、あたしをそこから救い出してくれました……」 「……嫌だったのか?私はあの悪夢から、お前を救いたかったが」 「それ自体は凄く嬉しいんです。でも……うんと、怖いんですッ」 「怖い……何を畏れている?この日々に終わりが訪れる事をか?」 「はいッ。マイスターの為に尽くせて嬉しいけど、いつかそれは」 永遠などない──そう告げて言葉を遮った私を、彼女が哀しげに見る。 そこで私は、顔をそっと近づけて……真っ直ぐに見つめる。HVIFの 導入以来少し照れる様になったが、今は真剣な“心の闇”の話なのだ。 「何時かは私もお前達も果せる日が来るだろう。だがそれでいいのだ」 「それで、いい……あたし、マイスターの為にずっと尽くしたいのに」 「尽くすなという事ではない。その日まで如何に己の業を成せたかだ」 「己の業?……えと、うんとっ……マイスター、それって一体……?」 「此処にアルマが居る現在の日々をどう生きるか、それが大事なのだ」 何時かは別れる日が来てしまう、その事実に怯えているアルマ。 その怯え故に、私が現在を後悔していないか?と思うのだろう。 だがそれは問題ではない。最期まで如何に自分らしく生きたか、 自らの所業を如何に成し遂げたか、それで生命の価値は決まる。 人間も神姫も、“等価”の命ならば評価もまた同じという事だ。 「故にこう言おう。アルマの為すべき事を、今後も為せ」 「あたしの為すべき事を……あたしの思う通りに……?」 「そうだ。私は後悔の無い様に、アルマに生きてほしい」 「んと……難しいですけど、分かりました。頑張ります」 「頑張る事ではない。自分のペースで十分だよ、アルマ」 わだかまりが解けて安心したアルマの隣で、クララは難しい顔をする。 今の話とも関連したのか、先程から感心したり眉を潜めたり忙しいな。 というわけで、今度はクララの話を聞く……それは意外な問いだった。 「……ボク達は、何の為にいるのかな?」 「ふむ……HVIFを得て思った事だな」 「そう。ボク達は元々、人間の遊び道具」 「開発初期はそうだ。だが今は留まらぬ」 クララはその特質上、本やネット上の資料を読む事を好む傾向にある。 それ故、神姫が元来ホビー……遊びの対象である事もよく知っている。 発した疑念は哲学的とも言える複雑な問いとなって、結実したのだな。 “人間の目線”を得る事が出来たのも、この場合は拍車を掛ける要因。 「初期が人間の遊具として考えられたとしても、今はそう言い切れん」 「……あの猪刈みたいな人は、少数とは言え他にもいるみたいだよ?」 「哀しい事実だが、初期の思考を棄て切れぬ人もまだ居るという事だ」 「反対に別のステージへ進んだ人間も、いるって言いたいのかな……」 「有無。クララ、情報を信じるのも良いが……目の前に私がいるぞ?」 その言葉にハッとするクララ。どうも“肉の躯”を得てから彼女は、 人間の暗い側面を多く見ている。何せここはオタクの街……秋葉原。 萌えだの何だの、人間の様々な思念が渦巻く電脳と欲望の“聖地”。 だから神姫の扱われ方を改めて認識し、そして不安になったのだな。 「少なくとも私と周りにいる人々は、お前達を玩具とは見ない」 「でも、ボク達が一体何なのか……知りたいんだもん、ボクは」 「お前達は“神姫”。人間の隣へと産まれし、大事な隣人だよ」 「神姫……玩具ではない人間の友人……“神姫”というボク達」 そして私は二人を優しく抱きしめる。知識だけで解決せぬ事もある。 クララは聡明な娘だ、故に知識だけで進もうとした。そしてそれが、 絶対的な答えを出す鍵でない事も、今理解してくれた様だな。有無。 「……マイスター、ごめんなさいだよ。変な事言っちゃって」 「構わぬ。そうして悩み成長していけば、お前達の糧になる」 「今後もいろいろ壁に当たるかもしれないけど、頑張るもん」 「その意気だ。さあ、葵を一人にはできんしそろそろ寝るか」 「はいっ!あたし、マイスターの側に居られて幸せです……」 「うん。ボクも、そして多分ロッテお姉ちゃんも同じ気持ち」 ──────貴女達と共にあれば、畏れる事は何もないよ。 次に進む/メインメニューへ戻る