約 25,193 件
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/13636.html
MK/SE29-47 カード名:冴える推理 コーデリア カテゴリ:キャラ 色:青 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1500 ソウル:1 特徴:《探偵》?・《スポーツ》? 【自】[① 手札を1枚控え室に置く] このカードが手札から舞台に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の山札を見て《探偵》のキャラを1枚まで選んで相手に見せ、手札に加え、その山札をシャッフルする。 【自】 このカードがアタックした時、他のあなたのキャラが1枚以下なら、あなたは自分の山札の上から1枚を、控え室に置いてよい。そのカードがレベル0以下のキャラなら、そのキャラを後列の好きな枠に置く。 これまで襲われたのは美術館や博物館ばかりだったわよね レアリティ:C 劇場版 探偵オペラ ミルキィホームズ ~逆襲のミルキィホームズ~収録
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/57.html
■■ 台湾推理作家協会のアンソロジー ■■ 台湾推理作家協会傑作選1 、2 (2008年3月) http //goods.ruten.com.tw/item/show?11090316175554 ■■ 台湾推理作家協会賞の受賞作品集 ■■ 魅影殺機(2006年) 第4回 http //www.books.com.tw/exep/prod/booksfile.php?item=0010328692 誘殺(2007年) 第5回 http //www.books.com.tw/exep/prod/booksfile.php?item=0010370313 謎霧殺機(2008年) 第6回 http //www.books.com.tw/exep/prod/booksfile.php?item=0010399562 魔鬼交易(2008年) 第6回 http //www.books.com.tw/exep/prod/booksfile.php?item=0010399561 神的微笑(2009年) 第7回 http //www.books.com.tw/exep/prod/booksfile.php?item=0010448497 台湾ミステリ紹介 目次へ
https://w.atwiki.jp/uguisuinjippura/pages/98.html
推理
https://w.atwiki.jp/magoriatcg/pages/1435.html
https://w.atwiki.jp/sikaku/pages/27.html
Cの書き順= CLOCK 90年= 原詩
https://w.atwiki.jp/asianmystery/pages/232.html
2013年10月27日 チェコミステリの邦訳一覧(複数の訳書がある場合、ここでは最新のもののみ示す)カレル・チャペック『ひとつのポケットからでた話』(栗栖茜訳、海山社、2011年2月) 24編収録 カレル・チャペック『もうひとつのポケットからでた話』(栗栖茜訳、海山社、2011年2月) 24編収録 ヴァーツラフ・ジェザーチ『かじ屋横丁事件』(井出弘子訳、岩波書店 岩波少年文庫2075、1974年)(児童文学) エゴン・ホストヴスキー『スパイ』(岡田真吉訳、角川書店、1958年)→ 改題文庫化『秘密諜報員 アルフォンスを捜せ』(角川文庫、1966年) ヨゼフ・シュクヴォレツキー『ノックス師に捧げる10の犯罪』(宮脇孝雄・宮脇裕子訳、出版:The Mysterious Press、発売:早川書房、1991年5月) パヴェル・ヘイツマン『鋼鉄の罠』(田才益夫訳、発行:有楽出版社、発売:実業之日本社、1996年3月) パヴェル・コホウト『プラハの深い夜』(田才益夫訳、早川書房、2000年10月) ラジスラフ・フクス『火葬人』(阿部賢一訳、松籟社《東欧の想像力》第9巻、2012年12月) 注 このページの作成者はチェコ語は読めません。 以下、邦訳のある作品は『水色』で示しました。 Index (1)チェコの古典探偵小説エミル・ヴァヘク(1889-1964) エドゥアルト・フィッケル(1902-1961) カレル・チャペック(1890-1938)A 『ひとつのポケットからでた話』&『もうひとつのポケットからでた話』(1929年) B 「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」(1924年) C チャペックが探偵小説のつもりで書いた短編集『受難像』(1917年) D 哲学三部作(1933-1934年)のミステリ要素 A・B・シュチャストニー(1866-1922)の探偵レオン・クリフトン物 ヴァーツラフ・ジェザーチ(1901-1956)の児童文学『かじ屋横丁事件』 (2)1950年代以降のチェコミステリエゴン・ホストフスキー(1908-1973) ミラン・クンデラが探偵小説を執筆!? ヨゼフ・シュクヴォレツキー(1924-2012) ヨゼフ・ネスヴァードバ(1926-2005) パヴェル・ヘイツマン(1927- ) パヴェル・コホウト(1928- ) ポーランドでミステリ・オールタイムベスト100に選出されたラジスラフ・フクス『火葬人』 (3)現代チェコの代表的な推理作家 (4)チェコのミステリ賞 (5)チェコにおける日本ミステリ チェコミステリについての文献 更新履歴 (1)チェコの古典探偵小説 チェコではエミル・ヴァヘク(Emil Vachek、1889-1964)とエドゥアルト・フィッケル(Eduard Fiker、1902-1961)の2人がチェコの探偵小説を形作った二大作家と見なされているようだ。 エミル・ヴァヘク(1889-1964) エミル・ヴァヘク(Emil Vachek、1889-1964)は、近年もチェコで映像化されている人気シリーズ、クルビーチコ(Klubíčko)警部シリーズの作者。クルビーチコ警部シリーズの第1作『Tajemství obrazárny』が刊行されたのは1928年。続いて1932年に第2作『Muž a stín』(男と影)(翌年映画化)、1933年に第3作が出ているが、その次は1958年まで間が空く。やはり1930年代も半ばを過ぎると、時勢的に探偵小説は書きづらくなったのだろうか。戦後は1958年から作者の没年の1964年までに少なくとも5作が発表されている。 クルビーチコ警部シリーズは2007年から2008年にかけて第2作『Muž a stín』(1932)、第3作『Zlá minuta』(1933)、そして戦後作品の『Devatenáct klavírů』(1964)がテレビ映画化されている(『Zlá minuta』の映画化は2005年という情報もあり)。 『Muž a stín』映画版情報 リンク1、リンク2 『Zlá minuta』映画版情報 リンク1、リンク2 『Devatenáct klavírů』映画版情報 リンク1、リンク2 クルビーチコ警部シリーズの英訳はなさそうである。第1作『Tajemství obrazárny』は、1964年にプラハで独訳『Das Geheimnis der Galerie』が出ている。 エドゥアルト・フィッケル(1902-1961) エドゥアルト・フィッケル(Eduard Fiker、1902-1961)はスコットランドヤードの警部T・B・コーン(inspektor T. B. Corn)のシリーズやチェコを舞台とするチャデック警部(inspektor Čadek)シリーズ、スパイ小説の探偵カルリーチェク(Karlíček)シリーズなど複数のシリーズ作品で人気を博した作家。 スコットランドヤードの警部T・B・コーンのシリーズは1933年から1948年にかけて5作発表された。少なくとも第1作と第2作、それから第5作で悪党のテッド・ブレント(Ted Brent)が登場する(第5作の副題は「テッド・ブレントの帰還」)。2人は明智小五郎と怪人二十面相のような関係なのだろうか? 戦時中は英語名が問題視され、T・B・コーンの名はL. L. Cirneに変更されていたとか。 国際推理作家協会チェコ支部は独自に長編ミステリ公募賞のエドゥアルト・フィッケル賞を制定し、2003年から授与している。詳しくは「(4)チェコのミステリ賞」を参照のこと。 エドゥアルト・フィッケルの作品の英訳はなさそうである。ドイツ語訳は少なくとも6冊。ただし、T・B・コーン・シリーズは訳されていない。独訳があるのは、チェコを舞台とするチャデック警部シリーズの2作、スパイ小説の探偵カルリーチェク・シリーズの2作と、ノンシリーズ作品2作である。 エドゥアルト・フィッケル作品の独訳と原題の一覧 チェコ語タイトル 発表年 ドイツ語訳のタイトル チャデック警部シリーズ Zinková cesta 1942 Der Zinksarg Nikdo není vinen? 1947 Fisch im Netz 探偵カルリーチェク・シリーズ Zlatá čtyřka 1955 Die goldene Vier Série C-L 1958 Serie C L ノンシリーズ作品 Ilavský zločin (別題 Rozkaz 42) 1946 Befehl 42 U Tří kufrů 1957 Die Drei Koffer カレル・チャペック(1890-1938) A 『ひとつのポケットからでた話』&『もうひとつのポケットからでた話』(1929年) カレル・チャペック(Karel Čapek、1890-1938、日本語版Wikipedia)は言わずと知れた有名なSF作家だが、実はミステリも執筆している。江戸川乱歩は1950年代にソ連のスパイ小説作家ロマン・キムと文通しているが、ロマン・キムは手紙の中で、ソ連で人気の探偵作家としてチェスタートン、フランク・ヘラー(スウェーデン)、そしてカレル・チャペックを挙げている。 ロマン・キムの江戸川乱歩への第二信より(江戸川乱歩「ソ連と中共の近況 ――ロマン・キム氏から第二信――」『宝石』1957年1月号、ロシア語翻訳:原卓也) ユーモラスな探偵作品の中で、ソヴェート読者に評判が好いのは、チェッコの有名な作家カレール・チャペックの短篇です(奪われた書類、ロウッサ教授の実験、俳優ベンダの失踪、等)。これらの短篇は探偵小説のパロディのように思われますが、作の中では警察や、警察の犯罪解明の愚かしい方法などが嘲笑されています。チャペックがマーク・トウェーンの短篇「白象泥棒」*注を手本にしたことは疑う余地もありません。小生は、チャペックの短篇が日本語にも訳されて然るべきだと思います。彼の作品は英語にも、他のヨーロッパ語にも訳されているのですから。 注:マーク・トウェイン「盗まれた白象」(原題 The Stolen White Elephant)。エラリー・クイーン編『犯罪文学傑作選』(創元推理文庫、1977年)などで読める。 チャペックのミステリ小説集は以下の2冊がある。ロマン・キムの手紙の中でタイトルが示されている「奪われた書類」、「ロウッサ教授の実験」、「俳優ベンダの失踪」は、『ひとつのポケットからでた話』に収録の「盗まれた機密文書」、「ラウス教授の実験」、「俳優ベンダの失踪」のことだと思われる。(以下、当ページでは訳題は栗栖茜氏による訳題を使用する) チャペックのミステリ小説集Povídky z jedné kapsy (1929) 24編収録『ひとつのポケットから出た話』(栗栖継訳、至誠堂 現代人叢書第9巻、1960年[著者名表記 カレル・チャペク] / 晶文社 文学のおくりもの15、1976年 / 晶文社 文学のおくりものベスト版、1997年8月) 『ひとつのポケットからでた話』(栗栖茜[※栗栖継の息子]訳、海山社、2011年2月) Povídky z druhé kapsy (1929) 24編収録『ポケットから出てきたミステリー』(田才益夫訳、晶文社、2001年11月) 『もうひとつのポケットからでた話』(栗栖茜訳、海山社、2011年2月) イヴァン・クリーマによるチャペックの研究書『カレル・チャペック』(邦訳2003年8月、青土社、田才益夫訳)ではこの2冊は「第二十章 盗まれた書類とその他の物語」(pp.223-233)で扱われている。 アメリカのミステリ雑誌『Ellery Queen s Mystery Magazine』の1948年8月号は《世界のミステリ》特集号。第3回EQMM短編ミステリコンテストの入選作5作(オーストラリア、アルゼンチン、南アフリカ共和国、ポルトガル、フィリピン)および、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ベルギー、イタリア、ハンガリー、ソ連、チェコスロバキアの9か国の代表作品、計14作品が掲載されている。このときのチェコ(チェコスロバキア)の作品はカレル・チャペックの"The Coupon"だった。雑誌の現物を見ていないので確かなことはいえないが、これはおそらく『ひとつのポケットからでた話』に収録の「レシート」(チェコ語原題 Kupón)だろう。 その後、『EQMM』では1990年8月号にもカレル・チャペックの作品が掲載されている。英題は"The Crime at the Post Office"。『ひとつのポケットからでた話』に収録の「郵便局での犯罪」(チェコ語原題 Zločin na poště)だと思われる。 日本のミステリ雑誌『宝石』1955年4月号は「世界の短篇傑作を英米佛から獨露チェッコまでひろげて蒐めてみた」(編集後記、永瀬三吾)という号で、カレル・チャペックの「噂の男」(都筑道夫訳、pp.168-174)が掲載されている。これは『ひとつのポケットからでた話』の収録作で、栗栖茜氏による訳題は「あやしい男」。ちなみにこの号に掲載されたドイツの作品はディートリッヒ・テーデンの「巧に織った証拠」、ロシアの作品はチェーホフの「或る犯罪の話」(=「安全マッチ」)である。 青土社から田才益夫訳で出ているカレル・チャペックの3冊の短編集『カレル・チャペック短編集』(2007年12月)、『赤ちゃん盗難事件 カレル・チャペック短編集II』(2008年4月)、『ありふれた殺人 カレル・チャペック短編集III』(2008年6月)は、『ひとつのポケットからでた話』や『もうひとつのポケットからでた話』などから短編を採録した日本オリジナル編集の短編集。第2巻と第3巻の表題作はどちらも『もうひとつのポケットからでた話』の収録作である。栗栖茜氏による訳題はそれぞれ、「赤ちゃんにまつわるある事件」、「ありふれた殺人」。 B 「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」(1924年) カレル・チャペックは探偵小説論も書いている。 Holmesiana čili O detektivkách (1924)「シャーロック・ホームズ学または探偵小説について」(田才益夫訳、『カレル・チャペックの闘争』社会思想社、1996年7月) 「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」(田才益夫訳、『カレル・チャペックの新聞讃歌』青土社、2005年4月、pp.79-111)(目次では「シャーロック・ホームズ学、または探偵小説について」)(以下、ページはこちらのものを示す) 『カレル・チャペック短編集』(田才益夫訳、青土社、2007年12月)の訳者あとがきによれば、チャペックはこれ以外にも「独立した一編の探偵小説論を書いている」とのことだが、タイトルは示されていない。 「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」の冒頭でチャペックは代表的な探偵(探偵役)15人を列挙している(p.80)。 タバレ(エミール・ガボリオ) ルコック(エミール・ガボリオ) エビニーザー・グライス(アンナ・キャサリン・グリーン) シャーロック・ホームズ(アーサー・コナン・ドイル) ガニマール警部(モーリス・ルブランのルパンシリーズ) ビール警部(Inspektor Beale) - アメリカの作家のG. W. Appleton(George Webb Appleton、1845-1909)の作品に登場するInspector Beale(William Beale)のことか? (このエッセイが発表された1924年には、ルーパート・ペニーのビール主任警部シリーズはまだ書かれていない) マッケンジー警部(E・W・ホーナングのラッフルズシリーズ) イジドール・ボートルレ(モーリス・ルブランのルパンシリーズの『奇巌城』) マーチン・ヒューイット(アーサー・モリスン) アスビョルン・クラーグ(スヴェン・エルヴェスタ) ホーン・フィッシャー(G・K・チェスタートン) ブラウン神父(G・K・チェスタートン) クレイグ・ケネディ(アーサー・B・リーヴ) ソーンダイク博士(オースチン・フリーマン) ルールタビーユ(ガストン・ルルー) チャペックはフランス語が読めたので、これらの探偵の活躍譚が当時すべてチェコ語に訳されていたとは限らない。なかにはフランス語で読んだものもあるかもしれない。ここでは挙げられていないが、のちの部分でデュパンやアルセーヌ・ルパンの名も出てくる。また、クリフトンというチェコ作家が生み出した探偵の名も出てくる。これについては後述。 「ブラウン神父」につけられた田才氏による訳注によれば、「チャペックはチェスタートンを非常に尊敬し、イギリス訪問の際にも対面を心待ちにしていたが、チェスタートンのチャペックにたいする態度は意外に冷ややかなものだった。」 C チャペックが探偵小説のつもりで書いた短編集『受難像』(1917年) 上記の「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」(1924)には興味深いことが書かれている。1917年の短編集『受難像』(邦訳1995年10月、成文社《チャペック小説選集》第1巻、石川達夫訳)は探偵小説のつもりで書いたものだというのである。田才益夫氏による訳文を引用する(引用中では訳題は『路傍の聖者像』とされている)。 「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」(田才益夫訳、『カレル・チャペックの新聞讃歌』青土社、2005年4月、p.81) (前略)私自身がすでに一巻の探偵小説集を書いてみたことを報告しておきましょう。私としてはとくに野心があったわけではないのですが、結局、その一巻は「路傍の聖者像」(Boží muka=ボジー・ムカ)となって出版されました。残念ながら、そのなかに探偵小説があるなんて誰も知らないのです。どうやら、私の失敗かもしれません。 もっとも『受難像』は「探偵小説」と聞いて普通に想像する作品とはまったく異なるようだ。邦訳書『受難像』巻末の訳者解説(成文社の公式サイトで公開)によれば、「『受難像』の中の幾つかの短編は、推理小説的形式をもった哲学的小説であり」、「推理小説的な状況とサスペンスはあるが、解決はなく、(推理的方法によっては)最終的真実は解明されない」そうである。 イヴァン・クリーマによるチャペックの研究書『カレル・チャペック』(邦訳2003年8月、青土社、田才益夫訳)では『受難像』は「第四章 文明的楽天主義の壊滅」(pp.40-49)で扱われている。 D 哲学三部作(1933-1934年)のミステリ要素 チャペックが1933年から1934年にかけて発表した長編3作、『ホルドゥバル』(1933)、『流れ星』(1934)、『平凡な人生』(1934)は「哲学三部作」や「認識三部作」などと呼ばれている。このうち少なくとも最初の2作はミステリの要素を含む物語であるらしい。この3作は成文社《チャペック小説選集》(1995-1997年)の第3巻~第5巻として邦訳が出ている。その訳者解説は「こちら」で公開されている。 3作のうち『流れ星』は2008年5月に田才益夫訳で青土社からも邦訳が出ており、その帯の背の部分には「傑作ミステリー」と書かれている。 イヴァン・クリーマによるチャペックの研究書『カレル・チャペック』(邦訳2003年8月、青土社、田才益夫訳)では哲学三部作は順に第21~23章(pp.234-265)で扱われている。 A・B・シュチャストニー(1866-1922)の探偵レオン・クリフトン物 先に少しふれたが、カレル・チャペックの探偵小説論「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」(田才益夫訳、『カレル・チャペックの新聞讃歌』青土社、2005年4月)には「クリフトン」という探偵の名が出てくる。田才氏による脚注ではこの探偵について以下のように説明されている(p.161)。 クリフトン(Leon Clifton)――チェコの作家A・B・シュチャストニー(Adolf Bohmil Šťastný, 1866-1922)の創造した探偵。その後、多くの作家がこの人物像をまねて、娯楽物の探偵小説を書き、「クリフトンカ」(クリフトンもの)という言葉さえ生まれ、この種の探偵小説の代名詞にまでなった。 (「Adolf Bohmil Šťastný」は正しくは「Adolf Bohumil Šťastný」かと思われる) この作家および探偵については詳しいことは分からない。チェコのミステリ・データベースサイトPITAVALでは作者名は「Adolf Bohumil Šťastný」ではなく「Alfons Bohumil Šťastný」とされている。 その他の戦前作家 ほかに戦前からミステリ小説を書いていたチェコの作家にZdeněk Vojtěch Peukert(1907-1982、チェコ語版Wikipedia)がいる。この作家は1920年代末から戦後にかけてミステリ小説を多数発表した。 ヴァーツラフ・ジェザーチ(1901-1956)の児童文学『かじ屋横丁事件』 ヴァーツラフ・ジェザーチ(Václav Řezáč、1901-1956)は1934年に探偵小説要素のある児童文学『かじ屋横丁事件』(Poplach v Kovářské uličce)を発表している。その邦訳書(井出弘子訳、岩波書店 岩波少年文庫2075、1974年)の巻末のイワン・クロウスキーによる解説によれば、ジェザーチの最初の児童文学作品は『少年よ、彼を追え!』(Kluci, hurá za ním!)(1933)という探偵小説風のもので、当時チェコ語に翻訳されて好評を得ていたエーリヒ・ケストナーの『エーミールと探偵たち』(1929)の影響下に書かれたものだったという。 ジェザーチの児童向け探偵小説2冊の挿し絵はカレル・チャペックの兄のヨゼフ・チャペックが描いており、邦訳書『かじ屋横丁事件』でもそのイラストが使用されている。 (2)1950年代以降のチェコミステリ エゴン・ホストフスキー(1908-1973) エゴン・ホストフスキー(Egon Hostovský、1908-1973)はアメリカに亡命したチェコの作家。1954年に発表した『深夜の患者』(チェコ語原題 Půlnoční pacient、英題 The Midnight Patient)は1957年にフランスの映画監督アンリ=ジョルジュ・クルーゾーによって『スパイ』(仏語原題 Les Espions)というタイトルで映画化されている。翌1958年には日本でも原作の邦訳が『スパイ』というタイトルで刊行された。その後文庫版も出ている。 『スパイ』(岡田真吉訳、角川書店、1958年)→ 改題文庫化『秘密諜報員 アルフォンスを捜せ』(角川文庫、1966年) ※どちらも著者名表記は「ホストヴスキー」 角川文庫版のあとがき(及び著作権表示)で英題が『深夜の忍耐』(Midnight Patience)とされているが、誤り。文庫版のカバーからあらすじを引用しておく。 ニューヨークの裏街に住む精神科医マリクのもとに、心理戦争研究所のハワード大佐が訪れる。大佐の依頼は、ある男の秘密治療である。その病人は、ソ連内部の破壊工作の英雄、アルフォンスと名乗る正体不明のスパイ! 人生に退屈しきっていたマリクには、この奇妙な依頼が、驚くほど興味をそそる。その翌日、彼の病院一帯にアルフォンスをめぐって、米ソの強力なスパイ網がはりめぐらされる。巧みな推理力で事件の全貌を解明しようとするマリクにとって、唯一の手がかりは、スパイの話した謎の暗号「失なわれた両眼視!」……。事件は逆転また逆転! 恐怖の冷戦を背景として、米ソの諜報機関は、息づまる国際スパイ戦を転(ママ)開する! ミラン・クンデラが探偵小説を執筆!? ミラン・クンデラ(Milan Kundera、1929- )は20世紀後半のチェコ文学界を代表する作家。そのミラン・クンデラが探偵小説を書いたことがあるのだという。1964年、チェコの作家8人が週刊『文芸新聞』(Literární noviny)7月11日号~9月12日号(28号~37号)で全10回のリレー探偵小説を連載。その参加者のなかにミラン・クンデラがいたのである。参加者にはほかに当時同紙の編集者だった作家のイヴァン・クリーマや、短編ミステリ集『ノックス師に捧げる10の犯罪』などが訳されているヨゼフ・シュクヴォレツキーらがいた。タイトルは『編集室の殺人』(Vražda v redakci)(チェコのミステリ・データベースサイトPITAVALの該当ページ)で、編集者が編集室に着いてみると死体が……という発端から始まるストーリーらしい。誰が第何回を書いたかは明記されていないそうだ。こちらのチェコ語ブログにレビューがある(リンク)。また、こちらで当時の紙面がオンラインで公開されている(リンク / 毎号6面、または6~7面に掲載)。8人の執筆者はすでに名前を挙げたミラン・クンデラ、イヴァン・クリーマ、ヨゼフ・シュクヴォレツキーのほかに、Karel Michal、Pavel Hanuš(以上の2人は単独でも探偵小説を発表している)、Alexandr Kliment、Milan Schulz、Ludvík Vaculík。 ヨゼフ・シュクヴォレツキー(1924-2012) ヨゼフ・シュクヴォレツキー(Josef Škvorecký、1924-2012)はミラン・クンデラらと並んでチェコ文学界を代表する作家であり、ミステリ作家でもある。ミステリ作家としての代表作は警部ボルーフカ・シリーズ。第1短編集『警部ボルーフカの憂鬱』(Smutek poručíka Borůvky)は「プラハの春」の2年前、1966年に刊行された。『ミステリマガジン』2008年6月号の洋書案内〈世界篇〉で佐々木和子氏によるレビューを読むことができる。この後シュクヴォレツキーは1969年にカナダに亡命し、亡命先で作品の発表を続けた。 警部ボルーフカ・シリーズは『警部ボルーフカの憂鬱』(1966)、『警部ボルーフカの最後』(1975)、『警部ボルーフカの帰還』(1981)の3冊。「憂鬱」と「最後」は短編集で、第3作「帰還」のみ長編である。またこれら以外に、短編集『ノックス師に捧げる10の犯罪』(1973)(邦訳1991年、早川書房)のいくつかの短編にもボルーフカが登場する。第2作『警部ボルーフカの最後』は1990年に英国推理作家協会の「 92年賞」(CWA 92 Award)という賞にノミネートされている。これはヨーロッパ大陸を舞台にしたミステリの最優秀作に贈られるもので、1990年から1992年までの3年間だけ設けられていた賞らしい。『警部ボルーフカの最後』がノミネートされた年の受賞作はマイクル・ディブディン『血と影』。また、同短編集の収録作である"Humbug"は1990年、カナダ推理作家協会賞(アーサー・エリス賞)の最優秀短編賞を受賞している。 ヨゼフ・シュクヴォレツキーは1924年、チェコ・ボヘミア生まれ。1949年、最初の長編『卑怯者たち』(非ミステリ)を書きあげるが、検閲に阻まれて出版できなかった。1958年にやっと出版が叶うが、数年後には禁書扱いになる。本名での執筆活動が困難になったため、翻訳家の友人ヤン・ザーブラナ(Jan Zábrana、1931-1984)と合作でミステリの創作を始め、1962年から1967年にかけてドクトル・ピヴォンカ(Doktor Pivoňka)シリーズを3作発表(ヤン・ザーブラナの単独名義での発表)。そしてシュクヴォレツキー名義で最初に発表したミステリが1966年の短編集『警部ボルーフカの憂鬱』だった。1969年には非シリーズ物のミステリ『Lvíče』も発表したが、この年、カナダに亡命。その後はカナダのトロントで作品のチェコ語での出版を続けた。妻のズデナ・サリヴァロヴァー(Zdena Salivarová、1933- )との共著のミステリもある。ハメットやチャンドラーのチェコ語への翻訳も手がけた。 ジュリアン・シモンズは『ブラッディ・マーダー 探偵小説から犯罪小説への歴史』でヨゼフ・シュクヴォレツキーに以下のように言及している。 ジュリアン・シモンズ『ブラッディ・マーダー 探偵小説から犯罪小説への歴史』(宇野利泰訳、新潮社、2003年5月)、p.447より チェコとスペイン両国には優れた犯罪小説作家がいると聞かされたが、スペインのマヌエル・バスケス・モンタルバン、チェコのヨゼフ・シュクヴォレツキー作品はたどたどしい英訳版でしか読んでいないので、価値判断を下すのは差し控えたい。シュクヴォレツキーの描いたボルフカ警部補は、言うなればスウェーデン作家マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー夫妻共作によるベック警部のチェコ版だ。腐敗社会の中で各個人の悪徳を封じ込めるべく苦闘する孤独かつ憂鬱な人物なのだ。 シュクヴォレツキーのミステリ小説の邦訳は短編集『ノックス師に捧げる10の犯罪』のみ。小説の邦訳はほかに、松籟社の叢書《東欧の想像力》の第6巻として刊行されたヨゼフ・シュクヴォレツキー『二つの伝説』に収録の中編小説2編「エメケの伝説」、「バスサクソフォン」がある(同書はほかにエッセイ「レッド・ミュージック」を収録)。ほかの邦訳にエッセイ「どのように私はドイツ語と英語を学んだか」(石川達夫訳、『文学の贈物 東中欧文学アンソロジー』未知谷、2000年6月)。 ヨゼフ・ネスヴァードバ(1926-2005) ヨゼフ・ネスヴァードバ(Josef Nesvadba、1926-2005)はSF作家として有名だが、SF以外に冒険小説、推理小説も執筆した。SF短編は10作ほど邦訳があるが、残念ながらミステリ作品の邦訳はなさそうである。著者名の表記はヨゼフ・ネスワドバ、ヨゼフ・ネズヴァドバ、イョゼフ・ネスヴァドバなどとも。 1926年、プラハ生まれ。精神科医。1946年から執筆活動を開始。1958年に短編集『ターザンの死』でSF作家デビュー(表題作は『東欧SF傑作集』下巻[創元推理文庫、1980年]に収録、深見弾訳)。ヤン・ヴァイス(Jan Weiss)とともにチェコを代表するSF作家で、チャペックの後継者との評価を受けた。推理小説では長編『黄金の仏像物語』(Případ Zlatého Buddhy)(1960)などがある。この作品は深見弾氏が『ミステリマガジン』1978年8月号であらすじを詳細に紹介している(「ソ連・東欧ミステリ紹介」第3回)。 パヴェル・ヘイツマン(1927- ) パヴェル・ヘイツマン(Pavel Hejcman、1927- 、チェコのミステリ・データベースサイトPITAVALのヘイツマンのページ)は1960年代初頭から探偵小説、スパイ小説を発表していた作家。邦訳のある『鋼鉄の罠』(Ocelová past)は1982年の作品。ウランを積載した高速輸送船が襲撃され、生き残ったチェコ人の主人公も何者かに命を狙われる。主に南部アフリカを舞台とする謀略・冒険小説である。 『鋼鉄の罠』(田才益夫訳、発行:有楽出版社、発売:実業之日本社、1996年3月)の訳者あとがきではヘイツマンは1921年生まれ、ホテル学校を卒業後ホテルやレストランで働き、1951年からタクシーの運転手――と紹介されているが、実はこれはミロスラフ・ノイマン(Miroslav Neumann、1921-2009)という別の作家の経歴である。詳しい事情は分からないが、ヘイツマンはミロスラフ・ノイマンの名義を借りて作品を発表したことが複数回あり、『鋼鉄の罠』も1982年の刊行時にはミロスラフ・ノイマンの著作とされていた。おそらく「ミロスラフ・ノイマン」というのが単なるヘイツマンの別名義だと考えて、ヘイツマンの経歴を紹介するつもりで誤ってミロスラフ・ノイマンの経歴を紹介してしまったということだろう。 日本オリジナル編集のチャペックのエッセイ集『カレル・チャペックの闘争』(田才益夫訳、社会思想社、1996年7月)の訳者あとがき「あとがき―チャペックとチェコ的なもの―」で田才氏は、ヘイツマンの『鋼鉄の罠』とチャペックの『クラカチット』(田才氏によれば一種の冒険小説)を比較しつつ「チェコ的」とはどういうことなのかを考察している。邦訳版『鋼鉄の罠』に対する書評なども引用紹介されている。 パヴェル・コホウト(1928- ) パヴェル・コホウト(Pavel Kohout、1928- )はミラン・クンデラらと並ぶ現代チェコ文学の巨匠。ミステリ小説は1995年発表の『プラハの深い夜』(田才益夫訳、早川書房、2000年10月)が唯一のものだと思われる。第2次世界大戦末期の1945年、ドイツ占領下のプラハで未亡人ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生。チェコの若手刑事とドイツのベテラン検事のコンビがその捜査にあたる。 パヴェル・コホウトの邦訳はほかに小説『愛と死の踊り』(大竹國弘訳、恒文社、1993年6月)がある。 ポーランドでミステリ・オールタイムベスト100に選出されたラジスラフ・フクス『火葬人』 ポーランドの評論家2人が選んだミステリ・オールタイムベスト100(2007年)には、チェコの作品が1作だけ入った。これはちょうど今年邦訳が出ている。ラジスラフ・フクス(Ladislav Fuks、1923-1994)の1967年の作品、『火葬人』(邦訳2012年12月、松籟社 《東欧の想像力》第9巻、阿部賢一訳)(チェコ語原題 Spalovač mrtvol / ポーランド語訳題 Palacz zwłok)である。 100冊の一覧は「こちら」や「こちら」で見られる。100冊は6つのカテゴリに分けて選出されているようで、『火葬人』はどうやら「文学的なミステリ」(?)または「ミステリと非ミステリの境界的な作品」(?)というようなカテゴリの1冊として選出されているようである。ちなみに『火葬人』と同じカテゴリで選出されている他の作品は、ジョゼフ・コンラッド『密偵』、フリードリヒ・デュレンマット「故障」、ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』、ポール・オースター『ガラスの街』、ブレット・イーストン・エリス『アメリカン・サイコ』、ホセ・カルロス・ソモサ『イデアの洞窟』、マイケル・グルーバー『夜の回帰線』、マーク・ハッドン『夜中に犬に起こった奇妙な事件』など。 日本の作品では桐野夏生『OUT』が選ばれている(『火葬人』とは別のカテゴリ)。 『火葬人』(阿部賢一訳、松籟社《東欧の想像力》第9巻、2012年12月)の訳者あとがきと著者紹介によれば、ラジスラフ・フクスは「巧みな心理描写とグロテスクな細部の描出を特徴とする、怪奇小説とも、心理小説とも評される作品を数多く発表」した作家。探偵小説の愛読者であり、「探偵物や犯罪物、あるいはホラーといったジャンルは、思慮深く、そして趣味よく手が加えられていれば、文学的な価値を低くするものではない」と回想録で述べているという。『火葬人』では凡庸な人間が殺人者に変わっていく様が描かれている。 ポーランドのミステリ評論家が選んだ必読ミステリ100 (2014年8月28日ページ作成) その他のミステリ イジー・ブラベネツ(Jiří Brabenec、1911-1983)&ズデニェク・ヴェセリー(Zdeněk M. Veselý、1927-1992)の『〈虹の入江〉での犯罪』(Zločin v Duhovém zálivu)(1966)は『東欧SF傑作集』下巻(創元推理文庫、1980年11月)巻末の深見弾「東欧SFの系譜」のp.330で挙げられている作品。それによれば、イジー・ブラベネツとズデニェク・ヴェセリーはヨーロッパSF界で名の知れたSF作家で、『〈虹の入江〉での犯罪』は、未来の月を舞台にシャーロック・ホームズ式の古典的捜査が展開されるSFミステリだという。深見氏による作者名のカタカナ表記はイルジ・ブラベネツ、ズデネク・ヴェセラ。また深見氏はタイトルを『〈魂の入江〉での犯罪』と書いているが、これは1967年に出たロシア語版のタイトル『Преступление в заливе духов』に従ったものだと思われる。チェコ語原題は『〈虹の入江〉での犯罪』であり、またロシアでも1988年版では『〈虹の入江〉での犯罪』(Преступление в радужном заливе)というタイトルになっている。「虹の入江」は月に実際にある平原の名称である。 ヤン・ヴァイス『迷宮1000』(深見弾訳、創元推理文庫、1987年)はチェコを代表するSF小説だが、「探偵」が出てくるので一種の探偵小説として見ることも可能(?)。 (3)現代チェコの代表的な推理作家 ここでは、国際推理作家協会チェコ支部(ブログ)が前年刊行のミステリの最優秀作に贈るイジー・マレック賞(Cena Jiřího Marka)(1996年~)(受賞作リスト)を複数回受賞している作家をまず挙げておく。この賞は日本でいえば日本推理作家協会賞に当たる賞だが、それとは違い複数回受賞が可能である。同賞を複数回受賞しているのは以下の4人。 Jaroslav Velinský (1932-2012、チェコ語版Wikipedia) (1996年、2000年受賞) Jan Cimický (1948- 、チェコ語版Wikipedia)(1998年、1999年、2005年受賞) Ladislav Beran (1945- )(2003年、2007年受賞) Michaela Klevisová (1976- ) (2008年、2012年受賞) イジー・マレック賞のその他の受賞者も以下に列挙しておく。 1997年:Milena Brůhová (1931- ) 1998年:Zdeněk Volný (1946- 、チェコ語版Wikipedia) 1999年:Rudolf Čechura (1931- 、チェコ語版Wikipedia) (のちに同賞の審査員) 1999年:Pavel Frýbort (1946-2007、チェコ語版Wikipedia) 2001年:Jaroslav Kuťák (1956- ) 2002年:Benjamin Kuras (1944- 、チェコ語版Wikipedia) 2004年:Božena Šimková (1935- ) 2005年:Viktorín Šulc (1951- ) 2006年:Zdeněk Pošíval (1937-2013、チェコ語版Wikipedia) 2009年:Ladislav Muška (1928- ) 2010年:Roman Cílek (1937- 、チェコ語版Wikipedia) (過去に同賞の審査員) 2011年:Michal Fieber 2012年:Kateřina Kvapilová (1997- ) ※特別賞?? イジー・マレック賞は1999年だけは特別に過去10年間の作品が対象となり3作が受賞作に選ばれた。1993年刊行のルドルフ・チェフラ(Rudolf Čechura)『シャーロック・ホームズinチェコ』(Dr. Sherlock Holmes v Čechách a jiné případy)はこのときの受賞作の一つ。ホームズパスティーシュを10編収録した短編集である(収録作一覧と2011年版の書影)。 なお、賞の名前になっているイジー・マレック(Jiří Marek、1914-1994)はこの人→ http //cs.wikipedia.org/wiki/Ji%C5%99%C3%AD_Marek (4)チェコのミステリ賞 先に紹介したイジー・マレック賞(日本でいう日本推理作家協会賞)以外のミステリ賞を紹介する。 エドゥアルト・フィッケル賞(Cena Eduarda Fikera)(受賞作リスト) (日本でいう乱歩賞) 2003年から国際推理作家協会(AIEP)のチェコ支部は独自にエドゥアルト・フィッケル賞を授与している。これは日本でいえば乱歩賞に相当するような賞で、未発表の推理小説を募集し、受賞作は刊行される。2007年から出版社が見つからず休止状態になっていたようだが、2011年に復活。上に貼った「受賞作リスト」ではその後の受賞者名が示されていないが、現在も続いている。 年 受賞者 受賞作 備考 2003年 František Uher Princip bumerangu 2004年 該当作なし 2005年 Rudolf Čechura Jako zvíře 2006年 Zdeněk Třešňák Špagát 2011年 František Uher Odstín nebezpečí 2003年の受賞者が再度受賞 大鴉賞(Cena Havrana)(受賞作リスト) 国際推理作家協会チェコ支部の短編ミステリコンテスト。 アガサ・クリスティー協会賞(Cena Společnosti Agathy Christie)(受賞作リスト) 国際推理作家協会チェコ支部とチェコのアガサ・クリスティー協会が協力して1999年から授与しているもので、対象は短編小説。チェコ・アガサ・クリスティー協会公式サイトの賞の説明→ http //www.agatha.cz/content/cena-sac シャーロック・ホームズ協会賞(Cena Společnosti Sherlocka Holmese)(受賞作リスト) どういう賞なのかは分からない。シャーロック・ホームズ協会(チェコ)のサイトはこちら→ http //www.sherlockholmes.cz/ (5)チェコにおける日本ミステリ チェコにおける日本ミステリについては、『東京新聞』1962年1月14日夕刊に掲載のエッセイに興味深いことが書かれているので、まずそれを引用しておく。 佐々木千世「ソ連の推理作家 下 読者の要望に応じたスパイ物」(『東京新聞』1962年1月14日夕刊、8面) ソ連でのこうした意外な推理小説の話題に楽しんだのち、私はチェコスロバキアへ行った。ここで一カ月大学の講義や見学や、プラハ郊外の“作家の家”で行なわれた作家たちとの会合など、あわただしく時を過ごし、プラハを発つ直前、私はチェコの文学雑誌「世界文学」(スベトナ(ママ)・リテラトゥラ)の編集部からインタビューの申し込みを受けた。 この雑誌は標題も示すとおり、外国文学の作品や論文を紹介する月刊誌で、なかなか活発な活動をしている。日本文学にも関心が強く、近日取り上げてみたいと、芥川竜之介、川端康成、三島由紀夫(、)中村真一郎などの名をあげていた。 ところがこの雑誌の編集者の特に欲しがっているのが、なんと日本の探偵小説なのである。この時もたっての依頼を受けたのは探偵小説の専門誌と新刊の紹介であった。 帰国早々でまだこの約束を果たしていないが、日本の推理小説の人気が今や東欧の国にも伝わっているのかとおもしろかった。 プラハで会ったポーランドの学者の話では、ポーランドでもミステリーが人気を呼んでおり「探偵小説を書いていれば、作家で食える」ということだった。 いずれにせよ、共産圏の推理小説が、とかく動脈硬化を起こしがちな文学界の一つの突破口になっているらしいのは興味ある現象といえよう。 佐々木千世氏の紹介によるものかは分からないが、1962年にはエッセイ中に出てくるチェコの文学雑誌『世界文学』(Světová literatura)に松本清張の短編「遭難」のチェコ語訳"Neštěstí"が掲載されている。また、1964年には松本清張の長編『点と線』のチェコ語訳が刊行されている。 以下、日本ミステリ(およびその周辺作品)のチェコ語訳書を目についた限りで挙げておく。 阿刀田高 (Takaši Atóda)2004年:『ナポレオン狂』 http //www.bux.cz/knihy/28987-blazen-do-napoleona-detektivni-povidky-s-podivnou-prichuti.html 桐野夏生 (Nacuo Kirino)2011年:『OUT』 http //www.kosmas.cz/knihy/164940/out/ 2012年:『グロテスク』 http //www.kosmas.cz/knihy/169809/zruda/ 鈴木光司 (Kodži Suzuki)2004年:『リング』 http //www.kosmas.cz/knihy/129761/kruh/ 2006年:『らせん』 http //www.kosmas.cz/knihy/129690/spirala/ 2011年:『ループ』 http //www.kosmas.cz/knihy/159419/smycka/ 2006年:『仄暗い水の底から』 http //www.kosmas.cz/knihy/130161/temne-vody/ 東野圭吾 (Keigo Higašino)2012年:『容疑者Xの献身』 http //www.kosmas.cz/knihy/173032/oddanost-podezreleho-x/ 松本清張 (Seičó Macumoto)1964年:『点と線』 http //www.pitaval.cz/kniha/2394-body-a-primka 1999年:短編集『捜査圏外の条件』 http //www.pitaval.cz/kniha/4481-seico-macumoto-mimo-podezreni8編収録:「顔」「一年半待て」「地方紙を買う女」「捜査圏外の条件」「声」「証言」「共犯者」「事故」 水上勉 (Cutomu Minakami)1989年:『雁の寺・越前竹人形』 http //www.databazeknih.cz/knihy/chram-divokych-husi-bambusove-loutky-z-ecizenu-6809 宮部みゆき (Mijuki Mijabe)2010年:『魔術はささやく』 http //www.kosmas.cz/knihy/157359/sepot/ 2007年には日本ミステリアンソロジー『夢埋葬』(11編収録)が刊行されている。 Pohřbení ve snu Deset a jedna japonská detektivka http //www.kosmas.cz/knihy/133616/pohrbeni-ve-snu/ 1 佐野洋 (Jó Sano) 「不運な旅館」 Nešťastný hotel 2 日下圭介 (Keisuke Kusaka) 「夢埋葬」 Pohřbení ve snu 3 笹沢左保 (Saho Sasazawa) 「父子の対話」 Rozhovor otce se synem 4 仁木悦子 (Ecuko Niki) 「粘土の犬」 Hliněný pes 5 松本清張 (Seičó Macumoto) 「一年半待て」 Počkej rok a půl 6 山村正夫 (Masao Jamamura) 「武者人形」 Loutka válečníka 7 菊村到 (Itaru Kikumura) 「謎とき」 Rozluštění záhad 8 夏樹静子 (Šizuko Nacuki) 「懸賞」 Krajská cena 9 高橋克彦 (Kacuhiko Takahaši) 「傷の記憶」 Vzpomínky na zranění 10 西村京太郎 (Kjótaró Nišimura) 「優しい脅迫者」 Laskavý vyděrač 11 石沢英太郎 (Eitaró Išizawa) 「視線」 Pohled 2013年にチェコで刊行されたミステリアンソロジー『Světové krimipovídky』(ネット書店リンク)に法月綸太郎「都市伝説パズル」のチェコ語訳"Záhada městské legendy"が収録されている。このアンソロジーは2009年にイギリスで刊行された『The Mammoth Book Best International Crime』をチェコ語訳したもの。 チェコミステリについての文献 ◆イェジィ・エディゲイ(ポーランド)『顔に傷のある男』(深見弾訳、ハヤカワ・ミステリ1292、1977年)訳者あとがき 『顔に傷のある男』の訳者あとがきで深見氏は、「この機会に、せめて作家の名前でも並べて、東欧にもミステリがあることを知っていただきたい」として、東欧の推理作家の名を列挙している。チェコスロバキアの作家として挙げられているのは、G・プロシコワー、E・フィッケル、J・ワグ、J・ネスヴァートバの4人。このうち「E・フィッケル」は当ページで紹介したエドゥアルト・フィッケル、「J・ネスヴァートバ」はヨゼフ・ネスヴァードバのことだろう。「G・プロシコワー」はおそらくハナ・プロシコワー(ハナ・プロシコヴァー)(Hana Prošková、1924-2002)のことで、「H・プロシコワー」と書くべきところを誤植したのではないかと思われる。「J・ワグ」については分からない。 ◆曹正文(そう せいぶん)『世界偵探小説史略』(1998)第十四章 前苏联与东欧的侦探小说 (旧ソ連と東欧の探偵小説) 第三節 东欧文学中的侦探小说 (東欧文学の中の探偵小説) 中国で刊行されたこの推理小説史では東欧の推理小説への言及がある。「第三節 東欧文学の中の探偵小説」で名前が挙げられているチェコの作家はエドゥアルト・フィッケル(艾德华·菲克尔)、ヨゼフ・ネスヴァードバ(约瑟夫·涅斯瓦德巴)、ヴァーツラフ・フォルプレヒト(瓦茨拉夫·福尔普列特、Václav Folprecht)の3人。フィッケルはチェコミステリの基礎を築いた人と紹介されており、代表作として探偵カルリーチェク・シリーズ(スパイ小説シリーズ)の『Série C-L』(C-L行动)が挙げられ、その内容が紹介されている。 あとの2人は代表作がそれぞれ1作挙げられているのみ。ネスヴァードバは『金佛的故事』(『黄金の仏像物語』のことだろう)、ヴァーツラフ・フォルプレヒトは『罰球的謀殺案』(罚球区谋杀案)。 瓦茨拉夫·福尔普列特『罚球区谋杀案』(黄河文艺出版社、1987年12月)(リンク) … 1969年刊行のVáclav Folprecht『Smrt v pokutovém území Kriminální příběh』か? 1982年、ロシア語訳「Смерть в штрафной площадке」が『Спортивный детектив』(ネット書店リンク)に収録されている。 ◆未訳のチェコミステリの紹介 『ミステリマガジン』1978年8月号、深見弾「ソ連・東欧ミステリ紹介」第3回 - ヨゼフ・ネスヴァートバ『黄金の仏像物語』のレビュー 『ミステリマガジン』2008年6月号、洋書案内〈世界篇〉、佐々木和子「チェコ社会が垣間見える巨匠のミステリ」 - ヨゼフ・シュクヴォレツキー『警部ボルーフカの憂鬱』のレビュー 深見弾氏の「ソ連・東欧ミステリ紹介」は1978年3月号、6月号、8月号、10月号、12月号、1979年3月号の全6回掲載。 ◆その他 G. J. Demko s Landscapes of Crime Mysteries in Foreign Lands Mysterious Czechs (英文) 更新履歴 2013年11月3日…パヴェル・ヘイツマンについての記述を追加。(ヘイツマン『鋼鉄の罠』の存在は、Twitterを通じて川出正樹氏にご教示頂いた) 2013年11月4日…カレル・チャペックの探偵小説論「シャーロック・ホームズ覚え書き、または探偵小説について」および短編集『受難像』、哲学三部作についての記述を追加。 2013年11月30日…A・B・シュチャストニーの探偵レオン・クリフトン物、ヴァーツラフ・ジェザーチの『かじ屋横丁事件』についての記述を追加。 関連記事 《世界探偵小説全集》のラインナップを本当に「世界」規模で考えてみる 東欧推理小説翻訳史 ソ連/ロシア推理小説略史 スペイン語圏・ポルトガル語圏推理小説略史(スペイン・ポルトガル・中南米) イタリア推理小説略史 オランダ推理小説略史 インド推理小説探求・受容史
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/1439.html
990 名前: NPCさん 2006/02/16(木) 18 02 45 ID ??? 埋め代わりに小ネタ、昔GURPSルナルをやった時の話。 推理モノのシナリオ、容疑者を集め、さぁ情報を集めて推理開始… 魔術師「《精神探査》します。事件解決のためですから皆魔法受け入れてくれますよね?」 GM凝固。そして次の瞬間トイレに篭りやがりました。 数十分の中断の後、何とかシナリオは進行しましたけどね。 スレ89
https://w.atwiki.jp/alley/pages/14.html
推理系ゲーム 検査官パーカー 検査官になって、犯人を捜すゲームです。 まずゲームのやり方が説明されます。 でも英語で書いてあるのでみなみには なんっっにも分かりませんww(ニコ! 『~~・・play~・・』みたいなのが (『play』と書いてあって、クリック出来たらソレです) あります。それを押すとゲームスタートです。 ㊨の方のブロックをクリックして、左の人物や凶器の ブロックを適当に(ぇ)クリックしていきます。(爆 ぇ~と、何回か間違えるとゲームオーバーになるみたいです。 とにかく頑張ってください** 検査官パーカー
https://w.atwiki.jp/sol-bibliomaniax/pages/202.html
少女と推理小説 伸ばした指先が別の誰かの手に触れて、少女は驚いて横を見た。そして同じようにこちらを見つめ返している瞳と視線が合って、再度驚く。 今の時代、好き好んで紙の本を読むような人間は少数派だ。しかもこの学校の予科生ともなれば、物語の本を読んでいる暇などない。なのに、そのモノ好きな少女が手を伸ばした推理小説を相手も取ろうとしている。そのことに、少女は運命めいたものを感じた。 「――って感じだったんだとおねえちゃんは記憶してるんだけど。おねえちゃんと矯邑のおねえちゃんの出会い」 「記憶のねつ造禁止!」 気だるげに、ただしかなり本気の顔で言う序列225位【ラヴレス(愛を注ぐもの)】空多川契(あくたがわ けい)に、序列189位【スコーレ(暇人の学問)】矯邑繍(ためむら しゅう)は冷静な突っ込みを返した。 「えー、間違ってないよ」 「図書館で出会ったことは事実なんじゃないでしょうか」 机の向こうから見守る、序列249位【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無(れいぜい かんな)と序列226位【ドクターグルメ(美食治療)】村崎ゆき子(むらさき ゆきこ)はきょとんとした顔をしている。 学園都市・トランキライザーの中にある巨大図書館ビブリオマニアスク。それを見上げるような位置にある喫茶店に四人はいた。ブルーローズやロックハート洋菓子店のような世界的な有名店ではないが、なかなか味は良い。おそらくは料理人志望の生徒が営業しているのだろう。 四人は硝子の向こうに見える図書館を見やって、それぞれ感慨深げにため息をついた。ビブリオマニアスクは世界中に図書館を作っている巨大組織である。言い方を変えるなら、そういう組織でないと今の時代、広大な紙の本を集め管理することは難しい。情報のほとんどが電子化されている現代では、好き好んで重たくてしかも見たいページを探すのに不便な紙の書籍を集めたがる人間は少ないからだ。もっとも一部のコレクターやインテリアとして本を求めている人間なら話は別だが。 「そういえば、図書館で出会ったんだよね。全員」 「当時はみんな予科生だったけど……見事に進路が分かれたことで」 神無と繍の呟きに、全員が苦笑を浮かべた。当時は同じ『学生』だった四人も、今では学者から非合法な活動を行う組織の重鎮までばらばらなことをしている。それでも縁が切れないのはどこかで気が合うためと、分野がばらばらすぎて利益の取り合いになるような事態がまずないからだろう。 「ともかく、そんな少女小説みたいな展開じゃないよ。私の記憶だと」 矯邑繍は図書館にいた。勉強のためではない。集中して勉強がしたいなら自習室にいくし、調べ物があるならインターネットか学園内部の情報システムサーバーにアクセスする。図書館にやってくるのは純粋な趣味だ。今時、紙媒体で物語を読むのが趣味なんて古臭いと言われるかもしれないが、繍にとって読書は至福の時間だ。 そして、いつも通り推理小説と呼ばれる小説の棚の前に繍はやってきていた。推理小説とは何かというと色々意見はあるだろうが、繍の中の定義では推理小説とは何らかの事件が作中で起こり、その事件の原因と仕組みを探偵役の人間が解き明かすという内容の小説だ。西暦の時代にはかなり流行ったこともあるらしい。 だが現代、わざわざ推理を楽しむ人間は少数派になりつつある。なぜなら小説の中で起こる事件より、現実世界で起こる事件のほうがよほどミステリアスでスリリングだからだ。それに科学技術の発達でどんな小さな痕跡からでも犯人を割り出せるし、捜査に適したミスティック能力やサイキック能力もある。最大の問題は、どんなに不可解なことがあろうと、死体が転がっていようと、特別な理由がない限りはその原因やそうなったトリックをわざわざ解明しようとする人間が少数派だということだ。その調査解析にかけるコストと結果から得られる利益を計算した場合、多くの場合コストが上回ってしまう。そんな面倒くさいことをわざわざやる人間は少ない。殺されたのが要人なら事情は変わってくるが。 「夢のない時代……」 夢があろうとなかろうと人間の死で楽しむのは問題なのだが、そういう部分での倫理観は見事にずれている。繍も結局はそういう時代の人間なのだ。 本の前に立って棚を見上げ、繍はあることに気づいた。お気に入りのミステリ作品シリーズの二巻がない。誰かが借りているようだ。別にその巻がどうしても読みたかったわけではないが、なんとなく気になる。誰が借りたのかなと考えながら、繍は手を伸ばした。が、 「あ、ごめんなさい」 その手が本の背表紙に触れる前に、別の手に触れた。いったいいつの間に現れたのか、同年代くらいの少女が同じ本に向かって手を伸ばしていた。身長は繍と同じくらい。病的なまでに白い肌とそれと対照的な真っ黒の髪が、この世のものらしからぬ独特の空気を生み出している。繍は目を丸くした。 「こちらこそすみません。どうぞ」「いいえ。先にいたのはおねえちゃんだから、先にどうぞ」 本棚から抜き出した本を少女は押し付けてきた。繍は慌ててそれを押し返す。 「いや、私はもう一度読んでいるのでお先にどうぞ」 「私より前に本棚の前に来てたんだから、おねえちゃんどうぞ」 「いいや、お先にどうぞ」「おねえちゃん先に……」 しばし、二人は本棚の前で本を押し付けあった。 「――――とまあ、こんな感じだったはずだ。そんな運命的な空気はみじんもない」 腕を組んで繍は言い切った。簡単ともため息ともつかない声が上がる。 「本当にみじんもないね」 「そういう事情があったんだ」 あきれたように神無は呟いた。まさかそうやって出会った文学少女が数年後、かたや世界的に有名な学者、かたや非合法組織の重鎮になるとはだれも思わないだろう。 「本当はおねえちゃん、二巻が読みたかったのですよ。美少女が二人出てきてちょっと百合ちっく~」 「あれ? あの本の二巻ってバラバラ殺人事件じゃなかったっけ? 美少女出てくるけど、バラバラにされるじゃん」 同じ本を読んでいた神無は首をかしげて見せた。契は激しく首を横に振る。 「違うの! 匣の中には美しい少女がみつしりと詰まつてゐるのです!!」 「それって……バラバラ死体だよね?」 「死んでない! …………まだ」 「物語の最後では死ぬじゃん」 「おねえちゃんの心の中では生きている」 そう言って契は明後日の方向を向いた。二人のゆるい会話を見守っていたゆき子は、あーともはあともつかない声を出す。 「もともと生きてませんけどね」 「いいんじゃないの? 話でしか聞いたことのない実在の人物と小説の中にいる人間のどちらがリアリティがあるかって考えたとき、必ずしも実在とされる人物のほうにリアリティがあるとは限らない」 言葉遊びでしかない言葉を呟いて、繍は笑ってみせた。ゆき子は意味がよく分からなかったのか、ことんと首をかしげて見せる。 「そういえば、最近こんな感じのバラバラ事件ありましたね」 「時々起ってるよ。残念ながら」 「先月なんかどこかで、誘拐された被害者の身体の一部が順次に届くっていう猟奇事件が……まあ、関係ないけど」 弱肉強食、なんでもありのこの時代、人間の想像の及ぶ範囲の事件はだいたい起きている。この小説が書かれたのはまだ西暦が使われていた時代の日本だというが、おそらくその時代は平和だったのだろう。 「えーと、そこで私が登場するまでまだ間がありますけど、どうなったんですか? その後」「私が出てくるんだよ」 のほほんとしたゆき子の言葉に、神無が口を開いた。 「あの日は社会科学の試験に合格して少し余裕があったから、好きな本でも読もうと思って図書館に行ったんだ。電子ブックだと読んでるって感じがしないから、本が好きで。それで――――」 「…………何あれ?」 図書館を歩いていた神無は、図書館の中でも比較的人が少ない物語の棚の一角で足を止めた。視線の先には一冊の本の端と端とそれぞれ持って対峙する少女が二人。本の取り合いでもしているのだろうか。 迂回しようとして、神無は二人が自分が目指す本棚の丁度前で対峙していることに気づいた。すごくすごく迷惑な位置だ。喧嘩ならどこか別の場所でやってほしい。だが、近付くと様子がおかしいことに気づいた。 「だ・か・ら、お先にどうぞって言ってるじゃん!」 「いやいや、おねえちゃんが先に読んでください。お願いします」 「いいってば。お先にどうぞ」 「いいえ。先に読んでください」 「…………」 本の取り合いではなく、本の譲り合い合戦が起きていた。どうしたものかと神無は考え込む。その時、 「あ」「え?」 思いきり本を押し付けた拍子に少女の片方――後に矯邑繍という名前だと知る――が本棚の一つに激突した。本棚自体はしっかり固定されているらしくびくともしないが、収められた本が嫌な感じに揺れた。そして、ゆっくり前倒しになる。 「ああああああああああ!!」 咄嗟に神無は走りだしていた。そして本棚から本が落下する寸前、何とか手を伸ばしてそれを受け止める。押した方の少女も同じように本を受け止めたので落下したのは数冊ですんだ。本棚に激突した方の少女は何が起こったのか分からなかったらしく、きょとんとしている。だが、徐々に状況を理解してくるにつれて、顔色が変わってくる。 「助けてくれてありが」「ダメだよ、本は大事にしないと。最近の頑丈なノートパソコンや電子ブックと違って、紙はすぐに破れたり傷んだりしちゃうんだよ!?」 少女が感謝の言葉を述べるより先に、神無は叫んでいた。本というものは人類の貴重な知恵や想像を詰め込んだ宝だ。だが、その宝である情報を保存している紙というものは案外、劣化しやすい。和紙や墨は酸性紙やらホッチキスやら劣化インクやらに比べれば幾分かましだが、それでも適切な環境で保存しなければ長くは持たない。なにより汚れが付着した場合、特殊な薬品でも使わないと簡単には取れない。 床に落ちた本をすばやく拾い上げ、神無は汚れの有無を確認する。この図書館にあるものは神無個人の所有物ではないが、公共のものとして今後も沢山の人間に知恵と想像力を与える使命を帯びている。どうしようもないほどのダメージを受けていたら大変だ。だが、神無が心配するような事態にはなっていなかった。ほっとしながら、神無はすべての本を棚に戻す。そこでやっと、唖然としてこちらを見ている二対の目に気づいた。 「本は大事に」 もう一度言うと、二人はすばやく首を縦に振った。思ったよりも素直な性格をしていたようだ。安心して神無は頷くと、さきほど読み終わった本を元の位置に返した。が、三巻がない。誰か借りているらしい。 「あ、二巻」 変な声が聞こえたので神無は振り向いた。そこには先ほどの二人の少女と、二人の間で押し付け合いになっていた――――神無が読みかけの小説シリーズの第三巻があった。 「へえ、それじゃあ三巻の争奪戦はますます複雑なことになっちゃったんですね」 ゆき子は楽しそうに身を乗り出した。乗り出し過ぎて紅茶をこぼしそうになり、慌ててカップを抑える。 「でも面白いですもんね、あれ。四巻くらいまでは」 「どんな本も二巻か三巻あたりが一番面白いんだよ。例外もあるけど」 「ああ、どこを読んでも面白くないやつね」「あるいは全部面白いやつ。でも、おねえちゃんそれは本当に少ないと思うな。シリーズが長くなれば、一冊二冊は全然面白くない巻もあるよ。うにー」 真っ赤なカシスティを嬉しそうにすすって、契は言った。 「でもこの昔話の肝はそこじゃないと思うんだ」 「だね。問題なのは冷ちゃんがそこで、本を落とした人の心配じゃなくて、本そのものの心配をしたほうだ」 「職業病だよ。つい希少価値のあるものに反応しちゃうの」 神無は古物商である。価値ある古いものを守り、治し、売買するのが仕事だ。 「当時はまだだたの学生だったはずでしょうが」 「溢れる才能がそういう行動を取らせちゃったんだよ。きっと」 するどいツッコミを神無は笑顔でやり過ごす。何にも打ち破れぬ笑顔はある種の武器だ。 「それで、その後どうなったんだっけ?」 「私です」 にこにこ笑いながらゆき子は口を開いた。 図書館にやってきたゆき子は、料理の本を見た後、奥の物語の棚を目指していた。世界最高峰・最大級の学校なだけあって、紙の本には困らない。今ではほとんど読まれないような類の書籍までが、データベースではなく活字の形で残っている。 「この学校入ってよかったです」 最高の教育環境、最高の教師陣、最高の生徒たち――――学ぶ努力と学園が求める水準の才能さえあるならば、ここは最高の環境だろう。学ぼうとする意志とそれに見合う能力があるならば、どこまでもそれを伸ばしていける。それに好奇心を刺激するもので溢れている。 鼻歌でも歌いそうなほど機嫌よく本棚の森を歩いていたゆき子は、ある棚のところを曲がった瞬間、奇妙な光景に出くわした。 「…………」 目的の本棚の前で、三人もの人間が顔を突き合わせている。この学園に生徒は多いが、紙の本を――しかもマイナーなジャンルの旧時代の小説を読みたがる人間は少ない。こんな場所に三人も人間がいるのをゆき子は初めて見た。 「…………こんにちは」 だからといって無視するわけにはいかない。なぜならその三人は目的の棚の前で立ち話をしていたのだから。ゆき子が声をかけると、三人は驚いたように顔を上げて会釈をした。その脇を通りぬけて、ゆき子は本棚に手を伸ばした。知人からの口コミで聞いた小説を探し手に取る。シリーズの二巻と三巻はなかったが、幸いにも一巻は残っていた。ほっとしてそれを手にした瞬間、 「今度は一巻」「なんかこれが流行るようなきっかけあったっけ?」 振り返るとその三人組が、シリーズの二巻と三巻を握りしめていた。 「それでその場でミステリ談義に花が咲いて、仲よしになったんでしたね」 「この学園にしては珍しいほのぼのした出会いだ」 うんうんと繍は頷いた。ちなみにこの後ここに篭森珠月が加わり、予科生時代の仲よしグループの一つを形成することになる。さらにいうとこの図書館通いで、契は後に保証人になってもらう序列503位峨家下神楽(がけした かぐら)とも知り合いになる。人生、どこにどんな縁が落ちているか分からない。 「みんな、何であの小説読んでたの?」 「繍ちゃんこそ」 ふうと繍はため息をついた。 「気分で西暦1990年代から2000年代にかけての日本文学を調べていた時に行き当たったんだよ。あの時代は日本って国が平和だったせいか、サブカルチャーが盛んだった時代でかなり文化史的に面白い」 「流石は学者……」 神無は頬杖をついて繍を見上げた。 「私はあれ。あの頃の空想小説全般が割と好きなの。あり得ない展開ばかりのくせに、微妙に現代社会とリンクしててさ」 「おねえちゃんは、作家同士の繋がりで新ジャンルをどんどん開拓してる途中で出会ったのですよ。古い小説なのに妙に斬新なところがあって、あれは大好きですよ」 「私は古い映画のフィルムを色々見る機会がありまして、その時にその小説の映画版を見たんです。それで原作はどうなのかなと思って」 「つまり」「偶然」「だね」 全員がお茶に口をつけた。一瞬だけ沈黙が訪れる。 「……天文学的数値であれ、確率として存在するならばそれは奇跡ではない」 「へえ、誰の言葉ですか?」 ゆき子の声に、発言者の神無は小首をかしげる。 「さあ、誰だったかな。思い出せないから、私の言葉ってことにしておいて」 「さりげなくいい根性してるよね、おねえちゃんは」 契は軽く息を吐きだした。そして心地よい紅茶の香りを鼻孔いっぱいに吸い込む。 「いいブレンド……」 「今度また、ゆき子ちゃんの店か篭森ちゃんの家でお茶会しようね」 「久しぶりにあの小説の映画版をみんなで見るのも楽しそうですねぇ。当時にしてはかなり綺麗な映像で――――」「それならお泊りで映画鑑賞会をしようよ。都合のつく日にさ」 話題は思い出話から今後の予定へと移り変わっていく。 本が結んだ縁はまだ解けていない。 おわり
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/8983.html
imageプラグインエラー 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。 2002年10月放送開始。 http //www.aniplex.co.jp/spiral/ 監督 金子伸吾 原作 城平京、水野英多 シリーズ構成 高橋ナツコ キャラクターデザイン・総作画監督 中山由美 プロップデザイン 白井順 美術監督 廣瀬義憲 色彩設計 箕輪綾美 編集 関一彦 アフレコ演出 井上和彦 音響演出 はたしょうじ 音楽 見岳章 アニメーション制作 J.C.STAFF 脚本 高橋ナツコ 北条千夏 田中哲生 堺三保 小出克彦 絵コンテ 金子伸吾 政木伸一 奥田誠治 道理保 葛谷直行 江島泰男 阿部雅司 中島弘明 京田知己 水島精二 福田道生 大河原晴男 演出 木宮茂 浅見松雄 三宅雄一郎 道理保 山内東生雄 江島泰男 葛谷直行 阿部雅司 太田博光 大久保唯男 福本潔 三条実美 政木伸一 大宅光子 まつもとよしひさ 新田義方 金子伸吾 作画監督 中山由美 桜井木の実 秦野好紹 井嶋けい子 寺澤伸介 武内啓 清水博明 金鍾学 青井清年 大河原晴男 しまだひであき 木下勇喜 篁馨 吉田隆彦 原田峰文 ■関連タイトル スパイラル~推理の絆~ DVD-BOX 完全生産限定版 スパイラル~推理の絆~ サウンドトラック 小説 スパイラル‐推理の絆―ソードマスターの犯罪 CDブックスパイラル~推理の絆~ もうパズルなんて解かない スパイラル完全解説本 LIFE IS SPIRAL 水野英多画集 SPIRAL 水野英多画集2 SPIRAL ALL ALONG フィギュア・ホビー:スパイラル ~推理の絆~ 原作コミック 城平京・水野英多/スパイラル―推理の絆 1巻