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僕が、美術部に入ったのは、活動日程が少ないからだ。 運動部なら、毎日にように部活があるけど、美術部は週に数回しかないからね。 でも、そのぶん休みの日には、弟や妹の面倒も見なきゃいけないけど。 吉崎家の長男として。 現在、僕たち美術部は有名な名画の写真を元に、それを写し描くという作業をしている。 僕はモナリザ、左隣にいる成崎さんはゴッホのひまわり、そして、僕の右隣にいる同じクラスの女の子。 涼宮ハルヒ 入学式のときのあの発言には驚かされた。 別に、ああいう心の持ちようはいいとは思うんだけど、あの発言はちょっと・・・ 成崎さんも驚いてたかな。 成崎さんは、どちらかというとキョトンとしてたという表現があってるような気がするけど。 ちなみに、彼女はムンクの叫びの絵を描いている。 それにしても、二人とも絵がうまい。 それに比べて、僕のモナリザは幼稚園児が描いた落書きのような・・・ いや、さすがにそこまで悪くはないか。 ところで、モナリザというといろいろ謎があるらしい。 たとえば、この笑いかた。 微笑んでいるのか、ひねた笑いか、半笑いか。 多分、半笑いではないんだろうけど、とにかく謎らしい。 僕にしてみちゃ、どれでもいいとは思うんだけど。 他にも、男か女か・・・いや、女でしょ? ただ、僕でもなぜか分からないのが、何枚かの絵の上に描かれているらしいということ。 何か、ダヴィンチのメッセージコードじゃないか?と言われているけど、 実際のところは僕にはよく分からない。 僕は、モナリザは、美しい絵としか解釈していないしね。 専門家じゃない人は、その程度の考えで充分だと思う。 それにしても、本当に二人とも上手。 「絵、上手だね」 成崎さんに言ってみた。 「ありがとう」 微笑みながら、僕にそう返事してくれた。 あっ、今ちょっと胸がドキッとした。 成崎さんかわいいからなー。 同じように涼宮さんにも言ってみる。 「絵、上手だね」 「うるさい!」 ・・・・・ごめん、集中して描いてるのに。 そして、僕も集中して筆を進めることにした。 タイムリミットまであと30分。 間に合うとは思えない。 思ったとおり、時間が来ても、僕は完成させることができなかった。 まあ、もともとのモナリザも未完と言われてるけれども。 でも、ほとんどの人はまだ終わってないみたい。 美術部だから、つづきを描く機会ならいくらでもあるだろうしね。 で、そんな中、成崎さんと涼宮さんはほぼ完成というところまでいっていた。 ところで、涼宮さんは顧問の先生が、やめの合図をしたとたん、鞄をとって帰ろうとしている。 というより、帰ってしまった。 と言っても、この後は描いた絵を提出するだけだから、何も言わずに机の上に置きっぱなしということは、僕に任せたと言っているのだろうか? まあ、別にそれぐらい苦にならないからいいけど。 「成崎さんのぶんも、一緒に提出しとくよ」 「えっ?じゃあ、お願い」 そして、僕は二人の絵を預かって、顧問の先生に提出することになった。 でも、その前に二人の絵をよく見てみる。 成崎さんが描いた絵は、本当にそっくりだ。 全く同じとはいえないものの、ほぼ同じ。 ひまわりの絵なんてどこにもありそうなんだけど、これははっきりとゴッホのひまわりをマネた絵だというのが分かる。 うまいなーやっぱり。 確か、このひまわりの絵はユートピアの尊重として描かれたんだけど。 本当にそんな感じが伝わってくる。 成崎さん自身がそんな感じだけどね。 ユートピアにいる天使のような・・・ 対して涼宮さんの絵だけど、こちらも上手だ。 でも、どことなくアレンジがくわえられているような気がする。 確か、この人物は世界が急に変わってしまって、その自然の叫びを聞かないために、耳をふさいでいるような状況を描いた作品なはずなんだけど、 涼宮さんの描いた絵は、どこか耳を澄ましているような・・・そんな印象を受ける。 まるで、この絵の人物は、世界が変わってしまったことにたいして、不安がってるはずなんだけど、逆に喜んでるような・・・ 何かのメッセージ? いや、深読みしすぎか・・・ ただたんに、ちょっとだけ手の位置と大きさがずれてるだけで、勝手に僕がそう解釈してるだけだ。 上手な絵とだけ思っておけばいい。 そしてなぜか僕は、僕が描いた下手くそなモナリザの絵を見て、 それから、先ほどこのムンクの叫びの絵を描いていた涼宮さんを思い出し、 キレイな人だなとか思ったりした。
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それはシャミセンが俺のベットの上やカーペットの上で丸くなり もう終業式が終わり俺達の関心が完全に冬季休業へとその矛先を向けていたところ いつもの通り今となっては完全にSOS団の物となってしまった文芸部部室で古泉とオセロをしていると これまたいつもの様にドアが吹き飛ぶんじゃないかと思えるような音を立ててハルヒが入ってきた 全くこいつにはノックという偉大な文化がないのかねぇ 良かったなハルヒお前に男の兄弟がいなくて、いたらそのうち大変なことになってたかも知れんぞ さて、部室に入ってきたハルヒを見ると心なしかご機嫌だ つまりまた何か考えて来たと言うことで俺達、特に俺と朝比奈さんが被害を受けるかも知れないと言う2重の意味もある 「SOS団で忘年会をやるわよ!!」 忘年会か、そういえば小学校でクリスマスパーティと混同したようなのをやった覚えがあったな、なつかしい それにクリスマスパーティでなくて良かったよ。去年のあれ以来トナカイに関係あるものをを見るのがいやになっていたんでな 「いいんじゃないか? どうせ今年は忘れたいことが沢山あったしな、忘れないと新しい年が迎えられそうにもない」 「私も賛成ですね、年の終わりに騒ぐのもいいと思いますよ」 「いいと思いますけど…お酒はやめてくださいね…」 「解ってるわよ、言ったでしょ夏の合宿で『お酒は懲りた』って」 「………」 長門はいつもどうり無口だが顔を見たところ拒絶の色は無さそうだな 「それで、いつやるんだ?」 「そうね29日辺りがいいんじゃないかしら」 「それじゃあ場所はどこにする?」 「ここに決まってるじゃない」 「ここってお前明日からは冬休みだぞ」 「冬休みに入っていたってどっかの部活はやってたと思ったから学校には入れるでしょ」 全く、悪知恵だけはよく働く奴だ 「じゃあ決まりねキョンは飲み物、有希は食べる物、小泉君はゲーム、みくるちゃんは当日準備お願いね」 お前は何もしないのか?と言いかけてやめた、どうせいつもの事だ気にすることはない しかしどのぐらい用意した物かな、まぁ2リットルペットボトルで5~6本あれば足りるだろう どうせやるんだ思いっきり楽しんでやろうじゃないか、たまには羽を休めないと墜落するかも知れん 「それじゃあ今日は解散!!29日にまた会いましょう」 ハルヒの締めの言葉で2学期最後のSOS団の活動は終了した そうして無事冬休みへと突入したわけだが俺にはやることがある 俺は飲み物担当だ2リットルペットボトルで5~6本となると軽く10キロを越す 残念ながら体力が人並みの俺にはそれを担いであの坂を上る自信はない つまり数回に分けて運び込むしかないということだ、大変だな俺 出来ることなら買うのは少々高いコンビニなんかじゃなくスーパーマーケットで買いたかったんだがな 残念ながら俺の知ってるスーパーは学校とは反対方向だ、それよりならあの坂のすぐ下にあるコンビニを使った方が早い コンビニの中に入ると長門がいた 「お前も買い出しか?」 「そう」 何を買ったのか気になって長門の持ってるかごを見てみ… 「おい長門流石にそれはないんじゃないか?」 長門の持っていたかごの中には ホーム オー・ジャック印度カレー味、昭和製菓 コールカレー味、サーロインポテトスティックス劇辛カレー味 見事にカレー系統のみだ… 長門の後ろのほうにある棚に数箇所空白があるのはこれを取ったあとだろうな 「でもおいしい」 まぁ確かにカレーが旨いのは認めるがそこまでカレー尽くしだと飽きるぞ 「大丈夫、私は飽きない」 さいでっか 俺がお菓子だけでなくご飯とかおかずも買ったらどうだと言ったら迷わずカレーを買って行きやがった どこまでカレーが好きなんだお前は まぁ俺は俺の買い物に専念するとしよう カコカーラ、カルピスウィータ、ポカリSWAT、後藤園お~い麦茶、四菱サイダー、明痔おいちぃ牛乳 とりあえず手当たりしだい詰め込んだという感じだ まぁ学校に運ぶために数回に分けたから手間と時間はかかったがな 部屋に行ったら古泉が用意したのだろうが鼻メガネが人数分あったぞ。誰がかけるんだあんなの そんな訳で後は俺は当日楽しめばいいだけ、気楽で何より …だったはずなのだが俺はまた坂の下のコンビニに買出しに来ている 経緯はこうだ、当日午後1時集合ということだったのだが 行こうと思った矢先うちの母親が大掃除をすると言い出した 説得にかなりの時間がかかって…まぁ最終的には隙を見て抜け出したんだが 抜け出した頃にはすでに1時は過ぎており、急いで向かったところ電話が鳴って団長殿から 「ちょっと!!遅いわよキョン!!罰として飲み物と食べ物買って来なさい!!」と言われた おいおい、飲み物はもうすでに買ってあったはずだし食べ物は長門の担当だろ 「あれぐらいで足りると思ってるの!?それに有希ったら食べ物カレー関係しか買ってこなかったのよ 他の物が食べたくなっちゃったの!」 そうだったな、お前と長門は見かけによらずよく食うんだった それを考えたらあと4本は必要だと考えておけばよかった やっぱり長門にはあの場で他の物も買ったほうがいいと言って置くべきだったな こっちがとばっちりを受けちまった しかし電話を受けたのが坂の下でよかった コンビニも近いし第一登りきった後にこんな電話受けたら問答無用で殴り飛ばしてただろうしな そして俺は2リットルペットボトル4本とおにぎり十数個に菓子各種と まるで冬山に登山をしているかのような気分を味わいながらやっとこさ部屋の前に到着 やけに盛り上がっているからまたハルヒが朝比奈さんを玩具にしてると思っていたね 「ほらっ次はこのナース服を着るんですよ涼宮さん!!」 「みくるちゃんもうやめて、ゆるして…グス」 まさか逆だとは夢にも思わなかったよ 古泉は自分で持ってきたのであろう鼻眼鏡をつけて笑っている 何か妙だと思ったらいつもの薄ら笑いじゃなく声を出して笑ってる…正直気味が悪い もしやと思い部屋の隅のパイプ椅子がある場所を見てみるといつもの変わらぬ長門の姿があった これで長門までおかしくなってたら逃げてたかもな まぁいつもと違って本を読む代わりに自分が買ってきたスナックやらを夢中で食べていたがな 「長門、これは一体何があったんだ?」 「…」 何も言わずに指を挿した方を見てみると俺が買っておいたジュースがあった しかしよく見るとキャップが付いていた場所に何か別の物がはめ込んである どこかで見たことがあったと思ったら思い出した むかし読んだ未来から来た猫型ロボットがでてくる漫画でそんな道具があった 確か名前は[ほんわかキャップ]だったな そういえば長門が図書館の本を読破したといっていたから物置でほこりをかぶっていたこの本を全巻やったんだっけ それにしても未来の道具は朝比奈さんが出す物じゃないのか?ますます朝比奈さんの肩身が狭くなるな 「まぁ…聞くまでもないと思うんだがこれはなんだ?長門」 「内部を通すことによってアルコールを摂取したかのような状態にする物質を混入させる アルコールとは別の物質なので肝機能や脳に障害を与えることは無い 涼宮ハルヒが危惧していると思われる翌日起こる頭痛などの症状も10分の1まで軽減されているので使用してもよいと判断した」 「それじゃあもう一つ聞こう、このキャップの脇に顔のマークが書いてある物があるがこれはなんだ?」 「アルコールを摂取した時になると言われている『三上戸』を再現させる機能を付加した物、試験的に導入を試みた」 なるほどこの3人がいつもと違う状況になっているのはこれが原因というわけか 「あ、キョンくーんやっと来ましたね~、さぁ涼宮さんその姿をキョン君に見てもらいなさい今すぐに!!」 「ダメキョンこっち見ないで…グスン…恥ずかしいから…ヒッグ」 「だめですよー私はいつも着せられているんですからねー」 ナース服を着て泣いているハルヒというのも中々いいな… しかし朝比奈さんは怒鳴ってるわけでじゃないが妙に威圧感を感じる… これで閉鎖空間が発生しないだろうな… 「物質の作用で起こっている感情の変化で深層心理には関与していないので心配はない」 なら問題ない、この状態で小泉に神人退治に行かれても役に立つとは思えんからな 「キョンくーん、ほら~あなたもちゃんと飲まないとダメですよ~」 朝比奈さんに進められたものならただの水道水でも飲みたいがこの光景を見ると少し遠慮したくなるな… 持ってるボトルに付いてるキャップを見たところ顔マークはないが感情に作用しないだけで酔っ払うことに変わりはないはずだ 「いえ…おれは…「私の注いだジュースが飲めないんですか!!」 どうやら飲むしかないらしい…あまり変な事はしないでくれよ、酔ったあとの自分… と、ここまでが俺が覚えてることだ 正直全て夢だったと思いたいね なんせ今俺とハルヒは同じベットで寝ているんだからな、しかもお約束のごとく裸で 周りは泊まる事とは別の方に特化した部屋だ、ここがどこかなんてすぐ解る 起きた当初は頭が少しガンガンしていたがすぐに楽になった、流石だな長門 頭がすっきりしてくると記憶も少しだが戻ってきた あのあと暗くなるまで飲んで食ってのドンチャン騒ぎをして片付けは明日、つまり今日大掃除も兼ねてすることになって解散したんだ それでまぁ…ハルヒと帰ったわけだが、雰囲気に飲まれたというか…若気の至りというか 泣いて気が弱くなったハルヒというのは反則だと思える…そういうことだ そんなこんなで現在に到る…という訳だ そしてこの状況のもう一人関係者、ハルヒは隣ですやすやと眠っている まったく、いつもの常識を超えた行動さえなければかわいいのにな しかし起きたら超怒級の閉鎖空間が発生しそうだ、すまん小泉今回ばかりはもうダメかも 「ん…よく寝た…ってキョン!!」 起きちまったな…どうやら最後に今までの人生を回想させる暇すら与えてくれないようだ 「え、ここは…なんであんたは裸でって私もはだk…」 「え~なんだハルヒ落ち着いて聞いてくれるか」 正直俺もまだ落ち着ちつけてはないが他に言葉も見当たらん 「なぁハルヒ俺の話を聞いてくれないか 決してこんなことがあったから言うんじゃないということだけは解ってくれ」 「俺と…付き合ってくれないか」 「ばか…キョンのばか!!順番が滅茶苦茶じゃないの…でもいいわ付き合ってあげる」 「ハルヒ…よかった断られたらどうしようかと思ったよ」 「私とこんなことしたんだから付き合うのは当たり前なんだからね!! それと…確かまだだと思ったから…キスして…」 キスは初めてというわけではないがなんせあれは閉鎖空間内だノーカウントだな それにしても本当に順番が滅茶苦茶だな、まぁそれはそれで俺ららしいか そしてそれからが大変だった 昨日決めたSOS団室大掃除は午前10時開始、気が付くと時間はもう9時だった 急いで服を着て学校の方に向かった 昨日は家に帰らなかったから途中家に連絡を入れたんだが 「そういえばあなた居なかったわね」とか言われた、素で気が付かなかったらしい、なんて親だ 時間をぎりぎり過ぎながらも学校に到着すると校門のところに3人がいて …心なしか全員の顔が笑っているように見えるのは気のせいでは無い様だな 「なんでココにいるんだ?部屋で待ってればいいだろうに」 「いえ、あなた方がくるのが遅いと思ってましてね出迎えに来たというわけですよ」 遅れたといってもせいぜい2~3分だ 「それにしても二人並んで到着とは仲がよろしい事で」 「偶然よ偶然!!偶然途中であったのよ」 「まぁそれはそうと早く掃除をしてしまいましょう、部屋が結構な惨状と化していますので」 「そうだ、大掃除だし掃除用具を持って行かないとな、古泉ちょっと手伝え」 「掃除用具ってそれぐらいあの部屋にあるでしょ」 「箒とちりとり位はあるかも知れんが洗剤とかも必要だろ、大掃除だしな」 「ではそういうことでちょっと行って来ます」 我ながら名演技だ、まぁ完璧というほどもないがはあの映画よりはましだろう 「さて、私を呼んだのは掃除用具を運ぶだけではありませんね」 「当たり前だ、いくらなんでも2人がかりで運ぶほどそんな量はない」 「やはり話というのは昨日の夜、解散後のことですか」 「解ってる用だな、来た時にお前らの表情がいつもと違うと思ったのは間違いでは無さそうだ」 「何時もながら素晴らしい観察力ですね今といい、孤島のときといい」 「それは今はどうでもいい、何故お前らが知っている?」 「まぁ察しは付いているとは思いますが、あのホテルは機関関係者の物です 安心してください、中にカメラなどは取り付けられておりません、ただ二人が中に入っていったという報告を受けただけです」 「それを聞いて少しは安心できた、もし取り付けてあったら閉鎖空間を2時間に1回のペースで発生させてやろうと思っていたからな」 「それはよかった、まぁこれからは閉鎖空間の発生も無くなっていくと思いますので一安心ですよ」 おっと結構な時間話してたみたいだな、これ以上時間を食っていたら「中々見つからなかった」で通らなくなる 「さてそろそろ大掃除に行くか、団長殿がお待ちだ」 そうしてこの後団室の大掃除を行ったわけだがそのことはあまり話したくない 別に話してもいいのだが今は思い出すのもいやなんだ 何故思い出すのがいやというと食い散らかした物を片付け無かったのが原因だろう、 G がでた 言っておくが G てのは勇者王のことじゃないぞむしろ負のイメージの塊の方だ あれは勇気とかで何とかなるもんじゃないな、むしろ必要なのは覚悟だ もう G が出た瞬間朝比奈さんは膝から崩れ落ち、ハルヒは真っ先に部屋の外に逃げ、長門はいつの間にかいなくなっていた 小泉は俺と一緒に新聞紙を片手に奮闘していたがいつの間にか部屋の外に逃げていた 俺は一人頑張って奮闘していたんだがな流石に相手の数が多い 前にどっかで「戦いとは数」みたいなことを聞いたがその通りだと思ったよ 1匹みたら30匹はいると聞いたが20匹はみたぞ、何匹いるってんだ たまらず俺も待避しようと思ったがあろうことか G が外に出るのを防ぐためにドアを外側から押さえられた 小泉がバルタンを買いに行って帰ってくるまで開ける訳にはいかないと言われた時には失神しそうになったね 力ずくであけようと思ったが恐らく長門が情報操作したんだろうドアがびくともしなかった 密室空間に大量の G とに残されると言うのはまさにこの世の地獄だったね G はいくら新聞紙で屠っても沸いてくるし、気絶して G が俺の上を這いずり回ることを想像したら気絶すら出来ない あの時古泉は機関の人に頼んで10分ぐらいで持ってきたらしいが俺には永遠とも思えたね しかもドアが開いたと思ったらいきなりスイッチの入ったバルタンが3~4個放り込まれてきた 少しでも反応が遅れて出れなくなっていたら俺ごと駆逐されていただろうな 部屋から出た直後からの記憶がないから俺は気絶していたらしい 気が付いた時にはすでに5時間が経過しており大掃除もすでに終了していた 大掃除参加していなかったことを誤ろうと思ったら全員から「気にするな」と言われたよ …まぁこれは後に知る事になるのだが バルタン投下直後部屋から飛び出してきた俺に驚いて全員から箒で叩かれたらしい 道理で体のあちこちに痣が出来ていた訳だ 俺としてはこのことを忘れるためだけにまた忘年会を開きたかったね 今度長門にあのキャップを借りて一人で飲むか… そして経緯はどうあれ恋人同士になったと言うことで俺とハルヒは2年参りをしたりと冬休みを満喫していた 案の定宿題のことを忘れ最終日近くは夏休みの2の舞になったことは言うまでもないがな それから1ヶ月がたち2月も中盤に差し掛かった頃 元がかなり有名だっただけに今では俺達は学校では知らないものはいない位のカップルとなった 谷口は合うたびに別世界の人間を見るような目で見られているがもう慣れたな 3学期に入ってから俺達は一緒に団室で弁当を食べることにしていた ハルヒは学食を使うのをを止め自分で弁当を作ってきている 長門は気を使っているのだろう、学校の図書館で本を読んでいるらしい さてもう弁当を食べ終わったと思ったらハルヒが弁当のほかにタッパーをもう1つ持ってくることに気が付いた 「おい、そのタッパーなんだ?」 「あぁこれね、 これ を入れてきてるの」 ハルヒが開けたタッパーの中を見てみるとレモンが輪切りの状態で入っていた 言って置くがレモンの砂糖漬けとかそう言うのじゃないぞただのレモンの輪切りだ 1個貰って食べてみたがすっぱくて口が大変な事になった 「すっぱ…これどうしたんだ?」 「いやね最近無性にすっぱい物が食べたくなってね」 …「すっぱい物が食べたくなる」か、まさか…そういえばあの時近藤さんをしていなかったような… 「それでねキョン、あれから きてないの 」 何が きてない とかは流石の俺でも聞かなくてもわかる… これが卒業、就職を終えて家庭を持ったあとなら何の心配も無く喜べるんだが… ハルヒの親にはなんていえばいいんだ?それにハルヒは学校はどうなる!? そして俺の親は…生まれてきた子供は…将来は… だめだ頭が痛くなってきた、まだ今年の4分の1も過ぎていないが忘年会をやろうかね… 終わり
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「あたしがいついなくなってもいいように、歌を作ってあげたいんだ。」 . _... --…-- .._ _..イ´ >..._ / > ´ ̄_二ヽ < ̄ト、 ,.' / _.ィ´ ヽニ,、\. / / / | ヘ ヘ、 ヽ.フ ヽ / / ! ,.' | ヘ '.べ. ̄ ヘ、 ヽ ,r'´ ! | / ! ! ト、 !∨| ヽ ',∨ ヘ. / .斗 !' | | l . | |l. | | ,.ィミマ ト.V ヘ. ′ / ィ! '; | | .斗 ─‐- l リ ,!ノん.ヘ lハ | ',∨ . | 〈 ハ ハ ,イ | V / マ_ハ. lハ ∧ 〈 |ヽ } | ヽ__! | ,〈.N\;Lム / ヾ-' , / ! ! | l !. ! | 〉‐ハ | ,ィ,xr,えヘ` 、 /'. Lノ ! !| '; | lイ j. |V ∧{〈从._))ヘ _. ヘ l l;′リ _,.、 '; l / l / ! V ヘ` ヾ.厶' r ´ `'. ,' | l. ,' ̄,. ,.ィ } l. Y ; iヘ \ ヽ. } ./ ! !,′.ノ '⌒',_. / . / / ヽ.\ \ ` ´ / ; /| ||  ̄ _)、. ,′ Y\/ \ \ー-------' ∧ / ! ハ  ̄ , j | / | \ `丶、 \> `二ゝ-' .._';! !/ ∨ {' | / | \ >ヘ、/ ヽ ' ∨-- . ! | ハ | | i ',`¨¨¨´ ,.' ∧ r'´ `⌒ヽ. 、| ∨ | | ハ } ノ ∧ r’ ヽ ヽ ト、 ∨ / リ ,ノ ハ '、 _ 'i、. jノ ノヽ∨ / _ノ ,′} r'`´ `ヽ-、 ) ( ヽ! / └、ヽ、| ゝ、 i ト、 __,、_,.- '´ ノ、 〉 '; ,! | ヽ\′ l.ノ 【チーム】 SOS団 【名前】 涼宮ハルヒ 【読み方】 すずみやはるひ 【種族】 人間 【15年後】 ひょっこり再来 【初登場】 6thday(回想) 【AA出典】 涼宮ハルヒの憂鬱 【人物】 半年前の雨の降る寒い日に行方不明となった元SOS団のボーカル。 翔門会に伊藤誠の客人として招待された後、突然消えてしまった。 彼女の歌には悪魔を呼ぶ力があり、悪魔召喚プログラムの根底に関わっている。 物語は完結したが、結局彼女は行方不明のままであった。 だが15年後の世界を描いた外伝で、生存していることが判明。現在はキョンと結婚し、SOS団へも復帰して人間界と魔界、二つの世界で音楽活動を続けている。 どうやら魔界へ消えた後音楽活動をしていたらしく、バアルとなり魔界へ向かった翠星石が発見したらしい。 特殊な覚醒者であるため『共生者』はいない。 SOS団は大ヒットを飛ばすが、「父親のいない子供」を身ごもったらしくその子供はキョンが育てている。
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// ∠-‐''丁 ̄ ̄ ̄ .\ム . . . . . . . . .ヽ /ー/ . ./ . . . .,イ . .| . . . . .! . . . .ヽヽ ハ . . . .ヽrz_ム / . / . ./ . . . ./│ ハ . . . . | . . . . .! .l i| . . . . .| } . .\ l . . i . . .{ . . . / l . ! .'. . . . |ヽ . . . |│ .i| . . . . .| l、 . . . . l . . .! . . .ヾア `ヽ.Vi .ヽ . l >弋!ヽ| . . . . . | | lヽ | l . . .l . .  ̄ !ィ≠kト、 ヽ X ァ示k i| . . . . .リj│ l .| l . . . ! j . . .|{i.f ハ` \´f_ バj〉 . . . .ム「| .∨ .| .', . Ⅳ . . . .|!_r';_リ r';;_/ リ . . . ./´}.| . . . . l N . . . . . ハ ' / /_ノ j . .,' .jl !| . . . . .{小 v== ‐ァ / // . ̄ ./ . .リ 八 . . . . . .| \ `ー'´ / . . . .// . . . . ./ .イ/ ヽ . . . . |ヽ >、 __ , </ . . . .// . . . . //〃 \ . .!_ ゝ‐< _| // . . ./7 . . . /'/〃 ,r ''7´\ /< _ / ./〃∠≧< / / // ,/== \/ /ノ´  ̄ヽ ./ / // f/"⌒ヾ∨ // / ヽ||=======================|| 涼宮ハルヒ || 統率100 || 武力96 || 知力98 || 政治74 ||=======================特殊能力・カリスマ2攻防+5%。この能力は自らが指揮官の時にしか発動しない。・大規模戦闘3戦闘開始時味方兵数が5000以上の場合、攻防+15%。この能力は自らが指揮官の時にしか発動しない。 シャルカール将軍。 小国の将軍としては不釣合いな程の実力を持っている。
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 「はーい、おっじゃっましまーす!」 ハルヒは二年――つまり立場上上級生のクラスにノックどころか、誰かにアポを取ろうともせず、大きな脳天気な声で ずかずかと入っていった。俺も額に手を当てながら、周囲の生徒たちにすいませんすいませんと頭を下げておいた。 ここは二年二組の教室で、今は昼休みだ。それも始まったばかりで皆お弁当に手を付けようとした瞬間の突然の乱入者に 呆然としている。上級生に対してここまで堂々とできるのもハルヒならではの傍若無人ぶりがなせる技だな。 そのままハルヒは実に偉そうな態度のまま教壇の上に立ち、高らかに指を生徒たちに向けて宣言する。 「朝比奈みくるってのはどれ? すぐにあたしの前に出頭しなさい」 おいこら。朝比奈さんを教室の備品みたいに言うんじゃない。いやまあ、確かにあれほど素晴らしいものを 常にそばに置いておきたくなる必需品にしたくなるのは当然だと思うが。 突然の宣言に、誰もが呆然とするばかり。ちなみに俺の朝比奈さん探知レーダーはそのお姿をキャッチ済みだが、 とりあえずご本人の意向もあるだろうからハルヒには黙っておくことにする。何せまだ入学式から一週間だからな。 この段階で朝比奈さんがハルヒと接触を望むかどうかわからないし。 しばらく沈黙が続いたが、次第にクラス内の生徒たちがじりじりとにある一点に集中し始める。 もちろん、そこには他の生徒と同じように唖然とした朝比奈さん――そして、そのそばには見知らぬ女子生徒二人に、 あの何だか凄い人、鶴屋さんの姿もある。どうやらクラスの仲良しグループでお弁当タイムに入ろうとしていたらしい。 やがて集中する視線に耐えられなくなったのか、朝比奈さんがゆっくりと手を挙げてようとして―― 「はーい! みくるはここにいるけどっ、なんかよーなのかなっ?」 それを遮るように鶴屋さんが立ち上がり、ハルヒの前に立ちふさがった。昔から何となく感じていたが、 この人は朝比奈さんの防御壁の役割を果たそうとしているような気がする。 だが、ハルヒは鶴屋さんに構わずに、腕を組んで、 「じゃあ、とっとと教えなさいよ。朝比奈みくるってのはどこ?」 「おやおや、自分の名も名乗らない人にみくるを渡すわけにはいかないっさ。せめてキミの名前ぐらい教えてくれないかなっ? でないとみくるもおびえてちゃうからねっ」 相変わらず歯切れの良いしゃべり方をする人だ。それでいて、きっちり朝比奈さんを守ろうとしている。 この場合、どっからどうみてもハルヒが不審者だから、そんな奴においそれと朝比奈さんを渡せないということだろう。 正体不明の人間にほいほいとついていってはいけませんというのは、子供の頃からしっかりと学ばされている重要自己防衛策だし。 「あたしは涼宮ハルヒ。一年六組所属の新入生よ」 なぜかふんぞり返ってハルヒが言う。どうしてこいつは意味のなくこういう偉そうな態度を好むのかね。 さすがの鶴屋さんも驚きの顔を見せていた。だって下級生という話はさておき、入学式からまだ一週間しか経っていない。 つまりハルヒと俺はこないだ北高に入学したばかりの生徒であって――いやハルヒは何回目か知らんが、俺は3回目になるが―― そんなピッカピカの新米北高一年生がいきなり二年の教室に殴り込みに来たんだから、そりゃ驚くだろう。 しかし、やられっぱなしの鶴屋さんではあるわけもなく、ここで反撃の姿勢に転じる。 「おおっ、なるほど。今年の新入生かっ! じゃあ、せっかく二年の教室に来たんだし、あたしがあだ名をつけて上げようっ!」 「は? あ、えと、そんなことより……」 ハルヒは予想しない展開に持ち込まれて言葉を詰まらせているが、鶴屋さんはそんなことはお構いなしに、 うーんほーうと腕を組み頭を振るというオーバーリアクションで考え始める。 やがてぽんと手を叩き、 「ハルにゃん! うんっ、いいねっ。これで決定にょろ!」 「ハ……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 ハルヒはそのあだ名が相当恥ずかしく感じたようで顔を赤くして抗議の声を上げるものの、 鶴屋さんは胸を張って、いいよいいよ、のわはっはっはと愉快そうに笑い声を上げてそれを受け入れる気全くなし。 さすがのハルヒも困惑してきたのか、俺のネクタイを引っ張って顔を寄せ、 「ちょっと、この人何なのよ? あんたの知り合い?」 ここで知り合いというと違うというややこしい話だが、俺の世界の話に限定すると知り合いでSOS団名誉顧問だ。 ちなみにその役職与えたのはハルヒだぞ。鶴屋さんのことを偉く気に入っているみたいだからな。 ま、確かに竹を割ったような裏表がなく、かなりの大金持ちだってのに全く嫌味のない良い先輩だよ。 俺の返答に、ハルヒはふーんとジト目で返してくる。 が、ここでようやく向こうのペースに巻き込まれていることにハルヒは気がついたようで、あっと声を上げると 再度鶴屋さんの方に振り返り、 「ああもう、あたしのあだ名はそれでいいから朝比奈みくるって言うのはどこにいるのよ。あたしはその人に用があって来たの」 「ハルにゃんでいいのかよ」 「うっさい、キョンは黙ってなさい」 ぴしゃりと俺の突っ込みは排除だ。 鶴屋さんはフフンっと鼻を鳴らし、俺とハルヒの全身を空港の安全確認用赤外線センサーのごとく見て、 「みくるはここにいるけど何の用なのかなっ? 誘拐ならお断りだよっ!」 「そんなことしないわよ。ただどんなやつなのか見に来ただけ」 「見に来ただけ?」 「そ。見に来ただけ」 二人は顔をじりじりと近づけて威嚇しあっている。あの強力な自信に満ちた眼力をぶつけるハルヒ、それを疑いの半目視線で 応戦する鶴屋さん。うあ、なんか凄い攻防だ。いつの間にか、クラス内もしんと静まりかえって、二人のやり取りを 息を呑んで見守っている。 数分間に上る二人の静かな攻防戦は、鶴屋さんのふうっという溜息で幕を閉じた。どうやら彼女なりに 俺たちが朝比奈さんに害をなす不審人物ではないと判断したらしい。 いや……鶴屋さん? ハルヒはどうみても朝比奈さんに害を与えに来ているんですけど。 そんな俺の不安な気持ちも知らずに、鶴屋さんは朝比奈さんを指差しこちらへ来るように指示する。 朝比奈さんはしばらくおどおどしていたが、おぼつかない足取りでこっちにやって来て―― 「うきゃうっ!」 案の定、近くの机に脚を引っかけて倒れそうになる。しかし、それをまるで予知していたかのように 鶴屋さんが見事キャッチして床への落下を阻止した。ほっ、顔でもぶつけてその美しい女神の微笑みに傷ができたら、 俺も泣いて泣いて嘆きまくっただろうから、ナイスです鶴屋さん。 朝比奈さんはおずおずと鶴屋さんに抱えられて、ハルヒの前に立つ。しばらく腕をもじもじさせて下を向いていたが、 やがてゆっくりと不安げな表情をハルヒに向け、 「あ、あの……あたしが朝比奈みくるです……何かご用でしょうか……?」 か細く弱々しい声。しかし、久しぶりの朝比奈さんのエンジェルボイスに俺の脳の音声に認識回路は焼き切れる寸前だ。 いいなー、もうかわいくていいなー、もう! 一方のハルヒはそんな朝比奈さんの姿にしばし呆然と口を開けたまま、硬直している。 そして、次に短い奇声を上げた。 「か」 「……か?」 朝比奈さんは何なのか理解できず、首をかしげてハルヒの言葉を復唱した。 だが、すぐに悲鳴を上げることになる。なんせハルヒが飛びかかるように朝比奈さんに抱きついた。 「かわいいっ! 何これ可愛すぎ! ちょっとキョン、これどうなんてんのよ! うーあー、もう可愛くて抱きしめたりないわ!」 ハルヒは顔を真っ赤にして、感情を爆発させた。どうやら朝比奈さんの言葉にできない可憐さに脳みそが焼き切れてしまったか。 もうめっちゃくちゃにすると言うようにもみくちゃに抱きしめている。 一方の朝比奈さんはうひゃぁぁぁあと手を振り回して泣き叫ぶだけ。 ハルヒはそんな状態を維持しつつ俺の方に振り返り、 「ね、キョン。この子、うちに持って帰って良い?」 ダメに決まってんだろ。お前一人が独占して良い訳が――そうじゃなくて! 朝比奈さんをおもちゃ扱いするんじゃありません! 「じゃあ、せめてあたしのクラスに転入させましょう! 隣の席においておきたいのよ!」 朝比奈さんを勝手に落第させるな! その後、ハルヒの朝比奈さんいじりはエスカレートする一方だ。胸をでかいでかいとか言ってモミ始め男子生徒の大半が 目を背けることになり、または今度は耳たぶを甘噛みして女子生徒すら顔を真っ赤にして顔を背けるはめになったりと もう教室内はずっとハルヒのターン!って状態である。 やれやれ。世界は違うとは言え、趣味や趣向は全く変わらんな、ハルヒってやつは。しかし、これだけ弾けたハルヒってのも 久しぶりだ。前回の古泉の時は、相手が異性って事もあるんだろうがここまではやらなかったし。 一方鶴屋さんはうわっはっはっはと実に愉快そうに豪快な笑い声を上げているだけ。こういったことは、 鶴屋さんの考えでは虐待やいじめには含まれないようである。 この光景に俺はしばらく懐かしさ込みで呆然とそれを眺めていただけなのだが、いい加減これで話が進まないことに ようやく俺の思考回路の再稼働させて、 「おい、そろそろいい加減にしろ」 そう言ってハルヒを引きずり教室外へと移動する。だが、朝比奈さんをハルヒは決して離そうとしないんで、 結果ハルヒと朝比奈さんを廊下に引きずり出すはめになってしまう。とにかく朝比奈さんには申し訳ないが、 こっちにも目的があるんだからついてきてもらわなきゃならんし、これ以上上級生の教室内を フリーズさせたままにしておくわけにもいかんからな。 朝比奈さんをいじくり倒すハルヒを何とか廊下まで連れ出すと――一緒に鶴屋さんもついてきている―― 「おい、本来の目的を忘れているんじゃないのか? そんな事しに来たんじゃないだろうが」 「んん? おっと、そうだったそうだった」 ハルヒはようやく萌えモードから脱したのか、口に含みっぱなしだった朝比奈さんの耳たぶを解放すると、 ばっと朝比奈さんの前に仁王立ちになり、 「ねえ、あたしと付き合ってくれない?」 「はうぅぅぅ……ええっ!?」 ハルヒのとんでもない言葉に、朝比奈さんはいじくられたショックに立ち直るどころか、 さらなる追い打ちをかけられてしまった。 っておいおい。それじゃ別の意味に聞こえちまうだろうが。ああ、でもそういやこいつ最初にあったとき辺りに、 変わったものだったら男だろうが女だろうが――とかいっていたっけ。ひょっとしたらバイの気が……ああ、何考えてんだ俺は。 「ようはハルヒや俺と一緒につるみませんかって言っているんです。いえ、別にどこかの部に入ろうとかでなくてですね、 朝比奈さんの噂を聞きつけてぜひ友達になりたいと、このハルヒが――」 「何よ、あんたも鼻の下伸ばしてぜひとも!と言っていたじゃない」 人がせっかくフォローしている最中に余計な突っ込みを入れるな。 俺はオホンと一旦咳払いをして会話を立て直すと、 「とにかくですね。俺たちはあなたと友達になりたいんです。いきなり言われて困惑してしまうでしょうが。 ご一考願えないでしょうか?」 いきなり押しかけて友達になれなんて、頭のネジがゆるんでいるか社会的一般常識が著しく欠落しているやつの やることだと俺自身ははっきりと認識しているんだが、善は急げというのがハルヒの主張だ。 とっとと朝比奈さんを仲間内に入れて、未来人の動向を探る。その目的のためには、確かに朝比奈さんをそばに置いておくのは 間違っているとは思わないが、いくら何でも性急すぎるんだよ、こいつのやることは。 さてさて。こんな不躾で無礼で一方的な頼みに朝比奈さんはオロオロするばかり。保護者代わりと言わんばかりに 立ち会っている鶴屋さんも笑顔で見ているだけ。彼女の判断に任せると言うことなのだろう。 だが、そんなもじもじした姿勢を続けていたら、脳神経回路が判断→行動→思考になっているハルヒが黙っているわけがない。 「ああっもうじれったいわね! とにかく最初が肝心なのよ、最初が! ってなわけで今から一緒に学食でお昼ご飯を食べない?」 また唐突なことを言いだしやがった。最初のコミュニケーションとしては間違っていないと思うが。 だが、朝比奈さんはちらちらと鶴屋さんと教室内のお弁当グループに視線を向けて、 「でもでもそのぅ……あたし一緒に食べる約束をしたお友達がいますので……」 そりゃそうだな。朝比奈さんとしては、クラス内の関係維持のためにもクラスメイトとのお弁当の方が何かと都合が良いだろう。 ハルヒはちょっといらだつように髪の毛をかきむしり、 「じゃあ、今日学校が終わったら一緒に帰るって言うのはどうよ?」 「あ、あたし実は書道部に入っているんで帰りは少し遅くなるんです……」 ハルヒはその初耳だという情報に、何で教えなかったと俺を目で睨みつけてきた。 ああ、そうだすっかり忘れていた。朝比奈さんは書道部だったんだっけ。その後ハルヒに拉致られて、結局SOS団入りしたが、 その理由が長門がいたからだったはずだ。そうなると、SOS団もなく長門もいない状況で朝比奈さんに書道部を辞めてもらうのは かなり難しいだろう。元々ハルヒに直接接触するつもりじゃなかったようだからな、朝比奈さんは。 さーて、面倒になってきたぞ。どうする? ここで鶴屋さんが朝比奈さんの肩を叩き、 「あたしとみくるは一緒に書道部に入っているんだよ。一年生の時からの付き合いさっ。現在も部員絶賛募集中!」 ほほう、確かに朝比奈さんに――失礼ながら、ちょっと書道というものは路線が違うんじゃないかと思っていたが、 鶴屋さんとのつながりがあったのか。確かに彼女が和服姿で筆と墨を持って正座で達筆な字を書いているのは容易に想像しやすい。 と、ここでハルヒがぽんと手を叩き、 「わかったわ。じゃあ、あたしとキョンも書道部に入部させてもらう。それなら文句ないでしょ?」 ……本気か? しかも俺まで巻き込まれているし。正座して字なんて書きたくないんだが。 だが、この提案に鶴屋さんが同意した。 「おおっ、それなら話は早いさっ。これでみくるともお付き合いできるし、うちも書道部も新入部員をゲットできて 両者ともに目的が果たせるよっ。でも入部するからにはきちっと部活動に参加してもらうからねっ」 あーあ、話が勝手に進んでいる。 俺はぐっとハルヒを引き寄せ、 「おい、いいのかよ。お前字なんて書けるのか?」 「大丈夫よ。あんなの墨と筆があれば何とかなるわ」 根拠もないのに自信満々に語るな、書道をなめるんじゃないと説教してやりたい。 が、字の汚さで有名な俺の俺が言えるはずもなく。 やれやれ。今回は書道部入部決定か。こんな調子じゃSOS団への道のりはアメリカフロンティアの進んだ距離より長いぜ。 と、ここでハルヒは腹をなで下ろしたかと思うと、 「あ、何かお腹空いて来ちゃった。じゃ、あたし学食に行ってご飯食べてくるから。じゃあまた放課後! 入部届を持って行くから待っててね!」 そう言ってばたばたと学食に向けて走っていってしまった。なんつー自己中ぶりだよ。まるでスコール大襲来だな。 俺はとりあえず朝比奈さんと鶴屋さんに頭を下げつつ、 「いきなりとんでもない頼みをしてすみません。あいつ、一旦思いついたら誰も止められなくなるんですよ」 「良いって良いって! みくると友達になりたいって言うなら大歓迎だよっ、それに書道部も新入部員を会得しないと いけなかったからねっ!」 「あ、はい。あまり人気のない部活なので、人が増えるのはちょっと嬉しいです。涼宮……さんが入ると にぎやかになりそうですし」 「そう言ってもらえると助かります」 全く寛大な心を持った人たちで助かったよ。一般常識が厳しめの人ならどんな文句を言われていた事やら。 「じゃあ、朝比奈さん、鶴屋さん。すいませんが、また放課後よろしくお願いします」 「はいわかりました、キョンくん」 「じゃあまた放課後にっ。じゃあねキョンくん!」 俺たちはそう言葉を交わすと、それぞれの教室に向かって歩き出した。しかし、一つ重要な問題が起きてしまっている。 ……やれやれ。自分で名乗る前に、あだ名で呼ばれるようになっちまったよ。 さて、何でこんな展開になっているのかまるっきり説明していなかったから、とりあえず俺が昼飯を食っている間に 回想モードでどうやってここまで来たのか振り返ってみることにしようかね。 ……… …… … ◇◇◇◇ 「未来人?」 「そうだ、未来人。お前が俺を見つけたときに一緒にいただろ? 茶色っぽい長い髪の小柄な女の人が」 「ああ、あのちっこくて可愛い子のこと。ふーん、あの子が未来人ねぇ……全然そういう風には見えなかったけど」 お前にとっての未来人ってのはどんな姿をしているんだ。やっぱりリトルグレイか謎のコスチュームに身を包んでいるのか。 まあ、俺としても何で朝比奈さんが未来から送り込まれてきたエージェントなのかさっぱりわからん。 失礼ながら言わせてもらうと、どう見てもそういった危険の伴う任務には不釣り合いだろ。俺がどうこう言っても仕方がないが。 機関の反乱により崩壊した世界をリセット後、俺とハルヒは時間平面の狭間で次についての打ち合わせを進めていた。 幸いなことにリセットは無事成功し、情報統合思念体もハルヒの力の自覚を悟られていない状態に戻っているとのこと。 だが、ふと思う。 あんな地獄絵図の世界が確定したらたまらなかったから良かったと言える。しかし、考え方を変えれば、機関は人類滅亡を 阻止したとも言える。それは成功例と言えないか? 少数を切り捨てたとは言え、大多数は生存できたんだから…… いや、あんなことが平然と行われる世界なんて許されて良いわけがない。一体機関の攻撃で何千人が 死ぬことになると思っているんだ。 「ちょっとキョン。ちゃんと聞いているの?」 ハルヒの一声で俺はようやく目を覚ます。今更どうこう考えたって無駄だろうが。リセットしちまった以上は、 次の世界をどうするのかに集中すべきだろ? 俺は自問自答を終えると、ハルヒとの話に戻る。 「えーとどこまで話したっけ?」 「あんたの世界には未来人がいたって事だけよ。しっかりしてよね」 ハルヒはあきれ顔を見せるが、俺は無視して、 「とにかくだ。前回の機関を作った世界には未来人――正確には朝比奈みくるという人物はいなかった。 これも機関の超能力者と同じように、何かお前が手を加える必要があるって事になる」 「それがなんなのかわからないと話にならないわよ?」 ハルヒは団長席(仮)に座り、口をとがらせる。 確かにその通りだ。機関の超能力者はハルヒの情報爆発と同時に発生したと言うことを古泉から耳にたこができるぐらい 聞かされていたからわかりやすかったが、未来人が誕生したきっかけは何だ? 何度か朝比奈さん(大)の既定事項とやらを こなすためにいろいろ手伝わされたが、あれはハルヒとは直接関係のない話ばかりだった。ならそれ以外で何か…… ――俺ははっと思い出した。学年末にSOS団VS生徒会を古泉にでっち上げられて作った文芸部の会誌。 あの最後にハルヒが書いていた難解極まりない意味不明な論文が載っていたが、朝比奈さん曰くあれが時間移動の基礎理論に なったと言っていた。そして、朝比奈さん(大)の既定事項を考えると、やるべき事は一つだ。 「なあハルヒ、お前の近所に頭の良い年下の男子はいなかったか? たまに勉強とか教えていたり」 「んん? ああ、ハカセみたいな頭の良い男の子はいたわよ。家庭教師ってほどの事もないけど、確かにたまに勉強を 教えてあげていたわね。それがなんかあるわけ?」 よし、ならいけるはずだ。 「そのハカセくんに時間移動の理念を示した――なんだ論文みたいなのを書いて渡してくれ。それで未来人は生まれるはず」 「ちょ! ちょっと待ってよ! あたしだって情報操作とか情報統合思念体について理解している訳じゃないのよ!? ただ何となく使えるってだけで、それを字にして表せなんて無理よ、絶対無理無理!」 ここまで仰天するハルヒも珍しい。良いものが見れたと思っておこう。だが、それをやってもらわないと あの秀才少年に時間移動の理論が届かず、朝比奈さん(大)の未来も生まれない。亀やら悪戯缶、メモリーについては 朝比奈さん(大)の方から動きが出るだろうよ。あっちも既定事項とやらをこなすのに必死みたいだしな。 大元さえきっちりしておけば、後は勝手に広がる。機関と同じだ。 「そんなこといわれてもなぁ……どうしよ」 いつの間にやら紙とペンを用意したハルヒは、ネームに困った漫画家のように頭を抱えている。 なあに深く考える必要はないんだよ。俺の世界のハルヒだって、どう見ても思いついたまま書き殴っていたし、 俺が呼んでも耳から煙が立ち上るだけで全く理解不能な代物だったし。 「そりゃ、あんたがアホなだけじゃないの?」 「うるせぇ。さっさと書け」 そんなちょこざいな突っ込みをしている間に、がんばって書いてくれ。それがなきゃ始まらん。 ハルヒはうーんうーんと本気で唸りながら、得体の知れない図形や文字を落書きのように紙に書き始める。 だが、すぐにわからんと叫びくしゃくしゃに丸めては書き直し。 この調子だと当分かかりそうだな。やれやれ…… どのくらいたっただろうか。暇をもてあましたため、いつの間にやら椅子の上で眠っていた俺の脳天に一発の強い衝撃が走った。 完全な不意打ちだったため、俺の目から火花が飛び散ったかと思うほどに視覚回路に光の粒が発生し、 思わず頭を抱えてしまう。 「何しやがる……ん?」 抗議の声を上げるのを中断して見上げると、そこには仏頂面のハルヒの姿があった。その手には数十ページの紙の束が 握られていた。 「全く……人が頭を抱えているのにぐーすか眠っているとは良いご身分ね。ほら、あんたのご注文通り作ったわよ。 人が読めて理解できる代物かどうか保証はできないけど」 相当疲れがたまっているのか、半分ドスのきいた声になっている。俺はハルヒの書いた時間移動の論文をざっと見てみたが、 ………… ………… ……こ、これは確かこんな感じだったような憶えがあるが、今読んでもさっぱり意味不明だ。謎の象形文字と ナスカの地上絵もどきが大量に並びまくる宇宙からの電波をキャッチしてそのまま文字化したような得体の知れない カオスさである。あの少年は本当にこんなものから一瞬のひらめきを見つけられるのか? 全く天才ってのは 得体の知れない生き物だ。 ハルヒは達成感に身を任せうーんと一伸びしてから、 「何か疲れちゃったわ。それを使うのは一眠りしてからにするわね」 そう一方的に言い放つと、そのまま団長席(仮)に突っ伏してしまった。ほどなくしてかすかな寝息が聞こえ始める。 全く何だかんだで努力は惜しまないやつだ。どんなことでも全力投球、中途半端は大嫌い。わかりやすいったらありゃしない。 俺はとりあえず制服の上着をハルヒに掛けてやると、暇つぶしにハルヒの意味不明カオス論文の解析をやり始めた。 ◇◇◇◇ … …… ……… 以上回想終わり。そんなこんなでハルヒがあの少年にこっそりと論文を渡した結果、うまい具合に北高二年生に 朝比奈さんがいましたってわけだ。 ただし、それを少年の手に渡したのは、俺の世界では学年末ぐらいだったがハルヒが善は急げ!とか言って とっとと渡してしまった。ハルヒ曰く、高校一年のその時期まで情報統合思念体の魔の手から逃れて無事に過ごせる可能性は かなり低い――というか一度もなかったそうな。中学時代を乗り切るのはもう完全に可能になったものの、 高校になってからの情報統合思念体やその他の勢力――俺の知らないいろいろな勢力がいたりしたらしい――がちょっかいを出して それで結果ご破算になってしまうということ。朝倉の暴走もその一つに含まれているらしい。 結果予定を繰り上げて、入学前にあの少年に論文を渡すことになったわけだ。まあうまくいったから良いんだが。 「よっし、じゃあ乗り込むわよ!」 「そんなに気合いを入れて、殴り込みにでも行くつもりか?」 元気満々のハルヒに続いて、俺は嘆息しながらそれに続く。ドアの向こうは書道部の部室だ。 放課後、俺たちは約束通りここに入部するためにやってきたってわけさ。 「こんにちわ~! 入部しに来ましたー!」 でかい声でハルヒが部室に入ると、数名の書道部部員たちの注目の視線がこちらに集中した。 その中にはすでに朝比奈さんと鶴屋さんの姿もある。二人とも手を振っていた。 中には朝比奈さんたち二人を含めると、あと三人しかいない。まあ書道部っていう地味な活動を考えると 最近の若いモンには不人気な部活かも知れないから無理もないか。活字離れどころか、ワープロやパソコンの普及で 手書き文字すらなくなっている時代である。かく言う俺も相当な悪筆だけどな。 しかし、見れば全員女子部員ではないか。しかも容姿のレベルも中々高い。まるでハーレム気分だっぜ。 事前に朝比奈さんたちから話を聞いていたのか、部長らしい三年生が俺たちに仮入部の紙を手渡してくる。 さすがにいきなり入部って訳にはいかないらしい。大体、先週入学式があったばかりだしな。一年の大半もまだ部活を 探している生徒は大半だが、いきなり本入部っていう人間はスポーツ推薦でやって来た奴ぐらいで、大抵は仮入部だろう。 俺たちはさっさと仮入部の用紙にサインを入れると、とりあえず部室内を一回りしてどんな活動なのか紹介を受ける。 やっていることは単純で、普段は習字の練習を行い、たまに校内の掲示板に作品発表を行ったり、市で開催されている 展覧会っぽいものにできの良い作品を送ってみたりと、まあごく普通の地味な活動内容だ。ああ、そういえば、 今日北高の入り口におかれていたでっかい看板の文字もこの部で制作したものとのこと。書いたのは鶴屋さん。 すごい美しく見栄えのある文字だったことを良く憶えている。 「いやーっ、そんなにほめられるとテレるっさっ! でも、あのくらいでもまだまだにょろよ」 鶴屋さんは照れ笑いを続けている。一方のハルヒは部長の説明も聞かずに朝比奈さんをいじくりまわしている始末だ。 さすがに見かねた書道部部長(女子)が俺の耳元で、彼女は大丈夫なの?と聞いてくるが、 「あー、あいつはああいう奴なんて放っておいて良いですよ。むしろ関わるとやけどするタイプですから」 俺があきらめ顔でそう答えると、書道部部長は不安げな表情をさらに強くした。こりゃ結構心配性のタイプだな。 ハルヒには余り心労をかけるなよとこっそり言っておこう。 ついでにそろそろ止めておくか。 「おいハルヒ。朝比奈さんを弄って部活動の妨害はそれくらいにしておけ。余り酷いと退部にされるぞ」 「えー、でも凄いのよ。フニフニなのよ! あんたも触ってみればわかるわ」 何がフニフニなんだ。いやそんなことはどうでも良いからとにかくやめろ。 俺は無理やりハルヒの襟首をつかんで、朝比奈さんから引き離す。ハルヒはえさを止められた猫のようにシャーと 威嚇の声を俺にあげているが、 「まあいいわ。別に今日一日だけって訳じゃないしね」 「ふええぇ、毎日これやるんですかぁ?」 いたいけな朝比奈さんのお姿に俺も涙が止まらないよ。とにかく、仮入部とは言え入部したんだからきっちり部活動に 専念するんだぞ。朝比奈さんいじりは決して部活動の内容に入っていないんだから。いいな? 「部活動ねぇ……ようは墨で字を書けばいいんでしょ?」 子供の頃に中々うまくいかず、オフクロと一緒に泣きながら夏休みの課題の習字をやっていた俺から言わせると、 習字をなめるなと一喝してやりたい余裕ぶりだ。 ハルヒは手近な部員から習字一式を借りると、さっさと軽い手つきで書き始める。 そして、できあがったものを俺の方に掲げてきた。 「これでどうよ?」 まあなんだ。素直に言えば旨いな。しかし、書いてある文字が『バカ野郎』なのは俺に対する当てつけのつもりか? もう少しマシな書く内容があるだろう? ハルヒは俺の反応を受けて再度別の文字を書き始める。 そして、得意げな笑みを浮かべて掲げた作品『みくるちゃんラブ』――だからそうじゃねえだろっ! 「あのな、もうちょっとふさわしい文字があるだろ? 例えば、『祝入学』とか『春一番』とか」 「なによ、そんな普通の書いてもおもしろくないわ」 真性の変りもんだこいつ。普通の人と同じ事をやるのは自分のプライドでも許さないのか? ただし、その字は確かにうまい。俺の捻り曲がった不気味な字に比べれば雲泥の差だ。 俺はてっきり字の内容はさておきその技術には他の部員も感心していると思いきや…… 「うんっ、なかなかのないようだと思うよ。もうちょっと練習すればかなりうまくなるんじゃないかなっ」 鶴屋さんの言葉。決して絶賛ではない。どちらかというと、もうちょっと努力しましょうという意味である。 朝比奈さんや書道部部長(女子)も同意するように頷いていた。 ……つまりハルヒのレベルは実は大したことない? そこにちょうど顧問らしき教師がやってきた。部員の様子を見に来たらしい。 仮入部の俺たちの紹介を書道部部長(女子)が説明すると、ふむといってハルヒの書いたものをまじまじと見始めた。 そして、こう論評する。 まだ慣れていない部分が大きいね。そのために全体的に荒く自己流の悪いところが出ている。 さあこれを聞いたハルヒがどうなるかは、こいつの性格を知っていればすぐにわかるだろう。 世界一の負けず嫌い、相手に自分を認めさせる、あるいは勝つためにはどれだけの努力も惜しまない。 それが涼宮ハルヒという人間の性格である。 即座に習字に必要な一式をそろえるために専門店の場所を聞き出し、何を買えばいいのか、どこのメーカがお勧めか 顧問・部員に聞き出した後、俺もほっぽって学校から出て行ってしまった。店が開いているうちに、道具を買いそろえに 行ったんだろう。全く発射された弾丸みたいな奴だ。本来の目的忘れていないだろうな? 一同唖然とする中、さすがに居心地の悪くなってきた俺も帰宅の途につかせてもらうことにした。 その前に一応朝比奈さんに挨拶しておくことにする。 「今日はいろいろお騒がせして済みませんでした。しばらくご厄介になりそうですけど」 「ううん、大丈夫。きっとこれがこの時間――あ、えっと、そのとにかく大丈夫です」 危うくやばい話を暴露してしまいそうになってもじもじする朝比奈さんのもう可愛いこと可愛いこと。 ハルヒ、一度で良いからお前の身体を貸してくれ。そうすりゃ朝比奈さんを本気で抱きしめて差し上げられるからな。 あと朝比奈さんはすっと俺の耳に口を寄せて、 「それからどうぞあたしのことはみくるちゃんとお呼び下さい」 以前にも聞いたその言葉に、俺はめまいすら憶えるほどの快楽におぼれてしまった。 ◇◇◇◇ さて翌日の朝。俺は駐輪場前でハルヒと合流して、北高への強制ハイキングを開始する。しかし、この上り坂も 入学した当時は本気でうんざりさせられたものだが、今では慣れっこになっている自分の適応能力もなかなかのものだ。 ハルヒの片手には昨日買い込んできたと思われる書道部必需品セットが詰まった紙袋が握られていた。 本気でやる気になっているらしい。 「あったり前よ。あんな低評価のままじゃあたしのプライドが許さないわ! それこそ世界ランキング堂々一位に輝くほどの ものを書いてやるんだから!」 おいおい。熱中するのは構わんが、本来の目的を忘れるんじゃないぞ。 「何言ってんのよ。あたしは情報統合思念体がちょっかい出してこないように平穏無事に暮らせればそれで良いのよ。 だから書道部で世界一位を取ったって別に何の不都合もないわ。あたしから何かやるつもりはさらさらないんだからね」 その言葉に俺ははっと我を取り戻す。確かにそうだ。ハルヒの目的はそれであって、別にSOS団結成とか 宇宙人・未来人・超能力者を集めて楽しく遊ぶことではない。むしろそっちにこだわっているの俺の方じゃないか。 いかん。すっかり目的と手段が入れ替わっていることに気がつかなかった。 とは言っても俺の目的にはそいつらと一緒に仲良くすることは可能だと証明する事もあるんだから、なおややこしい。やれやれ。 と、ハルヒは思い出したように、あっと声を上げると俺に顔を近づけ、 「前回のことを考慮して、あんたに予防措置をやってもらうことにしたから」 「……嫌な予感がするが、その予防措置ってのが何なのか教えてもらおうか」 「簡単にわかりやすく言ってあげるから、一度で頭の中にきっちり入れなさい。まず、あんたの意識を2分先の未来と 常に同期しておくようにするわ。つまりあんたの意識は常に2分先の未来を見ていて、あんたが望めば元の時間に戻れるってこと」 うーあー、全然わからん。もうちょっとわかりやすく教えてくれ。歴史的などうでも良い雑学は昔にはまった関係で そこそこあるがSF科学についてはさっぱりなんだ。 ハルヒは心底呆れたツラを見せて、 「厳密には違うけど、あんた予知能力を与えたって事。それならわかるでしょ?」 おお、それなら俺でもわかったぞ。ってちょっと待て。 「何で俺がそんな役目を担わなきゃならんのだ? お前がやった方がいいだろ」 「あたしが予知能力なんて堂々と発揮していたら、即座に情報統合思念体に感づかれるわよ。だからあんたなら、 偶然、あるいは本当に未知の能力を持っているとして片づけられるはずよ。ただし、無制限って訳にもいかないから」 「なんかの条件とかあるのか?」 「予知能力が使えるのは二回まで。仮にも時間平面の操作を行うに等しい行為なんだから、余り連発すると 情報統合思念体も不審に思い始めるだろうから。二回予知したら、自動的にあんたからその能力は削除されるわ。 だからこの予知能力は切り札よ。安易には使わないで。宝くじとか競馬とかなんてもってのほか、論外よ! 二回目を使ったときはリセットを実行するときだと思っていなさい。わかったわね」 「使い方がわからんぞ」 「簡単よ。戻れって強く念じればいいだけだから」 ついに俺までハルヒ的能力者の仲間入りかよ。限定的だから情報統合思念体に抹殺されるって事はないだろうが、 どんどん一般人から離れていくことに自分に対して哀愁を禁じ得ない。さらば凡人の俺、フォーエバー♪ 俺たちはどんどん坂道を歩いて北高に向かっている。考えてみれば、意識はもう北高間近まで迫っているところにあるが、 俺の身体自体はまだ数十メートル後ろを歩いているって事になるのか。なんつーか、幽体離脱でもしている気分だ。 ところで、予知ってのはどういうときに使えば良いんだ? 前回の機関強硬派反乱みたいな自体だったら即座に 阻止するべき行動を取るが、今回の世界は機関はいないし時間という概念が俺たちとは異なる情報統合思念体に通じるのか わかったものじゃない。せいぜい、目の前で事故が発生したらのを阻止するぐらいしか…… ――唐突だった。俺の前方百メートルぐらいを歩いている一人の男子生徒が突然北高側から走ってきた乗用車に はねとばされたのは。しかも、その男子生徒はただ歩道を歩いていただけなのに、その乗用車がねらい澄ましてきたように 歩道に割り込んできたのだ。 しばし一帯が沈黙に包まれる。あまりに突然のことだったので、誰も何が起きたのか理解できなかったのだろう。 やがて、はねた自動車は止まることなく車道に戻ると、猛スピードで俺のそばを通り抜けていった。 同時にようやく事態を飲み込めた北高生徒たちの悲鳴が辺り一面にわき起こる。 はねられた男子生徒はその衝撃で車道まで転がり、中央分離線辺りで間接が崩壊した人形のようにありえない形で 倒れ込んでいる。辺り一面にはじわりと多量の血がアスファルトの上に広がって言っていた。 俺はしばらく呆然としていたが、とっさに戻れ!と叫んだ。思考よりもさきに感覚的反射でそう言った。 ――唐突に起こるめまい。そして、次の瞬間、俺の視界には二分前俺が見ていた光景が広がっている。 まだ事故も発生せず、北高生徒たちが和気藹々と坂を上って行っている。 俺は自然と足が動いた。さっき――いや、もうすぐはねられる予定の男子生徒まで百メートル。俺はそいつに向かって一目散に 走り出す。 「――あっ、ちょっとキョン! どうしたのよっ!」 突然の俺の行動に、ハルヒは声を上げて追いかけてきた。事情なんて説明している暇はねえ。目の前で起きる予定の事故を 阻止するだけで俺の頭は精一杯だった。 俺は事故を目撃してから数十秒――多分一分ぐらい思考が停止していたに違いない。そうなると、事故発生からは 一分ぐらい前までしか戻れない。あの男子生徒とは百メートル離れている。自慢じゃないが、帰宅部を続けてろくに運動していない 俺の足だと何秒かかる? ようやく半分の距離まで詰めた辺りで、北高側から一台の乗用車が走ってきているのが見えた。あのひき逃げをやった乗用車だ。 いかん、思ったよりも俺の呆然としていた時間は長かったのか? 「キョン! あんた一体なにやってんのよ!」 俺が全力で突っ走って息も絶え絶えになっているのに、俺の隣にはあっさり追いついてきたハルヒが大した疲労も見せずに 併走していた。だが、説明している暇も余裕もない。 ハルヒは必死に走る俺の姿に勘づいたらしい、 「あんたまさか……!」 「その通りだ!」 俺はそう言い返すと、震え始めている足をさらに加速させた。乗用車はすでに歩道へと割り込みを始めている。 もう少し。もう少しで……! ぎりぎりだった。本当にぎりぎりのタイミングで俺はその男子生徒の身体をつかむ。目の前に迫る乗用車に呆然としていた 男子生徒はあっさりと俺の腕に全く抵抗することなく身体を預けた。 俺は悲鳴を上げる足首を完全に無視して、車道側へと大きく飛び跳ねる。 その刹那、乗用車が俺と抱えている男子生徒の数センチ横を通り過ぎていった。 回避した。間一髪のところでこの男子生徒のひき逃げを阻止することに成功した―― だが、甘かった。歩道は車道の反対側は壁になっていたため、とっさに車道側に飛び跳ねてしまったが、 狙ったかのように俺たちの前に後続車である大型の引っ越し屋のトラックが迫っていた。 嘘だろ。せっかく避けたってのに、なんてタイミングが悪いんだよ―― 俺は観念して次に来るであろう全身への強烈な衝撃に備えて目を瞑った。 痛みはすぐに来た。しかし、全身ではなく俺の背中に誰かが思いっきり蹴りを入れたようなものだった。 その衝撃で思わず男子生徒が腕から抜けてしまっていることに気がつく。あわてて目を開いて状況を確認しようとするが、 その前に路面に身体が落ちたらしく勢いそのままに身体が転がり続け、固い何かが俺の背中にぶつかってようやく回転が止まる。 痛みと衝撃に耐えながら目を開けて振り返ると、俺はさっきまで歩いていた歩道の反対側のそれの上にいた。 背後には電柱がある。こいつのおかげで止まったのか。 だが、助けた男子生徒はどこに行った? それを確認すべくあたりを見回すと、俺のすぐ目の前を滑るように ハルヒが着地するのが目に止まる。勢いを減速するかのように、両足でしばらく路面を滑っていたが程なく摩擦力により その動きも停止した。見れば、ハルヒの脇には轢かれる予定だった男子生徒の姿もある。 つまり最初の轢き逃げを避けた俺たちだったが、さらに今度はトラックにはねられそうになったのを、 ハルヒが俺を蹴飛ばして逃がし男子生徒をつかんでかわしたってことか。あの一瞬でそれをやってのける――しかも、神的パワーを 使った形跡もなくできるなんて心底化け物じみているぞ、こいつは。 ハルヒはすぐに俺の元に駆けつけ、 「大丈夫、キョン!? 無事!?」 「あ、ああお前に蹴られたのが一番いたかったぐらいだ」 俺は別に抗議したつもりじゃなかったが、ハルヒは顔をしかめて脇に抱えた男子生徒――どうやら気絶しているらしい――を さすりながら、 「仕方ないじゃない。あんたとこいつ、二人を抱えるのは無理だったんだから。助けてもらった以上、礼ぐらいは欲しいわね」 「ああ、すまん。そしてありがとな、ハルヒ」 ハルヒはアヒル口でわかればいいのよと、男子生徒を歩道の上に寝かせる。やがてこの一瞬の大アクション劇に、 一方からは惨劇寸前だったための悲鳴と、見事な救出劇に対する拍手喝采が起きていた。 やれやれ、これでしばらくは注目の的だな。 だが、ハルヒはぐっと俺に顔を近づけ、 「あんだけ慎重に使えって言ったのに……使ったわね? 予知能力」 あっさりと見破ってくる。 仕方ないだろ。目の前で事故が起きようとしているのを阻止するのは、一般常識を持った人間なら当然の行為だ。 だが、ハルヒは納得していないのか、何かを問いつめるように言おうとしたがすぐに口をつぐんだ。代わりに、背後を振り返り 北高生徒たちが並んでいる歩道の方へ視線だけを向けた。そして言う。 「とにかく! この件の続きは後で話す。今は一切余計なことをしゃべらないで。事後処理に努めなさい。多分もうすぐ 警察や救急車も到着するだろうから」 ハルヒの言葉には強い警戒心が込められていた。それもそのはずで、俺たちを見ている北高生徒たちの中に、 あの朝倉涼子と長門有希――情報統合思念体のインターフェースの姿があったからである。やばいな、救出劇を切り取って 今の俺の行動を見てみれば、明らかに俺は不審な行動を取ったと誰でもわかることだろう。ハルヒはこれ以上のボロを出すなと 言っているんだ。 「それから、恐らく朝倉あたりはあんたに接触してくるはずよ。やんわりと予知したんじゃないかみたいなって事を言ってね。 学校についてそれを言われるまでにきっちり納得できる説明をでっち上げて起きなさい。いいわね」 ハルヒは俺の耳元にさらに口を寄せて話した。 程なくして誰かが通報したのだろう、救急車のサイレンがけたたましくこちらに近づいてくるのが聞こえてきた―― ◇◇◇◇ 俺とハルヒは警察とかの事情聴取――逃走中の乗用車の特徴・ナンバーは見ていないかとか――をようやく終え、昼休みに 自分のクラスの席に座ることができた。助けた辺りの状況についてはハルヒがうまい具合にごまかしてくれたおかげで、 予知能力についてボロを出さずに乗り切ることもできた。 ハルヒは程なくしてどっかに出て行ってしまうが、俺は机の上に弁当を取り出してとっとと昼食を取ってしまおうとする。 そこにここ一週間ぐらいでぼちぼち話す頻度も増えてきた谷口が国木田を伴ってやって来て、 「おいキョン、何か今朝は大変だったみたいだな」 「ああ、事故に巻き込まれて散々だった。ま、けが人もなくてよかったけどな」 しかし、谷口はどっちかというと事故よりも別のことについて興味津々らしい。突然にやついた表情に フェイスチェンジしたかと思えば、 「ところでよー。お前涼宮と一緒に朝登校しているらしいんだってなー。まさかお前らつきあってんのか? いや、そうでないと説明がつかねーよなぁ?」 「何でそんな話になるんだ。別にあいつと付き合っている訳じゃねぇよ。ただ一方的に振り回されているだけだ」 だが、俺の反論を完全に無視して今度は国木田まで、 「キョンは昔から変な女が好きだからね。そう言えば、彼女はどうしたんだい? てっきりあのまま続くと ばっかり思っていたんだけど」 「なにぃ!? お前二股してんのかよ!? 許せねえ奴だ。今すぐ俺が成敗してやる」 「違うって言っているだろうが。国木田も誤解を招くようなことを言うんじゃない」 勝手な妄想を並べて推測のループに突入する二人を諫める俺だが、こいつら全く俺の話に耳を傾けるつもりがねえ。 しかし、この世界でもあいつはいるんだな……一応、連絡ぐらい取っておくか? 俺の世界の時のように正月まで 放置っていうのもなんつーか後ろ髪を引かれる思いだからな。 さて、ここで真打ちの登場だ。俺と谷口、国木田の馬鹿話の間に、あの朝倉涼子が割って入ってくる。 あいつもあの現場にいたから確実に何か聞いてくるだろう。 「あら、あたしもてっきりあなたと涼宮さんが付き合っているものばかりだと思っていたけどな。 毎朝一緒に登校してくるぐらいだし」 それに対する反論はさっきしたばっかりだからもういわんぞ。 朝倉はお構いなしに続ける。 「でも、実はあたしもあの現場にいたのよね。突然あなたが背後から走ってきたかと思ったら、突然すぐ目の前の男子生徒を つかんで大ジャンプするんだもん。さらに、飛び跳ねた方に今度はトラックが突っ込んできたときはもうダメかと思ったけど、 涼宮さんが凄いファインプレーで二人を救出。まるで映画でも見ているようだったわ」 いつもの柔らかな笑みを浮かべる朝倉。さてさて、そろそろ言ってくるかな。いいか俺。慎重にだぞ、慎重に…… そして、朝倉は核心について話し始める。 「でも、どうしてあの男子生徒が事故に巻き込まれるってわかったの? あなたが走ってきたときには はねようとした車に不審な動きはなかったわ。まるであなたは事故が発生するのをわかっていたみたい」 「へー、キョンって予知能力があったんだ。中学時代から付き合いがあったけど、知らなかったよ」 国木田が言ってきたことは冗談めいているから相手にする必要なし。問題は朝倉の方だ。そのために、ハルヒの知恵も借りて それなりの理由を事前に準備してある。 「最初に言っておくが、俺があの男子生徒を助けられたのは完全な偶然だぞ。俺は朝ハルヒに言われて宿題をするのを忘れていた 事に気がつかされて、あわてて学校に向かっていただけだ。一時限目のものだったからな。早く言って適当に 少しでもやっておかないとどやされるし。それで途中で突然自動車が突っ込んできたら、とっさに近くにいた生徒を抱えて 逃げようとしたんだよ。だから走っていたのは別に事故を回避するためじゃない。まあ幸い――けが人がなかったからと言って 仮にも事故が起きかけたことを幸いって言うのもアレだが、警察の事情聴取とかで一時限目は出れなかったから、 宿題の問題は回避されたけどな」 「ふーん、ただの偶然だったって訳なんだ。だったらますますファインプレーよね。予測もしていないのに、あんな行動が取れる あなたに脱帽しちゃう」 これは嫌味なんだろうか。それとも正直な感想? 朝倉の変わらぬ笑みからは真意を読み取ることはできなかった。 ただこれ以上その件で追求するつもりはないらしく、それだけ聞き終えるとまた女子グループの中に戻っていった。 やれやれ、一応バレ回避はできたようだな。 と、ここで谷口が俺の前に割り込み、 「そうだキョンよ、お前部活どうしたんだ?」 「ん、書道部にすることに決めた。いい加減オフクロからも汚い字を何とかしろって言われていたからな。ちょうど良いと思って」 だが、谷口はお前が?と疑惑の視線を向けると、すぐに懐から一つのメモ帳をパラパラとめくり始めた。 そして、あるページを見てにやりといやらしい笑みを浮かべると、 「……なるほどな。キョン、お前の真意は読めたぜ」 何がだ。 国木田も不思議そうな顔で、 「何か良いことでもあるのかい、書道部にはいると」 「俺がチェックしたこのマル秘ノートに寄れば、書道部には女しかいない。しかも全員俺的ランクAA以上で、 その中には上級生では最高峰に位置する朝比奈みくるさんの存在もある」 「ああなるほど、キョンは部活と言いつつ可愛い女子目当てに入部したって訳か」 おい待て。勝手に人の目的を捏造するんじゃない。俺はただ単にこの煮えたぎる文字という魅力に―― 「んなことはいいから」 あっさり人の抗議を無視しやがった。 谷口はうんうんと頷き、 「確かにキョン、お前の見る目は間違っていない。あの書道部は美人揃いのパラダイスだ! ってなわけで俺も入部したいから 是非とも紹介してくれ」 「あ、それいいね。僕も混ぜてよ」 おまえら。女目的で入部する気かよ。ハルヒとは違う意味で習字をなめるなと言ってやりたい。 しかし、結局二人の熱意に押されまくり仮入部の紹介をしてやることを強制された辺りで、 「ちょっとキョン。話があるからこっち来なさい」 そう教室の入り口から俺を睨んでいるハルヒに、話を中断された。 ◇◇◇◇ 俺がハルヒに連れて行かれたのは、あの古泉と昼飯を食べていた非常階段の踊り場だった。 何のようかと聞くまでもない。今朝のことについてだろう。 「あんたね、あれほど言っていたのにあっさり切り札を使うなんて何考えてんのよ。残り一回は同じ事があっても 絶対に使わないこと。いいわね!」 ハルヒはそう説教するように睨みつけてくるが、正直なところ今後も同じ事があった場合自重できるかどうか はっきり言って自信がない。大体、目の前で人が死のうとしているのに、それを放置するなんていうのは 俺のポリシー――いや人としてのポリシーに反していると思うぞ。 だが、俺の思いにハルヒは呆れの篭もった嘆息で返し、 「あんたね、ちょっとは考えてみなさい。確かに本当に目の前で息絶えそうな人がいたら助けるのは当然のことよ。 でもあんたは通常知り得ない情報を元にそれを実行しようとしている。それは一種の反則技だわ」 「命がかかってんだぞ。守るためなら反則だろうが何だろうがすべきじゃないのか?」 「じゃあ、その行為で確かに目の前で死ぬはずだった人は生き延びたとして、その結果別の人が事故に巻き込まれたらどうする気? 最初に死ぬはずだった人は、その死因を作った人間の責任になるけど、その人を助かったばっかりに死んでしまった別の人の死の 責任はあんたが背負うことになるのよ? その覚悟はあるわけ?」 俺はその言葉にうっとうなるだけで反論できない。確かにその場合は、俺が責任を負うべきだろう。 助けたばっかりに別の人が不幸になる。十分にあり得る話なんだから。それはあまりに本末転倒な話と言える。 しかし……しかしだ。 「だったら使いどころがわからねぇよ。どうすりゃいいんだ?」 「あと一回だけにしているから、使いどころは簡単よ。リセットを実行する必要が明らかに発生した場合のみ。 前回で言うと、町ごと核でドカンっていう事態が発生した場合ね。言っておくけど、前回は古泉くんが口を割ってくれたおかげで 助かったようなものよ。一歩間違えれば、あたしとキョンも巻き込まれて死んでいたんだから。 あくまでもそんな事態を回避する――その一点に絞りなさい」 ハルヒの指示は明確でわかりやすかった。取り返しのつかない事態、そしてそれは個人の事情とかそんなのではなく、 ハルヒがリセットを実行するための助けとなる場合のみか。 わかる。それはわかる。だけどな、 「でも、自信ねぇぞ。もう一度同じ事が起きた場合にそれを見て見ぬふりなんて」 「わかっているわよ。だけど――あんたしか頼れる人がいないの。悪いとは思っている……」 ハルヒの言葉に、俺はどういう訳だか心臓が跳ね上がった。 目線こそ合わせないが、ハルヒが俺に対して明確な謝罪を意思を示すのを目撃する日が来るとは思ってもみなかった。 それもこれも自分の能力のおかげで世界の危機に招いてしまっていることへの罪悪感――あるいは世界を救わなければならいという 使命感がなせる技か。 これが力を自覚したハルヒ、ということなのだろう。全く俺の世界の脳天気唯我独尊傍若無人SOS団団長様が懐かしいよ。 ◇◇◇◇ 翌日の放課後。 俺とハルヒ+谷口・国木田コンビを連れて俺たちは書道部部室やとやって来た。すでに朝比奈さんや鶴屋さん、 その他部員たちは勢揃いしている。 ハルヒは谷口たちがいることに最初は不平を漏らしていたが、やがてそんなこともどうでもよくなったのか、 昨日買ってきたばかりの書道部必須アイテムを使って、とっとと習字の練習を始めた。やれやれ、やる気全開だな。 一方の谷口と国木田は朝比奈さんのお美しい姿にしばし鼻を伸ばしていたが、俺がとっとと仮入部の手続きをしやがれと 背中を叩いて促しておいた。全く、これから毎日こいつら――得に谷口の視線が朝比奈さんに向けられるかと思うと 気が気でならないね。 ちなみに俺も一応入部したわけだから、この機会に字の練習をしておこうと道具を借りて練習していたわけだが、 ――君の字には覇気がないな。まるで老人のようにくたびれていないか? そんな顧問からの痛烈な評価をいただいてしまった。まあ俺の悪筆は自分でもしっかり自覚しているから、 別にどうこう思ったりはしないんだが、こっそりと朝比奈さんにまで同意されてしまったのは、ショックだったのは言うまでもない そんな俺に谷口が腹を抱えて笑いやがるもんだから、ならお前が書いてみろとやらせてみたところ、 ――君の字は煩悩でゆがんでいる。 まさに的確な指摘に、部室内が大爆笑に包まれてしまった。当の谷口は口をへの字にして顔をしかめていたが。 だが、鶴屋さんの豪快なのわっはっは!という笑いに加え、朝比奈さんも可愛らしくクスクスと笑みを浮かべていたのを 見れたことに関しては谷口に大きく感謝しておこう。口には出さないがね。 ◇◇◇◇ そんな日々が一週間続いたある日のこと。 俺とハルヒ、それに朝比奈さんは部活動を終えて下校の途に付いていた。すっかり日も傾き、周囲がオレンジ色に包まれている。 3人は和気藹々と談笑しながら――まあ、ハルヒは相変わらず朝比奈さんにことあるごと抱きつく・いじくりまわすなどの 破廉恥行為を加えながら――歩いていた。 「でも涼宮さんは凄いです。入ったばっかりなのに、もう他の部員の人たちと同じレベルになっているんですから。 顧問の先生もあと今のペースで旨くなっていけば、あと一ヶ月もかからないうちに完璧な作品が描けるようになるって 言っているぐらいですから」 「当然よトーゼン! あたしは一番でないときが済まないの。それがあんな墨で字を書くだけの地味なものであっても 妥協は一切なし! 絶対にコンクールだろうが何だろうが一番を取ってみせるわ!」 やれやれ。こいつのスーパーユーティリティプレイヤーぶりを発揮すれば、本気で書道家級に達しかねないから なおさらたちが悪い。ま、こういう才能のある人物というのはどこかしら人格に欠点があったりするものだから、 ハルヒにぴったりと言えるかもな。いや、ハルヒは最低限の常識はきっちりわきまえているから、真の意味での芸術家には なれなかったりするのか? よくわからん。 「それに比べてキョンや谷口の成長しないことったらもう。あんたたちやる気あるわけ? 国木田を見習いなさいよ。 あたしには及ばなくても着実に腕を伸ばしているわよ。あいつ、何だかんだできっちりやるタイプだから」 「お前と一緒にするな。ついでに部活動の目的を完全にはき違えている谷口とも一緒にしないでくれ、マジで」 俺とハルヒも朝比奈さんに近づくという点では、谷口と大差ないように見えるかも知れないが、あいつは煩悩100%で 入部したんだから根本が完全に違う。大体、一応まじめに練習している俺とは違って、ぼーっと女子部員の姿を 鼻の下伸ばして追いかけている時点であいつは論外と言っていい。 ……まあ、朝比奈さんに関してはそのお姿をフォーエバーな視点で見つめていたいという気持ちは、大きく同意しておくが。 「そう言えばみくるちゃん。今日は部活に遅れてきたけどなんかあったの?」 「ふえ? え、ええっと大したことじゃないんですけど、クラスで用事があったので……」 「ふーん」 聞いてみたものの、どうでも良さそうな返事を返すハルヒ。 そういや、珍しく朝比奈さんが部活に遅れて顔を出していたな。まあ、ここの書道部は体育会系みたいに 時間厳守だとかそんなのはないからとがめられるような話ではないが。 そんな話をしながら、俺たちは長い下り坂も中盤にさしかかった辺りで気が付く。この下り坂の終着地点には 自動車通りの多い交差点があるんだが、そこの歩道で一人の北高男子生徒が中年ぐらいのおっさんと言い争いをしている。 なんだトラブルか? 若いから血の気が多いのは結構だが、マスコミ沙汰にするのは止めろよ。学校の評判――ひいては 生徒たちの迷惑になるからな。 「ん? アレってこないだ助けた男子じゃないの?」 「なに?」 ハルヒの何気ない一言に俺は目を細めてそいつの姿を追う。しかし、俺には北高生徒ぐらいしか判別できないぞ。 一体どんな視力をしてんだ、お前は。 「これでも視力には結構自信があるのよね」 フフンと得意げに胸を反らすハルヒ。まあ、ここでハルヒが嘘を言う意味なんて無いし、そういう事はしない奴だから、 あれはこないだ助けた男子生徒なんだろう。何をやっているんだ? しばらくするとケンカ別れするようにその男子生徒は悪態を付きながら、横断歩道を渡ろうとする――いやまて! 今、その横断歩道の信号は赤だぞ。しかもでかいトラックが接近中だ。 しかし、男子生徒も危うくそれに気が付いたようで、飛び跳ねるように歩道まで戻った。あぶねーな。 一歩間違えれば俺が何で助けたのかわからなくなったところだった。 だが、まだ終わりではなかった。驚いたのに合わせて、さっきの言い争いによるイライラ感が増幅したのか、 近くにあった時速制限の標識――数メートルの高さに丸い奴がくっついているアレだ――を思いっきりけっ飛ばした。 なんだあいつ、実は素行の悪い野郎だったのか? それが仇となった。蹴ったことにより少しイライラが解消されたのか、そいつはまた横断歩道の前に立ち、 信号が青になるのを待ち始めた。そこでそいつは気が付いていなかったが、俺の場所からはあることが見えた。 けっ飛ばした時速制限の標識が不自然に揺れ動き、めりめりと音を立てて男子生徒の方に倒れ込んできたのだ。 しかも、ギロチンか斧のように標識が盾となった状態で襲いかかる。そういや、犬のションベンで標識やミラーの根元が 腐食して勝手に折れたという事故を聞いた憶えがある。 その音に気が付いたのか、男子生徒がちょうど振り返ったのと同じタイミングで、そいつの真正面を標識が通過した。 豪快な音を立てて、標識が歩道の上をバウンドする音が耳をつんざく。 俺は息を呑んだ。あの重さのものが頭や身体に接触すればただでは済まない。最悪命を落とす可能性も…… ふとそいつがあまりのことに驚いたのかふらふらとおぼつかない足で動き始めた。一瞬こちら側を振り返った姿を見ると 本当に数ミリ程度の誤差で身体には触れず、制服の腹の部分が避けているのが見えた。どうやら無傷らしい。 なんて運の良い奴だ。 だが、相当驚いたようで錯乱状態になって千鳥足で事もあろうか車道に侵入して、そこに通りかかったトラックに ぶつかってしまう――とは言っても、正面からではなく走っているトラックの側面に男子生徒の方から接触したと言った方がいい。 そのため致命傷にはならず勢いでくるくると回転して車道に倒れ込んでしまった。 そこに今度は普通の乗用車が突っ込んでくる。 「きゃあ!」 誰かの悲鳴が聞こえてくる。恐らく近くを歩いていた通行人のものだろう。このままでは自動車にはねられる―― キキーッとタイヤの鳴く音が一面に広がった。運転手が必死にハンドルを切りブレーキをかけたため、あと数十センチの というところで男子生徒を轢かずに停止した。 まさにぎりぎり。危機一髪。もうどんな言葉を並べても表現しがたい状況だろう。死の危機の連鎖をあの男子生徒は 全て乗り切ったのだ。 「……よかった」 ハルヒの声。俺たち3人とも気が付かないうちに立ち止まり、それを見つめていた。 男子生徒はようやく正気に戻ったのか自力で立ち上がり、ふらふらと歩道の方へ戻っていく。やれやれ。 自分のことでもないのに寿命が何年分も縮まったぞ。勘弁してくれよ。 ――がちゃん! 突如不自然な金属音が辺り一面に広がった…… 俺もハルヒも唖然として固まる。 男子生徒がふらふらと立った歩道。突然、そこに鉄の板が降ってきたのだ。見れば、男子生徒の正面にあったビルの屋上に あった看板がなくなっている。 ……つまり突然看板が落下して、男子生徒を押しつぶした。これが今目の前で起きたのだ。 そこら中から悲鳴が巻き起こった。度胸のある数人の通行人が男子生徒の無事の確認、あるいは救出のために 落下した看板の周りに集まってくる。中にはすでに携帯電話で救急車の手配をしている人もいた。 だが、もう無理だろう……看板の周囲には漏れだした男子生徒のおびただしい血液が広がり始めていたんだから。 俺はこの結果を見ても、決してハルヒにもらった予知能力を使おうとは思わなかった。昼間に受けた説教のためじゃない。 次々と襲ってきた危機からとどめの一発まで完全に二分を超えていたからだ。つまり今二分前に戻っても、 もう惨劇の序章は開始されている。しかも、場所が離れているためどうやってもまにあいっこない。 ここで俺ははっと気が付いた。呆然としているハルヒはさておき朝比奈さんがこんな過激なスプラッタ劇を見たら、 卒倒すること相違ない…… だが。 朝比奈さんは何も反応していなかった。 うつろな目でその惨劇の現場をただじっと見つめているだけで。 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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四章 時刻は夜11時。俺は自宅にてハルヒの作ってくれたステキ問題集を相手に格闘中だ。 「やばい、だめだ。全然わからん。」 朝はハルヒに啖呵を切ったものの、今では全くもって自信がない。 今の時期にE判定を取るようじゃ、どう考えても結果は目に見えている。 そもそも俺よりも頭のいいあいつが、それに気付かない訳がないのだ。 ただ遊ばれているだけなのか? …………ハッ!いかんいかん!俺の中の被害妄想を必死でかき消す。 頭を一人でブンブン振っていると、俺の右手に違和感があることに気付いた。 俺の右手はいつのまにか机の引き出しの中に伸びている。 手は引き出しの中の『奴』を掴んでいた。 そのことを俺の頭が理解した途端、俺はバネにはじかれたように机から遠ざかった。 「はぁ、はぁ…」 これ以上ないくらいの恐怖を感じながらも、俺の手はまだ『注射器』を握り締めている。 「何で…何でこんなことになっちまったんだ…」 俺は力なくそれを床に叩き付けた。 あれは、きのう… 「ど、どうしたの?キョンくん?」 下駄箱で春日が俺をその大きな瞳で見ていた。 その時の俺が普通じゃなかったのは言うまでもない。 「クソ!俺はハルヒを!!バカだ!最低だ!なあ、春日! 明日から俺はハルヒにどう接すりゃいい?!」 突然激昂した俺に、春日は動揺したように言った。 「ちょっ、待って!話は聞くから取り敢えず落ち着いて!場所は…公園でいい?」 ここは公園。俺と春日はベンチで並ぶように座っている。 事情を知らない人が見たらカップルに間違われるかもしれない。 ここで俺が春日の肩に手など回せば完璧だな。だが生憎、俺にそんな余裕はない。 「どうしたの?涼宮さんと何があったの?」 春日とは朝の挨拶以外はほとんど話したこともなかったが、話は本気で聞いてくれるようだ。 俺は今までのことを呼吸をするのも忘れてぶちまけた。 ほとんど話したこともない女子に、こんな長々と話すのは俺のキャラじゃないんだがな。 今はとにかく誰かに話を聞いて欲しかった。春日は俺の話を真剣な目で黙って聞き、 俺がたまに同意を求めると目を優しくさせ、「そうだね」と相槌を打ってくれた。 「どう思う?!」 その最後の言葉を俺が吐き終えると俺の興奮は冷めていった。 が、代わりにいいようのない虚無感が襲って来る。 何もやる気が起きない。ふう、と俺が久々に肺に酸素を運んでいると、 春日は俺の質問には答えず、ベンチからすっと立ち上がった。 「ねえ!今からうちに来てみない!?ほら!いーから、いーから♪」 ハルヒにも負けないような笑顔を見せながら俺の手を引っ張る。 「お、おい、どういうことだよ?」 言葉ではこう言ってるが、俺は大した抵抗もせず、フラフラと春日のあとを付いていく。 正直、どういうことかなんてどうでもいい。全てが色褪せて見えていた。 春日の家につくと、すぐにリビングに通された。両親はいないようだ。 「それじゃ、早速あたしの意見をいうね?明日にでも涼宮さんに謝って? あたしは今までのキョンくんの頑張りを教室でいつも見て来た。 だからキョンくんがその反動で、涼宮さんについ当たっちゃった気持ちもわかるよ。 でも男の子から殴られるってことはあたし達女子にとっては、 とても耐えられないことなの。 好きな男の子からなら尚更…きっと今涼宮さんは泣いてるよ? お願い!涼宮さんを元気づけられるのは、あなただけなの!」 いつもなら『好きな』の所で何らかの反応をして見せるんだろうが…当然、どうでもいい。 わかってる、わかってるんだ。俺がこれから何をしなければならないのかくらい。 「だけど…俺は自分が怖いんだ。 あいつに会ったら…またあいつを殴っちまうんじゃないかって…」 今の俺は誰がどうみても、とてつもなくヘタレなんだろうな。 さすがにこれは春日も愛想を付かしてしまうか。と思っていると、 「ちょっと待ってて!」 と言ってリビングから出ていってしまった。 「おまたせ!」 戻ってきた春日の手には小さな怪しく光る注射器が握られていた。 夕日の逆光のせいでシルエットになっている春日と注射器はシュールで、とても気味が悪い。 「おい、それ何だよ。」 「ん?かくせーざい♪」 力なく問い掛ける俺の質問に、特に悪びれる様子もなくそう答える。 その態度と質問に対する答えは、俺を動揺させるには十分だった。今日一番の揺れの観測だ。これはさすがに力なく「そうか」で済ますことは出来ない。 「な…な……何を言ってるんだよ!馬鹿らしい! それをどうするつもりだ?! 俺にヤク中になれっていってるのかよ!」 「何言ってるの?たった一回だけだよ! 今のキョンくんは自暴自棄になっちゃって、自分に全く自信がない状態なの! そんな、どうしたらいいか分からない時のための、一生で一度だけの切り札! これさえあればどんどん自信がついてくるんだよ? まるで自分がスーパーマンにでもなっちゃったみたいに!」 いやいや、まてまて、おい。WHY!?いやマジでWHY!? 「覚せい剤だぞ?!そんなもん一度やったら、 二度と抜け出せなくなっちまうことくらい俺でも知ってる! 悪いな。邪魔した。俺はもう帰る。」 ここにいちゃいけない!そう警告している本能に言われるまま、俺は部屋を出ようとした。 「また涼宮さんを傷つけるの?」 その言葉に俺の足はいとも簡単に止められた。 「自分が何するかわからない、怖いって言ったのはキョンんだよ? このまま会っても今の溝がもっと深まるだけ… 涼宮さんのことを想うなら、これを使うべきじゃない?」 何度もいうがこの日の俺は本当にどうかしていた。 たったそれだけの言葉で気持ちが傾いて来やがるんだからな。 「だ、だけど!それを打っちまったら、俺は…」 「依存症なんて意志の弱い人だけ。あたしは知ってるよ?キョンくんがそんなに弱くないってこと。」 確かに、俺は薬物依存など意志が金箔よりも薄い奴がなるものだと思っている。 「それと、キョンくんが、誰よりも涼宮さんを愛してるっていうこと。」 春日は終止、優しい目で言う。でも…だけど… いや、もしこれを使えばまたハルヒと…楽しい日常を…こんな押しつぶされそうな気持ちも… 「いいの?涼宮さんを泣かせたままで… また仲良くしたいでしょ?何にもなかったように…」 「何もなかったように…俺は…俺はあいつと…また笑いあいたい…」 「うん、そうだよね。これさえあればその全てが叶うんだよ?」 ああ、藁をもすがりたいとは今の俺のためにあるんだな、なんて思っていると、 俺の口は勝手に動きだした。 「本当に…本当に一回だけなら大丈夫なんだな。」 「それはキョンくん次第だよ。でも…あたしはそう信じてる。」 その言葉を聞き、俺は春日から注射器を取り上げた。 おい、いいのか俺。本当にいいのか?顔からは脂汗が吹き出ている。 脳細胞を除いた体中の細胞がその全総力を結集して、奴の進入を拒んでいる。当たり前だ。 腕に針を刺すだけでも抵抗があるんだ。そのうえ、その針の中には悪名高い奴がたっぷり詰まっているんだからな。 だがその警告すら脳が一喝すると、あっさり解けていった。 腕に針先を添え、深呼吸をし、俺は………刺した。 想像以上の痛みを覚えたため慌ててピストン部分を押す。 次の瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。…いや包みこんだ。 まるでこの世の全てが俺を受け入れた感覚。酸素は溶け、 俺に混ざっていき、俺も溶けて酸素に混ざっていく。 今、この瞬間のために俺の人生があったのではないかと錯覚してしまうほどだ。 今なら日本の裏側にあるブラジルのニーニョさんが何回ドリブルしたかも分かってしまいそうだ。 いや、その気になれば世界の改変でさえも… 「……ん!キョ…ん!キョンくん!」 ハッ!、意識が飛んでいたようだ。 「どう?キョンくん?」 「ああ、とても清々しい気分だ!」 一瞬春日が顔をしかめた気がした。 「これならきっとハルヒにもちゃんと謝れそうだ!」 ほんと、依存症とか、何を心配してたんだ?俺は! 俺がそんなもんになるはずない!なんてったって俺は あれだけハルヒに引っ張り回されたり、耳を疑うようなトンデモ体験をして来たんだ! 今さらそんなんでヒイヒイ言うようじゃ、SOS団万年ヒラ団員の名が廃るぜ! 「そう良かった。あっ、もうこんな時間だね。送って行こうか?」 春日がすっかり調子を取り戻した笑顔で言った。 いつのまにか七時すぎになっていたようだ。 「いや、自転車だし、大丈夫だ。」 「そう、はい!カバン!!」 飛び切りの笑顔で見送りした春日に俺も飛び切りの笑顔で、手を振った。 それから家に帰ってからだ。カバンの中に注射器と粉の入った袋を見つけたのは。 いつ入ったんだ。あいつが…入れやがったのか… 「はあ…はあ…」 床の上の注射器が怪しく光っている。 なんで今日あいつに話に行ったとき返さなかった。クソ!あいつ…俺をどうする気なんだ! いっそ警察に…いや!俺も捕まっちまう!そうしたらハルヒが……… もうハルヒを傷付けたくない!古泉とも約束したんだ! いや、でもこのままじゃいずれ…よそう、こんな考えは… それにしても…何だ、この感じは? 昨日は奴を拒んでいた体中の細胞が、今は奴を渇望している。 もう…逃げられない… 脳細胞があきらめかけたその時、ケータイが鳴りだした。 着信………長門 長門の 名前を見て、俺は心底安心した。今の長門には何の力も無いのにな。 やれやれ…すっかり長門に対して頼り癖がついてしまったらしい。 「もしもし、長門か。」 「そう。」 ………沈黙。いやいや「そう。」じゃなくて!そっちから電話をかけて来たんだから、 会話のキャッチボールは長門から投げるべきだろう。 だけど、それが余りにも長門らしくて、俺はまた安心した。 「あなたに謝らなければならないことがある。」 その言葉を聞いて、俺は考えを改めた。なるほど、さっきの沈黙は、 どう切り出すかを考えていたのか。 「いや、謝らなければならないことなら思い当たるんだけどな。」 「昨日、私はあなたの涼宮ハルヒへの第一撃目を、阻止することが出来なかった。 感情が………邪魔をした。」 そうだ、いくら長門でも今は普通の女子高生なんだ。俺がいきなりキレて暴れだせば そりゃ呆然とするだろう。 「いや、お前は全然悪くない。逆に俺が謝るべきだ。あのままじゃ、 俺はハルヒをリンチしていただろうからな」 「でも、私があの時もっと早く対処していればこんなことにはならなかった。」 一瞬にして顔が冷や汗でいっぱいになった。こんなことだと?もしかして全部気付いているのか? 「お、おい、俺はもうハルヒとはちゃんとケジメつけたんだ。 今日も部室で見てたろ?何だよ。こんなことって。」 「私にはわからない。だからこそ教えてほしい。何があったの? とても胸騒ぎがする。あの注射跡は何?」 全てを気付いてるわけではなさそうだ。だけど勘づいている。こいつから胸騒ぎなんて言葉が 出てくるとはな。 「だから、あれは献血で…長門、お前は知らないだろうが、俺はハルヒと古泉に約束したんだ。 もう二度とハルヒを苦しめたりしないってな。」 どの口がいってやがる。 「………」 無言だ、 「そ、そうだ!長門!手、大丈夫か?かなり力入れてたからな、 ケガ無かったか?」 「肉体の損傷は問題ない。ただ…」 「ただ、何だ?」 今なら長門が電話の向こうで思案している顔が、はっきりと分かる。 「あんな思いは…もうたくさん…」 俺ははっとした。そうだ、傷ついたのはハルヒだけじゃないんだ。こいつは、長門は 俺の暴力を目の当たりにしてしまったんだ。その心の傷は、計り知れない。 「ああ、本当にごめんな、もう二度と傷つけない。」 「そう、あなたを……信じたい。信じていいの?」 すがるように聞いて来る長門。ここは瀬戸際だ、全てを話すか、このことは俺の中に秘め、無かったことにするか。 そうだ、もう二度とやらなけりゃいい!『奴』の誘惑なんかに負けなければ今までどおりの平穏は、 守られるんだ 「ああ!」 「そう…なら…信じる。」 そういうと長門は電話を切った。 ふう、この注射器はもういらないな。ありがとう、長門。お前のおかげでこいつの誘惑に、負けずにすんだよ。 何を考えているかしらんが、お前の思い通りになんかなってたまるか!春日! 俺は!俺の欲望に打ち勝つぞ!! 「もしもし?古泉です。お久し振りですね。 実はですね………おお…察しがよろしいようで。そう、機関の創立6周年パーティについてです。 はい、もうそんな時期になるんですよね。 全く、今はもう存在しない機関だというのに。はい、もちろん主催者は今年も、森さんです。 彼女らしいといえばらしいですね。ええ、そこであなたも招待しようということになりまして………… いえいえ、あなたは今でも、そしてこれからも我々の仲間、いわば同士です。 そろそろ河村のことも、気持ちの整理がついたのではないですか? …はい、そうですか!それは皆さん喜ぶと思います! それでは、今週の土曜に。いつもの場所と時間で。 待っていますよ?春日さん?」 五章へ
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高校を卒業してから、はや1年。 あのうるさいハルヒと別の大学に行ったおかげで 俺はめでたく宇宙人も未来人も超能力者もいない普通の日々を手にいれた ハルヒいわく「SOS団は永久に不滅なのよ!」とのことだが、 活動の根城であった文芸部室では現在、北高の新1年生数名が文芸部として活動している。 あるべき姿に戻ったとも言うべきだが、いまの部室にはガスコンロや湯飲みはない。 朝比奈さんが着ていた華やかな衣装も、コンピ研からかっぱらってきたパソコンもない、 普通の部室になっている。 昔のハルヒなら「ここはSOS団のアジトなのよ!」と部室を強引に不法占拠しただろうが、 楽しそうに活動する現部員、つまり後輩の様子を見ているとそんな気にもならないらしい。 拠点を持たない現在のSOS団にはどこか勢いがないと言うか、ごく普通の仲良しグループとなっている。 いつもの喫茶店に集まり、みんなで市内探索をしたり、イベントに参加したり・・・ そんな活動からも、最近は遠ざかっている。 それぞれの団員が新しい環境で忙しいのだろうか、 あのハイテンションの団長様からは、もう1年も召集命令がかかってこない。 実際、俺も忙しかった。 溜まっていたレポートをようやく仕上げ、自室でシャミセンを抱えてベッドに倒れこんだ。 ああ、疲れたさ。 人間というのは考え込むと突然憂鬱になることがあるそうだが、今の俺もちょうどそんな感じで、 何か釈然としない気分となりながら、激動が続いた高校時代の思い出を頭に描いている。 何気なく外に出た俺は、ハルヒの支離滅裂な行動を苦虫を噛む様な顔で振り返りながら、 朝比奈さんの素晴らしいお姿をもっと堪能していればよかったと後悔の念を抱き、 木漏れ日が射す道を、高校時代、毎朝苦しめられたあの坂を上っていた。 平日の学校だというのにどことなく静かで、相変わらず安っぽいプレハブ校舎が風情を醸し出している。 桜舞い散る校門を、卒業式以来久しぶりに通る。 おもむろに懐かしくなってきた俺は、かつて騒然とした毎日を過ごした場所を1箇所1箇所巡ってみた。 教室に入ることはできないが、セキュリティの欠片もないこの学校を見回るのは造作もないことだった。 古泉に能力を聞かされた中庭のテーブル。文化祭でハルヒと長門が観客の度肝を抜いた体育館。 なんだ、ほとんど何も変わってないじゃないか。 自然と口元が緩む。何もかもが懐かしい。 様々な場所を歩き回った俺は、校門を出る前によく分からない気持ちに駆られ、あの扉の前に来ていた。 そう、現在はSOS団のプレートが外されて、正規の活動を行っているあの、 文芸部部室の扉の前に。 4月の上旬、今は授業中。 かつてのハルヒのように、授業をサボってまでクラブ活動に精を出すような奴はいないだろう。 部室に鍵がかかっているのは当たり前のことである。 しかし、憂鬱というよりは懐古の面持ちが強くなっていた俺は、かつての思い出の1ページをさらうように、 いるはずのない朝比奈さんの着替えを目撃しないために、軽く扉を2回叩いた。 当然、反応はない。 俺が1番に来るとは珍しいじゃないか、と自分に懐かしく言い聞かせ、ドアノブに手をかけた。 ガチャリ・・・ 鍵はかかっていなかった。 まったく、部活動時間外にはしっかり施錠するのが部長の仕事だぜ。 ハルヒもその辺だけはしっかりしていたんだから、そこは見習っておくべきだな。他はともかく。 扉を明けると同時に、懐かしい言葉が浮かんできたのでつぶやいてみた。 世界を大いに盛り上げるための、 「涼宮ハルヒの団。」 つぶやきを言い切る前に、 扉の向こうから俺の高校生活をクソ面白いものに変えやがった声が聞こえた。 どこか色っぽいような顔で俺に微笑みかけたそいつはまさしく、 涼宮ハルヒだった。 なにやってんだお前はこんなところで・・・ と言いたくもなったが、ハルヒの顔を見ていたらどうも言葉が出てこなかった。 どうやら俺が忙しい日常の中で、もっとも再び見ていたいと思ったのは、こいつの顔だったようだ。 おかしい話だよな、こいつと会ったらもっと忙しくて面倒なことに巻き込まれるんだぜ。 でも、ひとつ言えることは、忙しさの中にも楽しさと、そして心のやすらぎを得ることができたということ。 いろんな思いが交差する中、最終的に俺の全思考回路がハルヒに向ける言葉として選んだものは、 「よう」という一言だった。 「あんた、よく覚えていたわね」 とハルヒがつぶやいた。 どちらかと言えば勘が鈍いほうの俺だが、これが何のことかは一瞬で思い当たった。 少しの間をおいて、はにかみながらハルヒにこう返す。 「団長、1周年おめでとうございます」 ハルヒの目が、かつてのように輝いた。 「ふん、相変わらずあんたはバカね」 これは思わぬ反応だった。と、同時に久しぶりに聞くハルヒ節がなぜか心地よく感じた。 「どうせあんたは卒業して1周年とか考えてるんでしょうが違うわよ! 今日はSOS団設立からちょうど4周年でしょ!だいたい1周年だったら卒業式から逆算しても 日にちが合わないじゃないの。ふん、あんたにしてはいい事言ったけど詰めが甘いわねー!」 まぁ、そういわれてみればたしかにそうか。 ただ雰囲気的には1周年って感じはするがな。もう4年経つのか。早いもんだ。 あらためて部室を見回してみると、随分閑散としている気がする。 現文芸部の作成した会誌や読書コンクール作品などが整えられて机の上に置いてあり、 至極まじめに活動している様子が見受けられる。 そういえば俺たちもハルヒ編集長の指示によって文芸部(ではないが)の会誌を作ったっけな・・・ 朝比奈さんのかわいらしい童話や長門の淡々としたエッセイ、鶴屋さんの大爆笑必至のアレ。 コンピ研の部長氏が目を充血させてまで書き上げたようなパソコンゲームなんとかの記事。 そしてできれば忘れたい俺の恋愛(というのかどうか分からんが)小説。 「あんたの恋愛小説にはもうちょっと期待してたんだけどねー、期待して損したわ。」 余計なお世話だ 「そういやお前、大学の方はどうなんだ?また変な団作ってんじゃないだろうな」 相槌を打つ程度に聞いてみるが、返答の内容はだいたい見当が付く。 「作ってないわよ。あたしはSOS団の団長なの。新しい団を作るつもりも入るつもりもないわ」 恐らく、ハルヒの高校生活はとても楽しいものだったのだろう。 そのひとつがSOS団の存在、ひとつというより大きなウエイトを占めているのは間違いない。 はじめて会話したときの、あのどこか不満気で釣り上がった表情だったハルヒはもうどこにもいない。 あいつはおそらく、高校生になって劇的に日常が面白くなるとは考えてなかったはずだ。 期待はするけど、どこかで晴れない気持ちが芽生えてたはずだ。 でも。 それが、この3年間だったもんな。 個性的な仲間たち。数々の不思議な体験、胸が躍る冒険。 地味な事件のひとつひとつさえ、とても面白かったんだろ、なぁ、ハルヒ。 なんで分かるかって? 何度でも言うさ。 俺も楽しかったからだ。 「なーににやついてんのよ!また変なこと考えてるんじゃないでしょうねっ!」 「また」って、俺がいつお前の思う変なことを考えたんだよ。 だいたいお前が思う変なことってのは、一般人にとってどれだけ驚異的な発想なんだろうね。 ・・・とは思うものの、1年の時の冬に雪山で変な空間に閉じ込められたときに、 「風呂を覗くな!」みたいな主旨の事を言っていたっけな。 こういうところでは意外に乙女ちっくというか、古泉に言わせれば常識的な考えを持っているんだよな。 バレンタインデーでもそうだっけか。義理義理義理義理言っておいて毎年ちゃんとくれて、 年々チョコの内容がグレードアップしていったのはなんだったんだろうな。 最後の年のバレンタインデーなんて大きさも凄ければ、 団長様直々にお書きなされたカードみたいのまで入ってたっけな。 まぁ古泉のも同じ大きさでカードが入ってたみたいだが、何て書かれてたは知らん。 ただ、俺に宛てたカードに書いてあった言葉は今でも覚えてるぜ。 1年の時に貰ったのは、チョコにバレンタインデーとぶっきらぼうに書いてあっただけだったが、 あのカードに書かれた文字を俺は生涯忘れることはないんじゃなかろうか。 なんて書かれてたか?それはだな、 禁則事項。ずーっとな。 ちなみに俺はそのカードを今でも大切に財布に入れてる。 クレジットカードやどこぞの会員証よりも優先順位が上な、一番目立つところに。 「ふん、まぁいいわ。でも、あんたよく覚えてたわねぇ。ちょうど電話しようかなーって思ってたんだけどさ。 団長様は授業真っ盛りの学校に団員を集合させる気だったのかよ。 「ちがうわよ。集合場所はここじゃなくていつもの喫茶店。」 喫茶店か、あそこには色々とお世話になったもんだな。 おそらく俺は、この部室に来なかったら図書館か喫茶店に向かっていただろう。 その先でも結局こいつに会ってたことになるんだな。 巡りあわせ、か。 ハルヒに出会ってから、俺はこの言葉をつぶやく機会が減った。 理由はお分かりのとおり、「自分の思いを実現する力が涼宮ハルヒにはある」というバカげた話を、 一般人とはかけ離れた奴から耳にしてしまったからな。 俺の中で、ほぼ必ず「巡りあわせ」はこの言葉に置き換えられた。 ただ、今の状況はハルヒがそう願ったから、というわけではないような気がする。 それとは別に・・・、なんだろうな。言葉にはしづらい内容だ。 「とにかく、せっかくの記念日なんだからねっ!みんなで集まりましょうよ!」 ハルヒの目がまた輝きだした。ホント、楽しそうなときののこいつはいい顔するねぇ。 SOS団専用スマイル。俺は勝手にこう名づけてるんだが、その名のとおり一般生徒には なかなかお目にかかれない特上のハルヒスマイルだぜ。 「それじゃ、喫茶店行くか。みんな集まってのSOS団だからな。」 別に深い意味があって言ったわけでもなく、そんなすぐに急いで行こうという意図があったわけでもないが、 「えっ・・・ちょ、ちょっと待ちなさいって!えっと・・あの、その・・・ふ、風情のない奴ねあんたもっ!」 と、全力で部室から出ることをわざとらしく拒否しやがった。なにがしたいんだ、こいつは。 「とにかく・・・たまにはいいでしょ、あたしとあんた二人で懐かしむのも・・・。あんたは団員その1なんだし・・・」 ハルヒが顔を赤らめている様子を想像した諸君、残念。 いきなり後ろ向いて細い声になるんだから顔までは見れなかった。 どんな顔してたんだろうな。 間髪入れずにハルヒは振り返り、俺のいる方へと近づいてくる。 よくみると、紙袋を後手に隠しながら歩いてくるのが分かった。 「ハルヒ、お前後ろに何隠してんだ?」 頑張って俺に見られぬように隠している紙袋に入っている物体について、 わざと先に聞いてやった。 「!!!!・・・ちょ、ちょっとあんた、そういうのは気付いても言わないのが男心ってもんでしょうが・・・」 立ち止まってハルヒはそっぽを向いた。 予想通り。この反応が見たかった。 たまにはいいだろ?俺のほうがお前を困らせてやっても。 「・・・バカ。」 そう言いながら、ハルヒは紙袋から包装された物体を取り出した。 「なんだこれ?」 おそらく万人がそういう反応をせざるを得ない、意外な代物が飛び出してきた。 年季を感じさせる、例えるならば中学生が3年間一度も買い換えずに使い込んだ筆入れのような、 財布だった。 先ほど意外な代物と言ったが、俺はこの財布に見覚えがあった。 喫茶店の代金を払うのは大体が俺の仕事のようなものになっていたので、見かける機会は少なかったが、 それはハルヒが使っていた財布と見て間違いはなかった。 「・・・お、お礼の言葉はないのっ!?団長直々の贈与品なんだからおとなしく謝辞を述べなさいっ!」 なんだそのめっちゃくちゃな理屈は・・・。 と思いつつも、何でまた財布なんだろうな。それもハルヒ本人の使っていた。 その辺はまた後で聞くとして、まず最大の疑問を投げかけてみた。 なんでまた、これをわざわざ包装してるんだお前は。 「プレゼントってものは普通包装してあるでしょ!当然の事しただけよっ・・・。」 まぁ・・・たしかにプレゼントって物はだいたい包装してあるものだが、 そもそも渡す本人が日常的に使っていたものをプレゼントするってのはかなりのレアケースなんだろうか。 いや、そんなことより根本的におかしいだろ。なんというか。 つーかこいつはもしかして包装紙だけをわざわざ買いに行ったのか? 包装紙を売ってる店なんて聞いたことないから、 大方近所のデパートの店員を脅してかっぱらってきたんだろうな。 そう思ってくしゃくしゃになった包装紙を眺め、さてどこの店の包装紙だ?と店のマークを見回したが、 なかった。店のマークも、特徴も。 それにどこか、一般小売商などのものにしてはやけに包装紙にムラが目立つ。 まさかこいつは、わざわざ包装紙とリボンを手作りしたのか? ・・・聞いたらそっぽ向きそうなので、これは言わないでおくか。 「・・・大学の同級生が財布をくれたのよ。だからそれはもういいの。あんたにあげるわ。」 要するにいらないものを恵んであげますよってことか。 フリーマーケットに売りに行くって選択やそのまま放置しておくって選択肢はないのかよ。 俺ならたぶん捨ててるな。 「けっこう使い込んであるけど、あんたのそのボロい財布よりはマシでしょ」 お前に言われたくはねーな、と言いたいところだが実際俺の財布も年季が入ってるからな・・・ でも一応まだ使えるっちゃ使えるぞ。これでもけっこう愛着あるんだからな。 「えっと・・・今まであんたには色々お金出してもらってたからさ。 その・・・なんというかお礼よお礼。借りた恩はちゃんと返すのが義理人情の世界でしょ。」 いつからSOS団は義理人情の世界になったんだよ、と思いつつ、 俺のハルヒへの投資は金以外にも、睡眠時間とか平凡な生活の終焉とか色々あったな、 お返しは財布1個で足りるもんじゃねーぜ、という気もするといえばするな。などと考えていた。 「そのかわり、あんたの財布はあたしが預かっておくわよ!ちゃんとありがたくあたしの財布を使いなさい!」 ああ、そういうことか。要するに俺の財布が欲しかったんだな、こいつは。 そんな質のいいもんでもないが・・・こいつなりに何か考えがあるんだろう。 ってことは大学の同級生が財布をくれたってのもたぶんデマカセだな。 相変わらず素直じゃないヤツだ。 「まーた!なーにニヤニヤしてんのよ!・・・べ、別に深い意味があるわけじゃないんだからっ!」 ん、またニヤニヤしてたのか?俺は。 別に意識あっての行動ではないんだがな、どうもクセになってるらしい。 外の景色が春らしく、穏やかな陽気で静けさの中にあるように、 文芸部室もまた静かになっていた。この空間には俺とハルヒしかいない。 それにしちゃやけに静かだな。 「さっ!キョン!おとなしく財布を渡しなさいっ!ついでにあんたの財布の中身も拝見させてもらうわよぉ♪」 ハルヒは強引に俺のパーカーのポケットに入っている財布に向かって腕を伸ばしてきた。 全く、ほんとにむっちゃくちゃな奴だなこいつは・・・ ん?俺の財布の中身・・・ これはまずい。 俺が理性を最大限に働かせて、財布の略奪を必死に阻止しようとしたときにはすでに、 ハルヒの手を伸ばした先にあった。 「ふぅーん、さぁーてさてっ!雑用キョン君の財布にはなーにが入ってるのかしらっ!」 俺は一瞬目を覆いたい気分になったが、もうどうしようもないのでハルヒを見つめた。 そもそも略奪を阻止したとして、アレだけを財布から抜くのなんて無理だろう。 これはしてやられた。 「・・・ちょっ、あんた・・・これ・・・」 ハルヒの顔が紅潮していくのが分かった。もうホント、これ以上ないくらいに分かりやすかった。 「あ・・・あたしは別に、それ、本気のつもりじゃ・・・っと、その、冗談よ!2ヶ月はやいエイプリルフールなのっ! あ、あんたもそれ見て冗談にしちゃきついなとか・・・い、いってたじゃないの! もう1年以上経つのに・・・それを・・・財布に入れてるって・・・」 どうしよう、ほんとにこれ。 団長様直々のお言葉だったので入れておきましたとか? どう考えても言い逃れにしかならない。 俺は・・・ 俺が3日間意識を失っていたときに、寝ずに俺を看病してくれていたハルヒ。 世界が改変され、北高から姿を消したハルヒを全力で探し始めた俺。 バレンタインデーで年々グレードアップするチョコを俺にくれたハルヒ。 どこかでポニーテール姿のハルヒを望んでいる俺。 雨の日の帰り道、結果的に相合傘を望んだハルヒ。 ・・・鍵をそろえよ、か。 俺はこの状況とは無関係な、そんな言葉を思い浮かべていた。 あの時、俺は自分で意識したわけでもないのに、気が付いたら仲間を集めていたっけ。 気が付いたら。 もしかしたら、そんなはずはないとは思うが、 俺は全ての騒動や日常の中で、平行してもうひとつの鍵をそろえていたのだろうか。 涼宮ハルヒ、という鍵を。 「なぁ、ハルヒ」 「なによ」 口を開くまで時間がかかった俺の、やっとひねり出した言葉に、ハルヒは間髪入れずに返してきた。 この辺はこいつらしいな、とつくづく思う。 色々な言葉が思い浮かんできたが、なぜか俺は突拍子もないものを選び取ってしまった。 「俺、思うんだけどさ。曜日によって感じるイメージはそれぞれ異なるような気がするんだよ」 ハルヒが「はぁ?」という反応をしている。 まぁ、そりゃそうだろ。この場面でこんな言葉を投げかける奴は宇宙探しても俺ぐらいだろう。 「色でいうと月曜は黄色。火曜は赤で水曜が青で木曜は緑、金曜は茶色、日曜は白、だな」 ハルヒは変な顔を少しゆるませて、「ってことは、月曜が0で日曜が6になるわよね。」と返答する。 懐かしい会話が、立場を入れ替えて喋る形になったが、 俺はこの部分をあえて自分で言った。 「俺は月曜が1って感じがするけどな」 ハルヒはきょとんとした顔で、 「そりゃあんたが日曜になにもしてなくて、学校が始まる月曜が週の始まりのように感じたからでしょ」と答えた。 この場違いな問答で、俺は何かが分かったような気がした。 もちろん、そこまで深い意味を持って投げかけた質問なわけでもない。 「あんたの意見なんか誰も聞いてない、じゃないのな。」 ここら辺は俺の記憶力を素直に褒めるべきだな。 普通は4年前の会話を一字一句覚えているなんて、ありえないことだろうが。 その後のハルヒの一言が、後ほどかなり大きな意味を持つことになってしまったからな。 前後の会話はなんとなく覚えていたよ。ここまで鮮明だとは思ってなかったが。 「え、あたしそんなこと言ったっけ?」 ハルヒが首を傾げながら俺の問いかけに答えた。 ひとつ考察してみると、過去の記憶を探るうえで、局地的な言葉の存在を忘れることは 誰にでも多々あることで、それほど珍しいものでもない。 だが、俺にはハルヒがなぜ、その言葉を忘れてしまったのかがなんとなく分かっていた。 出会い、SOS団を作り、多くの出来事を越え、歳月が経った俺たちの関係。 そこには見えない信頼関係が出来上がっているように思える。 今のハルヒは、俺の意見を無視することはあっても全否定することはなくなった。 初対面と3年の付き合いでは、そりゃ内面の意識も変わるだろう。それは信頼関係とみて間違いない。 でも、ひとつひっかかることがある。それがさっきそろえた「涼宮ハルヒ」という鍵だ。 信頼関係というなら、俺と古泉の間にもあるようにハルヒと朝比奈さんの間にもある。 つまり、部員全員が信頼関係で繋がっているはずだ。それが、SOS団だろう。 じゃあ、俺とハルヒとの間には信頼関係をある意味で越えている何かがあるのだろうか。 そうでないと、ここまで鍵をそろえた理由が説明できない。 そして、何よりも謎になるのはこのカードを財布に入れていた俺である。 今思えば、俺はなんでこのカードを財布に入れているんだろうか。 まずそこが矛盾点になる。 ハルヒの顔が不意にうつむいた。 そして、おもむろにこう呟く。 「あんたも回りくどい奴よね。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」 強気に聞こえたその言葉は、どこか恥じらいの成分を含んでいた。 回りくどい、か。脳内の俺を説明するならこれほど端的な言葉もねーな。実に分かりやすい。 ・・・ どうして、もっとはやく気づかなかったんだろうな。 回りくどく考える必要なんてこれっぽっちもないじゃないか。 俺は、ハルヒと2人になった閉鎖空間のときと同じように、手をハルヒの肩に乗せ、ぐっと引き寄せた。 「な・・・なによっ」 ハルヒの顔が、凄く近くにある。 あの時よりももっと近く、遠めに見たら抱き合っているようにしか見えない距離にまで引き寄せた。 今までハルヒと過ごしてきた日常の中で、顔が今くらい近くに来たことは、何回かある。 ただ、今までと違うのは、体も凄く近くにあるということ。 いつぞやハルヒが言った「黙って溜め込むのは精神に悪いわよ」という言葉。 それを倣うように、左脳をフル回転させて思考した考えを忘れ、 ハルヒの言った「はっきり」の一言で浮かんだ思いをヘタクソな言葉に乗せて、俺は言った。 「ハルヒ」 「どうやら俺はお前の事が好きみたいだ」 ・・・ 結局少し回りくどい言い方になってしまった。 どうして俺はこうなんだろうな。まぁ、そこは個性として考えてくれればありがたいよ。 「・・・バカ」 俺の腕の中で、ハルヒはそう呟いた。 「すまん」 これ以上先、言葉は必要なかった。 あの時感じたときと同じように、ハルヒの唇は温かくも湿りをもっている。 ________________________ | |本命、かも。 |________________________ 回りくどくなく、やたらストレートだったこの言葉。最後にやや照れ隠しのように記された団長のキメ台詞。 そういえば渡される前の日にハルヒが国語辞典を読み漁ってたな。こいつに穏やかってのは変だが。 ともかく、こうして俺はここでハルヒを立ちながら抱きしめ、唇を重ねている。 時が止まって欲しいとも感じたさ。体中に幸せを感じていたからな。 そんな状況下で、全く予期せぬ事態が発生した。 ガチャッ! 扉が勢いよく開いた。 こういう間の悪い奴を俺は一人知っている。 そのT君はアホなので変な方向に勘違いしてくれて助かったが、この状況はそうともいかない。 ドアノブをまわす音から扉が開くまで幾分かの間があったので、ハルヒから体を離すには充分だった。 離れるハルヒの顔が、どこか名残惜しそうな、そんな雰囲気を醸し出している。 それにしても、誰だ。いきなり。 だいたい今は授業中だろ。文芸部は今でも実は地下で突拍子もない活動をしてるのか? 授業が終わるまでも、あと30分くらいは時間があるはずだ。 すると、 パァン!という小さな火薬音と共に、これまた見覚えのある顔の奴が出てきた。 今のはおそらくクラッカーだろう。 「おやおや、ちょっと入室するにはタイミングが早すぎましたかね?」 古泉だった。 すると、ガタリ、という音と共に掃除ロッカーから長門が出てきた。 こりゃまずい、古泉はともかく長門は顛末全部分かってるんじゃないだろうか・・・ 古泉の後ろからは、なぜかメイド服を着ている、(大)と(小)の間くらいに成長した朝比奈さんが出てきた。 朝比奈さんの位置づけはとりあえず(中)ってことにしておこう。 「これはいいアダムとイヴですねぇ」 古泉がいつものニヤケ面を100倍増長させたような顔で皮肉を言うと、 「涼宮さんにもこんなところがあったんですねぇ!キョンくんを部室に呼び出すなんてぇ」」 「んなっ!ち、ちょっとみくるちゃん、違うって!これは、あの、その!偶然よ偶然!」 朝比奈さん(中)がほほえみながらハルヒをちょんっと小突いた。 意外な光景だった。 というか、朝比奈さんはわざわざ未来からやってきたのだろうか。 それにしても、ハルヒにちょっかい出すなんて、朝比奈さんは色々と成長していくんだな、と感心した。 体の方も順調に朝比奈さん(大)に向かって邁進しておられるご様子。 「・・・これはドッキリだったのか?」 そうつぶやくしかなかった。そりゃそうだろ。 「いえ、僕たちは特に打ち合わせなんてしていませんよ。」 と古泉が答えた。 じゃあなんだっていうんだ、その準備のいいクラッカーといい朝比奈さんの姿といい。 「よく分かりません。ただ、なんとなくです。クラッカーを用意させていただいたのも、 ただの僕の気まぐれです。なんとなく、皆さんと会える気がする。ただ、そう考えて北高を訪ねただけです」 少し動機は違うものの、古泉がここを訪れた理由はなんとなく俺と似ている。 懐かしい気持ちもあったが、少しだけこいつらに会える気がしていた。 よくもまぁ、とんでもないタイミングで出てきやがったがな。 でもこの理屈じゃ朝比奈さんとお前はともかく、長門の説明が付かないだろ。 掃除ロッカーに入ってるとか、こうなることを知ってないと無理だ。 「長門さんは何かが起こる気はしていたようですよ。もしかして、お二人を驚かせたかったのでは?」 そんなはずがあるかい。 と思いながらも、無表情とは少し違った、どこか笑いの成分をわずかに含んでいる顔つきをしている長門を見た。 長門はピクリとも動かずに、一言 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・ こいつ、なかなか痛いツボを突いてきやがる・・・ ハルヒはまだ朝比奈さんとじゃれあってる。いい景色だ。 それはいいとして、この恥ずかしい状況を少しでも逸らすために、この偶然性への疑問を問いかけた。 「・・・古泉。ハルヒはたしかにお前ら全員を集めるつもりでいた。これは間違いない。 ってことは、いつもの通りハルヒがそう望んだからお前らと、そして俺がここに来たという理屈も通る。 だが、あいつはバレンタインデーの時のこともあったが、こういう恥ずかしい結末になるのを 一番嫌がるような回りくどい奴だぞ(俺が言えることではないが)。 だとしたら、この状況はなんなんだ?起こりえないことが起こっているんじゃないのか?」 俺の長い長い問いかけに対し、古泉は意味をすぐに理解したのか、こう返してきた。 「涼宮さんが完全な神ではないから、と説明することも可能でしょうが、私は違うと思いますね。」 じゃあなんなんだよ。いい加減頭が混乱してきた。 「簡単なことです。涼宮さんが望み、あなたが望み、僕が、そして朝比奈さん、長門さんが望んだから。 これで説明がつきますよ。望む、の捉え方を少し変えて考えてみてください。」 俺が望み、他のみんなが望んだこと。 ああ、そういうことなのか。 文芸部の部室。かつてここはSOS団の拠点であり、根城であり、我が家だった。 団員は、すでに全員がこの北高を卒業している。 SOS団は団長の「永久に不滅」の言葉どおり、解散はしていない。残り続けている。 いつもの喫茶店がいつもの喫茶店であるように、この部室もまた、姿かたちは変わっても、SOS団の「家」だ。 俺たちとって文芸部部室は、もう駅のホームのようにただ通り過ぎるだけの場所ではなくなっていた。 みんなで過ごした日々を、決して忘れたくない。 環境は変わっても、その思いがあるからこそ、この部室に来る意味がある。 SOS団の創立記念日。この日だからこそ、みんな特別な思いを抱いているはずだ。 ハルヒが現実にしたわけじゃない。それぞれ思っている思いが合致したからこそ、 こうしてSOS団の面々はここにいる。もう一度、部室でみんなと一緒にいたい。それが「望み」なんだろう。 この不思議な団結力が、信頼関係ってやつなのかな。 それにしても、思わぬ展開になってしまったけど。 「なぁーんだ!電話する手間がはぶけたじゃない!みんな来るなんて!」 ハルヒは何事もなかったように、元気な声で団員を見回した。 「ちょうどいいわ、こんな機会もうないでしょうしね。やーっぱSOS団の活動拠点はここじゃないと!」 そういってハルヒは部室の隅にあった勉強机を自分のホームポジションに移動し、 その机の上であぐらをかいて、「第何回か忘れちゃったけど、定例会議の開始よ開始!」と笑顔で言った。 現在の時刻は3時50分。あと30分もすれば、正規の部員が部室に戻ってくるだろう。 不法侵入で通報されないためにも、30分でここから立ち去らないといけない。 メイド服の朝比奈さんは、どこからともなく水筒と湯飲みを取り出し、団員についで回った。 長門は教室の隅でハードカバーの本を読んでいる。ページをめくる音以外たてずに。 古泉はこちらを向いてニコニコしながらも、ときどきハルヒの意見に相槌を打っている。 30分。わずかな時間であっても、SOS団の活動に支障はない。 団長の名言「時間より中身」、ってな。 この状況を作り出した巡りあわせ、というより団員の不思議な団結力。 俺は心から誇りに思うよ。 SOS団は、最高だってな。 おわり えぴろーぐ 楽しい時間は、あっという間に過ぎた。 チャイムの音が聞こえると、団長の声のもと一斉に俺たちは学校を出た。 ・・・誰かに泥棒と間違われていないことを切に願う。 当初の予定通り、市内探索を行うことになった。 久しぶりだな、この感覚。1人で出歩くことはあるが、団員みんなで回るのはやっぱり楽しい。 そういえば、学校前の坂を全員で下ったことはあんまりなかったな。 「さぁて、ひっさしぶりの探索だから、相手も油断しているでしょうね!チャンスだわ!」 ハルヒは先頭をいつもの大股歩きで邁進している。元気な奴だ、全く。 さらに「本日の予定を説明するわよぉ!」 と高々に声を張りあげ、気の遠くなるようなハードスケジュールを宣言した。 おいおい、喫茶店や図書館、公園はともかく阪中の家って完全に逆方向じゃねーか。 「大丈夫よ!もう阪中さんには連絡しておいて、快い返事をもらったわっ♪」 いや、そういうことじゃなくてな・・・。まぁいいか、ルソーは元気にしてるんだろうかな。 ハルヒの言う場所の1箇所1箇所がそれぞれ思い出の1ページのようで、思わず顔が緩む。 全ての箇所を回り終えたころ、すでに時計の針は9時を過ぎていた。 まだ4月も上旬ということもあってか、夜になると横風が冷たい。 もうちょっと着込んでこればよかったかな、とも思うが、そもそも家を出る時にはこんなことは想定してなかったな。 「今日は楽しかったわねー!やっぱSOS団はこうでなくちゃ!」 ハルヒの顔が今日一番の満面の笑みになっている。ああ、俺も楽しかったさ。 で、いつまでその白ひげを付けてるつもりだ? 「んなっ、ちょっとぉ・・・!あんたもっと早く教えなさいよねっ!」 そういってハルヒは恥ずかしそうな顔をしながら、 口元についているシュークリームの残りカスをぺろんと舐めた。 駅に着いた俺たちは、名残惜しい感情を隠しきれないような顔でそれぞれ別れを告げた。 朝比奈さんは大きく手を振りながら改札の向こうへ、古泉はニコニコしながら駐輪所へ、 長門はそのまま自宅の方角へとテクテク歩いていき、ハルヒは「じゃあねー♪」と言ってみんなを見回す。 「んじゃあな。」と俺は軽く手をあげ、振り返って歩き出した。 5分くらい歩いただろうか。路地を抜けて公園の前を通りかかったとき、 後ろから誰かが俺の服をつまんでいるのが分かった。 そこにいたのは、 さっき駅前で別れを告げたばかりの、 ハルヒだった。 部室の時のように、顔を赤らめながら俺を見上げたハルヒは、消え入るような声で、 「・・・財布、まだ交換してないでしょ。」とつぶやいた。 ああ、そういえばそうだったな。あの時はいきなり古泉たちが現れて・・・ 「それに・・・ま、まだ・・・答えてないでしょ、あ、あんたの・・・こ、こっ、こく・・・」 とりあえず、道の真ん中でそんな話するのもなんだから、どっか座ろうぜ。 そう言った俺はハルヒの手を引き、公園にある大きなベンチに座った。 ハルヒは俺の手を握ったまま、顔を逸らして言葉を続けた。 「まったく・・・あ、あんたもいきなりすぎるのよっ・・・。その・・・心の準備ってものがね・・・」 3年間、俺は心の準備を常にお前によって無視され続けたけどな。 「そ、それとはまた話が別よ・・・!その、あの・・・。」 吹く風にかき消されるような、ハルヒらしからぬ小さく弱い声。 ハルヒの萌え部位がポニーテール以外にもあったということを、もっと早く知りたかったぜ。 谷口の話では、中学生時代、こいつはされる告白をすべて承諾していたらしい。 2週間とか直後に「普通の人間の相手をしている暇はないの」と言ってフッていたみたいだが、 どんなにつまらない奴の告白も受け入れていた。 おそらく、そのときもハルヒらしくサバサバと受け入れていたのだろう。 ところが今はどうだろう。 中学時代のハルヒがいちいちこんな風に恥ずかしそうにしていたとはまったく考えられない。 俺は超能力者でも未来人でも宇宙人でもないから、 ハルヒの頭の中をインチキして覗くことはできない。できたとしても覗こうとは思わないけどな。 でも、ひとつ分かることは、 ハルヒが俺のことを特別な存在だと考えてくれているということ。 それが何よりも、 嬉しかった。 「もう・・・、ひ、ひとの言おうとしていた台詞を先に言うんじゃないわよ・・・」 ハルヒはそう言って、俺に寄り添ってきた。 「あ、あたしのほうが、あ、あの、あんたのことを・・・・」 それ以上は言葉が出なかったみたいなので、俺はちょっとからかってみたくなり、 「団長が団員の心配をするのは当然だよな」と冷静にツッコミを入れた。 「う・・・ち、ちが・・・。そういうことじゃなくて、その、団員とかじゃなくて、あたしは・・・」 これ以上はちょっとハルヒが恥ずかしすぎるみたいで可哀想なので、 そのままぎゅうっと抱き寄せてやった。 「あ、あたしはさっきみたいな中途半端なのは嫌いなんだから・・・ちゃ、ちゃんと心を込めなさいよ」 お前もな。 部室のときよりも、柔らかく。 俺たちは唇を重ねた。 「だ、団長と下っ端のヒラ団員だけで行う特別定例会議は・・・か、必ず週3回以上行うわよ!」 「都合が悪くて週2回しか無理だったらどうするんだ」 「んなことがあったら罰ゲームよ罰ゲームぅ♪団長の命令は絶対なんだからねっ!」 そんなことを話しながら、俺たちは寄り添って夜空を見上げた。 罰ゲームか。 どんな罰を受けることになるんだろうな。 できることなら、一度も罰ゲームを受けないで済むようであってほしい。 谷口よ。 お先に失礼させてもらうぜ、悪いがな。 お前のお得意の女子ランクの判断基準がどういうものなのかは知らん。 でもな、 俺はどんなランクよりも上に来るような、 自慢の子を見つけたぜ。 ハルヒを家まで送り届け、特上の笑顔を堪能したあと、俺は自宅へと向かった。 今ほど幸せな気分であったことは、人生においておそらくなかっただろう。 家に帰る道の途中、長門のマンションの横を通りがかった。 長門、卒業してからなにしてたんだろうな、と気にはなったが、 なにせ今は頭の中がハルヒでいっぱいなので、深く追求するのはやめた。 すると、マンションの入り口に誰かが立っているのが見えた。 遠目には誰だかほとんどわからなかったが、マンションの光で周囲が照らされている位置まで来て、 そこにいる人物が他でもない長門であると分かった。 「お前、なんでまた外に出てるんだ?誰かを待っていたのか?」 「私が待っていたのはあなた」 意外な言葉が返ってきた。 なんだ、せっかくいい気分だというのに、また情報思念統合体だか何だかの騒動に巻き込まれるのか? 「これ」 長門はそう言ってひとつの封筒を俺に渡した。 「家に帰ったらあけてみて」 そう言って長門は、自室へと帰っていった。 _________________________________ | | 無視できない重要な問題が発生した。 | あなたは明日の午後1時13分に、隣町の駅前から南南西徒歩10分の | 距離にある建物の裏口から中に入って、 | その建物の1階にあるコインロッカーを開けなければならない。 | | 涼宮ハルヒを必ず連れて行くこと。ただし、涼宮ハルヒに詳細を伝えてはいけない | |_________________________________ ・・・・・・・・・ ・・・マジかよ、長門。今度は何が起こるんだ? 今までもいろいろなことに巻き込まれてきたが、少なくともこの1年間は平穏だった。 久しぶりにゴタゴタ巻き込まれることになりそうだぜ。 ただ、なんだろう。 このワクワクする気持ちは。 ともかく、長門がそういうなら従うしかない。 それにしてもハルヒを連れて行かなければいけないって、珍しいケースだな。 部屋に戻り電気を消して布団に入った俺は、色々と忙しかった一日を振り返りながら、 枕の下にかつてハルヒとツーショットで撮った写真をおいて、眠りについた。 翌朝。 まずはハルヒを呼び出さないといけない。詳細は隠さないといけないそうだから、そうだな・・・ 名目上は・・・特別定例会議、か。 「もしもし、どしたのキョン?え、今日会いたいって・・・?え、うん・・・別にいいけど・・・わかった、12時半に駅前ね。」 これから何が起こるかはまったく予測がつかない。 ただ、ハルヒと一緒ならなんとかなりそうな気がする。 「おっまーたせっ♪ってあれ、あんたが先に来るなんて珍しいじゃないの」 まぁな。朝から落ち着かなかったから集合時間の30分前にはここに来ていた。 さて、団長さん。一番最後に来た者は罰金、だな。昼飯代が浮いたぜ。 「んなっ、ちょ、キョンズルいわよあんた!まぁ・・・別にいいけど、今日・・・お弁当作ってきたから」 なんという桃色の図式なんだろうかこれは。 ハルヒの料理の腕前がたしかなのはクリスマスパーティの頃から周知の事実なので、これは期待できる。 ありがとな。 「お、お礼なんて別にいらないわよ!それよりも、一体どこに行くつもりなの?」 どこへ、か。詳しくは俺もわからないんだけどな。 とりあえず長門の指示通りに動くしかない。 「はぁ?詳しくわからないってなんなのよそれ。まぁ、たまにはあんたの行きたいところへ行ってもいいけどね」 なんとかハルヒに詳細を話さないように説明し、俺たちは隣町行きの電車に乗った。 「隣町って特に目立つような店も遊ぶようなとこもないわよねぇ、どこかあったかしら」 そんなこと言われても俺も詳しくは知らないし、 そもそも隣町には滅多に行くことなんてないから地理も分からん。 「・・・どうしよっかな、「あーん」ってのはベタよねぇ。うーん、キョンが・・喜ぶような」 ぼそぼそと小さい声でハルヒが何かつぶやいていたようなので、 「ん、なんか言ったか?」と聞いてみたが、 「んな、な、なんでもないわよ、なんでも!」とお茶を濁される。 気になる。これは気になる。 そんな会話をしているうちに、電車は隣町の駅へと到着した。 さて、ここからが本番だ。 時間は現在ちょうど1時。あまりのんびりしているヒマはない。 南南西の方角、詳しい指定はされていないのでまっすぐ、とにかく直進すればいいのだろう。 長門、これからなにが起こるのかはわからないが、 できれば頭を使わなくて済むようにしてくれよ。 レポート仕上げの疲れで頭の方はあまり調子がよくないからな。 ハルヒから特に要求されたわけではないが、 俺たちはお互い手をぎゅっと握り締めながら、指定地点へ向かって歩いた。 1時13分。 おそらく、ここだろう。駅から歩いてきた方角にある建物で、 裏口がこちらを向いてるのはこの大きな教会のような外観の白い建物だけだ。 中に入ってみる。綺麗な内装だな、どこか神秘的な感じさえする。 これはなんの建物なんだろうか。 なぜか、ハルヒは中に入ってからやたらとそわそわしている。 「ちょ・・・ここって・・・ね、ねぇ、キョン、わ、わたしたちにはまだ早いってば・・・///」 ハルヒは突然顔を赤らめた。 ここはどこなんだ? 「バ、バカ・・・。こんなところに連れてくるんだったら、さ、最初からそういいなさいよぉ・・・」 ハルヒはやたらと恥ずかしそうにしているが、とりあえず一刻の猶予もない。 俺はハルヒの手を引いて、コインロッカーがあるというところへ向かって駆け出した。 長門から渡された封筒には同封物として、ここのコインロッカーに対応していると思われる鍵が入っていた。 コインロッカーを発見した俺は、封筒から鍵を取りだし、番号を照らし合わせる。 69番か・・・えーっと、69、69はっと・・・ あった。 コインロッカーというにはあまりに大きなサイズのロッカー。 大きな駅に置いてある、人間1人がなんとか入れるくらいの大きさのロッカー。 って、まさかここから人かそれに順ずる何かが出てくるってことはないよな。 というか、勘弁してくれ、そういうのは。 俺はおそるおそる、ロッカーの鍵を開け、扉を引いた。 とんでもないものが飛び出してくるとか、 異世界への扉が開くとか、何年か前へ遡行するとか、そんな予想をしていた。 中に入っていたのは、また封筒だった。 この中に過去と未来を繋ぐデバイスでも入ってんのか? それとも、また別の場所に行って何かをしろという指令書でも入ってんのか? なにが出てきても驚かない覚悟をもって開いた封筒の中には、 さらに小さな封筒が2つ入っていた。 そのうちひとつには、 「祝電 長門有希」 と書かれている。 封を開けて字面を読んでみると、短く1行でこんな言葉が書いてあった。 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・・・っておい。 ・・・そういうことかい。 「・・・なぁハルヒ、ここなんていう場所だか分かるか?」 俺はやれやれとした顔でため息混じりにハルヒに問いかける。 「え・・・あ、あんたが連れてきておいて・・・な、なに言ってんのよ・・・け、結婚式場でしょ・・・」 これは皮肉交じりなんだろうか、それとも、マジで祝福してるんだろうか・・・ 掃除ロッカーの中で顛末を聞いていたとはいえ、的確な皮肉と言うかなんというか。 これは長門の意思なんだろうか。あえてこんなドッキリ作戦で皮肉を言おうと思ったんだろうか。 それにしても、長門。 お前はなかなか痛いところをついてくるな・・・。 終わり
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分裂の某シーン。 『涼宮ハルヒの驚愕』 ハルヒは一気に喋り終え、大きく深呼吸してから、そして奇異な目を俺の隣に向けた。 「それ、誰?」 「ああ、こいつは俺の……」 と、俺が言いかけた途中で、 「セフレ」 佐々木が勝手に回答を出した。 …ちょっとまて、今なんて言った? ハルヒの顔が形容しがたい驚愕めいた憤怒を交えた顔つきになってから 古泉のケータイのベルが鳴り始めたのは言うまでも無い。 ~DEAD END~
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γ-1 「もしもし」 山びこのように返ってきたその声は、ハルヒだった。 ハルヒが殊勝にも、「もしもし」なんていうのは珍しいな。 「あんた、風呂入ってるの?」 「ああ、そうだ。エロい想像なんかすんなよ」 「誰もそんな気色悪いことなんかしないわよ!」 「で、何の用だ?」 「あのさ……」 ハルヒは、ためらうように沈黙した。 いつも一方的に用件を言いつけるハルヒらしからぬ態度だ。 「……明日、暇?」 「ああ、特に何の予定もないが」 「じゃあ、いつものところに、9時に集合! 遅れたら罰金!」 ハルヒは、そう叫ぶと一方的に電話を切った。いつものハルヒだ。 さっきの間はいったいなんだったんだろうな? 俺はそれから2分ほど湯船につかってから、風呂を出た。 γ-2 寝巻きを着て部屋に入り、ベッドの上でシャミセンが枕にしていた携帯電話を取り上げてダイヤルする。 相手が出てくるまで、10秒ほどの時間がたった。 「古泉です。ああ、あなたですか。何の御用です?」 俺の用件ぐらい、察してると思ったんだがな。とぼけてるのか? 「今日のあいつら、ありゃ何者だ?」 「そのことなら、長門さんに訊いた方が早いでしょう。僕が話せるのは、橘京子を名乗る人物についてぐらいです」 「それでかまわん」 「彼女は、『機関』の敵対組織の幹部といったところですよ。まあ、敵対とはいっても血みどろの抗争を繰り広げているというわけでもないですが」 「なら、どんなふうに敵対してるってんだ?」 「彼女たちも僕たちも、そうは変わらないんですよ。似たような思想のもとで動いてますが、解釈が違うといいますかね。まあ、幸い、彼女はまだ話が通じる方です。組織の中では穏健派寄りのようですからね。あの朝比奈さん誘拐事件も、彼女の本意ではなかったと思いますよ」 ほう。お前が弁護に回るとはな。 「それはともかくとして、橘京子の動きは僕たちがおさえます。別口の未来人の方は、朝比奈さんに何とかしてもらいましょう」 まあな。朝比奈さん(大)だって、あのいけ好かない野郎に好き勝手させるつもりはないだろう。 「問題は、情報統合思念体製ではない人型端末です。何を考えてるのか、全く読めません。長門さんの手に余るようなことがあれば、厳しい状況ですね」 「長門だけに負担をかけるようなことはしないさ。俺たちでも何かできることはあるだろ」 「僕もできる限りのことはしますよ。でも、万能に近い宇宙存在に比べると、我々はどうしても不利です。こればかりは、いかんともしがたい」 それを覆す切り札がないわけではないがな。 だが、それは諸刃の刃だ。 「ところで、おまえのところにハルヒから連絡がなかったか?」 「いえ、何もありませんでしたが、何か?」 「いや、明日の朝9時に集合って一方的に通告されたんだが」 古泉のところに連絡がないとすれば、どうやら、明日ハルヒのもとに召喚されるのは、俺だけらしいな。 「ほう。デートのお誘いですか? これはこれは。羨ましい限りですね」 「んなわけないだろ。どうせ、俺をこき使うような企みがあるに違いないぜ」 「涼宮さんも、佐々木さんとの遭遇で、気持ちに変化が生じたのかもしれませんよ。奇妙な閉鎖空間については、先日お話ししたかと思いますが」 「あのハルヒに限って、それはありえんね」 「修羅場にならないことを祈りますよ。僕のアルバイトがさらに忙しくなるようなことは避けてほしいですね」 「勝手に言ってろ」 古泉との電話はそれで打ち切られた。 次は、長門だ。 今度は、ワンコールで出た。 「…………」 「俺だ。今日会ったあの宇宙人なんだが」 「彼女は、広域帯宇宙存在の端末機」 即答だった。 「俺たちを雪山で凍死させようとしやがった奴ってことで合ってるか?」 「そう」 「あの宇宙人とは、何らかの意思疎通はできたのか?」 「思考プロセスにアクセスできなかった。彼女の行動原理は不明」 「広域帯宇宙存在とやらの考えも分からんか」 「情報統合思念体は彼らの解析に全力を尽くしているが、成果は出ていない」 「そうか」 このあと、長門は、淡々とした口調でこう告げてきた。 「私は、情報統合思念体から、最大限の警戒態勢をとるよう命じられた」 長門の抑揚のない声が、異様なまでに重く感じられた。 γ-3 ハルヒにこき使われるに違いない明日に備えて寝ようとしたところを、妹が襲撃してきやがった。 しぶしぶ、妹の宿題につきあうこと1時間。 シャミセンと戯れ始めた妹を、シャミセンごと追い出すと、俺はようやく眠りについた。 γ-4 翌、日曜日。 妹のボディプレスで起こされた俺は、朝飯を食って、家を出た。 「遅い! 罰金!」 もはや規定事項となった団長殿の宣告も、今日ばかりは耳に入らなかった。 なぜなら、ハルヒの隣に意外な人物が立っていたからだ。 「なんで、おまえがここにいるんだ?」 ハルヒの隣には、佐々木の姿があった。 「酷いな、キョン。僕がここにいるのがそんなに不思議かい? まあ、驚くのは無理もないが、そんなに驚くことはないじゃないか。昨日、涼宮さんに電話で提案してみたのだよ。昨日会ったのも何か縁だろうから、いろいろと話し合いたいとね」 「あたしも聞きたいことがいろいろとあるし、快諾したってわけ」 ハルヒ。佐々木がお前の電話番号を知っていることを不思議に思わなかったのか? まあ、橘京子あたりが調べて佐々木に教えたんだろうけどな。 「事情は分かった。だが、なんで俺まで一緒なんだ? 話し合いたいことがあるなら、二人で話し合えばいいことだろ?」 「キョン、君は相変わらずだね。この調子じゃ、涼宮さんもだいぶ苦労してるんじゃないかな」 待て。なんでそんなセリフが出てくるんだ? この唯我独尊団長様に苦労させられてるのは、俺の方だぜ。 「フン。いつものところに行くわよ!」 なぜか不機嫌になったハルヒの号令のもと、俺たちはいつもの喫茶店に向かった。 ハルヒは、俺の財政事情には何の考慮も払わず、ガンガン注文を出しまくった。 話し合いというのは、何のことはない。 俺の中学時代と高校時代のことを互いに話すというものだった。 まずは、ハルヒが、佐々木に、高校時代の俺のことについて話した。 なんというか、話を聞いているうちに、俺は自分で自分をほめたくなってきたね。ハルヒにあれだけさんざん振り回されてきても、自我を保持している自分という存在を。 「キョン。君は、実に充実した学生生活を送っているようだね」 それが佐々木の感想だった。 なんだかんだいっても、充実していたというのは事実だろう。 だが、俺はこう答えた。 「ただ単にこき使われてるだけだ」 「くっくっ。まあ、そういうことにしておこうか」 次は、佐々木が、ハルヒに、中学時代の俺のことについて話した。 話を聞いているうちに、ハルヒの顔がどんどん不機嫌になっていく。 聞き終わったハルヒは、不機嫌な顔のままで、こう質問してきた。 「ふーん。で、二人はどういう関係だったわけ?」 「友人よ」 さらりとそういった佐々木を、ハルヒはじっとにらんでいた。 「あのなぁ、ハルヒ。確かに誤解する奴はごまんといたが、俺たちは友人だったんだ。やましいことなんて何もないぜ」 「友人以上ではなかったってこと?」 「それは違うわよ、涼宮さん。正確には、友人『以外』ではありえなかったというべきね。少なくても、キョンにとってはそうだったはず」 どこが違うんだ? 俺のその疑問には、誰も答えてはくれなかった。 「はぁ……」 ハルヒは、大げさに溜息をつきやがった。 「あんたが嘘をついてるなんて思わないわよ。でも、嘘じゃないなら、なおのこと呆れ果てるしかないわね。あんた、そのうち背中からナイフで刺されるわよ」 おいおい、物騒なこというなよ。 ナイフで刺されるのは、朝倉の件だけで充分だ。 「僕も同感だね」 佐々木まで賛同しやがった。 俺がいったい何をしたってんだ? 茶店代は当然のごとく俺の払いとなった。 総務省に俺を財政再建団体の指定するよう申請したい気分だ。俺の懐具合が再建するまでには、20年はかかるだろうね。 そのあと、三人で不思議探索となった。 傍から見れば、両手に花とでもいうべきなんだろうが、この二人じゃ、そんな風情じゃないわな。 そういえば、ハルヒとペアになるのは、あの日以来か。 結局のところ、俺はハルヒにさんざん振り回され、佐々木の小難しいセリフを聞き流しながら、一日をすごすハメになった。ついでにいうと、昼飯までおごらされた。 そして、駅前での別れ際。 俺がふと振り返ると、ハルヒと佐々木は二人でまだ何か話していた。 何を話しているかは聞こえなかった。 知りたいとも思わなかった。この時には。 γ-5 月曜日、朝。 昨日の疲れがとれず、俺は重い足取りで、あのハイキングコースを這い上がった。 学校に着いたころにはずっしりと疲れてしまい、早くも帰りたくなってきた。そんなことは、俺の後ろの席に陣取る団長様が許してくれるわけもないが。 ハルヒは、微妙にそわそわした感じだった。 また、何か企んでいるのだろうか? 俺が疲れるようなことでなければいいのだが。 疑問には思ったが、疲れた体がそれ以上考えることを拒否し、俺は午前中の授業のほとんどを睡眠という体力回復行為に費やした。 寝ている間に、何か長い夢を見たような気がしたのだが、目が覚めたときにはきれいさっぱり忘れていた。 昼休み。 なぜかハルヒが俺の前の席に陣取り、椅子をこちらに向けてドカッと座った。 俺の机の上に、弁当箱を置く。 「今日は弁当なのか?」 「そうよ。そんな気分だったから」 机の上には、俺の弁当箱とハルヒの弁当箱が並んでいる。 こうして、二人で向かい合って、弁当を食うハメとなった。 なにやら誤解を受けそうな光景だ。実際、クラスのうち何人かがこちらをちらちら見ながら、こそこそと話をしている。 ハルヒは、相変わらず健啖ぶりで、弁当を平らげていた。 「その唐揚げ、おいしそうね」 ハルヒは、そういうや否や、俺の弁当箱から、唐揚げを取り上げ、食いやがった。 「ひとのもん勝手にとるな」 「うっさいわね。しょうがないから、これをやるわよ」 ハルヒは、自分の弁当箱から玉子焼きを箸でつまむと、そのまま俺の口に突っ込んだ。 「むぐ」 クラスの女子から、キャーというささやき声が聞こえる。 とんだ羞恥プレイだな。 こりゃいったい何の罰ゲームだ? 「感想は?」 ハルヒが、挑むような目つきで訊いてきた。 「うまい」 実際、それはうまかった。 「当たり前でしょ! 団長様の手作りなんだからね!」 そういいながら、ハルヒの顔は上機嫌そのものだった。 だがな、ハルヒよ。 いくらお前が鋼の神経をしているとはいえ、こういう誤解を受けかねないような行為は避けるべきだと思うぞ。 まあ、誤解する奴はいくら説明してやったってその誤解を解くようなことはないんだけどな。 俺が中学3年生時代の経験で学んだことといえば、それぐらいのものだ。 その日の放課後、俺とハルヒはホームルームを終えた担任岡部が教卓を降りると同時に席をたち、とっとと教室を後にした。 いつものように部室に行くのかと思いきや、 「キョン、先に行っててくんない? あたしはちょっと寄るところがあるから」 ハルヒは鞄を肩掛けすると、投擲されたカーリングの石よりも滑らかな足取りで走り去った。 はて、何を企んでるんだろうね? そういや、あいつは、朝から妙にそわそわした感じだったな。 まあ、考えても仕方がないので、俺はそのまま部室に向かった。 γ-6 部室に入ると、既に長門と朝比奈さんと古泉がそろっていた。 「涼宮さんは?」 古泉がそう訊いてきたので、答えてやった。 「授業が終わったとたんにどっかにすっ飛んでいきやがったぜ」 「そうですか。何かサプライズな出来事を持ってきてくれるかもしれませんね」 「世界が終わるようなサプライズは勘弁してほしいぜ」 「まあ、それはないでしょう」 そこに、SOS団の聖天使兼妖精兼女神様である朝比奈さんがお茶を出してくれた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 「ところで、昨日はどうだったんですか?」 古泉がにやけ顔で訊いてきやがった。 いつもだったら無視しているところだが、あの佐々木の周りにはSOS団と敵対している超常野郎が集まっている。一応、古泉の見解も聞いてみたかった。 俺は昨日の出来事をはしょりながら説明してやった。 「おやおや。まさに両手に花ではありませんか?」 「あの二人じゃ、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかったね」 「まったく、あなたという人は」 「それより、佐々木のやつは、あいつらに操られてるんじゃないだろうな?」 心配なのは、そこのところだ。 「それはないと思いますよ。昨日の一件は、佐々木さんの自由意思でしょう。問題は、その自由意思を利用しようとする輩が現れることです。先日もお話ししましたが、特に警戒すべきは周防九曜を名乗る個体です」 俺は、長門の方を見た。 「長門の意見はどうだ?」 長門は、分厚いハードカバーから視線を離さず、淡々と答えた。 「私も、古泉一樹の意見に同意する」 「そうか」 一応、もう一人のお方にも聞いておくか。 「朝比奈さん」 「はい?」 「二月に会った、あの未来人のことですが」 「ああ、はい。覚えてます」 「あいつらが企んでいることって何ですか? ハルヒの観察ってわけでもないらしいって感じなんですが」 「えーっと……あの人の目的は、そのぅ、あたしには教えられていません。でも、悪いことをするために来たんじゃないと思います」 うーん。自分を誘拐した犯人たちの仲間だというのに、不思議なことに、朝比奈さんはあの野郎には悪い印象は持ってないようだ。 仏様のように広い御心の持ち主なのは結構ですが、もうちょっと警戒心とかを持った方がいいと思いますよ。 それはともかく、とりあえず、警戒すべきは周防九曜を名乗る宇宙人もどきであるというのが、結論になりそうだな。 その話題は、そこで打ち切りになった。 「どうです、一勝負」 古泉が出してきたのは、囲碁かと思ったら、連珠とかいう古典ゲームらしい。 「五目並べのようなものです。覚えたら簡単ですよ」 俺は古泉の言うままに盤上に石を置きながら、実地でだいたいの遊び方を教わった。 朝比奈さんのお茶を片手に二、三試合するうち、たちまち俺は古泉に連戦連勝するようになる。 いつもどおりまったりと時間が過ぎていった。 それにしても、ハルヒは遅いな。 そう思った瞬間に、爆音とともに扉が開いた。 「ごめんごめん。待たせたわね!」 部室にいた団員全員の視線が、ハルヒに集ま……らなかった……。 団員の視線は、ハルヒの後ろに立っている人物に集中していた。 「みんな! 今日から入団した学外団員を紹介するわ! 佐々木さんよ!」 そこにいたのは、紛れもなく佐々木だった。 続き 涼宮ハルヒの驚愕γ(ガンマ)
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今日もハルヒの声が聞こえる。 「風邪を引くなんて、気合いが足りないのよっ!」 おいおい、その台詞は医者の言う台詞じゃないぞ、ハルヒ。 「その程度の風邪で薬なんか要らないわっ!気合いで寝て治しなさい!」 もう少し、優しく言った方がいいんじゃないか? 「今の段階では、安静にして養生するのが一番です」って感じで。 「まあまあ、ああいう話し方こそ涼宮さんらしくていいんじゃないでしょうか?」 お前はいつまでハルヒの太鼓持ちをするつもりか? 俺が言っているのは「ハルヒらしさ」の問題じゃなくて、「医者らしさ」の問題だぞ? 「ははは、でも、あなたも随分医者らしくない感じですよ?」 確かにな。「キョン先生」はないだろう。院内放送でもそう呼ばれたぞ。いつまでこのあだ名がついて回ることやら。やれやれ。 説明しよう。 高校時代、ハルヒの特訓のおかげで成績を持ちなおすどころか、大飛躍させた俺は、何を考えたのか近くの医大になんか受かってしまった。なぜかハルヒも一緒だがな。 だが、一年先に卒業した、麗しのマイ・スウィートエンジェル・朝比奈さんは何故か看護学校に行っていた。 打ち合わせ不足が原因だろう。なにより、俺の成績が医学部に行けるほど上がるとは、俺自身も思わなかったしな。 朝比奈さんに「ひどいですぅ、、なんで教えてくれなかったんですかぁ?」と涙目で言われたときには、何とも言いようがなかったな。 で、朝比奈さんの方が先に卒業して看護婦として就職したわけだが、就職先が例の機関の病院とはな。古泉が手を回したのか。 俺たちもなにやらかにやらやらかしながら、どうにか医大を卒業し、医者になったわけだが、研修医としてつとめたのが、機関の病院だぜ?そのときのあいつの台詞を思い出すな。 「そちらの方が何かといいのではないですか? 我々にとっては涼宮さんの監視には非常に都合がいいわけですし、なにより、あなた自身が涼宮さんと.....」 これ以上言うな。大体お前の言いそうなことは想像できる。 と言うわけで、冒頭の台詞に戻るわけだ。 ちなみにハルヒも俺も長門も古泉も内科だ。ここまで合わせなくてもいいだろうとは思うがな。 ああ、言っておこう。朝比奈さんはハルヒの診察室付きだ。あのコンビで良く診療が出来るものだ。いや、心配なのは朝比奈さんのことじゃないぞ。ハルヒの方だ。 まあ、どじっこナースな朝比奈さんが今まで医療ミスを起こさずに来れたのも奇跡としか思えないがな。さて、ハルヒ大先生の診察室でも覗いてみるか。 「あ、キョン!丁度いいところに来たわ!」 ハルヒよ、 いいところ とはどういうことだ? 「ねえ、この病院の白衣ってイマイチじゃない!これじゃ、みくるちゃんの魅力も半減よ!?」 そんなこと言ってもしょうがないじゃないか。それが制服ってもんだろう。 「この馬鹿キョン! それだからあなたは医者になっても雑用係のままなのよ! いい?制服やルールって物は、都合が悪くなったら、変えてしまえばいいのよっ!」 で、もう一度聞こう。 いいところ ってなんだ? 「で、みくるちゃんのために新しいナース服を用意したのよ。キョン、よーく見なさいっ! みくるちゃん、入っていいわよ!」 「は、はーい.....」 正直、たまりません。 「ちょっとキョン!何いやらしい目で見てるのよ!」 やれやれ。おまえは見ろと言ってるのか見るなと言ってるのか、どっちなんだ? それより不思議なのはあの寡黙な長門さえも外来を担当していると言うことだ。何故か患者がすぐに良くなると言うのですごく人気だ。 医者としての知識は確かに長門が最優秀だ。しかし、あの宇宙的パワーで情報改変をしているのではないだろうか? ちょっと診察室を覗いてみようか。おや、診察中のようだ。 「胃の調子が悪いのですが...」 「あなたは胃癌。」 おい、長門!いきなり診断をつけるな!普通は胃カメラやらレントゲンやらで見つける物だぞ! 「......大丈夫。生体情報をスキャン。胃に早期の腫瘍を発見した。胃カメラを使わなくても分かる。」 いや、でも、検査をせずにいきなり病名を告げられるのはどうかと思うぞ? 「......そう。」 で、治療はどうするんだ。外科に頼んで手術の手配をしないとな。 「必要ない。腫瘍の情報結合を解除した。もう治っている。」 で、このぽかーんとした顔をしている患者をどうするんだ? 「記憶を修正。胃炎の薬を処方して帰ってもらう。」 やれやれ。宇宙的パワー全開だ。 古泉の野郎はあの0円スマイルでずいぶんと患者に人気がある。まあ、病院に来るのは年寄りばかりだから、婆さんに人気があると言ってもいいだろう。 「そういうあなたこそ優しくて人気があるのですよ?みなさん、慕ってくれているじゃないですか。」 うるさい。顔を近づけるな。そもそも慕ってくれていたって、俺の本名を知ってる患者は1割もいないんじゃないか? ピンポーン「内科のキョン先生、内科のキョン先生、病棟にご連絡ください」 やれやれ。仕方がない、仕事に戻るか。 ---end. 続かない。