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彼女の匂い 作詞/一(にのまえ) 貴方は私から いつも1メートル離れて歩く ショッピングの時も 私の隣を離れて歩く ごめんね 私はワキガなの ごめんね 足が臭くてごめんね それでも私を好きと言ってくれる 貴方を私は 愛しています 夏の時とか 本当にごめんね 私臭くて ごめんね 貴方はそんな事関係ないって 言ってくれるけど 私はそんな貴方の優しさに 助けられています でもね 貴方は私から いつも1メートル離れて歩く 映画の時も 私の隣に座ってくれない ごめんね 私はワキガなの ごめんね 足が臭くてごめんね それでも私を好きと言ってくれる 貴方を私は 愛しています 音源 彼女の匂い(カラオケ) 彼女の匂い(仮歌)
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神聖アムステラ帝国軍中尉『ガミジン』 軍に籍を置く者、アムステラと敵対する者、はたまた民間人の間に名を轟かす男。 圧倒的な戦果を誇る、帝国軍きってのエース中のエースである。 しかし、それはあくまでも前線での彼の話。 軍上層部としては、彼は軍規違反に命令違反を繰り返す問題児でしかなく、 彼の上官となったがために胃を痛め、精神を病んだ者も多い。 最早これのせいで彼の戦果もプラスマイナスゼロなのではないか、と言う声すらあがっているほどであった。 「……というわけだ。君には、秘書官として彼をサポートしつつ、出来る限り彼の行動を抑止するよう務めてもらいたい」 そしてついに、帝国軍遊撃部隊所属、ステラ・アージェント少尉へと命令が下された。 仮にも士官学校を卒業した者…… それどころか帝国軍でもかなりの技量を持つ特務部隊隊長への任務としては、どうにも奇妙な話であったが、 生半可な能力の者では、そもそも彼についていくことすらできないのだ。 故に、あらゆる仕事をやってのけると評判の彼女が抜擢されたというわけである。 「せめて始末書程度は提出するように教えてやってくれ」 「ハッ。必ずやご期待に応えてみせます」 期待半分程度に彼女を送り出した将官。 例え中尉本人が何も変わらなくとも、 軍務もこなす彼女が秘書官としてつけば、彼の行く先の指揮官がストレスで破壊されることは無いだろう。 ……そう、将官は思っていた。 思っていたのだが……。 「……それで、3日でもう耐えられないというのかね。君は……」 3日後、同じ部屋で将官は少尉と顔を会わせていた。 3日。いくらガミジン中尉が破天荒でも、氷の精神を持つと評判の彼女ならばせめて1ヶ月はとの予測を裏切り、3日。 所詮彼女も人間だったのか、それとも中尉がそこまでどうしようもなかったのか。 「まさか、これほどとは……」 呻く将官。自分の見通しの甘さを情けなく思いつつ、彼女の受けた仕打ちに同情する。 しかし、それでも3日というのは納得がいかず、問うてみた。 「たった3日でそこまで辛い事があったとも思えんのだが……。 そこまで、彼の秘書官の仕事は辛かったか?」 「……そういうわけではありません」 返ってきたのは否定の言葉。意外に思い、質問を続ける。 「ならば、彼の任務自体についていく事が出来ないということか?」 「……それもありません」 よほどのエースでなければ十分ありえると考えたが、これも違うようだ。 「では何故だね? 何か直接的な理由があるのか?」 「それは……」 どうやら、当たりを引いたようだ。 「理由を教えてもらおうか。このままでは君は、不当に任務を放棄することとなる」 「……いえ……それは……」 何故か口ごもる少尉。 まさか、他人に話せないことなのか……? 「なんなら、相談してみなさい。私が力になろう」 妙に発言がセクハラ臭くなる将官。 その言葉に救いを見出したのか、少尉が美貌に涙を浮かべながら呟く。 「だって」 溢れ出す涙を止めもせずに、彼女は言った。 「だってあの人……」 冷静な彼女とは思えぬ、まるで子供のような言動。 『まさか、それほどまでの仕打ちを?』 思わず身構える将官。 少尉の口から出た言葉は―― 「だってあの人、私がネットで注文した限定プリン、全部食べちゃったんですよ! 3日間楽しみにしてたのに!!ひどいです!!!」 「そんな理由か貴様ァァァァァァァッッッッ!!!!」 その日、アムステラ軍ブラックリストに「ステラ・アージェント少尉」の名前が刻まれたのであった。 完
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彼と彼女の事情 ◆.WX8NmkbZ6 雪代縁は一人荒野に立っていた。 全身傷だらけだが、足はしっかりと地面を踏み締めてその体を支えている。 「……」 無言のまま足元の刀のような形状をした銃と、一目で業物と分かる日本刀を拾い上げた。 日本刀を鞘から抜いて振って感触を確かめる。 逆刃刀よりは扱い易い。 そちらを一度地面に置くと、今度は銃を何発か試し撃ちする。 十メートルほど離れた場所にある小石を狙うと過たず命中し、その精度の高さに驚いた。 縁は中国マフィアの頭であり、西欧諸国の兵器も取り扱っている――だがそれと比較しても、次元が違う。 「なるほど……」 一人納得して思考する。 戦闘が終わってから縁は体を休め、これまでに起きた事を思い起こしていた。 そして考えが纏まった結果ここに立っていたのだが、こうして新たに加わった情報も交えて整理する。 V.V.が主催する殺し合い。 遠隔操作型の首輪によって参加者を管理する高度な技術。 際限なく物を出し入れ出来る鞄。 高い機動力を見せた四輪駆動の車。 勝手に対象を束縛する縄。 記憶を流し込む能力。 奇妙な格好に変身する為の支給品。 高い命中精度の銃。 一つ二つなら「少し進んだ技術」「催眠術」と切り捨てられたかも知れない。 だがこうも重なれば、どれも夢物語のようだ。 それでも縁は目撃したものを一つ一つ吟味し、これが現実なのだと再認識する。 つまりこれは姉にとっても想定外の不足の事態だったのだ。 「……殺す」 人誅を目前に控えた時期の縁をこの場に連行し、人誅を阻んだ存在。 その為に緋村剣心は命を落とし、縁は彼を地獄の底へ叩き落とす事が出来なくなった。 縁の十五年を否定するような真似をした者を、生かしておく理由はない。 口ぶりから考えれば他の参加者を皆殺しにする事で再会出来るようだ。 言葉の真偽は定かでないが、別の手段を考えるのはそれで会えなかった時でいいだろう。 差し当っては鞄を手に入れる必要がある。 日本刀二本と銃があれば得物は充分だが、持ち運ぶには少々かさ張る。 ついでに食料が入っていれば尚望ましい。 他の参加者から奪う事を念頭に置きながら、縁は道路沿いに東へ向かった。 ゆっくりとした移動で体力を徐々に回復させ、その上で市街地にいるであろう参加者に接触する為だ。 途中で後方から爆発音が聞こえ、戦闘が起きている事に気付いた。 ここで場に乱入して参加者減らしに掛かるのも良いが、長い目で見れば今は休息と移動に努めるべき。 付近で殺し合っている者達を他所に、縁は足を止めずに後回しにしていた案件について考え始める。 ――願いを叶えてあげるよ。 夢物語のような数々の技術。 縁の常識では測れないようなその力があれば、不可能と思えるような願いも叶うかも知れない。 そう――例えば死者蘇生のような。 雪代巴と緋村抜刀斎を生き返らせる。 緋村抜刀斎に改めて人誅を下し、姉との幸せな生活を今度こそ取り戻す。 そんな、文字通り夢でしかなかった幻想も……? 降って湧いた希望に、縁は子供のような笑みを浮かべた。 「……」 けれどそこで縁は表情を消す。 思い出すのは先程垣間見た景色――目の前に横たわる花嫁の姿。 ▽ 杉下右京は車を走らせながら周囲に目を光らせていた。 隣の助手席に座るのは高崎みなみ。 後ろの荷台にいるのは合流を果たしたばかりの城戸真司と翠星石――右京以外は全員眠っている。 まだ若い彼らに対し、殺し合いという環境はただそこにあるだけで体力を奪っていく。 真司と翠星石に至っては強力にして凶悪なシャドームーンと戦い、仲間を一人失ったばかりだ。 右京と協力して見張りをしていたみなみも、深夜に殺し合いに放り込まれた為に睡眠が足りていなかったらしい。 警察署に向かい、Lや光太郎と合流する。 またそれまでの道中で他の参加者と接触し、可能ならそちらとも警察署まで同行する。 それが右京の受け持った役割だ。 殺し合いを止める為ならば、何日でも寝ずにいる程度の覚悟はある。 亀山薫の分まで戦わなければならないのだから。 やがて遠くにホテルの姿が見えてきた頃、正面に一台のバイクが見えた。 黒いテンガロンハットとタキシードの男が運転手らしい。 胸元を見ると肌色の腕が絡んでいる――どうやら後ろにもう一人乗せているようだ。 右京は車を止めて降り、道に立ち塞がるようにして立った。 「そこのお二方――」 泉新一という少年とミギーというパラサイトの命が潰えて間もない今、右京は最大限に警戒していた。 銃を構えながらバイクの男に声を掛けるが、バイクは速度を緩めない。 まさか殺し合いに乗っている? 他の参加者を問答無用で挽こうとしている? 右京は警戒を強め、声を大きくする。 「止まりなさい!!」 バイクは速度を緩めずにグングンと右京との距離を縮めた。 もしもの時の為に引き金に指を掛ける右京の緊張が一層高まる。 そして二人乗りのバイクは、右京の横を通り過ぎて行った。 「…………は?」 放心する右京の耳に、後方から女性の声が響く。 「おいヴァン、他の参加者を無視するとはどういう事だ!」 「北に行くんじゃないのか?」 「参加者がいて、しかも声を掛けられているんだぞ!? レナの時から成長していないのかお前は!!」 右京がバイクの方へ振り返ると、バイクはブレーキを掛けて停止していた。 後ろに乗っている女が運転手の男の背をポカスカと叩いている。 どうやら今の通過は右京を無視をしようとして無視したというより、二人の間で意志疎通が上手く行っていなかった故に起きたようだ。 「もしもし」 改めて声を掛けると、緑髪の女がギッと右京の方に顔を向けた。 その特徴的な姿は、最初の会場でルルーシュと名乗った少年と会話していた女性と相違ない。 虫の居所は悪そうだが、殺し合いに乗っているようには見えなかった。 「僕は警視庁特命係、杉下右京と申します」 ▽ 砂浜に転がって数十分、傷の再生を済ませたC.C.は動き出した。 傷付いて動けなくなったヴァンに肩を貸してやり、遠くに望んだホテルを目指す。 こんな所で寝ていて襲われたのでは笑い話にもならない。 到着し、襲撃される可能性を考慮してロビーからかなり離れた部屋を占拠。 最初にした事はヴァンの傷の手当て。 それからC.C.は塩水でドロドロになった衣服を脱いでシャワーを浴びた。 殺し合いの最中にする事ではないが、不死たるC.C.の優先順位としては間違っていない。 濡れた髪、玉のような雫が浮いた少女らしい細く白い肢体をそのままに、クローゼットに備え付けられたバスローブを纏う。 海水に浸かった服にも洗面所で洗い、その後ドライヤーを使って強引に乾かした。 本来ならばこのような事はC.C.本人がやらずに他人を行使するのだが、ヴァンにこういった事は期待出来ないのだ。 乾いた服を着てシャワールームからベッドルームに戻ると、ヴァンは二つあるベッドのうちの一つを占領して寝転がっている。 「私はピザを食べるが、お前はどうだ?」 「あ゛ー」 だらけた態度と同じくだらけた返事がある。 先の戦闘での鬼気迫る様にはC.C.も気圧されたものだが、見間違いだったかと疑いたくなるところだ。 C.C.はそんなヴァンの様子を余所にピザをテーブルに置いた。 辺りに広がるチーズの香りに気を良くしていると、彼も匂いにつられたように起き上がる。 横着な態度に閉口してピザを引っ込める事も考えたが、戦闘に際してだけは活躍出来るだけに無碍には扱えない。 「ほら」と、嫌々ながら彼に箱ごとピザを差し出した。 C.C.は切り分けられたピザを一つ取り、垂れそうになるチーズを落とさないように口に運ぶ。 歯を立てて生地を千切り、伸びるチーズを引っ張りながら咀嚼する。 「……」 支給されたピザは無制限にデイパックから出て来る。 味見は既に済んでおり、味はどれも同じはずだ。 しかし、その味がほとんど感じられなかった。 C.C.は溜め息を吐いて一口だけかじったピザを置く。 「……こんなに不味いピザは初めてだよ」 本当にここから脱出出来るのかと、不安や心配はある。 一時行動を共にしていた竜宮レナについても気掛かりだ。 しっかり者の彼女なら上手くやっているとは思うが海を渡る手段はなく、連絡も取れない。 だがそれ以上に、こうして安全地帯に留まってゆっくり休息を取っていると思い出してしまう。 ――ルルーシュ・ランペルージ。 最初の放送で呼ばれた共犯者の名。 (……悪い女だ、私は) 今更めいた事を考え、自嘲する。 C.C.は多くを知っていた。 ルルーシュは母であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの死の真相を暴く事を目的としていたが、C.C.は初めから知っていた。 それどころか、未だ死んでいない事さえ知っていた。 度々苦悩するルルーシュを見ていながら、C.C.は黙し、口にする事はなかった。 (お前を殺したのは、私なのかも知れないな) 何もかも全て最初に教えていれば、ルルーシュの辿る道は別の物になっていただろう。 そうなれば――彼がこの場に呼ばれる事はなかったかも知れない。 或いはこの場に呼ばれても死ななかったかも知れない。 全ては可能性に過ぎないが、C.C.は一際大きく溜め息を吐くのだった。 「だったらよ」 そこへ、ヴァンが突然口を開いた。 C.C.は何の事かと一瞬狼狽えるが、「ピザが不味い」という言葉を受けてのものだと思い当たった。 彼の両手には見覚えのある、毒々しいまでに色とりどりの調味料。 「ば、馬鹿よせ!!」 食欲がさほどなかったC.C.はピザを一枚しか出していなかった。 箱から切って直接取る形で、一枚を二人で分けようとしていたのだ。 それが今、災いする。 ヴァンは二人分のピザ全体に容赦なく調味料をぶちまけた。 衝撃的な映像を目にしながらC.C.は頭を抱える。 この一枚は責任をもってヴァンに処理させて、新たにもう一枚ピザを出すべきだろうか。 しかし元々薄かった食欲は、彼が創り出したカラフルなピザのせいで一層衰えている。 もう食事は諦めようかと思った時、彼は言う。 「食えよ。今回だけ特別だからな」 人のピザの上で勝手に惨劇を起こしておきながら、どの口で。 悪態を吐こうとするが、ヴァンはグイとC.C.の方へピザを一切れ差し出して来た。 いつの間に用意したのか彼の手にはフォークがあり、それをピザに突き立ててC.C.へ向けているのだ。 今更ながら品性を疑わざるを得ない。 こうしている間にもそこから調味料の余剰分がボタボタとテーブルに落ち、惨状を悪化させる。 C.C.は目前に広がる光景に嫌気がさした。 「一口だけ食ってやる……有り難く思うんだな」 そうしてC.C.はヴァンのフォークから乱暴にピザを取り、マーブル模様のそれを口にした。 「……辛い……」 マスタードとタバスコが鼻に抜けて涙が出そうになる。 しかし同時にC.C.は驚愕の事実に気付いた。 「旨い……だと……」 「だろ。ったく、どいつもこいつも食う前から文句ばっか言いやがって」 ぶっきらぼうに言いながら、ヴァンも箱から取ったピザを口に運ぶ。 「辛ぁぁぁぁぁぁあああああああああい!!!!!!」 「……馬鹿だ」 もう一口、C.C.は調味料に染まったピザを齧る。 「……しかし、確かにいける」 C.C.の味覚は目玉焼きにマンゴーソースを掛けて食べる程度に、ヴァンのそれといい勝負をしているのだ。 何より、多分。 「……おいヴァン、やはり辛すぎるぞ。 水を持って来い」 「ミルクはないのか?」 「ない。いいからとっとと水を二人分持って来い!」 今の心境には、辛過ぎるぐらいが丁度いい。 テーブルの上の惨状はそのまま。 ヴァンと共に一つずつベッドを独占して寝転がりながら、いびきをかく彼を余所にC.C.は物思いに耽る。 思い巡らすのはこの殺し合いとV.V.に関しての事だ。 まず考えるのは、この会場に集められた者達の人選について。 C.C.が元から知っていた面々に加えてヴァン、レナ、ミハエルと東條、白髪の男、シャドームーン、蒼嶋、千草。 (……濃いな) 身体能力か、精神力か、特殊能力か、或いはそれら全てか。 誰も彼も、普通の人間から大なり小なり逸脱していると言っていい。 アトランダムに選んだとしては明らかに不自然で、何らかの意図があってのものだろう。 また不死であり殺し『合う』事が出来ないC.C.をわざわざ殺し合いの場に連れて来ている時点でおかしい。 V.V.の目的は殺し合いそのものではない。 そもそもV.V.は人々が殺し合うのを見て喜ぶような快楽主義者ではない。 恐らく殺し合いは手段であり、目的は別にある。 心当たりがあるとすれば『ラグナレクの接続』。 C.C.も一時は関わっていた計画。 二つのコードを用いて集合無意識に働き掛け、生死を問わず全ての人間の意識を統合するというものだ。 V.V.とその弟のシャルル・ジ・ブリタニアはC.C.が嚮団から離脱した後も、恐らく諦めていない。 シャドームーンのような嚮団の手にも余りかねない者まで集めたこの殺し合いは、随分手が掛かっている。 そう考えればこの殺し合いは『神殺しの計画』に関わっていると考えた方が自然だ。 しかしどう関わるのはという所まで踏み込むと、これはV.V.に直接聞かなければ分からない。 敢えて仮定するなら、と考えたところでC.C.の背筋に悪寒が走る。 C.C.はそこで思考を停止させた。 時計をチラと見、放送が近付いているのに気付いてC.C.は立ち上がる。 バスローブを脱ぎ捨てて元の服に着替え、ヴァンと自分のデイパックを整理しながら彼に声を掛ける。 「行くぞヴァン。 お前もこんな殺し合いはさっさと終わらせて、やる事があるんだろう?」 そう言うとヴァンは気だるそうにしながらも素直に起き上がった。 だらけた男だが、本来の目的に対しては並々ならぬ執着があるらしい。 ヴァンと共に部屋を出、移動手段を求めて駐車場を検分する。 そして見付かったのが、バイク――バトルホッパーだった。 ヴンヴンヴン、と音を立てながらライトを明滅させる様は、ヴァンとC.C.に何かを訴え掛けているようにも見えた。 その様子に、C.C.は念の為確認を取る。 「ヴァン、こいつが何か言っているように見えるか?」 「車が喋るわけないだろ」 「お前の言葉にしては正論だ」 ヴンヴンヴン、とエンジン音を立てながら、首を振るようにヘッドを左右に動かすバトルホッパー。 勝手に動いた事にヴァンとC.C.は驚きを見せるも、気のせいという事で片付けた。 他者とのコミュニケーション能力に著しく問題のあるこの二人に、バトルホッパーの必死の訴えが通じるはずはなく。 バトルホッパーはそのまま普通のバイクとして扱われたのだった。 「北か南。どちらに向かう?」 レナ達と合流したいところだったが、今は海を渡る手段がない――よって進路は二択だ。 レナは南の小病院付近で蒼嶋達と出会ったと言っていた。 それまでに誰とも出会わなかった、つまり南には他に参加者がいないのだ。 順当に考えれば北上すべきだろうが、懸念すべきはシャドームーンの動向。 南北どちらに向かっていてもおかしくはない。 まずはシャドームーンから逃げるように動くべきか、シャドームーンを倒すべく動くべきかを考える必要がある。 C.C.とて殺し合いの打破を目論んではいるものの、わざわざその為にあの化物ともう一度戦闘をする程の義理堅さはない。 かと言ってC.C.自身には確固たる目的はなく、結局ヴァン次第という事になる。 なるのだが。 「めんどくせぇ」 ヴァンはシャドームーンの相手をするのが面倒なのではなく、そもそもどちらに向かうべきか考えるのが面倒なのだ。 そんな彼の取った行動に、C.C.は目を見張る。 「倒れた方に行く。いいな?」 「……正気なのか?」 どこからか拾って来た木の枝を地面に突き立て、C.C.の目を見据えるヴァン。 この男は手を離して、枝が倒れた方向によってこれからの進路を決めようとしている。 もしルルーシュならああでもないこうでもないと考察を並べ立て、あらゆる可能性を吟味してから行動している場面だ。 それなのに小枝に判断を委ねる――ここでの選択が生死を分けるかも知れないというのに、偶然に頼る。 C.C.の想定の斜め上を行く発想だった。 もしホテルを指したらホテルに戻って寝直すつもりか? やりかねない。 「やるぞ」 「……もう好きにしてくれ」 C.C.が投げやりに言い、それを受けてヴァンが枝から手を離す。 倒れた方角は、北だった。 不本意ながらも進路が決まり、二人は移動を始める。 C.C.がバイクの後ろに乗ってヴァンの腰に手を回すと彼は無言のまま発進させた。 眼鏡を掛けた初老の男とすれ違うのは、それから程なくしての事だった。 ▽ 「コード保持者のC.C.さんと、無職のヴァンさん……申し訳ありませんが、これだけでは良く分かりませんねぇ」 「……まぁ、そうだろうな」 C.C.とヴァンが名乗ると、右京は詳細名簿の存在を明かした。 一方的に情報を知られているのはC.C.としては不快だったが、詳細と言っても大した情報は入っていないらしい。 現にこうして『コード』の説明はなく、ヴァンに至ってはこれでは何も分からない。 V.V.は参加者に喧嘩を売っているらしいと、今更ながらに呆れざるを得なかった。 しかしC.C.には、完全に信用した訳ではない相手にギアスやコードの説明をする義務はない。 よって一先ずは元いた環境について触れる事にした。 レナやヴァンとの話から考えれば、それはこの殺し合いの根底にも関わる問題だからだ。 レナがいた世界は昭和58年――西暦1983年。 西暦と皇歴が一致するとすれば、C.C.がいた皇歴2018年の世界よりも三十年以上過去の世界である。 そして右京の時代は、レナの時代とC.C.の時代の中頃だという。 これだけならそれぞれが異なる時間から呼び出されたのかと考えるところだが、彼らの常識の中にブリタニアという国はない。 参加者それぞれが異なる世界から連れて来られたのだという右京の意見は、やはり正しいのだろう。 常識から考えれば「周囲の人間が全員嘘を吐いているか脳に異常を来している」と結論付けるべきだが、相手はV.V.だ。 常識で計るべきではない。 放心したように明後日の方向を見ていたヴァンにも無理矢理説明させると、右京も自身の考えに改めて納得したようだった。 しかし一つ得心したというだけで、右京は追求をやめない。 「あなた方の世界については分かりましたが、よろしければ『コード』についても教えて戴けますか? 僕の想像では最初の会場でルルーシュ少年が見せた、あの奇妙な仕草に関係があるものだと思うのですが」 C.C.は内心で舌打ちする。 あの場でルルーシュは自身の名乗りを上げてギアスを発動させようとした。 更にそれを諫めようとしたC.C.まで、参加者全員に顔を見られてしまった。 わざわざC.C.の職業欄に書かれた『コード』を、ギアスと結び付けられても文句は言えない。 むしろ文句を言うべき相手はルルーシュの方だろう。 それでもC.C.が躊躇っていると、意外な事にヴァンが口を開いた。 「話せよ。何か、あの……何だ、ギアスとか」 「おい、ヴァン!」 「そのおっさん、頭いいんだろ。 だったらあのガキの考えだって分かるかも知れねぇ」 「……」 ヴァンにとっては、元の世界に戻ってやるべき事をやる、それ以外の関心事は基本的にない。 楽に帰還出来るならそれに越した事はなく、C.C.が周囲に積極的に情報開示をした方がいいと考えているのだろう。 「……仕方ないな。今度はお前もちゃんと聞いておけ」 レナにしたのと同様の説明を右京にも行う。 不死性について信じ難いと言う右京の前でC.C.は掌を切り、再生する様を見せてやると信じさせる事が出来た。 互いに真剣ではあるが、敵意はなく警戒心も薄い場で話し合いは進む。 しかしC.C.がギアスについて話し終えた後、その空気が変わった。 切っ掛けは、右京が放った一言だった。 ▽ 「私は殺人という行為を決して許しません。 ……私だけでなく、どうか皆さんにもこの決意をして頂きたいのです」 情報交換を終えた右京は真司達にも告げた事を、C.C.とヴァンにも説く。 しかしC.C.はキョトンとした表情を浮かべ、それまで話を聞いている様子すら薄かったヴァンの目付きが鋭くなった。 「私は殺し合いを止め、V.V.を逮捕します。 その為に――」 「知った事か」 切り捨てるようにヴァンが右京の言葉を遮った。 どこかボンヤリとした印象のあった彼がこうして強い感情を見せた事に、右京は僅かに戸惑う。 「あんたの理屈は分かった、だが俺は俺の理屈を通す」 「それは……殺し合いをするという事ですか?」 「違う。だが俺は俺が殺したいと思った奴は殺すし、それを邪魔する奴も殺す。 あんたに指図される筋合いはない」 それだけ言うとヴァンは右京に背を向けた。 これ以上話を聞く気はないという意思表示だろう。 それでも右京が話を続けようとすると、今度はC.C.がそれを止めた。 「やめておけ、そいつは話を聞かないぞ」 「ですが――」 「ついでに私からも言わせてもらう」 有無を言わせないC.C.と向かい合う。 少女のような容姿でありながら相手を深く見透かすような視線は、不死たる者の証明のように思えた。 「『そもそも住む世界が違う』……お前も分かっている事だろう。 ヴァンも私も、V.V.もだ」 エリア11――強国ブリタニアに占領され、尊厳を奪われ、テロリストが日々国を取り戻す為に活動している。 エンドレスイリュージョン――ほとんど雨の降らない乾いた厳しい土地で、無法者達が闊歩する。 生きてきた世界が違えば価値観も違う。 同じ世界の者同士ですら、完全に分かり合うのは難しい。 「その通りですが、人の命の価値と尊厳は普遍です」 しかし価値観の違いは右京とて承知していた事で、その上で理解を求めていたのだ。 故に右京は揺るがない――そしてC.C.もまた引かなかった。 「それはお前がゴミのように殺されていく人々を見た事がないから言えるんだ。 国に、社会に、法律に守られているのが当たり前の世界なんだろう? ……まぁ、理想としては正しいが」 C.C.の声に怒りはない。 むしろ憐れみさえ含んでいるように聞こえた。 「お前は正しいよ右京。 どんなに多くの世界があっても殺人を推奨する世界はそうそうないだろう。 好き好んで人を殺す人間は少数派だ」 淡々とした調子のまま、C.C.は溜息を吐いてから続ける。 「だが、お前はこの殺し合いを掻き回す事は出来ても止める事は出来ない」 その言葉は人外の存在であるミギーによる忠告と重なり、右京は静かに息を飲んだ。 「……それは、何故ですか」 「お前にとっての正義は私達にとっての正義ではないし、参加者全員でその考えを共有するのは無理だ。 その上でお前の平和な国の常識や法律を、この会場全体に当て嵌めようと考えているなら。 お前が自分で自分にとっての常識や法律に従うだけでなく、それを他人にまで強制するなら――」 C.C.はそこで一度言葉を切った。 射抜くような視線に、数々の危険をくぐり抜けてきた右京ですら背筋に冷たいものが伝う。 シャドームーンとはまた別の威圧感を伴って、その一言は紡がれる。 「お前は、傲慢だ」 人の何倍も生き、誰よりも傲慢である事を許されたC.C.が端的に示したその一言は強く、重かった。 荒野の中を自分の力だけで生き抜いて来た男。 彼は右京の正義を否定しなかった。 あんたの理屈は分かった、と。 数百年、人の生き死にや戦争を見届けて来た存在。 彼女も右京の正義を否定しなかった。 お前は正しい、と。 だが彼らは共感せず、感化されず、右京の正義を拒んだ。 「行こうヴァン。これ以上の話は無駄だ」 C.C.は背を向けていたヴァンの手を引き、駐車していたバイクの方へ促す。 右京は彼らに言いたい事が幾らでもあったのだが、ここまでの話し合いで顕著だったように彼らは人の話を聞かない。 その上で「話は無駄」と断言した以上、もう右京の声に耳を傾ける事はないだろう。 「本当によろしいので? 北にはシャドームーンが――」 「俺は北に行くんだよ」 思った通り取り付く島もない返事があった。 俺の理屈を通すという、その言葉の通りの姿だった。 言いたい事を言いたいだけ言い、相手に反論させずにさっさと立ち去る。 その態度は彼ららしいと言えば彼ららしい。 バイクは走り出し、彼らは一度も右京の方を振り返る事なく景色の中に溶けていった。 ――君の正義はいつか暴走する、そして周りの人間たちを滅ぼすだろう。 C.C.の言葉の奥にあるものは、ミギーに言われた事と同じだ。 右京の思考は危険であり、周囲を振り回すのだと。 それでも、万人に同じ考えを共有させる事がどんなに困難だろうと右京は考えを曲げない。 ここで曲がる正義なら、ここに至るまでのどこかで既に曲がっていただろう。 しかし車の方へ振り返った事で、右京の思考は一旦途切れる事になる。 みなみ、真司、翠星石が眠る車――しかしみなみだけが目を覚ましていた。 そしてその手は荷台で眠る真司のデイパックへ伸びている。 「みなみさん!!!」 右京の声に、みなみはビクリと肩を震わせて手を引っ込めた。 目的は恐らく真司のカードデッキ。 彼女は力を求めている。 「わ、私、私は、……」 人の物を盗もうとした。 その事実にみなみ自身が動揺しているようで、彼女は顔を両手で覆って嗚咽を漏らす。 「落ち着いて下さい、みなみさん……」 シャドームーンと真司の激しい戦いの空気に当てられたのだろう。 それに真司のその力がデッキによるものであると、みなみは知ってしまっている。 真司だけの特別な力ではない、誰でも手にする事が出来る力――それは恐らく彼女が最も欲しているもの。 右京は短い時間であれ彼女から目を離した事を反省し、警戒をより強くした。 亀山を失った悲しみは、未だ右京の中にある。 この喪失はそうそう埋められそうにない。 それはみなみもきっと同じはずだ。 そして右京には正義という喪失の悲しみよりも優先すべきものがあるが、みなみにはない。 だからこそみなみにも理解して欲しいと思う。 人を殺す事は罪なのだと、どんな悲しみがあろうと許されない事なのだと。 ――お前は傲慢だ、右京。 例え独り善がりの正義だとしても、構わない。 ――お前は殺し合いを掻き回す事は出来ても止める事は出来ない。 玲子もシャナも止められなかった。 シャドームーンへの恐怖も未だ消せずにいる。 ヴァンもC.C.も説得出来なかった。 それでも殺し合いを止め、犯罪者を法によって裁くという決意は鈍らない。 それぞれの価値観が異なろうと、弱者が虐げられていい理由にはならないのだから。 命の尊厳と信じた正義の為に、右京は道をひた走る。 【一日目昼/H-2 道】 【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】 [装備]真紅のステッキ@ローゼンメイデン、真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン [支給品]支給品一式(朝食分を消費)、確認済支給品(0~1) [状態]疲労(大) [思考・行動] 0:睡眠中。 1:殺し合いから脱出。 2:蒼星石、クーガー、かなみと合流する。 3:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。 4:水銀燈を含む危険人物を警戒。 [備考] ※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。 ※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】 [装備]無し [所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)、確認済み支給品(1~4) 、劉鳳の不明支給品(1~3) [状態]気絶中、ダメージ(大)、疲労(極大) [思考・行動] 0:気絶中。 1:右京の言葉に強い共感。 2:やっぱり戦いを止めたい。 3:劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感。 4:翠星石のことは守り抜きたい。 5:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。 ※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。 【杉下右京@相棒(実写)】 [装備]君島の車@スクライド [支給品]支給品一式×2(水と食事を一つずつ消費)、S&W M10(6/6)、S&W M10の弾薬(24/24)@バトル・ロワイアル、ゼロの剣@コードギアス、 首輪(魅音)、拡声器@現実、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、傷薬×1@真・女神転生if... [状態]疲労(小)、強い決意 [思考・行動] 0:誰も殺さない、誰も殺させない。 1:協力者を集めてこの殺し合いを止め、V.V.を逮捕する。 2:亀山を殺害した人間とシャナ、玲子を逮捕する。 3:みなみに注意しながら同行する。 4:仲間を集い、参加者を警察署へ集める。 5:シャドームーンに対する恐怖。 ※ギアスやコードについて一定の理解を得ました。 【岩崎みなみ@らき☆すた(漫画)】 [装備]無し [支給品]支給品一式 [状態]健康、深い悲しみ、動揺 [思考・行動] 1:右京や翠星石たちと共に行動。 2:ゆたかとみゆきの仇を取りたい、その為の力が欲しい。 3:Lに対する強い嫉妬。 4:他の知り合いが心配。 5:カズマと光太郎にもう一度会いたい。 6:V.V.の言葉も頭の片隅に留めておく。 [全体の備考] ※翠星石・新一・真司で情報交換を行ったため、三者は互いの事情についてある程度は理解しました。 ※真司、翠星石の二人は浅倉威、水銀燈、後藤、田村玲子、シャナ、和服の青年(宗次郎)、メイド服の女(咲世子)を危険人物と認識しています。 ▽ 右京と別れて数分。 バイクの後部で風を切りながら、そろそろ放送だろうかとC.C.は時計を見やる。 しかし同時に嫌な想像をして額に冷や汗を浮かべた。 『異なる世界』。 右京と話す前から分かっていた事だが、それがこの殺し合いの根幹に関わっている。 ただ参加者を集めて記憶を操作する程度ならともかく、そこまで行けば嚮団の技術から逸脱する。 V.V.の近くにいる、それこそ『異なる世界』からの協力者の存在を考えた方がいいだろう。 殺し合いに繋がっているであろう『ラグナレクの接続』。 そこに『異なる世界』との関係性を見るとしたら、それは―― 「おいあんた」 ヴァンが呼ぶと、後ろに座っている緑髪の女の方からハッと息を飲むような気配があった。 続いたのは普段通りのつっけんどんな切り返しだ。 「……まだ覚えていないのか? 私はC.C.だ」 「すみません。 それであんた、」 「おい、いい加減にしろ!」 緑髪の女はヴァンの受け答えが気に入らなかったようで苛立ちを噴出させたが、ヴァンは構わずに続けた。 「俺は……このくだらねぇ殺し合いの間だけだがよ。 あんたの護衛を、続けてやってもいい」 ヴァンは、一人では出来ない事があると知っている。 一人でカギ爪の男を追っていた頃はともかく、ウェンディを初めとした人々との出会いを経た今は分かっている。 仲間の重要性を理解している。 V.V.と知り合いだとか、不死身と自称するだけあって傷の治りが早いとか、そういった利点だけではなく。 ヴァンが一人で突っ走るだけでは解決しない問題もあるのだと、理屈ではなく感覚で気付いていた。 唐突と言えば唐突なヴァンの申し出に、暫く緑髪の女の反応はなかった。 バイクを運転するヴァンからはその表情は見えない。 「……似合わないな、おまえがそんな事を言うのは」 「あぁ?」 「褒めてやってるんだ」 ヴァンの抗議の声にも動じず、緑髪の女は続けた。 「大体さっきもピザを食べたんだ、これからも護衛を続けるのは当然の労働であり義務だろう? 今更繰り返す事じゃないぞ」 「……へいへい」 多少不満はあったものの、ヴァンは「まぁいいか」と意識を正面の景色の中に移す。 思い出すのは先程垣間見た景色――白い粉が舞い散る場所で惨殺される女の姿。 ▽ 縁に見えたのはほんの一瞬。 絨毯に広がる血痕、逆光の中の仇の姿。 それは縁の記憶ではなく、恐らく先程出会った黒い帽子の男のものだ。 それは、縁が最愛の人を奪われた光景ととても良く似ていた。 「……ふん」 だからと言って、縁の進む道は変わらない。 ただ珍しく姉に関係のない事で感傷的になった、それだけの事だった。 姉は、いつでも縁の傍にいる。 だが返事をしないし、未だ微笑みも戻らない。 縁は知っている。 姉はもういないのだと、目の前にいる姉は幻影に過ぎないのだと。 だから――死者蘇生が夢物語だと言うのなら、それでも構わない。 けれどせめて、一目だけでも。 一瞬触れるだけでもいい。 幻ではない、あの優しかった姉ともう一度だけ会いたい。 それが叶うなら、縁は他人だろうと自分だろうと全てを犠牲にする覚悟がある。 「何で死んじゃったんだよ……」 僅かに見えた光明。 それでも十五年前の喪失の悲しみは、癒える事はなかった。 ヴァンに見えたのはほんの一瞬。 白い粉と共に飛び散る血、赤い髪の仇の姿。 それはヴァンの記憶ではなく、恐らく先程出会った白髪の男のものだ。 それは、ヴァンが最愛の人を奪われた光景ととても良く似ていた。 「……けっ」 だからと言って、ヴァンの進む道は変わらない。 ただ珍しくエレナに関係のない事で感傷的になった、それだけの事だった。 エレナは死んだ。 人は死ぬし、生き返らない。 エンドレスイリュージョンという過酷な環境で生きて来たヴァンは理解している。 エレナと、二度と会う事はないのだと。 だから――会えない事は、嘆かない。 けれどたった一つ譲れないのは、仇であるカギ爪の男を殺す事だ。 許しはしないし、逃がしはしない、忘れはしない、無かった事にもさせない。 エレナを奪われたヴァンは、彼女の死だけは誰にも奪わせない。 それが叶うなら、ヴァンは他の何をも捨てる覚悟がある。 「……待ってろよ」 「何か言ったか?」 「別に、何も」 暗闇の中であろうと、構わない。 光が無くともと自分の手足で、ヴァンは望みを果たす。 【一日目昼/G-1 道】 【ヴァン@ガン×ソード】 [装備]:薄刃乃太刀@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-、バトルホッパー@仮面ライダーBLACK [所持品]:支給品一式、調味料一式@ガン×ソード、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎 [状態]:疲労(中)、右肩に銃創、右上腕部に刀傷、各部に裂傷、全身打撲 [思考・行動] 0:カギ爪の男に復讐を果たすためさっさと脱出する。 1:レイが気にならない事もない。 2:緑髪の女(C.C.)の護衛をする。 2:北に行く。 [備考] ※ヴァンはまだC.C.、竜宮レナの名前を覚えていません。 【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ R2】 [装備]:無し [所持品]:支給品一式×4、エアドロップ×2@ヴィオラートのアトリエ、ピザ@コードギアス 反逆のルルーシュ R2、ファサリナの三節棍@ガン×ソード、 カギ爪@ガン×ソード、レイ・ラングレンの中の予備弾倉(60/60)@ガン×ソード、確認済み支給品(0~2) [状態]:疲労(中) [思考・行動] 1:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない。 2:レナ達と合流したい。 3:後藤、シャドームーン、縁は警戒する。 4:北へ向かう。 [備考] ※不死でなくなっていることに気付いていませんが、回復が遅い事に違和感を覚えています。 ※右京と情報交換をしました。 【F-2 道】 【雪代縁@るろうに剣心】 [装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心 [所持品]:レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、菊一文字則宗@るろうに剣心 [状態]:左肩に刺し傷、両拳に軽症、全身打撲、各部に裂傷、疲労(中) [思考・行動] 1:参加者を皆殺しにし、可能なら姉と抜刀斎を生き返らせる。 2:デイパックを手に入れる。 [備考] ※殺し合いを認識しました。 ※『緋村剣心』以外の死者の名前、及び禁止エリアの放送を聞き逃しました。 【バトルホッパー@仮面ライダーBLACK】 ゴルゴムが世紀王専用マシンとして開発した自我を持つメカ生命体。光太郎の愛車。 世紀王の命令以外は一切聞かないが、このロワ内では自己判断で他の参加者を乗せているらしい。 また世紀王の呼び寄せには応じない。 ▽ 殺人を否定する者。 殺人を肯定する者。 それぞれの思惑に関わらず、放送の時は訪れる。 嘲笑うように。 蔑むように。 哀れむように。 子供のような姿と声の、老獪な主催者による放送が流れる―― 時系列順で読む Back 二心同体(後編) Next 第二回放送 投下順で読む Back 二心同体(後編) Next 第二回放送 120 二心同体(後編) 城戸真司 131 DEAD END(前編) 翠星石 岩崎みなみ 杉下右京 104 Calling ヴァン 128 Blood teller C.C. 雪代縁 136 急転直下
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ゆかちゃんは、時間が止まったみたいに固まってる。 「…うそ」 「こんな時に嘘ついてどうするん」 「だっ、だってゆかの事好きな風に見えんかった…!」 「見せんかっただけよ」 あたしは困ったように笑ってみせた。 …引っ越してから、後悔ばかりしてたから。 しばらくは忘れられなくて、彼女に似てる人と付き合った事もあったから。 ずっと後悔してたんだ。 「……なんだ。ゆか達、両想いだったんじゃね…」 今度は彼女が困ったように笑った。 そして、あたしはまた後悔した。 …どうして、あの時言えなかったんだろう、と。 きゅう、と胸の奥が苦しくなって、唇を結んだ。 なんだか後悔ばかり浮かぶ。 「…ゆか、あ〜ちゃんに会わなきゃ良かったのかな」 彼女も同じように、後悔してるのかもしれない。 「そうかもしれんね…。あ〜ちゃんも、家庭教師断っとけば良かったのかも…」 「……なんか、何してるんだろう…ゆか」 「…」 ゆらゆらと揺れる胸の奥。 彼女を抱いてから、それはもっと速さを増してあたしを蝕む。 「でも…」 優しく風が頬を掠めた。 彼女の声が、綺麗に風に乗る。 「あ〜ちゃんに抱かれた事に、後悔はしてない」 真っ直ぐ目を見つめられる。 綺麗な黒目がちな瞳に、心が揺れた。 …ああ、お願いだからそんな目で見ないで。 「…のっちには、内緒にしてて」 あたしはもう、後に戻れなくなるから。 「え…」 「のっちに知られたら困るじゃろ?…だったら、内緒にしてて」 いや、もう戻れないかもしれない。 胸の奥のゆらゆらが、更に激しくなった。 「あ〜ちゃん…」 「もし知られたら、あ〜ちゃんのせいにしていいから……ね?」 …彼女の体だけでも、あたしのものにしたい。 カナカナカナ…と、ひぐらしの鳴く声。 うだるような暑さのアスファルトも今は身を潜め、じんわりとした暑さの残る空気だけが体に纏わり付いている。 「はぁ…」 …何してるん? あたし、ゆかちゃんに何言ったんよ。 —もう一人の自分が問い掛ける。 こんな事したって、何も残らんくせに。 二人を壊すだけなのに、何で? 冷静にあたしを叱るあたし。 …とうとう、暑さでやられたようだ。 そう…だ。 これは夏のせい。 この気温のせい。 …あたしは…もう…。 「はぁ……あつい…」 狂ってる。 続-
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職場の後輩がいるんですが、 先週末に飲みに行きました。 そしたら、その子の彼氏の話になって。 なんでも彼氏が最近、包茎の手術をしたそうです。 将来的にも結婚も考えていて、それでずっとコンプレックスだった包茎を治そうということで 包茎の手術をしたということでした。 そういうの詳しくないので、話を聞いたら、 それなりのお金がかかるみたい。あとクリニック選びが結構たいへんだったみたい。 ネットや人づてに話を聞いて、見つけたそうですよ。 こういうサイトとかチェックしたといってました。 →包茎 仙台 信頼度の高い包茎手術クリニックはここ
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346:黒井 2012/05/11(金) 01 21 21.64 ID zJCyHfJbO [浮気性や遊び人の彼を一途にする術] [用意するもの] ラベンダー適量 聖母マリアのメダイまたは聖母マリア絵ののカード 細幅の赤いリボン 赤い絹の布 彼の服から抜いた糸一本 安全ピン [術のかけ方] 1.彼の身長と同じ長さに赤いリボンを切る。リボンの幅は メダイなら五ミリ、カードなら1センチ位 2.そのリボンでメダイ(カード)を右回りにグルグルと隙間なく巻いていく。 リボンの端は巻いたところにきっちり入れ込んでほどけないようにすること 3.メダイ、カードを包める大きさの赤い絹の布の上にリボンで巻いた物を置く。 4.その上に彼の服から抜いた糸を置いて、ラベンダーをひとつまみ振りかける。 5.赤い絹の布を折りたたんで包みを作る。折る角を自分の対面に置き、 自分の方に向けて折る。右回りにきっちり折って包む。 6.包みながら下記の呪文を唱える 「聖母マリアの汚れなき御心よ。○○(彼の名前)を守りたまえ。今も臨終のときも、我らの為に祈りたまえ」 7.包み終わったら中身がこぼれないように中心をきっちり安全ピンでとめる。 これを彼の部屋のベッドか、布団のなかに仕込む。小さく作って彼の鞄に忍ばせるのも効果的。 349:本当にあった怖い名無し 2012/05/11(金) 12 22 51.82 ID OZMFpMmKi 遠距離(※海外)で彼の服の糸はなかなか手に入りません… 352:黒井 2012/05/11(金) 21 19 12.87 ID zJCyHfJbO 魔術に必要なものは、強い動機、知識、術に対する情熱(本気でかける)です。 強い動機(彼を失いたくない)と情熱があれば、 今日明日でなくても彼に会いに行くことや、 例えば「この前着ていたシャツ借りたいんだけど」などと言って送ってもらい、 メダイは「お守りだよ」と言って彼に送ることも出来ると思いますが。 ちなみに上記のメダイの術は一応隠しておくものですが、 相手に魔術だと知られなければ見られたりしても大丈夫です。 360:黒井 2012/05/13(日) 00 10 26.41 ID YHtsjnZzO 黒井ならイギリス行っちゃってそこで術しますね。
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カード番号:B03-15 U カード名 :花開院秀元 サブタイトル:君が…彼の孫やね? コスト 2 百鬼夜行ポイント 3 キャラクタータイプ 式神 所属:花開院家 LV.1 6500/3 「花開院ゆら」があなたのキャラクターカードゾーンにない場合、このカードを捨場に置く。 LV.3 6500/3 あなたのキャラクターカードゾーンにある「花開院ゆら」の戦闘力+2000。 ゆらがいないと捨場行きだが、LV1で6500/3で百鬼夜行ポイント持ちは強力。 式神であることも便利。 また、私のクラスメートやもんと相性がよい。
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もしその時の彼女に普段の冷静さの半分でもあったなら、周囲を取り巻く状況の 不自然さに疑いをもつこともできただろう。落ち着いて考えてみれば、どの噂にしたって 根拠もなにもなく、ずさんなことばかりである。そもそも、なぜこれほど急にそんな 噂が流れ、大衆に浸透していくのか。あの証人、それに王のあまりの短絡ぶりにしても、 平静の彼女なら、そこに何かしら周到なものを感じ取ることができただろう。悪意に まみれた陰謀の影を。 けれど、絶えず聞かされる耳を塞ぎたくなるよう中傷に、離ればなれの恋人に想い焦が れるローザの心は弱りきっていた。そうして、ふとしたときにほんの少しだけでも セシルを疑ってしまっている自分に気づき、ひどい自己嫌悪に苛まれる。慌てて彼の 無実を自分に言い聞かせる、それを嘲るようにまた周囲から聞こえてくる歪曲した事実。 それらから目を背け、ひとりむせび泣いた。何度も,何度も。徐々に彼女の心は疑心に 蝕まれ、擦り減り、憔悴していった。 そして、彼女はそれを受け入れてしまったのだ。 「赤い翼のセシルに見限られるようなら、この国も終わりよ!!」 尋問をする兵士に向かってローザは吐き捨てるように叫んだ。そして、言葉と一緒に 彼女は生への未練をも捨てさった。 当然ローザは死刑を覚悟していたのだが、魔導士としての能力と人望を買われていた ためか、無期限の謹慎処分という形で罰を与えられた。とはいえ、謹慎とは建前で塔への 幽閉というのがその実体であった。だがそんなことはもう、どうでもよかった。むしろ 今の彼女には、生半可な生を与えられたことが苦痛ですらあった。監禁されたローザは 一日中、部屋の隅に踞り、ひとつだけの窓からぼんやりと空を見つめるばかりだった。 そうして、夢うつつにセシルやカインとのあたたかい思い出に浸り、目覚めとともにまた 現実に引き戻されては、ひどく泣いた。日に一度だけあてがわれる粗末な食事すら口に せず、彼女はみるみるうちにやせ細っていった。彼女が二度と目覚めない夢の中に落ちる のは時間の問題であり、また彼女自身もそれを待ち望んでいた。 だが、そんなある日のこと。
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人を見た目で判断するなとはよく言ったものだが、天津の観点からしたらそれは当て嵌まらない。 ビジネスの世界において、仕事ができる人間は身だしなみにも気を遣う。 見た目に無頓着でも実はとんでもなく優秀、そういった輩はフィクションの世界だけ。 服装を整え清潔感を大事にしない人間が与えられた仕事をこなせるものか。 少し前までは人格面で大いに問題があれど、ZAIAエンタープライズの日本支部代表を務めただけの能力は本物。 ビジネスマンが相手から信用を得るには、見た目の第一印象も重要であると天津は自負する。 尤も見た目云々が当て嵌まらないのが今の状況。 ゲームと称された、悪趣味を通り越して残酷非道な催し。 殺し合いにおいては外見のみで相手のスタンスを決めつけられない。 空条承太郎が良い例だ。 彼は外見こそガラの悪い不良といった風貌だが、その実熱い正義感を内に秘めた信頼の置ける少年。 美醜感覚でこいつは安全、あいつは危険と判断するのはナンセンス。 言葉を交わし、相手の本質を見極めねばならない。 現在、天津の目の前には二人の参加者がいる。 片方は少女。 桜色の髪を結び、どこかの学校指定制服を着た彼女は地に足を着けていない。 同行者であるもう一人に抱き上げられ縮こまっていた。 何故そのうような状態かを考えるより早く、天津の意識を掻っ攫うのはもう一人の存在。 時代錯誤な着物を身に纏った男はしかし、服装などよりもっと目を引く特徴があった。 顔、である。 額と顎に焼き付いた、火炎にも似た痣。 何よりも人間では有り得ぬ、三対六つの眼。 未だ日が昇らぬ夜闇の中であっても鮮明に浮かび上がる、おぞましい鮮血の色。 「何者ですか?」 見た目のみで判断すべきでないと理解してはいるものの、全身の強張りは抑えられない。 レイダーとは違う異形を前に、天津の内から湧き出るは本能的な恐怖。 人類滅亡を掲げたアークと対峙した時にも似た、根本的に人ならざる存在を目にしたが故の反応。 体を苛む痛みは健在、疲労は容赦なく体力を削り取る。 されど戦意までは奪わせない。 己を共に戦う仲間と受け入れてくれた少年が傍にいる。 彼の命を守れるのが自分しかいないなら、サウザーの力の使い道はただ一つ。 必要とあれば即座にプログライズキーを叩き込む準備は出来ていた。 「待ってください!」 一触即発の空気を壊す声。 警戒されている、そちらがその気ならば容赦はしない。 殺伐とした相手の視線を受け止めた上で、こちらに戦闘の意思は無いと伝えるべくいろはは動く。 自分は元より、共にいる彼もまた誰彼見境なく傷付ける意図は無い。 白い衣服の男とて、警戒こそしてはいてもいきなり攻撃はしてこなかった。 ならば言葉で警戒を解く余地は十分にある、戦闘で互いを傷付け合う必要はないのである。 粉砕された床の上に足を着け、天津の鋭い視線に真っ向から向き合う。 「わたし達に殺し合いをする気はありません。だから…!?」 ぐらりと崩れる体勢。 体中が異様に重く、両脚もふらふらと力が入らない。 引き摺られたかのように体が倒れ込む。 戦闘を、それも一筋縄ではいかない強敵との激戦を終えたばかりの身。 傷は全て塞がってはいても、短時間で霧散する程度の疲労には非ず。 だからここまで他者の手で運ばれたというのに。 床との距離が急速に近付く。 あわや横転し強打、数秒後に訪れるだろう未来。 「あっ……」 痛みが降り掛かる未来は変えられた。 ぽすりと、倒れ込んだ先に床の硬さは皆無。 伸ばされた腕の中に抱き止められ、見上げれば彼と目が合う。 『壱』『上弦』の瞳がいろはを射抜く、またしても彼に助けられたと瞬時に理解。 「あ、ありがとうございます。まだふらふらしちゃって…」 「……」 「でも、もう大丈夫ですから」 何をしているのかと、視線だけで呆れを伝える。 数時間程度の付き合いだがそれでも分かった事が一つ。 「お前が……それを口に出す時は……大概万全とは言い難い……」 「そ、そんなことはない、と思いますよ…?」 短い時間ですっかり見慣れてしまった、困ったような笑い顔。 図星を突かれた部分もあると自覚しているのか、恥ずかし気に目が泳ぐ。 黒死牟の記憶に刻まれたどの笑みとも違うソレに、何かを思うより早く男の声が鼓膜へ届いた。 「んんっ…。良ろしいですか?」 わざとらしく咳払いし二人の意識を強引に向けさせる。 放って置いたら長々と会話を続けそうで、流石に控えてもらいたい。 ハッと慌てる少女とは対照的に、男は変わらぬ仏頂面。 纏う人外故の威圧感も健在。 しかし最初に姿を捉えた時よりは、幾分近寄りがたい雰囲気は霧散したようにも感じられる。 少女の影響だとすると、見方も大分変ってくるというもの。 「確認させてもらいたい。先ほど言った殺し合いをする気は無いとの発言。それは君と隣の彼、共通だと受け散って構わないかな?」 「は、はい。あの黎斗っていう人の言う通りにする気はありません」 迷い無く言い切るいろはだが黒死牟は無言。 勝手にこちらの方針を決めるなと思いつつ、まともな方針一つ決められていないのは紛れも無い事実。 屠り合いに賛同はしていないが、理由に正義感やら暑苦しいものは含まれない。 ただどうするばいいか分からないから。 主の為に殺すには無気力で、弟と会ったところで何をすべきかの答えを出せない。 馬鹿正直に己の胸中を口には出さず沈黙を貫く。 「…成程」 いろははともかく、黒死牟はまだ信用し切れない部分がある。 だが少なくとも軍服の男のような敵意は感じず、いろはへ悪意を向ける様子も今のところ見られない。 一先ずは様子見で良いと判断を下し、サウザンドライバーを仕舞う。 「申し訳ないが自己紹介は後回しにさせてもらう。今は彼の治療が先決だ」 本来ならば腰を落ち着け情報交換を行いたいところである。 が、重症の承太郎を放置してそれは出来ない。 気を失っただけで息はあっても、適切な処置を施さなければ状態は悪化するのみ。 幸い自分達がいるのは病院、必要な道具には困らない。 「あっ!それならわたしが…」 傷だらけで倒れる承太郎にいろはも気付いたのだろう。 顔色を変えて黒死牟の腕の中から抜け出し、よたよたと近付く。 デイパックに救急箱でも入っているのかという天津の予想は、次の瞬間覆された。 「なっ…」 赤いチェックのスカートも黒のハイソックスも瞬く間に消失。 素肌へぴったりと貼りつくシースルー、グローブと編み上げサイハイブーツ。 何より特徴的な純白のフードを被り、いろはにとっての『変身』が完了。 天津の知る仮面ライダーの変身とは明らかに別物。 呆気に取られる彼を尻目に膝を付き、承太郎へと両手を向ける。 淡い光に照らされる中、全身に刻まれた傷が見る見るうちに塞がっていくではないか。 「これは……」 ライダーシステムとは違う、天津の知識には存在しない未知の能力。 このような力を行使する少女は何者なのか。 承太郎が見せた奇妙な人形を操る力と関係はあるのか。 檀黎斗は一体どれだけ、自分の知らない力の持ち主を参加させたのか。 尽きぬ疑問を解消したい欲求に駆られはすれど、承太郎の回復を喜ぼうとし、 「そこまでにしておけ……」 治療行為へ待ったを掛ける声が一つ。 「黒死牟さん…?」 中断を命じる彼へ振り向き、つい魔法の発動も止める。 どうして急に止めたのだろう。 幾らか治ったと言っても傷はまだ複数残っているのに。 こういう時こそ回復魔法を使える自分の出番ではないのか。 困惑と疑問が混じり合ったいろはの視線、傍では天津もまた訝し気な顔を作る。 「お前が誰を治療しようと勝手だが……己の状態も見極めずに力を行使し……自らの首を絞める醜態を晒す気か……?」 淡々と告げられた内容に、天津もいろはの様子へやっと気付いた。 フードの下、頬には汗が流れ息が上がっているようにも見える。 そうだ、深く考えずとも分かる事ではないか。 病院内で顔を合わせた時点で、いろはは同行者に抱きかかえられるくらいには疲弊していただろう。 体力消耗が激しいままで能力を使い、ただでさえ疲れ切った身に追い打ちが掛かるのは当前だ。 「で、でもまだ大丈夫ですし…!」 「問題無いと口にするなら……力の核の穢れにも……少しは気を払え……」 指摘に胸元を見ると、煌めく真紅に若干の濁り。 魔力を消費した証、ソウルジェムに穢れが溜まった。 黒死牟は魔法少女の詳細な情報を知らない、しかし曲がりなりにもいろはの戦闘をすぐ隣で見たのだ。 原理は不明なれどいろはが何らかの力を行使する度に、胸元の宝石が黒く染まる。 そう気付くのに時間は掛からない。 ソウルジェムの穢れには注意すること。 やちよにも口を酸っぱくして言われており、バツの悪さを感じる。 傍から見ていた天津も、無制限に使える力では無いと察した。 「詳しい事情は分からないが無理をするは必要ない。君まで倒れてしまったら元も子もないだろう?」 「それは…その…」 「承太郎君も大分顔色は良くなったんだ。後はこちらで手当てして寝かせておこう」 「…すみません」 完治まではいかないが天津の言う通り、先程よりも顔色は悪くない。 二人の大人から正論を言われては、いろはも引き下がるしかない。 頷き一歩下がると、天津が承太郎の肩に腕を回して運んで行く。 手頃な病室のベッドに寝かせ、そこで包帯を巻くなど処置を行う。 変身を解き後に続こうとしまたもやふらついたいろはだが、目の位置がふっと変わる。 三度目となるこの目線と自分の体勢。 見上げた先の六眼はいろはへ視線を落とさず、進行方向に目をやるのみ。 「あ、あの!えっと…」 大丈夫だと口にするには流石に疲れが大きい。 ふらつきながら亀の歩みで進むより、彼に運ばれた方が手っ取り早い。 分かってはいるのだが抱っこされるのは三回目だ。 今更ながら異性にこうも密着されている体勢に、何となく動揺してしまう。 それを伝えた所で、黙っていろと言わんばかりに睨まれるのだろうけれど。 「ありがとうございます」 だけどこれは伝えておきたい。 こうして運んでくれることも、自分の無茶を諫めてくれたことも。 礼を口にしたら一瞬、本当に一瞬だけ動きを止めた。 けれどそんなのは気のせいだったんじゃないかという程に、あっという間に再び彼は歩き出す。 じっと六眼を見つめても、今何を考えているかまでは分からなかった。 ○ 一仕事終え軽く体を解す。 美容には相当気を遣っており、永遠の24歳を自称するだけの若々しい外見。 しかし実年齢45歳ともなれば体力的にも色々と辛さが目立つ時期。 年は取りたくないものだとの愚痴は内心のみに留めておく。 清潔なシーツが敷かれたベッドが四つある部屋。 元は入院患者用の病室にて承太郎の手当てを終え、天津は一息ついた。 いろはのお陰で当初予想していたよりも、処置する箇所は大幅に減ったのは有難い。 後はこのまま安静にさせ、目覚めるのを待つだけ。 何にしても仲間が死の危機を回避できたのは嬉しい事だ。 振り返り、別のベッドに腰掛ける少女へ礼を告げる。 「環君のお陰で大分良くなったよ、ありがとう」 「い、いえそんな!」 頭を下げられ慌てた様子を見せる。 もう少し素直に受け取っても良いとは思うが、その謙虚さは人として悪いものではない。 チラと、入口付近に佇む男へ視線をズラす。 幽鬼を思わせる不気味さで壁に寄り掛かる黒死牟は、案の定沈黙を貫いたまま。 どう接するべきかは天津にも判断し兼ねる相手。 「あの、天津さん達に何があったか聞いてもいいですか?」 承太郎の手当てを優先した為、まだ軽く自己紹介しかしていない。 いろは達が病院内に入る前に戦闘があったとは、外からの様子で知っている。 だが具体的にどのような相手と戦ったかは不明。 一段落着いたこのタイミングなら聞いても問題はない筈だ。 天津としても聞きたい事はあったので、情報交換に反対はしない。 「そうだな…まずは彼らとの出会いから説明しておこう」 黎斗が大々的に存在をアピールし、複数の死者を出した放送の後。 承太郎と一海に出会い、互いに殺し合いの打破を目的にしていると確認。 直後に起こったNPCの怪人との戦闘、各個撃破した三人はここ聖都大学附属病院にて合流。 情報交換を行う中、襲撃して来た参加者との死闘を繰り広げた。 襲撃者は名乗らず、というより一言も発さ無かったので名前は分からない。 しかし天津が言う男の特徴にはいろはと黒死牟も覚えがある。 ゲーム開始直後にいろはを襲った軍服の参加者だ。 「あの男の人がここにも…」 「奴を仕留めたのか…?お前達が……」 「いや、残念ながら確実に倒したとは言い切れない。それに、一人が犠牲となった」 二体のライダーと共に軍服の男を蹴り飛ばしたのは天津。 必殺の威力を籠めた蹴りこそ命中したが、男の異様な生命力を考えればまだ生きていても不思議はない。 黒死牟は軍服の男との一度交戦しているが、あの程度は男の本領には程遠かったということか。 斬り落とした左腕も完治していたらしく、鬼にも引けを取らない再生能力も持つ。 そのような化け物を三人掛かりな上に死者を出したとはいえ、撃退にまで追い込むとは。 肉体の完成度は鬼狩りに及ばずとも、柱並の力を発揮できる道具や能力を保持しているらしい。 一方でいろはは一海という男性が殺されたのに悔やむ。 もう少し早くに病院へ到着していたら、その人を死なせずに済んだかもしれないのに。 所詮はたらればの話、言った所で無意味と理解しても気持ちは沈んでしまう。 「後は病院に君達が現れて、知っての通りだ。今度はそちらの経緯を聞いても?」 「あ、はい。えっと、実はわたしも天津さん達が戦った男の人に襲われて…」 黎斗の放送が始まる前、本田なる少年が殺された惨劇の直後。 いろはもまた軍服の男に襲われ、あわや呆気なく命を散らすとなった絶体絶命のタイミングで黒死牟が介入。 放送後も行動を共にし病院に到着した時、二人も天津達同様に殺し合いの賛同者と戦った。 真紅の騎士を思わせる怪人。 直接の面識はない天津にも怪人の特徴は知っている。 承太郎と一海が放送前に戦った相手だ。 「ふむ…その怪人を君達が倒したと?」 「屍を己が目で見るまで……断定する気はない……」 真紅の騎士を遥か彼方へ斬り飛ばしたのは黒死牟だが、本人はあれで仕留められたとは思っていない。 アレは人間とは違う、自分の剣であっても切り裂くのに少々梃子摺るくらいには硬い。 自分の目で死体を見るか、確実に頸を落とすまでは生きていると考えるべきだろう。 戦闘を終えた後どうなったかは言うまでもない。 ここまでの経緯はどちらも知れた。 或人と滅、やちよ達魔法少女といった仲間の情報が無かったのは残念であるが。 「もう少し聞きたいことはあるが…承太郎君が起きてからで良いだろう」 傷を治したいろはの力、明らかに人間ではない黒死牟の正体。 そして承太郎が出現させた拳闘士のような人形。 それらに関しても説明は欲しいし、いろは達にもこちらの持つ黎斗の情報を明かしておきたい。 とはいえ承太郎は眠りに落ちたまま、先の戦闘での消耗を考えれば無理やり起こすよりは自然に起きるのを待つ方が良い。 加えていろはも疲労が大きい、なら承太郎が目覚めてから改めて話し合おう。 「君達も今は休むといい。私はロビーに残した荷物を回収してから、もう少し病院内を調べておく」 「はい、ありがとうございます」 礼儀正しいいろはに対して、もう片方は無言のままに視線を寄越すだけ。 少し前の自分なら嫌味の二つや三つはぶつけただろうなと苦笑いし、天津は病室を後にした。 「ふぅ…」 廊下を歩く足音が遠ざかり、いろははため息を吐く。 話をしている最中は顔に出さないよう気を付けたが、正直横になりたいくらいには疲れている。 休んで良いと気を遣ってもらい申し訳ない半面、有難くもあった。 (ドッペルを出したからかな…) 神浜市で無いのに、更に言うとエンブリオ・イヴはもう存在しないのに。 ドッペルが使えた理由は不明。 奇妙なのはドッペルの制御が一時的に出来なくなった事もだ。 水名神社の時や、いろはが望む世界を創りやちよと黒江を巻き込んだ時のように、ドッペルの暴走を許してしまった。 黎斗に細工でもされたのだろうか。 もっと深く考える必要があるのだろうけれど、今は頭がしゃんと働かない。 いろはの様子を察したのか否か、黒死牟も背を向け入口の取っ手を掴む。 「黒死牟さん?」 名前を呼んでも反応は無い。 素っ気無い態度は会ったばかりのやちよを思い起こす。 慣れていると言えば慣れているが、寂しいなと思わないでもない。 「あの、何処に…?」 行き先を尋ねる声に不安が宿る。 まさか、という嫌な予感がチクリと針のように刺す。 黒死牟は振り向かない。 背を向けたまま、長髪を僅かに揺らしボソリと言う。 「部屋一つに……群れる必要も無かろう……私は外を見張る……人の体は脆い……使い物になるようにしておけ……」 淡々とした、熱の籠らない言葉の羅列。 思いやりとか優しさとか、そういうのとは無縁。 「…はい!それじゃあお言葉に甘えて……」 それでもいろはには十分だった。 だって彼は、ここにいると言ってくれたから。 病院を出て一人でどこかに行くとは言わなかったから。 だからいろはには、それだけで嬉しかった。 扉が閉まり病室に残ったのは眠る少年と、今正に眠りに就こうとする少女。 靴を脱いでベッドに横になった途端に襲い来る睡魔の誘惑。 抵抗せず素直に誘いに乗り、夢の世界へと足を踏み入れる。 (皆は大丈夫かな……) やちよ達は今どこで何をしているのだろうか。 殺し合いを止めようとして、無茶し過ぎてないといいのだけれど。 なんて自分が言って良い台詞じゃ無いが。 灯花とねむは、あの時と同じ事を繰り返するつもりではないだろうか。 魔法少女を、いろはを救う為にと自分達だけで全ての罪を被る気でいるなら、止めなくてはいけない。 いろは自身も、ういだって決して望んではいないのだから。 (うい…約束破ってばっかりのダメなお姉ちゃんでごめんね…でも…今度は絶対…灯花ちゃんとねむちゃんを……) 音もなく瞼が閉じる。 聞こえてくるのはもう、小さな寝息だけだった。 ○ 病院に留まると決めたのに特別深い理由はない。 日の出がそう遠くない時間にほっつき歩き、万が一手遅れになっては笑い話にもならない。 ならこのまま日の当たらない屋内で身を潜めた方がマシと、そう思っただけのこと。 屠り合いに積極的でなくとも、自ら死を選ぶつもりは無し。 鬼の体質を考えたが故の、極めて当たり前の理由。 ただそれだけ。 他に理由などない、あるはずもない。 だからそう ――『黒死牟さんが一人でいなくなったら嫌ですし……』 あの娘の言葉など理由に入っていない。 環いろはの存在が自身の方針に影響を与えたなど、有り得ない。 病室から離れ、小奇麗な廊下を一人歩く。 大正時代ではお目にかかれない設備と内装も、黒死牟の興味・関心を引きはしない。 耳に残って木霊し続ける少女の声。 背を向けたままでも、いろはが先程どんな顔をしていたかは声色で分かった。 何が嬉しい。 何に安堵している。 何故お前は、そんな風に笑う。 何故、何故、何故。 馬鹿の一つ覚えのように繰り返される疑問。 そのような己の在り方もまた、理解とは程遠い位置にある。 アレは頭がおかしい娘である。 口から出るのは全て狂人の戯言に過ぎない。 やること為すこと、まともに考える必要は無い。 そう結論付ければ楽だ。 気狂いの餓鬼だからと思考を止めれば済む話だ。 なのに自分はそれをやらない。 主の為に剣を振るわず。 弟との再会には思考を割かず。 だというのにいろはの行動一つ、言動一つの度に何故と問いかけをぶつける。 小娘一人に思考を重ね続ける。 これは何だ、この有様は一体何だ。 まるで、まるでこれでは、 環いろはという娘を、理解したがっているようではないか。 「……」 低い唸り声が漏れ出す。 これが今の己だと言うのか。 人を捨て、侍の姿も捨て、その果てが小娘一人に振り回される腑抜けた軟弱者なのか。 己が酷く憎たらしい、余りの情けなさに悪態一つ出て来ない。 何よりこれでもまだ屠り合いに乗る気が微塵も起きなかった。 死者の蘇生すらも可能なら、願いを叶えると豪語するのは分かる。 強者との死合を経て勝ち残り、何者にも負けない力を得る。 考えてみれば悪い話では無いだろう。 相手が軍服の男や真紅の魔剣士のような者達ならば、相手にとって不足なし。 しかし勝ち残ったとして、願いを叶えてくれるのはあの男。 自らを神と名乗る不遜な人間。 勝利して力を得るとは即ち、あの男からの施しを受けるということ。 縁壱を傀儡へと変えた黎斗から、神の恵みと称して力を与えられるのに他ならない。 「……っ」 無意識の内に奥歯が噛み締められる。 湧き出したのは猛烈な不快感。 臓腑の底から煮え滾る怒り。 力を得る為に躊躇など自分には無かった筈だ。 鬼狩りに加わったのとて、高潔な精神が故の使命感ではない。 弟の持つ力を我が物にしたかったが為、どこまで行っても我欲を満たす為である。 己には時間が無いと知った時に現れた無惨は救世主に思えた。 組織を裏切り、当主の首を見返りに提供したのを恥にすら思わなかった。 何もかもが今更。 だが黎斗から力を与えられるのは、弟を傀儡にした男に首を垂れるのだけはどうしても受け入れられない。 そもそもの現実的な話として、自分が勝ち残れるのも土台無理な話だ。 たとえ傀儡と化していようと縁壱に勝機を見出せるとは思えない。 今の自分ならば勝てるなどという自惚れが、どうして抱けようか。 たかが柱三人と鬼喰い一人に討たれるような男が勝利を手にするなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。 それで勝てる程度の相手なら、縁壱がそんな力しか持たないなら。 継国巌勝は黒死牟にならなかっただろう。 「何の意味がある……」 嘗て、無限城にて塵と化した己は問い掛けた。 自分の生まれた意味を。 弟への問い掛けを、此度は誰に向けてか分からず問う。 自分がここにいる意味を、蘇生させた理由を。 何を期待して現世に引き戻した、何を為すと思って再び刀を握らせた。 答える者は現れず、己自身で答えを出すなど以ての外。 疑問だけは死体に群がる蛆のように湧いて出る癖に、解答には未だ一つも至らない。 存在理由は分からない、自分がすべき事も分からない。 だけど確かな事があるとすれば、彼は一人の少女を助けた。 数多の血を浴び命を喰らった鬼は、魔法少女の命を救った。 それだけは神であっても覆せない事実だった。 【D-6(島・聖都大学付属病院)/一日目/早朝】 【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】 [状態]:疲労(極大)、魔力消費(小)、睡眠中 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考・状況] 基本方針:殺し合いを止める。 0:…。 1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。 2:やちよさん達を探す。 3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。 4:軍服の男(大尉)、真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。 5:どうしてドッペルが使えたんだろう? [備考] ※参戦時期はファイナルシーズン終了後。 ※ドッペルは使用可能なようです。 【黒死牟@鬼滅の刃】 [状態]:精神的疲労、縁壱への形容し難い感情、黎斗への怒り、いろはへの…? [装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃 [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0~2 【思考・状況】 基本方針:分からない。 1:この娘は本当に何なのだろうか……。 2:もし縁壱と会ったら……? 3:無惨様もおられるようだが……。 [備考] ※参戦時期は死亡後。 ※無惨の呪いが切れていると考えています。 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:疲労(極大)、ダメージ(中・処置済み)、全身に斬傷(処置済み)、気絶 [装備]:スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド [道具]:基本支給品一式、クリボー@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武 [思考・状況] 基本方針:打倒主催者。どんなに敵が強くても必ず倒す 0:… 1:天津と行動。天津の過去に自分から言うべき事は特にない。 2:しばらくはこの病院に留まるべきか…それとも一海の仲間を探すべきか? 3:DIOを警戒、どうやって蘇ったのか、それとも時を超えてきたのかも知らないが必ず倒す。 4:仮面ライダーの力…大切にしなくちゃいけねぇようだ 5:悪党がもし仮面ライダーの力を悪用するならば変身前に時間停止で奪い返す 6:軍服の男(大尉)はあれで倒せたのか…? 7:この遊戯王カード、大して強くはないのか? [備考] ※参戦時期は第三部終了後。 ◆◆◆ 運が良いと言うべきだろうか。 病院内を一人歩く天津はふと思う。 軍服の男の襲撃はあったものの、直後に出会ったのは黎斗に反抗する者達。 加えていろはのお陰で承太郎の傷もマシになった。 自分一人での連戦も可能性として考えていただけに、現実の光景とならなかったのは運が良かったと言うのもあながち間違ってはいない。 「いや、どうなのだろうな…」 新たな協力者との出会いは歓迎するも、大手を振って喜ぶ気にはなれない。 もういない仲間、猿渡一海の死を思えば。 過ごした時間は非常に短い、しかし一海は天津の罪を知っても仲間として受け入れてくれた男だ。 人間もヒューマギアも利用か廃棄の二択でしか考えなかった頃には不要と断じた、今では何よりも得難いもの。 信頼の置ける仲間を失う痛みの治し方を天津は知らない。 今でも時たま考える。 どうして不破諫や滅亡迅雷.netのヒューマギア達が死に、自分は生きているのだろうと。 別に己の人生を悲観し自死を選びたくなったとかじゃない。 生きて償う道を投げ出したくなった訳でもない。 ただふとした時に頭をよぎるのだ。 夢を追いかけ奮闘する不破や、悪意の監視者として新たなスタートを切った滅達。 この先の未来にも必要だった彼らが死に、数多の悲劇を生み出した元凶の自分が生きている理由は何なのかを。 明確な答えは未だに出せない。 これから先に出せるかも不明なまま。 けれどもし、自分が生きてここにいる事に意味があるとすれば、それはきっと 「この馬鹿げたゲームを終わらせる為、か」 死者は帰って来ない。 生還しても自分いた世界で不破達とは二度と会えない。 ただそれでも、黎斗を倒し巻き込まれた人々の命を守れるのなら。 最後まで仮面ライダーだった不破や一海に報いる道だと、そう確信した。 「……む、いかんな」 考え事をしながら歩いていたせいだろう。 調べるつもりのルートを外れ、奥の方へと辿り着いてしまった。 院内は電灯で照らされているも、天津がいる通路は酷く薄暗い。 来た道を戻り、そろそろ自分の怪我の処置もしておきたい。 長居は無用と引き返そうとし、 おかしなものが目に入った。 薄暗い廊下よりも更に暗い、細い通路。 灯りが少ないこの場所では見落としかねない、奇妙な造り。 眉を顰め通路を進むと、奥にはポツンとエレベーターの扉。 何かおかしい。 スタッフ専用のエレベーターとて、こうも分かりにくい場所に設置するだろうか。 まるで一般の目からは遠ざけるような構造。 ボタンを押し中に入って分かったが、このエレベーターは地下にしかいけない。 何かある、むしろ何かなければ湿地の方が不自然だろう。 扉が閉まり、ほんの僅かな振動が天津の足元から伝わる。 やがて目的地へ到着、エレベーターを降り慎重に進む。 「ここは……」 扉の先にあったのは明るい空間。 床も壁も清潔感溢れる白。 部屋の中央に置かれたテーブルと椅子にこそ不審点は無い。 だがそれらを囲うように設置された複数の機材は、ここが単なる地下倉庫の類で無い事を知らせて来る。 モニターに表示された二文字のアルファベット、「CR」が何を意味するのか天津は知らない。 奇妙な空間で最も異彩を放つ存在があった。 ソレがどういったものかは天津とて知っている。 というか日本国民のほぼ全員が知っているだろう存在。 おかしいのは、ソレが病院の地下深くにあること。 ゴテゴテと彩られた箱状の物体。 硬貨を投入すれば誰でも遊べるゲームの筐体があった。 間違ってもこの場所はゲームセンターでなければ、ショッピングモールのゲームコーナーでもない。 設置場所を完全に間違えたとしか思えないソレに恐る恐る近付く。 見た感じ不審な点は見当たらなかった。 病院の地下に置いてある時点で十分と言っていい程不自然だが。 (奴は何を考えている…?) ゲーム制作に異常な情熱を注ぐ余り、ミスマッチな設置を行ったのか 首を傾げ、何となしに適当なボタンを押してみた。 硬貨も入れずに押したとて反応はない。 その筈だった。 『おっはよー永夢~!今朝は随分早いけど、やっぱりこの前遅刻して飛彩に絞られたのが効いて…って誰あなた!?』 「なっ……」 何と言えば良いのだろうか。 カラフルな衣装を纏い、スカートには音符が縫い付けてある。 ボブカットの髪の毛はいろはのよりも濃いピンク色。 安直な喩えだがゲーム内のキャラクターがそのまま現実に現れた。 そう表現するのがしっくり来る女が、画面に映っている。 「君は…」 『ちょ、何でここにいるの!?CRは部外者立ち入り禁止だよ!?灰馬ったらしっかりしてよもぉ~!!』 一挙一動が随分とオーバーリアクションだ。 キャピキャピした甲高い声で、ここにはいない誰かへの不満を口にしている。 どうやら向こうにとっても天津の存在は驚きの対象らしい。 だが困惑してるのはこっちも同じだ。 この場所は一体何で、彼女は誰なのかを一から説明してもらいたい。 「とうとうこの場所を見付ける者が現れたようだなァ…」 天津の困惑はより大きな驚愕に塗り潰された。 聞き覚えのある声がした。 傲慢不遜をこれでもかと表した声色。 自らの絶対性を微塵も疑っていないこの腹立たしい声に該当する者は一人しかいない。 「檀黎斗…!」 ゲームマスターにして神。 檀黎斗が放送の時と変わらぬ姿で天津の前に現れたのだ。 耳にはヒューマギアモジュールが存在しない。 やはり目の前にいるのは自分が知るヒューマギアの黎斗とは別の黎斗なのか。 天津の疑問を余所に黎斗は尊大な口調で続ける。 「まずはおめでとうと言ってやろう。CRを発見し、彼女と接触したプレイヤーは君が最初だ」 口振りからして黎斗はこの場所について当然知っているようだ。 ゲームの筐体の中にいる彼女についても同様に。 『ちょっと黎斗!どういうこと?永夢たちはどこ?何をする気なの!?』 当の彼女もまた黎斗とは顔見知りなのが反応から窺える。 但しこの状況に関しては予想外らしく、これ見よがしに狼狽しているが。 訳が分からないと表情に浮かべるのも束の間、キッと黎斗を睨みつけた。 画面越しなせいで若干迫力には欠けているものの、黎斗の悪行への怒りは本物。 『どういうつもりか知らないけど、調子に乗るならこっちも――って、あ、あれ?』 威勢の良さはどこへやら、あっという間に困惑へと逆戻り。 服の中を漁る彼女は徐々に青褪め、事情を知らない天津にもアクシデントが発生したと分かった。 『な、無い…ドライバーとガシャットがどこにも…!っていうか何で外に出られないの~!?』 「ヴェーハッハッハッハッハッ!ポッピーピポパポォ!残念だが君は正規のプレイヤーではない!よって必要以上に出しゃばれないよう設定させてもらった。君にはお助けキャラとしての役割を果たしてもらおう」 勝ち誇りこれまた非常に五月蠅く笑う。 傍から見るとコントのようなやり取りだが、単なるコメディアンならどれだけマシなことか。 「お助けキャラ…?つまり彼女は我々参加者のサポートをする為にいると言うのか?」 「察しが良いな。その通り。既に説明はしたがゲームのクリア条件は優勝のみではない。ゲームマスターである私を見事倒してもクリア達成となる。となればゲームへ反抗する者にもそれなりの救済措置は必要ということだ」 成程と内心で納得する。 二人のやり取りを見ても、このポッピーなる存在が黎斗と前々からの知り合いなのは確か。 殺し合いを始めた元凶に関する情報を持つならば、打倒主催者を目的とする自分達への助けになる。 尤もポッピー本人はそもそもこれが殺し合いであると全く知らない様子。 「…今ここで貴様を倒す方が手っ取り早いと思うが?」 「無理だな」 言うや否や近くの椅子に黎斗が手を置く。 すると手は椅子をすり抜けた。 「ホログラムか」 「その通り。これはあくまで映像に過ぎない。神との直接対決が許されるのは首輪を解除し、私の元へと辿り着いたプレイヤーのみ。そのどちらも達成していない分際で私に挑もうなど身の程を知れィッ!!」 半ば予想していたが本人の口から断言されると中々に苛立たしい。 悔しを表情に滲ませる天津へ気を良くしたのか、黎斗は勝ち誇ったように告げる。 「ポッピーから得た情報は上にいる連中とも共有しておくことだ。基本を疎かにしたプレイヤー程、呆気なく足元を掬われる」 ジョースターの血統にして最強のスタンド使い。 神浜市の戦いの中心となった魔法少女。 正史から外れた道を往き、本来では有り得ぬ行動に出た上弦の鬼。 三人共、本選のプレイヤーに相応しい人材だ。 今後もゲームを盛り上げるのに期待している。 「ではこれにて失礼しよう。この私と直接対峙したくば、今以上に励むことだ!ハハハハハハッ!!!」 最後まで余裕たっぷりの態度を崩さず、神は姿を消した。 後に残るはより一層の戦意を燃やす男。そして 『なにがどういうことなの~!?ピプペポパニックだよ~~~~~~!!!!??!』 画面の中から絶叫するバグスターだけだった。 【D-6(島・聖都大学付属病院地下・電脳救命センター)/一日目/早朝】 【天津垓@仮面ライダーゼロワン】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大) [装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン [道具]:基本支給品×2、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズキーホルダー×8@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド)、ランダム支給品0~1、一海の首輪 [思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う 1:ポッピーから詳しい話を聞く 2:檀黎斗に挑む為の方法とこの殺し合いについて承太郎君や協力可能な参加者と共に考える 3:承太郎君が起きたら環君達も交えて持っている情報、力も詳しく知っておきたい。私の知らない何かは多いようだ 4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい、後、この病院について知っている参加者と話したい 5:飛電或人、滅と合流したい。もしアークに捉われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める 6:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが… 7:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える [備考] ※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後 『NPC紹介』 【ポッピーピポパポ@仮面ライダーエグゼイド】 ドレミファビートから誕生した良性のバグスターでCRの協力者。 表向きには衛生省のエージェント兼CRの看護師、仮野明日那として振舞っている。 バグスターとしての高い戦闘能力の他、バグルドライバーⅡとときめきクライシスガシャットを用いて仮面ライダーポッピーに変身が可能。 ※ドレミファビートの筐体から出られないよう細工されています。今後出られるかどうかは不明です。 ※バグルドライバーⅡとときめきクライシスガシャットは主催者に没収されています。 ※少なくとも本編31話までの記憶はあります。それ以降(Vシネマや小説版も含め)の事件を知っているかは後続の書き手に任せます。 ※彼女が殺し合いの為に造り出された個体なのか、エグゼイド本編のポッピー本人かは現在不明です。 046 マスターピース 投下順 048 グレイブ・スクワーマー 045 RIDE OR DIE(前編) 時系列順 049 咲き誇れ、枯れ落ちるまで(前編) 019 ロゴスなきワールド ─戦争の夜に─ 空条承太郎 天津垓 環いろは 黒死牟
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夢想彼女 (「偽装彼女」シリーズ) 昔から、男女問わず「カッコいい」と言われるのが嫌だった。 幼いのもあって、それがなぜなのかまでは分からなかったが、とにかくその言葉を自分 を対象としてかけられる度に心に引っかかり、澱のように胸の奥底に溜まっていったのだ。 もちろんそんな不満を表に出すことは好ましくないと分かっていたから、いつも自分は 生来の整った顔を崩さない程度のはにかみ笑いを浮かべ、やんわりと否定する。 そうしてずっと嫌われることなく、輪から外れることなくここまできたのだ。 γγγ 花嫁と同じ、白いセーラー服を着ていた。 「ゆうちゃん、可愛い」 共働きの親に代わって、自分の面倒を見てくれたのは主に父方の叔母だった。 祖父母が早くに事故死し、ずっと寂しかった家が母親が来たおかげで明るくなったのだ と、涙もろい叔母は何度も自分に話してくれた。 母親は自分も高校生の時に父親を亡くしていたのと、兄弟が居なかったせいか、当時ま だ学生の義妹が不憫な以上に可愛かったのだろう。 時に夫に息子を預けてまで共に居たその可愛がりようと、叔母の懐きようはいわゆる嫁 と小姑ではなく、並んでいれば実の姉妹のように息子の自分からも見受けられるほどだっ た。 「ゆうちゃんは女の子みたいに可愛いねぇ」 被服系の専門に通っていた叔母は趣味や課題に自分の服をいくつも作ってくれ、時には 兄嫁が許すのを良いことに女児用の服まで自分に着せ替えさせていた。 自分はといえば、人見知りに加え叔母に甘えてばかりだったので、彼女の作ってくれる 白や水色、ピンクのふわふわした服も喜んで着ていた。 実際外を歩けば誰もが褒めてくれるなりほほ笑みを投げかけてくれたし、鏡の前に立て ば自分は絵本の中のお姫様のような気分になれた。 「可愛い」、「可愛いわね」といった言葉にどっぷり漬かり、現に小学校に上がって髪 を短くしても、女子と間違われてばかりいたのだ。 さすがにランドセルを背負う頃には女児服を着せられることはなかったが、可愛らしい フードの付いたシャツだの、ポンポンの付いた上着だのを彼女が作る度にはしゃぎ、仮縫 いのまま外に出ようとしてたしなめられていた記憶がある。 γγγ しかしそんな日々は、叔母の結婚により終わりを告げた。 国際結婚で相手がどこかの国を拠点に起業するらしく、そのそばで自分の夢を叶えるこ とに希望を抱きつつも、兄である自分の父親よりも母親や自分と別れることに彼女は涙した。 そして「最後に私の服を着て、お祝いしてね」と、自分も結婚の準備で忙しい中、甥へ 最後のプレゼントを作った。 それは、花嫁と同じ真っ白なセーラー服だった。式場でひときわ目を引くようにと、当 時服飾メーカーに勤めていた彼女は同僚や上司のコネを使って、自分の気に入った材料探 しに奔走したという。 もちろん下は半ズボンだったが、水色のリボンでラインの入れたセーラーカラーは、そ の場でクルリと回ると軽やかになびき、幼い自分は鼻高々だった。新郎よりも叔母のそば にいる方が多かったかもしれない。 「よく似合ってるわ、とても可愛いわよ」 「これは可愛らしいお子さんだ」 思えば、幼い自分が最後にかけられた女性的な賛辞はこの時だったかもしれない。 叔母が家を出て以来、それまで自分を取り巻いていた世界は変わった。 小学校の中学年にもなれば、身体が変わらずともそれなりに男女を意識し始める。奇し くもちょうどそんな時期に、無条件に自分の容姿を「可愛い」と称賛してくれる存在も、 自分を飾るものも成長につれなくなった。 もちろん両親は少ないはずの時間をやりくりして息子に愛情をかけてくれたが、自分が 欲しかったものとは何かが違った。息子を女の子として扱うなど、ありえないことだから 無理もない。 「豊クン、カッコいい!」 「須藤はクラスで一番女の子にモテるんだってさ」 ませた子供の発言に大人は苦笑し、自分はその言葉に引っかかりを感じつつも、誰の機 嫌も損ねないよう何も言わずにほほ笑むことにした。 一人っ子なのもありあまり突っ込んだ付き合いをしなかったのも、男女から羨望のまな ざしと、嫌がらせを受けない程度の嫉妬を集めていたのだと思う。 γγγ 「カッコいい」という言葉に違和感を覚える理由をはっきりと自覚したのは、四年生の 秋だった。 当時クラスの誰も彼もが習い事だの塾だのにいくつも通っていて、自身が空いた時間に 趣味程度のピアノを教えるくらいだった母親も、成績に不安はなかったが息子が孤立しな いようにと級友が多く行く個人塾に通わせ始めた。 自分はといえば、別に行きたくはなかったが親の言うことに間違いはないので、良いと も嫌とも言わずに級友の背を追って駅前のそのビルへと入った。 塾の講師はいかにも体育会系だったような、壮年の男性だった。 今思うと、幼女趣味というよりも単に女児への接し方が分からなかったのだろう。泣か せてしまわないように、悪い噂を流されないようにと女子に対しては慎重すぎるほどに彼 は「優しい先生」として振る舞った。 逆に男子にはそういった気遣いは一切せずに、感情を込めずにただ提出してきた課題を 添削し、必要があれば間違いを指摘して「あとは自分で考えろ」と突き返すだけ。課題を 怠ければ、怒られていない自分まで怯えるような怒鳴り声で叱責した。 それまで出会った教師は厳しくとも甘くとも、自分を含め男女の区別はつけていなかっ たように感じていたので、対象によって態度が変わるその講師は、ひどく恐ろしい存在と して自分に刷り込まれた。 「須藤クンはいっぱいマルもらってるね!うらやましいなあ」 「すごいね」や「カッコいい」等と自分に笑いかける相手の方が、何もしなくても講師 に優しくしてもらえる彼女らの方がよっぽどうらやましかった。 「僕も、僕だって可愛がってもらえるはずなのに!」 声に出しはしなかったが、自分の凡ミスを冷ややかに指摘される度に、同じ箇所を何度 も間違える女子が優しく指導されるのを見る度に、問題を解きつつも頭の中はその思いで いっぱいだった。 表向きには塾にも講師にも問題はなかったが、その学年が終わる頃ついに耐えきれず、 ある日の夕食後に親に頭を下げた。 「家で勉強を頑張るから、もう塾には行きたくない」 めったに物をねだらない息子の涙ながらの訴えに、両親は黙ってうなずき、母親は「ご めんね」と優しく抱きしめてくれた。 γγγ 中学に進学し、あいかわらず自分の容姿や成績をもてはやしてくれる女子らはいたが、 当然ながら「女の子」として扱ってくれる存在はいなかった。 日々の課題や任された委員会の仕事に忙殺されて、そんなコンプレックスを忘れかけて いた頃、契機がおとずれた。 その時質問で職員室に入ったのに、課題の未提出者に催促してくれと教師に頼まれ、自 分は顔には出さないがあまり良い気分ではなかった。 「お前が言うと女子の頑張りが違うんだ」と冗談混じりのセリフに少し釈然としない思 いを抱きつつ、教室に戻る。 入った途端、休み時間とはいえうんざりするような喧騒が耳に飛び込んできた。 「うっわすっげうわーっ!」 「もう、あいつらマジ嫌なんだけどー」 部屋の真ん中に固まり何かを見ている男子らと、それを遠巻きにして呆れつつも興味津 々といった表情の女子たち。 次の授業が始まったら、少し時間をもらおうと決め席に戻ろうとした自分を、輪の中央 に居た一人が呼び止めた。 「あ、おーい須藤須藤!」 「田口、お前だけじゃないけど理科Bの課題、先生が出せって」 「あー、ごめんそれはまた今度!それよりさぁ、」 「おい、やめとけよ」 生真面目な自分が眉をひそめ教師に告げ口することを懸念したのか、別のクラスメイト がたしなめるが、 「大丈夫だよ!須藤良い奴だもん!…でさ、女教師モノ興味ある?」 「教師…?」 うなずきも断りもせず首を傾げる自分に業を煮やしたのか、小学校から同じクラスだっ た彼は手にしていた雑誌を広げ、中のページを見せてきた。 そこにあったのは、異常にスカート丈の短いスーツ姿の女が、学ランの少年(今思うと 青年だろう)の前にひざまずいている写真だった。 学ランは教室(と思われる)の椅子に座り、女の引き裂けたブラウスの中からこぼれる 豊かな乳房を、靴を履いたままのその足でたわませている。 「なっ…何見てるんだよ!」 「うわ須藤赤くなってるよ」 「かっわいー!」 「やだ、須藤クンにそんなの見せないでよー!」 こんな開かれた場所で、そんなモノを見せられたという羞恥に赤らむ自分の顔を見て彼 らは、そして周囲は笑った。 もちろんそれは嘲笑ではなく、予想通りの反応にからかうといった類のものではあった が、恥ずかしい思いをしている自分を皆が見ているという状況に、なぜだかひどく興奮し た。 そして写真を見せられた時、一瞬学ランではなく辱められている女の方に自身を重ねて しまった自分に戸惑った。 お堅い黒スーツのスカートを足の付け根まで捲り上げ、彼女は設定的に教え子であろう 学ランにかしずいていた。 それだけなら硬質な印象を与えるだろう黒縁の眼鏡の奥から学ランを見上げる、隷属す る者の瞳に、屈辱を与えられてなおモノ欲しげに薄く開いた唇に、わけもなく嫉妬してい る自分が居た。 (…嫉妬……?) 「分かったから先生来るまでにちゃんと隠せよ。後みんな課題出せ課題」 反感を買わない程度に呆れた声で場を収めつつも自分の感情に困惑し、同時に小学生の 頃のトラウマが沸き上がるのを必死に抑えながら、不可解な気持ちの正体を探り心を鎮め るために、あることを計画した。 γγγ その月は土曜日も両親は仕事で、日中は自分一人が家に残っていた。 普段は宿題の後ぶらぶらと本屋に行ったり、気が向けば中古ゲームを買ってきたりとし ていたのだが、その日だけは先約があった。 別に休みに自宅にどれだけ居ようと構わないのに、これからやることを思い緊張しなが らハウスキーパーが掃除を終え出て行くのを見送った。 彼らが忘れ物をしてないか確認してから、入らなくなって久しい部屋へと向かう。 開けた扉は少女趣味なプレートのかかる、人だけが居なくなって何年も変わらない叔母 の部屋のもの。 「別に客間もあるんだから、あの子がいつ帰っても良いようにしときましょう」と、義 妹の実の兄である夫にきっぱりと宣言し、母親が家具もそのままに掃除だけをさせている のだ。 それでも生活臭のないせいでわずかにほこりっぽい絨毯を、自分の足はそろりと踏みし めた。 その懐かしさと、今や連絡もろくに取れない叔母への恋しさに涙すら出そうになったが、 そんな感傷に浸るためにこうして入ったのではない。 「お邪魔します」 間抜けなセリフとともに、クローゼットの戸を開く。目当ての物はすぐに見つかった。 それは、叔母が高校生の時着ていたという制服だった。 自分が着たそれより少しだけ色のあせた、白いセーラー服。紺色の襟には三本白いライ ンが入っていて、赤いスカーフとともにその学年を表すのだと、聞いた覚えがある。 スカートをかけたハンガーから外し、手に取る。久しぶりに間近で見るセーラーカラー と、クローゼットと防虫剤の匂いに混じってかすかに残る叔母の懐かしい香りに、鼓動が 早まった。 そっと持ち上げ、胸の前に合わせてみる。 若い頃から彼女は背が高かったのだろう、小柄な自分は十分この身を収めることができ そうだ。 部屋着のポロシャツを脱ぎ、スカーフとファスナーを緩めたセーラー服の上をかぶる。 布や脇腹の皮膚を挟まないよう、クローゼットに付いた鏡を見ながらファスナーを閉め 直し、どこか知らない校章の付いたループにスカーフを留める。 いい年して母親の剃刀で十分処理できる薄いひげや体毛も、合宿先の大浴場ではないこ の場では、自身の背を押す材料でしかなかった。 着ていたジーパンや靴下を脱ぎ、女学生服に一番違和感がなさそうだと、自室から持っ て来たハイソックスを穿き、凹凸のないふくらはぎを包んだ。 冬の間防寒のためにズボンの下にあったこれを、今日は見せるために身に着けるのだと 思うと指が震えた。 多数の生徒に着られることを想定しているためかスカートのウエストは緩く、腰骨でど うにか一番細いところが引っかかる感じだった。細身の叔母もきっと今の自分のように、 ホックを留めても落ちてしまいそうなスカートに手を焼いたのだろうか。 せいぜい上半身しか映せないクローゼットの鏡を見ないようにしてその場を離れ、部屋 の隅に置かれた大きなスタンドミラーの前に立つ。 叔母が高校生になった時、祖父母がプレゼントしてくれたのだというその姿見は、縁や 裏側に凝った彫刻が施されていて、自分も幼い頃叔母の服を着てその前に立つ度に、おと ぎ話に出てくる鏡みたいだと思ったものだった。 震える両手を叱咤しながら、ほこり除けにかけられていた布を取り去った。 「……ぁ………」 かすれた喘ぎは、紛れもなく歓喜に満ちたものだった。 少し大きな制服に身を包む女生徒が、その中に居た。 かすかに震える膝が触れ、折り目正しいプリーツスカートがひらりと揺れる。それすら もそれを着ているのだという、自分を喜ばせるもの以外の何物でもなかった。 倒錯した昂揚を、薔薇色に染まった頬は如実に現していた。 苦労しながらほんの少し口角を持ち上げると、まるで着慣れない制服に緊張しながらも はにかむ新入生のようだ。清潔感のあるショートカットが、やせっぽちの身体や強張る笑 顔を幼いものに見せている。 『ゆうちゃんは可愛いねえ』 『よく頑張ったね』 『おりこうさんだねえ』 少年の自分には向けられなかったかつての講師の言葉が、少女の姿形をした今の自分に は与えられる価値がある。 自分には可愛がられる、愛される根拠があるんだ!だってほら、セーラー服もスカート も、赤いスカーフだってこんなに似合っているじゃないか! 両親の帰宅に間に合う時間になるまで飽くことなく自分の姿に見入り、アラームの音に 驚いてようやく自分が長時間姿見の前に立っていたことに気付いた。 未練がましくゆっくり着替えていたら、自分の性器が勃起していた。淫らに熱を持ちヒ クヒクと脈打つそれに、自分のものながら困惑する。 性欲に乏しいと思っていた自分の、紛れもない悦楽の萌芽を見つけ、ここで初めて、ほ んの少しだけ罪悪感を覚えた。 γγγ 叔母が結婚した時とは別の意味で、自分の世界は変わった。 学業に支障のない範囲で、自宅で一人の時間さえできればセーラー服をまとい、鏡の中 の自分の姿や立ち居振る舞いの「女性としての」違和感を減らしていく努力をした。 今までたいして気を使わなかった肌の手入れを、「年頃だから、身だしなみに気を使い だしたのね」と周囲に怪しまれない程度に始めた。その影では、母親や同級生の女子の仕 草やネットで情報収集し、ほんの少しずつ母親の化粧品を使いこなせるよう、容貌に合っ たメイクを覚えるようにした。 髪を伸ばしだしたのも、周囲には「セットが楽だから」と「真面目な須藤クンの意外な 一面」を垣間見せることで誤魔化し、その影では鏡の中の少女がより女性らしくなってい くことに酔った。 ジャージや大きなコートを着て校外活動なり街を歩けば、声をかけてくる同年代や年上 の男に苦笑しながら首を振り、愕然とされる度に笑う周囲に覚られないよう満足感に浸っ ていた。 秋波を投げかける女性では満たされない。頬を染め身を乗り出してくる、自分の見た目 を性愛の対象としてくれる同性の視線が欲しかった。 自分は同性愛者なのかとも思ったが、試しにそういったモノをネットで漁り見てみても 逞しい肉体や精悍な顔を見て食指は動かされなかったし、肛門に性器を突き入れる画像は 最後まで見ることができなかった。 あくまで女の姿をした、魅力的な女性として扱われる自分に興奮するということが分か り、自身に呆れつつも安心した。 これならばれない限り、他の誰も、自分さえも傷つけることなくこの秘密の遊戯を楽し むことができるからだ。 うまくやる自信はあった。どういうわけか中身まで要領良く生んでもらったおかげで、 短い人生であの塾時代以外に挫折した経験は一度もない。 「きみ、可愛いね」 「彼氏待ち?もし良かったら…」 「すみません、ちょっと時間ある?」 「えっ!?男なの?」 「須藤…さん、でいいのかな?」 「ちくしょう、だまされた!」 困ったようにはにかみ、周囲にとりなしてもらう。「まいったな」等と言いつつも、胸 の内では達成感にあふれていた。 γγγ スカートの中、下着の下にまで手を伸ばし、みずからを慰めるようになったのはいつか らだろう。 雑誌や画面の中の女性でなく、女の格好をした自身に欲情するという自分の悪趣味さに 負い目を感じつつも、その後ろめたさがかえって気分を盛り上げた。 「は……っ…あふ………っ」 大きな鏡の前で下着を下ろし、セーラー服の上下を着たまま屹立した性器を一心に擦る。 セミロングの黒髪を汗で頬に貼り付けて、汚さないようにとスカートの裾を咥え、みず からの男性器を扱く少女というその異様な姿を、鏡面は偽りなく映し出していた。 「ぁ……あ…ごめんなさい……っ!」 妄想の中で自分はたいてい誰かに罵られ、その相手に許しを乞うていた。 それは学校で自分に頼りつつも気安く笑いかけてきた級友であったり、自分の発言に眼 鏡の奥の目を細めた厳格な教師であったり、果ては自分に憧憬のまなざしを向けた女生徒 であったりした。 『すました顔しているくせに、そうやって女の格好して…気持ち悪い』 『目をかけてやったのに、どうしようもない変態だ』 『うわぁ、幻滅…』 色事に乏しい自分の語彙では、この程度で自身を責めるのが精一杯だ。 「可愛がられたい」という願いがどういうわけか歪み、こうして自分を苛み辱める事を 求める。これはきっと、あの時見せられた写真のせいなのだろう。 「あぁ……そう、そうなの…」 教科書の朗読にはともかく、演説には向かないと評された声で、衣装にふさわしい、女 のような口上を紡ぐ。 「ゆるして…お願い、出ちゃ、う……っ」 居もしない誰かに媚びを売るような色に自分で怖気が走るが、同時に今まで味わったこ ともないような興奮を覚えた。 当時から目に焼き付いて離れない、辱められてなお教え子を求め、被虐に酔いしれる女 の顔を思い浮かべ、空いた手でセーラー服の上から胸をさする。 うっすら筋肉がのっているだけの、つまらない胸板。写真のように踏みつけられたり、 ネットで見た画像のように乱暴に揉みしだかれてみたらどんな感触だろう?どんな気持ち になるのだろう? 分かるはずもないが、それでも下着を着けていない素肌に服越しに触れると、自分の手 ではなく誰かに撫でられているようで、ゾクゾクとした。 あれらに出ていた女性ほど大きくはないが、乳房よりはそれに近い乳頭に布地が擦れる と、ピリッとした甘い痺れが背筋を這い上がる。性器を扱くのとはまた違った刺激を、夢 中になって求めた。 「…ぁ…もうだめ、あ……ぁ…っ!」 甘やかな夢想に耽りながら、今日もまた汚らわしい欲望を放った。 (おしまい) おまけ 某月某日。 須藤に『無双』で野球拳しようと言ったら、マジ切れでコントローラーぶつけてきた上 に泣きながら出て行ってしまった。 白衣の天使ルックのまま、どこで着替えたんだろう? 「純白の思い出を汚すなぁ!」とか、マジわけ分かんないし。 (ほんとにおしまい)