約 488 件
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/468.html
ここまでのまとめ 御坂美琴 →現在、ラスベガスにいる父の元へと移動中。五和の助言で、海原光貴を指名手配してしまう。 海原光貴 →指名手配されたせいで、必要悪の教会の人間に目をつけられた。ショチトル達を守る為、自分一人で追っ手を誘きだす事に。 現在、人気の無い所で、大人のお姉さんと密会中。 インデックス →学園都市に到着。上条夫妻、小萌と再会する。 竜神当麻 →鬼嫁に浮気現場に踏み込まれた浮気性の夫みたいな状況に陥る。 ツンデレお姉さん系のヴェントと追いかけっこ中。 ヴェントによって美琴のお株が奪われつつあるような気がしないでもない。 インデックスサイド ―学園都市― 学園都市内部のとある公園に設置された複数のテントの中の一つにインデックス達がいた。 学園都市からは、ホテルなどの設備を貸し与えてもらっていたのだが、 慣れない施設で行うより、こちらの方が遥かに効率的だから、という理由で野営する事になったのだ。 しかし、実際は、学園都市による盗聴盗撮によって魔術サイドの守る『神秘』が盗まれるリスクを避ける為の措置だった。 戦争が終わったとはいえ、両者にはまだ緊張の糸が張り詰めたままだ。 アニェーゼ達はこのテントの中で、世界中から送られてくる情報を取りまとめ分析している。 特殊な術式を使い、世界全体の魔力の流れを監視していたルチアがぴくりっと動いた。 ルチア「北アメリカ西部にて、膨大な量のテレズマ反応があります!」 アニェーゼ「詳細は出ますか?」 ルチア「今やってます。場所はアメリカ、ラスベガスの中心部。対象は南西部に向かって高速で移動しているようです。 しかし、周囲に拡散しているテレズマの量が多すぎて、こちらの術式との干渉を引き起こしています。 鮮明な情報は得られ無いかもしれないですね」 ルチアの隣で、サポートをしていたアンジェレネが、おどおどした感じで、報告を上げる。 アンジェレネ「え、遠視による像の投影に成功しました!」 アニェーゼは、アンジェレネに近寄ると、彼女が映しだした像を覗き込む。 アニェーゼ「ちっ!ノイズがひどいですね。 ……これは。すぐにこのデータを、必要悪の教会にあるデータベースと照合しちまって下さい」 アニェーゼの隣に佇んでいたインデックスもまたその像を覗き込む。 その後ろには、ステイルがぴったりと張り付いている。 ステイルの任務は、上条当麻の探索に加えて、インデックスの護衛もある。 というより、ステイル本人にとってはインデックスの護衛の方が重要だった。 例によって、インデックスが使用するテントの全てに、大量のルーンのカードが貼り付けられている。 インデックス「この人てれびで見たことある! 9月30日に、この街を襲撃した前方のヴェントだよね?とうまと戦ったローマ正教の魔術師」 アニェーゼ「そうみたいっすね。問題はこの女と戦ってる男。 コイツは何者でしょう?神の右席っていえば、天使の術式を使う化物クラスの魔術師でしょうに……」 ルチア「照合結果でました。やはり、女の方は前方のヴェントで間違いないようです」 アニェーゼ「男の方は?」 ルチア「この男と外見が一致する魔術師は登録されていないようですね……。 生命力のパターンにも該当者なしです」 ルチアは険しい顔をつくる。隣のアニェーゼも同様に、同じ事を考えていた。 アンジェレネ「あの……」 アニェーゼ「こりゃ当たりかもしれないっすね。 必要悪の教会にも登録されていない、神の右席レベルの魔術師。 ……何で前方のヴェントと戦ってるのかは知りませんが」 ルチア「付近にいる部隊に連絡を入れますか? 現在、北アメリカ大陸には天草式が展開しているはずです」 アンジェレネ「聞いて下さい!」 アンジェレネの叫びも空しく、アニェーゼは勝手に話を進める。 アニェーゼ「ええ、ラスベガス付近に待機するように伝達してください。 相手は天使クラスの化物です。普通に戦っても勝ち目はありません。 戦いの決着がついてから、弱ったところを一網打尽にしちまいましょう」 ルチア「分かりました」 業を煮やしたアンジェレネが、ルチアの後ろに回りこみ。彼女の修道服の裾を捲り上げた。 アンジェレネ「ち、ちゅうもぉぉーく」 ルチア「…………」 突然の出来事に、ルチアを含めたその場の全員がフリーズする。 テントの中にいる全ての人間の視線が、彼女のフリフリのついた白いパンツと艶かしい太ももに釘付けになっていた、 二秒ほどたってから、ようやく状況を飲み込めたルチアが、顔を真っ赤にして、スカートを手で押さえながら、アンジェレネに食って掛かる。 ルチア「シ、シスターアンジェレネ!!何をするんですか!?」 アンジェレネ「だ、だって、誰も私の話を聞いてくれないから……」 ルチア「女子寮ならともかく、ここには殿方もいるのですよ!!」 ルチアが横目でチラチラとステイルの方を見ながら怒鳴る。その瞳は心なしか涙ぐんでいるようにも見える。 とうのステイルはというと、つまらなさそうに真新しいタバコに火をつけながら、溜息をつく。 ステイル「ああ、僕の事なら気にしなくていいよ。見てないから。興味もないし」 ルチア「…………」 アニェーゼ「それはそれでどうなんでしょかね?」 話を振られたルチアは “それでいいのです。神父たるものそうでなくては……しかし、何でしょうこの敗北感は。 とにかく、シスターアンジェレネは後で百叩きですね” などと小声でごにょごにょいいながら、己の中の何かと戦っていた。 しばらく、そうして悩んだのち、この鬱憤を全て元凶たるアンジェレネに向ける事を決めたのか、彼女に向き直って問い詰める。 いつも以上の剣幕で睨みつけてくるルチアに、アンジェレネはすでに涙目になっていて、“ひっ”と怯えた声を上げた。 猫背で華奢な彼女の体が、ますます縮んで見える。 ルチア「それで。私のスカートをめくってでも聞いて欲しい。大切な話とはなんですか?シスターアンジェレネ?」 アンジェレネ「は、はい。一時間程前、天草式から送られて来た、とある事件の重要参考人の顔写真と、この男性の顔が一致してるんです」 アニェーゼ「何ですって?一体何の事件ですか?」 アンジェレネ「く、詳しい事は天草式でも把握できていないようなのですが。 どうやらラスベガスの一般人が魔術師のトラブルの巻き込まれたようで、その事件の重要参考人という事です。 資料には、その人物はアステカの魔術師で、学園都市の学生の姿に成りすまして活動している可能性があると、補足されてます」 アニェーゼ「では、その顔写真というのは、学園都市の学生の姿を写したものなのですか?」 アンジェレネ「そのようです」 インデックス「待って。アステカの魔術師……。 そういえば、8月31日にとうまの命を狙ってきたアステカの魔術師がいたはずなんだよ!」 アニェーゼ「それは本当ですか?」 インデックス「私の完全記憶能力は知ってるでしょ? あの時は、けいたいでんわ越しに特徴を聞いただけだけど。 とうまは間違いなくアステカの魔術師と戦ってる。 魔術で変装した、トラウィスカルパンテクウトリの槍のレプリカ使いだよ」 アニェーゼ「その魔術師がその後どうなったか知ってますか? あの少年の事ですから、始末したわけじゃねえでしょうし」 インデックス「知らない。 とうまは、問題は片付いたから心配するなってしか言わなかったもん」 アニェーゼ「そうですか……。 とにかく、そのアステカの魔術師の身柄を確保して事情を聞く必要がありそうですね」 ルチア「私が各隊に通信してきます」 アニェーゼ「よろしくお願いします」 捜索本部全体が慌しく動き始めた。 そんな中、インデックスは映し出されてくる、ぼやけたノイズ交じりの像をを見つめていた。 少しでも情報を得たいという彼女なりの思いが在った為だ。 人の動作というものは、どんな人間でも、必ずクセというものが存在する。 歩いたり走ったりするときのフォームが人によって違うように、それは人によって様々だ。 インデックスはその完全記憶能力によって、見た人間全てのクセも記憶している。 だからこそ、気が付いてしまった。 映しだされるアステカの魔術師の像を見ながら彼女は小さく首をかしげる。 インデックス「……とうま?」 上条サイド ―アメリカ ラスベガス― 竜神はハイウェイ沿いにラスベガスの街を南下する。 トラックやタンクローリーなど比較的大きな車を足場にして、テレポートで移動しながら、 ヴェントとの距離をとろうとするのだが、流石は神の右席。瞬間的に離した距離をあっという間につめてくる。 一度接近戦になると、ホテルの時の二の舞だ。決して近づかれる訳にはいかない。 チラチラと後ろを振り返りながら、二トントラックの上に瞬間移動する。 しかし、座標指定が大雑把だったため、想定していた座標より二メートル高い位置に出てしまった。 他人の能力をコピーしているだけの竜神では、細かい調整ができないのだ。 竜神「うをっ!!また変な所に跳んじまった!?」 上条『このへったくそ!!』 竜神の身体とトラックの相対速度にはズレがある。 二メートルという短い距離を落下する間にも、トラックは竜神を置いて走り去ってしまいそうだ。 このままだと、地面に叩きつけられてしまう。 竜神「うおおおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」 意味もなく叫び声を上げながら、空中で足掻く。 ゴンッっと、トラックの荷台を若干へこませながら、辛くも荷台後部に着地するが、 今度は足場の速度が速すぎて、足払いをかけられたような形で、ずっこけてしまった。 竜神「ハッ!くそっ!!」 荷台から転げ落ちる寸前、咄嗟に荷台のふちに両腕でしがみ付いた。 掴まりどころのない、つるつるした金属製の屋根にかろうじて引っ掛かる。 足場のない不安定な状態で、必死にトラックにぶら下った。 竜神「やばいっ!!落ちるっ、落ちるぅぅぅ!!」 手を離せば、地面に落下する。 ベクトル操作の反射で、全身を覆いさえすれば、怪我をする事はないだろうが、もたもたしているうちに、ヴェントに追いつかれてしまうだろう。 後ろからせっつかれる感覚に、気ばかりが焦る。 そのまま匍匐前進するように、腕力だけをつかって身体を引きずるように荷台の上へと這い上がろうと試みる。 全身から嫌な汗がでて、余計に手が滑る。 肝を冷やしながらも、なんとか荷台の上に上りきる事ができた。 竜神「はぁ。危っぶねえ!死ぬかと思った……」 腹ばいになり、車の天井に張り付いた状態で、後ろを確認すると、300メートル程後方にヴェントの姿が見える。 竜神「クソッ!速いな……。 80メートルくらいのテレポートじゃすぐに追いつかれちまう。 アイツ、風でも操ってブースターみたいに使ってんのか?」 上条『お前、テレポート下手だな。白井なんかはもっとスマートにやってたぞ』 竜神『竜神さんのテレポートはただの複製なんです!! 位置座標とか精密に演算してる訳じゃないから、コントロールが難しいんだよ!!』 ヴェント「クソ野郎がっ!」 竜神の背中にぞわっっと何か得体のしれない感覚が走る。 振り返ると、間合い100メートル程につめたヴェントが、見えない空気の針を射出してきた。 竜神「うをっ!」 襲い来る見えない凶器を、寸でのところでかわし、再びテレポートで距離をとる。 狙いをかわされた針が、竜神の遥か前方で炸裂した。ゴバァッっと音をたててアスファルトの道路が捲れ上がる。 直径20メートルほどのクレーターができ。吹き飛ばされた土砂とアスファルトが宙を舞っていた。 まるで、隕石の落下現場のようだった。 竜神「アメリカ国民の皆さん御免なさい!損害賠償はどうかローマ正教によろしく!!」 ハイウェイを走行するドライバー達が急ブレーキをかけ、複数の車がスピンしながら停止するのが見えた。 けたたましい、耳を劈くようなブレーキ音が辺りに響く。 幸い、交通量が少なかった為、玉突き事故は発生していない様だったが。 ホテルの分も合わせて、未だに死者が出ていないのが、不思議なくらいの被害だ。 経済的な被害額は億単位になるのではないだろうか。 竜神は心の中で、顔も知らない不特定多数の人々に侘びをいれながらも、なお逃げ続ける。 上条『急がないと追いつかれちまうぞ!』 竜神『それもそうなんだけどな……。あんまり離しすぎる訳にもいかないんだよな』 上条『なんでだよ?』 竜神『俺の目的は、アイツと話しをすることだからな。 逃げ切る事じゃない。本気で逃げれば逃げ切れるとは思うんだけど……』 上条『ヴェントのキレっぷり見たろ!?暢気に話しができるような雰囲気じゃないって!!』 竜神『そうんだよな……。何かいい方法ないかな?』 上条『アイツの気が済むまで殴られ続けるとか?』 竜神『勘弁してください!』 上条『お前強いんだろ?だったら、ヴェントを一撃で気絶させたりは出来ないのか?』 竜神『無理だって。 今の竜神さんは上条さんが打ち消してきた異能の力を使う事しかできないの! ベクトル操作だって一瞬しか使えないし、今使ってるテレポートだって相当大雑把で、博打みたいなもんなんだぞ!!』 上条『でも、何か、他にも戦いようがあるだろ? アウレオルスのアルス=マグナなんかだったら、一撃で気絶させられんじゃね?』 竜神『あれは熟練した最高峰の錬金術師が、何重にもわたって精神防壁張ったり色々下準備して、はじめて使えるような代物だぞ! 俺みたいな素人が使ったら、あっという間に自滅しちまうよ』 上条『だったらほら。フィアンマの聖なる右腕とか?』 竜神『あれも駄目。 俺じゃ出力調整がうまく出来ないんだよ。 相手に合わせてダメージを調整する機構はフィアンマの右腕自身の特性だからっ、 うをっアブねぇ!!今のはかすめたぞ!! ……俺がやろうとすると、星を粉々にするような一撃だとか、全長40キロメートルあるような剣出したりとか、そんな感じのでたらめな攻撃になっちまう。 そんなの食らわせたらヴェントのやつが死んじまうだろ?』 竜神がかわした針が、遠くの平原へと着弾し破裂するのが見えた。 十分街外れまでは移動できた。辺りにはほとんど、人の気配はない。 それでも安心はできない。ヴェントの攻撃は数キロ単位で破壊をもたらす。 もし、戦闘になるなら、被害が出ない場所にもっと引き付けなければならない。 上条『役に立たねえな。お前の右腕……』 竜神『うるせぇ!』 その後も何十回と危なっかしいテレポートを繰り返し、ようやく街の外にでることができた。 辺りに広がるのは、ゴツゴツと迫り出した岩と埃っぽいサボテン以外は何も無い原野だ。 夜風で砂煙が舞い上がり、無数のタンブル・ウィードが転がっている。 古いアメリカ映画に登場するような、西部劇の情景が広がっていた。 竜神「ここらでいいか……」 竜神が足を止め振り返ると、後ろにはすでにヴェントが居た。 あれだけの長距離を音速に近い速さで走って移動してきたというのに、まったく息が切れていない。 ハンマーを肩に担いだヴェントが、顔色一つ変えず、ゆったりと近づいてくる。 ヴェント「ようやく、諦めがついたってわけ?まあ、その方が楽だし、私は嬉しいんだけど」 竜神「諦めるもんか。俺はこんなところで死ぬつもりは無いし。誰も死なせない。お前も含めてな」 ヴェント「夢想家の戯言に付き合ってる暇はないのよ。大人しく私にミンチにされなさい♪」 竜神「大体なんで俺を殺そうとするんだ?俺がお前達の神様に何かしたか?」 ヴェント「テメェの存在自体が許されないのよ。存在自体が罪。それが堕天使でしょうが」 竜神「ふざけんな!!そんなのおかしいだろ!? 俺が死んだところで、俺の存在が無かった事になる訳じゃない。 お前がやってることは、赤点とったガキが、テストをぐしゃぐしゃに破いて棄てるのと何も変わらない。 目の前にある現実から目を背けてるだけだろうが!!」 ヴェント「うるさい!!私はお前みたいなヤツが憎い。 人が大切にしてるものを踏みにじりやがって!!」 竜神「神の教えがお前にとって、大切な拠り所なのは知ってる。 でも、だからってそれが他人の大切なモノを傷つける理由になんかにはならない。 しちゃいけねえんだ!! お前だって本当は分かってるんだろ? それでも、自分が許せないから、十字教にしがみついて、自分を傷つけるような方法で、ローマ正教の信者を救おうとしてる。 それだけなんだろ? だからお前は人を傷つける。自分を傷つける為に。世界中の人間から憎まれる為の“天罰”みたいな術式まで使って」 ヴェント「テメェに私の何が分かる!?何も知らないくせに知ったような口を利くんじゃないわよ!!」 唾を飛ばしながら、ヴェントが吼える。 何も変わってない。竜神はそう思った。ヴェントは未だ、弟を死なせてしまった事への罪悪感から、抜け出せていない。 それはきっと、彼女が神の右席にいる限り、不可能な事なのだろう。 自分を傷つける生き方を選んだが為に、彼女は神の右席になったのだろうから。 彼女の生き方を変えるには、神の右席を辞めさせなければならない。 しかし、竜神に残された時間は、あと一週間も無い。 天使といっても、今はほとんど唯の人間と変わらない力しかない。 そんな自分に、この女の為に出来る事がないだろうかと、竜神は必死に考える。 竜神「……確かに俺は、お前の事を何も知らない。お前の苦しみなんて理解できねえよ。 お前に俺の苦しみが理解できないように、お前のその苦しみはお前自身のモノだ。 神様でもない限り、お前のが胸に抱えている罪悪感も取り除いてあげられないのかもしれない。 でも、お前がこれ以上罪を犯すのを止める事は出来る。 これ以上、自分で自分を傷つけるような生き方は、俺がさせない!!」 だからこそ、ヴェントに殺される訳にはいかない。 ヴェント「思い上がるんじゃないよ堕天使風情が!!」 竜神「”上条当麻”だって言ってただろ。 お前は幸せにならないといけないんだ。 お前を救って死んでいった弟の人生に、泥を塗るのはもう止めろ!!」 ヴェント「なっ!!……一体何なんだテメェは!?クソったれがぁぁ!!」 咆哮と共に、ヴェントがつっ込んできた。 防御も回避も考えていない、文字通りの特攻だった。 故に、竜神の反応が一瞬遅れてしまう。 ヴェント「死ねっ!」 有刺鉄線の巻きついた巨大なハンマーが横なぎに振るわれる。 空気の杭の鋭い先端が、竜神に襲いかかってきた。 まともに喰らえば、人体などあっという間に、ただの肉塊になってしまうであろう衝撃を、 正面から受け止める。 竜神「ぐはあぁぁっっっっ!!」 慌てて反射の膜を全身に張るが、あまりの破壊力に押し負けてしまう。 眼前から迫る攻撃を、成す術もなく喰らってしまった竜神は、後ろへと吹き飛ばされた。 轟っという音と共に、ノーバウンドで100メートルほど宙を舞い。二回、三回と、地面に叩きつけられてから、ようやく動きが止まる。 反射の膜は、杭がぶつかるインパクトの瞬間しか展開できていなかった。 竜神「があぁっっっっ」 硬い地面に、全身のいたるところの皮膚が削られ、痛みとショックで呼吸もままならない。 手足の皮膚の表面が、すりおろし機にかけられたトマトのようにぐちゃぐちゃに潰れ、断面から血が滴り落ちた。 口の中も切れてしまったようで、何だか鉄の味がする上に鉄臭い。 上条『おい竜神ぃ!大丈夫か!!?』 竜神『げほっっっ!!はぁはぁはぁ、っつ、クソッ』 口の中に溜まった血を吐き出しながら、身をよじる。 自分の中から、うろたえた声が聞こえてきた。 上条『もういい。逃げよう!!お前が全力を出せば逃げられるんだろ!?』 顔を見なくても分かる。 上条当麻は、自分自身の体が傷つく事など一ミリたりとも心配していない。 ただただ、竜神の身を案じているだけなのだ。 竜神『はっ!これくらい屁でもねえよ!!』 だからこそ、腹が立つ。 昔の自分を見ているようで、苛立たしい気持ちにさせられる。 自分が傷つく事で、傷つく人が大勢いる事をコイツは理解できていない。 頭では解っていても、行動に移せなければ意味がない。 インデックスを救い、勝手に死んだ。自分と同じ過ちを。 だからこそ、こんな所で諦める訳にはいかない。 上条当麻とインデックスが幸せに暮らせる世界。その礎を築くまでは、立ち止まれない。 上条『でも!』 竜神『情けない声上げてんじゃねえよ!テメェは黙ってそこで見てろ!!』 竜神は悲鳴を上げる身体に鞭打ち、ふらふらと立ち上がる。 身体の芯は斜めにかしずき、血液が足りないのか、視界が若干ぼやけている。 それでも、諦めない。 爪が食い込む程に右の拳を握り締め、正面から接近してくるヴェントを睨みつける。 ヴェントは、右手に掴んだハンマーを地面に引きずりながら、ゆっくりと歩いていた。 もはや止めをさすだけ、そう思っているに違いない。 余裕を感じさせる足取りだった。 竜神(そうだ……これくらいなんでもねえ。 この三ヶ月間、俺がコイツに押し付けちまったモノに比べれば、この程度の痛み。なんてことねえよ! ”上条当麻”は三ヶ月の間ずっと、こんな戦場で戦ってきたんだ。 記憶を失い。 自分が誰なのかもよく分からない中で。 ……きっと、苦しかった筈だ、辛かった筈だ、怖かった筈だ。 それでもコイツは”上条当麻”であり続けてくれた。 インデックスを守りたいっていう俺の『心』を大切にしてくれた。 俺の『最期の願い』を叶えてくれた。 そのせいで、コイツはインデックスにつまらない嘘を吐く破目になっちまった。 俺は知ってる。 インデックスに嘘を吐く時、コイツの指先が不安で震えていたのを。 胸に走る言いようの無い痛みを。 深い後悔と罪悪感が心の奥底でずっと燻っていた事を。 そうさせたのは俺だ!!俺のせいなんだ!! 俺がもっと強ければ、こんな事にはならなかったのに。 コイツが感じてきた苦しみは全て俺が背負うべきものだったのに……。 ……だから、俺はこんな所で諦めるわけにはいかない。 俺が背負うべき重荷を全部コイツに押し付けるわけにはいかねえんだ!!) ヴェント「ふん。偉そうな事言うわりに、もうぐちゃぐちゃじゃないの? それでもまだ立ち上がるの?」 竜神「何度だって立ち上がってやるよ!!言っただろ!?俺は死なない。誰も死なせない!!」 ヴェント「甘いのよ!!誰も死なせないだって? テメェ一人の命すら満足に守れないヤツが吐いていいセリフじゃないでしょ?」 竜神「はっ。確かにそうかもしれない。 俺はどうしようもない甘ちゃんで、世間知らずな餓鬼だよ。 でも、だからこそ、諦めない。何度間違っても、何度倒れても。 最後は皆で笑っていられるように、何度だって立ち向かってやる」 それが、“上条当麻”なのだから。 ヴェント「馬鹿じゃないの? 人は死ぬものよ。それこそあっけないくらいにね。 神の右席として前線で戦ってきた私はよく知ってる。 アンタが言ってた上条当麻だってそうさ。 あの男だってアンタみたいな戯言を口にしてたけど。結局死んじまったじゃない」 竜神「上条当麻は死んでない」 ヴェント「はあ?」 竜神「今は眠りについてるだけだ」 竜神(そうだ、上条当麻はまだ死んでない。 まだやり直せる。 俺は、コイツが生きる道を切り開く為の礎になる!) ヴェント「……アンタ一体何者なんだい?」 竜神「上条当麻の守護天使。 今は竜神当麻って名乗ってる。この肉体も記憶も全て上条当麻のモノだ」 ヴェント「まさか!?学園都市の連中がまた堕天使を」 竜神「違う!俺はヤツ等に作られた存在じゃない。 自然に発生した現象の一つだ。生まれつき上条当麻の肉体には俺が宿ってたんだ」 ヴェント「はっ!そんな馬鹿げた話を信じろと?」 竜神「信じてくれ。学園都市の連中は”上条当麻”を何かの計画に使おうとしてる。 俺の推測が正しければ、一瞬で魔術サイドが滅びかねない程の危険な計画だ。 それを阻むためにお前の力を貸して欲しいんだ」 ここにきて初めて、ヴェントの表情に怒りや憎しみ以外の感情が混じる。 ヴェント「……アンタまさか、それを私に伝える為に天罰まで使って、私をここに誘き出したのかい?」 竜神「ああ、そうだ」 ヴェント「そうかい、そりゃごくろうだったわねぇ。 でも、仮にアンタの言ってる事が正しかったとして。 それが何だっていうの? 私がここでアンタをぶち殺せば、それで終わりじゃないの? アンタを殺せば学園都市の計画も頓挫する。違う?」 竜神「お前に俺は殺せない。 それに、例え俺を殺したところで、学園都市の計画は止まらない。 きっと”上条当麻”の代わりとなるスペアの部品を使って必ず計画を実行する」 ヴェント「はん、どうだか」 竜神「第三次世界大戦に敗れ、右方のフィアンマを失った今のローマ正教に、学園都市と正面から争うだけの体力は無い。 魔術サイドの最高権力であるイギリス清教も信用できない。 学園都市と戦うには、俺達みたいな第三勢力が手を合わせるしかないんだよ。 ただ闇雲に戦っても駄目だ。また戦争を起こす訳にはいかない」 ヴェント「…………」 竜神(ヴェントだって戦争を起こしたくはないはずだ。アイツは第三次世界大戦の時も、フィアンマを倒す為に戦ってくれた。目指すモノが一緒なら、共に戦える。根は善いヤツなんだ、弟思いのやさしいお姉ちゃんだったはずなんだ。だからきっと分かってくれる) 竜神「選べよヴェント。 上条当麻の屍の上に、仮初の平和を築くか。 それとも、俺と一緒に学園都市の頭に喰らいつくか」 ヴェント「ふん、素直に殺されるつもりも無いくせに。よく言うよ」 竜神「ああ。お前が俺を殺す方を選らぶのなら、俺は徹底的に抗うよ。 こんな中途半端なところで死ぬのは二度と御免だ」 ヴェント「まるで、一度死んだ人間みたいな言い草ね。 ……まあいい。だったら証明してみせなぁ!アンタが口先だけのガキじゃないって事を!! それが出来たら考えてやってもいいわよ」 ヴェントはそういって、鼻で笑いながら有刺鉄線の巻かれたハンマーをかまえる。 竜神「いいぜ。 ……テメェがそれを望むってんなら見せてやるよ! ”上条当麻”が望んだ幻想(未来)は、俺が必ず守る!!」 ヴェント「来な!!」 月明かりの照らす荒野の真ん中で、二人がにらみ合う。 さながら西部劇に登場するガンマンのように。 静寂が辺りを支配する。 一陣の冷たい風が吹き抜けた。それを合図にするように、二つの影は動きだした。 竜神当麻の右腕と、前方のヴェントが作り出した風の杭が、正面から激突する。 竜神「うをおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」 少年の右腕には幻想を殺す力はもう無い。 ベクトル操作によって反射の膜を張り付けた拳が、ヴェントの空気の杭を貫く。 竜神を叩き潰す為に存在する。殺意を持った風の鈍器が、虹色に輝き八方へと拡散していく。 制御を失い暴走した力の奔流が、地面を削り、竜神の周囲に大きなクレーターを作り出す。 その衝撃だけで、辺りに暴風が吹き荒れた。 乾燥した大地から砂煙りが舞い上がり、辺りを覆い隠す。 竜神(クソッ砂煙で前が見えねぇ!) 砂でできた薄いベールの向こうにヴェントの影が映る。 ヴェントまで、あと2メートル。 竜神の身体能力なら一歩で届く距離だ。 竜神「そこか!!」 ヴェントの顔面に拳を叩きつける為に、竜神が跳躍する。 しかし、その瞬間。ごすっっという衝撃が真横からやってきた。 竜神「はあぐぅっっっ!!」 上条『竜神いいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!』 ヴェントからすれば、牽制のために放った軽いジョブ。 しかし、その杭の一撃は竜神を容赦なく打ちのめす。 左肩を激しく打ち付けた竜神は、受身を取る間も無く。ノーバウンドで、20メートル程飛ばされ、迫り出した岩に激突した。 ヴェント「どうした?その程度なの?」 竜神「ごほっ。クソッ!!」 背中を強かに打ちつけた上に、大量の土煙を吸い込んだせいで、うまく呼吸が出来ない。 竜神はその場で這い蹲り咳き込みながらも、必死に思考を廻らせる。 竜神(殴れる距離まで接近できれば俺の勝ちなんだ。 アイツの防御術式自体はベクトル操作で無力化できる筈なんだから。 でも、砂煙で隠れて、ヴェントのピアスの動きが読めない。 攻撃の軌道が読めないから、一方的に攻撃されてしまう。 何とかして近づかないと……。 テレポートは使えない。ヴェントの真横にピンポイントで移動できるだけのコントロールは俺にはない。 万が一、地面にめり込んだり、空中に投げ出されたりしたら、いい的になるだけだ……。 あと一手、ヴェントに近づく為の何かが必要だ……。 ヴェントの攻撃を妨害する為の遠距離攻撃か、ヴェントの攻撃を防ぐ防御術式。 あるいはこの空気中に拡散する砂煙をどうにかする能力か…………砂!?そうか!!) 舞い上がる砂煙の中で、竜神の影がむくりと起き上がった。 竜神「お前ほどうまくはいかないだろうけど……使わせてもらうぜ御坂」 竜神は空気中の砂に含まれる砂鉄を、御坂美琴の磁力操作で操る。 かつて、彼女に勝負を挑まれた時、彼女は川原の砂鉄を操り、上条当麻に遠距離攻撃を仕掛けてきた事がある。 空気中の砂鉄がまるで意思を持ったかのようにうねり、ヴェントの頭上に集中する。 砂鉄の一粒一粒が細かい振動を起こした、巨大な刃物と化す。 ヴェント「空気中の砂を!?無駄よ。こんな物ぉぉぉ!!」 ヴェントがハンマーを振るうと、砂鉄はバラバラになり再びただの砂煙へと変わる。 ヴェントは風を司る存在だ。周囲の風を操る事など造作も無い。 圧倒的な暴風で、磁力で繋がれた砂鉄の連結を解除されたのだ。 辺りに漂っていた砂煙は、あっという間に吹き飛ばされた。 それでも。 竜神「まだまだぁぁぁ!!」 仁王立ちした竜神の周囲に青白い雷の光がほとばしった。 ドッバッツっという音と共に、ヴェントの半径100メートルほどの大地から、一斉に黒い砂が舞い上がる。 磁力を操り取り出した総重量およそ2トンの砂鉄が渦を作り、ヴェントの回りを取り囲む。 まるで竜巻のように舞上がると、刃の形をとり、再びヴェントに襲い掛かった。 それでも、ヴェントは引かない。 先ほどと同じ様に、風を操り、周囲の砂鉄を砂煙ごとなぎ払おうとする。 ヴェント「だから、無駄だって言ってんのよ!!」 空中に向かい有刺鉄線のついたハンマーを一振りすると、辺りに暴風が吹き荒れた。 ヴェントの頭上に展開していた砂鉄の刃は、半径200メートル程の範囲の広がっていた砂煙と共に、その圧倒的な力で振り払われた。 しかし。 竜神「だろうなぁ!!」 その声は、ヴェントの後方から聞こえてきた。 ヴェントが慌てて振り返ると、まじかまで迫った竜神が、右腕を振りかぶる姿が見えた。 ヴェント「はっ!くそっ!!」 竜神は、ヴェントが気付かぬうちに、後ろに回りこんでいた。 一回目の砂鉄の刃は、ヴェントの回避行動を見極める為。 正直、ただ移動するだけで避けられたら、打つ手が無かった。 しかし、ヴェントは強い。この程度の攻撃ならば正面からなぎ払う。それを確認したかった。 二回目の砂鉄の刃は、竜神自身の行動を隠す為の目くらましだったのだ。 周囲を砂鉄で覆い、姿を隠してから、回りこむ為の。 かつて、御坂美琴が上条当麻に接近戦を挑む為に使った戦術をそのまま利用したのだ。 竜神に御坂美琴のような繊細な応用はできない。 しかし、砂鉄を持ち上げてぶつけるだけの、シンプルな攻撃なら、かなりの規模で行なえる自信があった。 美琴から喰らった電撃は優に発電所一つ分はくだらないのだから。 竜神とヴェントの距離は1メートル。二人の間を遮るものは何もない。 邪魔だった砂煙は、ヴェント自身が吹き飛ばしてしまった。 竜神は渾身の力を拳に乗せる。 ヴェント(反撃するか?それとも、いったん距離をとるか? いや術式の構成が間に合わない。とにかく防御をしないと!!) ヴェントは身体をひねりながら、咄嗟にハンマーでガードしようと構える。 両者が雄たけびを上げる。 「「うをおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」」 ガードをすりぬけた右ストレートが、ヴェントの顔面に届いた。 竜神の拳がヴェントの防御術式と干渉し、七色に輝く。 竜神(この一撃で、全部終わらせるっ!!) ヴェント「はぐっっ!!」 竜神が右の拳を振りぬいた。 左頬を殴られたヴェントは、十数メートル飛ばされてから漸く動きを止めた。 意識を奪われ、ぐったりとしたまま横たわっている。 竜神「はぁはぁはぁはぁはぁ、ぐつっっっ!!」 竜神が勝利を確信した瞬間、これまでの疲労と痛みがどっと押し寄せてきた。 足がガクガク震えて立っていられない。 地面に膝をつき、雲一つない星空を見上げながら息を整える。 竜神「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……どうだ俺の勝ちだ!ヴェント!!」 竜神(“自分は幸せになっちゃいけない”っていうお前の幻想は俺には殺せない。 それは、お前自身が、自分でけりをつけなきゃいけない問題だからな。 でも、神の右席を抜ける口実くらいは、俺が創ってやれるはずだ。 当分は、旅掛さんと一緒に、この広い世界を見て周ればいいさ。 じっくり時間をかけて、自分の生き方を選び直せばいい。 俺と違って、お前には残された時間がたくさんあるんだから) 上条『大丈夫か竜神?』 竜神『ああ。なんとかな……。はぁ。俺とヴェントの傷の手当をしないと……』 上条『本当に大丈夫なのかよ?』 竜神『……ああ、やっぱ少し休ませてくれ』 竜神はそのまま何も言わず。うつぶせに倒れてしまった。 上条『おい!竜神!!しっかりしろ!!』 竜神「…………」 こうして、幻想殺しだった少年は、再びその右腕によって勝利を収めた。 彼の大切な物を守る為の戦いは、まだまだ続く。 御坂サイド ―アメリカ ラスベガス― 竜神達が戦いを繰り広げていたころ、御坂達は、御坂旅掛がチェックインしているホテルに辿り着いていた。 御坂「……何よこれ?一体何が起こったって言うの?」 ひどい有様だった。 まるで、ミサイルが着弾したかのように、辺りは破壊の限りを尽くされていた。 人工湖の水は干上がり、ホテル周辺のガラスというガラスが全て粉々になってる。 負傷者を搬送する為に、サイレンをならしながら、大量の救急車が忙しなく行き来し、すでに警察が周辺にバリケードを張り巡らしていた。 白井「とにかく、お姉様のお父様が心配ですの。行きましょうお姉様」 五和「私は辺りに聞き込みをして情報収集してきます。 何か分かったら、携帯に連絡を入れてください」 御坂「うん。分かったわ。じゃあ黒子お願い」 白井は御坂と手を繋ぎ。テレポートでホテルの敷地内に潜入する。 旅掛が泊まっているはずの部屋はすぐに見つかった。 他の部屋より破損具合が激しい一角だった。 窓だけではなく、壁や家具にいたるまで、ぐちゃぐちゃに破壊されている。 あまりの惨状に御坂は声を失う。 御坂旅掛は一般人だ。このような惨劇に巻き込まれたらひとたまりもない。 一瞬、最悪の事態が頭をよぎる。 御坂「パパ!!パパ無事なの!!」 白井「お姉様こちらですの!」 白井の声が聞こえたベットルームの方に駆け出した。 白井「安心してください。お父様はご無事の様です」 アレだけの騒ぎが起こっているというのに、御坂旅掛はベットの中で熟睡していた。 布団の中で丸まりながら、ごにょごにょと寝言をつぶやいている。 御坂「パパー!……良かった」 旅掛「……ぅぬえあ。上条当麻……美琴ちゃんは絶対嫁にやらないからなぁ……」 御坂「ぶっっ!!」 白井「あの類人猿っ! 夢の中とはいえ、すでにお父様とのご挨拶まで済ませているとは…… この白井黒子、一生の不覚ですの!!」 御坂(ちょっと、どうゆう事!? なんで父がアイツの事知ってるのよ?ってか嫁って。 ア、アイツのお嫁さんか……ふふふ) 白井「お、お姉様!? なんですのその恋する乙女モード!?そんなマジな反応止めてくださいまし!!」 御坂「ハッ!!ち、違うわよ。私はまだ家庭に収まる気はないし」 白井「すでに新婚生活までトリップしてましたの!!?おのれクソ類人猿がっ!!」 御坂「違うって!! あーもう。この馬鹿親父っ!厄介事ばっか持ってきてんじゃないわよ!!」 未だに夢の中にいる旅掛の後頭部に張り手をかます。 旅掛「うごっ!ハッ?美琴ちゃん!?」 御坂「そうよ!!」 旅掛「何故ここに?っていうか何でこの部屋はこんなにめちゃくちゃになっているんだ?」 御坂「パパが心配だったから、駆けつけて来たのよ!!」 旅掛「美琴ちゃんがこれをやったのか?」 御坂「私じゃないわよ。私だって何でこんな事になってるか知りたいくらいだわ。 昨日カジノで何があったの?」 旅掛「カジノ?……そうだ、竜神君はどうした?」 御坂「竜神?誰それ?」 旅掛「お前達がこの部屋に来たときもう一人男の子がいなかったか?」 御坂「パパ一人だったわよ。……もしかして竜神ってコイツの事?」 美琴は旅掛に端末を差し出す。海原光貴の顔写真が映った画面が開かれた。 旅掛「ああ、そうだこの子だ。この子は無事なのか?」 御坂「さあ?」 その時、御坂の携帯が着信する。昨日登録したばかりの、五和の番号だった。 五和「もしもし、御坂さんですか?」 御坂「はい、そうよ」 五和「お父様は見つかりましたか?」 御坂「ええ、御蔭様で。無事だったわ」 五和「よかった。……実は、必要悪の教会から新たな情報が寄せられたので連絡したんですが」 御坂「アイツの事?」 五和「ええ、そうなんです。どうやら、このホテルの襲撃事件と関係がある情報みたいなんですが……」 御坂「どうゆう事?」 五和「御坂さんが言ってたアステカの魔術師が、今、ラスベガスの郊外で戦闘を繰り広げているらしいんです。 相手は前方のヴェント。以前、学園都市を襲撃し、上条当麻さんの命を奪おうとしたローマ正教の魔術師です。 必要悪の教会の方では、上条当麻さん拉致に、このアステカの魔術師が絡んでいるのではないかと考えているようですね」 御坂「あの男が?」 五和「現在、ラスベガス周辺にいる天草式に召集命令が出されています。 その二人の戦闘が終わり次第。捕縛して情報を引き出すのが目的です」 御坂「五和さんも行くのよね?」 五和「はい」 御坂「分かったわ。 うちの父が、そのアステカの魔術師と接触があったみたいだから、私は父にもっと詳しい話を聞いてみる。 それが終わってから天草式の皆と合流しましょう」 五和「了解しました。合流地点は携帯端末に送っておきますね」 御坂「よろしく」 五和「それでは、またあとで」 上条サイド ―アメリカ ラスベガス― 竜神「おっ、目が覚めたか?」 ヴェント「テメェは……」 竜神「一応回復魔術は施しておいたけど、あんまり無理はするなよ。まあ、思いっきりぶん殴った俺が言うのもなんだけどな」 ヴェント「オーケー。状況は理解したわ。……遺言はそれだけでいいのね?」 竜神「チョット待った!!何でそうなる!?」 ヴェント「じゃあ聞くけど、これは何?」 竜神「これ?あー。膝枕か?いやだってよー。 こんな荒地に女の子ほったらかしになんてできないだろ? そのまま地べたに寝てたら頭痛そうだったからさ、俺の上着はお前のシーツ代わりに使っちまったし……」 そう、現在ヴェントは竜神に膝枕されていた。 竜神の膝に頭を預けた状態で、ヴェントは竜神を睨みつける。 ヴェント「ぉ女の子っ!?……アンタよっぽど私に殺されたいらしいね」 竜神「と言いつつ、俺の膝の上から動こうとしない、ヴェントちゃんなのであった。 って、うをっごめんなさい。調子乗りすぎました。 お願いだからそのハンマーを下ろしてください!!」 ヴェントは怪我人とは思えない程の俊敏さで起き上がると、 近くにあったハンマーを手に取り、振り上げながら竜神を見下ろす。 ヴェント「下ろしてあげるわよ。アンタの脳天になぁ!!」 竜神「っちょっとマジで勘弁してください。 長い事膝枕してたから、足が痺れて動けないんです。お願いぃ!!」 ヴェント「死ねっ!!っつぐっ」 突然ヴェントが頭を抑えだした。立っているのがやっとといった感じだ。 竜神「ヴェント!!だから無理するなって言ったろ!?」 ヴェント「うるさい」 竜神「いいから今は休め」 ヴェント「クソッ!」 ヴェントは舌打ちしながら、その場のしゃがみこむ。 竜神「とりあえず、勝負には俺が勝ったんだから。話しを聞いてもらうぞ」 ヴェント「……そうか、私は負けたんだね」 竜神「用件は二つ。一つ目は、アレだ、お前に守ってもらいたい人がいるんだ。 御坂旅掛っていう、俺の知り合いなんだけどさ。 色々あって、学園都市に命を狙われる可能性が高い」 ヴェント「私にソイツのお守をしろって事かい?」 竜神「そう、お前が適任だと思う。 二つ目は、後方のアックアとの連絡手段を教えて欲しい。 あのおっさんが今どこにいるか分からないんだ」 ヴェント「お守の件はともかくとして、ウィリアムの馬鹿と連絡が取りたいってんなら、占星施術旅団を尋ねるといいわ」 竜神「占星施術旅団?」 ヴェント「あの男のスポンサーみたいなもんよ。 アイツが武器の調達とかに利用してる、魔術師が営むよろず屋ってとこね」 竜神「なるほどな」 ヴェント「……学園都市が何かやらかそうとしてるってのは本当なのね?」 竜神「多分だけど、統括理事長は学園都市そのものを『箱庭』にしようとしてるんだと思う」 ヴェント「……まさか、あの堕天使が使ってた、気持ち悪い力を利用するつもりだっていうの!?」 竜神「AIM拡散力場な。アレを使ったら。確実にこの星の界の層が歪む。 間違いなく、魔術世界は一瞬で滅ぶだろうな」 ヴェント「クソッやっぱりあの時あの堕天使を殺しておけばよかったんだ……」 竜神「それじゃあ根本的な解決にはならないって。 風斬を殺しても、風斬に代わるものをつくりだして計画を実行する。 それが学園都市のやり方だからな」 ヴェント「じゃあアンタはどうするつもりなのよ」 竜神「それは……あークソっ!」 ヴェント「お客さんみたいね。アンタのか私のかは分からないけど」 何もない荒野のど真ん中に、その者達は突然現れた。 20人くらいの日本人が、竜神達を取り囲む。 竜神「天草式?」 集団の一人。クワガタのような髪型をした黒髪の男が、長剣を肩に担ぎながら近づいてくる。 建宮「すまんが、アンタ方に聞きたい事があるんで、ちょっと面貸して欲しいのよな?」 肩に担いだフランベルジュに、月の光を反射させながら、教皇代理、建宮斎字が獰猛な笑みを向けた。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/456.html
とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅵ Ⅴ 幻想(ゆめ)を見る。 それは、 とても哀しい現実(ゆめ)だった。 全てが壊れて。 全てが無くなって。 全てが遠ざかって。 そして、 自分は、 その全てを起こして。 全てを失った。 何もかも。 仲間も。愛も。友情も。自分も。体も。意識も。心も。 幻想も。 力も。 そして、 世界は、 終焉を迎えた。 Ⅵ 「…はえ?」 思わず、上条は声を上げる。 目を開けると、移ったのは見慣れた天井。 そして、首を回すと。 移ったのは、見慣れた―――― ギュゴォッ! と、上条は首を瞬間的に元に戻す。 そして、冷静になってみると、その視線の先には、 歯をギラつかせたインデックスが。 「…あ、あのー?」 上条が、防御態勢をとりつつ言う。 「わ、わたくしめは、注射をうたれて寝ていたわけでして… つまり、この不可解な現象にわたくしめは関与していないわけでして… そして、あなたのお怒りも緩和されないわけでして?」 最後だけ、ちょっと理解不能な文章になった。 だが、それでも目の前のシスターは、コクンと頷く。 そして、 「と――――う―――――ま―――――ぁ!!!!」 そう叫び、インデックスが飛びかか―――― 「…?」 ろうとした時。 上条の横で、『何か』が動いた。 それは、この不幸の根源。 つまり、常盤台中学のエースで、超能力者(レベル5)の第3位で、つまり、 「…って!ちょっとあんたねぇッ!?」 御坂美琴だった。 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅶ なぜか、さっきまで上条と同じベッドですやすやとかわいい寝息をたてて寝ていた少女だ。 そんな可憐な美少女に、上条は思わず言った。 「ってか!全てお前のせいだからっ!?まずこの不可解な現象がおきた理由を説ぐはぁッ!?」 発言途中でインデックスに頭を噛み付かれる上条。 「え、あ、え…?私??」 途中までの発言に、戸惑う美琴。 その仕草が、なんともいえないほどかわいい。だから言った。 「すみませんっ!?なんでもいいからこの怒りボルテージMAXのシスターさんを引き剥がしてもらえませんでしょうかマジで!!」 そう叫んだ。 だって、生命の危機が現在進行形で訪れているのだ。そんな状況下で、かわいいとか可憐だとかもう関係ないよねーッ!!と上条は勝手に決め付ける。 その叫びに美琴は、 「言われなくともッ!」 と、なぜかやる気満々な声で答え、インデックスを剥がし始める。だがしかし、インデックスのあごの力が異様に強く、引き剥がせないどころかインデックスの顎が少し動いて更なる激痛が上条の体を支配する。 「-^~っ:ぉ。・っ!?」 理解できるはずがない言語を放つ上条。 それを見た美琴は、 「え?逆効果!?」 とっさに力を抜く。だが、体にかかる力がなくなったためか、やっぱりインデックスの噛み付きレベルが一つ上がってしまう。 もはや声も出せない上条。 「ちょ、もうッ!」 そう美琴が言い、少し強めの電流をインデックスに浴びせる。インデックスが少しふらっと揺れ、噛み付きから解放された上条が叫ぶ。 「だぁ!俺は今回の戦いであんまり怪我しなくて優秀だったなぁー、なんて思ったら次はこれかよっ!? てか、俺の怪我の大半はお前のせいな気がするぞインデックス!」 「な、なにを言うのかなとうま!?そもそも、とうまが無駄な事件に首を突っ込むからいけないんだよッ!」 「の前に、あたしへの感謝の気持ちはないわけなの!?」 上条とインデックスの声量に負けじと、美琴も声のボリュームを上げる。 「あ、ありがとな」 適当に言う上条。というか、この惨事はお前のせいじゃねぇの?といいたかったところなのだが。 そして、その言葉を言った次の瞬間。 「何故お姉様が感謝の言葉をかけられ、何故私にはそれがないのですか?と、ミサカは暗に『私にも言え』と強制します」 「どういう理論だよそれ!?ってか、何もしてないのに感謝の言葉をかけられてもうれしくないだろ!」 「いいえぜんぜんっ!全く持ってうれしい限りですがっ!」 と、御坂妹に続いて病室の扉をぶち壊すような勢いで入ってくる少女。 「五和!?なんでここに?」 「説明は後回し!とりあえず今はッ!」 「なにが、とりあえず今は、よ!新参者は引っ込んでなさい!!」 「それだったら、短髪も新参者かも!」 「ふふ。あんたは知らないだろうけど、実は私たちは前から関係があったのよ」 「確かにそうだけど!事実だけど受け取れる意味がちょっとヤバい気がするのですがっ!?」 なんかヒートアップしていく彼女たちの会話に一声適当に入れ、上条はとりあえず会話から外れる。 (…さっきの夢…は?) 確か、起きる前までやけに現実的な夢を見ていた…気がする。 しかし、ぜんぜん内容が思い出せない。分かるのは、とてつもなく悪い夢。さっきみたいな展開でもいいから、何でもいいからその夢から覚めたい、と思ってしまうほどの。 確か、 自分が笑っていて、 周りの人が泣いていて、 周りの人が泣きながら俺に襲い掛かってきて、 そして自分は――――― (…だめだ。なんか思い出せねぇ) 上条は頭に手を当てかけ、その手を引っ込める。 (まぁ、思い出せない夢より) と、上条は目の前の『惨事』を見つめる。 (――――目の前の事件…か) ため息をつき、そして、 「…そういえば、何でこんなことなってんだ…?」 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅷ その後の、上条とほかの面々の壮絶なる争いを書くといろんな意味で凄いことになるので、省略する。 とりあえず、今は昼。 そして、場所は、 「…俺、何でこんなとこいるんだ…?」 このごろ疑問系ばかりだな、と感じる上条。しかし、分からないものは分からないのだから仕方がない。 「私たち、天草式十字凄教以上の組織の中心人物が、なに言ってるんですか」 五和が、少しだけ呆れたような感じで言う。 「『上条勢力』ねぇ…実感が沸かない」 あの後、五和からいろいろと話を聞いた。 まず、五和がいきなり病室に殴りこんできた理由(上条を巡る、という意味ではない)。 今回の先頭のことを、学園都市はイギリス清教伝えたらしい。 すると、イギリス清教からの増援がよこされることになった。 その増援が、天草式十字凄教、元アニェーゼ部隊だそうだ。 そして、それらと今回の戦闘にかかわった面々で、作戦会議みたいなものを行うらしい。 「…へぇ」 適当に上条が相槌を打ったところで、とある男を見つけた。 確か名前は、 「…海原、光貴?」 8月31日に、美琴をデートに誘って上条を襲った人物だ。 その海原が、隣にいる神裂クラスに露出度の高い女と話している。そしてその女の隣には、一方通行(アクセラレータ)。 「…何なんだ、あいつら」 なんとも分かんない面子だ、と上条が思ったところで。 美琴がその女を思いっきり睨み付けているのを視界が捕らえた。 「…」 上条は、ぎこちなく視線をはずす。 あれはマズい。絶対マジだ。たまに見る美琴のマジの目だ。対一方通行(アクセラレータ)のときに見たあの目だ。 …この作戦会議とやらが終わるまで、あの女の人が消し炭になっていないことを上条は天に願った。 と、そこで。 『時間となりました』 いきなり、部屋一帯に声が響いた。 「…時間?」 「ええ。あれ、聞いてませんでした?」 それに上条は、無言で頷く。 てか、五和の話が本当だとしたら、一つの組織の中心人物にそんな重要なことを教えないってのはどういうことだ、と上条は思う。 そんな上条の思いを無視し、また声が響く。 『それでは、ただいまより対反乱因子作戦会議を行います』 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅸ 「反乱因子?」 上条が、そのワードに反応を表す。 『垣根聖督の戦力の超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)、および聖督本人を指します』 「ふーん…」 適当に受け流した上条、 だったのだが。 「…ハァッ!?」 大部分の科学サイドの面々が声を上げる。 「…?どうしたのよ?」 天草式教皇代理である、クワガタのような髪形をした建宮斎字が問う。 「ちょ、え!?もう一回、今の部分!!」 美琴が、かなりおかしい日本語で叫ぶ。 しかし、機械の方はそれで通じたようだ。 機械は、やはりまるで感情のない声で言う。 『垣根聖督の戦力の超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)、および聖督本人を指します』 もう一度、丸々同じことを発言した。 それに科学サイド側は、 「…レ、ベル…6?」 海原、一方通行(アクセラレータ)と話していた、裸の上半身に淡い色の布、制服であろうブレザーを着込んでミニスカート、というある種神裂クラスの女が言った。 「…絶対、能力者…」 その言葉に、一方通行(アクセラレータ)さえも驚きの表情を隠しきれていない。 「その情報は、確かなものなのでしょうか?と、ミサカは機械相手に質問を投げかけます」 妹達(シスターズ)を代表している、御坂妹が問いかける。 『この情報が正確なものである確率は、かなり高いとされます。前回の戦闘において、大能力者(レベル4)の空間移動者(テレポーター)、白井黒子が倒した超能力者(レベル5)の話だと、垣根聖督は絶対能力者(レベル6)を所持しているそうです。数は未明』 淡々とした声で言う機械。 「…神ならぬ身にて天上の意思にたどり着くもの」 打ち止め(ラストオーダー)が、機械のような合成音ではなく、人間らしい高低がある声で言った。 「何で、そんなことがわかるのかしら?相手には、精神系能力者もいるのよ。もしかしたら、あの子の頭にそんな事を無理矢理インプットさせただけかもしれないじゃない」 「それはありえないわね」 美琴が、ほんの少しの可能性を提示したところで、突然女の声にさえぎられる。 ほとんどの人間の視線が、会議室につながる扉に向かう。 その扉を開け放ち、中に入ってきたのは、 「ッ!心理掌握(メンタルアウト)!?」 「あら。そんな能力で呼ぶのではなく、ちゃんと名前で呼んで欲しいものね。超電磁砲(レールガン)」 常盤台中学の制服を着た、縦長の黒髪ストレート、楚々とした表情を浮かべる少女が言った。 「まさか、あんた勝手に黒子の記憶を――――」 「勝手とは人聞きの悪い。私は、学園都市上層部の方に協力したまでよ」 美琴を見下すように、心理掌握(メンタルアウト)、と呼ばれた彼女は視線を下げる。 「…なぁ。心理掌握(メンタルアウト)、って何だよ?」 上条が、小さな声で御坂妹に問う。 だが、それは本人に聞こえたらしい。 「!?あ、あなた、この『心理掌握(メンタルアウト)』こと長谷田鏡子を知らないと!?それでも学園都市に在住する生徒かしらッ!?」 凄い勢いで、鏡子とやらにまくし立てられた。 「…いや…知らないものは知らないけど」 引き気味に上条は言う。というか、常盤台の制服を着ている時点で、自分の方が立場上なんじゃね? 能力云々の前に人間として俺のほうが上じゃね?と上条は思うのだが、 「…超能力者(レベル5)第5位を、あんたは知らないの…?」 美琴に呆れた声で言われて、初めて上条は驚きの声を上げた。 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ 「…呆れた」 そう、鏡子が言う。 (いやってかっ!あれ、お嬢様ってみんなこんな口調なの?俺の知ってるお嬢様っていったら、美琴に白井、それにこの人しかいないんだけど…白井は口調は丁寧だけど、性格があれだし…あれ?マジでお嬢様ってこんなモン??) と上条が、あまりのショックにどうでもいいことを考え始める。 「…あんたね。そんなことにショック受けんなら、あんたがあいつを倒したときのショックはどれくらいのモンなのよ?」 美琴が、一方通行(アクセラレータ)の方を首で指しながら言う。 「そういえば…ぶっちゃけ、超能力者(レベル5)っつわれてもな…」 と、いきなり平静を装う上条。 それに鏡子は、 「はぁ!?何ですのその反応は!…って、え…?まさか、あ、なたが、一方通行(アクセラレータ)を …倒した、お方…?」 発言の途中あたりから、疑問文になった言葉。 それに上条は、 「あ、一方通行(アクセラレータ)。お前、倒された経験って俺にだけ?」 「ぶっ殺すぞ」 いきなり話を振られた一方通行(アクセラレータ)だが、もういつもどおりに戻っている。 「…まぁ、お前にだけ、って言えばそうなるか」 一方通行(アクセラレータ)が思案気な顔になり、言った。 「…?」 その、そういえば2,3回倒されたっけ?のような発言に首をかしげる上条。 一方通行(アクセラレータ)の能力は絶大だ。それこそ、上条のようなレイギュラーな能力を持ってても勝てるかどうか怪しい程度。正直、あのときの勝利は―――― 「あ、あなたがあの『上条当麻』様ですかッ!!??」 「はいぅ!?」 思考の途中で、いきなり大声を出されてビクる上条。 発言の主である鏡子の方を振り返ると、 上条の不幸センサーがビビッと警戒態勢を知らせる警報を鳴らした。 つまり、 「あ…ッ!い、今までの無礼な言葉遣い、まことに申し訳ございませんっ!わ、わたくしとしたことが…」 なぜか一瞬で顔を赤らめ、上条に対して考えられない口調になった鏡子が写った。 それが意味することとは、 「インデックス!?私はこの件に関しては本当に関与――――?」 いつものようにインデックスが噛み付いてきて、美琴がビリビリを飛ばしてきて…という日常(不幸)を予想して右手を突き出し、左手で頭を庇う、という体制を一瞬で完成させた上条が、いつになく無反応な彼女たちに対して不信感をあらわにする。 「んー。これくらいなら、別に何の問題もないんだよ」 「てか、これくらいで問題になるんだったら、とっくに誰かとデキチャッてるわよ」 「…?」 上条をめぐる乙女関係を代表して二人の美少女が答える。そして、その乙女関係に混ざっている少女たちは、うんうんと頷いている。 一文目の前半部分については、上条には全く自覚がないのだが。 「な、なにをっ!?このわたくしを見てそんな発言が!?」 と、鏡子が二人の発言を受けて胸を張る。 上条が改めて鏡子をしげしげと眺めてみると、 足は結構美脚。スタイルもかなりのもの。顔は、まあまあ整っている。 普通にモテるくらいかなー、と適当に上条は予想する。 「どっ、どうですか上条様ッ!?」 そんな上条の反応を見て、鏡子がいきなり接近してくる。 「いや…どう、と言われても…」 苦笑い、愛想笑いが混じった笑みを浮かべ、鏡子から顔を背ける上条。 「ほら。あんたには到底手の届かない男なのよ、そいつは」 「でも本人には自覚がないんだけどね。…自覚があったらあったでそれは怖いんだよ」 予想してましたー、と二人の少女が言う。 「な、何故っ!?何故わたくしの百戦錬磨の恋愛テクが通用しないんですのッ!?」 「百戦錬磨ぁ?そんなんじゃ通用しないわよ」 美琴が、かわいそうなものを見るような目で鏡子を眺める。 … 「あ、あのー?これは、いったい何の…?」 と、今までの不可思議現象(ドッキリ)を見てきた上条が言う。 「ほーら。自覚がないんですよ」 今度は、隣に座っている五和が苦笑混じりに言った。 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅰ 「だ、だから何の話を…」 五和に言葉を返しながらも、『ドッキリ大成功!』と赤字で書かれているであろうプレートを探す上条。 「…な、ならばわたくしの能力でッ!」 「はいはいー。当麻、ずっと頭に右手当ててなさい」 どうでもいい、とでも言いたげにざっくばらんに言葉を放つ美琴。 「え?あ、はい??」 いまいち理解しがたいが、とりあえずそれにしたがってみる上条。 「何を?そんな手など、わたくしの能力の前には壁にもなりませんのよ」 フン、と鼻で笑う鏡子。 「どうかしらね?こいつが、どうやって学園都市最強を倒したと思う?」 鏡子の行動を受け、嘲笑するような表情になる美琴。 「いや、あの。俺、さっきからずっと疎外感を感じちゃってるのですが」 上条が、不安げに美琴に説明を求める。 だが、その説明が来る前に。 バギン! 上条の頭の辺りから、幻想殺し(イマジンブレイカー)が反応したときになる音がした。 「え?」 それに真っ先に声を上げたのは、鏡子だった。上条には、その音を聞いた瞬間、全てが理解できたからだ。 「何ですか、その音は…まぁ、とりあえず演算は完璧ですから、もう上条様はわたくしのものですがっッ!」 そういい、高笑いする鏡子。 「あー、ちょっとそこそこ」 やはり、かわいそうなものを見るような目で鏡子を見ていた美琴が言う。 「何ですか?今更になって帰してくれ、なんて聞きつけませんのよ。その前に、別にそういう関係であった経歴は無さそうですがね!」 同じく高笑いする鏡子。 それに、もはや何もいえなくなった美琴が、 「…あんたの口から言ってやりなさい」 上条を、どうしようもない表情で見ていった。 「あの…何が起こったのかは理解できてんだけど、何で起こったのか理解できないんだけど?」 「それはそれで逆に良いんです、と、ミサカは唐突に会話に混ざり言います」 上条の発言に即答する、御坂妹。 「…とりあえず、こっちか」 なんか、ものすごく重大なことを見落としているような気もするが、とりあえず鏡子の方に向き直る。 「あ、あのー…お取り込み中申し訳ございませんが」 もはや高笑いから、黒子の本質を表したときのような表情になっていた鏡子の前に立ち、言う。 「多分、その『心理掌握(メンタルアウト)』っていうの、効いてないよ」 その上条の発言を聞いた瞬間、鏡子は、 「ッ!?な、何故!?制御下にある上条様から、何故そんな言葉がッ!?」 なんか、急に取り乱す鏡子。 「あー、俺の右手。幻想殺し(イマジンブレイカー)ってんだけど、これが触れた全ての『異能の力』は問答無用で消去されるから」 「…」 その言葉に、反応できない鏡子。 学園都市最強を倒した男。 そんな人間から放たれる言葉には、信憑性があった。だから鏡子は黙ったのだ。 「…いろんな意味で、あんたには無理よ?」 美琴が、鏡子に止めを刺すように言う。 それに鏡子は、 「…ってか、何やってんだよ?」 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅱ 「んあ?」 と、上条は予想していなかった声に振り向く。 (…待てよ。またさっきの展開とおんなじ、なんてことはない…よな?普通に男っぽかったし… ッ!?ま、まずい…白井のことを思い出してしまった…) 美琴の苦悩を、本格的に理解できるんじゃないか、と感じる上条。 だがしかし、現実は別にそう危惧すべきことは起こっていなかった。 つまり、 「へぇ。あんたが『一方通行(アクセラレータ)』を潰した男、ってか?」 「いやっ!今度はそっち!?学園都市最強を倒した男を倒せば俺が学園都市最強だぁぁぁぁぁっ!!! って思考の持ち主さんですかッ!!?」 そういうことである。 …実際問題、そんなことにはなっていないのだが、上条の脳はすでにショートしている。 「…?学園都市最強を倒したところで、じゃあそいつが最強ね、なんていくはずねぇだろ」 あっさりかえされる上条。 それに、え?てことは、なんかいきなりバトろうぜ!な展開は無しッ!?と、あらぬことを想像していた上条の表情が瞬間的に明るくなる。 「…チッ」 だが、とある白髪の最強少年のあからさまな舌打ちにより、上条の笑顔は凍りつく。 「おおー、いるとは聞いていたけど…なんかこれは面倒くさい気がするぞ?」 と、一方通行(アクセラレータ)を見つけた少年が苦笑いとともに言う。 「…長点上機学園2年、葛城妖夜」 「おお、学園都市最強に覚えられてるとは。なんか光栄だなあ」 妖夜、とか言われた少年は、一方通行(アクセラレータ)に笑みを返す。 「馬鹿が。知らない方がおかしいだろォが」 「まぁ、そういうことだな」 「…はい?」 と、二人の会話に何か不穏なものを感じてしまう上条。 「超能力者(レベル5)、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』さンよォ」 「はいでましたよなんかよく分からんフラグッ!?俺はそんなもの全然希望してないんだけどッ!!」 「…?何言ってんだ…??」 妖夜なる者が、不思議そうに聞き返す。 「…なんというか…とりあえず」 上条が、息を吸い込み、 「不幸なんですわたし」 「どこら辺が不幸なんですか…?」 隣の五和が、なぜか頭を抱えてため息をつく。 「もはや口癖なっているそうですが…一般人から見ればよほどの幸運なのでは?」 ものすごい幸運を持って生まれた、『聖人』たる神裂が言う。 「…どこをどう見れば?」 「どんな角度から見ても、よ」 美琴が、やはり少し疲れたような表情で言ってくる。 「いやあのですね。わたくしは1週間に100回くらい殺されかけた経験があるきがするのですが」 上条が言っているのは、英国での騒乱、それに続いた対フィアンマ戦のことだ。 それに、インデックスがつっつきを入れた。 「それはただ単にとうまがでしゃばるからなんだよ」 「でしゃばらなければならない理由の大半のあなたが言うことじゃありませんよインデックスさん」 冷静なコメントを返す上条。 「…それにしても、本当に『不幸だ』と感じてらっしゃるのですか?」 部屋の隅っこでなんか錯乱しかけていた鏡子が、平静を取り戻しつつ言う。 「…えと、あの。全員そろって俺の不幸全否定ですか?」 上条が、不幸の原因であるらしい右手を見つつ、言う。 「さっきから話が全然掴めねぇんだけど…とりあえず、『こっち』の方を進めようぜ?」 妖夜が、自分の後ろを振り返りながら言う。 「…まだ、なんかあんのか…?」 上条が、やはり自分は不幸だ、と再確認しながら言った。 「ん?話は終わったのか?俺は他人の色恋沙汰とかに首を突っ込むほど曲がってないぞ」 唐突に、芯が通っているような声が響く。 「超能力者(レベル5)、『念動砲弾(アタッククラッシュ)』こと削板軍覇だ」 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅲ 「…」 それに、上条は、 「御坂を皮切りに…なんでこう次々と超能力者(レベル5)とあってしまうんだ俺…まさか、全員妹達(シスターズ)関連なのかおいッ!?」 もうあまりの自分の不幸さに、勝手に人にその不幸の原因を作ってしまう。 「ちょ、なにそれ!?確かに、わたし、一方通行(アクセラレータ)はそうだけど!ほかは関係ないじゃないッ!!」 それに、もちろん美琴は反論する。 しかし、妹達(シスターズ)ではなく美琴関連なら、一方通行(アクセラレータ)はさながら、心理掌握(メンタルアウト)とはかなりの関係を持ち、肉体変化(メタモルフォーゼ)とは大覇星祭のとき一戦交え、念動砲弾(アタッククラッシュ)は美琴の知らないところで妹達(シスターズ)とほんの少し関わりを持っている。 つまり、今この場に集っている超能力者(レベル5)は全て美琴に関わっている、と言える。 別にここがそれを認識しているわけではないのだが、この場にいる美琴を除いた超能力者(レベル5)+上条が、 「…ハァ」 「なっ…何よそのため息!?」 美琴がやはり突っかかってくる。 が、そこで、 「とりあえず、話を進めてもよろしいでしょうか」 突然、声が響く。 「戦闘可能な超能力者(レベル5)が集い、紹介も済みましたので」 「そういえば…これって、作戦会議、なんだったっけ?」 上条が、機械の声に反応して言う。 「はい。まだそろっていないメンバーもいますが、時間がかかるとのことですので」 そこで機械は、一度音を切って少し間を置く。 「それでは、会議を進めてもよろしいでしょうか?」 機械が問いかけるが、返事をするものなど一人もいない…わけではなく、打ち止め(ラストオーダー)が『オーケーだよー』とか意味が分からないはずなのに言っていた。 機械は打ち止め(ラストオーダー)の声を無視して言う。 「それでは、改めて…ただ今より、対反乱因子作戦会議を始めさせてもらいます」 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅳ 「ではまず、事の発端、および昨日の戦闘について説明させてもらいます」 機械が、無駄に丁寧な言葉でみなに伝える。 「今回の事件――――今後、反乱事件、と呼ばせてもらいます――――の発端者は、垣根聖督。垣根聖督は、学園都市第2位、垣根帝督…『未現物質(ダークマター)』の父親です。垣根帝督は、『ピンセット』を得るために起こした事件で、学園都市第1位、『一方通行(アクセラレータ)』と遭遇、戦闘を行いました。結果、垣根帝督は敗北。さらに、一方通行(アクセラレータ)による過度な攻撃により、死亡寸前まで追い詰められます。しかし、学園都市統括理事長の指示により、その後脳や心臓、肉片などを回収され、今は3つの容器にそれぞれが収められており、『生存』しています」 会話の途中から出てきた一方通行(アクセラレータ)は、特に表情を変えることなく聞いている。 隣にいる海原…ではなく、アステカの魔術師、だと思われる男や、露出度の高い女子高生などは少し表情を変化させているが、上条には理由が分からない。 「垣根聖督は、どうにかしてその情報を得たらしいのです。そして、ただ単に『生存』しているだけの息子を、元の生活に戻すために今回の『反乱事件』を起こしました」 機械は、「…だと思う」、「…だそうだ」などといった不確定な表現はしなかった。決定事項をただ冷静に報告しているのだ。 「今回の『反乱事件』の目的は、先程述べたとおり、垣根帝督を元に戻すこと。しかし、今の垣根帝督は、学園都市が作った並の核シェルターとは比べ物にならない場所で『生存』しています。そこを突破するためには、相当の戦闘力が必要とされます。ここを単純に『突破』するだけなら、超能力者(レベル5)が一人いれば十分ですが…学園都市は、それを良しとしない。そんな事をすれば自分を潰しにかかるだろう――――そう考えた垣根聖督は、『反乱因子』の作成に取り掛かったのです」 一気に言っていく機械。 「反乱因子、とは?」 そこで、神裂が疑問を口にする。 「まことに申し訳ございませんが、質問はわたしの説明の後、受け付けます。それまでは、お静かに聴いていてください」 やはり無駄に丁寧な言葉で、神裂の質問を跳ね除ける機械。 「では、話を続けさせてもらいます。 先程述べた『反乱因子』は、中途半端な力では学園都市と対立することは出来ません。そして、垣根聖督は垣根帝督の父親であるとともに、学園都市に在住する科学者でもあります」 「へぇ。そりゃァ、結構なレアじゃねェのか?」 一方通行(アクセラレータ)が口を挟んだが、誰にも反応されなかった。 「彼が担当する専攻は、『AIM拡散力場』。もちろん、息子の『未現物質(ダークマター)』のAIM拡散力場も研究対象でした。垣根聖督は、息子の能力だけでなく、様々な能力のAIM拡散力場も研究していました。彼はその研究成果をもとに、人工的に能力者を作り上げていました。これは反乱事件の前からのことです」 「能力者を…人工的に作成、ですって…!?」 美琴が、異様に反応する。似たような遭遇にある彼女だからだろうが、当の『妹達(シスターズ)』は特に反応していなかった。 「反乱事件前に作り上げた能力者は、合計47名。作り上げたものの、無能力者(レベル0)だった者は89名。能力者のうち、低能力者(レベル1)認定者は13名。異能力者(レベル2)判定は18名。9人は強能力者(レベル3)。大能力者(レベル4)は7人作り上げていました。超能力者(レベル5)、絶対能力者(レベル6)はともに0です。しかし、垣根帝督の敗北に伴い、垣根聖督に一度送られた垣根帝督から、本人のAIM拡散力場を研究に取り入れた垣根聖督は、その研究レベルを格段に増すことに成功。 その後に作られた能力者のレベルも跳ね上がり、強能力者(レベル3)が13人、大能力者(レベル4)が23人、超能力者(レベル5)が8人です」 「…超能力者(レベル5)を、8人も、ねぇ…」 あまり実感が沸かない上条は、とりあえず『凄いな』と思った。 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅴ 「はぁっ!!?」 なので上条は、突然響いた大声…いや、もはや叫びに相当驚いた。 その叫びは、高位能力者たちから発せられたものだった。 「って!何をそんなに驚いてんだよ!?」 妙な叫びのせいで、自然と声のトーンが高くなっている上条。 しかし、彼らはそんな上条お構い無しに勝手に話を進めていく。 「そういやァ…どうやって超能力者(レベル5)を8人も用意したのかは気になっていたが…」 一方通行(アクセラレータ)が、机からずり落ちた腕を直し、再び頬杖をつきながら言う。 「まさか…『造る』、なんて方法で用意したなんて…」 美琴は、もはや表情を浮かべていない。彼女の無表情なんて見たことの無かった上条は、少し引いてしまう。 「実際、どのようにして造ったのか、が問題ではなくて?」 割と平静を保っている鏡子が言う。実際は、上条に自分の能力――――心理掌握(メンタルアウト)と、自称百戦錬磨の恋愛テク――――が聞かなかったときのショックが大きすぎたせいで、ショックが緩和されているだけである。 「学園都市第2位のAIM拡散力場…例えそんなものを用いたとしても、超能力者(レベル5)はおろか、大能力者(レベル4)も造り上げることは出来ないと思うが…」 妖夜が、パニックしかけた脳を落ち着かせつつ言った。 「そこら辺は、科学者さんたちにしか理解できない方程式でもあんだろう?」 思いっきり驚いた表情のままなのに、冷静な言葉を投げかける軍覇。結構シュールに見える。 「それでも…超能力者(レベル5)は造れないんじゃ…」 一方通行(アクセラレータ)の隣に座っている、ブレザーな女子高生が無理に冷静を保ちながら言う。 しかし、その声の後に続くように、誰となく言った。 「…超能力者(レベル5)を、人工的に『造った』なら…絶対能力者(レベル6)は…?」 それは、不安を言葉にしているようにも聞こえた。 その言葉を無視し、機械は話を続け始める。 「さらに、垣根聖督は絶対能力者(レベル6)を所持している模様」 「…チッ。予想はしていたが…」 一方通行(アクセラレータ)が、唐突に首筋の電極のスイッチを入れ、言う。 回りの者は当然警戒態勢を一斉に敷くのだが、一方通行(アクセラレータ)はそんなものにかまわずに目を閉じ、何かブツブツ呟いている。 「何かの演算をしているみたいだね、ってミサカはミサカはミサカネットワークが稼動したのを感知したのを感じながら言ってみる」 と、御坂妹の隣に居る打ち止め(ラストオーダー)が、机から身を乗り出しながら言った。彼女は、あまりショックを受けていないようだ。 「…しかし、超能力者(レベル5)8人、絶対能力者(レベル6)も何人か所持、ねぇ…」 美琴が、半分ため息をつきながら言う。 「戦闘力にすれば、超能力者(レベル5)だけでも軍隊8つ分。さらに応用性、コンビネーションなども含むとするならば、少なくとも軍隊12隊分を同時に相手できると考えても良いかと、ミサカはネットワークを介しながら言います」 御坂妹が、打ち止め(ラストオーダー)を椅子に座らせながら、前を見ずに独り言のように言った。 「それに加え、『絶対能力者(レベル6)』…」 妹達(シスターズ)を何か幻想でも見ているような目で見つめている鏡子が、気を取り直しつつ言った。 「未知数の戦力…少なくとも、軍隊3つ分くらいなら無傷で潰せるんじゃねぇのか?」 妖夜が、もはや少し笑いながら言う。おそらく真剣なのだろうが… 「軍隊3つを無傷、でか…根性のかけらも見えんな」 軍覇が、表情を戻しながら言った。 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅵ 実はこの軍覇、オッレルスに敗れて以来、訓練を死ぬほど積んできていた。その訓練の成果、口調や性格も少し変わっていたのだが…やはり根っこは変わっていないらしい。 「話を続けさせてもらいます」 機械が、話に割り込んでいった。 「絶対能力者(レベル6)の戦闘能力ですが…やはり不明。ですが、単独で軍隊を5つ程度なら捨て身で潰せる、くらいの者、と予想できます」 やはり、機械は冷静な音声で喋っている。 「…ハッ。ふざけやがって」 上条が、半ば呆れ気味に言った。 「ンでェ?俺らは、そンなモンと楽しく殺し合ッてりゃいいのかァ?」 一方通行(アクセラレータ)が、少し楽しげな表情を浮かべながら言う。 「まことに申し訳ございませんが――――」 「チッ。それならいい。さっさと進めやがれ」 一方通行(アクセラレータ)が、機械の受け答えを予想したのか、忌々しそうにつぶやく。 「垣根聖督は、これほどの戦力を持っても強行突破をしようとしませんでした。まだ、学園都市には届かない…そう判断したのでしょう。そして、その学園都市を出し抜くために、まずは斥候として超能力者(レベル5)をよこした――――昨日の戦闘は、つまりは情報採取のためのものです」 「超能力者(レベル5)を斥候扱い…良い身分ですこと」 もう殆ど興味無さそうにしている鏡子。まぁ、そうなっても仕方がないといえる。 「ってことは、昨日のはお膳立て…ってことかい?」 それまで、全くの発言をしていなかったステイルが、唐突に発言する。 「はい。そうなります」 珍しく、機械が質問に答えた。そのときに説明していて、簡潔に答えられる質問だったからだろうか…? 「どんだけ、だよ…」 ステイルとは、おそらく違う意味で発言していなかった浜面が、ポツリとつぶやいた。なぜかその声は、浜面自身は部屋の墨にいるのに部屋全体に響き渡る。 「続けます」 機械的な音が、浜面の言葉をかき消す。 「昨日の戦闘で、おそらく戦闘不能に陥った超能力者(レベル5)は4人。ほかの超能力者(レベル5)は無傷です。その無傷の超能力者(レベル5)のうち、一人は精神系能力者であることが判明。能力名は、『精神操作(メンタルコントロール)』…対象を取った人物の精神を、ほとんど自在に操作できる能力、と言っていましたが、真実かは不明。その能力は、『一方通行(アクセラレータ)』の能力である程度『反射』できるものであることが判明しています。その他の超能力者(レベル5)の能力などに関しては、全く未判明です」 「待て」 そこで、一方通行(アクセラレータ)がストップをかける。 「あの女の能力…精神操作(メンタルコントロール)は、一度本人の精神に干渉し、そこから干渉できる精神を拡大させていき、さらに拡大した行動範囲内にて、相手の精神を自在に操る…ざっとこンな能力だ」 一方通行(アクセラレータ)が、一気にまくし立てるようにいった。 「根拠はおありでしょうか?」 機械が、単なる質問時とは異なる応えを示す。 「こっちは学園都市第1位の能力者だぞ。しかも、そいつの能力を一度喰らってンだ。これを信じねェってのほうが、おかしいンじゃねェか?」 一方通行(アクセラレータ)が、ふんと鼻をならして言った。 機械は数秒黙り込み、そして、 「信憑性は90%を越すものと判断。よって、一方通行(アクセラレータ)の意見を正式なものとして取り入れます」 機械が言った。 そのまま、機械は続ける。 「話を戻します。超能力者(レベル5)の戦闘能力などについては、先程述べたとおりです。絶対能力者(レベル6)については、全く予想できません。その能力は、今まで発祥し得なかった能力である、ということは予想できます」 「発祥し得なかった能力、か…」 上条は、自分の右手を見る。 おそらく、そんな能力でもあっさりと打ち消してしまうであろう、自分の力を。 「垣根聖督自身は、単なる人間です。能力者でもありません。よって、垣根聖督本人は戦力のうちに計算されておりません。結果として、『反乱因子』の戦闘能力は、最低で小国一国をつぶせる程度のものであり、最高でローマ正教の3分の2を潰せるもの、と判断されます」 「…ローマ正教…」 神裂が、一人つぶやく。 「3分の2をつぶせる1部隊、ね…」 ステイルが、煙草の煙とともに吐息を漏らす。 「では次に、昨日の戦闘について、ご本人たちから説明をもらいます」 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅶ 「はい?」 予想できなかった機械の言葉に、思わずそんな言葉を漏らす上条。 「われわれは今回、『反乱因子』を破らなければ学園都市が多大な被害を受ける、と予想しました。よって今回『反乱因子』と戦闘を行ってもらうことになったのは、『上条勢力』の主要人物と、科学サイドの主要能力者たち、ということに決定されました。なので、互いに戦闘を振り返ることにより、今後の戦闘を有利に進めることができるものと思われますので、一つ一つの戦闘を振り返らせてもらいます。その中でも、今までなしえなかった技などを繰り出した人物もいますので、その点についてご本人から説明をもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」 前半が説明、後半が頼みになっている機械の言葉。 それに、 「決定しました、だァ?」 一方通行(アクセラレータ)が、思いっきり不満の表情を浮かべて言う。 「何勝手に決めてんだクソ野郎ども。俺のことは俺が決めさせてもらうぞ」 「わたしもね。学園都市がどうなろうと知ったこっちゃないわよ」 隣の女も、薄ら笑いを浮かべながら言った。 ほかの面々も、大体同じ感想らしい。 しかし、機械はその反論を、たった一言で打ちのめした。 「あなたたちが、学園都市自体を敵に回してでも今回の戦闘に協力しない、というならば…こちらも策を練らせてもらいますが」 「…」 一同が、いっせいに黙り込む。 「協力してもらえるでしょうか?」 機械が、やはり単調な音で言った。しかし、その音にはなぜか有無を言わせない強さがあった。 そして、やはり誰も何も言えなかった。 「協力してもらえる、と受け取ってもよろしいでしょうか?」 機械が、確認を取る。 「…俺は、別になんだって良いけどな」 上条が、無神経そうに言った。 「はン。このごろ鈍ってきたからなァ、能力の方は。…勝手にしやがれ」 一方通行(アクセラレータ)は、適当な調子で言う。 ほかの面々も、さっきと同じく同じ意見らしい。 「ご協力、感謝いたします」 全く変わらず、無感情な声で言う機械。 「では、まずは――――」 と、いうことで。 大体の戦闘は、おおよそ理解できるものだからほとんどはスルーしてきた『仲間』たち。 と、そこで、 「…ん?おいステイル、これなんだ?」 上条が、超能力者(レベル5)の発火能力者(パイロキネシスト)と戦っているステイルを見て言う。 「?…ああ、このときか」 このとき、というのはステイルの身体能力が異様に上がっていたときである(2章 Ⅱ×Ⅹ Ⅶ時)。 そのときの映像を見たステイルは、 「あれは簡単なものだよ。自分の足の裏あたりに小さな炎剣を作り出し、即座に爆破させる。その爆風をうまく足の裏に集中させれば、一気に加速が出来る、ってわけさ。まぁ、扱いが難しいから普段はあんまり使わなかったものだけど」 面倒くさそうに言うステイル。 普段はあまり使わない――――その発言から見るに、その発火能力者(パイロキネシスト)はその技を使うに値する者だったのだろう。 「そんなことが出来たんですか」 感心したように言う神裂。 「…どうやっても、聖人様の身体能力には全く及ばないけどね」 苦笑いしながら言うステイル。 その後も戦闘の様子を見ていたわけだが、取立て不思議なところはなかったようだ。 あるとすれば、 「全然、浜面と滝壺が移ってないんだけど」 「ぐッ!?こ、こっちもこっちで忙しかったんだッ!」 全力で言い訳する浜面。 「忙しかったって…まさか…」 「ぜってー違う!上条、今お前が考えてるようなことはぜってーしてねぇと思うぞっ!したかったけどな!!」 上条のいかがわしそうな表情を見た浜面が、否定&肯定、という究極の答えを導き出す。 「あー、そういえば」 またぎゃあぎゃあ騒いでいる浜面を無視し、美琴が言う。 「戦闘…じゃないと思うんだけど、私たちの身体が浮いた『あれ』はなんだったわけよ?」 「…あ、そんなのもあったなぁ?」 上条が、今ようやく思い出した、という顔になる。 「身体が浮いた…?」 不思議そうな顔をする建宮。 「あー、そりゃ多分俺だ」 とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) 3章 Ⅹ-Ⅷ 適当に言う一方通行(アクセラレータ)。 「…で?その理由と、方法は?」 美琴が、一方通行(アクセラレータ)をにらみつけながら言った。 「理由は言うまでもねェだろ。超電磁砲(レールガン)の方は、今後戦力になりそうだったからなァ。それに、俺自身の強化にもつながりそうだったから、生かしておいた。上条の方は…」 そこまで言った一方通行(アクセラレータ)が、極悪な笑みを浮かべて、 「…こいつを殺すのは、俺だけの特権だ」 「やめましょうよ一方通行(アクセラレータ)さんっ!いい加減、倒される→怒り→戦闘、の無限ループから脱しませんか!?」 「ンじゃァ、さっさと俺に殺されろ」 「んな要求のめるかぁぁ!!」 当然の反論をする上条。 だが、一方通行(アクセラレータ)は気にも留めていないらしく、 「そういうことだ。こいつらに火の粉が降りかかったら、結果として俺のマイナスにつながる可能性があった。だからわざわざ炎から遠ざけてやったンだよ。なンか文句あっか」 そういい、無関心そうに目をそむける一方通行(アクセラレータ)。 そこに、また美琴が質問する。 「動機は分かった。方法はどうやったのよ」 「…チッ。めんどっちィな…あの時、助けるんじゃなかったか…?」 一方通行(アクセラレータ)は、真剣に考え込む前に、美琴が自分をにらんでいることに気づいたようで、ため息をついてから話し始める。 「空気のベクトルを操作した」 「具体的に言いなさい」 簡潔に説明しようとしたのか、それしか言わなかった一方通行(アクセラレータ)にやはり噛み付く美琴。 「…ベクトル操作した空気を、テメェらのところまで送っただけだ。その空気は俺の干渉を受けてるから、自在に操れた。こいつの右手に触れないようにするまで、繊細にな」 そこまで言うと、もう文句はねェだろ、と小さく言い、腕を組んで目を閉じる一方通行(アクセラレータ)。 美琴の方もそれで納得したのか、何も言わなかった。 「…あのー。じゃあ、『あの声』もお前のものでいいのか?」 と、そこに上条がさらに追撃をかける。 「…」 心底忌々しそうな目を上条に向ける一方通行(アクセラレータ)だったが、 「そうだ」 その一言だけ言い、また同じように目を閉じてしまった。 「では、戦闘報告についてはこれでよろしいでしょうか?」 なんか機械が勝手に、『戦闘報告』なんて物騒な呼び方をしている。実際そうなのだろうが。 無言の会議室の中、機械は次の音声を発する。 「それでは、次は今後戦闘に協力してもらう方々の紹介に移らせてもらいます」
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/1087.html
10話「珍奇騒動《カーニバル》は終わらない。」 イギリス ロンドンの裏ホテル ワケありの客ばかりを扱うホテルの一室、手錠でベッドに繋がれた昂焚はただボーッとして、天井のシミの数を数えていた。ベッドの傍らにあるソファーではユマがどこかから入手したエロ漫画を凝視していたが、最初の方のページから一向に進んでいない。 「なぁ・・・ユマ。かれこれ30分、まったくそのページから進んでいないんだが・・・」 「う、うるさい!読んでる!ちゃんと読んでる!薄い本の癖にセリフの量が多いんだ!」 「そ・・・・そうか。」 しかし、残酷にも時は流れ、部屋は時計の針が動く音だけが聞こえる。 すると、そんな沈黙を破るように部屋のドアがノックされる。 「ユマ・ヴェンチェス・バルムブロジオ様。お荷物が届いております。」 どうやら、ボーイがホテルの届いた荷物を届けに来たようだ。ユマが手配した荷物が届いたのかと思ったが、どうやら彼女にとっても予想外の出来事の様で、ノックの音と同時に彼女はビクッと反応した。 (これはチャンスだ。) 昂焚はここぞとばかりに大声を出して、助けを呼ぼうと画策する。しかし、ユマは荷物を取りに行く前に昂焚の喉に小さな紙を張り付けた。手錠で繋がれている昂焚は抵抗できず、「何だこれは?」とユマに尋ねようとすると、何かしらの負荷がかかって、全く声が出せなくなっていた。 (アステカ系の魔術か・・・厄介だ。声が出せないと強制翻訳(スペルトランスレイト)も使えない。) そうして、昂焚は何もできず、ユマは扉の方で淡々と荷物の引き渡し手続きをしていた。ボーイの位置から昂焚の姿が見えるはずも無く、そのまま希望の扉は閉ざされた。 「相変わらず、重い~。」 そう言って、ユマはズルズルと3つの大きな荷物を昂焚の前へと持ってきた。 一つはあの事件以降、行方不明になっていた昂焚愛用の棺桶トランク、布で終われた1m50cm近くの棒状の物体、おそらくは都牟刈大刀(ツムガリノタチ)が布で覆われているのだろう。そして、新品の銀色のスーツケース。イタリア製の高級ブランド物だ。昂焚には身に覚えが無い。 「昂焚ってこんなに重い荷物持ってたんだ~。どうりで肉付きも言い訳だよ~。」 そう惚気ながら、ユマは銀色のスーツケースを開けた。その中には昂焚が普段から使っている生活用品や代えの服、変な店で買った土産、愛用しているノートパソコン、愛読している学術書など、昂焚が普段から持っているものが入っていた。普段なら、全て棺桶トランクの中にあるはずなのだが・・・ 「代えの服があったのなら丁度いい。ユマ。その代えのスーツを俺に着せてくれないか?」 今まで描写していなかったのだが、現在の昂焚はトランクスに肌着シャツという部屋着にしてはあまりにもラフ過ぎて、もし娘がいたら「パパ!家だからってその格好やめて!」と言われるレベルの格好だ。だが、ユマが昂焚の喉に張りつけた紙のせいで喋れても声が出せない。 ユマは昂焚の主張など無視して、スーツケースの中を物色している。すると、ある物をスーツケースの中から発見した。 「女物のコート?」 彼女がそれを広げると、コートのポケットから一通の手紙がヒラリと堕ちた。 それは前のイギリス旅行を終えてドイツのホテルに着いた時、運び屋の恩師である(と昂焚は勝手に思っている)オリアナ=トムソン女史へと充てた手紙だった。結局、彼女の住所も連絡手段も知らないので送ることは出来ずにいたものだ。 ユマは手紙を両手で掴み、紙がクシャクシャになることを気にせずに内容を凝視する。 「幸せの定義・・・・熱い夜・・・有意義な時間・・・」 肩を震わせ、手紙の内容の一部を口から零すユマ。どう考えても誤解している。 すると、彼女は手紙を丸めて投げ捨てた。 「へぇ・・・オリアナって女とはヤっったんだ・・・・気持ち良かった?」 ユマは問いかけるが、昂焚はユマが喉に貼った紙のせいで声を出すことが出来ない。 「へぇ・・・だんまりなんだ・・・この【禁則事項】が!!」 そう叫んで、ユマは昂焚の胸元で馬乗りになり、イツラコリウキの氷槍の先端を昂焚の鼻へと向けた。愛しむ心などどこかにポイ捨てし、修羅の如き形相でこちらを睨んだ。 (どうしてこうなった・・・) ユマの心情の変化について行けず、昂焚は人生最大の絶体絶命の危機に陥った。 そんな絶体絶命の危機を少し離れた建物の屋上から眺めている男がいた。 不気味な雰囲気を醸し出す男だ。栄養が行き届いているのか怪しい痩せすぎた体型、190cm近くある長身であるにもかかわらず猫背気味のせいで背が低く感じられる。彼の目はどこか遠くを見つめながらも今まさに悦に浸る寸前と言えばいいのだろうか、とにかく気持ち悪かった。 彼の名はミック=フォスター。必要悪の教会《ネセサリウス》の諜報部に所属すし、諜報部らしく“覗く”ことに特化した魔術を使う魔術師であり、覗きが趣味の変態だ。 「ヒヒヒ・・・・他人の情事を覗くというのは・・・至高の娯楽ですねぇ・・・ヒヒッ。男の方が邪魔ですが、そこは我慢しましょう・・・。さぁ・・・早く脱ぐのです!」 見た目通り、雰囲気通りの変態的なセリフを吐く彼なのだが、どうしてこんなピンポイントで他人の情事を覗くこうとすることが出来るのか。それにはこんな理由がある。 数時間前 ロンドンのとある書店 ロンドンの裏路地にある書店。建物も寂れており、立地条件も最悪だ。しかし、若い男性を中心とした客がそこそこ来ている。この店は日本から輸入した漫画を専門的に扱っている店であり、所謂オタクと呼ばれる人間が来る店だ。しかも全て日本語なので日本語の分かるオタクという非常にニッチな客層だ。 そんな店の奥の隅にあるやたらピンク色と肌色が目立つコーナーの前でユマは顔を真っ赤にしながら、本棚をチラチラ見つつそれに興味のない素振りを見せながらやっぱりそのコーナーをうろついていた。その素振りは初めてエロ本を買おうとする中学生の行動に近い。 そんな光景をたまたま書店に訪れていたミックは眺めていた。 必要悪の教会の魔術師である彼がなぜ漫画専門店にいるのか言うと、自らが使う覗きの魔術「ピーピングトム」の対策方法が必要悪の教会の女性魔術師に知れ渡ってしまったことで女性の着替えなどを覗くことが出来なくなり、新たなインスピレーションを得ることで新たな覗き魔術を構築しようと躍起になり過ぎた結果、普段は全く興味を示さないマンガ・アニメに手を出すほどの投げやりになってしまったからだ。 (ヒヒヒヒ・・・もう覗き魔術なんてどうでもいいです。三次元(リアル)で覗きが出来ないと言うのなら、いっそのこと二次元に逃げてしまいましょう・・・・イッヒヒヒヒヒ・・・) ミックはそんなことを思っていた矢先にエロ漫画コーナー付近を右往左往するユマを見かけたのだ。 (あそこにいる褐色の肌の美女・・・イイ身体付きしてますねぇ・・・ヒヒヒヒ。でも普段から露出しているのはとても残念です。“覗き”というものの極意は相手が“見られている”ことを意識せず、自然な状態や行動を観測することなのです。その人とその場にいる人間にしか知り得ない“その人”を全く無関係の自分が知ることになる。勝手に相手のプライベートを見た背徳感、一方的に秘密を握った時の高揚感と優越感、その人の意外性を自分だけが独占した時の感覚など至高です。故に美しき肢体を露出し、常に誰かに見られていることを前提とした行動を取る女は大嫌いなのですよ・・・ヒヒヒ・・) ―――と、頭の中で覗きの持論を展開するミックだが、ユマのことを大嫌いと言いつつも彼女から目が離せなかった。しかし、ついに自分が彼女を凝視していることがバレてしまった。 「おい。そこのキモ男。何ジロジロ見てんだよ。」 ユマは非常に怒った目でミックを睨みつける。ミックは女を覗くことは好きだが、こうやって女性と対面することは大嫌いなのである。その上、今にも自分を殺しにかかりそうな瞳が恐ろしくて動けず、ヘビに睨まれたカエルの状態だった。 「ヘ・・・ヒヒヒ・・・お、俺があんたを見ていた?」 ユマはミックの態度が気に入らなかったのか、彼の胸ぐらを掴んで自分の元に引き寄せる。 「ああ。そうだよ。クソ気持ち悪い目で見やがって。そんな気持ち悪いてめぇなら――――」 ユマはミックを引きずり、エロ漫画コーナーの本棚の前に彼を持ってきた。 「この中から『男を逆【ピー】して、その女の身体無しじゃ生きていけない身体にする漫画』ぐらい見つけられるだろ。」 そう言って、ユマはミックの髪を掴み、彼の顔を本棚の前へと突きつけた。 「いや・・・そんなの自分で探せb―-―――――ゴフッ! 「いいから、探せ。」 「はっ・・・・はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」 ユマに戦々恐々としながらもミックは必死にユマが提示した条件に適したエロ漫画を必死に探した。表紙で判断するのは難しく、その場で何冊ものエロ漫画を熟読して、慣れない日本語を読む。そんな光景をユマは先に店の外に出て眺めていた。 余談だが魔術師は7ヶ国語は読み書き出来て当然らしく、その7ヶ国語には日本語も含まれている。必要悪の教会に所属するミックも例外ではない。 そして、20分の捜索の結果、ユマの条件に適したエロ漫画を発見し、そのまま購入した。 紙袋を抱えて店を出てきたミックはユマに指示された通り、店の裏側にやって来た。 「ここここ・・・これでどうですか?」 「ああ。ご苦労だったな。」 恐る恐るユマに紙袋を差し出すと、ユマはそれをパッと分捕って、どこかに走り去ってしまった。 「あの・・・お金・・・・」 何せ日本から輸入した漫画は高い。最近、覗きがバレたせいで減棒をくらっているミックには大きな出費だったが、ふと地面を見ると、1枚の紙幣が落ちていた。漫画の代金より高く、おそらくユマが置いて行ったものだと推測した。 それと同時にミックは希望を見出したのだ。 (女性があのような本を買っていくということは・・・・それを実践する相手がいるということでしょう・・・ヒヒヒヒ・・・これはまた、良い覗きネタに出会えました。) 不気味で歓喜に満ちた笑みを浮かべると、ミックは手当たり次第、ロンドン中のホテルの一室をピーピングトムを使って覗きまわった。 見るからに旅行者であることを推測し、部屋に男を拘束しても誰も気に留めないホテルという条件であれば、彼女の部屋を見つけるのは容易であった。 そして、ユマと昂焚の情事を今か今かと待ちわびる現在となった。 「それにしても・・・ヒヒッ・・・中々進みませんねぇ・・・早く・・・早く情事を!」 もうかれこれ数十分も待っているミックだが、それなりに暇を潰しているようで、右目で覗き、左目でちゃっかり購入したエロ漫画を読んでいる。触手ものというエロ漫画デビューにしてはハードでマニアックなチョイスだった。 ロンドン界隈のとあるオープンカフェ 気持ちの良い日光の元、オープンカフェのテラスで2人の少女がテーブルに突っ伏していた。ポルノ規制法があれば即規制対象になる金髪ボンテージのハーティ=ブレッティンガム、ミニスカワンピっぽいシスター要素皆無の改造修道服を着たバルバラ=キャンピオン。 2人は魂の抜け殻のように生命力の欠片も感じられず、もう人生を完全に放棄していた。 「どうして・・・・どうしてこうなったのでしょう・・・・」 「あんたの拷問が悪いんでしょうが・・・私はとばっちりよ・・・・・」 尼乃昂焚うっかり拷問しちゃった事件の関係者である2人がなぜ、こうなったのか。 理由は簡単だ。意図的では無いとは言え、最大主教《アークビショップ》の「穏便に済ませけりなるものよ」という命令に背いて尼乃昂焚を穏便に扱わず、あろうことか拷問に掛けた後、ゴミ箱に突っ込んで放置したことが最大主教にバレてしまったからだ。その後、人間の理解を遥かに超えたオシオキを喰らってしまったのだ。 「あんたのせいだ・・・・この拷問ジャンキー・・・・」 「あなたの知り合いの記憶魔術師が悪い。今度・・・・・私的な理由であなたを拷問にかけましょう・・・・・」 そんな無気力な責任転嫁を続ける2人の元に一人の男が現れた。 中肉中背の青年だ。顔はおろか服の下の至る所が傷だらけであり、焦点の合ってない目のせいで誰がどう見ても狂人にしか思えない男だ。干し首で作った首飾りを首に二重三重と巻き付けてあり、誰がどう見ても魔術師と思うだろう。 そのあまりの不気味っぷりはハーティとバルバラでなかったら無意識に警察に通報するレベルだ。 「冠華霧壱・・・・何の用ですか?」 ハーティが顔を転がして死んだ魚ですらしないような視線を冠華の方に向ける。 「聞いたぜ?最大主教に大目玉喰らったらしいじゃねえか。何やらかしたんだ?」 冠華は非常に不気味でニタニタと嘲笑するかのように2人に笑いかける。 ハーティは沈黙を決め込み、冠華の質問に答えたのはバルバラだった。 「この拷問ジャンキーが最大主教の命令を無視して男を拷問にかけたのよ。穏便にって言われたのに。」 「ハハハハハッ。そりゃあ、拷問された男は災難だったなぁ。そいつ、生きてるのか?」 「全身ズタボロだったけど、あれじゃ死なないでしょ。だって、世界を股に掛けるトラブルメーカーの尼乃昂焚よ。」 バルバラの言葉を聞いた途端、冠華はカチンと動かなくなった。 「おい・・・。今、なんつった?」 「だから、ハーティが拷問にかけた男は尼乃昂焚なのよ。」 尼乃昂焚の名前を聞いた途端、冠華は武者震いし、拳を握りしめた。あの男には恨みがある。刺突杭剣《スタブソード》の一件で重傷を負わされたのもそうだが、自分の大切な干し首に1週間は消えない油性マジックで落書きされたのだ。今はもう消えたが、それでも恨みは消えない。 「あの野郎・・・ロンドンに来てやがったのか・・・・。今、どこにいる?」 「知らないわ。あれから何日も経ってるし、でもロンドンから出てないのは確かよ。あれだけのケガでそんなに動ける訳ないし。」 「そうか・・・・。」 それを確認した途端、冠華は猛ダッシュでその場から去っていった。その目はギラギラと輝いていた。 「冠華霧壱・・・今日がお前の命日だ。」 突如、冠華の前に一人の男が現れる。 折角、不倶戴天の敵がいることを知って行動に移したところでこの邪魔だ。冠華はバツの悪そうに男を睨んだ。 男は20代半ば。身長180cm程と相応に肉が付いて鍛えられた体型だ。美形と判別できるぐらいには顔の造形は良いのだが、顔を斜めに大きく割る刀傷で全てを台無しにしており、服の汚れ具合や体臭、伸ばしに伸ばされた髪に付いたノミやフケなどは、風呂や洗濯をしていなのが即座に分かるレベルだ。ホームレスのような格好をしていた。 「邪魔だ。栄紫御。今日はてめえの相手をしている場合じゃねえ。」 「どうした?まさか、俺の剣術に怖気づいたか?」 さっさと昂焚を見つけて殺したい冠華としては栄はとても邪魔だったのだが、ここである悪知恵が働いた。自分も栄も尼乃を追っているという点だ。 「栄よぉ。今、俺の相手をしていても良いのか?尼乃昂焚がこの街に来てんだぜ?」 「!?」 尼乃昂焚という名前を聞いた途端、栄は拳を握って震え始めた。 あの男のことは前から殺したいと思っていた。剣の道を究めるための真剣勝負を軽くあしらったからだ。あれほどの屈辱を感じたことはない。 「お前が良いって言うなら、尼乃の奴を一緒に探さねえか?お前は尼乃の奴をぶっ殺したい。俺もあいつをぶっ殺して首を取りたい。利害は一致してるだろ?」 「・・・・・命拾いしたな。」 「それはこっちのセリフだ。」 こうして、尼乃昂焚殺害同盟が生まれた。 同盟の締結後、冠華と栄の2人はテムズ川で捜索域を分断した。 冠華は尼乃が日本人街に潜伏していると踏んで日本人街へと訪れた。だが、来た理由はそれだけではない。この街には自分ら以上に昂焚について知っている男がいるからだ。 “霧の蛸《ミスト・オクトパス》” そう書かれたたこ焼き屋の屋台。タコを悪魔の怪物だと考え、タコを食べることを忌避するイギリス人の国でたこ焼き屋を営むその度胸と神経を疑ってしまう。 ここに尼乃昂焚を良く知る男がいた。 「いらっしゃい。あなたが来るなんて珍しいですね。」 洋服の上から流水紋の甚平を羽織っている17歳の青年だ。黒髪で眼鏡をかけており外すと美形なのは本人談。懐に鉄扇を持ち、儚げな笑みを浮かべている。 「まぁな。お前に聞きたいことがある。藍崎多霧。」 藍崎はたこ焼きを焼きながら少し考えると、焼き立てのたこ焼きをパックに詰めた。 「たこ焼き10個入り1パックで手を打ちましょうか。」 「ちっ。分かったよ。」 冠華は大人しく藍崎のたこ焼きを買って、その場で開封して食べ始める。 「それで、聞きたいこととは?」 「尼乃昂焚についてだ。この街に居るらしいんだが、お前ならどこにいるか知ってんじゃねえか?」 藍崎と昂焚は何度か会っては互いに腹の探り合いをするライバルのような関係だ。もしかすると、彼なら知っているかもしれないと思ったのだ。 藍崎は黙々とたこ焼きを焼き続けながら冠華の問いに答えた。 「まぁ・・・彼がこの街にいるという噂は耳にしましたけどね。あなたはその情報をどこで?」 「ウチの職場。ハーティのバルバラのバカ2人だ。で、今はどこにいるんだ?」 「さぁね。ボクも一応、調べてはいるんですけどね。でも手掛かりならありますよ。」 「手掛かりだと?」 「ええ。数日前、彼のことを探す女がウチに来たんですよ。『尼乃昂焚がどこにいるか知らないか?』って。ボクもそれで『彼がこの街にいるんじゃないか。』って思い始めたんですけどね。」 「あいつ・・・どんだけ恨み買ってやがるんだ?で、どんな女だ?」 「スタイルの良いラテン系の女性でしたよ。年齢はボクより少し上ぐらいですかね。布地の少ない挑発的な格好で長い棒みたいなのを持っていました。恨んでいるとは思えないんですがねぇ。」 冠華はたこ焼きを食べ終えると屋台傍にあるゴミ箱にパックを捨てた。 「ラテン系の女か。情報提供ご苦労さん。尼乃の首以外ならくれてやる。」 そう言って、冠華はその場から去っていった。 それを後ろから見届ける藍崎。だが、彼がただの情報提供で終わるわけが無かった。 (そうか・・・。必要悪の教会からの情報ならある程度の信憑性はあるな・・・・。) 藍崎はニヤリと黒い笑顔を浮かべると、早急に店仕舞いを始めた。 “霧の蛸 臨時閉店” 一方、そんな3人が追っていることもいざ知らず、昂焚はずっと絶体絶命の危機の中にいた。 ベッドが何度もイツラコリウキの氷槍で貫かれている。断熱仕様の布で包まれているため、全てを曲げる冷気が出ていないとはいえ、そのままでも十分に殺傷能力がある。 (弁解の余地をk―――――――――「ふん!」 グサッ! ユマが振り降ろしたイツラコリウキの氷槍は昂焚の左耳すれすれのところを通り、ベッドに穴を開けた。昂焚の左耳に一筋の赤い線が出来る。 (ヤバい・・・・これはマジでヤバい。トルコでの『聖書を復唱する人面コガネムシ騒動』の時よりもヤバい。) 走馬灯が流れている間にユマが槍を構え、続けて第二撃が迫ろうとした時だった。 「ひゃっ!」 昂焚は自由だった足を思い切り振り上げてユマの後頭部を蹴る。その拍子にユマはバランスを崩して前に倒れそうになったが槍をベッドに突き刺して支えにする。だが、それが失敗だった。 偶然なのか、それとも昂焚の思惑通りなのか、槍の先端は昂焚とベッドを繋いでいた手錠を破壊してしまったのだ。 昂焚はすかさず飛び起き、都牟刈大刀を手に持つと、9年前のラテンアメリカの時のようにホテルの窓から飛び降りた。 「しまった・・・・また昂焚に逃げられた・・・・。」 半ベソかきながら、ユマはホテルの部屋の鍵を閉めて、彼を追った。 5階から飛び降りた昂焚は都牟刈大刀を伸ばしてゆっくりと地面に着地した。・・・が、それと同時にギャングに囲まれてしまった。 (そういえば、ワケ有りの客ばかりを扱う裏ホテルだったな・・・) 客層がワケ有りならば、ホテルの周囲の環境も容易に想像できたし、思った通りの治安の悪さだった。 「おいおい。パンツとシャツとか、バカじゃねえの?」 「そんなんじゃ風邪ひいちまうぜぇ!ヤク中だから分かんねえか?」 「ってか、何だ?このヘンテコな形をしたサーベルはよぉ?」 「あ、丁度いい。」 昂焚はユマに喉に貼られていた札を外して、ポツリと呟いた。 「「ああん?」」 何のことか分からないギャング達は眉をひそめると、全員の身体に都牟刈大刀の枝が巻きつき、スタンガン程度の微弱な電流が流れることで気絶させられた。 「服、借りるぞ。返す予定は無いが・・・。」 こうして、昂焚は親切なギャングから服を拝借(強奪)した。 ジーンズに袖が千切られた黒革ジャケット、手の甲にドクロの装飾があるグローブにサングラスという世紀末ヒャッハーなファッションだった。もし仮に昂焚がモヒカンになり、棘付き肩パットを付けて火炎放射機を持てば、汚物消毒の準備は完了になるだろう。 ユマは昂焚を追ってホテルから飛び出したが、来た頃にはギャングが倒れ、一人だけ服を剥がされていただけだった。 「なんて逃げ足の速さ・・・」 ユマはとにかく昂焚を探すために疾走する。部屋に鍵を掛けたとはいえ、彼女も慌てて飛び出して来たので、イツラコリウキの氷槍とエロ漫画が入った紙袋を持って出て来てしまった。 昂焚のいる方向は分からないが、とにかく女の勘を頼ってユマは走り続けた。ユマはこれといた索敵・追跡魔術を持ち合わせておらず、とにかく闇雲だった。 ドンッ! 「ったく・・・危ねぇな。」 肩と肩がぶつかり合い、ユマとその相手は互いの姿を見ようと振り向いた。無論、謝罪の為ではない。昂焚に逃げられて追いかけるのに忙しくてイライラしているのに肩がぶつかるなんてアクシデントだ。相手を殺すくらいの勢いで睨みつけた。 その視線の先に居るのはどこをどう見ても狂人としか評価できない男“冠華霧壱”だった。 一方の冠華も相手を殺す勢いでユマを睨んでいた。彼は彼女に対して、これといった怒を感じているわけではない。これが普通なのだ。 (長い棒を持ったラテン系の女・・・・まさか・・・) 「おい。」 冠華は藍崎の言葉を信じて、ユマに声をかけた。案の定、ユマは異様なまでに不機嫌な態度で答えた。 「こちとら忙しいんだ。あんたみたいなジャンキーの相手をしている暇は無いよ。」 「暇は無ぇってのは、“尼乃昂焚”絡みなのか?」 「!?」 「はははっ!図星のようだな!」 早々に手がかりを掴んだことに冠華は歓喜し、ユマはこの狂人に警戒する。こんな狂人とはさっさとオサラバしたいが、同時にこんな奴を昂焚に近付けさせるわけにはいかないという使命感も湧いて来る。 「お前も尼乃昂焚を探してるんだろ?だったら協力しようぜ。お前もあいつをぶっ殺したいんだろ?」 それを聞いた途端、ユマは静かに怒りの炎を焚き上げ、イツラコリウキの氷槍を包む断熱仕様の布を解いた。 「それは無理な相談だ。この干し首ジャンキー。昂焚を殺させはしない。だって、昂焚はこれから“私無しでは生きられない身体”にして、ずっと私と一緒にいるんだから。」 この9年、ずっと焦がれて、焦がれて、恋焦がれて、やっと手に入れた宝物。 昂焚がいればなにもいらない。私はただ彼だけが欲しくて、彼だけを求めていた。 だから、失いたくない。 何が何でも戦って、勝って、昂焚と添い遂げる。 「はぁ?」 冠華はてっきりユマが昂焚を恨んでいるから追っているのだと思っていた。なので、彼女の対応には少し意外だった。それと同時に、彼女の言う「私無しでは生きられない身体」というものが気がかりになった。 (それは・・・あれか?相手の生命を自分の身体的記号に依存させて生死を操る呪術のことか?) どうやら、ユマと冠華の間に何かしらの語弊が生じているようだ。 (そういえばあの女が持っている紙袋・・・形からして中身は本か。・・・・なるほど。あれは呪術が記された魔導書か何かだな。あの女は呪術で尼乃の奴を隷属させるつもりか。まぁ、確かにあいつはかなり実力があるしな。) 冠華は何か大きな勘違いをしているだが、本人が間違いに気づくことも、ユマがそれを指摘することもない。 「クカカカカカカカカッ!!そうか!お前も面白ぇこと考えたな!」 冠華が笑ってユマの言った事を面白いと言い放つが、ユマは今更になって自分がはしたなくて恥ずかしいことを言っていることに気付き、紙袋を抱きながら赤面する。少しウルウルと涙目にもなっている。意外と純情でウブのようだ。 冠華はその後、とんでもないことを言い放った。 「だから、その本を俺に寄越しな。」 「え?」 その言葉にユマは凍りついた。全身に悪寒が走り、ブルブルと身体が震える。 その本を寄越せ ↓ その本で俺も尼乃昂焚を“俺無しでは生きられない身体”にしてやる ↓ アーッ! 「誰が渡すか!!この・・・ホモ!ゲイ!変態!同性フ○ッカー!」 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 昂焚の貞操を護るという新たな決意を胸にユマはイツラコリウキの氷槍を構える。そして、冠華も己を侮辱した女を倒すために戦闘態勢に入った。 お互いに大きな勘違いを抱えたまま・・・ その頃、昂焚はたまたま捨てられていたコントラバスのケースに都牟刈大刀を入れて日の当たりにくい裏通りから表参道へと出た。 世紀末ヒャッハーなファッションの男がボロボロなコントラバスのケースを持っているというシュールな光景が周囲の目を引き付けるが、いつもマイペースな昂焚は気にも留めなかった。 (さて・・・これからどうするべきか・・・・。) 昂焚は今、非常に悩んでいた。財布を部屋に置いて来てしまい、所持金ゼロ。無論、イギリスに銀行口座を持っているわけもない。ユマから逃げるために国外逃亡しようにも金が無くてはどうにもならない。 道行く人々が昂焚を一瞥して通り過ぎ去る中、顔の知っている2人組がこちらに向かってきた。 一人はユマと同じような年齢の女性だ。赤髪碧眼の白人女性で、ボンキュッボンなグラマラスな体型は男の目を引き寄せる。グレーのコートに白いTシャツ、ダメージジーンズと色気のない格好だが、それでも色気を漂わせるほど魅力的な女性だ。 もう一人は10歳前後の少年だ。黒髪に銀眼で顔立ちは整っており、いわゆる美少年という奴だ。服装は女性の方と同じく灰色の上着にダメージジーンズという格好だ。 2人の関係を推測するに、ペアルックであるが年齢差的に考えてカップルというのは考えにくい。(女性の方が 某イルミナティ幹部のような性癖を持つのであれば別ではあるが・・・) 「あれ?もしかして尼乃?」 女性の方が昂焚に指を指して問いかけた。どうやら昂焚の知り合いのようだ。隣にいる少年は昂焚の滑稽な服装がツボに入ったのか、腹を抱えながら笑うのを堪えていた。 「ココとデイヴィットか。久し振りだな。」 そう言って、昂焚はサングラスを外して2人の姿を確認する。 女の方はココ=スタンレイ、少年の方はデイヴィット=ミラー。2人で活動するフリーの魔術師であり、昂焚も何度か味方として、時には敵として同じ現場で働いたことがある。 「ああ。半年振りか?それにしても随分と変わったな。ついこの間まで日本のサラリーマンみたいだったのに今じゃ“1年で業界から消える一発芸人”みたいだ。」 「悪いが、誉めてもギャグは飛ばないぞ。」 「ブフォ!・・・いや・・・大丈夫・・・その格好自体が既にギャグだから。」 未だに耐性がつかないようで、デイヴィットは今も腹を抱えて耐えていた。 「デイヴィットの様子がおかしいな。拾い食いでもしたか?」 「デイヴィット。お腹が空いたなら素直にそう言えばいいのに・・・」 「違うよ!お前の格好のギャグセンスに・・・ククク・・・・もう罰ゲームだよ。その格好・・・」 「言っておくが、俺も好き好んでこんな格好しているわけじゃないからな。」 「じゃあ、何のために――――――― 「見つけたぞ!尼乃昂焚ぁ!!」 3人の会合を邪魔するかのように一人の男が昂焚の名を叫ぶ。振りむいた先には冠華とは同じようで違うようでやっぱり同じベクトルの狂人である栄紫御が刀を持ってこちらに向かっていた。 「さぁ!俺と殺し合え!あの時の雪辱を果たそうじゃねえか!」 栄のあまりの狂人染みた言動に3人は唖然とするしか無かった。 「尼乃。お前の知り合いには愉快な奴が多いんだな。」 「いや、あいつ誰だか知らないんだが・・・」 昂焚はあることを閃いた。 「なぁ。ココ。一つ、飛び入りの仕事があるんだが、乗らないか?ちょっとした小遣い稼ぎだ。」 「条件次第では。」 「依頼はあの男の足止め。弱いなら別に倒しても構わない。300ドルでどうだ。」 「800」 「400じゃ駄目か?」 「800」 「500だ。これ以上は出せない。」 「OK。乗ったわ。デイヴィット!仕事よ!」 「分かりました!ココさん!」 刀をを震わせてゆっくりと歩み寄る栄を相手に、ココとデイヴィットはそれぞれの得物を出す。 ココが使うケルト神話の剣、硬雷の剣《カラドボルグ》 デイヴィットが振るうのは緋黄の双槍《ガ・ジャルグ=ガ・ボウ》 剣を構えたココと両端に赤と黄の刃を持った槍を構えるデイヴィットを尻目に昂焚は栄から逃走した。 ―――と思いきや、何を血迷ったのか、ココとデイヴィットのところに戻って来た。そして、祈るように片手を出し、もう片方の手を出して何かを催促する。 「悪いが、金貸してくれ。」 「はぁ?」 「今、所持金0なんだ。仕事の代金はイルミナティの双鴉道化《レイヴンフェイス》か、ヴィルジールセキリュティー社にツケといてくれ。俺の名前を出せば大丈夫だから。」 「で、いくらいるんだ?」 栄との戦いはデイヴィットに丸投げし、ココは呑気に財布を出した。 「10ポンドくらい。」 「利子は1日につき20%。」 「えげつないな。」 「どんな魔術を使うか分からない狂人の足止めに500ドルしか払わない奴に言われたくないね。」 栄とデイビットによる激戦を背景に2人は呑気に井戸端会議を続ける。命を掛けた激戦と井戸端会議という非常に温度差の激しい空間が隣り合わせになっていた。 「俺の相手するには千年早いんだよ!クソガキ!」 「ぐあっ!」 栄がデイヴィットを蹴り飛ばして彼を後退させる。体格差、年齢差、そして実力差から考えて栄が圧倒的に有利だった。 周囲には栄の火之迦具土神の伝承を用いた魔術による炎が周囲を焦がし、デイヴィットの緋黄の双槍のガ・ボウと海神マナナーン・マクリルに纏わる伝承で生み出された海水が炎を消していく。 「あ、デイヴィットが負けそうだから加勢してくるわ。」 「本気で丸投げするつもりだったのか。」 2人はキリの良いところで井戸端会議を終え、それぞれの行くべき場所へ向かった。 ココは弟子が待ち受ける戦場へ、昂焚はとにかくユマから逃げられる場所へ・・・ 昂焚はとりあえず、公衆電話を探し、ヴィルジールに連絡して航空機でもチャーターしてもらおうかと考えていた。パスポートとかお金はイルミナティを使えば何とかなりそうだ。 (航空機は大丈夫だろう。あいつツンデレだし。) 昂焚が公衆電話を発見し、そこに駆け寄ろうとする。 「!?」 突然、自分と公衆電話の間に霧が現れ、昂焚は霧に突入する直前で足を止め、少し後退りして霧から離れる。周囲にいた人もいなくなっており、人払いの術式が使われているようだ。 自分と公衆電話を遮るように霧は壁のように立ちはだかる。一瞬で霧は濃くなり、数メートル先の公衆電話すら見えなくなった。この不自然な霧に昂焚は覚えがあった。 「そういえば・・・ここにはあいつがいたな。」 あからさまに嫌そうな顔をする昂焚。そんな昂焚の嫌な予感は的中し、霧の中から一人の青年が現れた。 それは、昂焚にとっては不倶戴天の敵とも言える藍崎多霧だった。 「藍崎多霧か・・・。随分と久しいな。」 「ええ。三ヶ月振りですかね。それにしても随分と背格好が変わりましたね。何ですか?その“見た目のインパクトだけで売り出そうとしたけど、結局売れない哀れな芸人”みたいな格好は・・・・」 「悪いが、持ちネタは無いぞ。哀れなお笑い芸人だからな。」 「大丈夫ですよ。今からでも十分に愉快で滑稽なものにしますから!」 藍崎は懐から鉄扇を取り出し、彼の動きに呼応するかのように霧が刃のような形状になって昂焚に襲いかかる。街灯もゴミ箱もお構いなく切り裂き、真っ直ぐと昂焚の方へと向かった。 昂焚は都牟刈大太刀を取り出すが、応戦せず、とにかく霧の刃から逃げることに徹する。 以前、藍崎と戦った昂焚だからこそあの魔術の恐ろしさを知っている。あの霧に対して硬度は一切の意味を成さない。あれは霧と境界の神である天之狭霧神の伝承を利用した藍崎の魔術は霧を用いて物体や空間に境界線を引くことで対象を分断している。神が定義した境界線という概念を前に硬さなど意味を成さないのだ。その上、強制翻訳《スペルトランスレイト》対策も十分に施している。 「いきなり攻撃とか、随分と荒くなったな。」 「ボクはどうしてもあなたから聞きたいことがあるんですよ。どうしてもね。」 「じゃあ、素直に訊けばいいじゃないか。『尼乃様。どうかこの無知な藍崎めに知識を授けて下さいませ。』って額を地面に擦りつけながらな。」 「そういうところが嫌いなんですよ。」 「俺もお前のことは大嫌いだけどな。お互い様だ。」 昂焚は逃げながらも都牟刈大刀の刀身を7つに分割し、分割して現れた7つの刃の蛇が強力な電撃と雷光を発しながら霧に包まれた空間を縦横無尽に駆け抜ける。 (わざわざ霧の中に突っ込むなんて、ボクの魔術を理解していないのか?いや、そんなはずは・・・) 藍崎は昂焚の無謀な行動だと高を括ったが、その直後に彼は昂焚の思惑に気付いた。 (まさか!霧を構成する空気中の水分を電気分解することで霧を消すつもりなのか!?) 昂焚の思惑通りに霧が晴れ始め、藍崎から彼の姿が見えた。 彼はまるで野球の投手のように構え、大きく振りかぶって石ころを藍崎に向かって投げつけてきた。 「何を悪足掻きを!」 藍崎は鉄扇で昂焚が投げた石ころを弾いた。摩擦で一瞬だけ火花が散った。しかし、その火花は段々大きな炎になり、一気に轟音を立てて大爆発を引き起こした。 周囲は霧の代わりに爆煙が包み込む。しかし、すぐに黒色の爆煙は白色の霧に包まれて消え去り、霧が晴れたところで藍崎が姿を現した。服は焼け焦げ、肌も黒ずんでいる。 爆発の直前、自分の周りに霧の境界を鎧のように展開することで爆発から自分を護ったのだが、あと一歩遅れたといった感じだった。 「水素ガスの爆発とか、正気か!?死ぬところだったぞ!」 「いや、お前なら大丈夫だと思ったんだけどな。それにしても面白い格好だ。まるで、“見た目のインパクトだけで売り出そうとしたけど、結局売れない哀れなお笑い芸人”みたいだ。」 「・・・・・」 「さっさと家に帰ったほうがいい。その格好だと箕田みたいに警察に連行されるからな。」 昂焚の放った言葉に藍崎は胸を衝かれた。 「おい。今、何て言った?」 「だから、警察に・・・」 「違う!その前だ!」 藍崎の豹変に昂焚は少し驚いた。今の言葉の何が彼をそこまで駆り立てるのか、非常に興味深かった。 「その前って、ああ。『箕田みたいに』ってところか?」 「お前の言う箕田ってのは、箕田美繰・・・・なんだよな?」 「さっきから変だぞ。口調まで変わって、どうした?」 「いいから、ボクの質問に答えろ!!」 藍崎の霧の刃が昂焚に襲いかかり、彼の眼前で寸止めされる。昂焚と同等かそれ以上に飄々とした態度は吹き飛び、藍崎は獲物を追う飢えた獅子のような目になっていた。 「ああ、お前の言う通り、箕田美繰のことだ。」 「どこで会ったんだ?今、彼女は何をしている?」 「ドイツで会ったよ。今は現地の魔術結社の世話になってる。」 「現地の魔術結社・・・だと?どこの組織だ。」 「それ以降は自分で調べるんだな。確証の持てる情報は出ないだろうが、お前の頭でも大体の予想はつくはずだ。」 そう言って、昂焚は飄々とした態度のまま、藍崎の元から立ち去った。彼は無防備に背を向けていたが、藍崎は昂焚のことをどうしようとも考えていなかった。それ以上の驚愕と希望で胸がいっぱいだった。 (癪ですが、今日だけはあなたに感謝しますよ。尼乃昂焚。これでようやく、あの人に繋がる道が開けた。) 藍崎は懐からロケットペンダントを出すと、愛しむような目で中の写真を眺めていた。 ドイツ・イルミナティ幹部協議会 ―――――この中から一人だけ、幹部を辞任してもらう―――――― 今回の主催者、ヴィルジール=ブラッドコードが放った言葉に幹部一同は騒然とした。 「うっせえ!じゃあ、言いだしっぺのお前が抜けろ!」とメイラは叫んだが、ヴィルジールは即座に「却下」と言い返した。 ある者は我関せずの態度を取り、ある者は自分が抜かされるのではないかと戦々恐々し、またある者はヴィルジールの思惑を読み取ろうとしていた。 そんな中、ディアスは席から立ち上がった。王然とした立ち振る舞いは即座に周囲の目を引きつける。 「ヴィルジール。まずは理由を聞かせてもらおうか。君だって、ただ全員に喧嘩を売るために双鴉道化の権限を使ってまで幹部協議会を開いたわけではないのだろう?」 「ご明答だ。」 「では、聞かせてもらおうか。」 そう言って、ディアスは着席した。 そして、中央の台に立つヴィルジールは自らの口からその理由を語りだした。その立ち振る舞いは今までの戦場の傭兵とは違い、まるで大企業の社長の演説のようだった。彼がヴィルジールセキリュティー社の社長であることを再認識させる。 「ここにいる皆さんがご存じの通り、我がイルミナティの幹部は魔術的意味から13人に固定されている。無論、私はその数字を崩すつもりはない。私はどうしてもイルミナティの幹部に推薦したい男がいる。故に、ここから誰か一人抜けて頂きたい。」 「その男とは誰だ?」 「尼乃昂焚です。」 昂焚の名前がヴィルジールの口から出た途端、彼のことを知る人間は少し驚いた。 「29歳の日系魔術師にして、世界を駆け回る運び屋モドキ兼トラブルメーカー。私は彼こそが、イルミナティの幹部に相応しいと思っている。」 その言葉を誰もが疑った。イルミナティとは強欲なる者の集まり。これといった強欲の無いように見える昂焚が幹部に相応しいとは到底思えなかったからだ。 「私の推薦に懐疑的な方が多いようだが―――――――― 「ここから先は私が説明しよう。」 神告の如く降り注ぐ声―-全員が上を向くと、幹部らを見下ろす位置にある最高位の座席にイルミナティのリーダー双鴉道化《レイヴンフェイス》が鎮座していた。 黒のワイシャツに白いスラックスの上に黒い羽毛がついた白いマントを羽織っており、全身を覆っている不気味な背格好。顔には鳥の様な仮面をつけていた。 顔も年齢も性別ですら分からない。全てがunknown、それが双鴉道化だ。 「尼乃昂焚と私は古い友人でね。彼の底知れぬ強欲にはこの私でさえ驚かされた。残念ながら、彼と接触して気付いたのはヴィルジールだけなのだがね。」 「それって、どういうこと?」 ミランダの問いかけはここにいる幹部全員の代弁だった。 「彼が今まで関わって来た事件にはある共通点が存在する。9年前のラテンアメリカでの霊装争奪戦、北アフリカでの便所に群がるシスター事件、トルコの聖書を復唱する人面コガネムシ騒動、その全てにおいて、事件の渦中には霊装があった。情報凝縮型霊装。法の書やラテンアメリカの霊装のように通常の方式では不可能に近い情報の凝縮を実現した霊装だ。」 「それってつまり・・・」 「彼は情報に飢えているのだよ。情報依存症とでも言えばいいのかね。彼の欲望は情報収集に向けられている。ジャンルも分類も関係無く、科学・魔術も問わない。彼が世界を飛び回るのも自分を満たしてくれる膨大な情報を求めているからだ。よりにも寄って、この私にこんな企画書を出すぐらいだからな。」 そう言うと、双鴉道化は紙の束をばら撒いた。巻かれた紙の束はヒラヒラと舞いながらも幹部全員の手元に向かい、手に取った幹部たちはその企画書の内容に目を通した。 「なっ・・・何だ!これは!」 常に王然としたディアスが声を荒げるほどの内容がそこには記されていた。 「やべぇよ。クレイジー過ぎてあの男にはついて行けねえよ。おい。」 「うひゃひゃひゃひゃひゃ!あいつ、頭のネジが何本か抜けてんじゃねえの?」 「でも・・・興味・・・深い。実現すればの話だ・・・けど。」 誰もがその内容に驚きを隠せないようだ。 「けど、現時点で実現は不可能ね。」 そう言って、ローズは企画書をテーブルの上に置いた。 「学園都市には幻想殺し《イマジンブレイカー》がいるのよ。彼が存在する限り、この企画は不可能だわ。」 ローズの主張に対し、周囲の幹部も一斉に同意する。 「だが、その幻想殺しがいなくなるとしたらどうするかね?」 そう言い放った双鴉道化は、どういうことか理解できない幹部たちを眺めていた。仮面の下は見えないが、彼(彼女)はきっとヴィルジールと同じようにニヤリと笑っていたに違いない。 そして、時は流れ・・・ 11月1日 幻想殺しのいない学園都市 4日間限定の珍奇騒動《カーニバル》の幕が開ける。 【とある土産の珍奇騒動】 登場人物【登場順・敬称略】 【オリキャラ】 尼乃昂焚 ミランダ=ベネット ニコライ=エンデ ルシアン=ハースト 箕田美繰 ユマ・ヴェンチェス・バルムブロジオ ヴィルジール=ブラッドコード マティルダ=エアルドレッド 守音原二兎 ハーティ=ブレッティンガム バルバラ=キャンピオン メイラ=ゴールドラッシュ ローズ=ムーンチャイルド ラクサーシャ・マヌージャ 鬼島甲兵 リーリヤ・ネストロヴナ・ブィストリャンツェヴァ ディアス=マクスター アレハンドラ=ソカロ エドワード=ハント ミック=フォスター 冠華霧壱 栄紫御 藍崎多霧 ココ=スタンレイ デイヴィット=ミラー 双鴉道化 【原作キャラ】 建宮斎字 五和 ~スペシャルサンクス~ 素晴らしいキャラを生み出してくれた作者の皆さま スレで応援してくれた皆さま “とある魔術の禁書目録”を生み出してくれた鎌池先生
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2620.html
失ってしまった幸せ 第3章 絶望の底に差した光~salvare000~「失礼するのよな」 白井の次に病室に入ってきたのはクワガタ頭の男、建宮斉字だ。 「あなたは?」 「建宮斉字。上条当麻の知り合いだ」 建宮は美琴を見る。「何ですか」 美琴の顔は無気力で、ひたすら自身を責めているように見える。 「いや、上条当麻が命をかけて守った奴が、どんな女かと思ったが」 建宮は心底呆れたように言う。 「こりゃぁ犬死だな。正真正銘の犬死だ。これじゃ、馬鹿が馬鹿を助けて馬鹿やったって話だ」 「何ですってえぇー!!」 美琴が怒りで顔を歪め、前髪からも電撃がバチバチと出ている。 「あんたに何が分かるの!?私の気持ちが分かるの!!?」 「分かるのよな」 建宮はあっさりと答える。 「大切な人が傷ついているのに何も出来ない奴の気持ちは俺にも分かるのよな」 「証明してみせろ」 「え?」 突然の建宮の言葉に美琴は困惑する。 「お前を助けてよかったって思えるような最高の女になってみせろ」 「でも・・・・・・わたし・・・・・・どうしたら」 「なーに俺に任せとけ」 建宮はいつものような軽い調子で言う。 「お前を救える最適な人を俺は知っている」 そういうと建宮は帰っていった。 次の日、建宮は身長2mほどの女性と共にやってきた。 「貴女が御坂美琴ですね?私は天草式十字凄教女教皇神裂火織です。事情は建宮斉字から聞きました」 「え~っと、何をすればいいんですか?」 何も知らない美琴は2人に尋ねる。 「男を掴む時はまず胃袋からって言うのよな。過ぎてしまったのもはしょうがない。 お前さんにできることは、上条当麻が起きた時に最高の料理を振舞うことなのよな な~に、うちの女教皇の和食は世界一なのよな」 「それでは御坂美琴。退院ししだい、料理の練習を始めましょう」 「え、あ・・・・・・はい」 突然のことに美琴はただ従うことしかできなかった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/837.html
初春と佐天が居なくなったボウリングフロアではある少女のきわめて重要な問題の解決が始まろうとしていた。 「ま、まあ飾利と涙子のことは二人に任せるとして……。最愛、私と当麻との同居の件の答え、聞かせてくれる?」 「うえ!?その事今話さなきゃ超いけませんか!?」 「……いいから、答えなさい」 美琴はいつになく本気である。ここで冗談を言ってもすぐ見抜かれる。 なので絹旗は正直に言うことにした。 「……超お断りです」 「え!?なんで!?」 驚くのも当然、好きな人と近くにいれるチャンスをあっけなく逃してしまうというのだから。 「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいちゃいちゃしてるのを見ながら肩身の狭い思いをしないといけないんですかぁぁぁああああああああああああああああああああ!?」 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっ 当麻の近くにいるせいか美琴も少々鈍感になってしまったらしい。 「あの……なんか色々とごめん」 「はははは……超大丈夫です。超気にしないでください」 「本当にごめん……私、当麻と一緒にいる時間が楽しすぎて……最愛の事全然考えてなかった……」 「いや、あの、その………ポジティブに、超ポジティブにいきましょう!!」 絹旗が上琴をポジティブにいかせようとしたが、 「「どうせ俺(私)なんか美琴(当麻)の事しか考えていなかったんだから…」 さらにネガティブになってしまった。 「こ、これは超どうすればいいのでしょうか?」 「きぬはた、こういう時はほっと置いた方が良いと思うよ。きぬはたが二人にさらになんか言ったらさらに余計悪くなる気がするから。」 「でも、やっぱり私が二人を超何とかすべきでは…」 「滝壺がそう言っているとおり、何もしない方が良いんだって。」 「滝壺さんがそう言うのなら超そうします。」 浜滝にそういわれたので絹旗は上琴に何もいわないことにした。 「なンか、さっきまでの雰囲気とはまったく違うンだが…」 「確かにってミサカはミサカはこの空気が重いところから早く出たいって言ってみたり。」 「じゃあ、土御門が居る卓球場に行くかァ。」 一打はこの空気が重過ぎるので土御門達が居る卓球場に向かった。 「俺達もそっちに行ったほうが良さそうだな。」 「じゃあ半蔵様、私達もそっちに向かいましょう。」 一打に遅れて半郭も土御門達が居る卓球場に向かった。 その頃、佐天に連れて行かれた初春はと言うと… 場所はカラオケフロアのとある一室、初春は佐天に連れられてここに居た。 ちなみにカラオケフロア全室、完全防音なので外から音が漏れることは無い上に外からの覗き見も出来ないようになっている。 カラオケフロアを唯一監視出来る室内カメラはまだ完全に起動していないので証拠も残らない状況である。 「あ、あの涙子さん? 重要な話って何ですか? 何だか今の涙子さん、ちょっと怖いです……」 「……そう? ご、ゴメンね。今から飾利に聞くことなんだけどあたしも受け入れがたいものだから、さ」 「涙子さんが受け入れがたい、ですか? どんなことなんです? 私なら大丈夫、答えられるものはちゃんと答えますから」 初春の落ち着いた雰囲気に意を決した佐天は、真剣な表情で彼女に尋ねる。 「飾利ってさ、建宮さんのこと……好きなの?」 「建宮さんですか? ええ、好きですけど」 自分の問いかけに間髪入れずに答えた初春に、佐天はまさかとは思っていた答えに愕然とする。 しかし初春の答えには少しだけ続きがあった。 「だってほら、建宮さんってお父さんみたいじゃないですか。お父さんを嫌いな人ってそう居ないと思いません?」 「……あはは、お、お父さん、ね。そっか……。よ、よかった~、飾利の好きがそういう意味で~」 「聞きたかったことってそのことだったんですか?」 「あ、うん。実はさ、建宮さんをてっきり異性として好きなのかなって思っててさ~。釣り合わないとか6年はとか言ってたし……あれ?」 安堵した佐天がこぼした言葉を聞いて初春の様子が一変、昼間気絶した時のように顔を真っ赤にしていたのだ。 そして次の瞬間、初春に思いっきり肩を掴まれた佐天は初春の真剣な表情に少し怯んだ。 「……涙子さん、そのこと誰にも言ってませんよね? あと他に知ってる人は居ないですよね?」 「う、うん……。固法先輩は何を言ってこなかったから聞いていないはずだよ。……って飾利! 顔真っ赤で涙目だよ!」 「涙子さんのせいですよーっ! せっかく六年は意識しないようにしようって思ってたのにー! 建宮さんの顔、まともに見られないじゃないですかー!」 「え? え? 六年は意識しないようにって……え? 建宮さんの顔をまともに見られない……? ゴメン、ちょっと頭の整理させて……」 初春から離れた佐天は先ほどの彼女の言葉を整理して導き出した、とても認めたくない結論に達してしまう。 返って来る答えは分かり切ってはいるが、それでも佐天は初春に聞かずに入られなかった。 「もう一度、今の飾利に聞くよ? 建宮さんのこと、男性として……好き?」 初春は言葉にする代わりに顔をこれでもかというほど赤くさせながら、コクンと頷いた。 それを見た佐天は認めたくない現実を前に逃避しようとしたが、そこに初春からこんな言葉が聞こえてきた。 「で、でも、今すぐ、恋人とか、そうゆう関係になりたいわけじゃないですよ。最低でも六年は待つ、つもりですから。そうしないと釣り合い取れないですし」 初春の言葉に我に返った佐天は彼女の気持ちの真実を聞き始める。 「えーっと、釣り合いが取れない、最低六年待つ……。つまりさ、飾利は六年経つまでは建宮さんと今の関係でいるってこと?」 「そ、そうです……。今の私と建宮さんだったら建宮さんが捕まりそうなので……。それに今の私じゃあ建宮さんと釣り合わないじゃないですか」 (その台詞、建宮さんが言うなら分かるけど、飾利が言うのってどうなんだろう?) とりあえず今の関係でいることを聞いた佐天はようやく安心すると、義理の姉妹として親友として興味津々に初春に色々と尋ね始める。 「でもさ飾利。『あの』建宮さんだよ? 変人というか変態というか、そもそもオジサンだよ? それに初対面の時のこと、忘れた?」 「あれは忘れられたくても忘れられませんよ、絶対。でも建宮さん、優しくて頼りがいがあってイイ人ですよ? それに少し渋いですし」 「いやいやいやいやいや! 飾利は眼科行った方がいいよ! 建宮さんって飾利には悪いけど俗に言うロリコンだよ! 飾利限定の変態だし……」 「……でも、それでも私は建宮さんのこと、好きですよ♪ それに私だって女です。男性にあそこまで想われたら嬉しいじゃないですか♪」 初春の言うことも確かに分かる佐天だが、彼女から見る建宮と自分から見る建宮が違いすぎるので納得出来ずにいた。 しかしそんな佐天を納得させる言葉を初春が彼女に向かって紡ぎ出す。 「建宮さんってああ見えて、怒る時はちゃんと怒ってくれるんです。それも私のこと、心から心配してるのが分かるくらいに」 「……飾利に甘すぎる建宮さんが? それって冗談……じゃなくて本当なんだね」 「ええ。事情はちょっと話せないんですけど、私がピンチの時に火織お姉ちゃんと一緒に駆けつけてくれて助けてくれたんです」 初春は思い出す、初めて魔術師に襲われて重傷を負わされた日の事を。 その時助けてくれたのが神裂と建宮で、二人を心配させないように何でもない風を装っていた時に建宮に怒られたのだ。 「お二人を心配させないように振舞ってたら建宮さんが怒ってくれたんですよ。もっと頼っていい、もっと子供らしく怖がっていい。無理する必要は無い、素直に誰かに助けてもらえって……」 「あ~、建宮さんの言うこと、あたし分かるわ。最近の飾利、ちょっと頑張りすぎてたもんね。そっか、飾利はそんな建宮さんを好きになっちゃったのか……」 本当に初春のことを想っている建宮のことを聞き、これ以上は初春の気持ちに水を差すようなことは言わなかった。 ちなみに魔術師に襲われた後も初春は『裏モード』で頑張っていたので、建宮の怒りが報われたのかどうかは難しい所だが。 「も、もういいですよね? 私、これ以上は限界で……。建宮さんの顔をまともに見られるまで時間がかかりそうなので待ってもらっていいですか?」 「それは別にいいけどさ、飾利。たとえば六年、これは最低の年月だけどその間に建宮さんに好きな人が出来たら……どうするの?」 「そ、それは、諦めると思いますよ……。私の気持ちを建宮さんは知らないですし、待っててくれってそんな虫のいい話、聞いてくれるわけ無いですから」 建宮なら何年でも初春を想い続ける、そして初春の本心を知ったらその虫のいい話を喜んで聞く、佐天はそう確信していた。 そして彼女は初春に本当に悪いと思いながらも一つの決意を固めることに。 「ご、ゴメンね。変なこと言って。建宮さんならきっと大丈夫だよ♪(決めた! 六年以内に建宮さんと別の女性をくっつけてやる! 建宮さんに飾利はもったいないもん!)」 「そうだといいんですけどね。あ、それと今のこと、絶対に誰にも言っちゃダメですよ! 私と涙子さんだけの秘密なんですから!」 「分かってるって(というか他の人、特に神裂さんとシェリーさん、あとヴィリアンさんもだけど……。知られたら建宮さん、死にかねないし)」 建宮のことを人としては認めたけど、初春と恋人になることは認めようとしない佐天は六年以内に別の女性と建宮を恋人関係にしようと決意した。 しかしその努力が全く報われないものになることを思い知るのはそれから六年後の未来の話なので、今の佐天には知る由も無いことだった。 こうして初春の一番とも言える秘密を世界でただ一人、知ってしまった佐天なのであった。 その頃、卓球フロアに到着した一打、半郭が見たもの、それは土白VSインデックス&ステイルのダブルスだった。 「いいかげんあきらめ……ろ!!」 「ふっ!こんなんじゃウォーミングにもならない……よ!!」 「そのルートは甘い……かも!!」 「ヒーハー!!そこは俺の領分だ……ぜい!!」 今現在の土白四点、インデックス&ステイル四点……五点マッチではなかなかいい勝負である。 そして今、また土御門が点を入れようとしたとき、 「小人のささやかなプレゼント!!」 ラケットから小さな火の玉が出てきてピンポン玉をとばす(対能力者用なので焦げひとつつかない)。 「にゃー!?かみやんに言いつけてや……る!!」 「君にしては甘いね土御門……どの部屋にも対能力者用で、ちっとやそっとじゃ被害なんて……出ないんだよ!!」 「しまった!!俺としたことが……」 土御門ががっくりと肩を落としその場にうなだれる。今ピンポン玉は土御門の方へと向かって行く。 「僕たちの勝ちだ、土御門」 ステイルが勝利を確信した。 だが、 ・・・・・・・・・・・・ 「そんなこと言うと思ったか、馬鹿ヤロー」 そのとき、ピンポン玉が白い雪に包まれ、インデックスの方へととんで行った。 いきなりの事態にあわてるインデックス、何とか打ち返そうとするが雪のほうが力が強かったせいかインデックスのラケットが飛んだ。 そしてピンポン玉は…… 落ちた。 「な……!?」 「忘れたかにゃー?俺の魔法名は、背中刺す刃だぜい?月夜、ナイスプレーだったにゃー」 「いやー、元春の読みどおり最後の最後で魔術使ってきたねー!」 「全て……計画通りだったというのか……またか」 ステイルがここまで悔しがるのには理由がある。それは昔からこういうゲームでは土御門に勝てないのだ。裏の裏を突かれて…… 今度は自分が裏の裏を突いたと思ったがそれは違った。土御門は裏の裏の裏まで読んでいたのだ。 というかこの類のゲームでここまで燃えているやつなんて、ステイル位しかいないんじゃないのだろうか……? 「あれ、アクセラ達いつからここに居るんだにゃー?」 「ほんとだいつから来たの?」 土白は勝負に熱中でアクセラ達が来た事に気づいていなかった。 「こっちに来たのはちょっと前だけどなァ。」 「そうなんだにゃー。で、なんでこっちに来たんだぜよ?」 一方通行はなぜこっちに来たのかを言う為にボーリング場で起きた出来事を話した。 「なるほどにゃー。それは部屋から出たくなるぜよ。そういえばそっちに浜面が行かなかったかにゃー?」 「来たけどなんか用があったのかァ?」 「いや、俺達が用があった訳じゃなくて浜面がお前達に見せるものがあったはずだけどにゃー。」 「土御門は浜面が何を見せようとしたのか知っているのか?」 「知ってるも何もだって俺と月夜にも見せに来たからにゃー。」 「で、浜面は何を見せようとしているんだ?」 半蔵がそう聞くと土御門はすぐに答えた。 「お前達にとって嬉しい事が書かれているメモだにゃー。」 「そうなのか?」 「まあ、何を見せてくれるのかは浜面から見せてもらうとして、アクセラ卓球で勝負しないかにゃー。」 「いいぜ。俺も少し勝負したかったからなァ。」 と言う事で土御門vs一方通行の戦いが始まった。 その頃、一打、半郭にメモを見せるのを忘れている浜面はと言うと… 「やっべ! アクセラ達にあのメッセージ伝えるの忘れてた!」 「大丈夫。あくせら達は後にしてきぬはた達に見せれば問題ない」 うっかりしていた浜面をフォローした滝壺の言うがままに、まだ美鈴のメッセージを知らない絹旗、建宮、ヴィリアン、レッサーに伝えることに。 「か、可愛いだなんて超恥ずかしいです……。でも美鈴ママさんのスケールの大きさとお姉ちゃん達を思う心、超伝わりました」 「全くよな。相変わらず御坂嬢のご両親は考えることがでかいのよね。友情は続くのよ、わしらがこうしている限りは」 「建宮が友人ということは私も友人を名乗っていいのですね、きっと。美鈴にはいずれお礼に伺わなくてはいけませんね」 「ヴィリアン様! その時は私もお伴させて頂きます!(私は……入ってないでしょうね。しかし御坂さんの母親、かなりの大物なのでしょうか?)」 美鈴のメッセージを喜ぶ絹旗、建宮、ヴィリアンと違い、美鈴を知らないレッサーは置いてきぼりを食らった感じを受けていた。 なのでレッサーの思考は少し不埒なものへと移行することに。 「(それにしても絹旗が上条さん達の同居を断るなんて……。それってつまり私にチャンスが巡ってきた?)ここで私が同居を申し出ればあるいは」 「あー、レッサー、考えが途中から口に超出てますよ。それを今申し出るのは超KYなので止めた方がいいですよ?」 「やっぱりそうですよね……。せっかくヴィリアン様の直属になれたのに私ったら……」 そこへ美琴に打っ飛ばれた黒子をおんぶした青ピがボウリングフロアに到着、浜面はすかさず青黒にもメッセージを見せる。 青黒も他の者達同様に美鈴の心の広さに感動を覚えていた(黒子はおんぶされているが意識はある)。 「美琴はんのお母はん、ホンマに娘思いのええ人やな! それにボクらの友情も祝福してくれるやなんて!」 「やはりお姉様のお母様もまた、素敵なお方。安心して下さいましお母様。黒子とお姉様の友情は永遠不滅ですわ!」 そして黒子は落ち込んでる上琴、こちらをヴィリアンの後ろから怯えるように見ているレッサーに気付く。 レッサーの方は自分がやらかしたことから察しがついていたが、上琴の方はさっぱり検討がつかないので浜面に尋ねる。 「ところで浜面さん。上条さんとお姉様、一体何があったんですの?」 「まあ、ちょっとな。詳しいことは当事者の絹旗に聞いてくれ。俺は今から滝壺と一緒に卓球フロアに行くから。行こうぜ滝壺」 「分かった。しらい、あまり変なこと考えたらダメだよ?」 滝壺は黒子にメッセージを残すと、浜面と一緒に卓球フロアに向かうのだった。 浜滝を見送った青黒は絹旗の所へ向かうと上琴の落ち込んでる理由を当事者の絹旗から聞きだした。 (絹旗さん、何ともったいないことを! ですがこれはチャンスでは? 私が同居を申し出ればお姉様は泣いて喜ぶに違いありませんわ! 上条さんの意見は無視ですけど) あくまで美琴との友情を育みたい黒子、しかし考えはレッサーと殆ど似たようなものだった。 場所は変わって卓球フロアのとある卓球台、そこにいる当事者以外があえて意識から外してる場所で神裂とシェリーの死闘がウィリアム立ち合いのもと、続行中。 死闘といってもあくまで卓球の試合なのだが、あまりの本気っぷりにそう錯覚してしまうほど白熱していた。 (卓球でここまで熱くなれる二人に驚くが一番の驚きはシェリーなのである。聖人たる神裂相手にここまで喰らいつくとは……) そこへ美鈴のメッセンジャーにいつの間にかなっていた浜滝が卓球フロアに入ってきた。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2293.html
「えー、皆さん。球技大会優勝、おめでとうなのですー♪ そんな皆さんの為に優勝記念パーティーを開いちゃいますよー!」 一度集合した上条のクラスの生徒全員は、小萌のパーティー開催宣言に心の底から歓喜した。 その後、小萌からそのまま友愛高校の食堂へ向かうように告げられて少しテンションが落ちたが、それでもバカ騒ぎが好きなことには変わりない。 上条達選手陣は汗を流すためにシャワー室へ向かおうとする中、真夜が1人だけ小萌に呼び止められる。 「頑張った真夜ちゃんにこんなことを頼むのは心苦しいのですが、パーティーに出す料理を作ってもらえますか?」 「別に構いませんよ。でも俺だけってことはないですよね? 他にも人手が無いと」 「その点は抜かり無いのです♪ 先生はちゃんと頼れる人達に声をかけてるので安心して下さい」 分かりました、真夜は嫌がりもせずに引き受けると荷物を小萌に持ってきてもらうように頼むとその場を後にした。 その足で真夜は医務室に直行、風邪もほぼ治りかけている真昼と意識を取り戻した茜川を連れて友愛高校へと向かうことに。 ―――――――――― 「みんな試合ご苦労さんなのよ。ほら、自分のはちゃんと忘れずに持って帰るんだぞ」 こちらは建宮の居る魔術師達の得物預かり所、預けていた魔術師達は既にシャワーを浴びて着替えも済ませてここに来ている。 「確かに返していただきました。天草式教皇代理、信用できる人物のようですね。ではショチトルに五和さん、自分達も向かいましょうか」 「五和、お前さんどこに向かうってのよな?」 「これから【歩く教会】チームの皆さん、もちろんサッカーの方ですが食わせ殺しでパーティーをするんです」 「ほぅ、それはまた羨ましいのよね。こっちは上条当麻のクラスの連中の為にパーティーの料理作らにゃいかんっつーのに」 建宮の愚痴を聞き逃さなかった五和とエツァリが建宮に詰め寄る、あまりの速さに建宮は驚きショチトルは呆れていた。 五和とエツァリは建宮から小萌に自分のクラスのパーティーの料理を作る依頼を受けたことを話したが、2人の興味はそこには無くパーティーが上条絡みということにあった。 「当麻さんの参加するパーティーでご奉仕するべきか、今日の激闘を一緒に戦った仲間達と楽しい時間を過ごすべきか……迷いますね」 「上条当麻が居るということは御坂さんも当然参加するでしょう。そこで自分の出した結論をお2人に告げるいい機会ですがチームの皆さんとも親睦を深めたいですし……」 「2人とも、今日の所は試合を共にした仲間と過ごすのよね。お前さん方が言ったことはいつでも出来る、けどあのチームで楽しく騒ぐことはあまり無いだろう。そうゆう出会いは大切にするのよ」 建宮のまともな物言いに五和とエツァリが【歩く教会】チームの方を選ぶのを見て、ショチトルは建宮という男に関心していた。 こうして何の問題も無く終わるかと思われたが、五和の何気ない一言が問題を引き起こす。 「まあ建宮さんの言う通り、当麻さんに大っぴらにアタック出来るチャンスはいくらでもあります♪ 初春さんがイギリスに居る約2週間が勝負ですね」 「…………五和、海軍用船上槍を組み立てろ。悪いがアステカの魔術師のお2人さんは先に行ってるのよ。五和も後で向かうから安心しろ」 エツァリとショチトルは建宮の豹変ぶりに驚きながらもそそくさと部屋を後にし、五和も言われるがままに海軍用船上槍を組み立てて念の為に構えを取る。 次の瞬間、建宮がフランベルジェで袈裟斬りしてきたので五和も慌ててガードし、ガギィィィィィン! と大きな音を出すだけに被害を抑えた。 「なっ、ななななな何するんですか建宮さん! 今の斬撃、本気で殺す気満々じゃないですか!」 「五和、世の中には言って良いことと悪いこと、そして言ったら死んで侘びることがあるのよね。飾利姫が俺を置いてイギリスへ行くなどと、死んで償うしか道は無ぇぞ」 「ちょ、ちょっとタイムです! ここはきちんと話をぬぐっ! こ、今度は押し潰す気ですか! うわっ!」 建宮の斬撃を受け止めたはいいが、私服に着替えてしまった五和には球技大会で見せたほどの力は無く大人げない建宮の押し込みに負け、部屋のドアを突き破って廊下の壁へと叩き付けられる。 背中に強烈な痛みを感じながらも五和は体勢を立て直したが、それよりも速く建宮の横薙ぎの一閃が迫っていた。 五和は割と本気でマヌケな人生の終幕に泣きそうになったがそうはならなかった、神裂が七天七刀の鞘で建宮の後頭部に一撃入れて建宮を気絶させてくれたお陰である。 「まったくこのような所で何をしているかと思えば……。五和、怪我はありませんか?」 「は、はい。あ、ありがとうございます女教皇様」 「先程の試合、服装はともかくお見事でした。ところでどうして貴女が建宮に襲われていたのですか?」 命を救ってくれ、自分の試合を褒めてくれた神裂に最初は感激していた五和だが、この経緯を説明すれば同じことの繰り返しになると思って頭を悩ませる。 どうにかして切り抜けようとしたその時、神裂の横にいた佐天に気付くと、 「そのことなら隣に居る女の子に聞いて下さい! おそらく女教皇様の知りたいことも教えてくれますから! では私はこれで!」 早口かつ大声で佐天へと責任転嫁をしてダッシュで逃げ出したが、神裂も初春のことを知りたがってると瞬時に推測したのは流石である。 神裂は五和の逃亡に少しだけキョトンとすると、気絶した建宮を引きずって上条たちの居る控え室への歩みを再開させた。 「佐天、飾利はどこに行ったのですか?」 「(その質問97回目……)当麻兄さんか土御門さんが教えてくれます」 「そうであればいいのですが……。もしシェリー辺りが飾利が可愛いからと独り占めしていたらと思うと」 同じ質問、似たような妄想をする神裂に佐天はげんなりしていた。 少し歩くと一室のドアが開き、上条のクラスの決勝進出メンバーがゾロゾロと出てきた(美琴、黒子、打ち止め、滝壺、郭はスタジアムの外で待っている)。 神裂、疲れた表情の佐天、気絶している建宮を見た土御門は状況を理解して自分と上条以外を先へと行かせた、神裂に食い下がる野原を力づくで黙らせて。 「佐天はあなた達に聞けば分かると言っていました。なので聞きます。飾利はどこに居るのですか? 嘘や黙秘は許しませんよ」 「(やっぱりそれか……。下手に引き伸ばすよりもスパッと真実を告げた方がいいな)さ、カミやん。ねーちんに教えてやるぜよ」 「ああ、別にいいけど。あのさ神裂、飾利なら今日からGWが終わるまでイギリスに留学するってさ。多分キャーリサやヴィリアン、最大主教の世話に……神裂、さん?」 特に深く考えずに初春のイギリス留学を告げた上条、しかし神裂が何のリアクションも見せないことを不思議に思って神裂に近づいた。 そして上条は気付いた、神裂が立ったまま気絶していることに。 「カミやん、お前さんは本当に残酷な男だぜい。ねーちんに初春ちゃんがイギリス留学してることを平然と告げるとはな。ねーちんの初春ちゃんへの依存っぷりを知ってるくせに」 「当麻兄さん、もう少しくらい優しく言ってあげても……。飾利が誰かと一緒って知っちゃったせいで神裂さん、考えること放棄しちゃったじゃないですか」 「……悪い。いくら神裂でも飾利のイギリス留学でここまでの反応するとは思わなかった。けどとりあえず神裂と建宮、どうし」 「おーい兄貴ー、上条当麻ー、佐天ー」 自身の軽率ぶりの反省を終えた上条は気絶してる神裂と建宮を置いてはいけないと思い、どうしようか考えようとしていた。 そこへ舞夏がのほほんとした雰囲気で現れた、珍しく警備ロボットの上に乗らず自分の足で。 「にゃー舞夏ー♪ 会いに来てくれたのは嬉しいんだがちょーっと間が悪かったかな。今カミやんと佐天ちゃんと一緒にこの2人をどうしようかと」 「それなら問題ないんだぞー。私はもともとこの2人を探してたんだぞー。なんてったって兄貴のクラスの優勝パーティーの料理を作るんだからなー」 「だったらこの2人を担いで学校に戻ればいいな。学校に着く間には2人も意識を取り戻すだろ」 「2人がこの調子というのはちと心配だが腕の振るい甲斐はありそうだなー♪」 神裂を佐天と舞夏で、建宮を上条と土御門でそれぞれ運ぶことに。 そして残ってくれていた美琴と白雪と合流し、同じく残ってくれていたマイクロバス(運転手は災誤)に乗って友愛高校へと向かうのだった。 かくして球技大会は幕を閉じ、優勝パーティーというGWを含めた大型連休が始まるのであった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1074.html
そして、当の二人は青黒を置いてって大浴場から出て着替えていた。 「ふう、蝶温まりましたね。この後超何します?」 「とりあえず、一階に戻りますか。」 「そうですね。一回上に戻った方が超いい気がするし、超そうしましょう。」 そういうと二人は着替え終わると、階段を上がり『ゲームルーム』の回転する扉の前に居た。 そして、二人はそれをまわすと……目に前に初春が仁王立ちをしていた。 その瞬間、4人は悟った。 あ、殺される。と。 「4人ともいいお湯でしたか?ちょっと質問したいことがあるのでお時間よろしいでしょうか?」 これがジャッジメントの尋問訓練なら非の打ちどころがないパーフェクトなもの。 しかし、修羅場慣れしてる白井と絹旗、そして初春のことをよく知る佐天は その甘ったるい声の主成分が メガトン級の殺意であることに気がついた。 「う、初春?どうしたのかなー?あははー」佐天は恐怖のあまり冷や汗を10リットルばかりたらしながらこう言い。 「うう初春、良いお湯でしたわよ。あなたも先に入って見られては?」白井は話題転換を図る。 「そ、そうです超良いお湯でしたから今すぐ入った方がちょう良いですよっ」絹旗も話題転換を試みたが 「い・ま・す・ぐ・にお聞きしたいんです。良いですね?」 有無を言わさぬ口調で初春が言うと 4人の地獄が始まる。 知っての通り初春は腕力などが有るわけではない。 よって 熾烈な精神攻撃が4人を襲う。オルソラ救出時のインデックスも真っ青な…。 「うちらは無実や!!」 「よって退散しますの」 ヒュッ!!そんな音がして青黒は空間移動を使い、 「「逃げた!?」」 事実上、青黒は無実なのだからとばっちりはゴメンだろう。 初春の目は佐天と絹旗に向き、ただならぬ殺気がプンプンである。 「……白井さんなら鉄矢で蜂の巣にするので、本当に無実でしょうね。あ・と・は……」 「ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!飾利!!私は無実!!やったの最愛!!」 「なっ!?ちょ……、はい確かに超そうです。なので超お許しをォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 ダッシュ!!絹旗は己の罪から逃れるため、上へとかけのぼる。が、 ガシッ!!と、絹旗の腕が捕まれた。 「へ?」 腕を掴んだ人物を見ると、 「どうも」 初春ベタボレ人、聖人の神裂がそこにいた。 「まったく、飾利がどうしているか見に来てみたら、あなたが逃げ出していたもんですから。逃げたという事は建宮をやったのはあなたなのですね?」 「誰か超助けてー!!」 絹旗は誰かに助けを呼んだが、もちろん誰も居ないので神裂に連れられて階段を降りた。 そして降りてみるとそこで目にしたのは…… 佐天が屍のような状態になっていた。 「る、涙子!?一体何があったのですか!?」 「……………………」 佐天は絹旗が呼んでも返事が無かった。 「飾利!!どうして涙子が超こうなっているのですか!?」 「それは、建宮さんを放置した罰ですよ♪それに次は最愛の番ですよ♪建宮さんをあんなふうにした罰として受けてくださいね♪」 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」 そして、絹旗も佐天同様に地獄を迎えるのだった。 同時刻。 青黒は他のメンツがいるリビングに逃げ込んだのだが。 「にゃー、さすがにあそこまで怒った初春ちゃんの敵に味方したらこっちの身が危ないぜい。」 「俺らも家壊されるのはたまんねえし。なあ美琴。」 「そうよねー、というわけでごめん黒子」 ボギィッ 美琴は寮監から伝授された方法で逃亡者一名を気絶させる。 「月夜、もう一人の逃亡者を凍らせるにゃー!!」 「モグモグ…ん、了解。」 カチン! 驚いたことに月夜は例のチョコウエディングケーキを頬張ったまま見向きもせず後ろにいた青ピを凍らせてしまった。 「にゃー………月夜?さすがにそれ以上食べると太っちゃ」カチン!! 余計なひと言を言った彼氏もついでに。 周りにいたメンツは思ったという (*1)))と。 そのころ地下では耳栓をした聖人にがっちり掴まれた絹旗が初春の尋問を受けていた。 「さーて、次は何を質問しましょうか♪」 「う、ウイハルさま超やめてくだいましーっ!!」 人格破綻をきたすまでに。 「じゃあ今まで、そう、今まで生まれてからしてきた数々の罪を残らず告白して懺悔してください♪」 「ちょ、超多すぎて無理ですーっ!」 「それじゃあこの間、ジャッジメントでやり過ぎたことと今日のことだけでいいですよ♪」 「あ、あれは超okじゃなかったんですかーっ!?」 「今日ので全部ノーカウントです。今度手伝ってもらうときはしっかり償ってもらいますからね♪でも今は自分の醜さを口に出して懺悔してください、さっきみたいに♪」 「ひぃ…私は人をいじめて浜面をからかって楽しむような超ドSな女です。私は超見境なく人を殴る超最低の女です…。」 「そうそうその調子。ではそれを両方1000回ずつ言ったら許してあげます。」 「えぇぇええーっ!?」 「最愛さんが言っていいのは今の二つと『ハイ、ご主人様』だけですよ♪」 (飾利のほうが超ドSですーっ!!) 「なーに、ぶつぶついってるんですか?隣の部屋に鞭があったし、火織姉さんに鞭打って貰ってもいいんですよ♪」 こんな感じのもはや尋問ではなく精神破壊である。 耳栓をした聖人も(音は聞こえませんがこの状況…飾利、恐ろしい!!)と思い、 15分後に絹旗が気絶してからも耳栓を取ろうとせず、上のリビングに行ってから外す事になったのは言うまでもない。 気絶した佐天と絹旗を放置して、神裂と一緒に地上に上がってきた初春は少しだけ自己嫌悪に陥っていた。 そこに先程までの冷酷な初春はおらず、そこに居るのはいつも通りのいじり甲斐があるようでしっかり者の初春だった。 「……はぁ、自分でもあそこまでやれるなんて思わなかったなぁ。涙子さんと最愛さんに後でちゃんと謝ろう」 「飾利、そこは別に貴女が謝る必要は無いのでは? それよりもやられた張本人の建宮にまだ謝ってませんよ? あの二人」 「それなら分かってますよ。二人がきちんと建宮さんに謝ってくれたら私は笑顔であの二人をハグしてあげたいですね♪」 (どうやら飾利たち三義妹の中で一番お姉ちゃんなのは見た目に反比例した飾利のようですね……。ですが私のがお姉ちゃんです♪) 初春と神裂がリビングに入ると、そこには量こそ減ってるものの未だ形として健在中の五和のウエディングチョコケーキが強い存在感を示していた。 なおウエディングチョコケーキを食べているのはインデックス、ステイル、月夜、途中参戦の美琴、シェリーだった。 「それにしても誰なんでしょうね? このような恥知らずなものを贈るとは。上条当麻、あなたは知らないのですか?」 「贈り主の住所も名前も書いてないから持込だとは思うけど……。最初は五和かと思ったけど、あいつなら本人一緒が当たり前だしなぁ」 真実を知っている土御門は氷の中なので結局真実が当麻に伝わるのは土御門が復活してからのことになる(インデックス、ステイル、月夜は忘れている)。 神裂は当麻の推論を聞いて、否定したいのに否定できない五和の人間性を思い出して落ち込んでしまう。 そんな当麻と神裂をよそに初春はソファーの上で気絶中の建宮の体を引きずり始めると、当麻にちょっとしたお願いをする。 「当麻お兄ちゃん、少し和室借りてもいいですか? 建宮さんを介抱したいので」 「あ、あぁ、別に構わないぞ」 「ありがとうございます。それと火織お姉ちゃん、誰も和室に入らせないように見張ってくれますよね♪」 「……も、もちろんです。何せ私は飾利のお姉ちゃん、貴女の頼みごとならどんなことでも聞いてあげたいんですから……っ」 初春は誰にも邪魔されずに建宮への『お父さんチョコ』を渡す為、神裂の性格を考えた上で行動を起こした。 事実、神裂は先手を打たれて何も言えなくなり初春に頼まれるままに和室の番をする羽目に。 建宮を引きずる初春の後ろを神裂、そして当麻が続く形でリビングを出る。 「どうしてあなたが付いて来るのですか? 上条当麻」 「いいじゃんか、別に。あそこに居たって暇なんだし。飾利も俺が神裂と一緒に見張りしてた方が心強いだろ?」 「ええ♪ でも絶対に誰も入れちゃダメですからね! 私はお二人のこと、とーっても信頼してますから」 当麻がリビングを出た理由、それは単にあのチョコの甘ったるい匂いが充満してるリビングとウエディングチョコケーキから逃げたかったから。 初春と建宮が和室へ入るのを確認した当麻と神裂、二人っきりの和室の門番さんの誕生である。 (……ん? 何でわし寝てるのよな……って思い出した! 確か絹旗のチョコ喰って口の中が爆発した……はずなんだが後頭部に柔らかい感……触……) 「あっ、ようやく目が覚めたんですね、建宮さん。よかったー、このまましばらく起きないかと……建宮さん?」 長い気絶から回復した建宮が感じたものは初春の膝枕、建宮が目を覚まして初めて目にしたのは自分の顔を覗き込んでる初春の久しぶりの笑顔だった。 人間、幸せになりすぎるとパニックになるわけで建宮も例外ではなく、ムックリと起き上がった後でまともに言葉も紡げずにあうあうしてしまう。 「(このまま放っておくのもそれはそれで面白いけど、渡す物渡さないとダメだもんね)こうやってまともに話すのは久しぶりですね、建宮さん」 「か、かかかか飾利姫こそお変わりなく……いやいやそんなことはプリエステスに嫌というほど聞かされたから……ぬぅ、何を話せばいいのか……」 「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ? まずは落ち着いて、そしていつもの私の知ってる建宮さんに戻って下さい。それまで待ってますから」 何だか冷静な対応をする初春に面食らった感じの建宮だが、彼女に言われるがままに深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ始める。 初春は初春で建宮を完全に『お父さんのような人』として対処出来てることに安堵していた。
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/152.html
撮影会はつつがなく(?)進行した。 土白・浜滝ペアは普通にそのまま順調に撮影された。 …女性陣がいつも以上に積極的だったのは別として。 青黒は 「は~い、お二人さんキスしましょう~♪」 「「えええー!!」」 とか 「じゃあ次はお姫様だっこしてキスして下さ~い♪」 「これでキスは10回目やん!!」 「しかも写真ですのっ!!初春はやはり鬼ですわっ!!!」 「何か言いましたかお二人さん♪」 「「何でもありませんっ!!」」 初春から来るす様じいオーラに押された二人は即答。 一打は 「こらクソガキィ!!初春の野郎が言うからってそこまでやるなぁーっ!!!!」 そして上琴は… 「おーい、美琴ー起きろー」 「…ふにゃ?」 「やっと起きましたよこのお嬢様は…」 「ええと…なんで私寝てたの…?」 「超すいません!!私が渡した超薬のせいでして…(本当はイギリスで買った超アイリッシュウイスキーですけど)」 「あれって眠気を誘うのね…まあいいわ。そういえばパーティーは!?」 「超中止になりました…。」 「そっ、そんな~」ガクッ… 「でもな美琴、俺達はこれから写真撮影だ!!」 「写真撮影?」 「この格好でな!!」 「え!!って私この格好で寝ちゃってたの!?」 「まあそんなことより皆待ってんだ。早く行こうぜ?」 「う、うん…でもさ、こんな格好で写真って本当に結婚したみたいじゃない?/////////」 「本当だったら嬉しいけどな/////////」 「当麻///」 「美琴///」 チュッ、レロレロレロ…カシャッ!! カシャッっというのは二人のキスは写真になった音である。 「「/////////!!??」」 「いい写真が取れました~♪」 上琴の決定的なラブラブ写真を撮ったのは初春で、その顔は清清しいほどの笑顔だった。 初春の後ろでは主賓4組と主催者一行が初春と同じように笑顔でこちらを見ている。 「やっぱり最後は当麻お兄ちゃんと美琴お姉さんですね~♪ しかも一番ラブラブな写真が撮れるなんて素敵です!」 「ちょ、飾利! お願いだからそのカメラの画像、今すぐ消去しなさい!」 「そうだぞ初は……飾利! キスした写真は処分しなくていいけど、ちゃんとした写真を撮ってくれ!」 「と、当麻何言ってるのよ!」 「はっ! しまったつい本音が! 上条さん的には心苦しいけどやっぱり写真は後で処分して下さい!」 本音を漏らす当麻とそれに怒る美琴の姿は面白いのでしばらく眺めていたい初春だったが、聞いておきたいことを聞くことにした。 「お二人に聞きたいことがあります。今日のパーティー、楽しかったですか?」 「まあ、色々恥ずかしい目に遭ったし、きついこともあったけど、こうしてワイワイ騒げるのっていいよな。それに美琴のウエディングドレス姿も拝めた♪ つまり……」 「そうねー、当麻には泣かされるし飾利にはおもちゃにされて疲れたかな。でもみんなとこんな風に過ごせたし、当麻のカッコいい姿も見れたことは収穫ね♪ ま、つまりはさ……」 「「最高に楽しいクリスマスをありがとう!!」」 一番祝福したかった二人から極上の笑顔と共に感謝の言葉をもらった初春は、嬉しくて涙が出そうになったが何とか堪える。 しかしこのままでは涙が流れそうになったので初春がごまかすために取った行動は、 「「うわっ!! ちょ、飾利!!」」 「こちらこそありがとうございました! 当麻お兄ちゃんに美琴お姉さん、私はお二人を心から祝福します♪ 今日は私も楽しかったですよ♪」 「あー、初春ばっかりずるーい! 私も二人の妹なんだからっ!」 「じゃあそうゆうことなら私も超権利があります。ここは妹として超抱きついてやりますよ♪」 「みんなだけにいい思いはさせないってミサカはミサカはパパとママの背後から抱きついてみたり!」 当麻と美琴に思いっきりダイブを敢行した。 それにつられて佐天と絹旗も上琴にダイブし、打ち止めは上琴の背後から抱きついた。 その光景を写真に収めたのは初春が手放したデジカメをキャッチしていた美鈴だった。 「あらあら、美鈴さん的にはあの光景を当麻さんと美琴さんの未来予想図とか思ってるのかしら?」 「ええ、それもそんなに遠くない未来ね。その時にはきっともっと面白い写真が撮れそうだけど♪ あっ……」 美鈴が反射的に撮った写真、それは初春にどさくさに紛れて抱きつこうとした建宮が家の外にぶっ飛ばされた写真だった。 その後、上琴はちゃんとした写真を撮ってもらい、無事に記念写真撮影は終わった。 しかしパーティーで騒いで皆ヘトヘトだったので、すでに帰宅した招待客を除いて上琴新居、上条家、御坂家にそれぞれ分かれてお泊りすることに。 「火織ちゃん、あの子達はもう寝ちゃった?」 「はい。仲良く川の字になってすぐに眠りました。よほど疲れていたのでしょう」 「そうね~。朝の5時半に起こされてずーっとパーティーの為に頑張ってたもの」 御坂家には美鈴、詩菜、神裂、対馬、浦上、黄泉川、芳川、そして中学生トリオの10名、上条家には刀夜、旅掛、建宮、天草式の男衆が泊まっている。 主賓五組はというと上琴新居でお泊りだが大人達、特に教師の黄泉川から羽目を外すなと厳命されている。 ちなみにその黄泉川だが芳川と共に一番酒を飲んでいたために、二人揃ってすでに夢の中である。 「対馬さんもご苦労さま~。招待客なのに私達のお手伝いをしてくれて~」 「い、いえっ! こちらこそウチのバカ建宮がお世話にというかご迷惑をかけてしまって……」 「そうでもないわよ。斎字くんのお陰で飾利ちゃんも元気になってくれたから。迷惑どころか感謝してるくらいよ♪」 「奥様方にそう言ってもらえるなら……。あの、ところでプリエステスはさっきから何を?」 対馬が神裂に話を振ると、神裂は小声で誰かと電話で会話中だった。 そして大声で怒鳴った後で電話を切ると、ゲンナリした表情でこちらを振り返る。 「プリエステス、さっきのお電話の相手は?」 「ああ、最大主教ですよ。あの馬鹿ときたらしばらく学園都市で待機しろと言ってきました。しかも私、建宮、五和、浦上、そして対馬、あなただけで」 「……何ですか、その作為的な面子。まあ入院中の五和が退院した時のことを考えれば妥当な気もしますが。他の天草式メンバーはイギリスに?」 対馬の質問に神裂は頷いた後でステイルとインデックスをイギリスに召集することも伝える。 報告が終わった神裂をニヤニヤして見ていたのは美鈴。 「嫌そうなわりには火織ちゃん、ちょっと嬉しそうね。もしかして飾利ちゃんがお気に入りになっちゃったとか?」 「あらあら、火織さん的には飾利さんのことを妹みたいに思っちゃったりするのかしら~?」 「そっ、そのようなことは! 確かに初春は小さくて人懐っこくて何かこう小動物みたいな感じがしますけど決して邪なことは……」 (プリエステスもどうやら重症のようね……。バカ建宮のような考えは持ってなくて安心したけど。しかし五和と初春は会わせるのは危険な気がする……) 「わ、私はですね、そう! 建宮が初春によからぬことをしでかさないか心配してるだけです!」 対馬の心配通り、神裂も初春のことをいたく気に入ってしまいローラの命令を内心では喜んでいるが、五和と初春の出会いで頭を悩ませるのは先の話。 ちなみに学園都市待機を心から喜びそうな建宮だが刀夜、旅掛の酒を飲むペースについていけず他の天草式メンバー共々すでにグロッキー状態。 こうして御坂家、上条家での夜は更けていく中、上琴新居でお泊り中の主賓五組はというと…… 「あ~、なぜベットが一つなんでせうか?」 「ここは家主の当麻と私が…」 「滝壺は今病み上がりなんだ!!熱でも出たらどうする!!」 「こっちはガキが居ンだよォ!!風邪ひいたら責任取ってくれるンですかァ!?」 「にゃー!!こっちは能力の使い過ぎで月夜がダウンしてるっての!!」 「あかん!!こっちはベッドを使う口実が無いやん!!」 今ここに、ベッドで寝ようとしている者達の口論が始まる!! 「俺はこの家の家主だ!!俺と美琴がここに寝る権利があるはずだ!!」 「こっちは能力使い過ぎて顔を赤くして、ハァハァしている月夜がいるにゃー!!」 「ハァハァ余計だよ……」 「そンなら子供はどォすンだァ?ソファーの上に寝て次の日風邪ひきましたってオチかァ!?」 「滝壺は身体が弱いの!!次の日大惨事もあり得るんだよ!!」 この醜い口論に口が出せない男が一人いる。 「○○様も参加なさって下さいな! このクリスマスという聖夜にわたくし達は結ばれる運命なのですわ、ベッドで!」 「せやけど黒子はん、黄泉川センセーにそないなことしたらアカン言われてるやん。それにボクは……ってカミやん、携帯鳴ってるで」 ここにいる男共の中で唯一平和な日常にいる青ピは横で黒子にせかされつつも、この争いに参加出来ずにいた。 だからなのか、誰も気付けなかった当麻の携帯の着信音が青ピにはちゃんと聴こえてきた。 「あっ、ホントだ。はいもしもし……って母さん? どうしたんだよこんな時間に」 『実はね、そっちの新居にちゃんと人数分の寝具があることを伝え忘れてたの~』 「マジですか! そうゆうことは早く言ってくれよ! おかげでこっちは無駄な争いしちまったじゃねーか! で、その寝具はどこにあるんだ?」 詩菜から蒲団のある部屋の説明を受けた当麻は、残る皆にその場所を教えた。 各自、どの部屋で寝るのかを話し合いですんなりと決め終わると最後に詩菜から釘刺しを受ける。 『当麻さん、皆さんに伝えてくれるかしら? いくら聖夜でもオイタはダメだって♪ もしオイタをしたらどうなるか分かってますよね~? じゃあおやすみ~』 そうして詩菜が電話を切った後で、当麻は詩菜からの伝言を皆に伝えるとそれぞれに『誰か』を思い出したのか、大人しく頷いた。 それから各々指定された寝室(客間)へ移動を始め、寝支度を整えてすぐさま蒲団に潜り込んだ。 ほとんどのカップルがすぐさま眠りにつく中、自分達の寝室のベッドの中で上琴は今日のこと、そしてこれからのことを考え出す。 「今日は美琴と恋人になって初めてのクリスマスなわけですが、色んなことがありましたなー」 「本当に色んなことがあったわねー。まさか親達公認の新しい妹が三人も出来るなんてね……いや、悪いわけじゃないんだけど」 「ちなみに美琴が寝てる間にあの三人から名前呼び捨て、および学園都市でもこの関係を続けると言われたぞ。断る理由無かったから断ってないけど」 「ま、いいんじゃない。当麻がそうしたのはあの三人といると楽しいって思ったからでしょ? 私も楽しいし。このままでいきましょ♪」 二人がまず思い浮かべたのは、義理とはいえ妹が三人も増えたという普通の家庭ではありえない現実だった。 そのことを楽しげに思い浮かべた後で次に二人が考え出したのは、 「学園都市に帰ったらインデックスが待ってるっぽい……。五和は入院してるらしいけど、無事に正月が迎えられるか心配になってきたな」 「大丈夫よ! 当麻のことは私が守ってあげるから! あの子には悪いけど姿見かけたら問答無用で焼いてあげるわよ、ギリギリ死なない程度に♪」 「サーチ&デストロイ精神ですか美琴さん! インデックスはあれでも俺の仲間だからせめて半殺し手前まで加減してやって!」 学園都市で待ち構えてるであろう因縁の二人なのだが、インデックスは二人が帰ってくる頃にはイギリスに向かっているので会えない。 二人が一通りインデックスの対処方法を討論したことで本格的に疲れてきたので、最後にあることを約束する。 「ねえ当麻。来年からはさ、イブは二人っきり。クリスマスはこうやってみんなでパーティーしない? 面子もほとんど同じで」 「そうだなー。こんなパーティーがこれからずーっとあるのならクリスマスは楽しいだろうな。で、俺達もいつかは結婚して子供も一緒に騒いだりするのかねー」 「こ、ここここ子供っ! ……うん、そうだね。と、当麻が欲しいんなら私が高校生、ううん、16になってから作っても……いいわよ」 「ちょ、ちょっと待て! み、美琴さん、あなたいきなり飛躍しすぎですから! ……もしかしてまだ酔っ払っていらっしゃいますか?」 「失礼ねー酔ってないわよ。というか冗談よ、冗談。早く子供が欲しいのは本当だけど、そんなに焦ってもいないから安心ムギュッ!」 洒落になってないレベルの冗談を言った美琴にお返しとばかりに当麻は美琴を不意打ち的に抱きしめる。 いきなりのことに驚いた美琴だが、時間が経つにつれて落ち着きを取り戻すとそっと当麻の背中に腕を回す。 「なあ美琴、俺達は俺達のペースでやっていこうぜ。なんたって俺達、これからずーっと死ぬまで一緒なんだからさ。俺は美琴を手離す気はさらさら無いので♪」 「その台詞、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるわよ……。でも当麻の気持ちは嬉しいし、私も当麻と同じ気持ち。私も当麻から離れてあげないんだから♪」 「「これからもずーっと末永くよろしくお願いします」」 最後に二人は目を合わせたまま、優しいキスをすると抱き合いながら心地よい眠りにつくのだった。 こうして上条当麻と御坂美琴の恋人になって初めてのクリスマスは何だかんだで無事に楽しく終わりを迎える。 (ちくしょおおおおおおおおおおっ! ク、クソガキを意識しちまって眠れやしねェ! 何ドキドキしてンだ俺はァ! これも全部初春のせいだあああっ!) 一人の少年の心に何かとんでもないものが植えつけられたことを除いては…… なお、この少年の心の葛藤による睡眠不足は3学期が始まるまで続くのだが、当の本人には知る由も無かった。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/462.html
9月7日(午前12時00分)、天草式十字凄教のとある拠点 フルチューニングが、正式に天草式十字凄教の一員となって2週間以上が経過した。 その期間には、『御使堕し』、一方通行と打ち止めの出会い、シェリー・クロムウェルの学園都市侵入など 様々な出来事があったのだが、天草式の面々とは基本的に無関係であった為ここでは省略。 そして今、フルチューニングは天草式の少年香焼と模擬戦をしていた。 フルチューニングは鋼糸を巻いた木刀を、香焼は短剣を持って戦っている。 優勢なのは香焼の方だった。 「く…!」 「簡単に気を取られるようじゃ、まだまだ甘いすよ!」 身軽な香焼が、そのスピードを生かして短剣を振るう。 それだけではない。香焼はわざと数枚の“ポケットティッシュ”を模様を描くように辺りに落とす。 そのティッシュをフルチューニングが踏むと、彼女の足は根が生えたかのように動かなくなった。 「これは!?」 「ふふん。こいつの象徴は“樹木の根”。隠した術式は『大地との一体化』って事すよ!」 まあ数秒しか持たないすけど、と言って香焼は余裕の表情を浮かべるが… 「まだまだ甘いですね」 フルチューニングは一瞬で木刀に巻き付けてあった鋼糸を展開し、“磁力”で操って香焼に襲いかからせる。 ギョッとして逃げようとする香焼だが、鋼糸の方が一瞬早く足を絡め捕り、あえなく全身を縛られてしまった。 「オリジナル(お姉さま)の様に地面の砂鉄を操る事は難しいですが、鋼糸程度なら問題ありません」 「ズルいすよ!卑怯だ!反則だ!」 「ふふん、負け犬の遠吠えですか」 「ちくしょう…俺の方が勝ってたのに!」 動きを封じられながら、ギャアギャアと抗議する香焼。 素知らぬ顔をするフルチューニングだったが、そこに五和が現れた。 「あ、レイちゃんに香焼君。そろそろお昼にするから、終わりにしてほしいって建宮さんが言ってましたよ」 「そう言えばもうこんな時間でしたね」 「五和ー!レイが卑怯な真似してくるっす!」 「ム!術式を使ってきたのは香焼が先です!」 「まあまあ、2人とも仲良くしてください。…それにしても、鋼糸を触らずに操れるって言うのは凄いですねー」 「そうなんですか?」 「そうですよー。これだけ自在に操れると、立派な主武器(メインウェポン)になるじゃないですか」 キョトンとした様子で、フルチューニングがミノムシ状態の香焼に目を向けた。 香焼は大きく頷いて、恨みがましく説明を始める。 「普通、鋼糸って言うのは“あらかじめ”張って用意しておく迎撃型の武器なんすよ」 「または、戦闘中にこっそりと準備していざという時の“補助”として使うのが主流ですね」 五和も楽しそうに説明に参加する。 「なるほど。言われてみれば、鋼糸だけで戦う人は誰もいませんでしたね」 「そもそも鋼糸はトラップ用に作られたものですから…レイちゃんみたいに能力が無いと無理ですよ」 「魔術で操る事は出来ないのですか?」 「うーん、出来なくはないですけど…術式の手間ばかりかかって、割に合わないと思います」 「?」 魔術に関する理解が未だ不十分なフルチューニングは、良く分からない、という感じで首をかしげた。 だが五和が解説を続ける前に、香焼が拗ねたようにポツリと呟いた。 「…だからと言って、すぐ能力使うのは卑怯者すよ」 「えい」 バリバリバリ!と音を立てた電流が、鋼糸を通じて香焼に流れ込んだ。 「ギャアアア!!!」 「れ、レイちゃーん…?」 恐る恐る五和が、プリプリ怒っているフルチューニングに声を掛ける。 そのフルチューニングは大人しくなった香焼を一瞥し、あっさりと返事した。 「これがレイの編み出した必殺技、『ミノムシ殺し』です」 「絶対今適当に考えたすよね!?」 黒焦げ状態の香焼が思わずつっこむものの、フルチューニングは出来ない口笛を吹いて誤魔化した。 「お前さんたち、いつまで待たせる気なのよ?」 「あ、建宮さん。今レイは必殺技を編み出したところです」 なかなか来ない3人を、教皇代理の建宮が迎えに来た。 その建宮に、フルチューニングが笑顔で今日の特訓の成果を報告するが… 「ん?レイ、その黒ミノムシは?」 「建宮さん!俺っすよ!」 「…げ、お前さんは香焼!?」 「いいえ建宮さん。レイを卑怯者呼ばわりする負け犬です」 「ちっくしょー!次は絶対勝ってやるからな!っていうか早く外せよー!」 「五和、これは一体何があった…?」 「えーと、その、いつもと同じ喧嘩、ですかね」 その日の午前は、普段と変わらぬ賑やかな特訓の風景だった。 9月7日(午後2時00分)、とある大通り 建宮とフルチューニングは、仲間の買い出しの為2人で出かけていた。 その帰り道、フルチューニングはローマ正教の教会を発見したので、建宮に質問した。 「そう言えば、天草式十字凄教には教会は無いのですか?」 「ああいう立派な建物は、我らには分不相応っていうヤツなのよ」 「?」 「そもそも、迫害から逃れる隠れキリシタンが我ら天草式の始まりだ」 「その本質は偽装。故に我らは力が無くても生き延びてきたのよな」 「目立つ拠点を持つと、狙われやすいということですか?」 「まあ、そんなとこよなー。元々我らはローマ正教やイギリス清教とは格が違いすぎるのよ」 「そういうものですか」 宗教事情については詳しく教えていなかったな、と建宮が考えていると、ある事を思い出した。 「あ、そういや近くの博物館で、ローマ正教が国際展示会を開催していたのよな」 「ああ、確かチラシが入っていましたね。歴史的な美術品なんかも取り寄せた、とか」 「ちょうど良い機会なのよな、勉強にもなるだろうし後で一緒に行くか?」 「はい!」 2人がのんきな会話をしていると、後ろから声を掛けてくるものがいた。 「あの…少しお話を聞いていたのですが…」 「ん?どなたさんなのよ?」 「あなた方は天草式十字凄教の方なのですか?」 修道服を着た外国人の女性が、やけに真剣な表情で話し続ける。 建宮は思わず警戒心を高めて、聞き返した。 「そうだが…それでお前さんは?見たとこローマ正教の修道女さんのようだが…」 「はい。私は、 オルソラ・アクィナスと言います」 そしてオルソラと名乗った女性は、迷いを振り切るようにこう言った。 「お願いでございます――どうか、助けてくださいまし」 9月7日(午後2時30分)、天草式十字凄教のとある拠点 オルソラの言葉に顔色を変えた建宮は、とりあえず拠点に戻って詳しい話を聞くことにした。 ちなみにフルチューニングは、お出かけの約束が中止になったので微妙に不機嫌そうである。 「『法の書』の解読法が分かった、だと…!?」 「はい…」 オルソラの言葉に驚愕する建宮たちであったが、1人フルチューニングだけが理解できずに首を傾げた。 「建宮さん。『法の書』って一体なんですか?」 「恐ろしい力を持つ魔道書の1つで、解読不可能と言われた本のことよな」 「…オルソラさん、解読不可能な本を解読しちゃったんですか?」 フルチューニングが素直に驚くが、オルソラはゆっくり首を振った。 「いえ…解読法が分かっただけで、まだ実際に読んでいないのです」 「モノを読まずに、どうやって解読法を見つけたのよ?」 「私は『法の書』の目次と序文の写本を持っておりまして、そこから導き出したのでございます」 「そんなことが出来るなんて…」 五和も目を大きく開いて驚いている。 「で、お前さんは自分がその事で狙われていると気づいて、この日本に逃げてきた、と」 「かなりマズいんじゃないの、それって…」 対馬が、珍しく冷や汗をかいて怯える素振りを見せた。 事情が分からないフルチューニングが、困惑気味に尋ねる。 「そもそも、どうして解読法を見つけたオルソラさんが仲間に狙われるんですか?」 「その『法の書』の内容が問題なのよな」 建宮が青ざめた表情で説明する。 「『法の書』が読まれた瞬間に、十字教の時代は終わりを告げる」 「?」 「つまりローマ正教にとっては、是が非でも“読まれる訳にはいかない”魔道書なのよ」 「読まれる訳にはいかない…?」 「それこそ、万一解読できる人がいたら殺すぐらいにはな」 「…」 あっさりと不穏な事を口にする建宮に、フルチューニングは無言で固まった。 「私はただ、誰も幸せにしない魔道書を壊したかっただけなのでございます…」 「それを信じてくれるほど、世の中は甘くないってことよな」 ましてあれだけ大きい組織ならなおさらな、と建宮は天を仰いだ。 それから10分。 天草式のメンバーが無言で悩んでいるのを見て、オルソラがそっと立ちあがった。 「申し訳ありません。どうか今までの話は全てお忘れください」 「…どういう意味よ?」 「良く考えれば、いえ考えなくても分かることでありましたが…」 「何の関係も無い皆様を、私の問題に巻き込む訳にはいきません」 諦観して、とつとつと言葉を紡ぐオルソラ。 「先ほどは混乱していた為か、酔狂にも助けを願い求めてしまいました」 「ですが、ローマ正教のお相手など“誰も”出来るはずはございません」 「ただ…1つ許されるのでしたら、私を見た事を黙っていただければ幸いでございます」 それだけ言って立ち去ろうとするオルソラの背中に、建宮が声をかけた。 「お前さん、何か勘違いしているようなのよな」 「え…?」 「我らが悩んでいるのは、どうやって助けるか、という1点のみよ」 その言葉に、天草式全員が頷いた。 フルチューニングも自然に頷く事が出来た。 「ですが、皆様では、とてもローマ正教と戦う事など…」 「いやいや、戦う必要もないわな」 建宮は静かに断言した。 「オルソラ・アクィナス、お前さんを天草式十字凄教に迎え入れる」 「我らの本拠地は仲間以外には誰も知らないし、『縮図巡礼』っちゅートッテオキもあるからな」 「ほとぼりが冷めるまで、我らが匿う」 ――救われぬ者に、救いの手を。 みんなの変わらないその意思の強さに、フルチューニングは嬉しくなる。 だが、フルチューニングと異なりローマ正教で長年を過ごしたオルソラは、戸惑いを隠せない。 端的にいえば、そんな“夢物語”を素直に信じる事は出来なかった。 「あ、え、何故…?」 「“理由なんてねえのよ”」 「そうです。レイも、理由も無いのにみんなに助けてもらいましたから!」 「そうですか…分かりました、ありがとうございます」 オルソラが一瞬浮かべた表情に、天草式は最後まで気づく事が出来なかった。 9月8日(午前8時00分)、天草式十字凄教のとある拠点 翌朝。オルソラが客室でまだ休んでいる中、天草式は会議をしていた。 「昨日の夜も言ったが、やはりここは四国辺りに移った方が良いと思うのよな」 「ですが、2週間単位で拠点を変えるとなると、最初は群馬の方陣起点から始めるべきでは?」 フルチューニングが分かる事は少ないが、それでも大規模な引っ越しをするというのは理解できる。 (流浪の民みたいで、刺激的な感じです) (レイも運転技術を学ぶべきでしょうか?) …ローマ正教を知らないフルチューニングは、少しばかりのんきに考えていた。 慌てた諫早が、最悪の知らせを持ってくるまでは。 「建宮、不味い事になったぞ」 「どうしたのよ?」 「ローマ正教が動いた」 「そんな!幾らなんでも、早すぎですよ!」 五和が吃驚して大声を上げるが、建宮は無言で続きを促した。 「タイミングが悪すぎたようじゃ。…今『法の書』は、日本にある」 「なんだと!?」 「『ローマ正教の国際展示会』で展示するため、運搬されていたようでな」 「…『されていた』?」 「左様。非公式ながらもローマ正教は、『法の書』がすでに盗まれたと発表した」 「まさか」 「犯人は『天草式十字凄教』であり、解読の為オルソラまで誘拐したと断定されておる」 「クソったれ!」 建宮が怒りのあまり壁を殴った。 その様子を見て、フルチューニングも事情を把握する。 (どうやらオルソラを捕まえるため、天草式を悪人にしたらしいですね) (…なんだかとっても“ムカつきます”) (今のレイは、天草式十字凄教の一員ですから) 建宮は、全員の顔を見渡して宣言した。 「…女教皇の為にも、我らはオルソラを守りきらなきゃならんのよ」 「そうでなくては、あの方の居場所に相応しくないからな!」 (…!) (まだ、レイは顔を見たことも無い女教皇…神裂火織…) (建宮さんは、レイには詳しい事を話しませんでしたが) (一体、どのような人なのでしょう?) (こんなに大切に思われているのに、戻ってこないなんて…) (…あれ?…今、レイは何故不快感を感じたのですか?) フルチューニングの軽い混乱をよそに、話は続いて行く。 「どうするよ教皇代理。すでに連中は数百人以上の討伐隊を派遣したそうだが?」 「…仕方ない。今夜中に『縮図巡礼』で飛ぶしかないのよな」 「えー、後16時間もあるすよ?」 「そうする以外ないのよ。『パラレルスウィーツパーク』で準備をするぞ」 「とりあえず、レイはオルソラを呼んできます」 まだ“ねむねむ状態”のオルソラを連れて、天草式が移動を開始する。 彼ら天草式にとって、長い1日の始まりだった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1071.html
舞台は再び上琴新居二号、当麻と青ピ、目が合った二人の間に微妙な空気が流れていた。 「……カミやん、今何をしようとしたんや?」 「……いやーさっきまで気絶していたもんだから起きようと思って……」 「……じゃあ、何で両手は御坂はんの腕を掴んでいるんや?」 「これはその……」 当麻は反論が出来なかった。 「もしかして、あの名言を取り消すと言うわけじゃあるまいな。」 「す、すみませんでした!!」 上条はあの名言を言った事がみんなにばれているので土下座までして青ピ謝った。 「まぁ、今回は見逃してやるけどな、次こんなことやったらただじゃ済まないと思うんやな。」 「分かってます。」 「とりあえず、そんなことは良いからちょっと一緒に来て欲しいのや。」 「ん?一体どうしたんだ?」 当麻は何があったのか気になった。 「いやーちょっと佐天はんがどこに居るのか分からなくなってメインコンピュータールームで探しても見つからなかったんや。」 「「え!?涙子が居なくなったの!?」」 いつの間にか美琴は元に戻っていた。 「そうなんや。だから一緒に探して欲しいのや。」 「「分かった。」」 ということで上琴も佐天を探すことにした。 一方、当の本人の佐天はというと… 「はー、いい湯だな。」 佐天はアミューズメントがある階のもう一つ下の階にあった大浴場に居た。 「にしても、アミューズメントの下の階がさらにあるとは…」 佐天がどうやってここに来たかというと… 佐天は停電の時に、どこを歩いているか分からず。壁を頼りに歩いていたら、見た目は気づかないが回転する壁がありそこから大浴場につながる階段があったのだ。 ちなみに、そのお湯は天然温泉だったりする。 「さて、多分みんなは私を探しているから、そろそろ出ますか。」 というと佐天は大浴場から出て、服を着てから地下1階に上がった。 その頃、当麻達の様子を青ピに見に行かせた黒子、絹旗、建宮は引き続き佐天の捜索に当たっていた。 「まったく佐天さんったらフラフラと出歩くだなんて。停電時には無闇に移動するのは危険だというのに……」 「それにしても電気が復旧して良かったのよ。そうじゃなかったらわしらもあのままだったからな。それより白井、お前さんの能力で佐天の居る場所に移動できないのか?」 「無理ですわよ。私の『空間移動』にそのような便利機能はありませんもの。地道にこの広い地下室を探すしかありませんわ」 上琴新居二号の地下室の広さは相当なもので、未だに佐天を見つけられずにいた。 歩き疲れてお腹が空いた絹旗は、持っていたチョコを何の気もなしに食べた、初春が作ったチョコを。 「おー、飾利のチョコ、見た目は超普通ですけど味は中々でした♪ 建宮にあげるには勿体ない一品です」 「待てえええええええええええええっ!!! 絹旗お前さん、飾利姫からわしへのチョコを食べやがったのかあああああっ! 返せ! 今すぐ返んぐっ!」 「超やかましいですよ建宮。飾利のチョコを食べたことはこの通り、超謝りますから。それよりも口に放り込んだ私の火薬チョコ、超味わいなさい」 もの凄い形相で迫る建宮を絹旗が怖がるわけも無く、暑苦しいと感じながらも多少の罪悪感を抱きつつも自分の作った火薬チョコを彼の口に入れた。 建宮は口に広がる甘さに油断し、火薬チョコを噛むと“ボンッ!!”という音を出し、口から煙を吐き出しながら意識を失った。 「さすがは最新型の学園都市特製火薬、超素晴らしいです。歯も砕けず口内の火傷も無い、衝撃だけを生かす、まさに私の超理想通りです!」 「ちょっとお待ちなさい! 絹旗さん、あなた一体どうゆうチョコをお作りになったんですの! どうして建宮さんの口から火薬の匂いがするんですか!」 「ですから私の超作ったチョコが火薬を入れたチョコだからですよ。超心配無用です、命に別状は無い仕様になってますから」 口から煙を吐き出しながら気絶した建宮を見て黒子は心の底から目の前の大人に同情した。 そこへ火薬の匂いを嗅ぎ付けた佐天が姿を見せる。 「何で地下室で火薬の匂いが……あっ最愛に白井さん! 良かったー、合流できて。……で、何で建宮が気絶してるの?」 迷子の佐天と合流を果たした佐天捜索一行だが、黒子だけは建宮の状況説明をどうしたらいいのか迷っていた。 その頃、上琴新居二号に到着したのは初春一行ではなく、土御門一行だった。 理由は簡単、土白にいじられるのが嫌でダッシュで上琴新居二号に向かったインデックスとステイルのお陰である。 「ぜぇぜぇ、お前ら俺と月夜にいじられるのが嫌だからって全力疾走で走らなくても良いだろうにゃー!!」 「だってもとはるとつきよが私たちをいじるのがいけないんだよ。」 「そうだ。君達が僕達をいじらなければ走る必要もなかったのに。」 「っていうか、あんなに走ったのになんで二人は息切れしてないの?まあ、私は能力で飛んでたから息切れなんてしなかったけど。」 そう、この場で息切れを起こしているのは土御門だけで、月夜は氷の翼を使っていたから分かるが、インデックスとステイルもなぜか息切れを起こしていないのだ。 「とりあえず着いたんだから中に入ろうよ。」 「そうだね。元春、そんなところで休んでないで中に入るよ。」 「ちょっと待ってくれぜよ。俺を休ませてくれにゃー。」 「なら、中で休めば良いじゃない。ほら入る入る。」 月夜がそういうと4人は中に入った。(土御門は月夜に押してもらいながら。) その頃、黒子、佐天、絹旗、気絶している建宮はというと… 「それで、涙子は超どこにに居たんですか?『メインコンピュータルーム』から探しても超見つからなかったので。」 絹旗は佐天がどこに居たのか聞き出していた。 ちなみに先ほどまで黒子は建宮が気絶している事をどう説明しようかと思っていたが、佐天が『建宮が気絶している理由はなんとなく分かりますので別に言わなくて良いですよ。』っと言われたので黒子は説明してないのだ。 また黒子は佐天の建宮が気絶しているのに平然としていたので『なぜ、二人は建宮さんが気絶しているのに平然としているのですか!?』とか言ってたが二人は無視して、先ほどの絹旗の言葉にまわってくるのだ。 「そりゃそうだよ。だってさっきまでこの階に居なかったもん。」 「え!?じゃあ一階に戻ったのですの?」 「戻ってないよ。」 「じゃあ超どこに居たのですか!?」 黒子と絹旗がどこに居たのか聞いてきたので、答える事にした。 「え、この下にある大浴場に居たけど。」 「「…………………………………………………………はい?」」 「だから、この下にある大浴場に居たって言ってるじゃん。」 「「………………………………」」 黒子と絹旗は理解ができなく、無言になった。 そして数秒後、二人はやっと理解した。 「「って、ええええええええええええええええええええええ!?」」 二人はものすごく驚いていた。 「ちょっと待ってください!!これより下の階が超あったのですか!?」 「それに、下の階があるならすぐに分かると思いますけど。」 「しかも下の階に超あるのは大浴場ですって!!まったく持ってこの家が超訳分からなくなってきたですけど!!」 「一体この家は何なんですの!?」 「とりあえず最愛も白井さんも落ち着いて!!」 黒子と絹旗がいっぺんに言ってきたので佐天は答えられず、とりあえず二人を落ち着かせたのだ。 数秒後、二人はやっと落ち着いてきた。 「で、一体その階段はどこにあったのですの?」 「『ゲームルーム』の壁の一箇所が回転するようになっていて、そこから下の階に行けましたよ。」 「それは超どの辺にあったんですか?」 「それは口で言うよりその場所に行った方が早そうだから、そこに行きましょうか?」 「そうですわね。ところで、建宮さんはどうします?」 「「そこに置いて置けば(超)良いんじゃない?」」 「なぜそこで二人ともはもるんですか!?」 黒子は建宮のことが可哀想と思ったが、二人がそういうので仕方なく建宮を置いてって『ゲームルーム』に向かった。