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書:はむはむ1965 そんな二人の姿とその二人の視線を辿ったところにいる二人を壁際から見ていたのは、ムハサであった。ムハサは、あの二人の関係を毎朝とまではいかないが見ていた。いや、目に入るというのが正しい。 ムハサは毎朝みんなより先に起きて、寮の外でサモンである月影のブラッシングや合同練習などを行っていた。けれど、一ヶ月前ぐらいから久遠が朝いない事が多くなり、同時期に廊下などでケイ先生といるところを見かけるようになった。 「……レスとマック先輩、覗き見して気持ち悪いな。 まあレスに関しては無理やり付き合わされたんだろうけど」 そう呟くとムハサは静かに、気づかれぬようにその場を離れていった。レスは別の人の気配を感じ取っていたようだが、マックは気づくこともなく久遠とケイ先生を、目を細め口角をあげて見ていた。 そして5時50分にそれはお開きとなり、6時ちょうどに目覚まし時計などの音が寮内に朝を伝えるように響き渡った。
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史無国 伍 一枚目の扉の向こう、もう一枚扉が有った。 それを開けると、中には煙草の煙が充満していた。 エルムッドはこの煙が嫌いではあったが、匂いは嫌いではなかった。 と、エルムッドが入ってきたのを見て、三人の男が立ち上がった。 その手には、木の棒を持っていたり、棍棒が握られていた。 「―――っりゃぁっ!」 立ち上がった男の中で、一番背の高い男が、エルムッドに打ちかかった。 しかし、男には隙が多く、素早くエルムッドは躱わすと、男の横っ腹に手刀を打ち込んだ。 絶息した男を横目に、エルムッドは隣にいた小柄な男の腕を取り、関節を極めたまま床へと叩きつける。 最後の男は、片手に棒を持ちながら、明らかに剣の型を取った。 エルムッドはそれを見て、顔色も変えずに体術の構えをとる。 数分立っただろうか。 絶息した男が息を吹き返した合図を皮切りに、男がエルムッドに打ちかかる。 エルムッドは、時には避け、時には腕で受け流していた。 が、次の瞬間、エルムッドは男の懐に滑り込み、鳩尾を突いた。 男はそのまま昏倒し、エルムッドはその男の背中に掌を当て、活を入れた。 「……相変わらず、これだな、ダナン」 「お前こそ……いつも通り……強すぎるぞ……ゴホッ」 ダナンと呼ばれた男は、咳をしながら立ち上がった。 「イース、ネア、ほら、立て。エルムッドが来たんだ、歓待せんといかんだろうが」 「ちょっとぐらい、休ませてくれたって良いじゃねぇか……」 「イースの言う通りだ、兄貴」 「お前らが、エルムッドの腕を見たいと言ったのが始まりだろうが。自業自得だ、ほら、早くしろ」 背の高い男はイース、小柄な男はネアというようだ。 二人はそそくさと酒場の奥の方へ消えた。 「にしても、久しぶりだな、エルムッド。二年振り、か?」 「そう、だな……デインガルドでの逗留が一年と半年ぐらいだったからな」 エルムッドは、円卓に座りながら言った。 ダナンもそれに続く。 暫く談話していると、イースとネアが料理と酒を運んできた。 「で、エルムッド。ここに来たってことは、何か用が有ったんだろ?」 「……ああ、そうだ」 「聞かせてくれ、エルムッド。込み入った話、だろうがな」 ダナンの目が変わった。 やるときはやる、そういう人間の目だった。 「……ダナン」 「おう」 「……300、俺についてくる気のある人間を、集められるか?」 「300? それだけか?」 「……?」 「お前の名前は、ここらじゃ有名だからな。強くて、気が良い。そういう人間には、人は集まるもんだ」 「……そんなもんか」 「で、何に使うんだ?」 ダナンが聞いた。 「……部隊新設することになったのでな、募兵だ」 「……は?」 「ちょっと、エルムッドさん? 俺ら、シビリアン(平民階級)だぜ? エルノー(兵士階級)じゃない。戦いには、出してもらえないんだ」 イースが立ちあがって言う。 リムノールの慣習では、シビリアンからは兵は採らないのである。 建国時、シビリアン出身の兵が軍需物資を盗んで逃げたのが、慣習の始まりだった。 それ以来、シビリアンは志願兵ですら、なる事は出来なくなった。 「……公爵が、良いと言った」 「公爵……? 公爵って、あのトリエスト公か?」 「そうだ。公爵が、俺に部隊を作れと言った。 俺は、お前らが兵になりたいのを知ってる。だからここへ来た」 「……本当に、俺らでいいのか?」 「……駄目なら来ない」 エルムッドは、きっぱりと言った。 エルムッド自身も、名も知らぬ連中よりかは、見知っている、ダナン達の方がずっと良かった。 「イース、ネア。聞いてたか?」 「もちろんさ!」 「俺達は、兄貴について行く。嫌とは言わさないぜ」 「お前らは、どうだ?」 ダナンが、周りに集まっていた連中に言う。 在る者は歓声を上げて応じ、在る者は人を集めると言って外に駆けて行った。 「エルムッド、これが、俺らの答えだ」 「……三日後までに、300人選別して、トリエストまでこい、ダナン」 「おうよ!」 エルムッドは、円卓から立ち上がった。 酒場から出る時、後ろから他の人間を取りまとめる、ダナンの声が聞こえた。 ヴァンディール邸の前に、ダナン、イース、ネア以下300名が並んだ。 兵装はまちまちで、剣を持っている者もいれば、狩り用の弓を携えている者もいる。 エルムッドは、彼らの前に立った。 「……これから三ヶ月、お前らを扱きに扱いて、戦えるようにする。と言っても、俺も新任の隊長だ。俺も、同じ調練を自分に課す。ともに、戦おう」 エルムッドが、そう言うと、歓声が上がった。 「よう、エル。これが俺達の兵か?」 少し遅れて、セリックがやってきた。 「……そうだ。セリックには歩兵調練をやって欲しい。俺は、騎兵50を選別して、鍛える」 「流石は、レイムッドさんの息子、か。ははっ、少しは物怖じしてると思ったが、そんな心配は杞憂だったな」 エルムッドは少し笑った。 「怖いさ」 「そうは見えねぇな、エル」 「……これでも、内心は結構震えてる。さっきの演説も、かなり怖かった。誰一人付いてこないかもしれん、ってな」 セリックは薄く笑う。 「武術に長け、知略にも通じる。しかも家系は、無爵とは言えトリエスト軍総帥の第一令息。 そんな人間が、他人に受け入れられないわけがないさ」 「……周りから見れば、そう見えるんだろうがな」 「ははっ、違いねぇ。俺だって、トリエスト軍総武術師範の第二令息なんてのは、重すぎるさ」 二人は、笑い合った。 その笑いは、歓声に溶け込み、やがて消えた。 「よっしゃ、お前ら、俺がこの隊の副長を務めるシャムロック・ティタルニアだ! お前らは……」 セリックが、兵を前に演説を始めた。 エルムッドは、空を見上げた。 そういえば、最近呆ける事がなくなっている。 あの丘にも足を運んでいなかった。 戦が近い。 そう思うだけで、不思議とエルムッドの心は満たされていた。 史無国 六へ
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俺はいつも嘘をついて生きている 必要悪という言葉は聞いた事があるが 俺の嘘は絶対にそれとは違う 自分を塗り固め 自分を守る為に嘘をつく 独りになる為に嘘をつき 自分を守る 孤独コソガ我ヲ護ル殻。 孤独デイルノガ正義 何者も信用しない 俺の正義。 俺はまた今日も「嘘」をつく
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汝の罪の罰に堪え切れずにず潰される 薄弱で無様で滑稽で憐れで醜い だが罰に堪え切り満足する者ほど意味を成さない 罰に堪えて当たり前だ 汝が償うべき課せられた行為 幾ら勝手に願おうとも許されない 楼の下で嘆く鳥は夢の中を藻掻く 楼の下で罪を償う者たちは 楼の存在を知らない
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そこは終わりだった 『一歩』 そこに踏み入れた瞬間そこは通過地点になった 先は手に掴めるほど近い しかし一向にゴールは歓迎をしてくれない 迎えてくれずに勝手に先へと進んで逃げて行く
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サークルでは、詩について学んでいます。桃†雫です。 ですが、雑談(すらできない)ばかりで本当ダメな奴です。 こんな奴ですがよろしくお願いします。 <自己紹介> 年齢:14 中2 好きなこと:寝ること、卓球 好きな本:きまぐれロボット、ハッピーノート 好きな芸能人:水島ヒロ(汗 です。もう直ぐで受験生…。 ハプと一緒に頑張っていこうと思います! ハプへの愛が激しいです;;; それではここで、失礼します!
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日本の主構成である4つの島、その内一番西南に位置する九州。都心とはかけ離れていながらもその北部は工業により発展し、今や地方都市と呼ばれるまでになっている。かと言って田舎の方がそうでもないかといえば嘘になり、この話は、その田舎のとある出来事から始まる。 【 Endless game. 2 】 「……何やってんだ、お前」 ジュースとお茶を買って戻ってくれば、この様か。俺はため息をついた。 八月十四日の今日、夏真っ盛りの夜七時。ここは家近くの公民館前の公園で、何をやっているかと言えば、それはもう俺の夏のメインイベント、夏祭りである。見てて暑苦しいぐらいに人がごった返し、屋台代わりのテントの下ではバンダナをつけた子供会の親達がせわしなく動いている。 「何って、見ればわかるでしょ」 そう言って伸びをする目の前の女子は如月翠(きさらぎ みどり)、俺の幼馴染、且つ、クラスメイト。恋仲ではないし、そういう感情すら持っていない……はず。ショートカットの茶髪を揺らして、如月はペットボトルに手を伸ばす。その横に誰かが立っている事から、多分、迷子を見つけて案内しようとしたとかそんなところか。 お茶を渡しながらちらりと見てみる。百五十センチあるかないか位のそいつは、染めたのか地毛なのか知らんが見事な栗色の毛をしている。背中まで伸びたそれは緩いウェーブがかかっていて、目はと言うと猛獣のようにつり上がった真紅。童顔だが目鼻立ちは割りとすっきりしている。体型は妖しげな黒いマントに隠れて分からない。 「……まさか、こんな怪しげなやつの道案内しようとしたとか言うなよ」 隣で一気飲みしていた如月に聞く。半分以上を空け、如月はようやく蓋を閉めた(というか、そんなに喉渇いてたのか)。 「妖しげな、って失礼でしょ。それに、迷子じゃなくて人探しみたい」 人探しねぇ、と呟いて、俺は再びその女子……いや、少女? ……とにかく、その子を見る。すると、 「うわっ」 その少女が俺を鋭く睨んでいて、俺はつい気圧されて一歩後ずさってしまった。 「な、何だよ……?」 つり目のせいもあるかもしれないが、物凄く睨まれているように感じる。しかし、そこに見えるのは憎悪や畏怖じゃなく、どちらかといえば……俺を品定めしているような感じだ。 「…………」「…………」 ……と、10秒にも満たない、しかし長く感じる沈黙が続く。途端、少女が口を開いた。 I confirm an aim and confirm a player registration document.(目標を確認、プレーヤー登録証を確認する) 「……は?」 突然湧いて出た言葉に二の句が告げない。今のは何だ? ……英語?
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ここでは、適当に許容超えした作品をアップしていきます。 2008/8~ 2008/9~ 2008/10~ 2008/11~ 2008/12~ 2009/1~ 2009/2~ 2009/3~ 2009/4~ 2009/5~ 2009/6~
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――そして。 エレナが五秒かけて間を置いて、四秒かけて深呼吸をして、三秒かけて零の目を見て、二秒かけて口を開いて、一秒かけて『己自身の能力』の話の一文字目を発した――瞬間。 そんなタイミングで。 「……、……ん…………って――はあ?!」 と、いう具合にアイリスは目覚め、己のおかれた絶望的状況に気付いたのであった。 まあ、比較的遅すぎる覚醒だが。 というか、特殊な状況故、比較の対象になるものが彼女以外に居ないが。 「ど、どうなってる訳よ――これ」 これ(そしてまたは特殊な状況)、とは要するに。 アイリスが木の怪物――否、ゴーレムに身体をとらわれた状態のことを指す。つまりは、前回の、または先日の学校校内ゴーレム出現事件と同じく、アイリスはただ救助やら王子やら騎士やらを待つだけの、姫的立場にある(何故もう一度このような状況を描写説明するのかと言うと、まあ粗筋の意味もかねてのことである、と答えを出すべきであろう)。 「まったく……私がこんな状況だって言うのに、あいつは――ノアは一体何処に居るのよ!」 「いや、此処に居るけど」 「そう……って、居たのなら返事くらいしなさいよ馬鹿ノア! おかげで私の独り言がさらに痛い類のものになったじゃない! どうしてくれるのよどう責任とるのよというか何で此処に居るのよ?!」 「…………」 一番最後の台詞を、一番最初に言うべきであったが。 それを今訂正するほどの余裕を、ノアは持ち合わせていない。 何故なら。 こうして久しぶりに会話をしている間にも、アイリスをとりこんでいるゴーレムはノアに攻撃しているのだから――! ひたすらひたすら――数えられないほどの量の鋭い葉を、まるで手裏剣のように飛ばし続けているゴーレム。 ひたすらひたすら――数えられないほどの量の鋭い葉を、まるで曲芸師のようにかわし続けているノア。 そんな、エンドレスに続くかのように思わせる光景を、『セシルはゴーレムの背後から除いていた』。 「ふむふむ、全ては作戦通り――かな」 と、キザっぽく、またはよくある小説の主人公が言う台詞よろしく、呟いてから。 彼は、叫ぶ。 「ナイトメア=セシルによる、人体貫通マジックショーを開幕しますっ!」 と、大袈裟に言葉を吐いて見せてから――セシルは口から身の丈ほどもあるサーベルを取り出すと。 それを、あろうことか。 アイリスと共にゴーレムに突き刺したのだ――! もちろん、セシルとゴーレムの位置や向きの関係で、アイリスの胸からはサーベルの先端が覗いている。 人体貫通マジックショー――というよりは、もうただの殺,人劇である。 しかしそれは、本当にアイリスが死んでいたときの話だが。 と。 瞬間。 ゴーレムが、奇声を上げた。 それはもう、聞き取れないような異形がだす異常な言語だったために描写はできないが、真正面で直に聞いていたノアが両耳を両手で押さえて歯をくいしばっていた、というだけ伝えておこう。 在る意味――もはや、何も言うまい。 「……っと、上手くいった、かな?」 顔を微かに歪めながら、微笑むように努めているセシルはそんなことを言う。 目の前の空へたなびいている『黒い煙』を見つめながら。 そう、つまり。 何故ゴーレムがアイリスをとりこんだか、である。まあ、とりこませたのは『空操(からくり)』の力を持つ、例の悪党もどきであるが、どちらにしてもである。 アイリスをとりこんだのは――隠したかったものがあるから。 隠したかったもの。 つまりはそれは、ゴーレムの弱点――あの心臓のような鼓動を打つ、黒い宝石である。 そこまでのことを、ノアとセシルは『アイリスをまるで防具のように装着しているゴーレム』を観察して、察したのである。 とまあ、そんな経緯があって。 クルー=アイリスは無事救助された。 無論、先程のサーベルの被害は彼女には皆無である。 手品なのだから――種も仕掛けもあるのである。 それぐらい、妖精界一のマジシャンを目指すセシルにとっては簡単なことであるのだ。 アイリスとゴーレムに剣を刺して、ゴーレムだけを本当に貫通させることなど。 まだ――序の口なのだ。 彼にとっては。 「――と、言ってもよ? 先に一言言っておいてくれたっていいじゃない! いや、助けてくれたことはきちんと感謝はするわよ? セシル……ついでにノア、ありがとう。おかげで助かったわ」 「はは、そんな……オレは君の友達として、当然のことをしたまで、さ」 「だけど、ぼくはついでなんだね……」 予想はしていたけど。 と、最後はどこか皮肉に締めくくって―― ――ノアはやっと、穏やかな笑顔を浮かべたのであった。 +++ 所変わって。 場面は変わり。 上空にて。 ルノワールに『覚醒云々』について説明した後。引き続き長く長く、自分が敬愛する人物について、熱く熱く語っていたジャイル。 しかし、夢見る少年のように輝いていたその目は――突如曇るように淀む。 不安と困惑の色。 「――――あ」 先程まで活発に動いていた口を停止させた後、そんな風に気付いたように呟く。 ルノワールは耳が良い。 だからこそ、ジャイルのそんな一文字の言葉に奥にある意味も気付いた上で、一言。 「ん? 何かまずいことでも起こったのか?」 「……うん、起こったみたいだねえ」 と、あくまでも余裕の口振りで、しかし目は明後日の方向に向いていたのであった。 しかし――何度も言うようだが――ルノワールは耳が良い。 そんな虚勢を張っても、無意味である。 というか、そもそも、味方に余裕を見せ付けてもあまり意味がないように思われるが、そこはやはりジャイルとルノワールという特定の二人だからこそか。 要するにからかわれるのを予測してであろう。 そして。 悪党紛いが気付いた『まずいこと』というのは勿論、今さっきノアとセシルがゴーレム(と人質・アイリス)を倒したことである。 そのことは在る意味周知のことなので――慌てふためくジャイルを「ぎゃはは」と笑うルノワール の、おもしろ可笑しなやりとりがあったが、それは省略することにする。 兎にも角にも。 今更、深刻な状況を把握した悪党どもの一場面であった。 +++ 「――――と、いうわけで、私の話は終わりなのです」 と、エレナは千年樹の下で――そう言った。 己の秘密――『能力』を、暴露し終えた直後であった。 「……そう、か」 「…………」 そしてしばらく沈黙の時間がややあって、 「……その、零君、御免なさい。いきなりこんな話をしても、困るだけですよね?」 「いや、俺から聞いたことだ――それに、別に困っていない。寧ろ、話してくれて嬉しいと思っている」 と、優しく言葉を紡ぐ日本男児。 「……お互い、秘密を言い合ったと思えば良い。そのほうが気が楽になるだろう」 「そうですね。そうすることします」 ありがとう、零君。 ポツリといったその言葉は――何故か異常に、心に響いた。 それも彼女――エレナの『能力』のせいなのだろうかは、分からないが。 そんな気がしたので―― と。 「あああああああ! 居た、居たわ! 二人共無事みたいよ!」 懐かしく、しかし聞きなれた声が聞こえた。 アイリスの声だ。 そして遠くから――木々の間から三つの人影が見えたので、零は安堵の溜息をし、エレナは歓喜で手を振った。 結果的に。 零の超直感が当たったと同時に。 久しぶりに――五人が集う。 ……いや、否。 五重奏になった瞬間であった。 今、考えると。 零君の超直感――即ち、千年樹の近くに居れば護られるというのは、はやり当たっていたのですね。 エレナはそんな風なことを思いながら、零に再会を感謝し、喜びを噛み締める。 合流した五人はまず始めに、お互いに怪我等をしていないか確かめた。 その際、エレナを庇いながら落下した零が「俺は大丈夫だ」と言ったのだが、当然それをそう簡単に信じられる訳も無かったので、零とエレナがノア達三人を納得させるのに時間がかかった。 まあそれも、零のことが心配だからなので、何ら支障は無い。 それに――あとはホテルに帰るだけである。 当初の目的、千年樹の見学もできたのだ。 終わり良ければ全て良し、である。 と。 唐突に。 千年樹を去ろうと、一歩踏み出した瞬間。 ノアはアイリスの腕を掴んだ。 「…………?」 脈絡の無い行動にアイリスは頭上にハテナマークを浮かべるだけだったが、ノアが身にまとう空気が――所謂、シリアスと呼ばれるものの類だったので、 「エレナに零にセシル! 悪いけど、先に行っててくれる?」 「? あ、はい、了解なのです」 「……分かった」 「ま、あまり遅くならないように、ね」 と、各人が返事をした後、緑の中に姿を消したのと同時に。 「御免、引き止めて、だけど、言いたくて」 ノアは――騎士は言う。 「アイリス、お願いだから――もうぼくの前から消えないで」 これ以上ぼくを悲しませないで。 これ以上ぼくを辛くさせないで。 これ以上ぼくを―― の繰り返し。 永遠と続く――そんな言葉を。想いを。 アイリスは、己を見つめる彼の碧眼から、ひしひしと感じた。 だけど感じたところで、どうしようもなく、どうしようもできず――どうしたら良いか、分からなくて。 幼馴染で友達の彼が、狂っているように見えてしまう自分が――嫌いで。 「ぼくは、君が危ない目に合っていると知っただけで――何故か、胸が凄く痛くなるんだ。ぼくは、もう――その痛みに耐えるのは、嫌だ」 嫌いだ。 そして、アイリスは。 困惑して。 後悔して。 後ろめたさを感じて。 「……馬鹿ノア」と。 アイリスは結局、それしか言えなかった。 ――と。 ノアがふと、気つくと。 己の影が幾分か大きくなっている。 そして刹那。 そんな空気を壊すかのごとく、それは響く。 「ぎゃははははははははははははははははははは!」 下品で、いかにも――悪そうな笑い声。 「え?!」 「な、何なのよ……」 ノアとアイリスは訝しげに声をした方を――上を、見上げた。 ルノワールだった。 ルノワールが肩にジャイルを乗せ――ノアとアイリスの直ぐ上で浮かんでいた。
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人込みと比例して 倍増するMelody 騒がしく愉快な 不規則に変化するRhythm 常にドンチャン騒ぎしよう この音 切らせぬように