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九章 まどろむ朝。今日もまたSOS団雑用係としてのハルヒに振り回される一日が始まるのか、という北高に入学して以来、 ずっと抱いている憂鬱ながらまんざらでもない感傷に浸り、 その直後、現在自分の身体に起こっている異変を思い起こし、絶望する。 それが俺のここ一日二日の朝だった。 それだけでも俺は今すぐ自分の首を締め上げたい衝動にかられるのに、今日はさらに最悪だ。 俺は昨日ハルヒにお別れを………… 何だ、もう学校に行く必要もないじゃないか。 お袋、親父、それに妹よ。悪いな、俺は今日この家を出て行く。お前達は無事生き延びて帰ってきたら、今まで通りの日常を過ごしてくれ。 やったな、これで一人分の食費、生活費、その他諸々が浮くぞ。 何だ。最悪だと思ってたが案外清々しいじゃないか。昨日はいい夢も見れたしな。 ハルヒが抱き締めてくれる夢…………を?ん?あれは本当に夢だったのか? 布団の中で、そこまで思考を展開していると………… 「コラーーー!!あんたいつまで寝てるのよ!いい加減起きな!!!さい!!!」 その声とともに俺を覆っていた布団が舞い上がり、俺の体は外気に触れブルッとなる。 妹か?なんて思考を巡らす暇もなく、俺はそこにいる人物が誰かを理解した。 「えー、あー……ハルヒ…なのか?学校……は?」 「あんたまだ寝ぼけてるの?今日は日曜でしょ!それに明日からは冬休みじゃない!ほら、朝ご飯出来てるわよ!さっさと顔洗って来ちゃいなさい!」 何だ、その休日なんだからいて当然!みたいな言い方は。 何故こいつがここにいる?夢か、これも夢なのか?いやだが妙にリアルに感じるな。 まるで昨日の夢みたいな……いや、そもそもあれは夢なのか?夢であってほしい。 というか、そうでないと困る。だって夢の中のハルヒは俺の今の状態を………… 「ぶつぶつ夢だなんだ…うるさいわね。」 しまった、混乱しすぎて口に出していたか。いや、でもこれも夢なら別に問題は………… 「はぁ…………夢じゃないわよ。昨日も、今もね。」 ハルヒは妙に説得力のある声で言った。 「じゃあもしかして……お前……………」 「ええ、あんたが何をしていたのか……全部……………知ってるわ……そう……全部ね…」 ――ずっとあんたと一緒にいるから―― 夢と思っていた記憶の奥底にある、その言葉を思い出した。 「帰れ!!!」 突如、俺の心に羞恥にも似た不快な感情が溢れだし、それはその言葉を発するまでに至った。 「俺を見るな!お前は俺と関わるべきじゃないんだ!!お前のためなんだよ!!帰れよ!ほら早く!!!」 叫び始めた寝起きの俺を前にしても、ハルヒはその目を少しも泳がせたりせず、じっと見ている。 「何ヤケクソになってんのよ!あんた今のまんまじゃどうなるか分かってんの?!」 「ああ、分かってるさ!!こんな命……ましてお前の世話になって得る命なんて願い下げだ!」 ハルヒの表情がみるみる怒りの感情をあらわしていく。 「はぁ~、ダメ、我慢しようと思ってたけど…やっぱ感情のコントロールって難しいわね。」 その言葉を聞き終わらないうちに俺の部屋に『パン!!』という心地よい音が響き渡った。 ほっぺた、いてぇ…… 「ふ…ざけんじゃないわよ!!許さない……死ぬなんて絶対許さないんだからね! 言いなさい!何であんたは覚せい剤なんてバカなことやったの!!」 ……何でだ…クソ!何でだよ!何で思った通りに動いてくれないんだ!ちくしょう!ちくしょう!………………そうかよ…………なら……… 「こっちにだって考えがある。」 俺はそう言うと台所に駆けていった。大丈夫、理性はある。脅すだけ……ギリギリの所で止められるはずだ。 お前のせいだからな。もし万が一が起こってもお前の責任だ。お前が俺の思い通りにならないのが……悪いんだからな。 台所には味噌汁のいい香りがしたが、そんなのに構ってられる程の余裕は今の俺にはない。 調理に使ったであろうその包丁を手に取る。 ドクン!! それを持った途端、心臓の鼓動が、鼓膜にダイレクトに聞こえてきた。 一瞬、朝倉がそこにいるような感覚がしたが、すぐに消える。 だ、大丈夫だ。落ち着け、俺。早まるなよ。脅すだけ、そうだ脅すだけだ… 俺は急いで部屋に戻るため階段を駈け登り、扉を強引に開く。 ……とハルヒは部屋を出て行く前と同じポーズでそこにいた。 「ったく!あんた何しに行ってたのよ!悪いけど、あれはもうこの…い……」 ハルヒの目がわずかに下に下がり、 俺の両手で前に突き出すように握っている包丁を捕らえると、その顔は一気に蒼白くなっていった。 大丈夫…忘れるな。理性を忘れるな。 「悪いが本気だ!これ以上俺の家に居座るならどうなるか…こいつを見りゃわかるだろ。 今の俺は正気じゃないからなぁ!!何するか分からないぞ!」 自ら作り出した狂気じみた演技に飲み込まれそうになる。落ち着け…落ち着け! 「キョン…あんた…」 ハルヒがみるみる恐怖に染められていく……はずだった。 何でだ…何でお前はこの状況でそんな顔が出来る… 俺の前には、もう何十年ぶりになるのではないかと思うくらい、久々に感じる、 大胆不適で強気な笑みがあった。 ズン!と音がするくらいしっかりとした足取りで、ハルヒが一歩ずつ近付いてくる。 一歩、また一歩。ついには俺とハルヒの距離は、俺が突き出した包丁一本分しか無くなってしまった。 あと一歩踏み込んだら、確実に包丁はハルヒに突き刺さる。 後ろに下がろうにも、部屋の壁がそれを許さない。 完璧に追い詰められてしまった。ちくしょう…こんなときまで俺はハルヒに…… !!!!! 俺の思考はそこで中断してしまった。ハルヒが前に踏み出すかのように右足を僅かに浮かせたからだ。 「バッ!!!」 咄嗟に包丁を横に投げた瞬間、ハルヒは俺にのしかかってきた。 仰向けの俺に覆いかぶさっているハルヒの顔は俺の胸に押しつけているため、確認出来ない。 そうか、こいつはこれを狙っていたのか。だけど、もし俺が動揺せず包丁を構えたままだったら、こいつは…… 「はあ……はあ……」 ハルヒの超高速で鳴っている心臓の鼓動が伝わってくる。それと同時にハルヒの肩が小刻みに震えているのも確認出来た。 「ハルヒ…………」 「黙ってなさい。」 その言葉と同時にハルヒは顔をこちらに向けた。 なんつーか……俺は何てことをしてしまったんだろう。ハルヒの顔は冷や汗でびしょびしょだった。 「………から……」 「え???」 「負けないから。絶対にあんたを治すまで……もう…決めたんだから……!」 俺は何て声をかけたらいいか分からなかった。俺がずっと黙っていると、ハルヒは、 俺の上からどき、素早く包丁を取り上げると言った。 「さっさと顔洗って来ちゃいなさい。」 俺はハルヒに言われた通り、顔を洗うため洗面所にいる。やれやれ、結局ハルヒに言いくるめられちまった。 …………あいつ、あんなに震えてた。当たり前だ。一歩間違えれば死んでいた、その恐怖は計り知れない あの時、あいつは信じたのだろうか。ドラッグに侵され、おかしくなっちまった俺を。 命をかけるだけの価値、俺にはもうねえだろうが……俺は…お前を裏切ったんだぞ? ふと俺は顔を上げ、鏡を見た。 「何だよ、こりゃ……」 お前はバカな奴だよ、ハルヒ。こんな目の下にクマがあって、 肌は土気色で表情筋が暴走したように引きつってる奴が包丁持って目の前にいたら、普通逃げ出すだろ………… リビングに戻ると、何とも豪華な朝食と、エプロンを脱いでる途中のハルヒが俺を出迎えた。 献立は……魚の塩焼きに味噌汁、厚焼き玉子、肉じゃが、これ以上ないってくらい純粋な日本の朝食だ。 ハルヒがこういう純和風なメニューを作るのは新鮮だな。何となく、サンドイッチとか洋風なイメージがあった。 「ちゃっちゃと食べちゃいなさい。」 「あ、ああ…………」 そういや昨日は何も食ってなかったな。一気に空腹感が増してきた。 急いでイスに座り、味噌汁を一口飲む。途端、俺に衝撃が走った。 「…………!!!」 声にならないとはこのことだろうな。この世のものとは思えないくらいうまい、冷えきった心身が温まってくる。 魚を箸でほぐしもせずかぶりつく、うまい、うまい……幸せだ……… こんな当たり前のことが、今の俺にはどうしようもなく嬉しかった。 「ハ……ルヒ……」 涙が止まらない。俺は…人間に戻れる…… 「なあに?」 にじむ視界の先にはハルヒが微笑んでいる。 「俺……生きたい………」 この時のハルヒの顔は忘れられないね。どうしたらあんなにも喜びを表情で表せられるのだろう。 「当たり前よ!!」 「それから、もう一つお願いがあるんだ。」 もっと生きてる喜びをかみ締めたい。 「ポニーテール……してくれないか?」 機関運営の葬式場。そこでオレは河村から衝撃の告白を受けた。 「神を……殺す?それって涼宮さんのことを言ってるのか?」 目の前の男は狂気に顔を歪ませ、続ける。 「他に誰がいるんだよ。お前なら奴を呼び出すくらい簡単だろ?センパイの苦しみを味合わせてやるのさ。」 思考がまとまらない。こいつは今何と言った? 確かに今までにも河村は涼宮さんへの不満をよくオレに漏らしていたが、これは明らかに別物だ。明確な悪意と殺意。 「い、言ってる意味が分からない。」 「お前だって嫌気が差してたんじゃないか?俺達の進む人生は奴によって180度ねじ曲げられたんだぜ? 神様ごっこはここいらでやめにしようじゃないか。」 冗談じゃない、確かに涼宮さんを恨んだ事がないと言えば嘘になるし、 もし自分がこの力を与えられなかったらどれだけ平和な毎日を送れていただろうと考えることもあった。 それは嘘じゃない。 だけど、この力のお陰でオレはSOS団に出会えた。何もない、平凡な暮らしから脱却出来たんだ。 オレはいつの間にか、涼宮さんに感謝していた。殺すなんて有り得ない。 「少し、考えさせてくれ。」 思考とは裏腹に、オレの口から出たのは臆病で怠惰な先送りの言葉だった。 「ああ、分かった。いい返事期待してるぜ。それから美那にこのことは言わないでくれ。余計な心配かけたくない。」 「田丸さん、少しいいですか?」 場面は変わってオレは田丸さん(兄)と話している 「実は………」 この時オレは親友を売った。 「そうか、河村が…いつかはこんな時が来るかもしれんと思っていた。…………古泉。」 田丸さん(兄)は真剣な表情でオレを見つめている。 「私はこのことをたまたま耳に入れた。お前達の会話を盗み聞きしてな。 お前は誰にも、このことを漏らしていないし、これから私がやろうとしていることも何も聞かされていない。いいな。」 オレは数人の機関の面々に取り押さえられている河村を目の当たりにしている。 「大人しくしろ!!」 田丸さんや荒川さんが激をとばす。 「古泉!お前……裏切ったな!何故だ!答えろ!!古泉ぃ!!!」 「タックン!タックン!!やめて!タックンを放してよぉ!」 オレはその時河村を見捨てた。涼宮さんを守るために。 それから河村は自らを捕縛しようとする仲間達を何とか振りほどき市内を駆け回った。 最後にたどり着いたのは春日さんの家だ。家の周りを包囲されると抵抗する気力もなくしたのか、大人しく捕まった。 その時は夢にも思わなかった。河村が春日さんの家で押収され残した覚せい剤を手に入れていたなんて。 河村は、機関本部の地下に幽閉された。人権無視も甚しい話だが、何せ世界の破滅がかかっている。 だから、この決定に疑問を抱く者はいなかった。あの春日さんですら。 「春日さん……オレ……」 「気にしなくていいよ。機関にいる以上、涼宮さんに害を及ぼす存在は抹消しなければならない。 古泉くんにはあれ意外の選択肢はなかったもんね…」 正直、かける言葉が見つからなかったオレは、 「ごめん……」 という謝罪の言葉が精一杯だった。 「あれ~?古泉くんは告げ口してないって話じゃなかったの~?」 いじわるそうに聞いてくる春日さんの笑顔は、今にも壊れそうで。 「別に恨んでないよ。全ては……涼宮ハルヒが悪いんだから……」 だからこそ、その言葉を聞いた時はゾッとした。 それから日がかなりたったある日、河村は食事を持ってきた見張りの一瞬のスキをついて、屋上に脱走した。 その時、河村は見るもの全てに自殺願望を与えるような表情をしながら言った。 「なあ、古泉、美那……」 地獄から響いてくるようなその声を、オレは忘れられそうもない。きっと春日さんも同じだろう。 「俺は今、とても清々しい気分なんだ……」 その言葉を最後に、河村は人間とは思えない程の跳躍でフェンスを飛び越え………落ちた。 授業が終わり、HRが終わり、いつものようにオレはSOS団部室にその足を運ぶ。 「古泉くん!!」 春日さんが走ってきた。あんなことがあったから休んでいるとばかり思っていた。強い人だ。 「どうしたんです?」 「え?ちょ、敬語……ううん、別にいいや…今日もあの部室に行くの?」 「そうですが。」 オレが行かない事で涼宮さんがイライラを積もらして閉鎖空間を作ったら大変だからな。……なんて、自惚れすぎか。 「何で?だって…だって涼宮さんは…!」 「聞きたくない。」 オレは咄嗟に言葉を遮った。 「僕だって何かにすがりついてなきゃやっていけない気分なんです。」 その言葉の持つ残酷さを知っていたが、自分のことだけで精一杯だった。 春日さんは呆然と立ちすくしていた。それをOKの合図と無理矢理解釈して、オレは歩き出した。 ノックを数回。無言が自己主張しているのを確認すると、オレは扉を開けた。 部室に入ると一番に目に入ったのは長門さんだった。いつもの指定席で本を読んでいる。 「他の皆さんはまだ来てませんか。」 ゆっくりと長門さんが目を合わす。 「休まなくていいの?」 ああ、やっぱりこの人は気付いているのか。彼女なりの気遣いが嬉しい。 「おや、僕の心配をしてくれるのですか?」 「……………」 ドガン!! 突然の爆音だ。それと同時に残りの三人がなだれ込んでくる。 「さぁ~みくるちゃん!さっさとこれに着替えるのよ!!」 変わらない。 「ふぇ~、やめてください~」 あんなことがあっても関係なく回り続けている。 「おい、ハルヒ!朝比奈さんがいやがってるじゃないか!何だっていきなりこんな服を着せようとしてるんだ。」 オレはこっちの居場所を選んだ。 「何でって、みくるちゃんもあと半年後には卒業じゃない!今のうちに出来る格好は全てやっておくべきよ!!」 楽しいな。 「だからってだなぁ。もう少し朝比奈さんの心労やその他諸々も考えてやって……」 「っだーー!うっさいわね!あたしはみくるちゃんの為を思ってやってるんだから!うれしいわよね!みくるちゃん!」 あの場所を霞ませてくれる程に。 「ふぇ、あの、あたし………」 「ほら!これとーっても可愛いでしょ!こんなのみくるちゃんに着せちゃったら男共は失禁モノよ!ね!有希!」 「……………そう」 次はオレにくるな。もう既に答えは用意してある。 「ね!古泉くん!!」 何も知らない、だからこそ明るい笑顔で涼宮さんは尋ねてくる。さて、オレもとびきりの笑顔を作ってと…… 「誠に結構かと。」
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第五章 「喜緑です。覚えていますか?」 「忘れる筈がありませんよ。」 それにしても、どうやって此処へ入って来たのだろうか。 「あばら骨にひびが入っていますね。今治してあげます。」 喜緑さんは俺の胸をさする。すると、不思議なことに、痛みが退いてきた。 「有難う御座います。」 「次は古泉君を。」 喜緑さんは古泉の方へ行って治療する。 「大丈夫か?古泉。」 「えぇ、なんとか。それより、気付いてますか?」 何が? 「長門さんが押されてきました。」 「あのままでは、マズいですね。」 「なんとかならないのですか?喜緑さん。」 「今から、情報統合思念体とデータリンクします。5分程時間を下さい。」 「分かりました。なんとか時間稼ぎをしますよ。」 「5分もつのか?10秒保たなかったお前が。」 「やらないで後悔するより、やって後悔した方がましですよ。 今は、僕が少しでもやらねばならないのです。」 いつの日かどこかで聞いた言葉だな。 「死ぬなよ。(嘘)」 古泉はグッと親指を立て、赤い玉になり、飛び発った。 「それでは、わたしも準備をします。」 喜緑さんは、何かを唱え始める。 「WORKING-STORAGE SECTION. 01 EOF…………」 全く理解出来ない呪文を唱える。しかも、だんだん早口になる。 周りから見れば、頭のおかしい人みたいだ。 俺は何をしようかな。 「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉー!!!!」 いきなり奇声が聞こえた。 びっくりして空を見上げると、古泉が幾つもの赤い玉を放っている。 頭が一番おかしいのはあいつだな。呑気にこの状況を眺める俺も十分おかしいが。 「まだですか?そろそろやばいですよ。」 「今データのサーチとダウンロードを同時にやっています。 MOVE SIN-CODE(IDX) TO K-CO………」 なんか、腰が抜けてきた。 足がふらふらして、地面にぺたりと尻をつく。これでダメなら、どうしよう。 「ハルヒ………」 不意に、口から漏れた言葉に恥ずかしくなる。 「END-SEARACH END-READ END-PERFORM CLOSE SIN-FL KI-FL STOP RUN. 終わりました。」 「そうですか。」 「朝倉さん。降りて下さい。」 朝倉は手を止め、降りてくる。 長門と古泉は、じっと朝倉を見つめて動かない。 「来てたの。」 「来ちゃいました。」 「これが、情報統合思念体の意思ということ?」 「そうです。」 「わたしが抵抗しても、無駄ね……潮時か。」 「大人しく、消えますか?」 「おでん、食べたかったな。」 「情報構成抹消開始。」 「さようなら。みんな。もう、多分もう会わないけど。」 朝倉が消えていく。 「何をしたんですか?」 「彼女を構成している情報自体を削除しました。修復はほぼ不可能です。」 周りの風景が砂のように崩れ、俺が最初に見た荒れ地が姿を表す。 「時間がありません。わたし達もこの空間から帰りますよ。」 「わたしにつかまって。」 俺は長門の小さな手を掴んだ。 古泉は喜緑さんの手を掴む。 「それでは、行きますよ。」 喜緑さんがそう言うと、空間が歪む。 目眩がしてきた。 あぁ、気持ち悪い。 「………え?」 「やっぱり、やめた。」 夕日が差し込む。 通い馴れた部室。 長門の本が詰まった本棚や、 朝比奈さんの身に着けたコスプレ衣装。 古泉の持ってきた卓上ゲームと ハルヒが強奪したパソコン達。 全てが紅に染まる時。 その中に、俺とハルヒは包まれる。 生暖かい鮮血のような紅。 いや、 それは紛れもない血であった。 「キョン……ごめん……ごめんなさい。」 「何……故……?」 「分からない。分からないのよぉ。」 痛ぇ。 状況を把握したいが、意識がもうろうとする。 終わったな。俺。 最後に見えたのは、ハルヒの切腹だった。 唇にそっと何かが触れる。 「今、あたしも行くからね。」 くそったれ………バカハルヒ。 「大好き。………バカキョン。」 視界が真っ赤になる。ハルヒの血だろう。 そして、意識が途絶えた。 ……b……o…… …バ……ロ!! バーロー? 「バカ、起きろ!!!」 耳をつんざくような声がした。煩いぞハルヒ。 「全く、仏になっても寝るとは、いい度胸ね。」 仏が眠ってはいけないという規則は、聞いたことがない。 そんな事より、人を仏呼ばわりするのは早過ぎではないか? すると、ハルヒは大きな溜め息を吐く。 「呑気なものね。あんた、鈍感というより、マヌケよ。下見なさい。」 「おぉ!?」 下には俺とハルヒがいた。良く出来た人形だな。 「これが人形に見えるなら、あんたの目はふしあなよ。」 なら、ドッペルゲンガーか? 「んな訳ないでしょ!!もういい。やめて。こっちが恥ずかしい。」 こういう時は、状況整理が必要だ。 今日の事から思い出そう。 起きる。 寝る。 起こされる。 朝は、パンに味噌汁がベスト。 学校行く。 手紙ある。(5時に教室) 足し算を間違える。 就職を漢字で書けない。 5時に教室へ行く。 ハルヒに襲われる。 長門が止める。 夢の中へ 朝倉やっつける。 ハルヒに刺される。 パトラッシュ。僕もう、だめぽ。 と、いう訳で、俺達は死んでしまった。 不思議と悲しくはなかった。ハルヒと一緒だからだろうか。実感が湧かない。 もし一人なら、死んだことに気づかず、地縛霊になったのだろうに。 しかし、疑問が残る。何故、長門がいない。前回(夢の中)朝倉が言った事と関係があるのだろうか? 気は乗らないがハルヒに聞いてみるか。 「長門は?」 「今日は一度も会ってないわ。」 「夢を見たよな。」 「は?見てないわよ。それってなんの話よ。」 「だけどよ………」 それで俺は口を止めた。これ以上、話をしても多分無駄だろう。 「ごめん、キョン。」 「謝る必要ないさ。」 「ごめんなさい。あんな事して。」 今日のハルヒは謝り過ぎだ。 喜怒哀楽が激しい人間だな。こいつの場合ほとんど「怒」の割合が多いが。 しかしおかしい。何か変だ。どこかに矛盾があるような。 その時、ドアが開く。 「有希!?」 長門が入ってくる。 「…………。」 部屋に入ると。辺りを見回す。どうやら、俺達には気づかないようだ。 「…………。」 長門は何か呟くと、その場から立ち去った。 「何て言ったのかしら?小さすぎて聞こえなかったけど。」 「分からん。」 長門のことだ。もしかしたら、何か知ってるはずだ。 しかし、さっきの様子は明らかに俺に気づいていない。 期待と不安が入り混じる。あいつを使えばもしかしたら……… 「きゃぁぁぁぁー!!」 な、何だ!? 「バド部の連中だわ。部活帰りに立ち寄ったのね。」 その後、救急・警察が来て、俺達の死亡が世間へ広まった。 警察は俺達の事を、無理心中と判断した。 どこぞの名探偵が来たが、お手上げらしい。 世間もそれで納得したらしく、「可哀想」の一言で片付けられた。 その後、ハルヒとこれからどうするかを話ていると、目の前に誰かが現れた。 「こんばんは。」 20代の女性だろうか。日本人に見える。この人も幽霊なのだろうか。 「見えてるようね。あたし達のこと。」 どちら様です? 「簡単にご説明すると、あの世の者です。単刀直入に申し上げます。今すぐあの世に逝きますか?」 いきなりそんな事言われても困ります。 「大概の方がそうおっしゃられます。 ですので、こちらの時間で、えーっと………49日程の死亡猶予期間が与えられています。 それを過ぎると罰則が加担されます。」 「待て。何故俺達が、あなた達の規則に合わせねばならないのです。 死んでも、誰かに縛られるのは嫌ですよ。」 「ごもっともな意見です。しかし、本来死亡なされたあなた方は、下界に干渉する権利も御座いません。 また、下界に霊がごちゃごちゃいても、困りませんか?」 頷くしかなかった。 「逝きましょう。キョン。あたし達がこの世にいても、邪魔なだけよ。 死んだことは事実だし、それを受け入れるのが礼儀よ。」 「宜しいのですか?」 「だが断る。」 「何で?」 「俺の家族への挨拶はどうでも良いが、俺はお前の両親への挨拶くらいはしたい。」 「それって……」 ハルヒは顔を赤らめる。 「うふふ、分かりました。では、また49日後に迎えに来ます。」 「すみません。有難う御座います。」 「お幸せに。」 そう言うと、彼女はどこかへ消えて行った。 「キョン……こんな…あたしで良いの?」 「あぁ勿論。」 「うぅ……あ゛り゛がどう゛。」 泣くのか? 「な゛、泣いだりじない゛。ぢてないわよ。」 「行こう。」 「……うん。」 そっとハルヒの肩を抱き、両親へと挨拶に向かった。 「あったかい。」 「おばけなのにか?」 「気分だけよ。」 翌日、学校ではこの事を公表する。泣く人あれば、知らん顔ありだった。 クラスで岡部が泣いたのには笑った。 自分のために泣いてくれているというのに、不謹慎だな。俺は。 女子の方々は、大体の人が泣いていた。 男は、担任の岡部しか泣いていなかった。 谷口の姿はまだ見えない。国木田は、どこか上の空だった。 「あんまり面識の無い奴までが泣いてるなんて、変な気分ね。」 「同情してるんだろうよ。バカなカップルが将来を苦にして、自殺。 ロミオとジュリエットとは似て非なる話だ。 だが、お涙頂戴な悲劇には、相当するんじゃないか?」 「カップルに見えてたのかな……あたし達。」 おばけのくせに頬を赤らめてハルヒは言った。 どう返答すれば良いか分からず、ぶっきらぼうな返事を返すと、 ハルヒは「ごめんなさい」などと、謝る。今更謝られても仕方ない。 「気にするな。」と頭を撫でると、今度は泣く始末。 かなりの大音量だったので、誰か気付くのではと思ったが、 やはり、おばけの声は気付かないらしい。この1時間後、ハルヒはやっと泣き止んだ。 「今日は家に帰る。あんたも自分の家族に最後の別れくらい言ってあげなさい。 それと、明日は10時に駅前ね。SOS団のみんなに会うわよ。じゃあ解散。」 俺の返事を待たず、ハルヒは帰ってしまった。俺が断る訳は無いけどね。 前日は、家に帰らなかったから、久しぶりに見える。 家に入ると家族全員が揃ってた。 母親は洗濯、親父と妹はテレビ。 休日と変わらないような生活。 しかし、どいつもこいつも湿気た顔をしていた。 見ていて、こっちまで陰気臭くなる。 おっと、こんな事している場合じゃない。 ………いたいた。 「みゃー。」 よう、シャミ。見えてるみたいだな。 シャミセンはじっとこちらを見つめている。 悪いが、体借りるぞ。 第六章へ
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涼宮ハルヒはキューフレ、セカンドがピュアロマって気がする。 チークは無しか淡いオレンジ。チークあった方がポイかな。 アイライナーはツリ目気味で、ペンシルじゃなくてリキッド。下瞼にもリキッド。粘膜にも。 ファンデは艶かセミマット。髪はダークブラウン。 唇は…唇は…ヌーディなギャルくないほんのりベージュ? 睫毛は無いよりあった方が目ヂカラでるからガッツリ。 ALLキューフレ意識の目ヂカラ命。 ブルベの人は出来るだけ近い色で。 GJ。 ハルヒの唇難しいよね。 とりあえず色味を抑えて、艶のあるベージュ。
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朝教室に入ると、ただでさえやかましいクラスのざわめきが 心なしか一回り大きくなったような気がした。 キョン「おっす谷口。クラスが騒がしいようだけどなんかあったのか?」 谷口「!」 「・・・・・・」 こともあろうに谷口は、オレの目をみるなり不快な表情をあらわにして 男子グループの輪に逃げていった。 (なんだなんだ!?無理して愛想をふりまけとはいわんが、朝のあいさつをしてきた クラスメイトに対してその態度はないだろ。オレが癇に障ることでもしたのか?) その男子グループは、オレをチラ見してはクスクス笑っている。 一体なんだってんだ!? 動揺をなんとか抑えつつ、オレは席に座った。 キョン「おいハルヒ、今日のクラスなんか変だな」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「おいハルヒ?聞こえてんのか?」 ハルヒ「・・・るさい」 キョン「え・・?」 ハルヒ「うるさいっつってんのよ!変なのはアンタの頭でしょ!気安く話しかけないでよ」 キョン「!!」 その瞬間、先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。 谷口のほうを見ると、オレがハルヒに怒鳴られたことが愉快でたまらないといった風に 笑いをこらえていた。 ホームルームの間、オレは動揺するのを必死に抑えていた。なぜだ? こともあろうにハルヒまでがこの態度とは・・・ 午前中クラスの冷たい視線に耐え続け、昼休みになるとオレは逃げるように SOS団部室へと走っていった。部室ではいつものように長門が本を読んでいた。 キョン「長門、ちょっと話を聞いてくれないか」 オレは長門に会って多少安心した。今朝クラスメートの様子がヘンだったのは、 なにかおかしなことが起きてるに違いないと思ったからだ。新手の閉鎖空間か、 はたまた情報ナントカのしわざかはわからんが。 長門ならこの奇妙なパラレルワールドをなんとかしてくれるに違いない。 今までだって、ずっとそうだった。 長門「出てって」 キョン「ど、どういうことだ長門。お前ならこのワケのわからない状況をなんとか 元に戻してくれると思って・・・」 長門「なにを言っているのか意味がわからないけど、すぐに出ていかないと人を呼ぶわよ」 キョン「長門・・・」 ハルヒ「有希になにしてんのよ!この変態男!」 突然後ろから怒鳴り声が襲ってきた。ハルヒだ。 ハルヒ「アンタ2年の朝比奈先輩だけじゃ飽き足らず、今度はウチの部の 有希にまでつきまとうっていうの!ただじゃおかないわよ!」 キョン「ちょっと待ってくれ!全然訳がわからん。オレが朝比奈さんにつきまとってるだって? オレたち同じSOS団のメンバーだろ?放課後部室で遊んだり、たまに一緒に下校したりは してたけど・・」 ハルヒ「はぁ!?なにワケのわかんないこと言ってんの?なんなのよそのナントカ団てのは! 大体学園のアイドル朝比奈先輩がアンタみたいなのと一緒に帰ったりするはずないでしょ! このストーカー男!」 これ以上部室にいればハルヒに刺し殺されかねない剣幕だったので、 オレは退散することにした。 教室に戻ると、クラスメイトがいっせいにオレのほうを向き、すぐに目をそらした。 谷口「な、言ったとおりだろ?アイツ5組の長門にもつきまとってるんだってさ」 朝倉「やだ。怖い」 国木田「なにを考えてるんだろうね」 谷口たちの悪口が聞こえてくる。どうやらオレは朝比奈さんと長門につきまとう ストーカー野郎ということらしい。まったく考えられない話だ。 ここは閉鎖空間に違いない。ハルヒのせいなのか?オレをこんな ムナクソ悪い設定の中へ放り込んだのは。 はは、なんだか涙がにじんできた。さっきから手足の震えも止まらない。 いじめを受けるってのはまさにこんな感じなんだろうな。3日も続けば確実に 精神が崩壊する自信があるぞ。 休み時間が終わるまで机に突っ伏していたら、終了間際にハルヒが戻ってきた。 オレはハルヒがイスを引く音にビクっとした。 ハルヒ「ちょっとアンタ!」 ハルヒの怒声でさらにビクっとする。まるで肉食獣を前にした小動物の心境だ。 ハルヒ「アンタがなにを考えてるのか知らないけど、今度有希に近づいたら ただじゃおかないからね!文芸部部室にも一切近づかないでよ!」 どうやらこの世界のハルヒは文芸部に所属しているらしい。まったく似合わんが。 SF研とかオカルト研のほうがまだハルヒらしいのにな。 休み時間が終わり午後の授業が開始されたが、軽いパニック状態に陥っていたオレは まったく授業が耳に入ってこなかった。クラスの連中はときどきオレの方を向いては 笑いをこらえている。なにがそんなにおかしいんだろうな。 午後の授業が終わり、ホームルームをなんとかやり過ごし、 オレは逃げるように教室を出た。 まだパニックはおさまっていないみたいだ。朝比奈に襲われたときも、 ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められたときだってこんなに動揺はしなかったはずだ。 あときのほうがはるかに現実離れていたのにな。おかしな話だ。 キョン「これからどうすっかな・・・」 ひとけのない校舎裏に避難したオレは、誰に言うわけでもなくつぶやいた。 ここが新たな閉鎖空間だとしても、そろそろ古泉あたりが助けにきてよさそうなもんだ。 キョン「古泉~~~!!とっとと来い!!このムナクソ悪い空間を破壊してくれ!!」 思わずオレは叫んでいた。もう1分だってこんなトコにはいたくはない。 しかしオレの声を聞きつけたのか、誰かがこっちへ向かって歩いてくる。 古泉「なんだ?お前。オレになんか用か?」 やってきたのは古泉だった。しかし、いつもの古泉とは雰囲気がまったく違う。 片耳にこれでもかというほどピアスをつけ、ヨレたYシャツをだらしなく着ている DQNが目の前にいた。片手には木刀を握っている。 オレの知っている古泉はこんなDQNではない。間違いなく本物ではないようだ。 古泉「お前ウワサのストーカー野郎じゃねーかよ。 なんでオレの名前叫んでたんだオイ!」 ヤツの普段のさわやかフェイスは気に入らないが、こっちのDQNフェイスはそれ以上だな・・・ などと考えているうちに、古泉がオレの胸ぐらをつかんできた。 古泉「お前涼宮にちょっかいかけてるらしいな・・・ あんまナメたことしてっと前歯叩き折るぞコラァ」 なんてこった。DQN古泉はハルヒに気があるらしい。どーぞお幸せに。 誰も止めはしないぞ。付き合いたいなら勝手にしてくれ。 しかし古泉の威圧感はオレの反論を許さない。というか、はじめてDQNに絡まれたオレは ほとんど声が出ないぐらいビビっているんだ。 ドゴッ 不意に古泉から腹にヒザ蹴りを食らい、オレは前のめりに倒れた。 キョン「かはっ・・・」 古泉「チョーシ乗ってンじゃねえぞクラァッ!」 怒号とともに古泉はオレのわき腹にケリを入れる。 キョン「うぐ・・・ご・・」 ヤツのつま先はちょっとした鈍器と化し、オレのわき腹に容赦なく食い込んでくる。 オレはサッカーボールじゃねえぞ。 古泉「金輪際涼宮に近づくんじゃねーぞ!」 言いながらなおケリを入れ続けられ、不覚にもオレは気を失ってしまっていた。 2話
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今日は12月23日。 …… 時は夕刻。俺は最寄りの店へと寄っていた。いろんな人形やぬいぐるみを手にとり凝視する俺。 「おいおいキョン、まさかお前にそんな少女趣味があったとはなあ…正直失笑もんだぜ!!」 はてはて、特にこいつは影が薄いキャラ設定でもなかったはずだが…俺はこいつの気配に 今の今まで気づかなかった。ここ最近ハルヒの閉鎖空間云々といった騒ぎに巻き込まれず、 温和な日々が続いていたせいだとでもいうのか?すっかり外的要因を感知する能力が衰えていた。 「外的要因??キョン、そりゃあんまりじゃねーか?俺はお前の親友だろ?」 悪友といったほうが正しいような気もするが。とりあえず、少女趣味云々イミフなことを言うヤツは放置に限る。 「あーあー、さっきのは悪かったって!あれだろ?妹ちゃんにやるクリスマスプレゼント探してたんだろ??」 わかってるんじゃねーか…ったく、別に俺がからかわれるのには構わないんだけどな。 そういうことを鶏が朝一番に鳴くようなレベルの大声で言うなと… もし側に俺の知人がいたら、こいつはどう責任をとるつもりだったんだ。 「だから悪かったって言ってるだろ…マジごめんって。」 まあ、わかればいいさ。謝ってる相手に追い打ちをかけるほど俺は畜生ではない。 「ところで谷口、お前はこんなとこで何やってんだ?」 「単にジュース買いにきたってだけだぜ。」 ジュース程度なら外で自販機がいくらでもあるだろうが。なぜ、いちいちこんなデパートに? 「おいおいキョン、外のこんな暑さをみてそんなこと言うのか?冷房のきいた店に涼みに来たってのも兼ねて、 ついでにジュースを買いにきたってだけだ。別におかしくもなんともねーだろ?」 なるほど、筋は通ってる。 「しっかし、冬至だってんのに夏みたいに暑いとか、 いよいよ地球もオシマイだよな。地球温暖化もくるとこまで来たってわけだ。」 …こればかりは同意しておく。実は、今年は12月に入ってずっとこの調子なのだ。何がって? もちろん地球気温のことだ。炭素税、クリーン開発メカニズム、国内排出証取引、排出権取引、直接規制による CO2削減義務、気候変動枠組条約、京都議定書…数えればきりがない。それくらい俺たちは現代社会等で 温暖化対策を強く教わってきたし、各国もそれなりの規模で取り組んできたはずだ。 にもかかわらずこのザマである。 もはや、これでは人間の努力の範疇を超えてしまっているではないか。…そもそもである。 人間ごときが地球規模レベルの変革を推進できるという考え自体が…傲慢だったというのであろうか。 …まあしかし、こればかりは俺たち一個人、ましてや一高校生にどうこうできるレベルではない。 つまり、谷口含む俺たち地球人は…。この苦い現実を受け入れ、生きていくしかないということである。 …… しばらくして、ようやく妹へのプレゼントを買うことができた。 用事を済ませた俺は、谷口と一緒にデパートをあとにしたんだが…その直後だったか。 「?」 違和感が襲う。足に力が入らない。 …… なぜ…俺は宙に浮いているんだ? …?? 空に舞ったあと、物体はどうなる?誰もがわかるように、ただ地球の中心に向かって 落下するだけだ。不変の真理である万有引力の法則に基づき、俺は地面へと強く打ちつけられた。 …どれだけ時間が経過したのだろう。俺は目を覚ました。どうやら気を失っていたようだ…証拠に、 いまだに地面に打ち付けた衝撃で頭がグラグラする。打ちどころが悪ければ…まさか死んでたのか俺は。 …… 一体何が起こった??わけもわからず、俺は必死にさっきの事象を思い出そうとする。 しかし、それは叶わなかった。思い出すとか以前の問題だった。目の前に広がる光景以外…考えられなかったから。 「…なんだってんだ…?これは…?」 周辺道路に亀裂がはしってたり陥没してるのはなぜだ??さっきまで俺たちがいたデパートが… 跡形もなく崩れ去ってるのはなぜだ??…なぜ、ありえない形で看板に人が突き刺さってる?? あそこで転がっているのは何だ…?!体の一部か?遠くから…煙や火の手があがってんのはなぜだ?? 視覚で物事を把握した途端に、今度は聴覚が冴えてくる。 「助け…」 ?! 「ひ、火を消してくれえええええええええええ!!!!」 「だ、誰か!!」 「ああ…あああ…!!!!!」 「私の子供が…っ!!瓦礫の下敷きに!!!」 「うわああああ痛いよおおおお!!!」 何を騒いでるのだこの人たちは? 「ちょ…おい、ま、待ってくれ…何だこの状況は」 聴覚で物事を把握した途端に、今度は嗅覚が冴えてくる。 「う…!」 異臭に鼻をふさぐ。この臭いは…腐臭である。 一体何の…? …… にん…げん…? 視覚、聴覚、嗅覚が正常に機能して 初めて俺はこの場所で何が起こったのか…それを思い出した。 「こんな地震見たことねえぞ…!?」 そう、さきほどこの地域全域で地震が起こったのだ…それも、考えられないくらいの強い地震が…!! これまでの経験上、一度も地震に遭ったことがないのでなんとも言い難いが…震度やマグニチュードで言えば 関東大震災や阪神淡路大震災の比ではないのではないか…!??直感でそう思った。 根拠はあった。でなければ、縦型の地震とはいえ、人間が空に舞うなど絶対ありえないだろう…? …… まさかこんな事態に見舞われようとは、一体誰が予測できる??先程までの俺や谷口はそんなこと微塵も… ?そういえば谷口はどうなったんだ? 俺は辺りを眺める。おかしい、地震があったとき確かに谷口は俺と一緒にいたんだ… それなら、ヤツは気絶してる俺を叩き起こしたり、惨状を見て発狂したり、取り乱したり… とにかく、俺に存在感を示すに決まってるんだ…あいつはそんなヤツだ。しかし、その気配はない。 認めたくなかった。それが意味するところを、それだけは絶対認めたくなかった。 最悪の状況を回避してくれることをひたすら信じ、俺は必死に辺りを見回した。 ふと、数10メートル先に瓦礫に埋もれている人間を確認できた。 ぴくりとも動かないことから、おそらく死んでいるのだろう。そしてその人間の服に、俺は見覚えがある。 考えが途切れた 「ははっ…嘘だよな…おい、嘘だよな?」 側まで近付いてみて疑念が確信に変わった ケガをしてたっていい、瀕死だっていい、 とにかく生きてさえいりゃよかった 死んでさえいなけりゃよかった …… 「谷口よお…お前だけは殺しても死なねー男だと思ってたのによぉ…」 …ッ!! 「あ…ぁあ…あ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 その雄たけびが状況ゆえに発狂した奇声だったのか、友人を亡くしたことに対する怒声だったのか、 今にも崩壊しそうな自我を守るための悲鳴だったのか。今の俺には判断のしようがなかった。 というか、どうでもよかった。何もかもがどうでもよかった。 …… 「はははっ…」 俺は笑っていた。俺がさっきまで一緒にいたであろうヤツに 『外的要因を感知する能力が衰えていた。』と言ったことを思い出していたからだ…っ。 「さすがに…こんな大地震まで感知できるわけねえよ…っ」 皮肉とはこういうことをいうのだろうか。 それからどれだけの時間が経ったのだろうか。相変わらず、目の前には無残な光景が広がっており 悲鳴は絶えない。だが…どういうわけだ?理不尽にも、俺はこの状況に慣れつつあった。 例えば、ずっと暗闇の中で暮らしていれば、微量な光でも辺りを察知できるよう目は慣れてくるものだ。 ずっと大音量でイヤホンから音をたれ流していれば、耳はそれに順応するものだ。 同じことが起こっていた…それも、俺の全感覚を通じて。 落ち着きを取り戻した俺は、ようやく他のことに考えを回せる余裕をもった。次の瞬間、ある人物が脳裏をよぎった。 「…ハルヒ!!」 そうだ、ハルヒは一体どうなったんだ??まさかっ、死んじゃいないよな…?? 先程の谷口を思い浮かべ、俺は背筋に寒気が走った。すぐさまハルヒのもとにかけつけよう…ッ!! そう決心しようとした矢先に、大事なことを思い出した。 「…そういや、あいつは無意識のうちに願望を実現できる能力をもってんだよな…。」 ご察知の通り、涼宮ハルヒは自身の願望を実現させる能力を有している…それも無意識のうちに。 であるからして、ハルヒはとりあえずは無事だという結論に至った。人間危険な状況に臨めば誰しも 反射的に防衛反応をとる。ゆえに ハルヒが死ぬなんてことはまずありえないはずだ。 かく言う俺も、地震で宙に投げ出され地面に激突する際、確かに受け身をとっていた。…無意識のうちに。 わずかだが、今思い起こすとそういう記憶がある。 【ハルヒは無事だ】 そう納得した、いや、違う、納得したかったのは、実は他に理由がある。 それは…家族のことが気がかりだったからだ。ハルヒのほうが助かっているであろう根拠はあっても こっちは、生きている保証などどこにもないからだ…!! 「家に戻ろう…!!」 俺はすくんだ足をたちあがらせ、一目散へと自宅へ走り出した。 …… 自宅に着くまで時間はかからなかった。なぜなら、一々遠回りをせず、ほぼ直進してここまで来れたからである。 なぜ直進してこれたのか?障害物が見当たらなかったからである。いや、本来そこにあったはずのものが 瓦解消滅してしまった、という言い方のほうが適切であろう。その障害物とは何か?民家や塀のことである。 言わずもがな、住宅街はほぼ全壊していた。第二次世界大戦下で東京大空襲を経験した祖父から、 その様子を聞いたことがあったが…まさにそれがこの状況なのではないか?唯一の相違点は、今回は地震なため 空襲とは違い、そこまで火災があったわけではない。ないが、もはやそういう比較は意味を成さない。 双方とも言葉にできないくらいひどかったのは間違いないんだからな…。 民家はまるでダンプカーに押しつぶされたかのごとく、見事なまでに原型を失っている。 瓦礫の下から人間の手や足が覗いている。悲鳴やわけのわからない奇声があちこちからこだましている。 一歩一歩、歩くごと血を流し横たわってる死体…なれば、考えざるをえない。同じ境遇で生き残ってる俺は… 一体どこまで運がよかったのか…? 地獄絵図 しばらくして…俺は見つけた。 荒廃してて庭だったかどうか識別できない…そんな場所で、俺は倒れてる少女を見つけた。 「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」 すぐさま妹のもとにかけよる 「きょ、キョン君…」 凄惨な光景には見慣れていたはずだったが…さすがに、肉親の肢体のあちこちから出血させられてる姿を見て、 平然としていられるはずがない…っ!いや、ある意味平然としていたのかもしれない俺は。あまりのショックに。 「今、止めてやるからな!!」 …血のことだ。 俺はもっていたハンカチやティッシュ、そして次々にちぎった着ていた服を布代わりに、 とにかく俺は妹に応急処置を施した。しかし…あまりに傷が深すぎて…出血が止まらない…ッ 「くそ!!何で止まんねーんだよ!?!?」 自分は無力だと実感する。本当に自分は無力だと実感する。兄のくせに俺は…! 妹のために何もしてやれないのか!?このまま何もしてやれないまま…妹は死んでいくのか!? …そうだ!!ハルヒに!!ハルヒに会えばいい!!ハルヒに会って妹の生存を望ませれば 妹は助かる!!よし、今すぐにハルヒをここに連れてきて 「おにい…ちゃん………」 !! 妹が何かをしゃべろうとしてることに気付いた。 「しゃべるな!!これ以上の出血はシャレになんねーんだぞ!?」 「もう…ながくない…よ。なんかね…さっきから意識が…消えそうだったり…」 「なら、尚更しゃべるんじゃねえ!!死ぬぞ!!」 「だか…ら。最後に…言わ…せて」 妹が最後の力を振り絞って何かを言わんとしていることがわかった。もはやその声はかすれ声そのもので、 読唇術でも使わない限り音声を完璧に把握できない…そう言っても過言ではないほど、事態は深刻なものに なっていた。俺は全身全霊をもってその言葉に耳を傾けた。決して、決して聞き逃さないように…! 「いま…ま…で」 …… 「あり…が…、……………………………」 その後、妹が口を開くことは二度となかった。どうやら、俺のかばんの中に入ってるぬいぐるみは 用無しになっちまったらしい。生きていて、そしていつものように笑顔を見せるお前に渡したかった。 …そういえばお前、最後の最後で俺のこと お兄ちゃんってちゃんと呼んでくれたんだな…はは…なんだかな。 こぼれきれないほどの涙が 目から氾濫する …… しばらくして、俺は放心状態のまま家をうろついた。そこで俺は…親父とおふくろを発見した。 しかし…すでに息はない。 …… 追い打ちとはこういうことを言うのか 俺の自我は 崩 壊 し た ナ ゼ コ ン ナ コ ト ニ ナ ッ タ ? リピート機能がついた壊れたレコーダーのごとく 延々と脳内から再生される片言 いつまでも、延々と ただその機械は 一定の行動を繰り返すだけだった …しばらくして、その輪廻から俺を解放してくれたのはある声だった。ある声といっても、 そこら中で聞こえてる悲鳴や轟音ではない。不思議なことに、その声は俺の脳内だけで鳴っているようだった。 これが幻聴というやつか?ついに俺も気が狂ってしまったか。まあ、こればかりはもうどうしようもないじゃないか。 これで狂わない人間など、もはやそいつは人間ではない。 しかし、その声がどこかで聞き覚えのあるように思えるのは…どういうわけだ? 『…けて……た……て…!』 何回も聞くうちに、しだいに何を言っているのか…聞き取れるようになっていた。 『助けて!キョン!助けて!!』 …確かにこう聞こえた。 …… これは…ハルヒの声…??どういうわけかはわからんが、俺の脳内にこだまするこの声は… ハルヒのものか!?ハルヒが俺に…助けを求めてるのか!? 例の特別な能力のおかげでハルヒの安否については大丈夫だろうと踏んでいた俺だったが… まさか、俺に助けを求めるほど事態が窮してたとでもいうのか!? 「くそお!!」 壁に拳を殴りつける。友人が死に、家族も死んだ…その上、ハルヒも死なせるのか…? 「これ以上誰も死なせてたまるか…!」 気がつけば俺は飛び出していた。どこにいるのかすらわからない涼宮ハルヒの行方を追って… いたるところを探し続けた。ハルヒの家、公園、商店街、広場…正しくはその跡を。 いずれの場所にもハルヒは見当たらなかった。一体ハルヒはどこに…!? っ!! 地面がまだ少し揺れている…余震はまだ収まっちゃいないってのか。とりあえず、この周辺がどうなってるのか 把握する必要がある。かといって、余震があることがわかった今、闇雲に歩き回るのは危険だが…そうだ、 携帯で地震速報を見ればいいわけか…!?あまりのショックの連続で、すっかり携帯電話の存在を 忘却してしまっていた。ついでにこれで…長門にも連絡しておくか…。とりあえず、 あいつなら力になってくれるはずだ!ハルヒにもその後かけよう…! …? どういうわけだ…??電話もメールも…できない? 特に壊れた様子もない。にもかかわらず 主要機能が総じてシャットアウトしてしまっている…?? くそッ!!これじゃ一体どうしろってんだ!? …… いかん…落ちつけ…。状況が状況だ。今ハルヒを放って発狂するわけにはいかない…。 「…それならラジオはどうだ?何とかなるんじゃないか?」 俺は側にあった倒壊しきった民家に立ち入り、ラジオを探した。 …ああ、わかってる。非常識極まりない行動だってことは…おまけに、見つかるかどうかもわからない。 だが、今の俺には何か一つでもいいから自分を安心できる材料が欲しかったんだろうな。 「ぁ…」 今思えばそれは必然ともいえる光景だった。誰かが屋根の下敷きとなっている。 生きてる気配は感じられなかった。 …… 俺は黙祷を捧げた… 一体何人の人が、この震災で命を落としたのであろうか…? これだけの地震だ。死傷者数・行方不明者数は過去最悪になっていてもおかしくない…。 右往左往しているうちにラジオが見つかった。この状態で見つかったのだから、ほとんど奇跡に近い。 もっとも、それが奇跡だと実感できる精神的余裕は、今の俺にはなかった。 …さっそく電源を入れる。 「~~~~~~~~~~~~~~」 しかし ガーガー雑音が鳴るだけで、一切音声は聞き取れなかった。 やりきれない思いが爆発しそうになる。どういうわけかはわからないが、 なぜかラジオまでもが機能しないらしい。…どうして!?どうして機能しない…!!? …… とにかくダメだとわかった今、自力でハルヒを探す他ない。…しかし、ハルヒはどこにいるというんだ?? 落ち着いて考えてみる。 …… 俺は賭けにでた。 「ハルヒ!!」 ようやくハルヒを見つけた…旧校舎近くで。よくよく考えりゃ、ハルヒが一番いそうな場所だからな…。 「キョン…無事だったのね…よかった…。」 「?どうしたハルヒ、大丈夫か??」 異様なくらいハルヒに元気がないのが見てとれる。いや、元気がないとかそういう問題ではない。 体を震わせて何かに脅えている…そんな感じだ。ライオンがシマウマを見て逃げ出すなんてことは 天変地異でも起こりえないことだが、今のハルヒは、まさにそのライオンに置き換えることができる。 …… 見た限り、ハルヒはケガなど身体的外傷を負っている様子はない。どうやら、顔が青いのは そのせいではないらしい。…さすが能力様様と言ったところか。とりあえず、ハルヒは無事だ…! そのことがわかり、俺は安心した。ということは、原因は精神的なものか…?そりゃ、この光景を見れば… いたるところに生徒の屍が転がっている。 …… 幸いなのが、今日が日曜だったということ…、もしこれが平日だったならば… 今俺たちが見ているこの光景は、今よりずっと杜撰だったのであろうか…? …わざわざ日曜だというのに学校に出向き、先程まで懸命に汗を流していたはずの彼ら。 まさかこれほどの規模の地震に遭うとは…ついさっき生きてる時は想像もしてなかったはずだ…ッ。 俺は…、彼らに静かに…黙祷を捧げた。 最悪の事態 ハルヒが精神を病むのも当然だろう。 しかし、ハルヒの様子がおかしいのは…どうもそれだけが原因には俺には思えなかった。 凄惨な光景のみで具合を悪くしているのだとしたら、俺もそうである。いくら見慣れたといえど、 あんな光景は二度と見たくもないし思い出したくもない。いまだに背筋がゾッとする… だが、ハルヒは何か俺のそれとは違う。うまく説明できないが…とにかくそんな気がする。 考えてみれば、ハルヒが無意識のうちに願望を実現できるっていうのは事実だ。仮に、この光景のせいで 気分を害しているのだとしたら、ハルヒは無意識のうちに…これを見たくないと思うはず。…ならば、 極論を言えば、ここにある死体ともども消滅させることだってハルヒには…造作もないはずだ。 「ハルヒ、お前…本当にどうしたんだ…?」 なるべく刺激しないように、かつ精一杯の優しい口調で、俺はハルヒに語りかけてみた。 「あ…あたしは…、自分自身が怖い…っ」 予想外の返答が返ってきた。 …自分自身?? 「ハルヒ、そりゃ一体どういう…」 気付けばハルヒは泣いていた。 「もう…あたし、どうしたらいいか……って、キョン!?」 あまりに不憫すぎるその挙動を見たせいか、気付いたときには俺は、ハルヒを抱きしめていた。 …普段の俺ならこんな言動はまずありえない。それくらいに、事態はやばかった。 …何がハルヒをここまで追い詰めているのかはわからない。だが… とりあえず、今は少しでもこいつを安心させてあげたい…とにかくその一心からでた行動だった。 「キョン…あたし…あたしは……」 ? その瞬間だった。俺の視界が真っ暗になったのだ。目をつむってもないのに真っ暗になるとは 一体どういうわけだ?俺が今立ってハルヒを抱きしめてる感覚はあるから、気絶したとか そういうわけではないらしい。日が暮れて夜になったからか?いや、それもおかしい。 まるで、辺りが黒いカーテンにでも覆われたのではないか?と言っていいくらい…何一つ周りは見えなかった。 確かに、地震で街灯などといった光源体は破損しているかもしれない。しかし、空に星さえ見えないというのは どう説明すればいいんだ??第一、急に真っ暗になったことを考慮すると…とてもではないが、 単に日が沈んだとかそういう問題でもない。…じゃあ、この状況は一体何だ…? 「キョン…どうして真っ暗に…??」 「……」 ただ確実に言えることは、これが異常事態以外の何物でもない、ということである。 …… まあ、あのとてつもない地震からして、すでに異常事態なわけだが…。 ふと冷静に考えてみる。そもそもあんな地震、いくら日本が地震大国と言えどそうそうあるようなものじゃない。 第一震度からして桁違いだし異常すぎる。それに、小さな地震ならともかく大震災レベルともなれば普通は… もっと警告なり何だのあってもよかったはずだろ…!?東海大地震や第二次関東大震災のごとくな…!! もちろん、俺たちの住む地域でこんな地震が起こるなんて噂…聞いたことがない。一回も聞いたことがない…! それすらなく、俺たちは…突発的にこの一連の大惨事に巻き込まれた。 もしかしてこの暗闇と地震は…何か関係あるのだろうか…? !! そんなことを考えてる余裕もなくなった。あたりが冷えだした…それも急激に。 わけがわからない。本当、何がどうなってるんだ??地震に暗闇に、 そしてこの極寒…まともな思考の人間なら、今頃発狂していてもおかしくはない。 そうはならないのが、俺がハルヒたちとともに、これまでいろんな修羅場をくぐってきた慣れというもんなのか…? 「これから一体どうなっちゃうんだろう…??」 身震いするハルヒ…。もっとも、この震えは寒さからくるものであって さっきまでの原因不明の震えとは性質が異なるみたいだが… ッ!? いかん、気温の低下に拍車がかからねえ…!普通に氷点下下回ってんじゃねーかこれ?! いや、もはやそういう次元でもないらしい。なんせ、今にも意識がとびそうなんだからな…ッ! …… いや、ダメだ…!今ここで倒れたら…ハルヒはどうなるんだ…!!? …… 俺は今まで以上に強く、強くハルヒを抱きしめていた。ただ体を密着させるだけで… この極寒に勝てるほどの熱を出せるとは、到底思わない。…だが!!今の俺にはそうする他なかった…っ 「守ってね……あたしを。」 会話はそこで終了した いつのまにか 俺は意識を失っていた 暗闇を彷徨っていた
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そして翌日。 結局神になれなかった俺は、朝からハルヒの苦言を雨あられと背中に浴びる覚悟を決め、登校中も土砂降りの酸性雨に見舞われたために既に辛酸をなめるような気持ちでいた。 そして下駄箱でも憂き目に合いながら教室へ辿り着き自分の席へと腰を下ろすと、ハルヒから他の意味でぎくりとさせられる言葉を掛けられることとなった。 「ねえキョン」 「……何だ? ポエムなら、スマンがまだ少ししか出来ちゃいないぞ」 嘘をついた俺に、 「それは急いで仕上げなさいよね。学校は明日までなんだから。どうしても出来ないってんなら、土曜の不思議探検までなら待ったげる」 なんて、二十段の跳び箱が十九段になった所で無茶な指示に変わりゃしないぜ。 俺は失敗が怖くて動けないといった根性はないつもりだが、派手に転ぶとわかっていて「やります」とは到底言えず、そして当然の如く「出来ません」など言えるわけもなく、「ああ、ありがとう」という自分では何がありがたいのか分からんながらも感謝の言葉で対応した。しかしハルヒが聞きたかったのは別のことだったらしく、「それじゃなくて」と続け、 「佐々木さん、元気してる?」 「……ん、ああ。してると思うぞ」 「そう」 特にどうでもいいといった感じで静まるハルヒ。 ――俺は佐々木の名を聞いて、先日の、佐々木に群がる奴らとSOS団との衝突を思い出した。 佐々木は自分自身を別の位置から見つめられる聡明さと思慮深さを兼備した女の子なのだが、過去に行って自分と話してみないかという藤原の話に乗ってしまい、あいつらと行動を共にしていた。 そうなってしまうような会話が佐々木と藤原の間で交わされたのは、いつもの喫茶店で俺が最初に佐々木たちと会合した後、藤原と佐々木の二人を残して帰ったときだった。 もし過去の俺がもっと佐々木の話を聞いていたならば、あいつは俺たちの争いに巻き込まれずに、安定した閉鎖空間が灰色に染まる程傷付いたりもしなかったのではないかと思う。 佐々木を傷つけた、あの事件。 それについて語る前に その事態を招く原因となったもう一つの事件について話しておこう。 長門がダウンしていた間、俺たちSOS団(ハルヒ除く。長門の代わりに喜緑さん含む)は、佐々木たちと喫茶店でハルヒの能力についての議論を行った。もちろん意見は対立し、平行線のままに終了したのだが。 そして後日。橘京子の組織がハルヒにちょっかいを出しやがり俺はハルヒの誤解を解くために思い出したくもない真似をやるハメとなったのだが、そのすったもんだは平穏に終了し、俺はようやくその日の夜深い眠りについた。 そして翌朝。目覚めるとそこは異空間だった。なんじゃそりゃ。 俺はすぐには現状把握が出来ず、もしかしてまだ夢の中を放浪しているのかと思ったのだが、俺の寝ぼけ眼に飛び込んできたある人物の姿によって、意識は一気に、鳴り響くアラート音とともに覚醒した。 そこにいたのは、周防九曜だった。 それだけでその場所が天蓋領域によって作られた空間であったのを認知でき、また計り知れない危機が俺にせまっているかもしれないという予感も身を焦がすほどに強く感じられた。 だがいつまで経っても周防九曜はバタつく俺を無機質な瞳で見続けるのみだった。 しばらくして俺は落ち着いてモノを考え初め、長門の部屋に最初に行ったときあいつはお茶ぐらい出したぞなんて緊張感に欠ける思考が巡っていた頃、その異空間に新たな来訪者が訪れる。 その闖入者の姿をみた俺は一瞬ああもうこれはダメかもしれんなと思ったが、意外にもそいつは俺を天蓋領域の異空間から救い出してくれた。 なぜ意外だったかと言うと、俺を解放した人物は――未来人・藤原だったからだ。 藤原はいきなりやってきたかと思うやいなや周防九曜の後頭部に美麗な皐月の花姿のバレッタを取りつけ、その後の周防九曜は、藤原の命令を聞くかのように従順と異空間の解除を実行したのだ。 そして現実世界に戻った俺は、もしかして藤原に感謝しなければならないのだろうかと戸惑っていたのだが、藤原は俺に、 「……まったく余計なことをしてくれた。これは僕の予定にはなかった。忌々しき事態だ。計画を変えなけりゃならない」 まるで万引きの被害を受けた店の側を怒るような理不尽極まりない文句をつけられたが、まさにこの言葉こそが、俺たちと藤原たちとの、ハルヒの能力を巡る抗争の戦火を切ったんだ―――。 争いの概要はこうだ。藤原は周防九曜を操ってハルヒの能力を奪わんとし、俺たちはそれを阻止すべく交戦した。 面子は喫茶店で議論を繰り広げた際の顔触れで、この戦いは位相転移した空間で行われた。古泉は超能力が有効化されて喜緑さんと共に戦線に加わり、橘京子に戦う能力はなかったので、佐々木と共に傍観者となっていた。 俺と朝比奈さんは言わずもがな見ているだけしか出来ず、佐々木たちと共に傍観していた。 暫く戦況は拮抗していたのだが……正直、SOS団側に思わしくなかっただろう。 そんな中、藤原によって自身の任務に関する独白がなされ、あいつら側の未来人の目的は、時空改変能力を周防九曜に消去させるというものであったのが判明し、それについての問答によって別理論での時間遡行法の話や、本来の計画では佐々木を過去に赴かせることによって現在を変えようとしていたという事実も浮き彫りになったわけだ。 そして藤原の話も終わっていよいよとばかりにSOS団が敗北を喫しようとした……そのときだった。急に橘京子が震駭しながら、佐々木の閉鎖空間に突如として《神獣》が現れ、閉鎖空間がたちまち拡大し始めたと俺たちに訴えてきた。 このままでは能力がどうのという騒ぎではなく世界が破綻してしまうので、俺たちはすぐさま佐々木の閉鎖空間へと向かい……そこに生まれた《神獣》を撃退した。 そして、あいつの閉鎖空間が消滅する直前、少しゴタゴタしていたときに俺と佐々木で交わされた会話があるのだが、これは少し思い出して振り返ってみようと思う。 それは、俺から佐々木に話しかけて始まった会話で………… 「……佐々木。良かったら教えてくれないか? お前がなんで、過去の自分と話そうなんて思ったのか」 割れていく空。かつての穏やかな雰囲気とは一変して灰色に染まった空間。そして《神獣》。 それの崩壊を……諦観のような、それでいて納得したような面持ちで見つめる佐々木に、俺は問いかけた。 佐々木は俺の方へと顔を向け、泣き明かした後のような切なさが映る笑顔で柔らかに答えた。 「キョン。僕はね、山月記の李微によって教導されるように、心の中に猛獣を飼っていたんだ。それがこんな形で具象化するなんて……皮肉以外の何物でもないが、おかげで感得することが出来たよ」 そう話す佐々木からは、やはり何処かいつもとは違う覇気のなさを感じられる。しかし、 「心の中の猛獣だって? それこそお前には似つかわしくないし、俺はそんなことはないと思うぞ」 佐々木は少しだけ普段を取り戻したように独特の笑いを発して、そしてまたすぐに哀愁を呈し、 「まあ、李徴ほどの人物と僕なんかを比喩するのは相応しくなかったね。僕には彼ほどの才知は備わっていない。それに僕にあったのは、愚昧な臆病心だけだったのだから」 自嘲する様な笑いを挟み、 「まさか僕の嫌悪するところの人体(にんてい)と同じものを自ら抱いていたとはね。恥じ入るよ。でもそれに気付けなかったのは、今では当然のことのように思う。全部僕のせいだ」 「何言ってる。こんな事態が起きちまったのはお前を担ぎ上げた奴等と……俺が原因だ。すまなかった」 たまらず俺が口を出すと、佐々木は「それも遠からず起因しているね」と答え、継ぐ言葉を失った俺に、 「でも違うんだ、キョン。これは僕が中学生の時から存在していたものだったんだから。気付いたのが現在なだけであってね。むしろそれに気付かせてくれた彼ら……特にキョンには感謝しているよ」 ありがとう、という佐々木の言葉に俺はいたたまれなさを感じ、そして気付いた。 「……ちょっと待ってくれ。そもそも俺の質問に答えが出てないんじゃないか? 言いたくないのならもう聞きはしないが、はぐらかさずに教えちゃくれないか? 俺だって、お前の力になりたいんだ」 俺の言葉に佐々木は、見て取れる程度に微小な悲しみを顔に浮かべ、 「……中学の頃、僕が恋愛感情は精神病の一種だという見解の話をしていたことを覚えているかい?」 忘れやしないさ。今でも同じ考えの奴が俺の身近にいるからな。 「それは涼宮さんのことかな? ……だったら、僕がこれから話す内容を彼女にも伝えてくれないか? きっと彼女にとっても有用な情報になると思う。多分、それは君にとってもね」 「……わかった。すまないな」 それを聞いた佐々木は、目をつむりながらすうっと一息ついて、 「――僕はね、恋人のような関係性にはまるで意味がないと思っていた。互いを見つめ合って、周りが見えなくなるようなものにはね。ただ、人生の伴侶のように、二人が同じものを見つめて歩いていく関係に関してはその限りではなかった。実はね、中学生の頃にキョンと肩を並べて歩いていたときに、僕はそれに似た感情を持っていたんだよ。これは正直な気持ちだ。そして、僕はその状況に満足していた。その関係を変えることなど考えもしなかった。それは恋人というものに意味はないと思っていたのもあったが、そもそも、僕はキョンの誰に対してもどんな場所であっても不偏的な人柄が気に入っていたからね。自分にも無理に変わろうという気持ちは生じなかったんだ。……そしてそのまま、僕たちは高校に入ってそれぞれ違う道を進むこととなった」 佐々木は俺の理解度を確かめるような間を置き、続けて、 「……それから一年以上が経過して、先日僕たちが久しぶりに駅で鉢合わせた瞬間、僕としてはキョンの顔を見て沸き出でる喜悦の情を禁じ得なかったんだ。でもそのときですら、僕はそれを、好意を寄せていた君に対して生物としての本能が感じさせたものだと思っていた。そして正直なところ……あの時僕は塾の時間までには暫くの間があってね。もっとキョンと昔のように話をしたかったんだ。言い訳がましく学校の憂さ等を語っていたがね。実はそうなんだ」 「じゃあ俺たちと一緒に喫茶店まで来たら良かったじゃないか。あいつらだって佐々木なら喜んで迎え入れてくれるし、茶の支払だって俺がいつも一括して担ってるから佐々木の分が増えたところで変わらん。お前が来てたなら奢らせてもらったんだがな」 俺の言葉を聞いて、佐々木はくっくっと嬉しそうな声色で笑い、 「それは勿体ないことをした。唯一の心残りだ。でも僕はあのとき涼宮さんたちを目に入れて、そんな余裕や厚かましい態度を取れる程心が平静ではなかったからね。態度には出さないように努めたが、あれで結構戸惑っていたんだよ」 「そりゃあ全く気付かなかった。でも何に戸惑う必要があったんだ?」 「……僕自身も、そのときは何故そんな動揺を抱いてしまったのか分からなかった。でもね、今なら理解できる。僕はあのときキョンは中学生の頃とそう変わっていないと思っていたが、キミと彼女たちをみて、以前とは違うものを感じたんだろう」 俺がイマイチ得心出来ないでいると、 「これはキョンには分からないかも知れない。自分で見ているものでも、他人からの視点でなければ感じ取れないものというのがある」 それが何かと言えば、と続けて、 「つまり、キョンの視点が以前と変わっていたんだ。僕はそれを感じて、今まで並んで歩いていたと思っていたキミが何処か別の場所へ行ってしまったように思い、無意識の中で寂寥とした侘しさを抱いたんだろう。だが僕の自意識はその感情を否み、それらが心底で葛藤を繰り広げていたために僕は動揺していたんだと思う」 …………………。急に不思議な静寂が広がる。俺が何事かと尋ねようとした瞬間、 「……ここまで、キョンは何か気付かないか?」 いんや。まだ良く話を聞かんことには何とも言えんし、すまんが話の内容以上のものは分からん。 「そうか。じゃあ話を続けよう」と佐々木は、 「少しだけ話を戻そうか。恋愛は精神病の一種だという見解についてだ。……現在僕が考える所の恋愛感情による病的症状というのは、万人がそう言うように、盲目という障害を発生させるものなんだ。そして、それは何も恋愛にとりつかれることによって恋人にしか目を向けなくなるということや、それによって周囲の状況を正常に認識し得なくなることだけではない」 「それ以外になんかあるのか? 俺にはまったく想像がつかないんだが」 ……このとき佐々木が浮かべた笑顔に、俺は軽くてやわらかな音を聞いた気がした。 「――僕も想像すら出来なかった。それに、僕がそれら以外のものに気付いたのは本当につい最近で、しかもこれは僕自身が実際に体験することによって認知出来たものなんだ。……質問の答えが遅くなってすまない。僕は、『それ』を過去の自分に教えてみたかったんだ。僕はそれに気付けて良かったと思っているけど、時期が遅すぎたことに対しては率直に後悔の念を隠せない。でも、そんな僕の愚考による浅劣な行動を君たちが止めてくれて、嘘偽りなく心から感謝しているよ。おかげでもっと大事なものに気付くことができたからね」 皆にはすごく迷惑をかけてしまったけど、と佐々木は微笑みながら話していたが、俺にはまだ分からない点があったのでそれを言葉に表した。 「佐々木。そのお前が気付いた『それ』っていうのは何なんだ? あと、もっと大事なものってのも」 佐々木はキョトンとして俺を見つめ、すっかり元通りになった独特の笑い声を漏らし、 「……既に九十九パーセントの部分を言ってしまっているようなものなんだがね。しかし、それは僕が今となっても、出来ればその曖昧な段階のまま終わらせたかったということだろう。すまなかった。ちゃんと言葉にしよう」 いや、謝るべきなのはいつだって俺さ。それに聞いてばっかりで申し訳ない。 すると佐々木は、 「――いや、考え方によっては、これはお互い良い方向に進めるきっかけになるかも知れないな。『それ』を明確に答えることによって、僕が抱えてる九十九パーセント答えが判明している懸案と、キミが抱える疑問に答えを出すことが出来るからね」 「……他にも悩みがあるのか?」 俺の言葉に、 「なに、悩みという程のものじゃない。あえて悩みという言葉で表現するなら……そうだな、百五十億年かけて壁にぶつかれば、一回は素通りできるんじゃないかという希望を否定しきれない僕の弱さに悩ましさを覚えるよ。だが、それもすぐに解決する。キョンの疑問の『それ』に対する答えとなる……次の僕の言葉によってね。これには、今までのように錯雑に言語を交えて紛らわせたりはしない。キョンには、そのままの言葉を受け取って欲しい」 俺が教会で神の御言葉を代弁する教皇に向けるような厳粛な態度で沈黙すると――佐々木から、俺が持つ想像力を遥かに超えた言葉が飛び出した。 「わたしね、ずっと前からキョンのことが好きだったんだよ? ……今まで自分でも気付かなかったのは、きっとわたしがその気持ちに背を向けていたからなんだと思う」 突然佐々木らしくない言葉でこれまたらしくないことを言われては、俺の天地が崩壊して意識がブッ飛ぶ事態を起こすのに何ら障害はない。 ――が、俺は体の支えを失って倒れこむなんてな真似は到底出来なかった。出来る筈がない。やる奴がいるとしたらそいつは本当のフヌケだ。 ……佐々木の瞳はしっかりと俺の眼へと向けられ、その言葉に冗談なんてものは微塵も入ってないと訴えかけていたからだ。 くっく。不意に俺の耳にそんな音が届いた。目の前にはイタズラな笑顔を見せる佐々木がいた。 「そう固まってくれるなよキョン。まあ、そうなるのも仕方がないことだけどね。今の僕の台詞は投げっぱなしであるがゆえに、キョンは何とも答えようがいんだ」 脳がオーバーフロー気味に停止していただけであった俺は未だ反応できず、 「それに、僕も何かキミからの返答を求めようとは思っていなかった……いや、本当は聞きたくなかったのかもしれないな。僕はこの期に及んでも、臆病な心に噛み付かれたままだったようだね。まったく、どうしようもないとはこのことだ。……このように、どうしても僕は心の中に飼っているものに自分では抗うことが出来ない。それを踏まえて、一つ質問してもいいかい?」 若干の思考能力を取り戻しつつ、おもむろに首肯した俺に佐々木はうなづき返した後、少しの間を置き…… 「もしキミが、先程の僕の発言に言葉以上のニュアンスを感じこちらの意思を受け取ることがあったなら、それに対してのキョンの気持ちをそのまま僕へと伝えて欲しい。恐らくそれは一言で済むだろうし、それで十分だろう。僕はそれに含有された意味を正しく受け取とれる自信がある。これは、今までの僕たちが積んできた時間と関係性を根拠にして言い切れることだ。それは君だって同じだろう? ……そして別段思うところがないのであれば、このまま続けてキョンが抱く疑問に対しての答えを出すことにするよ」 ――さて、どうする? と俺に質問を投げかける佐々木。俺は…………。 わかってる。流石に気付かなければならない。佐々木の気持ちに、言わんとしているものに。 即物的なものを佐々木は望んでいるんじゃない。それもわかる。 だが、それは『そう』なのだ。俺がそれを受け入れてしまえば、『それ』になってしまうんだ。 そして、あいつもわかってる。そうなってしまうということを。そして、俺のそれに対する返答と……、 ――この言葉が、どういった意味なのかを。 「……すまない」 キュッ、と唇をむすぶ佐々木。……それを見て、俺は眼の裏側が熱くなるのを感じた。 それは俺の意識をうろんげにし、ふと気付けば、既に佐々木は言葉をつむぎ出していた。思い返せば、「ありがとう」と聞こえていた気がする。それに、俺が返答してから佐々木が話し出すまではそう時間は空いていなかったかもしれない。 「……僕は恋愛感情というものに目を当てることをしなかった。そんなものは存在しないとさえ思っていた。しかし、それは確実に僕の中に成立していたんだ。それを認めなかったがために、僕は自分の心底に潜む猛獣、愚昧な臆病心に自身が捉われていることにさえ気付けなかった。それはつまり、僕は恋によって盲目になっていたと言えるんじゃないか? 恋愛感情を否定することが、実はその存在を肯定する一つの証明になっていたなんてね。不覚にも、僕の確証バイアスは真逆の結論を導いてしまったわけだ。……そうだな、この僕の経験則は、まるで社会主義の効率性を立証せんとし、逆に経済の破綻を導き出してしまったコルナイのそれに似ているよ」 まるでミレニアム賞問題のいずれかを解き伏せたような喜色でくっくっと笑い、 「しかもそれによって、僕にもずっと以前から恋愛感情は存在していたという事実と、それの不変性にすら確証付けるまでに至るとは思いもしなかった。これにはもう一驚を喫するどころか感嘆の意すら覚えるよ。ああ、こんな情操的な感情を抱けたのは実に久方振りな気がするな。一番近いときでは、都心に原発を誘致することによって原発の実態を国民に垣間見させるよう目論んでいた、都知事の計画案に対してだったかな」 まあこれは映画の話だがね、と無邪気に手を振りながら、 「キョンも見てみると良い。キミの価値観や世界観に対してもすべからく影響を与えてくれるだろうから。……そして、僕はいま、心から過去になんて行かなくて良かったと思えている。なぜなら、こうなることによって、僕の世界は新たな変容をむかえられたからね。もちろんそれはトランジショナルなものではなく、リアライズされたことによってのものだ」 フリスビーを手首のスナップだけで放ったような手つきを見せ、 「――さて、キミが残すところの疑問もあと一つとなった。僕としてはこのまま話を続けてもいいのだが、」 上空に広がっている亀裂が加速度的に拡大していく様を指差し、 「長らく続いた僕の閉鎖空間とやらも、そろそろ終焉を迎えるようだ。なので、どうかな? 日を改めて、またあの喫茶店に前回のメンバーで会するっていうのは。歓談が出来るかは分からないが、きっと彼等らもキョンに言っておきたいことやらがあるだろうし、僕もキョンがそうしてくれるとありがたい」 「ちょっと待ってくれ」 なんだい? っと思いのほか早い反応を見せた佐々木に、 「おまえさ、過去に行こうなんて思い立ったのも、藤原と喫茶店で二人っきりになったときに何か言われたからなんだろ? ……あのとき、二人でどんな話をしてたんだ?」 佐々木は微妙に悩ましげな表情を顔に作り、思い立ったように、 「……もう隠す必要もないだろう。うん、教えよう。まず僕が過去に行きたかった理由は先に話したように、僕に潜んでいた感情を過去の自分に気付かせたかったからなんだ。それはもちろん、只の自己満足などではなく、それによって変化するものがあったためだ。それは今ではどうしようもなくてね。僕は卑しくも、あのとき彼からそれを変えられるという話を聞いて、みずからそれを望んだんだ」 どこか悲しげにそれを話す佐々木に、 「……変えるって、この世界をか?」 佐々木はゆっくり首を左右に振って、 「僕の行動によって、君たちのSOS団がこの世界からなくなってしまうなんて知らなかった。本当にすまない。今思い返すと、自分の思慮を欠いた軽率な行動に悔やみ入るよ。取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだから」 いや、お前が世界を変えるようなことをするなんて誰も思っちゃいないさ。 「佐々木、謝るのはナシにしよう。それは俺がすべきことだ。お前は何も気になんかしなくっていい。それにさっきの俺の言葉だってな、どうもお前が過去に行ってなにかをやるなんて信じられなかったから出ちまったんだ。気にさせてすまなかったよ」 でも、と佐々木はうつむき加減に、 「……確かに、僕が変えたものによって現在を違えてしまう予見はあったんだ。むしろそれが、僕の本当の希望だったのかな。すまな――」 俺の視線を受けて佐々木は言葉を中断し、 「……僕の過去での行動よって、変わるものとは何か? について述べよう。それは非常にシンプルで、かつ単純に意味が反転するだけのものなんだ。それに、答えは既に僕たちの今までのやり取りの中に紛れている。キョン、わかるかい?」 んー。正直に言えばサッパリわからん。……ヒントをくれないか? 「そうだね、中学生の僕たちが話していても何らおかしくはない、むしろそちらのほうが健全であろう会話の中の一文だ。……僕はもう言いたくないので、キミ自身で気付いてくれないか? おや、これもヒントになるだろうね」 暫く考えた俺であったが、佐々木がもう言いたくないこと、という言葉をそのまま考えて答えらしきものを見つけた。だが……。 「――それって、まさか……」 「わかってくれたようだね。ご名答。それだ。そして変わるのは――」 虚をつかれて戸惑っているような顔をしている俺に、 「……僕の告白に対する、キョンの返事なのさ」 正直、佐々木のこの言葉には納得しかねた。……それって藤原の嘘だったんじゃないか? 俺の佐々木に対する認識は過去を通してつい先程まで変わっちゃいなかったし、いつ言われたとして俺の意見が変わるとは……。 「ストップ。……そこまでにしてくれないか?」 佐々木から沈鬱な色で言い止められ、 「……すまん。考慮が足りなかった」 あいつの気持ちをまたもや意にかけていなかった事実に俺が自省していると、 「そういう顔をしてくれるなよキョン。僕は何もその後の言葉が聞きたくなかったわけじゃない。あのね、親友という立場の見解から言わせて貰えば、今の言葉はキョンの返事の理由としては若干の異存を残してしまう。今のキミは、もっと違った理由からあの返事を言っているはずなんだ」 お前が言うからにはそうなんだろうな。しかし、 「じゃあ、どんな理由からだと思うんだ?」 くっくっ、佐々木は事もなげに笑い、 「……それこそが、僕が最初に感じた過去のキョンとの相違点なんだ。キミは依然として気付いていないようだが、それを僕が教えてしまうのは無粋でしかない。それに言ってみたところでキョンは合点がいかないだろうし、これは己で気付くべきものだからね」 だから言わない。と、続けて、 「さて、僕にもまだ言い残したことがあるが――それもまた次の機会に回そう。それに、僕の心も今は……人並み程度には失恋の悲しみに打ち震えているんだよ? 存在しないといっていたものを失くしたことによってそう思うなんてバカげた話だがね。……だが逆に、そうであるからこそ、今の僕の悲哀は通常よりも大きいかもしれないな。それこそ、今ここで泣き崩れることだって容易に出来る程だ。しかし、僕はキミにそんなものは見せたくないし、キョンだって見たくはないだろう?」 そう言いながら揚々とした態度を取る佐々木に、俺はそうは思わないと言った。なぜなら…… 「……おまえが一人で泣いてる姿を想像するほうが、俺としては……ずっとやりきれん」 ――そっか。と、言い漏らすかのように佐々木は小さく呟き……しばらくは俺も佐々木も表情を崩さず、ただ、佐々木が何かを思っているだけのような静寂が二人の間に流れた。 「……優しいね。キョンは、いつもそうだったね」 まったく身に覚えがないことを言われたが俺は否定せず、 「ならば、それに甘えさせて貰おう。僕はここで泣かせてもらうよ。けど、やっぱり涙は見られたくないかな。そうだ、こういうのはどうだい? キョンが許すなら、キミの胸を貸し――」 ――その時、スウ、と佐々木の頬を一縷の水が伝った。 それは止め処ないようにサラサラとしたたり始め、佐々木はあわてふためくように、 「……す、すまない。こんなモノを見せるつもりはなかったんだが…………」 ひらいた手の平でそれぞれの頬をさすりながら、 「――ふ、あっあれ……? 僕は――」 「……佐々木」 ――俺は視線を横に流し佐々木へと近寄りながら、一歩手前で足を止めた。 そこにはもはや少女の泣き顔になっていた佐々木がいて、俺は、受身になった佐々木のその潤んだ瞳をしたたかに見つめ、視線を斜に落としながら一言、「すまなかった」と……俺には、これだけしか言えなかった。 佐々木は両方の手で顔を包み隠すように、ストン。と俺の体に倒れかかってきた。 胸の中でむせび泣く佐々木に、俺はその双肩に手をやる事だけしか出来ず、「――少しは、気付いてよ……」という佐々木がこぼした言葉に、ただ、俺は馬鹿野郎だったと、痛いほど……感じていた。 っと、まあ……佐々木が過去の自分と話したかった理由は、こうだったというわけだ。 そして佐々木は最後のあのとき、俺の鈍感さ加減に対して言葉を漏らしたんだと思われる。 ……だがしかし、俺はもっと別のことに対して気付いてやるべきだった。中学時代、佐々木自身も気付いていなかった……佐々木の心の中、その脆い部分に。 そこを俺が友人としてなにか助言でも出来ていたならば、あいつが自分の悩みに気付けずに、自分が悩んでいるということにすら気付いていないという状態になるのを回避出来たかも知れない。 ……しかし、後悔ばかりしているわけにもいかなければ、現在の俺と佐々木の関係は、以前よりも健康的に繋がっている。事件の詳細についても後日の喫茶店での会合でもう少し掘り下げれられているので、もう少し回想タイムを延長しようと思う。 SOS団お馴染みいつもの喫茶店、そこにいたのは、 「よ、キョン! お前恋のポエムなんか書いてんだってなぁ? ほぉー、早く見せて貰いたいもんだ!」 いや正確に言えば一文字だって書いちゃないが。ていうか谷口、いきなり声を掛けられると困るんだが、色々と。 「お前が似合わねぇツラ下げて、物思いにふけってやがるからだよ。てゆーか、なんだ、全然書けてねぇのか?」 もっと俺を見習えよ、と俺のシリアスな回想を邪魔しくさった谷口はなにやらのたまっている。 なになに? ほう。お前はポエムの麒麟児なのかもしれないってのか。谷口。五つ神童、十で天才、二十歳過ぎればただの人って言葉を知ってるか? だがまあ谷口の場合は、五つ残念、十でがっかり、二十歳過ぎたらああやっぱりって具合だろうね。 「なに言ってやがる。俺にはひがみにしか聞こえねえな とにかく、ちゃんと書いてみるこったな」 まさしくその通りである指摘をし、早くも谷口は「ま、せいぜい頑張れよ!」とスタスタと教室内を歩き去って行った。あいつはマジで俺の心配でもしに来たんだろうか? 「ちょっとキョン。あんた、まったく詩書いてないっての?」 ……そういえばハルヒが後にいたんだった。谷口、スマンがお前は余計な事態しか起こさなかったみたいだ。 が、それより……。 ――こいつ、今日はやけに大人しいな。メランコリックなのか? まさか、なんかの予兆じゃなかろうな。それは勘弁してくれ。ただでさえ俺は朝っぱらから別の不安材料も持たされてるんだから。 「どうすんのよ? タイムカプセル埋める余裕がなくなっちゃったら」 そりゃああなた、埋めないだけですよ。とは言わず、 「いつ埋めるかもう決めてるのか? あと、何処に埋めるのかも」 そうだな、俺んちはよしといた方がいい。なんせ俺の妹という自分で隠したヘソクリすら翌日に開けちまうヤツがいる。こいつは庭に俺たちが何か埋めたのを嗅ぎつけて掘り起こすどころか、タイムカプセルの中身の眠りまで覚ましちまうぜ。 「あんたが掘り起こすんじゃないの」 とハルヒ、あくまで淡々と。俺は肩をすくめつつ、 「しないね。正直ヘソクリは俺も一日しか我慢できなかったが、こればかりは勝手に掘り起こそうもんなら団長ってよりは組長みたいなヤツから俺が埋められちまう」 ……うん? 予想に反してハルヒからの反応がない。 俺の話を聞いていたのかどうか、ハルヒは頬杖をついたまま流し目で、 「……ゴールデンウイークの花見のときに、そのまま鶴屋さん家の庭に埋めようかな。あそこなら、この先もずっと残っていきそうだし。そこで作った短歌を入れるのもアリね。うん。そうしましょう」 他人の家で実行される計画案にも関わらず、今この瞬間ハルヒの中で決定されたような口振りだ。確かにそれには誰も否やはないだろうし、鶴屋さん邸が何世代にも渡って受け継がれていきながら益々の発展を遂げていくだろう予見にも疑いようは皆無だろう。だがハルヒ、そこは人の良心としてだな、まず鶴屋さんにお伺いを立てるべきなんだぞ。 「わかってるわよ、そんなの」 いやぁどうだかね。お前ほどそこら辺が怪しいヤツはいやしないし、恐らく元より備わってないだろうし。 「あんたね」ハルヒは机の方へ体を少し沈ませて、「それもこれも、詩が出来てからじゃないとダメなの。余計なもんにあたま回してないで、ちゃっちゃと書きなさいよね。花見まで出来なくなったらどうすんのよ」 それは困るなと思いながら、 「……だいだいだな、恋の詩ってのが無茶なんだ。下手したらお前、それ、下手なラブレターより始末が悪いじゃねえか。しかもだな、ハルヒよ。それを掲示板に貼り付けられちまうってんならまだしも、自ら印刷して全校生徒に配ってどうする」 ピクリ。ハルヒの頬から杖の役割を果たしていた腕が離れる。 そしてハルヒは腕を組みながら背もたれに寄りかかり居直すと、何故かその表情は数学教師が難問を寝ている生徒に問いかけて狙い撃つ際の偽悪的に作られたニヤリ顔を呈しており、かと思えばシタリ顔で教鞭を振るうかの如く右手人差し指をクルクル回し、明快な声調で、 「キョン? いい? 宛名のない恋文になんか言葉以上の意味はないのっ! そんなんじゃ、あんたはラヴソングすら歌えないわ。世界中のシンガーソングライターを敵に回すつもり? あたしはそんなくっだらない戦いは所望してないわ。どーでもいいから書くのよ! ほら、テキパキと済ませちゃいなさいよねっ!」 「……そっ、そうか?」と圧倒される俺。 ――いやはや、今までさんざ俺が呼び水を差していたのにも関わらず、コイツはなんだかよくわからん場所で元気を取り戻した。一体さっきの俺の言葉のどこに元気の素があったと言うのだろうか。それより先にもっと噛み付くところがあったじゃないか。 しかし結果オーライだ。ハルヒはどうやら鬱々としていたわけじゃなく軽度の感情の浮き沈みで意味もなくホウけていただけだったようである。そうであって欲しい。なんせ現状は団員の原稿の仕上がり位しか危惧するところはなく、他の事情によって憂鬱な色が出ているのであれば、それはそのままハルヒ以外のSOS団員(特に俺)に憂慮すべき事態が発生し東奔西走するという過程を辿ってしまうということが、今までの経験からして疑いようもないんだから。 そんな思考を巡らしながら、「てゆうかさ」と俺。「お前、なんで今回の機関誌の内容をポエムなんかにしたんだ? 単純にページ数が少なくていいからだってのか?」 今更な質問に、ハルヒはさも当たり前のことを言わんとするかのように鼻を鳴らし、 「それもあるけどね。モチロンそれだけじゃないわ。いいキョン? 詩っていうのはね、作者の人間性を計るのにはベストな創作活動なの。人としての魅力ってぇのは結局、その人物のインプットとアウトプットがどれ程のレベルで成り立っているかってことだから」 「どういうこった」 「一つのモノから、どれだけ情報を得られるのか。それをどれだけ伝えることが出来るのかってこと。詩を作る際にはこれに情報を変換する作業が加わるの。これは人間にしかない文化なのよ? そして、いかにそれらに富んでるかってのがイコールその人の魅力度数で、それが人間性の豊かさって言葉になるわけ」 「じゃあ長門はどうなる?」 「有希はあんた、寡黙で知性的な所があの子の魅力じゃない。多くを語らずとも有希の人間性は溢れ出てるの。むしろ、有希は背中でモノをありありと語ってるわね。そういうこと」 ふむ……まあ、わかる気はする。長門はアウトプットこそ微小だが、そのままハルヒの言葉通りに行動から長門らしさが顕然と現れるし、内包しているものはそれこそ計り知れない程だ。 それに、その理論を体現しているのは他ならぬハルヒ自身であろう。 世の中の事象全てを己が内にせしめんとし、コメットハンターばりの瞳で宇宙を見つめながら実際にその目の吸引力で彗星をも引き寄せそうなハルヒの求知心は本当に珍妙なエトセトラを呼び込む程であるし、こいつがアウトプットするモノは物理的概念的な意味でも途方もない。 ……って、これじゃあハルヒが魅力度トップって話になっちまうんじゃないか? 魅力的ランキング争い大本命の朝比奈さんはどうした。 俺の脳内で何故か陸上競技のビブスを着用したSOS団三人娘(ハルヒ赤、長門青、朝比奈さん黄色)が激烈なレースを繰り広げていると、 「それにね。今回の機関誌製作は、昨今のテレビ制作やミュージックシーンに対するアンチテーゼでもあるの」 それは気付かなかった。まさか、特に別条のない一学校組織の中でもおぼろな一団のポエム誌に、そんな大仰な意義が付属していたなんてさ。 ハルヒは未だ腕を組んだまま、若者がフェミレスで姿の見えない何かに対して実体のない怒りをぶつけているような感じで、 「家族と夕飯喰ってるときに流れてるテレビ位はあたしの目にも入るんだけど、なんでどの局もテンプレートに似たような番組しか作ってないの? 制作スタッフが大衆を愚鈍だと思ってるとしか思えないわっ! それに音楽だって、癒しだのなんだのばっかで逆にウンザリしちゃうってのよ。もっとあたしたちみたいに、面白さがなんたるかを突き詰めてクリエイトしていくべきね!」 その面白さの基準は全てハルヒ視点からなるものでありそれによって俺と朝比奈さんが被害を被る事が非常に多い件については、じゃあ面白くないのかという問いに対して俺はあの日キッパリと答えを、明言しているので言及しない。それには長門、朝比奈さん、そしてどうやら古泉すらも同じ答えを出すであろうから、なんら問題はないんだ。まあ……毎回事件は起こるんだが。 そして俺は音楽業界に明るくはないのだが、確かに近頃メディアで流れているインスタントなミュージックよりは親の部屋から流れてくるロカビリーでジャジーな野良猫たちの音楽や、メンタイコが好きな雄鶏が歌うロックンロールの方が心に触れるモノがある気がする。だが多分、つまびらかに調べて行けば現在もそういったミュージシャンたちは存在するんだろう。そういえば谷口がリンゴがどうだのピローがどうしただのと絶賛してたっけ。 しかしテレビについては一つ俺の考えをハルヒに示してみようと思い、実際に提言してみた。 「ハルヒ。確かにお前のその意見には俺もほとんど同調する。しかしだな、テレビに関しちゃそんな手法を取っているのは他にも原因が考えられるんだぜ」 「なによ? まさか効率性重視な商業の打算的な考えだとか、興行だからとかいったツマンナイ理由を言い出すんじゃないでしょうね」 それも言おうと思っていたのでちょっぴり悔しくなり、「そうじゃない」と負け惜しみ的に前置きして、 「つまるところ、民放のテレビってのは単なる看板でしかないんだ。制作側がどんなに新鋭的で良質な番組を作ろうが、それを見る人が少数派ならスポンサーの付き手が少ないから成り立ちにくい。言うなれば、それは砂漠のオアシスみたいなモンで、見定めることができるヤツにとっちゃあまさに楽園だが、悲しいかな人が少ない場所には看板が立ち難いし、立たなけりゃ広告宣伝料も入らないがゆえに番組は潰れちまうというわけさ。しかしだ、そんな番組は当たれば視聴率が安定して得られるし、成功例が往々にして長寿番組になるんだ。と、そうは言ってもそれは難しい。それより、魚群の中にその時々で効果的な仕掛けを放ったほうが成果としては確実に望めるだろ? でもだな、そんな打算的なツマラナイ手段を取るハメになるのは、時勢に飲み込まれている視聴者側が、鋭気溢れる制作者たちの番組に目を向けられないからというのも起因してるんだ。つまり似たようなテレビ番組が増えてるのは、我々民衆の意識の程度にも問題があるわけで――――」 と……ここまで言いかけて、俺はどこかこの状況に既視感と違和感を覚え、ハッとするようにピタリと止まった。 「どうしたの? ちゃんと最後まで言いなさいよ。気になるじゃない」 「あ、ああ。そうだな……」 俺はハルヒに余した話を言い終え、先程感じたものについて考察し、それはすぐに判明した。 ――そう。さっきの風景は、ハルヒがSOS団結成を思い立つキッカケになった一年程前の俺とハルヒの会話の風景に似ていたんだ。 そして、あの頃とは決定的に違うものがある。 それはまあ、俺とハルヒが話している姿が周囲から見てなんら不思議ではなくなったということと、俺の演説をハルヒが止めなかったこともそうだな。思えば、会話の内容がハルヒ的には死ぬほどつまらない話であったはずにも関わらずだ。 ついでに言えば今は雨が振ってるし……朝倉もいない。 だがしかし、一番変化していて、しかも一番重要な以前との違いはそんな目に見えてわかる事柄じゃないんだ。一体それは何か。 わかるだろ? ハルヒは今、この世界を心から楽しんでいる。 そしてそれは、俺だって一緒だ。もちろんSOS団のみんなだって。 でもまあ、それには気付いているつもりだった。だったんだが……。 見えているものが違う――。俺は、佐々木があのとき言っていた言葉の意味が今、何となく実感出来たような気がした。 第二章
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第六章 虹色に輝くオーパーツ。その光がやみ終える。 「変な気分だ」 「ええ、無理も無いでしょう」 部室を出て、二人は長門の住むマンションにと向かった。ここ数日分のの記憶が二つ存在している。むこうの世界の俺がそう判断したんだからしょうがない。こうなることが分かっていたら、俺はどうしていただろう。くだらないことしか思いつかない。同時刻にチェスと将棋で古泉を打ち負かしてやるってのはどうだ。 こっちの世界・・・正規の世界では俺は無様にも何もすることが出来なかった。長門が倒れている中で古泉や喜緑さんに頼りっぱなしだった。しかし向こうの世界では少しは貢献できただろう。しかも今回は長門と古泉が毎度のように奔走する中、あの朝比奈さんが許可なしでは禁止されている時間移動をしてみんなを助けに来た。そしてSOS団に対する俺の気持ちが分かったような気がする。そう考えると同じ記憶を持つってのも悪くない。 オートロックを開けてもらい、長門の部屋の前に着いた。玄関のドアを開けると、奥から話し声が聞こえる。どうやらいつも通りの会話が聞こえる。にぎやかな話し声だ。 部屋に行こうとすると向こうからハルヒがやってきた。 「ちょっと遅いわよ。それよりも早く・・・」 分かっている。それ以上は言わなくてもいいんだ。俺は体験して確認できているんだからな。 扉を開けると、寝ていたそいつはこう言った。おいおい逆じゃないか?お前は俺の妹みたいなことを言うな。 「・・・ただいま」 長門は体を半分起こしている。 「ちょっと有希、まだ無理しちゃダメよ。まだ治ってないでしょ」 ハルヒは言葉では心配しているが、心では安心しているのだろう。長門の顔をみる限り寝込んでいたのが嘘だったようにケロッとしている。それを見れば気づくのだろう。もう無事だと。古泉と朝比奈さんも良かったとつぶやいている。 長門が無事と分かればハルヒはあれやこれやと話し始める。 「本当に心配してたんだから」 とか、 「体調を崩し始めたらすぐあたしに言いなさい。団長命令よ」 とか。長門はそれをただ聞いている。ハルヒは早速作ったおかゆをたべさせようとする。普通の病人ならそう簡単に食えやしないだろうが。がっつきすぎだぞ、長門。 喜緑さんは長門の無事を確認できたからなのか、 「少し用事がありますのでお暇させていただきます。今晩の看病は引き続きお任せください」 と言って出て行った。情報統合思念体に報告でもするのだろう。 その後俺たちはしばらく長門の部屋にいた。何をしていたかと言うと、珍しくハルヒと長門が会話をしていた。とはいってもハルヒが長門に一方的に話しかけているだけで、数分おきに長門が 「・・・そう」 「・・・分かった」 とつぶやき、はたまた、 「・・・・・・・・・」 無言で会話をしているように見えた。心なしか長門は嬉しそうだった。古泉や朝比奈さん、喜緑さんは黙ってそれを見守っている。 俺はというと・・・これからやることを整理していた。まだまだやらなくちゃいけないことがある。だけど少しくらい先延ばしてもいいよな。今日くらい久しぶりのSOS団を満喫してもいいじゃないか。 「やばい、忘れてた」 「何言ってるの、キョン」 「ちょっとレンタルDVDを返し忘れてた。悪い、今日は先に帰る」 ハルヒのギャーギャーいう声が聞こえる中、部屋を出た。早くオーパーツを鶴屋さんに返さないとな。またどこかに忘れたりなどしたらまずい。玄関に行くと喜緑さんが立っていた。 「お薬をお持ちいたしました。特効薬です」 いかん。こいつも忘れてたな。そのフォロー助かります。 さっそく鶴屋家へと走る。ほんと走ってばっかりだな。 何度見ても荘厳といえる家だ。インターホンを鳴らす。鶴屋さんが門まで来てくれた。 「やあ、それはもう必要ないのかいっ」 「ええ、助かりました。ありがとうございます」 今回はこの人だけでなく、鶴屋家のご先祖様にまで助けられたな。 「じゃあこれはまたうちで保管させていただくよっ。それよりもキョンくん。答えは分かったのかなっ」 このお方は何かが起きたって分かっているんだな。 「まあキミの顔を見れば分かるっさっ。少年、大使を持つにょろよ~」 ええ。既に大使は身につけてきましたよ。 家に帰ると妹が玄関にやってきた。 「ただいまー」 おう、おかえり。今日は間違えずにすんだな。 夕飯を食べ、自分の部屋へいった。ベットに寝ころがりながら考える。明日やるべきことを・・・ 翌日、水曜日。 自分のクラスに入るとハルヒがすでに来ていたようだ。 「昨日は悪かったな」 「悪いも何も、あんたはもっと部員を心配しなさいよ」 「分かってるって」 どうも昨日俺が帰った事で不機嫌らしい。 「有希、今日は学校に来ているわ。熱も下がってすっかり治ったみたい」 「会って来たのか」 「そうよ。きっと喜緑さんの特効薬が効いたんだわ」 まあそれだけではないだろう。お前が昨日ずっと居座って長門と話をしてたんだからな。長門も安心したんだろう、自分の居場所を確認できて。 昼休み。弁当を即効で食い終え、部室へと行く。そろそろこの不摂生が何かの病気にならなければいいが。 「どうぞ」 「お待ちしておりましたよ」 部室には古泉と朝比奈さんががいた。珍しく長門がいない。 「あなたはどこまでご存知ですか」 「さあな、さっぱりだ」 「それでは僕が」 またこいつの仮説を聞かなくちゃいかんのか。できれば長門に聞きたかったんだが。いや、二人いた方が分かりやすいか。 「僕が二つの記憶を持ち合わせていること、またあなたや長門さん、朝比奈さんの話を思い出すと、先週の土曜夜に世界は分裂してしまいました」 ああ、そうだったな。 「我々の記憶上で残っている世界をα、結果として存在していた世界をβとします。長門さんや喜緑さんが分裂した事を気づけなかったのは、九曜と言う宇宙人の仕業でしょう。α、βの両世界において妨害していたようです」 結局、九曜というやつのもよく分からなかったな。 「ええ。いくつかの能力において、長門さんよりも上位にあるようです。ただし意思というものがないのでしょうね。今後なにをするのか予想がつかないのは脅威ですが、恐らく単独で行動することは無いと思います。涼宮さんの能力に興味を持っているのですが、どうしたらよいか分からないといった感じでないでしょうか」 現に長門は倒れてしまったんだ。脅威だろ。 「そうとも限りません。喜緑さんがいますでしょう。今回のことで喜緑さんはよりいっそう警戒しているようです。僕が直接聞きました。二人がそれぞれ補っている限り、攻撃してもその時は回避できるはずです。九曜さんが長門さんに直接攻撃してきたのはβの世界です」 「じゃあαの世界の敵は藤原ってやつなんだな」 「その通り。彼があなたを利用して涼宮さんから佐々木さんへ能力を移し変えようとしたようです。もっとも移し変えようとしたのではなく、涼宮さんの能力をもともとなくそうとしたのではないかと。朝比奈さんの未来とβ世界の長門さんを人質にとって」 そこで朝比奈さん、あなたのおかげで助かったんです。 「またいつかお願いしたいものですね」 古泉ちゃかすな。朝比奈さんが困っているだろ。そういや勝手に時間移動してよかったんですか? 「あのう、わたしどちらの世界でも未来と連絡を取れなくて。古泉くんの言うβっていう世界ではあきらめてたんです。でもαって世界ではダメもとでやってみたんです。そしたらできちゃって・・・今は、禁則なんですけど未来と連絡取れるんです。そしたら禁則ですけど・・・処分待ちだって・・・」 やっぱりいけないことだったのか。どうしたらいいんだ。すると部室のドアが開いた。長門がやってきた。 「心配する必要は無い」 その言い草は何だ。俺たちの会話はお前に筒抜けだったのか。それにしてもやけにおそかったな。どこいってたんだ? 「涼宮ハルヒの作成した弁当を共に摂取していた」 そこまでハルヒは面倒見ているのか。で、朝比奈さんはどうなるんだ?しばらく黙った後、長門はこう言った。 「大丈夫。いずれ分かる」 だからどう大丈夫なのか言ってくれよ。それとも言わなくてもすぐ分かるってことなのか?朝比奈さんが縮こまっているじゃないか。それでもその怪訝を気にする必要はないと言わんばかりに違う説明をした。 「世界を分裂させたのは涼宮ハルヒ。九曜と呼称される個体により、発見が遅れた。彼女は我々情報統合思念体と発祥が異なるため、攻撃方法も分析できなかった。また分裂の原因はあなたの友人である佐々木と呼称される人物。涼宮ハルヒは嫉妬と呼称される感情を持ち、佐々木と呼称される人物を消去した」 そういえばハルヒがやったんだよな。よりによって俺の友人に手を出すなんて。 「それは気になりますね。今後涼宮さんが同じようなことを起こすかもしれません。もちろん、あなたと涼宮さんが結ばれてしまえば気にかけることはないでしょうが」 だから古泉、その発言はよせよ。 しかし俺はハルヒがまた同じ事をするなんて思っていなかった。今朝ハルヒとした会話の続きを思い出す。 「長門が俺たちに寝込んでいることを言わなかったのは、長門なりに心配かけたくないってことだったんじゃないか。長門にも言いにくいことはあるだろうさ」 「まあ・・・それも分からなくもないわ」 「誰にだって言い難いことはある。そういうお前も俺たちに言えないでいることはあるんじゃないのか?」 そう言うと、しばらく窓の外を見てハルヒはこう返答した。 「そうかもね」 そして口ごもるようにこう続けた。 「・・・・・・あんたあたしに隠し事していない?例えば誰かと付き合っているとか。この前会った佐々木さんとか怪しいわね。例えばの話よ」 「お前、残念ながら俺がどれだけもてないのか分かるだろ。いる訳ない。佐々木と俺との間に恋愛感情などない。異性同士でも親友という関係が成り立つってのが俺の持論だ。仮に少しでも気になる異性がいたらだ。真っ先にお前に相談するよ」 同性の国木田とかに相談するより、異性のお前たちに聞いたほうが少しはためになるだろう。ましてナンパ成功率0.00・・・1%の谷口に相談するなんぞもっての外だ。 「それもそうね」 何か勝ち誇ったようにハルヒは俺に笑顔を見せている。 「そういうお前はどうなんだ。入学して一年たつんだ。彼氏を作る気はないのか」 「あんたには関係ないわよ」 「おいおい、お前は俺に隠し事するのかよ」 「・・・・・・あたしはそんなことよりSOS団のみんなと遊んでいる方が楽しいわ」 「それには俺も同意見だ」 はっきりと遊んでると言い切ったな。本来の活動内容はどこへいったんだ。 「ならハルヒ、悩み事があるなら俺たちに相談しろよ。もっともいえる範囲での内容でいい。俺だったら何でも言うさ。まして恋愛ごとに関していったら、SOS団には女性が三人もいるんだから。悔しいがこの学校ではトップクラスで異性にモテている古泉もいるんだ。俺たちに隠し事などない方がいいだろ」 「当たり前よ。SOS団に隠し事なんて不必要だわ」 もっとも、隠しておかなければならないことは隠し通すべきだ。いきなりあの三人が本性を語り始めたりすることはないだろう。それ以外のことだったら何でもいい。幸か不幸か、SOS団のみんなは一年間毎日同じ時間を過ごしてそんな間柄になっているに違いない。担任の岡部が教室に入ってきたところで、会話はそこで終了した。 回想終了。俺は確かめるべく、まず古泉に聞いた。 「そういうお前はどうなんだ。新学期になって早速下駄箱にラブレターなんてもの入ってたりしないのか?」 「いきなりどうしたんですか?・・・新一年生から何通かそのようなものを受け取りましたよ。でも今の僕にはそんなことをしている時間はないんです」 うまく紛らわそうとする古泉に、拍車をかけるように質問を続ける。 「じゃあ逆に気になる子とかいないのか?告白を断り続けているのも、既に意中の人がいるとかはないのか」 「・・・・・・そうですね、僕は機関の仕事で忙しいのでそのようなことを気にする時間はないんですよ。もっともプライベートの時間はこの部室や週末の野外活動で、あなたたちと過ごすことで満足してしまっているようです」 古泉はシロか。そう思いながら今度は女性に目を向ける。 「朝比奈さんはどうですか?あなたもたくさん告白を受けているのでしょう。この時代で恋愛してはいけないんでしたっけ?でも一つ禁則事項を破っているんですからもう一つくらいかまわないでしょう」 「いきなりなんてこというんですかぁ~。あっキョンくん、その顔はだまそうとしたんですね。いじわるです。好きな人がいるかどうかは・・・、禁則事項です」 やはりこの人は分かりやすい。残念そうな顔をしている朝比奈さんを見れば、そのようなことはないだろう。 「長門、お前はどうなんだ」 目を見開いてこちらを見ているように見える。なんてことを聞くんだって顔か? 「・・・・・・ヒ・ミ・ツ」 そりゃないだろう。少しくらいお前のプライベートを聞きたいもんだ。お前も中河以外から告白を受けたりしなかったのか? 「・・・・・・そのようなものを受けた場合、今の私だけで判断することは出来ない。情報統合思念体の見解が必要。またあなたたちにも見解を求める可能性もある」 ようするに親や俺たちに相談するって事か。 「お前たちのことは分かったよ。ハルヒにも今朝同じ事を聞いた。釘刺しておいたよ。あいつは俺に遠慮していたみたいだな。嫉妬かどうか分からないが、俺なんかを心配していたんだろう。これからはお互い隠し事はなしだって約束したさ」 俺はそのとき一つ見過ごしていた。さっきの俺の発言に対して反撃してくる可能性があるということを。よりによって古泉ではなく、朝比奈さんが反撃してきた。 「それで、キョンくんはなんて告白したんですかぁ?それとも涼宮さんに告白されたのかな。教えてくださぁ~い」 どう答えていいか考えているうちに、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。助かった、と思いきや三人が近づいてくる。くそっ、教室までダッシュだ。 「おや、逃げ足だけは速いんですね」 そう言う古泉を後ろにして、何とか教室へと戻ってこれた。 放課後、部室へと向かった。既に一人部室にいた。二日ぶりに、休みを入れると三日ぶりに五人揃って部室で活動できるんだな。長門が椅子に座り本を読んでいた。そういえばこいつに聞きたいことがまだあったな。 「そういや、俺が電話をかけただのかけてないだのってこと分かった気がするぜ」 「そう」 俺は確かに一方の世界では長門に電話をし、もう一方の世界ではしなかった。こいつの言ってたことと同じだな。しかし何だってそんなことになったと思っていると、それを見かねたのか、長門が説明してくれた。 「あの時間、あなたからの電話の電波情報が別の世界の私に発せられた。その原因も恐らく九曜と推定される」 「だから俺はお前が倒れていることに気づけなかったんだな。ひょっとして九曜は、言いにくいんだが、お前より強かったりするのか?」 「・・・情報統合思念体は未だ解析できていない。しかし今回のことからその可能性は否定できない。もしくは我々と九曜が持つ能力が別々に存在している可能性もある。お互い意思伝達が出来ないのもそれが原因とも思える」 後者の方がいいんだがな。また襲ってくるなんてこともあるだろ。 「私がさせない」 「私たちが、だろ。お前も今回のことで分かっただろ。一人で解決できなくともみんなの力で解決できることがあるって。少しは俺たちのことも信用しろよな。古泉の機関や朝比奈さんの未来勢力にとっかかりはあるかもしれないが、お前個人が危ないって分かったらみんな助けに来ただろ。古泉や朝比奈さん、それにハルヒのことも信頼してくれよ」 長門は沈黙の後、何かを確信したかのように言った。 「・・・・・・分かった」 残りの三人がやってきていつものように放課後を過ごした。いや、いつも通りではなかったな。俺と古泉がボードゲームをし、ハルヒはパソコンをいじり、長門が窓辺で本を読み、朝比奈さんがそれらを見守るようにお茶を汲んだりしていた訳ではなかった。古泉が持ってきた人生ゲームを五人みんなでやっていた。しかしまたしても奇妙なことが起きた。それぞれの職業が、ハルヒは総理大臣、古泉はマジック芸人、長門はNASA、朝比奈さんはタイムマシーン製造業なんてのにつきやがった。こんなゲームどこで作ったんだ。かくいう俺は、言わずとも分かるだろ、雑務係の万年平社員だった。 ゲームをしながらハルヒは不満げに呟いていた。 「なんで入団希望者が来ないのかしら。今年の一年はみんな腰抜けばかりね。もっと歯ごたえのあるのが来ると思ってたのに」 「まあまあそうあせるなって。そう簡単にお前の目にかなうやつは見つからないだろ」 「やっぱり去年のうちに目ぼしいのを探しておくべきだったわ」 下校の時間になり、五人は早々と部室を出た。 「あのゲームはなんだ、お前らの機関が作ったものか?」 「いえ、新発売の人生ゲームですよ。あの手この手やりつくして、奇抜な内容になってしまったようですね。まさかあんな結果になるとは思っていませんでしたよ」 古泉と下らん会話をしながら前を見ると、長門はハルヒと朝比奈さんに挟まれながら歩いていた。ハルヒと朝比奈さんだけ会話をしているように思えたが、時折、 「・・・・・・そう」 「・・・・・・うかつ」 という長門の声が聞こえた。よかったな、長門。 五人が解散した後、俺は一人喫茶店に来ていた。数分後、もう一人やってきた。 「待たせたね。宿題を先に済ませておこうと思ってね」 向こうの世界で顔をあわせた後、一度もあっていない佐々木が来た。昨日のうちに待ち合わせをしておいたのだ。 「キョン、すまなかった。先に謝らせてくれないか」 「謝るのはこっちだ。お前は散々な目に会っただけだ」 「一時の迷いがあったとはいえ、本当に悪かった。橘さんたちとはもう会わないことにするよ。少なくとも僕から会うことはない」 佐々木が席に着くなり、二人とも頭を上げ下げしていた。こうしてはおれん。コーヒーを注文してひとまず落ち着くことにした。 「ハルヒがあんなことをしないように確認しておいたから。安心して大丈夫だ。あいつに謝らせることはできなかったから、俺の方から謝るよ。本当にすまなかった。今後、九曜や藤原がお前襲ってきてもSOS団で助ける。だから心配するな」 「そうしてもらえると助かるよ、ありがとう。それにしても藤原さんがあんなことをするとは君も思わなかったんじゃないかな。さぞかし意表をつかれただろう。今回の作戦を提案したのは橘さんさ。彼女もなかなか策士だね」 やけに絡んでこないと思ったら、考えたのは橘だって訳か。確かに彼女の能力は佐々木の閉鎖空間に入ることだから、襲ってくるとは思わなかったが。 「僕が思うに、九曜さんは能力を移し変えることなんてできないんじゃないかな。もしくはやりたくないとか。彼女は最後まで理解できなかったよ。だから橘さんは藤原くんにお願いしたと言うわけだ。彼が未来人なら世界が分裂したことなどあらかじめ知っていてもおかしくはないだろうし」 確かに何も知らない向こうの世界で、いきなり藤原が襲ってきたときはビックリした。あの七夕に連れ去られるとは。かろうじて長門が反応して一緒に来れたことが救いだった。あそこに一人連れ去られていたら、朝比奈さんがくる前に精神が参っていただろう。 「一つだけ謎を推理したんだが聞いてくれないか」 「おや、めずらしいね。君の論説も久しぶりに聞いてみたいよ」 「佐々木、お前にも閉鎖空間があるって言っていたが、それは橘の嘘なんじゃないか?日曜お前の閉鎖空間に入ったんだが、十秒くらいで出てこれただろ。ハルヒのそれに入った経験からすると、閉鎖空間の時間は実際の時間と共に進行するか、それか時間はたたずに出てこれるんじゃないかって思って。あの時のは九曜に魅せられた幻なんじゃないか。だからお前にはハルヒの持つような力は存在しないと思う。でないと藤原のやつがした行動も矛盾することになる」 「なるほど、そうだとありがたい。君の推理も一理ある。何しろ僕がそのような力を持っていたくはないんだ。平穏な生活を望むよ」 「俺だってそうさ。それにハルヒはお前を消そうとだけしてたとは思えない。向こうの世界にだけ、SOS団にお前を含め入団希望者がやってきただろ。いくら藤原の時間移動で来れたとしても、それだけじゃハルヒによって拒まれるんじゃないか。お前を消そうとしたことに罪悪感を持ったんじゃないかって。だからお前は向こうの世界に異世界人としてくることができた。どうだ?」 「くっくっ、涼宮さんにおける君の信頼は厚いね。うらやましいよ。まあ君がそういってくれるだけでも僕は安心することができる」 ああ、そうに違いない。ハルヒが一時の迷いで人を消してしまおうなんざするはずがない。 「何はともあれ、今後ともあいつの行動には気をつけるよ。この前話してた同窓会の件だが、俺と佐々木で決めちまわないか。二人をお互い窓口にして。会うことはハルヒにも言っておくさ」 「そうしてくれると助かる。早く決めてしまいたいしね。何より息抜きになりそうだ。相変わらず僕の学校はみんな勉学に気を張り詰めてばかりだからね」 その後、俺は佐々木の話に耳を傾けつつ相槌をつくように会話した。久しぶりだなこの感覚。 「では同窓会の件は僕からみんなに連絡しておく。展開があったらこちらから連絡するよ。君の学校の人たちにも伝えておいてくれないか」 「ああ分かった。じゃあばた今度な」 二人は喫茶店をでて別れようとしている時だった。俺たちの背後にいやな気配がする。授業中にも感じる、あの刺々しい気配だ。 「あらキョン、こんなところで何してるの?」 なんだってんだ。この状況をこいつに見られたら、振り出しに戻ってしまうじゃないか。どうする俺。最悪だ。修羅場だ。女の修羅場が始まるぞ・・・こんな時に発せられる男の第一声ってのはなんとも情けなく聞こえるのだろう。 「あのな・・・お前なんか誤解していること言っただろ。この前佐々木と俺たちが会った時、お前つれない態度だったじゃないか。だから佐々木も気にしているみたいでな。だから今しがた、その誤解を解いてこいつにも理由を話していたわけだ。はははっ・・・」 ああ、俺の人生はここで終焉を迎えようとしている。せっかくあの場から戻ってこれたって言うのに。しかしその時、神の声が降り注いだ。 「なんだってキョン、君ってやつは。今日のことを説明してなかったのかい?涼宮さん、これを機に新たな誤解を生む必要はないよ。先日あなたに対してあまり良くない印象を与えてしまったみたいで気になっていたんだ。せっかくの出会いも第一印象が悪かったら人生を損すると思える。僕はあなたに対してそのような印象を持っていないんだ。しかもこれがいい出会いになることを望んでいる。それに彼と会うことは、中学の同窓会のことで話そうと僕から提案したことなんだ。どうか、気にかけないで頂きたい」 佐々木よ、お前に力がないなんて言って悪かった。お前は神だ。 「ふうん・・・・・・そう・・・・・・。ならいいけど」 「そうなんだよ。ハルヒ。じゃ、じゃあまた明日な」 ここ一週間で最も早く俺の脚が動いたのが、まさかこの時だなんて。情けないったらありゃしない。一刻も早くあの場を立ち去りたかったからだ。しかし、俺が逃げるようにその場を立ち去った後、二人が何か話していることに気づくべきだった。 そんなこんなで家に着き、夕飯を食った後、また外へ出た。 「どこに行くのー?お散歩?それとも彼女?」 「そんなんじゃありません。ちょっとコンビニにな」 「えー、いいなあ。キョンくんおみやげ買ってきてねー」 今日はやることが多いな。しかしそれを見逃すわけにも行かなかった。今朝下駄箱に手紙が入っていたからだ。 『今日の夜九時、いつもの公園で待っています 朝比奈みくる』 そうだ、今回の事件で何も絡んでこなかった、しかも小さい朝比奈さんに対しても何も連絡しなかったのであろう、もっと未来にいる朝比奈さんの呼び出しがあったのだ。 公園に着くと、朝比奈みくる(大)がベンチに座って待っていた。 「急に呼び出したりしてごめんなさい」 いや、いいんです。俺も聞きたいことが山ほどあるんです。あなたがどこまで話してくれるかどうかは分かりませんが。まず一番聞きたいことはこれだ。 「今回のことも規定事項だったんですか?」 そう尋ねると、言葉が詰まっているように見える。目に涙も浮かべているようだ。 「いえ・・・今回のことは私たちもあなたに委ねようとしていました。あの時、あなたがどの未来を選択しても納得するようにしました。それまでは干渉しないように決めていたのです。あなたにとって酷な選択でした。でもあなたのおかげで今、私や長門さんがこうして生きていられるのです。そしてこれだけは分かって欲しいです。そうすることしかできなかったの・・・」 酷だ、酷過ぎたさ。でもあなたはヒントをくれた。 「では今俺たちと時間を共にしている朝比奈さんについてはどうなんです?それにあのオーパーツはあなたのヒントだったのでしょう?」 「・・・禁則に関わってしまいますが、あの時の私に判断させることしかできなかったの。おかげで今私がいる未来では飛躍的に変わったことがあるの。時間平面移動について・・・それまでは許可なしにすることは禁止されていたけど、身の危険が迫った時はやむを得ず移動してもいいと決められました。他にも色んな制約はありますが、おかげで緩和されるきっかけになったの。あのオーパーツに関しては今回の事項においてどんな形であれあなたが思いだすことが必要でした。あの後すぐに発見するとは思いませんでしたが・・・」 朝比奈さんがあの場で時間移動したことが、この朝比奈さん(大)にとっての規定事項だったのだろう。ともすれば、これがきっかけで朝比奈さんの地位が上がるってことになるんだな。早く伝えてあげないと。・・・これも恐らく禁則事項なんでしょうね。そう言って彼女を見ると、頷いている。 「それで、藤原というあの未来人のことなんですが・・・」 「それ以上は禁則事項なのです。・・・ごめんなさい」 そう言って彼女は立ち上がり、 「そろそろ時間なの。でも最後にこれだけ言わせて。キョンくん、あなたのおかげでみんな助かることができたの。本当に感謝しています」 そして草薮の方へ消えていった。 俺の頭に二つの懸念がよぎる。恐らくあの藤原と言うやつは朝比奈さんのおかげで自由に時間移動することができたのだろう。それができなければ朝比奈さん(大)たちの手によって囚われの身になってしまう。そしてオーパーツ。あれは朝比奈さん(大)たちが作り出したものなのであろう。宇宙人が作ったとも考えられるが、長門や九曜を見る限り、わざわざ三百年前の人に渡して、それをこの時代まで見つからないようにするなんて手の込んだ事しないだろう。未来人が置き忘れたか、この時のために埋めさせたと考える方が納得いく。ともすると、朝比奈さん(大)のいる時代は四年前の時間振動など消滅しているのだろう。あなたのいる未来はすでにハルヒの力がなんなのか分かっているのですか? →[[「涼宮ハルヒのビックリ」エピローグ あとがき]]へ
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谷口こと、コードネーム『ジャッカル』がハルヒに瞬殺されたその日の夜、 4人の男女が一同に会していた。 世界のカップルを撲滅させることを目的とした「しっと団」の緊急会合である。 「たにぐ……もとい、『ジャッカル』がやられたというのは本当か?『スネーク』。」 「『ジャッカル』は、涼宮ハルヒにやられたようですな。」 『スネーク』と呼ばれる男は、淡々と説明をする。 「チッ……役立たずが。」 「そう言わないの『フォックス』君。彼がダメってことぐらい、分かってたことじゃないの。」 「しかしだな『キラー』、まさかここまでの役立たずだとは……。」 「彼はちゃんと役に立ってくれましたよ。」 『トゥモロー』は穏やかにそう言った。 言い合っていた『フォックス』と『キラー』、そして『スネーク』が『トゥモロー』を見る。 「彼に涼宮ハルヒを倒すことなんて期待していません。 彼の役割は涼宮ハルヒをセントラルタワーにおびき出すこと。 この計画を伝えれば彼女のことです、きっと首をつっこむはずです。」 「しかし『トゥモロー』。彼女を呼び出す必要はどこに?」 『スネーク』が疑問を呈した。それに『トゥモロー』は、不敵な笑みを浮かべながら答えた。 「彼女がいないと意味ないんですよ……」 谷口が電波なことを言った翌日、俺とハルヒは部室で古泉、長門、朝比奈さんに昨日あったことを伝えた。 「ふぇ~、まさかそんなことがあるんですかぁ~?」 「もし本当なら、これは問題ですね……」 「……。」 古泉の言う通りだ。冗談にしちゃタチが悪すぎるぜ。 「というわけでみんな!当日はそこに乗り込んで、計画を阻止するわよ!!」 「ひぇ~、で、でも危なくないですかぁ?」 「何言ってるのみくるちゃん!私達がやらないで誰がやるのよ!!」 警察の人とかに任せればいいんじゃないか? 「何言ってるの!警察に言ったって信じてもらえるわけないでしょ! 私達がやらなきゃ!」 「あのなあハルヒ。最近ではネットにウソの爆破予告があったって警察は動くんだぞ。 事情を説明すればきっと……」 「私も彼女と同意見。」 「……長門?」 長門の意外な発言に驚く俺。 長門なら、警察も動いてくれることぐらい知っているはずだが…… 「ほらね!有希もこう言ってるのよ!当日はいつもの場所に集合! その後みんなでセントラルタワーに乗りこむわ!」 やれやれ……どうやら俺達がやることに決定しちまったらしい。 まあいざとなったら長門がいるし、大丈夫だとは思うが……。 帰り道、俺は長門と古泉と一緒に歩いていた。ハルヒと朝比奈さんは別の方向だから道は別だ。 さて……ハルヒもいなくなったことだし、ハルヒの前じゃ聞けないことを聞くとするか。 「古泉、今回の件についてどう思う?」 「さて、僕はなんとも……ただ、『機関』でそういう動きが無いことだけははっきり言えます。」 「なるほど。つまり今回は『機関』は関係無いということか。」 「いえ、そうとも言い切れません。」 ん?どういうことだ。機関では動きが無いんじゃなかったのか? 「それはあくまで『機関』全体としての動きです。個人の行動までについては把握できていません。」 「つまり『機関』の人間もその……「しっと団」とやらのメンバーの可能性があるってワケか。」 「ええ。もちろん、あくまで可能性としての話ですけどね。」 可能性であってほしいね。『機関』の連中はなんというか、べらぼーに強そうだからな。 「長門は、どう考えてる?」 少し気になることがあった。先程の長門の態度だ。 警察に相談することを止めたのには何か理由があるのだろうか? 「……先程から「しっと団」という組織に関して情報探索を行っている。」 「マジか。それで何か分かったか?」 「無理。何物かによって情報プロテクトがかけられている。」 「つまり長門さんの力による介入を、何物かがブロックしているということですか?」 「そう。そしてそのようなことが出来る存在は限られている。 私と同じように、情報統合思念体と繋がりのある存在……」 「ってことは、長門と同じ対有機なんちゃらが「しっと団」にいるってことか?」 「そう。」 おいおい……冗談じゃねぇぞ。 さっきは長門がいるから大丈夫だと思ったが……こりゃそう安心も出来ないんじゃないのか? 「大丈夫。私が守る。」 頼もしいぜ長門。 「ふふ、それは無理というものだよ。」 ん?誰の声だ。聞き覚えがあるよな無いような…… とそこで、前方から歩いてくる男の存在を確認した。お前は……! 「生徒会長!」 「これは奇遇ですね。こんなところで会うとは。」 古泉があいさつをする。しかし会長は鼻で笑い流した 「とぼけるのはよしてもらおうか。貴様らが計画を阻止しようとしていることは知っている。 そして今の俺は生徒会長ではない。「しっと団」メンバー、コードネーム『フォックス』だ。」 ……またコードネームか。頭が痛くなる。 「『トゥモロー』は涼宮ハルヒがセントラルタワーに来ることを望んでいる。 だから今は始末することは出来ない。忌々しいことだがね。 だが貴様らは別だ。この場で始末してやろう!」 おいおい、まさかこんな街中でバトルするつもりじゃないだろうな! 通行人だっているんだぜ!? 「大丈夫。情報操作は得意。」 そうかい。そりゃ安心だね。別の意味で不安だがなっ! 「まずは貴様からだ!古泉一樹! 知ってるぞ!貴様最近、そこのヒューマノイドインターフェイスといちゃいちゃしてるらしいな!」 「おや、ご存知でしたか。」 「忌々しい!喜緑君は私がいくらアピールしてもまったくなびいてくれないというのに! 何故貴様だけ……!!」 うっわあ……流石は「しっと団」。全身から負け組のオーラがこれでもかと言うくらい出ている…… 「それはあなたの魅力が足りないのでは?」 「黙れ!そもそも身分をわきまえろ!宇宙人なんかと付き合ってどうする!」 言いたい放題だな……って長門さん?何をしているのですか? 長門「…@@@@@@」 とその時であった!会長が古泉に攻撃をしかける! 古泉はとっさに右手で防御し……防御したら 「うわあああああ!!!」 会長が遥か彼方へ飛んでった。……なんだこれ。 「………」 古泉も口をあけたまま呆然としている。珍しい表情だな。 長門「……古泉一樹の右腕をブースト変換、ホーミングモードにした。」 つまりアレか。野球大会の時のバットと同じようになったってわけか。古泉の右腕が。 しかしそこまでせんでもよかったような気もするが…… 「問題無い。それに、私と古泉一樹の関係をとやかく言われたくは無かった。」 なるほど、宇宙人と付き合ってどうするとか言われたのに腹が立ったってワケか。お熱いことで。 長門を怒らせるのはマズいってことがよーく分かった。 「と、とにかく、これで「しっと団」は残り3名ということですね。」 ようやく落ち付きを取り戻した古泉がそう言った。顔が若干赤いのは見逃してやる。 さて、クリスマスイブは2日後だ。いよいよ「しっと団」との決戦が始まる! ……って煽り文句をつけてみても、なーんかカッコつかないな。やれやれ…… 続く!
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今までにも、谷口にはいろいろとおかしな事を言われていた。 「お前には涼宮がいるんだろ?」とかな。 しかし・・・・ハルヒが俺のことをなんてよく言ったものだ。 有り得ん。地球が逆回転を始めようが、天地が逆転したところで有り得ない話だ。 俺は単なる団員その一にすぎない・・・いや、「その他雑用係」のような扱いすら受けているのだ。 ハルヒが俺のことを好いてるんだとしたら、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか。 せっかくの休日だというのに野球大会に参加させられたり、孤島までひっぱりだされたり、 荷物持ちさせられたり奢らされたり、冬の雨の日に駅二つはなれた電気街までおつかいさせられたりしたんだ。 こんなことさせるか? 普通。いや、あいつに普通とか日常やらを求めること自体愚かだということは理解しているが。 「有り得ないと思うぞ、谷口」 という俺の反論を谷口は否定する。 「いやぁ、何も無いって方がおかしいだろう? キョンよぉ」 おかしくも何ともない。普通の毎日だと思うぞ、俺は。 「毎日朝にイチャイチャしながらおしゃべりして、」 イチャイチャは余計だ、イチャイチャは。 「二人とも放課後は必ずと言っていいほど部室に向かう」 サボったらあいつが怒るだろうからな。仕方あるまい。 「あいつが『寂しがるから』じゃねぇのか?」 ・・・・だめだ。付き合いきれん。 ハルヒを一般的女子高校生と同じ視点で捉えてはいけないんだよ。 お前の常識が、あいつに通じるはずは無いんだ。 「アホなこと言うなよ。じゃあな」 弁当箱をナプキンに包み、カバンに放り込む。 「おい、キョン!!どこ行くんだよ」 ・・・放っておいてはくれないのだろうかね。適当に返答しておこう。 「腹ごなしの散歩だ」 まぁ散歩というのは半分嘘である。行き先は一応決まっているのだ。 SOS団アジトもとい・・・文芸部室に向かうことにする。 昼休みを静かに過ごすにはちょうどいい場所だ。 おそらく部屋の中には長門しかいないはずだ。 しかし、万が一のこともあるので(特に朝比奈さん関係)一応ノックしておこう。 コンコン・・・と軽く音をだし、ドアノブに手をかけようとしたとき。 聞いたことがあるような、しかしそう何度も耳にしたものではない・・そんな声が俺を招いた。 「どーぞー」 この声は、長門のものではない。いや、そもそも長門はこんな発言をしない。 ハルヒの声でもない。あいつにしては高い声だ。 朝比奈さんか? いや、朝比奈さんのものとも違うようだ。 女子の声なので古泉説は即却下である。いつかのように声マネでもしていたら殴ってやろうか。 ・・・・そんな思考を頭の中でぐるぐるさせつつドアを開ける。 するとそこには、パイプ椅子に座る、今朝あったばかりの人物の姿があった。 「あ、キョンさん。こんにちわ」 渡が、すぐ目の前にあるパイプ椅子に本を手にして腰掛けていた。 その本は、長門がつい最近まで読んでいたもの。 哲学系やミステリ系の物ばかりよんでいたあいつが最近良く手を出す種類の本。 恋愛小説だ。ケータイ小説を本にしたものらしい。 「長門に借りたのか?」 分かりきってはいるのだが、一応聞く。 あいつが他人に本を貸すところを見たことはあまりないからだ。 「はい。何かおすすめの本とかありますか?って聞いたらこれって」 長門のおすすめがこれ・・・ねぇ。意外としかいいようが無いな。 と呟いたら、渡に怒られた。頬を膨らませて、 「失礼ですよ。長門さんだって年頃の女の子です」 本当は宇宙人製のアンドロイドなんだがな・・とは言えるわけがない。 ここは素直に同意しておこう。 「あぁ、そうだな。ただ、長門がこういうのを読み始めたのはつい最近だからさ」 俺は単に、哲学物を読むのには飽きたのだろうとしか思っていなかったのだ。 好んで読んでいるとはな。やはり、ユニークなのだろうか。 ・・・それより、何でお前が部室にいるんだ? 「校内を探検してたんですよ。その途中で来たんです」 校内回りを探検と称するのは小学生とかせいぜい中学生ぐらいだと思うが。 まぁ、さして気にしないほうがいいのだろうな。 とりあえず、俺も椅子に座ろう。 そう思い歩きだそうとした瞬間・・・さっき開けたばかりのドアが開かれた。 思い切り開け放たれたそのドアは、目の前にいた俺の背中を直撃し突き飛ばした。 不意打ちを受けた俺は前のめりになって倒れこむ。 それだけならよかった。痛いだけで済む話だ、だが。 現実は違った。 「きゃっ!!」「うぉっ!!」 ・・・目の前にいた渡を押し倒すような感じ(実際そうだが)になってしまった。 床で仰向けになって倒れている渡の上に、俺が覆いかぶさっている。 四肢で体を支えているので、密着しているわけではないが・・・。 顔が近い。気色悪いときの古泉と同じくらいに。 急な状況に驚き、思わず息が止まっていた・・・しかし、ずっと息を止めてるわけにはいかない。 吐息がもれる。互いの息遣いが聞こえる。 妙に荒い自分の呼吸に気がつき、俺は飛び上がるようにして起きた。 ドアを開けた人物に文句を言ってやろうと振り返って、 「何するんだこの野郎!!」 と威勢良く発言したのはいいが、そこにいた人物を見てすぐに後悔した。 その人物は・・・眉間にしわを寄せ、拳をつくった手をわなわなと震わせていた。 「この・・・エロキョン!!!!!!!」 涼宮ハルヒがそこにいた。 ハルヒは俺をエロ呼ばわりしながら襟首をつかみ、ゆさゆさと揺らし始めやがった。 「このエロキョンが!!何で後輩を襲ってんの!?そんなのあんたには100万年早いのよ!!」 苦しい・・・苦しいから離せ、ハルヒ。そろそろ三途の川が見えて来ちまうぞ・・・・。 「何言ってるの。あんたが悪いんでしょ?神聖なる我がSOS団の部室でこんなことして!!」 「こんなことになったのはお前がドアをいきなり開けるからだろうが・・・」 俺の言うことは正しい。真実だ。神に誓おう。 なぁ、お前からも言ってくれよ渡・・・・と言いかけたところで気づいた。 渡が放心状態になっていることを。 仰向けのまま、ボーっと天井を眺めている。 非常事態というやつに、俺ほど慣れては居ないのだろう。 「そんなの関係ないわよ」 いや、あるだろ。 「この子をこんな状態にさせるほど・・・あんたは・・・あんたは・・・」 まて、ハルヒ。話せば分かる、なぁ。話そう、一時間くらい。な? 「そういうこと・・・したいわけ?」 ・・・・は? 「そういうこと・・・したいんでしょ」 「い、いや、そういうわけじゃ・・・」 曖昧な口調で話す俺。 そんな俺に、ハルヒは爆撃をしかけた。 正直、世界中どこをさがしてもこの破壊力をもつ物は見つからないだろう。 それだけ衝撃的で、しかも唐突だった。 「そういうことしたいんだったら・・・・」 正気の沙汰とは思えない、こんな言葉を。 あいつは、俺に投げかけた。 ・・・・というか投げつけた。 「・・・あ、あたしにしなさい!!!!!」 全世界が、停止したかのように思われた。
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涼宮ハルヒの約束IVまでもマップ選択画面ではハルヒを優先的に選択しておく。 もちろん、ストーリーが進まなくなるほど選ぶのはタブー。 涼宮ハルヒの約束IV 午前に、ハルヒとのSOS会話を発生させ、エンブレムを出す。 ↓ 午後に、古泉との、難易度は普通にやれよで、ミニゲーム渚のビーチバレーで勝つ。 ↓ 最後に、夜にハルヒと会話して終了。 涼宮ハルヒの約束V 朝の古泉との会話で、信じるを選ぶ。 ↓ 午前に、ハルヒとのSOS会話を発生させ、エンブレムで終わらせる。 ↓ 午後と夜は、誰を選んでもいいが、シャミセンと話す場合、SOS会話あり。 ↓ 深夜のみくるとの会話での選択肢では、いきましょうを選ぶ。 涼宮ハルヒの約束VI 午前の古泉との会話で、古泉を止めるを選ぶ。 ↓ 午後はハルヒと、夜はみくるとの会話のみ。 涼宮ハルヒの約束VII 朝での会話では、団員として恥ずべきことだわを選択。 ↓ 午前は、ハルヒとの会話のみ。 ↓ 夜のハルヒとの会話。本物と偽者のハルヒとSOS会話を行う。 会話から違いを見つけ、偽者を見破る。 もし、失敗すると、基本的にはバッドエンド。 そして、エンディング。